約 1,319,903 件
https://w.atwiki.jp/infinite-sandglass/pages/60.html
死が全てを解決する。人間が存在しなければ、問題も存在しないのだ。 ――――ヨシフ・スターリン 無と混沌の竜神ゼロ。 双竜決戦の果てに、エルディリアスとドラガリヴァスが融合し、生まれた存在。 知性は高いものの、人格は崩壊しており、行動に整合性を欠く。 元の二柱の人格を思わせる言動が多々見られるが、その全てに狂気を孕んでおり、 終末の刻を待たず「創造」と「破壊」を同時に行おうとして、 結果として世界に混沌と破滅を齎すため動く。 ジェリア人は、この現象を、 「プラスとマイナスが一つに還り無となるとき、 わずかに負の力が強かったがために消滅せず、 結果として双方の力を統合した破壊神が生まれた」 と解釈していた。 実際のところは大きく異なり、 未開発惑星開発委員会が「進化観察実験」を行う際、 「調整された闘争による進化の誘発と加速」の最終段階として、 進化しきった知性体が、管理装置である竜神を制御するまでに至った時、 最後の仕上げである「世代を経ない進化(精神的成熟)」を、竜神を下した張本人―― 即ち、“その種で最も進化したと言える個体群”に施すために仕掛けられていたものである。 簡単に言うと、「主人公を成熟させるためのラスボス」。 エルディリアスとドラガリヴァスには、最初から――ではないが、 進化観察実験が実行された時から、そのためのパッチがあてられていた。 クリス達に倒されることを予期して、“そうなるように設定されていた”のだ。 “実験終わったら全部ふっとばせ”と設定されていたら、誰も、手も足も出なかっただろう。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2324.html
「君はコルベールセンセだね! こんなトコで奇遇ですなあ!」 馬に乗っていたコルベールが頭の上から名を呼ばれたのは、その日の昼前のことだった。 ラ・ロシェールを抜け、タルブ村へと続く街道を進んでいたコルベールの前に風竜が降り立ち、その背から見慣れた生徒達が降りてきた。 「そういう君はミスタ・ジョースター! それに……ミス・ヴァリエールにミス・ツェルプストーにミスタ・グラモン! どうしたんだね、こんなところで」 研究旅行という体で一週間ほど前からいなくなっていたことは知っていたが、パッと見でも明らかに研究旅行などと言う大層な旅をしているのではないのはすぐ判った。 メイド連れの上、学院の生徒ではないらしき青年も一人混ざっている。 「そろそろ学院に帰ろうってコトになったんじゃが、近くを通りかかったんでタルブのワインを買い付けようって話になってな。コルベールセンセもワインが目当てで?」 自分から研究旅行なんてうそっぱちですよと豪快にバラすジョセフの言に、ちょっとした苦笑を浮かべながらコルベールは首を横に振った。 「いや、私はちょっと興味深い話を見つけたのでね。『竜の羽衣』というマジックアイテムがタルブという村にあるらしいんだが、それがどんなものかこの目で確かめに来たんだ」 竜の羽衣、という単語を聞いたシエスタが、驚いて声を上げた。 「『竜の羽衣』ですか!?」 「あらシエスタ、あなた何か知ってるの?」 好奇心旺盛なキュルケが、興味津々でシエスタに振り向いた。 「……ええ、『竜の羽衣』は確かに私の村にありますけれど……マジックアイテムじゃないという話なんです。確かに空を飛んでタルブに来たのを村の人達が見てたらしいんですけれど… …それ以来、一度も空を飛んだことがないんです」 視線を彷徨わせながら選び選び言葉を続けるたどたどしさに、沸点がイマイチ低いルイズが眉間に皺を寄せ始めた。 「何よ、随分詳しいじゃない。で、その『竜の羽衣』って一体なんなのよ?」 「ええと、その……私達にもよく判らないんです。私のおじいちゃんがこれに乗っていたんですけれど……こうやって話すより、実際に見て頂いた方が……」 突然の告白に、その場にいた全員の視線が一瞬完全に沈黙する。その沈黙も数秒後、一斉に破られると同時に貴族達の視線がシエスタへ向けられた。 「ちょっと! それをどうしてもっと早く言わなかったの! 今までの苦労は一体何!」 「す、すいませんミス・ヴァリエール!」 「そうよ、そういう代物なら私のツテを使えばどうとでも好事家に高値で売り捌けるのに!」 「君は酷い女だな、ミス・ツェルプストー……」 「まあまあ、これからの話は実際に『竜の羽衣』を見てからでも遅くはないだろう?」 ルイズがブチ切れ、シエスタが謝り、キュルケが早速売り飛ばす算段を始め、ギーシュがあきれ、ウェールズが宥め、タバサは読書を続ける。 「若いっていいよなァー」 「たまには抑えてもらえると有難いんだが」 盛り上がりを見せる若者達の輪を、ジジイとハゲは温かい目で眺めていた。 さてタルブという村は、ハルケギニアに数多く点在するのどかな農村だ。名物はワイン、それもトリステインだけではなく近隣の国でも結構高値がつく上質なワインである。 その為、行商人だけではなく時折貴族が直々にワインを買い付けに来ることも珍しい事ではなかった。 だが、そんなタルブ村でも同じ日に六人の貴族の来訪を受けるのは非常な珍事だった。 しかも彼らがワインに目もくれず、村の近くの草原に建てられた寺院に安置されている『竜の羽衣』を見に行くというのは、かなり有り得ない出来事だった。 「――こいつは……」 寺院を目の当たりにしたジョセフは、身動きもせずにじっと寺院を見つめていた。 「どうしたのよジョセフ」 使い魔が普段見せない不審な様子を目敏く見つけたルイズが、不審げな視線でジョセフを見上げる。 「まあ……見たことのない建物ね。ゲルマニアにもない感じだわ」 キュルケもジョセフの横に立って寺院を一瞥したが、十七年の生涯の中でも目にしたことのない、不可思議な雰囲気の建物だった。 丸木で組み上げられた朱色の門、板と漆喰の壁を木の柱に組み合わせ、屋根は黒い陶器の様な板を何十枚も並べていた。入り口に掛けられた縄から白い紙で作られた飾りが垂れ下がり、中は木の板を敷き詰めた床だった。 「こいつぁ……神社じゃあないか。どうしてこんなところに……」 「ジンジャ?」 思わずジョセフが漏らした単語は、この場にいる誰も聞いた事のない言葉だった。ルイズが訝しげに問いかけるのにもジョセフが振り向かないので、とりあえずチョップを入れた。 「おぅっ、何すんじゃよルイズ!」 「ご主人様を無視するなんていい度胸ね! どうしたのよ一体、こんな妙ちくりんな建物がどうかしたの?」 「ああ……」 不機嫌さを隠さない主人の耳元に自分の唇を持っていくと、そっと耳打ちした。 「……わしの世界にある国の建物に、凄く似てるんじゃよ」 その言葉に目を見開くと、互いの帽子で自分達の顔を隠すように頭を寄せ、声を潜めた。 「……あんたの世界の?」 「ああ……似てるなんてモンじゃない。そのまんまだ」 内緒話を続ける二人を尻目に、キュルケ達は寺院の中へ入っていった。 「じゃあもしかして、『竜の羽衣』って……」 「わしの世界から来た何か、という可能性は非常に強い。それも多分……」 「おーい、二人ともまだ来ないのかい?」 まだ建物に入ろうともしない二人を、ギーシュが呼んだ。 「……とりあえず、見てみるわ。話はそこからよ」 「そうだな」 どちらからともなく頷き合うと、寺院へと足を踏み入れた。 先に入った五人のメイジ達の背の向こうに見えた『竜の羽衣』に、訝しげな顔を隠さないルイズの横で、ジョセフは驚きに目を見開いた。 気のない様子で眺めているキュルケとギーシュ、身を乗り出しがちに見ているのはタバサ、ウェールズ。そしてガブリ寄りで『竜の羽衣』に食いついているのはコルベールだった。道案内をしてきたシエスタは、貴族達から一歩引いたところでそっと控えている。 キュルケとギーシュは一目見ただけで『竜の羽衣』をインチキな代物と判断していた。 「……興味深い」 「ああ……この目で見るまでは信じていなかったが。これは空を飛べる代物と考えていいようだ。だがその為に成立させなければならない条件がかなり大掛かりになるようだが……?」 風のトライアングルメイジであるタバサとウェールズは、『竜の羽衣』が空を飛ぶ為にどういう条件が組み合わせられればよいか、という思考を巡らせていた。 その結果、二人は『これは空を飛べる』という答えには辿り着いた。だがその為に必要とする膨大な風をどう用意するか、という点に辿り着くことは出来ない。 二人が想定するだけの風を発生させるには風のスクウェアメイジが最低二人は必要だが、それなら自分の力で飛べばいいだけだ、という結論に達していた。 コルベールは持ち前の知的好奇心を著しく刺激され、思わず早足になって『竜の羽衣』の周囲を動き回っていた。これを形作るフォルムはハルケギニアの常識からは完全にかけ離れた代物だというのに、そのどれもが研究者としての本能を甚くときめかせた。 風を大きく受けられる頑丈な翼、前方に取り付けられた巨大な風車、奇妙な材質で作られた精巧な円の車輪。『竜の羽衣』を形成するパーツの一つ一つが高度な技術で作られていることに、息を呑む思いで見つめていた。 そんなメイジ達を視界に入れることすら忘れたジョセフは、思わず声を張り上げた。 「ゼロ戦か!?」 濃緑の塗装を施されたその機体は、まるでこの前建造されたばかりのような姿を保っていた。『固定化』の魔法の効果が申し分なく働いていたためである。 思わず駆け出したジョセフはメイジ達を押し退ける勢いで『竜の羽衣』……ゼロ戦に触れた。ゼロ戦を兵器と認識したガンダールヴのルーンが手袋の中で光り、目前にある機体の情報が、ジョセフの頭脳へ一気に押し寄せてきた。 「……は、ははははは……」 見えた答えに、ジョセフは込み上げてくる笑いを抑えようとはしない。 ジョセフ以外の面々は、突然の奇行に戸惑うしか出来なかった。 「ど……どうしたんだねジョジョ。こんな、カヌーに翼をつけただけのインチキな玩具がどうしたというんだ?」 ゼロ戦とジョセフに忙しなく視線を往復させながら、ギーシュが恐る恐るジョセフに問いかける。 「そうよダーリン、こんなものじゃ空を飛べないわ。翼だって羽ばたくようには出来ていないし……こんな小型のドラゴンほどもあるモノが空に浮かぶなんて有り得ないじゃない」 キュルケも戸惑いつつギーシュの言葉を続ける。彼女もまた、これが空を飛ぶだなんて頭から信じていなかった。 「ちょっとジョセフ、これがどうしたのよ!? 笑ってないで説明しなさいよ!」 ルイズもまたそれは同じようで、笑い続けるばかりのジョセフのシャツの裾を掴んでぐいぐいと揺らして問い詰める。 「はははははっ……まさかとは思ったが、こんな所でこんな代物に出くわすとはなッ……。長生きはしてみるモンじゃあないかッ……」 若い頃の夢はパイロットだったジョセフにとって、第二次世界大戦の名機の一つであるゼロ戦を知らないという事は有り得ない。 しかもそれが博物館に展示されているレプリカではなく、現役の姿そのままの完動品として目の前に現れた。飛行機マニア垂涎の代物を目前にし、ジョセフが歓喜してしまうのはむしろ自然なことであった。 普段の飄々とした彼とは大きくかけ離れた振る舞いに戸惑うメイジ達にも構わず、ジョセフは喜びを隠そうともせず大きく腕を広げて一同に振り返った。 「こいつは飛行機だ! しかもこいつ、動く! 動くぞッ! コイツに燃料さえ入れてやればナンボでも飛ぶんじゃぞッ!」 突然そんな事を言われても、ジョセフ以外にはその言葉の真偽を判断する術がない。だがコルベールはいち早く、メイジとしての理性ではなく、研究者としての感情に判断を委ねた。 「これが飛ぶのか! 本当に飛ぶんだね、ミスタ・ジョースター!」 「ああ! コイツの中にあるエンジンがプロペラを回す! プロペラが回ったらすげェ風が吹くから、その風を受けて飛んでくれるッ!」 「なんと! こんな巨大なモノを飛ばせるだけのエンジンだというのかね!? では燃料を早く用意しなければなるまい、一体どんな燃料が必要なんだね、万難辛苦排してでもこの炎蛇のコルベールが用意させてもらおう!」 「その燃料なんじゃが、もしかしたらセンセでも知らんようなモノかもしれん。ちょっと待ってくれよ……」 コックを開けたタンクの底には、ガソリンがほんの少し残っていた。固定化の魔法はタンクに少しだけ残っていたガソリンにも影響を及ぼしており、四十年以上の時間を経ても化学変化していなかったのである。 コルベールはタンクの底を指でなぞり、指先に付いたガソリンを嗅いだ。 「ふむ、嗅いだ事のない臭いだな。熱を加えなくてもこれほど臭いを感じるとは、随分と気化し易い性質のようだ。これを爆発燃焼させて動くとすれば……私の作ったエンジンなど比べ物にならない大きな力が出るか。なるほど、それなら『竜の羽衣』が飛んでも不思議ではない」 「コイツは石油を精製して作るんだが、ハルケギニアって石油ってあるんか?」 「石油?」 「ええとだな、地下から湧いてきて燃える黒い水、って代物に覚えは?」 若者をほったらかしてジジイとハゲだけが盛り上がる最中聞こえた言葉に、タバサがぼそりと呟いた。 「それなら聞いた事がある。ゲルマニアの北部で『燃える水』をランプの灯りとして使っていると聞いた」 両手を固く握り締めて、両腕を肘ごと後ろへ勢い良く振ってガッツポーズをするジョセフ。 「よしッ! ソイツを精製したらガソリンが出来る!」 「本当かね! ならばそのガソリンを用意すればこれが飛んでいる所を見れるというわけか……! いいだろう、それでどのくらいのガソリンが必要なのかね!?」 「コイツのタンクの容量から言うと……ええと、ワイン樽で五本はいるな」 「なんと! そんなに必要なのか! だが取り掛かってみる価値はある、実に面白い!」 そこからのジョセフとコルベールの行動は迅速だった。 まず『竜の羽衣』を譲り受ける為、シエスタの生家に向かう。 今は飛ばないとは言え、タルブ村の観光資源であり、飛んでいる所を目の当たりにした村の老人やらが手を合わせたりしているということだった。 が、シエスタがジョセフを「学院で世話になっていてよくしてくれている人」と紹介したところ、現在の持ち主であるシエスタの父親は二つ返事で了承したのだった。 続けて2トン弱ある機体を運搬する為に、竜騎士隊とドラゴンをギーシュの父のコネを使って用意した。運搬料として発生したかなりの金額は、コルベールが全額受け持ってくれた。 さて蚊帳の外にほったらかされた若者達はジジイとハゲが駆けずり回っている間、二人をほっといてワインの買い付けに向かっていた。 ひとまず竜の羽衣を譲り受ける算段がついたジョセフは、シエスタの案内で祖父の墓に参ることにした。自分と同じ地球からやってきた先輩に手を合わせよう、という殊勝な気持ちになるのは、ジョセフと言えどもおかしいことではない。 祖父の墓はジョセフの予想通り、日本由来の縦長の墓石であり、そこに刻まれていた墓碑銘は読めなかったものの、漢字とカタカナ混じりの字は日本語であることは明らかだった。 「おじいちゃんが、死ぬ前に自分で作った墓石なんです。異国の文字で書いてあるので、誰も銘が読めなくて……何と書いてあるんでしょうね」 「ふーむ。日本語は話せるが読めんのじゃよなぁ……。ニ、とルだけは読めるな……」 マンガ収集が趣味のジョセフだが、良質なマンガが多く出ている日本のマンガは英訳されるのを待っている。最新のマンガをいち早く読めるメリットと、「悪魔の言語」と称されるほど難解な言語を覚えるデメリットを比べたら、デメリットの方が圧倒的に大きかったのだ。 「ニホン語、ですか?」 「ああ、わしの娘が嫁いだ国で使われてる言葉だ。お前のお爺さんはそっちから飛んできて、こっちに来たと言うワケだな。その黒い髪と目は、お爺さん似なんじゃろ?」 「あ、はい。ご覧になってもらった通り、家族みんな目も髪も黒くて。遠くから見たらすぐに家族の誰かだって判るんですよ」 うふふ、とたおやかに微笑むシエスタが、遺品を包んだ布を解く。そこから現れたのは古ぼけたゴーグルだった。これもまた固定化の魔法を受けていて、少し使い古してはいるが十分に実用に耐えうる状態を保っていた。 「おじいちゃんの形見はこれだけなんです。十年前に亡くなったんですけど、日記も何も残さなかったみたいで……遺言とこのゴーグルだけ残したんです」 「遺言?」 「はい、あの墓石の銘を読める人が来たらその人に『竜の羽衣』を渡してくれって。銘は読めなくても、またあの『竜の羽衣』が飛べるかもしれないなら、お渡ししてもいいって父も言ってましたし」 「ふーん……あと十年ほど頑張って欲しかったがなァ。そしたら、せめて世間話も出来たかもしれんが……けどワシ、イギリス系アメリカ人じゃしなー。鬼畜米英とか言われてケンカになっとったかもしらんな」 またよく判らない単語が聞こえるのに、曖昧な笑みを浮かべるシエスタを見たジョセフは、(やっぱり日本人ってどこでもこういう感じになるんかなー)と内心感心していた。 「それで……お渡し出来る人には、こう告げてくれと言ったんです。なんとしてでも『竜の羽衣』を陛下にお返しして欲しい、って。どこの国の陛下なのか判らなかったんですけど……ジョセフさんの娘さんのいる国の陛下なんですね」 「ああ、今もその国の陛下は生きとるしな。じゃが早いトコ行かんと、ちょっと危ないかもしらんなァー」 ジョースター一行がDIO討伐の為日本を離れたのは、1988年の末の事だった。時折見るTVニュースに天皇陛下の病状が出ていたが、果たして年も明けて数ヶ月経った今、まだ今の天皇は生きているのか、それとも皇太子が皇位を継いでいるのか。 「とりあえず、地球とハルケギニアの時間の流れ方はそんなにズレちゃおらんと考えていいようだな……シエスタ、このゴーグルも貰っていいか」 「あ、はい!」 受け取ったゴーグルを試しに着けてみる。 全体的に小柄な日本人サイズのゴーグルは、欧米人でも大柄な部類に入るジョセフの頭には少々小さかったものの、何とか問題なく装着することが出来た。 「似合うか?」 「はい、よく似合ってますよ」 「よし、それなら問題ナシッ」 それからジョセフはシエスタに案内され、村の周辺を歩き回った。 ブドウ畑やワイナリーを見て回った後、シエスタが「私の一番のお気に入りなんです」と、嬉しそうな足取りでジョセフを連れて行ったのは、村の側にある草原だった。 なだらかで平坦で、とても広大な草原だった。確かに飛行機を着陸させるには申し分のない場所だ。青々とした草の上をそよ風が渡れば、心地よい葉ずれの音を響かせて草が波打つ様は壮観と言っていい。シエスタの一番のお気に入りというのも、頷ける光景だった。 「のどかでいいトコじゃなー……」 「はい、私の自慢の故郷です。ブドウもワインもこの草原も……」 それからしばし、二人は無言で草原を見つめていた。 (……スージーQにホリィに承太郎、ポルナレフ……みんな、元気だろうか) 普段は望郷の念は億尾にも出さないジョセフだが、それでもこうして地球に残してきた家族のことを忘れることはない。 今すぐ帰れなくとも、せめて自分は元気にやっていると一言伝えられればもう少し安心は出来るのだろうが、それすら難しいのだろう。 シエスタの祖父は太平洋戦争の最中、何らかの原因でハルケギニアに来てしまい――それから三十年、この地で生きて、没した。 では自分は、あと何年ハルケギニアで生きていられるのだろうか。今年で69歳の自分は、果たしてあと何年、まともに動くことが出来るのだろう。 基本楽観主義なジョセフではあるが、現実を見ないこととはイコールではない。老いると言う事がどう言う事か、自分の身や周囲の人間を見ているから十分に理解している。出会った時はチビのスリだったスモーキーも、今では立派にジョージア市長やってるジジイだ。 「なあシエスタ。もし、わしが今よりもっとジイサンになって、使い魔がロクに出来んようになったら……この村に住むのも悪くないかもなあ」 普段のジョセフには似合わない類の言葉を聞いてしまったシエスタは、思わず目を丸くしたのだが。 「三十年後に備えて、どっか良さそうなトコに家を用意しとくのもいいかもしれんな」 ニヤリと笑って言った言葉に、シエスタはさっき丸くした目を、困ったように細めた。 「あと三十年現役でいるおつもりなら、もうしばらくは大丈夫ですよ」 * その日の夕方。 一行はシエスタの実家に泊まることになった。 上物のワインを樽単位で買っていく貴族達が泊まるというので、村長やワイナリーの主人までもが挨拶に来たりする騒ぎであった。 シエスタを頭に八人の兄弟姉妹と両親が住む家はそれなりに広く、板敷きの床の上に布団を敷けばひとまずベッドに貴族全員を寝かせることは可能である。 固さはどうあれベッドで休めるのは有難い。それぞれ宛がわれた部屋で腰を落ち着けていると、夕食の準備が整うにはまだ少し早い頃合、ルイズとジョセフがいる部屋のドアがノックされた。 ルイズはベッドに寝転んだまま、横に寝転がっているジョセフの背を指でつついて、無言で(誰か来たわよ)と横着を決め込む。 「どちらさんかな?」 ジョセフも主人に倣って横着して、ベッドから起き上がらずに首だけドアに向ける。 「すまないが、二人とも話したいことがあるんだ。少し来てもらいたいんだが」 ドアの向こうからコルベールの声が聞こえてきた。 『竜の羽衣』を前にしていた時のはしゃぎっぷりとは異なる静かな口調の言葉に、ジョセフとルイズは枕元に置いていた帽子を被りつつ、ベッドから起き上がる。 「判りました、ミスタ・コルベール」 ベッドから降りたルイズとジョセフは扉を開け、コルベールに導かれるまま家を後にする。 三人は特に口を開かないまま、村の道を歩いていく。普段と違うコルベールの様子からして、あまり人気のある場所でしたくない類の話があるということは察していた。 やがてコルベールの足が止まったのは、昼間にジョセフがシエスタと来た草原に着いた頃だった。西の稜線に差し掛かった夕日に照らし出された草原は、濃い蜜柑色で彩られて昼間とは異なる雰囲気を醸し出す。 この美しさに感嘆の声を上げたのはルイズだけで、ルイズを挟む形で立つコルベールとジョセフは草原を見つめたまま無言を貫いていた。 「……で、センセ。話ってのはなんですかな?」 夕日の色が僅かに変わった頃、ジョセフがコルベールを見やる。 言葉を促されても、まだコルベールは躊躇うように視線を草原に向けていたが、やがて意を決すると二人に向き直った。 「――何故私が『竜の羽衣』の伝説に行き当たったか。まずそこから話させてもらいたいが……いいかね?」 「晩飯に間に合わせてくれれば文句はありませんわい」 「……そうか。では出来る限り、努力するとしよう」 一つ息を吐くと、コルベールはゆっくりと話し始めた。 「私は、ミスタ・ジョースターの言う異世界に関係のありそうな書物を探した。その中にあったのが、『竜の羽衣』の伝説だ。その真偽を確かめようと、このタルブ村にやってきて今に至る……ここまではいいね?」 訝しげな視線で自分を見ている二人が特に言葉を挟まないのを確認すると、コルベールは言葉を続ける。 「『竜の羽衣』はタルブ村に降り立ったのとは別にもう一つあった。そしてそのもう一つは空を飛んだまま、日蝕の作り出した輪の中に飛び去ったと記されていた」 「なんじゃと!? もしかして、そのもう一つの『竜の羽衣』は……」 「ああ。異世界から何らかの要因によってこちらに二つの『竜の羽衣』がやってきたが、片方は通ってきた道を戻って帰る事が出来たのだろう。だがもう一つ、こちらに降りてしまったのがタルブ村の『竜の羽衣』という事だな。 私も直接この目で見て、ミスタ・ジョースターの話を聞くまでは信じ切れていなかったが、どうやらそう考えることに疑いはないと見ていい」 まだ話の全容が理解できていなかったルイズだが、ここまで来ればコルベールが何を言いたいのかを察することは出来る。鳶色の両眼を大きく開けて、教師を見上げた。 「――もしかして、ミスタ・コルベール! 『竜の羽衣』があれば……ジョセフは、元の世界に帰る事が出来るんですか!?」 驚きの声を上げるルイズの視線から逃げるように、コルベールは顔を背けた。 「……ああ。私の仮説が正しければ……きっと日蝕が異世界とこちらの世界を繋ぐ扉の役割を果たしているのだろう。『竜の羽衣』がもう一度空を飛べれば、あるいは……」 唐突にコルベールが言葉を途切れさせた。 これから先、言わなければならない言葉を発するのは躊躇われた。 だが言わなければならない。 二人に言わず、何も知らない振りをしてやり過ごせばいいのかもしれない。そうするのが一番ベストだとは判っている。だが、それでも。 見つけてしまった真実を告げなければ、この二人に与えられた選択肢を一人で握り潰すことになってしまう。 知らず乾いていた喉を濡らすべく唾を飲み込むと、改めて二人を見つめた。 「……だが、幾つか重大な問題がある。ミス・ヴァリエール――使い魔の原則は知っているだろう?」 不意に告げられた言葉の意味を理解してしまったルイズは、言うべき言葉を見失った。 呆然と立つルイズに悲しげな目を向けながらも、教師は意を決して真実を続けた。 「一人のメイジが召喚できる使い魔は一体だけ。その契約が破棄されるのは、メイジか使い魔のどちらかが死に至った時のみ。これに一切の例外はない」 「ちょ、ちょっと待ってくれッ! それじゃあッ……」 ジョセフも、コルベールが何を言わんとしているか理解できた。 コルベールは何かを言おうとしたジョセフへ手を翳して制止すると、静かに言葉を紡ぐ。 「もしミスタ・ジョースターが元の世界に帰れば、ミス・ヴァリエールはミスタ・ジョースターが死ぬまで新たな使い魔を召喚することが出来ない。いや、もしかしたら召喚のゲートが開くかもしれない。 しかしその場合でも、ゲートが開かれるのはミスタ・ジョースターの前だろう。 そして、私が君達に言わなければならない事がもう一つ、ある」 突如残酷な選択肢を突き付けられた二人にとどめを差すような心持ちで、コルベールは静かに言葉を発した。 「私が先程計算したところ……次の日蝕は五日後の正午。その次の日蝕は……十年後、なんだ」 To Be Contined → 戻る
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8761.html
戦闘城塞マスラヲ&レイセンから、主人公の川村ヒデオを召喚 ゼロツカ-01 ゼロツカ-02 ゼロツカ-03
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/28358.html
登録日:2012/05/27 Sun 15 51 47 更新日:2024/07/18 Thu 18 27 20 所要時間:約 3 分で読めます ▽タグ一覧 DM DM文明 アンノウン ゼニス ゼロ文明 デュエル・マスターズ 無 無属性 無色 第六文明 零文明 《ゼロ文明》 デュエル・マスターズ エピソード2第1章 黄金時代(ゴールデン・エイジ)以降に登場する第6の文明。 アンノウンよりも更に上位の存在であるゼニス(Zenith 日本語で『天頂』)が君臨し、アンノウンを生み出している。 ゼロ文明とは、前記した様にDM五大文明のどこにも所属せず、多色ですらない新たな文明であり、その力は絶対数の少なさもあって未知数。 主なスポット 天頂大陸ニルヴァーナ・ゼニシア 地中より突然現れたゼロ文明の本拠地。 全てを拒絶するかの様にトゲがいたるところにあるのが特徴。 無の深淵 大陸を突き破ったゼニシアを取り囲む虚空。 空でも、海でも、谷でも、山でも、陸でもない、正に無の領域。 玉座オールゼロ 「俺」の頂 ライオネルが鎮座するゼニシアの天守閣。 後述のヴォイドを守っている。 トップ・オブ・ヴォイド ゼニシアの司令塔。 ここから後述するトライストーンに電波を送ってクリーチャー世界の滅亡を謀る。 兵器 絶無トライストーン ゼニシアより放たれる謎の三角錐(クリスタル)。 これ自体が攻撃力を持っている上に、他文明のクリーチャーに取り憑いて洗脳、操縦が出来る。 このトライストーンに操られ、使役される存在がアンノイズ。 が、一部のクリーチャー(《偽りの名 オレワレオ》など)は元々普通のクリーチャーなのだがトライストーンによってアンノウン化している。 ゼロ文明カードのルール 新たな文明と言ったがそれは誤解であり、正確には文明を持っていないカードの総称である。 というのも、カードをプレイする時には、そのカードと同じ文明を持つカードを最低1枚マナゾーンでタップしなければいけないのがデュエマの大前提である。 しかし、ゼロ文明は使用の時にゼロ文明カードをタップする必要はなく、どの文明のマナでも使用出来る。 極端な話、ゼロ文明をピン積みしても使えると言うことになる。 逆に言えば、マナゾーンにゼロ文明しかない場合はゼロ文明以外のカードが使えない。 また、上述の通り「ゼロ文明」という文明が存在するわけではないので、何らかの効果で文明を指定する際には「ゼロ文明」という指定はできない。 使用する為に5種類の全部のマナが必要で、マナゾーンにある時はマナは発生しないが好きな文明を1つ発生させる五文明レインボーカードとは真逆の存在である。 関連性のあるカード 《スペース・クロウラー》 自分のマナゾーンにある文明と同数だけ山札の上から見て1枚を手札に加えられる。 ゼロ文明は文明が無いものとして扱われるので、ゼロ文明がマナゾーンにあってもカウントされない。 《悪魔神バロム》 闇文明以外のクリーチャーを全て破壊する。 ゼロ文明は文明はないが闇文明でもないので、破壊される。悪魔神ドルバロムによってマナが破壊される時も同様。 《フェアリー・ミラクル》 山札の上から1枚マナゾーンに置き、この時マナゾーンに全ての文明が揃っていればさらに追加でブースト出来る。 しかしゼロ文明は文明が無いので、追加ブーストに必要な文明は今まで通り5文明と言うことになる。 漫画・アニメ等での主な使用者 基本的に、漫画・アニメ版デュエマでは主人公が火文明使い、ライバルは光文明使いというセオリーが成り立っているので、 ゼロ文明使いはほとんどが敵対組織のキャラとなっている。 だが、第3シリーズの主人公である切札ジョーが(正確には「ジョーカーズ」という文明使いではあるが)ゼロ文明の使用者となっている。 切札ジョー 勝太とるるの息子で、3代目主人公。 初登場であるVSRF終盤では火文明中心の5C使いであったが、正式に主人公となったデュエル・マスターズ(2017)より、 自身の能力と相棒であるデッキーの能力によって作り上げたカード・ジョーカーズを使用する。 オサムライ・VAN・オサム ビクトリーVの登場人物。漫画版では悪役だが、アニメ版ではロリコンで傍迷惑でお調子者なオッサン。 《「修羅」の頂 ベートーベン》や《運命》を主軸とした、キング・コマンド・ドラゴンデッキを使用する。 ヨミ V3の敵役。神と化した元キング(中の人的な意味で)。 ゴッド・ノヴァをメインに据えたデッキを用いる。切り札は、自分自身である《神人類 ヨミ》。 覆面デュエリスト/オラクル・レイ プラマイ零が敵対している時の姿。 正体が零ちゃんであるため、闇文明も多く使用する。 前者では《神聖斬 アシッド》を、後者では《神聖牙 UK パンク》を切り札とする。 追記・修正はゼロ文明のみでデッキを構築する方がお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] >追記・修正はゼロ文明のみでデッキを構築する方がお願いします。 ニヤリーゲットに規制かかったら本当にそういう奴出てきそう -- 名無しさん (2018-05-14 19 47 04) ジョラゴンループ全盛期は組もうと思えば無色ジョーカーズだけでもデッキ組めたね 実際はマンハッタン入るから完全にとはいかなかったけど -- 名無しさん (2021-01-17 09 06 15) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2388.html
14話 (ヤハリ、食ラッテシマッタカ) ラングラーの弾丸を受けた瞬間、ホワイトスネイクが思ったのはそれだけだった。 仕方のないことだった。 跳弾での攻撃を阻止することは不可欠だった。 跳弾は軌道を読みにくいので、防御しにくい。 なので、それを使われないようにすることは必須だった。 しかしそのためには、ラングラーの射界に身を晒すのを覚悟の上で反射のための障害物を破壊しなければならず、 そしてそのことは「死角を狙う必要がない跳弾」、つまり壁を使った跳弾で攻撃されることを意味していた。 跳弾で狙われれば、流石のホワイトスネイクでも迎撃しきれない跳弾が出る。 そうなれば自分の背後で炎の呪文を放っているキュルケがヤバい。 (ツマリ、ラングラーガ跳弾ヲ使ウト決メタ時カラ、コーナルコトハ確実ダッタノダ) しかし、ホワイトスネイクはまだあきらめていたわけではない。 むしろこの状況は、ホワイトスネイクが敷いたレールの上から一歩たりとも外れていなかった。 (問題ハココカラナノダ) 自分の策がなるまでに、絶対に稼がなければならない時間。 その間に自分がやられてしまうことは勿論、壁の陰に隠れるルイズとキュルケの二人を殺させてしまってもならない。 (セイゼイ、凌ガセテモラオウカ) 心の中でそう呟いて、ホワイトスネイクはゆっくり立ち上がった。 「あ、あんた……」 立ち上がるホワイトスネイクに、思わずルイズが声をかける。 「問題無イ。コウ見エテモ私ハ丈夫ニ出来テイルンダ。首ヲ飛バサレナイ限リハ十分動ケルシ、戦エル」 「で、でも、あれだけの弾丸を受けたんでしょ!?」 「問題無イト言ッタ筈ダ。ソレト私ニ近寄ルナ」 「ち、近寄るなですって? せっかくわたしが心配してあげてるのに……」 「近寄ラレルトヤツノ跳弾ノ射界ニ入ル。ソレデ弾丸ヲ食ラッテシマッタノデハ元モ子モナイ。 邪魔トカ迷惑トカ厄介トカ……トニカクソーイウコトダ。 ダカラオマエハソコデジットシテイロ」 ホワイトスネイクの言うとおりだった。 アイツの弾丸が危険だってことはさっきから何度も言われていた。 そして自分がほぼ確実に、何の役にも立たないことも。 「でも、だからって……」 ルイズは何か言おうとするが、ホワイトスネイクは聞く耳も持たない。 そして再びファイティングポーズを取る。 弾丸の雨に真正面から挑むつもりだ。 「逃げないってことは……何か考えでもあるのか? ホワイトスネイクよ……」 ラングラーはそれを見て不敵な笑みを浮かべる。 「まあ……何を用意していようと、」 JJF(ジャンピン・ジャック・フラッシュ)がラングラーの意思に呼応して腕を構える。 「オレは無敵だがなッ!」 ドンドンドンドンドンッ! 鉄クズの弾丸が放たれるッ! JJFの腕輪の中で遠心加速した鉄クズは、空気を切り裂いてホワイトスネイクに襲い掛かる。 ホワイトスネイクはその弾道を見極め、拳を繰り出す。 「シャアアアアアアアアッ!」 バシバシバシッ! 重く、素早い拳撃が弾丸を叩き、その弾道の行先をホワイトスネイクから逸らす。 「よく頑張ったな、と言いたいところだが……残念だ」 そこにラングラーの妙に明るい声がかかる。 「スデに跳弾が3つほど、テメーの所に向かってるぜ」 バスバスバスバスッ! 直後、ホワイトスネイクを弾丸が貫いた。 「おっと、4つだったか」 命中個所は肩に一つ、胴体に二つ、そして膝に一つ。 ダメージで膝をつきかけるが、ホワイトスネイクはどうにかその場に踏みとどまった。 (ヤハリ、跳弾ハドーニモナランナ……通常弾ト合ワセテ撃タレルト対応スルノハ困難ダ) 流石のホワイトスネイクも、今の状況で余裕は持てなかった。 その後もラングラーの一方的な射撃を、ホワイトスネイクはただ凌ぎ、ただ耐え続けた。 回数を重ねるごとに跳弾もある程度は弾けるようにはなっていったが、全てを弾くには至らなかった。 ダメージは着実に増え、ただ時間だけが経って行った。 その身体は傷つき、ひび割れ、被弾で開いた穴の数は20に迫ろうとしていた。 「どうしよう、このままじゃ、このままじゃ……」 そんなホワイトスネイクを前に、ルイズは何もできずにいた。 自分にも何か出来るはずだと、心のどこかで思っていた。 事実、さっきは形勢逆転の布石を打てたようにさえ思えた。 でもそうじゃあなかった。 やっぱり自分には何もできないのだ。 そう思い始めた途端に自分の方に矢印が向く。 自分で自分につきつけた無数の矢印は口々に囁いた。 「お前が弱いだから」「お前がダメだから」「お前がゼロだから」と。 それらの何一つ否定できない。 何一つ反論できない。 そうよね、どうせわたしなんて、どうせ……。 そう思いかけたとき、 「シャキっとしなさいよ、ルイズ」 そう言ってキュルケがぽんとルイズの肩を叩く。 「で、でも、わたしには何も……」 「そうね、今は何もできないわね」 ルイズの言葉を引き継いでキュルケが言う。 「だったら探すのよ! 自分が出来る事を何が何でも見つけるの!」 「さ、探す!? 探すってどこ探すのよ? 私が何にもできないのはホワイトスネイクに言われた通りじゃない! わたしの爆発は他の生徒を起こすかもしれない、そうなったらもっと犠牲者が増えるかもって! じゃあどうすればいいのよ!」 「そ、れは、そうだけど……とにかく急ぐのよ! いくらダーリンだってあんなに撃たれたらヤバそうだわ! 時間がないんだから、早く急いで! あたしは先生を呼んでくるわ!」 「無理よ、ゼッタイ無理! それに何であんたがやらないのよ! あんたトライアングルメイジじゃないの!?」 「そんなこと言わないで……ッ!」 言いかけたキュルケが突然顔をしかめた。 「どうしたのよ?」 「な、何でもないわ、ルイズ。とにかくあなたは逆転の手を考えて……」 そう言って身を引くキュルケ。 だがその動作は、明らかに何かを隠す動作だった。 「何でもないじゃないわよ! まさか、あんた!」 ルイズは強引にキュルケのローブを捲る。 そこにあったのは―― 「ウソ、でしょ……」 キュルケの脇腹を染める赤。 深くはないようだが、それでも確かに傷を負っていた。 『一発デモ受ケレバ、アルイハ体ヲ掠メレバ10分以内ニ 半径20メイルノ人間ヲ巻キ込ンデ死ヌ、トビキリ厄介ナ呪イダ』 ホワイトスネイクの言葉が脳裏によみがえり、そして頭が真っ白になる。 「い・・・いつよ! いつそのケガをしたの!?」 「さ、さっきよ……ダーリンの後ろから炎を撃ってた時だったかしら」 「そ、それって何分前!?」 「だいたい……5分、6分前、ってとこかしら。 あたしが死ぬまで、あと3分と少しかしらね」 そう言ってキュルケは笑みを作る。 無理に作ったような、ひきつった笑顔だった。 「『ゼロ』のあんたと違って、あたしの火は少しは役に立つわ。 って言っても、威嚇にしかならないんだけどね。 おまけにさっきの魔法と言い、今の魔法と言い、力を使いすぎちゃったのよ。 肝心の魔法も、もうそんなに多くは放てないわ。……笑っちゃうでしょ? でも、もしかしたら役に立つ時が来るかも、って待ってたけど……やっぱり、ダメね。 だからってここであんたを巻き添えにするのはごめんだわ。 ツェルプストーの女がヴァリエールの女を巻き添えにして死ぬなんて、聞こえが悪いったらありゃしないし、 それでどこか離れた場所まで行こうとしてたってわけ。 ……ふふ、自分のことながら、なんて情けないのかしらね」 まるで何も無かったかのように語るキュルケを前に、ルイズは何も言えないでいた。 キュルケが、死ぬの? ウソでしょ? いつもわたしをバカにして、憎らしかった赤毛でツェルプストーのキュルケが、こんな簡単に? 「……ちょっと待ちなさいよ」 さっきまで何も言えなかったのに、するりと言葉が喉を通った。 「る、ルイズ?」 確かに憎らしかったわよ。 いなくなっちゃえばいいのにとか思ったし、許せないと思ったことも何度もある。 あんまり腹が立ったから、キュルケをやっつけようとして失敗魔法の爆発で大暴れしたことだってある。 それでも、 「死んじゃうのはダメ。絶対ダメだから」 それがルイズの本心だった。 そいつがどんなに憎らしくっても、どんなに許せなくても、今目の前で死のうとしている相手に向かって、 そのまま死ねとは言えなかった。 偽善だとか、自分の今までをウソにするとか、そういうのはどうだっていい。 ただ死なないでほしい。ただ生きてほしい。 それがたった一つ、今死のうとしているキュルケに向かって言えた本心だった。 そしてそう言うのと同時に、急に思考がクリアになる。 さっきまでの混乱や自虐はもうそこにはない。 ただ、絶対にキュルケに死んでほしくない。それだけだった。 自分が役に立たないとかどうとか、そういうことは頭の中から吹っ飛んでいた。 余計な事が頭の中から消えたおかげで、周りがスゴくよく見えるようになった。 自分の爆発が使えない理由、キュルケの炎が役に立たない理由、 ホワイトスネイクが押されっぱなしの理由。 全部が一つの線で結ばれて、答えが導きだされた。 「だ、だからあなた、何言って……」 「ホワイトスネイク」 困惑するキュルケを尻目に、ルイズはホワイトスネイクに問いかける。 「何ダ?」 「ラングラー……だったっけ? アイツの能力、どうやったら消えるの?」 「ヤツガ意識ヲ失エバ消エル」 「分かったわ」 それだけ言って、ルイズはキュルケに向き直る。 「はっきり言って、わたしはあんたが嫌い。 だっていつもわたしをバカにするし、からかうから。 でもね、キュルケ」 「わたしはあんたに、死んでほしくないわ。 だから絶対死なないで。絶対にここにいて」 「で、でも! あと3分であたしは!」 「その3分が経つ前にアイツをやっつける。 絶対にやっつけるわ。だからお願い、ここにいて」 「ルイズ……」 ルイズの言葉と真っ直ぐな眼に、キュルケは思わず口をつぐんだ。 「勝算ハ?」 そこにホワイトスネイクが口を挟む。 ルイズの向けられた眼は、明らかにルイズへの疑いを示していた。 「あるわ」 それにルイズは真正面から答える。 ホワイトスネイクは無言でうなずくと、襲い来る弾丸を叩き落とす。 それがルイズの声と眼差しに対する、ホワイトスネイクの答えだった。 「ちょ、ちょっと正気なの、ルイズ!? 相手はダーリンでもどうにもならない相手なのよ? それを『ゼロ』のあんたがどうにかするなんて……」 「そうね、確かにわたしだけじゃ無理だわ。 だからあんたも協力して、キュルケ」 「……本当に勝算があるのね、ルイズ?」 ごくりと唾を飲み込んで尋ねるキュルケに、 「……ええ!」 ルイズは力強く頷いて答えた。 「しかし……まさかここまでタフだとはな……」 一方、全身に銃創を作りながらもなお立ち続けるホワイトスネイクに、ラングラーは思わずそう呟いていた。 「ひょっとして……アイツ自身がスタンド使いだ……なんてオチじゃあねーだろーな……。 あんだけボロボロになって……それでスタンド本体が無事だとは考えられねーからな……」 ラングラーがそう思うのも無理はなかった。 もう残弾が少ないのだ。 そんなにキツい仕事になるなんて思ってなかったから、あまり鉄クズをもってこなかったのが災いした。 補給はさっきので終わってしまったので、今腕輪に入ってる分が無くなれば打ち止めだ。 だからさっさとヤツを始末して仕事を終えたいのだが…… 「ん?」 そのとき、ラングラーの目に何かが映った。 ドア枠の右、2~3メイルのところがじわりと黒ずみ始めたのだ。 黒ずみはどんどん大きくなり、やがてぶすぶすと煙を上げ始めた。 「コゲてる……のか? さっきの火のメイジのアマが何か考えてやがるってか……なら!」 そこにJJFの腕を向け、一発鉄クズを撃ち込む。 放たれた鉄クズはコゲた壁を簡単に貫いて、ビシッと音を立てた。 どうやら向こう側の壁に着弾したらしい。 人には当たらなかったようだ。 やがて壁はメラメラと炎をあげて燃えはじめ、それからしばらくして壁は崩れ落ちた。 それによって開いた穴は縦1メイル、幅1メイルほど。 崩れた壁の先にはやはり誰もおらず、向こう側の壁が見えるだけだ。 「……何が目的だ? ただ穴を開けて、それで何をしたい?」 ラングラーが半ば呆れかけた直後、 ゴォッ! 壁の目の前に、赤く燃えさかる炎の壁が出来た。 炎の壁は高さ2メイル、幅2メイルほど。 焼け落ちてできた壁の穴をすっぽりと覆って余りあるほどだ。 「穴を開けて、壁を作って……ワケがわからんな……目的が見えない」 炎の壁をつくったのはいい。 確かにそれでこっちからは手出しができなくなる。 だがあんなに激しく燃えていては、向こう側からも何もできないだろう。 「絶対に壊れない」ホワイトスネイクのDISCなら炎の壁を突破できるかもしれないが、 バカ正直に飛んでくるDISCを食らってやるほどこっちもバカではない。 第一ホワイトスネイクはドアのところにいるのだから、その可能性は間違いなくゼロだ。 そう思った時だった。 ボン! 炎の壁の数10サント先の床が小さく爆発した。 本当に小さな爆発だ。 火薬の量で言えば、手持ち花火に詰まってる程度の量が爆発したぐらいのものだ。 しかし。 「な、何だと!?」 慌ててラングラーはそちらに腕を向けた。 さっきと同じだった。 向かいの部屋のドアをぶっ飛ばした、ワケの分からん爆発と同じだった。 前触れもなく、突然起きる謎の爆発。 さっきの爆発はホワイトスネイクが何か仕込んだものだとばかり思っていたが、 今回は何もない場所で爆発が起きた。 「爆発、だと……一体どういうことだ? 種も仕掛けもないハズだぞ…………」 粘っこい汗がラングラーの額を伝う。 タイムリミットまであと2分。 とうとう、逆転の狼煙が上がった。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/722.html
いななきを上げる馬が二頭。 虚無の曜日の早朝、ルイズとジョセフは厩舎の前で馬に乗っていた。 「いやあ、ラクダに比べると馬に乗るのは随分と楽ですのう」 ジョセフは小さい頃に乗馬も仕込まれたので、けっこうスムーズに鞍に跨っていた。 ラクダ、という聞きなれない単語にルイズが軽く怪訝そうな顔をした。 「ラクダ? 何それ」 「砂漠の辺りに生息する……まあ砂漠で馬代わりに使う生き物ですじゃ。なかなか言う事を聞かんので往生しましたわい」 ルイズは少しの間、記憶の糸を辿り……かつて昔に呼んだことのある生物事典に載っていた名前を思い出した。 「乗ったことあるの? いつ?」 「ここに召喚されるちょっと前に仲間達と旅をしてた時にですな。まあ何と言うか……ずぅいぶんとマイペースな生き物でしてな。 色々苦労しましたわい」 はっはっは、と笑うジョセフを、ルイズはじっと見つめていた。 ルイズは、ジョセフを召喚してから今日に至るまで、彼に色んな事を聞かれていたことはあるが、自分から彼に話を聞いた経験がほとんどないことに気付いた。 (……まずいわ。もしかしなくても、ギーシュやキュルケの方が私よりジョセフのことをよく知ってたりするんだわ) 自分がジョセフについて知っている事を上げてみて……まずすぎるくらい何も知らないことが今更ながら思いやられる。 決闘までもろくすっぽ話してなかったし、決闘が終わってからは自分から口を利かないようにしていた。 そもそも「武器を買ってあげるわ!」と言ったのも、何を渡せばジョセフが喜ぶのかさえ知らないから、その場で出た出任せに近い申し出ではないか。 (……うろたえないッ! ヴァリエール公爵家三女はうろたえないッ! ここから城下町まで馬でも三時間、行って帰る間にジョセフから色々話を聞けば今からでも何とかなるわ! ……うふふ……この緻密で完璧な作戦、それでこそ私よ) スポンジのように穴だらけの緻密な完璧を抱くルイズに、ジョセフはのんびり声を掛けた。 「んじゃ行きますかいご主人様」 「え、ええ。行くわよジョセフ」 そして二人はゆったりした足取りで学院の門を潜る。 門を出てから三分後、ルイズはこれ以上ない自然さを心がけて横を歩くジョセフに声を掛けた。 「え、えーとジョセフ。なんかヒマだわ、せっかくだからあんたの話とか色々聞いてあげてもいいわ! ほら、私ご主人様だから使い魔のことは何でも知っておいてあげないとね!」 ものすごい一生懸命に話題を作ってきたルイズに、ジョセフは実に微笑ましげに彼女を見やった。彼女の懸命さに応じようと、彼女の不審な態度にはあえて触れようともしなかった。 「わしの話ですか? ううむ、どんな話をすればよいですかのう。赤い洗面器の話なぞいかがですかの。こいつぁ100%バカウケの話なんですが」 今クラスメート達の間では、「赤い洗面器」という単語が出ただけで大きな笑いが巻き起こるのをルイズはよく知っていた。すごい気になる。が。 (いやいやいやっ、そういう話を今聞いてる場合じゃないわっ! ジョセフのことを知っておかなきゃならないんだから!) 甘い知的探究心を全力で押さえつけようと、ぶんぶんと大きく首を振った。 「違う違う違う! そういう話は後でいいの! ジョセフが今までどういう風に生きてこんなヘンな平民になったのかを聞きたいの! あんた、ただの平民じゃないでしょ!? 私はイレギュラーな使い魔を持ってるんだから、その辺りちゃんと聞いとかないと!」 「ふうむ。わしの話ですか……なんのかの言って、68年生きてますからの。掻い摘んでもかなり長話になっちまうんですがいいんですかの?」 「とりあえず私に必要かなーとか思う所だけ掻い摘んでくれたらいいわ。どうせあんたか私が死ぬまで一緒にいることになるんだから、時間は有り余ってるでしょ?」 彼女の言葉に、ジョセフは思わず緩く天を仰いで口をへの字にしそうになったが、それを見咎められればまたルイズが目ざとく見つけるだろうと、頑張って表情を消した。 承太郎はDIOの死体をちゃんと処分しただろう。ただ、自分の死を孫の口から妻に伝えさせようとしたのは酷だとは思う。だが、あの鏡が現れた時点での最善手はどう考えてもあれしかなかったのだから。 「どうしたのよジョセフ。なんか気に食わないことでも?」 「あー、いやいや。ご主人様に話さなきゃならんことがかんなりありましてのう。どうダイジェストにするか考えてたところですじゃ」 息をするようにハッタリをかませるジョセフの言葉に、世間知らずのルイズはそれ以上疑うことをしなかった。 「ではまずわしの事を話す前に、家のことから話すとしましょうかの。わしの家はジョースター家と言いましてな……由緒正しい貴族の家じゃったんですじゃ。ただわしのいた世界では、貴族とはここのように魔法を使える者の事ではなく……」 それから語られたことは、ギーシュ達にも語られたことのない、ジョースター家と吸血鬼の確執、人類と柱の男との激闘の歴史だった。 ルイズは話の途中で「そんなホラ話が聞きたいんじゃない」と言おうとして、垣間見えた彼の横顔にその言葉を飲み込んだ。出来れば話したくないことだが、それでもなお話さなければならないと判断した、彼の苦悩を感じてしまったからだ。 ジョセフの言葉は、全て真実だ。そう感じて、ルイズはただジョセフの話を聞き続けた。 「……じゃがジョースターとDIOの因縁はまだ終わっていなかった。ついこの前のことじゃ。海の底から一つの棺が引き上げられた……」 いつの間にかジョセフの口調は敬語ではなくなり、ジョセフの普段のそれになっていたが、ルイズはそれを注意することすら忘れていた。 孫と自分に起こった不可思議な力、スタンドの発現。娘の命を救う為に、仇敵を倒しに行く二ヶ月足らずの旅。信頼を寄せ合った仲間達の死、仇敵DIOとの死闘。 最後、孫の手で蘇った直後の救急車の中、現れた召喚の鏡。 「……わしはなんとしても、DIOをあの鏡に触れさせてはいかんと感じた。そしてその直感は当たっておった。この世界に彼奴が来ていれば、何もかもが台無しになる。わしらの旅だけじゃあない。この美しい世界が、彼奴の手に落ちた。 わしはDIOに近付いてきた鏡の前に飛び出し、DIOの死体を全て蹴り飛ばし、鏡に飛び込んで……ご主人様の使い魔になった。あやつをこの世界にやらんかっただけでも、わしはこの世界に来た意味がある。――こんなところですかの」 朝日の中に町並みが見えてきた頃になって、ジョセフの話は終わりを告げた。 だがルイズは、知らず知らず手綱を強く握り詰めていることしかできなかった。 (何を言えばいいの……何を答えればいいの……? ジョセフは……ただの平民、なんかじゃなかった……。もう旅が終わって、帰れるのに……ジョセフは何があるのかも判らないのに、この世界に来たんだ! 私がもし、ジョセフなら……ジョセフのような事が出来た? ううん……出来ない……きっと足がすくんで、ただ見ているだけ……『突然のことでどうしようもなかった』って言って……それで、終わりにしてる……) 本当は途中で、「もういい!」と打ち切りたかった。図書室で出会った彼女の言葉とジョセフの告白が合わさって、痛過ぎるほど心を抉る。 彼女はジョセフをカットされたアメジストだと称し、ルイズを掘り出してもいない原石だと言った。 だがそれは、ジョセフをかなり過小評価した例えだと、痛感していた。 ジョセフはアメジストどころか、ルビーそのものだ。 認めたくないが、石ころにルビーをあしらった滑稽な姿を今更鏡で見せつけられた。今まで自分が美しいと自負してきたものは、ただの石ころだったのだ。何がメイジだ。何が貴族だ。 私がヴァリエールの生まれでなかったら……何も、何も。 胸の奥から溢れたものを必死に押さえ込もうとして、それが不毛な努力にしか過ぎないことを、ルイズは強く自覚していた。 ここ数日、何回も湧き上がってきた感情と似て非なるもの。ジョセフを妬んで悔しくて泣いたのではない。自らの小ささを本当に知った、不甲斐なさからの涙だった。 「……ジョセフ……ごめんなさい、ごめんなさい……」 抑えきれない感情の発露。片手で手綱は握りながらも、もう片手は拭いても拭いても零れ続ける涙を拭うしかできなかった。 「お、おいちょっと待たんかルイズ。なんじゃどうした、今の話で何も泣くポイントないじゃろ? ちょっと止まるぞ、そんなんで馬乗っとったら危ないわい」 ジョセフは柄にも無く狼狽しながら、急いで留めた馬を木に繋ぎ止めると、それでもなお泣き続けるルイズに腕を伸ばして抱き下ろす。 ごめんなさい、ごめんなさい、とただ繰り返して泣きじゃくるルイズは、まるで本当の子供のようで。 泣き止ませることを早いうちに諦めたジョセフは、少々悩んでから。ままよ、と自らの身を緩く屈めて、ルイズを自分の胸に抱きしめた。 何が悲しくて泣いているのか、何を謝られているのか、ジョセフには全く理解できない。 何で悲しくて泣いているのか、何で謝っているのか、ルイズにも全く理解できない。 だから少女が泣き止むまで。二人とも、何も出来なかった。 やがて慟哭が嗚咽に変わり、しゃくり上げる様な声に変わってきた頃、ルイズは、ジョセフに抱きしめられていた自分を改めて自覚し……今になって、ジョセフを突き飛ばすように離れた。 「……き、気にしないでっ……」 気にするなと言われても何を気にしなくていいのか見当も付かない。ジョセフは、小さくため息を漏らし。引っかかれる危険を押して、ルイズの頭に手を伸ばし、撫でた。 だがルイズはその手を振り解くこともせず、ただ撫でられるままになっていた。 「気にしてくれるなルイズ。わしは見ての通りジジイで平民で使い魔じゃ。他の誰にも言わんから、気にせんかったらいいんじゃよ」 「そうじゃないの! 私はあんたより下なのよ! 劣ってるのよ! 『ゼロ』なのよ!」 キッ、とジョセフを見上げて睨みつけるルイズ。 泣いた理由の片鱗が、少しだけ理解できた。ジョセフは小さくため息をついて、苦笑した。 「わしがルイズんくらいの年にゃ、ただ毎日ケンカしとるだけのクソガキじゃった。努力とか訓練とかが死ぬほど大嫌いで、とにかく気に入らんことがあったら誰彼構わず殴りかかっただけのクソガキじゃった。 それに比べたら、ルイズの方が……」 「おためごかし言わないでッ! 私は昔のあんたを召喚したんじゃないわ、今のあんたを召喚したのよ! あんたに比べて、私なんか……私なんか、情けなさ過ぎるのよッ!」 「おっと、それ以上言っちゃいかん。それ以上言うなら、シタ入れてキスしちまうぞ」 なおも言葉を続けようとしたルイズの唇に、ジョセフの指先が当てられた。 「いいかルイズ。わしもかつて、自分の才能だけで突き進んで、こっぴどくボロ負けしちまった。じゃがな、わしはそこで今までの愚かさを自覚し、大嫌いじゃった修行に専念した。それもせんとただウジウジしとるだけなら、わしは今頃ここにゃおらんわい」 やっとしゃくり上げるのを止めたルイズは、泣き腫らした目で、それでもまだ何か言いたげにジョセフを見上げて、彼の言葉を聞いていた。 「わしの修行をつけてくれた師匠も先輩も友人も、みぃんなわしよりずっと上にいた。今、ルイズが感じている悔しさは、きっとかつてのわしが感じた悔しさじゃ。世の中の人間は、貴族だろうが平民だろうが、必ず自分の弱さにぶち当たった。 今のお前は、正にぶち当たったところなんじゃ。大切なのはぶち当たってから、どうするかじゃよ。うじうじ悩んでるのもよし、弱い自分をどうにかしようとするのも足掻くのもいい。 じゃがルイズ、お前さんには忘れちゃあいかんものがあるんじゃ」 頭に置いていた手を、肩に置き。両手でルイズの肩を掴んだジョセフは、彼女の目の高さと同じ高さに自らの視線を合わせた。 「お前さんにはお前さんを心配してくれる友達だって、お前さんを心配しておる使い魔じゃっておるッ! いいか忘れちゃならんぞ、お前さんは一人じゃないッ! 一人で悩むんも時にはいいッ、じゃが一人で何もかもしようとするのはただの傲慢じゃ! 人を信じて頼るのは弱さじゃあないッ! 自分の弱さを直視せず、自分に出来ないことを出来ると嘘を吐く、その行為自体が真の弱さじゃ! 少なくともわしは、そう信じておるッッッ!!!」 ぐっ、と肩を強く掴んで、彼女に言い聞かせる。 潤んだ鳶色の瞳が、ジョセフの瞳を、真正面から見つめ返した。 「……私、『ゼロ』よ? ジョセフみたいに、すごくもなんともない……それでも、いい?」 「言ったじゃろ。今は『ゼロ』でも構わん。いずれ、強くなるんじゃ……『わしら』は」 「……離してっ、肩痛いわよ、ボケ犬っ」 ルイズはジョセフの手から離れると、背を向けて。ごしごしと目元を袖で拭って、背を向けたまま口を開いた。 「……聞いてて、とっても恥ずかしかったわっ」 「同感じゃな。わしも言ってて死ぬかと思ったわい」 主人の憎まれ口に、ちっとも死にそうじゃない口調で返すジョセフ。 「……どさくさに紛れて恥ずかしいコトばっかり言ってっ。そんなこと言ったからって三ヶ月の食事抜きは覆らないんだからねっ! 心配してくれても、エサあげないんだからっ!」 ピンクの髪の間から微かに覗くルイズの耳が真っ赤なのを、ジョセフは見た。 「そんだけ大口叩いたんだから、ちゃんと責任持って私が強くなるまでいなさいよっ! 思い切り頼ってこき使うわ、覚悟なさい! それから、それからっ……私が泣いた、なんて他の誰かに言いふらしたらっ……絶対に、ぜーったいに、許さないんだからね!? 絶対誰にも言わないでよっ!?」 振り返ったと同時に杖をジョセフの鼻先に吐き付けるルイズは、まだ顔は赤いままで。けれど、ジョセフを見上げる目は。今までとは、決定的に違っていた。 ほんのちょっと、ほんのちょっとだけ――優しかった。 「墓場まで、持って行くことにしますわい。ご主人様?」 ジョセフの笑みは、今までと変わらず。どうしようもないくらい、優しかった。 「さっ、つい道草食べちゃったわ! 早く行かないと店が閉まっちゃうじゃないボケ犬!」 ピンクの髪を勢い良く風になびかせ。木に繋いでいた馬へ歩いていき……ジョセフはその後姿を、微笑ましげに見つめて、その後ろを歩いていった。 To Be Contined →
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7149.html
藤崎竜「封神演義」より 軍師・聞仲を召喚 ゼロ大師-01 ゼロ大師-02 ゼロ大師-03 ゼロ大師-04
https://w.atwiki.jp/2jiseihaisennsou/pages/192.html
魔王ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー 詳細 別世界のルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが“ブリタニアの魔女”魔王C.C.と契約し、エデンバイタルの力を得た姿。 軍略・策謀を得意としていたゼロとは違い、筋骨隆々の堂々たる体躯を有し、KMFとすら生身で渡り合う。 別世界の自らと同様に黒の騎士団を率いて神聖ブリタニア帝国と戦うが、絶対皇帝シャルルが聖エデンバイタル教国を建国すると、 ゼロは異母妹であるユーフェミア・リ・ブリタニア率いる新生ブリタニア帝国と連合しシャルルを討伐、聖エデンバイタル教国を滅ぼした。 戦後はルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの名を捨て、“ザ・ゼロ”で死を得て滅んだC.C.から魔王の役割を引き継ぐ。 魔王として世界にギアスをばら撒き、世界を混沌で活性化させるために。 彼はいずれ最愛の妹であるナナリーや無二の親友であるスザクと敵対する事になる。 ルルーシュの名を捨てる直前、ナナリーの元へ姿を現し、別れと共にナナリーを愛し続けていると告げ、この世から消えた。 【NAME】 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア 【CLASS】 ブラックリベリオン 【MASTER】 なし 【STATUS】 筋力:A 耐久:B 敏捷:C 魔力:B 幸運:C 宝具:EX 【SKILL】 騎乗:C 騎乗の才能。機械仕掛けの“騎士の馬”たるナイトメアフレーム(KMF)を操縦する技量を表す。 ゼロは直接機体には乗り込まず、頭部や肩部など外装部に立って遠隔操縦を行う。 カリスマ:C 軍団を指揮する天性の才能。一軍を率いる総帥の器。 軍略:B 多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。 魔力放出:B 武器、ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。 ゼロは魔力の代わりにエデンバイタルのエネルギーを身に纏う事で、生身で人型兵器と格闘戦を行えるほどの身体能力を得る。 エデンバイタル:EX 現宇宙誕生前から存在する、万物を支配するエネルギー・法則。時空間のどこにでも同時に“存在・干渉”するモノ。 ギアスはエデンバイタルにアクセスして宇宙の理を捻じ曲げるが、ゼロは魔王の役割をC.C.より譲り受けたため、ギアスを行使せずエデンバイタルにアクセスできる。 その力の一端は、音速で発射された銃弾を空中に固定する、マントを硬質化させ打撃に用いる、自らを量子化させて転移するなど、万能と呼べる物。 ただしゼロはエデンバイタルを介してムーンセルをハッキングしているため、SE.RA.PH内ではこの権能は大きく制限される。 【NOBLE PHANTASM】 黒き魔王の玉座(ガウェイン) ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:2~50 最大捕捉:100人 全高6.57m、全備重量14.57t。量子シフトにより瞬時にゼロの元へ召喚される大型ナイトメアフレーム。 肩部に粒子加速砲“ハドロン砲”を二基、指部に射出型ワイヤーアンカー“スラッシュハーケン”を十基搭載している。 大型ランドスピナーで高速地上走行が、フロートシステムで空中飛行が可能。 神の力(ザ・ゼロ) ランク:EX 種別:対神宝具 レンジ:1 最大補足:1人 “森羅万象を無に帰す力”。 全能たるエデンバイタルと個にして同等、契約を必要とせず行使できるワイアードギアス。 掌部から生み出される光を対象に当てる事で発動する。 有機無機問わずあらゆる存在の活動を停止させる、KMFの斬撃を受け止めるなど、攻守両面において威力を発揮。 高次次元であるエデンバイタルへの強制的な侵入すら可能とし、不死の存在であろうと逃れ得ない滅びを与える。 このワイアードギアスとエデンバイタルから遣わされた力により、ゼロは世界に混沌をもたらす黒き魔王として君臨した。 ゼロはエデンバイタルとリンクしているため、実質この能力でしか滅ぼす事はできない。 また、自らを自らのギアスで滅ぼす事はできないため、ゼロはザ・ゼロと同等以上のギアスを他者に発現させようと魂の選定を進めている。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1653.html
舞い上がる砂煙と共にギーシュが外へと弾き出される。 ギリギリで脱出したのか、衝撃の余波で地面を転がるものの大した怪我は負っていないようだ。 だがゴーレムは休む暇さえ与えずに再び足をギーシュに振り上げる。 「早く! こっちへ!」 タバサとキュルケが魔法を放ちゴーレムを攻撃する。 だが炎も氷の矢も巨人にダメージを与えるには至らない。 それでもギーシュが逃げる隙を作る為の牽制として撃ち続ける。 その援護を受けながら、ゆらりと陽炎のようにギーシュが立ち上がる。 その緩慢な動作にキュルケが苛立ちをぶつける。 「何やってるの!? 早く逃げなさい!」 「逃げる? それは違うよミス・ツェルプストー」 ギーシュの声はとても落ち着いていた。 ついに恐怖のあまりにおかしくなってしまったのかとキュルケが疑う程に。 いつの間にか口に咥えた薔薇を引き抜いて振るう。 刹那、彼のワルキューレ七騎が周囲に展開された。 「『土くれのフーケ』を倒すと言うのなら! ここは“退くべき時”じゃない! 逆に今こそ“立ち向かうべき時”だ!」 ギーシュ・ド・グラモンは名門グラモン家の四男として生まれた。 トリステイン王国の元帥を父に持つ彼だが所詮は四男のドットメイジ。 家督を継ぐべき長男や次男に比べ、家での扱いは良くなかった。 ギーシュの性格は見栄っぱりの父親の遺伝と言われるが、あるいは自分に注目して欲しかった彼なりのアピールだったのかもしれない。 以来、彼は自身を薔薇の花に喩え美しさを表現してきた。 “自分は美しい”それを疑った事は一度としてない。 貴族としての立ち振る舞い、衣装から髪の一本に至るまで徹底していた。 だが、そんな彼の価値観はいつしか大きく揺さぶられる事になる。 教室の崩落事故。そして広場での決闘。 その両方に居合わせながらも自分は何も出来なかった。 そして彼は初めて疑問を持った。 そんな自分が本当に“美しい”と言えるのかと…。 態度や家柄で着飾った所で決闘相手のメイジは醜くかった。 何故、醜いと思ったのか? それは男の性根が完全に腐り切っていたからだ。 そして今まで貴族らしからぬと侮蔑してきたルイズが、自分の使い魔の身を案じ駆けつけ、その身を抱きしめた時。 ギーシュにはその光景が何よりも美しく、とても神聖なものに映った。 思えば父もそうだった。 出征の度に多額の出費をする父を、周囲の人間は『見栄っ張り』『目立ちたがり屋』と嘲笑した。 その所為で生活も苦しく、それらしい贅沢をした覚えも無かった。 だが、ギーシュはそんな父を誇りに思った。 たとえ貧しくても笑われようとも、彼の父は『貴族の誇り』だけは守り通したのだ。 そう。美しさとは外面ではない、内面より顕れる物。 薔薇は自らの美しさを知らしめたりするだろうか? 否。ただその場に咲き誇り、自身で有り続ける。それ故に美しいのだ。 それこそが“美”! 自身が追い求め続けてきたもの! ギーシュ・ド・グラモンは決意した。 誰よりも美しくあろうと! 姿だけではなく心も! そして美しき心とは! 勇気であり誇りであり愛である! 真の強さとは“心の美しさ”の中にある! 「ワルキューレ円陣隊形!」 彼の号令に合わせ、青銅の戦乙女が密集し囲むように彼を守護する。 本来は全方向からの攻撃を警戒する鉄壁の陣形。 だが目の前の巨人を相手にそんな陣形は何の意味も成さない。 ギーシュは自覚していた。 トライアングルのメイジであるフーケと自分では実力が違いすぎる。 魔法勝負になれば百万回戦おうとも勝ち目は無いだろう。 だが! ゴーレムの扱いだけならば、僕は誰にも負けはしない! その一点、唯一自分が勝っているその部分で勝てばいい! 勝てない相手ならば、絶対に勝てる状況を作り出せ! 足りない分は“頭”と“心”で補う! 「一点集中防御!」 ワルキューレが槍を掲げる。 それがギーシュの頭上で重ね合わされ“円錐”が形成される。 いかに重量があるといっても、それは“面”による攻撃だ。 強力だが分散された破壊力と、弱くても“点”に集中された破壊力。 どちらが強いかなど比べるまでも無い。 一本一本は貧弱だが、束ねられた槍が折れる事は無い。 ワルキューレの槍に託された自分の“信念”は決して折れない! 巨人の足と青銅の騎士の槍が衝突する。 このまま一気に足を貫いてゴーレムの動きを止め、そして集中砲火で決着を付ける。 フーケの敗因! それはこのギーシュ・ド・グラモンを敵に回した事だ! 両者の均衡も一瞬。 鈍い音を立てて槍の先端が飴のように変形していく。 重圧に耐えかねて次々と砕けていく青銅のゴーレム。 「あれ?」 気付いた時には遅すぎた。 そのまま踏み抜かれた足は脱出の機会すら与えず、青銅ごと彼の自信を打ち砕く。 そして再び大地が大きく揺れた。 「ギーシュ!!」 キュルケが必死に叫び声を上げるが、あれでは助かる訳が無い。 可哀想に最期は恐怖に耐えかねて奇妙な事を口走り、生き残ろうと足掻いたにもかかわらず、あんな末路を迎えるなんて…。 本物の薔薇を口に咥えて、棘で傷だらけになったギーシュ。 召喚の際にやたら長い前口上を言って迷惑がられたギーシュ。 颯爽と馬に乗ろうとして馬に逃げられたギーシュ。 そんなギ-シュのどうでもいい思い出と共に、ほろりと涙が零れ落ちる。 「…人を勝手に殺さないでくれ」 ボコリと地面が空き、そこからギーシュの顔が出てくる。 全身土まみれで、みっともない事この上ない姿だが確かに生きている。 「ギーシュが生きてた!?」 「……お化け?」 「ああ、さすがにもうダメかと思ったけどね」 驚くルイズとちょっと引き気味のタバサを前に説明する。 パチンと指を弾くと彼の横からぴょこんと顔を出す巨大なモグラ。 そして、ギーシュは自分の使い魔に頬擦りをする。 「ヴェルダンデ…君はなんて主人想いの使い魔なんだ」 どうやらヴェルダンデの掘った穴から逃れたようだ。 ギーシュの悪運の強さに一同が溜息をついた。 そうこうしている内にも巨人はこちらに迫っていた。 先程と同じく魔法を放つも、やはり決定力に欠ける。 だが巨体のせいか、ゴーレムの動きが鈍い。 下手に集まるよりも分散して撹乱した方が良いだろう。 タバサはそう判断し指示を飛ばす。 「……散開」 その単語に込めた意味を理解し各自が散る。 だが巨人は迷わずルイズの方へと向かう。 「……!」 タバサは自分の失策に気付いた。 自分とキュルケが攻撃に専念する為に彼女に“光の杖”を託したのだ。 フーケの目的が“光の杖”を取り戻す事なら最初に彼女が狙われる。 そして彼女の性格なら決して逃げようとはしない。 タバサが口笛を吹き鳴らす。 だが間に合うのか? 否、間に合わせるのだ。 タバサから渡された“光の杖”のケースを置く。 そしてキッと睨みつけると懐から杖を取り出し、巨人に構える。 「ええい!」 振り下ろされた杖。 それは小さな爆発を伴って巨人を揺るがす。 だが、それは何の効果も現さない。 幾重に魔法を受けても倒れぬ相手には無意味。 ましてや碌に使えない魔法など礫に等しい。 ローブを必死に引っ張る自分の使い魔を振り解き、それでも彼女は杖を振る。 彼は必死だった。 生き延びる事が最優先だというのに、勝てない相手を前に動こうとしないルイズ。 それはただの自殺行為だと止めさせようとするも彼女は止めない。 そして、ついに彼は吼えた。 唸り声を上げてルイズを睨み付ける。 「え…?」 初めて見る使い魔のその表情にルイズが驚く。 その直後、巨人の腕が主従へと振り下ろされた。 咄嗟に彼はルイズへと体当たりし彼女を庇う。 僅かに舞い上がる土煙、その中で二人は無事だった。 傍に“光の杖”があったせいだろう。 全力で攻撃出来ずに最小限の威力で留まったのだ。 尻餅をついたルイズと彼の視線が並ぶ。 まるで敵でも見るかのような目で彼が睨む。 彼は怒っていた。 生きている喜びと生命の大切さ。 それを教えてくれたのは他ならぬルイズだった。 そのルイズが命を捨てるような真似をした事が許せなかったのだ。 「だって…だって…私は」 ルイズの目から大粒の涙が零れ落ちる。 彼が目にするのは二度目。 だけど以前、彼女が流したものとは違う。 それは見ているだけで胸が締め付けられるほど切ない涙。 「魔法も使えないし…皆にバカにされて…」 きっと自分の知らない所で彼女は何度も泣いたのだろう。 それでも彼女は強くあろうとした。 自分に涙を見せないように頑張ってきたのだ。 その努力を彼女が認めずに誰が認めるというのだろうか。 「ここで逃げたら…もう貴族じゃなくなっちゃう…」 言い終わると同時に俯いていた顔を上げる。 いつの間にか彼の唸り声は止んでいた。 穏やかに見守るような視線で彼女を見つめる。 そして、流れ落ちた涙をぺろりと舐め取った。 「な……!」 驚きの声を上げる間もなく、木々を薙ぎ倒しながら巨人が迫る。 しかし、それを阻むかのように巨大な羽ばたきと共に風が舞い上がる。 「シルフィード!」 「早く乗って!」 自分へと差し伸べられたキュルケの手を取り、シルフィードの背に飛び乗る。 その間にもタバサは攻撃の手を休めずに巨人の侵攻を遅らせる。 ギーシュもレビテーションで“光の杖”とついでにソリも回収する。 「早く!」 今度は彼女の使い魔へと声が投げ掛けられた。 だが、彼はそれに応じない。 ルイズの安全を確かめると今度は迫り来る巨人へと向き直った。 「まさか…! あのゴーレムと戦う気なの!? バカな事は止めなさい!」 「お願い…止めて…」 キュルケの制止にも聞く耳は持たない。 ルイズの呟くような願いも聞き遂げる訳にはいかない。 彼は誓ったのだ、今度は自分がルイズを守ると! 自分の命を、そして心をも救ってくれた彼女の為に。 あれから逃げる事で彼女の誇りが失われるというのなら、彼女の代わりに自分が戦う! 「相棒! 俺を使え!」 「使え…って言ったってどうやって掴むのよ!?」 「そりゃあ、おめえ…」 キュルケの問いにデルフリンガーが詰まる。 いかに使い手とはいえ剣を持てなければ意味が無い こうなったら猫科動物が爪を立てるが如き異な掴みで…と言おうとした瞬間、デルフリンガーの刀身が鞘より抜き放たれた。 柄に牙を突き立て彼はデルフリンガーを咥える。 デルフを構え、彼は土くれの巨人に挑む。 恐れも迷いも彼には無い。 この身はルイズの剣…彼女の使い魔なのだ! 前足に刻まれたルーンが光を放つ。 彼は初めて自分の意思で戦いへと赴いた…!
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2043.html
12話 嵐のような夜は明けて、朝が来た。 「新しい朝が来た、希望の朝が・・・」などというフレーズもある朝だが、 残念ながらこの日の朝は希望もなければスガスガしくもなかった。 トリスティン魔法学院長のオスマンにとっては特に。 「……それで、ミス・ヴァリエールが不届き者に襲われとったのにも、 土くれのフーケが宝物庫を襲って『破壊の杖』を盗んでいったのにも……。 だーれも気づかんかったと、そういうわけじゃな?」 オスマンが眉間に皺を寄せながら目の前に並ぶ教師一同を見回す。 教師達は皆が一様に肩をすくめるだけで、何も言おうとしなかった。 その反応を見て、オスマンは深いため息をついた。 メイジには主に2種類のタイプがある。 一つは軍人のように、魔法を戦うことに使うことを得手とするタイプ。 もう一つは、戦いは得意とせず、あくまで魔法を研究することに長けるタイプ。 この魔法学院にいるのは当然後者ばかりで、 「魔法殺し」や「土くれ」のような名だたる殺し屋、盗賊と渡り合えるような猛者がいないことぐらい、 オスマンだって分かっていた。 分かっていたが…これほどの体たらくだとは思いもしなかった。 ルイズの部屋に侵入した不届き者と戦い、重傷を負ったキュルケとタバサの方が、 こいつらよりもよほど貴族らしいのには間違いあるまい、とオスマンは深く思った。 「ハァ~~……もうよい。君たち、ちょっとそこに立っとれ。 ああ、それとミス・ヴァリエール。スマンの、ワシら教師がこんな有様で」 「い、いえ……」 オスマンの丁重な物言いにどぎまぎするルイズ。 オスマンはそれを見て目を細めると、その隣に立っているギーシュとモンモランシーに目を向けた。 「それとミスタ・グラモンにミス・モンモランシ。 君らが不届き者の事と『土くれ』の件を伝えてくれておらねば、事態はもっと悪化しておったやもしれん。 礼を言おうかの」 「い、いえ! そんな……」 「いえ、オールド・オスマン! レディを守る事は騎士の務め! ですのでこの程度のこと、礼には及びません」 モンモランシーが白い目でギーシュを睨む。 でもギーシュは気づいていないようで、調子よさそうにニコニコしていた。 「それは何よりじゃ。 ……さて、ミス・ヴァリエール。 昨日の事をもう一度、今度は簡単に話してもらえるかね?」 「はい。えっと、私が寝てたところでいきなりホワイトスネイクが大声出したからそれで目が覚めて、 その後不届き者とホワイトスネイクが戦ってたらキュルケとタバサが入ってきて……」 余談だが、ルイズがタバサの名前を覚えてるのは先ほど事件の概要をルイズが説明した際、 タバサを「青髪の女の子」と呼んだのをオスマンに訂正されたからである。 「それでキュルケとタバサがいきなり浮き上がって、苦しそうにしてて……」 「……もうよい、ミス・ヴァリエール」 ルイズのあまりの説明下手にオスマンはたまらず待ったをかけた。 先ほどのルイズの説明も、オスマンをもってしてもまったく理解できなかったために 待ったがかかった次第だというのに……。 とは言ってもハルケギニアには無重力の概念すらないのだから、 結局のところルイズでなくともあの戦いを性格に説明する事は困難であろうが。 「……あ~、その、なんじゃ。 さっき君は『ホワイトスネイクと不届き者は知り合いのようだった』と言ったのう?」 「ええ、そうですけど」 「ここは、ホワイトスネイク君に話してもらうのが分かりやすいかもしれんの」 「イヤです」 ルイズは間髪いれずに拒否した。 「わたしが話します。わたしが当事者ですから」 「でも君の言う事はちょっと分かりにくいんじゃよなあ……話を早く進めたいってのもあるしの。 ホワイトスネイク君を……?」 「いいです。わたしがわかりやすく話します」 ルイズがホワイトスネイクに説明させたがらないのは、単に「使い魔より説明下手」と思われるのがイヤなだけで、 決してホワイトスネイクを邪険に扱おうとする意思があるわけではない。 ないのだが、誤解されても仕方の無い状況になってきている。 「……そうかね。じゃあ、もっと分かりやすく頼むよ」 「はい。 まずホワイトスネイクが大きい声出したからそれで目が覚めて、ホワイトスネイクと不届き者が戦い始めて、 その後にキュルケとタバサが助けに来てくれたんだけど不届き者にやられそうになっちゃって、 それでわたしとホワイトスネイクがそれを助けに行って……ここまでしか覚えて無いです」 オスマンは椅子から滑り落ちそうになった。 (な、なんで一番肝心なとこを覚えとらんのじゃろうな? やっぱり使い魔の方に説明させるのが正解じゃったかの……?) 「あ~、ミス・ヴァリエール。わしが聞きたいのはその先なんじゃが……」 「……ホワイトスネイク」 ルイズがぼそっと自分の使い魔の名を呼んだ。 直後、ルイズのすぐ傍に屈強な体躯を持つ亜人――ホワイトスネイクが現れる。 あの戦いから半日を経たホワイトスネイクの体には今も無数の傷が残っており、 特にジャンピン・ジャック・フラッシュの拳に貫かれた腹部の傷は殆どそのままで残っていた。 「状況ハ理解シテイル。ルイズノ代ワリニ、昨日ノ一件ノ説明ヲスレバ……」 ドグシャアッ! 「ッ!! ナ、何ヲスル! イキナリスネヲ蹴ッ飛バスンジャアナイッ!」 「あんたが聞かなくてもいいところを聞いてるからよ!」 「ダッタラ口デ言エ口デ! 何デ一々私ニ当タロートスルンダ!」 「何よ、ご主人様の教育方針にケチつけようって言うの!?」 「コンナヤリ方ニケチツケナイ奴ガイルト思ッテンノカッ!」 出てきた直後からぎゃあぎゃあと口論を始めるルイズとホワイトスネイク。 目の前のオスマン、隣のギーシュとモンモランシーはもちろん、周りにいた教師一同も、思わず目を覆った。 ルイズとホワイトスネイクが、二人してあまりにも子供じみていることに。 「……もう、いいかの?」 オスマンはまたため息をつきながら二人に声をかける。 その声でルイズははっとした顔になると、すぐにホワイトスネイクの足を踏んづけて黙らせる。 ホワイトスネイクは苦悶と理不尽への怒りを滲ませた表情プラス不満たらたらの視線をルイズに向けたが、 ルイズは完全にスルーした。 「ではホワイトスネイク君。 まず、ミス・ヴァリエールの話では、昨日の不届き者とは知り合いだったそうじゃが……本当かの?」 「本当ダ。奴ノ名ハラング・ラングラー。 私ガ最期ニラングラーニ会ッタ時ハトアル場所ノ囚人ダッタ男ダ」 「囚人、か。 ではこちらが不届き者について知っておることを言おうかの。 彼奴の名はラング・ラングラー。君が知っておる名と同じじゃな。 彼奴は囚人などではなく……殺し屋じゃった。 それも『魔法殺し』などと呼ばれてメイジとの戦いを得手とする、何とも風変わりな殺し屋だったそうじゃ。 最も『メイジ殺し』などと呼ばれる腕の立つ傭兵もいることにはいるが……彼奴の強さはそんなレベルではなかったと聞く」 「『魔法殺し』?」 ホワイトスネイクがおうむ返しに聞き返す。 「そうじゃ。 これは彼奴に襲われながらもかろうじて逃げ延びた魔法衛士隊の青年の話じゃがな……。 まず風と火の系統は魔法自体が完成せず、 水と土の系統は魔法を完成させられても、完成させたものをコントロールすることが出来んそうじゃ」 「そ、それって、メイジの天敵みたいなものじゃないですか!」 オスマンの突拍子も無い話に、思わずルイズか声を上げる。 「風と火はダメ、か。 どうりでキュルケたちが負けるわけね」 「水と土はコントロールできない……コントロールできないってことは、どういうことだ?」 「あんたのワルキューレとか私の水が思うように動かないってことでしょ」 「あ……なるほど」 そして同様に話を聞いていたギーシュとモンモランシーも、 「魔法殺し」の恐るべき能力を想像していた。 ギーシュは頭の弱さを露呈しただけだったが。 「しかし、何故そのようなことになるんでしょうな……?」 教師の一人であるコルベールが疑問の声を上げた。 彼の前頭部は今日も目映く輝いている。 「それがのう、一体彼奴が何をやったのかは青年にもちっとも分からんかったそうでの……全く恐ろしいことよ。 ホワイトスネイク君は何か分かるかの?」 「『無重力』ダ」 ホワイトスネイクが即答する。 「『むじゅーりょく』? 一体何かの? それは」 「私ガイタ世界デノ概念ダ。 話シテモ時間ガカカルカラナ……先ニ昨日ノ件ノ説明ヲ済マセタイ」 「そうかね。じゃあ頼むよ」 「ルイズニ2人ノ救出ヲ頼マレタ私ハソノヨウニシテ二人ヲ助ケ、ソノ後ラングラーニ止メヲ刺ソウトシタ。 ダガソノ際、ラングラーガ部屋ノ壁ヲ壊シテ部屋カラ脱出シタノデ、私ハソレヲ追ッテラングラーニ止メヲ刺シタ。 ソノ後フーケトヤラガ巨大ナゴーレムトトモニ現レテ宝物庫ニ侵入シ、何カヲ奪ウト去ッテイッタ」 三行で説明しきったホワイトスネイク。 流石である。 「ふ~む……なるほどな。 君は見たところ傷だらけじゃが、それはラングラーと戦った時に負った物かね? 随分痛そうじゃが……」 「問題無イ。モウ半日アレバ全快スル」 「……そんなに早く治ってしまうもんなのか。流石は亜人、といったとこじゃのう」 オスマンは一端そこで言葉を切ると、 「とりあえず、ラング・ラングラーのことはもういいじゃろ。 あとでまたホワイトスネイク君から聞けばよいしな。 と、なると……次は『土くれ』じゃな」 そう言って、またため息をついた。 正直な話、こちらのほうが重大な話だった。 いくらルイズが名家の出身だといっても極端な話をすれば、所詮は生徒一人の話。 であるのに対し、こちらは王家より預かった二つと無い宝物を盗人に汚されたという、 言うなればトリスティン魔法学院のコケンに関わる話だからだ。 「フーケガ逃ゲタ先ハ分カッテイルノカ?」 「今ミス・ロングビルが調べとるとこじゃ。 書き置きにはもうそろそろ帰ってくる、とあったが……まだかの?」 「ソノロングビル一人デカ?」 「そうじゃ。それがどうかしたかの?」 「…………」 この時点で、ホワイトスネイクはロングビルがフーケなのではないか? という疑いを持った。 「書き置き」とオスマンが言ったからには、 恐らくオスマンが気づいた時点でスデにロングビルは学院内にいなかったのだろう。 そして土くれのフーケを探すために外に出ているのはロングビルただ一人。 これがどうかんがえてもおかしい。 あれだけのサイズとパワーを持ったゴーレムを使役する盗賊メイジに対し、 たった一人で調査を敢行したのか? 「貴族のプライド」だか何だかのためにも、 例え自分一人であったとしても土くれのフーケに挑まないわけには行かなかったのです! とか言ってしまえばそれまでだろうが、 合理主義者のホワイトスネイクからすれば、明らかにこの行動は不審そのものだった。 「オールド・オスマン、ただいま戻りました」 と、その時。 実にいいタイミングでロングビルが帰ってきた。 「おお、帰ってきたか。で、フーケの居場所は分かったかの?」 「はい。近在の農民に聞き込んだところ、 近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです。 恐らく、彼はフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと思います」 「そこは近いのかね?」 「はい。徒歩で半日。馬で四時間といったところでしょうか」 「すぐに王宮に報告しましょう!」 コルベールが声を上げる。 だがオスマンはそれを制すると、 「いや……それでは時間がかかりすぎる。 そんなことをしとる間に、フーケはもっと遠くへ逃げてしまうじゃろう。 破壊の杖と一緒にな。そこで……一つ、わしから提案がある。 この事件、我々魔法学院の者で解決してみようじゃないか」 教師たちがいっせいにどよめき始める。 「ではこれから捜索隊を編成する。我こそは、と思う者は杖を掲げよ」 オスマンが静かに言った。 しかし誰も杖を上げない。 教師たちは互いに顔を見合わせ、皆が皆「お前が行けよ」という顔をしていた。 「おらんのか? おや? どうした! フーケを捕まえて、名を上げようと思う貴族はおらんのか!」 オスマンがそう言って、今日何度目かの深いため息をつこうとしたその時だった。 杖が一つ、掲げられた。 それを見て、教師たちが水を打ったかのように静まる。 杖を掲げたのは教師の誰でもない。 他の生徒達から「ゼロ」と蔑まれ、しかし誰よりも貴族であろうとするルイズだった。 「ミス・ヴァリエール、あなたは生徒ではありませんか! それに昨晩不届き者に襲われたばかりだというのに、おやめなさい!」 ミセス・シュヴルーズが声を上げるが、ルイズは動じずに言い返す。 「誰も掲げないじゃないですか」 「ルイズ、悪イ事ハ言ワナイカラ止メテオクベキ……」 「あんたはお呼びじゃないのよ」 ダメだ、こいつ。はやく何とかしないと……。 ホワイトスネイクがそう心中で呻いたその時、 「ミスタ・グラモン、君まで!」 ルイズの隣にいたギーシュまでもが、杖を掲げていた。 「グラモン家の家訓は『命を惜しむな、名を惜しめ』ですよ、コルベール先生。 か弱いレディがフーケ討伐に名乗りを上げるのに、男の僕がどうしてそれを躊躇えましょうか」 そういって、キザに決めるギーシュ。 キザに決めてるのにどこか抜けてる気がしてならないのはご愛嬌。 「…も、もう! ギーシュじゃ心配だから、わたしも行くわ!」 そしてモンモランシーも杖を掲げた。 「正気ですか、オールド・オスマン! 悪名高いフーケの討伐に年端もいかない生徒を向かわせるなんて!」 コルベールがオスマンに強く抗議する。 「いや、そうは言ってものう、コルベール君。 それにこの面々、中々期待できる面子では無いかね? ミスタ・グラモンは軍人の家系、グラモン家の人間、 ミス・モンモランシは代々水の精霊との交信を任された、いわば水のエキスパート。 ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール家の息女ときておるし、 彼女の使い魔のホワイトスネイク君は『魔法殺し』を単身で仕留めたのじゃぞ? 土くれ相手とは言え、不足はあるまい」 「そうは言ってもですね……」 コルベールはまだ煮え切らない様子だったが、 結局この場にいた教師は一人も名乗りを上げなかったため、 反対にフーケの犯行現場に居合わせた3人の生徒がフーケ討伐に向かう事となった。 しかしホワイトスネイクはその3人の面子を見回して、一言。 「全滅スルゾ」 メメタァッ! 「グオ、ォ……」 「縁起でもない事言うんじゃないわよ!」 「ワ、私ダッテマダ全快ジャアナインダ……本当ニ全滅シカネナイカラソウ言ッテイルノニ……」 To Be Continued...