約 1,319,785 件
https://w.atwiki.jp/zeromoon/pages/79.html
前ページ次ページゼロの白猫 翌日、当然だが学院は大騒ぎになっていた。 名にしおうトリステイン魔法学院に盗賊が堂々と侵入し、ゴーレムを使って宝物庫を破壊、そして学院の秘宝を盗み去る。学院創立以来の大事件である。 宝物庫の壁には『破壊の杖、確かに領収致しました 土くれのフーケ』という人をくったサインが壁に残されていたという。昨夜の黒ローブは土くれということで間違いなかったらしい。 フーケが土くれと呼ばれる所以は、彼女が『錬金』の魔法の使い手で、メイジの用意した防御をことごとく土くれに変えてしまうことから名づけられたとか。 無論貴族も『錬金』の魔法の対策はしている。それは『固定化』という魔法だ。 『固定化』とは、『錬金』と同じく土系統の魔法で、物質の腐敗・酸化といったあらゆる化学反応を防ぎ、半永久的にその姿を保ち続けさせるという、菌に優しくない魔法である。醸せねー。 『錬金』の魔法を『固定化』がかかった物質へ掛けた場合、どちらが効力を発揮するかは掛けたメイジの能力に依存する。フーケは錬金のエキスパートだったらしく、これまで数々のメイジの固定化が土くれに変えられていたのだ。 そんなフーケといえど、スクウェアメイジが数人掛かりでかけた『固定化』は破ることはできまい。学院の誰もがそう思っていたのだ。だから、『固定化』以外の魔法が宝物庫に掛けられていないことを誰もが見逃していた。 結果、ゴーレムによる力技で壁をぶち壊すという荒業でまんまとフーケは仕事をなしていったのである。 「フーケめ、まさかこの学院にまで狙いをつけていたとは……!」 「『破壊の杖』はオールド・オスマンが特に危険な物と念押ししていたものですぞ!」 「見張りの衛兵は何をしていたのだ!」 慌てふためいて混乱すし、全く統制のとれていない教師たち。 ルイズは忙しない教師たちの様子を無味乾燥な眼で眺めていた。昨夜の事件の目撃者として呼び出されていたのだ。傍らにはキュルケにタバサもいる。二人の心中は知る由もないが、つまらなさそうな様子は三人とも共通していた。ルイズに同伴しているレンもあくびをしていた。 「衛兵など当てにならん、所詮平民だろう! それより当直の教師はどうしたのだ!」 教師の誰かが言った言葉に、シュヴルーズが震えあがった。 昨日の当直は彼女だった。けれども彼女は自室で眠りこけ、朝起床してようやく事件のことを知ったのである。 「ミセス・シュヴルーズ! 貴方は当直でありながら何をしていたのです!」 見て分かるほどぶるぶると震えるシュヴルーズ。責任の大きさからの恐怖ゆえか、涙まで零している。 教師たちはここぞとばかりに彼女を一斉に責め出す。学院長が来る前に責任の所在を明らかにし、自分たちは非難の的にならぬようにしようとしているのだろう。 「泣いても盗まれたものは戻ってこないのですぞ! それとも貴方が破壊の杖を弁償するとでも言うのですか!」 「む、無理です、私家を買ったばかりで……」 座り込んで泣き崩れてしまうシュヴルーズ。このまま責任を負わせる人柱が決まってしまいそうな、その時。 「これこれ、よってたかって女性を苛めるでない。女性を苛めていいのはベッドの上だけじゃぞ」 何と言う破廉恥な発言。こんな発言ができるのは、いや学院の教師全員に向かってこんな発言ができるのは、この学院の最高権力者、オールド・オスマンその人しか居ない。 オールド・オスマン。現存する最も偉大な魔法使い、300年生きたメイジなど、様々な通り名を持っている。噂では、本人は白髭公と呼ばれたがっていたとかいないとか。 しかし、このおじいさんは老いて尚盛んとも有名である。彼が先ほどの発言どおり、女性を苛めるのはベッドの上だけかは非常に疑わしい。 日ごろの彼は、カリスマは無いに等しいスケベ老人で通っている。しかし、この場においては紛れも無く最高責任者の存在感を漂わせていた。 「しかしオールド・オスマン! 彼女は当直でありながら仕事をサボタージュしていたのです!」 「この中で、日頃真面目に当直をしていたものはどれだけおるかね?」 オスマンのその言葉で、先ほどまで勢い込んでいた教師が黙り込む。教師の誰もがオスマンと目を合わせようとしない。 「この通りじゃ。当直の習慣など形骸化して久しいからのう。責任があるとすれば、この場の学院教師全員にじゃて」 オスマンにこう言われては、もはや責任を誰か一人に押し付けることなどできようはずもない。救われたシュヴルーズは涙を流してオスマンに擦り寄った。 「あ、ありがとうございます、オールド・オスマン!」 「ひょっひょっひょ。ええんじゃよええんじゃよ。お礼は君のお尻で払って貰うからのう」 「ええ、幾らでも触ってください、私ごときのお尻なら幾らでも!」 滑ったギャグほど寒いものは無い。特に場を和ませる為に言った物が滑った場合の寒さは本当に凍死しかねない。 誰も突っ込むものが居ない真面目な空気の中で、シュヴルーズの尻を撫でていた手を仕舞うと、取り繕うように一度咳払いをするオスマン。 「それで、犯行を目撃していたというのは誰かね」 「はい、この者たちです」 教師がルイズたち三人をオスマンに示す。無論、猫のレンは人数に数えられていない。時折後ろ足で耳を掻いているが、一応、ルイズの足元におとなしく佇んでいる。 「では君たち。昨晩目撃したものを話してもらおうかの」 「はい。昨夜、私は魔法の練習を行う為中庭にでておりました。そこにキュルケとタバサがやってきて、今日はもう帰ろうとしたところで中庭の植え込みからゴーレムが出てきたのです。ゴーレムは一撃で壁を壊して宝物庫へ侵入し……」 そこまで話して、一度ルイズは黙ってしまう。悔しさのせいで俯いてしまうが、何とか後に続く言葉を絞り出した。 「……戻ってきたフーケはそのまま逃げました。私たちを、無視して……!」 恥ずかしい。恥ずかしい恥ずかしい……! 最初から犯行現場にいながら何もできませんでした、と告白しているのだ、なんという恥辱! ゼロと蔑まれる日常も辛かったが、それとは全く別の悔しさがルイズを苛み続ける。手が真っ白になるほどに強く手を握り締めていた。 「気にすることはない、ミス・ヴァリエール。悪名高いフーケと対峙して君たちに怪我が無かったことこそ幸いじゃて」 ルイズへのオスマンの声は優しかった。生徒である彼女たちを責める気など微塵もないらしい。だが、そんな言葉も屈辱に打ち震えるルイズには何の癒しももたらさなかった。 「その後、タバサが風竜でゴーレムを追跡しましたが、ゴーレムは只の土の山になっていました。恐らくゴーレムを囮にして馬に乗り換えたのではないかと」 ルイズの報告にキュルケが補足する。あの後タバサはフーケを追っていたらしい。しかし何の痕跡も見つけられなかったということだ。 「むむう、それではまるで手掛かり無しか……」 髭を撫でながら唸るオスマン。現状の打開策がなく、部屋に重い沈黙が漂った。そこへ扉からノックの音が響く。 「誰じゃ?」 「失礼します。ロングビルです。遅くなってしまい申し訳ありません」 「入りたまえ」 学院長の許可と共にドアが開かれ、眼鏡の女性が入ってくる。 彼女はミス・ロングビル。オスマンの秘書である。年は恐らく20歳前半くらいか。その年齢でありながら秘書として有能らしく、オスマンからの信頼も篤い。しかし、噂によるとオスマンからのセクシャル・ハラスメントに日々悩まされているとか。 結婚適齢期であり、ややきつめのスーツではっきり浮き上がる女性の起伏は男性教師のみならず男子学生にもけしからんといわれている。その辺りにも原因があるだろう。オスマンにベッドの上以外で苛められている女性筆頭候補である。合掌。 「何処へ行っていたのです、大変なことになっているのですぞミス・ロングビル!」 「存じております。まず勝手に行動したことに謝罪を。朝から独自に調査を進めておりましたので遅れてしまいました」 「調査じゃと?」 「はい。朝起きれば学院中が騒がしい上、騒ぎの中心の宝物庫は無残に壊れているではありませんか。その上最近貴族を脅かしているというフーケのサインまで残されていたと聞きました。そこでフーケが逃げたと思われる経路を辿っていたのです」 「仕事が早いのう、ミス・ロングビル」 教師陣は驚きを隠せない。いち秘書に過ぎない彼女が誰よりも早く行動を起こしていたとは。 「して、何か手がかりは掴めたのかね」 「はい、フーケの隠れ家が分かりました」 「なんと!?」 ざわ……ざわ……。 「フーケを追った先で会った村で聞き込みを行ったところ、農民の一人が黒ローブで馬に乗った怪しい人物を目撃したと。その者は森の中の廃屋に入って行ったそうです」 「黒ローブ……確かに昨日のメイジも黒ローブをまとっていました! そいつがフーケに間違いありません!」 昨晩の犯行を行った人物は黒いローブで顔までスッポリ覆われていた。フーケに間違いないと思ってルイズは言う。 「ここからフーケの居る場所までどれほどかかるのかね?」 「はい、馬で4時間といった所でしょうか」 「オールド・オスマン! すぐに王宮へ衛士隊派遣の要請を……」 「バカモン!! 王宮まで使いを出し、要請が受理され、衛士が派遣されるまでどれだけかかると思っておる! その間にフーケは更に遠くへ逃げてしまうわ!」 一人の教師の提案はオスマンに一蹴される。確かに、フーケがいつまでもそこに潜伏している可能性は低い。すぐに追わねばフーケも秘宝も闇の中へと消えることだろう。 「それにこの事件は学院内で起きたもの。栄えあるトリステイン魔法学院は盗賊の侵入を許したばかりか秘宝まで奪われ、挙句解決に外部へ力を乞うたなどと恥を広げる気か! 我々学院の者だけで処理する!」 名誉を何より重んじるトリステインの貴族、その貴族たちの子供を通わせる名門トリステイン魔法学院。そこへ賊が入られ、おめおめ逃がしたとあればその権威は地に落ちるだろう。学院存続にもつながりかねない出来事なのだ。内々に処理したいというのは当然。 「ではこれよりフーケ討伐隊を編成する。我こそは、と思う者は杖を掲げよ!」 室内が静まり返る。誰一人として、杖を掲げるものは居なかった。 「どうした、誰もおらんのか! フーケを討って名を上げようというものは!」 再度のオスマンの呼びかけにも誰も応えない。誰とも目が合わないように俯き、なのに誰か志願者が居ないか横目でこそこそ伺っている。 ルイズは先ほどからずっとムカムカしていた。これが、貴族の姿か? 賊に入られて、宝を盗まれ、責任を擦り付け合い、敵の居場所が判っているのに尻込みする。 無様。それがルイズが彼らに抱いた感想だった。そして、ここにいる自分もこんな無様な連中と括りにされるのか。そう思った時、ルイズはもう堪らなかった。 「何をしているのです! ミス・ヴァリエール!」 シュヴルーズの悲鳴じみた声に、部屋中の視線がルイズに集中する。ルイズが高々と杖を掲げているのだから当たり前か。彼女の使い魔のレンも例外ではなかった。 「貴方は学生でしょう! 討伐者として行くなど危険すぎます!」 「誰も掲げないじゃないですか」 ルイズは教師の言い分をばっさり切り捨てる。今はこんな議論をしている一分一秒が惜しいのだ。誰も行かぬのなら自分がフーケを捕らえて見せる。私はこんな貴族たちにはならない。 ゆるぎない瞳でオスマンを見る。オスマンもまたルイズを見返し、笑って頷いた。 「うむ、ならば彼女に頼もうかのう」 「オールド・オスマン! 本気ですか! 相手はあの土くれのフーケなのですぞ!」 「ならば君が行くかね、ミスタ・ギトー」 「いえ、私は、今日は喉の調子が悪いもので……」 成る程、ルーンが唱えられないのならば仕方があるまい、などという者はこの場に一人も居はしなかった。 キュルケはしばらくルイズを見ていたが、やがて彼女も杖を取り出し、高々と掲げた。 「ミス・ツェルプストー! 君までどうしたというのだ!」 「ヴァリエールには負けていられませんもの。それに昨日の雪辱を晴らしたい、とも思いまして」 トライアングルクラスとしての自負はあった。しかし昨日のゴーレムは自分の炎をものともしていなかった。その屈辱を晴らすには、確かにこの討伐に参加するのが近道だろう。 杖を掲げる二人も見て、タバサも自分の身長よりも大きい杖を掲げる。 「ちょっとタバサ、あなたまで付き合うことないわよ」 「心配」 キュルケを見上げる瞳は無感情だが、彼女の言葉と行いはまぎれもなくキュルケとルイズを案じているものだった。 「タバサのそういう所、好きよ!」 場所をわきまえず、ぎゅーっとタバサに抱きつくキュルケ。あまつさえすりすりと頬ずりしている。一方のタバサは相変わらずの無表情であった。 「オールド・オスマン。やはり学生だけの討伐隊というのは無理があるのでは……」 「心配はいらぬよ。特に、ミス・タバサはその年でシュヴァリエの勲章を授与されているという話ではないか」 その時教師たちに電流走るーー! シュヴァリエの爵位は、照合の位置付けは低いが、授与されるには何らかの業績を残す必要があり、実力が無ければ貰えないものなのだ。タバサの年齢でそれを与えられたというのは、彼女が相当な実力者であることを示している。 「知らなかったわ。何で黙ってたのよ」 「言う必要も無い」 キュルケの問いに応えるタバサは冷めたもの。いつものぼーっとしたような瞳でぼんやり前を見つめている。 「ミス・ツェルプストーはゲルマニアの軍人の家系。優秀な軍人が何人も輩出されている。彼女自身も素晴らしい炎の使い手と聞いておる」 オスマンの言葉に、キュルケは髪を掻き上げて胸を張る。あの、胸元まで開いたシャツでこれ以上その胸を張られると、シャツからこぼれかねないのですがキュルケさん? 「そしてミス・ヴァリエールもトリステイン公爵の家の出身。またとても勤勉な学生じゃ。何より彼女は貴族の心構えが誰よりも素晴らしい」 オスマンの言葉に、ルイズもキュルケのように胸を張る。しかし、彼女にはこぼれるだけの起伏などありはしなかった。南無。 「では、フーケの居場所までは私が案内いたします」 「うむ、よろしく頼むぞ、ミス・ロングビル。すぐに馬車を用意させる。君たち、何としても破壊の杖を奪還してきてくれ」 「はい、必ず。杖にかけて!」 「「「杖にかけて!!」」」 若きメイジたちは杖を掲げて唱和し、オスマンへ一礼するのだった。 御者台で馬車を操るのはロングビル。残りの三人と一匹はは、荷車のような屋根の無い馬車に乗っていた。襲われた時にすぐ逃げ出せるようにという配慮らしい。 馬車で揺られること4時間の旅。太陽が天頂近くに来た時には森へとついていた。森への中へは馬車が入ることができない。一行は馬車から降りて徒歩で森の中を進んだ。 獣道のような細い道を進んでゆくと、視界が開けた場所に出た。空き地のようになっている草むらに、ぽつんとぼろい廃屋が建っている。 「私が聞いた話によると、あそこにフーケは潜伏しているそうです」 そういってロングビルは小屋を指差す。確かに、こんな奥まった森の中、しかも捨てられたような小屋に立ち寄るような物好きは居まい。隠れ家としては上々だろう。 「作戦を立てる」 タバサが一行に呼びかけた。流石シュヴァリエ授与者。こういったケースにも一家言あるらしい。 立てられた作戦はこうだ。最善策はフーケに何もさせないこと。小屋をキュルケの魔法で焼き払えれば一番なのだが、その方法だと奪還すべき『破壊の杖』が無事である保証が無い。 次善策として、フーケは土のメイジであることに着目する。自分に有利なフィールドとして、敵を発見すればフーケは土のある屋外へ出ようとする筈。囮兼偵察役が小屋へ行き、フーケが居た場合外へおびき出し、魔法の集中砲火で一気に殲滅する、ということに決めた。 「レン、あんた偵察に行ってきなさい」 ルイズは白猫を自分の眼前まで持ち上げて命令する。 「前にやったみたいに私と視覚を共有して、あんたが偵察に行くの。中にフーケが居たらあんたがおびき出しなさい。誰も居ないようなら私たちも行くわ」 レンから返答は無かったが、ルイズの顔を見つめ返しながら一度こくりと頷いた。するとルイズの右目の視界だけにルイズ自身の顔が写る。視界の共有に成功したようだ。 ルイズの腕からレンが飛び降り、小屋へとまっすぐに向かっていく。小屋から丸見えだろうが、囮役としては良いだろう。フーケが小屋の中にいるならかなり気を張っているはず。メイジの使い魔に多い猫が近づいてくるならば何らかのアクションをする可能性が高い。 「ご自分の使い魔を信頼されているのですね、ミス・ヴァリエール」 つぶさにレンと小屋を観察していたルイズに、ロングビルから声がかけられた。 「ええ、逃げ足の速さは。良く逃げられますので」 「ルイズ、それ自慢にならないわよ」 「黙ってなさいツェルプストー」 「貴方の使い魔はどんな能力があるのですか?」 そのロングビルの質問に一瞬詰まるルイズ。ここは無難に普通の使い魔にできることだけ言っておけばいい、と考えた。 「どんなって、普通です。視界の共有や意思の疎通ができるくらいの。それが何か?」 「いえ、とても綺麗な猫だったので、少々興味があっただけですよ」 そう言ってロングビルは小屋へと向かうレンへと視線を戻した。ルイズもレンと小屋へ意識を向ける。 もうレンは小屋まで辿り着き、窓を覗きこんでいるところだ。ルイズにも小屋の内部の様子が見えてくる。 「中に誰もいないじゃない」 窓から見える範囲では中に人影は確認できなかった。レンはさまざまな角度から小屋の中を見渡してみるが、やはり誰一人見つけることはできない。 「フーケはいないみたいよ。私たちも小屋へ向かいましょう」 「では、私はフーケが戻ってきたときに備えて周辺を警戒していますわ」 「一人で大丈夫? フーケは少なくともトライアングルクラスの使い手よ」 「ご心配には及びません。私もメイジの端くれ。ラインクラスとはいえ皆様が戻るまで逃げ延びるくらいはして見せます」 ロングビルはそう言って森の中へと入っていった。 「フーケの追跡から聞き込み、私たちの案内に加えて哨戒まで。働き者ねぇ、あの人」 「私たちも負けてられないわ。行くわよ」 ルイズたちは小屋へと向かって歩き出す。その間も周囲を警戒しながら進むが、やはり何の妨害も無かった。無事に小屋まで到着する。ルイズは仕事をこなしたレンの頭を軽く撫でてやった。 タバサがドアへ『ディテクト・マジック』を唱える。対象物の状態を調べる魔法だ。タバサがうなずく。どうやらワナは無いらしい。 「開けるわ」 小屋の中へと入るルイズとキュルケ。タバサは念のため入り口で見張りをしておく。 長い間、人が入らなかったらしい。小屋の中は何処もかしこも埃だらけ。床には積もった埃に足跡が残っている。最近人の出入りがあったことは確かだろう。 中にはほとんど物が無かった。その中で目を引くのは簡易的なチェスト位か。こんな所にまさか破壊の杖があるとは思えないが、念のため開けてみる。 「え」 「これ、『破壊の杖』じゃない! あっけないわねー」 大穴だ。まさかこんな簡単に破壊の杖が取り戻せるとは。 ルイズは手にとって『破壊の杖』を観察する。まず、軽い。そして何から作られているのかわからない。金属でできているということはわかるが、こんな金属はルイズもキュルケも見たことが無かった。 見た限りでは1メイルほどの大きさの筒、といった印象だろうか。はっきり言って、魔法の杖には見えない。 ふと、ルイズはレンがなにやらじっと破壊の杖を凝視していることに気付く。この猫もこれに興味があるのだろうか。 と、大きな音を立ててドアが開かれる。タバサには珍しく焦った様子でルイズたちへ叫ぶ。 「来た!」 その声と同時に、小屋の屋根が吹き飛んだ。余計なものが無くなってすっきりした、などという感想が浮かぶはずも無い。綺麗に吹き飛んだ天井から見えるのは、青い空、白い雲、そして土でできた拳。 「これは……待ち伏せ……!」 襲ってくるタイミングが良すぎる。恐らくフーケは近くからこちらを伺っていたのだろう。それなら何故破壊の杖を持ち出さなかったのか、という疑問が湧くが、今は頓着している場合ではない。 ゴーレムに小屋ごと潰される前にルイズとキュルケは脱出する。そこには昨日と同じ、自分たちの十数倍はある大きさのゴーレムがその巨躯をさらしていた。 フーケは見当たらない。昨日のようにゴーレムに乗っていれば一気に攻撃を仕掛けただろうが、そんなヘマをするほど向こうも甘くは無いらしい。 「やるしか、ないわね!」 「キュルケ、タバサ! 一斉に仕掛けるわよ!」 「了解」 ルイズの求めに応じ、三人がゴーレムへ一斉に杖を向ける。 まずタバサが『エア・ハンマー』を唱える。空気の塊がゴーレムの胴体に直撃し、巨体を揺らす。 それにキュルケが『フレイム・ボール』続いた。彼女の胴体ほどもある巨大な火球が放たれ、タバサの起こした空気の塊に引火し、ゴーレムは業火に包まれた。 最後にルイズが攻撃を仕掛けた。彼女が唱えたのは『ファイアー・ボール』だったが、結局炎は生まれなかった。何時もどおり、いや何時もより大きい爆発が、ゴーレムの胴体で前触れも無く炸裂する。 「どう……!?」 もうもうとした土煙でゴーレムの姿が遮られてしまう。数秒の後に現れたのは、ぽっかり開いた穴を下の土で再生しているゴーレムの姿だった。控えめに見ても、攻撃が聞いているようには思えない。 「これほどなの……!?」 「一旦退却」 タバサが口笛を吹く。その音を合図として、空に風竜のシルエットが現れる。確かに破壊の杖の奪還は果たした。ならばこのまま逃げるのが上策だろう。が――。 「駄目よ! ミス・ロングビルが居ないじゃない!」 小屋へ侵入する前に別れてから、一度もロングビルを見ていない。見えないところでフーケと応戦しているのか、あるいは既にフーケに……。 「っ!!」 「きゃあぁ!!」 逡巡しているメンバーにゴーレムの拳が降って来る。三人とも何とか交わしたが、ルイズは二人と別方向に跳んでしまった。ゴーレムを間に挟む形でのパーティー分断。状況は非常にまずい。 「ルイズ! 上からシルフィードであなたを拾うわ! それまで何とか逃げ延びなさい!」 キュルケが風竜に乗り込みながらルイズへ叫ぶ。ゴーレムの間を走り抜けることは確かに危険だ。それを避ける為に風竜で回り込んでルイズを拾う考えらしい。 問題は、それまでこのゴーレムの拳から逃げられるか、ということだ。ゴーレムの動きは確かに鈍いが、巨体ゆえの力の大きさ、辺り判定の大きさ、一挙動の動きの大きさを考えると、回避し続けるのは難しいだろう。 「そうだ! これを使えば……!」 ルイズは自分が持っている破壊の杖に意識を向けた。学院長があれほど危険視したマジックアイテムである。名前からしても、こんなゴーレムをも倒せるようなすごいシロモノに違いない――! 祈りをこめて『ファイアー・ボール』の詠唱をする。地響きを立ててこちらへ近づいてくるゴーレムに焦りが生じる。可能な限り早く、間違いの無いように――! 長いような短いような時間が経ち、ゴーレムの腕が届くような距離に来た時に、ルイズはようやくルーンを唱え終えた。間に合う!! 「ええぃっ!!」 そして破壊の杖を振り下ろす。しかし、何も起こらなかった。 「あ、あれ!?」 ゴーレムへの攻撃はおろか、何時もの失敗魔法の爆発も起こらない。必死でルイズは破壊の杖を振る。しかし杖はうんともすんとも言いはしない。 焦燥に胸を焦がすルイズに構わず、ゴーレムは足を持ち上げる。ルイズを踏み潰す気らしい。キュルケとタバサは未だ上空に居る。絶体絶命だ。 視界全てを黒く塗りつぶすゴーレムの足に、ルイズはぎゅっと目をつぶった。 「タバサ! 強引にでもルイズへ近づけて! 私があの子を回収するから! お願い!!」 キュルケが必死にタバサへ懇願する。タバサは安全の為もっと後ろ側から近づきたかったのだが、確かにそんな余裕は無さそうだ。もうゴーレムとルイズは接近しすぎている。 ルイズは破壊の杖を振り回しているが、何も起こる様子は無い。本当にあれはマジックアイテムなのか、という疑念すら浮かぶ。 シルフィードに高速でルイズへ急降下するように指示を飛ばすが、それよりも早くゴーレムが足を持ち上げた。 「やめてーーー!」 キュルケの悲鳴が上がった。だが、そんな悲鳴ではゴーレムは止まらなかった。 どず……ん―― 一際大きい地響きが生じる。ゴーレムの足はもう振り下ろされていた。 「そんな……」 呆然とつぶやくキュルケ。あのゴーレムの足の裏では、ルイズが目も当てられないようなモノになってしまっているだろう。思わず原型すら留めていない彼女の死体を想像してしまう。 タバサとルイズは大して交流は無かった。それでも、今回仲間として一緒に作戦に参加した仲だ。そしてルイズは気難しいが高潔な精神を持つメイジだった。そんな彼女を無残に殺された。タバサの心にも怒りが生じる。 敵は討たねばならない、とフーケが居るはずの森へと視線を移そうとしたとき、ふと何かが視界をよぎった。フーケかと思って目を凝らしてみるが、違う。その娘とは一度だけだが面識があった。 キュルケもそれに気付く。タバサよりも小さな身体。全身白一色の衣装。きらきらと翻る銀髪。ルビーのように真紅の瞳。 「あれは……!?」 「アルク……ちゃん……!?」 「何やってるのよ、このばかマスター」 轟音がしたのに、いつまで経ってもゴーレムの足は振ってこない。代わりに降って来たのは、彼女の声だった。ぎょっとして目を開けると、そこには彼女の使い魔のレンの顔が。 なんとルイズはお姫様抱っこをされていた。自分よりも背の低い幼女に、両肩と両膝を抱え上げられている。お姫様がお姫様に抱っこされているような、それは矛盾していながらも幻想的なシチュエーション。 そして、それはどさりとレンにルイズが捨てられることで終了する。呆然としていたルイズはお尻を地面に打ち付けた。 「な、何するのよ!?」 「貴女があんまりにもヘタレだから助けに来たんじゃない。そんなロケットランチャー振り回しても魔法が出るわけ無いでしょ」 冷たい目でこちらを見下ろしているレン。そんな瞳や打ち付けた臀部の痛みより、今レンが呆れたように言った言葉の内容に驚いた。破壊の杖をレンに見せてルイズは聞く。 「これが何か知ってるの!?」 「知識としてはね。使い方までは知らないわよ。あれが調べる時間をくれるとも思えないし」 ずしん、と響く音の音源へとレンは向き直る。ゴーレムとこちらは数メイルの距離が開いている。レンがルイズを抱えて救出した時にそれだけ距離ができたらしい。そのわずかな距離をゴーレムはのっそり近づいてくる。 「ルイズ、足止めはしてあげるわ。その間に安全圏まで離れてあの竜に乗せてもらいなさい」 言うが早いが、レンはゴーレムへ向かって駆け出した。ルイズが止める暇も無い。あっという間に互いの距離が0になるレンとゴーレム。 射程範囲に入った白い物体へ向かってゴーレムの前蹴りが跳ぶ。しかし、その時にはレンはゴーレムの足より上へ跳んでいた。 自分の身長の何倍も高くレンは浮き上がる。ゴーレムの胸当たりまで跳んだ彼女は、ゴーレムを自らの手で殴りつけた。 「レン……!?」 レンの攻撃は一撃では終わらない。四肢を駆使した突き、払い、振り下ろしのラッシュ。それを一度も着地せず、空で舞うように叩き込む。遠目に、彼女の両手両足に赤い光球があるのが見えた。あれでゴーレムを叩いているらしい。 しかし、ゴーレムにしてみればレンなど人間にとっての羽虫に等しい大きさである。少々の打撃など先程のルイズたちの魔法にも及ばない。あっと言う間に地面の土が生じた傷を塞ぐ。 お返しとばかりにゴーレムがレンを殴りつける。 「―――っ!!」 声にならない悲鳴を上げるルイズ。落下を始めて動けないレンに、彼女の身長の何倍もの大きさの拳が直撃する――! レンはそれに動じることもなく、空中で見事にエビ反りになる。まるで落ちる木の葉が巻き起こる風に乗るように、ひらりとレンは逃れて見せた。 回避してからもレンは止まらない。パンチを放ったゴーレムの腕を掴むと、自分の身体を振り子のように振り、勢いを付けてゴーレムへと飛ぶ! 「ちょっ―――!?」 もはやルイズの目はレンに釘付けだ。主の思いも知らずにレンは好き勝手に動く。いつも飼い主の事など歯牙にもかけない猫そのものに。 飛び出したレンはゴーレムにぶつからずに、脇腹の横を素通りして着地した。振り返ったゴーレムが左手を振り下ろす、が、間に合わない。手が激突する前にレンは射程外まで跳んで逃れていた。 ふと、ルイズはゴーレムの脇腹が光っていることに気がついた。よく見てみると、ゴーレムの脇腹に何か生えている。水晶のようにきらきらしたものが、まるで骨が飛び出したみたいに。 目を凝らしているうちに、飛び出ている何かは砕け散った。 「『ウィンディ・アイシクル』―――!?」 風と水をあわせて使う、『ウィンディ・アイシクル』という魔法がある。確かにその魔法に似ていたが違う。通常はは無数の氷の矢が一斉に襲い掛かるのだが、レンが放ったものは彼女の身長よりも大きな氷柱が一本だけ。それがいつの間にかゴーレムに突き刺さっている。 何よりも、彼女の手には相変わらず手には時折赤い光球が浮かぶだけで、杖を所持していない。彼女が姿を変える魔法を一瞬で行うように、恐らくあれも先住魔法の一種だ――。 「ちょっと! なんで逃げてないのよ!」 目の前で繰り広げられる戦闘に目を奪われていると、レンから叱責が飛んできた。レンの声が届くも、ルイズは動く事ができない。 ゴーレムは二人のやり取りになど頓着せず、再度ゴーレムが右腕を振り上げる――! 「ああもう、空気を……」 ズドォン、と地面へ叩き付けられるゴーレムの拳をターンして難なくレンはかわす。そして彼女も右手を高く掲げ―― 「読みなさいっ!」 勢いよく振り下ろす。その手の動きに従うように、先ほどよりも大きい氷柱が生じ、ゴーレムの足首に深々と突き刺さった。 そして先程のように氷柱は砕ける、がそれだけで終わらない。砕けた氷の欠片が無数の刃となって舞い、ゴーレムの足首を削っている。 削れた足首がゴーレムの巨体を支えきれず、ぐしゃりと潰れる。その隙を逃さず、レンはバランスを崩されたゴーレムの横を走り抜け、ルイズの元まで戻ってきた。 「逃げなさいって言ったでしょうが! 死にたいの!?」 ルイズを責めるレンにはいつもの余裕はない。彼女もあのゴーレムとやりあう事は危険だったのだろうか。 レンの叱咤にようやくルイズに生気が戻ってゆく。主人の気も知らず危ないことをしていたこの使い魔が憎らしくて、とにかく大声で反発した。 「逃げられるわけ、ないじゃない! 私は貴族よ! 貴族が敵に後ろを向けられるわけないわ!」 「そんな意地で死んだら本当に唯の役立たずよ! 杖の奪還を失敗したばかりか自分の命まで粗末にしたって嗤われるだけって分からない!?」 レンの言葉は、レンの『役立たず』という言葉は、今まで誰が言った蔑みの言葉よりもルイズの心にぐさりと深く突き刺さった。 その言葉が痛くて、レンを睨む鳶色の瞳に涙が浮かぶ。 「あんたには分からないわよ! 私よりも魔法が使えてあんなゴーレムとも殴り合えるあんたには! 私はゼロじゃない! もうゼロなんて呼ばれたくないの! だから……!」 ぼろぼろ涙を零しながらルイズは叫ぶ。 見返してやりたかった。馬鹿にされて見下されるばかりの毎日はもう嫌だった。だから討伐隊に志願した。フーケを捕らえればもうゼロと蔑まれることはないと信じて。 なのに結果はどうだ。盗賊風情のゴーレムに手も足も出なくて、危険なところを使い魔に救われて、その使い魔は敢然とゴーレムに向かっていって!? 自分は一体何をしに此処までやってきたのだ。暗い絶望がルイズの胸を押し潰し、危険から逃げることすら忘れさせていた。 「此処で逃げたら私は死んだも同然よ! 誇りすらないんじゃ私は正真正銘のゼロじゃない……!!」 こぼれる涙は留まるところを知らず、地面に涙が吸い込まれていった。ルイズは目の前の使い魔から目を逸らさずにしっかりと睨む。 レンはそんなルイズに複雑な表情を返していた。蔑むような、非難するような、あるいは……憧憬のような。 そして、そんな口論の時間が命取り。ゴーレムの足の修復は既に終わり、二人に向かって距離を詰めてくる。敵の接近を示す地響きを聞いて、レンは溜息を一つ付いた。 「……仮にも私のマスターならもっと強くなってよ。でないと私も力を振るえないんだから」 そう言うとレンは空を仰ぐように両手を広げる。すると、彼女から目に見えない何かが吹き出した。 「!?」 「よく見てなさい」 そう言うと、レンはゴーレムへ向かって歩いていく。無造作に、まるで散歩にでも出かけるような軽快さで。 ゴーレムの射程にレンが入った途端、天頂へ振りかぶられた豪腕が振りりかぶられる。だが、レンは避けようとしない。ルイズが避けろと命令するよりも早く、ゴーレムの渾身の一撃が繰り出される……! 「はい」 レンの軽い掛け声が聞こえた。レンを潰そうとするゴーレムの腕と、まるでそれを受け止めるように伸びたレンの手が衝突した、と思った瞬間――世界が暗転した。 「~~~!?」 もはや何が起こっているのかルイズには理解できない。ほんの一瞬前まで此処は草原だった。なのに今ルイズの眼に映るものは、鏡、鏡、鏡ーー無数の鏡だけ。他の空間は全て暗黒に塗りつぶされていた。 「ラストワルツよ……」 数瞬の後、鏡が一点に向かって集合、いや吸い込まれていく。 吸い込まれたのはレンの両掌の上。吸い込まれた一点だけが真っ白に輝き、闇の中に立った一人佇む彼女を照らしていた。 光りに照らされるレンに見入っていると、ビシリ、と黒いセカイに皹が入った。生じた隙間から入ってくる突然の光りにルイズの目が眩む。 「ーーーっ!?」 暗闇に慣れた目には痛いほどの光りの奔流。ルイズは両腕で自分の瞳をかばった。 「……夢から覚めまして?」 レンの声がする。おそるおそる目を開けてみると――そこはさっきまでの草原だった。レンは後ろで手を組んで悠然と立っている。しかし、ゴーレムは何処にも居なかった。 「は―――」 さっきからルイズは何も言葉にすることができない。何も理解することができない。かろうじてわかるのは、ゴーレムを消し去ってしまった張本人がレンだということくらい。 「まったく、木偶の坊ごときが手こずらせてくれたわ」 レンがさらりと髪を掻き上げて呟いた。その様子はいつもと全く変わらず、あんな巨大なゴーレムを相手したというのにまるで余裕のようである。 いったい自分の使い魔は何者なのか。エルフではないと言っていたが、実はエルフに勝るとも劣らないのでは? 自分の使い魔の所業に、最初の夢の時に抱いた畏怖にも似た感情を思い出す。未だ動けないルイズへ、レンが向き直って言った。 「お分かり頂けましたか? 貴女の使い魔の力を。私と契約しているからには、貴女もこれくらいはできるようになりますわ」 慇懃無礼な口調に戻って、呆然としているルイズへと語りかけるレン。ひょっとして、この使い魔は励ましてくれているのだろうか。 「それと、そろそろ泣き止んだ方が宜しいかと。キュルケたちに見られますわよ?」 ぼっと自分の顔が熱っぽくなるのを感じる。確かにさっき涙が零れてしまった時に、拭う事もしていなかった。気が付くと涙の痕が顔がひりひりしているのが判る。 ごしごしごし、と袖で自分の顔を乱暴に拭っていると、ばっさばっさと羽音を響かせてシルフィードが着陸してきた。 「こ、これは土埃が目に入ったからよ! 別に泣いたりしてないんだからね!」 「はいはい、そういうことにしておきます」 ルイズをあしらいながら、もうレンの瞳は降りてきたキュルケとタバサに向けられている。二人はこちらにゆっくりと近づいてきた。杖をレンに向けて。 「ちょっとあんたたち! どういうつもりよ!?」 「どういうつもりはこっちの台詞よ。ルイズ、あなたいつエルフを味方につけたの?」 二人はレンへの警戒を解かずにルイズへ質問する。確かに、この世界でエルフは恐怖の象徴だ。警戒されるのも無理は無いが、彼女は自分の使い魔なのだ。 ルイズはレンを庇う様に前に出るが、レン自身がそれを制する。 「恩人に向かってひどい対応ですこと。この前は食事を共にした仲ですのに」 「何者」 タバサの簡潔な問いに、レンはルイズに初めて会ったときのように優雅に一礼する。 「改めまして。私、ルイズの使い魔、夢魔のレンと申します。以後どうかお見知りおきを」 いつもの慇懃無礼な態度でレンは自己紹介を進めた。 「レン……って、あなたがルイズの白猫だっていうの?」 「エルフじゃない?」 二人とも目を丸くして聞き返す。 「そうよ。あの白猫よ。エルフじゃないわ。この娘は正真正銘私の使い魔よ。二人とも杖を下ろして。さっきも私を助けてたでしょう?」 「信じられない。夢魔があんな巨大なゴーレムを消せるだけの力を持ってるなんて」 「猫に化けるのも珍しい」 「あんまり珍獣扱いしないで下さらない? それより、あの眼鏡秘書とフーケ本人は何処かしら」 レンの言葉で、一行に緊張が戻る。そうだ、ゴーレムは消えたがまだフーケは確認できていない。が、ゴーレムを操っていた以上この付近に必ず居る。 4人それぞれが背中合わせになり、周囲を警戒する。すると、林から物音が聞こえた。全員がそこへ注意を向ける。杖と視線が集中する森から出てきたのは、眼鏡秘書の方だった。ロングビルだ。 「ミス・ロングビル! ご無事でしたか!」 「はい。申し訳ありません。ゴーレムに襲われて気を失っておりましたので」 襲われた、といっているが、しっかりした足取りでルイズたちへロングビルは近づいてくる。そしてルイズの傍に立つと、レンに目を向けた。 「それにしても、ミス・ヴァリエールの使い魔が先住魔法の使い手とは驚きましたわ」 その言葉に違和感を覚え、キュルケとタバサが怪訝な顔になる。ロングビルは静かに立ち位置をルイズの背後へと移動させていく。 「見てたのに助けに入らなかったの?」 「ええ、だって」 答えを言い終わらぬうちに、ロングビルがいきなり動いた。破壊の杖を持ったルイズの手をひねり、後ろ手に拘束すると、右手に持った杖をルイズの首筋に突きつける。 「お前らを襲うのに忙しかったからねえ」 前ページ次ページゼロの白猫
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1632.html
今日はあいにくの天気雨。 それでも変わらず彼とご主人様の訓練は自室に変更して行われます。 「お手! お座り! お回り!」 矢継ぎ早に繰り出される指示に瞬時に反応する。 本来は訓練も無しに出来ない芸なのだが、 彼女の仕草や言葉の意味合いから次の動作を判断しているのだ。 手には『これで貴方もトップブリーダー!』と書かれた怪しげな本。 先日の買い物の折、同時に購入してきた物らしい。 そんな物に頼る程、実に熱の入った調教振りであった。 「よし。じゃあ次は…」 ページを捲り、次の指示の項目に目を移す。 それと同時に赤くなるルイズの顔。 まるでも火酒でもあおったかのような変化に『わふ?』と首を傾げる。 見れば本を持つ手も震えている。 「べ…別に、な、な、何でも無いわ…」 ついでに声も震えていた。 これが何でもなかったら医者の仕事など無い。 「い…いい? 行くわよ」 杖を出して指示を送る姿勢を見せる。 心配した所で意固地になった主は止まらないだろう。 それなら早く訓練を終わらせて安静にさせるのがいい。 彼はそう判断し、次の指示を待った。 だが、いつまで経っても指示は来なかった。 「お…ちん…、おちん…ち…」 プルプルと震えた手で本と杖を持ちながら、彼女は声を詰まらせる。 微かに声らしき物は出ているのだが酷く聞き取りづらい。 声に出すのを躊躇っているというか。 羞恥心とかプライドとか彼女の色んな物が枷になっているのだろう。 呼吸難の所為か、更に赤く染まる彼女の顔。 「おち…」 言いなさいルイズ! こんなのただの命令じゃない! なに変な事考えてるの! ただ、さらっと口に出せばいいだけじゃない! きっとちぃ姉様だって同じ事をやってたはずよ! さあ、勇気を出して! 「おち…んち…」 自分で自分を励ましながら最後まで言葉を繋げようとする。 なんかいろいろ振り切ったせいか、逆に開放感さえ感じてくる。 そして、なけなしの勇気を振り絞り言い切ろうとした瞬間…! 「…ちなみに『お』は必要ないんだけど」 「ぶぅぅぅぅぅっ!?」 薔薇を咥えたまま器用に喋る闖入者によって、 声ではなく盛大に溜め込んだ空気を吹き出す羽目になった。 「何しに来たのよギーシュ! さては品評会のスパイね!」 未だに顔を赤らめたまま杖を侵入者に向けるルイズ。 恥ずかしい所を見られた借りを百倍にして返しそうな勢いだ。 それを落ち着かせながらギーシュは答える。 「何をやってるのか興味があったのは事実さ。だけどスパイとは人聞きの悪い。 第一、今やってる事なら他の使い魔全員出来る事だろ?」 「うっ…」 それを言われるとぐぅの音も出ない。 そもそも使い魔と主は一心同体。 主の指示通りにこなせて当然なのだ。 「大体、芸なんて仕込まなくても十分だろう」 「十分ってどういう事よ?」 「だって、君の使い魔は……」 口に出そうとした瞬間、ギーシュの脳裏に浮かぶ品評会の光景。 “では、次の方どうぞ” “エントリーNo,17番、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。 私の使い魔の種族は犬、特技は変身。その妙技をとくとご覧あれ” 奇声と共に変形し怪物へと変貌する使い魔。 その異様さに観客達は逃げ惑い会場はパニックと化す。 咄嗟に姫殿下の護衛の者達が次々と魔法を放つ。 だが、それは逆に使い魔を徒に刺激するだけで終わってしまう。 一瞬にして怪物に引き裂かれる護衛達。 彼が振り向いた先に恐怖に慄く麗しき乙女。 “危ない!” 掛け声と共に疾風が駆け抜ける。 そこには姫を抱きかかえ怪物を真っ向から見据える勇者の姿。 “ああ、危ないところをありがとうございます” “いいえ、王国に咲く一輪の花を守る事こそ貴族である我が誇り。 それに比べれば命の一つや二つ惜しくはありません” “まあ、なんと勇敢で誇り高く美しいお方、是非お名前を…” “名乗るほどの者ではありませんがギーシュ・ド・グラモンと申します” “ああ、ギーシュ様。ここは危険です、早くお逃げください” “なればこそ、お先に。ここは私が食い止めます” “そんな…。私などの為に命懸けで” “来い怪物! この『青銅』のギーシュ! 逃げも隠れもせん!” バルバルバルバルッ! “ぎゃーす!” 何を考えているんだ、僕は…。 骨も残さず溶かされた自分の末路を振り払う。 途中までは自信家らしい都合のいいサクセス・ストーリーだった。 だが、どんなに好条件が揃ってもルイズの使い魔に勝てる想像がつかなったのだ。 つくづく、あの決闘がトラウマになっている事を自覚させられる。 それはさておき、確かにルイズの事だ。 下手に使い魔の実力を知れば品評会で見せかねない。 そうなれば想像通りに大混乱が起きてもおかしくない。 それに良好な関係を変な事を教えたせいで崩したくは無い。 なら黙っていた方がいいとギーシュは判断した。 「ほら。君の使い魔は…その…愛らしいじゃないか。 うん、とってもチャーミングだと思うよ。僕のヴェルダンデには敵わないけどね」 はっはっはっと取って付けた笑みをしながら彼を撫でる。 褒められたのが少し嬉しかったのか、彼もギーシュの傍に寄ってそれを受け入れる。 対する彼のご主人様はじとーとギーシュを疑うような視線を向けて、 「…やっぱりアンタ、美的感覚おかしいんじゃない?」 そんな一人と一匹が傷つく事を平然と言い放ちやがりました。 そんでもって、いつもの通り暇を持て余したキュルケがタバサを連れ、 なんだかで縁のある四人が揃って歓談している最中にノックの音が響く。 扉を開けた先にはコルベール先生の姿。 「頼まれていた物が出来ましたよ。ミス・ヴァリエール」 「え? 本当ですか?」 「なになに? 何の話?」 ルイズの顔に笑みが浮かぶ。 買い物から帰ったその日の内に先生に頼んだ甲斐があった。 まさか、こんなに早く仕上がるとは予想だにしていなかった。 興味本位でキュルケも背後から覗き込む。 「はい。どうぞ」 差し出されたのは紐が付いた喫水の浅い船のような形をした何か。 予想外の代物にルイズの思考は停止し判断を止める。 「ソリ…よね」 「ソリ」 「どう見てもソリだね」 三者共に意見は一緒だった。 つまり見間違いとか錯覚とか幻覚とかじゃなく、 これは紛れも無くソリだという事だ。 「ふんっ!」 コルベール先生の手からソリを引っ手繰ると地面に叩き付ける。 よほど頑丈に出来ているのか、その程度では壊れもしない。 その事が逆にムカついてくる。 「こら! なんて事をするんだ!」 「私はあのオンボロを持ち運びやすいようにしてって頼んだんです! てっきり短刀ぐらいのサイズに切り詰めてくれると思ったのに、 なんでいきなりソリが出て来るんですか!?」 「あのな…俺を殺す気か」 ひょっこりと無事だったデルフが口を挟む。 ちなみにデルフはソリの横に付けられた台置きに収まっていた。 あれだけ衝撃を受けても外れない所を見ると造りはしっかりしているようだ。 「それなんだが…インテリジェンスソードの扱いは難しくてね。 下手に折ったり溶かしたりすると二度と戻らないかもしれないからね」 確かにどこまでやれば喋れなくなるかなど判らない。 剣という形をしている以上、それが失われる事のリスクは大きい。 それは判る。判るんだけど…。 「でも、どうしてソリなんですか…?」 「とりあえず、君から頼まれたのは『持ち運びやすいように』という事だったろう?」 思惑が外れて涙目気味のルイズに、コルベールは落ち着いて答える。 「最初は車輪を付けようかと思ったんだが、それだと階段で引っ掛かってしまうし、 それに坂道で止まった場合、どこまでも下って行ってしまうだろう? そこで考案したのが、このソリでね。 一方行には進みやすいが逆側には滑り止めが付いていてね。 これなら坂道で牽引索を離してしまっても大丈夫。 緩やかに坂を下っている最中に止められるという寸法で…」 否。全然落ち着いてなどいなかった。 自分の研究とは無関係ながらも彼の技術に対する信仰は厚い。 そりゃあもう得々と必要あるのか判らない機能についてまで語りだす。 逃げようにもコルベール先生は扉の前。 止むを得ず、いつ終わるとも知れないソリの説明を聞く事となった。 巻き添えを食った三人の白い目を背に感じながら、 “こんな事なら頼まなきゃ良かった”と彼女は後悔したという。 後に、このソリは彼のお気に入りとして扱われ、 厨房に出入りする度にソリに満載される料理を揶揄し、 “使い魔のトレイ”と呼ばれる事となるのだが、それはまた別のお話。 そして彼等がそうこうしている間に、 多くの者たちの思惑が絡み合う品評会は間近に迫っていた…。
https://w.atwiki.jp/tanosiiorika/pages/1829.html
ゼロ文明 ゼロ クリーチャー ゼロ 呪文 ゼロ クロスギア ゼロ 城 ゼロ ドラグハート ゼロ その他
https://w.atwiki.jp/dodakenankore/pages/36.html
目次 目次 あらすじ 本編内容 あらすじ 第一部冥王星戦争より3年後が舞台。 地球が太陽系連合に任命され力を付けて行く中で、裏では不穏な影が動く。 ゼワン率いる特殊暗殺部隊のエージェントが太陽系連合のトップを次々と暗殺していた。 全ての「界」を支配しようと考えるゼロ、宇宙全体で繰り広げられる事になると考えられる戦争。 nova達はゼロを止める事ができるのか? 本編内容 第二部は第一部から三年後。 SP(スペースポリス)部長に出世したジャイアンからNOVA達が呼び出されるところから始まる。 そして太陽系連合のトップが次々とゼワン率いる暗殺部隊の高ちゃんとスピリッツに殺されていることを知る。 彼らはそれを食い止めるため、火星に行き金三角の兄でノーの弟である銀三角を味方につける。彼は青き炎を発す青龍刀の使い手である。 そのころ、火星では今は亡きエバー博士の残したエバシップの設計図を発見、製造に着手する。 その一方火星最強の剣豪スルメイカ吾朗や火星最低の男タコローなどの面々が集まっていた。 吾朗やメロスと合流したNOVA達はいきなりゼロ、ゼワンの襲撃を受ける。 予想外の強さに圧倒され、なんとうぴーを失ってしまう。 立ち直れないNOVAの前にバルスの使い手だという仙人、じーさんが現れ、NOVAは強くなっていく。 しばらくあと、ジャイアンは上司で七大戦士のソアラ大佐と面会。彼は5年前、ドルートと共にゼワンと戦い、片腕を失った男だった。 木造版のエバシップ試作機を落としたのが運のつきで、タコローもNOVA達と共にあゆむこととなった。 こうしてメンバーも集まり、打倒ゼワンの士気が高まってきたころ、エバシップで飛行中に銀三角の携帯が鳴る。 その回線は「あの世通信」。死んだはずのうぴーからの電話だった。 天界をゼワン達が襲っていることを知った彼らはいえすとじーさんとメロスを残し無謀にも幽体離脱をする。めちゃくちゃだ。 天界にてかれらはゼワンとノーが組んでいることも知る。 激しいバトルに銀三角はノーが彼らの弟、金三角を永遠の命のため、殺したことを想い、訴える。 一方エバシップ船内は大変なことになっていた。 NOVA達が動けない所を狙ってゴキラー三世が雇ったという名目で、エージェントヒットマン、高ちゃんとスピリッツが襲いかかってきたのだ! 必死に応戦する三人。だが徐々に追い詰められていく。 一方天界では吾朗のスルメ返しなど個々の技が炸裂。タコローが何もできず逃げるしか能がないことも分かった。 戦いは互角で、ついにゼワンたちは引き上げた。 うぴーとの束の間の再会を喜ぶ暇もなく、危機一髪現世に戻ったNOVA達はスピリッツ達とたたかう。 だが大量に分裂し己の細胞を自在に操るスピリッツに苦戦する。 じーさんの提案でスピリッツをエバシップ内の水素ガスと融合させ気体化後、爆破することに成功。 高ちゃんは成り行き上仲間となる。 そしてソアラ大佐が合流。改めてSPより協力を依頼される。 その後ソアラ大佐の紹介で七大戦士の一人、バルスを使う少年エストを仲間にすべく、某星に向かう。 ところがいえすの熱唱のせいで交渉決裂。 エストの提案で勝負に持ち込み勝ったら、仲間にすることができるようになる。 一方ゼワンは瞬間移動能力で特殊な空間へと移動する。そこにいた謎の集団との禁忌を侵したことにより、罰を受ける。 そのころ地球ではカルト教団「双頭の蛇」が不穏な動きを見せていた。 宇宙船アトランタのテレポーテーション能力を駆使し、宇宙の中央に位置するナコト写本を手に入れる。 写本には、かつての神々の闘争によって封じ込められた邪悪神達が封印されており、「双頭の蛇」の目的は邪悪神達を復活させ、 この世に再び黙示録の結末ーーこの世の初期化を果たすことだった。 「双頭の蛇」党首氷室は邪神復活の呪文を唱え、邪神達を復活させる。 しかし、邪神達は復活させてもらったことに対する謝恩など一切なく、その場で教団の人物を惨殺する。 氷室は邪神達に対してただ惨殺するだけでは面白くないと評し、黙示録通りに人類を消すことを提案。 自分自身が黙示録の内容を語る条件で一時的にナコトの集団に入団、生きながらえる。 一方、「双頭の蛇」の生き残りはアトランタへ避難。テレポーテーションでその場を退避。 しかし、テレポーテーション先の座標を入力しなかったことからエスト、NOVA達の闘いの最中へ移動することとなる。 神々を研究する田所博士は邪神に殺された「双頭の蛇」の被害者達の死体を発見。 教団以外で唯一邪神復活を知り、旧友のソアラ大佐へ伝えるため、NOVA達がいる某惑星へ赴き邪神復活の旨を伝え、戦える仲間達の補充及び説得をするよう頼む。 エストは邪神復活の一報を聞くことで、闘いへと参加。ゼワン一味、ノー、ラージなどの協力を仰ぐためにそれぞれ奔走する。 一方、地球のエバー研究所にて、「EX書類」を狙う多数の集団が争いを繰り広げる。 最中、集団のうち一人の人物が エバーの眼帯を発見、物心から付けてみると、何らかの作用によりエバーが天界から憑依することとなる。 先ほど受けた罰により、深手を負ったゼワンはそれをきっかけとし、潜入捜査していたナコトの住民に反旗を翻す。 ゼワンは元々自分の力を薬で制限して戦っており、そのリミッターを解除する薬をゼロから受け取ろうとする。 しかゼロの予想外の一撃を受け、さらに注射器で謎の薬を投与されてしまう。 実はその薬はゼロがゼワンを思うように扱うためのものであり、ゼワンが失血で注意力を失っていたことなどから、あっさりとゼワンの僕と成り果てる。 ~三年前~ ドルートが自爆し、死んだかに思われたデーモンは瀕死の状態で生きており、そこにてガタノゾーアラに憑依される― ~現在~ アトランタのテレポーテーション能力でゼロの眼前に現れたNOVA一行。 打倒ナコトのためにゼロに協力を要請するが、ゼロの条件により、インセクトアーミー隊の残兵達との闘いに入る。成長した彼らは、それらを特に苦にすることも無く撃破に成功。タコ郎はまったくもって戦力外であった。 闘いに勝利した彼らをねぎらうというゼロに甘える一行は、ゼロに操られてるゼワンの配膳にて、食事。 無力の塊であるタコ郎が一番食べていたことに多少の疑問を覚えるが、その前にゼロの行動に疑問を覚えなかったことが祟り、料理に仕込まれたしびれ薬の効力に逆らえず、ゼロに屈服するNOVA一行。 自分の力でナコト殲滅を構想していたゼロの手により一行は「いる奴ら」、「いらない奴」にわけられる。勿論、「いらない奴」はタコ郎である。 タコ郎一人だけが別の場所に収容されるが、そこでノーとラージに遭遇。時間潰しにと生体検査を受ける。 結果に驚嘆することもなく、ノーとラージは帰ろうとするが、タコ郎が持ち前のウザさを遺憾なく発揮しする。 それに感化されたか、ノーは今NOVA達は試されているとの旨の話をタコ郎にし、離脱。 NOVA達は独力でナコトに挑もうとするゼロに捕まり、脱出不能な状態にあったが、天界から帰ってきたあの男、うぴーが現れれ、即座に牢屋を叩き割りNOVA達を解放する。 しびれ薬で動けないNOVA達をよそに、うぴーとゼロの闘いが始まる。うぴーは刀の所持者の魂を吸うことで、吸った魂を刀身として伸ばす、という神から授かった刀の本来の能力を解し、スピリッツの細胞を移植し、変幻自在な攻撃を繰り出すゼロと互角に戦っていた。 ゼロの一撃により、死んでいると思われていたゼワンは咄嗟の判断で生きたままゾンビとなっていたので、しびれ薬が効かず、唯一動けるイエスがゼワンの心の中に語りかけ、ゼロの精神操作を解くという偉業を成し遂げる。
https://w.atwiki.jp/zeroluna/pages/12.html
年齢:13歳 性別:男 武器:ファイターグローブ(攻撃:物理、強攻撃:物理) 耐性属性:地 弱点属性:風 耐性異常:麻痺 弱点異常:興奮 初期レベル:1 特徴 敏捷性の高いアタッカー。単体攻撃が多く、雑魚敵よりはボス戦で輝くタイプ。 中盤のイベント後に覚える特技とアクティベイトの習得が強いため、なかなか戦闘から外せない。 魔力は低いため、魔力依存の特技を使用する場合はスロットなどで底上げしないと使わない場合が多い。 ステータス成長 ※成長率 A…高、B…やや高い、C…普通、D…やや低い、E…低い HP 攻撃力 防御力 魔力 魔術防御 敏捷性 運 C C C D D A C 習得スキル 名称 属性 効果・範囲 威力依存 習得条件 攻撃 物理 単体 攻撃力 最初から習得 ラッシュ 物理 単体二回 攻撃力 最初から習得 ロックブレイク 地 単体スタン付与 攻撃力 レベル6 アクセルレイド 通常攻撃 単体三回 攻撃力 レベル9 アースコメット 地 単体一回 魔力 レベル11 メテオストライク 対 鋼体 単体一回 攻撃力 レベル13 アクロバットコンボ 物理 単体六回 攻撃力 レベル25 習得バースト 名称 属性 効果・範囲 威力依存 習得条件 強攻撃 物理 単体一回、スタン付与(50%) 攻撃力 ガーディアン戦で習得 ガードクラッシュ 通常攻撃 単体一回 攻撃力 ガーディアン戦で習得 ??? なし 自分自身の攻撃力1.5倍強化 なし イベント後習得 ブレイクスマッシュ 物理 単体能力上昇・ステータス異常解除 攻撃力 レベル16 アクティベイト なし 自分自身二回行動化(3ターン) なし レベル20 ソイルスパイク 地 三体ランダム 攻撃力 レベル23 グランドランサー 地 全体四回 魔力 レベル28 ガイアレイド ?? 単体三回 攻撃力 レベル31 ゼロ=リヴェリオン ?? 単体三回 攻撃力 レベル35
https://w.atwiki.jp/zeromoon/pages/68.html
前ページ次ページゼロの白猫 虚無の曜日。それはハルケギニアの人間達が最も愛しているだろう曜日。全人類に与えられた休息のための日である。 よってトリステイン魔法学院も授業は休みとなり、教師も生徒も貴族も平民も分け隔てなく英気を養い、次の日に備えるのだ。 寮の自室で黙々と本を読み続けるタバサも、例外なく虚無の曜日を愛していた。誰にも邪魔されず気兼ねせず読書に没頭できるこの時間を。 そんな時間がノックの音に邪魔される。トントントンと部屋に響くノックの音。親愛を表すのはノック三回。 しかしタバサにとっては煩わしい事でしかない。とにかく彼女は干渉されることを嫌うのだ。なので相手が諦めるまで居留守を決め込むことにした。 とんとんとんとん。ノックの音はしかし止まない。ノックの主はタバサが部屋にいることを確信しているのだろう。中々帰る様子が無い。 タバサは彼女の身長よりも大きな杖を取り出し、魔法を使うことにした。誰にも邪魔されず本の虫になるために。 杖を振るうと、ノックの音が聞こえなくなった。彼女が使った魔法は風系統の魔法、『サイレント』。周囲の音を消してしまう魔法である。静けさを好み、風のメイジである彼女はこの魔法を愛用していた。 そうしてまた読書に戻るタバサ。ページをまくる音すら消えた無音の中で、眼鏡の奥の目を輝かせて紙の上を踊る文字に没頭していく。 数ページ本をまくったところで、タバサは自分の傍に誰かがたったことに気付く。顔を上げて確認すると、其処には褐色肌の長身女性が居た。キュルケだ。 ドアには『ロック』の魔法で鍵をかけていた。にもかかわらず部屋へ入ってきたという事は、『アンロック』の魔法で開錠してきたらしい。両方ともコモンマジックであるため、メイジなら誰でも使うことができる魔法だ。 ちなみに、『アンロック』を学院内で使用することは重大な校則違反なのであるが、キュルケにはそんなことは些細なことらしい。 不法侵入を果たしたキュルケはタバサに身振り手振り交えながら話しかけているようだが、『サイレント』の魔法の効果が未だ続いているためタバサに声は聞こえてこない。 仕方なくタバサは『サイレント』を解除した。読書の邪魔をする輩には『ウィンド・ブレイク』でも使って部屋から退場してもらうところだが、タバサの友人であるキュルケは数少ない例外だった。 「ターバーサっ♪ 出っ掛けっましょっ♪」 「虚無の曜日」 友人の誘いを短く簡潔な言葉で断るタバサ。簡潔すぎて意味が伝わりにくいが、キュルケには伝わったので問題ない。タバサは休日はとにかく本を読んで過ごしたいのである。 しかしキュルケは動じず、座っているタバサに後ろから抱きついた。ルイズより小柄で細いタバサの体はキュルケの長身に簡単に覆われてしまう。そしてキュルケのメロンのような乳房がタバサの青髪頭に乗りかかって形を変える。重い。 「あなたにとって虚無の曜日が読書の日であることは知ってるわ。けどたまには街までおいしいものを食べに行ったりしてもいいと思わない?」 「学院で十分」 「そういわないで。パイと紅茶のおいしい店があるのよ。奢ったげるから行きましょ?」 タバサは少し考えた。奢りでおいしいものが食べられるのは確かに魅力的だ。それに本は移動、食事の最中に読んでいれば今と読むスピードは変わるまい。なにより、この友人の誘いを断るのに消費するエネルギーは、承諾した場合に消費するそれより遥かに大きいと判断した。 小さく頷いて椅子から立ち上がり、窓を開ける。そして口笛を吹くと窓から身を躍らせた。タバサの行動の意味を察し、キュルケもそれに続く。 5階の窓から落下する彼女達を、口笛を聞いて飛んできた風竜が受け止めた。タバサの使い魔、シルフィードである。 「相変わらずあなたのシルフィードは惚れ惚れするわね」 キュルケが感嘆の声を漏らしているのを聞きながら、タバサはシルフィードに王都に飛ぶように指示を飛ばす。それが終わると先ほどの本の続きを読み出した。 「そういえばヴァリエールも何処かに出掛けてるみたいね。馬に乗ってるのを見たわ」 キュルケが何か言っているが、タバサにはどうでもいいことだ。高スピードで流れる風も気にせず、シルフィードの背びれにもたれながら本の世界に没頭していった。 「到着、と」 馬に乗って揺られること数時間。城下町のトリスタニアにルイズ達はやってきていた。目的は彼女の好物、クックベリーパイ。 しかしルイズ一人が食べるためにここまでやってきたわけではない。夢でレンに提案した通り、彼女の働きの報酬としてクックベリーパイを与えるために来たのだ。自分も久しぶりにパイを食べようと思っている。 レンは馬に固定した籠に入れていた。馬で走っている道中、少し鳴いていたが仕方あるまい。レンを抱いて乗馬はできないし、猫のレンが馬に乗れるわけも無い。 「さ、行くわよ」 ルイズは籠を開けてレンを掴み出そうとする。が、それよりも早くレンが籠から飛び出した。 「あ、ちょっとこら!?」 飛び出した勢いのままレンは走り出した。とととっと駆けるレンはすぐ傍の路地裏に入ってしまう。 「レン! 何処行く気よ!? これからクックベリーパイを食べに行くって言ってるでしょ!?」 慌てて猫に向かって叫びながらレンを追うルイズ。まずい。猫の動きは素早く機敏だ。こんな路地の多い城下町ではぐれた場合、うまく合流できるかは非常に妖しい。レンが入った路地に向かってルイズは急ぐ。 「お待たせしました、マスター」 角を曲がろうとしたところで、路地から出てきた人物に行く手を遮られた。 ルイズの足が止まる。完全にそいつに目を奪われていた。レンを追わなければ、という考えは吹っ飛んでいた。だって目の前に居るのだから。 「あ、あああ、あたあんあんたたたたた」 「北斗神拳ですか?」 むしろルイズはYOU『に』SHOCK!! 「あんた、何でその姿なのよぉ!?」 「似合いませんか? この帽子。マスターの様子からして耳は隠すべきだと思いましたので、用意しておいたのですが」 レンは真っ白で淵だけが黒い、大きなベレー帽のような帽子を着用している。成程、確かにすっぽり被されているそれは彼女の長耳まで覆い、帽子を被っている限りエルフと疑われることはまず無いだろう。 だが問題はそこではない。レンは今帽子を着用している、いやできる状態になっている。つまり、夢の中で見た銀髪の幼女の姿になっている、という事で――。 「あんた夢以外じゃ人型になれないんじゃなかったの!?」 「あら、そんなこと言った覚えはないけれど? 言わなかったかしら?」 そういった人間型のレンは、自分が仕掛けた取って置きの悪戯が成功した子供の笑いを浮かべていた。くすくすくすと実に楽しそうだ。 無論、ルイズが楽しいわけは無い。瞳と眉と肩をいからせてレンを糾弾する。 「言ってない! 絶対ゼッタイ聞いてないわよ私! っていうよりあんたわざと言ってなかったでしょ!?」 「落ち着いてくださいなマスター。周りの人の迷惑ですよ?」 確かに、大声で幼女に向かって叫ぶ貴族の姿は通りを歩く人々の視線を集めていた。そんな言葉でごまかされるルイズではなかったが、ひとまず声は抑える事にする。 「……つまり、あんたいつでも人型になれるのね?」 「代価無しに、というわけにはいかないわよ? この姿になるのは魔力、いえ精神力を消費するから」 「ならなんで今までは猫だったのに、今は人になるのよ?」 「猫の姿じゃお店に入れないじゃないの。今日は私にクックベリーパイを食べさせてくれるんでしょう?」 「それだけ!?」 「それ以外に理由が必要なの?」 いつもの不敵な笑顔で答えるレン。しかしルイズは納得できない。じーっとジト目でレンを睨む。 「ほらほら、そんな顔してると可愛い顔が台無しよ? 早く行きましょう」 「何よ、そんな言葉で誤魔化されないからね」 そう言ったものの、何時までもこんなところで口論していても意味が無いことくらいルイズも承知している。時間を無駄にする前に移動することにした。べ、別に可愛いって言われたのが嬉しかったわけじゃないんだからね! 未だぶすっとした顔で歩いていくルイズの後ろを楽しそうに笑いながらついていくレンであった。 「着いたわよ」 「へぇ、ここがそうなの」 少し歩いて二人は目的の場所へ着いた。パイの形をした看板が目を引き、一目で喫茶店の類と推察できる。レンはなにやら店名の書かれた看板をじっと見つめている。何かおかしなことでもあるのだろうか。 「店名がそんなに珍しいの?」 「そうじゃなくて。そういえば私、こっちの文字が読めないんだな、って」 「え、そうなの? その割りに流暢に喋るわね」 「私は向こうの言葉を喋ってる筈なのよ? 喋ったり聞いたりする言葉が勝手に翻訳されてるみたい。あの召喚ゲート、たいした物ね。ま、それは後。とにかく入りましょ」 「そうね。財布は持ってるわね?」 「勿論。落とすようなドジはしないわよ」 「スリも多いんだから気をつけなさいよ?私の今月分のお小遣いが入ってるんだから」 「それなら貴女が持ったら?」 「従者がいるときはそいつに持たせるのが貴族の基本なの」 「そういうものなの?」 そんな会話を交わしながら二人はお店へ入る。ドアを開けると、からんからんとベルの音がまず二人を迎えた。 店員に案内されて二人は席に着く。それなりに大きいテーブルに二人は向かい合って座っていた。昨夜の夢の位置と同じだな、とルイズは思った。 「ご注文はお決まりでしょうか?」 「クックベリーパイをワンホール。それと紅茶を二人分ね」 「かしこまりました。少々お待ちください」 注文も終わって、後はパイが届くのを待つのみだ。 となると、やることと言えば目の前の幼女と話すくらいしかない。つとレンの顔を見ると、彼女のほうから話しかけてきた。 「スリが多いって言ってたけど、この街治安が悪いの?」 「そんな事無いわ。トリステインの城下町よ? 一番治安は良いわよ。けど、魔法を使うスリもいるから、そういうやつに狙われると一瞬よ」 「メイジは貴族なんじゃなかったの?」 「貴族じゃないメイジもいるのよ。没落した貴族が仕事が無くて泥棒まがいの事に身をやつしたり、色々あるのよ」 「ふーん。そうそうルイズ。私、この姿で貴女の使い魔と紹介される気はないから、そこの所はよろしく」 「はあ!? 何勝手に決めてるのよ!」 「ルイズ、私はこちらでは珍しい使い魔なのよね?」 「そうだけど、それがどうしたのよ」 「こちらにも居るでしょ? レアな道具とか動物とかを見境無く集めるような人ないし機関は」 レンの言葉で、 自分の姉の一人、エレオノールが所属している魔法アカデミーの事を思い出す。正直あまり良い噂は聞かない。新しい魔法の為にはいかなる犠牲も厭わないとか、実験と称して珍しい生物を解剖してしまうとか。 身内の事を悪し様に言いたくは無いが、そんな所にレンの存在が気取られた場合、さっくり彼女を持っていかれてしまうかも知れない。もってかないでー。 「居るのね?」 「……ええ。良く知ってたわね」 「珍しい物を自分の物にしたがる人間は何処にでも居るという事よ。とにかく、そういうところに気取られると面倒でしょう?」 「せっかくクラスメイトたちに自慢してやろうと思ったのに……」 そんな会話をしているうちに、大皿に乗ったクックベリーパイがテーブルに運ばれてきた。パイから漂う爽やかな匂いにルイズの胸が躍る。レンも食い入るようにしてパイを見つめている。 「それではいただきますね」 「ちょ、レン!」 ルイズの声も聞かずにレンはクックベリーパイに手を伸ばすと、がぶっと齧り付く。その瞬間。ぴょこんと彼女の帽子から猫耳が飛び出した。 「!?」 「なかなかね。ショートケーキほどじゃないけど」 ルイズがパイを食べる前だったのは幸いだった。もし先にパイを食べていた場合、向かいに座るレンがパイまみれになっていたことだろう。 「……何よ?」 変な顔をして自分を見ているルイズに、咀嚼し終えたパイを飲み込んでレンは聞く。 ルイズはごしごしと自分の両目を擦って、改めてレンの頭を見る。相変わらず彼女の頭部には白い帽子が乗っかっているだけだった。 「い、いいえ、何でもないわ」 「ルイズは食べないの? 冷めるわよ?」 「食べるわよ! それより、あんたご主人様より先に食べるなんてどういうつもりよ。おまけに手掴みで食べるなんてマナーがなってないわよ」 「このパイは私の働きへの褒美でしょう? なら私が先に食べるのが道理というものよ。それにフォークやナイフで切るとパイの形が崩れるし、中身がはみ出るじゃない」 そう言いながらレンはまたパイを一口。さくりと小気味よい音がルイズの耳にまで届く。 確かにパイをナイフで切ると、綺麗に切れずにパイ皮が破れてしまうことは往々にしてある。それでも手掴みで食べる、なんてことは両親の躾が厳しかったルイズに許せるものではない。 「横倒しにしてから切れば良いのよ。ほら、こうやって」 ルイズも一片パイを取ると、自分の取り皿にパイを横に立ててナイフを入れた。成程、パイ皮が散らばることなく綺麗に切り取られる。そのパイにルイズはフォークを突き立てレンに見せた。 「ね? 綺麗に切れるじゃない。あんたのやり方だと手にクックベリーが付いちゃうわよ」 「横にするとお皿にソースが残って勿体無いわ。手に付いたのは舐めちゃえば……」 「だから行儀が悪いって言ってるの!」 ルイズの言葉も気にせずに、レンは親指に付いたジャムをぺろりと舐め取る。その仕草に愛らしさも感じたが、しっかり躾をしなおさねばとも思う複雑なルイズだった。 だがその前に、何は無くともクックベリーパイである。久しぶりに食べる好物をルイズも楽しみにしていたのだ。先程フォークで切ったパイを口に運ぶ。 「~~~っ♪」 ザクッとしたパイの歯ごたえのあと、プチュクチュと口の中で潰れていくクックベリー。パイの香ばしい風味とクックベリーの甘酸っぱさが渾然となって歓喜に震えるルイズ。 あっという間に一切れを食べ終え、大皿のパイへと再びフォークを伸ばす。その時、ふと自分の事をパイを齧りながら見ているレンに気がついた。相変わらず手掴みである。 「どうしたのよ?」 「別に。ただ幸せそうに食べているな、って」 笑いながら言うレンにちょっと恥ずかしくなり、俯いてしまう。何だ、自分だって美味しそうに食べているくせに。 二つ目を食べ終えたレンは右手にべっとりついてしまったクックベリーに赤い舌を這わせている。手首から指先までゆっくりと長い舌を蠢かせている様は、無邪気さと淫靡さの同居する矛盾した光景。 こんな風にパイとお茶に舌鼓を打って四方山話に花を咲かせる。それは楽しい時間だった。公爵家の産まれでありながら、落ちこぼれでしかもプライドは高かったルイズ。今まで親しい友達ができなかったのだ。 こうやって気の置けない相手とお喋りをしながら食事をする。学院の皆が普通にやっていることをルイズは生まれて初めて体験していた。 順調にパイを減らしながら会話を楽しむ二人。とても穏やかな時間が流れる。 そこでルイズはもっとこの使い魔自身の事について聞かねばならないと思い出した。何しろこの使い魔、性格が悪い。 「レン。あんたもう私に隠してることは無いわね?」 「嫌ですわマスター。私、今まで隠してた事なんて一つもありませのに」 「よく言うわ。人になれる能力は言わなかった癖に。他には黙ってることは無いの?」 「そうだ。これは言ってなかったわね。私が存在するためには、マスターまたは他の魔術師からの魔力が必要になるから」 「どういうことよ?」 「分かり易く言うと、私は誰かの精神力がないと生きていけない、と言う事よ」 「ちょっと! 大事じゃないそれ!」 思わず椅子から立ち上がってレンに向かって叫ぶ。自分の生死に関わることを何故最初に言わないのだ、この大馬鹿は!? しかしそんなルイズに淡泊な口調でレンは言う。 「やっぱり知らなかったのね」 「あんたが言わなかったからでしょ!?」 「私が居た世界では当たり前のことだったからよ。こっちの使い魔が向こうと全然違うのを思い出したからひょっとして、と思ったの」 レンの落ち着き払った態度を見て、ひとまずルイズも椅子に座り直す。 「普段は貴女から精神力を貰ってるから別に問題ないわ」 「そう……って、それって私が魔法を使えなくなるって事じゃないの?」 「極僅かなものよ。一晩眠ればすぐに回復するわ。けど、大きな魔術を使ったりした場合は貴女に回復を頼むかも知れないわ。これは絶対に譲れないからね」 「分かったわ。生死に関わるんじゃ断れないわね。で、どうやったら回復できるの?」 「それは――」 「あら、ルイズじゃない。珍しいわね、あなたが誰かと一緒に居るなんて」 レンの言葉が来店した女性の言葉に遮られた。ルイズの顔が思いっきり不機嫌になる。つまり、彼女の仇敵キュルケだった。 「何? 何か用?」 「同級生を見かけたら声くらい掛けるじゃない。あ、店員さん? ミートパイワンホールと紅茶二つ、お願いね」 「ちょっと! 何で私たちのテーブルに座るのよ!」 「だって他は一杯じゃない。どうせ相席なら知り合いの居る所のほうがいいでしょ?」 「私は良くないわよ! せっかくのクックベリーパイをなんでツェルプストーと一緒に食べなきゃいけないのよ」 ごねるルイズだが、マイペースにキュルケは聞き流す。そして、ルイズと同席している白い幼女に目を向けた。 「初めまして。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。こっちの娘はタバサ。あなたのお名前は?」 「アルク・ド・ブリュンスタッドと申します。以後お見知りおきを」 立ち上がってキュルケたちに会釈するレン。その自己紹介に眉をひそめたのは勿論ルイズだ。 「ちょっと、レ「良いじゃないルイズ。貴女のクラスメイトなんでしょう? 友情を深めるには良い機会じゃなくて?」 ルイズは二重の意味で渋面になる。一つは彼女がアルクと名乗ったこと、もう一つはルイズにキュルケ達との相席を促したことに。 片目を閉じてウィンクするレン。どうやら突っ込むな、という意思表示らしい。 レンの同意を得て、キュルケとタバサが椅子に座る。キュルケはレンに興味があるようで、隣のレンに話しかけ始めた。 「ブリュンスタッド……。聞かない家名ね?」 「無理もありませんわ。山奥の領地ですもの。知っている人の方が少ないでしょう」 (領地って何よ!? あんた猫でしょうが!?) ルイズは即座に心の中で突っ込みを入れる。反応は良いが突っ込みの角度が甘い。吉本に入るにはまだまだである。 「あなた、魔法学院では見た事ないわね。まだ通える年齢じゃないのかしら? ……まあ、見た目通りじゃない年齢の娘もいるけど」 「キュルケ。何でこっちを見ながらそんなことを言うのかしら?」 「そんなの聞くまでも無いでしょ、ルイズ」 「なんであんたが答えてるのよレン!!」 怒鳴るルイズにけらけらとキュルケは笑う。レンも口に手を当てくすくすと笑っている。タバサは我関せずと本を読んでいた。 「ところで、その娘はアルクちゃんでしょう? なんであなたの使い魔の名前が出てくるの?」 「え、いや」 「ルイズ、確かに私は真っ白な服だけど、貴女の使い魔と間違えるのはひどいのではなくて?」 さらっとフォローを入れるレン。ルイズがレンの名前を言い間違える事は想定済みだったようである。 だがルイズは感謝の気持ちなど浮かばない。そもそもこの使い魔が勝手に自分の出自を捏造している事が原因なのだから。 「成程? ルイズったら随分自分の使い魔に首っ丈なのね」 「そうなのです。今日は随分彼女からレンのことを聞かされましたわ」 「あっはっは! まあ仕方ないかもね。ゼロのルイズが初めて魔法を成功して召喚した使い魔だもの。それにメイジにとって使い魔は大切なパートナー。ベタベタ甘やかすメイジも珍しくないしね」 「だ、そうよ? もっと貴女の使い魔の事、大事にしてあげなさいな」 「どの口が言うのかしらあんたは……」 ルイズはすらすらと出てくるレンの口上に呆れる。大事にしろ? ツェルプストーの人間と楽しく話すような奴なんて敵だ敵! けしてこの恨み忘れぬ、と不機嫌にレンを睨みながらパイを口に放りこみ、お茶で流し込んだ。 「ルイズ、もっと味わって食べなさいよ。勿体無い」 「うっさい。あんたもとっとと食べなさい。これ以上ここに居ても不愉快なだけよ」 「出るの? もっと食べましょうよ。こっちに来るのって時間かかるじゃない」 ざくざくとクックベリーパイを齧りながらレンが言う。ツェルプストーと同席など御免蒙るが、ルイズもまだ食べ足りないというのは同感だ。 「なら何か買って帰ればいいわ。そこの店員。スコーン6つ、持ち帰り用に包んで」 「随分食べるわねえ。甘いものばっかり食べると太るわよ?」 「お生憎様、私は余分な肉なんて付かないの。あんたこそ肉ばかり食べてると今以上に脂肪の塊になるわよ」 「へえええ、言ってくれるじゃない、胸の脂肪もゼロのルイズ?」 一触即発。緊迫した空気が辺りに漂う。ルイズとキュルケは地獄の底から響くような不気味な笑い声を上げながら睨み合う二人。ふっふっふっと哂いながら目は憤怒に染まっている。タバサは相変わらず本を読んでいる。 そして、レンは。 「ルイズ」 「何よ!?」 視線を激しくぶつけていたキュルケからレンの方へ顔を向けると、目の前にレンの顔があった。その至近距離にルイズが反応する前に。 ぺろり。 「っ!?」 「ジャムが付いてたわよ。貴族ならもっと身嗜みに気を使いなさいな」 呆然とするルイズ。キュルケも少し驚いたらしく、今までルイズに向けていた敵意を霧散させてレンを見ている。そしてタバサはまだ読書にいそしんでいた。 何をしたのかといわれれば、ルイズの口についていたクックベリーのソースをレンが直接舌で舐め取った、それだけである。 しかし、レンが舌を這わせた場所はルイズの口の周り、つまり限りなく唇に近い場所だったわけで。遠目から見ると、まるでいきなり二人の少女が口付けをしたようにも見えたわけで。店の人間の視線は今、ルイズとレンに一点集中している。 「こ、こっここここの大バカぁあぁああああ!?」 「五月蝿いわね、綺麗に食べない貴女が悪いんでしょ」 「手掴みで食べてるあんたが言わない! だだ第一今あんたべろって、べろって!!」 レンの舌は肉食の猫ゆえか、自分のそれよりかなりザラザラしているように感じられ、舐められた瞬間、ぞわわっとルイズの背筋を何かが走った。 レンに舐められた場所を押さえながら真っ赤になって喚きたてるルイズと、意地悪な微笑を浮かべながら軽くあしらうレン。そんな二人を見てキュルケが堪え切れないとばかりに吹き出した。 「ぷ、あはっはっはは! さ、最高! あなた最高よアルクちゃん!」 「お褒めに預かり光栄ですわ」 「何普通に返してるのよ!? ああもう、さっさと出るわよ! お菓子出来てるわね!?」 レンの手を引っつかむとルイズは強引に立ち上がる。貴族の癇癪に怯えている店員からお菓子を引っ手繰ると、レンから渡された金貨をテーブルに叩きつけた。 「ほら行くわよレン!」 「またね~、アルクちゃん」 「はい、ごきげんよう」 「い・く・わ・よ!!」 ひらひらと手を振るキュルケに構わず店を飛び出すルイズに連行されるレン。ちなみに、ここに至ってもタバサは本から目を上げる事をしなかったとさ。 「もう、もっとゆっくり食べたかったのに」 「キュルケが傍に居るのにあんなところに居られるわけないでしょ! あんたもキュルケと馴れ馴れしくしない! ヴァリエール家とツェルプストー家の因縁は前に話したでしょ!?」 「さあ、どうだったかしら? 私、猫ですから憶えてませんわ」 道幅4~5メイルほどの大通りを大股で進むルイズ。その後ろを白い幼女のレンが続く。 憤って騒ぐルイズをレンは軽く笑いながらあしらう。只でさえ沸点の低いルイズ。この使い魔の自分のからかうような口調に血圧が許容量を超えて上昇していた。 「あんた、学院に帰ってからのお菓子抜きね」 「何でよ」 「ご主人様に隠し事をしてた罰、キュルケとお喋りしてた罰、ご主人様の顔を舐めた罰よ!」 「私へのご褒美だったんじゃないの?」 「もう十分食べたでしょ! これは私の分よ!」 「それを全部? 本当に太るわよ、マスター?」 「……あんた、お菓子だけじゃなくて食事も抜き!」 「ちょ、ちょっと私を飢え死にさせる気!?」 この使い魔もご飯抜きは辛いらしい。先ほどの余裕をなくしてルイズに詰め寄ってくる。 ぎゃあぎゃあ騒ぎながら街道を歩く少女二人。女三人集まらなくても姦しい。 「ひどいわルイズ!」 「どうしても欲しいのなら今から挽回しなさい。はいこれ持つ!」 店から持っていたお菓子の入っている袋をレンに押し付ける。しぶしぶと受け取るレン。ずんずん先行するルイズの後を付いていく。 歩きながらルイズは先ほどから疑問に思っていることをぶつけた。 「レン。さっきの自己紹介、あれ何? ブリュンスタッドって何よ?」 「ああ、あの名前は私の前の契約主の名前よ。言ったでしょ? この姿で貴女の使い魔と知られる気はないって」 確かに、あの場でレンと名乗るのは少しまずかったかもしれない。自分の白猫と目の前の幼女が同名なのは偶然とさせても、このレンの姿だとルイズの白猫は簡単に連想できてしまう。 「貴族の名前にしたのは貴女の為よ。ルイズは平民と一緒に食事してた、ってキュルケとかに知られるのは嫌なんでしょ?」 「まあ、そりゃそうね」 「そういうわけよ」 「……ねえ、どんなメイジだったの、そのアルクって人は?」 「あいつはメイジじゃないわよ」 「ええ? だってその人の使い魔だったんでしょ? 使い魔を持てるならメイジだったんでしょ?」 「あいつが人間だったならとっくに使い魔の契約なんて破棄してるわよ。もっとめんどくさい存在で、私もどれだけ契約破棄に苦労した事か……」 レンは何やら遠い目で昔を偲んでいるようである。口はへの字になっており、どう見ても楽しい思い出ではなさそうだった。 ルイズは理解できない。そのアルクとかいう奴は、メイジどころか人間でもない?ならいったいなんだと言うのか。想像力を働かせる彼女の脳裏に思い浮かんだのは、今は帽子で隠れているレンの長耳だった。 「人間じゃないなら、まさかエルフ……とか?」 「違うでしょうね。あいつは耳は普通の人の耳だったわよ。けど、エルフよりももっと強いと思うわ」 「エルフより強いって……!? 一体何なのよその人は!?」 「吸血鬼よ」 レンから簡潔に述べられた答えに、しかしルイズは顔に疑問符を浮かべる。 「吸血鬼? そりゃ吸血鬼は怖いけど、エルフより強いって言うのは言い過ぎでしょ」 「ルイズ、貴女が知ってる吸血鬼はどんな種族?」 「そうねー、知識でしか知らないけど、日の光が苦手で、エルフ程じゃないけど先住魔法を使える、狡猾で残忍、あとグールを使役する。これくらいかしら」 「あいつは、まず日光の下を自由に動けるわ」 「え゛!?」 「それと馬鹿力ね。キュルケの使い魔のフレイム、だっけ? あんなの素手で潰されるわね」 「えええ!?」 「あとこの前言った魅惑の魔眼持ちね。その瞳で見たならどんな相手でも意のままに操れるわ。他にも色々凄いわよ」 「……」 ルイズは言葉が出せない。なんだその吸血鬼は。日の光をものともせず、サラマンダーを潰せるくらいの怪力で、相手の目を見たら体の自由が利かなくなる? インチキの塊のような能力ではないか。 普通の吸血鬼でもメイジは苦戦するのに、そんな奴スクウェアクラスのメイジでも倒せるかどうか。見た事のないレンの元主人とやらに戦慄するルイズ。 「一番の違いだけど。あれは血を吸わないわ」 「は? それじゃ吸血鬼じゃないじゃない」 「言いたいことは分かるわ。けど吸血鬼なの。吸血鬼なのに血を吸わない。そんな変な奴よ」 ルイズの考えが混乱する。血を吸わない吸血鬼? そんなものいるわけないじゃないか。 「それ、やっぱり吸血鬼じゃないでしょ」 「別に信じなくて良いわよ。貴女が会う事は絶対ないから」 「そんな事言っても気になるわよ」 この生意気な使い魔が自分の前に仕えていたという吸血鬼。興味を抱くなと言うのは無理な話である。だがレンはその吸血鬼の事をあまり話したがっていないようだった。 「ルイズ。次は何処に行くとか決めてるの?」 「ちょっと、話の途中よ。……でもそうね、ここからなら服屋が近いかしら。ちょっと寄っていきましょうか」 「了解しましたわ、マスター」 「それで、他には特徴はないの、その吸血鬼」 「まだその話? そうねえ、あとは」 人差し指をあごに当ててレンは軽く考え込む。そして何かを思いついたのか、ルイズに向かって一言。 「色ボケね」 「さ、帰りましょうか」 大分日が傾いた王都トリスタニア。ルイズとレンは街の入り口までやってきていた。 「それじゃ、私は猫になってくるわね」 「そうね、荷物があるから二人乗りは厳しそうね、あんた小さいとはいえ」 「一言余計よ、ルイズ」 そう言って細い路地へと向かうレン。その後姿を見ていると、 「ねえレン。あんたその姿のままがいいとか言う事はないの?」 そんな疑問がルイズの口からこぼれた。その言葉にレンはルイズの方へ振り向いて答える。 「別にそんな事は思わないわね。猫の姿、この姿、どちらも私だもの。それに――」 「それに?」 「いえ、何でもないわ」 薄い微笑を浮かべながら言葉を切るレン。その顔がルイズは妙に気になった。 「言いなさいよ。それに、何?」 「だからなんでもないわ。もう暗くなるわよ。夜道は危ないわ、急ぎましょ?」 「あ、こら!!」 無理やり話を終わらせて路地へと入り込むレン。その後を追うルイズだが、そこは白猫になったレンが佇んでいるだけだった。 「……何よ、ほんと隠し事が多い奴ね」 不機嫌にしかめっ面になりながらレンを持ち上げる。睨んでやってもレンがは鳴きもせず、人の言葉をしゃべる事もなかった。 それ以上の追求はこの場では無駄だ、とルイズは判断すると、レンを持って馬へと歩き出した。 だからルイズは知らない。レンが徒に人型にならない一番の理由は、ルイズに下らない雑用を押し付けられないが為だという事に。 3時間ほど馬を走らせ、無事学院へルイズとレンはたどり着いた。家に帰るまでが外出である。 夕食の後、持ち帰ったスコーンを自室で頂く事にする。そわそわしながらお茶が運ばれてくるのを待つ。こういう時、まだかなまだかなと待つ時間も楽しみの一つだ。 そして待望のノックの音が響く。コンコンコンコンと4回、主に礼儀が必要な際に行う回数である。 「失礼します、紅茶をお持ちしました」 「ええ、入りなさい」 許可を出すと、トレイにティーセットを乗せた黒髪のメイドが入ってきた。それはこの前浴室で会ったメイド、シエスタだった。 「あら、あんただったの。奇遇ね」 「は、はい。それでは紅茶をお煎れします」 「お願いね」 お湯で温められた2つのティーカップに、数分間ポットの中で旨みが抽出された紅茶が注がれる。とぽとぽとぽ、という音と共に心が落ち着く香りが漂う。 「ご学友とお茶会でしょうか?」 「まあ、そんな所よ」 「それでは失礼致します」 「あ、ちょっと待ちなさい」 ルイズはお茶を煎れ終わったシエスタを呼び止める。 指示を待つメイドに、ルイズは買ってきたスコーンを一つ差し出した。 「あげるわ。とっときなさい」 「……よろしいのですか?」 「ちょっとしたお礼よ。遠慮する必要は無いわ」 「ありがとうございます! それでは頂戴します……?」 シエスタがルイズからスコーンを受け取ると同時、シエスタは自分の足下に目を向ける。そこにはシエスタの脚をはっしと両前脚で抱えているレンが居た。 「ど、どうしたのレンちゃん?」 「レン、はしたないわよ。さっさと放してあげなさい」 ルイズにはこの白猫の行動の意味が読めた。自分の分のスコーンが減ることを危惧しての行動だろう。 そのお菓子を持ってかないでー、という言葉は無くとも理解できる。思わずニヤニヤ笑ってしまうルイズだった。 「ほら、離れなさいっての」 ルイズはがしっとレンを掴みあげる。ルイズに拘束されてもレンはまだ諦められないらしく、じたばた手足を振って抵抗していた。シエスタはそんなレンを微笑んで見守っている。 「それでは失礼致します」 「ご苦労様」 使用したティーセットとお駄賃のスコーンを持ってシエスタが退室する。 ドアが閉まって彼女の足音が部屋から遠のくまで、レンはじっとルイズを見上げていた。そして足音が完全に聞こえなくなると、何の前触れも無く一瞬で人の姿になった。 ちょっとびっくりしたルイズだが、レンの不機嫌そうな顔を見て心に余裕が生まれていた。意地悪く笑いながらレンに言う。 「へえ、そういう風に変身するんだ。ほんとに一瞬なのね」 「ルイズ、なんであの娘にあげちゃったのよ」 「あら、私は全部私とあんたで食べるなんて言ってないわよ。それに全部はあげてないでしょ。数を減らしてあげただけのご主人様に感謝なさい」 「なんて、ひどい……! あれだけ荷物持ちをさせておいて……!」 初めて見るレンの怒り顔である。しかしルイズにはなんだかそれが見た目相応に子供っぽくみえて、恐れるより面白いと思ってしまった。 本当に、甘いものが絡むと素の反応になるんだな、とルイズは実感した。 「さ、紅茶が冷めるわよ。入れたてが一番おいしいんだから頂きましょ」 「食べ物の恨みは絶対忘れないからね!」 恨めしげに言いながらレンはスコーンを齧る。そんなレンを肴に、ルイズはシエスタの煎れた紅茶とスコーンを愉しむのだった。 「ん~~っ、眠い……」 お菓子を食べ終わり、風呂から上がったルイズは自室に戻ると着替え始めた。生地の薄いネグリジェになると、ベッドに倒れこむ。 レンは床の上に敷かれた毛布に寄りかかって丸くなっていた。ふて寝かもしれない。 毛布は、今日街で買ったものの一つである。色々と買い込んだので最後の方では小柄なレンが荷物持ちに四苦八苦していた。 布団の柔らかさに包まれながら、ルイズは呼吸に合わせて膨張、収縮を繰り返す毛玉を見つめる。そして今日の事を思い出していた。 従者ではない、使い魔と一緒の街の散策。一緒にお菓子を食べて紅茶を飲む。こんなのつい数日前までは想像もしなかった。 (結構いい使い魔じゃないの……私の使い魔は……) キュルケに余計な邪魔をされたものの、今日はいい日だった、と思いながら、ルイズは押し寄せる睡魔に身を委ねる。深い眠りに落ちたルイズは、その日夢は見なかった。 前ページ次ページゼロの白猫
https://w.atwiki.jp/openoreguild/pages/391.html
更新:2018年01月09日 (火) 17時17分59秒; 名前: ゼロ 性別: 男 誕生日:1月4日 年齢: 14 種族: 人間 装備: 黒いフード、お守り、ラウンドシールド(装甲+1)、クロスアーマー(装甲+2) 職業スキル:医療技術 魔法適性 治癒術 アクティブスキル:回避(80)ガード(72)本読み(60)聞き耳(50)観察(58)採掘(64)絵描き(59) パッシブスキル:知能強化、求道者、根性、氷の加護、魔法強化 魔法:キガエール 見た目:黒瞳に黒髪で短髪。身長は同世代の子に比べると小さい。フードを深く被っていて顔はよく見えない 攻撃力 14 防御力 20 俊敏 3 器用 10 知能 20+2+2 容姿 3-2 運 10 精神力 20 威力14 装甲値20+2+1 抵抗値20 体力34 近接命中率23 間接命中率44 魔法成功率120-(魔法難度) 魔導銃命中率50 所持金:300F 所持品:初期のアイテム、素材交換☆4、メタルブレード、ちくわ大明神の魔導書、水銀、調教の首輪、レッドストーン、育毛剤、もふもふ、龍の肉、リュウカクダケ 備考 いつも氷のように冷たい顔だが心は暖かい 以前は戦闘ギルドに所属していたがギルメンの残忍な性格にうんざりして引退した 将来の夢は世界一のギルドを創立すること
https://w.atwiki.jp/toriaezuisekai/pages/70.html
/ / / \ \ ヽ N / / \ ハ V! ___ /| ! V i′ ∨ < ̄ __`_ヽ. / / ! ! i !\ \ \\ / /|│ | l | ,! ヽ 丶 \\ / | | V ヽ | ! ,/ / .| | \\ | l l ヽ ヽ \ / / /____.」 | ヽ/ | | |\___ヽ ヾ\`ヽ-、 / /, / | l / ', l l ヽ. \ 、__ ` ̄ ̄ ´_// / | l / V | | \ ス 、 , ン / ./ / / V { l ` ヽ / -ハ、 / / / ヽ ヽヽ /^r‐/ ̄`l‐¬  ̄ ̄ヽ / / / 、 \\ rl |/ l | , ヽ. _./ / / r、 \\ /l ∨l | / |___ /// ┌_'__ | \ ヽ ∨ | / |. |Dノ / l //  ̄ └、__ l ̄ | ト、 \\\.l/ | / レ´/ ヽ | | | \ \\\ { / .// | | | | \ \≧`丶. // | | | | \ \ \__ー_'´/ ,イ | | | | \ \ /\ // | ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◯名前 ゼロ ◯戦闘技術 ◯剣術スキル ◯魔術スキル ◯その他スキル ◯装備 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ メモ 1スレ目 3471初登場 共和国の偉い人(?)。
https://w.atwiki.jp/zeromoon/pages/101.html
前ページ次ページゼロとさっちん 「これが、曾お祖母さんのお墓です」 シエスタに案内されてそれを見たさつきは、「あ……」と声を上げてから静かな眼差しでそれを見つけた。 ここはタルブの村である。 なんだかんだと色々とあって、さつきはアルビオンの任務から帰還して、休養と称してこの村にやってきた。 どうしてタルブなのかというと、シエスタの故郷だからである。シエスタは学園で働く給仕というかメイドで、まあ色々とあってさつきと仲良しになった。 もっとも、さつきはそんなに人見知りしない性格なので学生にも教師にもメイドにもそれなりに知り合いができていた。シエスタはそれらの中でも特に仲がよいのであった。 それで三日前、 「丁度曾お祖母さんの命日が近いので、お墓参りをしようと思っているんです。サツキさんも、遊びにきてみませんか?」 「あ、どうしようかなあ……いってみたいけど、わたし、一応はルイズさんの使い魔だし」 「――いいわよ、別に。アルビオン王家はあんたのおかげで救われたようなものだし。ご褒美がわりに休暇くらいあげるわよ」 「あ、本当に? ありがとう!」 「……別にこの程度のことで感謝しなくてもいいんだけどさ……あんたはもっと、ご主人様である私に頼ってもいいんだから……!」 とかそんな会話の後に、二人は連れ立ってやってきたのだった。 まあ、さつきとしては物見遊山というか、久々に「お友達同士でお泊り」という女子高生らしいイベントが楽しみであった訳で、場所がタルブであるとかはかなりどうでもよかったのだが。 ちなみにルイズとも毎日のように一緒に寝ているわけだが、最初の三週間で慣れた。アルビオンへの旅はそれどころではなかったし。 今回は本当に彼女にとっては楽しみだったのであるが……。 とりあえずとばかりにお参りしたお墓は、まったくもって予想外のもので、何処か浮ついた気持ちがそれを見ることによってしゅんと萎んだのをさつきは感じていた。 それは―― 十字架なのだった。 弓塚さつきは、このハルケギニアでの墓の形態を熟知しているわけではなかった。 それでもなお、それはこの世界にはありえない形状なのだと察した。いや、直感したと言ってもいい。 (これは……) 目を丸くしてその墓標を見つめる。 たまたま、彼女のしるモノと同様の形態をしているのかも知れない。そう思い返したからである。 だが、無情にもというべきか、それは確かに彼女の知る形式のものであった。 墓標にはどう見てもアルファベットが刻まれていたのだ。 (……読めない) Il meurt dans EREISHIA et le monde inconnu. 「……英語じゃないみたい――えーと、これは……エレイシィア?」 恐らくはこれが人名であるというのは解った。 エレイシア、という人がここで眠っているのだとなんとなく見当をつける。 「曾祖母の墓です」 「シエスタさん?」 振り向くと、しかしシエスタはいなかった。 そして返答の代わりに、強烈な痛みと衝撃に襲われてさつきは吹き飛んだ。 ◆ ◆ ◆ 「あら、サツキはいないの?」 祈祷書を前にうんうん唸っているルイズの部屋に、キュルケはいつものようにアンロックで勝手に鍵を開けて入り込む。 ルイズはじろりと横目に睨み付けるが、いつものことなのでそれだけで済ませて 「いないわよ」 と応えた。 「いない? いつも一緒なのに珍しいわね」 「そうそういつまでも一緒ってわけにもいかないわよ」 「使い魔なんでしょ?」 「使い魔でもよ」 ルイズは不機嫌な顔で。 「友達のメイドの故郷に招待されていったわ。一週間くらい骨休めしてくるって」 キュルケは「ふうん」とどうでもよさそうに頷いてから。 「でも、サツキでしょ?」 「何よ?」 「どうせまた何か、不幸なことに巻き込まれているんじゃないかしら」 ルイズは顔を上げて何か思案するように天井に視線を彷徨わせる。 「まさか……そう毎回毎回、変なことになるなんてことはないわよ。多分」 ◆ ◆ ◆ そこにいたのは、さつきの知るシエスタではなかった。 メイド姿のエプロンを脱ぎ捨て、肩とか露出したドレス姿になっていた。その肩にはなんか何処かで見たようなタトゥーが入っている。 その手に持つのは――というより、指で挟みこまれているのは三本の長剣。 爪の如く拳から伸びている。 さつきはそれを知っていた。 黒鍵。 代行者が用いるという、礼装……。 「な、なんでシエスタさんがそんなのを持っているのかな……?」 かつて諸人の罪を背負ってはりつけられた預言者のように、さつきの体は十字架の墓標に縫いとめられていた。 右腕と左脇腹と右の脛を貫いているのは、シエスタの手にあるのと同じ黒鍵だ。 そこから生じている痛みに脂汗を流しながらも、事態のあまりの唐突な変化にさつきは混乱して恐怖を覚える以前の問題だっ。 シエスタはいつもと違う姿でいつもの笑顔を浮かべ、 「曾祖母より授かりました」 「ひ、ひいおばあさんから……」 ごくりと唾を飲み込む。 「一撃で並の死徒ならば六度は滅ぼせるという話でしたが、曾祖母が大げさにいったのか私の技が未熟なのか――それとも貴方がそもそも並ではないのか。どちらにしても、死徒相手に使うのは初めてなのでよくわかりませんが」 「あの、シエスタさん、こういう危険なものは人に向けて使うのは危ないよ……」 よくわからずにトンチキなことを口走ってしまう。 シエスタは当たり前のようにそれをスルーした。 「曾祖母はある事情があって、この世界に迷い込んだ異邦人でした。元々の世界では死徒と呼ばれる、この世界の吸血鬼とは異なる吸血鬼を狩り出す仕事をしていたそうです」 「へ、へえ……」 「曾祖母はいつしか帰還を諦めてこの世界で暮らしましたが――それでも、自分の技と使命を残しました」 さつきは問わずとも知っていることを、だけど改めて問うた。そうしてしまうくらい、目の前にいる少女と いつも、ついさっきまで一緒にいたメイドとギャップがありすぎる。 「技と、使命?」 技――それは代行者の持つ技。 対軍にも達する異能(バケモノ)じみた体術。 使命――それは代行者のするべきこと。 神の摂理に反する不死者(バケモノ)を打ち倒すこと。 「曾祖母は言っていました。もしも私の墓標に書かれている文字を知るものがいれば、それは自分と同じ世界からきたものであると――そしてサツキさん、あなたは吸血鬼ですね。曾祖母と同じ世界よりやってきた吸血鬼」 即ち、死徒。 「主の名のもとに、サツキさん、貴方を滅ぼします」 塵は塵に! 灰は灰に! 「シエスタさん!? 落ち着こう! 落ち着こうよ!」 さつきは叫ぶが、シエスタは聞いてないのか、愉悦の笑みさえ浮かべて黒鍵を持った右手を首に巻くように振り上げる。 「エイメン」 ◆ ◆ ◆ 「ま、どうせ何かあったってどうにかしちゃうわよ」 「それもそうね」 「サツキは自分で思っているより、ずっと強いんだから」 ◆ ◆ ◆ 「わー! 遠野くん助けてぇー! ピンチだよおッ!」 まあとにかく、さつきは何処の世界でも、やっぱり不幸だった。 おわり。 前ページ次ページゼロとさっちん
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1145.html
ゼロと奇妙な隠者・幕間劇、もしくは。 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーの憂鬱 フリッグの舞踏会も終わり、学院には宴の後特有の弛緩した静かな空気が流れていた。 我らが『微熱』のキュルケも、そんな空気に当てられたか、深夜だというのに自室のベッドの上で一人、ヘビードールを纏って寝転んでいるだけだった。 「きゅるきゅる」 『今夜は誰かと同衾しないんですか』と暖炉の中から問いかける使い魔。明日は雨だな、とサラマンダーであるフレイムは憂鬱な気分になった。 「あー……今夜はいいかなって思ってるのよねー。ちょっと思うところあって」 月の物でないことは重々承知している。まあ月の物の真っ最中だろうがこの主人は構わず生徒を食っちまう点があるというのに、体調のいい時分に一人寝を選んでいるというのはかなり珍しいことである。 今のキュルケからは平素のように恋愛にうつつを抜かしている感情は感じられない。むしろ物憂げというか、憂鬱な気分を感じるのは初めてと言ってもいい経験だ。 この情熱的な主人でもメランコリーになる夜は存在してるのだなあ、と、妙な所で感心していた。 「きゅるきゅる」 『そう言えばヴァリエールさんところのジョセフさんを部屋にお呼びしないのはどうしてですか』と、前々から疑問に思っていた質問を聞いてみることにした。 使い魔達の中でもジョセフの人気は大したものである。特にエサをくれるわけでもないし何かをしてくれるというわけでもないのだが、何故か一緒にいたくなる雰囲気がある。 カエルからバクベアードまで幅広く人気があるというのもおかしな話ではあるが、実際そうなのだから仕方がない。 元々いい男だし、なまっちょろい学院の生徒にはないワイルドさや鍛えられた身体。ユーモアセンスは言うまでもないし、何より男にしか目が行かないというわけでは決してない。 恋愛狂と称してもいいくらいの主人がこれだけ好条件の男を部屋に呼ばない、というのは奇妙なことに思えて仕方ないのである。粉はかけているようだが、それもルイズをからかう材料にしているだけのレベル。 使い魔の疑問に、キュルケは苦笑しながら身を起こした。 「いやー……本当なら呼んでるところよ? むしろ呼ばない理由がないというか」 「きゅるきゅる」 『じゃあなんで呼ばないんですか』という質問に、キュルケはやっと身を起こした。 「あー……呼んだらからかうとかいうレベルですまないというか。何と言うか、直感?」 「きゅる?」 常日頃からツェルプストーとヴァリエールの因縁は聞かされている(主に桃色から)。 キュルケは特に意識はしていない……というか、気にもしていない様子だが、ヴァリエールの方は意識しっぱなしで、ジョセフとキュルケが立ち話をしているだけでキレていた。 それはもう懸命にツェルプストーの家は汚いだとか成り上がりだのときゃんきゃんわめいているのだが、ジョセフは右から左でハイハイといなしている。それがまた気に入らない、とキレまくるのをフレイムも何回も見ていた。 「きゅるきゅる」 『でもあの調子なら、大体こんな感じで笑い話になるんじゃないんですか?』と、私感を述べてみるフレイム。 ①・フレイムの予想 ジョセフを部屋に連れ込んだキュルケ。ジョセフはいい年してスケベだから誘惑されようモンならホイホイとついてっちゃう。で、ベッドにいざ来ようとした段階でルイズが乗り込んできて一悶着あった上で、ルイズがジョセフを引き摺って帰る。 「きゅるきゅる」 『大体こんな感じで終わるでしょう』としめくくった。 ベッドに座ったままのキュルケは、使い魔の言葉を苦笑しながら聞き終わった。 「うーん……決闘前ならそれで終わってるはずなんだけどねぇ。あれよ、決闘終わってからちょっとギクシャクしてたでしょあの二人。その時だとねー……」 ②・キュルケの予想(決闘直後の見解) ジョセフを部屋に連れ込んだキュルケ。ジョセフはいい年してスケベだから誘惑されようモンならホイホイとついてっちゃう。で、ベッドにいざ来ようとした段階でルイズが乗り込んできて―― 「……何――してるのよ……」 どう言おうが言い訳しようもない現場を目撃したルイズ。その手に握られた杖が震える様子が、彼女の怒りだけではない様々な感情が混ざり合っているのを如実に表わしていた。 「ま、待てルイズ。落ち着け。なッ?」 危機を感じ取ったジョセフが、ルイズを宥めにかかる。 だが今のルイズに使い魔の言葉が届くはずもない。 「アンタはッ……そうよ、私を裏切ってッ……!!」 「――とまあ、ブラックルイズ化しちゃう危険性があったと踏んだわけよ。さすがにあの時のルイズとジョセフに手を出したら刃傷沙汰じゃすまないような感じもあったし」 「きゅるきゅる」 『それは確かに』と同意する。 「そもそもこの話はお気楽なラブコメをやろうと思ってたのに、いつの間にかパワフルで頼れるおじいちゃんとワガママだけどカワイイところがある孫娘のほのぼのコメディに変わってきたからそのままいっちまうかァーなんて後先考えてない作者がやってるわけだから」 何を言い出してるんだこの人は、と言いたげなフレイムの視線にも、キュルケはうむうむと頷いた。 「本当は『ゼロ奇妙にはどうにもハーレムラブコメ分が足りない! ここでジョセフ! スケベで孕ませ放題なジョセフでそれなんてエロゲ? をやろう!』とか思ってた……のに。 ギーシュに決闘挑んだ時点であれ? 方向性違う? まあいいややっちゃえーとなって今に至ってるわけで」 フレイムが(もしかして目の前にいる主人は主人の姿をしてるだけで中身が違う人なのでは?)という疑念を抱き始めてきたところで、キュルケは一つ咳払いをした。 「まあそれはさておいて。私もルイズをからかうのはやぶさかじゃないけど、本気で殺意を抱かれたり殺したり殺されたりとかは現時点では望んでないわけ。しかもそれが可能性として高かったあの時期に、ジョセフを誘惑するワケにはいかなかったのよ」 おお元の主人に戻った、と思ったフレイムは、続けて問いかけた。 「きゅるきゅる?」 『じゃあミス・ヴァリエールとジョセフさんが仲良くなった今なら、①で終わるからちょうどいいんじゃないですか? なんなら呼びに行きますよ』と。 だがキュルケは、自慢の赤毛を緩く振って苦笑した。 「だめだめ。今だときっとこんなコトになるわよ」 ③・キュルケの予想(現時点での危険性) ジョセフを部屋に連れ込んだキュルケ。ジョセフはいい年してスケベだから誘惑されようモンならホイホイとついてっちゃう。で、ベッドにいざ来ようとした段階でルイズが乗り込んできて―― 「……何――してるのよ……」 どう言おうが言い訳しようもない現場を目撃したルイズ。 彼女は怒りに満ちた目を隠そうともせず、杖を振り上げるが――その唇から魔法の詠唱が始まることはなかった。 小刻みに震えていた手はやがてゆっくりと、力なく垂れ下がり…… 魔法を唱えるはずの唇から漏れるのは、紛れもない嗚咽。 「ひっ……ひっ、ひぃっ……どうしてよぉ……えっく、うわぁぁぁぁぁああぁあん」 にっくきツェルプストーの前だと言うのに、誰憚ることなく大泣きしだすルイズ。 その姿はまるで親とはぐれて泣くしか出来ない幼子のようだった。 「ジョセフを、えぅっ、あたしのジョセフを、取らないでぇぇぇえええぇ」 泣く子と貴族にはかなわないという諺がハルケギニアにはあるが、貴族で泣いてる子となればもはや太刀打ちできる者は誰もいない。 ジョセフは慌ててルイズに駆け寄り、ルイズは泣きじゃくってバカバカと連呼してジョセフの胸をぽこぽこ叩きまくる。 キュルケはなんか言い様のない罪悪感に圧し掛かられたまま、帰っていく二人の背を見送ることしか出来ませんでしたとさ。 「きゅるー……」 うわ。なんかリアルに想像できた。とサラマンダーが呟く珍しい光景。 「でしょ? それは怖いというか、今まで挙がった①から③まで、どれも有り得そうでしょ。ただルイズをからかうだけでそんな危険な賭けが出来る段階じゃないのよねー」 はぁ、と溜息をついてから、キュルケは再びベッドに倒れこんだ。 「いい男なのよねー、スケベで浮気しそうでお調子者なのを差し引いても。年を取ってるのもダンディだし。あの年であそこまで色々スゴそうなのも普通いないわよね」 「きゅるきゅる」 『ヨダレ。ヨダレが出てますよご主人様』 手の甲で口元を拭う。 「まああれよ。部屋に呼ぶとすれば、もう決戦挑むくらいの気持ちで行かないと。生半可な気持ちでやると大火傷するから、対策はきちんと取っておかないと……!」 「きゅるきゅる」 『おお。さっきまでのメランコリーな気分がもう消えてる。何と言うかあれだな。我がご主人様ながら単純だなー』 艶かしい肢体を熱情の炎に包みながら、拳を握り締めるキュルケ。そんな主人の姿をサラマンダーなのに生暖かく見守るフレイム。 隣の部屋で燃え盛る炎など知ることも無く。 ジョセフは毛布の上で10分間寝息を吐き続け、ルイズは悪夢にうなされていた。 To Be Contined → 第二部『風のアルビオン』