約 3,810,545 件
https://w.atwiki.jp/armoredcoreforever/pages/352.html
チャプター04 / MARINE FACILITY 低層区の警備部隊を殲滅せよ 攻略難度 5 敵対勢力 シティ警備部隊 敵主戦力 沿岸区担当部隊 他多数 ランクS目安収支 790000(?) サブクエスト クエスト名 内容 報酬 獲得チームポイント 備考 戦車撃破 戦車を10両撃破 10000 10 防衛型撃破 防衛型を10機撃破 20000 20 支援型撃破 支援型を10機撃破 20000 20 高機動型撃破 高機動型を20機撃破 30000 30 沿岸区制圧 沿岸区防衛部隊を20機撃破 30000 30 高層区制圧 高層区防衛部隊を20機撃破 30000 30 特殊高機動型撃破 特殊高機動型を5機撃破 30000 30 大型武装ヘリ撃破 大型武装ヘリを3機撃破 30000 30 チャージマスター ブーストチャージで敵を10機撃破 20000 20 スピード撃破 警備部隊ACを30秒以内に撃破 30000 30 廃品回収A 残骸Aを回収 10000 10 廃品回収B 残骸Bを回収 10000 10 廃品回収C 残骸Cを回収 10000 10 廃品回収D 残骸Dを回収 20000 20 廃品回収E 残骸Eを回収 20000 20 時間制限 10分以内にミッションクリア 30000 30 無補給 基地で補給を行わずにクリア 30000 30 損害軽微 総ダメージ10000以下でミッションクリア 急襲勢力撃破 所属不明の敵対勢力を撃破 50000 30 廃品回収 番号 場所 入手パーツ A スタート地点から直進してすぐ右側通路を逆走・サーチモードで右の壁にこすりながら進むだけで取れる KO-4H/JIFEI B ルート情報を基準とした3つ目のサーチライトの下(ビル影) UPL-09/H NAPA C 高層区に入る橋から右に海沿いに進むと見つかる 復路の通り道にある封鎖された橋の手前・右手辺り EUONYMUS CN23-2 D 高層区に入る橋の右側に見える港の埠頭の先 UAV-3 THENI E (往路で取る場合)1回目の対鳥型機戦の場所から進んで左にある工業地帯跡の海側寄り高層区寄りの角、崩れた道の上。(復路で取る場合)高層区を出て直進し、大型ヘリが出てくるあたり右の工業地帯跡の右後ろ角、崩れた道の上。道の支柱はかえしがあって上りづらい。離れたビルの屋上や煙突の上からブーストで飛んでいく。煙突が近めで高さもあって楽か。 BARDANA SRM25 敵AC 警備部隊4番機 AP 35324 防御属性 KE CE TE - 797 2671 431 HEAD ACHILLEUS HD225 CORE KT-3O3/YINGLONG ARMS UAM-23/I LEGS MORENA LG15 装備位置 武装 攻撃属性 攻撃力 LA ULR-22 OLYMPIA TE RA SEIDENBAUM SR13 KE SU UMM-20/H SURAT CE LH UEM-34 MODESTO TE RH CALENDULA RF11 KE スコルピウス AP 35306 防御属性 KE CE TE - 1516 2621 323 HEAD KT-1G/FUXI CORE JOTUN CR113-2 ARMS KT-4S2-2/SVIR2 LEGS EIFEL LG210-2 装備位置 武装 攻撃属性 攻撃力 LA ULR-22 OLYMPIA TE RA USR-12/V KE SU KO-9K/MOTYLEC KE RH URF-15 VOLDOSTA KE 攻略 やっかいな中ボス戦×2と、市街を折り返して往復するようなルートで多くの敵と戦う。 そしてサブクエストは無補給。やっぱり鬼。長期戦になるため、AP重視のアセンがいい。 ガトリングは威力不足だと弾かれるので、400弾倉の威力の高いタイプを持っていく。 最初は地下水路からスタート。盾持ちは通路の隔壁越しにブーストチャージすることで安全に撃破出来る。支援型はガトリングで撃破。 廃品回収のうち、Aはイベント後、エリア外扱いになって取れないので注意。 中ボスに未確認機大型が登場。しかも分けて二体。 2体ともKE防御だけがやたらと高いので、それ以外の攻撃属性で攻撃すること。 想像よりでかいので、大きさに惑わされず、ロック距離を見定めること。 海の上なのでついつい二脚に頼りたくなるが、相手の機動性が高く旋回の必要が結構あるので罠。 「基本はACと共通」という割に、ありえないほど機動性が高いので、半端な弾速では当たらない。 レーザー3連射、ミサイル多数発射、突撃による体当たりが主な攻撃方法。 行動パターンのうち突撃は、その後の停止時間が長いのでこの隙に強力な武器を打ち込むとよい。正面に立つと活動を再開するので注意。 突撃は「敵の正面を同じ高度で浮遊している」ことで誘発できる。 落ち着いて動きを見ていると、静止したところにバトルライフル×2をたたき込んであっさり終わったりする。 海上にいるとミサイル被弾→衝撃で止まる→水没の流れで思うように動けなくなることがある。極力水上での戦闘は避けよう。 海上で静止したところにパイル決めようとしてもパイル使用時ブースト停止の仕様のおかげで同高度だと当たらない。少し上をとってとっつくべし。 自機が高架下で敵機が高架上にいる時、敵のブーストチャージ判定が高架を貫通して下まで届くことがある。待ち伏せしている時などは注意。 橋を渡ってから狙撃支援、機動型などと戦っているとAC登場ムービー。橋の辺りで待ち伏せている。 橋を渡り終わるところで始まる敵AC登場イベントをスキップする?(※要検証)と、自機の作戦範囲内への移動、配置が行われず、下手するとエリア外扱いで即死することがある。手前の戦車と遊んでいるとよくあるので注意。 警備部隊4番機の弱点はKEとTE。ガトリングやショットガン、パルスマシンガンで近距離戦を挑むのが楽かも。 ミサイルが避けにくいなら、ルートから左に曲がった先の高架下に入り込むとよい。ミサイルは上寄りの軌道で飛ぶため、高架で防げる。 さらに射線を制限できるため、横のハイブーストで切り返しつつ撃ち合えば射撃もかなりかわせる。 警備部隊4番機はやや引き気味、逆に急襲勢力機はやや前に出気味。 というか、ルート構築がことごとく敵の正面なのは何か悪意でもあるのだろうか? ほとんど余談に近いが、ビルの谷間を抜けたあたりの高架線が左に折れ曲がる場所、進行方向に向かって右手のビルが絶好の狙撃ポイントになっている。 根元に鉄骨が立っているビルで、一つ奥にエリア外まで伸びている高層ビル、一つ手前に敵狙撃機が陣取っている。 ここから砂砲を撃てば何もさせずに倒すことが可能。ただし非常に面倒臭い。 急襲勢力出現条件:短時間で市街地にたどり着く。警備部隊ACの代わりに出現。再出撃でも出現。HEATロケットで未確認機大型を即撃破。弾切れになったらリタイアして再出撃するといい。 評価S習得は、被ダメを抑えながら雑魚を積極的に倒していれば何とかなる。 大型武装ヘリは一人で無補給で倒すのは難しいので、無視してもかまわない。 弾が余ったよーっというときは1台大型武装ヘリを落としておくといい、報酬がかなり大きい。 未確認機大型や大型ヘリ対策にヒートロケット、バトルライフルがあるといい。警備部隊4番機や雑魚はガトリングで。 警備部隊4番機にてこずって被ダメが大きい等やむを得なく補給するならば、雑魚敵を探し回って倒し、大型ヘリも全部沈めたい。 普通に戦うとひいひい言いながらのクリアとなること必至。修練あるのみ。 大型機2機、AC、最終地点での防衛型3機+高機動型3機+α、どれを取っても10000位はすぐに持って行かれる。損傷軽微狙いならほぼノーダメを心がけよう。 長いステージを往復することとボスクラスが3体。手間取っていると時間制限も厳しい。 損傷軽微、時間制限、無補給、ランクSを一度に取るのは至難。もし18個のサブミッションを同時に達成できたならあなたは立派なイレギュラー。 廃品回収Aは最初の盾持ちまでに右に寄ってスキャンモードで進めば取れます(エリア外ではないため) -- TAROCK78-JP (2012-03-06 11 26 13) たいした事ではないんだけど、ステージクリア時にエネルギーが無いと、最後のムービーのセリフの合間に「エネルギーがありません」って字幕付で言い続けてちょっと間抜けな感じになる。既出ならすいません -- 名無しさん (2012-03-09 14 23 22) ↑試してみたけど酷いなこれwwwww合間合間に言うのがまた何ともww -- 名無しさん (2012-03-13 22 43 52) どのムービーでもそうなる 用語集とかでも指摘されてたな -- 名無しさん (2012-03-13 22 46 22) スカベンジャー一体目出現時にフリーズしたわ。 -- 名無しさん (2012-05-27 16 42 50) 難易度は高いが敵撃破時の報酬が高いため、慣れれば資金の荒稼ぎが出来る -- 名無しさん (2012-06-23 10 12 49) ↑↑俺もだ -- 名無しさん (2012-06-24 09 47 09) かわいいスカベンジャーの初陣。 -- 名無しさん (2012-06-24 09 48 10) 警備部隊4番機が倒せなかったからTE属性のセントリーガンばら撒いたらそれだけで倒せました -- 名無しさん (2013-07-30 23 09 16) ↑↑↑俺も -- 名無しさん (2014-03-09 19 22 14) バグワロタw海上でしかもタンクだと、2機目のスカベンジャーグダグダになる。上には登れないしスカベンジャーはなかなか倒せないし……。KEが2800もあるから攻撃もなかなか当たらない。弾薬、AP、時間消費が半端なかった。初心者に恨みでもあるのかwと言いたい程。(私は初心者じゃないよ)警備部隊も普通に戦っているとかなり削られる。 -- 鎧蜘蛛 (2014-04-14 21 21 30) 警備部隊4番機と戦うときの、ガレージポイントってどこにあるの? -- 名無しさん (2014-04-19 01 23 12) ↑4番機が出現する先の交差点あたりにポイントがあるけど、敵が大量にいるのでほぼ帰り専用。ACと戦うために補給するならスカベン2機目を撃破した後、橋が分断されているあたりで補給が出来たハズ。 -- 名無しさん (2014-04-19 08 14 40) 4番機に勝てません…どうすればよいのでしょうか… -- 名無しさん (2014-04-22 00 12 31) ↑スカベンや道中の敵のことも考えてWライフル+Wバトライで行くのが吉。4番機は遠距離系なのでAPに差がなければライフルの撃ち合いで充分勝てる。AC登場ムービーが流れるあたりの雑魚を排除して相手をおびき寄せ、一対一に持ち込むと楽。 -- 名無しさん (2014-04-22 07 44 58) ↑ありがとうございます!倒せました!ああ、これでまた大好きな主任に会える…! -- 名無しさん (2014-04-23 17 02 45) 警備隊長左の橋の下でプラズマガンでごり押ししたら死んでた -- 名無しさん (2019-07-03 16 57 03) ↑プラズマガンで自爆はよくある。 -- 名無しさん (2021-01-29 21 10 42) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/androidnetrunner/pages/22.html
Runner (ランナー) Anarch (アナーク) #1 - 《Noise Hacker Extraordinaire (ノイズ 非凡なるハッカー)》 #2 - 《Deja Vu (既視感)》 #3 - 《Demolition Run (解体ラン)》 #4 - 《Stimhack (刺激剤ハック)》 #5 - 《Cyberfeeder (サイバーフィーダー)》 #6 - 《Grimoire (グリモワール)》 #7 - 《Corroder (コローダー)》 #8 - 《Datasucker (データサッカー)》 #9 - 《Djinn (ジン)》 #10 - 《Medium (メディウム)》 #11 - 《Mimic (ミミック)》 #12 - 《Parasite (パラサイト)》 #13 - 《Wyrm (ワーム)》 #14 - 《Yog.0 (ヨグ.0)》 #15 - 《Ice Carver (アイス彫刻家)》 #16 - 《Wyldside (ワイルドサイド)》 Criminal (クリミナル) #17 - 《Gabriel Santiago Consummate Professional (ガブリエル・サンチャゴ 完璧なプロフェッショナル)》 #18 - 《Account Siphon (口座の吸い上げ)》 #19 - 《Easy Mark (カモ)》 #20 - 《Forged Activation Orders (偽起動指令)》 #21 - 《Inside Job (内部犯行)》 #22 - 《Special Order (特注)》 #23 - 《Lemuria Codecracker (レムリア・コードクラッカー)》 #24 - 《Desperado (デスペラード)》 #25 - 《Aurora (オーロラ)》 #26 - 《Femme Fatale (ファムファタル)》 #27 - 《Ninja (ニンジャ)》 #28 - 《Sneakdoor Beta (スニークドアβ)》 #29 - 《Bank Job (銀行作業)》 #30 - 《Crash Space (隠れ家)》 #31 - 《Data Dealer (データ売人)》 #32 - 《Decoy (囮)》 Shaper (シェイパー) #33 - 《Kate Mac McCaffrey Digital Tinker (ケイト・“マック”・マキャフリー デジタル修繕屋)》 #34 - 《Diesel (ディーゼル)》 #35 - 《Modded (改良済み)》 #36 - 《The Maker s Eye (造物主の目)》 #37 - 《Tinkering (修繕)》 #38 - 《Akamatsu Mem Chip (アカマツメモリーチップ)》 #39 - 《Rabbit Hole (ラビットホール)》 #40 - 《The Personal Touch (個人的調整)》 #41 - 《The Toolbox (ザ・ツールボックス)》 #42 - 《Battering Ram (バタリングラム)》 #43 - 《Gordian Blade (ゴルディアンブレード)》 #44 - 《Magnum Opus (マグヌムオプス)》 #45 - 《Net Shield (ネットシールド)》 #46 - 《Pipeline (パイプライン)》 #47 - 《Aesop s Pawnshop (イソップ質店)》 #48 - 《Sacrificial Construct (犠牲用装置)》 Neutral (中立) #49 - 《Infiltration (侵入)》 #50 - 《Sure Gamble (確実なギャンブル)》 #51 - 《Crypsis (クリプシス)》 #52 - 《Access to Globalsec (グローバルセックへのアクセス)》 #53 - 《Armitage Codebusting (アーミテージ式コード破壊)》 Corporation コーポレーション Haas-Bioroid (ハース=バイオロイド) #54 - 《Haas-Bioroid Engineering the Future (ハース=バイオロイド 未来を設計)》 #55 - 《Accelerated Beta Test (促進βテスト)》 #56 - 《Adonis Campaign (アドニスキャンペーン)》 #57 - 《Aggressive Secretary (攻撃的秘書官)》 #58 - 《Archived Memories (保管済みメモリ)》 #59 - 《Biotic Labor (人造労働者)》 #60 - 《Shipment from MirrorMorph (ミラーモーフからの出荷)》 #61 - 《Heimdall 1.0 (ヘイムダル1.0)》 #62 - 《Ichi 1.0 (イチ1.0)》 #63 - 《Viktor 1.0 (ヴィクター1.0)》 #64 - 《Rototurret (ロトターレット)》 #65 - 《Corporate Troubleshooter (コーポレートの調停者)》 #66 - 《Experiential Data (経験的データ)》 Jinteki (ジンテキ) #67 - 《Jinteki Personal Evolution (ジンテキ 個人改革)》 #68 - 《Nisei MK II (ニセイMk.II)》 #69 - 《Project Junebug (ジューンバグ計画)》 #70 - 《Snare! (罠だ!)》 #71 - 《Zaibatsu Loyalty (財閥の忠誠)》 #72 - 《Neural EMP (電磁神経汚染)》 #73 - 《Precognition (予知)》 #74 - 《Cell Portal (セルポータル)》 #75 - 《Chum (チャム)》 #76 - 《Data Mine (データマイン)》 #77 - 《Neural Katana (ニューラルカタナ)》 #78 - 《Wall of Thorns (ウォールオブソーンズ)》 #79 - 《Akitaro Watanabe (アキタロー・ワタナベ)》 NBN (エヌ・ビー・エヌ) #80 - 《NBN Making News (エヌ・ビー・エヌ ニュースを生み出す)》 #81 - 《AstroScript Pilot Program (衛星広告の試行)》 #82 - 《Breaking News (臨時ニュース)》 #83 - 《Anonymous Tip (密告)》 #84 - 《Closed Accounts (閉鎖口座)》 #85 - 《Psychographics (精神心理学)》 #86 - 《SEA Source (SEAの情報)》 #87 - 《Ghost Branch (幽霊支社)》 #88 - 《Data Raven (データレイヴン)》 #89 - 《Matrix Analyzer (マトリクスアナライザー)》 #90 - 《Tollbooth (トールブース)》 #91 - 《Red Herrings (燻製ニシン)》 #92 - 《SanSan City Grid (サンサンシティーグリッド)》 Weyland Consortium (ウェイランド・コンソーシアム) #93 - 《Weyland Consortium Building a Better World (ウェイランド・コンソーシアム より良い世界の建設)》 #94 - 《Hostile Takeover (敵対的買収)》 #95 - 《Posted Bounty (賞金の提示)》 #96 - 《Security Subcontract (保安下請け)》 #97 - 《Aggressive Negotiation (強引な交渉)》 #98 - 《Beanstalk Royalties (“豆の木”使用料)》 #99 - 《Scorched Earth (焦土)》 #100 - 《Shipment from Kaguya (カグヤからの出荷)》 #101 - 《Archer (アーチャー)》 #102 - 《Hadrian s Wall (ハドリアンズウォール)》 #103 - 《Ice Wall (アイスウォール)》 #104 - 《Shadow (シャドー)》 #105 - 《Research Station (研究本部)》 Neutral (中立) #106 - 《Priority Requisition (優先請求)》 #107 - 《Private Security Force (私設保安部隊)》 #108 - 《Melange Mining Corp. (メランジュ採掘社)》 #109 - 《PAD Campaign (PADキャンペーン)》 #110 - 《Hedge Fund (ヘッジファンド)》 #111 - 《Enigma (エニグマ)》 #112 - 《Hunter (ハンター)》 #113 - 《Wall of Static (ウォールオブスタティック)》 エキスパンションリストへ
https://w.atwiki.jp/achdh/pages/157.html
⑧*⑨*⑩ その中の一人が、最重要兵器開発要綱に参加していたテストパイロットの一人であり、現在ガロの眼前で対峙する男、ファントムヘイズであった── 姿を消した彼らが、何を思って紅い亡霊と共に裏側の戦場へエントリーしたのかは、現在ではまだ明かされていない。 財団崩壊後、オリジナルの紅い亡霊が関与したとされる戦闘記録は、非公式にではあるが幾つか残されている。その非公式記録についてはターミナルスフィアに所属しているガロも、保管資料から大体の詳細を知り得ていた。 彼の望むモノ。ファントムヘイズは、確かにそう口にした。 ガロはその言葉が意味する可能性を瞬時に記憶から弾き出すことができた。 確かに、紅い亡霊がそれを目的として代理人としてファントムヘイズを、騒乱の混乱に乗じて送り込んできたのだとすれば、目的としての筋道は立つ。 しかし、それは同時にこの騒乱が最初から唯では終息し得ないことを意味している。 「──随分と強情な事だな、貴様も。よく此処まで、AMS接続を維持できるようになったものだ」 『……貴様が何故この場に居たのか、それを問うつもりなどはない。──此処で、今度こそ、朽ちていけ』 始めからこの接触の結末などは決していた。かつてガロやファントムヘイズがレイヴンとしての道をたどってきていたからこそ、彼らは自身が生き残る為に他者を殺す。 ファントムヘイズのカメラアイから一際強い光源が溢れだし、ガロは操縦把付随のトリガーを引き絞ると同時にフットペダルを踏み込んだ。 姿勢制御システムの警告メッセージを度外視しして後方推進用ノズルから噴射炎を吐き出し、強引にシックフロントの機体を後方へと押し出させる。一方、至近距離からファントムヘイズの頭部へ目がけて放ったリニアライフルの砲撃は虚しく大気を切り裂き、ターミナルエリアの天蓋部に弾痕を穿った。一方のファントムヘイズは文字通り知覚外の瞬間速度で機体を右舷後方へ弾き飛ばし、ほぼ零距離からであったリニアライフルの砲撃を回避してみせていた。 その現存のどの機動兵器にもあり得ない空間移動能力をよく知るが故に、改めてガロは口許を歪めた。 ジシス財団で新規開発され、プロトタイプネクスト群に試験搭載された瞬間機動機構──クイックブースト。甚大な機体負荷と引き換えに、瞬間速度にして音速をゆうに超える移動能力を機体に齎す過ぎた技術。それがネクストと呼ばれた次世代型アーマードコア兵器の要足る技術のひとつであった。 ノイズによって激しく乱れる有視界の中、メインノズルから白緑色の噴射炎を吐き出して反転攻撃に転じたファントムヘイズが前方から迫る。右腕兵装の遠距離用狙撃銃から放たれた砲弾が頭部の左半分を吹き飛ばし、カメラアイから転送されてきていた外部映像の大半が消失、搭載センサー群も幾つかが致命打を受けて機能停止する。 接近機動を行いながらの連続射撃であるにも関わらずファントムヘイズは精密射撃を撃ち込み、シックフロントの機体がそれに合わせて文字通り大破していく。 それでもガロはフットペダルを踏み続けた。破砕した外部装甲の破片が周囲へ飛散し、シックフロントの機体が漸進から悲鳴を上げる。戦術支援AIが第一戦闘態勢での継戦限界を伝える直前、不意に有視界上部に暗がりができ、ガロはシックフロントが連結通路内へ滑り込んだことを察知した。 「悪いが、俺は死ねんよ。その度胸がないんだ──」 『貴様──!』 ファントムヘイズの狙撃銃の銃口が煌くと同時、既に各アクチュエータ機構に損消を受けて機能不全に陥っていた右腕を無理やり持ち上げ、ガロはトリガーを引いた。 リニアライフルから放たれた最後の砲弾が相手の放った銃弾と交錯し、その先にいたファントムヘイズの頭部を掠める。最早射撃反動にも耐えられなかった右腕部が砲身の反動と共に吹き飛び、直後、シックフロントの頭部に真正面から飛来した銃弾がカメラアイを全て吹き飛ばした。 それまで有視界を出力していたメインディスプレイが全て砂嵐に覆われ、メイン基盤をやられたらしい戦術支援AIが意味の成さない雑音のような言葉を垂れ流し続ける。 照明が粉砕してコクピット内部は不完全な闇に落ち、コンソールから漏れる稼働光とショートによる火花が辛うじて視界を確保。ファントムヘイズは此処で完全に破壊するつもりらしく、容赦のない弾幕がほぼ機能を停止したシックフロントに浴びせかけられる。 激しく震動するコクピットの中でコンソールを叩いて離脱プロトコルを完結させ、強引にハッチを開放してガロは外へ飛び出した。パイロットシートから身を起こし、膝をついたシックフロントの脚部を足場にして地上へ転げ落ちるようにして飛び降りる。 文字通り聴覚を聾する弾幕の反響音が耳を劈き、連絡通路内右サイドの欄干から歩行通路へ滑り込むと、ガロは一発でも当たれば常人なら全身が消し飛ぶ銃弾が押し寄せる弾幕の中を走りだした。 前方数十メートルに設置されている非常用扉を見つけて低く這うような姿勢を保って一気に駆け寄り、作動レバーを引き起こして堅牢な構造の非常用扉を引き開けた。その隙間へ身体をねじ込ませようとした時、不運の衝撃がガロの身体に食いついた。 「──!」 右肩をほんの僅かではあるが掠めていった銃弾がガロをいとも簡単に弾き、その身体が非常用扉の真横へ弾き飛ばされる。頭部から通路上へまともに倒れ込んだガロは歪む視界の中、食道からせりあがってくる物体を強引に呑み下して即座に立ちあがった。姿勢のバランスに不具合が生じている事にすぐ気づき、違和感のする方へ視線を向けるとそこに在るはずの右腕が、肩から消し飛んでいた。 衝撃波で飛沫になったと思しき肉片の残骸が背後に散らばっており、其処でガロは右腕が掠めていった銃弾で吹き飛ばされた事に気付いた。 「くそ──」自分ですら聞こえない忌々しげな言葉を吐いた時、加えてしっかりと見開いていたはずの右目も視界が閉ざされている事に思い当たる。巻き込まれて衝突してきた瓦礫片か何かが頭部を直撃し、右目を潰したらしい。残された左手を右目に当てると、どろっとした赤黒い血が手のひらに纏わりついた。 吐き気がするのは、そのせいか── その場で気絶しても良いほどの重傷を負いながらガロは両足に力をこめて足を進め、今度こそ転がりこむようにして非常用扉の先の非常用連絡通路へ入り込んだ。閉めねばならない扉は既になくなっている為そのままにして、ガロはふらつく足取りで通路の奥へと左手を壁に付きながら進んでいく。 数十メートル続いた角を曲がる頃には、いつのまにか後方から轟いていた銃撃音は止んでいた。シックフロントが完全に消し炭になったか──長年連れ添った搭乗機の最後に立ち会えなかった事を悔やむべきだったが、今のガロには前進するだけの気力しか残されていなかった。 吹き飛んだ右腕の痛覚は意識で無理やり遮断してはいるが、熱を帯びた頭の中の意識が混濁し、とりとめのない思考が彷徨う。 視界はフィルターがかかったように黒くぼやけ、辛うじて自身が自分の足で立って進んでいる事を認識できているのがやっとの状態だった。 「こんな傷を負ったのは、初めてだな……」 戦場で重傷を負った事は何度となくあるが、手足一本を失うほどの傷を受けたことは20年近い戦場生活の中では、覚えている限りでは一度もない。それを誇っている訳ではないが、それを成し遂げさせてくれた自身の幸運に対しては密かな感謝を感じていた。 そして、こんな重傷を負っても尚、自身が今辛うじて考えているのはその傷の事などではなく、この状況をどうやって脱し、生き延びるかということだった。混濁している意識とは別なところで、極めて冷静な思考形態を保っている自身の頭の奇妙な現実に驚き、また、同時に落胆してもいた。事実、ガロは口許に奇妙に歪んだ笑みを浮かべている。 ──この後に及んで、やはり自分は戦場から降りる事を考えられないでいる。 それは自分にとって、誇るべきモノでもなんでもない。 降りないのではなく、降りられないその過去から続くしがらみに呆れているのだ。 そこからくる冷め切った思考に現状救われているとはいえ、ガロはそれに限っては素直な感謝を述べるつもりは一切できない。 そんな事を考えながら何本目かの非常用連絡通路を曲がった時だった。 「──やっと来たか」 視界に入るよりも先に届いたその声に反応し、前方に視線を向ける。通路の暗がりに面した壁にもたれ、そいつは口許に咥えた紙巻煙草を転がしていた。 滲む視界では正視できないが、その第一声に関しては記憶にしっかり残っていたため、ガロはそいつの名を呼ぶことができた。 「お前、ハルフテル……」 「何やら乱痴気やってると思って見に来てみたら、まあ驚いたもんだ。財団のあんな遺物が、核部に紛れ込んでいたとはね」 その野次以外のなにものでもない言葉にどう返事をしたものかと考えていた時、ハルフテルは「眼もやられたか……」と呟き、続いてこっちへ来いと言った。 その言葉に従って傍へ歩み寄った時、ガロは不意に左肩を抑え込まれ半ば無理やり床へ腰を下ろさせられた。 「中々、良い塩梅にヤられたもんだなアンタ。──動くなよ」 ぼやけた視界の中でハルフテルが何やら腰元のポーチから携行型注射器の様なものを持ち出し、それを首元へ遠慮なく突き刺した。わずかに鋭い痛みに目をしかめ、暫く──とはいっても数分程度だろうが──してぼやけていた視界にすうっと透明感が差し込み、残された左眼の視力が元に戻り始める。白熱していた意識もいつの間にか冷まされており、そこでようやくガロはこちらに背を向けて二本目の煙草に火を点そうとしていたハルフテルの痩せた全身をはっきりと見咎めた。 「急場凌ぎだが、今のアンタには充分だろうさ。──後の事は知らんがな」 「すまん──」 その言葉に、ハルフテルは片眉を上げて形容しがたい表情を作ってみせる。何の染みか分からないような汚れのついた白衣を身に纏った痩せ男は、肺腑に貯め込んでいた紫煙を周囲へゆっくりと吐き出し、 「勘違いするなよ。──アンタなら、一人でも適当に遣り遂せただろ。でもそれじゃあ困るから、此処に来ただけなんだ」 相変わらず遠慮のないその言葉に浅く息をつき、ガロは正常な視力の戻った左眼を肩のあたりから吹き飛んだ右腕に映した。傷口からの出血は既に止まり始めており、申し訳程度の血滴だけが数滴、床上に血たまりを作っていた。 ──体内血中に巡る初期治療用微小構造体。軍事技術として広く確立されている医療技術だが、それを独自理論を持ってエンシェントワークスは調整開発し、その技術が以前からガロにも導入されている。その治癒効率は一般に普及しているものとは段違いであり、事実として吹き飛んだ右腕の傷口はものの数分で出血が止まろうとしている。恐らく、今しがたハルフテルが打ち込んだ機能補助用プログラム構造体も一役買っているのだろう。 「……どういう事だ?」 「あの女からアンタが仰せ付かった任を全うしてもらう──ついてきてくれ」 それ以上は何も問わなかった。ハルフテルの背中が追及の類を拒否していたこともあったが、彼が直前に言った言葉を信用していたことが主な要因として挙げられる。二十代半ばという齢にしてかつて財団の兵器開発部門にも携わり、財団解体後はターミナルスフィア隷下のエンシェントワークスの中心人物としてもその敏腕を振るっている彼は、意味のない言葉を吐くことは決してしない。 それを最初に直感したのが、ちょうどハルフテルと初めて面を合わせた頃だった。 ──アンタは運が良い。また、戦場に戻れるんだからな…… 付いて来いと言われてから体感時間にして数分後、二人は地下核部を更に数階降りた下層設備の前に居た。そこは既に何年も使用されていないらしく、空間全体に埃っぽい臭いが沈殿している。設備空間自体は何らかの兵器格納庫のようであり、ハルフテルに連れられたガロの眼前には堅牢、かつ巨大な隔離扉が聳える。その脇に在るコンソールを何でもないようにハルフテルが起動し、数秒後、背景に同化して全く動く気配のなかった隔離扉が重い摩擦音を立てながらスライドしていった。 「電源が、生きているのか……?」 「さっき配線を弄ってブースから流しておいたのさ──入れよ」 そう言いつつ先行して隔離扉の先の設備空間へ踏み入れた彼にガロも続く。 「どこだったかな……ああ、此処此処」 一切の暗闇に落ちた何らかの設備空間の中で、内壁に手を這わせていたハルフテルが目的の照明レバーを見つけ、それを両手で引き落とした。 ぶうん、と低い稼働音が一瞬大気を伝播してから数秒の空白の後、天井手前の照明から順に照明灯が点灯していく。それに伴って設備空間の全貌が明るみに曝され、すべての照明から光が灯された時、ガロは視界に見えたその光景に目を瞠った。 「これは──ネクスト兵器……」 無造作に積み上げられた兵器群の残骸が、設備空間の中に山となって放置されていた。 「全部ウチの失敗例、此処は廃棄保管所だよ。幾ら捨てても人目につかないんで、重宝してるんだ」 ジシス財団解体後から間もなくして、ターミナルスフィア隷下のエンシェントワークスは遺された技術情報を元に独自のネクスト技術開発を始動した。その主導者であるノウラの要求を受け、ガロ自身も再びテストパイロットとして開発計画に直接関与してきた為、同技術者集団の中で秘密裏に試験機体が製造されている事について関知し得ていた。 ──が、此処まで造られていたとは。俺が関知していたのは、一部に過ぎなかったという事か? 「見てみるか? 汚染処理はしてある、心配するな」 そう言うハルフテルの双眸に虚偽の色はなく、純粋な興味も相まってガロはその廃棄機体がうず高く積った群々へ足を向けた。ほとんどの機体は完全に分解されていてその全容は分からないが、少なくとも数十機近い廃棄機体が一緒くたになって捨てられている事までは分かる。その中の何機かには、テスト搭乗者として乗り込んだ記憶のある機体も混じっていた。 「──懐かしいものもあるだろう? この第一保管庫が現場から一番近かったんで、寄ってみたんだが」 そんな事をのたまうハルフテルの言葉を適当に聞き流しつつ、その塵の山を巡り始めてからしばらく後、ガロはその中に一際巨大な体躯の機体を見つけ出した。 「こいつは──……」 その機体は他のものと異なって分解工程を経ておらず、武装こそは解除されているがほぼ完成形の姿のままで他の廃棄機体の群に混じり込んでいた。 ガロはその機体構造を一瞥し、自分の頭に残っている記憶と符号してようやく眉をひそめた。 「所員はさっき避難シェルターへ全員入った。蓄積情報もすべて移転行程を終えている。──奴さん、まだ待ってるみたいだなあ、──ガロ?」 後ろでいつの間にかウェアラブルモニターを取り出して画面を注視していたハルフテルが言う。 見覚えのあるその機体に歩み寄って手を付き、 「まさか、使えるのか──」 振り返りはしなかったが、それでもハルフテルがどういう表情を作っているかは容易に想像がついた。彼は──この痩せ男はもともとそういうつもりで、自分を此処へ連れてきたのだ。 「搭載兵装は隣の保管庫に閉ってある。今作業用アームを下ろす、其処で待っていろよ……」 此方の意図を聞くこともせずハルフテルがその場から足音を響かせて設備空間内の内壁階段へと向かっていくのを確認し、それからガロは改めて眼前の機体を見上げた。 「久しぶりだな──【マルシア】……」 天井部の作業用アームが起動し、内壁通路先の管制室でアーム制御を行うハルフテルの姿を見咎め、その場から作業圏外へガロは下がる。器用に一回で二つの牽引フックにアームが取り付けられ、びんと張ったワイヤーが激しい摩擦音を生じながら巻き上げられていく。やがて廃棄機体の群を押し退けながら先ほどガロがマルシアと名を呼んだ機体が全貌を現す。 ──ハルフテルの言葉に倣う訳ではないが、本当に懐かしい姿だった。 作業用アームはそのまま並行移動すると残骸の山から離れた場所へ、吊り下げていた巨大な機体を下した。それでも重量感を感じさせる機体が重い接地音を発しながら、前のめりの待機姿勢へ固定移行する。 管制室での作業を終えたハルフテルが機体の傍へ歩み寄ると、白衣の懐からウェアラブルコンピュータとケーブルと取り出して、それを機体脚部の補助端末と接続した。 「アンタが一番最初に搭乗した機体だ、憶えているか?」 「ああ……。──あの後、解体処分されたものとばかり思っていたが」 「俺もそうするつもりだったさ。──"彼女"は随分と運が良い」 ハルフテルはウェアラブルコンピュータで作業を続けながら、彼女と呼んだその機体を僅かに見上げる。 「機体状態は問題ない、コクピットへ入ってみろ」 手際よく所定作業を終えた痩せ男が顎をしゃくり、その言葉に軽く頷いてみせたガロは脚部に自らの足をかけた。そこを基点に脚部の何ヶ所かを足場に蹴りつけて跳躍し、瞬く間にコア背部のハッチへ取りついた。すぐ傍の外皮装甲板をこじ開け、その中にあったコードスキャナとハンドレバーを交互に見つめる。 「解除コードは?」 「Ex‐0001:1154‐Marsiaだ」 その言葉通りにパスコードを傍のコードスキャナに打ち込み、ハッチシステムがパスコードの正常認識を軽い電子音で伝える。すぐそばのハンドレバーを引き上げた。 ハッチシステムが作動し、コクピット機構が後背部に取りついたガロの眼前に滑り出してきた。長らく使用されていなかった特有の据えた臭いが鼻腔を刺激するも、そんなどうでもいいことは無視し、ガロはすぐさまコクピット内部のパイロットシートへ身を滑り込ませた。慣れた手つきでコンソールを操作して、コクピットをコア内部へと収容させる。 続いて機体制御システムを起動させ、投射型メインディスプレイ及びサブディスプレイが淡い青色の光を伴って眼前に次々と出力、機体制御情報がアップロードされていく。 戦闘補助システム──統合制御体の名を持つ戦術支援AIが起動プロトコルの完結を告げ、ガロは片腕に操縦把を握り込み、フットペダルを軽く一度踏み込んだ。 待機姿勢に在った実働試験型ネクスト機──コード:マルシアがその巨躯を持ち上げ、自らの両脚で立ち上がった。統合制御体に口頭指示して、機体状態の再チェックを進行させる。 メインディスプレイに3Dモデルで出力した機体情報図が記され、各部位の稼働効率のスキャニングが行われていく。 通信要請が入り、コンソールを叩いて回線を確立。 『機体状態はどうだ──?』 「三年も放置されていた割には良好だ。シートの座り心地は最悪のようだがな……」 『そりゃ運が良い』 数十秒後機体状況のスキャニングが無事終了し、ディスプレイ上に【All Green】の文字が表記される。 『隣接格納庫の隔壁扉を開放する。其処で搭載武装を回収、専用運搬設備へ移動してくれ』 「了解──。機体コード:マルシア、移動を開始する」 有視界左舷の隔壁扉が完全に開放され、それに合わせてガロはフットペダルを踏み込んで設備空間内を通常歩行で移動、隔壁扉を潜り抜けた。 その先も大体似たような設備空間であり、見渡せる限りの有視界には搭載状態を解除された無数の搭載兵装が、格納棚に整然と並んでいた。統合制御体に適合兵装の検出プロトコルを指示し、いくつかの兵装がピックアップされる。 機体に搭載可能な適合兵装を引き出し、腕部マニピュレーターに搭載できる兵装を持ち上げる。 「適合兵装の回収完了、運搬設備へ搭乗する」 重い駆動音を立てて設備空間から直結している独立稼働型の運搬用昇降機に、マルシアの機体を搭乗させた。 けたたましい警告音が鳴り響き、警戒灯の赤々しい明滅と共にマルシアを載せた大型資材運搬用の昇降機が上昇を開始する。 『昇降機の正常稼働を確認……通信可能圏外まで約二分だ。問題はないか──?』 その問いに対し、ガロは忌憚なく疑問を返した。 「──俺は、──何分持つ?」 『良くて二分──最悪なら、最初の接続負荷で終わりだろうな』 良くも悪くも、ハルフテルという痩せ男は極めて優秀な技術者である。その彼が一切の逡巡なく突き返してきた事実は、ガロの口許に苦い笑みを浮かばせた。 「了解──。間もなく電波障害下へ進入する」 『あの程度の遺物にヤられてくれるなよ。ちょうど良い機会なんだ』 「其れが、お前の魂胆か。ノウラは無関係だったんだな──?」 その憶測にハルフテルは返答を遣さず、代わりに何らかの意図を含ませ、くっと喉で笑ってみせた。 「──壊れかけとはいえ、生体CPUを切り刻んだ代物だ。──俺は運が良い」 それを最後に通信回線がハルフテルの側から解除され、間もなくして上昇中の昇降機が電波障害環境下へと進入した。コンソールを叩いて機体制御態勢を第三種広域警戒態勢から第一種戦備態勢へ移行し、続けてマルシア本来の戦闘機能を起動させるべく、AMS機構を起動させる。 パイロットシート上部からせり出した接続機構がガロの頚部へ降下し、接続プロトコルの待機段階へ移行する。 「持って二分、か──悪ければ、」 ──悪ければ、死 実動試験機体【マルシア】に最後に搭乗したのはジシス財団解体直後の三年前──あの頃は万全のバックアッププログラムを背景に起動試験が行われた。 その結果は、過度の接続負荷による継続意識の断絶── ガロの保持するAMS適性──ネクスト兵器を制御する為に絶対不可欠な根源的要素と、それと対をなし役割を果たす統合制御体に不備があった為、実働試験機体【マルシア】の起動試験は未達成のままとなり、最終的に機体は廃棄処分となった。 ──今回はバックアップ態勢も何もない。悪ければ死、とはつまりそういう事なのだ。継続意識が断絶した時点で、もしも生命維持機能に関して問題が露出すれば、それは自身の速やかな死を意味している事になる。 その死の見解は、ハルフテルやノウラ、自分の間で著しく異なっている。 つまり、その死を承りたくはない自分としては、異なる手法を取らねばならないだろう。 やがて昇降機の制御システムが当該階層への到着を報告、ガロはシステムに指示して隔壁扉の開放を遅らせた。 ──奴さん、待っているみたいだな 野獣のような六感を持つファントムヘイズの事だ。ハルフテルの言葉通り、あの男は此方が死んだとは一切思っていない。だからこそ、第四ターミナルエリアで待ち続けているのだ。 既にマルシアは当該戦域に踏み込んでいる。 「AMS接続プロトコルを開始──プロトコル完結後、情報制御態勢を順次移行する」 『了解。アレゴリー・マニピュレイト・システム接続プロトコル、開始します──』 頚部内蔵型接続ジャックへ待機態勢に在ったAMS機構が自動処理で接続される。その不快な感触を自身で確かめた後、コンソールキーを叩いて情報処理を開始した。 ──瞬時に流れ込み始める、膨大な情報群の奔流 接続コードから入力されるデジタル情報が神経系統を通じて大脳新皮質へ伝播し、自身の脳機能がそのデジタル情報を細部解析する。視覚野に直接情報映像を出力するインナーディスプレイが構築され、そこへ更新情報群が羅列情報となって流れ始める。 鉛の塊のような重みが脳部に圧し掛かり、その圧力にガロは眉間に力を入れた。 情報転送処理が次第に円滑化して一定の安定率に至り、統合制御体が規定報告を伝える。 『AMS接続プロトコル完結、第二種戦闘態勢を固定維持──。負荷数値64,85%、第一種戦闘態勢への態勢移行は此れを随時可能です』 ガロは接続弊害である精神負荷から押し寄せる嘔吐感を意識の隅へ追いやる。口頭で制御システムに指示し、隔壁扉が開放されるのを確認、ガロは統合制御体に軽く意識を傾けた。 ガロの意思判断に呼応した統合制御体が機体姿勢を更新し、メインブースタから白緑色の噴射炎を吐き出してマルシアの巨躯を前方連絡通路へ押し出した。 高性能型レーダーと搭載センサー群を稼働、ECM工作による電波妨害工作を容易く払いのけて当該戦域の環境情報を収集し、インナーディスプレイへと出力する。 ──第四ターミナルエリアに、ファントムヘイズはまだいた。 此方のレーダー展開に既にファントムヘイズも反応した事だろう。 接敵までの距離は直線にして約800メートル。 ガロは通常ブースタを連続噴射して迷うことなく第四ターミナルエリアへ続く連絡通路を突き進み、最後に直結する通路へと機体を進入させる。 搭載カメラアイが直線状にファントムヘイズの機体を捕捉、メインディスプレイに拡視界映像として転送。ファントムヘイズが急速転回して機体をこちらへ向け、右腕部に携えていた遠距離狙撃銃を跳ね上げた。 それと同時、瞬間加速機構であるクイック・ブーストの動発を統合制御体へ伝達し、メインノズル及び背部内蔵型追加ノズルから強化推力を齎す噴射炎が轟然と吹き出す。コクピット周囲に内蔵設置されている対G緩衝機構が幾らかの加速度負荷を軽減するが、それでも強すぎるG負荷がガロの巨躯をシートに押し付ける。 従来の機動兵器では到底実現し得ない瞬間推力を持ってマルシアの機体が飛び出し、前方から飛来した銃弾を外部装甲で軽く弾き飛ばし、そのままいとも簡単に第四ターミナルエリアへと機体を進入させた。 百数十メートルの間合いを取って敵機と対峙し、マルシアの機体を停止させる。 此方の気配を既に気取っていたのだろう回避機動を取らず、ファントムヘイズから特定回線での通信要請が入る。統合制御体に軽く指示して回線を確立した。 『──貴様、其れは何だ。──、一体何処の誰が産んだネクスト兵器だ……』 →Next… ⑩ コメントフォーム 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/yurina0106/pages/3114.html
タグ かっこいい 曲名F DAMにて配信中 歌 fripSide 作詞 yuki-ka 作曲 八木沼悟志 作品 fortissimo Akkord BsusvierOP future gazer(通常盤)
https://w.atwiki.jp/achdh/pages/158.html
⑨*⑩*⑪ 変わらず抑揚を欠いた言葉。しかし、ガロはその口調の裏側に僅かな焦りの介在を感じ取っていた。 統合制御体がファントムヘイズとの近接対峙を前に、機体制御態勢の速やかな移行を推奨する。 「知らんだろうな。貴様が世界の裏側でのんびりとしている間に、この地上世界は大きく変容した──」 意思判断し、左腕部に携えた適合兵装を持ち上げる。それに合わせてファントムヘイズも狙撃銃の銃口を動かした。長鑓を思わせる長大なひとつの銃身を基軸とし、レールシステムの搭載によって多種兵装の搭載を可能にした実働試験機体:マルシアの為のみに製造された大型の適合兵装。 『貴様に見せてやる。この五年間、世界がどう動いたのかをな──』 その言葉を最後とし、一方的に通信回線を解除。 統合制御体に指示し、機体制御態勢の速やかな移行を指示する。 その間際、再びハルフテルが最後に言い残した言葉が脳裏をよぎった。 ──悪ければ、それはアンタの速やかな死を意味している その言葉通りだった。機体制御システムと搭乗者を物理接続する事によって、従来の機動兵器とは一線を画す戦闘能力を発揮するネクスト兵器は、本来AMS適性を持つ搭乗者一人のみで制御するものではない。 だが、それこそがエンシェントワークスが推進するネクスト研究の本質だった。 ──生体CPUを一体切り刻んだ 狂っている。そうでなければ辿りつけない場所を、彼らは目指しているのだ。 旧世代ですら成し得なかった境地へと、ネクスト兵器を持って行こうとしている。 モラルも既存の理念も何もかもを置き去りにして、彼らは生み出そうとしている。 ──彼らが望む、真のネクスト兵器を ──何故、志願したか? ──戦場から降りられなくなった兵士に残された道だったから? ──その礎になることが望みだったのか? ──私は ──戦場で生きる事でしか、自分を認められないのだ。 ──この計画の末に、きっとその終わりが待っているはず。 一瞬瞼を下した後、迷いなくコンソールキーを叩いた。 『AMS接続制御態勢、第一種戦闘態勢へ移行します──』 ──理性が灼かれ、溶け出した。自らの願いを戦場で達する為に、私は彼女と一体となった。 溶けゆく意識の中、私の外側で誰かが獣のような咆哮を上げた。 それは、私だったかもしれない。もしかしたら、一体となった"彼女"だったかもしれない── 行こう── AM09;33── * AM08;50── 街が灼け堕ちていくその光景は、決して気分の良いものではない。 住み慣れた古郷を幾度も失ってきた私には、それが耐えられないのだ── ──止められない ヴァネッサの脳裏にそんな焦燥感が過り始めたのは、興行区画で戦線確立の為の防衛戦闘に武力介入し始めてから一時間ほどが過ぎた頃だった。 無尽蔵とも言える兵力差で迫りくる旧世代兵器群の侵行は大きな波となって第三波、第四波ととめどなく続き、途中からヴァネッサはそれを数える事を止めていた。旧世代兵器群の進撃を辛うじて遅らせる事しかできず、反転攻撃の為の戦線確立などは望むべくもない。そして、ヴァネッサの焦りを一層増長させていたのは前方から迫りくる旧世代兵器群の潮に対し、後方でまだ避難誘導により弾雨の中を搔い潜りながら地下シェルターへと一心不乱に逃げ往く一般市民の群だった。 今回の騒乱自体が旧世代兵器群による一方的な奇襲攻撃に端を発していた為、エデンⅣ全域に戦火が拡大するまでに避難シェルターへ退避できた一般市民はおそらく、全体の三割にも満たないはずだ。辛うじて退避に成功したのは主権企業をはじめとする各政財界の官僚や重鎮達のみで、危機管理体制などが行き渡っていない一般市民レベルなどは出動軍の避難誘導を頼って徒歩でシェルターまで向かうしかない。 その一般市民の誘導数が膨大な数に上って後方防衛ラインで衝突し合い、それが返って戦線確立の妨げとなりつつあるのが、現在の戦況の致命的な箇所だった。 興行区画は二十四時間体制で昼夜関係なく栄えるエデンⅣの一大都市区画であり、その集約人数の割合は他区画と比較すべくもない。それが仇となったのだ。 戦線確立のための後退戦闘もまともに行えず、いたずらに友軍戦力のみがじわじわと消耗していく。 現にたった今、興行区画の防衛戦闘に当たっていた友軍AC部隊のうちの一機が旧世代兵器による攻撃で決定打を受け、前線から急速離脱していった。 「また一機やられた……! 後方避難誘導はまだ終わらないのっ?」 『急くな、ヴァネッサ──。増援部隊の到着まで堪えるんだ』 広域防衛区画からのその増援部隊も、後方の混乱に邪魔されて当該戦域への到着がいつになるかは分からない。戦況は確実に悪化修正されているといえる。 決定的な打開策が見当たらない今、最悪の可能性だけが頭の中で反芻される。 「──! 危ないっ」 前衛に展開し、正面の敵の攻撃に囚われていた友軍機の右舷に別の旧世代兵器が姿を現し、ヴァネッサはその敵性動体に向けて右腕兵装であるグレネードライフルの榴弾を撃ち込んだ。 「突出してはダメ、早く下がって!」 『す、すまん──。だが、これではキリがないぞっ……』 搭乗機体である重量逆脚型の機体をラピッドタイドと同一ライン上へ下げながら、グローバルコーテックス帰属のそのレイヴンは、他の例と同じように焦燥感を滲ませた言葉を吐く。 「増援部隊がすぐに到着する。それまでこの防衛ラインを維持するのよ」 統合司令部から通信技官として、戦術支援に当たってくれているリサの言葉をそのまま繰り返す。だが、実際にはその間にも確実に友軍戦力は消耗され続けており、一方的なダメージレースとなる展開は避けられない。 確実に忍び寄る死の影に、誰もがその戦域から遠のきたかった。 しかし、ヴァネッサは震える奥歯をぎりっと噛みしめて抑え込み、操縦把を握り込み直す。無尽蔵に思える敵性兵力にも必ず限界がある。そこまで耐え切らなければこの騒乱を生きて、生き延びることは難しいだろう。 同一ライン上に展開する友軍機と連携して前方から迫り来る旧世代兵器群の侵攻を何とか押しとどめ、その間にも地上に展開していた通常戦力部隊が戦火の煽りを受けて吹き飛ぶ。 瓦礫片と共に飛散した肉片交じりの血雨がラピッドタイドの外部装甲を叩き、ヴァネッサはその光景にわずかに目を細めた。 左腕部と背部の多砲身式回転機関砲で高密度の弾幕を張っていたが左腕部機関砲の残弾数が尽きた。補給部隊の作業用MTが予備弾倉を抱えてラピッドタイドの機体に取りつき、砲身と機体付随のマガジンラックにそれぞれ弾倉を補給する。 『此方補給機、装填を完了した──!』 「助かった、サンキュー──」 その直後、短い悲鳴と共に作業用MTからの無線が途絶える。機体のすぐ傍で起こった爆発を搭載センサー群が捉えたことから、MT機が攻撃の余波を受けて爆散したのだと気づいた。 「ちくしょうっ……!」 作業用MTを一瞬で吹き飛ばしたと思しき旧世代兵器の四脚型パルヴァライザーを捕捉、背部兵装のリニアキャノンを展開、即座にトリガーを絞る。強化推力を与えられた徹甲弾がパルヴァライザーの頭部を過たず消し飛ばす。が、機能停止したその残骸を踏み越えて後方から旧世代兵器群が押し寄せる。 『止むを得ん、防衛ラインを後退するぞ』 「それじゃあ一般市民に被害が及ぶ可能性があるわ……」 『では他にどうするというのだ。我々が此処で撃破されては、護れるものも失ってしまうんだぞっ』 当該戦域のAC戦力の中で便宜上指揮機体のような役割を担っていたコーテックスのレイヴンが、若干の冷静さを欠いた声で言う。しかし、その言葉は戦場に臨む者としての説得力に満ちた声であり、ヴァネッサも異議を申し立てはしたものの同種の人間である事に変わりはなく、それ以上の追及はできなかった。 今此処で、戦力消耗を少しでも遅らせなければ、増援部隊の到着まで防衛ラインをすら守り切ることはできない。 『此方フロント、此れより防衛ラインを後退する──』 指示に従い、友軍機同士で後退支援を行いながら幹線道路上を移動、インターチェンジ付近まで後退した時、其処に駐留していた地上後衛部隊と接触。 指揮機のレイヴンが外部拡声器を用いて、インターチェンジで防衛ラインを構築していた一般部隊に後退を促す。 『お前達も早く下がれ、此処も突破されるぞ──』 その逼迫した声に押されて一般部隊が下がり始めるのもそこそこに、幹線道路上に構築された重バリケードを破壊して友軍機が進入、その時ウエストインターチェンジ方面から装甲輸送車の部隊が此方へ向かってきた。 『逃げ遅れか、急げ──!』 その声が聞こえたのかどうかは分からないが、装甲輸送車はインターチェンジのカーブへ速度を緩めず曲がり込む──しかし、破壊した重バリケードの隙間を縫って飛び込んできた榴弾の弾幕が路上に着弾し、その衝撃波が前衛の装甲輸送車を容易く吹き飛ばした。鋼鉄の匡体が横倒しになって路上を滑走し、その事態に巻き込まれた後続車両が次々と玉突き状に衝突を起こす。 「追いつかれた──」 今しがた後退してきた進入口に早くも追いついてきた旧世代兵器の侵攻部隊が現れ、インターチェンジへ向けて迫撃戦術を展開し始める。友軍AC機が一斉に迎撃弾幕を張るが、それをすり抜けた榴弾群が重バリケードからインターチェンジ内へ降り注ぐ。 走行不能になった輸送車から降り、徒歩での避難を始めていた一般市民と兵士達が榴弾の爆発に巻き込まれて爆煙の中に消え去り、友軍機もまた榴弾による損傷を負う。 「私達が防ぐから、早く市民の避難掩護をお願い!」 悲鳴と断末魔が行き交う地上の様子を視界の隅に収め、ヴァネッサはラピッドタイドの機体を重バリケードの突破口前に移動させた。侵攻部隊の軽い弾幕を分厚い装甲で弾いていなし、御返しとばかりに多砲身式回転機関砲による一斉掃射を浴びせかける。 その文字通り捨て身を賭したヴァネッサの行動に呼応した友軍機達が、重バリケードの上から応対射撃を取り始める。バリケードから一歩突出したラピッドタイドに旧世代兵器群の攻撃が集中し、それを脇から友軍機達が叩き潰す。重戦車であるが故の分厚い外部装甲が幸いし、ラピッドタイドは正面からの被弾にも何とか耐える事が出来た。 『市民の避難距離を稼いだ、下がるぞ──』 コーテックスのレイヴンが指示し、先行して周囲の友軍AC機を下がらせる。そして、最後まで最前衛に残っていたヴァネッサに無線を遣し、 『レイヴン、スイッチだ──』 ヴァネッサの後退戦闘を支援すべく指揮機のレイヴンが代わって前衛へ突出し──その交差の隙を、運悪く旧世代兵器群に突かれてしまった。 その一瞬の隙の間に飛来した徹甲弾が指揮AC機の頭部を粉砕し、その破砕片がラピッドタイドの装甲に降り注ぐ。機体制御を著しく搔き乱され、そこへさらに数発の砲弾が食いついて指揮機の左腕部その他、外部装甲を吹き飛ばしていく。 『くそ──君は早くいけ!』 「でも、貴方はっ──?」 応対姿勢を継続しながら後退するラピッドタイドの前に立つレイヴンは、致命的な被弾を自ら甘んじて受け止め、両背部に搭載した連装型ミサイルコンテナを展開する。 『俺はコーテックスのレイヴンだ。与えられた任務は全うする──幸運を、レイヴン』 ──その言外に含まれた意図にヴァネッサは口許を手で覆った。 旧世代兵器群の追撃がさらに指揮ACの機体に致命打を与え、後退推力をすら失ったレイヴンは至近距離に迫った旧世代兵器群に向けて背部コンテナから大型ミサイルを連続射出した。 ──インターチェンジを含む周囲施設を大きく揺るがす爆炎が前方幹線道路を呑み込み、巨大な噴煙が立ち上る。決死の応対攻撃を行った指揮ACの機体もその爆発に呑み込まれ、その姿はラピッドタイドからは一切確認できない。 『──今のうちに早く下がれ、ヴァネッサ』 リサのその冷静さを欠かない指示にヴァネッサはようやく気を取り戻し、フットペダルを踏み込んでラピッドタイドをインターチェンジから幹線道路後方へ進ませる。 ラピッドタイドの後退を待っていた友軍機がそれに合わせて応対機動を再開するも、その情報を搭載センサー群で捕捉したのだろう、赤々しく燃え上がる爆炎の向こう側から旧世代兵器群が一斉に突出を展開してくる。 「そんな──」 旧世代兵器群は各々の機体を炎に包まれながらも、それには一切構わず追撃戦闘を継続。実弾兵器群による弾幕がラピッドタイドの外部装甲の上を跳ねまわり、徐々に機体損耗率が上昇していくのを戦術支援AIが無機質なヴォイスで報告していく。 やっぱり、止められない──けれど── 一切の怖れを知らず他の感情をも持ち合わせていない旧世代兵器群は、正確な数値判断から導き出される合理的行動に従い、味方機がその場に崩れ落ちようと構わずそれらを踏み越えて侵攻してくる。そんな容赦のない敵を相手に、絶対的に不利な状況下では長く持つはずもなかった。 だが、其処で継続戦闘を放棄する事だけは、ヴァネッサの猛る矜持が一切許そうとしなかった。 ──10年前、先生もそうやって私達を護ってくれた かつての前例があり──その彼女が事実として遣り遂せてくれた。その実力が伴っていない中で自ら速やかな死を所望するのは愚行以外の何物でもない。しかし、それが間違っているとは思うな── 自ら師と仰ぐ彼女は、ヴァネッサにそう諭した。 ふと、ヴァネッサは行き着いた── 「そっか。此処が、私の──」 私の、死線か── 戦場の一線に在り続けるのなら、何れ誰もが直面する時。少年兵の時分だった頃から、そんなモノには慣れ親しんできた。あの頃は恐ろしくすらなかった。護るものが何もなく、ただ自身が憎むモノ全てを灰に変えてしまうだけでよかった。 護るモノが在ると、人は恐れを抱くのだ。 此処は、先生のおかげで生まれ変わった私の、初めての死線── 後方を先行後退する友軍機から届く弾幕がラピッドタイドの周囲を飛び過ぎ、旧世代兵器群の前衛機を破壊すると共にラピッドタイドの後退を同時支援する。 『ぐあ──……!』 その悲鳴と共に友軍機が路上へ崩壊し、その傍をラピッドタイドで通り過ぎる。両脚部と片腕を粉砕されて移動能力を失った友軍機を落下爆雷群が襲い、外部装甲を焦がす。 旧世代兵器群の侵攻速度が確実に増し、それに合わせて友軍部隊も次々と撃破されていく。インターチェンジを出てから数分を待たず、その頃に後退戦闘を継続していたのはラピッドタイドを含めて三機のAC機のみとなっていた。 搭載兵装の弾薬消耗率が30%に近づき、応対戦闘に用いていた主兵装を機関砲群から背部兵装のリニアキャノンへ換装。一撃必殺の砲弾が狙い通り前衛のパルヴァライザーを撃破、しかし後方から瞬く間にスイッチしてきた二機のパルヴァライザーが背部に搭載したコンテナから地対地ミサイルを垂直発射し、計十二基から成る弾頭がラピッドタイドの頭上を越えて後方へ飛んで行く。 一拍後、後方から轟いた崩壊音を搭載センサー群が捕捉、後方視界用のサブカメラから転送されてきた映像をメインディスプレイに映し出した。 後退進路の高架幹線道路が崩落し、そこから奈落の底の闇がのぞいていた。其処にいた二機のACは辛うじて回避機動をとったらしいが、致命的な損壊を受けて分断された幹線道路の先で機能を停止していた。 「分断された──」 崩落距離は目測で約55メートル──爆発の衝撃派に巻き込まれて崩落距離が伸びたのだろう。旧世代兵器群が前方百数十メートルに迫り、ヴァネッサはブースタ用フットペダルに足をかけようとし、そこで踏み込むのを躊躇した。 『増援部隊が間もなく到着する、耐えろヴァネッサ──!』 リサが珍しく感情を表出させた口調で言う。統合司令部のヴァネッサから転送されてくる広域索敵レーダーに、自機後方から複数の動体反応が接近してきていた。 操縦把を握り込みなおし、崩落した幹線道路の断崖ギリギリまでラピッドタイドの機体を近づける。 重戦車型機体にも基本、強化推力用のブースタ機構は搭載されている。しかし、それらは緊急機動用の推力機能として扱われる事が多い。その為長距離移動用や巡航用機能としての調整は成されておらず、極めて短距離でしかブースタ機構は使用できない場合がほとんどである。 ラピッドタイドもその例に漏れず、実働試験の際にブースタ機構を用いた時の最大航続距離は僅かに直線距離50メートル程度であった。 ギリギリだが、行けない距離ではないかもしれない。後退飛行中に応対行動を行いながらでないと渡り切れる可能性は低く、しかし、射撃反動や被弾による推力低下を鑑みると、ブースタ機構を用いる選択肢はどうにも無理があった。 リニアキャノンによる精密な遠距離砲撃で一体一体を確実に撃破──計5,6機を前方に沈め、増援部隊の到着が残り約二分に迫っていた時だった。 ──旧世代兵器群の攻撃が不意に止み、やがて奴らの群列が左右に別れて中央から一機の機影が姿を現した。 軽量二脚型を模り、両腕部マニピュレーターに既存の実弾型機関砲とレーザーブレードと思しき発振機構を備えたパルヴァライザー──。 戦術支援AIに詳細解析を進行させるが、データバンクから当該情報は検出されなかった。 「まさか、新型機──。此処でそんな隠し玉を出してくるなんて……」 取り捲きの旧世代兵器群は一切の進撃行動を停止しどうやら待機状態へと移行しているようであった。どうやら、新型機と思しきパルヴァライザーの戦術展開を邪魔しないためであると、ヴァネッサは推測した。 相手から先制攻撃を行う予備動作は見受けられない。その分増援部隊の到着までの時間稼ぎにはなるだろうが、その事実を旧世代兵器群が捕捉していないはずはない。 その事に疑問を呈した瞬間の事だった。まるで空間を切り貼りするかのようなブースタ推力でパルヴァライザーが正面から突進を仕掛け、ヴァネッサは一拍遅れて応対射撃を取った。 左腕部の短機関砲で牽制の意味合いを含んだ弾幕を張り、それに紛れて精密に狙いすましたリニアキャノンの砲弾を撃ち放つ。強化推力を得た砲弾は狙った頭部へと吸い込まれていくが着弾の刹那、パルヴァライザーは圧倒的な機動力で事も投げに強化推力の砲弾を回避して見せた。 (なんて早さなの──他とはまるで違う!) それはこれまで相手にしてきたパルヴァライザーとは全く性質を異にしていると、ヴァネッサは直感した。これまでの敵は圧倒的な兵力差で迫ってきはしたものの、いずれもが突出性のない画一的な機能であった為になんとか数機の友軍ACのみで対応する事が出来た。 だが、これは違う──! これまでのパルヴァライザーとは違う、そいつだけ全く桁違いの高性能な戦術判断AIを搭載しているとしか思えないほどの戦術展開能力である。 制圧射撃を旨とする高密度火力で圧倒しているつもりが、それを最大限の機動展開で回避し、残りは外部装甲のみで弾いていなされる。ものの数秒で距離を目前にまで詰められ、背部から展開した大型グレネードキャノンの砲口がラピッドタイドを捉えた。 重装甲による高度な防弾能力を持つラピッドタイドとはいえ、度重なる被弾で消耗した外部装甲ではどこまでその攻撃を無力化できるか分からない。もし当たり所が悪ければ── そんな可能性が脳裏をよぎった時、こちらを完全に捕捉したパルヴァライザーが背部大型グレネードキャノンから榴弾を射出した。 「くそ──!」 まっ直ぐに飛来してくる榴弾の直撃は避けられないと直感的に悟ったヴァネッサだった──が、外部装甲に衝突するその刹那、後方上空から不意に一筋の光線が榴弾を巻き込んで眼前の幹線道路上へ突き刺さった。 圧倒的熱量で焼かれた榴弾が誘爆し、わずかな破片が軽くラピッドタイドの外部装甲を叩く。 『増援部隊が到着したぞ──!』 続けて、 『遅くなってすまない、ヴァネッサ──』 リサとは異なるその声に驚いて言葉を発しようとした時、ひとつの機影が頭上を通り越してラピッドタイドとパルヴァライザーの間へ降り立つ。──クレスト社純製パーツで構成された純白の軽量二脚機体、それはたった数時間前にアリーナ予備大会決勝で対戦した知己のものだった。 「ジェリー……!」 『戦況が芳しくないって聞いてね。統合司令部に直接掛け合って許可してもらったんだ』 「──怪我は大丈夫なの?」 その気づかいにジェリーは搭乗機体ブルーマーレの右腕を軽く持ち上げて見せる。 『そんなにひどくはなかったよ。──それよりも行けるな、ヴァネッサ?』 先行して現場合流したブルーマーレに続いて広域防衛区域から派遣されてきた通常部隊が到着し、分断された幹線道路の先に重防衛用バリケードを構築し始める。 『──追加部隊もすぐに到着する。此処までよく戦ってくれたな──ありがとう』 獰猛な意思を湛え、ジェリーはブルーマーレの機体に突進体勢を取らせる。 『一気に押し返すぞ』 その最も古い戦友の言葉にヴァネッサは口許に淡い笑みを浮かべ、操縦把を改めて握り込んだ。 「ええ。やりましょう──」 ──まだ、生きて戦える AM09 25── * AM09 15── 【Client Kelly Altman──地下核部に不正侵入した旧世代兵器群の排撃、及び当該戦域の第二種武装制圧】 素性の定かでない不定勢力であっても、依頼に仔細ないと判断すれば受諾し業務履行は此れを全うする。一部例外はあるにせよ、基本的にはフリーランスの傭兵であるファイーナは、自らにその活動領分を課していた。 商業区画当該戦域の第六次防衛戦闘までを単機で完結した後、ファイーナは戦線確立に成功した増援部隊に継続作戦を一任、自らは戦域を離脱して現在搭乗機体のゼクトラを新たな作戦領域へ向けて疾駆させていた。 統一連邦政府駐留軍からの依頼業務はこの騒乱がエデンⅣ存続という形で無事終息した場合、当該戦域を作戦途中で離脱した事実から依頼不履行となり、発生報酬の減額はおそらく避けられない。 だがその不名誉を差し引いたとしても、第六次防衛戦闘の最中に舞い込んできた不定勢力からの緊急依頼に応えねばならない理由がアザミにはある。 状況が状況である為、不定勢力からのその緊急依頼をアザミは受諾するつもりは毛頭なかった。 ──が、その依頼ファイルの受信先、ファイル文書の文末に加えられていた古い言葉を見咎めた時、その判断はアザミの中で180度転換することとなった。 緊急依頼の送信された受信媒体はアザミが平時使用する業務アドレスではなく、かなり以前に継続使用を破棄しそのまま放置していた個人アドレスのひとつであった。それは五年前よりも以前──ミラージュ社陸軍は機械化空挺部隊に所属していた頃の専用個人アドレスであり、それを現在に至っても記録している人間は本人を除いてごく限られている。 その事実へ瞬時に行き当たった時、アザミは浅く息をついた。明らかな偽名──或いはワークネームを騙るクライアントは過去の素性を深く知る何者かであり、アザミの鋭利な直感はその存在が覆面依頼を持って自身を誘っていると悟ったのである。 そして、依頼詳細の文末に添えられた言葉を見た時、クライアントがかつて非公式のうちに抹消されたミラージュ社の五年前の致命的な汚点を知る者であり、それがかつての身内の誰かである事に気付いた時点で、アザミは当該戦域の制圧戦闘に区切りがついた時点で速やかに戦線離脱する事を逡巡なく判断していた。 添えられた言葉は、かつての帰属部隊──機械化空挺部隊【レッド・シーカーズ】が共有していた唯一無二の標語── 「ノウラの通り、唯では終われんな……」 統合司令部で陣頭指揮を執るノウラと最後に無線通信を行ったのは約90分程前だが、その時既に彼女はこの騒乱が唯では終わらないであろう事を示唆していた。 ──人類最後の庭園と謳われた絶対要塞の閉鎖型機械化都市【エデンⅣ】へその広域警戒網をすり抜け、大胆にも都市天蓋部に大穴を空けて侵入。続いて製造元が未確定である紅い亡霊の武力介入──彼女は統一政府との関連性を疑い、この騒乱終息までの間に判断材料を収集して何らかの行動を起こすつもりらしい。 その矢先に、この緊急依頼だった。もしクライアントの素性が推測通りならば、騒乱終息後の事後事態は混迷化を深めるだろうとアザミは思考を巡らす。 この騒乱の暗部は、表面的に見るより遙かに深い場所にある── 今だ明白にならない事態推移の中、アザミの豊富な経験則は常に彼女へそう伝え続けている。 その最も深く暗い部分へとクライアントは誘おうとでも言うのか、依頼場所へのルートマップも添付しておりそれの事実詳細を戦術支援AIに解析させた後、アザミは一部改変を加えたルートマップに則って作戦領域へと進行していた。 途中、商業区画他戦域で防衛戦闘に当たるAC部隊と接触したがそのまま戦域を素通りし、一直線に向かう。アザミが単機で制圧した当該戦域はまだマシな方らしく、他の戦域は思ったより戦線確立に苦戦しているらしかった。 ──それも無理はないか。都市全域から戦力をかき集めたとはいえ、大半は有象無象と変わらん エデンⅣ防衛に当たって統一連邦管理局は、都市内部に駐留するAC保有勢力の全てに依頼を投げかけた。無論、エデンⅣ最大の企業体であるグローバルコーテックスからもAC戦力が派遣されてはいる。しかし、それをしても多くはアリーナ下位ランクや予備ランカーのレイヴンであり、加えて独立勢力系の有象無象が多く参加していては、そう防衛戦闘が上手くいくはずないというのが、軽く考察したアザミの結論である。 商業区画当該戦域を抜けて移動を開始してから約15分後、アザミは隣接する工業生産区画の重隔壁施設を有視界前方に捉えた。下降する幹線道路の直線上に重厚な造りの隔壁扉が聳え、其処を基点として両区画を分断する隔壁の高度限界の先からは、赤々しい炎と黒煙が噴き上がっていた。 侵入した敵性勢力が工業設備に手を出した為に、火の手が上がったのだろう。都市天蓋部へ向けて立ち昇る災禍は単純な火災規模で片づけるには大き過ぎ、その事から工業区画が受けている被害の甚大を容易に窺い知る事が出来る。 アザミはフットペダルを強く踏み込み、正面に高く聳える重隔壁扉へ向けてゼクトラの機体をブースタ推力で進ませた。幹線道路の下り坂を弾丸の様な早さで駆け下りる最中、前方右舷の角から一機の四脚型パルヴァライザーが滑り出してゼクトラの進路上を完全に塞いだ。この後に及んでも、侵攻の手を一切緩めようとしない旧世代兵器群の徹底振りに軽く息をつく。眼球動作に追従したフレームシステムが敵性目標を捕捉、同時に左腕兵装の短機関砲を跳ね上げてバースト射撃による牽制射撃を撃ち込む。 持ち前の重装甲でその軽い弾を弾いたパルヴァライザーが背部グレネードキャノンの砲身を前方展開、その光景を冷えた視線で追いながら、戦術支援AIにオーバードブースト・システムの起動を口頭指示した。 直後、前方拡視界に捉えた敵性目標の得物の砲口が轟然と火を噴く。そのタイミングを計っていたアザミは大きく吹かしたブースタ推力で射線上から真横へ移動、操縦把上部カバーを弾き上げて中の起動スイッチを押し込んだ。 開放された背部大型ノズルから高出力の噴射炎が噴き出し、圧倒的な速度を持ってゼクトラの軽量機体を前方へ弾き出す。その感じ慣れた強いG負荷を身体に受け止めながら瞬く間にパルヴァライザーの頭上を通過、転回される前に単純距離にして百メートル近い間合いを取る。 最優先すべきは作戦戦域への速やかな到着であり、無駄な接触戦闘やそれに伴う弾薬浪費は抑えるべきである。その為、アザミはパルヴァライザーの追撃が背後から迫ってもオーバードブーストを解除せず、そのまま隔壁境界に急速接近した。 戦術支援AIの情報処理を介して隔壁制御システムへアクセスしようとした直前、何をした訳でもなく重隔壁設備が自らその扉を両側へ押し開く。そのあまりにタイミングの良すぎる事態に、右腕兵装の短機関砲を開いた隔壁扉の隙間へ向けるが、其処から何者かが飛び出してくる様子は一切ない。 狭域索敵態勢のレーダーにも動体反応は見られなかった。 残り百数十メートルに迫った所でオーバードブーストを解除、ゼクトラの機体を背後へ急速転回させる。充分な残余推力を用いて幹線道路上を滑走しつつ、背後から追撃してくるパルヴァライザーに対していつでも応対射撃を取れるよう短機関砲を突き付けながら、そのまま隔壁扉の隙間へ機体を滑り込ませた。 そしてまたもやそれを確認した隔壁設備が起動し、追い付かれる前に閉鎖を完了した隔壁扉がゼクトラとパルヴァライザーの前に完全に立ち塞がった。 警戒灯が激しく明滅する重隔壁設備内に侵入したアザミは、動体反応の見当たらない設備内を速やかに移動して大型資材運搬用の昇降機を発見すると、そこの昇降台へゼクトラの機体を搭載させる。戦術支援AIへの口頭指示を思いとどまり、しばし待っているとアザミの予測通りに、昇降機はアザミ以外の機器制御指示を受けて自動起動、警報音がひとしきり鳴り響いた後、地下への下降を開始した。 ゆっくりと昇降台が下降していく中、アザミはその奇妙なエスコートに歪んだ笑みを浮かべた。 「此方の接近は常時把握済みという訳か──」 作戦領域となる当該戦域は都市地下核部──その存在を知る者自体が限られている閉鎖空間である。 それを知っている事と先に言葉にした事実と併せてエデンⅣの内部事情にある程度詳しい事から、此処まで諸々の設備制御システムに介入するに際して、かなり手練の電子情報技術員を運用している可能性を読み取れる。 既に外部データリンクは切断してあるが、干渉工作の痕跡がないかどうかを戦術支援AIに解析処理させた結果、幸いというべきか機体制御システムに異常は発見されなかった。元より、機体制御システムには高性能の電子防衛システムが標準搭載されている為、先方が余程のハッカーでもない限り発見できないという事はない。 『想定作戦領域、約30秒で到着します──』 →Next… ⑪ コメントフォーム 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/sinsougou/pages/127.html
前ページ次ページARMORED CORE アーマード・コア -マスター・オブ・女難 ACMoJ レイヴン試験前編 暗闇の中、腕時計からのアラーム音に気付いて、シン・アスカは閉じた意識より覚醒した。 輸送機独特の、複数のエンジンが重なり合った重低音が、シンに戦場を思い出させる。 ザフトレッドのパイロットスーツを着たシンは、現状を再確認するためジノーヴィーからもらった携帯端末を取り出した。 我々グローバルコーテックスは、レイヴンを志す諸君に唯一の課題を課す。 レイヤード閉鎖都市区域内において、こちらの指定した目標を全て撃破するか、 制限時間を越えて生き残ってさえいれば、君達は晴れてレイヴンだ 。 このチャンスに二度目はない。……それでは健闘を祈る。 戦闘区域は閉鎖された都市すなわち、市街戦。 ジノさんから貰った情報では、敵戦力は戦闘マシンMTが10機程度。 特化型ならともかく、通常型はACの足元にも及ばないらしいからCEで言うMAみたいなものか。 次に貸与されるAC。一般的にレイヴン達の間で初期機体と呼ばれるタイプだ。 ACとしての基本的な機能と、最低限の武装を兼ね備えた傑作。 ……ザフトでいうプロトジンか。 手持ちの情報のチェックを終えて、シンは天井を見上げた。 時計に目を通すと到着予定時刻まで30分はある。 顔を正面に戻すと、ふと横を向く。 そこには白いパイロットスーツを着込んだ、シンと同じ位の年齢の栗色の髪をショートカットにした少女がいた。 ……どこかマユに似てるな。 一瞬心をよぎったそれを否定する。 ついこの間ジナイーダに人に過去を重ねるなと言われたばかりだった。 少女はちらりと見ただけでも分かる程緊張し、その体は僅かに震えていた。 その様は、ジンやインパルスに初めて乗った時の自分を見ているようだった。 あの時は教官やコートニーさん、リーカさんに声を掛けて貰っただけで随分緊張がほぐれたっけ 緊張している少女の姿は、過去の自分を見ているようでどうにも放っておけず、シンは小さな親切心で、大きなお節介を焼いてやることにした。 …………他人に過去を重ねるなっていうけど、これ位は良いよな? 答えの返ってこない疑問を、心の中にしまい、シンは顔を少女の方へと向けた 「なぁ、じゃなくて、ねえ……ちょっといいかな?」 先走る自分を押さえ、柔らかい口調を心掛ける。 「なっ、なんですか?私ですか?」 ビクッと体を震わせると少女は言った。 「少なくとも、この場には君と俺しかいないよ。」 名前は確か 「エネさんだっけ?」 「はい。そうですけど、何でしょうか?」 「いや何って訳じゃないんだけど。同じ試験を受けるのに挨拶もしてなかったからさ。」 「そういえば、そうですね。……えっと」 話しているうちに少しは緊張がほぐれたのか、微笑を浮かべ目の前の男の名を思い出そうとするエネ。 「ああ、俺はシン。 シン・アスカよろしく。」 そう言うとシンは右手を相手に差し出した。 「アスカさんですか。いえ、こちらこそ。」 エネはシンの右手を握り返す。 「シンで良いよ。 」 「私もエネで良いです。」 そうは言うものの、エネの顔は青白い。 「どうしたんだ?」 右手を離したところで、エネの様子が変なことにシンは気付いた。 「いえ、意外だなって。 ……レイヴン試験を受ける人はみんな怖い人ばかりだと思っていたのに、シンはとても優しいから。」 「そう言えば、何でエネはレイヴンに?」 シン位の歳で、わざわざレイヴンになりたがるのは余程の変わり者かロクデナシ─社会不適合者─が殆どだ。 そうシンに向かい言ったジナの顔が脳裏に浮かぶ。 「笑わないでくださいね?」 躊躇いを見せるエネ。 「笑うもんか。」 シンは顔を引き締めると即答した。 「……家族の為なんです。」 しばらくの思案の後エネはゆっくりと口を開いた。 「母が病気で、治すのに入院しなきゃならないのにお金がなくて、それで、レイヴンになればお金が稼げると思ったんです。」 確かにレイヴンに支払われる報酬は莫大だ。……でも 「母には反対されました。試験で命を落とすこともある。命を危険にさらすことはない。って、でも母が苦しんでるのに何もで きない自分が情けなくて、正直に言って怖いです。死にたくないです。シンに話し掛けられるまで、怖くて震えていたんで す。可笑しいですよね?そんな女がレイヴンになろうなんて……」 「……なんて」 シンは下を向き何事かを口走っている。 「……シン?」 エネはシンに近づく。 「そんな、そんな事情があったなんて(´;ω;`)」 家族のためにという言葉に文字通り滝のような涙を流すシン。 心配そうにエネはシンの顔をみる。 「大丈夫。君は死なせない。君の事は絶対俺が守るから。」 エネの両肩に腕を回し、抱きしめるように力強くシンは言った。 ───ついこの間、ジナイーダに似たような事を言った事は勿論覚えていない。 「し、シン ////」 エネの頬が朱に染まる。 賢明なる人はすでにお気づきだろう。 これこそが『らき☆すけ』すなわちパルマフィオキーナ─因果を超越せし女難の鎗─に次ぐシン・アスカ第二のアクティブスキル。無意識なフラグ立て─エクストリームブラスト─ である。 シン・アスカは勘違いをしていた。シンは元々色恋沙汰とは縁の遠い男で鈍感である。 しかも言葉のボキャブラリーも貧困だ。 そもそも14歳にして帰るべき故郷を焼かれ、目の前で家族を失った。 その後難民としてプラントに移り住み、力を得るためアカデミーに潜り込んだ。 普通の同年代が、甘酸っぱい恋なんぞをしている間、文字通り血が滲むほどの努力を重ねる事でアカデミートップの証、赤服を手に入れた。 その後すぐにインパルスのテストパイロットに任命され、ミネルバに配備された後は激戦に次ぐ激戦。 それらしい恋愛経験は敵兵ステラとの心の交流位(補足 元は高山版なのでルナマリアとは関係は気の置けない異性の戦友) 色恋沙汰もボキャブラリーを豊かにする事もなく成長してしまったのだ。 一見すると告白じみた台詞のシンには自信があった。 一度この言葉でパニックにおちいった少女を救ったことがあったのだ。よってシンはこう思ってしまったのだ。 『異性の守るべき対象には君は俺が守ると言ってやれば良い』と 勿論そんな事は知らないエネは告白じみた台詞を聞き動揺した。 エネ自身そういう経験が不足していたので言葉を勘違いして受け取ってしまった。 すなわち『君が好きだ』と。 …………嗚呼、なんと言う悲劇。ある意味喜劇でもあるが。 輸送機の中に甘い空気が流れる。シンとエネの顔はこれまでにないほど接近している。 「シン……」 エネの目が閉じられる。 (えっ‥…それってまさか?) シンは自分が蒔いた種にあわてふためく。 (良いって事か!? どうする、どうする俺!?) シン自身、何故こんな事になったのか理解できないが据え膳食わぬは何とやら女の子の行為を無碍には出来ぬ。でも守るべき対象にそんな事。アスランとの決戦以上の迷いが生じる。 思春期で根が真面目なシンにはまさしく生き地獄。自業自得で同情には値しないが。 そんな中シンたちのいる輸送機一室から、コックピットにつながる扉が僅かに開き、そこから覗く二つの視線があった。 「大変な事になったわね。」 一つの黒い目の持ち主は思わず溜息をつく。 「…………あいつ.........」 もう一つの翡翠色の目の持ち主はスチール缶を形が変わるほど力強く握り締めていた。 (まずいかな?)黒い目の持ち主は心の中で呟いたその時 「何やってんだ、お前ら?」 二人の後ろからシン達のいる部屋にも聞こえるような男の声がした。 「「誰!?」」シンとエネの声が輸送機内部に響き渡った。 「……続くようだな。」男は興味がなさそうに呟いた。 前ページ次ページARMORED CORE
https://w.atwiki.jp/achdh/pages/265.html
第十五話*②*③ 「恥ずかしながら、まったくもってその通りだ……他の部位の修理は大体済んでいるんだが、右腕は丸ごと無くなっちまってるからな、どうしようもないのさ。おまけに自分の身体の怪我も完治したワケじゃねぇのにエデンⅣ防衛にもなんだかんだで駆り出されるし、ツイてねぇよ……」 「そんなわけで、ウチで修理をすることになってんだ。運のいいことにパーツの在庫がある、なんとかなるだろ。それに俺たちはこのままトラキアに戻るから、ついでに乗せて行くことになったわけだ。 納得したか坊主?」 と、ショーンが突然マイの背中を叩きながら訳知り顔で顔を出した。 「ってなわけで、ゼオはシーアの基地制圧完了を見計らってからウチのガレージに寄って、それから作戦に参加ってことになるわけだ。これで満足したか?」 まだ完全に納得したわけではない、とでも言いたいような渋い顔のままだったが、マイは仕方なく頷いた。 「ブリーフィングは以上だ。 作戦開始は本日〇〇〇〇時、開始三〇分前にもう一度ここに集合しろ。解散!」 シェルブの一声とともに、戦闘要員がすぐさま部屋を出て戦闘準備に取り掛かかり始めた。 仲間たちが駆け足で準備に取り掛かる中、シーアはゆっくりとした歩調のまま、自室に辿り着いた。 扉を開けると同時、ベッドに倒れこむ。 横になったまま、手探りでサイドボードの引き出しから鎮痛剤の入ったペン型注射器を取り出し、右の首筋に打つ。 動く度に、右半身が軋む。関節の違和感と痛みが治まらない。 強化手術『らしき』ことをされてから一年以上もまともに調整を行っていないのだから、何かしらの支障が出ても不思議ではない。それどころか、AC操縦以外で身体に負荷を掛ける事が多々あった。ACの操縦をするためだけの調整がされているはずの自分の身体にとって、それらは大きな外乱になる。予測されていない以上、その対策が施されていないのは当然だ。 「仕方が無い、か……」 このことを知っているのは、医務室のアリーヌ女医のみだ。他の者に余計な心配はかけたくないという思いから、エイミにさえ隠している。 鎮痛剤が効いて痛みが引いてきたところでベッドから身を起こし、作戦の準備に取り掛かった。 小規模とはいえ、敵基地を制圧する任務である以上、用心するに越したことはない。規模と状況に合わせて、最適な武装で望むべきだ。 それも、単純にACで基地を全て破壊してしまえばいいというわけでもない。一部の敵組織しか正体が分かっていない現状では、できるだけ多くの情報が欲しいところだ。基地内に潜入し、内部から敵の司令系統を崩していく必要がある。 まず、ACの装備だ。 シェルブとの打ち合わせでは、まず自分が補給車に偽装したAC輸送車で機体に乗ったまま待機する手筈になっている。そして緊急で補給部隊が派遣されたことを(キースの情報によって)知った敵部隊が襲撃してきたところで、その部隊を殲滅。それが完了し次第、マイ達の護衛する本命の補給部隊が出発する。 そして自分は先行して旧中継基地に潜入・制圧して、残りの敵組織の情報をできるだけ手に入れ、そのままエデンⅣへ向かう。 つまりは自分で敵部隊を陽動し、基地内の敵を減らすということだ。 敵の数と位置をより正確に把握する必要から、まず肩のレーダーは欠かせないだろう。イリヤを後部座席に乗せて戦闘することを考えれば、遠距離戦が安全であるのは明白だ。 従って右腕、左腕の武器を変更しないとなると、もう片方の肩武器は装弾数の多いものが好ましい。しかし、チェインガンでは射程距離が短い上、爆発物が一つもないことになる。敵部隊にACがいることを想定するならば、マイクロミサイルが妥当だろう。エクステンションはいつも通りステルスユニットで問題ない。 自分の携帯端末で変更する機体武器を指定し、ショーンの端末にデータを送ってから、シーアは自身の装備確認を始めた。 普段から携帯しているマシンピストルにサプレッサー用のアタッチメントを取り付け、右脚のレッグホルスターに収める。 予備マガジンは全てロングタイプで、ツールバッグに八本入れた。 タクティカルベストには、自作の焼夷手榴弾と多目的ナイフ、そしてポケットには救急医療セットとピルケースを入れた。 その他に必要なものが揃っていることを確認してから、バックパックの内容物を確認する。今回の任務に必要なものは全て揃っていた。 そしてバックパック背面の武器ラッチにショットガンを固定し、予備のドラムマガジンを入れてバックパックのジッパーを閉めた。 一通りの準備を済ませて部屋を出ようとした時、エイミが部屋に入ってきた。 「あ、シーア、もう準備できたの?」 「ああ。オレの方の準備はできたから、ガレージでショーンの手伝いでもするさ。他の連中の準備はどうだ?」 「予定よりも早くこの街を出ることになったから、補給が完全には済んでなくてスタッフは困惑してるみたい。港町に寄ってからトラキアに帰るって話はしてあるから、もう撤収作業を始めてると思うわ。でも、作戦開始までに間に合うかしら……」 確かに、予想よりも物資の少ないこの街での補給は困難だっただろう。正直、このままトラキアに戻れる程の余裕はない。港町でもう一度補給をするのは確実だ。どれ程の期間滞在することになるのかはまだ分からないが、二日間は滞在することになるだろう。 万が一、自分が戻る前にトラキアに向かうことになっても、トラキアの航空輸送機を迎えに寄越すかもしれないし、ショーンと作成した増設ブースターもある。それさえあれば、おそらくは自力で戻ることも可能なはずだ。 ……動作試験もしていないモノを試すつもりは更々ないが。 「ショーンとオレの発注した部品類は諦めていい、それよりも食料を最優先だ。ACの調整が終わり次第、そっちを手伝う。それよりも話がある」 部屋の扉をロックし、外から人が入れない状態になったことを確認してから、エイミに今回の作戦の裏の内容を打ち明けた。 「今回の作戦のうち、重要なのはソグラトの補給部隊護衛じゃない。オレの方だ」 「……どういうこと?」 怪訝顔で、エイミが次の言葉を待つ。 「さっきのブリーフィングの通り、オレは旧補給基地を制圧するが、その後リヴァルディには戻らない。エデンⅣに向かう」 その言葉に、エイミは驚きを抑えずにはいられなかった。 「どうして!? あなたはミラージュに指名手配されているかもしれないのよ? それなのにどうしてあなたが向かう必要があるの!?」 当然、予想していた反応ではあった。だがそのあまりの慌てぶりに、罪悪感を覚える。 「イリヤを連れてエデンⅣのターミナル・スフィアに向かう必要があるんだが、オレ以外に適任なヤツがいないんだ、仕方ないさ」 「イリヤまで連れて行くの!? どうして……?」 「シェルブの提案で、イリヤを狙っている連中……主に企業だが、今後邪魔をされないように取引することになった。それで、その取引材料がイリヤ自身と、オレの情報ということだ」 「……だから、あなたが行くの?」 エイミの心配そうな顔を見ると、シーアはいつも激しい罪悪感を覚える。 関係なかったはずの彼女を、自分の問題に巻き込んだという、罪の意識。 ナーヴス・コンコード社内でも優秀なオペレーターであっただろう、エイミの人生を大きく変えてしまったという事実。 家族からも、友人からも、表の世界の全てからも切り離してしまった。 全て、自分に責任がある。 彼女の人生の全てを狂わせてしまった自分は、その責任を負わなくてはならない。 今更、自分に何ができるのか。彼女の為にできることが、自分にあるのか。 何度考えても答えは見つからず、迷い続けて今に至る。 それでも、未だに答えは見つからない。わかったことは、ただ一つ。 「誰にも言うな、用が済んだらすぐに戻る。……だから、そんな顔はしないでくれ……」 「……わかった、待ってる」 彼女の不安要素は、全て抹殺する。自分の全てを賭けてでも。 ――自分にできる事など、それ以外には残されていないのだ―― ―AD109/07/23 二三 三〇― 「時間だ。作戦の詳細確認、及び状況報告を始める」 作戦開始三十分前、ブリーフィングルームの空気は張り詰めていた。 既に配置に着いている者もいるため、昼間のブリーフィング時よりも人が少ない。 「作戦は予定通り決行する。まず、シーアが補給車両に偽装したAC輸送車で先行して敵部隊を陽動、殲滅する。それを確認次第、ソグラト補給部隊と護衛部隊がエデンⅣへ進行、同タイミングでシーアが旧中継基地の制圧を開始する。護衛部隊は迎撃態勢で常に周囲に警戒しておけ。特にポイント・イエローからの襲撃が予想される。狙撃機が出てくる可能性も十分にある、動きを止めないようにしろ。詳細は以上だ。次、状況報告」 シェルブの合図で、エイミがモニターに地形情報と各勢力の状況を出力した。 「現在、キースによって周辺の街に対してソグラトより補給部隊が進行中という虚偽情報を流しています。 イエロー1には異常ありませんが、イエロー2の一部で不審な動きが見られます。 数機のMTが起動しているようです。 また、スコープアイの制圧予定であるレッド1においては非常に活発な動きが見られます。 予測ではおそらく十数機のMTがいると思われますので、十分に注意して下さい。 以上です」 エイミからの報告を聞いて少しばかり思案してから、シェルブが再び口を開いた。 「……レッド1からの敵が漏れてくると面倒だ、先に仕掛けさせろ」 「え?」 シェルブの発した言葉の意味がよく分からず、エイミが戸惑う。 「場所は分かっているんだ。 こっちから出向いて、一気にカタをつけろ。 シーア、聞こえたな?」 『了解だ。 敵MTを潰してから制圧に移る』 シェルブが時計を見ながら、通信機に呟く。 「作戦開始まで残り三〇分もないが、間に合うか?」 『向こうの支度が済んでいれば、だな』 その一言で、通信は切れた。 通信回線が切れていることを確認し、輸送車の中でシーアがイリヤに最後の確認を取った。 「イリヤ、耐衝撃服に問題はないか?」 「細かいことを言えば、着心地が嫌ね」 いかにも不機嫌そうな気乗りしない声で、耐衝撃服を身に纏ったイリヤが不満を口にした。着心地の問題は分からないが、一目見れば服のサイズが合っていないことは明らかだった。 「仕方ないだろう、それしかないんだ。一応は女性用のフリーサイズらしいが、もう一回り小さい方がいいみたいだな」 戦災孤児を保護することがあるリヴァルディならば、子供用の耐衝撃服もあるかと思っていたのだが、よく考えてみれば子供に耐衝撃服が必要な状況などほとんどない。従って市場における需要は低く、故に非常に高価なものになる。当然、そんなものをいくつも購入するほどの余裕はリヴァルディにはない。厳密に言えば購入はできるが、それ以外に必要なものが多すぎて、そこまで手が回らないというのが本音だ。 「機能を阻害するような点は無さそうだな。ヘルメットの方は大丈夫か?」 「それが、どれも大きすぎて丁度いいサイズがなかったわ。これが一番小さいサイズみたいだけど」 言いながら、小脇に抱えていたヘルメットをイリヤが被る。 シーアが両手でヘルメットを掴み、そのまま上に引き上げると、ヘルメットは何の抵抗もなくあっさりとイリヤの頭から抜けてしまった。 「これは逆に首が危ないな。仕方ない、ヘルメットは諦めるか」 「そもそも、私がこんなものを着る必要はないはずだけど。私はあの兵器のために作られた……」 「それ以上言うな」 怒声交じりのシーアの言葉に、俯きかけてたイリヤがはっと顔を上げた。 「……マイも言ったはずだぞ、自分をパーツ扱いするな。もっと自分を大事にしろ」 間を置いて、イリヤが口を開く。 「貴方が言えたことかしら? 貴方こそ、もっと自分を大切にするべきね」 「……何故そう思う?」 「機体を見れば、それくらいわかるわ」 言いながら、イリヤはシーアの背後で立膝で待機している巨躯を見上げた。 夜闇を身に纏ったかのような、深い蒼と黒に包まれたシーアの愛機〈フィクスブラウ〉は、搭載された高性能戦闘支援AI〈アルフ〉によって、ジェネレータを起動待機状態にしてシーアとイリヤが乗り込むのを待っていた。 「何度見ても不思議……というより、複雑な子ね。冷静だけど熱っぽくて、忠実なのに我侭で、優しいのに狂暴で……初めてなのに、懐かしくて。まるで……同一性を失っているかのよう」 「自己同一性を失っている……解離性障害、か」 機体がそんな感情を持っているなど、自分には到底思えない。感情があるとしたら、アルフの方だ。それなら普段から余計な口を挟むことや生意気な点もあって、よくわかる。 だが、イリヤの言うことも理解できないわけではない。 この機体は、矛盾している。設計時に考えていた事とはかけ離れたものを抱えているし、本来の目的から大きく逸れたことも、数え切れないほど行ってきた。 だから、コイツは自分だ。これまでに幾度の死線を越え、事実死にかけた事もある。 進むはずの道から逸れて、進めば進むほど目的地から離れていく。 理解しているはずなのに、それでも前に進むしかない。 気付いてみれば目的など、とうの昔に失っていて。 自分がどこにいるのかさえ、全く分からない。 迷走している。だが、止まるわけにもいかない。ただ、走り続けるしかない。 それはつまり、自分を見失っているのではないのか、と。 「……存外、間違ってないのかもな」 シーアは一瞬、自嘲気味な笑みを浮かべてから、一度ゆっくりと瞬きをして普段の調子に戻った。 「時間が押してる、行くぞイリヤ」 バックパックを機体のシート後ろのトランクスペースに収納し、ヘルメットを被ってからシートに座る。イリヤも同じようにして、後部座席に座った。 「シートベルトを締める前に、シートの下から送気マスクを出して着けておけ」 「だから、私には必要ないと……」 「用心するに越したことはないんだ、言う通りにしろ」 言いながらシーア自身もシートの下から送気マスクを取り出し、ヘルメットの頬側の金具にマスクのフックを取り付けて固定する。 この送気マスクは、通常のACには搭載されていない。通常のACを遥かに超えた速度を叩き出せるフィクスブラウを乗りこなすには、その速度に比例した加速Gに耐えなければならない。いくら操縦に慣れようとも、身体の調子によっては意識が朦朧とする場合もある。そのような不測の事態に備えて、シーア自らの手で戦闘機用の送気マスクのユニットを丸々コクピットに搭載したのだった。 イリヤがマスクを装着したことを確認して、天井のコックをひねりコクピットハッチを閉鎖する。そして、アルフに指令を出す。 「待たせたな、アルフ。起動しろ」 『了解。ジェネレータ起動、策敵を開始します』 シーアとイリヤを乗せた輸送車は、既にオートパイロットでエデンⅣ方面、正しく言えば旧中継基地へ向かっていた。補給部隊の出発時刻を作戦開始時刻としているため、リヴァルディ内で任務の最終確認をするよりもずっと早く、もうシーアとイリヤは出撃していた。 『レーダーに複数の反応あり。識別信号なし、目標の敵MT部隊と思われます』 レーダーには赤い点が六つ表示されている。まだ輸送車内であるため、敵影を確認できない。 だが、レーダー上での動きを見れば、大体の予測は可能だ。 三機が少し前に出て、その後ろに二機。そこから若干離れた位置に、もう一機が隠れている。 この時点で、大まかな編成は把握できる。三機が前線への強襲機、その後ろの二機が支援、一番後ろは味方への連絡を兼ねたバックアップだろう。セオリー通りではあるが、まったくの素人による配置ではない。ある程度の知識はあるのだろう。 とすれば、かつてはどこかの軍などに所属していたのだろうか。それとも少々知識のある程度の者なのだろうか。 これ以上思案しても、相手に動きがなければ特定はできない。それに、相手の予定通りに事が運ぶと不利になる可能性もある。 最も、自分がここにいる時点で相手にとっては想定外だろうが、それ以前に相手が動く事を許容出来ない理由がある。 ――気に入らない―― それがたとえ一瞬でも、相手の予定通りに進むのは、我慢ならない。戦況を最初から自分に有利な状況にするためには、相手を掻き乱すのが一番だ。 どんな手段を使っても構わない。 ただ、戦況を握るのが――常に、自分であれば。 「戦闘を開始する。イリヤ、何かあったらすぐに言え」 「こっちは気にしないで平気よ。それより、そっちこそ手伝いは必要ないの?」 「特に必要ない。アルフ、始めるぞ」 『了解。全システムを通常戦闘モードへ移行します』 ジェネレータが甲高く唸り、出力が上昇する。応じて機体温度が上がりラジエータが冷却液の循環を開始、さらに冷却ファンが回転を始める。 システム、オールグリーン。 シーアはコンソールを叩いて輸送車のコントロールへとアクセスし、後部ハッチを開いた。 天井部にぶつからないよう中腰で機体を起こし、両脚部を蹴りだす。 機体が勢いよく輸送車から飛び出すと同時、大出力のOBが作動して機体の進行方向が強制的に前方へと切り替わり、輸送車の陰から飛び出した。 そして次の瞬間、一番手前にいたMT三機のうち、二機が火を噴いていた。 運良く生き残った一機が慌てて右腕のライフルを構えるが、闇色のACは一瞬でその頭上を飛び越えていた。 不意を突かれた前線の二機を見た後方の支援機が、すぐに迎撃しようとライフルを構える。だがそれよりも速く、闇色のACは左右に分かれていた二機の間に着地していた。 二機の支援機は側面からの攻撃に対応しようと急旋回し、火気管制による敵機捕捉にかかる時間も無視して慌てて発砲する。 瞬間、闇色のACが再び加速する。敵の支援機が慌てて発射した弾は的を外れ、その向こうにいる味方機へと命中した。しかし、まだ完全には機能を停止していない。 そこへ追い打ちを掛けるように、右旋回して敵を捉えたフィクスブラウは、右手のスナイパーライフルを発砲した。弾丸は狙い通りに敵の胴体に直撃し、ジェネレータが損傷を負って爆発した。 敵機の爆散に構わず、シーアは機体をそのまま右へと旋回させてもう一機の手負いの敵を捕捉し、発砲する。再び爆発。 支援機を片付けたところで生き残っている強襲機を捕捉、OBを起動し、一瞬で敵機へと迫る。 接敵を感知した敵MTが、ライフルを乱射する。闇色のACは、その悉くを回避しながら敵機の右側から死角へ潜り込む。そして着地したその場で急旋回しながら、左腕のレーザーブレードを振るった。 敵MTが、背後から逆袈裟に斬り裂かれる。高熱の刃は薄い背部装甲を引き裂き、ジェネレータを貫いて前面装甲まで真っ二つにしていた。 瞬間、敵機が原型を留めきれずに爆発、破片を撒き散らす。だがそれすらも置き去りにして、フィクスブラウは残る最後の一機へと突進した。 最後の一機が必死で逃げる。だがそれも虚しく、フィクスブラウは敵機の背後を捉え、左手のアサルトライフルを発砲した。放たれた弾丸が敵MTの両足を破損させ、敵機は転倒して動きを止めた。 シーアはフィクスブラウを停止させ、両腕のライフルを敵機へと向けた。同時に外部スピーカーのスイッチを入れ、敵機の搭乗者へ警告する。 「MTを降りろ。従わなければ殺す」 喉元にナイフを突きつけるように、ただ事実のみを冷酷に告げる。その口調は一切の猶予を感じさせず、それを感じとったMTのパイロットは言われた通り、機体を降りた。 「手を頭の後ろに組んで地面に伏せろ」 敵パイロットは言われた通り、地面に伏せる。シーアはそれを確認してからコクピットハッチを開放した。 「イリヤ、ここから動くなよ。あと音も立てるな」 「わかってる、おとなしくしてるわ」 ハンドガンを手に、シーアが機体を降りる。敵は伏せたままだ。銃口を向けたまま敵に近づき、腰のベルトに挟んであったハンドガンを取り上げる。入念にボディチェックをしたが、他に武器は持っていないようだった 「仲間に通信を繋いで応援を呼べ。 全員だ」 「は?何を言って……」 「黙れ。 お前はオレの言った通りに行動すればいい。さっさと繋げ」 MTのコクピットへ連れて行き、通信機を操作させる。もちろん、銃口は敵の頭に突きつけたままだ。 「オレの言った言葉を、お前はそのまま復唱する。いいな?」 「わ、わかった……」 敵パイロットは銃口をこめかみに押し当てられながら、震える手で通信機を操作して、やっとのことで回線を開いた。 『こちら管制室だ、味方の識別信号がお前以外は全員途絶えてるぞ、何があった?』 敵パイロットの耳元でシーアが呟き、敵はそれをそのまま自分の口で言葉にする。 「補給部隊の連中、護衛を引き連れていやがったんだ。応戦したが、残ったのは俺一人だけだ、機体もこれ以上の戦闘には耐えられそうにない」 『何だと!? それで、敵部隊の編成は?』 「残りはMT一機だけだ。今はこっちを追うつもりはないらしいが、すぐに応援を寄越してくれ。あの分だと増援を呼んでいる可能性がある」 『了解だ、すぐに応援部隊を送る。 それまで持ちこたえろ』 「ああ、頼……」 ドンッ と、狭いコクピット内に、通信機が壊れる音が響いた。 「上出来だ。よくやった」 シーアはハンドガンを右足のホルスターにしまいながら、操縦席で固まっている敵の肩を叩いた。 敵パイロットは操縦席で全身の力が抜けたかのようにぐったりとしている。 「通信機と一緒に操縦系も壊れてるだろうが、後は自分でなんとかするんだな。 死ななかっただけ、運が良かったと思え」 シーアはそういってコクピットを降り、機体へ戻る。 敵パイロットはただ、自分の耳元で容赦なく銃を発砲された恐怖で、動けなかった。 フィクスブラウに戻ったシーアは、すぐにレーダーを確認した。 読み通り、多くの敵MTがこちらに向かって来ている。 「うまくいったようだな。アルフ、何か連絡はあったか?」 『いえ、特にありません。それよりもレイヴン、こちらに向かってきている敵MTの総数は二二機です』 「了解だ。 イリヤ、飛ばすぞ」 「いつでもいいから、気にしないで平気」 シーアはイリヤの言葉を聞きながら右手の親指で操縦桿のスイッチを押し込み、エクステンションのステルスユニットを起動した。 敵のレーダーに捕まらないだけでなく、FCSの目標捕捉機能すらも妨害することで、作動中は一切自機を捕捉されない。 展開したステルスユニットに紫電が奔ると同時、両足のペダルを深く踏み込むことでコアのOB機構が展開、高出力ブースターにエネルギーが流れ込む。 そして臨界に達した瞬間、甲高い作動音と共に、機体が前方へと一気に押し出される。 しかし、その進路は敵の拠点である旧中継基地の方向ではなく、先程の戦闘が行われた場所から西の方角だった。 正面から相手をしてもいいが、撃ち合いになった場合に数で勝る敵部隊は、少々厄介だ。それよりも、側面か背後から一気に急襲した方が効果的である。 正面から対峙しても、ステルスユニットを起動していればかなり有利に動けるが、使用時間には限度がある。 先程の戦場が自機の射程範囲ギリギリになる位置で岩陰に機体を隠し、機体システムを一旦停止させる。 「アルフ、レーダー停止。ジェネレータ出力をカメラと右腕武器の分だけに絞れ」 『了解。低電力モードで待機します』 次第にジェネレータの駆動音が小さくなり、コクピット内の計器の光も最低限必要な物を残して消えていく。 夜闇が周囲を飲み込んでいく。岩肌の目立つ山間に漂う、ただひたすらの静寂。 その中で爛々と光る、紅い目。その輝きはまさしく、夜行性の猛禽が獲物を狙う目のそれだ。 獲物が隙を見せるのを、じっと待つ。敵の増援が到着し、味方機の残骸を見れば、周囲を警戒するのは当然のことだ。だがその状態こそが、こちらにとって好機でもある。 狙うのは、警戒行動の中の緊張感と共に抱く、僅かな『不安』と、『恐怖』という感情。それは、自らの命を絶ってしまう爆薬に等しく――故に、一度火が点いた瞬間に自らを失ってしまう。しかし、戦場にいる者ならばその発火点は高く、普通の事では動じない。 だが、肝心の火元がその発火点を容易く上回る程の高温の爆発なら、どうだろうか。 炎が背後の味方を焼き尽し、自らの視界を埋め尽くす。その光景を見て、どれ程の人間が自らを見失わずにいられるだろうか。 レーダーへの反応は皆無であり、気付いた時には既に回避不可能な距離からマイクロミサイルが殺到している。 悲痛な叫び声が、通信機越しに味方に伝わる。その声は幾度も聞き慣れていなければ、恐怖によって自己の崩壊が誘発される。 そして敵MT部隊には、死神の誘いを聞きなれたパイロットは存在しなかった。 正確な狙撃によりコクピットを貫かれた者、マイクロミサイルによって機体ごと爆散した者、そして高熱の刀身により引き裂かれ、蒸発した者。全てが例外なく、二度と動かぬ鉄屑と肉片にされていた。 圧倒的な力によるそれは、もはや戦闘というべきものではなく、一方的な狩り――蹂躙という言葉が、何よりも相応しかった。かつて自分が見た、あの光景のように。 「大体片付いたか。アルフ、敵の進攻経路は記録できたな?」 『データは処理済みです。サブウィンドウのマップに反映します』 マップに敵の進攻経路が上書きされ、同時に敵に気付かれにくいと予想される、こちらの侵攻ルート候補をアルフが表示する。 中継基地は山間の谷間に位置しているため、敵に視認されずに近くまで辿り付けるのは、左右いずれかの山の外側を沿う形となる二つのルートだけだった。 「……もっと外側を大回りするルートはないのか?」 『これ以上の外回りの場合、右は短時間ですが飛行して岩壁を超える必要があります。左は遮蔽物が少ない為、偵察部隊がいた場合は視認される可能性が非常に高いと思われます。 レイヴンが敵拠点に侵入する以上、推奨ルートのどちらかが妥当であると考えます』 確かにアルフの言う通り、自分が侵入することを考えれば、敵拠点との距離は短い方が好都合だ。 それも出来るだけ、物陰に身を隠しながら進める道がいい。 「仕方ない、右ルートを基本に手を加えるか」 衛星写真による地図を拡大して、機体を降りてからの侵攻ルートを組み立てていく。基地まで辿りつくことさえできれば、あとはどうにでもなる。 「シーア、そう簡単に侵入できるものなのか? 入口に見張りがいたらどうする?」 侵攻経路を作成していたシーアに、イリヤが問いかけた。その問いに、手を止めずに答える。 「まぁ、普通はそうだろうな。 だが、いた所で大した問題にはならない」 侵攻経路の構築を完了し、機体をアルフの推奨ルートの通りに進ませながら、再び口を開く。 「基地を取り返しに行くのに、わざわざ招待状は必要ないだろう?」 声はあくまで冷静なままに、その口角は僅かに上がっていた。 その考えが、自分の想定内でしかないことを嘲るように。 「とりあえず、敵のMT部隊は大体片付いたはずだ。他に脅威になるものはないだろう」 言いながら、リヴァルディに回線を繋ぐ。 「エイミ、敵のMTは大体片付いたぞ。これより敵拠点内部に侵入、基地の奪還を開始する。そっちも始めてくれ」 『わかったわ。……気をつけて』 「心配しなくてもこの程度、すぐに終わるさ」 それだけ言って、回線を切る。他に言うこともないだろう。 『レイヴン、もうすぐ指定ポイントに到着します』 「ああ、到着したらすぐに始める。イリヤ、俺が戻るまでここを動くなよ」 「特に動く必要もないから平気よ。リヴァルディから連絡があれば伝えるわ」 「そうしてくれ。 三〇分以内に戻るが、それまでにオレから連絡がなければリヴァルディに連絡して、すぐに帰艦しろ。 アルフ、問題ないな?」 『オートパイロットに異常はありません。戦闘にでもならない限り、確実に帰艦できます』 「それでいい」 目標ポイントへの移動をアルフに任せて、シーアが準備を始める。 と言っても、狭いコクピット内ではタクティカルベストの確認程度のことしかできなかった。 ハンドガンと弾倉を、再度確認する。 そうこうしている内に、機体が指定した目標ポイントに到着した。 周囲に敵は確認できず、電波障害も特にないことを確認して、コクピットハッチを開放した。 「アルフ、指定座標にいつでもミサイルを発射できるようにしておけ。 合図はこっちから出す」 『了解しました』 指示を出しながら、パイロットスーツを脱いでタクティカルベストを着用し、バックパックを背負う。 「現時刻より、旧中継基地の制圧・奪還作戦を開始する。 イリヤ、緊急で何かあった場合はすぐに連絡しろ、俺と繋がらない時はリヴァルディにだ。 わかったな?」 「それくらい、言われなくてもわかるわ。 大丈夫よ」 イリヤが若干呆れたような顔をしたのを見て、シーアは機体を降りた。 敵の拠点まではそう離れていないが、細心の注意を払いつつ、木々の中を進む。 右目は赤外線式の暗視モードに切り替え済みで、センサー等にもすぐに気付ける状態だ。 万が一、敵と交戦になっても、視界が確保できていれば動きやすい。 だが、そんな心配も杞憂に終わり、何の問題もなく旧補給基地の目前まで辿り着いてしまった。 塀はよじ登れそうな高さだが、その上部には有刺鉄線と高圧線が張り巡らされている。 補強された痕跡も外側からでは見られないが、表面の状態から考えると、占拠後も放置されていると考えていいだろう。 爆薬で吹き飛ばせそうだが、いきなり敵に感づかれるのはやりにくい。 施設内部までは事を荒立てずに侵入したいところだ。 そう考えて、茂みの中から門を見る。 赤外線センサーの設置は見られない。 地面に感知式のセンサーがある可能性を考えたが、門番が一人見張っていることから、その存在は否定できる。 問題は、門に取り付けられている監視カメラをどう誤魔化すかだ。 カメラを停止させれば、不審に思った敵は確認に来るだろう。 そこで門番がやられていれば、確実に敵は警戒する。 ならば、どう攻略するか…… ――いや、違う。 なぜ過程を気にしたのか? シェルブに悪い癖だと注意されたからだろうか? ――いや、それすらも無駄な思考だ。 自身に要求されているのは『制圧と奪還』という結果のみ。 ならば、そのプロセスを問われることはない。 あの場に長く身を置くことで、甘えが生じたのだろうか? だとしても、自身の役目を忘れかけていたのは恥ずべきことだ。 ――自分の役目を思い出せ。 一切の甘えは許されない。 自分自身が許さない。 既に自分は一度死んでいる。 だが、生き返ってしまった。 その結果、犠牲者を増やしてしまった。 その償いは、未だ済んでいない。 だからこそ、自分はどんな場にいようと贖罪を続けなければならない。 汚れるのは、自分だけでいい。 罪が常に己を苛む、その苦しみに絶えながら生きている自分にこそ、その役は相応しい。 どれほど怨まれようとも憎まれようとも構わない。 作戦を遂行する。 自分に要求さえれるのはただ、それだけだ。 余分な思考を切り捨て、ピルケースから直径2センチほどの赤い玉を口に入れてから、バックパックの銃をラッチから取り外す。 構えたのは〈RM-ASG5〉という名のフルオートショットガン。 二四〇メートルの有効射程を持っている。 監視カメラ程度ならば、発射される一二ゲージ弾の一撃で粉砕できる。 もちろん、その横にいる門番の頭さえも。 ダットサイトを右目で覗く。 二秒で目標に狙いを定め、引き金を引いた。 放たれた散弾が監視カメラを粉砕し、音を立てる。 その音に驚き、壊れたカメラを見る門番。 そして、その額に赤い光点が突き刺さる。 その瞬間、門番の頭が吹き飛んだ。 頭部を失った身体が背中から地面に倒れる間際、シーアがその横を走りぬける。 施設の入口の扉には、監視カメラも門番もいない。 そのまま、施設内部へと滑り込む。 正面の通路に人はいない。 左右も同じく、人の気配はない。 監視カメラも見当たらない。 まだ、気付かれていないのだろうか? だとしても、いずれは門のカメラの異常に気付いて確認に来るだろう。 シーアは手近な部屋を見つけると、すぐにその扉の横まで忍び寄った。 ショットガンをバックパックのラッチへ戻し、サプレッサーを取り付けたハンドガンを右脚のレッグホルスターから引き抜く。 右手でハンドガンを構えたまま、左手で一気にドアを押し開く。 ……だが、中には誰もいない。 無論、それは好都合なことである。 部屋のドアをギリギリまで閉め、僅かに通路が見える状態にして、人が来るのを待つ。 その間に、部屋の中を見回す。 一目でわかったのは、やはりこの補給基地は古いものであり、設備全体が現在の水準に比べて若干見劣りするものである、ということだ。 今シーアのいる部屋は非常に小さく、ちょっとした物置のようなスペースだったのだろう。 だが、構造事態は割としっかりしている。 空気循環用のダクトは狭く、大人が入れるスペースは無い。 柱もしっかりしているが、壁は若干薄い。 この程度ならば、携行している爆薬で簡単に穴をあけることができる。 あとはこの基地のどこに司令部があり、どこに配電盤と緊急用の発電装置があるのかさえ分かれば、制圧は時間の問題だ。 そう思案を巡らせていたところに、足音が聞こえた。 一人だけ。 それも、特に急いでいる様子ではない。 ――これなら、行ける 変わらず、足音は一人分だけが響いている。 息を殺し、ハンドガンをホルスターに収めて腰のツールバッグに手を伸ばし、中のワイヤーを掴む。 ドアの隙間から僅かに差し込む電灯の光が一瞬、遮られる。 再び光が差し込む刹那、ドアを開け放ち、相手の背後から右腕を首に回した。 すぐさま右手に掴んでいたワイヤーを左手で引き抜き、右手でツールバックから伸びているワイヤーと交差させて、両手を引く。 相手の首にワイヤーが食い込み、絞まる。 「動くな。 抵抗するなら、このまま殺す」 自力で解けないと察した敵が必死でもがき、右肘を突き出してくる。 が、シーアは右腹部への衝撃を無視して右腕でがっちりと敵の首を押さえ、その状態で左手を引いた。 「工事用の牽引ワイヤーだ、人の手で切れるような物じゃない。 大人しくしろ」 ギリギリまで締め上げてから、声が出る程度にワイヤーを緩めと、首を絞められた男は咳き込みながらようやく声を出した。 「……お前は誰だ、こんなところに何の用がある?」 「質問するのはお前じゃない、オレの方だ」 再びワイヤーを締め上げ、そのまま先程まで隠れていた部屋に連れ込んでから、ワイヤーを緩める。 「この基地の司令室と配電盤、それと補助電源の場所を言え。 素直に教えれば殺しはしない」 「誰が教え……グッ……!」 従わなければワイヤーを締める。 それだけのことだ。 どちらが優位で、どちらが不利なのか。 それをきちんと理解させなければ、機密を口に出すことはない。 もちろん、かなりの訓練を積んだ者ならば拷問で口を割ることもないだろうが、目の前の男からは、そういった雰囲気は感じられない。 ならば、このまま続けた方が手っ取り早い。 そう考え、シーアはワイヤーを握ったまま、男を床にうつ伏せに倒す。 左足で男の首の根を踏みつけ、ワイヤーを左手に持ち替えて右手でホルスターから拳銃を引き抜き、男の眼前に突き出す。 「もう一度聞いてやる。 司令室と配電盤、補助電源の場所を言え。 言わないなら、お前に用は無い」 男の後頭部に銃口を向ける。 あとはトリガーを引くだけの状態だ。 ゆっくりと、しかし確実にトリガーにかかる指に力を込めていく。 「待て! 言う、言うから勘弁してくれ!」 「……言え」 銃口を男の頭に向けたまま、男が話し出すのを促す。 「……司令室は地下一階だ。 配電盤は地下三階、補助電源はその下の階にある」 男が息を荒げながら場所を吐く。 だが、男の額から、汗が流れ落ちるのを見て、シーアは男の右膝にハンドガンを向けて、トリガーを引いた。 男が痛みを訴える前に、ワイヤーを締め上げる。 「嘘じゃないだろうな?」 「ほ、本当だ、嘘じゃ……」 言い切る前に、左膝を撃ち抜く。 弾丸は五・八ミリ徹甲弾。 小型でありながら貫通性能に特化しており、最高水準のボディアーマーですら、当たり所が悪ければその装甲を貫くことさえある。 当然、人体なぞ安々と貫通する。 男の両膝は既に、歩行が困難な状態だろう。 貫通性を高めた結果損なわれたマン・ストッピングパワーも、正確な射撃さえ出来れば威力を補える。 両膝の痛みは相当なものだろう。 「……まぁ、お前がどう答えようが、最終的な結果に変わりはない。 お前達は全員、ここで死ぬ。 それだけの話だ」 言いながら、今度は背中を撃つ。 「ま、待て、話が違うぞ! アンタ、殺しはしないって……」 男の顔が、動揺と危機感で歪む。 それを見たシーアが、口端を吊り上げて、笑みをこぼした。 「これから死ぬ奴に対して、わざわざ本当のことを言う必要はないだろう? いくらお前が何を言おうが、信用性が一〇〇パーセントになることはない。 用済みなんだよ、お前は」 必死の形相でこちらを見る男の男の頭部に、銃口を向ける。 「わ、悪かった! 本当のことを言うから許してくれ、頼む!」 「なら、さっさと言え」 最初からここまでやるつもりだったシーアにしてみれば、ここまでは茶番に過ぎない。 最初の一言で信用する愚か者が、一人でここまで来るわけがない。 そう呆れつつも、男の口を割らせる。 「司令室は施設最上階の一五階で、配電盤と補助電源は地下一階にある! これで勘弁してくれぇ!!」 「そうか。 そうだ、ついでにお前らのMTや装甲車の止めてある駐機スペースの位置も教えてくれ、行き方もな」 「地下2階が通路になってて、そこから真っ直ぐ進んで階段を上がったところにある! だから、命だけは……」 嗚咽交じりに男が告げ終えた直後、左手のワイヤーを離し、頚動脈を絞める。 若干の抵抗の後、男の意識が完全に落ちた。 これで、攻めるポイントは把握できた。 あとは単純に、これまで通りやればいい。 ――ナーヴスに恐れられた『暗殺者』の実力を、見せてやろう―― →Next… ③ コメントフォーム 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/achdh/pages/152.html
③*④*⑤ 敵性目標は高密度火力で此方を釘付けにしつつ、通常歩行で距離を詰めてきている。 手堅く此方を粉砕するつもりか── 豊富な搭載火力を当てにした単純ではあるが、しかし、地形を有効に利用した確実な攻略法である。 いつでも応対射撃に出れるよう構えながら、左手で腰元のポーチをまさぐるがそこには既にハンドグレネード類は収まっていない。先ほどパルヴァライザーと交戦した時に使い果たしてしまっていた。 センサー群で集約した情報を吟味した上で対向戦術の確立を図ったが相手の電子機器を麻痺させる装備もなく単純火力ですら劣性である現状で、戦況を覆すだけの要素は考えうる限りでは見当たらなかった。 (単純機動での強襲成功率は34,5%──厳しいな) 強化内骨格である自身の身体機能を用いて正面からの強襲攻撃を試みた所で、相手の集中弾幕を被弾覚悟で搔い潜ったとしてその後殲滅できる可能性は極めて低い。 つまり、ヴァネッサと同様現戦域を切り抜ける手打ちは、ないという事になる。 ──手のうちようがない 「──だと? ……馬鹿馬鹿しい」 そんな事を無意識のうちに考えている事にようやく気づき、リサは自分でもわかるくらいに口許を歪めてみせた。何も全員が無傷で生き残る方法を選ばねばならないという話ではない。 戦場に臨む者の価値は、其々著しく異なる。 私と──そう、ヴァネッサがそうだ── 彼女は望まれて、生き残る義務がある。 決死覚悟とは言わない、しかし、手足の一本や二本はくれてやる覚悟で臨めばあるいは。 他者が自身を見ているのなら、自分は今恐ろしく凄惨な表情を湛えているのだろう。 リサは一瞬だけ瞼を下ろし、そして自動小銃の銃把を握り直した。初動の予備動作を省いて先手を打てるよう、下肢部のアクチュエータ機構を最大稼働率で準備待機させる。 空間を吹き荒ぶ弾幕に飛び込む機会を計っていた時、リサにとって不測の事態を搭載センサー群が捉え、次の瞬間には機関砲の弾幕がぱたりとやんだ。 「なんだ──?」 続けてセンサー群に状況を解析させ、そこからパルヴァライザーが戦闘態勢を解除している訳ではないが、発砲の一切を停止している事を確認した。その不可解な展開にヴァネッサも困惑しているらしく、後ろの二人に至っては無条件に「助かったのか」というような表情をしていた。 相手に戦闘の意思が、しかも不意な形で無くなってしまい反撃の出鼻をくじかれたリサは直に確認すべく鉄柱の影から顔をのぞかせた。不気味な青白い光が宿るカメラアイは此方の一挙手一投足を追尾し、両腕部兵装の機関砲もそれに合わせて駆動しているが、それ以上の動きはないようだった。 ヴァネッサに向けてハンドサインを送り、リサは鉄柱の背後から姿を晒した。 「何の真似だ、貴様──」 此方も下手に相手を刺激しないよう銃口を下げ、しかしいつでも射撃体勢に入れるよう準備しながらパルヴァライザーの前に立つ。 その時、電子処理脳内の通信回線野に奇怪な周波数が流入し、リサはその不快な負荷に僅かに眉をひそめた。解析するまでもなく発信源が眼前のパルヴァライザーであると確信していたリサは、電子警戒態勢を維持し回線を接続した。 すると、 『予ソク目標、セッ触──。タイショウ、捕ソクプログラム検サク──』 ひどく拙いものだが言語としての理解は可能だった。しかし、リサにはパルヴァライザーの言う言葉の意味に思い当たるものがなかった。続けて眼前の巨体が述べた言葉は、 『プログラム、起ドウ不可──。カク定率、64%。対象ヲユウキ体センジュツシ援キコウと認定不可──』 ──ユウキタイセンジュツシエンキコウ、だと? 「有機体戦術支援機構──。貴様、遺物を求めて来たというのか?」 眼前のパルヴァライザーは、その問いに対する回答を持ち合わせていないようだった。 有機体戦術支援機構、そんなモノは無論、此処にはいない。 其れをモデルとした被造体は此処にいるが── 「──ふふ。紛い物に釣られたとは、旧世代兵器の名が泣かんか?」 その不毛な嘲りの言葉を理解したのかどうかは分からない、しかし、パルヴァライザーはリサを不意に排除対象とみなしたのかカメラアイに激しい光を宿し、若干下げていた両腕部兵装を跳ね上げた。 「下がれ、【バラハ03】──!」 不意に届いたその声に反応し、前方への強襲姿勢に入っていた下肢部の出力方向を転換し、後背上方へ大きく跳躍した。後方回転気味に空を舞う中、地上に向いた視界を数発のグレネードが縦断し、その奇襲に反応できなかったパルヴァライザーがそれらの攻撃をまともに受ける。 後方へ軟着陸して振り返ると、完全武装の班規模から成る兵士達が非常口前に展開していた。 彼らは迅速に動いて前衛へ突出し、爆炎の延焼によって炎に包まれているパルヴァライザーに向け立てつづけにグレネードを撃ち込んだ。その隙に鉄柱の影に隠れていたヴァネッサがノエラとベランジェを押して離脱し、リサの元へ合流する。 「──【バラハ02】、増援か」 「【バラハ02】は既に現場に到着している。急げ」 非常口へ向かおうとしたリサを班長が一時呼び止めた。 「君が、ウチに入って来るという新人レイヴンだな。君の教導役が待っているぞ。全く、こんな日が初仕事とは災難だったな」 最後は半ばぼやきの入った班長の言葉を聞き流し、リサはヴァネッサと二人を非常口の向こうへ行くよう促す。兵士の一人が背中に背負っていた装備──大口径の対物ライフルを譲り受け、スリングを肩にかけ直して非常口の縁に足をかけた。 その時、耳を劈くばかりの悲鳴とも呼べない機械音が響いた。背後を振り返ると、止まぬ爆発と爆炎に身を焦がされていたパルヴァライザーが機体各部を破損させながらも、前進を強行しようとしていた。 班員に戦線の後退を指示し、班長がリサへ向かって叫ぶ。 「既に昇降機も到着している。後は降りるだけだ、先に行け!」 その言葉に弾かれるようにリサは非常口の奥の連絡通路を駆け抜け、既に昇降機に乗り込んでいた三人の姿を確認した。制御盤に兵士が一人降り、そいつが持っていた単発式グレネードライフルを半ば強引に受け取る。 「行動班が見えたら降下を開始しろ。待つ必要はない、いいな?」 返事を待たずに踵を返し、行動班が後退してくる非常口出口で射撃体勢を取る。間もなくして行動班が応対射撃を展開しながら迅速に後退し殿の班長が走り出てきた所で昇降機がゆっくりと最下層への降下を開始する。 「止まらずにとび降りろ、行け!」 「すまん──!」 班長とスイッチで出口付近にとどまり、狭い連絡通路を破壊しながら突進してくるパルヴァライザーを正面に見据える。 「生憎だが、貴様に乗車のチケットはないんだ。此処で果てていけ」 射撃制御をフルオートに切り替えた長大な銃身を持つ対物ライフルを片腕に構え、それに合わせてリサは義眼制御を近接射撃態勢へ移行──後方への移動を開始しつつ引き金を絞った。 強化内骨格機能で反動を強引に抑え込み、脚部関節に銃弾を集中させ進行速度を遅らせようと試みるが、パルヴァライザーはそれでも歩みを止めようとせず連絡通路内壁を突き崩しながら非常扉に迫る。 センサー群で把握していた昇降機は階下10メートル付近まで降下している。縁から身を躍らせる直前、リサは右腕に構えていたグレネードライフルを非常口上部に向けて発砲した。着弾によって発生した瓦礫が崩壊し、非常口を粉塵と共に瞬く間にふさいでいく。グレネードライフルをその場に放り捨て、リサは縁に足をかけて降下した。眼下十数メートルを全速力で降下中の昇降機を捉え、乗員達が空けたスペースへリサは器用に軟着陸した。 「とりあえず足止めはした。現場までの時間は?」 「5分だ。各自装備状態を確認しろ」 行動班に目立った損耗はなく、班員達は落ち着いた様子で指示に従い各自の装備状態の確認作業に映る。 ターミナルスフィア直下の機械化強襲部隊──【バラハ01】は各支配企業で腕利きだった百戦錬磨の戦場帰還兵から構成されており、その手腕は確かなようだった。 ヴァネッサも弾切れになった自動小銃をその場に捨て、班員の一人から新たにターミナルスフィア正規兵装である自動小銃とその他兵装各種を受け取っている。 赤毛のリポーターのノエラは既に班長に大胆にも近寄り、先ほど釘を刺したにも関わらず取材活動を始めている。昇降機の隅で所在なさ気に立っていたベランジェの視線に気づき、リサはそちらへ首を回した。 「さっきの──。あんた、もしかして強化人間か?」 「珍しい物でも見たようだな。戦場にはごく有り触れた代物に過ぎんぞ」 「すごい──始めて見た」 そう言うベランジェの青白い顔はどことなく感嘆の表情を宿している。そんな彼の様子をそれ以上視界に留めることなくリサも自らの兵装状態を確認。対物ライフルの稼働状態の確認をし終えた時、 広域警戒態勢へ移行していたレーダー機能が此方へ向けて接近してくる動体反応を捕捉した。 「来るぞ──。これは──動体反応多数、潜入用小型個体だ!」 リサのその声に反応した行動班が一斉に銃口を上空へ向けた。吹き抜けのぽっかり空いた上部に狙いを定め、数秒の後そこに一機の小さなシルエット──潜入工作に特化した翅虫のような形態の小型パルヴァライザーが姿を現した。そしてそれに続き、視界上部を十数機の同型機が現れる。 「通風ダクトを抜けてきたようだな。先の奴が呼び寄せたか──時間は?」 「3分だ。此処で持ち堪えるぞ。各員、各個迎撃態勢を取れ!」 班長のその命令と同時に上空へ向けて銃火が煌き、無数の火線が吹き抜け上部へ向けて飛来。それに呼応するように無数に湧き出した小型個体群が降下行動へ移る。 致命的な損傷を負った小型個体から順に吹き抜けを落下し、飛び散った残骸が昇降機の搭乗台に飛散する。そんな仲間たちの損害などを侵攻群は気に止める事もなく唯無機質な光を宿して降下姿勢を維持してくる。圧倒的な質量差から上空の敵性反応が減少する様子はない。 「残り一分で着くぞ。各員離脱準備だ!」 班長がそう叫んだ時、頭上を埋め尽くす小型個体群のシルエットの裂け目に見えた空白からリサは"ソレ"を目視した。 「あくまで諦めんか──」 非常用扉の瓦礫の下に封じ込めたはずのあの対人用パルヴァライザーは、機体装甲を剥離させ各部から黒煙を上げながらもなお、吹き抜け内壁部に脚部を引っ掛けで甲虫の様な機動で猛然と迫って来た。 破損した両腕部兵装の機関砲の代わりに背部内蔵型の榴弾射出砲を展開し、パルヴァライザーはそれを連続射出した。 リサは最高稼働率で機能していたセンサー群を全て射撃管制に傾注し、小型個体群の上方から迫る榴弾の飛来機動を精密補足、両腕に構えた対物ライフルの引き金を絞った。 弾頭部に正面から着弾した銃弾が榴弾を誘爆させ、次々に赤々しい火球が頭上部に広がる。その爆発に巻き込まれた小型個体群の何機かが火炎の中に呑み込まれていく。 その直後、昇降機の降下速度が低下しアリーナ地下駐機場への到着を軽やかな電子音が告げた。小型個体群を追い抜いたあのパルヴァライザーが内壁部からその巨体を弾き飛ばし、空中から自由落下で迫って来る。昇降機前面のゲートがオープンし、 「総員離脱、離脱しろ!」 何人か出た負傷兵に肩を貸しながら行動班がゲートから外部へ走り出ていく。ヴァネッサもそれに続いて離脱した。 応対射撃を殿で行ないながら最後まで残っていたリサもゲートに走ろうとした時、視界の隅にあのベランジェとかいう痩せ男が昇降機内へ走り戻るのが見えた。 「カ、カメラが……!」 「この、馬鹿もんが──」 ハンドカメラを辛うじて拾い上げたベランジェの襟元を片手でひっぱりあげ、リサは脚部アクチュエータ機構を最大稼働率で出力、その場から大きく跳躍した。ゲートから地下駐機場へ強引に飛翔し、ゲート正面に射撃横列を取った現着部隊──【バラハ01】の全容を目視した。 中央に立つ【バラハ01】の指揮官、頑健な体格を湛えたガロの鋭い相貌と一瞬視線が交錯する。彼らの頭上を飛び越えた直後、ガロが無感情に「撃て」と短く言い切った。それと共に射撃横列を組んでいた部隊員達は一斉に制圧射撃をはじめ、ちょうど昇降機に降り立ったあのパルヴァライザーが集中弾幕をもろに受ける。 続いて携行型グレネードによる追加攻撃が浴びせられ、昇降機設備内が完全に火の海と化していく。ゲート内から吹き出す業火の奥で旧世代兵器達が灼け堕ちていく様子を背後を見やっていたリサは、片手に吊るしていたベランジェをその場に放り捨てた。 徹底的な殲滅攻撃の後、ようやくガロが「撃ち方止め」と言った。不気味なほどに統率のとれた部隊員達がぴたりと制圧射撃を停止し、残響音が駐機場内を反響して溶け込んでいく。 ヴァネッサにその場にいるよう言い残し、リサは片手に提げた対物ライフルの引き金に指をかけたまま【バラハ01】の横合いからゲート前まで歩み寄った。 轟々と吹きつける高温の熱風がリサの肌を撫で、その奥で黒焦げの残骸になり果てていた旧世代兵器群の中のひとつが動いたのを見逃さなかった。 そいつは同志の残骸を押し退け、また自らも炎に身を焼かれながらゲートを潜って駐機場内に踏み出す。多脚部は既に機能不全を起こして奇妙な動作音を上げ、全身を焦がす炎はそのモノの機体装甲を無慈悲に溶解させていく。 「お前、御苦労だったな──」 炎の中で弱々しく明滅するカメラアイと視線を交錯させた。足先数メートルまで接近してきたそのパルヴァライザーに銃口を突き付け、リサは一瞬の空白の後トリガーを引き絞った。 耐久限界に達していたパルヴァライザーはものの数発の銃弾のみで頭部を破損し、断末魔の様な機械音を残してその場に崩れ落ちていく。旧世代の遺産が燃え尽きていくその様子をしばらく見届け、リサは踵を返した。 「──【バラハ03】及び【レジェス57】、現着した」 「此れより出撃準備を完結する。こっちへ来い」 速やかに移動を開始した【バラハ01】に続き、ヴァネッサとおまけ二人を伴ってリサは駐機場入り口付近の搬入機材の元へ歩み寄った。 ──【バラハ01】が外部から搬入した機動装甲車四台と、大型の輸送車が鎮座する傍で現場指揮官のガロを中心として部隊員が緩い円陣隊形を取る。輸送車の荷台上には、アリーナ運営委員会の予備待機ハンガーから搬出してきた重戦車型AC機体──ヴァネッサの予備機体であるラピッドタイドが主人の帰還を待っていた。 「事態は火急だ。司令部は緊急即応コード:22-033を正式認証、第一種戦闘態勢を新規確定。──午前0700未明、閉鎖型機械化都市【エデンⅣ】にパルヴァライザーを主力とする旧世代兵器群が侵入した。発生源及び侵入源は不明。連邦法内事交戦規定第一項による統合司令部の発動に伴い、ターミナルスフィアは一時グローバルコーテックス本部指揮下に入る。作戦付与コードは──【セント・シルヴィナ】。現在敵対勢力は都市群を武力侵攻中。我々ターミナルスフィアは通達指令に準拠し、都市防衛戦闘を展開する。──戦線確立が急務だ」 「案の譲というところか……」 「戦力展開基準は各分隊長が確認、出撃準備完結後、速やかに作戦開始だ」 要点のみを抽出してガロは言い切った。緊急即応コードが発令されていた時点で何となく最悪の可能性は予測していたが、正にその通りと言えた。その号令と共に部隊が速やかに動き出し、リサの電子処理脳にも転送されてきた作戦要綱のデータファイルを解凍解析した。速やかに情報詳細を把握し、ヴァネッサにそれを伝える。 「ヴァネッサ、お前は予備機体に乗って商業区画の該当戦域へ急行だ。既に共同兵力が先行して防衛戦線を展開している。詳細座標は機体制御システムへ直接転送する。私は統合司令部へ出向するが、それまでは指令車内からオペレートする。初仕事だが、行けるな?」 「うん、大丈夫だよ。案内よろしく、リサ?」 ヴァネッサが搭乗するラピッドタイドはあくまで予備機体である為、リサの構造意識を転送制御可能な戦術支援プログラムがインストールされていない。事態は火急の為、今回は統合司令部からオペレーターとしての責務を務める事を選択した。 どの道、ヴァネッサはいつか独り立ちせねばならない。いつもそばにいるという訳にはいかないのだと、リサは自分を納得させた。輸送車の荷台上からタラップを駆け上がり、ヴァネッサはハッチを開口してコクピット内へその身を滑り込ませる。 「さてと……。あの二人は──」 行動部隊が作戦開始と共に移動するのなら、その道すがらであの二人を最寄の避難シェルターへ送らねばならない。そう考えてリサは周囲に視線を巡らした。ノエラとベランジェの姿はすぐに見当たったが、彼らはいつの間にか少し離れた場所に在るジープに乗り込んでいた。 リサは思わず、 「どこへ行くつもりだ、お前達」 後部座席にいたノエラが此方を向き、大人の笑顔を持って軽くウィンクしてみせる。その前でベランジェが「知らんぞ」とかなんとか呟きながらエンジンをかけた。 「さっきは助けてくれてありがと。私達は仕事があるからこれで。せっかく知り合いになれたんだし、また後日にでも事務所へアポとりに行くわ。じゃあね─♡」 などと赤毛のノエラは余裕綽々の笑みのままのたまい、ベランジェの後頭部をぱしっと叩いてジープを発進させた。ジープはそのまま駐機場から地上へ直結する車道に乗ってしまい、リサが制止する間もなく嵐のようにその場から行ってしまった。 「なんなんだ、あいつらは……?」 とりあえず面倒がひとつ済んだと思うことにして、彼らは自分の意思で出て行ったのだからそれ以上追うような真似はしなかった。かわって自身の作戦行動を開始すべく、指令機能を持つ機動装甲車に後部ハッチから乗り込み、速やかにコンソール前の席に着く。ヘッドセットを装着してコンソール機能を起動し、予備機体ラピッドタイドに通信要請を行った。 「こちらオペレーター・リサ。聞こえるか、ヴァネッサ」 『こちらラピッドタイド、感度良好。ラピッドタイドを起動、機体制御を第三種準備待機態勢から第一種戦闘態勢へ順次移行。機体駆動機構、冷却機構群、出力機構群異常なし。各戦術支援プログラム、稼働状態良好。搭載兵装、の最大運用効率に変動なし──オールグリーン』 「通常型戦術支援AIによる機体制御補正プログラムの新規設定を完結。戦術支援体制オールグリーン」 『了解。機体コード:ラピッドタイドの起動を確認』 メインモニターに管制支援機であるラピッドタイドの推移機能を全て出力し、最後にコクピット内のヴァネッサの姿を映し出す。コンソールを叩いて輸送車の荷台タラップを作動させると共に、ヴァネッサはラピッドタイドの機体を地上へ下した。キャタピラを小気味よく旋回させ、既に移動態勢を整えた車輌隊の最後尾へつく。 「地上到達後、該当戦域へ急行し共同勢力と合流しろ。我々車輌隊は統合司令部へ出向し、其処で指揮系統を構築する」 『了解──』 間もなくして車輌隊が移動を開始し、妨害勢力もなく地上へ到達する事ができた。そしてすぐにリサは、機動装甲車が発砲を受けた被弾音を聞き、コンソールに外部付随カメラからの視界を出力する。 「これは──エデンⅣの名が泣けるな」 興行区画の外の様子はエデン──楽園という名からは程遠い様相を呈していた。そこかしこで火線が吹き荒び、戦線確立を実行しようと先立って派遣されてきたのだろう対応戦力群が侵攻部隊と交戦している。 幹線道路の対向車線をグローバルコーテックスの部隊章をつけた車輌隊が交差し、地獄へとまっしぐらに向かっていく。 『此方ラピッドタイド、此れより該当戦域へ急行する』 「了解。こんな情勢だ、充分に気をつけるんだぞ、ヴァネッサ」 『もう、心配性なんだから。お母さんは一人でいいの、じゃあね』 そういって年相応に頬をふくらませて見せ、ヴァネッサは進路を変更して車輌隊とは反対側の幹線道路を当該戦域へ向かって進んでいった。 「母さん、ね──」 彼女の無意識のうちに言い残したその言葉に、あの子も年相応に可愛い所があるものだと、リサは頬杖を着きながらにやけてみせた。そのタイミングを計っていたかのように内部周波数から通信要請が入り、コンソールを叩いて回線を開いた。 『此方コントロール、ノウラだ。ヴァネッサは出撃したか?』 「はい、たった今。我々も現在、統合司令部へ急行しています。──ノウラ、いくつか報告事項があります。其方へ転送します」 電子処理脳の記憶野から当該情報を圧縮化し、ノウラのコンソールへ転送する。暫くといっても数秒程度だったがノウラは冷静な口調を持って返答をよこした。 『成程──なかなかに面白い可能性だな。此れが事実だとするなら、この騒乱は一筋縄では終われんぞ』 「……楽しそうですね、ノウラ?」 ノウラと、彼女が当時率いていた技術者集団の手によって生命の根源から別たれ、リサは彼女と共に十年の歳月を過ごしたが、それを経てなお彼女という人間の本質は一切理解できないでいた。 それは原始的な不安に近く、彼女は本当に人間なのだろうかという猜疑すら招きこむ。 リサの問いかけにたいしてノウラは明確な返答を返さず、ただ、不可解な笑い声を小さく立てただけであった。 『リサ、お前はお前の責務を全うしろ。十年前、その為に私はお前を産んだのだからな』 「分かりました──。命に代えても、ヴァネッサを護ります」 『それでいい。回線を一時閉鎖、現着合流次第、統合司令部経由で指揮機能の構築を開始する』 「了解。カット──」 回線接続が解除され、リサはいつの間にか堅くなっていた表情をほぐす為にワーキングチェアに背を預けて息を深くついた。 共に戦場に生まれ、戦場に育ち、戦場に生きる──それ以外に道はない。 ますます激しさを増す戦火に、此れから幾重もの死線が待ち受けているであろう事を確信し、リサは身を起してコンソールに身を走らせた。 AM07 45── * AM07 47── ──誰かを護ろうとするのなら、その者の死を畏れるな その言葉は実体のない陽炎として、脳裏に貼り付いた記憶のひとつだった。 致命的な戦火は留まる事無く激しさを増し、【エデンⅣ】は最早戦場となり果てていた。 兵器災害以降、生き残った人類最後の楽園とまで言われた閉鎖型機械化都市は、その内部への武力侵攻を旧世代兵器群に許し、戦線確立もままならず一方的な防戦に追い込まれつつあった。 搭載センサー機能が収集する情報群を戦術支援AIが整理して投射型メインディスプレイに次々と出力し、戦域状況が瞬く間に更新されていく。専用ガレージからの出撃直後に確認した通達依頼の詳細により、ファイーナは搭乗機体【ゼクトラ】を最大巡航推力で商業区画の当該戦域に向かわせていた。 ターミナルスフィア事務所を通じて出撃依頼を出してきたのは、閉鎖型機械化都市【エデンⅣ】に駐留する統一連邦の軍事力──統一連邦第四駐留軍であった。一方的な奇襲を持って侵入してきた旧世代兵器群を迎撃し、反転攻撃に出る為の戦線を確立する事が、ファイーナを含め他のレイヴン達に通達された依頼である。 旧世代兵器群とエデンⅣ防衛戦力が都市全域に入り乱れて交戦するという致命的な戦況下でそれを実践する事は、通常戦力では困難を極める。その為に、統一連邦軍はエデンⅣに駐留する全てのAC勢力に声をかけたのだろう。多額の出費を強いられることは違いないだろうが、それでも人類最後の楽園である都市を護り切れるのであれば安すぎる代償である。 その事について口を出すような部分はなかったが、ファイーナは統一政府に関して別に疑問を抱いている部分があった。それはつい数分前に目撃した光景であり、記録したその映像情報を改めてメインディスプレイに出力する。 閉鎖型機械化都市【エデンⅣ】の天蓋部を外側から破壊して進入してきたパルヴァライザーを主力とする侵攻部隊が瞬く間に都市全域へと拡散し、それに続くようにして最後にそのシルエットが現れたところで映像を停止させた。──機体各部は既存のACのものとして見慣れたものだが、その特徴的な機体塗装と佇まいはファイーナの意識に最悪の事態の可能性を想起させる。 「まさか、あんな怪物が出てくるとはな──」 ナインボール──兵器災害発生以前から、その名を冠したAC機体の存在は軍関係者の間で広く知られていた。実体の伴った都市伝説として、当時ミラージュ社専属AC部隊の兵士として所属していたファイーナも幾度となく聞き及んだ事がある。 曰く、世界秩序に反旗を翻した異端分子を排除する紅い亡霊であると── しかし、五年前に兵器災害が発生してから数年後、紅い亡霊と言われた存在はその名を残して消息を絶った。その前後の事実関係については、ターミナルスフィアの知己であるノウラから直接聞き及んでいる。 彼女は支配企業群が共同出資運営していたというある技術開発系財団に外部特別顧問として関与し、其処で紅い亡霊と直接接点を持っていたのだ。事の顛末に関して多くを語ろうとはしなかったが、その後暫くして【赤い亡霊】はその姿と役目を変えて再び表世界に、都市伝説として現れ始めた。 世界秩序に反旗を翻した異端分子を排除する【紅い亡霊】として── 世界秩序に反旗を翻した最悪の異端分子としての【紅い亡霊】として── メインディスプレイに出力している停止映像の"ソレ"がどちらなのかは、ファイーナ個人の推測では判然としない。その事実関係について気がかりなのは確かだったが、ファイーナには個人のレイヴンとして果たさねばならない仕事が今はある。 当該戦域まで残り数分と迫った時、本機に通信要請が入りファイーナは戦術支援AIに指示して回線を接続させた。 『此方コントロール、ノウラだ──緊急即応コード正式認証により、オペレーション:セント・シルヴィナを発動。其方の戦況推移を報告しろ』 「此方【ゼクトラ】──受諾依頼の指定詳細に準拠し、当該戦域へと移動中だ。司令部機能はコーテックス・ビルへ移転中か?」 『ああ。現在、輸送機で商業区画中央部のコーテックス支社へ急行中だ。統合司令部との指揮機能構築のため、私は戦線に出られん』 ──エデンⅣ連邦法で制定されている内事交戦規定第一項によれば、事態が火急の場合都市機能の確保維持を最優先事項とし、駐留軍事力の指揮機能は全て統合司令部によって一元化されると在る。統合司令部の最上級機構は【エデンⅣ】最大の支配企業体であるグローバル・コーテックス支社が担い、便宜上の都市統治組織である統一連邦の都市管理局が内事交戦規定第一項の発動をした場合にのみ、実現するものである。 →Next… ⑤ コメントフォーム 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/achdh/pages/150.html
第十三話*②*③ 兵器開発部の連中は、そういうイメージが重要だとも言っていた。搭乗者其々でイメージは異なり、それに合わせて統合制御体は意思判断の反映解釈を複雑化させていくのだと。 ──つまり、過去の経験に裏打ちされた意思判断が、自身によるネクスト兵器の制御技術の根幹となっているのである。 二度目に吹かした追加推力によって前方展開中の二機の目標との距離を瞬時に詰み切る。まともな迎撃態勢を取る事すらできずに隙を曝し出した二機の胸部に其々砲口を突き付け、至近距離からの掃射攻撃で胸部を吹き飛ばした。搭乗者の即死によって機体制御を崩した機体が明後日の方向に突撃銃の弾幕をばら撒きながら、路上に地響きを立てて斃れる。 死の間際、搭乗者達は無意識に呪っていたかもしれんな。 地下トンネルという閉鎖空間の中で、真正面から唯のAC機体が突っ込んで来ていたという事実を額面通りに信用していた事を。 撃破した機体が黒炎を吹き上げながら爆散し、その轟きを背後に受け止めながらさらに前方を目指して通常速度を跳ね上げる。 「前方ターミナルエリアに主力部隊が集結、迎撃態勢を展開」 メインブースタを大きく吹かして地下トンネルの終着点へ滑り込み、大きく開けた地下空間へ滑り出すと同時に機体を宙空へ増速浮上させた。直前まで機体が疾走していた場所に複数の敵機による集中掃射が着弾した。粉砕された路上の破片が粉塵と共に巻き上がり、下方から機体を呑み込む。 各部ブースタを微調整しながら吹かして瞬時に粉塵の中から離脱し、集中掃射を浴びせかけてきた前方の迎撃部隊を有視界に捕捉。目標詳細を瞬時に解析したアンヘラが諸情報をインナー・ディスプレイに表記する。 「敵部隊主兵装、三七ミリ多砲身式回転機関砲【SDT-022】です」 離脱した所を待ち受けていたとばかりに見舞ってきた同兵装の弾幕をサイドブースタを適宜吹かしながら後背へやり過ごす。だが、間髪入れずに迎撃陣形後方に待機していた計三機の重量型二脚機が、展開していたミサイルコンテナより垂直発射型ミサイルを連続射出した。 補足対象を前衛機から切り替え、急速接近してくる地対地ミサイルの群影を有視界に捉える。 サイドブースタを大きく踏み込んで飛行進路を転換し、前方数射線から飛来するミサイル群を回避。此方を見失うことなく旋回し、後方から追い縋って来るミサイル群の反応をセンサーで確認したと同時、更に射出されたミサイル支援が前方の迎撃部隊からさらに接近してくる。 統合制御体に強く語りかけ、各種センサー群の稼働を最大効率にまで跳ね上げてインナー・ディスプレイに情報群を出力。前後計一二基のミサイル群の接近を捕捉し、挟撃攻勢の中で双方に相対するように機体を展開した。 既に統合制御体によって軌道予測を完結した後背のミサイル群には構わず、右舷前方から飛来するミサイル群のみを有視界に捉え、フレームシステムによって最前衛で飛来するミサイルの弾頭を捕捉。 左腕挙動を自動制御に切り替え、左舷後方から接近するミサイル弾頭を捕捉させる。メインディスプレイに[- Mark On -]のメッセージが表記され、同時に操縦把付随の引き金を絞った。 左右其々に一発の銃弾のみを撃ち放ち、それらは補足した弾頭に過たず着弾。直後、前衛のミサイル群が派手に爆散して至近距離に赤々しい火球を産み、それが後続のミサイルを次々と誘爆させていく。 両脇に渦巻く炎の海を有視界の隅に抑えつつ第一種戦闘索敵態勢に移行済みのレーダーで敵性部隊の展開状況を把握し、メインブースタを一度吹かして火炎の海の中から飛び出した。 赤銅色に染め上げられたターミナルエリアの中、前方に散開陣形を展開する敵性部隊の一機が展開していたグレネードキャノンの砲口が此方へ向けられているのを肉眼で捕捉した瞬間、耳を劈くような砲声と共に大口径の砲弾が飛来した。 「──!」 明確な意思判断を待たず、しかし脳裏に浮かんだイメージのみでサイドブースタを最大推力で踏み込む。砲弾の強襲を目視して尚、爆発的な瞬間推力を与えられたカルディナの機体はそれを事も無げに回避してみせた。 左腕火器管制を背部兵装へ転換し、長大な砲身を携える榴弾射出砲を前方展開すると共に連続してメインブースタを吹かす。敵性部隊後方支援機をロックサイトに捕捉し、左の操縦把付随トリガーを引き絞る。 突進推力を充分に乗せた砲弾が地上目がけて飛来し、回避機動を取る間もなく砲弾の直撃を受けた後方支援機が轟々と炎を吹き上げながらその場に倒壊した。 「敵性勢力、残り五機──機動態勢による迎撃陣形を展開しています」 アンヘラの的確な状況報告通り、後方支援機の片割れを崩された五機の残存部隊が密集隊形を解いて機動力による散開型の迎撃陣形を取り始めていた。 その極めて鈍重な機動に図らずも口許を歪めてしまう。 ──鈍いものだな 各部ブースタを微調整しつつターミナルエリアの地上に強着陸、間断なくサイドブースタを吹かして急速展開し有視界内に入る限りの敵影を捕捉。右舷最前列の目標を単独捕捉し、先行して突進機動を仕掛ける。此方の展開機動を察知した左舷三機の敵影が同時に支援射撃を行ってきたが、別段慌てる事もなくブースタを連続噴射して文字通り突風の如く弾幕掃射を振り切る。激しく流動する有視界の中で右舷の目標を再捕捉し、フレームシステムに発生する僅かな着弾ラグを手動で修正、トリガーを引いた。捕捉目標が鉄屑と化していく様子を変らず流動する有視界の隅に置き捨て、全周囲から吹き荒ぶ火線の中を疾走していく。 機体周囲を次々と逸れていく砲弾の嵐を見慣れた景色として認識しつつ、左舷展開中の目標二機の間にメインブースタを吹かして踏み込み、両腕部兵装の突撃銃の銃口をコア部に突き当て、直接瞬間火力を詰め込んだ。 中近距離を移動する敵影をレーダーで確認し、その場から急速離脱する。一拍遅れて敵機の重突撃銃による放火が後背部の大気を切り裂き、有視界左舷奥で背部ミサイルコンテナを展開していた後方支援機を捉えた。フレームシステムによる捕捉を待たずに左腕突撃銃を斉射し、後方支援機の右脚膝関節部を粉砕。制御バランスを崩された機体が前のめりになり、指令キャンセルが間に合わず至近距離から地上へ射出されたミサイルが爆発し搭載元の機体を巻き込んだ。 サイドブースタを大きく吹かして浮上すると共に後背部に迫っていた砲火を引き剥がし、残り一機となった敵機の全貌を有視界の中央に捉える。既に味方の攻撃支援もなくなった目標は背部兵装のロケットコンテナを展開、ハッチを開放した。 瞬時に解析出力された情報がインナーディスプレイに現れ、そこからロケットコンテナの兵装種が同時発射型のマイクロロケットである事を把握。 メインブースタを最大推力で踏み込み、右背部兵装へ火器管制を転換。 数十発のマイクロロケットが敵機背部のコンテナから同時発射され、メインディスプレイ上の戦術支援システムが無数の警告メッセージを叩き出す。そのけたたましい警告音を嘲笑し、兵装転換が完結した右背部兵装である対重兵器用散弾銃をマイクロロケットの弾幕に向けてばら撒いた。 僅か一発で前方十数メートルに迫っていたロケットの群勢はその全てが撃ち落とされ、巨大な爆炎が有視界全域を埋め尽くす。メインブースタを最大推力で踏み込んでその爆炎を突き破り、その先で呆然と停止していた最後の一機を捕捉、至近距離から散弾の雨を喰らい付かせた。機体各部に致命的な損耗を被った目標が前身から黒煙を吹き上げながらその場で膝を折り、機能停止する。 その眼の前に軟着陸した所で、兵装火器管制を両腕部へ移行した。 第一種戦闘索敵態勢にあるレーダーに敵影の反応を捕捉し、通常歩行でその方角に向き直る。 カメラアイがその敵影を捉え、有視界に拡大主力した。先ほど左脚部を射抜いて自爆した後方支援機が、機体全身を爆ぜさせながらも辛うじて動いていた。膝からへし折れた左脚を立て、何とか上半部を持ち上げようと滑稽にもがく敵機を肉眼で目視しながら、通常歩行でゆっくりと歩み寄っていく。 そして至近距離にまで接近した所で、右腕搭載の突撃銃の銃口を装甲が剥げたコア胸部へ押し当て、何ら逡巡もなく撃ち貫いた。 「全敵性勢力の沈黙を確認──。第一種戦闘態勢は此れを継続維持。機体装甲摩耗率0,25%、各兵装消耗率3,5%、作戦継続に支障ありません」 アンヘラの戦闘経過報告を聴覚の隅で聞き受けながら、レーダー上に自機以外の反応がなくなったことを改めて確認し、そこでようやく小さな息をついた。 「AMS負荷数値、12,75%上昇。過剰負荷数値の8,5%を移転処理します。第一種戦闘態勢、尚も継続維持可能です」 「了解──。初の実戦単機戦闘にしては、互いに上々のようだな」 「完璧な戦果です。作戦を継続しましょう」 特段喜びの表情を見せる訳でもなく、後部座席のアンヘラはあくまで無表情を崩すことはない。あくまと言わず、彼女は感情を表すこと自体ないのかもしれないが。 今回、ミラージュ社より与えられた任務はこの先に在る。 関係機関からの事前リークにより得られた情報をもとに、統一連邦政府の一派が閉鎖型機械化都市【エデンⅣ】への武力侵攻を非公式に企てているという事実を、ミラージュ社の情報部が先日掴んだ。 それによれば統一政府の一派は旧世代兵器群を用いて公に混乱材料を投げ込み、その騒乱に紛れて【エデンⅣ】が秘匿保持しているある重要資材を奪取しようとしているとの事だった。 それは統一政府は無論、ミラージュ社を含む支配企業全てが血眼になって求めている旧世代の遺産であり、それを統一政府に先を越される前に奪うのが、今回"我々"に与えられた任務だった。 重要資材──それが何なのかはよく知っている。インナーディスプレイに映る"前例"である彼女の姿を見やり、すぐに視線を逸らした。 ミラージュ社が唯一保有している技術試験部隊の実動試験機体"カルディナ"と我々が出撃を要請されたのには、それなりの理由がある。 今回、統一政府は重要資材の奪取を確実なものとする為に、旧世代兵器群の侵略という隠れ蓑の他に、ある保険を用意してきていた。 我々の業界に関与する者ならば誰もが知り得ている都市伝説──統一政府が保有する"過去の亡霊"達。 統一政府が送り込んできたその過去の亡霊が重要資材の奪取にかかるとなれば、ミラージュ社もそれに相応する戦力を持って阻止せねばならない。 統一政府主導で今回の騒乱が起こされるのならば、その混乱に紛れて亡霊の一機や二機を殲滅した所で、ミラージュ社が損害を被ることなどはない──そう上層部は判断したらしい。 そう言った経緯で我々は、派遣を決定された。 だが我々は──少なくとも私は、私自身の意思判断でこの地へ赴いてきた。そう確信している。 「第一種戦闘態勢はこれを維持。現戦域を離脱後、都市地下核部へ移動。──其処で、"友"を持つ」 「"友"──。何方ですか──?」 彼女の無垢なその問いに返答を遣すことはしなかった。代わりに、AMS接続を介して言葉にせぬ感情を示し、それを敏感に感じ取ったアンヘラは短く、「了解しました──」と言った。 "友"──。 歳月として言葉にしてみれば五年──あの頃で残っている最後の記憶は、見渡せる限りの全てが灼け堕ちた戦場だった。その残滓は戦場の一線に在り続けている自身の意識に焼き付き、五年という歳月を経てなお当時を思い出す者の心を痛く蝕む。 総勢数万の友軍を生かして安全圏へ離脱させる為、死地に取り置かれた60機の捨て駒部隊── 数日後、作戦終了まで生き残ったのは私を含めてわずか数人。 自身は母体組織であるミラージュ社に戻り、私を除いた他の者は全てミラージュ社を去って行った。 その"友"の一人が、閉鎖型機械化都市であるこの【エデンⅣ】で生存している。それは単なる噂に過ぎなかった。だが、理性の外側で確信していた。 全ての灼け堕ちた戦場の中で姿を消した"友"が──彼女が生きている。 彼女が本当にこの都市に存在し、今回の騒乱に"レイヴン"として現れたなら、自身はすぐに気づくだろう。"友"とは戦場で長い年月を共に過ごした。その程度は分かる。そして、彼女は必ず最後まで生き残る。 互いに違え過ぎた生き方に、今更その是非は問わない。 その時を迎える為、其処で"友"を待つと決意していた──。 「アンヘル様──。未確認勢力が一機、此方へ急速接近中です」 アンヘラのその言葉に埋没しかけていた意識を引き戻し、統合制御体に語りかけてすぐにインナー・ディスプレイに情報群を出力した。 「これは──。成程、本物の亡霊の使いか……」 この騒乱が醸し出す血の匂いに魅かれて、どうやら本物の亡霊もその使いを寄こしてきたらしい。 「機体駆動音及びその他解析情報から推測──未確認勢力、ネクスト兵器です──」 アンヘラがそう報告して間もなく、第一種戦闘索敵態勢にあるレーダーに表示されていた未確認機反応は北東の方角にあるターミナルエリアの運搬口から、ネクスト兵器特有の高い推力を持って滑りだしてきた。 その特徴的ながらも極めて見覚えのあるシルエットに軽く口許を歪め、通信回線をオープンで開く。 「成程……。亡霊共も騒乱の惨禍に魅かれて来たらしいな、──ファントムヘイズ?」 かつてジシス財団が支配企業群によって共同出資運営されていた頃、北欧某地のマーフア技術研究所で最初期に試験開発されたプロトタイプネクスト・ファントムヘイズは、カルディナと数百メートルの間隔を保って対峙する。そして、オープン回線に応えるように通信回線が接続された。 回線先から五年振りの声が届く。 『アンヘル──"グレイエンバー"の燃え滓が、此処に何の用だ?』 その言葉にアンヘルは口許を小さく歪めて笑んでみせる。ファントムヘイズの専属搭乗者として長らく兵器開発要綱に関わり、財団解体時にかの亡霊と共に姿を消したもう一人の離反者──そいつは全く持って何も変わっていなかった。 「変わらんな、お前は──」 AM07 53── 原始から初めて別たれた時、彼女は── 「お前に機会をやろう──」と、言った。 私は、それが私の何を指しているのか、その時に悟った── 与えられた私の生命が、何の機会を得たのかを── AM07 20── 「外から見ている。表に出るのはどうも苦手でな」 「うん。じゃあ、また後でね」 予備大会決勝の狂騒とは裏腹に落ち着いた表情のヴァネッサが、資材運搬用の昇降機で上昇していく様子を見送る。その小柄な少女の姿が見えなくなる直前、特定回線を通じて通信要請が入り、それを電子処理脳で受信したリサは回線を開いた。 『此方【バラハ01】──。所定を完結、此れより制圧業務に移行する。其方は?』 「──【バラハ03】、同様です。当該目標を捕捉。此れより制圧業務を展開します」 アリーナ施設外周部で同作戦に当たる【バラハ01】との定例通信規定をクリアし、昇降機が最上部まで到達した事を上昇稼働音の停止から確認。周囲で各々事後処理に当たるアリーナ運営委員会の職員達の姿を視界の隅に収めながら、リサは踵を返した。 今作戦──アリーナ予備大会を妨害する武装勢力の排除──については、アリーナ運営委員会における一般事務レベルには一切その事実関係が知らされていない。 詳細を把握しているのはグローバル・コーテックスの一部門とアリーナ運営委員会直属の私設部隊のみであり、実力部隊としてターミナルスフィアが自ら戦力を派遣した。 【バラハ03】──リサに与えられた任務は、既に内部潜伏を果たしていると推測される独立勢力の刺客を捜索及び捕捉し、要態勢に応じて是を無力化する事であった。先ほどリサと共に往き過ぎた連絡通路を道通りに遡り、二つ目の連絡通路の角を曲がった所で、そこに在った喫煙所に立ち寄った。 その喫煙所には既に先客がおり、委員会の事務員らしい濃恢色のスーツに身を包んだ壮年の男が紙巻煙草を持って一服していた。 灰皿ボックスを挟んで向かい側に近づき、自らもまた純白のダブルボタンスーツのポケットからパッケージを取り出した。嗜好品として愛用している紙巻煙草を抜き出し、備品の燐寸を過擦させて先端に紅点を点す。 地上施設の喧騒から遠く隔離された作業用連絡通路は静けさに満ち、先端の燃え差しが燻らせている燃焼音すらリサは耳にする事ができた。薄くすっきりとした味わいが特徴的な紫煙を肺腑へ浅く流しこみ、さほど時間をかけずに吐き出す。味わいと同じ性質をもつ紫煙は当たりを僅かな時間だけたゆたい、そのまますぐに何処かへと溶け込んでいった。 「癖のない味だな。オルメーダ──『エチェベリア』かね?」 居合わせた壮年の男性が発した言葉に対し、視線を向けずに自身の意識のみを向ける。此方に顔を向けてきていた訳ではないから、リサが吹かした紫煙の香りから紙巻煙草の銘柄を推測してみせたのだろう。 リサは平淡な態度を装い、片腕を組んだ立ち姿で再度紫煙を燻らせる。 「──ええ。よくご存知ですね」 「同地方の生産品は稀少だからな」 男性は短く補足する。意図的に省略された格好だが、リサには男性の言わんとしている事は軽く思考を巡らすだけで理解できた。オルメーダ地方とは、閉鎖型機械化都市【エデンⅣ】から南方へ遠く下った大陸東海岸部で縦横に延びる山脈地方一帯を差す。 オルメーダ地方は元々ミラージュ社系列の傘下企業体が領土の大半を保有していたが、五年前に始まった未曽有の騒乱──兵器災害によって経済管轄下から除外された。そんな身の上の地方は世界各地を見渡せばいくらでもあり、オルメーダ地方も言わば取るに足らないそんな一地方のひとつである。 ──ともかくオルメーダ地方には現在に至るまで現住民が僅かながら居住しており、彼らが生産する煙草は同地方の経済根幹となっている。生産量は当然ながら限られている為、遠く離れた場所──たとえば【エデンⅣ】まで輸入させるにはそれなりの代価と時間が必要となってくる。 稀少品であるが故に、返って分かり易いものだ──男性はそう言いたかったのであろう。 リサはその壮年の男が宿す性質を探り、彼が中々に聡明な人物であると考えた。 「貴方も良い煙草をお持ちのようですね。──『アベラルド』、中々手に入る物ではありませんよ」 「これは流石。定期輸送便で輸入されてくる品のひとつでね、月一しか入ってこないんだが。少ない楽しみの一つだよ」 男性が口許で転がす紙巻煙草も詳細などに関しては、リサが吸う『エチェベリア』とはさほど大差のないものである。嗜好品としては大変稀少な部類に入る品であり、それをこんな場末の喫煙所で遠慮なく吸っている所から見て男の"表上の"社会身分を計り知ることができる。だが、その点に限って言えば、それは大変な失策だとリサは判断した。まだ半分以上が残っている燃え差しのエチェベリアを脇の灰皿ボックスにねじ込み、改めて両腕を組み直す。淀みのない静寂が連絡通路一帯に降り、その奥かどこかから僅かに地上施設からわき上がる観客の歓声がフィルターがかかって届く。 「──聡明ついでに、この場は大人しくして貰えると助かるんだがな」 リサは敵意を内包せず、しかし与えられた任務を全うする一人の兵力としての言葉を男性に投げかけた。 口許で紙巻煙草を旨そうに転がしていた男性はその言葉に反応したらしく、若干驚いたような気配をよこしてくる。それから間をおかずして男性も若干短くなった吸い差しの紙巻煙草を灰皿に投げ捨てた。 「そういう君も中々のものだな。──これでは、【カラトラヴァ】とやらも程度が知れるものだ」 男性は先ほどの柔和な姿勢とは豹変し、リサと同じく精錬された兵士としての口調を持ち出す。 ──男が口にした【カラトラヴァ】が、今回コーテックスが主催する予備大会の妨害工作を実行しようとしてきている武装勢力であった。既に詳細は把握していたが、男は外部からカラトラヴァに雇いこまれた人間である。 施設内での内部工作に失敗しようが、雇われの人間ならば死んだ所で大した損失にはならない。 愚かな独立勢力が考えそうな姦計だと、リサは胸中で嘲笑した。 煙草を捨てたとは言え、壁にもたれかかるだけの姿勢は変わらず維持されている。が、男がその中から放つ明確な敵意の介在をリサは五感すべてで感じ取り、こちらの予備変動を察知されないよう応戦態勢へ身体機能を移行する。 リサの身体機能は白兵戦術における奇襲強襲及び威力偵察等、単独戦闘に最適化した強化内骨格兵装をほぼ全身に施術している。 男が先行態勢に入る前にその一類である前腕部内蔵兵装へ意思伝達し、強襲ナイフを前腕部から滑り出させた。肉厚の刀身を携えた得物の柄を握り込み、最大稼働率で出力したアクチュエータ機構を用いて予備動作を省いた先制を敵性目標の頚部へ滑りこませる。 得物は予測軌道通りに正確な一撃を見舞った。が、リサはそれを確認して尚、気を緩めることはしなかった。 「中々──。しかし、些か急ぎ過ぎのようだな」 男は指二本で蚊でも捕まえるかのような具合で刀身を受け止めていた。その姿勢を維持したままスーツの懐からソフトパックを取り出し、紙巻煙草を咥える。緩慢な動作の一連をリサが見届けたのは、その最中でリサに搭載されている感知センサー群が男の素性を即座に解析したからだった。 有視界に情報映像を出力するデジタルディスプレイに解析情報を出力し、男の詳細を瞬時に把握した。 「──似た者同士という訳か?」 「其れを容認する程無粋ではないつもりだよ。君のような若い身空の娘が、こんな職についているとはな……」 その達観したような壮年の男の言葉にリサは胸中で自嘲を強く含んだ笑みを浮かべた。その心中の変化を鋭く察したのだろう敵性目標と認定したカラトラヴァの刺客は、眉を軽く吊り上げてみせる。 右腕のアクチュエータ機構を最大効率で出力して握られた得物を強引に引き抜くと共に後方へ跳躍、そのリサの挙動に刺客は一瞬たりとも遅れることなく追随してくる。連絡通路の床上を滑走しながら着地したリサに、敵性目標の蹴りつけた喫煙ボックスが飛来し、視界を瞬く間に埋め尽くす。狭い連絡通路内での機動力による回避機動をリサは除外し、空いた左手を堅く握り込んで目前に迫る匡体を弾いた。 側面を大きく凹ませた匡体が勢いそのままに壁へ叩きつけられ、その影に迫っていた壮年の男がすぐ迫る。撹乱攻撃をいなされる事は予定の範疇だったのだろうと思わせる笑みを湛え、その両手には携行性を重視した薄型の強襲ナイフが其々握られている。 強化内骨格による余剰推力を乗せた突進攻撃を一歩引いて避け、その次に繰り出された頚部への切り払いを自身の得物を使っていなす。強化内骨格体でも補足し切れないと“思われる”急所へ応酬を繰り返し、数合ほどを軽く切り結び合う音が連絡通路に甲高く響く。 ハンガー施設に直結する進路とは別の連絡通路を渡ってその突き当りを目視した所で、敵性目標はその豊富な経験判断を活用してリサよりも一手早く動いた。 攻撃に合わせたステップの中にこれまで隠していたフェイントを多重に繰り入れ、それに一瞬ながらも翻弄されてしまったリサは直後の射突に反応が間に合わず、左手で強引に刀身を鷲掴んでしまった。刹那の間だったが互いの視線が交差し、間髪入れず男は左手に構えた刀身を頚部に向け突き入れる。 (ち──) その突き払いを身を屈めて回避した時、リサは完全に自身が後手に回った事を自覚し、それによって敵性目標への意識が僅かにでも遅れたことを呪った。 左手で掴んでいたナイフはそのままだったが敵性目標の男は自らの得物から手を放し、それによって姿勢制御が崩される。屈めた身体を後方へ退こうとしていた此方の挙動を的確に予測した男が、大胆にも大きく踏み込んで懐に入り込み、リサの首を掴んだ。 強化内骨格処置によって総重量は100キロ超に及ぶ彼女の身体が一瞬ではあったが宙に押しとどめられ、続いて繰り出された腹部への蹴りがリサの身体をいとも簡単に吹き飛ばした。 疑似痛覚は元より遮断していたが、身体が否応なく後方へ弾かれ突き当りの壁が背中に迫っているのをセンサー群が計測して伝達してくる。全身のアクチュエータ機構を総動員して姿勢制御率を浮上させ、軌跡反回転して壁を足場に身体を着陸させた。 「ほう──」 男の心底感嘆したような呟きを聴覚が捉え、とどめを刺すべく跳躍して追い縋ってきていた男を視界に捕捉。これ以上の交戦は作戦進行の上で意味がないと判断し、リサは足場を蹴りつけて側方へ跳躍した。同じく壁を足場に敵性目標が方向転換する刹那、リサは純白のタイトスカートから覗くすらりとした美脚を水平に持ち上げ、最大出力で稼働させた上で逡巡なく薙ぎ払った。 容赦なく肩から蹴りつけられた敵性目標が反対側の壁を粉砕し、床に降り立ったリサに一拍遅れて崩れ落ちる。ポーチから拘束用テープを取り出し、男の両腕を後ろ手に巻き付けて床に転がした。 武装解除された男を視線の隅に収め、電子処理脳から通信回線を開く。間もなくして回線が開かれ、 「此方【バラハ03】──当該目標を制圧、これを無力化した」 『此方【バラハ01】──了解。此方も当該目標を制圧。移送終了次第、作戦推移は此れを第二種戦闘態勢へ移行。──当該目標を移送の後、此方からの連絡を待て』 「了解。──アウト」 短いが必要充分な報告事項のみのやり取りを終え、強化内骨格のシステム群に意識を巡らせて身体状態を細かく確認していく。蹴りつけられた腹部内臓機能に目立った損傷はなし、各アクチュエータ機構群は此れを冷却処置完了。通常時機能に弊害なし。身体損耗率──0%。 デジタルディスプレイに出力した報告事項を完結し、リサは足元に転がした男を見下ろした。意識は途絶えていなかったのだろう、男は口許に苦い笑みを浮かべながら此方を見上げる。 「私も焼きが回ったという事か──」 「さあな。それを思い返す時間は此れからたっぷりとあるだろうさ」 ──【バラハ01】が制圧した本隊とは別に、ヴァネッサの命を狙って先行潜伏していたこの男の身柄は、然るべき事後処理を経てグローバル・コーテックスの安全保障部へ引き渡される。エデンⅣ最大の企業体を敵に回して不逞を働いた者の末路がどういうものか、男もそれを分かっているだろう。 エデンⅣ圏外に活動拠点を置く独立武装勢力【カラトラヴァ】も、妨害工作の失敗を知ったとなれば慌てて店仕舞いの準備を始める事だろうが、その時には既にグローバル・コーテックス直下の企業正規軍によって活動拠点もろとも焦土と化しているはずだ。企業利潤を害する単純勢力には、支配企業共は一切の容赦をしない。 それを失念していた事が、【カラトラヴァ】にとっての最大の失態だったといえる。 ──この男が任務を失敗した時に備えて外部待機していた本隊勢力の方も、既に其方に対応して派遣されたターミナル・スフィア派遣の対応戦力【バラハ01】によって制圧されている事は、先ほどの通信で確認済みだった。 【カラトラヴァ】の妨害工作は、完全に失敗した。 「その様子では、本隊の方も失敗したようだな」 「お前の雇い主達は、実に粗末だったよ」 「ふむ…・…。──すまんが、煙草を一本頂戴出来んか」 自らの死期を悟っているからなのかどうかは判然としなかったが、リサはその要求に応えてやることにした。しかし、うつぶせの男が嗜好している煙草のソフトパックはスーツの懐に在る。どうしたものかと一瞬考えていると、 「君の物で構わんよ」 男への警戒態勢を維持したまま、スーツの懐からケースを取り出して一本抜きだす。近くで膝を折り、男に咥えさせた煙草に燐寸で火を点した。 →Next… ③ コメントフォーム 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/achdh/pages/77.html
第十話/ /第十一話*② 第十一話 執筆者:CHU 曰く――幾多の大企業の本社ビルが置かれ、常に権謀術数が渦巻く坩堝。 曰く――他者を少しでも出し抜き、甘露にありつこうとする狸共の巣穴。 あらゆるシェルター都市を凌駕した堅牢な都市防衛機能――最早要塞とも呼べるレベルのそれを備えたエデンタイプコロニー。それがこの〈エデンⅠ〉だ。 グローバルコーテックスもまた、他の巨大軍需企業と相違無く〈エデンⅠ〉に本社を置いている。 そのコーテックス本社ビルの地下三階から地下九階は、『自衛と自社占有利益の確保』を標榜する《特殊技術戦力開発局》の研究棟となっている。完璧な防音処理が施された研究棟の一室で、今まさに密談が始まろうとしていた。 一人は青いロングコートに身を包んだ若い風貌の男――グローバルコーテックス専属レイヴンのスワローだ。 そしてもう一人は、特殊技術戦力開発局の局長であるディタ・エイジアだった。 本来、秘匿回線を用いれば『直接会う』必要はどこにもない。高度に量子暗号化された通信は、傍受される恐れもほぼ無い上、何より直接出向く労力も省けるのだ。にも関わらず、スワローはこういったミーティングの際に、相手方に直接出向く手法を執っていた。 有り体に言えば、スワローのナンセンスな行動は全て趣味だった。そうしたいから、単にそうするのである。 ただ、相手の都合を良く踏まえているため不満が出ることは稀で、むしろ女性相手には受けが良かった。 ディタもまたその一人である。 湯気の立つコーヒー(容物は実験用のビーカーだったが)を丁度二人を間仕切るように配置されたテーブルに置き、ディタが割合上機嫌な声色で口を開く。 「こうしてわざわざ会いに来てくれたのはいつ以来かしら?最近は新人のオペレーターさんにご執心な様だから――会えて嬉しいわ、スワロー」 「ボクもだよディタ。確か前に会いに来たのはICS導入実験の時だったかな?……いや、その前にディナーをご一緒した方が先か」 スワローが宙に視線を彷徨わせながら記憶を遡り応えた。 二人は仕事上の付き合いだけではなく、プライベートでも男女の付き合いがあった。 コーヒーで口を湿らせながら、ディタの目がスワローの左腕に向けられる。 「あら、怪我はもういいのかしら?」 先の作戦――クレストの新型ACとの交戦によって、スワローは重傷と言って差し支えない傷を負った。 異常速度による戦闘機動をGキャンセラー無しで行ったことに加え、ICSの特性上、機体ダメージの幾らかがパイロットにフィードバックされてしまうためだ。 スワローをガレージで出迎えたスタッフの中に、医療チームと担架が用意されていた事を考慮すれば、今ここにスワローが何食わぬ顔で座って居る方が異常なのだ。 常人なら良くて意識不明の重体、普通は死んでいてもおかしくはないダメージだった。 本来ならば包帯でミイラのようにぐるぐる巻きにされ、病室のベッドで絶対安静にせねばならない程の損傷を、スワローは一週間で完治してみせた。 それはこの男に施された強化手術に依る恩恵だった。 骨格の八割をセラミックとチタンの複合強化骨格に置き換え、体内にある何百億ものナノマシンが代謝機能や自然治癒力を数十倍にも高めている。内臓も全て人工器官に変え、強化筋繊維があらゆる衝撃に対して強い抵抗性を発揮している。 そういった、真っ当な人間としての生を捨て去った代償に得た報酬だ。 スワローは昨日までギプスで固められていた左腕をぐるりと回して見せる。 「この通り。もう大丈夫だ」 「そう、なら良かったわ」 ディタもスワローの身体の事は重々承知している。要するに彼女なりの軽口だった。 お互いに軽い挨拶を済ませ、仕事の顔付きになる。 口火を切ったのは、つい昨日発生した〈エデンⅣ〉へのパルヴァライザー進攻についてだった。 「既に貴方の耳にも届いていると思うけど、昨日の早朝に〈エデンⅣ〉が統制されたパルヴァライザーの襲撃を受けたわ。丁度アリーナの予備大会決勝中だったこともあって事態は相当深刻なようね」 「そのようだね。ボクもコーテックスのお偉方に引っ張りだこだったよ。どこのセクションもてんやわんやの大騒ぎ。寝る間も惜しんで報告書に目を通さなくちゃならなかった」 「あらあら、妬けるわね。大した人気じゃないの色男さん?」 「茶化さないでくれよディタ。鎮圧したとは言え、重軽傷者死亡者合わせて二六〇人――死亡者の内レイヴンは二名。都市機能は完全に麻痺し現在も復旧作業中。外壁には巨大な風穴が開けられて、これに至ってはまだ手付かずだ。コーテックスにとって今回の襲撃は、致命とも言える計り知れない損害さ」 「大変だったのは良く分かっているわ、ごめんなさいね。でも、貴方の関心は別の所でしょう?」 スワローは痛い所を突かれたといったように大仰に肩を竦めた。 「っま、その通りさ。今回の一件で幾らの損失額が出ようが余り興味は無い。それよりもパルヴァライザーを指揮していた『赤いAC』。……ボクにはこちらの方が重要だ」 多数の目撃証言から、今回の襲撃を統率していたとされるACの存在が明らかになっていた。 「【ナインボール】――恐らくAI機体だろうがね。パルヴァライザーを指揮していたことに間違いは無い」 「だとするとやはり統一政府が……?」 「断定しても問題は無い……と思う。一応ボクもお偉方にはそう報告してある」 【統一政府】――既に形骸化していると目されているが、各巨大軍需企業やコーテックスなどの依頼仲介企業を、名ばかりではあるが統括管理する組織だ。 五年前のジシス財団解体の際、プロトタイプネクストである【ナインボール・セラフ】と量産型ナインボールを持ち去ったとされている。 「でも相手が統一政府にせよ理由が不明のままだわ。コーテックスに『NEXT』の臭いを嗅ぎつけたにしても、〈エデンⅣ〉は無関係だもの」 ディタの言い分もまた然りである。 コーテックス社が多大な出資をして都市の利権を一人勝ちしているとは言え、〈エデンⅣ〉に暗部は無い。 対立する企業ならともかく、統一政府に狙われるような理由は見当たらない。 それ故、今回の襲撃事件には謎が多いのだ。 すると、そこまで黙ってビーカーの縁を見つめていたスワローが口を開き、思っても見ない事を言い出した。 「……案外、居るのかもしれない」 「え?」 「〈エデンⅣ〉に生体CPUが居るかもしれない」 「ち、ちょっと待ってスワロー。順序立てて説明して」 言うに事欠いて何を言い出すのか、この男は。 ディタは困惑した。 「〈エデンⅣ〉に生体CPUが居るとすると、今回の襲撃の辻褄が合う。統一政府はその生体CPUを狙ったのだろう」 「でも〈エデンⅣ〉で旧世代施設なんて発見されてない――」 「そうじゃないよディタ」 スワローは苦笑しながら、弟子に教えを聞かす賢者の様に根気よく語った。 「旧世代施設があり、そこから発見されたわけじゃなく、既に誰かが他の場所から入手したと考える。つまり匿っているんだ。匿えるだけの地位と力を持った誰かが」 「……それなら確かに説明は付くわね。そしてある程度、その『誰か』は絞れるとは思う。……でも根拠はあるの?」 それが問題だった。 スワローが今言った事は、机上の空論――根拠の無い眉唾話かもしれないのだ。 「南方にミラージュ社領アディオン地域があるだろう?そこで頻繁に【赤いAC】が武力介入している」 「それは知っているけど、本件と一体どんな関係があるというの」 「その【赤いAC】が出没しているアディオン地域のケレト大断崖で、新しく生体CPUが発見されたそうだ」 「なっ……!」 スワローの語る、その計り知れない情報価値に絶句する。 生体CPUは、あらゆる軍事関係機関が、喉から手が出る程渇望しているものだ。 その存在を巡り、いつ戦争が起きてもおかしくはない。 そして、その生体CPUが発見されたという場所に【赤いAC】が武力介入している――。 「これらの要素を全て偶然で片付ける程、ボクはお人好しでは無いつもりだ」 「あ、貴方の言う通りなら、……ええ、確かに全て符合するわ。でもそんな情報一体ドコから……?」 「なあに、古いツテからの情報さ。――ただ、信用の置ける筋であるのは間違いない」 スワローに気取った様子や、からかっている様子はない。 「ボクは〈エデンⅣ〉に生体CPUが居た、もしくはまだ居る可能性は高いと見る。何故なら、そう考えるのが一番自然だからさ」 そう言ってコーヒーに口を付ける。 ディタには目の前に座るこの男が、幾年月を経た本物の賢者の様に映った。 「コーテックスが貴方を必要としている理由――何となく解る気がするわ」 両手を上げながら、ディタが自嘲気味の笑みを見せた。 「買い被り過ぎさ」 泰然としているスワローであったが、心中は穏やかではなかった。 今まで表舞台には姿を見せなかったその統一政府が、今回の一件の裏で糸を引いているらしい。 どうにもきな臭い話に、スワローは言い知れぬ悪寒を感じずにはいられなかった。 二人は簡単に近況報告を終えると、いよいよ本題に入った。 内容は勿論クレストのパルヴァライザーもどきについてである。 「戦闘データを見る限り、先日貴方が交戦したクレストの新型にネクスト技術が使われているのは間違いないわ。ただ外装がパルヴァライザーに似ていたというのが気掛かりなのよね…」 コホンと一つ咳払いをして、ディタがコーヒー入りのビーカーを弄ぶ。 「ここからは私の推論だけど…」 「構わないよ。聞かせてくれ」 「可能性としてはまず情報の誤認狙い。ネクスト機体ではなく、あくまでもパルヴァライザーの系譜と見せ掛けるため――言ってみれば隠蔽ね。……まあ、貴方にはあっさり看破されたようだけど」 スワローの頭に戦闘中のライラの様子が浮かんだ。 「ふむ、確かにボクの可愛いオペレーターはパルヴァライザーだと勘違いしてたね。ネクストがどういったものか知らない人間からすれば、アレをパルヴァライザーと見間違えるのも無理はない」 「ええ、だから可能性としてはこれが一番高いと思うの。万が一目撃者が出たとしても、良く分からないがパルヴァライザーの改造機だろうと解釈させることで、本質を見えなくさせることが出来る。ネクスト技術はそれだけ秘中の秘ってことね。私達の【ARROWS】だって同じことが言えるのだから。」 確かに【ARROWS】は本来中量二脚だが、捨脱可能な増設装甲を取り付けることで重量二脚機体としてカムフラージュしてある。 「ボクもそれは思い付いたよ、確かに理には適っているからね。ただ君の言い方だとまだあるみたいだけど?」 対面に座るディタを見やる。 いつもの不敵な姿はなりを潜め、自信なさげに言い澱んでいた。 「君の意見なら何でもいいさ。聞かせてくれ、ディタ」 スワローに促され、渋々といった面持ちで考えを述べ始めた。余程確証の持てない話を口にするのは嫌らしい。 「…可能性は低いと思うけど、マルチハイブリッドなのかもしれないわ」 「どういうことだ?」 耳慣れない単語である。 思わず聞き返していた。 「クレストの新型は、パルヴァライザー・ネクスト技術・ノーマル技術、この三つが融合した機体かもしれないの。…ああ、ノーマルというのは我々ネクスト研究者の造語で既存ACのことね」 かつて古代の技術と現代の技術が融合した、既存のあらゆる兵器をも凌駕する機体が開発された。 もっとも、機体は強奪され、現在は行方知れずだが。 ただスワローやディタにとっては馴染み深い機体である。その機体――それは、 「馬鹿な、それではまるで――」 「――新しいナインボール、とも言えるわね」 ただし、とディタが付け加える。 「その可能性は低いと最初に言ったわ。ナインボールの開発は、各分野最高の技術を持った研究者が揃って初めて成し遂げられたの。いくらクレストの技術が優れているとしても、独自の力だけでは不可能なはずよ。」 クレスト如きに自分が携わったAMSやIRSと同等の物が造れるはずがない――ディタからはそういった自信が伝わって来る。 結局結論を出す根拠は自分の力量とプライドに依るのだろう。 そのことにスワローは苦笑するが、ディタの能力を高く評価しているのも事実だ。 彼女の意を汲み、ひとまずこの案件はここまでとする。 「分かった。では先日の報告は以上だ。また何かあれば追って連絡して欲しい。ボクはこれから新人の試験に立ち会わなければならないのでね、準備があるため失礼するよ」 席を立とうと腰を浮かすと、ディタに呼び止められた。 「あっ、ちょっと待ってスワロー。こちらから通達がまだあるのよ」 ディタはデスクの引き出しから一枚のデータディスクを取り出し、それをスワローに手渡しながら努めて事務的に告げる。 「【ARROWS】には今ICSが組み込んでありますが、これをAMSに換装しての起動実験を行います。そのため、現在【ARROWS】は換装作業中につき使用は禁止。換装作業の間は【ベルフェゴル】を使用して下さい。それと、脳波増幅装置を埋め込むのと、AMSの負荷を低減するために、……貴方の脳と脊髄神経に強化手術も行います。実験の詳細や手術の日程もその中に明記してあるので必ず目を通しておいて下さい」 そこで一旦切り、申し訳無さそうに目を伏せた。 「生体CPUが居たらこんな手術必要ないのだけれど。ごめんなさいスワロー……。また貴方を人間では失くしていってしまうわね」 「構わないさ。あの子を失った時、僕自身が決意したことだから」 そう言って顔を近付け、ディタの頬に優しくキスをする。 だがディタの表情は暗いままだ。 研究者としての責務と、人としての良心の呵責に板挟みになり、苛まれているのだろう。 だからスワローはこう言うのだ。気にするなと意を込めて。 「なら、今度また飲みに付き合って欲しいな。それで恨みっこ無しとしよう。ね?」 片目を瞑りおどけてみせる。 そしてようやくディタの顔に笑みを作ることに成功した。 「ええ、そんなことで良いならいくらでも」 フフッと、微かな笑い声が聞こえた。正に微笑という程度のものだったが、美女の笑顔は何よりにも勝る報酬だ。 「よし、決まりだ。ボクはもう行くけど、楽しみにしててよ。旨い酒の店を探しておくからさ」 席を立ちディスクをコートのポケットに入れる。 頭は既に仕事のために切り替えた。 「それじゃ行ってくる」 「いってらっしゃい。私も楽しみにしてるわ、スワロー」 片手を上げて応え、部屋を出る。 次の仕事――新人レイヴン試験の詳細を頭に浮かべながら、コーテックスの廊下を社有ガレージに向かって早足で歩く。 浮ついた気持ちは既に無く、この切り替えの早さも、レイヴンがレイヴンたる所以である。 →Next… ② コメントフォーム 名前 コメント