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ウルフハース王 五つの歌 ショールの舌 ウルフハース王の最初の歌は太古のもので、およそ第一紀の500年頃に書かれたものとされている。グレヌンブリアの沼地にてアレッシア派の軍勢が打ち破られ、その戦いでホアグ・マーキラー王が倒されると、アトモラのウルフハースが族長会議によって選ばれた。彼のスゥームが非常に強かったため、口頭で宣誓をするわけにいかず、誓いの儀は書記を介して実施されたとされている。書記たちは戴冠直後にウルフハース王による最初の布令、すなわち伝統的なノルドの神々の業火による復権である。旧態の信仰は違法とされ、僧侶たちは火あぶりに処せられ、その聖堂には火が放たれた。以後、ボルガス王の影響が一時的に弱まることになった。その狂信ぶりにより、ウルフハース王はショールの舌、北方の竜イスミールなどの異名で知られるようになった。 カインの息子 ウルフハース王の二番目の歌は、彼の偉業が古き神々にとっていかに好ましきものであったかを讃えたものであり、ウルフハースが東方のオークたちと戦い、その族長を声の力で地獄送りにした様子や、竜によって傷つけられたハイ・フロスガルの418番目の段を再建した話が盛り込まれている。彼が配下の軍勢が風を引かないように雷雲を飲み込んだことにより、ノルドたちはウルフハースをカインの息の異名で呼ぶようになったとされている。 戸を叩く老人 ウルフハース王の三番目の歌は彼の死に様を歌ったものである。敵側の神であるオルケイは以前からノルドたちを破滅に導こうと画策しており、アトモラでも彼らの年齢を奪ったりしていた。ウルフハース王の強大さを目の当たりにしたオルケイは、再び時喰らいしアルドゥインの亡霊を呼び寄せる。これによりノルドたちのほとんどは年齢を喰われ、六歳児の姿となってしまう。少年となったウルフハースは今は亡き神々の族長であるショールに、ノルドたちを救うように嘆願する。ショール自身の亡霊がこれに応じ、時の始まりでそうしたように霊魂の次元にてアルドゥインと対決して勝利し、オルケイの臣下であるオークたちを破滅に追い込む。天での戦いを見ていた少年ウルフハースは新たなスゥーム、「巨竜をかように揺らせばどうなるか」を体得する。彼はこの新たな力を使ってノルドたちを正常な姿に戻すが、一人でも多く救おうと焦る中で自らの年齢を戻し過ぎてしまい、グレイビアードたちよりも高齢となり、死んでしまうのであった。ウルフハースの火葬の際の炎はカインの炉にすら達したとされている。 灰の王 ウルフハース王の四番目の歌は彼の復活を歌ったものである。東方の王国のドワーフと悪魔たちが再び戦いを始め、ノルドたちはそれをきっかけにかつての領地を奪い返せないかと目論み始める。侵攻が計画されたものの、率いてくれる強大な王がいないために見送られてしまう。そこへダゴスの悪魔が登場し、敵意は無いと言い張り、ノルドたちに素晴らしき話を聞かせる。神々の族長ショールの心臓の在り処を知っているというのだ。ショールは遥か昔にエルフの巨人たちに殺され、その心臓はノルドたちに恐怖をうえつけるために旗の一部として使われたのだった。この策は当初功を奏していたが、イスグラモルが皆を正気に戻すと、ノルドたちは反撃に転じたという。自分たちがいずれ敗北することを悟ったエルフの巨人たちは、ノルドたちのもとにその守護神が戻ってしまわないよう、ショールの心臓を隠してしまったのであった。ダゴスの悪魔がもたらしたのはそれほどの朗報だったのである。彼によればショールの心臓は東方の王国のドワーフと悪魔たちが手にしており、最近の動乱はそれが原因になっているとのことだった。ノルドたちがダゴスの悪魔にかように仲間を裏切る理由を問うと、悪魔は同族の者たちは時の始まり以来お互いを裏切り続けてきており、これもその一環だと答え、ノルドたちもそれを信じた。「舌」たちがその歌でショールの亡霊をこの世に再び呼び寄せると、ショールは昔同様に軍勢を集め、撒かれて久しいウルフハース王の遺灰を集めて再生させた。これはショールが有能な武将を配下に欲したからであるが、ダゴスの悪魔もその武将の役をくれと懇願し、聖戦の担い手としての自らの役割を強調した。これによりショールは灰の王とダゴスの悪魔の両方を武将として傘下にかかえ、スカイリムの息子たち全員を引き連れて当方の王国へと進軍したのである。 赤き山 ウルフハース王の五番目の歌は実に悲劇的なものである。災厄の生き残りたちは赤い空のもとに帰ってきて、その年は太陽の死と呼ばれることになった。ノルドたちはダゴスの悪魔に騙されたのであった。ショールの心臓は東方の王国では見つからず、そこにあった事実すらなかったのである。ショールの軍勢が赤き山に辿り着くやいなや、悪魔とドワーフたちが大挙して襲いかかってきたのである。敵の妖術師たちが山を持ち上げてショールの上に落とし、ショールは時の終わりまで赤き山の下敷きになってしまう。スカイリムの息子たちは惨殺されてしまうが、その前にウルフハース王がドワーフオークのドゥマラキャス王を倒し、その一族の破滅を不可避として一矢報いた。その後、悪魔のヴェクが灰の王を地獄へと送り、戦いは終焉を迎えた。しばらくの後、カインがイスミールを地獄から救い、その遺灰を天へと持ち上げ、息子たちに裏切りによって流された血の色を見せたのである。そしてノルドたちはあれ以来、二度と悪魔を信用することはなくなったという。 *** 灰の王ウルフハースの秘密の歌 赤き山の真実 ダゴス・ウルが約束した通り、ショールの心臓はレスデインにあった。ショールの軍勢は内海の最も西方にある沿岸に近づき、その向こうにドワーフの軍が集結する赤き山を見た。斥候からの報告によると、ダークエルフの軍はナルシスを出発したばかりで、ノルドたちと戦うドワーフ軍に加勢するにはしばらくかかるだろうとのことであった。ダゴス・ウルの話では裁官たちが王の信頼を裏切り、ダゴス・ウルをロルカーン(レスデインでのショールの呼び名)のもとへと送り、荒ぶる神がドワーフたちの不遜に鉄槌を下すことを期待したそうだ。ネレヴァルとドワーフたちの和平こそが、ヴェロシの法の破滅に繋がるのだと。ダゴス・ウルいわく、それこそがダークエルフの集結が遅い理由なのだと。 増強される軍勢 そしてロルカーン(レスデインでのショールの呼び名)は言った、我がドワーフ共に復讐の鉄槌を下すのは、裁官たちが思うような理由のためではない。とはいえ、奴らが奴らに味方する輩共々、我が手で死ぬことに変わりはない。ネレヴァルとやらは、最も強大なパドメイの一人であるボエシアの息子である。彼は裁官たちが何と言おうと同族にとって英雄であり、十分な数の兵を集めて激しく抵抗してくるであろう。我々にも増援が必要だ。すると、裁官たちと同じくらいドワーフ共を死なせたいと欲していたダゴス・ウルがコゴランへと赴き、ダゴス家のチャプティル、ニクスハウンド、魔術師、弓兵、そして奪取した黄銅人たちを呼び集めた。そして灰の王ウルフハース、白髪のイスミールは、そのノルドの血を抑えてオークたちと和平し、多くの戦士を得たものの魔術師はまるでいなかった。赤き山を目前にしてもなお、ノルドたちの多くは宿敵と手を組む気にはなれず、戦意を捨てる寸前にあった。そこでウルフハースは言った。自分のいる場所がわからんのか? ショール様が誰なのか知らんのか? この戦争の意味がわからんのか? すると兵たちは王から神から悪魔たちからオークたちへと見渡して、その何人かは理解し、それも心底理解し、その何人かこそがその場にとどまったのである。 破滅の太鼓 ネレヴァルは月の影の音から作られた、キーニングなるダガーを身につけていた。彼のそばには神のものとおぼしき大槌を携えたドワーフの王デュマクと、アズラの息子であり、亡霊の鎧を着込んだ不死身のアランドロ・スルがいた。彼らは赤き山の最後の戦いでロルカーンと対決した。ロルカーンは心臓を取り戻していたが、長い間離れていたため、時間を必要としていた。ウルフハースはスルと戦ったものの、スルに打撃を与えることができず、重傷を負って倒れたが、その前に叫びによってスルを失明させた。ダゴス・ウルはデュマクと戦い、これを倒したが、その前にサンダーが主君の心臓に命中していた。ネレヴァルはロルカーンに背を向け、怒りに任せてダゴス・ウルを打ち倒したが、逆にロルカーンから致命傷を受けてしまった。だがネレヴァルはこの早すぎる死を偽装し、ロルカーンの脇腹に不意打ちを喰らわせた。調律の力をもつサンダーの一撃によりロルカーンの心臓は固化しており、ネレヴァルはキーニングでこれを切り出すことができた。心臓を切り出すとロルカーンは倒され、万事が終焉を迎えたように思われたのであった。 歴史・伝記 紫1
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狼の女王 第3巻 ウォーヒン・ジャース 著 筆:第三紀1世紀の賢者モントカイ 第三紀98年 今年も残りあと2週間というとき、皇帝ペラギウス・セプティム二世が逝去した。「北風の祈祷祭」のさなかの星霜の月15日のことで、帝都にとっては悪い兆しだと考えられた。皇帝が統治した17年間は苦難の連続だった。枯渇した財源をうるおそうと、ペラギウスは元老院を解散させ、その地位を買い戻させたのだ。有能だが貧しい評議員を何人か失った。皇帝は復讐に燃える元老院のメンバーによって毒殺されたのだ、多くのものがそう口にした。 亡き父の葬儀と新皇帝の戴冠式に出席するため、皇帝の子供たちが帝都にやってきた。末っ子のマグナス王子は19歳で、アルマレクシアから帰郷した。彼はそこで最高裁判所の審議官を務めていた。21歳になるセフォラス王子はギレインからレッドガードの花嫁、ビアンキ王女を連れて帰ってきた。長男のアンティス王子は43歳になる推定皇位継承者で、父とともに帝都で暮らしていた。最後に現れたのは、「ソリチュードの狼の女王」と呼ばれる一人娘のポテマだった。30歳になるまばゆいばかりの美女で、壮観な従者の一団を連れて、初老のマンティアルコ王と1歳になる息子のユリエルとともにやってきた。 当然のことながら、アンティオカスが皇位を継ぐものと思われていた。狼の女王に何かを期待するものはいなかった。 第三紀99年 「今週になって、毎日夜中近くに、ヴォッケン卿が数人の男をポテマ様の私室に連れ込んでおりました」と、諜報参謀は言った。「ご主人にそれとなく気づかせればおそらく──」 「ポテマは征服の神、レマンとタロスの信奉者だ。愛の女神、ディベラではない。その男たちと乱交に及んでいるのではなく、何かを企んでいるのだろう。誓ってもいいが、妹よりも私のほうが男とベッドをともにした経験が豊富だろう」アンティオカスはげらげらと笑ってから、真剣な顔つきになった。「元老院が戴冠を先延ばしにしている裏では妹が絡んでいるのだろう。まちがいない。もう6週間になる。書類の更新と戴冠式の準備に時間がかかるということらしいが。皇帝はこの私だ! 堅苦しいことは抜きにして、冠をかぶせてくれ!」 「たしかにポテマ様はあなたの友人ではございませんが、要因は他にも考えられますぞ。お父上がいかに元老院を冷遇されたか、お忘れではあるまい。警戒すべきは彼らのほうでしょう。必要とあらば、手荒い説得もやむをえませんな」諜報参謀はそう言うと、意味ありげにダガーを突いてみせた。 「かまわん。が、めざわりな狼の女王にも見張りをつけておけ。私がどこにいるかはわかってるな」 「どちらの遊郭でしょうか?」と、諜報参謀は訊いた。 「今日は金曜ゆえ、『猫とゴブリン』であろう」 ポテマ女王のもとに訪問者はなかったと、諜報参謀はこの夜の報告書に書きこんだ。というのも、ポテマは御苑の向かいにある蒼の宮殿で、実母であるクインティラ女帝と夕食をとっていたからだった。冬にしては暖かい夜で、昼間の嵐が嘘のように空には雲ひとつなかった。地面はたっぷり水を吸い込んでいたため、格式ばった庭園は水を撒いたあとのような光沢を放っていた。二人はワインを片手に広いバルコニーに向かい、地上を見下ろした。 「腹違いの兄さんの戴冠を妨害しようとしてるわね」と、クインティラは視線を合わさずに言った。時の流れは母親にしわを刻んだというよりも、しおれさせてしまっていた。そう、石に描かれた太陽のように。 「そのつもりはないわ」と、ポテマは言った。「でも、そうだと言ったら心が痛む?」 「アンティオカスは私の息子じゃないわ。私があの人と結婚したとき、アンティオカスは11歳だった。それからずっと疎遠なまま。あの子は推定皇位継承者になったせいで成長が止まったのよ。家庭を築いて立派な子供たちがいてもおかしくない年齢なのに、あいかわらず道楽と女遊びにふけってる。立派な皇帝にはなれないわ」クインティラはため息をついて、ポテマのほうを向いた。「けど、不満の種を撒いても家族のためにはならない。派閥に分かれるのは簡単だけど、絆を結びなおすのはとても難しい。帝都の未来が心配だわ」 「そんなことを言うなんて── お母さん、ひょっとしてもう長くないの?」 「凶兆が見えたわ」クインティラははかない、皮肉めいた笑みを浮かべた。「忘れないで、私はカムローンでは高名な妖術師なのよ。私の命はあと数ヶ月。それから一年もしないうちに、あなたの夫も亡くなるわ。心残りがあるとしたら、成長したユリエルがソリチュードの王になるところを見届けられないことね」 「お母さんには見えたのかな──」ポテマは言いよどんだ。自分の計画をぺらぺらと話すべきではなかった。その相手が、死にかけている母親であっても。 「ユリエルが皇帝になれるかどうかって? その答えもわかってるわ。心配しないで。あなたはその答えを見届けられるわ、いずれにしても。ユリエルに贈り物があるわ、大人になったときのために」女帝は大きな黄色の宝石がひとつ埋め込まれたネックレスを首から外した。「魂の宝石よ。雄々しい人狼の霊魂が吹き込まれているの。私とあの人が36年前に戦って倒したのよ。幻惑系の魔法をかけてあるから、着用者は望んだ相手を魅了できるわ。王様にはもってこいのスキルでしょう」 「皇帝にもね」ポテマはネックレスを受け取った。「ありがとう、お母さん」 一時間後、手入れされた一対の植え込みから伸びる黒い枝の脇を通りすぎたとき、ポテマは不穏な影に気づいた。その影は私室へと続く小道に立っていたが、ひさしの落とす闇の中へ消えた。あとをつけられていることには気づいていた。宮中の生活にはこうした危険がつきまとう。が、この影は彼女の私室に近づきすぎていた。ポテマは首のネックレスにそっと指をすべらせた。 「姿を見せなさい」ポテマは命じた。 男が暗がりからすっと出てきた。浅黒い小柄な中年の男で、黒く染めたヤギ皮をまとっていた。視線は凍りついたようにじっと動かない。魔法がきいているのだろう。 「誰に命じられたの?」 「わが主人、アンティオカス王子」と、男は死人のような声で言った。「私は王子のスパイ」 ある計画を思いついた。「王子は書斎にいるの?」 「いいえ」 「鍵は持ってるの?」 「はい、女王様」 ポテマは満面の笑みを浮かべた。この男はもう私のものだわ。「案内してちょうだい」 翌朝、またもや嵐が吹き荒れた。たたきつけるような風雨が壁や天井を打ち鳴らし、アンティオカスを苦しめた。昨晩遅くまで痛飲したのだが、若かりしときのように二日酔い知らずというわけにはいかないらしい。彼はベッドをともにしているアルゴニアの娼婦を激しく揺さぶった。 「たのむから窓を閉めてくれ」と、アンティオカスはうめいた。 窓が閉められるやいなや、扉にノックの音がした。諜報参謀だった。王子に微笑みかけると、一枚の紙を手渡した。 「こいつはなんだ?」と、アンティオカスは横目で見ながら言った。「まだ酔いがまわってるらしい。オークの字みたいに見えるよ」 「きっとお役に立ちましょう。ポテマ嬢がお見えになられていますぞ」 アンティオカスは服を着ようか娼婦を追い出そうか迷ったが、思いなおした。「部屋に通せ。あいつをカチンとこさせてやろう」 ポテマがカチンときたにせよ、表情には出さなかった。オレンジとシルバーのシルクにくるまって、勝ち誇った笑みを浮かべながら部屋に入ってきた。人間山脈ヴォッケン卿がすぐあとをついてきた。 「こんばんは、兄さん。昨晩、お母さんと話してね、とっても知的なアドバイスをいただいたの。公の場では兄さんと戦うなと言われたのよ。家族と帝都のためを思って。そういうわけで──」そこまで言うと、法衣のふところから一枚の紙を差し出した。「兄さんに選ばせてあげるわ」 「選ぶ?」アンティオカスは笑みを投げ返した。「それはどうもご親切に」 「皇位をみずから放棄してちょうだい。そうすれば元老院にこれを見せる手間がはぶけるわ」ポテマは義兄に手紙を手渡した。「兄さんの印章つきの手紙よ。自分の父親がペラギウス・セプティム二世じゃなくて、宮廷執事のフォンドウクスだってことを兄さんは知っていましたって告白してあるの。さあこれで、この手紙を書いたかどうかを否定するまでもなく、兄さんは噂を否定できなくなるわ。それに、元老院はきっと、あの元皇帝なら奥方を寝取られてもさもありなんと信じるでしょうね。にっくき相手だもの。真実がどうあれ、手紙がいんちきであろうとなかろうと、このスキャンダルで兄さんが皇帝になれるチャンスは吹っ飛ぶわ」 アンティオカスは青ざめた顔で憤っていた。 「心配ないわ、兄さん」ポテマは兄の震える手から手紙をひったくった。「快適な隠遁生活を送れるようにしてあげるから。心が望むだけ、その下半身が望むだけ、娼婦をあてがってあげる」 と、アンティオカスはいきなり笑い出すと、諜報参謀に目配せした。「そういえば、私がこっそり隠していたカジートの春画を見つけ出して、脅迫してきたことがあったな。かれこれ20年も前になるか。おまえも気づいたはずだが、最近は鍵もかなり進歩しててね。自分の力では望んだものが手に入らないとわかって地団駄を踏んだことだろうな」 ポテマはただ笑ってみせた。だからなんだっていうの。もうこっちのものだもの。 「ここにいる私の従者を魅了してまんまと書斎に入り込み、印章を使ったんだな」アンティオカスはにやにや笑った。「呪文を使ったか。魔女の母親に教わって?」 ポテマはひたすら笑みを浮かべていた。義兄は思ったよりも頭が切れるわ。 「魅了の呪文は、どんなに強力なものでも、後に効力が消えることを知っているか? もちろん、知らなかったろう。魔法はおまえの得意とするところじゃなかったからな。ひとつ教えてやろう。長い目で見れば、呪文をかけるより、俸給をふんぱつしたほうが奉公人はより長い間仕えてくれるものさ」今度はアンティオカスが一枚の紙を取り出した。「それでは、おまえに選択肢を与えよう」 「どういうこと?」と、ポテマは言った。笑顔はしおれかけていた。 「意味不明なものにしか見えないが、心当たりがあるならはっきりとわかるだろう。練習用紙だよ。私の筆跡に似せようとしているおまえの筆跡でいっぱいの。いい贈り物をもらったよ。以前にもやったことがあるんじゃないのか、他人の筆跡をまねたことが。そういえば、おまえの旦那の亡くなった奥方が書いたとされる、夫婦の第一子は婚外子と告白した手紙が見つかったそうだな。その手紙もおまえが書いたんじゃないのか。おまえがくれたこの証拠を旦那に見せたら、あの手紙もおまえが書いたものだと信じるかもしれないな。いいかね、狼の女王。今後いっさい、同じような罠をしかけようなんて思いなさんな」 ポテマはかぶりを振った。はらわたが煮えくり返ってしゃべることもできなかった。 「そのいんちきの手紙をよこすんだ。で、ちょっと雨にでも打たれてくるといい。そして、のちほど、私を皇位につかせないためにおまえがどんな陰謀をたくらんでいたのか白状してもらうとしよう」アンティオカュスはポテマをまっすぐに見すえた。「私は皇帝になるつもりだよ、狼の女王。さあ、行くがいい」 ポテマは義兄に手紙を手渡すと、部屋を出ていった。廊下に出てからしばらく、言葉が出てこなかった。大理石の壁についた目に見えないほど細かい裂け目からしたたり落ちる銀色の雨水をじっとにらんでいた。 「ええ、皇帝になるがいいわ」と、ポテマは言った。「けど、いつまでもというわけにはいかない」 物語(歴史小説) 茶2
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曝されし手掌の道 未熟な拳闘家は、太鼓をたたくように拳をやたら振りまわして敵をぶちのめすものだ。甚だ無様な勝利である。曝されし手掌の道とは、それよりもはるかに洗練されていて、危険極まりないものだ。 ひとつ問いを与えよう。ある男の胸を一枚の大皿で引っぱたいた。小さなあざができるが、怪我らしい怪我はそれだけだ。そこで大皿を割ってその破片を手にとり、同じだけの力でもって男の胸を突き刺した。今度ばかりは男も死ぬか重傷を負うだろうが、なぜなのか? どうして大きな皿より小さな破片のほうがひどい傷を負わせられるのか? この質問の要点がそのまま、曝されし手掌の道の最初の指となる。手掌の指は五つある。集中、反応、均衡、速力、呼吸の指だ。素手による戦闘をきわめるには、これらの五つの指をすべて究めなければならない。 男と大皿の話は、「集中」の指の比喩である。すべての殴打は一点に集中させることで威力を増す。拳全体で打ち抜くよりも、親指だけで攻撃したほうが致命傷を負わせられるが、厳しい訓練を積んだ戦士にしかできない芸当だ。 「集中」はまた、自分がなすべきことだけを考えるための精神的鍛錬も意味する。究極的な目標をいつも見すえていれば、意志が雑念に揺らぐことはない。真なる戦士は、痛みすら遮断することができる。 兵法・戦術 茶2
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バレンジア女王伝 第1巻 スターン・ガンボーグ帝都書記官 著 第二紀の後期、バレンジアはモーンホールド王国(現在の帝都州モーンホールド)の王女として生まれた。バレンジアは5歳まで、ダークエルフの王女にふさわしい贅沢と保護の下で育った。その頃、タムリエルの初代皇帝、タイバー・セプティム1世閣下はモロウウィンドの堕落した王たちに対し、彼の帝都支配下に加わるよう要請したのだった。自らの魔力を過信したダークエルフたちはその要請を拒み続けたため、ついにタイバー・セプティムの軍は国境まで迫ってきたのであった。結果としてダークエルフは停戦に合意したが、そこに至るまでにはいくつかの戦があった。その一つは、モーンホールド王国のがれきの山と化していた、現在のアルマレクシアにて繰り広げられた。 幼い王女バレンジアと乳母は、戦のがれきの中で発見された。ダークエルフでもあった帝都将軍シムマチャスは、その幼き子を生かしておけば後に役立つかもしれないと皇帝に進言した。こうして、バレンジアは元帝都軍兵に預けられることになった。 元帝都軍兵であるその人物、スヴェン・アドヴェンセンは、引退した際に伯爵の位を授かっていた。彼の領地、ダークムーアはスカイリム中心部にある小さな町だった。セヴン伯爵とその妻は、自らの子供のように王女を養育し、なによりも帝都の一員としての美徳、すなわち遵法、分別、忠誠、信仰などを教えこんだ。その結果、彼女はすぐにモロウウィンドの新しい支配者の一人としてふさわしい資質を身に付けた。 バレンジアは美しく、気品と知性にあふれた少女に育った。彼女は優しく、また養父母の誇りでもあり、養父母の5人の息子たちもみな彼女を姉として慕った。彼女には、見た目以外にも他の少女にはない特質を持っていた。森や野原と心を通わせ、ときどき家を抜け出しては自然の中を歩き回るくせがあったのだ。 16歳までバレンジアは、とても幸せな毎日を送っていた。そんなある日、仲良くしていた厩番の孤児の不良少年から、セヴン伯爵と客のレッドガードとの間で行われた話を聞かされたのであった。どうやら妾として彼女をリハドへ売り飛ばすことを企んでいるらしいことを。ノルドやブレトンは肌が黒い彼女と結婚したがるはずもなく、ダークエルフでさえも異人種に育てられた彼女を嫌がるに違いないという考えを伯爵は持っているというのである。 「どうすればいいのかしら?」と、バレンジアはふるえながら涙声で言った。まっすぐに育った彼女は、友達である厩番の少年が嘘をついているなんて思いもしなかったのである。 そのストロウという名の不良少年は、彼女の護衛を買って出て、貞節を守るべく一緒に逃げることを勧めてきた。悲しげにバレンジアはその計画を受け入れた。 そしてその夜、目立たぬよう男装をしたバレンジアとストロウは、ホワイトランの町へ逃げたのだった。 ホワイトランに着いてから数日後、彼らはある隊商を護衛するという仕事に就いた。このいかがわしい隊商は帝都の街道を通ると通行税がかかるため、脇道を通って東へ向かおうとしていたのである。そして、隊商とともに彼らは追っ手に見つかることなくリフトンの町へ辿り着き、しばらくその地に身を置くことにしたのだった。彼らはダークエルフが珍しくないこのモロウウィンドとの境界に近い町に、束の間の安らぎを感じたのであった。 歴史・伝記 茶4
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晩餐での遊戯 姓名不明のスパイによる 出版社による序文: この手紙の出版にいたる経緯は、手紙の内容と同様に謎が多く、興味深い、数ヶ月前、ダウネインという謎の人物に宛てられたこの手紙の複製が、ヴァーデンフェルのアッシュランドで流出し、広まるようになった。やがて、一部の複製がアルマレクシア郊外のフラール・ヘルセス王子の宮殿にまで届いた。読者は、王子がこの手紙を読んで彼自身に対する悪意に満ちた中傷に激怒したと思われるに違いない。しかし、実際の王子の反応はまったく逆であった。王子とその母親であるバレンジア女王は、装丁もされたこの手紙の複製を個人的に作らせ、それを各図書館や出版社に送付したのである。 記録すべき事項として、王子と女王はこの手紙が完全な創作であるか、実際に起こった出来事を描写したものであるかという点については公式に言明していない。ドレス家はこの手紙が創作であるとして非難を表明しており、またダウネインという名の人物とドレス家の間に、この手紙から読み取れるような関係が持たれたことはこれまでにないとしている。この手紙の解釈については、読者の信ずるところにお任せしたい。 ──出版者:ネリス・ガン **** 闇の君主ダウネイン様 あなた様は、昨夜の出来事と私のドレス家への申し立てについての詳細な報告を次なる指令としてお与えになりました。ヘルセス王子の宮廷内からの情報提供者としてこれまでの私の仕事が、ご期待に添えていればよいのですが。これまでの報告の中で何度もお伝えしたとおり、ヘルセス王子という人物は、モラグ・バルですら裸足で逃げ出すであろうほどの恥知らずです。ご存知のように、私は1年近く前から親密な助言係の一人として王子の周辺に入り込んでいます。彼がモロウウィンドに来たばかりの頃、彼は友情に飢えており、私と他の数人の助言者を積極的に周囲に置きたがったのです。今でも、彼は私たちに衰えることのない信頼をおいています。モロウウィンドにおける王子の政治的存在感の希薄さゆえのことだと思います。 邪悪なあなた様のご参考までに、もう一度基本的な事実を書いておきますと、王子は、元モロウウィンド女王であり、ウェイレストのハイ・ロック王国女王だったこともあるバレンジアの長男です。バレンジアの夫であり、ヘルセス王子の義父であった国王エドウィーアの死後、エドウィーアの娘エリサナ姫とヘルセス王子との間に権力争いがあったようです。洩れ聞こえてくる噂だけではこの争いの詳しい成り行きはわかりませんが、最終的にエリサナが勝ってウェイレスト女王になり、ヘルセスとバレンジアを追放したことは確かです。バレンジアのもう一人の子、モルジアは、すでに結婚してサマーセット島のファーストホールド王国の女王となりウェイレスト王室から離れていました。 バレンジアとヘルセスが大陸を横断してモロウウィンドに帰ってきたのは、つい昨年のことでした。バレンジアの叔父でバレンジアが40年以上前に退位した後王位を継いだ現国王のフラール・アシン・リーザンは、手厚く彼らを迎えました。バレンジアは、王位を取り戻そうという気などなく、ただ彼女らの家族の屋敷で隠居生活を送りたいだけなのだということを明言しました。ヘルセスのほうは、ご存知のように、王宮での役職にしがみつき、多くの者はウェイレストの王位を失った彼がリーザンの死後モロウウィンドの王位を狙っているのだと噂しています。 私は今まで、邪悪なあなた様に、王子の行動や出会った人物、企て、助言係の者たちの名前や性格などを報告してきました。何度かお伝えしたとおり、私はヘルセスの周辺に私以外にもスパイがいるのではないかと思っています。以前、あるダークエルフの相談役が裁きの神殿の大司教ゾラー・サリョーニと行動を共にしていた人物と似ていることをお伝えしたと思います。また、別のノルドの若い女性などは、バルモラにある帝都の要塞を訪れていたことがわかっています。もちろん、彼らの場合、ヘルセスの側が各所に送り込んでいるスパイという可能性もありますが、実際のところはわかりません。王子がウェイレストの王宮にいた頃から侍従を務めているブレトンのバージェスの忠誠までもが疑わしく思えてくるにいたっては、自分が王子自身と同じように妄想狂なのではないかという気にもなってきます。 以上が、昨夜の、あの出来事の背景となる事実です。 昨日の朝、王子との晩餐会へ誘う簡潔な招待状が私のもとに届きました。被害妄想から、私はドレス家に忠実で有能な部下を王宮に送り込み、なにか変わったことがないか調べてくるように言いました。晩餐の少し前、彼が戻ってきて、王宮で見たことを報告しました。 ぼろぼろの服を身にまとった男が城に入ることを許され、しばらくの間城内にとどまっていたというのです。その男が帰ってゆくときに、部下はマントの下の顔を垣間見たのですが── それは悪名高い錬金術師で、異国の毒薬の密売を一手に担っているといわれている人物だったのです。部下は観察力に優れており、男が城に入るときに、ウィックウィートやビターグリーン、その他の嗅ぎ慣れない甘い匂いを漂わせていることに気付いていました。そして、男が城を出るときには、それらの匂いは消えていたというのです。 部下の出した結論は、私と同じでした。王子が、毒薬を調合するための材料を彼から調達したのです。ビターグリーンだけでも、生で口にすれば死を招きます。そこに他の材料を加えるというのは、何かもっと巧妙な企みがあることを匂わせていました。邪悪なあなた様なら難なくご想像がつくことと思いますが、私はあらゆる事態に対する心構えをしてその夜の晩餐に挑みました。 晩餐会には、ヘルセス王子の相談役の全員が出席しており、その全員が微妙に何かに対して身構えているように感じられました。もちろん、私は最初、ここにいる全員がスパイであり、王子と謎の錬金術師との密会を知っているのだと考えました。しかし、こうとも考えられました。つまり、何人かは錬金術師の来訪を知っており、他の何人かは晩餐会の目的そのものが何なのかと不安に思っており、そして残りの者は、ただ情報を持っている他の相談役たちの張り詰めた空気につられて緊張しているだけかもしれなかったのです。 しかし、王子自身は上機嫌で、その場の全員の緊張をすぐにほぐし、くつろいだ雰囲気を作りました。我々は9時に食堂へ案内され、そこにはすでに料理の支度がされていました。その料理の豪華なことといったら! ゴラップルの蜂蜜漬けにはじまり、香草のシチューや何種類もの肉汁のソースで味付けされたロースト、あらゆる複雑な方法で調理され豪華に盛り付けられた魚や鶏。水晶や黄金のびんに入ったワイン、フリン、シャイン、マッツェなどがそれぞれの席に並べられ、料理にあわせて楽しめるようにされていました。料理や酒の香りは非常に素晴らしいものでしたが、そのような香辛料や他の香りが複雑に絡み合う中で、毒薬の目立たない匂いを嗅ぎ分けるのは不可能だと考えずにいられませんでした。 晩餐の間中、私は幻惑を使い、料理を食べていると見せかけながら実際には何一つ口にしませんでした。やがて、最後にテーブルの上から空の皿や残った料理が下げられ、大きな蓋付きの器いっぱいの香草をきかせたスープが運ばれて来ました。給仕の者はそれをテーブルの中心に置くと、食堂を出て扉を後ろ手に閉めました。 「素晴らしい香りですわ、王子」と、ノルドの女侯爵、コルガーが言いました。「でも、もう食べられそうにありません」 「殿下」私は、親しみを込めた口調を装いながら、なだめすかすような調子も多少込めて言いました。「ここにいる者はみな、あなたをモロウウィンドの王にするためならば喜んで死ぬでしょう。でも、このままではその前に、ごちそうの食べすぎで死んでしまいますよ?」 他の者たちも、不安そうなうめき声とともに同意しました。ヘルセス王子は笑みを浮かべました。闇の支配者様、贈り主ヴェルニーマに誓って申し上げますが、いくらあなた様といえどもあのような笑みは今までに見たことがないでしょう。 「皮肉な言葉だな。いいか、この中の何人かは確実に知っていることと思うが、ある錬金術師が今日、私のところへ来たのだ。そして彼は素晴らしい毒薬と、その解毒剤の作り方を教えてくれた。私の目的にぴったりの、強力な毒薬だ。いったん飲み込んでしまえば、もうどんな回復の呪文でも治らない。確実な死から逃れるには、このスープに入った解毒薬を飲むしかない。そして、もし私が聞いたとおりならば、その毒による死に様は素晴らしいぞ。あの錬金術師のいったとおりの効果が出るのを、早く見たくて仕方がないのだ。毒におかされた者にとっては恐ろしく苦痛を伴うが、その様子は見ものだそうだからな」 全員が黙りこみました。私は、心臓が激しく打つのを感じました。 「殿下」と、アララトが口を開きました。私が裁きの神殿からのスパイではないかと疑っていたダークエルフです。「ここにいる誰かに、その毒を盛ったのですか?」 「お前は本当に抜け目がないな、アララト」ヘルセス王子は言い、テーブルを囲む人々を見渡し、一人一人と目を合わせました。「お前は大切な相談役だ。ここにいるほかの者たちと同じくらい大切な。そうだな、この中で私が毒を盛らなかった者を挙げたほうが早いかもしれないな。私は、私をたった一人の主人として仕え、私だけに忠誠を誓っている者には毒を盛らなかった。ヘルセス国王がモロウウィンドを治める姿を見たいと思っている者には、毒を盛らなかった。帝都や、神殿や、テルヴァニ家、レドラン家、インドリル家、ドレス家のスパイでない者には、毒を盛らなかった」 邪悪な支配者様、王子は、「ドレス家」と言ったとき、まっすぐに私のほうを見たのです。間違いありません。私は、考えを顔に出さないよう訓練をしていますので、その時も私の顔から考えは読み取れなかったはずです。しかし、闇の支配者さま、内心では今までにした全ての密会やあなた様とドレス家への暗号文での通信などが瞬間的に思い出されていたのです。いったいそのうちの何が王子に知られてしまったというのでしょう? もしそれらを知らなかったとすれば、王子はどうしてそのような疑いを抱くにいたったのでしょうか? 私の鼓動は、ますます早くなりました。恐怖のためでしょうか、それとも毒がまわってきたのでしょうか? 私は何も喋れませんでした。何かを言えば、確実に冷静な無表情に似つかわしくない声が出てしまうと思ったのです。 「私に忠実で、私の敵を痛めつけたいと望んでいる者たちは、私が確実に敵に毒を飲ませられたかどうか不安に思うだろう。私の敵は、というより、敵たちと言ったほうがいいな、彼らは今夜出されたものを飲んだり食べたりするふりをしていただけかもしれないからな。それはそうだろう。だが、どんなにうまく食べるふりだけをしていても、その馬鹿げたジェスチャーゲームをうまくやりとおすには、空のグラスに口をつけたり、何もないフォークやスプーンを口に運んだりはしなければなるまい。いいか、食べ物には毒は入っていなかったんだ。カップや食器につけてあったんだよ。食べるふりをしていた者たちも、食べたものも同じように毒を口にしたはずだし、食べるふりをしていた者は、その上にあの素晴らしいローストを味わい損ねたというわけだな」 私の顔に玉のような汗が噴き出し、それを隠すために王子から顔を背けました。他の相談役たちはみな、椅子に腰掛けたまま固まっていました。女侯爵コルガーの顔は青白く、ケマ・イネッブなどは明らかに震えていました。アララトは怒りに眉をしかめ、バージェスは銅像のように固まったまま一点をみつめていました。 その時になると、私には王子の相談役全員がスパイのみで構成されているとしか思えませんでした。このテーブルの周りに、王子に忠実な者などいるのでしょうか? そして、もし私がスパイではなかったとしたら、私はヘルセスに疑われていないと信じきれたでしょうか? 相談役の者はみな、王子の被害妄想の深刻さと彼の野心に対する執念深さを誰よりもよく知っています。もしも、私がドレス家のスパイではなかったとして、それで自分は安全だと思えたでしょうか? 忠実な者が、疑わしきは罰せよ式の誤った判断で毒を盛られることもあり得るではありませんか? 他の者たちも、忠臣もスパイもみな、同じ事を考えていたはずです。 私の頭の中で様々な考えがめまぐるしく浮かんでは消えしていたその時、王子が全員に向かって言った言葉が耳に入りました。「この毒のまわりは早い。もし今から1分以内に解毒剤を飲まなければ、テーブルの周りに死者が出始めるだろう」 私は、自分が毒を口にしたのかどうか確信しかねていました。胃が痛んでいましたが、それは贅沢な料理を目の前にしながら何一つ食べなかったためかもしれませんでした。鼓動は胸全体を揺り動かすようで、トラマの根のようなしびれる苦味を唇に感じていました。恐怖のためでしょうか、それとも今度こそ毒のせいでしょうか? 「私を裏切っていた者たちにとっては、これが最期に聞く言葉になるだろうな」ヘルセス王子は、あのいまいましい笑みをうかべたまま、椅子の上で身をよじっている相談役たちを見回しました。「解毒剤を飲んで、生き延びてはどうだ」 彼の言うことを信じるべきなのでしょうか? 私の知るヘルセス王子という人物について思い返してみました。彼はスパイであることを自白した物を殺すでしょうか、それともそのスパイを利用し、送り込んだもののところへ送り返して復讐をさせるでしょうか? 王子の冷酷な性格からすると、どちらの可能性もありえそうに思えました。明らかに、この晩餐の芝居がかった演出は、出席者に恐怖を植え付けることを目的としているようでした。私が晩餐会に出席し、毒を盛られて殺され、あの世でご先祖様に会ったらいったいどう思われることでしょう? もし私が言われるままに解毒剤を飲み、あなた様とドレス家のスパイであることを自白して、裁判もなく処刑されたとしたらどうでしょう? それに、白状しますが、私は死んだ後あなた様が私にいったい何をするのかをも恐れていました。 私はめまいを起こし、自分の考えで頭がいっぱいだったので、バージェスが椅子から飛び上がったのにも気付きませんでした。私が気付いたときには、彼は器を両手に抱え、中の液体をがぶがぶと飲んでいるところでした。周囲には、いつの間にかたくさんの衛兵が待機していました。 「バージェス」と、ヘルセス王子が、笑みを浮かべたままで言いました。「お前はよくゴーストゲートに出入りしていたようだな。レッドラン家の手の者か?」 「知らなかったのか?」バージェスは自嘲気味に笑い出しました。「何家の者でもないさ。あんたの義理の妹、ウェイレスト女王に情報を送っていたんだよ。ずっと女王に雇われてたんだ。おお、アカトシュ、王子は俺がどっかのいまいましいダークエルフのスパイだと思って毒を盛ったのか?」 「半分当たりだ」と、王子は答えました。「私はお前が誰のスパイか知らなかっただけじゃなく、お前がスパイかどうかも知らなかったよ。それに、私がお前に毒を盛ったというのも間違いだ。お前は自分で、その毒入りのスープを飲んだんだからな」 バージェスの死に様については、邪悪な支配者様、ここには書かないことにします。あなた様は何年も何年も、長い長い時を生きて、様々なものを見てこられたでしょう。しかし、絶対にあんな死に様は見たくも、話を聞きたくもないことと思います。私自身、彼の断末魔の苦しみ様を記憶から消してしまいたいと思っているのです。 相談役の晩餐会は、その後すぐ解散になりました。私がスパイであることを、ヘルセス王子が知っていたのか、または疑っていたのかどうか、私にはわかりません。あの、昨夜の晩餐に集まった者の中で、私と同じようにもう少しでバージェスより先に解毒剤に手を伸ばすところだった者が、何人ぐらいいるのかもわかりません。ただわかっているのは、もし王子が今のところ私を疑っていなかったとしても、そのうち疑うようになるだろうということです。私は、王子が昔ウェイレストで身に付けたこういった遊戯を、これからも勝ち抜いてゆく自信がありません。どうか、邪悪なる闇の支配者ダウネイン様、お願いします、あなた様のお力で、忠実な部下である私をこの任務からはずすよう、ドレス家にかけあっていただきたいのです。 **** 出版者注: 当然のことであるが、この手紙の差出人の名は、原本から複製されたどの印刷物にも一切記載されていません。 紫1 随筆・ルポルタージュ
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東方地域についての客観的考察 また、数百年にわたるこの二州の占領を正当とする理由は倫理的にも法的にも疑わしいのだが、このさいそのことには目をつぶるとして、モロウウィンドとブラック・マーシュから経済的または軍事的にどのような利点が得られるのか考えてみたい。 実際のところ、これらの州において帝都より独占権を与えられている一握りの者たちは、財産や資源を好きなだけ利用して富を得ている。が、帝都全体としては潤っているのだろうか。帝都のばかでかい官僚機構の維持費は税収だけでは到底まかなえない。しかも、これらの属州の辺境にある帝都軍要塞の建設や管理にかかる費用は、東方から軍事的な脅威が迫っているという確証があってこそ有益に使われていると言えるものだが、そうした証拠はひとつもない。モロウウィンドやブラック・マーシュの軍隊が帝都の安全を脅かしたことはないのだ。もちろん、シロディールそのものが襲われたことなどあるはずもない。 実際のところ、帝都の安全を脅かすおびやかす最大の驚異はぐうたらな軍隊そのものにある。彼らの胃袋は納税者の負担によって満たされている。こうした軍隊の将校は身近な敵がいるわけでも、反対されるわけでもないため、西方に色気をみせることもありうる。彼らには忠実なる古参兵の軍隊もついているし、ひとり勝ち状態の商人の後援により財源も潤っている。皇位継承の先行きが不透明な中、彼らは思いもよらぬ政治的要因となってくる。 モロウウィンドとブラック・マーシュの占領が理想を追い求めた結果であったなら、帝都の重圧にもいくらかは耐えられたかもしれない。だが、帝都のなんと恥さらしなことか。モロウウィンドで暗黙のうちに実践されている奴隷制度を見て見ぬ振りをし、ダークエルフの領主から哀れなカジートとアルゴニアンの奴隷を救うために軍を出動させるのではなく、無防備な奴隷施設を防衛するために予算をさいているのだ。モロウウィンドの黒檀鉱山では、帝都の勅許のもとで私腹を肥やした者たちが奴隷を酷使して、賄賂と汚職によって保証された法外な利益を収穫しているのである。 東方地域に平和と啓蒙をもたらすというわが国の命題のなんと傲慢なことか。実施にしているのは、これまで驚異ですらあったことのない土地に派兵し、モロウウィンドとブラック・マーシュで実践されていた蔑むべき忌まわしい制度をいいように利用しただけのことにすぎない。その結果、皇室にへつらうものたちだけが豊かになっていった。 客観的に考察してみると、わが国の東方占領政策は道徳的には堕落し、軍事的には無防備で、経済的には破綻しており、導かれる結論はひとつしかない。東方部隊を解散し、帝都の官僚や豪商を東方から引き揚げさせ、このいにしえの土地に暮らす民の手に自由を与えることだ。いやしくも西方文化の失われつつある理想や財産を守ろうとするなら、そうすることでしか道は開けないのではなかろうか。 白1 社会
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ペリナルの歌 第2巻:その訪れ [編者注:1巻から6巻に収められた文章は、帝都図書館所蔵のいわゆるレマン文書から採られたものである。この文書は、第二紀初期に無名の研究者によって集められたもので、古代文書の断章の写しからなる。古代文書のそもそもの出所は不明であり、いくつかの断章は同時期に書かれた(同じ文書からの断章という可能性もある)ものと考えられている。しかし、6つの断章の成立時期に関する学術的な合意は得られておらず、ここでもその断定は避ける。] (そして)ペリフは天を仰ぎ、神々の使いに語りかけた。天はエルフが地上を支配し始めたから、その慈悲を失っているように見えた。ペリフは、命に限りある人間であった。彼女の同胞である人間の、弱さの中の強さや謙虚は神々の深く愛するところであり、人間が、最後にある死を知りながら命を燃やす姿は神々の憐れみを誘っていた(向こう見ずに魂を燃やす者たちが竜の一族に好かれるのと同じ理由である)。そして、彼女は神々の使いに語りかけた:「そして、私はこの思いに名前をつけ、それを自由と呼びました。失われし者シェザールの、別の名前だと思います…… (あなたは)彼が失われたとき、最初の雨を降らせました。(そして)私は今、彼に起こったのと同じことが邪な支配者たちに起こるよう願います。彼らを打ち破り、彼らのした残虐な仕打ちの代償を支払わせ、トーパルの地へ追いやり(たいのです)。あなたの息子、あの強く、荒ぶる、猛牛の角と翼を持つあのモーリアウスをもう一度地上につかわし、私たちの怒りを晴らさせてください」…… (そしてその時)カイネはペリフに新しい印を与えた。それはエルフの血で赤く染まったダイヤモンドで、その面は(なくなり、形を変え)一人の男となってペリフの縛めを取り払った。その男は「星の騎士」(を意味する)ペリナルと名乗り、(そして彼は)(未来の)武具を身に付けていた。そして彼はシロドの密林へと分け入り、そこにいるものを殺した。モーリアウスはペリナルの出現に喜び、地上に降りてペリナルに寄り添った。(それからペリナルは)ペリフの率いる反乱軍の陣地に戻り、自分の剣とメイスに刺さったエルフのはらわた、首、羽、アイレイドーンの印である魔玉などを見せた。血で固まったそれらを掲げたペリナルは言った「エルフの東の長だったものだが、こうなっては名乗ることもできまい」と。 歴史・伝記 赤1
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五つの戒律 教義1:決して夜母に無礼を働かないこと。行った場合、シシスの憤怒をもたらす。 教義2:決して闇の一党を裏切らないこと、そして秘密を漏らさないこと。それらを行った場合、シシスの憤怒をもたらす。 教義3:決して闇の一党の高官からの命令に背いたり、遂行を拒んだりしないこと。それらを行った場合、シシスの憤怒をもたらす。 教義4:決して闇の兄弟や闇の姉妹の所持品を盗まないこと。行った場合、シシスの憤怒をもたらす。 教義5:決して闇の兄弟や闇の姉妹を殺さないこと。行った場合、シシスの憤怒をもたらす。 社会 緑3 闇の一党関連
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「坊や、そこへ座りなさい。これからお話をしてあげるからね。この物語は長年語り継がれてきたお話だよ」 「どんなお話なの? お爺ちゃん。英雄と野獣が出てくるお話?」 祖父は孫をじっと見つめた。彼は良い子供に育っていた。すぐにこの物語の価値、つまり幾世代にも語り継がれてきた教訓を理解するであろう。 「よく聞きなさい。この話はお前のその心にしっかりと刻むのだよ」 ─ 昔々、スコールがまだ新入りだったころ、この地は平和だった。太陽が照り、作物はよく育ち、全創造主の与えた平和の中で人々は幸せに暮らしていた。しかし、スコールの人々は現状に満足して、全創造主から与えられたこの大地とその恵みを当然のものとみなすようになった。彼らは大事なことを忘れ、思い出そうともしなかった。それは魔王が常に彼らを見張っていること、つまり全創造主と彼に選ばれた人民を苦しめるのを楽しみにしているということを。そしてついに魔王がスコールの前に降り立つ時がきた。 魔王はさまざまな姿をしていた。ある時は不浄の獣、またある時は不治の疫病であった。四季の終わる頃には、魔王は世界を貪り食う者、サーターグとして知られることになるが、この時代においては強欲者と呼ばれていた。 強欲者は(我々がこう呼ぶのは彼の真の名前を呼んでしまうと破滅を引き起こすからである)長い年月にわたってスコールの中に紛れ、生活をしていた。おそらくもともとは普通の人間だった男の心に、魔王が入りこんで強欲者と化してしまい、このように語り継がれているのだろう。 とうとうスコールの力が失われる時が来た。戦士は武器を失い、シャーマンは獣たちを呼び寄せる呪術を奪われた。年寄りたちは全創造主の機嫌を損ねてしまったのだと言い、全創造主は永遠に彼らのもとを去ったのだと言う者もいた。そこへ強欲者が現れた。 「お前たちスコールは日々肥え、怠惰な暮らしを送っておる。そんなお前たちから、全創造主からの贈り物を盗んだ。まず海を盗んだ。お前たちはもう二度と喉の渇きを癒せないであろう。次に陸・森・太陽を盗んだ。作物は枯れ、死ぬだろう。そして獣を盗んだ。飢えがこの地を襲うであろう。そして風を盗んだ。お前たちがこの先全創造主の魂を感じることはないであろう」 「もしお前たちの誰かがこの贈り物を取り返しに来なければ、スコールはいつまでも惨めで絶望的な暮らしを送り続けるであろう。ゆえに私は強欲者、これが私の真の本性だ」 強欲者はそう言って消え去った。 スコールの人々は、来る日も来る日も話し合いに明け暮れた。この中の誰かが贈り物を取り返しに行かなければならない。しかし、誰が取り返しに行くかを決められなかった。 「私は行けない」と、長老は言った。「私はスコールを導き、決まり事が何なのかを人々に伝えなければならない」 「私も行けない」と、戦士は言った。「私にはスコールを守る義務がある。強欲者がまた現れれば、私の剣が必要になるだろう」 「私も行けない」と、シャーマンは言った。「人々には私の英知が必要だ。私は前兆を読み解き、知恵を授ける必要がある」 その時アエヴァーと呼ばれる男が声をあげた。彼は腕っぷしの強い、俊足の持ち主であったが、この時はまだスコールの戦士ではなかった。 「僕が行きます」とアエヴァーが言うと、スコールは皆笑った。 「最後まで聞いてください」と彼は続けた。「僕はまだ戦士ではないから、僕の剣はまだ必要とされていない。前兆を読む力もないので、人々は僕に助言を求めに来ない。そして、まだ若いので政治にかかわるほど賢明ではない。僕が強欲者から奪われた全創造主の贈り物を取り返してきます。もしできなかったとしても、僕を失って悲しむ人はいない」 皆は少し考えた結果、アエヴァーを行かせることにした。翌朝、アエヴァーは贈り物を取り返すため村をあとにした。 アエヴァーはまず最初に、水の贈り物を取り返しに行こうと水の岩へ向かった。そこで初めて全創造主がアエヴァーに語りかけた。 「西の海へ行きなさい。泳ぎ人のあとをついて命の水へ向かうのです」 そこでアエヴァーが海岸を歩いていると、全創造主が遣わした泳ぎ人、ブラック・ホーカーに出会った。泳ぎ人は海へ飛び込み、ものすごい速さでどんどんと遠くに行ってしまった。しかし、アエヴァーは強い体の持ち主で、懸命に泳いだ。泳ぎ人について横穴のあいた所まで深く潜り、肺が焼けそうになりながら、体がくたくたになりながらも泳いだ。ようやく海中に空気の溜まり場を見つけ、そしてその暗がりの中に命の水を見つけた。残る力をふりしぼり、命の水を持って、海岸へと泳ぎ戻った。 水の岩へ戻ると、全創造主が語りかけてきた。「あなたはスコールに水の贈り物を取り戻しました。海が再び現れ、皆の喉の渇きを癒すでしょう」 アエヴァーは次に大地の岩へと向かった。そこでまたも全創造主が語りかけてきた。 「秘密の音楽の洞窟へと行き、大地の歌を聴くのです」 そこで今度は北東にある秘密の音楽の洞窟へと向かった。そこは大きな洞窟で、岩が天上から垂れ下がり、地面から伸びていた。耳を澄ますとかすかに大地の歌が聞こえてくる。そこでアエヴァーはメイスを取り出し、リズムに合わせて岩を叩いた。すると音は次第に大きくなり洞窟とアエヴァーの心を満たした。そしてアエヴァーは大地の岩へと戻っていった。 「スコールは再び大地の贈り物を手に入れました」と、全創造主は言った。「大地は再び肥え、そこから新たなる生命が宿るでしょう」 太陽が激しく照りつけ、それをさえぎる木陰も冷たい風もないので、アエヴァーは疲れていた。それでもなおアエヴァーは獣の岩へ赴いた。そこでまた全創造主が語りかけた。 「善の獣を探し出し、その獣を苦しみから解き放つのです」 アエヴァーがアイジンフィアの森を何時間もかけて通り抜けていると、丘の向こうから熊の叫び声が聞こえてきた。丘に登ると、首に雪エルフの矢が刺さって叫び声をあげている熊を見つけた。アエヴァーは周りに雪エルフが潜んでいないかどうか(異論を唱える者もいるが、敵は雪エルフであった)を見渡し、誰もいないことを確認してからその獣に近づいていった。アエヴァーは熊をなだめながらゆっくりと近づき、「善の獣よ、僕は君に危害を加えたりはしない。全創造主から君の苦しみを癒すように言われ、ここへやってきた」と言った。 この言葉を聞いた熊は暴れるのをやめ、頭をアエヴァーの足元に横たえた。アエヴァーは矢をぐっとつかんで首から引き抜いた。自分が知るちょっとした自然魔法を使ってその傷口を治したが、これでアエヴァーは最後の力を使い果たしてしまった。熊の傷が治るとアエヴァーは眠りへと落ちた。 目が覚めると、熊はアエヴァーの前に立ちはだかるようにしていた。周りにはいくつもの雪エルフの死体が転がっていた。善の獣は一晩中、アエヴァーを守っていたのであった。アエヴァーが熊と一緒に獣の岩へ戻ると全創造主が語りかけてきた。 「獣の贈り物を無事取り戻しましたね。善の獣は再びスコールの空腹を満たし、寒さには着物を与え、必要なときには彼らが守ります」 アエヴァーの体力も回復したので、彼は樹の岩へと向かった。ここで善の獣とは別れた。彼が到着すると万物の父が語りかけてきた。 「始まりの樹々が枯れてしまったので急いで植え替えねばなりません。始まりの樹々の種を探し出してください」 アエヴァーは再びハースタングの森へと向かい、始まりの樹々の種を探したが、一向に見つからない。そこでアエヴァーは生ける樹の精霊たちに問いかけた。精霊たちが言うには、ある雪エルフ(雪エルフは魔王の手下だ)が種を持ち去り、森の奥深くに隠してしまって、誰も見つけられないのだ。 アエヴァーは森の奥深くへと進み、下位の樹の精霊たちに囲まれる邪の雪エルフの姿を見つけた。精霊たちは雪エルフの奴隷状態にあり、種の魔法を使い、秘密の名前を言わされていた。アエヴァーはそのような力には対抗できないと分かっていたので、こっそりと種を盗み取らなければならなかった。 アエヴァーは自分の小袋に手を伸ばし、火打石を取り出した。葉を集め、邪の雪エルフと魔法にかけられた精霊たちの周りの空き地に小さな火をおこし始めた。スコールはみな、精霊たちが火を恐れていることを知っていた。火は精霊が仕える樹を燃やしかねないからだ。すぐに、精霊の本能は取り戻され、彼らは急いで火を消そうと駆けていった。混乱の巻き起こる中、アエヴァーはそっと雪エルフの背後に回り、種の入った小袋を盗み取り、邪の雪エルフが気付く前に逃げ去った。 アエヴァーは樹の岩に戻り、地面に種をまいた。すると、全創造主が話しかけてきた。 「樹の贈り物も取り戻しましたね。樹々や草花が再び生え、人々に滋養と日陰を与えることでしょう」 依然として太陽は暑く照りつけ、涼しい風が吹かなかったのでアエヴァーはひどく疲れていたが、木陰で少しの間休むことができた。アエヴァーの足は棒のようになり、目もひどく重たかったが、それでも旅を続けた。次は太陽の岩へと向かった。そこでまた全創造主が語りかけてきた。 「太陽の穏やかな日差しが盗まれてしまいました。今や激しく照りつけるばかりです。太陽を日食の館から解き放つのです」 そこでアエヴァーは西へと歩き、凍り付いた陸地を越え、日食の館へと到着した。中に漂う空気は厚く重く、自分の腕から先はまったく見えない状況であった。自分の足音が響く中、壁を頼りに歩くも、この館の中には肉を引き裂き、骨までしゃぶりつくす不浄の獣が潜んでいることを知っていた。何時間かそうして歩くと、広間の向こうに微かな光を見つけた。 そこには一枚板のような氷の後ろからまばゆい光が差し込んでいて、アエヴァーは目を開けてはいられなかった。視力を失ってしまうのではないかと思うほどであった。燃えさかる不浄の獣の目を引き抜き、力の限り氷の板に向かって投げ捨てた。氷に小さなヒビが走ったかと思うと、次の瞬間には大きなヒビが入った。ヒビの間からゆっくりと光がもれだし、全体へと広がり氷を粉々に砕いた。轟音とともに壁は崩れ落ち、光がアエヴァーと廊下を包み込んだ。視力を失い、体が燃えさかる不浄の獣の叫びが聞こえた。アエヴァーは光に導かれるように広間を飛び出し、外の地面に倒れ込んだ。 アエヴァーが立ち上がったときには太陽が再び彼を暖かく包み込んだ。アエヴァーはそのことに感謝した。アエヴァーが太陽の岩に戻ると、全創造主が語りかけた。 「太陽の贈り物を再び手に入れましたね。太陽は人々を温め、光を与えます」 アエヴァーが取り戻すべき贈り物は残すはただ1つ。風の贈り物である。アエヴァーは島のはるか西の海岸の、風の岩へと向かった。全創造主はアエヴァーに最後の課題を言い渡した。 「強欲者を見つけ、その呪縛から風を解き放ちなさい」 アエヴァーは強欲者を探して陸地をさまよい歩いた。樹の中も探してみたが強欲者の姿はなかった。海のそばにも、洞窟の奥にも姿は見えず、獣たちも森で強欲者の姿は見てないと答えた。しかし、ついにアエヴァーは一軒のねじれた家を発見し、そこに強欲者がいるようだと分かった。 「誰だ?」と強欲者は叫んだ。「私の家を訪れる者は誰だ?」 「僕はスコールのアエヴァーだ」と、アエヴァーは答えた。「僕は戦士でもなければ、シャーマンでも長老でもない。もし僕が村へ生きて帰れなくても誰も悲しまない。だがしかし僕は海、大地、樹、獣そして太陽を取り戻した。あと風も取り戻すことができればスコールの人々に全創造主の魂が再び宿るであろう」 そうしてアエヴァーは強欲者の袋をぐっとつかんで引き裂いた。風が勢いよく飛び出し、強欲者をも巻き上げ、島から遠く離れた場所へと吹き飛ばした。アエヴァーはすっと風を吸い込み、喜んだ。風の岩のところへ戻ったアエヴァーに全創造主は最後にこう語りかけた。 「よくやりとげました、アエヴァー。スコールでもっとも若きものよ。私の贈り物すべてを取り返しましたね。強欲者は今やはるか遠くへと飛ばされ、二度と村の生活を脅かすことはないでしょう。実に喜ばしいことです。さあ、お行きなさい。己の本能に従い生きるのです」 アエヴァーはスコールへと帰っていった。 ─ 「それからどうなったの? お爺ちゃん」 「どういう意味だ? アエヴァーは無事家に帰っていったのだよ」 「村に帰ったあとの話だよ。アエヴァーはその後戦士になったの? それともシャーマン? スコールの街を戦いへと導いたの?」 「それはどうだろうね。ここでこの物語はおしまいさ」と祖父は答えた。 「こんな終わり方なんてないよ! 物語らしくない」 老人は笑って、椅子から立ち上がった。 「そうかい?」 小説・物語 茶2
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錬金術の基礎 アリャンドン・マスイエリ 著 若い魔術師は見落としがちだが、錬金術は歴史のある学問で、極めれば人生が変わるほどやりがいもある。錬金術の公式で使われる材料の知識を深めるのは難しく、危険をともなうが、あきらめずに真摯に研究を続けていけば、最後には大きく報われる学問と言えよう。 成功を勝ち取るためにも、それを目指すためにも、まずもって初級の錬金術師は錬金術の基本原理を理解しなければならない。この世の道具のほとんどは自然界の有機物から作られており、マジカの特性を含んだ根源的な成分に分解することができる。腕のいい錬金術師になると、材料のさまざまな特性を利用できるようになる。数種類の材料の源を混ぜ合わせることで薬ができあがる。もちろん、誰が飲んでもよい。(伝説によると、真に偉大な錬金術師はひとつの材料から薬を調合できたという。それだけの離れ業を身につけるには並大抵の努力では足りないだろう) 錬金術師の調合する薬は材料によって多彩な効能が生まれる。そのなかには毒となるようなものさえある。たいていのレシピからは、正と負の効果を併せ持つ薬が生成される。どのレシピが最高の結果をもたらすのか、それを見つけるのは錬金術師にかかっていると言えよう。(負の効果だけを持つ薬を生成すれば毒として利用できることも覚えておくといいだろう。本書ではこの実践を推奨しないため、これ以上の言及は避けておく) ウォートクラフト ウォートクラフトは、実際のところ、素人向けの錬金術である。材料を食べるには歯ですりつぶさなければならないが、その結果、もっとも純粋な源だけが解放され、食べた人に瞬間的な効果をもたらすのだ。ウォートクラフトでは、きちんとした道具で作られる薬のような効果は期待できない。 錬金術のツール 乳鉢と乳棒は錬金術に欠かすことのできないツールである。これがないと、薬として使えるように材料をうまく下準備することができない。新進の錬金術師はこれらのツールを肌身離さず持ち歩き、早いうちにその扱いに慣れておくべきだろう。材料をすりつぶすことは薬を作るうえで欠かせない基本手順となる。きちんと製粉された紅花草の花弁は粉末状になり、朝鮮人参のような材料を混ぜ合わせることで解毒剤ができあがる(これは錬金術師がもっとも早いうちに学んで身につけるレシピのひとつだろう。調合に失敗したときにお世話になることの多い薬だからである)。 腕のいい錬金術師なら、薬の質を高めるためのツールも扱えるようになる。レトルトを使うと混合物を純化することができ、薬の正の効果を高める。混合物を蒸留器で洗浄すると、不純物が取り除かれ、負の効果を減らすことができる。燃炉を使えば、混合物の不純物を焼却することができ、薬の効能がアップする。これらの道具は薬の生成に必ずしも必要なわけではないが、使わない手はないだろう。 材料の組み合わせ 薬の質は材料に依存する。同等の効果を持つ材料だけで薬を調合するのが無難だろう。ひとつの薬に対して4種類までの材料なら、問題なく使用できるようである。 錬金術師は材料の下ごしらえの腕前が上がっていくと、新たな特性を見つけられるようになり、それらを薬に利用することができる。錬金術師としての幅が広がるわけだから嬉しい瞬間には違いないが、完成時にどのような効果を持った薬になるのかしっかりと把握しておくべきであろう。すでに確立されたレシピの結果が変わる可能性があるうえ、すべてがプラスに働くわけではないからである。 白1 魔法学・薬学