約 2,885,233 件
https://w.atwiki.jp/micromag/pages/30.html
試料の形状を円盤、初期磁化を渦にします。 inputファイルの記述 # -*- coding utf-8 -*-# 日本語のコメントに必要from mumax2 import *# mumax2のインポートfrom mumax2_magstate import *# 初期磁化を渦にするために必要from mumax2_geom import *# 形状を(楕)円にするために必要 # 円盤 # セル数の設定# 2のべき乗がベストです。Nx = 128Ny = 128Nz = 1setgridsize(Nx, Ny, Nz) # 試料サイズ(メートル)sizeX = 500e-9sizeY = 500e-9sizeZ = 50e-9setcellsize(sizeX/Nx, sizeY/Ny, sizeZ/Nz) # モジュールの読み込みload( micromagnetism )load( solver/rk12 )# adaptive Euler-Heun solver # solverの設定setv( dt , 1e-15)# inital time stepsetv( m_maxerror , 1./3000)# maximum error per step # 物質定数の設定Ms = 800e3# 飽和磁化 Mssetv( Msat , Ms)# 飽和磁化を設定setv( Aex , 1.3e-11)# 交換定数 Aexsetv( alpha , 1)# ダンピング定数 α # 円盤形状の設定disk=ellipse()# 円盤の内部を1,外部を0に設定します。setmask( Msat , disk)# Msat is multiplied by the disk mask # 初期磁化を渦にするm = vortex(1,1) # カイラリティ 反時計回り、ポーラリティ 上向きsetarray( m , m) saveas("m", "png", [], "initial.png")# png形式で磁化配列mを保存saveas("m", "omf", ["Text"], "initial.omf")# omf形式で磁化配列mを保存 # 安定状態までシミュレーションを走らせるrun_until_smaller( maxtorque , 1e-3 * gets( gamma ) * Ms) saveas("m", "png", [], "finish.png")# png形式で磁化配列mを保存saveas("m", "omf", ["Text"], "finish.omf")# omf形式で磁化配列mを保存 # 終了sync() ソースコードのダウンロード disk.py 3,4行目 各種モジュールをインポートします。 30,31行目 変数Msに飽和磁化を代入してから、setvでセットしています。このようにしているのは47行目の都合です。 35~37行目 試料形状を円盤形にします。具体的には、円盤の外側の飽和磁化を0にすることで円盤形を再現しています。 35~37行目 初期磁化を渦構造にします。vortex関数の詳細は以下の通りです。 vortex(カイラリティ,ポーラリティ) ここで、カイラリティは渦の回る方向、ポーラリティは渦中心の立ち上がり方向が上向きか下向きかを表しています。渦が反時計回りの時カイラリティが1、時計回りの時-1です。また、渦中心が上向きの場合ポーラリティが1、下向きの場合が-1です。 ▲vortex(1,1) ▲vortex(1,-1) ▲vortex(-1,1) ▲vortex(-1,-1) 47行目 run_until_smaller( maxtorque , 1e-3 * gets( gamma ) * Ms) とあります。最後のMsは、以前のプログラムではgets( msat )となっていました。しかし、このプログラムでgets( msat )を使うとエラーとなってしまうため、これを回避するために変数Msを使っています。 実行結果 initial.png finish.png today - yesterday - total - Since 2014/01/06
https://w.atwiki.jp/switchsoft/pages/742.html
Dead Cells 側面視点ACT 探索 ローグライク スタイリッシュ 2,480円(税込)529MB→590MB→765MB→805MB 追加コンテンツ全1件 追加コンテンツ「Rise of the Giant」 100円4.0MB この商品を含むセット商品 Dead Cells - Rise of the Giant同梱版 2,480円 【DLCの特徴】 ◆新しい階層 従来の階層に繋がる形で、新たな階層「洞窟」が追加される!さらに、最高難易度ボスステム4を上回る「ボスステム5」への挑戦も開かれる。 ◆新たなる強敵 追加される新しい階層には、今までとは全く違うタイプのボスが登場する!そして、最高難易度でそのボスを倒した先には、更なる試練が待ち受けている…。 ◆新しいモンスターや武器 10種類のモンスターと13種類の武器/スキルが追加され、多岐にわたるゲームシステムのアップグレードが行われる。さらに、ストーリーや隠し部屋、設計図の追加も! ◆着せ替え要素 キャラクターの見た目を変えるスキン変更が可能となる。女性用の服装や、登場するモンスターをテーマにしたデザイン、クリスマスにぴったりなコスチュームなど数十種類のスキンが用意されている! 「死」は終わりではなく、始まりに過ぎない… プレイするごとに変化する世界で、己の力を示せ! 『Dead Cells』は何度でも繰り返し遊べるローグライク2D探索型アクションゲーム! 死を重ねることで得られる成長をその身に感じ、この世界を踏破しよう。 怪物たちが溢れかえる奇妙なエリアが複雑に絡み合う恐ろしくも美しい世界。 この世界に挑むのは、「死」を克服した1人の戦士。しかし、彼は決して最強ではない。 怪物に敗北してしまえばその肉体は滅び、成長した能力も手に入れた装備もすべて失ってしまう。 だが、その「死」こそが始まりなのだ。新たな肉体を手に入れ、新たな冒険を始めよう。 プレイするたびに解放されていく武器と魔法、そして何よりも、プレイヤー自身の経験が彼を強くする。 彼を最強にするのは君自身なのだ。 死を越えていくことで、確かな上達を感じることのできる秀逸なゲームバランス。ローグライクとメトロイドヴァニアを融合させた新たなゲーム体験"ローグヴァニア"。 剣、弓、盾、タレット、爆弾、瞬間移動… 90種類以上の装備と魔法。手に入る武器が違えば、強化される肉体のパターンも変化する。 プレイごとに自分なりの「最強」を作り出そう。 キャンペーンモードでは冒険するルートを選択可能。探索を重ねていくことで、新しいルートを発見することができる。 日替わりでステージが変化するデイリーチャレンジモードでは、幾多の死を越えてきた力を競い合おう!世界中のプレイヤーとハイスコアに挑もう。 配信日 2018年8月7日 メーカー Motion Twin 対応ハード Nintendo Switch 対応コントローラー Nintendo Switch Proコントローラー プレイモード TVモード, テーブルモード, 携帯モード プレイ人数1人 対応言語 日本語, 英語, スペイン語, フランス語, ドイツ語, イタリア語, ポルトガル語, ロシア語, 韓国語, 中国語 CERO C暴力 久々にデッドセルズ起動したら更新入ってて 処理落ちが軽減されてるね。 -- 名無しさん (2018-09-30 16 32 50) デッドセルズの更新。 デイリーのスピードランやってると、スト2がスト2ターボくらいになった感覚。 そんなには早くなってないと思うが、ところどころ早すぎて余計なダメージ食らう。 -- 名無しさん (2018-09-30 16 33 07) deadcellsアプデで優しくなったからおススメだよ アクション下手な自分でもクリアできるようになったしね、まあまだセル0しかやってないけど セル0以上は趣味だと思うことにしてる amazonだと11%オフで買えるからお得だと思う -- 名無しさん (2019-02-25 12 45 03) デッドセルズアプデでノーマルとハードぐらいまでは簡単になったけど ナイトメアまじで無理ゲー化した気がする セル5と新エリア来るまで寝かせることにした -- 名無しさん (2019-02-25 12 45 18) deadcells見てる分にはすごく単調に見えるんだけどこれ遊ぶと面白くなるタイプなのかな? 特定の装備が強いので戦い方がパターン化してくる 死んだらアンロックした要素だけ残して最初から マップは一応ランダム生成だけど、 アンロックするためには何十週何百周もマラソンしないと行けないので辛い -- 名無しさん (2018-08-06 08 21 14) デッドセルズ、ダメだわ…楽しい ・武器、アイテムが豊富で色々な種類がある ・途中で死んだ場合でも少しずつアンロック出来る要素があるから無駄にはならない ・ワープポイントが結構な頻度であるので道中がダレない ・操作が軽快 ボタン配置でZLをロール、ZRを調べるに変更したらさらに操作しやすくなった -- 名無しさん (2018-08-08 09 40 53) ローグライクとは言っても基本はステージクリア型でステージマップがランダム生成 一周が長いから出来るだけ死に戻りしたくないし道中で要らないもの拾いたくない 序盤の手触りはいいから問題は中盤以降の難易度上昇と アンロック周回必至の構造をどう感じるかだと -- 名無しさん (2018-08-08 09 41 20) dead cellsは操作のレスポンスの良さはめちゃくちゃ爽快感あるんだけど肝心のローグライク要素がちょっと、ってところが多いね 所持金持ち越しとか回復薬使用回数増加はもっと簡単にアンロックできていいと思うんだよな。あと中盤からの急激な被ダメ増加はゲームの仕様的にかなり辛い つえー奴と何度も戦って動きを覚えてやろうと思っても最初からそこまで再度到達しないといけないからなー -- 名無しさん (2018-08-08 09 41 37) デッドセル、すげー面白いな じっくり探索しながら進めてきたけど、ボスが強すぎてうへぇってなったんで とりあえず時の扉開けてみようと思って駆け抜けるプレイにしてみたら、世界が変わった とにかく配られた手札で効率よく進撃するにはどうしたらいいか試行錯誤するの、めっちゃ楽しい 慎重に進めるかダッシュで進めるか、プレイヤー次第でどちらでも楽しめる出来になってるのは素直に感心せざるを得ない -- 名無しさん (2018-08-20 23 47 21) 変異のコンボ強くね?俺も砂時計開けたい派だから真っ先にコンボ取るわ -- 名無しさん (2018-08-20 23 47 51) 実は出口を探すというだけで「新しい移動アビリティを覚えたから行けなかったあそこに行ってみようという」メトロイド成分はほぼない (だから公式では「ローグヴァニア」というジャンルなんだけど) -- 名無しさん (2018-08-20 23 48 18) Dead cellsのおすすめキーコンフィグ教えろください 少なくともローリングはLRに変えた方が使いやすいと思う -- 名無しさん (2018-08-20 23 49 27) デッドセルズはノーマルクリアまでならヌルゲーマーでもいけると思う 自動攻撃する罠任せで逃げっぱなしでも勝てるから -- 名無しさん (2018-08-20 23 50 58) どっちもアクションは気持ちいい 遠距離武器がホーミングしたり急降下で敵潰せたりと遊びやすい デッドセルズはいろんな武器で敵ガンガン倒して探索してくような脳筋向け、ストーリーはほぼない アイコノクラスツは手順踏んでパズルっぽい仕掛けを解いていくような脱出ゲームみたいなアクション、割と重めのストーリーがある 脳筋ならデッドセルズ、頭使いたいならアイコノクラスツ アイコノクラスツの操作感はロックマンとかあの頃のスーファミに近い感覚だが、 デッドセルズは何とも言えないぬるぬる感があって気持ちいい。 ただ、デッドセルズはローグライクの弊害で似たような地形の繰り返しだが、 アイコノクラスツはステージが練られてる。 どっちも値段以上の価値はあると思うが、 どっちか一本ならぬるぬるなデッドセルズかな。 難度は高いけど。 -- 名無しさん (2018-08-20 23 51 18) デッドセルズ、途中までは楽しかったけど、死亡でリセットされる要素が多すぎて途中で疲れて辞めてしまった… アンロックに必要なセルが序盤から多すぎるぜ 地道に敵倒しまくるよりも1ステージにつきスクロール2枚ほど集めたらさっさと次のステージ行って砂時計型の扉開けるっての繰り返しまくるといい 2番目の面、2分以内の砂時計の扉を開けれるようになると一気に世界が変わるよね。スクロールも金もセルも入手できておいしい 砂時計の扉は早解きのやり込み要素とかでなく、あれを全部開けれるくらいの時間で周回を目指すのが正しいバランスだと思う -- 名無しさん (2018-10-12 01 47 52) デッドセルズはボスが攻撃してる時に盾構えるのを意識するだけで一気に被ダメ減って近接攻撃もできて楽になる -- 名無しさん (2019-02-03 00 38 06) いっせいトライアルでプレイしたけど アクションのテンポが早くて良いな -- 名無しさん (2020-02-24 12 33 42) ダウンロードコンテンツ入れたんだけど、携帯モードでは左ジョイコンが全く利かなくなってしまったのは俺だけか? -- 名無しさん (2020-04-25 11 10 32) 300時間近くプレイしたんでver22の感想 盾と武器をバックパックに入れられるようになって一つ余分に持ち歩けるようになった アルマジロパックなどバックパックに対応した変異で両手武器が格段に使いやすくなった 武器、スキル増えたけどまだどうやって使ったら良いのかわからないのも多い ver18頃の処理落ちは大分減った感がある ver19頃の敵が氷像になる現象は無くなった -- 名無しさん (2021-03-02 18 54 57) ver22で瘴気システムが変更されて、難易度ナイトメア~ヘルは完全に別ゲーに。 今までにない地獄のラッシュか、それとも被弾覚悟で足を止めずに突貫するか。 地獄の二択が待っている。 でも、瘴気あってこその本作のような気もする。 -- 名無しさん (2021-03-09 21 00 12)
https://w.atwiki.jp/wiki11_hibiki/pages/102.html
「本当に美しい国」にするための公共工事・公共支出 いつまでも現状分析しててもしゃあないから建設的な話をしましょう。「高くつくけど価値がある」「タンス貯金に化けない」のを探してね。 電柱はやめて地中化する。 幹線道路の上と線路の上に高速自転車道=自転車走行チューブ(トロントで計画中)をつくる。 全国に新幹線網をつくり、貨物輸送を積極的に引き受ける(実際にはこんなのがでてきてるが、狭軌では限界がある)。 土地の収用が必要な場合は買収せず、定期借地にする(契約当初は割高でもオッケー)。 ボロボロになっている林業を立て直すための支出。 トラックに替わる長距離貨物輸送方法を開発し、高速道路の上につくる。長距離はコンテナ(海運もあり?)、中距離はパレットかなトラムに載せて。近距離はリヤカーかな。 文化財としての神社仏閣修繕。わざわざ見に行ったモノがショボイのは堪らん。カッコよくなったら田舎の誇りになると思う(どれを修繕するかは住民が決めるってのもいいな)。 みなさんもどんどんコメントで投稿して下さい。 } ちょっとどうかなと思いながらの候補 公正取引委員会は独占禁止法だけでなく、ダンピングや不当な価格下げ要求を抑制する法律も受け持つ。 中国に対して報復関税をかける。 財政投融資を廃止し、特別会計化する(そしたら郵貯はどうやって回せばいいんだよーってのはコイズミさんに訊く、なんちゃって)。 印紙税廃止。 高速道路公営化(一般道と同じ扱いにする)。 何でもかんでも東京に集中してるのを分散させる のがいいかどうか良く分かんないな。 四国への新幹線乗り入れ瀬戸大橋線つくる時に話はあったらしい。 田舎や地域のシンボルで郷土への誇りを 先に書いた神社仏閣の修繕。村の鎮守やその辺の寺も軒並み修繕しちゃう。 コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/sotto_project/pages/122.html
目次 歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)目次 読書感想記事 歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ) 歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ) 著者:マーク・ブキャナン(Mark Buchanan) 原題:Ubiquity The New Science That is Changing the World 戦争の原因は政治や歴史に求め、自身の原因は地球物理学に求め、森林火災の原因は気象や自然の生態学に求め、そして市場暴落の原因は財政、経済、あるいは人間の行動心理に求められるべきものである。どれもそろって「大惨事」や「大激変」と形容されるが、これらの出来事はそれぞれ特有の土壌から発生してきたものだ。しかしそれでも、これらはある興味深い類似性をもっている。国際関係のネットワーク、森林や地殻の構造、投資家の期待や展望のつながりあい──こうしたシステムの組織構造はどれも、小さな衝撃がシステム全体へと広がりうるようになっている。それはまるで、こららのシステムが不安定な剣の先でバランスをとっていて、それがいつ崩れてもおかしくない状態であるかのようだ。 マーク・ブキャナン『歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)、p24 目次 第1章 なぜ世界は予期せぬ大激変に見舞われるのかはかない平穏 大火災 突然の暴落 剣先に立つ 砂遊びする男たち 蝶を超えて 歴史の意味 第2章 地震には「前兆」も「周期」もない不安定な地面 ミッション・インポッシブル? 世界の主 大きな泥玉 背景雑音 第3章 地震の規模と頻度の驚くべき関係 「べき乗則」の発見爆弾探知 ジャガイモの理論 原因は一つ 第4章 べき乗則は自然界にあまねく宿る完璧なフラクタル 電子の小島 歴史物理学 細部の記憶 第5章 最初の地滑りが運命の分かれ道 地震と臨界状態砂山と地震 密着と滑り デジャヴ 誤りから出た一致 どうしてそうなるのか? 不均衡な世界 第6章 世界は見た目よりも単純で、細部は重要ではない秩序の形成 ゼロの物語 集団の出現 深遠なる原理 臨海的思考 第7章 防火対策を講じるほど山火事は大きくなる正しく燃やす 超臨界状態 相対性と臨界 米粒──砂粒の改良版 第8章 大量絶滅は特別な出来事ではない不可抗力 凍てつく風 図書館での10年間 第9章 臨界状態へと自己組織化する生物ネットワーク山々をさまよう デジタル生物 棒と楔 進化的思考 外なる力、再び現わる 第10章 なぜ金融市場は暴落するのか 人間社会もべき乗則に従う基礎に戻る 激しい変動 群集 心理戦 世間は狭い 第11章 では、個人の自由意志はどうなるのか?道を作る 都市の仕組み 金持ちへの道 第12章 科学は地続きに「進歩」するのではない砂の歴史 物語を超えて 学問の性質 通常の科学、通常でない科学 革命の物理 第13章 「学説ネットワークの雪崩」としての科学革命論文の足跡 科学という砂山 あまりに人間的な 文明と不満 残酷な計算 信念の力 第14章 「クレオパトラの鼻」が歴史を変えるのか偉大な砂粒 クレオパトラの鼻 歴史ゲーム 第15章 歴史物理学の可能性歴史の物理学 訳者あとがき 解説 増田直紀 原注 読書感想記事 ロングテール(アップデート版)―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 (ハヤカワ新書juice) ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質
https://w.atwiki.jp/wiki7_vipac/pages/64.html
https://w.atwiki.jp/20191213/pages/21.html
殺しあえと命じられた地の、月明かりの下で少年が一人活動を始めていた。 少年の名は不死川玄弥という。 鬼を殺すべく集った組織、鬼殺隊の一員だ。 彼も当然鬼を殺すだけの怨みと実力を持ち合わせているのだが、他の隊士に比べて鬼を殺す才には恵まれない面があるため、業腹ながら与えられた武器や情報が他の隊士よりも重要な生命線となる。 そのため彼が鞄を開き、武器や名簿を確かめる姿は半ば祈るようであった。 その結果は悲喜こもごもではあったが。 武器は上等なものがあった。そして名簿には (宇髄さん……やっぱり宇髄さんだった!) 神子柴なる老婆に斬りかかった男は鬼殺隊の『音柱』宇髄天元のものに見えた。 上弦の陸との闘いで重傷を負って引退したと聞いていたし、柱稽古でもそのようにしか見えなかったが……死者の蘇生を可能とするというならばそのくらいの傷は癒せるということだろうか。 いずれにせよ頼りになる名と姿を目にできたのは何よりだ。 他にも刀鍛冶の里で共闘した竈門炭治郎に『霞柱』時透無一郎、いけ好かないが宇髄と共に上弦の陸と戦い生還した嘴平伊之助に我妻善逸の二人も柱稽古の最終段階まで進んだ猛者だ。 そこまではいい。 鬼殺隊の怨敵、始まりの鬼である鬼舞辻無惨、上弦の参である猗窩座、そして宇髄たちに斬られたはずの上弦の陸――蘇生させられたのか――妓夫太郎と堕姫の名は様々な感情を玄弥の内に引き起こす。 殺し合いの場であるなら無惨を斬るまたとない機会になるだろう。 だが同時にこの鬼どもは大きな障害ともなる。 歓喜、怖れ、他にも様々なものを覚えたが……ともあれ動き出さねば何も始まらない。 荷物を纏め、玄弥はゆっくりと立ち上がる。 (にしても変なところに出たもんだ) ひとまず目についた神子柴の顔が描かれた珍妙な旗を目指して歩いてみたが、すぐに首輪から警告音が響いたので慌てて引き返す。 そうして改めて周囲を見ても立ち並ぶのは玄弥にとって見慣れない建物だった。 旗はともかくとしてそこに建っているのはどれもこれも平成、令和の時代にもなればありふれた民家ではある。 それでも大正を生きる玄弥には奇異なものに映った。 しかし文明開化が順調に進みつつあるのもまた大正であり、多少の違和感は覚えても大きな驚きはない。 そして見目が多少変わったところで古今東西変わらぬものもある。 人が生活しているならばその痕跡があるということ……例えば明かりがついている、という。 夜の闇の中で一軒だけ、ぼんやりと光を漏らしている家があった。 気持ちは分からなくもない。 夜の活動に慣れた鬼殺隊の端くれである玄弥も、正直僅かな自然光だけで名簿などに目を通すのは面倒だったし、何より夜の闇は不安を駆り立てる。 しかし殺し合えと命じられた真っただ中で、それもどこかに鬼がいる状況でいたずらに自分の居場所を発信するのは賢明でない。 承知の上での振る舞いかもしれないが、ひとまず注意に向かおうと玄弥の足がそちらに向かう。 もちろん、あえて呼び寄せているのではという疑念もなくはない。 支給された武器をすぐ取り出せるように構えて。 他の隊士に比べれば意味は薄いが呼吸を落ち着けて。 明かりの漏れる家へ周囲を確かめつつゆっくり近づいていく。 (藤の花が一輪もないな……) 夜は、鬼の時間だ。 安心して眠りにつくためには鬼を遠ざけてくれる藤の花を植えるのが不可欠と言っても過言ではなかろう。 ましてやこの地には無惨もいる。 にもかかわらず家の周りは石塀で囲まれた程度で鬼相手の防備を考えているとは思えない。 塀の向こうに見える中庭からは十分な土と草木の匂いがするから環境的に出来ないというわけでもあるまいに。 (本当に変なところだ) 石塀につけられた格子戸を開けて庭に入り、入ってすぐの光の漏れる硝子戸の向こうに視線をやる。 案の定、硝子戸の向こうの妙にひらけた室内に人影があった。 「おーい、そこのあんた。ここらには鬼が出る。危ねえ、ぞ……」 中にいる誰かに聞こえるように、しかし無闇に響かせないように気持ち潜めて。 その声に反応して影が振り向いたことで玄弥の声が詰まる。 そこにいたのは美しい異人の少女だった。 相手の性別とその容貌に気付いた玄弥が少し気後れるが、状況が状況でそうも言っていられない。 光に気付いて鬼が寄ってくるかもしれない、自分が気付いたんだから近くに誰かいれば同じように気付くだろう、注意しろ、などと忠告染みた言葉を絞り出そうとすると 「ねえ。これ、すっごく……綺麗だと思わナイ?」 先に句を告いだのは少女の方だった。 言葉と共に指で指示された方向に自然と玄弥の視線も誘導される。 玄弥はそうと分からなかったが、外にまで漏れ出た光は少女の指さした物を照らしている光源の残照だった。 それはあたかもステージを彩るスポットライトのよう。 そして室内がひらけているのもそれを展示するミュージアムであるかのよう。 リビングにポツンと置かれたダイニングチェアの上に鎮座するそれは、逆になぜ今まで気づかなかったのかと思うほどに存在感を放っている。 周囲の環境と、少女の振る舞いに導かれ、玄弥はそれを認識し……そしてそれが何かを理解した。 「…ッンだよ、それ!!」 「綺麗でしょう?これがネ、アリナに支給するウェポンなんだって。いいセンスしてるよね」 自らをアリナと呼んだ少女は狂気を孕んだ笑みを浮かべてそれを手に取る。 手の中のそれを掲げると顔の高さにまで持ち上げて……するとそこにはアリナと並んだ、もう一人の美しい少女の顔が。 「首……!?」 「デーモンの生首だってさ、アハ。デーモンの元老院、冷元帥クルールが人間とのウォーに負けて首を撥ねられたんだって。魔女やウワサはたくさん見てきたけど、悪魔は初めて見るヨネ」 冷元帥クルール。 火星の魔力を使った大儀式によって産まれた正真正銘のデーモンの姿は死してなお、いや亡骸であるからこそより美しくアリナの目には映った。 魔女やウワサは死体を残さない。 『生と死』を自らの芸術テーマとするアリナにとって、それはあまりにも惜しく、だからこそ手の中に遺った怪物はあまりにも愛おしい。 これを素に、作品を作り上げるには――― 「アナタ、ヴァニタスって分かる?」 「ぶ、う゛ぁ…?」 「静物画のジャンルなんだけど。死をモチーフにしたアートだからアリナも少し勉強したワケ。髑髏とか腐っていくフルーツで死やそれに伴う無常を描く……アンダスタン? アリナはこれで九相図を作ったら面白いと思うんだよネ。綺麗なデーモンの亡骸と、真っ白な髑髏と、腐乱した生首と他にもたくさん。だから、サ」 アリナの左手中指に嵌められた宝石、ソウルジェムが輝く。 そこから半透明のキューブが現れ、続けてキューブから出てきたサイケデリックなカラーをした衣装がアリナを覆い、長袖のアンダーシャツとブラウス、茶色いチェック柄のスカートで構成された女制服から彩り豊かな憲兵風の装いへと転じた。 魔法少女アリナ・グレイ。 口元に微笑みを浮かべ。 掌にキューブを浮かべ。 彼女は続けて口にした。 「アナタの首を、アリナにちょーだい」 キューブから放たれた幾筋もの光線が玄弥へと襲い掛かる。 気圧され、混乱する玄弥だったがさほど苦はなく攻撃を回避することはできた。外れた光線が庭へと続く硝子戸と外のブロック塀を砕く。 玄弥のの予想外の速さにアリナの口から舌打ちがこぼれた。 「魔法少女……じゃないよネ。その見た目でガールはノーでしょ。アナタ、何?」 「鬼殺隊、不死川玄弥。テメェこそ、なんだ?」 「アリナは魔法少女ですケド。それともマギウスって言った方がいいワケ? ……あ、ジーニアスアーティストとしてなら適当な雑誌をリードすれば分かるから勝手に調べてよネ。ま、アナタにそんな今後は無いんだケド」 鬼だの鬼殺隊だのというのがアリナにはさっぱり見当もつかない。 ただの人間の男だろうと侮って放った一撃を回避されて、黒羽根よりはやり手だと評価を修正し改めて攻撃を放つ。 玄弥もまた魔法少女、マギウス、デーモンというのが何だかまるで分らない。 始めは鬼の首を刈った剣士かと思った。次に人の首を眺める鬼かと思った。 だがアリナも生首の方も鬼らしい気配は感じ取れず、別の悍ましい何かだと予想するにとどまる。 だがひとまずはそれで充分……目の前の女は敵である。 さすがにこの女に反撃したとて炭治郎に腕を折られはすまい。 再度放たれた光線を躱し、素早く態勢を立て直して武器を抜く。 飛び出したのは巨大な大筒―――純銀マケドニウム加工水銀弾頭弾殻、マーベルス化学薬筒NNA9、全長39㎝、重量16㎏、13㎜炸裂徹鋼弾、『ジャッカル』。 最強の吸血鬼がただ一人の人間と戦うために用意させた特注の逸品だ。 並の化物なら一撃で、尋常ならざる怪異殺しであろうと五体を満足に保たせぬ弾丸は、喰らえば魔法少女であろうと無事ではすむまい。 その引き金が玄弥の手に収まり、その砲口がアリナに向けられていた。 轟音。 銃声とも呼ぶにはあまりに大きな炸裂音でジャッカルが牙をむいた。 「ッガ……!」 だが短い悲鳴を上げたのは玄弥だった。 ジャッカルの弾丸は狙いからずれ、アリナの光線とはまた別のブロック塀を抉り飛ばして終わった。 さもありなん、ジャッカルは人が扱える武器ではない。 玄弥の身体能力も人並み外れてはいるが、それでも不死王アーカードの携える牙の一つを使いこなすには役者が足りないと言うざるを得なかった。 だがそれで諦めるような男が鬼殺隊に身を置くはずもない。 「舎衛国……祇樹給孤独園、与大比丘衆」 念仏を唱え、集中を極限まで高める。 すさまじい銃の反動ではあったが、手首も肘も肩も無事。 であれば今度は全身で放つ。 玄弥は片手で構えていたジャッカルを両手で構え、足腰も活用して衝撃に備える。 そして再び引き金を引き、銃声を轟かせた。 再度放たれる弾丸だが、今度はアリナは意図してそれを躱す。 鬼殺隊が鬼を殺すために人の力を極めるように、魔女を殺すために人ならざる域に踏み込んだのが魔法少女だ。 玄弥が血鬼術を躱すようにアリナの光線を躱せるように、アリナもまた玄弥の構える銃を魔女の攻撃のように知覚して回避する。 (クソが、とんでもねえ武器だな!) 玄弥でもジャッカルは両手で構え腰を落とさなければまともに撃てないが、それでは早撃ちなどできるわけもなく、照準をアリナに読まれてしまう。 かと言って無理に早撃ちをしようとすれば腕が折れてしまうのでないかというほどの反動が襲い掛かる。 最初は当たりの武器かと思ったが途轍もないじゃじゃ馬だ。 玄弥が狙い構えるまでの間に、アリナは立ち位置を変えることで銃弾を躱し、さらに光線を放ち徐々に玄弥を追い込もうとする。 初撃の的外れさや構え方、見て取れる銃の威容からすでにアリナはジャッカルが玄弥の手に余るものだと看破していた。 光線が壁を一部崩し、床を貫き、足場を乱して玄弥を敗北へと導こうとする。 (だったら!) 乾坤一擲、玄弥はアリナの攻撃を姿勢を低くして避け、乱れつつある足場を大きく踏み込んで距離を詰める。 ジャッカルを左手に握り、その重量を活かして鈍器として扱い、薙ぎ上げるように振るった。 だがそんな単純な一撃が通るはずもなく、アリナは左手にクルールの首を抱えて躱しつつ距離をとろうとするが 「ウオラァ!」 雄叫びを上げて左手だけでジャッカルのトリガーを引く。 狙いなど碌に定めたものではない。的外れなことに天井に放たれた弾丸が跳弾することもなく貫通し、砕いた欠片を二人にばら撒いた。 「キャ!?」 そのつぶてにアリナが僅かに怯んだ隙をついて玄弥が右手を伸ばし、クルールの首を奪い取って再び距離を置く。 「…何する気?アリナからそれを奪って、フリーズなんて言うとか?」 なるほどたしかにアリナから下手に手出しはできなくなった。 だが玄弥の状況はどうか。 無理にジャッカルを撃った反動だろう。彼の左腕は奇妙な方向に折れ曲がっていた。 その有り様で凄んだところで大した脅威になりはしない。 ゆっくりとアリナはキューブに魔力を込め、とどめを刺す準備を整えていく。 「……こいつ、悪魔?だっけ」 「そうだケド。貴重なアートになるんだから傷つけたらただじゃ―――」 ばりっ ごきっ ばきばき ず ず ごくん 「…………ハ?」 肉を噛む音。骨を砕く音。血を啜る音。それら全てを嚥下する音。 ――――――玄弥がクルールを食っている音。 さすがのアリナもこれは予想できなかったようで一瞬呆気に取られてしまう。 だが 「ふざけるなふざけるなふざけるなぁぁぁ!!! 作品をブレイクしていいのはアーティストだけなんですケド!!何勝手なマネしてくれてるワケ!? アナタ…アナタのハラワタをぶち撒けてその中からクルールを抉り出しやる!」 怒りに染まったアリナが叫びと共にキューブに込めた魔力を解放し、玄弥に向けて全力で放つ。 ドッペルには及ばないが全力の一撃で、これまで見た玄弥の身体能力では躱せるはずのないものだとアリナは自負していた。 だが玄弥はアリナの想定を大きく超えて速く高く跳び、アリナの攻撃を回避してみせた。 それだけではない。 つい先ほどまで折れていたはずの左手でジャッカルを構え、アリナに向けて放ったのだ。 (ウソ!?) 牽制だったのだろう。そこまで正確な一撃ではなかった。 だが先ほどまで使いこなせていなかった武器を突然使いこなし―――いやそもそも左腕は折れていたはず。魔法少女でもこんなに早く回復はしない。 何が起きたのか。 アリナが混乱の渦に叩き込まれているさなかにも玄弥は容赦しない。 ジャッカルの銃撃を正確に二発、三発と叩き込んでくる。 二発目は躱した。だが三発目がアリナの肩口をわずかに掠め、それだけで肉を大きく抉っていった。 多量の出血でアリナの頭に上っていた血が下りる。 間が悪くそこでジャッカルの弾が切れたようで、玄弥が即座に鞄から取り出した予備弾を込め治す。 その隙に痛覚を遮断したアリナが魔法で傷を塞ぎ、最低限出血を抑える程度には持ち直して向きなおる。 玄弥が構えなおすより速くアリナが光線を放った。 毒々しく輝く光線が床を一気に腐敗させて足場を乱し、毒と床が反応したのか煙も上げて照準のための視界を乱す。 それも今の玄弥には障害とはならない。 人並外れた咬合力と消化器官をもつ玄弥は、鬼を喰らい取り込むことでその力を得て鬼を殺してきた。 今は悪魔クルールの首を喰ったことで強靭な肉体を獲得し、五感もまた鋭敏になっている。 多少の煙幕などものともせず照準を定めようとするが (…消えた!?いや下か!) アリナは即座に自らの足元を魔法で砕くとそこに身を躍らせた。 ジャッカルならば床板くらい容易に貫通できるだろうが、狙いが定まらなくては無駄弾と装填の隙を招きかねない。 ならば自分も後を追って床下に飛び込むかと一瞬考えるが 「勘弁してよネ。デーモンを食べてデーモンの力を取り込むとかチートじゃナイ? ここ、神浜じゃないからアリナはドッペル使えないのに。魔女を利用する私たちマギウスと同じようなことやってるの他にもいるんだ。シニカルなフォーチュン……」 アリナの声が下から響いたことで狙いがつけやすくなった。 ぶつぶつと言葉を続けるアリナに向けてジャッカルの銃口をむけようと即座に ぶつぶつ 闇の中から蘇りし者 ぶつぶつ リンプ・ピズキット 我と共に来たれ ぶつ ぶつ ドスッ!!! 「ぐあ…!」 玄弥の脇腹に鋭い何かが突き刺さった。 咄嗟に構えようとしていたジャッカルを振るい殴りつけようとするが、その一撃はむなしく空を切る。 (なっ!?ンだ今のは) 見えない。 何から攻撃されたのか分からないが、わき腹を抉られた。 それ自体は大した傷ではないが、敵が何をしたのか分からないのは大問題だ。 (上弦の肆みてえに見つからねえのか!?) 咄嗟に足元に視線を走らせるが鼠一匹見当たらない。 視力も強化されているからそれは間違いない。 そこへ続けて獣が駆けるような足音を響かせて見えない何かが突っ込んできた。 音に反応して玄弥もそれを受け止めるべく構えるが、クルールを喰って得た膂力でもってもその敵は抑えきれなかった。 敵の正体がつかめない。そして圧倒的な攻撃力の別固体らしきもの。ますます上弦の肆が玄弥の脳裏によぎる。 (同じなら…あの女をやれば!) 玄弥は突っ込んできた何か――見えないが毛が生えているようだ――と組み合い、押されながらもジャッカルを突き付け引き金を絞る。 銃声と共に硬い何か――おそらくは角だろうか――が折れる音が響き、それに怯んだか不可視の敵の力が緩む。 そこへ思い切り前蹴りを叩きこんで吹き飛ばし、その反動で玄弥も後ろに跳び、両者の間に大きな距離ができた。 アリナが乱した足場を今度は玄弥が利用する。獣の足では即座に距離を詰めれまい。 その間にジャッカルの照準を改め、アリナの声がした方へ。 上弦の肆と同じなら大元を仕留めれば不可視の攻撃は止むはずだとそちらを仕留めようとする玄弥の耳に、予想だにしなかった獣の足音が再び響いた。 (壁!?) 重力を無視したように、音は横方向、目線の高さから聞こえた。 たしかに壁には多少の銃痕は在れど移動に支障をきたす大きなものはない……そも壁というのは歩くことを想定するものでもなかろうが。 予想外に早い戦線復帰。それでも玄弥が引き金を引くより早いということはなかろうが、姿が見えず何をしてくるか予想できないのが恐ろしい。 射線に割り込み盾になろうとしてくるか。またこちらに突撃してくるのか。上弦の肆の分身やアリナとかいう女のように飛び道具でも撃ってくるか。 先に対処するにも見えない敵にジャッカルの照準を合わせるのは至難の業だ。 ならば、と。 ジャッカルを持つ右手はそのままに、玄弥は左手を足もとへ伸ばす。 そのまま傷ついた床を拳で打ち抜き 「おとなしく、してやがれェ!!」 床板を丸ごと引きはがしてその面で広範囲をぶっ叩く。 見えなくとも辺り一帯を攻撃すれば効果はあろう。 床板を大きな塊のまま振るえたのは幸いだった。 「手ごたえあり……!でもって見えたぜ……!」 剥がれた床板で獣は弾き、そして床下のアリナの姿もはっきりと捉えられるようになった。 これでトドメ、と玄弥が右手のジャッカルを放とうとする。 バリ バリバリバリ パキ ボキン 肉を噛む音。骨を砕く音。 それが今度は玄弥の右腕から響いていた。 「うっ、おおおおおおおおおおおおおおお!?」 喰われる感覚。 玄弥がそれを味わう立場になることは珍しい。 鬼殺隊を相手にした大概の鬼は殺してから喰うもので、喰って殺すことはそうないからだ。 だがこれは噛み砕いているのではない、明らかに喰っている!戦場において鬼以上の悍ましさ! (床板の向こうにさっきのは抑えてる!女は床下、ならもう一体出たのか!?) 増えた。 本気でこのアマ上弦の肆の親戚か何かじゃないかと混乱する玄弥は思うが、そんな呑気なことを考えている余裕はない。 一対一でも厳しいところに不可視の敵が二体出てきて、さらに増えないとも分からない。 もはや玄弥一人の敵う範囲ではなくなった。 刀鍛冶の里での戦いのように死の気配が満ちるのを肌で感じる。 右腕がさらに抉られ、ジャッカルが落ちた。 床板を破り、獣の匂いが近づいてくる。 対峙する少女も掌を輝かせ攻撃を放とうとしている。 今の玄弥ではそのどれにも対処はできない。 (もう…死ぬ) また、兄ちゃんの顔と言葉が走馬灯のように ―――玄弥ーっ!!!諦めるな!!――― 浮かぶ前に仲間の顔と声を思い出した。 視界が晴れる。思考が晴れる。 …………悪魔を喰らい、発達した聴覚が足元に転がる何かに気付いた。 玄弥に貪られ、頬が抉れてもなお美しくあるクルールの首。 床板を振り回した際にこちらに転がってきたようだ。 …………アリナと玄弥の戦闘の余波で崩れた塀の向こうに、神子柴の顔がはためいていた。 ああ。それに、賭けよう。 「飛べーっ!!旗のとこまで!!」 強化された脚力で、クルールの首をクソみてえな旗目がけて蹴り飛ばす。 またしてもクルールの首に突然とった意味不明な行動にアリナは驚き、クルールへの無礼な振る舞いに怒り、しかしまた妙なことが起こるのではと警戒し、といったところだ。 一瞬どうしたものか逡巡するアリナだったが 「おい。あの旗の方、神子柴のヤツがいる禁止エリアだったぞ」 玄弥のその声で顔色を変える。 禁止エリア……神子柴が言っていた、立ち入り禁止の区域! 「ヴァァァアアアッッッ‼」 奇声を発しながら、もはや玄弥などどうでもいいと飛んでいったクルールをアリナは追いかけ始める。 悪魔を喰らった玄弥に蹴られた首は彼方まで飛び、強化された魔法少女の視力でもすでに視界ギリギリだ。 もし禁止エリアに入ってしまえばあの首を二度と手に入れることができないかもしれない。 優勝して回収するとしてもそれまで放置され雨風にさらされたり腐敗してしまったりすればただでさえ傷ついたのに、さらに希少な美が損なわれてしまう。 (許さナイ……!) コイツの言葉が真実かどうかはこの際どうでもいい。 クルールの首を回収して、その後コイツは必ず殺してやる。 怨みの視線だけ残してアリナは急ぎこの場を離れていく。 「……ぐ、痛」 それを見送り、一瞬息をつくと抉られた右腕が回復していく。 いつもより回復が遅い気がするが、喰ったのが鬼じゃないからだろうか。 ジャッカルを持てる程度に回復したところで落ちたそれを回収し、アリナとは反対方向へ玄弥も駆けだした。 あの女の思想も、能力も、上弦に匹敵する危険さだ。 炭治郎や柱、他の仲間の協力もなければ倒すのは困難だろう。 屈辱だ。苦渋の選択だ。 だが脅威を喧伝しなければならない。何より敵はあの女だけではない。無惨や他の上弦もこの地にはいるのだ。 今は生き延びることを優先しなければならない。 (畜生……) とはいえ無為な戦闘ではなかった。 ジャッカルの性能を試せたこと、デーモンなる存在をしれたこと。 一か八かで口にはしたが、本当に鬼と同様に力が得られるかは賭けだった。 最後の逃亡もあの首がなければなし得なかったし、首の少女には散々に助けられたと言える。 (あー、でもまた蝶屋敷ですげえ怒られそう……) 鬼だけではなく得体の知れないもの口にしたと知れば蟲柱は何と言うだろう。 おまけに今後また別のものも口にするかもしれないとなればなおのこと。 玄弥はすぐ取り出せるよう懐にもう一つの支給品を忍ばせる。 (正直悪魔の肉なんて疑ってたけど、あれが本物ならこれも多分……ん?何か動いたか?) 手にした肉片……『銃の悪魔の肉片』が玄弥の後方、アリナの駆けて行った神子柴の旗の方へ僅かに動いたのは玄弥が走り揺られていたせいか。それとも…… 【C-4/1日目・深夜】 【不死川玄弥@鬼滅の刃】 [状態]ダメージ(小~中、回復中)、クルールを喰って微妙に悪魔化 [装備]ジャッカル@HELLSING、銃の悪魔の肉片@チェンソーマン [道具]基本支給品、ランダム支給品0~1 ジャッカルの予備弾(残数不明)@HELLSING [行動方針] 基本方針:悪鬼滅殺。人は守る。 1:今はアリナと距離をとる……今は。 2:炭治郎や無一郎のような仲間と合流し、無惨やアリナなど敵を滅殺する。 ※参戦時期は柱稽古終盤~無限城突入の間ごろです。 【ジャッカル@HELLSING】 不死川玄弥に支給。 対化物戦闘用13㎜拳銃 全長:39㎝ 重量:16㎏ 装弾数:6発 使用弾種:専用弾・13㎜炸裂徹鋼弾 弾殻:純銀製マケドニウム加工弾殻 装薬:マーベルス化学薬筒NNA9 弾頭:法儀式済み水銀弾頭 吸血鬼アーカードがアレクサンドル・アンデルセン神父と戦うために創らせた特注の銃。 もはや人類の扱える代物ではないらしい。 【銃の悪魔の肉片@チェンソーマン】 不死川玄弥に支給。 銃への恐怖が生み出した悪魔、その肉片。 この肉片を得た悪魔は大きく力を増すという。 肉片同士に引き合う性質がある。 「アイツ、本当にムカつくんですケド」 クルールの首はかろうじて確保できた。 もう少しで禁止エリアに転がり込むところで、本当に危なかった。 「ンー……」 手にした首を再度じっくりと眺めてみる……齧られはしたがこれはこれで美しい。 ミロのヴィーナスやサモトラケのニケは欠損ゆえの美があるというが、なるほどこれもまたそういうものだろう。 あらかた堪能したところで今度はアリナの周囲に集う透明なゾンビに手を伸ばした。 アリナにも見えない、リンプ・ピズキットによって産まれた二体のゾンビ。 その姿を確かめるために触れてみたいと思ったのだ。 まず一体目は、四足歩行の獣の背中から女体が生えているような形をしている。 その女体の肌にじっくりと指を這わせるうちに理解した……これはクルールのものだと。 てっきり首だけのゾンビになるのではと危惧していたが、デーモンには再生能力でもあるのだろうか。五体満足を通り越してもう一つ五体ができている……姿は見えないが艶めかしい肌触りに美しい毛並みだ。想像するしかないのが本当に惜しい。 そしてもう一つのゾンビに手を触れると、これはなんだかすぐに理解できた。 ベッドの上でもでもバスルームでも、何度も触れているなじみ深いもの。 「アイシー。アリナたちはもうゾンビみたいなものだったネ」 そう。 アリナ・グレイのソウルジェムに操られるだけの肉体も、リンプ・ピスキットは死体と認識してゾンビを産み出したのだ。 このゾンビたちにアリナは玄弥を殺させるつもりだったのだが、どうやら射程距離があるらしくアリナに着いてきてしまった。 魔女やウワサのようには扱えないらしい。 「あーあ。せっかくキープしてた魔女もウワサもなくなってるし……」 アリナの固有魔法は結界の作成で、その中に多くの魔女、使い魔、ウワサを飼って保管していたのだが、それは没収されていた。 では改めてこのゾンビやクルールの生首をしまおうかと考えるが、そうすると魔力の消費がいつも以上に凄まじい。 結界の中に引きこもったりしては殺し合いが円滑に進まないからだろうか。 本当にイライラする。 「ま、でも……」 このクルールの姿は本当に美しい。これ以上劣化しないようにひとまず大事にディパックにしまっておく。 おそらくこれだけではないだろう。 クルールが死んだのは戦争≪ウォー≫だという。 ならば悪魔も彼女一人ではあるまい。 玄弥もまさかやけっぱちで彼女を喰らったということもなかろう……何らかの確証があって口にしたのだ。 デーモンに近しい何かをアイツは知っている。そういえば鬼、とか言っていた気がする。 「すっっっっごく欲しいヨネ。アリナのとびっきりのアートのために」 【C-4、国会議事堂近辺/1日目・深夜】 【アリナ・グレイ@魔法少女まどか☆マギカシリーズ】 [状態]右腕負傷(魔法で止血)、痛覚遮断、魔力消費(小) [装備]リンプ・ピズキットのDISC@ジョジョの奇妙な冒険、クルールのゾンビ、アリナのゾンビ [道具]基本支給品、クルールの生首(玄弥に齧られて頬などが欠損)@デビルマンG、ランダム支給品0~1 [行動方針] 基本方針:レアなアートの材料が欲しい。 0:悪魔族クルール。とっても綺麗…… 1:デーモンや鬼、アリナの知らなかった美しいアートの素材を探す。それを彩る絵の具やキャンバスも欲しい。 2:アイツ(玄弥)は鬼について口を割らせたら殺して赤い絵の具にしてやる……! ※参戦時期はマギウスが黒羽根ができる程度に組織を拡大して以降です。詳細な時期は後続の方にお任せします。 ※結界内の魔女、ウワサ、使い魔は武装として没収されました。 ※制限により結界を作成し中に人や物を入れようとすると魔力の消費量が大きく増大します。 【クルールの生首@デビルマンG】 アリナ・グレイに支給。 悪魔族元老院の両巨頭と謳われる最上位のデーモン、冷元帥クルール。 彼女の最期は原作漫画デビルマンの牧村美樹の最期をオマージュした凄惨なもので、デビルマン・フラムメドックに首を撥ねられ、狂喜に踊り狂う人間たちにその首や五体を晒されていた。 そのうちの生首だけがアリナに支給された。 【リンプ・ピスキットのDISC@ジョジョの奇妙な冒険】 アリナ・グレイに支給。 頭に挿入することでスタンド能力を身に着ける。 破壊力 - なし / スピード - B / 射程距離 - B / 持続力 - A / 精密動作性 - C / 成長性 - E 死んだ生物を見えない死骸として甦らせる能力を持っている。 蘇ったゾンビは、壁や天井を自由に歩くことができ、その本能から脳味噌を喰らおうとする。 死体の一部だけでも蘇生させることができなくはないが、うまくいくのか、どうなるかは持ち主にもこの能力を与えたホワイトスネイクにも分からなかった。 Next 血と吸血鬼とチェンソー Previous 内秘心書 前話 名前 次話 START 不死川玄弥 [[]] START アリナ・グレイ [[]]
https://w.atwiki.jp/takumas72/pages/347.html
nicovideo_mylist エラー ( マイリストURLの取得に失敗しました。正しいURLを入力してください。 ) 作品解説 制作者:TangeθP(ユーザーページ) GM 近藤聡美 PC(PL) サイネ=マトーカ(サイネリア) エルフ/女性/21歳/操霊術師生まれ カスミン=ガル(高槻かすみ) 人間/女性/15歳/一般人生まれ クリーク=ナイツ(小川さん) ドワーフ/女性/24歳/射手生まれ
https://w.atwiki.jp/cell-net/pages/12.html
人気商品一覧 @wikiのwikiモードでは #price_list(カテゴリ名) と入力することで、あるカテゴリの売れ筋商品のリストを表示することができます。 カテゴリには以下のキーワードがご利用できます。 キーワード 表示される内容 ps3 PlayStation3 ps2 PlayStation3 psp PSP wii Wii xbox XBOX nds Nintendo DS desctop-pc デスクトップパソコン note-pc ノートパソコン mp3player デジタルオーディオプレイヤー kaden 家電 aircon エアコン camera カメラ game-toy ゲーム・おもちゃ全般 all 指定無し 空白の場合はランダムな商品が表示されます。 ※このプラグインは価格比較サイト@PRICEのデータを利用しています。 たとえば、 #price_list(game-toy) と入力すると以下のように表示されます。 ゲーム・おもちゃ全般の売れ筋商品 #price_list ノートパソコンの売れ筋商品 #price_list 人気商品リスト #price_list
https://w.atwiki.jp/qqkwkw/
MemoryPool.h /********************************************************************* * MemoryPoolクラス * メモリ領域の取得・開放を行うためのクラスです。 * * 動作環境 * ・Windows(32bit)系 * * メリット * ・メモリ領域を、malloc/freeよりも高速に取得・開放できます。 * ・開放漏れがあっても、一括で開放できます。 * * デメリット * ・確保できるメモリ領域の大きさ・数には、限界があります。 * ※パラメータとして指定が可能 * ・デメリットとして、メモリ効率はあまり高くありません。 * * Copyright (C) 2012 櫻式 qqq All Rights Reserved. * http //smodel.sakura.ne.jp/ *********************************************************************/ class MemoryPool { public //////////////////////////////////////////////////////////////////////// // クラス固有の型の宣言 typedef unsigned int address_32; // 32ビット系OSのアドレス長を扱える型 typedef unsigned char byte_block; // 1バイトの長さを持った型 typedef unsigned char boolean; // 真偽値を表す型 static const boolean TRUE = -1; // TRUEの固定値(必ず非0でなくてはいけない) static const boolean FALSE = 0; // FALSEの固定値(必ず0でなくてはいけない) public //////////////////////////////////////////////////////////////////////// // メソッドの宣言 // コンストラクタ // ・data_size 確保できるメモリの最大サイズ(Byte) 。2のべき乗が理想 // ・data_count 確保できるメモリの最大個数。2のべき乗が理想 MemoryPool( address_32 data_size=128, address_32 data_count=64 ); // メモリ領域を確保する // ・data_size 確保するメモリのサイズ void* allocate( address_32 data_size ); // メモリ領域を解放する // ・開放するメモリのポインタ void dislocate( void *data ); // このオブジェクトを通じて確保した全てのメモリを開放する void clear(); // デストラクタ ~MemoryPool(); private //////////////////////////////////////////////////////////////////////// // プロパティの宣言 address_32 data_size; // 確保できるメモリの最大サイズ(Byte) address_32 data_count; // 確保できるメモリの最大個数 byte_block *pool; // メモリプールへの参照 boolean *is_used; // メモリプールの利用状況フラグ address_32 index; // メモリ確保時に最初に見に行く領域の索引 }; MemoryPool.cpp #include "MemoryPool.h" #include stdlib.h // 指定のメモリ領域を全て0で埋める。 // Windows.hを利用の場合、同名のAPIで置き換えが可能。 static void ZeroMemory(void *destination, unsigned int length ) { unsigned char *memory = (unsigned char*)destination; for ( unsigned int i=0 ; i length ; i++ ) { memory[i] = 0; } } MemoryPool MemoryPool( address_32 data_size, address_32 data_count ) { this- data_size = data_size; this- data_count = data_count; pool = (byte_block*)malloc( data_size*data_count ); // プールしておく領域を確保する is_used = (byte_block*)malloc( data_count ); // 領域の有効性フラグ用に確保する index = 0; // 空きを検索するのは、一番上(0番目)からとする。 ZeroMemory( pool , data_size*data_count ); // 前領域を0リセットし、デマンドページング対策する。 ZeroMemory( is_used, data_count ); // 全て未使用(FALSE)とする。 } void* MemoryPool allocate( address_32 data_size ) { // 取得しようとしているメモリのサイズが大きすぎる場合は、NULLを返す。 if ( this- data_size data_size ) { return NULL; } // 利用可能なメモリ領域を探す。 for ( address_32 nextIndex = index+1 ; nextIndex != index ; nextIndex = (nextIndex+1)%data_count ) { // 見つかった場合は、フラグを立てて、利用可能な領域を返す。 if ( ! is_used[nextIndex] ) { is_used[nextIndex] = TRUE; return (pool[nextIndex*data_size]); } } // 全て探して見つからない場合は、諦めてNULLを返す。 return NULL; } void MemoryPool dislocate( void* data ) { // 受け取ったアドレスから、インデックスを導出する。 address_32 allocateIndex = ((address_32)data-(address_32)pool) / (data_size*sizeof(byte_block)); // 範囲内であれば、開放する。そうでない場合はスルーする。 if ( allocateIndex data_count ) { is_used[allocateIndex] = FALSE; } } void MemoryPool clear() { // フラグ領域をFALSEで埋める。 ZeroMemory( is_used, data_count ); } MemoryPool ~MemoryPool() { // 確保した領域を開放する free( pool ); free( is_used ); }
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1020.html
第十五章 この醜くも美しい世界 リゾットがアルビオンから戻り、シエスタをモット伯の手から助け出して、数日が過ぎた。 たった数日であるが、ハルケギニアの政治には大きな変化が起きていた。 正式にトリステイン王国と帝政ゲルマニアの軍事同盟が締結されたのである。 同時に一ヶ月後に控えたリステイン王国王女アンリエッタと帝政ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世の婚姻が発表された。 誰が見ても新たに立ち上がったアルビオン新政府への対抗手段であり、事実、アルビオン新政府はトリステイン、ゲルマニア両国に不可侵条約を持ちかけた。 かくて、アルビオンの内乱によって緊張状態にあったハルケギニアは、一時的な平和を迎えたのである。 その間、リゾットを取り巻く環境に、また多少の変化があった。 一つには、ルイズからの待遇が改善されたことがある。 朝の洗顔や着替えをルイズが自らするようになり、授業でも他の生徒と同じく、空いている椅子に座ることが許された。 同様に食事のとき、テーブルで貴族の食事を取ることも許可された。 同じ食卓につく平民、というのは貴族にとっては不快なようで、何人かの生徒が顔をしかめたが、どことなく不気味な印象を与えるリゾットに、皆口を噤んでいた。 あまりに急に変化したことを不思議に思い、リゾットはルイズに訳を尋ねた。 「べ、別に……。ただ、あんたも結構、優秀な使い魔ってことが分かったからね。働きにはちゃんと報いないと…」 顔を赤くしながらルイズは答える。言葉どおりの意味ではないことは表情から分かったが、だからといって真相がわかるわけでもない。 (最近はルイズも周囲に評価され始めたからな……。機嫌がいいのか) 実際、ルイズが学校を休んで大手柄を立てたらしいことは噂になっており、今まで『ゼロ』と馬鹿にしていた周囲も、ルイズを違った目で見るようになっていた。 ルイズは気分屋でわがままだ。機嫌がよければ、使い魔にも寛大になるのだろう。リゾットはそう結論した。 もう一つは、リゾットが学院の教師の中でも一目置く、コルベールとの親交を築けたことがある。 きっかけは彼が授業で自作の機械を開陳したことにある。ふいごで油を気化させ、それに魔法で火をつけることで爆発させ、その力で車輪を回すその装置は、地球でいうエンジンだった。 コルベールはこれがあれば、そのうち魔法に頼らなくても馬のない荷車や風に頼らない船が作れる、と熱弁した。 だが、その偉大な発明の真価は生徒の誰にも理解されない。生徒の誰もが、魔法でできることを何故機械でやらなければならないのかと不思議そうだった。 その反応にコルベールは気落ちしていた。 その時、静まり返った教室を拍手が乱す。拍手したのはリゾットだ。熱心に聴いていたリゾットはコルベールの才能にある種、感動すらしていた。 「大したものだ。自力でエンジンを開発する人間がいるとは思わなかった」 「エンジン?」 きょとんとするコルベールに、リゾットは頷いた。 「それを改良したものを使って、言っていた通りのものを作ることが出来る。現に俺がいた場所ではそういった機械が大量に走っている」 「なんと! やはり、気付く人は気付いておる! おお、君は確かミス・ヴァリエールの使い魔の青年だったな」 「リゾットだ」 「リゾット君、君はどこの生まれだね?」 「…………」 眼を輝かせて近寄るコルベールに、リゾットは正直に答えていいものかどうかルイズへ視線を送る。 異世界から来たことを言い立てると、無用な波が立つから黙っているように、とあらかじめルイズに言われているからだ。 今、そのことを知っているのはルイズ、タバサ、キュルケ、デルフリンガー、フーケ、オスマンの六人(?)だけだ。 リゾットの視線を受けて、ルイズが代わりに答えた。 「ミスタ・コルベール。彼はその、東方の……、ロバ・アル・カリイエからやってきたんです」 「なんと! あの恐るべきエルフの住まう地より召喚されたのか! やはり東方の地の文化は進んでいるのだな…。なるほど…」 「他にも、こういう発明をしているのか?」 リゾットが質問すると、コルベールは嬉しそうに笑った。自分の研究に興味を持ってもらえるのは研究者冥利につきる。 「興味があるのかね? なら、今度、是非とも私の研究室に来なさい! 今は授業中なので無理だが、色々と見せてあげよう」 こうして、コルベールとリゾットの交流が始まった。ちなみにこの授業で公開された初代エンジンは、生徒の実習時、ルイズの『発火』の失敗によって爆発し、粉々になったことを明記しておく。 さて、そんなある日、リゾットはコルベールに呼び出された。見せたいものがあるらしい。 使い魔が何をしてるのか知る義務がある、というルイズを伴い、本搭と火の搭に挟まれた一画にある、コルベールの研究室を訪れた。 まあ、研究室といってもただの掘っ立て小屋なのだが。 「ミスタ・コルベール、いらっしゃいますか?」 「ああ、来てくれたか! 鍵は開いている。入ってくれ!」 招きに応じ、二人が中にはいる。まず二人の目に入ったのは薬品のビンや試験管、さまざまな実験器具だった。壁は書物の詰まった本棚に覆われ、蛇や蜥蜴や得体の知れない生物が檻に入れられている。 「何、この臭い……」 中に漂う埃ともカビとも着かない異臭に、ルイズが顔をしかめ、鼻をつまむ。雑然とした部屋の奥から見慣れた輝く頭が現れた。 「やあ、リゾット君。ミス・ヴァリエールも一緒か! 我がむくつけき研究室へようこそ!」 「ミスタ・コルベール…。この臭いは一体……」 「なあに、臭いはすぐに慣れる。しかし、ご婦人方には慣れるということはないらしく、私はこの通りまだ独身だ。さ、座りたまえ」 椅子を進められ、二人は座る。奇怪な研究室だが、リゾットはその中の一角に鎮座しているある物に眼を奪われていた。 「……その剣は…」 「え……あ!」 リゾットの指摘にルイズも気付いたのか、驚愕の表情を浮かべた。 「そう、君に来てもらったのはこの剣とのコンタクトに立ち会って欲しかったからなんだ」 そこにはアヌビス神の剣が鞘に収められ、安置されていた。 「コンタクトってどうするつもりだ? 誰かに持たせるとかはやめてくれよ。もうあいつと戦うのは俺も相棒もこりごりだぜ」 鞘から僅かに刃を覗かせたデルフリンガーが愚痴をこぼすと、コルベールは重々しく頷いた。 「うむ、君たちからあの剣の脅威についてはよく聞いているからね。だが、ディテクトマジックをかけても反応がない以上、やはりその中に宿っているという意思とコンタクトしてみないことには始まらない。そこで、私なりに考えた。見たまえ!」 得意げに言って、隣にあった布を取り去る。布の下から胸像が現れた。 「私なりに色々調べたんだが、この剣は人間でなくてもある程度の自律意思と、動く構造を備えたものならば触れただけで乗っ取れるらしい。ネズミや野鳥を使って何度か脱走されそうになってね…。だから、これでも大丈夫だろう、と」 「もしかして、ガーゴイルですか?」 ルイズの質問に、コルベールは得意げに笑う。ガーゴイルとは貴族が作り出す、擬似生命である。その形は千差万別で、よく出来たものになると生物と見分けがつかない。もっとも、このガーゴイルは胸像なのでガーゴイルにしか見えなかったが。 「そう、彼はガーゴイルだ。視覚と聴覚を持ち、口以外動かない、ね。彼を乗っ取らせ、会話を行う」 「どうやって持たせるんだ…? 腕もないようだが……」 「ああ、ここにはめ込むんだ。別に手で持たなくてもいいようだからね。では、早速始めようか」 コルベールは胸像の台座部分を示すと、確かにちょうど剣の形のくぼみがある。コルベールは『レビテーション』を唱え、アヌビス神を浮かせると、杖を使って刃を押し出し、くぼみにはめ込んだ。 「ククク…リゾット・ネエロ……。俺に斬られる気になったか? って、この身体、手さえじゃねえか!?」 突然、ガーゴイルが口を開き、自らの状態に気付いて悲鳴を上げる。その口ぶりから、中身がアヌビス神のスタンドに変わったことが分かった。 「生憎、斬られるつもりはない……。こちらの先生が質問があるらしい」 「あー?」 リゾットの指し示した先にいるコルベールを、ガーゴイルがぎろりと睨む。 「やあ、始めまして、アヌビス君。私はコルベール。このトリステイン魔法学院の教師をしている」 「何だ、このU字禿は? 人に質問したいなら、まずまともな身体を与えろ。具体的に言うと、少し斬らせろ!」 「すまないが、それは出来ない。君は酷く凶暴らしいのでね」 「ふん、こっちは剣だぜ? 触れるもの全てを斬るのは当然だろう」 そうアヌビス神が嘯くと、突然、デルフリンガーが反論し始めた。 「そいつは聞き捨てならねーな、アヌ公! 俺たち剣は確かに斬るためにいるが、誰を斬り、誰を守るのか決定するのは使い手だ。俺たち剣じゃねえ」 「誰がアヌ公だ、この鈍ら野郎! 甘っちょろいこといいやがって! 剣ってのはなあ、殺すか殺されるか。そんな雰囲気がいいんじゃねーか。人に使われるしかできねえ鈍らは黙ってろ!」 この後、二振りの剣による、『知性を持つ剣は如何あるべきか?』をテーマに三十分ほど喧嘩腰の議論が続いたが、コルベールによってさえぎられた。 「あのー、だね! 白熱してるところ、すまないんだが!」 「何だ、U字禿。まだいたのか。そういえば、何か質問があるとか言ってたな。何だ? この鈍らデル公との会話はやってられねえ。お前の話の方がマシそうだ」 「けっ、殺人狂が!」 デルフリンガーはまだ何か言いたそうだったが、口を閉じた。ルイズは初めて見る剣同士の口喧嘩に呆気を取られ、リゾットはいつもの無表情で事態を眺めている。 「うむ……。すまない。では質問させてもらおう。君は……誰に作られたんだね?」 「俺は俺が作ったんだよ。正確には人間だった頃の俺が作った剣に、俺のスタンドが乗り移ったんだ」 「スタ…ンド? 何だね、それは?」 「ああ、こっちの世界にはスタンドがないんだったな。スタンドってのは力ある生命のビジョンだ。そっちのリゾットも多分それが使えるだろうな」 「こっちの世界?」 コルベールは次々出てくる未知の単語に鸚鵡返しに訊き返すしかない。 「……俺や、そのアヌビス神は別の世界から来たんだ」 リゾットの言葉にコルベールが振り向く。 「多分、本当です…。あの『破壊の杖』もリゾットの世界から来た武器だそうです」 ルイズが口ぞえすると、コルベールはリゾットと剣をまじまじと見て、「なるほど」と頷いた。 「驚かないのか。これを聞いた奴はよくて半信半疑なことが多いんだが……」 「うむ、驚いたとも。しかし、そう考えると、つじつまが合う。君の言動や行動やその服、それにこのアヌビス神の剣が魔法以外の動力で動いていることなど、さまざまなことがハルケギニアの常識とは一線を画している。うむ、面白い」 「流石に魔法のさまざまな技術への転用を考えているだけあるな。思考が柔軟だ」 「悪かったわね。頭が固くて」 リゾットの言葉に、ルイズが不貞腐れたように呟いた。 「ははは、まあまあ、普通は直ぐには信じられなくても当然だろう。それより、出来れば私に別の世界のことを聞かせてくれないかね?」 熱心な様子でコルベールがリゾットとアヌビスに頼む。その表情からは純粋な学究心が見て取れる。少なくとも今のコルベールは根っからの研究者なのだと、リゾットは理解した。 「構わない…」 「まあ、俺も黙って倉庫に封じられているのは暇だからな」 「そうか。じゃあ、ぜひ頼むよ!」 「分かった…。まず、先の授業で紹介していたエンジンだが……。俺たちの世界ではあれを使って鋼鉄で出来た荷車を動かすことができる」 「自動車だな。もっと大きい物には電車とかもある」 アヌビスとリゾットはもとの世界の技術体系について、コルベールの促すままに話し始めた。懐かしいのか、いつも淡々としたリゾットの声も、多少、感情の色が見える。 ルイズはそんな様子を少し離れた場所からじっと見ていた。まるで自分がこの世界から切り取られたような、奇妙な感覚に襲われる。 同じく話に加われないデルフリンガーがそれに気付いた。 「おい、貴族の娘っ子、どしたね? まるで世界が終わるような顔してるぜ?」 「………何だか私、リゾットのこと、何にも知らないんだなって思って……」 「寂しいってのか?」 ルイズの顔が赤くなり、デルフリンガーを蹴飛ばした。たまらずデルフリンガーが床に転がる。 「だ、誰が寂しいって!? ただ、主人が使い魔のことを何も知らないなんて問題だなって思っただけよ!」 「あー……そーかい。しかし人、じゃない剣を蹴飛ばすのはやめて欲しいね」 転がったデルフリンガーは白けたような声を出した後、口調を改めて続ける。 「まあ、相棒は秘密主義だからな……」 「そうよ。大体あの男、自分のことはほとんど喋らないんだから…」 「そうなるだけの人生を送ってきたんだろうし、仕方ないんじゃねーか」 デルフリンガーの口調に、ルイズがデルフをまじまじと見る。 「何よ。あんた、リゾットの過去を知ってるの?」 「いや、直接聞いた事はほとんどないよ。だが、相棒と俺はいつも一緒にいるしな。なんとなく察せるのよ」 「やんなきゃいけないことがあるって言ってたよね…」 ルイズはラ・ロシェールの夜を思い出しながら呟く。 「言ってたなあ」 「何なのかな、それ」 「わからんねえ…」 「結局あんた、役に立たないじゃない…」 「そりゃ俺は伝説とはいえ、剣だしね。変な期待をして貰っても困る」 ルイズはため息をついた。二人と一振りの談話はまだ続いている。 ふと、コルベールの実験室に設えられた時計を見ると、結構な時間が経っていた。 「ほら、リゾット、そろそろ行くわよ」 「そんな時間か……。分かった」 「残念だな。まあ、また次の機会に話してくれたまえ」 リゾットはコルベールに一つ頷くと、ルイズに従って外へ歩き出す。と、戸口で振り返った。アヌビスを見据える。 「アヌビス、最後に一つ訊いておきたい。……お前はどうやってこの世界に来た?」 「前にも言っただろー? よく分からねえと。俺は河に沈んでからお前があの店に来るまで、ほとんど意識を失ってたんだよ」 「……そうか…。手がかりにはならないな……」 それを聞くと、アヌビスが小馬鹿にしたように鼻で笑った。 「はっ、そんな悠長なことを言っていていいのか? いいか、よく考えろ! 俺とお前、それにロケットランチャーを持ってきた男! 三人もの人間が地球から、このハルケギニアとかいう土地の近い地点に現れているんだぜ?」 「………表ざたになっていないだけで、実は結構な数の地球人が召喚されている、と言いたいのか?」 「そーだよ! そしてその中にはきっといるぜー? 俺やお前と同じ、スタンド使いがな。そいつらが友好的だ、なんて甘い観測はもたねーことだな!」 歌うような口調でアヌビスが喋る。何故かニヤニヤしている犬の頭を持つ男の姿が想像できた。 「………何故俺にそんなことを教える?」 その途端、ガーゴイルの…正確にはアヌビスの忍び笑いが部屋に響いた。 「お前の身体とスタンドと左手の力、必ず俺が貰い受ける。それまで死なずにせいぜい生き残るんだな……」 「………」 それには答えず、リゾットは外に出た。慌ててルイズが後を追う。 誰もまだ知らない。アヌビスの指摘が当たっていることを。 誰もまだ知らない。スタンド使いが他にもいることを。 誰もまだ知らない。その中には、リゾットの因縁の敵がいることを。 彼がそれらを思い知るのは、まだ少し先のことである。 コルベールの研究室から出たルイズは、デルフリンガーとの会話を思い返していた。 確かに自分はリゾットのことを知らない。 どこで何をしていたのかも、彼がとても大事にしているらしい『昔の仲間』のことも知らない。 彼が持っているという『スタンド』という奇妙な能力についても知らない。 それに、彼が何をしに戻りたがっているのかすらも。 「おい、どうした?」 気がつくと、リゾットが腰を屈め、間近でルイズの顔を覗き込んでいた。考え事に没頭するあまり、立ち止まっていたらしい。 特徴のある、しかし見慣れてきたその目で見つめられ、ルイズの顔に血が上って行く。 「な、何でもないわ!」 すぐさま答えるが、取り繕った発言による嘘は表情に表れ、すぐにリゾットに見破られる。 「何でもないことはないだろう……。まさか熱でもあるのか?」 額に手を当てられる。ルイズの動揺は頂点に達した。思わずリゾットから飛びのく。 「な、なななななななな何でもないったら!」 「そうか…。分かった」 それ以上追求するとまた怒り始める可能性があったため、リゾットはそれ以上は言わないことにした。 「は、早く行くわよ。ついてらっしゃい!」 ルイズの声に従い、リゾットも歩いていく。 その二人の上空に浮かぶ影があった。シルフィードである。 リゾットの索敵範囲は広いが基本的に地上に集中しているため、空高くから覗いていたのだ。 二人を見ていた背の赤い髪の少女が詰まらなさそうに呟いた。キュルケだ。 「何だか、あの二人、いつの間にか仲良くなったわね…。やっぱりアルビオンで何かあったのかしら」 もう一人、タバサは相変わらず本を読んでいる。 「まったく、あたしだって、そりゃ、本気じゃないわよ? でもねー、あそこまであたしのアプローチを拒まれると、ついつい気になっちゃうのよね」 聞き様によっては言い訳がましいことを言う。今まで、自分のアプローチを拒んだ男はいない、というのがキュルケの自慢である。 まあ、本当はそんなことはないのだが、前向きな彼女は都合の悪いことは忘れてしまうのだ。 そんな誇りを持っている彼女なので、自分が袖にしたリゾットが、ルイズや、シエスタとかいう平民に近づかれるのは気分が悪い。どうにも落ち着かない。 「う~ん、陰謀は得意じゃないけど、少し作戦を練ろうかしら、ねえタバサ」 タバサは本を閉じて、首を振った。 「あら、反対なの? どうして?」 「陰謀は無駄」 「やってみなきゃわからないじゃない。それとも、他に何か案があるの?」 かくん、とタバサが首を傾げる。しばらくその態勢でいた後、ぽつりともらした。 「…………正攻法?」 「正攻法ね…。う~ん…そういってもね……」 考え始めたキュルケを見て、タバサは逆に首を傾げた。 「嫉妬?」 キュルケは珍しく頬を染めた。それからタバサの首を締めてがしがしと振る。 「あたしが嫉妬なんかするわけないじゃない! これはゲーム! 恋のゲームよ! ゲームには必ず勝つわ! それがツェルプストーの家に生まれた者の義務だもの!」 自分で言い聞かせるようにいい、息を吸い込んで冷静になる。心の中は素数を数えられるくらい冷静だ。 タバサは同じ呟きを繰り返した。ただし、イントネーションを変えて。 「嫉妬」 「違う!」 キュルケはまたタバサの首を揺さ振った。 翌日、ルイズは学院長のオスマンに呼ばれ、学院長室を訪れた。 「鍵は掛かっておらぬ。入ってきなさい」 ノックの後に入室を促され、ルイズは中へ入る。 「わたくしをお呼びと聞いたものですから……」 やや緊張気味に尋ねるルイズに、オスマンは安心させるように両手を広げ、この小さな来訪者を歓迎した。 「おお、ミス・ヴァリエール。すまんな。迎えもよこさず。どうも秘書がいなくなってから不便でいかん。また雇わねばな。出来れば若い娘がよいんじゃがのぅ」 ほっほっほっと笑うオスマンに、ルイズも苦笑した。緊張が解けたのを見て、オスマンが続ける。 「旅の疲れは癒せたかな? 思い返すだけで辛かろう。だがしかし、お主達の活躍で同盟が無事締結され、トリステインの危機は去ったのじゃ。 そして、来月にはゲルマニアで無事、姫様とゲルマニア皇帝との結婚式が執り行われる事が決定した。君達のおかげじゃ。胸を張りなさい」 その言葉に頭を下げつつ、ルイズは少し悲しくなった。敬愛する主にして友であるアンリエッタが政治の道具として、ゲルマニア皇帝と結婚するのだ。それが王族の使命とはいえ、胸が締め付けられるような思いになる。 気落ちするルイズに、もう一度オスマンは下ネタを振って場を和ませようかと思ったが、これからする話の内容を考え、思い直した。 「トリステイン王室の伝統で、王族の結婚式の際には、貴族より選ばれし巫女を用意せねばならんのじゃ。選ばれた巫女は、この『始祖の祈祷書』を手に、式の詔(みことのり)を詠みあげるのが習わしになっておる」 「は、はぁ」 ルイズは突然、薀蓄を語られ、生返事をした。その手に、一冊の古びた本が差し出される。 「そして姫は、その巫女に、ミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃ」 「姫様が?」 「その通りじゃ。巫女は、式の前より、この『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩き、読み上げる詔を考えねばならん」 「えええ!? 詔を私が考えるんですか?」 ルイズは慌てた。そんな神聖かつ格調高い場で読み上げるような詩を作る自信はとてもない。 「そうじゃ。もちろん、草案は宮廷の連中が推敲するじゃろうが……。伝統と言うものは、面倒なもんじゃのう。じゃがな、姫はミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃ。 これは大変に名誉な事じゃぞ。王族の式に立会い、詔を詠みあげるなど、一生に一度あるかないかじゃからな」 ルイズはまず断ろうと思った。しかし、思い直す。アンリエッタは、幼い頃、共にすごした自分を式の巫女役に選んでくれたのだ。ならば臣下として、友として全力で望むべきだろう。 「わかりました。謹んで拝命いたします」 ルイズはその『始祖の祈祷書』を手に取った。中を見る。オスマンは生徒の成長を喜ぶように、ルイズを見ていた。 「快く引き受けてくれるか。うむ、姫様も喜ぶじゃろうて」 「…ところで、オールド・オスマン。この祈祷書、何も書かれていませんが」 「そうじゃな」 「これを基に詔を考えるのでは?」 「そうじゃな」 「白紙ですが」 「頑張るんじゃぞ。何、始祖様も見守ってくれるじゃろうて」 ぽんぽん、と優しく肩を叩かれる。ルイズは泣きそうになった。 タバサとリゾットはヴェストリの広場で額をつき合わせていた。ついでに近くに立てかけられた剣も唸っている。二人と一振りの間には大量の地図と紙がある。 それらはフーケが集めてきた「異世界産と思われるアイテム」の場所や、その出所を示したもので、口でとても説明しきれないため、資料として渡したのだ。 一応、自分でもそれらを読もうとしたが、未だに名詞と、動詞の一部しか読めないリゾットにとって難易度が高すぎる。 「文字が読めないのは知ってるけど、あんた一人で帰れるわけがないんだ。誰か手伝ってもらいなよ」 といって渡されたそれらの解読を、リゾットはタバサに頼んだ。こういう事柄について一番詳しそうだし、口が堅そうだと思ったからだ。 案の定、タバサは情報の出所を訊く事もなく、引き受けた。 タバサは地図と、それに記された備考を読み、自分の知識や伝承と照らし合わせて「調査する価値のある場所」と「調査する価値のない場所」と「判別できない場所」を選定していく。 「……本を読む時間を奪って、すまない…」 リゾットがそういうと、タバサは首を振った。リゾットを指差す。 「生徒」 ついで自分を指差し、呟く。 「教師」 「教師が生徒の面倒を見るのは当然だ、ということか…?」 こくり、とタバサは頷いた。そして付け加える。 「それに面白い」 元々タバサは本をえり好みしない。こういった資料に書かれている文字でも、構わないのだ。 「しっかし量が多いなー…。そんだけ世の中、与太話が多いってことか」 デルフリンガーがより分けられた地図を見て感心する。 「一つでも当たりがあればいいさ」 「そうかい? だが、貴族の娘っ子、そんなに外出を許してくれるかね?」 「あまりルイズから離れるわけにも行かないしな…。夏季休暇の間に誘ってはみるが……許可が出されない場合、どうするかな」 デルフリンガーとリゾットが会話している間にも、タバサは次々と資料をより分けていく。 そこへシエスタがやってきた。リゾットを見つけると、小走りによってくる。 「リゾットさん!」 「シエスタか…。どうした?」 「こないだ言っていたお礼なんですけど、良かったら今からどうですか? とっても珍しい品が入ったので、ご馳走したいんですが」 「構わない……。珍しい品というのは?」 「ええ、リゾットさんの故郷の品です。東方のロバ・アル・カリイエから運ばれた『お茶』っていうんです」 「お茶? ……珍しい紅茶か?」 「いえ、紅茶とはまた違うものらしいんです。面白い色なんですよ?」 「……興味が湧くな……。一口に故郷といってもあそこは広いからな…。俺の知らないものかも知れない」 実際、地球には紅茶以外にもさまざまな茶があるし、ひょっとしたらこちらの世界特有のものかも知れない。リゾットは誘いを受ける気になっていた。 「何で相棒が東方から来たなんてことを知ってるんだ?」 リゾットが東方から来たというのはコルベールの授業ででっち上げた作り話だ。いかに噂が広まるのが早い学院とはいえ、貴族と平民に交流はあまりないし、シエスタが授業の内容を知っているのは奇妙だった。 「ええと、それは……その、食堂で、そういう話を聞きまして……」 シエスタが顔を赤くして答える。どうやらこの娘、リゾットに関する情報に網を張っているらしい。 良くも悪くも有名になってしまったリゾットに関する話題を、食堂で聞いていたのだろう。 「ふ~ん、そりゃ熱心なことだね。頭が下がる思いだよ。俺、剣だから頭ないけど」 デルフリンガーがカタカタ震える。どうやら笑っているようだ。見かねたリゾットが助け舟を出す。 「それで…そのお茶をご馳走してくれるのか?」 「あ、はい! お時間がないなら、また今度でいいのですが……」 「いや……頂こう。タバサ、悪いが、今日はこれで」 資料を片付け、リゾットが席を立とうとすると、コートが引っ張られた。振り返ると、タバサがコートの裾を掴んでいる。 「………一緒に行きたいのか?」 タバサが頷く。その顔からはわずかに好奇心が見て取れる。 「『お茶』に興味がある」 「シエスタ…、悪いが、タバサも一緒でいいか?」 一瞬、シエスタは残念そうな顔をしたが、明るく言った。 「かまいません。ミス・タバサもどうぞ」 厨房の裏の庭で、リゾットたちの『お茶』試飲会は始まった。 シエスタが白いテーブルクロスがかかったテーブルの上にティーポットとティーカップ、それにお皿を並べる。 「さあ、どうぞ。席にお着き下さい」 シエスタがタバサの椅子を引いて座らせる。だが、リゾットは座らない。 「どうしましたか、リゾットさん?」 「俺が座るとお前の席がなくならないか……?」 テーブルには椅子が向かい合わせに二つ出されていた。タバサが来る予定がなかったということは、シエスタとリゾットが座ると想定されていたことは明白だ。 「いえ、私が貴族の方と一緒にテーブルに着くなんてできません。だから、いいんです」 笑顔でいうが、その表情に寂しさの影が差しているのをリゾットは見て取った。 「俺は貴族じゃないし、タバサもそんなことは気にしないだろう」 タバサを見ると、相変わらずぽーっと座っていたが、かくんと頷いた。 「で、でも……私は平民で、この学院付きのメイドですから……」 シエスタは重ねて遠慮しようとした。 「分かった…」 呟くと、リゾットは無言で厨房へと入っていった。すぐに出てくる。片手にティーカップと皿、フォークなどの乗ったお盆、もう片手には椅子を持っていた。 テーブルに椅子を入れると、カップその他を手早く並べる。 「お前の席だ。座れ」 「……リゾットさん…」 シエスタはなんだか感動したような顔でぽーっとリゾットを見ている。 「すまないが、ケーキの取り分けはやってくれ。俺はうまく切れる自信がない…」 「はい!」 今度は陰りのない笑顔で、シエスタは返事をした。 「これが『お茶』か……。緑茶だな…」 「緑茶?」 「俺の住んでる地方ではそれほどでもないが、別の地方ではよく飲まれるお茶の種類だ。健康にいいらしい…。以前、イルーゾォが持ってきていたことがある」 口にすると、紅茶とは違う独特の味がした。シエスタが伺うようにこちらを見ている。 「美味しいですか?」 「ああ。悪くないな…。タバサはどうだ?」 タバサはこくこくと喉を鳴らして飲んでいた。間違った飲み方の気もするが、礼儀作法をうるさく言う場面でもないので放っておく。 「お代わり。濃い目で」 飲み干すと、二杯目を要求した。しかも微妙に注文が細かい。 しばらく、お茶の味を楽しみつつ、話をする。タバサも二杯目からはゆっくり飲むことにしたらしい。 よほど気に入ったのか、目を閉じてため息などつきながら味わっている。 「リゾットさんは東方からいらっしゃったんですよね?」 不意に、シエスタがそういった。正確には違うのだが、遠い場所という意味では大体合っているので曖昧に頷く。 「どんなところなんですか? 聞かせて下さい、リゾットさんの故郷の話」 「俺の故郷か……? そんなに面白いことはないぞ…」 「それでもいいです。聞かせてください」 「俺もぜひとも相棒の故郷話をききてーなー」 「興味がある」 タバサまで本を読むのをやめてこちらを見ている。タバサとデルフリンガーはリゾットが異世界から来たことについて知っているのでそれもあるだろう。 「分かった。じゃあ、話そう。そうだな……まず…」 リゾットは話しても問題のはない範囲で話し始めた。十八で人を殺し、ギャングになってからの記憶はかなりヤバイことが多いので、必然的に少年時代をすごしたシシリー島の話になる。 魔法がないこと以外はハルケギニアと大して変わらないのではないかと思ったが、それでも面白いらしく、二人とも聞き入っていた。 「それじゃあ、その親戚の子は、心配してるでしょうね。仲良かったみたいですし」 一通り話した後、シエスタがそういった。リゾットの脳裏に目の前で彼女が轢かれた光景が蘇り、胸に痛みが走るのを感じながら首を振る。 「いや、それはない。死んだんだ……。さっき言った、自動車っていう鉄の荷車に撥ねられてな……」 「あ、ごめんなさい……」 「いや……もう十四年も前だ。どうってことはない」 「…………」 気がつくと、タバサがリゾットをじっと見ていた。察しがいい彼女は気付いたかもしれないが、何も言わなかった。 シエスタが話題を変えようと思ったのか、きょろきょろと辺りを見回すと、リゾットが脇においていた資料を見た。 「あれ? リゾットさん、それ、何ですか?」 「……これか? ……まあ、宝の地図だ……」 言ってから、確かに宝の地図そのものだと気がついた。求める価値が金銭にあるか、帰還への手段にあるかだけの違いで、宝には違いない。 「へー…宝の地図ですか」 シエスタが興味津々と言った感じで一番上にあったものを手に取る。タバサがより分けた「調べてみる価値がある」地図の一枚だった。 しばらくそれを眺めて、声を上げた。 「あれ? この地図、私の村に印がついてますけど、どうしたんですか?」 「何?」 「ほら、この『タルブ村』っていう場所です。ここは私の故郷なんです」 シエスタから地図を受け取って、改める。『竜の羽衣』という用途不明のアイテムのある場所として書かれていた。 「じゃあ、お前はこの『竜の羽衣』という品に心当たりはあるのか?」 「え、ええ……」 何かそれについて話すことに乗り気でないような雰囲気で返事をする。 「おでれーたな。調査に行く手間が省けるかな、こりゃ」 「そんな……調べるようなものでもないですよ」 「どういうもの?」 シエスタの態度をタバサも疑問に思ったらしい。 「それをまとうと空が飛べるっていうんです」 「『風』のマジックアイテム?」 「そんな大した物じゃないです」 要領を得ない。もう少し深く話を聞こうとすると、マルトーがシエスタを呼びに来た。 「おい、シエスタ。デートもいいが、そろそろ夕食の仕込がある。手伝ってくれ」 「え? あ、はい! 今すぐ!」 「デートって所は否定しねーのな」 「え? えええ! そ、そんなことはないですよ!? お茶会ですし!」 デルフリンガーのツッコミにシエスタが赤面して慌てまくる。 そしてタバサはそんなことなど関係ないように一言、呟いた。 「お代わり。濃い目で」 結局、その場はそれでお開きになった。 タバサもお茶のカップを持ったまま、大型使い魔用の厩舎へと歩いていく。シルフィードに何か用があるのだろう。 リゾットとデルフリンガーも一旦、ルイズの部屋に戻ることにした。歩きながら今後の方針を検討する。 「いずれタルブの村にも行こうぜ、相棒。あまり大した物じゃねえと思われてるところが逆に怪しい」 「そうだな。とはいえ、ラ・ロシェールより遠くではすぐには無理だ。手近なものから調べていくのがいいだろう……」 デルフリンガーが少し考え、一番手近なものを思い出す。 「…アレか?」 「アレだな」 「あの娘っ子の部屋に行くなら、遅くなると面倒なことにならねーか?」 「なるだろうな……」 「じゃ、今行く?」 「行こうか…。心がけていれば対処はできる」 リゾットは歩き出した。一番近い手がかり、すなわちキュルケの部屋へ向けて。 「あら、ダーリンが自分から来てくれるなんて珍しいわね。どうしたの?」 キュルケは部屋にいた。突然の来訪に嬉しそうに対応する。 「訊きたい事がある」 「私に興味が出てきた? なんでも聞いて」 「いや、お前のことじゃない……。『召喚されし書物』という本について、知らないか?」 フーケが集めてきた情報の中でもっとも簡単に確認できるアイテムが『召喚されし書物』だった。 誰にも読めない言語で書かれたこの謎の書物は、キュルケの実家、ツェルプストー家が家宝として所有しているというのだ。 「ダーリン、あんなのに興味があるの? ちょっと意外」 「いや……俺が異世界から来た、という話は聞いただろう? 元の世界に帰るには、そういった召喚された物を調べるしかないと思ってな…」 「ふ~ん……、いいわよ。少し待ってて」 奥にあったチェストを開くと、鍵のかかった金属製のカバーに包まれた一冊の本状のものを取り出す。 「これが『召喚されし書物』よ」 「お前が持っていたのか……」 家宝というからにはどこかに安置されていると思っていたリゾットは意外そうに呟いた。 「嫁入り道具として持たされたのよ。まあ、私は興味ないから、鍵を開けたこともないけど」 「どういった由来のものだ?」 「どこかのメイジが偶然召喚した物を私のご先祖様が買い取って以来、家宝になってるのよ」 「そのメイジは今は?」 「さぁ? もう何年も前のことだし、生きてるかどうかも分からないわ」 「手がかりなしか。せつねーな、相棒」 落胆するデルフリンガー。 「でも、召喚された物があった方が色々探しやすいわよね」 「……確かにな。とはいえ、家宝をもらうわけにも行かない…。キュルケ、それを見せてくれないか?」 その瞬間、キュルケの頭に雷光のようにアイデアが浮かんだ。 「んー、ダーリンが欲しいなら、これ、あげてもいいわよ。タバサじゃあるまいし、本に興味ないしね」 「……いいのか?」 「そのかわり……」 腕を取られ、豊満な胸に押し付けられる。 「私と付き合ってみない? 私はいいわよ。美人だし、束縛しないし、後腐れもないし」 「自分に自信があるんだな……」 「もちろん」 くすりと妖艶に笑って抱きついてくる。だが、その眼はかなり真剣だ。 「まだ日が高いが……甘く見すぎたか」 「ええ、愛に時間は関係ないもの」 「…………恋人になるってことが、どういうことか、わかってるのか?」 呟くと、リゾットはキュルケをベッドに押し倒した。 「あ、あら、情熱的ね……。素敵だけど」 「眼を閉じろ……」 今まですげなくあしらわれたリゾットに真剣な眼差しで見つめられ、キュルケは柄にもなく照れた。元々嫌いな相手ではないのだ。身を硬くしながら眼を閉じる。 だが、思っていたような情熱的で衝動的なアプローチはない。その代わり、柔らかく頭に手を置かれた。 「僅かに身体を硬くしたな。緊張の証だ」 キュルケが驚いて眼を開くと、そのままさらさらと赤毛を撫でられる。意外なほどに気持ちがよく、キュルケは猫のように眼を細めた。 「お前は少し自分を安売りしすぎるな……。自信があるのはいいが、もう少し自分を大切に扱え」 今までキュルケが聴いたことのない、優しい声だった。キュルケがうっとりしていると、リゾットはするりと手から抜けた。 「ちょ、ちょっと!」 「いい薬になっただろう? じゃあな……」 いつもの淡々とした調子で別れを告げ、扉を開けて外へ出て行く。 「待って!」 打算も駆け引きもなく、思わずキュルケはリゾットを追いかけた。後ろから抱きしめる。 リゾットはその時、あるものに気をとられていたため、それを避けられなかった。 あるもの、すなわち、この時間まで広場で詩を考えていて、今、自分の部屋へ戻ってきたルイズに。 「あら、ヴァリエール」 「ヤバイね、相棒」 ここまで空気読んで黙っていたデルフリンガーも思わず呟いた。心なしか刀身が震えている。 「………」 ルイズは無表情でリゾットの所へ歩いてくると、思いっきり脛を蹴りつける。リゾットも避けない。 そのまま怒涛の勢いで怒り出すかと思えば、何も言わず、部屋に入っていってしまった。 「おい、ルイズ!?」 リゾットが追いかける。流石にいつもと様子が違うので、キュルケも引き止めなかった。 部屋の窓をむいて、ルイズは肩を落として窓の外を見ていた。身体が震えているところからみると、泣いているらしい。 「また、説明が必要か? それなら、最初から説明するが…」 リゾットの言葉に、首を激しく振った。 「分かってるわよ。ツェルプストーが抱きついてきたんでしょ? でも、私、貴方に言ったわよね? あの女に近づくなって」 「ああ……。だが、彼女が持っている本に興味があったんでな……」 「そんなことは関係ないの。今度という今度は頭に来たわ」 涙をぬぐって振り向くと、リゾットの言葉をさえぎるように言い放つ。 「ご主人様の言いつけを聞けない使い魔なんか、クビよ。顔も見たくないわ。出てって」 ルイズの目にはまた涙がにじんでいた。リゾットが声をかけようとする前に、布団を被ってしまう。 「出てって! あんたなんかもう私の使い魔じゃないわ! どこへでも行って、野垂れ死ねばいいのよ!」 「……すまない」 何を言っても無駄という剣幕に、リゾットは謝罪を述べて部屋を出た。 廊下にはキュルケがいた。流石にバツの悪そうな顔をしてこちらを見ている。 「ごめんなさい。タイミングが悪かったわね……」 「別にお前のせいじゃない……。俺に隙があったってだけのことだ……」 「そう……。でも、あの…私、冗談でやったんじゃないから」 「分かってる」 淡々と答えるリゾットを悲しそうにキュルケは見た。 「あの、部屋、追い出されたんでしょう? あたしの部屋、来る? 大丈夫。もう、何もしないから……」 珍しくしおらしい申し出で、実際、その態度に嘘はなかったが、リゾットは断った。 「いや………そういうわけにもいかない。しばらくは野宿するつもりだ」 「ごめんなさい………」 リゾットはいかなる感情も伺わせない、凍りついた無表情で外へと歩き出す。 キュルケは切ないような、なんともいえない気持ちでリゾットを見送った。 ルイズは泣き続けた。何が悲しいのか良く分からない。だが、とにかく涙が溢れてしょうがなかった。 三者三様、上手くいかないまま、それでも夕日はこの醜くも美しい世界を赤く照らしていた。