約 2,388,625 件
https://w.atwiki.jp/coyote/pages/8.html
4月 CV. 生天目仁美 公式設定 マルチアーノ12姉妹の第1世代アンドロイド 黒髪ロングの12姉妹リーダー 武器はゴールドのルガーP08 「死の天使」のリーダー。冷静、冷徹を装っているが隠れた激情家。 (コミック1巻 巻末資料より) エイプリル→(ゆずる気はない)→ジャニアリー エイプリル←(ライバル)←ジャニアリー エイプリル→(親友だけど時々うるさい)→メイ エイプリル←(ほっとけない親友)←メイ エイプリル→(扱いづらい)→ジュライ エイプリル←(いちおう、従います)←ジュライ エイプリル→(悪い気はしない)→オーガスト エイプリル←(好き!)←オーガスト エイプリル→(尊敬・心酔)→マルチアーノ (コミック2巻 巻末相関図より) クリミナルギルド「死の天使」のリーダー。マルチアーノから譲り受けた「ルガーP08カスタム」を持つ。戦闘では前に出ず、後方での支持がメイン。冷静、冷徹を装っているが隠れた激情家。戦闘力は彼女達の中では中程度。覚醒能力ありか? (DVD5巻ブックレット 落書きイメージ集part6. キャラクター性格設定より) ※初期設定らしく、本編と異なる可能性がある キャラデザの発注をうけて、最初に書いたのがこのエイプリルです。頭ン中にあったのをそのまま出した感じです。昔から妄想で、リーダーは黒髪に赤い瞳というのをやりたかったのでいい機会でした。 エイプリル(仮)17才くらいと設定画に書き込みあり (DVD5巻ブックレット 落書きイメージ集part1. キャラクターデザイン須藤友徳氏のコメントより 口紅あり (DVD5巻ブックレット 設定資料集より) コミック版設定 マルチアーノと肉体関係?半裸でダブルベッドに… (コミック3巻より) 大気圏突入可能なフライトユニット(キャノン、レーザー?柄つき手榴弾あり)を装備可能。胸アーマーにはハートマーク (コミック3巻より) スラム時代のマルチアーノの仲間ベスがモデル。外見だけ真似たか生体部品を使っているかは不明だが、コミック版でセプがミスターに「化顔面だけは人間の様だな」と言われている。また、マルチアーノが「心…そんなものを貴女達に鋳れた覚えはないわ…鋳れたくとも私にはできないことよ」と言ってることから、知能は人工的なものと推察される。 (コミック1,2,3巻より) 二次裏設定
https://w.atwiki.jp/coyote/pages/35.html
彼女の休日 エイプリルの場合 「……ううん、………ん?」 エイプリルがこの日最初に目にしたのは、シートの上で分解された愛用のルガーP08だった。 どうやら椅子に座り、机に突っ伏した状態で寝ていたらしい。 眠気の残る目を擦りながら、彼女はあたりを見渡した。 調度類の少ない部屋の窓には朝日が差し込み、目覚まし代わりのステレオはラジオ放送の7時のニュースを流している。 机に目を見遣ると銃の整備の途中で眠ってしまったらしく、綺麗に磨かれた部品とそうでない部品が左右に分けて置かれ、 手元のライトは点灯したままだ。 鏡に映る寝巻き姿の自分を見て、我ながら珍しいなとエイプリルは思った。 就寝前に行う銃の整備など手短に済まして、暖かなベッドに潜り込むのがいつものことだが今日は違った。 寝る直前のことを思い出してみようとしたが、ぼんやりとしていて思い出せない。 知らず知らずのうちに寝てしまうとは自分らしくもない。最近は疲労がたまっているのだろうか。 12姉妹のリーダーとして個性的なメンバーをまとめることは、何かと気苦労は耐えないと自覚はしていたが、 ここまでたまっているとは思っても見なかった。 今日は特に予定も無いようだし、どこかで羽を伸ばしてみるのも悪くは無い。 机を片付け、着替えて部屋から出ると、なにやらリビングが騒がしい。朝から誰かが言い争っているようだ。 何だと思いリビングに行ってみると異様な光景がそこにあった。 「何度言ったら分かりますのセプ! 今日は私と「」さんでオペラ鑑賞に行くのですわぁぁ!」 「いいえ、「」さんは私と遊園地へ遊びに行くのよ! それならお母様と一緒に行きなさいよジャニアリー!」 「痛い! 痛い! 痛いってば二人とも! 腕がぁぁちぎれるぅぅああああ!」 何故かジャニアリーとセプが互いに「」の両腕を引っ張り合っている。 両者に退く全く意思は無く、力の限り引っ張っているので、「」が悲鳴を上げるのだが耳に入っていない様子だ。 「これは一体何なんですの!? とにかく二人ともお止めなさい」 エイプリルが制止して、二人はやっと「」の腕を放した。 今までありえない力で引っ張られていた「」は拷問のような苦痛から開放されると、その場にへたり込んだ。 「エイプリル、聞いてくださいまし、セプったら家に来た「」を独占して連れ回そうとするのですわ!」 「何よ、ジャニアリーだって同じようなものじゃない!」 「何ですってぇ!」 「何よ!」 ため息をつきながら、エイプリルはへたり込んだ「」の傍にしゃがんだ。 「まったく、二人とも朝から騒々しいったらありゃしませんわよ。それで「」さん、何か私たちに用がありまして?」 「今日はエイプリルさんと一緒にどっか行こうと思って、誘いに来たんだけど空いてる?」 「そ、それは俗に言うデ、デートのお誘いですの?」 「多分そうだと思う。いいかな」 「も、もちろんですわ。今すぐ準備いたしますから少々待っていて下さいまし!」 言うなりエイプリルは一目散に部屋へと駆け込んで言った。 ふと視線を感じた「」が振り向くとジャニアリーとセプがジト目で睨んでいた。 「「「」さん」」 「二人ともごめんね、こんど何かあったら誘うからさ」 「うう……」 「さぁ、準備できましたわ。行きますわよ「」さん!」 「「「早っ!」」」 行き先も決めないまま、家を出たので二人はとりあえず街の方へ来た。 しかし、ずっと知ったる街をブラブラとまわっているのは飽きるので、 エイプリルの提案で郊外に新しく出来たショッピングモールへ行くことにした。 今日は休日ということもあってか、大勢の客がショッピングモールに来ていた。 家族連れの者。友人同士で買い物に来た物。一人で暇つぶしに来た者。そしてカップルで来た者。 「やはり……に見える………のでしょうか」 「えっ? 何て言ったの?」 「だから、私たちもこうしていると、こ、恋人同士に見えるのかしら!?」 そう言うとエイプリルはボンッと音を出しそうな感じで顔を赤らめた。 そうして、しばらく歩くと突然足を止めて、おずおずと「」へ手を差し出した。 「エイプリルさん、手がどうかしたの?」 「こ、こ、恋人同士に見えるなら手くらい繋いでいても不思議ではありませんわ。というよりも繋ぎなさいな「」さん!」 照れながら繋いだエイプリルの手は、仄かに暖かくて柔らかい。 始めはお互いに照れのせいであまり会話を交わさなかったが、しだいに会話が弾むようになっていった。 ある洋服店の前を通りかかったとき、エイプリルがショーウィンドウをしげしげと覗き込んだ。 「あら、「」さん。このセーターはいかがですか?」 「エイプリルさん、2着も同じセーター買って何するの」 「一つは私。もう一つは貴方が着るのですわ。お揃いのセーターを着て、寒い冬を二人で暖かく過ごせるなんて素晴らしいですわよ」 「――分かったよ。ちょっと待ってて」 「え、「」さん?」 2着のセーターは少し値が張ったが、エイプリルに見せたときの驚いた顔とうれしそうな顔に比べれば安い物だ。 その後も、二人で雑貨品店や食品店を見て回った。 しかし、少しずつエイプリルとの距離が縮まってきたのは、何故だろうか。 ここに来た時は半歩ほど離れていたのに、今では肩が触れそうなくらいにまでに近づいている。 「あのさ、何かどんどん近くにきてない、エイプリルさん?」 「あら、貴方は私と腕を組みたくないとおっしゃるの? むしろ組まないとぶっ壊しますわよ。よろしくて?」 今回は、どうやら「」にはありがたいことに拒否権は無いらしい。 夕暮れ時、二人は家までの道を腕を組んだまま歩いていた。 夕焼けに照らされたエイプリルの横顔を見て、「」はなんともいえない気持ちになった。 可愛いとか綺麗だとかそういう言葉はこんな時に言うんだろう。 どんどん近づいてくる家が疎ましい。こんな時がずっと続けばいいのに。 しかし、楽しい時間はすぐに過ぎてしまい、二人は家の前に着いた。 「今日は楽しかったですわ」 「ボクも楽しかったよ」 「そうですわ。「」さん、少しだけ目を閉じてくださいまし」 「う、うん」 次の瞬間、目を閉じた「」の頬に柔らかい感触のものが触れた。 驚いて目を開けると、視界にはドアの前に立ったエイプリルがいた。 「また明日会いましょうね「」さん」 「……うん、また明日」 帰っていった「」の背を見送りつつ、エイプリルは平静を保つのに必死だった。 こんな顔はお母様にも見せられないだろう。 何とか落ち着きを取り戻し、家のリビングに入るとその場にいた者たちがこちらを見た。 ニヤニヤしてたり、意味深な顔をしたり、憤怒していたりと多種多様だ。 「あれ、今日は早かったね。マーチの話だとてっきり朝帰りだと思ってたよ」 「これは予想外」 「うふふ……」 「エイプリルゥゥ! 「」さんとは何もやましい事はしていませんわよねぇぇぇ!?」 「まさか、もうCまでやってしまったの?」 「「「ねーねー、オーガスト。『朝帰り』って何?」」」 「分かんない、お母様に聞いてみよう」 「これは次の原稿に使えそうだわ」 「土産は無いのか?」 一同の反応を見ながら、エイプリルは本日2度目のため息をつきつつ、こんな休日もありですわねと思った。
https://w.atwiki.jp/coyote/pages/46.html
彼女の休日 12姉妹の場合 クリスマス編 クリスマスを数日にひかえたある日の朝、エイプリルはニュースを見て小さくため息を付いた。 「どうしたんだよ。朝からため息なんて、そんなに嫌なニュースか?」 隣で一緒にニュースを見ていたメイが、興味深そうにテレビを見た。 ニュースでは、離れた場所の惑星が一足早くクリスマスを迎えており、レポーターが賑やかな街の様子を鮮明に伝えている。 そして画面が切り替わり、壁に大穴が開いていたり、煙突が破壊されていたり、屋根が抜けていたりと無残に一部が破壊された家屋が次々と映された。 画面左上には【今年も出現! サンタの異常なプレゼント】とテロップが表示されている。 リポーターは破壊された家の住民にインタビューしていて、どの家庭も突然の災難に困り果てているようだが、子供だけは満面の笑みでサンタクロースに 感謝の言葉を述べていた。 「なんじゃこりゃ?」 「最近、クリスマスになると現れるコヨーテなサンタクロースですわ」 エイプリルはメイに淡々と語り始めた。 何でもそれは12月になると宇宙中のショッピングモールから、商品を根こそぎ窃盗をして姿をくらます。 そして彼らにプレゼントを希望の手紙を送るとクリスマス当日に、手紙に書いた物がクリスマスの夜の届くというのだ。 普通に届けるのなら良いのだが、少しでも障害になろうものなら追いかける警官隊を振り切り、戦車を弾き飛ばし、無人の家屋を踏み潰して目的地へ直行するのだ。 その手段を選らばぬ姿勢は目的地に着いても変わることはなく、玄関以外の場所から無理やり中に押し入って、プレゼントを自前の靴下に入れて去っていくのだ。 そんな彼らを治安上の問題から各警察と軍が出動して、身柄の拘束を試みたのだが全てが失敗に終わっている。 無茶苦茶な連中ではあるが、貧困にあえぐ人々から金持ちに至るまで老若男女問わず可能な限りプレゼントを配布する一面が、大衆から【奇跡のサンタクロース】と 呼ばれていて支持されていた。 「なんだ、そのサンタ結構良い奴じゃんか」 「良くありませんわ!」 両手で勢いよく机を叩いて、立ち上がると右手で硬く拳を握り締めた。 拳の握りすぎで腕が震え、双眸には怒りと憎悪の炎が激しく燃え上がっていた。 「あの腐れ外道のおかげで、「」さんへのプレゼントが買えなかったんですのよ!」 「それは難儀だな」 「まったく、奇跡のサンタクロースなんてこの世からいなくなれば良いのですわ!」 「そ、そんな……あのサンタさんは良い人なのに」 「何をおっしゃるの!? 誰にでも平等なのは結構ですが、あれはただのド・変・態以外の何者でもないですわよ!」 「ひどい……エイプリル」 「何を言うので――え?」 エイプリルは声の主を見た。メイを見るとばつの悪そうな顔で、親指で背後のドアを指差した。 その先には、ひどくショックを受けて泣き出しそうなジューンが立っていた。 「え、えーと。ジューン? これはちょっと言いすぎでしたわね。というか、貴方この前買い物の途中で手紙を投函していましたけど、もしかして宛名は」 「【奇跡のサンタクロース】」 「…………」 「「「お姉ちゃんおはよ~。あとちょっとでクリスマスだね手紙だした?」」」 気まずい雰囲気をよそに、オクト、ノヴェ、ディッセが手紙を手にやってきた。 クリスマス・イヴの夜になり、12姉妹とマルチアーノ、ニルソンと「」の面々は豪華な夕食を楽しんでいた。 食卓の上には七面鳥の丸焼きやクリスマスケーキといった定番メニューから、料理の得意な物が腕を振るって作った料理までギッシリと置かれている。 「「」さん、どうぞ私が切った七面鳥をお食べになって」 「エイプリル、ずるいですわよ! 自分だけ「」さんに切った七面鳥を食べさせてあげるなんて! それは私の役目ですわ!」 「あらジャニアリー、「」さんは私が切ったのをお食べになるのですわ」 「なにをぉぉ! こうなればどちらが「」さんに食べさせられるか勝負ですわ!」 「望むところですわ」 「えっと、ボクに選ぶ権利は……?」 「「一切無し! さぁ食べてくださいな!」」 2人は七面鳥の肉のを一気に「」に食べさせた。 初めのうちは何とか噛んで食べれたが、押し込むペースと量が次第にエスカレートして行き、食べさせると言うより無理やり肉の塊を押し込んでいく。 「くぬ! くぬ!」 「さぁ、まだ沢山ありますからたーんとお食べ」 「ちょ、ふた…りとも……いきが………できな……」 「」の声はもはや声にならず、助けを求める手も宙をさまようだけだ。 しだいに手の動きが緩慢になり、顔色が信号のように赤から青へと変わっていった。 「おいお前ら! 「」が窒息してが死んじまうよ!」 「メイお姉ちゃん。「」が白目むいてるよ!」 傍から見ていたメイとオーガストが、「」の様子の変貌に危機感を覚えてジャニアリーとエイプリルを静止する。 「」は遠のきかけた意識の中で、川の手前にいる七面鳥がこちらへ手招きする幻影を見た。 その少し離れた席ではフェブラリー、マーチ、ジュライ、セプの面々がビーフストロガノフを揃って食べていた。 「わぁ、このビーフストロガノフ美味しい。 これってジュライが作ったの? 今度作り方を教えて」 「初めて食べるけ、どこんなに美味しいなんて」 「……美味い。ジュライGJ」 「あらあら、お世辞を言っても何もでないわ。セプ、作り方を教えてなんて、「」さんにご馳走してあげるつもりでしょう?」 「え、あ、あの…それはその!」 笑みを浮かべたジュライの言葉に、セプは顔を真っ赤にして否定するように手を振った。 しかし、図星を言われて動揺する様子をフェブラリーとマーチは面白おかしく茶化した。 「ジューンお姉ちゃんの作った飴細工はなんで変な形してるの?」 「映画で見たような気がするよ」 「これはガーゴイル像といってだな――オクト、頭だけ咥えて舐めまわさないでくれ。不気味だぞ」 「ふぇ?」 それぞれが思い思いに楽しんでいる中で、窓の外は異様な状況になっていた。 何かが爆発して爆炎が高く立ち上り、そこかしこから警察車両のランプが点滅している。 それらの騒ぎはゆっくりと、だが確実にマルチアーノ家へと近づいている。 その事をまだ誰も気が付いてはいない。 ようやく追撃をふりきったそれは直線に出ると、エンジンを唸らせ急加速した。 性能の良いとはいえないサスペンションのせいで、車内はひどく揺れるが気にすることではない。 遥か前方に見える塀を突破すれば、12人が待つ最終目的地だ。思っていたより頑丈そうな塀に運転手はインカムに叫んだ。 「ボス、体当たりの突破は難しいですがどうします?」 「このまま加速しろダッシャー。ヴィクセン! あれを撃て!」 「イエス、ボス!」 男の指示により、車体上部に設置された砲塔がゆっくりと前方を向いた。 そして照準が合わさると、搭載された23m連装機関砲が毎分2000発の連射で機関砲弾を吐き出した。発射された機関砲弾は頑丈な塀を削り取り、無数の亀裂を走らせる。 そしてそのまま塀に迷う事無く突っ込んだ。 突然の銃声と爆音にマルチアーノ家にいた者全員が騒然となった。 各々が所有する武器を手に庭へ飛びして、騒ぎのあった方へ向かうとそこは以上な雰囲気に包まれていた。 「メリィィィクゥリスマァァアアアアス! ボーイ&ガール! 元気にしてたかぁぁあい?」 その男は赤い服を着て、純白の大袋を肩に提げて立っていた。 大きなお腹に白い髭をはやした笑顔のおじいさんではなく、丸太のような両足に逆三角形の引き締まった上半身。 袖からからも伝わる筋肉の塊のような腕に、岩のようにごつくて大きな手。皺と傷にまみれた彫りの深い顔には白髭と白髪を生やし、申し訳程度に頭上に赤帽子が載っている。 彼が立っているのは8頭のトナカイが引くそりではなく、赤白緑で塗装された8輪装甲車のハッチだった。 車体側部の前後にはスピーカーが装備され、シャンシャンという効果音と有名なクリスマスの童謡が流れているのだが、エンジンの排気音でよく聞き取れない。 「へ……へ……へん……」 「ひぃ、ふぅ、みぃ……。よし、確かに全員いるな」 「もしかしてあれが【奇跡のサンタクロース】?」 「その通り! 本日ラストのプレゼントを君たちマルチアーノ家の皆さんにお届けに参りました!」 「変態ですわぁぁああああ!」 エイプリルの絶叫をよそに、サンタは装甲車から降りると袋に手を突っ込み、綺麗に包装された箱を取り出した。 箱にはそれぞれリボンに名前が書かれており、サンタは名前を読み上げて、プレゼントを配りだした。 「「「サンタさんありがと~」」」 「いやぁ、こんな可愛い三つ子さんにお礼言われると照れるなぁ。来年も良い子でいるんだよ」 「「「うん!」」」 いつの間にかやってきたのかニルソンは装甲車の横に来ると、しげしげと各部を覗き込んだ。 「うむ、BTR-94とはなかなか良い趣味しているね」 「突っ込むのはそこですの!?」 姉妹達にプレゼントを配り終わり、サンタはいそいそと装甲車のハッチに片足を突っ込むと、エイプリルはルガーを引き抜いた。 そのまま照準をサンタの頭に合わせる。 「ちょっと待ちなさい。私のプレゼントを横取りした罪は重いですわよ」 「へいお嬢ちゃん、そいつは悪かったね。でも俺達にはああするしかないんだよ。今は急ぐんで行かせてもらう。ではまた来年のクリスマスに会おう、さらばだセニョリータ!」 「ちょ!? 待ちなさい!」 エイプリルの制止の声は爆音を上げるエンジンにかき消され、庭を疾走すると再び機関砲を発射してから塀を突破していった。 呆気にとられ、呆然としたエイプリルの肩をメイが軽く叩いた。 「あのー、エイプリル?」 「貴方たち、姉妹が揃いも揃ってあの変態に手紙を出しましたのね」 「ああそうなんだよ。エイプリルも誘おうと思ったけどサンタの話するたびに機嫌悪くしてたからさ」 「……なんかこうして見ると私って空しいですわね」 「アハハハ、ほら冷えるから先に家に戻ってるよ」 一同が家に戻り、エイプリルはその場に立ち尽くして空を眺めた。 12人も姉妹がいるのに自分だけ仲間はずれだと、結構悲しいものだということを初めて実感した。 ほんの少し目頭が熱くなる。それ以上のことにならないようにさらに空を仰ぎ見る。 「……くすん」 「エイプリルさん?」 「はい?」 目元に手をやりながら振り向くと「」が立っていて、後ろ手にしていた手から、木箱を差し出した。 ローズウッドのような木材で作られたシンプルの木箱のふたには、金色の金属プレートがはめ込まれ、【To April】と書かれている。 大事そうに両手で持ち、エイプリルはふたを開けた。 「えっと、これは……」 「エイプリルさんの欲しいものとかよく分からなくて。とりあえずこんなのしたけどよかったかな?」 木箱に入っていたのは、金色に磨かれて4月に咲く様々な花が所狭しと彫刻された小型の拳銃だった。 手にとって見ると彼女の手にちょうど良い大きさに収まり、各部品の作動に一切のガタツキは無い見事なものだ。 マガジンのそこには【大切な人に捧ぐ】とつたない字で彫ってある。 「そこだけは自分でやってみたかったんだ。気に入ってもらえたかな?」 拳銃を懐に仕舞い込み沈黙のまま俯くエイプリルを「」は心配そうに覗き込むと、突然「」はエイプリルに抱きつかれた。 そのまま「」の胸に顔をうずめると、上目遣いで「」と目を合わせた。 「こんな、こんなに嬉しいプレゼントをもらって気に入らないわけありませんわよ」 「そう、それはよか――」 不意に「」の唇に柔らかいものが触れた。 何が起きたのか一瞬わからず目を白黒していると、エイプリルが前で嬉しそうにくるくると回っていた。 「「」さん」 「え、あの今のもしかして」 「秘密。それよりも一つ言い忘れていた事がありましたわ」 「エイプリルさん?」 「メリークリスマス!」
https://w.atwiki.jp/coyote/pages/43.html
エイプリル教官 その1 その2
https://w.atwiki.jp/coyote/pages/102.html
独立戦争編Ⅱにおけるエイプリル 十二姉妹隊の指揮官としても板に付き始め、 日夜母の遺志を達成する為、心血を注いでいる。 今のところ、どちらが前線指揮官に相応かという、 ジャニアリーとジュライの対立や、 以前の戦闘でフェブが情報を正しく収集しなかった、 というジャニアリーの糾弾から始まった、 フェブ&マーチと、ジャニアリー&メイの対立に、 彼女の苦労の大半が占められている。 後者の対立に関して、 フェブに対しては、若干擁護派として接している。 独立戦争編Ⅱにおける戦闘スタイル 余り前線には出ず、指揮に当たる。 しかし一度出れば、ルガーとモーゼル、 それに腰に提げたマダムの剣は、 十二分に磨き上げられた戦技によって扱われる。 武装の関係上、交戦距離は近距離となり易い。
https://w.atwiki.jp/coyote/pages/70.html
ジャニアリー・セプSS ジャニアリー・セプSS-2 セプSS セプSS-2 セプ復活SS. セプ復活SS-2 セプ復活SS-3 マーチSS オーガストSS オーガストSS-2 オーガストSS-3 オーガストSS-4 突発えっちいSS「痴情の星とか言うな」 ジュライSS 年末SS ノヴェSS 12姉妹SS(前編) 12姉妹SS(後編) 姉妹SS 温泉SS クリスマスSS 【コヨーテ劇場:メイ魂】 フェブラリーの日記 フェブラリーの日記 2 その人の名は(フェブラリーSS) フェブとマーチが喧嘩した時の話 new! フランカSS - - -
https://w.atwiki.jp/12sisters/pages/4.html
12姉妹の紹介です。(萌えスレ補正有り) 第一世代 ジャニアリー(通称:1月) 近接銃器戦闘術を得意とし、前線での主力 9月ラブ 4月とは良いライバル関係に有り 勝負運弱し 性格は典型的な「お嬢様」 貧乳疑惑あり エイプリル(通称;4月) 12姉妹筆頭(リーダー) お母様ラブ 1月にライバル意識あり 8月に好かれているらしい 実は着痩するタイプ メイ(通称:5月) 12姉妹中、屈指のナイスバディ(7月には負けるか?) 4月の事を常に心配している アニメ版とコミック版で扱いが相当違うキャラの一人 アニメ版ではアンジェリカと良い仲になった(が、掘り下げ不足) コミック版ではマルチアーノに口応えする、強気な面も。 セプ(通称:9月) アニメ版では3話でコヨーテ号のミサイル攻撃に巻き込まれ、死亡 コミック版では存命だが、影が薄い。 おそらく12姉妹中、一番不幸な扱いを受けているキャラではないかと。 公式設定で「三つ子の世話をする苦労人」と書かれていたため、萌えスレでは常に弄られキャラ 1月と相思相愛?(DVD1巻のアニメイト限定特典に、9月と抱き合ってる図あり) 第二世代 第三世代
https://w.atwiki.jp/coyote/pages/82.html
『業務日誌──エイプリルの提案で始まったこいつ、百回目の書き込みだ。 殆どただの日記と化していたこれだが、栄誉ある百回目(続いたのが驚きだよ)に今日のことを書かなければならないかと思うと、 本当に嫌になってくる。何しろ担当者はこの日誌を書き終えてからでなければ眠ってはならないのだ。 というか最初からかなり気になっていたんだが、アタシたちが書いたこれ、誰が読むってんだ? まあいいさ、早くこれを書いて眠りたい。エイプリルは屋敷に帰ってきた途端、ぶっ倒れてフリーズしちまった。 お陰でアタシが抱き上げて、部屋まで連れて行く羽目になった。 セプは三つ子を抱えて居間のソファーで眠ってるのを見た。 フェブは床で眠ってたけど、マーチが力を活かして部屋まで連れてったらしい。多分、マーチもフェブの部屋で力尽きてる。 ジューンはふらふらしながら自分の部屋に戻って行った。あのジュライさえ、疲労を隠せていなかった。 ……今まで何とも感じなかったが、こうして書いているとアタシが無事に戻ってきたことが信じられなくなってきた。 更に言うなら、自分だけではなく全員が帰ってきたことが一番信じられない。 全員が大なり小なり損傷を受けているとはいえ、生きている。外した左腕の動作がおかしいが、アタシもだ。 今日は散々だった。作戦はとんでもない負傷率を叩き出しながら成功したが、もう二度と御免だ。 もう筆が続かない。眠くて何も考えられない。明日、ニルソン様に診て貰おう。 恐らくアタシ以外の十一人も医務室に並んでいるだろうが、何としてでも左腕を直さなければ。気分が悪くて仕方がない。 残り三行、この行を含めずに残り三行で報告が終了する。だけど、これ以上なんて書けばいいんだろう? ええい、兎に角アタシたちは作戦を遂行した。雪辱を遂げた訳だ。 マルチアーノ十二姉妹万歳! アタシたちを救出してくれた奴らに万歳! お母様とニルソン様にも万歳! これで報告終わり! アタシは寝るぜ!メイ』 Ж Ж Ж 久しぶりに、静かな夜だった。虫の鳴く声が、姉妹の話す声が途切れた一瞬一瞬に聞こえるほどの、静かな夜だった。 アタシは居間で、感慨に浸りながらソファーに座り、手近な窓の外を眺めていた。 目を閉じて耳を澄ませると色々な音が聞こえる。通常の人間に感じ取れないような音もだ。 敢えてそんな音をシャットアウトし、人間の可聴域で音を聴いてみた。 虫の音。風が窓に吹きつける時の音。近くで話しながらテレビを視聴中のジューンとオーガストの声。二人とも無邪気だ。 今日、この屋敷には四人しか居ない。テレビを見ている二人とアタシ、それにニルソン様だ。 けどニルソン様は居間には居ない。 何かあったのかそれとも大した理由はないのか、彼はアタシたちのスペアボディをチェックしている。 「あ」 小さく声を出した。テレビから視線を外し、振り向くジューン。気配で分かる。手を振ってなんでもないと示した。 思い当たる事実があった。最近、セプのボディの調子が悪かったのだ。 駆動系に問題があるんじゃないかと彼女は言っていた。きっと換装の為のチェックをしているに違いない。 ニルソン様なら軽い修理で直してしまいそうだが。 再度、窓の外に意識を向ける。と、瞼を透かして見えた光が消えた。左目を暗視モードにして目を開く。 ブレーカーが落ちたのだろうかなどと甘いことを考えはしない。十二姉妹はクリミナルギルドの部隊である。 いつ何時襲撃されてもおかしくはない。同じく暗視モードにした二人と一緒に屋敷の中心部に走った。目指すは中央警備室だ。 ギルド兵も何人か待機している筈だし、あそこは別の電源で動いている為、一般の停電時でも作動する。 観音開きのドアを開け、警備室に入った。明るい。明るいが、カメラの映像が映っていない。 アタシは襲撃であることを確信した。何者かが、アタシたちに攻撃を仕掛けてきたに違いない。 ニルソン様に言わなければ。そう思ったが、ジューンが先に行動していた。 が、彼女は内線通話で連絡しようとしていたのだが、通じないらしい。こっちまで妨害か。 カメラが戻った。映像を見て驚く。表口に大勢の武装し覆面を被った人間が居て、今にも突入しようとしていた。 急いで正面玄関へ向かうことにする。兵にはドアに鍵を掛け、銃を持って待機するよう命じた。 ここを乗っ取られると、もし中でやりあうことになった際に不利過ぎるからだ。 「アタシとオーガストで表に居る奴らをやっちまうから、ジューンはニルソン様を保護してくれ」 分かった、と頷いて、駆けて行くジューン。 生憎ショットガンはないし、取りに行ってる時間もない。オーガストの手榴弾も数が少ない。 白兵戦になる、か。服が破れるな。折角のプレゼント品だと言うのに。 走りながらそんな下らないことを考えていたが、玄関が近づいてきたので思考を戦闘状態に切り替えた。 聴覚を駆使し、敵を探る。音はない。アタシは驚いて、もう一度探ってみる。ない。オーガストにもやらせたが、結果は変わらない。 訝しみつつも玄関に近づき、ドアを蹴り開けた。オーガストが手榴弾を投げようとして、固まる。 ……誰も居ない? 事実を受け止めて、陽動だったのだと結論付ける。 しかしどうやってあの人数を、兵に知られずに別の場所に移したというんだ? 通信が入る。既に、アタシとオーガストは裏口へ向かっている。残る入り口はそこしかない。 窓はないだろう。音を立て過ぎる。すぐに気付かれて、奇襲にならない。 通信は兵からだった。 『メイ様、カメラの映像は偽の映像です!』 「陽動だってんだろ? もう分かってる!」 そう答えて通信を切ろうとしたが、次の言葉がそれを止めさせる。 『奴ら、こっちがカメラが映らないことや事態の把握に時間をかけている間に、 カメラ映像を乗っ取ったんですよ! それで偽の映像を流したんです、裏口に居るに違いない!』 なるほど、とんでもない大ポカだ。こんな時にフェブが居ればとは思うけれども、今言ったって何の解決にもならない。 まあ何はともあれ、敵の居場所は分かった。急ごう。 途中、銃声が始まり、ジューンの通信が入った。ニルソン様の居る医務室に行く途中敵と遭遇、交戦を開始したとのことだった。 奴ら存外に多いようだ。ニルソン様が危ないな。 アタシはオーガストから一本手榴弾を貰い、彼女を置いてスピードを上げた。 銃声が近づいて来る。T字路の曲がり角に隠れたジューンの後姿が見える。手榴弾のピンを抜き、投げた。 爆発。煙と死体と銃弾の中を突っ切って、医務室に飛び込む。 後ろ手にドアを閉めて鍵を掛けると、ニルソン様を探した。居ない。連れ去られた? 最悪の可能性に考えが到り、アタシは顔面が蒼白になったような気がした。 ジューンに敵の動向を訊く。退却に転じたそうだ。『目的は達された』ということか。 乱暴にドアを開けて、彼女と奴らを追う。裏口から行ける細い道を通り、月光に照らされて出来た奴らの影を見て走る。 エンジンが始動する音。大きさと音の感じからすると軽トラだ。細かいデータを参照している暇はない。 全速力で走る。だが車に追いつくのは無理な話だ。 アタシの目に映ったのは、気絶したのか荷台に背を凭れさせているニルソン様とアタシたちのスペアボディ、 そして最後に、覆面を外した状態で荷台に仁王立ちし、不敵に笑う男の顔だった。 Ж Ж Ж ニルソン誘拐、スペアボディ強奪の報を受け任務から戻って来たマダムは、損害報告を受けて溜め息を吐いた。 メイ、ジューンとオーガストの表情が沈鬱としたものになる。 自分のせいだと、そう三人は感じていた。マダムも彼女たちの感情には気付いていただろうが、慰めはしなかった。 それは三人にとって肯定に等しい。加えて、他の姉妹からの目も彼女たちを落ち込ませた。 セプはあれやこれやと心配してくれたが、エイプリルを筆頭とするその他の姉妹からどう思われたか、思われているかを考えると、 三人の頭には絶望的なまでのネガティブな考えしか浮かばなかった。 「エイプリル、私の部屋に来なさい」 マダムに呼ばれ、十二姉妹のリーダーは後について彼女の私室に行く。 部屋の中は見慣れたものだ。ベッドや鏡、化粧棚、机二つ、ソファーが配置された、 大して変わったところのない部屋である。 まあ、片方の机の上に分解されたマダムのマウザーがあるのは、変わったところに数えてもいいかもしれない。 マダムはマウザーがない方の机の上にあるワインを取り、グラスに入れて、飲み干す。 紫の液体を嚥下し終えた後、彼女は傍に黙って立つエイプリルに命令を下した。 「至急フェブに情報を収集させ、ニルソンの居場所を突き止めなさい。 然る後、救出作戦を立案、実行します。宜しいですね」 「はい、お母様」 回れ右をして命令を実行する為に居間へ戻ろうとするエイプリル。 が、マダムは退室直前に呼び止める。 「それから、メイやジューンのフォローをお願いします。 落ち込んでいるようですから、励ましてやって下さい」 「分かりました、お母様。心配は無用です」 請け負って、今度こそ退室する。 それを視線で見送り、もう一度ワインを注いで飲むと、マダムはまたもや、溜め息を吐いた。 さて、場所は変わってフェブの部屋になる。 中では姉妹たち全員が、所狭しと座ったり立ったりで、フェブのパソコンによる作業を見守っていた。 心配なのだ、マダムと同じくらい大切なニルソンのことが。 それはフェブにおいても勿論変わらないことで、眉間に皺を寄せて情報を収集していた。 一時間が経過し、二時間が経過し、三時間が経過し、疲れが自身に自覚出来て来ても、彼女は諦めずに調べ続ける。 遂に十二時間を突破した。既に姉妹たちは眠りこけている。あの時屋敷に残った三人を除いて。 その三人もうつらうつらとしていた。ジューンは目を頻りに瞬かせているし、オーガストは半分寝ている。 メイは舟を漕ぎ始めた。前後にゆっくりと頭を振っている。 ごん、と音が鳴り、小さい声が上がった。フェブはそれに構わず作業を続ける。 傍で座って見ていたメイが、遂に一瞬眠ってしまい、頭を強か打ってしまったのだ。 「メイ、大丈夫か?」 流石に今度は手を振って大丈夫とは行かず、暫く彼女は頭に手をやって抑えていた。 しかしぶつけたお陰で何か思い出したらしい。作業中のフェブに取り付いて、喋りだした。 「フェブ、フェブ! アタシ奴らの顔を見たぜ!」 ぐるんと顔を向けるフェブ。少し怒り気味だ。最初から言え、と目で言っている。 だがいらぬ時間を使う気はなかった。すぐに機器を用意し、メイの記憶中枢を検索する。 「これですわね」 軽トラに乗って逃走する瞬間のデータをコピーし、それを使って情報を探してみる。 まもなく、数件の情報が見つかった。 但し、それはニルソンの居場所ではなく、男の素性であったが。 「無職? 結構な身分と行動力だな」 機器を外し、フェブの横でメイが呟く。 「残念ですけど、余り役には立ちませんわ。この映像──あ、忘れてた」 閃くものがあったフェブ。凄い勢いで手指を走らせ、新たなキーワードで検索し始める。 「調べるものは、監視カメラ。範囲は、半径百六十キロ。ナンバーは……」 やがて、一つの写真を印刷し始めた。横から覗き見るメイ。 その前にちらっとジューンたちを見てみると、完全に眠っていた。 「これ、あの軽トラか?」 「恐らくは」 写真には、何処かのビルの駐車場に停められた軽トラが映っていた。 時間が違ったので当然ながら荷台には誰も居ないし、誰かが乗っている様子もない。 フェブはパソコンのモニターから顔を逸らさず、メイに忠告した。 「何処のビルなのかは今検索中ですから、メイは眠っていた方がいいんじゃないですの? 遅かれ早かれ、眠れなくなりますわよ?」 メイはそれを受け入れ、眠ることにした。 自分がニルソン救出に重要な情報をもたらす手助けを出来たことで、彼女の寝つきは悪いものではなかった。 静寂が戻る。寝息とパソコンを操作する音が部屋を支配しだす。 Ж Ж Ж 朝が来た。ニルソン誘拐、ボディ強奪から二度目の朝だ。 三つ子の小さく可愛らしい寝息が規則正しく並び、メイのいびきにも似たそれが後に続く。 メイの近くで眠るジャニアリーの眉は、ぴくぴくと動いている。時々にへら、と顔が緩むのは、幸せな夢だからなのだろう。 内容が何なのかは敢えて触れないが。 目覚ましの音が鳴った。セプが真っ先に起動し、時刻を確かめる。針は午前九時を指していた。 彼女の朝はいつも早いので、こういう時だって一番先に目覚めることが出来た。他が一部除き遅すぎるのもあるが。 とはいえども、前日が前日だ。まだ眠い。それを何とか抑え付け、瞼を擦りつつ、セプは皆を起こし始めた。 「何ですの? 騒々しい……」 セプによってではなく目覚まし時計の音によって目を覚ましたエイプリル。 辺りを見回し、セプの背中を寝起き特有のぼーっとした目つきで見つめる。ふと、その目が音の元凶に向かった。 途端、殺意にすら似た波動を漂わせ始めた。 腿のホルスターに入ったゲーリングモデルのルガーを抜き出し、ゆっくりと味わうようにトグルアクションを動作させる。 初弾装填の小気味良い音がして、エイプリルは口の端を緩めた。 右手だけで狙いをつけ、荒野に霜の降るが如く引き金を引き絞る。乾いた破裂音と金属音が同時にして、時計は動きを止めた。 満足したように微笑んで、ホルスターに黄金に輝く銃を収め、彼女はぱたりと倒れる。 「何やってるのエイプリル!」 銃弾の発射音で起き出した姉妹を放置し、飛んでくるセプ。 ジュライのような目になっているエイプリルを起こそうと、襟首を掴んで前後左右に揺らす。 それでも一向に反応がないので、終いにはセプも諦めて手を離した。落下する頭。床に直撃する。 エイプリルは昨日夜のメイ同様に、跳ね起きる。やはりメイと同じく、完全に覚醒したらしい。 それを確認したセプはやっと一息吐くことが出来た。 欠伸をしながらメイが、結局あのビルは何処だったのかをフェブに問う。 訊かれた彼女は口では答えず、キーボードを叩いて示した。 「図面か何か、ある?」 「勿論、用意してありますわ」 右手で眼鏡を拭き、左手一本で操作する。パソコンのモニターに、五階建てのビルの見取り図が表示された。 メイはフェブのパソコンの右端にコードを繋ぎ、それを自分に接続して見取り図をダウンロードした。 周りに集まりだす姉妹。続々とダウンロードされる情報。と、フェブの部屋のドアがノックされた。 セプが開ける。居たのはマダムだった。 彼女は部屋の人口密度に眉を少し上げたが、至って平然とした顔で、 得た情報全てを印刷した後、それを持って作戦室へと集まるよう命ずる。 ぞろぞろと、ダウンロードを終えた姉妹たちは移動を始めた。 きっちりとノックをして、返答が帰って来てから入る。 マダムは印刷された情報を受け取って、それを大きなホワイトボードに磁石で留めた。 その間に十二姉妹は所定の席に座り、作戦会議の開始を待つ。 「さて」 母の小さく呟いた一言に、エイプリルが起立の号令を掛ける。全員が同じタイミングで礼をし、着席する。 「時間がありません。ですので、手短に話しましょう。 最早通達する必要もありませんが、フェブラリーの努力によりニルソン誘拐犯一味の居所を掴みました。 作戦を立案次第、救助に向かいます。尚、これはこちらが独自に調べていたことですが」 一枚の紙を取り出し、ホワイトボードに更に貼り付ける。 「ボディの強奪に関して反ギルド組織が手を貸している可能性があります。 それが真であれ偽であれ、強力な反撃に遭遇することを予想しなければなりません」 甲高い音を響かせて、ホワイトボードに『強固な防備』と記入する。 マーチが挙手した。発言を許可するマダム。 「フェブにニルソン様をまず捜索させ、ニルソン様の居場所に向かって突っ走る。 そして可能ならボディを奪還、または破壊する」 「脱出はどうするんですの? 突っ走りますの?」 ジャニアリーの野次が飛ぶ。マーチは落ち着いて答えた。 「ビルの屋上からヘリで」 「あの、それについてなんですが」 声の主に注目が集まる。この場合はフェブに、だ。 彼女は図面の屋上部分を指差しながら言った。 「図面に因ると、屋上は広いながらも障害が点在している為に、大型のヘリは着陸出来そうにありません。 ニルソン様の消耗も考えなければなりませんし、縄梯子やロープに掴まるのも不可能だと思います。 ただ、小型ヘリ数台に分けて載せるのならば出来ないこともないかと」 「そうですね。小型ヘリならば、操縦手除き四人を同時に運べるヘリが四台あります。 ならば問題ないでしょう。メイ、強奪されたボディの個数は幾らでしたか?」 「各人のボディを一つずつで計十二体です、お母様」 聞いてマダムは、『ヘリに因る脱出』と追記する。 セプが手を上げて、発言した。 「突入はどうするんですか? お母様」 「私の案では、トラックで突入する予定ですが、他に意見は?」 何人かの手が上がった。マダムはそれを見渡し、ジューンの意見を聞くことにする。 彼女は真面目に立ち上がって発言した。 「上部に敵が集まると面倒だから、さっきの小型ヘリで四名、上から突入して下に追い立てるのがいいと思う」 「私はジューンに賛成です。奇襲から立ち直った兵が多く、また強力な銃器を手に立て篭もれば、見逃せない脅威になります。 ですので、予めその危険を出来うる限り排除する必要があると思います。 それに憶測ではありますが、屋上には配電盤があるでしょうから、もしそれを破壊出来ればこちらに有利になります」 ジュライが賛成を表明し、オーガスト、メイ、セプもそれに従う。 エイプリルも暫く考えていたが、やがて肩を竦めて、賛同した。 後は済崩し的に、全員が賛成に傾く。マダムは『ヘリに因る脱出』の隣に、『一部はヘリで突入』と書いた。 「では、作戦に関する細かい事項は私がやっておきます。各員は武装のチェック等、欠かさぬように。 尚今回の作戦では、防火シャッターや防火扉を改造した障害物が考えられます。各隊は対応手段を持って行きなさい。 エイプリル」 開始の時と同じように、エイプリルが声を出した。 「起立」 礼をして、十二姉妹は席を立つ。作戦室のドアを開け、出て行く。 Ж Ж Ж それから十時間後、外は薄暗くなり始めていた。 姉妹たちは居間で武器の動作確認や作戦の反芻、面倒な状況への対処方法を話し合いながら、作戦開始の時を待っていた。 ジュライは刀を研いで備えていたし、今回余り派手に爆発物を使えないオーガストは非殺傷性の特殊音響閃光手榴弾や、 シャッターなどで道を塞がれた場合に対する装備を持っていこうとしている。服がはち切れそうだ。 「十二姉妹全員に通達します。装備を用意して作戦室へ集合。繰り返します。十二姉妹は……」 居間に備え付けられたインターホンから、マダムの声が流れた。 各自の装備を手に、立ち上がって作戦室へと歩き出す。 作戦室には、ギルド兵一人と、マダムが待っていた。 「作戦に関する最終指示をします」 開口一番にそう言って、さっきホワイトボードに書いた『一部はヘリで突入』を指で示す。 「小型ヘリで屋上よりジャニアリー、マーチ、ジュライ、オーガストの四名が突入。下層に追い立てなさい。 残りの八人はトラックで一階を強襲、追い立てられた敵を撃破すること。また、フェブはニルソンの生体反応を探りなさい」 「はい、お母様」 フェブが答えた。寝不足も解消して、すっきりとした表情になっている。 それを見て頷き、マダムは続ける。 「上層隊の指揮はジュライに命じます。下層隊の指揮、並びに現場最高指揮官はエイプリルが取るように。 では、ヘリとトラックを待たせてあります。ジュライたちはこの兵とヘリポートへ向かいなさい。彼が操縦します。 エイプリルたちは、既に玄関にエンジンを掛けて待機中ですので、そちらに。では、時刻合わせ、三、二、一、作戦開始」 駆け足でそれぞれの足に向かう十二姉妹。 マダムは作戦室に一人残り、備えてあるワインをもう一杯飲んで、娘たちの連絡を待つことにした。 到着するまでの時間を考えれば、十数分もすれば突入が開始される筈だ。 ヘリとトラックでは移動速度が違い過ぎるが、移動ルートを変えて殆ど同時に突入が開始されるようにしておいた。 後はマダムの領分ではなく、彼女の娘たちの領分だ。マダムはただこの部屋で指示を求められた際、適宜命令すればいいだけである。 だが、自分の娘たちに自信を抱いている彼女としては何ら不安がる要素はなかったものの、 それでも拭い去ることの出来ない不安はあった。それは彼女が普段相手にしない、虫の知らせという奴だった。 馬鹿々々しい、と頭を振って、マダムは自分の迷いを否定する。 雑音が入り、次にジュライの声が入ってきた。 『お母様、ジュライ隊は突入を開始します』 「十二姉妹の名に恥じない活躍を期待します、ジュライ」 『はい、お母様』 入れ違いになるように、今度はエイプリル隊からの通信が入ってきた。 但しこちらは助手席に乗ったらしいセプに因る無線で、お陰でところどころ、後部の荷台からの怒声や野次が聞こえた。 『こちらセプ、突入を開始したいんですけど、運転中のエイプリルが』 『私はちゃんとやってますわ! このトラックが悪いんですのよ!』 『『『まーだー?』』』 『おい、ちゃんとやってんのかエイプリル?』 メイが呆れた口調で問い質す。リーダーは怒鳴り返した。 『やってますわよ! ええい、まどろっこしい! 荷台、対衝撃防御姿勢ッ! ほらセプもですわ、頭下げて!』 『えっ? ちょ、ちょっとエイプリ──』 何かが何かを破砕する音。セプの悲鳴、エイプリルの怒声に、メイの罵声。 無線は途切れ、砂嵐のような音だけが聞こえて来るようになった。 数秒して、ジュライが使ったものと同じ回線でエイプリルの報告が来る。 『エイプリル隊、衣服に多少の損傷ありながらも突入を開始しました』 「……気をつけて、ほどほどになさい」 『了解です、お母様』 自信たっぷりな声を残して、通信が切れる。マダムは少しの間、頭を抱えた。 Ж Ж Ж 荷台のドアの閂が、外側から開けられる。途端、ドアが展開した。 中からはエイプリル、セプを除く下層隊の六人が飛び出てくる。 セプはそれに付いて行く前に、少しだけエイプリルの短気さに懸念を抱いた。 バックで突進したリーダー運転のトラックはビルの玄関を突破し、荷台部分は建物内へと入り込んでいる。 偶然居合わせたのだろうこのビルの人間──もしビルを間違えてたりしたらどうしようと、セプは思った──が、 タイヤの下で息絶えていた。まだ動いていたので銃剣で止めを刺してから、エイプリルたちを追う。 彼女の心配はじきに問題なくなった。玄関に入ってから最初のドアを通り抜け、右を向いた瞬間、衝撃がセプの胸を襲った。 それが何なのかは考えずとも分かる。いつも通りにM14で相手を撃ち抜いた。 事務所でも入る予定だったのか、かつて入っていたのか、だだっ広いだけの部屋に立っていたその相手は、 苦悶の表情を浮かべて膝を突いて、血を吐いて倒れた。 銃は下ろさず、セプはその部屋の安全を確保する為にゆっくりと近づく。音響反応センサーを使おうとしたが、 こう広くて何も無いと、反響して確実性に欠けた。 走り込む。驚きの小さな声を聞いて、人数を把握する。跳んで、空中で身を捻り、FCS管制の下に射撃を行う。 幾つかヒットする音。三人の男が拳銃を手に倒れる。 立ち上がり、ちらと左を見ると、ドアが三つあった。入ろうとした時、今まで光っていた電灯が消えた。 通信が入る。 『ジュライです。屋上の配電盤をオーガストが破壊しました。 現在、オーガストを除く上層隊は五階で戦闘中。制圧後、連絡します』 暗視モードにしたセプは、今度こそ三つの部屋の安全を確保しようと銃を構えた。 セレクターを操作して銃をフルオートにする。ドアの一つに狙いを定め、引き金を引いた。 7.62ミリ弾十六発が、ドアをずたずたにする。当然ながら、部屋もだ。 安心はせず弾倉を替え、ボルトを引く。蹴って開けると、一人倒れていた。腹部に命中弾があったらしく、くの字に身を折っている。 光るものが左にあった。銃剣の輝きだ。窓から入る月光が、照らし出したのだ。 体が動く。声と共に、敵の銃が突き出される。セプはM14の先で敵の銃剣が向かう方向を左に逸らした。 流れるような動作でもって、下から顎を銃床で殴りつける。ふらりとした敵の顔面にもう一撃。 倒れ込んだその喉に銃剣を突き刺す。念の為心臓にも一度刺す。 背後でドアの開く音。それも二つ。迷わずセプは右脇の下をM14に潜らせ、左手の親指で引き金を引き続ける。 血が飛び散って、服に掛かる。後ろを振り向くと、各部屋に潜んでいた敵が穴だらけになっていた。 「エイプリル、事務所と応接室二つ、それに社長室をクリアしたわ」 通信を入れる。散発的な銃声が聞こえてくるので、返答がないのは仕方ないなと、セプは考える。 見た訳ではないので、一応残りの部屋も見て回る。やはり、敵はもう居なかった。 『こちらジューン、部品倉庫に居た六人を無力化。クリア』 『こちらメイと愉快な三つ子、男子トイレに女子トイレ、湯沸室とその向かい側にある応接室二つをクリア。 敵は四名。拳銃しか持ってないな、重火器とかは上なのか? まあいいけどさ』 『エイプリルですわ。一階の制圧はほぼ完了したようですわね。二階に急ぎますわよ』 取り敢えず、上手く行っているようだ。 今のところは安心して、二十発は少なすぎるな、とぼやきつつ、セプは空寸前の弾倉を再び替える。 何か重いものが落ちたような音がした。
https://w.atwiki.jp/coyote/pages/83.html
「こちら上層隊、五階を制圧、そのまま四階に突入しました。敵が防火扉でのシャットアウトを始めています」 ジュライは発射された銃弾ごと敵を叩き斬りつつ、エイプリルに連絡した。 二つに増えた歪な弾丸は強靭なボディに弾かれ、足元に落ちる。 すぐに了解、との返答が帰って来る。 どうやら敵は三階に立て篭もる覚悟を決めたようで、銃撃も拳銃から突撃銃、自動小銃に変わった。 「この分じゃ、三階では五十口径と戦うことになる」 マーチがMINIMIを連射して敵を薙ぎ倒しながら、毒づいた。 十二姉妹のボディは拳銃弾までなら五十口径でも耐えられる。M500でも、デザートイーグルでもだ。 だがエネルギー量からして桁が違う対戦車・対物ライフルとなると話は違うし、 特殊な弾頭の弾や、ジャニアリーの使うP90の5.7ミリ弾のように、貫通力の高いものならある程度の損傷は避けられない。 建物の中でのロケット弾発射は基本出来ないので、RPGなどの攻撃は有り得ないとジュライは踏んでいたが、 それにしたって別の手段はある。グレネードランチャーなら問題ないし、パンツァーファウストもグレネードの一種だ。 小さいものならワルサーのカンプピストルもある。大きなものならパンツァーファウストⅢだって撃てる。 目の前の敵を斬り倒すことに専念したかったが、ジュライの頭からはどうしてもその考えが離れなかった。 だから隙の一つも出来たのだろう。ショットガンを持った男が、先につけた銃剣で突いて来たのだ。 その時は別の敵を斬った直後で、とても何がしかの対応が可能な状態ではなかった。 傷はまあ問題ないだろうと考えて、敢えてそれを受けることにした瞬間、その男の体に穴が数十個は開いた。 穴開きチーズになった男は、そのまま何歩か非常に鈍重に進み、ジュライに縋り付くようにして体を地に落とした。 「どうしたんですの? 珍しい」 「あらあら、いけませんわね。私としたことが」 ジャニアリーにそう返し、銃で殴り掛かって来た男をひょいと避け、手刀で首を強打する。男は昏倒した。 ぶん、と風を切って向かって来るスコップ。右の二の腕で軌道を変え、振り下ろされた手を一打しスコップを落とす。 持っていた敵の首を両手でがしりと掴み、弾みをつけて引き倒し、首を捻じ折った。 また別の相手が、ナイフで突いて来る。到達直前に左手で叩いて外し、右足の膝で股間を蹴り上げる。 体を折り曲げた相手の背中に刀を突き立てた。力を失い、くたりとなる。 「暗視装置もなしに格闘を挑むなんて、自殺志願かしら」 「寧ろ他殺志願」 マーチがそう言って、陰気に笑った。彼女はさっきから残弾数を心配してか、敵のM16から奪った弾倉で射撃している。 そういえば、普段はあんなに乱射するジャニアリーが、今回は基本的にセミオートで連射しないことにジュライは気付いた。 長期戦になることを見据えて、出来る限り銃弾を温存しておきたいのだろう。 P90の弾倉は細長い箱のようなものだ。五十発の弾丸が入る。 ただ、その特異な形状から、持ち運びには適さなかった。 勿論だが十二姉妹は敵の銃を拾って使うことだって出来る。そういう訓練は受けているし、そうでなくても必要なら使うだろう。 が、やはり己の銃に愛着が沸くのは致し方ないことであり、出来うる限りは自分の銃を使いたいと思うのも、仕方のないことだ。 「ジャニアリー、私と前へ。マーチ、オーガストを守っていて下さい」 「子守?」 不満げに顔を顰めるマーチ。オーガストはさっきから何もしていない。それは彼女が悪いのではなく、任務の特性上だ。 万が一にでも、ニルソンごと吹き飛ばすようなことがあってはならないのだから。 オーガストは何事か言い返そうとしたが、むぐむぐと口の中に言葉を押し込めてしまった。 ジュライが視線でたしなめると、人の悪いツインテールはそっぽを向く。 溜め息を吐いた。ジャニアリーが叱り飛ばそうとするが、それを抑えて索敵を始める。 「ジャニアリーはラックの向こう側から行って下さい。私はこちら側を調べます」 何らかのトラップがないとも限らない。細心の注意を払いつつも、素早く調べていく。 左を見る。緑色の視界では良く分からなかったが、じっと見続けると、確かにドアがあると確認出来た。 ラックの向こう側を調べ終わったジャニアリーを手で呼び、突入体勢に入る。 銃を持たないジュライが真っ先に入り、その後ろからジャニアリーが援護するのだ。 指を三本立て、一本を折り、二本を折り、三本目を折った瞬間、援護手がドアを開けた。 すり抜けるように、まだ開ききってもないドアを通り、辺りを確かめる。 かちりという音がして、反射的にジュライは左にステップを踏んだ。 物凄い轟音が鳴り響く。非常に強い衝撃波が観測されたことで、五十口径ライフルだと理解する。 「何なんですの、今の音は! 私の左腕が──!」 再び鳴る音。今度もジュライはギリギリで避ける。位置を特定した。 部屋にあった何の用途に使うのか分からない機械を障害物とし、危険極まりない敵へと近づく。 銃口が向けられた。跳ぶ。音。空中で一回転。着地。刀を両手で持ち、脇を通して背後へ突く。 確かな感触があり、背中に重みを感じた。 「五十口径ライフルです。マーチ、エイプリルに連絡を。 ジャニアリーが負傷、敵はやはり重火器を装備しているようだ、と」 先ほどのジャニアリーの質問に答えるジュライ。 「そんなことはどうでもいいですわ! 見てくださいまし、この左腕!」 ジュライは口元に手をやった。銃弾はドアを貫通し、ジャニアリーの左肘から先を吹き飛ばしていた。 彼女の数メートル横に、さっきまで肘にくっついていたものの残骸と、握られていたP90が落ちている。 「キャプテン・スーパーマーケット……ふふっ」 青ざめるオーガストとは対照的に、嫌な笑いを絶やさないマーチ。彼は右肘だ。 ジャニアリーの残った右腕は、自然と彼女の方へ向いた。 流石に引き金を引く前にジュライに止められはしたが。 Ж Ж Ж ばたばたと人が走り回り、銃声と悲鳴が何処かで上がる。どれくらいそれを聞いていたか、彼には見当もつかない。 一体いつ頃から目を覚ましていたかすら朧げで、ともすれば全て夢の中の出来事と片付けてしまいそうになるほどだ。 それほどまでに、現実味を欠いていた。この、誘拐という事態は、ニルソンにとって。 十二姉妹に守られ、マダム配下のギルド兵に守られ、彼は今まで安全圏に居た。 それが突然誘拐され、戦火の真っ只中に置かれるとは、予想だにしていなかった。 ただ二つ、度々漏れ聞こえる銃声と、時たま聞こえる姉妹の肉声のみが、彼を現実に繋いでいたのだ。 ニルソンの目の前には、誘拐と強奪の実行犯が居た。机に座ってコーヒーを飲みながら、部下に指令を下している。 指示はそれなりに的確と言って良いほどのもので、十二姉妹の進撃を少しは遅めていた。少しは。 「飲むか?」 輪郭だけがぼんやりと見える。コーヒーの入ったコップを差し出しているらしい。匂いで分かった。 首を振って、ニルソンはそれを退けた。 ふん、と鼻を鳴らした後、指揮官はコーヒーを飲み、部下に指示をした。 「パウザとファウストを持って行け。液体常温包装室で待ち伏せだ。 あ、おい、隣の包装室にも何人かやっておけ。奴らの横腹を狙うように命じておくんだ。 奴らは絶対に同時に突入して来る。決して各個撃破なんて甘いことは考えられない。 いつ、どのタイミングで来ても問題ないようにしておけ」 部下が立ち上がって部屋を出て行く。 暫くして、実行犯で指揮官の男も部屋を出て行った。 ニルソンは何度となく確認した自分の状況を、今一度確認してみる。 基本的に自由だが、左手が手錠で縦に走る窓枠と繋がれていた。 辺りを見ても、パイプ椅子と机以外には何もない。今現在は、自力での脱出は難しそうだった。 窓枠は頑丈であり、破壊することも出来なさそうだ。 仕方なく、脚で椅子を引き寄せ、それに座り、救助か脱出の時を待つことにした。 銃声が近づいて来る。救出の足音だ。障害を突き破りあの十二人がやって来るのだ。 もうフェブラリーが生体反応データを探り、自分の居場所を突き止めているとニルソンは確信していた。 安心感が緊張した肉体を解き解す。リラックスして、喧騒を聞き続ける。 気付かぬ内に、瞼が下りていた。緊張で誤魔化されていた疲れが、表れてきたようだ。 抵抗も出来ずに、ニルソンは浅いながらも眠りに就こうとしていた。 「起きろ!」 喧騒が一層激しく聞こえたので、彼の眠気は飛んで行ってしまった。 見るとドアが開けられていて、敵の兵が一人、手錠のものらしき鍵を片手に近寄って来ている。 彼は廊下との接点を閉じると急いで、ニルソンの手錠を外した。移動させるつもりなのだ。 いい加減、ニルソンも夜目も利くようになっていた。 ナイフが肩のホルダーにあり、拳銃が腰の右のホルスターに差してあるのを見て、壮年の博士は行動した。 躓いて転ぶふりをする。兵は右手でニルソンの右肩を掴んで抑える。くるりと回転。左手で口を押さえる。 右手でナイフを引き抜き首筋に突きつける。ただ、決してそれを引きはしなかった。 後ろを向かせ、左手を離して拳銃を取り、首筋に一撃を加える。どたりと兵は地に伏したが、銃声のお陰でさして聞こえなかった。 辺りを見回した。ドアは二つある。敵のうようよ居る廊下と、恐らくそうではないであろう場所に繋がるドアだ。 ニルソンが選択するのに、そう時間は掛からなかった。彼は後者を選んだ。 開ける。あったのはラックと、その中の無数にある何に使うのかさえ良く分からない代物。 凡そ脱出という行為とは関係のなさそうな部屋だった。けれど、ニルソンはその部屋にある窓に目をつけた。 その窓は右側の壁にあり、何とか彼が通り抜けられるぐらいの大きさで、スライド式のものだった。 直感するものがあった彼は、パイプ椅子を持って来てその上に上る。着ていた白衣のポケットにナイフと拳銃を突っ込んだ。 ラックを足場代わりにし、体の半分を窓の外に出す。左右を見た。右には何もない。左には、窓がある。 落下しないように注意しつつ、その窓を覗いた。兵が数人、廊下の方を見ている。 窓の鍵は開いていた。ニルソンは、幸運を何かに感謝した。 そっと開き、芋虫のような速度で体勢を整え、跳躍する。下腹部をストッパーとして、落下を防いだ。 どちら側にも落ちないよう気をつけて、窓から下りる。 足音や着地音を聞かれやしないかと冷や冷やしたが、杞憂だったようだ。 ニルソンは抜き足差し足忍び足で、兵を窺おうとした。その視界に、エレベーターが映る。 電力は止まっていた為に作動させることは出来ないが、シャフトを降りられないかという考えが脳裏を過ぎった。 慌ててそんな自殺とそこまで区別の出来ない案を却下しようとしたが、他に方法が見つけられなかった。 覚悟を決めて、銀色に光るエレベーターのドアに両手を掛ける。センターオープンのドアは、予想通りに重かった。 しょうがないので片方だけ開け、エレベーターに入った後、もう一度その苦労を味わう。要するに閉めた。 息を吐き、膝に手を突き、ニルソンは自分がつくづく幸運であることに気付く。 テーブルリフト式のエレベーターだった。大きさは小さいが扱い易く、器材搬入や高所作業用に使われるタイプだ。 一般のものは十メートルほどまでしか伸ばせないので、やっとニルソンは自分が何階に居るのか分かった。 上を見る。天井はすぐそこになく、もう少し上にあった。 次に下を、隙間から首だけ出して覗く。大分に下まで続いていた。 ごくりと唾を飲み込み、冷や汗を流しながら、黄色い、Xが複数個くっついたような、不安定な足場を下りて行く。 その間、いつ脱走が発覚するかと思うと焦りが生じたが、上からは何も聞こえなかった。 足を滑らせそうになったり、危うく落下寸前まで行きながらも、一番下、床のある場所まで下りる。 後もう少しで十二姉妹と合流出来る。そう信じて、エレベーターのドアを開ける。 途端、臭気が鼻についた。余りに強いそれに咽る。 何度か咳をして、おっかなびっくりという足つきで前に進む。 ふと彼は、フェブラリーが自分の脱走に気付いているだろうかと心配になった。 右を見ると、トラックがバックで玄関に突っ込んでいた。 近寄って良く見てみると、玄関は完全に塞がれ、そこからの脱出は無理でないにしろ危険そうだ。 どうやって脱出するのか首を捻るニルソン。そんな彼に突然声が掛けられたので、彼はすんでのところで気絶するところだった。 「……何をしているんですか、ニルソン様」 Ж Ж Ж ニルソンの予想通り、フェブラリーは突入後すぐに生体反応のサーチを行っていた為、 一階の制圧直後にはもう、居場所を特定されていた。 更に、直接的な戦闘に参加出来ない彼女は、情報収集に全力を傾けていた。 場合によっては、彼女を狙った銃弾が降り注ぎ始めても動かなかったほどだ。 だからそんな彼女がニルソンの動きを見逃す筈がなく、 ニルソンが動き出してすぐに、エイプリル他六名は彼の行動を知るところとなった。 で、エレベーターシャフトを下っていると推測したフェブラリーの報告により、セプが救出に赴くことになった。 彼女である理由は、他の七人の内フェブは戦闘が行えないので不測の事態を考えると適当ではなかったし、 エイプリルは指揮官、メイのショットガンは近接戦闘において必要で、ジューンのナイフも同上、 最後に、三つ子を一人で何処かに向かわせるのは何とも心配だったからだ。 その点セプのM14は別段近接戦闘において然したる利点もなく、一時的に欠けたって何ら問題ないと思え、実際そうだった。 セプはニルソンを護衛しつつ、二階に上がる。銃弾の飛んで来ない場所にニルソンをしゃがませ、エイプリルに通信で報告した。 『後はボディだけですわね。ニルソン様に敵の装備など、何らかの情報を掴んでないか、お訊ねなさい。 その後、ジュライとお母様に連絡するように』 戦闘を行いながらも彼女は応答して来る。セプは了解と返し、ニルソンに訊いてみた。 彼はセプの意表を突いて、いつもの明朗さで答えた。 『パウザにファウスト? 先ほど情報がもたらされたとはいえ全く、嫌になりますわ。通常兵器だけでも十分面倒ですのに。 ああ、ジュライにも同じことを伝えておいて下さい。それから、セプにはニルソン様の護衛を頼みます。 何があっても離れないこと』 セプは普通なら疲れ切っているだろう立場にある男性の顔を見た。 多少の疲れは見えるが、まだまだ元気そうで、もう一立ち回りやってのけそうな表情だ。 十二姉妹切ってのしっかりした女であるとギルド兵に評判のセプは、絶対に離れまいと心に決めた。 その頃エイプリルたち実戦部隊はようやく、二階で一番大きい会議室兼食堂の部屋を制圧し終えたところだった。 彼女たちの足元に転がるのはルガーのパラベラム弾に撃ち抜かれた死体、強力な散弾で鼻から上をごっそり失った死体、 目にナイフの刺さった死体や必要以上に銃弾を受けた死体と、枚挙に遑がないくらいの量の死体だ。 彼らは数も多く、士気も高く、決して降服しようなどとする者は居なかった。 高威力な銃は無く、銃弾が特別多い訳でもない。酷い者では、装備が銃剣やナイフのみのこともあった。 それでも彼らはただの一歩すら退かず、いや、退こうと思ったところで退くところはなかったのだが、 全員が死ぬまで戦い続けた。銃を撃って、弾が無くなれば銃を使った格闘等に移行し、結局は全滅した。 故に彼らがそこまで意味ある死を得られたかと言えばそうではないのだが、エイプリルは少しの危惧を感じていた。 戦闘においてこの上なく一方的なのは、訓練されておらず、打たれ弱い相手との戦闘だ。 場合によっては誰も死ぬことがないどころか、最初の一発が撃たれる前に終わったりする。 次に一方的なのが、訓練されただけの相手だ。 確かにそれなりの戦闘にはなるし、ギルド兵が居たなら高確率で死傷者も出るが、勝てない相手ではない。 最も一方的ではない戦闘をする羽目になる敵が、訓練され、打たれ強い相手だ。 そこに『士気が高い』という言葉が加われば、余計に相手にしたくなくなる。 例え何百発の銃弾を撃っても場合によっては一人だって死なず、へこたれずに反撃してくる。 人数によっては、勝利したとしても被害は大きく、暫く部隊そのものが動けなくなることもあるのだ。 誰の目から見ても、敵は最後の『訓練され打たれ強い』に『士気が高い』を付加した、最悪のタイプだった。 これで十二姉妹のボディに対抗しうる大口径、高威力の銃火器を持てば、恐るべき脅威になる。 そして三階にはまず間違いなくその類の武装が配備されている。パウザやパンツァーファウストの名前が出たことでもそれは分かった。 「辛くなりますわね。この戦闘は」 ジュライと通信で、三階と二階を遮る改造された防火扉の破壊と、 その後に行う突入のタイミングを計ろうとしているメイの傍で、エイプリルは呟いた。 メイやジューン、オーガストの部隊のギルド兵を、多少無理してでも連れてくるべきだったかもしれないと、彼女は後悔する。 今回の任務は突発的なもので、発生するとは思われなかったタイプの任務なので、 エイプリルを含むあの時居なかった姉妹の部隊に所属するギルド兵は全員、別の任務先に残してきていた。 メイたちの部隊は揃っていたが、トラックに乗れるだけ乗せると中途半端な数になり、 ヘリでは機体数が余りに少な過ぎる上に別機体の用意が難しくて出来ず、 簡単に言ってしまえば足を用意する十分な時間がなかったこともあって置いて来ていた。 今から通信で応援を要請しても、やはり用意するのに時間を取られ、間に合わないだろう。事態は高速で、今も動いている。 大体、戦闘が開始されてから時間が経ち過ぎていた。 ギルドの関係上警察は侵入して来ないにしろ、流石にマスコミのことを考えると、 辺りの道路は封鎖され、トラックは検問を通らなければならないに違いない。その中を隠し通して行けるかとなると、怪しいものだ。 警官を買収してもそれがテレビに流れたりしたらまずい。 テレビ局も金で何とかなるとはいえ、生放送の可能性だって考えられないこともない。 ギルド内でのマダムの立場も考慮すると、必要ではないリスクを態々取るのは言語道断の選択であった。 エイプリルは僅かに、それが自分の判断ミスであり関係のないことだと分かっていたが、ギルド幹部の守銭奴根性に苛立ちを覚えた。 「エイプリル、五分後に突入だ。ニルソン様が確保出来て、オーガストも喜んでるだろうよ」 そう言って笑い、メイはショットガンを撫でる。既に防火扉にはテルミット弾が複数貼り付けられていた。 安全ピンさえ抜けば十秒もしない内にテルミット反応を起こして二千度を超える高熱を発し、防火扉を破壊し易くする。 そこに思い切り蹴りの数発でも叩き込むなり、ジュライたちならオーガストの手榴弾で吹き飛ばすなどの方法で、 十二姉妹は最後の砦へと侵入する。 さっきのエイプリルの懸念にも出ていた通り、そこで激戦にならぬ訳がない。 彼女たちは銃弾の残りを確認し、とんでもないことに気付いた。 ──誰の銃も、弾丸が残り少ない。 Ж Ж Ж 『突入は待っててくれ。アタシたちの銃の弾が、もう殆ど残ってないんだ。敵の銃を掻き集めるよ』 「了解しました。こちらも集めておきましょう。幾らあっても、足りるということはありませんから」 『ああ、悪いねジュライ。出来るだけ急ぐよ』 メイの通信はそこで切れた。 左肘から先がやたらすっきりとしている、さっきから苛々が収まらないジャニアリーに、メイの言葉を伝える。 彼女はジュライの考えた通り、苛々を爆発させた。 結果溢れ出てきたものに関して詳しく書くことは止めておく。 何分、彼女の暴言には健常且つ正常な相手には聞き苦しい言葉が多量に含まれており、 メイやその他の下層隊を侮辱する言葉はなかったものの、敵には遠慮と恥じらいのない嫌味と侮蔑を、 内容にさえ気を向けなければ感心するほどの豊富なボキャブラリーで表明し、 その壮絶さたるや、卑猥さはそこまででないにしろジュライの頬を赤らめさせ、マーチを危うく笑い殺すところであった上、 全て聞き終えた頃にはオーガストなど林檎かトマトと間違えかねない状態で床に転がっていた。 敢えて問題がないさわり程度にその内容に触れておくと、彼女の怒りに任せた乱暴な言葉は、 敵の指揮官と敵兵をありとあらゆることで扱き下ろし、彼らの貧弱な身体にちょこんとくっついている、 生物の存在に重要な位置を占めるある一部分を『引っこ抜いてやる』とまで言わせ、更には彼ら全員の三、四代前の両親における、 映画や小説よりも奇なる、平常な者ならば驚き、本来なら秘すべき事実、真実の暴露にまで及んだ。 それが止まったのは偏にジュライの賢明な行動のお陰である。 聡明な彼女は、例えば映らなくなったテレビや動かなくなった車とかを、どのように扱えば直せるか、良く承知していた。 だから、音の止まらないラジオを静かにする方法も、無論知悉していた。 という訳でジャニアリーは晴れて元通りのジャニアリーになり、オーガストは少々の冷却期間を置いて復帰し、 マーチは笑い死に掛けたがやはり復活して、上層隊はその戦力を取り戻したのである。 それから四人で敵の武器を集めた。拳銃、短機関銃、自動小銃に突撃銃、五十口径ライフル、二発の手榴弾、銃剣とナイフ数本、 ありったけの武装を敵の死体から奪い、入るものなら服の至るところに押し込み、 入らない大きさのものならば敵の服を裂いて作った間に合わせのスリングで肩に担いだ。 それが終わった頃に、下層隊の方から再度の通信があった。 『こちらの武器調達は終わりましたわ。そちらはどうですの?』 今度はメイではなく、エイプリルだった。ジュライは簡潔に話し、突入のタイミングを尋ねる。 リーダーは思索した後、三分後に突入する旨を告げる。 「三分後に突入です。ジャニアリー、マーチ、オーガスト、防火扉突破の用意を」 頷いてオーガストが爆弾を設置しに行く。目で追いながらジャニアリーを引き寄せ、耳打ちした。 「格闘戦を禁止します」 ジャニアリーの顔が青くなり、赤くなり、元に戻る。 反論しようとする彼女の口を閉じさせ、上層隊の隊長という権限を使い、強引に認めさせた。 とぼとぼと隅っこに歩いていくジャニアリーの肩を、マーチが叩いた。 見上げる彼女に、いつもの笑みを見せる。 ……いつもの笑いを。 それはマーチの出来る慰めの一種なのかもしれなかったが、今のジャニアリーにそこまで考える余裕は無く、 彼女の理解のベクトルは明後日の方向に向いていた。 Ж Ж Ж その臭いに気付いたのは誰が最初だったかと言えば、候補を四、五人は挙げられるだろう。 けれどもそれから五分としない内に、何故その臭いが発生したのかと、 臭いの導く結果を三階の全員が知ることとなったので、誰が最初であったかなどどうでも良くなった。 唯一つどうでも良くないことを言うとすれば、臭いに気付き、その原因に思いを至らせた時、 すぐさま銃を撃ち始めれば、十二姉妹に甚大な被害を与えられたかもしれなかったという点だ。 多分三階に居た兵士全員に共通の思いだろう。突破された防火扉の隣で血を吐いてくたばっている男を含めて。 “どうしてよりによって今、対応が遅れたのか?” 兵全員が、強い憤りを感じていた。皆が皆、悪態を吐きながら戦っていた。 そんな中で一人だけ、そこまで動じていないと言った表情の男が居た。 何となく予想はつくだろう。このビルに居た反ギルド組織の一部隊を指揮する男だ。 彼は相変わらずコーヒーを飲んでいた。ただ、飲んでいる場所は階段と階段の間の廊下にある、 厚い鋼板を張り付けたラックを並べたバリケードの間であり、 そこは大量の銃弾が傍を通り抜ける戦場で、頻りに指示を出しながらだったが。 「ボディはちゃんと隠したか? あれをつけてあるんだろうな?」 男は近くの兵士にそう尋ねた。彼は銃を撃ちながら首を振って、はいと答えた。 横に居た兵が、口の端を引きつらせながら声を出す。 「パウルスの気分が分かりますか? 第六軍の」 指揮官はこう嘯いた。 「いいや、一〇一のマコーリフの気分が分かったよ」 そして彼の肩を力強く叩き、何を考えているのか分からない目で言った。 「もう少し耐えろ。もう少しだ。じきに天使がやって来る。 そして俺たちはボディを持ち帰り、解析して役立てるって筋書きさ」 何処まで本気で言っているのか推測しようとしている兵を脇目に、 ぐいっとコーヒーを飲み干し、容器を床に置いて傍らのパウザを引っ掴み、 弾丸の間隙を掻い潜って肉薄せんとするジュライに向かって五発の全弾丸を発砲する。当たらなかったが、牽制にはなった。 空になった巨大な弾倉を外し、新たな弾倉を背にしたラックに何度か叩きつけ、リロード。 身を捻り今度はエイプリルたちの側にセミオートで発射する。 彼女たちは階段踊場とその隣の喫煙室、更にその隣のニルソンが捕らえられていた部屋を主な陣地として、 止むことの無い雨を降らせていた。勿論、雨粒は金属製で、当たれば死亡は免れにくい。 一方ジュライ側は陣地を構成する材料が少なかった為、格闘戦専門のジュライは後ろに退いており、 主にマーチとジャニアリーが攻撃し、二人が再装填する間、オーガストが手榴弾で攻撃を加えていた。 「おい、そこの弾薬箱取ってくれ。手が届かん」 指揮官は引き寄せて貰った弾薬箱から四つ取ると、それを服のポケットに詰める。 ラックから顔を覗かせると、途端火花が目の前で散った。慌てて戻し、パウザだけを出して数射する。 弾倉を外す。新たなそれを入れる。ボルトを引く。 撃とうとした彼は、直感的にその動作を止めた。自分の未来位置を通過する弾丸。 胸を撫で下ろし撃つ。撃つ。パウザを撃ち終えた後は、先に撃たれて倒れた仲間の短機関銃を撃つ。 それも撃ち終えた後、やっと彼はリロードという行為を思い出した。 自分の莫迦さ加減に舌打ちして、弾倉を替える。 ふと、仲間が銃を突き出して狙いをじっくりとつけているのが目に留まった。 「危ないぞ」 肩を掴み、無理矢理ラックのこちら側に引き寄せる。顔が眼前に迫り、指揮官は少し眉を上げた。 ボディを隠したかどうか尋ねた時は確かに生きていた男の顔は、クレーターのように陥没していた。 穴からはピンクのどろどろになった脳髄と、無色透明な脳漿が溢れ出している。臭気も酷い。 鼻骨の残骸や押し上げられた歯が見え隠れして、指揮官はその死体を脇へと放る。 肉塊は実に気色の悪い水音を立てて、地面に落ちた。硬直した手が持っていたカンプピストルが床に当たり、音を立てる。 男はそれを見て、ナイフを使って指を切断し、引き剥がした。 Ж Ж Ж 歯軋りをして、ジャニアリーは顔を引っ込めた。鉛弾が壁を抉る。もう少しで貫通しそうだ。 「切りがありませんわね!」 マーチが入れ替わりに体を覗かせ、銃撃を開始する。 その間に手早く新しい弾倉を入れて、残りの弾薬を確認。 「交代して」 返事を聞かない内にマーチが体を隠した。オーガストが、ジャニアリーの攻撃までに掛かる一瞬の時間を稼ぐ為に、 手榴弾を投げつける。その上に死体が被せられた。爆発して、死体が伏せたまま飛び上がる。誰も殺傷出来ていないようだ。 P90を突き出し、狙いを一瞬でつける。撃とうとした時、敵の声が聞こえた。 「全員目を閉じろッ!」 ジャニアリーが意味を理解して自分もそうしようとした瞬間、何かが炸裂して視界が真っ白になる。 フィルターでの防護も利かないほどの光源はすぐになくなった。が、その『すぐ』は戦闘において撃たれるに十分な時間だ。 運のいいことに物陰に居たお陰で光源を見ずに済んだジュライの目には、ジャニアリーが後ろに跳んだように見えた。 受身も取らずに地面へと倒れ、逆流したオイルを口から吐き出しながら右手で命中箇所を押さえる。 ジュライがマーチの方に目をやると、猛烈な射撃で相手を動けなくしてくれたので、 その間に彼女はジャニアリーの体を安全な場所まで持って行った。 命中した腹部周辺の服がごっそりと消え失せ、体内の機械部分も同じように雲散霧消している。 「何で私ばかり……!」 損傷は酷いが、意識ははっきりしていた。けれど早く適切な処置を取らなければならないことは変わらない。 ジャニアリーは足が動かなくなったようだった。下半身の制御部分をやられたのだ。 『ジュライ、またWIAが出ましたの?』 エイプリルが緊迫感を伴う声で尋ねる。 「いえ、ジャニアリーです。状態は腹部を損傷、下半身の制御部分を喪失。自力歩行不可」 『了解。彼女は安全な場所に移動させておきなさい。次撃たれたら、死にかねませんわ』 オーガストに引っ張らせて、階段の傾斜を利用して寝かせた。 唯一攻撃出来るマーチを援護する為、彼女が戻ろうとすると、瀕死の姉が足首を掴む。 足を止めて、振り返るオーガスト。 それからジャニアリーはオイルでべとついた右手を衣服で拭い、妹の手にP90を押し付けた。 力を失い、くたりとする。気を失ったのでも、死んだのでもなく、疲労が極限に達したらしい。 マーチに渡そうとすると、ジュライに渡すように言われる。彼女はそれを受け取り、射撃を始めた。 こんな状況になる以前は銃に手をつけなかった彼女も、今は嫌と言っていられないようだ。 が、敵は一向に斃れない。銃弾の欠乏も見込めなかった。次第に、焦りが姿を見せて来る。 疲労と焦り、味方の負傷に対する怒りや戦い続けることに対する恐怖が凝り固まって離れなくなった者は、 いとも簡単に判断能力に異常をきたす。十二姉妹であってもだ。 この場合マーチがその典型的な例で、彼女はジュライの制止も聞かず飛び出た。 その足が止まる。この階層の右、つまりジュライたちから見ると左側にある部屋に繋がるドアの前で停止する。 汗が顎から落ちる。マーチは左──その部屋の方向──を向いた。 目を、赤外線の探知に使う状態に切り替える。線が一条、ドアの弾痕から伸びていた。 ここまでが僅かコンマ数秒だった。次のコンマ数秒で、マーチの右太腿が体から切り離された。 エイプリルたちの方に左足だけで跳躍するマーチ。 敵の目前を飛んで行き、不本意な形で下層隊と合流を果たす。ジューンが身の危険も顧みず姿を曝し、襟を掴んで物陰に引き入れた。 その場に居たジャニアリーを除く十二姉妹全員が、銃声の音紋をデータベースに照らし合わせる。 検索の結果、発射源はブローニングM2重機関銃だと分かった。 Ж Ж Ж 『こちらはもう二名しか居ません。四階からそちら側に下ります。許可を!』 ジュライの切迫した声にエイプリルは許可を出さざるを得なかった。 後ろではニルソンが、マーチの状態を調べている。 セプはそれを気にしながらも、相変わらずラックを盾に攻撃を続ける十数名の敵兵を撃っていた。 「奴らが四階に上がったぞ、充填室側の奴らが四階に逃げた!」 撃たれている彼らの一人がそう叫ぶ。笑い声と歓声が上がった。指揮官の名前らしき言葉を叫ぶ者も居た。 「ちっくしょう、調子に乗りやがって!」 メイが喫煙室からショットガンを撃った。シェルが排出される。次を撃とうとするが撃てない。弾切れだ。 ポケットの中を探したが、見つからなかった。喫煙室に置いてある椅子の上に投げると、掻き集めておいた銃の一つを取る。 「それは駄目」 一緒に喫煙室に隠れているフェブがそう言ったので、メイは別の銃を取った。 と、更に強くフェブが注意する。 「それは駄目!」 どれがいいのか分からなかったので、彼女に選んで貰った、イングラムを撃つ。 フェブは銃を持っていたが自分から撃とうとはしていない。 メイも、純粋な戦闘に最適化されていないフェブを参加させる気は余りなかった。 が、情報戦担当のフェブは生体データがなければ誰かを探すことも出来ず、無力感を感じているしかなかった。 それが募り、手が震える。メイが銃を撃ち終わり、引っ込んだ。それと交代で弾幕だけでも張ろうとする。 しかしメイが引っ込んだのは、敵が顔を出して危険極まりない大口径弾を発射し始めたからであり、 相手が撃ち終える前に体を見せるのは自殺行為に等しかったというか、イコールだった。 「馬鹿野郎ッ!」 メイはフェブの体を足で蹴飛ばす。銃弾が通り抜けて、部屋の壁にまた新しい弾痕を作った。 撃たれないように物陰に居つつ、指差して怒鳴りつける。 「あんたは良くやってるよ、フェブ、良くやってるんだ! だから慣れないことはするな!」 敵が撃ち終わった。手を突き出してイングラムを発砲する。別の敵が銃を出した。イングラムを引き戻そうとする。 すると手から吹き飛んだ。銃弾が当たったのだ。ちらっと見ただけで、もう撃てそうにないことは分かった。 暴発の危険性があるそれを喫煙室にある窓から投げ捨てて、銃を探す。 「フェブ、アタシの持って来た銃の中にグリースガンがあったんだが見つからないんだ、探してくれ」 二人で探すと流石に早い。呆気なく見つかった。 フェブからイングラムを受け取った際にポケットに入れた弾倉を、先に嵌っていた弾倉の代わりに嵌める。 「いいんですの?」 銃器に関してそこまでの知識を持たないフェブが尋ねた。メイは撃ちながら答える。 「四十五口径のイングラムの弾倉はグリースガンと互換性があるんだ。九ミリのタイプじゃなくて良かった」 『メイとフェブ、壁に寄って!』 オーガストの幼い声が響く。反射的な行動で、壁に身をぴったりとつけた。 窓が割れてジュライが飛び込んでくる。メイが銃を持った右手で、引き寄せた。 続いてジャニアリーが窓の外から、急造スリングに吊られて下りて来る。フェブがそれを中に入れた。 最後に下りてきたオーガストも保護された。 「驚いたな、どうやったんだい?」 撃ちながらそう訊くと、ジュライは敵の動向を窺いながら答える。 「延長コードがありましたから、それを」 窓の外、風に揺れるコードを指し示すジュライ。メイは考え込み、指を鳴らした。 「それだッ!」 Ж Ж Ж 「上手く行くの?」 「分からない。祈るしかない」 オーガストとジューンが通信で会話している。 今、セプは四階からコードを使って、あの重機関銃が設置された侵入を試みていた。 最初はメイとジュライが行きたいと言ったが、移動する時に敵に知られれば危険を察知され失敗する可能性もあった為、 エイプリルはそれを頑として拒否した。 『コードを発見、束ねれば使えるわね。粉末包装室に移動するわ』 静かになる三階廊下。片足を失っても態度は変わらないマーチが、エイプリルに進言した。 「銃撃戦の音でセプが近づく音を掻き消した方がいい。彼らは気が張り詰めている。 何で気付くか、分からない」 即座にメイが反論する。 「敵のものを集めたとはいえ、銃弾は十分な量じゃない。 セプが必ず成功する訳でもないし、そういうことを考えれば、今は発砲を控えて待つべきだ」 反論を無視して、エイプリルの決断を急かすマーチ。 彼女は普段通りに、迷わなかった。マーチの案を採択すると告げる。 その声を聞いた発案者はすぐさま片足で壁に縋って立ち、MINIMIは反動の問題から撃てないので、 セプが四階に行く時に置いて行った敵の突撃銃を撃ち始めた。 バナナ型マガジンに入った三十発分の銃撃が終わると、それ以上の反撃が押し寄せる。 『粉末包装室前。これから下に行くわ。銃撃戦が始まったみたいだけど、そっちは大丈夫?』 「問題ないですわ。くれぐれも気をつけて、手早く片付けなさい」 短く了承の意を示して、通信は終わった。 銃撃の応酬を続けるだけの自分たちを見て、エイプリルは溜め息を吐く。 だがいつまでもそんなことは考えていられなかった。身を乗り出して、ルガーを撃つ。 再び通信が入った。 『さっきから大型ヘリのローター音らしき音が聞こえるんだけど、誰かもう救援を呼んだ?』 「ローター音? ……いいえ、呼んでませんわ」 『じゃ、何?』 メイが口を挟んだ。 「敵だろ?」 そうだ、それしかない。敵の増援だ。大型ヘリに積んで来たのだ。 けれどどうやって? 報道ヘリに偽装したのか? 大型ヘリを? よしんば出来たとしても警察とマスコミの目を掻い潜ることは難しい。 それとも彼らは有り余る金があり、それは両方に見て見ぬ振りをさせることが出来るほどなのだろうか。 考え込んで、その考えにどれほどの意味があるのかと気付く。 今必要なのはこの場に適当な指示で、役立たずの思考ではないのだ。 「セプ、そのヘリは確かに大型?」 情報の確認の為、尋ねておく。彼女の返答は、肯定だった。 屋上に着陸するのは難しいだろうから、地上から攻めて来ると判断する。 ロープ降下の可能性もあったが、夜に暗視装置をつけてヘリを操縦するのは困難極まりない。 人間で言う辺縁視が制限され、遠近感などに支障があるからだ。 微妙な機動が円滑な降下に影響するロープ降下を行える訳がない。 下から来ると決まったならば、今度はどちらから来るかだ。 これは十中八九、玄関に近い方、つまり自分たちの開けた突入口から来ると、エイプリルは予測した。 何故ならそうすることで守備隊との挟み撃ちに出来るからだ。 態々遠い方を通って、防火扉を破壊してまでもう片方のルートを取るとは考えられなかった。 『M2重機関銃のクルーを視認。一、二、三、四名。全員、ここから射線を取れるわ。突入していいかしら?』 「許可します。終わったら連絡を貰えますわね? 急いでボディを捜索、発見後は屋上に運ばねばなりませんから」 『突入タイミング、三、二、一、突入するわ!』 良く耳を澄ませていれば、ラックに隠れていた指揮官も、他の敵も気付いたに違いない。 まあ、銃撃戦最中にそんなことをする余裕はないのが当然で、結果として十秒後には四体の新鮮な死体が出来上がっていた。 『無力化、M2を無力化。銃自体は無事よ。私はこの部屋を調べた後、四階経由でそちらに戻るわ』 「了解。気をつけなさい」 全員が銃を撃ちながらでも、盛大に溜め息を吐いた。山場の一つは乗り切ったようだ。 しかし次のそれが迫っているのは全員が理解している。ジューンなどは、下をちらちらと見ている。 廊下を突っ切ってでも、上階に上がる必要があった。オーガストの爆弾という手段も考えたが、もう持っていないらしい。 幾ら考えても、思いつかなかった。だからといって強行突破するのは愚の骨頂だ。 『エイプリル!』 投げ遣りな態度で、通信に応答する。 『ボディを発見したの、十二体揃ってる。隣の部屋にあったのよ。ラックの向かい側にある部屋に』 「ラックのある位置を転送しますわ。撃ち抜いて下さい」 『了解……あれ、ラックの間にドアがあるけど、見取り図にないわよ?』 「早くそのドアを撃ち抜いて!」 お粗末なもので、そう叫んでしまったのが悪かった。声を出してしまったのが。 ラックに隠れていた兵の内の、感付いた一人がドアを開けた。 目の前に見えたのはセプのまごついた表情で、次に見たのはM14の発砲炎だろう。 悲鳴が上がり、逃げ出そうとする兵がラックの陰から飛び出る。強固な砦を崩された彼らは、呆気なく崩壊した。 六発目で、銃弾が発射されなくなる。弾切れだ。セプは舌打ちをして、格闘戦に移った。 好機とばかりにパウザで撃ち抜こうとする男を銃床で殴りつけた。 その距離になってしまえば、撃つより殴る方が早いので、敵も格闘で倒そうとしてくる。 ナイフが抜かれ、一人目が掛かってきた。両手でナイフを掴む手を取り、膝蹴りを腹に叩き込む。 何の捻りもない右の前蹴り。左手で払い、がら空きの股間にまた膝が入る。 逆手に持ったナイフでの、大振りな一撃。スリングにM14を任せ、右手で敵の肘の上を叩く。 その勢いでぐるっと敵を一回転させ、右手を離し、両手で首を折った。 四人目の相手をしようとする。大柄な屈強そうな男だった。彼は少しもセプに触れることなく死んだ。 理由は、後ろから近づいて来ていたエイプリルに、拳銃で撃ち殺されたからだ。 Ж Ж Ж メイは急いで階段を駆け上がる。左肩にはジャニアリーを乗せ、右肩にはボディを持っている。 後ろには、ライフルを松葉杖代わりにして自力で上がるマーチや、その他の姉妹たちが連なっている。 だがジューンとジュライは別だ。三階廊下に待機して、足止めするように命じられている。 エイプリルは本当は自分が残りたかったと階段で漏らしたが、最高指揮官が自ら足止めをする利点はない。 彼女は断腸の思いで上の二人に託すと、残った十人にボディを持っての移動を命令したのだった。 勿論ジャニアリーとマーチは運ばれる側だったが、マーチは自分で立って歩くと言って聞かなかった。 「二往復で済みますわね。お母様に連絡しておきましょう」 独り言でそう言って、屋敷のマダムに通信回線を開く。 マダムは休みもせずにずっと待機していたようで、間髪入れず質問が飛んできた。 『進行状況は?』 「ニルソン様とボディを奪還、現在屋上へボディを運搬中。ヘリをこちらに向かわせて下さい」 『今すぐに向かわせるわ。もう暫く辛抱なさい』 はい、と答えを返す。 五階階段を上り切ると、屋上のドアがあった。蹴破って進む。風が強く吹いて、エイプリルは自由な片手で目を覆った。 オーガストに聞いて、ヘリを着陸させた場所の周辺にボディを集めて置き、マーチには歩哨代わりになって貰う。 銃声が下で始まった。ジューンとジュライの戦闘も始まったことだろう。 階段を、飛び降りるという形容が当て嵌まりそうな勢いで下りていく。 三階廊下に到達すると、既に白兵戦となっていた。 ナイフで突撃銃のストックを受け流し、喉首を掻き切るジューン。 敵の防御、攻撃を無視した、鋭い一撃を加えるジュライ。 僅かばかりに目を惹かれたが、エイプリルは自分の任務に戻る。 ボディを両肩に担いだ。三つ子とオーガストは四人で一つだ。だから、誰かが二つ担がなければならなかった。 フェブ、メイ、セプが残る三つを担ぎ、屋上へと戻る。 『こちら救援ヘリ、そろそろローター音が聞こえないか?』 通信。耳を研ぎ澄ますと、聞こえないこともないような気がした。 が、それは次第に明瞭な音として認識され出す。 屋上に着いた丁度その時、自分の反対側から来るヘリが見えた。 安心感を感じないように振り払い、着陸したヘリに手早くボディを積載する。 一機で四人分乗せられるヘリが四機。三機に乗せた時点でスペアボディはなくなる。 残りの一機は、となって、目が向いたのがジャニアリーとマーチ、それにニルソン。 視線を感じてマーチが嫌そうな顔をする。その体を抱え上げようとすると、身を捻って抵抗した。 それでも何とかボディのように肩に担ぎ、ヘリに乗せる。ジャニアリーはセプが乗せた。 ニルソンは自分から乗り込み、気をつけるんだよ、とだけ言った。 その先も何か言ったような気がしたが、生憎ヘリが飛び立ったので分からなかったのだ。 「さて、この先どうする気なんだ? エイプリル」 にや、と笑って、メイは彼女にそう訊いた。 リーダーは笑みを返し、簡単極まりない答えを寄越す。 「下に。ジューンとジュライを撤退させますわ」 Ж Ж Ж 「ジューン、ジュライ、伏せなさい!」 彼女らが行動すると信じて、エイプリルたちは躊躇なく発砲する。 果たして、二人はやって見せた。周りの敵が撃たれ、力なく倒れる。 ジュライがその死体を、階段に溜まった残りの敵に蹴り落とす。 まごついた極々小さな時間が、脱出の時だ。 脱兎の如く駆け出し、エイプリルたちと屋上へ走る。 敵も負けてはいない。彼らも全力疾走で追いに掛かる。 後ろに銃を撃つこともせず、屋上へ、屋上へと向かうジューンの肩を、足の速い敵の一人が掴んだ。 振り返って右手でその手を掴み、脇の下を潜るような足捌きで、相手を転倒させる。 喉を蹴り一時的に無力化して、仲間の後を追った。 屋上に飛び出て、十人は通信もせず、ばらばらに適当な場所に隠れた。 三十秒ほどした頃に、敵も追いつく。発砲が始まった。障害物に隠れても居ない敵はばたばたと死んでいく。 生存本能や運で障害を探して隠れた敵の反撃もあるが、微々たる物だ。 弾切れさえ起こらなかったら、何の心配もなかった。そう言うからには、起こったのだが。 セプは銃をスリングだけで保持し、傍に居たジューンからナイフを一本貰う。 右手にナイフを持ち、腰には銃剣。左手は徒手だ。 気付いた敵が猛攻を仕掛けてくるが、恐れるものはない。理由は、彼らは五十口径の銃ですらないからだ。 彼らはただの小火器を使用していた。十二姉妹にそれは効果が薄い。 フェブとオーガスト、それに三つ子を除く五名は、敵陣の真っ只中に突撃した。 メイは胸を殴って来た男の髪を掴み、左膝で彼の右膝の裏を押すと同時に引き倒した。 踵で股間を踏み躙り、一丁上がりだ。 それを見た三人の敵は、連携して攻撃してきた。 前から一列で近づき、真ん中の奴がまず横薙ぎに蹴る。すっと身を引いてかわし、手で勢いをつけた。 右端の敵に当たり、バランスを崩して二人とも倒れる。 下から右足で蹴り上げて来る左端。掠らせて避け、足を掴み、押しながら自分の左足で彼の足を強打する。 立ち上がろうとする最初の二人の股間を蹴って回り、次の相手だ。 左腕が掴まれた。見ると、大の男五人もが掴んでいる。 メイは鼻で笑うと左手首を右手で掴み、肘を中心点に四十度ほど腕を上げ、押し込むようにした。 倒れた五人に止めを刺すのは、数秒も掛からない。が、止めを刺したメイは妙なことに気付いた。 左肩から垂れ下がった腕がぷらぷらと動いている。外れたのだ。彼女は頭を振って、接続部を離した。 棍棒代わりにぶん殴り、敵を倒して行く。 何処か動きに優雅なものが交えられるエイプリルは、 そのコミカルな戦い方に笑いに似たようなものが込み上げた。 『状況は?』 マダムからの通信。彼女は外部の音声を通信で流し、その上で回答する。 「聞いての通りです、お母様」 『安心なさい。もうヘリは向かっている筈よ』 『至当なことですとも!』 割り込みで入ってきた通信。ヘリの操縦手だ。 陽気な彼は大笑いしながら言った。 『ところでそこから今すぐに離れられますか?』 「え? ええ、出来ますわ」 『じゃ、して下さい!』 音声に機械音が混じる。エイプリルの予想と記憶が正しければ、ヘリ搭載のミニガン、通称『無痛ガン』が動き出した音だった。 近くのメイの首を掴み、投げ飛ばすように避難させる。ジュライはそれを見て悟り、言わずとも身を引いた。 ジューンは敵に囲まれて動けなくなっている。このままでは心中だ。咄嗟に拳銃を引き抜き、撃ちまくって道を作った。 手を引いて抜出そうとするけれども、敵も馬鹿ではなく、ジューンの腰から手を離さない。 体を捻ってその手を撃ち抜き、逃げ出した。 「撃ちなさい!」 『OKエイプリル! ……様』 黄色い閃光が見えたかと思うと、槍すら思い起こさせる軌跡を描き、弾丸が到達する。 ローター音もよく聞こえた。正に天使の羽音だと、エイプリルは思った。 着陸したヘリに、重症のもの(左肩を外したメイ)や戦闘が出来ない優先的に離脱させるべき者を先に乗せ、 エイプリルは一番最後に乗った。 ヘリはビルから離れていく。嫌になる戦闘も、これまでなのだ。 戦い抜いたリーダーは、休息を取ろうと目を閉じ、結局屋敷に帰り着くまで開かなかった。 Ж Ж Ж 通常ならばここで『オチ』に相当する文章が並ぶのだろうが、そんなものはない。 これは十二姉妹がニルソンとボディ奪還の為、奮闘したことを記述しただけのものだ。 そこにオチはない。気の利いた台詞も、シチュエーションも、一切ない。 屋敷に帰り着いた後は、冒頭のメイが書いた日誌に十分に書いてある。 つまりこれ以上語ることはないのだ。彼女らが完膚なきまでに勝って、彼らは負けた。それだけだ。 ただ、二つ追記しておくべきことがあるとすれば、それはこうだ。 一つは、十二姉妹はその戦いに見合った休暇を得たこと。 もう一つは、この戦いは、マダム・マルチアーノが十二姉妹に持つ誇りの一つになったことである。 だからこの話はお終いだ。ここで、この奮闘劇は終わりを告げるのだ。
https://w.atwiki.jp/coyote/pages/47.html
12姉妹のとある戦闘記録 1 2? 3? 4? 5? 6? 7? 8? 9?