約 5,735 件
https://w.atwiki.jp/pokemon-dreamworld/pages/16.html
72 :1/12 ◆8z/U87HgHc:2007/11/28(水) 16 04 07 ID ??? 何十分経ったか、すこしおなかが鳴り始める時間、 夢の世界を渡り歩いているとフライゴンが前方に何かを発見したようだ。 「あっ! あれ……村ですかね?」 「そう……みたいだね」 風景の奥に、家屋の集まりが見える。 『夢の中とはいえ』誰か他の人が住んでいるようだ。 ……人?人が住んでいるのかな。それとも、まさかポケモンが…… 「ねぇ、行ってみますかー?」 ぼくが考え込んでると、好奇心を多分に含ませた口調でフライゴンがそう言ってくる。 ぼくも空いてきたおなかをさすりながら、明るく返事を返した。 「行ってみよっか! 実はね……ぼく、さっきからおなかすいてて。 村の人に何か食べさせてもらおうよ!」 「そうですねっ、実はボクも……あれ?」 ふとフライゴンは大きく首をかしげる。 かしげたと思ったら、続けてこんなことを言ってきた。 「『夢の中』なのに……おなかって空くんですか?」 「は?」 数秒――ぼくとフライゴンの間で時間が固まったような気がした。 予期せぬ時間凍結を、それを引き起こしたフライゴンが慌てて溶かす。 「あ、あの、空きますよね。おなか。ボ、ボクだって夢の中で空いたことありますし。 は、ははーっ! ごーめんなさいねー、変なこと言っちゃいましてーーはははーー……」 「そ、そうだよねっ! なに時間止まってるんだよぼくらって感じ! ははーーっ!」 本日何度目か分からない中身の無い笑い合いを続けながら、 ぼく達は目の前の『村』へと向かった。 第一話 「壁」 74 :2/12 ◆8z/U87HgHc:2007/11/28(水) 16 05 35 ID ??? その村が人の村かポケモンの村か…… それは、その村へ足を踏み入れた瞬間に判明した。 「フライゴン……」 「はい。やっぱりここは『ポケモンの村』……それもここは、タネボーやハスボーの村みたいですね」 多数のタネボーやハスボー……コノハナやハスブレロが、村に入ってきたぼく達を見てざわめいている。 ざわめきの隙間から聞こえる『言葉』。このタネボー達も例外はなくみな言葉をしゃべれるようだった。 だけどぼく達はこれは夢だからと、周りのタネボーの事は気にせず村を歩く。 ……しかしまー、こうもヒソヒソヒソヒソうっとうしくざわめかれると、 まるでぼく達がいけない事でもしているみたいじゃあないか。 ぼく達がそんな珍しいか? いや、ここは『ポケモンの世界』……もしかして珍しいのは『ぼく』…… それにしても、この村。 そこらにある家は、ぼくらの世界のものとほぼ変わりない。 扉はあるしノブもある。窓だってあるしたまに二階建てらしき家があったりもする。 木製の展望台なんかもあるし、たまに何かの看板が立っていたりもする。(しかもキチンと読める字だ。『花踏まないで』と書いてある) これが夢だといったらそれでお仕舞いだけど……いや、それどころかますます 『これが夢』だという事の信憑性が深まってきたような気すらする。 そんな事を考えながら何処か気まずい雰囲気の村観光を続けていると…… 突然……いや、やっとと言うべきか、一匹のコノハナがぼくに話しかけてきた。 「あの……もしや、もし、もしや、ですけど、あなた……人間、ですか?」 75 :3/12 ◆8z/U87HgHc:2007/11/28(水) 16 08 46 ID ??? バイザーのような文様の中の目をパチクリさせながら、ぼくにそう言うコノハナ。 その目つきは、まるで色違いポケモンを見つけたトレーナーのような驚愕と猜疑心に満ちた目つきだ。 「うん、そうだよ。ぼく人間だけど……それがどうかしたの?」 ぼくがそう答えると、コノハナの目が更に大きくかっ開かれた。 いや、目をかっ開いたのは眼前のコノハナだけじゃない。周辺にいたポケモン全員が、驚きに目を見開いた。 ざわめきが二倍に増え、さらには「えっ!?」と大声を上げるヤツも出だす。 ……なんだ、なんだよ。随分と大袈裟なリアクションとるなあ。 「……どうかしたの? ええと、んー……ぼくがそんな珍しいかなあ?」 自分を指差しながらそう言ってみた。後から苦笑いも付け加えてみる。 「めめめめ、珍しいどころの騒ぎじゃありませんよっ!!」 「いっ!?」 コノハナが思い切りこちらにつっかかってきて大声を上げだすので、思わずビックリして身を引いてしまう。 と、コノハナはどうやら興奮して無意識に叫んだみたいで、コホンと一度咳払いをすると、 今度はそれなりに冷静な風な口調で(それでも結構ムリしてるような感じだけど)こう言った。 「あの……こちらへ。『村長』の元へ案内します。……ついてきてください、『人間様』」 コノハナはそう言うと、少し緊張した風な堅い動きで歩き出した。 「……人間『サマ』?」 コノハナの発言の節に少し引っかかりながら、ぼく達はコノハナについていき『村長』の家へと向かった。 コノハナに連れられて村長の家へ入ると、 家の奥にボサボサの白い髭を生やしたハスブレロが……たぶん『村長』さんが椅子に座り眠っているのがまず目に入った。 コノハナは眠っているハスブレロ村長に駆け寄り、起こそうとゆさゆさと揺さぶり始める。 「村長っ! 起きてくださいよ。人間が……人間様がっ!」 コノハナがそう叫ぶとハスブレロはやっとそのしわくちゃの瞼を開き、身を起こした。 半開きの目がぼくに向けられた瞬間、彼の目が豆鉄砲でも撃たれたかのように大きく開いた。 ハスブレロ村長は椅子から苦しそうに立ち上がると、ぺたぺたとこちらに走り寄ってきた。 77 :4/12 ◆8z/U87HgHc:2007/11/28(水) 16 12 41 ID ??? 「これはこれは! これはこれはこれは……これはこれは!!」 ハスブレロ村長さんは怖いくらいに目を見開いてぼくをじいっと見つめだす。 そして見た目に似合わず大きく陽気に笑い出すと、気さくな口調でこう言った。 「ひょっひょ! ようこそいらっしゃいました『人間様』! ささっ、さささっ、椅子へお座りください」 老体を思わせない機敏さで二つ椅子を持ってきて、ぼくたちに座るよう促すハスブレロ村長。 戸惑った顔でフライゴンと目を見合わせながら、ぼく達は椅子に腰をかけた。 「ほれ、そこのコノハナ。わしの椅子も持ってこんかい」 「あ、はい」 コノハナが先程までハスブレロ村長の座っていた椅子を持ってくる。 村長は深く息を吐きながらその椅子に座ると、身を乗り出してぼくにこう聞いてきた。 「ようこそ人間様! 数十年に一度の偶然が、まさかわしが生きてるうちにまた起こってくれるとはの……ひょひょ。 さて、人間様。どこからここへいらしたのかな? 目的は?」 「えっ? えぇ~~っと……」 さっそく返答に困るぼく。フライゴンに目配せすると、フライゴンも困ったような目つきで見つめ返してきた。 ……どこから何のためにって言われても、ねえ。 「……あ、分からないのならいいのですじゃ。すまなかったの。ひょひょ」 ぼくが返答に困っている事を察したハスブレロ村長は咄嗟にそうフォローを入れた。 と、いきなり聞く事がなくなったのか村長はまた無言でぼくをじいっと見つめ出す。 「あのう……村長さん」 「はっ、なんですじゃ?」 ぼくは先程からずっと胸の奥でモヤモヤしてる『疑問』を、投げかけてみた。 「何で人間『サマ』って言うんですか? 『サマ』って……何ていうかですけど、人間って偉いんですか?」 「ひょっ」 ぼくの問いかけにハスブレロ村長は一瞬固まり、少し間をおいてこう言った。 「もちろんですじゃ。人間様はいわば……わしら『モンスター』にとっては『神』なのじゃから」 「『神』!?」 78 :5/12 ◆8z/U87HgHc:2007/11/28(水) 16 15 44 ID ??? 「言い伝えにはこうある。何百年前だったか遥か昔……人間の集団がこの世界に現れた。 そして人間達はわしらモンスターに言葉を伝え……技術を伝え……文化を伝えたと。 つまり今のわしらがあるのは、ほぼ人間様のお陰と言っていいのじゃ」 「へぇ~~~……」 ハスブレロ村長の語りに、思わず感心したように頷いてしまう。 これが『夢だ』ってことも少し忘れかけてきちゃったり…… 「人間様には返しても返しきれぬ大恩がある。人間様は『絶対歓迎』なのじゃ。 以前も、わしがまだ若い頃に一度だけ人間様がこの村にいらした事がある…… その時は、それはもう盛大に歓迎したものじゃ……」 上を向いて物憂げに目を瞑りながら、たぶん若き日の思い出を辿り出すハスブレロ村長。 前来た時も盛大に歓迎したって事は、ぼく達もこれから歓迎、されるのか……? 隙間侘しいおなかをさすりながらそう考えると、少しだけぼくの胸が期待に躍る。 「ねぇ、フライゴン。ぼく達これから歓迎されるみたいだよ」 隣のフライゴンに視線を移す。 と、フライゴンは何かを考えるように、小さい手を顎に添えながら下を向いている。 「どしたの? フライゴン」 そう言ってフライゴンの顔を覗き込もうとすると、フライゴンはすぐに顔を上げこちらを向いた。 「いや……何となくですね。辻妻が合うというか、何というか……でして」 「えっ?」 フライゴンは何か意味ありげなことを言い出した。 「ずっと前からボク、不思議に思ってたことがあったんですよ」 79 :6/12 ◆8z/U87HgHc:2007/11/28(水) 16 18 32 ID ??? 「ボク達ポケモンって……あの、本当にみんな『人間が大好きなんです』。 物心ついたときから……たぶん生まれた時から、どのポケモンもみんな人間が好きで。 ボクがまだナックラーで野生だった頃、ボクの友達はみんな人間が大好きでした。 仲間内で話すことといえばホント、人間の事ばっかりで……人間にゲットされた友達を本気で羨ましがってました」 「へぇ~~~~~ぇ……」 ポケモンの本とか、旅の途中であった足跡博士なんかから『人間を嫌いなポケモンなんかいない』って話をよく聞いてたけど…… ポケモン自身が言ってるんなら、本当にそれは間違いない事だったのかな。 そう感心すると共に、少しばかり優越感が胸を浸す。 そして、フライゴンの話はまだ続く。 「ボク達が人間に飛び掛るのってあれ、捕まえて欲しいからなんですよね。 ボクがあの日あの時コウイチくんに飛び掛ったのも……その、コウイチくんに捕まえてほしかったからなんですよ?」 いつだったか、砂嵐吹き荒れる地帯の草むらを歩いていたとき、 一匹のナックラーがぼくに飛び掛ってきた……あの日の思い出が、ふと蘇る。 「で、なんですけどねっ」 そう言うと共に、フライゴンはどこでそんな仕草を覚えたのか、短い人差し指をピッと立て手をこちらに突き出す。 ここからが本題みたいだ。 「何で、ボク達って人間が好きなのかなあって……生まれた時から人間が好きなんです。おかしいですよね? これ。 で、なんかそれが……今の村長さんが言ってた事と何か関係あったりしてー、とか思っちゃいまして……ってワケなんですけど」 「……」 ぼくは考える。 人間を神と崇め絶対歓迎するというこのポケモンの世界と…… 生まれた瞬間から人間を好きだというぼく達の世界のポケモン。 まだ果てしなく、ホントに果てしなく『何となく』ではあるけれど、どこか深い関係があるような気がしてしまう。 これは『夢』だって言うのに…… 「ところで~」 ハスブレロ村長が不意に話しかけてきた。 81 :7/12 ◆8z/U87HgHc:2007/11/28(水) 16 21 51 ID ??? 「あっ、はいっ!?」 フライゴンと話し込んですっかりハスブレロ村長の存在を忘れてしまっていたので、随分上ずった声で返事してしまう。 村長は少しだけ眉をしかめたが、すぐに柔和そうな表情に戻った。 「きみ達まだここへ来て日が浅いようじゃな。なにか~~、質問とかあるかの? 何でも答えてやりますぞ」 身を乗り出しそう問いかける村長。 「質問……」 何か聞きたいことはないかと記憶を辿ると、すぐにあのオニドリル達の発した言葉へと行き着いた。 “お前らのこと我が飛鳥部隊に……魔王様に報告しちゃるからなぁ!!” “魔王軍から逃れられると思うな人間と竜騎士っ!!はははーー!!” ぼくとフライゴンは顔を見合わせ、ほぼ同時に全く同じ質問を村長へ投げかけた。 「「魔王とか竜騎士ってなんですか?」」 あまりに全てが一致してしまったので、またぼくとフライゴンは顔を見合わせる。 フライゴンはぼくと同じく驚いたように目を見開き、口を半笑いの形に歪めていた。 「ふむ、やはりそう来たか……順を追って説明せねばな」 ハスブレロ村長は長く深呼吸する。結構長い話になるみたいだ。 ぼくも釣られて、思わずゴクリと息を飲んでしまう。 ハスブレロ村長はあらかた深呼吸し終えると、じっとぼくを見据えて話し始めた。 82 :8/12 ◆8z/U87HgHc:2007/11/28(水) 16 24 01 ID ??? 「この世界には、わしら以外にも多数の種類のモンスターがおる。 しかし、ほとんどは『その種族はその種族ごとに』…… エスパーならエスパーと、ゴーストならゴーストと、キチンと住み分けておるのじゃ。 違った種族同士が共存している場所など、あまりありはしない。 しかし、『魔王』が率いる『魔王軍』だけは違う…… この世界からあまねく集められた多種の種類のモンスターが、『魔王軍』という一つの軍の元に共存している。 そしてその魔王軍のトップ、魔王の目的は…… わしも詳しくは知らんが、『この世界を一つにすること』」 「『世界を一つにする』……」 ぼくは、魔王という呼び名とその目的がイマイチ一致せず、思わず首を捻ってしまう。 世界を一つにする…… ぼくは子供だからよく分からないけれど、 何となくその響きは神聖で、悪いイメージなんて微塵もしない。 ぼくは、そのモヤモヤをすぐに口に出した。 「魔王っていうからには世界を恐怖に陥れるとかそういうノリだと思ってたけど…… あの、魔王って、悪い感じのヤツじゃないんですか? 目的はあんま悪い感じに聞こえないんだけどなあ」 「あ、ですよねっ。ボクもそう思ってたんです」 フライゴンも、その疑問を言いあぐねていたのかすかさずぼくに同調する。 と、ぼく達のその疑問に、ハスブレロ村長さんは即答した。 「勿論悪い者じゃ。悪いも悪い……『世界を恐怖に陥れる存在』という言葉も全く間違っておらん。 定期的に町や村を襲い魔王軍へと引き込むためにモンスターをさらっていく。 意味の無い破壊や殺戮を頻繁に行うとも聞く。立派な、平和を乱す悪党の群れ……害虫どもですじゃっ」 83 :9/12 ◆8z/U87HgHc:2007/11/28(水) 16 29 17 ID ??? 力強く、そう告げるハスブレロ村長。 言葉の中の破壊だの殺戮だの……残虐な単語が、一気に話を生々しくさせている。 ……やはり、『魔王』という名前からには悪い集団であったようだ。 しかし、その悪い集団である魔王軍は、つまるところ『ポケモンの軍隊』…… あの『ポケモン』が、あの『ポケモン』達が、『世界を恐怖に陥れる存在』だってのか? ポケモンがポケモンを苦しめる光景。あまり進んで想像したくはないな…… ハスブレロ村長は、話に一区切りつけるように一度息をつき、そして引き続き話し始めた。 「そして、その魔王軍に唯一対抗できる『唯一の戦闘集団』こそが、竜騎士。『12竜騎士』なのですじゃ。」 12竜騎士。 フライゴンは先程の魔王の話よりも、より興味深そうに首を前に突き出した。 「ここから遥か西にある竜達の国。その竜の国のトップに立つ12匹。 いわば魔王軍を除いたこの世界での最強の戦闘力を持つ『12匹の竜』こそが、12竜騎士なのじゃ」 「12、竜騎士……」 口をついて単語が出てきてしまう。 『12の竜』……言い換えれば、『12匹のドラゴンタイプのポケモン』。 ドラゴンポケモンなんて、ぼくはフライゴン以外に見たことは無い。 何だか、本当にワクワクきてしまう。 こんな所でポケモントレーナー魂が刺激され疼いてしまうぼくはどうにかしてるのかな。 無意識に、 「早く続きを」 と急かすようにぼくは身体を前にかがめてしまう。 村長はまた息を深く吸うと、話を再開した。 「きみの……つまり、『人間様の世界』にもある12までの月…… そのそれぞれの月に、『誕生石』と呼ばれるシンボルがあるじゃろう? わしらの世界にもそれはある。当然じゃ。わしらの文化は人間様が伝えた文化なのじゃから。 そして12の竜騎士は、使命として一匹が一つずつ、それぞれの性格に合った『誕生石』を与えられているのじゃ。 その十二種の誕生石……せっかくじゃ。名前も、石言葉も、全て教えて差し上げましょう」 84 :10/12 ◆8z/U87HgHc:2007/11/28(水) 16 30 56 ID ??? 1月の石・ガーネット! 真実・忠誠! 王に最も忠誠厚き騎士に与えられし石! 2月の石・アメジスト! 平静・高貴! 決して折れぬ自我を持つ誇り高き騎士に与えられし石! 3月の石・アクアマリン! 沈着・勇敢・聡明! 大海の如く雄大な意志を持つ騎士に与えられし石! 4月の石・ダイアモンド! 清浄無垢! 清く汚れなき心と身体を持つ騎士に与えられし石! 清き精神は不純なき意志! 何物にも砕けぬ無垢の心! 5月の石・エメラルド! 廉潔・平穏! 何より好むものは平穏と安らぎ! 無欲で、他の者・弱き者のために動く心優しき騎士に与えられし石! 6月の石・パール! 健康・長寿・美! 真珠の如く滑らかで美しく、かつ強固な意志を持ちし騎士に与えられし石! 7月の石・ルビー! 情熱・仁愛! 炎の如く燃え滾る情熱の心を持つ騎士に与えられし石! 8月の石・ぺリドット! 和合! 弱者も、強者も、愚者も、何者をも引き付け、断ち切れぬ心の鎖で繋ぎ止める圧倒的カリスマを持つ王の石! 9月の石・サファイア! 慈愛・誠実・徳望! 何者をも包み込む慈愛と人徳、誠実さを兼ね備えた騎士に与えられし石! 10月の石・オパール! 無邪気・歓喜・忍耐! あどけなく少年少女のような素直な心を持つ騎士に与えられし石! その率直な意志は、どんな苦難や誘惑をも己の正義の元に耐え忍ぶ! 11月の石・トパーズ! 友情・希望・潔白! 全ての者に熱き友情を注ぎ込み、何者をも信用させる力を持つ騎士に与えられし石! 12月の石・ターコイズ! 成功! 与えられた任務は例えどんな手段を用いようとも最期には必ず成功させる手腕、そして狡猾さをも持つ騎士に与えられし石! 90 :11/12 ◆8z/U87HgHc:2007/11/28(水) 17 00 34 ID ??? ハスブレロ村長はそう一気に言って、少し息切れしていた。 「は……把握したかね?これが竜騎士達に与えられた十二種の宝石ですじゃ」 肩息まじりにまとめの一言を告げるハスブレロ村長。 「12の竜騎士……誕生石になぞらえた12の竜騎士……フライゴンきみ、お誕生日いつだっけ?」 なんだか興奮してしまって、思わずフライゴンにそんな事を聞いてしまう。 「え? いや……自分の誕生日とか分からないんですけど……」 まぁ、当然の答えだ。 「あっ、そっかぁ……ぼくは5月! ええと、5月の宝石ってなんでしたっけ?」 「エメラルドじゃよ。廉潔と平穏の石じゃ」 心なしか、そう言った時のハスブレロ村長はかなりイライラしているような感じだったけど、ぼくはそんな事はおかまいなく騒ぎ続ける。 「エメラルドかァーー!! あの緑色の石? うひゃぁー、ぼくエメラルド! 緑のエメラルド! あれっ、緑って言ったらフライちゃんと同じ色じゃーん! いやーん、運命的ー!!」 昂ぶった感情のままに、ひしっとフライゴンを抱きしめ、艶やかキレイな緑のボディーを優しくぺちぺちと叩くぼく。 「あ、あのぅ……コウイチくん……」 「えへへ……ごめーんっ」 フライゴンが呆れたような声を出したので、照れ笑いしながら手を離す。 「……元気があっていいのう。子供は」 そう言うハスブレロ村長は何故だか、言葉とは裏腹に眉間にしわを寄せ、本格的にイライラきている表情だ。 その表情を見たぼくは何故だか背筋にゾクリと嫌なものを感じ取り、一瞬でそれまで浮かばせていた照れ笑いが消えてしまった。 「で……『部隊』ってのは? ボク達、今朝『飛鳥部隊』って名乗るオニドリル達に会ったんですけど」 次に質問を投げかけたのはフライゴンだ。 ハスブレロ村長は数度うんうんと頷くと、息切れ混じりに話し始める。 もうこれ以上質問をするのは、ちょっと老体に響くんじゃあ…… ぼくは少しそう思いつつも話に引き続き耳を傾けた。 91 :12/12 ◆8z/U87HgHc:2007/11/28(水) 17 02 18 ID ??? 「魔王軍は、先程も言った通り『複数のタイプのモンスターが入り乱れる唯一の集団』。 恐らく、竜以外の全ての系統のモンスターが集まっているのではないのだろうか?」 まず、魔王の直属の部下には四匹のモンスター。『四天王』と呼ばれるモンスターがいる。 一匹は百年先を見通し、一匹は人の意識を操り、一匹は巨山をも拳のみで砕き割り、一匹は何をしようと砕けることのない強固な体を持つという。 そして、その四匹がそれぞれ部隊長を務める四つの部隊がある。 百年先を見通す四天王が従えしは『超人部隊』。 人の意識を操る四天王が従えしは『幻霊部隊』。 並ぶ者なき剛の四天王が従えしは『闘神部隊』。 一の強固を誇る四天王が従えしは『巨岩部隊』。 そして、それら一つの部隊につき更に三つの傘下の部隊。 『飛鳥部隊』は確か、『超人部隊』の傘下の部隊の一つだったかのう? とにかく、合わせて『十六の部隊』が魔王軍には存在するんですじゃ」 ハスブレロ村長はそこまで言うと一旦口を止め、ふぃ~~とくたびれたようにため息をつき出した。 のんきに肩をポンポンと叩き、やっと次の言葉を口にする。 「……もう、めんどいのう。色々と……歳だとね、あまり長い台詞喋ると疲れるのじゃよ。顎が。 さぁ、めんどい事は後にして、きみ達、食事はどうかね?」 「え? お食事、ですか?」 いきなりの話の転換っぷりに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。 ……いい所だったのにな…… 次々語られる『竜騎士』やら『魔王軍』やら、まるでマンガやゲームな世界な話に、正直ぼくは心躍っていた。 話がぶっ切れてしまった事を少し残念に思いながらも、ぼくは猫のうなり声のようにゴロゴロ鳴るおなかに従った返事をした。 「はい、喜んで!」 92 :13/12 ◆8z/U87HgHc:2007/11/28(水) 17 03 55 ID ??? ぼく達二人はハスブレロ村長に連れられ村の食堂へと移された。 食堂へとぼく達が……正確には多分ぼくが入ったことにより、食堂中にざわめきが起こる。 ぼくとフライゴンは店の中心の大テーブルの前に座らされる。 店中の人の視線がぼく達に突き刺さる。 と、ハスブレロ村長が村の人達に対してこんなことを言った。 「ほほ、人間様と次世代の竜騎士様のご来店じゃぞ。 みなよ、こちらに来い。この二人を存分にもてなしてやろうぞ」 村長が皆にそう言うと、村人達は戸惑ったように各々顔を見合わせる。 やがて一匹のハスボーがぼく達の元へやって来るのを皮切りに、 やがてはその食堂中の人がぼく達の周りに集まってきていた。 「ねぇねぇ、人間さんどこから来たの?」 「これが人間かー。やっぱ火吹いたり地震起こしたりとかできるわけ?」 「竜巻起こせます?」 「フレアドライブ程度くらいまでは楽勝っしょ? ねぇ、どうなんです?」 「ありゃ、人間ってもっとこう神々しいイメージあったけど、何だか可愛らしい外見だなぁ」 「竜さんカッコいいー!」 あっという間に、村人達から質問攻めになるぼく達。 すぐに料理も運ばれてくる。……サラダしかないけど。 「ねぇ、食べて! 存分に食べてね! いっぱい食べてね!」 料理を運んできたコノハナさんはそう言いながら、長い鼻先がくっつきそうな程にこちらへ顔を近づけ、ニコニコと笑ってぼく達を見つめている。 ……食べづらいんですけど。 そう言うわけにも行かず、ぼくはそのコノハナさんの期待に沿ってサラダを掬い口に入れた。 苦いキャベツの香りが口の中に広がり、一口噛みしめると弾け出た苦味が口内に飛び散り舌に染み込む。 普段あんまり好きじゃあない味だけど、無理して満足そうな笑みを作るとコノハナさんの顔が歓喜に綻んだ。 ……まだぼくを見ている。 ぼくが完食するまでずっと見ているつもりなのか。尋常じゃなく食べづらいよ、コレ! ちょっとどうにかしておくれよ! 視線や質問攻めに耐えながら出された料理を半分くらいたいらげた所で、突如村長がぼくにこう言った。 「実はあなたに……見せたいものがあるのですが、少し付き合ってもらっていいですかな?」 「……?」
https://w.atwiki.jp/saisyouhu_hankoku/pages/24.html
部品構造 大部品 B-19ショットガン RD 14 評価値 6部品 B-19ショットガンとは 部品 長い銃身とライフルによる射程延伸 部品 取り回しが悪い 大部品 アーミーインファントリィオプション RD 7 評価値 4部品 アーミーインファントリィオプションとは? 部品 スリング 部品 折り畳み銃床/伸縮銃床 部品 照準器 部品 二脚 部品 フラッシュライト 部品 フロントグリップ 大部品 ショットガンの弾薬 RD 4 評価値 3部品 散弾 部品 スラッグ 部品 ゴム弾 部品 催涙弾 部品定義 部品 B-19ショットガンとは 20mmケースレス弾を使うショットガンで弾倉のない重心の長いアサルトライフルのようなデザインをしている。 二列のポンプアクションで弾は10発づつ、合計20装備出来る。長いのはショットガンの割りに射程を伸ばす狙いがあるが縦列弾倉のせいでもある。2種類の弾を振り分けても使用可能。 アーミーインファントリィオプションソケットを装備する。 歩兵専用の装備である。 部品 長い銃身とライフルによる射程延伸 通常のショットガンより、50%以上射程が長い。とはいっても散弾に必要かというと怪しい。散弾は距離とともに威力を急激に減らすためだ。スラッグのための構造と言って良いだろう。この銃は対軽装甲車輌に寄せた武器なのだ。 部品 取り回しが悪い 長い銃身は取り回しが悪く、市街地での使用した評判はすこぶる悪かった。後にもっと短くしたショットガンも作られている。銃身交換だけでいけなかったのはポンプアクション部分で弾倉まで改変しないといけなかったため。 部品 アーミーインファントリィオプションとは? 軍用の歩兵装備に付けられたオプションを取り付けるための接続規格である。どの歩兵装備でもアーミーインファントリィオプションソケットがついていればオプション群を取り付けられる。 これらは民間品であり規制されておらず、ホビー用途でも流通している。 部品 スリング スリングは銃を肩から提げるための重要装備である。撃つ時間よりも持って歩いている時間の方が遙かに長いからだ。 部品 折り畳み銃床/伸縮銃床 市街戦を想定して近年の銃は取り回しを改善できるように銃床に工夫がされている。これによって市街戦でも対応力を上げることが可能である。 部品 照準器 ドットサイトがほとんどで2倍、4倍、10倍、等倍のものが存在する。狙撃用は10倍だが価格が異様に高く、大抵は2倍止まりである。 部品 二脚 二脚は銃を安定させ、命中率を上げるための装備である。各種機関銃に良く使用されるが、場合によってアサルトライフルにも使われることがある。代用機関銃としての使用である。 部品 フラッシュライト 夜間での灯りはナイトゴーグルが標準化されたあとでも有用性があって、今でも使用され続けている。囮に使う場合や目くらましにも使われる。 部品 フロントグリップ フロントグリップは銃を安定させるのに使用するもので、あるのとないのでは大違いとして私費で購入している歩兵もかなりいる。 部品 散弾 ショットガンが通常使用する散弾は射程距離一〇〇mほどだが弾が拡散し、多数の敵を撃てる。また近接時は威力が跳ね上がる。一対多数の暴徒鎮圧の他、敵突撃時の近接防御に優れる。 部品 スラッグ 大きな一粒種の弾をスラッグという。ショットガンで使用するもので射程は二〇〇mない。威力は高く壁を抜いたり装甲車の装甲を抜くことが出来る。軍用では炸薬を入れてさらに威力を高める。 部品 ゴム弾 ショットガンは非殺傷用のゴム弾も撃てる。ゴムと言っても直撃すればただで済むことはなく、最悪死ぬこともある。 部品 催涙弾 催涙弾は暴徒や敵歩兵集団を散らすために使う。ニューワールドでは化学兵器を制限する条約がないために気軽に使われる。 提出書式 大部品 B-19ショットガン RD 14 評価値 6 -部品 B-19ショットガンとは -部品 長い銃身とライフルによる射程延伸 -部品 取り回しが悪い -大部品 アーミーインファントリィオプション RD 7 評価値 4 --部品 アーミーインファントリィオプションとは? --部品 スリング --部品 折り畳み銃床/伸縮銃床 --部品 照準器 --部品 二脚 --部品 フラッシュライト --部品 フロントグリップ -大部品 ショットガンの弾薬 RD 4 評価値 3 --部品 散弾 --部品 スラッグ --部品 ゴム弾 --部品 催涙弾 部品 B-19ショットガンとは 20mmケースレス弾を使うショットガンで弾倉のない重心の長いアサルトライフルのようなデザインをしている。 二列のポンプアクションで弾は10発づつ、合計20装備出来る。長いのはショットガンの割りに射程を伸ばす狙いがあるが縦列弾倉のせいでもある。2種類の弾を振り分けても使用可能。 アーミーインファントリィオプションソケットを装備する。 歩兵専用の装備である。 部品 長い銃身とライフルによる射程延伸 通常のショットガンより、50%以上射程が長い。とはいっても散弾に必要かというと怪しい。散弾は距離とともに威力を急激に減らすためだ。スラッグのための構造と言って良いだろう。この銃は対軽装甲車輌に寄せた武器なのだ。 部品 取り回しが悪い 長い銃身は取り回しが悪く、市街地での使用した評判はすこぶる悪かった。後にもっと短くしたショットガンも作られている。銃身交換だけでいけなかったのはポンプアクション部分で弾倉まで改変しないといけなかったため。 部品 アーミーインファントリィオプションとは? 軍用の歩兵装備に付けられたオプションを取り付けるための接続規格である。どの歩兵装備でもアーミーインファントリィオプションソケットがついていればオプション群を取り付けられる。 これらは民間品であり規制されておらず、ホビー用途でも流通している。 部品 スリング スリングは銃を肩から提げるための重要装備である。撃つ時間よりも持って歩いている時間の方が遙かに長いからだ。 部品 折り畳み銃床/伸縮銃床 市街戦を想定して近年の銃は取り回しを改善できるように銃床に工夫がされている。これによって市街戦でも対応力を上げることが可能である。 部品 照準器 ドットサイトがほとんどで2倍、4倍、10倍、等倍のものが存在する。狙撃用は10倍だが価格が異様に高く、大抵は2倍止まりである。 部品 二脚 二脚は銃を安定させ、命中率を上げるための装備である。各種機関銃に良く使用されるが、場合によってアサルトライフルにも使われることがある。代用機関銃としての使用である。 部品 フラッシュライト 夜間での灯りはナイトゴーグルが標準化されたあとでも有用性があって、今でも使用され続けている。囮に使う場合や目くらましにも使われる。 部品 フロントグリップ フロントグリップは銃を安定させるのに使用するもので、あるのとないのでは大違いとして私費で購入している歩兵もかなりいる。 部品 散弾 ショットガンが通常使用する散弾は射程距離一〇〇mほどだが弾が拡散し、多数の敵を撃てる。また近接時は威力が跳ね上がる。一対多数の暴徒鎮圧の他、敵突撃時の近接防御に優れる。 部品 スラッグ 大きな一粒種の弾をスラッグという。ショットガンで使用するもので射程は二〇〇mない。威力は高く壁を抜いたり装甲車の装甲を抜くことが出来る。軍用では炸薬を入れてさらに威力を高める。 部品 ゴム弾 ショットガンは非殺傷用のゴム弾も撃てる。ゴムと言っても直撃すればただで済むことはなく、最悪死ぬこともある。 部品 催涙弾 催涙弾は暴徒や敵歩兵集団を散らすために使う。ニューワールドでは化学兵器を制限する条約がないために気軽に使われる。 インポート用定義データ [ { "title" "B-19ショットガン", "part_type" "group", "children" [ { "title" "B-19ショットガンとは", "description" "20mmケースレス弾を使うショットガンで弾倉のない重心の長いアサルトライフルのようなデザインをしている。\n二列のポンプアクションで弾は10発づつ、合計20装備出来る。長いのはショットガンの割りに射程を伸ばす狙いがあるが縦列弾倉のせいでもある。2種類の弾を振り分けても使用可能。\nアーミーインファントリィオプションソケットを装備する。\n歩兵専用の装備である。", "part_type" "part" }, { "title" "長い銃身とライフルによる射程延伸", "description" "通常のショットガンより、50%以上射程が長い。とはいっても散弾に必要かというと怪しい。散弾は距離とともに威力を急激に減らすためだ。スラッグのための構造と言って良いだろう。この銃は対軽装甲車輌に寄せた武器なのだ。\n", "part_type" "part" }, { "title" "取り回しが悪い", "description" "長い銃身は取り回しが悪く、市街地での使用した評判はすこぶる悪かった。後にもっと短くしたショットガンも作られている。銃身交換だけでいけなかったのはポンプアクション部分で弾倉まで改変しないといけなかったため。\n", "part_type" "part" }, { "title" "アーミーインファントリィオプション", "part_type" "group", "children" [ { "title" "アーミーインファントリィオプションとは?", "description" "軍用の歩兵装備に付けられたオプションを取り付けるための接続規格である。どの歩兵装備でもアーミーインファントリィオプションソケットがついていればオプション群を取り付けられる。\nこれらは民間品であり規制されておらず、ホビー用途でも流通している。\n", "part_type" "part" }, { "title" "スリング", "description" "スリングは銃を肩から提げるための重要装備である。撃つ時間よりも持って歩いている時間の方が遙かに長いからだ。\n", "part_type" "part" }, { "title" "折り畳み銃床/伸縮銃床", "description" "市街戦を想定して近年の銃は取り回しを改善できるように銃床に工夫がされている。これによって市街戦でも対応力を上げることが可能である。\n", "part_type" "part" }, { "title" "照準器", "description" "ドットサイトがほとんどで2倍、4倍、10倍、等倍のものが存在する。狙撃用は10倍だが価格が異様に高く、大抵は2倍止まりである。\n", "part_type" "part" }, { "title" "二脚", "description" "二脚は銃を安定させ、命中率を上げるための装備である。各種機関銃に良く使用されるが、場合によってアサルトライフルにも使われることがある。代用機関銃としての使用である。\n", "part_type" "part" }, { "title" "フラッシュライト", "description" "夜間での灯りはナイトゴーグルが標準化されたあとでも有用性があって、今でも使用され続けている。囮に使う場合や目くらましにも使われる。\n", "part_type" "part" }, { "title" "フロントグリップ", "description" "フロントグリップは銃を安定させるのに使用するもので、あるのとないのでは大違いとして私費で購入している歩兵もかなりいる。\n", "part_type" "part" } ], "expanded" false }, { "title" "ショットガンの弾薬", "part_type" "group", "children" [ { "title" "散弾", "description" "ショットガンが通常使用する散弾は射程距離一〇〇mほどだが弾が拡散し、多数の敵を撃てる。また近接時は威力が跳ね上がる。一対多数の暴徒鎮圧の他、敵突撃時の近接防御に優れる。\n", "part_type" "part" }, { "title" "スラッグ", "description" "大きな一粒種の弾をスラッグという。ショットガンで使用するもので射程は二〇〇mない。威力は高く壁を抜いたり装甲車の装甲を抜くことが出来る。軍用では炸薬を入れてさらに威力を高める。\n", "part_type" "part" }, { "title" "ゴム弾", "description" "ショットガンは非殺傷用のゴム弾も撃てる。ゴムと言っても直撃すればただで済むことはなく、最悪死ぬこともある。\n", "part_type" "part" }, { "title" "催涙弾", "description" "催涙弾は暴徒や敵歩兵集団を散らすために使う。ニューワールドでは化学兵器を制限する条約がないために気軽に使われる。\n", "part_type" "part" } ], "expanded" true } ], "expanded" true } ]
https://w.atwiki.jp/pokemon-dreamworld/pages/13.html
5 : ◆8z/U87HgHc :2007/11/27(火) 19 24 24 ID ??? 「いけぇ、フライゴン!! ドラゴンクローだ!!」 ぼくがそう叫ぶと、目の前のフライゴンはその翼を力強くはためかせ、 猛烈な勢いと共に眼前の敵ポケモンに強烈な一撃をくわえた。 「あ、ああ! オクタン!!」 致命的なダメージを受けた敵ポケモンは力尽き、相手トレーナーのモンスターボールへと自動的に帰っていく。 「……俺の最強の切り札であるオクタンがこうあっさりやられるとは……完敗だ」 手持ちに戦えるポケモンがいなくなった男の人は、チッと悔しげに舌を鳴らすと、 若干納得のいかないようではあるけど、素直に負けを認めた。 「シンオク地方最強のジムリーダーであるこのデンチを倒した今、お前はこのピーコンバッヂを手にする資格を得た。 そして同時にポケモンリーグへと挑戦する権利も…… ふん。まあ俺の代わりにポケモンリーグのチャンピオンにでもなってきてくれ」 デンチはポケットから金色に煌くバッヂを取り出すと、ぼくにポイと放り投げる。 逃さずキャッチし、満足感と達成感に胸を火照らせながら、 たった今受け取った勝利の証『ピーコンバッヂ』を、ゆっくりと胸のトレーナーカードに貼り付けた。 ……トレーナーカードの中に輝く8つのバッヂ。 ぼくが、このシンオク地方全てのジムを制覇した証だ。 「ギュウ!! グギュギュウ!!」 そんなぼくを祝うように、フライゴンは可愛らしい菱形の羽をパタつかせながら、 ぼくの顔を覗き込み、赤い幕の内側にある愛らしい瞳をキュウッと狭める。 『コウイチくん、これでバッヂ8つっ! やっとポケモンリーグに挑戦できるんですねーっ! やった、やったァっ!! ボクも嬉しいですよーっ!』 そんなフライゴンの言葉が、聞こえてくるようだった。 7 : ◆8z/U87HgHc :2007/11/27(火) 19 26 16 ID k5wLs5D+ どんっ!! 意気揚々とナグサシティジムを出て行くぼくに、勢いよく誰かがぶつかってきた。 「あい、つつ……」 小柄なぼくは衝撃によろめき倒れそうになる。 そんなぼくの耳に、聞き慣れた声が入り込んできた。 「なーんだっつんだよー! 俺、また先こされちまったの!?」 耳によく響く、明朗快活をそのまま表したかのような声。 ぼくはその人……今ぶつかってきた人に視線を向けた。 その視線の先にあった顔は、親友でありライバルでもあるミキヒサの顔だった。 「あーっ、もう。おれ、お前に先越されてばっかだなァ~~。もう8つバッヂ集まったんだろー?」 ぼくのトレーナーカードをめくり、8つに輝くバッヂを物欲しそうな目つきでまじまじと見つめるミキヒサ。 ぼくが少し誇らしげに胸を張ってみせると、ミキヒサはためいきをつきながらぼくのトレーナーカードから手を離した。 「ジムを制覇したコウイチくんは今からポケモンリーグ挑戦か~~、うらやましいなあ~~……」 「ミキヒサも、もうバッヂ七つ集まってるでしょ? だいじょぶ、ここのジムの人そんなに強くなかったからさ、ミキヒサならすぐにバッヂを手に入れられるよ」 「はんっ。余裕たっぷりな発言するなあ! コウイチめっ」 不遜な顔をしながら、ふと辺りをキョロキョロと見回し出すミキヒサ。 と、そんなミキヒサの目に何か重大なものが映ったようで。 「……おっ。おやっ、おやっ! コウイチ。あそこの灯台のテレビ見てみ、ポケモンリーグのCMみてーなのやってるぜ!」 ミキヒサはこちらを向かないまま、ナグサシティ中心に立つ灯台の巨大なスクリーンに向かって指をさした。 ぼくも灯台の巨大スクリーンに視線を移す。そこには、今からぼくとミキヒサが目指す、 ポケモントレーナー達の頂点、ポケモンリーグの様子がでかでかと映し出されていた。 10 : ◆8z/U87HgHc :2007/11/27(火) 19 28 02 ID ??? 『シンオク・ナウ!! 今日はテレビコトブチ開設記念日特別スペシャルとして、 ポケモントレーナー総本山・シンオクポケモンリーグに来ていまァーーーす!! そして、何と何と!! シンオク中のポケモントレーナーみんなが憧れる、 ポケモンリーグ四天王のみなさんがこうしてカメラの前に集まってくれましたァーーー!』 やたらと興奮する現地キャスターの脇に、四人の男女が立っているのが見える。 小柄なぼくよりもずっと小柄な、多分ぼくよりも全然年下で、アンテナみたいな変な髪癖のちっちゃい子供、 今にも死にそうなほど干からびて、たまにゴホホホと咳をしているおばあさん、 赤いアフロに白い厚化粧に白い服、まるでピエロみたいな男の人、 どこか一流企業の重役みたいにピシッと整った格好と顔立ちをした、気品漂うメガネの人。 あれがきっとポケモンリーグ四天王なんだ。ポケモントレーナーの頂点、そして今からぼくが戦う四人……! 『さぁー、四天王さん!テレビの前のポケモントレーナー、そして未来のポケモントレーナー達に、一言お願いしまぁすっ!』 『ハーーイ!ぼく四天王のリョウトでぇーす! バッヂ持ってる人、どしどし来ちゃってくだーーさいっ!! ぼく達といっぱい楽しいポケモン勝負しましょ~~! ……あっ、パパ、ママ、ねぇ見てる~~~!!? わーい!!』 『わた……し……してんの……キクエ……ゴホッ、ゲホホホォ!! グギャアア!!! ……みんな来てね、ポケモンリーグホォ!! ゴホホホッ!! ギャぁ!!』 『アーイム・ラビニィーット!! おれ四天王のオーパ!! 俺のケツに火ィつけられるような強い挑戦者待ってるぜッ!! アーイム・ラビニィーット!!』 『どうもテレビの前のみなさん。私は四天王のゴギョウ、ポケモンの神話や秘密について調べています。 各地を渡り歩き、特にハクタネシティやカンザキシティにはよく出向くので、見かけたら一声かけてください。 サインも書きますよ。なんどでも書きますよ。なんどでもな ん ど で も 書きますので ぜひ ぜ ひ ぜ ひ 一声おかけ下さい』 14 : ◆8z/U87HgHc :2007/11/27(火) 19 31 49 ID ??? 『では、これでポケモンリーグ現地リポートを終わりまぁす!ではさようなら!』 現地リポートが終わり、巨大モニターはぼく達の全く興味の無い映像に切り替わる。 ミキヒサは構わずモニターを見続けながら、感極まったのかこんな事を言い出した。 「くーっ。グッと来るね! 俺ももうすぐあのポケモンリーグに…… ……で、お前は今から挑戦しにいくんだよなーっ、おれより先にっ! もう夜だけど、いまから行って今日中にはチャンピオン様になってますってかー!? うンらやましいねェーっ!」 ニコニコしながらぼくの頭を掴み、黒髪をワシャワシャと撫で回すミキヒサ。 「いや、まだ行かないよ。行く前に……ぼく寄る所があるんだ」 「はい?」 手の動きを止めおずおずと引っ込めながら、ぼくを見つめるミキヒサ。 と、そのミキヒサはいきなり芝居っぽく手の平をポンと叩いたと思うと、こちらをビッと指差し自信満々にこう言った。 「そォか! まずはご邸宅に帰って、おママにご一報ってワケだなぁ~~!? こ~のマザコンお坊っちゃんめっ!」 「違う」 「にゃにっ!?」 ぼくの発言に、これまた大袈裟なリアクションを取るミキヒサ。 意地悪っぽく舌を出して挑発してみると、ミキヒサの顔がもどかしげな色に染まっていく。 「なんだっつんだよー! おまえ、おれをバカにしてるなー!? えい、言わなきゃ罰金100万円の刑ー!」 子供じみた法外な『罰金』を請求しながら、力のこもってないパンチやらをぼくに浴びせるミキヒサ。 込みあがってきた笑みを顔に浮かばせながら、ぼくは言った。 「ぼくの思い出の場所さ。……なんなら、ミキヒサも行く? いっしょに」 ミキヒサに向けて、ニコリとやや意地悪っぽい笑みを作ってみる。 彼はパンチやらをピタリと止めて、ぼくの顔を少しの間見つめたと思うと みるみると表情を笑みに変えていき、そしてぼくの全く予想通りの事を言ってくれた。 「もっちろん! もちろんだよコウイチくーーん!! いやぁ、さすが親友! にゃっははーー!」 ぼくの肩を掴みながら、ルンルンと小躍りするようにして喜びを表現するミキヒサ。 ぼくはそんなミキヒサを見つめながら、思い出の場所へ飛ぶためにフライゴンの入ったボールを高く挙げた。 17 : ◆8z/U87HgHc :2007/11/27(火) 19 33 53 ID ??? ぼくは、血液型がA型だ。 だからなに? とか言わないで、できるなら最後まで聞いて欲しいな。 血液型性格診断なんてものがあるけれど、それによるとA型って『几帳面』な人らしいんだよね。 性格診断なんてほぼ占いみたいなもんじゃあないか。ロクなもんじゃあない…… ぼくはそう思ってはいるけど、この血液型性格診断の結果は、ぼくにとってはズバリ当たっているんだ。 ぼくは自分でも不思議なくらい『几帳面』で。整理整頓なんかはしないと気がすまないんだよね。 時間なんかは勿論キチンと守るし、全ての物事にちゃあんと確認は怠らない。 だから、遅刻だとか忘れ物だとかは特別な事がない限りいっさいしたコトないし、 捕まえた事のあるポケモンをウッカリもう一回捕まえちゃったりとか、そんなコトは今まで一回もなかった。 後味の悪いことはしたくない、とか……大事な物事の前にはまずやるべきことを全部済ませる……とか。 そんな性格だから、ぼくはポケモンリーグに行く前に『思い出の場所』へ向かうことにしたんだ。 几帳面じゃなかったら、そんなことしない……少なくともあのミキヒサだったら絶対しない。 そう、もしぼくが『几帳面じゃなかったら』……『A型じゃなかったら』…… たぶんだけれど、これから起こることは絶対に起こらなかったんだ。 そうだ、ぼくの運命を全く変えてしまう出来事は…… でも、結果的にそれが幸運であったか不幸であったかを、 仮に、これから起こる運命の変化を乗り越えたときのぼく……つまり未来のぼくにそれを聞いてみたとしたら…… たぶん、『ものすごい幸運だった』って答えるとは思うだろうけど……ね。うん、多分。 つづく
https://w.atwiki.jp/bizinbiyou/pages/92.html
店名 ヘアブティック BOZ-1 溝の口店 電話番号 044-822-0550 店舗住所 神奈川県川崎市高津区溝口1-12-8 多摩川ビル2F 店舗までのアクセス 東急田園都市線 溝の口駅より徒歩3分 営業時間のご案内 月~土/10 00~20 00 (最終受付カット19 00) 日祝/10 00~19 00(最終受付カット18 00) 定休日 毎週火曜日 取り扱いクレジットカード なし カット価格 3500円~ スタイリスト数 6人 席数 12人 備考 最寄り駅から徒歩3分以内にある/お子さま同伴可 ▼あざみ野・溝の口・たまプラーザのその他の美容院 b・Hair Dressers 溝ノ口店 Neolive anie 溝ノ口店 Neolive11 溝ノ口駅前店 MerryLand 宮崎台店 gecca C-LOOP UNITED gross Alaine hair design Neolive3 溝ノ口店 insence たまプラーザ gita たまプラーザ店 QUATRO 溝の口店 Lampara League bis あざみ野店 shu.ha.ri.. League 宮崎台店 Hair&make Oggi たまプラーザ SHIDO Hair&make Oggi 溝の口 ピュアモード イメージア たまプラーザ店 QUATRO たまプラーザ店 az JOY美容室 宮前平店 Sora melange-CLAIRE hairstudio ルジャルダン あざみ野店 イメージア あざみ野店 ヘアメイク アンリ Diaz Of HAIR 鷺沼店 Ash たまプラーザ店 ROSINANTE Anagram Of HAIR 宮崎台店 Ash 鷺沼店
https://w.atwiki.jp/pokemon-dreamworld/pages/31.html
391 :1/13 ◆8z/U87HgHc :2007/12/17(月) 19 38 44 ID ??? 葉擦れの音と小鳥のさえずりにつられ、ぼくは無意識のままうっすらと目を開けた。 まずぼくの視界に漠然と入ってきた物は、空を塗りつぶしている新緑色のまだら模様と、 それに幾つもの亀裂を入れている木々。そして、それらの隙間から漏れる暖かい木漏れ日だった。 「ん……んふ……ふぁ?」 一テンポ遅れて、ようやくぼくは眠りから覚めたことを理解する。 何だか、とても長い間別の次元に飛んでいたような、そんな感覚がする。 まだ何か靄がかかったかのように薄ぼんやりとした意識の中、 とりあえずうっとうしく目を射し続ける木漏れ日から逃れるように、ぼくは薄目を開けたまま寝返りをうった。 そこには、木と木の間に張られた網のベッドと、そこに横たわる緑色の生き物……フライゴンの寝顔が見える。 「……ふらいごん……」 ゼリーのドームのような二つの赤い膜。その中にある目は、うっとりと閉じられている。 こちらに向けられている赤ちゃんのように小さな口は、微かに聞こえる吐息の音と同じタイミングで開いたり閉じたりを繰り返している。 いとおしいぼくの、ぼくだけのフライゴンの寝顔だア…… ……なぜだろう。全く和む気になれないのは。 大自然の真っ只中で穏やかに迎える早朝。隣には自分のポケモンの可愛い寝顔。 なぜだろう。こんな……おそらく誰もが羨むような贅沢な状況で、『全く晴々とした気分になれない』のは。 そうだ。目覚めてからずっとぼくの胸の内に、ずしりと『黒く重いもの』が渦巻いているからだ。 ある種の絶望?とでも呼んでいいのかもしれない。 ゆっくりと、頭を覆う靄が晴れていく。そしてそれにつれ、胸のうちの黒く重いものは何か、ぼくは思い出していく。 ……そうだ、思い出したぞ、この『黒くて重いもの』は何か。そして、全く晴々とした気持ちになれないこの奇妙な朝の正体は何なのか、分かったぞ。 『別れの朝』だ。 392 :2/13 ◆8z/U87HgHc :2007/12/17(月) 19 41 30 ID ??? 「ん……ふあぁぁぁ~~~!! よく寝たぁぁ~~~~!!」 「森よ、今日も晴れやかな朝を頂き感謝します……」 「今日はよく寝たなぁ! ほんっとよく寝たっ! ほんっと、ほんっとよく寝たねマジで!」 やがて辺りから。キモリたち森の住民達のざわめきが聞こえてきた。みんなも目を覚まし始めたんだ。 そんな中、ぼくは構わず目を開け寝転がったままでいる。 こんな美しい自然の中に目覚めて、起き上がって大欠伸の一つもする気になれない子供なんて多分ぼくくらいの物だろう。 「人間様、朝ですぞ」 老人と中年のちょうど真ん中くらいの声……族長さんの声が背後から聞こえる。族長さんがぼくを起こしに来たんだ。 ぼくはその体勢のままころりと寝返りを打ち、族長さんの方を向く。 「……もう、起きてますよっ」 言葉と同時に手をつき上体を起こし、少し笑みを浮かべる。 「お、おお、失礼したな」 族長さんはそう言いながら、まるで一つ罪でも犯したかのように狼狽したような表情を浮かべる。 ……ぼくに気を使っているのが目に見えて分かる。『機嫌を損ねると何をされるか分からない』とでも思っているんだろうか? 地面に足をつき立ち上がり、怒っているような印象を与えないようあくまで笑顔は崩さず、ぼくは族長さんへこう言った。 「お心遣い感謝します……だけど、『もう』その必要はありませんよ、族長さん」 「え?」 呆けたような声を上げる族長さん。 「一晩も立てば、さすがに気持ちの整理もつきますよ。 これ以上ぼくがここにいる理由もないし、いていい理由もありません……そうでしょ?」 ぼくは一度だけため息をつき、族長さんの顔を軽く見据えながらこう言った。 「一晩泊めていただいて本当にありがとうございました。ぼくはもうこの森を出ます」 394 :3/13 ◆8z/U87HgHc :2007/12/17(月) 19 44 43 ID ??? 「なっ」 まるで恐れていた事が起きたかのように、族長さんは目を見開きおろおろと唇を震わせる。 ……ジュカインの件について、族長さんは自分自身に負い目を持っているつもりでいるんだろう。 でも、結果的にこうなってしまったのはいわば運命のいたずらのようなもの。族長さんが負い目をもつ必要がどこにあるだろうか。 「族長さん……何も気にする必要は無いですよ。あなたは何も悪くないんだから」 再び笑顔を作り族長さんをなだめる様にそう言うと、族長さんは眉尻を下げ、 ぼくの言ったことを全く無視して、罪悪感に満ちた声で、こう答えた。 「……すまぬ。わしにはどうする事も出来なかったのだ……」 「……!!」 ……まだ罪悪感が抜け切れていないような族長さんの態度に、腹が立ってくる。 あなたがどう負い目に持とうが、何も変わらないっていうのに。 あなた自身は何の損もないどころか、得してばっかの癖に。 族長さんは、自分は何ともないという余裕を持て余してぼくを憐れんでいるんだ。 ある意味、ぼくは族長さんに『見下されている』んだ。 ぼくは気がつけば笑顔が消えていた。 『だから……言ったでしょ。族長さんは何も気にする必要はないって。 そうやって変に負い目に持たれるとね……後味が悪くって、胸クソ悪くって、ホント困るんですよねっ!』 ……ふと、そんな言葉が咄嗟に喉から出掛かるが、ぼくは何とかそれを喉の内にとどめる。 ……ぼくは何を怒っているんだ。 怒って八つ当たりなんて、浅ましくて、みっともない。ぼくは軽い自己嫌悪に陥った。 395 :4/13 ◆8z/U87HgHc :2007/12/17(月) 19 48 50 ID ??? 「ふああ~~あぁぁ……朝だぁァ~~……」 ふと、間延びしたフライゴンの声が聞こえてくる。フライゴンが目を覚ましたんだ。 ぼくはフライゴンの方へ視線を移し、歩み寄り声をかけた。 「おはよう、フライゴン」 「ふにゃ……んあ、おはようございまぁ~~す……」 まだ半分眠りについているかのような、ボケた返事の仕方だ。 フライゴンはそのまましばらく、むにゃむにゃとまどろんだ顔のままホケーっとぼくを見つめていたが、 いきなり目が覚めたかのように目を見開くと、声を荒げてぼくに突っかかって来た、 「コ、コウイチくん!! きょっ、今日はそのっ、あのっ、ジュカインのっ、そのォっ……!」 フライゴンは寝起きで頭が上手く回らないのか、しどろもどろになっている。 ……何を言いたいかは大体察しがつく。ぼくはゆっくりと答えた。 「ジュカインの事はもう諦めることに決めたよ。さぁ、森を出ようかフライゴン」 「えっ」 フライゴンの顔が一瞬固まる――が、すぐにハッと目を見開き、大声でぼくに突っかかってきた。 「ちょちょっ、ちょっと待ってくださいよォっ!! 昨日の晩……まだ諦めないって言ってませんでしたっ!?」 確かに言った。言ったけれど…… ぼくは下を向き、そのままフライゴンに向けて言う。 「昨日は昨日、一晩たって考えが変わったのさ ぼくがこのまま執着していたら、ジュカインは迷惑だろうし、それに…… ジュカインから非難されるのが辛いんだ。彼に記憶が無いことは分かっていても、 あの声とあの姿で非難されるのは……辛いんだ」 「ええっ、そんな……」 昨晩、寝る直前の時のぼくは何かおかしかったんだ。 衝撃ばかりで頭が対応できなくて、自分のことしか考えられなかった。 でも、一晩経った今は違う。人間は寝てる間に頭の中が整理されるっていうしね。 今のぼくは冷静だ。辛いことだって……冷静に受け止められる。 「……ん……」 フライゴンは、少し悲しそうに俯く。 ぼくは、慰めるようにフライゴンの緑色の頭をゆっくりと撫でてあげた。 ……ふと顔を上げると、ぼくの視線の先に彼が……ジュカインがいた。 396 :5/14 ◆8z/U87HgHc :2007/12/17(月) 19 51 31 ID ??? 「おい、ちょっと待ってくれっ」 ジュカインは何故だか少し焦ったような顔つきで、ぼく達の元へ駆け寄ってくる。 そして、全く予想外な言葉をぼくに投げかけてきた。 「お前ら、帰るのか? この森から出るのか?」 「……?」 思わず、ぼくはキョトンと顔を困惑に呆けさせてしまう。 ……何のつもりだろう? 『このジュカイン』はこの期に及んで、何を言いたいっていうのか。 またぼくを、虚仮にするつもりなんだろうか……? ぼくはジュカインの顔を見据えながら、静かにこう言った。 「……ねぇ、森から出ろって言ったのは誰……? きみでしょ……? 今さら何のつもりかなぁ……また、ぼく達を虚仮にするつもり……?」 ……図らずも、冷静な口調の中に若干苛立ちや怒りが入り混じってしまう。 「…………!」 ジュカインは何故だかそのぼくの発言に、唇を結び黙りこくってしまう。 ……まるでショックを受けているよう……だけど、どうせぼくの気のせいだ。 398 :6/14 ◆8z/U87HgHc :2007/12/17(月) 19 56 47 ID ??? 「オ、オレは……」 それだけ言うと、ジュカインは何か言いたげに口元をモゴモゴさせながら俯いてしまう。 昨晩の威勢がまるで感じられない。まさに一晩の内に別人になってしまったかのように…… ……別人? ――まさかっ ある一つの推測が浮かぶと同時に、鼓動が波打ち、景色が変わったかのような錯覚を覚える。 この一晩に何かがあって……ジュカインの記憶が戻ったっ……? そこまで都合のいい事があるものか――とは思っても、ジュカインのこの態度の急変には期待せずにはいられない。 ……そうだ。もしかしたら……もしかしたらだ……! 風の音がよく聞こえる。期待感の入り混じった緊張感が、ぼくの胸のうちに充満し始める。 ……沈黙。何とも言い難い、『妙な沈黙』。『変な沈黙』。 ……何だ、この沈黙は? なんで黙っている。なんで何も喋ろうとしないんだよ、ジュカイン……! 数分後苛付くような沈黙を経て、ようやくジュカインが顔を上げた。 ……次の瞬間ジュカインがぼくに言った言葉で、ぼくの期待は粉みじんに打ち砕かれた。 「……じゃあな、コウイチ」 399 :7/14 ◆8z/U87HgHc :2007/12/17(月) 20 01 34 ID ??? 「!?」 ジュカインのその一言を聞いた時、ぼくは『耳を疑った』。 理解は遅れてやってきて、その瞬間先ほどまであった胸の内の期待感は一瞬にして虚無感へと変わった。 音が、匂いが、その瞬間だけぼくだけから消え去る。 時が止まったかのような沈黙が、ぼくだけを包み込んだ。 ……この感情……これは、ただ『期待を裏切られたから』……だけではない。 こんな結果……『考えてもいなかった』。 『コウイチ』。 ジュカインはぼくのことをそう呼んだ。ぼくを名前で呼んだんだ。 ……昨晩、ぼくは一度も『自分の名前をジュカインに教えてない』…… そう、ぼくの名前を『このジュカイン』は『知らないはず』なのに……ぼくの名前を呼んだっ!! そして『そのうえで』っ! そのうえで……ジュカインは『じゃあな』とっ!! 『じゃあな』と言ったっ!! 崖っぷちに立たされていた気分が、いまや崖の下に思い切り突き落とされた気分だ。 これ以上ないというぐらいに、思いっきり…… 「……くくくっ、はは、あははは」 ある意味スガスガしい気分に、ぼくは思わず乾いた笑い声を上げてしまう。 何て馬鹿だったんだ、ぼくは。 ……『記憶喪失』? 『記憶が戻れば』? 昨晩ぼくが喋った言葉の一つ一つ、考えた事柄の一つ一つ、全てが『恥』に変わる。 まるで『ピエロ』じゃないか、これじゃあ。ぼくは、『自惚れもいいとこ』なピエロだったんじゃないか。 木々が、ぼくを見下している。微かに漏れる木漏れ日が、嘲るようにぼくを照らし続けている。 頭が麻痺してゆく。何だか、もうこの件については何もかもがどうでもよくなってきた。 ……ふと、フライゴンがぼくの肩を叩き呼び止めた。 400 :8/14 ◆8z/U87HgHc :2007/12/17(月) 20 05 09 ID ??? 「あのっ、コウイチくん……ボク、その、トイレに行きたいんですけど……ちょっと、いいですか?」 「へ?」 フライゴンの少々間抜けな発言に、思わずぼくはつい呆けた声を上げてしまう。 「ああ、うん……いいけど……でも、する場所とかは、ちゃんと族長さんに聞いてから行ってね」 「はい、ありがとうございます」 平静を取り戻し返事を返すと、フライゴンはぼくにそう一礼しからすぐ近くの族長さんの元へ駆け寄っていった。 「あのう、ここってトイレしていい場所ありますかねー、族長さん……」 「ああ、あるが……ここからは少し遠い場所だから、わしが案内するぞ」 「案内……あ、いや、別にいいですよー、族長さんは案内してくれなくても……」 族長さんは、フライゴンのその一言に疑問めいた表情を浮かべた。 「ん? でも、案内しないと場所分からないだろう。そこら辺にされちゃあ困るぞっ」 「あいや、そういう意味じゃなくてですねー……」 フライゴンはどこか曰くありげに目を細めニッと笑みを浮かべると、不意にジュカインの方を指差し元気にこう言った。 「ジュカインが案内してくれるらしいですからっ!」 「え、オレ?」 「そう、お前っ」 フライゴンはニコ~っと芝居めいた笑みを浮かべながらジュカインに近づき、その腕をギュッと掴む。 「ま、待てよォ、オレ案内するなんて言った覚えないぞ!」 「るっさいなー、そんな細かいこと気にしないで、さぁ行くよ!!」 「おい、ちょ……」 半ば強引に、フライゴンはジュカインの腕を引っ張って森の奥へ消えてしまった。 ぼくも、族長さん達も、唖然とした表情のまま固まってしまう。 ……トイレなんて、嘘だろう。フライゴンは、ジュカインと二人きりで何かを話すために、遠くに離れたんだ。 それで、何を話すつもりだって言うんだろう? 何を言っても、恐らく無駄だというのに。 そう、『記憶』なんてそもそも関係なかったのだから。そう、ジュカインは『はじめから』……『はじめから』…… 402 :9/14ちょっち修正 ◆8z/U87HgHc :2007/12/17(月) 20 09 18 ID ??? ―――― 「おい、何なんだよォ!!」 フライゴンは、まだジュカインの腕を引っ張り森の奥へと突き進んでいた。 やがて他の者の姿も見えなくなり、声も聞こえなくなる。 フライゴンはそれを確認するとジュカインの腕を離し、真剣な顔つきで向き合った。 「な、なんだよ……」 フライゴンの表情の真剣さに、ジュカインは声を吃らせる。 フライゴンは数秒ジュカインを見つめた後、責め立てるような口調でこう言った。 「おまえ、記憶戻っているんだろっ!?」 「えっ」 ジュカインの表情が真顔のまま凍りついた。 「お前、さっき言ったよね……『じゃあな、コウイチ』って! コウイチくんの名前を、お前は呼んだんだ! ボク達は、その名前をお前の近くでは一切口にしていない! お前は、『コウイチ』という名前を知らないはずなのに、知っていた! ……記憶が戻っているんだろう、正直に言え!」 「うっ……」 ジュカインは見透かされたような言葉に動揺し、しばらく表情を固まらせ押し黙っていたが、 躊躇う様子はあまり見せず、むしろ何処か期待していたかのような調子でこう答えた。 「そうさ、記憶は……戻ったよ」 403 :10/14 ◆8z/U87HgHc :2007/12/17(月) 20 11 33 ID ??? 「やっぱり……!」 フライゴンの顔つきが、一気に引き締まる。 しかしそうかと思えば急に淋しげな表情へと変わり、ふと俯いてしまった。 フライゴンはそのまま上目遣い気味にジュカインを見つめて、静かにこう言った。 「……じゃあさ、何でコウイチくんに『じゃあな』なんて言ったのさ?」 「…………」 ジュカインは返答を躊躇い、目を伏せたまま動かない。 そのジュカインの態度に、フライゴンはもどかしげな表情を強めていく。 「ねえってば、答えてよジュカイン。どうして記憶が戻ったってのに、コウイチくんを突き放したんだよ。 記憶が戻ったってんならそれをコウイチくんに報告してさ、そのままボク達の元にもどればいい話じゃあないか!」 「……言えなかったんだよ」 ふと、ジュカインが俯いたままボソリとそう呟いた。 「え?」 「俺だって最初は……今朝まではそうしようと思っていたさ。 だが、そんなんで簡単に『溝』が埋められるわけがない…… さっきコウイチと話した時、ひしひしと感じたんだ。オレがアイツにつけてしまった心の傷の深さ……!」 拳を強く握り締め、怒りを多分に含ませた口調で、ジュカインは独り言のように小声でそう喋り続ける。 その怒りは、自分自身……ジュカイン自身のみに向けられているものだった。 「そう、記憶は戻った。だが、断じて記憶が『入れ替わった』ってわけじゃない…… オレがコウイチに吐いた暴言の数々、それを受けたコウイチの反応、表情、全てオレは鮮明に覚えちまっているんだ……!」 404 :11/14 ◆8z/U87HgHc :2007/12/17(月) 20 13 44 ID ??? 「……だからこそ、思うんだ。 オレはこのまま『何事もなかったかのように』コウイチの元に戻っていいのか? 全てを謝罪し戻ったとして、コウイチは今までのようにオレに接してくれるのか? 今までのようにオレに対して『馴れ馴れしくしてくれるのか』? ……ってな」 フライゴンは真面目な顔でその独白を聞き続けていたが、 最後の一節を聞くと同時に、疑問めいた表情を浮かべた。 「お……お前、馴れ馴れしくされるのは嫌いなんじゃあないのか?」 まだ目を伏せたままのジュカインに向かって咄嗟にフライゴンがそう問うと、 ジュカインは顔を上げ、少しだけ目を逸らしてこう答えた。 「……違う……その、逆だ。」 「え?」 「…………」 照れくささからかジュカインはその事はそれ以上は説明せず、話を続けた。 「……とにかく、そういう事さ。こんなオレが戻っても、雰囲気が悪くなるだけだろう? だから……そう、『お前らのためにも』オレは戻るわけにはいかねーんだ……」 そこまで言うとジュカインは再び俯き、感情を押し殺すように歯を食いしばりだした。 数秒のみの沈黙の後に、ふとフライゴンが静かな口調でこう言った。 「ジュカインってば、いっつも強がってるくせに……本当はこんなデリケートさんなんだね。 でもサ、正直おまえ気にしすぎというか……何かちょっと間違ってると思うんだけど?」 405 :12/14 ◆8z/U87HgHc :2007/12/17(月) 20 16 38 ID ??? 「なに?」 顔を上げ、フライゴンを見やるジュカイン。 フライゴンはどこか呆れた風なため息をつきながら、諭すように言う。 「お前がコウイチくんの元に戻るか、戻らないか。どっちがよりコウイチくんにとって辛いか……分からないかなあ? 興奮してないで冷静に考えてみなって。コウイチくんにとって、お前自身にとって、何がベストなのかを」 言い終えてから、フライゴンはジュカインの目をじっと見つめだした。 どこか責め立てるような眼差しから逃げるように、ジュカインは再び目を逸らす。 「……ふう」 フライゴンは一度浅くため息をつくと、おどけるように両手を軽く上げながら、冗談めいた口調で喋り始めた。 「じゃあさ、コウイチくんと一緒にいた時期が一番多くて、一番コウイチくんの事を分かっているこのボクの…… ……もしかしたら一心同体~っ!? ってなくらいコウイチくんを理解していますなこのボクの意見を言わせてもらうとだね……」 フライゴンはそこまで言い終えると、上げていた両手をジュカインの肩にやり、 一転して真顔で相手を真っ直ぐに見据えながら、感情を色濃く込めた強い語調でこう言った。 「ジュカインが戻ってこない方が、よっぽどヤダよっ。戻ってきて欲しいよっ」 「……!!」 フライゴンはそのまま、しばらく真顔で相手を見つめ続けていたが、 ふと鼻で笑うと共に表情を崩し、雰囲気を緩和するように、ことさら抑揚を激しくさせて喋り始めた。 「ってかさー、どっちにせよ最低限コウイチくんとボクへの謝罪くらいはするべきでしょォーよ。 土下座くらいはしてくれなきゃさー。そう、『土下座穴掘り』くらいは……なぁーんちゃってネ、それは冗談っ」 フライゴンは軽く笑いかけてジュカインの肩を二、三度ポンポンと叩いた後、くるりと身を翻した。 「んじゃー、もうそろそろ10分くらい経つし……ボクは戻るとするかな。 ……お前はどうするの? ……戻ってきてくれるよね。信じているよ、ボクは」 言葉と同時に、元来た道を沿ってフライゴンは歩き出した。 そしてそのまま後ろ姿が見えなくなるまで、彼がジュカインの方を振り返る事はなかった。 406 :13/14 ◆8z/U87HgHc :2007/12/17(月) 20 20 00 ID ??? …… オレは…… 今まで、コウイチや仲間達にどれだけの幸せを与えてもらっただろう。 どれだけ慰めてもらっただろう。どれだけ心を癒してもらっただろう。 ……溢れるほどの感謝の気持ちを、なぜオレは腹の中に蓄え続けていたんだろう? 出さずに蓄えていたこの感謝の気持ちを、一片でもオレはコウイチに伝えてあげたことがあるか……? ……いや、ない。 言葉の壁という、越えられない壁もあった。が、それ以上に…… 身の程以上のプライドが、いつだってそれを邪魔していた。 自分自身嫌気が差すくらい、オレは素直じゃあないんだ。 ……そうだ。今、オレを邪魔しているのは、まさしくそのごくごく下らない感情だけだ。 さきほど、オレはフライゴンにこう言った。 『お前らのためにもオレはついていくわけにはいかない』と。 自分の心根を曝け出したつもりだったが、いま冷静に考えてみればまるでバカバカしい『建前』に過ぎなかった。 あの『お前らのためにも』という言葉は……『自分自身のための言い訳』に過ぎなかったのだ。 本当は『謝罪や感謝をするなんて恥ずかしい、プライドが許さない』と考えていただけだっていうのに、それを自覚しようともせず…… オレは『お前らのためにもついていくわけにはいかない』と言ってしまっていたのだ。 『コウイチへの感謝の気持ちは、そのコウイチのためにも溜め込んでおくべき』と考えてしまっていたのだ。 いわくプライドのためだけに、後々その自分自身まで後悔するであろう事も全くおかまいなしに、己をも騙していたのだ。 『感謝』……その感謝している相手の『ため』にも……? 感謝は伝えず溜め込んでおく『べき』……? バカがっ……! バカかオレは……考えれば考えるほど、ありえねぇじゃねえか…… そうだよ。いくら感謝してようが……いや、感謝していると『思って』ようが…… 伝えなけりゃっ……伝わらなけりゃ……一切感謝していないのと同義じゃあねえか、オレっ……! 408 :14/14 ◆8z/U87HgHc :2007/12/17(月) 20 27 29 ID ??? 記憶がなくなったときのことを謝罪し、そして、感謝の気持ちを伝えるんだ。 オレが、どれだけコウイチに色々な物を与えてもらったか、それでオレがどれだけコウイチに感謝しているか。 無駄なプライドのせいでもどかしいくらいに伝えられなかったオレの心根を全て伝え、そしてコウイチ達の元へ戻るんだ。 そうしなければ、オレはこの後『必ず』後悔することになる。 例え時間が経ち収まったとしても、持病の如く定期的に再発しオレを苦しめ続けるであろう、最悪の『後悔』が。 感謝の気持ちを伝えるのに必要なのは、その最悪の後悔に微塵も満たぬほどの『一時的な後悔』……つまりは、『勇気』のみだ。 ……『コウイチにとって』、そして『自分自身にとっても』……どちらがベストかは、冷静に考えてみれば明白だ。 そうだよ、考えるまでもなく、オレがどうすればいいかは決まっているじゃあねぇか! 幸い、まだ間に合うはずだ。まだ、手遅れじゃあないはずだ。 記憶がなくなっていた時のオレの無礼を謝り、そして伝えるんだ。 オレがどれだけコウイチに対して感謝しているかを……そう、今まで溜め込んでいたものを、全て伝えるんだっ! ……もちろんさっき散々考えたように、プライドというかオレのイメージは丸くずれになるし、 どんな反応が返ってくるかも、分からない。もしかしたら、冷たい反応を返されるかもしれない。 でも、ちょいと注射を刺されるようなものさ。一時的なことだ、何も問題はない。 注射刺されるのがイヤなんてサ、ガキの考えることだろォ? オレはリッパな大人だぜっ! …… ……怖い。 ……バカ、この程度のことで怖がるなよオレっ! それこそ、プライド丸つぶれだぜ。 …… …… …… ……時間が、経っていく。
https://w.atwiki.jp/nouryokukoukou3/pages/408.html
焼ける鉄の匂い、燃え盛る炎の匂い、埃の匂い、少なくとも良い匂いとは呼べない匂いと、鉄と鉄をぶつける金属音が辺りを占める地下室で、巨大な鎧のようなものに向かって数十人の男が作業をしている。 ある者は鉄を熱して、ある者は彫刻でも掘るように鉄の形を整え、ある者は胴体部と碗部つなぎ、ある者はワイヤーのような物を鎧の中でつなぐ。 よく見れば殆どの人間は一人の男の指示を受け、その男の手足のように動くだけ。 段々と出来上がってくるのは、鉄の巨人とも言える、”ゴーレム”と呼ばれるものだ。 ”ゴーレム”人が乗り込み、魔力を糧にして動く、ちょうど十年前に突然生み出された巨大な人型兵器。その存在はこれまでの戦いの常識を一気に覆した。 敵の近くを歩くだけで敵の部隊は陣形を崩し、訓練された剣技も、弓も、その文字通り鉄壁の装甲の前では無意味。唯一効果のある魔法も、唱える前に潰されては意味が無い。 つまり、このゴーレムはたった一機でそれまでの一個兵団をはるかに超える戦力なのだ。 今や十年前の戦場は旧世代の戦場と、魔術師は魔法使いとしての意味でなく、ゴーレムの搭乗者という意味として呼ばれ、ゴーレムの質、量がそのまま国の強さとなった。 もちろんゴーレムにもデメリットはあるが、 この力にくれべればそれはとても小さいものだった。 指示されたことを終えたのか、手足達が指示を出した少年のもとへ集まっていく。 髪は手入れされていなくぼさぼさで、服装も薄い布の上にところどころ焦げの着いた上着を羽織って腰に小さな鞄をいくつもぶら下げているだけ、とだらしなくてくたびれた雰囲気を出している。しかし顔つきは年相応の若々しいもので、くたびれたりはしていない。そんな容貌の男だ。 そいつが一言つぶやいた。 「終わったぞ。お疲れ様。」 特に感情の篭もっていない、事務的な声だ。 その声を聞きつけて、一人の男が地下室へ降りてきた。肥満、とまでは行かなくとも少し丸っこいシルエットをした中年だ。 中年は、地下室の中心でたたずむ、巨大な鉄の鎧を上から下まで眺めて、口を開く 「ふむ、いいだろう。君は期待通りの働きをしてくれた。感謝しよう。」 台詞を言い終わると、中年は報酬だ、と言って少年に鞄を投げた。 鞄は中々重いもので、少年は少しよろめきながらも鞄を受取った。 中身を確認すれば、ざっと数十枚の金貨と、淡い光を放つ魔力の篭もった魔石がいくつか。 「確かに受取った。」 そんな素っ気の無い台詞をまた事務的な声で告げ、その場に居た全員に背中を向けて中年が現れた地上への階段へ歩き出す。 少年の一歩目の足音と同時に、中年がなにやらつぶやき始めた。 つぶやく声は聖書でも朗読するかのように、ただのつぶやき声とは違う何かを纏っていた。 「詠唱か。やっぱりかクソが!」 中年の声が少年の声に届き、少年は勢い良く中年の方へ向き直る。 その刹那、中年の指より放たれた炎の矢が少年の頬を焦がした。 「余裕のないこの国が、お前のような不安因子を消したがるのは当たり前。流石に予想していたか・・・」 中年は残念そうに、ため息と共にその台詞を吐き出した 少年は”鍛冶師”と呼ばれる、ゴーレムのメカニックを生業としている。 しかし少年はどこかの国に属することなく、傭兵のように様々な国で鍛冶師の仕事を行ってきた。 ゴーレムが国にとって非常に重要な位置に存在するこの世界において、何時自国の技術を他国に流すかわからないこの少年は国にとって消したくなるのも無理は無いのだ。 「生憎、何度もそういう目には会って来たんだ。慣れてるんでね」 少年は不適に笑うが、内心殆ど余裕がなかった。 今まで少年は大きな国で仕事をしたことはなく、こういう目に会ったとしても兵達が烏合の衆であったりして、なんとか自分の力で逃げられた。それに、最近では自分の名もそこそこ売れてきて、命をねらわれることは殆ど無かった。 だが、今回は話が違う。この国、”エリス”はこの世界で最も強いといわれている国で、兵の質が今まで行った国とは段違いだ。 そして、この国は中年が言った通り余裕がない。本気で殺しに来るだろう。 「我らに火を与えし者よ。我ら、再び契約を交わす」 また中年が詠唱を始める。今度は遠慮することなく大きな声での詠唱だ。詠唱するときの声が大きいほど魔法の威力は高まるのだ。 中年が詠唱している隙に、少年は鞄から魔石を、腰の鞄から泥団子のようなものを取り出し、 「ぶちまけろッ!」 それらを中年の足元へ向けて投げつけた。 中年の足元で衝突した石と泥団子が反応を起こし、泥団子が爆発。辺りに煙幕のように砂を撒き散らした。 「ぐっ・・・・・・ゲホッゴホッ 誰でも良い、追え!奴を逃がすな!」 撒き散らされた砂にむせて、詠唱が中断されてしまう。砂の幕が視界をさえぎり、中年の視界から少年が消える。叫んだときにはもう遅く、誰も少年を追うことは出来ていない。 視界がはれたころには、地下室にはどこにも少年の姿は無かった。 「クソッ・・・体力はついてるつもりだったんだがな」 あの巨大な鉄の鎧が入る地下室、そこから地上へ上がる階段は流石に長い。 息切れしながら階段を上り、やっと地上への扉へたどり着く。 走る勢いのまま、ドアノブを回して体当たりするような形で扉を開ける。 地下室から出たばかりの目には眩しい光と共に眼前に広がる光景は、剣を構えて鎧で身を固めた兵士が綺麗に隊列を組んで並んでいる。 観念しろとか、諦めろとか、そういう台詞を言うことも無い。兵士達はただ目の前の少年を殺せばいいだけなのだから。 「ここまでか・・・」 と、息切れに肩を震わせながら俯いて、諦めた台詞を言う。 しかし俯く際に一瞬見えた表情、それはとてもおびえている、ましてや命を覚悟した表情にも見えない。むしろ口の端が少しつりあがって、笑っているように見える。 兵士達が構えた剣を振り上げたその瞬間、鋭い金属音がその場に居た全員の耳を劈いた。 「な、何事だ!?」 兵士の一人が声を上げ、音のした方へ顔を向ける。見れば、一人の兵士が壁に叩きつけられていた。鎧の胴体部に大きなヒビが入っている。とてつもない力で鎧ごと吹き飛ばされたのだ。 兵士達に動揺が広がり、隊列が崩れていく。 各々が辺りを見回し、兵士を吹き飛ばした犯人を捜すが見つからない。 「・・・・上だ!」 兵士の一人が上を見上げて叫ぶが、もう遅い。 そこから先は一瞬の出来事だった。 その空中に居た何かが、着地と共に剣を兵士の頭に叩きつける。そこから少しも間を置かずに、周りに居た兵士を一気に凪ぎ払う。 兵士達が動揺して動けない間に、地面に、壁に兵士達を叩きつけていく。 兵士達が皆動かなくなるまで、僅か数十秒の事だった。 「予想以上だ。雇った甲斐があった。 結局この兵士達も雑兵だったが、十分だ」 俯いていた少年が、今度は紛れも無い笑みを浮かべて顔を上げる。 雇ったのはこの目の前の女性、ついさっき兵士達を一瞬で動けなくした女性のことだ。 美しい銀髪が腰まで伸びていて、氷のような冷たい、しかし美しい瞳をしている。体は普通よりは筋肉があるが、それほど筋肉質ではない。 瞳のせいか、氷の彫像のような冷たく美しい印象を受ける。とても先ほど兵士達を吹き飛ばしたとは思えない姿だ。 「おっと、話す暇もないか。もう追っ手が来てる。 質は結局雑兵だったくせに、数だけは流石大国だ。」 鎧がガシャガシャと鳴る音がどんどん近づいてきている。追っ手が来ていると言う事だろう。また鞄から泥団子と魔石を取り出して砂の幕を引いて出口へ走った。 コメントしていただけると参考になります 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/pokemon-dreamworld/pages/30.html
366 :1/7 ◆8z/U87HgHc :2007/12/13(木) 18 25 00 ID ??? 『それは植物の種……かの? そんなモノで何をするつもりだ?』 遥か遠くから響いてくるヨルノズクの声。 ジュカインはその問いを無言の笑みで返すとふと膝を折り、土を見つめだした。 そしておもむろに指を使い己の周りの土に浅い穴を開け、手の中の『宿木の種』をそこに植え始めたのだ。 『な……何をしているのだ……?』 何をしているか自体は見れば明らかだが、 今までの流れからのその行動のあまりの脈絡の無さに、思わずヨルノズクは疑問符を投げかけてしまう。 ジュカインは二度目の問いを受けるとまたもニッと笑みを浮かべる。 しかし今度はそれだけではなく、言葉も添えてヨルノズクへと返した。 「見て分からないか? 木を植えているんだ……」 言いながら、ジュカインは立ち上がる。ひとしきり種を自らの周りに植え終わった後のことだった。 当然のようなその答えに、ヨルノズクは徐々に苛立ちを募らせていく。 『その理由を聞いているのだ。まさか貴様、この期に及んでまだこのわしをおちょくっているつもりなのか!?』 怒りを押し殺したような震えた声で、ヨルノズクはそう叫ぶ。 その問いに対してジュカインは……『勿論さ』とでも言わんばかりに、満面の笑顔で返した。 『貴様っ!!』 およそ身の程をわきまえず挑発を続けるジュカインに対して、ヨルノズクの堪忍袋の緒が引きちぎられる。 ヨルノズクは羽休めを終え、木の間をスラロームしながらジュカイン目掛けて突っかけた。 「!」 ヨルノズクの飛来を感じ取り、ジュカインは避けようと身を捻る。 しかし目にも留まらぬ敵の攻撃を避けられるはずも無く、ジュカインの体はまたもヨルノズクによって薄く切り裂かれた。 うめき声を後に、ヨルノズクは勢いのままにジュカインの傍らを通り過ぎていく。 勢いの落ちた数十メートル先でヨルノズクはUターンをし、再びジュカイン目掛けて突っかけた。 『ほほっ、ジワジワいたぶってやるぞォ!! 今宵は貴様の苦しむ顔を肴に句三昧といくかのっ!! ……む?』 ヨルノズクは、ジュカインがその両の手にまた何かを持っているのに気がついた。 367 :2/7 ◆8z/U87HgHc :2007/12/13(木) 18 34 16 ID ??? ジュカインが持っているのは、木の実ほどの大きさの黄色い種。それを両手いっぱいに持っている。 おそらく、先程まで彼自身の背中についていたものであろう。 ……この戦法を破るために使うのか、それとも、また挑発を仕掛けるためだけに使うのか? ヨルノズクの脳内にふと浮かぶ二択。彼が結論付けたのは後者だった。 『性懲りも無くまた無駄な挑発をするつもりかッ!!』 気にせずヨルノズクはジュカインに突っ込み、すれ違いざまに翼で肩の肉を抉り取る。 「ぐぁっ!!」 鋭い痛みに顔を歪め、呻き声を上げるジュカイン。 同時に、攻撃された反動からか、彼の手の中にあった複数の黄色い種が高く宙を舞った。 『ほほっ、早くも手放してしまったか……何に使おうとしていたかは分からぬが、残念だったのォッ……!』 首だけを後ろに向けジュカインの様子を見ながら、勝ち誇り皮肉めいた言葉を投げつけるヨルノズク。 ……その皮肉めいた言葉を投げつけた瞬間、ヨルノズクはふとつい先程のことを思い出す。 勝ち誇り油断したことにより警戒心をなくし、不意を打たれ一撃を浴びてしまったことを。 そうだ、油断は禁物。警戒は常に怠ってはならない。 ヨルノズクは数十メートル先でUターンすると同時に、今度は真っ直ぐにジュカインを見据えながら勝ちを確信した言葉を投げつけた。 『もはや貴様に打つ手はないだろうが、これ以上遊んでいては足元を掬われかねん……次で終わりだッ!!』 ヨルノズクは嘴を真っ直ぐに突き出し、体自身を一本の槍のようにさせてジュカインへ突っ込んでいく。 狙いはジュカインの体の中心。言葉通り、次の一撃で終わらせる気なのだ。 「くっ……はぁ、はぁ……!」 ジュカインは未だ顔を痛みに歪めたまま、顔を上げ…… ――全てを見透かしていたかのように、笑みを浮かべた。 「違うねッ! その『逆』だッ!!」 368 :3/7 ◆8z/U87HgHc :2007/12/13(木) 18 37 53 ID ??? (全てが――) ジュカインは両腕を、『リーフブレード』を、頭上で交差させる。 (筋書き通り――) 宙を舞っていた幾つもの黄色い種が全て切り裂かれ、 その中から漏れ出た淡黄色の液体が、ジュカイン及びその周辺にシャワーのように降り注いだ。 地面に落ちたその液体は、地中へじわじわと染み込んでいく。 『何をしている……!?』 ヨルノズクはその光景に多少の動揺を見せるが、それでもスピードを落とす事は無い。 もっとも、もはや容易にスピードを落とすことは出来ない程に体に勢いがついてしまっていたから、というのもあるが。 『さァ死ねッ!!』 最後の一撃が、音もなく急速なスピードでジュカインへ迫っていく。 常人の目では、間近まで来るまで反応も出来ぬ程の驚異的なスピードで―― ジュカインがその最後の一撃に体を反応させたのは、ヨルノズクがまさしく目の前まで迫ってきてからのことだった。 無論、迎え撃つことも避けることも出来るわけもなく…… そう、ジュカイン自身は、全く何もすることは出来なかったが…… ヨルノズクの最後の一撃はジュカインには届かず、彼の僅か手前でその動きを止めていた。 「げ……げぼァァーーっ!?」 そして同時に、ヨルノズクの呻き声が森中に響き渡った。 370 :4/7 ◆8z/U87HgHc :2007/12/13(木) 18 41 14 ID ??? 「な……なぜだァッ!! この痛み……なぜ……『下』から……!?」 口から血を撒き散らしながら、驚愕の表情で己の体を見つめるヨルノズク。 細長く、先端が鋭く尖っている何本もの『棒』が、下からヨルノズクの体を貫いていた。 その『棒』は根元で幾つか枝分かれしており、そしてジュカインの周辺の地中から満遍なく……生えている。 ヨルノズクの脳内に、理解と同時に衝撃が走った。 「まさかこの棒は……ガボッ、『枝』ッ!? ということは、これは先ほど貴様が植えていた『宿木』かッ!? 」 「カッハハ、いかにも……だぜっ」 宿木の林の中心に立つジュカインは、少し苦しそうにしながらも勝ち誇ったような笑みを浮かべた。 「バ、バカなァッ!! 木が……木が、一瞬でこれだけ成長するわけがァッ、ガボッ、ゲホォッ!! あるッ、あるワケッ、ボゲボゲボゲゲ」 ヨルノズクは今の事態に到底納得出来ず、口から血が漏れ出るのもまるでお構いなしに叫び続ける。 そしてジュカインは、『それが聞きたかった』とでも言う風に、声を弾ませながら応えた。 「ケケケッ、耄碌過ぎてる割に視野が狭いヤツめっ!! 見ての通り、有り得るんだよ。条件さえ揃えばなっ!!」 「これ以上ないという程に良質な、この森の土!! 栄養を無尽蔵に吸収し、急激なスピードで成長する宿木の種!! そして、植物を成長させる栄養が超高密度に濃縮された、このオレの種!! この三つが揃えば、有り得るわけさ。この『宿木』の超急激な成長もなっ!!」 「まっ、本当はこの『宿木のバリケード』にお前が頭から突っ込んで引っかかってくれればいい、程度に思ってたが…… こんなピッタリぶっ刺さってくれるとは、なかなかの悪運の持ち主だねヨルノズクさんっ! クケケッ」 「ぐ、ぐう~~~ぐうう~~~~!!」 371 :5/7 ◆8z/U87HgHc :2007/12/13(木) 18 44 30 ID ??? 「ぐっ……まだ、まだだ……!」 「!」 瞬間ヨルノズクの眉が青白く光ったと思うと、彼の体が徐々に浮き上がっていった。 己を貫いていた枝から体が離れるまで浮き上がると、眉の発光が収まり、糸が切れたように横なりに地面に落ちた。 「がはっ! げほっ、げほぉっ……」 体が地面に叩きつけられた衝撃で嗚咽を漏らし血を吐きながらも、ヨルノズクは強い目つきでジュカインを睨み付ける。 ジュカインは木の枝を掻き分け、倒れているヨルノズクの前に立った。 「カハハッ、いくらお前がタフとはいえ、そのダメージじゃもはや立ち上がるのも無理だぜ!」 ジュカインは文字通りヨルノズクを見下しながら、勝ちを確信した発言を繰り出した。 「ぐぅ……ぐぅ~~~」 顔をしわくちゃに歪め、隙間風のような唸り声を上げるヨルノズク。 彼の脳内には、痛みと屈辱と焦りがぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。 (バカな……バカなっ!! このわしが、こんなヤツに、こんなァ……!! ちくしょう、句をっ、句をっ……! もっと句がっ、もっと句があれば…… なぜだっ、句がっ、句が思い浮かばぬゥ~~~~句がっ、句がっ、句句句句句句句) 「そういえば、お前……句を作るのが好きだったっけか?」 ふと、ヨルノズクのぐちゃぐちゃの思考の中に、ジュカインの声が割り込んでくる。 「な……なに?」 一瞬呆けた顔を浮かべるヨルノズクに、ジュカインは不敵な笑みで返すと同時にこう言った。 「作ってみせろよ。『辞世の句』とやらをよ……ククッ」 なおも相手の怒りと屈辱を煽るようなジュカインの発言。 「ぐぅ……ぐうぅ~~~~~ッ!!(だからその『句』が思い浮かばねェんだよクソがァ~~~~~ッ!!)」 ヨルノズクはこれ以上ないという程に顔に皺を寄せ、獣のような唸り声を一層強めた。 372 :6/7 ◆8z/U87HgHc :2007/12/13(木) 18 48 02 ID ??? 「いやァ……作れるわけがないかっ」 ジュカインがふと、呟くようにそう漏らす。 一つ小さいため息をはさんでから、彼は嘲笑を交えた口調でヨルノズクへ向けてこう言った。 「相手の苦しむ顔を見るとか……絶望する顔を見るとか…… 『そんなモノ』に頼らなきゃロクな句を作れない、いや、作ろうともしないようなお前が、 こんな土壇場で句なんか作れるわきゃないよな……カハハッ」 ヨルノズクは大きく目を見開いた。 「き、きさ……きさ……!!」 自分自身認めようとしていなかった己の本質を見透かされた発言。 それはヨルノズクにとって、今までのどの挑発よりも屈辱的であった事は彼の表情と口調からも歴然である。 そしてそれをジュカインは察し、更にダメ押しの如くこう言い放った。 「ジャジャ~ン、これぞまさに予感的中っ! カハハハッ!」 「……!」 勝ちを確信した余裕なのか、これまでに受けた傷や危機の仕返しとばかりに、 ジュカインは重ね重ね相手を虚仮にし、相手の怒りと屈辱を煽る発言を繰り返していく。 そして、遂にヨルノズクの怒りは頂点を迎え、全身の痛みすらも超越するに至った。 「貴様……ガボッ、貴様ァ……殺すっ、殺すッ!!」 ヨルノズクが、全身の傷口から血を漏れ出させよろめきながらも、立ち上がったのだ。 それにはさすがのジュカインも驚き、表情を引き締め構えを取る。 ヨルノズクの赤く光る眼ははっきりとジュカインを捕らえ、そして一層強く光りだした。 「ぶち殺す……殺してやるぞっ、このクサレがァーーッ!!!」 ヨルノズクは、血でガラガラの喉を震わせ怒号を上げながら、最後の力を振り絞りジュカイン目掛けて突っかけた。 しかしそのスピードは、ダメージのためか先程と比べると遥かに遅く…… ……次の瞬間にはジュカインのリーフブレードに切り裂かれ、悲鳴と共に床に突っ伏していた。 「残念、字余りっ」 倒れたヨルノズクへ向けて吐き捨てるようにそう呟き、舌を出すジュカイン。 如何にタフなヨルノズクと言えど、もはや立ち上がることはなかった。 373 :7/7 ◆8z/U87HgHc :2007/12/13(木) 18 50 34 ID ??? 「はぁ、はぁ……」 細かく肩息をつきながら、ジュカインは倒れたヨルノズクを見下ろす。 もはや立ち上がらないことを確認すると、細かい肩息は大きい一つのため息と変わり、 それと同時に勢いよく地面に座り込んだ。 「はぁーっ! 危なかったぜ……やられるかとも思ったが……」 ジュカインはヨルノズクと対峙していた時にはおくびも出さなかった弱気な発言をしながら、 目を横にやり、倒れ込みピクリとも動かないヨルノズクを覗き込んだ。 「みんなが起きてこれ見たら、ビックリするな……森の奥にでも埋めてくっかな。ケケケッ……」 満足げではあるがどこか力ない笑い声を上げながらジュカインは立ち上がり、 そのまま先程ヨルノズクが捕らえようとしていた人間の少年の元へ歩み寄っていった。 「……」 少年の寝ている網の前に立つジュカイン。 ジュカインは少年の顔へ手を伸ばし、眉の下ほどまで伸びている彼の前髪をかき上げ、その寝顔を覗き見た。 少年の寝顔は、ヨルノズクの夢食いの支配から逃れたにも関わらず、依然として苦渋に満ちている。 「……『コウイチ』……」 淋しげな目つきで少年の寝顔を見つめながら、その少年の名を呟くジュカイン。 ジュカインはそのまましばらくコウイチの顔をじっと見つめ続けていたと思うと、ふと空を見上げた。 枝葉の隙間から覗く空は、未だに深いねずみ色に染まっている。 「こりゃあもう一眠り、だな……」 ジュカインはため息混じりにそう呟き、再び視線をコウイチの顔へと戻した。 次第にジュカインの淋しげな目つきは、ある種の何かの決意の色に染まっていく。 「大丈夫だぞ、コウイチ。明日の朝、オレは必ずお前に精一杯の謝罪をし、そしてお前の元に戻るっ。 そうさ、何事もなかったかのように……『何事もなかったかのように』……ごめん、ごめんな、コウイチっ」 拳を握り締め、己にも言い聞かせるようにジュカインは言葉を震わせそう呟く。 早く目の前の少年を苦しみから解放させてやりたいのに、彼が目覚めるまでは有り余るほどの時間がある。 胸の内がもどかしく、歯がゆい。それを誤魔化すように、ジュカインはひたすら呟き続けた。 「必ず……必ずだっ」 「『必ず』……」
https://w.atwiki.jp/pokemon-dreamworld/pages/51.html
『シンクロ』 277 :シンクロ ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 18 35 28 ID ??? 屋敷のお手洗いにて。 ぼくはもうすっかりお手洗いでの用は済ませたし、 早くフライゴンの元へと帰りたいのだけれど…… 「そいでよォーー、オイラは日々超能力の特訓してるわけサっ! いつかパパの仇の魔王軍をぶっ潰すためによっ!」 「へ、へェ~~~……」 目を瞑って身ぶり手ぶりを大きく交えながら、 興奮気味に……というか自慢げに語り続けるマネネ坊や。 その言葉の一つ一つにぼくは一々相槌を打っているわけだけれど、 なんだかもう……この子に付き合うのは疲れてきたよ。 お手洗いでマネネ坊やと偶然出会ってから、 何やかんやで、ぼくはマネネ坊やと親しくなってしまっていた。 ……いや、何ていうかあっちから一方的に話しかけてきてるだけで、 親しくなりたくてなったわけじゃないんだけどね。 前にも言ったけど、ぼく、こういう子って嫌いだし…… だけども、嫌いだからって突っぱねるわけにはいかない。こまったこまった。 「なァ~~聞いてるかよォ、コウイチぃ」 「へっ? あぁ、うんうん」 マネネ坊やはむくれたように口を尖らせながら、ぼくの頬をぺちぺち叩く。 「せっかくオイラの友達にしてやったんだからさァ~~、 そんな適当な態度ばっか取るなよォ~~……あっ、そォそォ!」 マネネ坊やは何かを思い出したように手の平をポンと叩くと、 ぼくへとこんな提案を投げかけてきた。 「おまえ確か、あのジュカインってヤツの取り巻きだったんだっけな! おまえからさァ、アイツに直々に言ってやってくんないかな? 『もうマネネには関わるな』ってサ…… なっ、いいだろォー?」 「え、ええ……?」 278 :シンクロ ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 18 39 29 ID ??? さっそく自分勝手なお願いがやって来て、ぼくは戸惑ってしまう。 そのジュカインに色々絡まれるのだって、他ならぬ自分の責任のクセにぃ…… でも断ると、どーせぷんぷんと怒りだすんだろうなぁ。こまったこまった。 「ねぇ、そういえばマネネくんに聞きたいことがあったんだけどさぁ……」 「ん? なんだよ」 マネネの提案を受け入れるわけにも断るわけにもいかないし、 とりあえずぼくは、一旦話を逸らしてみることにした。 「その、さ。マネネくんって、色んな人に対してイタズラとかして回ってるそうじゃない? ジュカインもその被害者だし……なんでそうやってイタズラとかするのかなーって思ってさ」 どーせ『やりたいからやってんだよ』的な返答が来るのを分かっていながらも、ぼくはそう尋ねてみた。 「……」 すると、ふとマネネ坊やの表情が曇り始める。 そして一度ため息をついたと思うと、気だるげにこう答えた。 「大人はイタズラされてとーぜん……ナメられてとーぜんなんだよ」 「えっ」 少々回り道な返答にぼくは意表を突かれ、声を上げてしまう。 ちょっとした訳がありそうだ。少しばかり好奇心が芽生えてきて、ぼくは続けてこう質問する。 「ナメられて当然ってどういうこと? マネネくんはなんでそう思うの?」 その質問に、マネネ坊やは億劫そうにしながらこう答える。 「旅行先で、オイラのパパが魔王軍に連れ去られたってのはさっき言っただろ」 「ん、うん……」 マネネ坊やはうろうろと辺りをうろつき始めると、思い出すように当時のことを語り始めた。 「旅行中に、街中でいきなりたくさんの魔王軍に襲われてさ。 パパは頑張って魔王軍と戦ってオイラを守ってくれてたんだけど……」 そこでマネネは一旦話を止めると、一際声量を大きくしてこう言った。 「他の大人たちは、だれもっ! だァれも役に立っちゃくれなかったっ……!」 「……!!」 279 :シンクロ ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 18 40 12 ID ??? もしかして、大人達が誰も助けてくれなかったということか……!? マネネ坊やの口ぶりから、表情から、当時の気持ちが窺い知れる。 自分と父親が襲われていた所を、大人達はこぞって見て見ぬふりをしていたということなら、 この子の年齢からしても、大人を信じられなくなるのは分からないでもないかも……! マネネ坊やが『マネないマネネ』になってしまったのは、そういう理由だったのか……! 「マ、マネネくん……大人達は誰も、キミたちのことを助けてくれなかったんだね、 だからキミは、大人達のことを信じることが出来なくなって、それで……!」 「いや、そういうわけじゃねェんだけどさ」 「んなっ!」 予想が見事に外れて、ぼくは思わずズっこけそうになる。 ……そういうわけじゃないって、じゃあどういうことォ……? 聞かずとも、マネネ坊やは一人でそれを語り始めた。 「まー、助けてくれたっちゃあ助けてくれたぜ……警察とかも来たしサ。 だァけどよっ、みんな弱えェ弱えェ! 魔王軍には全然歯が立たねェでやられちまうんだもんっ!」 「えっ……」 「パパが連れ去られたのは、ぜんぶ大人達が弱っちぃせいだっ! 大人は弱っちくて使えねぇっ! だから大人なんて、イタズラされて当然、オイラにナメられて当然ってことだよっ!」 「なっ、そ、そんな……」 あまりに予想以上な自分勝手で独りよがりな言葉に、ぼくは驚愕する。 歯が立たなかったとは言っても、助けようとしてくれたことには変わりないんじゃないか…… それを弱っちぃ一言で片付けるなんて、この子なにか勘違いしてるんじゃあないか? 「なっ、コウイチ! おまえも、オイラの気持ち分かるだろっ?」 「え゙っ!」 急に同意を求められてしまった。 しまった、どう答えよう。……また適当にでも相槌打っておこうか、 でもそうすると、この子ますます増長しちゃいそうだしなー……こまったこまった。 280 :シンクロ ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 18 40 57 ID ??? 「あ、あのさー……マネネくん……」 「ん?」 同意するわけにも、露骨に反対するわけにも行かない。 ここは優しく、穏やかに……でもって、さりげなーく反対するとしよう。 「そのー、マネネくんって、大人のこと弱っちぃ弱っちぃとか言うけどさー、 だからって、イタズラしていい理由にはならないと思うんだけどなー。 それにさー、ほら、世の中は腕力だけじゃないし……頭とかもさー、ね?」 マネネ坊やを変に刺激してしまわないように目を逸らして、控えめーな口調でそう言ってみる。 「…………」 ぼくの言葉への反論は、すぐには返ってこなかった。 マネネ坊やはそうやってしばらく黙りこくっていたと思うと…… 「……おまえ……なんだよ、おまえもオイラに説教を始めるつもりなのか!?」 「えっ」 マネネ坊やはなんと、声を荒立てぼくを睨み付け始めた。 たったあれだけの言葉で、怒っちゃった……!? ぼくは慌てて、咄嗟にフォローするようにこう言う。 「あ、いや、いや。誤解しないで、ぼく、別に説教するつもりは無いんだよ! たださ、大人をナメれるほどマネネくんは凄いのかなー、なんて……」 「なんだよー、やっぱ説教するつもりなんじゃないのかよ、おまえーっ!!」 「いっ」 マネネ坊やの激昂は止まらず、ぼくを睨みながら怒鳴り続ける。 「これまで誰もオイラに説教なんかしてこなかったってのに、今日ばっかなんなんだよォ!! 説教、説教、説教、説教、ほんとウンザリするぜ! オイラを誰だと思っていやあがるんだ!?」 まるで自分は説教されなくて当然みたいな言い草。ぼくは思わず反論してしまう。 「いやさ、でもマネネくんが説教されるようなことをするから説教されるんじゃ……」 「うるさーいっ!! 黙れ黙れっ、オイラに口出しするヤツはこうだぞっ!」 「いでっ、いでででーっ!」 ぼくが言い終わらぬ内に、マネネ坊やはぼくの頬をぎゅうっとつねり始めた。痛い痛いっ! なんだよこの子、まったく人の話を聞き入れようとしないじゃないか! こまったこまった…… 「マネネお坊ちゃま!!」 281 :シンクロ ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 18 45 05 ID ??? 「えっ」 「!?」 突如、お手洗い中に聞き覚えのある声が響き渡った。 この声は……女性の声。この屋敷内で女性といったら、つまり…… 「キルリア!? お、おまえ、なんでここに……!」 マネネ坊やは驚き、入り口近くにいるキルリアさんを見つめる。 キルリアさんは、ここが男子用だということもお構いなしに マネネ坊やへ向かって、ずかずかと歩み寄り始めた。 「……お坊ちゃま。ジュカインさんがあなたを探しております、さぁ、早く行ってください」 キルリアさんは感情を感じさせない冷たい口調でそう言いながら、 マネネ坊やの腕を引っ張り、強引にお手洗いの外へと連れ出そうとする。 「ちょ、まっ、『なんでここに』って言ったのは、ここは男子トイレだぞって意味! こーこーはー男のトイレなのっ! 勝手に入ってくんなよォー!」 「そんなの関係ありません。御託をぬかしてないで、さぁ、早く。早く」 細長い腕をぶんぶんと振って抵抗するマネネ坊やをものともせず、 キルリアさんはマネネ坊やを引っ張り続ける。な、なんだか怖いぞ。 「おい、コウイチ! 助けろバカ、おまえオイラの友達だろーっ!」 マネネ坊やは、今度はぼくに助けを求め始めた。 助けろって、言われてもなァ……こまったこまった。 ……そして数秒困った挙句、ぼくの出した結論は……! 「……~♪」 「おいぃぃーーっ!! 無視すんなコウイチおまえーっ!! この薄情ものーーっ!!」 「……~♪」 そんなこと言われても、ぼく面倒ごとに首突っ込みたくないもん…… って口に出して言いたいけど、あえて口には出さず。これが大人のマナー。 「コウイチてめーっ、もうおまえとは絶交だかんなーっ!! もうぜってー話しかけてやんねーからなーっ!!」 「……~♪」 もともと交友結んだつもりなんかないし……ってか、まだ会ってから数分しか経ってないじゃない…… って口に出して言いたいけど、またあえて口には出さず。これが大人のマナー……だよね? 282 :6/18 ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 18 46 58 ID ??? 「ちくしょう、キルリアっ! おまえ、誰に雇われてるのか分かってるのか!? オイラが誰だか分かってるのか!? おまえの主人は、あのジュカインじゃねーだろー!!」 ぼくが無視し続けていると、マネネ坊やはキルリアさんに対してそんな事を言い始めた。 その言葉に、一瞬キルリアさんの動きが止まる……が。 「……私はバリヤードさんに雇われた身です。あなたは、バリヤードさんのたった一人のご子息です」 ぽつりと一言そう言うと、またすぐにマネネ坊やを引っ張り始めた。 しかしマネネ坊やはその言葉に納得がいかなかったのか、力強くこう反論した。 「そ、そうだろー、オイラはっ! このオイラはっ! おまえのご主人様のたった一人の息子だろォ! なら離せよォ! オイラのゆう事を聞けよォ! おまえは家政婦だろ! パパのっ! オイラのっ!」 「……!」 「!?」 その言葉を受けたキルリアさんの表情が、明らかに変化した。 ……俯いて……目つきを険しくさせて……歯を食いしばって…… これは、迷っている表情? 痛いところを突かれて、どうしようかキルリアさんは迷っているのだろうか…… ……いや、違う。これはっ。この表情は……!? その瞬間、キルリアさんは囁くような声量でこう呟いた。 「……ふざけたことをぬかしてるんじゃあねェぞ……クソガキ……」 「!!」 胸の奥に響くような、ドスの利いた声。 その胸の内にある不満やら怒りやらが全て詰まったかのような、負に彩られた声色。 「えっ……? いま何て言ったんだよ、キルリア……」 そしてマネネ坊やは、キルリアさんの発したその呟きに戸惑いを隠せないようで。 マネネ坊やはキルリアさんのこの一面を見たことないのだろうか。 ……そして、次の瞬間。 「っざけたことをぬかすなっって言ってンだよ、このクソガキャアーーーーッ!!!」 283 :7/18 ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 18 59 23 ID ??? 「ひっ!?」 ヒステリックなその叫び声に気圧され、マネネ坊やは小さく悲鳴をあげる。 一転して怯えた表情になってしまったマネネ坊やに向かって、キルリアさんは容赦なく罵声を浴びせ始めた。 「アンタのその勝手な性格で、どれだけのモンスターが迷惑被ってると思うんだよあーん!? バリヤードさんの息子だからって、大威張りして好き勝手しやがって、いままで抑えてたが アンタは真のクズだッ!! 虎の威を借る狐ならぬ虎の威を借るクズだ、アンタはっ!!」 まるでダムが決壊したかのような勢いの罵声の嵐。 普段の態度とのギャップが激しすぎて、マネネ坊やはドン引きしてしまっている。 「クズッ! クズッ! アンタのせいで、どれだけ私達が苦労してっか知ってんのかよォーー! 家もこんな金ぴかにさせやがって、バリヤードさんは身分不相応の素朴さが売りだったってのに。 それに、私の真っ白もち肌にも、こんなニキビが……ひゃあ、また一つ増えてる! テメー!!」 キルリアさんは一人でキレ始めて、マネネ坊やの胸倉を掴み始めた。 その目は血走っていて、鬼気迫るようだ。殺気すらも宿ってる気がするよ。 「キルリア~~、お前そんなキャラじゃなかっただろ、何があったんだよォ~~~」 声が震えまくりのその言葉に、キルリアさんは噛み付くような勢いでまた怒声を上げ始めた。 「何があったんだじゃぬえェーーわッ!! このトマトっ鼻ヤローめバカ野郎この野郎 アンタのせいだマヌケッ!! ちっとはそのウンコ頭働かせて考えろやボケッ!!」 「オ、オイラのせい?」 「そォーーだアンタのせいだアンタのせいッ!! 断じて断固としてアンタのせいだッ!! アンタのそのスッ暗い捻くれオーラ+アナタが日常的に行う凶行に迷惑して 頭を悩ませている私以外のお手伝いさん四人が発生させるマイナスオーラ×4が合わさり、 占めて×5の-オーラが私に作用ッ!! マイナスオーラ5倍のネガティブパワーッ!! 私は今マイナスオーラがシンクロ率500%なのよォーーッ!! そらニキビも出来るべなーーッ!! マイナスオーラ出すぐらいならマイナスイオン出せや、あーーーんッ!!?」 「うわああっ! な、何言ってるかぜんっぜん分かんねェーよォーッ!!」 ……ぼくも全然分からない。 284 :8/18 ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 19 04 12 ID ??? 「とにかくっ! ジュカインさんが来てくださったおかげで、私は分かったのっ! バリヤードさんの為を思うのなら、捻くれたアンタに容赦をしてはいけない。 世のため人のためを常に思う、モンスターの鏡であるバリヤードさんなら、 今のアンタを甘えさせたりなどは断じてしない……とね。分かったのよ」 キルリアさんは一転して、先程までの勢い任せの罵詈雑言ではなく、 己自身にも言い聞かせるかのような静かな口調でそう言い放った。 マネネ坊やは、口調だけはまだ強がった風を崩さずに、こう反論する。 「……あ、あのジュカインのマネをして、オイラに説教ってか…… つくづく汚ねーな! そんな汚いヤツの言うことなんて、誰が聞くかよ……!」 「なんだとォ?」 相変わらずの坊やの生意気な口調に、キルリアさんのこめかみに青筋が走る。 「アンタねッ! 人の言うことを聞かないアンタの方が何百倍も汚いわよ!! たまには他人の迷惑とか顧みてみたらどう!? この世はアンタだけのもんじゃないのよっ!」 「うるせーっ!! おまえのゆうことなんか聞かない、オイラは誰のゆうことも聞かない……」 「誰の言うことも聞かないって、アンタ誰の世話になってると思ってんのよォォォ!! 私達がいなかったらアンタ騒ぐことしか出来ないくせにィッ! このちっちゃいデクのぼうめがァァッ!!」 「なにおー!」 一歩も引くことのない両者の言い合いが、延々と続いていく。 ……と、永遠のように続くかと思われた罵り合いは、坊やのある一言により一旦中断される。 「おいキルリアっ、忘れてるんじゃないだろーなー! オイラは確かに子供だけどよー、 超能力の腕ならおまえなんかとは比べ物にならないんだぜ……試してみるか?」 「うっ……」 痛い所を突かれたのか、キルリアさんは狼狽したような表情と共に言葉を詰まらせる。 ……なんだなんだ? マネネ坊やみたいな子供が、大人のキルリアさんに力で勝っているというのか? 「ふんっ! 説教を続けるってんなら、オイラだって容赦はしないからなっ! いらないんだよ説教なんて」 ぷいとそっぽを向いて、クヒヒと意地の悪そうな笑い声を上げる坊や。 マネネ坊やの我儘が、またまんまと押し通されてしまう。キルリアさんもそれを危惧したのか、口を開こうと―― 285 :9/18 ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 19 05 57 ID ??? 「コウイチくんっ!! いますかっ!?」 キルリアさんが口を開こうとしたその瞬間、 叫び声と共に、お手洗いの入り口が音を立てて開かれた。 ぼくら三人の視線が、一斉に入り口前へと集中する。 そこにいたのはフライゴンだった。息を切らし、その表情は何処か危機感を孕んでいる。 フライゴンの乱入でキルリアさんとマネネ坊やの間の緊張感は途切れたものの、 そのフライゴンの表情のせいで、また違った緊張感が場を浸す。 「ハァ……ハァ……よ、よかった、ここに、ここにいたんですね、コウイチくん。 た、大変なんですよぉっ! その、さっきあの、そのテレビ見てたらですね、あの、その」 相当焦っているのか、所々で言葉を詰まらせているフライゴン。 フライゴンは一度言葉を中断させフーッと小さく深呼吸すると、大きな声でこう言い放った。 「昨日会った奴らと同じ鳥達……そう、たぶん『魔王軍』がっ!! 『魔王軍』の連中が、この都市にやってきちゃったみたいなんですっ!!」 「えっ!?」 その報告に、ぼくは驚かずにはいられなかった。あまりに不意打ちの魔王軍到来のニュース。 「そ、それはホントなの、フライゴン!?」 「はい! ニュースでいま生中継中だったんですよ、謎の巨大鳥軍団襲来!って…… 中には、昨日湖で会ったオニドリルもいましたから……間違いなくあれは魔王軍ですっ! 今は、どうやらちょうどイマージネー図書館の付近を飛んでいるらしいですけど……」 「そ、そんな……」 魔王軍……きっとどこかからぼくらの存在を嗅ぎつけて、この都市へやってきたんだ。 困ったなぁ……ぼくの元へ、この屋敷へやっくるという保証は無いけれど、 とても不安だ。もし来てしまったら、キルリアさんやバネブーさん、マネネ坊やも巻き込んでしまう…… ……マネネ坊や? ぼくはあることを思い出し、咄嗟にマネネ坊やの方へと振り返った。 「……!!」 マネネ坊やの目には、ドロリと濁った光が浮かんでいる。 そしてその口元は、微かな笑みを形作っているのだ。 286 :10/18 ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 19 07 29 ID ??? 「マ……マネネ……坊ちゃま……!?」 キルリアさんもその異変に気がついたようで、焦ったように坊やの名を呼ぶ。 マネネ坊やはそれに返事はせず、代わりに一言こう呟いた。 「……へ、へへっ……ついに、やってきたぞ……パパの仇を取る、チャンス……っ!」 「!」「!」 マネネ坊やのその声は耳を凝らさねば聞こえないほどの声量だったが、 ぼくには確かに聞こえた。たぶん、キルリアさんの耳にも入っただろう。 そしてその発言から間もなく、マネネ坊やは…… 「マ、マネネお坊ちゃまっ!!」 マネネ坊やは、突如走り出した。 ぼくもキルリアさんも坊やを引きとめようと手を伸ばすが、ギリギリ届かず逃してしまう。 「え? ふぇ?」 状況を理解できないフライゴンの横をすり抜けて、マネネ坊やは部屋の外へと出て行ってしまった。 マネネ坊や……きっと魔王軍の元へと向かうつもりなんだ。 「キ、キルリアさん、マネネ坊やを引き止めないとっ……」 「……はい。地下に非常用の『テレポーター』があるはず、そこにお坊ちゃまを近づけてはいけない! まったく……面倒ごとばかりするんだから、あのバカお坊ちゃまはァ……!!」 怒りと焦り、若干心配な様子も混じった声を上げながら、キルリアさんも駆け出し始めた。 「ぼ、ぼくも追いかけますっ!」 続いてぼくも駆け出す。いかにいけ好かないマネネ坊やとはいえ、黙ってるわけには行かないっ。 「あ、あのうー、コウイチくん? マネネ坊やはどうしたんですか? ボク、まったくもって状況が把握できないんですけどー……」 フライゴンの横を通り過ぎようとすると、フライゴンが早口でそう質問してくる。ああ、もう。 「あのね、マネネ坊やは魔王軍にパパの仇を取ろうとしてるんだ! あんなちっちゃい子が一人で行ったら返り討ちにされるに決まってる! だから、追いかけて引き止めなきゃ! じゃあ、ぼく行くねっ!」 こちらも早口でそう捲くし立ててから、すぐにキルリアさんの後を追い走り出した。 走り出してから間もなく、背後からフライゴンの声が聞こえてきて…… 「そーですか、いってらっしゃ~いコウイチく~ん……ってボクも行くっ、行きますよーっ!」 そして後ろからばたばたと付いてきた。そそっかしいなぁ、まったく。 288 :11/19 ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 19 10 01 ID ??? お手洗いを出て左右を見渡すと、マネネ坊やの後姿を発見する。 坊やは、既に10mは先の廊下の突き当りへ達そうとしてた。 キルリアさんの背を追うようにして走り出すと、 マネネ坊やの姿が突き当たりの奥へと消えていった。 その瞬間、ぼくはキルリアさんが先程口に出していた言葉が急に気になって、 思い出したように前方のキルリアさんへとこう質問を投げかけた。 「キルリアさん、テレポーターっていうのは一体何なんですか? 大体は想像つきますけど……」 その質問の答えは少し間が空いてから返ってきた。 「テレポーターというのは転送装置のことです。パスを入力しロックを解いて行き先を入力すれば、 瞬時にその場所へと瞬間移動することが可能です……要するに超能力代行アイテムといった所でしょうか」 「なるほど……」 つまりマネネ坊やは、そのテレポーターで図書館付近へ瞬間移動するつもりなんだ…… 転送装置くらいなら、ぼくらの世界でも大きい会社なんかでたまに見かけるし、そこまで珍しいものではないけど。 「じゃあマネネ坊やが図書館付近にテレポートしてしまう前に、早く捕まえないといけませんね! ……最悪の場合はぼくらも図書館付近にテレポートして、坊やを連れ戻すしかありませんね」 なるべくぼくは魔王軍の前に姿を晒したくないんだけどね…… なんてことを思いつつそう言うと、キルリアさんはこう返答した。 「……この屋敷にあるテレポーターは携帯物なんです。それにとても高価な代物ですから 一つしか置いてありません。ですからマネネ坊やが転送されてしまったからでは遅い…… なんとしてでも、転送される前に捕まえなければなりません。ここから図書館までは遠いですし……」 「えっ、そ、そうなんですか……」 キルリアさんのその言葉に、一層危機感が煽られる。 つまりマネネ坊やを早く捕まえられなければ、マネネ坊やは確実に魔王軍にひどい目に会わされる…… 魔王軍がこの都市に来てしまったのも、ぼくの存在のせいである可能性が高いのだから、 マネネ坊やがひどい目に会ってしまったら、それは半分ぼくの責任ということにもなる。 絶対に捕まえなきゃ……マネネ坊やをひどい目に会わせるわけにはいかない! 289 :12/19 ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 19 12 12 ID ??? 考えてるうちにぼくらは、くねくね枝分かれしている廊下を抜けメインホールへと着いていた。 ぼくの記憶では、確か地下へ通じる階段はメインホールにあったはず…… 記憶を頼りにメインホールを見渡せば、それらしき階段はすぐに目に入った。 壁際に所狭しと並んでいる美術品の間に、下へと通じる階段がある。 そしてマネネ坊やは、既にその階段のすぐ近くまで差し迫っていた。 ……あと、もう一つ。 「あっ!! バネブーさんっ!!」 なんと、地下への階段目指して走っているマネネ坊やのすぐ近くに、 お盆を持ってぴょんぴょんと跳ねて移動しているバネブーさんがいたのだ。 とその時、バネブーさんの視線が丁度ぼくら三人に合う。 三人並んで走っている光景に面食らったのか、バネブーさんは困惑し目をまん丸にさせた。 そんなバネブーさん目掛けて、キルリアさんは大声でこう指示する。 「バネブーさんッ!! そこのマネネお坊ちゃまを早く捕まえてくださぁいっ!!」 しかしその言葉にバネブーさんはますます困惑してしまったようで、おろおろとうろたえている。 「早くお坊ちゃまを捕まえないと、取り返しのつかないことになるんだよォーーっ!! だから早くマネネを捕まえろこのb捕まえてくださいバネブーさーーんッ!!」 バネブーさんの態度に一層焦りを深めたキルリアさんは、より大声でそう叫んだ。 その焦りのにじみ出た叫び声に押されたのか、バネブーさんは「分かったブー!」と返事をした後 マネネ坊やへ向かってぴょんぴょんと走り(?)だし、捕まえようと手を伸ばした。 その手が、マネネ坊やの背中を掠める。 「あっ、いいぞっ! もう少し!」 焦り、一刻も早く地下行きの階段へと逃げ込もうと速度を早めるマネネ坊や。 しかしバネブーさんもそれに劣らないスピードで…… いや、若干それに勝るスピードで、マネネ坊やとのほんの少しの距離をどんどん縮めていく。 マネネ坊やが地下行きの階段へ後二、三歩のところまで差し迫った時、 バネブーさんとマネネ坊やの距離は、ついに手を伸ばせば確実に届くほどまでに縮んでいた。 290 :13/19 ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 19 18 27 ID ??? 「いいぞバネブーさん、そこだーっ! 手を伸ばせーっ!」 ぼくらが三人同時にそう叫ぶと、バネブーさんは「ブーッ!」という掛け声(?)と共に手を伸ばした。 その短い手が、ついにマネネ坊やの腕をつか…… 「ぶぴ゙ゃッ!!」 ……バネブーさんの潰れたような声が、ホール中に響き渡る。 「うわちゃー……」 バネブーさんはあと一息の所で、バランスを崩してすっこけてしまった。 その隙に、マネネ坊やは地下行きの階段をさっさと降りていってしまう。 「……役に立たねぇ、あのブタ……」 前方でキルリアさんがボソリとそう呟いたのが聞こえた……ような気がする。気のせいだよね? 「……とにかくマネネ坊やは地下へ行ってしまった! 早くしないとキルリアさんっ」 「……ですね。死んだバネブーさんのためにも、何としてでも捕まえないと……!」 「いや、まだ死んでなですよ!? どう見ても」 「ごめんなさい、バネブー(故)さん。あなたの犠牲は無駄にしません!」 「だからまだ死んでませんって!」 バネブーさんの元を横切ろうとすると、慌ててバネブーさんが助けを求めてくる。 「あっ、みなさんちょっと待ってェーーッ!!私のこと起こしてブー!! バネがっ、バネが痛くて立てないんだブーっ……って無視かよォーオイッ!」 ……けど、キルリアさんはそれを全く無視して、さっさと地下行きの階段を下っていってしまった。 「バ、バネブーさんっ! 今は一刻を争ってる時なので、また後でねっ! ごめんなさーいっ!」 なんだかバネブーさんがいたたまれないけど助けてる暇はないので、 一応そうフォローしてから、ぼくらもキルリアさんに従い地下行きの階段を降りていく。 「ちょーっと待ぁーーってブーっ! ひどいーっ、何が何だか分からないんですけどーっ!! ブヒーッ!」 背後からバネブーさんのそんな悲痛な声が聞こえてくる……けど、ぼくは耳を塞いで階段を降りることに集中した。 291 :14/19 ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 19 20 28 ID ??? ――――――――――――― 「ったく……どこにもいねェなぁ……」 勝手に逃げていったマネネを探して、オレは屋敷の地下にまで来てしまっていた。 地下といっても陰気くさいイメージはなく、照明も通っていて絨毯も敷かれている。 ただ部屋は一つだけでそこは倉庫となっており、広い部屋に様々な道具が所狭しと置かれている。 ……その倉庫に今オレはいるわけで、どこかにマネネが隠れていないか探索している途中なのだ。 「こんな所に……いるわけないか」 タンスの中やタルの中、ツボの中と隅々まで探してみるが、 見つかるものは小さなメダルくらいのもので、肝心のマネネは一向に見つからない。 「ったく……広いんだよなぁ、この屋敷。とっとと見つけないとコウイチ達にまで迷惑かかっちまう……」 もう大体は探し終えた。考えてみればこんな道具だらけの場所にマネネが隠れてるとは思えない。 きっと、どこか別の場所にいるんだろう。オレは倉庫を出ようと、ドアノブに手をかける。 ……ってか、さっきから何だか外が騒がしいなァ。 ドタバタと……まるで上のメインホールで運動会か何かでもやってるかのような。 数人の足音だ……階段を下っている……絨毯を踏みしめ…… あれ? その足音が、徐々にこちらへ近づいてきているような。この部屋へ……!! バタァン!! 「!!」 突如目の前の扉が勢いよく開かれ、その奥からあのマネネが飛び出してきたのだ。 マネネは一度オレを見たと思うとすぐに目を逸らし、横切っていく。 「ちょ……マネネ、お前っ!!」 状況はよく分からないが、とにかくオレはマネネを引きとめようとそう叫ぶ。 マネネはもう一度オレに視線を合わすと、吐き捨てるようにこう言い放った。 「今はお前なんかに構っているヒマは――ないっ」 「な、なにぃっ……!?」 マネネはすぐにぷいと身を翻すと、壁にかけられてある球体を手にとり何かいじり始めた。 「お、おい……どうしたんだ……?」 ……生意気な口を叩かれたという怒りよりも動揺が勝り、オレのその声は少々遠慮がちになってしまう。 次の瞬間、複数の声がオレの耳に入ってきた。 292 :15/19 ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 19 22 25 ID ??? 「あっ、ジュカインッ!! マネネ坊やを止めてっ!!」 「ジュカインさんッ!! マネネお坊ちゃまからその球体を取り上げてくださいッ!!」 「!?」 聞き馴染みのある声が、ほぼ同時に聞こえた。 そしてその声は、両方とも相当な焦りの色に染まっている。 扉の方へ振り返ると、その表情にも焦りを色濃く込めたコウイチ、キルリアさん、フライゴンの姿があった。 「ど、どうしたんだ、おまえら……? こんなところに三人揃って……」 「いいから早くっ! マネネからその球体をっ!」 「……!」 一体あの球体がどういうもので、マネネは何をしようとしているのかは分からないが、 とにかく相当に急を要する事態であることは、本能的に把握する。 オレはコウイチ達へ向けて無言で一度頷いた後、再び振り返り目の前のマネネの球体目掛けて手を伸ばす。 マネネは、まだ球体の表面にあるキーを必死に押しまくっている。 その手ごと掬い取ってしまうような勢いで、オレは手を振り下ろした。 「!!」 振り下ろしたオレの手は、何を掴むでもなく虚しく空を切っただけだった。 そのまま振り下ろせば確実に球体を取り上げれていたはずのオレの手が、何にも接触しなかったのだ。 道理的には有り得ない……有り得ないが、マネネの姿はオレの目の前から『完全に消えていた』。 影一つ残っていない。……本当に、消えてしまった。 今まで見ていたマネネが幻覚だったのではないかと疑ってしまうほどだ。 ……同時に、辺りの空気が明らかに変化する。 コウイチやキルリアさんは既に沈黙してしまっていて、その表情は暗く重い。 特にキルリアさんの表情は、深刻なまでに絶望的な色に染まっていた。 ………… 「……コウイチ。キルリアさん。一体何がどうなったか……詳しく聞かせてくれないか」 二人のその表情に、オレはそう聞かずにはいられなかった。 293 :16/19 ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 19 25 04 ID ??? 「――なるほど」 二人の説明で、ようやく状況は完全に把握できた。 要するに、マネネは父親の仇を取るために魔王軍の元へと行ったのだ。 ……オレは、魔王軍の力を身をもって知っている。 あのマネネがいくら天才マジシャンの血を引いているとはいえ、無謀。 僅かな抵抗も許されずに倒され、父親のように行方不明になってしまうことだろう。 「どうしましょう……イマージネー図書館へは、車で飛ばしても確実に15分以上はかかる。 マネネお坊ちゃまは、何だかんだでバリヤードさんのご子息であることには変わりない…… 死なせるわけには行かない……のに……もう絶対ムリ……ムリだァ……!」 キルリアさんは泣きそうな表情で、歯を食いしばったまま俯いてしまう。 コウイチとフライゴンも、それに釣られてぐっと俯く。 ……ここから図書館まで『車で15分以上』……か。 ……それならっ 「……車で15分以上。オレならおそらく10分以内に辿り着けるな」 「!!」 三人は顔を上げ、俺を見つめ始める。 「道なりに行かずに……例えばビルの屋上同士を伝っていったりすれば5分程度で着くかもな。 オレは戦いにも自信がある。魔王軍にも負けない。マネネが助かる見込みは、まだ――十分にあるっ」 「じゃ……じゃあ……!」 希望を取り戻したかのような表情と声でそう言うキルリアさんに対し、オレはこう宣言した。 「このオレに任せてくれ。オレがマネネを助けるっ!!」 「ジュ……ジュカインさん……!」 マネネを死なせるわけにはいかない。断じて死なせるわけにはいかない。 アイツはこんな所で死んではいけない。更正した姿をオレに見せるまで、アイツは死んではいけないんだ。 そのためには、何としてでもヤツを助けなければ……! 294 :17/19 ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 19 27 35 ID ??? 「あ、ありがとうございます……ジュカインさん……! ちょっと……いいですか。道に迷ってしまわないように……」 キルリアさんは涙ぐんだような声を上げながら、そっとオレに近寄る。 そして屋敷の入り口前でやったように、その額をオレの額へと密着させた。 ……この屋敷から図書館への道筋が、オレの頭の中へと流れるように入り込んでくる…… しばらく経ってキルリアさんが額を離してからも、頭の中に流れ込んだものはそのままだった。 ここからどう行けば図書館に辿り着くか、最短ルートはどこか、手に取るように分かる…… 「……ありがとうございます、キルリアさん」 「礼には及びません。マネネお坊ちゃまを頼みます……!」 「……はいっ!」 オレは駆け出し、三人の横を過ぎ去ろうとする。するとフライゴンが。 「ボ、ボクも行くよっ! 飛んでいけば、走るよりもすぐ着くかもしれないしさっ」 ふとそう提案してきたが、オレはすかさずそれに反対する。 「ダメだ、フライゴンはここに残っていろ。万が一この屋敷に魔王軍が来てしまった場合、 お前がコウイチを守るんだ。……それに、お前が飛んでくよりオレが走った方が早いしなっ。カハハッ」 「むっ! ……うん、分かったよ」 フライゴンはちょっとむくれたような表情を見せたが、すぐに納得してくれた。 「……ジュカインっ」 「ん?」 次に声をかけてきたのはコウイチだった。 コウイチの表情はオレを急かすかのように焦りの色に染まっているが、 それでもどうしても伝えたいことがあるようで、早口でオレへこう告げた。 「あのマネネ坊やは……その、自分以外のほとんどのものをナメている。 周りの大人、きみのことも……そして魔王軍のことだってナメているに違いない。 あの子をカッコよく助けて目を覚ましてあげて。……ぼくも、あの子の更正した姿が見たいんだ」 「……分かってるよ。そのために、わざわざワガママ言ってオレはここにいるわけだからな。 コウイチたちを今まで待たせちまった分、ちゃんと期待に答えるよ。じゃあ!」 もはや誰とも話をしている暇はない。一刻も早く行かなければ。 「気をつけてね、ジュカイン……」 そのコウイチの言葉を背に、オレは脚に力を込めて思い切り駆け出した。 295 :18/19 ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 19 30 02 ID ??? ――――――――――― 「ピジョット様ー。下が騒がしいですねー」 地上にいる米粒のような群衆を遥か空中から見下ろしながら、オニドリルはそう呟いた。 群集は何やら色々と騒ぎ立てながらこちらを見上げ、中にはカメラを向けている物もいる。 その事態にピジョットは些かの動揺もせず、むしろ愉快といった風に笑い声を上げる。 「フフフ、放っておけ。奴らは騒ぐのが仕事。好きなだけ騒がせておけばいい」 「はあ……」 「それに、騒ぎを聞きつけて人間が街の外へ出ようと動き出せばそれも好都合。 そのために都市の周辺にも何匹か部下を飛ばせているのだ……心配することはない」 「そうですか……んぁ?」 周辺をきょろきょろと見回しながら飛んでいたオニドリルは、風景に一つの違和感を見つける。 オニドリルの視線はちょうど真横。 ビルの壁面に張られている大きな看板が、ガタガタと揺れて音を立てているのだ。 (風……風に揺れているのかな……? うーん、でもあの揺れ方は……) 風に煽られて揺れているというよりは、まるで誰かの手で外されようとしているかのような人為的な揺れ方…… ……その瞬間。 「ぎょ、ぎょえっ!?」 オニドリルは、思わず驚きの悲鳴を上げていた。 視線の先の看板がひとりでに外れ、まるで意志があるかのようにこちらへ突っ込んできたのだ。 「ぶへ!!」 飛んできた看板はオニドリルの長いクチバシにおもいっきり突き刺さり、そのまま顔面にモロに直撃してしまう。 その珍妙な出来事にピジョット達も気付き、一斉にオニドリルへと視線を送る。 「ど、どうしたんだオニドリル。何があったんだ、なぜ看板が……?」 「し、しひまひぇんよォ~……クッ、クチバヒひゃひらひぇはいっ!! ふほふほほっ!!」 看板がクチバシの根元にまで突き刺さっているせいで、オニドリルは上手く喋れないようだ。 「一体何が……? 不思議だな」 困惑するピジョット達。……そしてその時。 『看板をぶつけたのはッ!! オイラだッ!!』 296 :19/19 ◆8z/U87HgHc:2008/04/07(月) 19 36 00 ID ??? どこからか、微かにそのような声がピジョット達の耳に入った。 明らかに自分たちに投げかけられているであろうその言葉は、地上からのもの。 ピジョット達は一斉に地上を見下ろすと、その言葉の元を探る。 その時、地上からまたその声は聞こえてきた。 『オイラのパパはお前らに連れ去られたッ!! お前らはパパの仇だッ!!』 その言葉と同時に、遠目ながらも地上の空気が変わったのをピジョット達は感じ取る。 「……ピ、ピジョット様。私達が魔王軍だということが何故知られて……どうしてでしょう?」 うろたえたような部下のその言葉と同時に、ようやくピジョットはその声の主を発見する。 「……見ろ。この声の主、オニドリルに攻撃を仕掛けたのは……あの子供だ」 部下の問いに応えるよりも先にピジョットは顎でその声の主を指し示した。 ピジョットが指し示した先には、その小さい背丈を補うように自動車の屋根に立つ一人の子供がいる。 「あの……車の上に立ってる、赤い鼻の子供が……?」 「そうだ……見ていろ」 その赤い鼻の子供が口を開いた瞬間、またこちらへ声が聞こえてきた。 『オイラはマネネッ!! お前ら魔王軍がさらったマジシャン・バリヤードのたった一人の息子だッ!! オラーッ、魔王軍ッ!! さっさと降りてこいよォッ!! オイラはここにいるぞォーーッ!!』 その声は確かに視線の先のあの子供の口から発せられたということを、全員は認識した。 「ほらな……父の仇だそうだ。ワタシはそんなものは全く知らんが…… どうあれマナーの悪い子供にはおしおきが必要かもしれんね? オニドリル」 「……ぷはぁっ! ですね、この看板を私にぶつけた代償をちゃーんと払ってもらわにゃー……!」 なんとかクチバシから看板を引き抜いたオニドリルは、 未だなにか啖呵を吐き続けているマネネのことを、怒りの篭った目で見下ろす。 「……フフッ。ユリルくん兄弟といい……まったく愉快な都市だね、ここは」 視力の良いピジョットの目には、赤い鼻の子供の怒りに満ちた表情がハッキリと見える。 その表情に、ピジョットは心中の愉悦をより高めていた。 つづく
https://w.atwiki.jp/pokemon-dreamworld/pages/46.html
161 :1/8 ◆8z/U87HgHc :2008/02/29(金) 18 37 59 ID ??? ――――――――― 花の生い茂る庭園へと張り出されたテラス。 中央にたった一つ置かれている席にはある一匹のポケモンが座っており、 そのポケモンは目を瞑り自然を感じながら、手の中の紅茶の香りを楽しんでいる。 そのポケモンの毛並はこれ以上にないというほどに美しく整っており、 高く昇った日から陽光を一身に浴びて、金色の輝きを放ち続けている。 特徴的なのはその雄々しいタテガミで、これもまた見るものを圧倒するような美しさを誇っている。 まるで絵画の中の世界のように華美なその風景。 果敢にも、その神聖な場へと立ち入る影があった。 「ピジョット様! 物資調達終了いたしました!」 「……」 ピジョットと呼ばれたそのポケモンは、静謐な空間を見事にぶち壊した大声の元へと視線を向ける。 己とはおよそ比べ物にならないほど雑な毛並みをしたその視線の先のポケモンに対して、 ピジョットは声こそ荒げないものの、不機嫌そうな口調でこう言い放った。 「……そういう報告はエアームドにでもしていろ。ワタシが今何をしているのか目に入らんのか、オニドリル」 「あっ! いやァ、そのォ……す、すいませんっ!」 行いの無礼さに今さら気づいたのか、焦って頭を下げるオニドリル。 「……クチバシッ! その長いクチバシで頭を下げるな……土に刺さる」 「あっ、す、す、すいませぇん……うへへ、度々ねぇ、もう……」 立て続けに怒られて照れ笑いを浮かべるオニドリル。 そんなオニドリルに対して、ピジョットは呆れた風なため息をついた。 「……報告は終了したはずだろう? なぜまだここにいるのかね……ワタシの邪魔をしたくてたまらないのか?」 未だ去ろうともせず無言のまま突っ立っているオニドリルに対して、溜らずそう言い放つピジョット。 オニドリルはその発言を受けて、意を決したように心中の疑問を告げた。 「ピジョット様……人間を探しに行かれないのですか?」 162 :2/8 ◆8z/U87HgHc :2008/02/29(金) 18 40 57 ID ??? 「は?」 突如投げかけられた質問に、ピジョットは疑問符を浮かべる。 オニドリルはその反応に焦ったように、早口でこう伝えた。 「あ、いやっ、あのですね。ほら、ムクホークさんもヨルノズク様も、 昨晩からずっと人間を探しに行かれて帰ってきていないじゃあないっすか~。 それなのにピジョット様は何でこんなにノンビリしてるのかなァって……」 言い終えてから、苦し紛れのように 「えへへ」 と半笑いを添えるオニドリル。 ピジョットはその質問を受けると、一度浅いため息をついた。 「……布石は打っているのだがな」 小さくそう呟きながら、ピジョットはテーブルの上に置かれている物へと視線を移す。 携帯電話を始めとする……幾つもの連絡機器。 オニドリルはそれに気がつくと何かを思い出したようにハッと唸り、二度目の問いかけを始めた。 「そ、そう、そう、そう! その『布石』ってーのがわたくし不思議なんでありますよっ!」 「は?」 オニドリルのその言葉に、ピジョットは少し興味深そうにして首を突き出す。 「いや、何が不思議かって……そんなことする必要があるのかなって思いまして」 「ほう? どういうことかね」 ピジョットは少し半笑いを浮かべながら、オニドリルの目を見据える。 オニドリルはその視線から若干目線を逸らしながら、もっと早口になってこう告げた。 「ウワサじゃあピジョット様……サイシ湖の付近の都市や村に、単身で行ったそうじゃないですか。 それに、入るのに審査とかが必要な街は、わざわざ審査まで受けて…… その電話やら何やらも現地で調達したものでしょう!? 奪ったのか買ったのかは知りませんけど……」 「……」 「はっきり言ってそれ果てしなく無駄なことだと思うんスよほんとにほんとォに。 偵察なら、はぁ、私達部下に任せればいいのに、はぁ、はぁ、一体なんで……!?」 言葉の後ろになるにつれて早口になっていき、最後には軽く息切れしながらも、オニドリルは最後までそう言い切る。 しばらくの沈黙を挟んでから、ピジョットは不敵な笑みと共にこう返した。 「……フフ。キミにはまだ分からんだろうな、高みを支配する者の嗜み……」 「へっ?」 「地を這う虫ケラどもと……『表面上は対等に話し合う』という、この愉悦!」 163 :3/8 ◆8z/U87HgHc :2008/02/29(金) 18 43 13 ID ??? 「表面上は……ん……?」 返ってきた答えに、オニドリルは呆気に取られて黙りこくってしまう。 ピジョットはまた不敵な笑みを浮かべながら、不意にこう言い放った。 「フフ。キミはまさか、『対抗心』や『敬う心』などが己を強くするものだと思っていないかね?」 「えっ……い、いや、普通そうじゃないっスか?」 急に質問を投げかけられて戸惑いながらも、オニドリルはそう答える。 その答えにピジョットは鼻で笑って返すと、こう続けた。 「違うな。そんなモノは己を強くしない……己を強くするのは……」 「……つ、強くするのは?」 「『見下す心』だ」 「えっ」 固まるオニドリルを尻目に、ピジョットは話を続ける。 「『あんなヤツが自分と同等のはずがない』……『あんなヤツに比べれば自分は何倍も上等』…… そのような、相手を腹で見下す心……『己の方が優位にいる』、あるいは『優位にいるに決まっている』という、 己を持ち上げる心……それこそが、己を強くし明日を生きる活力を生む何よりの原動力なのだ」 「へ、へぇ……?」 「そもそも先程言った対抗心というものも、その本質は『見下す心』だ。『己を持ち上げる心』だ。 分かるだろう? 対抗するということはつまり、『勝つ自身がある』ということなのだから……」 ピジョットはそこまで言い終えると、手元の紅茶をくいっと喉に流し込んだ。 「は、はぁ……」 戸惑いながら聞いていたオニドリルも、ピジョットの言うことを多少は理解しかけてくる。 確かに、勝つ自身が無ければ対抗しようとはしない…… いずれ勝てるという自身がなければ、乗り越えるための努力をしようとはしない…… 少なくとも、どういう形であれこちらが優位に立てる見込みが無ければ対抗はしない…… ピジョットの発言に説得力を感じ、オニドリルは思わず心中で感心していた。 165 :4/8 ◆8z/U87HgHc :2008/02/29(金) 18 45 51 ID ??? ピジョットは手元の紅茶を飲み干し一息つくと、オニドリルを見据えたまま強めの語調でこう言い放った。 「オニドリルよ。キミもこの魔王軍で成り上がりたいのならば、周りの者をひたすら見下すがいい。 特に我々『飛鳥』という種族は、生まれながらにして遥か大空を支配する権利を得ている。 地を這い蹲る者どもをすべからく見下せるという、素晴らしい権利を手にしているのだッ! 我々は常日頃様々な生物を見下し生きている……そう、他者を見下してこそ飛鳥ッ! 周囲を見渡し、己以下のものを積極的に見つけていくのだ……そして見下せッ! どんどん見下すべしッ!! ぴしぴし見下すべしッ!! あまねく見下すべしッ!! 優越感は自信を生むッ!! そして自信は行動の原動力ッ!! 見下す心こそが己を強くするのだッ!!」 「イ、イエッサーッ!?」 ピジョットの演説の迫力に押され、オニドリルは思わず敬礼のポーズと共に強く返事をしていた。 「……はっはっは……演説を披露する相手がキミ一人ではいまいちしっくり来ないが……まぁいい」 そう言いながらも少し満足げな笑いを浮かべながら、 ピジョットはマグカップへと再び紅茶を淹れ始める。 「あっ、わたしが淹れますよピジョット様」 ピジョットに感心してしまったオニドリルは、自らそう志願してポットを受け取った。 オニドリルはポットを傾けて紅茶を淹れながら、ふと芽生えた好奇心でこう聞いてみた。 「ねぇ、ピジョット様……ピジョット様は、私のことも見下していらっしゃるのですか?」 「当然だろう。正直ヒヨコや何かと同然だと思っているが」 「んがっ! で、ですよね……」 予想以上に見下されてることを知ってしまい、オニドリルは落胆し顔を俯かせてしまう。 「……クチバシィィッ!! クチバシが紅茶の中に浸ってるぞキサマッ、よく見ろドアホッ!!」 「は、はわわっ!? あ、あっあっあっ!」 「……もういい、それお前が飲め。汚れた茶など断じて飲まん」 「ご、ごめんなしゃあ~い……」 オニドリルは猛省して半泣きになりながら、紅茶をすすり始めた。 166 :5/8 ◆8z/U87HgHc :2008/02/29(金) 18 49 50 ID ??? ピジョットはそんなオニドリルを見つめながら、仕方なさそうにこうフォローする。 「……安心しろ。別にキミだけを見下しているわけではない…… 能無しのエアームドも、老いぼれのヨルノズクも、アホのムクホークも…… この飛鳥部隊では、ワタシはあの方を除く全員をヒヨコ同然だと思っている」 「あ……あの方……?」 同じ幹部どころか格上の筈のエアームドまでヒヨコ呼ばわりすることに衝撃を覚えながらも、 その中にその対象でない者がたった一人だけ混じっていることに、オニドリルは違和感を覚える。 他に誰かいたか……? ピジョット様に評価されるほどの者……まさか……? 「そう。ネイティオ様のことだ」 「ネイティオ……様……」 飛鳥部隊の部隊長ネイティオ。 作戦の指揮などはエアームド副隊長以下に任せっきりで、 常に部屋に篭り姿を現すことは滅多に無く、その素性は謎に包まれている。 そしてこのオニドリルもその姿を目にした事のない者の一人で、 そのネイティオの部隊長としての実力はおろか、存在の有無すらも日頃から疑っていた。 そんなオニドリルにとって、力も思想も己より遥か上であるピジョットが ネイティオ様だけは認めているという事実が腑に落ちず、思わずこう問いかけていた。 「ねぇ、ピジョット様? ネイティオ様みたいなののどこがそんなに……」 「滅多なことをぬかすなキサマァッ!!」 「ひっ!?」 突如荒ぐピジョットの声。 今まで耳にしたことの無いピジョットの怒声とその迫力に、オニドリルは手元のカップを床に落としてしまった。 木製の床に激突し砕け散るマグカップ。ピジョットはそれもお構い無しに、怒号を吐き続ける。 「ネイティオ様のことをよく知りもしないキサマが……キサマのようなゴミごときがッ!! あの方のことを『みたいなの』だとッ!? 身の程を知れッ恥を知れッこのゴミがッ!」 「え、ええっ……!?」 オニドリルは困惑していた。ピジョットは、あのネイティオのことを尊敬……しているのか……? 167 :6/8 ◆8z/U87HgHc :2008/02/29(金) 18 53 08 ID ??? 「ネイティオ様は偉大だッ!! ヒヨコ揃いのこの飛鳥部隊の中で、 唯一あの方は、毫光が差すほどの神々しさを纏っておられるッ!! ワタシの毛並みは、金剛石の輝きをも遥かに凌ぐ輝きをしているが、 あの方の御体を覆う神聖な光には、到底かなう気がせん……!!」 「そ、そこまで……」 つい先程、あれだけ他者のことを見下すことの大切さを語っておきながら、 今は狂的なまでにネイティオのことを持ち上げているピジョット。 そのどこか矛盾した光景に、オニドリルは益々困惑を深くしていく。 「いいか。住む世界が違うのだ。我々とネイティオ様ではな……ッ! 我々が大空を舞う傍ら、ネイティオ様は宇宙……いや、 もはや何者も知らぬ未知の世界を、一人舞っておられる。 我々が今のみを見つめ、這うように必死に生きている傍ら、 ネイティオ様は既に遥か未来を見据え、今を達観しておられる……」 目を瞑り、翼を胸に当て……まるで何かの宗教の信者のように、 ピジョットはネイティオを持ち上げ続ける。それも大袈裟にしか聞こえぬ例えで。 「あ、あのう……」 オニドリルは、ピジョットの醸し出すどこか薄気味悪い雰囲気に耐え切れず どうにか話題を転換しようと声をかけるが、ピジョットは構わず話を続ける。 「いいかオニドリル。ワタシとキサマでは宝石と丸まったティッシュほどの差があるだろうが、 ネイティオ様とワタシの間にも、おそらくそれほどの差があるだろう…… 能力でも……頭脳でも……思想でも……もはやほぼ全てにおいてな……!」 「……」 もう何を言っても無駄だと、オニドリルは悟った。 まるで洗脳されているかのようだ。ピジョットは、あのネイティオを狂信している…… 168 :7/8 ◆8z/U87HgHc :2008/02/29(金) 18 55 39 ID ??? まるで歌劇のワンシーンかのように、ピジョットは翼を胸にやり天を仰いだまま、 ネイティオを崇拝する言葉の数々を吐き出し続ける。 「ワタシの抱く思想……それらはほとんどが、ネイティオ様から授かったモノだ…… ワタシの精神を形作る構成物質は……ほとんどがネイティオ様そのものと言ってよい。 そう、ネイティオ様はワタシのすべて……ワタシはネイティオ様の代弁者…… この美しく輝く毛並の一枚一枚、すべてネイティオ様に捧げてもよいと思っている……」 「……」 オニドリルは一つの疑問へ行き着く。思想のほとんどがネイティオのものって言うのなら、 さっきピジョットが披露した論説は、すべてネイティオからの受け売り……? この狂的なまでのヨイショっぷりを見るに……たぶんそうなのかも。 「そうだ……ネイティオ様は何より尊い……何より偉大…… 正直、ネイティオ様は魔王の器にあるだろう。魔王が何者かは知らぬがな。 王になるのに必要なのは、力だけではない。思想……何より思想なのだ! ケダモノの世界だったこの世は、人間の到来により知性の世界へと進化した。 そしてこれ以上の進化が停滞していた今の世は、ネイティオ様のようなお方が治めるべきなのだッ!」 相変わらず、歌うような調子で崇拝を続けているピジョット。 幾らなんでも過剰に持ち上げすぎだ……そうオニドリルが思い始めた瞬間、 突如ピジョットの視線がオニドリルの方へと移った。 「オニドリルよッ! そういえば先程、キサマはネイティオ様の悪口を言ったよなッ!?」 「ひっ!?」 悪口までは言ってませんよォー! と言いかける間もなく、ピジョットは話を続ける。 「いいか、仏の顔は何度までだッ!? そう何度もあるもんじゃあないぞ。 キサマの脳みそや耳が飾りじゃあないことを祈って親切に忠告してやるが、 これ以上ネイティオ様を卑下するようなことがあらば、キサマを……ん?」 瞬間、ピジョットの口上が止まる。 そのキッカケとなったのは、テーブルの上で電子音を鳴らし始める一つの携帯電話だった。 170 :8/8 ◆8z/U87HgHc :2008/02/29(金) 19 01 52 ID ??? 「……フッ、フフフッ」 ピジョットは歓喜の混じったような含み笑いを浮かべると、身を翻して携帯電話を手に取った。 そしてそれと同時に、我慢しきれないかのように歓喜の声を上げ始めた。 「さて……さて・さて・さて・さてッ!! ようやく来たぞッ、 ネイティオ様の懐へとゆける無二のチャンス……ッ!」 ピジョットは途切れることなく含み笑いを発し続けながら、携帯電話を耳に当てて、通話を始めた。 「無二のチャンスって……人間発見の報告、ってところだろうか……」 電話の奥の誰かと通話を始めるピジョットを見ながら、オニドリルは呟く。 オニドリルにとって、人間の姿は記憶に新しい。 もしかしたら今日中にでも、再び人間の姿を拝むことが出来るのだろうか。 ピジョットは通話を終え、携帯電話をテーブルに置いた。 そのまましばらく下を向いて笑い続けていたと思うと、突如オニドリルの方へと視線を向ける。 「えっ、な、何ですか……」 ピジョットは困惑するオニドリルへ、おそらく彼が願ってもないであろう言葉を投げかけた。 「キミも来るかね?」 「えっ……い、いいんですかっ!?」 「小隊を組んでワタシと共に来るがいい。キサマはネイティオ様を卑下した罪があるのだ、 それにこのマグ・カップを粉々に割った罪もな……その分、働きで報いてもらおう」 マグカップの破片を拾い上げながら、ピジョットは笑み混じりにそう言い放つ。 「あ、ありがとうございますッ!」 願ってもない言葉に感謝の意を露わにするオニドリル。 ピジョットはそれを見て満足げに笑いながら、思い出したようにこう付け足した。 「そうそう、行き先を告げてなかったな……我々の行く場所は」 「テレキシティだっ」 つづく
https://w.atwiki.jp/pokemon-dreamworld/pages/48.html
206 :1/11 ◆8z/U87HgHc :2008/03/17(月) 18 28 49 ID ??? ――――――――――――――― 「はあーっ、さっぱりしたぁーっ!」 身も心もさっぱりとして、晴れやかな気分がそのまま口を付いて出てきた。 まだドライヤーの熱で温かい髪の毛を指で梳きながら、ぼくは思わず笑顔を漏らす。 なんて爽快な気分だろう。ふふっ、軽く生まれ変わったかのような気分だなあ。 ……ぼくはいま、丁度マネネ邸のお風呂から上がったところだ。 ぼくはマネネ邸へおじゃましてからすぐに、キルリアさんに入浴を勧められた。 スーツについた土汚れや、顔に幾つも残っている血の跡が気になったのだろう。 二日ぶりな上に、体中が披露している状態で入ったお風呂の気持ちよさは格別で、 暑さと帽子のせいでだいぶ蒸れてしまっていた髪の毛も綺麗さっぱりに洗えたのだから これはもう生まれ変わったような気分にもなって当然といったところだろうか。 それに、この家では指も髪の毛も隠す必要はないしね……正体バレてるんだし。 ただ、そんな晴々爽やか気分の中にも、ちょっとした問題点が一つ。 スーツが……ぶっかぶかなんだよなァ…… 汚れたぼくのスーツはキルリアさんがクリーニングしてくれるというので、 今は邸宅内にある予備のスーツを着せられているわけだけれど…… 大人サイズなもんだから、いくらなんでもぶかぶかすぎるんだよね。 まっ、そこまで愚痴いうほどの問題でもないけどサ。 ズボンの裾を引きずりながら、ぼくはある部屋の元へとやってくる。 ここはお手伝いさんが寝泊りする部屋の中の一つのわけだけれど、 今は使っている人が居らず、いわゆる空き部屋となっているために、 今限りはぼく達の部屋として使うことを許可されているのだ。 フライゴンは今はたぶん、寝転がりながらテレビでも見ていることだろう。 207 :2/11 ◆8z/U87HgHc :2008/03/17(月) 18 30 59 ID ??? 「もしもし、ぼくだけど……入るよ」 忘れずにノックをしてから、ゆっくりと部屋の中へと入る。 ドアを開けると、賑やかな音声とフライゴンの声とが同時に耳へと入ってきた。 入ってきたぼくの姿を確認したフライゴンは、しっぽを振りながら元気な声を上げる。 「あっ、コウイチくんお帰りなさーい。おふろどうでしたぁー?」 そう言うフライゴンは、その緑色の体をごろーんとソファに寝転がせ、 手にはテレビのリモコンがしっかりと握られている。 彼の体の前方にある巨大なワイドテレビは、既に映像と音声を送っている状態だし、 どうやら案の定、楽な体勢でテレビ観賞に勤しんでいたみたいだ。 「うん、とっても気持ちよかったよー。生き返った気分さ。 で、テレビの方はどう? 結構楽しんでるみたいだけど」 ソファへと歩み寄りフライゴンの隣に座りながら、ぼくはそう質問する。 「面白いですよっ! 人間世界のパクリって言っちゃあ言い方悪いですけどォー、 逆に言えば人間世界のテレビ番組と遜色ないぐらいに出来がよくって面白くって! ……あららっ、ちょうど番組終わっちゃいましたけど。とにかくスゴイですよー」 モニタの中では、ぼくらの世界でのバラエティ番組となんら変わりない光景が映し出されている。 賑やかなセットに観客、たくさんの出演者、ノリのいい歌と共に流れていく 高速のスタッフロール(いつも思うんだけれど、これ絶対もじ読ませる気ないと思う)。 ただ一つ違う所といえば姿がポケモンだってことくらいで、本当に非現実的な光景だ。 「うーん、なんか面白い番組やってないですかねー」 フライゴンはチャンネルを変え始め、ある所でふとその手を止める。 テレビに映し出されていたのは、二次元のアニメーションだ。 「うわー、やっぱりこの世界にもアニメとかあるんですねー」 「あは、そうみたいだね……うん?」 画面の中で動き回るアニメーションに、どこか見覚えというか既視感が芽生え、 それと同時に、その既視感が何であるかを決定付ける音声が流れてきた。 209 :3/12 ◆8z/U87HgHc :2008/03/17(月) 18 33 04 ID ??? 『前回のあらすじッ! シザリガーツ一味に触れ、 ココダックの凍りついた心は徐々に融解されていくッ! 表面的には他者を拒絶しながらも、ココダックの心は、 確かに他者の温もりを求めていたのだッ! そして化獣の襲撃から己を守ったシザリガーツに対し、 ココダックはついにありがとうのひとk……』 「う、うわーっ! ネタバレ、ネタバレッ!! フライゴン、チャ、チャンネル変えてーっ!」 「えっ!? あっ、は、はいっ!」 テレビに映し出されていたアニメは、図書館で見たあのフルアヘッド・ココダックのアニメだった。 そしてあらすじのナレーションは、ぼくの読んだ一巻以降の内容を思いっ切りネタバレしている。 くっそーっ、楽しみを奪われたっ! アニメめっ! ……と思ったけど、もうあの漫画を見る機会なんてなさそうだし別にいいかな? 再びチャンネルをくるくると変え始めるフライゴンへ向かって、 チャンネルを戻すように言おうか言うまいか迷っていると…… 「あっ!」 フライゴンは突如驚いたような一声を上げ、チャンネルを変える手を止めた。 その時画面に映し出されていたものに、ぼくもフライゴンと同じく声を上げてしまった。 「あっ……!」 そこに映されていたのは、ぼくらだった。 図書館で記者たちに囲まれうろたえていた様子が、そのまま映し出されている。 210 :4/12 ◆8z/U87HgHc :2008/03/17(月) 18 35 01 ID ??? 「やっぱり……放映されてますよォ……」 「う、うん……」 「な、なんだか恥ずかしいですよー、これ。 コウイチくん、あんまりテレビ画面見ないで下さいね、恥ずかしいなァ~~」 フライゴンは、画面の中の自分の姿を見て恥ずかしさで赤面しているけど、 確かに、何だかテレビで改めて見ると、実際にあった出来事とは思えない…… VTRは、ぼくらがフライゴンに乗って逃げる所で終了した。 カメラはスタジオに戻され、モニターの中心に映し出されたアナウンサーのユンゲラーは、 手元の原稿をちょくちょくと確認しながら、まるでぼくらへとそのまま告げるようにこう言った。 『逃げ去った人間様の行方は、現在総力を挙げて捜索中です』 「……」 「……」 アナウンサーの告げる言葉に、ぼくらは黙りこくってしまう。 電話越しにユリルさんに言われたのと比べ、テレビ越しにハッキリ言われるのはとても現実的だ。 生まれてくる焦り。ここにいても、いつかは見つかってしまうのかも……!? コン、コン 「!」 二人して黙りこくってる中、不意にドアからノック音が響いた。 211 :5/12 ◆8z/U87HgHc :2008/03/17(月) 18 36 18 ID ??? 「あ、はい、どうぞー」 フライゴンがドアへ向けてそう言うと、ゆっくりとドアが開く。 ドアの奥からは、お菓子や飲み物を載せたお盆を持った一匹のポケモンがいた。 きっとお手伝いさんの中の一人だろう。それにしても見たことの無いポケモンだ。 「は~い、コウイチさん、フライゴンさん! 茶菓子でもどうだブ~?」 頭に真珠を乗せた黒いそのポケモンは、いかにも不安定そうなバネ型の足をしている。 「あっ、お心遣いありがとうございます、お手伝いさん」 彼が跳ねて移動するたびにお盆の上のコップがカタカタと音を立てるので、 ぼくは慌てて立ち上がって、すぐにそれを受け取った。 受け取ったお盆をフライゴンの目の前に置くと、フライゴンはお盆の上のお菓子に目を輝かせる。 「わあ、美味しそうなお菓子ですねーっ! おいしそうだし高級そう、食べていいんですか?」 フライゴンの言葉に、お手伝いさんはそのまん丸い目を細めて笑顔を見せる。 「もっちろんでブーっ! ばくばくもりもり食べてくださいでブー。 たべものだけじゃあなく、この部屋にあるものは自由に使っていいでブー テレビゲームにパソコン、そこの引き出しにはナンテンドーDSもあるでブー」 ぴょんぴょんと跳ねて移動し、それぞれの機器を指差すお手伝いさん。 そういえば、言われて初めてこの部屋にパソコンがあることに気が付いた。 デスクトップ型の大きめのパソコンで、電源ランプは消えている。 パソコンかぁ……色々と情報収集できるかも…… ……!! 突如ぼくの頭に、ある衝撃的な閃きが走った。 いま心の中に渦巻いているこのモヤを、急激に薄めさせる…… あるいは、完全に晴らすことが出来るかもしれない閃き。方法。 ぼくは間髪入れずに、お手伝いさんへと向かってこう言った。 「パソコンっ、つ、使っていいですかっ!?」 急く気持ちがそのまま言葉にも表れて、若干どもってしまう。 「え、ええ……もちろん」 「ありがとうございますっ」 お手伝いさんの返事と同時に、ぼくはパソコンの電源ボタンを押していた。 212 :6/12 ◆8z/U87HgHc :2008/03/17(月) 18 38 35 ID ??? 当然だけれど立ち上がるまでには時間がかかる。 ローディング画面の表示されている画面をせかすようにじぃっと見つめながら、 ぼくは重大なことに気づく。 そうだ、この閃きの通りに事が進んでくれるとは限らない…… 「あの、お手伝いさん……あ、お名前なんでしたっけ」 「あっ、わたくしバネブーと申しまブー。よろしくです……」 「よろしくお願いします……ところで、一つ質問していいですか?」 「ん? なんでブー?」 ぼくは一度咳払いしてから、バネブーさんへと質問を投げかけた。 「入街者リストっていうやつ……つまり、この街にいる住民のことを、 パソコンで調べたり出来ますか? 種族名や、名前とか……」 「ブ?」 バネブーさんは質問を受けると、考え込むように真珠に手を当てて首を捻り始めた。 パソコンからは爽やかな音が流れ、やがてデスクトップの壁紙が表示される。 ぼくの閃きとは、はぐれた仲間の誰かがこの都市にいるかどうかを 一瞬で確かめる……ことが出来るかもしれない方法のことだ。 入街者リストというものがあるのはあの入街審査の時に何度か聞いたし、 もしかしたら一般人だってそれを見ることが出来るのかもしれない。 それを見れば、はぐれた仲間の誰かが都市にいるかどうかを確認できる。 デスクトップ上にずらずらとアイコンが表示され始めたころ、 ようやくバネブーさんは考え終え、自信なさそうにではあるがこう答えた。 「たぶんですけど、詳細な情報は無理でも種族名や入街した日時くらいなら確かめれると思うブー」 その答えが返ってきた瞬間、ぼくは思わずぎゅっと手元で小さくガッツポーズを取った。 「ありがとうございます、バネブーさん! 『入街者リスト』みたいな感じで検索したら出てきますかね?」 「はあ、たぶん……うろ覚えだから、無理だったらごめんなさいブー」 不確かだろうが確かめれる可能性があるというだけで十分だ。 ぼくは、焦る気持ちそのままにマウスを動かし始めた。 213 :7/12 ◆8z/U87HgHc :2008/03/17(月) 18 40 13 ID ??? ウィンドウの開くまでの時間や次の画面に進むまでの時間など ちょっとした待ち時間に急かされながら、 ようやく入街者リストの掲示されているサイトへとたどり着く。 どうやら種族名検索、名前検索、入街日時検索の三つが出来るらしい。 「あっ、ほらほら、ちゃんと出来そうだブー」 嬉しそうに画面を指差して喜ぶバネブーさんを尻目に、 ぼくは確認の為に、まず『フライゴン』と余白に入力して種族名検索を実行してみる。 しばしの待ち時間後、画面の中にこう表示される。 フライゴン―フライゴン 8/9 10:26 フライゴンが入街した記録も、既にバッチリキッパリ載っている。 よーするに……ぼくの仲間がこの都市にいたとしたら、これ一発で丸分かりだっ。 「……うふふっ」 何だか楽しみになって笑みを漏らしてしまいながら、 ぼくは嬉々としてキーボードを叩き、余白へぼくのポケモンの名前を入力していく。 まずは……『ラグラージ』。 体がおっきくて力の強い頼りになるポケモンだ……彼の波乗りにはいつも助けられたっけ。 文字を入力し終わり、種族名検索のボタンをクリックする。さァ、どうかな!? 該当者なし 画面上に淋しく表示される『該当者なし』の文字。 ……いや。いや、いや、いや。まぁ、そう簡単に見つかるとは思ってないさ。 それに、まだ四人の中の……ミキヒサ達も入れれば十一人の中の一つに過ぎないのだから。 さぁ、落ち着いて次行こうか、次。 214 :8/12 ◆8z/U87HgHc :2008/03/17(月) 18 44 56 ID ??? 次に入力する名前は、『ユキメノコ』。 女の子のポケモンだけど、クールで強くてカッコいいんだよね。 こう、踊るような動作で吹雪を作り出したりしてさ……相手が弱かろうが強かろうが、 表情一つ変えず叩きのめしていく感じが、必殺仕事人っぽくてかっこいいんだよなぁ~~ 入力し終える。さて、どうかなっ!? 該当者なし ……次行こう。次は『バシャーモ』だっ。 最初は可愛いヒヨコさんだったのに、進化したら一転、 武闘派で冷静で頼りになる子に成長してさ…… 拳に炎をまとってのスカイアッパーがかっこいいの何のって! ……入力し終えたぞ。さて、どうかなっ 該当者なし ……何だか先行き不安になってきた。 とにかく、次は『レディアン』だ。 あの子はそそっかしくて賑やかで、見てるだけで楽しい子だったな。 気まぐれでヒーローアニメを見せたら、それから毎日ヒーローのポーズを真似し始めてさ…… さて、そんなレディアンくんはこの都市にいるのかなっ? 該当者なし 「ううっ……!」 とりあえず、自分のポケモンがこの都市にいる目は完全に消えてしまったので、 ぼくは思わず不機嫌な唸り声を上げて、画面を睨みつけてしまう。 215 :9/12 ◆8z/U87HgHc :2008/03/17(月) 18 46 37 ID ??? くそう。 世界は広いのだから、当然といえば当然…… なのかもしれないけど、苛立たずには入られない。 宝くじに外れたのとはワケが違うんだぞ。 そうやって低く唸っていると、横から様子を見ていたバネブーさんが。 「じゃあ、私はこれで。さよならだブー」 「あ、ああ、はい……」 バネブーさんはフライゴンにも挨拶をして、ぴょんぴょんと部屋を出て行く。 そしてそれと同時に、今度はフライゴンがこちらの様子を見にやって来た。 「もしもしコウイチくん、そういえば何してるんですか? さっきから」 モニターとぼくの顔を交互に覗き込みながらそう質問するフライゴン。 「ああ、これね……」 ぼくは入力作業を再開しながら、その質問に答える。 「この都市にはぐれたぼくらのポケモンがいるか調べてるんだけどさ…… どうやらぼくのポケモンは、この都市には一人もいないみたい…… 今はミキヒサたちのを調べる途中だけど。あらら、また該当者なし一つ出ましたよー」 ミキヒサ→名前検索でやってみたものの、もちろん該当者なし。 次はミキヒサのポケモンたちか…… 半ば諦めなかけがらも、ぼくは入力作業を続ける。 パチリス→該当者なし エンペルト→該当者なし バクフーン→該当者なし キレイハナ→該当者なし ボスゴドラ→該当者なし サーナイト→がい…… ありゃ? 見慣れた『該当者なし』の文字が出るかと思えばそうではなく、 違った文字列……サーナイトがこの都市に居るということを示す文字列がずらりと出てきた。 216 :10/12 ◆8z/U87HgHc :2008/03/17(月) 18 50 16 ID ??? 一瞬ドキっとしてしまうけど、考えてみれば当然のことだ。 サーナイトはエスパータイプ。 ここはエスパータイプの都市なのだから、他にいてもおかしくはない。 しかし、紛らわしいな。どうやって調べようか? 考えながら、ぼくは画面を下へとスクロールさせ、サーナイトの羅列を追っていく。 すると、ぼくはすぐにあることに気が付く。どれも、入街日時が記載されていないのだ。 そうだ、このサーナイト達はエスパータイプなのだから、 この都市で生まれ、そしてこの都市で進化したのだ。 それなら入街した日時なんて書かれているはずがない、あるのは入街しているという事実のみ。 ……ということは、入街日時の書いてあるサーナイトがいれば、 そのサーナイトはミキヒサのサーナイトだということになるけれど…… 上から下まで画面を一気にスクロールさせてみる。 しかしどのサーナイトも例外なく、入街日時は記載されていない。 注視しなくとも、大雑把に見ただけで分かる。見落としはありえない。 つまり……『該当者なし』、ということだ。 事実は明らかになった。この都市には、ぼくの知り合いは誰一人としていない。 「コウイチくん……どうですか? いましたか?」 「いや……どうやらこの都市には誰もいないようだよ、残念だけど」 ため息混じりにそう答えると、フライゴンは残念そうに眉を顰める。 「そーですかー……じゃあ、ジュカインの用件が済んだら、すぐに街を出ましょうか」 「うん……そうだね」 確かにここにいる意味はほとんど無くなった。 あとはジュカインの用件が済むまで、この日常的な空間を存分に楽しむとするかな。 「とりあえず、お手洗い行ってくるよ」 「はい、いってらっしゃーい」 とりあえず溜まった尿意を発散するために、ぼくは部屋を出て行く。 お手洗いの場所分からないけれど……まぁ、自分で探していくのもまた一興か。 217 :11/12 ◆8z/U87HgHc :2008/03/17(月) 19 00 11 ID ??? 都市にはボクらの知り合いは誰もいない、かァ…… 確かに残念といえば残念だけれど、幸いボクらには まだ次の手がかりがあるので、そこまでの落胆はない。 あの図書館でジュカインが見つけた本から、色々と明らかになったんだ。 この世界には、ボクらの世界との繋ぎ目である『磁場』という境界があるということ、 そしてその区域には、ボクらの仲間がいる可能性が非常に高いということを。 ……そういえば、このことをコウイチくんは知らなかったっけか。 コウイチくん結構ガッカリしてたみたいだし、 おトイレから帰ってきたらこのことを教えてあげよーっと。 ふふふ……びっくりして喜ぶ姿が目に浮かぶね……ぐふふ…… バタン! 「!?」 暢気にテレビを見ながらお菓子をほおばっていると、 急に力強くドアを開ける音が聞こえ、ボクは咄嗟にその方向へ振り向く。 「あっ」 「えっ」 ドアを開けた人物はジュカインだった。ボクもジュカインも、共に驚きの声を上げる。 ジュカインはしばらく表情を固まらせてたが、一度咳払いするとこう聞いてきた。 「来てたのか、フライゴン……ところで、この部屋にマネネが来なかったか?」 その口調には焦りと苛立ちが混ざっている。 ボクはとりあえず首を横にぶんぶんと振っておいた。 「そうか……いやさ、ちょっと目を離した隙にあのガキンチョ、オレの前から逃げやがったんだ。 ……もしここに来たらとっ捕まえておいてくれるかな、フライゴン。んじゃ」 ジュカインはずらずらと返事も待たず一人で喋ってたと思うと、さっさと部屋を出て行ってしまった。 ……んむぅ、まったくジュカインも大変そうだねぇ。まぁ、ボクは知ったこっちゃないけど。 218 :12/12 ◆8z/U87HgHc :2008/03/17(月) 19 00 45 ID ??? ―――――――――――――――― でっかい屋敷には馴れてはいるけれど…… さすがに知らないおうちだから、迷うなあ…… お手洗いを探して、ぼくは屋敷の中をひたすら歩き回っている。 マネネ坊やとお手伝いさんの数人しか住んでいないはずなのに、 この屋敷は随分と部屋が多い。まるでホテルみたいだ。 そろそろ尿意がひどくなってきて、無意識に内股を擦り合わせながら 歩き続けていると、ようやくそれらしきドアを二つ見つけた。 いや、それらしきというよりは、確実にそれそのものだろう。 何せドアの中心には、あの見慣れた青いシルクハットマークが描かれているわけだし。 「うわーっ、やっと見つけたァーっ!」 ぼくは嬉々としてドアを開け、勢いよく中に飛び込んだ。 「あっ!」 お手洗いのドアを開けた途端に意外なものが目に入って、ぼくは咄嗟に一声上げてしまった。 丁度ぼくの視線の直線状、ぼくの背丈くらいはある大きな窓の前に ある人物がちんまりと佇み、窓の外へと顔を向けている。 その特徴的な後ろ姿、ちびっちゃい背格好といい、一目でそれが誰であるかが分かる。 その人物はぼくの声にびくりと肩を震わせると、がばりとぼくの方へ振り向いた。 赤くて丸い鼻が特徴的なその子は、間違いなくあのマネネ坊やだった。 「え……あ……?」 まったく初対面の人物が目の前にいるものだから、マネネはうろたえ言葉に迷っている。 そしてぼくもこの子と面と向かうのは初めてなものだから、言葉を失い固まってしまった。 つづく