約 1,493,429 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5603.html
前ページ次ページ狂蛇の使い魔 第五話 浅倉が広場を後にした、ちょうどその頃。 本塔最上階の学院長室では、魔法によって映し出された広場の光景に、二人の人物が見入っていた。 「オスマン殿、やはり彼は……」 「……概ね間違いはないじゃろう。」 一人は、サモン・サーヴァントの際にルイズたちの監督をしていた、禿げた頭が特徴のコルベールという男。 もう一人、コルベールにオスマンと呼ばれたその人物は、白い髪に白い口髭の年老いた男。 彼こそが、この学院の学院長である。 そんな二人が、なぜこんなことをしているのか。 それは、ギーシュと浅倉が決闘を始める少し前。 コルベールが慌てて学院長室に入ってきたのが始まりである。 コルベールが手にしていたのは、珍しい形のルーンが描かれた一枚のスケッチ。 サモン・サーヴァントの際に騒動を起こした、ルイズの使い魔の平民のものであるという。 コルベールはそれを、伝説の『ガンダールヴ』のものと一致した、と言った。 「なるほど……。じゃが、たまたま似た形のルーンが現れただけかもしれんぞ?」 「しかし、オスマン殿……」 コルベールが言いかけた時、部屋のドアがノックされた。 「失礼します、オールド・オスマン」 入ってきたのは、オスマンの秘書であるミス・ロングビルであった。 「なんじゃね?」 「ヴェストリの広場にて、生徒が決闘をしているようです。」 オスマンが呆れた顔をして、やれやれと呟く。 「して、誰が決闘をしておるんじゃ?」 「一人は、我が校の生徒、ギーシュ・ド・グラモン。もう一人は……」 「もう一人は?」 「ミス・ヴァリエールの喚んだ、平民です」 その言葉に、オスマンとコルベールは顔を見合わせる。 「噂をすれば、ですな。」 「全くじゃ。……丁度いい。様子を見てみるかの。」 そう言うとオスマンは魔法を唱え、広場を映し出した四角い画面を眼前に出現させた。 「駆けつけた教師たちが、『眠りの鐘』使用の許可を要求しておりますが……」 尋ねてきたロングビルに、オスマンは映像を見たまま、振り返らずに答えた。 「平民相手なら使わずとも十分じゃろ。そう伝えといてくれ」 「……分かりました」 失礼します、と一礼すると、ロングビルは映像に夢中な二人を残し、部屋を出ていったのだった。 そして、現在に至る。 決闘の結果は圧倒的なものであった。 様々な武器を自在に操り、瞬く間に敵を蹴散らして退けた、あの平民。 これなら、彼が『ガンダールヴ』だというのも頷ける。 (それにしても……) 窓際に移動し、オスマンは考える あの平民が持っていた、紫色の奇妙な箱。 色や描かれた模様は違えども、この学院に存在する『破滅の箱』と形状が酷似している。 つい最近手に入れた、手にした者は呪われるという秘宝…… 彼なら、何か知っているかもしれない。 (あとで尋ねてみる必要がありそうじゃのう……) 「ところでオスマン殿。この事を王室に報告しないのですか?」 オスマンの思考が一段落した時、コルベールが思い出したように尋ねた。 「なに、あんなやつらにわざわざ報告せんでいい。そんなことをしたら、彼の身が心配じゃ」 「それもそうですな」 コルベールはそう応えると、そろそろ授業がありますので、と言い部屋を出ていった。 (最近は奇妙な出来事が多いのう……) そう考えながら、オスマンは白髭を撫でながら、窓の外に広がる空を見上げた。 晴れ渡った青空の中に、幾ばくかの薄雲が漂っていた。 その日の夜。 「ねえ、昼間のあの変な格好、何? あ。あと、あのでっかい蛇! 教えなさいよ!」 ルイズは自室で浅倉を質問攻めにしていた。 「うるさい奴だ。俺はもう寝る」 そう言うと、浅倉は部屋の隅で寝転がった。 両手を頭にあて、すぐに目を閉じる。 「ち、ちょっと待ってよ! せめてあんたの名前くらい教えなさい! それぐらいならいいでしょ!?」 「浅倉だ」 目を開けずに、浅倉は答えた。 「アサクラ? アサクラね。それと……」 「じゃあな」 「あああ待って! 最後に一つだけ!」 浅倉が目を開け、ルイズを睨む。 「しつこい奴だ。そんなに俺をイライラさせたいのか?」 その形相に、ルイズは思わずひっ、と声をあげた。 「ほ、本当に最後よ! ……あんた、私のことどう思ってる?」 真剣な目付きでルイズが問う。 浅倉はしばらく天井を見て考えると、目だけをルイズの方に向け、答えた。 「この生活は悪くない」 「え? それってどういう……」 ルイズが言い終える前に、浅倉は再び目を閉じた。 (結局、よく分からなかったわ……) 満足のいく答えを得られなかったルイズは、両手で頬杖をつき、ふぅ、とため息を吐いた。 もう一度、寝ている浅倉を見る。 「でも、私と一緒にいるのは嫌じゃないみたいだし……大丈夫、かな」 そう自分を納得させるように呟くと、ルイズは浅倉から視線をずらし、窓の方へと目をやった。 雲に覆われた二つの月が、その隙間から弱々しい光を放っていた。 所変わって、部屋の片隅に大きな置き鏡がある、学院のとある一室。 その鏡の中に広がる虚像の世界に、銀色の鏡のような空間が出現していた。 それは少しずつ大きくなっていき、しばらくすると、人型の白い物体を四つばかり吐き出した。 吐き出すと同時に、謎の空間は跡形もなく消滅した。 二メイルほどもあるその四つの物体は、しばらくすると不気味な呻き声をあげながら、ふらふらと立ち上がった。 鈍重な動きで顔を動かし辺りを見回すと、おぼつかない足取りでどこかへと去っていく。 後には、何事もなかったかのように部屋の様子を映し出す、その大きな置き鏡があるのみであった。 前ページ次ページ狂蛇の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3291.html
前ページ次ページ“微熱”の使い魔 トリステイン魔法学院の院長オールド・オスマンは学院長室で読書にふけっていた。いつもだったら秘書のミス・ロングビルにセクハラをしているのだが、今は極めて真剣な表情である。 読んでいるのは、一応は書物にあたるのだろうが、きちんと職人が作ったものではなく、いくつもの紙片を適当に束ねたような粗雑なつくりのものだった。しかし、それに書かれている文字は、ハルケギニアで使われているものではなかった。 厳しい表情で読書を続ける中、いきなり学院長室のドアがノックされた。 「誰じゃね?」 オスマンはすばやく本をふところにしまいこむ。 乱暴にドアを開け、飛び込んできたのは頭のさびしい中年教師ミスタ・コルベールだった。 「オールド・オスマン! 大変なことが……」 「何じゃね、ミスタ・エグゼビア」 「コルベールです! どうしたらそんな名前が出てくるんですか!?」 「おお、そういえばそんな名前じゃったね。それで何事かね、ミスタ・ファンタスティック」 「コルベールですってば! ますます離れてますぞ!!」 「しょっぱなの軽いギャグじゃ。……で、何かねミスタ・コルベール?」 「これを見てください!」 「えーと、何だっけ、これ? ああ、『始祖ブリミルの使い魔たち』か。また古臭いものを…。で、これが何?」 「これも見てください! これも!」 コルベールは何かのスケッチらしきものをオスマンに見せた。 「これは使い魔のルーンのようじゃが……。むう?」 オスマンはスケッチと、本に描かれている絵を見比べ、表情を引き締めた。 「このルーンは、ミス・ヴァリエールの召喚した平民の少年に刻まれたものです。見てください、これは文献に記される、ブリミルの使い魔ガンダールヴと同じものではありませんか!!」 「……」 「つまり、あの少年は伝説の使い魔ガンダールヴではありませんか!?」 「確かに、この二つは同じもの。しかし、じゃね。それだけで決め付けるのは早計というもんじゃ」 「無論のこと、それだけではありません」 コルベールはもったいぶって咳払いをする。 「先日、ミス・ツェルプストーが学院近くの森にいった際のことですが」 「ああ、報告には聞いとる。ミス・ヴァリエールが狼に襲われて怪我をしたそうじゃな」 「その際、かの少年は狼の群れを瞬く間に蹴散らしたそうです。それも風のような速さで。その前後……彼はナイフを手にした時からルーンが光り出し、超人的な力を発揮したとか」 「こういっては何じゃが、そのナイフが何らか特殊なものであった可能性は?」 「ありません。念入りに調べましたところ、かなり質のいいものではあるようですが一切魔法の痕跡は見当たりませんでした」 コルベールの説明に、オスマンはむう、とうなった。 「しかしのう。やはり、それでもまだ伝説と結びつけるのは早計も早計じゃよ。ミスタ・コルベール」 仮にガンダールヴだとしてもじゃ、とオスマンは白いひげをなでた。 「ならばこそ、なおさら慎重にならねばのう。王室のばーたれどもに知れれば、使い魔もミス・ヴァリエールも何をされるかわかったもんではない」 「確かに……」 「ミスタ・コルベール、密かに使い魔の少年のことを調査してみてくれ。あくまで、それとなくな」 「わかりました」 「ああ、それから……ミス・ツェルプストーの使い魔も、人であったな。こっちは少女とか……」 「はい、“シグザール”という、異国の地の人間です。錬金術という未知の技術を持っていて、こちらも……」 「錬金術か」 きらり、とオスマンの瞳が光った。 「何か、ご存知なので?」 「いやいや…。そちらのほうも、調査をしておいてくれよ? ちゅうかミスタ・コルベール、すでに色々と接触しておるんじゃろう?」 「まだいくらか話を聞いたり、本を読ませてもらった程度ですが…。錬金術というものは相当に奥深く、高度な技術体系であることは間違いないようです」 「そうか………」 こつこつ。ドアがノックされた。 私です、と秘書ロングビルの声がドアの向こうからした。 「入りなさい」 部屋に入ったミス・ロングビルは書類を机の上に置いた。 「王室からです。最近治安の悪化が激しいので、注意をするようにと」 「ふーん。わざわざ王室から……。ふん、盗賊やオークどもの動きがのう」 オスマンは書類を読みながら、顔をしかめる。 「それに、“土くれ”かい」 「はい。巷を騒がしている“土くれのフーケ”が城下町を荒らしているとか……」 「物騒じゃのう。生徒に注意を呼びかけんとな」 「もしかすると、この学院もフーケめが襲撃してくるかもしれませんぞ」 「まあ、怖いことおっしゃらないで…!」 コルベールの言葉に、ロングビルは顔を引きつらせる。 「いや心配には及びません。もしもの時にはこの“炎蛇”のコルベールがお守りしますぞ」 そう言って、コルベールはばんと胸を叩いてみせた。 「まあ、頼もしい」 笑顔を見せるロングビルに、いやなに、男として、教師として当然のことです、とコルベールはちょっとばかりやにさがった顔で言った。 その様子に、オスマンはけっとそっぽをむいた。 ぱかん、ぱかん、と才人は厨房の裏手で薪を割っていた。生来の調子の良さ、もとい適応力が幸いしたのか、もう完全に使用人たちの中に溶け込みつつある。 最初は皿洗いなどをやっていたが、今では水くみや薪割りなどの力仕事が主になりつつあった。 「ふう……」 こんもりと薪が小さな山となった頃、才人は汗をぬぐった。そして、左手のルーンを見る。 ――コルなんとかという先生、調べておくって言ってたけど……。ホントに何かわかるのかねえ? 使い魔として契約とした時には特殊な能力を授かることもある。そんなことを話していたが。 少し休んだ後、また薪割りにとりかかる。その矢先、才人は手を止めた。 一人の生徒がフラフラと歩いているのが見えたのだ。 ――あいつは……。 ギーシュというキザ男だった。食堂での喧嘩騒ぎの時とは裏腹に、妙にやつれているように見えた。 「やあ、ゼロ…いや、ミス・ヴァリエールの使い魔くんじゃあないか……」 ギーシュは才人を見ると、覇気の欠片もない顔で挨拶をする。 「………」 あの時笑い者にされて悔しい思いがあるだけに、才人はそれを無視する。 「ふっ……。無視かい、それもいいさ」 ギーシュは自嘲を浮かべて、才人のそばに立つ。 「人生とは、愛とは残酷なものだなあ。薔薇とは凡人には理解されにくいものらしいよ……」 ――何言ってんだ、こいつ………………。 一人勝手にぶつぶつ言っているが、要約意訳をすると、モンモランシーという子に振られたということらしい。 ――けっ。ざまーみやがれ。 まったくもっていい気味である。 放っておくと、ギーシュは一人でしゃべりっぱなし。ひょっとして友達いないのだろうか。そうか思うと、今度は地面から出てきたでかいモグラと戯れだした。 ますますもって薄気味悪い。 ――気持ちわりいなあ…。どっかいけ、おい。 いらつきながら、才人は薪割りを続ける。 そこに。 「ここにいたわね」 今度はルイズがやってきた。 「街に行くわよ。ついてきなさい」 唐突に、そんなことを言う。 「……なんで?」 「いいからついてきなさい!」 ルイズはいらだったように、才人の腕をつかんで引っ張っていく。 「な、何言ってんだよ! まだ薪割り終わってねーし……! つうか何でお前と……」 才人の言葉に、ルイズはわなわなと震え出す。 「あ、あんたは私の使い魔でしょうが!? 黙ってご主人様についてくればいいの!!」 「やだよ」 才人はルイズを振り払った。 「最低、理由ぐらい説明しろっての」 「………………」 ルイズは怒ったのごとく、ふーとうなった。しかし、しばらくすると、声を抑えながら何やら話し始めた。 「……この前、森で私を守ったでしょ!! だから、その……忠誠には報いるところがないとね!!」 「あー、つまりお礼ってことか」 「ご、ご褒美よ! 忠誠を見せた使い魔に対するね」 ふんとルイズはそっぽを向くが、その顔はかすかに紅い。照れているのか。 ふーん、と才人は納得したような顔をした。 「わかったら、さっさといくわよ!」 「別にいらね」 先に立って歩き出そうとしたルイズは、才人の言葉につんのめる。 「いらないっ!? せ、せっかく私が…………!!」 ルイズは顔をトマトみたいに真っ赤にさせて才人を睨んだ。 「別に、あれはお前だから助けたっつーわけじゃねえし」 「何よ、それ……」 「ああいう時は、助けるもんなんだろうが、人間として。それとも何か? お前が俺の立場だったら見捨ててたのかよ」 「……そんなこと」 「だったら、それでいーだろ。用はそんだけか? だったら俺、忙しいから」 才人はまたぱかん、ぱかんと薪割りに専念しだす。 ルイズはそれを見ながら、ぶるぶると震えていた。いつの間にか、手に杖を握っている。 「こ……の……」 目に涙を浮かべながら、ゆっくりと杖を振り上げる。 「まちたまえ、使い魔くん」 ルイズが杖を振り下ろそうとした時、ギーシュが才人に声をかけた。これにきっかけを奪われ、ルイズは得意の失敗爆発魔法を発動することはなかった。 「横から見せてもらったが、君は少々冷たいんじゃあないか? レディーのアプローチを断る時には、それなりの作法というものがある。君のはあまりにも野蛮すぎるよ」 ギーシュは髪の毛を軽く弄りながら、どうだね、とポーズを決めて言った。 「関係ねーだろ。つーか、相変わらずキザなしゃべりかたしやがんなあ……。おめーはちび○子ちゃんの花輪くんか?」 「……ハナワ? 何だい、それは……。まあ、いい。一人の薔薇の紳士として言わせてもらうが……。ミス・ヴァリエールは、使い魔に対する褒美と言い条、君と親交を深めたいと見たが……」 「ちょっと!? な、な、何勝手なこと、言ってるのよ……。私は別にこんな犬なんか……」 「犬!? てめ、人をよくも……」 「おうっと、待った。短気はいけないよ、使い魔くん」 犬呼ばれりされてムッとする才人だが、ギーシュが制する。 「使い魔、使い魔、うっせーな! 俺には、平賀才人……いや、サイト・ヒラガつう名前があるんだ!」 「では、サイト。君はさっき人として、とこう言っていたね。噂で聞いているが、君は狼に襲われたミス・ヴァリエールを救ったとか……それは人として当然のことだから、別に礼はいらないと」 「あ、ああ……」 「だがね、こういう場合礼をのべ、感謝するのも人として当然じゃあないのかい」 「……まあな」 ギーシュの意見に、才人はうなずく。 「そうだろう。そしてだ……その感謝を素直に受ける。これは、悪いことかい? いや、悪いことじゃない。自然なはずだ……」 「…………」 「ならば、“お礼”をしたいというミス・ヴァリエールに同伴したって、いいんじゃないのかい。それとも、何か思うところでもあるのかい?」 何か思うところでもあるのか……その言葉に反応したのは、ルイズだった。何かをうかがうような目で、才人を見つめる。 「……そんなもん、別にねーよ」 「というわけらしい。ミス・ヴァリエール、彼は君についていくそうだよ」 ギーシュはルイズを見て、ひときわキザな仕草で言ってみせた。 「ふ…ふん!! 最初っから素直にそう言えばいいのよ!! 余計な手間かけさせて……」 ルイズはわざとらしく大声で叫びながら、才人を引きずっていく。 「い、いてえな! おい、引っ張るんじゃねーって……!」 ギーシュはルイズと才人を見送りながら、ふうーと頭を振った。 「やれやれ……。こういうのは僕のキャラクターじゃあないんだけど……。まあ、たまにはいいさ。そうは思わないかい、ヴェルダンデ」 そうつぶやき、使い魔であるジャイアントモールの頭をなでる。 もぐもぐもぐ……。 モグラは巨大な体躯に似合わぬ円らな瞳で主人を見上げた。 「ふっ…。人と人と結びつけるのもまた、薔薇の役目か。やっぱり、僕のキャラじゃあないね」 ギーシュは苦笑して、胸にさした造花の薔薇の弄る。 「しかし、悪くもないか」 タバサは熱心に本を読んでいた。これ事態はいつものことである。が、いつもとは違っている部分もあった。 まず本が違う。読んでいるそれは、エリーの持ってきた本のうちの一冊"絵で見る錬金術"。絵本のように、錬金術についてイラスト中心でわかりやすく記した超初心者向けの本だ。 書かれている文章のほうも実に簡単なものである。 タバサはそれを食いいるように読んでいた。その横には、エリーの姿が。 「……これは?」 「これはねー……ロウのつくりかたで」 タバサがたずねると、エリーは細かく説明を始める。 そんな二人の"お勉強会"を横目で見ながら、キュルケはふわあ、とあくびをしていた。 ――せっかくの虚無の曜日なのに、二人とも熱心ねえ……。 エリーとタバサは暇を見ては互いの国の言葉を教え合っている。会話そのものは問題なく、言葉の表現や文章の構造なども意外に似ている部分が多いので、それほど難しいものではないらしい。 もっとも、その"お勉強会"は傍から観察していてあんまり楽しいものではなかった。 キュルケはしばらくの間ぼけーっとしていたが、急に立ち上がり、部屋を出ていった。 「どうしたのかな?」 エリーが首をかしげていると、すぐにキュルケは戻ってくる。 「二人とも、出かける用意して!」 キュルケはうきうきとした顔でそう言った。 「え……なんで?」 「ルイズと、あの使い魔くんが出かけたみたいなのよ。二人きりで、馬に乗ってね」 「へえ、サイトが……。あれから、仲良くなったのかなあ」 「それをこれから確認するんじゃない」 つぶやいたエリーにむかい、キュルケはにこりと笑った。 「え」 どゆこと? エリーはきょとんとする。 「だから、追いかけるのよ。二人をね」 「……ええーと」 「悪趣味」 コメントに困るエリー。一言で片づけるタバサ。 「というわけで、タバサ。あなたの力を借りたいんだけど……。お願い、あなたの風竜じゃないと、追いつけないの」 キュルケは手を合わせてウィンクをする。 タバサはしばらく黙っていたが、静かにうなずいた。そして、窓を明けて口笛を吹く。 ばさり、ばさり。 巨大な羽音をたてて、タバサの使い魔であるドラゴンが舞い降りてくる。 「うひゃあああ……」 その姿にエリーは見惚れるしかなかった。 風竜は大きなくりっとした瞳で主人を、そしてエリーやキュルケを見つめ、きゅい、と鳴いた。 前ページ次ページ“微熱”の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8254.html
前ページ次ページ無情の使い魔 学院長室から『遠見の鏡』を用いて事の顛末を見届けたオスマンは、低く唸りながら己の豊かな髭を撫で上げる。 鏡に映りこんできた場面には、もはや言葉すら出ない。 (ドットクラスのメイジとはいえ、貴族を倒すとはのう……) それだけではない。 先程、慌てて止めに行くと出て行ったコルベールの話が正しければ、あの少年は『ガンダールヴ』の力を発動させるのではとも考え、こうして観察していた訳なのだが―― (やっぱり、違ったのかのう) 決闘の最中、あの少年は武器を何度か手にしてはいたものの、彼の左手に刻まれたルーンは全く反応していなかった。つまり、彼は生身であのゴーレムを叩きのめしたのだ。 コルベールが調べた使い魔のルーン――『ガンダールヴ』とはあらゆる武器を使いこなし、たった一人で幾千もの敵をも薙ぎ倒したという伝説の使い魔だったという事なのだが、もしそれが本当なのならば彼が武器を手にした所でルーンが力を発揮していたはずだ。 だが、あれだけではまだ結果は分からない。 もう少し様子を見る必要があるだろう。 (それにしても……あの子供達みたいじゃったのう) 通りがかる生徒や教師達が恐ろしい物でも見るかのような視線を桐山に送り、避けていた。 「ミス・ヴァリエールの使い魔は悪魔だ」 「メイジ殺しの平民だ」 そんな声も密かに囁かれる。 しかし、桐山はそんな陰口にすら全く興味を抱くことはなかった。 「あんた、本当にただの平民? どうして、あんなに強いのよ?」 寮の自分の部屋に桐山を連れ戻すなり、彼を問い詰めるルイズ。 「習ったんだよ」 にべもなくそう言い、桐山は先程シエスタから受け取った本を読み初める。 「習ったって……どこの平民がメイジを……しかもあれだけのゴーレムを軽く捻じ伏せられるって言うの!」 桐山は読書を続けつつデイパックの中から一冊の厚みがある本を取り出し、ルイズに差し出す。 それを受け取るルイズだが、表紙や中に刻まれた文字は桐山の世界における言語で書かれているものであるため、全く読み取る事ができない。 ちなみにその本のタイトルは「総合格闘技の全て」である。 「……何よ! これ! 全然、読めないわ!」 「それに書いてあった。どう戦えば良いのか」 「こんな本一冊であんなに強くなれる訳がないでしょう! 馬鹿も休み休みに言いなさい!」 癇癪を起こし、本をベッドに乱暴に放り捨てるルイズだが、桐山は動じない。 ここでルイズは自分を少し落ち着かせる。喚いてみたって、どうにもならない。 「……あんたがどうやって学んだかは知らないけど、とりあえずあれだけ強いのはあたしも理解できたわ。 でも、今後はあたしの許可なしに勝手な事は一切しないでちょうだい。……大体、何でギーシュの決闘なんか受けたりしたのよ」 「彼が言ったんだよ。〝決闘だ〟〝逃げる事は許さない〟と」 「あんた、逃げるのが嫌だったの?」 桐山は表情を変えぬまま首を横に振った。 「彼がそう言ったから、そうしただけだ」 「たった、それだけ?」 その事実にルイズは顔を顰めた。 あれだけ強い桐山が決闘を受けたのは、平民である彼なりのプライドでも何でもない。 ただ、彼は〝ギーシュとの決闘〟を「選択」しただけなのだ。 彼にとってはそれに意味などなく、ただそこらに落ちていた小石を蹴ってどかしたりするのと同じでしかない。 平民とはいえ実力のある使い魔である事が分かり、本来なら喜ぶべきかもしれない。 だが、彼のそうした異常とも言える行為が理解できず、逆に恐怖を感じてしまった。 (何よ、しっかりしなさい! あたしはこいつの主人よ! 怖がってどうするのよ!) たとえどんなに異常といえ、自分の使い魔を恐れるなんて、何たる事か。 ルイズは己を叱咤し、桐山への恐怖を打ち消そうと奮い立っていた。 そんな中でも、桐山はルイズを一瞥する事なく読書に夢中だった。 日が落ち、ルイズ達生徒は夕食のためにアルヴィーズの食堂へと赴き、桐山もまた厨房へと訪れていた。 そこで彼はマルトーからや他のコックや給仕達などから「我らの剣よ!」などと讃えられたりしていたのだが、桐山は気にするでもなく昼間とほぼ同じ量の料理を振舞われ黙々と食していた。 桐山が平民でありながら貴族を負かしたという事実に気を良くするマルトーから「どうやってあんなに強くなれたんだい」と聞かれても、桐山はルイズの時と同じく「習ったんだよ」と、それだけしか言わない。 無駄な事は一切話さず、簡潔に一言だけを述べる。マルトーは無口ながら桐山が自らを誇っている訳でないと見て、さらに気を良くしていた。 他のコックらに「みんなも見習え! 達人は決して誇らない!」などと嬉しそうに唱和させるも桐山は気にも留めていない。 「キリヤマさんがあんなに強いなんて、わたし驚きました」 食事を終え、厨房を後にしようとする桐山にシエスタが話しかける。桐山は一度立ち止まり、シエスタの話を聞いている。 あの決闘の一部始終をずっと見届けていたシエスタは初め、桐山がギーシュの召喚したゴーレムにやられてしまうのだと思い込んで悲観的になり、何度も彼に対して謝罪の念を抱いていた。 しかし……結果は見ての通り、桐山の圧勝にて終わった。それだけではない。シエスタは桐山の優雅な戦い振りに惹かれてしまったのだ。 それでいて全く傷一つ付いていないなんて、驚きを通り越して唖然としていた。 「……あの、本当に申し訳ありませんでした。わたしのせいで、桐山さんを危険な目に遭わせてしまって」 実際は全く危険ではなかった訳だが、これくらいの謝罪はせねばとシエスタは頭を下げる。 「いいんだ。ああいうのも面白いんじゃないか」 と、だけを言って厨房を後にしてしまった。 (もう少し。せめて、少しくらい笑ってくれたらなぁ……) シエスタは桐山と出会ってから今に至っても、彼が一度として笑顔を見せてくれない事を少し残念に思っていた。 笑顔だけではない。彼はあの無機的な表情をまるで人形のように一切、変化させていないのだ。 どうにかして、せめて微笑みくらいは見せてくれないだろうか。 女子寮へと戻り、ルイズの部屋に入ろうとするが鍵がかかっている。中に人の気配がないので、まだルイズは戻ってきていないようだ。 仕方がないので扉の横の壁に寄りかかり、静かにルイズを待つ事にする。 「……?」 すると、学ランの裾を何かが引っ張り、足元に熱さを感じる。 初めはそれほど気にするでもなく静かに佇み続ける桐山だったが、引っ張る力が強くなり、今度は「きゅるきゅる」と変わった鳴き声が聞こえてきた。 ちらりと視線を足元に向けると、そこには赤い体をした大きなトカゲの姿があった。尾の先にはじりじりと火が灯っている。 そのトカゲ――サラマンダーは学ランの裾を咥えたまま、くいくいっと引っ張っていた。 桐山はじっとそのサラマンダーを見つめ、小首を傾げるが、全く離そうとしないのを見て自分をどこかへ連れて行こうとしているのを察した。 学ランから口を離したサラマンダーはルイズの部屋の隣の部屋へ向かってのしのしと歩いていき、中へと入っていく。 その後を付いていき、桐山も中に足を踏み入れる。 中は暗闇に包まれていた。 正確には窓の外から入り込む月の微かな明かりや先程のサラマンダーの尾の灯火だけしかなかった。 「扉を閉めて下さるかしら?」 と、暗闇の奥――ベッドの方から妖艶な女の声がかかる。 桐山は後ろ手に扉を閉める。するとパチン、という指を弾く音と共に部屋の中に立てられた蝋燭が一本ずつ僅かな間隔を開けて灯っていった。 桐山のいる場所からベッドまで、まるで一つの道のように蝋燭の明かりは続いている。 ベッドに腰掛けているキュルケは、年頃の男ならば目のやり場に困る姿をしている。 彼女はベビードールのような下着だけしか身に着けていない。 桐山はそれを見ても特にどうも思わぬまま彼女を見続けていた。 「そんな所にいないで、こちらにいらっしゃいな……」 そんな彼を見て、困惑していると思い込んでいたキュルケは色っぽく声をかけて誘う。 溜め息も何の反応もせぬまま桐山はキュルケの目の前まで歩み寄る。 桐山の凍りついた瞳を間近から目にしたキュルケは思わず、ぞくりと身震いをした。 しかし、彼女が感じているのは恐怖ではなく、高揚感であった。 「初めまして。使い魔さん。あたしはキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー」 妖艶に微笑みながら自己紹介をするキュルケ。 「あなたのお名前は?」 「キリヤマ。キリヤマ、カズオ」 桐山が無機質に名乗ると、キュルケは大きくため息をついた。そして悩ましげな目付きをする。 「……あなたは、あたしをはしたない女だと思うでしょうね。 ――思われても仕方ないの、わかる? ――あたしの二つ名は『微熱』。あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの。だから、いきなりこんな風にお呼びだてしたりしてしまう……。わかってる、いけないことよ……。 ――でもね、あなたはきっとお許し下さると思うわ」 キュルケは立ち上がり、桐山の間近くで彼の氷のような瞳をじっと見つめた。 「恋してるのよ。あたし、あなたに。恋はホント突然ね……。 ――あなたがギーシュのゴーレムを倒した時の姿、とても素敵だったわ。まるで伝説のイーヴァルディの勇者みたいだったわ! ――あたしね、それを見て痺れたのよ。信じられる? 痺れたのよ! 情熱! あああ、情熱だわ! ――二つ名の微熱は情熱なのよ!」 と、勝手に一人で盛り上がるキュルケだが当の桐山はそんなキュルケを見ても全く表情を変えていない。 それどころか、くくっと小首を傾げるだけだった。 (あら、ガードが固いわね……) 普通の男だったらここまでにダウンしているというのに、この桐山という少年にはキュルケの色気が全く通じていない。 次はどう攻めようかと思案したその時、窓の外が叩かれた。 そこには恨めしそうに部屋を覗く一人の男の姿が。 「キュルケ……待ち合わせの時間に君が来ないから着てみれば……」 「ぺリッソン! ええと、二時間後に」 「話が違う!」 キュルケは胸の谷間に差していた杖を振り、蝋燭の火から大蛇のような炎が伸び、窓ごと彼を吹き飛ばす。 その後もスティックス、マニカン、エイジャックス、ギムリまでもが姿を現すがキュルケの魔法やフレイムによって次々と吹き飛ばされていった。 「でね……あ! ちょっと!」 その間に桐山は興味を失ったかのように踵を返し、無言で部屋から出て行こうとする。 ノブに手をかけようとした途端、扉が乱雑に開け放たれた。 「ちょっとキュルケ! うるさいわよ……ってキリヤマ! あんたなんでこんなとこにいるのっ!?」 そこに立っていたのはルイズだった。そして、わなわなと肩を震わせている。 「取り込み中よ、ヴァリエール」 「ツェルプストー! 誰の使い魔に手を出してるのよ!」 「仕方ないじゃない。好きになっちゃったんだもの」 二人が言い合う中、桐山は興味もなさ気にルイズの脇を通って部屋を後にしていた。 ルイズはすぐ様彼の前に立ち塞がり、問い詰める。 「まだ話は終わってないわ! 何で、あんたがツェルプストーの所にいるのよ!」 「彼女が俺を呼んだんだ」 「……あんた、それだけでホイホイ彼女の所へ転がったっていうの……?」 ピクピクと口端を引き攣らせ、殺気立つ。しかし、桐山はそれには全く動じず、 「俺を呼んできた。俺はとりあえず部屋に入ってみた。それだけだ」 と言い残し、ルイズの横を通って彼女の部屋へと戻っていった。 「待ちなさい! ちゃんと説明してもらうわよ!」 桐山を追いかけ、ルイズも部屋へと飛び込んでいった。 フレイムと一緒に取り残されてしまったキュルケは、先程目にした桐山の瞳をふと思い返していた。 人形のように凍りついた、冷たい瞳。それはまるで全てを容赦なく凍てつかせるようなものだった。 その瞳が、自分の友人とよく似たものである事に気付く。 (……いえ、あの子よりももっと冷たいわね) トライアングルクラスのメイジである友人よりも、彼の瞳は圧倒的に冷たかった。 そして、一切の感情が宿っていない事に気付く。 翌日は虚無の曜日。休日であり、授業はなかった。 ルイズは桐山を連れて街へと向かう事になった。戦う事ができる桐山に剣か何かを買ってあげようと考えたのである。 使い魔たるもの、主人を守るのも役目の一つ。いくらドットクラスのメイジに勝てたからと言って所詮は平民だ。 剣一つくらいは持たせなければ、それ以上の実力のメイジと戦う事になっても勝てる訳がない。 桐山は特に何の意見もなく、ただ彼女に付いていく事になった。 (……な、なによ! あいつ! 何で、あんなに上手いのよ!) 馬に乗って街まで向かっていたのだが、ルイズは馬術が得意な自分と全くの互角、いや自分よりも優雅で遥かに見事な腕前で馬を走らせているのを見て何故だか無性に腹が立った。 主人である自分が得意とするものが、使い魔に劣る。それがとても悔しかった。 「……あんた! もう少しゆっくり走りなさい! 主人より前に出るのは許さないわよ!」 理不尽な嫉妬が混じった叫びを上げると、桐山は素直にスピードを落としてルイズの隣につく。 「あんた、何でそんなに馬の扱いが上手いの? 前にも乗った事があるの?」 「いや、馬に乗るのはこれが初めてだ」 などと言われてルイズは驚く。初心者? 冗談ではない。自分でさえここまで技術を磨くには時間がかかったのだ。それをほんの僅かな時間でここまで身に着けられるものなのか? 「……う、嘘おっしゃい! だったらどうしてそんなに馬の扱いが上手いのよ!」 「お前を見て覚えたんだ」 (あ、あたしを!? ……な、何なのよ! こいつ!) 確かに乗り始めてから数分の桐山はそれ程乗馬は上手くはなかった。 それを、ルイズの乗馬を僅かに見ただけであそこまで技術を物にするなんて。……化け物だろうか? 一方、学院の学生寮。自室で休日の楽しみである読書にふけていたタバサだったが、突然扉を乱雑に開けて乱入してきた人物に妨害される。 タバサは杖を取り、サイレントの呪文を唱えようとするが、 「待って!」 それが友人であるキュルケであると確認し、中断する。 「タバサ! 出かけるわよ! 支度して!」 「虚無の曜日」 「分かってる。あなたにとって虚無の曜日がどんな日なのか、あたしは痛いほどよく知ってるわよ。 でも、今はね、そんな事言ってられないの。恋なのよ! 恋!」 と、自分の肩を抱くキュルケ。 「あぁもう、説明するわ! 恋したのあたし! ほら使い魔のキリヤマ! 彼があの人が憎きヴァリエールと出掛けたの! だからあたしはそれを追って突き止めなきゃいけないの!」 キリヤマ。その名前にぴくりと僅かに反応するタバサ。 「わかった」 そう一言答え、読んでいた本をしまうと準備をする。 ずいぶんと物分りが良いので、キュルケは一瞬呆気に取られた。 「……まあ、いいわ。とにかく二人は馬に乗って出かけたの。あなたの使い魔のシルフィードじゃなきゃ追いつかないのよ!」 沈黙したままタバサは準備をし、窓を開けると指笛を吹く。 そして、飛んできた彼女の使い魔、風竜シルフィードに乗ってルイズ達を追った。 タバサがこれほどまでに軽く了承したのはキュルケに頼まれたからではなかった。 (彼は……わたしと似ている) あのキリヤマという少年。彼が自分とよく似ていたからだ。 雰囲気、表情、瞳……何もかもが自分と酷似していた。 まるで客観的に自分という存在を見ているような気がして、興味が湧いた。 三時間程、馬を走らせて王都トリスタニアの街へと着いたルイズ達。 今日は虚無の曜日という事でブルドンネ通りには多くの人々が忙しそうに行き交い、通りの脇には露天や商店が並んでいる。 「この先にはトリステインの宮殿があるのよ、だから街として発展もしているの」 桐山に少しくらいは説明した方が良いと思い、ルイズは大通りの先を指差す。 当の本人は田舎者のように辺りをキョロキョロとする訳でもなく、その視線はじっと正面のみ見据えられていた。 「ええと、武器屋はこっちだったわね」 そう言って路地裏へ入るルイズ。桐山もしっかり付いてくる。 路地裏は表通りに比べて日も当たらなくて陰気であった。 「ここら辺は治安が良くないから、あまりここへは立ち寄りたくないのよね……」 と、溜め息を吐くが路地を進んでいると突然、4人の男が二人の前に立ち塞がってきた。 「へっへっへ、貴族のおふた方。ここを通るには通行料が必要でね」 ごろつきの一人が下品に笑う。その手には小さなナイフが握られていた。 「で、いくら欲しいのよ」 「へっへっへ、そうだな。有り金全部出してもらお――ぎゃああああぁぁっ!!」 ナイフを突きつけながら言い終える直前に、突然男が絶叫を上げて蹲った。 その手からはいつの間にかナイフが消え、男の右目に突き刺さっている。 (な、何!? 何が起きたの!) 「このぉ!」 三人がナイフを振りかぶって一斉に飛び掛っていったのは桐山であり、ごろつき達が立ち塞がってから変わらぬまま静かに佇んでいる。 それからルイズは唖然とした。 桐山は三人を、五秒とかからずに次々と地に伏させていたのだ。 一人は両腕をあらぬ方向にへし折られてナイフを脚に突き刺され、 一人は桐山の手刀でナイフを手にした手首を真っ二つにされてその手首ごとナイフをもう片方の腕に突き刺され、 一番マシであった一人は桐山に手を掴まれて捻られ、足を引っ掛けられて前に一回転しながら地に叩きつけられて昏倒するだけで済んでいた。 「あぁ……ああぁ……」 尻餅をついていたルイズは微塵の容赦もなくごろつきを叩きのめした桐山を見て、恐怖を抱きかけていた。 何故、あそこまで冷酷になれるのだろう。ごろつきを叩きのめすのであれば、最後の一人のようにするだけで良いではないか。 「……あ、ちょっと! 待ちなさい!」 足が震えて立ち辛かったが、つかつかと先へ進みだす桐山の後をルイズは追った。 二人が路地を去った後も、ごろつき達は地を這い蹲ったまま呻き声を上げていた。 今ので憔悴しかけたルイズであったが、桐山が人を殺さなかっただけでも幸いだったと感じ、改めて自分を奮い立たせていた。 そして、目的の武器屋へと入っていく。 やや薄汚れた店内には様々な武器が置かれているが、店主は働く気があるのかカウンターでタバコを吹かしている。 しかし、ルイズ達の姿をみるや否や、媚びへつらった顔をする。 「旦那、貴族の旦那。うちは真っ当な商売をしていまさぁ。お上に目をつけられるようなことは、これっぽっちもありませんよ」 「何を勘違いしてるの。客よ」 と、ルイズが言うと店主は眉を顰めだす。 「貴族が、剣を……?」 「あたしじゃないわ。こいつに見合う剣を適当に一つ見繕ってちょうだい」 と、桐山を指差す。桐山は既に店内に置かれた剣を手にしてそれをじっと見つめていた。 しかし、どれを手にしてもすぐに興味を失ったかのように戻してしまう。 「あぁ、従者様にですかい。彼でしたら……」 良い鴨が来たものだと微かに笑いながら店主は1メイル程の長さの、ずいぶんと華奢な細身の剣を取り出した。 「昨今は宮廷の貴族の方々の間で下僕に剣を持たすのが流行ってましてね。その際にお選びになるのが、このようなレイピアでさあ」 「貴族の間で、下僕に剣を持たすのが流行ってる?」 「へえ、何でも最近このトリステインの城下町を盗賊が荒らしてましてね」 店主曰く、『土くれのフーケ』というメイジの盗賊が貴族の財宝を盗みまくっているという。 しかし、ルイズは盗賊には興味はない。 「もっと大きくて太いのがいいわ」 「お言葉ですが、剣と人には相性ってもんがございます。見た所、若奥様の従者様にはこの程度が無難なようで」 「大きくて太いのがいいと言ったのよ」 ルイズと店主が交渉をし合う中、桐山はそちらに全く興味を示さず自分で勝手に剣を取っては戻している。 「これなんかいかがです?」 そして、店主が取り出したのは所々に宝石が散りばめられた、1.5メイルはあろうかという大剣だった。 「ほら! キリヤマ! あんたもこっちに来なさいよ!」 ルイズが桐山の服を引っ張って呼び寄せると、彼にその剣を渡す。 じっとその剣を見つめていた桐山であるが、その剣ですら他の剣同様にすぐ興味を失ってしまい、素っ気無く店主に返してしまった。 それどころか、もうこの店に用は無いと言いたげに踵を返し、店の外へ出て行こうとしてしまう。 「ちょ、ちょっと! どこへ行くのよ! キリヤマ!」 慌ててルイズが彼の腕を掴んで呼び戻す。 「あんたのために剣を買ってあげようって言ってるんじゃない! それを無碍にする気!?」 これではせっかく街まで来た意味がない。 「じゅ、従者さん……お気に入りにならないのでしたら、また別の剣を――」 店主もせっかくの鴨である客がこのまま何も買わずに帰ってしまうのだけは避けたかった。 そんな時だった。 「へっ、ざまあねえな」 突然、どこからともなく男の声が聞こえた。 「客に逃げられるようじゃあ、所詮はその程度よ!」 「何の声?」 ルイズがきょろきょろと辺りを見回す。 すると、店主が積み上げられた剣に向かって叫びだした。 「やかましい、デル公! お前は黙ってやがれ!」 桐山は再び踵を返すと、声がした方へ向かって歩き出す。 「黙らせられるもんなら、やってみるんだな!」 その声は一振りの錆付いた剣から聞こえてきた。 「これって、インテリジェンスソード?」 「はあ、『デルフリンガー』っていうインテリジェンスソードでして。……一体、どこの魔術師が始めたんでしょうねぇ。剣を喋らすなんて……。 やいデル公! それ以上、余計な事を言ってみろ! 貴族に頼んでてめえを溶かしちまうからな!」 「面白れえ! やってみろ! こちとらどうせ、この世にゃ飽き飽きしてた所さ!」 店主とデルフリンガーが言い争う中、桐山はその剣を無言で手にし始めた。 デルフリンガーは桐山の手の中で、桐山を観察するかのように黙りこくっていた。 それから少しすると、小さな声で喋りだす。 「おでれーた。……てめえ、『使い手』か。……って、何だよ!」 そのデルフリンガーでさえ桐山はすぐに興味を失って戻してしまい、離れていった。 「ちょ! ちょっと待て! おい、俺を買え! いや、買ってくれ! おいってばああぁぁっ!」 悲痛な叫びで懇願するデルフリンガーに、さすがの桐山もまた戻ってくる。 そして、再び手に取った。 そして、ルイズをちらりと一瞥する。どうやら、これに決めたようだ。 ルイズは桐山が変な物を選んだ事を意外に思って細く溜め息をつく。 「おいくら?」 「……え? ああ、あれなら20で結構でさ」 「あら、そんなに安くて良いの?」 「こちらとして良い厄介払いになりますんで」 ルイズが桐山に預けたサイフには200エキュー程のお金が入っている。 充分過ぎる程、破格の安値だった。 桐山は店主から渡された鞘ごと、黙々とデルフリンガーを背負っていた。 「あんた、本当にそんなので良いの?」 武器屋を後にし、馬を繋いでいる所まで戻っていく中、ルイズは桐山に問う。 正直、どうして桐山がこんなボロい剣を選んだのか不思議でならなかった。 「いいんだ」 それだけを言い、後は沈黙するだけだった。 「おい! 平民!」 学院に戻ってくるなり、突然桐山を呼び止めた生徒がいた。 ルイズと同級生のラインメイジ、ヴィリエ・ド・ロレーヌである。 彼曰く、先日のギーシュとの決闘で彼が勝ったのが許せないという事だった。 平民の分際で貴族に勝つなどという事はあり得ない。インチキだ。自分ならば彼に勝ってみせる。 そのような理不尽な因縁をつけてきたのである。 ルイズが必死に止めようとしても、ロレーヌは「ゼロのルイズは引っ込んでいろ!」などと言ってくる。 「決闘だ! 平民め!」 そう意気込み、桐山に挑んだロレーヌだった。 しかし、結果はすぐに出ていた。 「あ……あう……」 ものの数秒で地に這い蹲るロレーヌ。その右腕は手首から肩まで見事にへし折られている上に、杖も桐山の手刀で真っ二つにされていた。 その後桐山に対して貴族に勝ったという事実を受け入れられない尊大な生徒達は次々と彼に挑んでいった。挙句の果てには決闘など関係なく、一方的に桐山を叩きのめそうと喧嘩を売ってくる。 最悪、本気で桐山を殺そうとする者さえいた。 だが、桐山はどの相手もほとんど時間をかけずに逆に叩きのめしていた。 優秀な成績を収める生徒さえも、彼には全く歯が立たず、。一矢報いる事さえできない。 そして誰もが水のメイジによる治療が必要な程の重傷を負わされていた。 ただ、桐山もメイジは杖が無ければ無力化できるとすぐに学習していたため、杖をへし折られるだけで済んだ運の良い生徒もいた。 決闘を挑んだ生徒達は桐山を貴族に歯向かったとして訴えるべきだ、と学院長へ直談判していたが、 「馬鹿者。そもそも一方的に決闘を挑んだのはお主達じゃ。それに、彼はミス・ヴァリエールの使い魔。彼に罰を与えるのは彼女だ」 と、突き返されてぐうの音も出ないようだった。 夜が更けた頃、学院庭の塔の壁の傍で夜風に当たりながら桐山は読書をしていた。 学院の生徒達に次々と重傷を負わせてしまったという事で、ルイズからその罰として今日は部屋の外で寝るように命じられたのである。 実を言うと、ルイズもその生徒達から「もう少しお前の使い魔の躾をちゃんとしろ」などと逆恨みされてしまったのでこうなってしまい、そのため仕方なしにこうさせた訳である。 もっとも、ルイズの部屋のすぐ外で構わなかったのだが、桐山はあろうことか学院の庭まで移動していた。 「しっかし、お前さん本当に容赦がなかったな」 傍に立て掛けられたデルフが感嘆に呟く。 「貴族のガキ共相手とはいえ、少しは手加減してやっても良かったんじゃねえかい?」 「……道端の石ころをどかしただけだ」 と、答えるとデルフは溜め息を大きく吐き出す。 「……ったく、とんでもねえやつだなぁ。武器もまともに持たずにメイジを叩きのめすなんて、お前さん何者だよ?」 しかし、桐山は答えずに読書を続けている。 「シカトかよ……」 少し切なそうな声を出すデルフ。 すると、そんな桐山の元に一人の小さな人影が歩み寄ってくる。 桐山はそれに全く興味を示さずに読書を続けていた。 結局、昼間はキュルケと共に街へ行っても桐山に会えなかったタバサだが、そこで彼を見かけていた。 (そっくり……) 読書をしている彼のその姿に、タバサは息を呑んだ。 自分も読書は好きだ。そして、それに夢中になると周りの事などほとんど眼中になくなる。 まるで彼のように。 自分が近づいてきても、彼は全く興味を示さない。 ますます、自分という存在を客観的に見ているように思えていた。 桐山のすぐ隣に立ち、彼が呼んでいる本の中を見てみる。 自分の知らない言語で書かれた専門書みたいだ。 ちなみにその本のタイトルは「腹々時計」である。 タバサには内容が全く分からないが、桐山が自分など気にせずに読み続けているので余程内容が面白いのかと思っていた。 「本、好き?」 「ああ」 話しかけてみると、桐山はタバサを一瞥する事無く答える。 「何ていう本?」 「色々な戦い方が書いてある」 と、簡潔に述べて再び本に視線を戻していた。 (……そう。彼は、強い) ギーシュだけでなく、この学院の様々な生徒達がまるで相手にならなかった彼。 タバサもこれまでに様々な危険な任務に従事し、多くの敵と相まみえてきたが、正直彼の強さがどれ程のものなのかとても興味があった。 これまで自分は、己の目的を果たすべく力を蓄えてきた。 その力が、『メイジ・キラー』である彼に通用するかどうか……。 そのような黒い衝動が彼女を突き動かす。 「ん? どうしたんだい、嬢ちゃん」 デルフが桐山の横で、自分の身長よりも大きい杖を構えだすタバサに困惑しだす。 桐山はデルフがそのように慌てても、相変わらず読書に夢中だった。 「あなたと、手合せがしたい」 桐山は目を伏せると本もパタンと閉じ、デイパックの中にしまう。 そして、立て掛けていたデルフリンガーを手にしていた。 「おいおい、やめておけよ。こいつはここのガキ共が全く相手にならなかった奴だぜ? ケガしてもしらねえぞ」 「終了の条件は、相手を地面に倒す事」 デルフを無視して彼からゆっくり後退るタバサは桐山にルールの説明をした。 桐山は逆手に持ったデルフリンガーを無造作に垂らしたまま、自分から離れていくタバサを見つめている。 他の生徒達はルールの説明もなしに、一方的に彼を攻撃した。それで彼に半殺しにされた。 桐山は一切の感情が宿らない冷たい瞳で、タバサを見返していた。 タバサに対して苛立ちも、怒りも、敵意も、殺意も、何一つ抱いている訳ではない。 恐らく他の生徒達同様、目の前に転がっていた石ころをどかそうとするだけなのだろう。 前ページ次ページ無情の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7274.html
前ページ次ページ攻撃力0の使い魔 (ここ…どこ……? 寒い…苦しい…何も見えない…何も聞こえない……) ルイズは、凍てつくような寒さの 真っ暗な闇の中にいた。 全身に力が入らない。 まるで重さが無くなったかのように 体が軽い。 にも かかわらず、開放感は いっさい無い。 むしろ、あまりの閉塞感に 気持ち悪くて吐きそうになる。 とにかく寒い、苦しい。何より……寂しい。心細い。 (どうして……? こんなに好きなのに……なんで こんな仕打ちを……) 心の中で誰かに呼びかける。 自分がこんな苦痛を味わう原因を作った、その誰かに。 それが誰かはわからないが、ルイズは その人物のことを知っているような気がした。 その人物のことを思うと、胸が苦しくなる。たまらなく愛おしくなる。 ……どのくらいの時間が流れただろう。未だ、ルイズの苦しみは続いていた。 そして……彼女は気づいた。 (そっ…か……そうよ……わたしは…苦しんでるかぎり…絶対 あなたを忘れない…… だから…わたしに こんな苦しみを……そうなんでしょ……?) その結論を手にして、ルイズは たまらなく嬉しくなった。 その発見に、胸が熱くなる。 心が、熱く焼けただれて、吐き気がするほど嬉しかった。 ある時……突然、世界が揺れた。 ルイズの知覚できる範囲…世界が、何かに引き寄せられている。 引き寄せる力が強くなり、体も どんどん重くなっていく。 世界が激しく揺れ、赤熱した光で視界が満たされる。 (熱い……! たすけて……! たすけて……) 誰かの名を呼び、助けを求める。 元より、自分の知っている人間は その人だけだ。自分の世界には、その人しか いらない。 自分の意識と体が激しく焼き尽くされるのを感じながら、ルイズは名前を呼び続けた。 凄まじい衝撃が走った。あたりに轟音が響く。 熱い……! 痛い……! 苦しい……! だが、まだ自分は生きている。 何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。体が動かない。立ち上がれない。歩けない。 ……左腕に力が入る。 (……! 動く……!) 左腕だけは、まだ感覚が残っていた。 ルイズは、左手で力いっぱい地面を引っかくように握り締める。そして 指を開く。 また握る。また開く。 そうやって左手の握力だけで体を動かしていく。 焼けただれた肌と地面が擦れて痛い。が、気にせず進む。 地面を握った指先の爪が割れて痛い。が、それも気にせず進む。 ルイズは、文字どおり「左腕だけ」で前に進んだ。 自分をこんな目に遭わせた、愛しい人を目指して。 左腕以外の部位が さっきの出来事で焼失したことなど、今はどうでもいい。 彼に会いたい。いや、会わなければならない。 そして、伝えるのだ。いかに自分が彼を愛しているか。いかに自分の愛が強いか。 そうだ。世界を、自分の 彼に対する愛で満たそう。 そうすれば、きっと……喜んでくれる。 「……っ!!」 シーツを跳ねのけて飛び起きる。 気がつくと、ルイズは 部屋の中…ベッドの上にいた。 カーテンが綺麗に整えて開けられた窓から、朝日が差し込んでいる。 「あっ!」 思わず、自分の体を確かめる。 ……手も、足も、胴体も、頭も、ちゃんと全部揃っている。 なぜ そんなことをしたのか自分でもわからないが、とにかく ホッとした。 「……夢?」 そういえば、何か…とてつもなく苦しくて…そして悲しい夢を見ていた気がする。 だが、どんな夢だったのかは思い出せない。汗だか涙だかわからない水滴が、頬を伝って滴り落ちた。 大量の水分を含んだネグリジェが気持ち悪い。こちらは間違い無く汗だ。 だんだん頭がハッキリしてきたルイズは、部屋の中を見回す。誰もいない。 (まさか、昨日のことも夢……!?) いや、そんなハズはない。事実、昨日 自分は使い魔の召喚に成功した。 その証拠に、昨日の夜 脱ぎ散らかした衣服が 無くなっている。 ルイズの召喚した使い魔が、洗濯のために運び出したのだろう。 今 あいつが部屋にいないのも、きっと そのためだ。 どんどん正常な思考を取り戻していく頭で状況を整理していると、突然 ドアのカギが回され 扉が開く。 そして、昨日 ルイズが召喚した亜人:ユベルが現れた。 「……やあ。おはよう、ルイズ。よく眠れたかい?」 トーンの低い女性の声で、ごく自然に呼び捨てにしてくる。だが、もう いちいち気にしない。 「ちょっと…ノックくらいしなさいよね……まあ…真面目に仕事してるみたいだし、許してあげるけど」 「あぁ……洗濯なら、そのへんにいたメイドに頼んでおいたよ。ボクより 彼女たちのほうが ずっと上手いだろう?」 「あ、あんたねぇ……洗濯も使い魔の仕事だって 昨日 言ったでしょ」 「そうかい? でも 残念だが、ボクはキミの召使いになるつもりは無いからね」 どうやら「使い魔」についての認識が根本的に食い違っているようだが、それは今後ゆっくり教育していけばいい。 「……まあ、済んだことはいいわ。じゃあ…ホラ」 ルイズが ベッドから降りて床に立ち、そのまま じっとユベルを見つめる。 「着替えさせて」 「なに?」 「あんたが わたしの着替えを手伝うの」 「……それも使い魔の仕事なのかい?」 「そうよ。だから早くして」 「……言っただろ。ボクはキミの召使いじゃない。下僕でもなければ奴隷でもない。言わば協力者だ。 キミや ほかの人間でもできることを、なぜ ボクがしてあげなきゃならない?」 「な…っ!」 なかなか思いどおりにならない使い魔に、ルイズは だんだん腹が立ってきた。 たしかに 使い魔の召喚と契約は大成功を収めたと言えるが、正直 今の関係は、ルイズが理想とする貴族の姿には ほど遠い。 さすがに奴隷ではないにせよ、使い魔は 下僕であるハズなのだ。 だが「自分は下僕ではない」と言う相手に「いいや、おまえは下僕だ」などとは言いづらい。相手が未知の亜人ならば、なおさらだ。 そこでルイズは「使い魔」という言葉の定義を利用して、それとなく使い魔の立場を伝えることにした。 「使い魔っていうのは、そういうもんなの! いいから言うとおりにしなさいよ!」 「……ふっ、そうかい。キミがそう望むなら……仕方無いね」 「へ?」 急に素直な反応を示すユベルに、拍子抜けして 思わず間抜けな声が漏れる。 が、すぐに 主人としての威厳を示すために立ち直る。 「わ、わかればいいのよ、わかれば。そこと そこと…あと そこに着替え入ってるから」 その言葉を聞いたユベルは背中の2枚の翼を広げ、宙に浮き上がる。 そして……ルイズに乗り移った。 (ちょっ…何してるのよ! 昨日 これはしないって言ったじゃない!) そう困惑するルイズの頭の中に、ユベルの声が響く。 (何を驚いているんだ。簡単なことだろう? キミは、ボクに着替えを手伝わせたいと思っている。逆にボクは、キミが自分で着替えればいいと思っている。 その2つの条件を、同時にクリアしようとしただけじゃないか) (……っ!) たしかに間違ってはいない。だが、何か釈然としない。 ルイズが反論を考えているうちに、ユベルはルイズの体で ルイズの着替えを済ます。 着替えが完了すると ユベルはルイズの体から抜け出し、さらに部屋からも出て行こうとする。 「あっ、ちょっ! ご主人様をほっといて どこ行く気よ!」 「……キミはこれから、食堂へ朝食を摂りに行くんだろう? でも ボクはキミたちと違って 物は食べないからね。そのあいだ、好きにさせてもらうよ」 「って、こら! 待ちなさいったら!」 ……部屋の外で、ユベルの動きが止まる。だが、ルイズを待っているわけではないらしい。 ルイズの位置からは壁で見えないが、廊下にいる何かと向き合っているようだ。 廊下に飛び出したルイズは、その「何か」の嬉しくない正体を発見した。 「はぁい、おはよう ルイズ。そうやって並ぶと、ホントに子供みたいね?」 「っ! キュルケ……!」 ルイズよりも背が高くてスタイルの良い 赤い長髪で褐色の肌をした少女。 朝っぱらから出会って早々、体型のことを冷やかされる。身長か、それとも胸か。 ……が、そのライバルが 自分の使い魔に上から見下ろされているという愉快な構図が、ルイズの怒りを相殺した。 「……で、あなたが ルイズの使い魔さんね? 初めまして。 あたしはキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー」 亜人の顔を、キュルケが見上げる。親友タバサの1.5倍近い身長から、3色の視線が降り注いでいる。 見たことも聞いたことも無い種族の亜人だ。たしかに「悪魔」と言われても、嘘には聞こえない。 「ボクはユベル。よろしく、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー」 「……キュルケでいいわ」 「なんで わざわざフルネームで言いたがるのよ……」 長い名前を1発で覚えて すらすら言うユベルに つっこむ。 ツェルプストーと仲良く会話するな、とは言い忘れる。 「それにしても……ゼロのルイズが、まさか亜人を召喚するなんてねぇ……驚いたわ」 「ふん、何言ってるのよ。こうして使い魔の召喚と使役には成功してるんだし、もう『ゼロ』じゃないわ」 「……そう。よかったじゃない」 胸を張るルイズを、特に馬鹿にするでも茶化すでもなく、キュルケは軽くねぎらった。 「ところで……ねぇ、ユベル。あなたって…女? それとも男?」 「……!?」 幼い頃から刷りこまれてきた、ツェルプストー家の忌むべき特質のことがルイズの頭をよぎった。 「ツェルプストーっ! あんた まさか、人の使い魔に手を出す気!? それも亜人に!」 「え? い、いや! そんなつもりは無いわよ! パッと見 男か女かわからなかったから、興味本位で訊いただけ!」 ルイズの懸念と疑念を払いのけるように手を振ってキュルケは否定する。 さすがに、この相手に手を出そうなどとは思わない。 「ふーん……そう? でも、訊いても無駄よ。本人もわかってない…というより興味無いみたいだから」 その質問については、すでにルイズが昨日のうちに済ませてしまっていたのだ。 まあ 一般的な感性の持ち主なら、ユベルの その左右非対称な性別の正体が気になるのも 当然だろう。 「あら、そうなの? まあ たしかに、綺麗に半分ずつだもんねぇ……それが正解なのかしら?」 「脱いでみれば わかるかも……」という考えが頭をよぎるが、すぐさま思いなおす。 もし、その性別の象徴も半分に分かれているのだとしたら……? そんなものを見る心の準備は できていない。 そんなキュルケを、ユベルは無言で品定めをするように3つの目で見つめ続けている。 男たちの 性的な意味を多分に含んだ熱視線とは、まったく違う。 少なくとも、キュルケの女性としての魅力を はかっているわけではない。 その異質な視線に耐えられなくなったのか、キュルケが口を開く。 「あっ、それより……! あたしも使い魔を召喚したのよ。誰かさんとは違って、一発でね!」 「う……うるさい! 試行錯誤の末に誰よりも大成するタイプなのよ、わたしは! たぶん!」 キュルケの背後から 大きな赤いトカゲが姿を現した。ユベルの視線が そちらに移る。 「このトカゲ……炎属性・爬虫類族か」 トカゲを見たユベルが そう呟いた。その「なんとか属性・なんとか族」という表現に、ルイズは顔をしかめる。 昨日 何度 質問しても、ユベルが「闇属性・悪魔族」というものについて 答えてくれなかったからだ。 だが、なんとなく予想はついていた。 そして、このキュルケの使い魔に対するユベルの評価で、その予想は信憑性を持った。 「……あー、つまり火系統のトカゲって意味ね」 つまり「闇属性・悪魔族」のユベルは……? 「トカゲじゃなくて『サラマンダー』よ。尻尾の先に火が灯ってるでしょ。 しかも、フレイムは 火竜山脈に生息する亜種で、普通のサラマンダーより ずっとレア物なんだから」 「れ、レア度なら こっちだって負けてないわよ……! どこから来たかわからないくらいレアなんだから!」 「え? ルイズ、あんた……自分の使い魔に出身地も教えてもらってないの?」 「わたしだって知りたいわよ! でも、本人がわかってないんだから 仕方無いでしょ!」 まるで レアカードを自慢し合う子供のように 使い魔談義をする2人を、ユベルは見守る。 十代の父が、幼い十代にプレゼントした最初のレアカード……それが「ユベル」だった。 過ぎ去った日に思いを馳せ、決意を固める。 (十代……ボクは必ずキミを取り戻してみせる。そして……) 前ページ次ページ攻撃力0の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5703.html
前ページ次ページお前の使い魔 わたしとダネットは、キュルケのげんこつとタバサの杖で付けられたたんこぶを冷やす為、医務室に来ていた。 なんか最近、医務室と縁があるわね。こんな縁は嬉しくないけど。 「全く……何なんですかあの青い髪したちび女は。お前より凶暴です。」 「誰が凶暴よ!!」 怒鳴りつつも少しホッとする。どうやら、召喚した最初の時、タバサが風の魔法で吹っ飛ばして気絶させたのは知らないみたいだ。 知ってたらタバサに掴みかかりかねないもんねこいつ。 まあこんな感じでダネットと睨み合いながら、恒例行事と化してきている口喧嘩をしていると、医務室のドアからノックの音が聞こえた。 「誰よ?」 ダネットと喧嘩していたせいで、若干怒り混じりの声を出すと、少し遠慮がちにドアが開いた。 「ギーシュじゃない。何よ? まだ決闘の横槍で言いたいことでもあるの? でもあれはむしろ感謝してもらいたいぐらいよ。全く……危うく目の前で惨殺死体見せられるとこだったわ。」 わたしが一気にまくし立てると、ギーシュは少し頬を引きつらせ、「ハハ……いや、それはもういいんだ。そうじゃなくてだね」と言って、ダネットをちらりと見た後、何かを決心したような顔になり、わたしに向き直った。 「な、何よ? わたしに文句でもあるの?」 「すまなかったルイズ。」 「は? どうしたのあんた? 熱でもあるの?」 いきなり謝られても困る。流れが全くわからない。 本気で熱でもあるんじゃないかしらこいつ。 「いや、実はだね。決闘の前に彼女と言い合いになった際、僕は君を侮辱してしまってね。まあ、それが彼女に火を付けてしまい、ああして決闘騒ぎにまでなってしまったんだ。」 おい、どういう事だダメット。わたしは何も聞いてないわよ。 そんな目線をダネットに送ると、ダネットはばつが悪そうに頬を掻いてそっぽを向いた。 ん?もしかして照れてる? 「聞いてないのかい? うーむ……いやね、僕はあの時、興奮して言ってしまったんだ。『ゼロ』のルイズと同じで、使い魔も無能だと。」 「あんた喧嘩売ってんの?」 わたしが頬をひく付かせてギーシュを睨むと、ギーシュはぷるぷると顔を横に振って、必死に弁明しだした。 「お、落ち着いてくれルイズ。続きがあるんだ。それで、僕がさっきの侮辱の言葉を言ったら、彼女何て言ったと思う?」 「キザ男!! ぺ、ぺらぺらと何でも喋るんじゃありません!!、く、首根っこへし折りますよ!?」 何故か真っ赤になりながら、手をばたばたさせてるダネットを睨みつけて黙らせ、ギーシュに話の続きを言うよう促す。 「彼女は、自分が侮辱されたことよりも、君が侮辱されたことに腹を立てた。『あいつはゼロじゃない。何も無いゼロなんかじゃない。その言葉を取り消しなさい。謝りなさい。』ってね。」 それを聞いた後にダネットを見ると、真っ赤な顔で、何故か「うー」と威嚇の声をあげた。ダネットなりの照れ隠しなのだろうか。 「まあそんな訳で、僕は謝罪しにきたと言う訳だよ。そして改めて、すまなかったルイズ。それに使い魔の……」 「ダネットよ。ご主人様に大切な事を何も言わない、ダメな使い魔のダメットでもいいけどね。」 「だ、誰がダメですか!!ダネットです!!」 ギーシュは、また「うー」と唸りながら頬を膨らませるダネットを見て微笑み、薔薇を模した杖を口元に近づけながら、最後に「いい使い魔を持ったね、ルイズ。」と言って部屋を出て行った。 部屋に取り残されたわたしとダネットは、お互いに顔を背けながら無言になる。 うー、ダネットにつられてわたしまで顔が赤くなっちゃうじゃない。何なのよ全く。 5分ほど経っただろうか。突然、ダネットが沈黙を破る為か、赤い顔をしながら言った。 「お、お前!! お腹が空きました!! ご飯にしましょう!!」 「そ、そうね。そうしましょうか。」 どこか他人行儀になりながら、わたしとダネットは医務室を出て、食堂に向かう。 食堂の手前まで来て、ダネットは厨房の方に向かおうとした。 多分、使用人の使ってる食堂に向かおうとしたのだろう。 わたしは、そんなダネットに思わず声を掛けていた。 「だ、ダネット!!」 「な、何ですか?」 お互いにぎくしゃくしながら向き合う。 「その……あり、あり……」 「あり?」 『ありがとう』そんな簡単な一言がどうしても言えない。 プライドが邪魔してるんじゃなく、単純に恥ずかしい。 使いまに感謝の念を抱くなんて、わたしはメイジ失格かもしれない。 いや、今はそんな事より言わなきゃ。『ありがとう』って。 表情がコロコロ変わるわたしを見て、不思議に思ったのかダネットが怪訝そうな顔で尋ねる。 「どうしたんですかお前? お腹でも痛いんですか?」 「違うわよ!! その……あり……あり……有難く思いなさい!!今日の夕飯はわたしと一緒に摂る事を許すわ!!」 違うでしょわたし!! ここは『ありがとう』でしょ!!ほら、ダネットもぽかんとしてる!!あーもう何でいっつもこうなのよ!! 必死に弁解しようと、わたしは両手を振って訂正しようとする。 「あ、そうじゃなくてあのね。そのね。えっとね!!」 「仕方ありませんね。そこまで言うなら、一緒に食べてやらないこともないのです。感謝しなさい。」 ダネットは、そんなわたしの心中を知ってか知らずか、微笑みながら言った。 いや、あの笑い方はわかってやってる。いや待て、こいつはダメットだ。実はわかってないのかもしれない。きっとそうだ。うん。そういう事にしとこう。 「い、行くわよ!!」 「ええ。お腹一杯食べましょう!!」 その後、ダネットの『お腹一杯』の基準を思い知らされ、また食堂にわたしの怒号が響き渡ったのは余談である。 戦争のような食事も終わり、わたし達は部屋に戻った。 ここで、重要な事にわたしは気付く。 「そう言えば、あんたの着替えって無かったわね。」 「言われてみればそうですね。じゃあ、明日は狩りにでも行きましょう。」 斜め上の返事をされ、わたしの思考が止まる。 「は?」 「ですから狩りです。獲物の皮を剥いで服にするのです。もしくは、獲物と引き換えに乳でか女にでももらいましょう。」 どこの原住民だこいつは。 皮をなめして服にするなど、何日かかるかわからないし、わたしはそんな血生臭そうな光景見たくもない。 引き換えと言っても、キュルケもいきなり動物の肉なんぞもらって服をよこせと言われたら困るだろう。 「服ぐらい買えばいいでしょ。」 「私、お金持ってませんよ?」 「それぐらいわたしが出すわ。使い魔の服も用意できないとか言われたら、ヴァリエール家の恥よ。」 「おお、お前いい奴ですね!!見直しました!!」 こんな事で見直されるわたしって一体……。 「後、ベッドとかも用意しなくちゃね。いつまでも一緒のベッドっていう訳にもいかないし。」 「私は一緒で構いませんよ?」 「あんたと一緒に寝てたら、いつかわたしが凍死しそうだから却下。」 「お前はたまに、よく判らない事を言います。このぐらいの気温なら、毛布があれば凍死なんてしません。」 「その毛布をわたしから剥ぎ取ったのはどこのどいつよ!!」 怒鳴られてふてくされたダネットを余所目に、今後の事を考える。 買い物は明後日の虚無の曜日に行くとして、それまでは同じ服で我慢してもらおう。わたしだって凍死の危険がありつつもベッドを使わせるんだからお相子よね。 でも、せめて寝巻きぐらいどうにかしないと、一緒に寝るのは抵抗がある。 ここはキュルケに……いや、あいつに貸しは作りたくない。絶対に今後、何かある度にネチネチ言ってくるに決まってる。 となると……。 「お前の服、丈が短くてスースーします。もっと大きいのはないのですか?」 「それが一番大きいのよ!! 小さくて悪かったわね!!」 「あと、胸がきついです。」 「う、うるさいわね!! な、何よその笑顔!! 喧嘩売ってんの!? 買うわよ!! 買ってやりますとも!! 表に出なさい!!」 「外は寒いから嫌です。こんなちっちゃい服じゃ凍えてしまいます。」 「ちっちゃいって言ったわね!? しかも胸の部分を見ながら!! 胸の部分は寒さと関係無いでしょ!!」 「ルイズ!! ダネット!! あんた達うるさいのよ!! 少しはあたしの身にもなんなさい!!」 こうして決闘の夜はふけていった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 何だろうここ?真っ暗だ。わたし、どうしたんだっけ?あれ? あ、そうか。この感じは夢だ。 『……………………』 誰よあんた? わたしに何か用? 『……た……す……ね』 はっきり言いなさいよ。聞こえないわよ。 『時がき…・・・で……ね』 は?何? 『あなた……らの性を望み……すか?』 せい?せいって性? 失礼な奴ねあんた。どこからどう見たって女でしょう? 『では、あなたの望みの名は?』 名前って、わたしの名前はあれよ。あれ。 あれ?名前……名前……あれ? ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「あれ?」 部屋の外はまだ暗い。どうやら夜中のようだ。 隣では、すやすや眠るダネットの姿。 どうやらわたしは変な夢を見たようだ。 とは言っても、夢の内容は思い出せない。まあ、思い出せないということは、取るに足らない夢だったという事だろう。 「寝なおそ。」 二つの月が、とても綺麗な夜だった。 前ページ次ページお前の使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/41.html
■ パートⅠ 使い魔は静かに暮らしたい ├ 使い魔は静かに暮らしたい-1 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-2 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-3 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-4 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-5 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-6 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-7 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-8 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-9 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-10 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-11 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-12 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-13 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-14 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-15 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-16 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-17 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-18 └ 使い魔は静かに暮らしたい-19 ■ パートⅡ 使い魔は今すぐ逃げ出したい ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-1 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-2 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-3 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-4 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-5 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-6 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-7 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-8 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-9 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-10 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-11 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-12 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-13 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-14 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-15 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-16 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-17 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-18 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-19 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-20 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-21 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-22 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-23 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-24 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-25 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-26 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-27 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-28 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-29 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-30 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-31 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-32 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-33 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-34 └ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-35 ■ 使い魔は今すぐ逃げ出したい外伝 『ラ・ロシェールにて』 ├ ラ・ロシェールにて-1 ├ ラ・ロシェールにて-2 ├ ラ・ロシェールにて-3 ├ ラ・ロシェールにて-4 ├ ラ・ロシェールにて-5 └ ラ・ロシェールにて-6 ■ パートⅢ 使い魔は手に入れたい ├ 使い魔は手に入れたい-1 ├ 使い魔は手に入れたい-2 ├ 使い魔は手に入れたい-3 ├ 使い魔は手に入れたい-4 ├ 使い魔は手に入れたい-5 ├ 使い魔は手に入れたい Until It Sleeps ├ 使い魔は手に入れたい-6 ├ 使い魔は手に入れたい-7 ├ 使い魔は手に入れたい-8 ├ 使い魔は手に入れたい-9 ├ 使い魔は手に入れたい-10 ├ 使い魔は手に入れたい-11 ├ 使い魔は手に入れたい-12 ├ 使い魔は手に入れたい-13 ├ 使い魔は手に入れたい-14 ├ 使い魔は手に入れたい U.N.Owen ├ 使い魔は手に入れたい-15 ├ 使い魔は手に入れたい-16 ├ 使い魔は手に入れたい-17 ├ 使い魔は手に入れたい-18 ├ 使い魔は手に入れたい-19 ├ 使い魔は手に入れたい-20 ├ 使い魔は手に入れたい-21 ├ 使い魔は手に入れたい-22 ├ 使い魔は手に入れたい-23 ├ 使い魔は手に入れたい-24 ├ 使い魔は手に入れたい-25 ├ 使い魔は手に入れたい Love ├ 使い魔は手に入れたい-26 ├ 使い魔は手に入れたい-27 ├ 使い魔は手に入れたい-28 ├ 使い魔は手に入れたい-29 ├ 使い魔は手に入れたい-30 ├ 使い魔は手に入れたい-31 ├ 使い魔は手に入れたい-32 ├ 使い魔は手に入れたい-33 ├ 使い魔は手に入れたい-34 ├ 使い魔は手に入れたい-35 ├ 使い魔は手に入れたい-36 ├ 使い魔は手に入れたい Can't Stop? ├ 使い魔は手に入れたい-37 ├ 使い魔は手に入れたい-38 ├ 使い魔は手に入れたい-39 ├ 使い魔は手に入れたい-40 ├ 使い魔は手に入れたい-41 ├ 使い魔は手に入れたい-42 ├ 使い魔は手に入れたい-43 ├ 使い魔は手に入れたい-44 ├ 使い魔は手に入れたい 21st Century Schizoid Man ├ 使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol ├ 使い魔は手に入れたい 21st Century Schizoid Man-2 ├ 使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol-2 ├ 使い魔は手に入れたい 21st Century Schizoid Man-3 ├ 使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol-3 ├ 使い魔は手に入れたい 21st Century Schizoid Man-4 ├ 使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol-4 ├ 使い魔は手に入れたい 21st Century Schizoid Man-5 ├ 使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol-5 ├ 使い魔は手に入れたい Sad But True ├ 使い魔は手に入れたい No Remorse ├ 使い魔は手に入れたい Dive in the sky ├ 使い魔は手に入れたい-45 ├ 使い魔は手に入れたい-46 ├ 使い魔は手に入れたい-47 ├ 使い魔は手に入れたい-48 ├ 使い魔は手に入れたい-49 ├ 使い魔は手に入れたい-50 ├ 使い魔は手に入れたい-51 ├ 使い魔は手に入れたい-52 ├ 使い魔は手に入れたい-53 └ 使い魔は手に入れたい-54 ■ パートⅣ 使い魔は穏やかに過ごしたい ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-1 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-2 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-3 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-4 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-5 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-6 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい外伝『バッカスの歌』 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-7 └ 使い魔は穏やかに過ごしたい-8 ■ Shine On You Crazy Diamond ├ Shine On You Crazy Diamond-1 ├ Shine On You Crazy Diamond-2 ├ Shine On You Crazy Diamond-3 ├ Shine On You Crazy Diamond-4 ├ Shine On You Crazy Diamond-5 ├ Shine On You Crazy Diamond-6 ├ Shine On You Crazy Diamond-7 ├ Shine On You Crazy Diamond-8 ├ Shine On You Crazy Diamond-9 ├ Shine On You Crazy Diamond-10 ├ Shine On You Crazy Diamond-11 ├ Shine On You Crazy Diamond-12 ├ Shine On You Crazy Diamond-13 ├ Shine On You Crazy Diamond-14 └ Shine On You Crazy Diamond-15
https://w.atwiki.jp/madomagi/pages/61.html
Michaela みひゃえら 芸術家の魔女の手下。その役割は作品。 魔女によって命を奪われた人間は その体の一部分を盗まれ、この中に組み込まれてしまう。 概要 芸術家の魔女・Isabelの使い魔。 鉛筆のクロッキー画のような姿をしているが、顔はでたらめな線で描写されている。 戦闘時はゾンビのような動きで襲いかかる。 第10話で登場し、1周目の鹿目まどか・巴マミと戦闘。マミのリボンに拘束され、まどかの矢で一掃される。 出自が魔女に襲われた人間であることが明かされている数少ない例である。 魔女Isabelの作品は「どこかで見たようなものばかり」だということだが、使い魔すらどこかから「盗ま」なければ創り出せないということなのだろうか。 魔法少女まどか☆マギカポータブルにも登場。 通常の人型の他にムンクの叫びをモチーフにした個体が存在し、人型は相手のHPを吸収し、ムンクの叫びは遠距離から相手にダメージだけでなく幻覚にさせる雄叫びを発する。 ポータブルでのドロップアイテム アニメ版にも登場した代表作はVIT強化ポイントを、意欲作は万能薬をドロップする。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/652.html
「では授業を始める。知ってのとおり、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ」 その教師はそう自己紹介をした。 教室中が静かになる。どうにも慕われているというより、嫌われているので目を付けられたくないかららしい。 だがおれにはそんな事関係ない。 おれが考えているのはただ一つ。あの教師の長い黒髪を思いっきりむしりたい。コレだけだ。 前にやったときは頭に飛びついた時点で反撃を受けたからな。 今度は慎重にやる必要がある。我慢だ、おれ。 そんな風に自分を抑えていると、キュルケが立ち上がってギトーに向かって炎の玉を作り出し、打ち込んだ。 俺の獲物に手を出すな! と言いそうになったがその前にギトーが風を起こし、炎の玉を掻き消し、キュルケを吹っ飛ばした。 おいおい大丈夫か?キュルケのヤツ。 それはそうとヤツの武器は風らしい、 風はすべてを吹き飛ばすとか言ってるがそんなのは相性によっていくらでも覆される。 だがおれのザ・フールでは相性が悪いだろう。 この前気づいた事だがスタンドと魔法は相互干渉するらしい、 だから風で吹き飛ばされれば固めてる状態ならともかく砂の状態で操れなくなってしまうだろう。 やはり死角から飛びついて杖をなんとかしてからだろうか。 「もう一つ、風が最強たる所以は…」 お、また一つ手の内を明かしてくれるらしい。風が強くてもコイツはバカだな。 ギトーが詠唱を始め、呪文を唱える。 そしてギトーは分身した。 「うわ、スゲー何アレ?」 おれがつい声をあげると、ルイズに睨まれた。黙ってろって?分かったよ。 ギトーが分身の説明をしようとするが出来なかった。 変な格好の教師が入ってきたからだ。 頭にある金髪ロールの髪、それを見ておれは理性を失った。 「うおりゃああぁぁぁ!」 飛びついてむしる。だが失敗した。頭に飛びついた瞬間その髪がズレたのだ。 新手のスタンド使いか!? そう思ったが違うらしい。ただのカツラだ。 「チクショーーーーー!」 騙された恨みを晴らすべくそのカツラをズタズタに引き裂く。 「あぁ~それ高かったのに~」 情けない中年の声なんか気にしない。 みんなは真似しちゃDANEDAZE♪ ってあれ?教室中が静かだぞ?何で? おれはこの重い沈黙を破る方法を探した。だがおれにはどうしようもない。誰かなんとかしてくれ。 そして動いたのはタバサだった。そのカツラ野郎の頭を指差して 「滑りやすい」 途端に大爆笑が起きる。ナイスフォローだタバサ。 よく見るとカツラ野郎はコルベールだった。髪だけ見てたから気づかなかったが服も変な物を着ている。 具体的に言うとレースの飾りやら刺繍とか、絶対変だ。 「いいセンスだ…」 おいギーシュ、本気で言ってるのか? 「それで?何の用ですかな?ミスタ・コルベール」 「ああ、そうだった。今日の授業はすべて中止です」 歓声があがった。どこの学校でも授業というのは潰れて欲しいものらしい。 「中止の理由は何ですかな?」 ギトーが不機嫌そうに尋ねる。自分の見せ場を潰されたんだし当然だろう。 「本日がトリステイン魔法学院にとって良い日になるからです。何と…」 そこでもったいぶって言葉を切る。 なかなか続きを言わないので煽ってみる。 「早く言えよハゲー」 あ、ヤベ、睨まれた。 「恐れ多くも、アンリエッタ姫殿下がこの魔法学院に行幸なされるのです」 その言葉で教室がざわつく。それに負けないような声でハゲ…じゃなかったコルベールは続ける。 「したがって、粗相があってはいけません。今から歓迎式典の準備を行うので今日の授業は中止」 なるほど、そういうことか。 「生徒諸君は正装し、門に整列する事」 そう言い残してハゲベールは出て行った。 アレ?名前これでいいんだっけ? ルイズにこれから来る姫殿下の事を聞いてみた。必要な事をまとめるとこんな感じだ。 まず名前はアンリエッタと言い、他に兄弟はいないらしい。以上。 名前と他の兄弟の事。大事なのはこれだけだ。 何故かというと他に兄弟がいない、 それはつまりいつかは『王』になると言う事だ。 ここがおれとアンリエッタの共通点。 コイツをどう叩きのめすかが問題になってくる。 そんなワケで敵情視察だ、とは言っても正門にルイズと一緒に並んでみるだけなんだが。 お、馬車から降りてきた。 外見はかなり美人。よし、あれも部下にしよう。 馬車を引いてるのはユニコーンだな。あいつらから聞き込みが出来ないだろうか。 周りの警備は…四方を囲んでいる奴らがいる。けっこう強そうだがおれの敵じゃあないな。 よし、情報集めはこれでいいだろう。 戦闘面ならともかく、今回のような事ではは見るだけで得られる情報は少ないからな。 そう思ったおれは周りの連中の反応を見ることにした。 「あれが王女?ふん、勝ったわね」 胸の事か?おれもそう思うぞキュルケ。 「……」 お前はいつも通りだな、タバサ。 ルイズは…驚いてる?何を見てるんだ? おれはルイズの見ている方向を見る。 おっさんがいた。あいつは誰だろう? その夜。おれがどうやってアイツを蹴落とし、地位を手に入れるかを考えているとドアがノックされた。 初めに長く二回、それから短く三回。 それを聞いたルイズは 「このノックは!?」 ノックだよ。聞けば分かるだろ? 「合言葉を言わなくちゃ」 合言葉?ああそういう合図なのか。 「ノックされてもしも~し」 「ハッピー、うれピー、よろピくねー」 よく分からない合言葉の後、ルイズがドアを開けた。 入ってきたのはアンリエッタだった。 こんな所に王女が来るのは不思議だったが どうにもルイズとアンリエッタは昔馴染みらしい。 さっきから抱き合ったりしている。 そしてふと悲しそうな顔になったが、少しルイズと会話して何かを決意したらしく、何かを話し始めた。 「わたくしは同盟を結ぶためにゲルマニアの皇帝に嫁ぐ事になったのですが…… 礼儀知らずのアルビオンの貴族たちはこの同盟を望んではいません。 二本の矢も束ねずに一本ずつなら楽に折れますからね。 したがって、わたくしの婚姻を妨げるための材料を血眼になって探しています。 もし、そのような物が見つかったら…」 「姫様、あるのですか?」 「……はい、わたくしが以前したためた一通の手紙なのです。それがアルビオンの貴族達の手に渡ったら… 彼らはすぐにゲルマニアの皇帝にそれを届けるでしょう」 「どんな内容の手紙なんですか?」 「それは言えません。でも、それを読んだら、ゲルマニアの皇帝はこのわたくしを許さないでしょう。 婚姻はつぶれ、トリステインとの同盟は反故。となると、トリステインは一国にてあの強力なアルビオンに立ち向かわ ねばならないでしょうね」 「その手紙はどこにあるのですか?」 「手元にはないのです。実はアルビオンに…」 「アルビオンですって!ではすでに敵の手中に?」 「反乱勢ではなく反乱勢と戦っている、王家のウェールズ皇太子が…」 「ウェールズ皇太子が?ではわたしに頼みたい事とは…」 「無理よルイズ。アルビオンに赴くなんて危険な事、出来るわけないでしょう」 「姫様の御為とあらば、何処へでも向かいますわ!このルイズ、姫様の危機を見過ごすわけにはまいりません!」 ルイズがこっちを向いた。 「行くわよ!イギー!」 「え?どこへ?」 つい反射的に答えてしまう。 「話聞いてた?」 「翠星石は俺の嫁、までなら」 ルイズに蹴られそうになったが、そうはならなかった。 ドアから新たな人間が入って来たからだ。 「姫殿下の話を聞かないとは何事かー!」 ギーシュだ。 おれはすぐにデルフリンガーを抜く、するとルーンが光り体中に力がみなぎる。これがガンダールヴの力らしい。 ギーシュから三メイルほどの所で地面を蹴って飛び上がり、頬を蹴り込む。 「必殺!デルフリンガーキック!」 「おれ関係ねー!」 デルフの残念そうな声を聞きながらギーシュが倒れるのを見届ける。 だがギーシュは立ち上がってきた。もいっぱつ蹴ろうかと思ったがルイズの声が先だった。 「ギーシュ!今の話を立ち聞きしてたの?」 ギーシュはそれを無視してアンリエッタに話しかける。 「バラの様に見目麗しい姫様のあとをつけてみたらこんな所へ…そして様子を伺えば何やら大変な事になっているよう で…」 そういって薔薇を振り、ポーズをとりながら次の言葉を言った。 「その任務!このギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう」 図々しいヤツだ。 「グラモン?あの、グラモン元帥の?」 「息子でございます。姫殿下」 「あなたも、わたくしの力になってくれるというの?」 「任務の一員に加えてくれるのならこれはもう望外の幸せにございます」 どうやらギーシュも参加するらしい。 おれも乗り気になっていた。 その手紙をおれが回収すれば何らかの切り札になるかもしれないしな。 To Be Continued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/919.html
翌日、ワルドたち一行は山を登り、船に乗り込んだ。途中、ンドゥールは山 の港、空飛ぶ船、浮遊大陸アルビオンに驚いていたが、まあそういうことな のだろうと一人納得していた。料金はキュルケとタバサ、のおかげで予定以 上の額を払うことになったが問題はなかったようだ。 六人は一室を借り切って、これからのことを話し合った。 「まずアルビオンに着いてからだが、真正面から城へ入ることは不可能だ」 「でしょうね。いくらこっちがトリステインからのものって主張しても追い 返されちゃうわ。もしくはその場で切り捨てられるなんてことも」 「か、勘弁してくれよ」 ギーシュがぶるると身震いした。 「だから、僕たちがするのは――」 「伏せろ!」 ンドゥールがワルドの声を遮って叫んだ。直後、船体を大きな振動が襲った。 「な、なんなの!?」 「どうやら賊のようだ。いまのは砲撃を受けたらしい。こんな空でも出るの だな」 「なに感心してんのよ! ワルド、撃退しましょう!」 ルイズがそう言うが、ワルドは首を横に振った。 「よしておこう。乗り込んできているものたちは倒せても、砲撃をなんども 食らったらこの船がもたない。それに船員や他の乗客の命もある。さすがに 守りきることはできないよ」 その言葉にルイズは渋々とだが納得した。 六人が黙って待っていると、廊下を乱暴に歩く足音が近づいてきて、彼らの 部屋の扉が開かれた。 「おや、貴族さまがこんなにいるじゃねえか。こりゃ身代金がたんまりもら えそうだ」 六人は空賊の船に連行されていった。ワルドやルイズなどメイジは杖を取り 上げられ、ンドゥールは剣と杖を取り上げられた。彼はその身なりと瞳から メイジとは判断されなかったが、念のためというらしい。 船倉にぶちこまれると、見張りに聴こえぬようにルイズは言った。 「さあ、脱出しましょう」 「どうやってだい?」 ワルドが尋ねると、ルイズはンドゥールに言った。 「できるでしょう?」 使い魔に尋ねる。水を操ることができるのだ。水筒は奪われていない。なら ば見張りを倒すことなど造作もない。しかしンドゥールは断った。 「できるが、する必要はない」 「……なんでよ」 ルイズが問う。彼女だけでなくワルド、キュルケやギーシュも疑問を持った 瞳を向けた。タバサは興味なさそうにしている。 ンドゥールは答えず、扉に近寄っていき人を呼んだ。頭に鉢巻をした男がや ってくる。 「なんだよ。うっせえな」 「船長と話がしたい」 「はあ? んなのできるわけねえだろうが。船長はお忙しいんだよ」 「それでは、船長に扮しているアルビオン王国のウェールズ皇太子と話がし たい」 しばしの間、静寂に包まれた。 「なんだってえ!」 「ちょっとそれ本当なの!?」 「あらあ、ルイズったらわたしのダーリンの言葉を疑うの?」 「疑うって、そりゃ嘘とかつく男じゃないけど……て、その前になに人の使 い魔をそんな言葉で呼んでるのよ!」 「あらやだ嫉妬?」 「嫉妬って、そんなわけないでしょ!」 「だったら別にどうだっていいじゃないのよ」 「よくないわよ!」 「静かに!」 ぎゃあぎゃあ騒ぐルイズたちをワルドが一喝する。ようやくそれで静けさが 舞い戻ってきた。 「ンドゥール、それは本当なのかい?」 「本当だ。あちこちで交わされている会話から推測される。ちなみにこの見 張りの男はドレンというらしい」 男はぎょっと腰を抜かした。 その反応からそれが事実だと知れ渡った。 「なら、君」 ワルドは見張りを呼ぶ。 「こちらにおわすラ・ヴァリエール嬢はトリステイン女王陛下じきじきに任 命されたアルビオン王室への大使だ。密書を言付かっている」 ワルドがそういうとルイズは懐に隠していた手紙を出してきた。印にトリス テイン王家の紋章が刻まれている。見るものが見れば一目で本物とわかるも のだ。見張りは、すぐに飛び出していった。 しばらくするとその見張りがまた走ってもどってきた。彼は少し呼吸を整え て、こう言った。 「頭がお呼び、だ」 六人は男に案内されて船倉を出て行った。ギーシュは杖のないンドゥールの 手を取って歩いていく。ルイズは極度の緊張のためか彼のことには頭が回ら なかった。キュルケもだ。 (結構薄情じゃないか?) そう思いながらも彼は文句を言わなかった。 歩いていくと窓から甲板が見えた。そこにはワルドのグリフォン、それとタ バサのシルフィードにキュルケのフレイム、彼のヴェルダンデもいた。ほっ としたところ、視界の隅に土の塊が見えた。 (なんだあれは) そう思ったがすぐにそれを記憶の中から消してしまう。 船長室は豪華なディナーテーブルがあった。その上座に派手な格好をした船 長らしき人物が先に水晶が付いた杖をいじくっていた。なるほど、メイジで はある。だがとても皇太子には見えない。ギーシュはそう思った。 ワルドは両脇に立っている護衛らしき男たちと、船長をじっと見る。鷲のよ うに鋭い目だ。 「……上手い変装ですね。ウェールズ皇太子殿」 「ばれてしまっては下手の部類に入るだろ」 船長はため息をついた。そして眼帯やかつら、ひげをあっさり外した。 ギーシュ、彼だけでなくキュルケにルイズも驚いた。先ほどの野暮ったい男 が金髪の美青年になったのだ。 彼は居住まいを正し、堂々と名乗った。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 彼はにこりと笑って六人に席を勧めた。 「さて、それでは大使殿に用件を聞きたいところだが、その前に君たちのこ とを教えてはくれまいか?」 「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊、隊長、ワルド子爵」 まずはそうワルドが名乗った。そして次々とルイズたちが名乗っていく。タ バサはキュルケが紹介した。 「そこの盲目の彼は、」 「わ、私の使い魔であられます。名はンドゥールです」 「ほう。船倉に閉じ込められながらも船員の会話を聞き取るとは、すばらし い耳だ。しかし、本当にそうなのか?」 「というと?」 ンドゥールが尋ねる。 「なに。どこかより我々が空賊に身をやつしているという話を聴いたのでは ないかと気になったのだ。王家の関係者でありながら貴族に寝返ったものも いるのでな」 「つまり、俺が間諜ではないかと疑っている。こういうことか?」 「そのとおりだ」 「ち、違います! こいつは本当にただの使い魔です!」 ルイズが慌てて庇うがウェールズに睨まれると言葉が止まってしまった。美 形の好青年であるが、そこは最後の皇太子。誇り高き獣を思わせる雰囲気を 身に纏っている。 「それで、どうなのかね?」 「違うといったところで信じるのか?」 「いや、すまない。それはできない」 鳥肌が立ってしまいそうな威圧感。ギーシュはそれを向けられていないにも かかわらず、身体の震えが止まらなかった。仮に彼が対象であれば無実であ ろうと首を縦に振ってしまうだろう。 ンドゥールは迷っていたが、やがて名案でも思いついたのか人払いを頼んだ。 とはいえそれはルイズたちだけをである。 「それでは出て行ってくれ」 五人はすぐに追い出された。 部屋の外に出てギーシュはまず。ルイズに尋ねた。 「彼は何をする気なんだい?」 「知らないわ」 ルイズは心配なのか落ち着かなく何度も船長室の扉を見る。 中からは怒鳴り声やら何やらが聴こえてくる。そばに見張りの船員がいなけ れば開けてしまっていることだろう。 しばらくし、扉が中から開けられた。ンドゥールだった。 「無実は証明できた」 「そう。よかったわ。でもなにやったのよ」 「個人的秘密だ」 六人は再び席に着く。ウェールズはえらく疲れた様子で深呼吸を繰り返して いる。一体なにをしたんだとギーシュは背筋が寒くなった。 ウェールズが気を取り直したのか、衣服を正してルイズを見た。 「それで、密書とは?」 ルイズが懐から手紙を取り出した。それを持って恭しく近づいていくが途中 で立ち止まりこう尋ねた。 「その前にウェールズさま、影だということはありませんか?」 「ああ違うが、こっちが最初に疑ったからな、証拠をお見せしよう」 彼は自分の薬指に光る宝石を外してルイズの指にある宝石に近づけた。二つ の宝石は共鳴しあい、虹色の光を振りまいた。 「水と風は、虹を作る。王家の間にかかる虹。君のそれはトリステインに伝 わる水のルビーだろ。これは風のルビーだ」 「大変失礼をばいたしました」 ルイズは一礼をして手紙を差し出した。 ギーシュはこれで任がほとんど終わったのだなと思った。あとは皇太子より 手紙をかえしてもらい、帰るだけだ。襲撃されたりすることもあったがほと んど何事もなく終わったのだ。思い返せば、何もしなかったなあ。ギーシュ はぼんやりと思った。 「事情は了解した。あの手紙はなにより大事なものだが姫の望みは私の望み。 しかし、今この場にはない。面倒だがニューカッスルの城にまでご足労願い たい」 ギーシュはまだ手柄を立てられるという喜びとまだ終わらないのかという残 念と二つの感情に気づいた。矛盾するそれらはこれから先、彼がどういった 方向に進むかを決める標になる。 ただの貴族か、ただじゃない貴族か。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2006.html
翌日の天気は快晴だった。明けきったばかりの文字通り雲一つ無い蒼穹から、 暖かな陽光が降り注いでいる。絶好の探検日和、と言えるかもしれない。 まだ授業も始まらない早朝、ギーシュは自室で向こう数日分の大荷物をパンパンに 詰めた鞄を手に唸っていた。 「ぬぬっ・・・どうにも重い・・・今までレビテーションに頼りすぎてたな」 手に持った瞬間から苦しげな顔を見せながら、それでも魔法を使わないことには 無論訳があった。今回の小旅行――と言ってしまってもいいだろう――の目的は、 まず第一に探検であるわけで・・・つまりは人跡未踏の森林や遺跡の奥深くに まで足を踏み入れる可能性がある。となれば、そこを根城にしているであろう オーク鬼やゴブリンといった好戦的な化物に襲われることも覚悟しなければ ならない。よって、ここは出来る限り無駄な魔法の行使は控えるべきである ――ということがその理由であった。 両手で鞄を吊り上げて、ギーシュはよたよたと正門へ向かう。寮を出た所で、 「ギーシュ!」 待っていたようにそこに立つモンモランシーと出会った。 「モンモランシー!どうしたんだね、今朝はやけに早いじゃないか」 「ま、まあね・・・」 問い掛けるギーシュに、モンモランシーは何故か眼を逸らしながら答える。 「・・・ねえ、明日は虚無の曜日でしょ」 「確かそうだね それがどうしたんだい?」 「・・・・・・こ、香水の材料が切れたのよ それで、明日城下に買い物に――」 「おっと、すまない僕のモンモランシー そろそろ待ち合わせの時間だ」 「え?」 「ちょっと数日ほど旅行に行ってくるよ 君と会えないことを思うと胸が 張り裂けそうだが、どうか泣かないでおくれモンモランシー きっとこれは 始祖の与え賜うた試練なのさ」 「な、ちょっと・・・」 「名残惜しいがしばしのお別れだ 僕の無事を祈っていておくれ それではね」 「待っ――・・・!」 相変わらず人の話も聞かず、ギーシュは薔薇をかざしながらそれだけ言うと 荷物を抱き上げてそそくさと走り去ってしまった。一人この場に残されて、 モンモランシーは豊かな金糸を震わせながら呟いた。 「何よ、バカにして・・・!」 大荷物の人間を6人も乗せては、いかに風竜と言えど長時間の飛行は出来ない。 ましてシルフィードはまだ幼生である。必然、近場から順々に潰して行くことに なった。 一行が最初に向かったのは、打ち捨てられた寺院だった。もはや村であったこと すら判らない程に荒廃した廃墟にあって尚形を失わないそれも、しかしかつての 荘厳さはとうに消え失せ、今はただ物悲しい静寂だけが満ちている。 永久に続くかとすら思われたそのしじまを、突如響いた爆裂音が消し去った。 ルイズの爆破に、この村を廃墟に変えた魔物――オーク鬼の群れが寺院の中から 眼を血走らせて飛び出した。 「んだァ?豚の化物かありゃあ」 長らく手入れされず伸び放題に成長した大木の枝に悠然と腰掛けて、ギアッチョは 興味深そうに眼下を眺める。その横で、化物が怖いかはたまた落下が怖いのか、 シエスタがひしと幹に抱きつきながら応じた。 「オ、オーク鬼です 獰猛で人間の子供を好んで食べる・・・私達の天敵みたいな 存在ですね」 プリニウスやプランシーがこの場面に遭遇すればさぞかし眼を輝かせることだろう。 巨大な棍棒を手にし、申し訳程度に毛皮を纏い二本足で立つニメイルを越す豚の 魔物。妖異と非現実の極致。彼らで無くとも、ギアッチョの世界の人間ならば 誰もが眼を釘付けにされるであろう光景だ。 最初に出て来た数匹が、ギョロギョロと辺りを見回す。十数メイルの正面に一人の 人間を確認するや否や、 「ぶぎィいいぃいいィィイいいぃィッ!!」 耳障りな鳴き声を上げて突進した。その背後を、次から次へと現れる仲間達が 土煙を舞い上げながら追い駆ける。だが彼らのターゲットであるところの少女は、 逃げも隠れもせずにただ一人その場に棒立ちしていた。 そう、ルイズは囮であった。寺院の中に恐らく十数匹単位で潜んでいるであろう オーク鬼達をギリギリまで引きつけて、両脇の茂みに隠れるキュルケ達が 一網打尽にする。それが彼女達の作戦であった――のだが。 「ワ、ワルキューレ!突撃だ!!」 実物の食人鬼に恐怖したか、ギーシュがはやった。先頭のオーク鬼目掛けて 七体のワルキューレが一気に攻撃を仕掛ける。七本の長槍がオーク鬼の腹を 突き刺したが、厚い脂肪に阻まれて致命傷には至らなかった。 「ぴぎぃいぃぃいいッ!!」 「あっ!?」 狂乱したオーク鬼が棍棒を滅茶苦茶に振り回し、七体の騎士はあっと言う間に 粉砕されてしまった。そのまま槍を拾いワルキューレが出てきた方向へ突進 しようとするオーク鬼を、空を切って飛来した炎が焼き尽くす。一瞬遅れて 出現した氷の矢が、崩れ落ちた魔物の背後に控える数匹の身体を貫いた。 「・・・で?どーするのよ」 茂みから姿を現して、キュルケが投げやりな口調で言う。先の攻撃に警戒を 強めたオーク鬼達は、再び寺院の中へと隠れてしまっていた。 「と、突撃あるのみだよ!」 「バカ、メイジだけで敵陣のど真ん中に突っ込めばどうなるか解るでしょ!」 「うっ・・・」 本来護衛とするべきワルキューレを使い果たしてしまったギーシュは、ルイズの 指弾に反論出来ずに呻いた。 「寺院ごと燃やすわけにはいかないし・・・このまま篭られちゃあ打つ手が 無いわよ」 小さく溜息をついて、キュルケが意見を求めるようにタバサを見た瞬間、 「・・・来る」 いつもの無表情にほんの僅か警戒を滲ませて、青髪の少女は静かに杖を構えた。 その刹那――鋭い破砕音を上げて、寺院の三方に設えられた窓が同時に破られた。 「なッ!?」 扉を含む四箇所から、潜んでいたオーク鬼達が一斉に外へ飛び出す。集まっていた ルイズ達を、先程の七倍はいようかという魔物の群れが見る間に包囲して しまった。 「し、しまった・・・!」 「・・・形勢逆転」 「飛ぶわよッ!!」 一瞬の機転で、キュルケはルイズを抱き寄せて叫ぶ。同時に唱えたフライで、 必殺の間合いに入る寸前に彼女達は間一髪上空へ脱出した。 そのまま十数メイルの距離を開けて着地するルイズ達目掛けて、オーク鬼の 群れが猛然と走り出す。 「ルイズ、足止めをお願い」 タバサは顔をオーク鬼の集団に向けたままそれだけ言うと、間髪入れずに詠唱を 開始した。 「分かったわ」 自分を信用し切ったその行動に、ルイズは逡巡無く答える。小さな杖を突き 出して、次々と爆発を放った。 「ぶぎぃいいッ!!」 眼前で前触れ無く起こる爆発に、オーク鬼の足が鈍る。致命傷を与える程の 威力は無いが、足止めには十二分に効果を発揮した。 最短のコモン・マジックで、壁を作るようにルイズは休むことなく弾幕を張る。 クラスメイト達心無い者が見ればそれは失笑を誘うような光景だろう。しかし、 ――・・・それが何だって言うのよ 今のルイズに恥ずかしさや後ろめたさは微塵も無かった。たとえ失敗であろうと、 自分の魔法が仲間の役に立っているのだ。化物の大群を前にしても、その事実 だけでルイズの心には無限に勇気が湧いて来る。 やがて、ルイズの横で二つの魔法が完成する。オーク鬼の群れ目掛けて、 タバサのウィンディ・アイシクルが空を裂く音と共に驟雨の如く降り注いだ。 無数の氷柱に貫かれ、数匹のオーク鬼は声も上げずに絶命する。怯んだ魔物達に 畳み掛けるように炎の渦が押し寄せ、更に数匹を焼き払った。 「あっ・・・お三方とも凄いです」 老木の枝からおっかなびっくり身体を乗り出して言うシエスタに、ギアッチョは 仏頂面を変えずに応じる。 「いや」 「えっ?」 「いいセンいっちゃあいるが・・・間に合わねえな」 よく解らないながらも、シエスタはギアッチョに向けた顔を荒れ果てた庭に戻す。 その僅かな時間の内に、そこは様相を変じていた。 「――――っ!!」 ルイズ達は思わず耳を塞ぐ。残る十匹余りのオーク鬼の怒りの咆哮が、彼女達の 鼓膜を破らんばかりに廃墟中に響き渡った。 仲間を倒されたオーク鬼達の怒りは、今やルイズの爆破への怯えを完全に 上回っていた。手にした木塊を振り回しながら、聞くに堪えない叫び声と共に 怒涛の勢いで突進する。もはや一匹たりともルイズの爆破に気を留める者は いなかった。 「くっ・・・」 倍近く速度を増して迫り来る魔物の群れに、キュルケは僅か眉根を寄せる。 見誤っていた。敵が予想外に強靭で想定の七割程度しかダメージを 与えられなかったこともあるが、それにも増して埒外だったのは―― オーク鬼達のこの速度だ。逃走しながら呪文を唱えてはいるが、この距離と 速度では魔法は撃てて後一度――しかしその一度で殲滅出来る可能性は相当に 低い。だが、かと言ってレビテーションで逃げることは出来ない。「風」の フライと違い、コモンであるレビテーションは物を浮かせるというだけの単純な 魔法である。フライのような瞬間的な加速の出来ない性質上、高く浮かぶには 時間がかかる。今から方針を変えていては間に合うものではない。そして フライによる脱出もまた、系統魔法であることとキュルケとタバサしか使用 出来ない現状では難しいと言わざるを得ない――結局の所、望みに賭けて このまま攻撃することが最善の、そして唯一の手段であった。 「・・・イス・イーサ・・・」 タバサも同じ結論のようだった。小さな口から迷わず紡がれる呪句で、彼女の 無骨な杖に再び冷気が集まり始め、 「・・・ウィンデ」 冷たく小さな声が止むと同時に、無数の氷の弾丸が一斉にオーク鬼へと撃ち 出された。それを確認してから、キュルケは小さく杖を振る。氷柱の軌跡を 追いかけて、業火の螺旋が続けざまに忌むべき魔物の群れを襲った。 氷と炎が爆ぜて巻き起こる黒煙と砂埃が、オーク鬼達をその断末魔ごと覆い 隠す。しかし、油断無く後退を続けるルイズ達が僅かな期待の視線を煙幕に 向けるよりも早く――オーク鬼の残党が四匹、憤怒の咆哮を撒き散らしながら 姿を現した。 生き残った四匹の人喰い鬼達は、更に速度を増してルイズ達に襲い掛かる。 「く、くそっ!」 なけなしの魔力で作り出した青銅の槍を構えて、ルイズ達の前にギーシュが 飛び出した。しかし、その力の差は誰が見ても歴然である。血走った眼を ギーシュに向けると、オーク鬼はまるで路傍の石を排除するが如き気安さで 棍棒を振りかぶった。 「ミ、ミスタ・グラモンが・・・ギアッチョさん!!」 シエスタは悲痛な声でギアッチョを振り向く。だが数秒前まで彼が座って いた場所から、ギアッチョの姿はいつの間にか消えていた。 三匹のオーク鬼達は、一体今何が起きたのか理解出来なかった。自分達と先頭の 仲間との間に、「何か」が落ちた――次の瞬間、仲間の首は見事に胴体と泣き 別れていたのだ。必死に情報を整理しようとする自分達を嘲笑うかのように、 仲間の首を刎ねた「何か」はゆっくりとこちらに向き直る。その正体が人間で あると気付いた時には、更に二つの首が宙を舞っていた。 「ぶぎィィイイイイッ!!!」 最後の一匹になった化物が、あらん限りの咆哮で大気を震わせる。男が一瞬 眉をしかめた隙を逃さずその脳天に人の胴体程もある棍棒を振り下ろしたが、 男は身体を半身にずらして難無くそれを回避した。同時に剣を握った左手では 無く何も持たない右手を突き出すと、静かにオーク鬼の胸に押し当てる。理解の 出来ない行動にオーク鬼は思わず動きを止めたが、すぐに棍棒を持つ腕に再び 力を込めた。理解は出来ないが、殺すことに問題は無い。 「・・・・・・?」 オーク鬼は漸く気がついた。拳に力を込め、手首に力を込め、腕に力を込め。 男の頭を粉砕するべく腕を振り上げる――常ならば意識することすらしない、 単純な動作。ただそれだけのことが、どう意識しても「出来ない」。まるで 彫像にでもなったかのように、己の腕はピクリとも動こうとしないのだ。 …いや。腕だけでは無かった。気付けば腰も、足も、そして首も―― 五体全てが、凍ったようにその動きを止めていた。 「・・・・・・!!」 凍ったように? 否。 オーク鬼の身体は文字通りの意味で、いつの間にか完膚無きまでに凍結 されていた。そしてそれに気付いた瞬間。原因や因果を考える暇も無く、 オーク鬼の身体は粉々に砕け散った。 「あ、ありがとう・・・助かったわ」 血糊を拭いた木の葉を投げ捨てて、ギアッチョは少しばつが悪そうにして いるルイズ達に向き直った。 「そんな顔すんな おめーらに落ち度はねぇよ 悪ィのは・・・」 つかつかと歩み寄ると、ギーシュの金髪に容赦無く拳を振り下ろす。 「あだぁあっ!!」 「こいつだ」 「このマンモーニがッ!おめー一人のミスでよォォォ~~~~、全員殺られる とこだったじゃあねーか!ええ?」 「うう・・・すいません・・・」 地面に正座するギーシュの頭上から、ギアッチョの叱責が降り注ぐ。長らく 使われなかったマンモーニという呼称がショックだったのか、ギーシュは肩を がっくりと落とすが、ギアッチョは一切容赦をしない。 「フーケとアルビオンの時ゃあちったぁ見所があるかと思ったが・・・ おめーは追い込まれねーとマトモに戦えねーのか?ああ?」 「い、いや・・・それは」 「それは何だ」 「そ、」 「うるせえ!」 「酷ッ!」 ギアッチョは両手でギーシュの頭をぎりぎりと掴んで立ち上がらせる。 「あだだだだだ!」 「よォーーく解った・・・おめーには度胸と根性が足りねえ!」 「そ、それは追々身に着けていこうかと・・・」 「やかましいッ!帰ったら一から叩き直してやっから覚悟しとけッ!!」 「えええええ!?」 ギーシュが物理的に地獄に落ちることが決定した瞬間だった。 へなへなと地面にくずおれるギーシュに眼を向けて、三人の少女は同時に 溜息をつく。 「ま、これでちょっとは成長するかしらね」 「因果応報」 「・・・あれ?ところで何か忘れてない?」 「ギアッチョさーん・・・」 古木の幹にしがみつきながら、シエスタはか細く悲鳴を上げる。 「み、皆さーん・・・下ろしてくださいぃー・・・」 彼女が救出されたのは、それから十分後のことであった。