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学院長室への階段。 ミスタ・コルベールは、左足を若干引きずりながら一歩一歩上っていた。 時々左足に痛みが走る度、彼は三日前にその傷をつけた、ミス・ヴァリエールの使い魔を思い出す。 初めはただの死体だと思っていたソレが動き出し、あまつさえ自分に牙をむいた様を。 それをいなせなかった事実は、単純にコルベールに驚きを与えていた。 (私も、ヤワになったというわけですかな……) が、同時に彼は、その使い魔に対して非常に強い興味を抱いていた。 首だけでも活動し、メイジにケガすら負わせる異形に。 コルベールは好奇心の強い人間だった。 襲われたことに怒りを覚える前に、興味を感じてしまっている自分を皮肉りながら、コルベールは学院長室の扉を開けた。 「失礼いたします、学院長」 コルベールが学院長と呼ぶ人物、オールド・オスマンは、窓際に立ち、腕を後ろに組んで、重々しく彼を迎え入れた。 側には彼の秘書であるミス・ロングビルが黙々と書類仕事をこなしていた。 コルベールは無言で彼女に挨拶した。 彼女もまた無言でそれに応じた。 「ケガは治ったようじゃな、ミスタ・コルベール」 「……まだ少し痛みは残りますが、概ねは」 「君の治療に使った秘薬の代金は、バカにならんかったぞ…?」 「…………………」 「一応は、勤務中の事故じゃからな。学院の経費で決算じゃ。 しかしのう、額が額じゃ。王室の連中からまたケチを付けられるわ」 「………申し訳ありません」 コルベールは居心地悪そうに頭を下げた。 オールド・オスマンはフンッと鼻息を荒げた。 「謝る時間があれば、たるんだ貴族共から学費を徴収する上手い方法を考えるんじゃな。 誰だって我が身は可愛い……そうじゃろう?」 オールド・オスマンの鋭い視線が、コルベールを射抜いた。 コルベールは再び頭を下げた。 冷や汗が彼の頬をつうっと垂れた。 「で、一体何のようじゃ? ケガの回復の報告だけをしに来たのではあるまい」 そんなものは書類で済む話じゃからのう、というオールド・オスマンに、コルベールは重々しく言った。 「…ヴェストリの広場で、決闘を始めようとしている生徒がいるようです。 大騒ぎになっています。」 オールド・オスマンは苦々しげにため息をついた。 「全く、隙を持て余した貴族ほど、たちの悪い生き物はおらんわい。 で、誰が騒いでおる?」 「1人は、ギーシュ・ド・グラモン」 「あのグラモン家のこせがれか。 オヤジ同様、大方女の取り合いじゃろう。 相手は誰じゃ?」 コルベールは一瞬躊躇したが、オールド・オスマンの促しに耐えきれずに話した。 「……どうやら、ミス・ヴァリエールの使い魔のようです」 オールド・オスマンの片眉がピクと持ち上がった。 「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めていますが…」 オスマンの目が、再び鷹のように光った。 コルベールはうっとうろたえた。 「アホか。小競り合いの延長のような決闘如きに、秘宝を使ってどうする。 しかし………ふむ、そうじゃな…ウチの大切な教員にケガをさせたそのミス・ヴァリエールの使い魔か…。興味深いのう」 いちいち話をほじくり返すオスマンに対して、コルベールは針のむしろに居るような心地だった。 そして、オスマンはその杖を振った。 壁に掛かった大きな鏡に、ヴェストリ広場の様子が映し出された。 ――――――――――――――――――――――― ヴェストリ広場は魔法学院の敷地内、『風』と『火』の塔の間にある中庭である。 西側にあるその広場は、昼間は日があまり差さない。 決闘にはうってつけの場所だった。 そのヴェストリ広場は、ギーシュの取り巻きが広めた噂を聞きつけた生徒で、溢れかえっていた。その中には、キュルケとタバサの姿も伺えた。 噂を聞きつけて駆けつけてきたのだろう。 他の観衆と違って、二人はいつでも魔法を使えるように緊張していた。 が、キュルケは時々チラチラとルイズ顔色をうかがっていた。 何かに怯えているようだった。 その観衆の輪の中、DIOは静かに皆の視線を受けていた。 後ろには、ルイズとシエスタがいた。 ルイズは腕を組んで、己の使い魔を見守……いや、睨みつけている。 「諸君! 決闘だ!」 ギーシュが薔薇の造花を掲げた。 歓声が巻きおこる。 「ギーシュが決闘するぞ! 相手はあの『ゼロ』の使い魔の平民だ!」 ルイズの頬が一瞬ピクリと痙攣した。 が、すぐに何事もなかったように無表情に戻る。 ギーシュは一通り歓声に応えたあと、もったいぶった仕草でDIOの方を向いた。 「とりあえず、逃げずに来たことは誉めてやるよ、平民」 ギーシュは薔薇をいじくりながら歌うように言った。 DIOは無視した。 「では、始めようか!」 そう言うと同時に、ギーシュは薔薇を振るった。 花びらが一枚宙に舞い、甲冑を着た女戦士の形をした、人形になった。 硬い金属製のようだ。 甲冑が陽光を照り返し、きらめいた。 DIOはその様子を見やると、興味深そうにほぅといった。 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。 文句はあるまいね? 僕の二つ名は『青銅』。従って青銅のゴーレム、『ワルキューレ』がお相手するよ」 ギーシュが大仰に礼をした次の瞬間、ワルキューレがDIOに向かって突進した。 一瞬で間合いに入ったワルキューレが、その右の拳をDIOに振りかざした。 が、瞬間、あたりに銅鑼を思い切り叩いたような、 "ゴワァァアン"という音が響いた。 ワルキューレが地面に水平に吹っ飛び、ギーシュの前に転がった。 みると、ワルキューレの腹部は、ハンマーで殴られたようにボッコリとへこんでいた。 ギーシュは、うっと呻いた。 DIOを睨む。 DIOは腕を組んだまま、静かに佇んでいる。 しかし、ギーシュの目は、DIOの前に、うすぼんやりとした何かが浮いているのが見えた。 DIOはチッと舌打ちして、ソレを見ている。 「平民…! 今何をした!? 何だソレは!?」 DIOは再びほぅと言った。 「見えるのか、小僧。我が『ザ・ワールド』が」 ルイズは、先ほどの光景を間近で見ていた。 ギーシュのワルキューレが、DIOにその金属の拳を振りかざした瞬間、DIOの体から出てきたソレが、ワルキューレを殴り飛ばしたのだ。 ソレは、DIOの周囲をフワフワと漂っていた。 人間の上半身のようにもみえるソレは、ヒドく像がぼやけていた。 ムラサキともピンクともつかない色を放っていて、まるで幽霊のようなソレには、左腕がなかった。 (あれが、DIOの言っていた、『すたんど』…ってやつかしら?) ルイズはそう推測した。 恐らくはあれが、DIOの能力なのだろう。 青銅をへこませた所をみると、かなり腕力がありそうだ。 『ざわーるど』……変な名前だ、あいつの靴のデザインには負けるけど、とルイズは思った。 だけど、あれだけなのだろうか……? あれでは、殴る拳が一つ増えただけに等しい。 それだけで倒せるほど、ギーシュは……メイジは甘くない。 何か、別の力でもあるのだろうか、あの幽霊には。 何にしても、これからが見ものだ、とこぼしつつルイズはギーシュの方を見た。 一方のギーシュは、苦々しげにDIOに吐き捨てた。 「…ふん!何だか知らないが、やってくれたじゃないか。 『ゼロ』の使い魔の癖に…!」 ルイズの頬が、今度はピクピクと二度痙攣したが、ルイズは表面上は穏やかだった。 ―――表面上は。 そんなルイズの内心を知らぬまま、ギーシュは再び薔薇を振った。 六枚の花びらが舞い、さっきと同じように六体のワルキューレが現れた。 先ほどとは違い、剣や槍や斧など、様々な武器を持っている。 それと同じく、ギーシュの足元に転がるワルキューレの腹の窪みがすうっと元に戻った。 「平民のクセに、生意気におかしな力を使うようだな。 …いいだろう、ならば、この『青銅』のギーシュ、全力でお相手いたそう!」 ギーシュが薔薇の造花を振ると、一体をギーシュの側に残して、都合六体のワルキューレが、DIOに向かって再び突進した。 それを迎えて、DIOは初めて、組んでいた腕を解いた。 to be continued…… 23へ
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翌朝、何とか動けるようになったロングビルを御者役に、一行は出発した。 馬車といっても、屋根のない、荷車のような馬車である。 襲われたときに、直ぐに迎撃出来るようにとのことだ。 その馬車の上、ルイズは歯ぎしりをし、 かつてないほどの憤りを感じていた。 何たってこんな事になったのか…………馬車に乗っているのは、 ルイズを含めて、四人に増えてしまっていた。 ルイズと、DIOと…………キュルケとタバサだった。 早朝、馬車を待っている2人の前に、 何処から聞きつけたのか、オスマンとともに表れたのだ。 「この2人は、そなた同様、 フーケ拿捕に、貴族の誇りをかけると申しておる。 同行させるのじゃ」 そういうオスマンに対して、まさかNOと言えるわけがない。 ルイズに選択肢は無かった。 結局、ルイズの返答を待つことなく、2人は堂々と馬車に乗り込んだのだった。 「なんであんたがここにいるのよ、 ツェルプストー」 カッポカッポと馬車が行く音が森に広がるなか、 唇を軽くへの字に曲げて不満を漏らしたルイズに、 キュルケはその炎のような髪をかきあげた。 「ふん。 ヴァリエールに抜け駆けなんて、させないわよ。 うわさはとっくに学院中に広まってるわ。 それに、首尾良くフーケを捕らえれば、名を上げることができるのよ? ベストチャンスじゃない! ヴァリエールにはもったいないくらい」 ルイズは顔をしかめた。 どうやら2人はフーケを生かして捉えるだけのつもりらしい。 しかし、ルイズはフーケを殺害しに行く。 つまり、板挟みの形になる。 あちらが立てばこちらが立たずだ。 まいったことだと頭を悩ませながら、ルイズはその視線を、 キュルケの隣で黙々と本を読んでいる青髪の少女に移した。 その身長よりも大きな杖が印象的だ。 「で、なんでこの子までついてきてるわけ?」 ルイズの質問に、タバサがついと顔を上げて、 キュルケを指差した。 「心配」 一言そういうと、タバサは再び本を読み始める。 タバサが口数の少ない子であることは、 ルイズもある程度分かってきていた。 だから、その簡潔きわまりない返事に対して、イラつくようなことはしなかった。 しかし、このタバサという少女、馬車に乗ってからというものの、少々挙動不審であると、ルイズは感じていた。 本を読んでいるだけかと思ったら、時々顔を上げて、 DIOの方をチラチラと窺っているのだ。 まさかあのメイドみたいに手込めにしたのではないかと、 ルイズは一瞬冷や冷やしたが、どうやら違うようである。 DIOを見るタバサの目は、脅威と興味がない交ぜになったようなそれであり、 少なくとも好いた惚れたといったものではないことがわかる。 ならば、タバサがいくらDIOに気を向けようが、それはルイズの口を挟む領分ではない。 一方のDIOはと言えば……普段と変わらない。 体格上の理由から、馬車の一番後ろに陣取ることになったDIOは、 ルイズがせっかく買ってやった平民用の普段着を着ることなく、例の如く上半身裸だ。 出発の時、ルイズはこの事にかなりお冠だったが、DIOは一向に聞く耳を持たなかった。 これこそ自分のスタイルだと、言わんばかりだ。 確かに、半裸のDIOは、精密な彫刻のようである。 繊細ながらも力強さを感じるDIOの肉体には、男も女も持ち得ない、 奇妙な色気を感じる。 ほとんど四六時中行動を共にしているルイズにとってはたまったものではないが、 時間が迫っていたせいもあり、嫌々…本当に嫌々ながら放置することにした。 久方ぶりにルーンに魔力を注いでやろうとも思ったが、 この旅の終わりには、フーケが待ちかまえているのだ。 どうにも出来なかった。 精神力の消耗は、極力避けねばならないのだ。 DIOのベルトと、深緑色のズボンの両膝とに輝く、ハートマークの飾りが憎らしい。 そのDIOの足下には、以前買った剣が2本とも、無造作に転がっていた。 DIOによると、2本とも持ってきたのは、 片方を『予備』にするためらしい。 つまり、どちらかが折れてしまうかもしれないという事だ。 一体どちらがポッキリ逝ってしまうことになるのか、ルイズは楽しみだった。 ルイズの視線は、デルフリンガに一点に注がれていた。 ―――と、馬車でのぶらり旅が退屈になってきたのか、キュルケが、 さっきから何も話さずに手綱を握るロングビルに話し掛けた。 「ねぇ、ミス・ロングビル………、怪我をしてらっしゃるんだから、 手綱なんて、付き人にやらせればいいじゃないですか」 単純な親切心から出たらしいキュルケの言葉に、ロングビルはにっこりと笑った。 「いいのです。この方が、フーケの隠れ家までの距離が、よくわかりますの。 それに、わたくしは、貴族の名を失くした者ですから」 キュルケはキョトンとした。 ロングビルは、オールド・オスマンお抱えの、有能な秘書である。 そんな彼女が、貴族でないとは、一体どういうことだろうか? ロングビルの話によると、 オールド・オスマンは、貴族や平民といった事柄に、拘らない人なのだそうだ。 曰わく、 『ワシは、厳しい。 しかし平等主義者じゃ! 差別は許さん。 貴族、平民、王族、亜人、エルフ……etc. ワシは差別をせん。 全て、平等に価値が『無い』!!!』 だそうである。 あのオスマンなら、もっともなセリフだと、その場にいた4人は妙に納得した。 興味をそそられたのか、キュルケは少々突っ込んだ話をし始めた。 「差し支えなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」 貴族の名を失うことになった過程を聞こうというのだ。 ロングビルは困ったような微笑みを浮かべた。 言いたくないのだろう。 「いいじゃないの。教えてくださいな」 キュルケは興味津々といった顔で、ロングビルににじり寄った。 いい加減見ていられなくなったのか、そんなキュルケの肩を、ルイズが掴んだ。 キュルケはルイズの方に振り返ると、思いっ切り嫌そうな顔をした。 「なによ、ヴァリエール。 お呼びじゃないわ」 キュルケは聞き入れそうにもないが、注意せずに放っておくのも酷だと、ルイズは思った。 「よしなさいよ。昔のことを 『根掘り葉掘り』 聞くなんて………」 何の気なしに口にしたルイズの言葉に、タバサの体がビクンと跳ね上がった。 突然のタバサの動きに、2人はさっきまでの会話をすっかり忘れて、タバサの方を向いた。 見ると、タバサは顔を真っ赤にして、何かを口走ろうとしている自分を必死に抑えているようであった。 それでも無表情なのが逆に怖い。 「タ、タバサ………?大丈夫……?」 ただならぬ様子に、恐る恐るといった感じでタバサに話し掛けるキュルケ。 ルイズはというと、何が起きているのか、サッパリわからず、ポカンとしていた。 しばらく経った後、タバサがふぅと一息ついた。 ゆっくりと2人を見るタバサは、普段と全く変わりがない。 いつも通りだ。 「……なんでもない」 ポツリと呟いたタバサだったが、その言葉には、何も聞くなというような、変な迫力があったので、 2人はその言葉を鵜呑みにするしかなかった。 タバサは再び読者に勤しみ始めた。 ルイズは話を戻すことにした。 「とにかく、人が聞かれたくないことを、無理やり聞き出そうとするのは、 良くないと思うわ!」 ヴァリエールに対する反発心から、キュルケはルイズを軽く睨んだ。 「暇だから、お喋りしようと思っただけじゃない」 「ゲルマニアはどうだか知らないけど、トリステインでは、恥ずべきことなのよ」 キュルケは無言で足を組み、イヤミな調子で言い放った。 「ったく、大体あんた、どうしてフーケを捕まえようなんて思ったわけ? あんたのほうこそ、名誉が欲しいんじゃないの?」 ウシシと笑うキュルケに対して、ルイズは真顔になって答えた。 「私には、どうしても殺らなきゃならない理由があるわ」 キッパリと、突き放すように言うルイズに、キュルケは半信半疑な目を向けた。 「でも、あんた、いざフーケが現れたら、どうせ後ろから見てるだけでじゃないの? そこのDIOに全部まかせて、自分は高見の見物。 でしょ?」 2人は同時に、DIOを見た。 DIOは、移り変わる景色をただただ暇そうに眺めているだけだ。 ルイズは腕を組んだ。 「誰が逃げるものですか。 私も、魔法を使って何とかしてみせるわ」 「魔法? 笑わせないでよ。 あんなのは魔法じゃなくて、ただの爆発よ!爆発!」 当初の話題はどこへやら、 火花を散らす2人は、ギャーギャーと口げんかを始めたが、馬車が森のより深い場所へと入っていくと、 段々静かになっていった。 鬱蒼とする森は、昼だというのに薄暗く、気味が悪い。 ある程度まで進むと、ロングビルが馬車を止めた。 「ここから先は、徒歩で行きましょう」 ロングビルがそう言って、全員が馬車から降りた。 森を通る道から、小道が続いている。 「えっらく暗いわね……」 キュルケの呟きが、森に吸い込まれて消えていった。 森を進む一行は、開けた場所に出た。 森の中の空き地といった風情だ。 真ん中に、廃屋があった。 ロングビルによると、あれがフーケの隠れ家……らしい。 五人はむこうから見えないように、森の茂みに身を隠したまま、廃屋を見つめた。 人の住んでいる気配は全くない。 ルイズ達は、ゆっくりと相談をし始めた。 あーでもないこーでもないと策を練った結果、 タバサの案が採用される事となった。 『まず、偵察兼囮が、小屋に出向いて、中の様子を確認。 フーケが中にいれば、挑発して誘き出す。 そこを魔法で叩く。』 奇襲戦法であった。 集中砲火で、フーケを沈めるのだ。 「で、その偵察兼囮はだれがやるの?」 キュルケが尋ねた。 タバサは無言でDIOを指差した。 全員が一斉にDIOを見つめた。 DIOはため息をついた。 「………私か」 タバサがコクンと頷いた。 「いいじゃない。 名案だと思うわ。 というわけで、DIO、行ってきなさい」 DIOは丸腰のまま、気だるげに立ち上がった。 そして、スタスタと小屋まで近づくと、確かめもせずに小屋の中に入った。 4人は息をのんで見守っていたが、暫くすると、DIOが小屋から出てきた。 誰もいなかった時のサインを出すDIO。 全員が茂みから出て、小屋に歩み寄った。 「誰もいないな」 DIOがそういうと、ディテクトマジックを使って罠がないことを確認したタバサが、 小屋の中へと足を運んだ。 キュルケはなぁーんだと、拍子抜けしたような声を出した。 小屋に入ったキュルケとタバサは、フーケの残した手がかりを探し始めた。 DIOは、自分の仕事は終わりとばかりに、 部屋に突っ立っているだけだ。 家捜しを続ける2人だったが、やがてタバサが1つのチェストの中から……、 なんと、 『破壊の杖』を見つけ出した。 「破壊の杖」 タバサは無造作にそれをもちあげると、皆に見せた。 「あっけないわね!」 キュルケが叫んだ。 DIOはというと、タバサが抱える『破壊の杖』見た途端に、 訝しげな表情をした。 ロングビルと一緒に、小屋の外で待機していたルイズは、 『破壊の杖』発見の報告を受けて、眉をひそめた。 おかしい。 ロングビルの話では、フーケは罠を張って待ちかまえているというではないか。 魔法学院に忍び込み、宝物庫を破るほどの実力の持ち主。 恐らく、自分たちが森に入ったことなんか、とっくにお見通しだろう。 なのに、こうもやすやすと破壊の杖を渡すとは………。 これも、いや、ひよっとしたら、これこそが罠、か? それにしてもリスキーに尽きるだろう。 フーケの意図を読みかねて、ルイズはうむむと唸った。 ロングビルは、いつもの柔らかなものとは全く異なる鋭い視線で、小屋の様子を慎重に窺った。 3人とも、破壊の杖に目が釘付けだ。 次いで、ルイズを見た。 ルイズはロングビルに背を向けて、うむむと唸りながら、思案に耽っている。 ロングビルには目もくれておらず、自分の世界に入り込むルイズを見て、 ロングビルは薄く笑った。 今、彼女は完全にフリーだった。 自分の作戦がうまくいったと確信したロングビルは、喜びもそこそこに、 最後の詰めを行うため、コッソリと茂みの奥へと足を運んだ。 ――――その時だった。 突如何者かが、 "グワシィ!!!" と、凄まじい勢いで自分の肩を掴んだのだ。 ロングビルの体はまるで、『固定化』の魔法でもかけられたかのように、 硬直してしまった。 ……………まさか? いやいやいやいや、そんなバカな。 彼女と自分は、さっきまで、たっぷり15メイルは離れていたはずだ。 彼女であるはずがない。 では、今、自分、の肩、を、掴んで、いる、の、は……………………誰、だと、い、う、の、か? ゴクッと唾を飲む。 ロングビルは意を決して後ろを振り向いた。 「どこに行くのかな?かな?」 笑顔のルイズが、そこにいた。 to be continued…… 39へ
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魔法学院の教室の1つ。 ルイズ達二年生は、今日はここで『土』系統の魔法の講義を受けることになっていた。 皆、様々な使い魔を連れていた。 キュルケのサラマンダーをはじめとして、フクロウや、カラスや、ヘビやドラゴンや…実に多種多様だ。 召喚が終わってから初めての授業、本来なら使い魔の見せ合いで騒がしくなるはずなのだが、 彼らは今日は一段と静かだった。 皆、1人の生徒の登場を待っていた。 『ゼロ』のルイズ。 魔法を全く使えない彼女が、サモン・サーヴァントでとんでもない化け物を呼び出し、挙げ句の果てにコルベール先生に重傷を負わせたらしいという噂が、まことしやかに囁かれていた。 目撃者の証言によると、彼女が召喚したのは化け物ではなくて『死体』…それもバラバラの… だそうだが、彼らの叫びは他の生徒の、常識という箱に入れられ、蓋を閉められた。 大体の生徒は、化け物説を信じ、期待とスリルに胸をふるわせていた。 ギイと、重々しく講義室の扉が開いた。 他の生徒は皆そろっていたので、残る1人は必然的に噂の『ゼロ』ということになる。 果たして、入ってきたのはルイズであった。 皆の視線がルイズに向けられていた。 そして、ルイズに続いて入ってきた、1人の男に。 だれもかれもが、あっけにとられていた。 "なんだ。どんな化け物かと思ったら、ただの平民じゃないか" 1人また1人くすくすと笑い始める。 だが、キュルケとタバサは鋭い視線を男に向け、 そしてルイズの召喚を間近で見ていた一部の生徒は、困惑しながらも怯えていた。 そしてさらに一部の生徒は、その男が自分達と同じ食卓についていたことを思い出し、眉をひそめた。 ルイズは不機嫌そうにドカっと席についた。 そしてルイズが男と一言二言、言葉を交わすと、男は生徒達の間をゆっくりと通り抜け、後ろの壁にもたれかかり、腕を組んだ。 初めは興味深そうに生徒達の使い魔を観察していたが、 やがて飽きたのか、その手に抱えていた本を読み始めた。 先日ルイズが与えたものなのだが、どうみても子供向けなそのタイトルが、 ますます生徒の笑いを誘った。 そうしているうちに扉が開いて、先生が入ってきた。 優しげなおばさんの雰囲気を漂わせている彼女は、ミス・シュヴルーズといった。 彼女は教室を見回すと、満足そうにほほえんで言った。 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。 私はこうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 ルイズは皮肉気な笑みを浮かべた。 「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。 ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズが後ろで本を読んでいる男を見て、とぼけた声で言うと、教室はどっと笑いに包まれた。 「おい『ゼロ』!召喚に失敗したからって、その辺歩いてた平民 を連れてくるなよ」 ルイズはだんまりを決め込んだ。 それをどう誤解したのか、クラスメイトの嘲りはますますひどくなっていった。 『かぜっぴき』のマリコルヌが、ゲラゲラ笑った。 「あの『ゼロ』だぜ? 失敗に決まってるじゃんか。 皆、知ってるよな?今までルイズがまともな魔法に成功した回 数は?」 "『ゼロ』だ!"と、他の生徒が唱和した。 再びゲラゲラ笑い。 調子に乗って歌まで歌いだした。 "♪ルイルイルイズはダメルイズ~♪魔法が出来ない魔法使い♪…" みんなして調子を合わせられているところを見ると、影で結構歌われているようだ。 ルイズは拳を握りしめて屈辱に耐えていた。 爪が食い込んで血が垂れる。 どうせ、言ったってわからない奴らなのだと、必死にそう自分に言い聞かせた。 シュヴルーズは、厳しい顔で教室を見回した。 そして、杖を振ると、ゲラゲラ笑っている生徒の口に、どこから現れたのか、ぴたっと赤土の粘土が押しつけられた。 「お友達を侮辱するものではありません。 あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」 教室の笑いが収まった。一見するとシュヴルーズの懐の深さが示されたように見えるが、 そのキッカケを作ったのは間違いなくシュヴルーズであったし、マリコルヌたちの狼藉をしばらく見過ごしていたのも、シュヴルーズであった。 楽しんでいるのだ、結局。 ルイズは思う。 自分が笑われているところを楽しむだけ楽しんでおいて、 キリのいいところで、どこかの聖者よろしく 「貧しい者こそ救われる」とばかりに手を差し伸ばすのだ。 とんだ自己満足だ。 貧しいのはそっちの脳みその方だ、この偽善者め…! ルイズは心の中で吐き捨てた。 そんなルイズの胸中を知らずに、シュヴルーズは授業を再開した。 彼女が杖を振ると、机の上に石ころがいくつか現れた。 そして、この授業のメインである、『錬金』の講義をはじめた。 知識だけは他の生徒よりはあるルイズは、耳タコなその内容に飽き飽きして、ボーッとしていた。 「私はただの、『トライアングル』ですから…」 そんなシュヴルーズの声が聞こえた。 えぇカッコしぃめ…! と思いながら、ルイズは後ろを振り返った。 後ろでは、自分の使い魔であるDIOが、本に目を注いでいたが、シュヴルーズが石ころを真鍮に変える魔法を使っている時には、しげしげと前を向いていた。 (一応聞いてはいるんだ…) 案外好奇心旺盛ね、とルイズが考えているところに、シュヴルーズからの呼び声がかかった。 「ミス・ヴァリエール! よそ見をしている暇があるのなら、あ なたにやってもらいましょうか」 「え、わたしですか?」 突然のことに、ルイズは焦った。 話を全く聞いてなかった。 「そうです。ここにある石ころを、あなたの望む金属にかえてご らんなさい」 あっさり話の内容をネタバレしたシュヴルーズを小馬鹿に思いつつ、ルイズは俯いて、密かにほくそ笑んだ。 一発かますチャンスだ。 そして、これ以上ないってほどの作り笑顔で、立ち上がった。 「わかりました、ミス・シュヴルーズ! わたし、失敗するかも しれないけど、精一杯やってみますわ…!」 キラキラと瞳を輝かせる様が嘘くさかった。 ルイズの恐ろしいほくそ笑みをしっかり見ていたキュルケは、空恐ろしいものを感じ取り、止めに入った。 『ゼロ』ネタでからかわれた後のルイズは、何をするか分からない。 「ミス・シュヴルーズ。やめたほうがいいと思いま…ひっ!」 ルイズはギロリと、シュヴルーズには分からないようにキュルケを睨んだ。 "邪魔するならあんたから吹き飛ばす"ルイズの目がそう言っていた。 そしてルイズは、目尻に涙を蓄えながら、よよと嘆いた。 「そうですわね。ミス・ツェルプストーの言うとおりですわ。私 なんかがやったら、皆さんの大切な授業の妨げになってしまい ます……」 そうして、悲しそうにうつむいて席に座ろうとするルイズを、シュヴルーズは引き止めた。 「いいえ、いいえ、ミス・ヴァリエール。誰にだって失敗はあり ますとも! さぁ、やってごらんなさい。失敗を恐れていては、何も出来ま せんよ」 (………計画通り…!) ハナから勝負にならなかったのだが…。 ルイズはいかにも可憐な笑顔を浮かべて立ち上がった。 しかし、彼女の背中には、目にもの見せてくれてやると、どす黒いオーラがただよっていた。 キュルケの横を通り過ぎるとき、ルイズはドスのきいた、低い声で呟いた。 「友達のよしみよ。さっさと消えなさいな、ツェルプストー」 もうダメだ。おしまいだ---顔面蒼白でキュルケは戦慄した。 そうして、わざわざ教壇の側に回り、石が全員に見えるようにして、 離れた所から錬金の魔法にしては異常な量の魔力を石の全てに込めだしたルイズを尻目に、 キュルケはじっとDIOに視線を向け続けるタバサをひっつかんで教室を脱出した。 ―――次の瞬間、教室の中で、学院全体が揺らぐほどの大爆発が起こっていた。 間一髪だ……、キュルケは己の生を始祖ブリミルに感謝して、床にへたり込んだ。 to be continued…… 19へ
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「おや、『風』の呪文だね……うぷ…」 シエスタによる公開屠殺を強制的に見せられて、今にもゲロを吐きそうな顔をしていたワルドが、 青い顔をしたまま呟いた。 未だに鉄錆にも似た異臭が漂う死地に、ばっさばっさと翼を羽ばたかせる音が響く。 どこかで聞いたことのある羽音だった。 「シルフィード……だったかしら」 名前はともかく、確かにそれはタバサの使い魔の風竜であった。 重なりかけた月を背景に、悠然と空に浮かぶ幻獣。 そのシルフィードが、何故この場にいるというのか。 ルイズの疑問に応えるように、風竜はゆっくりと地面に舞い降りた。 場に満ちる死臭が、人間の何倍もの嗅覚を誇る風竜の鼻を襲い、 シルフィードは実に嫌そうな顔できゅいきゅい鳴いた。 その風竜の背には、主人であるタバサの姿。 パジャマ姿のまま、本を読んでいる。 さっきシエスタを吹き飛ばしたのは、タバサの『風』魔法だったのだ。 (お姉さま、ここクサい! シルフィお鼻が曲がっちゃうのね! クサい! クサい! ク~サ~い!) (……我慢する) そのタバサの後ろから、炎のように真っ赤な髪の女性が機敏な動作で飛び降りて、髪をかき上げる。 キュルケであった。 憎きツェルプストー。 ルイズの生涯のライバルであった。 「いくら礼節を弁えない者相手とはいえ、やり過ぎでなくて、ヴァリエール?」 後ろでヨロヨロと立ち上がり、頭を振っているシエスタを横目で見ながら、ルイズは肩をすくめた。 「あんたの夜の情事よりは幾分穏やかだわ。 ……で、どうしてここにいるわけ?」 「ッッ! …………朝方、窓からあんたたちが馬に乗って出かけようとしてるもんだから、気になって後をつけたのよ」 柳眉を逆立てて、キュルケは言い放った。 本当は助けに来たつもりだったのだが、ルイズの嫌味に対する反発心から、 つい無難な理由を述べたのだった。 しかし、良い所を邪魔をされたとあって、ルイズの嫌味は歯止めがきかない。 ウンザリした顔で、シッシッと追い払う仕草をする。 「おととい来て下さらないかしら、マダム? 大事な大事な男娼達が、首を長くして待ってるわよ? あら失礼、長くしているのは首じゃなかったわね……オホホホホ」 ほくそ笑むルイズ。 仮にも十八の乙女に対してマダム呼ばわりである。 これには流石のキュルケも腹に据えかねたらしい。目つきが据わってきた。 「言ってくれるじゃない、『ゼロ』のクセに……」 「…………何ですって?」 「何よ!」 バチバチと火花を散らしながら睨み合う二人。 やがて、いつものように壮絶な罵りあいが始まるのであった。 売女! ナイムネ! 脂肪細胞の無駄遣い! 言ったわね!? 野蛮人! おチビ! 色狂い! 独り身! ツラに一発ぶち込むわよ!? ケツに一発食らわすわよ!? ………………………………… …………………………………。 あらかた罵倒のネタが出尽くしたところで、タバサが止めに入った。 彼女がその身長よりも大きな杖を振ると、二人の体が宙に浮かぶ。 "レビテーション"の魔法を使ったのだ。 「非常時」 ポツリと呟くタバサの言葉で冷静になったのか、二人は渋々矛を収めることにしたようだった。 大人しくなった二人を、タバサはゆっくりと地面に下ろす。 「……改めて聞くけど、どうしてあなたがここにいるの、ツェルプストー? 私たち、お忍びの仕事の最中なの」 「ふん、勘違いしないで。貴方を助けに来た訳じゃないの。 ……ねぇ?」 ルイズに対する渋い顔を一転、キュルケはしなをつくってワルドににじり寄った。 「おひげが素敵な紳士様。身を焦がすような情熱に興味はおあり?」 じりじりと近づいてくるキュルケを、しかし、ワルドは青い顔で押しやった。 「あら、どうして?」 「婚約者が勘違いしては困る。 それに……こんな場所で、そんな気にはとてもじゃないが……なれないな」 確かに、とキュルケは納得して頷いた。 辺り一面には、依然として濃厚な血の匂いが漂っている。 直ぐに危険な野獣が集まってくるだろう。 既に上空では、匂いに誘われてカラスやハゲタカが群を為し始めていた。 彼らは、地上にある今晩の食事をご所望であったが、シルフィードがいるために手が出せずにいた。 ギャアギャアという、彼等の愚痴にも似た叫び声が響くこの場所では、 とてもじゃあないがロマンチックな気分にはなれない。 ワルドの言うことは至極もっともであった。 そして、それにもましての驚愕の事実が、キュルケの興味を強く刺激していたのであった。 「なあに? ルイズ、あなた婚約者がいたの? よりにもよってあんたに?」 「いちゃ悪いの? それに、まだ私は結婚するって決めた訳じゃないわ」 驚天動地といった顔をするキュルケだが、以外や以外、ルイズはあんまり気にしていないようだった。 もっと顔を赤らめるなりして照れるかと思ったのにつまんない、とキュルケは思った。 最近のルイズは、やけに冷静……というより、冷徹なのだ。 さらには、以前はまだまだ希薄であったはずのルイズから感じられるオーラのようなものが、 洗練され、さらなる深みを見せているようにも思われた。 何というか、カリスマ? とでも言うのだろうか。キュルケはルイズから発せられるそれをうまく説明することが出来なかった。 ただ一つ明らかなのは、ルイズが本格的に変わり始めた原因はDIOにあるということであった。 今でこそ、短絡的な感情表現をしてくれることもあるが、それもいつまで続くのか分からない。 ルイズの行く末を案じるキュルケであったが、そんな彼女をよそに、 ルイズは運良く生き残った一人に尋問を開始することにした。 地面に情けなく横たわって気絶している男にルイズはドカドカと近寄り、容赦なく鳩尾を踏んづけた。 激しく咳き込みながら、男は意識を取り戻した。 ゆっくりと目を開いた男は、自分を見下ろしているルイズの姿を確認すると、 途端に取り乱した。 「た、助けて!! 許して! 俺はただ、雇われてただけなんだよぉ……!! 」 「ほらほら、五月蝿いわね……静かにしなさいよ、大人げない」 しかし、男は喚くのを止めない。それどころか、脇に立つシエスタの姿を目にするや、その叫び声を益々大きくしてゆくのであった。 ルイズは痛む頭に手をやり、ゆっくりと杖を取り出して男に突きつけた。 「黙れ」 首を吹っ飛ばされた仲間達の姿が、男の脳裏にフラッシュバックする。 男はピタッと静かになった。 「では、聞くわ。 あんたたち誰に雇われたの?」 「は、はい、ラ・ロシェールの酒場でメイジに雇われました……女です」 早くもアルビオンの貴族に気付かれたかと、ルイズは焦った。 しかし、思った通りこいつは唯の三下だ。 根掘り葉掘り聞いた所で、実りのある情報が得られる確率は絶望的といえた。 それでも、ルイズに対する恐怖からか、男の返事が素直そのものであったのが、唯一の救いだった。 余計な手間がかからずに済んだと思いつつ、ルイズは先ほどの戦闘で感じた疑問を男にぶつけた。 「じゃ次。 さっきの戦いで、どうして私だけ襲ったの?」 「雇い主にち、注文されたんでさぁ、へへ……。 緑色の髪をした、美人のメイジに言われたんです……。 桃色の髪をしたチビだけは絶対にこ、殺せって……。 胸がペッタンコだから、すぐ分かるって……。ヒヒヒ、本当にすぐ分かりましたよ」 「緑色? どっかで見たことあるような……。 それとあんた、一言多いわ。 こんど余計なこと言ったら、せっかく拾った命を無駄にすることになるわよ」 調子に乗りかけてニヤついていた男の顔が、再び凍り付いた。 ルイズはいったん振り返ってキュルケ達をチラリと見た後、男に向き直った。 「もう聞くことはないわ。あんたは用無し。 殺してやるつもりだったけど……フン、せいぜいキュルケに感謝しなさい」 どうやら、命だけは助けてやると言っているらしい。それを聞いた男の顔が少しだけ和らいだ。 希望に包まれ始めた男の顔は、ルイズにとって非常に神経に障るものであったが、この際我慢することにした。 何だかんだで自分はキュルケに弱い……この瞬間、ルイズはそのことを強く自覚した。 いずれは克服せねばならない課題だった。 そのためには理由を知る必要があったが、ルイズには何となくそれがわかっていた。 キュルケはルイズの姉に似ているのだ。 優しいカトレアに。厳しいエレオノールに。 そう考えてルイズは、ハッとなる。 基本的に姉には頭の上がらないルイズにとって、これはゆゆしき事態であった。 『ルイズは姉に頭が上がらない→キュルケは姉に似ている→ルイズはキュルケにも頭が上がらない』 こういうカラクリだから、キュルケはこれからのルイズにとって乗り越えねばならぬ障害足り得たということか。 ならば、ルイズの為すべきことは一つである。 キュルケを乗り越えるためには、まず二人の姉を…………。 自分は二人の姉を……どうするというのか。 そう考えるとモヤモヤしてくる自分の胸の内を誤魔化すように、ルイズは男を追い払った。 男は振り向くことなく駆け、やがてラ・ロシェールの夕闇に包まれていった。 「てっきり殺すと思ったが……慈悲深いじゃないか。 あのキュルケとやらに負い目を感じているのか?」 いちいち痛いところを突く使い魔だと、ルイズは思った。 人の心を纏う鎧の、ほんの僅かな隙間を縫って、中心に針を突き立ててくる。 ふてくされた顔で、ルイズは馬上のDIOを見上げた。 「……何なら、消してやろうか? 可愛い御主人様の為なら、はてさて……どうってことはない。遠慮するな」 DIOの悪魔の囁きである。 ここでYESと答えれば楽なのだろうが、ルイズは首を横に振った。 「いいえ、嬉しい申し出だけれど断るわ。 これは私とキュルケの……いえ、私だけの問題よ」 「そうか」 拍子抜けするほどあっさりした返事を残して、DIOはさっさとラ・ロシェールの街へと移動し始めた。 その後に、デルフリンガーを回収したシエスタがしずしずと付き従う。 だが、ルイズは遠ざかっていくDIOの馬を追いかけ、ひらりとその背に跨った。 突如として自分の後ろに飛び乗ってきたルイズに、DIOは振り向いた。 「私の馬、さっきの戦いで死んじゃったの。 だから、ラ・ロシェールまで乗せなさい」 そっぽを向いて一息に言い切ったルイズにDIOはニヤリと笑い、直ぐに前に向き直った。 DIOがルイズに見せた笑みは一瞬であったが、しかし、ルイズは見た。 DIOの目。 何もかもお見通しと言わんばかりのDIOの目は、確かにこう言っていた。 『キュルケを乗り越えるために、まず姉を殺せ』 殺す? 私が? エレオノール姉様と、カトレア姉様を? ………………………………。 ルイズは自分の杖をぎゅっと握り締めた。 両脇を峡谷に挟まれた、ラ・ロシェールの街の灯りが、怪しく一行を迎えていた。 ―――ルイズ一行、無事にラ・ロシェールへ。 to be continued……
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(ちい姉さま……おかげで助かりました…!) ルイズは心の中で、久しく会っていない姉に感謝を捧げた。 心の中の姉は何故か "Oh, my GOD!!"と嘆いていた。 まだ何かやり足りなかったのだろうか? しかし、いつまでも値段交渉を続けていくわけにはいかない。 時間も無限でないし、このあとDIOの服を買いに行かねばならないのだ。 ルイズはそう判断すると、懐から小さな袋を取り出し、中に入っていた金貨30枚ばかしを机にばらまいた。 「これで、足りるかしら?」 オヤジは眉をしかめてズイと身を乗り出した。 「おいおい。冗談はよしこちゃんですぜ、貴族の旦那。それとも頭脳がマヌケになっちまったんで? あっしはエキュー金貨で千百五十って……」 ウンザリといった風でパイプを口に銜えなおしたオヤジだったが、机の上の金貨をメガネをかけてしかと見た途端に、オヤジの目玉が飛び出した。 「うお…うお…おっおっ。コイツは…これはぁあああ!!??」 ルイズは腕を組んだ。 「足りなかったかしら?」 「い、いぇ!滅相もございません! そりゃもう! しかし、こんなに頂いてしまって……よろしいんで? ニョホ!」 ルイズはコクリと頷いた。 (別にわたしのお金ってワケじゃないしね…) ルイズはオヤジの見えないところでペロッと舌を出した。 慌てて机の金貨をかき集めているオヤジを尻目ににルイズは剣を手に取ろうとしたが、乱雑に積み上げられた剣の中から聞こえた声に、手を止めた。 低い、男の声だった。 「おい、オヤジ…気を付けろ! そいつに剣を売っちゃあいけねえよ!」 「ヌムッ!?」 ルイズはキッと声のした方を睨んだ。 暇そうに店内をうろついていたDIOも、この場にはいない人間の声に、振り向いていた。 オヤジは頭を抱えた。 「『誰だ?』って聞きたそうな顔してんで、自己紹介させてもらうがよ。 おれぁおせっかい焼きのデルフリンガー! ここの古参でな。 オヤジが悪魔に手を貸そうとしてんで、口を挟んでみた!」 いきなり悪魔呼ばわりされて、ルイズは腹が立った。 しかし、声の聞こえてくる方には人影はない。 ただ、乱雑に剣が積んであるだけである。 「失礼ね!」 ルイズはドカドカと声のする方に近づいた。 剣の山に近づいたルイズは、しかし、後ずさった。 なんと、一本の錆の浮いたボロ剣が、柄の部分をパクパクさせて、声を発していたのだ。 「剣…が…喋ってるわ」 ルイズが呆けたように呟くと、オヤジが怒鳴り声をあげた。 「やい、デル公!お客様に失礼なことを言うんじゃねえ!」 ルイズは、その剣をジロリと見つめた。 さっきの大剣と長さは変わらぬが、刀身の細い、薄手の長剣だ。 錆が浮いてて、お世辞にも見栄えがいいとは思えない。 「オヤジ! 金に目が眩んでるようだから一つ教えてやるぜ! おれぁ長年を生き、いろんな悪党を見て来た。 だから、悪い人間といい人間の区別は『におい』でわかる!」 ルイズの目が、カッと見開かれた。 心なしか、冷や汗が流れているようだ。 デルフリンガーは、柄で器用に自分の周りの剣をルイズとDIOにむかって "ドガーーーーッ!"と弾き飛ばして叫んだ。 「こいつはくせえッーー! ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーッ! こんな悪(ワル)には出会ったことがねえほどなぁーーーッ!」 ルイズとDIOは飛び交う剣をヒョイヒョイとかわしたが、 罵詈雑言に傷ついたのかルイズは俯いていた。 デルフリンガーが続ける。 「ひ弱な貴族だと? ちがうねッ!! こいつらは生まれついての悪(ワル)だッ! オヤジ、こんなやつらに剣なんて売るなよ! 世の中が荒れるぜ!!」 ルイズは俯いたまま、プルプルと震えながら、呟いた。 「……これって…インテリジェンスソード?」 オヤジがビビりながら答えた。 「へ、へぇ、お嬢様。 こいつは確かに意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。 しかし、こいつはやたらと口は悪いわ、客に喧嘩を売るわで閉口してまして。 そこの鞘に収めれば静かに……ヒッ!」 ゆっくりと顔を上げたルイズを見て、オヤジが引きつった。 見ればルイズは、顔面に青筋をビクつかせながら、まさに悪鬼のような顔をして杖を取り出していた。 怒りで震える杖が、デルフリンガーに向けられている。 無言なままであるがゆえに、その威圧感は絶妙かつ絶大だった。 ルイズの杖が躊躇いなく振り下ろされ、"ドンッ!"と爆発が起こった。 だか、怒りで手元が狂ったのか、ルイズの魔法はデルフリンガーを直撃することなく、その代わりにすぐ横の剣が粉々に砕け散った。 オヤジはとっくの昔に机の下に避難していたので無傷だった。 爆風でデルフリンガーが宙を舞い、DIOの足元に転がった。 DIOが興味深そうに、足元から拾うと、デルフリンガーが嫌そうに喚いた。 「おでれーた。てめ、『使い手』か。悪魔の上に、使い手か! …世も末かね」 DIOはふむ、と唸り、デルフリンガーを一振りした。 ルイズは尚も収まりがつかないらしく、杖を再びデルフリンガーに向ける。 DIOごとふっ飛ばしかねない剣幕だ。 「DIO!そのクソをしっかり掴んでなさいよ! これからそのクソを、めたクソにしてやるわ! ガラスブチ割るみたいにねぇええ!」 今にも杖を振り下ろさんとするルイズに、DIOはさらりと言った。 「…これがいい」 「「え゛ッ!?」」 奇しくもルイズとデルフリンガーの言葉が被った。 それがますます気に入らなかったのか、ルイズはデルフリンガーを睨みつけたが、少し考えた後、深呼吸をして、黒い感情を鎮めることにした。 最近はどうもいけない。 DIOからの宣告を受けた後、ルイズは意識的に自分の感情をコントロールする術を身につけようと密かに決心していた。 DIOのいいなりでは、ご主人様としての面子が丸潰れであるし、何よりルイズのプライドが許さない。 ……ないのだが、最初からこれでは、悲しいやら、情けないやら。 自己嫌悪に陥ったルイズだったが、ひとまず理由を尋ねることにした。 「……なによあんた。趣味悪いわよ。 それに、もう剣は一本買ったじゃない」 「この剣は、さっき私のことを『使い手』と呼んだ。 何か知っているような口ぶりだ。 何か知っているかもしれない。 …ひょっとしたら、私がこの世界に来ることになった原因も。 ……………帰る手がかりも」 DIOは穏やかにデルフリンガーを見下ろして言った。 「どうしても気に喰わないとなったら、なぁに、それこそ改めて『めたクソ』とやらにしてやればいいのさ。 ……………ガラスブチ割るみたいにね」 DIOの言葉に、ルイズはさっきまでの怒りを一転させ、ニタニタと笑いながらデルフリンガーを見た。 デルフリンガーがカタカタと震えた。 「ちょ…まっ、やめ、やめて!ネッ!戻して!ネッ!ネッ! 止めよう!コラ!ネ、ネッ!」 ルイズはむんずとデルフリンガーをDIOからむしりとると、机の下で頭を抱えているオヤジに値段を聞いた。 華やかな笑顔だった。 ミシミシと柄が軋む音が響き渡り、デルフリンガーが声にならない悲鳴を上げた。 「へぇ、お代はもう結構で!へぇ!」 オヤジとしては、元々いい厄介払いだった上に、先ほどルイズが机にバラまいた金貨は、 デルフリンガーを勘定に入れても屁でもないくらいに高価なものだった。 この際オヤジは、2人にはさっさと帰って欲しかったのだ。 異様にヘコヘコするオヤジだったが、ルイズにとってはどうでもよかったので、散乱した剣の山からデルフリンガーの鞘を掘り返すと、過剰な力を込めてデルフリンガーをバチンと鞘に収めた。 ピタリと声がとまったことに、ルイズは少しだけせいせいした。 次は服だ。 もたもたしていられない。 ルイズはナイフの束とシュペー卿だかカペー朝だかが鍛えた剣と、デルフリンガーをDIOに放り投げて渡して、大股歩きで店を出た。 DIOもそれに続く。 2人が店を出た後、オヤジはホッとため息をついて呟いた。 「Oh, my GOD………」 to be continued…… 32へ
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「えぁ…………あいう」 意表を突かれたロングビルは、間の抜けた声しか出せなかった。 「どこに行くのかな? かな?」 再度、問い掛けるルイズは、ロングビルの目をのぞき込んだ。 鳶色の大きな大きな瞳が、ロングビルを射抜いた。 まるで、今日の夕食は何?と聞くかのような、軽い調子だが、 肩から伝わる力が、有無を言わせぬ迫力を醸し出している。 "メコッ"と、ルイズの片手が肩にめり込んで、ロングビルは激痛に喘いだ。 とてもじゃないが、身長153サントの、 小柄な少女が持つ握力とは思えない。 「そそそそその、て、て、て、偵察に、行こうと、思いましたの!ええ!」 「でも、1人だと危ないですわ、ミス・ロングビル。 フーケが潜んでいるかもしれませんもの。 今は、バラバラになることは避けるべきですわ」 ロングビルの必死の言い訳を切って捨てると、ルイズはロングビルをグイグイと廃屋の方へと引っ張っていった。 あまりに強いその力に、ロングビルはなす術がなく、されるがままであった。 廃屋から出てきた3人が、ルイズの姿を捉えた。 「あら、ルイズ。 どこ行ってたの? ミス・ロングビルも」 「いえ、私は、あの………」 「2人で周囲を偵察してたの。 フーケが潜んでいるかもしれないから。 そうよね、ミス・ロングビル?」 キュルケの問いに、ロングビルが答えようとしたが、それをルイズが遮った。 先程のやりとりとは全く食い違うルイズの言葉に、ロングビルは疑問を感じたが、 ロングビルに向けられるルイズの笑顔が、反論を許さなかった。 ロングビルは壊れた人形のように、カクカクと頷いた。 キュルケは、そんなロングビルの様子を訝しがったが、 やがて『破壊の杖』に注意を移した。 「それにしても、やっぱり変なカタチしてるわよね、これ。 本当に魔法の杖なのかしら」 キュルケは思ったことをそのまま口にしていた。 ルイズも同じ感想なのか、タバサが抱えている『破壊の杖』を、 胡散臭そうに眺めた。 ロングビルは、何だか落ち着かないのか、あちこちに視線を移し、そわそわしている。 「…それをかしてくれないか」 輪の外で、同じく『破壊の杖』を眺めていたDIOが、不意にタバサに話しかけた。 その場にいた全員が、DIOを見る。 タバサは暫く考えた後、トコトコとDIOに歩み寄り、『破壊の杖』を手渡した。 『破壊の杖』を手にした途端、DIOの手の甲のルーンが、ぼぅっと光を放った。 「どうしたの? それが何か知ってるの、DIO?」 DIOは、その金属で出来た物体を、しげしげと観察した後、ルイズの方を向いた。 「ふむ……。 『マスター』、やはりこれは魔法の杖などではないぞ」 DIOの言葉に、ロングビルが反応した。 「どういうこと?」 ルイズの再度の質問に答えることなく、DIOは『破壊の杖』を両手で持つと、流れるような動作で安全ピンを抜き、リアカバーを引き出し、インナーチューブをスライドさせ、チューブの照尺を立てた。 そして、フロントサイトをルイズに合わせる。 「これは、私の元いた世界で人間が使っていた武器だ。 『M72ロケットランチャー』という。 この安全装置を解き、トリガーを押すと、広範囲に渡る爆発を起こす弾を発射する。 ……どうしてこんなものがここにあるのやら」 DIOの懇切丁寧な使用方法の説明に、 ロングビルがそれとわからぬような笑みを浮かべた。 訥々と語るDIOに、耳を傾けていた4人だったが、 爆発という単語を聞いて、ルイズがあわてた。 「ちょ、ちょっと! どうしてそんな危ない物、私に向けるのよ!?」 「さぁ………どうしてだと思う?」 心なしかさっきよりも距離を取り始めているDIO。 4人の頬に、冷や汗がタラリと伝った。 ―――あれれ? まさかこいつ、この場で私達吹っ飛ばすつもりなのかな? 奇しくも、4人の考えがシンクロした。 「………冗談だ」 一言そういうと、DIOはロケットランチャーを元の状態に戻した。 4人は心底ほっとした。 安心したら、怒りが沸き起こってくる。 「この、バカ! ぜ、全然、笑えないのよ!!」 ルイズが叫んだが、その声はひきつりまくっていた。 DIOの言葉は、冗談なのかどうか判断しかねるのだ。 「で、でも、これで破壊の杖は取り戻せたわ。 後は、肝心のフーケだけね!」 さっきまでの狼狽を取り繕うように、キュルケが言った。 その通りだとばかりに、ルイズは頷いた。 フーケがこのままむざむざと、自分達を取り逃がす分けがない。 タバサも同じ意見なのか、油断無く杖を構えて、 周囲を窺っている。 「それでは皆さん。 二手に別れて、周囲を偵察するというのはどうでしょうか? フーケが姿を現さないのも気になりますが、 いずれにしても、私達は行動を起こさなければなりません」 ロングビルの提案に、4人は賛同した。 確かに、いつまでもフーケの出方を待つわけにはいかない。 盗賊相手に後手に回るのは、良策とはいえない。 宝物庫を破った時のように、盗賊が動くのは、 自分の成功をよっぽど確信した時だけなのだ。 話し合った結果、 DIOを廃屋に待機させ、破壊の杖の監視に当て、 キュルケとタバサが北側を、 ルイズとロングビルが南側を、 それぞれ見回りすることになった。 5人はそれぞれの武運を祈りあってから、別れた。 ――――――――― ロングビルは、ルイズよりもやや後方に位置する形で、 森を進んでいた。 すでに本道から外れているので、草木がありのままに茂っていて、 酷く足場が悪い。 草をかき分けながら、ロングビルは、自分の目的がほぼ成就されたことに喜んでいた。 あのルイズの使い魔のおかげで、破壊の杖の使用方法が明らかとなったのだ。 もはや、ロングビルの振りをする必要は、無くなったといえる。 あとは、邪魔者を消すだけだ。 その点ロングビルにとって、ルイズとチームを組むことになったことは、 好都合だった。 ロングビルは、ルイズの背中に鋭い殺気をぶつけた。 ルイズは危険だ。 ロングビルは先程のルイズの目を思い出す。 ルイズの鳶色の大きな目は、まるで全てを見透かしたようであり、恐怖を煽った。 場数を踏んでいるロングビルですら、しりごみしたほどだ。 ルイズは最優先で暗殺する必要がある。 ならば今こそが絶好のチャンスだ。 ロングビルは懐から杖を取り出し……… 「最初に怪しいと思ったのは、あなたが学院に帰ってきた時」 突然背を向けたまま語り始めたルイズに、ロングビルの手が、 ピタリと止まった。 「あのタイミングで、ノコノコと現れるなんて、嫌でも疑わざるを得ないわ」 「…………………」 ルイズの口調は、やはり軽々しい。 しかし、背中から発せられる威圧感は、瀑布のような勢いだ。 ルイズは歩みを止めた。 それに続いてロングビルも、立ち止まった。 「でね、その疑いは、さっきあなたが姿を消そうとした時に、 完全な確信に変わったわ」 ロングビルの手は、懐の杖を掴んだままだ。 「そもそも、ここまで来るのまでに、馬車で半日かかったわ。 馬を飛ばして、4時間ってとこかしら? 早朝に調査を始めたっていうのに、随分帰ってくるのが早かったわね、 『土くれ』のフーケ? どれだけ誤魔化しても……犬畜生の臭いは消せないわ。 プンプン臭うのよ、あなた」 ルイズが詠うようにロングビルを弾劾した。 ロングビルの動悸が早くなる。 背を向けたままのルイズの表情は、ようとして伺えない。 ルイズに気圧されまいと、ロングビルは自分に喝を入れた。 「な、何のことだか……………」 「言い訳無用」 "ドドドドドドドド…!" ルイズの口調が、完全に変わった。 それと同時に、ルイズの背中から発せられる威圧感が、質量を持つと錯覚するまでに増大した。 「フゥ……………大正解。 いかにも、私が『土くれ』のフーケよ」 観念したように、ロングビルはメガネを外して、その正体を現した。 目がつり上がり、猛禽類のような目つきに変わる。 「……どうして、こんな回りくどい手を取ったの?」 ロングビルの告白を意に介すことなく、ルイズは質問を続けた。 「私ね、この『破壊の杖』を奪ったのはいいけれど、使い方がわからなかったのよ」 全てを理解できたのか、ルイズの体が一瞬強張った。 それをみて、ロングビル……いや、『土くれ』のフーケは妖艶な笑みを浮かべた。 「あの杖、振っても、魔法をかけても、うんともすんともいわないんだもの。 困ってたわ。 持っていても、使い方が分からないんじゃ、宝の持ち腐れ。 でしょう?」 ルイズがフンッと鼻で笑った。 「だからわざわざケガをおしてまで学院まで戻ってきたってわけ? 私達なら、使い方を知ってるかもしれないから。 とんだ盗賊根性だわ。 呆れて声もでない」 「おだまり。魔法1つ扱えない娘っ子が。 悪いけど、貴女にはここで消えてもらうわ。 邪魔なんだもの。 …………でも、解せないわ。 そこまで嗅ぎ付けておきながら、どうして私と2人っきりになったの? そこだけが、どうしても分からないの。 よければ教えて下さる?」 フーケの問いに、ルイズは腕を組んだ。 「だって、2人っきりの方が、あなたを消しやすいんだもの」 仁王立ちのルイズが、高慢不遜に、当たり前のように言い放った。 フーケは一瞬キョトンとしたが、次第にその口元を笑みで歪めた。 「……あら、お互い考えていたことは一緒だったってワケ?」 「………そういうことになるわね」 滅多に無い偶然に、2人は、クスクスと笑い出した。 ――――次の瞬間、ルイズが弾かれたようにフーケの方を振り向いた。 その手には、杖がしっかりと握られている。 それを受けてフーケも、電光石火で杖を懐から取り出し、ルイズに向けた。 ピタリ、とその場が硬直した。 ルイズとフーケは、お互いに杖を向けあいながら、二手に別れてから初めて視線を交わらせた。 フーケの猛禽類のような目と、ルイズの狂気に染まった目が、お互いを射抜く。 龍虎相まみえる、というやつだ。 2人とも、殺意を隠そうともしない。 一触即発の2人だったが、しかし、この戦いは、既に勝敗決していた。 ルイズがニタリと笑った。 「チェックメイトよ、『土くれ』。 私を殺すには、少なくとも『ライン』以上の魔法を唱える必要があるわ。 でも、私はコモン・マジックだけでも、貴女を吹き飛ばすことができる。 どっちが素早いかなんて、オーク鬼だって分かるわ。 貴女は、魔法1つうまく扱えない少女に殺されるのよ」 ルイズの勝利宣言を、フーケが嘲笑した。 おかしくてたまらないという笑いだった。 「あは、は、あははははははははは はははははは………!!! あなた、何か大切な事を忘れてるわよ。 私は『トライアングルクラス』よ? 戦闘経験をつんだトライアングルクラスともなれば、 詠唱をしながら、お喋りをすることだってできるのよ。 チェックメイトにはまっているのはあなたの方だって、気づかなかったの? 私の詠唱は、さっき森を歩いていた時に、もう終わっているのよ…!!!」 フーケの嘲りに、ルイズの顔が焦燥で歪んだ。 動揺を隠せないのか、杖を持つルイズの手は、若干震えている。 ――――場の硬直は、しびれをきらしたルイズの言葉で、 解かれることになった。 「『レビテーショ……」 「遅い!ゴーレムよ!!!」 やぶれかぶれで詠唱をするルイズだったが、やはりフーケの方が早かった。 フーケが素早く杖を振った。 杖を振りかぶるルイズの 横の地面が盛り上がり、ゴーレムの右腕が現れた。 フーケお得意の『錬金』だった。 ルイズはそれに気づき、視線をゴーレムに向けたが、そこまでだった。 ゴーレムの豪腕が、唸りをあげてルイズに襲いかかった。 フーケは容赦なく、インパクトの瞬間、ゴーレムの拳を鉄にかえた。 ゴーレムの拳が、ルイズの側頭部を無慈悲に直撃した。 「うぐっ!!」 ルイズの断末魔は、それだけだった。 "バグシャア!" と、ルイズの頭蓋骨がコナゴナに砕け散る音が響いた。 レントゲンをとったら、 コナゴナに砕けた頭蓋骨の破片が、脳をグチャグチャにしているのがわかっただろう。 そのままゴーレムの右腕が振り抜かれ、ルイズは十数メイルも吹き飛ばされ、 地面に水平に飛び、近くの大木に叩きつけられた。 ルイズは力なく、血の海に沈んだ。 頭が完全に粉砕され、脳漿が辺りに飛び散っている。 目はあらぬ方向を向いていた。 完全に即死だった。 フーケはルイズの近くまで歩み寄ると、 その死に様を確認した。 「フィナーレは……案外あっけないものだったわね。 正直言って、今あなたを殺せてほっとしているわ。 でも安心なさい。 これから直ぐに、あなたのお仲間も後を追うわ」 フーケはペッと、唾を吐いた。 彼女なりの、皮肉のこもった敬意だった。 フーケは踵を返して、元来た道を戻り始めた。 フーケの背後で、ルイズの手が、ピクリと痙攣した……ように見えた。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール―――死亡? to be continued…… 40へ
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怒りという攻撃的な感情は、恐怖という守備的な感情を容易く塗りつぶしてしまう。 ギーシュがこういう行動に出ることは百も承知だったのか、 ルイズはとっくに杖を構えていた。 呪文など、ギーシュのビチグソ発言と同時にほぼ終了させている。 今のギーシュは忘我状態であり、彼が操るワルキューレも動きが直線的だ。 これは最初から決闘などではなかった。 ルイズの憂さ晴らしという名の出来レースであった。 だが、ギーシュのワルキューレ達がその間合いに入る前に一陣の風が舞い上がり、 ワルキューレを吹き飛ばしてしまった。 「誰だッ!」 ギーシュは激昂してわめいた。 もう少しであの憎きビチグソを、こうしてああしてヘラヘラアヘアヘ……etc. な所だったに! という具合だ。 ギーシュの喚き声に応じるように、朝靄の中から一人の長身の貴族が現れた。 立派な羽帽子に、立派な髭、それに精悍な顔つきをした若者だ。 その顔を見て、確かアンリエッタの行幸の供をしていた人物であると、 ルイズは思い出した。 思い出した途端、ルイズは驚きの声を上げた。 「ロードローラー……!!」 勿論、彼の名前はロードローラーなどでは断じてない。 彼の名はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。 れっきとした人間であり、貴族であり、子爵であった。 ルイズは先日のショッキングな夢を、まだひきずっていた。 「貴様、神聖な決闘を冒涜するか!」 ギーシュはすっと薔薇の造花を掲げたが、ワルドはギーシュよりも素速い動作で杖を引き抜き、薔薇の造花を吹き飛ばした。 主の指示を伝える媒体を失い、二体のワルキューレは音もなく土に還った。 「水を差して申し訳ないと言いたいところだが、残念ながら貴族同士の決闘は禁じられている。 紳士ならば、そこの所をよく理解してくれ」 長身の貴族は帽子を取り、一礼した。 「女王陛下の魔法衛士隊が一つ、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。 姫殿下より、君達に同行することを命じられてね。 君達だけではやはり心もと無いらしい。 かといって、隠密の任務であるゆえ、一部隊つけるわけにもいかない。 そこで、僕が指名されたってワケだ」 文句を言おうと口を開きかけたギーシュは、相手が悪いと知ってうなだれた。 魔法衛士隊は、全貴族の憧れである。 それはギーシュも例外ではなかった。 しかし、ルイズのした事はどうにも腹に据えかねるようで、 ギーシュは不満げな顔をしたままだ。 ワルドはそんなギーシュの様子を見て、首を横に振った。 「すまない。 婚約者が危険な目にあっているのを、見て見ぬ振りは出来なくてね」 それを聞いたギーシュは、有り得ないといった表情でルイズを見た。 あのルイズが! 魔法の使えない『ゼロ』が! 魔法衛士隊隊長と、婚約しているとは。 そういうところは、腐っても公爵家三女ということかと考えると、 ギーシュは何だかやり切れない思いだった。 その当のルイズはというと、俯いて何やらブツブツ呟いている。 目が虚ろだ。 冷静になって考えてみると、ルイズはやはり恐怖の対象以外の何者でもなかった。 しかし、ワルドはそんな事はお構いなしといった風にルイズに駆けより、 人懐っこい笑みを浮かべた。 「久しぶりだな、ルイズ!」 しかし、ワルドの呼びかけにも、ルイズはその顔を上げることはなかった。 俯いたままのルイズを、ワルドは恥ずかしがっているのだと思い、抱えあげた。 その時初めてルイズはワルドを見たが、その目はまだ光を取り戻してはいなかった。 「相変わらず軽いな君は! まるで羽のようだね!」 「……へ? あ、あぁ、そうですね。 テントウ虫はお天道様の虫です。 幸運を呼ぶんです」 支離滅裂な返答に、ワルドはようやくルイズの異変に気が付いた。 「ル、ルイズ? 僕のルイズ?」 ワルドはルイズの体を二、三度揺らした。 そのおかげか、いろんな意味で頭がコロネになりかけていたルイズが現実に舞い戻った。 「…………ハッ!? ミ、ミスタ・ワルド!! いつのまに!?」 ルイズは、突如目の前に現れたワルドに目をぱちくりさせた。 ルイズがまともな反応を返してくれたことに、ワルドはひとまず安堵のため息をついたが、 やがて寂しそうな顔をした。 「ルイズ、随分と他人行儀じゃないか。 昔のようにワルドと呼んでくれないのかい? 悲しくなってしまうよ」 ルイズは取りあえず自分を下ろすようにワルドに目で訴えた。 ワルドはルイズを地面に下ろし、帽子を目深にかぶった。 ワルドの寂しそうな声を聞いても、ルイズは何故かワルドをワルドと呼ぶ気にはなれなかった。 それは、ルイズ自身にとっても不思議な感覚であった。 例え過去の人物であったとしても、ワルドはルイズにとって憧れの人であり、 ルイズはそんなワルドを信頼していた。 しかし……心の中の何かが、過去に囚われるなと言っているのだ。 あらゆるものに勝利し、あらゆるものを支配しろと声高に命令してくる。 その対象は、目の前のワルドですら例外ではない。 どうしてこんなことを考えているのだろうとルイズは思索しようとしたが、 そうしようとすると、決まって頭がボーっとしてくるのだった。 ルイズはとうとう、ワルドの願いを無視することにした。 「ミスタ・ワルド。 同行するものを紹介します。 使い魔のDIOと、ギーシュ・ド・グラモンです」 ルイズは交互に指さして紹介した。 シエスタをワザと除外していたルイズだが、シエスタは全く意に介していないようだった。 ルイズはまた少し苛ついた。 ルイズの冷たい態度に、ワルドは少し傷ついたような顔をしたが、 直ぐに真面目な顔つきになると、DIOに近寄った。 「君がルイズの使い魔かい? 人とは思わなかったな」 礼儀正しく話しかけたつもりのワルドを、DIOは一瞥した。 最初こそしげしげと見つめていたDIOだったが、 やがて興味を失したのか、ふいと視線を逸らした。 「僕の婚約者がお世話になっているよ」 「全くだな」 DIOの皮肉に、ワルドは気まずそうな笑みを浮かべた。 その隣で、ルイズが鬼のような顔をしていた。 いつものように爆発するかと思いきや、ワルドが隣にいるからか、 ルイズは躊躇しているようだった。 DIOは、そんなルイズにつまらなさそうな顔をした。 大方の顔合わせが終わると、ワルドは口笛を吹いた。 すると、上空からグリフォンが現れ、一行の目の前に着地した。 鷲の頭と上半身に、獅子の下半身を持った幻獣であった。 「おいで、ルイズ」 ワルドはひらりとグリフォンに跨ると、ルイズに手招きした。 ルイズはDIOとシエスタを交互に見て、しばらく考える仕草を見せた。 やがて顔を上げ、ルイズはワルドに答えた。 「嬉しい申し出ですが、遠慮させていただきますわ。 もう馬も用意してしまったことですし」 誘いが空振りに終わってしまい、ワルドはますますもって寂しそうな顔をして、ガックリとうなだれた。 ルイズは構わず馬に跨った。 そして、対抗心丸出しの顔をシエスタに向けた。 だが、シエスタはやっぱり澄ました顔だ。 DIO以外のことなど、眼中にないようにも見える。 認められていない。これはルイズにとって我慢ならないものであった。 ルイズは、『ゼロ』と呼ばれてきたこともあり、他人から認められないということに対して強いコンプレックスを抱いていたのだ。 ましてや相手が平民ともなれば……何をか言わんやである。 (絶ッッッ対! ギャフンと言わせちゃるッ!!) メラメラと目に炎を燃え上がらせるルイズを、 先程の不機嫌もどこへやら、DIOは如何にも楽しそうに眺めていた。 その内にワルドも気を取り直したようである。 用意も整い、さあいざ出発かという空気が流れたが、そこに思わぬ人物が現れた。 朝靄の向こうから、一人の女生徒が姿を現したのだ。 立派な金髪を縦ロールにしている、 見た目だけで気位が高いとわかる少女だった。 靄が濃いせいか、誰だかはっきりせず、ルイズは怪訝な表情を浮かべた。 小走りで一行に近づいてくる少女の正体にいち早く気が付いたギーシュが、 目を見開いて驚きの声を上げた。 「モ、モンモランシー……!」 ギーシュの言葉で、ルイズはようやく少女の正体が思い出せた。 『香水』のモンモランシー。 ギーシュの二股事件の被害者のうちの一人である。 最近立ち直ったと聞いたが、どうやら本当だったらしい。 そのモンモランシーがここに姿を現したということは…… ギーシュは彼女とよりを戻したということだろうかと、ルイズは推測した。 こんなモグラ好きのどこがそんなにいいのかねぇ、と思ったが、 ルイズには全く関係ないことだったのでどうでもよかった。 「あぁ、モンモランシー! やっぱり僕の身を案じてくれているんだね! でも心配しないでくれ! つらい任務だけれど、君のその気持ちさえあればきっと乗り越えられるさ!」 パタパタと駆け寄ってくるモンモランシーに、ギーシュは有頂天だった。 今は太陽の明けきらぬ早朝であり、まだ少し肌寒い。 しかし、彼女は貴族の証であるマントを身につけておらず、 制服の上にストールを羽織っているだけだ。 息遣いも少し荒いようである。 その様子から、彼女がよほど慌てて来たのであろうことが窺えた。 感激の余り腕を広げて迎えるギーシュに、モンモランシーは駆け寄って……… ……その横を通り過ぎた。 「……なんですと?」 想像していたのとは異なる展開に、 ギーシュは間の抜けた声を出しつつ振り返った。 そこには、馬に跨るDIOと、そんなDIOを不安げな顔で見上げるモンモランシーの姿があった。 「「な、何ですとォォオオオッッッ!?」」 何故か、ギーシュの叫びとルイズの叫びがシンクロした。 そのシンクロっぷりにお互いともがビックリして、 二人は顔を見合わせた。 そんな二人の驚きをよそに、モンモランシーは息を整えながらDIOを見つめた。 その瞳は、かつてない何かを秘めて熱く潤んでいた。 「あ、あの、窓の外を見たら、あなたがいるのが見えて……。 それで私、居ても立ってもいられなくなっちゃって、その……」 言葉に窮すモンモランシーを、DIOは馬上から静かに見下ろした。 「えと……どんな任務に行くかは、聞かないわ。 言えないものね。 私、あなたを困らせたくない。 でも……でもね、何日か会えなくなってしまうのでしょう?」 「そうだな。 正確な日数は分からないが、暫くはこの学院を離れることになる」 モンモランシーは今にも泣きそうな顔をした。 それを見たDIOは、懐を探って小さな何かを取り出すと、モンモランシーに放って寄越した。 慌ててモンモランシーが両手を差し出すと、それは彼女の両手の上にポトリと収まった。 それは鍵であった。 小さいながらも、金属製で、綺麗な装飾が施された物である。 恐らくは、というより十中八九ルイズの部屋の鍵だ。 それを悟ったルイズは、いつの間に合い鍵なんて作りやがったのだと、一瞬キレそうになったが……やめた。 なんというか、独り身の人間には入り込めない雰囲気が漂っているのだ。 これが……これがラブ臭か! と、ルイズは鼻を押さえて戦慄した。 どこかの妖精のように、くっさーー! と言いつつ割り込んでやりたかったが、 生憎とルイズは空気の読める女の子であった。 DIOの意図が分からず、鍵を受け取ったモンモランシーは数瞬それを見つめた後、 キョトンとした顔でDIOを見上げた。 「私がいない間の留守を任せていいな、モンモランシー?」 DIOの言葉の意味を知ると、モンモランシーの顔がパァッと輝いた。 手の上に光る鍵をそっと握りしめて、モンモランシーは大事そうに胸に抱いた。 DIOに信用されているという事実が、彼女の胸をより一層熱く高ぶらせるのであった。 「あ、あたりまえでしょう! この私が留守を預かるからには、大船に乗ったつもりでいなさいよ!!」 素直に嬉しいと言えばいいのに、 モンモランシーは真っ赤になってそっぽをむいた。 モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。 生来の気位の高い性格がわざわいして、 彼女は肝心な時になかなか素直になれない子であった。 そんな二人のやりとりを無理矢理見せつけられているルイズは、 呆然として開いた口が塞がらなかった。 気分はもう、『何このラブコメ?』といった感じだ。 やはりワルドのグリフォンに乗らなくて正解だった。 DIOをとっちめられなくなってしまうではないか。 プルプルと身を震わせる一方で、ルイズはチラッと隣を見てみた。 ルイズの横では、目の前の現実についていけていないギーシュが 石像のように固まっていた。 復活した使い魔のヴェルダンデが、鼻を擦り寄せて慰めているが、 ギーシュは固まったまま動かなかった。 終わったわね、とルイズは誰にも聞こえないように呟いて、馬に跨った。 人間、罵られたり叩かれたりするうちが華であるとは誰が言った言葉であろうか。 何が辛いって……無視されることより辛いことはない。 モンモランシーは、ギーシュに一瞬たりとも視線をくれていなかった。 DIOだけを真っ直ぐに見つめている。 この事実が、ギーシュの心を滅多打ちにするのであった。 まぁ、浮気をしたのがケチのつき始めであろう。 「ミスタ・グラモン、出発でございます」 錯乱しているギーシュを見咎めて、シエスタが急かした。 「モ、モンモモンモモモモンモランシー……」 しかし、今のギーシュにそんな事が耳に入るはずもない。 「……出発でございます」 「もんもらんしいぃいい!!」 「出発でござ…………当て身!」 「もんもぐぶるぁっ!!」 シエスタのメガトンボディーブローが、ギーシュの鳩尾に炸裂した瞬間であった。 手加減はしているだろうが、その威力は折り紙付きだ。 それを見たルイズは顔をしかめて、Oh,my God……! と呟いた。 低いうめき声を残してあえなく気絶したギーシュを、 シエスタは軽々と肩に担いで馬に跨った。 ギーシュの馬も引いていってやるつもりのようだ。 それを確認して、DIOは手綱を握った。 「では、出発だな」 DIOの馬が駆け出すのを皮切りに、ルイズが後に続く。 その次をシエスタが進み、最後の最後でようやくグリフォンが駆け出した。 見る見るうちに一行の後ろ姿が遠のいてゆき、 やがて朝靄の向こうへ消えてしまった。 「……気をつけて」 一行の姿が見えなくなった後、 モンモランシーは胸の前で両手を組み、一行の旅の無事を心から祈った。 そんな彼女の手の中では、DIOから渡された鍵が小さく輝いていた。 to be continued…… 53へ 戻る 55へ
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魔法学院を出発して以来、ルイズ一行は途中で馬を交換しつつ、ほとんど休み無しで駆け続けた。 そして魔法学院を出発して以来、ルイズは怒鳴りっぱなしであった。 いつの間にまた女の子に唾を付けていやがったのか! いつの間に合い鍵なんて作っていやがったのか! いつのまに……! いつのまn…… ……以下略。 あまりの剣幕に、乗っていた馬がビビって疝痛を起こしてしまうほどであった。 単純な独占欲から飛び出した文句の一つ一つに、 DIOは誠実(に思えるよう)な回答を心掛ける。 しかし、その裏腹に存在する白々しさをルイズは敏感に察知し、怒りを増大させるのであった。 怒鳴りすぎて少しインターバルを取ることにしたルイズに、ワルドのグリフォンが近寄った。 「君は、やけにあの使い魔を気にしているね。 一体何があったんだい?」 冷や汗を流しながら笑うワルドに、ルイズは顔を赤らめた。 「べ、別にあなたが考えていらっしゃるような事は、これっぽっちも!! ええ! 誰があんなスケコマシ!」 「そうか。ならいいんだ。 婚約者に恋人がいるなんて聞いたら、僕はショックで死んでしまうよ」 勝手に死んでいろ、とルイズは思った。 「親が決めたことですわ」 「おや、ルイズ。君は僕の事が嫌いになったのかい?」 おどけた口調で言うワルドに、ルイズは真面目な顔で答えた。 「いいえ。そうではありません。 ミスタ・ワルド、確かに貴方は立派になられたわ。魔法衛士隊隊長ですものね。 それに、控え目に見ても、素敵な顔立ちをしていらっしゃいますわ」 ワルドの目が、爛と輝いた。 「よかった。じゃあ、好きなんだね?」 ルイズは首を横に振った。 「私にとって、貴方はまだ過去の人なのです、ミスタ・ワルド。 好きになるのかどうかは、これからですわ」 ワルドは納得したように頷いた。 「旅はいい機会だ。 きっと、君を振り向かせてみせるよ。約束する」 「……期待、しておりますわ」 ルイズはふっと笑い、馬を飛ばした。 そんなルイズ達の後ろで、一人馬に突っ伏している男がいた。 「モ、モンモランシー……」 ギーシュ・ド・グラモンであった。 馬での長旅も意に介さず、ギーシュはずぅっとこの調子であった。 彼は、自他共に認めるプレイボーイである。 モンモランシー以外にも、何人もの女性にちょっかいを出している。 『浮気は男の甲斐性』を地で行く男であった。 一人彼女を失ったくらいで自分は何ともない、と思っていたのだが……。 「モンモランシー……」 ギーシュは、モンモランシーのあの目を思い出す。 熱っぽく潤んだ様子で、DIOを見つめるモンモランシーの目を。 今まで、ギーシュはモンモランシーにあのような目を向けられたことなど、ただの一度もなかった。 その目を、自分ではなく、DIOに向けていたモンモランシー。 「いいもん。帰ったら、一年生の女の子に慰めてもらうんだもん……」 自業自得とはいえ、ギーシュはこれまで感じたことのない程の喪失感に、悩まされているのであった。 ―――――――――――――― 休みもせずに飛ばした結果、ルイズ達はその日の夜中にラ・ロシェールの入り口に着いた。 ラ・ロシェール。 アルビオンへの玄関口。 港町であるにも関わらず、狭い峡谷の間の山道に位置する小さな街。 空に浮かぶ、重なりかけた二つの月が、ラ・ロシェールを淡く照らし出す。 普通なら馬で2日はかかる距離を飛ばしてきたため、一行の疲労も溜まった。 険しい岩山の中を縫うようにして進むと、峡谷の先に街が見えた。 一息つけるとあって、ルイズの心に少しばかり緩みが出始める。 その時であった。 ルイズ達の跨った馬目掛けて、崖の上から松明が何本も投げ込まれた。 赤々と峡谷を照らし出す松明に、戦の訓練を受けていない馬が驚き、 前足を高々と上げていなないた。 腑抜けて馬に突っ伏していたギーシュは、馬から放り出された。 しかし、そんな状況になっても受け身を取ろうともせず、ギーシュは顔面から墜落し、地面と熱烈なキスをした。 シエスタは力ずくで馬を押さえ込んでいた。 ルイズも力ずくで馬を押さえていたが、飛来した一本の矢がルイズの馬を絶命させたせいで、 あえなく放り出される結果となった。 ワルドは『風』の防御魔法で矢を防いでいる。 DIOは屁でもないらしい。 体勢を立て直すために、僅かに生まれた一行の隙を突いて、何本もの矢が空気を裂いてヒュンヒュンと飛んできた。 「奇襲か!!」 ルイズが敵意を剥き出しにして叫んだ。 よりにもよってこんな時に! と毒づきながら、ルイズは杖を取り出した。 崖の上から、鎧を身に纏った男達がなだれ込んでくる。 何故かは分からないが、下手人達は、ルイズとDIOに狙いを絞っているように映った。 下手人達は、グリフォンに跨るワルドと地面に転がるギーシュには目もくれず、ルイズとDIOに集中攻撃を開始したのだ。 無数の矢がルイズに襲いかかる。 ルイズは、自分の横で事切れて横たわっている馬を担ぎあげて、盾にした。 あれだけの数の矢を避けきる自信は、さすがに無い。 一方のDIOは、降り注いでくる矢も何のその、相変わらず馬上でふんぞり返っていた。 DIOなら一人で勝手に何とかするだろうとルイズは思ったが、DIOは動く気配を見せない。 矢の雨が、もう間近に迫っていた。 このままでは間に合わない、と誰もが思った時……シエスタが身を投げ出した。 DIOと矢の雨との間に自分の身体を割り込ませたのだ。 無数の矢は、DIOの代わりにシエスタを串刺しにした。 身を投げた勢いをそのままに地面に激突するシエスタ。 常軌を逸したこの行動に、下手人達は一瞬浮き足だった。 迷いも見せずに、己の命を投げ出してみせたメイドに、どよめきの声があがる。 ―――だが、それでも止めないからこそ下手人というのであって。 DIOの背後から、下手人がこっそりと近寄る。 DIOは気付いた素振りを見せない。 気づかれていないと確信した下手人が、これまた下品た笑みを浮かべて、 剣を片手にDIOに飛びかかった。 刃こぼれしてはいるものの、殺傷力は侮れない刃が、DIOの頭部に振りおろされる。 しかし、 「『ザ・ワールド(世界)』!!」 ~~~~~~~~~~~~~~ "ボッゴォオオンッ!" 「……そして時は動き出す」 ~~~~~~~~~~~~~~ 「ブゲェッ!?」 下手人が吹っ飛んだ。 馬上のDIOは、手綱から手を放してすらいない。 頭部を滅茶苦茶に破壊された名も知らぬ下手人は、地面に激突して赤い華を咲かせた。 DIOの裏拳が炸裂したのだ、とルイズは頭の片隅で考えつつ、魔法を唱えた。 勿論失敗した。 やや控えめな爆発が生じ、崖の上から矢を放っていた下手人の内三人の頭が爆ぜた。 胴と泣き別れになった首が三つ、ゴロゴロと崖から転がり落ちる。 それでも、まだ下手人は怯まなかった。 数が多さが、彼らに無用な勇気を与えていたのだった。 ルイズはワルドに向かって怒鳴った。 「ちょっと、ミスタ・ワルド!! 真面目に殺って下さらない!?」 「え? あ、いや、僕は別に……」 先ほどから、防御の呪文や、"ウィンド・ブレイク"など、攻撃的ではない様子を見せるワルドに、ルイズは苛立つのであった。 "エア・カッター"なり、"ライトニング・クラウド"なり、 もっと広範囲で、殺傷力のある魔法を使えばいいのに、それをしないのだ。 まるで、自分が傷つけられないことが分かっているかのように。 「ちと……数が多いか」 周りを下手人に囲まれて、DIOは舌打ちをした。 今回の出張りで、DIOは自分の能力を使うつもりがこれっぽっちも無かった。 DIOはフーケ戦以来、益々もって己の力の回復を心がけ始めたのだった。 しかし、使わざるを得なかった。 DIOの心に、苛立ちが募るのであった。 「立て、シエスタ」 主人の命令に応じて、シエスタがむくりと立ち上がった。 全身に矢が突き刺さっているにも関わらず、その動きには微塵の乱れもない。 涼しい顔をして、己に刺さった矢を抜くシエスタに、下手人の間に動揺が広まった。 DIOは、背中に背負っていたデルフリンガーを外し、鞘ごとシエスタに投げ渡した。 宙を舞うデルフリンガーを、シエスタはしっかりとキャッチしてみせた。 「やれ、シエスタ」 シエスタはDIOに一礼すると、勢い良くデルフリンガーを抜き放った。途端に柄の部分がパクパクと動き出し、デルフリンガーが喋り出す。 「あーやれやれ、久し振りに出られたわね。 ……って、ゲェッ!!メイド!!」 自分を握っている人間がシエスタだということに気がつくと、デルフリンガーは目に見えて狼狽し始めた。 正直デルフリンガーにとっては、相棒(認めたくないけど)よりも、このメイドの方が苦手であったからだ。 DIOはまだ、話が通じるというか、人間性がある。 たとえその人間性が壊滅的であっても、デルフリンガーは耐えられた。 だが、シエスタにはそれが全く無い。 質問すれば返答はしてくれるのだが、どれもこれも事務的で、温度を感じさせないのだ。 唯一、DIOに対してのみ、彼女は生の感情を見せる。 陶酔。忠誠。献身。奉仕。 デルフリンガーはそんなシエスタが気味が悪くて仕方がなかった。 だが、どんなに相手が苦手でも、デルフリンガーは所詮身動きのとれぬ剣である。 持ち手を選択することは出来ない。 文句を垂れることが出来るだけ、デルフリンガーはまだ幸せといえた。 嫌がるデルフリンガーを無視する形で、シエスタはデルフリンガーを横に振るう。 「MUUUUUNNNNN!!!!」 受け止めて防ごうとした下手人の一人は、構えた己の刃ごと、上下真っ二つに裂かれた。 力任せにデルフリンガーを振り回すシエスタの姿は、金棒を振り回す鬼のようである。 型も何もあったものではない。 ただ闇雲に叩き切るだけの攻撃であったが、その威力は無類であった。 「なぁ、メイドの嬢ちゃん。 俺っち、金棒じゃなくて、剣なんですけど……。 ちゃんと使ってくれね? "ドカッ!"じゃなくて、"ズバッ!"って」 「承知しております。 しかし、わたくしは今回生まれて初めて剣を握った身ですので、多少拙い部分も御座いましょう」 そんなことよりももっと根本的な問題なののだけれどと思ったが、 直ぐにデルフリンガーは諦めた。 再び沈黙したデルフリンガーと、その鞘とを両手で持ち、シエスタは色鮮やかな駒のようにクルクルと回転した。 シエスタの間合いの中にいた下手人達は、瞬く間に肉塊に変えられた。 デルフリンガーに切られた男の首が飛ぶ。 鞘で殴られた男の体が爆裂四散する。 シエスタの前蹴りが男のどてっ腹に風穴をあける。 柄の一撃が、眼球ごと脳天を抉る。 残酷無惨の地獄絵図であった。 周囲一面、真っ赤に染まる。 シエスタによって引き起こされた台風に巻き込まれなかった下手人達は、揃って腰を抜かした。 「ば、ば、化け物ォオッッ!!!」 数の上ではまだまだ優位だった下手人達だが、彼我の戦力差が数でひっくり返せるものではないことを悟ったのか、 蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。 撃退成功である。 先程の喧騒が嘘のように、場が静まり返っていく。 しかし、まだ終わりではない。 残兵の処理が残っている。 不幸にも逃げ遅れた、というよりも、腰を抜かしてしまって動けないでいる下手人の何人かを、 ルイズは一人ずつむんずと捕まえた。 後は、シエスタの方に放り投げるだけでよい。 シエスタの足下に転がった下手人は、悲鳴を上げる暇なく、シエスタによって両断されるのだった。 放る。両断。放る。両断。放る。両断。 その繰り返し。 皮肉なことに、二人の息はピッタリだった。 シエスタが下手人を叩き殺すその光景が、薪に斧を振り下ろす木こりのようにも見えて、ルイズは少し笑った。 やがて、最後の一人の順番が回ってきた。 しかし、ルイズはこの一人だけは生かしておいてやるつもりだった。 雇い主やら、アルビオンの今の状況やら、聞き出したいことがいっぱいあったからだ。 そんなルイズの内心を知らずに、最後の一人は泣き出した。 「慈悲を! お慈悲を!! 俺……い、いや、私には、女房と子供がいるんだ……です!! どうかお慈悲を!!!」 この期に及んで命乞いかと、ルイズは吹き出す反面ガッカリした。 もうちょっと噛み付くぐらいの根性を見せて貰いたかったが拍子抜けだ、と。 ルイズは急に、男のことが気に食わなくなった。 情報云々の事よりも、これは重要なことであった。 ルイズは、泣き喚く男の髪の毛を掴んだ。 男の顔が絶望で歪む。 「許して! 許して下さい! いやだ! やめてぇ!!!」 聞き入れず、シエスタの方に放る。 ゴロゴロと無様に地面を転がった男は、シエスタに対しても命乞いを始めた。 ルイズの期待通りの展開である。 シエスタに命乞いするなんて、エルフにブリミルの教えを説くようなものだというのに。 「子供達に振る舞うパンを、犬に放るのは宜しくないことと存じます」 案の定、シエスタの冷たく突き放すような死刑宣告。 デルフリンガーを上段に振り上げる。 咎人の首を切り落とす処刑人さながらの圧迫感。 数拍の後には、この哀れな犬の脳天は唐竹割りになっているだろう。 それを敏感に肌で感じ取ったのか、はたまた単に恐怖がメーターを振り切っただけか、男は股の間を濡らしながら失神しまった。 しかし、そんなことでシエスタが手を止めるわけがない。 腹筋に力を込めた後、シエスタはデルフリンガーを振り下ろそうとして…………一陣の風によって吹き飛ばされた。 近くの岩に叩き付けられる。 「イテッ!」 シエスタの手から零れ落ちたデルフリンガーが呻いた。 「例え忠実な犬でも、主人のテーブルから零れ落ちたパン屑は食べるわ」 上空から声が聞こえた。 ルイズとシエスタは、同時に空を睨んだ。 笑ってしまうくらい、二人の息はピッタリだった。 to be continued…… 54へ 戻る 56へ
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早朝、ルイズ・フランソワーズは、蜂の巣をつついたような喧騒に、目を覚ました。 こんな朝っぱらから騒がしい… そう毒づいて、眠い目をこすりつつ、耳を澄ませる。 どうやら、外の廊下を学院中の教師たちがバタバタと走っているようだ。 皆口々に何かをわめいている。 ルイズはネグリジェのままベッドを下りて、扉に耳を当てた。 教師たちが『一大事!』やら、『宝物庫に賊が…!』やらといった内容を言い合いながら、 ルイズの部屋の前を通り過ぎ、本塔へ向かっているようだ。 ルイズの顔から、さぁっと血の気が引いた。 振り返って、自分の部屋を見る。 部屋の中は、DIOが宝物庫からパチってきた宝で一杯だ。 …………とうとうバレたか? ルイズは死にたくなった。 無論、今の今まで問題を先延ばしにしていたのは、ルイズ自身だ。 次から次へと増えていく宝の山に、最初はまずいと思ってはいたが、 次第に感覚が麻痺していき、最終的にどうでもいいやと思い出したのがまずかったか。 激しく後悔するが、もう遅い。 ルイズはソファーに横たわっているDIOを見た。 いつものように優雅に本を読んでいる。 いつもどおりなのだが、今日に限ってやけに腹が立つ。 どうしよう… ……今度こそ、退学か? それだけは勘弁してほしかった。 どの面下げてヴァリエール家に帰れというのか。 カトレア姉さまに何をされたかわかったものじゃない。 ボロきれのようにされる自分を想像して、ルイズの顔がますます青ざめる。 ---ええい、ままよ! 追い詰められたルイズはヤケクソになった。 こうなったら仕方がない。 とことんまで逃げきってやろうじゃないか! ルイズは密かに決意した。 使い魔の不始末は、ご主人様の責任なのだ。 こうして、明らかに方向性を誤った決断を下したルイズは、教師たちが集結しつつある、本塔五階の宝物庫へ向かうことにした。 いずれ、生徒の部屋にもガサ入れが来るに違いない。 それまでに、まずは、敵の戦略を読むのだ。 ルイズは音も立てずに扉を開けた。 すると、後ろからDIOが話しかけてきた。 「…どこに行くのかな?」 ルイズは振り向きもせずに答えた。 「あんたのケツを拭きに行くのよ…!」 ルイズはDIOの反応も待たず、通路にでて、扉を閉めた。 そして、滑るように本塔へと廊下を駆け抜けた。 -------- 宝物庫には学院中の教師が集まり、その惨状に口をあんぐりと開けた。 まず驚いたのは、トリステイン魔法学院の誇る宝物庫の扉が、 粉々に吹っ飛んで、瓦礫の山になっていたことだ。 中はもっとひどかった。 高価な美術品や秘薬や財宝が、メチャクチャにされている。 一体どれだけの被害になるのか、見当もつかない。 壁には、『土くれ』のフーケの犯行声明が刻まれている。 『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』 もうひとつ、教師たちの目を引いた物がある。 本棚の後ろにある、隠し部屋のことだった。 今まで、目録を作るために宝物庫に入ったことのある教師は大勢いるが、 こんな部屋があるとは誰も聞いたことがなかった。 しかし、その隠し部屋も、メチャクチャに破壊されている。 教師たちは口々に好き勝手なことを喚いていた。 「土くれのフーケ! 貴族たちの財宝を荒らしまくっているという盗賊か! 魔法学院にまで手を出しおって! 随分とナメられたものじゃないか!」 「衛兵は何をやっていた!?」 「衛兵などあてにならん! 所詮は平民だ! それより、当直の貴族は誰だったんだね!?」 ミセス・シュヴルーズは震え上がった。 昨晩の当直は、彼女であった。 まさか、魔法学院を襲う盗賊がいるなどとは夢にも思わずに、 当直をサボり、ぐうぐう自室で寝ていたのだった。 本来なら、夜通し門の詰め所に待機していなければならないのに。 「ミセス・シュヴルーズ! 当直はあなただったのではありませんか!?」 教師の1人が、さっそくミセス・シュヴルーズを追求し始めた。 あの恐ろしいオールド・オスマンが来る前に、責任の所在を明らかにしておこうというのだろう。 ミセスシュヴルーズはしどろもどろで反論した。 「た、確かにそうですが……み、ミスタ・ギトーこそ、 以前の当直をサボっていたではないですか…!」 シュヴルーズの言葉に、ギトーと呼ばれた教師が、顔を真っ赤にした。 「な、何だと…!あの時は、わ、私は、大切な用事があったからで…!」 教師達は次々と責任の擦り付けあいを始めた。 おまえが悪い! あなたの方こそ…! 罵詈雑言が飛び交う五階の階段の影から、その様子に呆れた視線を投げかける人物がいた。 ルイズ・フランソワーズだった。 ピンクの髪がふわりと揺れる。 呆れる一方で、ルイズはほくそ笑んだ。 どうやら、話題になっているのは『土くれ』のフーケという盗賊のようだった。 ルイズもウワサだけは聞いたことがあった。 そのフーケが、宝物庫を破った犯人ということになっているらしい。 つまり、フーケが忍び込んでくれたお陰で、全てはフーケの罪になるということだ。 宝物庫を破ったのはフーケ。 宝を奪ったのもフーケだ。 ルイズは、会ったこともない盗賊に、取り敢えずの感謝を捧げた。 しかし…………ルイズの表情に影が差す。 このままフーケが逃走してくれれば、それはそれでいい。 オールド・オスマンの立場が悪くなるだけだ。 そんなことはルイズは知ったこっちゃない。 だが、問題はそのオールド・オスマンの…学院側の動きだ。 ルイズは考える。 他の財宝はさておき、フーケがはっきりと犯行声明を出した『破壊の杖』だけは、 貴族としての誇りをかけて全力で取り戻そうとするに違いない。 王室には内密にメイジを派遣して、フーケを捕獲しようとするだろう。 フーケさえ捕らえれば、とりあえずは貴族としての体裁は保たれる。 この惨状は…どうとでもだまくらかせる。 教師の一人二人位は、そのためのスケープゴートにされるだろうが…。 あの老獪なオールド・オスマンなら、眉一つ動かさずにやってのけるだろう。 そして、もし、フーケが学園側に捕獲されてしまった場合、紛失した宝のありかを聞き出すために、オスマンはフーケを拷問するだろう。 ---ルイズは親指の爪をギリリと噛んだ。 いくら百戦錬磨のフーケとはいえ、『あの』オールド・オスマンの拷問に耐えられるとは、とてもじゃあないが思えない。 直ぐにゲロするだろう。 そうなるとまずい。 宝を盗んだのがフーケではないとバレてしまう。直に疑いの目は内部に向けられ、自分に捜査の手が伸びてくる可能性がでてくる。 別に、疑われたとしても、ルイズにはシラをきり通すだけの自信があった。 が、この場合それではダメだ。 少しでも疑われるのは避けねばならない。 相手はあのオールド・オスマンだ。 あくまでも100%全てフーケの仕業ということにしなければ…。 そのためには、何とか学院側の先回りをして、『破壊の杖』を奪還して、フーケを始末し、口を封じる必要がある。 『破壊の杖』さえ戻れば、学院側は最低限満足してくれる。 『破壊の杖』の奪還はすなわち、フーケ撃退の証でもあるからだ。 しかし、始末しようにも、 フーケが今どこにいるのか、ルイズにはわからない。 どうするべきか…? 思案を続けていると、誰かが慌てた足取りで近づいてくる音がした。 2人分の足音だ。 さっと身を隠すルイズ。 オールド・オスマンと、コルベールだ。 2人はバタバタと慌てた足取りで宝物庫に入る。 教師は全員、宝物庫に入ったようだ。 ルイズはそう思うと、階段の影から、破壊された宝物庫の扉の影へと身を移した。 瓦礫が上手いことルイズの体を隠した。 ルイズは身を隠しながら、中の様子を伺った。 見ると、オールド・オスマンは『破壊の杖』があった一角には目もくれず、 一直線に本棚の奥の隠し部屋へと向かっていた。 怪訝な表情を浮かべるルイズだったが、隠し部屋の中は暗く、よくわからない。 ルイズは暫く様子を見ることにした。 ---------- オールド・オスマンは、宝物庫に駆けつけると、『破壊の杖』が盗まれた現場になど目もくれず、本棚の裏の隠し部屋へ足を運んだ。 油断のない足取りで、奥へと進む。 不気味なほど静かだ。 隠し部屋への通路は、コルク栓を抜いたように、円形に抉られている。 オスマンの脳裏に、忌むべき過去が蘇る。 威力こそ劣るものの、間違いなく、奴の仕業だった。 部屋の中央に到達すると、オスマンは信じられない物を見た。 百余年前、自分が持てる技術を結集した結界が、破られていたのだ。 ルーンの輝きが失われている。 鎖が千切れ、封印していたはずの本が、 床に転がっている。 オスマンの頬に冷や汗が垂れる。 弾かれたように杖を構えるオスマン。 一歩一歩、時間をかけて本に近づく。 ---本がひとりでにガタガタと震えだした。 その瞬間、オスマンの杖が電光石火で振られ、杖からまばゆい光が放たれ、本に直撃した。 強烈な光に包まれ、本の動きがピタリと止まった。 オスマンは安堵のため息をついた。 これで当座はしのげるだろう。 本を拾い上げて、オスマンはそれを台座に戻した。 だが……と、オスマンは疑問に思う。 『土くれ』のフーケの話は、オスマンも知っていた。 ウワサによれば、フーケは『トライアングル』クラスのメイジらしい。 しかし、これはどうみても『トライアングル』クラスのメイジの手には余る所業だった。 『スクウェア』クラスのメイジ数人がかりの『固定化』を打ち破り、あまつさえこの封印をも破るとは。 実力を見誤っていたか? そこまで強力なメイジだとは聞いたこともないが…。 いっそ人ではなく、物の怪の類の仕業と考えた方が楽だ。 化け物………オスマンには、1人だけ、心当たりがあった。 確証が持てなかったが、一人の人物の顔が脳裏に浮かぶ。 これは…………もしや…。 ---------- しばらくして、オールドオスマンが隠し部屋から出てくると、教師達は口々にオスマンに自らに責任がないことをがなり立てた。 オスマンはしばらく黙っていたが、自らの保身しか考えていない教師達に苛立ち、杖で床をドンと叩いた。 「…静まれぃ!」 オスマンの低い一喝で、教師達はシンとなった。 誰かがゴクリと唾を飲み込んだ。 「貴様らの中で、まともに当直をしたことのあるヤツが、何人おる?」 静かなオスマンの問いには、しかし、誰も答えられなかった。 「さて、これが現実じゃ。 責任があるとするなら、我々全員じゃ。 この中の誰もが……、もちろんワシを含めてじゃが…、 まさかこの魔法学院が賊に襲われるなど、夢にも思っていなかった。 何せ、ここにいるのは、ほとんどがメイジじゃからな。 誰が好き好んで、虎穴に入るものかと思っておったが、間違いじゃった」 オスマンは、宝物庫の扉にあいた穴を見つめた。 「このとおり、賊は大胆にも忍び込み、『破壊の杖』以下、財宝十数点を奪っていきおった。 つまり、我々は油断していたのじゃ。 責任があるとするなら、改めていうが、我ら全員にあるといわねばなるまい」 オスマンの、杖を持つ手がブルブルと怒りで震えていた。 皆、俯いたまま一言も喋らない。 「……目撃者はおらんのか?」 オスマンの問いに、コルベールが答えた。 「ざ、残念ながら、深夜の突然の出来事だったようで……」 「ふむ……後を追おうにも、手がかりナシというわけか…」 オスマンはヒゲを撫でた。 それからオスマンは、気づいたように再びコルベールに尋ねた。 「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」 「それが、その…、昨夜から姿が見えませんで」 「この非常時に、どこに行ったんじゃ」 「さ、さぁ…」 そんな風に噂をしていると、宝物庫に1人の人間がフラフラと入ってきた。 服はボロボロで、ほとんど半裸だ。 全身傷だらけで、酷い火傷も負っている。 呼吸は荒く、右手で左腕を痛そうに押さえて、 右足をズルズルと引きずっている。 歩いた後には、血の後が点々と続いていた。 出血も激しそうだ。 誰がどうみても重傷だ。 ミス・ロングビルだった。 「……オ、オールド・オスマン…」 ミス・ロングビルは、オスマンの前までやっとの思いでたどり着くと、 そこで力尽きたのか、バタリと倒れて、意識を失った。 宝物庫内は騒然となった。 to be continued…… 35へ
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ルイズ暗殺を首尾良く済ませたフーケは、残りの連中を続けて暗殺するために、元来た道を戻ることにした。 あの連中の中で、最も警戒すべき人間2人の内の1人を始末ことができて、フーケは幸先の良さを感じていた。 年端もゆかぬ少女を無惨な目にあわせたのは、さすがに後味が悪かったが、 生憎とルイズは知りすぎていたし、情けを掛けるほどの余裕もなかった。 フーケはひとまずルイズの事を頭から追いやり、 これからの行動を慎重に吟味しはじめた。 現在、『破壊の杖』を所持しているのは、故ルイズの使い魔のDIOである。 フーケが、最も警戒すべきとしている人物の、2人目であった。 しかし、今や故ルイズは始祖ブリミルの下に召されている。 従って、DIOと故ルイズとの契約は、破棄されてしまっているはずだ。 つまり、DIOにはもう、『破壊の杖』を守る必要など無いのだ。 ならば、わざわざ奴を敵に回す必要はない。 うまいこと交渉を持ちかければ、血を流さずとも『破壊の杖』を手に入れられるかもしれない。 そのためには、あのメイジ2人を先に始末するのが良いだろう。 交渉は、静かな場所で、当事者のみに限る。 もちろん、交渉がうまくいこうがいかまいが、 フーケはDIOも含めて皆殺しにするつもりであった。 こうして、キュルケとタバサを目下の標的に定めたフーケは、その道のりを変更した。 廃屋を中心に、円を描くようにして、 森の北側へと向かうことにしたのだ。 ………したのだが、そのとき突如フーケの背後で、起きてはならぬ音がした。 茂みが擦れあう "ガサッ"という音を、フーケの敏感な耳が、しっかりと捉えていた。 フーケの体が、恐怖で跳ね上がった。 一瞬、有り得ない想像をしてしまった自分を必死に否定するフーケだったが、 ひとたび脳裏に浮かんだ不安は、フーケの中でドンドンと雪だるま式に 膨らんでいった。 ……………そんな、バカな。 もう勘弁してくれ。 悪い冗談だ。 頭を粉砕されて、誰が生きていられようか。 きっと、森の小動物か何かがたてた音に違いない。 フーケは今の状況に奇妙なデジャヴを感じつつ、ゆっくりと後ろを振り返った。 「………こ、こ…ろ…して……やる…!」 羅刹も裸足で逃げ出すような形相で、フーケを睨むルイズがいた。 ルイズは片手で頭を、 もう片方の手で地面を押さえている。 頭部だけでなく、両目からも夥しく血がしたたり、 まるで血の涙を流しているようにも見えた。 足に力を込めて立ち上がろうとしているが、脳からの信号がうまく伝わっていないのか、 "ガクガクガクッ"と膝が笑っている。 頭からはみ出て見えるピンク色の何かがグロテスクだ。 「!! ……!? …………………!?」 あり得てはいけない想像が、現実のものとなり、フーケの頭は真っ白になった。 グキゴキと、ルイズの頭部から嫌な音が響く。 見ると、ルイズの頭の傷口が、複雑に蠢いていた。 再生…………しているのだろうか、あれは? 働かぬ頭で、フーケはそうとだけ考えた。 そんなことを考えている暇など、フーケにはなかったのだが、 そうでもしていないと、おかしくなってしまいそうだった。 引きつるフーケを無視する形で、 ルイズは、まだ震える手で、近くに転がっている杖に手を伸ばしていた。 それをみすみす見逃してしまったことが、フーケの失敗だった。 フーケは既に、ゴーレムの錬金を解いてしまっていた。 ルイズを再度攻撃するためには、1から詠唱をしなければならなかったのだ。 杖をガシッと掴んだルイズを見て、フーケの意識が現実に引き戻された。 慌てて『フレイムボール』の魔法を唱え始めたフーケだったが、今度ばかりはルイズが早かった。 「『レビテーション』…!」 地鳴りのような詠唱とともに、ルイズの杖が振り下ろされた。 フーケの目の前の地面が、"ズドンッ!"と爆散した。 とっさに両手で体をかばったフーケだったが、爆風のあおりを喰らって、 先ほどのルイズの軽く数倍の距離を、 廃屋の方へ吹っ飛ばされることになった。 ――――――――― ルイズは杖を振り下ろした後、その杖をポトリと取り落とした。 足だけではなく、腕も激しく痙攣していたからだった。 そのせいで、照準も狂ってしまっていた。 フーケの首を狙ったつもりが、あの様だ。 ルイズは自嘲的な笑みを浮かべたが、 すぐにそれはフーケへの怒りで、真っ赤に埋め尽くされた。 憤怒の形相で再び杖を拾い、フーケにとどめをさすべく立ち上がろうとするルイズ。 しかし、途端に脚を滑らせて、 "ドシャア!" と無様に地面とキスをしてしまった。 「脚に、力が、入ら、ない………。 頭痛がする……! は……吐き気もだわ………くっぐぅ! 何ということ…このルイズ・フランソワーズが………! 由緒正しき公爵家三女が……!! あんな、ゲスな盗賊如きの魔法で頭を殴られて… 立つことが出来ないなんて……!?」 本当は殴られたどころの話ではないのだが、 怒りで我を忘れているルイズには、全く関係がなかった。 いや、あるいは、それを考えるほどの脳みそが残っていなかったからか。 バリバリと地面に爪を立てるルイズは、 まだ脳漿がはみ出ている状態の脳みそにムチを打ち、フル回転させた。 "今のバク……ツで、……ュル…やタ…サ……少なくともD…Oはこちらに何が起………気づ……はずだ。" ―――グキゴキと、ルイズの頭の肉が音を立てた。 段々思考が鮮明になっていく――― "私が……べき……は、仲間…来るまでの時…稼ぎだろうか? …………NOだ。 この期に及んで、ただ他人の助けを期待して、ゴキブリのように地面を這い蹲るだけなんて、 貴族としてあってはならない。 私はルイズ・フランソワーズだ。 地面にゴキブリのように這い蹲るべきなのは、あの盗賊の方だ。 仲間の助けはあくまで期待。 貴族の誇りにかけて、何としてでも自力でフーケを倒さねば…!" そう決心したルイズは、震える膝をパシンと叩いて、 "グググググッ"と立ち上がった。 結果からすれば、ルイズの決意は無駄になった。 何とか立ち上がったルイズは、 足を引きずりながらもフーケの方へ移動しようとしたのだが、 そのフーケがいるであろう辺りの地面が、うず高く盛り上がり始めたのだ。 やがてそれは土の山となった。 ただの『土くれ』の山かと思われたそれは、なんと徐々に人型になっていった。 その大きな土人形の右腕に、ルイズは見覚えがあった。 見紛うはずがない。 ルイズの頭蓋を粉砕した、あのゴーレムのものだ。 ルイズがのたうち回っている間に、フーケはゴーレムの全身を錬金したのだ。 (プッツン……してしまったってワケね……フーケも、私も) "ビシビシ"と頭蓋骨が連結する音を聞きながら、 ルイズはゴーレムを見上げた。 噂には聞いていたが、実際にこの目で見るとやはりデカい。 30メイルはありそうだ。 DIO約15人分だ。 あまりの規格外に、ルイズは間の抜けたことを考えたが、 そのゴーレムの肩に乗っている人影を視認して、ルイズは拳を握りしめた。 『土くれ』のフーケだ。 フーケがとうとう、本性を表したのだ。 ゴーレムの上のフーケが、ギャアギャアとルイズを罵った。 「この、ビチグソがぁぁあああ!!! 『土くれ』をナメんじゃないわよ!! もう二度と復活できないように、コイツでミンチにしてやるよ、 バケモノめ!!!!」 ルイズは、やれやれと思いながら、杖をフーケに向けて………やめた。 さすがに距離が遠すぎる。 あれではフーケだけを狙うことは難しい。 かといって、近づけばゴーレムの間合いだ。 もう一度頭をぶん殴られるのは願い下げだ。 どうしたものかとルイズは少し悩んだが、 即座に覚悟を決めた。 ルイズは、自分の部屋に溢れんばかりに転がる財宝のことを思い出した。 横流ししたら、一体総額いくらになるだろうか? どれもこれも国宝級だ。 エキュー金貨で五万はあるだろうか? いやいや、買い手次第では、 ひょっとしたらその十倍はいくかもしれない。 それほどの財宝を頂こうというのだ。 これくらいの苦労、むしろ当然だといえる。 ルイズは不敵な笑みを浮かべた。 ゴーレムの間合いは、自分の間合い。 ならば自分の土俵に立ったうえで、真正面から叩き潰してやろうではないか!! ルイズはブルブルと頭を振った。 まだガンガン痛むが、大分マシになってきた。 ゴシゴシと目を擦った。 ルイズは自分の杖をしっかと掴むと、ゴーレム目掛けて矢のように駆け出した。 最後に笑うのは、このルイズ・フランソワーズ だ……!! 「WRYYYYY YYYYYYYYYY!!!」 to be continued…… 41へ