約 1,113,675 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/992.html
トリステイン魔法学院、学院長室。 この部屋の主であるオールド・オスマンは、戻った4人の報告を聞いていた。 もっとも、報告をしていたのは専らルイズであった。 オスマン氏は、キュルケとタバサにも状況報告を求めたのだが、 フーケとの戦いで疲労が限界に達したのか、2人の返答は要領を得ない。 キュルケは暇さえあればチラチラとルイズとDIOを見ているし、 タバサは俯いて黙ったままだ。 オスマンは、ルイズの報告を鵜呑みにするしかなかった。 「ほほぅ。 では、『破壊の杖』は取り戻したが、 『土くれのフーケ』は取り逃がしてしまったと…… そう申すのじゃな、ミス・ヴァリエール?」 泣く子も黙るオスマンが、偽証を許さぬ鋭い視線をルイズに向けるが、 ルイズは堂々と胸を張り、ハキハキと嘘八百を並べ立ててみせた。 どうせ確認する方法など、無いのだから。 「はい。 そしてロングビル……つまりフーケがわざわざこのような遠回しな罠を仕掛けたのは ……これはフーケ自らが言ったことですが…… どうやら『破壊の杖』を私達に使用させ、 使い方を知るためだったようです。 私もそれで間違いないと思います」 「お主個人の感想など無用じゃ」 「その通りであります。 お許しを」 ルイズはビシッとあらたまった。 オスマンは顎髭を撫で回すと、深いため息をついた。 年相応の、そして、深い苦悩が混じったため息であった。 「ミス・ロングビルがか……そうか…………そうじゃったか……」 裏切りなど日常茶飯事だろうに、 オスマンは珍しく辛そうな表情を浮かべた。 しかし、それも一瞬のこと。 すぐに鋼鉄の仮面がオスマンを包み込み、あたりに威圧感をばらまき始める。 その空気に当てられて、キュルケとタバサもその場にあらたまった。 「さて、諸君。 よくぞ『破壊の杖』を取り戻した」 ルイズが礼をし、それに続く形でキュルケとタバサが、ぎこちない礼をした。 DIOは壁にもたれかかって、本を読んでいる。 「『破壊の杖』は、無事に宝物庫に収まった。 これで我が学院の体裁は、一応保たれたことになる。 一件落着とまではいかんが、後は我々の……いや、ワシの仕事じゃ。 諸君はゆるりと休むがよい」 後始末をすると言うオスマンの言葉に、コルベールの肩が少し震えたような気がした。 おそらくは、隠蔽のためにクビを飛ばされることになるだろう教師達の何人かのことでも考えているのだろう。 「フーケを取り逃がしてしまったからのぅ、 『シュヴァリエ』の爵位を申請するとまではいかんが、 王宮には報告をしておくぞい。 目をかけてくれることじゃろうて」 ルイズ達は、特に反応を返さなかった。 オスマン自身もどうでもよいのか、少々投げやりだった。 「ふむ、そういえば、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。 予定通り行うこととなった。 今日の主役は君たちという事になっておる。 せいぜい着飾るが良いぞ」 ふぉっふぉっと笑うオスマンに、3人は礼をするとドアに向かった。 ルイズはDIOをチラッと見つめて、立ち止まった。 「先に行くといい」 DIOは、本に目を落としたままルイズに言った。 ルイズは一瞬怪訝な表情を浮かべたが、すぐにどうでも良くなったのか、 さっさと部屋を出ていってしまった。 ルイズが出ていった後、DIOは本を閉じ、オスマンに向き直った。 「用がある……とでも言いたげじゃのう。 残念ながら、お主には報酬はだせん。 貴族ではないからのう。 代わりにといっては何じゃが……二、三の質問には答えてやろう」 オスマンは、DIOが何故この場に残ったのか、おおまかに把握しているようであった。 引き出しからパイプを取り出し、 煙をふかし始めたオスマンに、DIOは質問をした。 「『破壊の杖』……あれは、 私が元いた世界の人間達が作り出した武器だ。 なぜここにある?」 「ほっ、『元いた世界』とな?」 オスマンの目が光った。しかし、オスマンの言葉をDIOは無視した。 質問をしているのは、DIOなのだ。 「あれは何故……どうやってここにやってきた」 取り付く島もないDIOに、オスマンはつまらなさそうなため息をついた。 それと一緒に煙が吐き出され、DIOにかかる。 「あれを私にくれたのは、ワシの命の恩人じゃ」 オスマンは己の過去をあまり話さない。 しかし、今回ばかりは話さないことにはどうにもならない。 仕方なしといったふうに、オスマンは三十年前の過去を話した。 ワイバーンに襲われたこと。 突如あらわれた異様な身なりの男が、『破壊の杖』で助けてくれたこと。 看護をしたが、死んでしまったという事。 話を全部聞き終えた後、 DIOは一つだけ気になる事を尋ねた。 「その男の遺体は、墓の下にあるのかな?」 DIOの奇妙な質問に、オスマンは怪訝な表情を浮かべたが、答えてはいけないというわけではない。 オスマンは答えた。 「墓はこの学院内にある。 しかし、遺体はもう存在しておらんよ」 それを聞いて、DIOは顔をしかめた。 「ない……だと?」 「彼の遺言での。 骨も残さずに焼き尽くしたのじゃ。 ワシが責任を持って執り行った」 元の世界に戻る手掛かりが一つ消えたことに、DIOは舌打ちをした。 骨さえ残っていれば、瞬く間に屍生人として再生させて、 尋問をすることも出来ただろうに。 しかしすぐに気を取り直し、 DIOは己の左手に刻まれているルーンをオスマンに見せた。 「では次に、このルーンだ……。 このルーンが光ると、私の傷は瞬く間に塞がり、『馴染んだ』。 今まで一度しか光っていないが……何故だかわかるか?」 オスマンは、話すべきかどうかしばし悩んだ後、口を開いた。 「お主の言う『馴染む』が、どういう意味なのかは分かりかねるがの……。 まぁよい。 それは、ガンダールヴの印じゃ。 お主達が出かけておった間に、コルベールが文献を見つけだした。 伝説の使い魔の印じゃ。」 「伝説?」 「そうじゃ。 伝説によるとガンダールヴは、ありとあらゆる『武器』を使いこなしたそうじゃ」 DIOは首をかしげた。 「……なんとも言いがたいな。 この世界にきて、今まで私が触れてきた武器は、 どれもこれも使い方を知っているものだらけだ。 全く使い方のわからない武器があれば、確かめようもあるが…… この世界の文明レベルでは、無理だろうな」 話はこれまでと、DIOは踵を返した。 部屋の出口まで進み、扉を開けたところで、DIOは思い出したように振り返った。 「あぁ、ところで、鏡の調子はどうかな?」 オスマンがピクリと反応したが、すぐに嘘にまみれた笑顔を向けた。 「おぉ、どこかの誰かさんのおかげさんでの。 しばらく再起不能じゃ。 まったく困った事じゃて」 ホッホッホッと屈託ない(ように思える)笑い声を上げるオスマンを、 DIOはしばらく眺めていた。 が、やがて興味がなくなったのかパタンと、扉を閉めた。 DIOがいなくなった後、オスマンはおもむろにパイプを口から放し、 地面に叩きつけた。 そして、忌々しげにグジグジと踏みにじった。 木屑になるまで踏みつけていても、 オスマンは無表情のままだった。 ――――――――― アルヴィーズの食堂の上の階。 そこが、『フリッグの舞踏会』の会場だった。 着飾った生徒や教師達が、 豪華な料理盛られたテーブルの周りで歓談している。 だが、この舞踏会は、 いつもと少々様子が異なっていた。 土くれのフーケが、学院に現れたという話は、 既に学院中に広まっていた。 そして、3人のメイジによって撃退されたという話も。 だから、今回の舞踏会はどちらかというと、 祝勝会という色合いの強いものであった。 しかし、その主賓……つまりはフーケを撃退したメイジ達の顔は、 ちっとも晴れやかではない。 黒いパーティードレスを着たタバサは、ただ黙々とテーブルの上の料理と格闘している。 だが、タバサが無口なのはいつものことなので、 誰もそんなに気にはとめなかった。 問題はキュルケであった。 ゲルマニア出身の彼女は、 引っ込み思案な傾向のあるトリステインの女性と比べて、 情熱に溢れた積極的な性格をしている。 ダンスパーティーともなれば、 それこそ取っ替え引っ替えで男達と友好を深めたりするはずなのだが…… それをしない。 憂鬱な顔をして壁にもたれ掛かり、 ただぼんやりとパーティーの様子を眺めているだけだ。 幾人もの魅力的な男達がダンスに誘っても、 彼女はやんわりと断るばかり。 中には、いつも明るいはずの彼女が見せる、 物憂げな表情に心打たれて、などという輩もいたが、 彼女はそれも断った。 男達はがっかりしたものだが、 やがては各々別のパートナーを見つけ、それぞれにパーティーを満喫し始めた。 そこに、ホールの壮麗な扉が開いてルイズが姿を現した。 門に控えた呼び出しの衛士がルイズの到着を告げると、 その場にいた貴族達の視線が彼女に集中する。 そして、彼女の美しさに息をのんだ。 バレッタにまとめた桃色の髪。 肘までの白い手袋。 ホワイトのパーティードレス。 どれもこれもが、彼女の高貴さを輝かせている。 その姿と美貌に、ダンスを申し込む男達が列をなすかと思われたが、 不思議なことにそうはならなかった。 誰も彼もが、遠巻きに彼女を眺めるだけ。 彼女を中心にして、まるでドーナッツのような現象になっていた。 それは、彼女の纏う雰囲気のせいとでもいうのだろうか。 貴族達がダンスを申し込むにしても、彼女は高貴にすぎた。 いや、高貴というよりも、何者をも近づけない絶対的な何か…… それこそ王が身に纏うようなオーラが、 まだ弱いながらもしっかりと彼女から振りまかれている。 そのオーラのせいで、誰も近づけないでいたのだ。 ルイズ自身も、他の男には興味がないのかサクサクと歩を進めて、 バルコニーへと姿を消した。 突如現れた一輪の華に、一時は会場も静まり返ったが、 やがて元の喧噪を取り戻し始めていった。 バルコニーに姿を現したルイズは、その贅沢っぷりに頭を押さえた。 バルコニーに急遽設置されたテーブルの上には、 パーティー会場のものもかくやというほど豪華な料理が並べられ、 DIOが1人でそれを楽しんでいる。 給仕をしているのはシエスタのみだが、 それで十分事足りているようだった。 テーブルにはイスが2脚あった。 ルイズの為に、予め用意されていたのだろう。 当たり前のように、ルイズはそこに座った。 「お楽しみみたいね」 「……君は踊らないのか?」 ルイズはふっと笑った。 「相手がいないのよ」 「そうか」 それっきり2人は黙り込み、しばらく料理に舌鼓を打つ。 やがて、ゆっくりとルイズが沈黙を破った。 「ねぇ、帰りたい? 元いた世界へ」 つまり、ルイズはDIOが異世界から来た者であると認めたのだ。 「帰りたい? ……そうだな、帰らなければならないな。 やり残したことがある」「例えば?」 DIOは珍しくも苦々しげな表情を浮かべた。 「私の運命という路上から、取り除かねばならない汚点がある」 「へえ」 「だが、今はまだ帰るわけにはいかないな」 ルイズは首をかしげた。 「この世界を私のものにしてからでも、 帰るのは遅くない」 ルイズは溜息をついた。 このDIO、やはり冗談を言っているのか、 真面目なのか、判断に困る。 取り敢えずさらっと受け流すことにして、 ルイズはワインを飲み干し、ゆっくりと立ち上がった。 DIOに歩み寄り、すっと手を差し出す。 「えぇっと、まぁ、今回は、 あんたのお陰で事をうまく運ぶことができたわ。 そこの所は……認めてあげる」 それを受けてDIOも席を立つ。 「だから、その、踊ってあげてもよろしくてよ?」 DIOは静かに笑って、御主人様の求めに答えてやることにした。 素直でないルイズは、男性の方から誘うという形を取らねば、 すぐにヘソを曲げてしまうことを、DIOは朧気ながら理解していた。 ルイズの手に接吻をして、ダンスを申し込む。 「私と一曲踊っていただけますか、ミ・レイディ?」 ルイズは微笑んでDIOの手を取った。 2人は並んで、ホールへと消えていった。 ……ちなみに、このときDIOはまだ上半身裸で、 オーダーメイドの服が届くのは、舞踏会が終わってからしばらくあとの事になる。 ―――――――――― 第一部、『ゼロのルイズ』終了!!! 第二部、『ファントム・アルビオン』へと続く!! 47へ 戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/698.html
ルイズとDIOは、お互いに背中合わせに立ち、 腕を組んでいる。 鏡に合わせたように同じポーズだが、生憎とルイズの身長は、 DIOの腰よりちょっと上の辺りまでしかない。 傍から見たら、背伸びをした子供が、 父親の真似をしているようにも見えるかもしれない。 「ご苦労様。 でもちょっと遅いわよ、DIO」 背中を合わせたまま、ルイズはふてくされたようにDIOに言った。 本当は、DIOが来てくれたことに安心していたし、 ちょっぴり………ほんのちょっぴりだけ嬉しかったりしたのだが、 ルイズは決してそれを態度には出さなかった。 ルイズのセリフに、DIOが肩をすくめた。 「せっかく助けてやったというのにそれか。 君はもう少し、感謝という言葉を覚えた方がいい」 言葉だけとってみれば、不満を漏らしたようにも聞こえるが、 その口調はどこか楽しげだった。 それを受けてルイズは、 やはり振り向きもしないままで軽口を叩いた。 「使い魔が御主人様を助けるのは当然なのよ? "ありがとう"なんて言葉は、あんたにはもったいないわ」 直ぐ目の前に巨大なゴーレムがいるにもかかわらず、 2人は声もなく、静かに笑った。 ―――と、2人が会話をしていると、 空から無数の氷の槍が、ゴーレム目掛けて飛来した。 ゴーレムは、肩に乗っているフーケを庇うように、 両腕を頭上でクロスした。 ルイズは弾かれたように上を見た。 シルフィードに乗ったキュルケとタバサが見えた。 どうやら先程の攻撃は、 タバサの風魔法によるものらしかった。 ゴーレムに気付いた2人が、駆けつけてきたのだ。 タバサの魔法のレベルの高さに、ルイズは一瞬だけ舌を巻いたが、 直ぐに気を取り直して、DIOの方を向いた。 「DIO! 『破壊の杖』、ちゃんと持ってきてるでしょうね!?」 DIOは無言で頷いた。 ルイズは慌てた様子で先を続けた。 「私に貸しなさい!」 ルイズの命令に、DIOはどこからともなく ズルリと『破壊の杖』を取り出した。 一体どこに仕舞っていたのか、ルイズは激しく疑問に思ったが、 残念ながら気にしている暇はない。 ルイズはDIOから『破壊の杖』をもぎ取ると、 一つ質問をした。 「爆発するって言ったわね。 どれくらいの規模なの?」 「…………少なくとも、十数メートル……おっと、 十数『メイル』は離れることをおすすめする。 細かい距離までは、分からんよ。 ……あのゴーレムに使うのか?」 何かを確かめるように『破壊の杖』の表面を撫でていたルイズは、 DIOの質問を、首を横に振って否定した。 その目は、フーケに対する憎悪で満ち満ちていた。 途端にルイズの声のトーンが下がる。 「そんな…もったいないこと……するわけないじゃない。 こいつの出番は、もう少し後よ。 ゴーレムは、あんたに任せるわ。 何が何でも倒してもらうから」 ルイズの空恐ろしい狙いを汲み取ったDIOは、 フフフ…、と笑った。 「これはこれは……フーケとやらに同情せざるを得ないな。 ……いいだろう。 可愛い『マスター』の願いを、叶えてやろうじゃあないか」 ルイズは、DIOを向いたまま、ニッコリと笑った。 そしてルイズは、ゴーレムに対して一瞥もくれずに、 笑顔のままゴーレム目掛けて杖を振り下ろした。 それに際して、ルイズは詠唱を行わなかった。 にもかかわらず、ゴーレムの足下で爆発が起こり、 ゴーレムの片足が吹き飛んだ。 バランスを崩したゴーレムは、片膝をついた。 詠唱を行う素振りを見せなかったルイズに、 DIOは興味津々といった表情を浮かべた。 そんなDIOの様子に気づいたのか、 ルイズは頭の傷を押さえながら、ぶっきらぼうに言った。 もうおおかた塞がってはいるが、未だに血が滲んでいる。 「戦闘経験を積んだメイジともなればね……、 詠唱しながらお喋りすることだって出来るのよ」 それは、以前フーケが、ルイズに向けて言った言葉だった。 ルイズは、フーケが使った技法をそっくり吸収していたのだ。 あのとき受けた屈辱を思い出し、 ルイズは唇をきつく噛み締めた。 血がつぅーと垂れて、血涙痕と相まって、ルイズの顔に新たなアクセントが加わる。 ゴーレムがバランスを崩したのを好機と見たのか、 キュルケとタバサを乗せたシルフィードが、2人の近くに降り立った。 「乗って!」 風竜に跨ったタバサが叫んだ。 ルイズは、後は任せたとばかりに"ポンッ"と DIOの胸を軽く叩いて、風竜に駆け寄り、跨った。 「あなたも早く!」 タバサが珍しく、焦った調子でDIOに言った。 しかし、DIOは風竜に乗らずに、 体勢を整えつつあるゴーレムに向き直った。 「私はいい」 短くそう告げるDIOを、タバサは無表情に見つめていたが、 ゴーレムをチラリと見やり、やむなく風竜を飛び上がらせた。 それとほぼ時を同じくして、 足の再生を終えたゴーレムが、ゆっくりと立ち上がった。 肩に乗るフーケが、空に舞い上がるシルフィードを見て、 忌々しげに呟いた。 「まったくどいつもこいつも…… ハエみたいに人を怒らせるのが得意だね!」 それから、ただ一人地表に残ったDIOに視線を向けた。 「あらあら、あなたご主人様に見捨てられちゃったみたいね。 捨て駒にされた気分はどう? 同情はするけど、容赦はしないわよ、私」 矛先をDIOに向けたフーケは、残酷な笑みを浮かべた。 しかし、DIOはフーケの言葉を華麗に無視して、 逆に質問をした。 「お前が欲しい物は?」 DIOの肩の後ろにある星形のアザが、鈍く輝いた。 人の内面を深く抉るDIOの言葉に、 フーケの体が硬直した。 鎧でガチガチに固められたはずの心に、 そのわずかな隙間を縫って針が突き立てられたような衝撃を、 フーケは感じていた。 自分の大切な部分に土足で入り込まれて、 思わず激昂する。 「!!………ッッぶっ殺してやる!!!」 心に忍び寄る闇を振り払うように吐き捨てたフーケは、 ゴーレムの左手を鋼鉄に変え、DIOめがけて振り下ろした。 DIOはつまらなさそうに、フンッと呟き、片手を振った。 それに応じたように、DIOの体から半透明の人影が浮き出てきて、 迫るゴーレムの拳を、殴りつけた。 "ゴワァアアアン!!" と、クラクラするような轟音があたりに響き、 次の瞬間、ゴーレムの拳にヒビが入り、 やがてガラガラと崩れ落ちた。 「何!?」 フーケは、自分の予想とは全く異なる展開に、 ひきつった声を上げた。 フーケは以前、オスマン達とともに、DIOの戦いを見たことがあった。 そのときの……ルーンが怪しい光を放つまでのDIOは、 先程の幽霊のような物を使役していた。 その存在にフーケは少し驚きはしたものの、 その幽霊の腕力は、せいぜい青銅を凹ませる程度だったのだ。 フーケはその時のデータを参考にした上で、ゴーレムの拳を鋼鉄に変えたのだった。 しかし、これでは話が違うではないか…! 以前よりも強力になった幽霊に、 フーケは少し浮き足立った。 その隙を狙う形で、DIOは剣を2本、 やはりどこからともなくズルリと取り出した。 デルフリンガと、シュペー卿の剣だった。 一体どこに仕舞っていたというのだろうか? 「まぁ……すごい! DIOのズボンって、魔法のズボンみたいね。 何でも出てくるもの!」 上空から、キュルケの感心したような声が聞こえた。 勢いを削がれたDIOは、いかんともしがたい表情を 上空のシルフィードに向けた。 to be continued…… 43へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/296.html
トリステインの城下町を、ルイズと、それに続いてDIOが歩いていた。 白い石造りの街はそれなりに綺麗ではあったが、魔法学院に比べると、質素ななりの人間の方が多い。 道端で声を張り上げて様々なものを売る商人達の姿や、老若男女が取り混ぜ歩いている様子は、元の世界のエジプトを思わせる。 DIOはほんの少しだけ感慨に耽った。 町の様子を見る限りでは、この世界の文化レベルは、DIOが若かった頃と同じか、それ以下らしい。 少なくとも車は走っていないようだ。 「『ブルドンネ街』。トリステインで一番大きな通りよ」 「…狭いな」 道幅は5メイルもなく、大勢の人が行き来しているので、歩くのも一苦労だ。 道行く人と時々肩をぶつからせ、DIOはもどかしそうに呟いた。 「狭いって……文句をいわれても困るわ。 そう言えば、あなたの世界はどうだったの?」 ルイズはトリステイン自慢の城下町に文句を付けられて、眉をひそめたが、ふと思いついたのか、尋ねてみた。 「道はここよりもだいぶ広いが、その分だけ人間が多い。 人口密度でいえば、寧ろ私の世界の方が高いかもな」 「は? でもあんたさっき狭いって……」 「別に人が多いからといって、そんな事は私の通行には関係ない……」 「ふぅ~ん?」 含みを持たせたようなDIOの言葉に、ルイズは首を傾げたが、どうでもよかったので直ぐに再び前を向いた。 ルイズの話によると、この界隈には魔法を使うスリが出るらしい。 魔法を使うのは貴族だけなのではないのかとDIOが聞くと、メイジの全てが貴族というわけではないらしい。 いろいろな事情で、勘当されたり家を捨てたりした貴族の次男や三男坊などが、身をやつして傭兵や犯罪者になる例は少なくないのだそうだ。 つらつらと貴族のお家事情を話していたルイズだったが、曲がり角で立ち止まり、さらに狭い路地裏へと入っていった。 悪臭が漂い、ゴミや汚物が道端に転がっていて、どうみても貴族はお呼びではない所だ。 DIOは顔をしかめた。 「あっ、あったわ」 ルイズは四辻に出て、剣の形をした看板が下がっている店を見つけると、ルイズはうれしそうに呟いた。 そこがどうやら武器屋であるらしかった。 店にはいると、昼間だというのに薄暗く、ランプの明かりが灯っていた。 最近どうも日光が苦手になっているルイズには、かえって有り難かった。 壁や棚に、所狭しと剣や槍が並べられ、甲冑も飾ってあった。 店の奥でパイプを加えていたオヤジが、入ってきたルイズを胡散臭げに見つめたが、紐タイに留めに描かれた貴族の印に気づくと、パイプをはなし、ドスの利いた声を出した。 「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさあ。お上に目を付けられるようなことなんか、これっぽちもありませんや」 「客よ」 ルイズは腕を組んだ。 「こりゃおったまげた。貴族が剣を!おったまげた!」 からかうような口調でいうオヤジに、ルイズはムッとした。 「どうしてかしら?」 「いえ、お嬢様。坊主は聖具を振る。兵隊は剣を振る。貴族は杖を振る。そして陛下はバルコニーからお手をお振りになると、相場は決まっておりますんで…」 「あら、振って欲しいのかしら?」 ルイズは懐から杖をちらつかせた。 「め、滅相もございませんで…」 オヤジは取り繕うように言った。 ルイズは杖を仕舞って言った。 「使うのは私じゃなくて、使い魔よ」 「忘れておりました。昨今は貴族の使い魔も、剣を振るようで」 オヤジは商売っ気と、ルイズの顔色を伺うように、お愛想を言ってから、DIOをじろりと見た。 DIOがその赤い眼で見返すと、オヤジは怯えたように、慌てて目をそらした。 「け、剣をお使いになるのは…この方で?」 ルイズは首を振った。 「使うのは確かにそいつだけど、買うのは剣じゃなくて、ナイフよ。」 オヤジはばつが悪そうにうなった。 「はぁ…申し訳ありませんが、今ナイフは数があまりなくて…10本ばかりしかありませんで、へぇ」 「あら…そうなの? 困ったわね…どうしようかしら」 ルイズは予想外の返答に閉口した。 ここで100本ほどまとめ買いするつもりだったのだ。 早くも目的の一つが頓挫したことになる。 どうしよう…と悩むルイズに、オヤジが提案した。 「では、ナイフに加えて、剣も一本見繕うというのはどうでしょうか? 値段は勉強しておきますが…」 値段もまけてもらえると聞いて、ルイズはオヤジの提案を受け入れることにした。 「そうね、別に手持ち無沙汰って訳じゃないから、そうするわ。私は剣のことなんかわからないから、適当に選んでちょうだい。 値段はどうでもいいから」 オヤジはいそいそと奥の倉庫に消えた。 彼は2人に聞こえないように、小声で呟いた。 「やれやれ、どちらもどちらで、おっかねぇ。 こりゃ、早めにお帰り願った方が吉ってやつだ」 しかし、さっきの口振りからすると、随分と羽振りは良いようである。 オヤジは商売根性剥き出しに、ぼったくってみることにした。 立派な剣を、油布で拭きながら、オヤジは現れた。 「これなんか、いかがです?」 1・5メイルはあろうかという、見事な大剣だった。 所々に宝石が散りばめられていて、鏡のように諸刃の刀身が光っている。 頑丈そうだ。 「店一番の業物でさ。 貴族のお供をさせるなら、このぐらいは腰から下げて欲しいものですな。 やっこさんの体格なら、ピッタリですぜ」 DIOは興味がないのか、店の中を見ているだけなので、かわりにルイズが剣を見た。 ルイズはこれで良いだろうと思った。 店一番とオヤジが太鼓判を押したのも気に入った。 おそらくソレは本当だろう。 …後は、向こうがどれだけふっかけてくるかである。 (…気づいてるのよ、このスカタン!) ルイズは心の中で呟いた。 オヤジの愛想笑いの下にある、ドロドロした商売根性を、ルイズは敏感に感じていた。 ルイズはそんな事は全く臆面にも出さずに、値段を聞いた。 「おいくら?」 「何せこいつを鍛えたのは、かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿で。 魔法がかかっておりますから、鉄だって一刀両断でさ。 ごらんなさい、ここに名前が刻まれているでしょう? おやすかぁありませんぜ」 質問に質問で返してくるオヤジにいらつきながらも、ルイズはどうでもよさげに言い放った。 「お・い・く・ら?」 オヤジはムッとしつつも値段を告げた。 「エキュー金貨で二千。新金貨なら三千」 (そらきた!) ルイズは心の中でペッと唾を吐いた。 エキュー金貨で二千? 庭付きの豪邸が買える額だ。 いくらゲルマニアのシュペー卿だかカペー朝だかが鍛えたといっても、そこまでするはずがない。 というか、そもそもこんなボロ店が、そんな額の剣を仕入れられる訳がない。 明らかにぼったくりだ。 ルイズはふぅとため息をつくと、姉のカトレアが言っていたことを思い返した。 ―――カトレアから――― こういった庶民が利用する店では、貴族の常識はまったく通用しないわ……というのも、値段がすごくいい加減なの。 日常の値打ちを知らない貴族なんかは、いったいいくらなのか見当もつかないから、すごくカモられてしまうの。 …で…もね、ルイズ。 その世界では、カモることは悪いことじゃないのよ。 だまされて、買ってしまう人がヌケサクなの。 ここで、買い物の仕方を解説するわ。 例えば―――この場合、私はお見通しだよん! という態度をとって 「エキュー金貨で二千?カッカッカッカバカにしちゃあいかんよ君ィー。 高い高いー!」 ……と、大声で笑うの。 すると 「いくらなら買うね?」 ……と、客に決めさせようと探ってくるわ。 「ナイフ込みで、五百エキュー金貨にしなさい!」 自分でもこんなに安く言っちゃって悪いなぁ~~というくらいの値を言う。 すると 「オッほっほっほっほっほ~っ」 本気(マジ)~~? 常識あんの~~? と、人を小バカにした態度で 「そんな値で売ってたら、わたしの家族全員飢え死にだもんねーーっ!」 ギィーッと首をカッ切る真似をしてくるの…。 でもね、ルイズ! ここで気負けしちゃダメよ。 「そ。じゃあ買うのやめたわ」 帰るマネをしてみましょう。 「O.K.フレンド。わたし貴族に親切ね。 ナイフ込みで、千八百エキューにするね」 …といって引き止めてくるわ。 「七百エキューにしなさいよ」 ―――値段交渉開始ーッ! ――― 「千七百!」 「八百!」 「千五百!」 「千!」 …………中略 「「千二百五十!」」 「千二百五十! 買ったッ!」 やったーっ! 四割近くまけてやったわ! ざまーみろ! モーケタモーケタ! (ニコニコ) ………と思っていると 「バイバイサンキューねっ!(いつもは千百で売ってるもんねベロベロベー)」 ちなみに、平民が一年で消費する金額の平均は、百エキューである。 「……………………… ……やれやれだな」 DIOの呆れた呟きは、2人に届かないまま虚空に響いた。 to be continued…… 31へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/207.html
オスマンとコルベールは、『遠見の鏡』で一部始終を見終えると、互いに沈黙した。 気まずい空気の中、コルベールが震えながら何かを言おうとする前に、オスマンが言った。 「勝ったのは、ミス・ヴァリエールの使い魔じゃったな」 「オ、オールド・オスマン……私には、まだ自分の目が信じられません…」 「ほぅ。ならば、そんな役立たずな目は、早めに抉ってしもうた方がよいのぅ。ミスタ・コルベール」 「い、いえ…そんな…!私はただ、平民がメイジに勝ったという事実に…」 「平民?平民じゃと?お主はアレをまだ人間じゃと思うとるわけか?」 オスマンの目が、コルベールを射抜いた。 「切られた腕を再生させ、青銅のゴーレムを砕き、挙げ句グラモンの血を吸うたアレを、人間と呼ぶか。 お主も痛い目を見た口じゃろうに。 ますますもって役立たずじゃのう、お主の目は」 コルベールは萎縮した。 オスマンは、フンと鼻息を荒げた。 「しかしのぅ、あの化け物の左手のルーン…。 ワシも長年を生きてきたが、とんと見当がつかぬ物じゃったわ。 ミスタ・コルベール。お主も見たな?早々に調べておくのじゃ」 ---まさか、ルーンまで見過ごしておったのではなかろうな、と言うオスマンに、コルベールは慌てて首を横に振った。 これ以上失態をさらせば、本当に目を抉られてしまうと、コルベールは思った。 「し、調べて参ります…!」 コルベールは早急に学院長室から退室した。 オールドオスマンは、そんな彼を見送りもせずに、秘書のミス・ロングビルを見た。 オスマンとコルベールのやり取りを、見ない振りをして書類仕事をしていたロングビルは肩を一瞬 震わせた。 「ミス・ロングビル」 「…はい、学院長」 努めて普通にロングビルは答えたつもりだが、その内心はオスマンには筒抜けだろう。 「お主もみたじゃろう。さっきの戦いを。 ……ワシの目には、奴が瞬間移動をしたようにしか、思んのじゃが…意見を聞かせてもらえるかのぅ、ミス・ロングビル」ロングビルは、ペンを机の上に置くと、オスマンに答えた。 「いいえ…オールド・オスマン。私にも判りかねます。ただ、瞬間移動したとしか」 「…そうか。あいや、ただ聞いてみたかっただけじゃ。気にすることはない」 オールド・オスマンは、机からパイプを取り出して、火をつけた。 2・3回プカと煙を口から吹いた後、オスマンは言葉を続けた。 「ミスタ・コルベールの手伝いをせい、ミス・ロングビル。 あの足では書物の捜索は難儀じゃろう。 それと……」 ロングビルは椅子を引いて立ち上がり、オスマン の次の言葉を待った。 「……あの化け物に、内々に目を配っておけ」 ロングビルは頷いて、学院長室から出ていった。 コルベールと書物を漁るのは退屈だが、学院内を歩き回る良い口実を得たので、ロングビルは満足した。 全くエラいところに潜り込んでしまったものだと、しかし、ロングビルはため息をつくのを止められなかった。 オールド・オスマンは、誰もいない学院長室内で、一人立ち上がって『遠見の鏡』を再び見た。 鏡には、見知らぬルーンの刻まれた左手を血に染めたDIOが、悠々と広場を立ち去るところが映されていた。 オスマンはその様子を見て、鷹のような目を、ますます鋭くさせた。 「DIO………DIOか。このトリステイン魔法学院の内憂とならねばよいがのぅ……そうなった場合、もみ消すのも一苦労じゃ」 ---その時だった。 鏡の中で、背中を見せて歩いていたDIOが、突如素早く振り返り、こちらを睨んできたのだ。 DIOの真紅の目が、オスマンをしっかりと捉えている……少なくともオスマンはそう感じた。 流石のオスマンも、この時ばかりは心臓が止まるかと思った。 『遠見の鏡』が気づかれるなんて、有り得ないことだった。 あまつさえ自分と目が合うとは---だがオスマンはこの後、心底驚愕した。 鏡の中のDIOは半身になって、血に染まる左手で顔を隠し、右手で此方を指差した。 『………貴様、『見て』いるな……!?』 DIOの言葉にオスマンの思考が反応する前に、鏡に巨大な人影がいっぱいに映し出された。 人と言うには余りにも巨大なそれは、その巨体に見合う…いや、過剰な筋肉を有していた。 腕は丸太のように太く、脚はそれよりもっと太いそれは、全身が白いせいか、石でできたような印象を受ける。 鏡に突如映し出されたその巨人は、右腕を振りかぶると、その大砲の弾のような拳を轟と振り下ろした。 "ガシャアァアアン!!!"という高い音を響かせて、『遠見の鏡』は、粉々に砕け散った。 破片がオスマンに襲いかかり、オスマンは慌ててローブで己の身をかばった。 全く予想外のことで、杖を振る暇もない。 机の下で眠っていた、オスマンの使い魔であるネズミのモートソグニルが、チュウチュウと鳴いた。 破片が飛び散り終わると、オスマンは恐る恐るローブから顔を出した。 見るも無惨な姿を晒す『遠見の鏡』を見て、オールド・オスマンはうろたえた。 「…おぉ……これは…なんとしたこと…」 オスマンは、あの化け物が、自分の思っていた以上にとんでもない存在であることを痛感し、ただ呆然と、割れた鏡を見つめた。 鏡の修復には、かなりの時間が必要になりそうだった。 その費用を瞬時に頭の中で目算し、オールド・オスマンはただただ頭を抱えるばかりだった。 to be continued …… 27へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/223.html
DIOの……いや、自分の部屋に戻ったルイズは、ドアをバタンと閉めた。 後ろ手で鍵をかける。 部屋の奥の窓際に立っているDIOを見つけると、ルイズは虚ろな目をしてフラフラと誘われるようにDIOの方へ向かった。 カーテンが閉められた窓際に立つDIOは、自分の左手をルイズに差し出した。 その手は先程のギーシュの血で、真っ赤に染まっていた。 幾分か固まってはいるものの、鼻につく鉄の匂いが辺りに立ち込めている。 ルイズの目は、その左手に釘付けになっていた。 ハァハァと荒い呼吸をして、頬をほんのり上気させているルイズは、途端にガクリと膝をついた。 我慢も限界といった風にDIOの左手に手を添えると、ルイズは自分の小さな舌を、その血に染まる左手に這わせた。 「ハァ…ンゥ…チュ…フッ」 ピチャピチャという、淫らな水音が部屋に響いた。 だが、そんなことはお構いなしに、ルイズは陶酔した表情を浮かべたまま、ひたすらにDIOの左手全体に舌を這わせ続ける。 いや、むしろ部屋に響く淫音すらも、ますますルイズの理性を崩壊させているようでもあった。 唾液に混じって血が喉を下りていくたびに、ルイズは心が喜びで震えるのを止められなかった。 自分の穢れを知らない女の部分が、熱を帯びて潤っているのを痛いくらいに感じていた。 もじもじと切なそうに太ももを擦り合わせた後、ルイズは左手をそのままに、右手をするすると自分の女の部分へと移動させた。 グチュ…という湿った音が、下着越しに感じられ。 ルイズは体に電気が走ったように、ビクンと震えた。 だが、次第に調子を掴んだのか、ルイズは下着の上から、自分の女を不規則に指で慰め始めた。 ルイズの口と、女の部分から、いやらしい音の調和が繰り広げられる。 DIOは無言で、そんなルイズをさせるがままにした。 ひざまづいて指の一本一本に至るまで、丁寧に舐めあげてDIOに奉仕を続けるルイズだったが、段々それは激しいものへとなっていった。 ふと、ルイズの体が突如弓ぞりになり、口が酸素を求めてパクパクと動いた。 下着にジュワ…と染みが広がる。 絶頂に達したらしい。 全身を弛緩させながらも、それでもルイズは舌を動かすのを止めなかった。 暫くするとあらかた舐め終わったのか、最後に左手に沿うようにして舌を這わせた後、名残惜しそうにため息をついた。 ルイズの口から銀糸がつぅっとつながった。 そして、部屋に漂う鉄の匂いが徐々に消えていくと、ルイズの目に再び理性の光が戻り始めた。 自分が今まで何をやっていたのかを悟ると、ルイズは弾かれたように立ち上がり、後ずさった。 「な……わ、わた…し…な…に……を?」 面白そうに一連の行為を眺めていたDIOは、差し出していた左手を顔の前に持ってきた ルイズの唾液でビチョビチョになっているそれをペロリと舐める。 そして、ニヤリとルイズに笑った。 ルイズはその笑みを見て、崩れるように床に座り込んだ。 暫くの沈黙が、部屋を包んだ。 やがて、ルイズがポツポツと問い始めた。 「…………どうしてギーシュを殺さなかったの?」「…………………」 DIOは答えない。 「………どうやってギーシュを倒したの?」 「…………………」 DIOは答えない。 「……あなたが使っていた、あの幽霊は何?」「…………………」 DIOは答えない。 何もいわずにソファーに座り、手を拭いた。 「…私の体に何をしたの?」 「…………………」 DIOは答えない。 「そもそもあなたは何者なの!?」 「…………………」 DIOは答えない。 ルイズはすぅっと息を吸い込んだ。 「答えなさい!!!」 ビリビリと空気が震えた。 ルイズの怒声もどこ吹く風、DIOは脇に置いてあった本を開いて読み始めつつも、ようよう応じた。 「……まず、最初の質問からだね。 どうしてさっきの小僧…えぇっと、何だっけ…そう、ギーシュを殺さなかったのか、だったな…」 ルイズはDIOを見上げた。 「簡単だ。私の身の安全のためさ。 あの時、勢いに任せてギーシュを殺していたら、私は周りのメイジや、騒ぎを聞きつけてやって来る教師たちを相手にしなければならないだろうからな。 …避けねばならない。余計な消耗は。 それが、第一の質問に対する答えさ…」 「私は、殺せと言ったわ」 間髪入れず、ルイズが切り込んだ。 「『マスター』…。私は自分を解放する術を磨けと、言ったばかりじゃないか。 その点から言うと、あの時殺すのは、スマートとは言えないね」 「…………」 言われてみれば、DIOの言うとおりかもしれない、とルイズは思った。 確かに、あの時観衆の目前で、ギーシュを殺していたら、DIOだけじゃなく私の立場まで悪くなるのは、当然だ。 この世界では、平民が貴族を殺すことは、死に値する大罪だ。 いくら私が塵一つ残さず吹き飛ばしたとしても、言い逃れが出来るとも思えない。 ルイズはそこまで考えて、とにかくも納得はした。 頷くルイズに、DIOが続ける。 「第二の質問だが……君が見たままだよ? あの鉄人形…『ワルキューレ』だったかな…とにかくそいつを、私は破壊して、ギーシュをナイフで串刺しにしてやったわけさ」 よくもまぁぬけぬけと言うものだと、まだぼーっとする頭でルイズは思った。 「そうね。確かに、結果だけ見れば、あなたの言うとおりだわ。 でも、私は結果ではなくて、過程の話をしているの。 ……はっきり言うわ。私も含めて、あの場にいた全員、あなたがワルキューレを砕いた所も、ナイフを投げた所も見ていないわ。 気がついたらそうなっていたの。一体どういうこと?」 「さぁ?あそこは日があまり射さないからね。 暗さのせいで、見逃したんじゃあないか?」 DIOはからかうように、フフフと笑った。 どうやら、この問いには答えるつもりはないらしい。 これ以上追及しても、時間の無駄だと判断して、ルイズは先を促した。 「第三の質問だが……あれは、そう、君たちの世界風に言うと、私の『使い魔』といったところだ。 『側に立つ』という、私の世界の言葉にちなんで、私は『スタンド』と呼んでいるがね」 これは、まぁ、予想通りの答えと、ルイズは思った。 『スタンド』…DIOがそう呼ぶあれには、一体どんな性質があるというのだろうか。 それを聞こうとしたら、DIOが先にそれに答えた。 どうやら彼は、ギーシュの血を吸って、幾分饒舌になっているらしかった。 「……私のスタンドは、『ザ・ワールド』と言う。私の世界の言葉で、『世界』を暗示するスタンドだ。 スピードと、無比のパワーを誇る」 「…あのザマじゃ、とてもそうは見えないけど」 そういうルイズに、DIOは"まだ本調子ではない"と、珍しくお茶を濁す発言をした。 案外DIOも気にしているのだろうか? 「第四の質問だが…」 ルイズは体を強ばらせた。 これこそが、ルイズがもっとも知りたいことであった。 「……君は、吸血鬼を知っているか?」 突然の質問だった。 「え、えぇ、一応知識だけならある…けど」 「君たちの世界と、私の世界のそれは、些か異なる存在かもしれないが、元の意味は一緒だろう。私はその吸血鬼さ」 DIOの告白に、ルイズは一瞬ポカンとした。 「…え?だってあんた、太陽の光、大丈夫じゃない」 「…思うに、この世界の太陽と、私が元いた世界の太陽とでは、発する光の波長が異なるからかもしれないな」 つまり、こいつには弱点は無いってことだ。 ルイズはDIOという存在の反則ぶりに呆れた。 「とにかく、そういう理由で私は血を好む。血さえあれば、どんな傷であろうと塞がるだろうからな。 そして…、吸血鬼は、血を吸った相手を吸血鬼にできる。 私の場合、私の体を流れる吸血鬼のエキス(EXTRACT)を、相手の血液と循環交換させることによって、相手を屍生人に出来る」 どうも話が見えないと思っていたルイズは、DIOの言葉にハッとした。 ―――吸われたじゃないか……自分も…DIOを召喚した時に…。 ドクンドクンと、心臓が暴れ出した。 呼吸が乱れる。 冷や汗が出てきた。 …………まさか? …まさか! 「DIO!!」 ルイズは立ち上がった。 「DIO!あんた…!あんたは!」 人間としてのアイデンティティを揺らがされ、ルイズはパニックになった。 思考がまとまらず、舌がうまく回らない。 ハァハァと荒い呼吸をするルイズを見て、DIOはクックッと笑った。 「…おやおや、やっと気づいたのか?クックックッ…。 だが、私もあの時は必死でね。 君にエキス(EXTRACT)を注入したかどうか、覚えていないんだ…」 ルイズは耳をふさいだ。 「だが、私は知っているよ。 君はさっきの決闘の時、ギーシュの血を見て、とてもうまそうだと思った。そうだろう? それだけじゃない。 君は私によって受けた瀕死の重傷から、1日で復帰してみせた。 それどころか身体能力も、上がっているようじゃないか?」 (やめて、それ以上言わないで!) ルイズは先ほど、夢中になってDIOの手についた血を舐めていた自分を思い出して、無言の叫びをあげた。 心ではそう思ったが、体がピンにでも止められたみたいに、ちっとも動かなかった。 おもむろにDIOは本を閉じ、ソファーから降りて、ルイズの前に立ちはだかった。 195サントの巨体が、ルイズを見下ろす。 目を逸らすルイズに、DIOは顔を近づけ、ルイズの顎に手を添えた。 傍から見ると、まるでキスをしようとしているようだった。 「『マスター』。君は今、非常に私に近い状態にある。 それは、私と結んだ契約のせいかな? それとも、私に血を吸われたせいかな? いや、あるいは両方かもしれないぞ?」 子供に謎かけをするように、軽々しい調子で問うDIO。 震える拳を握りしめて、ルイズはキッとDIOを見据えた。 この一点だけは、譲るわけにはいかない。 認めるわけにはいかない。 「私は…私はまだ人間よ!」 『まだ』といってしまうところが、ルイズの恐れの証だった。 DIOはフッと笑うだけで何も言わずに、ルイズの脇を通り過ぎ、ドアのノブに手をかけた。 「あぁ、ところで『マスター』。君から借りた本、読み終わったから返しておくよ。 実に参考になった。 これから図書室に行って、他の本を読んでみようと思うんだ」 背を向けたまま言うDIOを、ルイズはただ見つめるだけだった。 DIOが静かにドアを開けた。 「……最後の質問に対する答えがまだだったな『ルイズ』。 答えるまでもない。 私はDIO。これまでも、そしてこれからも世に君臨し続ける、全てを超越した帝王だ」 部屋に不気味な声を響かせて、DIOはパタンとドアを閉めた。 to be continued…… 28へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1249.html
「ムゥ~~ッ!! フゴムゴォ! ングゥ~ッ!」 部屋に響くのはギーシュのくぐもった声であった。 言い訳や状況説明をする暇なくルイズによって簀巻きにされ、 DIOに足首を掴まれて逆さ吊りにされているのだった。 口には猿ぐつわがしてあり、何を言っているのか明瞭ではない。 ルイズはギーシュの足を持っているDIOの上着をまさぐり、 ナイフを一本取り出した。 そして、逆さ吊りで視界が反転しているギーシュに視線を合わせるため、 ヤンキー座りになった。 豚でも見るかのような冷たい目で、 ルイズはギーシュの横っ面をナイフでペチンペチンと叩いた。 ナイフに嫌な思い出があるのか、 それを目にした途端ギーシュは激しく身を捩った。 「これどうします、姫様? なますにしてラグドリアン湖にバラまきますか?」 「フ、フガッ…!?」 まさかの死刑宣告である。 かろうじて自由な目をせわしなく動かして、ギーシュが呻いた。 アンリエッタは事の展開のあまりの早さに、 頭がまだ追い付いていなかった。 いきなり生死の審判を委ねてくるルイズが、 純粋に怖かった。 今ルイズがギーシュに向けている目に、 見覚えがあったからであった。 まだ二人が幼かった頃だった。 ルイズは侍従のラ・ポルトに、 時折りあんな目を向けていた。 ラ・ポルトは魔法の使えないルイズを『ゼロ』『ゼロ』と 散々陰で馬鹿にしていたのだった。 ……そういえばラ・ポルトは宮中を去った後、 プッツリと消息を絶ってしまっている。 元気にやっているであろうかと、アンリエッタは少し気になった。 しかし今重要なのは、目の前で逆さ吊りになっているメイジを どうするかということである。 死の恐怖にガタガタと震ている姿は、 痛ましくて見るに耐えない。 その光景が、部屋を訪れたときの自分と重なり、 アンリエッタはギーシュに同情せざるを得なかった。 「あ、あのルイズ。 もうそのあたりで許してあげては……」 ルイズはギロリとアンリエッタの方に振り返った。 腰が抜けてしまいそうなほどの威圧感だったが、 なけなしの勇気を振り絞って、アンリエッタはルイズを見返した。 数瞬の沈黙の後、ルイズはつまらなさそうに DIOに目配せをした。 「ブギャッ!!」 DIOがパッと手を離し、ギーシュの頭が床に墜落したのだった。 そしてルイズは無造作に、手にしたナイフをギーシュに向けて投擲した。 ギーシュに突き刺さるかと思われたナイフはしかし、 紙一重でギーシュを避け、彼を拘束していたロープを切断した。 こうしてようやっと束縛を解かれたギーシュは、 覗き見をしたことを必死で謝罪した。 『薔薇のように見目麗しい姫様のお姿に心奪われ、 ついつい後をつけ、覗き見をしてしまった』 要約するとこんな感じである。 ……つまり、アンリエッタの変装がチャチだったのが原因だった。 しかし、まさかギーシュ如きに一発で見抜かれてしまうほどだとは。 ルイズは頭が痛くなってきた。 これではもうどうしようもない、こいつも連れていくしかない。 もしギーシュを学院に残したら、口の軽いこいつのことだ、 ペラペラと話してしまうに違いない。 はぁ、御荷物が増えた…… とルイズは胃がキリキリする思いだった。 しかし、アンリエッタに巻き込まれる犠牲者が また一人増えただけなのだと考え直すことにした。 ルイズは健気で前向きな少女だった。 「姫様、致し方ありません。 この者も同行させます。 名はギーシュ・ド・グラモン、『土』のドットメイジにございます」 「グラモン? あの、グラモン元帥の?」 ギーシュは慌てて立ち上がり、一礼した。 「ありがとう。 お父様も立派で勇敢な貴族ですが、 あなたもその血を受け継いでいるのですね。 では、お願いします。 この不幸な姫をお助け下さい、ギーシュさん」 「姫殿下が僕の名前を呼んで下さった! 姫殿下が! トリステインの可憐な華、薔薇の微笑みの君がこの僕に微笑んで下さった!」 ギーシュは顔を真っ赤に赤らめて、 感動のあまり後ろに仰け反って失神した。 やれやれこいつアンリエッタに惚れたのか、 とルイズは推察した。 しかし、こいつはちょっと前に浮気騒ぎを起こしたばかりの、 札付きの信用無しである。 その被害を被った女生徒の一人……モンモンだったか、確かそんな名前だった…… は、最近になってようやく立ち直ったとか。 いっそ去勢でもした方が学院の、引いては人類の平和に繋がるんじゃないかと思って、 ルイズはチラッとギーシュの切ない部分に目をやった。 もちろんわからないようにしたつもりだが、 薄ら寒いものを感じたのか、ギーシュの肩が若干震えた。 ルイズは気を取り直してアンリエッタに向き直り、 話を進めることにした。 「では、明日の朝、アルビオンに向かって出発いたします」 「ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及びます」 「了解いたしました。 以前、姉たちとアルビオンを旅したことがございますゆえ、 地理には明るいかと存じます」 「旅は危険に満ちています。 あなた方の目的を知ったら、アルビオンの貴族達は ありとあらゆる手を使って妨害しようとするでしょう」 アンリエッタは真剣な眼差しをDIOに向けた。 「頼もしい使い魔さん。 よければお名前を教えて下さい」 声を掛けられDIOはしかし、アンリエッタを一瞥しただけで、 彼女の言葉を無視した。 意外な反応に、アンリエッタは怪訝な反応をした。 気まずい沈黙が場を支配し始め、ルイズは慌てた。 「こ、こら、姫様の御言葉よ! ちゃんと名乗りなさい!」 ルイズの命令を受けて、DIOは小さな声で名乗った。 「……DIOだ。 そこのルイズの執事の真似事をやっている」 声を聞いて、ルイズはDIOの機嫌がよろしくないことを悟った。 ルイズにしか分からないくらいの変化だったが、 確かに、DIOの声は不機嫌そうだった。 何故だろうとルイズは疑問に思った。 しかし、アンリエッタはそれに気付かず微笑んだ。 「わたくしの大事なお友達を、これからもよろしくお願いしますね」 民衆に見せる営業スマイルでにっこりと笑ったアンリエッタは、 そのままルイズの椅子に座った。 そして、ルイズの羽ペンと羊皮紙を使って、 さらさらと手紙をしたためた。 アンリエッタは、自分が書いた手紙をじっと見つめた。 やがて決心したように頷き、末尾に一行付け加えた。 密書だというのに、まるで恋文でもしたためたようなアンリエッタの表情を、 ルイズは怪訝に思った。 しかし自分がとやかく言う領分ではないので、 ルイズはだんまりを決め込んだ。 巻いた手紙に封蝋をなし、花押を押して、 アンリエッタは手紙をルイズに手渡した。 「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡して下さい。 すぐに件の手紙を返してくれるでしょう」 それからアンリエッタは、右手の薬指から指輪を引き抜き、 これもルイズに手渡した。 「母君から頂いた『水のルビー』です。 せめてもの御守りにこれを。 路銀が心配なら、売り払って旅の資金にあてて下さい」 無自覚トラブルメーカーであるアンリエッタの私物を頂戴したとあって、 ルイズはこっそり嫌そうな顔をした。 厄介事を招き寄せる呪いでも掛かっていそうだ。 彼女の言う通り直ぐに売っ払ってしまおうかと、 ルイズは思った。 「この任務にはトリステインの未来がかかっています。 母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風を、 幻影のように鎮めて下さいますように」 アンリエッタは静かな祈りを捧げた。 ―――――――――― 朝靄の中、ルイズ一行は馬に鞍をつけていた。 いつもの制服姿だが、長時間の移動に備えて乗馬用のブーツを履いているルイズ。 密命に燃え、気合いの入ったセンス最悪の衣装に身を包んだギーシュ。 デルフリンガーを背に、ハートの飾りが頭に光るDIO。 そして…………いつものメイド服姿で、 当たり前のようにDIOの代わりに雑務をこなしているシエスタ。 ついてくる気満々である。 ルイズは乗馬用の鞭を片手に、 腰に手を当ててシエスタを睨みつけた。 「なんであんたがここにいるわけ? 今回ばかりは引っ込んでなさい、事情が違うわ」 苛立ちも露わに言い放つルイズだが、シエスタは涼しい顔で一礼した。 これ見よがしに胸が揺れる。 ルイズの顔面の青筋が増えた。 「旅の間、DIO様の御世話をさせていただきます。 光栄なことに、DIO様より直々の指名をたまわりました」 何とDIOの命令らしい。 ルイズは即座に、その怒りの矛先をDIOに向けた。 しかし、ルイズが怒り出すのは承知の上なのか、 ルイズが口を開く前にDIOが理由を説明した。 「ルイズ。見誤っているようだから言っておくが、 私はまだ万全ではないのだ。 降りかかる火の粉を払うのに、余計な労力を消費するわけにはいかん」 ぐっ……とルイズは言葉に詰まった。 確かに、付き合いが浅いので正確には知らないが、シエスタは有能だ。 匂いで分かる。 少なくともギーシュの百倍は役に立つだろう。 しかし、ルイズにはシエスタのあの澄ました態度が 癪に障って仕方がないのだ。 頭では納得できても、割り切ることは出来ないものがある。 そしてシエスタもまた、ルイズの内心を悟っているかのように、 鋭くルイズを射抜いた。 「……失礼ですが、ミス・ヴァリエール。 私は、例え仮初めといえども貴女がDIO様の主人であるなどと、 認めてはおりません」 それっきりシエスタはルイズに背を向けて、自分の仕事に戻った。 一瞬何を言われたのか分からず、キョトンとした顔をしたルイズだったが、 見る見るうちにその顔に黒い怒気が浮かんだ。 「……あぁ? 今、なんつったの?」 肩を掴んで、シエスタを無理やり自分の方に向かせるルイズ。 しかし、ドスの利いた声でシエスタに詰め寄っても、 顔面がぶつかるくらいに近寄ってメンチをきっても、 シエスタは眉一つ動かさない。 「貴女には主人としての資格などありませんと、 申し上げたのです」 使い魔の主人である資格が無いなどと言われることは、 貴族の沽券に関わる問題である。 決して聞き逃すことの出来ない侮辱であった。 ルイズは片手でシエスタの胸倉を掴み上げた。 片手であるにも関わらず、 シエスタの足は地面を離れた。 だが、それに怯むことなく、シエスタもルイズに牙を剥く。 「URYYYY……!!」 「KUA ッ!!!」 一触即発の状態で、二人はバチバチと火花を散らした。 事の成り行きを見ていたギーシュには、まさか口出しなんて出来るはずもない。 彼は必死で目を合わせないようにした。 あんな連中に、自分の使い魔を連れていってもいいか などと聞けるはずもない。 ギーシュは自分の使い魔を連れていくことを渋々諦めた。 しかしこの修羅場な空気を断ち切る存在が現れた。 ルイズの横の地面がモコモコと盛り上がり、 茶色の大きな生き物が顔を出したのだ。 血で血を洗う肉弾戦に突入しそうな勢いだった二人は、 突如現れたその生き物に目を向けた。 その茶色い生き物は、ギーシュの使い魔のヴェルダンデであった。 「ヴェルダンデ! ああ! 僕の可愛いヴェルダンデ!」 自分が溺愛する使い魔の登場に、ギーシュは感極まった声を上げた。 それとは対照的に、ヴェルダンデを見る二人はどこまでも無言だった。 その激しい温度差に、ギーシュは気づかない。 「あんたの使い魔って、ジャイアントモールだったの?」 場の流れを無理やり変えられて、ルイズが不機嫌そうに聞いた。 主人のもとに駆け寄ったヴェルダンデを抱きしめながら、 ギーシュは目を輝かせた。 「そうさ、僕の可愛い使い魔のヴェルダンデだ! ああ、ヴェルダンデ! 君はいつみても可愛いね!!」 暫く主人の熱い抱擁を受けていたヴェルダンデだったが、 やがて鼻をひくつかせた。 くんかくんかと匂いを探るヴェルダンデは、何故かルイズ…… 正確には、ルイズの右手の薬指に光る指輪……に狙いを定めた。 ヴェルダンデは宝石が大好きなのだった。 だからこそ、『土』系統であるギーシュにとっては最上の協力者であった。 つぶらな瞳を輝かせて、ヴェルダンデはルイズに突撃した。 ルイズは自分めがけて走ってくるモグラを無感情に見下ろした。 「それ以上近づいたら蹴るわよ?」 モグラ相手にバカみたいだが、ルイズは一応警告した。 しかし、やはりモグラがその突進を止めることはなかった。 「あはは、噛みつきやしないさ。 とっても賢いやつなんだ!」 気さくな笑みを浮かべるギーシュ。 やがて距離が縮まり、一直線に駆けたヴェルダンデは、 そのままの勢いでルイズの胸に飛びつこうとした。 ―――が 「フンッ!!」 "ボギャア!"という鈍い音と共に、ルイズの膝蹴りが ヴェルダンデのアゴに炸裂した。 勢いがついていた分、ダメージは相当のものだった。 ヴェルダンデはもんどり打って倒れ、ピクピクと痙攣し始めた。 愛する使い魔に対するあんまりな仕打ちに、 ギーシュはプッツンした。 「な、なにをするだァーーーッッ! 許さんッ!」 懐から、杖として使っている薔薇の造花を取り出して、 ギーシュは鼻息荒く目を血走らせた。 この場で決闘でも始めかねない剣幕だ。 「警告したでしょうが。 殺さなかっただけ感謝しなさいよ」 だが、ルイズはそんなギーシュを宥めるどころか、 逆に挑発したのだった。ルイズはシエスタとの一件で、まだ気が立っていた。 そんなルイズに対する怒りで身を震わせるギーシュは、 何の躊躇もなく薔薇を振った。 薔薇の花弁が二枚宙を舞い、たちまちそれは青銅で出来たゴーレム、 『ワルキューレ』に姿を変えた。 ギーシュの十八番、錬金であった。 「け、け、けっけっけっ決闘だァ! このビチグソがぁあああッッ!!」 錯乱状態のギーシュが薔薇を振るうと同時に、二体のワルキューレがルイズに踊り掛かった。 to be continued…… 52へ 戻る 54へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/554.html
「DIO。 明朝、盗賊狩りに行くわ。 もちろんあなたにもついて来てもらうから、 準備して…おきなさ………はぁ……」 自室に戻るや否やの命令だったが、ルイズは途中で激しく勢いを削がれてしまった。 ため息を止められない。 DIOは夕食を取っていた。 ルイズの部屋の、ルイズの机で。 「食事中だよ『マスター』。 何だ、帰ってこないと思ったら、いきなりそれか。 事情だけでも聞かせてはもらえないものかね……」 DIOは口を拭き、ナイフとフォークを、ルイズの机兼ディナーテーブルの上にある皿に置いた。 いつもルイズが物を書く時に使っている机なのだが、 今は純白のテーブルクロスが掛けられており、 料理が盛り付けられた皿と、ワインが並べられている。 何故かシエスタが部屋にいて、給仕をしていた。 香しい匂いが漂い、ルイズは思わず唾を飲み込んだが、直ぐに怒りがそれをかき消す。 ルイズの顔面に、青筋が浮き出た。 ルームサービス? 相変わらずの傍若無人っぷりだ。 こちとら一日中飯抜きなのよ、ふざけんな。 「DIO! このアンポンタン! 御主人様の机を、勝手に使うんじゃないわよ!」 "ドン!"と床を踏み鳴らすルイズ。 いつものことなので、ルイズにとってはすっかり慣れてしまった光景なのだが、 ルイズは敢えて怒ることにした。 といってもDIOがこの世界に来てから、 あまり日にちは経っていないが…。 とにかく、今までそうやってDIOのやりたいようにやらせていたのが、今回の騒動の発端だ。 これからは締めるところは、キッチリ締めなくては、 また同じようなことが起こるに決まっている。 ルイズの脳裏に、DIOのこれまでの前科が、色鮮やかによみがえる。 何だかますます腹が立ってきた。 ---よし、吹っ飛ばそう。 思い立ったら即行動だ。 幼い頃、ちいねえさまだって言っていたではないか。 ----カトレアから---- "ルイズ……ルイズルイズルイズ…! あぁ、可愛いルイズ! メイジは『吹っ飛ばす』なんて言葉は使わないのよ。 何故なら、そんな言葉を思い浮かべた時には、 実際に相手を殺ってしまっていて、もう終わっているからなの。 私は使ったことがないわ。 いいこと? 『吹っ飛ばす』と心の中で思ったなら… その時スデに行動は終わっているのよ、ルイズ。 『吹っ飛ばした』なら使っていいわ" --------------- (わかったわ、ちいねえさま! 『言葉』ではなく、『心』で理解できたわ!) 1人思いながら、ルイズは杖を取り出し、DIOに向けて振り下ろ…………そうとしたのだが、杖を持つ手は、 気がつけばシエスタがガッチリと掴んでいた。 さっきまでDIOの側に控えていたはずなのに、 一体いつのまに動いたのか。 ルイズ同様、華奢な腕をしているシエスタだが、 掴まれた腕越しに伝わってくる力は想像以上で、 動かそうと思っても、ルイズの腕はビクともしない。 「御乱心、なさりませぬよう、ミス・ヴァリエール。」 静かな制止の声が、部屋に響く。 シエスタにガンを飛ばすルイズだったが、当のシエスタはどこ吹く風だ。 ルイズは何だか気に喰わなかった。 「誰の部屋だと思ってんのよ。 それよりこの手を離しなさいな。 アンタは黙って、DIOにゴマすってりゃいいのよ」 DIOの名前が罵り文句に出てきたことで、 無表情だったシエスタの顔が、見る見るうちに怒りで歪んでいった。 シエスタが力を込め始め、 ルイズの腕の骨がミキミキと軋む音を立てたが、ルイズは眉一つ動かさない。 「URYYYYY……!」 シエスタが背筋の凍るような唸り声とともに、 ルイズの腕を、HBのエンピツをポキッと折るみたいにへし折ろうとしたが、DIOがそれを遮った。 「シエスタ……ワインを注いでくれないか?」 シエスタの体がピタッと止まった。 さっきの剣幕もまるで嘘のように、シエスタはDIOの側に戻った。 どうやら食事は終わったようだ。 ルイズはフンと鼻息を荒げ、掴まれた腕をプルプルと振った。 わりと真剣に痛かったが、絶対に顔には出さない。 出すものか。 …………痛い。 DIO服従計画が、早くも躓いてしまい、 ルイズはとことん面白くなかった。 まだ鈍く痛む腕を無視しようと努めながら、 ルイズはソファーを見た。 一日中本を読んでいたのか、ソファーには、本がうず高く積まれて山になっている。 そのソファーにはデルフリンガが立て掛けられているが、 しっかりと鞘に納められていて、うんともすんとも言わない。 デルフリンガの横の床には、何故か釣り糸とメガネが置いてあった。 何だ、これは? ふと思い立ったルイズは、デルフリンガを手にとって、鞘から抜いた。 刀身には、所々焼け焦げた後が、点々とついている。 鞘から抜いた途端に、デルフリンガが柄をパクパクさせて喋り出した。 「ネッ!ネッ!戻して!店に!ネッ!名前も! お願い!ネッ!コラ!ネ…」 バチンと鞘に納める。 五月蠅いったらありゃあしない。 ルイズはデルフリンガを弄りながら、DIOに聞いた。 「このボロ剣、何か吐いたの?」 DIOは困ったような声を出した。 「いろいろ手を尽くしては見たが、まだ何も」 「どうやって聞き出そうとしたの?」 単純な興味から、ルイズは疑問を口にしてみたが、 メガネと釣り糸をもう一回見て思い直し、慌てて取り消した。 「やっぱり、言わなくていい。想像つくわ」 「それよりもこの剣、 役立たずなら廃棄処分にするの?」 「いや、どうやら、こいつは何か大切な事を知っているらしい。 私のルーンを見たときに、こいつは反応を示した。 今は忘れてしまって、思い出せないなどと言っているが……」 ルイズは、ふぅ~んとだけ言うと、デルフリンガを再びソファーに立てかけた。 グラスにワインが注がれると、 DIOは体をルイズの方に向けてグラスを突き出した。 「話を戻そう。 今日1日、何があったか、教えてくれよ」 ルイズはすっかりその事を忘れていた。 慌てて朝から事が起こった順に話していった。 宝物庫に侵入者が出たこと。 DIOのやったことがばれたのだと思い、宝物庫まで向かったこと。 侵入者は『土くれ』のフーケということになったこと。 フーケを殺らなければ、マズいことになること。 1つ1つ丁寧に話した。 話を聞き終わると、DIOはなるほど、といった。 「君は…アレだな、実に苦労人だな………」 同情するような視線を向けるDIOに、ルイズはついにキレた。 ツカツカとDIOに歩み寄ると、"ドガン"と机を殴りつけた。 机がベッコリとヘコんで、食器がいくつか宙を舞ったが、 落下する前に、シエスタが全てキャッチした。 「あ ん た の せ い で し ょ う がぁぁああああ!!!!」 肩をすくめるDIO。 ルイズはフンとそっぽを向いた。 いちいち激高してしまう自分に、腹を立て、 そんな自分にまた……という悪循環。 肩をいからせながらベッドに戻った。 明日は早いのだ。 早々に寝ることにして、ネグリジェに着替えつつ、 ルイズはDIOを見た。 ---そういえば、こいつ、弱っているんだっけ。 …役に立つのだろうか? 「DIO。 そういえばアンタ、何でもない風に見えるけど、 ちゃんと使いものになるんでしょうね? ギーシュの時みたいに無様なことにはならないでよ」 最後の方は、半ば見下すように言ったルイズに、 DIOがピクリと反応した。 無言で椅子から立ち上がると、手を"パンパン"と、 二度叩いた。 ルイズはその動作をどこかで見た覚えがあったので、 とっさに身構えた。 果たして、DIOは一瞬にして、机からルイズの目の前に移動していた。 ルイズはギョッとした。 ギーシュのときと同じだ。 やっぱり何が何だかわからない。 目の前で尊大に佇むDIOに、冷や汗をかいたが、 動揺を顔に出すような真似だけは死んでもやらない。 「やれば、できるじゃ、ない」 貴族としてのプライドから、それだけを何とか絞り出すように言う。 「……もはや自分の意思で、『動ける』までになった。 なに、もう少しさ」 DIOは確認するかのように呟くと、踵をかえして、シエスタに下がるように指示した。 シエスタはテキパキと食器等を台車に片付けると、 一礼して、台車を押しながら部屋を出た。 ルイズは、いつかDIOの謎を解き明かしてやると思うと同時に、 あの気に喰わないメイドがいなくなったことに、ちょっとせいせいした。 「もう寝ましょ、DIO。 明日は使い魔らしく、バリバリ働いてもらうから、そのつもりで」 何も言わずにソファーに向かうDIOを見やり、ルイズは指をパチンと鳴らした。 部屋の明かりが消えて、周囲は静寂に包まれた。 「あ、あと、明日こそは、買ってあげた服、着なさいよ。 いつまでも上半身裸は、 視覚的に言ってかなりアレだから」 「………………………」 周囲は静寂に包まれた。 to be continued…… 番外編:ルイズが医務室で啖呵を切っていた頃 DIO「…………………」 "ズッダン!ズッダン!ズッダン!" デルフ「うんがぁあああああ!!」 シエスタ「デ・ル・フ・リ・ン・ガ・ー。 天国、地獄、大地獄………天国。」 "ズッダン!ズッダン!ズッダン!" シエスタ「………申し訳ございません、DIO様」 "グイン!グイン!" "バッ!バッ!" DIO「気にするなよ、シエスタ。 ………所でデルフリンガー。 お前の名前は今日から、 『デルフリンガ』だ。 なぁに、気にするなよ、単なる発音上の問題さ」 デルフ「ンごぉおおお!!!」 "ズッダン!ズッダン…" 38へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/753.html
上空、シルフィードに跨るルイズは、 頭の傷を手で押さえて止血していた。 一度は塞がりかけたものの、フーケとの戦いで 再び傷口が開いてしまい、治癒が遅れてしまっていた。 ルイズの頭に、フーケの高笑いがガンガン響く。 怒りと屈辱のあまり、ぬうぅ…、と野獣のような唸り声をあげていると、 心配になったキュルケが、おっかなびっくり聞いてきた。 「ル……ルイズ? えぇっと、そのキズ…痛むの?」 「KUAAAA!!!」 ご機嫌斜めのルイズは、ギロリとキュルケを睨みつけた。 眼球の端からダラダラと血が頬に垂れており、 純白だったはずのブラウスはもう真っ赤っかになっているので、 はっきりいって今のルイズは直視に耐えない。 そんな状態にも関わらず、 ルイズが異様にギラギラした目で見つめてくることが、 余計にキュルケの恐怖を煽った。 キュルケは、うっ…と仰け反った。 幽霊系が大の苦手なタバサは、 出来うる限りルイズの方を見ないようにしている。 タバサに半分幽霊扱いされている事などつゆ知らず、 ルイズはブルブルと頭を振った。 ピシャッと血が辺りに飛び散って、キュルケはさらに仰け反った。 「あぁ……ゴメン。 ちよっとイライラしてたから。 大丈夫、大丈夫よ……」 ルイズが人並みな会話をしてくれたおかげで、 キュルケはちょっと安心した。 (よかった…まだ人間だわ、この子……) 近頃、ますます人間離れしてゆくライバルに、 キュルケは気が気でなかった。 さっきだって、自分の知らないところで、 ルイズが越えてはならない一線を越えたような 嫌な予感がしたものだが、どうやら杞憂だったようだ。 頭の傷も、よくよく見てみたら、 皮膚が裂けているだけだ。 ―――そうだ。 なんてことはない。 フーケを捕まえたら、全て元通りになるに決まってる。 キュルケは、自らの胸に渦巻く得体の知れない疑惑を そう結論づけて、地面を見下ろし、 ゴーレムの肩に乗るフーケを見た。 フーケが持つ、流れるようなエメラルドの髪に、 キュルケはどこかで見覚えがあった。 「ねぇ……あのフーケ、 どことなくミス・ロングビルに似てると思わない……? ほら、髪の色とか」 キュルケは、思ったことをそのまま口に出した。 「ミス・ロングビルがいない」 タバサがポツリと呟いた。 そういえば、辺りにミス・ロングビルの姿が見当たらない。 まさか、とキュルケは目を見張った。 「ウッソ!? そ、それじゃあ、ミス・ロングビルが………!!」 「そ。 『土くれ』のフーケよ。 まんまと騙されてたのよ、私たち」 キュルケの続きを、ルイズが取った。 ロングビル=フーケの事実に、キュルケは唖然としたが、 直ぐに意識を切り換えて、DIOを見た。 その存在感は、ゴーレムを目前にしても、なお揺るがない。 「ルイズ。 あいつ1人だけ残しちゃったけど、大丈夫なの? はっきり言って、あのゴーレム、 反則スレスレの代物よ?」 キュルケは先ほどの僅かな攻防で、 フーケのメイジとしての実力の高さを痛感していた。 フーケは『トライアングル』クラスだと聞いたが、 自分だって『トライアングル』だし、タバサだってそうだ。 どうにかなるさと高を括っていたが、どうやら認識が甘かったようだ。 何せあのゴーレム、自分たちの魔法が通用しなかったのだ。 どれだけあの使い魔が化け物だろうと、 1人で立ち向かうには荷が重すぎるのではないかと、キュルケは感じていた。 「…………………」 しかし、キュルケの率直な質問に、ルイズは何も答えなかった。 『破壊の杖』をしっかりと抱きしめたまま、目をつむり、呼吸を整え、 完全に休息の体勢をとり始めていた。 「なによ、もう……!!」 無視されたのが面白くなかったのか、キュルケはふてくされたように髪をかきあげた。 再び下に視線を向けると、 ゴーレムの拳撃に対抗すべく、DIOの体から半透明の幽霊が浮き出て来ている様子が、 視界に入った。 「……ざわーるど」 タバサが、若干変なアクセントでその名を呼んだ。 聞き慣れない異国語の名前を持つ幽霊もどきに、タバサの視線は珍しく釘付けだった。 これから何が起きるのか、カケラも見逃さないと言わんばかりだ。 ゴーレムの鉄拳を破壊したDIOは、 どこからともなく剣を2本取り出した。 上半身裸のDIOには、物を入れる場所は、ズボンしかない。 しかしあのズボン、剣を出す前と後で、見た目が全く変わっていない。 ズボンじゃないとしたら、どこに仕舞っていたというのか。 穴が開くほど見ていたタバサにもサッパリわからないようだ。 首をかしげている。 キュルケは、すべての秘密はあのズボンにある、 とばかりに叫んだ。 「まぁ……すご(ry」 キュルケの間の抜けた発言に、タバサが溜め息をついた。 DIOが何ともいえない表情でキュルケを見上げた。 シルフィードが、『空気を読め』と、きゅいきゅいと抗議の声を上げた。 ルイズはスルーした。 そのうちに、戦いは佳境に入り、DIOがデルフリンガーを片手に大ジャンプをした。 たちまちゴーレムの顔まで上昇したDIOの身体能力には驚かざるを得ないが、 空に跳んだのはとんでもない失敗ではないかと、キュルケもタバサも思った。 空中では、身動きが激しく制限される。 あれではゴーレムのいい的だ。 案の定、上昇を止めたDIOの体目掛けて、ゴーレムの鉄拳が迫った。 あのタイミングでは、避けられる可能性は絶望的だ。 しかし、ギーシュの時も、DIOは脱出不可能の状況から見事に抜け出し、 あっという間に逆転してみせた。 ここからは、決して目を離すべきではない。 キュルケとタバサは、まばたき1つせずに身を乗り出して成り行きを見守る。 鉄拳が迫る。 キュルケが息を呑む。 タバサが杖をギュッと握る。 シルフィードが緊張で震える。 DIOが笑う。 ルイズが欠伸をする。 そして…………………… 「『ザ・ワールド(世界)』!!!!」 ―――――――――ドォオオオオン!!!――――――――― ……………気がついたら、DIOは地面に降り立っていて、 ゴーレムは無惨なボロキレと化していた。 一気に。 瞬時に。 全ての出来事が時間差もなく。 キュルケとタバサは、こういう結果になることを心のどこかでわかっていながらも、 ブルッと震えた。 「タ………タバサ、今の見えた?」 呆然と顔を向けるキュルケに、タバサはフルフルと首を振った。 ゴーレムがガラガラと音を立てて崩れ落ち、 肩に乗っていたフーケも、一緒に地面へと吸い込まれていった。 何やら叫んでいたが、ゴーレムが崩れ落ちる音にかき消されて、 何を言っているのかは分からなかった。 ―――と、地に立つDIOが、何かを伝えようとしているのか、 シルフィードを見上げたた。 キュルケもタバサも、DIOの何かを促すような視線に、覚えはなかった。 しかし2人の背後、まるでそれを待っていたように、 ルイズがカッと目を見開いた。 呆然とDIOを見下ろしていた2人は、それに気づかなかった。 ルイズは『破壊の杖』を懐にしまうと、ズルズルと全体を引きずるように移動して、 シルフィードから身を投げ出した。 視界に、落下してゆくルイズの姿がはっきりと映り、 キュルケは叫んだ。 「ルイズ!!!!!」 キュルケはルイズにレビテーションを掛けようと、慌てて杖を取り出そうとしたが、 その間にもルイズはグングンと地面に近づいてゆく。 よそ見をしていたキュルケでは、もはや間に合わなかった。 "ズドォン!"と地鳴りをさせながら、ルイズは四つん這いで地面に墜落した。 結局レビテーションが間に合わなかったキュルケは、 ルイズが全身打撲で昇天してしまったと思ったが、 意外にもルイズは、すっくと立ち上がった。 何事もなかったかのようにスカートに付いた埃を払うルイズを見て、 キュルケは安堵のため息をついてタバサを見た。 「ナイス、タバサ!! レビテーション、間に合ったのね!!!」 タバサが代わりにレビテーションを掛けてくれたと思ったキュルケだが、 予想に反して、タバサは首を横に振った。 心なしか、彼女は冷や汗をかいている 「………てない」 「…え?」 「私、レビテーション掛けてない。 ……間に合わなかった」 「……………は、はいぃ?」 キュルケはもう、何が何だかわからなかった。 ――――地面に降り立ったルイズは、すっくと立ち上がると、 スカートに付いた埃をポンポンと払った。 辺りを見回すと、ちょっと離れた所にDIOがいた。 「要望通り、あの土人形は破壊したぞ、『マスター』。 私の仕事は、これで終わりかな?」 「いいえ、まだよ。 ここはもういいけど あんたには、あいつらと遊んでもらうわ」 ルイズは首を横に振って、上空のシルフィードを親指でクイと差した。 「ほほぅ、友人に見られるのは、まだ気が引けるのか?」 「それもそうだけど、目撃者がいたら、あとあと困るでしょ? フーケはあくまで、『行方不明』になるんだから」 面白そうに問いかけるDIOに、ルイズはあっさりと答えた。 「殺してもいいけど、その時は、あの竜も含めて、 全員纏めていっぺんにしなさい。 それ以外の場合は、殺しちゃダメよ」 「注文の多いご主人様だ。 最後に私まで食ってくれるなよ」 「はぁ? 分けわかんないこと言ってないで、さっさと行きなさい。 ほら!!」 冷やかしに気づくことなく、 ルイズはせかせかとDIOを追い立てた。 機嫌がいいのか、煙幕になれと言うルイズに、 DIOは静かな微笑みを浮かべたまま、森の奥へと消えていった。 それを見送ったルイズは、さて…、と一息入れると、 ゴーレムが崩れた方向を見やった。 そこには、地面に横たわるフーケがいた。 その距離、約17メイル。 目にした途端に、ルイズは無表情になった。 フーケはピクリとも動かず、死んだようにも思える。 30メイルの高さから、地面に叩きつけられたのだ。 打ち所が悪くて、命を落としてしまったのかもしれない。 しかしルイズは感情を押し殺し、至極冷静な、 何故かフーケにも聞こえる位の声量で言った。 「死んだ……………か? いいや、『土くれ』のフーケは、あなどれないわ………。 死んだふりをしてだましているかもしれないわね……。 念には念を入れるとしましょうか」 フーケの体が、微かに震えた気がした。 ルイズは、まるで誰かに話しかけているかのような調子で続ける。 「完全なるとどめを………刺す!!」 "ゴゴゴゴゴ…" 「こいつで………」 "ドドドドド…!" 「跡形もなく吹き飛ばしてね………!」 ルイズは懐からズォオオオ、と長さ1メイル程の 金属の筒を取り出した。 果たしてそれは、『破壊の杖』であった。 フーケが、ビクッと怯えたような気がした。 to be continued…… 45へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1587.html
所変わってこちらはルイズの部屋。 貴族相手の『女神の杵』亭でも、上等な部類に入る部屋(最上級の部屋は何故か先約を取られていた)を取ったワルドは、 テーブルに座ると、ワインの栓を抜き、二つあるグラスにそれぞれ注いだ。 「君も一杯やるといい」 テーブルについたルイズは、差し出されたグラスをチラリと見たが、片手でそれを押しやった。 ワルドはすこぶる寂しそうな顔をして、グラスを飲み干した。 「使い魔君のグラスは取るのに、僕のグラスは受け取ってもらえないんだね」 「やめてよ、子供みたいなこと……。 私は貴方のことを信頼しているわ。それで十分じゃないの?」 「まさか……十分とは言えないよ」 ワルドはルイズの小さな顎をくいと持ち上げた。 視線が絡まる。 「君を振り向かせてみせる。そう約束したじゃないか」 ワルドの瞳を真っ向から見返し、ルイズは静かにワルドから離れた。 「私は、大事な話があるっていうからここにいるのだけれど……?」 あくまでつれない態度を崩さないルイズのセリフに、ワルドは途端に真面目な顔つきになり、ルイズから数歩離れた。 「君の使い魔……彼はただものじゃあない。僕には分かる」 またDIOの話かと、ルイズは思った。 この頃は、どいつもこいつも口を開けばDIOの事ばかり話しているように思え、ルイズは複雑だった。 実際にはそんなに会話には上ってはいないのだが、朝のモンモランシーの様子が強烈な印象となって脳裏に焼き付けられていたせいもあり、ルイズは過敏になっていた。 それを表に出すのは……貴族らしくないことは重々承知してはいたが。 「そんなこと、嫌ってほど分かってるわ。 アイツ人間じゃないもの」 ついつい返答がぶっきらぼうなものになってしまわずにはいられなかった。 内心後悔しているルイズに、ワルドは首を横に振って見せた。 「違う、そういう意味じゃない。彼の左手に刻まれているルーンだ。 まだよく見ていないから断言は出来ないが……あれはひょっとすると、『ガンダールヴ』のルーンかもしれないんだ」 「ガン…ダールヴ……?」 「そう、『ガンダールヴ』。 かつて始祖ブリミルが使役したと伝えられる使い魔さ」 突然の話に、ルイズは間の抜けた返事をすることしかできなかった。 しかし、呆気にとられたルイズとは対照的に、ワルドは何故か興奮した様子で語る。 そんなワルドの瞳は、鋭いナイフにも似た危険な光を放っていた。 「使い魔は主人と似た性質を持った者が現れる、というのが通説だ。 ……もし彼がそうだとしたら、君はそれだけの力を秘めたメイジということになるんだ」 真面目な顔をして伝説の話をするワルドに、ルイズは段々ついていけなくなった。 ブリミルが使役したとワルドは言うが、例え事実であっても、それは六千年も前の話なのだ。 遡ること六十世紀である。 そんなものが現代に甦りましたと言われてすぐに信じ込むほど、ルイズは信心深くはなかった。 あるいはガリアの神官だったら、泣いて喜ぶくらいのことはしたかもしれなかったが。 「眉唾物ね。 はいそうですかと鵜呑みにできない話なのは、あなたもわかってると思うけど」 「僕は至って真面目だ。以前王立図書館の文献で見たんだ。 」 間断無く断言してきたワルドに、ルイズは言葉に窮する形となった。 気圧された、と言ってもよいだろう。 それくらい、今のワルドは野心に満ちた目をしていた。 「昔の君も、どこか他のメイジ達とは違う空気を纏っていたが、今の君はそれ以上だ。 底知れないオーラが放たれ始めている……。凄まじい力の迸りだ」 「僕とて並みのメイジではない。だからそれがわかる」 興奮を隠しもせずにまくし立てワルドは再びルイズに迫った。 「た、確かにあいつが凄いのは認めるわ。 でも、それはただ単にあいつが凄いのであって、あいつが『ガンダールヴ』だから、ってわけじゃあないんじゃないの?」 焦ったルイズは、方々に視線を彷徨わせながら、その場しのぎをすることしか出来なかった。 だが、そのルイズの言葉に、ワルドは我が意を得たりとばかりに微笑んだ。 「そうかい? なら、僕はそれを確かめたい。この目でね」 ―――――――――――― 翌日、まだ日がようやく登ったばかりという時に、ワルドは一人廊下を歩いていた。 何事かを秘めたその瞳は深く鋭い色を放ち、道を行く足取りは、目的地に近づいてゆくにつれ重くなっていくばかりだった。 しかし、彼は彼の望むものを手に入れるためにも、その足を止めるわけにはいかなかった。 やがて、一つの部屋の前でワルドは歩を止めた。 それは、『女神の杵』亭で最も上等な部屋であり、昨晩ワルドが借りようとしたが、既に先約を取られていた部屋であった。 その部屋に泊まっている人物の名前をロビーで聞いたとき、ワルドは我が耳を疑うと同時に、やり場のない怒りを感じたものだった。 しかし、幸いにもその怒りが、部屋の中から放たれてくる異様な空気に耐える力をワルドに与えていた。 ワルドは決心するように深呼吸をすると、扉をノックした。 幾ばくかの沈黙の後、やけにゆっくりと扉が開かれ、いつものメイド服に身を包んだ少女が姿を現した。 その少女の姿を見るや、ワルドは心持ち体を仰け反らせてしまう。 昨晩、顔色一つ変えずに盗賊を何人も惨殺した人物……シエスタに、ワルドは苦手意識を感じていたのだ。 「どのようなご用件でしょうか、ミスタ・ワルド」 まさかこんな朝早くからメイドが出てくるとは露とも思っておらず、出鼻を挫かれた形となったワルドだったが、すぐに気持ちを立て直すと、率直に用件を伝えることにした。 「あぁ、朝早くからすまないとは思うが、君の主人に会わせてはもらえないか? まだお休みであるというなら、時間を改めてからまた来るが……」 貴族と平民という関係であるにも関わらず変に下手な口調なのは、自分に自信を持っている証拠か、それとも苦手意識の表れか。 いずれにせよ、貴族特有の傲慢な態度を出さなかったことが功を湊したのか、案外すんなりと取り次いでもらえることが出来た。 入室を許可され、シエスタに続いて部屋に入ったワルドだったが、一歩部屋に足を踏み入れた途端、彼は自分の背中に氷柱を差し込まれたような寒気を感じて硬直した。 部屋に入る前から、その異様な雰囲気に鳥肌を立てていたが、扉の中と外ではその雰囲気の濃さは段違いだった。 重苦しく、絶望的で、息が詰まりそうな圧迫感が全身を包んだ。 思わずそのまま回れ右をして立ち去りたい衝動に駆られるが、雀の涙ほどのプライドで何とか持ちこたえる。 改めて一歩一歩ゆっくりと奥へと進むその足取りは、断頭台への階段を上る囚人のように沈痛だった。 やがて部屋の最奥に至ったワルドを、部屋の主であるDIOが薄い微笑みを顔に浮かべて迎えた。 「これはこれは、子爵。小鳥も目覚めぬ早朝に、一体何のようかな?」 急な訪問に対して、嫌な顔をするどころか、まるで待ちかねていたような口振りである。 「いや、こんな朝でしか話せないこともあるのだよ、使い魔君」 敢えてDIOを単なる使い魔としか認識していない振りをするワルド。 ワルドよりも頭一・五個分は背の高いDIOの視線が、自然と見下ろしたような形であり、 それが段々ワルドの自尊心を刺激し始めたからだった。 再びこの息の詰まるような部屋の空気に飲まれてしまう前に、ワルドは勢いに乗せて話を進めることにした。 「君は伝説の使い魔、『ガンダールヴ』なのだろう?」 「…………?」 単純明快なワルドの問いかけだったが、しかし、DIOは心当たりがないと言わんばかりに眉をひそめただけである。 それらしい反応を返してこないことに、ワルドは焦ったような素振りを見せた。 「『ガンダールヴ』! 君の左手に刻まれているルーンのことだ! 学院長のオスマン氏などから聞かされていないのか?」 あのオスマンなら十分ありうるという事実に、ワルドは言い切ってから気がついた。 本当に知らないのかもしれないと、不安になったワルドだったが、 オスマンの名前を聞いて、DIOはようやく何かを思い出したような顔をした。 「あぁ、『ガンダールヴ』か。 確かにオスマンとやらがそんな単語を口走っていたな。忘れていたよ」 ホッとするとともに、ワルドは少し落胆した。 ルイズも、この使い魔も、伝説の『ガンダールヴ』に対して全く興味を示していないからだった。 自分一人だけが舞い上がっているような錯覚に陥り、非常に気まずい。 「う、うむ。思い出してくれて何よりだ。 ……とにかく君はその腕前を以て、あの『土くれ』のフーケを撃退した。 これは事実だ」 「撃退ときたか、フフフフフ………いや失礼、ハハハ……」 『撃退』という部分を聞いた途端、DIOは何とも面白そうに笑い出した。 その理由が分からないワルドは、おかしそうに笑うDIOに首をかしげるだけだった。 DIOのひとしきりの笑いに区切りを見た後、ワルドは咳払いをした。 「……ゴホンッ。 そこでだ。あの『土くれ』を追い払ったほどの君の腕前に興味が出てね。 実力を知りたいのだ。手合わせ願いたい」 その一言で、笑みを浮かべていたDIOの顔が、見る見るうちに冷たくなっていった。 同時に、ともすればこの場で即座に襲いかかってきそうなほどの敵意が、背後からワルドに突き刺さった。 確認するまでもない、シエスタだろう。 反射で背後を向いてしまわぬように、ワルドは全力を傾けた。 前門のDIO、後門のシエスタである。逃げ場など無い。 「何かと思えば決闘の真似事か……このDIOに対して」 「……その、通り」 血のように赤く、液体窒素のように冷たい瞳がワルドを射抜く。 いつのまにか固く握りしめていた拳が、汗でじっとりと濡れていくのを感じつつ、ワルドはDIOを見返した。 DIOは暫くワルドを睨んでいたが、ふと何かを思いついたような顔をして考え込み始めた。 ワルドにとっては胃に悪い沈黙が続いたが、やがてDIOは顔を上げ、了承の意をワルドに示したのだった。 「うむ、いいだろう。 この決闘は、お互いを深く知る良い機会になるだろうからな」 その時のDIOは、先程の渋い顔とは打って変わった、清々しいものであり、かえって不気味ですらあった。 しかし、何か嫌な予感を感じても、これは自分が選んだ事である。 そうそう容易く裏をかかれるような事態には陥らないだろうと踏んでいた。 DIOの了承を受けて、ワルドは決闘の段取りを伝えた。 「この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦でもあったんだ。 中庭に練兵場がある。私はそこで待っているから、準備が整い次第、いつでも来たまえ」 そう言い残して、ワルドはDIOの部屋を後にした。 シエスタの刺すような視線のせいで、部屋を出るまでのわずかな距離がやけに長く感じられた。 やっとの思いで部屋を出て扉を閉めた後、ワルドは知らず知らずのうちに深い溜息をついていた。 DIOの部屋の中での圧迫感のせいで締め出されていた酸素を、 必死で取り戻すかのようでもあった。 ワルドは呼吸を落ち着かせた後、ひとまずは自分の思い通りに事が運んだことを喜んだ。 DIOと立ち合い、『ガンダールヴ』の力を引き出し、その上でDIOの力の限界をルイズに見せつけるという筋書きである。 だが、彼の画策した決闘劇が、思いも寄らぬ方向へ逸れていくことになるとは、思いも寄らなかった。 二十分後、約束の場所である『女神の杵』亭中庭の練兵場。 そこでワルドの前に立ち塞がることになったのは、メイド服に身を包み、無表情ながらも焦げ付くような闘志を身に纏う、シエスタという少女であった。 「これは……一体どういうつもりだ?」 to be continued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/918.html
破壊の杖を使用した後の惨状を、 ルイズはやや感心したというような表情で見つめていた。 実際、ルイズは感心していた。 破壊の杖……つまりは、『ろけっとらんちゃー』なる武器の凄まじい威力に。 ―――素晴らしい。 爆発が起こった後には、草木1本残っていない。 自分の爆発にも、ある程度の自信があっが、 これはその遥かに上をゆく。 ルイズは密かに、この破壊力を今後の目標に定めた。 改めて目の前の光景を見る。 何もかもが吹っ飛ばされ、 場を支配しているのは『死』や、『無』だ。 その有様は、何故かひどくしっくりと自分に馴染んだ。 やがてその場の空気に当てられ、虚無感がルイズの中でリズムを取り始める。 何だか懐かしいリズムだ。 神経が研ぎすまされ、辺りの雑音が耳に入らなくなる。 体の中で何かが荒々しく暴れ、それが回転していく感覚……。 ルイズは目をつむって、しばらくそのリズムに身を任せていたが…… やがてそれは嘘のように消えていってしまった。 途端にルイズは不快になった。 もっとさっきの感覚を味わいたかったのに。 自分にとって、もっとも大切な何かを掴み掛けていたのに、 お預けを食らってしまった感じだった。 興奮覚めやらぬルイズは、 『破壊の杖』を再び手に取った。 もう一回ぶっ放せば、 またあの感覚を味わえるのではないかと思ったからだ。 先ほど撃った場所とは少し離れた場所に照準を合わせ、 ルイズはトリガーを押した。 しかし、弾が発射されることはなかった。 "カキン!"という音がするだけで、 『破壊の杖』はうんともすんともいわない。 思わぬ出来事に、ルイズはイラつきながら、 トリガーを連打した。 "カキン!""カキン!""カキン!"…… しかし、やはり何の反応もない。 苛立ちが頂点に達し、ルイズは『破壊の杖』を地面に叩きつけた。 「何でよ……!!」 ルイズの中に、もうあの時のリズムは影も形も無かった。 やり場のない怒りにしばし身を震わせるルイズは、 やがて1つの手がかりに行き着いた。 DIOだ。 DIOは、この『破壊の杖』の使い方を知っていた。 あいつなら、もう一回この杖を使う方法を知っているに違いない。 しかし、その肝心のDIOは、今この場にはいない。 キュルケ達に対する煙幕代わりに、ルイズが派遣したのだった。 ……もう片づいた頃だろうか? いずれにせよ、今のルイズにとって、『破壊の杖』は最優先事項だった。 DIOを呼び戻すべく、ルイズは杖を取り出し、 意識を集中した。 自分の魔力が抜き取られ、DIOへと流れていく感覚がルイズを襲う。 そのうちに奴はここに戻ってくるだろう。 それにしても、と倦怠感に耐えながらルイズは思う。 近頃、こうやって無理やりDIOに命令を聞かせたことはあまりないが、 何だか今回は奪われていく魔力がやけに多い気がする。 DIOの力が増していっている証拠だ。 いつかDIOが己の制御から抜け出す日が来るのではないかという不安が再び鎌首をもたげるが、 ルイズは直ぐにそれを打ち払った。 自分だって、強くなった。 今回のフーケ戦で、ルイズは自らの飛躍的な成長を実感していた。 越えられなかった壁を1つ、打ち壊せた気がする。 まだまだ自分は成長する、いや、成長せねばならぬのだ。 成長して、勝利せねばならないのだ。 でも、一体何に勝つというのか……?と、 考えようとしたら、段々頭がぼーっとし始めた。 靄がかかったみたいに、さっきまでの思考があやふやになっていく。 ―――はて、私、何考えてたんだっけか? ルイズはうんうん唸って思いだそうとしたが……思い出せない。 いけない、まだ頭の怪我が治りきっていないようだ。 そう思い、ルイズは2、3度頭を振った。 まぁいいや。 とにかく、自分は邁進せねばならぬのだ。 勝利して、支配する。 そう頭の中で結論を下したのと時を同じくして、 突如背後から物音が聞こえ、ルイズはひとまず思考を中断した。 ルイズの後ろの木の陰から姿を現したのは、DIOだった。 その姿を確認するや否や、 ルイズは地面に転がる『破壊の杖』を拾い上げ、 DIOに突きつけた。 「遅いわよ、まったく!! それよりこれ、さっき使った後から壊れちゃったみたいなんだけど、 あんた、直せる? ていうか直しなさい、全速力で」 猛烈な勢いでググッと詰め寄るルイズだが、 それとは対照的に、DIOは冷たい視線を送った。 彼曰く、『良いところ』で邪魔をされ、些か不満だったのだ。 無理やり呼びつけられたDIOが発する不機嫌オーラは、それはそれは結構なものなのだが、 しかしルイズは全く意に介した様子はない。 『破壊の杖』の事で頭がいっぱいなようだ。 好奇心と期待に溢れ、目が爛々と輝いている。 よくも悪くも真っ直ぐなルイズの姿勢に毒気を抜かれたのか、 DIOはフッと緊張を解いた。 「あぁ……それは単発式なのだ。 もう弾がない以上、一回こっきりの使い捨てだ」 「ウソッ!? じゃあ、もう使えないの、これ?」 ルイズは捨てられた子犬のような顔をしたが、 DIOは首を横に振った。 「諦めるんだな。 これはもう、ただの鈍器としてしか使えまい。 さて、色々あったが、 フーケとやらは消せたようだな。 ……ようやく任務完了といったところか」 DIOは、目の前に広がる焼け野原に目をやりながら言った。 しかしルイズは、DIOの言葉にチッチッチッと指を振った。 「いいえ、それは違うわ。 残念ながら、『逃げられた』の。 ロングビル=フーケの奇襲に対して、トリステイン魔法学院の生徒達は勇敢に奮闘。 『破壊の杖』を奪還するに至るも、 フーケは卑劣極まる手段を用いて私達の一瞬の隙をつき、逃走。 以後、消息不明となるわ……永遠にね」 これにて任務完了よ、と締め括り、 ルイズはエッヘンと胸を張った。 DIOは取り敢えず、賛辞の拍手を送った。 "パチパチパチ……"と、しばらくの間、白々しい拍手が森に響く。 「喜びに水を差すようで気が引けるが……」 1人悦に浸っているルイズに、DIOが素朴な疑問を投げかけた。 「フーケがいなくなった今、一体誰が帰りの馬車の御者をするのかな?」 ルイズは、さも当然と言うような清々しい笑顔を向けた。 「もちろん、使い魔のあんたがやるに決まってるじゃない。 今から馬車に戻るから、ついてきなさい」 返事を聞くことなく破壊の杖をDIOに押し付けると、 ルイズは軽やかな足取りで、馬車が待機している場所へと向かい始めた。 「………………」 DIOは黙ってそれを見送り、ルイズの姿が見えなくなった後、 深いため息をついた。 しかし、直ぐに意識を切り替えると、 ルイズの後を追わず、ゆっくりと近くの茂みへと分けいっていった。 ガサガサと音を立てながら茂みの中を物色した後、 やがて茂みの中から1本の枯れ枝らしいものを拾い上げた。 軽く力を入れただけで、ポッキリと折れてしまいそうなほどカラカラに干からびている。 しかし、それは枯れ枝ではなかった。 枯れ枝かと思われたそれは、かつてフーケと呼ばれていた人物の右腕だった。 ルイズによって根こそぎ吸血された結果、 生気のかけらも感じられない。 DIOはフーケの腕を手に持って、 『破壊の杖』によって引き起こされた爆発の中心部へと歩を進めた。 そこは、土くれのフーケが行方不明になった場所。 おそらく、この一帯の地面には、粉々に砕けた骨やら何やらが散らばっていることだろう。 殆ど燃え尽きてしまっているかもしれないが。 DIOは、やおらその腕を中心部に置いた。 そして辺りを見回して、 ポツリと呟いた。 「こうまでバラバラでは、無理かもしれないが……物は試しだな。 やってみる価値はある」 ―――そう、かつてのタルカスや、黒騎士ブラフォードのように。 「あの土人形、なかなかの物だったぞ。 お前ほどのメイジを、死なせるのは惜しい」 DIOは躊躇うことなく、己の手首をスパッと切り裂いた。 一瞬の間をおいて、真っ赤な血が噴き出してくる。 絵に描いたように美しい赤色だが、 その中には、屍生人の元となるエキス(Extract)がたっぷり詰まっている。 出血が続く手首を、フーケの右腕の上にかざす。 ドクドクと、DIOの血液がフーケの右腕や、周りの土に注がれていく。 不思議なことに、フーケの右腕は、まるでスポンジが水を吸い込むようにDIOの血液を吸収し、 その量に比例して、若々しい女性のソレへと戻っていった。 「私の血で、生き返るが良い……『土くれ』のフーケよ」 そして、念入りな血液投下が終わった。 しばらくの沈黙の後、フーケの右腕がピクピクと動き始めた。 次第にその活動は活発になっていき、やがて、陸に打ち上げられた魚のように、 ビタンビタンと跳ね回り始めた。 それを確認すると、DIOはニヤリと笑った。 成功だ。 右腕がクネクネと動き始める様子を、DIOは面白そうに眺めていたが、 その時、遠くからルイズの急かす声が聞こえてきた。 「ちょっと! おいていくわよ!?」 フーケの再生を全て見届けようとも思ったが、 DIOは仕方なく諦めた。 そして、手首のキズをペロリとなめた。 すると、傷口がスゥッと塞がっていき、やがて完全に治ってしまった。 「今行く。 忘れ物を探していたんだ。 もう見つかったよ」 去り際にフーケの右腕に視線を投げかけつつ、DIOはそう答えた。 フーケ戦、終了!! 獲得賞品一覧 『微熱』のキュルケ……名誉。 『雪風』のタバサ……名誉。 『ゼロ』のルイズ……名誉+多額の財宝。 DIO……無し。強いて言えば、手駒。 to be continued…… 48へ