約 35,695 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2108.html
ウサギのナミダ ACT 1-3 □ 乾いた風が吹き抜けて、廃墟に砂塵が舞う。 その風をけちらし、砂塵をさらに巻き上げて、一台のトライクが猛然と走り抜ける。 静寂は破られ、メインストリートに一筋、砂のシュプールが描かれる。 無人の道を走り抜けるのは、イーダ・タイプの神姫・ミスティだ。 大城の聞いた噂は正しかったらしい。 確かにミスティは武装もイーダのものだった。 ミスティがただのイーダではないのは、その脚の装備にある。 通常のイーダ・タイプなら、脚はほぼノーマルで、トライク形態の時には、後輪を挟むように折り畳まれている。 しかし、ミスティの脚はばかでかい脚部パーツに換装されていた。 誰が見ても、ストラーフ・タイプの脚部強化パーツ「サバーカ」だった。 もちろん、そんな巨大な脚部を機体後部に収めることはできず、後方に伸ばしている。 観客から失笑が聞こえてくる。 ミスティの装備はお世辞にもかっこいいとは言えなかった。 あまりにも不格好で安易なパーツの組み替え。 観客が皆、失笑する気持ちも分からないではない。 隣の大城も、ご多分に漏れず、笑いを噛み殺していた。 だが。 「ティア、そのまま路地を走りつつ様子を見ろ。決して油断するな」 『は、はい!』 「おいおい、遠野。なに臆病風に吹かれてるんだよ。あんな程度の武装なら、楽勝じゃないか」 大城は笑いながら俺に言う。 しかし、俺はどうしても、笑う気分になれなかった。 こんな安易な組み替えのイーダ・タイプが、有名プレイヤーだというのなら……何かあると考えない方がおかしいではないか。 俺は筐体の向こうにいる少女を見る。 ミスティのマスター。 彼女は今、観客たちの失笑など気にもとめずに受け流し、不敵な笑みを浮かべながらフィールドを見ている。 絶対に何かある。 だが、ミスティはひたすらにメインストリートを走り回るだけだ。 あんなに派手に自分の居所を晒して、しかも一直線に走っているだけなら、やることは一つしかない。 こちらから仕掛ける。 しかし、この当たり前の行動に、俺は抵抗を覚えた。 この状況は相手の思惑通りではないのか。いや、おそらくそうだ。 ミスティは、明らかに誘っている。 しかし、なにもしないのでは埒があかない。 ならば、セオリー通りに攻めるのみ。 「仕掛けるぞ。路地を出て、ミスティの右後方から追撃。射程範囲に入ったら、迷わず撃て」 『はい!』 高い返事とともに、ティアがメインストリートに躍り出る。 両手を大きく振り、スピードスケートの選手のように疾駆する。 みるみるとミスティとの距離は詰まってきた。 ミスティの速度は変わらない。 ティアは手持ちのサブマシンガンを準備する。 射程距離に入る。 その瞬間。 ミスティが急ブレーキをかけ、フロントが沈み込んだ。 サスペンションが限界まで沈み、その反発力でミスティの上体が跳ね上がった。 上体を起こしざま、ミスティは脚を引き込みつつ、後輪を背部モジュールに畳み込んだ。 俺に見えたのはここまでだ。 轟音とともに巨大な砂煙が立ち上り、ミスティの姿を覆い隠す。 『きゃっ』 ティアの小さな叫びが耳に届く。 小さな瓦礫の破片が飛んできたようだ。 ふと。 俺の頭に閃く。危険、という言葉。 「ティア、右に避けろ!」 俺の叫びと同時、明るい緑色の剛腕が砂煙の山の頂から突き出され、そのまま砂煙を裂いて振り降ろされた。 スピードを落としてはいたが、ティアは高速域にいた。 通常なら速度を落とさなければ回避動作が取れない。 しかし、スピードを落とせば避けきれない。 絶妙のタイミング。 だが、ティアは両脚のランドスピナーを鮮やかに操ると、スピードを制御したまま直角に右にターンした。 凶悪な爪がティアをかすめ、乾いた地面をえぐり取る。 からくも逃がれたティアに、ミスティは追撃の手をゆるめない。 ミスティの外側に逃げたティアに向け、副腕の影から手持ちのマシンガンを放つ。 ティアの轍を追跡する弾痕。 しかし、ティアは地を蹴り、通りに面する廃ビルの壁に着地、そのまま疾走した。 ミスティには予想外の機動だったらしく、銃弾は壁を穿つことなく、地面に着弾する。 ティアは壁を走りながら、ミスティを撃った。 「くっ」 左副腕の付け根付近に命中。 ミスティ本体へのダメージは軽微だが、瞬時ひるみ、攻撃が緩んだ。 その一瞬を使って、ティアは路地の陰に飛び込んだ。 ◆ 「やるわね……ミスティの『リバーサル・スクラッチ』をかわすなんて」 『攻撃もすごいわ。壁を走りながらの射撃……あの子、わたしを見てなかった』 「ほんとに? あの軽装で、ロクなレーダーも積んでいなさそうなのに」 『リバーサルをかわして、壁を走って、見ないで攻撃を当てる……そこらにいる神姫じゃないわ』 「面白いわね」 『うん、面白い』 「それじゃあ、私たちも、魅せましょうか」 『そうね、教えてあげましょう。エトランゼの異名が伊達じゃないってこと』 ■ 「あ、あぶなかった……!」 マスターの言いつけ通り、決して油断はしていなかった。 だけど、ミスティさんの攻撃に自ら当たりに行くようなタイミングだった。 マスターが避けろと言ってくれなかったら、わたしはあの大きな爪の餌食になって、勝敗は決していただろう。 薄暗い路地を疾走する。 今の攻撃を思い出すと、当たらなかったことが不思議で、恐怖に身がすくむ。 その恐怖を振り払うように走る、走る。 『落ち着け。かすり傷さえ負っていないんだ』 マスターの声が、わたしの耳に直接響く。 試合の最中、マスターはヘッドセットからわたしに指示を送る。 外からモバイルPCでモニターしてくれているマスターには、わたしの動揺が手に取るようにわかるのだろう。 でも、今の一言で、わたしの中の焦りが嘘のように引いていった。 わたしは闇雲に走るのをやめ、メインストリートを伺いながら路地を巡航する。 『ティア、何か気付いたことはなかったか?』 マスターの言葉に、なにかが頭の片隅にひっかかった。 「そ、そういえば……」 『何だ』 「あ、でも、その……」 『いいから話せ。時間がない』 「その、ミスティさんの副腕、ひとりでに動いてるみたいに見えて……」 『副腕は普通、独立で……って、本当か?』 「は、はっきりとは……きのせい、かもしれません……」 マスターが一瞬おし黙る。 いま、マスターの頭の中では思考がフル回転しているはずだった。 でもすぐに次の言葉が来た。 『だったら、相手はメインストリートにいない……警戒しろ、攻撃が来るぞ』 「は、はい」 マスターは今の会話から、なにを読みとったのだろう? わたしが感じた違和感は、ミスティさんがあの大きな攻撃を仕掛けてきたとき。 彼女は、振り降ろす副腕のレバーを握っていなかった……と思う。 わたしのうさ耳状になったセンサーが、相手の位置を察知する。 そこは……! 「上だ!」 マスターの叫びより早く、わたしはホイールにブレーキをかけ、膝をたわませる。 そして、前に進もうとする力を膝に貯めて、後方に跳ねた。 そこへ、緑と黒の巨大な影が落ちてきた! 間一髪、落ちてきた影との激突を免れ、片手を地に着くと、反動を利用してさらに跳ね、距離を取る。 はたして、緑と黒の影はミスティさんだった。 彼女はすでにマシンガンを構えている。 発砲。 わたしはホイールを逆に回し、後進する。 ミスティさんの火線は、わたしの足下から左側へと引かれていく。 わたしはまた膝を曲げると、今度は小さく前に跳ねた。 狭い路地、右側の壁に乗り、走り出す。 ミスティさんも前に出た。 緑色の副腕が振り上げられる。 今度こそ、見た。間違いない。 あの副腕は、イーダ・タイプのものにもかかわらず、独立して動いている! 巨大な副腕に装着された凶悪な爪が、壁をえぐりながら突き進んでくる。 わたしは壁を蹴って、爪をかわす。ミスティさんの射線をかいくぐり、壁から壁へと飛びうつる。 □ ティアの言葉は正しかった。 イーダの副腕「エアロ・チャクラム」は、トライクへの変形機構のため、単独では動かない。 神姫本体がレバーを握り、副腕を操る必要がある。 副腕と言うよりも、腕に追従するパワーアームと言うべきかも知れない。 しかし、ミスティのエアロ・チャクラムは独立して動く。カスタムパーツを仕込んであるのだろう。 そうなると、ミスティはある神姫のタイプと酷似する。 「ティア、いまのミスティはストラーフ・タイプだ」 そう、武装神姫初期の傑作にして、いまだに人気の高い悪魔型。いまのトライク形態でないミスティは、まさにストラーフだった。 『三次元機動が得意なのは、あなただけじゃないわ!』 ミスティはティアを追撃する。 壁から壁へ、ビルからビルへ。 廃墟の街を縦横無尽に飛び回る二体の神姫は、まるで二重螺旋のように絡み合いながら戦い続ける。 ■ マスターのアドバイスのおかげで、わたしはミスティさんへの認識を切り替えることができた。 目の前にいるこの神姫はストラーフ・タイプ。 そう思ってみれば、戦い方もストラーフにそっくりだった。 でも、ミスティさんの戦い方は、熟達したストラーフのそれだった。かつて戦ったストラーフの中でも、これほどの実力者はいない。 上下左右の壁を蹴り、走り、攻撃を仕掛けるけれど、わたしの動きにことごとくついてくる。 隙を見せれば、副腕がわたしを狙い、銃撃がかすめる。 一瞬たりとも気の抜けない近距離戦闘。 お互いの動きを読み、自分の動きを合わせ、相手の動きを見切る。 まるで、ダンスのステップを踏んでいるかのよう。 わたしとミスティさんは、砂塵舞う廃墟の中で、踊るように、舞うように、戦い続ける。 □ いつのまにか観客の笑い声は聞こえなくなっていた。 ミスティの戦いぶりを見れば、笑いを誘った装備が伊達ではないことが分かる。 そしてミスティの実力は、並の純正ストラーフを凌駕していた。 もはや黙るしかない。 俺は筐体の向こうの少女を見た。 真剣な眼差しで、神姫の戦いぶりを見ている。 唇には不敵な笑みを浮かべたまま。 観客の反応など全く意に介していない。 エトランゼと呼ばれるこの神姫プレイヤーは、知らない場所でバトルする度に、こうして実力で観客たちを黙らせてきたのだろう。 俺は椅子に座り直す。 願ってもない実力者とのバトルだ。 今のティアと俺の実力を試す絶好の機会だった。全力で勝ちに行く。 ◆ 『ねえ、今日のわたし、どこかおかしい!?』 「いつになく絶好調だけど?」 『じゃあ、なんでわたしの攻撃が当たらないの!?』 「うまいタイミングで機動をずらされたり、反撃されて攻撃を押さえられたりしてるわね……神姫の判断? マスターの指示かしら」 『平然と評価している場合? こっちの方が劣勢なんだからね!』 「それじゃあ、仕切直しましょ」 ■ 巨大な両腕を叩きつけ、追撃の銃撃がわたしの足下を削ると、ミスティさんはここで距離を取った。 いまのは牽制か。 いままではもつれ合うように、息つく暇もないバトルを繰り広げていた。 ここであえて距離をあけるのは何かの策か、それとも……。 逡巡しているうちに、ミスティさんはさらに後方へと跳び、廃墟のビルを越えて姿を消した。 どうしよう? 追うべきだろうか? わたしはビルの上に立ち、体勢を整えると、耳を澄ませた。 遙か彼方にホイール音が聞こえる。 ミスティさんは、またトライクに変形したみたいだ。 『ティア』 「マスター」 マスターから通信が来た。 私が迷うとき、必ずマスターが指示をくれる。 だからわたしは立ち止まることなく、走ることができる。 『とりあえず最初と同じ、路地を抜けてミスティを追跡だ』 「はい」 『そして、俺が合図したタイミングで飛び出して仕掛けろ』 「はい」 『決めにいくぞ』 「はいっ!」 マスターには必勝の策があるみたいだ。 あのミスティさんに勝つ策なんて、わたしには考えも及ばないけれど。 マスターの考えを、わたしが体現できれば、必ず勝つことができる。 だって、マスターは、決めにいく、と断言したのだから。 わたしは走り出す。 ミスティさんを追って、細い路地を駆け抜ける。 □ ミスティを伺う間に、ティアに細かく指示を出した。 ミスティは待ちの体勢で、メインストリートをただ走り続けている。 おそらく、自ら討って出てくることはするまい。ティアが仕掛けてくるのを待っている。 ならばお望み通り、こちらから仕掛けるとしよう。 次の攻撃が勝負だ。 ミスティがメインストリートを折り返した。 速度を落としてぐるりとU字に回り込み、再びメインストリートに向けて加速をする。 ここだ。 「ティア、いまだ!」 『はいっ』 合図とともに、俺はサイドボードを操作。 ティアの手の中に、大型のハンドガンを送り込む。 ティアはストリートに躍り出た。 『ティア!?』 ミスティが思わず声を上げている。 トライク形態での巡航の際は、背後から攻めるのがセオリーだ。 火力で劣るティアが、まさか真っ正面から来るとは思わなかったのだろう。 ティアはミスティと向かい合った。 二人とも走りながら。 ティアはミスティの速度に合わせ、後ろ向きに走っているのだ。 つかず離れずの位置をキープし、二人は疾駆する。 トライク形態のミスティの上部に据えられた、二門の「アサルトカービン・エクステンド」が火を噴いた。 真正面ならば遠慮するつもりはない、とばかりに、盛大に弾丸をまき散らす。 ティアはかわす。 後ろ向きに走りながら、ミスティを見据えたままで。 その雨霰と降り注ぐ銃弾のことごとくを、流れるようなステップでかわしてみせる。 『くっ』 ミスティが逡巡した一瞬、銃弾が途切れたその瞬間をティアは見逃さなかった。 手にした銃はブラスター。エネルギー弾を打ち出すハンドガンである。 反動があるので連射はしずらいが、一撃の破壊力が高い。 ティアは踊るように身を翻し、三連射した。 銃を水平に向け、反動を上に逃がすのではなく、横に逃がし、舞踏のような回転で反動を吸収、すぐに次の斉射を可能にする。 ティアの装備と技術だからこそ可能な射撃だった。 はたして、ティアのはなったエネルギー弾は、右副腕の肩口とミスティのヘルメットの右側面に命中した。 『こっ……のおおおおおぉぉ!!』 ミスティは止まるどころか、加速しながら突っ込んできた。 ティアも後ろ向きで加速する。 ミスティが闇雲にアサルトカービンをぶっ放すが、ティアには当たらない。 ティアは反撃とばかりにブラスターを撃つ。 ミスティをかすめる。 ティアがブラスターを投げ捨てた。 「いまよ!」 『おおおっ!』 マスターの声を合図に、ミスティが前輪をロックする。 車体の後方が前のめりに突っ込む。 サスペンションが沈み込む。 ミスティのストラーフ形態への変形パターンだ。 極限まで押し込まれたバネが反発し、ミスティの体を押し上げる。 右副腕が根本から砕ける。 『ええええぇぇっ!!?』 一瞬にして支えを失ったミスティは、勢い余って、地面につんのめるように激突した。 ミスティの体が路面に激しくこすりつけられる。右の副腕が吹き飛ぶ。焼け焦げたバイザーが破砕する。 それでもミスティは、残る副腕と脚部パーツを突っ張らせて勢いを殺し、ようやくに停止した。 しかし、これは隙。 俺はティアに向けてマシンガンを送り込む。 「撃て」 俺の指示から、間髪入れずに、ティアは引き金を絞った。 相手は至近距離で動きを止めている。 はずすはずのない攻撃。 だが、今度は俺が驚く番だった。 「なにっ!?」 ミスティは一挙動で起きあがると、すぐさまティアに背中を向けた。 必中の銃弾は、ミスティの装備に着弾する。 ウイングが吹き飛び、後輪が炸裂する。 そして、ティアの銃撃を受けながら、ミスティはバックジャンプする。ティアに向けて。 そして、背中の装備をパージした。 『わ、わわっ』 あわててティアがホイールを滑らせる。その拍子にマシンガンを落とした。 大きな動きでミスティのはなった「爆撃」をかわし、大きく回り込む。 轟音を立てて、ミスティの背部モジュールが地に落ちた。 ティアが安堵の吐息をつき、再びストリートに視線を向けた。 その視線の先。 副腕をなくしたミスティが立っていた。 ■ 背部の装備をなくしたミスティさんは、それでも気負った様子は見られなかった。 右手にオリジナル装備のマシンガン、左手にイーダ装備の太刀「エアロ・ヴァジュラ」。 両脚のサバーカはいまだに健在である。 ミスティさんは左手の刀を地面に突き刺すと、右半分が壊れたバイザーを脱ぎ捨てた。 ストリートに乾いた音が響く。 「同じね、これで」 呟くようにミスティさんが言う。 「脚部強化パーツだけの軽量装備……ここまでおいつめられたのは、ティア、あなたが初めてよ?」 穏やかな口調だが、いまだに闘志を宿した強い眼差し。 先ほどの言葉の応えとして、 「こ、光栄です……」 というのは的外れだっただろうか。 ミスティさんとは距離を置いて向かい合っている。 幅の広いメインストリートの中央、遮るものは何もない。 次の攻撃はお互いに小細工なし、必中の一撃を狙うだろう。 わたしはマシンガンを落としてしまっている。 手元の武器はない。 マスターが送り込んでくれるのを待つ。 と、ミスティさんがマシンガンを一瞥すると、なんとそれをバイザー同様投げ捨てた。 そして改めて、刀を構え直した。 なぜそんなことをするのか。 理由は一つ。 ミスティさんは……真っ向勝負、正々堂々の決着を望んでいる……。 □ ミスティの行動は不可解きわまりない。 いまのティアは何も武器を持っていない。 マシンガンを使えば、ティアの動きをある程度封じつつ、先手を取って、戦闘を有利に進めることもできたはずだ。 しかし、ミスティは銃を捨て、刀を構えた。 これは誘いか。あるいは、よほどに近接戦闘に自信があるのか。 敵の不可解な行動は、むしろこちらにはチャンスだった。 俺は当然、ティアの手に銃を送り込もうと、サイドボードに指を伸ばしたのだが……。 『マスター』 「なんだ?」 『コンバットナイフをください……お願いです……』 と、こうきた。 珍しくティアが武装を要求してきたと思ったら、近接武器で真っ向勝負とは。 こちらの有利をけっとばして、敵の誘いに乗り、わざわざ五分以下の状況を望んでいる。 俺は少し呆れながら、ふと、筐体の向こう側をみやった。 目が合う。 ミスティのマスターは肩をすくめ、苦笑した。 どうやら、ミスティも、勝手に刀で勝負を挑んでいるらしい。 ならば誘いでも何でもない。 ミスティは正々堂々の勝負を挑んできているのだ。 そして、ティアはそれに応えようとしている。 勝ち負けにこだわるなら、迷わずサイドボードから銃を選べばいい。 だが、俺はあえて、ティアの望み通り近接武器を選択した。 あのティアが、俺に武装を要求してくるなど、滅多にないことだ。いや、初めてかも知れない。 こんな希有な出来事の価値に比べれば、この試合の勝ち負けなど、どれほどのこともないのだ。 まあ、俺自身、こういう熱い展開が嫌いではないのだが。 コンバットナイフを手にしたティアは、うっすらと微笑んだ。 それを見て、ミスティが凄みをたたえて微笑んだ。 『ティア、やっぱりあなたって最高』 そして、刀を肩口から突き出すように構え直した。 『久住菜々子が武装神姫、ミスティ! 推して参る!』 俺はこのとき初めて、筐体の向こうにいる少女の名前を知った。 『遠野貴樹が神姫、ティア! いざ尋常に勝負!』 可愛い声と口上の内容が非常にアンバランスだ。 俺も肩をすくめて苦笑する。 こうなったらもう、作戦も何もない。 神姫の地力で勝負が決まる。 マスターが入り込む余地などもうないのだった。 だが、これはこれで、見逃せない展開ではある。 高まりゆく緊張感に、俺は無意識のうちに拳を握りしめていた。 二人の神姫は、構えたまま動かない。 二人の間合いはとても刃の届く距離ではない。 だが、そこは脚部を強化した神姫だけに、動き出せば一足飛びに間合いに入る。 緊張が張りつめている。 バーチャル空間の緊張が現出したかのように、観客たちも水を打ったように静かだった。 二人の緊張を破ったのも、やはり吹き続けている風だった。 砂塵が巻く。 お互いを覆い隠すほどの砂煙が二人の間を吹き抜ける。 動く。 二人の神姫は一瞬で被我の距離を埋める。 斬り裂かれる砂のカーテン。 砂の幕が霧散し、お互いの姿が立ち現れた瞬間、二人は斬り結んだ。 ミスティは突き。武器のリーチを生かして先手を取る。 ティアは構えたまま、速度をゆるめずに突進。 交差。 二つの影が飛び抜けて、静止する。 ミスティは突きの姿勢で、腕を伸ばし、刀を突き出したまま。 ティアは、ナイフを振り抜いた姿勢で、膝をついている。 はたして、ティアの振り抜いた右手にナイフはなかった。 それは、ミスティの胸元に突き立っていた。 「ティア……」 ミスティのつぶやき。 名を呼ばれた神姫はゆっくりと立ち上がる。 風が吹いた。 ミスティがポリゴンの欠片になって、砂塵に溶けてゆく。 ティアは振り向きもせずに、ただ虚空を見つめたまま立ち尽くしている。 やがて、ミスティが風に散らされて消えた頃、ジャッジAIが勝敗を決した。 『WINNER:ティア』 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/marsdaybreaker/pages/698.html
能力一覧 あ、か、さ、た、な、は、ま、や、ら、わ 能力開示されていない個人ACEは現在記載しておりません。 個人ACE名 PC名 藩国名 【あ】 蒼の忠孝 蒼のあおひと 涼州藩国 あおひとの三つ子 蒼のあおひと 涼州藩国 秋津隼人(神奈版) 風杜神奈 暁の円卓藩国 アキリーズ・ヒガ・ボーランドウッド 龍樹・翡鹿・ボーランドウッド 土場藩国 浅田遥 浅田 キノウツン藩国 アスタシオン・ヒルダ ヒオ・スクル・ヒルダ 天領 アズキ 四方 無畏 羅幻王国 霰矢惣一郎 霰矢蝶子 レンジャー連邦 アレシア・アマデオ サカキ 星鋼京 アヤトラ 瑛の南天 後ほねっこ男爵領 アントニオ 高原鋼一郎 キノウツン藩国 石塚弘史 まき 鍋の国 岩崎仲俊 444 akiharu国 岩崎仲寿 岩崎経 詩歌星国 英吏・M・シバムラ アポロ・M・シバムラ 玄霧藩国 エステル・フィーリ・シグレ艦氏族 アキラ・フィーリ・シグレ艦氏族 Flores valerosas bonitas エミリオ・スターチス ソーニャ/ヴァラ/モウン艦氏族/スターチス 世界忍者国 オーレ 川原雅 フィールド・エレメンツ・グローリー 奥羽恭兵 奥羽りんく 涼州藩国 【か】 海法ゆかり 海法 紀光 海法よけ藩国 火焔の四つ子 比野青狸 キノウツン藩国 海兵指揮官石塚 まき 鍋の国 神楽坂風住 鷺坂祐介 天領 影武者団 悪童屋 四季 涼州藩国 学校の守護者 風杜神奈 暁の円卓藩国 カトー・多岐川 多岐川佑華 フィールド・エレメンツ・グローリー 花陵・アマネセル・奏一郎 花陵ふみ 詩歌藩国 カレン・オレンジピール 鈴藤 瑞樹 詩歌藩国 かわいい子供達 船橋鷹大 キノウツン藩国 かわいい三つ子 悪童屋 四季 涼州藩国 かわいい4つ子 藤村 早紀乃 鍋の国 川原昇 川原雅 フィールド・エレメンツ・グローリー カール・瀧野・ドラケン むつき・萩野・ドラケン レンジャー連邦 カール・T・ドラッヘン 舞花・T・ドラッヘン 天領 管理委員長直美 小宇宙 キノウツン藩国 騎士の校長先生 風杜神奈 暁の円卓藩国 霧賀小助 霧賀火澄 フィールド・エレメンツ・グローリー 銀内優斗 銀内 ユウ 鍋の国 クイーンオブハート アポロ・M・シバムラ 玄霧藩国 久珂こよみ 久珂あゆみ フィールド・エレメンツ・グローリー 久珂晋太郎 久珂あゆみ フィールド・エレメンツ・グローリー 久珂竜太郎 久珂あゆみ フィールド・エレメンツ・グローリー 靴下猫 緋璃・ロッシ 天領 久藤百佳 久藤睦月 玄霧藩国 グランパ タルク 満天星国 グリンガムJr 時野あやの 涼州藩国 グリンガム00 時野あやの 涼州藩国 来須・A・銀河 来須・A・鷹臣 るしにゃん王国 暮里藍実 守上藤丸 ナニワアームズ商藩国 クロ・エプイスペン・フシミ セタ・ロスティフンケ・フシミ 星鋼京 比野火焔 比野青狸 キノウツン藩国 玄霧火焔 玄霧弦耶 玄霧藩国 黒太子アルス 悪童屋 四季 涼州藩国 黒野ふみこ 黒野無明 世界忍者国 月華陽子 月光ほろほろ たけきの藩国 コウタ 竜宮・司 詩歌藩国 古島航 古島三つ実 羅幻王国 コゼット 是空とおる フィールド・エレメンツ・グローリー コック 是空とおる フィールド・エレメンツ・グローリー 琥村佳々子 琥村 祥子 リワマヒ国 コーヒー 猫野和錆 天領 【さ】 斉藤奈津子 室賀兼一 リワマヒ国 坂神 鷺坂祐介 天領 榊玄乃丈 榊遊 愛鳴之藩国 鷺宮 龍燈 藻女 神聖巫連盟 里樹妹人 里樹澪 ビギナーズ王国 サーラ先生 VZA キノウツン藩国 サクの双子 矢神サク レンジャー連邦 階川敦子 階川雅成 玄霧藩国 柴犬営業部長 松井 フィールド・エレメンツ・グローリー 芝村瑛吏 瑛の南天 後ほねっこ男爵領 ジョージ・タフト 東 恭一郎 リワマヒ国 しらいし あさぎ 土場藩国 白石暁 白石裕 暁の円卓藩国 白石ほむら 白石裕 暁の円卓藩国 白石円 白石裕 暁の円卓藩国 シルヴァ・ポー コール・ポー 芥辺境藩国 白にして無秩序のオンサ 都築つらね 満天星国 水仙堂 ヴァンシスカ 水仙堂 雹 神聖巫連盟 スイトピー=パペチュアル 悪童屋 四季 涼州藩国 成熟スイトピー 悪童屋 四季 涼州藩国 数学河童 鷺坂祐介 天領 スキピオ・ユーキ アンズ・ユーキ 天領 スポーツカー 霰矢蝶子 レンジャー連邦 セイイチロー・黒崎 黒崎克耶 海法よけ藩国 ぜくうとおる 左木 フィールド・エレメンツ・グローリー 是空素子 是空とおる フィールド・エレメンツ・グローリー 瀬戸口高之 瀬戸口まつり 涼州藩国 瀬戸口ののみ 瀬戸口まつり 涼州藩国 セーラ シュワ 土場藩国 ソウイチロー・黒崎 黒崎克耶 海法よけ藩国 ソウイチロー・ヤガミ・アル・ナスライン シコウ・アル・ナスライン 天領預り 霜晨 飛翔 海法よけ藩国 蒼龍 ポレポレ=キブルゥ 星鋼京 宗麟坊 風杜神奈 暁の円卓藩国 【た】 太陽号 山吹弓美 愛鳴之藩国 高原アララ 高原鋼一郎 キノウツン藩国 高原翠蓮 高原鋼一郎 キノウツン藩国 高原雷鋼 高原鋼一郎 キノウツン藩国 高守バロ 高守千喜 紅葉国 竹上総一郎 竹上木乃 たけきの藩国 ダガーウーマン 是空とおる フィールド・エレメンツ・グローリー 椿丸 風杜神奈 暁の円卓藩国 手下猫1ダース NEKOBITO 涼州藩国 時野健司 時野あやの 涼州藩国 時野つばさ 時野あやの 涼州藩国 トラナ=クイーンハート 風杜神奈 暁の円卓藩国 ドラリオン 東西 天狐 玄霧藩国 【な】 二匹の猫 むつき・萩野・ドラケン レンジャー連邦 猫のネーヴェ 緋璃・ロッシ 天領 猫野月子 猫野和錆 天領 鋸星信児 鋸星耀平 満天星国 【は】 ハードボイルドペンギン(風野緋璃版) 緋璃・ロッシ 天領 バルク・O・クレーエ ミーア 愛鳴之藩国 ハレキ 久珂あゆみ フィールド・エレメンツ・グローリー バロ・K・双海 双海環 芥辺境藩国 早撃ちマック 雅戌 玄霧藩国 Bヤガミ 鍋嶋 つづみ 鍋の国 ファンタジア 風杜神奈 暁の円卓藩国 風神 鷺坂祐介 天領 緋色のペンギン 緋璃・ロッシ 天領 ピクシーQ・ソーマ=キユウ 那限・ソーマ=キユウ・逢真 フィールド・エレメンツ・グローリー VZ・真央 VZA キノウツン藩国 緋乃江あやめ 緋乃江戌人 るしにゃん王国 日向玄ノ丈 日向美弥 紅葉国 藤村 トラオ 藤村 早紀乃 鍋の国 藤原総一郎 藤原ひろ子 フィールド・エレメンツ・グローリー 船橋空歌 船橋鷹大 キノウツン藩国 ヘイリー・オコーネル 乃亜・クラウ・オコーネル ナニワアームズ商藩国 ヘリオス 黒崎克耶 海法よけ藩国 ベリサリウス 悪童屋 四季 涼州藩国 ベルカインY 山吹弓美 愛鳴之藩国 炎の王池内志野 風杜神奈 暁の円卓藩国 【ま】 松井総一郎 松井 リワマヒ国 マユミ=紅葉=深浦 紅葉ルウシィ 紅葉国 不変空小春 不変空沙子 Flores valerosas bonitas 壬生屋未央 西條華音 満天星国 森晴華 駒地真子 詩歌星国 【や】 八神少年2 あさぎ 土場藩国 ヤガミ・ソーイチロー ヤガミ・ユマ 鍋の国 矢上・M・総一郎 矢上ミサ 鍋の国 八守創一朗 八守時緒 鍋の国 矢上爽一郎 矢上麗華 土場藩国 矢神総一郎 矢神サク レンジャー連邦 優しい久保雄一郎 川原雅 フィールド・エレメンツ・グローリー 夜國晋太郎 夜國涼華 海法よけ藩国 結城小夜 西條華音 満天星国 優羽玄乃丈 優羽カヲリ 世界忍者国 弓下アリアン あさぎ 土場藩国 【ら】 雷神 鷺坂祐介 天領 竜宮・ユウタ・ヒメリアス・ドラグゥーン 竜宮・司・ヒメリアス・ドラグゥーン 詩歌藩国 璃瀬の姉、アリア猫 緋璃・ロッシ 天領 璃瀬・プラチナム 緋璃・ロッシ 天領 ロイ・ケイリン 桂林怜夜 世界忍者国 【わ】 若宮泰光 若宮 とよたろう 鍋の国
https://w.atwiki.jp/support00/pages/1022.html
■藩国情報 30:芥辺境藩国 保有兵器表URL:http //maki.wanwan-empire.net/owner_accounts/31/weapons ■整備対象になる機材 藩国で使用した機材:整備しない ターン15編成表:http //www27.atwiki.jp/support00/pages/1001.html 蒼天・快晴型:20人機×2=40人機 備考:登録管理を申請する予定です。 リワマヒ国で使用した機材:整備する ターン15編成表:http //www24.atwiki.jp/riwamahi/pages/637.html 謙者:2人機×11=22人機 #栄光の野戦炊飯具1号も13機使用していますがこちらは新ルールから携行アイテム扱いになっているため整備不要として省略しています。 #栄光の野戦炊飯具1号:http //farem.s101.xrea.com/idresswiki/?%B1%C9%B8%F7%A4%CE%CC%EE%C0%EF%BF%E6%C8%D3%B6%F1%A3%B1%B9%E6 目玉騎士団で使用した機材:整備する ターン15編成表:http //www24.atwiki.jp/riwamahi/pages/640.html きゃりっじAWACS:10人機×1=10人機 ■整備難易度:整備する 整備対象人機合計:32人機 早見票による整備難易:整備難易22 ■施設の特殊による整備行為への修正 ございません。 ■部隊編成 エントリー:http //www27.atwiki.jp/support00/pages/1001.html 部隊名: 芥辺境航空部隊 初期AR:10 #機体から降りることを前提としているため 「整備処理」 (部隊名)のとる行動={ *パーティ分割(小部隊に分割するだけ),なし,なし,3,0 #準備AR5→2 機体から降り、 芥辺境整備班 として行動します *整備の準備をする,なし,なし,1,0 #準備AR2→1 *整備の準備をする,なし,なし,1,0 #準備AR1→0 *整備の準備をする,なし,なし,1,0 #AR10→9 #整備評価+3 *聯合国へ移動する,なし,なし,4,0 #AR9→5 リワマヒ国に移動します *その国が保有する整備対象兵器の整備を行う,整備,22,5,0 #AR5→0 #提出評価値は31 #差分9で自動成功となります。 }
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2144.html
ウサギのナミダ ACT 1-23 □ 「雪華さんとの対戦、受けてください……お願いします」 「なぜだ? 今俺たちがバトルしたって……ろくなことにはならないぞ」 「だって、こんなチャンスは滅多にないじゃないですか……秋葉原のチャンピオンと戦うなんて」 そういうおまえは、なんで今にも泣き出しそうな顔してるんだ? なんでそんなに必死そうなんだよ。 「お願いします、マスター……お願いします……」 何度も俺に頭を下げて頼み込むティア。 ティアが相手とのバトルを望むなんて、滅多にないことだ。 だからこそ、理由が分からない。 なんでそんなに雪華と戦いたがる? 東東京地区代表という肩書きが、ティアにとってそんなに魅力的だとは思えないのだが。 「……走れるのか?」 「はい」 結局、折れるのは俺の方だった。 肩をすくめ、ため息をつく。 ティアがそういうのならば仕方がない。 まだもめている、三人の客分の一人に、俺は声をかけた。 「……クイーン」 「なんでしょう」 「俺たちは……知っての通り、ティアの出自のことで、世間からも白眼視されているような状況だ。 ……そんな俺たちとでも、戦えるのか?」 そう。俺たちと戦うだけでも、彼らに迷惑がかかる可能性がある。 それを考えれば、すでに全国大会の代表を決めている神姫と、気安くバトルをすることなどできない。 取材されて、俺たちと対戦したことを白日の下にさらすなどもってのほかだ。 俺はそう思っていた。 だが。 「彼女の出自とバトルに、何の関係があるというのです?」 雪華は即答した。 彼女は噂や風聞で神姫を評価していない。ただ、バトルあるのみ。その姿勢こそが雪華の強さなのか。 「……わかった。対戦を受けよう」 俺の言葉に、ギャラリーがざわめく。 高村と三枝さんも、驚いたように俺を見た。 「ただし、条件がある。 そっちの事情があるにせよ、やはりマスコミの取材は受け入れられない。そこで……」 俺はこんな条件を提示した。 まず、この対戦について、一切記事にしないこと。俺とティアに対するインタビューはもちろん拒否だ。 ただ、何もなしでは三枝さんが困るだろうから、バトルの記録は許可。 また、高村たちへのインタビューなどは俺に拒否する権利がないので、記事にしない限り好きにしてもらえればいい。 妥協案ではあるが、三枝さんとクイーンの両方に面目が立つだろう。 それから、バトルのフィールドは俺が指定する。もちろん廃墟ステージだ。 「この条件が飲めるなら、対戦してもいい」 「わかりました。すべてあなたの指定通りに」 雪華の即答に、三枝さんと高村が泡を食った。 「ちょっと、雪華、相談もなし!?」 「何か不都合でも? 完全拒否よりも十分な譲歩案だと思いますが」 「でも、記事にできないっていうのは……」 「彼らはそれが困ると言っているのです。 それに、記事にするだけなら、先ほどの『エトランゼ』とのバトルで十分でしょう」 むむむ、と唸って、三枝さんは渋々承諾した。 一方の高村は、その様子を見て、先ほどの落ち着いた笑みを取り戻している。 すると、今度はギャラリーの方から声が上がった。 「おい、黒兎! クイーンとのバトルにステージの指定をするなんて、失礼だと思わないのかっ!? しかも、廃墟ステージなんて、黒兎得意のステージじゃないか! 卑怯だろ! そうまでして勝ちたいのかよっ!?」 声は、『ブラッディ・ワイバーン』のマスターのものだった。 最近、奴は何かと俺に突っかかってくる。何が気に入らないというのだろう。 ギャラリーも大半が、ワイバーンのマスターの意見に賛同して、俺にブーイングを送ってくる。 だが、何も分かっていないのは連中の方だ。 クイーンとそのマスターの意図を理解していれば、そんなことは言わない。 「……廃墟ステージの指定に、何か依存は?」 「ありませんよ? というか、僕たちの方から廃墟ステージでのバトルを提案するつもりでしたから」 笑顔の高村の言葉に、俺は頷く。ワイバーンのマスターは顔を引きつらせた。 高村たちは、ティアが廃墟や都市ステージでないとパフォーマンスを発揮できないことを知っている。 唯一無二の戦い方をする神姫とのバトルこそが望みなのだ。 そのパフォーマンスを遺憾なく発揮できるステージでなければ、彼らにとっても意味はない。 俺のステージ指定に反対するはずがないのだ。 高村の一言に、ギャラリーたちは口を噤まざるを得なかった。 俺の後ろでくすくすと笑っているのは、ミスティだろうか。 「これでいいでしょう。『ハイスピードバニー』のバトル、しかと見せてもらいます」 芝居がかった口調で、クイーンの雪華は俺とティアに言った。 「わたしも、負けません……!」 静かに言ったティアの言葉に、俺は驚きを隠せない。 かつて、これほどに闘志を燃やしているティアを見たことがない。 ティアの心境にどういう変化が起こっているのか。 ティアの台詞に、雪華は不敵な笑みを浮かべていた。 俺と高村は、バトルロンドの筐体を挟んで着席した。 ギャラリーから歓声が上がる。 そのほとんどが、クイーンへの声援だ。 やれやれ。これじゃあ、どちらがホームでどちらがアウェーかわからない。 今日の俺たちは完璧に悪役だった。 ならば、それでもかまわない。とことん悪役を演じてやろうじゃないか。 俺はバトルロンドの筐体に武装をセットアップしていく。 ティアをモニターするモバイルPCも開いた。 指示用のワイヤレスヘッドセットを耳に装着する。 久しぶりだった。この緊張感、久しく忘れていた。 準備をする俺の後ろに、ギャラリーが立った。 久住さんと大城、それから四人の女の子たち。 「いいのか? 俺の後ろで」 俺が言うと、みんながみんな頷いていた。 「言ったろ。俺たちはお前の味方だ」 「わたしはあなたの側につくって宣言しちゃったし」 久住さんに至っては、肩をすくめながらそんなことを言うので、俺はびっくりしてしまった。 四人のライトアーマーのオーナーたちは、久住さんの味方らしい。 味方がいてくれるのはありがたいことだ。 久住さんが、不意に険しい表情になって、俺に囁いた。 「気をつけて……クイーンは並の武装神姫じゃないわ」 「……そりゃあ、仮にも全国大会選手なんだから……」 俺の言葉に、久住さんが首を振った。 「もうなんて言ったらいいのか……次元が違うの」 俺は怪訝な顔をしたと思う。 久住さんの言葉は要領を得ていない。 彼女にしては歯切れの悪い答えだった。 ミスティが続ける。 「そうね……わたしたちの得意の距離に踏み込んで、真っ向勝負で、逃げなくて、こっちはあらゆる手を尽くして……それであしらわれた、って言ったら分かる?」 「……は?」 にわかには信じがたい。 身内びいきを差し引いても、ミスティは全国大会レベルの選手と互角に戦えるだけの実力がある。 アーンヴァルの飛行能力で、徹底的にミスティの弱点を突いたならともかく、ガチンコ勝負であしらうなどとは、想像もつかない。 だが、久住さんとミスティはまったく真剣な顔をしていたし、大城も虎実も頷いている。女の子たちも真面目な顔で、冗談にしてくれそうな雰囲気ではなかった。 俺も、海藤の家で、雪華のバトルは見た。 あのときの手並みも鮮やかだった。 しかし、あのバトルはアーンヴァル同士の空中戦だったから、参考にならない。 俺は戦慄する。 もしかして、とんでもない化け物を相手にするのではないのか? 「ごめんなさい。参考になるようなこと、言えなくて……」 「気にすることないよ。とんでもない相手だってことがわかっただけでも十分さ」 悔しそうな顔をした久住さんに、俺は笑いかけた。 すると、久住さんはちょっと驚いた。 「……なにか、あった?」 「なんで?」 「先週みたいに思い詰めてなくて、なんだか……ふっきれたみたい」 「ああ」 彼女はまだ知らないのかもしれない。今日の朝の報道を。 久住さんがきっかけを作ってくれたおかげで、今俺はこうして笑えている。 「だとしたら、久住さんのおかげだ」 俺が言うと、久住さんは驚いた顔をしたあと、視線をそらしてうつむいた。 ……何か悪いことを言っただろうか。 彼女の肩で、ミスティがほくそ笑んでいるのが見えた。 俺は不可解な思いに捕らわれながらも、筐体の向こうを見た。 高村が準備をすませ、こちらを見ている。 「相談は終わりましたか?」 俺はティアを見た。 「ティア、いけるか?」 「はい。大丈夫です」 ティアの返事はいつもよりもしっかりとしていて、緊張していた。 このティアの心境が、バトルにどんな影響を及ぼすだろうか? それが少し心配ではあったが。 俺は高村に告げる。 「準備OKだ。……始めよう」 「それでは」 双方のアクセスポッドが閉じて、筐体と神姫がリンクする。 スタートボタンを押す。 ファンファーレと共にディスプレイにフィールドが表示され、対戦者の名前が重なる。 『雪華 VS ティア』 バトルスタートだ。 ■ 廃墟を吹き抜ける砂塵。 いつものフィールド。得意のフィールド。 わたしはメインストリートを巡航速度で走る。 久しぶりのバトルロンドは懐かしい感じがする。 再びここに戻ってこられるとは思ってもいなかった。 今日の相手はとびきりの対戦者。 このバトルは、わたしにとっては大きな、そして唯一のチャンスだった。 だから、マスターに無理を言ってまで、対戦を受けてもらった。 わたしは、今日の対戦者に感謝しなくてはならない。 わたしを助けてくれたこと。そのときはバッテリーが切れていたので、覚えてないけれど……。 そして、わたしと対戦してくれること。 風が巻いた。 わたしの頭上を、高速で何かが駆け抜けていく。 攻撃を警戒していたけれど、ただ追い越していった。 そして、上空で優美にターンすると、わたしと向かい合う位置で、空中で静止した。 わたしは、武装した相手の姿を見て、声を失う。 美しい。 そして、圧倒的な存在感。 基本の武装はアーンヴァル・トランシェ2だけれど、細かいところが異なっている。 羽は鳥を思わせる形状の機械の羽。 捧げ持つ武器は、長大な黄金の錫杖。 気流に舞い上がる銀髪が大きく広がっている。 まるで光の粒子をまとっているかのよう。 その姿は、まさに天使。 いまならわかる。 彼女がなぜ『アーンヴァル・クイーン』と呼ばれるのか。 その堂々たる姿は、まさしく天使の女王と呼ぶにふさわしかった。 それに比べればわたしなんて、地を飛び跳ねる小さな兎に過ぎない。 「待ちこがれていました。貴女との対戦を」 白き鷹のごとき神姫は、子兎のようなわたしにそう言った。 「……なぜですか。なぜ、わたしと、なんですか」 「貴女の独自の装備と技を、身を持って感じたいからです」 それだけ? たったそれだけのために、わざわざ遠くまでやってきて、わたしと戦いたいというの? 全国大会も制覇しようという武装神姫が? わたしにはわからない。 雪華さんにとっては、それほどの価値があるようだけど、わたしはそうは思わない。 わたしなんかと戦って得るものがあるなどとは到底思えなかった。 けれど、このバトルは、わたしにとってはチャンスだった。 そう思って、自分を奮い立たせる。 わたしは小さな兎なのだとしても。 戦ってみせる。……そして勝つ。 「ならば……真剣勝負です、雪華さん!」 「望むところです、ティア!」 雪華さんとわたしの、戦いの輪舞がはじまった。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/mcsv/pages/16.html
[Main] Pos=9,9,930,308,65,178,56,196,80,40,40,40,40,80,40,40,40,40,80,40,40,40,40,80,40,40,40,40,80,40,40,40,40,0 Row=297 [Font] Color=-2147483640 Size=12 Name=HAM 明朝 [Set] Band=32768 Rmks=272
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2162.html
ウサギのナミダ ACT 1-29 □ 結論から言うと、雪華とティアのバトルは、伝説になった。 別に、俺や高村、ティアと雪華がそう望んだわけではない。 これはある意味、雑誌記者の三枝さんの、俺に対する報復と見ている。 あのバトルから数日後、「バトルロンド・ダイジェスト」の記者である、三枝めぐみさんから、直接俺に電話があった。 どこから俺の電話番号を入手したのだろう? そう尋ねると、 「情報源に対する守秘義務があるので、答えられないわん♪」 と、はぐらかされた。 三枝さんという女性は、終始こんな風にふざけたような口調で話す。 三枝さんの用件は、先日の、ティアと雪華のバトルを記事にさせて欲しい、ということだった。 「その件は、最初に断ったはずですが」 「だから、直談判するために、電話したのよぅ」 三枝さんはとにかく記事にしたいということを熱っぽく語った。 だが俺は、頑として首を縦には振らなかった。 神姫風俗が大幅に縮小された今、自ら波風を立てることはない。 それに、高村たちにも影響があるかも知れない。 彼らは全国大会を控える身の上だ。変な噂を立てられて、迷惑をかけるかも知れない。 そういうことを説明した上で、とりつく島もなく断ったのだが。 三枝さんはめげなかった。毎日のように電話してきた。この記事に賭ける情熱は十分すぎるほどに伝わってきた。 そして、三枝さんはこう言った。 「だったら、記事を読んで判断して。 遠野くんが気に入らないところは直すようにするから。 直接会って話をしましょ」 俺は根負けした。 ある日、大学帰りの夕方に、大学近くの喫茶店で、三枝さんと待ち合わせた。 彼女から原稿のプリントアウトを受け取り、読む。 雪華の連載記事は、俺も読み続けてきた。それだけに、読み応えのある記事に仕上がっている。 あのふざけた口調で話す人物が書いたものとは思えないほどに。 だが、それでも俺は断るつもりだった。 読み終わった原稿を渡すと、三枝さんはがばっ、と俺に頭を下げた。 「ちょ、ちょっと、三枝さん……」 「お願い! 記事にさせて! 絶対いい記事にするから! 今回のバトルを記事にできなかったら、わたし、雑誌記者として一生後悔する! 次の号に載せるには、もう時間がないの! だからお願い!」 いつもふざけた口調の三枝さんが、このときばかりは真剣な声色だった。 「そう言われても……」 「あなたがどうしても直して欲しいところは、ちゃんと直す。何か条件があるなら、それも飲む。だから……」 「……高村と雪華は、承知してるんですか?」 それが一番気にかかるところだ。 彼らに迷惑はかけたくない。 「もちろん、了承済み。もうコメントももらってるわ」 俺は小さくため息をついた。 高村たちは、俺たちとバトルしたことで非難にさらされるようなことがあっても、大丈夫なのだろうか。 だが、あの雪華なら、たとえブーイングを浴びようとも、堂々としているような気はする。 彼らが了承しているなら、あとは俺の気持ち一つということか。 「……わかりました」 俺は渋々頷いた。 納得したわけではなく、単に俺が根負けしただけだった。 三枝さんは顔を上げると、きらきらと目を輝かせ、まわりの視線も関係なく、子供のようにはしゃいだ。 ……やっぱり断ればよかっただろうか。 それでも、記事の内容には条件を出した。 バトルを記事にする上で、神姫の名前が分からないのでは話にならないので、ティアの名前は記述を許可した。 バトルの写真も、ティアの顔は出してもいいことにした。 考えてもらいたい。 「神姫T」とか書かれ、顔に目隠しされた写真が掲載されては、よけいに怪しいというものではないか。 ただし、俺の顔と名前は一切出さないように言い含めた。 俺の素性がばれたら、日常生活が危うくなる可能性があるからだ。 もちろん、俺とティアのコメント取材には一切応じない。 高村たちのコメントでも、俺たちに対する具体的な記述については許可できない、と三枝さんに言った。 三枝さんはこれらの条件をあっさり飲んだ。 あとで修正版の原稿を送ってもらい、チェックしたが、約束は守られていた。 俺は少しだけ安心して、記事にOKを出した。 せめて、ティアが掲載されているバトロンダイジェストは買おう、と思った。 だが、俺は分かってなかった。 三枝さんが嘘をついている……いや、すべてを俺に話してなかったということに。 そのバトロンダイジェストの発売日。 俺は最新号を購入すべく、コンビニに立ち寄って、雑誌コーナーに足を向けた。 雑誌コーナーの棚を見て。 俺はひっくり返った。大真面目にその場ですっころんだ。 バトルロンド・ダイジェスト最新号は置いてあった。 その表紙。 雪華と……なんとティアが写っている。 しかも、あのバトルの後、泣いているティアを雪華が抱きしめているシーン……その写真だったのだ。 表紙には大きな文字でこう書かれている。 「特集:~ 絆 ~ 武装神姫はなんのために戦うのか?」 「……聞いてないぞ……?」 俺はうめく。 完全に不意打ちだった。 とりあえず雑誌棚から、バトロンダイジェストを一冊ひったくると、大急ぎで会計をすませた。 さすがに立ち読みする勇気はなかった。 コンビニの店員がいぶかしげに俺を見ていたような気がするが、一切無視した。 なお、バトロンダイジェストの隣には例のゴシップ誌が置いてあったが、すでに神姫がらみの記事は掲載されていない。 神姫風俗摘発の後に指導が入ったらしく、謝罪文まで掲載されていた。 大城が後に教えてくれた。 アパートに帰って、雑誌を開く。 最新号の巻中のカラーページが、表紙にあった特集にまるまる当てられていた。 三枝さんが俺に見せた原稿は、記事の三分の二程度。バトルの詳細な解説が主な内容だ。 残りの隠されていた部分は、試合後の様子である。泣きじゃくるティアと、敗北を認めた雪華。 あの時の様子が詳しく書かれている。 「うわあぁ……」 一緒に記事を見ていたティアが奇妙な声を上げた。 まあ、俺もそんな声を上げたいような気分だった。 俺に見せられなかった後半部は「武装神姫はなんのために戦うのか」という問題提起になっていた。 雪華は「マスターのために戦う」ことこそが、武装神姫としての本分であることをコメントしている。 「人は武装神姫を戦わせる。それは名声のため、お金のため、バトルの楽しさであるかも知れない。 戦わせる理由はマスターによって様々だ。 しかし、神姫にとって、戦う理由は皆同じだ。。マスターの望みを叶えるために戦っている。 もう一度振り返ってみて欲しい。 神姫は何を思い、なぜ戦うのか。 自分はなぜ、自分のパートナーを戦わせているのか、を」 記事はこう結ばれていた。 そして、その問いかけに答えるように、特集記事の後半は、神姫とマスターの絆を思い起こさせる、過去の名勝負のダイジェストが紹介されていた。 読み終わった俺は、速攻で三枝さんに電話をした。 もちろんクレームを入れるためだ。 しかし。 『あらん、君の要望は全部通してるわよん♪』 ……この間の真剣な口調はどこへやら。 また人を小馬鹿にしたような口調で煙に巻こうとする。 確かに、記事の内容は、俺の要望をすべて通したものだった。それは間違いないのだが。 「だけど、表紙に巻中特集なんて言ってなかったじゃないですか!」 『いつもの連載記事とも言ってないけどぉ?』 ……これが社会人の知恵という奴なのか。 こういうずるがしこいだけの大人にはなるまい。 『でもぉ、今回の特集、大反響なのよぅ♪ 朝から電話がひっきりなしにかかってきてね、編集者としては嬉しい悲鳴だわ♪』 それは、この間のバトルが公に、広く知れ渡ったことに他ならない。 「それが困るって言ってるんです! だいたい、クイーンに悪影響が出たら、どうするつもりなんですか!?」 『あ、それは大丈夫』 「は?」 『雪華も高村君も、別にかまわない、って言ってたわん♪』 ……余裕だな、クイーン。 『あ、また電話。今日のお姉さんは忙しいの。まったねぇん♪』 電話は一方的に切られた。 くそう。 確かに、記事の内容は好意的なわけだし、俺の要望も通っているから、前みたいに問題になることはないと思うが……。 三枝さんは、記事は大反響だ、と言っていた。 それが俺たちにどんな影響を及ぼすのか、想像もつかない。 眉間にしわを寄せて考えていたからだろうか。 ティアが少し心配そうな顔で俺を見上げている。 「心配するな。大したことじゃない……いままでに比べたらな」 俺はティアに少し笑いかける。 そうすると、ティアもほっとしたように微笑んだ。 そうだ、これでいい。 俺たちはもう、何も恐れることなどないんだ。 何があっても大丈夫だと、今は思えるようになった。 ところが、事態はいつも予想の斜め上を行く。 土曜日にゲームセンターに行くと、俺たちに対する態度は一変していた。 俺たちが店に入ると、いきなり取り囲まれた。 いままで俺たちを罵倒していた連中が、手のひらを返したように賞賛の言葉を口にする。 誰もが俺たちとの対戦を望み、サインまで求めてくる奴まで出てくる始末だった。 その人波をかき分けて、現れた神姫プレイヤーたちがいた。 彼らは『ハイスピードバニー』とのバトルをするために遠征にやってきたマスター達だった。 どうやって俺の正体を知ったのだろう。わざわざ俺たちのホームグラウンドであるこのゲームセンターまで探り当て、やってきたのだった。 大勢の客にバトルロンドのコーナーまで引きずられそうになり、俺は……逃げ出した。 ありえない、と思った。 いままで俺たちをさんざん苦しめておいて、雑誌に掲載された瞬間から態度を一八○度変えるなんて。 俺は軽い人間不信に陥った。 「……そういうわけで、呼びつけたりして、ごめん」 「仕方ないわ。ゲーセンじゃ、ゆっくり話もできないものね」 駅前のミスタードーナッツに駆け込んだ俺は、久住さんに電話をして、わざわざここまで来てもらった。 ゲーセンであんなことにならなければ、呼び出すこともなかったのに。 節操のない客達に恨みがましく思うのは、俺の心が狭いからだろうか。 それでも、久住さんが微笑んでくれているのが救いだった。 「久住さんには改めてお礼を言いたくて……ありがとう。何もかも、君のおかげだ」 「大したこと、してないわ」 いつか聞いた言葉を、久住さんはまた口にした。 「……エルゴの店長が何かしてくれたのね」 「ああ……詳しくは教えてくれなかったけど」 ふと思い出す。 エルゴの、日暮店長の言葉。 『菜々子ちゃんを救ってやってくれ』 あれはどういう意味なのだろう。 それを当の本人に聞いてみてもよかったのだが、目の前の久住さんからはそんな影など微塵も感じられない。 俺は尋ねる気をなくして、代わりにこう言った。 「今度、エルゴの店長にもお礼にいかなくちゃ。買い物もあるし」 「買い物? ティアに?」 「ああ。ティアのレッグパーツを改良するんだ。その部品を揃えにね」 そう。俺はティアの武装の改良を計画している。 雪華とのバトルでわかった、レッグパーツの限界値とティアの機動の最大値。 そして、新しい戦い方。 それらを含めて、レッグパーツをバージョンアップする。 そうすれば、ティアの戦いにはさらに大きな幅ができるだろう。 「ね、そのお買い物、わたしも一緒に行っていい?」 久住さんからの嬉しい申し出。 「……どうかな。ライバルに手の内を見せるのは」 「えー?」 「冗談だよ。久住さんさえよければ、一緒に行こう」 頬を膨らませた久住さんは、俺が承諾すると一転、にっこりと笑った。 女の子はずるいと思う。 こっちの必死の攻撃を、笑顔一つで無しにしてしまうのだから。 「しかし……ゲーセンがあんな状態だと、対戦で新装備が試せないな……」 「べつに、あのゲーセンにこだわってるわけじゃないんでしょう?」 「まあ、そうなんだけど……」 だからといって、全く知らないゲーセンに行くのははばかられる。 なおさら何が起きるか分からないからだ。 「だったら……近くていいところ知ってるけれど」 「え? どこ?」 「わたしのホームグランドのゲームセンター。どう?」 「なるほど……」 いいアイデアだった。 久住さん行きつけのゲーセンならば、おかしなところではないだろうから、安心だ。 久住さんも一緒に来てくれるなら、ミスティを相手に練習もお願いできる。 大城たちが来ないのも、都合がいい。 「今度、案内してくれるかな」 「もちろん、いつでも」 久住さんはまた反則な笑顔を見せる。 俺はそんな彼女を眩しく見つめた。 ふと、久住さんは少し真顔になって、俺に尋ねた。 「でも、バトルに随分熱心ね。何かあるの?」 「ああ……約束があるんだ」 「約束……?」 そう、約束だ。 俺たちをバトルロンドに引き留めた、虎実との約束。 レッグパーツの改良をそれに間に合わせたい。 大きな障害を乗り越えてきた俺たちの今を見せることで、虎実の思いに報いたいと考えている。 「ふうん、虎実がそんなことをね……」 「そのためというわけじゃないけど、戦いの幅は広げておきたい。虎実も相当パワーアップしているだろうから」 「ねえ、もし虎実と対戦することになったら、わたしも観に行っていい?」 「もちろん。それに、それまでの練習相手をお願いしたいんだけど」 「……ライバルに手の内を見せてもいいの?」 「まいったな……勘弁してくれ」 俺と久住さんは笑いあった。 こうして笑っていられるのも、目の前の人を筆頭に、様々な人の支えがあったからだ。 今の自分たちは孤独ではないと、身に染みて思う。 俺はテーブルの上を見る。 俺と久住さん同様、ティアとミスティも穏やかに笑いあっている。 俺はそんな神姫たちの姿に目を細めた。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2158.html
ウサギのナミダ ACT 1-28 ■ マスターは家に帰るまで、ずっと無言だった。 胸ポケットの中で、やっと落ち着いたわたしは、マスターの顔を見上げる。 マスターはいつも真剣な表情の人なのだけれど、なにかいつも以上に脇目も振らない様子だった。 すでに夕闇が迫っている。 足早に帰宅を急ぐ。 マスターが何をそんなに急いでいるのか、このときのわたしにはまだ分かってはいなかった。 家に着いて、マスターがまずしたことは、わたしをクレイドルに座らせることだった。 わたしは素直にクレイドルに座った。 わたしは少し沈んだ思いで、マスターの指示を待つ。 今日のわたしを、マスターはどんな風に思っただろうか。 雪華さんとの試合の後、なし崩しに騒ぎになってしまって、マスターとお話する時間もなかった。 あの時、わたしは感情の高ぶるままに言葉を口にした。 そんなことは初めての経験で、今のわたしは自分の行動にとても驚いている。 マスターはとても驚いていた。でも、わたしは言葉を止めることができなかった。 分かってもらいたい、それを伝えなければいけないと思うほどに、強い想いだった。 それは後悔していないけれど。 マスターがどう思ったのか、それだけは気がかりだった。 マスターは、カップに飲み物を入れて、机の前へとやってきた。 いつものようにPCの電源を入れると、椅子に腰掛ける。 クレイドルに座るわたしと向かい合う格好になる。 カップを机におく。 そして、軽く吐息をついた。 「さて……どこから話そうか、考えていたんだが……」 マスターはいつものように、真っ直ぐわたしを見た。 だけど、無表情じゃない。 どことなく優しげな、落ち着いた表情で、でも瞳にはなにか決意のようなものを秘めているように見えた。 「ティア……お前に分かるかな……どうしても欲しいものが、どうしても手に入らないときの苦しみってやつが」 え? マスターは何を話しているんだろう。 わたしは目をぱちくりとさせて、マスターを見る。 マスターはあまり表情を変えないまま、優しい口調で、ゆっくりと話し始めた。 「俺はもうずっと……お前と会うずっと前から、武装神姫のオーナーになりたかった。 バトルロンドを始めたくてな。 神姫に興味を持ったのは、お前も会ったことのある、海藤とアクアを見てからだ。 ……そうだな。今回の件の報告も兼ねて、今度会いに行くか。 海藤とは高校の頃から仲が良くて、違う大学に進学しても、よく会ってた。 もっぱら俺があいつの家に行ってたんだけど。 そのたびに、海藤とアクアの仲の良さを見せつけられてな……俺だけじゃなくて、他の友人たちも神姫に興味を持ったというわけさ」 マスターは独り言を言うように話を進めていく。 これは……この話は、マスターの本当の想い……。 「それからずっと……探していたよ、俺の神姫を。 友達が次々と神姫のオーナーになっていく中で、俺は神姫を迎えられずにいた。 あちこちのショップにも行った。 神姫センターにも行って、バトルロンドの観戦もしたし、そこで興味が出た神姫のパッケージも手に取った。 新発売の神姫の情報はくまなくチェックした。 メーカー展示会に気になった神姫を見に行ったりもした。 ネットオークションで安く出回ってるパッケージ品もチェックしたし、ネットショップの掘り出し物も何度もチェックした。 ……海藤の家でアクアを見てから、お金を握りしめてホビーショップに行ったことだって、一度や二度じゃない。 それでも……それでも俺は、神姫を買うことに踏み切れなかった」 マスターの寂しそうな表情。 その時の気持ちを、思い出しているのだろうか。 「なぜ、ですか?」 わたしは尋ねた。 もちろんその時に、マスターが神姫をお迎えしていたら、わたしは今こうして、マスターと話をしていることもないのだけれど。 「どうしても……納得が行かなかった。 どの武装神姫のパッケージを手にしても……これが俺の神姫だって、思えなかった。 だから、どんなに神姫マスターになった友達が羨ましくても……俺は神姫を迎えられなかったんだ。 どうしても、自分が心から納得の行く神姫がほしかったんだ」 マスターはわたしを見つめながら、かすかに苦笑した。 「その頃の俺の気持ち……分かるかな……。 武装神姫のオーナーになりたくてなりたくて……狂おしいほどに神姫が欲しくてさ。 そのくせ、どこを探しても、自分の神姫が見あたらないんだ。 すでに発売されているものなら、探しようもある。プレミアついていたって、お金を出しさえすれば手に入る。 でも……この世にいるかどうかもわからない『自分が納得の行く神姫』を探すなんて……雲を掴むような話だ。 探して探して……必死で探しても見つからなくて……あの何とも言えない、焦りというか渇きというか……そんな、胸をかきむしりたくなるような焦燥感が、いつも心にあってさ……。 神姫の情報を集めたり、見たりするのは楽しいのに、それが欲求を逆撫でして苦しくなるような……そんな感覚に苛まれる。 友達はみんな神姫マスターになって、楽しそうに、幸せそうにしていてさ。 それで俺はまた焦りと羨ましさにかられて……その繰り返しさ」 マスターは自嘲するように笑う。 ……知らなかった。 マスターが武装神姫にそんなに強い想いを抱いてたなんて。 わたしは呟くように話すマスターの顔から、目が離せなくなっている。 「……あの夜……お前と出会ったあの夜、俺は飲み会の帰りだった。 気心知れた仲間たちとの飲み会だったんだけど……俺はちょっと機嫌が悪くなった。 神姫マスターになった連中は、口をそろえて言いやがる。 『そんなにこだわって選んでないで、とりあえずお迎えしてみればいいじゃないか』ってな。 連れてきた神姫と笑いながら……そう言うんだ。 腹立たしかったよ。 とりあえず、ってなんだよ。大切なパートナーを選ぶのに、こだわるのが当たり前だろう。 でも結局、俺は神姫マスターでない時点で、仲間たちの言葉に反論もできなかった。ただ、苦笑するしかなかったんだ」 そう言うマスターの表情は、少し悔しそうだった。 その時の感情を思い出しているのだろうか。 そして、マスターは言った。 「その後で……お前に出会ったんだ……」 ものすごく、安心したような、優しい顔をして。 見たことない、そんなマスターの顔。 わたしはかえって緊張してしまう。 「ゴミ捨て場で、あいつが……井山が何か悪態ついて捨てたのを、たまたま見かけたんだ。 ゴミのポリ袋の上でうめいていたのがお前だった。 見た瞬間に『ああ、これが俺の神姫だ』って思った。 当たり前みたいに……いや、衝撃的だったかな。どうだろう。 ただ、これが運命なんだって思ったんだ。 ……いや、違う。格好つけすぎだな。 たぶん、お前に、一目惚れしてしまったんだ」 照れくさそうに笑うマスター。 今日のマスターはいつもと違う。 まるで菜々子さんと話すときのように、くるくると表情が変わる。 「それでお前を連れて帰ってきた。 クレイドル買ってきて、充電して、メンテナンス用のソフトをPCにセットアップして……舞い上がっていたと思う。 俺の神姫がやっと手元に来た、ってな。 お前の記憶を見て……俺も一瞬ひるんだ。それでも、お前を自分の神姫にしたい気持ちは変わらなかった。 これが運命でなくて何だ、って思ったよ。 ……そしたらさ、目覚めたお前が言うんだよ。 『わたしをお店に戻してください』 って」 ……あ。 思い出した。 あの時わたしは、自分のマスターになりたいというこの人に、そう願ったのだ。 あの時、マスターはわたしにものすごく怒ったけれど。 わたしはなんで怒られるのか、よくわからなかったけれど。 いまなら分かる気がする。 「そりゃないだろ。 俺はやっと、やっとの思いで自分の神姫を見つけだしたって言うのに、地獄のような場所に返してください、じゃあさ……。 そりゃあ怒りもするさ、俺でも。 どうしても諦められなかった俺は、お前を言葉で丸め込んだ。 お前が武装神姫になりたいかどうかなんておかまいなしで……俺が望む戦闘スタイルを押しつけた。 さんざん練習させて、つらい思いもさせた。 お前が俺のところから逃げられないのが分かっていて、そんなことさせていた」 マスターの言葉に、何か違和感を感じる。 わたしは……武装神姫になりたくなかった? マスターが望む戦闘スタイルが嫌いだった? 練習は、つらかった? マスターのところから逃げ出したかった? ちがう。 ちがいます。 わたしの想いとマスターの考えはすれ違っている。 マスターは無理矢理わたしを武装神姫にしたというけれど。 わたしがそう望むのなら、それは、無理矢理ではないんじゃないですか? 「……それでも、俺は嬉しかったんだ。 自分だけの神姫と、俺たちだけの戦闘スタイルで、バトルロンドを戦えるのが。 夢が叶った、と思った。 久住さんや仲間たちにも出会えた。ゲームセンターで過ごす時間は……バトルロンドをプレイしている時は、本当に楽しかった。 そんな時間をくれるお前に、ずっと、感謝していたんだ。 でもな……心の底ではずっと思っていた。 本当は、俺の楽しみのために、ティアを無理矢理戦わせているだけなんじゃないか、って。 お前の自由を奪って、自分だけ楽しんでいるエゴイストなんじゃないかって」 「そ、そんなこと……ありません!」 わたしはついに口を出してしまった。 マスターの話を遮ってしまった。 臆病な心が、顔を覗かせようとするけれど。 でも、わたしは勇気を出して、言う。 声が震えててもかまわない。 言わなくちゃ。 だって、マスターは間違っているから。 「わたしも……わたしも幸せでした。 薄暗いお店しか知らないわたしに、世界を教えてくれたのはマスターです。 わたしが知らなかった気持ちを……楽しい気持ちも、嬉しい気持ちも、風の心地よさとか、友達の優しさとか、技を自分のものにできたときの喜びも……全部全部、マスターがくれたんです」 こんなに幸せでいいのかって、今でも思ってる。 マスターは少し驚いたような顔をしていた。 「……そうなのか?」 「そうですよ」 「それなら……お前がそう思ってくれるなら、俺も救われるよ。 俺はこの間思ったんだ。 ……もし、バトルロンドができなくなったとしても、お前が走ることができれば、それでお前が喜んでいるのなら、それでいいって。 何より大事なのは、お前がそばにいてくれることだってな」 ほっとした表情で、そんなことを言った。 やっとわかった、マスターの本当の気持ち。 でも、わたしは以前から疑問に思うことがある。 「あの……」 「なんだ?」 「ほんとうに……ほんとうに、わたしなんかでいいんですか」 「わたしなんか、って言うな」 いつもの言葉。 でも、厳しいところは、表情にも口調にもなくて。 優しく微笑んでいる。 わたしに向かって。 「お前じゃなきゃ、だめなんだ」 ……ああ。 さっき言っていたマスターの気持ちが、いま、少しだけわかった気がする。 欲しくて欲しくて、それでもどうしても手に入れられないもの。 わたしにとって、それは、マスターの笑顔だった。 いま、このマスターの笑顔こそ。 わたしがずっと、欲しくて欲しくてやまなかったもの……。 「でも……わ、わたしは……マスターに、とんでもない迷惑をかけてしまって……」 「迷惑なんて、いくらでもかければいい。それでもいいんだ」 「じゃ、じゃあ……手の甲をわたしに差し出すのは……?」 「お前、掴もうとすると怖がるだろ」 「……わたしの前で、表情を変えないのも……?」 「なんだ、気がついていたのか? 俺が表情を変えなければ、お前が不用意に怖がらなくてすむだろ」 やっぱり。 無表情のことは、この間、やっと気がついたのですけど。 マスターは照れくさそうな顔をして、頭を掻いた。 「まあ……俺は元々、仏頂面だからな……」 「で、でも……マスターとわたしは、毎日顔を合わせてました。 それなのに……ずっと無表情でいるなんて……」 「そんなの、お前が俺の神姫でいてくれるなら、大したことじゃない。 いつかお前が俺のことを心から信じてくれたら……そうしたら、掴むことも許してくれると思ったし、笑いあうこともできるって……信じていた」 そんな……。 「わたしは……ずっとマスターに笑って欲しいと思っていました」 「そうなのか?」 「そうですよ」 マスターは苦笑する。 「そうか……俺たちはお互いに、お互いの笑顔を見たいと思いながら、ずっとずっと遠回りしてきたんだな……」 「……そうですね」 「なぁ、ティア……」 マスターは不意に真剣な表情でわたしを見た。 真っ直ぐな視線。 この人は真っ直ぐにわたしを見てくれる。初めて出会ったときから、ずっと。 「俺の神姫で……いてくれるか? 俺はバトルロンドを続けたいけど、お前が嫌だというならそれでもいい。 こんなわがままで情けない男でも、マスターと認めてくれるか?」 ……どうしてそんなに自信なさげなんですか? もう答えなんて、決まりきっていることじゃないですか。 それをはっきりと伝える方法を、わたしは思いついた。 「マスター。手のひらを出してください」 「……? こうか?」 マスターは怪我をしていない方の左手を、手のひらを上にして、わたしの前に出した。 わたしはクレイドルから立ち上がり、マスターの手に歩み寄る。 そして、その手の上に腰掛ける。 ちょっと緊張したけれど、何も怖いことなんてなかった。 この人を信じているから。 マスターの親指に顔を寄せて、キスをした。 「これは……わたしの誓いです」 顔を上げて、マスターを見る。驚いてる。 わたしはうつむいてしまう。 マスターの顔、まともに見られない。いまさら、とても恥ずかしくなって。 「わたしはあなたの神姫です。 わたしのマスターは、世界でただ一人、あなただけだと……誓います」 マスターの手はあたかかくて、心地いい感じがした。 もう一度、マスターを見る。 わたしの顔はこれ以上ないほど赤かったかも知れないけれど。 マスターも、とても照れくさそうな顔をしていた。 やがて、見つめ合うわたしたちは、どちらからともなく笑い始めた。 マスターと初めて心から笑いあえた。 ああ。 わたしが一番欲しかったものが、今ここにある。 長い長い一日の果てに。 わたしは、本当の意味で、遠野貴樹の武装神姫になった。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2147.html
ウサギのナミダ ACT 1-24 ◆ 雪華の持つ武器は唯一、その黄金の錫杖だった。 彼女の背丈よりも長いその錫杖は、様々な武器の集合体だ。 錫杖の頭はビームガンであり、その柄に伸びるのは二本の剣である。 他にも様々なパーツが組み合わされている。 この錫杖を様々に組み替えて、状況に応じた武器にカスタマイズし、対応する。 この錫杖こそが、雪華のオールラウンダー・スタイルを支えている。 □ 戦闘は雪華の射撃で開幕した。 錫杖の頭をはずし、ビームガンを握る。間髪入れず、断続的な斉射がティアを襲う。 ティアはそれをかわす。 フィギュアスケートのような小刻みなステップでかわしきる。 視線は雪華に固定したまま。 まるで舞うような回避。 舞手にリズムを送る楽士は、拍子を早めていく。 ビームガンの射出音と着弾音はまるで舞台のBGM。 舞手のティアは、ステップの速度をさらに早めた。 舞いながら振り上げる手には、こちらもビームガン。 光線の応酬。 二人の攻防は、荒野の廃墟に、レーザー光の煌めくダンスの舞台を幻出させた。 やがて、銃撃の応酬の速度に耐えられなくなったティアが、ステップの軌道を変えた。 路地に飛び込み、舞台から退場する。 雪華もまた、上空へと舞い上がり、退場する。 残された無人の舞台は、空疎な廃墟のストリートに戻っていた。 ため息のような歓声。 二人の神姫の攻防は、ギャラリーから見てもアーティスティックな応酬だったろう。 しかし、当事者はそんな余韻に浸っている暇はない。 今ので計ることができた雪華の実力。 俺が気がついたのは、雪華の基本能力の高さだ。 遠距離、中距離の射撃精度が恐ろしく高い。 ティアの機動が他の神姫と違う独特なものでなければ、あっと言う間に雪華の射線に捕らえられていただろう。 今の攻防で、俺がティアに細かく指示を出していたことに、気がついたギャラリーは、はたして何人いたか。 こちらは神経をすり減らしたが、向こうはほんの小手調べに過ぎないだろう。 俺は頭をフル回転させ、ティアに次の指示を出す。 雪華をこっちの土俵に引きずり込まなくては、五分にさえ持ち込めない。 『アーンヴァル・クイーン』とはそう言う相手だった。 ◆ 『あれをかわしきる……とは』 「予想外だったね、雪華」 『並の神姫ではない、ということ。それは望むところです、マスター』 「こちらの射撃がまずかったわけじゃない。僕たちが見たことのない特殊な機動が、こちらの的を微妙にはずしてるんだ」 『了解。以降は誤差を修正します』 「でも、あちらもまだいろいろしてきそうだけど」 『そうでなくては、ここまで来た意味がありません』 「確かに。……今度はこちらから行こう」 『はい』 □ 飛行タイプとのバトルにおいて、細い路地に身を隠すのは、ティアの基本戦略だ。 飛行タイプの神姫は大きな翼を持っているので、建造物の隙間の路地などは、進入が難しい。 また、特徴である高速の戦闘機動も大幅に制限されてしまう。 対して、ティアはむしろ路地の方がその能力を発揮できる。 スピードを落とさずに動くことができるし、壁走りも交えて三次元的な機動で相手を翻弄する事ができるのだ。 しかも、遮蔽物の間を走るので、空中からの攻撃も難しい。 このバトルで、唯一ティアが有利な場所が路地、といっても過言ではなかった。 だが。 「なっ……!?」 俺とティアの叫びが重なった。 雪華は、鳥の羽を模した機械の翼を、蝶が止まるときのように縦にできる限り折りたたみ、ティアが疾走する路地に侵入してきたではないか! ビームガンを構えている。 疾駆するティアを狙い打つ。 ティアは地面の上でステップターン。 雪華の攻撃はことごとく砂埃に吸い込まれていく。 「ティア、出し惜しみはなしだ! 壁も使って反撃!」 『はいっ!』 たとえクイーンと呼ばれる神姫であろうとも、この場所での機動力の不利は覆せない。 ティアは雪華の銃撃を華麗にかわしながら、壁に乗る。 そして壁面を走り出す! 『なんと……!?』 雪華は一瞬驚愕の表情を浮かべた。 これで驚いてもらっては困る。 ティアはその隙を突いて、反撃した。 サブマシンガンの斉射。弾丸の連なりが空中に線を描く。 しかし雪華は、機動の不自由なこの路地で、最小限の動きでこれをかわした。 『まだまだっ!』 珍しい、ティアの気合い。 ティアは路地の間を跳ね、走り、スピンして、複雑な三次元の軌道を描き出す。 そこから繰り出される銃撃はランダムな模様の弾幕だった。 しかし。 雪華はそれらを回避した。 道幅いっぱいを使ってわずかに横にずれるのと、上下の運動のみによって。 「……ばかな」 知らず、声が口から漏れた。 そんなデリケートな空中機動は、エウクランテ・タイプや飛鳥・タイプに代表される空戦型のいずれの神姫でも見たことがない。 とんでもない技量だ。 またしても、射撃の応酬。 ティアは壁の上をステップターンで回避し続ける。 雪華の銃撃がティアを追う。 ティアが跳ねた。 左の壁から右の壁へ、ハイジャンプの背面跳びのように、飛び移る。 ティアが空中で引き金を絞った。 『くっ……!』 この一撃は、雪華の意表を突いていたようだ。 弾丸は、雪華のヘッドギアに命中し、破壊した。 おおっ、とギャラリーが沸く気配。 雪華は身体を振ると、推力を上へ向け、路地から離脱していく。 ◆ 「大丈夫か、雪華?」 『ヘッドギアが破壊されました。センサーが使えません。ですが戦闘に問題はありません』 「なんだか、らしくない被弾だったけれど?」 『マスターには見えていませんでしたか』 「何を?」 『あのジャンプ中の射撃……ティアの視線は、わたしに向いていませんでした』 「なんだって?」 『そして、あの速度での三次元機動……壁面での滑走……見たことがない』 「滑走面さえあれば、地面のごとく、どこでも走ることができるようだね」 『ふふふ……これは、想像以上の好敵手です、マスター』 「ならば、なおのことじっくりといくかい?」 『ええ……彼女のすべてを見せてもらいましょう』 ◆ 美緒はこのバトルに心を奪われていた。 とてつもなく美しい攻防だった。 初めて会った者同士が、息のあった踊り手のようにフィールドを舞う。 それは装備に頼った力押しでは、決して成し得ない。 修得した技の応酬が、無駄な攻撃を排し、きらめくような攻防を成すのだ。 積み重ねたもののすべてが、このバトルに現れている。 バトルの経験が浅い美緒にもそれはわかった。 彼女は強い憧れを抱く。 わたしも、こんな風にバトルロンドを戦ってみたい、と。 それは彼女だけではないはずだ。 見る者が憧れを抱くほどの、それほどのバトルだと思う。 勝負は互角。 そう、ティアはあの軽装で、クイーンの実力に渡り合っている。 ならば、戦い方次第で、わたしも戦うことができるのではないか。 フル装備の武装神姫とも、ライトアーマーで戦えるのではないか。 ティアが見せているものは、軽量装備の可能性だ。 ……いつかわたしも、こんなふうに美しいバトルを。 そう思って隣に立つ仲間達を見る。 案の定、目を輝かせながら、バトルに見入っていた。 □ ギャラリーには互角の戦いに見えているのだろうか。 もしそう見えているのならば、何も分かってはいない。 久住さんが言っていた「次元が違う」という言葉を、俺は今、身を持って実感していた。 三手先まで読んで、ティアに指示を出すが、それはクイーンの誘いに乗らされたのだということを、彼女の動きで悟らされる。 こちらから仕掛けたとしても、それさえ彼女の手の内なのだ。 それをなんとか、指示の切り替えと、ティアのアドリブで辻褄を合わせる。 そんなことを、俺たち得意のエリアに踏み込んできてまでしてのけるのだ。 俺の背筋に冷たいものが走る。 とんでもない化け物だ。 俺が作戦を考え、実行していくことは、ティアの勝利の可能性をひとつひとつつぶしていく行為に等しかった。 それでも俺たちは戦いをやめるわけにはいかない。 バトルは絶望に向けて加速していく。 しかし、俺には一つだけ希望があった。 読み切れないクイーンの戦闘パターンに、たったひとつだけ確実なことがある。 幸いにも、ティアの動きは、今までで一番というほどのキレを見せている。 おそらくは手加減をしている雪華の攻撃なら、なんとかかわしきることができるはずだ。 俺はクイーンが動き出すそのときを待ち続ける。 ◆ 「だめだ……全然通じてねぇ……」 大城はため息混じりに呟いた。 彼も神姫プレイヤーである。日々腕を磨いているからこそ、ティアのバトルを幾度と無く見ているからこそ、分かる。 しかも、クイーンのバトルを見るのは、ミスティ戦に続いて二度目だ。 あの『アーンヴァル・クイーン』に、ティアの攻撃は通用していない。 雪華の攻撃もティアには当たらないが、それはティアの技が今日に限ってキレまくっているからだ。 だが、クイーンはほとんど受け身の姿勢を崩さない。 仕掛けるのは誘いの時だけだ。 クイーンがティアを本気で倒しにかかったら、ものの三十秒ももたないのではないか。 「倒すチャンスなんか……あるのかよ……」 ほとんど独り言だった。 それに、菜々子がやはり呟くように答えた。 「同じだわ……」 「え?」 「クイーンのやり方……わたしたちと同じ」 菜々子は気がついていた。 雪華はティアを相手に「練習」している。 あらゆる局面を想定した位置取りと攻防。 相手の攻撃パターンのすべてを引き出そうとする動きだ。 それは、菜々子とミスティが戦ったときも同じだったのだ。 なぜそんなことをするのか、菜々子には分からない。 しかし、同じように「練習」しているのであれば…… 「一度だけ、チャンスがあるかも」 「なんだって?」 「これから一度だけ、クイーンがどう出てくるかわかる攻撃があるのよ」 はたして、遠野は気付いているだろうか? □ クイーンは状況を様々に変えながら仕掛けてくるが、ただひとつ、まだ仕掛けてきていないレンジでの攻撃がある。 近接格闘。 もし、クイーンがあらゆる攻撃をティアに対して試しているのなら、必ず接敵しようと動く瞬間があるはずだ。 そこを逆手に取る。 そのためには、雪華の動きを読み切って、ティアに指示を出さなくてはならない。 道幅の広いメインストリート。 ティアと雪華の射撃戦は続いている。 空中にいる雪華に対し、地上を走るティアはそれだけで不利だ。 銃撃には牽制を混ぜ、雪華を誘導しようと試みている。 サイドボードの武器も残り少ない。 雪華がティアのエリアまで踏み込まんと、高度を建物よりも低くしていることが幸いだった。 そして、来た。 望んだ位置。 雪華はストリートの片側に身を寄せる形で浮いている。 俺は指示を出す。 ティアは地を蹴り、雪華側の廃墟の壁を走った。 雪華に向けて加速。 壁の上を駆け上がる。 この動きは誘い。どうだ? 雪華に動きがあった。 黄金の錫杖を近接武器に組み替える動作。 見逃さない。それを待っていた! サイドボードを操作し、とっておきの武器をティアに送り込む。 「撃てっ!」 『はいっ!』 ティアは手にしたロケットランチャーガンを構えた瞬間、発射した。 狙いは前もって指示してあったとおり、雪華の左側。壁のある方。 『くっ……』 雪華は少ない動きで回避した。 しかしそれは想定の範囲内だ。 撃ち落とされてもいい。回避されてもかまわない。 はたして、弾丸は雪華の近距離、左側の壁に着弾。 大きな爆炎を上げた。 それこそが狙いだ。 ヘッドギアを破壊されている雪華は、ティアの位置の把握にセンサーを頼れない。 だから一瞬、雪華の目をくらませられればいい。 一瞬、動きを止められればいい。 ティアに最後の武器を送り込む。 コンバットナイフ。 爆炎を貫いて飛び出したティア。 動きを止めている雪華。 ティアは得意のナイフを握り、突進する! 乾いた音と共に、二つの影が一つになった。 はたして。 ティアのナイフは、雪華の錫杖の柄によって受け止められていた。 「嘘だろ……」 あの奇襲、あのタイミング、雪華がティアの動きに反応できただなんて……! 『よい攻撃です。……わたしも少し焦りました』 雪華が静かに告げる。 あの攻撃で、少し焦っただけ……だと。 白き女王は、ティアを膝蹴りで引き剥がす。 『くはっ……!』 ティアの身体が空中に放り出される。 まずい! ホイールが接地していなければ、ティアには回避の手段がない。 雪華はビームガンを持ち直す。 そして、表情も変えずに、浮遊するティアに向けて撃った。 『きゃああああぁあっ!!』 為すすべもなく撃たれたティアの悲鳴が響く。 錐揉みしていたティアの身体が、地面に叩きつけられた。 二、三度跳ねて、地面を転がる。 うつぶせになって、ようやく止まったティアの身体は、砂埃にまみれていた。 俺は呆然としていた。 すべてを尽くして掴んだチャンスだった。 これ以上はない奇襲、思い描いたとおりだった。 それでも届かない。 「……化け物め」 ティアは地面にうずくまったまま、身動きできずにいる。 サイドボードの武器も尽きた。 もう、為す術がない。 俺たちの負けだった。 ◆ 雪華は、廃墟のストリートを睥睨している。 視線の先には、地に落ちた対戦相手の神姫。 雪華の視線は厳しい。 圧倒的な優勢にあっても、その瞳からはいまだ戦意が衰えない。 黒い小さな神姫をみつめながら、雪華は自らの主を呼んだ。 「マスター」 『なんだい?』 「『レクイエム』の使用許可を」 厳かに告げる。 雪華の耳に、高村が息を飲む気配が届いた。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/support00/pages/547.html
名前 ・クリサリス=ミルヒ(ACE) 要点 ・白い大きな帽子・腹の見える格好・筋骨隆々 周辺環境 ・青の厚志 評価 全能力18 特殊 *クリサリス=ミルヒは歌い手、精霊使い、偵察兵、拳闘家として見なし,これらの持つ全ての特殊が使える。 →次のアイドレス ・ニーギ=ゴージャスブルー(ACE)?・精霊使い(職業)・歌い手(職業4)?・瀧川陽平(ACE)
https://w.atwiki.jp/magamorg/pages/12066.html
銀河王BLACK・HOLE 星 SR コスト13 0000+ GINGA ■進化V-種族に「プラネット」または、「スター」とある、2体を重ねた上に置く。 ■星文明のパワーは、2倍となる。 ■このクリーチャーのパワーは、バトルゾーンにあるクリーチャーと、このクリーチャーの進化元のパワーの、合計になる。 ■ビック・バン-自分のターンの終わりに自分のシールドを、すべて墓地に置く。そうした場合、次の効果を使用する。 -BB-自分の手札、自分のマナゾーンにあるカードを、すべて山札に戻し、シャッフルする。その後、相手の手札、相手のマナゾーンを、すべて山札に戻し、シャッフルする。その後、自分はカードを5枚まで引き、好きな数マナゾーンに置いても良い。 (F)すべてを、吸収し、貴様に利益を与えよう。-銀河王BLACK・HOLE- 作者:バッタ 評価 名前 コメント