約 1,718,623 件
https://w.atwiki.jp/niwaniwa/pages/11.html
モバイル検索もロングテール化が進んでいる」--グーグルの実例 2007/04/20 14 24 アイレップとクロス・マーケティング、モバイル検索に関する調査 2006/11/22 16 40 携帯電話の検索に関する調査--Yahoo!、Googleは共に増加!モバイル検索市場の熾烈な戦い 2007/03/27 16 10 アップデイト、モバイル検索について意識調査--人気はヤフー、グーグルに集中 2006/10/23 11 36
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6157.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 バラバラに散った、他のメンバーとワルドの『偏在』で作られた分身たち。 上手い具合にバラけて1対1の様相を呈してくれたのだが、ルイズが自分の近くを離れてくれなかったので、結局は2対2となった。 正直、ルイズは戦力としてカウントしていなかったので実質1対2か……と思っていたのだが、ルイズは戦闘開始直後にいきなりファイヤーボール(の出来損ない)をぶっ放し、分身はアッサリ消滅してしまう。 この調子でもう1体の方もお願いしたかったのだが、残ったワルドは瞬時にルイズにおどりかかり、ルイズは杖で強打されて気絶して戦闘不能に。 ―――結局、1対1となってしまった。 『ウィンド・ブレイク』や『エア・ハンマー』から(それがルイズの方に向けられないように)逃れながら、ユーゼスは思考する。 (このまま持ちこたえて、ミス・タバサやミス・ツェルプストーにこの男を倒してもらおう) 自分がこの男に勝てないことは、ラ・ロシェールの戦いで証明済みである。 とにかく防御と回避に徹して、あとはそれなりに勝ち目のある人間に任せる―――というのが、賢い手段というものだ。 ユーゼスは本気でそう考えていた。 ……考えていたのだが。 ガキィインッ!! 「くっ……!」 「フ……」 接近してきたワルドが振るった杖によって、手に持っていた剣が弾き飛ばされてしまった。 不味い。これではルーンの効果が発揮出来ない。 ルーンによる身体能力の向上がなければ、ワルドの攻撃をしのぎ切ることは無理だ。 拾っている余裕などないし、鞭では上手く防ぐことが出来る自信がないので、背中の鞘(『ライトニング・クラウド』を受けたせいで壊れていたが、アルビオン軍に新しいものを用意してもらった)からデルフリンガーを抜く。 まあ、防御に使うだけならば、この錆びた剣でも十分だろう。 耐久性は色々と(焚き火にくべたり、直後に氷水で冷やしたり、魔法学院の衛兵に頼んで大型のハンマーで叩いてもらったり)実験をして証明済みであるし。 「おっ、いきなり抜かれたと思ったら、またコイツと戦ってんのか?」 剣は相変わらずうるさく喋っているが、無視。 とにかく回避と防御に専念である。 「フン、どうしたガンダールヴ? 動きが鈍いではないか。伝説の使い魔なのだから、せいぜい僕を楽しませてくれよ」 笑いながら敵がそんなことを言ってくるが、これも無視。 ……どうせ挑発してこちらに攻撃させ、その際に生じた隙を突くとか、そのような狙いだろう。 と、その時、手に持っているインテリジェンスソードが叫んだ。 「―――思い出した! そうか……ガンダールヴか!!」 取りあえず、無視。 「俺は昔、ガンダールヴに握られてたんだ! でも忘れてた。何せ、今から六千年も昔の話だからな!! いやあ、懐かしいねえ、泣けるねえ。そうかあ、なーんか懐かしい気がしてたが、相棒、あの『ガンダールヴ』か!」 (何を言っているのだ、この剣は) それと、勝手に『相棒』呼ばわりするのは止めてもらいたい。いちいち馴れ馴れしい剣である。 「嬉しいねえ! ……おっと、戦ってる最中だったな! 俺もこんなカッコしてる場合じゃあねえ!!」 カッ! 剣の柄あたりから叫び声が響き、次の瞬間、デルフリンガーの刀身が輝き始めた。 (しまった!) 驚いた拍子に、迂闊にも動きを止めてしまった。 その隙をワルドが見逃す筈もなく、『ウィンド・ブレイク』を放ってくる。 この間抜けめ、と心の中でインテリジェンスソードに向かって毒づくが、毒づいてどうにかなるものでもない。 ユーゼスは咄嗟に光るデルフリンガーを構えて防御しようとする。 「無駄だ! 剣では避けられないことも理解が出来ないのか!?」 「……!」 理解しているが、反射的に構えてしまったのである。 そして風のカタマリは容赦なくユーゼスに襲いかかり、 デルフリンガーの刀身に、吸い込まれていった。 「「何!?」」 同時に驚くユーゼスとワルド。 見るとデルフリンガーは、あの錆びだらけだった姿が嘘のようにスラリと光り輝いている。 「……どういうことだ、デルフリンガー」 「お、初めて俺の名前を呼んだな、相棒!? これがホントの俺の姿さ! いやぁ、てんで忘れて―――」 「お前は、魔法の無効化が出来るのだな?」 デルフリンガーのセリフを遮って、ユーゼスが質問した。 「え? あ、ああ、チャチな魔法なら、全部俺が吸い込んで」 「……何故、購入した時点でそれを言わなかった」 「いや、だから忘れて―――」 ユーゼスは舌打ちすると、改めてデルフリンガーを構える。 「あ、あのー、相棒?」 「戦闘中に、いちいち会話をしている余裕などない。……それと『相棒』は止めろ」 「……おう、ユーゼス」 かなり高かったはずのデルフリンガーのテンションが、大幅にダウンする。 しかしそんなことには全く頓着せず、ユーゼスはワルドとの戦闘を再開した。 これで戦い方に幅は出たが、しかし、 「魔法を吸収する剣か……ならば、これはどうだ!!」 ワルドはデルフリンガーへの対抗策として、『エア・ニードル』を杖にまとわりつかせた。 (……『杖自体を魔法の発生源』にしたか) 先程、ウェールズを殺害した攻撃方法である。 確かにこれならば、『吸収する先から発生する』ので、消滅することはない。 (どうするか……) このままジリジリ攻撃されては、いずれ手詰まりになってやられてしまう。 仕方がないので、飛び退いて距離を取った。 追撃としてワルドは『エア・ニードル』を射出するが、これは吸収して掻き消す。 ……その時、デルフリンガーが驚きの声を上げた。 「……おい! あの貴族の娘っ子、気絶して倒れてるじゃねえか!? どういうことだ!?」 何を今更、とユーゼスは嘆息した。……このままわめかれても迷惑なので、一応説明しておく。 「あの男の攻撃を受けたからな」 「はあ!? それで、何でお前はそんな平然としてんだよ!?」 「?」 ユーゼスは、その質問の意図が理解出来なかった。 「……その質問の意味が分からないのだが」 「い、意味が分からないって……こっちのセリフだ!! 主人がやられて感情を波立たせねえ使い魔なんて、聞いたことがねえぞ!!」 ああ、とユーゼスは納得した。 そう言えば、『普通の使い魔』はそういうものらしい。 疑問が氷解したので、今度はこの剣の疑問に答えることにする。 「……何故、私がそんなことで感情を動かさなければならないのだ?」 「―――は?」 「…………何だと?」 この言葉にはデルフリンガーだけではなく、ワルドすら絶句した。 「私が御主人様に従っているのは、別に恩義でも忠義でも義理でも愛情でも同情でも憐憫でもない。 あの少女から『使い魔とはこういうものだ』と言われたからだ」 「な、な、な……」 唖然とした声を上げるデルフリンガーだったが、どうにか声を絞り出す。 「ちょ……、ちょっと待て。お前、何て言うか『あの娘っ子を守らなきゃ』とか、そういう気持ちが湧き上がったりは―――」 「『仕事としての義務感』に近いものならばあるが。やらなければならないから、やっているだけだ。 強いて言うなら、『手のかかる子供の面倒を見る』程度の思い入れはある」 「…………主人の危機に対して、こう、カッと燃えるものとかは―――」 「死んでいないのならば、それで良いだろう? 重傷とも思えん」 今度こそデルフリンガーは沈黙した。 おかしい。 ガンダールヴに限らず、使い魔には契約のルーンを刻む際に『主人に対する忠誠心』だとか『親愛の情』などが植え付けられるはずだ。 まさか、ガンダールヴのルーンに何か不備が……いや、あるいは契約時に何かトラブルがあったか……。 いずれにせよ、これでは『心の震え』に応じて発揮されるガンダールヴの力が、かなり減少してしまう。 とんでもねえ使い手に当たっちまった……とデルフリンガーが嘆いていると、 「ハ……ハハハハハッ!! これはいい! ……そうか、伝説の使い魔はその主人に対して、何の情も感じていなかったか!!」 いきなりワルドが大笑いを始めた。 ユーゼスは、それを感情のこもらない目で見つめる。 「ククク……、いや失礼。だが、それならばユーゼス・ゴッツォ……」 そしてワルドは、一つの提案を行う。 「……僕と共に来る気はないか?」 「何?」 驚きと疑問で、ユーゼスの表情が変化した。 「『偏在』で作られた僕の分身は、全て倒された。……トライアングルの彼女たちはともかく、あのドットの坊やが私の分身を倒すなど、にわかには信じがたい……。彼に入れ知恵をしたのは君なのだろう?」 「そうだ。しかし、スクウェアクラスのメイジを倒せるとは思っていなかったがな……」 「やはりな。……我々『レコン・キスタ』は、君のような優秀な人間を必要としているのだ。 平民であることなら、気にする必要はない。ハルケギニアを統一しエルフ共を倒すためには、それに代表される悪しき風習こそを打破なければならないのだから」 「ほう……」 言っていること自体は、立派である。 「そして、君が持つ『謎の力』……。魔法学院からラ・ロシェールまでごく短時間で移動した、あの力を上手く使えば……」 (……本音はそれか) 途端に、ユーゼスの興味が冷めていった。 彼らに協力するのも面白いかと思ったが、この様子ではせいぜい実験動物ほどの扱いがいい所だ。 はあ、と溜息をつく。 自分もかつて、ウルトラマンを似たような感じで捉えていた。 この男と接すれば接するほど、自分の汚点と言うか恥部を見せ付けられている気分になってくる。 ……加えて、人材の勧誘が下手なところまで似ている。 「君の知識と、君の力! それがどれだけ『レコン・キスタ』に―――」 「もういい、黙れ」 キッパリと言い放つ。 「せっかくの誘いだが、断らせてもらう。私はのんびりと余生を過ごしていたいのでね」 「な……、貴様……!」 すぐに感情的になる。これも昔の自分と同じだ。もう嫌気が差してきた。 ならばもう、こうするしかあるまい。 「お前は―――私が倒そう」 言った直後、弾き飛ばされた剣の元へと駆け出し、拾う。 ワルドはそんなユーゼスの行動を眺めながら、苛立たしげに言葉を放った。 「……お前が、私に勝つだと? その体たらくでか?」 「そうだ。……さすがに『必殺』とはいかんが、少なくとも追い詰める程度は出来るだろうよ」 両手でそれぞれ剣を振るった後で、何の変哲もない普通の剣を、腰の鞘に仕舞う。 (ぬ……) その動作に、ワルドは警戒の念を抱いた。 左右の手を使った二つの剣の戦法―――そんなものが自分に対する有効な手段とは思えない。 だが、相手は仮にも伝説にその名を記す『ガンダールヴ』。 あらゆる武器を使いこなしたと言われるこの目の前の存在は、もしかすると自分の思いもよらない方法で勝利を狙って来るかも知れない。 (迂闊に接近するのは危険だな……) ならば、遠距離からの攻撃で仕留めるしかあるまい。 ……生半可な魔法では、あのインテリジェンスソードに吸収される。 自分の手持ちの魔法の中で最大の攻撃力を持つ『ライトニング・クラウド』であれば、突破は可能だろう。 事実、ラ・ロシェールの襲撃戦ではあの剣も『ライトニング・クラウド』を吸収しきれずに、ユーゼスは重傷を負った。 (……よし) 詠唱を開始する。 悠長にやっていては、またどのような手を使われるのか分からないので、高速で。 (む?) 気付くと、対峙しているユーゼスはいつの間にかインテリジェンスソードを片手に……逆手に持ち替えていた。 やはり何か自分の知識にない戦法を使うつもりだったようだ。 接近しなくて正解だったな、などと思いながら詠唱を完了させ、あとは撃つだけという段階になった直後、 「ふっ!」 「げえっ!!?」 「!?」 ユーゼスが、掛け声と共に―――デルフリンガーを投擲した。 (何だと!?) 混乱する。剣を投げつけるなど、まともな戦い方ではない。だが打ち払うなり迎撃するなり避けるなりしなければ、 「っ!!」 バリィイイイイインッ!! 反射的に『ライトニング・クラウド』で、投げられたデルフリンガーを撃ち落とす。 「しまった……!」 『敵を殺すための攻撃』を、『敵の武器への対抗手段』として使ってしまったことに後悔する。 だが、敵の次の動作は予測が出来る。 手持ちの武器は、腰に下げている剣のみのはずだ。 ヤツに残された攻撃手段は、接近しての斬撃か刺突しかない。 ―――その思い込みが、ワルドの敗因であった。 ユーゼスの手は少々ぎこちないながらも素早く背中へと回り、そこからロープのような物を取り出した。 (……何だ、アレは?) 見極める暇もなく、ユーゼスはその『ロープのような物』を全身を駆使して振るう。 シュピィイイッッ! 「ぐっ!?」 かなりのスピードでこちらに飛んで来た『ロープのような物』によって、右手に持った杖が根元から折られてしまった。 (何なのだ、この男は!?) 繰り出す攻撃、もたらされる知識や発想のほとんどが、こちらの常識にないものだ。 混乱しかけるワルドだったが、そうこうしている間に今度こそユーゼスが腰の剣を抜いてこちらに向かって来る。 速い。 「くっ……おおおっ!!」 ザンッ!! ワルドの左腕が、肘の少し上あたりから、ポーン、と切り離されて飛んでいく。 (……かわされたか) やはり実戦ではそうそう上手くはいかないな、とユーゼスは思った。 それにしても、『接近しての戦闘』が選択されずにホッとする。 思わせぶりに二つの剣を両手で振るったことで、ワルドに疑念を抱かせることには成功したようだ。 ……デルフリンガーが『ライトニング・クラウド』をほぼ完全に食い止められるかどうかも賭けだった。 また、鞭によって杖を叩き折ることが出来たこと、動揺してワルドの動きが鈍ったことも幸運と言えるだろう。 ―――かなりの綱渡りだったが、どうにか成功したことに胸を撫で下ろす。 そしてユーゼスは剣をワルドに突きつけ……ようとしたのだが、 「おのれ……!」 バッ、と大きく跳びすさるワルド。魔法なし、しかも片腕を失って全身のバランスも悪くなっているであろうに、大した身体能力である。 「……まあ、目的の1つが果たせただけで良しとしよう。どの道ここには、すぐに我が『レコン・キスタ』の大軍が押し寄せる。そら! 馬の蹄と竜の翼の音が聞こえてくるだろう!!」 「待ちたまえ、ワルド子爵!」 「ここまでやっといて、逃げるつもり!?」 分身を片づけて取りあえずの治療も済み、ユーゼスの元へと集まってくるギーシュたち。 ワルドはそんな彼らの顔を一通り眺めてから、捨てゼリフを放った。 「フン、愚か者どもめ! ここで灰になるがいい!!」 そして窓を派手に突き破って、外へと脱出していく。 「待て!!」 「……追うな、ギーシュ・ド・グラモン!」 反射的にワルドを追いかけようとするギーシュだったが、すかさずユーゼスに止められてしまった。 「ど、どうして止めるんだ!? アイツはウェールズ皇太子を殺して、トリステインを裏切って……!」 「深追いしている余裕はない。……先程ワルドが言っていた通り、すぐそこまで『レコン・キスタ』が迫って来ている」 「う……」 言われて消沈してしまうギーシュに構わず、ユーゼスは床に転がっているデルフリンガーを拾った。 「ユーゼスよぉ、いくら何でも投げるのはヒデえんじゃ……」 「まともに戦って勝てないのならば、まともではない方法で戦うしかあるまい?」 「いや、それそうだけどよぉ……」 うるさいので鞘に仕舞って、更についでのように質問した。 「御主人様は大丈夫か?」 「……気絶してるだけみたいね。擦り傷や打ち身だらけだけど、そんなに酷くはないわ」 「そうか」 キュルケの言葉を聞いて、ルイズの無事を確認する。あれで死なれても目覚めが悪い。 さて、この場からどうやって脱出したものか―――と悩んでいると、 「モグ!」 「ヴェルダンデ!?」 ボコ、と礼拝堂の床が盛り上がり、そこからギーシュの使い魔のジャイアントモールであるヴェルダンデが顔を出した。 「無事だったんだね、ヴェルダンデ! 姿が見えないから心配していたんだよ!!」 「モグモグ」 抱き合うギーシュとヴェルダンデ。 そのヴェルダンデが地面に空けた穴を見て、タバサがポツリと呟く。 「……地面から脱出する」 おお、と気絶しているルイズ以外の全員が感心した。地中を通って逃げ出すとは、まさか『レコン・キスタ』も思いはすまい。 彼らは次々にヴェルダンデの作った穴へと入っていくが、ユーゼスだけはウェールズの亡骸の前で佇んでいた。 「……………」 ウェールズは完全に死亡している。 死ぬ寸前であれば『迎えに行く』ことも出来たのだが、そんなことをしても意味がないか、とかぶりを振った。 第一、『迎えに行く』価値があるのかどうかも分からない。この男とは、そこまで深く関わっていないのだ。 「おーい! 何をしてるんだね! 早くしたまえ!!」 ギーシュに呼ばれて、早く行かねばと意識を移す。『アンタの主人なんだから、アンタが運びなさい』と言われてしまったので、ルイズを運搬しなければならないのである。 「……形見くらいは貰っておくか」 ウェールズが指に嵌めていた『風のルビー』を取り外し、懐に忍ばせる。 「……まるで強盗だが……」 まあ、記念のようなものである。アンリエッタ王女に渡す予定でもあるし、ここは大目に見てもらおう。 そしてユーゼスはルイズを背負い、モグラの掘った穴から脱出したのであった。 ―――礼拝堂に貴族派の兵士やメイジが飛び込んだのは、その直後である。 彼らは、最後まで礼拝堂の床に空けられた穴には気付かなかった。 左腕の切断面を右手で抑えながら、ワルドは『レコン・キスタ』のそれなりに地位のある人間と接触するべく走っていた。 雑兵程度では、潜入員である自分の顔は知らないからだ。 「……クソ、忌々しい……!」 悪態をつく。あの銀髪の男さえいなければ、自分の計画はもっとスムーズに進んでいたはずであったのに……。 まさに、八つ裂きにしても飽き足らない相手である。 「だが、軽々しく手を出して良い相手でもない……」 あの男を打ち破るには、正攻法では駄目だ。もっと別の角度から攻めなくては。 「そうだ、あの酒場で話していた男……」 ラ・ロシェールで、ガンダールヴが『紫の髪の男』と話していたことを思い出す。 会話の内容はほとんど理解が出来なかったが、その話し振りからするとどうやら彼らは知り合いらしい。 「よし、まずはあの男の持つ情報を得ることから始めるか……」 ガンダールヴ攻略の糸口、そしてあわよくば『紫の髪の男』から知識や力を得ることが出来るかもしれない。 義手を入手次第、真っ先にあの『紫の髪の男』の調査を開始しよう―――と、ワルドは決心した。 ―――その行動がどのような結果をもたらすのか、全く気付かぬままに。 タバサの使い魔である風竜、シルフィードの背に乗るトリステイン魔法学院の一行。 あの後、アルビオンの『底』まで掘り進み、その地点からシルフィードを呼んで飛び乗ったのである。 あとはトリステインに戻るだけなのだが、その中でユーゼスは竜酔いの予感に身を震わせていた。 「……やはり、こうなるのか」 「諦めたまえ、ユーゼス。……と言うか、『アレ』を使えばすぐに帰れるのではないかね?」 後半部分を小声で囁くギーシュ。 それにユーゼスもまた小声で返答する。 「定員オーバーだ。『アレ』に入るのは人間3~4人ほどがせいぜいだからな」 「ふぅむ、万能ではないのか……」 なら仕方がない、と残念そうなギーシュ。 ……本当はデビルガンダムを呼び出して併用すれば、3~4人どころかシルフィード5体分は余裕なのだが、さすがにそこまで披露する気にはなれないので黙っておく。 「しかし、今は大丈夫だが、このままでは……」 「ん~……、別のコトとかに集中してれば、酔いにくいって聞いたことがあるけど……」 でも別のコトって言っても、空の上じゃねえ……とキュルケがアゴに人差し指の先を当てながら考え込む。 「別のことに集中、か」 そう言えば、とユーゼスは懐から一枚の紙片を取り出した。 それには、ある世界の座標が書かれている。 「……そうだな、集中してみるか」 「「「?」」」 ギーシュとキュルケとタバサが、いきなり変なことを言い出したユーゼスに疑問符を飛ばした。 「……これから少し、思考に没頭する。話しかけたり身体を揺さぶったりはするな」 「え、没頭するって……」 疑問の声に構わず、ユーゼスは横たわるルイズの隣に移動した。 特に深い意味はない。ただ静かそうだから、そこに移動しただけである。 「では、到着したら呼んでくれ。それよりも先に『思考』が終わる可能性もあるがな」 「あ、ああ……」 そしてユーゼスは目を閉じ、自身の脳内に仕込んであるクロスゲート・パラダイム・システムを起動させ、その『世界』を覗き込んだ。 「……なんだか、こうして見ると兄妹みたいだな、この二人」 「フフッ、そうね」 傍から見ると、銀髪と桃髪の兄妹が並んで眠っているように見える。 これを聞いたら、この二人はどんな顔をするのかしら……などとキュルケは考え、 「…………呆れるか、怒るか、嫌がるかじゃない?」 「それもそうか」 えらく現実的な回答に行き着くのだった。 ―――――空間座標軸、設定完了。 軸(アクシス)対象、『シュウ・シラカワ』。 該当空間における軸を中心とした『過去』の情報の収集を開始。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7786.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 「おお……」 コルベールは浮遊していく。 肉体が、ではない。 意識が身体を離れ、空に浮かんでいるのだ。 「……これが『死ぬ』ということか?」 そう呟く間にも、コルベールの意識は浮遊を続けた。 自分の身体や、それを剣で突き刺しているアニエスを見下ろし。 食堂の屋根をすり抜け。 トリステイン魔法学院の上空を通りすぎて。 雲の高さまで上昇してもなお止まらず。 あげくの果てにはトリステインどころか、ハルケギニアの形が分かるほどの高度に達する。 「む……止まったか」 ようやく止まってくれたことにホッとしつつ、コルベールはこれからどうしようかと首をひねった。 自分は先程、アニエスに刺された。 そしておそらく死んだ。 それはいい。 だが、それからどうすればいいのだろう。 「しかし、ヴァルハラ……いや、地獄とは意外にあっけないところなのだなぁ」 ヴァルハラ。 『天上』などと形容されることもある、死後の世界。 清く正しく生きていれば死んだ後にはそこに召されるらしいが、あれだけの罪を犯した自分がそんな場所に行けるわけがない。 つまりここは、いわゆる『地獄』という場所のはず。 「うぅむ……」 しかしその『地獄』らしき場所で、自分はただプカプカと浮かんでいるだけだった。 ある意味、予想外である。 「…………どうしたものか」 さすがに死んだ後のことまでは考えていなかったので、途方に暮れるコルベール。 と、そこに聞き覚えのある声が響いた。 「―――今のところはどうする必要もない」 「何?」 声のした方に振り向いてみれば、そこには虹色をした半透明の四角い箱のようなものに包まれた、 「ゴッツォ君……?」 「……こうしてじっくりと話をするのは初めてか、ミスタ・コルベール」 ユーゼス・ゴッツォがそこにいた。 「? なぜ君が……い、いや、ちょっと待ってくれ。どういうことなんだ?」 コルベールは右手で額を押さえながら状況を整理しようとするが、どうにも理解が追いつかない。 自分は死んだのではなかったのか。 それとも何だ、実はこのユーゼス・ゴッツォという男は地獄の水先案内人とでも言うのか。 「混乱しているようだな」 「……当たり前だ」 まあ無理もないか……などと呟きつつ、ユーゼスは『虹色の箱』に入ったままでコルベールに語りかける。 「お前がミス・ミランに刺された瞬間に、お前の精神を一時的に肉体から切り離し、位相が微妙に異なる空間に移したのだ。……私がこの空間にいるのも同じ理屈だな。ちなみにこの間、通常空間では全く時間が経過していないので安心しろ」 「は?」 「む、理解が出来ないか?」 「…………おそらくハルケギニア中を探しても、今の言葉を理解出来る人間はいないと思うよ」 「そうか。まあ理解したところで、今の状況ではあまり意味がないのだが」 「……………」 プカプカと浮きながらハルケギニア大陸を見下ろしつつ、コルベールは困惑する。 理屈はサッパリ分からないが、この現象はユーゼスの仕業によるものらしい。 ……いくら始祖の使い魔とは言え、これはガンダールヴの能力ではあるまい。確実に自分の―――ハルケギニアの理解を超えた力によるもののはずだ。 この目の前の白衣の男が、なぜそんな力を持っているのか。 その力はどれだけのことが可能なのか。 そして何より解せないのは、 「これだけのことが出来るというのに……君は、どうして……」 今までほとんど何もしてこなかったのか。 そんなコルベールの強い疑問に対して、ユーゼスは無表情に答える。 「……確かにハルケギニアという世界において、私のこの力は異質すぎると言えるだろう」 「そうだろう、ならば……」 「だが人々が生きている世界に、超絶的な……神のごとき力など不要だ」 「何?」 「そんなものなどなくても人々は生きているし、世界は存在し続けている。……むしろ突出した力を持つ存在は、世界に無用な混乱を撒き散らしてしまうのだ。その精神や行為の善悪に関わらずな……」 「……ゴッツォ君?」 コルベールは四十二歳である。 決して長く生きたとは言えない年齢だったが、それでも軍人として、隊長として、教師として、若者に何かを伝える人間として、『それなりに』人生経験を積んできたという自負はあった。 そのコルベールが今のユーゼスに抱いた印象は……。 (……まるで老人だ) しかもオールド・オスマンのような『老いてなお盛ん』というタイプではなく、『やるべきことを全てやり尽くしてしまった』タイプのそれだった。 少なくとも自分よりは若く見えるこの男に、そんな印象を抱くとは。 いや、もしかするとこの男の年齢は……。 「……いかんな。久し振りにシステムを本格起動させたせいで、思考まであの頃のパターンをなぞりつつある」 ユーゼスは首を振ると、あらためてコルベールに向き直る。 コルベールもそれを見て、今は余計な詮索はするまいと正面からユーゼスの視線を受け止めた。 「それで、この現象が君の……その、力によるものだとして、一体何が目的なのだ? こんな形で私と会話をすることに何の意味がある?」 ユーゼスは端的に呟いた。 「お前に選択権を与えに」 「選択権?」 「そうだ。お前の肉体は、このままでは確実に死ぬ」 「……それは……」 まあそうだろうな、とコルベールは思う。 何せさんざん殺しに慣れていた自分が『これは死んだ』と思ったほどなのだから。 しかし『選択権』とは何だろう。 「何を私に選択させるつもりなのかね?」 「簡単なことだ。……このまま通常空間に復帰して死ぬか、それとも新たな命を得て再びの生を歩むか。それを選ばせるために私はこの場を用意した」 「『選ばせる』? なぜそんなことを?」 「火の塔近くでメイジと戦闘した時、お前の助けがなければ私は死んでいたからな。その借りを返しに来たのだ」 「…………なるほど」 律儀と言うか、変に義理堅いと言うか。 コルベールはある種の感心を覚えると同時に、 (今の口振りからすると、彼は生命すら自在に操ることが出来るのか……) このユーゼスという男に対して、軽い畏怖すら抱き始めた。 だが、この男は『自分の力を積極的に使いたくはない』と言い、自分の力を忌避しているようにさえ見える。 まるで『火』を人殺しに使いたくはない、と言っていた自分のように。 ……いや、自分は『火』の平和的な利用方法を模索していたが、ユーゼスは自分の力そのものを嫌っているのか。 この男の過去には、一体何があったのだろう。 「……このような選択をさせずに、問答無用で生き返らせてもよかったのだが……ミス・ミランに刺される直前に杖を捨てたことからして、お前は自分から死を選んだように見えたのでな。……死にたがっている人間を、無理矢理に生き返らせるわけにもいくまい」 「……………」 自殺でもされてはあまりにも意味がない、とユーゼスは言う。 そう、確かに自殺に意味などはない。 ないのだが……。 「……ダングルテールの一件以来、私は研究に打ち込んだ」 「む?」 コルベールはゆっくりと語り始める。 「多くの罪なき人々を焼き払った……その罪の償いをしようと、一人でも多くの人間を幸せにすることこそが私に出来る贖罪だと考えた。そうして私は、誰もが使えるような新しい技術の開発を目指した」 「傲慢だな。……そんなことをしようと死んだ人間は生き返ったりなどしないし、過去が消えるわけでもない」 「その通りだ」 ユーゼスに指摘されたことに動揺することなく、むしろ肯定すらするコルベール。 「どれほど人の役に立とうと考え、それを実行しても……私の大きすぎる罪は決して赦されることは決してない。罪は消えぬ。いつまでも消えぬ。この身が滅んでも、罪は消えぬ。『罪』とは、そう言ったものなのだ」 「……………」 「だから、これは『義務』なのだと。生きて世の人々に尽くすことが私の『義務』であり、死を選ぶことも赦されぬと、私はそう思った。……いや、今でもそう思っている」 「ならば生きることを望むか?」 「―――いいや」 「?」 ユーゼスは首を傾げ、怪訝な顔でコルベールを問い質す。 「……明らかに矛盾しているぞ。『死を選ぶことが赦されない』と言うのに、『生きることを望まない』とはどういうことだ?」 「それは……あのアニエス君だ」 「……………」 「私にとっては、死を選ぶことすら傲慢だが……唯一、私の死を決定することが出来る人間がいる。彼女だ。あの村の唯一の生き残りであるアニエス君だけが……私が焼き尽くした彼らの慰めのために、私を殺す権利を持っているのだ」 「ふむ」 ユーゼスは無感情な目でコルベールを見る。 その内心は呆れているのか、笑っているのか。あるいは全く別の感情を抱いているのか。 表情の動きからそれを窺うことは出来なかったが、やがて小さく息を吐いて言葉を紡いだ。 「……お前がそれで納得すると言うのなら、私としても構わんが」 するとコルベールは、照れくさそうに頭を掻き始める。 「いや……こうして格好のいいことを喋ってはみたが、本当のところは死に場所を探していただけだったのかも知れん」 「そうなのか?」 「ああ。彼女に殺されて何となく肩の荷が下りたと言うか、ホッとしているのも事実だしな」 「……因果の鎖から解き放たれた、か」 少し感慨深げに言うユーゼス。 一方、またいきなり理解の出来ない単語が出て来たのでコルベールはキョトンとした顔になった。 「どういう意味かね?」 「……何、ただの独り言だ。気にする必要はない」 「むう」 そういう言い方をされると、むしろ余計に気になってくる。 もっとも、気になるのはユーゼスの言動だけではなく、素性や能力や正体に関してもそうなのだが。 「まあ、今更惜しい命でもないからなぁ。未練はそれなりにあるし、『火』の新しい使い道のヒントくらいは見つけたかったが、『死に場所』に遭遇してしまってはどうしようもない」 「『往生際が良い』というやつか?」 「いいや、ただ単に見切りをつけるのが早いだけだよ」 と、ここまでユーゼスと会話して、コルベールの中で一つの好奇心が首をもたげてきた。 この短い会話の中で生まれた、数多くの疑問。その中でも最も強いもので、そしてコルベールが『もしかしたら』と思っていることがある。 それは……。 「―――ゴッツォ君、最後に一つだけ聞かせてくれ」 「何だ?」 「君はもしかして……その……、いわゆる『神』なのか?」 「………………『神』だと?」 ユーゼスの目が見開かれる。 予期していない質問をぶつけられたせいで、驚いたのだろうか。 「―――――」 ユーゼスは沈黙して何かを考え込む。 そして十秒ほどそうした後、ためらうような口調でコルベールに回答を告げた。 「……あいにくと人間だ。他人の目にはどう映るか知らんがな……」 「そうか」 それならそれで、別に構わない。 コルベールは疑問の一つが解けたことに充足感を感じていた。 一方そんな様子のコルベールを見て、ユーゼスは少し惜しそうに言う。 「もう少し早くこうして話をしていれば……いや、お前の研究対象が私の主義と真っ向から反するものでなければ、あるいはお前を友と呼べていたかも知れんな」 「そうだな……。色々と心残りはあるが、一番の悔いはそれかも知れない」 分野こそ違うが、何だかんだ言っても同じ研究者同士だ。 たとえ主義や信念が異なるものだとしても、前からもっと意見をぶつけ合わせるなりしていれば、今とは違った関係になっていた可能性は十分にあっただろう。 と、言うか。 「しかし、私の研究内容が君のお気に召していなかったとは初耳だな。そうならそうと言ってくれればよかったものを」 「言う必要性を感じなかったものでね」 「……そういうところは直した方がいいと思うぞ」 「考えておこう」 「考えておくって……君なぁ……」 ……さて、そろそろ語るべきことも無くなってきた。 あとは『もういい』とでも言えば、コルベールの意識はすぐに魔法学院の食堂にある身体へと戻り、次の瞬間には死を迎えるのだろう。 「……………」 「……………」 だがコルベールは何も言わず、ユーゼスもまた沈黙をもって相対する。 体感時間にしてみれば、わずか数秒ほどのこと。 そして。 「さらばだ、ジャン・コルベール……」 「……ああ。君も達者でな、ユーゼス・ゴッツォ」 最後の最後に『ミスタ』も『君』も付けずにフルネームで呼び合って、二人は別れたのだった。 「ぅ……っ、ぐ……」 「…………!」 ズ、とコルベールの胸から剣を引き抜くアニエス。 その身体にはコルベールから流れ出た血がベッタリと付着してしまっているが、それを気にした様子はない。 「―――――」 倒れこむコルベールの身体はアニエスの身体をすべり、床へと崩れ落ちていく。 「っ」 アニエスはうずくまっているような体勢のコルベールを蹴飛ばし、強引に仰向けにさせた。 そしてまた剣を突きつけ、強い口調で問いかける。 「……なぜ、杖を捨てた!? お前は刺される直前、やろうと思えば私を倒せたはずだ!!」 どうしても納得が行かない、と彼女の全身が告げている。 そんなアニエスに対し、コルベールは息も絶え絶えに話しかけた。 「き、君には……私を、殺す……権……利が、ある……」 「何だと!!?」 「わ……私を、ここで、殺すのは……別に、構わない。……だが……、これを最後に、もう……人を殺すのは……、やめて……くれ」 「貴様……何をぬけぬけと!!」 激昂し、もう一度剣を構えてコルベールに突き刺そうとするアニエス。 コルベールはそんな彼女から視線を離さずに喋り続ける。 「……あの時、初めて……罪に、気付いた。……命令に従うのが、正しい……こ……と、だと、思っていた……」 アニエスの憎き仇、そして魔法学院の教師でもある男。 彼は最後の力を振り絞り、何かを訴えかけようとしていた。 「だが……! たとえ、どんな正当な……理由が、……あっても、人を……殺すのは……罪、だ……!」 対するアニエスは、憎悪の表情のまま。 とてもコルベールの言葉が届いているとは思えない。 「だ……、だから……」 しかしコルベールはそれでも喋り続けようとして、 「っ……――――」 そのまま動きを止めた。 「……………」 冷ややかな目でそれを見つめるアニエス。 彼女は目を開けたまま微動だにしなくなったコルベールの肩を突き刺し、更に身体をまた蹴り飛ばしまでしてから一つの結論を下す。 「やった……」 20年越しの仇討ちは、今ここに果たされた。 彼女は人生の宿願を果たしたのだ。 しかし。 「…………終わった、のか」 呆然と呟くその言葉には、不思議と力がこもっていなかった。 (『死に場所』か) ユーゼスはコルベールが息を引き取る瞬間を見守りながら、特殊空間で聞いた彼の言葉を思い出していた。 (私の本当の死に場所は、一体どこなのだろうな……) 人の命を奪うことが罪だと言うのならば、ユーゼスも罪を犯している。 それもコルベールとは比較にならないほどの数をだ。 直接ではないが……自分の行為が原因で都市の10や20は軽く壊滅させてしまったこともあれば、歴史を捻じ曲げたりもしたし(最小限度に抑えるように尽力はしたつもりだが)、あとは組織を乗っ取るために因果律を操作して邪魔者を排除したりもしたか。 しかしその罪と引き換えという訳でもないだろうが、自分は二度ほど死んでいる。 身体の大部分と、本来の顔を失った一度目の死。 イングラムとガイアセイバーズによって打ち倒された、二度目の死。 しかし二度の死を迎えてもなお、自分はこうしてここに生きている。 コルベールの言葉によれば、死んだところで決して罪は消えないし、赦されないらしいが……。 (……まさか私は、永遠に死と生を繰り返すのではないだろうな) ある意味、地獄である。 ……いや、いくら何でもそれはないか。 (『ユーゼス・ゴッツォ』という存在が全ての並行世界から完全に消滅することはないにしても、『この私』の終わりはあるはず……) あるいは、自分は本当に死ぬためにこのハルケギニアという世界に存在しているのかも知れない。 いや、それならそれで別に構わないが、だったら二度目の時に素直に死なせてくれれば良かったものを。 『宇宙の意思』……確かどこかの世界では『アカシック・レコード』とか呼ばれていたモノは、一体『このユーゼス・ゴッツォ』に何をさせたいのやら。 まあ、少なくとも『贖罪』という線はあるまい。 今更そんなことをしたところで、何の意味もないのだから。 (……まったく) 何にせよ、よく分からないことだらけである。 だが……。 (少なくとも、それは今考えることではないか) 自分の存在意義や生存理由など、真面目に考え始めたら一生かかってしまう。 そんなことはそれこそ死に際にでも考えればいい。 「やれやれ……」 溜息をつきつつ、食堂のある本塔から出るユーゼス。 ただでさえ戦闘で疲れているのに、これ以上疲れることを考えたくはない。 取りあえず部屋に戻って、睡眠でも取ろう。 そう思って寮へと足を向けると、 「……む?」 物陰からコソコソとこちらを窺っている人影を発見した。 そろそろ白み始めてきた空のおかげで、その人影の特徴である見事なブロンドやら眼鏡やらが、キラリと光っている。 ……と言うか、顔をほぼ丸ごと壁から出してしまっていては『物陰に潜んでいる』意味がなくなってしまうのだが。 おまけに寒さ対策のためか、寝巻き姿の上にマント(おそらくどこからか持ってきたのだろう)を羽織るという格好をしているため、ヒラヒラしていていて隠密性もへったくれもない。 まさに素人丸出しの隠れ方だった。 「…………何をやっているのだ、お前は」 呆れつつ、顔見知りのその人影に話しかけるユーゼス。 するとその人影はビクッと反応し、おそるおそると言った様子で返事をしてきた。 「だ、だって……あの連中が、まだいるかも知れないでしょ」 「……私がこうやって無防備に外に出た時点で、おおよその察しはつくのではないか?」 「伏兵とかがいる可能性だってあるじゃないの」 「…………その伏兵以外の戦力が全滅しているのでは意味があるまい。仮にいたところで、撤退していると私は見るが」 「そうかしら?」 「そうだろう」 まあ、素人判断ではあるのだが。 ともあれその物陰に潜んでいた人影は、おっかなびっくり姿を現す。 ユーゼスはそんな彼女に内心でほんの僅かに苦笑しつつ、取りあえず不安を払拭させるために声をかけた。 「安心しろ。仮に敵がいたとしても、その時は……」 「その時は?」 「……二人で戦えば何とかなるはずだ」 「………………あのねえ、ユーゼス。そこは『私が守ってやる』とか、そういうセリフを言うべきだと思うんだけど?」 「利用が出来るものは可能な限り利用する、というのが私のスタンスでね」 「……前に『私は戦闘に向いてないから戦闘メンバーから除外する』とか言ってなかったかしら?」 「非常事態だ。仕方があるまい」 サラッと自分を戦力に組み込んだユーゼスに対して、金髪眼鏡の美女はジロリと白い目を向ける。 だがユーゼスは気にした風もなく、 「しかし……意外と臆病だな、エレオノール」 「……慎重と言ってちょうだい」 目の前のエレオノールに対して、そんな指摘をする。 エレオノールは何となくバツが悪そうにそっぽを向くが、ユーゼスは構わずに彼女に話しかけた。 「御主人様は無事か?」 「ええ、ルイズならいつでも学院から逃げられる場所に置いてきたわ。何だかやたらと落ち込んでたって言うか、辛そうだったみたいだけど……」 「あれだけのことがあったのだ、無理もあるまい」 「ただでさえあの年頃は色々と微妙でもあるし……変な影響とかが出なければいいんだけど」 「『あの年頃』か」 精神年齢68歳くらいのユーゼスとしては、10代後半の頃などはもう遠い彼方である。 あまりにも遠すぎて、もはや何も思い出せないほどに。 一方、エレオノールはその言葉を曲解したらしく、ジト~ッとした目をユーゼスに向けていた。 「……何が言いたいのかしら?」 「特に他意はない」 本当に他意はないのだが、納得いかない様子のエレオノールはユーゼスに視線を注ぎ続ける。 すると、不意にその目が『チクチクと刺すようなもの』から『心配そうなもの』へと変わった。 「何だ? 外見的にそれほどおかしい点はないと思うが」 「……いえ、けっこうボロボロよ、あなた」 「む?」 言われてユーゼスが自分の身体や衣服を確認してみると、確かにボロボロだった。 無理もない。 食堂に入る前にはメイジ二人と交戦し、その後にはメンヌヴィルの炎にあぶられ続けていたのだから、特殊加工も魔法もかけられていない普通の白衣がボロボロにならない方がおかしいだろう。 もちろん、そんな普通の白衣の下にある普通の身体にもダメージはあるわけで。 「……そう言えば火傷も各部に出来ているな。当然と言えば当然だが」 「『そう言えば』って、他人事みたいに言うんじゃないわよ! ああもう、顔についたススくらいは拭いておきなさい!」 言うなり、指でユーゼスの右頬のススをぬぐうエレオノール。 「……やっぱりちゃんとした布で拭いた方がいいわね。これだと私の手も汚れるし。それじゃあ、取りあえず……」 そして医務室にでも連れて行くつもりなのだろう、そのままユーゼスの腕を掴むと、 「ところでエレオノール」 不意にユーゼスから声をかけられる。 「何よ? ……まさか『大した火傷でもないから放っておけ』とでも言うんじゃないでしょうね?」 「いや、倒れてもいいだろうか」 「え?」 その言葉の意味を問い質すよりも早く、ユーゼスの身体がエレオノールに向かってフラリと倒れこむ。 エレオノールはその倒れてくる男の腕を掴んでいるので避けるわけにもいかず、わたわたしながらもユーゼスの身体を抱きとめてしまった。 「……………」 「は? え? ちょ、ちょっと……えっ、ええぇ!!?」 たちまち顔を紅潮させて混乱する金髪眼鏡の美女。 だがしどろもどろになりながらも、何とか状況の説明だけは要求する。 「なっ……ななな、なっ、何するのよ、いきなり!? こっ、こういうことは恥ずかしいから、外にいるときじゃなくって部屋の中で……じゃないっ! とにかく、何事よ!!?」 唐突に抱きつかれてドキドキ状態、その上いっぱいいっぱいな様子のエレオノールだったが、抱きついているユーゼスは割と落ちついている様子で質問に答える。 「……先程のやり取りで完全に気が抜けたというか、緊張の糸が切れてな。一気に身体の力が抜けてしまった」 「は、はあ?」 実を言うと、ユーゼスは心身ともにもう限界に近かった。 いくらガンダールヴのルーンで強化されているとは言え、ユーゼスは宇宙刑事のようにコンバットスーツを身にまとっている訳でもなければ、ガンダムファイターのような戦闘用の身体でもない。 火の塔近くでのメイジ二人との戦いと、メンヌヴィルとの戦いとの連戦は『本職が研究者』であるユーゼスにはかなり厳しいものがあったのだ。 特にメンヌヴィルとの戦いは最初から最後までかなりギリギリの展開だったし、その間は精神が張り詰めたまま、体力は消耗しっぱなしだった。 そんな状態でいきなり気が緩んだりしたら、こうなるのも仕方がない。 とは言え。 「……一人であんな危険な相手に向かっていくような無茶をするからよ、まったく」 「その危険な相手に一人で食って掛かっていった、お前にだけは言われたくないセリフだな」 「あ、あの時は何て言うか、反射的にそうしちゃったんだから、仕方がないでしょう!」 「だろうな。私もそうだ」 『倒れこんでいるユーゼスとそれを抱きとめているエレオノール』という構図なので、傍から見ているとこの二人は抱き合っているようにしか見えなかったりする。 もっとも、二人の内の片方にそんな自覚は全くないのだが。 「ん……」 と、ここでエレオノールが軽くよろめいた。 どうやらほぼ脱力しきっているユーゼスの身体が重いようだ。 「……どうでもいいけど……いえ、よくないけど。仮にも男が、いつまでも女の私にしがみついてて情けないとか思わないの?」 「思わん」 「……………」 呆れるエレオノール。 こうまで相手が冷静と言うか、何にも感じていないようだと、ドキドキするのも間が抜けているような気がしてきたらしい。 そして『もうその辺に放り出ちゃおうかしら』などということを本格的に考え始めたあたりで、 「それに意外と悪い気分でもないしな」 「んなっ!!?」 いきなりそんな爆弾が投下された。 たちまちエレオノールの心拍数は跳ね上がり、ドキドキが再加速し始める……が、そのドキドキさせている張本人は涼しい顔。 「どうした、いきなり狼狽などして。何か問題でもあったか?」 「っ、問題だらけよっ!」 「?」 エレオノールは無自覚な彼に腹を立て、ユーゼスはそんな彼女に首を傾げる。 ちなみにアレコレ言い合いつつも、お互いに抱き合っている身体を振りほどこうとはしていない。 「まったく……! 大体ね、もう何度も言ってる気がするけど、あなたはもう少しデリカシーというものを…………って、あれ?」 「―――――」 ユーゼスほどではないにせよ『マトモな恋愛経験』が皆無に等しいエレオノールは、それに気付かないままユーゼスに不平不満をぶつけようとして、そのユーゼスに起きている異変に気付いた。 力の抜けきった身体。 閉じられた瞳。 ゆっくりと繰り返される呼吸。 つまり、ユーゼスは。 「―――――」 「ユーゼス、あなた……」 「―――――」 「…………もしかして、寝てる?」 「―――――」 エレオノールにもたれ掛かりながら、睡眠に突入しているのであった。 まあ、一晩中どこかに(ユーゼスがカトレアの屋敷にいたことをエレオノールは知らない)出かけていて、学院に戻って来たと思ったらいきなり前述のような緊張状態が続き、しかもその緊張の糸が切れれば睡魔に襲われて当然ではある。 「……………ぅぅう」 当然ではあるのだが、エレオノールはどうにも納得がいかない。 「ね、寝るって……。いきなり何の脈絡もなく、寝るって……。いえ、そりゃあ休ませてあげたい気持ちも少しはあるけど……それにしたって、いきなり寝ることはないでしょ……」 細い身体にズッシリとのしかかるユーゼスの重みにまたよろめきながら、ブツブツと文句を呟くエレオノール。 「……………」 「―――――」 改めてユーゼスの顔を覗き込んでみると、何ともまあ無防備な顔で眠りこけていた。 いつも難しい顔をしていたり、斜に構えた態度を取ったりするユーゼスのこういう一面を見るのは、ある意味で貴重なような気がする。 エレオノールはそんなユーゼスを見ていると、何だか胸の奥がチクチクするような、締め付けられるような、どうにも上手く言い表せない気持ちになってきた。 「ぁぅ……」 今更ながら、『自分とユーゼスは抱き合っている』という自覚が芽生えてくる。 少し耳をすませば自分と密着しているユーゼスの呼吸音と、それよりも大きな自分の心音が響いている。 そして頭の中をグルグルと巡るのは、 ―――「あの男に『近付かれる』以上の事はされなかっただろうな?」――― などというユーゼスのセリフである。 とは言え、本人に『そういう自覚』があるのかどうかは定かではなく、その真意は分からない。 「………………もう、馬鹿」 拗ねるような口調でポツリと呟く。 幸か不幸か、そんなエレオノールの呟きはユーゼスの意識に届くことはなく。 また、彼女の唇が彼の右頬に触れたことにも、気付かれることはなかった。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6412.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 ルイズは眠りについた意識の中で、もはやお馴染みとなった感覚を味わっていた。 『ただ見ているだけ』だった最初の頃とは違い、今では感想を交えながら『観賞する』余裕さえある。 そして、今回の夢でルイズが第一に抱いた感想は『疑問』だった。 (……また、この夢?) てっきり前の『仮面の男の敗北』で終わりだと思っていたのに、どういうことなのだろうか。 (アレの続きなのかしら?) しかし、死んだ後の続きなんてあるんだろうか。 ……幽霊になった男の物語なんて、見たくはないのだが。 「40年前、ETFの攻撃によって瀕死の重傷を負った私は、皮肉にもそのETFのザラブ星人に助けられた……」 まだら色の空、銀色の地面。 重々しい口調で語る男と、それを聞く様々な人間たち。 (……コレって、あの『最後の戦い』の場面じゃないの) また同じ場面を見せようとしているのだろうか? 「そして……ETFに身を寄せた私は、光の巨人……ウルトラマンの研究を始めた」 (……だけど、覚えのない内容ね) 似たようなことを話している場面はあったが、話している場所やそこにいる登場人物が違う。 ということは、『今まで見ていなかった場面』なのだろう。 思えば、あの舞台は主要な部分だけを抜き取った断片的なものだった。 ならばコレは、『主要な部分以外の、語られなかった場面』ということになるのだろうか。 「彼らは素晴らしい……。悠久の時を生き、裁定者として宇宙に君臨している……。 更に、深い慈愛の心と超越的な破壊力を併せ持ち……生命の謎をも解き明かしている。 ウルトラマンは神に等しい存在だと言えよう……」 「………」 (へえ……) それはすごい。本当に神さまみたいだ。 仮面の男が憧れる理由も、ちょっと分かる。 ……その『神の力』を与えられたはずの丸い兜と黄色い服を身に付けた男は、仮面の男の言葉を厳しい顔で聞いているが。 「だが、彼らは神のように遠い存在ではない。ハヤタや郷 秀樹のように……人間と一心同体になれるのだ」 「………」 「……私はかつて地球で見た光の巨人たちに憧れた。あの素晴らしい力を欲した。 私も……ウルトラマンになりたいと思った」 言葉の端々から、妙な実感が込められていた。 おそらく、その言葉は本音なのだろう。 「だが、ウルトラマンは新西暦155年の地球を境として……その姿を見せなくなった。地球を去ってから、私は彼らに会うことが出来なかった」 仮面の男は、本当に残念そうに話す。 「……もっとも、私のように邪念を持つ人間とウルトラマンが同化しないことは分かっていたがね……」 (何なの、コイツ……?) 自分のことを、よりによって『邪念を持つ人間』だと言い切った。 普通、自分で自分を表現する時に、そんな言葉を使うだろうか? この仮面の男が分からない。 理解の出来なさ加減では、自分の使い魔に匹敵するかもしれない。 声もよく似てるし、もしかしたら本当に……などと考えながらも、ルイズは続けられていく『舞台』を見ていく。 「我々の力を手に入れて、何をしようと言うのだ!?」 「もちろん……この宇宙を調停するのだ」 黄色い服の男の問いに、平坦な口調で答える仮面の男。 「お前たちのように正体を隠して他文明の危機を救うのではなく、当初から絶対者として宇宙に君臨する。 それが……超絶的な力を持った者の定めだ!!」 「違う! 我々はあくまでも、人々の意思を尊重する!」 仮面の男の主張を、黄色い服の男は真っ向から否定した。 ……どうでもいいが、確かこの男はあくまで『光の巨人と一心同体になった』だけで、人格はあくまでも『黄色い服の男』であるはずなのに、なぜ完全に『光の巨人』の視点で話すのだろう。 (一心同体になりすぎて、完全に溶け合っちゃったのかしら) まあ、大して気にすることでもないのだが。 ともあれ、『舞台』は続く。 仮面の男は、苛立たしげに言葉を放っていた。 「……私や銀河連邦警察の宇宙刑事たちに不可能なことを、お前たちはアッサリと成し遂げ、無力な人々に奇跡を見せる。 その結果、人々に与える印象は何だ? 私がどんなに汚れた大気を浄化しようとも……宇宙刑事たちが命をかけて犯罪者を捕まえようとも……。 ウルトラマンの存在を知った人々が思うことは一つ……」 そして憎しみすら込めて、仮面の男は『その言葉』を口にする。 ……他でもない、仮面の男自身が強く抱いたその思いは……。 「『ウルトラマンがいれば何とかしてくれる』」 「!! そ、それは……」 (……!) 『舞台上』の黄色い服の男だけではなく、見ているルイズもドキリとした。 思えば……自分も、使い魔に対してそんなことを考えていなかっただろうか? (で、でも、わたしだって『虚無』を使えるようになったんだから……) そう思って何とか意思がくじけそうになるのをこらえるが、仮面の男は追及の手を緩めない。 「……お前たちは、自分たちより弱い立場にいる者を甘やかしているだけだ。偽善者面で神を気取っているだけなのだ。 お前たちは弱者の自立を遅らせている! 宇宙はお前たちの存在など必要とはしていない!!」 「………」 憧れていた。その存在になりたいと思った。 だからその憧れが強い分だけ、不満も強い。 (う、うう……) そして、この男の声でこんなに強く責められると、何だか『力』を持っていることが、とてつもなく悪いことのような気がしてくる。 「この宇宙に必要なものは……全てを支配する者! そう……因果律を調整する者なのだ!!」 「……っ!!」 目が覚める。 部屋の中は真っ暗だった。 「嫌な、夢……」 額を手で押さえながら、ルイズはかぶりを振る。 「……わたしは、わたしの力を……」 あの夢の最後の結論はどうかと思うが、その直前までの理屈はルイズを打ちのめしていた。 無力な人々に奇跡を見せる。 偽善者面をして神を気取る。 弱者を甘やかし、自立を遅らせているだけ。 救世主など必要とはしていない。 「わたしの『虚無』も……そうなのかしら?」 アレは、確かにすごい力だった。聞いた話だが、城下では『奇跡の光』などと呼ばれているとか。 ……もし他の人間がアレを見たら、自分を頼ろうとするのも……まあ、分かる。立場が違ったら、自分だってそうするかもしれない。 「でも……」 しかし、その人々の期待や願いに応えて、危機から救ったとして。 それが本当に『助けられた人々』ためになるのか、と言うと……。 「……………」 分からない。 何とかしなきゃいけない状況になって、他の人には何にも出来なくて、でも自分には何とか出来る力があって。 自分がその状況を解決するのは……いけないことなのだろうか? 「分かんないわ……」 ……早くも考えに行き詰まったので、ベッドに体重を預ける。 「…………ユーゼスなら、分かるのかしら」 ルイズは溜息をつきながら、ポツリとそんなことを呟く。 でも、この問題は自分自身で解決しなければいけない。……漠然とだが、そんな気がする。 「少なくとも、アイツに相談することだけはやめよう……」 これは自分で考えて、自分で結論を出しておかなくてはならないことだ。 ―――しかし、もしも実際にその時が来たら自分はどうすれば……いや、どうするのだろうか? トリステイン魔法学院の図書館は、巨大である。 30メイルほどもある本棚がギッシリと敷き詰められ、それが延々と続いている。 本塔の大部分は、この図書館で占められているほどだ。 なので、当然ながら扱っている蔵書も多岐に渡る。 門外不出の秘伝書、子供用の簡単な文章が書かれているもの、始祖の使い魔について記されている本、……そしてポーションのレシピが書かれた書物など。 「うーん、『リラックス用』や『イライラさせる用』を応用すれば、何とかなると思うんだけど……」 そんなポーションのレシピをじっと熟読しながら、金髪巻き毛に青い瞳の少女、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシは悩んでいた。 『悩んでいた』と言っても、アルビオンとの国交や戦争、トリステインの今後の政治などについてなどではなく、ごく個人的な用件についてである。 学生にとっては『戦争』など、あくまで遠い世界の出来事でしかないのだ。 「あー、やっぱりダメだわ。……もうこうなったら、闇ルートを使うしかないのかしら」 「随分と熱心だな、ミス・モンモランシ」 「っ!?」 ブツブツ独り言を言っていたら、横から突然に声をかけられる。びっくりしたモンモランシーが、自分に声をかけてきた人物の正体を確かめるために視線を動かすと、そこには……。 「……って、な、何よ、ユーゼスじゃないの。いきなり話しかけないで」 「それは失礼した」 焦った様子で自分に話しかけてきた、白衣を着た銀髪の男……ユーゼス・ゴッツォに注意を行うモンモランシー。 「図書館に来てみれば見知った顔がいたので、声をかけてみようかと思ったのだが、邪魔だったか?」 なら他の席に移るが、とユーゼスは無表情に言う。 モンモランシーは少し悩んだが、やがて意を決したようにユーゼスにこの場に残るように頼んだ。 彼女が作ろうとしているポーションについて、この男から何かアドバイスをもらえるかも知れない、と考えたのだ。 …………無論、そのポーションをこの男に使うつもりなどは全く無い。 彼らの関係を一言で表すと、『研究仲間』である。 最初はモンモランシーが『何で平民が、貴族しか入れない図書館にいるのよ』と突っかかり、ユーゼスは黙ってオールド・オスマンから貰った許可証を差し出しただけの関係だった。 その後、両者は何度か図書館内で顔を合わせ、ユーゼスが水系統の書物を持っていた時に『あら、それは……』とモンモランシーが興味を引かれた。 そしてモンモランシーが『ちょっと話をしてみるか』と気まぐれをおこし、互いの研究について説明しあう。 結果、水系統専門のモンモランシーと、水に限らず全ての系統を網羅しているユーゼスの二人の分野が重複していたので『だったらお互いに情報を交換しよう』ということになったのだ。 モンモランシーとしては、これまでにない視点や発想から繰り出されるユーゼスの意見や考察は、かなり新鮮だった。衝撃と言っても良いかも知れない。 彼女は自分が作ったポーションを街で売っていたが、彼の意見を元に作成したポーションは、好調な売れ行きの人気商品だ。その点は感謝もしていた。 ユーゼスとしても、実際に魔法を使えるメイジの意見を直接聞くことが出来るのはありがたかった。最も身近にいるメイジが魔法をほとんど使えないため、意見を聞こうにも聞けなかったのである。 要するに、二人は利害が一致していたのだ。 「ほう、精神操作系のポーションか」 「……ええ。あなたのおかげで『感情をある程度操作する』研究は進んでるんだけど、それはあくまで『うわべだけの感情』なの。心の底からどうこう、って言うのは難しいのよ」 モンモランシーとユーゼスは、図書館内の広めの机に向き合って座って話し始めた。 「人間の精神を、そう簡単に操れることの方が問題だと思うが」 「うっさいわね。……しかも、操れるのは喜怒哀楽とか興奮とかの『単純な感情』だけだし。悔しさとか好意とか、そういう『複雑な感情』はコントロール出来ないの。 理論上は可能なはずなんだけど……」 そんなモンモランシーの言葉を聞いて、ユーゼスは率直な意見を口にする。 「お前は人間を洗脳して、完全なコントロール下に置きたいのか?」 「そんなワケないでしょ。……理論上可能なんだったら、作ってみたいとは思わない?」 「確かにな」 どうやら自分が持つ好奇心について、ユーゼスも心当たりがあるらしい。 「……しかしそこまで強力なポーションとなると、間違いなく禁制になるだろうな」 「うっ……」 痛いところを突かれた。それを言われてしまうと何も出来なくなってしまう。 いや、それでも好奇心はバリバリに存在をアピールして『作りたい作りたい』と心に叫ばせるのだが。 「だが、まあ……別に構わないか。作るだけで使用しなければ発覚する恐れは無いだろうし、仮に使用したとしても発覚さえしなければ罪にはならない」 「は、はあ……」 まるで過去にそういう犯罪行為を行ったことがあるかのような口振りだ。 ……ともあれ、自分の行為を見逃してくれるのはありがたい。おまけにアドバイスまでしてくれる。 「そこまで強力な精神操作を行うポーションは『通常の製法』や『通常の材料』では作成出来ないな。『裏』で出回っているものを手に入れるしかないだろう」 「やっぱりそうなっちゃうのね……。うーん、この際仕方ないか」 どうしても値は張ってしまうが、元々は自分で稼いだ金だ。どう使おうが自分の勝手である。 それじゃ、近い内にトリスタニアの『裏の魔法屋』に行ってレシピと材料を……などと考えていると、ドカッ、といきなりユーゼスが陣取っている位置の右隣に大量の本が置かれた。 「っ!?」 びっくりしたモンモランシーがその『大量の本を置いた人物』の正体を確かめるために視線を動かすと、そこには……。 「……あーら、お邪魔だったかしら?」 自分の髪にも負けない見事な長い金髪を微妙に揺らした眼鏡の美女、エレオノールが立っていた。 「だ、誰?」 知らない顔がいきなり現れたので、取りあえずこの女性の知り合いらしいユーゼスに問いかけるモンモランシー。 問われたユーゼスは、手短に互いを紹介する。 「御主人様の姉で、アカデミーの主席研究員でもあるエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールだ。 ミス・ヴァリエール、こちらは御主人様のクラスメイトのモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。たまに私の研究の相談に乗ってもらっている」 「ふぅん、モンモランシ家ねえ? 確か水の精霊の機嫌を損ねて、領地の干拓に失敗した落ち目の家だったかしら?」 「うっ……」 モンモランシーを威圧するような視線を向けるエレオノール。 (な、なんでわたしに対してこんなに高圧的なのかしら……) 『ルイズの姉』というだけで性格については大まかな推察が出来るが、それにしたって初対面の出会い頭にこの対応は無いのではないだろうか。 そんな風にエレオノールに圧倒されていると、横から平然とユーゼスが口を挟んだ。 「ところで、わざわざ図書館に来るとは何の用だ?」 「な、『何の用』……!? ひ、人がせっかく、アカデミーから始祖ブリミルや『虚無』について書かれた文献を持って来たって言うのに……!」 「ふむ。……ご苦労なことだな」 ユーゼスはチラリとモンモランシーを見て、少し考える素振りを見せた後に言う。 そのユーゼスの視線の動きにエレオノールはビキッと表情を引きつらせたが、一瞬後には何かに納得が行ったかのような顔になって落ち着いた。 「……ああ、そうね。これは『私の個人的な研究』だから、後であなたの研究室で話しましょう」 「了解した。私も『始祖が使ったと伝えられている系統』については興味があるが、このように人が大勢いる図書館で大っぴらに話す内容ではないからな」 「?」 そんな二人のやりとりに首を傾げるモンモランシー。 二人で一緒に伝説の『虚無』の系統を研究していることは何となく分かるのだが、それは別に図書館でも出来るのではなかろうか。 ますます首を傾げるが、それに構わずエレオノールはユーゼスの右隣に座る。 しかし……。 (……何なのかしら、あれ?) ユーゼスとエレオノールの位置関係は、まさに『つかず離れず』の微妙な距離だった。 近いと言うほど近くもなければ、遠いと言うほど遠くもない。 と言うか、明らかに『もうちょっと近付きたい』、『でも近付けない』という2つの真逆の空気がエレオノールから同時に発せられているのだが……。 「……………」 しかも、そのエレオノールは顔を少し赤くしながら横目でじっとユーゼスを見て、何やらヤキモキしているご様子である。 表情をよく観察すれば、その顔は『何で私はこんなに悩んでるのに、あなたはそんなに平然としてるのよ』と自分の心境をアピールしていた。分かりやすい女性だ。 (し、しかもユーゼスはそれに全然気付いてないみたいだし……) いや、『視線』とか『自分に何らかの感情が向けられている』ことに気付いているようではある。たまに『ん?』とか言ってエレオノールを見たりするし。 エレオノールは目が合った瞬間に恥ずかしそうに顔を伏せたりするが、それはこの場では置いといて。 ……そんな風に『色々と向けられていること自体』には気付いているようなのだが、『それに込められた意味』には全然気付いていないようなのである。 (そう言えばコイツと話してて、たまに『人付き合いが苦手』とか『人の気持ちをほとんど察してない』とか思うこともあるけど……うーん……) それにしたって、こんなバレバレな態度に気付かないなんてことがあるかなぁ。 『鈍感』とか『他人に無関心』とかのレベルを超えてるような気がする。 (コイツって人間がよく分かんないわ……) それは、ユーゼスに会ったハルケギニアの人間のほとんどが抱く感想であった。 と、悠長にユーゼスとエレオノールについて考えている場合ではない。 自分がやろうとしていることは、禁制の重罪行為だ。 ユーゼスはたまたま『別に構わない』という意見の持ち主だったが、エレオノールがそうだとは限らない。……むしろ、普通はそうでない可能性の方が圧倒的に高い。 (……とっととこの場から退散しよう……) 下手に自分に話が振られた場合にうまく言い逃れが出来ないかもしれないので、手早く離れることにする。今後の指針のようなものは決定しているのだから、この場に留まる理由もあまりない。 そして手書きのメモや本棚から持って来た本などをテキパキとまとめ、エレオノールから遠ざかろうとした瞬間、ドカッ、といきなりユーゼスが陣取っている位置の左隣の席に腰掛ける人物が現れた。 「っ!? ……こ、今度は誰!?」 ドキッとしたモンモランシーがその『ユーゼスの左隣に座った人物』の正体を確かめるために視線を動かすと、そこには……。 「……御主人様を放っておいて何をやってるのかしら、アンタは?」 桃色の長髪をザワザワと揺らした美少女、ルイズがいた。 「ル、ルイズ?」 ユーゼスの右隣に座るエレオノールに対抗するように、でーん、とユーゼスの左隣に座るルイズ。 そんな妹に、姉は強い口調で告げた。 「…………ルイズ。私たちは今、あなたのために『二人で』『色々と』『あなたには難しい研究の話を』しているの。あなたは部屋の中で黙って一人で待ってなさい」 随分と高圧的な物言いだったが、それにルイズは反論する。 「……ユーゼスはわたしの使い魔ですわ、エレオノール姉さま。使い魔は主人と四六時中一緒にいるものでしょう? ……『使い魔の監督はメイジの初歩』とおっしゃっていたのは、どこのどなたでしたっけ?」 そのまま真ん中のユーゼスを挟んで睨み合う、ヴァリエール姉妹。 (す、凄い……) 何が凄いって、挟まれているユーゼスが平然としているのが凄い。 普通、ああいう場面ではアワアワするとか、二人をなだめようとするとか、言い訳するとか、逃げようとするとかしそうなものなのに。ギーシュみたいに。 「そう? じゃあ、あなたは義務感でユーゼスと一緒にいるのね、知らなかったわ」 「姉さまだって、研究のため『だけ』が目的でユーゼスと話をしていたなんて、全く存じ上げませんでしたわ」 「……………」 (だから、どーして平然と本なんか読んでるのよー!?) 当事者であるユーゼスより、傍観者的な立場を取っているはずのモンモランシーの方が危機感を覚えている。何だ、この状況は。 「……ふむ」 そんな感じにモンモランシーが冷や汗を浮かべていると、ユーゼスがパタンと読んでいる本を閉じて立ち上がった。 (つ、ついに行動を起こすのね!?) 期待を込めた目で銀髪の男を見る、金髪巻き毛の少女。 だがその銀髪の男は、 「では、3人揃ったのだし私の研究室に移動するか」 そんなことを言い放った。 「…………」「…………」 ヴァリエール姉妹は、2人揃って鳶色の瞳でじぃ~~っとユーゼス・ゴッツォを見る。 「どうした? 遊んでいないで早く行くぞ」 「………………そうね」 「分かったわ…………」 盛大に溜息を吐いて、エレオノールとルイズは席を立った。 エレオノールは持って来た本をドサッとユーゼスに持たせてズンズンと前に進み、ルイズはエレオノールの後ろに付いていく。 二人は共通して、苛立ちと呆れと脱力感をにじませていた。 「それでは、いずれまた会おう。ミス・モンモランシ」 「え、ええ」 重い本を持っているせいか、フラつきながら歩いていくユーゼス。何とも頼りない姿である。 「まあ、その人の良さなんて、分かる人にしか分からないものらしいけど……」 あの男の『人間的な良さ』は自分には分からないが……少なくとも、これだけは断言が出来るだろう。 「―――アイツ、頭は良いんだけど馬鹿ね」 アルビオンの首都であるロンディニウムの南側に、ハヴィランド宮殿という建築物がある。 『宮殿』の名が示す通り、国王が済む建築物だ。 よってその中の一室に、神聖アルビオン共和国の皇帝であるオリヴァー・クロムウェルと、その付き人という名目の小太りな男がいるのは当然のことである。 だが……。 「ワルドとかいう奴が死んだらしいな」 「……は、はい。優秀な、優秀なはずの男だったのですが……」 『皇帝』であるはずのクロムウェルは立ったまま平身低頭で恐縮しており、逆に『付き人の男』が椅子に座ってふんぞり返っているという異常な事態が、そこには展開されていた。 一体どちらが皇帝でどちらが付き人なのか、分からなくなってしまう図式である。 「フン、元々『こちらの人間』に対しては、あまり期待もしていなかったがな」 「しかし、ミスタ……、ミスタ・デブデダビデ。我が軍の人材不足は深刻です。元よりレコン・キスタが決起した際に優秀な将官や仕官は処刑してしまい、残った熟練者もタルブで……」 「……確かに、人材不足は問題だな」 ある程度以上の規模を持つ組織にとって、それは十分に致命傷となり得る。 加えてこの男がもたらした『新兵器の数々』も大した戦果を上げられはしなかったため、アルビオン軍全体の士気すら危ぶまれる状態にあった。 その問題性を十分に理解しながら、デブデダビデと呼ばれた男はボリボリと頭を掻きながらこう言い放つ。 「だが、それがどうした?」 「なっ……!?」 目の前の男の発言が信じられず、思わず目を見開いて驚くクロムウェル。 そんな皇帝をさも興味がなさそうに見ながら、デブデダビデは続ける。 「まあ、俺のツテを使えば人材はある程度だが確保も出来るだろう。俺の『同類』は他にもいる」 「な、ならばその方々を……!」 「しかしそいつらは『別の場所』を担当しているんでな。こちらに回すことは出来ない」 ……確か、エルフとかいう連中の中の一人が『主』の召喚主に接触してきたので、その召喚主の護衛と言うか付き人のようなことをやっているのが1体。 そして召喚主の出身地の地中深くで眠っているのが1体。……まあ、アレの場合は『新型のガーゴイルだ』とでも言えば通用するような気もするのだが。 「何故なのです!? このままでは我が軍はガタガタに……!」 「―――そんなことは、今更お前に言われるまでもない」 デブデダビデは殺気を込めて、ギロリとクロムウェルを睨みつける。 その視線をまともに受けたクロムウェルはガタガタと震えて冷や汗を流しながらも、どうにか言葉を絞り出して自軍の不安材料を述べていった。 「そ、それにタルブで発生したという『巨大な光の玉』は一体……!? 未知の魔法、もしや本当に『虚無』なのですか!!?」 「知るか」 出自不明の小太りな男は、すがりつくアルビオン共和国皇帝をアッサリと突き放す。 「―――いいか、お前の役割をもう一度だけ教えてやる。『このハルケギニアを混乱させる』、これだけだ。単純だろう?」 「うぅ、し、しかし……」 「お前はただ、『我が神』のために動いていれば良いんだよ。余計なことなど考えず、壊れたようにな」 かなり酷薄な言い分だったが、クロムウェルはそのデブデダビデのセリフの中に一つの光明を見た気がした。 「『我が神』……おお、『あのお方』ですな! そうだ、我々の後ろには『あのお方』が付いていたのだ!! イザとなれば二国でトリステインとゲルマニアを迎え撃てば良い!! ……いや、連中もまさかガリアが敵に回るとは思っていまい! その虚を突いて背後から攻撃を行ってもらえば……!!」 「……………」 興奮するクロムウェルを、デブデダビデは冷ややかな視線で見つめていた。 皇帝の勝手な思い込みを、付き人であるはずの男は否定も肯定もしない。 (……フン、まずはあの死体を使ってみるか) ただ、更なる混乱を……『神』の糧となる負の想念を引き起こすためには、どのような手段が最も効果的なのかだけを考えていた。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6548.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 時刻は深夜。 星明かりと月明かりがあるおかげで幾分かは明るいが、それでも夜闇にまぎれるには十分すぎる暗さである。よほど接近しなければ、相手の顔を確認することも出来ない。 ユーゼスとルイズ、そしてギーシュとモンモランシーはカモフラージュのために木陰に潜み、加えて黒いローブを着込んで、水の精霊を攻撃する襲撃者を待ち構えていた。 「や、やっぱり、来るのかしら……」 「……ここ連日は毎晩襲撃してるって話だから、多分……」 「……………」 「……………」 緊張をどうにか振り払おうと震える声で会話を行うギーシュとモンモランシー。だが自分たち二人しか会話をしていないので余計に沈黙が際立ち、結果として更に緊張を募らせてしまう。 (……そろそろだな) 実際に戦った経験はあまりないが、多くの戦いを『見て』きたユーゼスの予感が、戦闘が近付いていると告げている。 (上手く行けば良いが……) 二重三重に罠や策を用意しても、突破される時は突破されてしまうものだ。 問題は、どうやってその突破の芽を潰すか。 これにはやはり、相手を可能な限り早く確実に仕留めることが要求されるのだが……。 (我々は戦闘に関しては、素人の集団だからな……) 7人の中で唯一の『戦い慣れている人間』であるシュウ・シラカワは、直接には戦闘に参加していない。 せめて一人くらいは場数を踏んだ人間が欲しかった。 ……見れば、隣には不安げな顔で自分のローブの裾を掴んでいるルイズがいる。 ハッキリ言って、今の主人も戦闘において役に立つとは言い難いのだが、それでも作戦の『詰め』においてはかなり重要な役割を担っている。 ルイズの精神状態がかなり危ういため、不安はかなりあるが、しかし。 (……無い物ねだりをしても始まらないか……) もうこうなったら、手持ちの材料でどうにかするしかない。 気持ちを切り替えて、ユーゼスは襲撃者を待った。 そして1時間もした頃、岸辺に人影が出現する。 人数は二人。 自分たちと同じく漆黒のローブで身を包み、更に深くフードを被っているので男か女かも分からない。 「き、来た……!」 「アレが襲撃者……なのかしら……?」 いくら何でも『ただ岸辺に現れただけ』の人間を問答無用で攻撃するわけにもいかないので、取りあえずは様子を見る。 そうして観察していると、謎の二人組は水辺に立って杖を掲げ始めた。 おそらくは呪文を唱えているのだろう。 この段階になれば、いちいち躊躇している暇などは無い。すぐにユーゼスはギーシュへ指示を飛ばした。 「やるぞ」 「わ、分かった」 音を立てないようにしながら、ユーゼスは木陰の間から二人組の背後へと向かった。 取りあえずの初手としては、横で控えているギーシュが虚を突いて二人組に隙を作り、その隙を突いて背後から自分が攻撃……という手筈である。 実力に大きな差がある相手と戦う場合は、ワルド戦のように虚や隙を突くしか突破口は無い。 まあ、それも毎回通用する訳ではないが。 何しろ、お互い正体不明なのである。 相手がこちらについての情報を持っている場合は油断も生まれてくる可能性があるのだが、いきなり襲撃されてはこちらの実力を警戒しない方がおかしい。 よって、今回の作戦のコンセプトは『相手を驚かせて、隙を作る』ことに重点を置いていた。 ユーゼスは無事に二人組の背後に移動し、隠れると、デルフリンガーを取り出してギーシュたちにしか見えないように掲げた。『準備完了』の合図である。 ちなみにデルフリンガーに対しては『声を出したら湖に投げ捨てる』と言い含めてあるので、迂闊に声を出すような真似はしないはずだ。出したら本気で捨てるつもりだが。 そして合図を受けたギーシュが呪文の詠唱を開始する。 次の瞬間には、二人組の立っている地点の土がうごめき、触手のようにして二人組の足に絡みついた。 (いけるか……?) ダッ、と木陰から飛び出すユーゼス。 二人組までの距離は、おおよそ30メイルほど。自分の足なら5秒弱はかかる。 「!」 やはりと言うべきか、敵は即座に対応を行ってきた。 背の高い方のメイジは杖の先から炎を飛ばし、自分たちの足を束縛していた土の触手を焼き払う。どうやら水の精霊の情報通りに火のメイジらしい。 更に、背の低い方のメイジはユーゼスの存在を察知していたらしく、くるりと振り向くと自分に魔法を放ってきた。 (やはり、そう上手くはいかないか……!) 空気のカタマリが自分に向かって来るが、ユーゼスはそれをデルフリンガーを一振りすることで掻き消す。 しかし息をつく間もなく、今度は無数の氷の矢が飛んで来た。 「くっ!」 とっさに回避行動を取るが、そう簡単に避けきれる攻撃でもない。 自分に当たりそうな氷の矢をデルフリンガーで叩き落としながら、どうにか凌いだ、と思った直後……。 今度は背の高い方のメイジが、補うようにして火球を繰り出した。 「……!」 避けるのは無理だ、と判断したユーゼスはデルフリンガーを構え、その火球を吸収させる。 だが火球の熱波と舞い散る火の粉は吸収しきれなかったようで、ユーゼスはその余波を受けて立ちすくむことになった。 不味い。今の自分は隙だらけだ。 このままでは遠からず、やられる。 ……だがそれは、戦っているのが『自分一人だけ』だった場合の話である。 その時、ガシャガシャガシャ、と金属がこすれる音が複数響いた。 二人組は思わずそちらの方に目をやって何が起こっているのかを確認し、ユーゼスはその隙に一旦距離を取る。 (出来ればもう少し早く出て来てもらいたかったが……) 無論、ユーゼスはその『金属音』の正体を知っている。 距離がそれなりに離れており、更に夜闇にまぎれさせるため黒く塗装させたので姿を確認することは出来ないが、現れたのはギーシュのワルキューレであった。 予定通りならば、その数は4体である。 「む……」 背の低い方のメイジは状況が切り替わったことを素早く看破したのか、即座に杖をワルキューレの集団に向けた。 ……せっかくの戦力が潰されるのを黙って見逃すほど、ユーゼスは悠長な性格をしていない。 なので、かつて自分の難敵だった男が使っていた鞭を取り出し、それを思い切り、背の低いメイジに振るった。 鞭はかなりのスピードで相手に向かって行き、詠唱中の背の低いメイジへと……。 「っ!」 バシィン、と鞭は地面を叩く。 攻撃は避けられた。 自分が攻撃されることを察知した背の低いメイジは一瞬で詠唱を中断すると、咄嗟になりふり構わず地面に飛び転がって鞭をかわしたのである。 (推測通り、一筋縄ではいかんか……) ギーシュやフーケのゴーレム、ワルドの『偏在』など、少々変則的な戦法を使う相手ならばそれなりにやりようはあるのだが、自分にとってはこのような『普通に強い』相手が最もやりにくい。 (やはり、ジェットビートルの機銃を使うべきだったな……) ギーシュとモンモランシーだけでなく、エレオノールまで一緒になって『いや、さすがにそれはちょっと……』と止められてしまった攻撃方法に思いを馳せる。 アレを上手く使っていれば、今頃この二人は『穴だらけ』どころか『原型すらよく分からないほど細かく砕かれて』いたはずなのに。 (せめて、もう少し強力な手駒が欲しかった) 自分たちの戦力の低さと敵の手強さを改めて認識しつつ、ユーゼスは溜息を吐いた。 ……今はまだ敵もこちらを侮ってくれて……いや、様子見の段階に留まってくれているから何とかなるものの、本気になられたら十中八九終わりである。 その前に、始末を付けなくてはならない。 火は水に弱い。 必ずしも『その通りだ』と言い切ることは出来ないが、大抵の人間が抱いている共通認識だ。 これはハルケギニアの魔法も同様で、同じクラスの水のメイジと火のメイジが、それぞれ同じランクの自分の属性魔法をぶつけ合った場合、多くの場合は水が勝つ(火球の総熱量にもよるが)。 まあ、つまるところ。 火のメイジは、少なくとも戦闘においては水のメイジと相性が悪いのだ。 バジュンバジュン、と火球が水の盾にぶつかり、消えていく。 ギーシュが繰り出した4体の黒いワルキューレの前には、厚さ10サントほどの水の壁が展開されていた。 無論、水の盾の操っているのはモンモランシーだ。 ドットメイジの彼女は風属性と掛け合わせて『氷を作る』ことは出来ないが、ただ『水を操る』だけならば簡単である。 それにここは湖の岸辺であり、いちいち空気中の水分を凝結させるまでもなく至近距離に大量に水が存在している。それだけでも他の属性相手には大きな優位性を確保出来ていた。 「はっ!」 掛け声と共にモンモランシーが杖を一振りすると、水の壁から水の弾丸が飛び出して敵を襲う。 避けられてはいるが、それでも回避されている間は敵の攻撃の手は止まっている。 消費した分の水は湖から補充しているので、壁がなくなることはない。 「それっ!」 また、水の弾丸だけでは敵が何らかの対抗手段を講じてくる可能性があるため、合間をぬってワルキューレによる弓矢の攻撃も織り交ぜていた。 ……相手をするのが背の高い火のメイジではなく、背の低い風のメイジだった場合、メインの攻撃は『水の弾丸』ではなく『青銅の弓矢』の手筈になっていた。 弓矢などは風が少し吹けばアッサリと軌道を逸らされてしまうため、火のメイジよりも苦戦は必至である。火のメイジがギーシュ&モンモランシー組の相手に回ってくれたのは幸運だった。 その風のメイジも時折こちらに杖を向けて火のメイジのサポートはしているが、どうやらあちらはユーゼスの相手にウェイトを置いているようだ。 おそらく『水の壁』や『水の弾丸』、『弓矢』などの単純な攻撃方法よりも、『魔法を吸収する剣』や『鞭』などの特殊な攻撃方法の方が厄介だと判断したのだろう。 特に、この暗がりでは防御と攻撃の方法の詳細が掴みにくいだろうから、汎用性に優れている風のメイジがユーゼスを担当するのは妥当と言える。 ともあれトライアングル(あるいはスクウェア)の火のメイジが一人と、ドットの土のメイジと水のメイジの二人は、どうにかこうにか一進一退の攻防を繰り広げている。 (……それでも、こっちは決め手に欠けるんだよなぁ……) (わたしとギーシュは、どっちもドットだし……) (大技を使われでもしたら……いや、その隙を与えないための連続攻撃なんだけど) (……ホントに大丈夫なんでしょうね、この作戦?) 取りあえずではあるが『戦いを同じ状態でしばらく続けさせろ』というユーゼスの事前指示に従い、ギーシュとモンモランシーは攻撃と防御を続けるのであった。 ……使用してくる魔法は『エア・ハンマー』や『エア・カッター』などの分かりやすい風魔法と、『ジャベリン』に『アイス・ストーム』などの氷系の魔法。 それらを巧みに組み合わせて、こちらの動きを封じ、また確実にダメージを与えようとしている。 こちらの戦闘方法が不可解だと思ったのか、途中から分析するような様子が加味された。判断力も高いようだ。 夜闇に黒いローブなどを着込んでいるせいで細かい動きは分からないが、身のこなしも普通ではない。 (手強いな……) これがワルドのように余裕たっぷりで、もったいぶってこちらを痛めつけるなどしてくれていれば、もっと攻略は容易なのだが。 (実戦経験が豊富、ということか) どうにもやりにくい相手、と言うか完全に自分の手には余る敵だ。 魔法を吸収するデルフリンガー、ガンダールヴのルーン効果、攻撃……と言うか牽制のための鞭の一つでも欠けていれば、とっくに自分は負けている。 (それに……) そろそろ、体力も限界に近付きつつある。 何度も繰り返すが、ユーゼス・ゴッツォは戦う人間ではないのだ。 並行世界の『ユーゼス・ゴッツォ』とて、謀略や研究はしても生身で直接に戦うことはしない。……あちこちに手を出して暗躍したり、機動兵器を操縦したりはしているようだが。 何にせよ、そういう実戦はイングラム・プリスケンなどの『手駒』の仕事なのである。 (……もう一度『作る』のも手か?) そう考えて、すぐ却下する。 かなりややこしいことになりそうな上に、何より『作ったモノ』が下手に『自意識』などを持ち始めでもしたら、前回の二の舞になりかねない。 自意識を持った人造人間であるサブローやワルダー、トップガンダーなどは命令を聞かないことがザラにあったし、戦う時も変に自分のプライドにこだわったせいで負けていた。 それに色々と別の世界も覗いてみたのだが、余計な知力を備えさせると創造者の意図を外れて勝手に暴走してしまう……という例は枚挙に暇がない。 『マシンナリーチルドレン』、『ガンエデンの巫女』、『バルシェム』、『Wシリーズ』、『テクニティ・パイデス』、『知の記録者』、どれもこれも『手駒』として使うには不適当だ。 (洗脳も駄目だろうしな……) 『精神操作の失敗例』は、今のルイズとミス・ロングビルを見れば一目瞭然である。 (やはり、自分で行動するしかないか) 無駄な思考だったな、と気持ちを切り替え、改めて目の前の敵に集中した。 (……ふむ) 互いに様子見と牽制をし合って、今では一種の膠着状態に陥りつつある。 詳しい状況までは分からないが、どうやらギーシュたちの方も似たような状況らしい。 (ここまでは予定通りか……) ある程度は拮抗してくれているようで、何よりである。 二人のメイジが分散してくれたから何とかなったものの、これが本格的な……ギャバン・シャリバン・シャイダーや、キカイダー兄弟レベルの連携を取られたら危険だった。 その場合の対策も考えてはいたが、今よりももっと苦戦していたのは間違いない。 どうやらこの二人は、個々の実力はかなり高いし『それなりの連携』も取れるらしいが、『実際に二人一緒に戦った経験』はあまり無いようだ。 とは言え実力では負けているのだから、このままではジリジリと押されて負けるのは明らかである。 (頃合だな) それでは『相手を驚かせて、隙を作る』コンセプトに従って、この二人を仕留めにかかろう。 「フッ!」 呼気を吐き出し、デルフリンガーを無意味に三度ほど振る。 それが、後方で控えている主人に対する合図だ。 『自分の指示以外の行動をするな、自分の指示には絶対に従え、もしこの言葉に背いたらお前とは一生口を聞かない』と言ってはおいたし、ルイズもそれに対してガクンガクンと首を激しく上下に動かして了解してくれたのだが、ちゃんと従ってくれるのだろうか。 そう思った、次の瞬間。 戦っているユーゼスたちの頭上で、盛大な爆発が発生した。 ルイズの魔法である。 『エクスプロージョン』ではなく失敗魔法の爆発だが、派手に爆音を響かせるのが目的なのでこちらの方が好都合だと判断したのだ。 (よし……) 案の定、二人組のメイジは面食らっている様子を見せている。 (……む?) いや、それどころかギーシュとモンモランシーまで驚いているようだ。事前の打ち合わせはしておいたと言うのに。 (まったく……) 仕方がないので、少し危険だが声を上げて指示を行うことにする。 「やれ!!」 「……っ、わ、分かった!」 少々どもりながらではあるが、返事をよこすギーシュ。 そんな自分たちのやり取りがした直後、二人組のメイジは更に何かに驚いたようだったが、いちいち相手の事情を詮索している余裕はない。 ギーシュはバラの造花を二振りし、二体のワルキューレの腕に『錬金』をかけた。 そこから繰り出される攻撃は……。 「無限っ、パーーーーンチ!!」 拳に『錬金』をかけて新しい手首と拳に変化させ、その拳にまた『錬金』をかけ、現れた新しい拳にまた『錬金』……『錬金』、『錬金』、『錬金』、とにかく『錬金』。 結果としてズズズズ、と見る見る内に腕は伸びていき、敵に向かっていく。しかもそれが二体で二つ。 「!」「ええっ!?」 二人組のメイジは驚いているようだ。 まあ、こんな攻撃を見たら普通は驚く。 と言うか、驚いてくれないと困る。 「…………!!」 『錬金』をかけ続けるギーシュは、随分と集中しているようだ。 無理もない。ただでさえややこしいやり方で『錬金』を行っているのに、それを二つ同時にこなさなければならないのだから。 そして、伸び続ける二本の腕は……。 「っ!」 二人組のメイジを挟み込むようにして、綺麗に敵を素通りした。 その直後。 「……曲がれっ!」 ギーシュがまたバラの造花を二振りすると、二本の腕はグイッと曲がり、グルグルと二人組に巻きつき始める。 そして『腕』が二人組をまとめて束縛し終えた時点で、ギーシュは適度な長さを見計らって伸びた腕を切り離した。 「モンモランシー、後は……!」 「分かってるわよ! ……あんまり気は進まないけど……」 ブツブツ言いながら、ギーシュに言われたモンモランシーが前に出る。 「えっ、ちょっと待ちなさい! あなたたち……!」 敵が何か言っているが『命乞いは聞くな』、『下手に情けを見せたらその瞬間に殺されると思え』などとユーゼスとシュウから散々に言われているので、無視する。良心はかなり痛むが。 ……敵の声に聞き覚えがあるような気もするが、そこは心を鬼にして無視させてもらおう。 「で、出来れば死なないで!」 言いながら杖を一振りするモンモランシー。 「ッ、ガ……ッ!」「ゴボッ!?」 すると二人組を包み込むように水柱が発生し、鎖で縛られた二人組のメイジはなすすべなく水の中に閉じ込められた。 「よ、よし、上手くいったみたいだね……」 「……あんまり嬉しくないけどね」 第一目標だった『敵の動きを封じること』がひとまず成功したことを見届けると、ギーシュは更に『仕上げ』を行うべくまたバラの造花を振る。 「……恨まないでくれよ、君たち」 その言葉が届いているのかいないのか、二人組のメイジ……特に背の高い方はこちらに向かって何かを訴えようとガボゴボやっているようだったが、その訴えは厚い青銅の壁によって閉ざされる。 ギーシュが『錬金』を使って青銅のタルを作り、水の束縛ごと二人を閉じ込めたのだ。 「……まあ、これだけやれば十分だとは思うけど、『詰め』はやっておかないといけないのよね……」 ゴンゴン、と内側から青銅のタルを叩く音がする。 しかし、トドメは刺さなければならない。開放した直後に逆襲される可能性も、決してゼロではないのだから。 「ううぅ…………え、えいっ!」 モンモランシーが嫌そうに杖を振ると、青銅のタルの中からゴガンゴガン、と『“人間大の何か”が派手にぶつかる音』が響いてきた。 ……彼女の魔法によって、中の水がきりもみ回転をしているのだ。 これぞユーゼスが原案(無限パンチで伸ばした腕による束縛)、エレオノールが補足(念のため水で包む)、シュウが改良(青銅のタルで閉じ込めてきりもみ回転させる)した作戦である。 なお、『仕上げ』を考案したシュウ曰く。 「超電磁タツマキを受けた際の、実体験を元にしてみました」 だそうである。 しかしそれを実行してしまった人間は、少々精神的に参っていた。 「わ、わたし、人を、人を殺しちゃった……」 「……モンモランシー、それは君一人だけの罪じゃない。僕だって同罪だ。だから、君だけがそんなに自分を責める必要は……ないさ」 「ああ、ギーシュ……!」 ひし、と抱き合うギーシュとモンモランシー。 そんな二人をよそに、ユーゼスは今回の戦闘を反省する。 (……決定的に実力が不足している) これはギーシュやモンモランシーではなく、自分自身のことである。 ガンダールヴの効果があるからどうにかなっているものの、そのカバーがあった上でも弱い。 弱すぎる。 今回はたまたま上手く行ったが、こんな騙し騙しの戦法がどんな敵にも通用するわけがない。 極端な話、今の自分とギーシュが戦った場合には、80%程度の確率でこちらが負けるだろうという予測している。……ちなみに残りの19%が引き分けで、勝つ確率は1%ほどだ。 ガンダールヴの力を発動させてもワルキューレ7体相手では負けるだろうし、仮に実力が同レベルだとしても攻撃のバリエーションが多い方が有利なのは明白だ。 また、デルフリンガーでは『錬金』で作られたゴーレムの吸収は出来ない。 数で攻められれば、剣や鞭などはあまり役に立たない。 何と言うか、『人間』には色々と限界があるのである。 (これがドモン・カッシュや東方不敗、早川健などであれば……いや……) そこまで考えて、あの連中を引き合いに出すのは根本から間違っていると気付く。 素手でデスアーミーを倒したり、変身していない状態で不思議獣と渡り合ったりするような奴らなのだ。 『人間』というカテゴリーに当てはめて良いものかどうかすら怪しい。 ……まあ、あんな怪獣のような人間は置いておくとして、今は自分のことだ。 正直、手段を選ばなければ、色々とやりようはある。 並行世界を検索して『戦闘の得意なユーゼス・ゴッツォ』を見つけ、それと融合、またはコピーして自分の意識を上書きする。 自分で自分の身体を改造する。 開き直って、戦闘の際には因果律を操作して相手を攻撃・消去する。 ダメで元々、DG細胞を自分に使ってみる。 やはり『手駒』を作って、戦闘はそれに任せる。 自分でも手軽に使える強力な兵器を持って来て、それを使う。 クロスゲート・パラダイム・システムを駆使して、ガンダールヴのルーンそのものを改良してみる。 (むう……) この場で思いつく限りの方法を羅列してみたが、全てにおいて、それぞれかなり問題があるような気がする。 強いて言うなら『兵器を持って来る』が比較的良い案ではあるが、その兵器を常に携行しているとは限るまい。 (戦闘そのものには全く参加しない、というのも一つの手だが……) このハルケギニアにおいて、それは通用しないだろう。戦いという物は、どんなに避けようとしても出くわしてしまう時には出くわしてしまう物だ。 (コンバットスーツのような物があれば……いや、アレは宇宙刑事の中でもかなり厳選された者のみが与えられる装備だし、私に扱い切れるとは思えん……) 自分の強化方法を思い浮かべては、それを否定するユーゼス。 ―――しかし、ここで『真面目に身体を鍛える』という選択肢が発生しないあたりが、ユーゼス・ゴッツォのユーゼス・ゴッツォたる所以であった。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
https://w.atwiki.jp/terachaosrowa/pages/3489.html
やと ねつ ひいた も とてもかゆい 今 はらへったの、かついえ くう かゆい かゆい らんまるー きた ひどいかおなんで ころし うまかっ です。 かゆい うま 【三日目・20時50分/恒星・永沢君男 主催者本部】 【織田信長@戦国時代】 【状態】死体、ああああが憑依して操っている、頭部に貫通した銃創 【装備】チョンマゲのカツラ@時代劇 【道具】不明 ※元の信長の精神は死亡消滅しました ※信長の死体はああああが完璧に操っています 【ああああ@主人公に命名可能な全てのRPG】 【状態】怨霊、肉体無し、Lv99、全パラメータMAX あらゆるRPGのあらゆる魔法と技を習得している かゆうま 【装備】不明 【道具】不明 【思考】1:空腹を満たす、身体が痒いから掻く 【柴田勝家@戦国時代 死亡確認】 【森蘭丸@戦国時代 死亡確認】
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6319.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 「うぬぬぬぬぬぬぅ~~……」 名門貴族の息女にあるまじき唸り声を上げながら、ルイズは学院の外の平原でユーゼスを見ていた。 いや、正確に言うと、ユーゼスとその周辺を見ていた。 正体不明の……何だろうか、鉄やら何やらのカタマリ。これは別にどうでもいい。自分の使い魔が変な行動をするのは今に始まったことではないし、新しい『研究対象』というところだろう。 紫の髪の男。…………どこかで見たような気がするのだが、思い出せない。まあ、顔を見ても思い出せないということは、それほど重要でもないのだろう。ルイズ的にもそれほど興味はないので、これもどうでもいい。 その紫の髪の男と、ユーゼスにアレコレ指示を出されてワルキューレを動かしているギーシュ。本当にどうでもいい。 ……どうでもよくないのは、ここからだ。 何だか、常にユーゼスとつかず離れずの距離を保っている、自分の姉と。 それを受け入れるでもなく拒絶するでもなく、サラッと姉と会話などをしている当のユーゼス・ゴッツォ。 「一体何があったのよ、もう……」 自分の知っているユーゼスとエレオノールの関係と言えば、『研究者同士でレポートや意見の交換している』くらいの認識しかない。 しかし、『宝探し』から帰って来てからの二人は……。 「うぬぬぬぬぬぬぅ~~……」 再び唸り声を上げる。 いや、特にどこが劇的に変化したというわけではない。 ユーゼスは相変わらず他人に無関心で、それはエレオノールに対しても変わっては……いや、微妙に変わったような気もするような。 言葉にすると上手く表現が出来ないのだが、何だか、こう……。 「……そう、注意を払うようになってるのよ」 よくよく観察しないと分からないのだが、たまにユーゼスの視線がエレオノールを向いていることがあるのである。ギーシュになんてほとんど向けないのに。 紫の髪の男にも視線は向けられているのだが、何だかそれと『エレオノールに対する視線』は種類が違う。これも説明は難しいのだが。 そして、何よりもエレオノールだ。 家族だから当たり前なのだが、ルイズとエレオノールの付き合いは長い。だから、ルイズはエレオノールがどのような人間なのかもそれなりに熟知していた。 ……熟知していたはずなのだが、今の姉はどうにも自分の知識の中には見当たらない。 まず、その雰囲気である。 ルイズの中のエレオノールは、『プライドと高慢』という言葉が服と眼鏡を着用した『角ばった石』とでも言うような人間だった。 しかし、それがユーゼスと一緒にいる時限定で、その『角』が丸くなったような印象を受ける。 「根っこのところは、変わってないと思うんだけど……」 父親と母親と真ん中の姉以外にはどんな相手だろうと硬質な態度を崩さなかったはずの姉が、わずかであろうと態度を軟化させるというのは、物凄い違和感がある。 更に、エレオノールの振る舞いや挙動にも変化があった。 先ほど挙げたようにユーゼスはたまにエレオノールの方を見ているのだが、エレオノールもまたユーゼスにチラチラと視線を向けることがあるのである。 そうすると、自然と二人の視線がかち合い、目がバッチリと合うことになるのだが……。 その結果、あろうことか1秒もしない内にエレオノールの方から視線を外すのだ。 しかも、何だかドギマギした様子で。 「あ、あり得ないわ……」 エレオノールがエレオノールらしくないという事態に、混乱してしまうルイズ。 何が何だか、よく分からない。 ……さっきから『何だか』という単語を何度も思い浮かべているが、そもそもの理由が分からないのだから、これはもう『何だか』と表現するしかないのである。 って言うか、何なのよ。 アンタの御主人様は、このわたしでしょ。 そりゃ、エレオノール姉さまを気にするなとは言わないけど、もっとわたしを気にしなさいよ。 むしろエレオノール姉さまより、わたしに視線を向けなさいよ。 「うぬぬぬぬぬぬぅ~~……」 出来るのならばユーゼスにそう言ってやりたかったのだが、色々なプライドやら何やらが邪魔してそれが言えない。 そのようなプロセスを経て、ルイズは詔(ミコトノリ)の考案もそっちのけでユーゼスとその周辺を見続けていたのだった。 そして、ユーゼスが魔法学院に帰還してから4日目。 「……どうにか完成したな」 「ギルドーラのプラーナコンバーターが機体と微妙に合致しなかったので、即興で小型化を行うことになってしまいましたがね。いや、苦労しました」 改造したビートルを眺めながら、ユーゼスとシュウは喋っていた。 「……ヴァルシオーネRという前例が無ければ、もう少し苦労したでしょう。EOTから魔装機系統の技術への差し替えを行っていて助かりましたね」 「お前のネオ・グランゾンも、科学とラ・ギアスの技術の融合らしいがな」 ちなみにユーゼスは実際にネオ・グランゾンを見たことは無いので、それに関しては知識だけで語っている。 エレオノールはゲンナリした様子でそんな二人に呟く。 「…………私は機械のことはよく分からないけど、それをアッサリとやってのけるアンタたちが異常だってことだけは分かるわ……」 「そうか? ……まあ、機械工学は私も専門分野ではないから、そう役には立てなかったのだが」 「いえ、特にレーダー関係や電装系などに十分にお役に立ちましたよ。さすがは『あのシステム』を開発しただけのことはあります」 「ふむ」 彼らがやったことは、実のところはシュウが持参したプラーナコンバーター(魔装機というロボットから直接取って来たらしい)に少々手を加えてジェットビートルに取り付け、上手い具合にエネルギーが機体に行き渡るように調整を加えただけである。 だが。 (……コイツら、自分たちの異常性を理解してないのかしら……) ロクな設備もないこの状況下において、あんな複雑で(エレオノールは)見たこともない機械をいじる作業を、わずか3日で完了させたことは『異常』以外の何物でもない。 これで専門の設備があれば、おそらく丸1日で作業が完了していただろう。 と言っても『機械整備のための専門の設備』など、ハルケギニアで生まれ育ったエレオノールには想像も出来ないのだが。 「では、試運転はどうします? 今すぐにでも飛ばせられますが」 「そうだな、早速飛行させてみるか」 特に今すぐ飛行させる理由はないのだが、今すぐ飛行させない理由も見当たらない。 (どちらでも構わないのなら、取りあえず今すぐ飛行させてしまおう……とでも考えたんでしょうね) とかく『研究者』という人種は、思考や行動において無駄を省く傾向がある。 同じ『研究者』であるエレオノール自身もそのような思考をすることがあるので、彼女にとってユーゼスの思考の追従は、割と簡単なことだった。 ……ちなみにユーゼスにとっての『無駄』の代表格である『見栄』や『飾り』などは、貴族にとっては必要なことであるとエレオノールは考えている。 「しかし、今更ながら疑問があるのですが」 「何だ?」 ユーゼスはビートルを眺めながらシュウに答える。 「あなたはこれを飛行させて、どうするつもりなのです?」 「……………む」 ユーゼスの表情が、わずかだが動いた。 「……まさかとは思いますが、『ただ何となく整備して飛べるようにした』というわけではないでしょうね?」 「最初はミス・ヴァリエールの依頼で、調査がてらということだったのだが……」 ううむ、と考え込むユーゼス。どうやら本当に『飛行させた後のこと』については考えていなかったらしい。 (そこで悩まれても困るんだけど……) エレオノールにしてみれば『原理がよく分からないから調べよう』、『転用や応用が出来るようならそれを考えよう』程度の考えしか持っていなかった。 実際、『特殊な油』という副産物を得ることが出来たのだから、目的の半分ほどは達成したとも言える。 上手くすれば、このシュウ・シラカワがもたらした『プラーナ』とやらの研究に踏み出すことも可能だろう。現時点では不明な部分がかなり多いが。 そんな感じに色々とエレオノールが考えていると、シュウからとんでもないセリフが飛び出した。 「やれやれ。……では、良い機会ですから東の『ロバ・アル・カリイエ』とやらにでも行ってみてはどうです? あなたの『故郷』に戻れるかも知れませんよ?」 「……………」 「!」 『シュウを睨みつける』というユーゼスの行動にも驚いたエレオノールだったが、それ以上に『故郷』という単語にハッとした。 ……当たり前の話だが、ユーゼスにも故郷はある。 今更ながら、エレオノールはそんなことに気付いたのだった。 「……私の素性を知った上でその言葉を口にするとはな。お前が嫌味や皮肉が好きだとは思わなかったぞ」 ジロリ、とシュウを見るユーゼス。 ……彼にしては非常に珍しいことに、その顔には『ある感情』が浮かんでいた。 (イライラしてるって言うか、不機嫌そうって言うか……) こんな一面もあるのね、などと感心するエレオノールだったが、感心している場合でもなさそうだ。 ユーゼスとシュウの間に、険悪な空気が漂いつつある。 ユーゼスの視線には言外に『余計なことを言うな』というメッセージが込められていたが、対するシュウはその視線を軽く受け流して話題を続けた。 「これは失礼を。ですが、よろしいのですか? このビートルにせよ、あなたが持っているという鞭にせよ、あなたの『出身地』から現れた可能性が高いのでしょう? その因果律を辿れば……」 「……戻るつもりがあるのならば、召喚された直後に戻っている」 「そうですか」 睨み続けるユーゼスに、シュウは飄々と言葉を放つ。 「……随分と不機嫌なようですが、『素性を調べても別に構わない』と言ったのはあなたですよ?」 「『無遠慮に触れて良い』と言った覚えなど無いがな。……あるいはそれは私の記憶違いか、『背教者』?」 「…………ふむ」 それきり、ユーゼスとシュウの話は止まった。 さすがのシュウも、それ以上に踏み込んで不毛な会話を続けるつもりはないらしい。 だが、ユーゼスにとっては何やら触れられたくない話題のようでも、エレオノールにとっては気になる話題である。 ユーゼスの故郷。 本人からは『遠くから来た』とだけしか聞いておらず、具体的にどのような場所なのかはサッパリだった。 (聞いてみたい、けど……) シュウとの会話からすると、どうも聞いて欲しくはないようだ。 しかし、気になる。 とても、気になる。 すごく、気になる。 思わずチラチラとユーゼスを見るエレオノールだったが、ユーゼスは意図的に無視しているようだ。 (……何よ、無視しなくてもいいじゃないの) せめて『聞かないでくれ』とか言ってくれれば、こっちだってそれなりの対応をするのに。 そういう『人に対して自分の意思を積極的に伝えようとしない』と言うか、『人との関わりを持とうとしない』点が、エレオノールのユーゼスに対する不満点の一つだった。 何よりもタチが悪いのは、その自分の不満点をユーゼスが自覚していて全く直そうとしないことであり、それが更に彼女の不満を呼んでいる。 そして、そんな不満そうなエレオノールの様子に、目ざとくシュウが気付く。 「おや、ミス・エレオノールは今の話が気になりますか?」 「えっ?」 意図していたのとは別の人物から話が振られたので、エレオノールは驚いた。 ……ちなみに、シュウはハルケギニアの貴族のことをユーゼスのように『ミスタorミス・“名字”』ではなく『ミスタorミス・“名前”』で呼んでいる。 シュウは薄く笑みを浮かべながら、再びユーゼスに話しかけていく。 「このご婦人にあなたの『故郷』のことや『詳しい経歴』をお話ししてみてはどうですか、ユーゼス・ゴッツォ? 彼女も興味がおありのようですよ?」 「……………」 わずらわしそうな視線をエレオノールに向けるユーゼス。 ユーゼスはシュウに対してはある程度だが強気に出れても、エレオノールに対してはそうではなかった。……実際は、感情をぶつけるべき相手かどうかの線引きが明確なだけなのだが。 しかし抑えてはいても、そこに『感情』は確かに存在する。 (う……) こうもハッキリとした『感情』を込められた視線をユーゼスから向けられるのは、初めてだ。 しかし……出来れば、もう少しプラス方面の感情を向けて欲しかった。 「……私の故郷や素性についての詳しい話が聞きたいか、ミス・ヴァリエール?」 あの夜、焚き火を前に『かつての自分の野望』を語った時などとは比べ物にならないほど言いたくなさそうに、明確な嫌悪感すら込めて尋ねるユーゼス。 「それは……」 下手に『聞きたくない』などと言っても、すぐに嘘だと見抜かれるだろう。 かと言って、無遠慮に『聞かせなさい』と言うのも、ためらわれる。 ……ならば、自分はこう言うしかない。 「気にはなるけれど……無理にとは言わないわ。話したくなったら、その時に話して」 我ながら実に模範的、かつ中途半端な回答だ。 ユーゼスは『そうか』とだけ呟くと、エレオノールからほとんど興味を失ったかのように視線を外す。 「…………っ」 そのことが、何故か辛く感じる。 だからだろうか。 反射的に、すがるように問いかけてしまった。 「ユーゼス、故郷に……帰りたいとは、思わないの?」 (……あ……) 問いかけてから、後悔した。 『触れられたくない部分』だとアピールされた直後に、自分から触れてしまってどうするのだ。 ユーゼスはエレオノールを一度だけ見ると、彼女だけではなく自分自身にも言い聞かせるように言う。 「もう存在していない。……そもそも、『故郷』など私にとっては何の意味もない物だ」 「……………」 それだけ言って、エレオノールから離れるユーゼス。 視線はもう、彼女には向けられていない。 「……どうして私って、こう……」 残される形になってしまったエレオノールは、溜息を吐いて右手で額を押さえ……彼女にしては非常に珍しいことに、自己嫌悪に苛まれる。 結局、本日の試運転は見送りとなった。 解散した直後、少し離れた木の枝の上からその様子を見ていた青い鳥がパタパタと飛んで来て、その場に残っていた主人の肩に降り立った。 「御主人様、ちょっとからかい過ぎだったんじゃないですか?」 シュウのファミリア(使い魔)、チカである。 シュウはチラリとチカを一瞥すると、苦笑しながら言われた言葉を肯定した。 「……確かに、少々悪乗りが過ぎましたか。ユーゼス・ゴッツォとここまで深く話が出来るとは思っていなかったので、つい内面を探るような真似をしてしまいましたが……」 その一連の言動や態度を思い出しながら、ユーゼス・ゴッツォの内面の分析を行うシュウ。 「やはり『私の知っているユーゼス・ゴッツォ』と共通している部分はあります。思考の回転はかなり早く、能力も高い……間違いなく優秀な人間と言えるでしょう。 しかし外面では余裕を演じていますが、その実、割と感情的になりやすい傾向も共通していますね。まあ、そんなことだから『ユーゼス・ゴッツォ』は野望の達成が出来ないのでしょうが……」 「はあ……」 どうやらシュウの主目的は『ユーゼス・ゴッツォの分析』にあったらしい。道理でアッサリと誘いに乗ったわけである。 やけに気前よくプラーナコンバーターの調達に応じたとも思ったが、内面を分析するためにはその人間とそれなりに深く関わる必要がある。それがモノ一つで済むのなら、安いことだったのだろう。 (こういう回りくどいことばっかりやってるから、いまいちマサキに信用されないんだろうなぁ……) シュウのこのような迂遠なやり方は今に始まったことではないから、チカとしても慣れたものではあるが……なぜ普通に会話を重ねるなどの方法を取ろうとしないのだろう。 (友達いないから、人づきあいの方法とかが分かんないのかなー) 主人に聞かれたら殺されても文句が言えないことを考えるチカだが、当然そんなことはおくびにも出さず会話を続ける。 「でもこのまま険悪な雰囲気ってのも、いけないんじゃないですか?」 「そうですね。お詫びはしておかなくてはなりませんか」 魔法学院へと歩き出すシュウ。ネオ・グランゾンの中で睡眠をとっても良かったのだが、ミス・ロングビルの口ぞえで取りあえずの寝床は用意してもらっていた。 「しかし、試運転が出来なかったのは少し惜しかったですね。プラーナコンバーターの調整も行いたかったのですが……」 「未調整だったんですか、アレ?」 「サフィーネが所持していたギルドーラは、かなり長い間使用していませんでしたからね。起動させた際に、何か不具合が起こる可能性もあります。 いつぞやのサイバスターのように機能不全を起こしたり、突然コンバーターが停止したり、下手をすると爆発するかも知れません」 「……危なくないですか、それ?」 「普通の人間であれば危険でしょう。しかし使用するのはユーゼス・ゴッツォです。そうそう心配することもないとは思いますが……」 だが自分の手が入っている以上、可能な限り『完璧』に近付けたいとも思う。 「……やはり、試運転には立ち会っておくべきですね」 それさえ済めば、自分の仕事も終わりである。 その日の夕方、ユーゼスは久し振りにルイズの部屋の中にいた。 一人で廊下を歩いていたら、やたらとイライラした様子のルイズに呼び止められて『詔がどうのこうの』と言われて部屋まで引っ張られたのである。 ユーゼスとしても気分転換をしたいところだったので、黙ってルイズが読み上げる詔とやらを聞いていたのだが。 「炎は熱いので、気をつけること」 「……それは単なる注意事項だ」 「風が吹いたら、タル屋が儲かる」 「……深い言葉ではあるが、詩的な印象は全く受けないな」 このような調子で、主人の詩の才能のなさを知るだけの結果となった。 「ああもう、文句ばっかり! じゃあアンタは何か思いつくの!?」 「思いつく訳がないだろう」 詩など考えたこともないのだから、すぐに思いつけと言われても無理だ。 ルイズは唸りながらユーゼスを睨み、『今日はもうやめる』と言ってベッドに横になる。 そして不機嫌なままで使い魔に問いかける。 「…………今まで、どこに行ってたのよ」 「一言で言うなら『様々な場所』だ。ミス・ヴァリエールに色々と連れまわされたのでな」 相変わらず淡々と語るユーゼス。 それ自体には安心したのだが、サラッと『ミス・ヴァリエール』という単語が出て来たのでルイズの不機嫌度は増した。 「…………エレオノール姉さまと、何をしてたのよ」 「宝探しと、研究についての話と……昔語りくらいか」 「昔語り?」 「互いの過去を語って聞かせただけだ。どうにも似たような話だったので、面白味も何もなかったがな」 「ど、どんな話をしたのよ」 「?」 やけに食い付いてくるな、などと思いながら詳細を少しだけ語る。 「これまでの人生はほとんど研究に打ち込んで、それなりに実績を残して、現在に至る―――という話をしただけだぞ」 「……ホントにそれだけ?」 「他に言いようがない」 「そう、そうなんだ……」 妙に安心したような顔を見せるルイズだが、更に話は続く。 「あの外の広場にある……何だかよく分からない、大きな箱みたいなのは何?」 「空を飛ぶ兵器だ」 「兵器?」 「アレを使用して飛行し、搭載された銃などを使って巨大な怪獣……いや幻獣を攻撃したりする」 「……それで幻獣を倒せるの?」 「倒せる場合もあったはずだ」 「何よ、その表現……」 実際にその通りなのだから、仕方がない。 と言うか、随分と昔のことなのであまりよく覚えていないのだが、ジェットビートルに限らず防衛チームの戦闘機が単体で怪獣を撃退したケースなどあっただろうか? 異星人連合ETFの円盤の迎撃くらいはしていたはずだが、その他の活躍と言うと……。 (……移動手段と、変身前のウルトラマンが乗っていた、という記憶しかない……) そう言えば『自分の世界』に来た時も戦闘機を持参していたな、などと回想するユーゼス。 過ぎ去った過去に思いを馳せていると、横からルイズの声が飛んで来た。 「ホントに飛べるの、アレ?」 「飛べる……はずだがな。実際にはどうなるかは分からん」 タルブからここまでは飛行が出来たが、あれはプラーナコンバーターに換装する前の話である。 「試運転をしようかとも思ったが、あまり進んで行おうという気も起こらなくてな」 実際には『行う気はあったのだが途中でやる気が無くなった』なのだが、それを正直に主人に言うのもためらわれた。 ……まさか『聞かれたくないことを聞かれたので不機嫌になった』、などとは言えない。 「ふーん、意外に気分屋なのね、アンタ」 「……そうかも知れんな」 思い当たる節がありすぎるので、否定も出来ない。 そしてルイズは少し真剣な顔になってユーゼスに問いかける。 「とにかく、これだけはハッキリさせておきたいんだけど」 「何だ?」 「エレオノール姉さまとは、何もないのよね?」 「……? 質問の意図が分からないのだが」 「い、意図って……」 『何もない』とは、どのような意味なのだろう。 レポートなどのやり取りをしているのだから『無関係』ということはあり得ない。それはルイズも分かっているはずだ。 自分と彼女の間で、特に事件があったわけでもない。 強いて言うのなら、先ほど内面に踏み込まれかけたので『人間』としての個人的評価がダウンした程度だが、それだから特にどうということもない。 ユーゼスは『能力の評価』と『人間性の評価』をほぼ切り離して考えているので、多少ソリが合わなくても『人材』として優秀ならば平気で同志や片腕としてスカウトしていた。 さすがに個性が強すぎる場合は切り捨てるが、その辺りは割り切っているのである。 ……過去にスカウトした人間のラインナップも、神官ポー、異次元人ヤプール、帝王ゴッドネロス、東方不敗マスターアジア……は駄目だったので代用品としてウルベ・イシカワ、トレーズ・クシュリナーダと、一部を除いて性格にかなり難がある面々だ。 エレオノールも扱いにくいが、あの連中に比べればまだマシと言える。 ……よくよく考えてみれば、過去を詮索されるのを遠慮したいのなら下手に身の上話などはせずに、業務上の話だけを事務的に行えば良いのである。 ちなみにエレオノールは今、『これからどうやってユーゼスと接すれば……』と少しばかり悩んでいるのだが、そんなことは彼の知る所ではない。 (大体、『他の人間と関係を持つ』というのが私らしくなかったのだ) と、そのようにしてハルケギニアの人間との付き合い方をあらためて確認するユーゼスだったが、彼の主人の少女はモゴモゴと口ごもっていた。 「……その……まあ、姉さまと、アレコレすると言うか……」 「アレコレ? 具体的に言って欲しいのだが」 「ぐ、具体的に……!? …………いや、この反応からすると『そういうコト』は無さそうね……」 なら別に良いか、と一人で納得してルイズはベッドから起き上がる。 「そろそろ夕食の時間ね。食堂に行きましょうか」 「何が聞きたかったのかはよく分からなかったが、分かった」 いつもの調子を取り戻したルイズと、多少強引ではあるが召喚された当時の調子に戻ろうとするユーゼスは、共に食堂に向かうのだった。 ワルドは竜騎兵隊の隊長として、『ロイヤル・ソヴリン』号改め『レキシントン』号に乗り込んでいた。 この戦艦は、先日新たに誕生した『神聖アルビオン共和国』代表の旗艦として、トリステイン王女とゲルマニア皇帝の結婚式に向かっているのだ。 そして港町ラ・ロシェールにてトリステインからそれなりの歓迎やら挨拶やらを受けた後、トリステインの艦隊と合流し、結婚式の行われるゲルマニアの首府、ヴィンドボナに向かう。 ……外面上は、そういうことになっている。 「要するに、来客を装った騙し討ちを仕掛けるわけか……」 「言うな、子爵。やる気が削がれる」 「これは失礼しました、艦長」 ポツリと呟いた言葉が、隣に立っていたサー・ヘンリー・ボーウッドに聞こえたらしく、釘を刺されてしまう。 ワルドは頭を下げつつ、内心ではこのボーウッド艦長に同情していた。 (『実直な軍人』という人種は、こういう時には辛いものだな……) 上からの命令には絶対服従で、非常に忠実。軍人として優秀すぎるために『反抗する』という行動も選択肢に入れられない。一度作戦が始まれば非常に徹する。 このボーウッドという男は、命令に対して徹底して『個』というものを殺し続けなければならず、しかもその生き方が染み付きすぎている。 おそらく、一生この生き方を貫くことになるのだろう。 それだけならばワルドとしても『よくある話』で片付けられるのだが、問題はボーウッドに色々と指示を飛ばす『艦隊司令官・兼全般指揮執行者』にあった。 「……艦長、こんな近付いて大丈夫なのかね? 長射程の大砲を積んでいるのだから、もっと離れたまえ。私は、クロムウェル閣下より大事な兵を預かっているのだ」 サー・ジョンストン。一言で言えば、政治屋である。 クロムウェルの信任はそれなりに厚いのだが実戦の経験などは全く無く、ハッキリ言ってしまえば、この場においては邪魔以外の何物でもなかった。 しかし地位としてはボーウッドやワルドより上に位置しているため、ぞんざいに扱うことも出来ない。 (……この光景は、どの国でも同じだな) かつて自分がグリフォン隊の指揮を執る時も、トリステインの重鎮たちが『ああだこうだ』と的外れな指示を出すことがよくあった。 とは言え、ボーウッドもその辺りのあしらい方は心得てはいるようだ。 「サー、新型の大砲と言えど、射程いっぱいで撃ったのでは当たる物ではありません」 「しかしだな、何せ、私は閣下から預かった兵を無事にトリステインに下ろす任務を担っている。兵が怖がってはいかんだろう。士気が下がるではないか」 「そうですな」 やり取りの後、ボーウッドはジョンストンを無視して命令を下し始めた。 とりあえず意見は聞いておいて、その後に淡々と『自分の方法』で効率良く進行させる。賢いやり方だ。 (しかし、『新型の大砲』か……) ワルドは、クロムウェルの傍らに立っていた得体の知れない……東方のロバ・アル・カリイエからやって来たという触れ込みの、小太り体型の大柄な男を思い出す。 (デブデダビデ、とか言っていたな) 確かに聞き慣れない響きの名前ではある。東方ではそのような名前が使われていると言われたら、そう納得するしかない。 あの不気味な雰囲気さえなければ、すんなり納得も出来たのだが。 (……得体が知れないと言えば、あの『紫の髪の男』……) 目撃証言程度ならばそれなりに得ることは出来たが、いまだ実際に発見するまでには至っていなかった。 まあ、これから戦場に向かおうと言うのに、いつまでも不確定要素について考えるのも好ましくはあるまい。 あの男のことも気になるが、今は目の前の戦場だ。 状況は既にアルビオンの『ホバート』号を自爆させ、その罪をトリステイン艦隊旗艦になすり付ける段階を通り越し、艦隊戦という名の一方的な蹂躙に入っている。 「さて、私も仕事をして来ますよ」 「気をつけてな、子爵」 艦長の言葉を背に、ワルドはかつての祖国を攻撃するべく風竜の元へと向かった。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6689.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 『アンドバリ』の指輪で蘇ったアルビオン騎士たちの数は、十人ほど。 対するこちらは総勢六名。 決して巻き返せないほどの戦力差ではなかったが、こちらの陣営と敵とでは決定的な違いが一つだけあった。 「ううっ、攻撃してもすぐ傷が塞がって……!」 「向こうも精神力を節約するみたいだから、あんまり大きな攻撃はしてこないみたいだけど……このままじゃジリ貧よ!?」 自分たちは生きているが、敵は既に死んでいるという点である。 しかも、いくら傷つけようがその傷はあっという間に再生してしまうのだ。 つまり攻撃しても意味はなく、また攻撃したとしても敵はそれに対して防御や回避を行う必要がない。 ルイズが爆発を炸裂させようが、ユーゼスが剣で斬りかかろうが、タバサが氷の矢で貫こうが、ギーシュがワルキューレで殴りつけようが、『アンドバリ』の指輪の効力によって動いているメイジたちは構わず攻撃を仕掛けてくる。 ……と、そこでキュルケの放った炎弾が敵に直撃し、その相手を燃やし尽くした。 一同は『どうせまた再生するのだろう』などと思いつつその光景を眺めていたが……。 「再生……しない!?」 「ってことは、炎が効くのね! なんだ、燃やせば良いんだわ!!」 『水』系統のマジックアイテムの力によって動いている彼らに、それと相反する属性の『火』をぶつければ、その効力を相殺することが出来るということだろうか。 とにかく効果的な攻撃手段を発見した一同は、キュルケを中心とした陣形に切り替えた。 この戦法に対してルイズは微妙に、エレオノールは非常に不機嫌な様子であったが、今はいちいち家の問題を持ち込んでいる場合ではないことも分かっていたので、二人は黙って援護を行っている。 しかし、そのキュルケの炎による攻撃で敵メイジを三人ほど倒した時点で、敵は魔法の射程から一気に離れた。 どうやら体勢を立て直すつもりらしい。 「このまま、少しずつ炎で燃やしていけば……勝てるかもね」 キュルケが呟く。 そのまま両陣営はジリジリと睨み合いを続けていたが……。 「……?」 それに最初に気付いたのは、タバサだった。 ぽつぽつと、頬に水の雫が当たっている。 「!」 さすがにこの状況で『この現象』は不味い、とタバサは彼女にしては珍しく焦った表情で空を見上げる。 ―――その数秒後、雨が降り出した。 雨はすぐに本降りになり、この場にいる人間たちに降り注いでいく。 「杖を捨てて! あなたたちを殺したくない!!」 「……姫さまこそ、いい加減に目を覚ましてください!! ただ盲従するだけの愛なんて、そんなのは愛でも何でもありません!!」 ルイズが叫んでアンリエッタに呼びかけるが、その訴えは降り続く雨音によって打ち消されてしまう。 「見てごらんなさい! 雨よ! 雨!! 雨の中で『水』に勝てると思っているの!? この雨のおかげで、私たちの勝利は動かなくなったわ!!」 「ぐ……」 それは確かに、その通りだった。 アンリエッタはトライアングルの水メイジである。 これだけ激しく雨が降っていれば、材料の水などほぼ無尽蔵に用意されているようなものだ。 『大量の水によるバックアップがある水メイジの優位さ』は、奇しくもラグドリアン湖の戦闘によるモンモランシーの活躍によって証明されている。 ドットのモンモランシーでさえあれだけの力を発揮出来たのだから、トライアングルのアンリエッタならば自分たちをまとめて圧倒出来てもおかしくはないだろう。 そしてこちらには、水メイジなど一人もいない。 火を使って相手を焼こうにも、雨の中では役立たずである。 「……っ、打つ手なしなの……?」 苦しそうな表情と声で呟くルイズ。 だが。 「…………いや、そうでもないだろう」 これまでほとんど『敵を観察する』ことに集中していた銀髪の使い魔の呟きによって、その顔はパッと明るくなるのだった。 ルイズは期待を込めた瞳でユーゼスを見る。 「対処法を考え付いたのね、ユーゼス?」 「対処法……と言うよりは、相変わらずの『その場しのぎ』でしかないがな。いつも通り、根本的な解決にはなっていないぞ」 「それでもいいわ、とにかく言いなさい!」 もったいぶっている暇などはない、と言わんばかりの強い口調で早急な説明を要求するルイズ。 ユーゼスはそれに頷くと、自分が考案した『対処法』についての簡単な説明を始めた。 「了解した。……それでは、ミス・ヴァリエールとミスタ・グラモンに働いてもらうぞ」 「え?」 「……私たちが?」 ボソボソと何かを相談し始めたルイズたちを見て、アンリエッタは不安に襲われる。 「何を話しているのかしら……?」 おそらく撤退するか、しないかの相談だと思うのだが……。 ……いや、そうであってくれなくては困る。 もし彼らが、この状況にあってもなお自分たちに敵対すると言うのなら……もう、殺すしかなくなってしまうからだ。 いや、何も殺さずとも、最低でも脚か腕のどちらかは失ってもらうことになるだろう。 いずれにせよ、これ以上ルイズたちとは戦いたくない。 戦いたくはないが、立ちはだかる障害とは戦わなくてはならない。 自分の愛を貫くために。 「……………」 そして、ルイズたちは行動を起こした。 金色の巻き髪の少年と、長い金髪に眼鏡をかけた女性が、両人とも緊張した面持ちではあるが前に出る。 どうやら、彼らは撤退ではなく戦いを選んだらしい。 「っ……」 こうなったら、仕方がない。 アンリエッタは杖を振り、メイジたちに水の鎧をまとわせようとする。 だが、その直前……。 「!」 ズ、と味方のメイジの内の一人が立っている地点の土がうごめき、隆起していった。 一体何が……と確認する間もなく、隆起した土のカタマリは味方のメイジの全身をスッポリと飲み込んでいく。 「土で動きを封じた……?」 まあ、戦闘において土メイジがよく使う手ではある。 普通は動きを鈍らせたり足止めを行ったりするために、それこそ足のあたりにでも土を絡み付かせるものだが、完全に動きを封じるためにその規模を少々大きくしたのだろう。 しかしこの程度の土のカタマリなど、すぐに大量の水で洗い流すことが出来る。 不死身と化しているこのアルビオンの騎士たちならば、いちいち怪我をさせないように威力を加減する必要もなく、怒涛の勢いで一気にこの土を払うことが出来るだろう。 そう思って、アンリエッタはあらためて水魔法を唱えようとするが……。 次の瞬間。 その土のカタマリは、一つの巨大な岩に変化した。 「……ラグドリアン湖の時にも思ったんだけど、どうしてこうアンタは非人道的って言うか、えげつないって言うか、情け容赦のない魔法の使い方を考え付くのよ?」 「私に言わせれば、今までこのような魔法の使われ方が成されていなかったことの方が疑問だがな」 「貴族の戦いは、誇りを持って行われるべきなのよ。だからこういう……まあ、邪道な戦い方は、普通しないわ」 「そういうものか」 反撃として飛んで来る魔法をデルフリンガーで吸収しつつ、ユーゼスはルイズと会話を行う。 ルイズが使える魔法は取りあえず『エクスプロージョン』だけで防御に転用出来るものがないので、こうしてユーゼスがガードしているのである。 『エクスプロージョン』もやりようによっては防御に転用が出来るのではないか……とユーゼスは考えているのだが、それを考案している暇も、その防御方法を練習させる暇も、今はない。 「それにしても、まさか『倒さない』ことを選ぶなんて……」 「あのような敵とは、マトモに戦おうとするだけ無駄だ」 ユーゼスが一同に説明した『対処法』は、割と単純である。 まず土メイジのギーシュが、敵メイジを大量の土で包む。 続いて、同じく土メイジのエレオノールが、その大量の土に『錬金』をかけて石(と言うか、岩)に変える。 他のメンバーは敵メイジを封じた岩を壊されないように、また敵の動きを止めるべく援護と牽制を行う。 これだけだ。 「『あのような敵』? ああいうのと戦ったことがあるの?」 「実際に戦ったことはないが、自己再生を行うモノならば心当たりがあってな。それへの対処法を元に考え付いた」 自己再生を行うモノへの対処法は、大きく分けて四つである。 一つ目は、再生速度を上回る圧倒的な大火力で、破壊し尽くす。 二つ目は、エネルギー源……コアを破壊、もしくは抜き出す。 三つ目は、動きを封じて、身動きを取れなくする。 そして最後に、どこか手の届かない遠くに放り出す。 ユーゼスはこの中で、最も現実的な方法を選択したに過ぎない。 「まあ、今更いちいちアンタの過去を詮索するつもりはないけど……」 ―――この男は自分に召喚される以前には、一体どこで何をしていたというのだろうか。 もう何度目になるのか分からない問いを、ルイズは心の中で呟く。 (コイツがたまに言う『経験』とか『心当たり』とかって、少なくともハルケギニアでのことじゃないのよね……) 知りたい、という思いはある。 だが、そう軽々しく聞いてしまって良いものか、というためらいがある。 そして……あの夢が脳裏をよぎる。 もしアレが、自分の予想通りのものならば……。 「……む、予想より対応が早いな」 「えっ?」 ルイズが思考に没頭し始めた時点で、横からユーゼスの声が聞こえて正気に戻る。 見れば、敵メイジたちの周囲には分厚い水の壁が展開されていた。 どうやらアンリエッタが行ったらしい。 「これで『土で包む』ことは困難になったな。『単なる土』ならばともかく、水の混じった『泥』に対しては石に錬金することは難しい」 せっかく確立した敵への対抗手段が打ち破られつつあるというのに、ユーゼスは冷静だった。 「……それでは次善の策を打ち出すとするか。御主人様、任せた」 「…………普通は、主人が使い魔に指示を出すものなんだけど…………」 ぶつぶつと不満を言いつつ、ルイズは展開された水の壁に向かって『適当な魔法』を唱える。 『エクスプロージョン』をきちんと使おうとすると爆発自体は発生するのだが、術者であるルイズ自身が詠唱の途中で気絶してしまうため、いつもの『失敗魔法』による爆発を使った方が効率が良いのだ。 それに、何も水の壁を消滅させる必要はない。 ただ吹き飛ばすだけで十分だ。 「っ!!」 いつも通りのルイズの失敗魔法の結果として、爆発が発生する。 その爆発はアンリエッタが敵メイジに対して張った水の壁をバラバラに砕き、単なる水飛沫に変えてしまう。 「そんなことで……!」 アンリエッタは再び水の壁を展開しようとするが、それよりもユーゼスがタバサに指示を出す方が速かった。 「ミス・タバサ、打ち合わせ通りに」 「分かった」 すかさずタバサが前に出て、呪文の詠唱を始める。 次の瞬間、水の壁を吹き飛ばされた敵メイジの周囲の空気が動き始めた。 それを敵メイジが怪訝に思う間もなく、魔法の効果は現れる。 その効果とは……。 「!? 凍った!!?」 アンリエッタが驚きの声を上げた。 そして彼女が泡を食っている間に、次々と敵メイジたちに張った水の壁は爆散し、飛び散った飛沫は氷の棺となってアルビオンの騎士を閉じ込めていく。 「な、な……!?」 こんな戦い方、アンリエッタは見たことも聞いたこともない。 いや、これもそうだが、『土で包んでから石に錬金して閉じ込める』というのも、前代未聞な……少なくとも自分は知らない戦い方だ。 いったい、誰が考えたのだろうか。 ……いくら何でも、魔法学院の学生がこれを考案した、とは考えにくい。 ルイズの使い魔である平民。これもないだろう。平民が魔法の使い方について考えても意味がない。 ということは、消去法で残りの一人に絞られる。 (ルイズの姉君の……エレオノール殿が……?) ありえる話だ。 そもそも彼女は魔法の研究機関であるアカデミーの主席研究員である。 アカデミーは基本的に、そのような『効果的な魔法の使い方』だとか『魔法の応用方法』の研究はしないものなのだが……。 (独断で研究を始めたと言うの……?) そこまで考えて、しかし今はそんなことを考えている場合ではないと気付く。 アンリエッタにとっての味方のメイジたちは一人、また一人と氷付けにされていっているのだ。 「…………!!」 呪文の詠唱を開始する。 自分の精神力を総動員して、彼らを打ち倒すために。 と、その詠唱に重なるものがあった。 ウェールズの詠唱だ。 アンリエッタは思わずウェールズの方を向き、そしてウェールズもまたアンリエッタを見る。 二人は見つめ合い……アンリエッタの心は、その視線のやり取りだけで熱く潤み始めた。 間もなく、水で出来た竜巻がアンリエッタとウェールズの周囲に発生していく。 『水』、『水』、『水』。『風』、『風』、『風』。 水が三つと、風が三つ。 合計六乗の力は結集し、絡み合い、一つになっていく。 ……王家にのみ許された、ヘクサゴン・スペル。 直撃すれば人間どころか城壁ですら吹き飛ばすことが出来るだろうその攻撃を、アンリエッタは友と呼んでいたはずの少女に向かって放とうとしている。 時間は少々巻き戻る。 エレオノールは、不機嫌だった。 自分の魔法が、邪道的な使われ方をした……ということに対する不満は、もちろんある。 よりによって『錬金』で人間を固めるなど、まともな貴族は思いつかない。いや、思いついたとしても実行しようとはしない。 これが野に下った下賤な傭兵風情ならまだしも、由緒正しい貴族であるならば、正道かつ真っ当な使い方で魔法を行使するのが筋というものだろう。 アカデミーならば、こんな魔法の使い方は即座に『異端』のレッテルを貼られるはずだ。 (……でも、それはこの際、やむを得ないこととして……) しかし、今は生きるか死ぬかの瀬戸際でもあるのだから、この程度は大目に見よう。 発表など絶対に出来はしないだろうが、それでも『生き残るための手段』としてならば許容が出来ないこともない。 人間を氷で閉じ込めることについても同様だ。 ルイズの魔法で水の壁を吹き飛ばし、その飛び散った飛沫や振り続く雨粒を、タバサのラインスペルかトライアングルスペルの応用で氷に固める。 わざわざ水の壁を一度吹き飛ばしたのは、『まとまった形』で存在している水のカタマリよりも、バラバラに四散している状態の方が氷にしやすいためだ。 風メイジが水蒸気などを氷にするのと、それほど違いはない。 理屈としては、こんなところである。 いくら傷付けてもすぐに再生してしまうのでは、もう動きを止めるしかないのだから、こうするしかあるまい。 『雨が降っていて水が豊富にあるのだから、初めから土や石ではなくて氷で固めていれば』……とも思いはしたが、そうも行かない理由があった。 タバサにかかる負担が大き過ぎるのだ。 遠隔魔法……距離が離れている対象に向けて放つ魔法は、至近距離にある対象へのそれよりも精神力の消費が大きい。 最初に行った『土で包んで石に錬金する』の場合、『ギーシュが土で包んでエレオノールが石に錬金する』という役割分担が成されていたため、精神力の負担も分けることが出来ていた。 これはこの場に土メイジが二人いることで出来る分担だった。 しかし、一同の中では風メイジはタバサ一人しかおらず、補助としての水メイジも一人もいない。 その結果として、貴重な戦力であるトライアングルメイジのタバサを酷使することになってしまうのだ。 これでもし不測の事態が発生した場合、最悪タバサを欠いた状態で対応しなければならなくなる。 これは痛い。 (まあ、作戦って言うか、戦いの成り行きからすれば、仕方がないんだろうけど……) この場では最年長である自分が特に何もせず、学生に任せっきりという今の状態は、エレオノールとしては決して好ましくはない。 (それに……) トリステインの女王であるアンリエッタの乱心に対する、苛立ちもある。 同じ女としてその気持ちは分からないでも……いや、誰かを本気で好きになったことがないので実はあまりよく分からないが、とにかく全く分からないということはない。 だが、よりにもよって自分をさらって行ったはずの連中に協力して、救出に来たはずの自分たちに敵対することを選ぶとはどういうことだろうか。 そしてこの件とは直接関係がないが、降り続く雨によって全身がずぶ濡れになっている。 今の状況でこのことに対して文句を言う程に空気が読めないわけではないが、不満なことは不満なのだ。 (それとかは、取りあえず我慢が出来るんだけど……) …………そして、何より。 「前に出過ぎだ。少し下がれ、御主人様」 「これだけ暗いんだから、前に出ないと位置がよく分かんないでしょ!」 「そう動かれては守れんぞ」 「そこを何とか守り切るのが、本来のアンタの仕事でしょうが!」 (…………っ) 『ユーゼスがルイズを守っている』、ということが不機嫌の最大の理由であった。 いや、別にそのことが問題であるというわけではない。 むしろ理屈の上では正しい。 使い魔が主人のことを守るのは当然であり、ごく自然なことだ。 何の不都合も不自然な点もないし、違和感なども感じない。 妹とその使い魔は、当たり前のことを当たり前に行っているだけである。 ……だが、だからこそ面白くない。 その『当たり前である』ということ自体が、不愉快なのである。 って言うか、何なのよ? キスしたってのに、その素っ気なさは何よ? まあ、アレは厳密に言うとキスとは少し違うけど、それでも、こう……何て言うか、もう少し気恥ずかしさとかを感じてくれても良いんじゃないの? お……おまけに……仮にも、い、い、い、一緒のベッドで寝たくせに。 何でそんなに平然としてるのよ? (これじゃ、意識してる私が馬鹿みたいじゃ……) と、そこまで考えた時点で、ふと気付く。 プラーナの口移しにせよ、一緒に寝たことにせよ。 …………よくよく思い返してみれば、どっちもこの自分からやったことではないか。 「そ、そんな……!!?」 カア、と顔から首にかけてが一瞬で熱くなっていく。 ここ数日はどうも色々とあり過ぎて、駆け足で過ぎ去ったようなものだったので、あらためてその出来事を振り返る暇もなかった。 しかし落ち着いて過去を回想してみれば、自分はかなりとんでもないことをやらかしている。 いや、どちらもそうせざるを得ない状況ではあったのだが、しかし……。 (それにしたって……もうちょっと、こう、あるでしょ? 普通なら!?) ふとした拍子に目と目が合って、お互いに『あっ……』となるとか。 お互いに対応がぎこちなくなって、妙に気まずくなるとか。 その……『行為』を思い出して、ボーっとするとか。 せめて、少しくらいは照れるとか。 まともに恋愛した経験などないのでほとんど想像の域を出ないのだが、エレオノールとしてはそういうのを少しは期待……ではなく、予想していたと言うのに。 (……何だか私、ないがしろにされてる気がするわ) 実際にはユーゼスはエレオノールだけではなく、主人であるルイズを含めた全ての人間に対して一線を引いた態度を取っているのだが、『不機嫌』というフィルターを通してユーゼスの行動を見ているエレオノールには、そう映らない。 何だか、自分とルイズの扱いに差があるように感じるのである。 「…………うぅ~」 小さく唸ったところで、この状況が変わるわけでも、ユーゼスの注意がこちらに向くわけでも、自分の機嫌が直るわけでもない。 しかし、どうしてもこう考えてしまう。 (もし、何かの歯車が一つか二つくらいズレてたら……) 今、ユーゼスに守られているのは自分だったかも知れない。 それを思うと、やはりエレオノールの不機嫌度はどんどん増していくのだった。 ……と、『敵への対抗手段』効果を上げたために生じた精神的余裕をエレオノールが最大限に活用していると、いきなり巨大な水の渦が発生し始めた。 さすがにこんな天災規模の攻撃を繰り出されては、優勢だった一同も慌てざるを得ない。 「さ、さすがに反則だろう、アレは!?」 「よし、逃げましょう!!」 「……多分、逃げ切れない。それにわたしたちが逃げ出したら、身動きの出来ないヒポグリフ隊の生き残りがアレに巻き込まれる」 「じゃ、じゃあ、こっちも魔法を使って、相殺して打ち消すってのはどうかね!?」 「あんなメチャクチャなのと互角の威力を持った魔法なんて、あるワケないでしょうが!」 ギーシュとキュルケとタバサがうろたえながら対抗策を模索するが、あのような規格外の攻撃に対してそう簡単に有効な対抗策を考え付くことは出来なかった。 「「「……………」」」 ならば、と三人は『有効な対抗策』を考え付いてくれそうなユーゼスに視線を向けるが……。 「……デルフリンガー、アレを吸収出来るか?」 「出来なくはねーが、厳しいな。俺にも一応は吸い込んだ魔法の許容範囲っつーか、耐久限界ってのがあるし。一応その魔法の力を消費することも出来るんだけど」 「その『溜め込んだ魔法を吐き出しながら、同時に吸収する』ということは可能か?」 「んー、やったことないから、分かんね」 「…………使えん防御装備だな」 「いやいや、俺は防御じゃなくって攻撃のための『武器』だよ!?」 どうやら、そうそう虫の良い話はないらしい。 はあ、と溜息を吐きながら、どんどん接近してくる水の竜巻を見るユーゼス。 もうこうなったら、空間転移を使って自分とエレオノールとルイズだけで逃げるというのも一つの手段なような気がしてきた。 他の三人は……まあ惜しい人材ではあるが、唯一無二の逸材というほどでもない。 後はエレオノールとルイズに対する言い訳だが、これは……アレだ、『無我夢中になってたら、自分の秘められた力が開花した』とでも言おう。 ドモン・カッシュが死の淵に立たされて、ようやく明鏡止水の境地に目覚めたようなものである。 そうと決まれば、行動開始だ。 ルイズは隣にいるので、早くエレオノールと合流しなければならない。 では御主人様の身体を抱えて、ミス・ヴァリエールのいる場所に向かおう……と思った瞬間、デルフリンガーが間の抜けた声を上げた。 「あー」 「む?」 「思い出した。アイツら、随分懐かしい魔法で動いてやがんなぁ……」 「どういう意味だ?」 いきなり意味深なことを言い出したデルフリンガーに向かって、ユーゼスは訝しげに問いかける。 「水の精霊を見た時、こう、なんか……背中のあたりがムズムズしたが……。いやユーゼス、忘れっぽくてごめん。でも安心しな、俺が思い出した」 「…………言ってみろ」 「アイツらと俺は、根っこは同じ魔法で動いてんのさ。とにかくお前らの四大系統とは根本から違う、『先住』の魔法さ。ブリミルもアレにゃあ苦労したもんだ」 「……………」 出来ればラグドリアン湖で水の精霊を見た瞬間に言って欲しいことだったが、とにかくユーゼスは黙ってデルフリンガーの言葉を聞く。 しかしその回りくどい言い回しに、横で話を聞いていたルイズが怒り始めた。 「何よ、伝説の剣! 言いたいことがあるんなら、さっさと言いなさいよ! 役立たずね!!」 まったくだ、とユーゼスは内心で主人の言葉に頷く。 デルフリンガーはそんな自分の持ち主の酷評にも気付かず、ルイズと会話を行う。 「役立たずはお前さんだ。……せっかくの『虚無』の担い手なのに、見てりゃあ馬鹿の一つ覚えみてえに『エクスプロージョン』の連発じゃねえか。 確かにそいつは強力だが、知っての通り精神力を激しく消耗する。今のお前さんじゃ、この前みてえにデッカイのは一年に一度撃てるか撃てねえかだ。今のまんまじゃ、花火と変わんねえよ」 (……そういうことは、もっと早く言え……) チッ、とユーゼスが舌打ちするが、雨音に掻き消されたのでデルフリンガーには聞こえていない。 「じゃあ、どーすんのよ!?」 「祈祷書のページをめくりな。ブリミルはいやはや、大したヤツだぜ。きちんと対策は練ってるはずさ」 言われた通り、ルイズは『始祖の祈祷書』のページを次々にめくっていく。 そして見つけた。 『ディスペル・マジック』という、ある意味では無敵の魔法を。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6061.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 「……まったく、わざわざ挑発なんかしないで、最初から嘆願なり懇願なり切実な様子で訴えるなり、色々とやりようはあるでしょう!?」 「んー、でもルイズに対しては、アレが一番効果があると思うけど?」 タバサの使い魔である風竜シルフィードの背の上で、ルイズはプンスカ怒りながら使い魔の言動を非難する。 ルイズの文句を聞くキュルケは、からかいの口調でルイズに応じていた。 ―――あの後、タバサたちは作戦通りにタルの水を操作して鎧ゴーレムの足を泥化させ、倒れている隙に逃げ出した。 なお、ドカンドカンと爆発が移動していたので、ルイズとユーゼスを発見するのは非常に容易であった。 「……悪かったとは思うが、それにしてもやり過ぎだ、御主人様」 ユーゼスは倒れ伏しつつタバサの『治癒』を受けながら、ボロボロの身体の状態を確認していた。 タバサは風系統のメイジなので、水系統の『治癒』は本領ではない。 学院に戻ったら、水の秘薬なり本職の水メイジに頼むなりしなければならないな―――などとユーゼスが考えていると、 「あの、ユーゼスさん?」 ミス・ロングビルが、おずおずと進み出てきた。 「……ミス・ロングビル、こんなヤツに『さん』なんて付けなくていいです」 「いえ、あの窮地から脱出が出来たのは、この方のおかげですから」 『なんて謙虚な人なんだろう』と、あらためて尊敬の念を抱くルイズだったが、ミス・ロングビルは興味津々な様子で先程聞きそびれたことを質問する。 「……あのゴーレムの鉄を砕いたのは、どのような魔法なのです? もしかして、ミス・ヴァリエールの魔法が……?」 ミス・ロングビルの言葉にピク、と反応するルイズ。 もしかしたら、この使い魔の口から『御主人様の魔法は凄い』などというセリフが聞けるのでは―――と期待したが、 「いや、御主人様の魔法自体は、ただ単に爆発を起こすだけだ」 「……………」 その期待は、見事に裏切られた。 「そうか、物質の温度変化に関しての研究も行われていないのだな、ここでは」 「「「「?」」」」 疑問符を浮かべる、4人の女性たち。 「……金属に限らず、全ての固形物質に共通していることだが、固形物質は『急激な温度の変化』に晒されると脆くなる」 横になりながらなのでサマになりにくいが、ユーゼスは淡々と説明する。 「あのゴーレムの場合は赤熱化するほど熱した直後に、氷点下程度にまで温度を下げたからな。軽くヒビも入っていたようだし、御主人様の爆発で該当箇所の周辺がバラバラになるのは当然だ」 「……あの、ゴメン、よく分かんないんだけど……」 ちんぷんかんぷん、という言葉がまるで顔に書いてあるようなキュルケ。見ると、ルイズとミス・ロングビルも似たような表情だった。 唯一タバサだけは、何かを考え込んでいる様子だったが。 「―――特に冷たくもない水に氷を入れると、その氷にヒビが入る場合があるだろう。あれと同じ理屈だ」 「え、そうなの!?」 「知りませんでした……」 「凄い発見だわ……」 こんな程度で感心されても困るのだが、とユーゼスが辟易する。 ユーゼスがいた世界では、子供でも知っている理屈である。 「……それにしても悔しいわね。ゴーレムは倒した―――ってほどでもないけど、とにかく攻略は出来たのに、肝心のフーケを捕まえることが出来なかったわ」 「まあ、『ズバットの鞭』も取り返せたし、良いんじゃないの?」 不満そうに言うルイズに、キュルケが結果オーライじゃないかとなだめかける。 しかし、そのルイズの言葉にミス・ロングビルが、 「……ええ、本当に…………悔しいですわねぇ、ええ。ゴーレムは、倒され……倒したのに」 と賛同した。 ギリギリと歯を食いしばり、手をキツく握っているところから見て、どうやら本心から悔しがっているようだ。 「そうですわよね、ミス・ロングビル! ゴーレムはわたしたちでも工夫すれば何とか出来るくらいの、あんまり大したことないレベルでしたけど、やっぱり逃げられたのは悔しいですわよね!」 「…………まったくです、ミス・ヴァリエール」 意気投合する二人。 しかし笑顔が引きつっている様子から見て、ミス・ロングビルは本当に心の底から悔しがっていることが分かる。 そんなにフーケを捕まえることに執念を燃やしていたのか、と思ったが、考えてみれば真っ先にフーケの隠れ家を見つけたのもこの女性だ。 ミス・ロングビルとフーケの間には、何か浅からぬ因縁があるのかも知れないが―――いちいち追求して、個人の事情に首を突っ込む気はユーゼスやタバサにはなく、キュルケも『迂闊に触れて良いことじゃないっぽいわね』と遠慮する。 ……なお、学院に帰還する途中で『ズバットの鞭』が正真正銘、マジックアイテムでも何でもない単なる武器であることを知ってミス・ロングビルがガックリと肩を落とし、更に、ユーゼスがシルフィードに酔って他の面々に呆れられたことを追記しておく。 学院長室に戻り、5人の報告を受けたオールド・オスマンは『よかったよかった』、と喜んだ。 「……いや、友が去り際に残した物が戻ってきたことも嬉しいが、君たちが無事に戻ってきてくれたことが、何より嬉しい。特にミス・ロングビルは、フーケかも知れぬとの疑いをかけて、重ね重ね申し訳ない」 「いえ、気にしておりませんので」 にっこりと微笑むミス・ロングビル。どこか疲れた様子なのは、やはり体調が悪いのだろうか。 「さてと、『ズバットの鞭』も無事に戻ってきたことじゃし、一件落着なんじゃが……」 オスマンは取り返された鞭を手に取りつつルイズたち3人の生徒を見て、申し訳なさそうに言葉を紡いだ。 「……これでフーケを捕まえた、ともなれば君たちに『シュヴァリエ』の爵位申請なり、叙勲の申請なりをしてるんじゃが、いかんせん『宝物を取り返した』だけでは弱くてのぉ……」 それを聞いて、キュルケとタバサは落胆した表情を見せたが、ルイズだけは違った。 「要りません」 「ルイズ?」 名誉や勲章は、『ゼロ』と呼ばれ続けたルイズにとって喉から手が出るほど欲しいはずなのに―――と、キュルケは困惑する。 「だって、今回フーケのゴーレムを何とか出来たのは、全部わたしの使い魔の発想があってこそです。 ……わたしは、『わたし自身』が掴んだ栄光以外は、要りませんわ」 フン、と軽くユーゼスを睨むルイズ。ユーゼスは相変わらずの無表情である。 オスマンはそんな主人と使い魔の様子を見て、どことなく嬉しそうに笑みを浮かべた。 「ふぅむ、ただ単にプライドが高いだけと思っておったが……」 誇り高いと言うか、何と言うか―――いや、要するに、やはりただプライドが高いだけだろうか? 少なくとも、単純に『お前の手柄は私の手柄、お前のミスはお前のミス』とする気はないようである。 「ふむ、何にせよ期待しとるよ、ミス・ヴァリエール」 「はい」 話が一段落した所で、ポンポン、と手を打つオスマン。 「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。このとおり『ズバットの鞭』も戻ったし、予定通りに執り行う」 「そうでしたわ! フーケの騒ぎで忘れておりました!」 言われて、キュルケが嬉しそうに思い出す。 「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ、用意をしてきたまえ。せいぜい着飾るのじゃぞ」 「はい!」 そうして、ルイズとキュルケとタバサは礼をした後、学院長室から退室しようとする。 「……………」 「……どうしたの?」 しかしユーゼスが退室せずに残っていたので、ルイズが不満そうに声をかけた。 「オールド・オスマン氏と話したいことがあるのでな。……先に行っていてくれ、御主人様」 「あ、うん……」 少し心配そうな様子を覗かせたが、頷いて完全に退室するルイズ。 そして、ユーゼスは真正面からオスマンと対峙する。 「さて、何か私に聞きたいことがおありのようじゃな」 「……確かに、色々とあるが」 敬語を全く使わない口調を気にも留めず、オスマンは微笑みながら先を促した。 「言ってごらんなさい、出来るだけ力になろう。君に爵位や勲章を授けることは出来んが、私の生徒を助けてくれた、せめてものお礼じゃ」 そしてオスマンは、コルベールとミス・ロングビルを退室させる。 二人は不満そうだったが、仮にも魔法学院の最高権力者である学院長の命令には逆らえず、退室することとなった。 そして、ユーゼスが口を開く。 「……2つほど頼みがあって、1つだけ聞きたいことがある」 「ふむ、頼みの方から聞こうか」 「図書館への入館許可と、空き部屋が1つ欲しい」 「?」 その要求に、疑問符を浮かべるオスマン。 「君はどうやら魔法の研究に熱心なようじゃから、図書館への入館許可はともかくとして―――『空き部屋』とは何じゃ?」 「研究室として使う」 「研究室じゃと?」 「今は御主人様の部屋を借りているがな、このままのペースでは近い内に確実に手狭になる。 ……今の内に、それなりのスペースを確保しておく必要があるのでな」 オスマンは、ほお、と感心してユーゼスを見た。 「なるほど、なるほど。……それでは早速、図書館への入館許可証を書くとしようか。 それと空き部屋じゃが、私の記憶が確かならちょうどミス・ヴァリエールの隣の部屋が空いていたはずじゃ」 「そうなのか?」 「……前の入居者が『いつ爆発が起こるのか不安なので、部屋を変えてください』と泣きながら訴えるものでなぁ……」 無理もない。 眠っている間にいきなり爆発で吹き飛ばされる恐怖を考えれば、安心した睡眠どころか生きた心地すらしないだろう。 真向かいの部屋にいるキュルケは、そういう意味ではかなり肝が据わっていると言える。 「では、その部屋に必要な物はあるかね?」 「普通サイズの机と、広い机、あとは大きめの本棚を入れられるだけ入れて欲しい」 普通サイズの机は部屋の奥に入れてレポートなどの執筆用に、広い机は部屋の中央に置いて実験用に、あとは部屋を囲むように、本棚を入れられるだけ入れる予定である。 「うむ、手配しよう」 これで、ここに残った理由の半分は達成した。 ―――肝心なのは、残りの半分である。 入館許可証を書くオスマンに向かって、ユーゼスは切り出した。 「……さて、本題だが」 「1つの『聞きたいこと』とやらじゃな」 許可証にサインを書き、オスマンは傍らに置いていた鞭を手に取る。 「これのことじゃろう?」 「ああ。……単刀直入に聞くが、お前はその鞭の持ち主とどのような関係だ?」 オスマンは机から水ギセルを取り出すと、それを口にくわえる。 そして、目を細めて昔を懐かしみながら語り始めた。 「あれはもう30年―――いや、正確に言えば33年も前になるかの……。森を散策していた私は、ワイバーンに襲われてな。どうにも苦戦しておったところに彼が……ケンが現れたのじゃ」 「ケン……早川健か」 その名を聞いたオスマンが、遠くを見るような目になった。 「そう、ケン・ハヤカワ。 常日頃から『自分は別の世界から来た』、と言っていてな。事実、我らの知らない知識を持ち、我らの常識にいちいち感心したり驚いたり、憤慨したりしておった。 ……私はその時には既に老人と呼ばれる年じゃったが、それでも若い頃にはご婦人方の黄色い声援や、熱いまなざしを辟易するほどに浴びておっての。ケンはそんな昔の私に、勝るとも劣らぬほどの色男じゃった……」 「……………」 「……君、今『ならば、この世界にとってハヤカワの容姿はあまり大したことなかったんだな』とか思ったじゃろ?」 「いや、全く。それより、早く続きを頼む」 「そうかぁ? ……まあいいわい」 話が脱線しそうになったが、即座に軌道修正を入れる。 「ともかく、そんなケンと私、そして君の主人であるミス・ヴァリエールの母君である『烈風』カリン殿の三人は一時期、行動を共にしていたことがあるんじゃよ」 「…ほう」 自分の主人の母親と、かつての自分の敵が共にいたとは。 ……これも、因果律の成せる業だろうか。 「彼は魔法が使えぬ平民でありながら―――いや『魔法が使えぬ』という点を除けば、あらゆる面で完璧、そして奔放な男じゃった」 年齢不詳の老人は、口から煙を吐き出しつつもケラケラと笑いだす。 「何せその頃マンティコア隊の隊長であったカリン殿より、見事にマンティコアを乗りこなしておったからの! その他にも様々な幻獣を自在に乗りこなし、剣術、投げナイフ、笛の演奏、料理、釣り、呑み比べ……とにかくトリステインで一番と言われておった男たちを『しかしお前さんニッポンじゃあ二番目だ』とか言ってアッサリ打ち破っとった。 ま、唯一の欠点は、歌が下手なことじゃったが」 (……相変わらずのようだな) 世界が変わっても、やはり早川健は早川健のようである。 「それと忘れてはならんのが、三人でトリステイン中の悪徳貴族やら、人身売買などを扱う犯罪組織やら、猛り狂った幻獣やらを相手にした八面六臂の大活躍でな! 特にケンとカリン殿とのコンビは無敵じゃった!」 やけに嬉しそうに話すオスマン。 「て言うかな、カリン殿はもう、絶対ケンに惚れてたな。口にも顔にも出さんかったが、態度に思いっきり出ておったし。 今のヴァリエール公爵なんかはその様子を見て歯ぎしりしておったような気もするが、それはどうでもええか」 言葉に合わせて、くわえた水ギセルがカチャカチャと音を立てる。 「……で、その功績が認められてケンにシュヴァリエの称号を与えよう、って話が持ち上がったんじゃが、ケンの奴は『俺は行かなきゃならない。……友の仇を討つために』と言って去ろうとしてな」 と、ここでオスマンの表情に、苛立ちが現れ始めた。 「……それで……あの馬鹿め! 別れ際にカリン殿とお互いの帽子を交換して『幸せになれよ、カリーヌ』ぅ? まず間違いなく彼女の気持ちに気付いておったくせに、なんじゃあの態度!!」 「……………」 ……また話が妙な方向に脱線しつつある。 「あー、思い出したら腹が立ってきたわい! 大体、カリン殿もカリン殿じゃっつーの! メチャクチャ無理して笑顔作って『…貴方のご武運を祈ります』って、ケンの姿が見えなくなった後で手渡された帽子をギュッと抱きしめるし!! その後二日くらい続けて目を真っ赤に腫らしておきながら『何も問題ありません』とか言うし!!」 オスマンは、回想しつつも興奮して語り続ける。 「……カリン殿が隊長であった時のマンティコア隊のモットーは『鉄の規律』じゃったらしいが、アレは絶対にケンとのアレコレが関係しとると思うよ、私は」 (―――そんな思い出話は、どうでもいいのだが) 「まあそんな感じでじゃな、3ヶ月に渡る恋と冒険と浪漫の末、風のように現れた男は、嵐のように戦って、朝日と共に去っていったんじゃよ」 ぜえぜえ、と息を切らしながら、かつてオスマンが体験した物語は終了する。 「……早川健が去っていった方向は?」 「東じゃ。ロバ・アル・カリイレに向かえば、あるいは自分が元いた世界に戻れるかも知れぬ、と言っていたの」 「………ふむ」 東には確かにゲートの反応があったが、あの男なら自力で時空間を突破しそうで、少し怖い。 ともあれ、この世界にかつて快傑ズバットが存在したのは間違いないようだ。 「……私からも質問して良いかね?」 「答えられることならばな」 「まあ、無理に答えんでも構わんが……。 ……君はケンとどのような関係なのだね? 君がケンと同じ世界からやって来たということは容易に想像がつくが、どうも君の話し振りからするに、彼と知り合いのようじゃし」 どう答えたものか、とユーゼスは考える。 まさか『敵同士だった』などと正直に答えるわけにもいかないだろう。 ならば、こう答えるしかない。 「……そうだな、知人だよ」 それを聞いたオスマンは水ギセルをいじりながら、 「『知人』、か……。……実に便利な表現じゃの?」 わざわざ声に出してユーゼスの回答を吟味した。 ……そのまましばらく、ユーゼスとオスマンの視線が交錯する。 そして、 「ま、いいわい」 そんなやり取りを切り上げたのもまた、オスマンだった。 「それと、君の左手のこのルーンじゃが」 「知っているのか?」 「…………そうじゃな、話しておいた方が良いじゃろう」 オスマンは少しばかり悩んだようだったが、口を開く。 「それは『ガンダールヴ』……伝説の使い魔の印じゃよ」 「伝説?」 「そうじゃ。その伝説の使い魔は、ありとあらゆる『武器』を使いこなしたと言われておる。君がケン以外に使えぬはずの、あの鞭を使えたのも、そのおかげじゃろう」 そのルーンの効果は知っているし、体験もしていた。しかし。 (『伝説』だと? ……過去に同じルーンが存在していたと言うのか?) 新たな疑問が沸き起こる。 危うく思考がグルグルと回転しそうになるが、ここは質問するのが先だ。 「なぜ、そのような『伝説』が私の左手に?」 「分からん」 ユーゼスは溜息を吐いた。 「すまんの。ただ、もしかしたら君がこの世界にやって来たのと、何か関係があるのかも知れん」 「……その可能性は私も考えているが、何のために私がこのハルケギニアに呼ばれたのか……それが最大の疑問点だ」 「私も調べてみよう。しかし……」 「しかし、何だ?」 「何も分からなくても、恨まんでくれよ。なあに、こっちの世界も住めば都じゃ、嫁さんだって探してやるわい」 再び溜息を吐くユーゼス。正直言って、結婚などに興味はない。 「……最後に、改めて礼を言わせてくれ。よくぞ、我が友の武器を取り返してくれた。 ―――そうじゃ、この鞭は君が使うと良い」 「良いのか?」 「あのまま宝物庫の中で腐らせておくよりは、この方が有意義じゃろう」 そうして、鞭を受け取る。 「ああ、それと王室の魔法研究所―――アカデミーの連中には気をつけるんじゃぞ? 君の知識や、『ガンダールヴ』としての能力を狙ってくるやも知れんのでな」 「……覚えておこう」 なお、アカデミーの主席研究員と繋がりがあることは、確実に話がややこしくなることが予測されたので黙っていた。 その日の夜、ミス・ロングビルは一人でアルヴィーズの食堂の下の階に座っていた。 上の階では今まさにフリッグの舞踏会の真っ最中であり、彼女も少なからず男性からの誘いは受けていたのだが、とても舞踏会を楽しむ気にはなれなかったのだ。 「……はあ」 自分がこの魔法学院に来た『目的』は……まあ、取りあえずではあるが、果たしたと言えるだろう。 問題は、今後についてである。 仮に『もう用済みだ』とばかりに魔法学院を去ったとして、その後はどうしようか。 『本業』に専念するのも良いのだが、今だ完全に自分が『土くれ』のフーケであるという疑念が完全に消えたわけでもない。ゴーレムが破られ、秘宝が取り返されたこのタイミングで学院から去ったら、『やはりミス・ロングビルがフーケだったのか』という結論に達しかねないのである。 ……自分の顔は、生徒や教師などにバッチリと記憶されている。 つまり、その『疑惑』が元で、これからはおちおち昼間にも出歩けない生活が待っている可能性がある。 「……う~ん」 そして―――これが、最も重要なことなのだが。 「安定した収入があるってのは、魅力的だし……」 これまで彼女は恥を忍んで居酒屋で給仕をやったり、『一山当てるための無茶』を繰り返したりと、かなり不安定な生活を過ごしてきた。 だが今はどうだろう。プライドが酷く傷つけられるわけでもなく(今日は『とある事情』からプライドを酷く傷つけられはしたが)、特に危ない橋を渡るわけでもなく、常に気を張っている必要もなく。 雇い主のエロジジイによるセクハラが悩みの種と言えるが、あしらい方さえ覚えれば何とかなるレベルだ。 それに何より。 「これであの子に胸を張って仕事のことが言えるし……」 ミス・ロングビルは故郷の国の小さな村に、仕送りを送り続けている。 これまで顔を見せるたび、妹がわりの少女から『ねえ、姉さんはどんな仕事をしてるの?』とさんざん聞かれてきたのだ。 今までは『秘密』とか『内緒』とかの言葉でお茶を濁してきたが、これでハッキリと自分の職業を言えるようになるではないか。 「……決めちまうかねえ」 素の喋り方で、ポツリと呟くミス・ロングビルであった。 「……………」 ミス・ロングビルから少々離れた席に座るユーゼス。 さすがに貴族の舞踏会に、平民が顔を出すわけには行くまい―――という理由で、下の階で待機しているのである。 「あのメイドから聞いた『銀の方舟』、早川健、そしてこの私……」 オスマンから託された鞭をテーブルの上に置き、ユーゼスは思案にふける。 「……偶然にしては、あまりにも出来すぎている。やはり、この世界には何か特別なものがあるのだろうか……」 更に、自分に刻まれたこのルーン。 ガンダールヴという名前らしいが、オスマンも詳細は知らないようだ。……と言うより、意図的に教えなかったようにも見える。 『使い魔』ということは、それを使役したメイジがいたはずだが、それについての情報が提供されていない。さすがに使い魔の存在だけが一人歩きしてメイジの情報が無い、などという事態にはならないだろう。 つまり、少なくとも今の時点で知られては困る情報が、このガンダールヴのルーンには込められているのだ。 「……………」 遠からず、アカデミーのエレオノールもこのガンダールヴに行き着くだろう。あわよくば、そこから情報を得られるかも知れないが……。 「……自分で調べた方が早いな」 一人で結論づけて、席から立ち上がる。 せっかく図書館への入館許可証を貰ったのだ、早速今から使わせてもらおう。 そう思って歩き始めると、上の階から彼の主人―――ルイズが降りてきた。 長い桃色の髪を一つにまとめ、白いドレスと、肘まである白い手袋を身にまとっている。 そして、自分の姿を見つけるなりツカツカと歩み寄ってきた。 「……………」 嫌な予感がする。 ……少なくとも、今日中に図書館に入るのは諦めた方が良さそうだ。 「そもそも、私に『きらびやかなパーティー』など場違いなのだがな……」 独り言を言いつつ、ユーゼスは主人へと歩み寄っていく。 ―――さて、御主人様の説得は難しそうだが、どう説き伏せたものだろうか。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
https://w.atwiki.jp/narou_matome/pages/691.html
なし