約 14,822 件
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/120.html
朝日が窓から射し込み、外には小鳥たちの元気な囀り声。 山中にあったその小屋は、ようやく訪れた平穏な空気に包まれるように、森の中に佇んでいた。 美琴「…………ん」 目を開く美琴。 まず初めに見慣れぬ天井が視界に入った。 美琴「……ここは?」 ゆっくりと顔を巡らす。壁に沿って設置された長椅子。薪ストーブ。そして……寝台の側で椅子に座り顔を俯けながら眠る1人の少年の顔。 美琴「………当麻」 その名を呟く。彼の寝顔を見ると思わず笑みが零れた。 上条「………ん?」 と、その時、上条が急に目を覚まし、美琴と視線が合った。 上条「………御坂?」 美琴「………うん」 穏やかな表情で答える美琴。 上条「お前、起きたのか!?」 慌てたように上条が寝台に近付く。 美琴「今ね」 上条「熱は?」 美琴「まだ頭がクラクラするし……身体もダルいわ……。完全復活にはまだ…程遠いようね……」 上条「そっか。でも大分熱が冷めたようで良かった……」 本当に安心するように上条は言った。 美琴「うん……って、あれ?」 と、そこで美琴は自分の状況に気が付いた。 上条「どうした?」 美琴「…………何これ?」 被っていた布団と毛布を少し上げ中を見る美琴。……下着以外、何も身につけていなかった。 美琴「……………え?」 そして、ベッドの側に顔を向けると、薄いシーツ1枚を身に纏っているものの何故か裸の状態の上条がそこに座っている。2人が着ていたと思われる服はストーブの側に置かれていて……… 美琴「ちょちょちょちょちょちょ//////////」 上条「?」 美琴「どどどどどどどどういうことよこれ!?//////////」 急に慌てたように美琴が上体を起こした。一応、布団と毛布で身体を隠すよう気を付けながら。 美琴「ななななななななな何で私とあんたが揃って裸になってんの!?////////」 上条「え!? あ、これか。これはその……」 上条は身に纏っていたシーツをめくろうとする。 美琴「め、めくるなぁ!!//////」 上条「? おいどうした急に?」 美琴「どうしたもこうしたもないわよ!!!////// 私が知らない間に何があったの!!??////// あ、あんた私に何をしたの!!??////////」 何故か顔を赤くしながら慌てる美琴。どうも彼女は何か勘違いしているようだった。 上条「何言ってるのか分からんけど落ち着け」 美琴「おおおおお落ち着いていられるわけ……」フラッ 上条「あ!」 美琴「あ……頭が……」 上体を起こしていた美琴が急にベッドに倒れ込んだ。 上条「バカか! 起きて早々喚くからだ!!」 騒ぎすぎたため頭が一瞬フラついたらしかった。 美琴「だ……だって……」 元気を無くしベッドの上で美琴は恥ずかしそうな顔をする。 上条「何勘違いしてんのか知らねぇけど、さっきお前が熱で倒れてる間に服を脱がして毛布と布団被せて暖まるようにしてただけだ」 美琴「あ…そ、そうだったんだ……。ビックリしちゃった……」 美琴はホッと溜息を吐く。 美琴「でも服を脱がしたって?」ジロッ 上条「う……しゃ、しゃーねーだろ? 服が濡れてたんだから。つか脱がしてる間ずっと目を逸らしてたから何も見てねーよ」 美琴「嘘。絶対見た」 上条「………………(確かに視界の端に見てはいけないものがチラチラ映って何度か誘惑に負けそうになったけど)」 美琴「何で黙ってるの?」ジローリ 上条「い、いや、絶対誓って見てないから!(視界の端に映っただけならカウント外だよな?)」 美琴「顔ニヤついてる」 上条「は、はぁ? んんんなわけねーだろ? みみみ見てねーよお前の貧相な身体なんて」 美琴「貧相で悪かったわね!つか何で貧相って分かるのやっぱり見たんでしょこら白状しなさい」 上条「見てない!」 美琴「本当はじっくり観察した上に触ったんじゃない?」ギロリ 上条「してねーよ!」 美琴「変態」 上条「何で信じてもらえないんだあああ!!!」 美琴「…………」 上条「不幸だああああああああああああ!!!」 美琴「………………」クス 上条「これが上条さんの運命なのかあああああああ?」 美琴「なーんてね」 上条「え?」 1人、苦悩に陥っていた上条だったが、美琴の声がして我に返った。 美琴「冗談よ冗談」 上条「冗談?」 美琴「少しからかっただけ。どうせあんたにそんなことする度胸も無いだろーし」 上条「グサッ! それはそれで何か男として悲しい言われような気が……」 美琴「何? それともやっぱり見たの? 何かしたの?」 上条「ち、違う! それだけはない!」 美琴「フフ。分かってる分かってる」 上条「お前…年上からかって楽しいか?」グギギ 美琴「あんたをからかうのが楽しいだけ」 上条「………」ズーン… 美琴「ウソウソ。フフ……まあ何が言いたいかというと」 上条「?」 上条の顔を見つめ、優しい笑みを浮かべる美琴。 美琴「ありがとね」 上条「………………」 その言葉にしばし呆然としていた上条。が、すぐに彼も笑みを返した。 上条「どういたしまして」 美琴「……」クスッ 上条「……」フッ 上条美琴「「……………………」」 2人はしばらく幸せそうに見つめ合っていた。 上条「とにかく、まだお前は安静にしてろ」 そう声を掛け上条は美琴の頭をクシャッと触る。 美琴「ん」 上条「俺が付いててやるから」 美琴「…………うん」 嬉しそうに美琴は答えた。 その頃――。 黄泉川「奴らが迷い込んだ山は標高は低いとは言え、山中は険しいことで知られてるじゃん」 黒子「………………」 黄泉川「恐らく、まだ山からは逃げ切れてないだろう」 アンチスキル・黄泉川部隊本部。トレーラー型の装甲車の中に設けられた臨時の本部にて、黄泉川は黒子や部下の警備員たちと共に作戦会議を開いていた。 黄泉川「この山の尾根は2つ。1つは北に、もう1つは南側にあるじゃん」 差し棒を使いながら、標高線が描かれた地図を説明する黄泉川。 黄泉川「これまでの逃走経路を考えると、奴らは南に逃げている可能性が高い。何故わざわざ南に向かっているのかはまだ分からないが……待ち伏せするとしたら、こっちの南の尾根じゃん」 警備員「既に山から逃げてる可能性は?」 黄泉川の説明を聞き、1人の警備員が質問をする。 黄泉川「奴らは我々に追われた末、川に飛び込んだじゃん。おまけにあの時は雨脚も強く風も吹いていた。そんな状況で山を歩くのが困難なのは必至。まだ数時間しか経ってないし、恐らく今も山中にいると思われるじゃん」 警備員「衛星は使えないのですか?」 黄泉川「本部の許可を取るのに時間が要る。ただ、使用したところで険しい木々に包まれた山の中から奴らを探し出すのは難しいじゃん」 最後に黄泉川は1つ付け加えた。 黄泉川「ま、既に死んでるという可能性も高いがな?」 黒子「………………」 黒子と黄泉川の視線が合う。 黄泉川「本部から捜査の主力部隊に命じられたんじゃん。悪いが私の指示に従ってもらうぞ?」 黒子「………………」 黄泉川「また勝手に動かれたら困るからな」 黄泉川を睨む黒子。 黄泉川「ふん。まあ、お前が本部から与えられてるチャンスは後1回だ。奴らが生きてるのか死んでるのか知らんが……どっち道今度失敗したら二度とこの捜査に加われないからな? 覚悟しとくじゃん」 黒子「………………」 黒子はそれでも何も発せず黄泉川をずっと睨んでいた。 山中。昼も目前に迫った頃。 上条「ほら、保存食品だけど食え。元気出るぞ」 小屋の中にあった保存食を見つけた上条と美琴。彼らは今、一緒に昼ご飯を摂ろうとしていた。因みに今は、もう服も全て乾いていたため、2人は裸の状態ではなかった。 美琴「ありがとう……」 上条「ほら、食わしてやるよ」 缶詰の中の中身を、スプーンに乗せる上条。 美琴「なっ!? ちょ、ままままま待ってよ!!」 上条「え?」 空中で上条の手が止まる。不思議そうに彼が見ると、美琴は何故か頬を染めながら尋ねてきた。 美琴「ま、まさかあんた私にアーンさせる気?」 上条「アーン言うな。つか体力ないならそれしか方法ないだろ? 今は病人なんだから素直に甘えとけ」 美琴「あ、甘えとけって……////」 上条「何だお前また顔が赤くなって」ピト 美琴「ふにょあぁ!?」 上条「わっ!? 何だよ急に?」 美琴「私の許可無しに…さ、触らないでよ!//////」 上条「はあ? 今更?」 美琴「今は私がちょっと回復したからいいの!」 上条「何だその理屈。って言うか元気そうならお前1人で食えそうだな」 美琴「え?」 上条「ほら、自分で食べれるんだろ?」 言って上条は缶詰とスプーンを差し出す。何故か、それを見て一瞬だけ残念そうな顔をする美琴。 美琴「な…何言ってるの!? あ、あんた弱ってる女の子に1人で食べさせる気? それが男のやること!?」 上条「は…はあ!? お前さっきと言ってることバラバラだぞ!」 美琴「うううううるさい//////// と、とにかく私は弱ってるから早くアーンしなさい、アーン!!//////////」 上条「とても弱ってるようには見えないのは気のせいですか?」 美琴「つ、つべこべ言ってないでしなさいってば!」 上条「はぁ……ったく」 溜息を零す上条。が、今更上条はそんなことで怒る気は無かった。 上条「ほらよ」 美琴「!」 腕組をし、片目を開ける美琴。すぐ目の前に、上条が差し出してきたスプーンがあった。 上条「口開けろよ。食べれないだろ?」 美琴「………っ」 顔を赤くしながらも、美琴は無言で口を開ける。 上条「はい、アーン」 美琴「あ…アーン……//////」 パクッ! 美琴「………!?」 美琴「……………え?」チラッ 上条「おーうめぇwwwww」モグモグ 美琴「……っ ばかぁ!!!」ポカポカ 上条「おまっ…マジで病人かよ!?」 美琴「うっさいうっさいうっさい!! まじめに私にアーンしろー!!」 上条「わーったわーった! ったく、ホントにわがままなお嬢さまだ。ほら、アーン……」 美琴「………………」プクー 上条「食わないなら俺が食うぞ」 美琴「むー……」 上条「ほら」 美琴「……あ、アーン……////////」 パクッ! 上条「どうだ? お味は?」 美琴「美味しい……」モグモク゛ 上条「……」フッ 美琴「じゃ、じゃあ次……////」 上条「へいへい。ほら、アーン」 美琴「あ、アーン……//////」 2人は今、一時の憩いを味わっていた。
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/611.html
黄泉川「鉄装! 早く来るじゃん!」 鉄装「は、はい! それじゃあ、ここでじっとしてて下さいね? すぐ救援が来ますから」 エレベーターガール「は……はい……分かりました……」 黄泉川「てっそーーー!!」 鉄装「はい! 今行きます~!」 停止したエレベーターを脱出し、美琴、黄泉川、鉄装の三人は、キャンベルビルの奥へと向かった。 一方、アルカールと再会し、再びアルカイザーになることを決意した佐天は―― 佐天「うわ……警備員が囲んでる……!」 美琴の助けになるため、キャンベルビルのすぐ傍まで来ていた。 そこで目にしたのは、ビルの周囲を取り囲む大勢の警備員達。 佐天「ど、どうしましょう? これじゃ入れないですよ……」 アルカール「問題ない。元々真正面から突入するつもりはない」 佐天「と……言うと?」 アルカール「向かいにビルがあるだろう?」 佐天「ありますね」 アルカール「跳ぶぞ」 佐天「ですよね~……」 【第三話・凶悪! キャンベルビルの蜘蛛女!!】 美琴「うおおらあああぁああ!!!」 気合の咆哮と共に、御坂美琴の全身から放射状に電撃が放たれる。 灯りの消えた真っ暗な通路を照らし出し、その奥から迫る黒い戦闘員達をショートさせた。 黄泉川「こういう暗い場所だと、あの妙な格好もちゃんとした迷彩になってるじゃん……」 美琴「と、いうより。元々こういう場所で活動する連中なんでしょう」 黄泉川「だったら、白昼堂々と生徒に襲い掛かるのはやめて欲しいじゃん!!」 言い終わるや否や。黄泉川は振り返りざまに奇妙な形の銃を手に取った。 その銃口から細い光の線が照射され、通路を横断する。 「「ぎぎぃぃぃぃいいいいいいいい!!?」」 そこに居た数体の戦闘員は、光線が通ったライン通りに切断され、バラバラと崩れ落ちた。 美琴「うわ……それビームサーベルみたいな物? えげつないなぁ……」 黄泉川「人間相手にはこんなもん使わないさ。こいつらが出てきてから配備されたじゃん」 鉄装「なんでも最新の試作兵器で、『ハンドブラスター』って言うらしいよ」 美琴「……ふーん」 警備員は能力を持たない人間。 それゆえに侮っていたが、これだけの装備を持っているとは。 尚且つ、それを使っている黄泉川という警備員は、元々戦闘のセンスが図抜けている。 美琴「正直、警備員に背中を任せるなんて思わなかったけど。驚きました」 鉄装「そ、そうかな~? エヘヘ……」 美琴「……」 黄泉川「つーか……結局ついて来ちゃってるじゃん……」 不満げに、黄泉川は眉を顰めた。 美琴「あら。帰らせたかったらどうぞ。力づくで構いませんよ?」 鉄装「そんなの無理に決まってるじゃな~い!!」 御坂美琴は、非常事態をいいことに、堂々と突入に参加していた。 美琴「でも。これだけの数を相手に、相手の手の内も分からないのに私を追い返すんですか?」 黄泉川「むぅ……」 正直な話。レベル5の超能力者が協力してくれるというのは相当心強い話だった。 しかも、黄泉川たちは美琴が怪物相手に圧倒する場面を何度も目撃している。 「子どもだから」というだけで追い返すには、理由が足りなかった。 黄泉川「くそぅ……情けない大人じゃん……」 それでも。黄泉川は内心納得できていない。 彼女にとって子どもは守る対象。 それを危険に晒すどころか、自分達を守らせるなんて。 黄泉川「いや。いざとなったら、私達が盾になってでも無事に帰すじゃん……!」 美琴「…………」 「駄目ね」 ビルの最上階。 オーナーであり社長でもある、その女のために作られた部屋。 その部屋のモニターでビル内の様子を眺めながら、キャンベルは一人ごちた。 キャンベル「やっぱり試作品なんて役に立たないわ。シュウザーめ……碌なモノを寄越さない」 彼女の目に映るのは、次々と無残に破壊される己が部下の姿。 それに対する同情の念は無く。むしろ憎しみさえこもっている。 キャンベル「仕方ないわね……この『肉体』も潮時か……」 革張りの、見るからに高級そうなソファから腰を浮かし、ヒールの踵を鳴らして窓際へ向かった。 そこから見えるのは、最先端科学の結晶。学園都市の街並み。 空は、すっかり暗くなっていた。 キャンベル「この夜景は気に入っていたのだけど……」 アイシャドーで彩られた目蓋を悩ましげに閉じ、再び開く。 そこにあったのは人ならざる者の眼。 紅い眼光。 青く艶やかなショートヘアが、腰まで伸び真紅に染まる。 血の気を失い、青白くなった肌の下で、筋肉が蛇の群れの如く流動した。 背が破れ、黒く細長い、『節の付いた足』が次々と伸びていく。 部屋に生臭い血の臭いが充満していく…… キャンベル「ああ……何だかお腹がすいたわ…………」 黄泉川「しかし妙な話じゃん」 延々続く螺旋階段を上りつつ、黄泉川は疑問を口にした。 美琴「何がですか?」 黄泉川「いや。ここに突入する前に、一応この会社のことは調べたじゃん」 鉄装「きっと、怪しげな商売をしてる会社だろうって予想してたの。でも――」 美琴「健全な会社だった……ってことですか? そんなの、表向きはそうでしょ?」 黄泉川「まあ。普通に考えたらそうじゃん。けどなぁ……」 鉄装「それにしても、普通過ぎるんですよね」 黄泉川「結構大きいグループで、下部組織は一応精密機械やらも扱ってはいるじゃん」 美琴「じゃあ、そこがパワードスーツ用の部品を横流ししてたとか……」 黄泉川「ロボット用のパーツはあっても、戦闘用のはリストに無かったじゃん」 鉄装「他にも、農薬を使わない有機野菜とか果物とか……それで作ったジュースとか」 黄泉川「健全すぎるほど健全じゃん。隠れ蓑としては良いかもしれないけど……」 何となく腑に落ちない。 そもそも、昨日今日出来た会社ではない。 現社長のキャンベルは、曾祖母から名前を貰った四代目。 そんなに前から、ブラッククロスという組織が活動していたというのだろうか? 黄泉川「そう……そもそも連中は、一体いつからこの学園都市にいるじゃん?」 美琴「危ない! 端に寄って!!」 美琴の声に反応し、黄泉川は螺旋階段外側の手すりまで飛び退く。 片手で鉄装を引っ張り寄せつつ、何事か確認しようと振り返ると、 螺旋階段のちょうど中心、空間が出来ている部分で球状の光が弾け、眼前まで迫ってきた。 網目状に広がったそれは、しばらくバリバリと音を立てて猛り、数瞬後に消えた。 黄泉川「今のは……!?」 美琴「電気の網? それほど電圧が高かったわけじゃないけど……」 鉄装「だ、誰ですか!!?」 鉄装が銃を構え、左右に振り回す。 しかし、その銃口の先には影も形もない。 美琴「………………上!!」 遅かった。 光の網は再び、そして更に広範囲に広がり、美琴たち目掛け落下していた。 黄泉川「うわあああああああああああ!!!?」 鉄装「きゃああああああああああ!!!!?」 光に包まれた黄泉川と鉄装が悲鳴を上げた。 彼女達の全身に装備された機械という機械がショートし、火花を上げたのだ。 『ライトニングウェブ……やっかいなモノは破壊させてもらったわ……』 頭上から声が聞こえ、美琴達は視線を上げた。 鉄装「あ……ああぁぁぁ……!!?」 遥か頭上から一本の糸でぶら下がり、こちらを見下ろす影。 それは、巨大な蜘蛛だった。 眼と髪は血の様な紅。肌は青白く生気が無い。 肘から先は人ではなく。伸ばせば二メートルはありそうな、禍々しい虫の足になっている。 そんなこの世のものとは思えない女の下半身は、黒と黄の混じったサイケデリックな蜘蛛の腹。 人間さえ捕食してしまいそうな、巨大な女郎蜘蛛……! 鉄装「ば、化物……」 黄泉川「……怪人…………!! 今度は蜘蛛女じゃん……!!」 「あらあら。人がわざわざ会いに来てあげたのに……その言い方は酷くない?」 蜘蛛は、ニヤニヤと嫌らしく、こちらを見下しきった表情を浮かべる。 が、その余裕の笑みは、頬をかすめた雷の矢に剥ぎ取られた。 「貴様……小娘っ!!」 美琴「残念だけど。私にはあんなちゃちな電撃は効かないわ……」 美琴「……! 答えなさい! アンタたちは一体何!? ブラッククロスって――」 「答える義務があるのかしら? エサ如き相手に……」 黄泉川「エサ……!?」 「そうよ。私の巣にかかったエサ。だって、このビルは私の物だもの」 黄泉川「お前の……!? まさかお前はキャンベル……!!」 鉄装「ええ!?」 二人の驚く顔が気に入ったのか、蜘蛛は上機嫌に笑い、芝居じみた仕草で答える。 「名乗ったはずよ……私はブラッククロス四天王の一人。妖魔アラクーネ……!」 「ねぇ。お嬢さん?」 美琴「どうでもいいわよ!! アンタの名前なんてぇ!!!」 叫ぶと同時に、美琴の体から高圧の電流が放たれた。 アラクーネ「オホホ! 品が無いわねぇ!」 電流は階段に命中し、そこから更に放射状に広がった。 激しい稲光が周囲を照らし出し、黄泉川と鉄装はその眩しさに目を背けた。 電撃が止む。 体を吊るす糸を引き戻して、電撃を回避したアラクーネはそのまま上階へ昇っていった。 美琴「ちっ……! 逃げた……!!」 美琴「黄泉川さん、鉄装さん! 大丈夫ですか!?」 黄泉川「あ、ああ……けど。装備がオジャンじゃん」 鉄装「これじゃあ……あんなの相手に戦えないですよ黄泉川先生……」 黄泉川「くそ……! こうなったらこの防具でぶっ叩いてでも……!」 美琴「ちょ!? 無茶しないで下さいよ!!?」 「キーーーーーーーーーーーー!!!」 話している隙に、 またも戦闘員に囲まれていた。 その数ざっと二十――! 黄泉川「まだこんなにいたじゃん!!?」 鉄装「? あ!? ちょっと御坂さん!!?」 二人が戦闘員に気を取られた一瞬をついて、美琴は階段の手すりへと駆け上る。 そこから飛び上がると、上階の手すりへと引き寄せられるように体が浮かび上がった。 二人には悪いが、アレと戦わせるわけには行かない。 ここで戦闘員相手にてこずって貰おう。 美琴「一人ならこういう芸当も出来んのよね!」 磁力を操り、金属製の手すりを次々に飛び移っていく美琴。 黄泉川が連れ戻そうと駆け出すが、戦闘員が立ちはだかった。 黄泉川「くっそ……! やられたじゃん!!」 鉄装「ど、どうするんですか黄泉川先生!?」 黄泉川「とりあえず……今はこいつらを何とかするじゃん!!」 美琴「見えた……!」 長い螺旋階段を上りきり、ビルの天井が目前に迫った。 このまま最上階へと突入しようと、美琴が気合を入れた瞬間―― 「きゃあああああああああ!!!?」 美琴「悲鳴!? 上から!!?」 階段の隙間を通過し、手すりを掴むと、その手を軸に体を翻し、着地した。 顔を上げて悲鳴の主を確認する。 「た、助けて……」 若いOLが、体を震わせて立ち尽くしていた。 雨に濡れた捨て犬のように、涙を浮かべた瞳でこちらを見つめ、助けを求めている。 その全身に、二十センチほどの蜘蛛がびっしりとひしめいていた……! 美琴「……!?」 OL「く、蜘蛛が……! 突然襲い掛かってきて……!!」 一匹の蜘蛛が、彼女の首筋に前足を添えた。 その先端には鎌状の爪が生えている。 「それ以上動くな」と、そう言いたいようだ。 美琴「本当…………姑息なマネするじゃない」 OL「え……?」 美琴は迷わず雷撃を放つ。 光速で走る雷が、『OLごと』蜘蛛を焼き殺した。 美琴「私がレベル5の電撃使いだって忘れてない? 分かるのよ。その体から出てる『電磁波』で」 美琴の電撃で焼け死んだ蜘蛛の山。その中から黒焦げになったOLが、ゆらり……と立ち上がった。 OL「……容赦ないのね……人間じゃなければ良いってものじゃないでしょう……?」 美琴「そうね。勿論よ。でもあんた達は別」 OL「私の肌こんなにしちゃって……酷いわ……許せない!!!」 OLの両脚がもぎり取れ、そこから巨大な蛇の尾が延びた。 地面を素早く蛇行して美琴に接近し、あっという間に全身に巻きついた。 OL「そんな悪い子は! このまま絞め殺してあげるわ!!」 が―― OL「ぴぎゃああああああああああああああああああああ!!?」 ゼロ距離から放たれた電撃が、蛇の鱗さえ突き破り、その肉を焦がした。 美琴「許せないのはこっちよ」 ザン! と、動かなくなった蛇女を踏みつけ、奥の通路へと歩を進める。 美琴「どこまで私をおちょくれば気が済むわけ……?」 社長室と書かれたプレートを睨み付ける美琴。 怒りのあまり、全身がビリビリと帯電していた。 キンッ―――― そして放たれた、本日二発目の超電磁砲。 社長室のドアをぶち破り、上品なインテリアも、高価そうなワインも、ビル内を映し出すモニターも、 部屋にあった全てを吹き飛ばしながら、ビルの壁を破壊してその先の敵をかすめた。 アラクーネ「危ないわね」 美琴「危ないからやったのよ」 すっかり見晴らしの良くなった部屋の奥。 ビルの外に、巨大な蜘蛛の巣が張り巡らされていた。 その中心に、ブラッククロス四天王の一人。妖魔アラクーネの姿がある。 美琴「先手必勝!」 もう一度、今度は直撃させようとコインを取り出す美琴。 美琴「……ッ!?」 しかし、突然走った鋭い痛みに膝を付いた―― 美琴「いっつ……!? 何よコレ……!?」 右足のふくらはぎから血が滲んでいた。 周囲を見回し、物陰で何かが動くのを見つけた。 先ほどの蜘蛛だ。 そのうちの一匹の前足の鎌が、赤く血塗れている。 美琴「コイツら……!」 アラクーネ「残念だけど。私社長なの。現場の仕事は部下の仕事よね」 美琴「はぁ!? ふざけんじゃ……!!」 アラクーネ『ミニオンストライク』 アラクーネの腹部が裂け、中から数え切れないほどの二十センチの蜘蛛が噴出した。 美琴「どこにそんなに入ってんのよ!!? あんた堀ち○み!?」 それにあわせ、室内に居た蜘蛛も同時に飛び掛る。 全周囲包囲同時攻撃――――!! しかし、常盤台の超電磁砲には通用しない。 美琴の周囲が輝き、襲い掛かった蜘蛛は一匹残らずスミになった……! 美琴「何度も同じことさせないでくれる?」 アラクーネ「やっかいな能力ね……」 美琴「じっとしてなさい。一瞬であの世に送ってあげる……!」 美琴は立ち上がり、再び右手を突き出した。 アラクーネ「……その傷で撃てるのかしら? 当てる自信はあるの?」 美琴「……こんなかすり傷でどうこうなるはず無いでしょ。直撃よ……!」 そう……と、アラクーネの頬が釣り上がった…… 美琴「でも、その前にもう一度聞いておくわ」 アラクーネ「何かしら? 特別粋のいいエサですもの。特別に答えてあげるわ……」 美琴「あんた達――ブラッククロスって何?」 威嚇するように、美琴はアラクーネを睨み付けた。 右手はいつでもトドメをさせる様に構えられたまま、照準はアラクーネの頭部に定められている。 その真剣な姿を嘲笑うかのように口元を歪ませて、アラクーネは真実だけを口にした。 アラクーネ「悪の秘密結社よ」 馬鹿馬鹿しい…… これ以上何も答えないと判断し、親指でコインを弾く。 次の瞬間には決着が付いている。 筈だった―――― キィィィィィィィィィィィィン……!!! 美琴「……!!? な、何この音……!!!?」 まさかキャパシティダウン……!? キャパシティダウン――。 美琴が思い出したのは、以前自分を苦しめた、ある科学者が用意した兵器。 あれは、高位の能力者であればあるほど、演算を乱され苦しむ対能力者用の音波を放った。 違う――! あれはこんな生易しいものじゃ……なら、何!? 美琴「……!? これって……」 音は、アラクーネの喉から発せられていた。 音が止む…… アラクーネ「……ふぅ……こんなものかしら」 美琴「超音波攻撃のつもり……? こんなもので演算を掻き乱されるほどヤワじゃ――」 ズキンッッッ!!!!! 美琴「があああああああああああああああああああああああああああ!!!!!???」 何事が起こったのか? 右足に激痛が走った――! まるで千切れ飛んだかのように。まるでねじ切れたかのように。 美琴の右足の、あの『かすり傷』が痛む――!!! 美琴「な……なに……これぇ…………!!!!?」 全身から脂汗が噴出す。 右足のかすり傷だけではない。全身が痛み出す――!! 立ち上がることなど、出来ない。 かつて味わったことの無い痛みに耐えかね、苦悶の表情を浮かべる美琴の耳に、癇に障る声が届く。 アラクーネ『ちょっと、痛覚を倍増させてもらったのよ……!』 感覚器が受け取った情報は、電気信号として神経を伝わる。 神経からの情報が真っ先に向かうのは大脳。 そこで自分の状態を分析し、的確な感覚を体に伝える。 聴覚も、痛覚も、それは同じだ。 アラクーネ「さっきの声で、大脳の働きを少し弄ってみたの……」 通常伝えられる痛みを仮に『1』として、今の美琴の脳はそれを『100』と感じている。 注射針が刺さる瞬間のチクリという痛みが、その百倍。 丸太の杭で貫かれたように感じたら……? 戦闘の繰り返しで疲労した筋肉。疲労による筋繊維の消耗をその百倍。 全身の筋肉を擦り削られたように感じたら……? 小さな鎌で切られた、血が滲む程度のかすり傷がその百倍。 チェーンソーで切り刻まれたように感じたら……? アラクーネ「どうしたのお嬢さん?」 美琴「………………!!?」 アラクーネ「ほら。撃ってご覧なさいよ」 撃てるはずが無い。 今の美琴は、このまま痛みで気を失ってもおかしくないの状態なのだから。 アラクーネ「じゃあ、トドメといきましょう」 アラクーネが右腕を上げた。 その先端に、一匹の蜘蛛が鎌をもたげて立っている。 その様子は奇しくも、美琴の超電磁砲の構えのようだった―――― 『シャイニングキック――――!!!』 掛け声と共に、紅い弾丸が駆け抜けた――! アラクーネ「……? っ!!? あああああああああああああああ!!!!??」 いつのまにか、アラクーネの右腕が消し飛んでいた。 その断面がショートし、火花を発している。 アラクーネ「手! てて……てててて手がああああああああああああ!!!!?」 慌ててその火を消化しようと暴れるアラクーネ。 その腹に―― 『ブライトナックル――――!!!』 閃光が、再び夜空に輝いた―― アラクーネ「があああああああ!!? 寄るな! 寄るなあああああ!!!」 残った左腕の鎌を振り回す。 何度も何度も、器用に動く鎌を振り回し続けると、その一振りが運よく敵の皮膚を切り裂いた。 ダメージを受けた敵は、距離を開けようと後ろへ飛ぶ。 同じく。アラクーネもまた、得体の知れない乱入者との距離を開く。 美琴「……あ、あんた……は……!!?」 美琴の目の前まで近づいた乱入者の姿が、月明かりに照らし出される―― アラクーネ「貴様は……貴様は……!!」 美琴「あんたは……!!」 「「アルカイザー……!!!」」 紅い鎧のヒーロー。 アルカイザーが再び、学園都市に現れた――! 地上百メートルを超えるビルの最上階は風が強く。 蒼いマントが音を立てなびいている。 紅い拳を握り締め、隙なく構えたアルカイザーは、アラクーネを真っ直ぐに見つめていた…… 正体不明のヒーローは、やはりブラッククロスと戦うために現れたのだろうか? 美琴は、痛みを堪え意識を集中させた。 今はまだ、気を失うわけにはいかない――! と―― アルカイザー「大丈夫……ですか?」 美琴「……え…………?」 アルカイザーはアッサリ構えをとき、美琴を振り返った。 心配されているのか? 敵が目の前にいるというのに、わざわざ振り返ってまでこちらに話しかけるなんて…… 美琴「え……ええ……大丈夫……っ」 感覚が、大分戻ってきていた。 元々、そんなに長時間効果のある技では無いようだ。 しかし、まだ戦闘が可能な状態ではない。 あくまで、意識を保っていられる程度だ。 アルカイザー「そうですか……良かった」 美琴「子ども……やっぱりあんた子どもなのね……!!」 この高い声。このシルエット。間違いない! それも、おそらく女。 自分と同年代の女の子だ――!! アルカイザー「はい? ……あ!」 しまった! と、アルカイザーは口を押さえた。 ……仮面なのに。 美琴「………………」 こんな奴に助けられたのか…… 美琴「!? 危ない!!」 戦闘中に、敵に背を向けて話し込むなんて、はっきりいって論外だった。 それも、相手はレベル5の超能力者を翻弄するような怪人。 背後から迫っていた無数の蜘蛛が、アルカイザーの全身を切り刻んだ――! アルカイザー「…………!!」 まずい――――!! たった一つのかすり傷がアレほどの痛みを発したのだ。 それが全身に……! 美琴「あ、アル……カイザー! アイツの声に――!!」 あいつの声に注意して。 言い終わる前に―― アラクーネ『痛覚倍増』 キィィィィィィィィィィィィン……!!! 美琴「ぎっ…………!!?」 美琴に再び激痛が走る。が、さっき以上に痛みが増すことは無かった。 どうやらこれが上限らしい…… 今度も何とか耐えられた…… だが、自分は助かっても彼女は…………!! アルカイザー「~~~~~~っ!! あーっもう!!! うるっさいなぁ!!!!!」 アラクーネ「…………………………は?」 理解できない光景。 紅いヒーローは、耳を仮面の上から塞いだだけで、平然と立っていた。 立っているどころか、そのままスタスタと蜘蛛の巣へ歩を進める。 美琴「………………何……で?」 会話は出来ているのだ。 あの仮面に防音機能がついているとは考えにくい。 ならどうして? たった一つのかすり傷が、耐えられないほどの痛みなのに。 全身を切り刻まれたアイツが、どうして平然と歩けるのか。 アルカイザー「さあ。さっさと終わらせようか……!」 アルカイザーの拳が輝く。 右手を引き、アラクーネに狙いを定めるように腰を落とした。 アラクーネ「……っ!!」 勝てないと踏んだのか。 危機を察知したアラクーネは、臀部から白い糸を噴出し隣のビルへ吸着させた。 そしてその糸を巻き戻しながら七本の足で飛び上がる。 美琴「あいつ……! 逃げる気!?」 身を乗り出すが、再び走る激痛に動きが止まった。 視線だけを戻すと―― アルカイザー『アル……』 その場を動かないアルカイザー。 右手の輝きが増し、光の塊がみるみる膨れ上がっていく。 アルカイザー『ブラスターァァァァァァ!!!』 その右腕を真っ直ぐに振りぬき、腕にまとわり付いていた輝きが撃ち出されるた―― 無数に分かれた光の弾は、まるで流星のように夜空を駆ける。 照準は隣のビル。その屋上に着地したアラクーネ――――! アラクーネ「ひッ!? も、燃え……キャアアアアアアアアアアアア!!?」 アルブラスターに打ち抜かれた大蜘蛛は、体中から火を噴出し、しばらくの間もがき苦しんだ。 炎に巻かれた蟲の末路…… 足も髪も、全てがボロボロと崩れていき、やがて、体を丸めて一塊の炭になった…… 美琴「……」 死んだ敵には、もう興味は無い。 そこからは何の情報も得られない。 なら、今は―――― 美琴「アルカイザー……!」 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、意識を保つ。 この紅い女を問い詰める…………! 美琴「あんたは……何者なの……!?」 強い風が吹いた。 風に乗って、アラクーネの体がサラサラと巻き上げられて跡形もなくなった。 キラキラと輝いているのは、体に金属が使われているからか…… 蒼いマントをなびかせ、紅いヒーローが、美琴に近寄ってくる。 あと数メートル。 美琴「そこで止まって……っ!」 油断は出来ない……! 正体が分かるまで……敵か味方か……! アルカイザー「良かった」 美琴は―― アルカイザー「良かった。その程度の怪我なら、心配要りませんよね?」 警戒も疑問も失った―――― 美琴「…………………………………………あ?」 満身創痍だと思っていた。 が―― 客観的に見て、自分の姿はどう見える? 目立った外傷はふくらはぎのかすり傷一つ。 それも、血が滲む程度の。 それだけで。たったそれだけの傷で動けない……? アルカイザー「すぐに警備員が駆けつけるはずですから。無茶しないでくださいね」 美琴「――――――」 今。私はこいつに心配されているのか? 全身を切り刻まれても平然と戦ったこいつは、私をどう見てる? 心配してる? 心配して優しく声をかけてる? ヒーローだから? 哀れな弱い一般人に―――― 同情してる――――? 美琴「……けんな」 アルカイザー「はい?」 美琴「ふざけんなあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」 頭が真っ白になった。 美琴は握り締めたままだったコインを―― 弾いた―――― 黄泉川「な、何事じゃん!!?」 鉄装「じ、地震ですかぁ!!?」 黄泉川と鉄装が階段を上り終えたとき。 ビル全体が揺れた。 さっきまでも何度か小さい揺れを感じていたが、今度のは特別大きい。 黄泉川「……ちっ!! まさか……御坂美琴!!」 最悪の光景を想像し、黄泉川は自分が足を怪我していることも忘れて走り出した。 そして、破壊されたドアを潜り抜け、部屋へ飛び込み―― えぐれた床の前で、御坂美琴が一人倒れているのを発見した。 黒子「お姉さま……」 白井黒子は、キャンベルビルに駆けつけていた。 警備員が邪魔をしてそれ以上近づけまいとしたが、彼女のテレポートの前では無力。 黒子は玄関ホールの中へと足を踏み入れた。 黄泉川「お前……風紀委員の……」 そこへ、美琴を連れた黄泉川、鉄装が降りてきた。 力無くうな垂れる美琴は、鉄装に肩をかりて、かろうじてヨロヨロと歩いていた。 黒子「お姉さま!!」 黒子はビルの外から、上空で行われている戦いを見ていた。 紅い鎧と大蜘蛛が数度激突し、最後には逃げ出した蜘蛛が撃ち抜かれ、おそらく死んだ。 そこに、愛する御坂美琴の姿が確認できず、居ても立っても居られなくなったのだった。 黒子「心配しましたのお姉さま! 姿がお見えにならないので、よもや中で力尽きているのではと――」 それが余計なことと知らず。黒子は素直に、自分の気持ちを伝えてしまった―― 美琴「心配した……?」 黒子「はい! 黒子は心配で心配で……」 美琴「はっ……はははっ…………!」 黒子「お姉……さま?」 美琴「触るな」 佐天「はぁぁ……どうしよう……」 憂鬱だ…… 自宅に帰ってきたものの、問題は山積み。 佐天「このピアス穴……なんて言おう?」 鏡を覗き込み、自分の耳に開いた小さな穴を観察する。 佐天「ああああー……もう! アルカールさんも何でわざわざピアスなんかにしたのさー!!」 洗面台に置かれた二つのピアス。 銀製だが、ただの銀ではない。 アルカール『そのピアスはな。「精霊銀」で出来ているのだ』 佐天『精霊銀?』 アルカール『害になる音波だけを弾き飛ばす効果がある金属だ』 佐天『へ~。不思議な物なんですね~』 アルカール『調査で分かったのだが。アラクーネは人の神経を音波で操ることが出来るらしい』 佐天『神経を……?』 アルカール『そう。だから、奴と戦うのならそれを着けなければならない』 佐天『え? でも、私ピアスなんて……別に学校で禁止もされて無いと思いますけどでも――』 アルカール『問題ない。すぐに開くし、変身すれば血も止まる』 佐天『は? え!? ちょ!! ま!!??』 キャアアアアアア~~~ 佐天「……」 いや。 そんなことはどうでもいい。 どうでもよくないけど。 それより―― 佐天「御坂さん……」 本気で、私に向かって超電磁砲を撃った……? 睨んでた。 まるで誰かのカタキみたいに。 佐天「何で……」 いや。 いやいや。 別に『私』に向かってじゃないよね。 あれは、『アルカイザー』に向かって撃ったんだ。 佐天「うん……そう……私は、御坂さんに嫌われてなんて居ないはず」 そもそも、どうして御坂さんは……? 佐天「勝っちゃったから……?」 御坂さんが勝てなかった敵に勝っちゃったから…… でも、あれはアルカールさんが助けてくれたからで。 たまたま、私は対処法を知っていたからで。 別に御坂さんより強いわけじゃ…… 佐天「――――――!!?」 ………………御坂さんより強い? 誰が? え? 私――――? 佐天「い、いやいやそんな……! あはは!」 もし戦ったら、どうなるんだろう? 佐天「負ける負ける! そんなまさか……流石に、ねぇ?」 勝てる。 佐天「勝てない」 勝てる。 佐天「………………」 その夜は、何時までたっても胸の鼓動が収まらなくて。 結局。朝まで寝付けなかった。 落ちこぼれのヒーローは、胸に歪なモノを感じた。 【次回予告】 ヒーローとして戦うことを選んだ佐天!! 街に跳梁跋扈する怪人達を退治するため、日々アルカイザーとして駆け回るのだった!! そんなある日!! 以前知り合った幻想御手事件の被害者達と再会する!! お互いの無事と近況を確かめ合う佐天たちだったが、そこへブラッククロスの魔の手が迫る!! 次回!! 第四話!! 【困惑! アルカイザー変身不可能!!】 ご期待ください!! 【補足という名の言い訳のコーナー】 ・痛覚倍増について。 一番ツッコミ入るだろう改変点。 原作では邪術の一つで、効果は「減った体力分のダメージを与える」というもの。 つまり音波属性の攻撃ではないので、本来精霊銀では防げません。 ですが、サガフロの二次創作ということで、個人手にはやっぱり音波耐性(=精霊銀装備)はやっておきたかった。 それと、美琴には効くけど佐天には効かないという状況が必要だったので。 大脳やら何やらの解説? あれはまあ適当に「ふ~ん」ぐらいなもんでスルーして下さい。 ・ライトニングウェブについて。 原作では「メカをスタン(1ターン行動不能)にする」という技。 警備員に脱落してもらうため、機械をショートさせるという風に解釈しました。 ・堀ち○み ごめんなさい。 PS.黄泉川さんが使ってたハンドブラスターは「ブラスターのリーチでブラスターソード」を使っています。 ゲームに登場した警察『パトロール』の標準装備ですね。
https://w.atwiki.jp/meteor089/pages/266.html
ボーイ・ミーツ・トンデモ発射場ガール ep.2_PSI-Crystal 09 同じ世界の違う見え方 前へ 戻る 次へ [19764] ep.2_PSI-Crystal 09 同じ世界の違う見え方 Name nubewo◆7cd982ae ID f1514200 Date 2011/07/14 00 24 「ええいクソッ、こんなときに部隊の出し渋りなんて、それじゃあたしらは何のためにあるじゃんよ!!」 警備員 アンチスキル 部隊が運用するトラックの中で、黄泉川がガンと壁を叩いた。 周囲の同僚達が何事かと振り向く。 きっと上に、圧力が掛かっているのだろう。 テレスティーナ・木原・ライフラインが体晶を使ってやろうとしている何か。 それは随分と、学園都市のお偉方に気に入られているらしかった。 「高速道路の封鎖許可まで出すとはな……親玉はどんだけ上なんだか」 「あの、黄泉川先生。先行している学生というのは……」 「常盤台の高レベル能力者を中心に10名弱、だそうじゃんよ」 今、黄泉川が上層部から受け取った命令は、先進状況救助隊を襲撃しようとする学生を止めて来い、というものだった。 馬鹿馬鹿しいにも程がある。 なぜあの子たちが動いたのか。 どれだけMARがいかがわしいのか、調べればすぐ分かることなのに。 制圧対象とされた学生達の名前を聞いて、黄泉川はやっぱりなとしか思わなかった。 春上の元にたびたび訪れていた初春たち、そして光子や当麻にインデックス。 自分の見知った学生達だった。 ため息を一つついて、黄泉川は自分の苛立ちを整理した。 警備員になって数年。 時折起こるこうした出来事に直面するたび、常に悩んできた。 不良の起こす瑣末な事件になら、警備員は完璧に対応できる。 悪さをしたその子達自身とも向き合える。 だけど、こうして時折学園都市の暗部とでも言うべき事件が起こると、むしろ自分達警備員はその暗部の体のいい手先として、使われていることがあるのだ。 今回だってそうだ。 排除すべき相手を守り、守るべき相手を排除する、そんな仕事を任される。 体晶に、子供達が食われそうになっていて警備員がそれを見過ごすなんて、絶対にあってはいけないのに。 子供達を非行から救い上げ、どうしようもない暴力から守り抜くのが、自分達の仕事なのに。 ――せめて、やれることを。 黄泉川はそれを言い訳と分かっていながら、自分にそう言い聞かせるほかなかった。 「さて、我々の任務はMARに協力して子供たちを止めることですか?」 隣に座っていた同僚が、黄泉川に問いかけた。 薄く、ニヤリと笑った顔。 黄泉川の考えていることを、分かっている顔だった。 「あのバカ連中にはお仕置きは必要じゃんよ。学生が荒事になんて、首を突っ込むべきじゃないからな」 「それは、そうですね」 「でも、それは後でできる。あたしらが一番にすべきことは、先進状況救助隊が、体晶を使った実験をしようとしているって噂の事実確認からだ」 「それがもし事実だったなら?」 黄泉川が顔をキッと挙げて、虚空を睨みつけた。 「先進状況救助隊の実験阻止を最優先に動く」 「まあ、この装備じゃ高速道路に展開した数部隊を止めるので精一杯ですけどね」 黄泉川が動かせたのは自分の所属する支部の隊員と、そして懇意にしている数支部の隊員だけ。 テレスティーナからより後方にいる以上、あちらが実験を始めるのに間に合わない可能性が高い。 この一件で、最も先を走り最も攻撃的なのは、警備員である黄泉川たちではなく、学生達だった。 良くないことだ。 実験の阻止に失敗し、助けに行った彼女達も心と体に癒えない傷を負う、そんな最悪のシナリオも充分ありえるのだ。 光子や当麻に電話をかけて止まれと言ったところで、絶対に止まらないだろう。 ……学生を先鋒にするなんて最低の大人だと思いながら、黄泉川は結局それを受け入れ、行動するしかなかった。 光に透かすと赤く輝くその結晶。 手のひらにおさまるくらいのガラス製の円筒に入ったそれを、テレスティーナは優しげな瞳で眺める。 15年位前から、それは彼女の宝物だった。 大好きな祖父で、敬愛する研究者である木原幻生その人が、テレスティーナに残してくれたものだから。 ――――お前は学園都市の、夢になるのだよ。 テレスティーナの脳から体晶を抽出・精製するその直前に、祖父が残してくれた言葉がそれだった。 嬉しかった。大好きな祖父の力になれることが。学園都市の追い求めるものへと、なれることが。 ……結果は、失敗だった。 テレスティーナが植物状態から1年近くかけてようやく目を覚ましたとき、そこにはもう祖父はいなかった。 遺されたのは、自分から取り出した体晶。 何度か祖父に会おうとしたが、祖父の秘書なのか、誰とも分からない人々に多忙を理由に無理だと言われた。 テレスティーナはそれをむしろ、当然だと思った。 思い通りの結果が出たなら、自分はまだ祖父の隣にいることだろう。 だが、現実はそうではなかった。 テレスティーナから作った体晶では、駄目だったのだ。 だからきっと、祖父は自分の手元に体晶を遺してくれたのだ。 自力で高みに登ってきなさい、と。 きっと祖父はそうメッセージを、この体晶に込めてくれたものだと思っている。 テレスティーナは自分と体晶が等しくゴミとなったからまとめて捨てられたのだという、その事実に達したことは一度も無かった。 『体晶を使って生み出した暴走能力者がレベル6に至ることはない』という樹形図の設計者 ツリーダイアグラム の結論を、テレスティーナは知らなかった。 ひとしきり宝物を眺めて心を落ち着けたところで、身につけたパワードスーツからザッと無線の入った音がした。 「イエローマーブルよりマーブルリーダー。現着しました。これより搬入を開始します」 テレスティーナは最速で現地入りし、すでに実験のスタンバイを整えてある。 今の連絡は、枝先を初めとした13人の暴走能力者と、テレスティーナに成り代わって学園都市の夢になる春上衿衣が、ここ、第二十三学区の木原幻生の施設研究所へと到着したことの連絡だった。 ここまでは予定通り。 問題は、こちらを追っている木山春生と常盤台の学生、そしてオマケの数名だ。 そちらは高速道路に展開した部隊が、足止めをすることになっていた。 「パープルマーブル。そっちの首尾はどうだ?」 「こ、こちらパープルマーブル。警備員 アンチスキル がこちらに疑いをかけてきて、その、交戦中です!」 「あぁん?」 戸惑いと焦りにしどろもどろとなった部下の言葉を、テレスティーナはいぶかしむ。 たしか首尾としては、警備員はこちらの行動を最低でも黙認はしてくれるはずだ。 無線の向こうにも聞こえるよう、チッ、とテレスティーナは舌打ちした。 そういえば、警備員には黄泉川という名の、面倒くさそうな女がいた。 この件の警備員側の取り纏め役なのだし、体晶という言葉にも心当たりがあるようだった。 おそらくは、あの女の働きなのだろう。 面倒なことをしてくれる。 「警備員なんてどうせ殺傷装備も持ち合わせてない雑魚だろうが。三分で殺れ」 「は? やれ、って。警備員を敵に回すなんてそんな無茶な」 「テメェは私と警備員とどっちを敵に回したいんだ? 言われたことはさっさとやれ!」 「りょ、了解――」 返事を聞くより先にスイッチを切る。 全く、困ったことを言ってくれる。 パープルマーブル隊が機能しないとなると、ここまで連中が素通りでやってくることになる。 「ドイツもコイツも無能ばっかりかよ。ったく。レベル6にたどり着く人間以外、全部どれもこれもゴミなんだ。踏みにじるのに躊躇なんざしてどうする。 イエローマーブル隊! 指示が無くても手順は分かるな?! 私はアレで出る」 「了解しました」 どやされたパープルマーブル隊を意識してのことだろう、実験の準備をするイエローマーブル隊は小気味の言い返事をした。 テレスティーナはパワードスーツのバイザーを下ろし、きちんと武装をする。 そしてそれを着たまま、パワードスーツより二回り大きなその機体に、目をやった。 無骨な足腰、そしてニッパー状の両手。 パワードスーツの上から着る仕様の、建築・工作用機械だった。 ブルーカラーの労働力が慢性的に不足する一方でエネルギーとテクノロジーが余っているこの街では、建設にはこうした機体が借り出されることがよくある。 祖父、木原幻生はこの研究所の建設・メンテナンスのためにという名目で用意したのだろうが、この機体には建築と工作に必要な高出力以外に、俊敏さまで備えた整備と改造が施されている。 木原幻生も単に、工作機械としてコレを導入したのではないことは明白だった。 「邪魔な羽虫はさっさと潰しておかないとな。プチっとよぉ」 テレスティーナは上機嫌に、大きな機体のコックピットを目指した。 十年来の夢が、今、叶うのだ。 「お爺様。私が、学園都市の夢を叶えて見せますから……!」 人知れず、テレスティーナは純真な少女のように、そう一人呟いた。 無人の高速道路を、木山の駆る青いスポーツカーが疾走する。 MARが高速道路を勝手に封鎖してくれたのは幸いだった。 おかげで開いていた差を、かなり詰められた。 「あと10分くらいで高速の出口ですね。降りてからはすぐです」 「そうか。その10分というのは、あちらの邪魔が一切入らない場合の数字だな?」 「はい」 初春が言ったのは単純に距離を時速で割っただけの数字だった。 木山が気にしているその通りに、おそらくは妨害があることだろう。 「急ぎだし、時間通りの進行でいきましょう」 「だね」 茶化して言った佐天の言葉に、美琴が同意する。 カタカタとキーボードに数値を打ち込んだり映像を複数再生したりと忙しない初春が、よしっ、と呟いて顔を上げた。 初春なりの、解析結果が纏まったらしい。 「向こうは、高速出口の手前にある、別の線とのインターチェンジで待ち構えているみたいです。そこを塞げばこちらに逃げ道ないですから」 「バリケードはあるの?」 「金属の格子で作ったバリケードはありません。さっきと違って、この車は脇道のほうじゃなくて本線を走りますから」 先ほどバリケードで塞がれたのは、別の線へと乗り換えるための一車線の道だ。 確かに、三車線ある本線を丸ごと封鎖は出来ないだろう。 「じゃあ、この広い道をどうにかして塞いでるってことかな」 「二台のトラックを横にして道をかなり塞いでますね」 初春のディスプレイには、一車線ぶんくらいの隙間を残してトラックが道を塞ぎ、残った隙間にもパワードスーツが展開している光景が映し出されていた。 それを見て、美琴は木山に問う。 「パワードスーツが塞いでる隙間なら、抜けられる?」 「可能だ。こちらの時速を見れば向こうは回避するだろう。でなければ死ぬ」 「無人機で塞いでたら?」 「その場合は君達の援護がいるな」 「私が超電磁砲 レールガン で隙間をこじ開けるか、佐天さんに飛ばしてもらうか、二択ね」 佐天はその発言を受けて、すぐさま軌道の演算に入る。 パワードスーツの高さは2.5メートル近くだ。 それを飛び越えるのは先ほどより大変だが、可能だろう。 「御坂さん」 「何?」 「銃弾、止められますか?」 「金属なら、逸らせるわね。この車にむけて飛んでくるヤツ程度なら防ぎきれる」 「じゃあ御坂さんの仕事はそれですね」 「ま、そうなるわね。一番の懸念はあっちからの銃撃だし」 「銃弾、というが。レベル5の君はある意味で人質みたいなものだろう。おいそれと君を死なせるような判断をするだろうか」 確かに、レベル5は学園都市の顔であり、金のなる木だ。 そうそう簡単に死なせられはしない。 だからその木山の考察を、つい昨日までの美琴なら真剣に受け止めて考えもしただろう。 だが、あの忌まわしい計画の、名前を知ってしまったら。 「テレスティーナは別にレベル5に執着なんてしないわよ。今から、それ以上の高みを、アイツは目指す気でいるんだから」 「それ以上……?」 美琴の言っていることを理解できないのか、ぼんやりと佐天が復唱した。 レベル5は、学園都市がこの数年でようやくたどりついた高みだ。 レベル4までの能力者とは一線を画す、天賦の才の持ち主。 それより上なんて、それは。 「佐天さん」 「は、はい」 「さっきみたいに乗り越えられる?」 「私なら大丈夫です。御坂さん。アレくらいのことなら、あと10回はいけますから」 「10回ね。それだけあれば充分でしょ。……佐天さん、レベル3はあるね」 「そうですね。自分でも、自覚はあります」 「うん。頼りにしてる」 美琴が佐天に、ニッと笑いかけた。 その笑みが、美琴の隣に立てたことが、嬉しい。 佐天は、自分の実力を謙遜しなかった。 さっきだって、窮地を脱する力があることを証明できたから。 「御坂さんは防御に専念してください!」 「わかった。初春さん、あとどれくらい?」 「ちょうどですね。もうすぐ、見えてくると思います」 美琴と佐天は、シートベルトを外した。 急ブレーキでも踏もうものなら、きっと大変なことになるだろう。 だがそういう危険に目を瞑り、二人は、来る一瞬に備える。 運転手の木山が声を上げた。 目視で、敵方を捉えたらしい。 「見えたな。あれか……」 「はい。最後の追撃部隊ですね」 「トラックの数がおかしくないか?」 「えっ?」 初春は、慌ててディスプレイの情報と目の前の光景を照合する。 監視カメラからの映像は一分くらいはタイムラグがあるのだろう。 どうやら一台、つい今しがた増えたらしい。 「MARじゃない……?」 「そのようですわね。あれは警備員のロゴですわ」 どういう状況なのかと白井はいぶかしんだ。 敵なのか、それとも味方なのか、それが問題だ。 不意に、ピリリと白井の携帯がコールを訴えた。 繋ぎっぱなしの上条を保留にしてそちらに出る。 「はい」 「白井か? 警備員の黄泉川だ」 「黄泉川先生?」 「そっちからあたしらの車両が見えてるじゃんよ?」 「え、ええ」 「手短に済ます。これは警備員として言ってはいけないことだけど。……頼む。あの子たちを、助けてやってくれ。目の前の連中はコッチで何とかするじゃんよ」 苦渋がにじみ出たような、そんな声だった。 学生に危険分子排除の尖兵をさせるなんて、確かに警備員の理念の間逆だろう。 でも、レベル5の能力者を擁するこちらのほうが、確かに駒として上だった。 「一人の教師である黄泉川先生が、学生をそうやって案じてくださることを嬉しく思います。背中は預けますから、どうぞこちらを信頼してくださいまし」 「ああ、頼む」 白井はそれだけで、会話を打ち切った。 もう、パワードスーツの部隊まで200メートルくらいだったから。 「木山先生、車、右に寄せてください」 「右? それはいいが、どうする気だ?」 三車線ある高速道路の両端を、トラックが塞いでいる。 そしてトラック同士の間にあいた隙間を、パワードスーツの部隊が固まって塞いでいる状態だった。 トラックよりはパワードスーツのところのほうが背は低いのだし、そこを狙うものと木山は思っていた。 佐天の答えはシンプルだった。 「対向車線側にはみ出します」 「佐天さん!? あっちは封鎖されてませんから、対向車と正面衝突しかねませんよ?!」 「大丈夫。べつに、対向車線を走るわけじゃないから。ちょっと説明してる時間ない! 木山先生、言う通りにしてくれますか?」 「壁に向かって走るというのは中々精神的に負担のかかる行為なんだがね」 フウ、と木山が呼吸を整えて、正面を睨みつけた。 「速度は?」 「さっきと同じで」 「わかった」 多くを木山は問わなかった。 ただ、アクセルをクラッチみたいにガンと踏みつけて、中央分離帯に向かって車を加速させた。 パワードスーツを着た男が、焦った表情で黄泉川に怒鳴りつける。 「だからあの車を止めるのが任務だと言っているだろう!」 「学生の乗った車を銃撃するような真似を任務にする部隊は学園都市にはない!」 黄泉川は自分の言が嘘だということを知っている。 そんな非道な部隊くらい、きっと学園都市には山ほどある。 「学生だとはいうが、能力でバリケードを越えてくるテロリストだぞ!? こちらの安全を考えてくれ」 「お前等の何処に大義名分があるって言うんだ! さっさとテレスティーナ・木原の計画について聴取を始めるぞ!」 「勝手に所長を呼び出してやってくれ! こっちは仕事があるんだ!」 「おい! パワードスーツを動かすな! そっちがその気なら、こちらも動くしかないじゃんよ!」 「いいからやれ! 所長にどやされたいのか!」 リーダー格の男が、黄泉川から視線を外し、部下のほうに振り返って指示を出した。 封鎖した高速を走ってくる青いスポーツカーは、もうすぐそこに迫っている。 あれを止めねばここにいる全員、すなわちマーブルパープル隊はテレスティーナに殺されかねない。 町の公権力よりも、自分達のボスの非道さのほうが恐ろしいことを隊員達は理解していた。 躊躇の感じられる動きだったが、それでも5機のパワードスーツは、銃を持ち上げるのを止めなかった。 それを見て黄泉川は、さあっと瞳に怒りを走らせる。 学園の名を冠するこの都市に、こんな出来事があってはならない。 子供達が夢を叶え幸せになるための町なのに、それを弄ぶような人間は、いてはいけないのだ。 「パワードスーツの連中を制圧する! 子供達に怪我なんてさせちゃいけない!」 「了解」 黄泉川の後ろに控えていた警備員達もまた、黄泉川と意志を同じくしていた。 町を巡回する美観・治安維持用ロボットを先行させて盾にしつつ、警備員のメンバーはパワードスーツが狙う美琴たちとの射線の間に、自分達の体を割り込ませた。 「あっちは子供に銃を向けてるんだ! 遠慮なんて要らないじゃんよ!」 「当然です!」 パワードスーツに乗った隊員たちがスポーツカーに照準を合わせようと、警備員を振り切るよう鬱陶しげに動く。 だが局地戦で細かな動きでマーカーを振り切るのに、パワードスーツは不都合だった。 慣性の法則を捻じ曲げる力は、超能力者にしかない。 パワードスーツを着るということは、慣性を増やし、鈍重になるということだ。 それをもちろん出力で補ってはいるが、細かなストップアンドゴーにおいては、生身にパワードスーツは叶わない。 警備員達は、盾を用意しているとはいえ生身だ。 パワードスーツから発砲されれば無事ではすまない。 だが、隊員達はその選択肢を選べなかった。 警備員は、警備員を傷つけた相手を、決して許さない。 傷つけたのがチンピラ学生なら話は別になる。 だが、学生に仇(あだ)なし、そして警備員にも仇なした相手には容赦がない。 上からの指示で今はこの目の前の数人以外は押さえつけられているが、この数人に手を出せば、あっという間に自分達を追い詰める猟犬は100倍に膨れ上がるだろう。 それを隊員たちが恐れているのを知っているから、警備員達は自分の身を、果敢にさらしているのだった。 「クソッ……近いぞ! 抜けさせるな!」 「やらせるか!」 スポーツカーは、もう視界の中で充分な大きさを主張している。ここに到達するまで、もう数秒だ。 黄泉川は目の前のパワードスーツに、非殺傷用の銃弾を躊躇わず発砲しながら、僅かに振り返ってその車の動きを見た。 「くっ、邪魔するな!」 「お前らこそ子供に銃なんてむけるんじゃない!」 「ガキは使い潰すもんだろうが! それが学園都市だ!」 「そんなこと、あたしが許さない!」 ギャリっと、タイヤが歪みながらアスファルトを蹴りつける音が聞こえた。 突然直進していたスポーツカーが、中央分離帯に向けて進行方向を曲げた音だった。 「なっ?!」 黄泉川は一瞬、それに絶望する。 タイヤが銃で狙われ、パンクしたのだと思ったからだ。 このスピードでその事故は、あまりに致命的だ。 パワードスーツなど何の関係もなく、それは搭乗者を死に至らせる。 バカにしたように、ハンとパワードスーツに乗った男が笑った。 ――――だがそれは、ただの勘違い。 スポーツカーから、髪の長い女の子が、上半身を出した。 黄泉川はその姿を見て、駄目だ、と叫んだ。 突然の出来事に、おかしな行動をとったのだろうか。 駄目だ、あんなことをしては、助かるものも助からない。 そんな黄泉川の心配をよそに、その少女、佐天涙子は目を細めて真っ直ぐ前を見詰めていた。 呼吸すらままならない風速に耐えながら、佐天が手を虚空にかざした。 黄泉川も、そして隊員も、判っているようで判らないことがある。 超能力者とは、つまり自分達とは違う、パーソナルなリアリティに生きる人間なのだ。 同じ世界を共有しながら、それを見るためにかけた眼鏡が全く違うのだ。 空力使い エアロハンド の佐天が生きる世界においては、佐天の行動は奇異なものでもなんでもない。 ――――ガッ、と空気の軋む音がした。 「なっ?! そんな、空力使いだと?!」 隊員が驚きながら、そう叫んだ。 無理もない。 黄泉川だって知らなかった。 あそこに、あんな高位の空力使いがいるなんて。 そうか、アレが婚后の教え子か、と場違いに黄泉川は感心した。 スポーツカーが、その巨体をものともせず、跳躍した。 「対向車線に出る気か!?」 黄泉川は思わず叫んだ。 MARが封鎖したのは、こちらの車線だけ。 スポーツカーが向かう先には、沢山の対向車。 だが黄泉川の視界の先で、佐天が地面に向けて何かを放った手を、再び振りかざした。 空気を吸い込み、集めるように。 掃除機なんかよりずっと暴力的に。 見えない壁を佐天が掴んだみたいに、スポーツカーの軌道が、直線ではなくなった。 その軌跡はブーメラン。 中央分離帯という仕切りを斜めに飛び越え、MARのトラックという障害物を回避して、そして再び空中で方向を歪めながら、そのスポーツカーは元の車道上へと、その進行方向を戻した。 「なん……だと? クソッ、抜けられた! 追え!」 「無茶言わないで下さいよ! コッチには高機動パッケージはないんです!」 「それでもやれよ! 所長に殺されたいのか?!」 黄泉川の前で隊員たちが失敗に歯噛みしていた。 スポーツカーは、速度を一度も緩めなかった。 一秒で40メートルを走破するその速度によって、あっという間に銃の射程外へと逃げたのだった。 「……やるじゃん」 自分の心配が杞憂だったのを、黄泉川は軽く笑った。 「すまん。学生を前に出すなんて、駄目な警備員だ」 聞こえないのを判っていて、黄泉川はスポーツカーに乗った子供達に、そう謝った。 せめて、自分はここの後始末をきっちりつけないと。 混乱する隊員達に銃を向け、黄泉川は自分が次にすべきことを、為し始めた。 前へ 戻る 次へ
https://w.atwiki.jp/deruta_sanbaka/pages/41.html
全「「「「「え?、野球?」」」」 黄泉川「そうじゃん。今度学園都市の能力者紹介で実際に能力使って野球してるところを撮るから、みんな参加するじゃん♪」 当麻「で、メンバーは?」 黄泉川「上条、一方通行、垣根、御坂、麦野、削板、浜面、土御門、白雪、青髪、吹寄、紫木、月詠、井ノ原姉弟、白井、海原、結標、絹旗、佐天、服部、郭じゃん。」 美琴「またえらい多いわね(しかもレベル5が5人か・・・)」 浜面「まあ、本格的な人数だな」 滝壺「大丈夫、この中でもはまづらは活躍できる。そのために私も応援に行く。」 打ち止め「ミサカもあなたを応援する!ってミサカはミサカは意思表示してみたり!」 番外個体「ミサカも面白そうだから行ってあげるよ」 一方通行「余計だァ」 黄泉川「それじゃあ、キャプテンは上条。作戦参謀は土御門じゃんよ。」 土御門「ちょっと待ってくれ黄泉川センセ、相手チームを教えてくれないと作戦の立てようがないんだぜい」 黄泉川「無理じゃんよ、ベストメンバーならいい勝負できるはずじゃん。」 白雪「この面子でベストメンバーでいい勝負って相当だよ!?」 黄泉川「じゃ、頑張るじゃんよ」 ―――――――――― 上条 土御門「「と、言う訳で、ベストメンバー組んでみました(ニャー)」」 そのベストメンバーとは・・・ スターティングメンバー 打順 守備位置 名前 背番号 1番 センター 一方通行 1 2番 サード 御坂美琴 3 3番 ショート 上条当麻 10 4番 レフト 井ノ原真夜 21 5番 指名打者 井ノ原真昼 22 6番 ライト 削板軍覇 7 7番 セカンド 浜面仕上 8 8番 ファースト 垣根提督 2 9番 キャッチャー土御門元春 9 ピッチャー 白雪月夜 11 ベンチ入りメンバー 登録守備位置 名前 背番号 ピッチャー 麦野沈利 12 吹寄制理 13 海原光貴 14 絹旗最愛 15 郭 16 キャッチャー 紫木友 23 内野手 青髪ピアス 24 月詠翔太 25 佐天涙子 26 外野手 白井黒子 27 結標淡希 28 服部半蔵 29 土御門「ちなみに、当日は初春が実況を務めることになってるにゃー」 一通 「なンで俺が1番なンだよォ!?」 上条 「ベクトル変換で早く動けるだろ、守備中もできるだけチョーカー切っとけば節約できるし」 美琴 「で、なんで私が2番?言っとくけど送りはしないわよ?」 土御門「これはカミやんの要望だぜい」 上条 「だって美琴と並びたかったんだもん」 「で、俺が3番ショート、これは今言った美琴と並びたかったのが1番の理由」 真夜 「で、俺が4番・・・ってのは能力使えるからか?」 土御門「そうだにゃー、ついでに5番に姉がいるのも身体能力がすごいからだにゃー」 真昼 「ふーん」 上条 「6番、7番、8番は実力順だ。」 垣根 「ちょっと待てー!!、何でレベル0が俺より上位なんだよ!」 土御門「経験豊富だから」 浜面 「実際は実力でも経験でも向こうが上だろうけどな・・・」 土御門「で、キャッチャーは俺、先発は月夜だぜい」 白雪 「私自信ないよー」 土御門「大丈夫だぜい、そのために俺がキャッチャーなんだからにゃー」 ベンチ全員「「「「「「「なんで俺(私)がベンチなんだ!」」」」」」」 土御門「スタメンがもっと強いからだにゃー」 上条「じゃあこれで行くぞ!」 全員「「「「「「「「「「おー!!」」」」」」」」」」 ―――――――――― 小萌「うまくいっているようでよかったのですよー」 黄泉川「まあ、当日まで時間あるから明日から練習させるじゃん」 こうして科学サイドはスタートしたのであった。 ――――――――――
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/122.html
それから2時間後。 黄泉川「…………遅いな」 山の麓。山中に通じる道の手前で、黄泉川は呟いた。 黄泉川「やはり既に死んでいるのか……?」 上条と美琴を捕まえるため、わざわざ部隊を北と南に分けて配備してまで待機していた黄泉川。 だが、彼女の期待とは裏腹に、空が群青色に染まり始めた今になっても、上条たちが姿を現す気配は無かった。 黒子「………………」 完全武装して待ち伏せする警備員たちを、黒子は車両の側に立ち腕組をしながら見つめている。 警備員「報告します!」 黄泉川黒子「!!!???」 その時だった。慌てたように1人の警備員が黄泉川の元まで走ってきた。 黄泉川「どうした?」 警備員「た、たった今、近くのアンチスキル支部に通報があったそうです!」 黄泉川「通報?」 眉をひそめる黄泉川。 警備員「はい! 何でも街中で15分ほど前に、ニュースで流れていた御坂美琴の風貌そっくりな少女が1人の少年と歩いているのを見たとか」 黄泉川「!!!!!!!!」 瞬間、黄泉川はやられたという顔をする。 黄泉川「………逃がした? 馬鹿な……北のルートも南のルートも我々が包囲してたじゃん……。山の周囲にも絶えず警備員たちを巡回させてたのに……」 黒子「その目撃場所は!?」 警備員「え?」 黒子「その目撃があった場所です!! 一体どこですか!!??」 警備員に詰め寄る黒子。 警備員「と、隣の学区の27番通りだったような……」 黄泉川「……白井!!」 黒子「………」アッカンベ 舌を出し、黄泉川を馬鹿にしたような顔を見せたかと思うと、黒子は次の瞬間にはその場から消えていた。 黄泉川「また独断行動を……」 警備員「どうしますか?」 黄泉川「一先ずそちらに先遣部隊を向ける。我々も後始末を終えたら見張りの部隊だけここに残してすぐに行くじゃん」 警備員「了解しました!」 慌てて去っていく警備員の背中を確認し、黄泉川は部下たちに向かって叫んだ。 黄泉川「第3班と第4班以外は出発準備を整えるじゃん!! 取り逃がしたネズミ2匹を捕まえに行くぞ!!!」 その頃。 美琴「お腹空いた……」 上条「もうかよ?」 上条と美琴は次の学区に移り、暗い路地裏を歩いていた。 彼らは今、山中で御坂妹から貰った地図を頼りに、アンチスキルの目を逃れ無事ここまで来ていたのだ。 美琴「だってお腹空いちゃったのは空いちゃったんだもん……仕方ないじゃん」 上条「わがまま言うなよ。子供じゃないんだから」 上条の後を、美琴が拗ねた顔をして歩く。 美琴「私はまだ子供だもん」 上条「普段子供扱いすると怒るくせに……こんな時だけ子供ぶりやがって」 美琴「うっさい黙れバカウニ頭」 上条「やっぱお前は子供だわ」 美琴「何ですってー?」 上条「やれやれ……」 溜息を吐き、上条は1度振り返る。 上条「後もうちょっと歩いたら御坂妹が教えてくれた『デーモンズ・ネスト』に着くはずだ。そこ行ってボスに事情話したら飯ぐらい恵んでくれるだろ」 美琴「でもそのボスっての、頭が切れて根っからのスキルアウトって話だよ? 大丈夫なの?」 上条「うーん……確かに危ない感じもするけど、もしかしたら助けてくれるかもしれないしな」 正面に向き直す上条。 美琴「ま、熱もほとんど下がったし、何かあったとしてもこの美琴センセーがいる限りは大丈夫でしよ? こんなになっても一応学園都市第3位の実力はあるんだから」 どや顔で美琴は語る。 上条「あーはいはい頼もしい限りですでもお願いですからスキルアウトに挑発されたからって電撃ぶっ放さないで下さいね」 美琴「それはどういう意味かしら? そんなに私って単純で煽られやすい人間だと思ってる?」 上条「うん思ってる」 美琴「…」ピキッ 上条「もっと大人になろうぜ中学生」 美琴「私を……」 上条「?」クルッ 美琴「子供扱いすんなって……」ギロッ 上条「ひっ!」 美琴「言ってんでしょうがああああああああ!!!!!!」 上条「ちょっとタンマーーーーーーーー!!!!!!」 今までの経験から美琴の電撃を予測し、上条は咄嗟に右手を突き出す。 上条「……………………」 上条「………………ん?」 しかし、電撃は来ない。上条は瞑っていた目を恐る恐る開ける。 美琴「え?」 上条「え?」 美琴は何故かキョトンとしていた。 美琴「あ……と、とにかく私を子供扱いすんなって言ってんでしょうがああああああ!!!!!!」 上条「わああああああああ」 もう1度、右手を前に突き出す上条。 上条「……………………」 上条「………………ん?」チラッ 美琴「あれ?」 上条「うん?」 また、美琴はキョトンとしていた。 上条「ど、どうした?」 美琴「いや……その……」 何故か焦っている美琴。彼女はさっきから何度も力んでいる。 上条「おい」 さすがにこれには上条も違和感に気付いたようだった。 美琴「ど、どうしよう……」 上条「え?」 困ったような目で美琴は上条を見てきた。 そして次の瞬間、彼女はとんでもないことを言いだした。 美琴「能力……使えなくなっちゃった……」 上条「!!!!!?????」 上条は思わず言葉を失くした。 午後9時前。 上条「あれが『デーモンズ・ネスト』か」 某学区にある路地裏。そこから上条は向かいにある店を見て呟いた。 最終下校時刻は過ぎているものの、この辺りは大学生や大人が多いためか、表通りはどの店もまだ開店していて賑やかだった。 上条「………………さて、どう行くか」 通りの向こうに見える『DAMON S NEST』という看板。その禍々しい光が上条の顔を照らす。 美琴「ねぇ…やっぱりやめようよ」 振り返る上条。後ろにいた美琴が心配そうに声を掛けてきた。 上条「………………」 上条は2時間前のことを思い出す。 2時間前――。 上条「どういうことだ能力が使えないって!?」 上条は思わず大声で叫んでいた。 美琴「ちょ、ちょっと!」 上条「あ、ごめん」 山から逃れ、次の学区の路地裏を歩いていた上条と美琴の2人。ふとしたことで、彼らは衝撃的な事実を知ることになる。 美琴「うるさくしたら気付かれちゃうよ……」 上条「そんなことより! どういうことなんだよ能力が使えないって? 電撃が出ないのか?」 美琴「うん……」 元気をなくした顔で美琴は頷く。実は、急に彼女は自慢の能力である電撃を出せなくなったのだ。 上条「おいおい冗談だろ? 砂鉄剣は? 雷撃の槍は? 超電磁砲は?」 堪らず上条は訊ねていた。 美琴「無理だよ。どうやっても出ない……。試しにやってみても、指の先1mmたりとも電気がまとえないんだもん……」 上条「そんな……嘘だろ? ちゃんと演算してるんだろ?」 美琴「演算は間違ってない……。だけど、演算は合ってるのに能力は使えないの……」 上条「………………」 これにはさすがに上条も言葉を失くした。 美琴は、学園都市でも第3位を誇るレベル5の超能力者なのだ。『超電磁砲(レールガン)』という異名が示す通り、彼女は学園都市最高の『電撃使い(エレクトロマスター)』でもある。だからこそ上条は彼女との逃亡において、彼女の電撃能力を頼りにしていた面もあった。何故なら、もしアンチスキルの大部隊と遭遇したとしても最終的に彼女が、1個の軍隊とも渡り合えるというレベル5の実力を垣間見せれば何とかなると思っていたからだ。実際、一緒に逃亡する相手が彼女だったこそ、上条はどこか心の中で安心してもいたのだ。 だが……… 上条「じゃあ本当の本当に、電撃が出せないんだな?」 美琴「そうだって言ってるでしょ! 何度も言わせないでよ!」 何の因果か、彼女は自慢の電撃能力を行使出来なくなったのだ。 美琴「どうしよう私……能力が使えなくなるなんて……」 美琴は相当の落ち込みようだった。だが、それも当然の話だった。彼女は幼少時の頃よりひたすら努力してレベルを上げ学園都市の3番目の地位に上り詰めたのだ。彼女のアイデンティティーでもある『電撃能力』。それが無くなったとなれば、詰まる所彼女は、1人のか弱い女の子でしかない。 上条「何か原因とか分からないのか?」 美琴「そんなこと言われたって……」 2人してオロオロする上条と美琴。 美琴「あ、でも待って……」 上条「ん?」 と、何か思いついたように美琴が顔を上げてきた。 上条「どうした? 何か思い当たるのか?」 美琴「うん……これが原因かは分からないけど……」 上条「何だ?」 美琴「演算は出来てるけど、能力が使えないっていう一種の病気みたいなのがあって……前に『能力開発』の授業で習ったことがあるの」 上条「本当か!?」 頷き、美琴は詳しく話し始める。 美琴「何でも、過去に数件か事例があるらしくて……。よっぽど珍しい症状だから知らない人も多いんだけど、能力開発の教科書には大抵載ってるはず……」 上条「そうなのか」 そう言えば、そんな症状の説明文をどっかの教科書で読んだ覚えがある。上条は数秒ほど何かを考えた後、美琴に顔を向け続きを促した。 上条「それで?」 美琴「確か精神病の一種で『不安定な自分だけの現実(アンステイブル・パーソナル・リアリティ)』……略して『UPR』って名前だったと思う」 上条「『不安定な自分だけの現実』……」 確かめるように上条はその名前を口中に呟く。 美琴「うん、何でも……精神的に辛いことがあったり、衝撃的な事実を知ってショックを受けたり、重い悩みに長期間悩まされ続けたりした時に重病に患うと、極稀に能力が使えなくなっちゃうんだって……」 上条「………………」 説明を聞いた限り、美琴が電撃を出せなくなった理由はある程度分かった。恐らく、突然、友達や知人、学園都市の全学生から憎まれ殺されそうになり、挙句には史上最悪の人間扱いをされ、その状況下で高熱にかかったのが原因だろう。 上条「………………治るのか?」 上条は一番大事なことを訊ねる。 美琴「………………………多分」 自信無さげに美琴は答えた。 上条「どれくらいの期間で治る?」 美琴「分からない。それは、人によるから……。過去の事例では、1日で治った人もいるし、数ヶ月、あるいは数年かかった人もいるって話だから……」 上条「数年って……」 美琴「治る切っ掛けは色々。とても嬉しいことがあったり、自信がつくようなことがあったり、または能力を使えなくて落ち込んでたけど、思い切って気分をポジティブに切り替えた時に治ったって人もいる。だから、私がいつ治るかは……そもそも治るかどうかも……」 美琴の声が暗くなる。 上条「………………」 これはさすがに想定外だった。学園都市から逃げる逃げないという話じゃない。ともすれば、彼女は一生能力を取り戻せない場合もあるのだ。 別にそれで実生活で困ることはないだろうが、上条としては彼女に元気に一生を送ってほしかったのだ。自分の存在の証明とも言える彼女のアイデンティティー『電撃能力』。それを急に無くして元気に生活できるほど彼女が強いとも思えなかった。 美琴「バカだよね……」 上条「え?」 俯いていた美琴が急に呟いた。 美琴「昔あんたをレベル0だ無能力者だってさんざん侮辱した私が……いざ同じような状況になっちゃうと……こんな弱気になってんだもん……。因果応報、って言うのかな? 仕方ないよね、はは……」 上条「………………」 完全に沈んでいる美琴。彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。 上条「………」フッ 上条「大丈夫」ポン 美琴「………え?」 と、そんな美琴の頭を、上条は優しく叩いてやった。涙目になった彼女が顔を上げる。 上条「演算はまだ出来てんだ。ならまだ完全に能力が使えなくなったとは言えない」 美琴「…………当麻?」 上条「お前ならすぐに能力取り戻せるさ。努力してレベル1からレベル5の第3位まで上り詰めたんだ。お前なら出来る」 美琴の頭に乗せた手で、軽く彼女の髪をクシャクシャと撫でる上条。 上条「ネガティブのままだと治りにくいんだろ? だったら、元気出せ。お前の泣き顔見てるとこっちまで悲しくなっちまうんだからよ」 そう言って上条は美琴に笑顔を見せる。 美琴「………………」 しばし、呆然とする美琴。しかし、すぐに彼女は目に涙を溜めながらも笑みを零してくれた。 美琴「クス……もう、こっちの気も知らないで……」 口元を緩めつつ、美琴は涙を拭った。 そんなことがあったのが2時間前だったか。取り敢えず今は先を急ぐべきと結論を出して、2人は御坂妹から教えられた『デーモンズ・ネスト』までやって来たのだ。 美琴「ねぇ、やっぱり行くのやめようよ」 上条「ダメだ。相手がスキルアウトでも今は少しでも助けが欲しい」 美琴「でも……」 美琴は相変わらず不安そうにしていた。 上条「…………じゃあ分かった。俺1人で行ってくる」 美琴「ええっ!!??」 上条「確かに……よく考えれば今みたいに能力を失ってるお前を連れていくのは危険かもしれない。だからお前はここに残ってろ」 美琴の顔を見つめ、上条は言う。対して美琴の方は少し不満気だった。 美琴「今の私は役に立たないから?」 上条「違う。そういう問題じゃない。もし店内で何かあっても、お前は電撃を使えないから抵抗が出来ない。それならお前はここに残っていた方が安全だ」 一応理由を話す上条。しかしそれでも美琴は不満気だった。 美琴「あんただって、能力使えないんだから危険じゃない」 上条「…………」 言われてみればそうである。上条は反論の言葉を失くし気まずそうに黙った。 美琴「だから、やめようよ……」 上条の腕をグイグイ引っ張る美琴。 上条「………………」 今の美琴は上条と一緒に店内について行くことも出来ず、上条を無理矢理止める術も持たない。出来るのはこうやって引き止めるだけ。まさに一介の女子中学生でしかなかった。そんな彼女の姿は上条にとって新鮮だったが、彼としても彼女のためにここで引き下がるわけにはいかなかった。 上条「1時間もあれば戻ってくる。ここで待ってろ」 美琴「あ! ちょっと!」 言うやいなや上条は表通りに飛び出し、道を横切ると『デーモンズ・ネスト』に入っていった。 美琴「うううう……もぉう!」 美琴は1人唸ると、向かいに見える『デーモンズ・ネスト』の入り口を凝視した。 上条「………………」 足を踏み入れた『デーモンズ・ネスト』の中は、クラブのような感じだった。 店内中にやたらうるさい音楽がズカズカと鳴り響き、DJの叫び声がハウリングする。様々な色のライトが忙しく地上を動き回り、多くの若者が狂ったように踊っている。 上条「(………臭うな)」 店に入ってすぐ、上条はそう思った。 上条自身、こういった場所には行った経験がなかったが、それを差し引いてもどうもこの店の雰囲気は彼に合わなかった。まるで、学園都市中の欲が凝縮されたような、そんな感じがした。 上条「(まずは仁科要を探さないと……)」 踊り狂う人々の間を通り抜ける上条。 「はーい坊や~一緒に踊らなーい?」 「あら可愛い。私と踊ろうよ」 「お姉さんと遊ぶ? それとも“遊戯部屋(プレイルーム)”行く? 安くしとくよ」 上条の顔を見ては、若い女性がからかうように声を掛けてくる。 上条「いや、いいです……はは、通して下さい」 上条はあまり周囲の音に意識を向けないようにしたが、そんな彼の行為を嘲笑うように若い男女たちの会話が無理矢理耳に入ってきた。 「おい俺と一緒に踊ろうぜ」 「今なら『遊戯部屋』30分で1万だよ」 「あいつったら、ヤリ逃げしたんだよー信じられなーい」 「優子の奴許せない! 今度スキルアウト雇ってボコボコにしてやるんだー」 「で、俺の部屋で飼ってる女の子ちゃんがさームカつくから殴ってやったんだよ」 「おいおいそれ外国産の“薬”じゃねぇか! 俺にも寄越せよ!」 「金払わないとお前を売り飛ばすぞ!!」 「イエエエエイ!!!! 乗ってるかーい次の曲はこれだ!! 『レイパーズ』による『ハメハメガイズ』だよ!!!」 上条「…………っ」 一瞬、眩暈のようなものを上条は感じた。 上条「御坂を連れてこなくて正解だった……」 右手で頭を抱え、上条は店の奥に向かって歩いていく。と、そこで店内を観察するように見ているボーイ姿の若い男を発見した。 上条「………………」 若い男の両隣には、屈強そうなスーツを着た強面のボディガードらしき男が2人。たびたび、店の関係者っぽい不良たちに話しかけられているのを見ると、若い男は結構地位の高い人間であることが予想出来た。 上条「…………行ってみるか」 上条は顔を引き締め、若い男に近付いていく。それに気付いた両隣のボディガードがジロリと上条に警戒の視線を送った。 上条「あの……すみません」 若い男「何でしょうかお客様」 上条が話しかけると、若い男は不気味なほどの営業スマイルを浮かべて訊ねてきた。 上条「聞きたいことがあるんですけど……」 若い男「はい何について知りたいですか? 見たところお客様は初めての来店とお見受けしますが、会員カードは既にお作りになられていますか? もしまだなら、まずはカウンターの所に行って手続きを行って下さい」 上条「いや……」 若い男「これは失礼。既に会員様でいらっしゃいましたか。ではもしかして、プレミアム会員についてのご質問でしょうか。プレミアム会員になられると、様々な特典がついてきます。1年間当店のクラブを自由に利用することが出来、『遊戯部屋』や『S and M サークル』、『All JOY』などの参加も認められます」 上条「そうじゃなくて……」 若い男「その他にも『1日デートクラブ』、『ぺっとレンタル』、『報復屋』といった通常の店では味わえないサービスを……」 上条「仁科要に会いたいんですけど」 若い男「………………」 その瞬間、明らかに若い男とボディガードの雰囲気が変わった。 上条「………………!?」 上条は、若い男の顔が一瞬だけ感情の無い冷酷な表情に豹変するのを見逃さなかった。 まるで凍てつくような、人を殺すことさえ躊躇わないそんな目をしていた。 上条「あの………」 若い男「と、これは失礼」 若い男はすぐに元の営業スマイルを見せてきた。ただし、声調はどこか他者を威嚇するような重いものになっていたが。 若い男「その名前を知っている、ということは“特別な事情”で当店にいらっしゃったと推察されます。その通りですか?」 上条「あ、はい……」 若い男「承知しました。しばしのお待ちを」 言って、若い男は近くにいた部下らしきを男を呼びつけヒソヒソと何かを伝えた。すると、部下の男は何度か頷き1度だけ上条の顔を一瞥するとその場を離れどこかに行ってしまった。 上条「(ボスの所に行ったのか?)」 若い男「ではお客様」 上条「は、はい」ビクッ 若い男「しばらくお待ちを」 上条「わ、分かりました……」 上条は取り敢えずそう答えた。 上条「………………」 若い男「………………」ニコニコ 気まずい雰囲気が流れ、上条は目を伏せる。 何故だか今すぐにでも引き返したい衝動に駆られたが、目の前に若い男が立っているのを考えると、それも出来なかった。 「お待たせしました」 上条「!!!!!!」ビクウッ 突如、頭の上から声を掛けられ上条は肩を震わせてしまった。 咄嗟に顔を上げる上条。 「自分についてきて下さい」 見ると、そこにはオールバックで黒いスーツ姿の男が1人立っていた。 黒服「さ、こちらへ」 如何にも、裏で何かやってますよ的な風貌をした男は、表情を作ることもせず自分について来るように言う。 上条「は、はい……」 若い男「…………」フッ 上条は喉をゴクリと鳴らし、重い足取りで黒服の男の後に続き歩き始めた。 上条「………………」 今から向かうはスキルアウトのアジトの心臓部。待っているは幾人もの屈強なスキルアウトを束ねる男。 数々の修羅場を潜り抜けてきた上条でも、この時だけは極度の緊張から逃れることは出来なかった。 ガチャッ、と音を立て扉が開く。 「おう、来たか」 上条「………………」 黒服の後に続き、店の深部にあった『MANAGER ROOM』と扉に書かれた部屋まで来た上条。 入るやいなや、部屋の奥に座っていたスキンヘッドの男が声を掛けてきた。 仁科「俺を頼りに来たんだって? 待ってろ。今、先客相手してるから」 上条「………………」 黒い革の豪華そうな椅子に座るその男。見た限り歳はまだ若い。大学生のような服装は、明らかに周囲にいる黒服の男たちの中では浮いているが、スキンヘッドの頭とその厳つい顔は見る者に僅かながら恐怖感を与えた。 間違いない。仁科要――この男がスキルアウトのボスにして、犯罪者たちのサポート業務を行うこの組織の長だった。 上条「!」 と、そこで上条は気付く。目の前の来客用の椅子に座る男が不安げに自分を見つめているのを。 上条「(一般人? スキルアウトには見えないな)」 どこか小汚い、髭を生やした大人の男性だった。 仁科「で、話の続きなんだが……」 髭男「!!!」ビクゥッ 仁科の声に、慌てたように髭男が振り返る。 仁科「こっちがお前に提供するのは、偽造ナンバープレートをつけた中古車1台。あとは偽造身分証明書、特別オプションとして拳銃一丁……でいいな?」 髭男「あ、ああ……それで宜しく頼む!」 見ると、仁科と髭男の間に置かれた机には何枚かの紙が置かれてある。 仁科「これが契約書だ。ここにサインしろ」 トントンと仁科はその紙を指で叩く。 髭男「わ、分かった」 ペンを取り自分の名前を書いていく髭男。 上条「(俺を待たせてるのは流れを把握させるためかな?)」 仁科「金は受け取った。契約も成立した。身分証明書も既に出来上がってる頃だろう。後は車に乗ってどこへでも好きな所に逃げればいい」 髭男「………………」 上条「(意外ときっちりしてるんだな)」 ここで上条は部屋に視線を向けてみた。 間取りとしては縦4m、横3mぐらいの小さな部屋だ。窓はついていないが、部屋の奥右側と上条が今立っている場所の右手に1つずつ簡素なドアが設置されている。そして仁科の背後には、質素で飾りもない棚が1つ見える。視線を戻すと、仁科が座る椅子と来客用の椅子との間には正方形の机が置かれており、その机の左手にはテレビが1台申し訳なさそうに設置されていた。全体的にいたって特徴も無い部屋だった。 上条「………………」 現在、この部屋にいるのは合わせて9名。上条と仁科、先客。そして黒服の男が、部屋の奥左隅に1人、同じく右隅の扉の前に1人、先客の両隣に1人ずつ、上条の右手、扉の前に1人が立っていた。後は……先程からこちらに艶かしい視線を送ってくる、肌の露出が嫌というほど目立つ女が仁科の左隣に1人、色っぽく座っていた。 上条「(狭いな……)」 仁科「悪いな窮屈でよ」 上条「!!」ビクッ 仁科「なーに、そんな顔してたからよ」 ニヤニヤと仁科は上条を見て言ってきた。 一瞬、上条は仁科に読心能力でもあるのかと思い、冷や汗をかいた。 上条「………………」 仁科「もう少し待て。すぐ終わる」 上条を驚かせるだけ驚かせると、再び仁科は契約書に顔を戻した。 上条「(早く出たい……)」 髭男「書き終えたぞ」 仁科「OKOK。完璧だ。しかしアンチスキルのお客さんなんて久しぶりだぜホント」 髭男「う、うるさい! 俺は何も悪くないんだ」 上条「(アンチスキル?)」 ニヤニヤと仁科が面白がるように契約書を眺めながら喋る。 仁科「ま、捕まって仲間たちに笑われるよりかはマシか」 髭男「あ、あれはあいつが悪いんだ!」 仁科「賄賂を受け取ってる現場を偶然同僚の警備員に目撃され思わず撲殺。その死体を川に投げ捨て怖くなって逃亡か」 髭男「あ、あんまり口に出して言うんじゃない!」 仁科「どうせここには訳ありの人間しかいねぇんだ。誰もバラしゃしねぇよ。にしても元警備員さんが、本来なら真っ先に捕まえるべきスキルアウトのボスに助けを求めるなんて……人間、落ちぶれる時はどこまでも落ちぶれるもんだ。くひひ」 髭男「お、俺は悪くない……。俺は自分のやりたいようにやってるだけだ……」 仁科「くひひ……」 上条「………………」 上条は黙って2人の会話を聞いている。彼は改めて今自分がどんな世界に立っているのかを理解した。 「失礼します」 上条「!」 と、その時だった。上条の右手側にある扉からノックの音がしたかと思うと、新たな黒服が1人慌てるように部屋に入ってきた。 仁科「どうした? こいつの準備整ったか?」 言って仁科は髭男に顎をしゃくる。 「いえ、それが……」 黒服は仁科に近付き、ヒソヒソと何かを話し始めた。 髭男「?」 上条「(何だろ?)」 心なしか、仁科と黒服はチラチラと髭男を見ている。 「以上です」 話が終わったのか、黒服が立ち上がった。 仁科「ほう……。そうかそうかそうか」 髭男「おい、何だ!? 準備が整ったんなら早くしてくれ!!」 仁科「俺たちはよ……表の店と裏の犯罪者サポート業務で生計立ててんだわ」 髭男「はあ!? それがどうした!? もう俺は行ってもいいのか!?」 仁科「どっちかと言うと後者の方が主な資金源なんだがな。それも貴重な……」 どこか、仁科の雰囲気が変わったような気がした。相変わらず顔はニヤついているが。 上条「?」 仁科「『表の店』って言ったところでやってるのは犯罪にギリ近いわけよ。いやもうほとんど犯罪のようなもんだが。が、世の中ってのは面白くてなあ。こんな店にも一部の学園都市のお偉いさんが密かに利用しに来てたりするんだよ。そんなお偉いさんがスポンサーやってくれてるから俺たちも裏の稼業は真面目にやんなきゃなんねぇ。何故なら裏の稼業で設けた金を表の店の運営に回してるからな。……だけどお前さ、こっちに不利なことやられると困るんだよ」 髭男「い、一体何を言って……?」 仁科「ついさっき、この店の付近をうろついていた男をうちの部下が見つけて詰問した」 髭男「だからそれが俺と何の関係が……」 仁科「その男、俺たちの抗争相手のスキルアウト『暗帝(ダークエンペラー)』の一員だったって」 髭男「!!!!!!!!!!」 『暗帝(ダークエンペラー)』という名前が出た瞬間、髭男の様子が変わった。 仁科「何でもその男、店の外で誰かを待ってたらしいな……」 髭男「…………っ」 仁科「昨日『暗帝』に1人の男がやって来たらしい。何でも仲間を殺してしまって逃げたいから資金を欲しい、ってな。まあ『暗帝』も俺たちと同じように犯罪者のサポート業務をやってんだ。別にそれは不思議じゃねぇ」 髭男「待ってくれ、ちょっと話し合おう」 仁科「だが『暗帝』ははした金で犯罪者を助けてくれるほどお人好しじゃねぇ。色んな条件を出してそれを成功させた者にのみ力を貸す。そう、例えば……敵対グループの『デーモンズ・ネスト』の内情を探ってこい、っていう条件とかな」 その瞬間、室内にいた5人の黒服たちの雰囲気が変わった。 上条「!!!!!!」 同じ場所で立ち続けてるものの、黒服たちは全員背中で組んでいた両手を解き、髭男を凝視している。 髭男「ちょちょちょっと待ってくれ! これには深い訳があるんだ!!」 髭男もこれはまずいと思ったのか、何やら言い訳をし始めた。 上条「………!?」 明らかに室内に不穏な空気が漂っている。 仁科「深い訳? どんな?」 髭男「だ、だから、俺困ってるだろ? 困ってたら冷静に判断なんか出来ないだろ!?」 上条「………………」 上条は何が起こっているのか訳も分からないまま、髭男と仁科の顔を交互に見ている。 仁科「………………」 髭男「だから仕方なかったんだよ。なあ頼むって。契約交わしただろ? もう『暗帝』の所には戻らないからさ!」 パァン!!!! 上条「!!!!!!!!!!」 ガタン、と音を立て、こめかみから血を流した髭男の頭が上条の足元に倒れてきた。 上条「ひっ………」 顔を上げると、髭男の右隣にいた黒服が、銃口から硝煙の上がる拳銃を手にしているのが目に入った。 黒服「………………」 黒服は拳銃を懐にしまい、何事も無かったかのように1歩下がる。 上条「あ……あ……」 信じられないものでも見たように、上条は仁科を見る。 それに応えるかのように、仁科は笑顔を浮かべ言った。 仁科「次の方、どうぞー」 その頃――。 黄泉川「気は済んだじゃん?」 黒子「………………」 アンチスキル・黄泉川部隊本部。トレーラー型の装甲車の中で、黄泉川は横に立つ黒子に訊ねた。 黄泉川「また勝手にいなくなりやがって。私たちがお前を見つけていなかったら、上から与えられた最後のチャンスもふいにするとこだったじゃん」 黒子「…………もう少し探し続けてたら御坂美琴を発見してたかもしれませんの」 機嫌悪そうに黒子は言う。 黄泉川「はいはい、そうだな。で、実際見つかったじゃん?」 黒子「目撃のあった場所付近ではいませんでしたの」 黄泉川「だろ?」 黒子「但し、もっと違う場所も探してたら結果は違っていたかもしれませんの」 黄泉川「はいはい、屁理屈乙じゃん」 呆れるように黄泉川は言いコーヒーを仰ぐ。 黒子「そっちだって山の麓で待ち伏せしてたのに、彼奴らを取り逃がしたではありませんか」 黄泉川「あれは取り逃がしたと言うより、我々の動きに気付いていた可能性が高い」 黒子「?」 黄泉川「事前に情報を得ていた何者かの助けがあったのかもしれないじゃん。ま、ただの勘に過ぎないが……」 コーヒーを眺めながら黄泉川は推測を述べてみる。 黒子「それこそ屁理屈乙ですわ」 黒子は不服そうに言い返した。 黄泉川「とにかく、お前も勝手な行動は慎むじゃん。アンチスキルの上層部もようやく本気になったんだ。お前の出る幕も減るかもな」 黒子「何を仰っているのやら」 黄泉川「上もようやく事態の重要性に気付いたんだろ。何でもアンチスキル最強の男を用意してるとかそんなこと言ってたじゃん。だから、お前もあまり派手に動く必要は無くなるじゃん」 黒子「1つ勘違いをしていらっしゃるのでは? 私は『警備員(アンチスキル)』ではなく『風紀委員(ジャッジメント)』の所属ですの。貴女がたの指示をいちいち全て素直に聞く必要はありません。それに、御坂美琴は元々学生。その理に従うならば、同じ学生である私が事の始末をつけるのが常道ですの」 黄泉川「確かに、な。本来ならアンチスキルとジャッジメントの命令系統は違う。お前が我々に従う道理も無い。だが、同じジャッジメントならどうだ?」 黒子「はぁ?」 ニヤッと笑った黄泉川に、黒子は怪訝な顔をする。 黄泉川「ジャッジメントが全面的に協力を申し出てきたじゃん」 黒子「そんなこと聞いてませんわよ?」 黄泉川「なら後で自分で問い合わせろ。それにもうすぐここにやって来るじゃん」 黒子「はぁ!? 知りませんけどそんなこと!!」 大声を上げる黒子。 黒子「何名ですの!?」 黄泉川「1名だ」 黒子「い、1名!? たったの1名!? それなら黒子だけで十分ですの!! 今からでもいいから来ないよう伝えて下さいまし!!」 黄泉川「まあ不満なのは分かるが、お前の勝手な行動を諌める監視役も必要なんでな。これからは2人で頑張れ」 黒子「ふざけないで下さいですの!! 黒子の許可も得ず何を仰っているんですの!!」 よっぽど不満なのか、黒子は机をドンドンと叩いている。 黄泉川「たった1人と言っても、その実力は100人分に相当すると聞いたが?」 黒子「……………え?」 黄泉川の言葉に、黒子が急に抗議を止めてキョトンとした顔になった。 黄泉川「何でもその男は『風紀委員(ジャッジメント)の最終兵器』と呼ばれてるらしいじゃん」 黒子「『ジャッジメントの最終兵器』? 何ですのその胡散臭い呼び名は!!」 黄泉川「あくまでアンチスキル内での評価じゃん。ジャッジメントではどう呼ばれてるのかは知らん」 黒子「そこらの頼りない男を1人2人派遣されても足手まといになるだけですの!!」 黄泉川「なら、資料見るか?」 溜息を吐き、コーヒーカップを机の上に置くと、黄泉川は1枚の紙を取り出してきた。 黄泉川「先程FAXで送られてきたじゃん。お前も絶対知ってるはずなんだがなあ?」 黒子「はあ? そんな胡散臭いあだ名の男のジャッジメントなんて私の知り合いに……」 黒子「!!!!!!」 と、そこで黒子の表情が一変した。 黄泉川「………」フッ 黒子「こ、これは本当……ですの!?」 黒子は握った紙を見つめながら黄泉川に訊ねる。 黄泉川「嘘ついてどうする?」 黒子「フ……フフ……。まさかこの方が前線へ出てくるなんて……いえよく考えれば当然ですわね」 急に黒子は不適な笑みを浮かべ始めた。 黒子「なるほど……彼ならまさに百人力……。これなら異論はありませんわ……」 黄泉川「それは良かったじゃん」 黒子「ええ。彼なら彼奴らを必ず捕まえてくれるでしょう……。そう…『風紀委員(ジャッジメント)』の名にかけてでも……っ!」 黒子の手は興奮を抑えられないと言うようにブルブルと震えていた。
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/986.html
~御坂の部屋 早朝~ 御坂「さて、そろそろ学校に行きましょうか」 上条「……」フラフラ 御坂「どうしたの?」 上条「いや、少し寝不足で」 御坂「寝れなかったの?」 上条「あの状況で寝られるほど、男子高生という存在は人間できてません」 御坂「ん?」 上条「いえ、何でもありませんよ」 御坂「それよりも早く行こう。ぐずぐずしてると他の寮生が起きちゃうから」 上条「そうだな」 ~道 早朝~ 上条「寮生にばれたくないからって言ってもさすがに早すぎたかな」 御坂「いいんじゃない。ゆっくり朝食とれるし」 上条「どうする? 喫茶店に入っても椅子に座れないしな」 御坂「そうだったわね」 上条「あっ、俺の部屋行くか?」 御坂「え?」 上条「そこだったら座れるし」 御坂「あ、う、うん」 上条「どうした?」 御坂「その、いいの? 昨日も上がっちゃったし」 上条「しょうがねぇだろ」 御坂「そう、そうよね。えへへ」 ~上条宅 朝食中~ 上条&御坂「「 いただきます! 」」 御坂「」パクパク 上条「」パクパク 御坂「うん、おいしい」 上条「それはよかった」 御坂「あんたって、意外と料理上手なのね」 上条「これくらい普通だろ。学園都市は自炊が基本だし」 御坂「え? そうなの?」 上条「はぁ? 違うのか?」 御坂「私は大体、学食か外だし……」 上条「……」 御坂「……」 上条「貧富の差がこんなところにも」 御坂「あ、ごめん」 上条「……」 御坂「で、でもさ、あんたのご飯おいしい、結果的にはよかったんじゃない」 上条「……」 御坂「いいな、こんなおいしいご飯が食べられて」 上条「……」 御坂「私だったら、毎日食べたいな」 上条「……」 御坂「……なんて思ってたりして」 上条「……お前」 御坂「な、何」 上条「いい奴だったんだな!」ガシッ 御坂「え、ちょ、ちょっと///」 上条「ここにいる居候はですね。早く作れ、早く作れとうるさいばっかりでぇぇ」 御坂「そ、そうなんだ、大変なのね///」ドキドキ 上条「さぁ、どんどん食べてくださいよ」 御坂「う、うん」 ~上条宅 朝食中~ 上条「けど、本当によかったのか?」 御坂「何が?」 上条「いや、俺の学校に来ちゃってさ」 御坂「でも、あんた単位がやばいんでしょ」 上条「そう何ですよ」 御坂「じゃあ、しょうがないじゃない」 上条「お前は大丈夫なのか?」 御坂「私は大丈夫よ。あんたと違って真面目に授業は出てるし」 上条「いや、上条さんも真面目には出てるんですよ。ただ、思わぬ不幸によってなかなか上手くいかな くて」 御坂「不幸ね~。どうせ女の子と何かしてるんでしょ」 上条「何そのおいしいイベント。そんなものは一ミリたりともありませんよ」 御坂「……」 上条「さて、そろそろ学校に行くか」 御坂「そうね」 上条「そういえば」 御坂「何?」 上条「昨日の昼によ。お前が俺の腕組んできただろ」 御坂「な、なによ、いきなり。……そ、そうだけど。それが?」 上条「何で俺だったの?」 御坂「え?」 上条「いや、他の人でも良かったんじゃないかと思ってだな」 御坂「そ、それは……」 上条「???」 御坂「その、たまたま近くにいたのがあんたで、条件にも合ってたからよ」 上条「ああ、やっぱりそんなところか」 御坂「……」 ~上条のクラス 朝~ 土御門「カミやん、今度はどんなお色気イベントがあったのかにゃ~」 上条「はぁ? 何言ってんだ、土御門?」 青ピ「カミやん、とぼけても無駄やで。隣にいる女子中学生が証拠や」 上条「ああ、そのことか。これはお色気イベントなんかじゃなくてな、いつもの不幸でだな……」 土御門&青ピ「「」」ボグシャ! 上条「ぐはぁ」 上条「え、何で殴られたんだ?」 土御門「マジむかつくにゃ~」 青ピ「もげちまえ」 キーンコーンカーンコーン 小萌「は~い、みなさん。席についてください~」 上条「……」 小萌「上条ちゃん、どうしたんですか、その子は?」 上条「あ~、いろいろありまして」 小萌「はぁ~、またそれですか。まったく上条ちゃんは」 土御門「で、なんでさっきからずっと手を繋いでるんだにゃ~」 上条「これはだな、第六位の能力とやらで」 土御門「なんだと!?」 小萌「そうだったんですか」 青ピ「さすがカミやんやで。第六位の能力までフラグメイキングに利用するとはな」 上条「なんだそれ」 小萌(上条ちゃんは本当に自覚のない子ですね) 小萌「ま、いいです。それでは出席をとりますよ~」 ザワザワ ザワザワ 上条「ん? 廊下が騒がしいな」 黄泉川「月詠先生!」 小萌「どうしたんですか、黄泉川先生」 黄泉川「授業は中止じゃん。今、第六位が学園都市の目の前まで来たじゃん」 小萌「え、それは本当ですか!」 黄泉川「たった今、連絡が入ったじゃん。生徒は全員自宅待機。警備員と風紀委員は緊急招集じゃん」 小萌「わかりました」 土御門「これは昨日と同じパターンだにゃ~」 小萌「みなさん、せっかく学校に来てもらったんですが、どうやら授業はせずに解散になりそうです」 ザワザワ ザワザワ 御坂「ついに第六位が来たのね」 上条「そうらしいな(だれか全く知らんが)」 黄泉川「あれ、そこにいるのは御坂じゃん」 御坂「え、あ、はい」 黄泉川「ちょうどいい。御坂はちょっと残って職員室まで来てくれ」 御坂「え?」 黄泉川「少し用事があるじゃん」 上条「何だ?」 御坂「……まさか」ボソッ ~職員室 解散後~ 御坂「用って何ですか?」 黄泉川「ああ、その前に何で上条までいるじゃん?」 上条「実は第六位とやらの能力のせいで、御坂と一緒にいなくちゃいけないのですよ」 黄泉川「ああ、それか。それなら私に任せるじゃん」 上条「???」 黄泉川「ほれ」サワ 上条(黄泉川先生が俺ら二人を触ったが?) 御坂「あ! そうか!」 上条「何だ?」 御坂「ほら、私たちの条件は知り合いのポニーテールの人に触られると解除できたでしょ」 上条(そうなの。そんな裏ワザがあったの!?) 黄泉川「これで大丈夫じゃん」 御坂「はい、ありがとうございます」パッ 上条「……」 黄泉川「それでさっそく本題に入るけど、どうやら今回は警備員と風紀委員だけじゃなくて、 レベル五も参加することになったじゃん」 御坂「……」 黄泉川「前回は私らだけでかなり苦戦したこともあって、今回は同じレベルの能力者も投入することに なったじゃん」 御坂「……」 黄泉川「どうした? かなりびっくりしたか?」 御坂「いえ、実はその話は他の警備員の方から、何度か電話で聞いて知っています」 黄泉川「そうか。ただ、レベル五の能力者は強制ってわけじゃなくて、拒否もできるじゃん。 実際、御坂と同じ学校の第五位は拒否をしてるじゃん」 御坂「……」 黄泉川「そして、これは私の個人的な意見だが、生徒を危険な目に合わせたくないじゃん。 だから、私としては御坂には辞退して欲しいじゃん」 御坂「……」 黄泉川「……」 御坂「……大丈夫です。それに警備員の方には承諾したと伝えていますし」 黄泉川「……そうか。それじゃあ、今から集合場所と時間を説明するじゃん」 上条「……」 ~上条の高校の正門前 帰り~ 御坂「じゃあ、私はこっちだから」 上条「ああ」 御坂「」スタスタ 上条「おい!」 御坂「何?」 上条「本当に大丈夫なのか?」 御坂「……」 御坂「大丈夫に決まってるでしょ。私は学園都市でも七人しかいないレベル五なんだから」 上条「……」 御坂「第六位なんて軽くひねって終わりよ」 上条「そうなのか」 御坂「そうよ。何、心配してくれてるの?」 上条「そんなんじゃねぇよ」 御坂「それならいいじゃない。別に死ぬってわけでもないんだし」 上条「でもよ、あの力ってやつは相当なものじゃないのか?」 御坂「ああ、それね、それはそうだけど、大丈夫よ。ヘマはしないわ」 上条「……」 御坂「それじゃね」 上条「ああ、それじゃあな」 御坂「……」 御坂「……ねぇ」 上条「ん?」 御坂「今朝さ、私に何で腕を組んできたか聞いてきたじゃない」 上条「うん」 御坂「あれさ……」 上条「???」 御坂「本当は選んであんたにしたんだ」 上条「……はぁ? どういうことだ?」 御坂「つまり、私はあんたと一緒にいたかったのよ」 上条「……」 御坂「第六位が来るとわかった時点で、私に援助の要請があったの」 上条「……」 御坂「だから、少しだけ、ほんの少しだけ待ってもらって、 その間だけでもあんたと一緒にいたかったの」 上条「……」 御坂「たぶん、第六位と闘うとなるとただでは済まない。 でも、私は学園都市と、その、あんたが、あんたのことが」 上条「……」 御坂「好きだから、自分にできることはやろうと思ったの///」 上条「……」 御坂「……」 御坂「……それじゃあ、今度こそ行くね」タタタ 上条「……」 ~街中 帰宅中~ 上条「」トボトボ 土御門「おっ、カミやん」 上条「……土御門か」 土御門「どうしたんだ? 難しい顔してるにゃ~」 上条「そ、そうか?」 土御門「さしずめ、超電磁砲のことか?」 上条「な、何でそれを!?」 土御門「いや、気づくだろ。今朝のカミやんたちを見てたら」 上条「え、意味がわかんないんだが?」 土御門「お前は……。いいか、カミやん。 端から見たら、振る舞いとかがカップルそのものだにゃ~」 上条「え? そうなのか?」 土御門「そうにゃ~。しかも、超電磁砲はカミやんに惚れてるにゃ~」 上条「……」 土御門「あれ、リアクションが薄い?」 上条「さっき校門前で好きと言われた」 土御門「」バキッ 上条「ぐはぁ、何すんだ」 土御門「とりあえず、ムカついたから」 上条「何たる不幸」 土御門「そんで、カミやんはなんて返事したにゃ~」 上条「何も」 土御門「……」 上条「……」 土御門「駄目駄目だにゃ~」 上条「しょうがねぇだろ。突然だったんだから」 土御門「突然も何も、カミやんも超電磁砲のこと好きなんだろ?」 上条「……実はそこがわからない」 土御門「わけがありそうだにゃ~」 上条「さっき御坂から聞いたんだが、レベル五の能力者に第六位の戦闘要請があったらしい」 土御門「ほう」 上条「俺は止めようとしたんだが、その時に気づいたんだ」 土御門「……」 上条「御坂のこと好きだから止めるのか、ただ知り合いに危険なことをして欲しくないからか、 どっちなのかってことに」 土御門「第六位に立ち向かうということは、よほどの決意が必要だからにゃ~。 前者なら止める理由になるが、後者だと止められないからな」 上条「そう、だからなんだ」 土御門「なるほど、つまり自分の気持ちがはっきりしてないと」 上条「……」 土御門「カミやんらしくないにゃ~」 上条「そうかもな」 土御門「だが、そこまで悩むということは好きってことなんじゃないかにゃ~」 上条「そうだろうか」 土御門「ま、カミやんの問題だし、俺がしてやれるのはアドバイスくらいだが、 時間は待っちゃくれないぜ」 上条「……」 土御門「こんなことしてるうちでも超電磁砲は危険にさらされてるわけだ」 上条「……」 土御門「おっと、もう家に着いたか。それじゃあな」ガチャッ 上条「……」 上条「今も御坂は……」 上条「……」 上条「……俺も部屋に入るか」
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/864.html
[13]Accelerator04―結標淡希の一番長い一日 その3 染みひとつ、皺一つ見つからない白いテーブルクロスが敷かれたテーブルの上には結標と一方通行の努力の成果が置かれていた。 テーブルの中央には『例のニンジン嫌いな子供用』に調整された『カレー』の鍋。 結標は自分の細い小指で鍋の淵を軽くなぞって、ちろりと舐めてみた。甘い。 「これなら大丈夫だと思うわ。我ながら自信作と言ってもいいわね」 満足そうな顔で一方通行へと振り返りながら結標は更に口を開いた。 「なにやってんの?いまさら冷蔵庫なんかごそごそして。このカレーは完璧よ?」 「あァん!?何言ッてやがる淡希。福神漬けの野郎がまだだろうがよッ。おッと、あッたあッた。黄泉川の奴が後先考えずに片付け やがるから冷蔵庫の中身までごちャごちャになッてやがる」 その後、結標は「福神漬け無くして何がカレーかッ!」と学園都市最強の福神漬け至上主義を聞く羽目となった。 そしていい加減、話にうんざりしてきた頃、変化が訪れた。それが幸か不幸かは神のみぞ知る所だが、科学万歳な学園都市には神を 崇めるような習慣は無い。なにせ教会の類すら無いのだ、この街には。 「たっだいまー!とミサカはミサカは多分寝てる貴方に聞こえるようにわざわざ大音量を披露してみたり!」 「はぁー、やっと帰ってきたわね。打ち止め(ラストオーダー) 、ちゃんと靴を揃えてから上がりなさい」 扉が開かれる音と同時に訪れた二つの声は結標と一方通行の度肝を抜いた。 家主が居ない部屋に若い男女が二人っきり。一方通行の同居人であろう声の主達への上手い説明の言葉は結標の頭がフル回転しても 咄嗟には出てこない。戸惑う結標と違い一方通行の判断はメチャ迅速だった。即急即時即座即決即断即行、思考時間にしてわずか1秒以下。 一方通行は結標の華奢な肩をがっしり掴むと大型冷蔵庫の下部にある野菜室の引き出しを開け放った。そこには野菜など一切無く、 お弁当用の小さなベビーチーズとか口の開いたお菓子の箱しか入ってない、ほぼがらんどうの空間が口を開けていた。 「ちょ!?何する気!痛いッ!痛いってば!むー!むー!」 不穏な空気を察して抗議の声を上げる結標を、白い少年は残虐な光を讃えた紅い瞳を光らせて野菜室へと押し倒す。激しい抵抗も虚しく 結標は野菜室の引き出しの中へと押し込まれてしまった。この場合はまさに、収納されてしまった、の方がぴったりくる。 「狭い!超狭い!てか足痛いってばッ!何これ?猟奇殺人!?どこのホラー小説!?無理無理絶対無理!」 「黙ッてそこに入ッてろ!」 「ちょ、説明とか一切無し!?すっごく無理があるわよ、これ。ねぇ?ちょっと、話聞きなさいよ一方通行っ閉めるなぁ!」 結標は膝を抱えたままの体勢で一方通行へと罵声を飛ばすが、当の一方通行はあっさり無視して野菜室の引き出しを元に戻した。 当然結標の視界は真っ暗になった。 (暗ッ!狭!あと寒!) 普段から野菜が入ってないのかあまり変な匂いはしなかったが、完全な密室となった野菜室の中はあまりにも狭すぎて身動き一つ 出来ない。 自力で脱出するには自分自身を座標移動(ムーブポイント)するぐらいしか思いつかない。手や足はおろか指一本ですら動かすのが困難なぐらい ぎっちぎちなのだ。比較的スリムな結標でも正直辛い。 でもって勝手に脱出した場合、高確率で一方通行に苛められるであろうことが容易に想像できて結標は少し悲しくなった。 (私、今ならいい死体の演技できるわ、多分。いざとなったら適当に脱出するしか無いわね、マジで) 外の様子が見えないので仕方なく耳を澄まして脱出のタイミングを図る。理想的なのはキッチンに誰も居なくなるのがもっともいい。 『むむむ、今、女の声が聞こえたような!キッチンが怪しい!行くぞワトソン君。とミサカはミサカは名探偵の気分を味わってみたり』 『はいはい、ホームズさん。でもドタバタ走らないの』 一方通行の声を聞きつけたのか声がキッチンへと近づいてくる。接触まであと数秒といったところだろうか。 そこでプチンと言う音がして、冷蔵ファンが動きを止め、噴き出されていた冷風も止まった。恐らく外の一方通行がコンセントを 抜いたのだろう。 (い、一応助かった?お腹壊すのだけは避けれたかも) 『料理!?しかもハンバーグ入りのカレーとか妙においしそうな物を!?そ、そんな、不器用な一方通行とか萌えだったのに……。 ミサカの幻想はバラバラに砕け散ってしまったかも知れない、とミサカはミサカはがっくりと膝を突いてうなだれてみたり。でもカレーに ニンジンが入って無いところを確認してアナタの優しい一面を発見し、ミサカはミサカはその一部始終をミサカネットワークに 配信してみたりする』 『よし、クソガキ。お前ベランダからダイブするのと階段で1階までロックンロールするのとどッちがいい?いますぐ選べ』 『わーい、なんだか聞いたことがあるような台詞キター、とミサカはミサカは叫びながら逃げ回ってみたり』 外ではなんだかホームコメディが繰り広げられてそうだ。ドタドタと走り回る音が聞こえる。 『何やってるの貴方たち。あら?今日のお昼はカレーなの?貴方が作ったのかしら』 トントンとフローリングの床を歩く音がしてもう一人の声がキッチンに増えた。声からすると20台前半辺りの女性。結標はなんだか その声に柔らかそうな印象を覚えた。 『おい芳川、”野菜室は空”だぞ』 しれしれっと嘘を言い放つ一方通行の声がした。 (あー、なんだかそろそろ足とか、手とか、背中とか、とにかく体の節々が痛い!ヘルプミー) もはや限界と座標移動(ムーブポイント)で自分自身を飛ばそうと思考を走らせはじめた瞬間。暗闇に光が差した。 「私のポッキーが確かここに……ッ?」 「あ……」 キッチンの一角に3点リーダーが通過し、たっぷり30秒ほど時間が止まった。 20台ぐらいの若い女性と目が合った。ショートボブの可愛い感じのお姉さん。 彼女はややあってから、 「……よいしょっと」 野菜室の引き出しを元に戻そうとした。見なかったことにするつもりだ。 「ああ、待って。閉めないでッ!お願い!」 再び暗闇に閉ざされかけた野菜室で、ちょっぴり涙目になりながら結標は懇願した。 両手を自分の膝の上に乗っけて、洋風の椅子に腰掛けた結標の目の前に置かれたティーカップに柑橘系の香りをさせる紅茶が注がれる。 詳しい銘柄とかは良くわからない。紅茶もティーカップもだ。 「あ、どうも……」 紅茶を入れてくれたのはさっきのショートボブのお姉さん。結標がかしこまってお礼を言うと「どういたしまして」と返してくれた。 お姉さんが入れてくれた紅茶を飲みながら、結標は少し記憶を整理してみる。傾けたティーカップから口の中に紅茶の風味が広がった。 (えーと……野菜室から引っ張り出されて、名前を教えてもらって、それから) まず結標の正面で学園最強の能力者(アクセラレーター)を「いーじゃん、いーじゃん」とからかってるもう一人のお姉さんへと首を動かす。 彼女は黄泉川。黄泉川愛穂がフルネームだ。とある高校の体育教師をしていて、学園都市の治安を担う警備員(アンチスキル)としての一面も あるとかないとか。首の後ろあたりで長い髪を無造作に纏めている。服装は動きやすそうなジャージの上下。 これは料理の合間に一方通行が言ってたことだが黄泉川には強能力者(レベル3)程度ならポリカーボネート製の盾一個で難なく制圧してしまう 名物警備員(アンチスキル)とかいう伝説があるらしい。特別な装備も無しで『それ』を実行する姿は結標の頭ではちょっと想像がつかない。 あと『この部屋』も彼女が借りているという事だ。結標が野菜室から救出された後にひょっこりと帰ってきた。 『は~いタダイマ、タダイマーじゃん、おやおや珍しいことにお客さんじゃんよー?。居候の分際でこんな可愛い女の子連れ込んで……。 こちとら長々と続いた、校長のロシア談義で心身共にお疲れさんだってのに、二人でラブラブ?スーパー生意気じゃんよー』 結標の記憶が正しければそれが黄泉川の第一声だったはずだ。その『じゃんじゃん』言う独特の口調はなんだか前に聞いたことがある気も するのだがあれは一体どこだったか?奥歯に挟まった物が取れないような妙な気分が結標を襲う。 (思い出したくないような気もするけど、これは何故?) それでも彼女の顔を見るのは初めてだったし、多分自分の思い違いだろうと結標は早々に結論をだし納得した。 続いて黄泉川の右側の席をチラリと見る結標。そこには先ほど紅茶を入れてくれたショートボブの女性が座っていた。 優雅にティーカップを傾けて就職情報雑誌に目を落としている。多分傾けてるカップの中身は結標の持ってるものと同じ。 さっき軽く自己紹介してもらったが名前は芳川桔梗というらしい。騒ぎまくりの黄泉川とは随分対照的で、落ち着いた雰囲気の知的美人と いったところだろうか。野菜室から助けてもらったり紅茶を入れてもらった事もあり、少し贔屓目ではあるが、結標は芳川をそう評価した。 「桔梗ー、今日の就職活動はどうだったじゃんよー?いいところあったかい?」 「別に。特に惹かれる所は無かったわね。というか大半が打ち止め(ラストオーダー) の子守だったような気までするわ」 芳川は黄泉川と他愛の無い会話を交わしながら『この事態』を静観するつもりのようだ。 (まぁ、この二人は別にいいんだけど……) 最後に控えるのは見た目10歳児くらいの小さな女の子。芳川の隣に置かれたお子様用の椅子から身を乗り出し、目を吊り上げている。 「えーと……すっごく嫌われてる気がするわ……一方通行、パスッ」 比喩抜きでバチバチする幼女の視線に耐えかねて結標は思わず一方通行に助けを求めた。 幼女の「この女誰?」といった感じの不満ビームの矛先が結標から一方通行へと切り替わった。 「――チッ。オイ、クソガキ、とりあえず、その眼鏡はなンだ、その眼鏡は。俺には眼鏡属性なンてもンはねェぞ」 一方通行が指差す幼女の鼻の上にあるのは、エンジ色の細いフレームが、四角いレンズの下側だけをなぞる今風な眼鏡。 しかも少し幅が大きいのか折角の眼鏡は半分ずり下がってたりする。さっきから何回も位置を直してたりする。 「これ?今日芳川に買って貰ったの。似合ってる?とミサカはミサカはある言葉を期待しつつ眼鏡のフレームを持ち上げてみたり。 これでミサカの知的なイメージが5アップ。アナタはたちまちメロメロ。とミサカはミサカはオデコの眼鏡ででこでこでこりん♪とか 懐かしいフレーズを口にしてみたり」 「……」 紅茶を楽しむ芳川に目で『語りかける』一方通行。いやもう視線の強さは目で『殺す』レベルまで達している。 「大丈夫よ。度は入ってないから。それより、貴方も野菜室に女の子押し込めるより先に早くお世辞の一つや二つ覚えたほうがいいわよ」 「社交辞令ってのは社会に出る上では結構重要な技術じゃんよー。覚えておいて損は無いじゃん。あと女の子を冷蔵庫の野菜室に押し込むのは 流石にどうかと思うじゃんよ」 「突ッ込むところはそこじャねェだろうが!」 「いや、私を野菜室に押し込めるのは充分突っ込むところだと思うわよ。って聞いてないわね」 学園都市最強の能力者のガンツケはおろか、突っ込みを受けても、大人の女性二人はどこ吹く風といった様子だ。一向に堪えない。 黄泉川、芳川は両名とも氷を浮かべた冷水にポッキーを濡らしてポリポリと齧ってる。 食事の前にお菓子を食べるのは正直どうかと思ったが結標はとりあえず話が進まないので幼女の方に集中することにした。 「えーと、ら、ら、らす……」 結標は一方通行から「このクソガキはなんたら」と紹介してもらったのだが、なんとも耳に慣れない名前だったので ついつい記憶を探ってしまう。でも結局思い出せないので自然と言葉が詰まってしまう。 幼女は、おでこに人差し指を当てて壊れたプレーヤーの様に幼女の名前の先頭二文字を連呼する結標の方へ、向き直って口を開いた。 「ミサカの名前(パーソナルネーム)は打ち止め(ラストオーダー) 。もしくはミサカ20001号でもいいかも!とミサカはミサカは改めて自己紹介してみたり。 貴女の名前は結標淡希でいい?唐突で悪いんだけど。この人(アクセラレーター)とは一体どういった関係で?ミサカが納得できる理由を 400字詰めの原稿用紙3枚以内で簡潔かつ明瞭にまとめて即座に答えて欲しいかも、とミサカはミサカは知的な一面をアピールしてみたり しつつ説明を要求してみたりしてみる」 幼女の要求した答えを探して結標淡希はさらに頭を悩ませるのだった。 しばらくして、結標の口から出たのは、 「えっと、私は、ほら、コイツの女友達でね。夏休みの終わりぐらいからちょくちょくと。今日はおいしいカレーの作り方を教えて欲しいと コイツに頼まれて、仕方なくね」 という半分以上が嘘で構成された言葉。これでも必死に考えた末のベターな答えだった。 「この人(アクセラレーター)に友達なんて居るわけ無い!とミサカはミサカは断言してみる!」 打ち止め(ラストオーダー) はきっぱりと言い切った。 「即答すンなッこのクソガキ!」 結局お茶を濁しながら『例のハンバーグカレー』を5人分それぞれの皿へと注いでいく結標の姿をまだ納得してません、といった 打ち止め(ラストオーダー) の視線が追う。 「うう、視線が痛い」 結標は仕方なく一方通行を促すことにした。 「ほら、あなたもフォローしてよ」 「――あー、大体そンな感じだ」 結標の肘に小突かれて一方通行もぶっきらぼうに口裏を合わせた。打ち止め(ラストオーダー) もそれで納得したのか『例のカレー』が よそわれた皿を見て「わーい」と喜びの声を上げた。 (本当はニンジンがこれでもかってぐらい入ってるんだね、そのカレー) 無邪気に喜ぶ打ち止め(ラストオーダー) の笑顔で結標の良心がちくりと痛んだ。 「やほーい!最初は『この泥棒猫が!』とか思ってたけど淡希は実はいい人だったかも!ってミサカはミサカは……淡希? ミサカのカレーはなんだか、どんどんとミサカの手の届かない所に行っちゃうんだけど、とミサカはミサカは状況を説明してみたり」 どうやら痛んだ良心は無駄だった様だ。 「……なんだか、打ち止め(ラストオーダー) ちゃんの頭上にある私の力作カレーが急降下しそうな予感がするわ。湯気がでてるしきっと熱い でしょうね。大火傷かしら?こういうときは何て言うべきなの?打ち止め(ラストオーダー) ちゃん。4、3、2――」 「ご、ご、ごごごめんなさい。ミサカはミサカはいきなり4から始まるカウントダウンの恐怖に身を震わせながら一生懸命謝ってみたり! だから罪の無いカレーを落とさないで!ってミサカはミサカは懇願してみる!!」 ガタガタと震え涙目になる幼女の前へ、カレーを座標移動(ムーブポイント)し、その頭をポンポンと軽く叩いて結標も席に戻った。 (びっくりしてる、びっくりしてる) 突然、何も無い虚空から出現したカレーに、目をパチクリさせる打ち止め(ラストオーダー) を見て結標はニヤリと微笑んだ。 『いただきます(じゃんよ)(とミサカはミサカはお行儀良く手を合わせて言ってみたりする)』 テーブルに着いた全員が手を合わせて言ったが、一方通行だけは一人やる気なさそうに口ぱくでごまかしていた。 言い終わるなりスプーンを握りなおし、カレーにぱくつき「カレーウマー」と口から光線でも吐き出しそうなリアクション で感嘆の声を上げる打ち止め(ラストオーダー) 。大人の女性二名もニコニコと舌鼓を打っていた。一応好評のようだ。 どうやら隠されたニンジンの味には気づいていないようだが、作った本人としては打ち止め(ラストオーダー) の無邪気な反応が この料理に対する最大限の賛辞とも取れ、なんだか嬉しくなってしまう。自然と結標の顔が穏やかに笑みを形作る。 ふと結標は黄泉川の隣に座ってる一方通行へと声を掛けた。 彼の前の皿の中身はあまり減っていなかった。「食べないの?」と聞いたら「甘すぎィンだよ」と返ってきた。 どうも彼は甘いのは苦手のようだ。だったらカレールーを二種類用意すればよかったのにとも思ったがそれは黙っておいた。 「アンタが作れって言ったんでしょう……ニンジンが――むー!むー!」 突然とんでもない速度で回りこんできた一方通行の右手が結標の口を塞いだ。 カレーの皿から顔を上げた打ち止め(ラストオーダー) が「?」と首を傾げた。 「喋るな。それ以上一言も喋ンじャねェぞ。ネタ晴らしはあのガキが食べ終わッてからだ、いいな?」 打ち止め(ラストオーダー) の様子をちらりと伺い、結標の耳元に口を寄せて、彼は囁いた。 「――!――!」 顔を真っ赤にして、声にならない悲鳴を上げながら何度も何度も頷く。思わず心臓の音が部屋中に聞こえるんじゃないかとまで思った。 ややあって一方通行は結標を開放した。開放された結標は「ぷはぁ」と久方振りの空気を肺に送り込んで 「死ぬかと思った……」と小さく零す。 『それ』は恥ずかしくてなのか、息が出来なくてなのかの答えは、結標の胸にだけひっそりと仕舞われた。 「これはまた随分と仲がいいじゃんよー」 「そうね、独り身には少々目の毒だわ。打ち止め(ラストオーダー) の教育上も良くないからラブシーンはベランダでやって欲しいわね」 「はっ!?これはもしかして食べ物で懐柔された!?淡希がミサカを謀った!?ミサカはミサカは疑心暗鬼に陥って軽く混乱してみたり!」 品のよくない笑いを浮かべる黄泉川。適当に見当違いの相槌を打つ芳川。スプーンを握り締めて叫ぶ打ち止め(ラストオーダー) 。 赤い顔をして荒い息をつく結標と、不機嫌そうに鼻を鳴らしてそっぽを向く一方通行。 多分これは自分が経験した中でもっとも騒がしい昼食の一幕だ――と結標はそう思った。 「淡希淡希遊んで欲しいかも、とミサカはミサカは淡希の了解も得ずにいきなりその胸に飛び込んでごろごろと甘えてみたり!トゥ!」 「え、うひゃぁ!?」 結標の胸に飛び込んでくる小さな魔物。可愛さ余って痛さ100万t。ヘッドダイビングを敢行した幼女を結標は変な悲鳴を 上げながら受け止める。打ち止め(ラストオーダー) の頭が結標の鳩尾にヒットしいい感じに息が詰まってしまう。 「えへへへ、ふかふかーぷにぷにーいい匂いするー、ここミサカの定位置にしたいかもってミサカはミサカは簡潔に要求してみたり」 「ぐぅ。打ち止め(ラストオーダー) くすぐったいからやめてちょうだい」 少し遅めの昼食を取った後、結標達はリビングのソファーでくつろいでいた。 隣には一方通行。そして結標の膝の上にはさきほど飛び込んできた打ち止め(ラストオーダー) が座る。 黄泉川と芳川は「昼食の礼じゃんよー」「お客さんに皿洗いまでさせられないでしょ?」と二人仲良くキッチンだ。時折キッチンから もれてくるのは水音と食器同士が奏でる不協和音。それに混じって「桔梗、1秒間に16連射じゃんよー」「無理よ」とか聞こえてくる。 確かAI搭載の全自動皿洗い機があったような気がするのだが、どうやら本当に使われていないようだ。 (しっかし可愛いわね、この子) 「うりうり」 「きゃははははは、淡希くすぐったいかも~、とミサカはミサカは率直な感想を口にしてみたり」 自分の膝の上の打ち止め(ラストオーダー) の髪を撫で回して「ハフゥ」とあったかい溜息をつく結標。 癒されまくりでマイナスイオン充填完了だ。隣の一方通行がそれを見てあからさまな舌打ちをしたがそれはどういう意味なのだろうか? 一方通行では無いので結標にその真意の程はわからない。 膝の上で暴れる打ち止め(ラストオーダー) を落ち着かせるために手前のテーブルからTVのリモコンを取りチャンネルを適当に切り替える。 学園都市のローカル番組も見れるらしく沢山のチャンネルがあった。 この時間はあまり面白い番組はやっていないようだ。せわしなくリモコンを操作して膝のお子様が焦れ始めた頃にようやく お目当ての子供向けのアニメ番組が表示された。 超機動少女カナミン(マジカルパワードカナミン) とか丸っこい字のタイトルが流れていた。 少しだけ打ち止め(ラストオーダー) と一緒になって眺めてみたが初めて見る番組なので内容がさっぱり判らない。 だが膝の上の打ち止め(ラストオーダー) はと言えば食い入るように映像に夢中だった。映像が進む度に「おおー」とか「どきどき」とか 率直な感想を口にする打ち止め(ラストオーダー) の方は見ていても一向に飽きが来なかった。 しばらくして両手一杯の荷物を持って黄泉川と芳川がやってきた。二人は結標達が座る3人掛けのソファーとは放れて置かれた、透明な テーブルを挟んで独立した、一人掛けのソファーにそれぞれ座った。 ゴトンと硬い音をさせて透明なテーブルの上に”持っていた物”を広げて、 「打ち止め(ラストオーダー) が淡希っちにすっかり懐いてるじゃんよー。居候一号、そっぽを向いてるのは焼き餅かい?」 と聞く。 居候一号――これは恐らく一方通行を指している。いつの間にか結標にも『淡希っち』と愛称が付いていた。 「愛穂、それだと『どっち』に対しての焼き餅なのかわかりづらいわよ、一応教師でしょう?」 「い、一応だと!居候三号め!私は体育教師であって国語教師では無いじゃんよー!」 プルタブを開ける音がして黄泉川の持つ350mlのアルミ缶から白い泡が吹き出る。透明なテーブルの上には大量の酒。缶ビールをはじめ、 チューハイ、ワイン、ウイスキー、吟醸、泡盛、梅酒などなど。とにかく所狭しとアルコールが広げられていた。 「ど、どこから?洋酒は確かに部屋に置いてあったけど」 「戸棚の中にぎッしりとあンだよ」 黄泉川と向かい合う芳川もなんだか梅酒をグラスに注いでちびちびと口に運んでいた。 「オイ、駄目人間1号2号……未成年の人間が3人も居る上にまだ日も高いうちから酒盛り始めンじャねェよ。酒臭ェだろうが!」 「若いうちから細かい事気にするなじゃん!それにもう一人来る予定だし、今日の黄泉川せんせーのお仕事は昼まで。 後は野となれ山となれじゃんよー」 「淡希、淡希ッ。ミサカもあれ飲んでみたい!ってミサカはミサカは好奇心全開で要求してみたり」 おいしそうにグラスやら缶やらを傾ける大人の女性ズを横目で見て、興味を抱いたのか打ち止め(ラストオーダー) の期待に満ちた 視線が結標を真下から打ち抜く。正直幼女の要求を叶えてあげてもいい、と頭に過ぎったが、すんでのところで理性が歯止めを 掛けてくれた。未成年の飲酒は法律で禁止されています。 「打ち止め(ラストオーダー)そんなの駄目に決まってるでしょう!?お酒ばっかり飲んでると駄目人間になっちゃうわよ?」 結標の細い指が指し示すのは隣で呆れた顔をする学園最強。幼女が縦に握った右拳を左手に打ち付けるとなんだか可愛い音がした。 「淡希……それはどういう意味だ?随分と楽しそうだな、ヲイ。俺も酒は飲まねェンだが。その顔を見る限り聞く耳持ッてやがらねェな。 あとクソガキ!間髪入れずに納得すンじャねェよ!なンだ、その、ポン☆、ッてのは」 激しく語気を荒げる一方通行に打ち止め(ラストオーダー) が「えへへ」と可愛らしく頭を掻くので結標も真似して「えへへ」を敢行してみる。 「チッ!」 効果は抜群だ。やたらとあからさまな舌打ちだけを残し、オーバーレブ寸前まで達していた一方通行の戦意は見事に殺(そ)がれた。 「「イエーイ☆」」 パチンと小気味の良い音をさせ、ハイタッチをする結標&打ち止め(ラストオーダー)。傍目からは仲の良い姉妹か親子のように見える。 まあそれでもお酒に対する興味は少しも薄れないようで駄々っ子モードを駆使して幼女はお酒を要求してきた。 「淡希っち、なんだか打ち止め(ラストオーダー) のお姉さんかお母さんみたいじゃん。よし、私が許す。チューハイなら一口ぐらい 飲んでも平気じゃんよー。パスッ」 黄泉川はそう言うと緑のラベルのアルミ缶を一個投げてよこした。結標はライムの絵が書かれた350ml缶を受け取ってプルタブに 爪を掛ける。軽い抵抗と共に空気が漏れる音がした。 「あの、私も未成年なんですけどね……聞いてないですね、そうですね。いいです飲みますから。飲めばいいんでしょう。 この部屋では私に選択権って無いのね。それにしても、なんだか爪が割れそうで恐いのよね、プルタブって」 アルコールなんてクリスマスのシャンパンぐらいしか飲んだこと無かったが軽く口をつけてみると口当たりはそう悪くなかった。 アルミ缶を両手で持ってクピクピと呷る結標の膝の上では、お姫様がその様子を見て口を尖がらせていた。 「あー、ミサカもソレが飲みたーい!飲みたい、飲みたい、飲みたい!淡希の馬鹿ー! 淡希の怪我はもう治ってるのよ!淡希の意気地なし!ミサカはミサカは反旗を翻して振り返らずに走り去ってみたりしてみる。ちらり」 ジタバタと結標の膝の上では幼女がご乱心だ。さっきまでの上機嫌はどこへやら、一転して駄々っ子と化した。打ち止め(ラストオーダー) は ひとしきり暴れた後に結標の膝から飛び降りて、部屋の隅っこの観葉植物の陰に隠れてしまった。拗ねてるみたいだ。 「打ち止め(ラストオーダー) ……。最後の方、意味がわからないんだけど、とりあえず……こうしてやるっ!」 結標は左手の人差し指で対象を指定。一瞬の後、観葉植物の陰から幼女の姿が虚空に消えた。 「ひゃあ、びっくりした。う、あひゃははははは、淡希ちょっと、それは、ぐひょい、くるしいかも、ってミサカはミサカはぁぁぁ――」 観葉植物に隠れていた打ち止め(ラストオーダー) を座標移動(ムーブポイント)で再び膝の上に持ってきて左手で柔らかい脇腹をくすぐる結標。 たちまち陥落する幼女。笑い疲れた幼女は荒い息をついてぐったりと手足を投げ出している。とりあえずこれでお酒の件は解決した。 結標は隣に座る一方通行の方をチラリと覗いてみた。一言で言うならぶっきらぼうな表情。 けだるそうな視線で結標と打ち止め(ラストオーダー)を眺めている。何か私の顔についてるのかしら?と結標は思わず勘繰ってしまう。 「淡希っちに焼き餅なのか?それとも打ち止め(ラストオーダー) に焼き餅なのかはっきりするじゃんよー!」 「寝てろ酔ッ払い」 空き缶、空き瓶を量産する黄泉川の言葉に一方通行は打てば響く反応で返した。 その『酔っ払い』という括りには自分も含まれてるのだろうか?と思ったが、ほどよく体を回ってきた酔いが結標の思考を妨げる。 自分の顔に仄かな熱を感じたが結標はそれをアルコールのせいにする事にした。 1人分スペースの開いた3人掛けのソファーの片隅では、綺麗に畳まれた紺色の上着の上で携帯電話が静かに震えていた。 [12月23日―PM14 00]
https://w.atwiki.jp/deruta_sanbaka/pages/36.html
全「「「「「え?、野球?」」」」 黄泉川「そうじゃん。今度学園都市の能力者紹介で実際に能力使って野球してるところを撮るから、みんな参加するじゃん♪」 当麻「で、メンバーは?」 黄泉川「上条、一方通行、垣根、御坂、麦野、削板、浜面、土御門、白雪、青髪、吹寄、紫木、月詠、井ノ原姉弟、白井、海原、結標、絹旗、佐天、服部、郭じゃん。」 美琴「またえらい多いわね(しかもレベル5が5人か・・・)」 浜面「まあ、本格的な人数だな」 滝壺「大丈夫、この中でもはまづらは活躍できる。そのために私も応援に行く。」 打ち止め「ミサカもあなたを応援する!ってミサカはミサカは意思表示してみたり!」 番外個体「ミサカも面白そうだから行ってあげるよ」 一方通行「余計だァ」 黄泉川「それじゃあ、キャプテンは上条。作戦参謀は土御門じゃんよ。」 土御門「ちょっと待ってくれ黄泉川センセ、相手チームを教えてくれないと作戦の立てようがないんだぜい」 黄泉川「無理じゃんよ、ベストメンバーならいい勝負できるはずじゃん。」 白雪「この面子でベストメンバーでいい勝負って相当だよ!?」 黄泉川「じゃ、頑張るじゃんよ」 ―――――――――― 上条 土御門「「と、言う訳で、ベストメンバー組んでみました(ニャー)」」 そのベストメンバーとは・・・ スターティングメンバー 打順 守備位置 名前 背番号 1番 センター 一方通行 1 2番 サード 御坂美琴 3 3番 ショート 上条当麻 10 4番 レフト 井ノ原真夜 21 5番 指名打者 井ノ原真昼 22 6番 ライト 削板軍覇 7 7番 セカンド 浜面仕上 8 8番 ファースト 垣根提督 2 9番 キャッチャー土御門元春 9 ピッチャー 白雪月夜 11 ベンチ入りメンバー 登録守備位置 名前 背番号 ピッチャー 麦野沈利 12 吹寄制理 13 海原光貴 14 絹旗最愛 15 郭 16 キャッチャー 紫木友 23 内野手 青髪ピアス 24 月詠翔太 25 佐天涙子 26 外野手 白井黒子 27 結標淡希 28 服部半蔵 29 土御門「ちなみに、当日は初春が実況を務めることになってるにゃー」 一通 「なンで俺が1番なンだよォ!?」 上条 「ベクトル変換で早く動けるだろ、守備中もできるだけチョーカー切っとけば節約できるし」 美琴 「で、なんで私が2番?言っとくけど送りはしないわよ?」 土御門「これはカミやんの要望だぜい」 上条 「だって美琴と並びたかったんだもん」 「で、俺が3番ショート、これは今言った美琴と並びたかったのが1番の理由」 真夜 「で、俺が4番・・・ってのは能力使えるからか?」 土御門「そうだにゃー、ついでに5番に姉がいるのも身体能力がすごいからだにゃー」 真昼 「ふーん」 上条 「6番、7番、8番は実力順だ。」 垣根 「ちょっと待てー!!、何でレベル0が俺より上位なんだよ!」 土御門「経験豊富だから」 浜面 「実際は実力でも経験でも向こうが上だろうけどな・・・」 土御門「で、キャッチャーは俺、先発は月夜だぜい」 白雪 「私自信ないよー」 土御門「大丈夫だぜい、そのために俺がキャッチャーなんだからにゃー」 ベンチ全員「「「「「「「なんで俺(私)がベンチなんだ!」」」」」」」 土御門「スタメンがもっと強いからだにゃー」 上条「じゃあこれで行くぞ!」 全員「「「「「「「「「「おー!!」」」」」」」」」」 ―――――――――― 小萌「うまくいっているようでよかったのですよー」 黄泉川「まあ、当日まで時間あるから明日から練習させるじゃん」 こうして科学サイドはスタートしたのであった。 ――――――――――
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/939.html
『実はこの遊園地、今ちょっと目線のおかしい男が人質を取って立てこもり中なのって ミサカはミサカは特ダネを披露してみる』 「お前、そんな所にいてよく無事じゃん?」 『ミサカの居る所は、犯人が立てこもってる観覧車からは見えないのってミサカはミサカは解説してみたり』 『でね、人質にされてるのはツクヨミなのってミサカはミサカは衝撃の事実を暴露してみる!』 「うえええええぇぇぇぇぇぇ!?」 犯人はよりにもよって本物の幼女を差し置いて、幼女っぽいアラサーを人質に選んだらしい。 とにかく驚いてばかりはいられない。 黄泉川と上条は早速現場へ急行した。 「ところでお前、何で遊園地なんかにいるじゃん? 私を探しに出掛けたって聞いたけど」 『えっ……あの、ヨミカワを探してうろうろしてたら、ツクヨミに声を掛けられて……』 「ったく、家族の心配より遊ぶ方が大事かね」 『あ、あはは……実はヨミカワの気配を遊園地に感じて……っていうのはダメ? ってミサカはミサカは言い訳用スマイルを発動してみるんだけど……』 「電話だから見えないじゃん」 移動中も、黄泉川は打ち止めと連絡を取り続けていた。 園内の様子を詳しく聞くためだ。 犯人は観覧車から敷地内への出入り口をすべて見張っており、 警備員もうかつに入り込めない状況なのだという。 「先生は大丈夫なのか?」 上条が訪ねると、打ち止めは電話越しに緊張した声を出した。 『犯人と一緒のボックスに閉じ込められて、すごく怯えてるよってミサカはミサカは報告してみる。 でも取り乱したりはしてないかも。さすがは良く出来たオトナだよね』 見た目は幼女だが先生はすごいのですよ。 「とにかくすぐに行くから、絶対に目立つ行動はするな」 黄泉川の言葉に、打ち止めは素直に「うん」とだけ応えた。 『そ、そうだ、犯人の特徴はね……』 何か話していないと不安なのか、打ち止めはひっきりなしにまくしたてている。 犯人に聞こえるわけでもないのだし、その場から動かないでいてくれるならありがたい。 上条と黄泉川は適当に相槌を打ちながら聞いてやった。 『ええっと、すごくひょろ長い感じで……』 『目つきがもう、怪しくて……』 『何か、板みたいなのを大事そうに抱えてるかもってミサカはミサカは説明してみる』 車を運転しながら、黄泉川はそれを頭に叩き込んでいるようだった。 上条はその横で、妙な感覚に襲われていた。 「……なんか、聞いたことあるというか、見たことあるというか……」 『あ、今窓から顔突き出して、拡声器で何か喋ってるかも!』 『すべてはエンゼル様の仰せのとおりにィィィ――――ッ!!!! ……だって』 「……」 黄泉川と上条は押し黙った。 黄泉川の方は、犯人の異常性に警戒したからである。 そして上条の方は、 「おっやぁー……? なんだか、すさまじく聞き覚えがあるぞー……」 頭を抱えていた。 「火野紳作!? 外で何十人って殺した奴じゃん!?」 「聞いた限り、そうなんだよな……」 「でもここは学園都市じゃん。どうやって入ったんだ」 「あいつは、エンゼル様の啓示があれば何でもやってのけちゃう奴みたいだからな」 「そもそも逮捕されてるはずじゃん……」 「あいつは、エンゼル様の啓示があれば何でもやってのけちゃう奴みたいだからな」 「なにそれこわい」 話しながら、第六学区に辿り着く。 辺りには異様な雰囲気が漂っていた。 緊張感。 遊園地のマスコットの大きな縫いぐるみが、にっこり笑いながら正門で手招きしている。 本来ならかわいらしいはずのそれが、妙に不気味に見えるほどだった。 「打ち止め。そっちはどんな様子だ」 黄泉川が受話器に向かって声を掛けると、打ち止めは呆けたような声で応答した。 『なんだか、もう大丈夫かもってミサカはミサカは推察してみる』 「は? なんで?」 『ヒーローが現れたから」 園内は静まり返っていた。 時々、興奮した犯人が拡声器で何か怒鳴り散らす以外、誰も口をきこうとしない。 人質の、ピンクの髪のかわいらしい少女は、きゅっと口元を結んで耐えているようだった。 勇敢にも彼女は犯人に幾度か話しかけ、犯行を思いとどまらせようと説得していたが、 それも徒労に終わっていた。 あの少女は、駄目かもしれない。 園内の人々は、最悪の結末を思い浮かべては頭を振る。 そんな悲劇が起こってもいいのか。 誰か、あの子を助けてやってくれ。 正義のヒーロー。 そこへ。 皆の祈りが通じたのか、1つの人影が現れた。 観覧車の正面に対峙するジェットコースター。 その一番高い山場の上に、彼は現れた。 バサリ、と。 上着の裾をマントのようにはためかせて。 まるで、アニメのように。映画のように。 ヒーローはそこにいた。 「少女を人質にして観覧車に引きこもりだと……?」 違う、引きこもりじゃない。立てこもりだ。 しかしヒーローの放つ圧倒的なオーラは揺るがない。 「汚い真似しやがって! オレがその曲がった根性、叩き直してやる!」 削板軍覇。 学園都市ナンバーセブンの超能力者である。
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/1190.html
【種別】 人名 【初出】 十五巻 苗字と出自はSS二巻 【CV】 阿座上 洋平(ゲーム『幻想収束』) 【解説】 浜面仕上の友人の少年。 駒場、浜面達と共にスキルアウトに所属していた。 スキルアウトが万全だったころは計画担当。 性格は軽めで、 「タマいっぱい出たほうが強くて格好よくね?」 という理由で、デカいマグナムを改造して三点バーストを付けたこともある。 また、一月の第三金曜日に駒場・浜面と3人まとめて黄泉川愛穂に捕まった際に、黄泉川に恋してしまっている。 食に関しては庶民派の和風家庭料理を好む傾向がある。郭には 「まあ、中華料理屋でフツーの野菜炒めを頼むような方ですからね」 浜面には 「焼肉屋で煮魚を頼むようなヤツだし」 等と言われており、個室サロンでも薩摩揚げを注文している。 その正体は今は凋落した忍者の末裔である服部家の子孫で、 超有名な忍者である『服部半蔵』の名を継ぐもの。 もちろん忍びとしての技術も習得しており、『打ち根』の扱いをはじめとする超一流の戦闘技術を持つ。 『新入生』との戦いでは、長銃身大反動のメタルイーターM5を狭い室内で取り回し、正確な射撃を行ってみせた。 忍者らしく隠密行動にも長けており、人混みに紛れる事に関しては天才的な腕を持っている。 また、潜伏・逃亡用に常に複数の隠れ家や移動手段・身分を用意しており、特に隠れ家を増やすことは趣味となっている。 情報収集に関しては携帯電話を利用した警備員の無線傍受、MAVを使った航空偵察等最新のものを使う。 無論、携帯電話にはダミーのSIMを複数用意し、MAVも特別な材料を使わないなど足がつかないよう注意を配っている。 忍者としての生き方から、「最初の一撃で確実に敵を殺せる戦闘以外は一切参加しない」というポリシーを持つ。 とはいえ、フレメアの件ではそのポリシーに反する行動を取っており、非情になりきれない所も。 また、その出自から忍者組織の再興を目指す郭に半年近く付きまとわれている。 十五巻では空き巣家業のチンピラに絡まれていた浜面を助け、護身用の武器にとレディースの小型拳銃を渡した。 そのしばらく後、レベル5『原子崩し』を撃破した浜面のもとへ向かい、スキルアウトに戻るように誘うが浜面は拒否。 「スキルアウトはしばらく自分がまとめておくから、いつか必ず戻って来い」と告げてその場を去った。 新約一巻。フレメアの命を狙う『新入生』からフレメアを匿っていたが、補足され絶体絶命のところを浜面に救われる。 その後フレメアが拉致された際には、MAVを利用した航空偵察で浜面らをサポート。 郭の隠れ家ではメタルイーターM5を始めとする各種銃器を扱い、浜面ら共にフレメアを守るため奮戦した。 以降もちょい役で度々登場しているが、目立った活躍はない。 オペレーション・ハンドカフス時には、検挙を避けて郭と共に水面下に潜ろうとしていた。 『超電磁砲』では電撃大王の連載分にて登場していたが、単行本で削られた。 (担当編集曰く、冬川氏が収録を望まなかったからだとか) 【余談】 アニメ『禁書目録III』では出番がカットされたが、 漫画版『禁書目録』では原作同様登場している。