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美琴は油断していたのかもしれない。 いや、油断していた。 コンクリートの煙幕を張ってからしばらく少女からの攻撃が無かったこと、 そして黒子が警備員達を下げることに成功して戻って来たこと。 少女からは本当に見えていないと思っていた、黒子と2人なら大丈夫だと思っていた。 黒子が空へテレポートして、煙幕の先にいる少女を確認後、少女の元へテレポートして確保。 完璧な計画。 少女が本当に手も足も出ない状況だと思い込んでいたのだから。 だからこそ思いもしなかった 無数の電撃が美琴達に向かってくるとは。 「お姉さま!」 「え──あっ!」 電撃を放って打ち消すが間に合わない。数が多すぎる。 黒子は電撃に対して為す術無く、テレポートで避けるしかできない。 いつも美琴が遊びで放っている電撃とは違う。当たれば無傷では済まない。 美琴も電撃を放っては打ち消し、横をすり抜けた電撃には追撃するように電撃を放ちなんとかやり過ごす。 しかし、次々と放たれる大量の電撃。 彼女にここまでの能力は使えるはずが… は─と美琴はあることに気付いた。 煙幕として放ったコンクリートの粉。 それらの摩擦電気を利用して、威力は小さいながらも大量の電撃を放つ。 なぜ電撃使いの頂点に立つ自分がこんな簡単なことに気付かなかったのだろう、 もし自分が同じように煙幕を張られていたら利用していたに違いないのに。 後悔したところですでに遅い。 間髪無く電撃は放たれているのだ、今は後悔よりも先にすることがある。 目の前の電撃を打ち消し、時には身体を捻って避けた電撃を追撃する。 秘策を返された悔しさからか、次第に焦りと苛立ちが出てくる。 「あー!もう!」 ふと、電撃の嵐が止まった。 相手の次の手を考え、攻撃の間隔を掴み、その間隔に合わせて電撃を放っていた美琴は拍子抜けする。 立ち相撲で相手を勢い良く押そうとしたが、相手が手を引いて空回りしたように、美琴の力は一瞬ふっと行き場を失う。 その瞬間、またも無数の電撃が向かってきた。 空回りをした状態から元に戻るのには時間を要する。 電撃の準備が完了した時、既に美琴の目の前に光があった。 「──」 間一髪で黒子がテレポートで現れ、横から突き飛ばしてくれた。 黒子と一緒に倒れこむ、痛いなんて言っている暇は無い。 倒れたままの体勢で電撃を放ち、次々と撃墜していく。 だが、最後の1つだけが追いつかなかった。 よりによって、一番大きな電撃だなんて。 「あ……」 既に彼方にある青白い光は、ある所で四方に弾けた。 きっとそこは… 考えたくも無かった。 「くっ─」 悔しさのあまり道路に拳を叩きつける。 痛みが走り、血が滲み出るが今はどうでもよかった。 「お姉さま!能力者が!」 黒子に呼ばれてはっと意識を戻す。 まだ戦いは終わってはいない。とにかく少女を─ と振り返ると、少女が力無く倒れる瞬間だった。 警戒しながらも近寄ると、少女は気を失っているようだった。 呼吸は浅く早い。 じっとりとした汗で前髪が額に貼りついているのを見ると、少女がいかに無理を「させられた」のかがわかる。 「黒子!アンチスキルの本隊までお願い!」 この少女の容態も気になるが、なにより気になるのはさっきの電撃。 「お安い御用ですの!」 美琴と少女の肩に黒子が触れる。 程無くして3人は消えた。 荒れたビル街に静けさが走る。 背の高いビルに人影が一つ。 手にはゲームのコントローラーのような物が握られていて、口元の端は釣り上がっていた。 時間が止まった。 という表現が正しいだろうか。 黄泉川達の後ろから青白い光が迫った瞬間、誰もが息をのんだ。 そして迫る強烈な光に、目を塞いだ。 ――おかしい、何ともない… 不思議に思いながら黄泉川はゆっくりと目を開く。 まず目に入ったのは静けさから変わって、騒然とした本隊。 眩しさのため、光の方向から顔を背けたようだ。 本隊の隊員達も、黄泉川と同じことを思っているのだろう、 自分の身体を動かしたり怪訝な表情で見ている者ばかりだ。 ふと、ある一角がどこかを指差しながらざわめいている。 周りの隊員達もそれにつられて、つられて、黄泉川もつられてそちらを見た。 だが、すぐ目の前に人影があり、黄泉川は思わず顔だけ後ろにずらす。 少し顔を離して見ると徐々に焦点があってくる、 その人影は右手を突き出した状態で立っていた。 「─上条!」 なぜこの名前が出たのかわからない。 その人影は、自分達に背を向けていて表情はおろか横顔も見えないのに… それでも、反射的に出た言葉は間違ってはいなかった。 「あ…えと、大丈夫ですか?黄泉川先生…」 「お前…いったい…」 この場にいる全ての警備員が上条に注目し、上条の返答を待った。 妙な静けさが漂う。 「えっと…詳しいことは後ほどお話します! とにかく、お願いがあります。 今ここで起きたことを、他に漏らさないでください!」 ざわざわと、隊員達が静かに騒ぎ出す。 上条の頼みが通じたかどうかはわからないが、しばらくすると隊員達は各々の仕事に戻りだした。 上条の近くにも、才郷を運ぶための担架が持って来られる。 「あとは頼んだじゃん」 黄泉川は担架が遠ざかって行くのをしばらく見て、上条に向き直った。 「とにかく、車のほうに戻るじゃん」 車はちょうど本隊の真ん中あたりになっていて、そこに行くまでに多くの隊員達が慌ただしく動いていた。 しかし上条が通ると、仕事の手を止めて声をかけてくる。 「さっきのどうやったんだ?すげーよ!」 「それなんて能力だ?聞いたことないぜ」 「上条だっけ?高校生なのに臨時で雇われた理由がわかったよ」 労いの言葉の中を、上条は会釈しながら歩いて行く。 車まで戻ると、黄泉川はまずカーラジオの下に付けてある無線機のマイクに手を伸ばした。 「本部、こちら黄泉川。 本隊にいる隊員全部に向けて、今この場で起こったことの口止めを頼むじゃん」 本部からの応答はなかったが、しばらくしてその旨を伝える命令が上条の無線機からも聞こえた。 「それで、その右手はどういうことじゃん? お前、無能力者じゃないのか?」 黄泉川が車のボンネットに手を付きながら訪ねてくる。 表情は険しいが、上条の右手をまじまじと見つめている。 「俺は無能力者です… それでも、この右手は能力者の能力を打ち消すことができます」 上条は握りしめた右手を見つめる。 「俺はこれを幻想殺しと呼んでいます」 「幻想殺し…ねぇ…」 黄泉川は腕を組んで俯きながら考え込む。 今日まで無理矢理に自分を納得させてきた。 上層部が選んだのが、なぜウチの学校だったのか、なぜ無能力者なのか、なぜ彼だったのか。 いろいろな仮説を組み立ててきた。 新米警備員に対して自分の研修が悪いからそのための訓練とか、 上条が実は超問題児でその戒めとか、 その逆で実は超重要人物で警備員の保護下に置くためとか。 その仮説が無駄になると共に全ての疑問が解けた。 結局、上層部は上条を道具としてしか見ていなかった。 「それで、お前がアンチスキルの話が持ちかけられた時に、上層部の企みも分かっていたのか?」 「えぇ…まぁ薄々は… そうでないと、俺が呼ばれる筈も無いですし」 バツが悪そうに頬を掻く上条。 黄泉川は小さく溜め息をついて 「小萌先生は、その能力を知っているのか?」 「はい…」 とは言っても上条自身は小萌が右手について知った時を体験していない。 あくまで人に聞いた話だ。 「そうか…」 もしかしたら、おでん屋で小萌の言った言葉 『黄泉川先生がいるので安心なのです!』 この事件に限って言ったのではなく、上層部の企みも見越して言ったのかもしれない。 上層部は本当にこの能力者暴走事件を早急に解決したくて上条を呼び込んだのか、それとももっと裏の計画があるのか。 黄泉川には分からない。分かるはずもない。 自分は本当にこの上条当麻を守ることができるのか。 逆ではないか、ついさっき電撃から守られたのはどこのどいつだ。 己の無力さを実感しながら、黄泉川はバンとボンネットに両手を付いた。 「くそっ!」 黄泉川の行動に、怒らせてしまったのかと焦る上条だが、表情を見るかぎりそうは思えない。 「あ、あの…黄泉川先生」 恐る恐る声を掛けると、黄泉川は俯いたままだったが視線を自分へ向けてくれた。 「そんなに自分を責めないでください。むしろ責められるのは俺のほうです。 わざわざ隠すようなことをして、すいませんでした。 隠すつもりは無かったのですが、言うタイミングが無くて… 最初から言っていれば黄泉川先生が悩むことなんて無かったのに…」 黄泉川と同じように俯く上条。 黄泉川はしばらく横目でそれを見ていたが 「っぷ…はははっ!」 突然笑い出した。 「な、なんですか! 今のシリアスな場面じゃなかったんでせうか!?」 「いやっ!はははっ悪い! お前でもそんな顔するんだなって…はははっ!」 「どういうことですか! 俺にはシリアスキャラは似合わないってことですか!?」 「うん」 「即答!?ふ…不幸だ…」 案外その空気に溶け込んでいた上条は心の底から思った。 「冗談…かな。 とにかくお前はいつも明るくしていればいい。そうやって悩まなくていいじゃん」 「そ、そうですか…」 なんだか無理矢理納得させられた感じだが、何だか少し傷ついた上条にはどうでも良かった。 とにかく自分が元気ならいいのだろう。そう言い聞かせる。 「あー…なんか笑ったら難しく考えるのも馬鹿らしくなってきた。 いや、どうでも良いってわけじゃ無いじゃん」 わかってますよ、と上条が薄く笑うと、 黄泉川はボンネットに座って小さな溜め息と共に鼻で笑う。 どうやら今日は部屋を片付けなくていいようだ。 「ジャッジメントが戻ってきたぞ!」 黄泉川に促されて上条も車のボンネットに腰掛けた頃、本隊の誰かが叫んだ。 急いでヘルメットを深く被り、下ろしていたフェイスマスクを鼻まで上げる。 救護班が慌ただしく動き始め、その中で2人の少女が心配そうに救護用のストレッチャーを見つめている。 自分を見るときは闘争心をあらわにする瞳も、今は不安の色でいっぱいだ。 しかし、救護車がストレッチャーを乗せて走りだすと、美琴は周りの隊員達に立てつくような勢いで話しかけた。 文句を言っているわけでは無いようで、隊員が美琴の威圧感に押されながらも何かを答えると、美琴はすんなりと下がった。 しかし美琴は次々と隊員達に話しかけていく、美琴ほどの勢いは無いものの黒子も何やら隊員に話を聞いていた。 もちろん手当たり次第に聞いて回っているわけで、自然と上条達の所にも美琴が向かってくる。 一瞬席を外そうとしたが、それも不自然だし1人でいるときに話しかけられたら声で完全にバレてしまう。 それなら質問には黄泉川に全部答えてもらって、自分は黙っているのが吉だろう。 そう考えているうちに美琴は目の前に立っていた。 その表情は不安からなのか少し強張っていた。 「お手柄じゃん御坂美琴」 黄泉川が笑いながら言う。 「え、あ…どうして」 「常盤台の超電磁砲…教師の中では知らない奴のほうが少ないじゃん。 今回はありがとう、君のおかげで事件を早急かつ安全に解決できたじゃん」 「あ…いえ、私は何もやってないです。 あの能力者だって、勝手に気を失っただけで…」 もじもじしながら、フラフラと彷徨う美琴の手が真っ赤になっているのに上条は気付く。 手だけではない、いつも綺麗な制服もボロボロに傷んでいて、ところどころ赤く滲んでいる。 (御坂…) そして思わず。 ──ぱしり、と。 「え?」 手を取ってしまった。 さっきから一言も話さないうえに、この行動だ。 美琴のほうは怪訝な表情で上条を見つめる。 「あ、あの…」 手当を、の一言を発せばそれでおさまる。 しかしそれをする訳にはいかなかった。 自分の行動に後悔しつつ、上条は黄泉川へ視線をおくる。 「これは…酷い傷じゃん。すぐ救護班に見てもらったほうがいい」 黄泉川も美琴の怪我に少し驚きながら言う。 「い、いえ…大したこと無いので…」 美琴自身、悔し紛れに地面殴って怪我しましたなんて言えない。 「あの!それより、こっちに電撃が一つ飛んできた筈なんですが…」 それをさっきから隊員達に聞いていたのか、と2人は納得する。 「それをさっきから聞いて回ってるじゃん?」 「はい…でも、皆さんよく見ていなかったとしか答えてくれなくて…」 「私たちだってよく分からないじゃん。眩しくて目を逸らしたら、電撃が消えていた」 「そう…ですか…」 本当にがっかりしたように、美琴は肩を落とす。 「とにかくまずは手当てじゃん。おい!救護班!」 黄泉川が呼ぶと、赤十字の腕章を付けた隊員が来た。 事情を説明すると、隊員は美琴に手当てをするため、救護車のほうへ向かうように言う。 「あの、ありがとうございました」 美琴は黄泉川達に一礼して救護車へ向かうが、しばらくは上条から視線を外さなかった。 美琴が救護車に入ったのを見届けると、2人は車に乗った。 「上条…」 「はい…」 黄泉川の真剣な声色に、上条は背筋を伸ばす。 叱られるだろうか、そう思ったが黄泉川は予想外に明るくなり。 「お前って以外と大胆じゃん」 「はぁ…?」 「いやぁ、バレるかもしれないってのにあんなに気遣っちゃって。いや、悪いことじゃないじゃん」 クスクスと笑う黄泉川に上条は嫌悪の視線を向けるが、黄泉川は気に留めず車を発進させる。 「さ、一旦支部に戻るじゃん」 流れる風景を眺めながら上条は物思いに更ける。 美琴の手を取った時、正直怒鳴ってやりたかった。 どうしてこんな無理をしたんだよ、と。 そんな心配が混じった怒りと共に、全く別の怒りも湧いた。 前者は無茶をした美琴に対して、後者は何もできなかった自分に対して。 何もできなかったわけではない、確かに自分の右手のおかげで警備員本隊は損害を受けずに済んだ。 (それでも、俺がのんびり待機してる間に御坂は…) 無力な自分のせいで美琴が怪我をしたことへの絶望。 それでも自分の正体が明かせない、自分が行っても戦力にはならなかったかもしれないという合理化。 戦うことのできる美琴への憧れと嫉妬。 そして珍しくそんな感情を抱いた自分への嫌悪。 はぁ─と、身体の底からの溜め息。 いろいろな感情が混ざりに混ざって、さっきの行動、そして今の憂鬱に繋がっていた。 「あと包帯巻くので、ちょっと取ってきますね」 「はい…」 警備員の救護車の中で、美琴は手当てを受けながらさっきの事を思い出す。 (さっきの人…) 勢いよく握られたが何故か優しさを感じた。 自分を見る瞳は澄んでいて綺麗だったが、そこには不安と動揺が見られた。 そして、 (初めて会った感じじゃない…) なんとなくだが、そう感じた。 とは言え、相手は警備員。 つまり教師になるのだが、思い当たる教師はいない。 (ってか、常盤台でアンチスキルの先生なんていたっけ?) ぼんやりと考えているとさっきの警備員の顔が出てくる。 フェイスマスクはしていたが、整った顔つきをしていた。 自分をしっかりと見つめた澄んだ瞳。 (って!私ったら何考えているのよ!相手は教師なんだから) ぶんぶんと頭を振って心を落ち着かせる。 生徒と教師、それだけで何か不穏な響きがする、何より自分には意中の人が… ぼん─ という効果音が似合いそうなほど、美琴は一瞬で顔を真っ赤にする。 (って!何でアイツのこと考えるのよ!私のばかぁっ) ぶんぶんと、さっきと違い顔を真っ赤にしながら、横に振る速度も早い。 御坂美琴、いつもより多く回しております。 包帯を取ってきてくれた救護の隊員も、苦笑いしながら美琴を眺めている。 (あれ?) と、美琴はあることに気付いて静止する。 隊員はここぞと言わんばかりに美琴の元へ寄り手早く包帯を巻いていく。 (そういえばあれ…) 1つだけ撃墜できなかった電撃。 それは倒れている美琴のはるか遠くで四方に散った。 (あの散り方…) ちょっとアンタ! 無視 このっ…無視すんな! うぉわっ!あぶねーだろ、ビリビリ 不思議なことだった。 今までほとんど敵無しだった自分の能力。 そのご自慢の電撃を放っても弾かれる。 無能力者のはずなのに、彼の右手に触れた瞬間、自分の自信は四方へ消え失せる。 (まさか…ね) そんな筈が無い。そう自分に言い聞かせるが、気になり始めたら気にしてしまうのが人間である。 手当てを受けていないほうの手で、ポケットから携帯電話を取り出す。 隊員に一言断りを入れて、美琴は電話を耳へやった。 (お願い…) コール音の前のピッピッピッという音がやけに長く感じる。 (お願いだから…) 音が止んだ。 コール音が来るのかと、息をのむ。 “─お掛けになった電話は、現在電波の届かない所にあるか───” はぁ─と小さく息を吐き、肩を落とした。 ゆっくりと耳から電話を遠ざけ、鬱陶しい音声案内を切る。 「お願いだから、置いてかないでよ…」 救護車の天井を見ながら、美琴は小さく呟いた。
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12月中旬の友愛高校職員室、上条の担任でもある月詠小萌はため息をついていた。 彼女が見ているものは自分のクラスの成績表で、ある1人の生徒のものだった。 「どうしたじゃんよ月詠センセ。ため息なんかついちゃって」 「黄泉川先生。実はですね、ある生徒の成績に関してなんですけど」 「あー、上条ですか」 上条ちゃんなら悪くて普通ですから悩まないですよ、本人が聞いたら泣きながら走り出しそうなことをさらっと言う小萌。 黄泉川は上条を不憫に思いつつも小萌の視線の先にある1人の生徒の成績を見て納得する。 「井ノ原弟じゃん。確かにそれなら月詠センセがため息つきたくなるのも分かる気がするじゃんよ」 小萌と黄泉川が見ている井ノ原弟こと真夜のテストの成績は回を重ねるごとに緩やかに下がってきている。 それでも2学期末のテストは全科目平均点をわずかに上回っているので悪いとは言えないのだが、 「一学期の中間テストは学年トップ10に入っていたのに期末テスト、2学期の中間テストと期末テストをするたびに順位を下げているのは……」 「私はあの双子のことはそれなりに知ってるけどそんなに心配する必要も無いと思うじゃん。姉の方はともかく弟の方は」 「でも上条ちゃん達と一緒におバカなことをやってるたびに思うのです。すでに手遅れで先生はやってしまったのではないかと」 入学当初の成績を考えるとどうしても心配に思えてしまうのだ。 悩める小萌に双子を知っている黄泉川は安心させる言葉を投げかける。 「上条たちと一緒にバカやってるのは単にあいつらに合わせてるだけじゃん。弟の方の本質はそうゆうタイプ。いつかは元に戻るじゃんよ」 「そうならいいんですけどね~。せめてもう1人くらいはしっかりした生徒が先生は欲しいのですよ~」 小萌の気持ちが軽くなったことを感じ取った黄泉川は一安心した後で別の話題を切り出す。 「それより月詠センセ。3学期から新しい非常勤教師が来るって知ってるじゃん?」 「初耳です~。黄泉川先生はどんな方が来るか知ってるんですか?」 「ええまあ。前科持ちだけど危険は無いから安心するじゃん。警備員(アンチスキル)の私らがいざとなったら止めてやるじゃんよ」 警備員として優秀な教師が揃っているとはいえ前科有りの非常勤教師を想像し、不安げにこっちを見る小萌の頭を撫でる黄泉川。 時間を見つけたら真夜と久しぶりに話してみようかと考えるのだった。 ――――― 「晩飯の買い物はこれくらいでいいかな」 ちょうどその頃、小萌と黄泉川の話題に上っていた真夜は第4学区での買い物を済ませていた。 普通なら上条のような学生みたいに第7学区で買い物を済ませるのだが、彼は第7学区には住んではいない。 井ノ原ツインズは両親と一緒に第8学区にある20階建てマンションの最上階で暮らしているのだ。
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/育児日記 『へ? 好みのタイプ? ……寮の管理人のお姉さん? 』 『うるせーよ、憧れなんですよ。優しい包容力とか母性本能とか!!』 『ん? お前の姉? 確かに優しい包容力と母性本能があるのは認めるし、美人で可愛いと思うよ』 『しかし、お前の姉ちゃん短気で怖いじゃん。もう少し丸くならねーと、嫁の貰い手も見つから……あれ? どちらへ行くのかね、そんな全力疾走で?』 『ハッ!? 後方から殺気!!? お、おう、いつからいたんだい? あぁ、全部聞いてた? じゃあちゃんと褒めたのも……あ、そっちは聞いてなぎゃぶべ!!』 システム復旧率4% 空が少しずつ明るくなるころ、 上条宅に侵入者がいた。 その気配に、上条は目覚める。 はっきりしない視界に入ったのは、見知った人物だった。 「御坂……妹?」 「アナタとお姉さまに、お願いがあります……ミサカと、ミサカの妹達を助けてください、とミサカは2人が同じベッドで寝ていることに衝撃を受けながらも、目的をきちんと果たします」 うぇでぃんぐ 日曜の朝は子供アニメの独壇場だ。 最近、インデックスは物に掴まって立てるようになった。 今もソファーに掴まり立っている。 それだけではない。 テレビに映っているゲコ太が踊るリズムに合わせて、ひょこひょこしゃがんだり、立ったりを繰り返す。 上条達が「インデックスダンス」と呼ぶそれを披露している。 その横で同じタイミングで揺れる頭が2つ。 もちろん美琴と御坂妹だ。 3人とも視線がテレビに釘付け。 上条はため息を吐きながら尋ねる。 「御坂妹、お前は何しにきたんだよ? まさかわざわざゲコ太を見にきたんじゃねーだろうな?」 「違います、とミサカはもうそれでいっかなぁと妥協しつつも否定の姿勢は見せておきます」 「じゃあ、いいかげんなにすればいいか教えてくれませんか?」 テレビから目を離さず、そろそろのはずです、と彼女は呟く。 上条と美琴が疑問を感じたとき、玄関のドアが吹き飛んだ。 直したばかりなのに。 そちらに目を向けると、メチャクチャ動揺している一方通行が立っていた。 が、次の瞬間には上条とともに消えていた。 さすが上条、拉致されるプロである。 「な、なんだったの?」 「だぁ、ぱーぱ、あくーた、たゃぁう?」 「駆け落ちです、とミ「え? そ、そんな、当麻が……で、でもあまりに女性に興味を示さないし、わたしが一緒に住んでもなんにも感じてな」いやいや信じんなよ、とミサカは……マジかコイツ」 少しして上条は困っていた。 公園まで拉致されたと思ったら、 拉致した犯人は無言でうなだれたままだ。 なんなんだよ。 「どうしたんだよ? オレがここにいる理由はなんなんだい?」 どいつもこいつも説明能力が無さすぎる。 「……三下ァ」 「?」 「よ、黄泉川がよォ」 「おう」 「ぷ、プロポーズされたんだ」 「へぇ……おめでとう」 「くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけこきくかくきくこくくけくかきくこけくけくきくきこきかかか――ッ!!!!!」 「ま、まてまてまて!! 黒い翼が出てるって!! 落ち着けって!!」 公園に上条の絶叫が響いたとき、 美琴もまた、ビミョーな顔で固まっていた。 ここは、黄泉川宅である。 美琴はインデックスを抱えてソファーに座っていた。 横では10032号が無表情で紅茶を飲み、作り方が下手くそだと酷評している。 で、3人の前では面倒な展開が繰り広げられていた。 「黄泉川の結婚式はどうなるかなぁ? きっとおとぎ話のような素敵なものになると思うの、ってミサカはミサカはどうやったら新郎に毒を飲ませられるか考えながら微笑んでみる」 ちょっと待て後半。 「えー、そんな結婚式ミサカはつまんなーい。 そうだ!! 2人が式場から出た瞬間、お米を投げつけて、その恥ずかしい姿を激写してやる!!」 悪どい顔でライスシャワーの計画をたてる末の妹。 なんだこれ? 「見てわかるとおり、黄泉川さんのご結婚の話が妹達の司令塔と悪意に大きな混乱を与えています。これが他の妹達にまで派生する可能性があるのです。とミサカは説明責任を果たします」 正直なにが問題なのかわからない。 「このままでは、まったく関係のない私達が式場を戦場にしてしまうかもしれません、とミサカは実はやべぇぞと戦慄します」 あ、それはヤバイ。 美琴が納得したとき、玄関から人影が現れる 。 困った顔した上条と、暗い闇を背負った一方通行だ。 ただしその闇はコメディ色が強い。 とはいえ、こんなの相談されたところでどうすればええんや? そんなとき、救世主現る。 芳川だ。 「さぁ、アナタたち、支度しなさい」 「へ? どこか行くの? ってミサカはミサカは当然の疑問を提示してみる」 「今、愛穂が下見をしている式場よ。祝うにしろ反対するにしろ、相手の顔は見とくべきでしょ!!」 そこからの行動は早かった。 ドタバタと外出の支度を整えた一同は2台のタクシーで出発した。 冷静になって、なんで自分達も着いてきたのだろうと、今更ながら思う上条達なのだった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/育児日記
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夜9時頃・黄泉川部隊司令部――。上条と美琴がモーテルで休みを入れてから数時間後。街中を移動していたアンチスキルの装甲車の車内では、黄泉川たちが今もせわしなく動いていた。黒子「わざわざまた来て頂いて申し訳ありませんわね」佐天「いえいえー大丈夫ですよー」初春「私もジャッジメントですからね!」黒子「どうもアンチスキルの方々が、貴女がたの証言も欲しいと言うので」黒子が横に立っていた黄泉川を一瞥する。黄泉川「ん? ああ、情報は多いほうがいいじゃん? こんな夜中に呼び出したのはすまないが」佐天「気にしてないから平気ですよ全然」初春「右に同じく」黄泉川「ま、しばらくはくつろいでいてくれ」黒子「………………」そう言うと黄泉川は運転席の方へ向かっていった。黒子「ハァ……。私としては今すぐにでも捜査に向かいたいのですけれど」黒子がコーヒーを嗜みながら溜息を吐く。初春「でも焦っててもダメですよ? 現場で発見された証拠物件……DNA鑑定はまだ出ていないんでしょう?」黒子「ええ……。ですのでもどかしいな、と」佐天「そう言えば、御坂美琴って、誰かに逃亡を協力してもらってるって話本当ですか?」黒子「……そうですわね。目撃談もありますし、その可能性が高いですわ」1拍間を置き、黒子は静かに答えた。初春「何でも相手は高校生の男らしいとか」佐天「へーあんな女でもそんな相手がいるんだー」初春「白井さん、その男に心当たりあります?」黒子「…………まあ、あると言えばありますが、確証は無いので」佐天「でも男と逃げてるってことは、カップルに化けてる可能性もありますね」 初春「あ!」黒子佐天「?」何かを思い出したように初春が声を上げた。初春「カップルと言えば佐天さん、今日の昼すごいもの見ちゃいましたよねー」佐天「あ、ああ! あれか! 見た見た!」黒子「すごいもの?」佐天「そうなんです! ほら、朝白井さんやアンチスキルの人たちと現場近くに行ったじゃないですか。その後、あたしたち今日は学校休んできたし、暇だったから滅多に行けない店とか回ってたんです。で、昼頃、どっかの大きな公園で休憩でしてたんですけどー。何と! あたしたちの隣のベンチのカップルが!! 昼間だと言うのに大胆にも白昼堂々、こうやって抱き合ってたんですよー!!」と言いつつ佐天はその光景を再現しようと初春に抱きついてみる。初春「ひゃわっ! 佐天さん!?」佐天「ねーすごかったよねー初春?」初春「確かに、普段見られないものを見ちゃった気分です。でも私たちがジッと見てたら、男の人に『見るな』って怒られちゃいましたけどね」佐天「よく言うよねー。自分たちでやってるくせに。あの後逃げるようにそそくさと行っちゃったけど、女の人はどんなんだったのかなー? ずっと背中しか見えなかったから顔、確認できなかったよ」黒子「…………!」ピク初春「男の人は結構イケメンでしたね。ツンツン頭の髪の毛が残念でしたけど」黒子「!!!!!!」ガタッ佐天初春「!?」突然、黒子が立ち上がった。黒子「初春」初春「はい?」黒子「その殿方、本当に髪が尖っていたのですか?」初春「そ、そうですけど」佐天「?」急に真剣な表情を浮かべ訊ねてくる黒子に、2人は不思議そうに顔を見合わせる。黒子「その殿方が抱き締めていたという女性……歳はどれぐらいに見えましたか?」初春「え? 急にそんなこと言われても……」 佐天「あー背中しか見えなかったけど、何となくあたしたちぐらいかなーとは思ったっけな」黒子「髪は?」初春佐天「え?」黒子「女性の髪の色は?」初春「えっと確か……」佐天「帽子で隠れてたけど、茶髪っぽかったかな?」初春「そ、そうです!」2人は互いの記憶を補うように確認し合う。黒子「…………もしや」佐天「?」初春「あ、何なら男の人の似顔絵描いてみましょうか? 特徴ない顔でしたけど、髪型が強烈すぎて印象に残ってますから」そう言いながら学生鞄からノートと筆箱を取り出すと、初春は白いページにその男の似顔絵を描き始めた。それを立ったまま眺める黒子。佐天「おー画伯」初春「はい、こんな感じです。簡単に描いちゃいましたけど」1分もしないうちに初春は描き上げた。お世辞にも上手いとは言えない、子供が描いたような絵だったが、特徴は捉えていた。黒子「!!!!!!!!」バッ 初春「あっ……」黒子「やはり……」初春から紙をひったくり、まじまじと見つめる黒子。佐天「にしても初春さ、この画力なら教育番組の子供と一緒に歌えるお姉さんになれるんじゃない?」初春「それって褒めてます?」黒子「……どうやら私の予想は外れていなかったようですわね」佐天初春「え?」紙を握りつぶし、不適な笑みを浮かべる黒子。佐天初春「?」黄泉川「佐天、初春」佐天初春「は、はい?」と、そこへ黄泉川が1枚の紙を持って近付いてきた。黄泉川「DNA鑑定が出て…たった今、御坂美琴と一緒にいると思われる男の資料写真が送られてきたじゃん。お前らが昼に公園で見たカップルの男ってのは……こいつじゃなかったか?」黄泉川が紙を広げてみせた。佐天初春「!!!!!!!!!!」そこに映っていたのは、ツンツン頭の髪型をした1人の高校生だった。 某学区・郊外のモーテル――。上条「………………」そのモーテルに入ってから、大分時間が経っていた。上条は今、ベッドの上に腰掛け、引っ張ってきた机の上に地図を広げ、印をつけるなど、脱出のために必要な情報を整理していた。上条「………………」と、そんな上条の側で、規則正しくリズムを刻む、心地良さそうな寝息が1つ。上条はそちらを見る。美琴「……スー……スー……」美琴が隣のベッドで、天使のような寝顔を浮かべて眠っていた。彼女を見て上条は口元を緩める。上条「本当に……寝る時は気持ち良さそうに寝るんだな……」美琴「……ムニャ……」上条「………」フッだが、いつまでもここにいるわけにはいかない。一箇所にずっと留まっていたら危なかった。上条「おい、御坂」上条は美琴を揺する。美琴「う……ん……」上条「起きろ。そろそろ飯食って出て行かないと」美琴「……まだ……寝る……」上条「ダメだ。なるべく移動しないと。もう十分眠ったろ?」モゾモゾと美琴が布団の中で動く。しばらくすると彼女は、ゆっくりと目を開け寝ぼけ眼で上条を見てきた。 美琴「……今……何時?」上条「夜の……11時前だな」美琴「……そんなに……寝てたんだ」上条「ああ。まるで眠り姫みたいにな」美琴「もしかして……ずっと側にいてくれたの……?」布団の端を両手で持ちながら、美琴は口元から上の部分だけ顔を外に出して上条に訊ねる。上条「当たり前だろ? 約束したじゃねぇか」美琴「……そっか………」上条「お陰でお前の間抜けな寝顔を見れたけどな」美琴「……何よそれ……人の寝顔勝手に見るとか……有り得ない……」寝起きだからか、おっとりとしたような口調で愚痴る美琴。上条「お前が無防備な姿見せるのが悪いんだろ? 嫌だったら、あっちに顔向けて眠るぐらいの努力はしろ」美琴「………いじわる………」上条「はいはい、上条さんは意地悪ですよー。ってそれはいいから、そろそろ起きてくれないでしょうかねお嬢さま?」美琴「……そうね。身体、動かさなきゃ……」ゆっくりと布団をめくり、美琴は上体を起こす。上条「じゃあこのモーテルにあった売店で飯買ってきてやるから、ここにいろ。飯食ったら、出るからな?」美琴「……分かった」立ち上がり、上条は部屋を出て行った。 数分後、2人は部屋の真ん中のテーブルに腰掛け、上条が売店で買ってきたオリジナル弁当を食べていた。上条「ちょっとは疲れ、取れたか?」美琴「そうね。それで、これからどんなルートで行くの?」上条「お前が寝てる間に、色々と経路を考えてみた。取り敢えずはまず、次の学区まで歩く。この時間帯なら、アンチスキルも郊外まで巡回範囲を広げてないだろうからな」美琴「分かった」上条「まあ順調に行けば3日以内には南に着くだろう。そのためには適度な休息も必要だけどな。後は、アンチスキルの警邏にどうやったら引っ掛からないようにするか、だが……」美琴「…………何かごめんね」上条「え?」箸を休め、上条は美琴を見る。美琴「本当はそういうの、私が考えないといけないのに。あんたに任せっきりで……」上条「そんなもん関係ねーよ。俺が好きでやってんだから」美琴「でも、会ってからずっとあんたに頼ってばかりだし……。何か情けないな、学園都市第3位のくせして……」上条「それは違ーよ。こんな異常な状況下でレベル5もレベル0も関係あるか。自分を卑下するのはやめろ」美琴「……フフ」上条「?」美琴「バカね私って。あんたに説教されてばっかりで。はーもう、自分でも嫌になっちゃうくらい弱気になってるわね私」皮肉げに美琴は笑ってみせる。上条「いいんだよ、弱気になっても。人間、強がってるだけじゃ息苦しくてやってけねぇよ。だからお前も、遠慮なく俺に頼ってくれていいんだから」美琴「……フフ。ホント、あんたって面白いわよね」上条「はあ?」美琴「なんでもなーい」おかしそうに笑い、美琴は続きを食べ始めた。 主人「今度はなるべく昼に来いよー」受付の主人の声を背後に聞き、上条と美琴はモーテルを出て行く。外は、真っ暗だった。美琴「どう行くの?」上条「取り敢えずはこの道路に沿って歩く。途中、道路から外れることになるけどそれは仕方ない。まともな交通手段が無い以上、地道に歩いてくしかないしな」美琴「分かった」2人は、静かな夜道を歩く。美琴「………………」上条「………………」空には星が瞬き、優しい風が肌に当たった。美琴は背中で手を組みながら、空を見上げ上条の後ろを歩いていた。美琴「何だかこうしてると、私たちが追われてるってのも嘘みたいに思えちゃうわね」上条「ああ」美琴「ほら、星が綺麗だよ?」上条「ああ」美琴「……何その反応。素っ気無いわね」頬を膨らませる美琴。時折、道路を通り過ぎる車のヘッドライトが2人の背中を照らす。美琴「あんたにはロマンってものがないの? せっかくこんな可愛い女の子と2人だけで夜道歩いてるんだから、エスコートぐらいしたらどう?」上条「ああ」美琴「…………」イラッ上条「………………」美琴「な、な、何なら手ぐらい……つ、つ、繋いでもいいけど?////////」上条「ああ」美琴「ってちょっとは何か反応せぇやこっちが恥ずかしくなるだろうがあああ!!!!!!」バチバチッ!!上条「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!」暗い道に、青白い光が瞬いた。 上条「な、何なの御坂さん!? 急に後ろから電撃とか上条さん死んじゃうよ!?」美琴「あんたがまともな反応寄越さないからでしょ!!」上条「色々と考えてたんだよ!! 仕方ねぇだろ!?」美琴「もう!! ロマンチックの欠片も無い奴め……」グヌヌ上条「あれ?」と、上条が何かに気付き、その場を離れた。美琴「うーーーーー……ムカつく。わざとやってんのかしら?」イライラ上条「あ、これは……」美琴「大体、普通の男なら、こんな誰もいない所で女の子と2人きりになったら、耐え切れず押し倒しちゃうぐらいするんじゃないの? なのに何であいつは……って私は何言ってんのよバカぁーーーーーー///////////////」ボンッ上条「おい御坂、乗るか?」美琴「へ!? の、乗る!? の、乗るって……や、やっぱりそういう展開に//////// ……ど、どうしよう……そ、そんなのまだ心の準備が……//////////」カァ~上条「何言ってんのお前?」美琴「ふみぇっ!?」いつの間にか、上条の顔が側まで来ていたせいか、美琴は変な声を上げてしまった。上条「これ、乗るかって聞いてんだけど」美琴「え……」よく見ると、上条は1台のオートバイをどこからか引っ張ってきていた。美琴「な、何それ? バイク?」 上条「ああ。そこに落ちてた」美琴「落ちてた……って」上条「幸運にもヘルメットが2人分あったし、鍵も何故か近くに放り捨てられてたから」美琴「いや待って。あんたって免許もってんの!?」上条「いや?」美琴「は?」上条「そんな金あるわけないのに、免許なんか取ってる余裕あるわけないだろ」美琴「いやいやいや。当麻さん当麻さん、もしかしてこれはトンチですか?」上条「何だよ? 何か納得いかないことでも?」美琴「あのねー。免許も取ってないのにバイクを運転出来るわけないじゃない?」腰に手を当て、呆れたように美琴は至極当たり前のことを指摘する。上条「知ってるけど?」美琴「はぁ?」上条「まあ聞けよ。確かに免許は取ったことないけど……実はこの間、イギリスに行った時に、知り合いの魔術師の女の子に教えてもらったんだよ。今後もしかしたら役に立つかもしれない、ってな」美琴「女の子?」ピク上条「手取り足取り教えてもらったからさ、何とか運転するぐらいなら出来る。まあ、まだ心許ない面もあるけど」美琴「手取り足取りって……」 ―――美琴の妄想―――上条「うお! あ…あのI和さん? そこはハンドルじゃないと思うのですが?」 I和「ハ…ハンドルですよ? わ、私が貴方のハンドルを今から操作してみますから」上条「ちょ……やめ…あ……か、上条さんの排気口からオイルが漏れるううううううううう!!!!!!!!」 I和「えへへへ……たくさんオイル、漏れちゃいましたね……。じゃあ今度は私のタイヤで貴方のハンドルを磨いてみますね? その後は……貴方のハンドルを……私の鍵穴に……差し込んで下さい」上条「何かもう言ってることメチャクチャだけど、気持ちいいいいい!!!!!! このまま100kmオーバーいっちゃうううううううう!!!!!!!!」 ―――美琴の妄想終わり――― 美琴「ななななななななななな//////////」上条「お前……絶対何か違うこと考えてるだろ?」上条はそう言いつつ、オートバイを道路にまで引っ張っていくとシートに跨った。上条「だからさ、乗れよ御坂」美琴「ふぇ!? え? あ……ってちょっと待ってよ。本当に運転出来るの?」上条「た、多分……無免許だけど……」美琴「つか2人乗りの練習もしたわけ?」上条からヘルメットを受け取りながら、美琴は心配そうな顔で訊ねる。上条「ま、まあ……一応したから大丈夫だろ」美琴「物凄く不安なんですけど……」しかし、上条はもうヘルメットを被っている。上条「ぶっちゃけ付け焼刃なのは分かってるけどさ? 一刻でも早く南に向かうなら、足が速いバイクに乗った方がいい」ヘルメットのバイザー越しに、上条は美琴を見る。美琴「………お願いだから事故らないでよね?」少し考え込んだが、美琴は渋々承諾することにした。美琴「……こ、ここに乗ればいいんだよね?」上条「ああ」恐る恐る、美琴はバイクの後部シートに跨る。上条「もうそろそろいいか?」美琴「あ、待って……。今ヘルメット被ってる……。…っと、よしいいわ。にしてもこのメット、ブカブカなんだけど……」 上条「仕方ない。捨てられてたものなんだから」美琴「はい、OKよ」上条「いや、お前、掴まってないと落ちるぞ?」美琴「え?」振り向き、上条は自分の胸を叩いてみせる。上条「俺の身体、掴まってないと落ちるぞ、って言ってんの」美琴「えええええええっ!!!??? ちょ、な……何よそれ!!?? ま、まるで抱きついてるみたいじゃない!!??////// そ、そそそんな恥ずかしい真似しないといけないの!!!???////////」上条「おおおお俺だって恥ずかしいっつーの!////// でもどこも掴まってなかったら落ちちまうだろうが!!」美琴「むぅー……わ、分かったわよ!////// す、すればいいんでしょすれば!!////////」ダキッ!!!上条「ふぉう!?」美琴「な、何よ!?//////」上条「そ、それはさすがに抱きつきすぎ!! そ、そこまでひっつかなくていいから!!//////(って言うか、や…柔らかいものが……何か柔らかいものが背中に当たってるんすけどーーーーーー!!!!!!////////)」美琴「もう!! 難しいわね!!」上条「そ、それぐらいでいい。それぐらいで(あ、相変わらず柔らかい感触があるけど俺はこんな状態で無事運転出来るんだろうか上条さんマジ不安)」美琴「で、ま、まだ出発しないの?」上条「お、おお。頼むから振り落とされんなよ?」ようやく2人とも落ち着いたのか、上条はエンジンを吹かした。上条「行くぞー」美琴「オッケー」静かな夜に、エンジンの音が鳴り響く。1台のオートバイは、暗闇にテールランプの跡を残しつつ、若い2人を乗せて走り出していた。 その頃――。ガシャンという音を立て、黄泉川は電話を切った。黄泉川「………………」黒子「如何でしたか?」側に立っていた黒子が訊ねてくる。黄泉川「ダメじゃん。まだ現段階では、上条当麻の指名手配にまでは漕ぎ着けられないらしい」黒子「そんなっ!」黄泉川「それが本部の答えじゃん。奴らは前例の無い特例措置を嫌う。あくまで事務的に手続きを済ますことが、自分たちの保身に繋がると考えてるじゃん」黒子「………っ」黄泉川の話を聞き、黒子は苦虫を潰した顔をする。黄泉川「おまけに本部への召集命令を受けた」黒子「えっ!?」黄泉川「今から本部へ帰る。白井、お前も学生顧問として連れて行くじゃん。ただ、我々もこんな所まで来て部隊を展開したんだ。わざわざ大所帯で帰る必要はあるまい。よって私とお前、後何人かの部下と共に列車で本部へ向かうことにするじゃん」 黒子「待って下さいまし! 私はここで御坂美琴の手掛かりを追う役目が……」黄泉川「ダメじゃん。本部がお前も連れてくるよう言ってるじゃん。ここでわがままを言っていたらこれ以上無茶も出来なくなるぞ?」黒子「………チッ」黄泉川「………………」初春「あ…あの……」黄泉川「ん?」と、黒子と黄泉川の会話を黙って聞いていた初春と佐天が近付いてきた。初春「わ、私たちはどうすればいいんでしょう?」佐天「ここにいた方がいいのかな?」黄泉川「いや、お前らは明日早いだろう? 近くのビジネスホテルを手配するから、お前らはそこで寝るといいじゃん。明日の朝、私の部下にお前らを寮まで送っていかせるから、安心するじゃん」初春佐天「「分かりました」」黒子「…………………」黄泉川「そういうことじゃん白井」不服そうに黙っていた黒子の肩を、黄泉川が軽く叩く。黄泉川「用意しろ。今から列車で本部まで行くじゃん」黒子「………………」ブツブツブツ…準備を始めたのはいいものの、黒子はまた独り言を呟いていた。 ゴオオオオオという音と共に、強い風が服をバタバタと揺らす。バイザー越しに見える道路が、電灯が、対向車線の車があっという間に過ぎていく。上条「御坂」美琴「うん?」もう深夜の時間帯に達した頃、上条と美琴を乗せたバイクは、高速道路を走っていた。美琴「なーにー?」騒音の中、少し大きな声を上げ、上条に聞こえるように美琴は訊き返す。上条「眠くないか?」美琴「大丈夫よ」上条「そうか。それより見えてるか? 街の風景」美琴「え? うん」美琴は顔を横に向け、高速道路の向こうに見える街を眺める。様々な電気やネオンの色が深夜の暗闇に浮かぶ光景はとても幻想的で美しかった。美琴「綺麗………」思わず目を細め、美琴はその光景に魅入る。上条「科学科学してるけど、学園都市の夜景も捨てたもんじゃないな」美琴「そうね……」上条の背中越しに伝わる彼の声が美琴の安心感を増す。その温もりに浸かるように、美琴は少し身体を上条に近付け、彼の背中に頭をコツンと置いた。 ゴオオオオオという音と共に、強い風が服をバタバタと揺らす。バイザー越しに見える道路が、電灯が、対向車線の車があっという間に過ぎていく。上条「御坂」美琴「うん?」もう深夜の時間帯に達した頃、上条と美琴を乗せたバイクは、高速道路を走っていた。美琴「なーにー?」騒音の中、少し大きな声を上げ、上条に聞こえるように美琴は訊き返す。上条「眠くないか?」美琴「大丈夫よ」上条「そうか。それより見えてるか? 街の風景」美琴「え? うん」美琴は顔を横に向け、高速道路の向こうに見える街を眺める。様々な電気やネオンの色が深夜の暗闇に浮かぶ光景はとても幻想的で美しかった。美琴「綺麗………」思わず目を細め、美琴はその光景に魅入る。上条「科学科学してるけど、学園都市の夜景も捨てたもんじゃないな」美琴「そうね……」上条の背中越しに伝わる彼の声が美琴の安心感を増す。その温もりに浸かるように、美琴は少し身体を上条に近付け、彼の背中に頭をコツンと置いた。 上条「お、おお……。ど、どうしたんだよ急に?」動揺した上条の声が、振動するように彼の背中から聞こえてくる。美琴「何でもなーい」上条「そ、そうか……」美琴「(背中……大きいな。お父さんみたい……)」ずっと上条の身体に自分の腕を回していたためか、美琴はふと、そう思った。美琴「(何だか心地良いし……こいつの背中、こんなにたくましかったんだ)」笑みを零す美琴。確かに、上条の背中は大きくてたくましかった。でもなければ、今まで数々の修羅場を潜ってこれないだろう。そんな背中を持つ彼が、今、自身を投げ打ってでも自分のことを守ろうとしてくれる。そう思うと、美琴は嬉しさの余り笑みを零さずにはいられなかった。美琴「………………」『万年フラグ男』と呼ばれる上条が、多くの女の子とフラグを立て、彼女たちに好かれている事実は美琴も知っている。そういう甲斐性無しの部分は、直してほしかったが、逆に今、美琴はそんな上条を独り占めしていると思うと、何だか嬉しくなってしまい、つい彼の身体に回す腕に力を込めた。上条「……………、」背中越しに上条が動揺しているのがよく分かる。美琴はそんな彼の様子をおかしく思いつつ夜景を眺める。美琴「(他の女の子たちには悪いけど……今は……こんな状況になった今だけは……こいつに甘えちゃってもいいよね?)」1人、美琴は胸中に呟く。美琴「(神様お願い……。もう少し、彼と……一緒にいさせて……そして、例え私が死ぬようなことがあっても……彼だけは……助けてあげて………)」目を閉じ、美琴は上条の背中の温もりに身を浸らせた。 それから数十分後。上条「おっと……。おい、御坂」美琴「? どうしたの?」上条が前方に何かを見つけ、美琴に話しかけてきた。上条「サービスエリアだ。しばらく休んでいかないか?」美琴「え? でも……」確かに、上条の背中から前を覗いてみると、数百m先に1つのサービスエリアが見えた。上条「疲れてるだろ? お腹も減ってないか?」美琴「いいの?」上条「もちろん。その代わりお前にはまた顔を隠してもらうことになるけど……」美琴「分かった。じゃあ休んでいきましょう」上条「おう決まりだな」上条と美琴を乗せたバイクは車線を変更し、サービスエリアに入っていく。速度を減らすと、やがてバイクは駐車場で止まった。上条「だいぶ走ったな」美琴「そうね」2人はバイクから降り、ヘルメットを取る。正面には、深夜だと言うのに灯りが眩しい賑やかなサービスエリアがあった。上条「顔、隠してろ」美琴「あ、うん……」上条は美琴の帽子とマフラーを彼女の顔を覆うように被せ直してやる。上条「行こう」ギュ美琴「うん……」美琴の手を握り、上条はサービスエリアの店内に入っていった。 店内は、学校の食堂の2倍以上の広さがあり、深夜だと言うのに利用客も多かった。初め、店に入った2人は一部の人間にジロジロ見られた。が、それは別に美琴の正体がバレたわけだからではなかった。この時間帯に、明らかに高校生ぐらいの少年が1人の少女を連れてサービスエリアにいるのが珍しかったからだ。上条「こっちだ」上条は美琴を連れ、店内の端の方にある、窓ガラス側に向かい合うようにして設置された細長いテーブルに向かう。背もたれもない回転式の椅子だったが、美琴の顔をなるべく見られないようにするにはその席が1番最適だった。上条「ここで待ってろ」美琴「え? どこ行くの?」上条「安心しろ。食券買いにいくだけだ。カウンターで飯もらってくるから、その間ここで大人しく待ってろ」美琴「わ、私も行く……」上条「いや駄目だ。あまり目立った行動は控えた方がいい。ただでさえお前は追われの身なんだから。……な?」そう言って上条は美琴の頭をポン、と軽く叩いてやる。美琴「……分かった」不服そうだったが、美琴は承知したようだった。返事を聞き、上条は食券を買うべく、食券機に並んでいた客の列に加わった。美琴「………………」美琴は窓ガラス越しに、外の風景を見る。と言っても、外は真っ暗で、駐車場の向こうに高速道路が見えるだけの殺風景だったが。美琴「確かにお腹空いたかも……」そう呟き、美琴はしばらくの間、窓ガラスを見つめていた。が、彼女はこの時気付いていなかった。彼女を密かに見つめる3つ分の視線があったことに。 一方、食券機で2人分の食券を買った上条は、今度はおぼんを持ってカウンターの列に並んでいた。今もカウンターの向こうには、食欲を掻き立てられるようないくつかの湯気が立ち、おまけにそこから美味しそうな匂いが漂ってきて空腹感を刺激する。が、そんな時だった。近くに座っていたトラックドライバーたちの会話が聞こえてきた。「おい俺さ、さっき市道213号線走ってた時のことなんだけどよ」上条「!」「後ろにアンチスキルの装甲車数台つかれてマジビビったぜ」上条「…………(市道213号線……)」「おいおいお前、何の犯罪犯したんだよ?w」「違うっつーの! あれはただ偶然俺の車の後ろについただけだよ。その後、道路別れる所であいつら逆の方向行ったし」「へぇーそれいつ頃だ?」「0時前かな? ほら、あの街を出た郊外の何もない場所だよ」「ああ、あそこか」上条「(0時前の市道213号線……しかも郊外だと?)」と言えば、上条と美琴がバイクを見つける前に歩いていた郊外の道路だ。しかも時刻もドライバーが言った時刻に近い。「ったく、ビビらせやがってよ。あんな大所帯で何移動してんだよ」「ぎゃはは。お前、捕まっといたほうがよかったんじゃねーの?www」「はあ!? マジ死ねお前」上条「(……あのドライバーの話が本当なら……俺たちヤバかったかもしれない)」上条が冷や汗を流すのも無理は無かった。ドライバーの言ってることが本当なら、アンチスキルの車両群は、0時前市道213号線を走っていたことになる。市道213号線は、上条と美琴がモーテルを出てからしばらく歩いていた道だ。おまけにその時間帯も丁度0時前になる。だが、彼らはアンチスキルの車両を見ていないし、ドライバーが乗っていたと思われるトラックも見ていない。それは何故か。考えられる説は1つ。彼らがアンチスキルの車両に遭遇する前にバイクで一足早くその道路を抜け、高速道路に入っていたからだ。上条「(あの時バイクを見つけていなかったら……もし道路を徒歩で歩いていたら……俺たちは後からやって来たアンチスキルに発見されてたところだ……)」ゾッつまり上条と美琴は奇跡的な確率でアンチスキルの目から逃れたことになる。上条「(はは……。今回ばかりは……不幸じゃなかったぜ……)」上条は思わず不気味な笑みを零してしまった。 美琴「?」窓ガラスから外を眺めていた美琴は、テーブルの上につくられた人影に気付き、頭を上げた。もちろん、顔は隠していたが。「ねー嬢ちゃん、こんな所で何してんの?」「今は君みたいな子が来るような時間じゃないよ」「どうせなら俺たちと一緒に食事でもしない?」若い男たちだった。体育会系の若い男たちが3人、ニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべてそこに立っていた。美琴「!!」上条ではないと気付いた美琴は思わず顔を背け、俯く。「な? いいじゃん? 家出か何か知らないけどさ、1人じゃ寂しいだろ?」1人の若い男が美琴の隣の席に座る。美琴「ほ……放っておいてよ!」顔をなるべく見せないようにし、美琴は男たちを追い払おうとする。「いいねー。気が強い子は好きだぜ」ガッ美琴「!!!」隣に座った男が美琴の腕を掴んできた。「お兄さんたちと遊ぼうよ」デヘヘ美琴「この……ロリコンっ!!」「ええ、ええ! お兄さんたちはロリコンだよ~ん♪」美琴「………っ」思わず、美琴はその瞬間、電撃を発しようとした。しかし、出来なかった。美琴「(ここで能力なんか使ったら、私が御坂美琴だってバレちゃう……)」 「いいじゃ~ん。俺たちと一緒にチョメチョメしようぜチョメチョメ」「「「ぎゃはははははははははははは!!!」」」美琴「くっ……」上条「おいお前ら、何の用だよ?」美琴「!」「あ?」と、そこに掛けられる声が1つ。上条「何か用でもあるのか? って聞いてんだけど」上条だった。上条がうどんを乗せたおぼんを持ってそこに立っていた。美琴「当麻!」上条「………………」テーブルの上におぼんを置く上条。自然と、男の腕が美琴から離れた。そのまま上条はジロリと横目で3人の男たちを見る。美琴「…………、」美琴は助けを求めるようにして、上条の背中に隠れ彼の服をギュッと掴む。上条「俺の彼女に何手を出そうとしてんだよ?」美琴「!!」 「ああ? 何だ男持ちかよ!」『彼女』という言葉を聞いた途端、男たちが不機嫌になった。「チッ、もう行こうぜ」「ああ、長居したってつまんねぇし。さっさと出るか」「ふん、お前ら死ね!!」捨て台詞を吐きながら、3人の若い男たちはその場から離れ、やがて店を出て行った。上条「…………ったく。馬鹿たちが」溜息を吐き、上条は席に座る。上条「ほら、うどんで良かったか?」美琴「あ、うん……。助けてくれてありがとね……」上条「ああ。つかバレてないよな?」美琴「それは大丈夫……」上条「そうか」上条は水を仰ぎ、箸を割る。上条「お腹空いてるだろ? さあ食べな」美琴「あ、あのさ……」上条「うん?」上条がうどんを口に入れようとした時だった。 美琴「今さっき……私のこと『彼女』って……」ボソボソと恥ずかしそうに美琴が言う。上条「おお。そう言わないとあいつら引き下がらないだろ」美琴「…………あ、そ、そっか。そうだよね……はは………」上条「…………………」美琴「あ、じゃあ……いただきます」上条「それに……」美琴「?」上条「俺も『妹』とかよりかは『彼女』の方が良かったし……」美琴「え?」美琴は咄嗟に上条の方を見る。上条「さーて……いただくとしますか」だが、上条はもうこの話題は終わり、と言いたげにうどんを食べ始めていた。美琴「…………………」呆然としながらも、美琴も彼に倣いすぐに食べ始めた。 サービスエリアに入ってから1時間近くが経った。上条と美琴の2人は、食べ終えたうどんの皿をテーブルの端に置いたまま、窓ガラス越しに見える外の景色を眺めていた。美琴「もう夜の3時近くだね」上条「ん? おお……」上条は手の上に顎を乗せながら、ボーッと外を見ている。美琴「………………」上条「………………」美琴「あ、雨……」上条「え?」気付くと、目の前のガラスにパラパラと水滴のようなものが次々と現れ始めた。店内にいた利用客たちがそれに気付きざわめき始める。美琴「バイク……濡れちゃわないかな?」上条「ああ、そっか。すまん、ちょっと見てくるわ」美琴「え?」上条「大丈夫だって」ポンポン美琴「ふみゅ…」立ち上がり、上条は美琴の頭を軽く叩く。叩かれ、片目で上条を見上げる美琴。上条「いい加減不安がるのはよせ。俺はお前を置いてどこにも行かねぇよ」美琴「うん………」そう言い、上条は笑顔を残すと店を出て行った。 上条「バイク、バイクっと……」雨はまだ小降りの状態だった。上条は頭に掛かる雨粒を大して気にすることなく、バイクの所まで近付いていった。上条「!!!!!!!!!!」が、彼の足が寸前で止まった。上条「アンチ……スキル………」数m先。上条と美琴が乗ってきたバイクの側に、2人の警備員らしき男が立っていた。彼らは、バイクを念入りに調べており、時々無線に報告を入れている。上条「(どうしてこんな所にアンチスキルが……。まさかバレたのか!!??)」が、辺りを見回してみても他に警備員の姿は見えない。と言うよりも、その2人の警備員はパトロール中という雰囲気であったのは確かだが、別段、何らかの重要捜査に加わっている様子はなかった。警備員「こちら……。……サービスエリアにて……盗難被害を受けた……発見……」僅かにだが、無線に報告する警備員の声が聞こえた。上条「(盗難被害……。まさかあのバイク、捨てられてたんじゃなくて、あそこに置いてあったのか……っ!?)」警備員「犯人は……店内にいると思われ……」と、そこで警備員と目が合った。上条「(まずい)」思わず上条は目を逸らし、回れ右をする。何となく背後からジロリと見られている視線を感じたが、彼はなるべく怪しまれないように早歩きで店内に戻っていった。 美琴「………………」上条「御坂!」ガッ美琴「えっ!?」ビクッ急に背後から上条が現れたせいか、美琴は肩を震わせた。上条「ここを出るぞ」美琴「え? ど、どうして?」上条の言葉に、美琴はキョトンとする。上条「外に警備員がいた。どうやら俺たちが乗ってきたバイク、盗難届け出されてたみたいだ。すぐに逃げないと奴らに見つかっちまう」美琴「そんな……でもここ高速道路だよ?」上条「いいから行くぞ」上条は美琴の手を引っ張り立ち上がる。そのまま彼らは、バイクがある方とは逆の出口に向かい店の外に出ていった。美琴「うわ……ちょっと雨脚が強くなってない?」上条「仕方がない。こっちだ」2人はなるべく電灯の光に当たらぬよう、暗くなった場所を歩く。ふと美琴が後ろを振り返ってみると、1人の警備員が店内に入っていくのが見えた。美琴「どこ行くのよ!?」サービスエリアから出てすぐ、彼らは高速道路の端に沿って走り始めた。次第に雨の勢いが強くなっていくのが分かる。上条「………………」しばらくすると、2人は大きなトンネルの入口に辿り着いた。 美琴「うわ……服がビチョビチョ……もう……」文句を言いたげな美琴を尻目に、上条は地図を広げる。オレンジ色の電灯によって照らされた地図は少し見にくかったが、贅沢を言える状況ではなかった。上条「今はこの辺りか……。バイクのお陰でもう半分近くまで来れたな。後はここからどう動くかだが……」美琴「………バイクはもう使えないの?」上条「ああ」美琴「………また歩くの?」上条「仕方ないだろ?」美琴「………ねぇ」上条「ちょっと静かにしてろ」美琴「………………」頬を膨らませ、不服そうな顔をする美琴。だが、今は上条も必死だったのだ。上条「今はここだから………お! これはいいかもしれないな」美琴「?」上条「よし、行くぞ」美琴「あ」再び、美琴の手を引っ張り上条は歩き始める。美琴「どうするの?」上条「まずはこのトンネルを出る。どこかに非常口があるはずだ。そっから避難坑を伝って外に出る」美琴「その先に何かあるの?」上条「電車だよ」美琴「え?」上条「学園都市を縦断する電車がある。それに忍び込む」美琴「えええええ!?」事もなげに言い切った上条に、美琴は驚きの声を上げた。上条「いいから。行くぞ」 それから10分後――。上条「ハァ……ゼェ……ハァ」美琴「ま……待って……ちょっと休憩しようよ……」トンネルを休むことなく走っていた上条と美琴。彼らの息はかなり上がっていた。上条「休憩したいのは山々だが、いつまでもこのトンネル内にいたら通りかかった車に怪しまれて通報されかねない。だから………っと」美琴「?」上条「見つけたぞ御坂! 非常口だ」美琴「え……」確かに、上条が指差した先……5mほど向こうにそれらしきものがあった。上条「行こう!」美琴「あ、待って!」2人は急いでそこまで駆け寄る。そこには、『非常口』と書かれた鉄製の扉が1つ設置されていた。上条「『非常口』……ここだ。ここから避難坑に通じてるはず。後はそこを通って外に出れば、線路の近くだ」美琴「………………」ゴクリ上条「行こう」美琴「分かったわ」2人は顔を見合わせ頷く。 その頃――。黄泉川「深夜も既に4時前じゃん。こんな時間に運行している列車があると重宝するな、白井?」8両編成の深夜特急。その最後尾の車両で、黄泉川はそう言った。黒子「こんなことしてる場合じゃないですのに……」黄泉川の言葉を受けて愚痴る黒子。今、彼女たちがいるのはVIP専用のために作られた特別車両だった。内装としては、座席が向かい合うようにして設置され、窓ガラスには豪華なカーテンが掛かっている。今は、その車内を黒子と黄泉川が占用しており、他にいたのも立哨に立つ警備員4人だけだった。黄泉川「勢いだけで全てが解決するとも言えないじゃん?」拳で頬を支え、黄泉川は黒子にアドバイスする。黒子「御坂美琴は私がこの手で始末しますの。そうでなければ意味がありませんの……」ブツブツブツ再び呟き始める黒子。黄泉川「ふん……」もはや何を言っても無駄だと思ったのか、黄泉川は背後のカーテンを少し開け、外を窺った。 美琴「はぁ!? 電車に乗る方法を考えてない!!??」深夜の林に、美琴の間の抜けた声が響き渡った。上条「おまっ……静かにしろよ」美琴「あ、ごめん……。いやでも何それ? どういう意味?」上条は困ったように頬を掻く。2人は今、暗く浅い、とある林の中にいた。トンネルで非常口を見つけた2人は、そこから避難坑を数十分歩き、何とか外にまで辿り着いていたのだ。そして、2人はそのまま目的の線路に向かうべく、今、林を横断していたのだが……ここで問題が浮上した。上条「いや……確かにここの深夜の路線は、1時間ぐらい置きに急行列車が通るのは知ってたんだけど……停まる駅が近くに無いんだよなぁ……ははは」美琴「いや、笑い事じゃないでしょ」2人の視線の先には、木や草が生い茂るその場の雰囲気には似合わない近代的な線路が1つ設置されているのが見える。彼らは5分前からそこで電車が来るのを待っていたのだが、今更になって上条が不安要素を口にし始めた。美琴「じゃあどうするの? ここを通り過ぎる列車を見てるだけなの?」上条「いやまあ……最悪、線路に沿って歩くっていう手もあるけど……」美琴「………………」ハァー呆れたように美琴は溜息を吐く。美琴「あのね……あんた、自分で南に向かう列車に乗る、って言っておいてこれはないんじゃないの? どうするのよ本当……」上条「…………むー」上条は腕組をし考え込む。と、その時だった。 プァァァァァァァァン!!!!!!どこからか汽笛のような音が聞こえ、直後、暗闇の向こうに人工的な強い光が瞬いた。間違いない。この線路を通り過ぎる予定の列車が現れたのだ。美琴「ちょ、ちょっと来ちゃったじゃない!!?? 次は1時間後なんでしょ!!?? ど、どうするの!!??」上条「あーもう……タイミングの悪い……」頭を掻き毟る上条。だが、そうこうしている間にも列車は徐々に近付いてきている。美琴「ね、ねぇ……」上条「そうだ!」美琴「え!?」顔を上げ美琴を見る上条。そして彼はとんでもないことを言い出した。上条「飛び移るぞ!!!!」美琴「は……あ!?」美琴は思わず間の抜けた声を上げていた。 黄泉川「………………」黒子「………………」ブツブツブツ一方、とある深夜特急の最後尾車両。席に座る黄泉川は静かに腕組をして目を閉じ、向かいに座る黒子は相変わらず何事か呟いていた。車両の両端に2人ずつ立つ立哨の警備員は、任務中らしく微動だにしない。黒子「絶対に……黒子が……この手で……ぶち殺して……」ブツブツブツ…黄泉川「…………………」黒子の呟きがボソボソと聞こえていたとは言え、車内は比較的静かだった。 美琴「あんた正気!? 飛び移るですって!? 特急列車が時速何kmで走ってるか分かってるの!?」上条「だから今言った方法なら大丈夫だ」列車がすぐ側まで近付いているのに、議論を繰り広げる2人。上条「俺がお前に掴まって、一緒に列車に向かって飛ぶ。普通なら跳ね飛ばされるが、強力な磁力を発するお前なら可能だ。もちろん右手はお前の身体に触れないように気を付ける」美琴「でも……そんな……」上条「やるしかないんだ。ここで列車を素通りしても1時間の無駄なロスを作るだけだ。なんなら列車に乗っちまったほうが、より早く逃げれる可能性が大きくなるだろ」美琴は困惑の表情を浮かべ、上条の顔を、次いで向かいくる列車を見る。上条「御坂! 一刻の判断の遅れが大事に及ぶんだ!!」美琴「むううううう………あああもう!! 分かったわよ!! やるわよ!!! ったく、何であんたはいつも無茶なことばかり考えるのよ!!??」迷いに迷ったが、美琴は判断を下した。2人は後ろを振り返る。列車はすぐそこまで迫っていた。 静寂が支配する車内。黄泉川「………………」黒子「………………」ブツブツブツ…そして、轟音を響かせ遂にその姿を現す列車。上条「………………」美琴「…………ちゃんと掴まっててよね」上条「ああ、もちろんだ」ギュッ美琴「…………むう//////」上条「御坂」美琴「分かった。行くわよ……」上条「おう」美琴「1……」上条「…………」ゴクリ美琴「2………」上条「………………」美琴「3」美琴「今よ!!!!!!」 黄泉川「!!!!!!!!!!」深夜特急の最後尾車両。黄泉川「……………………」黄泉川は突如、目を見開いた。黄泉川「………」バッ何を発せず、そのまま彼女は立ち上がり向かいの席に座る黒子の元へ向かう。黒子「?」不思議そうな顔をする黒子をよそに、黄泉川は座席に片膝をつけカーテンを思いっきり開ける。警備員A「黄泉川隊長?」警備員B「どうなされましたか?」彼女の行動に疑問を浮かべた警備員たちが訊ねてくる。黄泉川「……………音が聞こえたじゃん」黄泉川は外を窺いながらそう答えた。黒子「音?」黄泉川「聞こえなかったか? 天井からじゃん。後、僅かにこっちの方で青い光が見えたような気がしたが………」黒子「私には何も聞こえませんでしたし、光とやらも見えませんでしたが……気のせいでは?」黄泉川「……………………」怪訝な顔をする黒子と警備員たち。黄泉川は黙ったまま窓の外を眺めていた。 上条「せ、成功したな……!」美琴「無茶し過ぎよ」まさか、自分たちの足元の板を一枚挟んだ先に黄泉川たちがいるとも露知らず、上条と美琴は突風吹き荒ぶ列車の天井部分にいた。彼らは、接近してきた列車に向かって一緒に飛び、美琴の磁力によって壁の一部分を中継地点にして、無事、列車の天井部分に着地したのだった。美琴「私の能力の微調整がちょっとでも狂ったらあんた、許容量以上の電撃を浴びて飛んでる間に気絶するか、または電気の力が足りなさ過ぎて列車に跳ね飛ばされてたわよ」上条「でも上手くいったからいいじゃねぇか。俺はお前なら出来る、って信じてたし」ポン上条は美琴の頭を軽く叩く。美琴「うううう……」美琴は何も言い返せなくなってしまった。上条「さて、いつまでもここにいたら危険だな。早く車内に入ろう。一般車両はここから2両先だ」美琴「………つーかあんた、やたらこの列車に詳しくない?」上条「ん? ああ、この辺りは以前、インデックスと遊びにきたことがあったからな。その時、ガイドブックで見たんだよ」美琴「ふーん………」何か言いたそうな顔をする美琴。もちろんそんな彼女の様子に上条が気付くはずもない。上条「ほら、まずは向こうの車両、次に2つ先の車両だ。早く飛び移るぞ」ガシッ美琴「ひゃぁ…ん」上条「おまっ////// へ、変な声出してんじゃねぇよ!!//////」美琴「あんたがいきなり私の身体掴むからでしょ!!!!//////」上条「しゃ、しゃーねーだろ!! またさっきの要領で着地してくれないと、俺落ちるかもしれねぇし!!」美琴「あーもう分かった分かってるわよ!! ほら行くわよ!!!」バッ!!!上条「ちょっ……いきなりかよ!!」上条の言など知ったことではないと言うように、美琴は彼の身体を掴んだまま前の車両の天井に向かって飛び、軽やかに着地した。 美琴「嫌なら自分で飛べば? 下手して落ちて車輪に巻き込まれてミンチになっても知らないけど」上条「ぐぬぬ」文句が言えない上条だった。美琴「ほら、急ぐわよ。ちゃっちゃとする!」上条「ま、待ってくれ」そして年下の女の子にリードされる上条だった。美琴「さ、向こうのが一般車両ね。もう1回飛ぶんでしょ?」上条「お、おお」ガシッ美琴「ひ…ゃあ」上条「だだだだだから変な声出してんじゃねぇよ!!!//////」美琴「わ、脇腹は弱いのよ!!////// ……って変なこと言わせてんじゃないわよバカ!!!!////////」バチバチッ上条「ちょっ! タンマタンマ!! この状況で電撃はやめて!!」美琴「もう次不意打ちで触ったら落とすわよ!!!!」上条「洒落になってないっすよ御坂さうわあああああああ!!!!!」バッ!!!上条の言葉が言い終わるより先に、再び美琴は彼の身体を掴みながら前方の車両に向かって飛び、着地する。上条「心の……準備ぐらい……させろよ……」ゼェハァ美琴「じゃ、ここに梯子ついてるし降りよっか」上条「って聞いてないし」やれやれ、と溜息を吐き、上条は美琴と同じく、車両と車両を繋ぐ連結部分を覗き込む。どうやらこの列車の連結部分は外に剥き出しになっているらしく、普通の電車よりかは車両と車両の間の幅が広かった。よく見てみると、確かにそこには下に降り立つための梯子が壁についていた。 警備員A「隊長!」黄泉川「おう、どうだったじゃん? 前の車両は」扉を開け、前の車両に行っていた1人の警備員が戻ってきた。警備員A「7両目も特に変わったことはありませんでした」黄泉川「そうか……」黒子「………………」先ほど、天井から不審な音を聞き、窓の外に青白い光を目撃したという黄泉川。黒子や他の警備員たちは何も聞いておらず何も見ていなかったが、長年の経験と勘から何かを察した黄泉川は、念のため前の車両の7両目に部下の1人を様子を見にいかせていたのだ。黒子「やはり気のせいでは?」黄泉川「うーむ……」警備員A「あ、そう言えば」黄泉川黒子「?」警備員A「起きていた客の中の1人が言っていたのですが……『天井をイタチかネズミでも走っているのか眠れない』と………」黄泉川「!!!!!!」それを聞き、黄泉川の顔が変わった。黒子「どうかしましたか先生?」黄泉川が立ち上がる。黄泉川「やはり私が感じ取った臭いは気のせいではなかったじゃん」黒子「は?」黄泉川「ネズミだよ」黒子「ネズミ?」黄泉川「車内を這い回ってるネズミを捕まえに行くじゃん」そう言って黄泉川は口元を歪めた。 ガラッと音を立て、6両目の後部扉が開いた。上条「………………」上条と美琴だった。2人は、たった今天井から梯子を伝って車両と車両の連結部分まで降りてきたのだ。上条「行こう」美琴「うん」上条は美琴の手を引いて車内を歩く。6両目の座席はどれもボックスシートで、全座席のうち半分ほどが埋まっていたが、起きていた客は数えるほどもいなかった。ただ、こんな時間帯に若い男女2人というのは少しばかり目立つのか、何人かの客は、上条と美琴が通り過ぎる度にジロリと怪しげな視線を寄越してきた。上条「ここでいいか」2人並んで座れる座席は車両の先頭にしかなかったので、上条と美琴はそこに座ることにした。上条「ほら、奥に座りな」上条は美琴を促す。頷くと、美琴は窓側の席に着いた。上条「よっこいしょ」席に着くやいなや、上条は溜息を吐く。上条「久しぶりにくつろげるな」美琴「………うん」上条「この列車に乗ってれば、すぐにでも目的地の南には着く」そう言いながら上条は肩をコキコキと鳴らす。美琴「………あのさ」と、不意に、美琴が何か言いたそうな顔で語りかけてきた。上条「ん? どうした?」美琴「その……ごめんね。私なんかに付き合わせちゃって……」どうやら何か謝ろうとしているようだった。上条「またかよ。何度も言ってるじゃねぇか。これは俺が自分で判断を下してやったことだって。嫌々でやってるわけじゃねぇ」 美琴「あ、違うの……そうじゃなくて。その……私を助けてくれたことは感謝してるし、あんたの厚意も真っ正面から受け取るつもり。でも……何ていうか……」上条「?」美琴「あんたは私が嫌じゃないのかな、って」上条「はあ?」顔を背け、美琴は申し訳なさそうにそう訊ねる。美琴「だって……ほら、私なんてあんたに助けてもらってる、ってのに……何か文句ばかりだし、ちょっとしたことで電撃浴びせちゃうし……怒ってばっかりだし……」上条「御坂?」美琴「だからさ……助けてる相手にそんな反応されるのは嫌なんじゃないかな……って。あんたもそう思わない? ……って言ってる側から『あんた』呼ばわりだし……はは、ごめんね……、」どうも彼女は自分の上条に対する態度について謝っているようだった。と言うのも、美琴は今、上条に助けてもらっている身にある。であるのに、彼に対してことあるごとに楯突いてしまう自分の態度はどうなのか。彼女はそれを聞いているのであった。上条「………………」美琴「どうせなら……もっと、可愛くて素直でおしとやかな女の子の方がいいよね……。私なんて、可愛くもないし素直じゃないし、おとしやかでもないし………」女の子としての性格の問題だろうか。上条はふと、そう思ったが、何にせよそうやって自分を貶めるようなことは美琴には言ってほしくなかった。上条「バーカ。そんなもん関係あるか」美琴「え?」美琴が顔を上げる。上条「俺に接する態度とか、女の子としてどうだとか、そんな問題じゃねーよ」美琴「………………」上条「俺はお前を助けたかったから助けただけ。何でそこに態度とか性格とか関係してくるんだよ」美琴「………じゃ、じゃあ私と一緒にいて嫌になったりしてない?」本当に心配するように美琴はそう訊ねてくる。上条「何で嫌になったりするんだよ。んなわけあるか」美琴「そ、そっか……(良かった……)」安心する美琴。しかし……… 美琴「(でも……こいつは『助けたかったから助けた』って言うけど……今回はたまたま私だっただけ。きっとこいつのことだから……誰か私とは違う女の子が同じ目に遭っても、同じように助けてるはず………)」再び、美琴の顔が暗くなる。美琴「(そ、そうだよね……分け隔てなく誰でも助けるのがこいつの……良い所なんだから……。そ、そうよ……今回はたまたま私だっただけ……。そう、それだけ………)」美琴は俯き、無言になる。上条「と言うか、寧ろお前と2人きりになれて嬉しい、って言うか……」美琴「……………え?」咄嗟に美琴は上条の顔を見る。しかし彼は、「あー眠い」とか言いながら顔を背け向こう側の座席を眺めている。それが、今自分で言った言葉に対する恥ずかしさによるものだったのかどうかは分からなかったが、確かに美琴は今聞いた。上条の言葉を。「2人きりになれて嬉しい」という言葉を。美琴「……………………」無意識に言ったことなのか。何か意図があって言ったのか。上条の性格を考えると、前者の可能性が高かったが、もうそんなことはどうでもよかった。美琴「………あのね」上条「ん?」ボソリと呟く美琴。上条が振り返る。美琴「………当麻」上条「!」ドキッ上目遣いで美琴は上条を見つめてくる。彼女は一瞬、恥ずかしそうに目を逸らしたが再び上条に視線を据えた。美琴「…………私ね」上条「お、おお……」美琴「……………実はあんたのことが」「アンチスキルだって!!!!????」上条美琴「!!!!!!!!!!」 と、そんな時、後ろの座席の方からそんな声が聞こえてきた。「ああ、何でも後ろの車両にいるらしい」上条「何だと?」咄嗟に上条はシート越しに後ろを見る。「何でこの列車にアンチスキルが乗ってんだ?」「さあ? 何か知らないけど、今後ろの車両で1人1人乗客を調べているらしい」美琴「………アンチスキル?」上条「バカな……何でこんな普通の列車にアンチスキルなんか乗っているんだ!?」正面に振り向き直すと、上条は驚きの声を上げた。美琴「ど、どうするの?」上条「逃げるしかない」上条はすぐ右斜め前にあった連結部分に通じる扉を見つめる。そこから前部車両へ向かえば………。と、思うがそれでもアンチスキルから完全に逃れることにはならない。飛び降りようと思っても列車はスピードを減らすこともないし、駅に停まることもない。要するに列車から逃げ出す術が無いのだ。上条「考えても意味がないか。おい御坂」美琴「え?」上条「前の車両に行くぞ」が、その時だった。ガラララ……、と言う音と共に、車両の後ろに取り付けられた扉が開く音が聞こえた。黄泉川「アンチスキルじゃん!!! 夜分失礼するが、今から1人1人乗客を調べさせてもらうじゃん!!!!」上条美琴「!!!!!!!!」2人のよく知った顔、アンチスキルの黄泉川が、3人の警備員を引き連れてそこに立っていた。 美琴「黄泉川先生!!??」上条「駄目だ!! 顔を隠せ!!」咄嗟に上条は美琴の頭を抑える。黄泉川「身分証明証と切符を見せてもらうじゃん。悪いが、両方持ってない者は後部車両で我々の事情聴取を受けてもらうじゃん」ドヨッと車内がざわつく。美琴「ど、どうしよう!?」上条「何でアンチスキルがこんな所に………」苦虫を噛み潰すような顔をする上条。彼は斜め前にある扉を見やる。上条「(いっそのこと御坂を連れて前部車両に逃げるか……? いや、だがそんなことしたら間違いなく気付かれる……。でもどっちしろ、ここにいたって………)」黄泉川「じゃあまずはそこの会社員風の人。身分証明証と切符を見せるじゃん」そうこうしている間に、黄泉川たちアンチスキルによる検分が始まった。上条「(クッソー……どうする? どうする?)」美琴「…………、」2人は今、絶体絶命の状況下に陥っていた。 その頃、最後尾車両では。黒子「………………」静かになった車内。その中で、黒子は足を組みジッとして席に座っていた。黒子「………」チラッ入口の方には、警備員が1人だけ。黄泉川と残り3人の警備員は、乗客を調べ上げるとかで、今この車両からは出払っていた。黒子「(勝手に独断でこんなことして……。本部でお叱りを受けても知りませんわよ)」そう胸中に呟く黒子だったが、彼女は少し不満だった。と言うのも、彼女は黄泉川に「これはアンチスキルの仕事でお前が出張る必要はない。ここで留守番しとくじゃん」と厳命されたからだった。黒子「(私の手を借りたほうが、はかどるでしょうに。合理的ではありませんわね)」組んだ腕の上で、トントンと規則的に指を叩く黒子。どうにも、彼女はアンチスキルの捜査に加わって以来、黄泉川に子供扱いされてるのが不満だった。黒子「(御坂美琴……彼奴を捕まえ仕留めるのは私の使命。なのに、能力も持たないアンチスキルの方々の言うことを聞いていたらそれも叶いませんの。黄泉川先生はきっと子供の私に手柄を横取りされるのが嫌で邪魔者扱いしているのですわ)」ブツブツブツ……警備員「………………」黒子「?」と、立哨に立っていた警備員の顔が気まずそうになっているのが目に入った。黒子「(おっと、いけないですわ)」どうやら気付かないうちにまたブツブツと独り言を呟いていたらしい。黒子「(ふん、まあそんなことはどうでもいいですの。私は御坂美琴をこの手で始末出来ればそれで十分なのですから……ふふふふ)」黒子は邪悪な笑みを浮かべていた。 黄泉川「じゃ、次。身分証明証と切符見せるじゃん」上条「!!!!!!!!!!」ビクウッ黄泉川の声が聞こえた。上条は僅かに振り向く。2列後ろの座席の側に、黄泉川と3人の警備員が立っているのが見えた。上条「(クソッ)」顔を戻す上条。冷や汗が滝のように背中を流れ落ちていった。上条「………………」黄泉川たちはすぐそこまで迫っている。美琴「…………っ」横を見ると、美琴も汗を流しながら下を向いていた。もう、猶予は無い。上条「………………」黄泉川「じゃあ次。身分証明証と切符」上条「!!!!!!!!!!」遂に、黄泉川たちが真後ろの座席まで来た。黄泉川「ん?」と、そこで黄泉川の動きが不自然に止まった気配が感じられた。 上条「………………」ゴクリ背中から冷たい視線が刺されるような、そんな感覚が上条の身体を貫く。それはまるで、獲物を見つけた猛獣が品定めをするような、凍てついた敵意を含んだ視線だった。黄泉川「…………ほぉ」上条美琴「!!!!!!」ビクウッ黄泉川「………これは驚いた」上条「………っ」限界だった。ダッ!!!!!!美琴「あ!」上条は美琴の手を引っ張り、座席から飛び出していた。ガラララッ!!!!息をもつかせぬ速さで上条は連結部分に通じる扉を開ける。黄泉川「やっぱりいやがったじゃん!!!!」 笑みを浮かべ、黄泉川は咄嗟に右太腿に巻いていたレッグホルスターから拳銃(ハンドガン)を取り出した。上条「こっちだ!!」そうこうしている間に、上条は美琴を連れて前の車両にまで逃げていた。パン!!! パン!!パァン!!!上条「!!!!!!!!」後ろから発砲音が鳴り響く。上条「ぐっ!?」と、シュッと何かの擦過音が耳の側で聞こえたかと思うと、上条は自分の右肩が一瞬熱くなるのを感じた。右肩を見る。僅かにだが服が破れ、露出した肌から血が出ているのが確認出来た。上条「(かすった……)」ゾワリと、寒気が背中を伝った。黄泉川「これで終わりじゃん!!」乗客たちが悲鳴を上げる中、黄泉川は連結部分の向こう、前部車両を走る美琴の背中に照準を合わせた。パァン!! パァン!!! パァァン!!!!!!そして、美琴の身体を貫くべく黄泉川の拳銃から3発の9mm弾が連続で射出された。黄泉川「!!!???」が、しかし。上条が勢い良く開けたことによる反動のためか、銃弾は自動で閉まった扉のガラスにビシッという音を立て突き刺さった。黄泉川「クソ!! 追うじゃん!! 付いて来い!!!」後ろの3人の警備員にそう告げ、黄泉川は今閉まったばかりの扉を開け、前部車両に乗り込む。が、しかし、その頃にはもう上条と美琴は次の車両にまで逃げ込んでいた。 黒子「!!!???」発砲音と乗客の悲鳴。それは一番後ろの車両にいた黒子の耳の下にも届いた。黒子「銃声!!??」何かが起こった。ジャッジメントで得た直感から、黒子は瞬時に座席を飛び上がり、前の車両に気を取られていた警備員を跳ね除け、次の車両に通じる扉を開け放っていた。警備員「あ、こら!!」警備員の声など意識の外に、黒子は既に前の車両を駆け抜けていた。 黄泉川「ここじゃん!!」最後の扉を開け、黄泉川は遂に上条と美琴がいると思われる車両に辿り着いた。だが、その車両だけは作りが違っていたのか、扉はスライド式ではなく開き戸式だった。黄泉川「開かない!? 鍵が掛かってるのか!?」ガチャガチャと黄泉川はドアノブを回す。警備員「ここは一般車両ではありません。貴重な物資を運ぶ時に使われるものです。普段なら中は人が入るスペースはありませんが、深夜の今なら……」後ろの警備員がそう説明する。黄泉川「チッ……」黄泉川は恨めしそうにその車両を見る。黄泉川「だが分かってるのか御坂美琴!? お前らはもう袋のネズミじゃん!!!!」 車両の外から黄泉川が叫ぶのが聞こえる。美琴「ど、どうしよう……」何もない車両の中、美琴はそう呟いた。上条は窓を開け、暗闇に染まった外をキョロキョロと窺っている。美琴「ねぇ……肩、大丈夫なの?」上条の肩に滲んだ血を見て美琴は訊ねた。上条「これぐらいはかすり傷だから大丈夫だ。ちょっとジンジンするけどな」ドンドンドン!!!!黄泉川『諦めてここで投降するじゃん!!! これ以上逃げても無駄だぞ!!!』美琴「!!!」黄泉川が壁を叩きながら、叫んでくる。黄泉川『上条当麻!!! その女を助けて何の得になるじゃん!!??』美琴「気付かれてる!?」上条「………………」黄泉川『いい加減にするじゃん!! この扉ぶち破るぞ!!!!』美琴「と、当麻ぁ……」美琴が助けの視線を求めてくる。 上条「ん? あれは……」と、そこで何かを見つけたのか上条は窓ガラスから顔を引っ込めた。上条「御坂、逃げる手段が見つかったぞ」美琴「ええっ!?」そう言って上条は車両の側壁に取り付けられた開き戸式のドアを開け放った。上条「見てみろ」急いで美琴は上条の元へ駆け寄り、列車から落ちないよう気を付けながら外を窺った。上条「進行方向だ。鉄橋が見えるだろ?」美琴は目を細めてみる。確かに、列車のライトが照らす先に大きな鉄橋が見てとれた。どうやら山と山を繋ぐものらしい。上条「あそこから下の川に飛び込む」美琴「え…………?」 美琴は思わず上条の顔を見る。美琴「今なんて言った?」上条「あの鉄橋から川に飛び込むって言ったんだ」平然と、上条は真剣な顔でそう言った。美琴「……いやいやいやちょっと待って。あんた正気? 川に飛び込むですって!?」上条「そうだ」どうやら上条は至って本気らしい。美琴「バカ言わないでよ!! こっから川まで何mあると思ってんの!? って言うか、川の深度が浅かったらどうすんの!? 2人一緒に死ぬことになるわよ!?」美琴は上条の突飛の発想に対して、至極当たり前の疑問を呈する。上条「あの川には以前、インデックスと遊びに行ったことがある。さっき話したろ? ガイドブックにこの列車のこと載ってたって。あの川のこともそこに書かれてたんだよ。この辺りでは有名らしいからな。それに現地のガイドの人にも言われたし『鉄橋の真下は5m以上の深さがあるから近付いちゃ駄目だよ』ってな」美琴「だからって……!」上条「じゃあここで一緒にアンチスキルに捕まるか? どうせ本部に無線連絡されてるから、黄泉川先生たちを電撃で倒したとしてもすぐに援軍が向かいに来るぞ」美琴「………っ」美琴は反論の言葉を失くす。上条「なら、逃げる手はあそこしかないだろ」美琴は、上条が指差した先……近付きつつある鉄橋とその下を流れる川を見つめる。美琴「………もし、死んだらどうすんのよ?」覚悟は決まったようだったが、美琴は最後に訊ねてきた。上条「死んだらそれまでだ。2人仲良く天国に行こう」美琴「………………ばか」事も無げに笑ってそう言った上条に、美琴はそれだけ呟いた。2人は開かれた扉から眼下を見る。列車は既に鉄橋に差し掛かっていた。 黄泉川「チッ……埒があかないじゃん!」警備員「どうします隊長?」上条と美琴が中にいる車両の扉の前で、黄泉川は忌々しげに言った。黄泉川「………………」しばらく黄泉川は考え込んでいたが、すぐに顔を上げ即答した。黄泉川「突入する」パァン!! パァン!! パァン!!!言うやいなや、黄泉川は扉に取り付けられていたドアノブに向かって発砲した。黄泉川「最初からこうすればよかったじゃん。行くぞ!!!」黄泉川を含めた、拳銃を持った4人の警備員が中に突入する。黄泉川「大人しく手を挙げ………何っ!?」が、そこで黄泉川と3人の警備員は目を丸くした。 上条「行くぞ」美琴「うん」車両の側壁に取り付けられた扉。上条と美琴がそこから飛び降りる瞬間を目撃すれば当然だった。黄泉川「バカなっ……!」すぐに扉まで駆け寄り眼下を覗く黄泉川。上条美琴「―――――――――――」暗闇の空を、上条と美琴の2人は舞い降りた。共に、お互いの手を強く握って。黄泉川「―――――――」黒子「―――――――」まるで世界から音が消えたような気がした――。上条美琴「―――――――――――」数秒後、暗闇に消えていった2人は水飛沫を立てて深夜の川底に吸い込まれていった。 黄泉川「…………………」唖然と、黄泉川はその光景を見つめていた。しかし………パァン!!! パパァン!!! パン!!!! パァン!!!! パパパァン!!!!!!急に世界に音が戻った――。車内を振り返る黄泉川。見ると、部下の3人の警備員たちが窓ガラスから拳銃を突き出し川に向かって発砲していた。黄泉川は再び川の方に顔を向ける。 ゴボボボ、と泡立つ音が聞こえる。辺りは真っ暗で、何も見えなくて、まるで何も無い空間に放り投げだされたような感覚だった。目に、耳に、鼻に、口に、容赦なく冷たい液体が流れ込んでくる。それは、2日前、自殺するために街中の鉄橋から川に飛び込んだ時と同じ感覚で……。だけど、今は違っていた。今は、すぐ側に温もりを感じた。そして、右手を通じて力強い、絶対に自分を守ってくれるのだという安心感が伝わってきた。美琴「!!!!!!!!!!」水中で、美琴は目を見開く。目の前で、自分の手を引っ張って懸命に泳ぐ上条の姿が見えた。今、上条と美琴の2人は川の中にいた。深く、暗い、深夜の川の中に。上条「………………」美琴「………………」シュッ! シュッ! と2人の周りを、泡の筋を引いて何か小さな物体が幾つも通り過ぎていく。水中で抵抗を受け速度が遅くなった銃弾だった。何とかこの状況を脱しようとするが、2人は今、息をするだけで精一杯だった。 パァン!!! パァン!!!! パァァァン!!!!鳴り止まない銃声。鉄橋の上を走る列車の車内にいた黄泉川は、すぐ横で川に向かって発砲する部下たちを見る。と、そんな彼女の視線の先……部下の警備員たちの身体の更に向こうに、よく見知った顔があるのが分かった。1つ後ろの車両の窓から、眼下の川を忌々しげに見つめるその少女の顔は………黄泉川「白井!!!???」そう叫んだ瞬間、黒子は窓から消えていた。まるで、瞬間移動でもしたかのように。黄泉川「まさか!!??」黄泉川は咄嗟に顔を戻した。 ザッパァァァァァァァァン!!!!!!!!という音と共に、水飛沫が盛大に上がった。上条美琴「!!!!????」川から顔を出していた上条と美琴が後ろを振り返る。上条「お前は……!?」黒子「ようやく見つけましたわ、御坂美琴!!!!!!!!」美琴「黒子!!!???」列車から、黒子が空間移動(テレポート)を使って2人の眼前に現れていた。 黄泉川「撃ち方やめ!! 撃ち方やめ!!!」車内にいた黄泉川は部下たちに叫ぶ。黄泉川「撃つな!! やめろ!!! 白井が下にいる!!!」それを聞き、「ええっ!?」という声を同時に上げ、警備員たちが慌てて発砲を止めた。黄泉川「あのバカ……っ! 待ってろ、って言ったのに!!」黄泉川は大きく舌打ちし、川を眺めた。列車は既に鉄橋から抜け出るところだった。 上条と美琴の前に現れた人物、それはかつての美琴のルームメイトにして後輩、白井黒子だった。黒子「お久しぶりですわねぇ、 お 姉 さ ま ? 」美琴「黒子……っ」ニヤリ、と黒子は川の水で濡れた髪を額にくっつけながら不気味な笑みを見せる。黒子「私、とってもとってもとーーーーーーっても、お姉さまにお会いしたかったんですのよ?」美琴「………あんた何でここに!?」上条「………………」黒子「何で? 決まってるではありませんの」歪んでいた口元を更に歪め、黒子は言う。黒子「貴女をこの手で殺すためですわよ、お姉さま!!!!!!」美琴「!!!!!!!!」その瞬間、フッと黒子が2人の前から消えた。美琴「……………っ(黒子はどこに!?)」 1秒後、彼女は現れた。2人の背後から。空中で。美琴の頭を思いっきり蹴り飛ばせる角度で。黒子「さよぉならぁお姉さまぁ」ニヤリ美琴「!!!!!!!!!」黒子の容赦ない蹴りが美琴の後頭部を狙う。が、しかし………黒子「!!!!????」上条「……………」それを許す間も与えず、振り返った上条が水中から思いっきり飛び上がってきた。黒子「なっ!?」黒子の頬を、上条の右拳が狙う。ドゴォッ!!!!!!黒子「きゃん!!!!」容赦なく、上条は全力で黒子を殴り飛ばした。美琴「黒子!!!!」唐突に殴られ、思わぬ形で体勢を崩されたためか、黒子は反撃を試みることも出来ず、ザバァンと音を立て水中に倒れ込んでいった 美琴「黒子ぉっ!!」心配するような美琴が思わず黒子の元に向かおうとする。上条「駄目だ御坂!! 来い!!」咄嗟に上条は美琴の身体を掴まえ、彼女を黒子から引き離す。美琴「でも……黒子が!! 黒子が!!」上条「忘れたのか!? あの白井はもう以前の白井じゃない!! お前を殺そうとしてるんだ!!!」美琴「!!!!!!」上条は美琴の身体を引っ張りながら岸に向かって泳ぐ。美琴「でも……あのままじゃ黒子が溺れ死んじゃうよ!!」上条「あいつなら大丈夫だ。そう簡単には死なない」美琴「だけど!」上条「いい加減にしろ御坂!! 向こうはお前を殺しに来たんだ!! こっちが投降出来ない以上、これから相手を殺すことだって出てくるんだぞ!! いつまでも甘えてんじゃねぇ!!」美琴「!!!!!!!!」上条「まだ分からないのかよ!? それだけの覚悟を持たないと、生き延びることなんて出来ないんだよ!!!!」美琴「…………っ」上条の顔を、次いで黒子が倒れた場所を見る美琴。上条「なるべく殺したくないんなら、逃げるのが一番だ」美琴「………………、」上条が美琴を岸へ連れて行く。美琴は名残惜しそうに何度も後ろを振り返っていた。 その頃。上条と美琴が逃げ出した列車では、黄泉川たち5人の警備員が最後尾車両に集まっていた。当然のことながら、既に鉄橋は通り過ぎている。警備員「どうします隊長?」黄泉川「………………」口をへの字に結び、黄泉川は座席に座ったまま何も喋ろうとしない。4人の警備員たちが反応に困り、顔を見合わせる。黄泉川「………………」ザッ警備員「!!!」と、急に黄泉川が立ち上がった。黄泉川「不本意だが、我々は当初の予定通り本部に向かうじゃん。御坂美琴は別働隊が既に動いているからそっちに任せよう………」表情を変えず黄泉川は言う。警備員「……奴らを追ったジャッジメントの白井はどうしますか?」黄泉川「回収部隊を向かわせる。どうせあいつなら死んでることはないだろうしな。だが、帰ってきたら説教じゃん」背後にあった窓に近付く黄泉川。カーテンを開け、外の景色を望む。黄泉川「まだ夜明け前か……。……お?」黄泉川の眼前にあった窓ガラス。そこに、幾つかの水滴がポツポツと現れ始めた。黄泉川「雨じゃん」瞬く間に水滴はガラス一面を覆い、やがて窓を叩きつけるほどの威力になった。それを横目で見ながら黄泉川は顔を戻し、胸中に呟いた。黄泉川「(これだけの大雨の中、山に入れば即お陀仏。この手で奴を始末出来なかったのが唯一の名残じゃん)」 グジャッ耳障りの悪い音を響かせ、2人分の足が地面を踏み込む。上条「ハァ……ゼェ……」美琴「……ゼェ……ハァ……」何とか黒子や黄泉川の手から逃れた上条と美琴。彼らは今、大雨によって滑りやすくなった山の斜面を登っていた。美琴「きゃっ!」ズルッバシャッ!上条「御坂!?」振り返る上条。美琴がぬかるみに足を取られ転んでいた。上条「大丈夫か!?」美琴「だ……大丈夫」何とか立ち上がる美琴。可愛らしい服も泥だらけになっていた。上条「気を付けろ」言って上条は辺りを見回す。小さな山とは言え、深夜のためか数m先は真っ暗で何も見えない状態だった。おまけに空からは雨が大量に降り注ぎ、そのせいか斜面も滑りやすくなっている。鉄砲水の恐れもあるため、2人はなるべく急いで川から離れていたが、悪天候に見舞われた山の危険はそれだけでは済まなかった。上条「何とかしてまずは、まともな道を見つけないと……。ほら」ギュッ美琴「あ……」上条「ちゃんと俺の手握ってろ? 迷わないようにな」美琴「………うん」2人は固く手を握り、歩みを進める。 それからどれほど歩いたのか。上条と美琴は、ただ手を握り、ひらすら道なき道を登ったり降りたりしていた。美琴「ハァ……ハァ……ハァ……」上条「一向に空が明るくならない。おまけに雨脚もさっきより強くなってるみたいだ」美琴「ハァ……ゼェ……ハァ…」と、その時だった。上条「!!!!!!!!!」突如、上空の一点がピカッと光った。上条「隠れろ!!」咄嗟に上条は美琴の身体を引っ張り、木の陰まで連れて行く。美琴「ど……どうしたの? ……ハァ……ハァ……」上条「アンチスキルだよ」顔を上げると、木々の間に地上にサーチライトを向けて飛行しているヘリコプターの姿があった。黒色のボディとその装甲に描かれたマークを見るに、アンチスキルのものであることは容易に想像がついた。上条「俺たちを探してるんだ……」美琴「ハァ……ハァ……」降り注がれるサーチライトが、まるで獲物を探すように地面の一部をなぞり照らしていく。その光は、上条と美琴が隠れていた場所より数m先を蠢いた後、すぐに遠くまで行ってしまった。上条「……行ったか。よし……先を急ごう」美琴「ハァ……ハァ……うん」美琴の手を握りながら、上条は彼女をゆっくりと立ち上がらせる。それからも2人は、出口の無い迷路をさ迷うに山を歩き続けた。上条「尾根が……見つかればいいんだけど……」方位磁石もない状況下、上条たちは道なき道を歩いている。一応、山を下るようにしていた彼らだったが、いつの間にか逆に登っていることもあり、ほとんど迷っていると言ってもよかった。そもそも2人はまだ、ただの高校生と中学生であって、登山家でもクライマーでもない全くのど素人。死んでないのが奇跡だった。上条「はは……鉄砲水を恐れて……川から離れたのが……間違いだったかな?」美琴「ハァ……ハァ……ハァ……」上条「でも…あのままあそこに残ってたら……捜索部隊に見つかってたし……」美琴「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」 上条「何だって……こんな目に……。あ、いや、お前を責めてるんじゃないぞ御坂?」美琴「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……」ボーッとした表情のまま上条の言葉を聞き入れる美琴。上条「全ては……とある魔術師のせいなんだ……」彼は先程から何やら話しかけてきている。美琴「ハァハァハァ……ん……ハァハァハァ……」上条「そう……全ては変な魔術のせいで……」妙に上条の言葉がエコーがかって聞こえた。上条「だから、お前の責任じゃない……」美琴「…………ハァ…ハァ」グラリ、と視界が揺れた気がした。そして、次の瞬間。上条「何だ!?」上条は突然声を上げる。と言うのも、急に腕が後ろに引っ張られる感覚があったのだ。咄嗟に振り返る上条。ズルッ上条「!!!???」刹那、美琴の身体がまるで地中に吸い込まれたように上条の視界から下方へと消えていった。上条「御坂!?」上条が見た光景。それは、足を滑らせた美琴が、20mはあるだろう崖下に今にも落ちそうになっている姿だった。上条「御坂あああああああああ!!!!!!!!!!」 ガシィィッ!!!!と、上条は咄嗟に美琴の腕を両手で掴んだ。上条「ぐ……おおおおおおおおおおおお……」思いっきり地に足つけ、彼は落ちそうになる美琴の腕を引っ張り上げようとする。美琴「ハァ……ハァ……ハァ……」上条「お、落ちるんじゃ……ねぇ……ぞ……」グググッが、何故か美琴の全身からは力が抜けており、そのせいか軽いはずの彼女の身体はまるで鉛のように重くなっていた。上条「……御坂……自力で……登れないかっ……!?」顔を苦痛で歪ませながら、上条は崖にぶら下がってる状態の美琴に質す。美琴「ハァ……ハァ……」だが、彼女は自力で登ろうとするどころか、返事さえも返してこなかった。上条「絶対に……お前を落としは……しないっ……くっ……」ズルッ上条「ぐおっ……」足が滑りそうになる。地面は大雨でぬかるんでいるせいか、普通に立っているだけでも精一杯だった。上条「こんな所で……」ズルッまた、足が滑りそうになった。上条「お前を……死なして……」ズルッ…… ズルッ……上条「なるもの……かぁっ……!」 ズルッ…嫌な音を立てながら両足が崖淵に近付く。その度に美琴の身体が、暗い崖の底に吸い込まれていきそうになる。だが、上条を苦しめるのは何もぬかるんだ地面だけではなかった。上条「手……手が……」この大雨である。美琴の腕と、その腕を握る上条の手の間に雨粒が潜り込んでいき、徐々に滑りやすくなっているのだ。しかも、今の美琴は全身から力が抜け落ちているため、極端にその身体は重くなっている。まさに、踏んだり蹴ったりの状態だった。上条「!!!!????」が、ここで更に災難が訪れる。上条「あれは………」上条が視線を向けた先……木々の間に、黒い装甲に包まれた飛行物体が見えた。その飛行物体は胴体から地上へ向けて光を発し、こちらに近付いている。上条「ヘリが……戻ってきた!!??」確認作業のためか、上条と美琴を探索しているアンチスキルのヘリコプターがもう1度、こちらに戻ってきたのだ。上条「不幸にも……程があるだろがあああああああああ!!!! ……くっ!」滑る足。滑る手。重い美琴の身体。接近するアンチスキルのヘリ。状況は完全に詰んでいると言ってもおかしくはなかった。上条「み……さ……か……あ……あ……あ……」グググググッ美琴「はな………して………」上条「!?」と、その時だった。足元から、掻き消えそうな小さな声が聞こえた。 美琴「……はな……して……ハァ……ハァ……」美琴だった。今までずっと黙っていた美琴が、搾り出すように言葉を発している。上条「御坂!!??」美琴「……今すぐ……離して………ハァ……ハァ……」そう、美琴は言ってきた。上条「なっ!? ……バ、バカ言ってんじゃねぇ!! 誰が離すか!!! …ぐおっ…」だが、上条は美琴の言葉とは裏腹に、諦める意志は無い。既に限界を迎えているはずなのにだ。美琴「……元々は……あんたは……関係……無かった……。ハァ……ハァ……巻き込まれる……必要は……無かった……」上条「ぐっ……くおおおお……」美琴「……なのにあんたは……ハァハァ……私を助けてくれて………ここまで一緒に……ついて来てくれて……ハァ…ハァ……もう……十分……十分だから……ハァ……ハァ」上条「何を……言ってやがる……」美琴「………私が死ねば……全て……終わる……ハァ……ハァ……黒子も……私を追いかける……必要も無くなる……し……佐天さんや……初春さんも……ハァハァ……私に怯える……必要も……無い……。学園都市が……平和に……なる……ハァハァ……」上条「ふざけんな!! こっちは……そんなんで死なれちゃ……困るんだよ……っ」ズズッ… ズズッ! ズズズッ!!上条「…………っ」グググググッ美琴「……あんたが……ここで死ぬ謂れは……ない………」崖淵と上条の足の距離20cm。そして正面上空には接近しつつあるサーチライトの光。だが、そんな状況でも上条は諦めない。 美琴「……お願い……離して……ハァ……ハァ……。あんたが……死ぬなんて……嫌……ハァ……ハァ……」上条「お前を死なすぐらいなら……俺も死んだほうがマシだ……」美琴「………ハァ……ハァ……」上条「絶対に落とさない!! 絶対に死なせはしない!!!」グググググッズッ……上条「くっ………神様……俺は今まで不幸だった……そのせいで……何度も死にそうになった……」美琴「ハァ……ハァ……」上条「だけど……俺の大切な人まで……死なすのは……余りにも……理不尽だろうがああああ!!!!」ズズッ………上条「……お願いだ神様……こいつを……御坂を……死なせないでくれ……っ! ……頼むから……御坂を無事……学園都市から逃がすまでは……一緒に……いさせてくれっ……!」美琴「ハァ……ハァ……」上条「その代わり……ぐおっ……その代わり……」ズズッ… ズズッ……上条「その後は……俺の一生分の幸せ全部くれてやる!!!!!! 一生分の不幸を与えてくれてもいいから……っ!!!!!! 御坂を……死なせないでくれえええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」美琴「………………」ニコッ上条「!!!???」その時、美琴が顔を上げて、そして笑みを見せた。上条「御坂………」美琴「……ありがとう当麻……」上条「!!!!!!!!」美琴「………助けにきてくれた時……嬉しかったよ……」そう言って、美琴は最後の力を振り絞るように上条の手を振り払った。上条「美琴…………」美琴の身体が、崖下に吸い込まれていく。上条は、彼女の姿が徐々に暗闇に消えていく姿を見ているしかなかった。 が………上条「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」ガッシィィィッ!!!!!!!!それを許さぬように、もう1度、上条は一瞬離れかけた美琴の手を強く握り、掴んだ。美琴「!!!!!!!!!!」上条「死なせて……たまるかああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」手に力を込める上条。自分の足と崖淵との距離が僅か残り数cmでも、すぐそこまでヘリコプターのサーチライトが迫っていようとも、上条は最後まで諦めなかった。そして………ドサアッ!!!!!!遂に上条は美琴の身体を引っ張り上げ、そして、その勢いのまま彼女の背中を覆うように地面に倒れ伏せた。その直後、今まで上条が立っていた場所の上を、ヘリコプターのサーチライトが通過していった。 上条「ハァ……ゼェ……ハァ……」美琴「………ハァ……ハァ……」自分が生きている感覚を噛み締めるように、深く息をする2人。上条「ハァ……ゼェ……ハァ……」美琴「………ハァ……ハァ……」しばらくの間、彼らは一言も発せずにいた。やがて………美琴「………どんだけ……大バカなのよ……あんた……」背後から守られるように、上条の胸の中にいた美琴はそう呟いた。美琴「………バカ過ぎて……呆れ返るわ……ハァ…ハァ……」彼女は笑っていた。上条「………ここで……死なれたら……俺の信頼性に関わるんでな……?」上条も笑った。上条「………つーか……俺を見捨てて……1人ぼっちに……する気……かよ?」美琴「………あんたには……他にも……女の子がたくさん……いるでしょ? …ハァ…ハァ……」上条「お前はこの世に一人しかいない」美琴「………ふふ……」上条「………ははは……」 2人は、ついさっきまでのことが嘘かのように笑い合う。無理も無い。この『幻想殺し』を持つ少年・上条当麻は1度死んだはずの美琴を、天国に逝く寸前に無理矢理生き返らせたようなものなのだから。美琴「………ホント……あんたって……」美琴が笑いながら呟く。美琴「………大バ………」ドサッ…上条「?」が、彼女の言葉は最後まで続かなかった。上条「御坂?」彼女は上条の胸の中、急に意識を途絶したように黙り込んだ。上条「おい、御坂!」上条は美琴を揺する。最悪な予感が彼の脳裏を過ぎる。上条「御坂!! おい! どうした!?」咄嗟に彼女の身体を仰向けに返す上条。上条「!!!!!!!!」 美琴「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」美琴は無事だった。但し、顔を真っ赤にさせ苦しそうに息をしていたが。上条「まさか……」美琴の額に手を当ててみる。上条「すごい熱だ……」発熱していた。それも、すごい高熱だった。上条「だから崖から落ちそうになったのか……。クソッ! もっと早くに気付いていれば……」サービスエリアから逃げる時に大雨に降られ、飛び乗った列車の上で強風を浴び、冬の川に飛び込み、山に入ってからまた大雨を浴び続けていれば無理も無い話だった。上条「どうしよう……」上条は美琴の顔を見る。美琴「ハァ…ハァ…ハァ……ハァ……」彼女はとても苦しそうに息をしていた。上条「取り敢えず、どっかで休まないと」美琴の身体を起こし、自分の背中におぶる上条。上条「よしっ……」行く当ては無い。こんな山道でくつろげる場所も無い。だが、今は進むしかなかった。上条「待ってろ御坂。すぐに休ませてやる」背中に背負った美琴の苦しそうな息を耳元で聞きつつ、上条は険しい山道を歩き始めた。 その頃・某学区某病院では――。黒子「………………」黄泉川「………………」深夜の人気の無いロビー。そこに、黒子と黄泉川がいた。黄泉川「随分無茶をしたな?」椅子に腰掛け、俯き黙ったままの黒子。そんな彼女を黄泉川は腕組をして見下ろす。黄泉川「ま、お前が死ぬことはないとは分かっていたが、お陰で御坂美琴を追跡するための捜索ヘリを1機、お前の回収に回さなければならなかったじゃん」黄泉川のトゲトゲした言葉を、黒子はムスッとした顔で聞いている。黄泉川「本部に向かう予定も遅延になったじゃん。分かってるか? お前の勝手な行動で、全ての計画にズレが生じていってるのが」黒子「………………」黄泉川「お前の症状に何の異常も無かったのは良かったが、失った時間は大きいぞ? 感情に囚われたままでヘマをするところを見ると、お前もまだまだ子供じゃん」黒子「………っ」ギロリ顔を上げ、黒子は黄泉川を睨む。黄泉川「ふん。そういう反応してるからまだ子供なんじゃん。本部の連中に感謝するんだな。最後にもう1度、慈悲でチャンスを与えてもらったことを」そう言って黄泉川は踵を返し、ロビーから離れていった。 警備員「どうでしたか白井は?」黄泉川「あまり良くないじゃん」廊下にいた部下の警備員が黄泉川に訊ねてきた。警備員「やはり、川に浸かったことで体力が低下しているとか?」黄泉川「いや、そういうことじゃなくてな……」ポリポリと頭を掻き、黄泉川はロビーに視線を向ける。暗い空間にポツンと黒子の背中が見えた。警備員「白井は捜査から外した方がいいのでは?」黄泉川「こればかりは上の指示だからな。どうにも出来ん。ま、よく知った仲と言うことで私の部隊に同行を命じられたが、一応優秀なのは確かじゃん。ジャッジメントの中でも生え抜きの前線要員なんだから。ただ、まだ精神的に頼りない面があるじゃん」警備員「………大丈夫ですか?」黄泉川「ま、大丈夫だろう。あいつも今回のことでちょっとは懲りたはずじゃん」言って、黄泉川と警備員はその場から去っていった。一方、1人ロビーに残された黒子は………。黒子「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」ブツブツブツ… 雨が降り注ぎ、寒風吹き荒ぶ深い山の奥。いまだ街に下りるためのまともなルートも見つかっていない状況下、上条と美琴は、背の高い木の根元にいた。上条「………………」美琴「……ハァ……ハァ……ハァ」持っていた1枚の地図を、雨を防ぐために一緒に頭に被り、上条が着ていた上着を寒さを凌ぐために一緒に背負う2人。彼らは今、寄り添うようにして地面に座っていた。上条「さ……寒い………」歯がガチガチと音を立てながら鳴る。上条は自分の肩に頭を乗せている美琴を見るが、彼女は上条ほど寒そうにしていない。恐らく高熱のせいだろう。上条「(こ……このままじゃ……2人ともやばい……。いや、どっちかと言うと俺より先に御坂が……)」美琴「……ハァ……ハァ……ハァ……」苦しそうに息をする美琴。と、そんな時、上条の視界に小さくて白い物体が舞い降りるのが見えた。思わず顔を上げる上条。上条「………雪? 雪だと!?」いつの間にか雨が止み、パラパラと雪が降ってきていた。それも、かなりの数のがだ。上条「クッソー……泣きっ面に蜂だ。……な、何とかしないと………」上条は美琴の身体を更に自分に引き寄せる。上条「チ……チクショウ……何で御坂が……こんな目に遭わないと……」上条は2日前、美琴を追っていた学生たちのことを思い出す。彼らは今、上条たちがどこにいるのかも知らずに、恐らくは温かい部屋で布団にくるまって湯気が立つコーヒーでも飲んでいるのだろう。そんな彼らと今自分の側で苦しんでいる美琴。その2つの状況の差を考えると、上条は腹の底から沸々と怒りが湧き上がるのを感じた。上条「………………」しかし、だ。美琴の顔を見て上条は思う。結局の所、彼らだって『弧絶術式』の被害者でもある。それだけで美琴に行った行為を許すことは出来なかったが、どちらにしろこんな所で怒ったって意味は無かった。美琴「………ふふ」上条「!」美琴「………寒い……ね」不意に、美琴が口を開いた。 上条「ごめんな……。今、歩いたところで危ないだけだから……」美琴「………大…丈夫………」と、言うものの彼女の顔は汗だらけだし、身体も震えている。美琴「………どうする……? 明日のニュースで………『山奥で若い男女の遺体発見』………『女の身元は御坂美琴と判明』……なんて流れたら……」上条「……やめろよ。そんなこと、言うもんじゃない……」美琴「………フフ…でも……このままじゃ……2人とも……死んじゃうかも……しれないよ?」上条「だからやめろって。そんな後ろ向きの発言……」美琴「………私はもう……ここでもいいかな?」上条「やめろよ」美琴「だって……どう考えたって……助からないじゃ……ない?」上条「………………」美琴「きっと……数時間後には……あんたも……私も……息をしてない……」上条「っ ………。。。」その言葉に何か言いかけた上条だったが、寸前で口を閉じてしまった。上条「……………………」美琴「もう……分かってる……ことでしょ……? なら……そろそろ……終わりにしても……いいんじゃない?」上条「…………………………」美琴「………そうしようよ……どうせ……山を抜けれたって……また……追いかけられる……だけなんだ……から」雪の勢いは衰えることなく、風は依然吹き荒ぶ。美琴「………一緒に……楽になろうよ……2人…でさ………私……当麻となら………ここで全部……終わりにして……いい……」上条「………………………………」 上条は呆然として視線だけを正面に据える。確かに、もうどう見たってこの状況は絶体絶命だ。希望なんて1つも有りはしない。なら、このまま苦しい思いをして彼女に偽善の励ましや慰めをしてあげるよりは、もう全てを終わらせてもいいのではないだろうか。自分もどうせただでは済まないことは分かっている。今まで不幸だらけの人生を送ってきたのだから、これからだって同じだろう。でなければ、今ここでこんなことにはなっていないはずなのだ。だったら、彼女と一緒にここで幕を閉じるのも1つの選択なのかもしれない。上条「……………………」それに、彼女と一緒に死ねるのなら、それも悪くなかった。美琴「……………ね?」これが、彼女なりの最良の策だったのだろう。答えを求めてくる美琴を見て、上条は少し考え込んで呟いていた。上条「……………そうだな」美琴「………決まり……ね」美琴が再び上条の肩に頭を寄せてくる。上条美琴「「…………………………」」2人は静かに身を寄せ合う。ただ、いずれそう遠くないうちに訪れるその瞬間を、そしてその瞬間の先にある永遠の暇を待つために。そして2人は、ゆっくりと目を閉じた――。
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シャワーでも浴びるか、と一方通行はソファから立ち上がる。 気分を変えたい。 (そォいや、部屋にはだれもいねェが。あの馬鹿どもは買いものか?) 一方通行は適当に考えながら脱衣所へ繋がるドアを開ける。 そこに。 バスタオルで茶色い髪をグシャグシャと拭かれている全裸の打ち止めと、 左右からグシャグシャに拭いている黄泉川と芳川がいた。 大人二人はタオルを腰に巻いている。 ビクゥ!!と一番初めに反応したのは打ち止めだ。 「どっどうして前触れもなく突発的に出現してるのあなたはーっ! ってミサカはミサカはバスタオルに手を伸ばすけど届いてくれなかったり!!」 ぎゃーぎゃー騒ぐ打ち止めを無視して、一方通行はキョトンとしている 黄泉川や芳川へ目を向ける。 黄泉川が一方通行へ声をかけた。 「オー、人恋しくなったか?それとも一緒に入りたかったか……って痛ぇ」 スパコーン!! よい音がした。 どこから取り出したのか芳川がハリセンで黄泉川の頭をどついたのだ。 「なにすんだよ」 「保護すべき対象にそういう軽口は賛成しない」 「ちょっとふざけただけじゃんよ」 「お前は自分のたれながし無意識フェロモンをもっと自覚しろ、 無駄に鍛えた体の破壊力に気づけ」 口をとがらせていた黄泉川がニッと笑った。 「『無駄に鍛えた』ねー。そういうお前はどうなんだ?」 言うなり芳川を後ろから持ち上げて高い高いをして見せた。 幸いにして天井が高かったので芳川は頭を打たずにすんだ。 「ねーねー百合子ちゃん、こいつさデスクワークのくせに腹割れてんだぜ。 みてみてすごくない?」 「離せ!!」 「暴れるとタオルが落ちるじゃんよ」 騒ぐ二人を一方通行は無視して脱衣所のドアを閉めた。 ため息を一つ。 「……だからちったあ警戒しろっつってんだろォが」
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その頃・学園都市では。 黄泉川「何だって?」 トレーラー型の装甲車の内部に設けられた司令部。そこで電話を受けた黄泉川は開口一番そう呟いていた。 黄泉川「それは……ご冗談ですよね?」 信じられない、と言うように黄泉川はその顔に驚愕の表情を浮かべる。 黄泉川「いや、しかし……!」 警備員「………………」 明らかに尋常ではない様子に、後ろにいた警備員たちが無言になって彼女の姿を見つめる。 黄泉川「………っ 承知……しました……」 ガチャン! その言葉を最後に、黄泉川は手を震わせながら電話を切った。 黄泉川「………………」 警備員「隊長?」 受話器を置いたまま微動だにしない黄泉川を、心配した1人の警備員が背後から声を掛ける。 警備員「何かあったのですか?」 黄泉川「…………じゃん」 警備員「は?」 と、何事かボソッと呟く黄泉川。 黄泉川「御坂美琴の捜査は打ち切りになったじゃん!!!!」 振り返り、黄泉川は部下の警備員たちにそう叫んでいた。 警備員「!!!!!!」 ドヨドヨと警備員たちの間にざわめきが起こる。 黄泉川「…………っ」 黄泉川は、悔しそうな表情を浮かべる。そこで1人の警備員が訳が分からないと言いたげに訊ねてきた。 警備員「どういうことですか!? 何で捜査打ち切りに!?」 黄泉川「どうやら学園都市上層部がそう判断を下したらしいじゃん。これ以上の捜査は不必要、とな」 警備員「そ、それじゃあ御坂美琴や上条当麻、そして2人を連れて逃げ去った男については……」 黄泉川「だから全部終わり。上層部が口出ししてきた以上、我々に動く術はない」 警備員「…………!」 愕然となる警備員たち。 黄泉川「因みにあの“アンチスキル最強の男”と称された武藤は数ヶ月間の停職処分、これからしばらくは本職の教師一本でやっていくそうじゃん」 警備員「では……っ!」 黄泉川「ああ、その通り。私も2ヶ月間、アンチスキルの停職処分を受けた。まあ、覚悟は出来てたがな」 警備員「そんな……」 黄泉川「………ふん」 顔を俯かせ悔しそうに拳を握らせる部下の警備員を見、黄泉川は立ち上がる。 黄泉川「とにかくはここで捜査は終わりじゃん。一先ず撤退準備を始めるぞ」 警備員「はい!!」 その言葉を合図に、警備員たちが忙しく動き始めた。どことなく悲壮感が漂ってはいたが。 「黄泉川先生!」 と、その時だった。 黄泉川「ん?」 後部扉が開いたかと思うと、1人の学生が駆け込んできた。アンチスキルの捜査本部に自由に入って来れる身分の学生と言えば、思いつくのは数えるほどもいなかった。 黄泉川「ああ、お前か」 瞬間氷結「白井さんを見ませんでしたか!?」 そう叫んで黄泉川に近付いてきたのは、ジャッジメント本部長の瞬間氷結だった。 黄泉川「さあ、知らんな」 瞬間氷結「さっきまですぐそこに僕と一緒にいたのに急にいなくなったんです!」 黄泉川「そうか」 必死の形相の瞬間氷結とは裏腹に、黄泉川はもはや気力も無くしているのかそっけない顔で身の回りの片付けをしている。 瞬間氷結「彼女、ここ数日間精神状態が不安定で今日もずっとボーッとしていたんです。だからとても心配で……」 黄泉川「そんなこと言われても困る。私はアンチスキルじゃん。ジャッジメントの問題は本部長のお前の管轄だろ」 瞬間氷結「………………」 黄泉川「ま、奴は1番御坂美琴と因縁深い人間だったからな。逮捕も失敗して捜査も打ち切りになったとしたら、自暴自棄になってもおかしくないだろうな……」 瞬間氷結「自暴自棄って……」 黄泉川「あいつなら責任を執るとか言ってそれぐらいのことしかねないじゃん。特に、今回のようなケースではな……」 瞬間氷結「!!!!!!」 その言葉を聞いた途端、瞬間氷結は慌てたように装甲車を出て行った。 黄泉川「……………ふん」 手を休め、黄泉川は顔を上げる。 黄泉川「ま、私もこの数日間走りっぱなしだったからな。たまには、本職の方で一息入れるとするじゃん」 退屈そうにそれだけ呟くと、黄泉川は片付けの作業を再開した。 黄泉川の部隊が展開する、とある大きな公園。その運動場の端に停車していた1台の装甲車の側で、2人の警備員が無駄話に花を咲かせていた。 警備員A「でさー……その生徒がな、胸が大きいから目のやりどころに困るんだよ」 警備員B「あー分かる。このご時世、セクハラなんてしたらすぐに捕まるからなー」 警備員A「………お?」クルッ 不意に、警備員Aが不思議そうな顔をし、後ろを振り返った。 警備員B「何だよ?」 警備員A「いや、今俺の後ろに誰かいなかった?」 警備員B「はぁ? そんなの知らねーよ」 警備員A「まさか……幽霊?」 警備員B「この学園都市で何言ってんだよ」 警備員A「あ、あれ!?」 とそこで頓狂な声を上げ、自分の足を見る警備員A。 警備員B「今度は何だよ?」 警備員A「お、俺の拳銃がない!」 警備員B「はぁ?」 警備員A「ほら!」 言って自分の右太ももを見せる警備員A。確かに、そこに巻かれていたレッグホルスターには、普段は収納されているはずの拳銃がなかった。 警備員A「ど、どっかに置いてきたのかな?」 警備員B「なら何でレッグホルスターのマジックテープが閉まってんだよ。どっかに置き忘れたままならマジックテープは開いてるだろ」 警備員A「あ、あれ? じゃあ何で?」 警備員B「大方お前が拳銃入れるの忘れてレッグホルスターだけ装着して来たんだろ?」 警備員A「そ、そっか。きっとそうだよな。俺間抜けだし」 警備員B「ああ、お前間抜けだもん。絶対そうだ」 警備員AB「「あはははははははははは」」 呑気な彼らは気付いていなかったが、別に警備員Aは拳銃を最初から持ってきていなかったのでもなく、どこかに置き忘れていたわけでもなかった。ただ、真相は1人の少女だけが知っていた。 最終下校時刻も近付き、アンチスキルの部隊以外は人気が無くなった公園。そこにある薄汚いトイレの裏に彼女――白井黒子はいた。 黒子「………………」 右手に拳銃を持って。 黒子「これで……お終いにしますの……」 談笑していた警備員から、瞬間移動で密かに奪ってきた拳銃を見つめる黒子。 黒子「私は……もう……生きていく資格が無いですの……」 ボソボソと彼女は生気の無くした目で1人呟く。 黒子「あの御坂美琴に1番近くにいた身であるにも関わらず、彼奴を取り逃がし、2度も相見えたと言うのに仕留めることはおろか捕縛することも出来ず、あまつさえ情けを受けてしまった……」 呟きながら黒子は自分の右足に視線を向ける。そこには、病院で治療を受けた際に巻いてもらった包帯が見えた。 黒子「……以前は御坂美琴という私にとって絶対的な存在が側にいましたが、それも過去の話。佐天さんも初春もきっと捜査に失敗した私に失望するでしょう。ならば……もう私に失うものはありません………」 言って黒子は顔を上げる。春には桜を咲かせるだろう大きな木が1本、正面に見えた。 黒子「遺書は私の部屋の机の引き出しに入っていますわ……」 カチャッ! 黒子「さようなら、みなさん……。そして、学園都市………」 黒子は目を閉じ、右手で持った拳銃の銃口を自分の胸元に添える。 ドォン!!!! そして1発の銃声が轟いた――。 黒子「………っ!!??」 トサッ…… と言う音と共に黒子の胸を弾丸で貫いたはずの拳銃は地面に落ちた。だがしかし、彼女の胸に穴は開いていなかった。 黒子「…………っ」 信じられない、と言うように黒子は目を大きくし、突如その場に現れた男を見る。 黒子「ど、どうして……」 瞬間氷結「何をしてるんだ君は!!」 黒子の自決を阻止した人物。それは、瞬間氷結だった。 黒子「ほ、本部長……何故ここに!?」 瞬間氷結「そんなことより! 君は今何をしようとしていた!?」 黒子の顔を見据え、瞬間氷結は怒鳴り声を上げる。 黒子「………」チラッ 瞬間氷結「…………急に消えたと思ったら……」 言って瞬間氷結は地面に落ちた拳銃を拾う。 瞬間氷結「自殺でも考えていたのか?」 黒子「………」ギンッ 黒子の目が密かに鋭くなる。 瞬間氷結「やめておけ」 黒子「あ!」 が、彼女の思考を見抜いていたのか、瞬間氷結は右手に握っていた拳銃を一瞬で氷漬けになってしまった。 黒子「う……何故……邪魔をなさるのですか?」 黒子の目に涙が浮かぶ。 瞬間氷結「やはり死のうとしていたんだな? 何でこんなことを……」 黒子「決まってるではありませんか……。私は……御坂美琴を取り逃がし、あまつさえ情けを受けてしまった……。生きている資格はありません……」 俯き、小さな声で黒子は言葉を紡ぐ。 瞬間氷結「それで君が死ななきゃならないなら、ジャッジメントの長である僕は一体どうすればいいんだ。死ぬよりも酷い目に遭わなきゃならないじゃないか」 黒子「………………」 瞬間氷結「死んだって何の得にもならないよ。生きてればまた、やるべきことも見つかる」 黒子「そんなの……」 瞬間氷結「それに君の友達だって悲しむ。君は死ぬことで責任を果たせると思ってるんだろうけど、余計な悲しみをこの世に生み出すだけだよ」 静かに、瞬間氷結は黒子の顔を見つめながら語る。 黒子「佐天さんも初春も失望してるに決まってます……」 瞬間氷結「そうかな? さっき僕のところに初春さんから電話が掛かってきたよ。『白井さんは無事ですか?』って。彼女も、佐天さんって子も相当白井さんのことを心配しているようだよ」 黒子「………っ」 瞬間氷結「だから自殺なんて下らないことはやめるんだ。君が1番しなければならないことは、生きて再びジャッジメントとして信念を貫いていくことだよ」 黒子「ですが!」 瞬間氷結「?」 と、そこで黒子は耐え兼ねたようにその辛そうな顔を瞬間氷結に向けてきた。 黒子「私はもう、ジャッジメントとしては役立たずです。あの御坂美琴を取り逃がしてしまったんですから……」 瞬間氷結「…………」 黒子「本部長だってそうでしょう!? もう私をお払い箱だって思っているのでしょう!? ならさっさと解雇して下さいまし!!」 瞬間氷結「そんな訳ないだろ」 黒子「…………え?」 即座に瞬間氷結は否定していた。 瞬間氷結「そんな訳ない」 キリッと真剣な表情を浮かべ、瞬間氷結は黒子を見る。 黒子「なっ……」 瞬間氷結「君はいずれ近い将来、ジャッジメントを背負う人物だ。そんな君を、僕が解雇するわけがないだろ?」 黒子「本部長……」 瞬間氷結「寧ろもし叶うのならば、初春さんと共に本部の幹部要員に欲しいと思ってるところだよ。そんな君を僕が手放すわけがないだろう?」 黒子「あ……う……」 目を丸くし、黒子は瞬間氷結を見つめる。 瞬間氷結「だからさ」ポン 黒子「あ……」 優しく、黒子の頭に手を乗せる瞬間氷結。 瞬間氷結「僕(ジャッジメント)には君が必要なんだ。だから、これからも僕と一緒に学園都市の平和を守っていこう」 言って瞬間氷結は笑みを浮かべる。 黒子「……………はい//////」ポッ 瞬間氷結「よし。良い部下……いや、良い後輩を持てて僕は幸せだよ……」 その言葉を最後に、瞬間氷結は踵を返す。 瞬間氷結「さ、黄泉川先生の所へ戻ろう」 黒子「………………」 瞬間氷結「拳銃を盗ってしまったことは素直に謝ろう。多分2人してこっぴどく怒られるだろうけどね、ははは」 黒子「あ……あの……本部長……」 瞬間氷結「ん?」 と、そこで背後から黒子が呟く声がし、瞬間氷結は振り返った。同時、顔を上げる黒子。 黒子「いえ……“お兄様”!//////」 瞬間氷結「……は? お兄様?」 黒子「そ……その……私……実はお願いがありますの……」 モジモジと恥ずかしそうに言う黒子。何故か彼女の顔は赤い。 瞬間氷結「お願い? 何だい? 言ってごらんよ」 黒子「こ……今度……黒子と……2人で……お茶でも……ご一緒……しません?//////」 瞬間氷結「……お茶? まあそうだな……うん。僕は忙しい日が多いけど、今度の非番の日なら大丈夫かな?」 黒子「ほ、本当ですの!?」 パァァと黒子の顔が明るくなる。 瞬間氷結「ああ、もちろん」 黒子「ありがとうございますの!」 瞬間氷結「じゃ、そろそろ戻ろう。黄泉川先生も心配してるだろうからね」 黒子「はい!!」 かつて美琴と一緒にいた時のような元気を取り戻す黒子。 瞬間氷結「急に元気になったね………」 黒子「お兄様のお陰ですのよ………」 瞬間氷結「はは…どういう意味だいそりゃ………」 先を歩く瞬間氷結の後を、黒子が子供のようにはしゃぎながらチョコチョコとついていく。 こうして、御坂美琴を追う彼らの長い日々はようやく終わりを迎えた――。 上条「はぁ~~……」 1人、賃貸マンションの一室で深い溜息を吐く上条。 『ふんふんふ~ん♪』 部屋の奥に設置されたバスルームからは、同居中の女の子――美琴の愉快な鼻声が聞こえてくる。 上条「楽しそうだよなぁ。人の気も知らないで……」 机の前に座り、テレビを見ながら上条は呟く。 上条「にしてもまさかあいつと二人暮しするなんて思ってもみなかった……」 4日前、上条と美琴は無事学園都市からの脱出に成功した。そしてその際に、2人は土御門たちが予め用意していたこの賃貸マンションにほんの少しの間だが住むことになったのだ。もちろん、もしもの時を考慮してマンションの周りには絶えず護衛の魔術師たちが張り付いている。 『ふんふんふ~ん♪』 普通なら、年頃の女の子と同棲するのは羨ましがられるものだが、上条にとっては慣れていたのか、そこまで深く気にするようなことではなかった。 上条「………………」 もしくは、今現在上条がとある悩みに悩まされていたため、だからかもしれない。 上条「御坂は明日でイギリスに行っちまう……」 そう呟く上条。 実は翌日、美琴はイギリスへ行くことになっていた。それもただの旅行ではない。定住のためである。これは『弧絶術式』を受けた美琴を、学園都市の近くに置いておくのは危険と判断したインデックスや土御門、『必要悪の教会(ネセサリウス)』による配慮のもので、既に美琴の両親の承諾も得、荷物の用意も出来ていた。 上条「俺も1度実家へ帰ることになる……」 しかし上条の方は実家へ1度帰る予定はあったものの、美琴についていくことは出来なかった。もちろんそれは上条自身が『弧絶術式』を直接受けた被害者ではなかったためでもあったが、土御門の話によると上条の知らない所で密かに行われた取引の内容のせいでもあるらしかった。 上条「…………はぁ~」 よって、上条と美琴は翌日を境に、滅多なことでは頻繁に会えなくなる。 上条「……………………」 無言になった上条の脳裏に、ある美琴の言葉が蘇る。 ――「私は……当麻のことが好きだよ………」―― 上条「…………っ」 思わず目を伏せる上条。 上条「(御坂……お前は……。そして俺は……)」 深刻な表情を浮かべ、上条は胸中に呟く。 美琴「なーに暗い顔してんの!?」 上条「!!!!!!」 突如背後から聞こえた声に驚き、振り返る上条。 美琴「ビックリした?」 見ると、バスタオル1枚の姿のまま、美琴がすぐ後ろに立っていた。 上条「お、お前……っ!!////」 美琴「何よー?」 あっけらかんと返す美琴。 上条「昨日に続いて今日までも……! ちょっとは恥じらいぐらい見せろよ!!////」 片手で顔を覆いながら、上条は慌てふためく。 美琴「バカバカしい。学園都市で逃げてる最中、何度あんたにギリギリのところで素肌見せたと思ってんのよ」 上条「いや、でも! 俺はこれでも年頃の青少年だぞ! 高校生だぞ! ちょっとは警戒ぐらいしろよ!!」 美琴「………?」 眉をひそめる美琴。僅かに上条の声に苛立ちが混ざっていた。 美琴「大丈夫よ」 上条「ええっ?」 美琴「だって、あんたならそんなことしないって信じてるもん」 上条「………っ!」 言いながら美琴は再びバスルームに戻っていき扉を閉めた。 上条「(……こっちの気も知らないで……っ!)」 普通の高校生なら喜ぶところだったが、深い悩みを抱えている今の上条にとっては重大な問題だった。だが、美琴の学園都市からの脱出に成功させてくれた上条への気の許しようはこれだけでは済まなかった。そしてそれがまた上条を苦しめていた。 美琴「………ねぇ」 上条「…………っ」 就寝前。上条の服を後ろから引っ張るパジャマ姿の美琴。 上条「ダメだ」 美琴「……お願い……」 上条「ダメなものはダメだ」 美琴「……どうして?」 何かを必死に頼む美琴とそれを拒否する上条。 上条「昨日も言ったはずだ。俺とお前は家族でも兄妹でもないんだ。なのに……そんなこと、常識的に考えて……」 美琴「……お願い当麻……。一緒に寝てよ……」 上条「………っ」 上条にとってもう1つの重大な問題。それはこのことだった。 上条「いい加減にしろ。お前、1度常識で考えてみろ。俺は男でお前は女だぞ! しかも2人とも思春期の真っ只中だ。それなのに一緒に寝るだと? ……インデックスと同棲中だって1度もそんなことはなかったぞ」 美琴「だって……仕方ないじゃない……怖いんだもん……」 上条「……もう中学生だろ」 このアパートに来てから1日目の夜だった。就寝時、どちらがベッドを使うかという問題が起こった。上条は慣れてるからと言って自分はバスタブで寝ることを提案、その時は美琴も承諾しそれで済んだのだが、数時間後、彼女はあろうことか上条に一緒に寝てほしいと頼んできたのだ。 美琴「………また…見るんだもん……夢を……」 理由は悪夢を見るから、と言うものである。しかも、学園都市で逃げてる夢でいつも上条と美琴が2人して追っ手に殺される内容らしかった。 美琴「当麻と寝ると……怖い夢……見ないし……」 上条「勘弁してくれよ。普通は頼まないぞそんなこと」 当然、最初は断った上条だったが、余りに美琴がぐずるのでその日から毎晩ずっと一緒に眠っているのだった。 美琴「大丈夫だよ……。当麻は、私に変なこととかしないもん……」 上条「………………」 学園都市で逃げてる頃から、美琴に幼児退行の兆候があったとは言え、さすがの上条も女子中学生と同じベッドで寝るには抵抗があった。しかも、深い悩み事を抱えている今なら尚更のことである。 美琴「お願い………」 上条「………………」 要は、それほど美琴が上条のことを信用していることの証左だったが……複雑な感情が頭の中で巡り巡ってる今の上条にとっては死活問題と言っても過言ではなかった。 しかし……… 上条「…………分かったよ」 美琴「ありがとう!!」 美琴の必死の願いを断ることも、今の上条には出来なかった。 美琴「………zzzzz」 上条「(結局こうなるのか……)」 部屋の灯りも消えたアパートの一室。ベッドの上で美琴は安心しきったように寝息を立てながら、上条にしがみついて眠っていた。 上条「………………」 上条は美琴の顔を見る。彼女は本当に幸せそうだった。 上条「(どうせ今日で終わりなんだ。俺も寝よう……)」 そう胸中に呟き、上条は目を閉じる。 上条「………………」 美琴「う……ん……」 上条「………………」 美琴「とう……ま……」 上条「………っ」 上条の服をガシッと掴みながら、美琴が寝言を呟く。 上条「(……無視だ無視)」 美琴「………とうま……」 美琴の体が上条の身体に接近する。 上条「(クソッ! 頼むから勘弁してくれ……っ!)」 美琴「………好き……だよ……」 上条「!!!!!!」 思わず目を開け、美琴の方を見る上条。 美琴「…………zzzz」 どうやら寝言のようだった。 上条「………………」 上条はそんな至近距離にある美琴の顔を見つめる。 上条「……………………」 美琴「…………zzzzz」 改めて見ると整った輪郭を保っており、同年代の女の子の中でも実に可愛い顔立ちをしている。 上条「………………」 美琴「zzzzzz」 規則的に寝息が零れるその小さな口は、柔らかそうな感触をしており、窓の外から差し込む光を綺麗に反射している。 上条「……………」 美琴「zzzzzz」 そしてその肌は白く、瑞々しさを保っていた。その上、風呂上りであるためか、彼女の髪や身体からは甘い香りが漂ってくる。 上条「………」チラッ パジャマの襟元からは僅かにその奥が垣間見え、上条の思考を停止させる。 美琴「zzzzzz」 少しでも触れると壊れてしまいそうな彼女の華奢な身体。 上条「………………」 刹那、上条の頭に良からぬ考えが過ぎった。 だが……… 上条「(何を考えているんだ俺は……。バカめ……っ!)」 頭を軽く振ると、彼は再び枕に頭を預け目を閉じた。 上条「………………」 しかし、上条の苦労を知ってか知らずか、美琴は眠っているにも関わらずまた上条を刺激してきた。 美琴「とう……ま……」 美琴の腕が上条の腕に絡みつく。 上条「!!!!!!」 美琴「………ん」ギュッ 耳元で囁かれる甘い寝息と接近する彼女の身体。 上条「(やめろ……)」 美琴「………とうま……」 漂ってくる甘い匂い。 上条「(やめろっ!)」 美琴「………う……ん」 背中に感じるその柔らかい感触。 上条「(やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!)」 美琴「好き……だよ……」 上条「(俺はっ! 俺はっ!! ……チクショウ!!)」 美琴「ん……とうま……」 上条「(チクショオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!)」 ガバッ!!!! 上条は思いっきり布団をめくり起き上がる。 上条「ハア……ハア……」 そのまま彼は美琴と対面する形で彼女に覆い被さる。まだ、両腕をベッドに突き立てているため互いの顔と身体はまだ距離が大分あったが。 上条「ハァ……ハァ……ハァ……」 美琴「………zzzzzz」 荒い息を立てる上条とは逆に、美琴は相変わらず幸せそうな笑顔を浮かべて眠っている。 上条「………………」 触れようと思えば、すぐに触れられる距離。そこに、美琴の身体はある。やろうと思えば、自分の全ての衝動を今すぐにでも彼女にぶつけることが出来る。だが……… ――「大丈夫だよ……。当麻は、私に変なこととかしないもん……」―― 上条「………っ」 脳裏を掠めた彼女の言葉がそれを直前で諌めた。 上条「クッ……チクショウ……っ」 美琴の寝顔を正面に、上条は苦しそうに表情を歪める。 上条「……………クソッ………」 嘆くように吐き、ベッドから降りる上条。そして彼はそのまま足音を僅かに響かせて、トイレに向かっていった。 しばらくして――。 ガチャッ という音と共に洗面所の扉が開き上条が出てきた。彼は洗面所の灯りを消すとベッドの所まで戻り美琴を見た。 美琴「………zzzzz」 上条「俺は……何てことを……」 悲しみと後悔が混じった言葉を吐き、上条は左手で自分の頭を抱える。 上条「ごめん……御坂……っ!」 自分の悩みにいつまでも決着を着けられない無力感、それが原因で衝動的に彼女を傷つけてしまっていたかもしれないと言う後悔の気持ち。それが一気に上条を襲った。
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月詠 小萌(つくよみ こもえ) 『とある魔術の禁書目録』の最年長ヒロインである。 声優は「こやまきみこ」 プロフィール ・身長135Cm ・年齢「実年齢は物凄いことになっているらしく、少なくとも黄泉川よりは上」 ・職業、上条当麻の通う高校の教諭。 ・能力開発の専攻は発火(パイロキネシス) ・資格「自動車免許(足が車のペダルに届かないため、特別仕様の車を使っている)」 ・サイド、科学サイド ・容姿 幼女のような外見と園児服にしか見えないピンクの服と、ピンクの髪が特徴。 以上からどう見ても小学生にしか見えないが、大学も卒業済みのれっきとした成人女性。 公式HPのキャラ紹介では「完全幼女宣言」の教師と書かれていた(現在は公式サイトがリニューアルした為現在は見ることができない) 一人称は「先生」。語尾が「〜です」「〜ですよ」となることが多い。 教え子のことを名字+「ちゃん」上条ちゃんなどで呼び、周囲からは「小萌先生」と名前の方で呼ばれる。 同僚の後輩教師に対しては「○○先生」 交友関係 ・上条 当麻 クラス担任。 ・インデックス 『首輪』騒動以降からシスターちゃんと呼んでいる。 ・姫神秋沙、誘波、結標淡希 自宅アパートに同居させて面倒を見ていたことがある。 ・ステイル=マグヌス 大覇星祭ではフラグを立てた。 ・黄泉川愛穂、鉄装 綴里 同僚。 仲が良く、飲み仲間でもある。 設定 彼女の受け持つクラスには、上条当麻の他に土御門元春、青髪ピアス、吹寄制理、姫神秋沙(9/1転入)が在籍している。 身長135センチに加え小学生にしか見えない幼さから、学園都市の七不思議に指定されたり、ジェットコースターで身長制限に引っ掛かったり等の伝説を持つ。 社会心理学、環境心理学、行動心理学、交通心理学等の心理学の専門家でもあり「AIM拡散力場」に関しても豊富な知識を持ち、その知識は当麻を助けている。 更に自身の体内時計で秒刻みの時間が分かる為、部屋には一切時計が置かれていないらしい。 また、喫煙量の凄まじさは黄泉川愛穂に、山盛り灰皿(ホワイトスモーカー)と呼ばれる程の愛煙家で、さらに酒豪でもあり、科学技術が発達している学園都市でも際立つほどの風呂無し超オンボロアパートに住んでいる。 テレビアニメ版ではその身体的特徴が強調され、人が来る前の部屋はずぼらな独身女性らしい様子などのコミカル的な面も強調されている。 第5巻あとがきでは「最年長ヒロイン」と称された。 趣味は心理学を応用して、家出少女の集まる場所に赴き、自分の進む道が見つかるまで同居させて面倒を見る事という、根っからの世話好きでもある。 当麻が負傷したインデックスを抱えて訪れた際も、事情を詮索せず自宅に泊めるなど懐も広く、その人柄ゆえ、生徒からも慕われている。 3巻の一ヶ月前まで小萌先生の家に居候していた家出少女の誘波(現在、パン屋に修行に行った) 霧ヶ丘女学院を追い出され住所不定だった姫神秋沙の面倒を見ており、最近では結標淡希の面倒を見ている。 教えることが大好きで教育の機会を取り上げられると酷く傷つくなど、教師の鑑のような人物。 出来の悪い子こそ教師が救うべき対象と考え、当麻曰く「出来の悪い子供を見れば見るほどニコニコの笑顔になる」自分の生徒を侮辱されると猛抗議する教師の鑑。 その辺りには生徒達も感謝しており、大覇星祭では自分達を侮辱して小萌を悲しませた対戦相手をチーム一丸となって勝利した。 重度の煙草愛好家でありながら、理論数値的にありえないほどの肌の瑞々しさを保っていることにより、日々お肌のお手入れを欠かさない努力の後輩教師、親船素甘に羨望の眼差しを向けられている。 余談だが、一方通行(アクセラレータ)が彼女と初対面した際には、あまりのロリさ、ありえなさに、真面目に驚いており、小萌先生が学園都市の科学技術により生み出された生き物だと、勝手に思い込む程の、衝撃を受けていた。 作中での行動 当麻が負傷したインデックスを抱えて訪れた自宅に泊めた。 彼女の住まいは前述のオンボロアパートの二階なのだが、7月28日銭湯から帰ってみると、壁や畳には魔法陣が描かれ、畳は切り裂かれ、さらには室内はもちろん、天井が破壊されているという戦争後のような惨状になってしまっており、とりあえずベニヤ板やブルーシートで応急処置を施して生活している。 インデックスの治療のため、彼女の手引きを受けて魔術を行使したことがあり、それを記憶していたことが縁で、10巻においてステイル=マグヌスとフラグが立った。 とある科学の超電磁砲 「幻想御手」事件解決後「幻想御手」使用者への特別講習にて講師として登場した。 大覇星祭中の第44話「開会」にて登場。 チアガール姿で常盤台の綿辺先生に挨拶に来ていた。
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美琴「人間に戻せそうですか……?」 どうだろうね。と、科学者は言った。 希望的観測は述べない。典型的な現実主義の科学者だ。 美琴たちは、捕らえた『怪人になってしまった男』を研究所に連れてきた。 生命科学研究所という、あらゆる生物の肉体について研究している場所だ。 そこへ、初春がやってきた。 初春「あ、あの――!」 美琴「初春さん! どうしてここに?」 黒子「私が連絡しましたの。そうしたら、何か考えがあるというので……」 初春は全力で走ってきたのか、苦しそうに肩で息をしている。 それだけ必死なのだ。 美琴「初春さん。それで、考えって?」 初春「…………その人――」 初春が指差したのは、『怪人になってしまった男』。 その禍々しい姿でも、まだ、初春は『人』と呼んだ。 初春「その人の映像――インターネットで配信できませんか?」 【第六話・激突! アルカイザーVS超電磁砲!!】 初春の考えはこうだ。 彼は謎の薬によって、怪人に変えられてしまった。 今、警備員や風紀委員によってその事実が学園都市中に喧伝されている。 だが実際に効果はどうだろう? 薬で怪人に変わってしまうだなんて信じるだろうか? 「どうせドラッグを止めさせるためのデマだろう」と、タカを括られては困る。 だから、その証拠に…… 実際に変わってしまった人間と、その友人の証言を映像として流す。 初春「被害者を利用するみたいで、嫌な気分ですけど……」 黒子「いいえ。それは正しいことですの。そうするべきでしたわ」 初春の案は採用され、早速インターネット上で映像が公開された。 それを見た学生達は、今自分が持っている薬がそうではないかと不安になった。 結果―― 黒子「通常の麻薬やドラッグも一掃できましたわ。初春のお手柄ですの」 固法「ただいま」 初春「固法先輩。どうでした?」 固法「うん。流石に今回の騒動で、スキルアウトたちも協力的になったみたい」 黒子「自分達や自分達の顧客が怪人にされては困りますものね」 固法「そうね……それで、ビッグスパイダーのメンバーと接触できたの」 初春「ビッグスパイダー!? でも、それって……!」 ビッグスパイダー。 スキルアウト集団の一つである。 この第七学区で暴れていたが、リーダーの黒妻が逮捕されたことを期に完全に解散した。 固法は風紀委員に入る前、そのビッグスパイダーに所属するスキルアウトだった…… 固法「安心して。元……よ。もうビッグスパイダーとしての活動はしていないわ」 黒子「…………それで?」 固法「連中。今は人目につかない場所を点々としててね。たまり場を探してるらしいんだけど……」 初春「なら、人が寄り付かない場所には詳しい……?」 固法「……見つけたってさ」 黒子「!? それは……聞き出せたんですの!?」 固法「教えてくれたわよ。昔のヨシミなのか、それとも今の学園都市が怖いのかは知らないけど……」 固法は、ずれた眼鏡を直し、すぅっと息を吸って、呼吸を整えた。 固法「ブラッククロスの、麻薬工場を発見したわ…………!!」 佐天「いないな~…………」 今日は日曜日。 休日だというのに相変わらず忙しそうな初春たちを放っておいて、私は彼を探していた。 佐天「お~い。ラビット~?」 昨日はこの辺りに居たはずなのに…… ひょっとしたら、あの子は何処かの研究所で開発された、試作機か何かかもしれない。 だとしたら、きっとそこへ帰ったのだろう。 佐天「………………ああ。何て私って馬鹿なんだろう……」 何故彼を探しているのか。 それは、私がアルカイザーであることを彼が知っているからだ。 佐天「どこにも連絡してないって……あれから研究所に帰ってデータを調べられたらマズイじゃん!!」 正体を知られたら記憶を消される。 だからこそ、今まで細心の注意をはらってきたはずなのに…… そこへ―― ウ~~~!! ウ~~~!! 佐天「あれって……警備員の装甲車両?」 サイレンをならし道路を進んでいく、装甲車両。 どうやらただの事件じゃない……数が多すぎる……!! 佐天「…………これって」 私の力を確かめるチャンスかも知れない…… 胸が高鳴って、私は今何をしていたのかも忘れてしまった。 変身して装甲車両を追いかけた。 アルカイザーになれば、車に追いつくなんてワケない。 たったそれだけのことが無性に嬉しい。 求め続けた力。 それを、私は使いこなしてるんだ。 佐天「……! あれって……!?」 警備員が取り囲んでいるのは寺院だった。 たしか、手抜き工事か何かが発覚してすぐに使われなくなった…… 佐天「あの数で取り囲むってことは……まさか!!」 あそこが、ブラッククロスのアジト!!! 屋根に飛び上がり、警備員達の様子を伺う。 どうやら突入の準備をしているようだ。 テキパキと装備を確認し、順次配置についていく。 まるでよく訓練された軍隊。とても全員教師だとは思えない…… 佐天「でも。教師なんだよね。警備員って」 そうだ。ただの教師。あれは、ただの教師。 悪の組織との戦いは、教師じゃなくてヒーローの仕事だ。 突入準備をする警備員の中に、黄泉川愛穂と鉄装綴里の姿があった。 キャンベルビルでの傷が癒えたのか、黄泉川の動きに淀みは無い。 黄泉川「鉄装。風紀委員からの情報だと、この寺の地下に工場があるじゃん?」 鉄装「は、はい! ……掛け軸の裏に隠し通路があるって……まるっきり、映画に出てくる秘密基地みたい……」 黄泉川「映画じゃなくて特撮じゃん。戦闘員に怪人だからな……何を考えてるんだか」 気になっていることがあった。 あのとき、キャンベルは自分を四天王と呼んだ。 『四天王・妖魔アラクーネ』と…… それがただの通り名なのか? それとも、そちらが本名なのか? 黄泉川「こんな場所の地下に……誰にも気付かれずに基地を作れる力のある組織……」 黄泉川の知る限り、そんなものの気配は今まで感じたことが無い。 黄泉川「連中は本当に……一体いつどこから、どうやって学園都市に現れたじゃん?」 そのとき突然、爆発音が響いた――!! 黄泉川「何!?」 突然の轟音に黄泉川が振り返る。 爆発したのは寺院の屋根。 そこに開いた巨大な穴と、立ち上る黒い煙…… 黄泉川「鉄装!? 何事じゃん!!?」 鉄装「あ、ああああ、アルカイザーが……!!」 黄泉川「何ぃ!!?」 戦闘員に怪人。四天王。そして、ヒーローまで駆けつけやがった……!!! さあ――待ち望んだ戦いだ。 正義のための戦いだ。 「キィィーーーーーーーーーーーーーーー!!!」 迫り来る戦闘員。 右手に力を込める。 火が灯ったように熱くなり、光り輝く。 それを、叩き込む……!! 「キイイィィィーーーーー!!?」 次――!! 足に集中する。 火が灯ったように熱くなり、光り輝く。 それで、打ち貫く……!! 「「キキィィーーーー!!」」 囲まれた。 こういうときは、両手にエネルギーを集める。 手のひらに集中した光を、拡散させて解き放つ……!! こんな奴らじゃ相手にならない……! もっと……もっと強い奴は……!? 「グルルギャアアアアアアアアアアアア!!!」 おっと。怪人だ! いいところに来てくれた! 紅い鱗を全身に纏った龍。 口から炎を吐き。 壁を壊しながら向かってくる。 以前の私なら――恐れただろう。 けど、今の私はヒーローだ。 アルカイザーだ。 止められるものか……!! 龍の爪を回避し、壁を蹴って移動する。 炎に巻かれないように、柱から柱へ、壁から壁へ飛び回る。 全身に光を灯す。 力が漲ってくる……!! 『ディフレクトランス――――!!!』 全身を光の矢と化し、龍の息を切り裂いて、口から背中まで、一直線に貫いた……!!! 「あは……あははははははははは!!!!!」 あなたの言った通りだったよラビット! この力は本物だ!! 私のものだ!! 私はやっと、この苦しみから解放される!!! 美琴と黒子が寺院に到着したのは、黄泉川が屋根の爆発を確認した直後だった。 美琴「黄泉川さん!!」 黄泉川「超電磁砲! どうしてここに来た!?」 美琴「……ブラッククロスを倒すためです!」 黄泉川「馬鹿かお前ら! そういうのは私達に…………」 黒子「ですが、私たちもお力になりたいんですの!」 美琴「これ以上……被害者を出すわけにはいかないの!!」 黄泉川「お前達…………!」 二人の目は澄んでいた。 以前のような、ただの無茶ではない。 心の底から、「誰かが傷つくことを許せない」と、そう願う者の瞳…… 黄泉川「……行くじゃん。アタシらはここで連絡を待つ。人が多かったら邪魔じゃん?」 鉄装「え!? い、良いんですか!?」 美琴「黄泉川さん!!」 こんな奴らを止めるほど――無粋じゃないじゃん? 美琴「行きましょう黒子!」 黒子「ええ! お姉さま!!」 黄泉川「あー……ちょっと待って」 美琴「え?」 黄泉川「もう一人。救ってやって欲しい奴がいるじゃん」 美琴と黒子は、黄泉川の許可を得て地下基地に潜入した。 美琴「まぁ、見事に暴れたもんねぇ……」 黒子「本当に……お里が知れますの」 その通路に転がる無数の戦闘員の死体。 無残に頭部を破壊されたもの。 両腕を千切られたもの。 何度も踏み拉かれた警備ロボットの残骸。 美琴「……こいつ。力を楽しんでる……!」 黒子「力を楽しむ?」 美琴「ええ……」 経験がある…… 誰にも負けない自身があるから…… 誰でもいいからぶっ飛ばしたくなった…… 誰でもいいから喧嘩を売って、何でもいいから実験台にしたかった…… 美琴「あの頃の私だ……!」 黒子「お姉さま!!」 美琴「っ!?」 通路を走る美琴めがけ、高速で飛来する影……! それは地面に激突すると、周囲の死体を巻き込んで爆発した。 黒子がとっさにテレポートを使わなければ、美琴もその中に巻き込まれていただろう…… 美琴「な……ロケットランチャー!?」 黒子「地下で何て無茶なものを……」 現れたのは、ロケットランチャーを肩に担いだ人型のロボット。 肩に『Mechanical-DOBBY』と刻まれている。 黒子「……! 学園都市で作られたものでは無さそうですわね……」 ロボットはロケットランチャーを構えなおし、再び美琴たちを狙う。 黒子「お姉さま! 先に進んでくださいまし!!」 美琴「黒子!?」 黒子「すぐに追いつきますの!!」 黒子のまっすぐな瞳に促され、美琴は通路の先に進んだ。 その先にいるはずなのだ…… あの、紅い女が……! 美琴「………………」 いた―― 「あれぇ? 御坂さんじゃないですかぁ」 美琴「久しぶりね。この間はどうも……」 「気にしてませんよ。別に――」 朗らかな雰囲気の紅い女。 「ほら! 傷一つついてないですから!」 学園都市に現れた、悪の秘密結社と戦う謎のヒーロー。 仮面に素顔を隠した、紅い鎧の少女。 アルカイザーが、瓦礫の山の上に座っていた。 アルカイザー「でも、遅かったですね。もう全部壊しちゃいましたよ」 おそらく、そこが麻薬を作っていた設備だったのだろう。 何本ものパイプが繋がった巨大な大釜が、砕かれ、へこみ、曲がって、中身をぶちまけて転がっていた。 美琴「あんたが全部一人でやったわけだ」 アルカイザー「ええ。全部。一人で出来ました」 美琴「どうして?」 その質問が理解できなかったらしい。 キョトンとして―― アルカイザー「へ?」 なんてマヌケな返事をした。 美琴「どうしてアンタは戦ってるのさ?」 アルカイザー「やだなー。そんなのヒーローだからに決まってるじゃないですかー!」 美琴「本気で言ってるの?」 アルカイザー「もう……嫉妬するのやめてくださいよ」 ………………。 美琴「……ねぇ? ヒーローって何?」 アルカイザー「悪人を倒す人間のことです」 美琴「へえ……私はてっきり、手柄を独り占めしたがる奴のことかと思っちゃった」 アルカイザー「………………ははは……何ですか?」 何言ってるの……? 美琴「どうしてアンタは戦ってるのさ?」 はあ? 何でそんなこと聞くんですか? 御坂さん。 やっぱりまだあの時のことを怒ってるんだ。 本当に怒りっぽいんだから。 アルカイザー「やだなー。そんなのヒーローだからに決まってるじゃないですかー!」 当たり前のことでしょ? その為に力を手に入れたんだから! 私、がんばっちゃいますよ! 美琴「本気で言ってるの?」 ………………は? ナニソレ…… 意味わかんない…… アルカイザー「もう……嫉妬するのやめてくださいよ」 いい加減にしてよ…… この間だって……人がせっかく助けに行ってあげたのに! 勝手に嫉妬して!! 人に向かって超電磁砲なんか撃ってきて……!! 美琴「……ねぇ? ヒーローって何?」 はい? そんなことも分からないの? レベル5のくせに? アルカイザー「悪人を倒す人間のことです」 美琴「へえ……私はてっきり、手柄を独り占めしたがる奴のことかと思っちゃった」 …………っ!!? それはお前のことだろう!!!!! アルカイザー「………………ははは……何ですか?」 ………………ははあ……そっか。 私があんまり強いもんだから。 アルカイザー「喧嘩……売ってるんですか?」 本当……弱い人間って惨めだよね…… 美琴「昔……能力を始めて使えるようになったころ」 美琴「それが嬉しくて、何でもできるような気がして……」 美琴「そこら中で電気を飛ばしたり。流したり」 美琴「……怒られたわ」 美琴「昔……磁力を操れるようになったとき」 美琴「それが楽しくて、そこら中の物を浮かしたり飛ばしたりした」 美琴「危ないって、やっぱり注意された」 美琴「昔……電気信号を操れることに気付いたとき」 美琴「好奇心を抑え切れなくて、わくわくしながらパソコンに向かったわ」 美琴「ぶっ壊しちゃった。怒られたうえ弁償させられた」 美琴「昔……初めて10億ボルトの電圧を操れるようになったとき」 美琴「もう自分には敵はいないと思って、誰でもいいから戦いたくなったの」 美琴「何人もぶっ飛ばした。誰も怒ってくれなくなったわ」 美琴「最近まではね……」 アルカイザー「……何ですか?」 美琴「私ね。レベル1だったの。努力して、レベル5になった」 アルカイザー「だから。何ですか?」 美琴「あなた――――」 美琴「その力。突然手に入れたのね?」 アルカイザー「………………っ!!!??」 アルカイザー「だから? 何ですか? 自分は苦労したから偉いって? 努力しなきゃ駄目だって?」 美琴「そうじゃないわ……! 苦労したとか、頑張ったから偉いとか……そんなんじゃないの!」 アルカイザー「だったら! 何なんですか!!? 突然振って湧いた力がそんなにいけないの!!?」 美琴「人間は段階を踏むのよ……! 一つずつ分かっていくの!! 少しずつみんなが教えてくれるの!!」 美琴「私もあなたと同じだった! それこそ、徐々に力を手に入れたくせに……分かってなかった!!」 美琴「一人で何でもできると思って……調子にのって……結局みんなに助けられた……」 美琴「あなたは今、力に酔ってるのよ! でなければ――」 アルカイザー「私はヒーローなんだ!! どんな力だろうと! 人を助けて悪いはずが――」 美琴「ならどうして警備員と協力しなかったの!? どうして一人で戦ってるの!!?」 ……………… 黄泉川『アイツ。アルカイザーを救って欲しいじゃん……』 美琴『……アルカイザーを?』 黄泉川『無茶しすぎる。悪人と戦うのはいいじゃん。でも、それがズレてしまうと……』 美琴『ズレる?』 黄泉川『……ありがちな話じゃん…………』 ……………… 美琴「今の貴女は……ただ、ヒーローごっこがしたいだけの子どもよ……!!」 アルカイザー「――――――っ!!!!???」 アルカイザー「貴女が! それを言うのかあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 気付いたときには、拳を振りかぶって飛び出していた……!! 美琴「……!!」 御坂さんは予想していたらしく、真っ直ぐこちらを見据えて、隙無く構えている。 実際に対峙してみて分かる。 この人は、本当に戦いなれしているんだ……! アルカイザー「いつもいつも……! 貴女は!!」 拳に火が点いたように熱い。 この技で殴られたら、御坂さんだってただじゃすまない……! けど…… けど……! 我慢なんて出来ない……!!! アルカイザー『ブライトナックルッ!!!』 光り輝く拳を打ち込み―― アルカイザー「……!? 弾かれ――!!?」 美琴「……! よし!!」 御坂さんの眼前で発生した雷の壁に弾かれ、パンチの軌道が反れた……!! バランスを崩して、左側に倒れそうになる。 美琴「貴女はいつも……何よ!?」 今度は逆に、御坂さんのヒザが鳩尾目掛けて飛んで来た……! それを左手で受け止め、態勢を立て直すために一旦飛び退く。 アルカイザー「っく!!?」 美琴「言いたいことは! 全部言いなさいよ!!」 御坂さんから雷撃が放たれ、後ろに下がる私を追ってくる。 アルカイザー「……!! 分かるもんか……!!」 アルカイザー「御坂さんに……私達の気持ちが分かるもんかあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 美琴「!?」 電撃をブライトナックルで相殺し、そのままの勢いで接近する……! アルカイザー「いつも! いつだって後ろで見てることしかできなかった!!」 御坂さん目掛けてパンチを打ち込む。 ストレートなのかフックなのかも分からない、ただのパンチ。 御坂さんはそれを電撃で受け止める。 アルカイザー「私がうらやむことしか出来ないものを……いつだって当たり前って顔で!!」 パンチ。パンチ。パンチ。 すべて弾かれる。 アルカイザー「だから……望んで得た力じゃなくったって……!」 パンチ。 弾かれる。 アルカイザー「ただ……悪い奴を……やっつけられたら……」 「私は……価値の無い人間じゃないって……無力な……出来損ないの欠陥品じゃないって……」 佐天「私は……やっと……自分を好きになれそうだったのに…………!!」 美琴「――――あ」 アルカイザー「それさえも奪うのかあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」 一瞬、御坂さんに隙が出来た。 すかさず拳を叩き込む。 アルカイザー「希望を持って! 夢を見て学園都市に来たのに!!」 右拳。 命中。御坂さんの頬を捉えた。 御坂さんがよろける。 アルカイザー「いきなりお前には才能がないって!! はっきりそう突きつけられて!!!」 左拳。 命中。よろけた御坂さんを倒れさせない。 御坂さんは目の焦点が合っていない。 アルカイザー「馬鹿やって!! 皆に心配かけて!! それでも立ち直れたから!!!」 右。 アルカイザー「だからそんな皆を守りたいって!! 命を懸けて皆を守るヒーローになるんだって!!!」 左。 アルカイザー「そう思ったのに!! そうなれたと思ったのに!! それさえも否定された!!!」 アルカイザー「どうして皆で寄ってたかって!! 私を否定するのよぉおおおおおおおお!!!?」 御坂美琴との間に距離をとる! 次の一撃で決める! 証明するんだ!! 勝てる!! 全身に力を込めろ!! 輝け!! 燃えろ!!! 勝てる!!! もっとだ!!!! ヒーローの体が眩く光り輝く。 正義の光。正しく強い者であることを証明する純白の輝き……! 勝てる!! 勝てる!! 勝てる!! 勝て!! 勝て!! 勝て!! 勝て!! 勝て!! 勝って、私の方が正しいって証明するんだ! この人を超えて!! 今度こそ主人公になるんだ!!! 同じだ…… あの時と同じ…… 美琴「幻想御手『レベルアッパー』……!」 レベルに対するコンプレックスが、力のある人間への悪意に変わって…… 美琴「アルカイザー……あなたは……」 あの時と同じだというのなら…… 私達、力のある人間の傲慢が、この事態を起こしているというのなら…… 今度は、気付いてあげたい―――― 私には一人で暴走する自分を止めてくれる友達がいた……! 助けてくれる親友たちがいた……! だから……私もこの子を助けたい……!! 美琴「駄目なんかじゃないわ!!」 アルカイザー「!?」 美琴「貴女は、本当に優しい人だもの」 アルカイザー「…………」 美琴「だから。あなたならなれるわよ。きっと本物の――――」 アルカイザー『………………シャイニングキック』 戦いは終わった。 二つの力が正面からぶつかり合った。 空中で生じた爆発的な衝撃が、床も、天井も、壁も、その残骸さえも破壊した。 眩い閃光は、二人の視界を真っ白に染め上げた。 それは一瞬だったのか? それとも一時間だったのか? 激突した二人は、互いに死を覚悟した。 走馬灯が過ぎった。 私の敗因を述べよう。 距離をとったのが失敗だった。 本当は、あの位置からアルブラスターを撃つつもりだったのだけど。 突然の優しい言葉に動揺して、気付いたら飛び出していた。 ベルヴァの胸板だろうが貫く、私のシャイニングキック。 だけど、超電磁砲『レールガン』は、それよりも速く、強力で、何より私と違って、迷いが無かった。 アルカイザー「………………負けた」 美琴「勝ち負けなんてどうでもいいわよ」 大の字になって倒れた私の隣に、御坂さんが腰を下ろした。 アルカイザー「どうでもよくないです……」 美琴「……やっぱり向いてないなぁ。こういうの」 アルカイザー「え?」 美琴「誰かを導くとか。誰かに何かを教えるとか……どうしても喧嘩になっちゃう」 アルカイザー「御坂さん短気ですもんね」 美琴「む……あんたねぇ!!」 アルカイザー「あはは…………………………………………はぁ」 美琴「……負けた経験って、結構大事よ?」 アルカイザー「御坂さんじゃないんだから、いっぱいありますよそんなの……」 美琴「……暴れてすっきりした?」 アルカイザー「……ですね」 美琴「私ね。貴女と戦いたいって思ってたのよ? 悔しくってさ」 アルカイザー「私も、一度戦ってみたかったです。ていうか、勝ちたかった」 美琴「キャンベルビルのとき私より強かったじゃない」 アルカイザー「あれは……ズルしましたから……」 美琴「ズル?」 アルカイザー「あの攻撃のこと、元々知ってたから対策してたんです」 美琴「対策……?」 アルカイザー「はい。ピアスで」 美琴「…………よく分かんないんだけど……」 アルカイザー「…………ああー! くやしいなー!!」 美琴「大事なことよ……それ」 アルカイザー「はーあ……あんまり自信を持つのも問題なんだなー……」 美琴「…………あなた。ひょっとして無能力者?」 アルカイザー「……ばれました?」 美琴「真面目にやってれば認めてくれるわよ……きっと誰かが」 アルカイザー「…………私、真面目じゃないからなぁ」 美琴「じゃあ駄目だわ」 アルカイザー「………………ですよねぇ」 美琴「そうですよぉ……」 アルカイザー「……」 美琴「……」 アルカイザー「強いって……大変ですね」 美琴「大変よ……抱えるものが増えるんだから」 アルカイザー「だから……段階が必要なんですか?」 美琴「一気には解消できないわよ。心って不完全なものだもん」 アルカイザー「力があれば、何でもできるってわけじゃないんですね」 美琴「人間だもの」 アルカイザー「み○を」 美琴「……」 アルカイザー「ごめんなさい」 お姉さまー…… 美琴「黒子!」 白井さんが駆けつけたらしく、御坂さんが立ち上がった。 やってきた白井さんは、御坂さんの頬が腫れているのを見て目を丸くした。 そしてこちらに視線を落としてさらに顔を引きつらせた。 しばらく考え込んで……あ、納得した。 黒子「お姉さま……やらかしましたのね?」 美琴「……何をよ?」 あはは…… さて……私も行こう…… 痛みの引いた体を起こして立ち上がる。 この基地を脱出しよう。 全て終わった。 そう、思ったのに―――― 「やってくれたものだな」 落ちこぼれのヒーローは、もう一つの試練に挑まなければならない。 【次回予告】 佐天達の前に姿を現す、ブラッククロス四天王・メタルブラック!! 鋼の侍が駆ける! そのとき、友の血が戦場に流れた!! 美琴は? 黒子は? そして佐天はどうなるのか? 最強の敵を前に、アルカイザーはどう戦うのか!! 次回! 第七話!! 【死闘! さらば友よ!!】!! ご期待ください!! 【補足という名の言い訳のコーナー】 ・佐天と美琴について。 正直に言います。もっと引っ張って鬱々展開にするつもりでした。 単純に禁書SSだったらそれでも良かったんですけどね。 でもこれサガフロのSSでもあるし。冷静に考えたらそんなアルカイザーみたくねーや。 ということで中止。スコーーン、と負けて頭冷やさせました。 このSSはサクサクとスナック感覚で読める軽い娯楽作品を目指そうかと。 そもそも「強さ」がテーマの原作じゃなくて、「友情」メインのアニメ超電磁砲がモデルだからね。
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~第十五学区・大桟橋~ 黄泉川「………………」 12 05分。黄泉川愛穂は封鎖された大桟橋より欄干に身体をもたれかからせながら目を瞑っていた。 全ての警備員の遺体が収容・搬送され、それを無言の内に見送る黙祷のように。 黄泉川「(――――――)」 遠くでも近くでも赤色灯の瞬きがまるで葬列の篝火のように並んでいる。 遺体の状態は最悪だった。切り刻まれた者、擦り潰された者、見るに耐えない形相のまま溺死させられた者… 支部内の監視カメラに映ったのは、まるで悪夢の中からそのまま這い出して来たかのような濁流がそのまま所内を水没させたブラックアウトの映像。 黄泉川「…殉職者21名…」 通信が途絶された異変が各支部にスクランブルで伝えられた後… 駆けつけた警備員達が見たのは21名という夥しい人命の亡骸… 黄泉川はそれを『死亡者』と言いたくなかった。 彼等は『被害者』であって欲しくなかった。最後まで生徒や治安を守るために戦った『殉職者』であって欲しかったから。 ――そして―― 黄泉川「…生存者2名…」 その中でへたり込む…黄泉川が教諭を務める高校の学生で、同僚たる月詠小萌の生徒である『姫神秋沙』。 そして茫然自失とする姫神に霧ヶ丘女学院のブレザーを羽織らせ傍らにいた『結標淡希』。 共に第七学区の避難所でボランティア活動に勤しんでいる女学生2人。 ガンッ! 黄泉川「…大した…戦果じゃん…!」 押さえきれず、振り上げた拳を欄干に叩き付ける。 命は軽く、死は重いものだと過去に味わった認識が今更ながら込み上げて来る。 犯人と思しき…昨夜も拿捕された『魔術師』なる容疑者はアンチスキルの旗印を掲げるフラッグポールによって串刺しにされていた。 結標『わからないわ。私達が保護を求めた時はもう、こうだったもの』 記録映像が全て浸水によってブラックアウトしていた以上、誰が手を下したかもわからない。 出来る事なら自分が犯人を捕らえ、然るべき場に引き立て法の裁きを与えてやりたかった。 せめてものの救いは…2人の学生が無事であった事。その一点だけがささやかな慰めであった。 黄泉川「…帰るじゃん…なあ――」 そうして黄泉川は大型特殊装甲車へと向かう。 保護された結標淡希と、姫神秋沙を乗せて避難所へと帰るべく―― ~護送車内・結標&姫神+黄泉川~ 結標「………………」 姫神「――――――」 黄泉川「やっと眠ったじゃん」 結標淡希と姫神秋沙は、鉄装綴里の運転する大型特殊装甲車にて護送されていた。 姫神は結標のブレザーをかけられながらその肩に寄りかかって眠っている。 極度の緊張と精神的な磨耗が姫神に眠りを必要とさせていた。 今までとはまるで逆の形ね、と結標は姫神を抱き寄せながら思った。 結標「ちょっとやそっとじゃ起きないわ。いえ、起きれないわね」 黄泉川「その通りじゃん。眠れるだけまだその子には“生きる力”があるじゃん」 姫神が起きないように互いに小声で会話を交わす。 精神的な蓄積疲労が折り重なれば人間は時に眠る事すら出来なくなる。 今、姫神が深い眠りを必要としているのは眠る事で少しでも精神的な負担を軽減させようとしている『本能』からに他ならない。 そして…傍らに結標がいなければ姫神は安心して眠る事も出来なかったろう。 結標「(…にしても、警備員が目の前にいるとやりにくくて仕方ないわ…あの時の電話の声が、よりによってこの女だっただなんて)」 『残骸』事件を通して互いに顔を知らぬとは言え奇妙な因縁だと思わざるを得ない。 月詠小萌には結標は空間移動能力者で、モノレール事件や今回の件はその力を駆使して逃げ回っていただけだとボカしておいた。 黄泉川にもそう伝わっているだろうが、どこまで見透かされどこから見逃されているのかはわからない。 黄泉川「…二日続けてまたぞろビックトラブルに巻き込まれてるのにずいぶん落ち着いてるじゃん?」 結標「(来たわね)いいえ。本当は怖くて恐くてたまらないわ。姫神さんがいてくれるから気を張っていられるだけで、私一人だったら震えて腰が抜けてるわ」 少ししゃべり過ぎたか?と思いつつさりげなく黄泉川から視線をずらして姫神の寝顔を見やる。 疲れ切った様子で、顔色も朝より悪い。無理もないと結標は思った。 結標「先生だって怖くない?私は恐いわ。能力者って言うだけで訳のわからない連中に追い回されて逃げ回っていただけ…先生はどうして警備員になったの?」 出来るだけ一般的な女学生のように振る舞いつつ矛先を逸らせる。 やはりこう言った口先は土御門に比べればまだまだだと思う。饒舌過ぎる。 だが証拠は一つも残していない。いらぬ疑いを持ち続けられるのは後味が悪い。そう思いながら。 黄泉川「守りたいものがあるからじゃん」 結標「守りたいもの?」 黄泉川「そうじゃん」 一言。そのたった一言にどれだけの思いが乗せられているかは黄泉川愛穂と言う人間を知らない結標には伝わり切らない。 しかしそれが確固たる信念に基づいている事だけは伝わって来た。 結標「(…守りたいもの…)」 自分はどうしたいのだろうかと結標は思う。たかが出会って六日。 情が移るには充分で、命を懸けるには不足で、恋に落ちるには早過ぎる時間。 しかし結標はもう自覚してしまった。目覚めてしまった。 結標「(女の子だから好きになったんじゃないわね…きっとこの娘だから、私はこんなにも放っておけないのよ)」 初めて出会った時は変わった子だと思った。 一日目には図々しくて図太い子、二日目にはウマの合う子、三日目には笑顔の綺麗な子、四日目には優しい子、五日目には大切な子…そして今は――六日目は愛しい子。 一週間と持たず陥落させられてしまった気がする。あの中庭でのキスから始まった気がする。 我ながら自分がこんなに単純な人間だと思わなかった。姫神の少女趣味を笑えない。 それは暗部から開放され、仲間達を解放させられたタイミングもあったのかも知れない。 心寂しく人淋しい、いきなり等身大の自分と向き合わさたからかも知れない。 一目しか見ていない微笑みが美しくて、二回しか食べていないご飯が美味しくて、三度交わしたキスがあたたかくて… 天然でいながらしたたかで、年下でありながら抜け目なく、言葉で弄んで手指で戯れて…どれか一つが原因とも言えないし全てが要因とも言えない。 ただ、決定的だったのは…あの屍山血河の中で見せた、初めて見せた姫神秋沙の虚ろな素顔。そして見えない涙。それを見た時結標は思った。この子を守りたいと。 結標「(貴女達ほどご大層なものではないけれど、ほんの少しだけわかるわ。今なら)」 全てを失ったような、何も残っていないような姫神の背中を見せられた時…結標はその身体を抱き締めた。 これが友情なのか愛情なのか、人間として好きなのかはたまた母性なのかも未分化な感情、衝動、そして本能。 結標「(私はきっと、この娘を一人にしたくないんでしょうね)」 どれほどの地獄を心に宿せば、これほどまでに虚ろな感情の極北を瞳に宿せるのか…それを思うと、抱き寄せずにはいられなかったのだ。 黄泉川「………………」 そして黄泉川はそんな2人を見やると…ゆっくり目を瞑った。 黄泉川「(これが)」 同僚達を失った悲しみも、やり場のない魔術師への怒りも、結標への疑いも全てを飲み込んで――1つも表に出さなかった。 黄泉川「(私の)」 ただの一言も、ただの一度もなく…伸ばした背筋に全てを背負って。 黄泉川「(仕事じゃん)」 連れて帰らねばならない。生き残った命と、散って行った同僚達の魂を。 一人残らず、一人漏らさず、一人欠けさせず…連れて帰らねばならない。 黄泉川「(これが――私の仕事じゃん)」 それが自分の仕事だと――黄泉川愛穂は装甲車の小窓から差し込む光を受けた。 ~第七学区・全学連復興支援委員会~ 雲川「無事保護されたみたいなんだけど。今こっちに向かってるって」 小萌「よっ、良かったのです…!良かったのですよぉ…うえええぇぇぇん」 ステイル「(退けたと言うのか。魔術師二人を相手取って)」 結標・姫神両名が黄泉川に保護されたと言う報に月詠小萌は泣きじゃくった。 今朝から生きた心地がしなかった緊張から解かれたためか溢れる涙は留める術を持たない。 避難所のテント内の空気が弛緩する。しかしステイル=マグヌスの表情は硬い。 ステイル「思ったより早く君の“出番”が回って来そうじゃないかオリアナ=トムソン」 オリアナ「そうかも知れないわえ?着いて一日でこんなに状況が悪化してるだなんてさすがに経験豊富なお姉さんでもなかなかね…頑張り過ぎちゃってダウンしちゃいそう」 ステイル「卑猥な物言いを織り交ぜないと会話も成り立たないのか!!」 テント内のパイプ椅子に身を投げ出しながらオリアナ=トムソンは伸びていた。 今朝からずっとグノーシズム(異端宗派)の本拠地の逆探知の魔術を繰り返していたが一向に埒が開かない。 敵は十字教最初期から存在し今日まで生き長らえて来た異端宗派である。その足取りを掴ませない結界魔術に秀でている可能性は高い。 ステイル「(せめてもの救いは神の右席、隻眼のオティヌス、北欧玉座のオッレルス、アウレオルス=イザード級の魔術師が見当たらない事くらいか)」 雲川「(思ったより面倒臭そうなんだけど。まあ、刺激があるから人生は楽しいんだけど)」 そんなステイルを泣きじゃくる小萌の傍らにいながら見やった雲川芹亜は胸中で独り言ちた。 同時に手を打っておいて良かったとも思う。『水先案内人』としてのオリアナ=トムソンを。 それは学園都市内での『水先案内人』などではない。彼女に求められる役割は―― ~悪夢~ 姫神秋沙は悪夢を見ていた。 生まれ育った村落が全滅した時の悪夢を。 自ら手掛かりを求め三沢塾に監禁されていた時の悪夢を。 悪夢を見る事は、精神の安定と調整をはかるための自己防衛機能だと聞いた。その根幹を為す物は罪悪感の発露であるとも。 走馬灯のように現れては過ぎ行く記憶。走馬灯は死に際し、これまでの人生の中で『生きる術』を探すべく辞書を紐解くような行為に似ているとも。 姫神「んっ…」 血と肉と骨で彩られ象られた赤の記憶すら、雪と灰の空白の白に塗り潰されて行く。 失われた人間の命、喪われた吸血鬼の魂、背負った罪、背負わされた死に、何度潰されかけただろう。しかし姫神秋沙と言う人間は潰れなかった。何故ならば 心が半ば死に絶えていたから。死人は二度死を迎える事は出来ない。 それでも自分は食事を採り、睡眠を取り、学校に通い、生活を営む。 吸血殺し(ディープブラッド)の力を打ち消す、それだけのために歩く死人のようになってまで。 姫神「ううっ」 誰に祈れば良い。それは全てを見通しながら何一つ手を差し伸べてくれない神か?姫神のために命を落とした全ての人々か?それとも抗う事も逃れる事も許さない運命にか? 贖罪も天罰も下してくれない無慈悲な空。迷えど迷えど手を引く者などいない――ずっとそう思って来た。 上条当麻と出会ってから。 上条当麻と別れてから。 ――そして―― 結標『私と一緒に来るなら、この手を掴んで』 ――結標淡希と出会ってから―― ~悪夢2~ 不意に蘇る結標の声音。駄目だ。もうそれすらしてはいけない。考えてはならない。 その差し伸べられた手すら、姫神の中に流れる血は許しはしない。このねじくれ曲がった運命が赦しはない。 地獄の底まで連れて行きたくなどない。出会ってしまったから。知り合ってしまったから。だから結標の手を再び取る事なんて―― 結標『イエスなら優しく連れて行く。ノーなら乱暴にさらって行く。選んで。好きな方を』 しかし――夢の中の自分(ひめがみあいさ)が、現実の姫神秋沙(じぶん)が結標の手を取ったのを幻視する。 思えば貴女は最初からそうだった。住処を失った野良猫のような私を家に連れ帰った。 何も出来ない私にご飯と、寝床と、それ以外の様々なものを私に与えてくれた。 一緒にボランティアにもなってくれた。弱い所も汚い所も見せてくれた。 命懸けで戦い、二度も救い、二回も守ってくれた。 これをどうやって返して行けば良いのかわからない。 私には何もない。この忌まわしく呪わしい血以外には何もない。だから―― 姫神「貴女に求められたら。私はきっと。拒めない――」 私が求めたように貴女に求められたら、拒絶する事が出来なくなるかも知れない。 この血に塗れた身体を差し出してしまうかも知れない。この穢れきった肢体を捧げてしまうかも知れない。 だからお願い。夢の中にまで出て来ないで。これ以上私を惑わさないで。 ――結標淡希(あなた)を、私の悪夢(ゆめ)の一部にしたくないから―― ~とある高校・保健室~ 姫神「………………」 14 19分。姫神秋沙は保健室のベッドの上にいた。 第十五学区での戦闘の後、混濁した意識を支えきれず昏睡のように眠りに落ちた後、運び込まれて来たのだ。 記憶があるのは結標のブレザーを羽織らされ、その腕に抱かれてへたり込んでしまった所まで。 姫神「…悪夢(ゆめ)…」 避難所にあって清潔なシーツと寝具の上にて身体を起こす。 服が着替えさせているのがわかった。それは姫神の通う高校の体操服だったから。 結標「お目覚めかしら?」 そしてずっと傍らに付き添っていてくれたのか、揺れる赤髪の二つ結びの少女…結標淡希の声音が響き渡った。 たった今まで夢にまで見ていた少女が目覚めたばかりの視界にいる事が、ひどく居心地悪く姫神には思えた。 姫神「結標さん…」 結標「まだ寝てたら?さっきよりマシだけれど、そんなに顔色良くないわよ」 姫神「もう。大丈夫」 姫神はベッドの上に手をついてもぞもぞと足を引き寄せる。 ダメだ。自分の顔色が今どんなものかわからないがきっとひどい顔をしているに違いない。 最悪の寝覚めで最低の寝起きだ。顔の一つも洗いたくなる。 姫神「………………」バシャバシャ 鏡を見る。ひどい顔だと自分でも思う。眠ったはずなのに朝にはなかった目元の黒ずみ。 肌を叩く水、冷え切った心、凍り付いた感情。 何かを言おうとして言葉にならない。何かを考えようとして思考にならない。 そんな自分を心配するような結標の顔が鏡越しに見えた。 姫神「ずっと。側にいてくれたの」 結標「そうね。ずっとと言っても一時間くらいよ。寝てる所悪かったけど、服は変えせてもらったわ。あのままじゃきっと風邪を引いてしまっていたでしょうから」 『ありがとう』の一言が、『ごめんなさい』の一声が出て来ない。 それどころか、結標の言葉を、声音を、今どこか疎ましく思っている自分がいる。 目を見れない。顔を合わせられない。声をかけられない。 結標「…十字架には触ってないから安心して…」 姫神「…ッ。」 結標「貴女の大切なものなんでしょう?この前は、ごめんなさいね」 思わず歯噛みしたくなる。唇を噛んでしまう。 吸血殺し(ディープブラッド)を封印するための加護の十字架。 しかしあんな悪夢を見せつけられた後では、それが姫神の背負った十字架であるようにすら感じられる。 見当違いの被害妄想と、血迷った被害者意識が脳裏を過ぎる。 姫神「いい。私も。あの時イライラしていた。貴女に。八つ当たりしてしまって」 結標「もういいわ。わかってるから」 胸中が切迫している、心中が圧迫している、精神が逼迫している。 出しっ放しの蛇口を締める。置かれたタオルで顔を拭う。 ちっともサッパリしない。少しもスッキリしない。そんな気分。 結標「――今もそうなんじゃないかしら?あの時と同じ目をしてるわよ、貴女」 姫神「そんな事。ない」 思わずキッと鏡越しから肩越しに結標を振り返る。 冷静な話し方が、まるで自分を責めているように感じられて。 しかし結標は両腕を胸の下で支えるよう組みながらこちらを見やっていた。 結標「ベッドに戻って。姫神さん」 姫神「いい。私はもう。大丈夫だと言ったはず」 結標「貴女の様子を見て大丈夫だなんて思える奴がいたらそいつは眼科に罹った方が良いわね」 姫神「なら。貴女が診てもらえば良い」 結標「悪態がつける程度には元気になったのね?なら――」スッ その時、結標が軍用懐中電灯を指揮者がタクトを振るうように払ったかと思えば―― ボフンッ! 姫神「!?」 結標「遠慮なしね」 いきなりベッドの上に放り出された。それが結標の『座標移動』の仕業だと、姫神は少し経ってから気付いた。 姫神「…何を。するの」 結標「貴女が私の言う事を聞かないからよ。眼科より耳鼻科に罹りたい?」 姫神「どうして。私に構うの」 自分でも不機嫌さが滲み出た剣呑な声音が出たと思った。 しかしこちらを見下ろして来る結標はどこ吹く風とばかりに平然と、悪びれた風も無く言った。 結標「どうして?ハッ。貴女いま自分がどれだけ酷い顔してるかまだわからない?――まるで使い古しのボロ雑巾よ?」 姫神「…五月蝿い。少し黙って」 結標「…あんなに苦しそうにうなされて、辛そうなうわごと聞かされて、はいそうですかって出歩かせると思う?」 姫神「…貴女に。私の何がわかるの」 結標「じゃあ貴女は私の何を知ってるの?」 姫神「…中庭の。仕返しのつもり?」 結標「…知らないわよね。だって私達お互いの事何も知らないんですもの」 ギシッと結標が片手片足をベッドに乗せて来た。仰向けに倒された姫神を見下ろすように。 結標「――吸血殺し(ディープブラッド)ってなに?――」 姫神「!!!」 結標「それが貴女の能力?それが貴女が追われる原因?」 姫神「………………」 結標「大事な時にだんまりされるのは好きじゃないの。答えて」 結標が姫神の手に自分の手を重ね、指を絡めて押さえつける。 逃がすまいとするように。見下ろしてくる眼差しは―― 結標「――訳もわからないまま命を張り続けるだなんてもう私には出来ないのよ!!」 姫神「…!」 零れ落ちそうな涙を必死に落とすまいとしながら…叫ぶような悲痛な声だった。 ギュッと姫神の手にかかる握りの力に強さが加わる。 振り解こうにも振り解けない、痛いくらいの力だった。 ~保健室・結標淡希~ 分岐路を、分岐点を、分水嶺を、一足跳びに超えてしまった。 もう後戻りは出来ない、そう結標淡希は思った。だが後悔はなかった。 結標「こんな傷ついてる貴女を見て!あんなイカレた連中を見て!そんな見てるだけしか出来ない自分がもう嫌なのよ私は!!」 姫神の立つ彼岸、結標の立つ此岸、二人の間に隔たる不帰の河(ルビコンの川)。 足踏みしていた。手を拱いていた。口に出せずにいた。目を背けていた。だがしかし 結標「私はそんなに頼りない?見損ないで!見下さないで!見くびらないで!ちゃんと私を見てよ!!」 結標がいなければ既に二度、姫神はこの場にいなかった。 姫神にも抱えた理由が、背負った事情がある事くらいわかっている。 わかっているから――あえて結標は切り込んだ。 姫神「違う。違う…そうじゃない。私は。貴女に――」 結標「傷ついて欲しくない、巻き込みたくない、戦わせたくない…だなんて言うつもり?」 姫神「――わかって。いるなら…!」 結標「わかりたくもないわ!!!」 ギリッと姫神の手を押さえつける。姫神の顔が痛苦に歪む。 しかし結標は離さない。爪痕を刻もうが、手形を残そうが――絶対に離さない。 結標「戦う事より、傷つく事より、死ぬ事より――私が恐ろしいのは…貴女よ姫神さん」 手を離せば姫神は消える。自分達にこれ以上危害を加えさせないために敵に投降するかも知れない。 能力を悪用され吸血鬼達をこれ以上殺める事になるくらいなら自ら命を断つなりするだろう。 結標にはそこまで姫神が思い詰めているであろう事も知らない。わからない。 しかし姫神が―― 結標「――貴女が消えてなくなるより怖いものなんてない!!!!!!」 姫神秋沙が消えてしまう事だけは、わかるから―― 姫神「…ッ…!」 姫神が歯を食いしばる。 生半可な言葉で 中途半端な言い訳で 切り抜けられる場面でない事がわかるからこそ―― 姫神「…元々。私がここ(学園都市)でどんな扱いをされていたか聞く?」 真実を語るのに感情はいらない。 姫神秋沙は表情の全てを白紙に変える。 姫神「何のためにこんな十字架を肌身離さず身に付けているのかとか」 事実を語るのに感情はいらない。 姫神秋沙は瞳の色全てを黒く塗り潰す。 姫神「きっと貴女は――耐えられない」 現実を語るのに感情はいらない。 姫神秋沙は記憶の中の真紅を見据える。 姫神「私は 」 ~保健室・姫神秋沙~ 結標「………………」 姫神「これが。私の全て」 姫神秋沙は語った。生まれ育った山村で起きた惨劇を。 それが自らの体内に流れる血…『吸血殺し』が引き起こした絶望を。 それを打ち消すために学園都市を、霧ヶ丘女学院を、三沢塾を、各地を転々としながら巻き起こした災禍を。 姫神「貴女が。私を守ってくれた事は。嬉しかった。これは本当」 だからこそ…姫神はもう誰も殺したくなかった。 もうこれ以上は耐えられない。自分の中に流れる血が招く『死』に誰かが命を落とす事が。 姫神「だから。もう。――私を助けようと。救おうとしないで」 それが『人間』であろうと、『吸血鬼』であろうと、『結標淡希』であろうと… 最後に迎える『死』は、他ならぬ『姫神秋沙』で終わりにしたいから。 姫神「貴女を――貴女の死(いのち)を。私は――背負いたくない」 それが同居人(ともだち)だから。それは結標淡希(ともだち)だから。 大切だから手放す、愛しいから手離す。失いたくないからこそその手を取れない。 姫神「もう――貴女の手を。私は――私は。取る事が出来ない。だから。ここで――」 それがどれほどあたたかく、力強く、自分をさらってくれる手であろうと―― 結標「ふざけないで…」 姫神「?!」 それまで自分の手を押さえつけていた結標の手の平が、手の指が小刻みに震えて… ポタ…ポタと、真っ白になるまで噛み締めた唇から、血が滴り落ちるほど食いしばって… 結標「――次は、私の番ね?――」 真っ直ぐ、姫神を見下ろした。 ~保健室・結標淡希2~ 衝撃だった。 自慢するつもりひけらかすつもりがないが、自分だって裏の世界の人間で、そこを生きて来たつもりだった。 人を傷つけた事、殺めた事、地獄の閻魔が呆れ果て、地獄の魔王が苦笑いするような連中のいる闇の世界の住人の一人のつもりだった。 でもこれは違う。そんな次元の話ではない。人間が恐ろしくなる。姫神秋沙という人間が怖くなる。 結標「(こんなになっても、人間はまだ生きていられるというの?)」 こんな絶望を、こんな地獄を、こんな惨劇を味わって尚…『人間』は生きていける事に恐怖すら覚える。 自分なら耐えられない。命を断つという覚悟した姫神のようにすらなれない。 その前に心が壊れてしまう。自分が能力の有る無しに関わらず他人を傷つける『人間』だと思い知らされた時以上に。 結標「(この子は、ただ姫神秋沙として存在する事すら――許されていない)」 殺意を持たずとも、悪意を持たずとも、敵意を持たずとも自分に関わる有象無象の命全てを巻き込む能力など… 姫神秋沙(じぶん)が自分(ひめがみあいさ)として生きている限り続く生き地獄だ。 結標「(何が表の世界の人間よ…なにが…なにが)」 思い知らされる。姫神が何故自分を拒むのかを。 どれほどの重い荷を背負って、それでも生きて来たのかを。 結標「(なにが…なにが!)」 思い知らされる。自分に姫神を救う言葉など持てるはずがないと。 他人に預ける事はおろか、自分で下ろす事すら出来ない荷の重さを。 ――しかし―― 結標「ふざけないで…!」 ――結標淡希は語った。暗部(じぶん)の事を―― ~保健室・結標&姫神~ 姫神「………………」 姫神秋沙は愕然としていた。 結標淡希の口から語られた、結標淡希の真実を。 この学園都市(まち)で陽の当たる場所を歩く自分達と似て非なる… 街の影で 街の闇で 絶対に勝てないゲームに挑んでいた事を。 姫神「(だから。血の匂いが)」 同時に得心も言った。あの身のこなし、あの目の配り、越えて来た修羅場鉄火場の数、潜り抜けて来た激戦と死線。 自分と一つ違いの少女が生きて来たもう一つの世界。 自分のいる世界が表なら、少女のいる世界は裏。 合わせて一枚のコインの世界を生きてきた――姫神秋沙(表)と結標淡希(裏) 結標「…わかった?姫神さん…私はね――」 そこで結標は…ソッと姫神に跨りながらその滑らかな頬を、艶やかな黒髪ごと添えて… 触れて… 撫でて… 愛でて… 慈しんで… 結標「貴 女 と 不 幸 自 慢 し あ う つ も り は な い の よ」 ~保健室・二人~ 姫神「――――――」 思わず、姫神は目を見開く。しかし、結標はいつもと変わらぬ風にその二つ結びを払い、言った。 結標「貴女と傷の舐め合いをするならそれも悪くないわ。けれどね――私は、貴女を見捨てるつもりは毛頭ないの。貴女がどんな過去を持っていたってね――」 その両手で姫神の両頬を挟んで顔を寄せる。目を逸らせる事はおろか瞬きすら許さないとでも言うように。 姫神はそれに抗えない。逆らえない。言い返せない。はねのけられない。 結標「それが貴女の現在(いのち)を!!貴女の未来(いま)を!!否定し(あきらめ)て良い理由になんかならない!!!」 姫神「…貴女。何を。言って」 窓辺から初夏の涼風が吹き込み、保健室のカーテンを、姫神の黒髪を、結標の赤髪を揺らして行く。 ただ結標の手だけが姫神を離さない。この風に姫神が消えてしまわぬよう、さらわれてしまわぬよう。 結標「滅茶苦茶な事言ってるのはわかってるわ。私は貴女を言葉で救えるだなんて思い上がってもいないし、私も貴女の背負っているものを軽く見ているつもりもない…けれどね」 これを乗り越えねば見えてこない。こんなに人間としての心を、無慈悲な神(うんめい)にボロボロにされながらも… それでも尚、結標を巻き込み(殺し)たくない少女の、本当の姿が。 結標「それが姫神秋沙(あなた)の全てなんかじゃない!それが私が貴女を見捨てる理由になんてならない!!!」 流した血の量と、背負った死の数だけで、姫神と自分を比べたくなかった。 見捨てられない、見離せない。見つめたいから、見据えたいから。 どんなに絶望的な世界でも、助けに来てくれる英雄(ヒーロー)のいない世界でも。 無様でも、無惨でも、無理矢理でも、無茶苦茶でも―― 結標「貴女がさらわれたら、貴女が自分で自分の命を断ってしまったら――私は貴女と同じになるのよ!?私が貴女を守れなくても!見捨てても!私は一生悔やむ!一生自分を呪って生きる!!今の貴女のように!!!」 なだめてでも、透かしてでも、極論でも、暴論でも、感情論でも、何でもいい。 結標「貴女のいない世界(へや)で…ずっと一人で生きていく(くらしていく)のは…嫌なのよ…!」 血に塗れた身体(ひめがみ)を、血の河(かえらずのかわ)を越えて、血に汚れた手でも良いから掴みたい。 結標「――言ってよ!!!助かりたいって!救われたいって!生きたいって!死にたくないって!一度で良いから!自分の言葉で叫んでよ!!!」 一人で地獄(敵の手)になんて堕とさせない。 生きて掴みたい。生を、光を、明日を、希望を掴みたい。 この世界にまだ…姫神秋沙の世界にはまだ救いがあると―― 結標「言ってよ―――秋沙!!!!!!」 ~保健室~ 姫神「――どうして――」 姫神秋沙の声はひび割れていた。軋んでいた。震えていた。 あれだけ救いのない自分の中の真実を語り、事実を告げ、現実を諭して尚… 今はもういないあの少年(上条当麻)のように。 血を吐きながら泣き叫ぶようにこちらを見下ろしてくる少女(結標淡希)に。 姫神「――貴女は――」 窓の外には入道雲、積み上げられた瓦礫の山、鳴き出し始めた蝉の声。 目の前には風に揺れる赤い二つ結び、怜悧な美貌をクシャクシャにして、涙声で震える結標淡希。 姫神「――私に――」 避難所の人々の声、ボランティアの人々の声、学生達の声、教師達の声。 そんな世界の中の、小さな結標淡希と姫神秋沙の世界。 姫神「――そこまでしてくれるの――」 それは脆く、儚く、淡い、夏の幻想のはずだったはずだ。 この世界に救いなんてない。私達に救いなんてない。この世界は私達に優しくなんて――― 結標「貴女が――好きだからよ」 ~秋沙と淡希~ お似合いだと思った。血に塗れたと姫神、血に汚れた自分とが。 いつか二人で話したスタンダールの『赤と黒』を思い出す。 血(赤)に染まった過去を持つ姫神。 暗部(黒)に染まった過去を持つ結標。 赤(血)と黒(死)の交わりに救いなんてない。 それが呪わしく思える自分がいる。 自分が男だったならこれは王子様(ヒーロー)とお姫様(ヒロイン)の切ない恋愛劇だったろう。でも違う…違うのだ。 ここにあるのは血に染まったボロ雑巾(ひめがみ)と 泥に塗れたボロ雑巾(むすじめ)の傷の舐め合い。 『太陽』を意味する姫神は何一つ闇を照らせず 『道標』を意味する結標はその標(しるべ)を闇の中に見出せずにいた。 姫神秋沙は思う。この世界にヒーロー(上条当麻)はいないと。 結標淡希は想う。この世界にヒーロー(救い手)などいないと。 ―――それでも――― 結標「貴女が――好きだからよ。秋沙」 ~秋沙と淡希2~ 友達だって、言ったじゃない。 いつか別れる『恋人』じゃなくて。 ずっといられる『友達』だって。 ――私達、『友達』だって―― 結標「答えて。私はもう後戻りを捨てたの…貴女が答えてやっとイーブンよ、秋沙」 やめて、そんなに真っ直ぐな目で見るのはやめて。 逸らした目線を許さないように、『秋沙』と名前で耳に呼び掛けないで。 右を向いても、左を向いても、淡希(あなた)から逃げられる気がしないから―― 結標「私はね秋沙…誰でも彼でも助けようだなんて出来ると思ってもいないし、善意だけで人を救えるヒーローになったつもりもないわ」 シーツと私達の擦れる音、カーテンが風にはためく音。 保健室の消毒液の匂い、結標さんがつけているクロエの香り。 窓辺から射し込む光が、私達に落とす影を深くする。 結標「ただの友達だなんて替えの利く物、あんな風に身体を張ってまで守れはしないわ。貴女、まさか私が優しい人間だなんて思ってた?私が、善意だけで人に手を差し伸べるような、そんなお綺麗な人間に見えでもしたかしら?」 偽悪的な笑みが張り付いた、形良く瑞々しい唇。皮肉っぽく歪められている頬すら様になって見える。 結標さんの手が一房、私の髪をすくい上げてサラサラと流して行く。その手触りを確かめるように。 女にとって、同じ女に自分の髪をこんな風に触られるのは男同士で肩をぶつけられるのと同じ。なのに。 結標「――逆よ、秋沙――」 ギシッと、私の脚の間に結標さんの膝が置かれた。 顔の側に手を突かれた。見下ろされる。もう逃げられない。いや違う。 身体が、手足が、意識が、女としての本能が――私から逃げようとする力を奪う。 結標「下心の一つもなく、ボランティア(無償の愛)で貴女の側にいられるほど私の手は綺麗じゃないの」 クロエの甘い香りが下りて来る。血を想わせる赤髪の二つ結びが触れる。 拒まなくてはいけない。受け入れてはいけない。 跳ね付けて、跳ね除けて、跳ね起きなければいけないのに―― 結標「――好きよ、秋沙――」 見入ってしまったから。魅入ってしまったから。 逆らう気力が湧かないほどに、抗う言葉の行方を見失うほどに。 ―ただ、結標淡希(あなた)が綺麗だったから― ~秋沙と淡希3~ わかってる。恋だ愛だで救われるほど、私達の背負っているものは軽くないと。 わかってる。何か一つ歯車が狂えば止まってしまう時計が、新しい歯車を加えた所でその針を進める訳ではないと。 わかってる。こんな弱味に漬け込むような形で想いを告げるだなんて卑怯だって事くらい言われるまでもないと。 姫神「――どうして。私なの」 結標「おかしな事聞くわね――貴女だからよ」 綺麗なだけの手でこの娘が守れないなら、喜んで差し出そう。 この汚れた手で、血に濡れた手で、何度だって。差し伸べるから。 姫神「私達。女なのに?」 結標「私だってそっちの気なんてないわ。クローゼットの中身見たでしょう?」 素肌に絡むシーツ、脱ぎっぱなしの服、こうしていると、私の香りが移ってしまうわね。 姫神「――なら。どうして?」 結標「口数と一緒にボキャブラリーまで減っちゃった?こんな時に“どうして”ばっかり聞かないで」 全てを無くした貴女、何も持っていない私、お互いに持ち寄れるのは、お互いをあたためる事も出来ない低く冷たい体温だけ。 お似合いだわ。私の形に合わせて歪んでいる貴女、貴女の形に合わせて歪(ひず)んでいる私。 姫神「“なぜ”」 結標「貴女が、私にキスしたのと同じ理由――姫神秋沙(あなた)が貴女(ひめがみあいさ)だからよ」 姫神「答えに。なってない」 結標「頭で考えるものでもないでしょ?こういうの」 鍵の下ろされた扉、引かれたカーテン、こんな所を小萌に見られたら卒倒するわねと笑う私、こんな所を吹寄さんに見られたら気絶されると無表情の貴女。 姫神「淡希のくせに。生意気」 結標「貴女ね…私の方が年上なの忘れていないかしら?」 ねえ、私は貴女が好き。同時に思う。貴女は本物のサディストだって。 こんな時すら『好き』とすら言ってくれない貴女。嘘ですら『愛してる』とは言ってくれない貴女。 その一言で、私はいくらでも血を流せるのに。敵であろうと自分であろうと。安っぽく、誇らしげに。 きっと私はマゾヒストで、ナルシストで、ペシミストなんでしょうね。 自分ではもっとリアリストだと思っていたのに。 姫神「そんな顔も。出来るのね」 結標「…誰がそうさせてるのよ」 貴女は残酷(やさしい)ね秋沙。どうしてここまで言って、ここまでして、貴女に届かないの。 貴女を守りたいのは私なのに、まるで私が貴女に護られているみたいじゃない。 泣きたくなるじゃない。一番泣きたいのは貴女のはずなのに。 姫神「私以外の。誰にもそんな顔しないで」 結標「誰にでも尻尾振る犬みたいに言わないでくれない?」 姫神「そう。貴女は猫っぽい。人に懐かない野良猫」 結標「私を餌付けしたつもり?引っ掻くわよ」 姫神「石狩鍋も。猫っぽい貴女に合うと思ったから。骨の多い魚は。嫌いだと言っていたから」 わかってる。貴女の心に開いた冥い穴は、貴女自身が感情にも言葉にも表現出来ないほど大きい事が。 けれど、それほど大きな穴なら…私にも入り込む余地はあるかしら? 隙間を作っておくほど広くもない私の心に、いつしか貴女の居場所が生まれたように。 結標「猫は首輪じゃ繋げないわよ。束縛されるのが大嫌いなんだから」 姫神「餌付けもダメ。首輪もダメ。なら。なにならいいの」 サラサラの私の赤髪、ツヤツヤの貴女の黒髪。まとわりついてくすぐったくて、少し心地良い。 切ないくらい静かな初夏の昼下がりが、酷く耳について離れない。 結標「…一緒に寝てくれるだけでいいわ。貴女の側で、私の側で」 姫神「いい」 吊り橋効果という言葉がある。ハリウッド映画にありがちな、ピンチに陥った男女が危機的状況に覚える胸の高鳴りを恋だと錯覚するそれだ。 見る人間が見れば、今の私達だってそんなものだ。それに唾を飛ばして反論出来るほど私達は綺麗でもなんでもない。 それくらいの分別はつくし、それぐらいのわきまえはある。 結標「この先も、ずっと一緒にいて」 姫神「猫は。死期を悟ると姿を消すもの。違う?」 結標「…こんな時くらい、嘘ついてよ。秋沙」 でもそれは言葉だ。ここには運命(ロメオ)に見放されたロザラインと、運命(ロミオ)に見離されたジュリエットしかいない。 あの時、避難所の屋根から見上げた月にでも誓えば良かったと思わなくもない。 姫神「私も。貴女と。一緒にいたかった」 結標「…どうせつくならもっと上手く騙して。心がこもってない」 姫神「どうしたら。信じてくれる?」 結標「そうね…」 ねえ神様。そこで見てるなら聞いて。 貴方が助けてくれないなら、私が勝手にこの子を助ける。 貴方が救ってくれないなら、私が勝手に救われてやる。 貴方が守ってくれないなら、勝手に手出ししないで。だから 結標「…キスして…」 ――だから最期の未来(バッドエンド)くらい、私達(じぶんたち)で選ばせて―― ~姫神秋沙~ 女の子同士でするキスは、傍目で見るほど当人達にとって特別な感慨を持たない。 あるとすれば、それは疑似恋愛の代償物か、男女の行為の代替品。 そしてそんな行為に耽る自分達の、マゾヒスティックな呪われた性を自分で嘲うようなそれ。 けれど、それも構わないかなと姫神秋沙は思った。 結標淡希は寂しさのジレンマから心の扉の鍵をかけ忘れた。自分はその中に転がり込んでしまった。 自分は過去のトラウマから心の扉の錠前を壊してしまった。結標淡希はその中に飛び込んできてしまった。 姫神「(まるで。鏡の迷宮)」 そこに見えるのに触れられない。何が実像(ほんとう)で何が鏡像(うそ)かもわからない。 地図も持たず、入口から間違え、出口すら見えない私達はまるで迷子のようだと思う。 姫神「(好きなだけで。いられたら良かったのに)」 この吸血殺し(ディープブラッド)がなければ。何度そう思っただろう。 歪みとは、目に見えた形ばかりに現れるものでもないとも思い知らされた。 手に、額に、頬に、瞼に、首に、唇に、キスを落とす度に思う。 この壊れてしまった学園都市(せかい)で、壊れてしまった学校で、保健室で、締め切ったカーテンの中でこうしている自分。 暗がりに逃げ込む事すら出来ずに、夏の青空が広がる中で、退廃的な傷の舐め合いをしている自分達が酷く自虐趣味に感じられて、自傷行為にも似たキスを繰り返している。 姫神「(私達って。救われない。けど)」 小萌から盗み飲みして、結標が偽造IDで買って来たビールを思い出す。 苦くて、不味いだけなのに酔ってしまう。恋愛すら、上条当麻への秘めた思いを一度抱いたきりなのに―― もう心中を間近に控えた男女の心待ちがわかってしまう自分が嫌になる。しかし―― 姫神「(最期は。私が)」 この笑劇に、喜劇に、無言劇に、悲劇に、幕を下ろす。 終わらせる。バッドエンドが来る前に、自分の手で幕を下ろす。 ――逃れ得ぬ死が、二人を分かつ前に――
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[13]Accelerator04―結標淡希の一番長い一日 その3 染み一つ、皺一見つからない白いテーブルクロスが敷かれたテーブルの上には結標と一方通行の努力の成果が置かれていた。 テーブルの中央には『例のニンジン嫌いな子供用』に調整された『カレー』の鍋。 結標は自分の細い小指で鍋の淵を軽くなぞって、ちろりと舐めてみた。甘い。 「これなら大丈夫だと思うわ。我ながら自信作と言ってもいいわね」 満足そうな顔で一方通行へと振り返りながら結標は更に口を開いた。 「なにやってんの?いまさら冷蔵庫なんかごそごそして。このカレーは完璧よ?」 「あァん!?何言ッてやがる淡希。福神漬けの野郎がまだだろうがよッ。おッと、あッたあッた。黄泉川の奴が後先考えずに片付け やがるから冷蔵庫の中身までごちャごちャになッてやがる」 その後、結標は「福神漬け無くして何がカレーかッ!」と学園都市最強の福神漬け至上主義を聞く羽目となった。 そしていい加減、話にうんざりしてきた頃、変化が訪れた。それが幸か不幸かは神のみぞ知る所だが、科学万歳な学園都市には神を 崇めるような習慣は無い。なにせ教会の類すら無いのだ、この街には。 「たっだいまー!とミサカはミサカは多分寝てる貴方に聞こえるようにわざわざ大音量を披露してみたり!」 「はぁー、やっと帰ってきたわね。打ち止め(ラストオーダー) 、ちゃんと靴を揃えてから上がりなさい」 扉が開かれる音と同時に訪れた二つの声は結標と一方通行の度肝を抜いた。 家主が居ない部屋に若い男女が二人っきり。一方通行の同居人であろう声の主達への上手い説明の言葉は結標の頭がフル回転しても 咄嗟には出てこない。戸惑う結標と違い一方通行の判断はメチャ迅速だった。即急即時即座即決即断即行、思考時間にしてわずか1秒以下。 一方通行は結標の華奢な肩をがっしり掴むと大型冷蔵庫の下部にある野菜室の引き出しを開け放った。そこには野菜など一切無く、 お弁当用の小さなベビーチーズとか口の開いたお菓子の箱しか入ってない、ほぼがらんどうの空間が口を開けていた。 「ちょ!?何する気!痛いッ!痛いってば!むー!むー!」 不穏な空気を察して抗議の声を上げる結標を、白い少年は残虐な光を讃えた紅い瞳を光らせて野菜室へと押し倒す。激しい抵抗も虚しく 結標は野菜室の引き出しの中へと押し込まれてしまった。この場合はまさに、収納されてしまった、の方がぴったりくる。 「狭い!超狭い!てか足痛いってばッ!何これ?猟奇殺人!?どこのホラー小説!?無理無理絶対無理!」 「黙ッてそこに入ッてろ!」 「ちょ、説明とか一切無し!?すっごく無理があるわよ、これ。ねぇ?ちょっと、話聞きなさいよ一方通行っ閉めるなぁ!」 結標は膝を抱えたままの体勢で一方通行へと罵声を飛ばすが、当の一方通行はあっさり無視して野菜室の引き出しを元に戻した。 当然結標の視界は真っ暗になった。 (暗ッ!狭!あと寒!) 普段から野菜が入ってないのかあまり変な匂いはしなかったが、完全な密室となった野菜室の中はあまりにも狭すぎて身動き一つ 出来ない。 自力で脱出するには自分自身を座標移動(ムーブポイント)するぐらいしか思いつかない。手や足はおろか指一本ですら動かすのが困難なぐらい ぎっちぎちなのだ。比較的スリムな結標でも正直辛い。 でもって勝手に脱出した場合、高確率で一方通行に苛められるであろうことが容易に想像できて結標は少し悲しくなった。 (私、今ならいい死体の演技できるわ、多分。いざとなったら適当に脱出するしか無いわね、マジで) 外の様子が見えないので仕方なく耳を澄まして脱出のタイミングを図る。理想的なのはキッチンに誰も居なくなるのがもっともいい。 『むむむ、今、女の声が聞こえたような!キッチンが怪しい!行くぞワトソン君。とミサカはミサカは名探偵の気分を味わってみたり』 『はいはい、ホームズさん。でもドタバタ走らないの』 一方通行の声を聞きつけたのか声がキッチンへと近づいてくる。接触まであと数秒といったところだろうか。 そこでプチンと言う音がして、冷蔵ファンが動きを止め、噴き出されていた冷風も止まった。恐らく外の一方通行がコンセントを 抜いたのだろう。 (い、一応助かった?お腹壊すのだけは避けれたかも) 『料理!?しかもハンバーグ入りのカレーとか妙においしそうな物を!?そ、そんな、不器用な一方通行とか萌えだったのに……。 ミサカの幻想はバラバラに砕け散ってしまったかも知れない、とミサカはミサカはがっくりと膝を突いてうなだれてみたり。でもカレーに ニンジンが入って無いところを確認してアナタの優しい一面を発見し、ミサカはミサカはその一部始終をミサカネットワークに 配信してみたりする』 『よし、クソガキ。お前ベランダからダイブするのと階段で1階までロックンロールするのとどッちがいい?いますぐ選べ』 『わーい、なんだか聞いたことがあるような台詞キター、とミサカはミサカは叫びながら逃げ回ってみたり』 外ではなんだかホームコメディが繰り広げられてそうだ。ドタドタと走り回る音が聞こえる。 『何やってるの貴方たち。あら?今日のお昼はカレーなの?貴方が作ったのかしら』 トントンとフローリングの床を歩く音がしてもう1人の声がキッチンに増えた。声からすると20台前半辺りの女性。結標はなんだか その声に柔らかそうな印象を覚えた。 『おい芳川、”野菜室は空”だぞ』 しれしれっと嘘を言い放つ一方通行の声がした。 (あー、なんだかそろそろ足とか、手とか、背中とか、とにかく体の節々が痛い!ヘルプミー) もはや限界と座標移動(ムーブポイント)で自分自身を飛ばそうと思考を走らせはじめた瞬間。暗闇に光が差した。 「私のポッキーが確かここに……ッ?」 「あ……」 キッチンの一角に3点リーダーが通過し、たっぷり30秒ほど時間が止まった。 20台ぐらいの若い女性と目が合った。ショートボブの可愛い感じのお姉さん。 彼女はややあってから、 「……よいしょっと」 野菜室の引き出しを元に戻そうとした。見なかったことにするつもりだ。 「ああ、待って。閉めないでッ!お願い!」 再び暗闇に閉ざされかけた野菜室で、ちょっぴり涙目になりながら結標は懇願した。 両手を自分の膝の上に乗っけて、洋風の椅子に腰掛けた結標の目の前に置かれたティーカップに柑橘系の香りをさせる紅茶が注がれる。 詳しい銘柄とかは良くわからない。紅茶もティーカップもだ。 「あ、どうも……」 紅茶を入れてくれたのはさっきのショートボブのお姉さん。結標がかしこまってお礼を言うと「どういたしまして」と返してくれた。 お姉さんが入れてくれた紅茶を飲みながら、結標は少し記憶を整理してみる。傾けたティーカップから口の中に紅茶の風味が広がった。 (えーと……野菜室から引っ張り出されて、名前を教えてもらって、それから) まず結標の正面で学園最強の能力者(アクセラレーター)を「いーじゃん、いーじゃん」とからかってるもう1人のお姉さんへと首を動かす。 彼女は黄泉川。黄泉川愛穂がフルネームだ。とある高校の体育教師をしていて、学園都市の治安を担う警備員(アンチスキル)としての一面も あるとかないとか。首の後ろあたりで長い髪を無造作に纏めている。服装は動きやすそうなジャージの上下。 これは料理の合間に一方通行が言ってたことだが黄泉川には強能力者(レベル3)程度ならポリカーボネート製の盾一個で難なく制圧してしまう 名物警備員(アンチスキル)とかいう伝説があるらしい。特別な装備も無しで『それ』を実行する姿は結標の頭ではちょっと想像がつかない。 あと『この部屋』も彼女が借りているという事だ。結標が野菜室から救出された後にひょっこりと帰ってきた。 『は~いタダイマ、タダイマーじゃん、おやおや珍しいことにお客さんじゃんよー?。居候の分際でこんな可愛い女の子連れ込んで……。 こちとら長々と続いた、校長のロシア談義で心身共にお疲れさんだってのに、二人でラブラブ?スーパー生意気じゃんよー』 結標の記憶が正しければそれが黄泉川の第一声だったはずだ。その『じゃんじゃん』言う独特の口調はなんだか前に聞いたことがある気も するのだがあれは一体どこだったか?奥歯に挟まった物が取れないような妙な気分が結標を襲う。 (思い出したくないような気もするけど、これは何故?) それでも彼女の顔を見るのは初めてだったし、多分自分の思い違いだろうと結標は早々に結論をだし納得した。 続いて黄泉川の右側の席をチラリと見る結標。そこには先ほど紅茶を入れてくれたショートボブの女性が座っていた。 優雅にティーカップを傾けて就職情報雑誌に目を落としている。多分傾けてるカップの中身は結標の持ってるものと同じ。 さっき軽く自己紹介してもらったが名前は芳川桔梗というらしい。騒ぎまくりの黄泉川とは随分対照的で、落ち着いた雰囲気の知的美人と いったところだろうか。野菜室から助けてもらったり紅茶を入れてもらった事もあり、少し贔屓目ではあるが、結標は芳川をそう評価した。 「桔梗ー、今日の就職活動はどうだったじゃんよー?いいところあったかい?」 「別に。特に惹かれる所は無かったわね。というか大半が打ち止め(ラストオーダー) の子守だったような気までするわ」 芳川は黄泉川と他愛の無い会話を交わしながら『この事態』を静観するつもりのようだ。 (まぁ、この二人は別にいいんだけど……) 最後に控えるのは見た目10歳児くらいの小さな女の子。芳川の隣に置かれたお子様用の椅子から身を乗り出し、目を吊り上げている。 「えーと……すっごく嫌われてる気がするわ……一方通行、パスッ」 比喩抜きでバチバチする幼女の視線に耐えかねて結標は思わず一方通行に助けを求めた。 幼女の「この女誰?」といった感じの不満ビームの矛先が結標から一方通行へと切り替わった。 「――チッ。オイ、クソガキ、とりあえず、その眼鏡はなンだ、その眼鏡は。俺には眼鏡属性なンてもンはねェぞ」 一方通行が指差す幼女の鼻の上にあるのは、エンジ色の細いフレームが、四角いレンズの下側だけをなぞる今風な眼鏡。 しかも少し幅が大きいのか折角の眼鏡は半分ずり下がってたりする。さっきから何回も位置を直してたりする。 「これ?今日芳川に買って貰ったの。似合ってる?とミサカはミサカはある言葉を期待しつつ眼鏡のフレームを持ち上げてみたり。 これでミサカの知的なイメージが5アップ。アナタはたちまちメロメロ。とミサカはミサカはオデコの眼鏡ででこでこでこりん♪とか 懐かしいフレーズを口にしてみたり」 「……」 紅茶を楽しむ芳川に目で『語りかける』一方通行。いやもう視線の強さは目で『殺す』レベルまで達している。 「大丈夫よ。度は入ってないから。それより、貴方も野菜室に女の子押し込めるより先に早くお世辞の一つや二つ覚えたほうがいいわよ」 「社交辞令ってのは社会に出る上では結構重要な技術じゃんよー。覚えておいて損は無いじゃん。あと女の子を冷蔵庫の野菜室に押し込むの は流石にどうかと思うじゃんよ」 「突ッ込むところはそこじャねェだろうが!」 「いや、私を野菜室に押し込めるのは充分突っ込むところだと思うわよ。って聞いてないわね」 学園都市最強の能力者のガンツケはおろか、突っ込みを受けても、大人の女性ニ人はどこ吹く風といった様子だ。一向に堪えない。 黄泉川、芳川は両名とも氷を浮かべた冷水にポッキーを濡らしてポリポリと齧ってる。 食事の前にお菓子を食べるのは正直どうかと思ったが結標はとりあえず話が進まないので幼女の方に集中することにした。 「えーと、ら、ら、らす……」 結標は一方通行から「このクソガキはなんたら」と紹介してもらったのだが、なんとも耳に慣れない名前だったので ついつい記憶を探ってしまう。でも結局思い出せないので自然と言葉が詰まってしまう。 幼女は、おでこに人差し指を当てて壊れたプレーヤーの様に幼女の名前の先頭ニ文字を連呼する結標の方へ、向き直って口を開いた。 「ミサカの名前(パーソナルネーム)は打ち止め(ラストオーダー) 。もしくはミサカ20001号でもいいかも!とミサカはミサカは改めて自己紹介してみたり。 貴女の名前は結標淡希でいい?唐突で悪いんだけど。この人(アクセラレーター)とは一体どういった関係で?ミサカが納得できる理由を 400字詰めの原稿用紙3枚以内で簡潔かつ明瞭にまとめて即座に答えて欲しいかも、とミサカはミサカは知的な一面をアピールしてみたり しつつ説明を要求してみたりしてみる」 幼女の要求した答えを探して結標淡希はさらに頭を悩ませるのだった。 しばらくして、結標の口から出たのは、 「えっと、私は、ほら、コイツの女友達でね。夏休みの終わりぐらいからちょくちょくと。今日はおいしいカレーの作り方を教えて欲しいと コイツに頼まれて、仕方なくね」 という半分以上が嘘で構成された言葉。これでも必死に考えた末のベターな答えだった。 「この人(アクセラレーター)に友達なんて居るわけ無い!とミサカはミサカは断言してみる!」 打ち止め(ラストオーダー) はきっぱりと言い切った。 「即答すンなッこのクソガキ!」 結局お茶を濁しながら『例のハンバーグカレー』を5人分それぞれの皿へと注いでいく結標の姿をまだ納得してません、といった 打ち止め(ラストオーダー) の視線が追う。 「うう、視線が痛い」 結標は仕方なく一方通行を促すことにした。 「ほら、あなたもフォローしてよ」 「――あー、大体そンな感じだ」 結標の肘に小突かれて一方通行もぶっきらぼうに口裏を合わせた。打ち止め(ラストオーダー) もそれで納得したのか『例のカレー』が よそわれた皿を見て「わーい」と喜びの声を上げた。 (本当はニンジンがこれでもかってぐらい入ってるんだね、そのカレー) 無邪気に喜ぶ打ち止め(ラストオーダー) の笑顔で結標の良心がちくりと痛んだ。 「やほーい!最初は『この泥棒猫が!』とか思ってたけど淡希は実はいい人だったかも!ってミサカはミサカは……淡希? ミサカのカレーはなんだか、どんどんとミサカの手の届かない所に行っちゃうんだけど、とミサカはミサカは状況を説明してみたり」 どうやら痛んだ良心は無駄だった様だ。 「……なんだか、打ち止め(ラストオーダー) ちゃんの頭上にある私の力作カレーが急降下しそうな予感がするわ。湯気がでてるしきっと熱い でしょうね。大火傷かしら?こういうときは何て言うべきなの?打ち止め(ラストオーダー) ちゃん。4、3、2――」 「ご、ご、ごごごめんなさい。ミサカはミサカはいきなり4から始まるカウントダウンの恐怖に身を震わせながら一生懸命謝ってみたり! だから罪の無いカレーを落とさないで!ってミサカはミサカは懇願してみる!!」 ガタガタと震え涙目になる幼女の前へ、カレーを座標移動(ムーブポイント)し、その頭をポンポンと軽く叩いて結標も席に戻った。 (びっくりしてる、びっくりしてる) 突然、何も無い虚空から出現したカレーに、目をパチクリさせる打ち止め(ラストオーダー) を見て結標はニヤリと微笑んだ。 『いただきます(じゃんよ)(とミサカはミサカはお行儀良く手を合わせて言ってみたりする)』 テーブルに着いた全員が手を合わせて言ったが、一方通行だけは一人やる気なさそうに口ぱくでごまかしていた。 言い終わるなりスプーンを握りなおし、カレーにぱくつき「カレーウマー」と口から光線でも吐き出しそうなリアクション で感嘆の声を上げる打ち止め(ラストオーダー) 。大人の女性二名もニコニコと舌鼓を打っていた。一応好評のようだ。 どうやら隠されたニンジンの味には気づいていないようだが、作った本人としては打ち止め(ラストオーダー) の無邪気な反応が この料理に対する最大限の賛辞とも取れ、なんだか嬉しくなってしまう。自然と結標の顔が穏やかに笑みを形作る。 ふと結標は黄泉川の隣に座ってる一方通行へと声を掛けた。 彼の前の皿の中身はあまり減っていなかった。「食べないの?」と聞いたら「甘すぎィンだよ」と返ってきた。 どうも彼は甘いのは苦手のようだ。だったらカレールーを二種類用意すればよかったのにとも思ったがそれは黙っておいた。 「アンタが作れって言ったんでしょう……ニンジンが――むー!むー!」 突然とんでもない速度で回りこんできた一方通行の右手が結標の口を塞いだ。 カレーの皿から顔を上げた打ち止め(ラストオーダー) が「?」と首を傾げた。 「喋るな。それ以上一言も喋ンじャねェぞ。ネタ晴らしはあのガキが食べ終わッてからだ、いいな?」 打ち止め(ラストオーダー) の様子をちらりと伺い、結標の耳元に口を寄せて、彼は囁いた。 「――!――!」 顔を真っ赤にして、声にならない悲鳴を上げながら何度も何度も頷く。思わず心臓の音が部屋中に聞こえるんじゃないかとまで思った。 ややあって一方通行は結標を開放した。開放された結標は「ぷはぁ」と久方振りの空気を肺に送り込んで 「死ぬかと思った……」と小さく零す。 『それ』は恥ずかしくてなのか、息が出来なくてなのかの答えは、結標の胸にだけひっそりと仕舞われた。 「これはまた随分と仲がいいじゃんよー」 「そうね、独り身には少々目の毒だわ。打ち止め(ラストオーダー) の教育上も良くないからラブシーンはベランダでやって欲しいわね」 「はっ!?これはもしかして食べ物で懐柔された!?淡希がミサカを謀った!?ミサカはミサカは疑心暗鬼に陥って軽く混乱してみたり!」 品のよくない笑いを浮かべる黄泉川。適当に見当違いの相槌を打つ芳川。スプーンを握り締めて叫ぶ打ち止め(ラストオーダー) 。 赤い顔をして荒い息をつく結標と、不機嫌そうに鼻を鳴らしてそっぽを向く一方通行。 多分これは自分が経験した中でもっとも騒がしい昼食の一幕だ――と結標はそう思った。 「淡希淡希遊んで欲しいかも、とミサカはミサカは淡希の了解も得ずにいきなりその胸に飛び込んでごろごろと甘えてみたり!トゥ!」 「え、うひゃぁ!?」 結標の胸に飛び込んでくる小さな魔物。可愛さ余って痛さ100万t。ヘッドダイビングを敢行した幼女を結標は変な悲鳴を 上げながら受け止める。打ち止め(ラストオーダー) の頭が結標の鳩尾にヒットしいい感じに息が詰まってしまう。 「えへへへ、ふかふかーぷにぷにーいい匂いするー、ここミサカの定位置にしたいかもってミサカはミサカは簡潔に要求してみたり」 「ぐぅ。打ち止め(ラストオーダー) くすぐったいからやめてちょうだい」 少し遅めの昼食を取った後、結標達はリビングのソファーでくつろいでいた。 隣には一方通行。そして結標の膝の上にはさきほど飛び込んできた打ち止め(ラストオーダー) が座る。 黄泉川と芳川は「昼食の礼じゃんよー」「お客さんに皿洗いまでさせられないでしょ?」と2人仲良くキッチンだ。時折キッチンから もれてくるのは水音と食器同士が奏でる不協和音。それに混じって「桔梗、1秒間に16連射じゃんよー」「無理よ」とか聞こえてくる。 確かAI搭載の全自動皿洗い機があったような気がするのだが、どうやら本当に使われていないようだ。 (しっかし可愛いわね、この子) 「うりうり」 「きゃははははは、淡希くすぐったいかも~、とミサカはミサカは率直な感想を口にしてみたり」 自分の膝の上の打ち止め(ラストオーダー) の髪を撫で回して「ハフゥ」とあったかい溜息をつく結標。 癒されまくりでマイナスイオン充填完了だ。隣の一方通行がそれを見てあからさまな舌打ちをしたがそれはどういう意味なのだろうか? 一方通行では無いので結標にその真意の程はわからない。 膝の上で暴れる打ち止め(ラストオーダー) を落ち着かせるために手前のテーブルからTVのリモコンを取りチャンネルを適当に切り替える。 学園都市のローカル番組も見れるらしく沢山のチャンネルがあった。 この時間はあまり面白い番組はやっていないようだ。せわしなくリモコンを操作して膝のお子様が焦れ始めた頃にようやく お目当ての子供向けのアニメ番組が表示された。 超機動少女カナミン(マジカルパワードカナミン) とか丸っこい字のタイトルが流れていた。 少しだけ打ち止め(ラストオーダー) と一緒になって眺めてみたが初めて見る番組なので内容がさっぱり判らない。 だが膝の上の打ち止め(ラストオーダー) はと言えば食い入るように映像に夢中だった。映像が進む度に「おおー」とか「どきどき」とか 率直な感想を口にする打ち止め(ラストオーダー) の方は見ていても一向に飽きが来なかった。 しばらくして両手一杯の荷物を持って黄泉川と芳川がやってきた。二人は結標達が座る三人掛けのソファーとは放れて置かれた、透明な テーブルを挟んで独立した、一人掛けのソファーにそれぞれ座った。 ゴトンと硬い音をさせて透明なテーブルの上に”持っていた物”を広げて、 「打ち止め(ラストオーダー) が淡希っちにすっかり懐いてるじゃんよー。居候一号、そっぽを向いてるのは焼き餅かい?」 と聞く。 居候一号――これは恐らく一方通行を指している。いつの間にか結標にも『淡希っち』と愛称が付いていた。 「愛穂、それだと『どっち』に対しての焼き餅なのかわかりづらいわよ、一応教師でしょう?」 「い、一応だと!居候三号め!私は体育教師であって国語教師では無いじゃんよー!」 プルタブを開ける音がして黄泉川の持つ350mlのアルミ缶から白い泡が吹き出る。透明なテーブルの上には大量の酒。缶ビールをはじめ、 チューハイ、ワイン、ウイスキー、吟醸、泡盛、梅酒などなど。とにかく所狭しとアルコールが広げられていた。 「ど、どこから?洋酒は確かに部屋に置いてあったけど」 「戸棚の中にぎッしりとあンだよ」 黄泉川と向かい合う芳川もなんだか梅酒をグラスに注いでちびちびと口に運んでいた。 「オイ、駄目人間一号ニ号……未成年の人間が三人も居る上にまだ日も高いうちから酒盛り始めンじャねェよ。酒臭ェだろうが!」 「若いうちから細かい事気にするなじゃん!それにもう一人来る予定だし、今日の黄泉川せんせーのお仕事は昼まで。 後は野となれ山となれじゃんよー」 「淡希、淡希ッ。ミサカもあれ飲んでみたい!ってミサカはミサカは好奇心全開で要求してみたり」 おいしそうにグラスやら缶やらを傾ける大人の女性ズを横目で見て、興味を抱いたのか打ち止め(ラストオーダー) の期待に満ちた 視線が結標を真下から打ち抜く。正直幼女の要求を叶えてあげてもいい、と頭に過ぎったが、すんでのところで理性が歯止めを 掛けてくれた。未成年の飲酒は法律で禁止されています。 「打ち止め(ラストオーダー)そんなの駄目に決まってるでしょう!?お酒ばっかり飲んでると駄目人間になっちゃうわよ?」 結標の細い指が指し示すのは隣で呆れた顔をする学園最強。幼女が縦に握った右拳を左手に打ち付けるとなんだか可愛い音がした。 「淡希……それはどういう意味だ?随分と楽しそうだな、ヲイ。俺も酒は飲まねェンだが。その顔を見る限り聞く耳持ッてやがらねェな。 あとクソガキ!間髪入れずに納得すンじャねェよ!なンだ、その、ポン☆、ッてのは」 激しく語気を荒げる一方通行に打ち止め(ラストオーダー) が「えへへ」と可愛らしく頭を掻くので結標も真似して「えへへ」を敢行してみる。 「チッ!」 効果は抜群だ。やたらとあからさまな舌打ちだけを残し、オーバーレブ寸前まで達していた一方通行の戦意は見事に殺(そ)がれた。 「「イエーイ☆」」 パチンと小気味の良い音をさせ、ハイタッチをする結標&打ち止め(ラストオーダー)。傍目からは仲の良い姉妹か親子のように見える。 まあそれでもお酒に対する興味は少しも薄れないようで駄々っ子モードを駆使して幼女はお酒を要求してきた。 「淡希っち、なんだか打ち止め(ラストオーダー) のお姉さんかお母さんみたいじゃん。よし、私が許す。チューハイなら一口ぐらい 飲んでも平気じゃんよー。パスッ」 黄泉川はそう言うと緑のラベルのアルミ缶を一個投げてよこした。結標はライムの絵が書かれた350ml缶を受け取ってプルタブに 爪を掛ける。軽い抵抗と共に空気が漏れる音がした。 「あの、私も未成年なんですけどね……聞いてないですね、そうですね。いいです飲みますから。飲めばいいんでしょう。 この部屋では私に選択権って無いのね。それにしても、なんだか爪が割れそうで恐いのよね、プルタブって」 アルコールなんてクリスマスのシャンパンぐらいしか飲んだこと無かったが軽く口をつけてみると口当たりはそう悪くなかった。 アルミ缶を両手で持ってクピクピと呷る結標の膝の上では、お姫様がその様子を見て口を尖がらせていた。 「あー、ミサカもソレが飲みたーい!飲みたい、飲みたい、飲みたい!淡希の馬鹿ー! 淡希の怪我はもう治ってるのよ!淡希の意気地なし!ミサカはミサカは反旗を翻して振り返らずに走り去ってみたりしてみる。ちらり」 ジタバタと結標の膝の上では幼女がご乱心だ。さっきまでの上機嫌はどこへやら、一転して駄々っ子と化した。打ち止め(ラストオーダー) は ひとしきり暴れた後に結標の膝から飛び降りて、部屋の隅っこの観葉植物の陰に隠れてしまった。拗ねてるみたいだ。 「打ち止め(ラストオーダー) ……。最後の方、意味がわからないんだけど、とりあえず……こうしてやるっ!」 結標は左手の人差し指で対象を指定。一瞬の後、観葉植物の陰から幼女の姿が虚空に消えた。 「ひゃあ、びっくりした。う、あひゃははははは、淡希ちょっと、それは、ぐひょい、くるしいかも、ってミサカはミサカはぁぁぁ――」 観葉植物に隠れていた打ち止め(ラストオーダー) を座標移動(ムーブポイント)で再び膝の上に持ってきて左手で柔らかい脇腹をくすぐる結標。 たちまち陥落する幼女。笑い疲れた幼女は荒い息をついてぐったりと手足を投げ出している。とりあえずこれでお酒の件は解決した。 結標は隣に座る一方通行の方をチラリと覗いてみた。一言で言うならぶっきらぼうな表情。 けだるそうな視線で結標と打ち止め(ラストオーダー)を眺めている。何か私の顔についてるのかしら?と結標は思わず勘繰ってしまう。 「淡希っちに焼き餅なのか?それとも打ち止め(ラストオーダー) に焼き餅なのかはっきりするじゃんよー!」 「寝てろ酔ッ払い」 空き缶、空き瓶を量産する黄泉川の言葉に一方通行は打てば響く反応で返した。 その『酔っ払い』という括りには自分も含まれてるのだろうか?と思ったが、ほどよく体を回ってきた酔いが結標の思考を妨げる。 自分の顔に仄かな熱を感じたが結標はそれをアルコールのせいにする事にした。 一人分スペースの開いた三人掛けのソファーの片隅では、綺麗に畳まれた紺色の上着の上で携帯電話が静かに震えていた。 [12月23日―PM14 00]