約 14,823 件
https://w.atwiki.jp/sirenindex/pages/51.html
一方通行 / 8:21:33 / 第七学区 サブマシンガンの掃射を受け、粉々の木屑と化したドアを踏み拉きながら、一方通行(アクセラレータ)は笑う。 現在、一方通行は、その最強と呼べる能力に制限を受けている。 依然頭蓋に負った損傷により、言語・演算能力の大半を失った彼は、 首に装着した電極の補助がなければ、日常生活を送ることすら出来ない。 能力を行使できるのも、電極のバッテリーが保つ時間、約三十分間のみ。 しかし。 それでも尚、余りある程の絶対的な力を以て。 『一方通行』は、学園都市全ての超能力の頂点に、君臨する。 一方通行「いいぜェ、手前ェらを裏から糸引いてるドマヌケ野郎が何考えてンのかは知らねえが…… このオレに喧嘩ふっかけようってンなら、遠慮無く、叩き潰して踏み潰して捻り潰してやンよ」 白髪の悪魔(アクセラレータ)は、笑う。 終了条件2:第七学区内の『警備員(アンチスキル)』の殲滅 一方通行は、軽く床を蹴った。 それだけで、フローリングの床は爆ぜるように砕け、一方通行の身体は高速で警備員達へ接近する。 黄泉川「!!!」 一方通行「動きが遅ェんだよ牛女!」 黄泉川が防御の構えも攻撃の姿勢も取る間もなく、一方通行の右手が、黄泉川の身体に触れた。 一方通行「お仲間諸共、吹っ飛ンじまいなァ!」 細かい演算などせず、ただ単純に、黄泉川の身体を警備員達へと弾き飛ばす。 黄泉川の身体各所の関節が僅かに軋みを上げたが、そこは鍛えられた警備員の身体、ほぼ無傷と言っても良いだろう。 猛スピードで飛来する大人一人の身体。 しかも女性とは言え、黄泉川は大柄な部類である。 その直撃を受けて、警備員の集団は大きくたじろいだ。 一方通行「……!?」 同時に、一方通行は違和感を感じた。 それは、触れた黄泉川の身体から伝わってきた、ベクトルの解析情報。 一方通行(血……じゃねェだと? 何だァ、このワケのわかンねェ『赤い水』は?) 屍人の身体に流れる『赤い水』に、一方通行は気が付いた。 血液ではない、謎の赤い液体。 学園都市随一の頭脳を持つ一方通行にすら、解析不能の液体。 内容成分も、その性質も、全てがブラックボックス。 まるで、初めから、この世に存在しなかったモノのように。 一方通行(オイオイオイオイ、これが仮にコイツラを操るための薬物かナニかだとして、 それがまるっきり血液と『入れ替わってる』ってのはどういうコトだァ!? 何でコイツラ、こんな状態で生きてられンだよ!?) 屍人の身体を流れる赤い水の呪い。 そのことを、今の彼が知る由も無かった。 疑問は尽きない。 だがそれ以前に、現実問題として解決しなければならないのは、現在の状況だ。 一方通行「チッ、めンどくせェ! 一旦こっから逃げンぞ、打ち止め(ラストオーダー)!」 打ち止め「うん、任せたよ! ってミサカはミサカは惜しげも無く身体を預けてみる」 赤い涙を流した警備員達が、体勢を立て直す。 それらに背を向けて、一方通行は部屋の奥にいる打ち止めの元へと跳んだ。 一足で打ち止めの身体をふん掴み、もう一足で部屋の奥壁を破り、マンションの外へと身体を躍らせる。 打ち止め「ぼわっふ!? ってミサカはミサカは舌を噛みそうになってるよ! もっと優しく運んでほしいってミサカはミサカはー!」 一方通行「黙ってろクソガキ!」 背後からは追い立てるように、警備員の銃撃が一方通行を襲う。 しかし、銃弾は全て『停止』され、一方通行にも打ち止めにも、何のダメージも無い。 ベクトル操作の設定を器用に変更し、打ち止めには能力による危害を加えず、しかしあらゆる衝撃・ダメージはカットする。 これもまた、一方通行の高度な演算能力がなせる業だ。 マンション外のコンクリート路面へと、無事着地する一方通行。 着地の衝撃は全て『反射』したため、一方通行と打ち止めの身体には衝撃は一切及ばない。 それら全てのダメージを受けた路面が、見るも無残に砕けてしまっただけだ。 一方通行「さァて、どうするか……あの警備員共が操られてるだけってンなら、アイツラと戦っても意味はねェ」 一方通行は、学園都市の頂点。学園都市の裏の顔を、闇の中を、イヤというほど見てきた。 だからこそ、『表』の人間が、光の中の人々が、利用され、傷付けられることが、許せない。 それが例え他人の手であろうとも、自分の手であろうとも。 打ち止め「うーん……芳川なら、何か知ってるかもしれないね、ってミサカはミサカは思いついた事をそのまま口に出してみる」 一方通行「あァ?」 芳川桔梗。 一方通行の数少ない知り合いの一人であり、曲がりなりにも優秀な科学者である。 彼女なら、或いは何かを知っているのかもしれない。 そして恐らく、芳川なら、打ち止めを護ってくれる。 護衛というには頼りないが、それでも彼女も所謂『裏』に通じる人間だ。 安全に隠れる事が出来る場所くらいは持っているだろう。 一方通行「……仕方ねェ、芳川の研究所は、確か第二学区だったなァ」 そう言って、一方通行は、首の電極のスイッチを切り替えようとした。 限られたバッテリーを節約するための行動だったが、しかしそれはこの瞬間において、油断以外の何物でもない。 マンションの外への逃亡が成功した瞬間からの、僅かな時間における、思考の空白。 もっとよく周りを見渡せば、『おかしくなっている』のが、あの警備員達だけではないと気付いた筈だった。 この第七学区全体が、既に一方通行達の『敵』となっていることに、気付いた筈だ。 何かが、弾けるような音。 それが銃声だと、一方通行が気付いたのは、 打ち止めの右肩に、小さな穴が開いたのが見えた瞬間だった。 そして、血が噴き出す。 まるで、噴水のようだった。 打ち止め「……ぁ、れ?」 一方通行「―――――」 更にもう一刹那かけて、ようやく、一方通行は思考能力を取り戻した。 一方通行「何やってくれたんだテメェェァァァァァァ!!!!!!」 逆算。打ち止めの肩に撃ちこまれた銃弾の位置、角度。銃声の方向。殺気の位置。 全てを頭の中に放り込み、狙撃者の位置を割り出す。 能力。打ち止めの傷に手を触れ、ベクトルを操作する。 血液の流れを正常化、出血停止。生体電流の操作、自己回復の促進。 打ち止め「……ぁ、ぅ」 一方通行「黙ってろ! 喋るんじゃねェ!」 一方通行はその全能力を使い、演算する。 狙撃手の位置を画定し、周囲の気流を解析し、打ち止めを治療する。 一方通行の脳内に、膨大な量の計算式が組み上がっていく。 『妹逹(シスターズ)』の能力を借りて行われるその演算は、既に常人が理解可能な範疇を大きく逸脱していた。 それを嘲笑うように、更なる『敵』が、続々と現れた。 数を数えるのも躊躇われる、大勢の警備員。全員が、顔を赤く染めている。 その中には、先の黄泉川逹も混じっている。 無線か、或いは他の方法か、仲間を呼び寄せたのだろう。 一方通行「ウゼェンだよザコ共がよオオオォォォ!! 蟲みてェにワラワラ寄って来てンじゃねエエェェェェ!!」 一方通行の叫びも空しく、警備員逹の銃弾が、今度は一方通行目掛け、容赦なく襲いかかる。 一方通行「オオオオオオオオオォォォォ!!」 最早、『停止』だけでは終わらせはしない。 一方通行は、脳内の演算を続けたままで、それらの銃弾を全て『反射』する。 正確に、確実に、銃から放たれた銃弾を、銃に向けて、反射する。 警備員逹が持つ銃器は、自身が放った銃弾によって次々と破砕されていく。 時折、流れ弾が警備員の身体に当たることもあったが、元々が『制圧捕獲用』の警備員の銃器、死ぬことはないだろう。 そしてその間に、一方通行は全ての演算を、完了した。 一方通行「他人をテメェの食い物にしてるようなヤツは――――」 赤い瞳で、見えない『敵』を睨む。 警備員ではなく、狙撃手でもなく、その向こう側にいるだろう、『敵』を。 一方通行「――――トコトンぶちのめすって決めてンだよオオオォォッ!!」 嵐が、吹き荒れた。 ベクトル操作によって生み出された気流が、およそ300メートル離れた場所にいた狙撃手の警備員へと牙を剥く。 木々を薙ぎ倒し、アスファルトのタイルを剥ぎ取り、嵐風は猛る。 その威力の前に、たかだか警備員用の銃器などでどうすることが出来る筈もなく、狙撃手は呆気なく吹き飛ばされていった。 だが。 一方通行「ゥゥウウウウオオオオオオォォァァァァァ――――!!!」 一方通行は、止まらなかった。 狙撃手の撃破を確認した後も、その制御を緩めようとしない。 嵐は、より強く、より大きくなる。 しかし一方通行は、より正確に、より慎重に、その手綱を握る。 一方通行「テメェの好き勝手にさせてやるワケ、ねェだろうがアアアアアァァッ!!」 その嵐は、残る警備員逹へと襲いかかった。 壊し切れていない銃器を放り上げ、動きを縛り、呼吸を奪う。 警備員は、訓練を受けた戦闘のプロである。 しかし、能力者ではない。 銃器を無効化され、動作を封じられれば、いとも簡単に陥落する。 やがて、風が止んだとき、その場に立っていたのは、一方通行と、彼に抱えられた打ち止めのみだった。 一方通行は、何度か周囲を確認し、ようやく電極のスイッチを切り替える。 警備員逹は、全員昏倒している。死んではいない、筈だ。 これなら暫くは起き上がれないだろう、と一方通行は舌打ちしつつ考える。 一方通行(フザケやがって……っ!) 怒りは収まらない。 打ち止めを傷付けたことも、他人を操ってそう仕向けたことも、己の油断で打ち止めが傷付いたことも。 全てが、怒りの対象だった。 その様子を見ていた打ち止めが、ここで初めて声を上げた。 打ち止め「……とりあえず、ミサカは大丈夫だよ、ってミサカはミサカは胸を叩いイタタタ!?」 一方通行「ばッ!? 何してやがるアホガキ!」 大丈夫だと伝えたかったのか、勢いよく自分の薄い胸板を叩いてみせた打ち止めだったが、それが肩まで響いたらしい。 おもむろに肩を抑えて涙目になっていた。 治癒力を促進したとはいえ、所詮は応急措置。 傷口は簡単に開いてしまうし、痛みもほとんど引いていない筈だ。 一方通行(……コイツを連れて歩くことは、出来ねェ。 芳川に会いに行く前に、あのカエルヅラのトコロに行ってみるか……) カエル顔の医者。 『冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)』という、荒唐無稽な異名を冠する、凄腕の外科医である。 腕は確かで、底の知れない部分がある、不思議な医者だ。 それでも、一方通行は彼に対し、信頼に近い感情を抱いていた。 患者がいれば、必ず救ってみせる。それが、『冥土帰し』の不文律。 それを、一方通行は信じている。本人は否定するだろうが、それは信頼と言って良い。 一方通行は、打ち止めを抱えたまま、よろよろと歩き出した。 まずは、杖の代わりを、探さなければ。 終了条件2達成(ミッションコンプリート)
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/3671.html
【種別】 書名 【初出】 新約七巻 【解説】 学園都市の学者で、流体力学の権威である松定博士が執筆した専門書。 ベストセラーを獲得しているらしい。 「量子コンピュータやDNAコンピュータといった次世代演算装置の候補に『濃淡コンピュータ』を投じる」という内容で、 一読した黄泉川は「難解な言い回しが多く読みづらい」と評している。
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/128.html
警備員「本物は……ここにはいない……だと……?」 上条「だから何度もそう言ってるぜよー」 正面に布陣する10人の警備員たちにライフルを向けられていても、上条と“思われる”少年――もとい上条の変装をしていた土御門は平然と答えた。 土御門「あんたらはまんまと変装した俺たちに騙されてここまでついてきたってわけ」 美琴「レースやってるみたいで楽しかったんだよ!」 土御門の隣に立つ、美琴と“思われる”少女――もとい美琴の変装をしていたインデックスが純粋な笑顔を浮かべて言った。 インデックス「後でレースに勝ったご褒美にステーキ屋さんの食べ放題券欲しいかも!」 警備員「なっ……」 余裕綽々の表情を浮かべ目の前に立つ2人を見て、班長らしき警備員のこめかみに青筋が浮かぶ。 警備員「ふざけるな!! 変装はともかく、お前らみたいな子供が我々アンチスキルの追跡車両をことごとく振り切ったと言うのか!?」 土御門「そういうことになるな」 警備員「バカな……! ……いや、待てそうか。お前らさては能力者だな? だから被弾することもせずここまで逃げ切れたのか……っ!」 その言葉を聞いたインデックスが必死に否定する。 インデックス「それは違うんだよ! 今来日してた知り合いの魔術師に頼んで『弾除け術式』をバイクに掛けてもらったんだよ! あと、もしバイクが事故を起こした時のためにって、身体の傷の度合いを極力減らす『抑傷術式』も私たちの身体に掛けてもらったんだよ! 本当は絶対に事故らない魔術が良かったんだけど、さすがにそこまで都合が良いものはなかったから……」 警備員「は?」 警備員たちが何を言ってるんだ、と言いたげな表情を作る。 インデックス「だから学園都市の能力とは一緒にしないでほしいかも!」 少々機嫌が悪そうな顔でインデックスは抗議する。 土御門「無理無理。こいつらにそんなのが理解出来るわけがないぜよ」 言って土御門はインデックスの頭を軽く叩く。 インデックス「それは心外かも」ムー そこで土御門は、警備員たちに顔を向け、どや顔で語る。 土御門「とにかく、お前らが探してるお2人さんはここにはいないぜ? 今頃既に学園都市の『外』に逃げてるはずぜよ」 警備員「!!!!!!」 土御門「……まあ、その場合は仲間の魔術師から連絡があるはずなんだが……にしても遅いな」ボソボソ ほんの数秒ほど、土御門は小声で独り言を唱えながら険しい顔を浮かべた。 警備員「そうか……ならもういい……」 土御門インデックス「?」 プルプルと、班長が身体を震わせながら呟く。 警備員「こいつらは御坂美琴の仲間だ……。……発砲を許可する!!!」 遂に班長は怒りが頂点に達したようだった。 土御門「ありゃりゃー」 警備員「見たところこいつらは丸腰………俺が許可する……」 警備員「撃てええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」 遂に、発砲命令が下された。 土御門「おたくら本当に俺たちが追い詰められたと思ってた? 全くもって逆ぜよ」 ダカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!!!!!! が、土御門の言葉を掻き消すように警備員たちのアサルトライフルが一斉に火を吹いた。 土御門インデックス「……………………」 幾数もの弾丸が生身の土御門とインデックスに向かい飛んでいく。 「イノケンティウス!!!!!!!!」 ゴオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!! 警備員「!!!???」 突如、警備員たちの視界を覆うように、正面に炎の壁が現れた。 警備員「何だあれは!!??」 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!! そして炎の中に出現する人型のようなシルエットをした怪物。 警備員「クソッ! 撃て! 撃て!! 撃てえええええええええええ!!!!!!!!」 一瞬、怯んだ警備員たちだったが、班長の命令を受けて再び引き金を引いた。 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!! しかし、炎の怪物は音速で飛ぶライフル弾も全て一瞬で溶かしていく。 「残念だが君たちの攻撃は『魔女狩りの王(イノケンティウス)』には効かない。諦めることだね」 やがて、炎の勢いが静まると、その向こうに1人の長身の男が姿を現した。 警備員「誰だ貴様は!!??」 「うん? 僕かい?」 赤い髪に、耳元にピアスをいくつもつけ、右目の下にバーコードのような刺青を入れたその男は、口元に煙草を咥えながら余裕の笑みを作る。 ステイル「ただのしがない魔術師だよ?」 突如その場に現れた魔術師ステイル=マグヌスは、その顔にユラユラと炎の灯りを映えながら答えた。 その頃、学園都市・南ゲート付近では――。 美琴「ねぇ……」 上条「何だよ?」 ゲート近くにある建物の陰で、美琴は側にいる上条に訊ねた。 美琴「あんたの知り合いの魔術師ってまだなの?」 上条「うーん、おかしいな……そろそろ来てもいいんだけど」 焦りの色を見せながら、上条は建物の物陰からそっとゲート付近を窺う。 美琴「アンチスキルたちの動きが何か慌しくなってるよ」 上条「多分、インデックスと土御門の囮が上手くいった証拠だろう。今頃はステイルと合流してるはず……」 上条たちは今、インデックスや土御門との共同作戦の真っ最中で、その一環としてこの場に留まっていた。 インデックスと土御門が、囮になるためにそれまで上条たちが着ていた服に着替えたため、上条と美琴は土御門たちが『外』で買ってきた新しい服を身に纏うことになった。そのお陰からか、彼らの以前の姿格好を知っていた警備員たちの目はある程度誤魔化すことが出来、ここまで来れたのだった。 美琴「でも早くしないとアンチスキルに対策取られちゃうよ! 知り合いの魔術師がゲートに展開してる警備員たちを倒してくれるんじゃなかったの!?」 上条「………………」 上条は美琴の顔を見る。 美琴「………」ジッ 不安で一杯の表情をしていた。 実は、当初の予定では上条と美琴に変装したインデックスと土御門が、アンチスキルの主力部隊を引き付けている内に、上条たちが知り合いの魔術師と合流、そしてその魔術師の力を借りて南ゲートを突破する予定だったのだが……… 美琴「まさか道に迷ってるんじゃ……」 一向にその魔術師は姿を現さなかった。 上条「いや、あいつならすぐにでも俺たちの姿を発見出来てるはず。……信用出来る相手だし、もしかしたら何か異常事態が起こって来れなくなってるのかも……」 美琴「そんなっ…!」 上条「取り合えずもう少し待とうぜ」 焦る美琴に上条は冷静に言う。 美琴「だ、だって! 失敗したらもう……」 上条「大丈夫だから。あいつは必ず来るから」 安心させるように上条は美琴の肩を優しく叩くが、彼女の不安そうな表情は消えなかった。ただ、脱出を前にして作戦に陰りが出てこれば無理も無かった。何しろ彼女はこの数日間、ここ学園都市に存在しているだけで酷い目に遭ってきたのだから。 上条「………………」 上条は南ゲート付近を再び窺う。確かに、先程より警備員たちの行動に慌しさが目立つ。もしかしたら、囮になって上条と美琴に化けていたインデックスと土御門が本人ではないことに気が付いた追跡部隊の警備員が、報告を入れたのかもしれない。 上条「………………」 そう考えると上条も少し不安になったが、合流予定の魔術師は今ぐらいの彼我の戦力なら簡単に覆せる実力を持つ。故に、上条は美琴ほど不安ではなかったのだが、彼女の浮かべる暗い顔は見てられなかった。 上条「とにかくあいつはすごい奴だからさ。心配すんなって」 ゲート付近を見つめながら、上条は背後にいる美琴に語りかける。 上条「お前だってレベル5の超能力者なんだから分かるだろ? その実力の程が。つまりはあいつもそれと同等、もしくはそれ以上の実力を持ってんだ」 しかし、美琴は何も答えない。 上条「だからここは安心することだ」 しかし、美琴は何も答えない。 上条「お前、聞いてるのか?」 ゲートから視線を外し、上条が顔を戻した時だった。 上条「みさ…………」 その瞬間、彼の表情が固まった。まるで、突然出没した怪物を見るように。 上条「……………か」 上条のその反応も当然だった。ケロイド状と化した右目に白く光る眼球を浮かべ、左腕から光線のようなアームを伸ばした若い女が、人質をとるように右手で美琴の身体を掴んでいたら。 美琴「とう……ま……」ガクガクブルブル 「久しぶりだなぁ超電磁砲!!! 会いたかったぜぇ!!!!!!」 上条「……………………」 呆然と口を開ける上条。 麦野「ああ、あんたが超電磁砲の男ってわけ? ふーん? で、どうする? あんたの目の前で彼女焼いちゃっていい?」 上条「…………っ!?」 突如その場に現れた闖入者――学園都市第4位の実力を持つレベル5の超能力者・麦野沈利は、片目が潰れた顔に不気味な笑みを浮かべた。 バンッ!!! と、音を立て扉が開けられた。 運転手「隊長!!!」 黄泉川「お前はここにいるじゃん。アンチスキルのレッカー車が来た時に応対するんだ」 上条と美琴に変装し、囮になっていたインデックスと土御門が乗ったバイクを追っていた黄泉川。彼女が乗車していた自動車は踏み切りで横滑りをし、線路までには侵入しなかったものの、踏み切りの構造物に挟まれるような形で停車していたため自力で脱出出来ない状態にあった。 運転手「どこへ行くんですか!?」 黄泉川「決まってるじゃん。御坂美琴を捕まえに行く」 言って黄泉川は後部座席のアサルトライフルを手に取る。 黄泉川「囮だと? ふざけたことしやがって。絶対に私がこの手で捕まえてやるじゃん」 運転手「で、ですが奴らはどこに?」 黄泉川「灯台下暗し。恐らくは南ゲート付近にいるはずじゃん」 運転手「間に合わないかもしれませんよ?」 黄泉川「途中で仲間の車両か、無理ならタクシーにでも拾ってもらうじゃん。それに、間に合うか間に合わないかは関係ない。やるかやらないかだ。じゃ、頼んだぞ」 運転手「隊長!」 バンッ!! 言うだけ言って扉を閉める黄泉川。 黄泉川「勝負はまだ終わってないじゃん」 ライフルを抱え、黄泉川は1人、暗闇にその姿を没していった。 警備員「撃てええええええええええええ!!!!!!!!!!」 ダカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!!! ステイル「イノケンティウス!!!!!!」 ゴオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!! その頃。インデックスと土御門を守るステイルと警備員たちの戦闘も激化しつつあった。 ダカカカカカカカカカカカカカ!!!!!! ステイル「チッ…無駄だというのが分からないのか!?」 掃射されるライフル弾の雨を、ステイルが操るイノケンティウスが燃やし尽くしていく。 ステイル「まどろっこしいな!!」 インデックス「絶対に殺しちゃダメなんだよ!!!」 後ろからインデックスがステイルに声を掛ける。 ステイル「……分かってるよ! だが、そろそろ僕もこの応酬に飽きてきたところなんだがね」 土御門「一応、アンチスキルの戦力を分断して引きつけておくという目的もあったが、そろそろ潮時か」 ステイルの背中を見ながら、土御門が呟く。 土御門「だが、カミやんと超電磁砲が脱出に成功したという報せがまだ無い」 インデックス「で、でも! このままじゃ埒があかないかも!」 土御門「……そうだな。更に逃げて奴らをカミやんたちから引き離した方が得策か」 と、その時だった。 ステイル「?」 急に、警備員たちの発砲が止んだ。 ステイル「何だ?」 インデックス「あれ? 銃撃が止まったかも」 土御門「ん? 諦めたのか?」 インデックスと土御門が訝しげな目を浮かべて正面に顔を戻す。 と、よく目を凝らしてみると、警備員たちが乗ってきた自動車の後方、そこに新たな自動車が近付いてくるのが見えた。 土御門「新手か」 ステイル「しかし、人数が増えたところで僕のイノケンティウスには敵わないよ」 自動車が止まり、その後部扉が開く。同時、警備員たちの間に小さな歓声が上がった。 警備員たち「おおおおおっ!!!!!」 ステイル「…………何だ?」 ザッ!!! と、足を地面につけ、1人の男が車が下りてきた。 「………………」ギンッ ステイル「…………?」 男とステイルの目が会う。 ステイル「(何だこいつは……?)」 ステイルがそう思ったのも当然だった。男は歴戦の戦士のような、相手を睨んだだけで威圧してしまうような目と精悍な顔を持ちながら、何故かダイバーが着るようなスーツを身に纏っていたのだから。しかし、男が着るスーツは筋肉によってその形がはっきり見えるほど盛り上がっていた。 インデックス「なんかすごい筋肉の人が出てきたんだよ! しかも変な格好してるし」 インデックスが見たままの感想を述べる。 土御門「(あの男……何者だ)」 「………………」 男はズカズカと警備員たちの間を通り抜け、やがてステイルの正面で立ち止まった。 ステイル「…………ふむ。そんな格好で何の用かな?」 「………………」 男は睨むだけで何も答えない。 ステイル「無愛想な奴だ。何か言ったらどうなんだ」 「…………レベル4相当の発火能力(パイロキネシス)と見た」 ステイル「………は?」 ボソッと男は呟いた。 「…………貴様の運命もここまだ」 そう言ったと同時、男が腕を引き拳を握った。ただでさえスーツの下から盛り上がっていた筋肉が更に盛り上がる。 「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」 野太い声を発しながら、男はステイルに向かってきた。 ステイル「面倒くさい……イノケンティウス!!!!」 ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!! 一瞬で、男は炎に呑み込まれた。 インデックス「ステイル!」 ステイル「ああ? 仕方がないだろ? バカにも奴は丸腰で突っ込んできたんだから」 インデックスの方に振り向きながら、つまらなさそうにステイルは吐く。 インデックス「ステイル!!!」 ステイル「いや、だから…………え?」 何かの気配に気付き、ステイルが振り向き直る。 ステイル「!!!!!!!!!!」 彼がそこで見たもの。それは、顔を両腕で覆いながら炎の中から飛び出してくる男の姿だった。 ステイル「なっ………!!??」 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」 特に火傷を負っているようにも見えず、何故かステイルのイノケンティウスを突破してきた男はもう1度拳を握る。 ドゴオオッ!!!!!! ステイル「ぶはっ!!??」 男の拳がステイルの頬にヒットし、その巨体が宙に舞った。 インデックス土御門「「ステイル!!!!」」 ドサッ…… インデックスと土御門が叫んだと同じくして、ステイルは仰向けに地面に倒れ込んだ。 「……………………」 そこへ、男が近付いてくる。やはり男は火傷どころか傷一つ負っていない。 ステイル「バ、バカなっ……! ぼ、僕のイノケンティウスが効かないだと!? 貴様、学園都市の能力者か!!??」 「知る必要のないことだ」 男は表情も変えず、ステイルを見下す。 警備員「さっすが武藤さんだ!!」 警備員「いいぞ! やっちまえ!!」 警備員「やっぱり元自衛隊の特殊部隊で史上最強と男と呼ばれた男は違う!!」 警備員「ああ、強靭な肉体と精神力。それに学園都市の技術が合わさればレベル4の能力者だって敵わない!!」 男の後ろで状況を見守っていた警備員たちが口々に何やら叫び始めた。どうも、彼のことを言っているらしい。 武藤「ふん」 武藤と呼ばれた男はつまらなさそうに鼻で息をする。 ステイル「…………なるほど。大体分かったよ。君は学生ではなく教師の身分。しかも、アンチスキルと呼ばれる治安組織の中でも奥の手扱いされてる人間なのかな?」 ヨロヨロと、身体を起こしながらステイルは話しかける。 武藤「確かに『アンチスキル最強の男』などと呼ばれているが、今はどうでもいいことだ」 ステイル「どうでも……いいことね。謙遜するじゃないか」 武藤「目下、重要なのは貴様を倒すこと。だろ?」 僅かに武藤が笑った。 ステイル「右に同じだ!!! イノケンティウス!!!!!!」 再び、ステイルの前にイノケンティウスが出現する。 武藤「………………」 それを前にしても、やはり武藤は怯んだ様子は見せなかった。 ステイル「行け!!!!!!!!」 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!! 武藤は再び拳を握る。 美琴「とう……ま……」 麦野「おうおうおうおう超電磁砲よ!! 『とう……ま……』なんて可愛らしい声出しちゃって!!! てめぇも男の前じゃ所詮は恋する女の子ってかぁ!!?? ぎゃははははははははははは!!!!!!」 上条「てめぇ……っ!!」 上条は美琴を人質にとる女――麦野沈利を睨む。 脱出のため、仲間の魔術師との合流を待っていた上条と美琴。しかし、彼らの希望を打ち砕くように現れたのは、かつて美琴が戦った相手、レベル5の第4位『原子崩し(メルトダウナー)』こと麦野沈利だった。 上条「御坂を離せっ!!」 上条は麦野を睨む。 麦野「キャーこわーい。お姉さんこわくておしっこ漏れちゃうううううう。だからやっぱりこの子返してあげるー……なーんて言うとでも思ったかウニ頭さんよぉ!!??」 美琴「な、何であんたがここに……」 横目で麦野を睨むながら美琴が訊ねる。 麦野「あああ? てめぇにゃ関係ねーだろうが。ただこの私がお前のピンチを見逃すとでも思ったぁ!?」 美琴「………っ」 麦野「能力が使えなくなった超電磁砲なんてなーんにも恐くねーんだよボケカス!!」 まるで以前の仕返しだ、とでも言いたげに麦野は口汚く罵る。 麦野「で……上条くんだっけぇ?」 上条「!!!」 そこで麦野は上条に目を向けてきた。 麦野「この子殺しちゃっていい? 消し炭にしちゃっていい?」 上条「や、やめろっ!!」 上条が一歩前に躍り出ようとする。 麦野「おっとぉ……」 ジジッ と音を立て、麦野は左手のアームを美琴の顔に近づける。 上条「くっ……!」 反射的に立ち止まる上条。 麦野「そんなに超電磁砲が大事なんだぁ? それともこの子との夜が忘れられないのかにゃー?」 上条「ふざけるなっ!」 麦野「で、超電磁砲はどんな風に啼くの? 『貴方の右手で私の超電磁砲を犯してー』ってか? きゃははははははは」 まるでバカにするように麦野は笑う。 麦野「でもそんなに大事ならやっぱり死んどいた方がいいわよね。ってわけで死ね」 言って麦野は容赦なくアームを美琴の顔に振り下ろす。 美琴「………っ」 バギィィィン!!! 麦野「……………あ?」 しかし、その直前……… 麦野「…………私のアームが……消えた?」 美琴の顔を貫いたと思った瞬間、彼女のアームは掻き消されていた。上条が右手を突き出してきたことによって。 ズッ…… 麦野「ぶぎっ……」 唐突に、麦野の顔が歪む。その状態で彼女が咄嗟に視線を正面に戻すと、そこに丸く握った右手を彼女の頬に添える上条の姿があった。 ドゴオオオオッ!!!!!!! 麦野「!!!!!!」 上条の右ストレートを食らい、盛大に倒れる麦野。 美琴「当麻!!!!」 解放された美琴が上条に駆け寄る。 上条「こっちだ!!!」 上条は美琴の手を取りその場から逃げ出す。 麦野「……………………」 大の字で倒れたまま、麦野はその場に残される。 麦野「…………………ふふ」 口元を歪め、不気味な笑みを見せながら麦野は叫んだ。 麦野「死刑けってええええええええええ!!!!!!」 上条「ハァ…ハァ……」 美琴「ハァ…ゼェ……」 人気の無い通りを疾走する上条と美琴。 美琴「ねぇ! どこ行くのよ!!」 上条「あの化け物女から逃げてんだよ!!」 美琴「………」チラッ 美琴は一瞬だけ振り返る。南ゲートが遠くなっていくのが見えた。 美琴「ちょっと! ゲートから離れてるじゃない!! 魔術師との合流はどうするの!?」 手を引かれながら、美琴は前を走る上条に叫ぶ。 上条「あそこに留まっててもあの女に焼かれるだけだぞ!!」 美琴「でも! これじゃ外に逃げられないよ!!」 上条「だから今別の策を……」チラッ と、そこで上条が振り返った瞬間だった。 上条「!!!!!!」 美琴「?」 ドンッ!!! 美琴「きゃっ!!」 不意に、美琴を左手で押しのける上条。いきなりのことで反応出来なかった美琴はその場に倒れてしまう。 直後、彼女が今まで立っていた場所に白い光線が空を切った。 バギィィィン!!!! 上条「………………」 それを右手で打ち消す上条。 美琴「原子崩しっ……!」 美琴は光線が飛んできた方を見る。やがて、暗闇の中から、青白い光を左腕から発光させながら麦野がその姿を現した。 麦野「それが例の『幻想殺し』ってやつぅ? なーんかうざってー右手だなー」 上条「それは残念だったな」サッ 美琴「!」 咄嗟に上条は、地面に座っていた美琴の前に立った。まるで彼女を守るように。 麦野「……」イラッ 麦野「あーーーーーーーームカつくわね。あんたら見てるとどっかのバカップル思い出して嫌になるわぁ」 苛立ちを露にしながら、麦野はゆっくりと近付いてくる。 麦野「特に幻想殺し! あんた、私がこの世で一番大っ嫌いな男とそっくり!! うざったいたらありゃしねぇ」 上条「………………」 麦野「だからそろそろ死んでくれない?」 上条「御坂、お前あいつのこと知ってるのか?」 麦野を正面に見据えながら、上条は背後にいる美琴に訊ねる。 麦野「っておいナチュラルに無視かよ」 美琴「う……うん。妹達の時にちょっと……」 上条「……そうだったのか。能力値は?」 麦野「聞いてんのかそこのバカップル。何で私の周りにはこんなムカつくバカップルしかいねぇんだよ」 美琴「学園都市第4位のレベル5」 上条「レベル5……か」 麦野の言葉を無視して、2人は上条の背中越しに会話する。 美琴「私でさえ苦戦したんだから……倒すのは難しいかも……」 不安な表情になる美琴。が、上条は彼女の言葉に疑問を呈した。 上条「それはどうかな?」 麦野「おめぇ超電磁砲よぉ……男の前じゃしおらしくなりやがって……以前私と戦った時の面影は完璧ねぇなぁ」 上条「まさかこんな大事な時にレベル5の超能力者の手厚い歓迎受けるとはな……。ったく、戦ってる暇なんて無いってのに……っ!」 麦野「決めた。まずは幻想殺しの右腕をちょん切る。で、その後瀕死の状態になった幻想殺しの前で超電磁砲の×××が真っ黒に焦げてくとこ見せ付ける」 平然とした様子で麦野は何やら独り言を呟いている。 上条「どうにかしてこいつから逃げ切らないと……」 逃げ道は辺りにないか、上条が僅かに視線を右に向けた時だった。 美琴「当麻!!!!」 上条「!!!!!」 視界の端に映る白い光。 上条「チッ!」ガシッ 上条は美琴の服を掴み咄嗟に後方へ飛んだ。 ドゴッ!!!! 直後、白い光線が地面に突き刺さった。 上条「くっ!!!」 その衝撃で、地面が抉れコンクリート片が舞い上がる。 麦野「オラオラオラオラオラオラオラ!!!!!!!」 ゴッ!! ズガッ!! ドッ!!! 麦野は、手当たり次第に周囲にあったものを破壊していく。そのせいで道路は耕されたように粘土が剥き出しになってしまった。 麦野「これで……終わり!!!」 上条「!!!!!!」 飛んでくる破片を防ぐだけで精一杯だった上条の目に、薙ぎ払われた麦野の左腕のアームが接近するのが見えた。 上条「っ!!!」 バギィィィン!!!!!! アームを打ち消す上条。 ガシッ!!! 上条「!!!???」 麦野「つーかまーえたー」ニィィ が、上条の予想を裏切るように、麦野は突き出された彼の右腕を右手で掴んできた。 上条「なっ……!? 離せ!!」 焦りながら、上条は麦野の手を振り払おうとする。 麦野「右手にサヨナラは言ったぁ!!??」 だが、その抵抗も空しく再び出現した麦野のアームが上条の右手に向かって振り下ろされた。 ドッ!!! 麦野「!!!???」 と、直前、麦野が目をカッと見開き身体を止めた。 上条「?」 何が起こったのか分からなかったが、上条は警戒の視線を絶やさなかった。 ズズッ…… やがて上条の右腕を掴んでいた麦野の右手がスルリと抜け落ち、彼女はその場に崩れ落ちていった。 そして代わりにそこに現れたのは、小さな木の板を持った美琴の姿だった。 美琴「ムカつくから……殴ってやったわ」 機嫌悪そうに美琴は言う。 上条「御坂。助かったぜ」ホッ 麦野「……」ピク 上条美琴「!!!」 麦野の指が僅かに動く。 上条「こっちだ!!!」 瞬時に美琴の手を取り、上条は麦野から逃げるべく再び走り出した。 麦野「……………………」 2人が逃げ去ると、麦野は頭から血をダラダラと流しながら不気味な笑顔を浮かべて言った。 麦野「逃がしはしねぇよ」ニヤァ その頃……… ドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!! ステイル「ぐぶっ!? げぶっ!? ぶおっ!?」 インデックス「ステイル!!」 激化するステイルと武藤の戦闘は、魔術師でも能力者でもない武藤の優勢にあった。 警備員「やれやれー!」 警備員「悪漢をやっつけろー!」 武藤「……………………」 警備員たちの声援を後ろに聞きながら、武藤はステイルの顔や身体に重い拳を容赦なく叩き込んでいく。 ステイル「イ、イノケ……」 武藤「無駄だ」 ドゴッ!!!! ステイル「ぐへぁっ!?」 ドサッ…… 盛大にぶっ倒れるステイル。 武藤「見たところ貴様は能力以外の肉弾戦は、からっきしのど素人。自衛隊の特殊部隊とアンチスキルで長年独自の鍛錬に身を捧げてきた私に勝ち目はない。そして………」 武藤が足音を響かせてステイルの下へ歩み寄る。 武藤「この学園都市で開発された最新の耐火ジェルと耐火スーツを前にしては、何千度の炎などマッチの火と同義……いやそれ以下だ」 ステイル「なるほど、それが君の戦い方ってわけか……ペッ」 口から血を吐き、ステイルは武藤を見上げる。 武藤「先遣部隊の情報から敵の能力者の特徴を把握。その上で、専用のスーツを着用し戦場へ馳せる。それが“アンチスキル最強”の男と呼ばれる者の戦い方だ」 ステイル「ふん、言うね……。結局君は学園都市の技術に頼ってるだけじゃないか」 武藤「何を勘違いしている?」 バキッ!!! ステイル「ぐぶっ!?」 武藤の蹴りがステイルの頬を打つ。 武藤「言ったはずだ。自衛隊とアンチスキルで独自の鍛錬に身を捧げてきた、と。……私は徒手格闘の分野において、この日本に自分に勝てる人間はいないと自負している」 ステイル「ふん……」 武藤「最新の技術と最強の肉体。この2つさえあれば、レベル4クラスの能力者など私の前では子猫同然だ」 武藤は表情も変えず淡々と告げる。まるでお前の負けは既に決まっている、と言いたげに。 武藤「分かるか? 故に貴様に勝ち目はないのだ」 ステイル「……………………」 武藤「お喋りも飽きたな。……そろそろトドメといこう」 言って武藤は拳を握った。同時、スーツの下から筋肉が山のように盛り上がる。 ステイル「………………ふ」 武藤「…………?」 と、その時、ステイルが口元に僅かな笑みを浮かべた。 武藤「……何かおかしかったか?」 ステイル「おかしいね……。君たちの能力のレベル分けなんて知ったこっちゃないが、この状況で勝利を確信した君がおかしいって言ってるんだよ」 顔中にいくつも痣が出来上がっているが、ステイルは気にすることなく笑みを浮かべる。 武藤「下らん。敗者の負け惜しみか」 ステイル「なら見せてやるよ……。真の魔術師の“奥の手”ってやつをさ……っ!」 武藤「“奥の手”?」 ステイル「ビビるなよ。そして今更泣こうとするなよ。僕に“奥の手”を出させたのは君なんだからな!」 武藤「………なら出し惜しみしていないで早く見せてみろ。“奥の手”と言うからには絶対の自信があるんだろう?」 ステイル「当たり前さ………」 ステイルの目に炎のような光が宿る。 ステイル「とくと見ろ。これが僕の“奥の手”だ……っ!」 ステイル「トリプルイノケンティウス!!!!!!」 ゴオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!! 武藤「!!!???」 ステイルが叫んだと同時、辺り一面が今までとは比較出来ないほどの量の炎に包まれた。 ズババババババッ!!!!!! 上条美琴「!!!!????」 一方、麦野の追っ手から逃げていた上条と美琴。彼らは後ろで響いた大音量に気付き、咄嗟に振り返った。 麦野「オラオラオラオラオラオラ!!!!!!!! せいぜい逃げ回れぇ!!!! 後でてめぇらじっくりいたぶってやっからよぉ!!!!」 見ると、麦野が左手のアームを振り回し地面や周囲にあるものをことごとく破壊しながら全速力で追っかけてきていた。しかも、頭から血をダラダラと流しながら。 上条「何てしつこいんだあのケバイ女!!!」 麦野「んだとぉぉ!!?? もう一遍言ってみやがれ!!!! こんのクソガキャァァァ!!!!」 ドゴオオオン!!!!!! 気にしていたことを指摘されたのか、麦野の攻撃がより一層激しくなった。 美琴「ちょっと! 何挑発してんのよ!!」 上条「事実言ったまでじゃねぇか!!」 麦野「殺す!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!!!!!!」 顔面を血だらけにし鬼の形相で追ってくる麦野は、もはや化け物と言っても過言ではなかった。 美琴「あっ!!!」 上条「!!??」 ドサッ…… 上条「御坂!!!!」 振り返る上条。 美琴「当麻!!!!」 躓き転倒したのか、美琴が地面の上でうつ伏せになっていた。 上条「御坂!!!!」 美琴の元に駆け寄る上条。だが、それよりも早く、麦野は想像以上の速さで美琴に接近してきていた。 麦野「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!!!」 上条「(この距離じゃ……間に合わないっ……!)」 美琴「当麻……!」 右手を伸ばす上条の目に、絶望を浮かべた美琴の顔が映る。 麦野「死に晒せ売女ああああああああああ!!!!!!!!」 地面に倒れた美琴の無防備な背中を狙って、麦野がアームを振り下ろす。 上条「………っ!!」 美琴「――――――!!!」 ドッ!!!!!!!! 麦野「!!!!????」 麦野のアームが美琴の背中を切り裂く刹那だった。 上条美琴「!!!!!!!」 ゴッ!!!! 突如、上から降ってきた何かによって、アスファルトが蜘蛛の巣状に割れ、衝撃波が巻き起こった。 麦野「ぐぅぅっ!!??」 それを何者かの奇襲と即座に判断した麦野は飛ぶように1歩後退した。 コオオオ……… 数秒後、辺りが静かになると、再び態勢を整えた麦野は親の仇を見るような目で正面に視線を据えた。 麦野「………何者だよてめぇ……?」 彼女は興を削がれたといった感じに、上条と美琴を守るようにして立つその女にドスの利いた声で訊ねる。 美琴「だ、誰………?」 上条「や、やっと来てくれたか……」 突如現れた救世主――その女の背中を見、上条と美琴はそれぞれ思ったことを述べる。 「……………………」 地面に突き刺すように立つ日本刀。その柄の頂上部分に両手を置いていた彼女は、やがてうなだれていた頭をゆっくりと上げると、目をカッと見開いた。 神裂「遅くなりました上条当麻。ここからは私に任せて下さい」 上条「神裂!!!!」 上条の顔に笑顔が浮かぶ。 美琴「だ、誰………?」 上条「例の合流する予定だった魔術師だよ!!」 説明しながら、上条は倒れていた美琴を起こす。 美琴「じゃ、じゃあこの人が……」 神裂「今は自己紹介をしている場合ではありません」 美琴「!」 美琴の言葉を遮るように、魔術師であり聖人の1人でもある神裂火織は静かにそう答えた。 上条「神裂、お前……」 神裂「申し訳ありません。ちょっとした用事があって遅くなってしまいました」 背中を見せつつ神裂は上条に謝罪する。 上条「いや、こっちは危機一髪助かったところだ。本当にありが……」 神裂「逃げなさい」 上条「え?」 神裂「学園都市の『外』と『中』の境界地点……壁がある場所まで逃げるのです」 今はお喋りをしている暇はない。彼女はそう言いたげだった。 神裂「大丈夫です。対策はとってあります。とにかく境界地点まで行けば何とかなります。……さあ、行って! 彼女は私が相手しておきますから!」 言って神裂は数m先にいる麦野を見据える。 上条「で、でも……!」 神裂「行くのです!!」 躊躇いを見せる上条だったが、神裂は有無を言わさず叫んでいた。 上条「………っ」 上条「仕方がない、行くぞ御坂!!!」 美琴「だけど、大丈夫なの!? 相手はレベル5の超能力者よ!?」 神裂のことをよく知らない美琴は、不安げに訊ねる。 神裂「私のことは心配無用。寧ろ貴方がたを守りながら戦うのは少し厄介なのです」 美琴「……………、」 上条「さあ、今は急ぐんだ!!!」ガシッ 美琴「あっ!」 美琴の手を取り、上条は再び走り出す。 美琴「……………」 手を引かれながら走りつつも、美琴は後ろを振り返った。小さくなっていく神裂の背中と、こちらを睨む麦野の姿がそこに見えた。 神裂「……………………」 麦野「で、何の真似だよオバさん? 突然空から降ってきたかと思ったら超電磁砲どもを逃がしてよぉ……」 遠くなりつつある上条と美琴の姿を神裂の背後に捉えつつ、麦野は不機嫌そうな口調で言う。 麦野「見たところあいつらの予定は狂いに狂ってるようだけど、そんな状態で逃げれると思ってんの? あ?」 神裂「………………」 しかし、神裂は何も答えない。 麦野「なんか言えやババァ!!!」ドッ!!! 苛立ち紛れに麦野がアームで地面を抉る。 神裂「…………その点については対策を施してあります。今回のように私が足止めを食らった時のためにと保険策を用意していたのですが、どうやらその判断は間違っていなかったようですね。ただ、お陰で学園都市に来るのが遅れてしまいましたが……」 麦野「何言ってんだババァ!!??」 神裂「あと私はババァではありません。恐らく貴方とそう歳は変わらないはずですよ」 麦野「……」ピキッ 麦野の額に青筋が浮かぶ。 麦野「いいよいいよあんた最高よ…………」 麦野「最高にムカつくんだよ!!!!!!」 鬼のような形相を浮かべて麦野は怒鳴り声を上げた。 麦野「覚悟しなクソババア!!! 私の機嫌損なった分、痛ぇ目に遭ってもらうからなぁ!!!!」 神裂「……………………」 チャキ…… 激昂する麦野を前にして、神裂は静かに愛刀『七天七刀』の柄を握った。 武藤「ハァ……ハァ……ハァ……」 深く息をし、辺りを見回す武藤。 武藤「全滅か………」 彼は黒く燃え尽きたアンチスキルの車体に背中を預け、その状況を皮肉るように口元を緩めた。 周囲には呻き声を上げ倒れている警備員たち。その中心には炎によって燃え尽きたアンチスキルの車が2台あった。 武藤「私もまだまだか……」 結局、武藤は敗れた。ステイルが出してきた奥の手『トリプルイノケンティウス』の莫大な炎とその熱量は学園都市の最新技術で作られた耐火スーツでさえも歯が立たず、その表面を焼き切った。スーツの防火能力が高かったためか、幸い武藤は軽い火傷で済んだが、スーツを破られてしまった以上、彼に為す術はなく、隙を見せてしまったところでステイルと共にいた土御門に殴られ昏倒したのだった。 武藤「…………奴らは逃げたか」 武藤が敗れた姿を見た警備員たちは恐れをなし、逃げ惑った。そこへ無人となった車にトリプルイノケンティウスが襲い掛かり爆発。その衝撃で警備員たちは吹き飛ばされ今に至るというわけである。その後、件の魔術師ステイルはトリプルイノケンティウスで残り2台の車を燃やし尽くすと、インデックスと土御門と共に逃げ去っていった。 武藤「死人や重傷者はいなさそうだな……。ふん、そこだけは紳士然としていやがる……」 それだけ言うと、武藤は空を見上げるように溜息を吐いた。 武藤「もし機会があれば……再戦を願うぞ。赤髪の能力者………」 それだけ最後に呟くと、武藤の意識は落ちた。 一方、そのステイルたちは……。 ステイル「さあ急ぐんだ土御門!!」 土御門「分かってる!!」 ……武藤や警備員たちの包囲網から逃れ、夜の街を駆け抜けていた。 土御門「ねーちん……何で連絡を寄越さない!?」 ステイル「まさか脱出に失敗したんじゃないだろうね!?」 ステイルと土御門は全速力で走る。 インデックス「とうまも短髪もかおりもみんな心配なんだよ!」 そう叫ぶのは、ステイルにおぶられているインデックスだ。全速力で走ると彼女を置いてけぼりにしそうだったので、苦肉の策としてこうやってステイルがおぶっていたのだった。 ステイル「バスや電車が使えないのがもどかしいな!!」 土御門「最終下校時刻を過ぎてるからな。後はタクシーを見つけるぐらいしかない」 彼らは今、南ゲートに向かっていた。と言うのも、当初の予定では、もう少し早くに上条と美琴が脱出に成功し、そ報せを神裂から受けるはずだったのだ。だが、いつまで経っても神裂から連絡は来そうになかったので、仕方なく3人は自らの足でゲートまで戻ることにしたのだった。 ステイル「何故バイクを捨ててきたんだ!?」 走りながらステイルが隣を並走する土御門に訊ねる。 土御門「どうせあのバイクはもうアンチスキルにその特徴もナンバープレートも抑えられてるからなー。乗って帰ってる途中にアンチスキルの車両に見つかったらまた面倒くさいことになるだろ」 ステイル「ええい、じれったい!!」 インデックス「早くしないと、とうまと短髪が危ないんだよ!」 ステイルの背中でインデックスが不安げな声で叫ぶ。 ステイル「分かってるさ! ここまで来た以上、奴が死んでも目覚めが悪いからな!!!」 3人は上条と美琴の下へ向かうため、夜の街を疾走する。 上条「クソッ……! ここからどうすればいいんだ!!」 美琴「この壁を越えない限り『外』には出られないよ!!」 上条と美琴は、眼前に聳え立つ全高約5mの壁を前にして、立ち止まる。 上条「壁の所まで来れば何とかなるって神裂言ってたのに……。あれは一体どういう意味なんだ!?」 美琴「ど、どうしよう。いつまでもこんな所で突っ立ってるわけにはいかないよ……」 彼らは、今麦野の相手をしている神裂に言われた通り学園都市の『外』と『中』の境界部分までやって来ていた。神裂によれば、ここに来れば大丈夫と言う話だったが……… 美琴「どっかに抜け穴でも作ったんじゃないの!?」 上条「そんなバカな。目立つだろそれは」 美琴「だけどこのままじゃいずれ見つか………」 と、美琴がそこまで言いかけた時だった。 美琴「うあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」 上条「御坂!!!!!?????」 突然、美琴が頭を抱えて苦しみ始めた。 美琴「ああああああああああああああああ!!!!!!」 上条「御坂!!?? 一体どうした!!?? おい!!!!」 頭を抱え地面に膝をつく美琴を見て、上条は叫ぶように訊ねる。 「いたぞ!!!! 御坂美琴と上条当麻じゃん!!!!」 上条「!!!!????」 不意に、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。 黄泉川「ようやく見つけたぞ!!! 今度こそ本物じゃん……っ!!!」 即座に声がした方に顔を向けると、50mほど先に、アサルトライフルを抱えた黄泉川と数人の警備員がこちらに近付いてくるのが分かった。 上条「アンチスキル……!!」 美琴「うあああああああああああああああああ!!!!!!!!」 上条「御坂!!!!」 叫ぶ美琴。彼女は苦しそうに主張する。 美琴「頭が……痛いっ!!」 上条「……頭? ……まさかっ!!??」 顔を上げ、上条は再び黄泉川たちに視線を向ける。と、そこで警備員たちの背後に1台のトラックらしきものがあるのが見て取れた。しかもその姿形には見覚えがあった。 上条「『キャパシティダウン』かっ!!」 そのトラックは、かつて北ゲートで目にした、対能力者用の最新式キャパシティダウンを搭載した車両――『キャパシティダウンキャリアー』だった。 上条「あいつら、最後の1台をここまで運んできたのか!?」 美琴「うああああああああああああああああああああ」 上条「御坂!!!!!!」 トラックが近付くにつれ、美琴の悲痛な叫び声が大きくなる。 黄泉川「手を挙げろ2人とも!!! 大人しく拘束されるじゃん!!!」 トラックと共に、黄泉川たち警備員がライフルを向けながらこちらに近付いてくる。 黄泉川「ここで終わりじゃん!!!」 上条「………っ!!」 美琴「ああああああああああああああああああああああ」 苦しむ美琴を、次いで近付いてくる黄泉川を順に見、上条は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。 上条「クソッ!! 最後の最後で……っ!!」 麦野「ハァ……ハァ……」ズルズル そんな上条と黄泉川たちのやり取りを見ている者が1人、近くにいた。 麦野「みぃーつぅけたぁー」ズルズル 満身創痍の状態にあった麦野だった。 麦野「わ……ハァ……私から……ハァ……逃れられるとでも……思ってんのか……」ズルズル 彼女の右手には、細長く太い筒のようなものが握られている。若干大きすぎるため筒の先を地面にこすり、引き摺るような形になっていたが。 麦野「あ……あんのクソババア……ハァ……あれで……真の実力を見せて……ハァ……ないだと?」 筒を引き摺る麦野のその姿はボロボロだった。服は所々破れており、生傷もあちこちに出来ていた。 麦野「あんな……化け物が……世の中に……ハァ……存在してるって……のかよ……ハァ」 一目で見て分かるように、彼女は神裂に完敗していた。しかも、トドメを刺されないという彼女にとって最大限とも言える屈辱を受けてまで。 麦野「だが……ハァ……隙をついて……まんまと……ハァ……逃げ出してやった……ぜ」 しかし、彼女は神裂の目を盗んで逃走。途中、出くわした1人の警備員から筒を強奪し、ここまでやって来ていたのだ。 身近にあった茂みに隠れ、麦野は上条の位置を把握する。 麦野「………」チラッ 顔を少し横に向けると、黄泉川たち警備員の背後に1台のトラックが見えた。 麦野「『キャパシティダウンキャリアー』……対能力者用の超音波装置……。……知ってるわよ……」 ニヤリと、麦野は血で染まった顔に不気味な笑みを浮かべる。 麦野「最新式の……レベル5でさえ効果をもたらす装置らしいけど……所詮は試作版。その効果がもたらす範囲は半径50mにも満たない……つまりは……ハァ……その範囲内にいなければ……何の心配もない……」 麦野が自分で指摘したように、実際彼女はその影響から逃れるためキャパシティダウンキャリアーの半径50mの範囲外にいた。 麦野「………いっつ……」 それでも麦野の頭を僅かな痛みが走った。 麦野「……ふん。だが、どうせやることをやれば……すぐに退散すればいい……」 気を取り直し、彼女は手にした筒を右手だけで自分の肩に持ち上げる。左手を使えないため多少筒が揺れたがそれは気にするほどではなかった。 麦野「お前らは死ぬんだ……超電磁砲!!!」 そう叫び、麦野は肩に掲げた筒――無反動砲の照準を、うずくまる美琴とその側に立つ上条に合わせた。 黄泉川「手を挙げろ!!!! そこから動くんじゃないぞ!!!!」 アサルトライフルを向け、ゆっくりと近付いてくる黄泉川と警備員たち。 美琴「あああああああああああああああ!!!!!!!!」 キャパシティダウンの影響を直に受けて苦しむ美琴。 その両者に挟まれ、上条は呆然と呟く。 上条「終わり……なのか?」 もはや、上条と美琴に為す術はない。 黄泉川「いよいよ終わりの時じゃん。……さあ観念しろ。言いたいことがあるなら、アンチスキルの支部で聞いてやる……っ!」 勝利を確信したような嬉しそうな声を上げる黄泉川。 美琴「あ……ぐ……ああああああああああああ」 キャパシティダウンの影響を受けて苦しみまくる美琴。 上条「………………」 もはや状況は詰んでいた。 上条「(こんなのって……ねぇよ……)」 上条の顔に絶望の色が浮かぶ。 ビュン!!!! と、音を立て、夜のビルの間を1つの影が飛び回る。 神裂「私としたことが……不覚!!」 先程まで、上条と美琴を逃がすために麦野の相手をしていた神裂だった。 神裂「もう戦意はないと思ったのが間違いでした。あの能力者を取り逃がしてしまった……っ!」 ビルの屋上から屋上を飛び、眼下を見回しながら、神裂は悔しそうに口中に吐く。 神裂「既に彼らが『外』に逃げてればいいのですが………ん?」 とそこで神裂は地上の一点を見つめた。 神裂「あれは……まさか!!??」 何かを見つけ、驚きの声を上げる神裂。 ザッ!! そのまま彼女は地上に降り立った。 神裂「やはり……っ!」 彼女が見つめる先――100m以上向こうに、上条と美琴の姿が見えた。しかも、彼らの元にゆっくりとだが武装した兵士たちが近付いている。 神裂「か……」 急いで上条たちに声を掛けようとしたその時だった。 神裂「?」 ふと、神裂の視界の端に何かが映った。 神裂「あれは………」 目を凝らす神裂。彼女が見つめる数十ほどm先に、筒のようなものを肩に担いでいる麦野の姿が……… 神裂「!!!!!!」 ………見えた。 上条「御坂………」 美琴「あああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」 呆然と立ち尽くしながら、上条は足元で苦しむ美琴に呟く。 上条「ごめん………」 美琴「あああああああああああああああああ!!!!」 だが、今の彼女は上条の謝罪を聞くことさえ出来なかった。 黄泉川「さぁ、大人しく手を挙げるじゃん……!!」 ライフルを向けながら、黄泉川たち警備員が上条たちに迫る。その距離は既に30mを切っている。 上条「だけど………」 ザッ!!! 黄泉川「!!!」 上条「絶対に俺は最後まで諦めない!!!!」 美琴を守るように上条が前に躍り出て両手を広げた。 上条「絶対に俺は!!! 最後までお前を守り抜いてやるぞ!!! だから安心しろ、御坂!!!!」 美琴「と……とうま……くっ……うう」 上条の言葉が届いたのか、美琴は目に涙を溜めながら、彼の背中を見上げた。 黄泉川「………………はっ」 その姿を見て黄泉川は口元を緩める。 黄泉川「言うじゃん上条当麻。……だがな……世の中、何でも思い通りに行くと思ったら大間違いじゃん」 上条「…………っ」 黄泉川「さあ、降参しろおおおおおおおおお!!!!!!」 上条「させるかあああああああああああああ!!!!!!」 腹の底から上条は魂を込めて叫ぶ。これだけは、引き下がれないと。こいつだけは守る、と。それは、上条にとって絶対に譲ることの出来ない信念だった。 上条「………………」 と、その刹那だった。 神裂「危ない!!!!!!」 上条「!!!???」 不意に、神裂の叫び声が聞こえた。 上条「…………?」 咄嗟に上条は声がした方向に視線を向ける。 上条「………………」 と、その途中で何か見覚えのある女の姿が視界の端に映った。 上条「!!!!!!!!!!」 麦野「………」ニィィ 筒らしき物体の先端をこちらに向けて、悪魔のように口元を歪める麦野の顔だった。 麦野「死ねえええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」 ボッ…… 麦野が叫んだと同時、彼女が肩に担いでいた無反動砲が火を吹いた。 上条「…………っ」 シュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!! 無反動砲から発射された榴弾は、この世の終わりを知らせるような音を轟かせながら、上条と美琴の元へ向かった。 上条「くっ!!!」 反射的に上条は、美琴を守るように対面する形で彼女に覆い被さった。 そして、その瞬間を合図に、まるで学園都市は時が止まったかのような空気に包まれた――。 麦野「――――――――」 邪悪な笑みを浮かべる麦野。 インデックス「――――――!!!!」 ステイル「――――――!!!!」 土御門「―――――――!!!!」 上条と美琴の安否を確かめるため、街を疾走するインデックス、ステイル、土御門。 黄泉川「――――――!!!!」 上条と美琴を捕らえんと、ライフルを向けながら彼らに近付く黄泉川と警備員たち。 神裂「――――――――!!!!」 上条の名を叫ぶ神裂。 ――――――――――!!!!!! 上条と美琴の元へ向かう音速の榴弾。 そして……… 上条美琴「「――――――――――」」 死を目前に感じ、互いの身体を強く抱き締める上条と美琴――。 上条「(神様……っ!!)」 シュウウウウウウウウウウウウ!!!!!! ズッ……… やがて榴弾は上条と美琴に着弾するように直撃する………はずだった。 「掴まるのである」 上条「!!!!!!!!」 爆発の炎に包まれる直前、上条が耳にしたのはその一言だった。 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!! 着弾し、爆発する榴弾。 黄泉川「!!!!????」 突然の衝撃に、黄泉川たち警備員は思わず地面に伏せる。 神裂「!!!!!!!!」 顔を真っ青にし、今すぐ着弾箇所へ向かおうとする神裂。 インデックスステイル土御門「!!!!!!!!!!」 たった今辿り着いたインデックスとステイルと土御門も、突然目の前で起こった爆発に、驚愕の表情を浮かべた。 麦野「………………」ニィィ そして目の前で巻き起こったオレンジ色の炎を顔に映えさせ不気味に笑みを作る麦野。 誰もが、上条と美琴は死んだと思われた。 しかし……… ドン!!!! と、突然、衝撃波が巻き起こり、爆発の炎の中から何かが飛び出してきた。 麦野「何っ!!??」 神裂「あ、あれは………」 そのシルエットはまるで人間のような形をしていて、そしてその両肩部分にはそれぞれ1人の少年と1人の少女が担がれていた。 インデックス「あ! とうまと短髪だ!!!」 ロケットのように垂直に飛んでいくその人間の両肩を見て、インデックスが指差しながら叫ぶ。 ステイル「あ、あいつは……」 土御門「まさか……」 神裂「間に合いましたか………“後方のアックア”」 アックア「………………」フッ 両肩に上条と美琴をそれぞれ抱えた、元『神の右』の1人――“後方のアックア”ことウィリアム・オルウェルは小さな笑みを浮かべて学園都市の壁を軽々と越えていった。 黄泉川「な……何が起こった……?」 麦野「あ……あ……バカな……」 その様子を呆然と見つめる麦野や黄泉川たち。 インデックス「ありがとう!!! アックア~~~!!!!」 インデックスの感謝の言葉を背に、やがてアックアは学園都市から高速の速さで去っていった。 ネオンの光が映える街の空を、アックアは飛ぶように駆け抜けていく。 上条「う………」 美琴「ん………」 その両肩にそれぞれ抱えられていた上条と美琴は同時に目を見開いた。 アックア「ふん。起きたようであるな」 上条「………え?」 耳元に聞こえる声に驚き、上条はそちらに顔を向ける。 上条「なっ……お前、アックア!!??」 そこに見えたのは、あの、かつて上条が対峙した元ローマ正教『神の右席』の1人、後方のアックアの精悍な横顔だった。 美琴「だ、誰……? この人?」 美琴は不思議そうにアックアの顔を見つめる。 上条「何でお前ここに!?」 アックア「貴様の知り合いの魔術師に頼まれた」 上条「頼まれたって……あ!」 と、そこで何かを思い出す上条。 上条「まさか神裂が言ってた『対策』って、お前のこと……?」 アックア「ふん」 上条「な、何でお前が俺たちを……?」 本当に事情が飲み込めない、と言うように上条は訊ねる。 アックア「私は元傭兵である。貴様の知り合いの魔術師に頼まれたから仕事をこなしただけのこと。それだけである」 つまらなさそうにアックアは答えた。 上条「………………」 美琴「な、何だか分からないけど、ありがとうございます」 肩に担がれた状態で美琴はペコと頭を下げる。 アックア「そんなことより、お別れは済んだのであるか?」 上条美琴「え?」 アックア「あの退屈な街ともこれで今生の別れであるはずだが?」 上条美琴「!!!」 アックアに指摘され、はっとした上条と美琴は後ろを振り返えった。 美琴「学園都市が………」 そこに、街の光を受けて、妖艶に暗闇に浮かび上がる学園都市の姿があった。 美琴「そっか……。脱出出来たんだ私たち……」 上条「そうみたいだな……」 流れる風に髪を揺らしながら、2人は遠くなっていく学園都市を見つめる。 上条「………………」 しばらくの間眺めていると、やがて上条は顔を戻した。 美琴「………………」 学園都市をその瞳に焼き付けて、美琴は静かに呟く。 美琴「さよなら、黒子、佐天さん、初春さん、みんな……。そして、学園都市………」 その言葉を最後に、正面に顔を戻した彼女の目元から溢れ出た涙が風になって後ろへ流れていた。 上条と美琴を担ぎながら、夜の街に消えていくアックアの背中。 こうして、美琴と上条は遂に学園都市と別れを告げた――。
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/3073.html
【種別】 人名 【初出】 新約六巻 【解説】 『窓のないビル』の外壁を破壊して逃走した何者かを追跡するために出動した警備員の1人。 学園都市のあらゆる情報を収集させているはずなのに、 あからさまに有用な情報が集まらない状況に不審を抱いていた。 同じく捜査に当たっていた黄泉川愛穂から無線を受け、 白桃ともに詰め所へ向かい、紙の捜査報告書を抑える役割を請け負った。
https://w.atwiki.jp/sirenindex/pages/53.html
一方通行 / 8:21:33 / 第七学区 サブマシンガンの掃射を受け、粉々の木屑と化したドアを踏み拉きながら、一方通行(アクセラレータ)は笑う。 現在、一方通行は、その最強と呼べる能力に制限を受けている。 依然頭蓋に負った損傷により、言語・演算能力の大半を失った彼は、 首に装着した電極の補助がなければ、日常生活を送ることすら出来ない。 能力を行使できるのも、電極のバッテリーが保つ時間、約三十分間のみ。 しかし。 それでも尚、余りある程の絶対的な力を以て。 『一方通行』は、学園都市全ての超能力の頂点に、君臨する。 一方通行「いいぜェ、手前ェらを裏から糸引いてるドマヌケ野郎が何考えてンのかは知らねえが…… このオレに喧嘩ふっかけようってンなら、遠慮無く、叩き潰して踏み潰して捻り潰してやンよ」 白髪の悪魔(アクセラレータ)は、笑う。 終了条件2:第七学区内の『警備員(アンチスキル)』の殲滅 一方通行は、軽く床を蹴った。 それだけで、フローリングの床は爆ぜるように砕け、一方通行の身体は高速で警備員達へ接近する。 黄泉川「!!!」 一方通行「動きが遅ェんだよ牛女!」 黄泉川が防御の構えも攻撃の姿勢も取る間もなく、一方通行の右手が、黄泉川の身体に触れた。 一方通行「お仲間諸共、吹っ飛ンじまいなァ!」 細かい演算などせず、ただ単純に、黄泉川の身体を警備員達へと弾き飛ばす。 黄泉川の身体各所の関節が僅かに軋みを上げたが、そこは鍛えられた警備員の身体、ほぼ無傷と言っても良いだろう。 猛スピードで飛来する大人一人の身体。 しかも女性とは言え、黄泉川は大柄な部類である。 その直撃を受けて、警備員の集団は大きくたじろいだ。 一方通行「……!?」 同時に、一方通行は違和感を感じた。 それは、触れた黄泉川の身体から伝わってきた、ベクトルの解析情報。 一方通行(血……じゃねェだと? 何だァ、このワケのわかンねェ『赤い水』は?) 屍人の身体に流れる『赤い水』に、一方通行は気が付いた。 血液ではない、謎の赤い液体。 学園都市随一の頭脳を持つ一方通行にすら、解析不能の液体。 内容成分も、その性質も、全てがブラックボックス。 まるで、初めから、この世に存在しなかったモノのように。 一方通行(オイオイオイオイ、これが仮にコイツラを操るための薬物かナニかだとして、 それがまるっきり血液と『入れ替わってる』ってのはどういうコトだァ!? 何でコイツラ、こんな状態で生きてられンだよ!?) 屍人の身体を流れる赤い水の呪い。 そのことを、今の彼が知る由も無かった。 疑問は尽きない。 だがそれ以前に、現実問題として解決しなければならないのは、現在の状況だ。 一方通行「チッ、めンどくせェ! 一旦こっから逃げンぞ、打ち止め(ラストオーダー)!」 打ち止め「うん、任せたよ! ってミサカはミサカは惜しげも無く身体を預けてみる」 赤い涙を流した警備員達が、体勢を立て直す。 それらに背を向けて、一方通行は部屋の奥にいる打ち止めの元へと跳んだ。 一足で打ち止めの身体をふん掴み、もう一足で部屋の奥壁を破り、マンションの外へと身体を躍らせる。 打ち止め「ぼわっふ!? ってミサカはミサカは舌を噛みそうになってるよ! もっと優しく運んでほしいってミサカはミサカはー!」 一方通行「黙ってろクソガキ!」 背後からは追い立てるように、警備員の銃撃が一方通行を襲う。 しかし、銃弾は全て『停止』され、一方通行にも打ち止めにも、何のダメージも無い。 ベクトル操作の設定を器用に変更し、打ち止めには能力による危害を加えず、しかしあらゆる衝撃・ダメージはカットする。 これもまた、一方通行の高度な演算能力がなせる業だ。 マンション外のコンクリート路面へと、無事着地する一方通行。 着地の衝撃は全て『反射』したため、一方通行と打ち止めの身体には衝撃は一切及ばない。 それら全てのダメージを受けた路面が、見るも無残に砕けてしまっただけだ。 一方通行「さァて、どうするか……あの警備員共が操られてるだけってンなら、アイツラと戦っても意味はねェ」 一方通行は、学園都市の頂点。学園都市の裏の顔を、闇の中を、イヤというほど見てきた。 だからこそ、『表』の人間が、光の中の人々が、利用され、傷付けられることが、許せない。 それが例え他人の手であろうとも、自分の手であろうとも。 打ち止め「うーん……芳川なら、何か知ってるかもしれないね、ってミサカはミサカは思いついた事をそのまま口に出してみる」 一方通行「あァ?」 芳川桔梗。 一方通行の数少ない知り合いの一人であり、曲がりなりにも優秀な科学者である。 彼女なら、或いは何かを知っているのかもしれない。 そして恐らく、芳川なら、打ち止めを護ってくれる。 護衛というには頼りないが、それでも彼女も所謂『裏』に通じる人間だ。 安全に隠れる事が出来る場所くらいは持っているだろう。 一方通行「……仕方ねェ、芳川の研究所は、確か第二学区だったなァ」 そう言って、一方通行は、首の電極のスイッチを切り替えようとした。 限られたバッテリーを節約するための行動だったが、しかしそれはこの瞬間において、油断以外の何物でもない。 マンションの外への逃亡が成功した瞬間からの、僅かな時間における、思考の空白。 もっとよく周りを見渡せば、『おかしくなっている』のが、あの警備員達だけではないと気付いた筈だった。 この第七学区全体が、既に一方通行達の『敵』となっていることに、気付いた筈だ。 何かが、弾けるような音。 それが銃声だと、一方通行が気付いたのは、 打ち止めの右肩に、小さな穴が開いたのが見えた瞬間だった。 そして、血が噴き出す。 まるで、噴水のようだった。 打ち止め「……ぁ、れ?」 一方通行「―――――」 更にもう一刹那かけて、ようやく、一方通行は思考能力を取り戻した。 一方通行「何やってくれたんだテメェェァァァァァァ!!!!!!」 逆算。打ち止めの肩に撃ちこまれた銃弾の位置、角度。銃声の方向。殺気の位置。 全てを頭の中に放り込み、狙撃者の位置を割り出す。 能力。打ち止めの傷に手を触れ、ベクトルを操作する。 血液の流れを正常化、出血停止。生体電流の操作、自己回復の促進。 打ち止め「……ぁ、ぅ」 一方通行「黙ってろ! 喋るんじゃねェ!」 一方通行はその全能力を使い、演算する。 狙撃手の位置を画定し、周囲の気流を解析し、打ち止めを治療する。 一方通行の脳内に、膨大な量の計算式が組み上がっていく。 『妹逹(シスターズ)』の能力を借りて行われるその演算は、既に常人が理解可能な範疇を大きく逸脱していた。 それを嘲笑うように、更なる『敵』が、続々と現れた。 数を数えるのも躊躇われる、大勢の警備員。全員が、顔を赤く染めている。 その中には、先の黄泉川逹も混じっている。 無線か、或いは他の方法か、仲間を呼び寄せたのだろう。 一方通行「ウゼェンだよザコ共がよオオオォォォ!! 蟲みてェにワラワラ寄って来てンじゃねエエェェェェ!!」 一方通行の叫びも空しく、警備員逹の銃弾が、今度は一方通行目掛け、容赦なく襲いかかる。 一方通行「オオオオオオオオオォォォォ!!」 最早、『停止』だけでは終わらせはしない。 一方通行は、脳内の演算を続けたままで、それらの銃弾を全て『反射』する。 正確に、確実に、銃から放たれた銃弾を、銃に向けて、反射する。 警備員逹が持つ銃器は、自身が放った銃弾によって次々と破砕されていく。 時折、流れ弾が警備員の身体に当たることもあったが、元々が『制圧捕獲用』の警備員の銃器、死ぬことはないだろう。 そしてその間に、一方通行は全ての演算を、完了した。 一方通行「他人をテメェの食い物にしてるようなヤツは――――」 赤い瞳で、見えない『敵』を睨む。 警備員ではなく、狙撃手でもなく、その向こう側にいるだろう、『敵』を。 一方通行「――――トコトンぶちのめすって決めてンだよオオオォォッ!!」 嵐が、吹き荒れた。 ベクトル操作によって生み出された気流が、およそ300メートル離れた場所にいた狙撃手の警備員へと牙を剥く。 木々を薙ぎ倒し、アスファルトのタイルを剥ぎ取り、嵐風は猛る。 その威力の前に、たかだか警備員用の銃器などでどうすることが出来る筈もなく、狙撃手は呆気なく吹き飛ばされていった。 だが。 一方通行「ゥゥウウウウオオオオオオォォァァァァァ――――!!!」 一方通行は、止まらなかった。 狙撃手の撃破を確認した後も、その制御を緩めようとしない。 嵐は、より強く、より大きくなる。 しかし一方通行は、より正確に、より慎重に、その手綱を握る。 一方通行「テメェの好き勝手にさせてやるワケ、ねェだろうがアアアアアァァッ!!」 その嵐は、残る警備員逹へと襲いかかった。 壊し切れていない銃器を放り上げ、動きを縛り、呼吸を奪う。 警備員は、訓練を受けた戦闘のプロである。 しかし、能力者ではない。 銃器を無効化され、動作を封じられれば、いとも簡単に陥落する。 やがて、風が止んだとき、その場に立っていたのは、一方通行と、彼に抱えられた打ち止めのみだった。 一方通行は、何度か周囲を確認し、ようやく電極のスイッチを切り替える。 警備員逹は、全員昏倒している。死んではいない、筈だ。 これなら暫くは起き上がれないだろう、と一方通行は舌打ちしつつ考える。 一方通行(フザケやがって……っ!) 怒りは収まらない。 打ち止めを傷付けたことも、他人を操ってそう仕向けたことも、己の油断で打ち止めが傷付いたことも。 全てが、怒りの対象だった。 その様子を見ていた打ち止めが、ここで初めて声を上げた。 打ち止め「……とりあえず、ミサカは大丈夫だよ、ってミサカはミサカは胸を叩いイタタタ!?」 一方通行「ばッ!? 何してやがるアホガキ!」 大丈夫だと伝えたかったのか、勢いよく自分の薄い胸板を叩いてみせた打ち止めだったが、それが肩まで響いたらしい。 おもむろに肩を抑えて涙目になっていた。 治癒力を促進したとはいえ、所詮は応急措置。 傷口は簡単に開いてしまうし、痛みもほとんど引いていない筈だ。 一方通行(……コイツを連れて歩くことは、出来ねェ。 芳川に会いに行く前に、あのカエルヅラのトコロに行ってみるか……) カエル顔の医者。 『冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)』という、荒唐無稽な異名を冠する、凄腕の外科医である。 腕は確かで、底の知れない部分がある、不思議な医者だ。 それでも、一方通行は彼に対し、信頼に近い感情を抱いていた。 患者がいれば、必ず救ってみせる。それが、『冥土帰し』の不文律。 それを、一方通行は信じている。本人は否定するだろうが、それは信頼と言って良い。 一方通行は、打ち止めを抱えたまま、よろよろと歩き出した。 まずは、杖の代わりを、探さなければ。 終了条件2達成(ミッションコンプリート)
https://w.atwiki.jp/lightnovelcharacters/pages/239.html
「時間になりましたのでこれより職員会議を始めたいと思います」 その言葉と共に多数の職員がため息をつく。意味的には「あぁ、今日はどんな小言言われるんだろう?」あた りを想像して頂けると幸いだ。 ヤン「おや、彼はどうしたんだい? ほら、体育教師でいつもジャージを着ている」 哀川「あ~アイツなら保健室で死んでますよ。一方通行に殴りかかったんだから当然なんじゃねぇの?」 ヤン「………何でそんなことをしたのかね彼は? 余程の事情でもあったのかい?」 小萌「いえいえ~。鈴科ちゃんの髪が白いのにいちゃもんつけただけなのですよ~。あの子見た目が弱っちそう ですからね~」 ヤン「全く……この前も天壌の所のお嬢さんに泣かされたというのに彼も懲りないね」 そんな前座話をもって、職員会議は始められた。 ヤン「先に言っておくと、悪いニュースのオンパレードだから気を引き締めてもらいたい」 小萌「つ、突っぱねることはできないです?」 ヤン「少しばかり厳しいかな。私も家族を抱える身だから問題を無視して路頭に迷うわけにもいかないんだ」 亮史「あぁ~確かに困りますねぇ。僕としても輸血パックが激安価格で飲める環境は捨てがたいですから」 その台詞に人外科の教師一同が首を振る。今時社会生活から炙り出されるような人外をその習性が当然の物と して受け入れてくれる職を失いたくない思いは皆同じであった。 ヤン「その事なんだけどね。もしかしたら輸血パックとかの値段が上がるかも知れないんだ。ちなみにそれが悪 いニュースの一つ」 「「「………何で?」」」 度重なる……というかほぼ毎日行われてる校舎の破壊。それを修理しているのは何処の誰か? と問われると 魔法とか超能力とか得体の知れない能力を持つ者達と学園お抱えの凄腕業者さん達である。 では、その修理する者達を動かしている物は何か? 当然ながら『金』である。ではその金はどこから来てい るのかというと……この学園のスポンサーである多数の企業・名家だ。 IAIを始めとする各国のUCAT、光流脈統括管理局、神凪家、芝村家、ドレル・パーティー……等々多数 の所謂『お金持ち』が資金面で広く支援してくれるからこそ、この学園は成り立っているのである。 が、その資金とて無限ではない。故に校舎を破壊した犯人や修復能力のある人物にちょっとしたお小遣い代わ りの資金を与えたりして経費を補っているのであった。 ちなみにここ最近の注目株は十二時直前にその存在の力を使って校舎の修復を行い、十二時になった瞬間何事 も無かったように事が終わる坂井悠二であったりする。 ヤン「最近不景気らしくてね。このままでは学園内の販売物は値上がりするし君達の給料も若干下がるんじゃな いかと私は睨んでいるよ」 伊庭「異議あり!! それじゃ私がゲームを買えなくなるじゃないか!!」 国語教師の伊庭かおりが立ち上がり、体を半身に左手を人差し指立てながら突き出す。その右手にはGBAが 握られているのはお約束だ。 ただし表情は真剣に泣きそうで今にも重火器を持ち込んできそうな様子である。両隣の職員が必死に押さえ込 んでいるが果たしていつまで保つか。 気持ちは分かる。彼女のクラスは問題児が多いため彼女の給料査定は非常に厳しい状況なのだ。まぁ、彼女自 身にも問題はあるのだから仕方が無いとも言えよう。 ヤン「さらに恐るべき事に理事会に運営資金を横流ししている人物がいるらしい」 和麻「どこのどいつだ? そりゃ。一度殺さねぇとな」 黄泉川「粛正委員会の話によるとマッハ2で迫るライフル弾を直線走行で引き離しつつ四方の壁をどっかの魔眼 持ちの裏人格みたいに駆け回り、あの一方通行を靴下一つで倒した爬虫類みたいな顔した恐るべきデブ らしいジャン」 和麻「……どんな妖怪だソレは? ていうかそれ本当に“人物”なんだろうな?」 黄泉川「アハハ。八神先生に言われると若干違和感があるね」 まぁ結局の所「そんなのもいるんですね」ぐらいで終わってしまうのがこの学校の常識だったりするのだが。 モレク「しかし実に嘆かわしい状況です。やっと学園内の抗争も収まりを見せたというのに学園自体が抱える問 題の総量は大した変化を見せていない………これからの未来を生きる子供達にこれでは申し訳が立たな いと言えるでしょう」 教頭という立場にいながら割と下座の方で会議に参加しているモレクの言葉に場の空気が㎏単位で重くなる。 この牛骨の賢者はいつも本気で学園のことを真剣に悩んでいるので、気楽に教師をしている者にとってその真 摯な態度は時に後ろめたさを感じさせるのだ。 そして何よりこの紅世の王は激しく心配性なのだった。学内派閥抗争が始まった当初、あまりの悲惨さに (文字通り)体を壊した彼を教員一同で見舞いに行ったのはまだ記憶に新しい。このままこの状況が続けば今度 は黄色い火の粉になって存在が消えてしまうかも知れない。もしもそうなった時のことなど考えたくもない一同 だったが、唐草色の炎を撒き散らしながら巨大な腕を振り回す獣耳女性の姿がどうにも頭の片隅から離れないの もまた事実だった。 ヤン「えー次の報告なんだがね、先のトーナメントで大破したASと士魂号の部品を発注したんだがまだ届かな いんだ。どうやら業者の方が出し渋りしているらしいから後で交渉に何名か向かってもらうよ」 室内の至る所から銃の撃鉄を引く音が聞こえた。 ヤン「次は……以前一方通行に投げ飛ばされたまま行方不明だったマリアンヌが放浪中の織田信長先生に拾われ て先日無事帰還したとあるね……とりあえず一方通行とフリアグネ先生をしばらく会わせないようにした いから皆極力協力して欲しい」 和麻「ちなみにどっちが心配なんだ?」 ヤン「むしろその時居合わせた周囲の人物だよ。血の気の多い連中が多いからね……何をするか解ったもんじゃ」 ??「失礼します!!」 ヤンの言葉を遮り、一人の男子生徒が会議室に飛び込んできた。肩で息をしつつ何かを訴えようとするその姿 を見て、職員達がまずは落ち着けと諭す。 飛び込んできた人物は生徒会の雑用係である富家幸太であった。 ヤン「で……どうしたんだい? まさかまた何か起きたのかな?」 幸太「ハイ! 水前寺君率いる電波新聞と鳴尾さん率いる新聞部が食堂で激突して、その混乱に乗じて食料庫の 食料をつまみ食いしようとした人達に食堂のコックさん連合が制裁を加えようとしていたところ、注文し ていたメニューが中々出てこないと腹を立てたオーフェン先生が面白そうだからという理由で騒ぎに参加 した涼宮ハルヒさんにドロップキックを喰らい、当然の如くソレに激昂した先生が手当たり次第に魔法を 打ち込んだ結果、危機に陥った吉永さんの妹さんを救うためガーゴイル門番が食堂にダイブしたんですけ どそこに運悪く居合わせて壮絶な頭突きを喰らって脳震盪を起こした上条さんを守るために御坂妹さん (大体10人ぐらい)が放電攻撃を始めちゃって、そのせいで食堂が大変なことになってるんです!!」 ヤン「……スマン、もう一度最初から言ってくれないかい?」 ガシャン、と骨が崩れたような音が室内に響く。 その後、唐草色の炎で大炎上を起こした食堂は夏休み一杯閉鎖となった。 CAST ・銀河英雄伝説 ヤン=ウェンリー ・戯言シリーズ 哀川潤 ・とある魔術の禁書目録 月詠小萌 黄泉川愛穂 ・吸血鬼のお仕事 月島亮史 ・まぶらほ 伊庭かおり ・風の聖痕 八神和麻 ・灼願のシャナ Ⅰ巻の体育教師 “大擁炉”モレク ・とらドラ! スピンオフ 富家幸太
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/396.html
最終章 蟻群矜持《ボトムスピリット》 前編 第二十三学区 国際特殊環境研究所 研究室のソファーで踏ん反り返りながら、木原故頼は家政夫《ヘルプマン》からの電話を受けていた。 目的だった毒島帆露の拘束は出来ず、10人もの能力者を戦闘不能にされたという最悪の方向だった。 それでも飄々としている家政夫《ヘルプマン》の態度が気に入らず、故頼は一方的に通話を切った。 故頼「ふん。使えん奴らめ。」 亜継「まぁ、あいつらは所詮、雑兵。まだまだ戦力は残ってるぜ。」 故頼「あの時、振動支配《ウェーブポイント》から逃げたお前が言えた口か?」 亜継「一応、貰った金の分の仕事はしたつもりだ。」 故頼「ああ言えば、こう言う。」 亜継「そんなことよりよぉ、さっさと境界突破計画《プロジェクト=アフターライン》について教えてくれよ。」 故頼「まぁ、お前にならいいだろう。」 そう言うと、木原は立ち上がり、学園都市の全体地図を取り出した。 故頼「貴様は・・・“魔術”という存在を知っているか?」 亜継「まぁ、“まじゅつし”なんて奴らを何度かぶっ殺したことはある。俺からすれば、能力者とどう違うのか分からねぇけどな。」 木原「ふん。まずはそこから説明しなければならないか。」 超能力を科学の産物とするなら、魔術はオカルトの産物だ。 才能の無い人間が才能のある人間(能力者)に対抗するために生み出された能力であり、 その力の行使は神話や宗教、学問を基にしていたり、または神話や宗教が過去に行使された魔術を基にしていたりもする。 学園都市の超能力が才能の産物となれば、魔術は努力による産物だ。 亜継「ん~。まぁ、なんとなく分かった。」 故頼(こいつ・・・絶対に理解していないだろうな。) それでも気にせず、故頼は計画について語り続ける。亜継に聞かせて理解させたいわけではない。自分が語りたいのだ。 宇宙頭脳《スペースブレーン》の失敗から落ちぶれ続けた自分が再び、学園都市の表舞台に現れる切っ掛けとなる重要な計画だ。 その理想の実現が目の前まで迫ってきている。その昂る気持ちを計画について語るという行為で発散しているのだ。 故頼「それなら、説明を続けよう。」 魔術はオカルトという科学とは相容れない領域の技術でありながら、エネルギー理論は科学と通ずるところが多い。 いや、発生年代的に考えれば、その逆だ。科学のエネルギー理論は魔術やオカルトをモデルケースにしているかもしれない。 現代ではオカルトとなってしまった錬金術が近代科学の発展に貢献したように・・・ とにかく、魔術の行使にもエネルギーが必要とされる。 天使の力《テレズマ》、地脈、龍脈、世界の力、マナ、思念・・・etcなど、地域や信仰する宗教によって呼称は違うものの、 魔術の行使にエネルギーが必要なことに変わりは無い。 亜継「要するに、魔術は無から有を生み出せねぇってわけか。」 故頼「ふん。そこを理解する頭脳はあるようだな。」 亜継「てめぇ・・・、俺のこと舐めてるだろ。そんで、境界突破《アフターライン》ってのは何なんだよ?」 故頼「境界突破《アフターライン》は、科学と魔術の境界を越える実験だ。」 亜継「おいおい。科学と魔術は相容れないって言ってたじゃねぇか。」 故頼「科学も魔術も行使するのは人間だ。脳の構造さえどうにかすれば、問題ない。」 魔術のエネルギーとして、個人が保有する魔力を使う魔術師も少なくない。 具体的な手順としては、基本的にまず自分の生命力を「魔力」に精製する所から始まる。 生命力、つまり人間の体に元から流れているエネルギーが「原油」だとすると、 魔術を使う前に魔力という「ガソリン」に精製する必要があるわけである。 より具体的には呼吸法などで血液の流れや内蔵のリズムなどを無理矢理いじることで、普段とは違うエネルギーを精製することができる。 宇宙頭脳《スペースブレーン》の生き残った被験体は放射線や無重力環境、非道な能力開発によって通常の人間とは異なる呼吸法を使い、 血流や内臓のリズムも狂ったり、整ったリズムではあるものの通常とは異なるリズムであったりした。 偶然か必然か、実験によって被験体に生じた“身体の歪み”が生命エネルギーを魔力へと精製する回路として成立していたのだ。 亜継「あのガキ共を使って魔術を使おうってわけか?だったら、何でわざわざ第十二学区に運び出すんだ?面倒くせぇだろ?」 故頼「まだ計画について、全てを語っていない。質問は語り終わってからにしてもらおう。」 しかし、被験体たちの身体の歪みによる魔力も計画の実行には十分ではなかった。 そこで最も容易に手中に収められる魔力を必要とした。それが地脈・龍脈だ。 地脈・龍脈は土地に起因するエネルギーであり、地理的条件を踏まえることが出来れば必要な分だけ抽出することができる。 学園都市内で地脈・龍脈からエネルギーを抽出するのに適した場所が第十二学区なのだ。 いや、そもそも第十二学区は学問の性質上、地脈・龍脈を意識して建築物を配置している節がある。 ここまでは実験に必要な材料の説明だ。 そして、これから話すのは実験の趣旨についてである。 これほど似て非であり、案外似ている魔術と科学。これらを組み合わせた何かを開発しようと誰もが考えるし、それが実行されたこともある。 しかし、脳の回路が違う事で能力者が魔術を行使すると異常をきたし、回路の混乱によって脳が破壊されるという結果であった。 この実験自体が正式なものでない為、結果も口伝によって故頼に伝えられたものである。 宇宙頭脳《スペースブレーン》では、その結果の真偽の確認のためという意味合いもあり、同様の結果が得られた。 しかし、得られたのはそれだけではなかった。 魔術の行使によって能力者が死亡した瞬間、もしくは死亡する直前に正体不明のエネルギーを観測することに成功した。 それが何なのか分からなかったが、魔力でもなく、AIM拡散力場でもない第三のエネルギーの可能性も秘めているのである。 もし、それが第三のエネルギーだとすれば、魔力と科学エネルギーの衝突と反発による産物という位相を越えた現象を立証することが出来る。 そうなれば、科学も魔術も関係無い。全く新しく、異なる概念が生み出されることとなる。 宇宙頭脳《スペースブレーン》で観測した際は、突然の出来事もあり、サンプルとして保存することが出来なかった。 故頼「境界突破《アフターライン》はその新エネルギーの採取と解析だ。」 亜継「へぇ。やっぱ分かんねぇ。」 故頼(やっぱり、理解してなかったのか・・・。) 亜継が理解しているかどうかなんて、故頼にはどうでもよかった。 話し終えるタイミングでも見計らっていたのか、丁度良く、何者かが研究室のドアをノックする。 故頼「入れ。」 彼の声と共に「失礼しま~す。」というやや無礼な挨拶と共に一人の男が中に入り込む。 いかにも悪そうな顔つきに白衣の男、細身ではあるが、木原故頼と同じ匂いがする。 男「木原さん。輸送の準備、出来たっす。」 故頼「そうか。では、すぐに出発する。」 亜継「おいおい。明日じゃねぇのかよ。」 故頼「向こうには情報が漏れてしまっている。それに今は能力者集団がスキルアウト共に奇襲をかけているはずだ。 この混乱に乗じて第十二学区に向かう。」 亜継「へいへい。俺は能力者殺しと給料さえ貰えば、どうでもいいんですけどね。」 第五学区 風輪学園 軍隊蟻《アーミーアンツ》が第四支部として体育館を拠点としているのがバレてしまったのか、木原が雇った能力者集団が学園内に入り込んでいた。 全員が能力を発動させる準備をしながら、ゆっくりと学園の奥へと足を進めて行く。 これが悪質なスキルアウトならば、皆で競って銅像を破壊したり、窓ガラス破壊リレーを行ったりするわけだが、彼らはそういったことはしない。 破壊活動を行っている者はいるが、ごく一部にすぎない。 彼らだって、伊達に能力者なわけではない。才能を持ち、それなりに頭がいいのだ。 そういったことが無意味だと理解している。加えて、能力者の寄せ集め集団ということもあって、連帯感がない。 それが破壊活動の拡散を防いでいることもある。 能力者A「軍隊蟻《アーミーアンツ》を潰せば、金を渡すってのは本当なのかよ?」 能力者B「まぁ、金が貰えなくてもいいんじゃね?あいつら、最近調子のってるしよぉ。 無能力者が能力者に逆らったらどうなるか、叩きこんでやろうぜ。」 能力者C「賛成。賛成。ヤンキー系女をファッ○するのもいいなぁ。」 能力者A・B「いやいや、無能力者狩りと強姦は関係ないだろ。」 能力者D「ねぇ。あいつら、そろそろこっちに来るよ♪特攻するのバレバレだっつの♪」 広域探知系の能力を持つ能力者Dが指さす方向に軍隊蟻《アーミーアンツ》が拠点とする体育館があった。 どうやら、熱を探知する能力らしく、数多くの熱源が体育館の中に集中していることに気付いていた。 能力者A「っしゃあ!さっさと潰すぞぉ!」 能力者B「抜け駆けは許さねぇ!」 能力者C「FUCK YOU!!」 騎兵隊ばりのイケイケドンドンで体育館の方向へと走り抜ける3人。その3人に呼応して、他の能力者たちも数名ほど彼らについて行く。 ――――――が、彼らが体育館に辿りつくことはなかった。 突如、轟音と共に一筋の閃光が体育館の壁を貫き、突入していった数名の能力者たちが吹き飛んでいった。 超音速を越えた砲弾の衝撃によって発生したソニックムーブによって周囲も吹き飛ばされていく。 寅栄「てめぇら!行くぞ!」 寅栄の呼びかけと共に数台のトラックが体育館の中から飛び出していく。 先頭のトラックを寅栄が運転し、助手席には冷牟田が座っていた。 冷牟田「レールガンを撃つことで突破口を開くなんて・・・随分と荒いことをするのね。」 寅栄「四の五の言ってる場合じゃねぇだろ。」 作戦は至って簡単だ。 軍隊蟻《アーミーアンツ》が用意していたレールガンを撃つことで突破口を開き、そこをトラックでとにかく走り抜ける。 あまりにもお粗末な作戦だ。 レールガンは予め、パーツ毎に分割していたのを体育館の中で組み上げて完成させた。 一介のスキルアウトが持つには怪し過ぎる武装だが、理論は分かっているのだから、後は材料と電力さえ揃えば何とかなる。 砲身は廃棄予定だったリニアトレインのレール、細かい機器はリサイクル業や廃品回収業で手に入れた家電やロボットのパーツ、 電力はこの学校に供給される電力ラインを全て盗んでレールガンに供給させた。 冷牟田「そんなものを置いて行くのもいいのかしら?」 寅栄「どうせ1発撃ったら砲身が壊れて使い物にならねぇ。元々は使い捨てが目的だからな。」 トラックが飛び出し、舞う粉塵が吹き飛ばされた体育館跡地には砲身が崩壊し、 本体や電力供給の為にある周辺機器はレールガンの衝撃に耐えられずに吹き飛ばされたり、黒焦げになっていたりした。 戦車と同じくらいの大きさを誇るレールガンだったが、スキルアウトが揃えられるパーツで作れば、大型化は否めなかった。 周辺は盗んだ電力ラインのコードが大量に繋がれていた。とてつもなくゴテゴテで手作り感が溢れる兵器だった。 寅栄「よし!このまま一気に突き抜けるぜ!」 トラック3台が正門前の広場に到達した。 正門前の広場もその外にも能力者の姿はちらほらあったが、猛スピードで走るトラックは止められない。 このまま外に出れると誰もが思った瞬間だった。 突如、先頭のトラックがスリップして横転する。 雲ひとつない月明かりの照らす夜であるにも関わらず、まるで雨が降った後のように路面は濡れていた。 いや、“濡れていた”という表現は正しくない。正確に捉えるとすれば、“路面そのものが液状化していた”のだ。 先頭につられて2台目も衝突して正門付近の壁にぶち当たる。 異変に気付いた3台目はすぐにブレーキを踏んだことで液状化した路面の犠牲にならずにすんだ。 冷牟田「痛たたた・・・。トラックの運転も荒いのね。」 寅栄「んなわけねぇだろ。あいつらのトラップか何かだ。」 すぐさま軍隊蟻《アーミーアンツ》のメンバーは横転したトラックの外へと出て行く。 寅栄「お前ら!大丈夫か!?」 仰羽「また傷口が開きそうになりましたよ。」 三上「サークルのメンバーは無事だ。約1名はのびているけどな。」 元気そうに出て来る三上と神座、しかし神山の方は気絶し、三上に肩に担がれていた。 蟻たち「こっちも全員無事です!」 全員の安全を確認してほっとするも束の間、ここは能力者集団の巣窟であることを気付かされる。 ???「ちっ・・・。しぶとい奴だ。こんな居場所のない街で必死に生きようとするお前らが理解できねぇよ。」 そこには一人の少年が佇んでいた。 風輪学園高等部の制服を着ており、黒髪をベースに所々、金色のメッシュをかけている。 何かを恨んでそうな、憎んでそうな表情をしている。 彼の足元を中心に正門付近の地面は液状化していた。 彼の持っている能力、状態変化《コンディションチェンジ》と呼ばれる能力で沸点・融解点・凝固点を操作し、 アスファルトを液状化させていたのだ。 ???「俺は黒丹羽千責。お前らがバケモノと呼んで蔑む能力者さ。」 寅栄「別に、俺らは全ての能力者をバケモノ呼ばわりしたことはないんだけどなぁ・・・。」 神座「バケモノ!?それって、この神座残時ちゃんも入るn―――――――― 全てのセリフを吐き終える前に突如、神座がその場から姿を消した。 全員が「えっ!?」と思った瞬間、茶髪のポニーテールに両目の泣きボクロが特徴の女が現れた。年齢からして、おそらく高校生ぐらいだろう。 彼女は突如、姿を消したはずの神座を胸元で抱え、首筋にナイフを当てていた。 ???「私たちに歯向かわない方がいいですよ。じゃないと、この子の首が血で真っ赤に染まるわよ。」 軍隊蟻《アーミーアンツ》の武装部隊が彼女に銃口を向けた途端、彼らが持っていた全ての武器が消え去り、彼女の元へと転送されてしまった。 白高城天理の能力、座標回帰《リセットポイント》によって、視認できるものは全て、彼女の手中にあるようなものなのだ。 ??「ははっ。これでてめぇらは丸腰って奴だ。よくやったな。白高城。」 白高城「先輩に敬語使えって教えられたよね?木原一善。」 スカジャンにデニム姿、茶髪のコーン・ロウ(編み込み)、左の眉毛にピアスを付けたいかにも不良という姿の高校生、 木原一善が能力者チームの取りまとめをしていた。 一善「故頼のクソジジイの実験の邪魔をしないようにぶっ殺せって言われてるんだョ。だから、悪ぃが全員、ここで死んでもらうぜ。」 寅栄「そんなクソジジイの実験を成功させるために、こんな夜中にスキルアウト退治するなんて、親戚思いな奴なんだな。」 一善「はぁ?あのクソジジイの実験なんざどうでもいい。俺はてめぇらを潰して金がもらえれば、それでいいんだョ。それに・・・」 木原が服の袖をまくり、自らの腕をまざまざと見せつける。 形は人間の腕そのものだったが、それは機械で構成されたサイボーグの腕だった。 外部を人肌に近い合成樹脂で覆い、その内部を衝撃吸収用の硬質ラバー、超強化プラスチック、鋼で構成されている。 一善「せっかく腕を新調したんだ。こいつの性能を試したかったんだョ!!」 一善が突如、サイボーグの腕で寅栄へと殴りかかる。 寅栄は咄嗟に腕でガードするが、白高城が神座の首筋に当てたナイフをちらつかせる。 無論、それは「抵抗するな」という彼女のサインだった。 一善の右ストレートが綺麗に彼の頬へと衝突した。 寅栄「ぐはっ!!」 強固な素材で作られたサイボーグアームによるパンチは通常の人間以上に強力であり、そして拳そのものが凶器だった。 あまりの衝撃に脳が揺さぶられ、眼球が飛び出しそうになる。頭蓋骨が砕けてしまうのではないかと心配するほどのものだった。 仰羽「寅栄さん!」 咄嗟に仰羽が燃素爆誕《フロギストン》を使おうとするが、ライターを白高城の座標回帰《リセットポイント》で奪われ、手も足も出ない。 一善「おいおい。この程度で終わりじゃないだろうなぁ?」 口から軽く血を吐く寅栄に対し、一善は再び彼に殴りかかる。 一善「こいつの性能を試したいからよぉ。まだまだ倒れんじゃねぇぞ!!」 抵抗できず、苦しむ寅栄に対して、一善は一方的に無慈悲なまでに彼を殴り、蹴り、サイボーグの腕から出した爪で斬りつけていく。 あまりにも残忍で、感情の伴った人間がやることなのかどうか疑ってしまう悪魔の所業だった。 能力者集団の中にも「おい。いくら何でもやりすぎだろ。」などと、口に出さなくても既に表情に出している者もいた。 冷牟田「―――――――――――――――――――」 そんな中、冷牟田は部下である神座の救出のために尽力していた。 表向きは、人質を取られたことで手も足も出ず、ただ怯える神座を眺めることしか出来ないように見せかけていたが、 彼女は既に部下を救うためのアクションを起こしていた。 紙片吹雪《コールドペーパー》で誰にも気づかれず、ひっそりとカッター仕込みの紙切れを白高城に向けて動かしていた。 ただのゴミとして認識させるために地面すれすれを低空飛行させる。 冷牟田(あと1m・・・。もう少しの辛抱よ。) 冷牟田が集中して紙切れを動かしていたが、突然、能力者の一人に紙切れを踏みつぶされてしまう。 それは偶然でも不幸でもない。その能力者は紙切れを狙って踏みつけたのだ。 能力者E「こっそり能力を使おうとしたって無駄だ。こっちにはAIM探知系の能力者がいる。能力を使おうとすれば、拡散力場が活性化してバレバレだ。」 冷牟田「くっ!」 白高城「次、こんな小細工をしたら、殺しますよ。」 神座「花柄~!」 黒丹羽「・・・で、そっちはまだ終わらないのか?」 黒丹羽が一善と寅栄の方を振り向く。 もう何度殴って蹴ったのか覚えていられないほど、一善による暴行は続いていた。 しかし、それでも寅栄は立っていた。彼を挑発するように余裕の笑みを見せ、口から血反吐を吐き捨てる。 一方の一善は息を切らし、肩で呼吸するほど体力を消耗していた。さすがに心臓や肺までサイボーグにしていなかったようだ。 寅栄「凄ぇな。凄ぇよ。そんなへなちょこパンチで俺に挑む度胸と無謀さだけは認めてやんよ。」 一善「てめぇ・・・・!!!」 まんまと寅栄の挑発に乗った一善は頭に血が上り過ぎて、血管が浮き上がっていた。 そして、「ぶっ殺す!」という声と共にサイボーグの腕から大きな爪が飛び出してきた。 一善「そんな調子に乗ったセリフが吐けるのは今の内だ。」 ??「それはこっちのセリフだ。」 一同「!?」 突然、聞こえた声の方を振り向くと、正門前には大量の男女がバイクに跨り、エンジン音を鳴らしていた。 そして、能力者たちを挑発するかのようにライトを当てる。 総勢50名近くの大軍隊が風輪学園の正門前におり、その光景は圧巻だった。 蟻P「軍隊蟻《アーミーアンツ》!!我が義を通すために罷り通る!!」 白高城「そんな・・・・、こんなに大勢のメンバーがいるなんて聞いてないわよ。」 白高城がよそ見をした隙を神座は見逃さなかった。 すかさず、手を上に伸ばして彼女を顔を掴むと、無理やり引っ張って自分の視線と合わせる。 神座「さっきのお返しだ!」 神座が白高城にそう告げると、2人の間で眩い光が何度も点滅した。 一瞬の出来事だったが、そこで数十回もの光の点滅が白高城の脳へと働きかけた。 白高城「・・・・・・・・・・・」 空白思考《ホワイトノイズ》 神座残時の持つ催眠系の能力だ。光の明滅により相手の脳内に干渉し、思考に空白を作る。 サングラス等で容易に防がれるが、そのような装備が無ければ光ゆえに防御困難。 光は能力だが、思考の空白は能力ではない。光によって引き起こされる、ただの現象である。 空白思考《ホワイトノイズ》によって白高城はボーッとして、身体から力が抜けたことで神座を解放してしまった。 人質を取り戻したサークルと軍隊蟻《アーミーアンツ》の武装部隊と正門から新たに参入してきた軍隊蟻《アーミーアンツ》は一気に反撃に入る。 他の能力者が発する炎や電撃を掻い潜って武装部隊は白高城に奪われた武器を取り戻し、サークルの神座と三上も能力を使って暗部仕込みの戦闘能力で他者を圧倒する。 蟻P「てめぇら!突入だ!」 一気にバイクで中へと突入する軍隊蟻《アーミーアンツ》の増援。一人一人のスペックが低くても、圧倒的な数の暴力で能力者集団を圧倒していく。 木原一善は真っ先にその犠牲となった。 寅栄をあれほどまで殴って蹴ったことでメンバーの怒りを買い、集中的に積極的に、まるで蟻の群れが虫の死骸に集まるように集中的だった。 蟻P「寅栄さん。大丈夫すか?」 寅栄「お前は・・・・」 寅栄たちの助けに来たのは、九野や緑川の忠告を聞いたことで事件の捜査から抜け出したメンバーたちだった。 寅栄「お前ら、何でここにいるんだ?」 蟻P「何で?って。筋を通しに来たんすよ。“義を以って、筋を通せ。筋を通せぬことを生涯の恥とせよ。” あんたが、それを教えてくれたことを思い出したんすよ。」 寅栄「これは学園都市そのものを敵に回すかもしれないんだぞ!それでもいいのか!?」 蟻P「生き恥をかくぐらいなら、戦った死んだ方がマシっす!」 寅栄「―――――!!」 蟻P「ここは俺たちが食い止めます!寅栄さんは俺らのバイクを使って、ここから逃げて下さい!」 そう言って、蟻Pは寅栄に自分のバイクのキーを渡す。 次々と他の増援も横転したトラックに乗っていたメンバーに自分のバイクのキーを渡す。 「大切に使えよ。」 「傷つけたら弁償だからな。」 「お前は無免許だろ。トラックに乗せてもらうか、誰かと2ケツしろ。」 寅栄「俺たちが逃げるまでの時間稼ぎだ。深追いはするなよ。」 蟻P「うっす!あと、第二三学区に張り込みしてた連中から伝言っす。」 ―――――木原に動きあり。第5学区高速道路を走行中。――――――――― 寅栄「分かった。伝言ありがとう。武装部隊とサークルは離脱する!俺たちの目的は本丸を潰すことだ!」 蟻たち「うっす!」 鉄パイプや金属バットを振り回して能力者集団を必死に押さえこむ軍隊蟻《アーミーアンツ》の増援たち。 発火能力《パイロキネシス》に身を焼かれ、念動力《サイコキネシス》でその身を飛ばされても再び立ち上がり、 それぞれが機能を果たすことで軍隊蟻《アーミーアンツ》という一個の生命体のような連帯攻撃だ。 蟻Q「ご武運を祈ります!」 仰羽「おう!お前らも無理するなよ!」 増援に護られながら、数十台のバイクが正門から抜け出し、横転しなかった3台目のトラックが横転したトラックを抜けて風輪学園の敷地外へと出ていった。 蟻P「さて・・・と。寅栄さんには時間稼ぎって言ったんだけど・・・・」 蟻Q「ああ。うちのリーダーをボコった奴を見逃すのは筋が通らねぇな。」 蟻R「ちょっくら、軍隊蟻《アーミーアンツ》の・・・無能力者《レべル0》の恐ろしさを教えてやる必要があるみたいだな。」 喧嘩上等と言わんばかりに腕や指をポキポキ鳴らして、戦闘態勢に入るメンバーたちと能力者たち。 無能力者の意地と能力者のプライド、互いに点いてしまった火はぶつかり合わないと消せないようだ。 第五学区高速道路 第二三学区から境界突破に必要な被験体を運び出した故頼たちは第五学区の高速道路上にいた。 警備員《アンチスキル》でも少数しか配備されていない大型の軍用トラック。対 戦車ミサイルにすら耐えうる強靭な装甲を持ちつつも、スポーツカーに退けをとらないスピードと機動力を有するトラックだ。 正直言って、トラックと言うよりは装甲車に近く、屋根のハッチから亜継が顔を出し、搭載されている電磁狙撃砲を構えているのだから、 ますます戦場を滑走する装甲車に見える。 第二三学区の第一二学区は隣接しているのだが、第二三学区の職員と言えども第二三学区内での行動範囲は制限されており、 第五学区寄りに研究室を構えていた故頼たちは第八学区、第一二学区側の出口の利用が出来なかったのだ。 そのため、第五学区、第八学区の高速道路を経由して第一二学区へと向かわざるを得ないのだ。 亜継が与えられたオモチャを遊ぶ子供のように搭載された電磁狙撃砲をいじくり回し、撃つ構えで装甲車の前方をスコープで覗く。 亜継「ん?」 亜継の独り言が通信機で運転席にいる故頼へと伝わっていた。 故頼「どうした?」 亜継「警備員《アンチスキル》が検問を敷いてやがる。電磁狙撃砲でブチ殺しとくか?」 故頼「武器と姿を隠せ。我々は形式上、“合法的な輸送”を行っているのだ。わざわざ事を荒立てる必要はない。」 亜継「ちっ。つまんねぇな。」 亜継は楽しみであった戦闘のチャンスを逃すと、面白くなさそうな顔で武器を隠し、自身も装甲車の荷台の中へと姿を隠した。 検問所へと辿りつくと、数名の警備員《アンチスキル》がバリケードを張り、工事現場にある光る棒で装甲車に止まるように指示を出し、故頼たちもそれに従った。 一人のポニーテールで警備員《アンチスキル》の防護服の上からでも分かる巨乳の持ち主が運転席へと近付いて来た。それは紛れも無く、黄泉川愛穂だった。 第七学区の担当である彼女がなぜ管轄外である第五学区の高速道路にいるのかは分からないが、そんな事情を知らない故頼たちは疑問に思いもしなかった。 黄泉川「はいはいーい。ちょっと止まるじゃんよ~。」 故頼「何事だ?」 黄泉川「第二三学区から、機密情報を外部に持ち出されたって通報があったじゃん。悪いけど、中身を見せてもらうじゃんよ。」 故頼「我々は学区の許可を得て、合法的に積み荷を運んでいる。」 その証拠に、故頼は第二三学区が発行している持ち出し許可証を黄泉川に見せつける。 黄泉川「だったら、中身を見ても問題無いじゃんよ。」 故頼「内部には機密情報も詰まっている。中身を見るなら、統括理事会の許可証を提示して頂きたい。」 黄泉川「・・・・・・。」 故頼「もう用は済んだかね?我々は先に行かせてもらおう。」 黄泉川の不服そうな顔を見下ろしながら、故頼は装甲車のアクセルを踏んで検問を通り抜けていった。 それを見届けると、黄泉川は携帯電話を取り出して、何者かに連絡をとった。 黄泉川「九野先生か。1,2分しか時間稼げなかったじゃんよ。」 九野『ご苦労だった。たとえ刹那でも稼いだ時間に意味はある。』 黄泉川「意味があるって・・・」 九野『後は、軍隊蟻《アーミーアンツ》に任せるさ。』 警備員A「いいんですか?行かせちゃって?」 黄泉川「この検問自体、違法なものだから仕方ないじゃんよ。それに、ちょっとだけど、時間稼ぎにはなったじゃん。」 警備員B「みなさん、来ましたよ。」 警備員Bが指さす方向にいくつものライトがこちらに向かってくる。 それは、十数台のバイクと1台のトラックで構成された軍隊蟻《アーミーアンツ》の武装部隊だった。 警備員C「検問を開けろ!」 警備員《アンチスキル》たちは検問を開けて、軍隊蟻《アーミーアンツ》を素通りさせる準備をした。 そして、アクセルを緩めることなく、バイクとトラックは全速力で検問を通過していった。 黄泉川「あ~あ。油断して、武器が丸出しじゃん。」 そう言って黄泉川は、軍隊蟻《アーミーアンツ》があの事件の被害者の無念を晴らし、故頼の実験を阻止してくれることを信じて彼らを見送った。 ちゃっかりと武装している証拠写真を撮りながら・・・ 最終章 蟻群矜持《ボトムスピリット》 後編 につづく
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/3074.html
【種別】 人名 【初出】 新約六巻 【解説】 『窓のないビル』の外壁を破壊して逃走した何者かを追跡するために出動した警備員の1人。 学園都市のあらゆる情報を収集させているはずなのに、 あからさまに有用な情報が集まらない状況に不審を抱いていた。 同じく捜査に当たっていた黄泉川愛穂から無線を受け、 李ともに詰め所へ向かい、紙の捜査報告書を抑える役割を請け負った。
https://w.atwiki.jp/index2/pages/2.html
メニュー トップページ -人名別検索 とある魔術の禁書目録 科学サイド 《主要キャラクター》 上条当麻 御坂美琴 一方通行 《半主要キャラクター》 土御門元春 姫神秋沙 オルソラ=アクィナス 月詠小萌 《脇役》 青髪ピアス 吹寄制理 雲川芹亜 黄泉川愛穂 魔術サイド 《主要キャラクター》 インデックス ステイル=マグヌス 神裂火織 《半主要キャラクター》 《脇役》 とある科学の超電磁砲 《主要キャラクター》 御坂美琴 白井黒子 《半主要キャラクター》 《脇役》 ここを編集 初期メニュー保存場所
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/780.html
「はぁ…」 浜面仕上は人ごみの中で溜め息をついた。 ここは第十五学区の繁華街。 つくづく自分はこのような洒落た場所は似合わない、と思う。 そう思うのになぜここにいるのかと言うと。 ついさっきファミレスで 『浜面、超12月です!12月と言えば何でしょうか!?』 向かいに座っていた絹旗最愛が乗り出すように聞いてきた。 『はぁ?あー…一年も終わりだな。あ、大掃除!』 凍りつく空気。 麦野沈利がやれやれというように頭に手をやる。 『アンタって…』 『やっぱり超キモいです』 麦野に続いて絹旗が言う。 『12月ですよ!大掃除もですが、その前に超超大事なイベントがあるじゃないですか!?』 『んー?あぁ…クリスマスのことを言ってるのか?』 ブクブクとコップにストローで息を吹きこみながら、絹旗はつまらなさそうに 『浜面みたいな人に滝壺さんは、やっぱり超もったいないのかもしれません』 『はぁ!?どういうことだよ!』 浜面が少し頬を赤らめながら言うのが、絹旗と麦野にとっては面白くもあり、悔しくもあった。 『女の子にとってクリスマスは超大事なイベントなんです! それを「あぁ…」で済ませるなんて超呆れました! 罰としてクリスマスツリーに飾る飾りを超買ってきてください!』 『その罰が意味わかんねーよ!』 『結局、浜面は超パシリってことです』 『ま、お金くらいは工面してやるから行ってきなよ』 麦野が財布を開きながら言う。 『はい、自分のに使ったら殺す』 微笑む麦野。このセリフが無ければ男のほとんどが惚れているだろう。 『じゃ、浜面。超早く行ってくるです。 ついでにクリスマスに必要そうな物も超買ってきてください』 『結局俺はパシリか…』 『何をいまさら…さっさと行って来い』 そんなわけで面倒な人混みの中を歩いているのである。 「はぁ…」 また溜め息をつく。 (ま、一人ならもっと嫌だろうけど) そう思って視線を横へ向けると 「?」 滝壺理后が首を傾げていた。 「はまづら、大丈夫?さっきから溜め息ばっかりだよ?」 「ん、心配ねぇよ」 視線が合ったことに少しどきりとしたが、慌てて目を逸らし浜面は平静を装う。 しかし、その行動が裏目に出たのか、滝壺は少し不安そうな顔をする。 「私とじゃ楽しくない?」 しまった、と浜面は慌てて滝壺に向き直る。 「そそ…そんなことねぇよ! むしろ滝壺がいないともっとブルーな気持ちだったよ」 「本当?」 小さく首を傾げる滝壺。 「あ、あぁ!」 浜面は顔を赤らめながらまた目を逸らした。 滝壺と出会ってしばらく経つが、このような可愛らしい行動に浜面は未だに耐性がない。 お互い好き合っているのは知っているのに、このような人ごみの中でも手を繋ごうとしない、 といっても甲斐性なしの浜面には到底できないことだった。 (あの仕草は反則だよ…) しかし浜面の返事を聞いても納得がいかないのか、不安な表情は戻らない。 沈黙が息苦しく感じた浜面は、何か話題を探す。 「あ、クリスマスといえばプレゼントだよな…滝壺は何か欲しい物ないのか?」 「欲しい物…?」 「そう!高い物は買えねえけど、何か買ってやるよ」 お財布の中はそこまで暖かくは無いが、滝壺のためなら気にしない。 「うーん…」 顎に人差し指を当てて考え込む滝壺。 なんとも可愛らしい、愛おしい、このまま抱きしめてしまいたい。できるわけがない。 と、浜面は滝壺の姿を見てあることを思いつく。 「そうだ滝壺!服でも買おう!」 「?」 手はそのままで首を傾げる滝壺。 「ほら、さすがにジャージだと寒いだろ? 一応セーターもあるけど、別の物も買おうぜ」 そう言って軽く笑う。 「…うん」 滝壺もつられて笑う。 ようやく不安そうな表情が消えた。 浜面が近くの店に入ると滝壺も後に続く。 入った店は学園都市ほか、日本全国にチェーン展開している安いと有名な店だった。 (っと…入ったまでは良いが…) 浜面は自分のミスに気付いた。 センスが無い。 今の自分の服装に自信があるかと聞かれると、どちらでもないし別にどう言われても構わない。 だが、滝壺のような女の子の服を選べる程のセンスは自分に無いのは確かだ。 かと言って自分から入ったにも関わらず、どうぞご自由にとはなんとも身勝手だ。 (どうしたものか…) 浜面が腕を組みながら考えていると、滝壺が何かを見つけたようで店の中を歩く。 慌てて浜面が追いかけると、滝壺が見ているのは手袋の売り場だった。 そこにしゃがみこんで、手袋をひとつひとつ見ていく滝壺。 浜面はその行動がわからない。 滝壺は既に手袋を持っているし、別に古いものでもないので買い換えるには早過ぎる。 もしくは今のデザインが気に入らないのか。 それだとしても、使える物があるのに新しい物を買うという行為は滝壺の性格からして考えにくい。 嫌な例えだが、そうだとすれば自分なんてとうの昔に捨てられていただろう。 とにかく理解できない滝壺の行動を見守っていた浜面だが、 「はまづら、これ欲しい」 と言われ、滝壺に差し出された手袋を見てさらに驚く。 「お…おぉ?でも滝壺、これ男物の手袋だぞ、こんなデザインでいいのか?」 「うん、大丈夫…」 何が大丈夫なのかわからないが、とにかくレジへ向かう。 浜面自身手袋は持っていない。もしかして、それに気を使ってわざわざ買わせようとしているのか。 しかしそうだとすれば男のプライドとして少し悔しいものがあるのだが… (まぁ買うって言ったのは俺だけどな…) 支払いを済ませて少々落ち込みながら店を出ると、隣では滝壺が手袋に付けられた商品ラベルと戦っていた。 「はい、はまづら」 ラベルの取れた手袋を浜面に手渡す滝壺。 やっぱりな、と落ち込みながらも滝壺の気遣いに感謝して右手に手袋をはめた。 だが、滝壺は左手の手袋をなかなか渡してこない。 疑問に思い滝壺のほうを見ると、彼女は自身の左手にさっきの手袋をはめていた。 「え?」 浜面はさっきから滝壺の行動がまったくわからない。 もしかして、自分のように鈍い男じゃなかったら滝壺の行動の意味がわかるのだろうか。 絹旗の言うように、浜面仕上に滝壺理后はもったいないのか。 そんなことを考えてずーんと沈む浜面に、滝壺が声をかけた。 「はまづら…」 「ん?」 浜面が顔を上げると滝壺は少し頬を赤らめながら、 そしていつものしっかりと構えるような視線とは違い、目をチラチラと気まずそうに逸らしながら小さく言った。 「右手…寒い…」 「ん?え?」 浜面は一瞬意味がわからなかったが、しばらくして言葉の意味が少しずつ理解できてきた。 (つまり…これは…) すすす─と寒い左手をかわいらしい右手によせる。 だが、あと少しで触れる、といったところで止まった。 (本当にこういう意味なんだよな?) 浜面の中に広がる大きな不安。 その不安のあらわれか、浜面の左手はふわふわと二人の間を行き来している。 しかし、その時きゅっ─と右手が左手を捕らえた。 「─ッ!?」 驚いた顔で滝壺に向き直る浜面。 「…」 滝壺のほうは無言のまま目を逸らすだけ。 「…あったけーな」 浜面は独り言のように言う。 「私のほうが暖かく感じるから、はまづらは冷たいはずだよ?」 「いや…あったけーよ」 浜面は手に少し力をこめる。 確かに小さい滝壺の手は冷たい、しかしそれに勝る何かが浜面の中を満たしていた。 しばらくは二人そろって幸せ気分で街を行くあても無くとことこと歩いていた。 麦野や絹旗が見たら鬼の形相で「買い物は?」と聞いてきそうだが、今の二人にはどうでもよかった。 相変わらず人の量は多く、対向する人と避け合いながら道を進む。 滝壺は、手は繋いでいるが浜面の後ろに続くように歩いている。 後ろの滝壺の様子を見ようと振り返りながら歩いていると ─どん、と浜面の頭に向かいから来た人の身体が当たった。 (あーこれはマズイかもしれん…) 浜面は直感でそう思った。 そもそも人が多いとはいえ、相手が気を付けていればここまで綺麗に当たるはずが無い。 そして浜面仕上は知っている、綺麗に当ててくる相手と当ててくる理由を。 「ってーな!どこ見て歩いてんだコラ!」 (あーやっぱり…) 浜面がゆっくりと視線を前に戻すと、柄の悪い男が3人立っていた。 スキルアウト、浜面もそこに身を埋めていた。 確かに社会的に見ればクズかもしれないが、居心地は良かった。 「い、いや…すいません。後ろのこの子が気になってたもんで」 「はぁ?すいません、で済む話じゃねーんだよ。あーいてぇ…これダメだ、慰謝料モンだわ」 (はぁ…) やれやれ、と浜面は心底呆れる。 このスキルアウト達にでは無い。過去にこのような行為をした自分にだ。 ここまで腐った行動は無かったはずだが、他人の迷惑を考えずに騒ぐ暴れるの行動はあった。 しかし今はこの場を切り抜けるのが最優先事項だ。 滝壺が不安そうに手に力を込める。 「え、あーそんなヤワな身体じゃないでしょう?はは…」 「あー?俺の身体は一番俺が知ってるんだよ!さっさと有り金渡せや!」 胸倉を掴まれた。 これであと少しの言葉のやり取りで拳が飛んでくるだろう。 別に自分が殴られるのは構わないが、自分がぶちのめされた後の滝壺が心配だ。 (金なんか渡したら俺の命も危ないし、奪ったこいつらの命も危ないだろうからなぁ…) 誰か仲裁に入ってくれる勇気ある人はいないか、と思った時に。 ヒーローは絶妙のタイミングで、遠慮がちに入ってきた。 「あのーちょっとよろしいでせうか?」 浜面と男の間に入ってきたツンツン黒髪。 にチョップが入った。 「馬鹿野郎!そんなヘコヘコしてるとアンチスキルがナメられるじゃん!」 警備員であろう二人。 浜面はどちらの顔も見覚えがあった。というかどちらの顔も忘れるわけがない。 「アンチスキルじゃん。恐喝してんならそれなりの対応させてもらうけど?」 「…っち。おい、行こうぜ。兄ちゃん覚えとけよ」 警備員と聞くなり引っ込むあたり、まだまだヘタレだなぁと浜面はくだらないことを思う。 「さてと、だいじょう…あれ?浜面じゃん」 浜面の知っている警備員、黄泉川愛穂は驚いた顔をする。 「可愛い女の子連れてるからてっきり純情カップルだとばかり思ってたじゃん」 「それってどういうことだよ!俺が滝壺みたいな子連れてたらやっぱり似合わないって事かよ!」 半ば自暴自棄になって叫ぶ。 「大丈夫。私はそんな浜面でも大丈夫」 慰めるように言う滝壺に、浜面は天使を見たような気分になった。 「それで、なんでお前がアンチスキルなんてやってるんだ?」 浜面は男のほうに向き直った。 「これはまー…いろいろとありましてね」 言葉を濁す上条。 それに何かを察したのか、それとも興味が無いのか、それ以上探求してくることはなかった。 「それじゃ、俺らもう行くわ。 今回ばかりはありがとうな黄泉川」 「当然のことをしたまでじゃん。 車盗るんじゃないよ」 「しねーよ馬鹿!」 立ち去って行く浜面たちを見て、黄泉川は小さく言った。 「アイツも変わったじゃん」 「俺も思います」 呟く上条に黄泉川は意外そうな目を向ける。 「あぁ、そういえば知り合いだったのか?」 「えぇ、ちょっと…」 「何だろうね…恋のおかげなのかなぁ…」 「本気で言ってます?」 真剣そうに考える黄泉川がおかしく、上条は吹き出してしまう。 そんな上条に軽く拳骨を下ろしながら 「馬鹿!人は大切な人が出てきたら本当に変わるじゃん。 上条もそんな人の一人や二人、いないのか?」 言われて考えてみる。 確かにインデックスは大切な人だが、今言っている大切な人とは少し違う。 吹寄とか姫神とか、学校のメンツで考えてみるがイマイチしっくり来ない。 どちらかと言うと、インデックスは人懐っこい妹のような感じで、吹寄や姫神は面倒見の良い姉といったところか。 「俺は音沙汰無しですよ」 言ったあとで、美琴はどうなのだろうと考えたが、わざわざ訂正するのもおかしいので上条は考えるのをやめた。 「ま、若いんだからこれからじゃん。何かあったら相談してくるといいじゃん」 それなら最近のインデックスや御坂妹の意味深な発言を相談してもらおうとか考えたが、それはできなかった。 肩口につけた小さな無線機のノイズをたてた。 『至急!至急!本部から各隊へ。 第七学区において能力者の暴走が発生。コードイエロー。 能力者は電撃使い。付近を警邏中の隊員は速やかに現場に急行せよ』