約 4,409,971 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3159.html
「……成程、覚悟は本物みたいですね。失礼、貴女を試すような真似をしてしまいましたね」 こちらの宣言に対し、クーガーはジッと視線を逸らすことも無く見つめてきたかと思えばやがて納得したように頷いてそう言ってきた。 なのははクーガーの謝罪に対し、いいえと首を振る。彼が事前に懸念を抱くのは道理だ。土壇場でこちらが地位を惜しさに怖気づくようならそんなものは足手纏いでしかないのだから意思確認には当然のことだろう。 だからこそ、なのはは試されたことにも特に不快感を抱くことも無くすんなりと受け止められた。 それよりも、先にも増して逆にこちらの方が疑問を抱いたほどだ。 「クーガーさんは良いんですか? 貴方のほうがホーリー隊員である分、色々と問題になるんじゃ……」 自分は最低でも管理局の人間という外部の側の扱いとしてジグマールからは直接に罪に問われることは無い。 けれどこのストレイト・クーガーという男は違う。彼はまごうことなきジグマールの直属の部下であるホーリー隊員だ。こんな事をすればジグマールからの処罰は逃れられないはずだ。 だがなのはのそんな心配に対してもクーガーは相も変わらずのその掴みどころの無い態度を崩す様子も無く、 「なに、俺は良いんですよ。こう見えても勝算がありますからね。……それに、俺は貴女と違って失うものだってないんです。便利ですよ、フットワークが軽いというのは」 失う恐れなど最初から無い、だから気軽なものなのだとクーガーは言ってくる。 だが当然、そんなはずがないことはなのはだって知っている。 マーティン・ジグマールの方針なのかどうかは知らないが、ホーリーは隊員で居続けることですら厳しいということは彼女も聞いたことがある。 ホーリーの隊員たちに与えられている市街での居住権……インナーであることから脱却し文明の加護を受けながら、豊かな生活を送れる権利。 だが彼らにとってコレは完全に保障されたものでは無い。劉鳳のような一部の例外を除き、ホーリー隊員が有するこれらの権利は常に暫定的なものに過ぎず、剥奪の恐れは常に持ち合わせているあやふやなものに過ぎない。 これは本土側へと隊員の帰属を常に意識させる戒めのようなものであるらしいが、故にこそインナー出身の隊員たちにとっては重要なことなのだ。 アルター使いは何処に行っても嫌われ者。 それはこのロストグラウンドにおいては言わば常識としても認知されかけている風習。 はぐれ者である、行き場の無い根無し草であるからこそ、常に人間扱いをしてくれる場所を望む。 アルター使いにとっては、ホーリーこそがその唯一の居場所であり拠り所なのだとは以前に水守からも少しだけ聞いたこともあった。 だからこそ、彼らは刹那的では無い完全に保障された権利である、市街への永住権を強く求めるのだという。 ホーリー隊員として部隊に貢献し続ければいつかはきっとソレが与えられると信じて……。 なのはが知る限り、大半のホーリーの隊員たちもその所属理由はソレと同じはずであった。 言動から文化を愛する事を常としているこの男が、どうしてその求めて止まない文化的暮らしを棒に振る危険性を冒してまで桐生水守に拘るのか、それがなのはには理解できなかった。 「仮にデメリットが貴方に無いにしても……この行動にメリットだって無いんじゃないんですか?」 少なくとも、なのはが見る限りではクーガーがこんな危険な橋を渡ってまで得られるものというのも想像できない。むしろそんなものがあることすら疑わしい。 だがなのはのそんな疑問に対しても、クーガーはまるで何を言っているのかと言った態度で当然のように答えてくる。 「メリットが無い? ハハハ、何を言ってるんですかなのかさん。メリットなら十分にありますとも」 「……それはいったい何ですか?」 続けて問うなのはの疑問に対し、クーガーはその奇妙なサングラスを髪の上へと上げながら当然の真理の如くその答えを告げてきた。 「簡単ですよ。他の誰でもない、この俺がみのりさんを助け出すことが出来る……意中の女性にアピールできる最大のチャンスですよ? 見逃す方がありえません」 正直、最初聞いた時は思わずズッコケそうになった。 本気でそんな事を考えているのかと、先程とは別の意味で疑わしい視線を向けるなのはに対してもクーガーは変わらぬその上機嫌な態度を崩そうともしていない。 そんな言ってはなんだが下心満載な理由でこんな危ない橋を渡ろうとしているなど……なのはには正直理解しかねていた。 「何です、なのかさん? 変な顔をして。……あ、言っときますが彼女の白馬の王子様のポジションだけは貴女とはいえ頼まれても譲れませんよ、最初に断っときますけど」 クーガーがこれだけは譲れないといった断固とした態度を見せてくることに関して、そして彼の言動云々についてはこの際置いておこう。 だが彼は分かっているのだろうか?……いいや、分かっていないはずがない。何せその手の事柄には格別に疎い自分ですら察しがついていることなのだから。 だからなのはは無自覚にもある種の当然であり残酷とも言える事実を告げる。 「……でも、その水守さんの意中の人は、貴方以外の別人ですよ?」 桐生水守が想いを寄せているのは彼―――ストレイト・クーガーではない。 同じホーリーの部隊員だが別人。それも彼にしては最も勝ち目の無さそうな相手。 ―――劉鳳。 水守が彼を好いているのは恐らく間違いないだろう。 それはクーガーだって分かっているはずだ。ならばこそとなのはは疑問に思う。 彼の想いは恐らく届かないし報われない。それはクーガー自身すら分かりきっているはずのこと。 だったらどうして――― 「……どうして、報われないかもしれない想いに全てを賭けられるんですか?」 それが分からないと高町なのははストレイト・クーガーへと問うた。 無自覚で、そういったものに疎く、鈍い彼女であるとはいえそれは残酷な質問だっただろう。 だが悪気も無いなのはのその問いにクーガーは怒り出すことも無く、殊更ショックなども受けた様子も無く、それこそいつも通りの態度でその疑問へと答えてきた。 「当然、俺が彼女を心底気に入っているからですよ」 ニヤリ、と自身でもニヒルに決めている心算なのだろう笑みを浮かべてクーガーは告げる。 「なのかさん、貴女は恋をしたことがないんですか? その様子だと無さそうですね、いやそれは実に勿体無い! 貴女ほどの美人です、一度といわず二度、いや、三度四度と若い内に恋は経験しておくものです。 在りし日の思い出、甘酸っぱかった青春の日々、睦まじき想い人へと寄せた真摯な想い……えぇ、それこそが文化です。ファンタスティックです! 想い人との共有しあう時間、ええそこに速さは必要ありません。じっくりと、満足のいくように記憶に刻めるだけの経験を共に重ねる。それは最速で物事を成し遂げ、時間を有効に活用する文化の基本原則なみに貴重なことです。 ええ、だからこそ恋とは素晴らしい! 恋は速さにも並ぶ人間が尊ぶべき基本原則、常に文化を営み続けてきた人類の軌跡! だからこそ俺は自分が抱いたこの想いこそを優先させる。 そこにこそ、俺が求めてきた文化の真髄があるはずなんですから!」 突如熱弁を振るいだすクーガーに、それこそなのはが驚きドン引きしたのは言うまでもない。 彼のマシンガントークが謳い続ける恋の素晴らしさ……なのはには未だによく分からないその手の事柄だが、それでも一つだけ分かったことがある。 少なくとも、彼が水守へと抱くその想いは偽りなき真剣で、とても真摯なものであるのだということ。 そして彼はきっとこれから先にすら、その想いを裏切ることは決してないのだろう。 それが何故かなのはには眩しく映り、クーガーのその姿勢にどこか羨ましさのようなものを無自覚にも感じていた。 或いは、ソレは恋というものを知らぬままに一段階飛んで母親という大人になってしまった彼女が抱いた、最後の少女としての想いであり羨望だったのかもしれない。 果たして、その彼女が想うべきである対象とは誰なのか………いや、未だ自覚なき彼女自身も気づいていない答を此処で曝すのは無粋というものか。 兎も角、ストレイト・クーガーの思わぬその恋という価値観の布教は、或いは何処かの誰かに思わぬチャンスを与えていたのかもしれない。 「いいですか、なのかさん? 大切なのは相手にどう想ってもらうかじゃありません。それも勿論大切ですが、でもそれ以上に大切なのは自分が相手を本当に想い続けることができるかどうかなんです。 ええ、その一点においてなら俺は負けない自信があります。たとえみのりさんが劉鳳を好きだろうがそんなの俺には関係ありません。俺がみのりさんを気に入っているんです、大切なのはそこです。そして俺にはそれで十分。後は彼女へのこの想いを俺は最速で貫くだけ、たったそれだけのことに過ぎないんですよ」 熱く想い人への想いを語るクーガー。あるいはその潔い姿と価値観に聞く者が聞けば惜しみない賞賛や拍手を贈ったかもしれない。 その想い人当人の呼称を未だに盛大に間違い続けているという問題さえ除けばだろうが、となのはは思う。 区切りの良い辺りでクーガーのトークが止まったのを見計らい、なのははすかさずもう結構だ、十分に理解できたと彼の熱弁を打ち切らせる。 未だ語り足りない雰囲気を見せ、残念さを顕にしていたクーガーもなのはが早く水守を助けに行こうと促がすのを了承し、彼の恋の布教活動は此処に幕を閉じた。 それにしても水守がいるのは恐らく市街、それも中心部であるホーリーの拠点でもあるセントラルピラーだ。 当然、市街よりそれなりに離れた場所にあるこの廃橋からはかなりの距離があるのは言うまでも無い。 夜襲を計画し実行する予定だけに早く戻らねば夜が明けてしまう。それでも帰りもまたクーガーの運転する車に乗りたいとは絶対に思わないが。 飛んで帰るか、そんな事をなのはが考えていた時だった。 「風力・温度・湿度……一気に確認」 廃橋の先端、人差し指を天へと伸ばしそんな事を言い出したクーガーへとなのはは振り向く。 一体彼は何をしているのか、何をしようとしているのか? 「なら、捕らわれの姫君の救出と行きましょうか。なのかさん、何か衝撃に耐えられる準備はありますか?」 クーガーが言ってきた問いの意味が分からず、それこそ一瞬キョトンとしたなのはであったがバリアジャケットならばそれにも一応該当すると思い、あると答える。 クーガーはそれは良かったと頷きながら、ならば準備をしてくださいと言ってくる。クーガーの意図が全然分からなかったなのははそれこそ戸惑うものの、彼に促がされるままに仕方なくバリアジャケットだけは身に纏う。 桜色の光に突如包まれ、瞬時にその姿を変えたなのはを見て、クーガーは口笛を鳴らすような素振りを見せるが、まぁそれもどうでもいい。 準備が出来たとなのはが示すのをクーガーも確認すると、ではこちらに来てくれと次には言われた。 意味が分からぬまま廃橋の先端へと歩くなのは。辿り着き下を見下ろせば結構な高さであった。自分は飛べるから良いが、クーガーは落ちればタダでは済まないだろう。 此処は危ないですよ、そう注意を促がそうと振り返った瞬間だった。 「ではちょっと失礼。そして、参りましょうか」 いきなりクーガーに肩を抱かれる。一体何をと思わず突き放そうと動きかけるもクーガーの次の動作の方が速い。 なんと彼はこちらをしっかりと抱きしめたまま廃橋の先端から飛び降りたのだ。 いきなりの心中自殺にそれこそ訳が分からずなのはは混乱し、理解が追いつかない。それでもこのままでは地面への激突死は避けられないと咄嗟に危ぶんだなのはは飛翔しようとするも――― 「大丈夫! 俺を信じて!」 即座に言ってきたクーガーの自信満々な言動にそれを押し留められた。 次の瞬間、器用にこちらを落下しながら脇に抱えなおしたクーガーを中心に虹色の光―――アルター発現の粒子が発生。 その後からはあまりにもなのはの知覚外でのスピード過ぎたので、それこそ何が起こったのかも分からなかった。 担がれている自分も同様に、クーガーが着地とほぼ同時に凄まじい速度で疾走しているということしか分からない。 それこそフェイトのスピードを良く知っているなのはですら、実際に体感したことの無い未知のレベルのスピードには悲鳴云々を上げる暇すらなかった。 ただ一つハッキリしているのは、これは先の暴走車以上に性質が悪い、ただそれだけである。 そして高町なのはを抱えながら、それでも衰える素振りも見せぬストレイト・クーガーは全力の走りで瞬く間に市街へと到達。 そのままセントラルピラー内部……勿論、事前に把握している桐生水守の監禁部屋へと突っ込んでいく。 それこそクーガーが疾走した後には、台風でも通過したかのような痕跡が残り、それどころか音の方が後から彼を追いかけている始末だ。 ―――誰も捉え切れない。 かつてマーティン・ジグマールは彼のスピードをそう評し、高く買っていた。 今まさにソレが、皮肉にもジグマールが予期もしていなかった形で証明されることとなった。 駆け抜け、突っ込むクーガーとなのは。その衝撃は当然ながら凄まじいなどという言葉すら超えた勢いで、セントラルピラーを震わせる程の結果となった。 「何事だッ!?」 このような夜中に、しかも市街……ホーリーの拠点でもあるセントラルピラーがこのような衝撃に襲われるなど、ホーリー創設以来から前代未聞の事態である。 それこそ馬鹿げたことだが敵襲……だが何者がいったい何の目的で? 沸きあがる疑問を苛立ちと共に収めながら、それでもジグマールの対応は即座であり的確なものだった。 「イーリィヤン、何があった!?」 呼び出したのは己の腹心にして、このような事態において限りなく重宝する能力を有している部下だ。 彼のアルター“絶対知覚”ならば襲撃者の正体は瞬時に割り出せる、そう判断してのことだった。 だがジグマールのその言葉は、イーリィヤンからの信じられない言葉によって裏切られることとなる。 『……分からない。……知覚、出来なかった……』 馬鹿な、とそれこそジグマールが驚嘆と共に目を見開いたのは言うまでもないだろう。それこそ、彼を嫌う者ならばその滅多に見れない醜態にざまあみろとでもせせら笑ったかもしれない。 いったいどういうことだ、何故イーリィヤンのアルターで捕捉できない。その疑問に再燃する苛立ちが拍車を掛ける。 「ならば現状は?」 『それも分からない。……さっきの衝撃で僕の能力と建物のシステム自体が一時的に停止している状態』 つまり何も分からない……ますます判明する最悪の状況にジグマールは舌打ちを漏らしかけるも理性でソレを自制した。 落ち着け、どんな時でも揺るがずに行動する……それこそがホーリー部隊隊長として、そしてマーティン・ジグマール自身としても在るべき在り方のはずだ。 そう必死にジグマールは自身へと言いきかせ、沸き立つ苛立ちを理性を持って押さえ込んだ。 「……分かった。ならばイーリィヤン、君はシステムの復旧に全力で当たってくれ」 最後にそれだけを冷静にイーリィヤンへと命じるジグマール。 そんな彼をイーリィヤンは珍しくも心配げな面持ちで見つめてくる。 それに対してジグマールは、ほんの……そう、ほんの一瞬だけ穏やかで優しげな笑みを彼へと見せ、大丈夫だと告げた。 それにイーリィヤンが本当に納得したかどうかは分からない。が、彼もまたそのジグマールの促がしに応えるべくシステム復旧の作業へと戻っていった。 イーリィヤンが画面から消えるのを確認した後、ジグマールは椅子の背凭れに深く沈みこむように凭れかかりながら重い溜め息をついていた。 もうこの頃には、冷静さを大分取り戻した思考からある仮定を導きだしていた。 イーリィヤンの知覚外でこれだけの行動を起こせるものなどそれこそ限られている。 それを高く評価して、自分はそもそもあの男を引き入れたのだから……… 「……やはり貴様なのか……ストレイト・クーガー……」 その漏れた呟きは、もはや習慣にもなりかけている苦々しさも溢れたものであった。 いったい何が起こったのか。 それこそそれに最大限戸惑ったのは、その衝撃が直接に部屋全体を襲い、巻き込まれた桐生水守であった。 爆撃でもされたのか、そう思えるほどに室内は滅茶苦茶で、朦々と粉塵までもが部屋全体に立ち込める始末。 衝撃の痛みに顔を顰め、蔓延する粉塵にむせ返りながら水守は自分を閉じ込めていた部屋の壁にあいた大穴へと視線を向ける。 「いかんいかん、世界を縮め過ぎてしまった」 「ゴホゴホッ………本当に……やり過ぎです!」 煙のせいでその姿は隠れて見えない……が聞こえてきた聞き慣れたその二つの声にそれこそ水守は目を見開いた。 聞き違い?……でも彼らがこんなところにいるわけが……。 そう考えていた水守の思考を現実へと戻したのは一つの声。 「水守さん! 助けに来たよ、無事!?」 そう言って駆け寄って抱きしめてくれたのは高町なのは……自分のこのロストグラウンドでの数少ない仲間。会いたかった人。 「………高町、さん………?」 「うん、私だよ。大丈夫、怪我とかしてない?」 白い衣装を埃まみれにしながらも、それでもそうこちらを安心させるように笑いかけてきてくれるなのは。 埃にまみれていようが、彼女は本当に綺麗で……そして、やはり優しい。 助けに来てくれた、漸くに理解したその事実に嬉しさと同時に安堵感が広がり、諦めかけていた絶望から救われたことで、水守の我慢は限界に達していた。 それこそ次の瞬間、水守からなのはを抱きしめ返し彼女の服に顔を埋めて泣き出す始末だった。 「……ごめんね、助けに来るのが遅くなって。でももう安心だよ」 偉いね、よく頑張ったよとまるで幼子に言い聞かせるように泣いている水守の頭を撫でながらそうやって安心させるなのは。 結局、なのはに先を越され良い所を全部持っていかれる形になってしまったクーガーはそれこそどうしたものかと手持ち無沙汰で彼女たちを見守ることしか出来なかった。 秩序を乱し、人を傷つけ、己の欲のままに振舞う男。 ……だが、それだけではない。 感じる、この男から何かを……。 何故だ? 俺に平然と逆らう、俺の前に現れた初めての――― 「―――う! 劉鳳! 劉鳳ってば!」 そう立て続けに呼ばれ、身を揺すられたことで彼―――劉鳳の意識は漸く夢から現実へと覚醒を果たした。 勢い良く目を開ける。動悸が激しく、発汗している。 これはいつもの……あの悪夢を見たことの証拠だと劉鳳は判断した。 実際、見ていた夢の大半は思い出せる限りでも『あの男』のことばかりであったが、それでも目覚めの直前に見えたのは忘れもしない、出来るはずも無い六年前のあの光景だった。 優しく美しかった母。そして幼少時、誰よりも共に長く時間を共有しあった友達であった愛犬。 彼女たちだけではない……あの事件はよく仕えてくれていた屋敷の使用人たちも含め、近隣の無関係な多くの人々も命を落とした。 ……そう、あの両手に雷を纏った正体不明のアルター……奴の手によって! 「……何があった?」 だがその憎悪を再確認しながらも、今はそれだけに捕らわれている時でもないと判断した劉鳳は寝ていた上半身を起き上がらせながら、自分を起こしたシェリスへと状況を尋ねる。 「通信システムが回復したわ。それと……」 シェリスの顔が曇る。それだけで良くない報せなのだろうと劉鳳は予想できた。 「……それと?」 「……エマージーが、倒されたそうよ」 予想は出来ていたことだ。 だが同じ組織に所属し、共に同じ理想と正義を目指した同僚がやられたというのだ、人付き合いを避け、エマージー当人ともそうあまり親しいわけでもなかった劉鳳でも思うところは色々とある。 エマージー・マクスウェル、お前はお前の正義に殉じたのか?……だとするならば、よく戦った、後は俺に任せろ。 敗れた同僚……被害の程度は分からないがアルター使いにとって自身のアルターを破られるということがどのような末路を辿るかはある程度予想できていただけに、エマージーもまたそうなっているのだろうと思った。 彼の正義もまた己が引き継ごう、これまで敗れて離脱していった同胞たちと同様に。 それを改めて胸中で誓いながら、劉鳳は黙祷のように閉じていた目を開け、座りなおして、「そうか」とだけ頷いた。 そこにシェリスが自分の隣へと座り込んで尋ねて来る。 「……随分とうなされていたけど、どんな夢を見ていたの?」 シェリスのその問いに、劉鳳は彼女の方を振り向かぬままその表情を鋭く、そして厳しくさせながらハッキリと告げた。 「―――敵の夢だ」 思っても見なかった返答だったのだろう、それこそシェリスの顔は「え?」と驚いている。 だが劉鳳は気にした様子も無く、ただ淡々と拳を強く握りこみそれに視線を落としながら続きを呟くのみ。 「俺の敵の夢だ。……恐らくエマージーもあの男に……ならば、やらなければならない―――この手で」 そう呟きながら、劉鳳は握っていた拳を手刀の形へと変え、真っ直ぐに伸ばした。 まるでそれを断罪の……これまで散っていった同胞たちのための弔いの剣へと変えるように。 「……あんまり先へ行かないで。追いかけるの、大変よ」 それに対してシェリスが呟いたのは、どこか寂しさをも含んだそんな言葉だった。 それもそうだろう、今だってシェリスにしては劉鳳は遠いのだ。 今の気負う彼の姿は、彼女に益々それを遠ざかさせているかのようにも感じさせていた。 「俺は何処にも行かない。此処で……この大地で、俺は理想を追い求める」 シェリスの言葉に応えるように、それが絶対のことだといった態度で劉鳳は呟いていた。 そう、己の居場所は此処にしかない。そしてこの場所でなければ駄目だ。 彼女たちが……母や絶影が愛し、共に暮らしたこの大地。 この大地の上で、真の絶対的秩序を、誰もが幸せに安心して笑って暮らせるようになる……そんな平和な世界を作らねばならないのだ。 「……ホーリーとしての理想?」 「当然だ。だからこそ倒す必要がある」 ホーリーの理想は劉鳳にとっても悲願であり理想。 故にこそ、己の力と正義をただ無心に捧げ続けてきた。 これからもそうある限り、劉鳳もまたホーリーと共にあり続ける。 だからこそ――― 「―――あの男を」 ―――カズマを倒さねばならないのだ。 あの秩序を乱す、理性無き毒虫、社会不適格者の騒乱の原因。 憎むべき―――悪を。 倒さねばならない、この自らの手で。 それを改めて、そして強く劉鳳は誓った。 「お、漸くお目覚めかよ」 妙な夢を見ていた気がした。気がつけば君島が寝ていたこちらを覗きこむようにそんなことを言ってきた。 「知ってっか? お前、丸二日眠ってたんだぞ」 君島が言ってきた言葉の意味……こうして眼が覚める以前の、そもそも眠り込んでしまった原因を思い出す。 フラッシュバックのように駆け抜けるのは、ホーリーのアルター使いとの戦闘。 自称無敵のヒーローだとかいう妙なロボット、それを相手に本土から来た高町なのはの仲間である赤いガキと一緒に戦い………。 そう、シェルブリット・バースト―――新たに手に入れたこの力を引き出し奴を倒して……… 「そうか……俺はホーリー野郎と戦って―――ッ!?」 漸く思い出した記憶と共に、気絶する寸前にも感じた激痛が再び右腕へと走りカズマは呻きながら己が右腕を押さえる。 「……動かすなよ。相当酷いぜ」 心配気に言ってくる君島のその言葉に対し、しかしカズマの方はと言えば、 「……見たのか?」 隠し続けてきたものがバレたと言った表情で苦々しく問い直す。 「仕方ないだろう。……ほらよ」 君島の方もこちらを治療する為には確認せざるを得なかったのだと態度で示しながら、カズマへと水の入った給水器を差し出してくる。 「食欲あるか?」 君島の体調確認に対し、カズマは頷きながら差し出された水を受け取り飲み始める。 暫く黙って水を飲み続けていたカズマだったが、それを飲み終わると共に再び言葉を発し始める。 「漸く、実感したぜ」 「何が?」 「俺がまだ生きてるってことがな」 「縁起でもねえこと言うんじゃねえよ」 君島は不吉な物言いと捉えている様だが、カズマにしてみれば違う。 痛みを感じ、渇きを覚え、飢えで腹を空かす。 真にいつも通り、まさに生きてる人間が実感することだ。 それを人並みに漸くカズマも抱き始めてきた。だからこそ、まだ己は生きていると実感できる。 そして生きているからこそ……まだ、戦える。 ある種当然のことだが、こうして実感できただけでカズマには十分だった。 「……なぁ、その腕なんなんだ? 教えろよ」 やがて意を決したように君島はカズマに対して、そんな核心に迫る問いを発していた。 君島がアレを目撃したのは都合三度目。 一度目は、あのアルターの森で。 二度目は、本土のアルター使い、高町なのはとの決戦の時に。 そして三度目、先のエマージー・マクスウェルとの戦い。 それらを目撃し、君島もカズマが今まで以上の巨大な力を手に入れたのだということは理解できた。 実際、この目であの輝きを目撃し、君島自身すら希望で奮い立たされたほどだ。 だがだからこそ、知りたかった。 以前の自分が知らない、相棒が手に入れた新たな力。 恐ろしく反動も強いのであろう、未知のその力の事を………。 「……コイツか? コイツは―――」 カズマはその君島の問いに対し、己が拳を強く握りこみながら、それを真っ直ぐに前へと突き出す。 そうして脳裏に過ぎるのは、ソレを手に入れたあの経緯――― アルターを進化されることが出来ると言い伝えられているアルターの森。 新たな力を掴み取るため、カズマは相棒の君島の制止を振り切り、単独でその森へと侵入した。 最奥を目指し、野生動物たちが放ってくる数多のアルター能力、それらを振り切り彼は遂に森の最深部にまで足を踏み込むことに成功した。 そしてそこで待ち受けていたのが――― ―――両の腕に雷を宿した、正体不明のアルター。 最初、ソイツが何者なのかはさっぱり分からなかった。否、今だってその正確な正体などハッキリしていない。 だが以前に宿敵が……あの劉鳳が追い求めていた敵なのではないかと気づいただけだ。 兎に角、ソイツは強かった。圧倒的と言って良いほどにカズマでは手も足も出なかった。 正直、ボコボコにされてコイツには勝てないのかと諦めを一瞬でも抱きかけたほどだった。 だが――― 『俺はやられに来たんじゃねえ……背負いに来たんだッ!』 小せえ、そう……己が背負っているものなどあまりにも小さいものに過ぎなかった。 だがそれでも、自分にとってソレは……投げ捨てるわけにはいかないほどに、他の何よりも重たいものだった。 その重さをシッカリと思い出し、そして背負い直す。 その覚悟を改めて抱き直し、カズマは強大な相手に特攻紛いの正面突破を仕掛けた。 結果、カズマの拳は相手の身体を貫き、そのまま背骨を圧し折って抜き取った。 だがそれすらも敵は瞬時に再生、瞬く間に手傷など皆無という状態にまで戻ってしまった。 それこそ相手の驚異的な再生力には流石のカズマも驚愕していた。 だが次の瞬間だった。 握っていた戦利品―――相手の背骨が輝きだし、ソレを掴んでいたカズマの右腕をも包み込んでいく。 正直、己に起こっている変化。流れ込んで来る何かなどサッパリ分からなかった。 だが気がつけば、カズマの右腕はその輝きが納まるのと同時に変貌を遂げていた。 ……そう、新たなシェルブリットの誕生であった。 瞬間、理解した。 何を理解したか……ソレはよく分からないが、兎に角、理解した。 ―――遂に、手に入れた。 その事実、流れ込んでくる際限なき力を感じ取り、それこそ歓喜の哄笑が上がった。 そして沸き立つ新たな欲求。 もっと、もっとだ! もっと――― ―――もっと輝けぇ! ただそれだけを渇望して、カズマは新たに手に入れたその力で眼前の敵へと殴りかかり――― 結局、ソイツを倒しきることも出来ず、状況把握も出来ず曖昧なまま、気づけばアルターの森の外へと出ていた。 それがカズマが新たな力……進化を果たしたシェルブリットを手に入れた経緯だった。 「……実はな、俺にも何だか良く分からねえんだ」 脳裏に思い出したその経緯を改めて愉快に笑いながら、カズマは君島に対してそう告げた。 そう、良く分からない。カズマ自身にだってあの出来事はサッパリ意味不明だった。 だがそれがどうした? そんなこと、カズマにとってはそれこそ瑣末事に過ぎなかった。 大事なのは、そんなところではない。そう、大事なのは――― 「ただこれだけは言える。このイカレタ腕のせいで、俺は馬鹿みたいに丸二日も眠ってて、その間にもホーリーのクソ野郎共がここいら辺をうろつき回ってるってことがなぁっ!」 そう言いながら勢い良くカズマは立ち上がった。 話は終わりだ、そろそろ次の行動に移ることとしよう。 ゴタゴタと疑問を追及することや、過程を振り返ることなど今の自分には不要なことに過ぎない。 ただ行動あるのみ、カズマの単純すぎる思考の中に存在するのはそれだけだった。 「おい、ちょっと待てよ!」 君島もまたそんなカズマを追いかけて、慌てて立ち上がりながらそう言葉をかける。 だがカズマは君島のそんな言葉にすら、 「待ってどうする?」 そう切り捨てるのみ。 待つ……カズマにとってこれ程NGな選択肢は存在しない、まさにそんな態度だった。 「良いのかよ、おい!?」 そう言ってくる君島に、カズマは振り返り彼の胸倉を掴み上げながら睨みつけ口を開く。 「良い悪いの問題じゃねえ! やるかやらねえかだ!」 「……やるって何を!?」 相変わらずのカズマの理不尽な言動に君島もまたヤケになったように怒鳴り返す。 それに対し、カズマはニヤリと笑みを浮かべる。 「まずはかなみの所に戻る。そんで飯をたらふく喰ったら、ホーリーの奴らをギタギタにする! この腕で!……簡単だろう?」 そう言いながら拳を強く握りこむのを見せ付けながら、獣のように獰猛に笑うカズマ。 君島としては未だに戸惑っていたのだが、カズマの中では既にそれらは迷い無く実行する確定事項になっているようだ。 掴んでいたこちらの胸倉を離し、軽くポンポンと叩きながら申し訳程度に整えた後、カズマは再び背を向けて歩みを進めだした。 君島は呆然とその背中の大きさと遠さ、そしてまったくのブレの無さを見続けることしか出来なかった。 (……時折よ、お前が羨ましくてしょうがねえんだ。何でそんなに決められる? 何で迷わない?……期待しちまうだろう、俺もお前のようになれるかもしれないって……) 嗚呼、俺はあの馬鹿のようになりたいのだな、そう改めて君島は実感した。 この馬鹿で考え無しで、オマケに甲斐性無しのロクデナシ、挙句の果てにはクズ同然。 そんな相棒に魅せられて……コイツのように強くありたいと願ってしまっている。 俺もいつか、この馬鹿のようになれるのだろうか……? そんなことを考えていた時だった。耳に響くクラクションが鳴り響いているのに気づいた。 「君島ぁ、早く来い! 動かし方分かんねえよ」 そう言って自分の車の前でこちらに早く来るように大声を上げている相棒。 「……ほんと、まったくさ」 自然と君島の顔からは笑みが零れていた。 今は相変わらずに、あの馬鹿の背中は遠い。追いかけようにも、追い続ける事だけで精一杯だ。 だがいつか……そう、いつか必ず追いついて、並んでやる。 あの馬鹿と本当の意味で対等で、相応しい相棒になるために。 それを固く誓い直して、君島邦彦はカズマの元へと駆け出した。 「……私に、逃げ帰れというのですか?」 連第三空港、本土とロストグラウンドを繋ぐ数少ない交通路の一つであるその場所で向かい合うように立つ三者。 桐生水守、ストレイト・クーガー、そして高町なのは。 水守を救出した後、三人は混乱に乗じて脱出、そして現在はクーガーが手配していた本土行きの便へと水守を乗せるために此処まで来ていたのだ。 クーガーとなのはは水守の護衛を兼ねた見送りであり、そして現在はその前段階の説得をしなければならない真っ最中でもあった。 「他に貴女を護れる術を知りません。……それに、生きていれば何とかなる」 「……クーガーさんの言う通りだよ、水守さん。悔しいのは分かる、けど……今はそれでも貴女自身の身の安全が第一だよ」 二人がかりの恩人たちからの説得。 だが水守もまた本質的に芯の強い娘、恐ろしい目を経験した恐怖は未だに残っている。足手纏いにしかならないという自覚もある。 けれどそれでも、この大地から一人逃げ帰るなどという選択はどうしても納得しかねていた。 「しかし―――」 「水守さん、貴女の戦いは決して終わったわけじゃないんだよ」 尚も言い縋ろうとする水守の言葉を遮り、唐突になのはが言ってきた言葉に水守はそれこそ驚きの表情を見せる。 それはクーガーもまた同じだった。彼にしても無理矢理にでも水守を飛行機に乗せなければならないのは同じだ、それをなのはがどう説得するのか興味はあった。 「……私の戦いは、終わってない?」 「そうだよ、水守さん。貴女の戦いはまだ全然終わってなんていない」 ならば何故本土に逃げ帰れなどというのか、共にこの大地の上で戦わせてはくれないのか。 訳が分からない、そんな感情を顕にする水守になのはは言葉を続ける。 「水守さんは水守さんにしか出来ない戦い方をするの。このロストグラウンドじゃなく、本土に戻って、貴女がこの大地で見てきた真実を本土の人々に伝えるんだよ」 「………それが、戦い?」 「そう、これは本土に居場所のある水守さんにしか出来ない、貴女だけの戦い方。それが貴女のこれからの戦い」 そう言ってなのはは安心させるように水守へと笑みを浮かべ、告げる。 「貴女は本土から、私はこのロストグラウンドで、それぞれ自分の戦いをして行こう。大丈夫、戦い方も、戦う方法も違っても、同じ目的に向かって進み続けている限り、私たちは仲間……いつも、一緒だよ」 そう言いながら、なのはは持っていた手荷物―――自分が纏めた水守の私物を彼女へと渡す。 「……コレが本土行きのチケットです。そろそろ時間もありませんし、お早めに」 そう言って次にクーガーがチケットを水守へと手渡してくる。 ソレらを受け取りながら、水守は二人を見つめながらこれだけは聞いておかなければと問いかけた。 「……貴方達は、罪に問われないのですか?」 どう考えてもジグマールの意向に逆らった命令違反であり越権行為。 最悪、反逆者として処分されてしまうのではないのかと申し訳なさと恐れが水守にはあった。 だがそんな彼女の不安を払拭させるように、ただどちらも笑みを浮かべながら、 「誰も俺の速さを知覚など出来ません。安心してください」 「大丈夫、これくらいの事はしょちゅうやってるし、無茶して怒られるのには慣れてるから」 そう両者共に水守の不安を否定してくる。 「でも―――」 それでもという思いが水守にはあるようで食い下がろうとしてきた。だがそれを遮るようにクーガーが先んじて手を差し出してくる。 別れの握手……それが意味するところがこの場に居る者達で分からない者はいなかった。 「お元気で。桐生―――」 またいつものように、最後まで名前を間違えるのだろうかと水守はおろかなのはですら思った。 しかし――― 「―――み・も・り、さん」 間違ってないでしょう、そんな悪戯小僧のような笑みを浮かべながらクーガーは名前を呼んで来た。 それが意図するところ、その意味を二人も理解した。 「ありがとうございます」 水守もまた応えるように笑みを浮かべ、シッカリとクーガーと握手を交わした。 そして次に、水守はその隣のなのはへと視線を向ける。 なのはもまた、穏やかな笑みを向けながらその手をこちらへと差し出してくれていた。 思えば、初めてこのロストグラウンドで手を交わしあったのは彼女だった。 そして最後もまた、再び彼女と言うことになるのだろう。 数奇な縁に運命に近いモノを感じながら、なのはの差し出す手を水守はシッカリと握った。 「高町さ―――」 「―――なのは」 水守の言葉を遮るように、なのはが口を開いてきた意味が一瞬分からずに「え?」とそれこそ戸惑っていた。 「なのはでいいよ。皆……友達はそう呼んでくれるから」 優しい笑みとその言葉の意味に水守は戸惑いながらも、やがて気づいた。そして気づいたからこそ、遠慮がちになのはへと問いかける。 「……私が、友達ですか?」 「うん、駄目かな? 私にとって水守さんは、この大地で出来た初めての友達の心算だったんだけど」 迷惑かな、そう問うてくるなのはに対し、水守は慌てて首を振る。 そんなことはない、むしろその逆だ。 そう、むしろ――― 「―――ありがとう、ございます。なのはさん」 ―――嬉しかった。 友達。 振り返れば桐生水守の人生において、それに本当の意味で該当する者は驚くほどに少なかった。 本土でも有数の大財閥の令嬢。才色兼備の才媛。 多くの者が水守を取り巻き、色々と関わってきた。だがそれもほぼ全てが上記のものを見て、それを求めてしか近付いてこなかった。 誰も、桐生水守個人を見て友達となろうとしてくれる者などいなかった。 そう、六年前のあの劉鳳以来、誰も………。 そんな自分を、ただ足手纏いなだけで無力でしかない自分を。 己の身の危険すら顧みず、無償の行動で助けてくれた彼女たち。 彼女たちは自分を……ただの桐生水守として見てくれている。 それは何よりも……水守にとって、ただ只管に嬉しかった。 再び、こんなにも星が近い大地の上で。 桐生水守は新たな友達を作ることが出来たのだ。 「俺は、ホーリーに入って文化的な生活をするようになってから気づいたことがあります」 水守を乗せた本土行きの飛行機が飛び立っていくのを見つめながら、唐突にクーガーがそんなことを言ってくる。 飛行機を見上げ並んで立っていたなのははクーガーの方へと振り向き、続きを聞く。 「確かに文化も社会的秩序も素晴らしい。……しかし人間は本来、争う生き物なのです。平穏を維持しようとすれば、歪みが生じる。彼女はその歪みを見てしまった……ただ、それだけです」 彼女自身に問題があったわけでも、無論非があったわけでもなく。 彼女もまた巻き込まれてしまっただけの犠牲者、クーガーはそう言いたいらしい。 「そしてなのかさん「“なのは”です」……失敬。兎に角、貴女もまた彼女と同様にそれを見てしまった。貴女はどうするんです? その歪みを前に立ち向かうのか、それとも―――」 桐生水守がジグマールから告げられた真実。 なのはもまたそれを既に水守から聞いている。正直、彼女の倫理観からしても、これは見逃せず、許しがたきこと。 止めなければならない、そう改めて強くなのはは思ってもいた。 だがだからこそ、その道を選ぶということがどういうことを意味しているのかも既に彼女自身も痛いほどに良く理解してもいた。 つまりジグマールを、ホーリーを……否、その背後に存在する本土の企みを止めようというのならば――― 「茨の……いいえ、修羅の道かもしれません。彼女にはああ言ったとはいえ、別にそれから逃げ出しても貴女を責める者は多分いませんよ」 「……優しいですね、クーガーさんは」 「いえいえ、少しばかりお節介なだけですよ」 そんな風に誤魔化してくるクーガーだが、無論なのはとて分かっていた。 彼はつまり自分の事もまた心配してくれているのだ。だからこそ、問うているのだろう。 その道を、選択肢を選んでも、後悔しない覚悟があるかどうかを………。 「クーガーさん、人は確かに争い合う生き物なのかもしれません」 彼の言葉通り、元来人とはそんな生き物だ。 時空管理局に所属し、戦い続けてきたなのは自身、それは良く分かっている。 自分たちこそが正しい、無論そんなことなど絶対にありえない。 星の数だけ人はいて、そして人の数だけ思いや信念、正義はある。 それがこちらの目から見ればどれだけ非道に映るものでアレ、その当人が思い続けるならその当人にとってその行いは正義。 かつて、最愛の娘を蘇らせる為に狂気へと堕ちたプレシア・テスタロッサ然り。 最愛の主を護る為に、主が禁じた行いに手を染めてでも主を助けようとした守護騎士たち然り。 或いは、無限の欲望に突き動かされ、新天地を求めた狂気の科学者と娘たちもまた同じだったのであろう。 それらをなのははずっと考え続けてきた。 「ですが、争い合う生き物なのかもしれませんが……だからこそ、その後に手を取り合って分かりあうことも出来る生き物なんじゃないかなって私は思っています」 母に愛してもらうのではなく、母を愛する事を自らで決め、一歩を踏み出した親友のように。 主を護る為に戦い続け、誇りを取り戻した夜天の守護騎士たちのように。 罪の在処を自覚し、それを償いながら自分たちの新しい道を模索し始めている機械仕掛けの少女たちのように。 そして今も、自身の前に立ち塞がっている壁を打ち砕く為、戦い続けているのであろうあの少年とも。 ―――きっと分かり合うことが出来る、そう信じていた。 「だからこそ、まずはその分かり合うための舞台になるべきこの大地を―――私は護ります。護る為に、戦います」 その前に立ち塞がる壁の正体は、もう見えた。 ならば迷わない、私は私のやり方で、私の戦いで壁を超える。 ………それで良いんだよね、カズマ君。 「……強い女性だ」 実に立派な決意だと、クーガーもまたそれを認めていた。 懐かしい弟分を連想させるような、真っ直ぐな覚悟と決意。 嗚呼、惜しい。もし桐生水守と出会っていなければ、彼女に惚れていたかもしれない。 いや、自分は桐生水守に惚れているのだからそれ以外はそれ以上でも以下でもないなと思い直す。 だからこそ、そんなものとは別にクーガーは彼女へとこの言葉を贈る。 敬意を込めて。 「俺は貴女を尊敬しますよ。高町―――なのはさん」 「もっとスピード上げろよ、君島」 速さが足りない、そう言わんばかりの文句を告げてくるカズマに君島は怒鳴り返す。 「これが精一杯だっての!」 急かしてくる相棒の健気なアッシーと化しているこちらに対し文句ばかり言ってきやがってと君島は怒鳴り返す。 だがそれにすらカズマは平然と、 「新車くらい買えよ?」 ……そんな王様発言をしてくる始末だ。 ワーオ、こいつ殴っても良いですかと割りと本気で君島が思ったのは此処だけの秘密だ。 「ついこの間までピカピカだったんだよッ!……思い出させんなよ」 そう、あのホーリーに大敗北を喫する以前までなら、どれ程自分の羽振りは良かったことか。 あの新車で、それこそあやせさんとドライブとしゃれ込みたかったというのに。 思い出したら本気で悲しく、鬱になってきた。 そんな時だった。助手席のカズマが再び右腕を押さえて呻きだしたのは。 「痛むのか?」 心配気に訊いた君島のその言葉に対し、しかしカズマは次の瞬間それこそ平然とした態度へと戻りながら、 「あ? 何言ってんだ?」 何処までも強がりで意地っ張り、弱みを見せようともしてこない。 それが可笑しくて君島はつい笑ってしまっていた。 馬鹿にされているのかとも思い、胡乱気に睨むカズマが口を開こうとした瞬間だった。 「……何だ?」 「やべえ! ホールドだ!」 直ぐ近く、気づけばホールドのトレーラーが丘を挟んで併走していた。 瞬間、カズマは何かが己の内を駆け抜けていくのを感じた。 「―――何だ?」 それは彼―――劉鳳もまた同様だった。 正体不明の違和感、それが自分の中を駆け抜けていった。 いったいこの感覚は何だと戸惑いかけていたその時だった。 「八時方向に移動物体があるわ。……この大きさだと一般的な車両タイプだと思うけど」 シェリスからの報告に劉鳳はまさかと脳裏に過ぎった可能性を検討しかけたその時だった。 「劉鳳、隊長から通信だ」 瓜核からかかってきたその言葉に、優先順位が何なのかを思い直した。 「……分かった、回してくれ」 「どうするカズマ、離れてくけど……」 交戦は避けきれない、君島もまたそう思っていたというのに何故かトレーラーはそのまま方向転換をしてこちらから離れて行く。 あちらがこちらに気づかなかったのか、或いは交戦するよりも別の目的が出来たのか。 どちらかは分からない。或いはどちらでもない別の理由なのかもしれない。 だが兎に角、ホールドのトレーラーが離れていこうとしているのも事実だった。 しかし向こうが逃げるからといって、こちらが……カズマが果たしてそれを見逃すとは思えない。 追いかけてぶっ飛ばす、そう言いだすとばかり思っていたのに、 「無視だ無視! 今はかなみの所に戻るのが先だ」 意外にもそんなことを言ってくるカズマにそれこそ君島は驚いた。 ホーリーとの喧嘩よりも、かなみとの再会を優先するとはそれはまた――― 「おー、血の気が有り余ってるカズマ大先生が、そんな殊勝なことを言うなんて……雨どころの騒ぎじゃねえぞ、こりゃあ」 珍しいこともあるものだとつくづく君島は思った。 だがカズマはそれにからかわれたと感じたのだろう、「うるせえよッ!」と顔を顰めながら思い切り怒鳴ってきた。 だが君島は滅多に見れないカズマのそんな可笑しさを楽しみながら、はいはいと適当に相手をして教えてやる。 「この丘を越えれば、もうすぐ愛しのかなみちゃんとの再会だ」 そう言ってさっさと届けてやるかと思い直していた君島だったが………。 次の瞬間、急ブレーキを踏み車を停めていた。 「……って……おい……」 何だよ、コレ? それが眼前の光景を前に、車から思わず飛び出した二人が思った共通の思いだった。 燃えていた。煙があちこちで上がり、建物や柵は破壊され、死んだ牛があちこちに転がっていた。 どう見ても……只事ではない事態だった。 そして何より、彼らにとって信じられないのは、この眼前の光景が広がっているこの場所が――― 「……おい、此処って……かなみちゃんが行ってる場所じゃあ………」 震える君島の声が、カズマには何処か遠く響くだけであった。 ただ呆然と信じられないように目を見開き、カズマたちは立ち竦む以外に道は無かった。 次回予告 第6話 君島邦彦 馬鹿な男と吐き捨てて、クズな男と揶揄される。 愚直な生き方否定され、道化は嗤いに包まれた。 しかし見ろ、あれを見ろ。 あれがカズマだ! 君島だ! そのクズ、その馬鹿、他には―――いない。 目次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3108.html 前へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3151.html 次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3163.html
https://w.atwiki.jp/stsk13/pages/26.html
もうアナタ以外考えられない!モテるオヤジの必須テク&アイテムCD If story~in Winter~ happy birthday to you~in Winter~ After school~in Winter~ Snowman~in Winter~ もうアナタ以外考えられない!モテるオヤジの必須テク&アイテムCD (Starry☆Sky~in Winter~Portable 初回限定版) 01.Memories album of season~in Winter~ 02.Message to you~Tsubasa Amaha~ 03.Message to you~Hayato Aozora~ 04.Message to you~Kazuki Shiranui~ 05.celestial observation~in Winter~ If story~in Winter~ (Starry☆Sky~in Winter~Portable アニメイト特典) happy birthday to you~in Winter~ (Starry☆Sky~in Winter~Portable メッセサンオー特典) After school~in Winter~ (Starry☆Sky~in Winter~Portable コミコミスタジオ特典) Snowman~in Winter~ (Starry☆Sky~in Winter~Portable ソフマップ特典)
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/134.html
アクセルフィン 飛翔魔法・フライアーフィンの強化版。高い瞬間加速性能を誇るが、細やかな機動が困難なため、緊急回避や、射撃距離を取る際などに主に使用される。 プロテクションパワード プロテクションの強化版。カートリッジロードによって得られる魔力を頼りにした強力な防御。魔力消費は著しいが、物理攻撃に対して特に強力な防御力を発揮する。 バリアバースト プロテクションからの派生魔法。発生させたバリア面に魔力を集中・爆散させることで、対象にはダメージと衝撃によるノックバック、 術者には爆風と衝撃を利用した後退をさせることによって、術者が射撃・砲撃のための距離を取るための魔法。 アクセルシューター ディバインシューターの応用型。操作反応の上昇による精密狙撃への対応、弾体の威力・貫通力・飛翔速度強化といった強化が行われている。 反面、術者が移動しながらの発射・制御が不能となっているが、最大12発のシューター同時発射と、 なのはの強力かつ精密な思念誘導操作によって成される弾幕は、中距離では攻防一体の武器となる。 相手の攻撃を迎撃可能な、精密かつ強力な射撃の嵐。それは射撃特化魔導師の魔力運用の理想型の一つである。 プラズマランサー フォトンランサーの強化版。貫通力に優れた槍状の弾体を高速直射するオーソドックスな射撃魔法ながら、 環状魔法陣を使用した加速発射システムを装備し、遠隔操作による再照準・発射も可能となっている。 攻撃やバリアに弾かれても簡単には破損しない強固な弾体と相まって、極めて高い目標到達性能を誇る他、 カートリッジによる魔力供給を前提とした大幅な威力向上も図られている。 ブリッツラッシュ 加速魔法。本人の高速機動の他、制御飛翔中の弾体に瞬間的な加速をかけることも可能となっている。 シュランゲバイセン レヴァンティンの連結刃形態・シュランゲフォルムを操作して繰り出す攻撃の総称。 蛇のようにうねる刀身は、背後・頭上・足下といった、通常時の剣形態・シュベルトフォルムの刃が届かない範囲まで攻撃が可能な他、 刀身を長く伸ばすことによって中距離戦をも制圧する。 陣風 刀身から衝撃波を放つ、攻防一体の斬撃。シグナムは主に射撃攻撃の打ち落としに使用する。 対話能力 ミッド式インテリジェンスデバイスほどではないが、ベルカ式アームドデバイスも一部に自我や人格に近い意識を保有しているものが存在する。 レヴァンティン・グラーフアイゼンの二機は、それぞれ意志に近いものを持っているようである。 ラケーテンハンマー ハンマーヘッド後部からの推進剤噴射による加速攻撃。初戦でなのはの防御を完膚なきまでに打ち砕いた、バリア破壊能力に長けた打撃攻撃。 シュワルベフリーゲン ヴィータの射撃魔法。本来射撃や誘導管制を得意としないベルカの騎士としては驚異的なほどに優れた誘導操作能力を見せている。 パンツァーヒンダネス ヴィータの障壁防御の全方位版。攻撃や移動を放棄した完全防御形態で、ここから状況に応じて障壁を解除し、反撃に転ずる。 スフィアプロテクション(同時発動) 保護対象の全方位を球状に覆う防御魔法。 主に空間攻撃などの全方位攻撃に対抗するための魔法であり、ユーノはそれを遠く離れた三人と自分の分、合計4つをそれぞれ同時に発動している。 サークルプロテクション 魔法陣を使用した空間防御。 地上で使用する場合は地面を中心に半球型の防護陣を生成するが、空中で使用する場合は二枚の魔法陣で挟んだ筒状の防護陣で内部の対象を守る。 アルフはこの魔法を、アースラ滞在中のユーノから教わったようである。 破壊の雷 闇の書の力を使用した広域攻撃魔法で、結界破壊の効果を持つ純粋魔力攻撃。 未完成状態の闇の書を行使すると、蒐集したページを大きく消費してしまい、減ったページは再蒐集によってしか戻らない。 守護騎士たちにとっては可能な限り使いたくない切り札と言える。
https://w.atwiki.jp/adx992/pages/58.html
シングルモード VSCOM アーケードモード タイムアタック サバイバル トレーニング シングルモード シングルモードはいずれもコンティニュー不可。 VSCOM 初期解放。 キャラクターを選んで対戦する。2本勝負でドライブストックは2つ。 難易度設定が3段階で可能。 CPU戦ではこのモードのみ、試合内容をバトルレコーダーで記録することが可能。 アーケードモード ストーリーモードのクリアで解放。 キャラクターを一人選んで勝ち抜いていく一般的な格闘ゲームスタイルのモード。2本勝負でドライブストックは2つ。 登場キャラクター順は1~6戦目はランダムだが、7戦目はプレシア、最終戦はU-Dになる。 3戦目・6戦目までをそれぞれ無敗で進むと「WARNING」コールとともに乱入が発生。 3戦目後はヴィヴィオ・アインハルト・トーマ、6戦目後は星光・雷刃・闇王の誰かになる。 順番 登場キャラクター 1~3戦目 クロノ・ユーノ・アルフ・リーゼ・リニス・アミタ・キリエ WARNING 1 ヴィヴィオ・アインハルト・トーマ 4~6戦目 なのは・フェイト・はやて・シグナム・ヴィータ・シャマル・ザフィーラ WARNING 2 星光・雷刃・闇王 7戦目 プレシア 8戦目 U-D 乱入キャラはスキルをランダムで2~3個装備しており、クリア時にそのうち1つを入手できる。 乱入キャラたちは撃破してクリアすることでシングルモードで解放される。 クリアするだけなら比較的簡単だが、6戦目以降は無敗で進んでいるとかなり本気で殺しに来る。 特に6戦目後の乱入キャラは難易度MAX状態なので、慎重に戦わないとコスチューム解放条件に辿り着くのはなかなか難しい。 攻撃力の低いキャラを使う場合は、最終戦のU-Dは無理にKOを狙わずタイムアップ勝利も視野に入れておいた方がいい。 乱入キャラが誰になるかについては完全にランダム。 「同じキャラが連続しやすい」という報告もあるが、それぞれ3人ずつからランダムで選出されるため、3回とも同じキャラになる確率は11%、5回続く確率も1%ある。 3回続けば体感的には「固定では?」と感じてしまい、5回連続も100回に一回は発生する。 タイムアタック アーケードモードのクリアで解放。 8ステージを勝ち抜くタイムを競うモード。1本勝負でドライブストックは1つ。 スキル制限があり、ドライブストックプラスは装備しても無効になる。 1~6戦目は以下のキャラからランダム、7戦目はプレシア・最終戦はU-Dになる。 順番 登場キャラクター 1~2戦目 クロノ・ユーノ・アルフ・リーゼ・リニス・アミタ・キリエ 3戦目 ヴィヴィオ・アインハルト・トーマ 4~5戦目 なのは・フェイト・はやて・シグナム・ヴィータ・シャマル・ザフィーラ 6戦目 星光・雷刃・闇王 7戦目 プレシア 8戦目 U-D サバイバル タイムアタックのクリアで解放。 体力が尽きるまで戦い続け、何戦勝てるかを競うモード(100勝でクリア)。一本勝負でドライブストックは1つ。 No. 順番 難易度+α 勝利時 1 1~23戦目 難易度普通 勝利するとHP20%回復 2 24~46戦目 難易度難しい 勝利するとHP20%回復 3 47~69戦目 2+CPUがスキル所持 勝利するとHP20%回復 4 70~100戦目 3と同じ 勝利してもHP回復無し 登場キャラクター順は以下の順で進む。 順番 登場キャラクター 1~7戦目 クロノ・ユーノ・アルフ・リーゼ・リニス・アミタ・キリエ 8~10戦目 ヴィヴィオ・アインハルト・トーマ 11~17戦目 なのは・フェイト・はやて・シグナム・ヴィータ・シャマル・ザフィーラ 18~20戦目 星光・雷刃・闇王 21戦目 プレシア 22戦目 リインフォース 23戦目 U-D 24~92戦目 上記の順の繰り返し 93~94戦目 クロノ・ユーノ・アルフ・リーゼ・リニス・アミタ・キリエ 95戦目 ヴィヴィオ・アインハルト・トーマ 96~97戦目 なのは・フェイト・はやて・シグナム・ヴィータ・シャマル・ザフィーラ 98戦目 星光・雷刃・闇王 99戦目 プレシア 100戦目 U-D(赤) クリアするとリリカルポイント約7万入手。 トレーニング 初期解放。 自キャラと対戦相手を選んで自由にトレーニングができる。スキル装備可能。 以下の三種類からモードを選択可能。 モード名 詳細 オートドライブ 普通のCPU戦(難易度設定可能) ミミックリィ 自キャラの行動を2秒ほど遅れて相手が真似る スタンディング 相手が無抵抗で棒立ち ゲージやストックは使えば消費し、体力が減るとダウンするが、セレクトを押せばいつでも初期状態に戻る。 このモードのみ「相手との距離」と「ダメージ数値」が表示される。 「シングルモード」ページに関するコメント 名前 コメント すべてのコメントを見る アーケードモードの7戦目でリインフォースと戦いました -- (Fate) 2012-08-17 02 40 48 ↓途中で送信しちゃった。で、アタックを優先してくるからタイミングよくブロックしてればハメられる。アインハルトはアタックとキャッチの間合いが同じになってるっぽいのと、レヴィはこちらが何もしてなくてもブロックしたりと行動パターン違うので注意 -- (名無しさん) 2012-05-04 12 31 41 集中力次第だけど、CPUはクロスレンジだと一定の間合いで攻撃してくる。 -- (名無しさん) 2012-05-04 12 26 48 ↓追記、雷刃衝を敵がガードし、そこに追の太刀をあてる使用。 -- (force) 2012-05-04 10 13 46 ↓雷刃衝(長押し)後追の太刀(長押し)でダメージ入れるMP消費がすごいけどなんとかなるだろ。 -- (force) 2012-05-04 10 10 46 自分はレヴィが好きなのでサバイバルにはレヴィで挑んでいるのですが最高で70WINまでしか行けません。誰かレヴィでクリアした人いませんか?もしいたら装備したスキルとか実際に使った戦法とか教えていただけるとありがたいです。 -- (名無しさん) 2012-04-11 12 19 23 ↓正月の時かな出したの -- (名無しさん) 2012-04-01 19 56 31 リインフォースでTA 43.67secを記録 -- (名無しさん) 2012-04-01 19 54 22 サバイバルはユーリにバーストLv.3、ドライブストックプラス、ドライブローダーでFDB二回当てで大体倒せる。防御高いから回復なくなる70戦目以降はかなり重宝する。 -- (名無し) 2012-02-23 20 22 14 ↓タイムアタックでリインフォース使用時です。 -- (名無しさん) 2012-01-24 01 06 02
https://w.atwiki.jp/adx992/pages/59.html
画面表示 HP 画面上部のバーに表示される。 相手の攻撃を受けると減っていき、0になるとDOWNとなってそのラウンドが敗北になる。 受けたダメージのうち、黄色い部分は一定時間で回復する。 (※スキル「ヒール」で回復速度を速められる) 100%回復するのに通常時約63秒、スキル・ヒール時約52秒。 黄色い部分が発生するのはロングレンジの攻撃を当てた時に起り、クロスレンジの攻撃を当てる事で黄色い部分を消す事が可能。 なおフルドライブバーストを当てた時は、黄色い部分は全て消滅する。 MP HP下のバーで表示される。 ロングレンジでの魔法使用・ガード・アクセルなどの行動に使用する。 上記のMP使用行動で消費し、クロスレンジ攻撃を相手に当てる事でチャージされる。 MPが0になると自動で100%(ゲージ一本)分リロードされるが、リロード中はMP消費行動ができないので無防備になる。 フルドライブ発動で300%となり、発動中はMP消費行動をとってもゲージを消費しなくなり、フルドライブ終了時点で200%になる。 前作にあった「EXガード時のMP回復」がなくなり、アクセルにもMPが必要になった本作では、MPの重要度がより高くなっている。 ドライブストック MPゲージ下の、赤い四角アイコン。フルドライブ発動に必要。 ストーリーモードでは1つ、シングルモードでは2つがデフォルト。 3本勝負のシングルモードでは、ラウンド間に1つ分回復する。 スキル「ドライブストックプラス」でストックが一つ増加、「ドライブローダー」でラウンド間にストックが全回復する。 スキル キャラの性能を上昇させる技能。装備したスキルによってキャラクターが強化される。 ストーリーモードでは使用できず、一部の敵キャラや特定ステージでのプレイヤーキャラが装備しているのみ。 ストーリーやシングルモードで、スキルを装備した敵を撃破するとそのスキルを入手できる。 一部のスキルは「レベル1~3」の区別があり、それぞれ別スキルとして扱われる。 1~2まで全員汎用のスキルだが、レベル3は各キャラの専用スキルとして特定のものが設定されている。 前作と違い、今回はスキルを装備しても最大体力の減少がないため、自由にキャラメイクをできる。 フィールド 前作と同じで、高低差や障害物の存在しない真っ平らな2次元平面内を移動しながら対戦を行う。 対戦中は常に強制的に両キャラが互いに向き合った状態となる(互いが互いを「Z注目」しているような状態)。 そのため、通常の3D対戦アクションとは異なりフィールド内を縦横無尽に駆け回ることはできない。 戦闘中のキャラクター間の位置どりは絶対座標系ではなく重心座標系で記述される。 この重心は移動速度の遅い方のキャラに偏るようになっており、一方のキャラが止まっている場合は他方のキャラの横移動はそのキャラを中心とした回転移動となる。 互いに逆方向に移動している場合は両者を結んだ中点を回転中心とする回転移動になり、同方向に移動した場合は回転中心が無限遠になって平行移動となる。 つまり自分と相手の移動が独立ではないので、自分の移動を使って相手の移動範囲をある程度操ることもできるし、逆に操られることも起こりうる。 2D格闘ゲームのように自分と相手の対面関係は常に固定で、両者の相対距離と横移動入力の関係に合わせてフィールドのほうが回転していると考えてもよい。 相対的な位置どりが固定されるのはキャラクターのみで、設置技はフィールド側に固定される。 クロスレンジ操作 □ アタック △ ブロック/EXアタック ○ キャッチ × アクセル(吹き飛び中は受け身動作) 方向キー+× 任意方向(前後)へのアクセル L フルドライブ発動/フルドライブ中はバーストトリガー発動 R ガード(命中直前にガードでEXガード) □:アタック 通常攻撃を繰り出す。ヒット・ガードを問わず、相手に当たった際は、任意のボタンを押すことでコンボとなる。 キャラごとに多彩な攻撃が設定されており、出せる攻撃の数もキャラごとに違う。 多くのキャラは武器や拳・蹴りなどでの攻撃だが、ユーノやプレシアのように魔法攻撃を行うもの、シャマルのように極めて長いリーチの攻撃を持つキャラなどもいる。 2発目以降は□・△・○のボタンの組み合わせで別の連続技になり、この連続技もキャラごとに段数・性質などが大きく異なる。 アタック初段の命中前にガードボタンを押すことで、アタック動作をキャンセルする事ができる。 (これによって、アタック初段の動作に踏み込みを伴うキャラはスライド移動ができる) △:ブロック 前方にバリアを発生させ、相手のアタックを受け止めてカウンター攻撃を繰り出す。 アタックを無効化して反撃できるが、キャッチに対して無防備。 クロスレンジ攻撃を止めるために使う技だが、相手が魔法を撃った後にクロスレンジに移行した場合などは魔法を止める事もできる。 △・△(ブロックが出ている間に△)でEXアタック(大振りの近接攻撃)が出る。 バリアの部分にも攻撃判定がある。ダメージ0、ガード時MP削り0、ダウン値あり、ヒット効果はよろけ。 普通の立ち状態の場合、キャラによって当たる場合・当たらない場合がある。 リーチと接触判定の問題もあるが、バリアの見た目が完全に相手に重なっていても当たらないことも。 ただし、通常は当たらなくても前進・アタックなど喰らい判定が前方にせり出す時に当たることもある。 ブロック・キャッチ中の相手にはバリアの判定は無効。 バリアヒット時のよろけにはEXアタックやBGC(対戦テクニック頁参照)からアタック・キャッチなどで追撃可能。 バリアをキャンセルしてFDBを出せるキャラも居り、普通にブロックが成立するよりも大きなリターンを見越せる場合もある。 浮き状態相手を拾うことも出来るので空中コンボを繋ぐ為にも使われる。 ○:キャッチ 相手を掴み、ガード不能の攻撃を繰り出す。いわゆる投げ技。 一般的な格闘ゲームの投げ技とは異なり、間合い内にいれば相手の状態にかかわらず成立する(無敵状態除く)ので、打撃のコンボに組み込む事もできる。 クロノやヴィヴィオ・フェイトのように魔法を追い越して接近できるキャラであれば、魔法をガードしている相手をキャッチで掴む事も可能。 間合いはキャラによってかなり異なり、ザフィーラが最長、雷刃が最短。 ×:アクセル 高速移動。 MPを消費してレバーを入れた方向に短くダッシュする。ニュートラルでは前にダッシュ。 入力直後に無敵時間あり。 終わり際ではロング魔法やアタック、アクセル、フルドライブ発動&FDBなどでキャンセル可能。 キャンセルポイントよりも無敵が切れるほうが速いので、アクセル連発で無敵を維持することなどは出来ない。 至近距離では相手の後ろに回り込む「アクセルターン」になる。 吹き飛び中×:受け身 横や上への吹き飛びダウン中に×ボタンで受け身が可能。魔力を消費する。 Rボタンを押しながら受け身を取ると挙動が変化。MPを2倍消費するかわりに通常より高く跳ねる。 L:フルドライブ発動/バーストトリガー発動 ドライブストックを消費して、フルドライブを発動する。 フルドライブ発動時には無敵時間があり、衝撃波で相手を吹き飛ばす事ができる。(ダメージは0) 立っている状態であれば攻撃後の硬直中や相手のコンボを喰らっている途中でも発動する事ができるが、浮いている間は発動できない。 フルドライブ中はMPが300%(常時満タンで減少しない状態)となり、Lボタンでバーストトリガーを出す事ができる。 バーストトリガーはガード不能攻撃で、命中するとフルドライブバースト(キャラごとの超必殺技)に移行する。 R:ガード MPを消費して相手の攻撃・魔法をガードする。キャッチやバインドには効果がない。 相手の攻撃をガードしてMPが0になると「ガードブレイク」が発生し、一定時間気絶状態になってしまう。 魔法の発動動作中にガードをする事によって発動前の魔法をキャンセルする事もできる。(できない魔法もある) 攻撃がヒットする直前にガードすると、キャラが白く光って「EXガード」が発生。EXガードはMP消費・ノックバックがなく、ガード硬直も一瞬で終わるため、すぐに行動に移れる。 ロングレンジ操作 □・○・△ 固有魔法発動 × アクセル(吹き飛び中は受け身) 方向キー+× 任意方向へのアクセル ニュートラルで×押しっぱなし EXアクセル L フルドライブ発動/バーストトリガー発動 R ガード(命中直前にガードでEXガード) □・○・△では、MPを消費してキャラ固有の魔法攻撃を行う (バインドを保有しているキャラは「○」がバインド) ほとんどの魔法は長押し発動(タメ)する事で性質が変化する。 今回、一部のキャラ(ユーノ・プレシアなど)はロングレンジからでもバーストトリガーを出せる。 EXアクセル 今作からの新要素。 ロングレンジで「レバーニュートラル+×ボタン押しっぱなし」で、×ボタンを押している間前進しつづけられる。 ×ボタンを離すか、クロスレンジに入った時点(約5m)で動作中断。ある程度慣性で進んでから止まる。 動作中~慣性部分は攻撃やフルドライブ発動・FDBが可能。前進の慣性を乗せつつ攻撃が出せる。 このとき出る攻撃は入力時点の位置関係に依存、ロングレンジに居る時点で入力をしたのならクロスレンジに入りつつロング魔法を出せる。 また、ロングレンジでは動作終了時に方向キーを入れることで任意の方向に素早く滑るような移動が可能(移動距離は短い)。 入力直後の横回転しつつ進む部分はキャンセル不能、クロスに入った時点での動作中断もされない。 方向キーでの移動の先行入力のみ受付ける。 ダウン値 攻撃がヒットするとダメージとは別に蓄積される値。非表示。 一定値溜まると喰らいの状況を問わずダウン回避・追撃不能の錐揉み回転のダウンになる。 攻撃が当たらない時間が経過することで減少していく。 傾向として攻撃1Hitあたりダウン値1の場合が多く10蓄積でダウン、と思われる。 当てはまらない例では、バインド魔法がダウン値が高く、およそ 3.5 ほどある。 しかしダウン値は時間に応じて加速度的に減少していくので、拘束時間が2.5秒と長いバインドの場合は拘束の終わり際には実質的なダウン値が -2.5 となっている。 そのため、長時間拘束のバインドをループさせるとダウン値をリセットすることも可能である。 リリカルポイント ゲームプレイで貯まっていくポイント。「通貨」ではなく「経験値」のようなもので、一定値を越えると魔導士カード用の単語などが解放される。 「ゲームシステム」ページに関するコメント 名前 コメント すべてのコメントを見る リリカルポイントは、い車で -- (レナ) 2012-08-10 18 07 37
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/138.html
通信妨害 念話・思念通話等の、魔法的な通信を阻害するフィールドを形成する。 電波や無線等の妨害も可能だが、病院という施設、市街地という状況からそれらはカットしていない。 フィールド範囲内ではシャマルのクラールヴィントを介してのみ通信が可能となるが、範囲外との通信はシャマル自身も不可能となる。 プロテクション なのはの基本防御魔法。衝撃・魔力攻撃を防御面で防ぐことを目的としたオーソドックスな防御魔法だが、 なのはは魔法習得の当初から使用していたこともあり、その練度は高い。 フランメ・シュラーク ヴィータの魔力付与系打撃攻撃。命中時に高温燃焼を伴う爆破、着弾点焼夷効果を追加発生させる高威力打撃。カートリッジを一発消費する。 ソニックフォーム フェイトのバリアジャケットの換装形態。基本的な防御機能を徹底的に廃し、装甲防御を「受け」を行うための両手両足のみに集中。 さらに両手足に高速機動補助魔法「ソニックセイル」を常時発動。素早い近接戦闘のみを想定した、超高速機動型の形態。 運動性能と機動性、攻撃速度が圧倒的に上昇する分、防御力はほとんど無いに等しいような状態で自らの加速や攻撃の余波に耐えるための最低限の機能しか有していない。 通常の戦闘では考えられないほどの異様な特化は、フェイトが自らの最大の利点である「速度」に全てを賭けた決意の現れでもある。 プラズマランサー 単発での生成は、発射速度・弾速度・威力を一発に集中するため。 シグナムに対する警戒も解いてはいないため、行動のための魔力リソースを残すという意味合いもあるようである。 ミラージュハイド 空間に溶け込む迷彩効果を自己の周辺に発生させる魔法。 完全迷彩状態で攻撃や魔法発動等の行動を行うのは困難だが、高レベルの術者が静止状態で待機していれば、探査や検知の魔法にもかかりづらくなる。 フープバインド 拘束輪を複数同時に発動し、輪の拘束によって捕らえることで対象を固定する。 バインド魔法の基本、リングバインドの発展応用系で、大きな輪の状態で生成したものを対象の周囲に複数発生させることで、視認後の回避を困難にしている。 カード 魔法陣が刻まれた、魔力の込められたカード。デバイス内での炸裂を必要としない、簡易型のカートリッジのような働きをする使い捨ての魔力蓄積装置。 長期間に渡ってカード一枚ずつに自らの魔力を蓄積し、貯めていたものと思われる。 ホイールプロテクション 防御面に魔力の渦を生じさせることで、受け止めた魔力・威力を高い効率で消滅させる効果を持つバリア系魔法。 クリスタルケージ 拘束魔法の一種で、空間に固定するバインド系ではなく、物理的な「檻」を形成して閉じこめるケージ系魔法。 発動後は魔力リソースを使用しないことから、バインド系で捕獲した相手をさらに強力に拘禁する等の目的に使われる。 真なる覚醒 完成した闇の書は、二つの機能を有するようになる。 ひとつは、闇の書本体が持つ「巨大ストレージ」…騎士たちが蒐集したコアに収められた膨大な魔力と魔法のすべてがそこに収められた蓄積庫としての機能。 もうひとつが「主を守る究極の甲冑」、闇の書管制人格と融合システムの正式起動による融合型デバイスとしての機能。 守護騎士たちと同様のシステムで具現化する管制人格は、主の肉体と融合し、その能力のすべてを主に委ね、主の力となる。 融合型デバイス ユニゾンデバイスとも俗称される。ベルカにおいて開発されたデバイスの形式で、ミッドチルダ式インテリジェントデバイスの設計思想をさらに極端化したもの。 自らの意志を持つデバイスに完全な人の姿と意志を与え、状況に応じて術者と「融合」することで魔法管制と補助を行う。 この形式では、他形式のデバイスを遥かに超える感応速度や扱うことのできる魔力量を得ることができるが、 融合適性を持つ術者の少なさ、さらに各術者の性質に合わせた微調整や適合検査の必要といった手間が生じ、 さらに、本来は融合時の術者の意識喪失などのための緊急措置として設定されていたデバイスが主の意志とは無関係に、 単独で術者の体を使用・魔力行使を行えるという性質が、時に「デバイスが術者の体を乗っ取り、自律行動をとってしまう」という「融合事故」を起こす事件も発生し、 実際の製品化には至ることのなかった方式である。 融合型デバイスの特徴の一つとして「術者の姿の変化」があげられる。正しく使用している場合でも髪・瞳の変色などは特に顕著に現れるが、 融合後の姿が術者とデバイス、どちらの外観に近いかが、術者が融合型デバイスを使いこなせているか否かの判断材料となる。 なお、術者がデバイスを使いこなすことができず、制御不能の状態の場合、完全にデバイス側の外観になってしまうこともある。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3158.html
「……何だこのアルター?」 今までロストグラウンドの便利屋としても数多くのアルター能力と戦ってきた経験があるカズマにしてみても、眼前に現れたソレは奇異そのものだった。 「十五年前に拾った古びた玩具………実はソレこそが私のピンチを救ってくれるヒーローの導き手だったのです」 その一方で先程の憐れを誘うまでの泣きべそっぷりは何処へ行ったのか、不敵な笑みと圧倒的な自信を窺わせる態度でエマージーはそんなことを言ってくる。 無論、カズマにしてもヴィータにしても彼の言っていることの意味などさっぱり分かるはずもない。 だがエマージーの方もそんな相手の理解の程など気にしていないように、自身の自慢なのであろうその出現した己がアルターへと命令を飛ばしていく。 「さぁ行け、スーパーピンチクラッシャー! パワードライフルッ!」 エマージーのよく分からないポージングと共に彼の手首に巻かれている腕時計が光る。かつてテレビで見た良く似たアニメから察するに恐らくアレであのロボットへと命令を下しているのだろうとヴィータは察した。 一方、主の命を受けたスーパーピンチクラッシャーはそれこそいきなり巨大な銃を取り出してくると共に、それをこちらへとその銃口を向けてくる。 カズマもヴィータも次の瞬間の反応は速かった。 「衝撃のぉぉぉおおおお………ファーストブリットォォオオオオ!」 カズマは地面を叩くと同時にその反動を利用して跳躍。その背中の羽根の一片が砕ける圧縮された力を利用しての拳による一撃を敢行。 「アイゼンッ!」 『Schwalbefliegen』 そしてヴィータもまたアイゼンに檄を飛ばすと同時に四つの鉄球を自身の前へと展開。それを一斉に対象へと目掛けて鉄槌にて叩き飛ばす。 スーパーピンチクラッシャーは両者同時に動いたのに対し、カズマの方へと反応……跳躍し接近してくるカズマへとその巨大な銃口を向け一斉に銃火を発生させる。 だがそんなものは物ともしない勢いと速度で迫ってくるのがカズマの衝撃のファーストブリットである。眼前に迫ってくる銃弾を拳で弾き飛ばしながらそのまま勢いを止める素振りすらなく相手の頭部を拳で粉砕した。 ほぼ同時のタイミング、ヴィータの放ったシュワルベフリーゲンもまたスーパーピンチの胴体を貫き穴開きにしていく。 ………ものの一瞬、それだけで自称無敵のヒーローは破壊されてしまった。 各所に火花を散らしながら、流石にダメージが大きいのかヒーローは膝をつく。 直後、危なげなく着地したカズマは相手のその様を見て叫ぶ。 「ハッ! 何が無敵のヒーローだッ!?」 話にもなりはしない、そんな態度も顕に見せるカズマに対し、しかし無敵のヒーローの主は一向に慌てた様子すら見せない。 それどころか……… 「知らないのですか? スーパーピンチクラッシャーは危機に陥るほど強くなる」 余裕、まさにそんな態度を見せ付けながらスーパーピンチクラッシャーの傍らへと歩み寄ってくるエマージー。 隣に並ぶ己のヒーローに何ら不安すら抱いてはいない………そんな態度であった。 「それでこそ私の―――ヒーローなのです!」 そう絶対の自信を誇るようにエマージーはその命令を飛ばす腕時計を巻いた手を高らかに掲げる。 瞬間、またしてもエマージーを虹色の光―――アルター発現の粒子が覆い、それだけでなくそれは傍らに膝をついているボロボロのスーパーピンチクラッシャーへも同様に広がっていく。 再構成の光がスーパーピンチクラッシャーの損傷を瞬く間に修復し、眼前には再び無傷のヒーローが復活を果たす。 「だったら今度は全部ぶち壊すだけだなぁ」 「まぁ、基本だな」 それを見て不敵に笑いそう告げるカズマと、鉄槌をしっかりと握り直しながら同じように身構えるヴィータ。 どちらも巨大ロボットを前に臆す心算も退く様子すらも更々見せる素振りなど無い。 まるで強大であればある程面白い、かかって来いと言わんばかりの闘争にて相手を迎え撃つ態度であった。 「……あぁ、ホーリーに喧嘩売っとる」 そう呟いているのはその戦いの様子を呆然と見守っていた外野―――町の住人たちである。 君島とスバルもまた同様に最前線からその自身たちの仲間の戦闘風景を見ていることしか出来なかった。 「……なぁスバルちゃん、君は加勢しないのか?」 それでも一応と思い君島は隣のスバルへとその疑問を尋ねる。 尤も、仲間同士であったはずのヴィータとエマージーが対立している現状……どちらに加勢すべきかは彼女としても困ったところだろうとは思う。 それでも一応は君島は未見ではあったもののこの少女もまたカズマと渡り合ったほどの実力者であることは知っている。彼女ならカズマ側に加勢してくれれば心強いとも思うのだが……… (………尤も、そんなことされる方がカズマにしたら迷惑なのかもしれないがな) 事実、戦闘中であるにも関わらず此処から見ていても一応は共闘関係であるはずの二人の様子ですらいがみ合っているかのようなギスギスとしたものだ。 ここでスバルまで乱入したらそれこそ構図は大乱戦に変貌しかねない。 その辺りの空気は彼女もまた察していたのだろう、君島の言葉にスバルは苦笑と共に首を振った。 「………私が入ってもきっと邪魔になります。それより……今は此処で君島さんや町の人を護ろうと思ってるんですけど……いけませんか?」 そう訊いてきたスバルに君島もまさか邪魔と言えるはずもない。むしろ距離を取っているとはいえ強力なアルター使い同士の争いだ、余波がここまで達しないとも言い切れない。 それを考えれば、ここに留まり護ってくれるというスバルの判断は君島達にとっても大助かりだ。 ただ……… 「………良いのかい? 君もホーリーだろう。こんなことしてて問題になったりしないのかい?」 一応は敵である存在に何を自分は気を遣っているのかと馬鹿らしくもなってくるが、それでも気にかけてしまっているのも事実、だから君島はそんなことを言ってしまっていた。 だがスバルの方は君島のそんな言葉にそれこそ気にした様子もなく笑って言ってきた。 「良いんです。私がしたいことだからするだけです。………それに、あの人もきっとそれで良いって言ってくれるはずですから」 何が正しくて、何が間違っているのか。 正義の有無も在り方も今は自分にも分からない。 だからこそ、せめて今は自分がしたいこと、正しいと思ったこと、信じた事を間違えずにやっていこうと決めた。 きっとそれが一番大切なことだと思ったから。 ………そうですよね……私はこれでいいんですよね。 なのはさん………。 「貴方方の行動は全て無駄に終わります」 何処にそんな自信を持っているのか、不敵な笑みを自信と示しエマージーはそんなことを告げながら次にその手を天へと伸ばす。 「出でよ! 大いなる翼―――ピンチバードッ!」 その呼びかけと共に天空から舞い降りるは機械仕掛けの一羽の巨鳥。 それは空中にて姿を紅色の巨人へとその姿を変形させる。 「超! ピンチ合体ッ!」 続いて叫ぶその言葉と共にスーパーピンチクラッシャーが宙へと飛び上がりその紅色の巨人に向かって言葉通りの合体を行う。 三倍以上の大きさのその紅の巨人の中へとスーパーピンチクラッシャーは定位置とばかりにスッポリと収まる。 そしてスーパーピンチクラッシャーが収まると同時に、開いていたその部分は閉じ、遂に合体を果たし完成した巨人がその姿を現す。 「グレートッ……ピンチィ………クラッシャァァァァアアアアアアアアアア!」 エマージーの叫びが響き渡ると同時、無敵のヒーローがその場へと君臨する。 其の名は―――グレートピンチクラッシャー。 崖っぷちからエマージーを助ける為に現れ、どんなピンチも凌駕する……無敵のヒーローである。 「で、どうしようっての? こんなんで」 「……ますますアニメだな」 鼻で嗤う様な態度も顕にそのグレートピンチクラッシャーなるロボットを見上げながらカズマは訊く。 確かに人間の十倍以上もありそうな全長は凄まじいものがあるのは事実。だが先のスーパーピンチクラッシャー同様に所詮はデカブツに過ぎない。 己の拳で先程同様に打ち砕くだけだとカズマは思っていた。 それは程度の差こそあれヴィータもまた同じ。こちらは呆れた呟きを漏らしたものの先程よりは多少真剣な目つきで対象を見るようになったとはいえ、それでも臆するなどの様子は微塵も窺わせない。 「今度は貴方方にピンチを贈呈しましょう」 だがエマージーの方はそんなカズマたちの態度すらも嘲笑うような口調で、確定事項のようにそんなことを宣言してくる始末。 無論、それにカズマが反応しないわけが無い。 「じゃあやってみろよ!」 「では………お言葉に甘えて!」 カズマの促がしに乗るようにエマージーは応えながら、自身の無敵のヒーローへと命令を飛ばす。 「デンジャァァアアア………ハザァァァアアアアアアアアアドッ!!」 エマージーのその宣言と同時、カズマとヴィータのいる地点へとグレートピンチクラッシャーはその胸部からエネルギー弾の数々を雨霰と撃ち込んで来る。 流石にその量にはヴィータも驚き、咄嗟に防御魔法を展開しながら後ろへと飛んでかわす。 だがそれとは対照的にカズマの方は、その弾雨の真っ只中へと自ら進んで飛び込んでいく。 「馬鹿ッ! 危ねえぞッ!」 「馬鹿はどっちだ!? ここで退いてどうすんだッ!」 咄嗟にヴィータは叫び呼び止めようとするも、カズマから振り返りもせずに返ってきた怒号はそれを打ち消すほどに無謀な内容だった。 だがヴィータの目からは正気を疑うその行為も、ブレーキやストップという概念やネジがぶっ飛んでいるカズマにしてみれば当然の選択だ。 むしろ保身を優先したヴィータの行動の方がカズマの目から見ればただの逃げの姿勢でしかない。 「敵は前にいるんだろうが!? 後ろに下がって誰と戦うってんだ!?」 そんな勇気と無謀が紙一重………否、明らかに履き違えたような叫びを残してカズマは突進する。 「撃滅の……セカンド―――ッ!? うぉおおッ!!」 第二撃―――撃滅のセカンドブリットを敢行しようとするも、やはり流石にあの弾幕の突破は無理だったようで、カウンターのように被弾し吹き飛ばされる。 そしてエマージーはそれすらも見逃さない。むしろ好機と判断し更なる追撃を仕掛ける。 「ハザードッ! 連弾ッ!」 その斉射速度は勢いを増し、弾雨は吹き飛ぶカズマの周囲すらも吹き飛ばし次々と破壊していく。 それは後ろに下がったヴィータの地点はおろか、廃橋そのものを破壊する勢いで迫ってくる。 頑丈さにはなのはと同様に自信があるヴィータでも、あの勢いと威力の弾雨を凌ぎ切れるかどうかは微妙だった。 空中へと回避、それを咄嗟に選択し実行に移そうとしたものの……… 「………ちっ! 世話焼かすな」 吹き飛んでくるカズマを見て、その追撃を受ける様子を見捨てて置けなかったヴィータは結局舌打ちを一つ吐きながら彼の方へと飛んでいくのを選んだ。 どうしてこんな奴を助けようとしているのか………成り行きとはいえ元々はコイツを自分は倒しに来たというのに、その当人を助けようとしているなどどうかしている。 「………それでも、仕方ねえだろ!」 自身でもヤケクソだと認める叫びを上げながら、吹き飛んでくるカズマを回収。迫る弾雨を前に防御魔法―――パンツァーシルトを発動。 正直、アルター等という未知の力で構成されたエネルギー弾をシールドで弾くことが出来るかはある種の賭けだったが…………何とか成功する。 尤も――― 「―――ッ!? チィ!!」 舌打ちが漏れるほどに迫り来る圧倒的弾雨の量は予想外。魔力を総動員して防御を続けるも凌ぎ切れるかどうかすらも正直怪しい。 しかし腐っても己はベルカの騎士、こんなインチキヒーローを相手に後れを取るなど己のプライドが決して許しはしない。 「舐めんなぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 咆哮を上げるヴィータ。その真紅の魔力光が輝きを増し、突破されかけるその状況を建て直し……見事、凌ぎきった。 そしてそれだけではない。 抱えていたカズマを放り投げ、消耗する身体に鞭打ちながら一気に反撃へと出るために飛翔。 高速で鉄槌を構え突撃を敢行するヴィータだが、その振るわれる鉄槌をグレートピンチクラッシャーは己が拳で受け止める。 「なっ!?」 「貧弱、貧弱ゥ! その程度で私のピンチを倒そうなどと―――笑わせてくれますねぇ!」 喝采を上げるかのように叫ぶエマージー。明らかに侮蔑を含んだ相手の挑発にヴィータの騎士としてのプライドがそれを許さない。 「舐めんなって………言ってんだろぉおおがぁぁぁああああああああああああああああああ!!」 『Giganntform』 主の叫びに応え、鉄の伯爵はその姿を通常のハンマーフォルムから変更―――ギガントフォルムへとその姿を変える。 押し切るように接触する巨人の拳面へと振り切る。瞬間、発生する爆発音。 見ればグレートピンチクラッシャーの右拳はヴィータの振り抜いたギガントハンマーのダメージで破壊されていた。 それだけではない。ごり押しの力押しで振り抜いた勢いはそのまま相手の真紅の巨体をよろめかせ、大きくその位置を後退させる。 この時点で十倍以上の質量差を相手に信じられない大健闘を示しているヴィータだが、既に心身ともにかなりの疲労を示し、その姿は荒い息を吐いている最中だった。 しかし、まだ彼女のエマージーへの怒りは欠片も治まってなどいない。 ギロリと眼下のエマージーを見下ろす。己のヒーローが自分のような幼い外見の少女に力比べで後れを取ったという事実が信じられないのか、その目は驚愕に見開いている。 ざまあみろ、内心で僅かばかりの溜飲の下がる気持ちが湧くもそれも今は後回しと抑えつける。 今が最大の相手に追撃を仕掛けるがら空きの好機と判断したヴィータは今度はそのままエマージー目掛けて一気に下降。 眼前に迫る相手目掛けて相棒の鉄槌を振り下ろし――― 「なっ!?」 またしても信じられないといった驚愕の叫びを上げていた。 「いやぁ、見かけによらない貴女のパワフルさ……中々に背筋もヒヤリとさせられる心地でしたよ」 上機嫌にそんなことを言ってくるエマージー。 その頭上には少女が振るうにはあまりに不似合いな無骨な鉄槌が存在しているが、それにすらまるで気にした様子も無い。 因みに、寸止めのように止まっているヴィータのグラーフアイゼンだが、決して彼女自身が自らの意志でそのように止めているわけではない。 それどころか、彼女はこのいけ好かない男へと呵責も無くブチかます心算で鉄槌を振り下ろしたはずなのだ。 ………それが、何故止められているのか? 「ですがどうやら、貴女のご自慢のそのハンマーも私のこのピンチガードを破るには至らなかったようですね」 そう誇らしげに語るエマージー。 彼が頭上の鉄槌を前に掲げるかのように示す腕時計……それを中心に展開されエマージーを護るように発生している暗紫色の障壁。 ピンチガード………スーパーピンチクラッシャーと並ぶもう一つのエマージーの切り札。あらゆるピンチから直接的にエマージーの身を護る防護障壁である。 エマージーの元をスーパーピンチクラッシャーが離れた際に彼の身を護る最後の切り札、それが起動し振り下ろすヴィータの鉄槌を防いでいたのだ。 「この……ッ……!」 「無駄ですよ。お疲れの今の貴女ではコレは破れません」 必死になってピンチガードを破ろうと力を込めなおし鉄槌を握り直して踏み込んでこようとするヴィータだったが、エマージーの指摘通り、先の無茶で大幅に消耗した今の彼女では障壁を破ることはできそうにもない。 「さて―――ではヒーローの反撃のターンです!」 宣言するエマージーの言葉通り、後退していたグレートピンチクラッシャーは拳を再構成し終えると共にそれをヴィータ目掛けて再び振り下ろしてくる。 咄嗟にヴィータは後方へと素早く飛んでそれを回避。 しかし追撃として放ってきたデンジャーハザードを前に再び防御魔法を展開してそれを防ぐことにその行動を縛られる。 何とかそれを凌ぎきったものの、その次の瞬間に迫ってきたのは巨大な紅の拳。 回避は間に合わず、防御魔法の展開すらもタイミング的にやはり同じく間に合わない。 ヴィータに出来たことは咄嗟に相棒のグラーフアイゼン……ギガントフォルムへと変形しているその巨槌を盾代わりに前へと構えるだけ。 次の瞬間、全身に走る衝撃にそれこそ身体をバラバラにされたかのようなダメージを感じながら、直撃した拳の一撃にヴィータは吹き飛ばされた。 そもそも人間とは大きさもパワーも桁違いの拳の一撃だ。デバイスとバリアジャケットという衝撃吸収の為の余地があれどもその威力とダメージは並大抵のものではない。 悲鳴を上げながら吹き飛んでいくヴィータをエマージーは嘲笑うように見届けながら漸く立ち上がった様子のカズマへと視線を向け直して訊く。 「流石は私のヒーロー、物凄い威力です。………さぁ、カズマ君! このピンチをどう切り抜けますか!?」 尤も、切り抜ける方法などはありはしないと思っているであろうことはエマージーの態度を見れば明らかだった。 だがそんなものカズマには知ったことでは無い。 「決まってんだろッ! この拳でだッ!」 後にも先にも、自分が唯一誇り信頼する拳(コイツ)以外でどうやって状況を打破する? ………ピンチ? 上等だ! んなもん打ち砕いてやるよ! そんな決意も顕に再び展開される弾雨の中を先程同様に突っ切る勢いでカズマは無敵のヒーローへ向かって突撃していく。 ギリギリで弾雨を回避しながら、遂に拳を叩きこめる後一歩という位置まで到達。跳躍してそのいけ好かない鉄面皮に拳をぶち込もうと振りかぶる。 だが真正面から一発、飛んで来たエネルギー弾に被弾し再び地面へと叩き落される結果へとそれは終わる。 「よーし、トドメだッ!」 それをチャンスと判断したのだろう、勝負を決めるべくエマージーがグレートピンチクラッシャーへと必殺技の解禁を命じる。 主の命へと答え、紅の巨人は宙へと飛んでいく。そして雲を突っ切り太陽を背にしながら―――遂に、ソレを解き放った。 背部の飛行バーニアとなっている翼―――ソレが分離すると共に変形し一本の巨大な剣となる。 「ラストチャンス………ソォォォォオオオオオオオオオドッ!」 エマージーの叫びが木霊する。 そう、これこそが無敵のヒーローの切り札。 あらゆるピンチからエマージーを救い出す無敵の剣―――ラストチャンスソードである。 「さぁ、カズマ君。今の私はがら空きです。彼の必殺技を受ける前に私を倒してみては?」 そんなことを誘うように言ってきているエマージーだが、先程のヴィータの一撃を防いだ時と同様にその身はしっかりと例のピンチガードにて防御されていた。 ………尤も、そんなものカズマには有ろうが無かろうが一切関係が無い。 それも当然だろう、そもそも――― 「なに言ってんだ………あのデカブツを倒した方が面白えだろうが」 ―――今ぶっ倒したいのはこんなひょろりとした雑魚ではない。あの余裕をかまして好き放題攻撃してくれた無敵のヒーロー様とやらの方だ。 カズマの中の反逆魂があのデカブツの自称する無敵とやらを打ち砕けと、拳を強く握らせて仕方ないのだ。 だからこそ狙うのはあくまでもあの巨人、本体のヘタレになど用は無い。 「残念です。貴方の拳も受けきってこのピンチガードの有用性を更に確かめたかったのですが。………まぁ良いでしょう。では―――」 エマージーの言葉が終わるや否やというタイミングで、既にカズマは跳躍。当然向かう先は空中にて巨剣を構えているあの巨人だ。 「抹殺のぉぉぉおおお………ラストブリットォォォオオオオオ!」 最後に残っていた赤い羽根の一片が砕け散る。 シェルブリット第一段階においての最後の一撃……文字通りに抹殺のトドメとなる一撃を持って空中の巨人目掛けて拳は飛んでいく。 「逆転ッ………閃光カットッッ!」 それを迎え撃つは紅の巨人が構えし必殺剣。青の炎を刀身へと走らせ雲間を断絶しながら大上段からカズマ目掛けて振り下ろされる。 そして衝突する―――拳と剣! ………勝敗は瞬時についた。 一瞬の拮抗を見せ青の炎を展開する刀身の色が橙色に変わり押し止るも………それも所詮は一瞬。 抹殺のラストブリットは逆転閃光カットに押し負け、そのままカズマは振り下ろされる剣の衝撃に弾き飛ばされ、地面へとクレーターを作って叩き落された。 「―――カズマッ!?」 「あ、駄目です! 危ないから前へ出ないで!」 その光景を遠目に見ていた君島は、相棒の敗北に彼の名を叫び驚きながら咄嗟に助けへ向かおうと走り出そうとするもスバルに抑えられて阻まれる。 「離せ! 相棒のピンチなんだよ! 俺が助けに行かなくて―――」 「自惚れないでください! 今の貴方が行って何が出来るんですか!?」 振り払おうと怒鳴りつけようとした君島のその言葉も、更に上回る声量でのスバルの一喝と力を更に強く込められて取り押さえられたことで不発に終わる。 むしろ君島としても先程からとは打って変わったスバルの怒りとその勢いに戸惑い………そして何より言われたその言葉の内容にショックを受けてもいたのだ。 自分が行って何になるのか? 事実、その通りだ。 勢いに任せてカズマの元へ駆け寄ったところで、そこから先に何が出来るわけでもない。 担いで逃げることなど、あんな巨人の前には不可能だ。代わりに抗戦などそれ以上に論外。 ………結局の所、ただの人間でしかない君島邦彦には何も出来る事などない。 ………そう、何も、無いのだ。 けれど――― 「………でもよぉ………それでもよぉ―――」 ―――それで納得して、諦められるはずがない。 力も無い、アルターも持たない。 勝てっこなければ、向かったところで邪魔にしかならない。 ………分かっている。そんなことは悔しいほどに既に経験済みだ。 それで自分は一人逃げ出して、寺田あやせを助けることもできなかったのだ。 あの時の己への無力感………やるせなさ………そして怒り。 ああ、忘れられるはずなど無い。 だからこそ―――もう腹を括ったのだ。覚悟を決めたのだ。 カズマの相棒として、逃げずに、振り返らずに、最後まで一緒に戦ってやると。 その約束を反故にして、今度こそ相棒も救えずに逃げ出してしまえば………それこそ君島は本当に自分自身を許せなくなる。 だから――― 「出来る出来ないじゃねえんだよ………やるんだよ! やるしかないんだよッ!」 そう叫び、力の限りスバルを振りほどこうと君島は足掻く。 相棒を………カズマを助けに行く為に。 だがそれをスバルは必死に阻止する。 絶対に離すわけにはいかない、そんな思いも顕に抵抗する君島を力づくで抑えつけ続ける。 当然だ、どう考えても彼がやろうとしていることはただの無茶だ。勇気でも何でもない、生命を粗末にするだけの無謀な行いを許せるはずが無い。 災害救助で人の命を守る陸士としても、機動六課の一員としても。 そして………無茶は駄目だと教えられた高町なのはの教え子の一人としても。 君島邦彦が断行しようとする無謀な行いをスバル・ナカジマは許すわけにはいかなかった。 だが同時に、スバルとて君島の気持ちが分からないわけではない。 それもそうだろう。今の彼の状況を自分と置き換えて見れば、自分もまた彼のような行動に本当に出ないかどうかなど分からない。 だからこそ、たとえその無謀を許せずとも理解が出来ないわけではいないからこそ君島を力づくで押さえつけていることに対して良心が痛む。 (……私は……どうすれば………?) それこそ誰でも良いので、迷い無い答えを教えて欲しいと切に願わずにはいられなかった。 そうして外野がそれぞれの信念と主張で行動しようとしている最中で、当の中心である彼らの戦いは一応の決着がついたと見てもよかった。 グレートピンチクラッシャーは無敵のヒーローの名に違わず圧勝、敗北したカズマは地面にあけたクレーターの中に倒れ、シェルブリットも既に解除されている。 「やったぞ、ピンチ! 僕のためなら君はどんな時でも助けに来てくれる。どんな敵でも倒してくれる。これで市街の永住権が貰える! 全て君のお蔭だ、ありがとう!」 この結果に満足するように小躍りしそうなほどの上機嫌で己のアルターを見上げながら叫ぶエマージー。 勝利者として君臨し、任務達成と待っている報酬への期待と喜びで彼の気持ちは一杯となっていた。 だが――― 「……ふ…ふざけん……なって…の……ッ!」 そんな中、それでも再びしぶとく立ち上がる男が一人―――無論、カズマである。 ボロボロでふらついた足元もあやふやな状態で、しかし隠すことも無い苛立ちも顕にエマージーへと睨みを叩きつけ、カズマは吼える。 「助けられるのが、そんなに嬉しいか!?」 気に入らない……あぁ、酷く気に入らない。 理屈や理由などの云々を抜きにしても、ただ只管にカズマはエマージーが気に入らなかった。 「助けられて何が悪いのですか?」 だがエマージーからしてみれば、そんなカズマの吼えて噛み付いてくる態度すら、その問いと同じく理解不能だ。 当然の如き解を当然の疑問として言ってくる相手の言葉など理解できるはずも無い。 少なくとも、エマージーの価値観からすれば………。 「……何かに頼ってる奴は、何も出来ねえんだよぉ!」 そう言いながら一歩一歩と再びグレートピンチクラッシャーへと向けて歩き出すカズマ。 そのボロボロの身体で、最前にあそこまで決定的に敗北しておいて尚、まだ諦める心算もないと見せ付けるかのような行動である。 「う~ん、素晴らしい演説をありがとう。………しかし、そんなピンチっぷりで君は何を成し遂げようというのですかねぇ?」 パチパチとふざけたような拍手と笑みで啖呵をきったカズマへと返答するエマージー。 今更カズマがどれだけ居丈高に吼えようが、所詮は無駄なこと。勝負は既についている。 グレートピンチクラッシャーが存在する限り、自分は負けない。無敵のヒーローがこんな野蛮人如きに負けるはずが無いのだとエマージーは信じて疑わない。 だがそんな勝手な決め付けに反逆してこその反逆者。 ましてここまで虚仮にしてくれたムカつく野郎ならば尚のこと。 こんな甘ったれた野郎と、そんな野郎を護って無敵だとか謳っているヒーローだけには死んでも負けてなどやるか。 そんな思いが、カズマを再び突き動かす。 「へ、分かってねえな。一方的に縋ってるテメエは、過去に縛られてるテメエは、実は何も掴んじゃいねえんだッ!」 だからこそ―――その相手の温いまやかしをぶち壊す。 この自慢の、俺だけの拳を持って―――ッ! 「見せてやる! 俺の……この俺の―――決意をッ!」 瞬間、カズマのその叫びと同時に彼の周囲の物質が音を立てて消滅。 否、これは彼が纏う虹色の光が証明しているように分解による再構成―――アルター能力の発動である。 先程敗れたシェルブリットではなく、その上、その先にあるあの力を引っ張り出してくるためにカズマは右手を掲げ咆哮を上げる。 「もっとだ!」 そうまだ足りない。 「もっとだ!」 まだ足りない、更に上がある。 「もっと―――ッ!」 限界など定めるな。あの時のように、あの女と真っ向からぶつかり合ったあの時のように。 「もっと……輝けぇぇぇええええええええええええええええええええ!!」 ただ只管に、反逆の信念をこの拳へと掻き集めろ。 カズマの叫びと同時、虹色の輝きは集束し光を増し、その色は煌かんばかりの黄金へと進化していく。 「あの光は………ッ!?」 「あれは………あの時の」 その光景を君島とスバルもまた確認すると共に呆然とどちらからともなく呟きが漏れる。 知っていた、あの輝きを両者共に以前目にしたことがあった。 君島にとっては、あの日カズマと共に戦いぬくと覚悟を決めた切っ掛けともなった黄金の輝き。 スバルにとっては、真正面から自分の全力全開を破られたあの自身では届かなかった悔しさを憶えたあの輝き。 両者共に、その再びの輝きの顕現にもはや言葉も無く呆然と見せられるしかなかった。 「……アレが例のやつか」 そしてヴィータもまた遠目からその輝きを確認しながら、思わずそんな事を呟いていた。 グレートピンチクラッシャーに殴り飛ばされ、不覚にも瓦礫に埋もれて意識が飛んでいたのを慌てて覚醒と共に跳ね起きて戻ってくれば目撃したのがソレだ。 一目で分かった、アレがあの男がなのはの魔砲と渡り合うために使用した切り札だと。 或いは、この時不覚にもヴィータもまた無意識の内に魅せられていたのかもしれない。 あの男が……カズマが放っているその輝きに。 「……な…何ですかソレは!? き、聞いていない私は!?」 慌てふためき叫び取り乱すエマージー。それも無理なかった。こんな事態、相手が隠し玉を持っているなどジグマールからは任務を下知された際にも聞いていなかったのだから。 しかもそれが、本能的に恐怖を喚起させられる決定的なものともなれば尚更だ。 アレは間違いなく危険だ、限りなくデンジャラスなピンチをもたらす危険なものだ。 嫌だ、そんなものなど相手になどしたくない。 だがエマージー・マクスウェルの側がそうどれだけ思おうが、既にカズマには関係ない。 準備は整い、解き放つことを今更やめる気など更々無いのだから。 「これがッ………掴んだ力―――」 だからこそ、そう叫びながらその右腕を眼前に掲げてカズマは相手へとコレを打ち込むべくその動作へと移る。 「だ、駄目です! た、助けて! グレートピンチクラッシャァァァアアアアアア!!」 だからこそエマージーはそれを阻止すべく、己にとって最後の希望の砦たる無敵のヒーローへといつものように頼る。 紅のヒーローは主の助けに応じ、カズマを排除するべく動き出す。 カズマの方もまた右腕の甲が開き、拳に凄まじいエネルギーと輝きを集束させながら、背の尾をローターのように回転させて浮上を始める。 「―――シェルブリットだッ!」 己が誇る、己だけの自慢の拳、その力の名を宣言すると共に巨人に向かい飛び立った。 真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに―――眼前の壁を打ち砕く為に。 巨人もまた迎え撃つように、その先程カズマを破った必殺剣を掲げて振り下ろしに入る。 「テメエのピンチも……これまでだぁぁぁあああああああああ!!」 「ぎゃ、逆転閃光カットッ!」 ―――そして再び激突する、拳と剣! 今度のソレは先程の比ではない衝突と、エネルギーのぶつかり合う反動を発生させ、瞬く間に発生した光は辺りの人間の視界を焼いた。 眩しさに目を眩ませる町の住人たちと君島、そしてスバル。 激突のその光景を食い入るように気づけば見つめていたヴィータ。 輝きが集束していく結果、残ったのは――― 反動を受けて弾き飛ばされ岩壁に激突するカズマ。 しかしその結果は敗北ではない。それどころか、むしろその逆。 カズマが弾き飛ばされたのとほぼ同時、崩壊を始めるように崩れていく紅の巨人。 その光景は間違いなく、剣で受け止めた先を越えてダメージが浸透していた証拠。 それでもそれは無敵のヒーローの矜持なのか、崩壊していく紅の機体を乗り捨てるように中からスーパーピンチクラッシャーが飛び出して脱出する。 だがそこに駆け抜ける閃光のような赤い影。 「言ったろ、“鉄槌の騎士”を舐めるなってなぁ!」 往生際の悪いヒーローへとトドメの一撃を振り下ろしたのは、吹き飛ばされていたのを戻ってきたヴィータだった。 先の一撃のお返し、借りは返すと言わんばかりに振り下ろした巨槌は今度こそ頭頂から巨人を粉々に粉砕して見せた。 最後の希望の砦たる、己の無敵のヒーローが砕け散っていく様を見て呆然となったのは言わずもがなエマージー・マクスウェルである。 「……そ、そんな……無敵の、ヒーロー……僕のヒーローが!……誰か、誰か、僕のヒーローを―――ッ!?」 アルターの顕現の証だった腕時計が消滅し、取り乱しながら後ずさり狂態を曝け出し始めた彼を次に襲ったのは、皮肉にも敵対したカズマでもヴィータでもなかった。 それは上空から、先のカズマの一撃で弾き飛ばされていた彼のヒーローの剣。 ラストチャンスソード。どんな崖っぷちのピンチすらも切り抜ける己の無敵のヒーローが扱う必殺剣。 それが己の眼前へと落ちてきて、地面へと突き刺さり、足場を砕き自分を崖底へと落としたのだからなんと言う皮肉だろうか。 “崖っぷちのマクスウェル”。数多のピンチを乗り越えてきた彼も今度という今度はその崖っぷちを乗り越えることも出来ず、絶叫を上げながら崖の下へと落下していった。 だが岸壁の欠片と共に落下していく彼を海に落下する前で間一髪に駆けつけて拾い上げた影が一つ。 「……テメエみたいな奴でもな、やっぱ死なせられねえしな」 そう疲れたように、諦めたように溜め息を吐いて呟いたのはヴィータだった。 ショックで気を失っている彼を担ぎ上げながら、外道といえども見捨てられぬ己の甘さにヴィータは呆れてもいた。 まぁ、管理局員としては間違った行動をした心算もないし、八神はやてに仕える誇り高き守護騎士としても、選ぶべき行動だったのは分かっている。 「けど結局ぶっ飛ばした相手を自分で助けてたら……ほんと、何しにやって来たのかも分からねえな」 難儀な選択をしてしまったものだと反省しながら、飛び上がり空中から眼下を見下ろし件の男を発見する。 こちらが見下ろすのと同様に、あちらもまた睨み付けるようにこちらを見上げていた。 「……今日のところはここまでだ。けど……次会った時は容赦しねえからな」 小さく漏らしたこの呟きは相手にまで聞こえない。だが別に良い。これは単に自分自身にも言いきかせるように言った言葉に過ぎない。 変な成り行きで結果的に共闘なんていう虫唾も走るようなことをしてしまったが、眼下の男が基本的に自分にとって、否、自分たちにとって敵であることは変わらない。 だから今度は打ち砕く、必ずに、例外も挟むことなく。 改めてそう決定しながら、ヴィータは念話でスバルを呼び出し帰還をするように促がす。 今回ばかりは任務失敗、責は己が背負う。だが高くつく貸しだと相手へと思い知らせる為に最後にヴィータは思い切り息を吸うと共に叫んだ。 「次は必ずテメエをぶっ飛ばす! 良く憶えときやがれ!」 叫んだ後に気づいた、これでは自分の方が捨て台詞を残して撤退する三流小悪党のようだ、と………。 ヴィータから念話での撤退指示に促がされ、スバルは未だ捕まえていた君島から漸くに手を離し、その行動へと従うことにした。 「……すみませんでした。色々と」 結果的には間違っていなかった、自分の行動を振り返ってみてもそう思いたかったスバルだが、それでも口から出たのは君島に対しての謝罪の言葉だった。 一方で、君島の方が逆に彼女から謝られ驚いている始末でもあった。確かに結果的に相棒を助けに行くのを邪魔された、だがそれでもそれによって自分の命が助かったのも事実だ。 冷静になって振り返ってみてもスバルの行動こそ正しく、自分が彼女を責めることの出来る謂れなど何処にも無い。 それを認めねばならないと思ったからこそ、君島はそのまま頭を下げた後に背を向けて去っていこうとしていたスバルへと呼び止めるように言葉をかけていた。 「スバルちゃん!」 名を呼ばれスバルは恐る恐ると言った様子で背後の君島へと振り向いた。 もう話す事も何も無いのに、それに邪魔をした自分に対して今更何を言うことがあるのかと疑問も抱いていた。 恨み言や罵倒だろうか……これまでの人生で直接そう言った言葉を殆ど受けたことが無い彼女にとって、一時とはいえ信頼し協力し合った相手からソレを向けられるのは多少の覚悟はあれどやはり辛かった。 だが己の立場としたことを思い返し、それを受け入れるのも仕方の無い事だろうとはスバルも諦めの境地と共に受け入れていた。 だが――― 「―――ありがとな、色々と助かった。感謝してるよ」 思ってもいなかった言葉が君島より返ってきたことに、それこそスバルは驚いた。 自分は仮にもホーリー、彼はそれに反逆するインナー。 そんな間柄であるというのに感謝の言葉を言われるだのとは思ってもいなかった。 或いは、この世界に来て初めて向けられた感謝の言葉だっただけにそれに対する衝撃も大きかったのかもしれない。 ……そう、初めてだった。 初めて、この世界に来て初めて……誰かから「ありがとう」等という感謝の言葉を言われた。 ずっとそんな言葉とは無縁な任務ばかりをこなし、それに疑問と迷いを大きく抱いていただけにその言葉は――― 「………ありが…とう……ございます……ッ」 ―――他の何よりも強く、彼女の心の内へと響いた。 震える声と潤む視界を見せるのを恥かしく思い、そのまま脱兎の如く君島の元より去るために駆け出すスバル。 背後からは君島の声がまだ何か聞こえていたような気もするが、それに応えてもいられなかった。 ただただ気恥ずかしさとそれをも上回る嬉しさが今のスバルの思いの全てであり、救いでもあった。 「……マッハキャリバー、私……ありがとうって言ってもらえたよ……」 滑走する己が相棒へとただ嬉しそうにスバルは語りかける。 漸くに、人を護り救うという彼女自身が願った本来の仕事を果たせた気がした。 相棒のその気持ちの昂ぶりを理解したのか、マッハキャリバーもまた何処か嬉しげな音声をもってそれに応えていた。 『良かったですね』 「……うん、本当に……嬉しかったよ」 君島邦彦に救ってもらった恩義のようなものを感じるのと同時に、また彼とはいつか会い、この恩を返したいとスバルは強く願った。 そう……願わくば、今度は互いに争い合う敵同士としてではなく………。 あっという間に去っていったスバルに何処か呆然としながらも君島は漸くにそこから正気に戻った。 「……俺、何言っちまってたのかね」 自分でもまさか敵に感謝の言葉を言おうなどとは呆れる他無い。 「……でも助けてもらったのも事実だしな」 実際、かのエマージーがばらまいた爆弾玩具の回収とて、町の住民に信頼されていたスバルの協力がなければ、これ程までにスムーズに手早く成功することもなかっただろう。 それにあの巨大ロボットとカズマたちが戦っている最中にだって彼女は自分を含め町の住民たちを戦闘の余波に巻き込まれるのを防ぐ為に頑張ってくれていた。 まさに命の恩人のようなことをしてくれていたのも事実だった。 ならば自然と、たとえ敵であろうとも感謝の言葉を告げてしまっても仕方の無いことだろうと君島は自分へと言い訳した。 「……カズマに言ったら殴られそうだな」 それはゴメンなのでその辺りのことは黙っておくかと君島は決めた。 そこで先程まで安否を気遣っていた相棒の事を漸く思い出し、君島は彼がいる元へと慌てて駆け出していった。 まったく今日は走ってばかりだ、そんな事を愚痴のように思いながら。 そう考える一方で、やはり思っていたことが一つだけあった。 (……スバルちゃん、か。………また会えるといいかもな) たとえ敵対関係であれ命を救われたのもほぼ事実。感謝の言葉を返しはしたがそれだけで借りを返せたとも思っていない。 ロストグランドに住み着く一介の無頼の一人としても、出来てしまった借りを返さぬままでいるということは据わりが悪い。 今度は出来るだけ穏便な状況で、出来れば敵対せずに何がしかの借りを返したいものだと君島は彼女との再会を願ってもいた。 「何て事をッ!」 そう怒鳴りながら桐生水守はその手を勢い良くデスクの上へと叩きつける。 その鬼気迫る相手の様子すらジグマールは涼しげに見ているだけである。 実際、水守にヘと突きつけた本土の所業……ひた隠しにしてきた彼女たちが求めていた『真実』とやらの提示。 その結果、彼女がこうやって激昂するのは目に見えていたことではあった。恐らく、この場に高町なのはが同席していたとしても同様の反応を示しただろう。 それは人間が持つ倫理観としてはむしろ肯定されるべき当然の反応。潔癖な水守たちが不快や憤りを顕に示したところで何の可笑しさも無い。 むしろこの真実を隠し、本土のやり方を受け入れている自分たちのような者こそを彼女たちだけでなく良識ある者ならば非難すべき対象と捉えるだろう。 「私はこの情報を公開します! 人には侵してはならない聖域があるのですから!」 それを当然の義務とでもするように、そしてこちらを外道そのものだと認識するように高らかに言ってくる桐生水守。 何とでも言えば良い、そう思う一方でやはり彼女たちでは駄目だとジグマールは結論付けていた。 能力の高さは認める、その気高き志にも敬意を表しよう。 人間としても……ああ、実に君たちの方が正しい。 だが――― 「………聖域?」 クククと嘲笑うように滑稽なその表現を呟き返しながら、ジグマールは瞬時に次の行動へと移っていた。 一斉に部屋のブラインドが下がると共に明かりが消える。 その異常事態に水守が反応するよりも早く、暗闇の向こうから巨大な手が五つ、一斉に彼女へと向かって飛んで来る。 水守の悲鳴が室内へと響くがそれだけだ。所詮は学者として優秀な頭脳を持とうが彼女自身はアルター能力を有しているわけでもないただの小娘。抵抗すら出来ない。 五つの巨腕に身体を拘束され、もはや水守には為す術も無かった。 それを冷厳と見下ろしながら、ジグマールが思ったことはたった一つだ。 ―――無様なものだ。 ただそれだけである。 人道を説き、倫理の尊さを指し示し、正しき人であろうとしても、そんなものはこうした明確な暴力の前ではまったくの無意味でしかない。 桐生水守は漸くに、身をもってそれを学習することになっていた。 どちらが正しいか、尊く思われるべきかなど此処では一切関係ない。 彼女の思い違いはたった一つであり、そしてそれは致命的な間違いでもあった。 此処がそれらの認識など何の価値も持たぬ無法の大地であるロストグラウンドであるということ。 それを忘れているのではないかとジグマールは思った。 だがこれで漸くに理解してくれただろう。 君たちの正しさや尊さなど、所詮は身勝手な単なる無意味で無力な善行に過ぎず。 そしてそんなものでは……何一つ、この大地を救うことなど出来はしないのだ。 「公開などと……もはやその青臭さは了承も承諾も出来ない」 そのようなことをされては、それこそロストグラウンドの……否、自分が護ろうとしてきた者の命運すらをも暗礁へと上げかねない。 そのような蛮行、このマーティン・ジグマールが許してなるものか。 「ご存知ですか? 本土こそ、アルター使いを人として見ていないのです」 そう、本土出身である彼女や、ましてや異世界の魔法使いでしかない高町なのはなどには決して分かりはしない。 ジグマール自身がアルター使いという名のモルモットとして受けてきた、あの過去がどれ程悲惨であったかなどと。 そして人としての権利すらも剥奪され、物の様に扱われていく同胞たちの無念と苦しみなど。 そして……己や愛する者もまた決してそこから逃げ出すことすらも出来ない地獄の歯車の一部でしかないことなど。 ……こんな小娘たちに、分かるはずが無い。 故に、理解も納得もいらない。 彼女たちに望むことはたった一つ、自分の邪魔をするな、ただそれだけである。 邪魔をして立ち塞がるというのなら……それはもはや敵でしかない。 そして敵だというのなら、排除することにすら自分は些かの痛痒すら抱かないであろう。 「だから私は、どんな手段も厭わない」 それがホーリーの……引いてはマーティン・ジグマールが在るべき在り方。 「―――私が、ホーリーであるために!」 勝ち続けることしか許されず、いつか救われるべき道も其処にしかないのだから。 故にこそ、こんな小娘たちはおろか、それら取り巻く全てにすら負けるわけになどいかないのだ。 敗北など、決して許されないのだから。 圧倒的な意志を元にそう告げてくるジグマールに水守はただ気圧されていた。 ダースたちのアルターに拘束され、周りをいつの間にかジグマールの腹心であるイーリィヤンや常夏三姉妹に囲まれ、万が一にも脱出できる可能性も皆無。 そこで漸くに水守は、己がまさに飛んで火にいる夏の虫の言葉通りになってしまったことを自覚した。 (……高町さん……ッ………劉鳳……ッ) 自分が信頼し想いを寄せている者たちへと助けを求めるような思いを感じるのと同時に、なんとか彼らへとこの自分が掴んだ情報を届けられないかと願った。 あの二人ならばこれを知ってくれればきっと………。 だが何の力も持たない水守には、この状況をどうにかするかなど絶望的なまでに不可能な所業。 もはや捕まった自分に未来は無いのだろうと、何となくではあったが確信できてもいた。 最後に、開いていた部隊長室のドアが閉まる。 これにより完全に外界から孤立し、助けの芽も潰えて水守の希望は儚く散った。 これが真実を知ってしまった代償かと思いながら、水守はただロストグラウンドに住む者たちの命運を最後まで祈り続けた。 その日、ホーリーから桐生水守は忽然とその姿を消した。 次回予告 第5話 ストレイト・クーガー 事実を知ることが悲しみであれば、騙されているのが幸せの時もある。 真実を知った女……桐生水守。 彼女が獄中で想いをはせるは――― クールで、いなせなあの男。 アルター使いの……あの男。 目次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3108.html 前へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3157.html 次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3151.html
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/139.html
デアボリック・エミッション 非物理破壊型の純粋魔力攻撃。自身を中心とした空間を威力で満たす広域攻撃であり、さらに効果空間内でのバリア発生阻害効果を持つ。 回避行動のためには効果空間内からの離脱以外に方法はなく、全身を覆う球状防御はバリア発生阻害によって妨害される、性能の高い広域攻撃である。 広域攻撃 「広範囲に渡って威力を発生させる攻撃」の総称だが、遮蔽物に遮られることなく、射程内の空間を効果で満たす性能を持つものが優れた広域攻撃と呼ばれる。 通常の魔力攻撃は原則として効果方向に対して直進しようとするベクトルを持つため、遮蔽物を利用した回避がある程度有効となるが、 魔力資質「広域攻撃」適性の持ち主は、魔力を水や空気のように効果空間内に満たす運用を得意とする。 闇の書の意志の魔力資質はまさしくそれにあたり、広範囲に広がった複数対象に対する殲滅能力に優れる。 ラウンドシールド デアボリックエミッション発動前のスフィアの時点でバリア発生阻害の性能を看破したなのはが、 バリアではなくシールドによって直接的な威力を防御、シールド面を広く取り、ソニックフォームによって防御が薄くなっており、 直撃に耐えられないであろう保護対象・フェイトの直前に入ることで「回り込み」の直撃もかろうじて防いでいる。 防御に対するなのはのセンスが垣間見える、瞬時の行動選択である。 バリアジャケット換装 機動力に優れる半面、防御があまりに脆いソニックフォームに対して、機動性と防御性能のバランスの良いライトニングフォーム。 二種類のバリアジャケットを戦闘中に切り替える選択をしているのは、ソニックフォームがいまだ危険な、未完成形態であることの証でもある。 チェーンバインド 魔力で生成した鎖を伸ばして相手を捕らえる拘束魔法。発生や伸長の速度は速くないが、捕らえた際の拘束力は強い。 ディバインバスター・エクステンション 最大射程と弾速に優れるなのはの砲撃。優れたバリア・シールド貫通力を誇る、なのはの主砲の一つ。 プラズマスマッシャー 発射速度と威力に優れたフェイトの砲撃。次の攻撃のための布石であり、同時に防御の上から相手の魔力を削ることも視野に入れた調整となっている。 パンツァーシルト 魔法陣を盾として使用する、ベルカ式の対魔力防御の基本形。両手での二枚発動は高位の技術となる。 バインドブレイク ミッド式のバインド破壊魔法。自身を捕縛する拘束魔法の術式を解析して開放処理を施しつつ、適正な強度まで拘束が弱まった時点で強引に破壊する。 破壊するための魔力の大きさやこの魔法自体の練度が破壊までの速度を決する。 高位の術者同士の戦闘において、バインドは状況を決する決定力ではなく攻撃補助選択肢の一つにとどまってしまうのはこの魔法が存在があるため。 ブラッディダガー ロックオン式の自動誘導型射撃魔法。着弾時炸裂の効果を持つ魔力を込めた鋼の短剣を、複数同時に設置・発射する。 発動後制御の性能を持たない自動誘導型はジャミングや誤誘導処理に弱い欠点を持つが、視認が困難なほどの弾速がその欠点を補っている。 また、弾体の遠隔設置も可能となっている。 スターライトブレイカー なのはの最大砲撃魔法。周辺の魔力を収束、巨大な魔力弾を形成・発射する魔法で、物理破壊を伴わない純粋魔力攻撃。 収束技術を持たない闇の書の意志は、なのはと比較して収束に時間がかかっているが、魔法資質「広域攻撃」によって、 高レベルの着弾拡散・遮蔽物への威力の回り込み性能が付与されている。 危機回避 フェイトはかつて一度、なのはのスターライトブレイカーの直撃を受け、撃墜させられた経験がある。 中距離戦での絶対的な威力に特化しているSLBは距離による減衰が比較的早いため、距離を取ることで回避・防御を少しでも容易にしようというフェイトの選択である。 ディフェンサ―プラス フェイトの防御魔法。膜状のバリアを発生させる。今回は拡散魔力に対する完全防御のため、半球形で発動させている。 さらに前面でラウンドシールドを展開しているのは、威力がディフェンサーに接触するのを少しでも避けるため。 防御出力の高くないフェイトだが、カートリッジを使用し、身体に負担をかけながらの懸命の防御である。 ワイドエリアプロテクション 広範囲に防御面を発生させる、なのはの広域防御魔法。カートリッジを二発使用している。 最前列で広い防御面を展開することで、全面集中防御と背後への回り込み防止を両立させている。 遠隔転送 艦船の魔力炉を使用しての、転送ポートの発生。局員の移送などに使用する。 ジャケットパージ 通常のジャケット換装と異なり、バリアジャケットを構成していた全魔力を瞬間的に開放、周辺の空間に衝撃とバインド破壊の効果を持つ魔力攻撃を行う。 瞬間的に完全に無防備な状態になること、ジャケット構築には再度の魔力消費を伴うなど危険も大きい。 ソニックムーブ 旧ブリッツアクションに相当する、フェイト自身の瞬間高速移動魔法。 ソニックフォーム時は発動プロセスなしにシームレス起動が可能となり、旋回・急停止を含む超高速機動を可能とする。 吸収 眼前に展開した魔法陣に接触した対象を、捕獲空間に転送して閉じこめる複合魔法。 結界・ケージ破壊が可能な術者であれば捕獲空間からの脱出自体は比較的容易だが、それにはある条件が伴う。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3157.html
「……どういうことだよ?」 「どういうこととは何ですか、ヴィータさん」 「惚けんな。そりゃああの場で即座にドンパチって訳にはいかなかったけど、それでもアイツと話し合うなんざこっちは聞いてねえぞ」 そう不満も顕に詰問するヴィータにしかしエマージーは相変わらずの態度のまま、 「まぁまぁ、落ち着いてください」 等と宥めすかそうとでもしてくる始末だ。 尤も、そんな相手の態度には乗れないのがヴィータだ。こちらとしては最初から戦闘を当然と念頭に置いてやって来ていたというのに、それこそいきなりのお預けだ。 「ジグマール隊長の特命だか何だか知らねえが、あたしたちには関係ないだろ」 それがヴィータの本音だった。いいからつべこべ言わずにアイツをぶっ飛ばさせろというのがヴィータの望みだ。 だいたいあの手の猛獣が話し合い等と言ったものに応じる可能性自体が皆無に等しいなどというのは火を見るよりも明らかだ。 凶悪犯罪者なのだから問答無用で捕まえればいい、実力行使は相手だって望むところのはずだ。 「……それとも何か、あたしがアイツに勝てないとでも思ってるのか?」 それこそこの部分に最大限のドスを利かした問いに、エマージーは滅相も無いと慌てて首を振ってくる。 舐められている、先のカズマの侮辱発言から以降どうにも苛立ちが治まらないヴィータにしてみれば、この現状は総じて茶番だった。 しかし――― 「まぁ落ち着いてください、ヴィータ副隊長。……それに私も賛成です、話し合って解決できるならそれに越したことはありませんよ」 スバルまでもが何故かエマージーのこの行動に賛同を示してくる始末だ。 はっきり言って訳が分からなかった。話し合いで解決できる? まさか本当に本気でスバルはそんなこと思ってるんじゃないだろうな。 話し合い云々以前に、話し合いそのものがまともには成立し得ないだろうことは目に見えている。それはあの男と唯一以前直接戦っているスバルが一番予想が付いていることではないのだろうか。 ……やはりスバルも何処か変だ。そんな咬み合わないズレのようなものを否応にも感じざるを得ない。 「此処は私に免じて任せてはもらえませんか? ええ、必ずや上手くいく結果をたたき出してみせますから」 私のプライドとピンチに懸けて、と少年たちに見せたのと同様の言葉と笑みを自信たっぷりに示してくるエマージー・マクスウェル。 無論、子どもたちと同じようにキラキラと希望に満ちた視線をヴィータが見せるはずもないのは明らか。 だが「ヴィータ副隊長」等と促がし説得してくるスバルのこと、そして一応は正真正銘のジグマールからの特命であるエマージーの行動を無碍にすることも出来ない。 「…………四面楚歌、か」 実に面白くない、そしてそれ以上に歯痒い。そんな苛立ちも顕にした舌打ちを吐きながらも、結局此処は自分が折れる以外に道は無かった。 チラリと背後のこちらの後を付いてきているカズマを見る。 なのはをおかしくした、誑かしている元凶。 自分たちの絆を脅かそうとしている明確な自分にとっての敵。 漸くに、目の前に現れ手を伸ばせば届きそうなところで手出し禁止など……。 実に歯痒く、そして他の何よりも無念だった。 畜生、そう今は憎々しげに睨み付けることしか出来ない。 これでは自分は本当に何の為に来たのか、それが彼女には本当に分からなくなってきていた。 「あぁ素晴らしい、懐かしい。私も元々はこちら側で生まれ育った人間ですからね、色々なことを思い出しますよ」 そんなことを呑気に言ってくるエマージー・マクスウェルをカズマは知ったことかと苛立たしげに睨み付ける。 先の町より僅かばかり離れた場所、かつては川を繋ぐ高架の残骸の先端にて対峙し合うカズマと君島、そしてホーリーの連中。 それこそ今にでもゴングを鳴らして喧嘩を始めたい、その一心以外にはカズマには無いと言えた。 「ウダウダ言ってねえでとっとと出せよ! テメエのアルターを!?」 そう怒鳴り拳を強く握りこむ。こちらはいつ始めようと構わない。むしろ御託なぞウンザリだった。 だが殺気と怒気の敵意を凄まじいブレンドで発するカズマを見てすら、エマージーのその余裕は崩れる素振りもない。 「私が戦う心算は毛頭ありません。分かりますか? ホーリーと言っても様々な人間がいるのです。そう……例えば、貴方が身体を洗う時、奥の御仁と同じ順番で洗いますか? 答えは違う、ずばりノゥです」 そう言って気取った態度で髪を掻き揚げるエマージー。非情に不愉快且つ下らない言葉遊びだ。 因みに、奥の御仁とはエマージーから見てカズマの背後にいる君島を指している。 「……つまり、アンタはインナーを無理矢理連れて行ったりしないってことか?」 信用できないといった態度を隠そうともせずに疑問を口にしたのは君島邦彦である。短気で話し合いそのものに不向きなカズマの代わりに口を挟んだのである。 「はぁい。確かに我が隊にはその手の人間が多い。大変憂慮しています、遺憾の極みです」 白々しい台詞を続ける相手に、カズマの苛立ちは益々募っていく。 しかも相手のその慇懃無礼な態度はソレをわざと増長させているようにしか思えない。 カズマと君島がそう思っていたのと同様に、それはヴィータとスバルもまた思っていたことだった。 どうにも雲行きが怪しい、これは説得とやらを兼ねた話し合いではなかったのか? これではエマージーがただ徒にカズマを挑発しているようにしか見えない。 このままでは遠からず、それこそ直ぐにでも相手がキレだすのは目に見えている。 そして、そんなヴィータの予感は見事に的中する。 「……しかしながら、カズマ君のような駄目人間もインナー側には多い―――」 ―――瞬間、飛び出したカズマの拳が見事にエマージーの頬を殴り飛ばす。 「ッ!? エマージーさんッ!?」 「エマージー!?…………てんめぇ……ッ!?」 先に挑発したのはエマージーの方だ。その非は充分にある。 だがしかしながら、それでも一応は仲間である対象が敵対する相手にいきなりの暴行を受けたのだ、これを黙ってはいられない。 それこそヴィータもそしてスバルもまた思わず飛び出そうとした。 しかし、それをエマージー・マクスウェルは手振りで制す。 問題ない、貴女達は下がっていてください、と……。 「誰がクズだってぇッ!?」 それこそ相手を殴ったことすらなんのその、苛烈な怒気も顕に真正面から相手を睨みつけ怒鳴り散らすカズマ。 だがエマージーは殴られた頬を擦りながらも相変わらずの態度を崩す素振りも未だ見せない。 「う~ん、言葉より先に手が出るとは正にこのこと。しかしながら、ぜぇんぜん効きません」 「んだとぉ!?」 それこそもう一発ぶち込んでやろうかとカズマは怒りも顕に拳を握り固める。 「良いですか、考えてもみてください。このロストグラウンドはまだまだ未開発です。しかしながら、貴方のようなその場の快楽のみを追求して生き続ける何の生産性も無いカッコつけのクズが―――」 そこで再びカズマの拳がエマージーの頬を殴り飛ばす。 「誰がクズだってぇッ!?」 二度目の挑発に二度目の暴行、流石にこれ以上はいくらなんでも見過ごせない。 話し合いは決裂、選手交代だろうとヴィータは考えていた。 「スバル、エマージーを連れて下がってろ。後はあたしが―――」 「―――勝手なことはしないでもらいたいヴィータさん。それにこんな弱々しい拳では危機感すら感じませんよ」 だがあろうことかまたしてもそう言ってヴィータを制してきたのはエマージーだった。 しかも先程よりも今度は強い調子で、だ。 コイツはいったい何考えてやがんだ、そんな心底分からないといった態度も顕に顔を歪めるヴィータ。 だがそれ以上に傍から見ていて茶番劇だと感じていたのは君島邦彦である。故にこそいい加減に彼自身もまたウンザリして口を挟む。 「いったい何が言いてぇんだ、アンタ!?」 君島のその問いにエマージーはふむと指を顎に当てて思考するようなポーズを取ったかと思えば、 「そうですねぇ、そろそろ本題に入りますか」 やっとそんなことを口にしてきた。 先程までのやり取り、それは本当に文字通りの茶番だったらしい。 苛立ちや脱力をエマージー以外の全員がこの場で抱きながらも、しかし当のエマージー自身はといえば気にした様子も無く言葉を続けていく。 「カズマ君、もう一度ホーリーに入る気はありませんか?」 それは今更というには当然過ぎる、最も馬鹿げた言葉だった。 当然、カズマもまた「ハァ?」と言った態度を露骨に示す。 確かに以前に一度、カズマは仮初とはいえホーリーに入隊している。 それは君島からの依頼を受け、捕まったネイティブアルター達を助け出す為にだ。 そうでなければどうしてあんな組織になど加わるか、本土の犬など絶対にお断りである。 「ジグマール隊長は貴方の事を大層気にかけています。貴方がホーリーになればお友達も裕福な暮らしが出来る様になりますが?」 それが飴の心算なのだろうか、まったくもって見くびるなである。 「おい、君島」 「ああ、カズマ……コイツに言ってやれ」 以前の君島ならばこの誘いにはそれこそ「マジでぇ!?」とでも喰いついたかもしれない。 だが今の自分はそこまで落ちてもいなければ安くもない。“シェルブリット”のカズマの相棒として既に覚悟は固まっているのだ。 「テメエ、俺と俺の相棒を安く見積もってんじゃねえよ! んな誘い誰が乗るか!」 そう一蹴するカズマの言葉に君島もまたエマージーを睨みつけながら頷いた。 「答えはノゥだ! 何故なら、ホーリーのやり方が気にいらねえッ!」 我が物顔で偉そうに、何様の心算か知らないが一方的に人様の縄張りに踏み込んできて好き勝手、気に入らないなどという言葉すら生温い。 そんな本土の犬に成り下がるなど死んでも御免だ。 「第二に、あっちにはムカつく野郎どもがいるッ!」 その筆頭は言うまでも無く、劉鳳と高町なのは……あの二人だ。 嫌悪だとかそんな生温い表現ではない。兎に角、根本から絶対的に相容れることなど出来ないのは間違いない。 必ずこの手でぶっ飛ばすとも決めているのだ、これだけは絶対に変えることも出来ねば譲ることも出来ない。 「そして第三に……俺はお前をボコりたくてしょうがねぇ!」 そしてこれこそがこの場では一番の理由だ。 こちらを偉そうに見下して、あまつさえクズなどと二度も言いやがった。 ギタギタにしてやらねば、この怒りは到底治まることはないだろう。 以上の三点を以って、問答無用の交渉決裂をカズマは相手へと叩きつけた。 予想通り、結果は失敗に終わった。 考えるまでも無い、最初から分かりきっていたことではないか。 「……ふぅ、交渉決裂ですか」 溜め息を吐きながら漸くにそれを認めたエマージーを確認すると共に、今度こそ自分の出番だろうとヴィータは確信する。 何も時間の無駄でしかないあんな茶番など行わず、最初から自分に任せておけば良かったのだ。 実力行使、それこそが最も手っ取り早く且つ相手も賛同する方法だったろうに。 ……まぁ、今更グダグダと余計なことは言うまい。 兎に角、これで漸くあの男を……自分たちの敵を排除できるのだ。 それを今から確実に行うのだ、それ以外はこの場では全て余計なものでしかない。 「エマージー、下がってな。スバルはそいつを護っとけ」 そう言いながら前へと出るヴィータ。それをカズマは胡乱な眼つきで睨む。 「あん? 餓鬼、テメエがやる気なのか?」 「誰が餓鬼だ!? あたしはテメエよりも年上だッ!」 ヴィータのその発言にそれこそカズマと君島は驚いたように目を開く。 マジで、とその目はそんな疑問を雄弁に語っていた。 益々ヴィータの中の怒りのヴォルテージは高まっていく。本当に、ぶっ殺してやりたいと本気で思うほどに無礼極まりない連中だ。 もうこんな輩共と言葉を交わす必要は無い、それ自体がそもそも無用であり不快なだけだ。 故にこそ、後は実力行使とヴィータはアイゼンを起動させようとしたその瞬間だった。 「あぁ! 一つ言い忘れていました!」 いきなりポンと手を叩きながら思い出したように叫びだすエマージーに全員の視線が瞬時に集中する。 だがそんな見られている視線にすら満足した様子も顕に、エマージーがニヤリと笑みを浮かべる。 ……酷く見覚えのある、嫌な笑みだった。 「先程子どもたちにあげた玩具の中に、ちょっとした細工を仕掛けておいたんです」 ドクン、とエマージーが発したその言葉にヴィータは己の胸が嫌な予感に高鳴ったのを隠すことが出来なかった。 そしてそれは同様に、スバルもまた同じようであった。 「なぁに原理は簡単です」 そう言いながらエマージーは制服のポケットからスイッチのようなものを取り出す。 やめろ、そうヴィータは思った。 「この装置のスイッチを押せば」 そんなはずはない、そう強く否定したかった。 そんなことをコイツはしない。そんな無垢な子どもたちを裏切るような真似など…… 「玩具の中に入っているあるモノが」 子どもたちの笑顔が脳裏に過ぎる。 最近殺伐となりすぎて忘れていた、自分たちの原点を思い出させてくれたあの笑みを。 あの笑みを……コイツは――― 「ズッドーン」 ―――裏切るような、ことをしたのか…………? 「何だとぉッ!?」 そう驚きも顕に叫んだのは君島だった。その隣のカズマもまた怒りに満ちた眼でエマージーを睨みつける。 ヴィータはそれこそ信じられないといったように呆然と、そしてスバルに至っては顔を青くして震えていた。 「今頃両親や兄弟に貰った玩具を見せびらかしている頃―――」 それが傑作だと言わんばかりに、それこそ顕にした卑劣な笑みで言葉を紡ごうとしたその男を――― ―――瞬間、二つの衝撃が殴り飛ばした。 一つはカズマ、その相手に対して怒気どころか殺意すらも含めた拳の一撃を。 そしてもう一つは――― 「………テメエ……………………?」 「………ヴィータ……副隊長……?」 ほぼ同時に飛び出したカズマ、そして呆然とした様子のスバルが口を開く。 エマージーが殴り飛ばされたのと同時に手から零れ落ちた装置のスイッチ。 それを彼女はしっかりと受け止め、そのまま力一杯に握り潰した。 「……おやおや、どういう心算ですか?」 流石に殴り飛ばされた影響で地面に尻餅をついていたものの、エマージーの態度は相変わらずなままだった。 だが彼のその疑問に対し、彼女――― 「どうもこうもねえ…………随分と、ふざけたことやってくれたじゃねえか」 ―――“鉄槌の騎士”ヴィータはただ吐き捨てるように彼を烈火の如く睨みつけていた。 本気で怒っていた。 だからこそ、ヴィータは躊躇うことなくアイゼンを起動させそのままエマージーの腹に鉄槌を叩き込んだ。 裏切られたこと、それに感じる怒りは当たり前だ。 だがそれ以上に、ただこの男が無垢なる子どもたちを裏切っていたということが何よりも許せなかった。 本来ならばこれは許されざる懲罰ものの行いだ、その自覚は彼女にだってある。 だが知ったことか、そんな向こう見ずな怒りの方がこの卑劣な男を許すなと己を駆り立てていた。 「……テメエみたいな奴を意外にもいい奴だなんて勘違いしてたとは、あたしも随分と耄碌してたみてぇだな」 そう吐き捨てながら、ヴィータはそのままアイゼンを尻餅をついたままのエマージーへと突きつける。 「覚悟は出来てるんだろうな、クソ野郎?」 相手が戦力外通知ものの無能力者だなどは関係ない。 この男は誇り高き夜天の守護騎士の目の前で非道を行い、あまつさえそのような外道の所業に自分を加担させた。 騙されていた云々は言い訳でしかない。この失態と贖罪は己が手で晴らさねばならない。 そうでなければ仲間達に……なのはやはやてに顔向けすら出来なくなる。 故にこそ、この男は自分が処断する。 それを態度でありありと相手へと叩きつけるヴィータ。 しかしエマージーはそれにすらニヤリと笑みを浮かべるのみである。 「……何が可笑しいッ!?」 その態度が気に入らず、怒鳴りつけるヴィータにエマージーは「いえね」と再び素早くポケットからある物を取り出す。 「先程貴女が壊したのは実は偽物。本物はこっちですよ、と言いたかっただけですよ」 そう、エマージーが持っていたのは先程ヴィータが握り潰した装置とまったく同じ物であった。 それを見た瞬間、ヴィータの動きが動揺で固まる。 だがそれすら無視して横合いから駆ける影が一つ。 「君島ぁ、餓鬼どもんとこに行けぇ!」 そう、カズマが飛び出すと同時にエマージーの手から装置を思い切り蹴り上げた。 君島はカズマの言葉に快い応答を示しながら、その落下してくる装置をキャッチしてそのまま町へ向かって走り出した。 そこで漸くハッとなったヴィータはすぐさまスバルへと視線を移して声を上げる。 「スバル、お前も行って子どもたちから玩具回収してこい!」 そのヴィータの命令に青い顔をしていたスバルは漸くこちらもハッとなって頷くと、マッハキャリバーを起動させて駆け出した。 「……どういう心算だよ」 それを不審げに見送りながら、カズマはヴィータに視線を戻してそう尋ねる。 無論、こちらにもありありと不審が籠もりきった視線だった。 だがカズマのその態度にすら、ヴィータは苦笑を浮かべ肩を竦めながら答えるだけだった。 「だからどうもこうもねえよ。そんな心算は無かった、知りませんでしたじゃ済まないだろ?……だから、あたしたちはあたしたち自身で責任のケツ持ちしなきゃならねえんだよ」 ただそれだけのことだとヴィータは言った。 急げ、そう自らの足を必死に急かして走らせはするものの先日に負った傷のせいで思うようにスピードが出ない事実に君島は苛立っていた。 本土からアルター使い部隊が増援へとやって来る以前、君島は自身の持つ情報網の粋を尽くしてホーリーに対抗するネイティブアルターの連合を結成した。 ……だが結果は惨敗。集ってくれたアルター能力者たちはカズマを除いて全てが敗北し捕縛され、君島は自身の身を命からがら逃げ延びさせるのに精一杯だった。 実に情けなく、そして悔しかった。当然だろう、自分は逃げ延びることが出来だって捕まった者の中には自分が惚れていた女性だっていたのだ。 惚れた女一人守りきることも出来ず、自分だけが助かった。君島に残ったのは多大な虚無感とアルターすら持てず戦うことすら出来なかった己に対する無力感と不甲斐無さだけだった。 だからこそ、もう逃げれないのだ。あの時、一人だけ無様に生き残り、相棒に渇を入れられるまで燻っていることしか自分は出来なかった。 だがそんな自分をやはり許せず、そして相棒の何者にも屈さぬ強き反逆の姿勢に感化され、吹っ切れた。 もう自分は立ち止まれない、燻っていることも許されない。体の痛みに音を上げるなど、甘ったれた逃避でしかない。 そんな姿では、カズマの相棒ではいられない。 だからこそ、君島邦彦は走るのだ。 カズマに相応しい相棒でいる為に。そして今度こそ寺田あやせに逢った時に見捨てずに逃げ出さない為に。 走る、そう走って抗い続けるのだ。 それをテンション向上の支えとして、痛む古傷の訴えを必死に無視しながら君島は自身が出せる全速力で町へと向かう。 だがやはり遅い、これでは間に合わないかもしれない。あのクソ野郎の爆弾が今にも爆発するかもしれない。 そしてその結果として、あんな無垢な子どもたちが裏切られて命を落とすかと考えると……… 「………クソッ、これが本土のやり方かよッ!」 苛立ちの言葉と舌打ちが漏れるのも致し方ないというものだ。 だがそんな君島の独り言の苛立ちと非難に対してすら返ってくる言葉があろうなどとは本人としても予想だにしていなかったことだった。 「………ごめんなさい。……私たち、その……知らなくて……ただの玩具なんだってずっと思ってたから………」 思わず直ぐ間近で聞こえてきたその言葉に振り向いた君島は、それこそ咄嗟に悲鳴を上げるところだった。 自分と並走するようにあの以前カズマと戦っていた青髪の少女―――本土のアルター使いがいたのだ。 何で此処に、というより自分を追いかけてきたのか?………咄嗟にそう考えた君島は立ち止まって懐から拳銃を取り出すと共にそれを少女へと向けた。 「動くな!……俺があの子達から玩具を回収しようとしてるのを邪魔しようってんなら………悪いが、撃たせてもらうぜ」 アルター使いといえど人間であることに変わりは無い。アルター能力そのものは驚異的なものであることは否定しようのない事実だが、この距離でならば自分の方が相手よりも早く引鉄を引ける可能性の方が高かった。 無論、君島とてロストグラウンドに生きる一介の無頼。護身用とはいえ自らの命を守るために銃を持っているのだから、人を撃つ覚悟が無い訳ではない。 ……尤も、だからといって問答無用で容赦なく躊躇いもせずに相手の急所を撃てるわけでもなかったが。 だがこの瞬間、拳銃を相手に向けたその時から、君島は最悪の場合も予想してある程度の覚悟は決めていた。 此処で捕まるわけにはいかないのだ。相棒から頼まれているという手前、そして君島自身としてもあの子どもたちを助けたいという思いが強かった。 ……その為ならば、引鉄を引く覚悟だって決めよう。 そう相手を睨むように見据える目からも語りながら、君島は相手の様子を窺う。 並走していた少女はこちらが銃を向けたその瞬間から、こちらの警告通りに立ち止まりこちらを見ていた。 その奇妙な格好は兎も角として、相手側からの敵意や対抗の素振りはなかった。 それどころか……… 「……あ、あの……今はこんなところでこんなことやってる場合じゃないと思うんです。……私が言っても信用してもらえないのは分かってます、けど今はあの子達から玩具の回収をする方が先だと思うんです」 そう言ってまるでこちらを説得でもするような態度を見せる少女を、君島は益々疑う眼つきで見据えた。 「……ああ、信用できないね。元はと言えばあんた等が子どもたちに配った玩具だろ。今更なんでそれをあんた自身で回収しようなんてしてるんだよ?」 「そ、それは…………さっきも言いましたけど、知らなかったんです。玩具の中に爆弾が入っていたなんて!」 「知らなかったってのがそもそも信用できない。あんただってアイツと同じホーリーなんだろ? しかも本土出身だ………腹の底じゃあ俺たちインナーなんざ虫けら程度にしか思ってないんじゃねえのかよ!?」 「そ、そんなこと…………」 ない、そう言いたいのだろうがショックを受けた面持ちは震えてそれ以上の言葉を少女の口からは漏らしていない。 こちらの怒気を込めた糾弾に本気で申し訳なさを見せているように見える少女……これが本当に演技なのかどうかは正直君島にさえ判断がつかなかった。 本土出身のアルター使いで自分など及びもつかない力を目の前の少女が持っていることは恐ろしさと同時に理解している。 だというのに、この少女からはどうしてか他のホーリーの連中からは感じるようなおっかなさを感じないのだ。 それは彼女がこちらに抵抗や敵意を示していないことが要因である事は間違いないだろう。だがそれだけではない、この少女から感じる奇妙な思いはそれだけでは説明がつかない。 もっと別の理由があるはずなのだが…………今は時間が無い。少女の言葉ではないがここでもたつく時間だって勿体無い。 だからこそこの少女への奇妙な違和感に関する部分は後回しに、君島はこの場での妥協点を探し、それを相手に告げる。 「……オーケー、こんなとこで言い争っている時間が勿体無いのは確かだ。だからこうしよう、俺は町に戻ってあの子達から玩具を回収する。けれど俺じゃあの子達は素直に玩具を渡してくれないだろう。だから―――」 ハッキリと相手を真剣に見据えて君島は告げる。 これは賭けだと、この少女に対する見解の自分なりの結論を信じての選択だと自身に言いきかせて。 「―――だから、俺はあんたを信用しよう。この時だけは、な。だからあんたから子どもたちに説得して玩具を回収するように動き回る。………今はそれが一番効率が良いはずだ」 無理矢理奪おうとしたのでは抵抗に合って余計なタイムロスをする可能性だって高い。カズマがあの男を叩きのめしているだろうとはいえ、いつ爆弾が爆発したっておかしくないのだ。 回収はそれこそ速度が命の時間との戦いとなるだろう。 ならばこそ、この判断が正しいと今は信じる。どう考えても子どもたちを含めてあの町の住人の信用に関してはこの少女の方が上だ。 だからこそ、この少女に賭けようと君島は結論付けたのだ。 それに……… 「……やっぱ本土のアルター使いだろうと何だろうと、泣きそうな顔してる女の子が相手じゃあ俺がいじめてるみたいで気分良くないしな」 基本、これでも女の子には優しくが君島邦彦のモットーでもある。 良く見ればかなり可愛い少女でもある……決して下心で動かされたわけではないので悪しからず。 「……信じて、くれるんですか?」 「今は、な。さぁ、行こうぜ。お互い時間が惜しいのは共通だろう? 自己紹介は走りながらでもしようや」 そう言ってこちらに銃を向けていた少年は、その銃を仕舞うと共にそのまま町へと向かって駆け出した。 一拍遅れて、漸くハッとなったスバルもまたその後に慌てて続く。 「あの、私……スバル、スバル・ナカジマです」 「スバルちゃんね、俺は君島邦彦……まぁ宜しくな」 並走し追いつきながら先に自分から名乗ったスバルに、君島は屈託のない笑みを浮かべながら名乗り返してくる。 どこか生来のひょうきんな態度を隠しきれてはいない。彼がそう言ったタイプのどこかお調子者な人間であることは何となく分かった。 だがそれだけではない、自分を信用してくれたこともあるが……この人はきっと良い人なんだろうなとスバルは思った。 橘あすかの時もそうだった、あの町の子どもたちや住人に関わった時だってそうだった。 確かにホーリーの任務でこの大地に巣くう犯罪者を何人も捕まえてきた。凶悪なネイティブアルターだってその中にはいた。 けれど、やはりそれだけではない。この大地の住人たちだってやはり自分たちと何ら変わらない人間ではないか。 犯罪者に分類されるあのカズマの共犯者であるこの君島だってそれは同じだ。 やはりこの人たちにはこの人たちなりの、守りたいものやルールの為に戦っているのだろう。 それと対立し、一方的に組み伏せてしまうことはやはり正しいことだとは言えないのではなかろうか。 僅かばかりの君島との先のやり取りのこともあり、スバルはそれを益々考えざるを得なかった。 「退いてろ、コイツはあたしがやる」 「ふざけんな、俺がボコるんだからテメエこそすっこんでろ」 火花散る、などと表現しても良さそうなほどの激しい睨みの利かせあいを展開しながらカズマとヴィータはどちらがエマージーを倒すかで揉めていた。 カズマとしては当然、この無性に苛立たしいボコりたくて仕方のないホーリーは自らの手で殴り倒す心算だったし、ヴィータの方にしても己が存在意義たる騎士の誇りに賭けても自分の手で始末をつけなければ気が済まなかった。 共通に狙う獲物が同じなら、ならばどちらかが譲り合いの精神を展開するか………そんな事、この二人に限っては間違っても起こるはずもない。 それ故の眼前の獲物を前にしてのいがみ合いの牽制だ。流石にそれに呆れたのはその獲物当人であるエマージーであったほどだ。 「……やれやれ、私を無視してそっちのけの喧嘩ですか? まったく嘆かわしい。この“崖っぷちのマクスウェル”を舐めるのも大概に―――」 「「―――るせえ、テメエは黙ってろ!」」 見事にハモった二人の怒声がエマージーの言葉を断ち切る。 それに面食らう形になったエマージーは一瞬呆然としたものの、やがて怒りに身を震わせるといった様相に立ち戻り持っていたそのスイッチを二人に見せ付けるように突きつけた。 「……そ、そこまで私を馬鹿にしようとは……いいでしょう、ならばその愚かさを後悔しなさいッ!」 そう言ってそのスイッチを押――― 「「何しようとしてんだテメエはッ!?」」 ―――す前に瞬間的に飛んで来た拳と鉄槌が問答無用でエマージーに叩き込まれ、彼を吹き飛ばした。 絶叫を上げながら吹っ飛んでいくエマージー。それを怒りの形相で追いかけるカズマとヴィータ。 「……これはまた、随分と奇妙な展開だな」 ホーリーアイの監視衛星の映像をイーリィヤンのアルター“絶対知覚”を中継して観察していたジグマールはそんなコメントと共に溜め息を吐かざるを得なかった。 事の経緯の一部始終は見ていたため状況の程は理解できる。しかし………… 「……成程、やはり彼女たちの潔癖ぶりは予想通りか」 或いは部下である劉鳳とも大差ない高潔さを彼女たちが持ち合わせていることには気づいていた。 事実、己の掌の上と承知しているが高町なのはと桐生水守の行動を見ていてもそれは明らか。 ならば他の彼女の部下たちもまた同じというのは想像にも難くない。 結果から見れば卑劣と取れるエマージーのやり方に、彼女たちはやはり激怒した。 これを反逆や離反と取るべきかどうか……… 「……どちらにしろ、問題行動と突きつける口実にはなる、か」 交渉のカードを一つ手に入れた……ささやかなものであるが、そう捉えても構わないかとジグマールは判断する。 だがそれもまた今は置いておこう。問題はこの状況だ。 「……まぁどうであれエマージーの奴にとっても悪くは無い状況だろう」 先ほどの苦味のあった表情とは打って変わり、どこかニヤリと笑みを浮かべるジグマールの表情には余裕と自信が窺える。 どうみてもカズマとヴィータ……同時に相手にするには分の悪すぎる相手に追い詰められる部下の窮状は文字通りに絶体絶命にも関わらずそんな態度を崩す様子は微塵も無い。 それは彼が追い詰められている部下にある種の確信を抱いている証拠なのか…… 「“崖っぷちのスーパーピンチ”……久しぶりに拝めそうだ」 ハッキリとした笑みと共にそんな呟きを漏らしたその直後だった。 部隊長室に鳴り響く呼び出し音。 『ジグマール隊長、桐生氏が面会を求めていますが』 執務机に置かれたパソコンより告げられてきたその言葉にジグマールは眺めていた画面からその視線をそちらの方向へと向け直す。 「いいだろう、直ぐに通してくれ」 『分かりました』 そろそろ来る頃だとは思っていた。直談判にかの娘がいずれこちらに直接乗り込んでくるのはある程度予想できていた。 (……だが高町なのはが諌めるかとも思っていたのだが、抑えきれなかったというところか) 桐生水守にしろ高町なのはにしろ、マーティン・ジグマールの目から見てみればやはり未だに未熟さがある少女であることは事実。 だがどちらも小娘と侮るには危険であることは充分に理解している。その秘めたるポテンシャルは油断と放置を過ぎればいずれジグマールの絶対的有利すらも覆すことだろう。 (……やはり彼女たちにはこの辺りで手を打っておくことも必要か) それが目的として必要ならば、リスクと比較し間違いなくそれを行うのがマーティン・ジグマールだ。 なればこそ、小娘たちを相手に容赦の無い先手を打つことすら彼には迷いも躊躇いも無かった。 執務室の扉が開き、真っ直ぐにこちらを見据えた桐生水守が静かに入室してくる。 果たして彼女が飛んで火に入る夏の虫の如き末路を辿るかどうかは彼女自身のこの先の行動次第だろう。 今はただ観察者としての側面ではなく、部隊長として彼女を向かい入れる為にジグマールは真剣な表情と共に口を開いた。 「……す、素晴らしい。このスーツが無ければ、今頃私は天に召されているでしょう……」 そんなことを呂律も回らぬ口調でフラフラしながら言ってくるエマージー。 拳と鉄槌を先程から容赦なくぶち込まれているにも関わらず、ここまで耐え切って見せているのは或いは驚嘆にも値することだろう。 「ごちゃごちゃ言ってねえで、いい加減テメエのアルターを出しやがれッ!」 一方、相手の賛辞(?)には見向きもせずに犬歯を剥き出しに怒鳴り、近付いていくのはカズマ。後詰には鉄槌を肩に担いだヴィータもいる。 「……そいつ、自分のピンチにならないとアルターってのが発現しないらしいぞ」 下衆を相手にとはいえやはり騎士の誇りが傷つくのは堪えるのだろう、手を出すことを控え苦み走った表情と共にカズマへとそんな説明をするヴィータ。 しかしカズマにしてみれば関係の無いことだ。ピンチとやらにならなければ出せないだなどと言うふざけた能力ならば、文字通りピンチを作ってやるだけだ。 どれ程強度の高い強化スーツを着ているのかは知らないが、ダメージが浸透しているのは明らか。ならば畳み掛けるようにカズマはそのまま拳を叩き込んでいくだけだ。 一発身体に拳をぶち込ませる度に「召される、召されてしまう」等と言った気持ちの悪い呟きを漏らす相手にカズマは益々苛立ちをましていく。 やがて――― 「私に偉大なピンチをぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!」 等と凄い勢いで目を見開きながら相手の方から掴みかかってきたので、咄嗟にそれこそ手加減抜きでカズマはエマージーの顔面を殴り飛ばしていた。 奇声を発してそのまま吹っ飛んでいくエマージー。気がつけばその場所はそれこそ後の無い断崖絶壁……崖っぷちであった。 「どうしたぁ!? 立てよ! 立てっつってんだろ!」 呵責も何もない獣のような怒鳴り声。 それに対してエマージーは倒れた身を震わせながらも何とか立ち上がりながらそれでも余裕の態度を示すように口を開くも――― 「……やれやれ……せっかちな…人です―――」 ―――その続きが紡がれることはなかった。 それも当然だろう。顔を上げた視線の先……そこに広がる光景を彼は見てしまったのだから。 「……が………崖っぷち……ッ………!?」 震える自身の声通りの光景がそこにはある。 「…がが…崖…ッ……崖―――――ッ!?」 今までの気取りすかした態度とは百八十度転換したような驚愕……否、それは恐怖の表情だった。 「い、嫌だぁぁああ! お、落ちたくないッ! 此処は嫌だぁ!!」 目尻に涙を浮かべ、頭を崖とは反対方向に急いで向け直し、絶叫しながらその頭も抱えて蹲る始末。 カズマとヴィータ……その両者のどちらの眼からしてもその彼の変貌が狂態と映ったのは言うまでもないことだろう。 事実、どちらもエマージーの豹変に訳が分からずに思わず戸惑いを示してしまっていた。 「……誰か……誰か……助―――」 「―――今更遅えんだよッ!」 だがヴィータよりもいち早く立ち直ったカズマは、無様そのものと言って良い姿を見せる相手にすら何ら同情を見せる素振りもなく……それどころかその無様さに更に苛立ちが増し反吐が出たと言わんばかりに冷たく切り捨てて詰め寄っていく。 一方、ヴィータの方は流石にそのエマージーの姿には良心が痛んだのか、思わずカズマを止めようと声を上げようとしていた。 だが結果的にそれは行われなかった。 「ピンチだ! デンジャラスだ! 僕のピンチだぁぁあああああああああああ!!」 それを掻き消すようにべそを上げた叫びと共に、エマージーに変化が起こりだした為であった。 エマージー・マクスウェルを中心にアルター発現の証である虹色の光の粒子が出現。 続いて彼が腕にしていたホーリー隊員用の腕時計が別の形状の腕時計へと変化していく。 「助けてぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええ!!」 それだけではない。エマージーのその恥も外聞もないSOSの言葉が響くと同時に強い地鳴りが辺り一帯に発生していた。 いきなりの状況にそれこそヴィータは驚き、何事かと周囲を見渡しかけるも真正面……つまりエマージーのいる方向に起きた変化を見てそれこそ絶句した。 「助けて! 僕の―――スーパーピンチクラッシャァァァアアアアアアアアアアアア!!!」 エマージー・マクスウェルの辺り一帯に響かんばかりの絶叫。 そして虹色の粒子と地鳴りと共にひび割れた地面から現れた黄色い巨大ロボット。 「……お、おいおい……まさかコイツのアルターって………」 この眼前のコレだと言うのではないのだろうな、と驚愕と呆れを含んだ表情と共にヴィータは思わず呟いていた。 「うわっ! 何だありゃ!?」 「ろ、ロボット!?」 遠目からでもハッキリと見えるソレの出現に、思わず君島とスバルも同時に驚愕の叫びを上げていた。 何とかスバルの説得の甲斐もあってか、爆弾の仕込まれたエマージーが配った玩具を二人で回収し終え、奇妙な連帯感と信頼のようなものをお互いに芽生えさせながら現場へと戻ろうとしていた矢先に巨大ロボットの出現である。 状況の把握も出来ず、訳も分からずに驚き呆然としてしまった二人をここで責めるのは酷と言うものだろう。 彼らの後ろからは町の人間たちまで何事かと追ってきて、その場の二人のように呆然とするという連鎖が続いていった。 ……それ程に、このヒーローの出現に誰もが驚き戸惑っていたのである。 「……やはり知ってしまいましたか」 厳かな態度と厳しい視線も顕に相手へと向けながらジグマールはそう言葉を発する。 桐生水守の直談判という来訪、それと共に彼女がこちらへと告白してきたこれまでの彼女が行ってきたこと。 高町なのはとの協力の件については流石に伏せているようだが、それ以外はほぼ概ねジグマールも全て知っていたし予期していたことばかりに過ぎない。 「申し訳ありません。規則を破ったことに対してはどのような厳罰も」 わざわざ自ら正直に告白してきただけあって、その覚悟も既に出来ていると言った様子も明らか。 その潔癖なまでに筋を通した気丈さには、それこそジグマールの方が感心し好感すらも抱いたほどだった。 ……だがそうであるが故に、やはりまだ若い。 否、これは青いと言ってしまって良いとさえいえるだろう。想い人のこともあっての影響か、ある意味においてはこの部分においてならば水守は劉鳳以上だと言えただろう。 やはり、彼女の協力者である高町なのはもまた同じようなものなのかと予測しておく必要もあるだろう。 (……つくづく皮肉であり、厄介だな。本土出身である彼女たちのような者たちの方が、私などよりも余程美しく尊かろうとは) 或いは、穢れを知らぬからこその美しさであり尊さだろうかともジグマールは思った。 「そこまでして貴女は何を求めるのですか?」 だからこそ、試す意味合いにおいても彼女に……否、彼女たちにこれは聞いておかなければならないことだ。 その高潔さ……言い換えれば浅はかな無知と身勝手さで何を彼女たちは求め、そして成そうとしているのかを。 マーティン・ジグマールは見極めねばならなかった。 「―――真実、です」 ジグマールが威厳と共に放つプレッシャーを前にしても……桐生水守はこの時一度も退かずにそう言い切ってきた。 「私は何も知らずに安穏と暮らすより……真実を知って、傷つく方を選びたい」 それが望みであり答えだと、真剣な表情でこちらを見据えながら水守は言ってきた。 (……やはり、青いな) そう正直に水守の言葉を聞き、ジグマールは思った。 それは賢者の行う選択ではない、言うなれば愚者が犯す過ちだと…… やはり、彼女たちの高潔さとは単なる無知と身勝手の裏返しでしかない。 「その為に、私は此処に来たのです」 「―――いいでしょう」 水守の言葉が終わると共に、ジグマールも狙ったように理解の態度を示した。 実際、彼女たちの真意とやらもスタンスとやらも理解できた。 やはり相容れられない……充分に、それは理解できた。 ならば――― 「自分に正直に生きることは大切です」 そう言ってジグマールはデスクに置かれたパソコンのキーボードを叩く。 「ホーリーが……この私が知り得る全ての情報を提示します」 その言葉と共にモニターには次々とホーリーの機密情報が表示されていく。 最初こそ驚き、戸惑いを見せる水守であったが……やがて覚悟を決めたようにその視線をモニターへとハッキリと向ける。 それでいい、そうジグマールはニヤリと笑った。 とくと其の目を開示し、余さずに見届けよ。 そして知るが良い。その高潔さという青さを胸に現実という名の無情を。 マーティン・ジグマールは桐生水守を……そして水守と同類であろう高町なのはへとそう理解を示し真実を提示する。 ならば―――その青さがどれ程に無力でしかないことを思い知らせるその為に……… 目次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3108.html 前へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3150.html 次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3158.html
https://w.atwiki.jp/mekameka/pages/1337.html
銀星将棋PORTABLE シルバースタージャパン 2010年2月18日 PSP (UMD.DL) 『銀星将棋』シリーズの一つ 対局相手のレベルは10級~四段まで選べる か行 プレイステーションポータプル PR 銀星将棋 PORTABLE