約 431,444 件
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1075.html
148 名前:【SS】きりりんマスター京介氏[sage] 投稿日:2011/09/06(火) 10 06 37.14 ID cjhrELn+0 『きりりんマスター京介氏』 沙織「レディース&ジェントルメン!今宵はお集まり頂きまして、誠にありがとうございますでござる!皆様が待ちに待った今日この日、 『妹の日』にスペシャルイベントをやるでござるよーっ!?」 一同「うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」 沙織「みんな、妹は好きか―!?」 一同「おぉう!!」 沙織「その気持ちを表現するなら……」 一同「愛してると言ってもいいー!!」 沙織「うむ、良いテンションでござるなぁ。それでは早速、宴を始めましょうぞっ!!」 (ジャン!!) 『第一回妹マスターロワイヤル』 沙織「そう、今日は何と言っても妹の日ですからな。そして妹といえば、当然きりりん氏。そんな世界の妹オブ妹であるきりりん氏を、一 番分かっているのは誰か!?というのを、決める大会を催したでござる!」 一同「キタアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!!」 沙織「会場の熱気も最高潮に達した今、みんな大好きな、そして今宵の主役であるきりりん氏に御登場願いましょう。きりりん氏、どうぞ ~!!」 桐乃「……あっ、えっと、きりりんです。……よろしくね」 一同「きりりーん! き、きりーっ、キリリーッ!! キリーッ!!」 桐乃「うげぇ!……ねぇ、沙織。このテンションやばくない?」 沙織「大丈夫でござるよ、きりりん氏。ここに集まっているのは、紳士淑女の皆さんですから、純粋にきりりん氏への愛情が、雄叫びに変 わっているだけでござる」 桐乃「じゃ、じゃあ、そういうことにしておく……」 沙織「さて、今宵はここにいるきりりん氏の最大の理解者、言い換えれば、妹界の女神・きりりん氏を知り尽くした『妹マスター』と呼ば れる人を決める大会。そんな素晴らしい大会にエントリーして下さったのは、この三人でござるっ!!」 京介「ど、どーも。高坂京介です」 黒猫「……く、黒猫、よ……」 あやせ「皆さん、はじめまして。新垣あやせです」 沙織「京介氏、黒猫氏、あやせ氏の勇者三人が来てくれました~。ドンドン、パフパフ~♪」 一同「ゴゴゴゴゴ!!(それぞれの蠢く歓声)」 京介「うわっ!なんかスゲー空気だな、おい!」 黒猫「まさに獣の晩餐、ね」 あやせ「いざという時は、お兄さんを囮にして、私が桐乃を助けます!!」 京介「出始めから怖い事言うなよなっ!」 沙織「えー。では、早速大会本番に移りたいと思います。あっ、言い遅れましたが、今宵の司会進行は、身長も胸のサイズもワールドクラ ス!メガネッ娘属性花丸な拙者、沙織・バジーナがお送りします! ちなみに拙者も、妹キャラですぞ!!」 京介「えらく自己主張の強い司会がいたもんだな」 桐乃「アンタだって、どうぜ自分が同じ立場に立ったら、変なテンションになるんでしょ?『世界のシスコン・京介』とか言ってさ」 京介「言わねーよっ!!なんで自分からシスコンっぷりを自慢すんだよ!?」 桐乃「はん。どーだかぁ。アンタのシスコン具合はハンパじゃないしぃ~」 京介「ぐぬぬ……」 桐乃「まぁ、そんなアンタなんだからさ……」 京介「……?」 桐乃「……ちゃんと、勝ってみせてよね」 京介「……おう」 沙織「さて、何処ぞの兄妹が甘い雰囲気になってきたので、第一回戦に移りますぞ~。きりりん氏は、あちらにご用意した特別席の方で、 勝負の行方を見守っていて下され。……はい、それでは最初の対決は、コチラ!」 『きりりんクイズ』 沙織「主旨は簡単、拙者が読み上げるきりりん氏に関するクイズを、早押し形式で答えていくものでござる。一問毎に1ポイント割り振ら れますぞ」 京介「へへっ、これならいけるだろ」 黒猫「正直、私はこの大会自体に興味はないのだけれど、賞品には少し興味があるから頑張るわ」 京介「えっ?何、コレ賞品出んの?」 黒猫「……呆れた。そんな事も知らずに参加したの?本当に、どうしようもないシスコンね」 京介「うるせぇ」 黒猫「ほら、ちょうど沙織が賞品について説明しているわよ」 沙織「……で、今回の賞品ですが……ヌフフ、妹の日の特別仕様、『きりりん氏と妹の日満喫券』でござる!」 一同「SUGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」 京介「それは、賞品としていいのかっ!アイツそういうの納得しないだろ」 黒猫「まぁ、私達3人の中の誰か、という事だから、あの女も納得したのでしょう。それよりももっと興味深いのは……」 沙織「この満喫券の凄さはまだまだ続きますぞっ!!何と、この券を持っていれば、妹の日限定ではありますが、『基本的に何でもしてOK 』という特典が付与されます」 京介「な、なんだってー!?」 沙織「もちろん、きりりん氏が渋々了承できる範囲まで、ですぞ。あまり破廉恥な事は対象外になりますから、ご注意を。京介氏」 京介「何故、俺に限定するのっ!?」 沙織「え、それは……まぁ」 黒猫「当然ね」 あやせ「通報する準備は出来ています」 桐乃「……ふん」 京介「俺、早くも帰りたいんだけどっ!!」 沙織「とまぁ、そんな素敵なチケットがこの三名の誰かに送られるわけですから、テンションも上がるというものでござろう。それでは、 長くなりましたが第1回戦を開始しますぞっ!」 京介「こうなったら、意地でも勝ってやる!」 黒猫「ククク、勝ったらあの女にマスケラの良さを……」 あやせ「(桐乃とデート桐乃とデート桐乃とデート桐乃とデート桐乃とデート桐乃とデート桐乃とデート桐乃とry……)」 沙織「第1問!」 『きりりん氏が大好きな星くず☆うぃっちメルル、そのメルルのヒロイン…』 京介「ハイッ!」 ウヘェ- 沙織「はい、では京介氏!」 京介「赤星める!」 「ブッブー」 京介「えっ!?違うの!?」 沙織「問題は最後まで聞かないといけませんぞぉ~」 『である赤星めると一緒にいる使い魔の名前は?』 黒猫「こめっとくん」 ポーン 「ピンポンピンポーン!」 沙織「はい、黒猫氏にポイントが入りましたぞ~」 京介「そっちか~」 桐乃「……バカ」 沙織「続いて第2問!」 『きりりん氏を始め、若い女性に人気のブr』 あやせ「エターナルブルー!」 ポーン 「ピンポンピンポーン!」 沙織「これは早い!あやせ氏に1ポイントです!」 京介「早すぎだろっ!!」 あやせ「アニメに関してはお二人に負けますが、モデル関係なら断然私の方が有利ですから。負けません!」 京介「というか、さっきから気になってたんだが、何で俺のボタンだけ、音が違うんだ?」 沙織「仕様でござる。それでは、第3問!」 京介「もう少し俺に優しく接してくれよ、みんな!」 「公表されているきりりんのスリーサイズは?」 あやせ「上から、82、54、81!」 ポーン 「ピンポンピンポーン!」 京介「なんでお前はそんなに知ってんだよ!?」 あやせ「何言ってるんですか、こんなのモデル仲間なら基本的な事ですよ?」 京介「……じゃあ、加奈子のスリーサイズ言ってみ?」 あやせ「……テヘッ☆」 京介「偏ってんじゃねぇか!」 ・ ・ ・ 黒猫「きりりん@さっきからとなりのバカがうざい件」 ポーン 「ピンポーン!」 あやせ「白とピンク!」 ポーン 「ピンポーン!」 沙織「おおっと!これで、黒猫氏とあやせ氏のポイントがまた並びましたぞっ!」 京介「蚊帳の外過ぎるぜ、俺。ぐぬぬ」 桐乃「何がぐぬぬよ!ちょっとアンタ、何やってんの!まだポイント取れてないじゃない!やる気あんのっ!?」 京介「しょうがねぇだろ、二人が早すぎるんだって」 桐乃「こんなの全部サービス問題ばっかじゃん!こんな所で躓いてたら、マスターなんて遠すぎるって―の!気合い入れ直しなさい!!」 京介「わーったよ」 沙織「それでは、1回戦も最後の問題ですぞ!難易度も少しだけ上がります」 「きりりんがプレイ済みの妹モノのゲームを、5つ答えなさい」 黒猫「……くっ」 あやせ「これは……」 京介(これは、いける!!) ウヘェ 沙織「はい!それでは京介氏!」 京介「妹×妹~しすこんラブすとーりぃ~、真妹大殲シスカリプス、妹たちとあそぼ、最終兵器妹、妹と恋しよ♪ どうだ?」 「シスコンシスコーン!!」 沙織「京介氏、正解でござる!」 京介「ていうか、正解時のSEまで嫌がらせかよっ!」 あやせ「悔しいですが、この問題は変態鬼畜野郎なお兄さんに譲るとしましょう」 黒猫「妹がプレイしているエロゲーを覚えているなんて、シスコンもここに極まったわね」 京介「俺は桐乃に勧められてプレイしたから、覚えてるだけだかんな!」 桐乃「このシスコンまじキモーい」 京介「お前、俺を応援してるんだよなっ!?」 『きりりんエピソード』 沙織「さて、続いて第2回戦に移りますぞ!ここからは知識だけじゃなく、きりりん氏との絆も試されますので、気を引き締めて挑んで下 されっ!」 京介「このまま終わったら、俺は二度と家の敷居を跨げない気がするからな。全力で行くぜ!」 沙織「2回戦の内容は……きりりん氏との思い出エピソードで競って頂きます。 審査基準は、審査員が『これはインパクトがある』と思った度合いを数値化し、採点いたしますぞ。それでは、審査員の方に登場して もらいましょう、にん!」 かなかな「みんな~、かなかなで~す♪よろしくねぇ~☆」 一同「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッ!!」 沙織「審査員は、大きなお友達に大人気、かなかな氏でござる~!ここでまさかの登場で、会場の一部の熱気が、異常な盛り上がりを見せ ております!」 京介「あのちびっ子の登場か。ということは……」 桐乃「ひゃっほーぅ!かなかなちゃんまじ天使ー!!」 京介「はぁ、予想通りか」 かなかな「今日はー、桐乃ちゃんとのエピソードを~、採点させてもらうね~★テレビの前のみんなもぉ~、いっしょに楽しんでねぇ~! 」 京介「アイツ、徹底的に演技してやがるな」 あやせ「加奈子が、審査員か……」 沙織「あの~、かなかな氏?残念ですが、テレビ放送はされていませんぞ?」 かなかな「えっ?うそ?マジで!?」 沙織「内容が内容だけに、この会場の中で盛り上がろう!というのが主旨なのです」 かなかな「……んだよー!んじゃ、別にコビ売らなくてもイイじゃんかよ~。あー、ネコかぶって損した」 京介「って、露骨に豹変し過ぎだろ!これじゃ会場のファンが……」 桐乃「ひゃっはー!かなかなちゃんやさぐれカワイイ~♪」 京介「あぁ、信者ってこういう感じなのか……」 かなかな「んで、加奈子は何すればいいのよ?」 沙織「これから、あちらの3人がきりりん氏とのエピソードを順に語っていきますから、それを採点して下さればよろしいかと」 かなかな「そんなんでいいの?超ラクショーじゃん!」 沙織「では、かなかな氏の了承も取れたので、2回戦開始でござる~。まずは、かなかな氏やきりりん氏と仲の良い、あやせ氏からどうぞ !」 あやせ「では、私と桐乃の、愛のエピソードを一つ」 京介「愛の、って……」 あやせ「以前、私と桐乃は、ある事情で喧嘩をしてしまいました。それはとても辛いもので、もう桐乃と話す事も出来なくなっちゃうんじ ゃないかって、本当に不安で、泣きそうにもなりました」 桐乃「……………」 あやせ「でも、その時桐乃はこういってくれました」 「あやせの事もエロゲ―と同じくらい好き」 あやせ「きっとその言葉は、桐乃が言うからこそ、何よりも説得力があり、私を本当に大切にしてくれている、そう感じられる一言でした 。桐乃の本心を聞いて、私達は仲直り出来て、それまで以上に仲良くなれました」 桐乃「あやせ……」 あやせ「一時は本当に嫌な思い出にもなりましたが、今では最高の思い出です!大好きだよ、桐乃!」 桐乃「……うん!アタシも!エヘヘ」 沙織「これは……諸事情は知っていたものの、当の本人達を目の前にして聞くと、こう、胸が熱くなってしまいますなぁ~。グスン」 京介「あやせも桐乃も、良い笑顔しやがって……へへ」 黒猫「……………」 京介「どうした?友達をとられたみたいで、悔しいか?」 黒猫「な、何を言っているの!?そんな訳無いでしょ!下等な人間風情が、不器用に馴れ合っているのを見て、言葉を無くしていただけ、 よ……」 京介「ふーん。そっか」 黒猫「……その締まりの無い顔、やめてもらえるかしら?」 京介「へいへい。悪かったよ」 黒猫「まったく……」 沙織「さて、心温まるエピソードを聞かせて頂いた後は、運命の採点タイム!このエピソードを、かなかな氏はどう判定するのでしょうか ?」 かなかな「うっへぇ。あん時、そんなきめぇコト思ってたのかよ」 あやせ「!?」 桐乃「加奈子っ!?」 かなかな「ダチの趣味聞いただけで、喧嘩とか、マジきめぇ」 あやせ「加奈子……(ユラリ)」 かなかな「マジきめぇ、けど、それでもダチだかんな」 『70うへぇ』 かなかな「加奈子をハブいた分、減らしたかんな!今度は加奈子にも、ちゃんと言えよな!」 あやせ「加奈子……(フシュゥ)」 桐乃「うん!分かってるって!」 かなかな「ふん!」 沙織「出ました!70うへぇ!さっそく高得点でござる!」 京介「アイツ、相変わらず男前じゃねぇか」 京介(桐乃は、良い友達に恵まれたな) 沙織「さて、次は黒猫氏の登場です!個人的な意見を言わせてもらいますと、この黒猫氏のエピソードは気になるところ。高得点も狙える のでは、と思っております」 黒猫「あ、貴女がハードルを上げるのはおかしいでしょう!そんな大層なものではないわよ」 沙織「いやしかし、拙者は黒猫氏を応援しておりますぞ!」 黒猫「ふ、ふん!勝手にしなさい」 京介(桐乃の表の友達、そして今度は裏の友達、か。これはどうなることやら……) 黒猫「私は、さっきのスイーツ2号のようにはいかないわよ」 桐乃「はっ?アンタなんでいきなり喧嘩腰なワケ?」 黒猫「別に喧嘩腰ではないわ。ただ、私にはさっきの低俗な話が不快だったから、崇高な気分を取り戻したいだけよ」 桐乃「……はは~ん。なに、もしかして?アンタさっきのあやせの話に、ヤキモチ焼いてるワケ~?」 黒猫「なっ!?いきなり何を言い出すのっ!?」 桐乃「なるほどねー。アンタぼっちだから、さっきの話聞いて寂しくなったんでしょ~?ねぇ、今どんな気分?ねぇねぇ?」 黒猫「くっ……、そうやっていつもいつも、私の気分を逆撫でして……」 桐乃「顔真っ赤wwwwwうぇwwwうぇwww」 黒猫「……いいわ。折角の機会だから、この際正直に教えてあげるわ。貴女も、その軽そうな頭にちゃんと記憶しておきなさい」 桐乃「ムッ。いつになく強気じゃん。いいよ、聞いてあげる」 黒猫「……貴女はいつもそうやって人を小馬鹿にして、無神経な事を言うくせに、その実、妙に確信を得ている。本当に、本当にタチが悪 い女よ」 桐乃「……ふん。悪かったわね」 黒猫「そう、それでいて腹は立つものの、どうしても憎めない。言ってみれば、卑怯な性格なのよ。そんな貴女だから、一緒にいると喧嘩 ばかりで、共に過ごした記憶もロクな物じゃないわ。でも……」 桐乃「………」 黒猫「それなのに、一向に記憶から消えずに残っている。不快なのに忘れられない日々を、貴女と、貴女と沙織と一緒に私は作ってきたの よ」 沙織「黒猫氏……」 黒猫「実に不本意だけれど、それを『思い出』というのなら、それをくれた貴女達には、少しだけ感謝するわ。――ありがとう」 桐乃「!?」 黒猫「……と、とりあえずそういう事にしておくわ。仕方ないものね」 沙織「うぅ、黒猫氏……。グス……グス……」 桐乃「……何よ、意地張っちゃって。バカじゃん……」 京介「お前もだけどな」 桐乃「うっさい!!」 沙織「……グスッ、黒猫氏、温かいエピソードをありがとうございまする。拙者、本番中にも関わらず、少し泣いちゃいましたぞ。 ……ですが、これはあくまで公平な勝負!冷静な立場から話を聞いていた、かなかな氏に採点して頂きましょう!」 かなかな「おーよ!やってやんよ」 京介「あやせに劣らず、黒猫も良い話だったな。正直どちらの経緯も知っている俺としては、甲乙つけがたいぜ……」 あやせ「やはり黒猫さんは、油断できないですね……」 京介「……あの、あやせさん?凄く黒いオーラを感じるんですけど、僕の気のせいでしょうか?」 あやせ「え?やだなぁ、お兄さん。私がそんな腹黒い女のわけないじゃないですかぁー」 京介「だ、だよねー。アハハー」 あやせ「まぁ、あとで黒猫さんとは二人だけで話をしようとは思いますけど」 京介「やっぱり魔女化してたっ!!」 かなかな「ん~、あやせの話と違って、あっちの連中は加奈子全然分かんねぇかんなー。良い話だけど、イマイチピンッとこねぇっつーか 」 沙織「おやおや?これは意外にも、かなかな氏が採点で悩んでおりますぞ。これが吉と出るか、凶と出るか?」 かなかな「めんどくせーから、さっきのあやせの話で、加奈子が引いた分を乗っけて、8じゅ……」 あやせ「……………(ザッ)(←スコップを取り出す)」 かなかな「……なーんつって!」 『70うへぇ』 かなかな「て、てへぇ☆(キラッ)」 沙織「おぉーと!点数はあやせ氏と一緒の70うへぇでござったー!」 京介「今、酷い脅しを見た!」 沙織「さて、最後に来ますはこの方!今日まだ全然活躍していない、眠れる獅子・京介氏でござるーっ!!」 京介「今のところ、ツッコみぐらいしかしていないよな、俺」 桐乃「せっかくの妹の日なのに、アンタ何やってるワケ?」 京介「返す言葉もない……」 桐乃「まぁ、でも。妹の日だし?妹のアタシが大目に見てやんないと、さすがに可哀想っていうか?次に期待してあげる」 京介「そう言ってもらえると、正直ありがたいわ」 桐乃「でも、最後くらいはキッチリ決めてよね」 京介「あぁ、分かってるよ」 京介(幸いにも、こっちの対戦は俺の得意分野だ。腐っても俺と桐乃は兄妹、エピソードなんて数えきれない程あるんだよ。 それに、俺の得意技・『テンションでいろいろ誤魔化す』も通用するかもしれないしな) 桐乃「あっ、て言っても、テンションで誤魔化すのはダメだかんね」 京介「なんだって!?」 沙織「では京介氏、お願いしますぞ」 京介(しまった。勢いで凌ごうかと思ってたのに、それが通用しないなんて……) あやせ「やはり、セクハラ話が来るのでしょうか?その時は……」 黒猫「さぁ、どうするのかしらね。兄さん」 桐乃「……早くしなさいよ」 京介(えぇい、ままよ!こうなったら勢いで多少は誤魔化しつつも、本音で向き合ってやんぜっ!) 京介(いくぜぇ!!これが俺の、全力全開だっ!) 京介「桐乃ぉーーーーー!!」 桐乃「は、はい!(ビクッ)」 京介「今日は妹の日だから、普段言えない事も、今まで言いたかった事も、全部吐き出すからなぁー!よぉーく聞いておけよっ!!」 桐乃「う、うん。分かった……」 黒猫(何やら妙に熱いわね……) 沙織(これはこれは。京介氏も本気でござるな) あやせ(とりあえず、電圧はこれくらいにしておいて……) 京介「俺には、いや俺達には、あやせや黒猫みたいに綺麗なエピソードなんか無いし、あるのはお前のために親父と喧嘩した事、一緒にエ ロゲ―した事、お前の偽彼氏を追い返した事ぐらいか……。 はっ、どれも些細なもんばっかりさ」 沙織(どれも結構な衝撃を覚えるのでござるが、それをツッコむのは野暮でござろうな) 京介「でもよ、そのどれもが俺にとっては大事で、俺と桐乃の思い出だと思ってる」 桐乃「……………」 京介「俺は本当に出来の悪いバカ兄貴だし、お前にとっては不服な存在かもしれない。けどな、俺はこの数か月の間で、こうしてお前と本 音で向き合えるようになった事を嬉しく思うよ」 桐乃「京介……」 京介「俺は前からお前の事大嫌いだったし、その気持ちは今も残ってる。でもよ、お前と一緒にいて気付いた気持ちもある。 それは、大嫌いなのに大好きだ!って事だ。 おかしいだろ?でも、それが本心なんだよ。近くにいるとイライラするのに、それで も絶対に俺の傍から離したくない。 一番傍にいるのは、俺じゃなきゃイヤなんだ。ワガママかもしれないけど、そのためなら俺はいつだって全力で向き合ってやる!」 桐乃「……うん。分かる、気がする。その気持ち」 京介「だから言うぜ!俺はこれから先も、ずっと桐乃の隣にいる。そして他の誰でもない、俺自身の手で桐乃を幸せにする! 望むんなら、結婚だってしてやんよ!!なんせ桐乃は世界一の妹だからなっ!世界一幸せにしてやりたいし、そうさせてみせる! これが今の俺の、交じりっ気無い、本当の気持ちだ!!何か文句あっか!?」 桐乃「……うぅん、ない……無いよ……」 京介「俺が絶対に連れて行ってやるからな!作り物じゃない、ハッピーエンドにさ」 桐乃「きょう、すけぇ……うっ……うっ……」 京介「きっと明日から、また素直になれなくなっちまうかもしれないけど、もう迷わねぇから。だから、これからも一緒にいてくれよ、桐 乃」 桐乃「うん……。――ありがとね、京介」 京介「……おう」 会場一同(ポーッ) 沙織「……はっ!!――さ、さて、この熱気にあてられたまま、京介氏の採点に行きたいのですが……」 黒猫「正直、点数なんて出さなくても、誰が優勝かは一目瞭然ね」 あやせ「えぇ。悔しいですけど、桐乃のあの表情を見れば、それも仕方のない事です」 沙織「やはり、予想通りというか、きりりん氏に関しては、京介氏がズバ抜けておりますなぁ」 黒猫「シスコンの究極系が、あの姿なのね。実に滑稽だけど……」 沙織「本当に美しくもありますな」 黒猫「……えぇ、そうね」 あやせ「この先、桐乃を泣かせるような事をしたら、私も容赦はしません!」 黒猫「物騒な事を言わないで頂戴。闇の力に取り込まれるわよ」 あやせ「そんなの知りません。というか、あなたとは二人でお話ししたい事があるんですけど?黒猫さん」 黒猫「さ、沙織!この危険な女を、一刻も早く私から遠ざけて頂戴!あの目は魔女よ、魔女」 沙織「あっはっは!皆、違った形できりりん氏を思っておるのですなぁ。いや~、本当に素敵な企画でした。拙者、このイベントを企画し た自分にGJ!と声をかけたいですぞ」 黒猫「笑ってなんかいないで、早く!あの女、スコップなんか取り出したわよっ!?」 あやせ「フフ……、一度埋まればクセになりますよ……」 かなかな「おーい!ちょっとー!」 沙織「おや、かなかな氏?どうしました?律儀に採点して下さいましたかな?」 かなかな「いやぁよー、加奈子もさすがにさっきのは、モーレツなうへぇだったから、適当にボタン連打してたんだけど。 そしたらいきなり機械が壊れて、止まんなくなっちゃったんだよねー」 『うへぇ、うへぇ、うへぇ、うへぇ、うへぇ、うへぇ、うへぇ……』 沙織「おやおや、エンドレスうへぇとは。想定の範囲外でござるな」 黒猫「それくらいの、シスコンブラコンという事ね」 かなかな「うっへぇ」 京介「桐乃……」 桐乃「京介……」 あやせ「ところで、あの二人はいつまであのままなんですか?」 黒猫「み、見つめ合ったまま世界を作っているわね……」 沙織「まぁ、今日は特別な日ですし。こういうのも良いのではないでしょうか?」 かなかな「けっ!なんかノロケが続きそうだから、加奈子帰るわー」 あやせ「私も、今後の事を考えて色々用意しますので、ここで失礼します」 ゾロゾロ、ゾロゾロ…… 黒猫「気付けば、観客の人達も帰っているわね」 沙織「皆、本当にほっこりした表情で帰られましたぞ」 京介「あぁ、桐乃!」 桐乃「あぁ、京介!」 黒猫「……いい加減、私達も帰りましょう。あそこからとんでもなくリア充の匂いがしてきたわ」 沙織「そうですな。ここは気を利かせて、二人きりにしてあげましょう」 京介「きりの~~~~~!!」 桐乃「きょうすけ~~~~~!!」 さて、これは余談でござるが。 その妹の日、街中で京介氏ときりりん氏に良く似たカップルが、腕を組んでくっついていたという話を聞きましたぞ。 当の本人達なのか、それとも他人の空似なのか――。 真実は分かりませぬが、 その日以降、お二人の仲は、以前よりもちょっとだけ良くなっていたでござる。 いやはや。 今後は、妹マスター改め、『きりりんマスター京介氏』とお呼びする他無いのかもしれませんな。ニンニン。 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/548.html
734 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/10(日) 23 07 37.63 ID 5UUedrZkP [4/5] 『優しさは雨の日に傘と1クリックに乗せて』 シトシトと雨の降り注ぐある日。 俺は授業を終えて帰り支度をしていた。 「きょうちゃーん。帰ろう?」 「おう、ちょっと待ってくれ」 背後からかけられる声に顔を向けずに返事をする。今更その声が誰かなんて確認するほども無い。 ごそごそと机の上に広げられたものを整理してる間に声の主が机の横までやってくる。 麻奈実だ。 麻奈実は俺のすぐ傍まで来ると、何を話すでもなくその場で立ち止まった。 何も話そうとしない麻奈実が気になり顔を上げてみれば、麻奈実はボーっとしたように外を眺めていた。俺もつられて外を見る。 昼間からポツポツと降り始めた雨は今や本降りとなっており、一向に止む気配を見せていなかった。 「雨、やまないねー」 「そうだな。昼ぐらいから怪しかったけどここまで降るとは思わなかった」 「うん。でもきょうちゃん、ちゃんと傘持ってきてるんでしょ?」 「おう。てか鞄に入れっぱなしだった折り畳みがあっただけだけどな」 「えへへー。実はあたしも一緒」 ほやっとした笑顔でそう答える麻奈実。 周囲に耳を澄ましてみれば、 「げっ、俺今日傘ねえよ」「うわぁ、傘ないのにどうやって帰ろう…」 といったふうな声がそこかしこから聞こえてくる。 それだけ今日の雨が予想外だったということだろう。 それはわからんでもない。朝はすっきりと晴れていたし、天気予報も今日は晴れと言っていたのを覚えている。 「まさに『こんなこともあろうかと』って感じだな」 「? なにそれ?」 「男としては一度は言ってみたいロマンワードだ」 「そうなの?」 「そうなんだ」 そうなんだーと感心する麻奈実は放っておいて、さっさと支度をすませないとな。 机の中身を適当に鞄に突っ込み、今から使う傘を取り出して準備万端。 椅子から立ち上がった俺は麻奈実の横を通り過ぎて扉へ向かう。 麻奈実はそれに気付かずにまだ外をほえーっといった風に眺めていた。 てか麻奈実。いくら外に注意向けてるからって横通った時ぐらい気付けよ。 「麻奈実ー、置いてくぞー」 「あ! ま、まってよきょうちゃーん!」 「そういえば今日は勉強どうするの? 一回帰る?」 「んー? そうだなあ……」 玄関へと向かう道すがら、俺は麻奈実とこの後の予定を話していた。 今日は麻奈実と図書館で勉強をする予定となっている。 その予定を変更しようというわけではなく、一度帰ってから集まるかそのまま図書館へ行くかを決めているのだ。 廊下を通る際、窓から外を見た。 教室を出てから幾分も経っていないから天気が変わっているわけもなく、サーサーと雨は降り続けている。 ……この天気だと一回帰ったら家出る気なくなるな。間違いなく。 別にこれは俺に限った話ではあるまい。こんな雨の日にわざわざ出かけようなんて思う人間なんて少ないはずだ。 ……少ないよな? 「じゃあこのまま行くか。わざわざ何度も雨の道往復する必要も無いだろ。 それに勉強終わるころには晴れてるかもしれないしな」 「そうだねー。じゃあそうしよっか」 早くやむといいねー、そうだな、とたわいないやり取りをしながら靴を履き替え、学校を出た。 幸いなことに雨足はそれほど強くない。これなら濡れる心配もあまりなさそうだ。 「もう少し図書館が近ければよかったんだけどな」 「そーだねー」 図書館へと続く道中、目の前を小学生ぐらいの女の子が通り過ぎていく。それ自体は珍しいもんでもない。 けど、そのさしている傘に俺は目を引かれた。アレは……メルルの傘? どこかで見覚えのある傘に、一瞬だけなんだったっけかと考え、すぐに思い当たった。 確か数日前、桐乃が見るに耐えないほど狂喜乱舞していた時があって、その手に握られていた傘がアレだったはずだ。 何でもその傘は、グッズを多数買って応募券を集めてそれを送り、さらにその送った人の中から抽選で選ばれた人にしかもらえない超レアアイテムだと言っていた。 そこまでやって手に入るのが傘って……と思わなくも無かったが、水をさすのも悪いと思ってその場はスルーしたのを覚えてる。 言い忘れてたが、その傘は折りたたみ式で、桐乃はその次の日から鞄に入れて常に持ち歩いていた。 それは保管しとかねえの? と聞いたところ 『まあ、それはそうなんだけど。傘って使ってなんぼじゃん? あたしは使い古しても捨てる気なんてないし。 何より、せっかく持ち歩けるんだからしばらくはこうして持ち歩いて幸せに浸りたいの! パッと見じゃ『そういうもの』に見えないしね』 と言っていた。相変わらずオタクのそういうところはよくわからんね。 しかし……あの子供もあの傘を当てたのか? でも…… 女の子が歩いてきた方を見る。あっちの方角には確か、桐乃の通ってる学校があったはず。 そういえば今日はあいつも傘(普段から使ってるやつな)を持たずに学校に行ってたっけ。 ……まさか、な。 「きょうちゃん?」 立ち止まった俺を不思議に思ったんだろう。麻奈実が顔を覗き込んできた。 「どうしたの?」 「わりぃ麻奈実」 「え?」 「急用が出来た」 まあ、ありえないとは思うけどさ? 気になっちまったもんはもうどうしようもねぇわけで。 「……急用?」 「ああ」 「それって勉強よりも大事なこと?」 「ああ」 「…………」 難しく、どこか俺を責めるように顔をしかめる麻奈実。 すまねえな麻奈実。前々から決めてたってのにドタキャンになっちまって。 それでもよ、なんか行かなきゃならん気がすんだよ。おかしな話だけどさ。 「そっか」 しかめていた顔をふにゃとほころばせて麻奈実は笑った。 「大事なことなんだね」 「まあ、大事っつうかなんていうか……」 「いいよ。じゃあ勉強はまた今度、だね」 「すまん。埋め合わせは今度するからよ」 「気にしないでいいよ~。しっかり用事終わらせてきてね」 「おう」 「じゃあね、きょうちゃん。また明日」 「ああ。じゃあな、麻奈実」 俺はバイバイと小さく手を振りながら来た方とは逆に歩いていく麻奈実を見送った。 さて、と。それじゃあ行ってみますか。俺の杞憂だといいんだけどな。 結果からすれば、俺の予感は当たっていた。 麻奈実と別れたところから歩くこと十分ほど。とある一軒家の軒下に所在無さ気に立つ影が見える。 遠目でもわかるライトブラウンの髪。頭を俯かせているが、アレは間違いなく桐乃だろう。 水に濡れた道を、ピチャピチャと音をさせて桐乃に近付いていく。 大分近くまで来たが桐乃が気付く様子は無い。 最終的に俺がすぐ傍に立つまで桐乃が気付くことはなかった。 「桐乃、お前こんな所で何してんの?」 「――!?」 バッとあげた桐乃の顔にはありありと驚きがうかんでいた。 限界まで見開いたその目が驚きの大きさを表しているといえる。 おーおー驚いとる驚いとる。まあ、いるはずの無いやつが目の前にいればそりゃ驚くよな。 「な、何であんたが……」 「別に。たまたま通りかかっただけだよ」 自分で言っといてありえねぇって突っ込みたくなった。こんなところまでたまたまで来るかっての。 そのまま傘を閉じて桐乃の隣に立ち並ぶ。 軒下とはいえ雨が完全に防げるわけじゃない。足元はぐちゃぐちゃだし、風が吹けば普通に吹き込んでくる。 「で、さっきも聞いたがこんな所でなにしてんだお前は」 「……なんだっていいでしょ」 こちらに顔をむけることもなく投げやりに答える桐乃。 見られたくないところを見られた。そんなふうにも見える。 なんとなく空を見上げた。雲はぶ厚く、雨が上がるのはまだしばらく先になるっぽい。 「……帰らねえの?」 「……帰るわよ」 「傘は?」 「…………ない」 「いつも持ち歩いてたメルルのはどうしたんだよ?」 「…………」 だんまりか。てことはやっぱりさっきの子が持ってたのは桐乃のか。 まったく。こいつもお人よしが過ぎるというかなんというか。――俺が人の事言えたこっちゃないが。 大方、さっきの子達がここで立ち往生してるのを見かねて貸しちゃったんだろうな。 普段俺にはろくでもないな態度をとるやつだが、根っこが優しいことぐらい俺だって知っている。 前にあやせからも、困ってるところを助けられたと聞いたこともあったし、桐乃らしいって言えばらしいんだろう。 もっとも、あの傘を貸してあげるということまでは予想外だったが。 「こんなところにずっといたら風邪引くぞ」 「うっさい。そんなのあたしの勝手でしょ」 「そりゃそうだ」 「わかったらほっといてよ」 それが出来れば苦労しねえよ。こんな状態のお前をほっとけるわけがねえだろ。 「…………」 「聞いてんの?」 「聞いてるよ」 とはいえどうしたものか。現状で取れる手段は多くない。 取れる方法はせいぜい二つ ①、俺の傘に二人で入って帰る(所謂相合傘) ②、俺の傘を桐乃に貸して俺は走って帰る ……ないわ。自分で考えておきながらなんだが、①はありえん。 俺はともかく、桐乃がそんなことを許容するとは思えない。 となれば必然、取れる方法は決まってくるわけで。 「ほれ」 手に持っていた傘を突き出すようにして桐乃に差し出した。 桐乃はワケがわからないといったように目をパチクリさせている。 「……なんのつもり?」 「傘。使えよ」 「はあ? 意味わかんないんだケド」 「意味も何も、そのまんまの意味だが」 「そういうことじゃない! 何でそれをあたしに渡すのかって言ってんの! あんただってそれしか傘無いんでしょ?」 おおぅ、いきなり大きな声出すんじゃねえよ。びっくりするじゃねえか。 「そうだな」 「そうだなって……それじゃあ、あんたはどうやって帰るわけ?」 「走って帰る」 だってそれぐらいしか方法なさそうだし? それに今なら雨もそれほど強く降ってないから言うほど濡れないだろ。 「帰りに寄り道すんなとは言わねえけど、あんまり遅くなるんじゃねえぞ」 「ちょっ……」 「んじゃな」 持っていた傘を押し付けるようにして桐乃に渡した。 それじゃあとっとと帰りますかね。雨が強くなっても面倒だしな。 そう思って駆け出そうとした瞬間、襟首を後ろに思いっきり引っ張られた。いきなりのことに「ぐぇ」と情けない声が漏れる。 「お、おま、なんつーことを……!」 「うっさい。何かっこつけようとしてんの? それと、あたしはそんなこと頼んじゃいないし、正直キモイ。 勝手に一人で話進めて終わらせないでくんない?」 くおおぉぉ……わかっちゃいたが相変わらず腹の立つ言い方をするやつだなぁこいつも! 「いや、だからってな……」 「別にあんたが濡れて帰る必要なんて無いじゃん。ほら、さっさとこの傘持ちなさい」 いつの間にか広げられた傘を半ば無理矢理持たされる。 ちょっとまて、これじゃあ俺がやったことがまったく無意味になるじゃねえか。 「でもそれじゃあお前が……」 「あーはいはい。それ以上言わなくていいから。だから、こうすれば二人とも濡れなくてすむでしょ」 スルっと、拒否する間もなくあたかも自然に桐乃は俺の傘を持つ腕に自分の手を絡ませた。 「んなっ!? き、桐乃? お前なんでこんな――」 「うっさい黙れシスコン。あんたが引き下がりもなさそうだから仕方なくこうしてるの。 あんたが濡れて帰って風邪でもひかれたらあたしのせいみたいで後味悪いし。勘違いしないでよ」 「勘違いって……」 いや、確かにさ? さっきこうするって選択もあったわけだけど、何でこうなるんだ? 俺はいつの間にそんなフラグを立ててたんだよ? 「で、でもな」 「あーもう、さっさと歩け! これじゃあいつまでたっても帰れないでしょうが!」 しどろもどろになる俺を、無理矢理引っ張るようにして歩き出した桐乃だが、よく見れば顔が真っ赤だ。 平気なふりをしてるがやっぱり恥ずかしいらしい。当たり前といえば当たり前だ。だって俺も顔が熱い。 そんなふうにして漸く帰路についた俺たちだが、お互い何を話していいのかわからず黙り込んでしまい、雨のサーサーという音以外の音の無い空間が出来上がる。 気まずい。何か話そうと思うのだが、なにやら桐乃に掴まれている腕のひじの辺りのやわらかい感触のせいで頭が回らない。 「あたしさ……」 そんな状態がしばらく続いていたが、ぽつりと桐乃が声をもらした。 「今日は傘を忘れてたんだよね。ほら、朝は晴れてたじゃん?だから必要ないって思って持っていかなかったんだ」 だろうな。俺だって鞄にたまたまこの傘を入れてたからこうして帰れてるわけだし。 「帰りに外見て、雨降ってるのがわかった時は最悪って思ったんだけどさ、それとは逆にあの傘を使えるっていう変な嬉しさもあったの」 勿論、学校の近くで使おうなんて思ってなかったし、実際に傘をさしたのは学校から大分離れてからだったから」 ふむ。言われてみればずっと軒下にいたにしては髪が濡れすぎてるような気がする。言われるまで気付かなかったな。 「それで、あの傘をさしたままここを通りかかって……雨宿りしてる女の子をみつけた。 最初はね、無視するつもりだったの。でも、近くまで来て、女の子が泣きそうな顔をしてるのが見えちゃって…… 一回はそのまま通り過ぎたけど、やっぱりその子を放って置けなくて……気がついたら道を引き返して傘を渡してたんだ。 あの傘を渡すのは正直、嫌だったんだはずなんだけどね。苦労してやっと手に入れたものだったし」 あはは、と苦笑する声は優しげで、口を挟むのはためらわれた。 こいつ、こんな声も出せたんだな。って言うのはどっか場違いな感想だったかもしれない。 「ああ、やっちゃったなあって思ったけどさ、あの子、笑ってくれたんだ。 ありがとうって。その笑顔見ちゃったら、なんかどうでもよくなっちゃって…… その子が見えなくなるまで見送ったの。何度も振り返って手を振ってくれて、可愛かったなあ」 どこか遠くを見るような目をしているの桐乃。その時のことを脳裏にうかべているんだろう。 少しだけデレっとしてるあたり、こいつの妹好きな部分がにじみ出てるなあ。 「でさ、まあその子に傘渡しちゃったわけじゃん? 雨はまだ止みそうもないし、どうしようかなってちょっと途方にくれてたところにあんたが来たってわけ」 「なるほどな。そういうわけか。でも、ホントによかったのか? あんなに大事にしてたのに。 なんなら今からでも探せばもしかしたらその子見つかるかも知れないぞ? アレだったらこの傘と交換すればいいし」 なんてことを言っちまったけど、見つかる可能性は低いだろうな。 そもそもその子がどこの子かもわからねえわけだし。 「しつこいわねあんたも。いいの! あたしはあたしが思う通りに行動した結果なんだから、後悔なんてしてない。 確かに、あの傘がなくなっちゃったのは残念だけどそれだけ。 そのかわりにあの子を助けることが出来て、笑顔を見れたんだから。それだけであたしは十分なの! ということでこの話はおしまい! ほら、とっと帰るよ!」 「うおっ!? おい! そんな引っ張るなって! 濡れちまうぞ!?」 照れ隠しか、そう言って俺の腕を引っ張る桐乃の顔は、眩しいほどに誇らしく、そして優しさに満ちていたものだった。 その日の夜、俺は目の前に移るパソコンの画像を見つめていた。 画面に映るのは桐乃が大事にしていたメルルの傘。 ちょっと気になるものがあったから、オークションサイトで物を一時間ほど探しているうちに『たまたま』見つけてしまったのだ。 ……別にこれを探していたわけじゃないぞ。さっきも言ったが『たまたま』だ。『たまたま』。 他意はないので勘違いしないように。 オークションサイトらしく、そこには希望の値段とそれを売るまでの期間が設定されている。簡単な紹介も載っていた。 この商品については競売方式でなく、出品者が希望の値段をつけてそれを買う人がいたら即決するという形になっているようだ。 商品状態は良好。というより未使用未開封というあたりきな臭さを感じないでもない。 もしかしてこれが俗に言う転売というやつだろうか。 ふむふむと詳細を見ていたのだが、値段のところを見たところで目を剥いた。 ……ちょっと待て。何だこの値段は。一、十、百、千……おいおい、マジかこれ。 桁が一つ二つ間違ってるんじゃねえのか? どう考えても傘一本につける値段じゃないだろ。 桐乃が言っていた、抽選でしか当たらないって言うのは伊達じゃ無かったって言うことか。 でも……だとしても流石にこれは無いんじゃね? 明らかに法外だとも思えるような値段に戦慄する。 なるほど、売れずに残っているわけだ。これなら確かにいくら限定品だとしても手を出すやつはそうはいまい。 まあ、手が出ない値段というわけでもないんだけどね。……ギリギリだけど。 競売期間を見れば、期限は今日の0時まで。今は11時50分をまわろうとしている。 料金は落札後の後払い。つまり手続きさえ済ませてしまえば金は後でいいわけだ。 思い出されるのは、あの帰り道で見た、傘を渡した女の子のことをしゃべっていた桐乃の顔。 誇らしげだった。優しさに満ちていた。でもその隅に……大事なものをなくしてしまった寂しさを隠せていないでいた。 ……俺って金の使い道無いんだよね。欲しいものっていうかそんなのもないし。 だからまあ、これぐらいなら使ってもいいと思うんだよ。うん。 言い訳がましい。そんなのわかりきったことだ。これは自己満足以外のなにものでもない。 画面上での手続きをトントンと済ませていく。――現れる最後の画面。 ――多分、てか絶対に余計なお世話とか言われるんだろうなぁ…… そして俺は最後の1クリックを――― END -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1875.html
741 名前:【SS】:2014/04/30(水) 08 13 51.27 ID Xe4cm/DPI SS 『二回目の二人乗り』 がちゃ。 「ただいまー。」 「あ、やっと帰ってきた。」 大学から帰って来て、扉を開けると、玄関で桐乃が待ち構えていた。 「はい、コレ。」 そう言って、なにやら封筒を渡してくる。 「なに、コレ?」 「ん?ソレ?教習所の申込書。」 、、、。 「知ってるとは思うが、俺はもう免許を持ってるんだけど?」 「うん、知ってる。こないだ一緒にドライブに行ったじゃん。」 「、、、だよな。で、これは?」 「バイクのほうの教習所の申込書。」 「は?」 「人生相談。バイクの免許、取ってきて。今すぐ。」 、、、。 俺はこめかみを押さえながら聞き直す。 「すまん、もう一度言ってくれるか?」 「だからー、バイクの免許を今すぐ取ってきてっつったの。」 どうやら聞き間違いではなかったらしい。 「えーと、、、車の免許は取ったんだから、原付きのバイクならもう乗れるんだが?」 「ダメ!それじゃ!意味無いから!」 「へ?なんで?」 「な、なんででもいいでしょ!いいから、とにかく、すぐに取ってこいっての!いい?わかった!?」 相変わらず理不尽な態度で人にモノを頼むヤツだ。もうちょっと可愛げのある頼み方ができねーもんかね、コイツは。 「、、、てゆーかさ、俺、バイクとか持ってねーし、買う金もないっつーのに、何でわざわざバイクの免許なんか取らなきゃいけないんだよ?」 「沙織がバイクを譲ってくれるって言ってんの!」 「沙織が?なんで?」 「沙織のお姉さんのバイクが使わないままになってるから、譲ってくれるって。」 「じゃなくてだな。そもそも何で沙織が俺にバイクを譲ってくれる、なんて話になったんだ?」 「は?イチイチそこから説明しなきゃいけないワケ?」 「あたりまえだ!はいそうですか、で、取りに行くようなもんじゃねーだろ!金だってかかるんだしよ!せめて理由くらいちゃんと説明しろっての!」 「はいはい、ったく、しょうがないなぁ。じゃあ、ちゃんと説明したげるから、あんた、お茶とお菓子持ってあたしの部屋に来てよ。」 「なんでだよ!」 「だから、説明してあげるからって言ってんでしょ?」 「じゃなくて!なんで俺がお茶とお菓子を持っていかなきゃいけないんだよ!逆だろ!普通!」 「え?だって、可愛い妹があんたにお願いしてあげるっつってんだから、手土産のひとつくらいとーぜんっしょ?」 「日本語がおかしいだろ!」 お願いってのは、いつから『してあげる』ものになったんだよ!? 「うっさいなぁ。じゃあ、あたしがお菓子用意するから、あんた、お茶入れてよ。」 、、、。 はたしてこれを、一緒に手伝うようになった分だけマシになった、と喜んでいいものなのだろうか? 「ったく、お茶くらい自分で入れろっての。」 そんな文句をブツクサ言いながらも、桐乃と一緒にキッチンに向かう俺だった。 「で?どういう経緯でそういう話になったんだ?」 桐乃の部屋に入っていつもの座布団に座り、入れてきた紅茶を一口飲んでから問いかけると、 「はむ。ふぇいいっへ?」 と、クッキーをくわえながら、桐乃がそう聞いてくる。 「沙織がバイクを譲ってくれることになった経緯だよ!」 自分で話しといて、忘れてんじゃねえよ。 「むぐむぐ、、、っん。えーっとねぇ、、、こないだ池袋でぇ、、、」 ------------------------------------- 「へへへー、どう?」 「ぐぬぅ、、、。た、確かにお兄ちゃんは車の免許を持ってないから、こんな写真は撮れないです、、、。でもでも!ほらっ!コレ!見てくださいよ!」 「んー?写メ?どれどれ?、、、なっ!、、、な、、、ん、、、だと、、、!バイクで一緒に、二人乗り、、、だと、、、!?」 「ふふーん、どうです?確かに桐乃ちゃんの写真の先輩もシスコンだと思いますけど!それはあくまで助手席に座らせてるだけの話!」 「ぐ!」 「その点、ウチのお兄ちゃんなんて、妹とくっついて二人乗りですよ!これはもう、ウチのお兄ちゃんの圧勝ですね!今日は!」 「ぎにに、、、。」 ------------------------------------- 「、、、ってワケ。んで、」 「いや、、、その前にだな、、、。お前らはいったい何を競いあっとるんだ?」 「え?どっちの兄貴がシスコンかの対決だけど?」 「くだらねぇ!」 しかも『今日は』って、いつもそんなことやってんの?おまえら?どんだけブラコンなんだよ! 「は?どっちの妹が可愛いかで競いあってたあんたらに言われたくないんですケド?」 、、、。確かにそうですね、はい。 「それにそれに!帰りにせなちーのお兄さん、バイクでせなちーを迎えに来たんだよ!カッコよくない!?」 、、、さすがだな、赤城。友達と遊んでた妹を、わざわざバイクで迎えに行くとは。 まぁ、あいつのことだから、『真壁ごときに大切な妹を迎えになど行かせん!』とか言ってそうだけど。 「えーっと、、、じゃあ、俺もおまえを車で迎えに行けばいいってことなのか?」 「は?あんた車なんか持ってないじゃん。」 「だから親父の車で、、、」 「ありえないってーの!向こうはカッコいい自分のバイクで、こっちはお父さんに借りた車とか!」 「ぐ、、、。」 しかたないだろ!貯めてた貯金はぜんぶ卒業式の日に使い果たしちまったんだからよ! だいたい、大学に入ったばっかりで自分の車に乗ってるやつなんてそんなにいねーっての!普通! 「んでさー、アキバであいつらと遊んでる時にその話をしたらさー、、、」 ------------------------------------- 「、、、ってなカンジで、せなちーのお兄さん、バイクで池袋までせなちーを迎えに来たんだよ!カッコよくない?」 「そうかしら?」 「大勢の人の前で颯爽とバイクで登場して、ヘルメットをせなちーに渡して『ほら、行くぞ』だって。なんかドラマみたいじゃん!」 「だったらあなたも、あの人に車で迎えに来てもらったらどうなの?」 「いや、あいつ、車なんか持ってないし。それに、車で迎えに来てもらうくらいだったら電車で帰ったほうが早いっての。」 「相変わらず素直じゃないわね。」 「なんか言った?」 「別に。」 「ふむ、、、それなら、京介氏にもバイクの免許を取ってもらったらいかがでござるか?」 「は?」 「きりりん氏が『お兄ちゃん、お願いっ♪』と萌えキャラっぽく頼めば、京介氏はすぐにでも免許を取ってきてくださると思いますが?」 「するかっ!」 「というか、あなた、本当は免許を取ってきてほしいのでしょう?」 「ち、違うっての!」 「だいたい、今の話を聞く限り、どこをどう聞いてもそういう結論にしかならないと思うのだけれど?」 「う、うっさい!」 「まぁまぁ。でももし、京介氏がバイクの免許を取得なさるのであれば、拙者の家にあるバイクを1台、提供させていただいてもよいのでござるが?」 「え?なんで?」 「いやなに、拙者の姉が昔使っていたバイクが何台も家にあるのでござるが、最近は全然乗らずじまいで。それでひたすらメンテナンスだけをやっている状態で、困っていたところなのでござるよ。」 「そうなの?」 「はい。ですから、京介氏にメンテナンスしていただけるのであれば、無期限で1台貸し出ししても良いのでござるが、いかがですかな?」 ------------------------------------- 「マジか!?そーゆーことなら、頑張ってバイクの免許取りに行くっきゃねーな!」 「でもやっぱ、あんたには痛チャリのほうが似合ってるかもね。」 「嬉しくねぇ!」 「けどあんた、最近、普通の自転車に乗ってたことあったっけ?」 「ぐ、、、。た、確かに最近、痛チャリにばっか乗っているような気はするが!断じて好きで乗ってるワケじゃねぇ!」 「とか言って、けっこー気に入ってんじゃないのーw?」 「んなワケあるか!」 「まぁ、別にどっちでもいいんだケドー。つーか、頼んどいてなんだけどさー、あんた、取れる自信あんの?バイクの免許?」 「ふっ、なめんなよ、桐乃。すぐに取ってきてやるぜ!」 ビッと親指を立てて見せる俺。 「あっそ。ま、せいぜい頑張ればぁ?」 そう言って、ぷいっとそっぽを向く桐乃。 モノを頼むヤツが言う台詞じゃねぇだろ?それ。 まぁ、翻訳すると『じゃあ頑張って早く取ってきてよね』ってことなんだろうが。 「んで?」 「は?なに?なんかまだあるワケ?」 「『お兄ちゃん、お願いっ♪』は?」 「す、するかぁぁぁぁっ!」 ------------------------------------- で、時は流れて一ヵ月後。 キーンコーンカーンコーン。 『きりのー、じゃあまたねー。』 「うん、ばいばーい、ランちーん。」 ドドドドド、、、キキーッ、ヴォン、ドッドッドッ、、、。 「うぇ?な、なに?」 「よう、桐乃。」 ヘルメットのシールドを上げて声をかける。 「え、、、?も、もしかして、あんた、京介?」 「他の誰に見えるってんだよ?」 「そ、それ、、、?」 「ああ、沙織のバイクだよ。」 「き、昨日はなんも言ってなかったじゃん!いつのまに免許取ったワケ!?」 「へへ、こないだ。おまえを驚かそうと思って黙ってたんだよ。」 『なーに?きりのー?もしかして、彼氏ー?』 「や、えと、あの、、、。」 『かっこいー!さすが桐乃の彼氏だねー!』 『ねー、似合ってるよねー。』 「あ、あはは、、、そ、そう?」 「ほらよ。おまえのメット。」 「あ、う、うん。」 『いいなー。』 『わたしも彼氏に迎えに来てもらいたーい。』 「うう、、、恥ずかしすぎる、、、。」 「なんか言ったか?」 「う、うっさい!は、早く出せってーの!」 そう言って俺のメットをぺちぺち叩いてくる。 「へいへい、分かった分かった。じゃあ、しっかりつかまってろよ?」 「わ、分かってるっての。」 ------------------------------------- そして、近所の公園まで帰って来たところで、桐乃を降ろすために一旦バイクを止める。 バイクの件は親父にも説明してあるのだが、さすがに制服で二人乗りなんかしてるところを見られたら怒られちまうからな。 「あ、あんたねぇ、、、。」 「ん?どうした?」 「ど、どうした?じゃないっ!ったくもう、いきなり学校まで迎えにくんなってーの!びっくりしたじゃん!」 「へへ、どうだったよ?初めてのバイクの乗り心地は?」 「恥ずかしすぎるっての!あーもう、、、あした学校で何て言おう、、、。」 「普通に兄貴に迎えに来てもらったって言えばいいんじゃねーの?」 「簡単に言うな!ブラコンだって思われちゃうじゃん!」 「そーかぁ?」 ブラコンだってバレちゃうじゃん!の間違いじゃね? 「そーなの!あーもー、いーや、彼氏ってことにしとくから!」 「いいのか?それで?」 「仕方ないじゃん!」 「まあ、俺は別にいいけどよ、、、。」 「だからあんた、今度からちゃんと迎えに来てよね!」 「は?なんで?」 「い、一回迎えに来ただけだったら、あたしがフラれたみたいに思われちゃうじゃん!だからちゃんと続けろってーの!」 「ちゃんと続けろって言われてもな、、、。俺だって大学があるんだから、毎日迎えになんて来れないぞ?」 「ま、毎日来るつもり!?どんだけシスコンなワケ!」 「おまえが続けろっつったんだろ?」 「それはそーだけど、、、。さすがに毎日は恥ずかしすぎるっての。」 「じゃあ、どうしろってんだよ?」 「え?えっと、、、えっと、、、じゃ、じゃあ、迎えに来て欲しいときにメッセするから、そんときに迎えに来てくれる?」 「ったく、しょうがねえなあ。わかったよ。ちゃんと迎えに来てやるよ。」 「ホントにいいの?」 「ああ。」 「ぜ、ぜったい?ほんとに、ほんと?」 「絶対の絶対。本当に本当に本当だ。」 そんな懐かしいやりとりのあと。 「へへ、、、約束だかんね。」 嬉しそうに桐乃が笑う。 やれやれ、赤城のことを笑えなくなっちまったな、俺も。 でも、妹のこんな笑顔をみたら、兄貴なら誰だってそうしてやりたいって思っちまうんじゃねぇかな? ただ、それを素直に言葉や態度にできるかできないか、という違いはあると思うんだけどよ。以前の俺と、今の俺みたいにな。 「でもよ?」 「なに?」 「それで、もし兄妹だってバレちまったら、なんて言い訳するつもりなんだ?」 「う、う~ん、、、。」 腕を組んで考え込む桐乃。 「おまえ、ウソがヘタなんだからよ。普通に兄妹だって言っといたほうが、いろいろボロが出なくて良いんじゃねえか?」 「ん~~~でもなぁ~~~~。」 、、、。そんなにブラコンだって思われたくないのか? 「ん~~~~~。」 「、、、桐乃?」 頭を抱え込んだ桐乃に近づいたその瞬間。 「んんん、、、ん!ひらめいた!」 バッと桐乃が顔を上げる。 あぶねぇ!危うく桐乃の頭に顎をぶつけるところだった。 幸い、そうはならなかったのだが、かわりに、鼻先がぶつかりそうになるくらい近くに桐乃の顔が迫る。 「ななな、なにをだ?」 動揺してあせりまくりながら思わず仰け反る。くそっ、どもっちまったじゃねーか! い、いきなり目の前に可愛い顔を見せんじゃねーよ!ドキッとすんだろ! 「ふひひ~。聞きたい?聞きたい?」 そんなことは気にも留めずに、嬉しそうにはしゃぐ桐乃。 ウッゼぇ! 昔の俺なら、そう考えるところだな、たぶん。 でも今では、この笑顔を見て、こっちまで嬉しくなってくるんだから、不思議なもんだ。 「あ、ああ。いったい何をひらめいたんだ?」 俺は素直に聞き返す。 「へへへ~、しょうがないなぁ♪じゃあ、教えたげる♪」 桐乃も嬉しそうに答えてくる。 「もし、、、もしバレちゃってもさ、、、へへ、あんたがあたしの彼氏のフリをしてたフリをすればいいんじゃん!」 「フリをしてたフリ?」 「そう!あたしが彼氏を作りたくないから、あんたに彼氏のフリをしてもらってた、ってコトにすんの!そしたらバレても関係なくない!?」 、、、なるほど。 バレなければそのまま彼氏として、バレても彼氏のフリを続ける兄貴として。 どっちにしても彼氏として振舞い続けておけばいいってことか。 へっ、なかなかどうして、よく考えたもんだな。 「良いんじゃねーか?それ?」 「でしょでしょ!」 お互いに満面の笑みで。 「「ひひひひひ。」」 ------------------------------------- 「うし!じゃあ、帰るか。」 「うん!あ、そーだ!チョット待って。」 「ん?」 ぱしゃ。 「へへへ、初めての二人乗り記念。」 「、、、前にチャリで二人乗りしただろ?」 「バ、バイクでのって意味で!だいたい、あんなんじゃ、思い出にはなっても、記念になんかできないし!」 「まあ、確かにな。あんときは補助輪付きの超恥ずかしい痛チャリだったからな。」 「そうそう、あんたが教会に来たときに、みんなの前で『兄なんで。』とか言う羽目になったり、信号待ちで車に乗ってた親子に『見ちゃダメ!』って言われたりして、すっごい恥ずかしかったんだからね!おまけにあれからランちんにまでからかわれるようになっちゃったし!」 「最後のは俺のせいじゃない気もするが、、、。でも乗ってたら慣れただろ?」 「慣れるかっ!」 「そうか?俺は慣れたけど?」 「慣れんなっ!さすがに引くってーの!はっ!まさかあんた、これを痛バイクにする気じゃないでしょーね?」 「するわけねーだろ!慣れたってのは、あくまでもそんときだけの話だっての!御鏡と一緒にすんじゃねーよ!」 「だよねー。あたしもチョー欲しかったけど、さすがに普段乗ったりはできないかんねー。」 欲しかったのかよアレ!?さすがに引くってーの!はっ!まさかこいつ、そのうち痛チャリを買って俺の部屋に飾ったりするんじゃないだろーな!? 一瞬、有り得ない、、、いや、有り得なくもない考えが脳裏をかすめる。 、、、口に出さなかったのは賢明だったかもしれん。 『するワケないでしょ!』って答えじゃなくて、『その手があったか!』って答えが返ってきていたかもしれんからな。 「てゆーか、あんときのあんた、自転車漕ぐので精一杯で、それどころじゃなかったもんねー。来る途中でコケたとか言ってたし。」 「ああ、そうだったな、確か。あんときは、ぜってー間に合わせるって、必死だったからな。」 「でも加奈子たちのライブには間に合わなかったじゃん。」 「う、、、。で、でも、いちばん見たがってたクラリスのライブには間に合っただろ?」 「まーね。、、、へへ、嬉しかったな、あんときは。」 不意に出てきた素直な言葉とその笑顔に、思わずドキッとしちまう。 「、、、ライブ、楽しみにしてたもんな、おまえ。」 「うん、ライブ見れたのも嬉しかったけど、、、」 「けど?」 「、、、な、なんでもない。」 「?」 「なんでもないっての!そ・れ・よ・り!」 「?」 「せっかくバイクの免許を取ったんだから、今度どっか連れてってよ!」 「あ、ああ、そーだな。じゃあ、今度の休みにでも、どっか出かけるか?」 「うん。」 「決まりだな。んじゃ、そろそろ帰るか?」 「そだね。」 そして、バイクを押しながら、桐乃と一緒に歩き始める。 「ねぇ、、、。」 「ん?」 「あんたは、あんとき、どんなこと考えてたワケ?」 「え?あー、忘れちまったよ、そんなこと。」 「ホントにーw?」 「ああ。あんとき、どんなこと考えてたかなんて覚えてねーよ、さすがに。でも、まぁ、どんなこと考えてたかは想像つくけどな。」 「へぇ?どんなこと?」 「、、、なんでもいいだろ?」 「言いかけてやめんなっての。」 「おまえも言いかけてやめてただろ、さっき?」 「そ、それはそれ!これはこれ!」 そんな妹の態度に、思わず、ぷっ、吹き出す。 やれやれ、、、相変わらずな妹様だな、まったく。 「な、なに笑ってんのよ!」 「別に。あんとき考えてたこと、ね。」 これまで自分自身の行動を『妹だから』とか『兄貴だから』とか、いろいろ理由をつけて考えてきたんだけどさ。 「それはさ、、、」 そんなのは全部、後付けの理由でしかなくて。 「それは?」 本音のところは、結局---。 「、、、おまえの笑顔が見たい、ってことかな。」 「っ、、、!、、、こ、こ、こ、この、シスコン!マジ顔でなに言ってくれちゃってんのよっ!」 真っ赤になった桐乃が大声でまくしたてる。 「うっせ。おまえが聞いてきたんだろ?」 「ふん!このシスコン!、、、シスコン!シスコン!シスコンっ!」 そう言いながらちょっとだけ先回りして振り返り、べーっ、と舌を出す。 「悪かったな!何度も言わなくったって分かってるっての!」 俺はバイクを押しながら、そう言い返す。 「ふん!あんたが恥ずかしいこと言うからでしょ!」 「へいへい。」 そんなことを言い合いながら、俺がそばまでたどり着くと、 「ったくもう。いきなり言うなっての。」 そう言って妹はまた、となりに並んで一緒に歩き始める。 そうやってしばらく並んで歩いたあとで。 「、、、、、、、、、、、、、、、でもね。」 少し間をおいて、彼女は小さく、そう呟いて。 バイクを押す俺の腕に、そっと自分の腕を絡ませる。 「っ、、、!」 「あたしもね、、、。」 あのときの光景を思い出すように、そっと目を閉じて---そして、ゆっくりと言葉を紡いでいく。 「あたしも、、、ホントに嬉しかったよ?、、、あんたがあたしを、教会まで迎えに来てくれて。」 「っっっ、、、、、、!!!」 そう言って、顔を上げて、照れくさそうに優しく微笑む。 「へへ、、、ありがとね、兄貴。」 そんな桐乃の笑顔を見つめながら。 きっとあのとき思ったのと同じように。 俺はまた、こう思うのだった。 俺の妹がこんなに可愛いわけがない、ってな。 ------------------------------------- それからしばらく経った、とある休日。 沙織からの連絡を受けてアキバにバイクでやってきた俺たちは、いつものようにレンタルルームに集まっていた。 少し遅れて沙織がやってくる。 「いやぁ、お待たせし申した。」 「遅かったじゃん。ねぇ、今日はここでなにすんの?」 「いやなに、今日はちょっとした鑑賞会をしようかと思いましてな。」 「鑑賞会?なんの?」 「むふふ、ちょっとばかり準備を致しますので、しばしお待ち下され。黒猫氏、これを。」 「ふふふ、これが闇の記憶を封印せし魔導具ね。はたしてどんな記憶が刻まれていることかしら。」 そんな邪気眼全開の台詞を口にしながら、黒猫は沙織からなにやら受け取ってパソコンにセットしたあとでキーボードを操作する。 「ふっ、これで全てが白日の下に映し出されるわ。さあ、その闇の記憶を呼び覚ますがいい!」 ノリノリだな、あいかわらず。 切り替わったプロジェクタの画面に目を向けると、地図と点線が映し出されていた。 「?これは?」 「おや?お分かりになりませぬか?」 「いや、地図ってのは分かるけど、この点線はなんなんだ?」 「ああ、なるほど。言い忘れておりましたが、あのバイクにはドライブレコーダーが付いておりましてな。」 「それで今日は、きりりん氏と京介氏のバイクデートコースを皆で堪能しようね会を」 「「するなぁぁぁぁっ!」」 Fin ----------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/938.html
869 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23 45 06.00 ID eq/NBlA20 竹達さん繋がりで見たkiss×sis(OAD)のOP 「ふたりのハニーボーイ」の歌詞を桐乃風にして見ました。 最近どんな作品見ても高坂兄妹に繋げてしまう……。 あたしのHoney-Boy Shy-Boy 愛情ひとりじめ! おなじ屋根の下でいつも 趣味バカにしないって 優しさが嬉しいよ(キモいケド!) これからも甘えたい ほかの娘は見ちゃダメだからっ あたしも兄貴のコト 好きかもしんない(ウソ?) 四六時中ときめきが止まらないの 人生相談させて アキバの深夜販売 二人きりで朝までエロゲー あたしのHoney-Boy Shy-Boy 愛情ひとりじめ! しばらく会えなくなっちゃうケド… アメリカに来てくれたよね 寂しくて死んじゃうって(超シスコン!) あの時の思い出は いつまでも宝物だよ 兄貴のことが(ドキドキ HEART) 大嫌いなのに(キモキモ!) あたしのことが一番じゃなくちゃイヤ! 人生相談 聞いて いつでも夢中 MU CHU CHU おなじ屋根の下でいつも おねがいHoney-Boy Shy-Boy 涙を流さないで あたしはあんたの味方だからさ 人生相談 続き 朝まで夢中 MU CHU CHU おなじ屋根の下でずっと… はじまりは人生相談 寝顔に平手打ち オタク趣味をカミングアウト あたしのHoney-Boy Shy-Boy ずっとずっと…いつまでも あたしの秘密 護ってよね! アニメ2期は不安だけど、竹達きりりんの声が聞きたい ドラマCD第2弾出ないかな…… -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1888.html
729 名前:【SS】:2014/08/02(土) 16 27 35.72 ID AEgRSl/I0 『闇猫の結婚祝い』 日曜日、俺高坂京介は自宅のリビングのソファーに寝転んで日々の疲れを癒やしていた。 おっと。自宅と言っても実家じゃないぜ?正真正銘俺の我が家だ。……お金を出したのは殆ど桐乃だけどな? これだけ言えばすぐにピンと来た人もおられようが、先月、俺と桐乃は桐乃の大学卒業を機に人生二度目の結婚式を挙げ、同時に二人暮らしを始めたのだ。 そこに至るまでには様々な困難があったが、「間違っていても、これが俺達の幸せなんだ!」と言って回って周囲を説得した。もちろん全員に納得してもらうことは出来なかったけどな。 それでも結婚式には親父とお袋も含めて近しい人達が参列してくれた。あれは人生最大の幸せだったね。 もちろん実の兄妹だから籍を入れることは出来ないけどな。所謂内縁状態ってやつだ。 ところで、俺と桐乃の二人暮らしと聞いて、甘々な新婚生活を想像したかもしれない。 しかし何のことはない。桐乃は俺達が兄妹であっても恋人であっても夫婦であっても、相変わらず生意気なままなのだ。エロゲーとは違って、簡単にはデレてはくれない。 でも俺は、そんな桐乃の可愛いげのないところが可愛いと思えるのだった。 斯くして俺は二人暮らしの家で休日をぐーたら過ごしていた。これが俺が努力で勝ち取った普通の人生である。 ちなみに天下のモデル様は仕事だ。 俺が追憶に耽っていると、ピンポーンと来客を知らせるベルの音がした。 ソファーの上からインターホンのモニターを見ると、見慣れた顔が映っている。 インターホンには出ず、直接玄関に向かう。 ガチャッ 「よう黒猫。元気だったか?桐乃なら今日はいないぜ。」 「黒猫?いいえ違うわ。我が名は復讐の天使"闇猫"。あらゆる恋を否定せし者」 あちゃー、まさかの闇猫モードか。社会人にもなって何やってんだ。最近は治まっていたのにな。まぁ元気そうで何よりだ。 黒猫の姿をよく見ると、流石にゴスロリファッションではなかったが、両眼に違う色のカラーコンタクトを装着し、そして右手には大きな荷物を提げている。 「それで…闇猫さん?桐乃はいないぜ?」 闇猫さんに刺激を加えると危ないので、無難にさっきと同じことを言ってみる。 「あの女に用があるわけではないわ」 「それじゃお」 「貴方でもないわ」 おい!俺が質問する前に答えるんじゃねぇ! 「今日私がここに来たのは、貴方達に結婚祝いを渡す為よ」 そう言って右手の荷物に被さっていた布をハラリと落とす。 そして見えてきたのは、円筒型の鳥かごと、色鮮やかな1羽の鳥。かごの中でその鳥は眠っているようだ。 「これは…?」 「私の魂の一部と呪いが封じ籠められた復讐の使者よ」 「……日本語で言うと?」 「…セキセイインコよ」 なるほど。これがセキセイインコか。実物を見るのは初めてだ。 よくよく考えてみると、生き物など飼った経験などない。少し面白そうだ。 「ありがとな、黒猫。きっと桐乃も喜ぶよ」 「黒猫ではなく闇猫だと言っているでしょ。何度も言わせないで頂戴」 そう言いながらも、照れているのか頬を赤らめる黒猫。 「それに、お礼を言われるのにはまだ早いわ」 「?」 ずっと玄関口で話し続けるのもなんなので、黒猫に提案してみる。 「取り敢えず家に上がっていかないか?」 「遠慮しておくわ。ここは光に満ち過ぎている。闇の眷族たる私には、ここに留まるのは10分が限界よ」 微妙に分かり辛いやっかみを言う黒猫だったが、俺には更にその裏側にある真意を十分に読み取れた。 「忙しいのにわざわざ届けてくれたんだな。本当にありがとよ」 「ば、莫迦!何を言っているの!?」 目を白黒させて去っていく黒猫。 しかしすぐに体を反転させて仏頂面で戻ってくる。 「肝心のこれを渡し忘れていたわ」 「いっけね。俺も忘れてた」 黒猫から鳥かごを受け取る。するとセキセイインコは目を覚ましたのか、かごの中で騒ぎ始めた。 「貴方達がこのセキセイインコを大切に育てれば、やがてその努力が実を結び、貴方達に破滅と安寧をもたらすわ。そうなれば私の復讐は成功よ」 破滅と安寧?全く逆の意味のように感じるが…? 「分かった。大切に育てるよ」 俺の言葉を聞いて満足したのか、今度こそ黒猫は帰っていった。 リビングに戻って鳥かごを机の上に置くと、セキセイインコも騒ぐのをやめた。 かごに顔を近付けて眺めていると、向こうも顔を近付けてくる。愛嬌があってカワイイヤツだ。 暫くすると玄関から物音がする。 「京介ただいま~」 桐乃が帰宅したようだ。玄関へ迎えに行く。 「お帰り桐乃。さっき黒猫が来たんだけど、」 「マジで!?どこ?どこにいんの!?」 「おい桐乃。靴箱ん中覗いたっているわけねーだろ。黒猫はもう帰ったよ」 「ちぇ…。あんた、もうちょっと頑張って留めておきなさいよ」 「いやさ、あいつも忙しそうだったしよ」 そして俺は、黒猫の持ってきた結婚祝いについて説明する。 「へぇ~。なかなか可愛いじゃん」 こうして、俺と桐乃とセキセイインコの、2人と1羽の生活が始まった。 俺は毎日朝に出勤して夜に帰る。日曜日は大抵休日だ。 対して桐乃は仕事の特殊性もあり、仕事に出る時間も戻ってくる時間も休日も不定期だ。 そんな訳で俺達は、家事を分担して協力して暮らしている。 セキセイインコの世話もお互い時間を見て行っている。 インコもすぐに俺達夫婦に馴れたようで、今では俺の休日の大事な癒やしの1つとなっている。桐乃も同じようなもので、俺が仕事を終えて帰宅すると、何やらインコに向かって話し掛けていたりする。 ある日、テレビを見ながら桐乃に聞いてみる。 「お前、あのセキセイインコのこと、何て呼んでんの?」 普段セキセイインコの話をするとき、俺達はそのまま品種名で呼んでいる。 桐乃はインコに名前をつけているのか、疑問に思ったのだ。 「そ、そんなの。なんだって良いじゃん!?」 「あぁ。確かにそうかもしれないな」 元々思い付きで聞いたことだったし、その方が俺にとっても都合が良いので、敢えては追求しない。 仕事場から帰ると愛しの妻と癒やしのセキセイインコが俺の帰りを待ってくれていて、桐乃がいない日は俺とインコとで妻の帰りを待つ。 そんな毎日の繰り返し。 幸せの真っ只中で俺は考えた。 黒猫の言ってた"安寧"ってのは、こういうことなのかもしれないな………。 ところが数ヵ月後のある日、安寧の日々を打ち破る危機が俺達夫婦に迫っていた。 ことの発端はあまりよく覚えていない。 何時もならどちらかが不満を漏らせば、互いに改善案や妥協案を提示し合い、より良い解決策を探っていく。 そんな民主的な方法が俺達のやり方だった。 しかし今日は運悪く、2人とも虫の居所が悪かったのだ。 兄妹喧嘩は夫婦喧嘩へと進化し、その内容もより生々しいものへと変化していた。 「あんた!この家買えたの誰のお陰だと思ってんのよ!」 「俺がまだ家は早いって言ったのに、早く二人暮らしがしたいって駄々捏ねたのはお前だろうが!」 「うっさい!あんただって二人暮らし出来ることあんだけ喜んでた癖に!」 「そんぐらい良いだろ別に!それと前々から言いたかったんだけどよ、お前以前に比べりゃ料理の腕はかなり上達したけど、今でも食器の片付け面倒臭がって俺に押し付けてばっかじゃねーか!」 「はぁ~~?あたしがあんたを食わせてやってんだからそんくらい当たり前でしょっ!?」 「んだとコラ。確かにオメーの方が収入は多いが俺だって独りでも食っていけるわ!」 「じゃあもうこの家から出てけ!」 「へーへー分かったよ出ていってやるよ。こんな家、俺がいなくなったらすぐゴミ屋敷になるだろーさ」 「あ゛?」 まさに売り言葉に買い言葉。 不満を撒き散らせばストレス解消になるが、それによって相手のストレスが増幅し更に不満を撒き散らす。 加速度的に積もってゆく不満。お互いダメだと思いつつも、どうにも止まらないところまで来てしまった。 二人暮らしなので間に割って入ってくれる人もいない。 一触即発の空気。最早どちらかが家を飛び出すまで治まりそうにない。 セキセイインコも不穏な空気を察知したのか、リビングの隅の鳥かごの中で暴れている。 すると突然セキセイインコが何か言葉を叫び始めた。 こいつを育てるときに色々調べていたので人の言葉を覚えることは知っていたが、それは知識としてであって、普段の生活の中では忘れていた。 「キョースケ アイシテル!」 「キリノ ダイスキダ!」 こうして危機は去った。 俺達は2人仲良く悶絶し、再び"安寧の時"が訪れた。 完。 ----------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1566.html
絵画ギャラリー07 116スレ~に直接投下された絵のギャラリーです(iPhone対応)。 単発の絵のみ掲載し、連作は別ページとなります。 ※サムネクリックでもwiki内リンクに飛べます。 レス番 116スレ目206 116スレ目540 116スレ目736 サムネ一部 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (s116x0540.jpg) wiki内 116x0206.png 116x0540.jpg 116x0736-1.jpg リンク パンツだけは許さない フィギュア 指差し レス番 116スレ目736 116スレ目736 116スレ目736 サムネ一部 wiki内 116x0736-2.jpg 116x0736-3.jpg 116x0736-4.jpg リンク 1巻 2巻 クリスマス レス番 116スレ目736 116スレ目800 116スレ目935 サムネ一部 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (s116x0800.jpg) wiki内 116x0736-5.jpg 116x0800.jpg 116x0935.jpg リンク DVD8巻 『簡単なお仕事』 角顔きりりん レス番 117スレ目61 117スレ目517 117スレ目569 サムネ一部 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (s117x0061.jpg) #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (s117x0517.jpg) #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (s117x0569.jpg) wiki内 117x0061.jpg 117x0517.jpg 117x0569.jpg リンク 料理のコツは? tudu.JPG 幼馴染・If レス番 117スレ目655 118スレ目158 118スレ目668 サムネ一部 wiki内 117x0655.jpg 118x0158.JPG 118x0668.JPG リンク おいしいイモ○○ ぐっすり安眠 伏見先生お大事に レス番 118スレ目730 119スレ目216 119スレ目584 サムネ一部 wiki内 118x0730.JPG 119x0216.jpg 119x0584.jpg リンク 桐乃コントローラー その後のふたり ドットきりりん妹婚Ver. レス番 119スレ目593 120スレ目637 120スレ目651 サムネ一部 wiki内 119x0593.jpg 120x0637.jpg 120x0651.jpg リンク ドット桐京妹婚Ver. 練習きりりん 『いい服の日』挿絵 レス番 120スレ目756 121スレ目120 121スレ目120 サムネ一部 wiki内 120x0756.png 121x0120-1.jpg 121x0120-2.jpg リンク 今年もきりたんぽ ひさびさきりりん1 ひさびさきりりん2 レス番 121スレ目201 121スレ目201 121スレ目221 サムネ一部 wiki内 121x0201-1.jpg 121x0201-2.jpg 121x0221.jpg リンク pockyラフ メリー桐京 リボンぐるぐる巻き レス番 121スレ目231 121スレ目252 121スレ目273 サムネ一部 wiki内 121x0231.jpg 121x0252.jpg 121x0273.jpg リンク 京介が桐乃にマッサージ 抱えながらお風呂 『Happy holy night』挿絵 レス番 121スレ目290 121スレ目918 122スレ目130 サムネ一部 wiki内 121x0290.jpg 121x0918.png 122x0130.jpg リンク ケーキをあーん ろりりんは京介にまたがり(ry しっぽきりりん レス番 122スレ目529 124スレ目485 124スレ目508 サムネ一部 wiki内 122x0529.jpg 124x0485.jpg 124x0508.jpg リンク 羽根つき妹専用 バレンタイン2013 バレンタイン2013(裏) レス番 124スレ目543 124スレ目768 125スレ目318 サムネ一部 wiki内 124x0543.jpg 124x0768.jpg 125x0318-1.jpg リンク あやせ様への献上品 徒然練習 合法くんか レス番 125スレ目318 126スレ目679 127スレ目118 サムネ一部 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (s126x0679.jpg) #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (s127x0118.jpg) wiki内 125x0318-2.jpg 126x0679.jpg 127x0118.jpg リンク 合法くんかtrue 髪型 ポッキーの日 レス番 127スレ目445 127スレ目630 127スレ目901 サムネ一部 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (s127x0445.jpg) #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (s127x0630.jpg) #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (s127x0901.jpg) wiki内 127x0445.jpg 127x0630.jpg 127x0901.jpg リンク 桐乃のゆうわく CV:桐乃 『高坂家就寝戦線』 レス番 129スレ目689 130スレ目385 130スレ目番外(直接投下) サムネ一部 wiki内 129x0689.jpg(画像のみ切り取り) 130x0385.jpg 130x1002.jpg リンク Axfc(passはスレ参照) 2期5話冒頭補完(※切ない系) 原作のすゝめ
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1737.html
掲載順 SS 一覧 141~150スレ 141スレ目 俺の親父がこんなに可愛いわけがない:141スレ目196 京,大 最もあなたに満月が近づく日:141スレ目219-228/小ネタ 昨日までの恋人、今日からの兄妹:141スレ目561-564 142スレ目 俺妹。NGシーン集その⑪ :142スレ目235/小ネタ 「~乃」という名前にハズレ無し:142スレ目287,289,290,292/小ネタ 143スレ目 月夜に見える幸せのかたち:143スレ目154 旅立ちの朝:143スレ目389 もう一人の主人公:143スレ目389 実桐京vs義桐京:143スレ目492,494,496,508/小ネタ集 みたらしだんごの日:143スレ目705/小ネタ 144スレ目 究極の生命体桐乃:144スレ目200/小ネタ こいつらの日常(いつも):144スレ目308-310,320-321,323,325 きりりんはモテる?:144スレ目328,334/小ネタ 145スレ目 涼介はファザコン?:145スレ目75,76,83,87/小ネタ集 ある兄妹についての風潮:145スレ目317-319/小ネタ集 死して屍拾う者なし:145スレ目698/小ネタ うつろわぬ想い:145スレ目983 とこしえの想い:145スレ目983 146スレ目 スーパーアイドル様の手料理:146スレ目150 エピローグのエピローグはプロローグ:146スレ目790 きたえた絆は、強い。:146スレ目835/小ネタ 147スレ目 桐乃の奇妙な冒険:147スレ目57,58,60,62/小ネタ集 サマー×サマーバケーション:147スレ目178 初めては妹でした:147スレ目624/小ネタ ダークウィッチの伏線について:147スレ目635,636,639,641/小ネタ集 ※考察ネタ 桐ナビ:147スレ目666,674/小ネタ 兄妹のほのぼのイチャラブは多分、こんな感じ。:147スレ目832,837/小ネタ集 148スレ目 きりりんの甘口カレー:148スレ目77/小ネタ 麻雀の日:148スレ目499/小ネタ かき氷からのくだらない流れも役に立つ時があるようだ:148スレ目608-621/小ネタ集 金曜ロードショーを見ながら:148スレ目662/小ネタ 『高坂京介 秘蔵画像』:149スレ目332,334/小ネタ 149スレ目 夏の祭典の後に:149スレ目733 桐,京,沙,黒 優乃「あたしがアホの子という風潮」:149スレ目853,857,854,860/小ネタ 熱・熱・コミケット:149スレ目895,896 夢のまた夢:149スレ目950 150スレ目 お布団デート2:150スレ目705
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/249.html
186 名前:兄妹関係【SS】[sage] 投稿日:2011/01/31(月) 08 34 16 ID RLXoqnIXO [2/2] 「ねえ、ちょっとした質問があるんだけど」 「ん、何だよ?」 「もし、もしもよ、 あたしと兄貴が実の兄妹じゃないってことが判明したら、どう思う?」 「ちょっとにしてはやたらシリアスっぽい質問だな。 てか、俺にはお前が生まれたときの記憶がちゃんとあるけどな」 「あくまで仮定の話なの。漫画とかゲームとかであるでしょ、そういうの」 「もしも、ねえ」 兄貴はしばし考えるそぶりを見せる。 「まず思ったのは『どうでもいい』って感じだな」 「重大な事実の判明を受けた感想としては、なんか軽くない?」 「いや、俺とお前はずっと同じ家で暮らしてきた時間があるわけだろ。 確かに疎遠な時もあったけど、それも引っくるめて兄妹としての歴史だし、 それがその判明でリセットされてしまう気が、俺には しないんだよな。 兄妹としての関係は、それからも変わらない気がする。 ただなあ・・・」 「何、言ってみてよ」 「一方で、なんというか『もったいない』って気もした」 「何それ?」 「例えば、俺が将来結婚するとしてだな」 「貰ってくれる相手がいればね」 「うっせえ、まあ出会いの可能性とかそういうの抜きにすれば 『俺の恋人』とか『俺の嫁』と呼ぶチャンスがある相手は世界中に存在するわけだろ」 「うわあ、すごい妄想キタコレ」 「頼むからいちいちツッコんでくれるなよ だからな、それと違って、『俺の妹』って言えるのは 世界中でただ一人、桐乃、お前だけだからさ」 「・・・・・・」 「最初は『どうでもいい』って言ってたけど、やっぱり血の繋がりというか そういうのも完全には無視できない気もしてだな。 その関係がチャラになることに、うまく言えないけど『もったいない』気がした。 なんか矛盾してる気もするけど、仮定の質問に即興での答えだから、勘弁してくれよ」」 「・・・ゴメン兄貴、変な質問にきちんと答えてくれて、ありがとね」 あたしはそう言って部屋を離れる。 ※※※ 「・・・『俺の妹』って言えるのは世界中でただ一人、桐乃、お前だけだからさ」 うわあ、何このシスコン発言、それも本人の前でさらっと言ってくれちゃってさあ。 でも、でも、凄くうれしい 鏡を見たらあたしの顔は真っ赤だった。 あたしもやっぱりブラコンなんだろうな。 兄貴も言ってたけど、確かにあたしたちの歴史には、疎遠な時代があった。 兄貴を兄だと思いたくない頃もあった。でも、今なら断言できる。自信を持って。 「あたしは、高坂京介の妹」って・・・ -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1201.html
731 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/10/12(水) 16 15 28.55 ID no/S7tQ/0 SSとある日常にて 静かな教室に、先生が講釈する声だけが響き渡っている。 わたしは黒板から目を離し、軽く視線を動かす──うんうん、今日も相変わらずだね。 視線の先には、綺麗なライトブラウンの長い髪をもつ女の子──桐乃がいる。その顔は 黒板と手元のノートを行き来しており、時折ノートに書き込む仕草が見える。 今年も学年トップだったんだよね。どの授業に関しても全然手を抜かないし、 ほんと桐乃って凄いなあ。 自慢の親友の事を考えると、わたしは凄く嬉しくなってしまう。桐乃が目立ったり、 褒められたりすると、まるで自分の事みたいに嬉しいんだよね。成績優秀、運動神経抜群、 それでいて容姿だってクラス──ううん、学校一素敵だって思ってるし! そう言えば、男子がこっそりやってるミスなんとかってのでも、三年連続一位だって 言ってたっけ。そう言うのは正直汚らわしい行為だと思うけど、桐乃が一番素敵だって 事には同意かな。二位は毎年変わってて今年が……わ、わたしだって言ってたけど。でも、 桐乃の親友として容姿を磨いてきてる結果がきちんと出てるって事なのかなあ。学校の 男子だから評価には値しないかもしれないけど、桐乃が一番だってのは当然なんだから。 ……と、いけない。また考えに耽っちゃってた。右手のシャープペンシルを軽く握り なおし、黒板へ顔を向ける──と、わたしの右手前の席の男子の顔が桐乃の方を向いている 事に気付いた。……あの人、また桐乃を見てる。あなたの様な人が視線を向けると桐乃が 汚れるじゃない! ここが教室で無ければ埋められたのに……! 「……垣、新垣。聞こえているのか?」 突然、わたしを呼ぶような声に気付きハッとなる。ふと前を見ると先生がわたしを 見つめていた。 「は、はい!」 ふと気付くと周りの生徒の視線はわたしに向いている。桐乃を見ると『どうしたの?』 とでも言いたそうな表情でわたしを見ている。……うう、失敗しちゃったな。こんな所を 桐乃に見られるなんて恥ずかしいよ……。自然と顔が熱くなるのを感じる。 「勉強が出来たとしても、授業中はしっかり集中すべきだぞ」 先生は諭すような声をかけてくる。 「……すみません。少し考え事をしてました」 上手い言い訳が浮かんでこなくて、素直に答えてしまう。 「まあ、正直なのは良い事だ。丁度いい、新垣にこの問いを答えて貰おう」 先生に促され、席を立ったわたしは黒板に書かれた問題をさっと見る。……ここって 昨日予習した所と一緒だ。昨晩の内容を思い出しながら答えたわたしに先生が頷く。 「結構だ。だが授業中なのは忘れずにな」 むー。もう許してくれてもいいじゃない。わたしは心の中で舌を出す。座り際に桐乃を 見ると、わたしに向かって親指を立てていた。心配させてごめんね、桐乃。 □ 「うへぇ、ようやく終わったあ。つーかあの先公しつけーよな。あやせがアホ面で ボーっとしてる時もずっと見てやがったぜ」 加奈子はそう言うと心底嫌そうな顔をする。そう言えばあの先生が大嫌いだっけ。 「そうなんだ。少しボーっとしてたから全然気付かなかったよ」 少し考え、同意の返事を返す。確かにわたしもあの先生はちょっと苦手かな。 授業が終わると、いつも通り桐乃の席に集まり他愛無い話をする。わたしはこの 何気ない時間が大好きだった。仲のいい友達と集まって話すのは嫌いじゃないし、 何より桐乃と一緒にいられる大切な時間だし、ね。 当の桐乃はと言うと、授業とは別のノートを取り出して何やら書いては消したりを 繰り返している。表情も授業の時と同じく真剣なものになっていた。 「桐乃、一体何を書いてるの?」 「……うーん、今度の文化祭でさ、学校のOBの人達が来るらしいんだよね。それで、 学校を代表して出迎えの挨拶してくれって頼まれたんだけど……これがさあ、結構 悩むんだよね。普通の卒業生じゃなくて、大企業の重役さんとか偉い人ばかりみたいで きちんとした挨拶にして欲しいって言われてるんだ」 そう言うと桐乃は再びノートとにらめっこを始める。……偉い人、かあ。お父さんの 知り合いとかそう言う人ばかりだけど、確かに気難しい人が多いんだよね。 「あいっかわらず桐乃はクソ真面目だよな。そんなのチョチョイとやっちまえばいいべ? 偉そうな割に頭の中が空っぽだし、スケベなオヤジが多いから色目使っとけばオッケー! ……ってイテーよあやせ! 教科書の角で殴るなって! しかもスナップ利かせてるしっ」 加奈子が涙目で睨んできたので、微笑み返す。みるみる内に大人しくなる加奈子。 全く……バカな事を言う加奈子が悪いんだよ。 「……んーちょっと浮かんでこないなあ。しょうがない、家に帰って続き考えよ。家なら なんだかはかどりそうな気がするんだよね」 そう言うと桐乃はノートを閉じて鞄に直す。わたしはその言葉を聞いて、少し胸が 痛むのを感じる。 「そういやさ、あやせがこの前連れてきてくれたヘタレマネージャーいるじゃん。確か 名前が……キョウス……ムゲッ!?」 加奈子が言い終わるより早く軽く加奈子の首を握ってやる。すると顔色をカラフルに 変えながらバタバタし始める。──えっと、ギブギブって言ってるのかな? 「……その名前は今は聞きたくないんだよね。加奈子なら、わたしの言う事をきっと 分かってくれると思うんだ」 加奈子にそっと耳打ちすると、コクコクと首を振る。そう言う加奈子が好きだよ。 「えー……っと、あやせどうしたの?」 桐乃が何か怯えた表情でこちらを見てるけど、どうしたのかな。 「何が? わたしは何ともないよ」 「なら良いんだけど、ね……加奈子無事?」 桐乃の問いかけに首を縦に振る加奈子。そうそう、何にも無かったんだって。 「それで、この前のマネージャーさんがどうかしたの?」 「そのキョ……っと、マネージャーなんだけどヨ。ライブの途中で用事つってさ、 いなくなったじゃん。 んで結局さ、加奈子の生歌聞かせてやれなかったんだよな。 で、丁度いい事に今度メルルライブの仕事入ったからさ、また呼んでくれね?」 マネージャーの仕事かあ。……お兄さん、また受けてくれるかな。ってメルル!? ふと横目で桐乃を見ると目が輝いているのが分かった。 「か、加奈子! メルルのライブっていつ?」 「桐乃どうしたってんだ? お前そう言うのにキョーミあったっけ」 「え? あ……ええっと……と、友達がちょ、ちょっと興味あるらしいんだよね! だからもしそう言うイベントとかあったら教えて! って頼まれてんの」 慌てる桐乃を加奈子が訝しげに眺めている。──はあ、桐乃って嘘付けないよね。 相手がバカな加奈子じゃなければ、ばれてるかもしれないよ。 「……まあ、いいけどヨ。んじゃ、人数教えてくれたらチケット手配してやんよ」 「うん! 加奈子ありがとうね。きょ……あいつに教えといてやんないと」 二人のやりとりを見ていると、心から嬉しい気持ちになってくる。桐乃が一番の 親友である事は変わらないけど、加奈子もいい子なんだよね。ちょっと口は悪いけど。 「高坂さーん! ちょっとちょっと」 突然教室の入り口の方から桐乃を呼ぶ声が聞こえた。そちらを見ると、クラスメイトが 桐乃を手招きしている。 「んーなんだろう。ちょっと行ってくるね」 そう言うと、桐乃は席を立って、呼ばれた相手の所に歩いて行った。 気になったわたしが、着いていこうとすると加奈子に呼び止められる。 「加奈子?」 「気にすんなって、いつものやつじゃね?」 その言葉を聞いて思わずため息をつく。ほんと、懲りない人っているんだ。 廊下をみると、長身の男子生徒がいるのが見えた。 桐乃は廊下に出るなり頭を下げると、少し話しただけで踵を返し教室に戻って来る。 再び一度廊下に目をやると、さっきの男子生徒がうなだれているのが目に入った。 「桐乃って相変わらずモテてんな。つか、あいつに断んのって何回目だっけ?」 「……もう数えてらんない」 加奈子にそう答えると、桐乃は不機嫌そうに席についた。容姿だけなら、学校で一番 人気の高い男子だったっけ。でも、桐乃の相手には全然釣り合わないと思うんだよね。 桐乃の隣に並んでいいのはその……わ、わたしとか……キャッ♪ 何か言いたそうな表情で加奈子がこっちを見てるけど、気にしない。 「つーかさあ、別にあたしじゃなくてもいいじゃん。あいつ結構モテるらしいし、 他にも可愛い子いっぱいいるっての。マジウザいしそろそろ諦めてくんないかな」 肩にかかる髪を乱暴にかきあげると、桐乃は机に突っ伏してしまう。 「そっかあ。じゃあ、わたしがお話付けてこようか。平和的に話せば納得してくれるよね」 「ま、いいけどヨ。……加奈子は止めねーかんな」 心の中の埋める予定リストにさっきの男子の名前を刻みこんでおくことにしよう。 キーンコーン──休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響くと、教室が少し慌ただしく なり、クラスメイトが各々の席に着き始める。 「ちぇ、休み時間終わりかよ、んじゃまた昼飯ん時な」 加奈子はそういうなり、席に戻っていった。 「オッケー。少し憂鬱になっちゃったけど、後一時間がんばろ」 「わたしも戻るね。さっきの事は忘れよ桐乃。じゃあ、また後でね」 机に突っ伏したまま答える桐乃を心配しつつも、席に戻る事にした。 □ 「うっはあ。やっと昼飯だぜ。もう学校なんて昼飯からで良いんじゃね?」 「加奈子。あんたそんなだからお腹やばいんじゃない?」 「ちょ……桐乃!? それ言うなって、一応気にしてんだからさあ」 午前の授業が全て終わり、わたしは桐乃、加奈子と一緒にお昼ご飯を食べる事にした。 いつもならランちんも混ざって来るんだけど、今日は来ないなあ。 「ランちん来ないね。授業でまだ残ってるのかな」 「今日はお昼から仕事があるって言ってたよ。昨日急に入ったらしくて、あたしに愚痴の 電話が来てた。他に都合の合うモデル捕まらなかったんだって」 わたしの疑問に桐乃が答えてくれる。そうなんだ、珍しいな。 「桐乃には仕事の電話来なかったんだ?」 「うん。うちって親がうるさいじゃん。だから、平日の仕事はご法度なんだよね。それも 仕事再開の条件に入ってたから、さすがに遠慮してくれたっぽい」 そう言われて桐乃の両親の姿を思い出す。確か桐乃のお父さんって警察のお仕事だっけ。 見た目もわたしのお父さんと違ってガッシリしてるし、厳格だって言ってたよね。 「……しっかしさあ、オトコ連中も飽きないよなあ」 唐突に言いだす加奈子を見ると、達観するような視線を右側に投げかけていた。 そちらに目を向けると、他のクラスらしき男子達がちらちらとこちらを見ているのが 分かった。……まあ、言葉の内容からある程度予想はついてたけど、ほんと飽きない人達。 「気にしてても仕方ないっしょ。どうせ飽きたらどっか行くって」 桐乃はと言うと、もう慣れている感じで、黙々と食事を続けている。 ──分かってはいるんだけど、わたしが気にしすぎなのかな。 「そうだ、桐乃は今日って部活あるんだった? もし暇だったら少し付き合って欲しい 所があるんだけどな。この前見つけたアクセサリーショップあったでしょ。今日って新作の 入荷予定らしいんだ。だから良かったら一緒にどう?」 話題を変えようと桐乃に話しかけてみる。桐乃は少し考えているようだった。 「どうしようかな……。さっきの挨拶文も早めに見せて欲しいって言われてるんだよね」 「そっかあ。じゃあ無理……かな」 ……残念だけど、桐乃に嫌な思いさせるのは嫌だから。今度かな。 『おい桐乃』 どこかからか微かに桐乃を呼ぶような声が聞こえた。男性の声、みたいだったけど。 加奈子も──周りも気づいてないみたい。あれ、でもこの声って……。 声がした方角──隣の席の桐乃を見ると慌てた表情で携帯を取り出していた。桐乃は 携帯のボタンを操作して、画面を見つめている。すると表情が少し怒った様な感じに 変わったのが分かった。 「……学校で予習なんて。家でやれっての……ったく」 突然不機嫌になった桐乃に、加奈子は変なものでもみるかの様な視線を向けている。 わたしは携帯に送られてきた──メールとその送り主を推察し、即答えに行きつく。 ……全く、お兄さんは相変わらずここぞって時に鈍感なんですね。──でも桐乃、 さっきの着信音はさすがにどうかなって思うよ……。 「まあ、あのバカは家だとエ……ゲームしかしないし、今回は許してあげるか。あやせ、 学校終わったら、さっき言ってたお店行ってみよ! あたしもちょっと気になるんだよね」 「ほんと! じゃあ、約束ね。良さそうなの、何個かもうチェックしてあるんだ」 わたしは久しぶりに桐乃と一緒に過ごせる事に心から喜んだ。 ──お兄さんには悪いですけど、自業自得ですからね。代わりに今日はわたしが桐乃と ずっと一緒にいてあげますから。 「加奈子はどうする? ロリっぽい子向けのも多分あるっしょ」 「ロリ言うなって! 気にしてんのによ。でも気になるし行って──いや、やっぱ 止めとく! なんかお腹のチョーシ悪くなりそうだし」 加奈子はこちらへそろりと視線を向け──正しい答えへと修正する。そうそう、加奈子は 空気を読める子だもんね。 「残念。それじゃ、良いのあったら後で教えるね」 「オッケー……それで頼むからヨ」 桐乃と加奈子のやり取りを聞きながら、わたしは早く放課後がこないかな、と思う。 そうだ、お店回ったらスイーツショップに行こうかな。あそこは桐乃だったらきっと 気に入ると思うし──ふふ、今から放課後が楽しみだな。 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1960.html
57 :名無しさん@お腹いっぱい。:2015/12/11(金) 19 22 01.56 ID xELWIv0J0 緑の木々に建物が包まれているように見える。 歴史を感じる学舎ははまるで大きな邸宅のようだ。 俺がはじめてこの風景を見たのは桜の季節だった。 大学の入学式。 そのときはすこし肌寒い風が吹いていた。 コートを羽織るほどではないがスーツだけではちょっと と思ったのを覚えている。 春の熱狂的に咲き乱れた桜というものいいが、個人的にはこの青々とした5月の緑のほうが好きだ。 空と建物と木々が調和している。 俺はしばらくその風景を見ている。 そよ風と太陽の日が俺の気持ちを解す。 いま俺が着てるスーツでちょうどいい気温。 振り返ると桐乃がこっちにやってきた。 高校の制服を着ている。 「待った?」 「いや。今ちょっとこの景色見とれてたところだ」 「ああ。いいね。新緑の季節って感じで」 「お前も語彙増えたなあ」 「あ 馬鹿にした!売れっ子作家さまに何言ってんの!」 二人で笑う。 「あんたのスーツ姿まだ見慣れないんだよねー」 「お前はその制服サマになってるな」 「当たり前。プロのモデルはそれがお仕事だからね」 「うらやましいよ。どうだ?俺のスーツ変なとこないか?」 「うん。大丈夫。でもあとでネクタイ締め直したほうがいいかも」 「わかった。じゃあ そろそろ行くか」 「うん」 親父とお袋に会いにいこう。 俺達はお互いの気持ちを確かめ合い、俺は桐乃に求愛をし、桐乃はそれを受け入れてくれた。 だからもう、俺達は、兄妹じゃない。 愛し合い一緒に二人で生きていく。 そう決めた。 そして、これから人生で一番世話になった人たちに、このことを伝えに行く。 このことを話したとき桐乃はすっと理解してくれた。 「あたしも考えてたんだ。 でも怖くて言えなかった。 それが良いと思う」 俺も考えたくなかった。 いや考えることを放棄していた。 自分で提案しておきながらもう悩んでる。 どう説明する? 実の妹と愛し合っているなんて。 反対されるどころの話じゃなくなるだろう。 きっと俺と桐乃は引き裂かれる。 二度と会えないだろう。 会えてもそれは誰かの影に怯えながらになる。 いまさら俺はぐらつく。 桐乃と俺は相思相愛になるべきではなかったのかもしれない と。 兄と妹のまま お互いの気持ちは隠して生きていくことが正解だったのでは。 あの選択を俺は後悔してしまっている。 桐乃は心配そうに俺を見ている。 そして力強く笑う。 「大丈夫だよ なんて言えないよね でもあたしこのまま秘密にしておくなんてできない」 こいつの強さに何度助けられたか分からない。 一本筋を通して自分を曲げない。 なにがあっても諦めない。 「それでも大丈夫って言うよ あたしには京介がいるし 京介にはあたしがいるんだもん」 そう。 俺には桐乃が居る。 「幸せなろ? 一緒に」 そうだ。幸せにならなければならない。 俺達が幸せになるためには祝福されなくてはならない。 桐乃の手を握りしめた。 自宅に着いた。 昼にしたのは明るい場所で話をしたかったからだ。 場所は自宅リビング。 どこかほかの人の居ない場所のほうが良かったのだが相談してやめておいた。 これは俺達、高坂家の問題だ。 この家でしておきたい。 俺たちがフォーマルな服を着ているのは、重要なことを話すということを理解してほしかったからだ。 心構えができていれば衝撃は和らぐと思う。 桐乃を見る。 桐乃が俺を見る。 何もいわないが目に力を感じる。 行こう。 リビングに俺と桐乃と親父が座っている。 食事のときと同じ位置だ。 お袋はお茶をいれている。 誰も何も話さない。 お袋はお茶の準備をしているがいつもより手際が悪い。 親父は俺の前で泰然と座っていて、いつもと違うようには見えない。 俺は座った姿勢のまま動けないのでとなりの桐乃の様子は伺えない。 4人にお茶が配られる。 そのまま空気が固まる。 二人は俺がなにを話すのか待っている。 話を切り出すのは俺だと決めていた。 こいつにはさせたくない。 俺が黙っていては進めない。 呼吸を整える。 話そうと思っていたことが飛んでしまう。 頭の中で何かを考えてみたいが真っ白だ。 浮かんでは消える思考の束だけが脳内を駆け巡る。 どうした俺。 いつもなら何も考えずにできたことじゃないか。 動いてから考える。 いつの間に臆病になってしまったのか。 自分の呼吸音だけが聞こえる。 「ねえ」 お袋の第一声。 が。 親父が手を上げてそれを制した。 「京介 桐乃 お前たちが話をするまで待っているつもりだった」 低い声で話しだした。 「このままでは無理のようだな」 いつもの威圧感は無い。 「これから聞く話だが 俺はわかっている。おそらく母さんもだ」 両親の顔を見比べる。 お袋は唇を噛み締めている。 親父は俺を見つめている。 「話せないか?ならば俺が話そう」 桐乃を幸せにすると言っておきながら声を発することすら出来ない。 だが親父の言葉で決意が固まった。 「親父 お袋 聞いてくれ」 ゆっくり息を吐き出す。 「俺と桐乃は愛し合っている 兄妹の愛情じゃない。俺は ひとりの女性として桐乃を愛してる」 「あたしも京介が好き。誰よりも 好き。愛してる」 ようやく言えた。 親父の表情は変わらなかった。 軽く目をつむり何も言わない。 お袋はテーブルを見つめている。 ため息が聞こえた。 「そうね。お父さんの言うとおり。分かってたわ」 お袋を見る。 「そもそも二人が変だと思って京介に一人暮らしさせたのもあたしだしね 分かってないわけないのに。忘れようと思っていた」 天井を仰ぐ しばらく動かない。 「なんでかしらね。驚きも悲しみもない。もっと取り乱すかと思ってたけど。不思議ね」 考えていたことはあの告白だけだ。 そのあとのことは何も考えていなかった。 「楽になった気がする。もうあれこれ心配しないでいいんだって」 そう言って悲しそうな顔でこちらを向いた。 一瞬で歳をとったように感じる。 「酷い親ね。子供のことよりも自分の安心を取るなんて」 首を振って自嘲気味に笑う。 「聞きたいこといっぱいあるはずだけど忘れちゃった。 ねえ。 でもこれだけは聞かせて。 二人はそれで本当にいいの?」 「…ああ。後悔はしていない」 「うん」 「そう。 そうよね。今はそう言うしかないわよね。 でもね 覚えておきなさい。今は後悔しないだけよ。 今は。 いつかきっと後悔するときがくる」 そのことはさっき知った。 俺の決断は一瞬で崩れそうになった。 いまもギリギリ踏みとどまっている。 「その時どうするの?今の言葉を裏切らないでいられる自信ある?」 俺は何も言えない。 俺は目を閉じる。 これは熟考するためじゃなかった。 俺を守るため。 恐ろしい未来から目を背けるための逃げだ。 逃げ。 そのことを自覚して俺は自己嫌悪した。 心が挫ける。 俺の決断はこんなにやわなものだったのか。 「怖いよ」 桐乃の声に目が覚める。 「そのときになったときが怖い。 あたし自信ない。 京介も…そうなんじゃないかな。 後悔するってことは否定しないよ。 いつか絶対後悔する。 だからね。 私その日まで幸せに過ごしたいの。 間違った選択をしたんだって後悔するその日まで。 それは10年後、5年後、ううん明日かもしれない。 でも そのときまで積もったたくさんの幸せが。 幸せがあたし達を支えてくれると思うんだ」 ことばの力。 それは俺を後押ししてくれた。 なにか現状が変わるわけじゃない。 でもそれは俺に一歩 たった一歩だけど前にすすむ原動力になった。 「親父、お袋」 言葉を口にすると思考がクリアになった。 「俺はいままで馬鹿なことしてきたって思うよ。 自分を抑えて嘘ついて、それで上手くやってるつもりだった。 でもこいつのことを想って、動いて失敗して痛い目見て、やっと分かったんだ。 自分に素直にならなきゃ俺は生きていけないんだ。 それが無理で、死んだように生きるなんてできない」 話をしていて俺は自分に驚く。 こんなことを考えてたのが自分は。。 自分の言葉に考えがまとまっていく。 もやもやが晴れていく。 「それが周りを不幸にするとしても?」 お袋の言葉が容赦なく俺に突き刺さる。 「みんなを幸せにすることなんて俺にはできない。 せいぜい隣に座ってる桐乃一人くらいだ。 桐乃のために色々なひとの気持ちを裏切ってきた。 そうやってなんとなく分かったことがあるよ。 誰かを幸せにすることは、それ以外のひとたちを不幸にすることだって」 親父と、お袋と、桐乃が。 俺の言葉を聞いている。 「俺は弱い。 いまならそれを認めることができる。 これからそれを背負って生きていく。 弱さを知って、それに負けないように生きていく。 だから、だから俺は。 誰かを不幸にすることを恐れて、一番大切なひとと幸せになれないなんてできない。 自分のために、自分の大切なひとのために生きる。 俺と桐乃は幸せになる。」 一息つく。 「俺は自分の想いを変えない。 桐乃と未来を作っていこうと思う。 それは幸せな未来のはずだ。 でも」 両親の顔を見る。 「親父、お袋。 俺はふたりを不幸にしてしまう」 ようやく親父が目を開いた。 「謝りはしない。 許しは乞わない 罪の意識にさいなまれながら生きていく。 桐乃と二人で」 俺は目をつむる。 気付かずに椅子から乗り出していたようだ。 改めて深く座る。 「そうか…」 「…親父」 「あの時を思い出していた。 お前がはじめて桐乃を庇って俺が殴ったときを。 あのときよりずいぶん大人になったな京介」 「…」 「無茶苦茶を言っていたなあれは。 しかしどこか一本筋が通っていた。 お前のいいところだ。 これから生きていく上一番重要なこと。 それは人に信頼されることだ。 それさえ出来ればあとはなんとでもなる。 お前のさっきの言葉。 嘘偽りの無いものだと感じた」 「親父…」 「桐乃」 「はい」 「お前はどう思った。 さっきの京介の言葉を聞いて」 「嬉しい…けどちょっと違うかな あたしも京介を幸せにしたいんだ。 ううん。あたしが京介を幸せにするんだって言いたい。 あたしね。不幸にならないように生きていく、なんて思ってないんだ。 幸せになりたい 幸せになろうって生きてく。 そんな風に考えてる。 京介が居るからこれからも大丈夫 って思ってた。さっきまで。 でもそれは無理かもしれない。 小さいころから何年もかけて、あたしの京介への気持ちが変わったみたいに この先また気持ちが変わらないなんてないもん。 でも 幸せなろうって気持ちだけは変わらないって言えるよ絶対。絶対に。 その意思だけは絶対曲げない」 「桐乃も変わったな…。 どこか危うい感じがしていたが今は安心していられる」 深く息を吐く。 しかしため息ではない。 「お前たちが生まれてずいぶん経ったと思ったが、まだ20年も経っていないんだな。 俺の生きてきたようやく半分といったところだ。」 そして俺達ふたりを見る。 「関係が悪くなっていたお前たちが、仲良くなって俺は嬉しかったよ。 これから家族4人。 仲良くやっていこうと思った。 京介の将来。 桐乃の将来。 考えるのが楽しかった」 今度は俺が目を閉じた。 「俺はこの場でお前たちを説得する気はない」 「お父さん…」 「聞いてくれ母さん。 子供の決断だ。 何を言っても聞かないだろう。 ここに座る前はそう思っていた。 一時の迷いでこうなっているとな。 しかし言うことを聞いて理解した。 本当に二人は愛し合っているんだな。 京介、桐乃。 俺はふたりの言葉を信頼しよう。 お前たちは俺の信頼を得たのだ」 「親父…」 「お父さん…」 「今思えば桐乃、子供の頃、お前の京介に対する羨望の眼差しはこうなることの布石だったのかもな…。 いや、おそらくそうなんだろう。 避けられなかった とは思わんが可能性としてあった未来なのだな」 親父は顔を引き締めた。 父親の顔だ。 「俺はさっき信頼するといった。 信頼するというのは、結果どんなことがあってもそれを受け入れるということだ。 お前たちが不幸になってもそれをあるがまま受け止める。 それだけだ」 俺は腹に力を入れる。 「京介、桐乃。 お前たちを今まで子供として扱ってきた。 子供はやりたくなくても やらなくてはいけない事が沢山ある。 やりたくても やってはいけないことも沢山ある。 そして。 二人はやってはいけないことをやってしまった。 一線を超えたのだ。 もう子供ではない。 俺はお前たちを大人として扱う」 「…」 「そして俺と母さんも大人だ。 大人と子供の違い。 大人はやりたくないことは しなくていいというところだ。 大人とはやりたいことを していい。 なぜなら自分でその責任を取れるからな。 子供はそうはいかない。 お前たちは今まで守られて生きてきた。 しかし、これからそれは出来ない。 お前たちはやりたいことをしようとしている。 そしてその責任はお前たちが取るんだ。 親不孝な子供には責任をとってもらう」 「ああ」 「俺も大人としての態度を決めよう。 やりたくないことはしない。 俺はお前たちの関係は認めん」 胸につっかえていたものがすっと消えた。。 「京介、桐乃。 お前たちふたりの顔はもう見たくない。 俺と母さんを裏切ったからだ。 わかるな?」 お袋のほうを見る。 悲しそうな顔でこっちを見ている。 何も言わない。 「桐乃。お前はまだ高校生だ。この家に居ることを許してやろう。 卒業した後のことはお前が決めろ」 「…うん」 「京介。お前は金輪際この家に近づくことは許さん」 俺はその言葉の重さを確かめる。 「学費はもう1年分振り込んでしまったな。 それはくれてやる。 そのあとはお前がなんとかしろ。 働いて大学を卒業するのもいい。やめてしまうのもいいだろう。 しかし一切の援助はしない。 ひとりで生きてみろ」 「…」 「そしてこれから お前たち二人が会うことは絶対に許さん。 京介。 出て行け。 今すぐにだ」 そう。 そうだな。 こうなるって分かってたことだ。 しかし諦めの気持ちではなかった。 「わかった」 いますぐというのが良い。 長く居てはまた辛くなる。 お袋は悲しそうに笑って俺を見ている。 俺も笑おうとおもったが、上手くいかなかった。 「おい京介」 「ああ」 「これは約束だ。お前と俺と母さんと、そして桐乃との約束だ」 「うん」 「そう。 約束だ。 簡単に破ることのできる薄い紙のようなものだ。 俺は言葉なんぞ信じない。 約束。 軽く危うい言葉。 しかし京介。 それがなんなのか、俺の言っていることが、お前にはわかるはずだ」 力強く頷く。 「わかる。 わかるよ」 俺は立ち上がる。 「金は必要か?」 「いや。いい。なんとかする」 そうか、と親父は言う。 「あたし 見送ってもいいかな?」 「駄目だ。ここに居ろ」 リビングのドアに向かって歩く。 家であった出来事を思い出そうとする。 しかしうまく出来なかった。 俺は振り返る。 そして頭を深く下げる。 「お父さん。 お母さん。 今までありがとうございました」 頭を下げている俺に声を掛けてくれるふたり。 「京介」 お袋だ。 「元気でな」 親父だ。 親からのはなむけの言葉だった。 これだけで十分だ。 桐乃は。 桐乃はなにも言わない。 頭を上げて桐乃の顔を見る。 それは1秒にも満たない時間だった。 こころでこうつぶやく。 さようなら。 靴を履きながら、もう ただいま を言うこともない。 おかえり と言われることもない。 不思議な感じだ。 そんなことを考えていた。 外に出ると柔らかい日差しと暖かな空気を感じた。 しかしずいぶん身軽になったな。 両手には何もない。 心に背負っていたものも無くなった。 あるのは思い出だけだ。 みんなとの思い出。 妹の、桐乃との思い出。 俺にあるのはこれだけだ。 いや違う。 こんなにもある。 桐乃が言っていたことを思い出す。 つらいときは幸せが支えてくれる。 幸せな思い出がきっと俺をささえてくれる。 桐乃との約束が俺をささえてくれる。 幸せになろ? 一緒に。 そうだ。 俺達は幸せになるんだ。 そう約束したんだ。 約束。 親父とお袋と桐乃との約束。 二度と会えないわけじゃない なんて思わない。 これで最後だってこともある。 俺と、家族との約束は、簡単に破っていいものじゃない。 親父が 約束 といった理由がわかる。 触れると簡単に破れてしまうから。 だからこそ強い言葉なのだ。 最後に見た桐乃の顔を思い出す。 何も恐れていない。 俺の全てを信じていた。 そして俺はその信頼を受け止めることが出来たと思う。 不安になったら。 幸せになれないかもしれないとおもったら。 桐乃のあの顔を思い出せばいい。 桐乃の言葉を思い出せばいい。 それが俺の揺るぎない力だ。 歩き出す。 どこに向かうか。 これからどうするかは前に進んでから決めればいい。 俺はそういう人間だ。 とりあえずどこか寝る場所を探そう。 沙織に頼むしかないか。 借りを作りたくないとか言ってる場合じゃないしな。 やれやれ。 俺は歩みを進める。 幸せな未来へと歩いて行く。 俺は思う。 幸せとはどんな道のりをたどれば良いのか。 幸せになる方法はいくらでもあることを俺は知っている。 俺は感謝する。 この季節に感謝する。 俺は願う。 幸せとは、この季節のように、柔らかく包み込んでくれるものであるようにと。 そして俺は祈る。 桐乃のゆく先に いつも暖かな空気がありますように。 -了- ----------