約 431,449 件
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1603.html
冬も近付く秋の某日。 無事に模試を乗り越え実家へと帰ってきた俺は、日課になった勉強をするために机へと向かっていたんだが・・・・・・。 「う~む・・・・・・。ダメだな。調子がでねえ」 朝から勉強をしているものの、まったく頭に入ってる気がしない。 いつもならスラスラ解けそうな問題も妙に詰まってしまったりと、どうにも本調子じゃないようだ。 「スランプ、って言うほどでもないんだろうが・・・・・・」 さて、どうしたもんかね。 机の前で腕を組んで考えてみるも、いい考えは浮かばない。 時計に目を向ければ丁度正午よりもちょい前の時間帯。 「・・・とりあえず飯食ってから考えるか」 腹が減ってはなんとやら。。 胃が満たされれば何かいい考えも浮かぶかもしれん。 そうと決まれば部屋に篭ってる理由もない。 早速部屋を出た俺はトントンと階段を下りていく。 ガチャリ、とリビングのドアを開ける。 「♪~♪~」 そこには鼻歌を歌う桐乃の姿が。 休日だからだろう。いつもの制服姿ではなく、桐乃らしいオシャレな洋服を着込んだ姿でソファに座っていた。 気分よさそうに足を組んで雑誌を読んでいる。 いつもながら無防備なやつである。そんな短いスカートはいて足なんて組んでたらパンツ見えるぞ。 どういう理屈か、俺の角度からは見えてはいないのだが。いや、別に見たいわけじゃないけどね。 「よう」 よく考えてみれば、桐乃と顔を合わせるのも朝飯の時以来だ。 朝とは違い、しっかり髪のセットもされている。化粧もしてるか? いつも思うんだが、桐乃に化粧なんて必要ないと思うんだがどうだろう。 返事を期待して声をかけたものの、桐乃といえばチラッとこっちに視線を向けただけ。 『なんでここにいるワケ?』 『うっせ、そんなの俺の勝手だろ』 視線で交わされる会話はいつも通り不毛極まりない。 コレがなければ素直に可愛いと思えると言うのに。 「ねえ」 「なんだよ?」 何か食うもんねえかなと台所へと足を踏み入れようとして、桐乃から声がかかる。 振り向くと、桐乃は足を組むのをやめていた。・・・・・・見れなかったか。 「あんた、勉強は?」 「ああ・・・・・・。なんか調子でなくてな。ちょいと休憩ついでに飯食いにきたんだよ」 「ふ~ん・・・・・・」 なにやら言いたげな態度だが、何かあったのか。 台所を見るとコンロには鍋が鎮座していた。鍋の端にこびりついたものが鍋の中身を物語っている。 カレーか。 「桐乃。お前も食うか?」 「さっき食べた」 「そうかい」 鍋が温まってるのはそのせいか。 おかげで直ぐに飯にありつけるのはありがたい限りだ。 「あんた、午後はどうすんの?」 「勉強してると思うが」 午前のことを考えると、あんまり捗るとも思えないけどな。 「勉強、捗ってないんでしょ?」 「まあ、そうなんだが」 「あたしの経験上、そういう日ってどれだけやっても頭に入らないのよね」 「つってもやらないよりマシなんじゃねえの?」 「効率が悪いって言ってんの。そんな日は下手に勉強するより、何か別のことで気晴らししたほうがいいよ。 そのほうが次の日調子良かったりするしね」 経験者は語るってやつか。桐乃が言うと妙に説得力があるな。 「別のことって言ってもな」 「エロゲーとか」 「しねえよ!」 確かに気はまぎれるかもしれないけどね!? 別のことで頭を悩ましそうだよ! それなら公園に散歩とかの方がましだっつの。 「冗談だってば。何そんなにムキになっちゃってるわけ?」 「お前が変なこと言うからだろうが!」 「んじゃさ」 どうやら話はまだ終わらないらしい。 「ちょっと付き合ってよ」 「あん?」 「あたしがあんたを気晴らしに連れてってあげる。 どうせあんたじゃ、公園に散歩とかじじくさいことしてそうだし」 「余計なお世話だよ!」 今まさに考えてたことを言い当てるとか。なに、俺ってそんなにわかりやすいの? 「なによ。それとも何かいい案でもあるの?」 「それは・・・・・・」 「決まりね。じゃあちゃっちゃと着替えてきて。あんまり時間ないから」 相変わらず強引なやつだな。 しかしまあ、桐乃とお出かけ、ね・・・・・・。 「へいへい。わーったよ。んで? どこに連れてってくれるんだ?」 「仕事」 「は?」 「どうしてこうなった」 俺の目の前に広がる光景。 数々の機材が並び、それの中心でカメラのフラッシュに照らされる着飾った女の子達。 俺の首に下がる、関係者を証明するカード。 俺は今まさに、桐乃の仕事の現場にいた。 「桐乃のやつ、何考えてんだ」 桐乃と一緒にタクシーに乗って連れられてきたのは、冗談でもなんでもなく桐乃の仕事場だった。 桐乃からの簡単な紹介をスタッフにしてもらい、俺は晴れて現場に足を踏み入れることに。 その時に「ああ、君があの・・・」と誰が呟いたかそんな声が聞こえたが、俺がなんだと言うのか。 仕事の仲間の中では一番に着いたらしく、桐乃以外のモデルの子はいなかった。 連れてきたのはいいものの、やはりというか、俺がいることをあまりおおっぴらにはしたくないらしく、桐乃が仕事の 準備に行く際に、あまり目立つようなことはするなと釘を刺されてしまった。。 そんなこというぐらいなら連れてこなけりゃいいのによ 現場の空気になれない俺は、離れたところから桐乃の仕事ぶりを眺めていた。 「・・・すげえ、な」 なんとも情けない話だが、それ以外の言葉がみつからない。 一言で言えば真剣そのもの。カメラマンに言われるポーズを次々ととっていく桐乃に淀みはない。 そこにはプロとしての風格が見える気がした。 もちろん、そこにいるモデルは桐乃だけじゃない。それでも、桐乃はその中でも飛びぬけて輝いて見えた。 「コレがアイツの仕事、か」 自分のことだけじゃない。他のモデルの子のことも気にかけているのがわかる。 休憩の合間に、うまくいかない仲間に声をかけているのは偶然じゃないだろう。 面倒見がいいというあやせの言に偽りはなかったということか。 「・・・・・・」 しかしなんだな、あのカメラマン桐乃に馴れ馴れしすぎね? 顔見知りかどうかしらねえけど、いちいち桐乃に際どいポーズをとらせるのはどういう了見だ。 コレ雑誌の撮影だよね? そんなポーズとらせる必要ねえだろうが! 「あれ? もしかして京介くんかい?」 「あぁん!?」 誰だ? 俺は今スゲー機嫌が悪いんだが。 「ど、どうしたんだい京介くん。まるで鬼のような形相をしてるよ?」 「なんだ、御鏡か」 振り向いた先にはイケメンきのこの御鏡がいた。 言葉が悪いのは俺の機嫌が悪いせいなので許してほしい。 「なんだとはつれないなあ」 「うっせ。それよりなんでお前ここにいんの?」 「仕事だよ。京介くんは・・・・・・ああ、なるほど。どうりで」 「何がなるほどなんだよ」 「桐乃さんの付き添いだよね?」 何が嬉しいのか、ニコニコとした表情の御鏡。 遠くから『お待たせしましたー』との声が聞こえてきた。 目を向けると、新しいスタッフと思われる人たちと、数人の男子の姿が見える。 恐らくあいつらもモデルなんだろう。御鏡に負けず劣らずのイケメンばかりである。 「桐乃さんが気になるのは仕方ないけど、僕のほうにも構ってほしいなあ」 「お前に構ってる暇はない」 ああ!? そこのクソ野郎! 桐乃の肩に手なんてかけてるんじゃねえよ! てめえは何様だ! お、桐乃が離れた。いいぞ桐乃、そのままそんなやつに近付くんじゃねえぞ。 「相変わらず京介くんは桐乃さんのことで頭が一杯のようだね」 「んなワケねえだろうが」 仕方のない人だなあと御鏡の呟きが聞こえるが、そんなものはどうでもいい。 仕事中だというのにこりもせず桐乃にちょっかいをかけるその男モデルに、桐乃も辟易としているらしい。 遠目でもそれぐらいはわかる。 クソ、場所が場所なら割って入るところだが、それで桐乃の仕事を台無しにしてしまってはしかたがない。。 「あ~・・・また彼、桐乃さんに声かけてるのか」 「知ってるのか、御鏡」 「うん。ちょっと前からちょくちょく桐乃さんに声かけてるんだよね、彼。 そんなことしても無駄だよって言っても聞かなくてね。向こうとしても扱いに困ってるみたい」 おいおい、なんでそんなやつをいつまでも放置してるんだよ。 んなやつさっさとクビにでもしてやればいいのに。 「う~~ん・・・・・・そうだ! 京介くん、ちょっとこっちにきてくれないかい? 丁度今美咲さんも来てるんだ」 げ、あの社長も来てるのかよ。 「来てくれたら、もしかしたら彼をどうにかできるかもしれないよ?」 「さあ御鏡、さっさと案内しろ」 「ゲンキンだなあ」 苦笑しつつも、そんなのも君らしいけどね、と俺を連れ立って歩き出す御鏡。 少し離れたところに車があり、そこに美咲社長はいた。 「美咲さん」 「あら御鏡くん。そっちは・・・・・・京介君、だったかしら?」 「は、はい。その節はどうも」 この人苦手なんだよな。何考えてるかわからないし。 「美咲さん、実は折り入って話があるんですけど」 「何? 何か面白いことでも思いついたの?」 面白いことってあんた、社長としてそれってどうなんだ。 「はい。えっとですね・・・・・・」 ゴニョゴニョと俺には聞こえない声量で話し始める二人。 話しながらチラチラとこっちを見るその様子に、嫌な予感がするのは気のせいだろうか。 「なるほど。それはいい考えかもしれないわね」 「でしょ?」 まるで友達のようなやり取りである。 「ちょっといいかしら?」 話が終わったのか、こっちへと近付いてくる社長。 ジロジロと間近で俺の顔を見てくるのに居心地の悪いものを感じる。 「へぇ、似てなくても兄妹ってことかしら。素材は悪くない。これなら・・・・・・」 俺から離れたかと思うと、近くに待機してた人に一言二言伝え、再びこっちに歩いてきた。 御鏡といえばさっきから笑顔を崩してない。何を企んでやがるんだ。 「ちょっと来て貰える?」 「どうしてこうなった」 繰り返すようで悪いが、こう言う以外にどうしろというのか。 「カッコイイじゃないか京介くん。見違えたよ」 「手を加えれば光るとは思ったけど、ココまでとは思わなかったわね」 鏡に映るのは、メイクさんやらスタイリストによって手に手を加えられた俺が写っている。 何でこんなことになってんの? 「それじゃあ行きましょうか」 「行くってどこへ」 「もちろん、現場に決まってるでしょう?」 まてマテmate待て! それはまずいって! 俺今日は目立つようなことするなって桐乃に言われてるんだぞ!? 「ほら京介くん、現場はあっちだよ」 「ちょ、押すんじゃねえよ御鏡!」 「大丈夫だって。美咲さんのお墨付きなんだから何も心配いらないよ」 「そういう問題じゃねえ!」 何とか抵抗しようとするものの御鏡の野郎意外に力が強い。 あれよあれよという間に現場へと連れ出されてしまった。 俺がその場に着いた瞬間、現場がちょっとざわついた気がしたが気のせいだろう。 そんなことを気にしている場合ではないのだ。 き、桐乃のやつは・・・・・・ぎゃーーー!? スッゴイ目でこっち見てんじゃねえか! 目見開いて顔真っ赤してるし! あれ絶対怒ってるって! ってこっち近付いてくる!? 「桐乃さんもお気に召したみたいだね」 「んなわけねえ!」 こいつの目は節穴か? 「ちょっと」 「な、なんでせうか?」 いつの間にか目の前にまで桐乃は辿り着いていた。 ふるふると震えるからだが恐怖を煽る。 俯いて表情が見えないのが尚恐ろしい。 「あんた、何してるわけ?」 「い、いや、俺にもどうしてこんなことになっってるかよくわからん」 「わかんないって―――っ!」 「桐乃さん」 「あ、美咲さん」 爆発寸前というところで美咲社長が割って入ってきた。 正直、助かった。今だけはあなたが天使に見えるぜ。桐乃にはおよばねえけど。 「彼ね、ちょっとそこでスカウトしてみたの」 「えぇ!?」 「今日のサプライズってとこかしら」 「美咲さん好きですもんね」 「あら、今日の首謀者は御鏡君でしょ?」 「ごもっともです」 桐乃と俺を置いてけぼりにしていく二人。 スカウトって、あれがか。 「ということで、ちょっとだけ面倒お願いね」 「あ、あたしがですか?」 「ええ。あ、それとついでに今日は彼とツーショット撮るから」 「そ、そんなの聞いてませんよ!?」 「今思いついたから当然ね。桐乃さんなかなかそういうの撮らせてくれないんだもの。 今日のテーマもデート服だし、丁度いいでしょ? それとも、彼と撮るのはいや?」 「そ、それは・・・・・・」 そこで言いよどむ桐乃におや? となる。 桐乃なら即答で嫌だというかと思ったんだが。 考えること約1分。桐乃が出した答えは 「わ、わかりました」 「そう。無理言ってごめんなさいね。ということで京介くん、あなたは桐乃さんと一緒に行動してね」 「は、はあ」 そう言い残して美咲社長はスタッフとの打ち合わせに行ったようだった。 御鏡も一緒についていったので必然的にその場には俺と桐乃だけになる。 「はあ・・・・・・ホント、なんでこうなっちゃうわけ?」 「むしろそれは俺が聞きたい」 見てるだけのはずがどうしてこうなってしまったのか。 「しょうがない。いい? やるからには徹底的にやるかんね。あたしの足引っ張ったら承知しないから」 「お、お手柔らかに頼む」 何せこちとらこんなことは初めてなのである。 コスプレの写真を撮るのとはわけが違う。 「何? 緊張してんの?」 「わ、悪いかよ」 「別に? でもそんなに緊張する必要なんてないよ」 「な、何で」 「あたしがいるじゃん」 自信満々の顔でそういいきる桐乃。 その顔に不安はない。むしろどこか生き生きとしているようにすら見えるのは気のせいだろうか。 「あたしが一緒にいるんだから何も心配しなくていいの。 あんたはただ、いつものようにしてればいいよ。後はあたしがなんとかするから」 「それでいいのか?」 「うん」 桐乃がそういうのなら、俺はそれに従うしかない。 そういったことに関しては完全に桐乃が先輩だ。桐乃には何か秘策があるのかもしれない。 「ま、あんたにはそれも難しいかもしれないけどね~。あんたチキンだし」 「いったなてめえ。後でほえ面かくんじゃねえぞ」 「言ってなさいよ」 そんなやり取りをしてると、撮影場から準備できました~との声が聞こえてきた。 桐乃と話してるうちにいい感じに緊張もほぐれた気もする。あとは出たとこ勝負か。 「んじゃ行くか」 「ちょっと待った」 「あん?」 「襟曲がってる」 着慣れないせいか少しだけ着崩れかけていた格好を桐乃が整えてくれる。 少しだけ照れくさいが、桐乃の自由にさせてやることにする。 「これでおっけ」 「ありがとな」 満足そうに頷く桐乃にお礼を言う。 今日はこいつに迷惑かけてばっかだな。 「じゃあ、いこっか」 「おう」 桐乃に手を引かれて現場へと赴く。 桐乃に恥をかかせないようにしないとな。 「「おまたせしました」」 桐乃の誘いから始まった、予想外の一日。 当初の目的はどこへやらといったようだったものの、結果としてその目的は果たされ、翌日からの勉強は その日が嘘のように捗るようになっていたというのを付け加えておく。 そうそう、あの時桐乃にちょっかいを出していた男モデルは桐乃のことをやっと諦めたらしい。 何故か帰り際に「お幸せに・・・」と言われたのだが、御鏡またよくわからないことを吹き込んだのかもしれない。 ちなみに、その時に撮られた写真はうまく加工され、俺の顔だけが不自然じゃないように隠されたそうだ。 ああいった雑誌ではそういうのも珍しくないんだとか。 その雑誌は御鏡経由で俺の手元にもあるのだが、その際に「これはバイト代だって」と、加工される前の写真を 一緒にもらうことが出来た。 写真には、ぎこちなく笑う俺と、そんな俺と腕を組んで輝かんばかりの満円の笑顔を見せる桐乃が写っていた。 その写真は小さな写真立てに納められ、今も俺の机の片隅を彩っている。 その後、大学に進学した俺に度々桐乃と一緒でという条件で美咲社長や御鏡から声がかかるようになるのだが、それは また別の話である。 -END- オリジナルサイズ
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1079.html
375 名前:【SS】デートの真相 1/4[sage] 投稿日:2011/09/07(水) 21 25 38.95 ID OMFOVRcM0 [2/8] よく晴れた休日の昼下がり。この日高坂家には,珍しい客が来ることになっていた。 「ちーっす。おじゃましまーす」 む,このアホ丸出しの声は……やっと来たな。 リビングから玄関に出ると,そこには桐乃の同級生――加奈子の姿があった。 もっとも,加奈子自体はよく遊びに来るので,別に珍しくもなんともない。 珍しい客というのは加奈子ではなく…… 「きゃーー-っ!ブリジットちゃーん!久しぶりぃぃぃぃ!!」 今にも来客に飛びつきそうな妹を,慌てて後ろから羽交い締めにする。 「ちょっ……離せ!この変態!」 「オメーにだけは言われたくねえ!もっと礼儀をわきまえろ!」 そう,珍しい客というのは,加奈子のモデル仲間のブリジットのことである。 こうして四人が顔を合わせたのは,桐乃とのデート以来だった。 そんなブリジットは,いがみ合う俺たちを見て何故かもじもじとしている。 「なんだよブリジット,おしっこ我慢してんのかヨ?」 「ち,違……も,もぅ!」 ぽかぽかと加奈子を叩くブリジット。非常にかわいらしい光景である。 なんとか気を取り直したブリジットは,こちらに向き直ってとんでもない発言をした。 「あの……お二人はついに結婚して,同じ家に住み始めたんですねっ」 「「なっ……」」 そ,そうか……!ブリジットは俺たちが恋人同士だって誤解したままなんだっけ…… どうしたものかと考えていると,横から加奈子が口をはさんだ。 「あー,ちげーって。その冴えないビミョーな奴は,桐乃の兄貴」 「えっ……そうなんですか。全然似てない……」 まじまじと俺を見つめていたブリジットは,はっと我に返って加奈子に向き直る。 「か,かなかなちゃん……何もそこまで言わなくても」 うん,もう遅いよブリジットちゃん。お兄さん泣きそう。 「……ちょっと!いつまで妹を羽交い締めにしてんのよ!」 ぶんっ,と体をふって桐乃は俺の拘束から逃れた。そして叩き付けるように俺に怒号を浴びせる。 「お菓子とお茶,あたしの部屋まで持ってきて。ほらさっさと!」 おー怒ってる怒ってる。妙な誤解を受けたのがよっぽど癪に障ったんだな。 とはいえ,この程度の罵倒はもはや慣れっこである。俺は妹に素直に従うことにした。 「へいへい」 ったく,人使いの荒い妹様だぜ。 376 名前:【SS】デートの真相 2/4[sage] 投稿日:2011/09/07(水) 21 26 01.35 ID OMFOVRcM0 [3/8] 言いつけ通りにお菓子とお茶を用意して,部屋の扉をノックする。 「入るぞー」 ドアを空けると,桐乃は何故か顔を真っ赤にして俯いていた。 その前に座る加奈子はいたずらっぽい笑みを浮かべ,隣のブリジットはあわあわと慌てふためいている。 「お,ちょうどいいところに来たじゃーん。じゃあ『お兄さん』に聞いてみよーっと」 部屋に入るなり,ぷくく,と笑みを浮かべながら加奈子が近付いてきた。嫌な予感しかしない。 「たんとーちょくにゅーに聞くけどぉ,な~んで夏休みに『お兄さん』は『妹』 とデートしてたわけぇ?」 「なっ……!」 こ,こいつ! 思わずお盆を落としちまうところだったぜ…… 「あ,あれはデートじゃなくて,兄妹で外食してたんだよ」 「えー,でもぉ,あの時確かに桐乃のカレシって言ってたじゃん? なぁ,ブリジット」 「う,うん」 ブリジットもじっとこちらを見つめてくる。 参ったな……一応あのデートは偽物で,背景には複雑な事情があるんだが,それをこのアホが理解できるかどうか…… しかし,ここで下手に誤魔化すと,かえってややこしい事になりそうである。 仕方なく,俺はアホな頭にも分かるように事実を説明することにした。 377 名前:【SS】デートの真相 3/4[sage] 投稿日:2011/09/07(水) 21 26 19.16 ID OMFOVRcM0 [4/8] 「……というわけなんだ」 「ふむふむ,なるほどねー」 うんうんと頷く加奈子。やっとこのアホも理解できたか……そう胸をなで下ろした俺であったが, そこで加奈子はより凶悪な笑みを浮かべてこう言ってきた。 「でもさー,あやせに聞いた話だとぉ,美咲さんはその日ファッションショーに付きっきりでぇ, 美咲さん本人もデートを付け回したりはしてないって言ってたらしいんだけどぉ,それはどういうことなのかなァ?」 こ,このクソガキ……! 分かって言ってやがるな! というかあやせ!お前こっそり調査してやがったのか! ……あれ?でも待てよ?もし今の話が本当なら,俺と桐乃のデートは一体何だったんだ? どういうことなのか,むしろこっちが聞きたいんだが…… そういえば,黒猫もそんなことを言っていたような気がする。あの時はそれどころじゃなくて,うやむやになっちまったけど。 ちら,と桐乃の方に目を向ける。桐乃は口をぱくぱくさせて,助けを請うような目でこちらを見つめてくる。 ……ちっ,しょうがねーな。助けてやるか。 「実はな,桐乃が俺の同級生と付き合うことになって,あの時はその予行練習をしてたんだ」 うむ,我ながら上手い言い訳である。 「え……そうなん?」 「ああ。こいつ,俺の年代の男子にはどう接したらいいか分からないって言うから,仕方なく俺が付き合ってやったのさ。予行演習なんて 恥ずかしいから,堅く口止めされてたんだ」 俺の言葉を聞いた加奈子はしばらく考え込んでいたが,やがてニヒヒ,と笑みを浮かべて言った。 「な~んだそういう事かぁ。桐乃も可愛いトコあるじゃんかヨ~」 このこの,と桐乃を肘で小突く加奈子。よしよし,今度は上手く騙せたみたいだな,アホめ。 一方,ブリジットも俺の話に納得したようだったが,何故かその顔は残念そうだった。 378 名前:【SS】デートの真相 4/4[sage] 投稿日:2011/09/07(水) 21 26 34.29 ID OMFOVRcM0 [5/8] その後俺たちはワイワイと楽しく遊び,夕暮れ前に二人は帰っていった。 夕日に染まる玄関先で二人を見送った後,俺は思い切って桐乃に聞いてみることにした。 「なあ,桐乃……」 「うん?」 「結局あのデートって……何だったんだ?」 俺の質問に不意をつかれたのか,桐乃は再び真っ赤に茹で上がり,口をぱくぱくし始めた。 ……こいつのこの様子から見て,つまりそういう事なんだろうな。 「あーあーわかった。なるほどね」 からかうように言いながら,俺は家に戻っていく。 「ちょっ……まだ何も言ってないでしょ!」 言わなくてもわかるさ。なんせ俺は,宇宙一のシスコンだからな。 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1833.html
俺が帰宅すると、リビングのソファで妹がアニメ鑑賞をしていた。 「ただいま」 「…………」 挨拶をしてやったというのに、こちらをチラリとも見やしないのは、まあ、いつものことだ。そもそも俺を無視したというより、桐乃は現在再生中のアニメの方に夢中で俺の帰宅に気付いていないようだった。 俺はそのまま妹の横を通り過ぎ、ホットコーヒーを二人分用意した。そして妹が座っているソファの隣に一人分のスペースを開けて座る。 マグカップをそっと桐乃の前に置こうとした時だった。 「ねぇ、ちょっと!」 桐乃が一人分の距離を一気に詰めて、俺の袖を引っ張ってきやがった。 相当興奮している様子である。つーか俺が帰ってきてることに気付いてんなら、お帰りの一言くらいあってもいいんじゃねぇのか? 鼻息荒く袖を引っ張ってくる桐乃に、俺はやや引き気味に返事をする。 「な、なんだ?」 「この子! チョーかわいくない?」 桐乃が指し示す画面(どうやら一時停止状態のようだ)には、髪が真っ白……というか髪が蛇の女の子が映っていた。 「……いや、普通に不気味なんだが」 「はあっ!? あんた撫子ちゃんの可愛さが分からないとか、いったい何年妹エロゲーやってきたの? そんなんで妹エロゲーの申し子とか自称しないでくれる?」 「妹エロゲーの申し子を自称した憶えはないッ!」 その称号を自称するヤツはこの世におまえ以外には存在しねぇ! ……しかし、このまま桐乃のお気に入りのキャラを貶し続けると喧嘩になりかねないので、俺は無難な返答を選択する。 「おまえはこの撫子ちゃん……とやらのどこに魅力を感じるんだ?」 「あれ? それ聞いちゃう? てか聞きたい? ふっふっふ、しょーがないなぁ~! 無知なアンタにこのあたしが、あたし自らが撫子ちゃんの魅力を語ってあげよう!」 「…………うっぜぇ」 無難なつもりの選択が完全に裏目に出てしまった。……こうなってしまっては腹を括るしかないだろう。自分から質問しておいて、今さら聞きたくないとは言えんしな。 この後、小一時間にわたって撫子ちゃんの魅力を聞かされ続けた俺だったが、理解できたのは撫子ちゃんとやらが、どうやら妹キャラであるという事だけだった。 「しかも贅沢なことに妹キャラである撫子ちゃんだけじゃなく、実妹と義妹までいんの! 火憐ちゃんと月火ちゃんって言って、」 「ちょ、ちょっと待った!」 「え、なに?」 俺は撫子ちゃんの話が一段落したところでストップをかけた。危うく新たな二人の妹キャラを紹介されてしまうところだったぜ。これ以上聞いてたら……というか、これ以上、桐乃に妹キャラを語らせたら時間がいくらあっても足りない。 そもそも俺は今の話の流れで聞かなければいけないことがあるのだ。 「あのさ……そもそも、なんのアニメの話なんだ?」 「……あんたそこから分かってなかったわけ?」 ――ということで、俺たちは場所を桐乃の部屋に移し、妹からコレクションの一部を見せてもらっていた。 「……で、今やってるのが物語シリーズセカンドシーズンってやつね」 「なるほど、二期ってことか」 厳密には違うけど――と、桐乃は一冊のパンフレットを開く。設定資料集のようなものだろう。 「この子が千石撫子ちゃん」 桐乃が指し示しながら説明している女の子は、さっきテレビの録画分で放映されていた子とはずいぶん印象が違っていた。……なんというか普通の子だな。 「おい、桐乃。この子さっき変身してたよな?」 「うーん、まあね。ちょっと違うけど、そんなとこかな」 「ふむ……ま、たしかにこの状態なら可愛い妹キャラといった感じではあるな。大人しそうだし」 「ん~、まぁいいセンいってるけどさぁ、その感想だと三十点くらいかなァ~? でもアンタにしたらまずまずの答えか。ズバリ、あたし的に撫子ちゃんの最大の魅力を挙げるとすれば外見より『声』なんだよね。あんたも一回聞いてみ? 絶対気に入るから」 おまえの台詞はいちいち長い。 それにしても『声』ねぇ。こんな風に断言されると、どんな声なのか気になってきてしまうな。 とはいえ、桐乃が自分のお気に入りの作品を大げさに薦めてくるのは毎度のことなので、俺は話半分に聞いていた――この時は。 翌日の朝。 正月から数日が過ぎ、両親が家を空ける日がやってきた。(うちは法事やらなんやらで両親揃って外泊してくることがままあるのだ) 俺が遅めの朝食を摂っていると、そうそうと言いながら、お袋が封筒を預けてきた。 「ん? 何これ?」 もしかしてお年玉か? と、一瞬思ったが、その可能性はないだろう。哀しいことに高坂家の長男は中学に進学した時点でお年玉制度が終了してしまったのだ。 ちなみに桐乃は高校生になったというのに、当然のようにお年玉をもらっていた。……高坂家の怪異である。 「京介も大学生だし、これからはお兄ちゃんに預けようと思って。今日は桐乃に晩ご飯作ってもらいなさい」 どうやら家を留守にしている間の俺たちの生活費らしい。 「へーい、いつ帰ってくんの?」 「たぶん明日には帰ってこられるんじゃないかしら。もし何かあったらあんたが桐乃を守ってあげるのよ?」 ふうむ、俺もお袋から頼られるまでに成長したってことか。こんなことって俺の人生で初めてじゃねえか? これも普段の行いの賜物ってやつかね。 自己完結で気を良くした俺は、 「お袋、安心していいぜ。桐乃の面倒は俺がちゃんと見てやるよ」 と、超かっこよく決め台詞を吐いたのだが、お袋の返答はこうだった。 「変なことの面倒までは見なくていいからね」 …………。 「な、なんのことかね?」 あまりにもダイレクト過ぎて、あからさまにテンパってしまった。 「あら、分からなかった? 親がいないからって妹にエロいことしちゃダメよ、って意味」 全然信頼されてなかった――というか、むしろ高校生の時より悪化していた。 「はは、ははは……馬鹿だなァ、母上は。高坂京介という男がそんなことをするような兄に見えるのかね?」 「見えるから言ってるのよ。……あっ、そうだ。お目付け役にあやせちゃんか麻奈実ちゃんにでも来てもらうって言うのはどうかしら?」 「神に誓ってそのようなことは致しませんので、なにとぞお平らかにお願いいたします!」 全身全霊でお袋に懇願した。麻奈実はともかく(こっちはこっちで問題があるのだが)、神よりも恐ろしい悪魔(あやせ)を召喚されると脅されれば反射的な、人間としてごく当たり前の行動――というより生存本能の叫びだった。 「まぁ、そこまで言うなら信用してあげなくもないけど……本当に大丈夫?」 「だ、大丈夫だって!」 どこまで信用がねぇんだ。 兄としての尊厳や威厳が皆無なように、俺の人権までもがこの家では皆無なのだった。 ともあれ、「お袋は最初から心配してないわよ」などと言い残し、親父と共に出かけていった。 その日の夜。 俺は妹の部屋を訪れていた。 「――というわけ」 「……すまん。もう一度説明してくれ」 「はぁ? 今の説明で分かんなかったわけ?」 「分からんから聞いとるんだ」 桐乃の発言が意味不明なこと自体はしょっちゅうあるのだが、今日のは特に意味不明だ。 「チッ――しょうがない。あんたでも理解できるようにカンタンに説明してあげる」 「……最初からそうしてくれ」 「よーするにっ、パチスロをやってきてほしいわけ!」 「………………」 ビシリ、と、俺を指差しながらそんなことをぬかす我が妹。 一瞬、何を言ってるのか理解できず、リアクションが取れなかった俺だが、 「はぁ!? なんでだよ!?」 「説明したっしょ」 「いやいや! そこがまず伝わってないから!」 「だ~か~ら~、マイスロっていう機能があって――」 中略。 「……つまり、そのマイスロとやらのミッションをコンプしてみたいということか?」 「そ。で、当然だけど、あたしはパチンコ屋さんに入れる年齢じゃないでしょ?」 「おう」 「そこで、アンタの出番ってわけ」 「なんでそうなるんだ!?」 いつものことながら、コイツとんでもないことをサラッとほざきやがるな! どこの世界にパチスロを兄に薦める妹が……! まあ、ここにいるわけだが。 「何度も言わせないでよ。いい? 妹ってゆーのはぁ、兄に甘えるものなの」 「じゃあもうちょっと可愛くおねだり――ってそうじゃなくて! 無理に決まってんだろ!」 「ええ~? なんでよ?」 ぷくーっと頬を膨らませながら聞いてくる桐乃。こいつ本当に分かってないな。 「いいか。まず、俺はパチスロなんてしたことがない」 「うん」 まるで『それがどうかしたの?』――とでも言いたそうな顔だな……。 「それでだ、ここからが一番重要なんだが、高校生の妹の金で大学生の兄貴がパチスロに行くってのは……どうかと思わねぇか?」 これが実現してしまうと表面上、妹のヒモのような兄貴になってしまうわけで……。 「大丈夫。お金はあんたが出すから」 「自腹かよ!?」 「あたりまえじゃん? 自分でやるならまだしも、人にお金渡してギャンブルなんてやってもらうわけないっしょ? しかもあんたド素人だしね」 「ぐぬっ……!」 たしかに間違ってはないが、これが人にモノを頼む態度か!? そもそもよく考えてみれば、このクソ生意気な妹の理不尽極まりないおねだりに応えてやる義理なんて俺にはないな。 ないよな。あるはずがない。 俺は怒りを抑え、冷静に言ってやった。 「……じゃあ、おまえが十八歳になってから自分で行けよ。それで解決だろ」 「それはダメ」 桐乃は首を横に振った。 「はあ? なんでだよ?」 「それだと撤去されちゃうから。あたしが高校を卒業して、めでたくパチンコ屋さんに入ったとしても、その頃にはもうなくなっちゃってるんだよ……パチスロ化物語は」 化物語。 どうやら桐乃が昨日の夕方、俺に熱弁していた作品のことらしい。その作品のスロットマシンとやらが世に出ていて、桐乃曰く、こいつがパチンコ屋に出入りできるようになった時にはもう手遅れなのだそうだ。だから、今しかないということで俺に頼み込んでいるらしい。 理屈は分かる。好きな作品のレアなミッションをコンプリートしたい。オタクでなくとも集めているものをコンプしたい欲求というものが多少はあるだろう。俺もそこまでのオタクではないが、その辺の心理は理解しているつもりだ。桐乃の場合その欲求が強いことも知っている。 ただ今回の件はなぁ……正直気乗りしない。 どうしても二の足を踏んでしまう。 「なによ……嫌なの?」 「うん……まぁ、嫌だな。というより、やりたくない」 ギャンブル自体を。 桐乃も俺の葛藤は把握しているらしく、 「だよね……ま、その気持ちは分かるけど。うちはお父さんがお父さんだし」 あの厳格な親父に、長男がギャンブルにハマっているなどと誤解でもされた日には……恐ろしくて想像したくもないぜ。 「そういうこった。ていうか思ったんだけどさ、ゲーセンとかにあるんじゃねーの? それか実機? っていうのか、そういうのを買えば解決するんじゃないのか?」 わざわざリスクをおかす必要もないだろう。 しかし桐乃は首を縦に振らなかった。 「だめ」 「なんでだよ。これ以上ない名案だろうが」 「偽物だから」 「……ああ、そう」 こいつ、化物語とやらの作品から変な影響受けてるんじゃあるまいな。 「しかし、そうなると諦めてもらうしかねぇなぁ。いくらおまえの頼みとはいえ今回ばかりは、」 「む、胸っ!」 「は?」 胸がどうしたんだ? 「だ、だから……! お願い聞いてくれたら、あたしの胸、好きなだけさわらせてあげても、いい……ケド?」 それは素敵な提案だな。 交換条件としては悪くない――しかし俺はこう答えた。 「はんっ――断る。おまえの兄貴をみくびるなよ、桐乃」 「むっ……」 たぶん桐乃のやつは、『エッチな提案に乗らない京介かっこいい……』と、惚れ直していることだろうが、ぶっちゃけ俺がこの提案に乗らなかった理由としては、桐乃の胸を割と頻繁にさわっているから交換条件としては弱いというだけのことである。 ……いや、いやいやいやいや……誤解するなよ? リビングで密着した時とかに、すこーし触れる程度のことで、別に寝てる妹のおっぱいを鷲掴んだりしているわけではないぞ! 勘違いしないように。 俺が誰に対して申し開きをしているのかすら分からない釈明をしていると、諦めたと思っていた桐乃が何か言い始めた。 「分かった……じゃ、じゃあ! 京介にあたしのしょ、しょっ」 「?」 桐乃は、そのまましばらくぽしょぽしょと「し、しょっ……しょしょ」と、繰り返していたのだが―― 「って言えるかぁ~~~ッ!」 「ぶはっ!?」 いきなりクッション投げてきやがった! 信じらんねぇ、この女! 突如暴君と化した桐乃は、肩で息をしながら涙目で俺を睨んでいる。ここだけ切り取って見たら、まるで兄貴が妹をいじめて泣かせたみたいに見えなくもないよなぁ。実際にいじめられてるのは俺の方なんだけど……こんな場面をお袋に目撃されたら、言い訳すらさせてもらえないまま家を追放されそうである。 「はぁはぁ……ふぅ」 「お、落ち着け、桐乃……どうどう」 「……大丈夫、あたしは落ち着いた」 「そ、そうか」 ほんとかよ? 自分でそういうことを言うやつは大抵あやしいんだよな。 それにしても、こいつは何が言いたかったんだろう。 「こ、こほん……えーっと」 わざとらしく咳払いをして仕切りなおす桐乃。 またクッションを投げられるのかと思い身構えてしまったが、そうではなかった。 「あんたがミッションをコンプしてくれたら、あたしがひとつだけなんでも言うこと聞く――っていうのはどう?」 そうきたか……その交換条件を聞いた俺は、考えるまでもなくこう応えるのだった。 「よーし、乗ってやるよ」 女の子になんでも言うこと聞くなんて言われたら、男として引けるわけがないだろう。だって、なんでもだぜ? あんなことやこんなことだって! うわぁ、夢が膨らむなぁ! 桐乃はそれに気付いているのか、気付いていないのか、「ふへへ、サンキュー」とご機嫌だった。 翌日の朝。 現在、時刻は九時半を過ぎたところだ。 俺はトーストを焼いてホットコーヒーを淹れ、朝の気だるい倦怠感を堪能していた。千葉のパチンコ屋は開店時間が十時からなので、十分間に合う計算である。 と、俺が優雅に朝食を摂っているところに勢いよくリビングの扉が開く。 「何、あんたまだいたの?」 「…………」 まるで休日の朝、邪魔だからと亭主を家から追い出す鬼嫁のような台詞を吐く、妹の姿がそこにはあった。仁王立ちだし。 「ねぇ、早く行かなくていいの?」 「……まだ三十分近くあるから大丈夫だろ。今から行ったって、まだ開店してねえよ」 「ふーん、まあいいけど。ちゃんと間に合うように行きなさいよね」 今度は出来の悪い息子を心配する母親のような物言いだ。 ひょっとすると桐乃は意外にも家庭的なタイプなのかもしれない。 俺は残っていたコーヒーを飲み干し席を立った。 「へいへい……じゃあ頑張ってきますよ」 「ん」 ひらひらと手を振る俺の背に「がんばれ」と、いまいちやる気のない声援がかかる。 ……まぁ、妹様のためにいっちょ頑張ってみますかね。 ※ 「……うるせぇなぁ」 午前十時過ぎ。俺はコンビニに寄り、お金を下ろし、家から一番近くにある比較的大き目のパチンコ店に来ていた。覚悟を決め、自動ドアをくぐってまず最初に口をついたのがこの感想だった。 いや、実際めちゃくちゃうるせーの。俺もゲーセンとか妹たちと一緒にちょくちょく行くんだけど、そういう施設の比じゃないほどの騒がしさといえば伝わるだろうか? それに喫煙者が多いのか、俺のようにタバコを吸わない人間からするととても空気が悪い。活気はあるのだが、縁日やらとの喧騒とは全く違う、異質な空間が広がっていた。まさしく鉄火場ってやつだ。 俺は独特の雰囲気に圧倒され、しばしたじろいでいたが、いつまでもそうしてはいられない。さっさとお目当ての化物語を探さなきゃな。 パチスロのコーナーを徘徊してみる。 ぐるぐると当て所もなくコースを巡回していると、化物語はパチスロコーナーで一番目立つであろう真ん中の列の角に設置されていた……のだが。 「ありゃ……満席か」 五台あるパチスロ化物語はすでに先客で埋まってしまっているのだった。 まいったな……こりゃ桐乃の言うとおり悠長に朝飯喰ってる場合じゃなかったかもなぁ。人気があるであろう化物語に座るためには開店前から並ぶ必要があったのかもしれないな――と、後悔していたら、「あら? ……京介くん?」と声をかけられた。 俺は声の主の方を見てみる。 「げっ……フェイトさん!」 「『げっ』ってなによ! 失礼しちゃうわね。まだ何も頼んでないじゃない」 憤慨する伊織・F・刹那。薄幸の美女といえば聞こえはいいが、この場面で最も会ってはならない人物に遭遇してしまった。しかもまだってことは、そのうち何か頼むつもりってことじゃねぇか。パチンコ屋での頼まれごとなんて百パー『アレ』しかねーだろ……絶対にお断りだ! 「ねぇ、京介くん」 「嫌です」 「まだ何も言ってないじゃない!」 「金は貸しません」 フェイトさんに金を貸すくらいならドブに捨てた方がいくらかマシだ。ドブに捨てた場合は後で拾えるからな。 「まあそのお願いをする可能性はあるけれども、というかぜひ貸して欲しいけれど」 「いや、だから貸しませんって」 「倍にして返すわよ? ……って、そうじゃなくて、京介くん。通路でボーっと立ってると他のお客さんの迷惑になるから」 「あっ……すんません」 非常識な人に常識を説き伏せられてしまった。……人生の汚点だ。 人の迷惑にならないように、コースの端に寄ったところでフェイトさんが聞いてきた。 「こんなところで京介くんに会うなんて意外だわ。あなたどちらかというと堅実な人生を選ぶタイプだと思ってたんだけど」 「これには深いわけがあるんですよ……」 フェイトさんに説明する気はないが 俺は高校のある時を境に茨の道を選択し続けているんだけどな。堅実どころか無謀とも言える人生を送っている。 「で、今日のお目当ては化物語?」 「あ、はい。でも満席で座れませんでしたけどね」 「実は私もそうなのよ。空いたら座りたいんだけど、ただ待ってるだけっていうのも時間がもったいないし、他の機種でも座ろうかしら。京介くんも一緒にどう?」 「あー……どうしようかな」 ぶっちゃけ他の機種とか言われても興味ないし、桐乃からのミッションは化物語だしな……と思ったのだが、一も二もわからないままより多少勉強しておくべきか。フェイトさんと並んで座ってパチスロのことを教えてもらうのもいいかもしれない。 「うーん、じゃあ、そうします」 「そう、なら何がいいかしら? 京介くんが選んでもいいわよ」 「えっ……俺が選ぶんすか?」 「ええ。私は基本的になんでもいいからね」 にこにこしているフェイトさんだが、そうは言われても俺は別に好きな機種とかないしなぁ……そう思いながら辺りを見渡すと、ある機種が目に入った。 「あっ……北斗の拳」 「なに? 北斗がいいの?」 いや……北斗の拳という作品を知っているからというだけで、別にこれがやりたいわけではないのだが。まぁ、知らない作品の機種よりは知ってる作品の機種を選んだ方が幾分かマシだろう。 「そうっすね、じゃあこいつにします」 「いいわよ。あ、でもこれ救世主の方ね」 なんだそれは。なんだかよく分からん専門用語らしき言葉が飛び出してきたぞ。 「まぁいいわ。とりあえず座りましょう」 ということで、俺とフェイトさんは並んでパチスロ北斗の拳に腰を下ろした。 財布からお金を取り出したところで、頼んでもいないのにフェイトさんからの解説が入る。 「この台は純増2.2枚のARTタイプなのよね」 「はあ……」 なんだジュンゾウ2.2って。円周率3.14みたいなものか? ARTって芸術的って意味の新しい言い回しか? 俺の適当な相槌を受けたフェイトさんは、 「あら? もしかして京介くんって北斗初めてなの?」 「……というより、そもそもパチスロ自体が初めてです」 隠す必要もないので正直に言った。 するとフェイトさんは馬鹿にした風もなく、しかし少し呆れ気味にこう言ってきた。 「初めてのパチスロの時に一人で出陣する猛者はなかなかいないわよ。普通は詳しい人間に連れられて来るような場所だからね」 「……たしかに俺もそう思いますけどね……」 俺の周りにギャンブルをするような友人はいないから、この選択は避けられなかったといえよう。……別に俺が大学で孤立しているわけではないぞ? 「じゃあとりあえずお金を隣のサンドに入れて。そうすると貸しコインが出てくるわ」 言われるままにサンドというらしい台の横に備え付けられている装置に一万円札を投入する。すると、カタカタと五十枚ほどのコインがノズルを伝い台の下皿に落ちてきた。 ……これが千円の代償なんだな。何か大切なものを失った気がするが、そんな感傷に浸る間もなくフェイトさんが確認してくる。 「ところで京介くん。今日の軍資金はいくらなの?」 「えっ……それは」 一瞬、フェイトさんの目が獲物を狙う猛禽類の如く、鈍い光を放っているような錯覚を覚え躊躇してしまう。しかし教えを請う立場として、これは礼を失する態度だな、と思い直し、俺は正直に答えた。 「さっき三万ほど下ろしてきました」 「三万円!?」 びっくりしている様子なので、多過ぎたのかなと思った俺だったが、違っていた。 「全然足りないわよ、そんなんじゃ」 「マジっすか!?」 まさか足りないと言われるなんて……思ってもみなかった台詞だった。 「うん、全然ね。最低でも十万くらいは用意してこないと話にならないわよ」 「…………十万」 俺は戦慄するしかなかった。 ん? 待てよ。 「あれ? てことは、フェイトさんも今日はそれくらいの軍資金を用意してるってことっすか?」 この人にそんな財力があるとは思えないんだけど……。 「え? ううん? 私は一万円しか持ってないわよ。というよりなけなしの最後のお金よ」 「あんたの方がよっぽどピンチじゃねぇか!」 足りないどころの騒ぎではないレベルだった。 「ええ、そうね。ピンチもピンチ。大ピンチよ。正直言って、今日負けたらご飯が食べられなくなるくらい困窮しているわ」 「その一万円で飯喰えよ!」 一万円もあったら、なんだって好きなモン喰えるよ!? 「負けられない戦いが……ここにはあるのよ!」 「人間こうはなりたくねぇなぁっ!」 生活費をギャンブルに突っ込むってどんな気持ちなんだろう……決して理解したくない心理だが。 「まぁ十万円は言い過ぎたけど、その昔……今のパチスロとは規定が違う四号機と呼ばれる機種がメインの時代があってね。その当時、というかパチスロ全盛期の立役者である吉宗という化物マシンがあった頃は、最低でも七万円以上はお財布に入れていないと落ち着かない――という廃人たちが誇張抜きで本当に跋扈していたのよ」 「へぇ……どうでもいい豆知識っすね」 アンタ本当は何歳なんだよ。その時代のパチスロ事情を知ってるとか二十代じゃねぇだろ。 「そうでもないわよ。その立役者と双璧をなしていたパチスロ北斗の拳。そして、今、私たちが座っている台がその正統後継機なのよ」 「ふうん……」 やっぱりどうでもいい豆知識だった。 「さあ、コインを三枚投入口に入れてレバーを叩いてみなさい」 「は、はい」 俺は言われたとおり、おぼつかない手つきでコインを投入口に入れ、レバーを叩く。 「どう? リールに描かれてる絵柄は見える?」 「……いや、なんとなくしか見えないですね」 どれだけ眼力を飛ばしても、ぼんやりと識別するので精一杯だった。 「じゃあ黄色の七絵柄は見える?」 「なんとなくなら、見えなくもないです」 「そう。ならそれを目安にストップボタンを押してみて。左か、真ん中……というか右から以外なら好きな順番で押していいからね」 フェイトさん曰く、高速で回転するリールの絵柄を完全に視ることができる人も存在するらしい。動体視力が異常に高い黒猫ならそういう風に見えんのかな? その後もフェイト先生に教えを受けながら、俺は台と格闘することとなった。 そして二時間が経過―― 「――――」 「これ結構面白いっすね!」 俺はケンシロウとラオウの死闘が展開されるART、激闘乱舞とやらにすっかりハマっていた。 投資は最初に借りた千円だけである。すぐに当たって、そこからあれよあれよという間に、出てきたコインでドル箱ひとつが満タンになっていた。 「いやぁ、パチスロって思ってたより簡単だなあ」 「京介くん、こういうのをビギナーズラックって言うのよ?」 フェイトさんは何やら複雑な表情でそう言ったけど、たぶん負け惜しみだろう。 そしてトイレに行った際、化物語が空いていることに気付いた。 俺は急いでフェイトさんのところに戻る。 「あのっ、化物語が空いてたんすけど、あっちに代わってもいいんですかっ?」 「あら、空いたの? この店は移動自由だからOKよ」 おお! ついに本格的なミッションが始められるぜ! 俺は早速、北斗の拳で出したコインを持って化物語に移動する。 席に着席し、ポケットから携帯電話(最近新調したスマホ)を取り出す。そして、事前に登録していたマイスロの画面から化物語のトップメニューを開きパスワードを発行、それを台に入力する。 「……よし、これで舞台は整ったな」 「いい? 京介くん、この機種は通常時、指示がない場合は必ず左から停止させなければいけないから注意してね」 いつの間にかフェイトさんも、隣の空き台になっていた化物語へと移動してきていた。 「了解っす。左から押せばいいんですね?」 答えながら俺がレバーをこんっと叩くと、 「あ、あれ……? リールが逆に回ってる? も、もしかして俺、台壊しちゃったんすかね?」 「…………」 「痛ぇっ!」 無言のままわき腹に肘打ちをしてきやがった……この年増っ……! 不機嫌なフェイトさんの解説によれば、どうやらこの現象はフリーズといって、かなりレアな上に恩恵のあるものだそうだ。そして、そのフリーズを皮切りに、驚くべき速さでコインが吐き出され、気付いた時には後ろの千両箱が銀色に輝く硬貨で埋め尽くされていた。 そして時刻は午後四時前。 「あ……もうこんな時間か……」 俺は下皿に残っていたコインをかき集め、ドル箱に移す。 「えっ、もしかして止めるの!?」 「はい、今日のところはもう十分かなって。もうすぐバイトの時間だし」 俺が大学に入ってから頑張っているのは、何も勉強だけではなく、バイトもその内のひとつである。この九ヶ月間しっかり貯金もしてきた。そのバイトを休むわけにはいかないからな。 「で、でも京介くん? さっきも言ったけどキミの台、赤七の時に忍野忍ちゃんの背景が出てたでしょ? あれは高設定確定のサインなのよ? ……ていうか正月明け早々、高設定を使ってくること自体が想定外過ぎるんだけどね。……それに解呪ロングにまだ滞在してそうだし」 うーん……なんか必死に説明してくれてるところ申し訳ないんだけど、高設定がどうのとか、解呪がどうのと言われてもいまいちピンとこないんだよな。 だから、俺はこう答えた。 「……正直よくわかんないですし、バイトもあるんで続きはフェイトさんやってくださいよ。この台、止めない方がいい台っていうなら、今日いろいろ親切に教えてもらったお礼だと思ってくれれば」 「えっ! ほんとにいいの!?」 「もちろん」 「あ、ありがとう京介くん! 助かったわ! 残り三千円しかないけれどこれで勝てる!」 あれ? これでよかったのか? この場面はフェイトさんも一緒に止めさせて、残りの三千円でせめて米を買えと言うべきだったのではないだろうか? 完全に負けフラグを立てているフェイトさんに一抹の不安を残しながら、俺はコインを流した。 流し終えたレシートを見ると五千枚を超える数字が記されている。 この数字を見ても金銭に直結しないのはやはり素人といったところか、俺はこのレシートから生み出される金額をこの時点ではまったく予想すらできなかった。 「……で、こいつを交換所ってところに持っていけばいいんだったよな」 店を一旦外に出て、周囲をぐるっと回ってみると映画館のチケット売り場のような小さな交換所を見つけることができた。ここにレシートを置けばいいのかな? 俺はレシートを交換所の小さなスペースへと置き声をかける。 「えっと……すいません。交換お願いします」 ガラッとレシートを置いた箱が向こう側に吸い込まれる。 「? あぁ、お兄さん。これはここじゃ扱えませんよ。一度カウンターに行って、特殊景品に交換してもらってから、もう一度ここに持ってきてください」 「あ、はい……」 俺はつき返されたレシートを持って、店の中へと戻る羽目になった。 なんだこのシステム? しちめんどくせぇなぁ。 出たコインを一度流してレシートにして、そのレシートを店で景品に換えてもらって、それから景品を交換所に持っていって、ようやく現金に還元されるとか……誰がこんなややこしい上に非生産的なシステムを採用したんだ? ともあれカウンターでレシートを無事、景品に交換してもらった俺はまずその量に驚いた。一つ一つは小さいのだが、両手に抱えないと持てないほど大量の数の景品だったからだ。大量の景品が入った箱を両手で抱え、もう一度交換所に向かいようやく現金に交換してもらうことができた。 「……マジかこれ……すげぇ」 俺が受け取った現金は軽く十万円を超えていた。 ……たった六時間程度で十万円という大金が手に入るとか、これはやばい。駄目だ。人間が駄目になる。ていうかひょっとしたら俺ってものすごい博才を持ってるとか? ……うわぁ! やっべぇ! 今まで気付かなかったけど俺にとってこれが天職なんじゃね!? バイトでちまちま稼いできたのが馬鹿らしくなるなぁ! 一応バイトには向かったものの、この時の俺は完全に浮かれていた。 釈明させてもらうと、初めてのギャンブルで大金を手に入れた人間は、少なからずこういう思考回路になってしまうはずだ。 そしてまったく身が入らないまま、バイトの業務を終え、午後十時頃に帰宅した。 「ただいまー!」 上機嫌に玄関を開け、リビングに向かう。 一刻も早く、桐乃に本日の成果を報告……もとい、自慢したかったのだ。 リビングに入ると桐乃は晩飯の支度を整えて待っていてくれた。 「あ、おかえり。どうだった?」 開口一番、そう聞いてきた。こいつも結果が気になって仕方がないらしい。 「ふっふっふ……そう焦るなよ、桐乃。飯喰いながらじっくり聞かせてやるからさ。天才ギャンブラー京介さんの話をな」 「うわ……今年一番キモい顔」 心底そう思ってそうな感じで言われたけど、そんな罵倒も今日に限ってはまったく腹が立たないぜ。 桐乃が作ってくれた肉じゃがを喰いながら戦果を報告する。 「……へぇ、勝ったんだ。よかったじゃん」 「まぁな、それに見ろよ。どーよ?」 俺はスマホでマイスロのミッション達成ページを表示し、桐乃に手渡す。 「おおっ! もう四十パーセント近くも達成してる!」 「すげぇだろ? こりゃ思ってたより早くコンプできそうだぞ」 我が家の姫君はスマホを俺に返し、満足そうにこうおっしゃった。 「うむ! 褒めてつかわす!」 「へへー、ありがたき幸せ」 何年経とうと高坂家の兄妹の間で下克上は起きそうにない。 「てかさ、今あんたの財布の中、十万も入ってるってこと?」 「え? まあ、そうだけど……」 「ふーん……じゃあ半分渡して」 「はぁ!? な、なんで!?」 この鬼嫁……もとい鬼妹のやつ、兄に自腹でパチスロをさせた挙句、勝ったらそれを半分徴収するというのか!? ふざけんなよこのやろう! 「何かの時のためにあたしが半分預かっておいてあげるってこと」 「…………」 「ほら、さっさと出す」 「…………わーったよ」 結局、俺は妹の圧力というか、圧政には逆らえず、渋々、手に入れた十万円の半分を預けざるを得なかった。 せめてもの抵抗というわけではないのだが、恨みがましく妹を見つめる。 「ん? 何その目。何か言いたいことでもあるワケ?」 「あっ、いや、なんでもないっす……」 ……睨み返されてしまった。このクソ妹め……おまえのせいで兄貴がおしっこちびったらどうすんだ? 「ふーん、まぁいいや。明日からもこの調子で頑張ってよね」 「へいへい、そこは任せとけって。……あ、そうだ――おまえ化物語のアニメのDVDって持ってるか?」 「ん? もちろん全部持ってる、てかシリーズ全部持ってるけど? 今もセカンドシーズン集めてるし」 当然のように全シリーズコンプしているらしい。さすが俺の妹。 「へぇ……そっか、ならよかったら貸してくんね?」 「おっ! さてはアンタも撫子ちゃんの魅力に気付いたんでしょ~っ」 「ま、まぁな……パチスロの予習も兼ねて一回観てみたくなってさ。貸してもらえるか?」 「ふひひ、いいよ貸したげる! 全シリーズとセカンドシーズンの録画分のDVD、貸してあげるから明日までに観ておくこと! これゼッタイ!」 「……できるだけ善処させていただきます」 いったい何時間かかるんだろう……? 絶対今日中に終わらない気がする……。パチスロに行ってる場合じゃねぇなぁ、こりゃ。 急遽明日の予定が、アニメ鑑賞に決定してしまったのであった。 翌日の夜。 ……なるほど。これは面白い。 それが物語シリーズを視聴し終えた俺の感想だった。 ストーリーもさることながら、主人公である阿良々木暦の突っ込みには、突っ込み担当の俺も感心してしまうほどの切れ味があった。ううむ……勉強になるなあ。 そして多種多様なヒロインたち。 彼女たちの魅力もこの作品の大きな見所のひとつだろう。 まず戦場ヶ原さんは俺の知り合いにいないタイプの一風変わったツンデレといった感じ。ロリ兼丁寧口調の八九寺ちゃんは、加奈子にブリジットちゃんを足すとあんな感じになる気がする。神原さんはあやせと悪魔同盟を結べばいいんじゃないかな? 羽川さんは、まあ眼鏡だよな、眼鏡を外す選択は俺なら選ばないけど……あのすべてを把握してる感じは俺の幼馴染にも通じるものがありそうだ。ファイヤーシスターズは……ノーコメントで……。 うちの妹は強いて言えば、忍ちゃんに通じるものがある気がする。話し方とか雰囲気は似てないけど――あの理不尽なところとか。 そして桐乃がお気に入りだと言っていた、千石撫子……彼女の声は―― 俺は時計を確認する。現在の時刻は深夜一時前。……起きてっかな。 少し悩んだ末、俺は友人に電話をかけることにした。 prrrrr……。 prrrrr……ピッ。 『もしもし』 ツーコールで出た。 「黒猫、まだ起きてたんだな。元気か?」 『お陰様でね』 なんだか声が眠そうだ。もしかしてもう寝てたのかな? 「あの、悪いなこんな時間にいきなり電話しちまって」 『気にしないで頂戴、冬コミで買った戦利品を眺めていたところだから起きていたし』 「そっか」 『……そういえばまだ言ってなかったわね』 「ん? 何をだ?」 『明けましておめでとうございます、先輩』 ……そういや、メールで軽く挨拶したままだったな。うっかりしてた。普段世話になってる沙織や黒猫にはこっちから先に言うべきことだ。沙織には明日にでも挨拶しておこう。 「ああ……明けましておめでとう」 『ええ……それで何か用かしら?』 こいつには遠回しに言うより単刀直入に切り込んだ方がいいだろう。 「いや、まぁ、たいしたことじゃないんだけどさ、ちょっと聞きたいことがあってな」 『聞きたいこと?』 「おう、おまえさ、化物語……って知ってるか?」 『勿論知っているけれど、それがどうかしたの?』 やっぱり知ってたか。桐乃が好きな作品のことをこいつが知らないわけがないよな。 さて……ここからが本題だ。 「じゃあさ、黒猫。おまえ、千石撫子……って知ってるか?」 『ッ……!?……し、知らないわね……』 この反応は絶対嘘だろ。 そもそも『勿論知っているけれど』という作品のキャラクターを知らないはずないだろ。 「本当に知らないのか……?」 『え、ええ、勿論知らないわ……』 怪しすぎる……。 まったく……こいつは桐乃と同じくらい嘘が下手くそだな。 『あの……先輩?』 「ん?」 『そ、それがどうかしたのかしら? ……千石撫子というキャラが何か……?』 「うーん実はさ、その件で、千石撫子の件でちょっとおまえに頼みたいことがあるんだ」 『……どんな?』 よし……言うぞ。 「えっとな、『こよみ、』」 『厭よ』 「まだ途中までしか言ってねぇぞ!?」 フェイトさんの気持ちをちょっと体験しちゃったじゃないか! 『あなたの言いそうなことくらいお見通しよ』 「てことは、やっぱ知ってるってことだな、千石撫子のことを」 『ふ……流石は先輩、よくぞ見抜いたわね……彼女は我が半身と言っても過言ではないわ』 それは言い過ぎだろう。 「なあ、」 『厭よ。なんと言われても聞けないわね』 「むっ……」 こいつもこういうところ頑固なんだよな……。 ……こうなったら仕方がない……奥の手を使うしかないか。 「黒猫……もしおまえが頼みを聞いてくれるなら、俺がなんでもひとつだけ言うことを聞くってのはどうだ?」 『なんでも……?』 おっ、反応した。 思ってたより効果があったみたいだ。 「おう、なんでもいいぞ。俺に叶えられることならな」 『そう……じゃあ』 黒猫はなんでもひとつというお願いを、俺のように悩むことなく、あっさりと……まるであの時の桐乃のようにあっさりと決め、それを口にした。 『大好きな先輩と、両想いになりたいとか……そんなお願いでも叶うのかな』 「……そいつは適わないな、黒猫」 ……軽率な発言のせいで、とんでもない大ダメージを受けてしまった。 なんか声のトーンが黒猫とは思えないことも相まって、闇猫化した時以上の精神攻撃だった。 俺が罪悪感で押し潰されそうになっていると……。 『ふふっ……冗談よ。どうかしら? 似ていた? 割と自信作なのだけれど。先輩は私に千石撫子の物真似をさせたかったのよね? それならこれで文句はないでしょう?』 ああ……たしかに物真似をさせたかったわけだが、台詞のチョイスが最悪だ! 悪意を感じるレベルである。 「……ありがとうよ。本人かと思うくらいそっくりだったぜ。おかげで阿良々木くんの気持ちがちょっとだけ味わえたわ」 『ふ、ふふ……お互い様ね』 「あん? 何がだよ?」 『私も今のやり取りで、かなりの深手を負ったということよ』 だったら最初からやめとけよ。 ……そういえば桐乃も火憐ちゃんの台詞を参考にしようとして大ダメージを受けていたな。DVDを観て、あの時桐乃が何を口走ろうとしたのか知ってしまった俺である。……うちの妹がウブでよかった。いやマジで。 『ところで先輩、パチスロに嵌まっているそうね』 「まだ一回しか行ったことねぇよ……ってなんで知ってんだ?」 『桐乃から聞いたのよ』 「ああ……なるほど」 『自慢げに三時間ほどあの女の話に付き合わされたわ。途中からなぜか話の内容が兄自慢にすり替わってさらに三時間……合計六時間、なんの苦行かと思ったわね』 「そいつは大変だったな……」 兄として申し訳ない気持ちでいっぱいだった――と、そこで黒猫は声のトーンを落としてこう言ってきた。 『気をつけなさい。ギャンブルを甘く見ているとあっさり……呑まれるわよ』 「大丈夫だって。自分で言うのもなんだけど、俺すげぇ博才持ってると思うんだよね」 『あら? そうなの?』 「おうよ、天才ギャンブラー京介さんと呼んでくれてかまわないぜ?」 俺は自信満々でそう言ったのだが。 『ふうん……じゃあ先輩はポーカーで自分の好きな時に、ロイヤルストレートフラッシュを揃えられるということなのかしら?』 「え? ……いやそれはさすがに無理だけど」 『では、先輩は、國士無双をテンパイした時にリーチをかけるタイプなのかしら?』 「あの、黒猫さん? ……話がよく分からないんだけど」 國士無双って、麻雀の話しか? 『ふっ、それが直感で理解できないようであれば、あなたは天才ギャンブラーなどではないということよ。勘違いして暴走しないように気をつけることね』 「……肝に銘じておくよ」 俺は、この時の黒猫からの忠告をしっかり受け止めておくべきだったと、後悔することになる。 なぜ忠告を忘れてしまったのかというと、前日の大勝利で浮き足立っていたことに加え、この日から数日間、負け知らずだったからだ。 しかし、ビギナーズラックから始まる絶好調が当然長く続くはずもない。数時間で大金が稼げるなら、その逆もまた起こり得る、ということに俺は自らの体験談として思い知ることとなった。 ※ 「くっそぉ……んだよこれ、壊れてんじゃねぇのか!?」 台に八つ当たりをしたがる右腕を、俺はかろうじて精神力で押さえつけていた。 まったく出ない、出る気配すらない。 とっくに冬休みも終わり、勉学に励まなければいけないというのに俺は何をしているんだろう? いや、分かってる――分かってるさ、調子に乗った俺が悪いってことくらい。かなりの金を失ってようやく気付いた。ギャンブルっていうのは俺みたいに熱くなるタイプの人間には向いてないということだ。 黒猫はこうなることを予見して忠告……いや、警告してくれていたってことか。……天才ギャンブラーとか豪語してた自分が恥ずかしい。 最後の千円分のコインを使い切ったところで、スマホを取り出し時刻を確認する。 「…………バイト行こう」 マイスロのQRを回収し、負のオーラを纏いながらその場を後にした。 それから俺は一度も勝利することなく、黒星を重ね続けた。 そして桐乃の依頼から二週間ほどが過ぎ―― 「…………はぁ」 「そんな濁った目で見つめないでくれる?」 負けが込んでいる兄貴を慰めるどころか、辛辣な台詞を投げかけてくる桐乃。 そんな妹の部屋で作戦会議中である。 「俺がいくら負けてると思ってんだ」 「あたしの責任じゃないしぃ」 それはその通りなんだけど、原因の一旦はおまえにあるだろうがよ。 ここ数日の連敗で、浮いていた分はあっさりと吹っ飛び、マイナス二十万を超えそうな勢いである。そりゃため息も出るわ。…………はぁ。 「あんたの陰鬱な雰囲気のせいで部屋にカビ生えそうなんだケド」 「……悪かったな」 桐乃はやれやれといった風に肩をすくめた。 「……五円スロットっていうのもあるんじゃないの?」 「まぁ、最初からそれに気付いていたらそういう選択もあったんだろうけどな」 最近知ったのだが、店によってレートが違う場合もあるのだ。基本は二十円。次いで十円、五円など。変則的な八円や四円などもあるようだ。 とはいえ負け額を考えると、レートを下げるなんて今さらって感じもする。 「んん、しょうがないなぁ……もうやめとく?」 「……それこそ今さらだろ」 負けたおかげというわけではないが、ミッション自体は九十パーセント以上達成済みだ。あと少しでコンプって場面でやめられるか。 「あ~あ、せっかくお金貯めてたのにね~」 「……まったくだな」 桐乃と将来、二人暮らしする――なんて、こんなことじゃ実現できそうにない。 そのためにこつこつ貯めてきた金をまさかギャンブルに使うはめになるとは。 「あたし、こんな甲斐性なしと将来を共にするとかイヤなんですけど?」 「こっちが下手に出てりゃ好き勝手言ってくれるなぁ!」 というより人の心を読むんじゃない! 「だってホントのことじゃん」 「よーしっ、絶対ミッションコンプして吠え面かかせてやる! 桐乃、約束忘れんじゃねぇぞ?」 「え? 約束ってなんだっけ?」 「はぁ!?」 すでに忘れてやがった! このやろう……可愛らしく首かしげてんじゃねぇぞ。 桐乃は「ジョーダンだって、ちゃんと覚えてるから」と、言って机の引き出しから封筒を取り出してきた。 「はい、これ」 「? なんだよ?」 手渡されて思わず受け取ったものの、メルルのプリントがされている封筒の中身がなんなのか想像がつかない。 「開けてみればいいじゃん」 「……おう」 まさかラブレターではないだろうが、俺は妹から受け取った封筒を丁寧に開けていく。 はたして中には――現金が入っていた。福沢諭吉が五枚である。 「おい、これって……」 「預かってたお金。必要な時に出してあげようと思ってただけ。あんたが持ってたら全部使っちゃいそうだったし――でも、まさかこんなに早く出すことになるとは思ってなかったけどねー」 こいつも黒猫と同じく、俺がこうなると見越していたのか。で、あらかじめ先手を打っておいたと。 「……サンキューな、桐乃」 でもメルルの封筒に現金はやめとこうぜ……子供たちの夢が壊れちゃうだろ。 「あのさ、あたしから頼んでおいてなんだけど、それがなくなったら終わりにした方がいいと思う。貯金使い果たしちゃうのもバカらしいし……あんたギャンブル向いてなさそうだしね」 「そうだな……勝っても負けても最後の大勝負ってことで、頑張ってくるよ」 「ん、がんばれ」 明日は休日だ。最終戦、できるかぎり頑張ろう。 ということで、翌日、人生で最後のパチスロに向かったのである。 しかし、なんということはない――結果だけ記すが、人生最後のパチスロは大勝利という形で幕を閉じた。 いわゆる万枚というやつを達成し、この二週間ほどの財布の推移は結局、プラスマイナスゼロに近い結果となったのだ。 それにマイスロのミッションも遂にコンプリートできたし、まさに有終の美ってやつだ。 俺は湧き上がる達成感と開放感を噛み締めながら、自宅の扉を開ける。 この時間なら晩飯には間に合ったはずだ。実のところまだそんなに時間が経っていない。朝、出発してから九時間ちょっとというところか。 飯の匂いにつられてリビングへ入る。 「ただいま」 「あら、京介。今日は早かったのね」 今日はお袋が飯を作ってくれていた。 最近、娘に食事を教えるという名目でサボりがちなお袋にしては珍しい。 「おう、まあな」 「バイトじゃなかったの?」 「あー、今日はシフト入ってなかったんだよ」 お袋からの質問を適当にあしらいソファの方を見ると、親父が夕刊を読んでいた。 俺にとっては怪異よりも恐ろしい存在である――などと思っていたら、ふいに声をかけられる。 「京介」 「な、なんすか……?」 もしかして考えてたことが声に出ちゃってたか……!? と、一瞬焦ったのだが、親父の聞きたいことは別のことだった。 「おまえ、ギャンブルなどに手を出してはいないだろうな?」 「え!? ……も、もちろん出してないけど?」 「そうか、ならいい。ああいうものは自己管理がしっかりできる人間以外が手を出すと、最悪、身を滅ぼす恐れがあるからな……おまえは絶対に手を出すなよ」 「……おう」 親父、ごめん……心の中で謝るしかなかった。 そして俺は、二度とギャンブルには手を出すまいと、決意を新たにしたのである。 その日の夜。 俺は最終戦の報告のため、妹の部屋に足を運んだ。 ノックをすると、パジャマ姿の桐乃が出迎えてくれた。部屋に入ると風呂上りだからか石鹸のいい匂いが漂ってくる。 「適当に座って」 「おう」 俺は使い慣れた猫クッションにケツを敷く。 「で、どうだったわけ?」 「へっ、これを見な」 俺はスマホの画面に化物語のミッション達成ページを表示し、桐乃に突きつける。 「へぇ……コンプしたんだ。やるじゃん」 「ん? おう、まぁな」 あれ? 思ってたより反応が薄い? 「収支は?」 「なんとかトントンまで持っていけたわ。一時はどうなることかと思ったけど」 「へぇ! よかったじゃん! あんたの貯金が減っちゃったのって、ちょっぴりあたしにも責任あるみたいな感じだったしさ……実は結構心配してたんだよね」 と、頬を掻きながら苦笑いする桐乃。 なんだ……心配してくれてたのか。 俺は妹と同じように苦笑いを返す。 「過程はどうあれ、終わりよければすべてよし、としておこうぜ。まぁ、こういう頼み事はもう勘弁だけどな」 「うん、もうこういうお願いはやめとく」 桐乃は頷く。 そしてこう続けた。 「だってマイスロに登録するだけでコンテンツ自体ダウンロードできたし、あんたの活躍ってぶっちゃけあんま意味なかったんだよね~」 「えっ!? そうなの!?」 「うん……実は結構前から気付いてたんだけど、頑張ってるあんたには言いにくかったっていうか……えへへ」 「ふざけんなてめえっ!」 ミッションコンプしたのに反応が薄かった理由はこれかッ! 台無しだよ! 貯金は元に戻ったけど、実りのない時間は返ってこねぇんだぞ!? どうやら今回の件から俺が得るべき教訓は、妹を簡単に信用するな、ということで決まりのようだった。 「まぁまぁ、そんなにカリカリしてたらハゲるよ?」 「ぐっ……! ハゲたくはないが……」 桐乃よ、それは男にとって禁句だぞ。 「まぁ京介がハゲたとしても、あたしは」 「……ハゲたとしても?」 愛してくれるってか? 「あい、……うーん……やっぱ植毛かな?」 「やっぱ最悪だよおまえ!」 そんな答え聞きたくなかった! 「あはは! ウソウソ、心配しなくてもあたしはあんたがどんな姿になっても見捨てたりしないってば」 「そりゃどーも……」 ほんとかよ。 俺を好きなだけおちょくって上機嫌になった桐乃は立ち上がり、「さて、と」と呟きながらベッドに腰掛けた。桐乃のこういう仕草って、誘ってるようにしか見えないんだよな。 「ねぇ、そろそろいい?」 艶っぽく聞いてくる桐乃だが、相変わらずこいつの台詞には主語がないから分かりにくい。 俺は内心どぎまぎしながら問い返す。 「な、何がだ?」 「そろそろ寝るから出てってくれない?」 「…………は?」 「?」 いや……いやいやいや! 何言ってんだこいつ、「?」じゃねえよ。 「おい桐乃、寝る前に何か忘れてることがあるんじゃないか?」 「え? なんだろ? あっ、ハンドクリーム塗らなきゃ!」 「違ぇ!」 それはそれで大事なことかもしれないけれども! 「えぇ? じゃあ何よ?」 「約束したろ。ミッション達成したらおまえがなんでも言うこと聞いてくれるってやつ」 「あ……ああ~、はいはい。あれね。うん、覚えてる覚えてる」 「絶対忘れてたろ……」 「いやぁ、年末に買ったエロゲーが忙しくてちょっと寝不足、っていうか? 頭が働いてない……みたいな?」 つらつらと言い訳を重ね、「忘れてたわけじゃないんだけどさぁ」と、桐乃の弁。 それにしてもほんとに忘れてやがったとは……俺はいったい何のために頑張ってきたのだろう、と、思わなくもない。 まぁいい……まぁいい、まぁいいさ。重要なのはお願いを叶えてもらうことだからな。それ以外のことはぶっちゃけオマケみたいなもんなんだ。ただの長い前振りだ。 さて……いよいよ最終章ってわけだが、ここが運命の分かれ道。 成功すれば倖時間(ハッピータイム)ならぬ、倖終幕(ハッピーエンド)ってこった。 俺は意を決し、こう切り出した。 「なぁ桐乃、確認しておくけど、本当になんでもいいんだな?」 「あたしに叶えられることならね」 ふむ。 「じゃあ例えば……そうだな、彼女が欲しいとか願ったらどうなるんだ?」 「ん……それは……」 「…………」 俺が真剣な目で見つめると、桐乃は少し頬を赤らめ、こう答えた。 「彼女が、できるんじゃん?」 「そっか」 桐乃はベッドから降り、俺の正面に座り直し、姿勢を正した。 俺も妹に倣い、背筋を伸ばす。 「……それが願い事?」 「……いや……」 「ふうん……じゃあ叶えたいお願いは何なの?」 彼女が欲しいというのは俺の偽りない本心ではあるが、今日はもう一段上の高みを目指そうと思う。 俺は桐乃に聞いた。本当に叶えたい願い事を。 「桐乃、生涯のパートナーが欲しいって言ったら、どうなる?」 「それは――」 果たして、高坂京介、人生最後の大博打の結果がどうなったのか。 それは神のみぞ知るところである。 ※ ここからは余談……というか完全に蛇足だが、俺はあの日(桐乃にお願いをした日のことだ)、実は悩んでいた。 何を悩んでいたかというと、あいつにどういうお願いをするのがベストか、ということである。 いろいろ考えてたんだぜ? 例えば、そうだな、俺のために一生味噌汁を作ってくれとか―― 『え? 普通に無理なんだけど、めんどくさいし』 例えば、俺と同じ墓に入ってくれとか―― 『は? なんであたしがあんたと一緒に死ななきゃいけないワケ? 一人で死ねば?』 た、例えば、俺と結婚してくれ、とか……。 『プロポーズの台詞を使いまわすとかありえないんですけどぉ! サイッアク! それに兄妹で結婚とかできるわけないって知ってるっしょ? ばっかじゃないの? マジで、ばっかじゃないの? ほんっと、ばっかじゃないの? おんなじこと何度も言わせんなっつーの!』 …………我ながら完璧すぎるシミュレーションに嫌気がさしてきた。……いや、現実の桐乃はもう少し優しかったような、優しくなかったような? ……まぁいいや。 そんなことより、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』――という俺の決め台詞にも、そろそろ変化を加える頃合かと思うのだ。 で、いろいろと模索してるんだけど、いかんせん『俺の妹』という語感が良すぎるんだよなぁ……うーん。 俺が唸っていると、ガチャ――。 「準備できてる?」 春らしい、爽やかなファッションに身を包んだ妹が現れた。 「おう、とっくに終わってるぞ」 「ならさっさと降りてこいっつーの!」 そう言い残し、どたばたと階段を駆け下りていく桐乃。 休日の朝から元気なやつだな。 「はーやーくーっ!」 「へいへい」 こうして俺たちは、いつものように秋葉原駅へと向かうのだ。 ―おしまい― ----
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/340.html
749 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/02/22(火) 01 07 58.04 ID T2VFbs5yO [1/3] ※若干エロっぽいかもなので注意。 「ねぇ。今からアンタの耳掃除してあげるから。あたしの部屋にきて。」 俺が自室で勉強していると入ってくるなり桐乃がそう言い出したのだ。 「いきなり何を?!ってなんで耳掃除?!」 「アンタどーせ耳掃除とか適当にしかしてないんでしょ?だからあたしがしてあげるっつってんの。」 「ちゃんとやってるっての!」 「ふん。どーだか。」 「てかさ何で突然そんな事いいだすんだよ?いきなり過ぎて 意味わかんねーぞ?」 「・・・アンタ先週深夜販売でエロゲー買いにいってくれたじゃん? だ、だからそのお礼よ!」 たしかに先週俺はいつもの如く買いに行かされた。 たしかに以前こいつからプレゼント(エロゲーだったけど)を貰った時はとても嬉しかったのだが・・・ 「お礼・・・か・・ありがとな桐乃。でもお礼だなんて別にいらねーし。そう言ってくれるだけで俺は十分だって。」 そう、別に俺はお前にそんなこと求めてお前の無茶苦茶なお願いに付き合ってるわけじゃないしな。俺自身がしたいからやってるわけであって。 「ダメ。このあたしがしてあげるっつってんの。それとも何?アンタあたしのせっかくの好意を踏みにじる気?」 「そういうわけじゃないっての!・・・ったく・・わかったよ・・ んじゃお前の部屋にいくか・・」 「そうそう。最初からそう素直になりなさいってのまったく。」 なぜか上機嫌な桐乃の後を追って俺はあいつの部屋へ入った。 そして桐乃がベットに座り、自分の太ももを叩きながら 「んじゃ!横になって!」 と言い出したのだ。 まぁ当然耳掃除って事だったので予想はできていた・・ そしてそれに絡む大問題も。そうコイツの今の格好・・・ そうこんな時に限ってコイツはミニスカ履いてやがるのよ! 「・・・そこに頭をつけて俺に横になれと?」 「あ、あ、当たり前じゃん!み、耳掃除だし そうしないとできないでしょーが!何?文句でもあんの?アンタ?」 「・・・いや・・だって・・・・」 気にしないほうが無理に決まってんだろが! どうしよう。さすがに着替えてくれるよう頼むべきかと悩んでいたのだが。 「何?もしかしてアンタ、あたしに欲情しちゃうの?あーあーこれだからシスコンは・・・」 「バっ・・・!この・・・しねーっての!?ああ分かったよ! んじゃやってやるよ!覚悟しろ!この野郎!」 ついこんな調子で承諾する形になってしまった。 てか最近思うんだが、俺このパターンでいつも釣られてる気がするんだが・・ いや・・・きっと気のせいだろう。 とりあえず俺は頭を膝の端っこに置く形で横になった。 「ちょっと。そんな遠くに頭置かれたらやりにくいし。見えないって。 もっと奥まで来て。それからあたし側に顔向けなさい。」 ・・・いや。それはちょっと・・・見てはいけないものが見えそうで・・ いや、しかし・・どっちみち桐乃側に顔向けないといけない。 なら先に苦行を終わらせるというのも手か。 そう考えた俺は目をつぶって桐乃側に顔を向けた。 「こ、こうか?」 「も、もっと奥。」 「ど、どーだ?」 「・・あーもうメンドくさいっ!こっちだってばっ!」 「!?」 桐乃は俺の頭を掴み自分の元に引き寄せた。 だが・・引き寄せた所がその・・ なんというか・・まぁそんなところに顔をうずめる形になった。 あ、すげー・・何か癖になりそうな甘酸っぱい匂いするークンクン・・ なんか俺の赤い実弾けじゃう?みたいな・・・ というかいつもの桐乃の匂いとはちょっと違う・・コレは・・・・ 「あ、あんた・・なにして・・るの?」 この桐乃の一言で俺の意識は急速に元の世界に戻り慌てて飛び起きた。 ヤバイヤバイヤバイ!!俺今なにしてた!? 何考えてんのかなぁーーー?!俺は!? 「な、何してんのって聞いてるの!答えなさいよっ!」 とにかくまずいっ!な、何か言わないと!こ、ここは緊急回避せねばっ! この空気を変える一言を言うんだ! いけ!高坂京介!!生きて未来を切り開けっ! 「・・・お、お、お前っ!何やってんのっ!?」 さ、最悪だ・・・質問に質問で返すとか・・・ でもこれしか浮かばなかった・・・俺酷すぎる・・・・ 「・・・・・・」 「・・・・・・」 うう・・・もうヤダこの沈黙・・俺もう部屋に戻って寝たい・・・・ 「・・・ね、ねぇ」 「なんだっ!?」 「・・・・い、いまア、アンタあたしの事クン・・・」 「ち、ち、ちがっ!い、いまのはお前が無理矢理引っ張ったせいでっ! 事故なのっ!そ、そう事故なのっ!」 「・・・だって今絶対クン・・」 「違うだあああ!ホントに事故なのっ! 頼むっ!信じてくれええええええ!」 「・・・泣くなって。キモイから。分かったっての。 んじゃほら。早く横なんなさいって。」 「・・・グス・・はい。分かりました桐乃様・・・」 俺にはもうコイツに抵抗する気力がなくなってしまった。 俺マジ情けない。涙でてきそうだ・・・いやもう出てるけど。 始まる前だというのに俺のHPは0よ・・・誰か助けてくれ・・ 「・・・よ、よし!それじゃ始めるよ!耳こっち向けて!」 「はい・・・・」 「おー見えた見えた。ってうええええ・・・超汚いんですケド・・」 「え?マジ!?」 「うん。奥に耳垢が超いっぱいある。」 「マジか・・・きちんとしてるつもりだったんだけどな・・・」 「まぁ自分では見えないからね。きちんとしてるつもりで奥はこうなっちゃうんでしょ。まぁいいわ。 せっかくだし。あたしが綺麗にしてあげるから感謝しなさい。」 「お、おう。頼むわ。桐乃。」 「痛かったら言ってね。」 「お、おう。」 カキカキ・・・・ そういえば他人に耳掃除してもらうって何年ぶりだろうな。 昔お袋にしてもらった記憶もあるけど・・あまり覚えてないな。 なんつーか・・・とっても気持ちいい。 さっきまでの凹むところがないくらいまで凹んでいたはずの 俺のテンションはいつもまにか元に戻っていた。 いつもの以上にする桐乃の匂い。何故か嬉しそうな桐乃の声。 こうしてるとこいつの傍にいてよかったって心の底から思う。 なんだろう・・この気持ちは・・ カキカキ・・・ 「うあ!?でかっ?!ありえないんですけど?!」 「どれどれ・・うお!?ホントにデケェ!?これホントに俺の耳垢?」 「当たり前じゃん。他にだれがいるっての?」 「・・そりゃそうだな・・」 暫くするとあまりに気持ちよすぎて半分俺の意識は飛び飛びになり始めていた。眠い・・・・ってかできればこのまま・・・寝た・・い。 「うーん・・ここはもういいかな。次反対向いて。」 「んん・・・ん?・・んん・・・」 ゴロリ 「ZZ・・・・」 「うーんこっちはあまりないなぁー・・・ってちょっと!?」 「おーい。プニプニ。」 「ZZZ・・・」 「ねぇ。ゲシゲシ」 「ZZZZ・・・・・」 「ちょ・・・・ねぇ・・・ホントに寝ちゃったの・・・?」 「・・・・・」 「ち、ち、ちょっと・・・だけなら・・いいよね///」 「・・ア、アンタがあんな事するから悪いんだからね・・・ハァハァ・・・」 そうしてあっという間に時間は過ぎていった。 「んはぁ・・・ハァハァ・・・ヤバイ・・すがに・・んん・・ ダメ・・・ヤバイって・・これ以上は・・したら歯止めが・・ もっとし・・・けど仕方ないよね・・・最後に・・・んん・・」 「・・・・っとっ!!アンタ!起きて!終わったよ!」 目を覚ますといつかの人生相談の時のように何故か馬乗りになって ビンタではなく・・普通に俺の肩をゆすって起こしてくれた。 「ん・・あ。わりぃ、気持ちよすぎていつのまにか寝てたわ。 てか俺かなり寝てたみたいだな・・すまん。」 「い、いいって!このあたしがしてあげたんだから 寝ちゃうのも仕方ないって!だ、だから今回は許してあげるっ!」 「すまねーなホント。」 「フンっ!・・・しかしホント汚かったよねー・・・・ ってかなんか耳掻きと綿棒にアンタの耳匂いが超付いてるんですけど・・ クンクン・・うえー超臭っ!・・・」 酷い言われようだ。さっきまでの感謝の心と心地いい気分が一気に吹っ飛んでしまった。 「・・・臭くて悪かったな・・ んじゃ新しいの買ってきてやるから。ホラ。耳掻き寄越せ。」 「!?ダ、ダメ!これはア、アタシのなのっ!!!と、特別なのよ!」 「だってお前が臭いとかいう・・」 「う、うるさいっ!もういいでしょ!もういいから出てって!」 「わかったよ・・まぁとにかくだ。今日はありがとな。桐乃。すげー良かったよ。」 「う、うん!あ、あたしもすごい良かったっ!収穫もあったし。あ、ありがとね。兄貴。」 「??ど、どうもいたしまして?」 「じ、じゃあね!」 バタン なんだそりゃ?俺何もしていないどころか寝てただけなんだが・・・ END -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1774.html
掲載順 SS 一覧 151~160スレ 151スレ目 雷雨の日の普通の兄妹:151スレ目585/小ネタ クレーンゲームの要領で:151スレ目570-573/小ネタ 兄妹で花火を見に行こう:151スレ目665,662/小ネタ集 きりりんがる習得率100%の京介:151スレ目770/小ネタ いつもより強いあたしで:151スレ目880 152スレ目 それぞれの想い:152スレ目305 ろりりんときりりんが同時に存在したら:152スレ目337-342/小ネタ集 リア「キリノのパンツおっきいねー」:152スレ目378/小ネタ 身に纏うのは:152スレ目383 ※「阿殺背(あやせ)」とは:152スレ目575/小ネタ 特に理由のない粛清がきりりんスレ住民を襲う裏で:152スレ目683-686/小ネタ集 妹の日のシスコン兄貴共:152スレ目954/小ネタ 153スレ目 俺の妹が黒髪に染めたなら:153スレ目213 兄と言わずに惚気ればいいじゃない:153スレ目317/小ネタ 鏡を見ながら悶えるきりりん:153スレ目872,878 ,887/小ネタ のろけきりりんこそ至高:153スレ目921,922 154スレ目 モノレール付箋を活用しよう:154スレ目16/小ネタ 好感度MAXのきりりんののろけ:154スレ目116,119 今日は中秋の名月:154スレ目117,118,122,123,141,149,153/小ネタ ある朝の日常:154スレ目424 ある朝の日常2:154スレ目464 『お布団デート2』(桐乃モノローグ):154スレ目487 ある朝の日常3:154スレ目497 きりりん@特典が神なのにkonozama食らった件について:154スレ目506/小ネタ 焼いたフルーツ:154スレ目767 ツンツンされ放題のきりりん:154スレ目913/小ネタ 155スレ目 せなちーへの報告:155スレ目137/小ネタ 『高坂 桐乃さん 梅雨を吹き飛ばして!お兄ちゃん大好き!』:155スレ目155/小ネタ やり直しは二人で:155スレ目409 桐乃「どっちが似合う?」:155スレ目455/小ネタ 6時間の空白時間:155スレ目211/小ネタ ルパンの仕業に見せかけて兄貴のパンツを全部頂く計画:155スレ目550,571,580,581/小ネタ 変態くんかたんと寝たフリ京介:155スレ目707/小ネタ ※クンカネタ注意 昨晩は(台風が)凄かったの:155スレ目885/小ネタ 桐京三段論法:155スレ目927,928,929,931,934/小ネタ 156スレ目 昔のように「お兄ちゃん」と言ってみる:156スレ目207,211/小ネタ 4人で歩いてて京介と遭遇:156スレ目437,443,483/小ネタ 恋人期間妄想徒然:156スレ目613/小ネタ ベッドの上で背中合わせで:156スレ目586,587/小ネタ 様式美とハロウィンかなかな:156スレ目673-675,677 桐乃、お兄さんに変なイタズラされなかった?:156スレ目730,741-744/小ネタ集 ハロウィン優ちゃん昔今:156スレ目738/小ネタ きりりん@隣の馬鹿がちゅーしてきてウザイ件:156スレ目837-841/小ネタ集 きりりんカルタ原作全巻版:156スレ目844,845/小ネタ 京介のセリフカルタを桐乃がやってみたら:156スレ目857-860,862/小ネタ集 157スレ目 兄貴のパンツを頂くもとい洗濯する方法:157スレ目516-518,520,530,535,536,538,541,542/小ネタ集 寂しさを紛らわすナイトキャップ:157スレ目840,851/小ネタ 理想の身長差:157スレ目846-850/小ネタ 久しぶりの人生相談:157スレ目984 158スレ目 とある午後の昼下がり:158スレ目43 微笑ましい光景?:158スレ目80/小ネタ きりりんってやーらしかー!:158スレ目126,128/小ネタ ある夜の日常:158スレ目245 ある朝の日常(京介Ver):158スレ目338 ある朝の日常(桐乃Ver):158スレ目338 御鏡からのプレゼント:158スレ目606 159スレ目 クリスマスイブ前のある兄妹の会話:159スレ目168/小ネタ 浜辺でのひととき:159スレ目282 『イブデートをこっそり鑑賞しようではありませんか会』 開催のお知らせ:159スレ目343-353,355-358,379 /小ネタ集 一年後の誓い:159スレ目433-438 この兄パンはクリスマスプレゼントだ:159スレ目464,465,467/小ネタ 結婚について - Ahoo!知恵袋:159スレ目563 irony(意味深):159スレ目678/小ネタ 寄り添う兄妹(勝手にアテレコ):159スレ目738,789/小ネタ 二人の距離は0cm:159スレ目754/小ネタ 自分の出てる雑誌を買い漁っていることを知った妹の反応:159スレ目886-888/小ネタ 160スレ目 賭物語:160スレ目36 替え歌:160スレ目174,208/小ネタ クイズ「兄パンを盗んだのはだれ?」:160スレ目206,207,210,217-222,225/小ネタ 兄ぱん裁判:160スレ目225 風邪の日ネタ:160スレ目209/小ネタ 新年も妹は思春期:160スレ目282 俺が妹の人生相談で培ってきた知識と経験を活用すれば出題されたクイズの選択肢を間違えるわけがない:160スレ目330 春休みの一日~おにいちゃん編~:160スレ目471 春休みの一日~いもうと編~:160スレ目471 休日のラプソディ:160スレ目516 エロい人々※プライバシー保護のため(以下略:160スレ目537-540/小ネタ
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/942.html
201 名前:一番はどっち?【SS】前編[sage] 投稿日:2011/07/17(日) 01 18 23.89 ID MYrNWV3eO [1/4] ※オリキャラ(高坂兄妹の子供たち)登場の未来話です。 ある夜のこと 「京介!」「パパ!」 俺は愛しい嫁と可愛い娘に同時に呼び出された。 「…なんだよ桐乃?京(みやこ)も、いったいどうしたんだ?」 「京介に、人生相談があるの」 「あたしも、パパにお話しがあるの」 「で、どんなことなんだ?」 「京、あなたから言っていいわよ」 「じゃあ言うね。パパは、ママとわたしと、どっちが一番好きなの?」 「はあ??」 突然の話に俺は戸惑った。妻と娘は当然違う立場で、それぞれ大事な存在であって、優劣なんかあるわけないだろ。 そう噛み砕いて京に話したんだが、 「そんな上っ面の話じゃお互い納得できないし」 こともあろうに桐乃が話の腰を折りやがった! 「これはママとわたしの真剣勝負なの!」 却って勢いづく京。 「そう、真剣勝負。まあでも、京にはわるいけど、この勝負はあたしの勝ちが見えてるから」 「なんでそんなことが言えるのよ???」 「だって、あなたのパパは昔ね、あたしがいないと淋しくて死んじゃうって言ってくれたの。 そんなこと、京は言われたことないでしょー?」 「ふん、それはどうせ一時の気の迷いって奴なのよ。 だいたい昔のママって、パパに無理難題押し付けまくって、 そのくせ素直に感謝ができないツンデレクイーンだったんでしょ! パパ言ってたもん。『やっぱり素直な子が可愛いよな』って、頭なでなでしながら言ってくれたもん!! だから今やわたしのほうがパパの一番なの。ママは現実を認めなさい!!!」 娘の強い口調にたじろぐ桐乃。しかし幾多の困難を乗り越えてきた桐乃はたちまち反撃に転じた。 「京の可愛い子ぶりっ子っぷりはよく分かった。でもね京、あたしには京にはできないことがあるんだから!」 「何よ、言ってみてよ」 「それは、パパに気持ちいいコトしてあげれるの」 「ぶっ!!!」 何を言い出しやがる。しかし桐乃はさらにまくしたてる。 「京はまだお子様だから分かんないだろうけど、大人のあたしは、パパにとっても気持ちいいコトしてあげられるの。 パパはね、あたしがしてあげるなりリヴァイアサンをね……」 「そんなことくらい、わたしにだってできるもん」 え、今なんて言いましたか、我が愛する娘は? 「わたしだってパパを気持ちよくさせられるもん。ネットで勉強したもん!」 待て待て、ちゃんとパソコンはフィルタリングしてあるぞ。昔みたいに変なサイトに簡単に接続できて、 『あんたのことはこれからカリビアン』とか言われるような事態は、今ではあり得ないんだが… 「肩たたきに肩揉み、そして足のマッサージとか。わたしはお爺ちゃんやお婆ちゃんに誉められてるの。 きっとパパもわたしのを誉めてくれるよ。ママより上手だねって」 「ぐぬね、だったら今ここでパパ相手にどっちが上手いか決めてもらおうじゃない」 「望むところよママ」 「分かった、じゃあ勝負下着に着替えてくるから待ってなさいよね!」 202 名前:一番はどっち?【SS】後編[sage] 投稿日:2011/07/17(日) 01 23 03.29 ID MYrNWV3eO [2/4] どうしてこうなった……俺が頭を抱えてると、ふいに扉が開いて息子の桐(とう)が入ってきた。 「はいはい、もういいだろ」 「な、何しに来たのよ馬鹿兄貴、あんたわたしが兄貴に構ってあげないで、 パパにばかり夢中だから、悔しくてしかたないんでしょこのシスコン!」 コロッと矛先を変える京。そんな京に臆する事無く桐は俺たちの間に割って入る。 「いい加減にしろよみんな、さもないと」 凄んでみせる桐。 「何よ、馬鹿兄貴に何ができるの??」 「これ、これ」 そう言って桐は自分の携帯を見せる。 「僕がボタンを押せばたちどころに麻奈実おばさんとあやせおばさん、瑠璃おばさんが家に来て みんなを叱ってくれる手筈になってるから」 「「「げげっ」」」 俺たち3人は一同に驚愕の声を上げた。 「ちょっと京、あんた3人の怖さ知ってるの??」 「まあ、色々あってね…」 何をやったか分からないが、顔色を急に変えた京の態度は、確かに3人の怖さを味わったことがあるように見えた。 さて、みんなどうする?叱りに来てもらう?」 「馬鹿兄貴の癖にこしゃくな手を…しょうがない。ママ、今日は休戦しましょう」 「仕方ないわね、京がそう言うなら、とりあえずは」 「みんな、わかればいいんだよ。それよりパパ!ちょっとこっち来てよ」 「お、おう」 俺は息子に連れ出された。 「しっかりしてよ。まあ、パパの周りの女の人は何故か凄い人ばかりだから、押されてしまう気持ちもわからなくはないけどさ」 俺は息子にこの場を解決してもらったばかりか、労られてしまった。 俺たち家族は、傍から見ると変な家族かもしれない。 ケンカするほど仲が良いと言うか、とにかくこういう口争いは日常茶飯事だ。 でも、家族の関係が断絶してしまうほどの争いには決してならない。 嫌いという皮の内側には、好きという中身が詰まってる。 「やーい、馬鹿兄貴!」 「なんだと、ビッチ!」 桐と京も、きっと内心では互いのことを認めあってるに違いない。 俺たち兄妹のように… 毎日がたわいもない衝突の連続なんだが、だけど俺たちは、一人欠けてもやっていけないと思う。 俺と桐乃の愛がつくりあげたこの家族は、なんだかんだ言っても、最高の家族なんだろうぜ!! -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/451.html
759 :名無しさん@お腹いっぱい。 :sage :2011/03/21(月) 17 03 56.23 (p)ID WWhqJ8J7P(2) ※京介は家を出て一人暮らしをしてる設定。桐乃はよく寝泊りしていく押しかけ状態を前提でどぞ 「それじゃ部長、お先に失礼します」 「お?高坂、今日は早いじゃねえか。何かあんのか?」 「ええ、まあ。今日はお店に頼んでおいたもの取りに行かないといけないんで」 「店に頼んだもの?……ああ、そういえば今日はそんな日だったか。カミさんと結婚してからしばらくそういうことしてなかったからすっかり忘れてたぜ」 「そういうことです。おっと、時間が押してるんで」 「おうよ。美人の妹さんによろしく言っといてくれや」 「……妹、ね。それも今日しだいか」 「何か言ったか?」 「いえ。何でもないっス。それじゃお先です」 「よし。無事に受け取れたぜ。3倍返しなんてよく言うが、ある意味これも間違ってないよな。3ヶ月分も3倍は3倍だし。 ……『これ』見たら桐乃、なんて言うだろうな……」 『これ』はある意味俺の決意表明ともいえるもんなんだが、あいつが素直に受け取ってくれるかどうか…… 勿論、あいつの想いを疑ってるわけじゃないが、どうしても尻込みするんだよなぁ……高校時代から結構年月がたっているにも関わらず俺のチキンっぷりはかわらんらしい。 「ま、やるって決めたしな。さて鍵鍵っと……? 開いてる? 桐乃、帰ってるのか?」 あいつ、今日は撮影あるって言ってたはずなんだが。遅くなるとも言ってたような…… まあ、帰ってるなら都合がいい。さあ覚悟を決めるか。 「ただいまー」 「あ、お帰り。兄貴。」 「おう、今帰った。というかお前仕事どうしたんだよ? 今日遅くなるって言ってなかったか?」 「んー? なんかさぁ、撮影先で事故があったらしくって現地入りできなかったんだよね。 で、しばらく立ち入り禁止ってことになっちゃって結局撮影は中止。だから割と早く帰ってきてたよ?」 「事故か。最近多いな。お前も移動のときとか気をつけろよ?」 「それぐらいわかってるって。何? 心配してくれんの?」 ニヤニヤとからかい口調で、態度がいかにも「あーあー、これだからシスコンはw」と言っているが、これぐらいは流石にもう慣れた。 だからこそ返し方もいい加減わかってるわけで。 「当たり前だろ? 妹のこと心配して何が悪いってんだ」 「うわっ、言い切ったよこのシスコン。キモッ、キモッ!」 なぁんて言ってる妹様であるが桐乃よ、そんなに顔赤くしてにやけ顔で言っても全然説得力無いから。 「まあ、冗談はこれぐらいにして」 ほら、な。最近こんなやり取りばかりだから展開ぐらいは読めるって。 「とりあえずさっさと着替えてきたら?夕飯はあたしが作っといたからありがたく思いなさいよ」 「なん……だと…!? ちゃ、ちゃんと味見はしたんだろうな……?」 「な!? あ、あんたまだあの時のこと根に持ってるワケ!?―――もうあの時のことは忘れなさいよ! あたしだってちゃんと学習してるっての! この前だってお母さんに褒められたんだから!」 「そ、そうか。それならいいんだ。……もしかして練習してたのか?」 「う、うるさい! 別に、アンタに食べてもらいたくて練習してたワケじゃないし! ほら、さっさと着替えてきなさいよ!」 おーおー焦っとる焦っとる。昔なら桐乃のこういう言動もいちいち真に受けてたが、なんというか、見方が変わればこうもわかりやすいものもないよな。 ……昔の俺は相当鈍かったんだなあ…しみじみそう思うわ。 ぐいぐいと背中を押されて、部屋へと押し込められた俺はぱっぱと着替えてリビングに向かう。 リビングの食卓には美味そうな食事が二人分並べられていた。 「おお、美味そうじゃねえか」 「美味そうなんじゃなくて美味いのよ。ほら、さっさと座る!」 「へいへい」 「「いただきます」」 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 「「ごちそうさまでした」」 「すっげぇ美味かった。いや、マジで」 「ふっふーん。あたりまえじゃん。あたしをだれだと思ってんのよ」 「これなら毎日でも食いたいぐらいだぜ」 「……バーカ。何言ってんのよ、このシスコン」 割と本心からなんだけどね。これからやること考えれば今言ったことも冗談でも何でもないんだが。 「食器は後で俺が洗っとくから水につけとくだけでいいぞ。おまえに渡したいものもあるしな」 「ん。わかった」 二人分の食器を桐乃がキッチンに持って言ってる間にさっき受け取ってきた物を用意する。さあ、ここからが本番だな。 「んで、渡したいものって何?」 おっと、用意してる間に桐乃が戻ってきてたみたいだ。 「ん、まあわかってるとは思うが今日は3月14日だ。つまりホワイトデーだな。まあ、その、つまりそういうわけなんだが」 「へぇー、わかってると思うけど3倍だかんね。さ・ん・ば・い」 にこにこというよりもにまにまという表現がぴったりな顔はひっじょーーーーに忌々しい。 こいつのこういうところはちーっとも変わりゃしねえ。安心しちまうじゃねえか。 「それは問題ねえよ。そのかわりに、これを受け取るには条件がいる」 「はあ? 何言ってんのあんた。お返しに条件つけるってどういうつもりよ。 ――ま、まさかアンタ、あたしに変なことさせるつもりじゃないでしょうね!? この変態!!」 「ちっげーよ!何勝手に勘違いして暴走してんだよ!」 「んじゃぁ何なのよ。その条件って言うのは」 「まあ、とりあえずその条件は後だ。ほらよ」 「ん。あ、ありがとね。……正直、期待してなかったから嬉しい、かな」 そうはにかむ様に笑う桐乃は本当に可愛い。そう素直に思えるようになった。 桐乃も、昔よりも素直に思ったことを伝えてくれるようになった。 「開けていいの? これ」 「ああ。でも、受け取るかどうかはそれをあけて、条件を聞いてからでいいぞ」 ラッピングが施された手のひらサイズの箱。それが桐乃の手によって包装を解かれて、中身がでてくる。 その箱を開いた中に納まっているのは、一組のシルバーリング。 それを目にした桐乃は目を見開いて数瞬固まっていたが、ややあって戸惑った風にこっちをむいた。 その目は、少しだけ潤んでいたかもしれない。 「あんた、これ……」 「……条件を言うぞ、桐乃。それを受け取るなら、お前はぜってぇ嫁にはやらねえ。俺の傍からも離さねぇ。 お前はずっと、俺と一緒に過ごしていくんだ。どんなことがあっても、これから先ずっとな。それが、それをお前が受け取る条件だ」 これは正真正銘のプロポーズだ。もっとムードとか、そういうのを考えたほうがよかったと思うかもしれねぇが知ったこっちゃない。 ずっと、どうしようか迷っていた。 俺は桐乃のことが好きだし、桐乃も自惚れでもなく俺を好いてくれてると思ってる。 だけど、俺達は兄妹だ。 世間がそういうものに対して冷たいってのも重々承知もしてるんだよ。 それでも、俺は決めた。桐乃と一緒にいたいから。ずっと傍にいて欲しいと思うから。 なにかの保障があるわけじゃない。戸籍で、証明できるわけでもない。だけど確たるものが欲しかったんだ。 だから送ったんだ。俺達を結ぶ確かなものを。それを桐乃はどう思ってくれるだろうか。 「……バカよ、アンタ」 「…………」 一筋の涙が桐乃の頬を伝う 「あたし達、兄妹なんだよ?」 「ああ」 「どんだけあたし達がお互いを思ってたって、結婚、できるわけじゃないんだよ?」 「ああ」 「あたしを離さないとか、嫁にやらないとか、勝手過ぎんのよあんた……!」 「重々承知だよ」 「だったら! あたしだって、アンタのこと絶対に離してやんないからね!? アンタがどれだけ嫌がったって、離さないから!!」 「俺はお前から離れたりしねえよ。ずっと傍にいる」 「ほんとに?」 「ほんとだ」 「ほんとに、ほんと?」 「ああ。ほんとにほんと、絶対だ。お前に渡したそれが、その誓いだ」 一筋だった涙は、後から後から溢れて床を濡らしていた。 桐乃、俺は昔からお前を泣かしてばっかりだな。 「桐乃。その指輪、受け取ってくれるか?」 「――うん!」 涙に濡れた顔。そこに輝かしいばかりの笑顔をうかべて、桐乃は頷いてくれた。 思わず胸が一杯になってしまって桐乃を抱きしめて、「ありがとう」と、自然と声に出していた。 「ねえ、あに……京介。指輪、アンタがあたしにつけてよ」 「わかった」 箱から取り上げたシルバーリング。桐乃の指に合わせて作られたそれをゆっくりと、桐乃の左手の薬指に通した。 「じゃあ、アンタにはあたしがつけてあげる」 「頼むよ」 桐乃の手によって、俺の左手にも同じように指輪がつけられた。 そしてそのまま桐乃は俺の胸に身を寄せるように抱きついてくる。 「あたし、こっちに引っ越すね」 「もうほとんどこっちに私物置いてんのに今更って感じもするけどな」 「うっさい。お父さんとお母さんにする言い訳、アンタも考えなさいよ」 「あの二人を説得するのは骨が折れる作業だな」 「アンタがあたしを傍に置くって言ったんじゃん。責任、取りなさいよね」 「わかってるよ」 「ねえ」 「ん?」 「これからずっと、死ぬまで一緒だかんね」 「お前もな」 顔を上げた桐乃と目が合った。その目に引き寄せられるようにして俺達は 「京介、愛してる」 「俺もだ桐乃。愛してる」 ゆっくりと唇を重ね合わせた。 END -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1112.html
503 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/09/18(日) 16 04 03.41 ID 1oHCYGML0 [1/5] SS 甘すぎる学園祭 「ふーーん」 あたしは今、とある場所の入り口に立っている。 「いかにもフツーって言うか、特徴が無いって言うか。ま、こんなもんよね」 入り口-校門の横の『文化祭』と書かれた看板を見ながら素直な感想が出る。 今日はあたしの親友の1人、せなちーこと赤城瀬菜に誘われて来たのだ。 『えっへへ~!桐乃ちゃん絶対来てね!お友達連れてきてもいいから』 ぐふふふ…とでも言いだしそうなオタ顔全開のせなちーを思い出す。 学祭だし、さすがのせなちーもそこまで暴走しないだろうケド…。 あたしがぼーっと周りを見渡しているとチラチラをこちらを見る視線を感じる。 まあ当然よね。超かわゆくてスタイルがいいあたしなんだし!それに… 「ここがお兄さんの学校なんだ。少し緊張するなあ」 「なーに言ってんの。キングオブ普通過ぎて退屈しそうだって。と言うかお兄さんって誰?」 「あ…ええっと、ね」と言いつつこちらをチラっとみるあやせ。 今日は親友兼モデル仲間のあやせと…ランちんが一緒に来ているのだ。 本当は加奈子が一緒に来る予定だったんだけど急に具合が悪くなったらしい。 昨日までは元気だったんだけどな…『うぇ!?か…加奈子チョーシ悪くてさ。このまま行くと コロされ…ぐ、いやおなかがヤベェ!だから他宜しくー!』っと一方的に電話を切られた。 調子悪いってワリにチョー元気そうだったじゃん…なんだっての? で、2人で行こうとした所、暇そうにしてたランちんにあって一緒に行くことになった訳だ。 「…おい、あそこの女の子達すげー可愛くね?」「かわいー!でもどっかで見たよね?」 「お前声かけてみろよ…!」-フン!誰があんたなんかと一緒に歩くかっての! それにあたしが可愛いのはあんたらのお陰じゃないっつーの…。 外野から聞こえてくる声を無視する事にして、2人を促して中に入る事にした。 「桐乃ちゃん、来てくれたんだ!」 学祭のパンフを見ながらどうしようか…と相談してる所に声がかけられた。 「来たよせなちー!誘ってくれてありがとうね」 「よかったあ。これで目的が達成できそうであたしも嬉しいです!」 …目的って何?と聞きたかったけど怖かったのでスルーする事にした。 「あ、後ろの人はお友達ですか?」 「初めまして。新垣あやせです。もう一人は…」 「あたしはランちんって呼んで!」 「あやせさんと、ランちんさんですね。あたしは赤城瀬菜です」 「あーランちんでイイってば」「あはは」 そう言えば京介のやつ、あたしを誘ってくれなかったんだよね…。 せなちーに誘われた日の夜にあたしは京介を問い詰めに行ったけど 『学園祭!?いやーそんなもん世間にあったんだっけな…アハハハハ』 ミョーに煮え切らない態度だったし…あたしに学校来られるのそんなイヤなのかな。 兄妹…の距離が近づいたと思ったけど、あたしの錯覚かな…はあ…。 「桐乃んどうしたん?」 「ううん、何でもない。ちょっと人が多すぎて疲れただけ」 せっかくせなちーが誘ってくれたんだし楽しまないと。 …それと後で京介の所に行って問い詰めてやろう…! 4人で各クラスの出し物を適当に見て回る。…高校って言っても出し物は中学と変わらないんだ。 あやせは意外と楽しそうにしてるみたい…こっちばっか見てるケド楽しそうだからいっか。 ランちんは既に飽きてるようで携帯をいじりながらついてきてる。 たまに声をかけてくる男がいるけど、当然無視。 「まずは桐乃ちゃんにこれ見てほしいんですけど」 せなちーに案内されて向かった先は…「ゲーム研究会」せなちーの所属クラブだった。 「見せたいのってここ?」 「それはまた別なんですけど、とりあえずこちらも見せたかったんです!」 入った先では3台のパソコンが並べてあり、何かが表示されている。 ゲーム画面みたいだけど、なんだろう…妹モノじゃさすがにないよね。 奥では何人かの生徒が、出し物を見に来ている人の対応をしている。 2人ほどコミケで見た顔があるけど、こちらには気づいてないようだ。 「桐乃ちゃんこっちこっち!」 せなちーに誘われるままに1台のパソコンの前に案内された。 他のパソコンと違って陰に置いてあるんだケド…。 …ってげ、こ、ここここれはぁ!? 「じゃじゃーーーん!愛しあう兄弟をテーマに恋愛ゲーム作ってみぎゃ!」 「どどどどうしてこうなった!てかこんなの持ってくるなあぁぁぁ!?」 -あたしの目の前の画面にはあるゲームのタイトルが表示されていて、そこには…。 ヘタレっぽい男キャラに熱い視線をおくる男キャラ…ライトブラウンの髪にヘアピンをしている。 その2人が今にも熱い抱擁でも始めそうな雰囲気を出していた…ぐうぅぅぅ!? 「桐乃、何か面白いものでもあったの?」 「なななんでもないからっ!せなちーの勘違いなんだって!なんか違う場所案内したいって!」 「…?」 せなちーを黙らせたあたしは有無を言わせずあやせ達と部室の外にでた。 …あ、あれはさすがにあやせ達に見せられない。あたしの存在意義がグラつくっての。 「つーかぁ、なんかツマンナイよね。うちの学祭もアレだけどもっとこうビビって来るものないかなぁ」 「でも、学園祭ってこんなものじゃない?わたしは他の学校を見るのは初めてだし楽しいかな」 「まぁ桐乃んの友達だからいいけど、知らない相手のだったら3秒で帰ってるね」 「…それ学校にすら入ってないんじゃないかな」 せなちーが復活するのを待つ間に学祭パンフを一通り眺めてみる。 …変わったものなんてないなぁ。あ、このスイーツ喫茶ってのだけ後で行ってみよう。 「…でさ、せなちーが呼んでくれたのって結局何?」 普通過ぎる出し物に飽きてきたあたしは、仕方なく目的を聞いてみることにした。 「でゅふふふ…よく聞いてくれました!」 「ごめん。聞かなかった事にする」 「いやーん、桐乃ちゃん聞いてくださいよー!」 明らかにヤバイ表情だったので聞きたくない…。 せなちーの表情は池袋で見たあの表情だった…まさかさっきのより上があると…? 「実はですね。お兄ちゃんのクラスがすっごく面白いんですよ!」 「へ、へえ。そう言えばせなちーのお兄さんも一緒だったよね」 「そうなんです。それでね…」ぐふふ…と笑ってあたしを見るせなちー。 「なんと!メイド喫茶やってるんですよ。メイド喫茶ですよメイド喫茶!」 「メイド喫茶…って学校でそんなのやっていいんだ?」 「受験勉強の合間にやってくれてるって事で、オッケーでたみたいです」 メイド喫茶かぁ。せなちーの雰囲気からそっち系かと思ったけど普通じゃん。 …あれ、でもせなちーのお兄さんのクラスって事は…。 「じゃぁ、京介(うちの)ももしかして一緒だったりする?」 「そうそう。だから2人とも大変だったみたいですよ」 合点がいった。それで京介は話したがらなかったんだ。…麻奈実さんもいるから。 「桐乃のお兄さんも参加してるんだよね。…でも裏方さんだし、あんまり話せないかなあ」 「あやせ…?」「ううんなんでもない。め、メイド喫茶店だから男の人って料理してるんだろうなって」 うーん、京介って料理できなかったはず。あいつ裏でもパシリやらされてんじゃないの? 少し不安もあったけど、京介の居場所が分かってほっとしつつあたし達は向かうことにした。 結構歩き回ったし、そろそろおなかも空いたしね。 京介の作ったスイーツなんて絶対!人に出せるモノじゃないだろうしあたしくらいしか食べたがらないって。 「あ、あそこですよ!やっぱり結構繁盛してるみたいですね」 せなちーが指さす先には結構な列が見える…結構人気なんだ。 まさかあいつのヘタレスイーツ食べたがる変人がいるっていうの…。 最後尾に並んで待つことにした。…でもなんかキャー!とか聞こえるんだケド…。 そういえばさっきパンフにあったスイーツ喫茶ってここだったのかな。 パンフを開いてチェックする…あったあった、場所もあってるしここだったんだ…ってあれ…? あたしはスイーツ喫茶-の後に書かれている文字を見て……一瞬思考が止まる。 スイーツ喫茶-【メンズメイド・イン・ヘヴン】…ええっと…メンズメイドってナンデスカ? 思考が止まっている間にあたし達の順番がきてたようだ-意を決して中に入る。 「いらっしゃいまてぇ~~ん♪」…「ってき、桐乃ォォォォ!?」 「あああああああんたっっ!な、何やってんのっ!?」 野太い声で接客してきた-メイド服を着た何かは-高坂京介-つまりあたしの兄だった。 『フォォォォォォォ!!』と謎の雄たけびをあげているせなちーを押し避けて、あたしは京介に詰め寄る。 「あ、あんた!?まさかそういう趣味あったの!?というか、マジでせなちーのお兄さんとそういう関係!?」 「ちげえ!こ、これはだな!決してソレに目覚めたわけでなく!そ、そうだ、あいつにハメられたんだ!」 指さす先には爽やかなスマイルをしたメイド男-赤城浩平がいる。 「ふっ…高坂!どうよ瀬菜ちゃんのスペシャルなアイディア!」 「兄妹そろって腐海へ帰れ!」 爽やかなイケメンスマイルを振りまきつつメイド服をフリフリするその姿は…正直ぞぞぞわっと背中に来る。 「うっはぁー!チョーキモカワイイ!」 ランちんは妙に嬉しそうだ。見なかったほうがよかったんだろうケド…。 「お、お兄さん…?は!?まさか!桐乃の服をそんな事に!?」 なんか勘違いしてるあやせ。というかあいつに着れるかっての!? 「…あとで問い詰めるかんね」 京介に釘をさして、とりあえず4人で席に着く。 せなちーは相変わらず謎のうなり声をあげている。 「ね、桐乃ん。さっきのがお兄さんってやつ?」 「ん…あたしにそんなのいたっけ」 「おい桐乃!勝手に家族構成減らすなっ!?」 ランちんの問いかけを軽く流すあたしに、何か聞こえてきたけど気のせいだよね。 「でもさー…あの人。桐乃んのお兄さんって、ホテルから桐乃さらってった人だよね?」 「ぶっ…!」 恥ずかしすぎて思い出したくない記憶を…! 「あ、あれは違うの!ノーカンなの!京介が勝手にしたことだし!」 「へぇー…桐乃んってお兄さんの事『京介』って呼んでるんだぁ」 「ちが…っ!?違ってるけど違わないっていうか…なんていうか…」 「ふぅーーーーん…なんかさぁ、桐乃んってお兄さんの前だと雰囲気違うね」 「違うって…あたしはあたしじゃん」 「んーーそういう意味じゃなくて、お兄さんの前だとすごく自然て言うかさ」 「言うかさ…?」 「はっきり言って超可愛い」 「なっ…!」 こ…コイツ何言い出すんだ。あたしはランちんがここの異常な雰囲気で壊れたのかと思った。 「学校とか仕事の時の桐乃ってなんとなくだけど、少し壁感じるんだよね」 「壁って…あたしそんなにツンケンしてる風にみえる?」 「ちょっと違うんだけどさ、友達のあたし等にも少し遠慮してるっていうか… しっかりしなきゃって感じで気張ってるっていうかそんな感じ?」 「………」 「でもここでお兄さんといる桐乃んってさ、超自然体でなんか可愛い」 「…ランちんなんか変なもの食べた?」 やばい…顔がなんか熱くなってきたし…こんなとこ京介に見られたら…。 「お…お待たせしました~~ん♪」 注文していたものを京介が持ってきてくれた…けどあたしの中の雰囲気が台無しだ。 「ぷっ…あんた似合ってるよ」 「うるせぇ…てかそれ食ったらとっとと帰れ」 スイーツとドリンクがテーブルに並べられる…と、あたしのスイーツだけなんか変? みんなと同じの頼んだはずだけど、横に小さなチョコがのっかってた。 「これって何…もしかして地味子が作った?」 「ちげーよ…余りもんのチョコがあったからよ…まあ黙って食えって」 「ふーーん…余りモノ…っか」 そのチョコは少し形が不揃いだけど、明らかに人の手で形が整えられている風に見えた。 …えっと…その…いわゆるハート型ってやつだ。 「桐乃?どうしたの、顔が真っ赤だよ」 「なななんでもないって!」そう言いながらあたしはチョコを一口で食べる。 …やば、超甘すぎるよ…。 -ちなみにスイーツ喫茶-【メンズメイド・イン・ヘヴン】は某ネタサイトに画像が載せられていたらしい。 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/783.html
717 名前:SS[sage] 投稿日:2011/06/07(火) 23 34 03.20 ID UaXmxerF0 【雨の日】 学校からの帰り道。急な大雨の中を、俺は必死に走っていた。 道行く人たちの視線が、ちょっとくすぐったい。 「京介、今日は夕方から雨が降るらしいから、ちゃんと傘持ってくのよ?」 「へいへい。 大丈夫だっつの」 ガキじゃあるまいし―――そんな遣り取りが、今朝あったかもしれない。今となってはどうでもいいが。 もう、こんなズブ濡れなんだ。お袋にはイヤミのひとつも言われるだろうさ。 足取りが重いのは、決して雨に濡れた靴が重いというだけではなかった。だが、決して悪い気分でもない。 指差して楽しそうに俺を嘲笑う誰かさんの顔が浮かんできたところで、ドザーっと冗談だと思いたくなる 音を立てて、さらに雨脚が強くなってきた。 ………なんだこりゃ。たとえ台風にしたってこれはないだろう。よりにもよって傘の無い日に! ていうか、なんで警報出てないの!?通学しちゃダメだろこれは!何やってんだ気象庁!? 「うおおおおぉおォ…………―――――――!!」 たまらず、近くの軒下に走り込む。 勢い余って、膝もとまで下りたガレージに軽く頭をぶつけてしまった。 額に張り付いた前髪をあげ、おでこをスリスリと擦っていたところに、 「なにやってんの、あんた」 そう声をかけられた。 ビックリして声の主を確認すると、間違いなく桐乃だった。 そして妹は、俺同様の濡れ鼠だった。 「なにって………見りゃわかるだろ。 おまえと同じだよ」 「え? あんた今朝、傘持ってたじゃん」 「―――あぁ―――なんだ、その…………」 ちょっと照れくさくて、ポリポリと頭をかく。 「……色々あって……つまり、学校に忘れてきた」 「…………………ふぅん」 あれ? てっきりお決まりの「バカじゃん」が帰ってくると思ったんだが、桐乃はそれ以上何も言わなかった。 それどころか、 「ほら、じっとして」 「は? なんだよ?」 「拭いてあげるから、じっとしてなさいって言ってんの。 風邪ひくでしょ」 そう言って、桐乃は手に持ったタオルを俺の顔や髪に当て、せっせと拭いてくれる。 心配そうに。 いつか、階段で転んだ俺を手当てしてくれた時のように。 距離が近いからか、そんな甲斐甲斐しい桐乃の顔をじっと見てしまう。 しっとりと濡れた髪が、端正な顔にぴったりと張り付いていた。メイクが落ちて普段より幾分幼く見える はずなのに、桐乃は妙に色っぽい。 水も滴る―――そんな言葉がぴったりだ。 やっぱりこいつは、化粧なんてしない方が……………可愛い。 桐乃に体を拭かれている、ちょっとの間。 俺はそんなバカみたいなことを考えていた。 「はい、おしまい」 うむ、と納得した様子で桐乃が頷く。 「感謝しなさいよ。 こんな優しくて、ちょうカワイイ妹がいてさ。 シスコンのあんたには最高のご褒美 なんだからね」 「へっ。 なに言ってんだか。 ……ありがとな、桐乃」 どういたしまして……と、いつかのような返事はなかった。別に期待なんかしちゃいないさ。 でも、またあの時のように、素直に感謝し合える日が来るだろうか。またあんな桐乃の笑顔を見る事が出 来る日が。 早くそんな日が来ればいいと、願わなくもない。 桐乃の濡れた髪に触れ、頭を撫でる様にしてやる。くすぐったかったのか、妹は一瞬笑ったように見えた が、直後にはむっと唇を尖らせた。 「もう……やめろっての」 「っと……悪りぃ」 「あんた、最近あたしにセクハラしすぎ!」 「どこがセクハラだよ! 頭撫でただけだろ!?」 「だから、普通の女の子はイキナリ髪触られたら怒るから」 「……なんだそりゃ。 俺たちは兄妹だろうが」 「現実に兄に頭撫でられて喜ぶ妹がいるかっての! あんた、あたしを二次元の妹ちゃんと同じだと思って んじゃないの?」 「んなわけねーだろ!? おまえなんて、黒猫の妹に会ったときは完全に変質者だったろうが!」 よみがえる、あの日の悪夢。怯える日向ちゃんと、状況が分からずに、はしゃぐ瑞希ちゃん。 そして戦慄に震える黒猫―――。 『くっ……予想以上だわ。我が全盛をもっても、止められるか――!?いえ、必ず、この命に代えても!』 そりゃ命がけだろうさ。あの台詞は掛け値なしの本心だろう。 「しょ、しょーがないじゃん! ヒナちゃんタマちゃんが可愛すぎるからいけないの! あたしは絶対悪くない!!」 開き直りやがった。 ムキ―!と地団駄を踏む桐乃。 面白いので調子に乗ってからかってやる。 「へっ、やっぱおまえ、二次元と三次元の区別できてねーんじゃねえの? あーキモいキモい」 「か、こ、こんの……!!」 おおきく振りかぶって―――桐乃は俺に平手打ちを喰らわせようとする。 予想の範疇だ。 俺がなんなく避けると、雨のせいか足を滑らせた桐乃が倒れそうになった。 「きゃっ!?」 「――桐乃!!」 桐乃を庇うように下敷きになった結果、俺の背中は雨に濡れたアスファルトのせいで、ぐっちょりと 濡れてしまった。なのに痛みを感じる逆側――地面とは打って変わった柔らかさに、体が動かない。 「う………ぁ………」 「……っ……………」 相反する、強烈な二つの感触のせいか、思考が働こうとしない。 それは、ビックリした顔のまま、林檎のように赤く染まった桐乃も同じだったのだろうか。 俺たちはそのまま、どのくらいか分からない時間を過ごした。……やがて、目をギュッと、唇をきつく 噛みしめた桐乃が立ち上がるまで。 「だ、大丈夫?」 「……あ、ああ。 大丈夫だ」 桐乃が差し出してくれた手につかまる。しっとりと濡れた手もまた、柔らかく、暖かかった。 立ち上がって声をかけようとしたところで――― 「…………あ」 「! や、やだ!」 桐乃の制服がびっしょりと濡れて、下着が透けているのに気付いてしまった。 細いのに、出るところは出たその造形がくっきりと分かってしまう。 慌てて目を逸らした。 「わ、悪りぃ!」 「…………もう、もう…………!!」 「ほら、これ着てろ!」 俺は急いで上着を脱ぎ、桐乃に差し出す。当然ぐしょぐちょだが、そういう問題ではない。 風邪をひく可能性もないではないが、そういう問題でもない。 「は? で、でもアンタ……」 「いいから! 誰かに見られたら最悪だ! 頼むから着てくれ!!」 「ん……わ、わかった……」 桐乃はしぶしぶながらも承諾してくれた。 俺の制服だからブカブカだし、桐乃の制服ともデザインが合わないから、けっこうカッコ悪い。 モデルのこいつには、ちょっとキツイ注文だったかもしれないな。 「あ~……なんかダサい……」 「わ、悪かったな」 「……でも……………あったかい、かも………」 「え?」 「な、なんでもない………」 それから俺たちは、何分か軒下でボーっと過ごしていた。 その間、桐乃にタオルを借りて体を拭いたりしたが、特に会話も無く、ただ雨が上がるのを待つだけだった。 「…………ねぇ」 「あん?」 「さ、さっきの続きだけどさ」 さっきの……ああ。二次元と三次元の妹は~って話か。 「やっぱさ、現実は二次元とはちがうじゃん? だから、頭撫でたりとか、す、スキンシップ、とか…… そういうの、おかしいと思うんだよね」 「いや、スキンシップって……!?」 ……いつ俺たちの間にそんなヤバい事が起きたんだ。いや、さっきのアレは事故だぞ!?この前のアレとか ソレとかもな! 「あと、プリクラ張ったり……ま、待ち受けとかも」 「……まぁ……それは」 おかしいよなぁ。わかり切った話だが。 ちなみに内緒だが、未だに俺の携帯には見えないところに、例のツーショットプリクラが張ってある。 待ち受けは流石に変えさせられた。画像は残してある。 ああ………………うん。こりゃ、おかしいわ。 「と、とにかく!! あんまべたべたすんなってこと!」 「な!? 別にべたべたなんて……!?」 「してるから! 兄妹でこんな…………やっぱ、ヘンだよ……」 「………むぅ」 それは……そうかもしれない。 一般的な思春期の兄妹ってのは、やっぱお互い触れあったりはしないだろうさ。キモイとかウゲー、みた いな反応の方が、むしろ真っ当かもしれない。 間違っても、ツーショットプリクラを携帯に張ったり、お互いの写真を待ち受け画像にしたりはしないだろう。 確かにヘンだ。妹と仲良くなろうと焦って、俺がやりすぎたってのもある。 でも、多分、桐乃が言いたい事はきっと、そういう事じゃなくて……。 「……なあ。 やっぱ、おまえは俺の事、嫌いなのか?」 「………」 桐乃は下を向いて、答えない。 沈黙は肯定、なのだろうか。 『兄貴なんて大っ嫌い―――』 夏の日の叫びが、頭の中でリフレインした。 ……響くたび、胸が痛む。心臓に釘を打たれるように、少しずつ。深く。 「………あんたは?」 「え?」 「あんた、あたしのこと、嫌いなんでしょ?」 「な、なに言って………」 そんなの――決まってんじゃねぇか。 俺が、お前をどう思っているかなんて。 ……………………。 「おぉ~~~っ! 桐乃みっけ~~~~!!」 ドキッとして、乱入者に目を向ける。 ツインテールの小柄な少女――加奈子だった。その後ろからあやせもついてくる。 「あれ。 あやせと加奈子、どうしたの?」 「やー、加奈子はマジだりぃからヤダっつったんだけどなー。 あやせがどうしても桐乃に傘渡しに行くって しつこくってさー。 あとでなんか奢れよー?」 「加奈子? わたし達、友達でしょ? どうしてそんなこと言うのかなぁ……?」 「いいって、いいって! ありがとね、二人とも。 マジ感謝してるから」 「む……まぁ、桐乃がそう言うなら」 あやせが顔をほころばせる。 危険なスイッチが入りかけたようだったが、桐乃が間に入ったことで発作には至らなかったらしい。 「つか桐乃、なんだよその格好! マジありえねーくらいダサいんですけどー?」 「あ、ああ。 これね。 これは……」 そこで桐乃がちらっとこちらを見る。加奈子はようやく俺の存在に気付いてくれたらしい。 どんだけ俺は眼中にないんだろう。ちょっぴり悲しい。 「よ、よう。 久しぶり」 「ん? あれぇ。 こないだの桐乃の彼氏じゃん」 「「「…………へ?」」」 桐乃とあやせと、そして俺の声が見事にハモった。 ぎゃあ! 忘れてた! こいつには桐乃とのデートを見られてたんだった! 桐乃も忘れていたんだろう。口をパクパクさせて驚いている。 「…………へぇ。 どういうことか、説明していただけますかね? お兄さムグぅ!?」 素早くあやせの口をふさいで肩を握りしめる。うおおおおおおぉ危ねぇ!? ばっか野郎あやせ! 加奈子に兄妹でデートしてた事がバレちゃうじゃねぇか!! 間違っても「お兄さん」なんて口にするなよな! いや、事情を説明すればいいんだけど、とりあえず無用な誤解は避けたい! にしてもなんで加奈子も俺を覚えてんだよ!? 興味無い奴の顔は覚えないんじゃなかったの!? 「あ、あとで説明するから、ちょっと黙ってろ。 な!?」 「むーーー!? むぐぅーー!!」 暴れるあやせの肩に手を回して、動きを抑える。 ――はぁ。はぁ。はあ………。別に心の声じゃなく、マジで焦ってたので息が荒い。 ……あやせの髪から爽やかな香りがする。 「あやせから離れろ! この変態っ!!」 ガツン!背中に衝撃。桐乃の奴がけりを入れてきやがった。 綺麗にはいったので、ちょっと呼吸が出来なくなる。蹴られたところを押さえて抗議した。 「っぉ……はっ……いてーな! なにすんだ!」 「トボケんな変態! さっきからあ、あやせを抱きしめてハァハァしてたくせにっ!!」 「ハァハァなんてしてねーよ!!」 ちょっとだけしか! あと別に抱きしめてたわけでもないから! 「あやせ、大丈夫!?」 「ぅうっ……桐乃ぉ……」 桐乃があやせを抱きしめる。 あやせは桐乃の肩に抱きついて、真っ赤な顔でぐしゅっと鼻を鳴らした。 「うへぇ。 桐乃の彼氏、マジ最悪ってか変態じゃん。 ケーサツ呼んだ方がよくね?」 違うんだ!誤解なんだ!と加奈子を見るが、ずざりと引かれてしまった。 時、既に遅し………自分の迂闊な行動が恨めしい。 ……これで晴れて知り合いの女子中学生2人から変態のレッテルを張られたわけか。チクショウ。 「大丈夫だよ、あやせ。 あたしがついてるから。 ね?」 「……うん……ごめんね、桐乃。 ありがとう」 うぅ……完全に悪者だ。どうしてこうなった……。 「……なんつーか……。 桐乃ってなんでコイツと付き合ってんの? 信じらんねー」 グサリグサリと心に突き刺さる女子中学生の言葉。 「はぁ!? こんなのと付き合ってるわけないでしょ!?」 「え? だって前は彼氏彼女だって言ってたじゃん」 「そ、それは……」 「それは?」 「…………今は、もう彼氏じゃないから」 は? 今こいつ………なんて言った? 『今は』って……おいおい。なんだそりゃ。普通に誤魔化すとか、事情を説明するとかすればいいじゃん。 なんでそんな……俺とお前が付き合ってたのに別れた、みたいな言い方を……。 「それに、京介は………今は、他に好きな娘が、いるから」 「ふ~ん……ま、加奈子ってば優しいから、あんまり詳しくは聞かないでおいてやんよ」 「あは。 ありがと、加奈子。 あたし、アンタのそういうとこ、大好き!」 二ヒっと笑い、二人が爽やかにハイタッチした。 ふと気付くと、あやせが桐乃を心配そうに見つめていた。自分も混ざりたかったのだろうか。置いてけぼり にされたみたいで、不安に思ったのかもしれない。 「はい。 これ、桐乃の分の傘ね」 「ありがとー! マジ助かるよ~」 あやせは帰宅途中、雨が降りだしたのを見て、桐乃が傘を持ってきてなかったのを思い出したらしい。 それで加奈子とお茶してたのを切り上げて、わざわざ傘を買って来てくれたのだそうだ。 本当にいい友達だ。兄として、彼女らには感謝せねばなるまい。 …………ま、それはそれとして。 大変美しい友情に水を差すようで、まことに恐縮だが……とりあえず。 「なぁ、ちょっといいか」 「うげ。 なんだよ、変態」 「(ぐっ……!)あ、あのさ……お前ら、どうして俺たちがここにいるって分かったの?」 「あ? そういや、なんでかな。 加奈子、あやせが『こっちで間違いないよー』とか言うのについてきて やっただけだかんなー」 「…………そうか。 ありがとう。 十分だ」 「お? そっか」 背筋がぶるぶる震えているのは、決して上着を着てないからではない。 しかし、俺は知っている。この世には知らない方がいい事もある、と。だから追及はやめよう。 ………………あやせたん、マジ怖い。 「あの~、やっぱ俺の分の傘は無いんスかね?」 気を取り直して問いかけると、あやせはきょとん、と可愛らしく目を見開き、直後、天使のような笑顔でこう 言った。 「やだな~もう。 そんなのあるわけないじゃないですかー!」 「ハハハっ! ですよねー!」 あやせさん、怒ってますもんねー!さっきの事とか、この前の事とか! 日ごろの行いというものは、良くも悪くも本人に帰ってくるものである。 ……あー……はやく雨やまないかなー……。 天を見上げる。ここに駆けこんだときよりは大分マシな雨脚になっていた。 「………ちっ。 ホラ、傘持ちなさいよ」 「えっ?」 桐乃があやせから受け取った傘を差し出してきた。 「バーカ。 折角あやせたちがお前のために持ってきてくれたんだから、お前が使えよ」 「……はぁ? なに言っちゃってんの?」 「え? 俺に傘使わせてくれるんじゃないの?」 「アホか! なんでアタシがアンタに傘譲ってあげなきゃいけないのよ!? 意味わかんない!」 「じゃあ、なんだよ?」 「だ、だぁからー………もう、なんでそんなバカなの!?」 ……わけが分からないよ。俺にどうしろって言うのさ。 助けを求めて視線を向けると、あやせと加奈子が何やらひそひそと話している。 「……うへぇ。 ありえなくね? つーかありえなくね?」 「あはは……まぁ……ああいう人だから」 「ん~? なんだよあやせ。 あいつの事、知ってたんか?」 「え? いや、そうじゃなくて、なんとなく、そうなんじゃないかなって」 「ふ~ん? ま、別にいっけどさー」 「……………お前ら、なにコソコソ話してんの?」 「「なんでもない」」 「?」 はて。また何かやってしまったんだろうか。 自意識過剰かもしれないが、なんとなく俺の事を話してたんじゃないかな、と思ってしまう。 そこでバッ!と傘を広げる音がした。 桐乃が傘を開いたまま、こっちに寄ってくる。 ん、と俺に広げた傘を持つよう、促してきた。反射的に受け取ってしまう。 桐乃は俺に身を寄せ、なんと傘を持つ俺の腕に、自分の腕を絡めてきた。 「お、おおお、おまえ! なにしてんの!?」 「うっさい! しょうがないでしょ! 傘狭いし! こうしないとアタシらのどっちかが濡れちゃうじゃん!」 「だからって……ほら! 友達の前だろうが!」 「二人はもう知ってるんだから、別にいいの」 二人が何を知ってるって言うんだ!聞いた人が誤解するような事を言うんじゃねーよ!? ほら、あやせさん睨んでる!めっちゃ俺を睨んでるから!! だから腕を離しなさい!暖かいだろうが!俺が死ぬだろ!? …………いかん。落ち着くんだ俺。言ってる事がおかしいぞ。 そうだ、これは以前の偽デートのときと同じ、そう思えば何の問題も無い……! 「よ、よし、帰るか、桐乃!」 「う、うん」 あやせと加奈子に礼を言って、俺たちは歩きだした。 桐乃と腕を組んで、相合傘のまま。 後日、兄妹のラブラブ相合傘を目撃したご近所の奥様からお袋へのリークで、俺が酷い目に遭ったりもしたが、 それはまた別の話である。 「………ふ~ん」 「どうかした、加奈子?」 「いんや~? 前会ったときは、なんつーか、恋人って感じじゃなかったんだけどさ―」 「え? なんの話?」 「なんでもない。 それよか、加奈子ハラへっちまったよ~。 今日付き合ってやったんだからさ、なんか 奢ってくんね?」 「ふふっ。 もう、しょうがないなぁ。 じゃあ、さっきのカフェに、もう一回行こうか」 「あれ? いいのかよ?」 「いいの! なんだか私も安心したし、お腹空いちゃったから」 「ひひっ。 一番高いの頼んでやるかんな―」 「えー。 それはちょっと勘弁してよ―」 FIN -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1484.html
219 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/17(木) 18 06 36.04 ID OSszJKtk0 SS『帰り道』 「全く、今一歩締まらない奴だ・・・」 言うまでもなく俺の息子、京介のことだ。 マンションからの帰り道、俺の頭にあるのは二人の子供たちの今後だった。 「京介も京介だが、桐乃も桐乃だな・・・」 考える程に憂鬱な気分が頭をもたげてくる。 今回の件は、二人の疑いを晴らす目的も有ったわけだ。 だが、京介の一人暮らし二日目にして、桐乃は我慢が出来なくなってしまっていた。 京介も明らかに元気がない。間接的ではあるが、むしろ疑惑が強まってきた。 だが・・・ 京介は、それでも疑惑を晴らそうとしてくれている。 桐乃も・・・あの子は聡明な子だ。分かってないわけがない。 俺は親としてどうしてやるのが良いのだろうか・・・。 ふと窓の外を見る。夕暮れの太陽が目にまぶしい。 ・・・そう言えば・・・桐乃が生まれた時も、そんな事を思いながら病院に向かったのだったな。 懐かしい気持ちの中、俺は、当時の事に思いを馳せた。 ―――――――――――― あの日、いつものように職場にいた俺は、病院の方からもうすぐ生まれそうだとの連絡を受けていた。 だが、俺の仕事は途中で放り出していける類のものではない。 すぐにでも向かいたい気持ちを抑え、いつも通り業務をこなしていった。 幸いにも、上司に理解があり、定時で上がることができた。 職場を出て、家により、母から京介を受け取ってから病院に向かった。 (そうだ、この時の夕陽が強く印象的だったのだな。) 病院に着くと、すでに桐乃は生まれた後だった。 「元気な女の子ですよ」 看護師に言われ病室に向かい、桐乃と初めて対面した。 勿論、事前に分かってた事ではあったが、初の娘なだけに感動もひとしおであった。 そして、ベッドに座っているのは、俺の最愛の妻・・・ 「佳乃、よくがんばったな」 「ありがとう、大介さん。でも、もう二人目よ?そんなに心配そうな顔しなくてもいいのに」 そんなたわいも無い会話だったが、今でも覚えている。 「ところで、女の子だったそうだな?」 「ええ。ほら、見て?凄く可愛いでしょ?」 「ああ・・・そうだな」 「あたしなんかより、ずっと可愛らしく育つわよ~」 「むっ・・・むぅ・・・」 こういう場合、男は答えに詰まるものだ。 娘も可愛いが、妻だって当然可愛い。 「ところで・・・この子の名前、考えてくれました?」 「ああ」 一息おいて緊張を解く。 「桐乃だ。桐の花の様に清楚で、桐のように強く、真っ直ぐ育って欲しい」 「ええ、良い名前だと思います」 これで一安心だ。 思えば一月以上前から延々悩み続けてきた名前だ。 佳乃も気に入ってくれたようで、肩の荷が下りた気分だ。 そういえば・・・ ふと後ろを振り向くと、京介が所在なさそうに病室の入り口に立っていた。 「京介、こっちに来なさい」 「う、うん・・・」 俺は京介を佳乃の横に座らせ、京介の目をしっかり見据える。 「京介。これからおまえの妹になる、桐乃だ」 「えっ、いもうと・・・?」 「そうだ。これからお前は兄になる」 「あに?」 まだ良く分かってないような京介だったが、仕方あるまい。 「これから、おまえが桐乃の事をちゃんと守ってやるのだぞ?」 「う、うん!」 たぶん、今の言葉も半分くらいしか分かってはいないだろう。 だが、俺の雰囲気から察したのか、少しだけ大人になった雰囲気が感じられる。 こんな小さなことでも成長していく俺の子供たちに、胸が一杯になった。 「ねえ、おとうさん」 「なんだ?」 「きりのにさわってもいい?」 「ああ、だが、強くしたらだめだぞ」 「うんっ!」 早速、京介は桐乃に興味を持ってくれたようだ。 一通り顔や体を触った後、桐乃の手に、自分の手を重ね合わせる。 「き・・・きりの?・・・にぎったよ?ぼくのてをきりのがにぎったよ!」 大はしゃぎする京介に、俺と佳乃は目を見合わせ、微笑んだものだった。 そうこうしているうちに、主治医の先生が近づいてきていた。 「お父さん、ちょっとお話がありますので、別室に来ていただいてよろしいですか?」 「ああ。・・・佳乃、行ってくる」 「ええ、行ってらっしゃい」 主治医の先生に俺だけ呼ばれるとは、何か悪いことでも起こったのだろうか? 内心の動揺を何とか隠して、俺は診察室へと向かった。 診察室への道は短かったはずだが、今日はあまりにも長く感じる。 見た目は普通だったはずだが・・・ 心臓に問題があったのだろうか?何か特別な病気をもって生まれてきたのだろうか? いや、最近、生まれたときからがんを患っている子供の話も聞いたことがある、まさか、それなのでは・・・ 気が付いたときには、俺は診察室の椅子に座り、先生と対面していた。 「落ち着かれましたか?」 「あ、ああ・・・」 情け無い所を見られてしまって気恥ずかしい。 だが、今後を冷静に考える必要がある。 そう、考え直し、ようやく冷静になる事ができた。 「まず簡潔に、非常に簡潔に説明します」 「お願いします」 腹に力をいれ、ぐっと身構える。 「お子さん・・・桐乃さんに、非常に稀な先天性の疾患が見つかりました」 「先生っ!桐乃は・・・桐乃はいつまで生きられるのですかっ!」 気が付けば俺は立ち上がり、怒鳴るような声で、そう言っていた。 「高坂さん、落ち着いてください」 「ええ、すみません・・・ですが―――」 「ただ、この疾患は成長や発達に殆ど悪影響はありませんし、命の危険もありません」 「なっ・・・・・・・・・」 深呼吸をして、なんとか気持ちを落ち着かせる。 安心しすぎて気分が緩んでしまったのだ。 命の危険が無い・・・これだけでも、本当に安心できた。 佳乃も悲しまずに済む・・・ 「とりあえず、安心はできましたか?」 「ええ、なんとか・・・それより、教えてください。どういった問題が発生するんでしょうか?」 「では、少し複雑になりますが・・・」 そう言って、先生は説明し始めた。 「まず、この疾患は原因ははっきり特定されていません。 ただ、血中のビリルビン(Bilirubin)、リボ核酸(RNA)、女性ホルモン(英:Oestrogen)が複合体(Complex)、 通称ブラコン(Bro-Com)を作って大量に血液内に存在する事が知られています」 「・・・はあ」 「そして、そのブラコンが存在する人は、長じて超弩級のブラコンになる事が知られています。 これを、先天性兄婚症候群と呼んでいます」 「・・・よく、わからないのですが?」 正直なところ、医者の説明というのは、患者からするとあまりにも分からない事が多い。 専門用語の羅列を理解しろというほうが無理なのだ。 「まとめますと、桐乃さんは、お兄ちゃんの事好き好き大好き好き好きになってしまうということです」 ・・・・・・・・・まったくわからん。 兄と妹が仲良くしている事に何の問題が有るというのだ? 「・・・他に、何か症状が出てくるのですか?」 「いえ、これだけです。この症状さえ家族の方にフォローして頂けるのでしたら、普通の健常児と何も変わりありません」 ふむ・・・ どうやら、医者というのは大したことが無い事でも大げさに騒ぎ立てるものだという事だな。 俺は、ようやく完全に安心する事が出来た。 診察室から出て、病室に帰ると、なんとも微笑ましい光景が待っていた。 「き、きりのぉ~~~、てをはなしてよぉ~」 「あらあら?お兄ちゃん、よっぽど桐乃に好かれたみたいね?」 「で、でも、ぜんぜんはなしてくれないよぉ」 こんな、愛おしい空間が、今後も続いてくれるように・・・ そう思って、俺は決意を新たにしたのだった・・・ ―――――――――――― 「次は、千葉~、千葉~」 車内アナウンスに、ようやく目を覚ます。 昔を思い出す間に眠ってしまうとは、俺らしくもない。 自嘲しつつも、夢―――昔の事を思い返してみる。 そうだ。 桐乃が生まれたときから、こうなる事は分かっていたんだったな。 あの先生の言った通り、桐乃は京介の事が好きで好きでたまらなくなっているようだ。 そして京介もまた、俺がクギを刺したとはいえ、そろそろ決壊しそうなのが見て取れる。 だが、なぜか気分は晴れやかだ。 「・・・式場をそろそろ探し始めるかな・・・」 俺は一人呟き、駅のホームが近づいてくるのを見るのだった。 End. ----------