約 431,449 件
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/980.html
467 名前:【SS】大好物 1/3[sage] 投稿日:2011/08/02(火) 17 10 43.87 ID JO6s2eOr0 [6/11] なんか変態的なSSが多い気がする。俺はカレーうどんネタで。 「うん、わかった。それじゃあね」 リビングで桐乃と二人くつろいでいた時にかかってきた電話に、桐乃は最後にそう告げた。 「誰からだったんだ?」 「お母さん。 お母さんもお父さんも今日は深夜に帰るから、先に夕ご飯食べててだって」 また親父もお袋も帰りが遅いのか。 最近色々な都合上二人とも家を留守にしがちだな。 「今日の夜ってなんだったっけ」 スーパーなりコンビになりで惣菜を買ってこなきゃいかんのか? 「今日は八月二日」 「ああ、カレーうどんか」 八月二日は全国的にカレーうどんの日だ。 そのため、八月一日の夕飯はカレーで二日はそれにうどんが投入されるのが高坂家のしきたりとなっている。 「そういえば昨日はカレーだったな」 「うん。今日は残りにうどんを入れて煮込むだけでいいって。 あたしが作るから、あんたは二階で勉強でもしてきたら? できたら呼んであげるからさ」 「そうだな。夕飯まで時間があるし、勉強してくるわ」 さすがの桐乃でも、うどんを入れて煮込むだけのカレーうどんを失敗したりはしないだろう。 「・・・・・・桐乃、煮込み中はちゃんとカレーが焦げないように気をつけて、無駄な味付けはするなよ」 一応忠告しとく。 「しないって。お母さんのカレーは美味しいんだから、あたしが手を入れないほうが良いに決まってるし」 そうか。それなら今日は桐乃の美味しい手作り料理が味わえるな。 「ご飯できたよー」 夕食の時間になり、桐乃が呼びに来てくれた。 一年前ならもっとそっけなかったってのに、随分と仲良くなたよな。 「おう、すぐに行くー」 きりのいいところまで作業し、一息ついて体を伸ばす。 さて、今から夕飯だ。 カレーはそろそろ飽きてきてるが、桐乃が作ってくれたとなると何杯でも食べれそうだぜ! 部屋を出ると、カレーの匂いが鼻腔をくすぐる。その匂いにつられるようにして階段を下りていき― 「良い匂いだなぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!?」 俺は絶叫した。 だがそれも無理はあるまい。なぜなら 目の前には白いフリルのたくさんついたエプロン『だけ』を身に着けた桐乃がいたからだ。 468 名前:【SS】大好物 2/3[sage] 投稿日:2011/08/02(火) 17 11 05.47 ID JO6s2eOr0 [7/11] 「どうかしたの?」 桐乃はきょとんと首をかしげる。 格好も相まってアレだ。今すぐ挙式をあげたくなるほどのアレさだ。 別にアレだぞ?俺の妹は可愛くないぞ?でもアレだって思っちまうだろうが! 「お、おま、その格好・・・・・・」 混乱する頭の中、やっとそれだけ口にする。 「あたしの格好?」 桐乃は再度首をかしげると、自分の格好を確認する。 「~~~!」 直後顔を真っ赤に染め上げた。 しかしすぐにニマニマとした笑みを浮かべ、 「この格好がどうかしたの? カレーうどん食べるとカレー跳ねちゃうでしょ? カレーがつくのがイヤだから、前にお母さんが買ってくれたエプロンを着てみたんだけど。 ほら、ここにカレーくっついちゃってるでしょ?」 桐乃はそう言うと、軽くエプロンを引っ張る。 バカ野郎!そんなことしたら見たいところ、じゃなくて、見えちゃいけないところが見えちゃうだろうが! 「確かにそれなら服は汚れないけどよ、色々とまずいだろうが!」 「別に問題ないでしょ?あたしたち家族なんだし。 そう、家族で、男と女で、若くて、近い年齢で・・・・・・新婚みたいだね。 あたしが新妻なら、こんな格好でも普通でしょ?」 桐乃の声が俺の脳髄を甘く蕩けさせる。 頭では目をそらさないといけないとわかっていても、どうしても目がそらせない。 そんな俺の視線を感じたのか、桐乃は 「もう、京介ったらそんな目であたしを見て・・・・・・ そんなにここが気になるの?」 手をふとももに這わすと、ゆっくりとエプロンのすそを持ち上げ始めた。 ヤバイ 白く眩しい太ももが やばい ゆっくりと ヤバイ あらわになっていき やばい そして、ついにはその根元の― ホットパンツが姿を現した。 469 名前:【SS】大好物 3/3[sage] 投稿日:2011/08/02(火) 17 11 22.76 ID JO6s2eOr0 [8/11] 「へ?」 全思考が完全に停止した。 「ひ、ひひひ、ひひひひ、あははははははははははははは! ひーひー!ちょ、ちょっと、あんたナニその顔!あたしが裸エプロンなんかするはずないじゃん! あんたどんだけあたしをエロい目で見てるわけ?妹相手にそれはやばいよ。 このシスコンマジエローい!」 桐乃が腹を抱えて爆笑する。その背中にはタンクトップが見える。 つまり、タンクトップとホットパンツの上にふりふりエプロンを着ただけだったのか? そういえば、今日の桐乃はそんな格好をしていた気が・・・・・・ 「くそっ!俺の純情ハートを弄びやがって! おまえ、俺をからかってそんなに面白いのか?」 「うん。面白いよ。 皆にも『うちのバカ兄貴は妹との新婚生活で妹に裸エプロンをつけさせる事を妄想するシスコンだ』って伝えてあげるからね」 あやせにそんなこと言ったら加奈子みたいに埋められちまうだろうが! だいたい俺がそんな妄想するはずないだろう。 「まぁ、あんたが土下座して頼むなら裸エプロンになってあげてもいいけどねー」 「けっ。俺が妹の裸エプロン見たさにそんなことするほど恥知らずだと思ってんのか?」 「・・・・・・言葉と体が一致してないんだけど」 はっ!いつの間にか桐乃相手に深々と土下座しているだと!? 一体何が起こったんだ?ま、まさか・・・・・・ 「気をつけろ桐乃!これはスタンド攻撃だ!」 「バカなこと言ってないの。 ・・・・・・でも、そうなんだ。あたしの裸エプロン見たさに無意識のうちに土下座しちゃうんだ・・・・・・」 くっ。このままでは俺は変態セクハラシスコン土下座マイスターになってしまう。一体どうすれば・・・・・・ 「そ、その・・・・・・ そんなに見たいなら見せてあげてもいいよ?」 「え?」 桐乃は顔を真っ赤に染めながらモジモジとエプロンの裾をいじる。 「で、でも裸エプロンとか、下着エプロンはダメだからね! ビキニエプロンとか、スク水エプロンまでだから!」 俺の話はこれで終わりだ。 俺が桐乃にどんな格好をさせたのかは想像にお任せする。 ただ、桐乃が恥ずかしがりながらも嬉しそうに「あたし、もうお嫁にいけない・・・」と言った事、 桐乃のエプロン姿の初々しさについ「そもそもおまえは嫁に行かせねえ。それに、おまえが嫁に行けないなら俺が貰ってやんよ」と言ってしまった事、 桐乃がカレー除けにエプロンをつけるカレーうどんが俺の大好物になった事だけは伝えておこう。 オリジナルサイズ カラーver
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1148.html
435 名前:421[sage] 投稿日:2011/09/23(金) 22 18 52.12 ID OwCJaQPK0 [2/3] SS【ちょっと妹の様子を見てくる】 俺が家に帰ったら、同時に勢い良く桐乃が出ていくところだった。 友達と遊ぶ約束があるんだとお袋が教えてくれた。今日は黒猫達じゃなくて学校の方の友達とか。 あいつは相変わらず全力疾走してやがんな。まぁ、それがあいつらしいといえばらしいんだろうな。 部屋でラフに着替えるとまたリビングに戻ってくる。 冷蔵庫からパックの麦茶を取り出し、コップに注いでちょびっと口につけながらテレビの前まで移動する。 行儀悪いって小言が飛んできた。 へいへい、どうせ褒めてもらえる要素はあらかた持っていかれた絞りカスですよ、と悪態をついたら、 今度お父さんに…とか言い出したので八割程度の力で土下座しておいた。 テレビを点けると報道番組が映し出された。 特にこれと言って見たい番組があるわけでもないのでソファに腰掛けしばらく見る事にする。 台風が接近中とかで普段の番組を変更して各地の模様が色々なレポーターから報告されていた。 画面は左側と下側が帯状に文字情報が常時流れるようになっていてアナウンサー達が映し出される範囲が 普段よりも幾分狭い。 これをL字と言うらしい。情報源はさもありなん。 好きなアニメがこの状態で放送されると桐乃は不機嫌になる。 別に声が聞こえなくなるとか放送時間が短くなるとかじゃ無いんだからいいんじゃねぇの? と思って桐乃にそう言った事があるが許されないらしい。 解像度がナントカ?データの帯域のムダがナントカ? 俺には良くワカランが何だかそう言う事なんだと。 自分の身に迫る危険情報を知った方が自分の為じゃないのか? と後を続けようかと思ったがその時はやめた。 また反撃されるだろうしな。 ちなみに帯の出方によっては逆L字とか額縁とかバリエーションがあるらしいが、 興味のない俺にはその意味を覚える気力は持ち合わせていない。 とか思っているとテレビでは俺達が住んでる辺りの情報も詳しく流し始めた。 この地域は既に暴風警報と大雨注意報が出ており、三時間ごとの天気では今は既に雨が降っている、と。 いや、さっき俺が帰ってきた時は降って無かったし、そんなに降りそうな空模様には見えなかったけどな― ―と窓から庭越しの空を見ると庭の木々はワサワサと体を揺さぶり、 空の雲はみるみるうちに灰色から黒へと濃度を上げていく最中だった。 おいおい、なんかコレやばいんじゃないの? 一気に大雨と暴風が来そうな気配が滅茶苦茶するんですけど。 今のうちに雨戸とか閉めておいた方がいいんじゃね? 植木鉢は? 食料の買い出しは? 停電のときの乾電池とローソクは? とか変な心配を巡らせていると、そうだ、桐乃は? あいつは大丈夫なんだろうな。まぁ、あいつのことだからそうそう抜けたことはしないだろうけど、 少し焦ったり慌てたりすると簡単にネジが二、三個飛んだ行動を取るからな。 お袋に聞いてみた。 「なぁ、あいつは、桐乃は傘持って出掛けたのかな? もう今にも降りそうなんだけど。」 「持って出たんじゃないの? 行く前に玄関で準備してたわよ?」 ふーん、と俺は相づちを打ってソファを立ち、リビングから顔だけ出した。 …。 あった。 下駄箱の上に折り畳み傘が。オレンジと白のチェックのカバーに綺麗に収まってちょこんと。 そういやちょっと前に家族で出掛けた時に雨だったにも関わらずオレンジの柄の傘をくるくる回しながらはしゃいでたっけ。 あの時も結構な雨だったけれど、あいつが笑っているとそれだけで家族のみんなが明るくなる。 親父は仏頂面のままだが多少雰囲気が和らぐ、気がする。その笑顔が俺に向く事は無いだろうけどな。 と、そんなお気に入りの傘を忘れて行くなんてよっぽど時間に追われていたのか、 あいつの事だから何を差し置いても友達は大切にする。自分が待っても待たせる事はよしとしないだろうな。 待ち合わせは駅前で…、みんなでショッピングして…、喫茶店か何処かに入ってお喋りして…、 傘なんてコンビニかどっかで買って帰ってくるさ…。 そんな事を思いながらリビングに戻って窓を見たとき一際強い風がビュオオオと音を立てて吹いた。 そして少し離れたところでバケツか何か金属っぽい小物がカランカランと転がる音を聞いた。 そして俺は 「お袋! 桐乃のやつ傘忘れて行きやがった! ちょっとあれ持って行ってくる!」 「へ? なんで? 傘ぐらいあの子なら自分で買ってなんとかするでしょ。」 「いや、まぁ、そうかもしんねぇけどさぁ。ほら、そのー。」 「ふーん、お兄ちゃんとして心配なんだ? でも桐乃の方がよっぽどしっかりしてると思うけど?」 「んぐ…、そんなこたーわかってるよ。でも心配ぐらいしたっていいじゃねぇか!」 「ふーん、ふぅぅぅ~~~~んん、へぇぇぇぇぇぇぇ。」 「な、なんだよ!もういだろ!行ってくるからな!」 「はいはい、いってらっしゃい、お兄ちゃん♪ 送り狼にならないようにねー。」 「ぶふぉぁっっ!! な、何言ってんだよ! それが母親の言う台詞かっ?!!」 …そんなこんなで俺は家を出た。外は雨が降り始めていて道行く人は足早に道を急いでいる。 俺は小脇にあいつの傘を挟んで自分の傘をさす。自分のとは言っても俺のじゃない。親父のを拝借してきたのだ。 あのガタイに似て傘までゴツイ。だがこれ程頑丈そうだとちょっとの風ぐらいではびくともしないだろう。 その分重くて疲れそうだけどな。 傘を前傾姿勢で構えて俺も早足で駅前に急ぐ、どこにあいつが居るかって? 知るかそんなもん。行きゃーなんとかなるだろ。 行ってすぐに見つからなかったら、あいつが行きそうな場所を総当たりするだけだ。 はぁ、何やってんだろうな、俺。 相変わらずテンション上がると途中の思考がすっ飛ぶ自分に溜め息をつきつつ、駅前に到着した。 ここまでの道のりの間に雨は勢いをぐんぐんと増し、到着した時には本降りになっていた。 ここまでの雨だとあいつも傘じゃなくてタクシーで帰ったっておかしくないな、 と思いつつ首を巡らせて桐乃の姿を探してみると、…いた。 小売りの店舗が立ち並ぶその合間に小さな商店街へ路地があり、 そこから始まるアーケードで雨を避けて道の端っこで一人で携帯を弄りながら立っている。 つか、一人かよ、友達はどーしたよ? 辺り一帯を大捜索する意気込みで来た俺は多少拍子抜けしつつもどこか安心しながら桐乃に近づく。 「おい。」 「…ん? なっ! な、なんでアンタがここに居るの?!」 「居ちゃ悪いか。ほれ、忘れもんだ。」 俺もアーケードに少し入って傘を閉じ、持ってきた傘をぶっきらぼうに桐乃に差し出す。 「えっ? なに? これ届けるためにここまで来たの? バカじゃないの?」 「ちょ、あのなぁ、心配してわざわざ持ってきたってのに…」 「心配って、キモ。」 「あ、あのなぁ、兄貴が妹の心配をしてどこが…」 「シスコン♪」 「ぐ、あ、…悪かったな。」 雨の中を相当な決意の元に開始した任務は、遣り甲斐とか達成感等とはほとほと無縁にミッションコンプリートに至ったのである。 ま、いっか。最初からこんな結末の可能性も薄々は想像してた事だし。 桐乃はまだ携帯の操作を続けている。結構長いメールを打っているようだ。 「なぁ、お前、友達と遊びにここへ来てたんじゃないのかよ。なんで一人で突っ立ってんだ。」 「んーと、ついさっきまではあやせと一緒だったんだけど、雨が酷くなってきたら家の人から電話がかかってきてさ、 そしたら直ぐに車で迎えが来てサーッと帰っちゃった。」 「そうか、今日はあやせと約束してたのか…。」 「本当は加奈子もくるはずだったんだけど、 『なんか雨マジヤバくなるみたいだしぃ、カナちゃんびしょ濡れになるなんてマジ勘弁みたいな? 靴が水浸しになるのなんか想像しただけでうへぇ~、て感じぃ? てことであとヨロシク、じゃ。』 ってメールが届いてさ、今日はやめるって。」 「物真似はやめぃ。それだけでなんかイラッときた。あのチビッ子不良め。俺の妹をほったらかしやがって。」 そうか、三人で遊ぶはずだったのに天気のせいであえなくお流れか。 こればっかりは仕方ないだろう。 桐乃はメールを終えたのか携帯をパタンと閉じて、 「あーあぁ、あたしも車でお迎えが来たら良かったのになぁ~。」 「無茶言うなよ、うちには一台しかないし、それも親父が仕事に乗って行っちまってるんだからよ。」 「アンタが免許取って車買えばいいじゃん。」 「あのなぁ、高校生に何要求してくれてんだ。そんなのまだ先だ。 欲しいとは思うが、第一親父がそう簡単に許すとも思えないしな。」 「でもさでもさ、免許なんて取りに行けるのって大学生の間くらいじゃん? それも大学の後半って就活やら卒研とかで時間ないんでしょ? そしたら入学して最初のうちってもうすぐじゃん。」 「そ、そうなのかな。だとしたらそんなに先の話でもないのかもな…。 中古の車くらいなら買ってくれるかな? いや、バイトして自分で買えって言われるのがオチだろうな。」 「も、もしさ、車買ったら最初にあたしが隣乗ったげようか?」 「バカな事言うなよ。最初なんて怖くてドライブ気分じゃねぇよ。親父に横について貰わないと。」 「…バカ、ヘタレ。」 「何とでも言え、大事な家族を安心できない車に乗せられるか。 それじゃ傘は渡したぞ。これ以上雨が酷くならないうちに帰って来いよ。」 当初の目的を果たした俺も帰る事にする。 桐乃には傘を渡したし少しぐらいこいつがどこか寄ったりまたメールを打ったりしててもそんなに心配するほどのことでは無いだろう。 そう思って家路に振り向きかかった時、 「ちょ、ちょっと待って!」 握っていた携帯をカバンに仕舞いながら桐乃が俺を呼び止める。 代わりにさっき俺が届けたばかりの折り畳み傘を手に持ってしばらくそれを見つめていた。そして、 「やっぱ傘使わない。」 「へ? なんだ、タクシーでも呼ぶのか? だったら俺も…」 「そっち、入れてよ。」 「なんだよ! 結局歩きかよ! つか何で傘使わないのさ、せっかく届けたのに?」 「いいじゃん、これお気に入りだからあんまり使いたくないの! そっちの傘大きいから平気でしょ!」 「いや、お前、お気に入りってこないだ家族で出掛けた時は思いっきりブン回してたじゃねーか。」 「それはそのー、一回は、一回くらいは本来の使い方をしてあげないとさ、可哀想かなーってそういう事よっ、 ほらっ、ちゃっちゃとその傘開く!」 何だか良くわからないが急き立てられて俺は傘を開く。 紳士用の大きめと言ったって人が二人入るような用途で作られてはいない。 無理に入ろうとすればお互いにはみ出して二人とも肩を濡らす事になる。 と言うわけで、俺は今肩どころか左半身を濡らしながら傘をさして歩いている。 そのお陰か桐乃の肩が濡れたりはしていないようだ。 これが赤城なら全身ずぶ濡れになっても妹のために傘をさしそうだな。 それとも妹と二人で入れるような特注の傘を用意していたり…、ヤツならやりかねん。 そんで弛みきった顔で妹と二人で並んで歩くヤツの姿が容易に想像できる。 まるで相合い傘だな。ん? じゃ今の俺達の状況も? ないない、それはない。 俺達に限ってそりゃ無いわ。 これはそうアレだ。赤城が言うところのガラガラだ。 妹がぐずらないように全力であやす、兄貴の習性・本能・哀しいサガと言うやつさ。 ってヘックシ! くしゃみが出た、少し冷えたか。 「ねぇ、もう少しこっち寄りなさいよ。そんなに濡れてちゃあたしがそうさせてるみたいじゃないの。」 その通りだと思います。 それにしても自分の重心じゃない所に腕を伸ばして傘をさすのがこんなに辛いとは。 傘そのものも十分に重いやつを選んで来ちまったからなぁ。 暴風警報が出ているらしいが今のところそんなに風が強く無いのが救いだった。 と思った途端、少し強い風が吹いて傘が煽られる。 桐乃の肩が俺の右腕に当たる。俺はわりぃ、と声を出して少し避けようとする。 しかし出来なかった。 桐乃が俺の右腕を掴んだから、正確には俺の右腕と妹の左腕で組んだから。 「こ、こ、こうすれば、そ、そ、そんなに離れないからア、アンタが濡れるのも少しは減るでしょ!」 ち、近い、ってゆーか当たってる! おいおい勘弁してくれよ、こんな所を知り合いに見られたら何て言い訳したらいいんだ! …仲の良い兄妹? あれ? 客観的には結構普通なのか? 俺的にはかなり違和感があるけどな? 「そ、そこまで気遣ってくれるのなら、あの傘使ってくんないかなぁ?」 「あ、あれはダメ! 使っちゃダメなの。今だけは…。」 そうか、俺が思ってたよりも大事な傘なのかもな。 アメリカに行ったときのあのメールも極限の覚悟の果てに出した決断だった。 そこまで友人や持ち物を大切にするヤツだ。その傘を大事にする理由があるのだろう。 大事にされてないのは俺ぐらいなもんか。 桐乃が体を寄せてくれたお陰で幾らかは雨の当たる部分は減ったもののそれでも肩は濡れる。 家に着くまでには随分と冷えちまうな。 桐乃はどうかと思って見てみると少し顔が赤いようだ。 雨は避けてたとは言え気温はこれまでよりもかなり下がっている。 こいつも体を冷やしてしまっているのかも知れない。 兄貴としてそうそう妹に風邪なんかひかせてたまるか。 「なぁ、桐乃。」 「えっ、あ、うん、なに?」 「帰ったら、風呂入るか?」 「っっっっばっ、バカっ! 何言ってんの?! この変態! スケベ! ヘタレ! ロリコン!」 「ちょ、冷えたから風呂沸かすかって聞いただけだ! そして俺はロリコンじゃねぇっ!」 「あ、ごめん、シスコン。」 「NOOOOOOoooooooooooo!!!!!!!」 つ、疲れる。 右腕には傘に加えて桐乃の重さも加わって疲れるが、それよりもむしろ精神的な疲労の方が重大な気がしてきた。 早く家に着きたい。もうだいぶ家の近所まで戻って来たはずだ。 もう少しの辛抱だ。熱い目の風呂で温まりてぇ。 「あ、そうだ。しばらく台風で外出出来ないかも知れないからこのまま買い出しに行こうよ。」 「ここに来て何を言っちゃってくれますか、このお嬢様は?!」 「えー、なんでよー。お母さんに何が必要か携帯で聞くからさ、きっと喜んでくれるよ?」 「そりゃそうかもしんねぇけどさぁ。」 「はい、そうと決まればこっちこっち。」 ようやく見えてきた我が家を横目に今度は近所のスーパーへと進路を取る。 渋る足取りの俺の右腕を桐乃はぐいぐいと引っ張って進み出す。 なんだよこの元気は、一人でも十分じゃね? この傘預けて俺は一人で帰ろうかな、家もうそこだし。 …でも荷物持ちとかで連れて行かれるんだろうなぁ。はぁ。 そう腹を括ってついて行こうとした時に背後の少し離れた所に自動車が一台停まった音がした。 「あれ? あやせ?」 首だけ振り向いた桐乃は別れたばかりの友人の姿を見つけたようだ。 「桐乃ー! 借りてたCDさっき返そうと思ってたの忘れてたーってってってって、キリNOOOOOOOOOO!!!!!!」 なるほど、迎えに来てもらった車でそのまま預かりものを返しに来たって訳か、さすがラブリーマイエンジェル。 優しくて美人でいい子だぜ。 軽やかに近づいてくる足音が途中でタッタッタッからダッダッダッとまるで助走のような変化をした気がするが、 俺も最高の笑顔で迎えようと後ろを向いたとき、そうだなぁ、長さ24cmくらい? 幅は6cmくらいかな。 長細いゴム状の物体が二つ、俺の眼前10cmほどの所にあった。 まだすり減っていないくっきりした溝、そうか女の子の靴の底ってこんな風になってんだ、と思った瞬間、 俺のその日の記憶は終了した。 あれから数日経った。 聞けばあの後あやせの家の車に乗せて運んでもらったらしい。近い距離だったけど雨も降っていたしな。 てゆーかドロップキックはないだろ! ドロップキックは! しかもすげぇ高さだぞ?! モデルやめてそっちで食って行けんじゃね? それはともかく俺的に重大だったのは顔についた靴底の跡だ。 見事に目のラインに横一文字に入った跡はパンダならぬタヌキそのものだった。 これでしばらくの間、どんだけ恥ずかしい思いをしたか。 学校はもとより道行くOLさんからおばちゃんの目まで惹いて笑いを誘い、子供たちには指を指される始末だ。 まぁそれもなんとか消えたので収拾がついたけどな。 あやせは俺を家まで送り届けた時、お袋に対して平謝りだったらしいが、何なら今度俺が正しい土下座を教えてやろうか。 立派なDOGEZERに育ててやる。 スミマセン。嘘です。埋めないで下さい。 「冗談のつもりだったけど、まさか狼じゃなくてタヌキになって帰ってくるとはねぇ。 まぁアンタには狼なんて勿体無いか。タヌキぐらいが丁度いいんじゃないかしら? プッ。」 ひでぇ。それが母親の…。まぁいい、良くないけど。 見てろよいつかタヌキを返上して狼になってやる。ん? なってもいいものなのか? それにしても妹よ、最近メールもせずに携帯を見ながらクスクス笑うのはどうも引っ掛かる。 脇からチェックしようとしてもガード固いしな、あいつ。 とにかく大雨の中を二人で一つの傘はもう懲り懲りだ。 今度迎えに行くときは御揃いの雨カッパ二つ用意してやる。 どうだ、俺とだっさいペアルックで手を繋いで歩いてやるからな、ざまぁ見ろ。 とっぴんぱらりのぷぅ -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/608.html
312 名前:無題【SS】[sage] 投稿日:2011/04/23(土) 12 12 46.32 ID of8W76e/0 新刊発売とか配信版とかで色々不安になってるところ、そんな気分を払拭できればなーと思い、短いですがSS書いてみました。 楽しんでいただければ幸いです。 今、俺の一番近い場所には、桐乃がいる。 もちろんそれは、物理的な意味だけじゃない。俺の妹である桐乃は、今や俺にとって、妹としてではなく女性として大切な存在だ。 もちろん、ここまでくるのに色々な葛藤があった。障害もあった。紆余曲折もあった。一言では語りつくせないほど、多くの出来事があった。 だって、俺たちは血の繋がった兄妹なんだから。普通に男と女がくっつくのとは、わけが違う。 だが俺たちはそれを乗り越えた。その果てに手に入れた今の生活に、不満などあるわけがない。 「ちょっとー。いつまで待たせるの? モタモタしすぎ」 「うっせー。買ったばかりなんだぞ、これ。説明書読みながらなんだから、少しは大目に見やがれ」 「はいはい、言い訳はいいからさっさとやる」 「ったく……」 カメラを前に四苦八苦する俺にぶつくさ文句を言う桐乃だが、その顔はほころんでいて傍目にも幸せそうであることがわかる。それに言い返す俺も、きっと似たような表情なんだろう。 結局、俺たちの関係は両親には認められず、勘当を言い渡された。幼い頃から育った場所を離れ、知り合いのいない場所に二人で住んでいる。 二人きりの生活は、しかしそれほど苦しいわけではない。学生ながら、桐乃の収入もけっこう……というかかなりあるからだ。読モの収入だけでなく、携帯小説の印税もいまだに入ってきているのだ。 対して俺の収入は、コンビニのバイトだけなので微々たるものだ。収入面で彼女に頼りきりというのが彼氏としてあまりに情けないので、バイトを辞めるということだけは意地でもやらないが……くそ、いつか逆転してやる。 「あら、高坂さん。お写真ですか? 仲いいわねぇ」 「あ、山田さんこんにちは」 「こんにちはー」 頭の片隅で自らの収入について秘かな決意を決めていると、横合いからご近所の山田さんが声をかけてきた。俺は手を止めて挨拶を返し、桐乃もそれに倣う。 そして二言三言と言葉を交わしてから、山田さんは去って行った。始終柔和な笑みを崩さず、とても優しいおばちゃんである。 この町では俺たちは、兄妹ではなく夫婦という扱いだ。新しく付き合いを始めたご近所さんたちに、桐乃がいきなり「あたしたち、夫婦なんです」とか言い出したのが原因だ。 二人で同じ苗字を名乗る理由としては、俺は嘘を交えずに兄妹だと言うつもりだったが、今ではそれを言わずに正解だったと思う。その後で俺たちの関係が近所にバレてしまえば、白い目で見られるのは確実だからだ。 そんなリスクを考えれば、多少無理があっても夫婦と言ってしまった方が面倒がなくなる。「学生結婚なんて大変でしょう?」とか「幼な妻テラウラヤマシス」とか言われ、なんだかんだでもう馴染んでいることだし。 周囲に兄妹と言って恋人であることを隠すのと、周囲に夫婦と言って兄妹であることを隠すのと、どちらが気が楽なのか――そんなこと、改めて考えるまでもないことだった。そこに思い至らなかったかつての自分の浅慮には、失笑しか沸かない。 思えば、親父たちが俺たちを二人とも勘当したのは、このためだったかもしれない。俺たちを引き裂こうとするならば、俺だけを遠ざければいいだけなのだから。 あの素直じゃない親父のことだから、真実がどうあれ絶対否定するだろうことを考え、クスッと笑みがこぼれた。 「どうしたのよ、いきなり笑って。キモいんですけど」 「いや、この写真を親父に送ったら、どんな顔するかと思ってな」 そう言うと、桐乃は数秒だけ考え込み、おもむろに含み笑いをこぼした。 そんなことをしているうちに、ようやっとカメラのタイマーセットが完了した。俺は急いで桐乃の隣に駆け寄り、二人寄り添ってカメラに向けて微笑んだ。 パシャリ、と音が鳴って俺たち“三人”の姿がフレームに収まる。 「ほんと、これ送ったら親父もお袋も腰抜かすぜ」 「ふふ……そうだね。兄貴……ううん、京介」 「ん?」 「あたし、今……幸せ、だよ?」 「俺もだ」 言って、俺たち二人は笑い合う。 そんな桐乃の腕の中では、生まれたばかりの俺たちの赤ん坊が、すやすやと眠っていた。 END -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1541.html
707 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/08/08(水) 17 01 33.18 ID l1mV47um0 (※僕は友達が少ないのパロディSSです 桐,京,黒,あ,加,ブ,リ,瀬) 「―――んぱい。正気に戻ってください高坂せんぱい。・・・えい」 バサッ 「~~~~~~!?」 俺の視界に、筋肉質の男達がくんずほぐれつしている絵が入り、 朦朧としていた意識は一気に現実に引き戻された。 無論、くんずほぐれつというのは出来る限りソフトにした表現だ。 そのガチムチ本を俺に見せ付けてきた犯人は隣に座っていた。 「ふふふ・・・お兄ちゃん以外で簡単にイかせはしませんよ、高坂せんぱい」 一見真面目そうな委員長風の眼鏡っ娘―――赤城瀬菜は、 どこか狂気を孕んだ、ひきつった薄ら笑いを浮かべながら、息も荒くそう言った。 「・・・楽しい幻覚を見ていた・・・」 遠い目をして俺は言う。 「ど、どんな妄想だったんですかっ!やっぱりお兄ちゃ―――」 「あやせと黒猫が笑顔で戯れてた」 「ありえない光景ですね」 「ありえないとまで言うか・・・」 だが、まあ瀬菜の言う通りだった。 あの二人が仲良く笑顔で遊ぶなどあり得ない。 げんに今だって、 「そろそろ辛くなってきたでしょう?降参したほうが身のためですよ・・・」 黒髪の美少女―――新垣あやせが、血走った目をして言う。 「ククク・・・あなたこそギブアップしたら?息があがってるわよ」 これまた黒髪の美少女―――五更瑠璃、通称黒猫が、 あやせと同じく血走った目で狂気に満ちた笑みを浮かべる。 ・・・現実の俺たちがいるのは地獄だった。 このイベントが始まる前までは小奇麗だった俺の部屋。 全部で8人の人間が、部屋の中央に置かれたテーブルを囲んでいる。 テーブルの中央には、密封されてるにもかかわらず異臭を放つ、何枚かの布切れ。 俺の右隣には瀬菜が座り、左には『あるちゃん』のコスプレをした金髪の少女と、 褐色の肌を持つ元気そうな少女が折り重なるように倒れている。 金髪の少女はブリジットちゃん。褐色の少女がリア。 「・・・めるちゃん・・・めるちゃん・・・魔星物が、魔星物が来るよぉ・・・」 「お兄ちゃんどいて、そこ走れない・・・」 どちらも悪夢にうなされているらしく、苦しそうな顔でおかしな寝言を言っている。 瀬菜の隣には黒猫。 ブリジットちゃんとリアの隣には桐乃。 そして、その隣にはあやせ。 あやせと黒猫の間に挟まれるようにして埋まっているのは、メルルコスをした少女―――加奈子。 加奈子は黙々と機械的に、布切れを机と鼻の間で往復させている。 往復させているだけで、さっきから何も嗅いでいない。 加奈子の目は焦点を失い完全に死んでいた。 「加奈子・・・おまえまで逝ったか・・・」 鎮痛な面持ちで俺は呟いた。 「ほら、お兄さん。お兄さんも嗅いでください・・・」 「ククク・・・早くしなさい。勝負はこれからなのだから・・・」 あやせと黒猫がともに目に狂気を浮かべて俺に言った。 「うう・・・」 俺は泣きそうな顔で、手を机の上の布切れに伸ばす。 机からは、甘いような臭いような酸っぱいそうな、 とにかく異常な不快感をもたらす異様な匂いがただよっている。 「・・・なあ、これ本当に大丈夫なんだよな?」 「はぁ?あんた何言ってんの?大丈夫どころか体にもいいんだよ!? これまで15年間嗅ぎ続けてきたあたしが言うんだし、間違い無いにきまってんじゃん!」 完璧な自信をもって、桐乃が答える。 俺たちが何をやっているかといえば―――『兄ぱんくんか』だった。 ことの発端は数日前。 このメンバーが家に遊びに来た際に、桐乃がうっかり盗んだ兄ぱんを落としてしまい それをあやせたんがたまたま見て「なんでお兄さんのパンツなんて集めるの?」と言った。 それに対し、桐乃は「兄ぱんって美容にも健康にもいいし、とっても気持ちがいいんだよ!」 などと言い出した。 俺は悪い予感しかしなかったのだが、「美容」と「健康」あたりが女性陣の琴線に触れたのか、 結局皆で嗅いでみようという話になってしまったのだ。 ・・・そして現在。 桐乃が楽しそうに何処からか持ってきた俺のパンツはえもいわれぬ悪臭を放ち、 その見た目と、前に俺がはいていたという事実も相まって、世にもおぞましいものへと成り果てていた。 みな楽しそうにしていたのは、桐乃がパンツを持ってくるまでで、 ごく一般的な部屋の匂いが異臭に変わり始めると全員の顔から笑顔が消えた。 みんなでいっせいに兄ぱんを嗅ぐごとに、場の雰囲気は険悪化。 ブリジットちゃんとリアの年少組は開始10分でダウン。 特にあやせと黒猫は、 「あ、あなたが兄ぱんくんかなんて漫画を書くから・・・!」 「そもそもあなたが『なんで集めるの』なんて質問するから!」 ・・・こんな感じで責任を押し付けあう始末。 いつの間にか『最後まで生き残ってた人が俺との相性が最高』 という意味の分からないルールが決まっていた。 そして今また、加奈子が逝った。 幸いにして俺は『10才誕生日記念』とか『おにいちゃんとのはじめてのでーと(5さい)記念』とか、 比較的まともなパンツばかりを引き当てて生き残ったのだが、 さっきは部屋中に充満する不快な臭いのせいでトリップしてしまったのだ。 『自分のお兄ちゃんで経験済み』瀬菜も幸か不幸か生き残ってるが、その目は既にヤバめ。 俺と瀬菜は同時にパンツを取り、鼻に当てて一気に臭いを吸い込む。 ・・・臭いそのものはキツイが、これなら嗅いだことが・・・ただの・・・ ただの、なんだこれ・・・アンモニア臭? 一方、瀬菜は何かヤバいものが当たったらしく、 「・・・あたしの記憶からすると、この臭いは・・・・・・・・・ お兄ちゃんの部屋のティッシュ」 それっきり瀬菜はぴくりとも動かなくなった。 「・・・おい、なんだよ、ティッシュの臭いって!?」 やっぱり兄ぱんくんかなんて、俺の妹だけがしていいものだったんだ。 俺の妹じゃない娘たちが手をだして良いジャンルじゃなかったんだ・・・ なぜあの時止められなかったのか・・・ 俺が後悔していると、 「では次ですね・・・」 「わかってるわ・・・」 互いに脂汗を流しながら凄絶な笑みを浮かべあやせと黒猫が睨み合う。 俺も仕方なくパンツをとり、三人一緒に鼻に当てる。 揃って息を吐き出し、鼻から吸って――― 「・・・・・・・・・ぉ・・・ぉ・・・ぉ・・・・・・・・・っ」 白目を剥いて、黒猫が逝った。 それを間近で見ていたあやせは一瞬だけ勝ち誇った顔を浮かべた直後に顔を蒼白にし、 「・・・う・・・・・・ぅえっ・・・・・・」 緊張の糸が切れたかのように倒れこむ。 「うわっ、ちょ、お前らほんとに大丈夫か!?」 ちなみに頭が大丈夫でない事は重々承知している。 ・・・う・・・俺のパンツの臭い・・・汗くせぇ・・・ 俺まで逝きそうだったので、慌てて部屋の窓を換気し外の空気を吸う。 「ちょっと、あんた何してんの?匂いが逃げちゃうじゃん」 そして一人満足そうに兄ぱんを嗅ぎ続ける桐乃をどうにかするために、桐乃をつれて部屋を出た。 どうしよう・・・あいつらにちゃんと報告できるかな・・・ End. ----------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1380.html
103 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/02/05(日) 22 13 18.76 ID KYR8WtVa0 [6/8] どうやら昨夜カーテンを閉め忘れて眠ってしまったらしい。差し込む陽光に堪えきれず目を開けた。 気だるく体を起こし、時計を探して愕然とする。 そうだ、俺は一人暮らしを始めたんだった。 枕にも慣れて来たし、誰にも小うるさく言われる事の無い環境は有難いが、やはり違和感は拭えない。 家族から解放されたぞ! という開放感よりも、今の俺には喪失感の方が大きく感じる。 朝起きても朝飯はなく、帰ってきても夕飯はない。冷蔵庫に麦茶は冷えていないし…… 無論、隣の部屋に桐乃もいない。 暮らしているアパートは実家からさほど離れているわけではない。 どころか、この距離で一人暮らしって意味があるのか? と問いたくなるほどに近い。 だが、俺には一人暮らしをしなければならない理由がある。 そして、その理由こそが問題なのだ。 ある日お袋が、親父のいない時に俺と桐乃をリビングへと呼びつけた。 家族会議ってんなら親父がいないのは不自然だし、どうも意図の見えない呼び出しだったが、何となく嫌な予感がしたのを覚えている。 お袋に呼び出された俺達は並んで座らされ、心なし目の据わったお袋に見下ろされる形になった。 「あんた達、最近ちょーっと仲が良すぎないかしら?」 その言葉は、予想していなかったわけではない。 いや、最近のお袋は俺達2人を見て思わし気な溜息をつくことすらあったので、ある意味予感的中ってヤツだ。 なのだが。 俺達2人は、示し合わせたように曖昧な笑顔を作ることしか出来なかった。 以前と比べたら、誰に問い詰められても不思議はない程度に仲良くなっている自覚があったからだ。 その表情を見て、深ぁい溜息をつくお袋。 「まあ、一時期みたいにいがみ合ってるより私はいいと思うんだけどね……ただ、京介がおかしな間違いを犯さないかが心配で……」 などと言う、恐らく半分本気であろう言葉に、俺はついつい声を荒げちまった。 「んなことするわけねーだろ。桐乃は俺の妹だぞ」 「……!」 桐乃が肩を一瞬震わせたように感じたが、気のせいだろう。 お袋は俺の事を犯罪者予備軍みたいに思っている節があるからなぁ。ちょっとハッキリさせておきたい。 「俺は確かに桐乃と仲良くなったかも知れねぇけど、おかしなことをしようなんて考えた事もね―よ。そんなに信用してくれないのかよ」 「……くせに」 ん? 「何だ桐乃? なんか、言ったか?」 「あたしが寝てるときにキスしようとしてたくせに。なに常識ぶってんの? ウザ」 「えっ! ちょ、あれは違うって言っただろ!」 俺が慌てて言い訳するよりも早く、桐乃は勢い良く立ち上がってリビングを出て行ってしまった。 あ、あいつ、寄りにも寄ってこのタイミングで暴露する事ねーだろ! 「お、おーい!……あー」 ……とりあえず、残されたのは爆弾発言を受けたお袋と、当事者である、俺。 2人きり。 お袋が一つ咳払いをする。 ゆっくりとした歩調で俺の目の前に歩み寄ると、がっつり頭を掴む。 「京介。ちゃんと説明してもらいますからね?」 俺は初めて、女性の顔に般若を見た。 とまあ、そんなこんなで俺は受験が終わるまでの間、一人暮らしをする事になったってワケだ。 正直親父がOKするとは思っていなかったが、それはお袋が上手く言いくるめたらしい。 いわく、受験勉強に集中したいだとか。 静かな環境を作ってくれれば、絶対に合格してみせるだとか。 俺が言い出したら病気かと疑われるレベルの殊勝なその申告を、疑いもせずに受け入れてくれたのだそうだ。 なんとも子供思いの親父を持って……幸せな限りだ。 とにかく、今の俺はそういう事情がある為、安易に実家に寄り付けない。 お袋は流石に少し責任を感じているのか、2,3日に1度様子を見に来るし、夕飯を置いていってくれたりもする。 だが、その際にも「とにかく受験までの間、勉強をしっかりして頭を冷やしなさい」などとお小言も一緒に置いていくのだ。 勘弁してくれ。 大あくびをかまして起き上がる。 視線の端に、何か光る物が映った。 あれは、ケータイ? ケータイが、光ってる。着信? メール? もしかして……! 俺は転がるようにテーブルにたどり着き、即座に受信表示を見る。 『メール受信 沙織・バジーナ』 その名前を見たとたん、体から熱が引いていくのが分かる。 そっか、そういや昨日の夜ちょっと電話したんだったか。言い忘れか何かをメールしたって感じかな。 沙織には悪いが、今俺が見たかった名前は、その名前じゃない。 ――なんだ、桐乃じゃないのか。 そう自然に考えてしまっている自分に、最早違和感すら感じない。 一人暮らしを始めてからというもの、桐乃のことばかりを考えるようになってしまっていたからだ。 お袋に左遷を告げられた直後は、まぁ確かに勉強には集中出来るかも、とか考えている余裕もあった。 だが、その日の夜にもなれば全然駄目だった。 桐乃の声が聞きたい。 留学の時だって耐えられたんだから、暫くの間なら大丈夫だろう、とか甘く考えていた俺が馬鹿だった。 近くにいるのに、会いに行こうと思えば会いに行ける距離なのに、桐乃に会えない。 それが、これほどに胸を焼く焦燥になるだなんて、俺は全く想像出来ていなかった。 「クソッ」 舌打ちをして、ケータイを布団に放り投げた。 と、同時。 『ピンポーン』 鳴り響くチャイム。 誰か来た。 誰だ? お袋はいつも夕方に来る。なら違う。麻奈実か? いや、あいつにはまだこっちの住所は教えていない。 なら、誰だ、誰だ。まさか。 まさか。 頭の中をパニックにしながら、インターホンで確認する事も忘れて玄関へと走った。 扉を開けようとして、カギがかかっている事に気付く。 もどかしい。 かじかんだ手でカギをひねり、勢い良く扉を開けた。 「おはよう御座います、京介氏。朝早くからお元気ですなぁ」 口を ω ←こんなふうにした沙織が立っていた。 「今日はお前のせいで、二度も期待を裏切られたぞ、沙織」 沙織を部屋へ通すと、俺は恨みがましく言ってやる。 「贅沢なお人ですなぁ、京介氏は。拙者のような女子を家に上げておきながら、尚も文句があるとは」 言葉の内容とは裏腹に、沙織は温かい笑顔で受け入れてくれる。 相変わらず憎んでも憎みきれない、最高にいい奴だった。 「冗談だよ。ごめんな、お前に当たっちまって」 「いえいえ! 京介氏の今のご心境は察して余りある所存。なーんにも気にしておりませんぞ!」 朗らかに笑む沙織に、俺はちょっとだけ救われた気持ちになった。 「それにしても、今日はどうして来てくれたんだ? 何か約束してたっけ?」 「はて? もしかして京介氏はメールを御覧になっておりませんか」 言われて初めて、沙織からのメールの内容を確認していない事に気がついた。 「すまん。確認してなかった」 「ははぁ、どうやら今の京介氏は、きりりん氏の事以外は頭に入らない状態のようですな」 メガネにさえぎられた表情が悪戯に輝く。 「すまん。悪気はなかったんだが、この数日、一度も顔を見せやがらないから、ちょっと心配でな」 「いえいえ。かくいう拙者も実は、余りに京介氏の元気が無さそうだったので来てしまったクチでして」 さらりと言ってのけたが、マジかこいつ。 昨日確かに沙織と電話をしたが、一人暮らしが快適だーぐらいのものだ。 その会話の中で、俺が無理しているのを敏感に察して、元気付けに来てくれたってのか。 なんて、なんて。 なんて友達甲斐のある奴だろうか。 「バレバレってワケか」 「ええ。京介氏はいつだってバレバレで御座るよ。ニンニン」 「それにしたって、沙織1人ってのは珍しいな。黒猫は一緒じゃないのか?」 「ええ。黒猫氏は……なんと言いますか、お2人と色々ありました故、ご相談に乗るなら拙者1人が好ましいかと」 内緒ですぞーと唇に人差し指を当てる。 本当に頭が下がる。 これほど、純粋に相手のことを考えて行動できるやつなんて、そうそういない。 やっぱり俺の沙織への好感度はマックスだ。 「じゃあ、お言葉に甘えるとするか」 「そうですぞー。折角の2人きりですからなぁ。この胸に、しかと甘えてよいのですぞ~」 爆発的なボリュームの胸を大きく広げる。 「か、からかうなって!」 「いやぁ、京介氏はかわいいですなぁ」 こいつになら、からかわれて笑われるのも嫌な気分じゃない。 ……が、本題に入らせてもらうことにしよう。 「……で、あいつ、どうしてる?」 「……はい。それもお伝えしたいと思っておりました」 俺に合わせるように、声のトーンを落とす。 「正直に申しまして、あまり元気とは言えないで御座るよ」 「……やっぱりか」 あいつの性格からして、俺を一人暮らしに追い込むような事をして気に病まないはずがないんだ。 以前の俺ならともかく、今の俺はあいつが俺のことを大切に思ってくれてることが分かる。 だからこそ、どうすればいいのか分からない。 「なんで一度も来ないんだろうな」 呟くように問う俺に、沙織は一つ息を吐いて答えた。 「きりりん氏は京介氏と会いたがっておりますよ。あの性格ですから、勿論はっきりとは言わないで御座るが」 「……本当か?」 「もう京介氏も分かっているのではないですか?きりりん氏が怒り出した、その本当の理由を」 「……ああ」 「ですが、きりりん氏も相当迷っておられるようです。ですが拙者、その原因は京介氏にあると思っております」 「……俺に?」 「ええ。きりりん氏としても、今回の事は責任を感じております。黒猫氏も大分キツイ言い方をしておりましたからなぁ」 「まぁ、そうだろうな」 「ですが、根源はそこでは無い。きりりん氏が、今京介氏の心中をどのように考えていると思っておりますか」 「は? 俺の心中?」 考えた事も無かった。 桐乃を思う俺の気持ちをどうにかする事だけで精一杯だった。 どう考えているのだろうか。 言われてみれば、引越の直前、桐乃とは満足に言葉も交わしていない。 桐乃がまだ怒っていたのか後ろめたさからか、部屋に篭っていたというのも一因ではあるが。 「よぉく思い返してくだされ、京介氏。京介氏は母君に何と言い返し、どのようにして家を出られたか。そして、それを見たきりりん氏が どのように考えるか」 「おかしなことなんかするわけねーって言い返して、あとは粛々と従ってただけだぜ?」 「そうです。それを見て、きりりん氏は自分がどうするべきだと考えるでしょうか?」 「……あ、そうか」 桐乃から見たら、俺はただお袋の言い分に納得して出て行っただけだ。 俺がどんな気持ちでいるか、どんな葛藤と戦っているか、そんなもの分かるはずがない。 桐乃から見れば、今の俺は。 『妹に対してそんなことをする気がないし、勘違いもされなくないから、一人暮らしを受け入れている』 これじゃあ、桐乃から会いに行こうなんて思えるはずが無いじゃないか。 俺の無神経さが、あのときの桐乃を怒らせたんだ。 今なら分かる。俺は、桐乃の気持ちを何にもわかっちゃいなかった。 俺は、最低の大馬鹿野郎だ。 「まぁ、このように京介氏を独り占めできるのも、拙者としては捨て難いで御座るが……」 「……お前な」 「ははは、冗談で御座る♪……お2人が寂しそうにしているのを見るのは、やっぱり辛いで御座るよ……」 寂しそうに笑む沙織。 本当に、かなり心配をかけてしまっていたらしい。 「京介氏。お母君の仰る心配は確かに理解出来ましょう。拙者にも、一体何が正しいのかはわからないで御座る」 「……ああ、そうだよな」 「ですが、だからこそ。お2人にとっての一番良い選択というものは、お2人にしかわからぬもの」 「俺たちの選択……」 「きりりん氏はどうして怒ったので御座るか? 京介氏は今、どうしたいんで御座るか?」 「やりたいことなら、ある。燃え上がりそうなくらい、強いのがある」 燃え上がるほど、焦がれるほど、俺の胸には求めている物がある。 「そうで御座る。京介氏は今までどおりで良いのです。今までどおり……」 「京介氏の信じた正義を、貫いてくだされ!」 俺はおもむろに立ち上がる。 最早迷いは無い。 「沙織、世話になったな」 「京介氏」 「ん? なんだ?」 「先ほどまでとは目の色が変わりましたな。その自信に満ちた表情、拙者、惚れ惚れするばかりですぞ」 「お前のお陰だ。ありがとう」 「いえいえ! 京介氏のかっこいい姿を拝見できましたので、十分で御座る♪」 俺はアパートを飛び出した。 向かう先は、言うまでもないよな。 行きたくても行けなくて、会いたくても会えなくて、話したくても話せなくて……伝えるべき言葉すら、飲み込んでいた。 素直じゃなくて、かっこよくて、誰よりも優しくて、強くて、だけど本当は弱い。 桐乃のもとへ。 俺が行かないで、誰が行くんだ。 勢い良く玄関のドアを開く。 リビングの奥からお袋の声。無視する。階段を1段飛ばしで駆け上がる。 そして、辿り着いた。 たったこれだけ。たったこれだけの距離だった。 桐乃の部屋の前、深呼吸して息を整える。 ノック。続けて2つ。 返事は無い。ただ、なぜか確信があった。桐乃はこの中にいる。 迷うことなくドアノブをひねる。……カギはかかっていなかった。 ゆっくりと開いたその先には、緑色のクッションを抱いた桐乃が座っていた。 エロゲーに目を輝かせてなどいない、勝手に部屋を覗いて怒る事もしない。 ただ目の前にあるものが信じられないと言うように、目を見開いて俺を見つめていた。 「な、なんで? あんた、なんであたしに会いにきてんの?」 涙が浮かぶ瞳。 「桐乃っ!」 俺は桐乃に駆け寄り、正面から抱きしめた。 俺は最低なヤローだ。 デートの件では桐乃の真意を何にも分かってやれず、黒猫の件ではすげぇ苦しい思いをさせた。 そして今回。俺の無神経な言葉で、桐乃はずっと悩みつづけていたんだ。 だからこそ、もうこいつには泣いて欲しくない。 「ちょ、あんた、え、ちょっ……!?」 「俺が悪かった。俺は言い訳ばっかりしてた」 「え?」 真っ赤になって暴れていた桐乃が、はたと動きを止める。 「兄妹なんだからおかしいとか、仕方ないとか。そんなことばっかり考えてたんだ」 「ん……あ、そ。いーんじゃないの? 兄妹なんだしさ」 拗ねたようにそっぽを向く。 そうだよ。桐乃はいつだってこんなに分かりやすい奴だったじゃないか。 俺は今まで、一体何をしていたんだ。 「でも、もうやめだ」 「は?」 「俺の本当にしたいことをする事にしたんだ」 「なによ、本当にしたいことって……」 「それは、お前を」 ……桐乃を。 「俺の物にする!」 時が止まる。 たっぷり3秒の間を置いたあと、桐乃が叫び出した。 「はぁああああああああああああああああああああああああ!?」 「俺はあの時、戦うべきだったんだ! お袋の意見と! 俺が桐乃を幸せにする、俺以上に幸せに出来る野郎なんているわけがねーだろっ て!」 「ちょ、京介?」 「勉強なんかに集中できるわけねーだろって! 毎日毎日悶々と桐乃のことばっかり考えて、夜も眠れないほどだったぜ! あーあー、悪 かったなぁシスコンで! だけどな、この感情はシスコンなんかじゃねぇぞ!」 「……な、なによ」 「愛だああああああああああああああああああああああ!」 「うわ恥ずっ!」 「うるせえ! 仕方ねえだろ! 素直じゃなくて、かっこよくて可愛くて、誰よりも優しくて、強くて、だけど本当は弱い……そんな桐乃 が好きになっちまったんだから!」 「きょ、京介……」 「桐乃!」 「ひゃ、ひゃいっ!」 桐乃は口をパクパクさせながら、茹でダコのような顔で俺を見つめる。 「俺の物になれ」 同時に、桐乃の瞳から涙が溢れ出した。 止め処なく溢れる雫が、パタパタとベッドの上に落ちる。 「きっ桐乃?」 「人生……」 「は?」 「人生相談が、あるの」 零れる涙を拭う事もせず、桐乃は言った。 「お、おう」 「京介」 ふっと表情が和らいだかと思うと、急に視界が暗くなる。 そして、唇に暖かくて、柔らかいものが。 頭の中が真っ白になる。心臓の音すら聞こえない、ただ柔らかい感触だけがある。 頭の中がドロドロに蕩かされているみたいだ。ただの唇のふれあいのはず。ただそれだけのはずなのに。 ぷはっという声と共に、視界が開ける。1分? いや、10秒? いや10分くらいしていたかもしれない。わからない。 焦点すら合わない俺を見つめて、桐乃は最高の笑顔で言った。 「絶対、幸せにしてよね!」 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1729.html
962 名無しさん@お腹いっぱい。 2013/06/20(木) 01 07 51.46 ID 3FMU7SMh0 「ねぇ」 「どうした?」 「明日、みんな来てくれるかな?」 「来るさ。おまえが楽しみにしてるのと同じくらいみんなだって楽しみにしてると思うぜ?」 「うん、そうだよね……みんな驚くかなぁ?」 「きっと驚くぜー!なんだかんだみんなで集まるのは久しぶりっつうか……懐かしいよな」 「だね」 明日は俺たち兄妹にとってとても大切な日だ。 俺が高校を卒業し、妹が中学を卒業してから数年が経ち、俺も桐乃もあの頃より少しだけ大人になった。 思えば……あの頃は、本当にいろいろと大変なことがあったな。 だけど、その大変な思い出を振り返るとそこにはいつも桐乃の笑顔がある――― 「社会に出るとさすがに昔みたく集まる機会が減るのは仕方ないよな」 「ちょこちょこ会ってはいるんだけど、みんなで、ってなるとどうしてもね」 「寂しいか?」 「べっつにー?」 「素直じゃねえなぁ。まあ俺はおまえがいればいいんだけどさ」 「……ばーか」 季節は春 明日の話をする前に、少し昔話をしよう。 ……俺と桐乃が、まだ「恋人」だった頃の話。あの三ヶ月を振り返ってみようか――― ※ クリスマスイブに桐乃と恋人になってから、数日が過ぎた。 今日は大晦日で現在、俺と妹はリビングで並んで年越しそばを食っている。 「……なんか豪華だな」 「……エビ入ってるね」 俺たちが驚いているとお袋が嬉しそうに話しかけてきた。 「京介あんた最近勉強頑張ってるでしょ?お年玉の代わりよ」 「ああ……なるほど。お袋、たしかに嬉しいんだが……なぜエビ?」 「あら?いらなかった?なら桐乃にあげれば?」 「うえーっ!やめてよ、お母さん……京介の食べさしなんてキモすぎて食べれるわけないじゃん!」 んだとコラ。 失礼なやつだ。内心では『お兄ちゃんのエビ食べたいよっ!』なんて、思ってたりするんじゃねーの? ったく、素直じゃねー彼女だぜ。 まあ、こういうところも可愛いと思えてしまう俺は重傷患者なわけだが。 などと考えていると、桐乃がこんなことをいってきやがった。 「なにニヤニヤしてんの……キモッ」 「…………」 フッ――前言撤回。 やっぱり、俺の妹は可愛くねえ。まったく、一ミリたりとも。 あのさー、お兄ちゃんとしては親バレ回避のためとはいえ、もう少し優しくしてほしいわけですよ。 いちゃいちゃしたいわけですよ。 くそっ……なんとか、桐乃に一矢報いられぬものか……。 そこで、俺は思いついた…………桐乃、俺を怒らせた報いを受けるがいい! 「桐乃、エビいらねーなら食ってやるよ」 「ちょ、まっ……ああっ!?」 ヒョイッパク。 うむ、美味なり。桐乃の味がする……なんて言ったら気持ち悪いかもしれんが、あえて言おう。 「桐乃の味がするな」 「き、きんもーっ!キモキモキモーッ!」 「京介、あんた……」 「何も言うな、母さん」 桐乃に罵倒され、お袋に呆れられ、親父に諦められている。 付き合う前と何も変わってねーな。 親バレ回避のためのいいカモフラージュになったはずだ。 エビを失った桐乃が涙目で見てくるので、俺はこうするしかなかったよ。 「そんなに怒るなよ。お兄ちゃんのエビやるからさ」 「い、いらないっての!ちょっと待っ……」 俺は桐乃のどんぶりに俺のエビを入れてやる。 ちょっとやりすぎたか?怒るかな……と、思っていたが……。 「ばかじゃん……キモすぎ」 と、呟きながらエビをムシャムシャ食べていた。 俺が妹と合法的にイチャイチャする心得を手に入れた瞬間だった。 食後、俺の部屋に移動した俺は……妹に説教を食らっていた。 「さっきのはなんなの!あんたバカァ!?」 どこかで聞いたような罵倒台詞を展開する桐乃。 「なんのことだよ?」 「あ、あんなことしたらお父さんたちにバレちゃうじゃん!」 「なんだ、そんなことか」 「そんなことって……!親にバレちゃったらおしまいなんだよ!?……アンタはそれでいいの……?」 心配症だなあ。ようするに、こいつは俺と別れたくないから親バレに心配してるわけだ。 可愛いじゃねぇか。 結論――俺の妹は世界一可愛い。 「桐乃、おまえの気持ちはよくわかるが心配するな。そんなおまえにとっておきの魔法の言葉を教えてやろう」 「なんなのその自信?あんたがそういう顔するときってだいたいろくでもないこと言うよね?」 「そんなことはない!いいか、よく聞けよ……?『俺と妹のイチャラブが親にバレるわけがない』」 「……そう、なのかな?」 「おう!だから心配することはないぜ?」 「ん~~~っ、なんかあんたの力説を聞いたらそんな気もしてきた……カモ」 どうやら桐乃も俺の超カッコいい台詞に納得したようだ。 こりゃあ間違いなく惚れ直したな。 さて、そろそろ出かけなければ部屋で正月を迎えちまうことになる。 受験を控える高校生としても念入りに合格祈願をしておきたいところだ。 「納得したなら、そろそろお参りにでかけないと正月になっちまうぞ」 「あ、ほんとだ……じゃあ準備してくんね」 「俺もおまえの部屋で待ってようか?」 「……あんたってほんとエッチだよね?」 「恋人なんだから着替えを見るくらいエッチでもなんでもないだろ?」 ていうか、エッチじゃない高校生男子なんてこの世に存在するの? 彼女の着替えを見たいなんて当たり前の要求だと俺は主張させてもらう。 「んなわけないでしょ!ばかっ!エロ!」 「そうかなあ?」 「おとなしくここで待っててよ。絶対覗いちゃダメだかんね!」 そう、念を押して部屋を出ていく桐乃。 鍵かけりゃいいじゃん。 むしろ、これだけ念を押されると覗いて欲しいと言ってるようにしか聞こえんのだが……どうだろう。 俺の桐乃語翻訳によれば『鍵は開けとくから、いつでも来てね。京介♪』 こんなところになる。決して俺がエロいからこういう解釈になるわけじゃない……と思う! よし――――俺は妹の部屋のドアを勢いよく開けた。 「よう桐乃……って、あれ?」 「……覗くなって言ったでしょ」 「あの、なんで着替えてないの?」 「晴れ着なんて一人で着れるわけないじゃん?このエロ」 「くっ………………!」 騙された!ちくしょう……ちくしょおおお! 純情な男子の心を弄ばれた……! 「な、泣くなっての!」 「だってよぉぉぉぉ……!」 「もうっ!ほ、ほら、準備終わったから早く行くよ!」 「う、ううっ……」 くっそお……!この雪辱は必ず晴らしてやるから覚悟しておけよ! 桐乃へのリベンジを俺は固く誓うのだった。 準備を終え家を出た俺と妹は、近くの神社へと向かっていた。 神社に着くころにはちょうど年が明ける頃合だろう。 二人でゆっくりと歩いていると桐乃が聞いてきた。 「てかさ、よく外出の許可もらえたね」 「あー……まあな。俺に任せろっつったろ?」 「お父さんになんて言ったの?」 「桐乃が合格祈願をしたいって言ってるんだけど、一人で行かせるのは危ないし一緒に行ってくるっつったら余裕だったぜ」 「なるほどねー。結局あたしも受験生になったし、お父さんも心配してるのかな」 まあ、実際のところ、親父には『自分の合格祈願をしろ』……なんて言われちまったけどな。 かっこ悪いからこいつには教えねーけど。 などと言ってる間に、ほどなく神社が見えてきた。 「ありゃ、結構混んでんな」 「えーっ、こんな寒いのに待たされんの?ねぇ、なんとかしてきてよ」 「できるわけねーだろ!」 「ちっ………」 あいっかわらず、この妹様は無理難題を要求してきやがる。 しかし、寒いのも事実だ。――こいつの服装はスカートだしな。ふむ、たしかに寒そうだ。 そこで、俺はこんな提案をした。 「甘酒でも買ってこようか?あったまるぞ」 「あ、あんたまさか……あたしを酔わせてエッチなことするつもりじゃ!?」 「しねぇーよっ!なんでおまえはいつもいつもそうエロい解釈しかできないの!?カラダがあったまるからって言ったろ!」 「ふ、ふんっ!あんたが『俺のカラダで桐乃をあたためてやるよ……』みたいな言い方するからじゃん!」 「新年迎える前からぶっ飛んでんなあ、おい!」 神聖な神社が台無しだよ!どうして、こいつの思考回路はエロい方面にしか働かないの? 神様……どうか、桐乃の煩悩をお鎮めください……。 今年の願い事が決定した瞬間であった。 「おい、次だぞ。ちゃんと願い事は考えてきてんのか?」 「あたりまえでしょ。あんたこそしっかり合格祈願したほうがいいんじゃない?」 「へっ、おまえがくれた御守りがあるからな。そっち方面は大丈夫だろ?」 「……あっそ」 順番が回ってきた俺たちは五円玉を二枚ずつ放り込み、カランカランと鈴を鳴らし、念入りに拝む。 俺の願い事はもちろん桐乃のことだ。 神頼みなんてガラじゃないし、俺の願いを叶えるのは俺自身なのだが……まあ、たまにはいいだろう。 頼むぜ神様……どうか桐乃とずっと―――。 目を開け隣を見ると、いまだにお祈りをしてる桐乃が見えた―――。 「なあ、あんな熱心に何をお願いしてたんだ?」 「秘密」 「気になるなあ」 「あのさぁ、願い事を言っちゃったら叶わなくなるんだよ。知ってる?」 「そうなのか?」 「そーなの。だから叶うまでは秘密。そういうあんたはどーなの?」 「……俺も秘密だ」 「ひひっ、あんたって単純だよね~」 「ほっとけ」 叶えば言っちまってもいいんだろ? それまでは俺の願い事は秘密にしておくとしよう。 初詣から帰ったあと、俺たちは甘酒の効果もあり、すぐに眠りについた。 そして、現在の状況を説明すると―――胸元がはだけたパジャマ姿の桐乃が俺のベッドですやすや眠っている。 「……………」 「むにゃ……」 ありがとう神様。さっそく願いが叶ったよ! では、さっそく……………いや、待て。……落ち着け、俺。そして、落ち着け俺の海綿体……。 また狸寝入りで俺を試しているのかもしれん。こいつはそういう女だ。 ここで選択肢を間違えると、また、怒られてしまうことは確定しているぞ……! いいのか京介?やれるのか高坂京介? 「桐乃さーん……?」 「すぅ……すぅ……」 ふむ……完全に寝ているように見える。 いけるか?……いや、これは昨日のリベンジだ。ここで果たさなければいつ果たすというのか! まずは様子見だ。 「ぷに……」 「う……ん」 ほう、なるほど……やわらかい。 どうやら、甘酒の効果はバツグンだったようだな。 気を大きくした俺は、服の上からではなく直につついてみることにした。 「起きるなら今だぞ~?いいのか~?……つんつん」 「すぅ……すぅ……」 「おお……っ!」 ……これほどの感動は生まれて初めてかもしれない。 例えるなら、まるで、桐乃山を登っているようだ。 この調子で山頂部分を踏破しなければならないだろう。――恋人として。 だが、チキンハートの俺にはガッツリ勝負に出ることはできないからな、少しずつ歩を進めていくしかない。 ……そう、思いながら三合目辺りをつついていたときだった。 「…………」 「…………」 パッチリおめめの開いた桐乃と目が合ってしまうという事故が起きた。 山の天気は変わりやすいらしいからな……初心者の俺に見抜けなかったのも無理はない。 「ふっ、おはよう桐乃。愛してるぜ」 「…………あ、あああ、あ、あんた!い、いま」 「おい、勘違いするな。俺は何もしていない」 「うそつくなっ!あたしの、む、胸さわってたじゃん!」 「さわってない。マジで」 「嘘乙ッ!ふ、服もはだけてるし……脱がそうとしてたんでしょっ!」 「違う!それは最初からだった!服は俺のせいじゃない、これはマジだ!」 「それは……?てことは、胸さわってたのは認めるんだ?」 どうすればこいつの誤解を解けるんだろうか? 俺は山を登ってただけなのにっ! 誤解されたままなのも嫌なので、弁明はしておくべきだろう。 「桐乃。ちょっと、手ぇ貸してみろ」 「は?ちょ、なにっ……!」 俺は強引に、顔を紅潮させた妹の手を掴むと―――俺の胸へと導いた。 「フッ……これでおあいこだな。どうだ、お兄ちゃんの胸はあったかいだろう?」 「な、ななな、なあ――ッ!?」 桐乃の顔はさらに真っ赤になっていく。 ウブだなあ。 「好きなだけさわっていいぞ。俺はおまえに胸をさわられたって気にしないからな」 「――――」 この後、俺がどうなったのかはご想像にお任せするが、ひとつだけ主張させていただきたい。 俺が妹にエロいことなんてするわけがないからな。 ―――さて、そろそろ話を戻すとしよう。この「恋人」期間を終えた俺たちが、今どうしているのか。 俺たちの卒業式……二人きりの結婚式から数年が経った。 俺と桐乃は今、クルマに乗って、ある場所へと向かっている。 「ねぇ、そういえばさ、どうしてこのクルマにしたの?」 「ん?前に言わなかったか、おまえがまだ読モやってるときに千葉マツダの宣伝見て欲しくなったって」 「や、そうじゃなくてさ。あんたセダン欲しそうにしてたから、ワゴン選んだのはちょっと意外」 「悩んだんだけど、やっぱ人数が増えるとワゴンのほうが便利だろ?親父も喜んでたし」 「お父さんよろこんでたねー。てか、こないだせなちーのお兄さんがうちに遊びに来たとき、すっごいバイク乗ってきてたよね」 「おう、赤城はバイク好きだからな。あれ見てると俺もバイク欲しくなったわ」 赤城曰く、『妹を乗せるならアメリカンがベスト!』――だそうだ。 たしかに、アメリカンで優雅に二人乗りするのは魅力的ではある。 だが、俺としてはネイキッドタイプのほうが密着できると思うんだけど、どうだろうか? 「あ……エッチな顔になってる」 「な、なってねえよ!」 「ほんとにぃー?京介って考えてることがすぐ顔に出るからね~。あやしい……」 「ぐっ……」 やれやれ、あいかわらず妹の尻に敷かれてる兄貴なのである。 だけど俺はあの頃と変わらず、こんな日常が続いていけばいいと思っている。 かつての非日常は、今の俺の日常で、この暮らしを俺はとても気に入ってる。 きっと、桐乃もそうだろう。 しばらく走っていると、仲間たちとの待ち合わせ場所が近づいてきた。 「なあ、桐乃」 「ん?」 「あのときの願い事は叶ったか?」 「あんたと同じ」 「……だな」 聞くまでもないことだ。 俺たちはこれからもずっと一緒なのだから。 そして、想い出の場所に到着した俺と桐乃はクルマから降りる。 そこには見慣れた顔があった。 「何をグズグズしていたの?待たせないで頂戴」 「おお、新郎新婦のご到着ですな」 「わあ、桐乃あいかわらず綺麗だね。――ふふっ、お兄さんなんかにはもったいないです」 「さっさとよー、ケーキニュウトウ?ってのやっちまえヨ」 俺と桐乃は顔を見合わせ笑い合う。 仲間たちの変わらない優しさに感謝しながら。 「じゃあ、はじめっか。俺たちの結婚式を、さ」 「うんっ!」 ―おしまい― ----------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/718.html
※編集者注 48-50では未完結のもの。完成版はアップローダーより。174がリンク代行。 48 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/05/21(土) 00 33 15.37 ID dU8gWvMg0 [1/4] その日あたしは一日中落ち着かなかった。昨夜から気になって仕方がないことがある。 早くそれを確かめたい。放課後が待ち遠しいなんて本当に久しぶりだ―― 「ねぇ、桐乃、今日は部活休みだったよね?一緒に帰ろ」 「あ、ごめんあやせ、今日はちょっと寄るところがあるんだ」 「え?どこに行くの?」 「市役所にね、書類取りに行かなくちゃなんないの」 「そうなんだ」 「時間かかるみたいだし付き合わせるのも悪いからサ」 「うんわかった、じゃあまた明日ね」 「うん、また明日」 ――そしてあたしは市役所に向かう。 あの時なんでも自分で用意していればこんなに気になることもなかった。 だけど『それ』があたしを駆り立てる、期待してしまう―― アメリカ留学の時、あたしはお金のことでお父さんを説得するのに精一杯でパスポートのことまで手が回らなかった。 そしてそれを用意してくれたのはお母さんだった―― 親心?うん、普通はそう思う。だけどあたしは一つの仮説を立てた。 もしも『あたしに見られたくないもの』があったとすれば? パスポートをとるには戸籍謄本が必要になる、そして当然、その書類には記載されてるものがある。 昨夜クリアしたエロゲで知ったなんて人には言えないけど、養子、実子の記載がある。 あのゲームのヒロインはそれを知ってついに兄への思いを告げた――そしてハッピーエンドだ。 妹ゲーで義理だなんて邪道だって言う人もいるかも知れないけど、あたしはこの際どっちでもいい。 あのヒロインたちが幸せになれるんなら…… もしあたしか兄貴のどちらかが養子だったなら? うちの両親なら…ううん、そうでなくても普通なら子供が成長するまで黙ってると思う。 特に、あたし達みたいに気が付いていないなら当然だ。 あの時お母さんがあたしの代わりにパスポートを用意してくれたのはきっと…… 「あの、すみません…」 市役所に着いたあたしは案内窓口で説明を聞いて、目的の物を取りに行く。 でもさ~、市役所に書類取りに行くとかもらいに行くとかいうけど、 お金かかるんなら『買いに行く』が正しいと思うのはあたしだけじゃないよね? 長々と待たされる時間もなんとなくワクワクしてて楽しい―― もし、本当に養子だったらあいつどんな顔するかな? どんなタイミングで、どんなシチュエーションで言ってやろうか? ううん、それよりも告白する前に教えるか、後に教えるか、どっちにしよう? あいつのことだからきっと兄貴ぶって平静ぶって一人で悩むんだろうな。 でも大丈夫、あたしがそばに居てやるからサ! あたしの持ってる番号札の番号が窓口の電光掲示板に出る。 颯爽と駆けつけてお姉さんから戸籍謄本の写しを受け取る―― 「……………あたしって……お茶目さん……」 あの女のことバカに出来ないなぁ… ゲームなんかに影響されて、あんな妄想に浸って…… そして、違うってわかって本気でショック受けてるなんて―― 「りっぱな厨二病じゃん」 書かれていたのは実子の証。 あたしとあいつが紛れもない実の兄妹だっていう証。 二人ともお父さんとお母さんの子供なんだっていう現実―― 目の前が真っ暗に見えるような絶望感――これはあたしの想いの裏返しかな… 国道を渡る歩道橋の上から周囲を見渡す―― 色んな人がいるのに……たくさんの人がいるのに…… なんであたしだけがダメなの?なんであたしには最初から資格がないの? あの人もこの人もあやせも加奈子も黒猫も沙織も!地味子にだって! あいつの…京介の隣にいる権利が、そうなれる資格があるのにっ! なんであたしだけ……妹っていうだけで……っ!! 「……ずるい」 みんなずるい。なんであたしだけが最初から外されるの? 競争して負けるならまだいい。納得できないかもしれないけど、我慢はできる。 でも、勝負すらさせてもらえないなんて……ずるい…… 吹きすさぶ風が冷たい、頬が濡れてるからだろうか、余計に冷たく感じる―― 次第にあたりも暗くなる。もう帰らなきゃ…… ―――――――――――――――――――― 「コレ、どうしよう?」 冷静に考えればあたしがわざわざこんな書類を取りに行く事情なんてない。 ここ数日、机に仕舞ったままにしていた戸籍謄本の写しの始末に悩む。 変に勘ぐられてもウザいだけだし、破ってから捨てないと…… 「………ふふふ、バカみたい」 冗談で自分の欄にバカげた願望を書き足す。もしもそうだったなら―― 考えても意味がない、ビリビリと破りそのままゴミ箱に突っ込んだ。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 最近、桐乃の様子がおかしい。 数日前、目を赤く腫らして帰って来てから口数も少なければ食欲も無いようだ。 そんな様子だから何かあったんじゃなかろうかと心配もするってもんだろう。 え?なぜかって? ……そりゃ、俺はあいつの兄貴だからな。 とは言っても、普段から邪険にされてる俺としては妹の悩みなんて 想像もつかなけりゃ教えてももらえないわけだ。 俺があいつの悩み相談に乗るなんて、あいつから言い出した時でなきゃ無理なんだよ。 どことなく重苦しい雰囲気の夕飯―― 親父もお袋も桐乃がなんとなく落ち込んでるのは気付いてるはずだ。 なんか、こう、きっかけとかないものかね? 「あ、そうだ二人とも。明日はゴミの日だから、部屋のゴミは今日中に出しておきなさいね」 「ヘーイ」 ま、桐乃と違って俺の部屋からゴミなんてそうそう出ないんだけどな。 あいつは買い物した時の袋や包装のゴミやらなんやらが出るからそれなりだけど…… あ、これ使うか。 「ごちそうさま」 食事を終え、部屋に戻り軽く掃除をした後、桐乃の部屋に向かう。 「お~い桐乃~、ゴミあるならついでにもってくけど、どうする?」 「ベツにいい」 「なんだよ人がせっかく……」 「親切の押し売りなんてウザいだけだし、っていうかなんで勝手に入って来てんの?」 「ちょっとくらい良いだろ、それよりお前なんかあったのか?最近ちょっと変だぞ?」 「別にそんなことない、今まで通り」 「………ならいいけどさ」 いつも通りの悪態をつく桐乃―― 本当にその通りならいいんだけど、そうじゃないことくらいわかるさ。もう少し粘らねえとな。 「ゴミあるじゃん、持ってくぞ」 「あ、ちょっと勝手にさわんな変態!」 「誰が変態だっ!」 「女の子のゴミ箱あさるなんてりっぱな変態でしょ!」 「うるせー!さっさとよこせ!」 「あ、コラっ!!」 強引に奪った為、ゴミ箱の中身が散らばる―― 「わ、わりぃ」 「い、いいからもうあっち行ってよ!」 そういわれても片付けるのが筋だろう。 桐乃を制しつつ散らばったゴミを集めるととんでもないものが目に入ってきた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 兄貴が固まってる―― あたしが捨てた戸籍謄本の写しを見て固まってる―― あたしが書き足した文字を見ての事だろう。 「これ……どういう事だよ?」 「な、なんだっていいでしょ、さっきも言ったけど人のゴミ箱漁るとかストーカーかっての」 「だ、だってお前……」 「いいからもうそれ以上しゃべるなっ!」 よく見れば印刷された文字とボールペンで書き足した文字の違いくらいすぐに分かる。 自分でも馬鹿なことしたってわかってるんだから、これ以上惨めな思いをさせないでよ。 「さっさと捨ててきてよ、そのために来たんでしょ?」 「……お前、このことで落ち込んでたのか?」 「は?」 「いや、だから最近お前が落ち込んでたみたいなのは、この書類のせいなのかってことだよ」 なに?ひょっとしてあたしの書いた文字と書類の文字の区別がついてないワケ? それであたしがショックを受けてるって思ってるの? ――暗い悪戯心が湧いてきた、いつもあたしだけが悩んでいたのって不公平じゃない? そうだ、こいつも悩めばいい。あたしとの関係で悩めばいい。 ……うん。どうせなら言ってしまおう。 勘違いしたままでもいいし、字の違いに気付いてもいい。 ずっと悩み続ければいい―― 、、、、、、、、 「あたりまえじゃん」 あたしは嘘は吐いてない――この書類を見てショックを受けたのは本当のこと。 字の違いに気付かないなら、あたしとの関係に悩むがいい。 妹じゃないんだって思ったら、こいつはあたしにどんな態度をとるんだろう? 字の違いに気付いたら、あたしがどうしてそんなことをしたのか想像してみればいい。 あたしの気持ちに気付いたら、こいつはどういう行動に出るんだろう? 「お父さんお母さんには言わないでね、あたしがこんな事したなんて、二人とも知らないんだから」 そう簡単に逃げ場なんてやらない。こいつ一人で考えてくれなきゃ意味がない。 「わかったよ……」 「……ありがと」 あたしと一緒に悩めばいい、あたしの事だけ考えてればいい。 これからずっと、死ぬまで一緒に、悩んでれば――。 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/825.html
595 名無しさん@お腹いっぱい。 2011/06/16(木) 01 57 53.50 ID 8Daq8bsk0 大妹道士…そう!!おれを呼ぶなら大妹道士とでも呼んでくれっ!! 597 名無しさん@お腹いっぱい。 2011/06/16(木) 02 09 11.76 ID WPAkI/RJ0 さすが大魔王が一目置く男。 どんな困難や障害もメドローアでふっ飛ばしてくれるんだな、胸熱。 601 名無しさん@お腹いっぱい。 2011/06/16(木) 02 40 04.90 ID 8Daq8bsk0 かなかな編 「なぁ糞マネ…加奈子の最後の頼みを聞けよ… おめぇの…好きな奴の名前を言え……」 「え?」 「知ってんだよ、そいつが誰か、加奈子じゃないって事も。それでも糞マネの口から聞きたいんだ… でもって…加奈子をあきらめさせてくれよ」 「お、俺は…俺は…桐乃が好きなんだよぉぉぉぉぉ!!!」 あやせ編 「へっ、セクハラもしてやれない色気の無い死に場所だけどよ… 一緒に行こうぜあやせ、ランちゃんのいる、あの世へさ…」 『神様!人間の神様!天使な私が始めて祈ります! どうかこの変態なお兄さんだけは生かしてください!神様!』 606 名無しさん@お腹いっぱい。 2011/06/16(木) 03 13 50.21 ID 8Daq8bsk0 麻奈実編 「桐乃…桐乃か…。あいつ何枚パンツ盗むのかな… やっぱ俺の妹だから俺と同じくらいかな、それとももっとクンカすんのかな」 「きょ、京ちゃん?…な、なんの話してるのかな?」 「麻奈実…お前とは毎日一緒に勉強したり、同じ布団で寝たりしたよな… それに比べたら、きっと俺達兄妹のスキンシップなんて一瞬の火遊びみたいなもんだ」 「そ、そーかなぁ?」 「さっき、御鏡の話を聞いててさ、思い出しちまったよ、偽彼氏騒動の事を…」 あの時、俺は「妹が嫁に行く」について考え出した。 桐乃が嫁に行ったらどうなるか、どこにいくのか、 考えれば考えるほど怖くなって、俺は涙がちょちょびれた。 桐乃は誰にもやらねー、俺のもんだって泣き喚いた。 そしたらお袋があきれた顔でこう言ったんだ。 『京介、あんたついに妹に手を出したのね』って。 「麻奈実…お前からしたら俺達兄妹のイチャラブなんておままごとだろうよ だけどなぁ、だからこそ結果が見えてたってもがき抜いてやる!! 一生懸命桐乃といちゃついてやる!!! これがシスコンの生き様だ!よっく目に刻んどけよ!!! あとゴメンナサイ!!!!」 orz←京介 609 名無しさん@お腹いっぱい。 2011/06/16(木) 05 59 15.64 ID 5SyLXUGv0 麻奈実が今のはメラゾーマではない的なことをいうシチュエーションを考えたが思いつかなかった 610 名無しさん@お腹いっぱい。 2011/06/16(木) 06 26 03.85 ID hCIlFMZB0 609見てこんなの思いついてしまったじゃないか 「お母様 先立つ不幸をお許しください。私たちは妹と兄 この世で許されぬ愛なら せめて天国で一緒になります……。 桐乃」 611 名無しさん@お腹いっぱい。 2011/06/16(木) 06 54 09.58 ID Zo4PYA5yP 上のを参考に配役を考えてみた ダイ→桐乃 ポップ→京介 メルル→加奈子 ハドラー→あやせ バーン→麻奈実 バラン→大介 ソアラ→佳乃 レオナ→沙織 ヒュンケル→部長 ラーハルト→真壁くん エイミ→瀬菜ちゃん(エピローグ的に) アバン→ランちん でろりん→フェイトさん キルバーン→闇猫 マトリフ→黒猫 ゴメちゃん→神猫 フローラ王女→白猫 いい配役ってわりと思いつかんもんだね 613 名無しさん@お腹いっぱい。 2011/06/16(木) 06 57 51.15 ID 8Daq8bsk0 609 麻奈実「今のは本命じゃないよ・・・義理、なのかなぁ?」 一同『!!!』 麻奈実「同じチョコでも愛情次第で味も食感も全然違うんだよ~」 桐乃「そ、そんな…」 麻奈実「えっと、つまり私の作った義理チョコは、桐乃ちゃんの本命チョコよりずっと美味しいって事…なのかな?」 赤城「きょ、京介はまだ回復しないのか!?」 沙織「ベホマでもきりりん氏のチョコのダメージが回復せんでござるよ!?」 麻奈実「ご、ごめんね、おわびじゃないけどこれ、京ちゃん用に作った、そのほ、本命チョコだから」 一同『こ、これがその想像を絶する美味から千葉ではベルフェゴールチョコと呼ばれる…』 ちゅどおーーーーん!! 616 名無しさん@お腹いっぱい。 2011/06/16(木) 09 15 17.86 ID DB4SpQ+v0 ダイ懐かしいなーw 611 ランちんアバン先生とか大抜擢じゃんw あと部長がヒュンケルは恰好よすぎというか、出番の無い赤城がんばれw 613 大丈夫、きりりんはあと2回パワーアップを残してる 最後は魔人になっちゃうけどw 614 名無しさん@お腹いっぱい。 2011/06/16(木) 07 18 50.43 ID En4gLrt7O 613 桐乃w この大魔王には勝てる気がしないな… 624 名無しさん@お腹いっぱい。 2011/06/16(木) 10 53 49.48 ID PKXV2rXy0 614 その上出会ったが最後、 「知らなかったの? 幼馴染からは逃げられない」 618 名無しさん@お腹いっぱい。 2011/06/16(木) 09 28 33.49 ID fw1dOy6rO キャラコメのあやせ妄想版ベルフェゴールさんはマジで余裕たっぷり穏やか口調で人の心を抉る大魔王だからな…。 619 名無しさん@お腹いっぱい。 2011/06/16(木) 09 41 59.62 ID DB4SpQ+v0 桐乃じゃなくてあやせの妄想版でそれだとすると……麻奈実の素は8巻の姿なのか 穏やかに笑いながら優しい口調で丁寧に急所を突いてくる様子が浮かんで怖い ヤンデレってわけじゃないんだろうけど、やっぱラスボスのオーラあるな 620 名無しさん@お腹いっぱい。 2011/06/16(木) 10 21 25.67 ID tdEAKMb4O 黒麻奈実はこんな感じで桐乃を苛めるのかな 麻奈実「昔も言ったと思うけど、兄妹は結婚できないんだよ」 桐乃「わ、わかってる、それでも京介が好きなの!」 京介「桐乃……俺もだ」 麻奈実「きょうちゃんの選択は桐乃ちゃんを不幸にすると思うな」 京介「そんな事はない!俺は一生桐乃を大事にする!」 麻奈実「うん、わたしは認めてもいいんだけど、世間は認めないと思うんだ」 桐京「………」 麻奈実「それにお父さんとお母さんが悲しむと思うな」 桐京「………」 麻奈実「あとね、きょうちゃんは甲斐性なしだよね」 麻奈実「だから桐乃ちゃんを幸せになんて無理だと思うよ」 京介「………」 麻奈実「きょうちゃんには私しかいないんだよ」 626 名無しさん@お腹いっぱい。 2011/06/16(木) 11 26 05.04 ID tdEAKMb4O 620 今の桐乃なら負けない、いや、負けるな! 桐乃「黙れ!」 京麻「!?」 桐乃「あたしが……あたしが京介を幸せにしてみせる!」 桐乃「あたしは誰よりも可愛く、格好良くなるの!」 桐乃「あたしが世界一可愛いければ、京介が恥かく事もないと思うし」 桐乃「それに勉強もスポーツも仕事も頑張り続ければ、きっとお父さんも認めてくれると思う」 桐乃「それに、いくら京介に甲斐性がなくても、あたしがたくさん稼いでみせるっ!」 桐乃「京介に不自由な思いなんて絶対させないっ!」 京介(………俺ってヒモ?) -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1142.html
159 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/09/22(木) 23 45 13.34 ID DVpV8SRm0 [4/4] 折角の3連休だってのにきりりんスレに事情で 書き込む時間がなくなるのが辛い… 代わりに小ネタ投下でお休みなさいいたしまする 可愛いきりりんが夢に出てきますように ★高坂兄妹はこれだけ仲が良い!という七つの噂 ・キモい!しね!などの罵詈雑言で相手の心をへし折っていたつもりが 逆に大喜びで受け入れられていた…何が起こったのかわk(ry (東京都:J・P・ポルナレフさん) ・強引にKを合コンに誘ったら付き添いで実兄が来てさ。ほんとまいっちゃうよ! しかも殆どの時間は兄妹喧嘩やってて他の男と話しすらしなかったんだってば! (千葉県:Rちんさん) ・一晩ごとにお互いのパンツの枚数が何故か増減するらしいな たまに脱ぎたてを相手の部屋の前に置いているとはけしからん! (千葉県:D・Kさん) ・千葉県には高坂街道と言う謎の名所が存在するってさ そこである兄妹を見かけるときょうd…ゲフン同姓カップルが 成就するらしいってんで今度Sちゃんと行ってみるよ! (千葉県:K・Aさん) ・千葉のマッドシティ…いいえ松戸と言う場所には妹と見れば 見境なく襲いかかる謎のビッチが現れるそうよ そしてそのビッチには妹を魔性の虜にする恐ろしい獣も着いてくるわ (千葉県:R・Gさん) ・なんかさあ。超可愛い妹が大好きなキモい兄貴がいるんだって! そいつは妹が好きで好きでたまらないっつーかもうメロメロ…ってキャ! ちょっと待て!?シスコンなのは認めるがお前脚色しすぎじゃねーか? …まあ、間違いじゃねーけどよ。つかお、おい!抱きつくなって!? (千葉県:どっちもK・Kさん) ・き、兄妹でデートとからぶらぶなんて絶対許しませんからね! 携帯のツーショットは認めてあげます!でも、それ以上は… わたしの(自主規制)に何するつもりだしねェェェェェェェ!! (千葉県:A・Aさん -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1603.html
冬も近付く秋の某日。 無事に模試を乗り越え実家へと帰ってきた俺は、日課になった勉強をするために机へと向かっていたんだが・・・・・・。 「う~む・・・・・・。ダメだな。調子がでねえ」 朝から勉強をしているものの、まったく頭に入ってる気がしない。 いつもならスラスラ解けそうな問題も妙に詰まってしまったりと、どうにも本調子じゃないようだ。 「スランプ、って言うほどでもないんだろうが・・・・・・」 さて、どうしたもんかね。 机の前で腕を組んで考えてみるも、いい考えは浮かばない。 時計に目を向ければ丁度正午よりもちょい前の時間帯。 「・・・とりあえず飯食ってから考えるか」 腹が減ってはなんとやら。。 胃が満たされれば何かいい考えも浮かぶかもしれん。 そうと決まれば部屋に篭ってる理由もない。 早速部屋を出た俺はトントンと階段を下りていく。 ガチャリ、とリビングのドアを開ける。 「♪~♪~」 そこには鼻歌を歌う桐乃の姿が。 休日だからだろう。いつもの制服姿ではなく、桐乃らしいオシャレな洋服を着込んだ姿でソファに座っていた。 気分よさそうに足を組んで雑誌を読んでいる。 いつもながら無防備なやつである。そんな短いスカートはいて足なんて組んでたらパンツ見えるぞ。 どういう理屈か、俺の角度からは見えてはいないのだが。いや、別に見たいわけじゃないけどね。 「よう」 よく考えてみれば、桐乃と顔を合わせるのも朝飯の時以来だ。 朝とは違い、しっかり髪のセットもされている。化粧もしてるか? いつも思うんだが、桐乃に化粧なんて必要ないと思うんだがどうだろう。 返事を期待して声をかけたものの、桐乃といえばチラッとこっちに視線を向けただけ。 『なんでここにいるワケ?』 『うっせ、そんなの俺の勝手だろ』 視線で交わされる会話はいつも通り不毛極まりない。 コレがなければ素直に可愛いと思えると言うのに。 「ねえ」 「なんだよ?」 何か食うもんねえかなと台所へと足を踏み入れようとして、桐乃から声がかかる。 振り向くと、桐乃は足を組むのをやめていた。・・・・・・見れなかったか。 「あんた、勉強は?」 「ああ・・・・・・。なんか調子でなくてな。ちょいと休憩ついでに飯食いにきたんだよ」 「ふ~ん・・・・・・」 なにやら言いたげな態度だが、何かあったのか。 台所を見るとコンロには鍋が鎮座していた。鍋の端にこびりついたものが鍋の中身を物語っている。 カレーか。 「桐乃。お前も食うか?」 「さっき食べた」 「そうかい」 鍋が温まってるのはそのせいか。 おかげで直ぐに飯にありつけるのはありがたい限りだ。 「あんた、午後はどうすんの?」 「勉強してると思うが」 午前のことを考えると、あんまり捗るとも思えないけどな。 「勉強、捗ってないんでしょ?」 「まあ、そうなんだが」 「あたしの経験上、そういう日ってどれだけやっても頭に入らないのよね」 「つってもやらないよりマシなんじゃねえの?」 「効率が悪いって言ってんの。そんな日は下手に勉強するより、何か別のことで気晴らししたほうがいいよ。 そのほうが次の日調子良かったりするしね」 経験者は語るってやつか。桐乃が言うと妙に説得力があるな。 「別のことって言ってもな」 「エロゲーとか」 「しねえよ!」 確かに気はまぎれるかもしれないけどね!? 別のことで頭を悩ましそうだよ! それなら公園に散歩とかの方がましだっつの。 「冗談だってば。何そんなにムキになっちゃってるわけ?」 「お前が変なこと言うからだろうが!」 「んじゃさ」 どうやら話はまだ終わらないらしい。 「ちょっと付き合ってよ」 「あん?」 「あたしがあんたを気晴らしに連れてってあげる。 どうせあんたじゃ、公園に散歩とかじじくさいことしてそうだし」 「余計なお世話だよ!」 今まさに考えてたことを言い当てるとか。なに、俺ってそんなにわかりやすいの? 「なによ。それとも何かいい案でもあるの?」 「それは・・・・・・」 「決まりね。じゃあちゃっちゃと着替えてきて。あんまり時間ないから」 相変わらず強引なやつだな。 しかしまあ、桐乃とお出かけ、ね・・・・・・。 「へいへい。わーったよ。んで? どこに連れてってくれるんだ?」 「仕事」 「は?」 「どうしてこうなった」 俺の目の前に広がる光景。 数々の機材が並び、それの中心でカメラのフラッシュに照らされる着飾った女の子達。 俺の首に下がる、関係者を証明するカード。 俺は今まさに、桐乃の仕事の現場にいた。 「桐乃のやつ、何考えてんだ」 桐乃と一緒にタクシーに乗って連れられてきたのは、冗談でもなんでもなく桐乃の仕事場だった。 桐乃からの簡単な紹介をスタッフにしてもらい、俺は晴れて現場に足を踏み入れることに。 その時に「ああ、君があの・・・」と誰が呟いたかそんな声が聞こえたが、俺がなんだと言うのか。 仕事の仲間の中では一番に着いたらしく、桐乃以外のモデルの子はいなかった。 連れてきたのはいいものの、やはりというか、俺がいることをあまりおおっぴらにはしたくないらしく、桐乃が仕事の 準備に行く際に、あまり目立つようなことはするなと釘を刺されてしまった。。 そんなこというぐらいなら連れてこなけりゃいいのによ 現場の空気になれない俺は、離れたところから桐乃の仕事ぶりを眺めていた。 「・・・すげえ、な」 なんとも情けない話だが、それ以外の言葉がみつからない。 一言で言えば真剣そのもの。カメラマンに言われるポーズを次々ととっていく桐乃に淀みはない。 そこにはプロとしての風格が見える気がした。 もちろん、そこにいるモデルは桐乃だけじゃない。それでも、桐乃はその中でも飛びぬけて輝いて見えた。 「コレがアイツの仕事、か」 自分のことだけじゃない。他のモデルの子のことも気にかけているのがわかる。 休憩の合間に、うまくいかない仲間に声をかけているのは偶然じゃないだろう。 面倒見がいいというあやせの言に偽りはなかったということか。 「・・・・・・」 しかしなんだな、あのカメラマン桐乃に馴れ馴れしすぎね? 顔見知りかどうかしらねえけど、いちいち桐乃に際どいポーズをとらせるのはどういう了見だ。 コレ雑誌の撮影だよね? そんなポーズとらせる必要ねえだろうが! 「あれ? もしかして京介くんかい?」 「あぁん!?」 誰だ? 俺は今スゲー機嫌が悪いんだが。 「ど、どうしたんだい京介くん。まるで鬼のような形相をしてるよ?」 「なんだ、御鏡か」 振り向いた先にはイケメンきのこの御鏡がいた。 言葉が悪いのは俺の機嫌が悪いせいなので許してほしい。 「なんだとはつれないなあ」 「うっせ。それよりなんでお前ここにいんの?」 「仕事だよ。京介くんは・・・・・・ああ、なるほど。どうりで」 「何がなるほどなんだよ」 「桐乃さんの付き添いだよね?」 何が嬉しいのか、ニコニコとした表情の御鏡。 遠くから『お待たせしましたー』との声が聞こえてきた。 目を向けると、新しいスタッフと思われる人たちと、数人の男子の姿が見える。 恐らくあいつらもモデルなんだろう。御鏡に負けず劣らずのイケメンばかりである。 「桐乃さんが気になるのは仕方ないけど、僕のほうにも構ってほしいなあ」 「お前に構ってる暇はない」 ああ!? そこのクソ野郎! 桐乃の肩に手なんてかけてるんじゃねえよ! てめえは何様だ! お、桐乃が離れた。いいぞ桐乃、そのままそんなやつに近付くんじゃねえぞ。 「相変わらず京介くんは桐乃さんのことで頭が一杯のようだね」 「んなワケねえだろうが」 仕方のない人だなあと御鏡の呟きが聞こえるが、そんなものはどうでもいい。 仕事中だというのにこりもせず桐乃にちょっかいをかけるその男モデルに、桐乃も辟易としているらしい。 遠目でもそれぐらいはわかる。 クソ、場所が場所なら割って入るところだが、それで桐乃の仕事を台無しにしてしまってはしかたがない。。 「あ~・・・また彼、桐乃さんに声かけてるのか」 「知ってるのか、御鏡」 「うん。ちょっと前からちょくちょく桐乃さんに声かけてるんだよね、彼。 そんなことしても無駄だよって言っても聞かなくてね。向こうとしても扱いに困ってるみたい」 おいおい、なんでそんなやつをいつまでも放置してるんだよ。 んなやつさっさとクビにでもしてやればいいのに。 「う~~ん・・・・・・そうだ! 京介くん、ちょっとこっちにきてくれないかい? 丁度今美咲さんも来てるんだ」 げ、あの社長も来てるのかよ。 「来てくれたら、もしかしたら彼をどうにかできるかもしれないよ?」 「さあ御鏡、さっさと案内しろ」 「ゲンキンだなあ」 苦笑しつつも、そんなのも君らしいけどね、と俺を連れ立って歩き出す御鏡。 少し離れたところに車があり、そこに美咲社長はいた。 「美咲さん」 「あら御鏡くん。そっちは・・・・・・京介君、だったかしら?」 「は、はい。その節はどうも」 この人苦手なんだよな。何考えてるかわからないし。 「美咲さん、実は折り入って話があるんですけど」 「何? 何か面白いことでも思いついたの?」 面白いことってあんた、社長としてそれってどうなんだ。 「はい。えっとですね・・・・・・」 ゴニョゴニョと俺には聞こえない声量で話し始める二人。 話しながらチラチラとこっちを見るその様子に、嫌な予感がするのは気のせいだろうか。 「なるほど。それはいい考えかもしれないわね」 「でしょ?」 まるで友達のようなやり取りである。 「ちょっといいかしら?」 話が終わったのか、こっちへと近付いてくる社長。 ジロジロと間近で俺の顔を見てくるのに居心地の悪いものを感じる。 「へぇ、似てなくても兄妹ってことかしら。素材は悪くない。これなら・・・・・・」 俺から離れたかと思うと、近くに待機してた人に一言二言伝え、再びこっちに歩いてきた。 御鏡といえばさっきから笑顔を崩してない。何を企んでやがるんだ。 「ちょっと来て貰える?」 「どうしてこうなった」 繰り返すようで悪いが、こう言う以外にどうしろというのか。 「カッコイイじゃないか京介くん。見違えたよ」 「手を加えれば光るとは思ったけど、ココまでとは思わなかったわね」 鏡に映るのは、メイクさんやらスタイリストによって手に手を加えられた俺が写っている。 何でこんなことになってんの? 「それじゃあ行きましょうか」 「行くってどこへ」 「もちろん、現場に決まってるでしょう?」 まてマテmate待て! それはまずいって! 俺今日は目立つようなことするなって桐乃に言われてるんだぞ!? 「ほら京介くん、現場はあっちだよ」 「ちょ、押すんじゃねえよ御鏡!」 「大丈夫だって。美咲さんのお墨付きなんだから何も心配いらないよ」 「そういう問題じゃねえ!」 何とか抵抗しようとするものの御鏡の野郎意外に力が強い。 あれよあれよという間に現場へと連れ出されてしまった。 俺がその場に着いた瞬間、現場がちょっとざわついた気がしたが気のせいだろう。 そんなことを気にしている場合ではないのだ。 き、桐乃のやつは・・・・・・ぎゃーーー!? スッゴイ目でこっち見てんじゃねえか! 目見開いて顔真っ赤してるし! あれ絶対怒ってるって! ってこっち近付いてくる!? 「桐乃さんもお気に召したみたいだね」 「んなわけねえ!」 こいつの目は節穴か? 「ちょっと」 「な、なんでせうか?」 いつの間にか目の前にまで桐乃は辿り着いていた。 ふるふると震えるからだが恐怖を煽る。 俯いて表情が見えないのが尚恐ろしい。 「あんた、何してるわけ?」 「い、いや、俺にもどうしてこんなことになっってるかよくわからん」 「わかんないって―――っ!」 「桐乃さん」 「あ、美咲さん」 爆発寸前というところで美咲社長が割って入ってきた。 正直、助かった。今だけはあなたが天使に見えるぜ。桐乃にはおよばねえけど。 「彼ね、ちょっとそこでスカウトしてみたの」 「えぇ!?」 「今日のサプライズってとこかしら」 「美咲さん好きですもんね」 「あら、今日の首謀者は御鏡君でしょ?」 「ごもっともです」 桐乃と俺を置いてけぼりにしていく二人。 スカウトって、あれがか。 「ということで、ちょっとだけ面倒お願いね」 「あ、あたしがですか?」 「ええ。あ、それとついでに今日は彼とツーショット撮るから」 「そ、そんなの聞いてませんよ!?」 「今思いついたから当然ね。桐乃さんなかなかそういうの撮らせてくれないんだもの。 今日のテーマもデート服だし、丁度いいでしょ? それとも、彼と撮るのはいや?」 「そ、それは・・・・・・」 そこで言いよどむ桐乃におや? となる。 桐乃なら即答で嫌だというかと思ったんだが。 考えること約1分。桐乃が出した答えは 「わ、わかりました」 「そう。無理言ってごめんなさいね。ということで京介くん、あなたは桐乃さんと一緒に行動してね」 「は、はあ」 そう言い残して美咲社長はスタッフとの打ち合わせに行ったようだった。 御鏡も一緒についていったので必然的にその場には俺と桐乃だけになる。 「はあ・・・・・・ホント、なんでこうなっちゃうわけ?」 「むしろそれは俺が聞きたい」 見てるだけのはずがどうしてこうなってしまったのか。 「しょうがない。いい? やるからには徹底的にやるかんね。あたしの足引っ張ったら承知しないから」 「お、お手柔らかに頼む」 何せこちとらこんなことは初めてなのである。 コスプレの写真を撮るのとはわけが違う。 「何? 緊張してんの?」 「わ、悪いかよ」 「別に? でもそんなに緊張する必要なんてないよ」 「な、何で」 「あたしがいるじゃん」 自信満々の顔でそういいきる桐乃。 その顔に不安はない。むしろどこか生き生きとしているようにすら見えるのは気のせいだろうか。 「あたしが一緒にいるんだから何も心配しなくていいの。 あんたはただ、いつものようにしてればいいよ。後はあたしがなんとかするから」 「それでいいのか?」 「うん」 桐乃がそういうのなら、俺はそれに従うしかない。 そういったことに関しては完全に桐乃が先輩だ。桐乃には何か秘策があるのかもしれない。 「ま、あんたにはそれも難しいかもしれないけどね~。あんたチキンだし」 「いったなてめえ。後でほえ面かくんじゃねえぞ」 「言ってなさいよ」 そんなやり取りをしてると、撮影場から準備できました~との声が聞こえてきた。 桐乃と話してるうちにいい感じに緊張もほぐれた気もする。あとは出たとこ勝負か。 「んじゃ行くか」 「ちょっと待った」 「あん?」 「襟曲がってる」 着慣れないせいか少しだけ着崩れかけていた格好を桐乃が整えてくれる。 少しだけ照れくさいが、桐乃の自由にさせてやることにする。 「これでおっけ」 「ありがとな」 満足そうに頷く桐乃にお礼を言う。 今日はこいつに迷惑かけてばっかだな。 「じゃあ、いこっか」 「おう」 桐乃に手を引かれて現場へと赴く。 桐乃に恥をかかせないようにしないとな。 「「おまたせしました」」 桐乃の誘いから始まった、予想外の一日。 当初の目的はどこへやらといったようだったものの、結果としてその目的は果たされ、翌日からの勉強は その日が嘘のように捗るようになっていたというのを付け加えておく。 そうそう、あの時桐乃にちょっかいを出していた男モデルは桐乃のことをやっと諦めたらしい。 何故か帰り際に「お幸せに・・・」と言われたのだが、御鏡またよくわからないことを吹き込んだのかもしれない。 ちなみに、その時に撮られた写真はうまく加工され、俺の顔だけが不自然じゃないように隠されたそうだ。 ああいった雑誌ではそういうのも珍しくないんだとか。 その雑誌は御鏡経由で俺の手元にもあるのだが、その際に「これはバイト代だって」と、加工される前の写真を 一緒にもらうことが出来た。 写真には、ぎこちなく笑う俺と、そんな俺と腕を組んで輝かんばかりの満円の笑顔を見せる桐乃が写っていた。 その写真は小さな写真立てに納められ、今も俺の机の片隅を彩っている。 その後、大学に進学した俺に度々桐乃と一緒でという条件で美咲社長や御鏡から声がかかるようになるのだが、それは また別の話である。 -END- オリジナルサイズ