約 815,076 件
https://w.atwiki.jp/flydam/pages/143.html
狂人と小男玩具 ニヤリと笑う 甘い息子 現状に至るまで 化け物と魔獣 おやすみを 薬の効能 化け物を殺せるのは 星空の下穴と男 狂人と包帯 腰抜け 吊るし上げ 火山の下から 星空の下帰ろう 遠い星空道化師と死に損ない 道化師と化け物 半月を背に朱い女 1人の男 火口の淵で 邪龍 願い事をマミー ネイダ 黒い影 黒ずんだ血液 最後の一振り 振り抜け 赤い穴へ 相応しい罰を 報告書 雪山にて独りの彼女 おかえり 黒い影 終幕 後書きだよ!! 狂人と小男 玩具 振り返る小柄な男は確かにビィズだった。だが、容姿以外は全てが何時もの彼と異なっていた。 相方を見て軽口を叩く事も無ければ、何時もの様な性悪な笑みを浮かべる事もない。その瞳はただ道端の石ころでもみる様にマミーに向けられていた。 「ビィズ!!」 そんな彼の肩をマミーは掴んだ。 なんだその顔は? 何であんな事を? そう問い詰める為に。だが、 「邪魔だ。」 刺す様な一言と共に怪鳥の骸骨がマミーを弾き飛ばした。 「ニィムっキャァ!?」 そんなマミーを止めようとしたネイダ共々、2人は闘技場の壁に叩き付けられた。 2人はそのままズルリと崩れ落ちた。 不意の一撃、だが肉体以上に精神の受けたダメージの方が大きい。だから彼の体は即座に立ち上がる事が出来なかった。 後ろで意識を無くしているネイダを抱き抱えながら、マミーは男を睨んだ。 だが、男の方はマミーの存在など意に介していないかの様に、狂人の方へ歩いて言った。 そして酷く親しみを込めた声でこう言った。 「ただいま、父さん。」 その一言でマミーの思考は完璧に凍結された。 今彼は、奴に向かって、なんと言った? 「お帰り、ビィズ。外は酷く退屈だっただろう?」 「あぁ、欠伸が出るほど平和で退屈だったよ。所で僕が家出した事は怒ってないのかな?」 「愛する息子が帰って来たんだ。怒る理由なぞ何一つ無いだろう。」 何時も通りの口調で狂人と話すビィズ。 そして今まで聞いた事が無い穏やかな声で、楽し気に会話をする狂人。 マミーにはそのどちらも理解出来なかった。ビィズと箱庭の狂人が親子? 困惑するマミーに狂人の視線が向けられる。 「所であれはお前の知り合いか?」 「あれは玩具だよ。」 「そうか…しかし、私にはお前が奴を庇った様に見えたんだが?」 「庇うだって?あれは僕の玩具だ。だから僕のペットで壊したかったんだよ。」 そう言って男は狂人そっくりな笑みを浮かべて指を鳴らした。 パチンと言う音と共に氷河の中心がガラガラと崩れた。その氷河と同様にマミーの中で何かが音を立てて崩れた。 氷河を砕いて現れたのは白銀の体をした一角竜。現れたソイツはマミー達を睨みながら、今か今かと主の命令を待っている。 「だからさ、父さん。あれは僕が壊しても構わないよね?」 「好きにすればいい。」 狂人と男は全く同じ狂った笑みを浮かべた。 「じゃあな、マミー。」 そう言って男はもう一度指を弾いた。 ニヤリと笑う パチンッ 無情に響く乾いた音が、マミーに最後の時が来たことを告げる。ひび割れた氷河を砕き、白銀の一角竜が此方に迫る。 背後には気絶したネイダ、前方にはマミーの鎧など易々と貫くで有ろう白銀の槍。信じていた相棒に裏切られた今の彼に、現状を打破する力など残っている訳がない。 鋭利な角が地面の氷塊ごとマミーとネイダを空中へと突き上げた。 砕けた氷と共に宙を舞うマミーは、どうにかネイダの手を掴み引き寄せた。だがそれでおしまいだ。その後が彼には残っていない。 眼下の竜を斬り伏せる事も、狂人の面を殴る事も、彼女を連れて逃げる事も、相棒に事の真意を問う事も、何も出来ない。 失意の中、彼の視線が狂人とビィズの方へ向けられていた。 その時、ビィズは笑っていた。 狂人の様な狂った笑みではなく、何時もの彼らしい、悪戯をバラす瞬間の様な笑みを浮かべていた。 それに気付いたのかビィズの口が微かに動いた。 『元気でな、相棒。』 聞こえる筈の無い彼の台詞が、マミーには聞こえた気がした。 ドガァァッ!! その瞬間、闘技場の天井が…いや箱庭全体が爆発音を轟かせ崩壊を始めた 。 気付けばマミーとネイダの体は跳躍した一角竜の足に掴まれていた。 その瞬間マミーは気付いた。これはあの日、箱庭から脱走した日の焼き直しだ。 あの日と違うのは、ジョージの代わりに一角竜に捕まっていて、夜空では無く天井に飛び出していて、隣に居るのがネイダで、そして肝心の首謀者が隣に居ないと言う事だ。 白銀の体が天井に潜行を開始する。そんな中、包帯の隙間から最後に見えたのは、心底楽し気な笑顔で此方を見上げる首謀者の姿だった。 甘い息子 暗い天井に白銀の竜が消えるのを見届けながら、首謀者は思った。 今日の計画は驚く程巧く行った。最後の驚いたマミーの顔など一生笑い話に出来る程の間抜け面だった。 一つ悔やまれるのはもう二度とこんな悪戯を実行出来ないかもしれないと言う事か… しかし、今は1人肩を落としている暇はない。まだ、一番肝心な事が残って居るのだから。 ビィズは先程奪って置いた黒い魔剣を抜き出し、自身の父である狂人に向け構えた。 「家出の次は父親を脅迫とは…我が息子ながら反抗期にも程があるのではないかな?」 一部始終を黙って見ていた狂人は、顔色一つ変える事無くビィズを見据える。 「身内の不始末にはケジメを付けるもんだろ。認めたく無いがテメェは俺の父親だからな。」 ビィズは吐き捨てる様に言いながら、一歩狂人に詰め寄る。 「私を殺すだけならあの玩具達にも手伝って貰えば良かっただろうに?」 「彼奴は抜けてるからな、こう言う肝心な仕事は任せられないんだよ。だいたい、奴に人殺しは出来ない。」 「相変わらず甘いな、ビィズよ。」 狂人は1人不快そうな笑みを漏らす。 「箱庭での教育もお前の甘さを直すには至らなかったか。どうせ先の少女も殺せなかったのだろう?」 狂人は息子の考えなど見透かしているかのように、目を細めて怪鳥の骸骨を見た。 「やはり親父は騙せないか。」 ビィズは白状する様に笑うと、ハンマーの柄をガキッと回した。すると… ガパァッ 物言わぬ骸骨がその口を開き、中から黒い泥にまみれた少女を吐き出した。少女は眠っているのか小さく寝息を立てている。 「見知らぬ女1人殺せぬとはな…本当に私を殺す気があるのか?」 心底呆れた口調で狂人はビィズを見た。 「あぁ、勿論!!」 掛け声と共にビィズは魔剣を一閃したが、蒼いローブは易々とそれをすり抜け彼の首を掴んだ。 「貴様では私を殺せんさ。」 「んな事は解ってる。だ、だから助っ人を呼ぶためにその子の救出が必要だったんだ…よ!!」 言い切ると共にビィズは渾身の力を込めて狂人の胸を蹴った。瞬間… グォォオォオォ!! 魔獣の咆哮が崩壊を続ける闘技場に轟いた。 「貴様…!?」 狂人がビィズの勝ち誇った笑みの訳に気付いた時にはもう遅い、彼の右腕は既にただの肉片と成り果てていた。 右腕だった物は無様に肉片と血飛沫を撒き散らし地面にぐちゃりと落ちた。 狂人とビィズの間には両手を深紅に染め上げた、黒い魔獣が現れた。 現状に至るまで ビィズは狂人の息子である。これはどうしようもない事実である。 そんな彼が何故箱庭で奴隷部屋に居ただとかは今は割愛させて頂く。 しかし、そんな彼が父親である狂人を殺す決意をするに至ったかは想像に難しくない。まぁもっと根本的な何かがあるかも知れないが、それも今は割愛させて頂く。 そして彼は狂人の昔話や自慢話などをよく聞かされていた。 奇病に掛かった娘とその父親の話や 火山に住む仙人染みた爺さんに貰った鎧の話や お伽噺の神と戦うために雪山の村を丸々潰した話やなどなど どれも胸糞が悪くなる話な上、それらの主犯は全て自分の親父。家出の一つもしたくなると言う物である。 しかしそんな嫌な話であったが、彼はそれらの話を全て覚えていた。なのでそれらの話の被害者も彼には解ってしまった。 そんな被害者達と彼は生活をしてきた。それは楽しい反面、彼の胸を締め付ける物であった。 だから彼は準備をしていた。 悪魔染みた鎧にも、奇病が造り出す化け物にも麻痺や昏睡が効く事を知っていた。だから鞄にはナイフを忍ばせた。 自作のハンマーにあんな仕掛けを施したのは、殺さずに少女を救うため。 だが着々と準備をしていた彼にも予想外のイレギュラー…いや、予想はしていたが思いの外相棒の動きが早かった。 マミーに人が殺せない事は明白だったし、下手をすれば狂人の娯楽となりかねない。だから気を見計らって1人で乗り込むつもりだったのだ。 それもこれもあの道化師のせいだ。 しかし、ギルドの人間と言うイレギュラーのお陰でマミー達を逃がす方法が出来た。 これも道化師の仕業なので±0と言った所か。 まぁ兎に角、運良く彼の手元には理想の状況を造り得るカードが揃った訳だ。 あとはオヤッサンとアルムに麻痺ナイフで失神してもらい。 オヤッサンには娘を助ける変わりに協力してもらう約束を取り付けた。 気絶した上司の側で半泣きになっているカノクには有る事を告げた。 このまま脱出して仲間と合流したあと闘技場を爆破しろ、と。 爆破を頼んだのはマミー達の逃走経路の確保と狂人の気を逸らす為である。 それらの下準備をしたあとは頃合いを見計らって闘技場にボビー(白銀のモノブロス)を放し、親父と時間まで雑談をする。 そんな彼の地道な積み重ねの幾つかの偶然が今と言う状態を造り上げた。 「さぁ、殺してやるよ、父上殿。」 化け物と魔獣 剣を構えたままビィズは父親にそう告げた。 目の前には黒龍の鎧を着て文字通り魔獣と成りつつあるオヤッサン。 その奥には右肩の断面からダバダバと血を垂れ流す狂人。 そして崩落する天井からはボビーが帰って来たようだ。 状況的には圧倒的に此方が有利、崩壊真っ最中の闘技場からは逃げることすら出来ないだろう。 正にチェックメイトと言うに相応しい。だと言うのに・・・ 「フフフ・・ハッハッハッ・・ハァーハッハッハッハッ!!!」 事もあろうに狂人は笑い出した、通り名のとおり狂った様に。 「・・・何が可笑しい?」 ビィズが僅かに黒い刀身を狂人の首筋に押し当てた。 「こんな会話をする暇が有るのならさっさと殺せと言うのに・・最後まで甘いなビィズ。」 ギロリとビィズを睨む狂人の右目には黄色い瞳があった。それは間違いなく、さっき化け物に投げつけた物と同じものだった。 「テメぇ!!」 それを確認した瞬間、ビィズは剣を一気に振りぬいた・・筈だった。 「私がこんな面白いものしまって置く訳がないだろう?」 狂人の首は未だに健在、それどころか黒い剣を押し返した。 剣を弾かれ大きくバランスを崩した体に、狂人の化け物染みた左腕が叩き込まれた。 骨を軋ませ、地面と水平にカっ跳ぶビィズと入れ替わりでオヤッサンが狂人に殴りかかった。 黒龍の篭手は既に原型を留めておらず、魔爪と言うに相応しい形状に変化していた。その魔獣の一撃を狂人は易々と受け止める。 拳を掴まれたまま尚狂人に詰め寄る魔獣。だが、そんな魔獣に対して狂人は冷やかな笑みを浮かべる。 「腕一本で良かったのかね?」 「急がなくても今すぐ殺してやる!!」 「いや、遠慮せずもう二、三本持って行け。」 そう言う狂人の右腕には黒い腕が生えていた。 「なっ!?」 一瞬の動揺、その隙に黒い腕が魔獣を殴り飛ばした。 壁に激突した魔獣は尋常ではない破砕音と土埃を巻き上げた。常人なら間違いなく即死、だが魔獣は何事も無かったかの様に立ち上がる。 「化け物が・・」 「君も大概だろう?ところで娘さんが呼んでいるが?」 「なっ・・」 魔獣は即座に娘の寝ていた場所を振り返った。そこに有ったのは・・ 「にっ!!?」 再び化け物に成りつつある娘の姿と、自身の胸を貫く黒い棘だった。 おやすみを 魔獣の胸を貫いたのは、再び化け物と化した娘の右腕だった。化け物の腕は容赦なく魔獣の膓をかき回し、その度に赤黒い血が口から吹き出した。 黒龍の鎧を使用し続けた影響で既に死に体だったファルシェの命は間も無く尽きる。だが、目の前の娘の姿が僅かに彼の命を引き留めた。 化け物に体を侵され、醜悪な獣に成りつつ愛娘。その瞳からは絶え間無く黒い涙が流れ落ちる。 娘に既に正気は残っていないのだろう。それでも自身が化け物に成ることを拒む様に、悲鳴を上げ続ける。 死に体の魔獣には胸を貫いた娘の腕が、自分に助けを求める為に伸ばした物に見えた。だから、黒い刺を引き抜く事無く、そのままズルズルと化け物と化した娘を引き寄せた。 胸からは決壊したダムの様に血が溢れ出す。それでも彼は歩みを止めず、大量の血と引き換えに娘の元へと辿り着いた。 魔獣に迫られた化け物は怯える様に身を竦めた。そんな化け物に魔獣は異形と化した腕を伸ばした。 「もう疲れたろう。」 そう言って父親は娘の頬をそっと撫でた。 「お父…さん?」 化け物は長く発していなかった言葉を口にした。 ギャァァァァォォオ!!!! 魔獣はその姿に相応しい咆哮を上げ、娘に絡み付いた黒い肉片を引き千切った。だが、体の大半が黒く変色した少女がそれに絶えきれる訳が無かった。 なのに少女は叫び声一つ上げず、自身が助からないと知っても尚自分を助けようとする父親から黒い腕を引き抜いた。 「おやすみなさい、お父さん。」 「あぁ、おやすみ。」 それがその親子の最後の会話となった。 娘は眠る様に息を引き取り、父親はそれに寄り添うように目を閉じた。 薬の効能 不幸な親子の最後を見届けた後、狂人は惜しみない拍手を送った。 「いや、すばらしい・・お前もそう思うだろ、ビィズ?」 狂人は満面の笑みを浮かべながら、吐血交じりに咳き込むビィズの喉を掴み、持ち上げた。彼の意識は未だ朦朧としているのか焦点の合わない目で狂人を見ている。 「実はな、あの娘の病気は薬では治らないのだよ。」 今更な事を狂人が言う。 もともと、病状の進行を抑える薬を買い続ける為にファルシェはこの箱庭の奴隷となったのだ。治せる薬が有るのなら、ファルシェは当に自由の身となれていただろう。 「そしてもう一つ、あの奇病は実は治せたんだよ。」 『は?』 狂人の一言で、頭の靄が一気に晴れる。いま、目の前の男は何と言った? 「実は初期の状態なら患部を引き千切るだけで治せるのだよ、あの病気は。元よりあの病気に掛かっただけではあそこまでの化け物には成らないのだよ?」 「どう言う事だ?」 ビィズは自身の喉を掴む、狂人の腕にギチギチと力を込めた。しかし狂人は眉一つ動かさずに饒舌に話を続ける。 「つまりだ、目に見える変化は抑えて、宿主にばれない様に体の内から病状進行させる。そんな特別な薬を使わないとあそこまで見事な化け物には成らんと言う事さ。この意味が解かるな?」 その言葉の意味を理解した瞬間、ビィズの瞳は目の前の人の姿をした悪魔を睨んだ。 化け物を殺せるのは 「ボビー!!」 主の号令を受けた一角竜は躊躇う事無く狂人の体を突き刺し、主の体ごと崩れる天蓋へ突き上げた。 ビィズは怒りに身を任せ、瓦礫の雨の中を獣の様に狂人に追い縋った。 「いい顔をしてるな、ん?」 胸に風穴を空けたまま狂人は楽しげに笑う。 「だまれ!!」 ビィズは落下する瓦礫の一つをハンマーで穿ち、狂人に直撃させた。そしてその粉塵が晴れる前に黒い剣で、煙の中の人影を斬り付けた。 だが、そこに既に狂人の姿は無かった。 「残念だったな?」 そんな、言葉と共に彼のわき腹が抉られた。 「ガァッ!?」 赤い飛沫を散らし、地面に叩き付けられる。その彼の眼前では同様に心臓を毟られる一角竜の姿が有った。 「お前の魂の輝きはなかなかだが・・・あそこの魔獣には遠く及ばない。」 言いながら狂人が此方に歩み寄る。ビィズは血を零しながら、黙ってそれを睨み続けた。 「昔から言うだろう?魔法使いを倒せるのはその弟子だけであり、化け物を殺せるのは化け物だけだ。故にお前が幾ら浅知恵を絞った所で私は殺せないんだよ。」 そう高説を垂れる黄色い瞳は酷く・・そう、酷く上機嫌だった。 星空の下 穴と男 ガラガラ崩壊を続ける闘技場の天井は、気付けば眩い星空へと色を変えていた。 「さて、ちょうど出口が出来たことだ。私は最後の舞台へ行かせてもらおうか。」 狂人が丸い星空を見上げながらニヤリと笑う。 「最後の…舞台?」 「いい加減待つだけには飽きて来たからね。まぁ、もう直ぐ死ぬお前には何の関係もない話だよ。」 そう言って狂人はもう化け物のものにしか見えない右腕をスッと振り上げた。ビィズはそれでも狂人を睨む事を止めなかった。 「必ず罪を償わせてやる、糞親父が!!」 「それはそれで楽しそうだがな…残念ながらお前にもう出番はない。なかなかな魂の輝きだったが、私の息子としては少々物足りなかったかな。」 それだけが残念だ。とでも言いたげな顔で狂人は大袈裟に溜め息を吐いた。 「死ぬ、糞野郎…」 「残念、死ぬのはお前だ。」 ザグンッ 肉を叩き斬る音が闘技場内に響き、吹き抜けとなった天井へ吸い込まれて言った。 変わってその場に不釣り合いな程の満点な星空の下… 無数の星達にぼんやりと照らされる樹海の中、彼は1人自分が出てきた穴を見ていた。 隣で気を失ったままの連れ合いや、遠巻きにガサガサと音を立てる茂みに僅かに注意を向けつつ、ただジッと一角竜の消えていった穴を見つめていた。 既に穴は相当な大きさになっており、それ自体の崩壊も増大も殆どおさまっていた。 それなのに、彼の相棒は未だに出てこない。あんな悪質な悪戯をされたのだ。一言文句を言わないと気が済まない。 だと言うのに、肝心の相手が出てこないのだ。早く何時もの軽口を叩きながら出てくれば良いものを… もう奴は帰って来ない… 1人暗闇を見つめていると、良からぬ事が頭を過る。だから地面に頭を打ち付け、その下らない考えを払拭する。 「早くしろよ、ビィズ…」 だから眼科の暗闇に向かって、そんな台詞を呟いてしまった。無論、穴からの返事はない。 だからポツリポツリと独り言を呟きながら穴を見つめ続けた。 そして、不意に夜の帳より暗い蒼が穴から飛び出してきた。 煌々と輝く月と星を背にする影を見た瞬間、マミーは酷い目眩と喪失感を堪えて黒刀を構えた。 「ビィズをどうした?」 現れた蒼いローブを被った化け物に彼は尋ねた。 「さぁ、どうしたろうな?」 その嘲笑と、奴の顔に張り付いた歪んだ笑いが全てを物語っていた。 狂人と包帯 精神肉体共に状態は最悪。さらに背後には気絶したままのネイダ。目の前には狂った蒼ローブ。 目の前の男はあの状況から丸腰で、崩壊する地下空間から脱出してきた。恐らくビィズを処分した上でだ。 そんな奴がただの人間であるはずが無く、何より先程から嫌な臭いがする。死に掛けた生き物が放つ化膿した肉の様な嫌な臭い。 付け加えて言うと奴のローブの内側には絶えず何かが垂れていた。 血と言うには黒すぎ、粘着質過ぎる何か・・・ だから、マミーは自分から突っ込まず、太刀を構えたまま様子を見ていた。 何も仕掛けてこないマミーを見かねて狂人が口を開いた。 「私を殺さないのかね?」 「焦らなくても直ぐに殺してやる。」 無論今の状態でそれは厳しい。しかし、うろたえる事無くマミーはそう返した。 「・・・君に出来るのかね?」 そんなマミーを見て狂人はせせら笑う。マミーは反論すらせずただ狂人を睨んだ。 ガサガサと樹海の茂みが揺れる。 夜空に浮かんだ星と月だけが奇妙な二人組みを照らし出す。 「今此処で君を殺すのは簡単だが・・・それはツマラナイな。」 狂人は飽きた様にそう言うと、踵を返した。 「まてっ!!」 そう叫ぶが、今の彼では如何する事も出来ないし、正直狂人の気紛れは有り難かった。 「君も私も今は万全ではない。君は箱庭最後の生き残りだ。だから特別に最後の舞台に招待しよう。」 そう言って狂人はマミーに一枚の招待状を投げて寄越した。 「もし君が この世界が今のままがいいと言うなら 友達が殺された事が憎いなら 故郷を消された事が許せないなら 是非とも参加してくれたまへ。」 狂人はそう言うと、何処からとも無く現れた火竜の背に跨った。 「最後に、さっき私に斬りかかったんなら・・・簡単に殺せたのになぁ?」 そう言い捨てると、蒼いローブが風に靡いた。その隙間から見えた奴の背中はズタズタで、既に両腕は無く、生きているのが不思議なほど傷だらけだった。 「ではまたな、腰抜け。」 そう言い残し、狂人は夜空の彼方へと消え去った。 腰抜け 狂人が夜空の彼方に消え去ってから、マミーは膝から崩れ落ちた。 「あああぁぁあ!!!?」 壊れた様に呻き声を上げ、地を叩く。 気絶したネイダ、万全ではない状態での遭遇、そしてそれ以外のモンスターの存在する可能性…そんな状況に置かれた彼に取って狂人の提案は魅力的だった。 だが、実際の所そんな事は建前だ。 箱庭から這い出てきた化け物に怖じ気づいて、みすみすそれを逃がしたのだ。傷だらけの死に損ないを その傷を負わせたのは誰か? その傷を負わせた奴はどうなったのか? 箱庭に残ったのは1人だ。その彼ではなく狂人が出て来たと言うことはそう言う事だ。 箱庭に残ったビィズは自身の命と引き換えに狂人に致命傷に近い傷を負わせたのだ。 それこそあと一太刀で殺せる程の大ケガを… なのにそれを闘いもせず逃したのだ。 腰抜け その言葉が彼の頭に反響し続ける。 相棒は自分を逃がす為にあんな芝居を打った。 そんな相棒が殺されたのに彼は自分の命を優先したのだ。 腰抜け その一言がマミーを押し潰す。 奴を追うことも、地下の箱庭を探す事もせず、彼は呻き声を上げ続ける。 ガザザッ… かなり近くの茂みが蠢く。それを認識したマミーは即座に太刀の柄を握った。 今の彼は酷く狼狽え、無様な程動揺し、どうしようもなく自分自身に苛ついていた。 だから茂みに居るのがモンスターなのか人なのか確認せずに飛び掛かった。 これは八つ当たりだ。何にでもいいから、この苛立ちをぶつけたかった。 だから組み伏せた段階で、それが人らしいと解ったが手を止めようとは思わなかった。 こんな場所に居るんだ。自分を含めろくな奴ではない。 だから…殺しても良いだろう? 右手に掴んだ太刀を逆手に持ち換えて、左手掴んだ誰かの首筋に振り下ろす。 その瞬間、黒刀の刃が星の光を反射し襲う側と襲われる側を僅かに照らした。 「マミー…さんっ…」 ザシュッと音を立て黒刀が地面に突き刺さる。 反射した光で互いが誰なのか気付き、消え入るようなその言葉で、マミーの頭は冷水を掛けられた様に一気に冷えた。 力なく主の腕から離れた黒刀は、首の僅か横の地面に突き刺さっている。 自分は何をしようとしていたのか? 数秒前の行為を思い返すだけで、どうしようもなく死にたくなった。 「もう…離してくれません…か?」 左手に掴まれたせいで紅潮した顔のニーが、絞り出す様にでそう言った。 吊るし上げ ニーにそう言われて、マミーは漸く彼女の首から手を離した。 すこし冷静になって、マミーは今の状況が非常に不味い事に気が付いた。 か弱い商人であるニーに馬乗り。さらに首を絞めていたせいで彼女の顔は真っ赤且つ半泣きで、激しく呼吸が乱れている。 もう一度言う、今のこの状況は非常に不味い。 だがマミーがそれに気が付いにニーの上から飛退くのが三秒ばかり遅かった。 ジャコンッ かなりの至近距離から銃身が弾丸を呑み込む乾いた音が響いた。そして後頭部に押し当てられる硬い突起物・・・ 「マッミー・・・何してるの?」 背後から突き刺さるような冷たい一言。マミーの脳髄はコンマ二秒で彼女を鎮める言い訳を紡ぎだす。 「まて、これにはわけg『死っねぇいっ!!!!!!!!』 残念ながらマミーが怒りを鎮める前に、彼女の怒りが爆発した。 満点の星空の下、男の悲鳴と銃声がしばらく響き続けた。 数分後 木に逆さ吊にされた、ピンク色の塗料と悪臭塗れの男と、それからやや離れた位置で焚き火を囲む女性二人。 「ネイダさん、できれば話を聞いて頂きたいのですが・・・」 誤解を解こうとするマミーだが、 「もう直ぐで犯される所でした・・よよよよよ。」 そう言ってランダの胸に顔を埋めるニー。・・・明らかに笑って・・ニヤついている。 そしてその度にランダがゴミでも見る様な目でマミーを睨む。 とまぁ、こんな感じで先程から話が進んでいない。 「話を聞いてくれよぉ~!!」 情けない声をあげながら、ブランブランと揺れる蓑虫。そろそろ泣き出しそうだ。 「もういいかな。」 そう言ってネイダは蓑虫に向けボウガンを構えた。 『はい?』 マミーの声がひっくり返ると共に、彼を吊るしていた蔓が撃ち抜かれた。そのまま頭から真下の池へ落下するマミー。 縛られたまま沈んでいくマミーを引揚げるネイダ。 「実は、目覚めてたの。」 「はい?」 彼女の言葉の意味がイマイチ理解できない。 「だから・・ニィムが取り乱してる辺りから目が覚めてたの。」 「つまり一部始終みてたと?」 「そ、でちょっと頭冷やさせようと思ってね。」 つまり先程の事は芝居だったらしい。余りの事に立ち上がるが、口から言葉が出ない。 「頭冷えた?」 「・・あぁ。」 漸く口から出た言葉はそんな間抜けな物だった。 火山の下から 時は遡って・・・ マミー達が樹海の箱庭に出発した次の日の朝。 部屋の壁は全て天然の岩石に覆われ、その隅で流れるマグマを利用した竈がグラグラと蒸気を噴出している。明かりどころか窓一つなく、流れるマグマだけがこの部屋をぼんやりと赤に染める。 故にこの室内の環境は最悪。人が生活に使う道具は何一つ無く、無骨な鉄槌や火バサミなどが規則正しく並べられている。 だがそれも当然、ここは洞穴の工房の地下室。この空間は鉄屑を武器へと昇華させる為だけの空間なのだ。 そんな空間に老人が一人、無論ここの主だ。 片手には巨大な鉄槌、もう片方にはいつぞやの黒い火竜の翼を巻き付けた、打ち直された斬波刀。 それを竈の中へ突っ込み、ドロドロな赤に変色した後冷めるまで鉄槌で打ち続ける。それを刀身と素材が一体になるまで繰り返した。 そして打ち上がった光など一切反射していないかの様な真っ黒な刀。 これで工程の半分だ。 次に刃となる部分を研ぎ上げる。黒い刀身に白い刃の線を作り上げる。その後刀全体に脈の様に溝を彫る。 そして最終工程。 先日手に入れた封龍剣を竈の中でドロドロに溶かした。液体となった翠と銀色の金属、そこに先程打ち上げた黒い刀の切っ先だけを突っ込んむ。 すると、翠色の金属がまるで生き物の様に刀に彫られた溝を駆け上り、黒い刀身に根を張った。 脈動するように震える刀を冷水の中に突っ込み、鼓動が止まるまで待つ。 そうして形になった黒と白と翠の刀を軽く一振り・・ 赤い何かが火花や雷の様に暗い地下室で迸った。 「黒白刃・赤雷、完成じゃ。」 老人は刀を太刀に収めながら一人呟いた。 問題なのはこの剣の主が既に戦地に赴いてしまったと言うことだ。 「どうしたもんかの・・・」 瞬間、頭上から冷たく新鮮な空気が流れ込んできた。 『話は聞かせて貰いまし・・ヒャァン!?!』 そう言って一つの人影が着地・・もとい落下してきた。 そして現在・・ 「と言う事で私が刀を運んできたと言う訳ですよ!!」 二人に対して、自慢げに胸を張るニーであった。 星空の下 帰ろう 無い胸を張ってフンと鼻を鳴らすニー、それをやや哀れむ感じでみる二人。 「ニー、悪いんだが既に戦いは終ったんだよ。狂人は地下の箱庭の崩壊に巻き込まれて生きちゃいない筈だ。」 箱庭での戦いが済んだと言うのは本当、しかし狂人が死んだと言うのは嘘だ。ネイダがどの段階で起きていたかは解からないが、なるべく平静を装ってそう告げた。 「え、終っちゃったんですか?」 それを聞いたニーはヘナヘナとその場に崩れ落ちた。 「せっかくモンスター達の縄張り突っ切って来たのに~・・」 どうにも相当急いで来たらしい。 暫しブツブツ文句を垂れてから、ニーは思い出した様に顔を上げた。 「そう言えばビィズ君はどうしたんです?」 「ビィズは俺達を逃がす為に囮になって崩壊に巻き込まれた。」 「えっ?!」 気まずい沈黙がその場を支配する。その言葉の意味を此処に居る全員が理解出来てしまったからだろう。 崩壊に巻き込まれた。そしてこの場に居ない、それはつまり死んだと言う事だ。ニーとネイダはその事実を受け入れきれて居ない様だがマミーは違う。彼は既にビィズの死を否定できないのだ。 箱庭から這い出てきたボロボロの狂人。人外の化け物である奴にそれ程の怪我を負わせる戦いをしたうえで、ビィズは敗れたのだ。だから生きている訳が無い。 それは信じ難い、信じたくない事だが事実なのだ。ビィズは死んだのだ。 「で、でももしかしたら生きてるかも知れないじゃないですか?ね、だから此処で待ってましょうよ。」 ニーが声の震えを抑えながらそう提案する。 「いや、もう決着は着いたんだ。だから工房に帰ろう。」 そう言ったのはマミーだった。二人は信じられないといった顔で彼を見ている。 しかし、モンスターと遭遇する危険がある以上此処には居られないのだ。弾薬も薬も道具も無く、何より心身共に衰弱している。 今の状態では戦うどころか二人を守る事すら出来ない。・・・いや、元から誰かを守ることなんて出来やしなかった。そう痛感した。 だから、早く此処を脱け出さなくては行けない。 「それに生きてればひょっこり工房に帰って来る筈さ。」 その言葉は誰よりも彼自身がそう願ったものだった。 遠い星空 道化師と死に損ない 「あぁ…糞ったれ…」 男が丸い穴から見える高い星空を見上げながらそう呻く。 男は血塗れで片方の脇腹は大きく抉れていた。正に死に体だ。 そんな男に人影が近付く。 「惜しかったね。そっちの人がもう少し動ければ殺せたでしょうに。」 言いながら仮面の道化師は男の隣で息絶えている黒い鎧を指差した。 数分前… ビィズに狂人が止めを刺そうとした時、ファルシェは息を吹き返したのだ。 そして隙だらけの狂人の腕を切り落とし、自由になったビィズが狂人の体をズタズタに切り裂いたのだ。 だが、其処までだった。 元から死に体だったファルシェは其処で力尽き、狂人は黒い剣を構えたビィズを見て撤退して行ったのだ。 決着は付かず、互いに重傷。しかし化け物と人間ではその後に大きな差が出る。 化け物は傷は当然の様に癒えるだろうし、人間は治療無しでは例外なく死に絶える。 「どうする?今上を彷徨いてるだろうギルドの人間を呼べば…貴方は助かるかも知れないわよ。」 道化師は、仮面の下でクスクス笑う。 「そんな事したらテメェは捕まるんじゃねーのか、狂人の飼い犬さんよ?」 「大丈夫よ、私は妹を守る為に嫌々協力してたんだから。」 「ならニーと一緒にギルドに保護して貰えば良かっただろうが。」 「ギルドも安全とは言えないのよ。何処にでも狂人の息の掛かった人間が居るの…まぁ、私の言う事なんて信じなくても良いけど。」 ビィズの問に道化師はプイッと顔を背ける。 「私の事より、そのままじゃ本当に死ぬわよ?貴方の方こそ早くギルドに保護された方が良いんじゃない?」 「バカ言うな。そんな事したら親父を殺しに行けなくなんだろが。」 ビィズは吐血混じりにケッと笑って見せる。 「貴方正気?そんな様であの化け物を殺せる訳無いじゃない。」 「俺も化け物に成ればどうとでもなる。」 そう言ってビィズは自分の傷口に、少女を蝕んでいた黒い泥を塗り込んだ。泥は僅かに蠢いた後、ビィズの腹部を黒く染めた。 道化師と化け物 「…馬鹿じゃないの?それに体の内側に寄生されたら数年で死ぬのよ!!だいたい、その傷じゃ数日もしない内に寄生虫に喰い殺されるわよ!?」 仮面を外したイチは、酷く動揺した顔で怒鳴った。 「数日もてば良いだろ。てか何でお前が怒るんだ?」 「それで…それで貴方が死んだら私が殺したみたいじゃない!!」 そう言ってイチは泣き出してしまった。 「気にすんなや、悪いのは全部俺と親父だ。」 ビィズは軽くイチの頭を叩くと、黒い鎧の前に立った。 「借りるぞオヤッサン。」 そう言うと、ビィズは黒い鎧を死体から引き剥がした。そして躊躇う事無く、それを身に纏った。 瞬間、誰かの断末魔の様な幻聴が彼の鼓膜にこびりついた。 「眠気覚ましにちょうど良い。」 ビィズは霞んだままの視界を見て、自虐的な笑みを浮かべると再びイチの方を振り返った。彼女は既に仮面をハメ直し、小さく冷笑を浮かべていた。 「じゃあな、道化師さん。」 「はい、化け物殿。」 そんな挨拶を交わすと、ビィズは只の飾りである筈の鎧の翼を当然の様に羽ばたかせ、遠い星空へと飛び立って行った。 「化け物の息子は化け物を殺す為に自身も化け物に…実に笑えない。」 道化師はそれだけ言い残すと、崩れた箱庭を後にした。 半月を背に 朱い女 『次の半月の夜、火山の火口にてとっておきのショーを始める。気が向いたら参加してくれたまへ。』 マミーは狂人から渡された招待状をクシャクシャに丸めて、屑籠へ投げ入れた。 空は既に暗く、半分の月が此方を見下ろしていた。つまり今夜、狂人と決着を付ける訳だ。 背中にはニーから受け取った黒白刃。少々重くなったが、斬波刀が元になっているので非常に手に馴染む。 軽く振るってみたが、思い通りの軌跡を描いて見せた。…だが、やはり重い。筋力が元通りになれば程好いだろうが、それまで待ってもいられない。 防具は親父さんから銀火竜の鎧を借りた。 返せる自信が無いので適当な物を借りようと思ったのだが、何故か工房の一番奥に有ったコレを貸してくれた。 何の説明もしていないのだが、…何処に行く気かバレたのだろうか? まぁ兎に角、準備は整った。後は誰にも告げずに最後の舞台へ行くだけだ。 居間と入り口付近に人の気配は無い… なので音を立てない様に一気に狭い入り口から這い出た。 フルフルも真っ青に成る程の完璧な気配の消しっプリ…だと思ったのだが、 「何処に行く?」 どうにも端から気付かれていたらしい。 「何時気付いた?」 何とも気まずいので振り返らずに問い掛けた。 「初めから。」 「なんだ、初めから起きてたのかよ?」 「聞いてなくても、貴方の顔に書いてある。」 ネイダは背後でクスクスと笑う。 …顔に書いてあるって、ずっと包帯巻きっぱなしなんだが。 「今から狂人の所へでも行くんでしょ?」 御名答、全部お見通しな訳ですか。 「私も絶対に行くからね。」 「それはダ…」 彼女を止めようと振り返った瞬間、それが目に映った。 半月をバックに洞穴の入り口の上に立つ、朱い蟹。 その防具は鎌蟹の亜種のものだったが、何時もの物ではなく女性用の防具を彼女は纏っていた。 「ランダ・オルディではなく、ネイダ・ロッタとしてニィム、貴方と一緒に戦うわ。」 彼女は真っ直ぐとそう言い放った。 見た目の変化、それは些細な物でしかない。しかし、彼女の心は大きな変化が有ったのだろう。また、ネイダとして戦う為に… 「ネイダ…良く似合ってる。」 マミーは有無を言わせず彼女を抱き寄せた。 「ちょっと何するの…ッ!?」 彼女は恥ずかしそうに身を捩らせた後、一度だけピクンッと跳ねて動かなくなった。 「ごめん、ネイダ。」 彼の手には小さなナイフが握られていた。 1人の男 マミーが手に持っていたのは睡眠薬がたっぷりと塗られたナイフ。それで軽くネイダの首を撫でたのだ。 そして何かを言おうとしているネイダを居間に寝かせて、洞穴の工房をあとにした。 マミーは先日の箱庭の闘いで理解してしまったのだ。自分には誰も守れないと。たとえ彼女の前に立ち続けても、なんの役にもたたないと言う事を… だから今夜は初めから1人で行くつもりだったのだ。狂人は怨みや憎しみで動いているのではなく、単なる愉快犯だ。倒せなくともひょっとしたら、自分1人が犠牲になれば済むかもしれない。 要するに今の彼には、自分の身を犠牲にする程度の事しか出来ないのだ。 しかし、どうせ命を掛けるのだから、首の1つでも切り落としてやらねば…まぁその程度で死ぬかどうかは疑問であるが… そんな事を考えている内に火山の頂上が見えてきた。もう数メートル進めば、招待された場所に着く。 彼処には彼ではどうしようもない様な化け物が待っている。だから…少しだけ弱気になって、村の方を振り返った。 遥か下、火山の麓には僅かに人の生活している灯りが見える。 人が少ない癖に温泉ばかりある僻地の村 年に一度のお祭りの日だけ異様に賑わう変な村 彼女と自分を再会させてくれた不思議な村 もう僅かに視線をずらせば彼女の居る工房が見え… 彼は其処で火山の頂上を向き直った。きっと工房を見れば自分の心は揺らいでしまう。だから、もう村を見るのはヤメだ。 目の前には小さい頃、自分の憧れた男が邪龍と死闘を演じ、打ち勝った場所がある。 何の運命か自分の終着駅も其処な訳だ。まぁ憧れた男と違い、今の自分に勝ちの目は殆ど無いのが残念な所だが、そんな愚痴を垂れても仕方ない。 鞄の中から赤い瓶詰めの液体を取り出し一気に飲み干す。 瓶の中身は鬼人薬、コレで一時的にだが記憶を無くす前位の筋力を得る事が出来る。 コレで準備は整った。 脈拍は正常で心身共に充実、申し分無し。 全身を強固な鎧で包み、背中には魔獣と魔剣、そして愛刀から造り上げた一振りがある。 そして、自身を守ってくれた者と守るべき者の存在が、精神を決して砕けない鋼へと造り換える。 この身に恐怖や後悔は無く、自身の不幸や死を嘆く事はない。ただ大切な者を守る為だけに狂人の望を打ち砕く。 今の自分にはそれ以外は必要なく、それだけで十分だ。 マミーはゆっくりと瞳を開くと火口のある洞窟へと踏み込んだ。 火口の淵で 仄かに赤い光を反射させる火口付近の洞窟。 本来此処は煮えたぎる溶岩の影響でただ息をするだけで、喉が焼けると感じる程の灼熱の空間である。 だが今夜の此処は気を抜けば気を失ってしまいそうな酷い寒気がする。そうな中、彼は臆する事無く歩を進める。 洞窟の奥、火口のすぐ側には蒼い人影。そしてそれ以外の何か、良くない物の存在を感じる。きっとそれの正体は全ての物に等しく死と恐怖を与える何かだ。 それを直感的に理解して尚彼は足を止めない。そしてとうとう火口の淵に腰掛ける狂人の下へと辿り着いた。 「ようこそ最後の舞台へ。てっきり来ないものかと思ったよ、腰抜け。」 狂人は天高く登った半月を見上げながらそう言った。挑発をされたマミーはただ沈黙を続ける。 「楽しくお話をする気分で無いか…なら私が話をするとしよう。」 狂人はマミーの方を向き直ってニヤリと笑う。 「私はこの世界が嫌いだ。人々は当然の様に平和な時を過ごし、歳をとり眠る様に最期を迎える。人々はそれを幸せと言うが私には退屈でしかない。だから私は願った。もっと闘いと混沌に満ちた魂の輝く世界を…」 其処で狂人は大きく溜め息を吐く。 「だが幾ら金を持っていようがその願いは叶わない。箱庭なんて物を造ってみたが、所詮は箱庭だ。玩具でしかない。私が混乱をばら蒔いても結局は一時的な物だった。そんな時私はアレを見付けた。」 狂人は黄色の瞳を爛々と輝かせる。 「考えてみれば当然だ。ここはヴォルボーン、彼が生まれ死んだ場所だ。本体は既にマグマの海の彼方だ。だが、アレはこの荒れ地の片隅に放置されたままだったのさ。」 「アレ?」 マミーが思わず問い掛けると、狂人は嬉しそうに顔を歪めた。 「邪龍の蛻だ。」 狂人の答に愕然とする。お伽噺の化け物の蛻。それは確かに価値のある物だろうが、それが何だと言うのだろうか? 「私はな…それ一杯に黒い肉を詰めたのさ。奇病で死に絶えた怨念まみれの死肉をたっぷりとな…」 「死肉で蛻が動く訳がない。」 マミーは思った事を口にする。 「そう死肉だけではアレは動かない。しかし、此処に死んでないのが居るだろう?黒く黒く染まった取って置きが。」 狂人が狂った様に笑いながらローブを脱ぎ捨てた。其処には真っ黒に爛れたもう人とは呼べない何かが居た。 「私はこの世界を願った形へと造り換える。」 狂人は狂った笑みを浮かべたまま火口へと飛び込んだ。 邪龍 堕ちた。 狂人は何を思ったのか火口の中へと堕ちて行った。 先には足場などなく灼熱の赤だけが待ち構えている。 そこに堕ちると言うことはつまり・・・ 「・・・死んだ?」 マミーがそう呟いた瞬間、 ドゥチュアッッ 腐った肉に飛び込むような音が火口から木霊して来た。 そして、何かが火口から這い上がってくる。黒く、長く、不気味で大きな、何か・・・ それと目が合った瞬間、全身に鳥肌が立ち、奥歯は狂った様にガチガチと音を立て、体中から嫌な汗が溢れ出す。 『素晴らしい姿だろう、この姿は?』 それから狂人の声が漏れた。それでマミーはそれが何かを理解した。 御伽噺の世界の正真正銘の化け物 嘗てここで生まれ一人の狩人に敗れた 邪龍ミラボレアス しかし、目の前のそれは本物のそれには幾分か劣る物だろう。風化した体表は所々から肉が剥き出し、翼はその原型を留めていない。 それでも、それが放つ空気は本物に決して負けていないだろう。 狂気と醜い願望に染まった腐敗臭が、マミーの足を僅かに下がらせる。 『別に逃げても良いんだぞ、腰抜け。私の願い事はもっと魂の輝く世界を創る事だからな。正直気味なんてどうでも良いのさ。』 その提案は、それと対峙した者にとってはどんな物よりも魅力的な一言だ。だがそれに頷く事は出来ない。二度も自分だけが助かっていい筈がない。 マミーは無言で黒白刃を構えた。邪龍を前にした古の魔剣は、唸る様に僅かに振動しキーンと言う音を放つ。 『訂正しようマミー、君は腰抜けなどではない様だ。』 そう言って片方だけの黄色い瞳がグニャリと笑う。 『君の魂は今、最高に輝いている。』 化け物がその言葉を言い切る前に、マミーは駆け出した。 願い事を マミー 纏わり付く熱風 鼻腔にへばり付く腐敗臭 頭に浮かんで消えない死のイメージ それらを纏めてぶった切る様に、マミーは黒と白の刃を振り抜いた。 ギィンッ 火花と歪な金属音をぶちまけながら渾身の一振りはあっさりと弾かれる。 瞬間、化け物がその巨躯を反転させ、それにつられ巨木の様な黒い尻尾が鞭の如く撓った。 酷く愚鈍で、いとも容易く避けられる様な鈍間な一撃。だが、刀を弾かれバランスを崩したマミーには、それを避ける事は叶わない。 撓る黒は唸り声を上げマミーの脇腹を直撃した。 銀色の鎧は悲鳴を上げるかの様に軋み、体は鞠の様にその場から吹っ飛んだ。そして地面とぶつかる度に、全身がイカレタ打楽器の様な音色を奏でる。 漸くその勢いが止まった後、マミーは自身の体がグシャグシャになった様を想像しながら目蓋を上げた。 だが、彼の絶望的な予想に対して体の方はあっさりと立ち上がってくれた。腕や足は折れておらず、食道を血が駆け上ってくる、なんて事も無い。 しかし、直撃を受けた脇腹は絶望的だ。骨が折れているとか、死ぬほど痛いとか言う以前に、なにも感じないのだ。そこだけ死んでしまったかの様に。 序でに言うと立ち上がりはしたが、これ以上体が動く気配が無いのだ。自分の体なのに。 そんな彼を残念そうに黄色い隻眼が見下す。それに対抗するように、マミーは精一杯の作り笑いを浮かべた。 「俺の願い事を教えてやるよ。俺の願い事は、雪山の村に戻ってネイダと一緒に店番して、たまに来る軟派野郎を殴り跳ばして、毎日のんびり暮らす事だ。んで、最期はネイダの隣で眠る様に死ぬことだ。」 そう言い切って、マミーは造り笑いのまま黄色い瞳を睨んだ。 『つまらん願い事だな。序でに言うと君の願い事は何一つとして叶わない。』 邪龍は黒い口をマミーに向け開いた。真っ黒な口の其処には、絶望に色を着けたようなねばついた炎が渦巻いていた。 『なかなか楽しかったぞ。最期に盛大に弾けてくれたまへ。』 禍々しい炎をが溢れてくるのを、マミーは造り笑いのまま見詰めていた。 ネイダ 濁った炎が黒い口から溢れ出そうとしたその時、二発の銃声がマミーの耳に響いた。次の瞬間彼の瞳に映ったのは邪龍の顔面を押し退け弾ける二発の弾丸と、降り注ぐ榴弾の雨だった。 「なっ!?」 逃げる間も無く彼の視界は朱色の炎で埋め尽くされた。 狭い洞窟一杯に鼓膜を劈く様な爆音が轟き、それに弾き飛ばされる様にマミーは邪龍の側から吹飛んだ。 ごろごろと地面を転がった後、ふと見上げると先程寝かし付けて来た朱い女がボウガン片手に此方を見下ろしていた。 「久しぶり。」 「ひ、久しぶり。」 予想外の言葉をマミーは鸚鵡返しにする。 「次こんな事をしたら銃口が熔けて無くなるまで拡散弾をぶち込むから。」 そう言ってネイダは二つの大きな銃口を備えた、蟹の鋏を模した朱色のボウガンをマミーの額に押し付けた。 しかし、彼にも彼女を置いて来た理由があるのだ。今からでも帰れと言おうとしたその時・・ 「また私を独りにしたら許さないからね、ニィム・・」 少しだけ震えた声でそう言った彼女は深くヘルムを被り直した。 「ネイダ・・」 そんな彼女に何か声を掛けようとした時、 「危ない!!」 ネイダが銃口を僅かに逸らし引き金を引いた。地面とぶつかりブチ撒かれた榴弾が巻き起こす爆発は、近くに居た二人を豪快に吹き飛ばした。 彼女の突然の奇行の訳を理解しかねていると、先程まで二人が居た場所を穢れた炎弾が飲み込んでいた。一瞬で赤い水溜りと化した地面を見て冷や汗が流れる。 あんなものを喰らっては一溜りも無い。だが、 「もっとマシなやり方があるだろう?」 「これで置いてけぼりにした分をチャラにしてあげるから黙って。」 ネイダは此方を見向きもせず新しい弾丸をリロードする。視線の先には再び炎弾を繰り出そうとする邪龍。 「今からでも帰った方が良いぞ?」 「嫌。」 そう言って彼女は古びたスコープを覗き込んだ。 「ニィムは側に居ないと直ぐ何処かに行っちゃうから、私がずっと隣に居なきゃ駄目なの。だから・・」 彼女が引き金を引くと二発の拡散弾が邪龍の顎目掛け疾走する。 「早くアレを倒して帰るわよ。」 彼女が言い放つと同時に朱色の炎が邪龍の顔を包み込んだ。 黒い影 彼女が構えるライトボウガンは試作品だった煌鬼【紅蓮】に改良を加えた、煌鬼【朱炎】。 改良と言っているが、異常な重量やリロードの絶望的な遅さ等は全く改善されていない。 代わりに砦蟹の素材を追加し、弾丸の装填量の増加、そして反動を完璧に打ち消すと言った偏った強化をされた。 結果として取り回しやリロード速度は最悪だが、3発のレベル2拡散弾の速射とその反動を殺しきる高火力な武器となった。 ネイダは邪龍の顔面を包んだ爆炎が消える前に、手早く二回引き金を引いた。合計6発の拡散弾が邪龍の体を朱炎で焼き付くす。 狭い洞窟で乱発された拡散弾の炸裂音がキンキンと反響する耳を抑えるマミーと、黙々と新しい拡散弾を造るネイダ。 新しく造った拡散弾をリロードしようとした時、粘ついた炎弾が朱色の幕を突き破った。 反射的に2手に別れた2人を裂くように、紅蓮の業火が岩盤を焦がす。 ネイダは漸くリロードをし終えると未だ同じ場所にいる邪龍に狙いを定める。そしてありったけの拡散弾を連射した。 6つの朱い花が開く様に邪龍を襲う。そしてその中を突っ切ってマミーが邪龍の頭を射程に捉えた。 喉元狙って振り抜かれた一閃… だが、ばら蒔かれた爆薬も龍殺しの一振りも邪龍を殺すには至らない。 『何人で来ようと構わないが…もう少し頑張ってくれないかな?』 喉で刃を受け止めたまま、狂人が詰まらなそうにそうぼやいた。 その一言は2人の心に甚大なダメージを負わせる。 本当に目の前の化け物を倒せるのか? 考えるべきでは無い事が2人の動きを鈍らせる。 そんな時、 「何人でも構わないとは…太っ腹だなぁおい!!」 天井の穴から聞き覚えのある声が響いた瞬間、黒い影が雷の様に狭い洞窟内を疾走した。 黒ずんだ血液 黒い影は蝙蝠を連想させる翼を翻し、雷光の如く邪龍に肉薄する。 邪龍の繰り出す豪炎を意図も容易くすり抜け、黒い短剣を黒い甲殻の隙間に突き刺した。短剣が赤い閃光を迸らせると、邪龍の甲殻から泥水の様に黒く濁った血が噴き出した。 ギャァァァアアァァア!! 邪龍と黒い化け物染みた人影が同時に叫んだ。前者は痛みに悶える悲痛な悲鳴、後者は獲物を蹂躙する化け物の雄叫びだった。 肩口に突き刺さった短剣を振り落とそうともがく邪龍を尻目に、黒い化け物はその翼を大きく広げた。 !!!!!! 洞窟を二匹の化け物の叫びが埋め尽くした。 肩から脇腹までを引き裂かれた邪龍は狂った様にその身を捩らせ、腐った血肉を撒き散らす。 黒い化け物は荒くなった呼吸を抑える為か、血飛沫を浴びる前に大きく後退していた。 そのはずなのに、化け物染みた鎧の隙間からは邪龍同様、腐った黒い泥水が漏れてきていた。 マミーは恐る恐るその化け物に近付いた。それが誰かを確める為に… だが、化け物は近寄るマミーを片手で制した。 「俺の事はほっとけ…それよりサッサとあの糞野郎をブチ殺すぞボケ。」 酷く疲れた、嗄れた声で化け物は唸った。 マミーはそれ以上詮索するのは止め、邪龍の方を向き直った。 切り裂かれた筈の邪龍の腹の肉はウネウネと動き、既に治癒しつつある。だが、まだ治癒しきった訳でわ無い。 「ネイダ!!」 「判ってる!!」 短く合図し合うと、三名は一斉に動き出した。 ネイダは再び拡散弾で弾幕を張り、マミーと化け物が邪龍目掛け斬りかかった。 爆炎を雨霰に受けながら邪龍は黒い尾を二人目掛け振り抜いた。マミーは一歩後退しそれを掻い潜り、化け物は軽くそれを飛び越え邪龍の頭へと迫った。 2人はほぼ同時に斬りかかったが、黒い短剣は邪龍の牙に、黒白刃は邪龍の甲殻に弾き返された。 体事弾き飛ばされた化け物は獣の様に四肢を突いて地面を滑ったあと、再び地を蹴り邪龍目掛け飛び掛かった。 対して体勢を崩したマミーは二度目の尻尾の強襲をくらい吹き飛ばされていた。 いい加減脇腹の痛みが尋常では無くなって来たが、これで準備は整った。黒と白の刃に彫られた溝にはベッタリと黒ずんだ血で充ちていた。 魔剣と掛け合わされた長刀は付着した血を啜る様に脈動を始めた。そしてもっとこれを寄越せとでも言うかの様にカタカタと震えだした。 それに応えるべく、マミーは爆炎の中へ駆け出した。 最後の一振り 爆ぜる朱炎が極限まで膨張し、収束する瞬間を狙ってマミーは邪龍の懐深くへと踏み込んだ。治り掛けた傷口目掛け黒白刃を振り下ろす。 甲殻の隙間から滑り込んだ魔剣は、邪龍の血肉を喰らうようにその身を切り裂いた。その刃の軌跡を追うように赤い雷が弾け、黒い血肉をドロリと溶かす。 元は死肉の塊だ。どういう怨念で動いているのかは知らないが、龍の力を殺せば邪龍の肉体は瞬く間にただの死肉に戻る。 コレならやれる。 赤い雷を纏い尚その力を歪に膨張させる魔剣を見て、マミーはそう確信した。 自身はまだ奴の懐のなか、もう一度この刃を振り抜けば邪龍の腐った体を両断出来る自信があった。 だからマミーは爆炎のなかをさらに踏み込み、振り下ろした刀を振り抜くべくその柄を握り直した。 瞬間、頭上の爆炎の中から黒い口が現れた。限界まで開かれた口に濁った炎が渦を巻き此方を見下げていた。 マミーは気付いてしまった。もうコレは避けれない。 攻撃の体勢に入った体で炎弾を避ける事など出来はしないし、あれを喰らって人の形を保てる訳もない。頭上では拡散弾が次々と炸裂するが邪龍の首はピクリとも動かず、黒い口は彼を捉えて離さない。 後方ではネイダが何かを叫んでいた。 刹那の内に彼の頭は何時かの悪夢を網膜に投影する。 彼は記憶を失い、彼女はその身と心に大きな傷を負った何時かの悪夢を… それで腹が決まった。 この身はあと数秒も経つ前に消えてなくなる。ならば独りで逝くわけにはいかないだろう。 彼が強く魔剣の柄を握り直すと、黒と白の刃は大きく脈打った。 後ろからは彼女の叫び声 手元には際限なく赤い雷を吐き出す魔剣 頭上には限界まで膨張した死の炎塊 全身は軋みを上げ、砕けた肋は面白い様に音を奏でる。だがあと少しだけ我慢しろ、これが人生最後の一振りなのだから… 剛炎と魔剣の一振りが同時に放たれる。だが、赤い雷が邪龍の体を真っ二つにするより、炎塊が彼を飲み込む方が僅かに早い。 無駄死にか? そう思った時、視界の隅に黒い影が映った。 『てめぇが死んだら駄目だろうが?』 それは死にかけの老人の様に嗄れた声だったが、彼には確かに良く知った男の声に聞こえた。 黒い影はその翼を翻し、弾丸の様に炎塊へと飛翔した。 頭上で激突する黒と赤 赤に対して小さすぎる黒は後ろにいる相棒を守る様にその翼を広げ、原形の残っていない左手で黒い短剣を振り抜いた。 振り抜け 振り抜かれた短剣はさも当然の様に、巨大な炎塊を真っ二つに両断してみせた。 黒い短剣、それは紛れもなく魔剣の類いだったのだろう。だが、それを扱う主は そうでは無かった。 例え両断して直撃を免れようが、炎塊が持つ熱量迄を殺せた訳ではないのだ。 黒かった化け物の鎧は赤く変色し、魔剣を振り抜いた左腕は既に原型を留めてお らず腐り落ちる様にもげた。 そして、化け物の中身は既にもげ落ちた左腕の様な状態なのだろう。だからマミーは化け物の、相棒の名前を叫ぼうと上を見上げた。 『何やってんだマミー、さっさとケリをつけろや。』 死に体の化け物は蕩けた冑を笑うようにグニャリと歪ませ、何時もの口調でそう 言った。 だから彼は叫ぶのを止め、全ての力を両腕に注ぎ込んだ。 黒と白の刃が肉を切り裂く 砕けた肋が悲鳴を上げる 噴き出す赤雷が腐った血肉を喰い散らす 両の腕がもう限界だと訴える あと少しで邪龍の体が2つに裂ける 喉の奥から鉄臭い何かがせり上がってくる だから弱音を蹴散らし、この一振りを振り抜く為に彼は叫んだ。 「アアアァァァァ!!!!」 火山の洞窟に爆音と青年の雄叫び、そして邪龍の断末魔が轟いた。 振り抜かれた黒と白の刃 真っ二つに避けた邪龍の体 それだけを確認すると彼は力尽きる様にその場に崩れ落ちた。火山の岩盤がチリ チリと白い包帯を焦がし彼の体を焼くが、暫く起きる事は出来ないだろう。 邪龍として、生物としての形を維持する為に必要な決定的な何かを失った黒い肉の塊は腐る様にどろどろに融けて流れた。 そして黒い肉の海からは狂人がその姿を現した。体は既にボロボロだったが、ほんの僅かに黒い肉が再生しようと蠢いていた。 マミーは目を覚ます気配は無い。だからネイダが二つの銃口を狂人へ向け構えた。だが、それを化け物の残った右手が止める。 「後は俺がやっておく。あんたは其処の死に損ないを早く連れって行ってくれ。」 死に損ないの化け物はそう言うと、ネイダに緑の玉を手渡した。 彼女はそれを黙って受け取るとマミーを担ぎ、緑の煙幕に包まれてその場から姿を消した。 こうして火山には、化け物と狂人だけが残った。 赤い穴へ 火口に残された2人の化け物。互いに死に体で、体内を蠢く黒い血肉が2人を無様に生き永らえさせている。 鎧の化け物はグズグズに蕩ける体を引き摺りながら狂人に近付いて行く。残った右腕には黒い短剣… そんな息子を前にして狂人は逃げる素振りも見せず、快楽の余韻に浸る腑抜けた笑みを浮かべながら突っ立っていた。 「ビィズ、お前の親友は最高だな。私の最期に相応しい最高の闘いだったよ。」 そう言って狂人はその場に腰を下ろした。迫る死に抵抗しようとさえしない。 「さぁ、殺すが良いさ。その為だけにお前は生きて来たのだろう?」 狂人は笑ながら頭を下げ、無防備な首を晒した。そんな父親を見て、化け物と成り果てたビィズはギリッと歯軋りをした。 そして、無言で狂人の顔面を蹴り上げた。毬の様に跳ねる頭を更に蹴り上げると黒い肉が蠢く手足を乱暴に切り捨てた。 斬られた断面からは赤い血が流れる事は無く、狂人はにやついたまま文句を垂れる。 「早くしてくれないか?最高の気分のまま逝きたいんだよ。」 ビィズは、そう言う達磨の様になった狂人の首を掴むみ持ち上げた。 『誰が殺してやるか、そんな簡単にテメェの罪から逃げられると思うなよ?』 ビィズは小さくなった父親を睨むと、蕩けた翼を羽ばたかせた。 そのままフラフラと洞窟を浮遊すると真っ赤な火口へと飛び込んだ。 相応しい罰を 「お前も死ぬのか、我が子よ?」 死へと落下しながら狂人がケラケラと笑う。 『誰がテメェなんかと死ぬかよ。』 そう言って溶岩の寸前でフワリと静止した。 そのまま溶岩に落ちる寸前の岩壁に狂人を埋め込むと胸の真ん中に黒い短剣を突き立てた。 「なんの真似だ?」 『此処なら誰も助けに来ないし、それが刺さっていれば再生も出来ない。だが、この程度で死にも出来ないだろ化け物。』 「まさか…貴様!!」 此処で初めて狂人が怯えた声を発した。 『貴様は此処で死んだ様に平和で退屈な永遠を生きるが良いさ。』 ビィズは勝ち誇った様に言い放つと、赤く蕩けた翼で尾を引きながら半月の夜空へと羽ばたいた。 火口からは断末魔の様にビィズの名を呼ぶ声がしたが、それに応える事は無かった。 これで彼の願い事は叶った。 夜空でそう溜め息を吐いた瞬間、右腕と左足がドロリと流れ落ちた。 もうこの体は長くない。元よりあれの息子である自分に幸せに生きる権利などない。 それでも、最期に、1つだけ… 化け物はそうとだけ呟いて、暗い夜空へと消え去った。 報告書 本日の天候 晴れ 自分、アルム・ウィソウトは行方を眩ました箱庭の狂人捜索の為火山付近の集落、ヴォルボーンへと派遣された。 …訳だが、既に事は片付いた後だったのでそれについての報告を本部へと提出する事にする。 狂人は火山の山頂にて、二名のハンターと対峙後、乱入した化け物に殺害された。 との証言を当時者であるハンターの1人から得た。 現地を調査した所狂人の物と思われる切断された腕と脚を発見。だが、狂人の本体は発見する事が出来なかった。 しかし四肢を無くした状態での逃走は不可能、よって証言と照らし合わせ件の化け物が遺体を持ち去ったと断定する。 以上で報告を終了する。 なお狂人の物らしき腕と脚は証拠品として本書類に同封する。 出来上がった報告書+αを超速達猫に手渡す。 ギルドの仕事と旦那方への軽い嫌がらせを同時に済ませ上機嫌な反面、腐敗臭が漂いまくる小包を運ぶ事となった超速達猫が不憫だったので報酬のマタタビを二割増しにしておいた。 コレにて此処ヴォルボーンでの仕事は終了した。次の仕事は特に無いので短い休暇を楽しむ事とする。 この村は温泉が名物だったな…まぁ温泉しか無い訳ですが。 「仕事は終わったか~?」 的屋の景品やら出店のお菓子やらを大量に抱えたカノクが此方へと駆けてくる。 「えぇ終わりましたよ。」笑顔で答えながらカノクの持つ物の値段を計算する。 …この子、さっき渡したお小遣い全部使いきってやがる。と言うか少しオーバーしていないだろうか? 恐る恐る辺りを見回すと息を切らせながら走ってくる男性の姿が目に入った。 食い逃げですか、お嬢さん… 店主の男性に謝罪と多目の支払いをしてどうにか許して貰った。…休暇が終わる前に財布が枯渇しそうだな… そんな私の気分を無視してカノクが私の手を掴んだ。 「早く温泉に入ろうよご主人様~!!」 そう言ってズルズルと…否、ゴリンゴリンと私の体を引き摺って走り出した。 複数の理由で周りからの視線が酷く冷たいです、カノクさん。あと腕がもげそうです。このまま貴方が成長すると、私が両腕共に義手になる日はそう遠く無いでしょう… そんな事を考えていると、カノクが此方を振り返った。 「そう言えばヘボは何処に行ったんだ。」 唐突な彼女の問いに、私は此処からは見えない場所を見ながら応える。 「実家に帰るそうですよ。」 雪山にて 独りの彼女 トントントントン… 一定のリズムでトンカチが釘を打つ音が響き続ける。 此処はとある雪山の一角、約一年前に発生した雪崩が原因で消え去った村の跡地。 つい数週間前まではギルドによって封鎖されていたが、最近になって一般人の立ち入りが許可された。 なので辺りの景色は悲しい程に白一色。唯一白く無い物はトンカチを振るう人影と、でき損ないのあばら家の様な木材だけだった。 「ハァ~」 トンカチの音の間に大きな溜め息を吐く音が混じる。 今現在、此処に居るのはとある商人である彼女1人。 彼女は元々この村で商店を営んでいたのだが、ある日仕入れの為にとある街に行っていた。そして仕入れ先の街で自分の村がどうなったのかを知ったのだ。 雪山の村は突如発生した雪崩にて壊滅した。なお一般人の立ち入りは禁ずる。 そんなお知らせが街の掲示板に張ってあったのだ。彼女は我が目を疑った。そして即座に村へと戻った。 そして現実を目の当たりにした。 真っ白になった雪山とそれを調査するギルドの人間。村は文字通り消えて無くなっていた。 その時、彼女にはどうしても確認しなくてはいけない事が有った。 それは預かっていた子供達の安否。形式上は弟と妹だが、血の繋がりは無かった。それでも独身な彼女にとっては本当の子供の様な存在だった。 だから探し回った。村には入れ無かったが、もしかしたら麓の村なんかで保護されて居るかも知れない。そんな淡い希望を持って彼女は雪山付近の村を駆け回った。 だが、結果として彼女は一年近くを棒に振る事となった。 心身ともに疲労しきった時、雪山の封鎖が解けたと言う話を聞いた。 村の有った場所で待っていればその内ひょっこり帰ってくるかも知れない… 疲れきった彼女はそう思い村の跡地へと帰って来たのだ。 だが、こんな僻地に好き好んで来る者は居らず、大量に買い込んだ食べ物と木材を運ぶ業者の人間が帰ってしまうと彼女は1人となった。 そして現在、持っていた特製テントを風に持っていかれた為彼女はどうにか寝床を確保すべく今まで放置していた家造りに励んでいた。 しかし、彼女には商人としての才能は有ったが大工としての才能は0だった。 トントントントン…ガシャァッ 造っていた筈なのに壊れてしまったあばら家を見て彼女はボフッと雪に寝転んだ。 「このままじゃ今晩凍え死にね…あぁさっさと結婚しとくんだったな~」 そんな時、桜色の風が雪山を吹き抜けた。 おかえり 雪山の空を吹き抜ける桜色の風は、白い大地に黒い影を残して行った。 「こんな雪山にリオハート…?」 彼女は突風の主の名を呟いく。桜色の竜なんてリオハートしか居ないが…何故雪山に? そんな事を考えていると先程は違う、刺す様な冷たい風が彼女を襲った。日は既に傾きつつ有った。 「早くしなきゃ。」 彼女は再びトンカチを手に取った。 トントントントントントントントン…ゴシャッ 再び独りでに崩壊したあばら家を見て、彼女は匙を…もとい、トンカチを投げた。 「あぁ~使える男が欲しい~…」 そう呻きながら雪の上をゴロゴロと転がる。その拍子に近場の木にぶつかり、積もっていた雪が彼女に落下した。 「…ダァ!!」 積もった雪を蹴り飛ばすと、どんよりと曇った空が視界を埋め尽くしていた。 「ハァ…独りってこんなに寂しかったかな?」 暗い空が彼女に弱音を吐かせる。 そんな時、崩れたあばら家の方から人の声が聞こえて来た。 『コレは酷いな…』 『魚の骨の方がまだマシね。』 その声は何やら彼女が造ったあばら家に文句をつけている。しかし、何故かその声は酷く聞き覚えのある声だった。 「寂しすぎて幻聴が聞こえるわ…」 彼女は体をお越しながら苦笑する。二人が都合良く帰って来る訳ないだろう。 『何やってるの?』 『早く家建てないの凍え死ぬぞ?』 此方に歩み寄る二人は、細部は違っていたが確かに彼女の良く知る二人だった。 「幻影…いや、亡霊かしら?」 『いや、足はあるわよ。』 『幻でもないぞ。』 彼女の視界は酷く滲んでいたが、目の前の二人を見間違える訳が無かった。 「まぁ何だっていいわ…おかえり、二人とも。」 『タダイマ』 3人は満面の笑みで再会の言葉を交わした。 「でもネイダ、髪染めたの?…ってニィムはツルッパゲ!?」 「まぁそこら辺はおいおい説明するさ。」 「兎に角今は寝床を確保しなきゃ。」 3人の前には魚の骨の様な木材の残骸達… 「相変わらず絶望的な不器用さだな。」 「こんなだからまだ独身なのね…」 「それは関係ないわよ!!」 そんな会話をしながら彼女は愛しい子供達の肩を掴んだ。 「まぁ3人居ればどうにかなるわよ♪」 そう言って彼女は微笑んだ。 暫くの後、雪山の村は小さいながら復興を遂げる事になる。 黒い影 雪山の山頂にて眼下を眺める黒い影。それは既に人の形を止めて居らず、生物と言えるかどうかも怪しい何かだった。 黒い影は体のどの部分も動かせ無かった。もはや生き物と言うより氷塊に近かった。それでもそれはしぶとく生きていた。 眼下には少しずつ再興する村と、短い間だったが相棒だった男の姿が見えた。 黒い影には何も無かったが、其処から見える景色には彼が願った全てがあったのだ。 平和で退屈で笑顔に満ちた生活が… 「世は事もなし、願わくばこの退屈が永久に続く事を…」 そう言って黒い影は冷たくなった瞼をゆっくりと閉じた。 山頂から雪山を見下ろす黒い影。 その存在を誰も知りはしない。 訪れる者も誰も居ない。 それでも、黒い影は小さな笑みを浮かべながら眼下の退屈を眺め続ける。 終幕 人は願う 自分の幸せを 今回の話では 願い事を叶えた狂人には相応しい罰と結末を 願い事を叶えた青年には望んでいた平穏な生活を 一応だが、両者の願い事は共に叶えられた。 しかし、前者の結末は悲惨で、後者の結末は幸福な物となるだろう。 願い事を叶えた後、幸福が待っているとは限らない。 一人の小男の願い事 父への復讐 コレも確かに叶ったが、それだけでは彼の結末は悲惨で虚無な物だっただろう。 隣にいた青年の願い事が、彼の本当に望んでいた事だったのだろ。 だから彼は彼処を死に場所に選び、満たされた最期を迎える事が出来たのだろう。 人の願い事は多種多様 その幸せもまた千差万別 願い事を叶える事が幸せに直結するとは限らない。 また自身の願い事が常に他者を不幸にする訳でもない。 願わくば誰かの願い事が、他の誰かの幸せを助け、自身もまた幸せにならん事を… 此にて狩人の切れ端の譚は終幕 皆様の願い事が叶い幸せが訪れますように 後書きだよ!! 皆様 オハコンバンチワ 序でにグーテンターク ヴィーゲーテスイーネン? (お元気ですか?) ダメ作者です(^^; 当初100を目処にするはずでしたがずるりずるりと150… テンポが悪すぎますね!! そして二部から始めた暴走がこの結末(狂人邪龍化)な訳で… どう考えてもやり過ぎですね(^^; こんなグダグダ且つ病気全快な話しを最期まで読んでくれた方々 誠に有り難うございます 皆様の何か印象に残ったり ちょっとでも驚かせれたり 何か残る物があったなら幸いです まぁ文句が大半を占めるかもですが(^^; これにて切れ端の話しはお仕舞いです 村の下部にある図書館から何かコメントなんかを頂けたらめっちゃ喜びます 最期にもう一度 有り難うございました 皆さん愛しt(ry それでは皆様サヨウナラ~
https://w.atwiki.jp/comedians/pages/1518.html
平和ラッパ・梅乃ハッパをお気に入りに追加 平和ラッパ・梅乃ハッパとは 平和ラッパ・梅乃ハッパの48%は小麦粉で出来ています。平和ラッパ・梅乃ハッパの36%は着色料で出来ています。平和ラッパ・梅乃ハッパの14%は鍛錬で出来ています。平和ラッパ・梅乃ハッパの1%は月の光で出来ています。平和ラッパ・梅乃ハッパの1%は知識で出来ています。 平和ラッパ・梅乃ハッパの報道 gnewプラグインエラー「平和ラッパ・梅乃ハッパ」は見つからないか、接続エラーです。 平和ラッパ・梅乃ハッパのウィキペディア 平和ラッパ・梅乃ハッパ Amazon.co.jp ウィジェット 平和ラッパ・梅乃ハッパの掲示板 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る 平和ラッパ・梅乃ハッパのリンク #blogsearch2 ページ先頭へ 平和ラッパ・梅乃ハッパ このページについて このページは平和ラッパ・梅乃ハッパ のインターネット上の情報を時系列に網羅したリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新される平和ラッパ・梅乃ハッパ に関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
https://w.atwiki.jp/dunpoo/pages/619.html
◎平和をつくるための本棚06Ⅱ から続く 近代日本と戦死者祭祀●今井昭彦 現代イスラーム世界論●小杉泰 いま平和とは 人権と人道をめぐる9話●最上敏樹 中国の「核」が世界を制す●伊藤貫著 [産経] ファルージャ―栄光なき死闘●[著]ビング・ウェスト [朝日] 学徒兵の精神誌●大貫恵美子 [朝日] 経済のグローバル化とは何か●[著]ジャック・アダ [朝日] ピープルの思想を紡ぐ●[著]花崎皋平 差別とハンセン病―「柊の垣根」は今も●[著]畑谷史代 中国は日本を併合する●平松茂雄著 カントと永遠平和●ジェームズ・ボーマン、マティアス・ルッツ・バッハマン [読売] 辺野古 海のたたかい●浦島悦子 [朝日] 中国農民調査●陳桂棣、春桃著、納村公子、椙田雅美 [朝日] 表現の自由VS.知的財産権 [著]ケンブリュー・マクロード [朝日] ◎平和をつくるための本棚06Ⅳ へ続く 名前 コメント ↑ご自由にコメントをお書き下さい。 近代日本と戦死者祭祀●今井昭彦 出版社:東洋書林 発行:2005年12月 ISBN:4887217110 価格:¥6300 (本体¥6000+税) 日本人は戦死者をどのように慰霊してきたのか。この問題に取り組むにあたり、まず明治初期内戦での反政府側戦死者祭祀(さいし)の実態に鋭く切り込んでいることが、本書を読んでみようと思った最大の理由である。例えば会津戦争では、賊軍とされた会津藩士の死骸(しがい)が数か月間埋葬を許されなかった。それがいかにして埋葬され慰霊されるようになったのか、その経緯を著者は文書だけでなく墓碑や慰霊碑等の金石文も用いて丹念に追跡している。 対外戦争での戦死者祭祀に関しては、忠霊塔や護国神社を扱った興味深い論考が含まれているが、慰霊への国家の関与について否定的な側面だけを見ている部分には少し違和感が残った。しかし、いわゆる靖国問題を考える上で、本書が一読に値する力作であることは疑いない。各地の慰霊碑等を撮影した三百枚を超す写真にも地道な努力の跡が感じられる。(東洋書林、6000円) 評者・戸部 良一(防衛大学校教授) (2006年4月10日 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/book/review/20060410bk07.htm 現代イスラーム世界論●小杉泰 [掲載]2006年04月30日 [評者]酒井啓子 中東の歴史を学んでいて残念に思うのは、19世紀から20世紀前半の中東・イスラーム地域には、驚くほど魅力的な歴史的ヒーローが数多く登場するのに、彼らをビビッドに描いた邦語の書がないことだ。西欧の中東進出という脅威に対して改革と祖国防衛を高らかに謳(うた)い、イランからエジプト、トルコを駆け巡ったアフガーニーは、そうした傑物の代表例である。日本で言えば坂本竜馬、現代史ではチェ・ゲバラに匹敵するこの革命児の辿(たど)った軌跡を追うだけでも、中東近代史版「峠の群像」の息吹が感じられる。 彼だけではない。後に続くアブドゥやリダーなど当時のイスラーム近代知識人は、言論界に幅広く影響を与えたが、彼らがエジプトで発行した雑誌はインドネシアでも読まれていた。イスラーム近代史の面白さは、「黒船到来」の何倍もの震度を持つ動乱のなかで、人と思想が縦横無尽に広がり、思わぬところで思わぬ結節点を生むところにある。 本書は、数少ない邦語での本格的なイスラーム現代政治の研究書のひとつだが、多くの章で記述されるのは、そうした近代イスラームの多様性と広がり、思想的社会的営為の豊かさだ。なによりも、イスラームを本質主義的、静態的なものとみなし、伝統墨守的な人々の集団と考える発想が批判される。 研究書としての本書の目的は、実に明確である。「現代の政治研究は、国民国家と世俗主義を学問的な前提としている」がゆえに、「宗教政治を分析するようにはできていない」。イスラームを(政教一致ではなく)「政教一元」でかつ「教経統合」(経済はイスラームが人々の生活を律する最も直接的な分野である)と論ずる著者は、既存の政治学を超えて、「イスラーム政治」を理解するための新たな政治理論を構築する必要がある、と主張する。21章の「イスラーム政党」論などは、そうした試みの一環である。 そのために、国民国家の枠組みや地理的近接性だけでまとめられた「地域」とは異なる、「メタ地域」を分析対象とすべきだ、と著者は言う。一定の政治環境のなかで何らかの連鎖性を持ち、地理的領域を超えて成立するネットワークの「メタ地域」(「第三世界」や「途上国」もそうだ)として、イスラーム世界を捉(とら)える。イスラーム世界は、「真のイスラーム」が単独でどこかに存在する固定的な領域ではなく、それぞれの現場で「誰もが自分の思想を『イスラーム』そのものの理解として語る」空間だからだ。 歴史や理論だけでなく、現代の中東地域のアクチュアルな政治現象にも、本書はさまざまな視角を提示する。現在頻繁に問題視される「宗派対立」について、伝統的な宗教社会共同体が現代の国家システムのなかで新たに「利権集団」化したこと、その共同体が持つ世界観に密接な関係を持つイデオロギー集団が、同じ共同体構成員のなかから支持者を動員していることを指摘するが、これはまさに今のイラクで進行中の出来事を言い当てている。「対立」は、心や信仰ではなく、政治や経済にある。 出版社 名古屋大学出版会 ISBN 4815805350 価格 ¥ 6,300 URL http //book.asahi.com/review/TKY200605020233.html いま平和とは 人権と人道をめぐる9話●最上敏樹 [掲載]2006年04月30日 [評者]高原明生 「二〇世紀最後の一〇年間で、二〇〇万人以上の子供が殺され、六〇〇万人の子供が重傷か回復不能の障害を負いました」。米ソが巨費を投じて軍拡競争に励み、核戦争の一歩手前までいった冷戦も正気の沙汰(さた)ではなかったが、その後の世の中はいよいよおかしい。そんなことは言うまでもないのかもしれないが、もう一度繰り返すけれども、一〇年間で二〇〇万人の子供が殺されたという事実を突きつけられると改めて慄然(りつぜん)とする。二一世紀以降のアフガニスタンやイラクでの戦争、スーダン西部での虐殺や欧米でのテロはこの勘定に入っていないのだ。 なぜ事態の悪化を止められないのか。誰がどうやって平和をもたらそうとしているのか。そもそも平和とは何なのか。この本が取り組むのはこうした基本問題だ。平和のためにある国連は、拒否権を有する安保理常任理事国の武力行使に対して無力である。そしていわゆる国際社会は、資源もなく、戦略的に重要でもなく、また白人のいない国での殺し合いを本気で止めようとしない。この現実に対して著者は、平和とは人間の日常性の確保であり、人権の問題だと訴える。そして「人間本位のリアリズム」にもとづき、不条理な格差を解消して人間の平和をつくり出すNGOの活動や、国境を超えて隣人たちと協力する地域共同体の出現を語る。 こうした「市民派」的な議論に対し、理想主義だとの批判が現実主義者から浴びせられることは容易に予測できる。著者自身も、軍事的安全保障と人間の安全保障のどちらもが重要だという。しかし、力頼みの平和の限界は明らかだ。軍事力で平和が保たれるなら、パレスチナ問題などありえない。力は大事だが、他者を尊重する共生の思想が根を下ろさなければ平和は安定しない。 だとすると、力を有する者こそ他者を尊重しなければならないだろう。欧米のマスメディアに乗り込み、安保理常任理事国を説得して共生を常識化できるだろうか。それができれば、日本の平和学のソフトパワーはすごい。 出版社 岩波書店 ISBN 4004310008 価格 ¥ 777 URL http //book.asahi.com/review/TKY200605020232.html 中国の「核」が世界を制す●伊藤貫著 [産経] このところ厭(えん)中感情が高まっている。それでも、日本はいまだに中国の驚異的な経済発展に幻惑されるあまり、中国が日本に突きつけている本当の深刻な脅威に目を向けようとしない。本書はまさに覚醒(かくせい)の書である。 著者は中国の国家目標はアジアの最強覇権国となり、漢民族が十九世紀初めに支配していた中華勢力圏を復活することであり、そのために核ミサイル戦力の向上をはじめとして軍拡に狂奔していると説いているが、その通りである。そして東シナ海の海底資源や尖閣諸島の領有権をめぐって、日中が軍事衝突することがあっても、アメリカが軍事介入できない状況がすでに生まれていると、警告する。 著者は日本の在米・知米派の第一人者であり、ワシントンの裏と表に精通しているが、中国が台湾を攻撃する場合、あるいは日本から在日米軍が台湾を救援するために出動しようとする場合に、アメリカ本土に核ミサイルを撃ち込むといって恫喝(どうかつ)するか、日本に対して、露骨な核威嚇(かく)を加える可能性が高いと断じている。著者ははたしてアメリカが台湾や日本を守るために、アメリカの大都市を犠牲にするだろうか、疑念を呈している。昨年、中国の将官が外国報道陣の前で、アメリカが台湾紛争に軍事介入すれば、アメリカ本土に対して核先制攻撃を加えると明言している。“アメリカの核の傘”こそ、日本防衛の基礎となってきた。ところが、この“核の傘”がもはや機能しなくなっているというのだ。著者の詳細な分析や提言は、数多くのアメリカ政権幹部や、権威者の見解をもとにしているだけに、強い説得力を持っている。 著者は日本が核武装をして独自の抑止力を持たなければ、将来、「中華勢力圏の属領となるであろう」という。私もこの見解に賛成する。昭和二十年には日本は核兵器を持っていなかったために、核攻撃を誘った。日本は人類唯一の被爆国家として、どの国よりも核武装する権利を持っていると思う。(PHP研究所・一四七〇円) 外交評論家 加瀬英明 URL http //www.sankei.co.jp/news/060313/boo007.htm ファルージャ―栄光なき死闘●[著]ビング・ウェスト [朝日] [掲載]2006年03月12日 [評者]酒井啓子 読んでいて、胸が悪くなる。 イラク戦争後、反米抵抗活動の拠点となったイラク西部のファルージャに駐屯し、04年11月に最大規模の掃討作戦を実施した、米軍の記録。胸が悪くなるのは生々しい殺人の記述だけではなく、徹底した「米軍」の眼差(まなざ)しで書かれているため、彼らが「敵」とみなしたイラク人の生活と痛みが、見事なほど抜け落ちているからだ。他国の街に勝手に「ブルックリン橋」と名づけるところなど、端から異なる言語を理解しない姿勢が徹底されている。「人間は所詮(しょせん)相互理解ができない」と、元海兵隊の著者は言い切る。 本書が露呈するのは、イラクに駐留する米軍が、あまりにもいい加減な知識と情報で投入されていることだ。フセイン政権=スンニ派支配、とか、ファルージャがスンニ派地域だからフセイン支持だ、といった単純化された認識枠組みもさることながら、人選を間違えて不適切な人間に権限を与える。「誰が味方で誰が敵かを見分け」られず、「真のイラクの指導者が見つからない」と文句を言う。それはそうだろう。米政府はそうしたことを全く考えずに、戦争を始めたのだから。あげく、市街に騒音を撒(ま)き散らし、相手を侮蔑(ぶべつ)する戦術に日々没頭する。 普通の農民でも侵略に対しては武器を取ると分かっているのに、老人に肩を貸すような若者だというのに、米軍に反対する者を皆「武装勢力」とする固定観念。 だが本書で重要なことは、米兵が日々人間性を失い、イラク人が敵愾(てきがい)心を募らせていった原因が、米政権の無計画で混乱した政策にある、と指摘する点だ。復興計画を進める傍らで、別の街を空爆する。武力を使えば信頼を失うことがわかっていて、攻撃命令が出される。攻撃のピークで、政治的配慮から突然停止が言い渡される。それは、米政権の文官と武官の「破滅的」な関係によるものだ、と著者は言う。米の、現在に続くイラク統治の失敗を集約した言葉だ。 イラク人は「戦争で勝ったためしがない」が、「交渉となると負けない」と皮肉を言う米将校。戦争せずに交渉で解決するに越したことは、ないはずだが。 出版社 早川書房 ISBN 4152087013 価格 ¥ 2,100 URL http //book.asahi.com/review/TKY200603140357.html 学徒兵の精神誌●大貫恵美子 [朝日] [掲載]2006年03月26日 [評者]苅谷剛彦 死に意味を与える。そこには自らの生の有り様が反映する。そしてその生は、個人を超えた時代や国家の有り様に枠づけられている。死の確実な戦いに赴く若者にとって、戦争のために死ぬとはどういうことだったのか。第2次大戦下に綴(つづ)られた7人の若者の手記を通して、アメリカ在住の人類学者が、学徒兵の精神誌を繙(ひもと)く。本書は、教養も知性も世界的視野も持っていた当時の大学卒業者が、軍国主義やこの戦争の無意味さを承知しつつ、死を受け入れていった軌跡を明らかにした好著である。 政府が「殺した」と著者はいう。死に至るまでに記録された苦悩に満ちた死への意味付けの痕跡。そこには、知性や人間性の証明だけではなく、国家と個人の葛藤(かっとう)が見事に描かれている。殺されたのは知性なのかもしれない。 「国を愛する心」の教育の一歩先に何があるのか。それを考えるためにも、生きることさえ選べなかった若者から学ぶことは多い。 出版社 岩波書店 ISBN 400022462X 価格 ¥ 2,625 URL http //book.asahi.com/review/TKY200603280336.html 経済のグローバル化とは何か●[著]ジャック・アダ [朝日] [掲載]2006年03月19日 [評者]松原隆一郎 表参道ヒルズが華々しくオープンした。中高生で賑(にぎ)わう竹下通りを擁しながら原宿が大人の町でもありえたのは、ひとえに同潤会アパートのしっとりした佇(たたず)まいあってのことだ。同潤会は、関東大震災の後に耐震構造に配慮すべしという政治的・社会的要請を受けて建設されたアパートである。そのような時を経た名建築だけが持つ文化や歴史を解体してそこに現れたのは、海外ブランド店がぎっちりと効率的に集積する空間であった。 「グローバル化現象は、『社会的なもの』『政治的なもの』に対する『経済的なもの』の復讐(ふくしゅう)である」と著者は言う。それならば同潤会を海外ブランド店に置き換えた表参道ヒルズこそがグローバル化の象徴的事例ということになろう。だが「経済のグローバル化」にかんする大半の議論は、「世界市場の統合」を指摘するにとどまってきた。それだと海外ブランド店が表参道に軒を並べることまでしか指さないことになる。 社会や政治も視野に収めると、グローバル化を通して見える光景は一変する。「市場統合論」では、分業の広がりによって生産性が向上し、局地的な村落経済の余剰を交換する地域市場が生まれ、それが結合して国民市場となり、開放されて国際市場へ成長したとされる。一方、本書は、グローバル化を昨日今日の現象ではないとし、その起源を11世紀ごろから地中海や北海・バルト海あたりで行われた遠隔地商業に求める。のちに商人は国家と結託し、外部から国内の諸規制を撤廃するに至ったというのである。 市場は「競争」だけでなく「組織化」も不可欠の要素としている。ケインズ主義や日本的経営といった「組織化」は、グローバル化の過程で解体された。だが「組織化」は需給調整だけではなく、政治や社会と経済の折り合いをつける役割も果たしている。それが競争一元論によって破壊されたせいで世界市場はとくに金融面で不安定化し、周辺国は停滞を余儀なくされたとする。 ポラニーやウォーラーステイン、ブローデルらを引きながら、啓蒙(けいもう)書の枠を超え、スリリングな議論を展開している。 出版社 ナカニシヤ出版 ISBN 4779500540 価格 ¥ 2,520 TITLE asahi.com: 経済のグローバル化とは何か [著]ジャック・アダ - 書評 - BOOK DATE 2006/03/26 16 03 URL http //book.asahi.com/review/TKY200603190136.html ピープルの思想を紡ぐ●[著]花崎皋平 [掲載]2006年03月19日 [評者]鷲田清一 「本書は……現代日本の政治・思想・文化の状況に対するつよい違和の念に貫かれています」。本書はこのような言葉で始まる。「まつろわぬ」ことの表明である。「まつろわぬもの」、それは坂部恵の定義によれば、「秩序のあらためての『聖別』としての『まつり』に参与せぬもの」のことである。「まつろわぬ」ことが、時代の巨(おお)きな濁流に抗しえず「空振り」し、メッセージを届けるべき次の世代に「そっぽを向かれ」ても、それでも声を張り上げる、そんな宣言である。 眠ってはならない、みなが寝入っているあいだにこそ問わねばならない、そんなミネルヴァの梟(ふくろう)のような想(おも)いが、著者のこれまでの「オルタナティブな思想」を駆ってきた。オルタナティブには言うまでもなくさまざまな形がある。その形は増殖すればするほどよい。著者のそれも増殖に増殖をくりかえしてきた。 著者がここで対抗すべき巨きな流れとして引きずりだすのは、ナショナリズムとグローバリズムだ。それに対抗的に立てるのは「ピープルネス」と「サブシステンス」の思考である。 講演録が中心になっており、現場の声というより骨太のやや大ぶりな言葉がめだつが、運動を増殖させる過程で共振した別の骨太の声を深い敬意とともに引いているのでそれを引くと、ピープルネスとは石牟礼道子のいう「ごくごく小さなものの中に生きる思いや優しさ、威厳を見つけていく方向」であり、サブシステンスとは滝沢克己のいう「人間共通の低みに立つ」思想であり、安里清信のいう「生存基盤に根を張る」生き方だ。 アイヌ民族の詩を論じ、コモンズ(共有財)の保全運動を論じ、田中正造の思想を論ずるなかに、所轄庁による「認証」ではなく、市民が、あるいは当事者自身が「公益」かどうかを判断し選択する、そういう「水平的な自治、分権、協同、共生」の運動に与(くみ)してきた著者の半生が折り重なる。彼にとって、「地域」も「共生」もけして融和の場所ではなく、〈触発〉と〈闘い〉の現場だったことが、隠そうにも隠しえない苦々しさをまじえて書きとめられている。 出版社 七つ森書館 ISBN 4822806154 価格 ¥ 2,100 URL http //book.asahi.com/review/TKY200603190139.html 差別とハンセン病―「柊の垣根」は今も●[著]畑谷史代 [掲載]2006年03月19日 [評者]鶴見俊輔 日本人は忘れやすい。これは、明治以後の国家本位の学校制度に根がある。小学校から大学までの試験本位の昇進で、その時の試験を終えると忘れる。自分たちのした戦争についても、その終わりに原爆を落とされたことについても、忘れる。 しかし、忘れないことを保つ人はいる。1907年から96年まで、90年にわたる隔離の中に生きた人たちは、自分たちが閉ざされていることを忘れない。隔離が法によって廃止された後も、外の社会の偏見によって隔離は続いている。むしろ、法律上もはや隔離はなくなったという常識が、今も続く隔離を支えている。 URL http //book.asahi.com/review/TKY200603190130.html 中国は日本を併合する●平松茂雄著 十九世紀の後半、明治維新の日本は近代国家建設という明確な目標をもった国であった。それによって日本は非白人国家として唯一の近代国家になった。 そのころシナ(清)は「眠れる獅子」といわれていたが、そのうち「眠れる豚」にすぎないことがわかり、国土は諸外国に食い荒らされ、シナ人は世界中で蔑視(べっし)される民族となっていた。日本との差はあまりにも大きかった。 ところが二十世紀の半ば、毛沢東がシナ大陸に現れると、清朝の最盛期(康煕帝・乾隆帝)の領土を取りもどすという国家目標を立てた。この中には満洲・朝鮮・カザフスタン・キルギス・パミール高原・ネパール・ミャンマー・ベトナム・ラオス・カンボジア・台湾・沖縄・樺太・ハバロフスク・沿海州一帯が入る。 この領土獲得の手段として、毛沢東は「核・海洋・宇宙」の三領域の開発・征服を目標とした。 その後、大躍進・人民公社・文化大革命などといろいろあり、そのたびに千万人単位の人民が殺されたり餓死した。しかし中国共産党政権が、この毛沢東の三目標からブレることはなかったのである。核弾頭もミサイルも、有人宇宙船も開発した。そして今や東シナ海への進出は実質上終わり、西太平洋に出てきている。 この中国の政策の発展は、はじめのうちは中国の貧困にかくされてそれほど脅威と見なされなかった。しかし平松茂雄氏だけは、五十年近く、コツコツと地味な研究を重ね、この中国の野心についてただ一人警告を発し続けてきた。 それに対して、日本政府・議員・学者、特にチャイナスクールと言われている人たちが何をやってきたか。清朝末期の宦官(かんがん)たちみたいなことをやって日本を裏切り続けてきたのではないか。二十世紀の元寇(げんこう)がせまっている。 平松氏の著書は平成の立正安国論である。(講談社インターナショナル・一六八〇円) 上智大学名誉教授 渡部昇一 (03/19 05 00) URL http //www.sankei.co.jp/news/060319/boo010.htm カントと永遠平和●ジェームズ・ボーマン、マティアス・ルッツ・バッハマン [読売] 出版社:未来社 発行:2006年1月 ISBN:4624011686 価格:¥2940 (本体¥2800+税) 一筋縄でない古典に迫る ブッシュ政権による一連の対外強硬策を目のあたりにすると、今新鮮に映るのはむしろドイツの法学者カール・シュミットの議論かもしれない。世界平和や普遍的人権の実現のために、といった「正しい」理由を掲げて遂行される戦争のいかがわしさを20世紀初頭に暴いてみせたのがシュミットだからである。近代主権国家体制の方が、世界市民の共同体なる理想より実際の平和に貢献する、というわけである。 カントの『永遠平和のために』(1795)は、シュミット的リアリズムの対極にある著作である。しばしば国際連盟・国際連合の原型を示した古典と評価されるが、それだけにはとどまらない。経済的相互依存の進展や、国内体制の「民主化」(やや解釈の余地があるが)の進展が戦争のリスクを減らすといった今風のアイデアの宝庫でもある。また、必ずしも民族や文化の多様性を抹消したのっぺらぼうの「人類」の共同体が目指されているようでもない。平和な秩序にいたる道順は、一定のルールの下での諸勢力の対立と抗争であるというメッセージをそこに読み取ることすら可能である。要するに、案外一筋縄でいかない著作なのである。 本書『カントと永遠平和』は、この奥ゆきのある古典に想像力を刺激された論者が、縦横無尽にカントと平和を論じた本である。カントの専門家のみならず、政治学者や古代ギリシア思想の専門家、さらにはハーバーマスのような著名哲学者も寄稿している。カントの平和論の刊行200周年を祝う国際シンポジウムが元になっているが、この種の企画にありがちな、玉石混淆(こんこう)、ばらばらの寄せ集めになっていないのは特筆に値する。それだけに邦訳に割愛された論考があるのが惜しまれるが、編者2人による明快な序文、国家の論理にたつシュミットと法による平和の道を模索するカントを正面から対決させたハーバーマス論文など、十分に読み応えがある。紺野茂樹、田辺俊明、舟場保之訳。 ◇ボーマン=セントルイス大学教授。◇ルッツ―バッハマン=J・W・ゲーテ大学教授。 評者・川出 良枝(東京大学教授) (2006年1月30日 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/book/review/20060130bk04.htm 辺野古 海のたたかい●浦島悦子 [朝日] [掲載]2006年01月08日 沖縄県名護市辺野古は、日米両政府が合意した米軍普天間飛行場の移設先だ。防衛施設庁が進めようとする海上のボーリング調査を、500日を超える座り込みやカヌーによる行動などで止めた過程を、自らも運動に参加した「在沖ヤマトンチュ」が描く。夜明け前に作業を始めたり、一度造った工事用のやぐらを台風接近のために撤去したりという「愚行」や「税金の無駄遣い」がいくつも。現場でいま何が起きているかを知るための貴重な報告。 出版社 インパクト出版会 ISBN 4755401607 価格 ¥ 1,995 URL http //book.asahi.com/review/TKY200601110172.html 中国農民調査●陳桂棣、春桃著、納村公子、椙田雅美 [朝日] [掲載]2005年12月25日 [評者]加藤千洋―書評委員のお薦め「今年の3点」 (1)中国農民調査(陳桂棣、春桃著、納村公子、椙田雅美訳) (2)マオ 誰も知らなかった毛沢東 上・下(ユン・チアン、ジョン・ハリデイ著、土屋京子訳) (3)威風と頽唐 中国文化大革命の政治言語(吉越弘泰著) 今年もあふれた中国本から個性を放つ3点を。(1)は人口13億の大国が抱える根本問題、すなわち農村・農民・農業の「三農問題」についての草の根からの告発ルポ。発展から取り残される農民の窮乏と農村幹部の腐敗に切り込み、刊行間もなく発禁とされた問題作だ。 「農村で都市を包囲する」と革命戦略を語ったのは毛沢東。「農民は動揺していない」と天安門事件で北京のデモ鎮圧を指示したのはトウ小平だった。 それほどに中国政治で決定的な要素であるはずの農民に、富農出身の毛沢東は強いシンパシーを実は持っていなかった。意外な毛像を提示したのが(2)だ。旧ソ連資料を用いて書きかえられた毛沢東像、中国現代史の「実相」は衝撃的だ。 その独裁者が発動した文化大革命中の政治的言説を克明に読み解く(3)は、大衆動員方式の政治運動のすさまじき実態も伝える。 中国農民調査 著者 陳 桂棣・春桃 出版社 文藝春秋 ISBN 4163677208 価格 ¥ 2,900 マオ?誰も知らなかった毛沢東 上 著者 ユン チアン・J・ハリデイ 出版社 講談社 ISBN 406206846X 価格 ¥ 2,310 威風と頽唐?中国文化大革命の政治言語 著者 吉越 弘泰 出版社 太田出版 ISBN 4872339827 価格 ¥ 4,935 URL http //book.asahi.com/review/TKY200512270300.html 表現の自由VS.知的財産権 [著]ケンブリュー・マクロード [朝日] [掲載]2005年12月25日 [評者]佐柄木俊郎―書評委員のお薦め「今年の3点」 (1)表現の自由VS.知的財産権(ケンブリュー・マクロード著、田畑暁生訳) (2)プロファイリング・ビジネス(ロバート・オハロー著、中谷和男訳) (3)仮面の人・森鴎外(林尚孝著) 新自由主義改革の先達米国では、規制緩和により「知」や情報を企業が囲い込む動きが加速した。(1)はそれが莫大(ばくだい)な富を生みつつ、自由な研究や創造、途上国発展の阻害につながっている実態を鋭く描く。「パブリック圏の拡大を」が著者のメッセージだ。 (2)では、個人情報が巨大ビジネスを生み、治安部門までが依拠し始めている米社会の歪(ゆが)みが浮き彫りにされる。小泉圧勝劇で「官から民へ」はいまや日本でも「錦の御旗」の観があるが、私有化、民営化は多数に幸福をもたらすのか、と考えさせられる。 (3)は、留学からの帰朝(きちょう)を追ってきたドイツ娘を帰し、名家令嬢と結婚、「舞姫」発表、離婚と、文豪の身辺あわただしい若き時代の「謎」解きに挑んだ読み物。ドイツ娘との結婚を願い、軍医の辞表まで考えたという解釈だが、文献調査は確かで説得力がある。 表現の自由vs知的財産権?著作権が自由を殺す? 著者 ケンブリュー マクロード 出版社 青土社 ISBN 4791762045 価格 ¥ 2,940 プロファイリング・ビジネス?米国「諜報産業」の最強戦略 著者 ロバート・オハロー 出版社 日経BP社 ISBN 4822244652 価格 ¥ 2,310 仮面の人・森鴎外?「エリーゼ来日」三日間の謎 著者 林 尚孝 出版社 同時代社 ISBN 488683549X 価格 ¥ 2,310 URL http //book.asahi.com/review/TKY200512270304.html
https://w.atwiki.jp/comedian/pages/1275.html
平和ラッパ・梅乃ハッパをお気に入りに追加 リンク1 <平和ラッパ・梅乃ハッパ> #blogsearch2 キャッシュ <平和ラッパ・梅乃ハッパ> 使い方 サイト名 URL リンク2 <平和ラッパ・梅乃ハッパ> #technorati 報道 <平和ラッパ・梅乃ハッパ> 今年のゴールデンウィークは、ご自宅でよしもとを楽しもう!!「吉本自宅劇場 GW!」 - PR TIMES 西川きよし×ネイビーズアフロ「漫才まつり2021」ギャロップ、学天即、アルミカンはシャッフル - ナタリー 成分解析 <平和ラッパ・梅乃ハッパ> 平和ラッパ・梅乃ハッパの48%は小麦粉で出来ています。平和ラッパ・梅乃ハッパの36%は着色料で出来ています。平和ラッパ・梅乃ハッパの14%は鍛錬で出来ています。平和ラッパ・梅乃ハッパの1%は月の光で出来ています。平和ラッパ・梅乃ハッパの1%は知識で出来ています。 ウィキペディア <平和ラッパ・梅乃ハッパ> 平和ラッパ・梅乃ハッパ 掲示板 <平和ラッパ・梅乃ハッパ> 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る ページ先頭へ 平和ラッパ・梅乃ハッパ このページについて このページは平和ラッパ・梅乃ハッパのインターネット上の情報を集めたリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新される平和ラッパ・梅乃ハッパに関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
https://w.atwiki.jp/mairyuga923y/
平和な学園でなりチャ!wikiへようこそ! ここはチャットサイト「チャベリ」内のグループ「平和な学園でなりチャ!」のwikiとなっております。 ここでは皆様のキャラの情報・学校の内部情報などを書いています。 このグループは、皆で仲良く恋愛やら友情やらのロルを回して頂きたく作ったものです。 なりチャ初心者の方々や、古参の方々、それぞれが楽しい時間を過ごしてもらいたいです。 まず初めに、なりチャ初心者の方はこちらを見ることをオススメします。 http //blue.ribbon.to/~riya/4cc/guide/index.html 追加希望要項等ございましたらコメントお願いします。 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/naianakikaku/pages/950.html
いかせのごれの町はずれ、そこにひっそりとたたずむ工場がある そこは一般人にとってはなんの変哲もない製鉄系の工場のように思える しかしそこは、知る人ぞ知る武器工場 常識から外れた従業員と、噂を聞きつけた契約者達が出入りしている そんなこの場所に、今日も来訪者がまたひとり 「工場長!面会希望のお客さんですよー」 女性の声が作業室に響く 呼ばれた男、タクミは工場長と呼ばれるにはまだ若いが、白髪と糸目のせいで老けて見えた そんな彼は今机に向かい、機械のパーツに夢中になっている 「ちょっと待ってね、今いい所だから」 こちらに見向きもしないその返事に、彼女はため息を吐いた 彼は一度作業に入ると、ひたすら熱中してしまう それゆえに、彼の言う「ちょっと」は下手をすれば2,3時間にまで及ぶことも珍しくないのだ 「もう、出雲寺組の参謀さんを待たせるなんて」 「え?」 彼女の呟きに、作業の手が止まった 「構いませんよ、何せ唐突にお邪魔してしまったものですから」 タクミが振り向けば、彼女の横には緑色の髪の好青年が恭しく微笑んでいるところが見えた それは、彼も良く知っている人だ 「ヨシヒトさん!」 「こんにちは、タクミさん」 タクミが笑顔で歓迎すると、ヨシヒトと呼ばれた青年も笑顔で返す ヨシヒトは極道一家である出雲寺組の参謀で、武器工場の契約者でもある 武器の扱いに長け、手入れが趣味ということもあり、タクミからはかなり気に入られている 作業に区切りを付けると、タクミは駆け足で2人の元に駆け寄った 「よく来たね、元気してた?」 「ええ、あなたも相変わらずなようで何よりです」 「元気じゃないと工場長は務まらないからね」 「仰る通りで」 「まあ立ち話もなんだし、お茶でも出すよ」 「ありがとうございます」 「というわけでヒトミさん、応接室使うから用意お願いしていい?」 「はーい」 彼女が給湯室へと駆けていったであろう所を見送ってから、彼らも別室に向かった 彼女が入れたお茶を一口飲んで一息つくと、タクミはいやあ、と言葉を発した 「それにしても久しぶりだね、いつ以来だっけ」 「確か、あの日の後処理が最後だったかと」 「となると、ずいぶんと長くなるなあ」 しみじみと、呑気に思いだす素振りをする 「アキトを定期的に向かわせていますが、迷惑はかけていませんでしたか?」 「迷惑だなんてとんでもない!彼には学ぶことが多くて嬉しい限りだよ」 「それはよかった。彼もあなたに会うのを楽しみにしている節がありますので」 「出雲寺組さんならいつでも大歓迎だよ」 「恐れ入ります」 「それで、今日はどうしてここに?参謀さんが来ると言う事は雑談しに来たわけでもなさそうだけど」 「実は、とある情報を仕入れましてね」 「ということは、商談か何かかな?」 「いえ、情報量は要りません。あなたに伝えなければならないと判断しましたので」 「へえ?」 「単刀直入に申し上げます」 「先日『白き闇』に動きがあったようです」 「!!」 その言葉に思わず目を見開き身を乗り出すタクミ ヨシヒトは冷静にその反応を見ている 「あいつ、今回は何を」 「いかせのごれ高校の生徒が数人、狙われたようです。しかし全員無事でした」 「つまり誰も壊れていないって事?」 「はい、詳しい事はわかっていませんけどね」 「…そうか」 そう言うとタクミは俯いた 冷静を装っているものの、明らかに怒りの色が見てとれる 「報復、したいのでしょう?」 「したいさ。でもね、それじゃあ何も守れない。あの日と同じだよ」 「本当にいいんですか?」 「工場長としての責任もあるし、よっぽどのことがない限りは大丈夫」 「そうですか」 「でもね、僕の他に誰かがあいつを倒してくれるなら協力は惜しまないからさ」 「それなら、情報が入り次第また伺いますよ」 「ありがとう」 タクミは頭を上げて、笑顔を見せた 「それと白き闇が動いているということは、ここもまた危険にさらされる可能性があります」 「あいつはもうこの場所に興味が無いみたいだから、大丈夫だよ」 「しかし、万が一があります。何かあれば連絡して下さい、今度こそ守り切りますから」 「わかった。でもいざとなれば優秀な用心棒もいるからさ」 「用心棒、ですか」 “用心棒”というキーワードに、あからさまに苦虫を噛み潰したような顔をする 「ヨシヒトさんバレッタの事好きじゃないんだもんね」 「はい、アレだけはどうしても生理的に受け付けないんですよね」 ヨシヒトは犬が大の苦手らしい そして、バレッタはワーウルフ、同一視しているのだろうけど 「オオカミと犬は別物だって聞いてるけど、それでもダメなの?」 「タクミさん、どちらも犬科なんですよ?生物学的に同じようなものです」 「どっちでもいいんだけど、やっぱり仲良くできないものなのかな」 「アレと仲良く?はは、出来る訳もないししたくもない」 笑顔を見せてはいるのだが、それはひきつっていて眉間にはしわも寄っている いつも落ち着いていて大人なヨシヒトが、バレッタの話題になるといつもこうだ 「バレッタもヨシヒトさんの事好きじゃないし、どうしようもないなあ」 「ええ、タクミさんが飼い主じゃなければ、半殺しにもでしてやりたいですよ」 「あー、それ彼が聞いたらどうなることやら…」 不意に、部屋のドアがガチャリと音を立てた 入ってきたのは、ふさふさとした人狼で 「タクミ、お茶新しいのもってき…あ」 「あ」 「…あーあ」 そう、噂のバレッタだった なんてタイミングだと、タクミは盛大にため息を漏らした ヨシヒトとバレッタはお互いの存在に気づくと、そのまま睨み合っている バレッタは手にもっていたお盆を机に置いて、ヨシヒトに近づいていった 「おいスーツ男、なんでてめえがここにいるんだ?」 「それはこっちの台詞ですよ、部屋に入る時はノックしてから。お母さんに習いませんでした?」 「屁理屈ばっかり言いやがって、大体その優男顔が気に入らねえんだよ!」 「気に入らない?人間様に嫉妬でもしてるのですか犬人間」 「だから犬じゃねえ!ワーウルフだと何回言えば気が済むんだ!」 「どっちも同じですよ犬野郎」 「あんなのと一緒にすんな!!」 お互い今にも殴りかかりそうな勢いで、口論はエスカレートしていく 取り残された工場長は、ただ傍観を決め込んだ そうしていると、ヒトミがこっそりと開け放しのドアから部屋に入り、彼の傍らに来た 「ごめんなさい、バレッタさんに来訪者がヨシヒトさんだってこと伝え忘れてて、それで」 「もはや日常茶飯事でしょ、お茶でも飲もうよ」 ヒトミはタクミの隣に座ると、バレッタの持ってきたお茶を手に持つ それにしても、と声を投げた 「2人とも、顔合わせたらいつもケンカ初めちゃうんですものね」 「よく飽きないよねえ、そこだけは尊敬するよ」 「尊敬と言うか、呆れると言うか…」 タクミは、目の前の光景を眺めながら思いを辿った 己の無力さにただただ後悔したあの日 しかし今この工場は平和そのもので、あの日がまるで悪夢のように感じられるほどだ こうやって日常が続くのなら、報復はまだ必要ない どこか遠くでそう考えながら、彼女が煎れたであろうお茶をすすった ―――ああ、今日もお茶は美味しいな 白き爪痕と平和なひととき 「ああもう!だからてめえは気に食わねえんだよ!なあ、タクミもそう思うだろ?」 「全く、救いようがないですね。タクミさんからも何か言ってやってくださいよ」 「いやいや、いきなり話振られても答えようないって」 「まだ続くのかな、これ…」
https://w.atwiki.jp/jleague-football/pages/2465.html
Kazushi Mitsuhira Birth Date 1988-01-13 (age 36) Birth Place Kanagawa Height 175 cm Weight 68 kg Position Forward Club Ventforet Kofu Number 9 Club Statistics Season Club No. League Game Goal 2008 Shonan Bellmare 36 J2 4 1 2010 Shonan Bellmare 36 J1 9 1 2011 Oita Trinita 9 J2 23 5 2012 Oita Trinita 9 J2 39 14 2013 Kyoto Sanga FC 9 J2 38 7 2014 Kyoto Sanga FC 9 J2 28 8 2015 Oita Trinita 27 J2 30 4 2016 Oita Trinita 27 J3 15 10 2017 Oita Trinita 27 J2 33 5 2018 Oita Trinita 27 J2 30 10 2019 Oita Trinita 27 J1 17 4 2020 Oita Trinita 27 J1 18 3 2021 Ventforet Kofu 9 J2 25 3 2022 Ventforet Kofu 9 J2 33 7 2023 Ventforet Kofu 9 J2 39 9 2024 Ventforet Kofu 9 J2 Total J1 44 8 J2 322 73 J3 15 10
https://w.atwiki.jp/mtgflavortext/pages/981.html
ガヴォニーでは願い事は弱さの記しと取られるが、井戸はたいてい銀貨があふれんばかりになっている。 In Gavony wishing is taken as a sign of weakness, yet the wells usually brim with silver. イニストラード 【M TG Wiki】 名前
https://w.atwiki.jp/pricone/pages/734.html
《それぞれの思惑 平和島 静雄》 キャラクターカード コスト5/緑/CP4000/ランク1 特徴なし ボーナスアイコン RANK+1 このカードは、アタックした場合、ターン終了時までCP+2000を得る。 自分を抑えきれねぇ、怒りがわくと体が勝手に動いちまう。 デュラララ!!で登場した緑色・特徴を持たない平和島 静雄。 アタックした場合、CP+2000を得るテキストを持つ。 関連項目 平和島 静雄 収録 デュラララ!! 01-058 R
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/1939.html
autolink() PT/W07-T101 カード名:平和な生活 江漣&玲二 カテゴリ:キャラクター 色:黄 レベル:0 コスト:0 トリガー:0 パワー:2000 ソウル:1 特徴:《武器》? 【自】このカードがアタックした時、他のあなたのキャラが2枚以下なら、あなたのキャラすべてに、そのターン中、パワーを+1000。 江漣「しっかりエスコートしてね」 レアリティ:TD illust.- 初出:オリジナルサウンドトラック Vol.1 アタックした際自身を含めパンプできる。 序盤は4,5枚キャラが並ぶことは多くないため活躍してくれるだろう。 ・関連ページ 「江漣」? 「&」? 「玲二」?