約 906,567 件
https://w.atwiki.jp/fnoanhgoa/pages/13.html
エクスの冒険シリーズ 小説の感想をおねがいします 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/tetunoyumi/pages/30.html
小説 承太郎の大冒険 一話
https://w.atwiki.jp/wiki7_makino/pages/4.html
自分が書いた小説が載せてあります。 見たいときに見て下さいな♪ フォーワールド航界記 フォーワールド100のお題
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/1863.html
はじめまして。知り合いならばこんにちは、この手記を読んでいる方。 私は鈴仙・優曇華院・イナバという兎――いや、兎なんですけども、外見はほとんど人間と変わらないので、兎っぽい女の子であるとしておきます。 私は永遠亭という、迷いの竹林の中にある屋敷に住んでいます。凄腕の薬師、八意永琳師匠の一番弟子として、そして少々不本意ながら蓬莱山輝夜様の召使いとして、日々を過ごしております。 この手記は、幻想郷での穏やかな日常を過ごす中で、時たま遭遇する穏やかでない日常を書きつづったり、記録したり、なんやかんやしたものです。 あなたがどういう経緯でこの手帳を手に取ったかは分かりませんが、事前に通告しておきます。はっきり言って、こんな手記は読んでも無駄です。あなたの人生に何の教訓も意義ももたらしません。時間を浪費するだけです。 よって今すぐ読むのを中止して、至急この手帳を永遠亭までお届けください。いくらかのお礼をします。「うどんげ」という名前を出せば、私がすごい勢いで出てくると思います。 もう一度言います、読まないでください。 なんで読んでるんですか? 分からず屋ですね。得することなんてないんですよ? ただの兎――もとい女の子の独り言が延々と書かれているだけです。あなたにはもっと他に読まなくちゃいけないものがあります。有益で娯楽に満ちた書物が世の中には溢れているのですから。そういうものを読みましょう、ね? あっはっはっ! なるほど、読みたいんですか? 馬鹿だなー。時間の無駄ですってば。 つ、次のページから本当に無駄なものばかりですよー 読書厳禁。頁めくり厳禁。 この掟を破ったものは兎の呪いがかかるであろう。 お願いだから読まないでー!! (ある真新しい手帳の、序文らしき文章) ※ ―水無月の1― 月替わりに手帳を買ったので、今日から適当に書きこんでいこうと思う。書く内容は愚痴だったり、文句だったり、突っ込みだったりかな。普段はとても口にできないようなことを書いて、憂さを晴らしてみたい。 この手記は個人的なもので、誰かに見せる予定なんてないけれど、やっぱり他人に話しているような感覚で書くのが一番やりやすいので、その様式でいこうと思う。好き勝手に書くより、ある程度体裁を整えた方が後で読み返しやすいし、他人の日記を読んでいる感覚になれて、恥ずかしさも半減するだろう。 それにしても私はどうしてこんなものを書く気になったのか。不思議だ。これまで文章を読むことにも書くことにも興味はなかったはずなのに。 手帳を開きペンを取ると、なんとなく、心の奥底にあるものを無闇やたらに文字にしたくなった。 多分、姫様の影響だろう。 今、私の周りは、やけに文字で溢れている。 ※ ―水無月の2― 水無月ともなると春めいた風はほとんど吹かなくなり、中途半端に暖かくなった空気が多量の湿気を含むようになる。常にむわりとした不快な風につきまとわれ、雨が降らなくても汗が降る。人里に薬を売りに行ったこの日も、やはりそうだった。 私はお師匠から薬の売り歩きの役目をおおせつかっている。薬師になるための修業の一環として、お客さんと顔を合わせて話を合わせ、相手の病状に合わせた薬を売る修行だ。売り上げは二の次だとお師匠は言うが、売れなかったらでお師匠の機嫌は悪くなり、理由を推察してレポートにしろと言われるので、結構必死にならなくてはいけない仕事である。 今日も今日とて、足を棒にして薬を売り歩いた。幸いにも、夕方ごろにはなんとか在庫が全部はけた。ああこれでお師匠にどやされなくて済むなあ、と胸を撫で下ろしていた、人里の夕暮れ。気の抜けた私は、自分の身体にまとわりつく塩水を自覚して、ため息を吐いた。 すでに服の下は汗でしっとりと濡れ、髪の毛はべとついていた。汗が流れれば活力も流れ落ち、足も腰もだるくなる。これでは兎なのにぴょんぴょん飛ぶこともできなくなり、己のアイデンティティを失ってしまう。 なんて、無駄なことを考えながらゆらゆら幽鬼のように人里の中を歩いていると、一軒の建物が目についた。 それは人里にたった1つだけある公衆浴場だった。 私はその場に立ち止まり、建物を凝視した。古めかしい屋根から、そっけない灰色の煙突が生えている。その外観から、奥にある魅惑の浴場を想像せずにいられなかった。お湯を頭からざぶんとかぶって、わさわさと髪を洗えばさぞ気持ちよかろう。湯船につかればどんなに癒されるか。そんな誘惑に引き寄せられ、私はふらふらと暖簾をくぐった。 まだお客さんの少ない時間帯だったので、女湯には誰も入っていなかった。これは僥倖。人間がたくさんいる中で兎が1匹入り込めば、物珍しさからじろじろと見られることは間違いない。これならそんな心配もせず、思う存分湯殿を堪能できるというものだ。 私は早々と服を脱ぎ捨て、浴室へと突撃した。 まずは冷水で身体を清め、ついで透明なお湯で頭を流す。石鹸を手に取り、外の湿気でべたついていた髪を、両手の指でわしゃわしゃ洗う快感。「んあー」と思わず嬌声に似た声を上げてしまった。 早々に頭と身体を洗ってしまうと、さっそく少し熱めの湯船につかる。 「ふぅー……あ゛ー、い゛ぎがえ゛る゛ー」 私が自分の台詞全てに濁点をつけたのは、それだけ疲れがお湯の中に溶けだしていく感じを表したかったからだと思ってもらいたい。 さて、湯船につかった私は、ただ温まるだけなのも暇だったので、女湯をじっくり眺めまわしてみることにした。 永遠亭のお風呂もそれなりに大きいが、銭湯はまた別物だ。ウチには水風呂なんていう苦行者専用の風呂は置いてないし、過剰とも言えるほどたくさんの風呂桶が重なっていることもない。浴場の壁に妖怪の山が大きく書かれていることもない。そもそも他人と一緒に風呂に入るというのは、一種独特の世界だ。 何より、永遠亭だと子兎たちの世話をしながら入らなくてはならない。やんちゃな子たちを相手にしつつ湯船につかっても、休まる気がしないというものだ。やはり、足を大きく広げてばしゃばしゃできる気持ちよさは、ここでしか味わえない。 鼻歌混じりにお湯を堪能していると、奇妙なものを見つけた。 銭湯の主人が壁にとりつけたらしい、利用者に注意を促す木板だ。 そこには黒文字でこう書かれている。 『湯船を沸かすべからず』 私は困惑した。 湯船って沸かすものじゃないの? と。 ……いや、ほんと、湯船って沸かすものではないのか。 まさか、この銭湯は火をくべて沸かす、という原始的な方法をとっていないと? 冷たい水を温かく感じさせる薬を入れてるとか? いやいや、そんな月の科学力もびっくりなものが、平凡な人間の里にあるはずもないし。実際お湯だし。 うんうん唸って考え続けていると、脱衣所と浴場をつなぐ扉が開いた。 そちらに目を向けると、1人の人間が浴場に入ってきていた。 「一番のり~……ってわけでもないみたいね。珍しい奴がいるじゃないの」 素敵な巫女さん、博麗霊夢さんだった。身体に布を巻き、ウキウキとした様子で浴場に入ってきた彼女は、私を見るなり、外の空気並みにジトリとした目を向けてきた。 「兎が銭湯ってどうなのよ。猿ならまだ分かるけど兎って」 「は、はあ。すみません」 なんともいきなりな物言いだ。猿も兎も風呂に入りたいときぐらいはある。それに、巫女さんが銭湯にくるのもいかがなものか。生活感が溢れすぎて、神聖さが薄れると思う。元からそんなにないけれど。 「あーあ。最近無駄に忙しくて疲れた身体を、1番風呂で癒せると思ったら、2番風呂だなんて、あーあ」 「えーと、出ましょうか?」 「いいわよ、別に。ただ、おっきいお風呂を独り占めできなくってちょっと落胆してるだけだから」 そうぶつぶつ言いながら、蛇口をひねって身体を洗い始めた霊夢さん。もしかすると私は、この貧乏そうな巫女さんの、1か月に1度ぐらいしかない楽しみを奪ってしまったのかもしれない。なんだか申し訳ない。最近神社の経営が厳しいって聞くし。 お詫びに背中でも流そうかと申し出たら「いらない」とにべもなく断られてしまった。仕方ないので、後で何か奢ってさしあげることにした。 しばらくして霊夢さんも湯船に入ってきて、2人並んでの入浴となった。 無言なのもあれなので、適当に世間話でもすることにした。 「最近忙しいんですか?」 「まあね。人間や妖怪との顔つなぎやら根回しやら……まだ始めたばかりとは言え、疲れるったらありゃしない」 「はあ。何かお仕事ですか?」 「仕事っていうか、気になることを確かめるための地道な作業というか」 んー、とのびをする霊夢さん。相当お疲れのようだ。 いったい何をしているのだろう。博麗の巫女様というのは、いつも縁側でお茶を飲んでいるだけではないのか。 「ういー……あー、やっぱりお風呂はおっきいのに限るわね。もう少し熱めなら、なおいいんだけど」 「なんだかおじさん臭いですね」 「なんか言った?」 「いえ」 彼女に睨まれるのはどうも怖い。 「あ、そうだ。霊夢さん、この看板の意味分かります?」 私が例の看板を指さすと、霊夢さんは「ああ、あれね」と驚くことなく応じた。 「あれがどうかしたの?」 「いや、なんだか変じゃないですか。お風呂なのに『沸かすな』って」 「そりゃあんた。実際に沸かした奴がいるから、銭湯のおやじさんもわざわざこんな看板を作ったんでしょ」 「けど、お風呂は沸かすものですよね」 「そうじゃなくてね。ちょっと説明しづらいけど……要するに、風呂屋のおじさんじゃなくって、どっかの恥ずかしがり屋が、勝手に営業中の湯船を追い炊きしちゃったのよ。で、温度が上がりすぎて火傷した人がたくさん出たから、こんな看板を立てたってわけ」 「はあー、なるほど。霊夢さん、やけに詳しいですね」 「現場にいて火傷した苦い思い出があるってんだから、そりゃ詳しくもなるわよ」 なんと当事者だったらしい霊夢さんの説明に、なるほどと納得。そりゃあ、勝手にお湯の温度を変えられたら大迷惑だろう。 しかし、銭湯ぐらいの大量の水を沸かすとなると、結構な熱量と労力がいるだろうに、どうしてその人はそんなことをしたのだろうか。熱い風呂が好きなのか? 「けど、懐かしいわね。結構前の話なのよこれ。半年ぐらい前?」 「へえー。どっかの恥ずかしがり屋って誰ですか?」 「一応、本人の名誉もあるから伏せておくわ」 結局、どれだけ頼んでも名前は教えてくれなかった。唯一「あんたも知ってる奴よ」とだけ教えてくれた。いったい誰だろうか。てゐが悪戯したのか、それともお師匠が銭湯で過激な実験でもしたのか……お師匠なら本当にしそうで、ちょっと怖い。「うどんげの水炊きね」とでも言いながら、茹でられる私を楽しそうに見ているに違いない。 書いていて本当に背筋がぞくぞくしてきたので、お師匠について考えるのはこのぐらいにしておこう。 ちなみにお風呂からあがった後、霊夢さんには飲み物を奢った。どれがいいかと聞くと、霊夢さんは真っ先に『滋養強壮剤X』と書かれた瓶の飲み物を指さした。 「最近流行ってるのよ、これ。すごく栄養があるらしいわ」 そう言いながら瓶の中身を一気に飲んでしまった霊夢さん。「久しぶりの栄養源ね」という彼女の呟きには哀愁が漂っていて、私はホロリとするのであった。 ……手記ってこんな感じでいいのかな。けっこう長くなっちゃったけど。 ※ ――水無月の3―― 今日は1日雨。洗濯物が乾かなくて嫌になる。 それ以外に書くことがない。愚痴を書くとは言ったけれど、これ、続けられるのかな…… ※ ―水無月の4― 心配は杞憂だった。思った以上に私は愚痴吐き魔だったようだ。 というわけで、今日は愚痴をグチグチ書こうと思う。 どういうわけか私は、紅魔館の『メイドさん』や白玉楼の『庭師さん』とよく比較される。「あそこのに比べてお茶をいれるのが下手だ」とか「掃き掃除が遅い」だとか。主に知り合いの人たちに言われる。 私には、それがなんとも納得できかねた。だって私の本職はあくまで『薬師の弟子』であって、決して炊事洗濯掃除を行うお手伝いさんではないのだ。 そりゃ、私はお世話スキルが高くない。それは自覚している。『メイドさん』のお世話スキルがSランクだとすると、『庭師さん』がAランクの優秀さ。私はせいぜいCランクといったところだろう。人並み程度に家事をするけど、他人の世話はそんなにできない。それくらいのレベルだ。 だが、それでいいはずだ。だって私が目指しているのは薬師である。別にお世話スキルなんてなくていい。 だというのに、永遠亭で過ごす日々には、このお世話スキルが常に求められているというのが、悲しいところ。 「うどんげー、姫様を起こしてきてちょうだい」 「れいせーん、ご飯マダー?」 「あー、イナバ、ちょっと髪を梳いて。痛くしたらお仕置きよ?」 「鈴仙! ごはん! ごはん!」 毎日毎日毎日毎日、こんな風に色々と命じられ、お願いされ、ねだられている。 何故だろうか。納得がいかない。どうしてこうなった。責任者を出してほしい。 だが、一方でお手伝いさん的扱いを受けることが、私の身の安全を十全に保障しているという事実も忘れてはならない。 私は薬師の弟子である。お師匠は八意永琳。月の叡智とも呼ばれるもの凄いお人だ。 お師匠は日々薬の研究に勤しんでいる。作った薬の数は数知れない。難病の特効薬から、悪夢を見せる薬に、何に使うのかよく分からない『身体感覚を敏感にし、神経を興奮状態にする薬』まで。豊かな発想と膨大な知識を持ち、熟練の手際で薬の調合するお師匠を、私は尊敬してもいるし、ちょっと怖がっていたりもする。 怖がるのはなぜかって? だってお師匠はたまに創る新しい薬を、怪しい微笑みと共に勧めてくるのだもの。 以下、緑色の錠剤をうっとりと眺めているお師匠と、その後ろでげんなりした顔をしている私の、ある日の様子。 「ねえ、うどんげ。新しい薬を開発したら、まずどうしたらいいと思う?」 「……マウスで実験するのではないでせうか」 この時点で私は逃げる準備をしている 「そうね。マウスはいいわ。文句の1つも言わないもの。けどね、薬は人間に使う以上、やっぱり人間への効果も確認しなくちゃいけないのよ。『治験』っていう言葉はもちろん知ってるわね?」 「もちろん存じ上げております」 「ある程度の報酬と引き換えに、人間に投薬実験を行うのが『治験』……けれど永遠亭には人間がいない。人里に募集をかけても集まらない。だったら、人間に近い妖怪に投薬するほかないと思わない?」 「お師匠!」 「なに?」 「晩御飯の仕度をしてきます!」 「あら、もうそんな時間? ふふ、いいわよ。行ってらっしゃい」 「頑張っておいしいもの作ります!」 私がこの苦しい言い訳でもって『うれしはずかし人体実験』の時間を何度逃れてきたことか。 聡明なお師匠のことだから、私の拙策など見透かしているのかもしれない。が、それでも私はこの手でやり過ごすしかない。こうしなければ、最悪私はお師匠の手によって、体温が69度の桃色ゴリラになるかもしれないのだ。 お手伝いさん的扱いを受けることが、私の身の安全を保障している。ただの『薬師の弟子』であったならば、こうやって呑気に手記を書いていられない。私が永遠亭の家庭内労働を担っているからこそ、お師匠もそうそう過激な実験はできないのだ。 身の安全がかかっている以上、私はお手伝いさん的扱いも享受する。 人間だって、生きるためにしたくもない仕事をするのだと聞く。それと一緒だ。 今日も今日とて、私は健康で文化的に生きるため家事に勤しむ。 ……もしかしたらお師匠は、私にこう思わせるためにあえて『治験』をちらつけさせているのだろうか。 ※ ―水無月の5― 永遠亭の玄関口には郵便受けが置かれている。何の変哲もない、棒1本で立っている赤い郵便受けだ。1日12刻、春夏秋冬、年がら年中そこに立ち続けている彼は、文句も言わず淡々と郵便物を受け取る役目を担っている。永遠亭の中で一番の頑張り屋さんだと思う。 彼が受け取るのはもちろん手紙もあるが、奇妙な引き札、いわゆるちらし紙が圧倒的多数を占めている。日によっては郵便口から溢れていることもあり、「もういっぱいだよお」という悲痛な声が郵便受け君から聞こえてきそうで、少々かわいそうになるぐらいだ。 毎朝、私はこの郵便受け君の身体を開き、それらの引き札をを回収する。その内容は、ほとんどがお店の広告、何かの勧誘、檄文などである。あまりにも多種多様かつ一部を除いて無駄なものばかりなので、私としてはいい迷惑だ。この数多くの無駄紙の中から、お師匠への治療依頼や、姫様へのラブレターを探し出すのは面倒なことこの上ない。 郵便受け君がいっぱいになるのも、永遠亭が人妖問わず認知されてきた証拠だろうか。そもそもここは、姫様とお師匠が幻想郷で隠れ住むための家だったというのに、引き札が大量に突っ込まれるぐらいに人々に知られ、賑やかになった。いいのだろうか。よくないと思う。けれどお師匠が何も言わないのだからいいのだろう。 その賑やかさたるや嵐のごとく。嵐を楽しむことが趣味の姫様はさぞ満足しているに違いない。 ただ、その裏であくせく働いている私や、郵便受け君のような存在を忘れないでほしいと、無駄と分かりながらも願ってしまう。姫様もお師匠も兎たちも、少しは家事をしてくれたらいいのに…… とまあ、嘆いても仕方ない。せいぜい私は、郵便受け君に放り込まれた無駄紙の中でも、特に無駄っぽいものを手記に記し、突っ込みをいれることで憂さ晴らしをするしかない。 雨が降っていた今日は、こんな引き札が入っていた。 『霧雨魔法店にて、選りすぐりの品を大放出! 3割、5割引きは当たり前! 店内整理による在庫一掃セールです! 魔法の触媒から、外の世界の珍しいもの、時には掘り出し物も……!? 目玉は永遠亭特製の「健康薬」! ※店長の霧雨魔理沙からの一言 「私が長年集めてきたものを一斉に放出するんだぜ」 ※友人の某教師からの一言 「ようやく家の中を整理したようで何より」 ※友人の某小説家からの一言 「魔理沙のくれる薬はすごく効きますよ。良くも悪くもですが……」 (注:個人の感想であるかもしれないし、薬の効果を医学的に証明するものではないかもしれません。そもそも本人が言ったものではないかもしれません) 是非ご来店ください!』 果たしてこの広告の文章を、1行でも信じる人がいるのだろうか。 少なくとも私は、お師匠が健康薬なんて怪しいものを作ったなんて、聞いたことがない。 ※ ―水無月の7― 「姫様、お菓子を食べながら本を読むのはやめた方がいいですよ。本が汚れます」 「えー、今いいところなのよ」 「ダメです」 「もー、イナバったら煩いわねえ」 姫様はお気に入りの本を読み始めると、普段のぐーたらぶりがさらにひどくなる。特にここ数年はその傾向が顕著だ。 我らが姫様は正真正銘の『月のお姫様』だった。だった、と言うのは、今は月から絶賛流刑中だからである。けれど私たちは姫様と呼んでいる。そう呼ばれるだけの、極上の容姿に恵まれているのである。 艶やかな黒髪、白い肌、小ぶりな顔、眉から唇にかけての造形は芸術的。細いのに出るところはでているのも反則的。所帯じみた私と比べるのもおこがましい華やかさ。立てば芍薬、歩けば牡丹。しかもこの花は枯れることなく永遠に。人里を歩けば何十人もの男に声をかけられるし、一目惚れした輩が何通もラブレターを送ってくる。 だが、そのような外見に彩られた姫様の実態はというと、 「イナバー、お菓子取ってー」 「起きれば目の前にあるじゃないですか」 「めーんーどーうー」 座布団を枕にして寝転び、お菓子が欲しいと手足をばたつかせて抗議する――そんな、ゆるーい、だらーっとしたお人なのだ。 今日も今日とて、姫様はだらけ通しだった。 「あー、私、芋虫になってみたいわ。そしたらくねくね動くだけで済むもの」 「……」 一度本当になってみたらいい、と言ってみたい。 私が黙りこくると、姫様の話相手は大抵てゐになる。悪戯兎として名高いてゐは、姫様と一緒にだらだらしていることが多く、言わばぐーたら仲間である。 てゐも寝転びながら、だらけた声で答えた。 「だったら、今から芋虫みたいに這ってみたらいいんじゃないですかー? ほふく前進っぽく」 「私の身体はほふく前進ができるような構造をしていないのよ」 「月の姫様がほふくもできないなんて」 「できるからって何の自慢にもなりゃしない。だいたいねえ、こんな風にして移動するだなんて……よっ、ほっ」 突然身体をくねらせて地面を這い進みだす姫様。うつ伏せの状態で腰をあげさげして前に進む姿はしゃくとり虫のよう。 そんなことをされたら、非常に、なんというか。 「あひゃひゃ! 気持ち悪いったら!」 「あら、ほふく前進も短距離なら悪くないわね」 もし男の人がこの場にいたら、こんな姫様を見てなんと思うのだろうか。形のよいお尻がふりふりと揺れ、背中のラインが美しい曲線を描き、前髪で隠れた瞳は上目づかいをしている……あ、もしかして男の人って、類稀な美貌を持つ人がこんな奇妙な動きをしていることにも魅力を覚えるのかも。私には全然っ理解できないけど。 気持ち悪いと直接言うことはできないので、やんわりとやめるにように進言することにする。 「姫様、はしたないですよ」 「これ、けっこう動きやすいのよ」 腰をくねくねさせる姫様に、てゐが「これはひどいウサ! 写真に撮りたい!」と笑いながら煽っている。私は「てゐ!」と一喝しつつ、さらに忠言する。 「もう、姫様……お師匠が見たら泣きますよ」 「えーりんがそう簡単に泣くものですか。えーりんの涙は宝石より貴重よ。6つ目の難題にしてもいいぐらいだわ」 月の姫様が畳を這う姿の方が貴重だ。 つくづく私は思う。私は姫様のお世話係に向いていないと。 姫様が私の忠言を聞いてくれることなんてほとんどない。何を言ってもその綺麗な耳を素通りしていく。私の言葉が届くことなんて、せいぜい「ご飯ができましたよー」と呼びかけたときぐらいだ。 かと言って、お世話をやめることもできない。お師匠からお世話を言いつけられているし、私の居場所はもうここしかない。というか、私はこの家がけっこう気に入っている。不満なのはお師匠の『治験』と、姫様の生活態度ぐらいだ。 『治験』はどうにもできないが、姫様の方はなんとかしたい。なんとかしたいとは思うものの、自分のお世話スキルを鑑みるに荷が重い。『メイドさん』なら主人をからかいつつ、瀟洒に諌めるだろう。あのスキルがうらやましい。 「はあ……やっぱり所詮Cランクなんだなあ、私」 「Cランク?」 姫様とてゐが畳を這う中、私はうかつにも己の不甲斐なさを言葉にして漏らしていた。 くねくね動きをぴたりと止めた姫様が、当然何のことかと尋ねてくる。最初はなんでもないと答えていたものの、しつこい追及から逃れることはできず、私は泣く泣く自分の考えを姫様に教えてみた。 すると姫様は「なるほど」と手を組み、何やら語り出した。 「つまり、強さとか美しさではなく、お世話スキルの高さだけでランク付けしてるわけね?」 「ま、まあ、そうですけど」 「ふーん……62点ね」 「何がですか」 「面白さの点数よ。イナバもまだまだまね」 まだまだと言われても全然悔しくない。別に姫様を楽しませるためにこんなことを考えているわけではない。遊び半分、慰め半分の妄想なのだ。 そんな私の思いにも気付かず、姫様は真面目な顔で講釈をたれてくる。 「設定は面白いけれど、それだけね。奇抜な設定と言えども、その設定を現実の事柄と繋げていかなきゃ、読者の共感は得られないわよ。それに――」 「は、はあ」 どうしてただの妄想に文学批評をされなくてはいけないのか。別にこれで物語をるつもりなんてないのに。 私は不満たっぷりな表情をありありと浮かべていたが、姫様は意にも介さず、辛口批評を延々と続ける。 しばらくして、ようやく「って感じね」という言葉で話が結ばれ、ホッとした私に、姫様は「そうだ、イナバ」と追撃する。 「なんですか?」 「1つだけ、今すぐ修正なさい」 「はあ、何をですか」 「Cランクは少し自己評価が低すぎる」 「え?」 「いくらあなたでも、Bの下ぐらいはあるんじゃないかしら」 突然の言葉に私が驚いていると、姫様は気のなさそうに手を振り、 「ま、精進なさい」 さっさと自分の部屋へ引き上げてしまった。 残された私は、てゐがまだゴロゴロ転がっているのを足で止めると、自嘲気味に笑った。 「……時々そういうこと言うのって、ずるいなあ」 姫様のお手伝いさんをなかなかやめられないのは、こういうことがあるせいでもあった。 ※ ―水無月の8― 今日も雨。これで5日連続雨だ。 うーん、気分が乗ればものすごく書けるのに、書けない時は一文字も書けない。文章ってそういうものなのかな。 ※ ―水無月の10― 今日の郵便受けに入っていた引き札。 『「文々。新聞購読のお誘い」 幻想郷……狭くも広いこの世界。 緩やかに流れる時間の中で起こる出来事。きっとあなたも知らないことがたくさんある。 それらをつぶさに見つめ、伝える。 文々。新聞はあなたの目となり、耳となります。 購読のお申し込みは×××まで。 ※今、文々。新聞を購読していただくと、抽選で10名様に「永遠亭特製健康薬」を進呈いたします(霧雨魔法店より提供) ※話題の外来人小説家の新連載も近日掲載予定』 もう1枚。 『裏☆文々。新聞購読者様へのご案内 ―2周年記念のご挨拶― 平素より裏☆文々。新聞をご愛読いただきまして、誠にありがとうございます。皆様の応援もございまして、このたび裏新聞は2周年を迎えることができました。 2年もの間、ばれることなく続けることができたのも、ひとえに皆様のご支援・ご協力のお蔭であります。 思い返せば2年前。裏新聞も最初はただの悪ふざけでしかありませんでした。その頃、新聞に書くネタに困り、常にイライラしていた私は、知り合いのドタバタ恋喜劇をやたらめったらに書きなぐったのを、やけくそ気味に新聞にしました。それが、天狗仲間に回し読みされて評判になり、いつの間にか世間に出回り、今では数多くの人たちに読まれるようになるとは、思いもよらないことでした。まさか私だけではなく、こんなにも多くの人たちが他人の恋愛事情に関心を持つとは……進展中の恋を傍から眺めるのは面白いもの、ということでしょうか。 なるほど、普段は幻想郷の実力者として振る舞う彼女たちが、彼の前では乙女になる姿にはニヤニヤしますし、度々起こるハチャメチャに大笑いすることもある。固い絆にホロリと涙を流せば、鈍い彼に怒りを覚えることもある。 まるで親しい友人の恋愛を応援しているようではありませんか。私たちは陰ながら見守り、そして楽しませてもらうことにましょう。 ただ、ちょっと気になることもあります。裏新聞が発刊してから2年が経ち、幻想郷には様々な変化が訪れています。新たな住人の出現や、人々の価値観の変容など、川の流れのようにゆるやかながら、確かな変化が見られています。 しかし、いつも紙面で扱っている『彼ら』の方には、その関係に何一つ変化が見られません。つかず離れずの間柄がずっと続いています。いったい彼女たちはいつになったら彼に思いを告げるのでしょうか。 裏新聞の読者の皆様方ならお分かりでしょう。周囲をやきもきさせる彼らの関係を。 何かで集まるのも、どこかに出かけるのも、いつも4人いっしょ。彼女たちの誰かが彼と2人きりになっても進展はなく、むしろ3人の少女が集まった時の方が積極的になっている始末。たとえ彼の腕に抱き着くとしても、1人でなく3人で同時に、なのです。 私には、彼女たちがあえてそうしているように見えてなりません。 彼の方にも落ち度はあるでしょう。ひいき目に見なくても、彼女たちは美女・美少女です。そんな彼女たちに一斉に抱き着かれ、頬ずりされ、時にはきわどい行為に及ばれるなど、徹底的に慕われる――そんな、世の男性が見ればなんとも嫉妬を覚えるであろう状態になっても、彼はうろたえるだけで何も気づかないのです。男気を発揮し、襲い掛かることすらしない。あの人は悟りを開いた賢者か何かなのでしょうか? 小説のことなら人一倍洞察力があり、頭も切れるというのに、自分の恋愛には本当に疎い。 彼らの関係を見守るとは言ったものの、ここまで変化がないと心配になるというものです。 何か大きな事件や出来事が起きて、その関係に進展が訪れないかな、と夢想する方もいるのではないでしょうか。私もその1人であります。 実際にその進展が起こったときは、裏☆文々。新聞があなたの目となり、耳となり、必ずお伝えしましょう。 これからも幻想郷にはびこる愛の芽を観察していく所存でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 裏☆文々。新聞編集長 射命丸文』 ちなみに、永遠亭ではこの眉唾新聞を表・裏とも購読している。 表はともかく裏は何が面白いのやら。 ※ ―水無月の12― お昼時のこと。 「イナバ! この小説に出てくる料理を作りなさい!」 「はあ、分かりました」 なんてことはない。いつもの姫様のわがままである。 姫様の無茶振りと、永遠亭の本棚との間には相関関係が存在する。すなわち永遠亭の本棚に新しい本が増えると、それに伴って姫様から投げつけられる無理難題も増えてくるのだ。本に刺激されて、姫様の欲しいものが増えてしまうためである。 やれ「この本に出てくる置物を買ってこい」やら「この風景の元になった場所を探してこい」やら「この登場人物と同じ服装、髪型にしろ」やら。 この難題の解答を迫られるのはいつも私だ。私は別に求婚しているわけではないというのに、このような難題を吹っかけられるのは理不尽である。しかし理不尽を飲み込んでこその雇われ人でもあるので、私は二つ返事で了解するしかなかった。 今回の難題もまた、ある1冊の本が絡んでいる。それは、姫様お気に入りの小説家の作品。 作品自体の内容はこうだ。 『ある若い男が、ふらりと立ち寄った山間の村で、女と出会い、何やら不思議な食べ物を食べたという話』 らしい。らしいと言うのは、私はこの本を読んでおらず、ただ概略を教えてもらっただけだからだ。題名は『恵方』と言うらしいが、どうでもいい。 姫様曰くこのお話は「終盤になっても明示されなかった村の裏事情に、はたと気付いた時の感覚が爽快」とのことだが、やっぱりどうでもいい。読解力のない私が姫様と同じ感覚を味わえるとは思っていないし、そもそも読書に興味がない。 で、姫様が投げつけてきた難題というのは、この小説の中で出てくる不思議な食べ物を持ってこいということだ。ここで文中の一節を再び引用してみよう。 『――最初は太巻きだけがこの村の名産品だったというのに、それが売れると分かると、どこから来たとも知れない者が、似たような巻物を作って売りさばく。「ばうむくーへん」「びっしゅ・ど・のえる」などと珍妙な名前をつけているが、どれも米の太巻きとは言えず――』 姫様がご所望なのは、もちろん『太巻き』などという庶民的食べ物ではない。『ばうむくーへん』と『びっしゅ・ど・のえる』。この世にも不思議な名前の食べ物を作れ、と言っているのだ。 ただしこの食べ物、ちゃんとした説明が小説の中にない。ただ名前が出ているだけで、作り方も味も、見た目すらも書いていない。 私はもちろん難色を示した。 「あの……どういう食べ物なのか全然分からないんですが」 「そうね。私も分からないわ」 どうしろと。 「この作家はね、イナバ」 姫様の目がキラリと光る。私は、あ、まずい、と本能的に思ったが、遅かった。 「本を出し始めた頃はこういう聞き慣れない言葉をよく使って、読者を困らせていたのよ。そのせいで売れない時期もあったし、読書家以外からの評判も芳しくなかった。まあ、私は仕方ないと思ってたわよ。外の世界出身だって言うし、言葉は生まれた時からの積み重ねだし。私は初期の作品も嫌いじゃないわ。 けれど、作者自身は自分の出自を言い訳にしなかった。相当努力したんでしょうね。最近の作品にはそういう言葉はあまり出てこなくなったわ。出てきたとしても十分な説明を添えて、むしろ読者に新鮮な言葉を投げかける挑戦的な試みに昇華してしまった。短所を長所に変えてしまったわけなのよ」 姫様は本を読むのが好きだが、特にこのお気に入りの小説家には熱く入れあげていて、語らせると半刻は止まらない。 だから姫様から本についての話題を振られたら、生返事だけしてすぐに退散する、というのが永遠亭住人の取る対策なのだが、不覚にも私はそれを怠ってしまった。 「けれどこの作品では、何故か2つの食べ物の説明が書かれていないのよ。面妖な雰囲気を保つためにやむなく、っていうのが私の見解なんだけど、だったら話の終わりにでも注釈を入れれば済むことなのに、それをしない。作者の誤りなのか、それとも別の意図があるのか」 こういう時の姫様は実に生き生きとしている。愛好家の域を超えた知識量と、太陽のように熱い想いをほとばしらせ、お姫様らしい堂々とした立ち振る舞いで語ってくれる。 ただ、延々と文章論や小説論を聞かされる方はたまったものではない。 「もう少ししたら、この作家の日記が本になって発売されるわ。この作者は、これまで裏己の意見を表だって書くことがなかったのだけれど、日記ともなれば自論が展開されるはずよ。今までに書いてきた小説の解説や回想も行われる、と言われているわ。なら、この食べ物についての説明もされるかもと、私は推測してるの」 「だったらそれを待てばいいんじゃ……」 「嫌よ。私は誰よりも早く知りたいのよ。作者が説明してからじゃ、一番乗りできないじゃない」 普段は物に執着しない性質なのに、どうして本が絡む時だけは独占欲が強くなるのか。これが愛好者心理とやらなのだろうか。 大いに気が進まないが、従者として受けないわけにもいかない。 私はため息交じりに頷いてみせた。 「分かりました。この2つの料理を調べて、作ってくればいいんですね」 「ええ、お願いね」 「善処してみますよ……はぁ」 姫様の前から退散し、重い足取りで永遠亭の廊下を歩く。引き受けたのはいいものの、さてどうしようと思案に暮れた。どんな料理か分からない以上、作りようもない。まずはこの料理の正体を探ることが先決だ。 手がかりは少ない。この文章から読み取れるのは、2つの料理が太巻きに似て非なるものであることだけだった。 文章そのものではなく、別の切り口から探るべきだろう。作者は外来人だと姫様は言っていた。ならばこの料理につけられた名前がまったく料理っぽくなさそうなのは、外の世界の言葉だからなのかもしれない。 となれば、名前をとっかかりにするのが得策か。名は体を表すといい、例えば『肉じゃが』や『ホウレンソウのおひたし』などは、名前からその料理がどんなものか想像することは十分可能だ。それと同じく、『ばうむくーへん』『びっしゅどのえる』の名前の意味が分かれば、多少はどんなものか推測することができるかもしれない。 こういうことに詳しそうな人が身近にいる。 少しだけ光明が見えて、私は実験室へと足を向けた。 「そう。また姫様からの頼み事なのね」 「はい。できれば、お師匠に協力していただけないかと」 実験室にいたお師匠は、私の話を聞きながら、ずっと目の前のビーカーの中身をガラス棒でかき混ぜていた。アルコールランプで火にかけられた紫色の液体は非常に毒々しく、飲んだら卒倒しそうだった。 お師匠は薬の調合をしている途中だった。部屋に入ってそれに気づき、邪魔してはいけないと(もしくは身の安全のために)退散しようとしたのだが、お師匠が気にせず話しなさいと言ってくれたので、遠慮なく助力を嘆願し、今に至る。 「で、その料理の名前は?」 「『ばうむくーへん』と『びっしゅ・ど・のえる』です」 「……確かにどちらも外の世界の言葉ね」 お師匠はガラス棒を止めることなく、目を細めて俯く。きっと頭の中の知識をほじくり返しているのだろう。白衣を着てそんな顔をしていると、本当に知識人っぽくてかっこいい。 「……前者は独語、後者は仏語ね」 「どくご? ふつご?」 「外の世界の言葉よ。ヨーロッパっていう地方のね」 よーろっぱ。なんだか植物の名前っぽい。 「『ばうむくーへん』は直訳して『木のケーキ』。『びっしゅ・ど・のえる』は……『クリスマスの薪』ってところかしら」 「クリスマス?」 「幻想郷ではあまり広まっていない行事だから知らないのも無理はないわね。師走の後半にある行事よ。新聞でその話題が出てきたことがない?」 そう問われ記憶を掘り返してみると、確かにそんな記事もあったような気がする。何やら贈り物をあげたりもらったりする行事だったような。 ともかく、これで名前の意味は分かった。それはいい。いいのだが、私はさらに困ってしまった。 どちらもてんで料理っぽくない名前だ。 「いったいどんな料理なんでしょうか。まさか本当に木を食べるわけもないし……」 「さあね。そこはあなたが考えなさい」 「お、お師匠~」 「この調合したての薬の実験台になってくれるのなら、もっと協力してあげてもいいわよ?」 お師匠がまことに恐ろしい笑みを浮かべて差し出したのは、先ほどの紫色の液体だった。ぐつぐつと煮え立ち、えも言われぬ匂いを放つそれを鼻先につきつけられた私が、反射的に頭を下げて「1人で頑張ります」と答えるのも当然だろう。 お師匠は少し残念そうな顔をして、最後にこう付け加えた。 「分からないなら作者本人に聞きなさいな」 「それができたら苦労はしませんよ。姫様に怒られちゃいますって」 「それもそうね。だったら後は……外の世界に詳しい人に聞いてみたら?」 なるほど、と思った。確かにそれならもっと手がかりがつかめそうだ。 外の世界のものを扱っていて、物知りっぽい人……それでいて気軽に会いに行ける人と言えば1人しかいない。 森近霖之助。外の世界の道具を商品として扱っている香霖堂の店主なら、何か知っているかもしれない。 だが、私はこの日やらなくてはいけない家事が溜まっていて、出かけることができなかった。そのため、香霖堂への訪問は仕方なく後日に回すことにする。 姫様が待ちくたびれてお怒りになるまでの猶予は、だいたい2,3日というところだろうか。それまでになんとか解決しないと。 うぅ、悩ましい。 ※ ―水無月の13― 前日に決めた通り、私は香霖堂を訪れることにした。 お昼過ぎに永遠亭を出立した私は、魔法の森を目指して一直線に飛んだ。今日は曇りがちで、ときどき小雨も降った。私は雨合羽に身を包み、空を飛んだ。 香霖堂は魔法の森の入り口付近にある、小さなお店だ。客に来てほしいなんて微塵も思っていないのではと訝る立地だが、薬の調合材料を探すのに何度か利用したことがあるので、迷わず辿り着くことができた。 香霖堂のこじんまりした建物が見えてきて、私はその近くに着地した。スカートがめくりあがらないように降りるのはコツがいるのだが、そんなことを気にもしない人たちが幻想郷にはたくさんいる。パンツ全開で降りてくる妖精もいる。私は……そういうことにはならないよう気をつけている。 上手く着地して、さあこれから人と会うんだ、と気を引き締めていると、急に悪寒が走った。その場にいるのは危険だと直感的に判断し、私は一足飛びに木陰へと隠れた。 そのすぐ後、2つの人影が空から降ってきた。 特徴的な黒白魔女服を着た少女と、白くて長い髪の少女。 「だから私は今から用事が」 「まあまあ、少しは手伝ってくれよ。色々世話になったあいつに差し入れしたいんだけど、ちょいっと荷物が多いんだ」 「……向かう場所が一緒なら、まあいいけど。何差し入れる気?」 「『滋養強壮剤X』。しかも2箱だ」 「2箱も? そんなによく手に入ったね。すごい人気だって聞いたけど」 「私なりの人脈ってやつさ。ほれ、こっちだ」 黒白少女が白髪少女の手を引っ張り、魔法の森へと入っていく。 私の直感に間違いはなかった。霧雨魔理沙と藤原妹紅だ。 私は隠れながら、一層気配を消すことに専念した。もしここで2人に……特に藤原妹紅に見つかれば、私は中火でこんがりと焼きあげられる。「何もしていないのに燃やされるわけがない」なんて油断は大敵。我らが姫様とあの人との険悪関係は折り紙つき。姫様の仲間だからと、とばっちりを受けるなんてまっぴらだ。危険な炎は避けるに限る。 霧雨魔理沙と藤原妹紅は、連れ立って魔法の森の中へと消えていった。 私は安堵の息を吐いて木陰から身を現した。こんなところに即死罠があるとは、姫様の難題は今日も超級に険しいようだ。 (しかし私は後々になって、油断は大敵だという自分の言葉を忘れ、後悔することになる) 香霖堂店主の森近霖之助は、真正面の会計机という所定の位置に座っていた。 「いらっしゃい」 私が扉の鈴を鳴らすと、彼は顔をあげて軽やかに挨拶をした。私がちょっと頭をさげて「どうも」と返すと、店主は目礼だけして、再び視線を書物に落とそうとする。 いつもの私なら、店主の愛想のない接客を気にすることなく、適当に棚を見て回り、お目当てのものを探すのだが、今日の目的は彼自身にある。 私がまっすぐ会計机まで歩いていくと、店主が再び顔をあげた。笑顔はないが不思議そうにしている。彼が読んでいるのは文々。新聞だった。 「何かご入り用かい? 薬の調合材料ならあっちの棚だけど」 「いえ、今日は薬の材料を買いに来たんじゃないんです。ちょっとお聞きしたいことがありまして」 「ほう、なんだい?」 「この本の中に出てくるものについてなんですが」 私は懐から本を取りだし、彼の前で広げた。店主はそこに書かれている題名を見て「やあ」と笑顔になった。 「これは彼の小説じゃないか。君も読んでいるのか」 「いえ、私ではないんですが……ええと、この中に出てくる料理を作らなくてはいけなくなって、今調べているんです。けれど外の世界のものなので、どうも手がかりがなくて。森近さんは聞いたことありませんか?」 店主がどれだい?という顔をしたので、私は指でその料理の名前をさした。 ふむ、と店主は腕を組む。 「『ばうむくーへん』『びっしゅ・ど・のえる』……残念だけど僕も知らないな」 「そう、ですか。この店で扱ったこともないわけですね」 「この店では外の世界の料理道具は扱っても、料理そのものは商品にしていないからね。そもそも料理が幻想郷にやってきたとしても、僕が回収する前に腐るか、妖怪に食べられてしまう。もし無事に回収できても、得体のしれない料理を買いたがるお客もいない。だからこの店じゃ扱わない」 「それもそうですよね」 私は耳を垂れ下げて落胆した。私だってどこの誰が作ったかわからないものを食べたくはない。 「外の世界の料理の作り方が載っている本ならあるけど、そんな料理はあったかな。探してみるかい?」 「お願いします」 ダメで元々。探すだけ探してみることにした。 店主が店の奥から外の世界の本を多数運んできてくれた。「あまり売れないから整理していないんだよ」という言葉通り、料理本以外の本も合わせて100冊はゆうに超えていた。私はげんなりとしつつ、そこから料理本を探しだし、片っ端から読むことにした。 探し始めて半刻ほど。よく分からない言葉の羅列を四苦八苦して読み続けたというのに、結局目的の料理を見つけることはできなかった。その代わり和食の調理の幅が増えたり、『糖質制限食』とかいう、ダイエット食の一種に詳しくなったりした。外の世界って、色々進んでいると思い知らされた。 私は店内の椅子にもたれかかり、読書疲れでもやもやする頭をふるった。横では店主が別の本を読んでいる。私がせっせと料理本を読んでいる間、彼はずっと何の関係もない本を読んでいた。 私は手がかりもとっかかりもなくなったことに、肩を落とした。「いったいどうすれば……」と呟くと、店主は顔をあげた。 「どうしてもというなら、作者本人に聞いたらどうだい? 知り合いでないなら紹介するけど」 「いえ……うちは姫様の方針で、あの小説家さんと直接会っちゃダメなんです」 「へえ、何故?」 「『作者と会っちゃったら、純粋に小説を楽しめなくなる』とか姫様は言ってます。それと、小説家さんはあの人と仲がいいから、私たちが近づくと色々と騒動が」 「ああ、藤原妹紅か。なるほどね」 あの2人の仲の悪さは折り紙つき……さっきも書いたが、この事実は何度繰り返しても過言ではない。 もし私が彼に近づこうものなら、どこからともなく「あいつの刺客か!」と叫ぶ火の鳥が飛んできて、こんがりと全身くまなく私を焦がすことだろう。私は黒うさぎになりたくない。 「苦労するね、君も」 「はい、本当に。偉い人のとばっちりを受けてます」 「だね。世の中はそういうものだよ」 「たまには偉い人にバシッと言ってみたいんです。例えば姫様、口では小説家さんに『会わない』って言ってますけど、本心ではすごく会いたがってると思うんです。時々開催される署名会の案内なんて、穴が空くほど眺めた後、なっがーいため息をついてたりしますし。素直じゃないっていうか、意固地になってるというか。まあ、私が思うに、姫様の心中には複雑な感情が」 「えーと」 「あ、すみません。変な話になっちゃいました」 「いや、いいよ」 店主は困ったような笑みを浮かべた。愚痴を聞き慣れているようで、嫌な顔せず私の話を聞いてくれていた。おかげで私の胸の内は少しすっきりした。 それから店主と共に読み散らかした本を片づけ、おいとますることにした。営業の邪魔をしてはならない。客は全然来ないけれど。 「そろそろ帰ります。お店の邪魔をしてすみません」 「いや、お役に立てなくてすまないね。そうだ。彼に直接聞くのがダメなら、魔理沙に聞いてみたらどうだい?」 「魔理沙さんですか?」 「ああ。彼女、料理もけっこう詳しいしね。特にこういう和食っぽくないものは、友人のアリス君の影響からか、よく作っているみたいだし。あと、彼女は図書館の本をぬす――もとい借りて読んでいる。その中には魔法の本だけじゃなく、料理の本もあった。もしかしたら、だよ」 「……魔理沙さんかあ」 「何より、件の小説家とも仲がいいからね。君が直接聞くのがダメなら、彼女に聞いてもらえるよう、頼んでみたらどうかな?」 なるほど、なかなか建設的な手段のように思えた。 助言にお礼を言うと、店主は「じゃあ」と付け加える。 「ついでに魔理沙に伝言を頼めるかい」 「伝言ですか? いいですよ。どういう内容でしょうか。長ければ紙にでも書いてもらえれば」 「いや、短いよ。『八卦炉の調整がしたいから、店まで来てくれ』とね。以前から言っているんだけど、全く来てくれなくて困っているんだ」 「はあ……壊れているんですか? 普段からばんばんビーム撃ってますけど」 「壊れているかもしれないし、正常かもしれない。壊れているかどうか確かめたい、と言う方が正確だね。以前少し見せてもらった時に違和感があって、その時はなんともないだろうと思って放っておいたんだけど、最近どうにも気になってね……まあ、頼むよ」 「分かりました」 色々と助言をくれた店主には丁重にお礼を言い、私は香霖堂を後にした。決定的な情報はなかったものの、次につながる手がかりが得られただけでも十分だった。愚痴も言えたし、店主には後日改めてお礼を言うべきだろう。いや、それとも繁盛していなさそうな店の売り上げに貢献してあげた方が、恩返しになるだろうか。 さて、私は店主の助言に従い、霧雨魔理沙の家へと向かうことにした。彼女の家は香霖堂入口からさらに魔法の森の奥へ入ったところにある。瘴気立ち込める陰鬱とした森は、普通の人間が入ればたちまち身体の具合を悪くするいわくつきの場所だ。だが兎である私はそもそも森とか山とかそういう緑溢れる場所が好きなのであり、瘴気もむしろすがすがしい空気ですらあった。 木々のそよぐ音や、地面のすえた匂いを楽しみながら歩を進めていると、あらかじめ店主に教えてもらった場所に彼女の家があった。 1人暮らし用の小さな家だった。玄関の扉上に『霧雨魔法道具店』という若干傾いた看板が掲げられている。おそらくここも、お客に来てほしいなんて微塵も思っていない店だ。 「さて、まずはと」 最初に、私は玄関前で安全確認をすることにした。香霖堂に行く前に霧雨魔理沙を見かけたとき、彼女は藤原妹紅と一緒にいた。連れだって魔法の森へと入っていったはず。もう数刻も前のことだったが、もしかしたらまだ一緒に家にいるかもしれない。 だから、家の中の魔力&妖力を走査――反応なし。藤原妹紅ぐらいの者になると、弾幕ごっこの最中でなくても妖力で存在が分かる。どうやら安全のようだ。 だが、霧雨魔理沙の魔力も感じない。ためしに玄関をノックしてみるものの、反応なし。 「どこかに出かけてるのかな……あっ」 何度かノックし続けていると、ギィという音がして扉が開いた。なんと不用心な。鍵もかけずに外出しているようだ。 しかし私は扉の向こう側の様子を見て、なるほど、鍵も必要ないなと思った。霧雨邸は、どこもかしこも散らかっていた。魔法道具らしきものが無造作にばらまかれ、壁には魔法陣らしきものが書かれた紙が重ねて貼られている。その様はまるでゴミ箱。 私は呆れるよりも、ここまで散らかせることに感心した。もし混沌という2文字を部屋に入れたなら、こんな光景になるのだろうか。これでは泥棒も入る気をなくすというものだ。 「魔理沙さーん、いますかー?」 再度来客を告げるも、やはり家の中から反応はない。外出しているのは間違いないようだ。 私は玄関の扉を開けたまま、どうすべきか考えた。ここで何の収穫もなく帰りたくはない。が、いつ帰ってくるかも分からない霧雨魔理沙を待つ気にもなれない。 置き手紙でもしようかと思い、懐から手帳を取り出したところで、私はそれに気づいた。 玄関に入ってすぐのところに、箱のようなものが落ちていた。 「あ」 弾幕ごっこの時、それが霧雨魔理沙の手にあるのが見えたら即退避しろ、という教訓が私にはあるのだが、まさしく『それ』が無造作に転がっていた。 私は一歩だけ家の中に入り、箱を拾い上げた。少し重い。手触りは木とも金属とも違う。 『八卦炉』。霧雨魔理沙お気に入りの魔法道具。 霧雨魔理沙がこれを置いていくなんて珍しい。彼女の弾幕ごっこの要はこれにあるというのに。 床に落ちていたことからして、もしかすると落としていったのかもしれない。 「そういえば森近さんが言ってたっけ、壊れてるかもって」 店主の話を思い出した私は、八卦路を四方八方から眺め回した。魔力を込めれば熱やらビームやらを発射するこの道具。私のように妖力しか使えない者には扱えないので、壊れているかどうか確かめようがないが、見た感じいつもと変わらないようだ。 しかしこんな小さな道具が、極悪レーザービームを放つとは。あの店主の技術力もなかなかにあなどれない。 なんて学問を志した者っぽい思考をしていると、外から何やら声が聞こえてきた。 「まったく、そんなに大事なものだったら落とさないようにしなよ」 「お前が早くしろってせっつくからだぜ。早くあいつのところに行きたいからってさあ。もっと落ち着けっての」 「うっさい。で、どこに落としたの」 「家にいる時までは持ってて、空を飛んでいる間は重みがなくなってたから、たぶんこの辺りに……」 おやと思った。霧雨魔理沙の声。どうやら家主が帰ってきたようだ。 だが、もう1人の声も聞き覚えがある。藤原妹紅のものだ。どうやら一緒に帰ってきたらしい。 これはまずい。ただでさえ避けるべきなのに、霧雨魔理沙の家に勝手に入っているところを見られれば、友人である藤原妹紅の怒りを誘発するかもしれない。(魔理沙自身はきっと気にしないと思う)。ここは一度窓から避難し、後々藤原妹紅が帰ってから、再度訪れようと思い、私は八卦炉をテーブルに置こうとした。 だが、その瞬間、悲劇が起こった。 この悲劇は、多分に私の不用意な行動と、少しの運の悪さが招いたものだ。 不用意な行動とは、香霖堂店主から『八卦炉の調子が悪い』と聞いていたのに、私はその調子の悪い道具を何の考えもなく触ってしまったこと。 運が悪かったこととは……八卦炉のビーム照射口が、ちょうど玄関に向けられていたこと。 ……気が重い。 ここから先の出来事は正直思い出したくもない。しかし今後私が幻想郷を生きていく上での教訓として、末永く書き残しておくべき出来事でもある。だから気力を振り絞って書く。 詳細を書くのはさすがに気が重すぎるので、箇条書きにさせてもらう。 私が持っていた八卦炉が、いきなり異常発光し始めた。 止めようと思ってもどうすることもできず、発光はビームという形で一直線に放出された。 ビームの照射先には、ちょうど帰ってきたらしい霧雨魔理沙と藤原妹紅がいた。 ビームは藤原妹紅に直撃。 呆然とする藤原妹紅。呆然とする私。 彼女は何かを持っていたのか、その手には見事に焼け焦げた黒い塊が。 藤原妹紅は、その黒い塊と私とを交互に見ている。 霧雨魔理沙は、苦笑いを浮かべながら遠くに退避している。 爆発的に増幅していく炎混じりの妖力。 無表情の藤原妹紅。 気の毒そうな顔をしている霧雨魔理沙。 泣きかけている私。 私が次に目覚めたのは、永遠亭のベッドの上だった。 私は霧雨魔理沙によって永遠亭に運ばれたらしい。それはひどい状態で、一時永遠亭は騒然としたとか。私自身の記憶は炎にまかれたところで途切れているのが、幸か不幸か。 この手記を書いているのは、白いシーツの上で寝転びながらである。 私の身体はいたるところが包帯でくるまれており、まともに動くのは右手だけだった。手帳にペンを走らせるのも一苦労だ。 治るのにどれだけかかるのだろうと心配していたが、お師匠からは「明日にも全快する」と言われている――お師匠の医療技術はすばらしいが、時々恐ろしい。 ちなみに、さきほど姫様がやってきて、頼んだ料理はまだかと聞かれた。 私は目の端に涙を浮かべてこう答えた。 「勘弁してください」 もう外の世界のものに関わりたくない。 ※ ―水無月の15― 私が1日休んだだけで、永遠亭の内部秩序が完全に崩壊した。かつては(主に私の日々の努力によって)整然・清廉としていた屋敷は、内に潜む心無い者たちの行為によってひどく荒らされ、見るも無残な空間へと変わり果ててしまった。美しく澄みきっていた水場には濁り水がどろどろに溜まり、綿密な計画によって管理されていたはずの食物は残虐な盗賊たちの襲撃を受けた後のように食べかけばかりになっていた。なんとむごい。理不尽である。 私は最高責任者への面会を願ったものの、お2人ともこの危機から目を逸らしているのか、部屋に籠ったまま出てこない。 私は呆然と、荒れ果てた廊下で立ち尽くす…… どうして、片づける人が1日いなくなるだけで、屋敷全体がぐちゃぐちゃになるのか。散らかり放題の家を片づけるのは誰だと思っているのか。 今日は疲れてこれ以上書けそうにない。 ※ ―水無月の16― 今日の引き札。 『文々。新聞出版 新刊案内 「寺子屋歴史教室」 上白沢慧音/著 幻想郷の成り立ちから、守矢異変まで。幻想郷の歴史を分かりやすく、かつ熱く語ってくれる美人先生、上白沢慧音。人里でも大評判の、彼女の「歴史教室」が本になって登場! 稗田阿求による解説付き。 「魔法学概論8」 パチュリー・ノーレッジ/著 月100万文字という人間離れしたペースで魔道書を書き続けているパチュリー氏。彼女が手掛ける8冊目の魔法入門書。今作は熱エネルギーを用いた魔法の概論を、『マスタースパーク』『ロイヤルフレア』といった実例を交えながら解説する。 「信仰ノすゝめ」 東風谷早苗・八坂神奈子・洩矢諏訪子/共著 外の世界から妖怪の山にやってきた現人神と神様たちによる、信仰の在り方と方向性についての議論をまとめた本。ありがたいお話(&苦労話)が何個も収められています。初版特典として特製の御札がついてくる。御利益あります。 お知らせ 水無月の20に発売を予定していた「幻想日記」は、制作上の都合により1週間発売を延期し、水無月の27を発売日とさせていただきます。楽しみにしていただいております皆様には深くお詫び申し上げます』 ただの出版のお知らせと思うことなかれ。書籍関係の引き紙は、永遠亭内では最重要機密書類の1つとして扱われている。 この引き紙も、姫様のもとまで丁重にお運びした。 結果、 「うきょわー!」 姫様の人外染みた悲鳴を亭内にとどろいた。 「延期!? 延期ってどういうこと!? おかしいでしょうがいまさら! 私がどれだけ待って……なのに、ありえない……うきょわー!」 この日、姫様は1日中、永遠亭に住む小さな兎たちを、かたっぱしからくすぐり回って意地悪していた。やつあたりだ。 ※ ―水無月の17― 昨日の引き札ショックがまだ続いており、永遠亭には姫様という名の猛獣が駆け回っている。まだまだ続きそうだ。 お師匠は相変わらず実験室にこもりっぱなしで、こちらのことは気にしてくれない。かと言って、お世話スキルの低い私では、あんな猛獣の相手はつとまらない。 本の発売まであと1週間。この1週間は正念場だ。 ※ ―水無月の18― お師匠曰く、来週には梅雨が明けるらしい。今年は早くて助かる。 ただ、永遠亭の梅雨明けはまだきそうにない。 くすぐりの被害拡大中。 私もお腹が痛い。 ※ ―水無月の19― 今日は珍しい来客があった。博麗神社の巫女様こと霊夢さんがやってきたのだ。 「何が起こってるの、これ」 玄関に立った霊夢さんが開口一番、戸惑い気味に尋ねてきたのも無理はなかった。今の永遠亭はかつてない危機に陥っている。亭内に転がる死屍累々たちがその惨状を物語っていた。 私もお腹を抑えながら、霊夢さんを出迎えていた。 「色々ありまして……どうぞ、今日はどのようなご用件で?」 「え、ああ。あんたたちの姫様か、あの薬師と話をさせてくれない? ちょっとした用件があるのよ」 「それではお師匠のところへ。姫様はちょっと、今は危険なので」 「危険って……まあ、頼むわ」 霊夢さんと共に亭内の廊下を歩く。この間、私は軽く亭内の惨状について説明しておいた。霊夢さんは「ふぅん。大変ね」と大して興味なさそうな感想を述べていた。 お師匠がこもっている実験室に到着すると、まず私が扉を叩いた。「お師匠、霊夢さんが来られました。何やら話があるそうです」と呼びかけると、扉がスッと開いた。 「あら」とお師匠は霊夢さんの顔を見て意外そうな顔をした。 「あなたがここに来るなんて珍しい。どこかお怪我でも?」 「あいにく五体満足よ。それよりこの屋敷、すさまじいことになってるわね。お疲れ様」 「1人のわがままに振り回されるのも、もう慣れてるわ」 お師匠は肩をすくめて笑った。振り回されているのは主に私や小兎たちであり、私は慣れてない。お師匠は実験室にこもってばかりで被害なしじゃないですか、とは死んでも言えない。 「じゃ、入るわよ。用件だけ伝えて帰るから」 「2人きりでお話だなんて、何があるのかしら。怖いわね」 「言ってなさい」 霊夢さんが中に入ると、扉はぴしゃりと閉められた。私は当然話に加われないらしい。別に聞きたいとも思わない。下手に変な話を聞いて、また仕事を押しつけられるのも嫌だ。 私はそれからしばらく家事に忙殺されていた。小兎たちのお手伝いが見込めない以上、ほぼすべての用事をこなさなくてはいけない。 「きゃーきゃー!」 どこからか悲鳴が聞こえる。きっと十二単を着た猛獣(いや、12枚も着てないか)が跳梁跋扈しているのだろう。犠牲者はまた小兎だろうか。 この3日というもの、永遠亭の猛獣こと姫様は、内の怒りと悲しみを発散するかのごとく、亭内にくすぐりの絨毯爆撃を繰り返していた。どうしてあの方は、憂さ晴らしをするのに他人をくすぐるんだろう。 まあ、小兎たちは本気で嫌がっておらず、遊び半分だからまだいいだろう。あの悲鳴も嬉しさあまってのものだ。 だが、遊び疲れた小兎たちがところかまわず寝転び休むおかげで、亭内はお腹をぴくぴくふるわせた屍たちでいっぱいである。 子供が遊んだ後のかたづけをするのは、やっぱり私。理不尽である。 亭内の惨劇と、姫様の魔の手から逃れたくなった私は、玄関先とその周辺のはき掃除をすることにした。現実逃避にはこれが1番だ。 はき掃除は良い。手を動かしていると無心になれる。ゴミとちりを集めて不満と弱音も一緒にちりとりですくえば、心が洗われる。ただし洗われた心は1日ともたずに汚されるけど。 黙々と箒を動かすこと4半刻ほど。だいたいの場所をはき終えてゴミをまとめていると、玄関の扉ががらりと開いた。 「じゃ、急な話かもしれないけれど、頼んだわよ」 中から霊夢さんが出てきた。どうやら話し合いが終わったようだ。お師匠も見送りで玄関先に立っていた。 「ほんと、急すぎるわね。もう少し段取りよくできなかったのかしら」 「仕方ないでしょ。私も初めての試みなんだし」 「あなたがこんなに働くだなんて……どういう風の吹き回し?」 「私はいつだって勤勉な巫女よ」 お師匠と一言、二言言葉を交わすと、霊夢さんはふわりと宙に浮いた。 その時、霊夢さんの視線がちょうど私の方を向いた。そして私も集めたゴミを袋に詰めながら、ちょうど彼女の方を見ていた。 視線が交錯し、私はぺこりと頭を下げる。霊夢さんは意地悪く笑った。 「あんたも苦労するわね」 「どうも。そちらこそお急ぎのようですけど。忙しいんですか」 「まあね」 「もしかして、前に話していた面倒なお仕事とやらとか」 「その通り。まさに現在進行中よ。あんたたちの姫様によろしく」 ひらひらと手を振ると、霊夢さんはこちらに背を向け、一直線に空高く消えていった。自由な巫女様のはずなのに、何か大事なものを追いかけているような飛び方だった。 掃除用具を片手に亭内へ戻る。 と、すぐに違和感を覚えた。 ……静かすぎる。小兎の嬉しい悲鳴も、廊下をドタバタと走る音も聞こえない。音の波を消し去ったかのように、不気味に静かだった。 不審に思いながら居間に入ると、お師匠が小兎たちと一緒にお茶を飲んでいた。おまんじゅうをお茶請けにしている。小兎たちが静かなのは、おまんじゅうをほおばっていたからだった。 だが、もう1つの騒音の源、姫様がいない。おやつはかかさず食べるお方なのに。 私はお師匠に尋ねた。 「あの、姫様は」 「おこもりになられたわ」 お師匠はお茶を飲みながら淡々と答えた。 こもった? どうしてまた。憂さ晴らしはまだまだ続くと思っていたのに。 「博麗の巫女からの話を伝えた途端よ。さしずめ天の岩戸ね。まんじゅうでは釣れなかったわ」 私が「どんな話をしたんですか?」と訊くと、 「ちょっとした会合への出席よ」 とだけお師匠は答えた。明後日、何人かの有力者が集まる大事な会議があり、霊夢さんはその呼びかけ人なのだとか。 その話をした途端、姫様がこもった。なぜ? いつもの姫様なら「嫌よ」の一言で断るのに。 私は不思議でならなかった。 ※ ―水無月の20― 現在の姫様ははたと活動を止めておこもりになっている。おかげで実害は減った。だが、姫様の部屋に続く襖には、『立ち入り禁止』『入った者には金閣寺も辞さず』『くすぐられたくなければ障子に触るな』といったおどろおどろしい張り紙がされていて、まだまだ安心できる状況ではなかった。 実際、私とお師匠が姫様の部屋の前を訪れたその時も、近くでてゐが倒れていた。うつぶせで倒れている彼女の手足は、ぴくぴくと不随意運動を繰り返し、顔は苦痛混じりの笑顔のまま固まっている。口の端からは涎が垂れていて、ひどくみだらだ。きっといたずらしようと忍び込んだところを姫様に捕らえられ、むごい仕打ちを受けたのだろう。今の永遠亭でくすぐられたことがないのはお師匠だけだ。 てゐはその辺にうっちゃっておき、私とお師匠は開かずの障子を前にして、どうしたら姫様が出てくるかを話し合っていた。 「どうしましょうか」 「出てくるよう、色々試したのね?」 「はい。呼びかけたり、食べ物で釣ったり、泣き落としをかけたり……全部無反応でしたけど」 「困ったわね。会合は明日なのに」 お師匠が人差し指を自分の頬にあて、眉を八の字にする。 「いざとなったらうどんげを放り込んで、気の済むまで憂さ晴らしをしてもらおうかしら」 「やめてください。私の腹筋が壊れます。それに、憂さ晴らしをしても出てこないんじゃないですか?」 姫様は怒りと悲しみを外に向けて発散するタイプだ。昨日までのあの暴挙も、お気に入りの作家の新刊本が発売延期になったショックからのもの。そのやりようのない怒りと悲しみを、永遠亭の住人たちにぶつけていたのである。 その状態の姫様なら、憂さ晴らしをすれば、いずれ元に戻るだろう。 一方、姫様が引きこもるのは、色々と考え事や悩み事がある時の行動だ。新刊本延期は、その理由にはちょっとなじまない。別の理由があるはずだ。 私の推理に、お師匠も同意した。 「そうね。考えられるのは、博麗の巫女からの話……そんなおかしなものではないはずだけど」 「その会合って、どういう話をするんですか? 有力者が集まるって言ってましたけど」 「お見合いの話よ」 お見合い? 姫様のだろうか。また里の長老辺りが、姫様にお見合い写真でも持ってきたか? 「姫様にですか? 何回も断ってるのに」 「いいえ、姫様ではなくて小兎たちのお見合いよ。人里に住む人間の中に、小兎たちに惚れている男がいるらしくてね」 ……あんな小さな子たちにそういう感情を抱くなんて、頭のネジがおかしくなっているのだろうか。変態である。 「他にも妖精や妖怪なんかに惚れている男たちが多くいて、彼らが多人数のお見合い計画を立てているのよ。『集団お見合い』と言うらしいわね。それを開催するか否かを、人間の代表者と妖怪の代表者たちが話し合う、という会合というわけ」 「……面倒そうな話ですけど、引きこもるほどではないですね」 私はうーんと唸った。なぜ引きこもるのか。ますます謎だ。 お師匠も首をひねっている。 「まったく、困った子だわ。だいたい、人間の代表者が外来人の小説家だっていうから、あの子も嬉しがって出席すると思って、博麗の巫女に承諾の返事を」 「ちょ、ちょっと待ってください」 今、ものすごく重要なことをさらりと言われた。 人間の代表者が、外来人の小説家? 私が聞き返すと、お師匠はいぶかるような顔をして答えた。 「そうよ。こちらも無駄な会合に出席する気はないから、相手の身元をきちんと聞いておいたわ。博麗の巫女は『まだ本人に話してないから確定じゃない』とか言って教えるのを渋っていたけれど、だったらこの話も断ると言って、なんとかね。で、名前を聞いたら、あの子が好きな作家だったから」 「それです! 引きこもった原因は!」 私は興奮気味に手を挙げた。薬の合成法を思いついた時のようにピンときた。 「……どういうこと?」 「ええとですね。もちろん、姫様もその人に会ってみたいとは思ってはいるんです。けれど、好きだからこそ会えないというか、会うのが怖いというか」 お師匠がますます怪訝そうな顔している。仕方ない。この感情を、お師匠のような人が理解するのはなかなか難しいだろう。 姫様が好きな小説家に会わない理由――それは、素直じゃないからとか、意固地になっているからとか、藤原妹紅との間に無用な騒動を招くとか、色々と表向きの理由はある。 が、私が思うに、姫様の心中にはもっと複雑な感情があるはずだ。 一言で言えば、憧れの人に会うことへの『気後れ』、だろうか。 ここからはあくまで私の推測だけれど…… 姫様は、この小説家さんの小説が本当に大好きだ。寝る間を惜しんで読んでいるし、何度でも読み返している。読むたびに新しい発見があるとか、読めば読むほど自分の感情が湧き立つとか、姫様は言っている。まるでそれは、付き合いたての理想の恋人と、毎日逢引しても飽きないとか、恋人の新しい面が見えてますます好きになるとか、そういう類の好意だ。もちろんそれは、小説に対しての好意だけれど。 しかし、これだけの好意を抱くと、小説だけではなくその作者にまで想いを向けてしまう、ということもあるのではと私は思う。こんな素晴らしい小説を書いた作者は、どんな素晴らしい人なのだろう、とか。きっと、知識が豊富で、人生経験豊かで、確固とした自己を持っているのだろうか、とか。その『憧れ』はどんどんと膨らみ、その内この作家さんのことも大好きになる。(もちろんそれは男としてとかではなく、小説家として、だけれど) だが、それは実際に会った人間に対する行為ではなく、自分の中で作りあげたあやふやな偶像に対する好意だ。この手の好意は、現実の相手に会うと、途端に崩壊する。空想上の小説家ではなく、肉を持った男という現実を突き付けられ、小説を読んでいた時の気持ちも、憧れの人を想像するときの喜びも、全て失う。その喪失感たるやいかなるものか。 ましてや他人の口からその人のことを聞かされ、そんな感情を味わされるなんて、姫様には耐えがたいことだろう。だから、永遠亭の住人が彼に接触するのを禁じているのではないか。 だったら、その小説家がまさしく理想通りの人間だったらいいのでは、と思うかもしれないが、それもまた問題だ。 理想とは、とても素晴らしいもの。けれどそれは実際に目にしていないからこそ抱ける感情だ。理想を目の前にするというのは、自分より大きい存在を目の前にすることに他ならない。大きすぎる存在、完璧すぎる存在。それと比較して思い知らされる、己の存在のちっぽけさや、ふがいなさ。理想を直視することは、それに押しつぶされてしまうかもしれないということ。これは、怖い。 理想の喪失と、理想への恐怖。 私にはこの感情がよく分かる。 だって、私が姫様やお師匠を目の前にした時によく感じるものだから。 私がそんな感じのことをつたない言葉でお師匠に説明した。だが、お師匠にはやっぱり理解しにくいようで、 「……要するに、姫様はその小説家を好いているということ? けれど会って嫌われるのが怖いと?」 と的外れなことを言っている。 仕方ない。お師匠は誰かに憧れるよりも『誰かに憧れられる』お人だ。こういうのは、私のような凡人が抱く感情である。 姫様も元来『憧れられる』お人だった。4人同時に求婚された過去は伊達ではない。 だが今、こうし『憧れる』お人になった。その今まで抱いたことのない自分の感情に戸惑い、引きこもるという行動につながったのかもしれない。 私は姫様の部屋へつながる障子を見つめながら、お師匠に御助言さしあげた。ちょっと格好つけて。 「今日はもう放っておいた方がいいと思います。こういうのは、勇気を振り絞って自分で決断することが大事ですから」 お師匠には分からず、私には分かる。それがなんだか嬉しくて、私は畏れ多くもお師匠に指示するような真似をしてしまっていた。 だが、お師匠はそれをとやかく言うことなく、「そう」と受け入れてくれた。 ついで、お師匠は「その小説家はそんなにも魅力的なのかしら」と尋ねてきた。 さあ、どうでしょう、と私は答えた。私は本を読まない人である。 「……ちょっと気になるわね」 お師匠が最後に見せた顔は、なんとも表現しかねる、見たことがない類のものだった。私の少ない語彙を駆使して表現するとしたら、冷徹な好奇心を持った研究者と、娘を想う母親が合わさったような、そんな感じ。 それから、姫様の部屋には私以外誰も近づかなかった。部屋の前で放置されていたてゐが、夜になって「どうして介抱してくれないの!」と怒ってきた。知るか。 ※ ―水無月の21― 会合の日である。 結局、姫様は行かなかったようだ。開かずの障子は夜になるまで開くことはなかった。 霊夢さんには行くと答えているのにいいのかと心配していたが、お師匠は「なんとかなるでしょう」と笑っていた。 夜、みんなで晩御飯をとる時間になって、姫様は不意に居間に現れた。 お盆でおかずを運んでいた私が「あ」と声をあげると、姫様は鋭い目つきで私を睨んだ。 「何よ」 「……いえ」 「お腹が空いたわ。イナバ、ご飯は大盛りよ」 「了解です」 この晩御飯で、姫様は私の分の白米も食べてしまった。理不尽である。 だが、私は知っていた。姫様がどれだけ迷っていたのかを。昨日の真夜中、私が夜食を部屋の前まで運んだ際、部屋の中から聞こえてきた「うーうー」という低いうなり声を。 そして私は知っていた。姫様がどれだけ後悔しているかを。今日の晩御飯が終わってから何度も、寂しそうな顔で吐かれるため息を。 頑張ってください、と私は内心応援している。凡人の気持ちも分かるようになったら、きっと姫様はもっといい姫様になる、と思う。 なお、お師匠はこの件について姫様を責めることも、問いただすこともなかった。「永琳、私行かなかったわ」と姫様が告げると「分かりました」とだけ答えていた。 追記:今日はこれで書くこともなくなったと思っていたのに、驚いた。現在、真夜中。家事を終えて寝る準備をしていた私は、庭の方からの物音に気付き、様子を見に行った。すると、お師匠と小兎がいたのである。 2人で何か話をしているようだった。遠くて内容までは聞こえなかったが、お師匠は真剣な顔をしていた。 その小兎は、確か盗み見・盗み聞きが得意な子だったはずだ。私にもよく、他の子の恥ずかしい話や、人里の噂を面白おかしく聞かせてくれている。 お師匠が、彼女を使って何か調べていたのだろうか。不気味だ。 ※ ―水無月の22― 今日の引き札。 『なかま ぼしゅう! あたいと いっしょに 難攻不落超絶絶叫必死 のいえに とつげきする ひと だいぼしゅう! たぶん おたからとか あるかもしれないから けっこうおとくかも? あついの つめたいの いたいの ある びーむとか まほうとか ほのおとか そういうのにつよいひと だいかんげい ようせい じゃなくても いいよ なかまに なりたいやつは ちくりんまで こい! さるの』 ……難攻不落の家というのはどこのことだろうか。竹林に集まるということは、まさか永遠亭か? いやまさか…… もしここだったなら、やめておけと私は忠告したい。きっとお師匠に捕まって、色々実験台にされるだろうから。 いや、妖精だったら薬も効かないのかな……うらやましい。 それはさておき、先日発売が延期した、姫様お気に入りの小説家の新刊本があと5日で発売する。引きこもり騒動で私は忘れていたが、姫様はしっかり覚えていた。 「わくわくするわ」と姫様。そして「うどんげ、頼んだわよ」と。 どうやら完全に復活したようだ。ちゃんと私をこき使っている。 追記:本と言えば、今日姫様の部屋を掃除して驚いた。まさか足の踏み場もなくなるぐらいに本で溢れているとは。引きこもっている間も読み続けていたのか。 仕方ないので、お師匠の薬の保管倉庫に一部を移すことにした。まったく、姫様もしょうがないお人だ。同じ本を何冊も買うようなことをしているから、すぐに本棚がいっぱいになってしまうというに。 本を倉庫に移したことは、お師匠にも一応報告しておいた。あまり興味がなさそうに「そう」と答えただけだった。そんなに使う場所でもないから、どうでもいいのだろう。 ※ ―水無月の23― 姫様が部屋から出てきてしまうと、私の忙しさは倍々になる。普段の家事だけでなく、姫様のお世話というおまけがついた日常は忙しいと言うほかなかった。 ほぼ1日中起きている姫様にご飯を作るのが特に面倒で、姫様と他の皆とで生活時間が全然違うため、調理の2度手間が発生し、なんだか手が空いたら台所に立っているように思えてくる。 お風呂さえまともに入らない姫様なので、梅雨時のべとついた髪を洗ったり、散らかり放題の部屋を片付けたり……ああ、あと永遠亭に配達される姫様宛の手紙を、私が代筆して返信しなくちゃいけないし。 そんな生活が3日も続けば、段々と身体に疲れが溜まってくるのも当然。まさか肩こりと倦怠感に悩まされる日が来るとは思ってもみなかった。妖怪が肩こりって……ちょっと恥ずかしい。 とは言うものの、両肩に鉛がぐいぐいと食い込んでくるような痛みはいかんともしがたく、私は前々から噂に聞いていた、とてもよく効くらしい栄養剤を買いに行くことを決意した。 『あなたの疲れをボムっと吹き飛ばす! 各種薬草配合、滋養強壮剤X!』 この素敵(?)な売り文句で最近よく売れているらしいこの栄養剤は、飲んだ人曰く「疲れがなくなる」「肩こり腰痛に効く」という代物とのこと。今の私にうってつけな飲み物だった。 しかし、仮にも薬師見習いである私が、他の店の薬剤を買いに行く、なんてことがお師匠に知られれば、いったいどんなお仕置きが待っているか。そんなに栄養をつけたいならと、数十種類の錠剤を一気に飲まされることにもなりかねない。 つまり、これを買いに行くことは私にとって一種の冒険だ。ちょっと恐ろしく、ちょっとわくわく。私は人里への食糧調達の帰りを狙い、こっそりとこの栄養剤を買いにいくことにした。知り合いに見られないよう変装して。 まず狂気の瞳を隠すために色付眼鏡はかかせない。長い耳は帽子をかぶって隠す。白マスクで声をくぐもらせる必要もあるだろう……むぅ、今振り返ると見るからに怪しい出で立ちだったが、仕方ない。どうも私は特徴に溢れた外見をしているので、これぐらいの変装は必要だった。 今日は1日中曇りがちな天気だったが、雨は降らず、順調に買い出しを終えることができた。食糧の入った袋を片手に、私はさっそく件の薬屋を訪れた。 栄養剤を独占販売しているその薬屋の外見は、木造の小さな建屋だった。普通の民家の玄関に商品棚がちょっと備えられたような感じ。人気店にしてはこじんまりしていて、たくさんのお客さんで賑わってなければ、特に目を引くこともなかっただろう。 半年ぐらい前まで、この店は外観にふさわしく閑古鳥が鳴いていた。販売している薬の効きがどうにも悪く、飲んでも病気が治らないと評判がよくなかったからだ。特に永遠亭の薬と比べると月とスッポンだと、薬の訪問販売先のお客さんによく聞かされた。(まあ人間の作る薬なんだから、お師匠のものと比べるのは酷というもの。こっちは効きすぎる) だが、最近になって『滋養強壮剤X』なる飲み物を独自開発し、大当たりしたことで状況は一変した。客はこぞってこの栄養剤を買い求め、反響に応じた店は経営方針を変えた。薬よりも、栄養剤や清涼飲用水を中心に商品展開し始めたのだ。それがまた当たり、いちやく繁盛店となったわけだ。 その人気っぷりを、私は来店してすぐ思い知らされた。店の入り口に立って唖然。中には人間たちがごった返していたのだ。狭い家屋にぎゅうぎゅう詰めになっていて、人間の髪の毛は大抵が黒いため、外から見るとダンゴ虫がうごめいているのを連想させられた。 客層は様々だった。若い人が運動用飲料をいくつも手に取る一方で、お年寄りは漢方系飲料の説明に顔を近づけている。女性の姿も多く、大抵の人は「美用」「美肌」と書かれた飲み物を真剣な目で選んでいた。 店の奥にはかろうじて店主の姿も見える。黒髭を生やした中年男性が、ひっきりなしにやってくるお客さんの対応に追われていた。その顔は活き活きとしている。 会計机の付近には張り紙が何枚かしてあった。『試飲はご遠慮ください』『薬の買い取りお断り』『弾幕ごっこはご遠慮ください』と、色々書かかれていた。それぐらい貼らなくてはいけないぐらいに、色々なお客さんがやってくるのだろう。 私はこの混雑ぶりにまずたじろいだ。人混みは疲れるので行きたくはない。けれど右手に持った食糧袋の重さのせいで、ますます重症化している肩こりの辛さに突き動かされ、私はえいやとこの荒波へと飛び込んだ。 マスク越しに「すみません」という言葉を何度使ったか分からなかった。波にもまれ、激流に逆らい、目的のブツを探し求めて棚から棚へと這い進む。店内は決して広くない。入り口から奥まで歩いて10歩もない。けどちっとも進まない。棚に近づこうとしても人垣に阻まれ押し返されてしまう。 変装しているとは言っても、妖怪特有の匂いとか妖気とかで周りに気付かれる可能性も高く、長居はしていられない。私は焦り始めていた。 仕方ない。こうなったらこの人たちの感情の波長をちょこっと歪めて外に出てもらおう、などと危険な考えが私の頭をよぎり始めたところで、突然人波が割れ、私の眼前に目的のブツが飛び込んできた。 茶色い瓶に書かれた『滋養強壮剤X』の文字。 ついに見つけた! まさしく手を伸ばせば届く! 希望の光に向かって手を伸ばす。近くの人を「すみません」と言って押しのけ、その報復なのか足を踏まれること数回、私の手が瓶の縁を触った瞬間、瓶は宙に浮いた。 私は掴んでいない。指は空を切り、別の手が瓶を取り上げていた。 「ああ!」 「失礼」 無遠慮に希望の光を取りさらったその人は、慇懃無礼さがこれでもかと詰まった赤い瞳を私に向けていた。色付眼鏡越しにその視線を受け止めた私は、それが誰であるかを理解し、口を全開にした。 緑髪のボブカットに、赤のチェックの上着。黄色いスカーフが巻かれた容貌は非常に美麗でありながら、圧倒的なまでの妖力をその身から滲ませた怪物的存在――花妖怪の風見幽香だった。 私は心の中で悲鳴を上げ、瞬時に回れ右をした。どうしてこの人がこんな場所であんな買い物をしているのか、向日葵畑にいるのが常だというのに、ていうか店の中にいる人間たち、買い物に夢中になって、この危険度極高の妖怪に気付いていない? いやいやあなた達、けっこうな命の危機に晒されてますよ、忠告する前に私は逃げるけど。 などと、秒未満の間に駆け巡る思考と共に、私は逃走への第1歩を踏み出す。 ひやりとした感触が首筋に走った。 「待ちなさい、不審者」 「ぐえっ!」 突然服の襟を引っ張られて首がしまり、喉から変な声が出た。周囲の人たちが反応してこちらに視線をやるが、ここでようやく風見幽香がいることに気づいたらしく、一瞬にして私と風見幽香の周りだけにぽっかり混雑の穴ができた。さすが大妖怪。 「げほっ、な、何を」 咳込んでその場にうずくまると、風見幽香は右手に持った日傘を引っ込め(これで私の襟を引っ張ったらしい)、左手に持った滋養強壮剤Xをぶらりぶらりと私の目の前で揺らした。 怖かった。その手からいつ何が飛び出るか分からず、私は反射的に身体をのけぞらせた。 だが、相手は素っ気ない様子で私を見下ろすだけだった。 「あなたもこの飲料薬を買うつもりだったと見たけど」 「そ、そうですけど……」 「なら、運が良かったわね。私の気まぐれが起こった幸運に感謝なさい」 意味が分からず、私は色付眼鏡越しに彼女の顔をまじまじと見つめた。花妖怪をこんな近距離で見たのは初めてだった。一切の笑みを見せず、唯我独尊っぷりを隠そうともしていなかったが、思ったより威圧感がないのが不思議だった。 そう言えば、周りの人たちもいつの間にやら買い物を再開している。栄養剤をぶらぶら揺らす彼女に恐ろしさが見いだせないからか、それとも標的が私1人だからと安心したのか。 風見幽香は尊大な態度を崩さず言った。 「私はこれの半分があれば十分よ。後の半分はあなたにあげるわ」 「え……けど、こういう薬って1瓶飲まないと意味がないんじゃ」 「私がこんなちゃちな飲み物を飲むとでも?」 ますます意味が分からず、私は恐怖も忘れて花妖怪の表情から真意を伺おうとした。からかわれているのか、変な企みでもあるのか。傲慢不遜な笑みから読みとれるものは少なかったが、妖力の高まりは感じない。私を取って食べようとしているわけではないことだけは確からしい。 そんな私の目から放たれた疑義に、色付眼鏡越しながら気付いたらしい風見幽香は、ふぅ、と面倒くさそうに息を吐いた。 「この栄養剤を少し加工すると、植物のいい肥料になる。けれど半分もあれば『冬の花』が咲くにも十分な量ができるから、後の半分は不要。それだけの話よ」 「……冬の花?」 現在の季節――初夏。 冬の花とは酔狂な。花異変でもあるまいし、わざわざ肥料まで用意して…… そのおかしさを自覚しているらしい風見幽香は、自嘲気味の笑みを浮かべ、「馬鹿みたいでしょう?」と他人事のように鼻で笑った。 「新しい耕作方法の話を出した私も馬鹿だけど、だったら水仙と冬椿が夏に咲いているのを見たいなんて言ってきた奴は大馬鹿だわ」 「は、はあ」 「ついでにスノードロップでも送りつけて、大馬鹿に己の馬鹿具合を自覚させて、馬鹿を知る馬鹿にさせてやるのよ」 無学な私では、花の名前を挙げられてもその意味は分からない。けれど、普段から姫様やお師匠の顔色を窺いながら生活している身として、ひとつ分かることがある。風見幽香の『馬鹿』の単語は、決して相手を馬鹿にしているものではない、ということ。 「ほんと、面倒だわ。遊戯で負けた私が文句を言うのはご法度だけれど……いつか花の添え木にしてやる」 言葉の上では苛立ちを表しながらも、声色の中に優しさと慈しみがにじみ出ているように感じるのは気のせいか。 私はその意外な印象に驚くより感心してしまった。人間友好度『最悪』とまで言われている彼女が、分かりにくいながらも親愛の情を投げかけている相手。彼女の手を煩わせる頼み事をしておきながら、たかだか花を贈りつけられる程度で済んでいる相手。むぅ、並大抵の人物ではあるまい。 どういう相手なのか聞きたくもあったが、愚痴をこぼして気が済んだらしい鋭い瞳に見据えられては、質問する勇気も出なかった。 「で、どうするの? 私の好意を無碍にするつもりかしら」 「え……あ、えと」 改めて尋ねられたが、即答できるほど私は柔軟ではなく、代わりに意味もなく視線を泳がせた。風見幽香は確かに好意で薬を半分譲ってくれるつもりなのだろうが、それがどうにも気が引けてしまう。唯我独尊を地でゆく人が不意に見せる優しさに戸惑うというか、以前お師匠が「いつもお疲れ様、うどんげ」と労いの言葉をかけてくれた時のような不気味な感じがどうにも拭えない。(お師匠の時は次の日に胡蝶夢丸の服用実験をさせられたし) 答えあぐねる私に焦れてきたのか、風見幽香はさらに言葉を重ねる。 「私の気が変わらない内にさっさと決めることね。今日を逃せば明日手に入れられる保証がないのは、この店の混雑具合を見れば分かるでしょうに」 「う、うーん」 「見た限り、あなたは女みたいだし、半分もあれば効果は……あら? 獣臭いわね、あなた」 私は動揺が声になるのをぐっとこらえた。さすがに風見幽香ぐらいの大妖怪となると、稚拙な妖力の隠ぺいぐらい見抜かれてしまうようだった。 こうなると、飲料薬がどうのと言っていられない。取るべき道はただ1つ。 今度こそ失敗しないよう、私は周囲に目を走らせて状況を窺う。人の混雑は続いているが、風見幽香がここにいるせいか先ほどより幾分か人は少なくなっている。入り口まで歩いて4歩程度、外に出てしまえば後はどうにでもなる。 こういう時、視線を隠せる色付眼鏡はありがたかった。 「獣臭い上にこの匂い……薬? この店の薬ではないようね。あなたは」 「ご厚意感謝しますが、ここは遠慮しておきます! ではさようなら!」 人の切れ目ができた瞬間、私は力いっぱい地面を踏みしめて走り出した。 私は逃げた。超逃げた。店の外に出た後は、周囲にいる人間の目も気にせず空に浮かび、無我夢中で空を駆けた。 多分この時の私なら天狗に勝てたと思う。 四半刻後、竹林の中に逃げ込んだ私は、全速力を出した反動で激しく息を切らせていた。 青竹にもたれかかり、ぐったりと身を任せる。 夕方も近くなり、竹葉の間から見える空も灰色に変わっていた。世界から色がなくなりだした時間帯。今日1日がまったくの徒労に終わったことを告げる空に、私は帽子と色付眼鏡とマスクを投げつけ、「あーあ」と独りごちた。 風見幽香にはばれてしまっただろうか。別にあの人にはばれてもいいけど、そこから話が巡り巡ってお師匠にまで渡れば……不安に駆られそうになるのを、彼女とお師匠との間に親交がないという事実で蓋をする。大丈夫だろう、たぶん。 もうそろそろ帰らないといけない。けれど、帰ってからの家事を思うと、ため息しか出ない。皆のご飯を作って、お風呂の用意をして、廊下に散らばった姫様の本を片づけて……といつもの癖で段取りをつけていくごとに疲労が増していく。 悩み事の多い人は肩こりしやすいと聞く。だったら私の肩こりは永遠に治らないのかもしれない。 あの薬、もらえばよかったなあ、とちょっと後悔している。 追記:気になったのでスノードロップの花言葉を調べてみた……なんと恐ろしい。嫌な汗が出てきた。物騒すぎる。贈り物のスノードロップにこめられた花言葉を、彼女は知っているだろうに。 だが、もし彼女が本当にその花言葉通りの感情を相手に抱いているなら、むしろすぐ実行に移すはずだ。物理的魔法的地獄に落とすことなんて、彼女にとって造作もないこと。 これは大妖怪にありがちな、好意の入り交じった高度な冗談……だと思いたい。 ※ ―水無月の24― 私はこの手帳に、日常の中で起こる特異な出来事を記しているつもりだ。そしてそれらに突っ込みを入れ、愚痴を吐き、私見をはさむことで心労を発散している。 だが、それも特異な出来事があった日に限られる。今日のような波風も爆発もない、凪の1日はちょっと困る。 姫様は1日中部屋にこもっていた。てゐは外に出かけていた。お師匠は相変わらず薬を作り続けていた。変な引き紙も特になかった。 要するに、書くことがない。 あー、どうしよう。別に書かなくちゃいけないわけじゃない。これを書き始めた頃は空白の日付もあった。けれど最近は休むことなく続けていたのに、ここで途切れるのも、なんだか気持ち悪い。 しょうがないので愚痴ではなく、ちょっと不思議な出来事でも書き記しておこう。 お昼過ぎのことだ。私はお師匠に命じられて、荷物を倉庫から実験室に運ぶ手伝いをしていた。重い段ボールを3箱持たされて、「はやくしなさい、うどんげ」と手ぶらでのたまうお師匠の後ろをついていくお仕事だ(あ、別にこれ自体は特異な出来事じゃなく、日常的にあること) 倉庫から実験室まで、永遠亭の廊下をゆく。私はふらつきながらお師匠の背中を追った。顔の近くまで段ボールが到達していたので、ほとんど視界がふさがれていた。そのせいで、曲がり角から現れた小さな影に気づかなかった。 突然、わき腹に衝撃が走り、私は「おうふ」と変な声をあげた。 眼下に小兎の頭があった。 「あ、ごめんなさーい」 「こら、廊下を走ると危ないわよ。今回はうどんげだけで済んだけど、他の人に当たるといけないから歩きなさい」 「はーい」 お師匠に注意されると、小兎はぺこりと頭を下げ、早歩きで立ち去っていった。(お師匠のお言葉にはもういちいちつっこまない。私が犠牲になるのもまた日常である) 私はわき腹の痛みに耐えながら、荷物を落とすまいと踏ん張っていた。だが無情なお師匠はそんなけなげな私に気づくことなく、「あら」と床にしゃがみこんでいる。 「さっきの子が落としていったのかしら……」 お師匠が拾い上げたのは1枚の封筒だった。上質な紙を使っているのだろう、全面が真っ白な封筒で、すでに封が閉じられていた。 「あとであの子に渡しましょうか」と私が提案すると、お師匠は「お願いするわ」と言って、私の方へ差し出した。そして私は困った。お師匠、あなたは手ぶらだから簡単に渡してくれるけど、私は3箱なんです。けっこう腕がぎりぎりで、離せないんです。 どう受け取ろうかと思って、便せんをじっと見つめる。 あっと声が出た。 宛名欄に見知った名前があったのだ。 「あれ、これってもしかして……」 「永琳!」 槍のように鋭い声が、私とお師匠の間をかすめていった。基本お気楽極楽な永遠亭で、こんなものが飛んでくることは滅多にない。 奇特な投げ手は誰かと視線をやると、なんと我らが姫様ではないか。 姫様は口を真一文字に結び、私たちを睨みつけていた。 「あら、姫様、どうされました?」 「それを、それをよこしなさい」 「それ?」 「その封筒よ! 小兎が勝手に持っていったのよ、返しなさい!」 「ああ、いたずらというわけですね。しかしそう怒鳴らなくても……はい、どうぞ」 お師匠が封筒を差し出すと、姫様は普段のぐうたら具合もかくやというほどの、素早い動きでひったくっていった。 そして、なめ回すように封筒を眺める。異常がないか確かめているのだろう。 「中は見なかったでしょうね」 「封が開いているように見えますか?」 「……ならいいわ」 封筒を袖の中にしまうと、姫様は背を向け、荒々しい足取りで立ち去っていった。私は内心、くわばらくわばら、と唱えていた。 姫様の後ろ姿が曲がり角で消えると、お師匠が小さくため息を吐いた。 「ただの封筒に、何をあんなに気を立たせているのかしら」 「あれはただの封筒じゃありませんよ。姫様にとって、とても大事なもの……です、たぶん」 そう言うと、お師匠は私の方をじっと見つめた。説明しなさい、と言っているようだった。 しまったな、と私は思った。余計なことを言ったせいで、重い荷物から解放されるのが先延ばしになった。 早めに説明を終えよう。 「えーとですね、宛名に、姫様の好きな小説家さんの名前があったんです」 「小説家への手紙ということ?」 「はい。姫様は時々、小説家さんに手紙を送っているんです。愛好者が出す、感想や意見のような手紙ですね」 「いわゆるファンレター、か……どうしてあなたがそれを知っているのかしら。姫様は隠していたみたいだけど」 「以前、姫様の部屋を掃除しているときに、書きかけのお手紙をちらりと見かけまして。詳しくは読まなかったんですけど、本の感想とか書いてましたよ」 「なるほどね。姫様が手紙を……か」 「あ、ちなみに差出人の欄は『匿名希望』にしてるみたいです。恥ずかしいんですかね」 あははは、と笑いながら、私は腕をぷるぷると震わせていた。そろそろ移動してくれないと、本当にきつい。 「あの、お師匠、そろそろ」 「ふむ……ファンレター、会わない、けれど匿名希望で、か」 お師匠は考え事をしているのか、難しい顔をするばかりで、私の懇願なんて聞いてもくれなかった。 この時のお師匠は、たぶん3分ぐらいはその場で固まっていたと思う。荷物の重さで四苦八苦していた私にはとてつもなく長い時間に思えた。 お師匠は何か難しいことを考えているようだった。ぶつくさと聞こえてくる単語は、姫様に関連した言葉だったと思う。姫様のぐうたらぶりの対策を立ててくれているのか、そうだったらいいのにな、と私はのんきに考えていた。 硬直から解けたお師匠が「うどんげ」と私を呼んだ。 「は、はい?」 「風邪を治すにはどうすればいいと思う?」 いきなり妙なことを聞いてきた。なんだろう。お師匠の突発的な試験だろうか。だったらきちんと答えないとお仕置きが待ってそうだったので、私は腕のしびれを感じつつ考えた。 「ええと……休息と栄養によって自己治癒力をあげるか、対処療法として抗生物質や消炎剤を投与するか、です」 「そうね。どんな病気も、治す方法は大きくふたつに分けられる。『自力で治す』か『薬や手術などの外の力を使う』か」 お師匠は薬についての説明をするときのように、雄弁に話している。 「自己治癒力が見込めないなら、薬を投与するほかない。けれど、薬を使う場合も注意が必要よ。まずは服用する薬の成分を把握し、どういう効果なのかを理解し、症状に合わせた用法・用量を決めなくてはいけない。つまり、その薬の正体を見極めないといけない」 その視線は私の方を向いていない。 さっき姫様が消えていった曲がり角をとらえている。 「ねえ、うどんげ」 「は、はい」 「『臆病』もまた、その文字の通り、病のひとつだと思わない? だとしたら『臆病』につける薬は何かしら?」 「……はあ」 さっぱり分からない。 そういう顔を私がしていたのだろう。お師匠は私の答えなんて期待していない、というように軽く笑みを浮かべた。 「戯言よ。あの子が好きな文学的に言うのなら、ある種のメタファーというやつ」 「めた……?」 「わからないのなら、いいわ」 お師匠は不意に足を動かし、すたすたと曲がり角の向こう側に消えてしまった。 一方で私はその場から動けなかった。お師匠の言葉のせいではない。腕がしびれて、1歩動くだけで荷物を落としそうだったからだった。 とまあ、こんな不思議な出来事だった。 お師匠はときどき、含みのある言葉をさも深みのあるように語る。そのくせ解説はない。よって私は迷いの森にさまよってしまう。これまでにも薬学のことや、幻想郷のこと、異変のことなど、色々と語られたが、いつも私は迷っている。お師匠はそんな私を俯瞰的に眺めて楽しんでいる節がある。 臆病につける薬? なんだそれ。私にはいまだに、お師匠の言いたかったことが分からない。 不思議の森に入るのは面倒なので、考えるのをやめることにする。 今日は何もない1日でした! で終わっておこう。 新作本の発売まであと3日。 ※ ―水無月の25― 今日の引き札。 『妖怪変化諸君! 幻想郷を愛して止まない諸君! 君たちはもちろん気付いているだろうし、ここで私が今一度言及することではないかもしれないが、それでもあえて言おう! 今、幻想郷に異変が起こっていると! 異変ならなぜ博麗の巫女が出しゃばってこないのか、などと諸君方々は言いはしまい! 今の博麗の巫女には何も期待してはいけない! 異変! そう、これは異変だ! 我々は自覚しているはずだ! 近頃、妖怪と人間の関係が堕落したものになっていることを! ある妖怪は人里に買い物に出かけている! ある妖怪は人間と楽しくお茶会などを開いている! ある妖怪は信じられないことに人間とお見合いなどしている! 妖怪と人間が結びつく……そんなことはあってはならない! 思い出せ! 妖怪は人間を襲う存在だということを! 絶対的な力を持ち、この世界を支えているのは我々妖怪であると! 人間共は数だけを増やし、我々のために生き、時にささやかな反抗をするだけの存在なのだと! 愚かで卑しい人間共を甘やかしてはならない! 我々が優しくすれば奴らはすぐにつけあがり、シロアリのように我々の身体を蝕んでいくだろう! そんなことを許してはならない! 立てよ妖怪変化!! 今こそ幻想郷本来の姿を取り戻す時なり!!!』 紙の裏表にびっしりと書かれたこれを読んだ、私の感想を一言で言おう。 「馬鹿らしい」 以上。 さてさて、姫様待望の本が発売するまで、あと2日。そろそろ準備を始めないと。 ※ ―水無月の26― 空は青が透き通る快晴。これまでの曇りがちな日々が嘘のように、陽気な日差しがそこら中に降り注いでいる。どうやらお師匠の予想通り梅雨が明けたようだ。 そんな天気に呼応したのか、今日は信じられないほど平穏な1日だった。こんなにも穏やかに過ごせた日はちょっと経験がない。 姫様は明日に備えてほぼ1日中寝ていた。お師匠は外出していた。てゐは他の小兎たちを連れて外に遊びに行った。来訪者もなかった。 つまりこの広い家に私だけが残され、お蔭で穏やかに過ごせたわけだ。 永遠亭というのは、人がいなくなるとこんなにも静かになるのかと驚いた。周りに民家が1つもないからだろう。窓の外に広がる青竹の林をじっくりと眺め、風が吹くと竹の枝同士がこすれる音を聞くなんて、何時ぶりだろうと思った。心がとても落ち着いた。 これ幸いと、私はほどほどに家事を終わらせると、今日1日をごろりと畳の上で横になって過ごした。 日頃の疲れが一気に癒えたように思う。涙が出そうだ。 ありがたい、これで私はまた働ける。 明日はついに本の発売日だ。 早起きしなければいけないので、もう寝よう。 ※ ―水無月の27― なぜ私が、たかだか本を買いに行くぐらいのことを、何日も前から気にしなくてはいけないのか。それはこれまでの経験上、本の発売日ほど姫様のわがままが発動する日はないと分かっているからだ。 その昔、初めて本を買いに行くよう、姫様から命じられたときのこと。私はこの仕事がそれほど重要だと思ってなかったので、お昼過ぎに本屋へ行けばいいだろうと、私室でのんびりしていた。すると、突然扉が開いて現れた姫様に、烈火のごとく叱責された。 「朝一番に買いに行かなくちゃ意味ないじゃない!」と。 次に命じられたときは、実直に姫様の言うことを守り、朝早く起きて開店直後の本屋で新刊本を買った。すると姫様に怒られた。 「3冊買わなくちゃ意味がないじゃない!」と。 次は3冊買った。すると姫様にぶーぶー言われた。 「あっちの店だったら署名入り本があったのに!」と。 勘弁してほしい。そこまで執着するなら自分で買いに行けばいいのに、とどれだけ言いたかったか。 しかし、そう言えないのが権力下にある者の定めである。 本日、新刊本の発売日。まだ日も出ていない早朝に、私はさっそく権力の理不尽さにさらされた。 「起きなさい! イナバ! 起きなさいってば!」 「ふわ……ひ、ひまさまぁ?」 「朝よ! 27日よ! 本の発売日よ!」 「あうっ、あうっ、首を、ゆらさ、ないで~」 非情にも布団をはぎとられた朝。ここから私の長い1日が始まった。 私が姫様に起こされたのはなんと寅の刻だった。空はまだ仄暗く、太陽の光を浴びていない世界が、どこかうすらぼんやりしている時間帯。窓から外を見れば、灰色の背景に三日月がうっすらと浮かんでいた。 確かに「早起きしろ」と言われていたが、鶏より早く起きるのは早起きの範疇を超えている。というか眠たかった。 姫様に命じられておにぎりと味噌汁だけの簡単な朝食を作った私は、作戦会議をすると言われ、姫様の部屋に招かれた。 部屋に入って私はうんざりした。先日片づけたばかりなのに、もう散らかり放題になっている。お菓子の袋やちり紙がばらばらと、台風がきた後みたいになっていた。 なんとか座る場所を見つけた私と姫様は、おにぎり片手に作戦会議を始めた。 「作戦はいつも通りよ。イナバは本を買ってくる。私は玄関で待機し、あなたが帰ってくるのを待つ」 「あのう」 「なに?」 「まだ本屋は開いてないんじゃ」 「あの本屋には、遅くても開店の半刻ぐらい前に本が配達されるわ。それから開店までの時間、入荷本に値札をつけたり、商品棚に並べたりしているのよ。だから店は開いてなくても店主がいるわ。そこを狙うのよ」 開店直後どころか、開店前の店を襲撃しろと行っているらしい。呆れた。 「はあ。けど、それでも今は開店の2刻半前ですよ。早すぎません?」 「……それは、あれよ、流れで起きちゃったというか」 言いにくそうに頬を掻いている姿に、私はかすかに口の端を歪めた。 このお姫様め、発売日だからと興奮しすぎて、予定よりはるかに早く起きてしまったのだろう。けれど待ちきれずに私を起こした。そんなところか。 まったく迷惑にもほどがある。本の仕入れがあるという時間まであと2刻。それまで私は、こんな早朝に何をしろというのか。もっと寝かせてほしい。 「とにかく! どうにかして店主と接触して、入荷したばかりの本を入手するのよ! ノルマは3冊!」 「またですか。同じ本を3冊なんて、もうやめましょうよ。1冊で十分じゃないですか」 「1冊は読書用、1冊は書き込み用、1冊は保存用! いいからさっさと行ってきなさい!」 「……分かりましたよ、もう」 眠気の取れない私は逆らう気力すらなく、渋々と了承し、姫様の部屋から退散した。 出発までまだ時間があったので、先に朝の家事を済ませておくことにした。あまり音を立てないようにしながら、家人全員分の朝食を作り、部屋の掃除をし、お風呂を洗い……こんな朝っぱらから何をしているんだろう私は、と虚しくなってきたのを、仕事だと言い聞かせて無理矢理押し込める。 一通り家事を終えたあとは、外出の準備をすることにした。着替えをしたり、本屋の場所を地図で確認しておいたり。最も忘れてはいけないのは、本を買うためのお金の用意だ。居間にある箪笥から今月の『姫様遊興費』を取り出し、本3冊分のお金を抜き取る。 『姫様遊興費』は、家計の紐を握るお師匠からいただいている、姫様専用の娯楽用資金である。箪笥の中の封筒に入れて、大事に使っている。 だが、お金を抜き取るさい、封筒の中が心許ないことにに気付いた。これはまずい。お師匠は毎月決まった額のお金しかくれない。あまり無駄遣いが過ぎると姫様ではなく私がお師匠に叱られるし、悪くすれば私のお小遣いから『姫様遊興費』を出せと言われるかもしれない。それはちょっと勘弁してほしい。 今月の書籍代はこれを最後にしてもらおうと心に決め、お金をしまう。 と、先ほど着替えたブレザーのポケットに突っ込んだ手が、カサリと音を立てた。 何かと思うと、ポケットに紙切れが入っていた。取り出して広げてみる。 『本は3冊ではなく、4冊買ってくること』 一読し、はてと首を傾げた。私が着替える前に姫様が入れたのだろうか。それなら直接言ってくれれば済むはずなのに。4冊買ってこいと言うのが恥ずかしいなんて柄でもないはず。 確認しようと思って姫様の部屋を訪れたが、そこには布団で眠りこけている美女がいるだけだった。艶やかな黒髪が床に流れ、桜色の唇から寝息が漏れている。私に指示を出したことで興奮が醒め、一気に眠気におそわれたのだろう。 気持ちよさそうに寝ている顔を見て、私はため息しか出なかった。さっさと仕事を済ませて私も寝ようと思った。 水無月も後半になったとは言え、これだけ朝早い時間帯になると、季節に関係なく空気が冷ややかに感じた。夜とも朝とも違う、狭間の時間。世界全体が生まれ変わったみたいに空気は澄みきり、東に上る太陽からの光が染み込むように広がる。虫の音も鳥の鳴き声も、川の向こう岸から聞こえるみたいに遠い。そんな竹林の中を飛び回るのは、なんだか心細かった。 どうせなら姫様も一緒に買いに行ってくれればいいのに。そうすれば話し相手ができる。 だが、姫様に頼んでも巫女に祝詞だろう。お菓子をもぐもぐ食べながら「無用な争いを避けるためよ」と言われるのがオチである。憎たらしい。 実際のところ、姫様が人里に出ると無駄に注目されて騒動が起こりそうではある。仇敵と出会いでもすれば、里が炎と弾幕に包まれかねない。そんな無用な被害を防ぐという意味では、姫様の判断は極めて理性的だろう。ただ、私に苦労が降りかかるという、極めて重大な被害が無視されているのは理不尽だが。 愚痴ばかりが頭の中で渦巻いている中、私は竹林を出て本格的に空へと飛び出し、人里へと向かった。 私が向かったのは、早い開店時間と長い営業時間を売りにしている雑貨店兼本屋だった。夜にお師匠から「この参考資料を買ってきて」と言われたときなんかに随分お世話になっている。 店の前に着地した私は、「本日は閉店しました」の札が掲げられている店のガラス戸を見て、さてどうしようと思案した。 一応私はこの店の常連なので、店主とは顔見知りである。しかし「準備中」の札すらかかっていない店の裏口を、どんどんと叩くのは恥ずかしい。「たかが新刊本にどれだけ必死なんだ、この人」なんて思われるのは心外だ。必死なのは私ではない。 姫様の話を信じるなら、あと少しすれば配達業者がここに新刊本を運んでくるはずだ。ならば、ちょうどその受け渡しの場面に姿を現し、「あ、今日は本の発売日なんだ。へえー」と、朝の散歩中にさも偶然そこに居合わせたようにふるまえば、自然と店主との直接交渉に持ち込めるかもしれない……こんな早朝から散歩なんて変な人だ、と思われるぐらいならまだ耐えられる。 よし、この作戦でいこう。 店の前でうろうろしているのは不審すぎるので、まずは身を隠すことにした。近くの民家そばに立つ木がよさそうだった。生垣の横に根を張り、民家に覆い被さるように生えているそれは、柿か何かの木だろうか。人1人ぐらいなら楽に隠れられそうだった。店の様子もうかがえて、配達業者が来てもすぐに分かる。 そそくさと木の裏に回り込む私。 だが、そこには先客がいた。 あれ? と思った。銀色の髪に、緑の服、腰に携えた2振りの刀。顔は俯いていて見えないけれど、頭の上でふわふわ浮いている白い物体を見れば、誰なのかはすぐに分かった。 「あのー」 「……」 「もしもーし」 「……んん」 眠っているらしいその人は、声をかけると寝苦しそうに顔を歪めた。銀色の髪がはらりと額にかかる。 どうしたものかと思って、ふと彼女の頭の上に浮いている白い物体に目を向けた。それはどこもかしこも真っ白で、ほどよく膨らんでいて、おまんじゅうのようだった。おまんじゅうが空を浮いている。わけがない。けどふわふわしている。そう言えば最近、甘いもの食べてないなあ、とつぶやいた私は、何の気なしに手を伸ばした。 すると、突然人間の方の目がぱちくり開いた。 その瞳に、半霊を突っついている私の姿が写る。 瞬間、彼女の右手が動いた。 「くせものぉ!」 「わわっ!」 抜かれた刀が、なぜか私の耳めがけて襲いかかってきた。それを間一髪で白刃取り。 力が入っていなかったのでなんとか受け止めることができたものの、白銀の刃が目の前にあるあんて恐ろしい状況に、私の手がぷるぷる震える。。 力は拮抗していて、互いにその場から動けなくなっていた。私は腕を震わせ、相手はもう1つの刀に左手を伸ばそうとしていた。 彼女の目は据わっている。明らかな寝ぼけ眼だ。 「むむぅ、にゃらば、おーかんけんで」 「ちょっと妖夢さん! 私ですって!」 「……んん、あれ? あなたは」 ようやく私の顔をまともに見てくれた妖夢さんは、力を緩め、ゆっくりと刀を引いた。 私は大きく息を吐いた。危ないところだった。もう少しで頭の耳をぶつ切りにされてしまうところだった。 「す、すみません。ちょっと寝ぼけてしまって」 刀をパチリと鞘に収め、申し訳なさそうに頭を下げた魂魄妖夢さん。 冥界にある白玉楼という館で、庭師兼護衛をしている半人半霊の女の子だ。 彼女とはかつての異変やらなんやらがあってから、少し親交があった。主君に仕える侍従という同じ立場から意気投合し、人里で会った時なんかは愚痴を言い合ったりする仲だ。いきなり斬りかかられるような関係ではない。多分。 私はまだドクドクしている胸を押さえた。 「びっくりしましたよ、もう。危ないじゃないですか」 「本当にごめんなさい。てっきり、半霊に不埒な行為を行おうとする不逞の輩かと。その耳が何かの触手に見えてしまいまして」 「……色々と突っ込みたいところはあるんですが、まず、不審者と見るとすぐに斬りかかるのが、どうかと思います」 「えと、その、あははは」 笑って誤魔化された。 妖夢さんは幻想郷でも珍しい常識人だと思っていたのに、これからは認識を改める必要があるかもしれない。 「それよりも、鈴仙さんはどうしたんですか。こんな朝早くから」 「私は買い物というか仕事というか。妖夢さんこそ、どうしてこんなところで寝てたんですか?」 「ええと、私も買い物で」 「……もしかして、あの店ですか?」 この付近に店は1つしかない。あの本屋兼雑貨屋だ。 そちらを指さすと、妖夢さんはきまり悪そうに頷いた。 「開店前なのに、どうしてまた」と尋ねてみる。 「少し事情がありまして……」 「主のお使いとか?」 「いえ。幽々子様は関係ありません。これは私個人の買い物でして。その、ほ、本を」 「え。もしかして、今日発売される、有名な小説家さんの日記ですか?」 「ど、どうして分かったんですか?」 顔を赤らめた妖夢さん。 私は驚いた。まさか妖夢さんまであの新刊本を買おうとしているとは。 自分も姫様の命令でその本を買いに来たことを説明すると、妖夢さんは、ほえー、と驚いていた。 「すごい偶然ですね」 「偶然というか必然というか。妖夢さんもあの小説家さんの本が好きなんですね」 「まあ、けっこう好き、ですね、はい……今日はこの店が開店した直後に買おうと思ってたんですけど、その、待ちきれなくって早めに来てしまって」 早めと言うには早すぎる、という言葉は封じ込めておいた。 こんな時間に来ているのだから、彼女は『けっこう』どころか『かなり』の愛好者であると見た。だが、それをことさら指摘するのも不作法だし、相手も恥ずかしくなる。姫様を相手するときと同じように、ここは温かい目で見ておくことにしよう。妖夢さんを慌てさせて、また刀を抜かれてはたまらない。 「2人とも、静かにしなさい」 私でも妖夢さんでもない声が、突然頭上から湧いて降ってきた。私と妖夢さんは何事かと見上げる。 新緑の葉が風でさわさわ揺れている。声はそこから飛び出してきたはずだった。目を凝らしてみると、枝の間に白く細い脚が見えた。人間の脚、それも男性なら誰もが飛びつきたくなるであろう綺麗な脚だった。 その脚の付け根にはフリフリのメイドスカートが揺れ、さらに上にはメイドエプロンがある。視線が上にいくにつれて見えてきた顔に、私は大口を開けた。 「ああっ!」 「だから静かになさい。周りの家に迷惑よ」 驚く私にそう注意し、葉っぱの間から顔を出した銀色の髪の持ち主。なんと十六夜咲夜さんだった。 私は開いた口が塞がらず、何故こんなところにSランクが!などと心の中で叫んでいた。 紅魔館の完全で瀟洒なメイドさん……私的お手伝いスキルSランクのこの人は、実を言うと私の憧れでもあった。宴会やら異変やらでこの人を見かけた時、吸血鬼の従者として立派に振る舞っているのを見る度、すごいなあ、あんな風にできたらなあ、と感心しきりなのである。なんというか、主人より目立たぬよう控えているのに、それでも振る舞いの節々から放たれるSランクのオーラがすばらしい。 今までは遠巻きでしか見ることのできなかった彼女が目の前にいる。それだけでドギマギした。近くで感じるSランクのオーラは、それはそれは眩しかった。 例えば、今の咲夜さんは巨木の枝に腰かけている。だというのに短いスカートの中身が見えない。ぎりぎり見えない。このぎりぎり加減こそが最上級ランクの嗜みというもの。私が座ったら色々と不都合なものが見えるだけだ。 咲夜さんは私たちを見下ろしながら、「あなた達も同じ目的のようね」と瀟洒に言った。 「同じ目的、ですか?」 「あなた達も新刊本を買いに来たのでしょう? 私もよ。お嬢様の命令があってね」 なるほど。紅魔館のお嬢様があの小説家さんの隠れ愛好者だというのは知っている。何故知っているかというと、『隠れ』と付いているのにあまり隠れていないからだ。新聞にすっぱ抜かれたこともあるし。 私と同じような苦労を、このメイドさんもしているのだなあと思うと、憧れの人がちょっと身近に感じられた。私は「こんな朝早くからお疲れ様です」と労いの言葉をかけたが、 「これも仕事よ」 と凛とした答えが返ってきた。かっこいい。 「ともかく、隠れるのなら静かにすることね。どうやら、私たちは皆同じ企みを抱いているようだし、お互い邪魔にならないようにしましょう。不審者と見られでもしたら面倒よ」 同じ企み、と私がオウム返しにする。 もしかして、と思った。開店までまだかなりの時間があるのに、咲夜さんがここに隠れているのは。 「そういうこと」 そう言って微かに笑った咲夜さんに、私と妖夢さんも笑みを浮かべた。 それから、木陰にて静かなお喋り時間が始まった。妖夢さん、咲夜さんは共に意外と話し好きで、永遠亭の人たち以外でこんなに色々と話せたのは久しぶりだった。 だいたいは主への愚痴で、幽霊なのに食費がかかりすぎるのはどうかとか、姫様なのにお風呂に入らないのはどうかとか、そういうことばかり。時々、お嬢様がかわいい、なんていう話も出たが、私と妖夢さんは乾いた笑い声しか返せなかった。(主人に敬意以上の感情を抱くのって、Sランク従者として当然なのだろうか。よく分からない) また、妖夢さんが「どうして今回の本は発売延期になったんでしょうね」という話を持ち出してきた時の、お2人の会話が妙に印象に残っている。 事情を知らない私がだんまりしていると、珍しく咲夜さんが気さくに「ああ、それね」と応じたのだ。 「これまでになかったことらしいわね。お嬢様が言っていたわ、本当に珍しいって」 「そうなんです。この作者さんは『読者をがっかりさせちゃいけない』っていう人のはずです。〆切を破ったこともないはずですし、読者を待たせることに心を痛める人が、どうしてって」 「彼について詳しいのね。個人的な知り合い?」 咲夜さんが尋ねる。確かに妖夢さんの話しぶりは、小説家さんと知り合いのような感じだった。 だが妖夢さんは軽く首を横に振った。 「いえ、直接話したことは一度しか。それも挨拶を交わした程度です」 「その割には、小説家さんの人となりを掴んでいるように見えるけど」と咲夜さん。 「そ、そうですか?」 「ええ」 妖夢さんは照れくさそうに鼻の頭をかいた。 「ええと、なんとなく、そう感じるんです。小説やエッセイを読んでいると、自然と人となりを想像するようになったというか。この人はいつも小説に一生懸命な人で、思いやりもきちんと持っているんだな、なんて」 首をすぼめて顔を赤める妖夢さんは、恥ずかしそうではありながらもどこか楽しげだった。 自分の好きなものの話になると笑顔になる、手に入れたいものがあれば無茶をする、作品を読んで作者の人となりを想像する――どこかの誰かと似ている。日々ぐーたらと本ばかり読んでいるどこかの誰かと。 愛好者というのは皆こういうものなのだろうか。 「あはは、私が勝手に思い込んでるだけで、実際は違うのかもしれませんね」 「いえ、そうでもないわね。私の印象もほとんど同じ」 咲夜さんが引き継いで話し出す。 「私はあなたとは逆。彼の作品を読んだことはないけれど、何度か顔を合わせたことはある。その時の印象は……優しくありながら芯を持った殿方、という感じね」 私はこの時驚愕した。あの冷静沈着という四字熟語を、そのままメイドにしたようなお方が、男性の話をしながら微笑みを浮かべている! 「ただ、気になることがあるとすれば……」 「鈍感すぎること、ですね?」 「ん……そうね。それもあるわ」 「ですよねー。咲夜さんも例の新聞、読んでます?」 「ええ」 「あれはやきもきしますよねー」 「あれだけ一定の距離を保たれては、見ている方がもどかしくなるものね。お嬢様も新聞に向かってよく言っているわ。『さっさとしなさい』って」 楽しそうに話している2人の間で、私はふむふむと間抜けな顔で頷くことしかできなかった。かの小説家さんと直接会ったこともなければ、作品を読んだこともない私では、2人の話に参加する資格がない。 ……別に読書にも、他人の色恋沙汰にも興味ないし。 お喋りの花が咲いてから1刻後。 かの店の前に、大きな荷物を抱えた人間が現れた。配送業者だ。 私たちは顔を見合わせて、頷き合う。考えていることは3人とも一緒だ。 木陰から姿を現し、同時にその言葉を発した 「「「あ、今日は本の発売日なんですねー、へー」」」 入荷本を整理していた店主は、突然現れた私たちを見てびっくりしていた。 無事に仕事を終えて帰還した私を、珍しく永遠亭の玄関で出迎えてくれた姫様の最初の一言は、以下の通り。 「イナバ! 遅い! ちゃんと手に入れたわね!」 「……はあ」 「渡しなさい! 今すぐよ!」 「どうぞ」今にも噛みつかれそうなのですぐ渡す。 「ああっ! ついに! ついにこの日が来たのね! 待ちわびたわ!」 姫様は本を天に掲げ、まるでそこから啓示を受けているかのようにじっくりと眺めまわし、その胸にしっかりと抱いた。感極まったのか、目尻に水が溜まっている。 たかだか本を手に入れただけでこの喜びよう。変人と言う他ない。姫様の横に立つお師匠ですら、変なものを見る目をしていた。 「えーりん!」 「はい、なんですか」 「私、これから3日ぐらい部屋に籠るから! 家のことは全部任せたわよ!」 「それは構いませんが、姫様、せめて1日1度はお風呂に入りましょうね。髪が長いのですから、洗わないと匂いが……」 「そんなものはお香か何かで誤魔化せばいいのよ! とにかく、私はこの本を読むのに忙しいから、永遠亭のことは何もしないわ! いいわね!」 「……まあ、姫様1人いなくとも、永遠亭は普段通りに回りますので、ごゆっくり」 お師匠の皮肉たっぷりな返しもなんのその、了解を得られたことで顔を輝かせる姫様。 「イナバは残りの2冊を金庫にしまっておくのよ!」 「え、残りは3冊じゃ」 「さあ、忙しくなるわよ! ひゃっほい!」 こちらの呼びかけを華麗に無視し、姫様は華麗なスキップをもって、華麗に奥へと消えていった。無論「ひゃっほい」という奇妙な掛け声も華麗である。要するに外見が良いと何でも華麗に見えてしまう。憎らしい。 「……どうしよう、これ」 『幻想日記』と銘打たれた3冊の本を抱えながら、私は嘆息した。どこかの平屋の風景の写真が表紙になった本が、ずっしりと重い。心の重さも加味されているのかもしれない。 財布の中に入っていたあのメモ書き。『4冊買ってくること』という指示は、姫様のものではなかったのか。 ならばいったい誰がこんなものを。 てゐか。またてゐの悪戯なのか。はたまた姫様のど忘れなのか。などと心当たりを探っていると、横から伸びてきた手が、抱えていた本の1冊をしゅぱっと取っていった。 もちろん、私以外にその場所にいたのは1人だけ。お師匠だ。 「え、お師匠?」 「ご苦労様、うどんげ。ちゃんと頼んでおいた数を買ってきてくれたわね」 「え、じゃあ……ええー!」 玄関に響く大声に、お師匠が顔をしかめた。 「うるさいわね」 「こ、これはお師匠が?」 「ええ」 「そ、そんな! お師匠が薬学以外の本を読むって! それも娯楽本! いったいどうしたんですか!」 「どうしたって……あなたの頭の中の私はえらく堅物らしいわね」 堅物というか薬学の怪物というか。 お師匠は、遊びや娯楽にほとんど興味がないよと思っていた。普段からとても冷静で厳格、永遠亭の中でドタバタがあっても、1人落ち着き払っているのがお師匠なのである。 そんなお師匠が読書に時間を費やしているなんて、にわかに信じがたい事実だ。 「いったい何時から」 「つい最近からよ。あなた、薬の保管倉庫に姫様の本を移したでしょう?」 「えーと……」 「移したのよ。その報告を受けた後に確認したんだけど、呆れたわ。あんな冷暗所に置いたら駄目なのよ。本が湿気るから。で、姫様に怒られる前に、別の部屋にまた移しておいたわ。その時にちょっと読んでみたのよ、この作家の本を」 「そうだったんですか……すみません、お手数おかけしました」 「いいえ、いいのよ。こんな機会がなければ手に取ることもなかったでしょう。おかげで久しぶりに純粋な読み物を楽しめたわ」 本を右手で撫でるお師匠。 私は恐る恐る、最も気になることを尋ねてみた。 「お、お師匠もこの作家さんの本が気に入ったとか……?」 「そうね。気に入ったというか、興味深いというか」 この時のお師匠が浮かべた笑みは、姫様や妖夢さんのそれのような、自分の好きなものを語る時に自然に出てくる笑み……では全然なかった。 それは例えて言うなら、冷静にフラスコの中を観察する研究者の目と、少し重めの病気を抱えた患者さんに向ける慈しみの表情を併せ持ったもの。要するに医者の笑顔だった。 間違っても純粋に本を楽しんでいる顔ではない。いったいお師匠は何を考えてこの本を読んでいるのだろうか。 分かりゃしない。お師匠の超凡な思惑を、私なんかが理解しようなんてことが間違っているのだろう。だから考えないことにする。 安寧とした日常を送るコツは、深く考えないことなのだ。 ……まあ、正直気になるけどね。 ※ ―水無月の28― 今日は朝から夕方まで、人里のお客さんへの営業活動に勤しんだ。一軒一軒、里のお家の戸を叩いては、「頭痛薬や風邪薬などの常備薬はいかがですか?」と笑顔を振りまくお仕事だ。家事とはまた違った苦労があるのだが、基本的に永遠亭の薬は人々に歓迎されているので、玄関先で追い返されるなんてこともなく、まだ気楽なものだ。 今日、手帳に書きたいのはその仕事のことではなく、人里を歩き回っていて気付いた、ある現象についてである。 昨日、私が多大な労力を払って手に入れたあの本、『幻想日記』。昨日の苦労と衝撃的な事実によって脳味噌に焼き付いてしまったのか、私はもはや表紙の写真を見ればすぐに判別できるのだが、この本、人里の至る所で見かけた。 驚いた。 なんとも多くの人が、この小説家の本を持ち、読んでいるのだと。 営業の道すがら、この本を読んでいる人をたくさん見かけた。木陰で休んでいる人や、広場の休憩場所で腰を下ろしている人のほとんどはこの本で読書に興じていたし、時には読みながら歩くという凄技を披露している人もいた。 自身の休憩のために入ったお茶屋さん。そこの店主は「お客さんがいない時に読んでるんだよ」と私がお団子を食べている間ずっと本を広げていたし、他のお客さんの中にもお茶を飲みながら、この本を読んでいる人がけっこういた。 営業のお得意さんの家に入ったら、10代後半ぐらいの少女が壁に寄りかかって、夢中でその本を読み続けていた。母親が「昨日からずっとあの本を離さないんですよ」と困った笑顔を浮かべていたのには、ちょっと共感するところがあった。 本屋の前を通りかかった時はさらに驚いた。店先にうずたかく積まれた本。店が売り時だと思っているからこそ、それだけの在庫があるのだろうが、これも全て『幻想日記』だった。山の前に立ち止まる老若男女は、表紙を見て、裏表紙を見て、中身をぱらぱらとめくり、会計所に持って行く。 いやはや、昨日雑貨屋兼本屋の店主が言っていた「今年1番の売れゆきになるね」という言葉は伊達ではない。きっとこの本は幻想郷中に広まっている。 姫様や妖夢さん、レミリアさんにお師匠と、そうそうたる人たちがあの本を手にしているのも納得できてきた。 なんだかすごい。この小説家さんは私が思っている以上にすごいらしい。ここまで世間に認められた人とは。 こうなると、姫様もすごいのかもしれない。こんな風に売れ始める前から、姫様はこの人に注目し、本を買い集めていたのだ。風評に流されず、自分がいいと思うものを捉える目があるということだ。地上でただれた生活をしていても、姫様の眼識は衰えていないらしい。 姫様と言えば、今日はお姿を一度も見ていない。まだまだ本を読むために部屋にこもってしまっているようだ。 丈夫な身体の使い方を間違っていると、つくづく思う。もっと健康的に過ごしてほしいなあ。 ※ ―水無月の28 その2― 急に書くことができてしまった! 1つだけでいいと思ったけれど、書きたくなったので書くしかない。なんだか最近、この手記に書くものが段々と長くなっているような。 姫様の部屋を掃除していた時に見つけた、1部の新聞について。 『文々。新聞 水無月の23日号 「求む恋人は異種族!? 人妖集団お見合い開催へ」 人里の若者が中心となって活動している「人妖恋愛協力隊」は、「人妖集団お見合い」の開催を予定していると水無月の22日に発表した。複数人の男女が恋人探しを目的に飲食を共にする「集団お見合い」を、人間と妖怪分け隔てなく参加できるようにしたもの。早くても今夏には第1回の開催を予定している。 「人妖恋愛協力隊」は、妖怪・幽霊・妖精の女性とのお付き合いを目指している青年たちの団体。この団体が、妖の女性に言い寄る効果的な方法として、人里で流行している「集団お見合い」に工夫を加え、「人妖集団お見合い」を企画した。開催にあたり、すでに複数の妖怪の実力者の同意を得ており、仲介人として博麗神社の巫女も参加するとのこと。 多くの若者の参加が見込まれるが、里の重鎮や妖怪の山の上層部からは人妖の無用な交わりだと懸念の声を出している。近年しばしば議論に上がる「人妖融和」の問題に、この催しは新たな一石を投じそうだ。 文責:射命丸文』 これってもしかして、前に姫様が参加するはずだった「人間と妖怪の話し合い」に関係しているんじゃないかな? 妖怪とお見合いしたがっている人間がいるって、お師匠が言ってたし……うん、たぶんそうだ。「複数の妖怪の実力者の同意」とか「仲介人として博麗神社の巫女も参加」とか、共通点がたくさんある。 なるほど。となると「集団お見合い」の開催の同意を得るために、一癖も二癖もある妖怪の実力者たちと話し合いをした人がいるわけで、それがお師匠の言っていた、姫様不参加の理由の……ああ、そうなんだ。 あの小説家さん、小説が書けるだけでなく、交渉ごとも得意らしい。 よほど知的な人なんだろうなあ。 Megalith 2014/07/18(大容量のため分割、小説家○○(10)に続く) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
https://w.atwiki.jp/dasabscheulihritter/pages/13.html
小説 Null ~Der Anfan vom Ende~ エピローグ
https://w.atwiki.jp/japanspades/pages/260.html
小説 サスペンス コメディー SF ラブストーリー 目次へ ホームへ
https://w.atwiki.jp/yanderematome/pages/44.html
【ライトノベル】 【その他】 【BL小説】
https://w.atwiki.jp/bazanoheya/pages/13.html
ここは私、バザガジールが趣味で書いている小説のページです
https://w.atwiki.jp/kaminari/pages/3.html
小説置き場 現在の掲載本数……0作品 作品募集中です。
https://w.atwiki.jp/battler/pages/7308.html
注意 ここに書かれている文章は全て(仮になります 概要 バトルロイヤルのメンバーで小説を書きましょう。 参加者は全ての作品に感想を書いて盛り上げましょう。 最優秀賞 優秀賞 佳作 を投票数によって決めます。 期間はゆっくり設けたいと思います。 会場 http //marinonet.org/novel/novel.cgi マリノネットさんの小説投稿室を利用してマリノネットさんのページも盛り上げたいと思います。 参加者 うまかぼう 審査員 読んだ人全て。 誰がどれに投票したというのは聞きませんが、自分の作品に票を入れるのはやめましょう。 票が重なるのを避けて、一人5票を持ち、それぞれ別の作品に票を入れることにします。 〆切り 未定です。 応募規定 バトルロイヤルの小説に限ります。 (テーマは未定) もしも無ければバトルロイヤルをテーマにします。 バトロイ関連ならなんでもありです。 例) D-BR杯にて D-BR杯名勝負 激戦,D-BR杯! バトロイ甲子園! ウスターvsキャベツ 魔理沙のバトロイ日記 バトルロイヤル内の出来事など 作品には感想を書きましょう。もし書かれなかった場合は失格とします。 これは投票も同じです。 応募資格 バトルロイヤルの参加者限定です。 結果発表 全ての投票が終り次第発表となります。 例 選択肢 投票数 投票 小説1 0 小説2 0 小説3 0 こういった形で票を投票します。 参加募集 人数が集まれば決定となります。 名前 コメント