約 906,690 件
https://w.atwiki.jp/novelsite/pages/13.html
広ヒロの小説一覧 (括弧はジャンル) 栄光の記憶(競馬) 日本首都戦争(SF・ファンタジー)
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/535.html
魔理沙21 新ろだ951 「ちえっ」 小さな――悪態と言えるであろう呟きと共に、歩を進める少女がいる。やや積もってき た雪をざりざり鳴らし、まるで踏みつけるように。 寒さのせいか首元にはマフラーが巻かれているのが常との違いだ。それ以外はいつもの 白黒。普通の魔法使い、霧雨魔理沙である。 「ったく」 再度悪態が漏れた。魔理沙の表情は普段よりも険しい。その顔を見るだけで彼女が怒っ ているのだと誰もが認識できるだろう。 唇を尖らせながらぶちぶちと文句を言い、目を少し吊り上げているその表情は、魔理沙 にとっては珍しいのかもしれない。 怒るにしてももう少し快活に怒るのが魔理沙であるから。 「…………どこ行ったんだよぉ」 不意に魔理沙の様子が変わる。吐き出された言葉にはさっきまでの強さはないし、表情 も”しゅん”としたものになってしまっている。それまでの力強い足取りで無く、とぼと ぼとした足取りで魔理沙は歩を進める。 怒っていたのも、そして今しょぼくれているのにも理由がある。 何処にも居ないのである。彼女の相方が。 クリスマスにしろクリスマスイブにしろ外の世界の習慣だが、誰が図ったか幻想郷でも 広く認知されている。そんな騒げる要素をこの楽園の住人達が見逃すはずもなく、現に今 日明日はあちこちでイベントが立ち上がっていた。細かいことは広がっていくうちにあち こちで捻じれているようだが。 当の魔理沙はというと紅魔館でのパーティに参加するつもりだった。 ちなみに招待はされていない。 それを決めた魔理沙はまず人里へと赴いた。相方も誘おうと思ったからである。普段な ら呼ばなくても勝手に家に来るのだが、何故か今日は来ていなかった。 珍しいと思いつつ家を訪ねてみれば不在だった。隣人に聞けば既に何処かに出かけたと いう。それから思い当たる場所を回ってみたものの、結局見つかる事はなかった。 もしかしたら先に紅魔館に行っているのではないかと思いつき、魔理沙はそのまま紅魔 館に突っ込んだ。物理的に。 自分を誘わなかった事に文句の十や二十言ってやろうと意気揚々と参上したはいいが、 結局そこにも居なかった。 いい加減腹が立ってきた魔理沙は、もうあの変態は放っておいて自分だけパーティを楽 しもうと思い直していた。 でも楽しくない。 酒や料理はたくさんあったし、周りの連中も十二分に盛り上がっていた。 普段だったら朝までバカ騒ぎを続けられるだけの要素が揃っていた筈なのだ。 でも足りない。 隣が空いている事が、寂しくてしょうがない。 結局パーティも途中で抜けて、こうして家へと帰ってきてしまった。 「うー……さみー……」 魔法の森だろうが降る雪は関係なく積もり、周囲はもうすっかり雪景色である。そのせ いか気温も相当低い。白い息を吐きながら、魔理沙はすっかり冷たくなった両手を擦り合 せながら呟いた。 いわゆるホワイトクリスマスなのだろうが、今の魔理沙にとって雪は寂しさを加速させ るものでしかない。いっそマスタースパークで溶かしきってやろうか等と考えたりもする。 ふいに見やると既にある程度積もっている個所もあるではないか。 ようしと息巻いて懐から早抜きのように八卦炉を取り出して向ける。魔力の充填を始め ようとして、その塊が白一色で無い事に気がついた。 はてと首を傾げて近付いてみる。雪の中から布のようなものがちょっぴりはみ出ていた。 「………………ま、さ、か」 それを見て一つの事柄を連想する。連想していやいくら何でもそれは無いだろうと思い 直すも、いやあいつならやりかねんとまた戻る。 それが嘘か真か、確かめるのは簡単である。 引っ張ってみればいいのだ。 雪を払いのけると布の面積が増えた。掴める程度まで雪を払いのけ、そこからは一気に 引っ張った。魔理沙は小柄だが魔法使いだ。身体能力をどうこうする術は少々心得ている ので問題ない。 「………………………………オウフ」 ズボァーと、雪の塊の中から出てきたのは、行方知れずの魔理沙の相方であった。ちな みに大分冷たくなりかかっている。 「何をしてるんだお前はあああああああああああ!!!???」 魔理沙の力の限りの絶叫が、雪の降り積もる魔法の森に木霊した。 ■■■ 「し、ししししし死ぬかとおもおおおももおおたたたた」 『死ぬかと思った』。そう発音したつもりだったが、俺の口は未だ冷気に侵されている らしい。口から出てきたのは壊れたテープを再生したような変な音声である。 「さびいいいいいいいいいいい…………!!」 というか口どころか身体全部が支配下である。俺の意思なんてまるで無視して小刻みに 震え続ける身体。適度な熱を発するミニ八卦炉が神の賜物に思えてくる。 「ったく! 何を考えてるんだぜお前は!?」 魔理沙の怒号。次いでドカっという音と共に眼の前に置かれるカップ。中身は真っ黒な 液体だった。 「?」 「珈琲。熱いから気を付けろよ」 「あ、ああああああありがとととととと」 どうしよう魔理沙が女神に見えてくる。 いや元から女神超えてたか。 震えて自由の利かぬ手で何とかカップを掴む。カップの持つ熱で指先にしびれる様な感 覚が走る。これは指が回復するまで持ち上げない方が賢明かもしれない。 「ああああ熱が愛おしいいいいいいい……!!」 少し経ってようやくカップを持ち上げ、中身を啜る。外からではなく中に直接供給され た熱が、じんわりと身体に広がり満たしていく。ちびちびと珈琲を啜る俺を見て、魔理沙 が溜息を吐く。まあ呆れられているのだろう。その割に何故か微笑を受かべていたが。 カップの中身が空になる頃、ようやく俺の言語機能は復活していた。 「ふひー生き返ったー……いやあ本当ありがとうございます魔理沙さん」 「見つからないと思ったら、まさか生き埋めになってるとは思わなかったぜ」 「面目次第も御座いません」 「で。何でまたあんな事になってたんだぜ」 「いやあ。来てみたら何か魔理沙が留守だったからさあ、待ってようと思って適当なとこ ろに座ってたらついウトウトと」 「こんな寒空で寝るなよ……何時来たんだ?」 「最近寝不足だったんでーすよぅ。昼頃かな」 「そうか、私が出たのもその位だから、入れ違った訳だな。まったくもうあちこち探し回 ったのが無駄骨だったぜ」 「あれ? 何か用でした?」 「うん、まあ。今日明日ってクリスマスなんだろ? だから紅魔館に押しかけようと思っ てな。どうせお前も――」 「誘われなかったら俺泣いちゃう」 「ほら見ろ」 「…………そうか。誘いに来てくれたのか。ごめん」 「いいぜいいぜ気にするな、そんな細かいこと気にする魔理沙さんじゃないぜ」 ぺこりと頭を下げるとからから笑いながらそんな言葉が帰ってきた。同時に頭をガシュ ガシュと乱暴に撫でまわされる。魔理沙を撫でた事は無数にあるが、撫でられたのは初め てかもしれない。ちょっと新鮮だった。頬がじんわりとしている。熱が回ってきたのだろ う。少し気恥ずかしいのでされるがままになっておいた。頭を下げていれば顔は見られな いし。 「うわっ本当に冷たいなお前」 「もうなんか体温的に氷精目指せると思うんだ、今の俺」 「目指すなよそんなもん」 何が楽しいのか俺の頭をわしわしと撫でつづける魔理沙。何故か一向に解放される気配 が無い。身を委ねるのもいいが、どうにも会話し辛いので落ち着いたところでこちらから 身を引いた。 「さてと。そういう訳なら仕切り直しますかね」 「ん?」 「今からでも行こうって話。多少遅くはあるけ、手遅れってほどじゃないだろ。どうせま だ騒いでる途中に決まってるし」 夜も更けてはいるが、まだ深夜という程ではない。それに紅魔館の連中なら、どうせ陽 が昇るまで騒いでいるだろう。 「あー……うん、いいや」 「ありゃ、そう?」 快諾されると思っていたのだが、俺の予想に反して魔理沙はふるふると首を横に振った。 今から行くのが単に面倒なのか、それとも言葉とは違い実は怒っているのか。 「まあお前が行きたいって言うなら別だが?」 「いや魔理沙が行かないなら行かねえよ」 問うてきた魔理沙の顔はいつもと何ら変わりが無い。口調も態度もそうだから、怒って いる事は無さそうだ。一安心。 「……なあ。寒いの、もう平気か」 「うん? ああ、もう大丈夫大丈夫」 「じゃあちょっと表出よう。どの道、ある程度顔出したら帰るつもりだったんだぜ」 魔理沙がにっ、と笑って戸を指す。 少々疑問を感じつつもその言葉に頷いた。 「ささささささささささささむむむむいいいい」 「大丈夫じゃないじゃないか!?」 「いいいやだだだだいじょうぶぶぶぶ」 「めっちゃ震えてるだろ!!」 「冗談でしたー」 「…………」 「すいませんでした!!」 表情を消した魔理沙がこちらにミニ八卦炉を向けたので、その場で土下座した。 顔全部雪に埋まるくらい深々と。 「ったくもう、そういう冗談止めろよ…………し、心配するだろ」 「ちなみに今土下座したせいで顔面の体温低下がクライマックス。雪冷たすぎじゃありま せん?」 「このバカが!」 そんなやりとりを続けながら、雪の降る中をざくざく音を鳴らしつつ二人で歩く。家の 直ぐ前まで来た辺りで先頭の魔理沙が足を止めた。こちらも足を止める。 「よーし」 魔理沙がその場でくるりと一回転し、愛用のトンガリ帽子の淵に手をかける。 そうして、その手を高々と振り上げた。 「よく見てろよ!!」 気付くのに数瞬かかった。いや何か魔理沙の周囲がぼうっと光ったのは直ぐ解ったのだ が、それは何らかの魔法が発動した証に過ぎない。その魔法がどういう効力を持っている のに気付くのに時間を要した。 ――雪が総て星形になっていた。 ちらちらと、決して勢いがある訳ではないが、しかし降り続ける白い雪。それが総て淡 い光を放つ星形になっている。 雪は特殊な形の結晶だが、それは拡大してみなければわからない。しかし今俺の周囲に 降る雪は眼で見てわかる程度の星形を保っていた。 試しに一つ手の上に救い取ってみる。それは普通の雪と同じように、俺の手の体温で少 しずつ溶けて形を崩していく。そして普通の雪とは違い、微かな光を散らしながら空気中 に消えていった。 「……すげえ」 「ふふん、大成功だぜ」 実際結構感動している訳だが、人間感情が一定を超えると逆に表現がシンプルになった りする。というか今の俺がそうな訳だが。 星の雪が降る中、魔理沙が満面の笑みで立っている。星だけでも綺麗なのに、その中に 魔理沙が加わるともうどうしていいか解らない。胸が詰まって言葉が出てこない。 「これ……どうしたのさ」 「ん。クリスマスってのは騒ぐのもあるけど、親しい奴には贈り物をするんだろ?」 驚いた。てっきりバカ騒ぎできる日程度の認識しかしてないだろうと思っていたのに。 まあバカ騒ぎはともかくお祭りのような物であるのは合っているが。 ちなみに俺は教えていない。意地悪とかで無く、後々のサプライズに利用しようと思っ ていたからだ。 「じゃあ、これって……」 「お前にやるよ。私の贈り物は」 輝きが降り続ける世界の中で、魔理沙が両手を広げて言った。 「――”これ”だ」 「いや、その、ありがとう……すげえ嬉しいよ……」 「ふっふっふっ」 魔理沙がとても満足そうに――若干小悪党じみているともいえる笑いをこぼす。 俺の方はというと感動が強すぎて上手く言葉に出来ないでいる。本当はもっと感謝を伝 えたいのだが、思考が上手く回らない。 魔法は決して万能ではない。何かを起こす為には相応の対価が必要になる。目に見える 周り総ての景色が輝いているから、これは相応に大きな魔法だろう。 きっと準備に手間も時間がかかっただろうに。それを思うと、もっともっと感謝の意を 示したいと思う。目の間で笑っている女の子にそれを伝えたくてたまらない。 「ええと、そのさ。正直後だしにはレベルが不足してると思うんだけど……」 「ん?」 一歩前に出て、魔理沙の方に近付いた。ポケットから箱を取り出して、それを差し出す。 「これ俺の方から、プレゼント」 掌に乗る程度の小さな包みだ。一応リボンでラッピングしてあるが、この景色に比べた らどうも見劣りする気がする。いやそもそも”中身”が釣り合っていない。果たしてこの 景色に対するお返しとして十分なのかどうか。 「開けていいか?」 やっぱ止めようか等と考えている間に、小箱は魔理沙の手に移っていた。既にリボンに 手がかかっている。今にも開けそうだ。 「どうぞ。うん、そんなにさ、大したもんじゃないんだ、本当」 「……あ」 中身はペンダント。銀細工で、星が幾つか連なった形。中央辺りに小さな加工した鉱物 が嵌め込んであるものだ。 「これ、くれるのか。私に?」 「ごめん……こんなに綺麗なもの用意してくれたのに、俺そんなのしか用意してなかった や。こんな事なら、もうちょっとちゃんとした、良い物――」 「いいや! もらったからな! これは私がもらったからな!!」 言い淀む俺に対して、魔理沙の方は怒号に近いくらいに声を張り上げながらペンダント を掲げて眺めている。 「付けてみる!」 「一応、ちゃんと作ったつもりだけど、やっぱ形とかアレだから、もし気に入らないなら 返し――」 「待て。お前今何て言った?」 「気に入らなかったら――」 「その前」 「ちゃんと作ったつもりだけど」 「作った? お前が?」 「うん。石以外の素材は調達したけど、デザインも加工も殆ど俺がやった。だからちょっ とあちこち粗が……」 「ぜっっっっっったい返さない!!」 ペンダントを胸で抱くようにして抱え込み、魔理沙が身を捩った。その動作があまりに も力一杯だったのでちょっと笑ってしまう。 ふいに魔理沙があ、と声を上げると身体を戻し、こちらに近づいてくる。そして持って いたペンダントをこちらに差し出す。 もしかしてクーリングオフだろうかと俺が心中で冷や汗を流していると、魔理沙は俯き ながらぽつりと呟いた。 「つけて」 か細い声。普段と違い、快活さで無く恥じらいに満ちた声。表情は帽子に隠れてよく見 えない。だから帽子を取った。 「あっ……」 耳まで真っ赤なのは、多分寒さのせいじゃないだろう。帽子を取り戻そうと手を伸ばし てきたので、帽子を自分で被った。身長差があるから、これで手は届かないはずだ。 「か、かえせよぉ……!」 「付けるんだろ。帽子があったらよく見えないって。だからボッシュート」 「うぅ……」 ペンダントを手から取って、留め金を外す。鎖を魔理沙の首に回して、ちょうど後ろの 辺りで金具を留めた。そんな事をすれば体勢は当然抱き合う一歩手前まで近づくことにな る。事実目の前には魔理沙の顔があった。 「……えーと、メリークリスマス」 「何だ、それ?」 「こういう挨拶するんだよ。外はな」 「そうか、じゃあ――めりーくりすます」 「ああ、メリークリスマス」 魔理沙の胸元で銀色のペンダントが、星の雪に照らされて光っている。ご要望通りに付 け終えた。もう離れるだけだ。そう解っているのに、首に回していた手を魔理沙の肩に置 き直す。そのまま顔を前に出そうとしたところで、唇に感触。考えている事は同じだった のか、こちらがする前に向こうからキスされる。 ちょっと面喰ってしまったのが情けない。なので、離れた隙を狙って不意打ち気味にも う一回。今度はこっちからキスをした。 肩に置いていた手を下ろし、手探りで魔理沙の手の先を探す。直ぐに見つかったそれ、 魔理沙の指とこちらの指を絡めるように握る。さすがに外は冷えるからか、魔理沙の手も ちょっと冷たくなっていた。 星の雪が輝く世界の中で、絡めた手が温かくなるまでキスをし続けた。 「えへへへへ」 ソファにだらしなく、身を沈める様に寝っ転がった魔理沙がそんな甘ったるい声を出し ている。胸元で揺れる銀細工を掲げて、灯りに当てたりして、飽きる事無く眺め続けてい る。そうして時折にへにへ笑うのだ。 何か渡した後はもうちょっと造形頑張れたんじゃないのかとか、デザイン駄目なんじゃ ないかとか後悔が結構押し寄せていたりする。でもあんな顔が見れたのだから、頑張った 意味は十二分にあった。なに、今回の不満後悔は次に生かせばいい。 ちなみに指輪にしようか二週間悩んだのは秘密な。 「うえへへへへへ」 いかん何か蕩けているぞあのお嬢さん。 「まあ。気に入ってもらえたら、何よりだよ」 「正直な。すっごく嬉しいんだぜ。とんでもなく手がかかってるだろ、これ」 「……んな大袈裟な。素人細工だって」 「だとしても……いや、だからこそ嬉しいんだよ。えへへへへへ」 駄目だ。何かめちゃくちゃくすぐったいぞ。 「……あ。もしかして寝不足だったのって」 「うん。まあ結構ギリギリだった」 「そうか……うーむ」 魔理沙はソファからがばっと起き上がり、腕を組んで何やら思案している。そうしてふ いにこちらを見たかと思うと、両腕を広げて見せた。 「よし! 来い!!」 「なになになに!?」 「お前寒そうだから私が直にあっためてやるぜ!!」 「落ち着け! とんでもない事口走ってるから!!」 「本気だぜー?」 にやにや笑いながらこいこいと手招きする魔理沙。 「いやでも、ほらもう寒くないし! 大丈夫だって!!」 ちなみに今の俺は毛布のお化けみたいにぐるぐる巻きになってます。何だかんだでずっ と外に居たせいか身体は結構深刻な熱不足だったらしい。 「…………嫌か?」 断れるかこんなもん。 ふらふらーと引き寄せられるかの如く近付いて、そのままぼふりと抱き付いた。 ちょっと目測を誤ったので、俺の頭はちょうど魔理沙の胸辺りに位置してしまっている。 さすがにこれは怒られるかと思ったが、そんな事は無く。むしろ胸の位置に来た俺の頭を 魔理沙が抱え込むように軽く抱き、そのままソファに揃って倒れこんだ。 酷く暖かった。後柔らかい。いい香りもする。抱き枕ではこうはいくまい。 そう間を置かずに、魔理沙の体温がじんわりとこちらに伝わってくる。それに加えて香 りが酔う程に濃い。至近距離なのだから当り前だが。 俺の頭を抱えたまま、魔理沙がぐりぐりと俺の頭に頬を擦りつける。こちらはより顔を 埋める様にもう少し強く抱き着く。身体へ回した腕の先の指で、黄金色の髪を絡めて弄ぶ。 特に会話も無く、体勢を変えることも無く、ただそうやって抱き合っていた。 というか意識がやばい。 さっきも言ったが結構時間ギリギリだったのだ。驚かせようと思って、そういう素振り は悟られないようにしていたし。瞼が勝手に閉じていく。何か声を出そうと思って口を動 かすが、声にならない音が漏れるだけだった。 耳元に温かく、少しぬるりとした感触があるのを感じ取る。これはもしかして耳を甘噛 みされているのだろうか。ただ俺の顔は強くは無いがしっかりとホールドされているので 視線は動かせない。魔理沙がどういう表情で何をしているかは解らないのだ。 それに限界が近い。動かした筈の首も腕も、意思に反して動くどころか力が抜けてだら んとしている。 それでも何とか抗おうと、ギリギリの淵にあった意識は、 「――――ありがとう。おやすみ」 そんな甘さを含んだ囁きを合図にして、眠りの中に落ちて行った。 それがイブの出来事。 翌日――つまるところ当日はというと。 「待って! タイム! 本当にタイム! 本当に素人仕事だからそれ!! だから物理的 に隠してくださいお願いします――ッ!!!!」 「やーなこった!!」 贈ったペンダントを誇示するように、胸を張った魔理沙があっちこっちを回るのを後ろ から追いかけまわす一日になった。 行く先々でからかわれるわ、騒ぎに巻き込まれるわで、結局クリスマス当日は忙しく騒 がしい一日だった。 二人っきりの時間はあまり無かった気もするが、何だかんだで楽しかったから構わない だろう。 それに、二人の時間はこれから無数にあるのだし。 新ろだ1019 2月14日。霧雨邸。 「なーんか最近外の世界のあれやこれやが輸入されてる気がすーるなあ」 幻想郷新参の俺がこんな事を言うのもおかしな話だろうけど。 2月14日と聞けばバレンタインデーを思い出すのは割と当たり前の事だが、それはあくま で”外”での定義だろう。幻想郷内では行事はおろか、そもそも単語自体が存在していな い筈である。 だというのに当日になっていればさも当然とバレンタインが行われているのだから不思 議に思いたくもなるものだ。 「チョコがもらえるんだからいいじゃないか?」 首を傾げた俺を見て、呆れたように魔理沙さんが仰った。 バレンタインがさも当然のように幻想郷に存在していた事をひとまず置いておこう。 問題はそれだけじゃない。定義が何かおかしいのである。 ――俺の知る限りバレンタインはチョコを投げまくる日では無かった筈だ。 洋菓子版の節分じゃあるまいし。 そもそも何を祓うんだ。 いやむしろ寄ってくるじゃないか。 ともかく現実幻想郷にバレンタイン広まっていると言う事は、当然誰かが広めたんだろ う。ま、それが誰かはこの際あまり関係ない。 問題なのは過程だろう。 推測だが、人から人へと伝わる際に、バレンタインという日に行なう行事内容が変質し てしまったに違いない。 「こいうの伝言ゲームの恐怖なのかねえ」 しみじみと呟いた俺を見て今度は魔理沙が首を傾げていた。 「まーそれにしても大漁でしたねえ」 説明するのもやや面倒なので、話題を変える事にした。視線をテーブルの上にどっさと 乗ったチョコの山へと向ける。 そんな風に幻想郷のバレンタインは俺の知るものとはかけ離れており、とりあえずチョ コをばら撒くとか、投げつけるとかそんなものになってしまっていた。一部の正しい知識 を持っていた部類は流石にそうなっていなかったが、大多数が間違った認識のまま洋菓子 を獲物としての大雪合戦の有様である。 で、俺と魔理沙は投げまくられるチョコをひたすらパク……じゃなかったギッ……でも ない、そうそう蒐集。蒐集しまくった訳だ。 戦果は何か思いのほか凄まじく、おかげで当分おやつには困らない有様である。気を付 けんと何の変哲も無く糖尿になりそうだ。 「私はともかく」 蝙蝠の形――これだけで何処のか言うまでもない――を片手で弄びながら、魔理沙がふ いに呟いた。 「お前、随分乗り気だったな?」 「……………………」 「……ん?」 「俺は魔理沙の後を付いて行くって行ったじゃないかっ!!」 「そんな台詞は聞いた事ないが、とりあえず私の目を見てもう一回言ってみろ」 窓の外を見ながら高らかに叫んだ俺に冷たく言い放った後、魔理沙がやや小さな両掌で 俺の顔をわっしとホールド。そのまま力任せにぐいんと顔を向ける。 背丈は俺よりずっと小柄ながら流石魔法使い。敵いやしない。ええ、実は大人げないく らい全力で抵抗していたりするのに。 「か……顔が近いよう……」 「気持ち悪い」 「……あの地味にヘコむんですけど」 「で、本音はなんーなんーだーぜー」 むう。これは譲ってくれないパターンと見た。 しょうがない、答えるとしましょうか。 「――投げてるのが女の子な以上全力でもってキャッチせざるを得ないでしょう?」 「ああ、相変わらず私には理解できん理由か」 サムズアップした俺を見て、魔理沙は酷く冷たい目をしていた。 「それにしても」 さて、集めに集めたチョコであるが、無論このまま置いておく訳にもいかない。 で。食べる事になった訳だ。 まあ当然の流れではある。ただ俺の眼前には小さな鍋が一つ。中にはええ感じにとろっ たチョコがどろっている。何か我ながら頭の悪い表現だが、要は溶けたチョコが溜まって いるってことだ。 「チョコフォンデュってのにどうして行き着いたのか若干疑問に思わざるをえない」 「んー……」 俺の疑問の声に魔理沙からのちゃんとした返答はなく、生返事のみ。視線をこっちに向 ける事なく、魔理沙は火加減を見つつどろんどろんになったチョコをかき混ぜる。 「アリスから聞いたんだが」 「もうその名前だけでエマージェンシーなんですがねえ……?」 某マーガトロイドさんのせいで俺はすっかりヘタレ呼ばわりである。違うやい。俺は奥 ゆかしいだけなんだ。 「バレンタインって、本当は親しい相手にチョコを贈るものなんだろう?」 「んー……まあ厳密にはそれも二次的なものではあるんだけど、まあ世間一般的な認知で はそれで合ってるんかね」 「家族とか――恋人とかに」 どうしよう、顔を伏せた魔理沙から何かただならぬ気配を感じる。理性と本能が頭の中 でヒアウィゴー……あれ、退く選択肢最初から無し? 「――ほら」 よく考えるまでも無く、チョコフォンデュは果物やら何やらに溶けたチョコを付けて食 べる食べ方だ。それはつまりチョコだけでは出来ない食べ方である。 どうしてここには――溶けたチョコ意外何も用意されていないのだろう。 「”これ”、私からのバレンタインチョコだぜ」 「――ッ」 溶けたチョコを絡めた、魔理沙の指が鼻先に突き出される。チョコレートが灯を受けて てらてらと光っていた。それにしても近い。顔を少し動かせば――動かさなくても、舌を ほんの少し伸ばせば、そのチョコレートに塗れた細い指に到達するだろう。 「まり、」 「はやくしないと垂れちゃうな」 こっちの言葉を封殺するかのようにぴしゃりと言い放たれる。俺の顔がどんな惨状にな っているかは鏡が無いから判別する事は出来ない。反して見える魔理沙の顔は赤い。耳の 先まで真っ赤だ。露出している肌の部分は完全に熱が入ってると見て間違いないだろう。 ただ、その目は思いのほか――いやまるでブレていない。どころか何やら光を灯しなが ら、じいっとこっちを見つめ続けている。 俺は別に壁を背にしている訳ではないので、退こうと思えばいくらでも退ける。でも身 体が後ろに動くことはなく、むしろ少しでも気を抜けば前に傾きそうな有様なのが正直な ところである。だがここで前に傾いたら、何か切れてはいけないモノが切れてしまう気が する。 ”受け取り”を拒否するつもりは皆無だが、このまま進行してしまうのはよろしくない。 思考の端に麻痺するかのような感覚を自覚しつつも、意を決して今は首を後ろへ―― 「えい」 動かす前に、口の中に指をねじ込まれた。 「言っておくが、受け取り拒否は許さないぜ」 何があったのこの子。 何で今日はこんなに攻め攻めなの。 「お前の趣向は相変わらずよくわからんがな、それでもお前が”他の女の子からチョコ レートを受け取って喜んでいた”と言う事は私にも解読出来るぞ」 今更解った。さっきの冷たい目はてっきり何時もの蔑みだと思っていたのだけど、どう やらもっと単純に――怒っていただけらしい。 「……ッ」 真っ赤になってぷうと頬を膨らませたその表情は愛らしいと言えるのに、こっちの口腔 に突っ込んだ指はゆっくりと口蓋を撫でる。チョコレートに塗れたままの指先で。 感覚が麻痺して行くような気がした。それは視覚と触覚の受け取る情報のギャップのせ いか、それとも単に刺激が強すぎるだけなのか、はたまた俺の精神がコンニャクなのか。 「……んっ」 少しだけ動かした舌が指の表面を這った。くすぐったのか、魔理沙が小さく声を漏らす。 いい加減我慢の限界というフレーズは割と見かけるが、この場合、限界なんてタガはとう の昔に決壊しているのが正しい。 「えっ、な――」 さっきからずっと宙ぶらりんだった両腕で、魔理沙の伸ばされている右腕をがっしと掴 んだ。逃げられる心配が無くなったので、さっきからずっと口の中にある細い指の――そ の表面に舌を這わせる。というか、もっとストレートに言うと、”しゃぶる”。 「ふっ……ん……」 外に出てきた指先と、口とで唾液の糸が繋がっている。もうその画だけで頭がくらくら する。すっかり流されてしまっているのは俺だけでないのか、魔理沙の方も先程までとは 趣の違う光を瞳に宿している。熱に浮かされたような焦点が合っていない様に見える―― でも瞳はいまだこちらを見続けている。 チョコレート塗れで真っ黒になっていた筈の指先は、すっかり何時も通りの肌色に戻っ ている。でも口の中に入っていなかった部分にまだ少し残っていたので、改めてそこから もチョコレートを舐め取った。魔理沙が手にうっすら汗をかいていたのかもしれない、さ っきと少し味が違った。 確認を取る事も無く、掴んだままの魔理沙の腕を傍らの小鍋へと持っていく。抵抗はな い。むしろ逆だ。魔理沙の方もこちらの動きに合わせるように腕を動かしている。 自分の手ならともかく、手首を掴んだ他人の手であるので少々力加減を誤った。指先ど ころか手のほぼ全体が溶けたチョコに浸かり、手首の先がほとんど真っ黒になってしまっ た。それを構わず持ち上げて――さっきの位置へ、口先へ。ぽたぽたと黒い雫がテーブル や副の上に落ちているが、それを気にしている余裕はないし。そもそもする必要が無い。 舐める舐めとる舐め尽くす。少しずつ少しずつ、そして満遍なく。今もなお滴り続ける チョコレートに構いもせず、指を舐め続ける。 「……っ、……ぅっ」 溜息のもう少し手前のような、嗚咽のような小さな声の成り損ないが聞こえてくる。掴 まれて舐められているのとは逆の指先は、魔理沙自身の口元に運ばれて銜えられている。 きっとくすぐったくて声が出てしまうのが恥ずかしいのだろう。そんな事よりもっとず っと恥ずかしいことをもうしてしまっているのに、今更だとも思うけど。 というかこれは、恥ずかしいというか、変なことかもしれないが。 「…………ふ、ふぅ」 「…………っぁ、」 指先の感覚に集中しているのか、それとも声を我慢するのに必死なのか。どちらにリ ソースが割かれているかは知らないが、魔理沙は俺が腕を片方離した事に気がつかなかっ た。指先からチョコレートを丹念に舐め取る作業を続けながら、そろりそろりと指先を鍋 の中へ、数回振って、指先にチョコレートを付ける。 「声我慢しなくてもいいのになあ」 自覚が無かったのか、俺の言葉に対して魔理沙は肩をビクリと震わせた。 「が、我慢なんか……してない……」 ああやっぱり。 「時に」 そう言えば、口から指を離すと思った。 「外にはね、逆チョコってのがあるんだよ」 このために気付かれないように位置を調整していた腕を素早く動かして、魔理沙が反応 する前に、その唇にチョコレートを付ける。 「ああ、失敗失敗」 片方の腕はもう掴んでいる。だから、空いている方の腕で、さっきまで銜えられていた 指先の根元を――手首をやんわりと掴んだ。 「口の中に、入れないと」 抵抗は無いし、もし――万が一されたとしても、たぶん力尽くでどうにかしようとした かもしれない。みっともない話、その位壊れていた。 くちづける。 唇の周りに付いたチョコレートを舐め取って、唾液と混じってしまったそれを流し込む。 身体が勝手に前のめりになって、段々魔理沙に覆いかぶさる形に変わっていく。 それでもやはり抵抗はなくて――むしろ、向こうは向こうで倒れて行っているような気 すらする。 「…………っ、」 「ん、……ぅ――ん、――ッ!?」 魔理沙の舌を探り当てて、それを吸った。舌を絡めながら、魔理沙の小さい口の中全部 に舌を這わせて、そこにあった唾液を――チュコレート混じりで酷く甘ったるくなってし まったそれを、一滴も残すまいと吸って、無くなったら舌を強く吸って。息が切れた事で、 それら全部を嚥下した。 「飲んじゃったよ……飲ませなきゃいけなかったのにな……」 「あ……ふぁ……」 もう指先に付いたチョコは乾いていたし、そもそも量も残っていなかったので、未だに 多量のチョコが付着した魔理沙の手に再度舌を這わせた。傍らの鍋に残っているのだから、 そっちから補給するのが正解だろうけど、もうそれすら考えられなくなっていたんだろう。 俺は両腕使って魔理沙の両腕を掴み上げている状態だけれど、そもそも魔理沙はその程 度振りほどける筈だ。口の中にチョコを補充した俺を見て、魔理沙が小さく息を飲んだ。 「ああもう、どうしてくれる……理性の弱さを自覚してるから、普段こういう空気になら ないようにしてるのに……」 濡れた瞳は拒むどころか待っているように見えた。 両手を離して、魔理沙の後頭部と腰に回した。ゆっくりと体重を傾けていって、そう時 間もかからずにボスンと言う感触と共にソファの上に着地した。 「ぜ……全部は……駄目だからな…………前みたいに丸一日、動けなく、なっちゃう……」 「い……今更、そういう事言うか…………」 言葉はそんなのなのに、両掌をしっかりとこっちの掌に絡めてくる。片方はチョコが付 いてベタついていて、動かす度に耳元でにちゃにちゃと音がした。 身体から一切の力を抜いて、重力に身を任せたい衝動を足蹴にしつつ、覆いかぶさった 状態で魔理沙に口付ける。今度こそ、口の中にあったチョコレートを流し込んだ。 耳元で、にちゃにちゃと音がした。俺が動かしていないのに音がすると言う事は、もう ”片方”が動いている事だ。わざわざチョコレートの付いた腕を動かしている。 もっとして、と。 おねだりされている。 リザルト。 半日行動不能。 ~eternalnocturne それが君と奏でる曲~(新ろだ2-023) ああ、俺はどうすればいいんだ、人生でこれほど悩むことがあるなんて思わなかった ~eternalnocturne それが君と奏でる曲~ 「朝か…」 いつもはさっぱりと目をさましてくれる、太陽の光も、心地よい鳥の鳴き声も、今はただの汚い光で耳障りなうめき声だ 「…顔洗えばすっきりするだろ…」 ひどくけだるい体を無理やり動かして、外の井戸に向かった 昨日、俺は大分夜更かしして酒を飲んだ、それくらい自棄になっていた 何か嫌なことがあったわけじゃない、ただ突然浮かんだ不安を忘れるために酒を無理やり流し込んだ でも…忘れられなかった パチャパチャ…と、異常なほど冷たい水で顔を洗う、目は覚めても、気持ちは覚めない こんな俺の心も知らず、空は雲ひとつない快晴だった 「おはようございます、慧音先生」 「ああおはよう…○○、どうした?ひどいクマだぞ…」 仕事場の寺子屋で慧音さんに挨拶をしたら第一声がそれだ、そんなにひどいクマなのか… 「ちょっと調べごとで、遅くまで起きてたんです…」 「ふむ…無理をするなよ、自分の健康を第一に考えるんだぞ」 「はい…ありがとうございます…」 無理矢理、不格好な笑い顔で心配かけまいとする俺を、心のどこかの俺が嫌に冷静に無様だと嘲笑った 「きつくなったら言えよ…ああ、そう言えばさっきお前のことを妹紅さんが探していたぞ」 「え…?妹紅さんが?」 内心俺は心臓が砕け散るほどに動揺したが、そこは抑え込み動揺をなるべく表に出さなかった 「ああ、なんでもお前を探しているそうだ、仕事が終わった後で人里南のはずれに来てほしいそうだ」 「はぁ…じゃあ、仕事の後に妹紅さんと合流しますよ」 「うむ、そうしてくれると助かるな…じゃあ、今日は五時限目の歴史に必要な資料をまとめておいてくれ」 「はい、わかりました」 思考の暴走をぎりぎりのラインで押さえ続け、寺子屋の資料室に向かった 「…駄目だ、仕事に全然集中できない~」 お昼ちょっとすぎまで今日つかう資料を整理していてもまだ仕事が終わらない 「○○…重症だな、そこまでできたのなら十分だ、あとは私がやっておく」 と、そんな資料室で悶絶する俺に慧音さんが声をかけてきた 「え、俺の仕事だし、そんな…」 「かまわん、どうせそんな状態では仕事までほとんど手がまわらんだろう…悩みでもあるのか?」 「え…?別に…」 「隠すな、そんな状態では仕事もろくにできんだろう、悩みを解決して来い、そして明日からすっきりさっぱり心機一転…」 そこで慧音さんは一呼吸おいて 「決着付けて、仕事に集中できるように、心身ともに整えておくように」 「…すいません、ありがとうございます」 慧音さんに感謝を抱いて寺子屋を後にした…昼休みに遊んでいる子供たちがまぶしく見えた 「…やれやれ、○○の奴、あれで隠せているつもりなのか…?恋慕の情で悩んでいるのがあれほど明確にわかる奴もそういるまい…」 苦笑いしながら慧音は資料の整理に移った 新ろだ2-121 “魔が差した”という言葉がある。 ふと湧き起こる出来心。邪念。こんな言葉が似合う状況といえば、往々にして良からぬ物と相場は決まっている。 これから語る小さな事件は、唾棄すべきと言っても過言ではない、出来る事なら記憶から引きずり出して丸めて ポイしてしまいたい人生の汚点であり、誰も目を通さずに闇に葬られる事を願わずにはいられない。 そう、敢えて言い直そう。魔が差したのだ。 光陰矢の如しとは良く言った物。あれだけ冷え込んだ卯月ともあっという間に別れを告げ、もう皐月である。 暑さより寒さを好む身としてはこれから来るであろうじりじりと肌を焦がす季節に若干憂鬱にならざるを得ない。 深々と降り積もる雪が恋しくてたまらない。いや、そんな誰に聞かせる訳でもない個人的嗜好などどうでも良い。 今専心を向けるべきは目の前に鎮座している一つの造形物。黒と白のエプレンドレスに同じ配色の先の尖った帽子。 眩い金髪のナイスガール、霧雨魔理沙嬢。彼女の人形だ。人形と言ってもマーガトロイド嬢の使役するような布製の物とは違い、 よりしっかりした材質で出来ている。そのテの知識は疎いが、ガレージキットに近いと思われる。観賞用にとマーガトロイド嬢に 依頼したのだが、予想を遙に上回る出来に感嘆の意を禁じえない。 何故こんな物を作らせたのか。その理由を言うならば、惚れたからに他ならない。彼女とのファーストコンタクトからこの想いを 抱く迄にはとても一言では言い尽くせない物語があるのだが、長くなるので割愛する。そんな事に時間を費やしている場合ではない。 「………」 一通り視姦…もとい鑑賞を終え、ふとドブ色の好奇心が疼いた。 ――スカートの中はどうなっているのだろう―― こういった造形物を所持する物の多く、いや殆どはここに行き着くのではなかろうか。高嶺の花、手の届かぬものと日々募らせる 想いの矛先。その厳重な防護の先にある理想郷。 手が伸びる。本能のままに突き進む好奇心とそれを止めんとする理性が混ざり合い、今回は本能に軍配が上がった。 小さな彼女を傾け、その理想郷をこの目に焼き付 ……… …… … 唐突に自我が帰ってきた。時計を見ると、三十分ほど過ぎていた。 左手には小さな想い人。右手には、役目は終えたと言わんばかりに休眠に入ろうとする男の誇りとも呼ぶべき人生の相方。 加えて全身を襲う虚脱感から導き出せる答えは只一つ。 「おっ邪魔―!何やって…ん…」 自責の念に打ちひしがれる暇も無く、突然の来訪者が姿を現した。見まごう事などある筈が無い。霧雨魔理沙その人だ。 元気の塊とも呼べる彼女が、今は信じられない物を見るような顔で硬直している。無理も無い。自分を模した人形を握り締め 自身を慰める友人の姿を見たら、誰だって同じ反応をするだろう。 「や、お、落ち着け魔理沙。これはだな……」 「……ば」 「ば?」 最後に見たのは、必殺の閃光を放たんとする手のひらサイズの八卦炉だった。 「ばかぁぁぁぁぁっ!!!(訳:言ってくれればいつでも見せてやるのに)」 終わっとけ
https://w.atwiki.jp/toho_yandere/pages/395.html
魔理沙/4スレ/728 タグ一覧 ○○視点 ほのぼのヤンデレ ハッピーエンド 純愛 魔理沙 「なぁ……その綺麗に包装されててプレゼントみたいなのは……誰にあげるんだ?」 目の前の魔理沙が、問う。 彼女が何を考えているのかはわからないが、彼女の顔に張り付いていたのは、 無表情ともまた違う、そう、透明な色のそれだった。 まるで人形の様な、一切の気色がない瞳。 普段の彼女とは全く違う、冷たい雰囲気。 自身の眼前に立っているのは、どう見ても霧雨魔理沙のはずなのに、どこか違う。 明朗快活で、けれどどこか垢抜けている、あの普通の魔法使いのはずなのに、何かがおかしい。 いったい何が、彼女を惑わせているのか。 皆目見当もつかないが、しかし、その無色の感情が自分に向けられているのだろうことは、言われずとも感じ取れた。 自分が原因で、彼女が迷っている。 その事実は、快いものではない。 だから、言った。 これはお中元で、中身はゼリーだと。 手にかかる重みは、自分がこめた思いの重量。 お世話になった幻想郷のみんな――もちろん魔理沙も例外ではない――へ、感謝の気持ちを込めて。 せいいっぱいの、贈り物を。 だから、 まだ家に残ってるから、一緒に食べる? そうたずねれば、魔理沙は首を縦に振った。 その後一緒に食べたゼリーは、いつもより美味しかった。 明日もいいことがありそうだ。 感想 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/novel_lexeed/pages/26.html
LEXEED氏の執筆した小説+α置き場。 時と女神と決闘者
https://w.atwiki.jp/mika1636/pages/4.html
ワンピースの小説です(∂▽∂)ノ
https://w.atwiki.jp/touhou_ronpa/pages/30.html
霧雨 魔理沙 (きりさめ まりさ) 超高校級の泥棒 博麗霊夢の旧友。人間の魔法使いで、特に光と火力の高い魔法を好んでいる。そして努力家である。 のだが、この動画では才能が超高校級の泥棒になってしまい、 相手に気づかれないように所持品を盗むことができるようになった。 早速、売店の商品を早苗とグルになって盗み出した。 また、Part13の最後に早苗と協力して 全極上の凶器を処分した。 が、Part14で追加されたボーナスルールによって、水の泡となった。
https://w.atwiki.jp/kurokage136/pages/212.html
▽タグ一覧 メイドウィン小説とは メイドウィンが書けばなんでもメイドウィン小説なのである、小説カキコが例え台本形式だろうが小説扱いしてくれるのと同じような物である。 例え内容がなんであれ文字で出来たお話ならそれは小説で、作者がメイドウィンならメイドウィン小説なのだ。
https://w.atwiki.jp/thlabyroth2/pages/16.html
霧雨 魔理沙 ステータス Lv1 Lv30 成長率 HP 73 360 9.0 MP 22 24 1/11 TP 15 攻撃 19 114 3.0 防御 29 187 5.0 魔力 69 481 13.0 精神 64 444 12.0 敏捷 103 114 11.0 回避 40 状態異常耐性 猛毒 10 麻痺 10 鈍重 80 衝撃 10 恐怖 10 沈黙 60 即死 10 能力低下 60 属性相性 炎属性 88 冷属性 88 風属性 88 然属性 88 魔属性 200 霊属性 164 冥属性 164 物属性 100 HP回復率:9 MP回復値:3 レベルアップ難度:60 加入条件:最初から加入している スペル 名前 消費MP 対象 属性 攻撃種類 効果 使用後ゲージ量 備考 マジックミサイル 2 敵単体 魔 魔力攻撃 5800 アステロイドベルト 6 敵全体 魔 魔力攻撃 4000 マスタースパーク 27 敵単体 魔 魔力攻撃 超威力 0 全MPを消費して云々は、体験版では未実装? コンセントレーション 3 自身対象 魔 補助行動 自身の魔力を上昇 8800 SLv1で+24% スキルリスト 名前 初期Lv 上限Lv 必要SP HPブースト 取得不能 Lv5 2Pts MPブースト Lv0 Lv5 2Pts TPブースト 取得不能 Lv5 2Pts 攻撃ブースト 取得不能 Lv5 2Pts 防御ブースト 取得不能 Lv5 2Pts 魔力ブースト Lv0 Lv5 2Pts 精神ブースト 取得不能 Lv5 2Pts 敏捷ブースト Lv0 Lv5 2Pts 回避ブースト 取得不能 Lv5 2Pts 命中ブースト 取得不能 Lv5 2Pts 属性ブースト 取得不能 Lv5 2Pts 状態ブースト 取得不能 Lv5 2Pts 名前 上限Lv 必要SP 効果 補足 向上心 Lv2 5Pts 経験値が(SLv*10)%上昇する 必須条件:探索メンバー(12人)に加わること。「実戦経験」との効果複重はしない 実戦経験 Lv2 5Pts 経験値が(SLv*25)%上昇する 必須条件:前衛4人に加わること。「向上心」との効果複重はしない マリス砲(魔理沙) Lv2 5Pts アリスが前衛にいる場合、敏捷が(SLv*15)%上昇する ? 主人公補正・魔理沙 Lv2 5Pts 5人以上戦闘不能になった場合、前衛時毎ターンMPが(SLv)回復し攻撃・防御・魔力・精神・敏捷が(SLv*10)%上昇する ゴリ押し Lv1 15Pts 敵の属性耐性・異常耐性の減衰効果を軽減する。 ? ムラっけ Lv2 5Pts 敵にダメージを与えた際の、ダメージのランダム幅が増大する。 ? 元気ハツラツ Lv2 5Pts 能力低下、状態異常の治りが非常に早くなる。 ? 魔法の修練 Lv2 5Pts スキル取得者が前衛にいる場合、魔属性攻撃ダメージが上昇する。 この効果は全ての前衛キャラに適用される。 備考 ボス戦での超火力担当。 体験版ではマスタースパークの「全MPを消費して威力増大」の効果は未実装だが、それでも十分過ぎる程のダメージを叩き出す。 コンセントレーションや三種の神器 剣で魔力上昇効果を付与すれば、ダメージは更に伸びる。 ステータス振りについて マスタースパークの威力を上げるためにも、魔力極振りでOK 魔力を強化しておけば、道中の雑魚はアステロイドベルトでほとんど一掃できる。 スキル振りについて マスタースパークが使えるのと使えないのでは、ボス攻略難易度に大きな違いが出るため、まずはマスパに必要なMP27を確保したい。 魔理沙の初期MPは22なので、MPブーストLv2とひのきのぼう(MP+3、1Fで入手可能)でMP27となる。 魔理沙のスペルはすべて魔属性なので、魔法の修練で更なるダメージアップを目指すのも良い。 ゴリ押しを取得しておけば、魔属性に耐性のある敵にもある程度ダメージを与えられるのでオススメ。
https://w.atwiki.jp/th_izime/pages/31.html
この文章は門板「幻想郷の女の子を虐めるスレ」用に製造されました 警告 別離ものです。レイマリです。 魔理沙が酷い目に遭います。 この小説で語られることは、公式設定ではなく ファン間のコンセンサスがあるものでもありません。 使い古されたネタを使用しています。 ・・・ ・・ ・ 蝉の数もめっきり減り、もう暑いとはいえない日が続いていた。 夕方、博霊神社の縁側には、いつものように魔理沙がいて、談話にも疲れた彼女は よく磨かれた縁側の板張りに仰向けになり、夢の中だった。 時折寝返りをうったり、寝言を言う。それを眺める霊夢があり、彼女は何もしていないのだが どうやらそれが暇というわけではなさそうである。 「う・・ん・・・」 魔理沙が寝苦しそうな声を漏らす。またか。霊夢は経験からそう判断した。 「ん・・・ぅ・・・うーっ・・・」 それはだんだんと呻き声に近くなり、表情もまた苦しげになっていく。 ここ数週間の通りであるとすれば、魔理沙は、このあととび起きてこう言うのだ。 「霊夢、私は霧雨魔理沙だよな?」 一体彼女がどんな悪夢にうなされているのか、霊夢にはわからないが それが何週間も続くというのは尋常なことではない。 医者にでもつれていくべきだろうか。そう考えて月の頭脳に連絡を取ったが あいにく精神科・心療外科は専門外とのこと。 魔理沙の呻きはいよいよ大きくなり、まるで病人にしか思えない。 起こそう。 そう考えて、陰陽玉を投げた。 魔理沙のそばに落ちてバウンドし、大きな音を立てた。 「んぅーっ・・・んっ・・・ぅ・・・うわっ!?」 その音で魔理沙が飛び起きた。 上体を肘で起こして、忙しく左右に首をふり、状況確認に余念がない。 「ゆ・・・夢?ぁ・・・霊夢、霊夢!」 立ち上がるのと方向転換を同時にやったものだから足がもつれて倒れかける。 いきおい柱に頭をぶつけ、おでこを抑えながら、あーとかうーとか言いつつ霊夢のいる ちゃぶ台へ歩み寄ってきた。 「霊夢ぅ・・・うー・・・」 霊夢はすかさず言った。 「何よ、霧雨魔理沙」 あえてフルネームを使う。その呼び方に魔理沙はハっとした様子で、おでこから手を離して 「霊夢、私は―」 「霧雨魔理沙よ。決まってるじゃない」 「よ、よかった・・・!」 魔理沙、ヒザをついてうなだれる。 霊夢は、もう一口茶を啜ると、視線もあわせず、さりげなくサラリと、 「最近変よ。一体どうしたの」 「悪い、大したことじゃないんだ」 魔理沙は即答。霊夢の目が細められ、チラリと魔理沙を向く。 「・・・いいの?」 「あぁ・・・」 「ふん」 せめて夢の中で何があったのか教えてくれれば助言の余地もあるのだが。 霊夢はそう考えながら立ち上がり、台所へ向かった。 ・・・ 「***」 誰かが自分を呼んでいる。 おかしいことに、自分が呼ばれていると解るにも関わらず、その名前は自分のものではないのだ。 「もう聞こえていないかもしれないわね、***」 ちがう、それは私の名前ではない。私は魔理沙だ、霧雨魔理沙だ。 視界に、おぼろげな情景が浮かび上がる。 周囲には液体があって、自分はその中に沈んでいるようだ。 下からはゴボゴボと泡が浮かんでくるが、呼吸はできず苦しかった。 もがき、水からあがろうとするが、どうやら自分のいるところは密閉されているらしく 液体の外へ出ることができない。 くるしい。たすけて。 口が開きそうになる。ダメだ。今息を吐いたら水を吸い込んでおぼれる。 目頭が熱くなった。でも涙が出ているかどうかはわからない。 「***、もうすぐ終わるわ。貴方と魔理沙の―」 バカな、ちがう。私が魔理沙のはずだ。魔理沙は私以外には存在し得ない。 何か根本的に間違っている。 にも関わらず、その名前はなんでこうもしっくりくるんだ? 「***」で、正しい気がしてしまう。クセで、返事をしそうになる。 おかしい。でも何がおかしいんだ? 液体と外界を隔てるガラスの向こう側に、何か赤いものがゆらめいている。 どうやらそれは人影のようだった。誰だっけ― 自分はあれを知っている気がする。自分の近しい誰かだったような気もする。 そんなことを考えていると、意識が薄らいできて、目の前がだんだん暗くなり 「(うぐ・・・息ができないよ・・・苦しいよ・・・助けて、誰か、霊夢っ・・・)」 ついにはすべての外部からの情報が途絶えた。 視界が真っ暗になり、感覚が失われ、思考が蒸発する。 ああ、私は死んだのか。 いやな死に方だったな。なんでこんな・・・ 「魔理沙さん、起きてください」 誰か別の声が聞こえる。 その声の主もまた、赤い誰かだった気がしてきた ・・・ 「う・・・ん・・・」 妙に体がガクガクと揺れる。 気づくと魔理沙は机に突っ伏したまま眠っていた。 揺れる原因を探ろうと周囲に集中力を向けると、聞き覚えのある声が飛びこんできた。 「魔理沙さん、魔理沙さん!しっかりしてください!」 視界に、赤い髪。もうわかった。ここはパチュリーの魔法図書館、そしてこの半泣きの声は 「あ・・・ぁ・・、小悪魔か・・・?」 「よ、よかった!咲夜さーん、魔理沙さんが気づきました!」 そうか。やはり、博霊神社の縁側のときと同じように、うなされていたのだ。 パチュリーは横で怪しげな薬草をごりごりとしており、咲夜はタオル片手に既に傍にいる。 「気づいたのね、いきなり唸りだして、起こそうにも起きないから何事かと思ったわよ」 咲夜がそのように言った。メイド長の仕事を放り出して、来てくれたらしい。 「あぁ・・・咲夜、ありがとう・・・ごめん、情けないところを見せた。もう大丈夫だ」 パチュリーが無言で魔理沙のおでこに手をやる。熱は無いわね。 それだけ言うと薬を片付けはじめた。彼女だけ、いつもどおりだった。 「本当に大丈夫なの?お嬢様に血を吸われた人間でも、そこまで酷い顔しないわよ」 咲夜から受け取ったタオルで顔を拭くと、凄い量の汗が拭い取られた。 窓の無い図書館は寒く、服にこびりついた汗の冷却が促進され、冷たかった。 そのうえ、体の芯から、泥でも塗りたくったような疲労が沸いていて、頭もふらついていた。 眠りたい。眠り足りない。 あぁ、たぶん気のせいではないだろう。 眠れていないのが、あの悪夢のせいだというのは。 「みんな・・・ありがとな、今日は疲れているらしい。はやく帰ってちゃんと寝たほうがよさそうだ」 ベッドくらい用意するわよ、咲夜が気をきかせるが、魔理沙は断る。 「気持ちはありがたいけど、寝覚めがおかしいんだ。自分の布団でちゃんと寝てみたい」 咲夜はそれを聞くと、その表情に、一瞬だけ怪訝なものを浮かべたが、すぐにいつもの瀟洒な彼女に戻り 「そう、解ったわ。でも、やつれてうなされる魔理沙なんて、らしくないわよ」 そう言って、図書館のドアを出て行った。 あの咲夜がこうまで気を使ってくれる。 自分はそんなに酷い有様だったのだろうか。 「一人で帰れますか」 小悪魔は不安げな眼で魔理沙を見ていた。 「ああ、家まで飛ぶくらいなら大丈夫さ」 強がってみるが、今自分がどんな顔をしているか知る術はなかった。 今日は持ち帰りの本など一冊もない。パチュリーも口を挟まない。 だが魔理沙はひとつばかり、どうしてもパチュリーに聞いておきたいことがあった。 「なぁ、パチュリー」 パチュリーは相変わらず本に向かっている。 彼女にしては珍しく、魔理沙の問いかけに本を置いて、視線をこちらへ向けてきた。 「ひとつ聞かせて欲しいことがあるんだ。・・・その、私は―」 「あなたは霧雨魔理沙ではないわ」 「・・・・・・・え?」 嘘だろ? なんで私が聞きたいことを知っているんだ?しかも― 頭の中が真っ白になり、言いようの無い恐怖が襲ってきて、足がガクガクと震えはじめた。 魔理沙は安心したかったのだ。「貴方は霧雨魔理沙だ」と言ってもらうことによって、 あの悪夢から解放され、現実世界にいるのだと、そう認識したかったのだ。 だがパチュリーは、その願望をあっさり踏みにじった。 「貴方は、正確には貴方の半分は、霧雨魔理沙ではないわ」 パチュリーは、いつものようにクールな表情と、冷たい声で言い放った。 「な、なんでだよ?どういうことなんだ、なんで私の夢を―」 声がうわずる。 「あなた、図書館に入って、眠るまでの記憶は残っているかしら?」 唐突にそんなことを言われて、魔理沙は混乱しながらも記憶の糸をたどってみた。 無い。 それどころか、魔理沙の最新の記憶は、きのう博霊神社から帰り、自分の家の 自分のベッドの上で横になるところまでで途切れていたのだ。 「・・・わ、解らない・・・?変だぞ、ちょっと昼寝したくらいで忘れるか!頭でも打ったのかな・・」 混乱して頭を抱える魔理沙に、パチュリーは、相変わらずの調子で続けた。 「貴方は、ここに入るや、『うふふふふふ、本が一杯あるわ~』と言って、私と小悪魔を驚かせ、 小悪魔との弾幕戦で『ライズレーザー』なんていう見たこともないスペルカードを使ったのよ? それも覚えていないでしょう。ムリもないわ。だって―」 そこまで言うとパチュリー、急に口ごもる。 「いえ、いいの。だって今の貴方は私の知っている霧雨魔理沙だから」 出てきたのはそんな言葉。パチュリー独特の、遠まわしに主題をかするような言い回しだ。 回りくどい言い回しには慣れているつもりの魔理沙だったが、今回ばかりは耐え切れず 机をドンと両手で叩き、パチュリーに顔を寄せて、凄んだ。 「さっきと矛盾してるぜ・・・どっちが正しいんだよ。私は魔理沙なのか、それ以外なのか?」 パチュリーは小さく溜息を吐き、立ち上がった。 両手を突き出し、魔理沙の両の頬を掌で包むようにする。その顔は少し微笑んでいたかもしれない。 パチュリーは、驚いて呆気にとられる魔理沙に構うことなく 「いい、魔理沙。貴方の中に別の誰かがいたって、あるいは、その二人が相互に作用しあって、 今のあなたがあったとしても、それは何も驚くことではないわ。 重要なのは、とらわれすぎないこと。そうでないと、貴方」 一呼吸おいて 「アイデンティティを喪失して、崩壊するわ」 ・・・ やめてくれ、いくらなんでもあんまりだ 拘束された私は、ちっぽけなクレーンで吊られ、ゆっくりと水槽の中に沈められていった。 液体は熱かった。いや、逆だ。あまりにも冷たくて低音火傷を起こしているのだ。 そんな中に入れられて無事で済むわけがない。 いやだいやだ、まだ死にたくない。私は私のままでいたい。実験台なんてごめんだ。 「***」 またあの声だ。あの名前で私を呼んでいる。 もうやめて、その名前で私を呼ばないで。おかしくなっちゃう。 「大丈夫、貴方の主体は失われないようにするから。貴方は貴方のまま生まれ変わるわ」 信用できない。現に私は頭のてっぺんまで液体に漬かってしまっている。それどころではない。 目は霞み、全身に刺すような痛みが走る。息が出来ないのが苦しくて仕方がない。 「大丈夫よ。この合成処理が終われば、貴方はもっと強力な魔法使いになれるんだから」 ああ、上で機械音がする。ハッチが閉じているのだ。もう外に出られない。 いやだ、私は私のままでまだ沢山やりたいことがあるのに まだあれもこれもやってないのに 別人と合成されるなんて おねがい だれか たすけて ・・・ 起きるとそこはいつもの縁側。 視界に真っ先に入ってきたのは霊夢の顔だった。 霊夢はもう呆れるのにも飽きたか、本気で心配なのか、魔理沙に膝枕をして おでこへ、水に濡らした手ぬぐいを当ててくれていたのだ。傍らには水の入った洗面器。 「また怖い夢?」 「れ、れいむ?・・・ああ、またこれか・・・もう、私はどうしちまったんだろうな・・・」 魔理沙は憔悴しきった顔で力なく笑った。あの元気一杯の魔理沙の面影はどこへやら。 むごたらしかった。一体何が原因だというのだ。 「れいむ・・・?」 霊夢は魔理沙の頭をやさしく撫でる。怯える妹でもあやすかのように。 「魔理沙、いい子だから私にも悩みを聞かせて。貴方が壊れていくのを見るのは―」 その言葉に、魔理沙は 「う・・」 自然と嗚咽が漏れた。胸の奥から何かがこみあげてきて、漏れ出した。 「れ・・」 ダメだ、泣く 顔が歪んで、泣き顔になっていくのがわかる。涙がぼろぼろとこぼれ落ちるのがわかった。 「れいむ、霊夢っ!ぅ、う、うわあぁぁあん!!」 叫んだ。 「怖かったよ、怖い夢見たよ!死んじゃう夢だったよ!」 霊夢にすがりついて、泣きじゃくった。 ひたすらに、日が沈んでなお、疲れ果てるまで。 ・・・ 疲れたでしょ、***。そろそろお茶にしましょう。 いい紅茶を買ってきたから、たまには労ってあげないとね。 いつも頑張ってくれてるんだから。 遠慮しなくていいのよ、***。 たまには私だって ・・・ 「なるほどね。自分の名前ではない何かで呼ばれるの」 二人は、もう布団の中だった。 いつものように二つ敷いたのだが、霊夢がおいでと言うと、魔理沙は素直に甘えた。 抱いてもらい、背中をさすってもらう。霊夢の手は温かくて心地よかった。 抱擁された魔理沙は、落ち着いた様子で、これまでのことをゆっくりと、霊夢に話していく。 「うん。でも、その名前のほうが正しい気がするんだ。それで、変になりそうで・・・」 「なんていう名前?」 「それが・・・目が覚めてみると、よく思い出せないんだ。三文字、だった気がする」 「『まりさ』も三文字だしねぇ」 霊夢が苦笑した。魔理沙は続ける。 「それから、何か妙な液体の中に沈められるんだ。実験用の大きな水槽があって・・・」 「魔理沙がいつもやってる実験では、そんな道具を使う?」 「ううん、私はあんな大きなものは持ってないし、動物を水の中に浸けたりもしない」 「そう・・・それで、どうなるの?」 「あの声が言うんだ。『貴方と魔理沙の合成がもうすぐ終わるから』って」 魔理沙の背中をさすっていた、霊夢の手が止まった。 「貴方は、その夢の中では、魔理沙以外の誰かなの?」 「うん、そうみたい・・・」 「それで、魔理沙と合成、される?」 「うん」 魔理沙は気づかなかったが、霊夢の手には薄く汗が滲み出していた。 心当たりがあった。それが、昔倒した女だったとすると、つじつまが合うような、そんな気が。 「もしかして、その声、赤い服の女?」 「!?」 魔理沙の受けたショックは、パチュリーに示唆された時より酷かった。 普段の魔理沙の面影は完全に消えうせ、怯える少女の涙声で、魔理沙は言った。 「な・・・んで?なんで霊夢も私のゆめのなかわかるの?なんで?」 魔理沙は限界だった。自分はわからなくて苦しんでいるのに、自分の周囲の、それも 近しい者ばかり、夢の中身を知っている。 なのに、自分だけ解らないなんて。 「もうやだよ、おかしくなっちゃうよ、れいむまでやめて、れいむ」 涙声になった魔理沙を見て、霊夢は少し慌てた様子で、魔理沙を強めに抱きしめ直す。 「だ、大丈夫よ。思い当たる節があっただけだから。当たっちゃってた?」 「うん・・・赤いのが私のこと変な名前で呼ぶよ、赤いやつ・・・」 「赤いやつ・・・」 少し沈黙があった。 口を開いたのは霊夢。 「魔理沙、その、赤い服の女の名前、聞きたい?私の当て推量になるけど・・・」 更に長い沈黙があって、ようやく魔理沙が返答した。 「・・・聞きたい。おしえて」 ・・・ 灰皿が飛び、コップが壁に叩き付けられた。 教授がまた荒れているのだ。 また発表が総スカンを食らい、一笑に伏されて帰ってきたのだから憤慨するのは当たり前だろうが、 それももう何度目かはわからない。 彼女の研究がデタラメなどということはない。突飛すぎるというだけなのだが この世界の住人は、誰もそれを真面目に受け取ろうとしない。 私は教授を必死でなだめる。最近の私の仕事といったらこれだった。 泣き喚く教授の涙が私の服を濡らす。構わない。 だいじょうぶだ、もっとデータを取って、また発表しようぜ。 いつか見返してやればいいだけだ。いつか― ・・・ 「夢美。岡崎夢美」 「ゆめ・・・み?」 「そう。遺跡の最奥で私と貴方が倒した相手」 「ゆめみ・・・教授・・・」 ・・・ 「うふふふふ、遊びにきたわ~」 客間には、魔理沙がいた。 どうやら彼女もまた、自分と同じように呼ばれて、お茶をしにきたようだった。 あの、無謀な魔法探索行のあと、三人は友人になり、たまにこうして食事や茶会をする仲だったので 私は別に、何かおかしいとか、そんなことは考えもしなかったのだ。 先に反応を示したのは魔理沙だった。 彼女は小さく呻いたかと思うと、そのまま床に倒れこんだ。 「魔理沙・・・魔理沙!?どうしたんだ!」 驚いてカップを落とし、割れ、カーペットを汚したが、それも気にならなかった。 だって、友人が突然倒れてもがきだしたのだ。あの天真爛漫で底なしに健常な魔理沙が。 心配しないほうがどうかしている。 私は魔理沙に駆け寄り、彼女を抱き起こした。顔は青く、呼吸は弱弱しかった。 「まずい、このままじゃ・・・救急車を―」 視界がぐらつき、急激に霞んだ。私は、抱き起こしたはずの魔理沙に重なるように、そのまま・・・ ・・・ 「霊夢」 「なに、魔理沙」 「私は霧雨魔理沙だよな」 「大丈夫よ、そうに決まってる」 全部思い出した。あの時夢美は いくら観測結果と実験結果を示しても認められることがなかった夢美は いつしか、以前に"最強の魔法使いを捕獲する計画"が失敗したのが原因であるという妄想にとりつかれ 自分に従順な魔法使いを得ようと計画しはじめたのだ。 私はそれに気づくことができなかった。 気づいたときはもう手遅れだった。 紅茶に毒を盛られた私と魔理沙は 人間合成装置によって、魔理沙の能力と、 私の主観と性格を切り貼りした一人の人間に合成されて 今の霧雨魔理沙が生み出されたのだ。 だが魔理沙は消えなかった。 私が魔法図書館にいる間に顔を出したのはオリジナルの霧雨魔理沙だった。 "貴方は霧雨魔理沙ではないわ" パチュリーが言っていたのはそういうことだったのか。 よく解った。だが、それは・・・ 「嘘・・・だ・・・」 自我を完全否定された魔理沙の目には、もう光がなく、その声は消えそうなほど小さかった。 「私が北白河ちゆりだったなんて、私の中に別人格で本物の魔理沙がいるなんて、そんなの、そんなの」 霊夢は相変わらず魔理沙を強く抱きしめていて 「貴方は霧雨魔理沙。私の友人の霧雨魔理沙よ。他の何だっていうの」 「 で、でも・・・前の魔理沙だって霊夢の友達だったんだろ?私はその魔理沙じゃないよ、別人なんだよ!」 「気にしない」 霊夢は魔理沙の唇を自分の同じ部分で塞いだ。 もしかすると舌を突っ込んだかもしれない。しばらく間があって、魔理沙はおとなしくなった。 「んっ・・・むぁっ、れいむ・・・」 絡みつく舌が離れると唾液が糸を引き、互いの荒い吐息が漏れた。 「貴方だって同じように私の友人なんだから」 同じことがもう一度繰り返された 「そんなことを怖がったら駄目」 "重要なのは、とらわれすぎないこと" これでいいのか、パチュリー? その瞬間の魔理沙は不安も恐怖も感じていなくて、満たされた気分にあった。 ああ、もう、自分がちゆりでもなんでもいいや。 霊夢が認めてくれるなら。 そう思えるほど。 ・・・ 魔理沙は死ななかった 今度はちゆりが死ぬ番だ ・・・ 目が覚めた。天井は自分の家の寝室のものだ。 今日は悪夢を見ないで済んだらしい。ほっと溜息を吐き出す。 気分のいい朝だった。小鳥が囀り、カラスの声も聞こえる。 湿気を含んだ大気は充分に冷たく、寝起きの妨げはまったく無い。 「ぅ・・・ん・・・」 魔理沙は思い切り伸びをしてから、立ち上がり、洗面所へ向かった。 顔を洗い、歯を磨いていたら、夕べの霊夢との行為を思い出して顔が赤くなった。 鏡の中にいる赤くなった顔に"てへ"と照れ笑いを返してみる。 今日の自分は、魔理沙が自分で言うのもなんだが、やけに魅力的だった。 いつものように食事を用意する。魔理沙は和食派なので、米の他には味噌汁に漬物と質素だった。 漬物の壷を開けたとき、やけに残量が少ない気がしたが、気にしなかった。 空腹も収まったあたりで、蝉が鳴いていることに気がついた。 ほう、今更鳴く蝉もいるんだな。昨日はあんなに寒かったのに。 着替えも終え、今日の行動計画を立てる。 まぁ、何はともあれ博霊神社だろう。 霊夢に昨日の礼をしようと、紅魔館からかっぱらってきた玄米茶を持っていくことにした。 だが、戸棚を開けると、そこに目的のものは見当たらなかった。 茶筒自体はあったのだが、デザインが異なっているし、入っているのは紅茶だった。 「おかしいな?」 もっとおかしいことに、買ったり盗んできた覚えもないティーパックが出てくる。 それでも魔理沙はあまり気にしなかった。どうせ、蒐集品に紛れ込んでいたのが出てきたのだろう。 棚から牡丹餅というではないか。 家を出ようと、玄関まで来た時だった。 「やけに暑い・・・」 昨日は涼しかった。半月も前からそんな具合だったから、魔理沙は服装もそれに合わせていた。 久しぶりに残暑日和がやってきたかな?着替えて行ったほうがよさそうだ。 ―そう思ったところで、違和感に気づいた。 着ている服の生地が、薄かった。 そうだ。 自分が今着ているのは夏服も夏服ではないか。 クローゼットの夏服はもうすべて片付けた後だというのに! 魔理沙は驚いてクローゼットまで走った。力任せに開く。 中にかけられていたのは夏服、夏服、これも夏服か!ええい! 秋物は奥に仕舞われていた。もう暫く使わないとでもいうように。 自分が一ヶ月前にそこから引き出したときのように。 不安になった魔理沙は、箒だけを掴んで家を飛び出た。 ドアを開けた瞬間、特有の蒸し暑さが草の臭いと共に鼻腔を満たす。 魔理沙は異常を前に立ち尽くした。 蝉が鳴いていた。 先ほど鳴いていたやつだけではない。これは蝉の大合唱だ。 たまたま暑い日だったから、まだ眠っていた蝉が顔を出した?とんでもない! ではこの不快指数はなんだ? 蒸し暑さは残暑などというものではない、これは・・・ 「真夏だ」 刻一刻と気温が上がっていくような錯覚を覚える。 陽光が夏の日差しを魔理沙の金髪へ投影していた。 「夏は終わったんじゃなかったのか!?」 箒にまたがった魔理沙は、最大の加速で上昇した。 ・・・ 最初は異変かと思い、アリスのところへ駆け込んだ。 「おい、アリス、起きろ!異変だ!」 窓を割って入った魔理沙は、ネグリジェのアリスの肩を揺さぶって起こし、セクハラだとビンタを受けた。 着替えたアリスが、魔理沙を客間に通した。 人形たちがお茶を淹れてくれたが、魔理沙はとても飲む気になれなかった。 魔理沙は、アリスが「久しぶりじゃない、よく眠れた?」などと言ってきたのに違和感を覚えたが 問題の核心に迫るのが重要だったので、それを放置する。 会話の内容は以下のようなものだった。 「貴方、何言ってるのよ。夏になれば蝉が鳴いて暑い、普通じゃない」 「でも、昨日までは―」 「昨日も暑かったじゃない」 魔理沙は我が耳を疑い、その後アリスの正気を疑った。 「な、何を言っているんだ、昨日は―」 「そうね、貴方は久しぶりだから知らないんだわ」 「え?」 ・・・ つまり丸一年経っていたのだ。 魔理沙は丸一年、季節が一周するまで、ずっと寝ていたのだ。 鏡の中の自分が少し女らしくなっていたことも、茶葉が消えうせて新しくなっていたことも、 着替えが夏服になっていたことも、漬物の残量も、すべては年月の経過によるものだったのだ。 魔理沙は呆然とし、すぐ矛盾に気がついて、アリスに迫った。 「じゃ・・・じゃあ、私が寝ている間、なんで私の家が管理されているんだ?服まで交換されて―」 そこまで喋って、魔理沙はそれがどういうことなのか気付き、絶句した。 誰かが代わりにやっていたのだ。 「そう、貴方のかわりに誰かがやっていたのよ」 アリスは、少し寂しげに視線をそらすと、カップを戻し、上海の頭を撫でた。 「私の、かわりに、誰か・・??」 魔理沙は、本当はもう気づいていた。 だが、あまりに恐ろしすぎて、それを口にすることはできなかった。 「私にとってはね、魔理沙。どっちも魔理沙よ。私の友達の魔理沙。私は昔から居るもの」 アリスの言葉はやけにドライだったが 「あと、ブラジャーくらいしなさい。もう小さくないんだから」 もう魔理沙の耳には届いていなかった。 打ちのめされた魔理沙は、重い足取りで博霊神社へ向かった。 ・・・ 違う。私は北白河ちゆりじゃない。 私は霧雨魔理沙だ。霧雨魔理沙だ。 そうだろ? 紅魔館の霧の異変だって、春が来なかった時だって、月が狂った時だって 霊夢と一緒に異変を解決してきたのは私なんだぜ。 みんな私を魔理沙と呼んでくれたし、好いてくれたり、嫌われたりしたけど 私が魔理沙であることはみんな認めてくれていたもの。 私が魔理沙だよ。そうだよね?一年間別人だったからって 私が私じゃなくなることなんて そうでしょ? お願い そうだと 言って ・・・ 魔理沙の飛行がふらついていたのは、猛烈な陽光のためばかりではない。 ようやく博霊神社にたどりついた魔理沙は、一年前に自分が寝転がっていた縁側に降り立ち 障子を開けて霊夢の名を呼んだ。 霊夢もやっぱり、少し成長していた。 より女らしくなり、綺麗になっていた。 でも、それは、自分がこの一年を毎日一緒にしていたら気づかない変化だったかもしれない。 霊夢は魔理沙を見て、少し目を丸くし、次いで一瞬目を伏せた後で、こう言った。 「久しぶりね」 それは悲しそうな顔だった。 こっちが何を考えているのか、全てお見通しらしい。 やめてくれ、そんな顔をしないでくれよ。 「ああ・・・久しぶりだ」 自分の声が震えているのが解った。 そうか、きっと今とんでもない顔をしているんだろう。見透かされて当然か。 なのに、私の喉からは、消えそうな声しか出てこない。 「霊夢・・・どうしよう、私消え・・・」 それを遮るように、霊夢はこう言った。 「おかえり。待ってた」 魔理沙は霊夢に飛びついた。 霊夢の腕の中は、一年前のあの時と同じように心が安らいだ。 さっきまでは、一年前を昨日だと勘違いしていたのに、事実を告げられてから 霊夢とのあの行為が、ひどく過去のものであるように感じた。 「なぁ、霊夢」 魔理沙が口を開いた。 「何、魔理沙」 「・・・ん・・・なんでもない」 「そう」 そんな会話ばかり何度も続いた。 霊夢も文句など言わなかった。 二人とも、もう、それ以上何かを必要だとも、何かできるとも思っていなかった。 魔理沙はもう泣くこともしなかった。 泣く間も惜しかった。 今はただ、霊夢と一緒にいたかった。 これが最後かもしれない。 この次は、無いかもしれない。 眠りについたら、もう、永久に自分以外の魔理沙になってしまうかもしれない。 怖かった。 そうなる前に、一秒でも長く、霊夢とこうしていたかった。 自分の大切な親友と。 ・・・ 「霊夢、お願いしていい?」 「なぁに?」 私は消えるのか? 「忘れないで」 「解ってる」 消えていなくなるのか? 「絶対だぞ」 「絶対よ」 北白河ちゆりは、霧雨魔理沙にはなれなかったのか? 「約束して」 「そうね、約束」 ・ ・・ ・・・ 冬がきて、夏がきた。 更に何度か、それが繰り替えされた。 あの魔理沙は、もう、どこにも居なかった。 パチュリーの推測によればこういうことだった。 "自分が誰なのか気付いてしまったちゆりは、魔理沙たりうることができなかったのだ" 霊夢はそれに納得しなかった。パチュリーも、感情ではそれを否定していた。 あれは、間違いなく魔理沙だったのだから。 魔理沙はあいかわらず「うふふふ」と笑い 皆もそれを当然のように受け止めていた。 それもまた、間違いなく魔理沙だったからだ。 長い長い時を生きる妖怪たちからみれば 2年や3年などほんの一瞬のできごとでしかない。 皆の中にあった、あの魔理沙の記憶は、 新しくそして古い魔理沙との付き合いを重ねる中で だんだんと風化し、飲み込まれ、消えていった。 ・・・ 夏の終わりが近づき、風が涼しくなってきた。 夜風がそろそろ肌寒く、開いた障子から入り込んでくる。 霊夢は決して縁側の障子を閉めなかった。 いつか、いつも彼女が寝そべっていたこの縁側に 悪戯っぽい笑みを浮かべて ふらりとあの魔理沙が降りてくるのではないかと そう感じるのだ。 「なぁ霊夢、私は―」 忘れなどするものか。約束したのだ。 「―霧雨魔理沙だよな?」 ええ、貴方は霧雨魔理沙よ。 決まってるじゃない。 霊夢は、マスタースパークのスペルカード・・・もう古びてボロボロになったスペルカードを 大事そうに手に取り 飽くことなく眺め続けた。 It doesn't continue. # 「これがこの可能性世界の魔理沙ね」 これで全て言い訳できる。岡崎教授は偉大である。 最初はただ魔理沙が発狂するようなのを書きたかった。 でも、幺樂団の歴史を聞いていたら気づくとこんなものが出来上がっていた。 霊夢が妙に優しい? 霊夢さんはきっと 魔理沙との別れが避けられないって 途中から知ってたんだよ 漠然と 新作ではキャラが刷新されるらしい。 願わくば、あの愛らしい魔理沙が 別人になってしまうことのありませんように 旧作キャラ最初わかんなかったわ この霊夢がいいな、ラストぐっとくるわ -- 名無しさん (2008-06-20 01 26 33) ホラー? ↓ ギャグ!?(うふふ魔理沙 ↓ 百合…だと ↓ まさかの感動←今ここ -- 名無しさん (2009-01-10 12 07 41) ちなみにすでに突っ込まれてると思うが 低温火傷の意味と漢字が間違ってます -- 名無しさん (2009-01-10 12 11 17) 指摘感謝。実は2年以上誰からも突っ込まれなかったよ。 もうこのままにしておいたほうがいいかしら・・・ -- 名無しさん (2009-01-14 04 45 04) 沁みるなあ -- 名無しさん (2009-09-05 12 20 56) 何かが思考回路に来た。 ヤバいねコレ。 -- 名無しさん (2009-10-14 23 54 16) これはいい -- 名無しさん (2010-04-02 17 23 06) マリアリうふふかと思ったら… -- 名無しさん (2010-04-03 04 32 34) ちゆりと夢美が魔理沙? -- 名無しさん (2010-04-19 16 37 44) 森博嗣っぽくていいなあ。 透明感があって、 それでいて白く霧がかかったかのような世界観に惚れ惚れしました。 -- 名無しさん (2010-11-03 00 25 50) 悲しい結末だなぁ。 ところで教授はどうなったんだろう。 -- 名無しさん (2011-08-31 22 48 31) すごい感動した。 -- 名無しさん (2014-11-01 21 50 12) なんかうるっときた -- まぁこ (2015-11-15 14 38 49) ここまで綺麗にまとまるとは・・・ -- 名無しさん (2015-11-16 00 41 00) 魔理たん!! あ、 博霊じゃなくて 博麗ですよ! -- 名無しさん (2016-02-26 22 16 03) 真面目なおいどんはツッコミまくりたい話だが、 内容は良いから黙っておくのぜ -- キング クズ (2016-06-22 03 56 37) 次に起きた時は霊夢はもう既に他界してて自分も老衰で死ぬ寸前で発狂する魔理沙が見たい -- 名無しさん (2017-06-29 09 06 13) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/19399999999999/pages/15.html
博麗霊夢 ’’霧雨魔理沙’’ アリス・マーガトロイド 伊吹萃香 魅魔 霧雨魔理沙 加入時期 霊夢編初期 : 中盤博麗神社 : 終盤自動 タイプ パワー 経験値 もっとも少ない