約 489,305 件
https://w.atwiki.jp/koebu_wiki/pages/551.html
名前の読みかたがきまっていない 可愛い 可愛いのに馬鹿 自称47歳 EHSAR所属 liveのマスターになるのが嫌い テキチャがよめない 馬鹿 テンションの上げ下げが激しい 基本フレンドリー 馬鹿 寝落ちもデフォ 上がったとおもったら寝てる ↓部員ページ↓ http //koebu.com/user/mihane69
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/221.html
次の話へ 「お邪魔します!」 元気な声と共に入ってきたのは、紅魔館の門番こと紅美鈴。 「おや、こんな昼間から珍しいね。今日はお休みかい?」 「ええ、お嬢様が『部下を労わるのも主の勤めよ』ということで、定期的にお休みがいただけることになったんです」 休みがもらえたことよりも、気遣ってもらえたことが嬉しいのだろう。 大輪の向日葵のような笑みを湛える彼女に、知らず知らずこちらも口元が緩む。 「そうか、それはおめでとう。 それで、その大切な休日にわざわざこんな店まで来てくれた、と。光栄のあまり言葉もないよ」 「またまたそんな。良いお店ですよここは。落ち着くって言うか。咲夜さんも褒めてましたし」 どうやら紅魔館におけるこの店の評価は上々のようだ。 「ありがとう。それじゃあゆっくりしていくといい。 お茶を入れてくるから待っていたまえ」 「いえ、そこまでしていただくわけには……」 こういうところで遠慮するあたり、彼女の人の良さが垣間見える。 霊夢や魔理沙も見習って欲しいものだ。言っても無駄なので口には出さないが。 「なに、僕の店を褒めてくれたお礼だよ。受け取ってもらえないと、僕が悲しくて死んでしまう」 「ふふっ、わかりました。霖之助さんに死なれては困りますしね」 口元に手をやって笑う美鈴。慣れない冗談にも相手をしてくれる。やはり彼女は好ましい客だ。 「店のものは好きに見てて構わないよ。それじゃあ」 しばし穏やかな時間が続く。 美鈴が品物を物色し、手にとっては霖之助に説明を受ける。 その姿をなんとなく見ている霖之助。 ここで、少し前に無縁塚で拾った商品を思い出す。 この女性にとって有益なものになる可能性が高いその品。 ここは一つ、勧める前に彼女のほうの情報を集めようか。 「そういえば美鈴、少し教えて欲しいんだが」 「はい? 何でしょうか?」 「君は今、どんな下着をはいているんだい?」 店の空気が一気に凍りついた。 何かまずいことを聞いただろうかと悩む霖之助。 その瞬間、美鈴の両目からはらはらと涙がこぼれた。 顔に手を当てて嗚咽する美鈴。 「……うう」 わけもわからずあわてる霖之助。 理由はさっぱりわからないが、今の流れだと間違いなく自分がきっかけだ。 そうこうしているうちに美鈴が次の行動に出る。 「霖之助さんは……霖之助さんだけは、他の自分勝手な人たちとは違うと信じていたのに……。 優しくて常識のある人だと……信じてたのに……っ!」 間一髪、飛び出していこうとする美鈴の手をつかむことに成功する。 「ちょちょ、ちょっと待ってくれ! 別に変な意味じゃないんだ!」 「離してください! 今の発言に変な意味がないわけないじゃないですか!」 流石に力が違うためズルズルと引っ張られるが、ここで誤解させたまま行かせるわけにもいかない。 「とにかく話を聞いてくれ! 確かに言葉が足りなかったが、本当にやましいつもりはないんだ!」 結局、十数分間にわたる説得により、何とか美鈴を店につれもどすことに成功した。 「ぜぇはぁ」 久しぶりに全力を出した霖之助は息が切れまくっている。美鈴は息一つ切らしていないというのに。 少し男のプライドが傷つくが、今そんなことはどうでもいい。 いまだに不信な目を向ける彼女を説得しなければ。 「何度もいうように……君の下着について聞いたのは……商品を勧めるにあたっての情報収集のためで…… やましい意味じゃないんだよ……」 「……じゃあ最初にそう前置きしてくださいよ」 ぷぅ、と頬を膨らませて睨みつける美鈴。よし、聞いてくれる気にはなったか。 「そのことについては本当にすまなかった。謝罪の言葉もないとはこの事だと痛感しているよ」 「……もういいです。それで、その商品というのはなんですか?」 内心の安堵を抑えつつ、まずは情報提供に移る。 あれの形状は今見せるには少々まずい。心を落ち着かせてもらわねば。 「その前に、僕の考えを聞いてくれ。 僕が君の下着について聞いたのは、君が今来ている服の形状から一つのことを懸念したためだ。 聞くところによると君は弾幕より格闘のほうが得意なんだろう? となると、蹴り技を放つときにそのスリットの入った服ではなにかと問題があるんじゃないか?」 「……」 霖之助のいうことは間違ってはいない。 が、先ほどの顛末もあっておおっぴらにそういうことを言うのはためらわれる。 それに、いかに霖之助といっても男性相手にこの話題は恥ずかしい。 返事はなかったが、それを肯定と受け取った霖之助はさらに話を進める。 「幻想郷ではいわゆるドロワーズをはくことでそういった問題に対応している。魔理沙なんかが良い例だろう。 しかし君の着ている服ではドロワーズはまず邪魔になる。 となるといわゆるショーツといわれる下着の出番なのだろうが、残念ながら幻想郷で安定して入手することは難しい。 しかも格闘を主体とする君ではすぐに擦り切れてしまうだろうが、かといって何もはかないなどというのは論外だろう」 「……そうですね」 返事が返ってきた。 生真面目な彼女のことだ。こういう話を堂々とするには抵抗があるのだろうが、やはり今自分が言ったような問題が気になってはいるらしい。 「確かにそうです。一応下にはくズボンはあるんですが、冬は良くても夏は熱くて仕方ないですし」 「だからこそ、これを君に勧めようと思ったんだ。 外の世界の女性が運動時にはくもので、まあ水着の仲間のようなものだろうね」 そう言って霖之助が取り出したのは、どこからどう見ても完膚なきまでに、 ブルマだった。 次の話へ
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/218.html
次の話へ 【趣味が高じて……】 魔法の森に店舗を構える香霖堂。 大抵の客は商品の代価を払わないこの店にも、まともな客がこないわけではない。 この日香霖堂に訪れたのは、そんなまともな客の一人、アリス=マーガトロイドだった。 「いらっしゃい」 相も変わらず来客に一言だけ発して手元に目を落とす霖之助。 「毎回思うんだけど、もう少し丁寧に応対したら? お客さんとして言わせてもらえば、品揃えが同じでも店員の態度がいい店を選びたいものよ」 「僕はそうした応対が苦手でね。この店は半ば僕の趣味であり、趣味とは楽しむものだ。 ここに苦手なことを無理やり組み込めば、店を続けること自体が苦痛になっていくかもしれない。 その結果店を閉めることになれば、それこそお客さんに迷惑だろう。 よって僕は僕の思うがままに応対させてもらう」 何を言っても無駄か……。そう思ったアリスがふと霖之助の手元に目をやると 「霖之助さん……裁縫できたの?」 普段本を読んでばかりいる店主の手元には、珍しく針と糸が握られていた。 霖之助といえば家事か商品の仕入れか読書しかしないものだと思っていたアリスにとって、これはかなり意外だった。 実際のところ霖之助は裁縫もするしマジックアイテムも作れるなかなか多芸な男であり、 まれにしか店に訪れないアリスが今日までそれを目にすることがなかっただけなのだが。 「魔理沙や霊夢が弾幕ごっこで破れた服の修繕を押し付けてくるからね……。 霊夢の服を一から仕上げることも度々あるし、今ではそれなりの腕だと自負しているよ」 対価をもらったことは一度としてないけどね……と愚痴る霖之助に苦笑いで応えるアリス。 ここでふと思い当たる。洋服の仕立てに必要な事を。 「霖之助さん……霊夢の採寸したの?」 「……」 アリスの頭では早くも霊夢の服を脱がせてサイズを測る霖之助の図が展開されている。 視線から軽く軽蔑の念を感じた霖之助は、いらぬ誤解を避けるために口を開くことにした。 「君は洋裁を基準として考えているようだが、霊夢の服は和服を基本とした物だ。 そして、和服は基本的に着る者に合わせてサイズを変えることはほとんどないんだよ。 和服には基本的に子供用、女性用、男性用があるだけ。細かい調節は着付けの段階でやることなんだ。 だから霊夢の身長さえわかっていればあとは何とでもなる」 「随分いい加減ね……。服を作るなら着る人に最適なものを作るのが誠意というものだと思うけど」 「確かにそうかもしれないが、そうすると本人しか着れなくなるだろう? 特に女性は出産で体型が変わることもあるし、この方法なら親から子に高価な服を受け継いでいくこともできる。 君に言わせれば、大切な人間に送る服は相手に合わせて仕立てるべきなんだろうが、 日本人は金に任せて新しく作ったものよりも、自分が長い間大事にしていたものを与えることにより大きな意義を見出し ている。 自分がそれほど大事にしてきたものを授けるくらいに、相手を愛しているということだからね」 そう言われると、アリスも否定する気にはならない。 むしろ和裁というものに俄然興味が湧いてきた。 今までの自分とは異なる発想。その発想に基づいて積み重ねられた技術なら、何か人形作りに活かせるかもしれない。 それに、この店主は他にもいろいろ知っていそうだ。 「霖之助さん、和服と洋服の違いについてもう少し聞かせてくれる?」 霖之助としては正直めんどうくさいのだが、この少女は上客だし、機嫌を損ねるのは得策ではない。 それに和服に興味を持ってくれれば、さらに売り上げが期待できるかもしれない。リスクがタダ話なら安いものだ。 「いいだろう。まず……」 これが全ての始まりだった。 「ふう……なかなか上手くはいかないものね……」 ここは魔法の森、七色の人形遣いことアリス=マーガトロイドの自宅である。 あれから数週間、アリスはひたすら日本人形の作成に勤しんでいた。 コンセプトが違うとはいえ基本は同じ人形、すぐに完成させてみせると意気込んだアリスだったが、現実はそんなに甘くはなかったようだ。 「おかしいわねえ。この前聞いたとおりにやってるはずなんだけど。ちょっと確認してもらったほうがいいのかしら?」 日本人形の作成を始めて以来、アリスが香霖堂に足を運ぶ頻度は右肩上がりに上昇している。 人形作りとなると驚異的な集中力とこだわりを見せるアリス。 最初に和裁への興味を植えつけたこともあって、わからないことがあれば霖之助に相談することになっている。 「よし、善は急げ。試行錯誤も大事だけど、素直に助けを求めるのも大事よね!」 そう結論付けたアリスはいそいそと荷造りを始めた。 所変わって香霖堂。 アリスの人形を見た霖之助はその問題点を把握、早速アリスに講義を開始した。 「おそらくここの縫い合わせがその後の作業に微妙な狂いを起こしたんだろう。ここの工程は非常に複雑だから無理も ないが……」 普段は買い物目的以外の訪問者を好まない霖之助だが、趣味が近いこともあってアリスの来訪はわりと歓迎しているようだった。 なにしろ人形作りの知識になるからということで、霖之助の薀蓄を真剣に聞いてくれる。 おまけに物覚えもよく、指導したことはすぐに吸収し、必要になれば布や糸まで買ってくれる。霖之助にとっては理想の客と言えた。 「なるほど……これはもっともっと頑張らないといけないかしらね」 「まあ、この前始めたにしては十分すぎるほど上達しているよ。流石という他ないね。 これはそのうち僕が君に教わることになりそうだ」 「ふふ、ありがとう霖之助さん」 その後もたわいない会話が続き、気付けば夕日が差し込む時間。 「あら、もうこんな時間? 今日はこのあたりにしておきましょうか?」 「そうだね。若い女性の一人歩きはよろしくない。暗くなる前に帰ったほうがいいだろう」 その言葉に少し悪戯っぽい笑みで返すアリス。 「なに? 心配してくれるの?」 「当然だろう? 君がいくら強くても万が一ということもある。 折角できた趣味の合う友人を、心配するなと言うほうが無理というものさ」 まさかここまで大真面目に心配されているとは思わず、アリスの思考が一瞬停止する。 「……どうかしたかい?」 「う、ううん、ないでもないの! それじゃあ暗くなるといけないから帰るわね!」 「そうかい? じゃあ気をつけて。またいつでも来てくれたまえ」 家に戻るころには多少落ち着きを取り戻していた。 アリスは今日教わったことを忘れぬようにと、すぐ人形作りを再開。 順調に手が進む。やはり霖之助に相談に行って正解だったようだ。 それにしてもあの店主とここまで話をするようになるとは、ついこの前まで思ってもいなかった。 接客もせずに本ばかり読んでいる偏屈物。そんなかつての評価は跡形もない。 「……ふふ」 今日のやり取りを思い出すと自然に笑みが浮かぶ。 今度は人形作りとか、買い物とか、そういうのは抜きで香霖堂に行くのも良いかもしれない。 そんなことを考えながら、アリスの1日は過ぎていった。 そしてまた数日が過ぎたある日、 「で・・・できたーっ!」 魔法の森にアリスの声が響き渡った。 声の主、アリスは先ほど完成した人形を頭上に掲げ、どこぞの厄神の如くくるくると回っている。 今回作成した人形は、今まで作ってきたものとは作り方がかなり異なる日本人形である。 基本となる人形の体は何とかなったが、慣れていないせいか和服の作成に苦労した。 その分、喜びもひとしおと言うわけだ。 「今日はお祝いね! 久しぶりにフルコースでも作ろうかしら? あーうれしー!」 たっぷり30分は喜び続けたアリス。そろそろ料理に取り掛かろうと考えたところでふと気付いた。 「霖之助さんにも見てもらわないとね……!」 新しい人形を嬉しそうに抱きしめつつ、つぶやくアリス。 実際、今回の人形作りでは霖之助に随分と世話になった。霖之助のアドバイスがなければ到底完成しなかっただろう。 「見てもらうだけっていうのもなんだし、お礼もしないとね……よし!」 「こんにちわ、霖之助さん!」 「ああ、いらっしゃい。人形作りは順調かい?」 「ふっふっふ……これを見なさい!」 アリスの差し出した人形を手に取り、目を丸くする霖之助。 「すごいな……とても初めて作ったとは思えないよ」 「でしょう? 我ながら上手くできたと思ったのよ!」 えっへん! と胸を張るアリス。 「ふむ……いやたいしたものだよ。よく頑張ったねアリス。おめでとう」 そう言って体を乗り出し、アリスの頭を撫でる。 「あ……ありがとう……」 さっきまでの勢いはどこへやら、アリスは顔を赤らめて俯いてしまう。しかしその顔は照れ笑いで本当に嬉しそうだ。 「わざわざ見せに来てくれたのかい?」 「ええ、霖之助さんがいなかったら完成しなかったもの。霖之助さんに見せないなんてありえないわ!」 本当に嬉しいのであろう、いつもよりテンションの高いアリスを見て霖之助も顔を綻ばせる。 「そういうわけで、今日はお礼とお祝いをかねて夕御飯をご馳走するわね!」 「僕は自分の知識を自慢しただけで、大したことはしていないよ。 と言っても、折角作ってくれるというのを断るのも失礼だ。お願いするとしよう」 「任せて! といっても、作るのはほとんど人形だけどね」 と、軽く舌を出すアリス。 (初めて会ったときはこんな表情をする子だとは思わなかったな……) そう思う霖之助だが、口から出たのは違う言葉だった。 「そういえば君は家事を人形にさせているんだったね。折角だし、人形たちが料理するところを見ててもいいかい?」 「……霖之助さんらしいわね。別に見られて困るものでもないし、いくらでもどうぞ。私は代わりに店番をしておくから」 本当は料理を人形に任せて霖之助と話がしたかったアリスだが、お礼をしに来た手前そんな我侭は言えない。 話すのは料理を食べながらでもできるか、とここは引き下がることにした。 「いいのかい? 別に店は閉めても構わないんだが・・・」 「お礼をしに来て店に迷惑をかけるわけにもいかないでしょう? いいから今日は私に任せなさい!」 胸を張るアリス。 そこまで言われては無理に断るのも悪い、という結論に達し、霖之助は人形たちとともに台所に引っ込んでいった。 「ああは言ったけど……お客さんなんて来ないじゃない……」 張り切って店番を始めたアリスだったが、店内には見事なまでに閑古鳥が鳴き続けていた。 こんなことなら店を閉めてもらってもよかったかな……。いやいや、まだお客さんが来ないと決まったわけじゃない。 そんなことを考えていると、店の扉が開く音が聞こえた。 正直待ちくたびれていたが、店番を引き受けた以上疲れを見せるわけにはいかない。 「いらっしゃいまs「おーっす香霖!」」 渾身のいらっしゃいませをさえぎって入ってきたのは、自称普通の魔法使い、霧雨魔理沙だった。 「あれ? 何でアリスが店番してるんだ? 香霖はどこ行った?」 「……まあいいわ。説明してあげる」 どっと疲れが出たのを感じつつ、律儀にこれまでの経緯を説明するアリス。 「と言うわけで、今は代わりに店番してるの」 「なんだなんだ、人が研究で篭ってる隙にこそこそと。そういう時は一言教えてくれるのが人情ってもんだぜ」 「あんたが来なかったんでしょうが……」 「で、いま気合の入った料理作ってんだろ? こりゃ晩飯が楽しみだ」 「話聞きなさいよ……。ていうか、あんたの分まで作ってるわけないでしょうが」 「薄情なやつだな全く。まあいい、今日は退散しとくぜ」 「珍しいわね……。強引に奪ってでも食べそうなものなのに」 「お前は私を何だと思ってんだ? 今日は仕入れに来たんだよ。まだ研究の目途がたってないからな」 そう言って店内を漁りだす魔理沙。 「じゃ、香霖とよろしくやってな」 「ちょっと待ちなさい」 そのまま出て行こうとする魔理沙を引き止める。 「お、ご馳走してくれる気になったのか?」 「んなわけないでしょうが。あんた商品持っていくならお金払いなさいよ」 「香霖から聞いてないのか? 私は借りてるだけだから代金はいらないんだぜ?」 「あんた私や紅魔館だけじゃなくてここでもそんなことしてたの!? とにかく今は私が店番してるんだから、きっちり代金は請求するわよ!」 「よう、香霖。邪魔してるぜ」 「ああ、霖之助さん? 今ちょっと魔理沙と売買の神聖さについて話してるから……」 と言いつつ台所のほうを振り合えるが、霖之助の姿など影も形もない。 「引っかかったな! 甘いぜアリスーーーーぅぅぅぅ……」 その隙を突いて箒で飛び出す魔理沙。あっけにとられたアリスが我に帰ったときには、その姿は遥か彼方に消え去っていた。 「まったく魔理沙ときたら! 霖之助さんももっと厳しく言わないと駄目よ!?」 「言って聞くような相手なら苦労はしないんだけどね」 さっきから憤りっぱなしのアリスに対し、霖之助は既に諦めているらしく、苦笑しながら料理を食べ続ける。 結局店番を放りだしてまで魔理沙を追いかけるわけにもいかず、見逃す結果となってしまった。 アリスとしては憤懣やるかたないが、店主がこれではアリスが怒っていても仕方ない。 「それにしても美味しい料理だ。洋食はよくわからないが、人形に遠隔操作させてこれなら君自身の手料理はもっと 美味しいんだろうね」 「まあ、自分で作れないものを人形を介して作れはしないわね」 「それはいいことを聞いた。是非君自身が作った料理を食べてさせて欲しいね」 一瞬、『僕のために味噌汁を……』という台詞が頭に浮かんで顔が熱くなる。 (まあ実際は好奇心で言っているんだろうけど・・・) かと思えば、そう思った途端に顔の熱は消え、少し寂しさを感じる。 (……参ったわね) どうやら自分は、自分が思っている以上にこの男に好意を抱いているようだ。 「ご馳走様。実に美味しかったよ」 「はい、お粗末さまでした」 食事が終わった後も2人の会話は途切れることはない。話題は主に今日完成した人形について。 どこどこが大変だった、あそこは割りとスムーズに行ったとアリスが語り、 その割には良くできていた、流石高名な人形遣いだと霖之助がほめる。 会話は収まる所を知らず、むしろさらにヒートアップしていく。 霖之助が人形を手に取って、細かい箇所を指で示しながら語り出し、アリスも霖之助の真横に腰を下ろして手元を覗き込む。 その状態で霖之助の講釈を聞いているうち、いつのまにか霖之助にしなだれかかるような体勢になっていることに気付く。 そのときアリスが感じたのは、拒絶でも喜びでもなく、驚きだった。 話に夢中だったとはいえ、自分がここまで無防備に他人に近寄っていることに。そしてその相手が男性であることに。 しかしその変化は忌避する類のものではない。むしろなんとなく心地よさを感じる変化と言えた。 こうなると気になるのは霖之助がどう思っているのかである。 こっそり様子を伺うが、霖之助のほうは気にした様子もなく口を動かし続けている。 別に霖之助を誘惑するつもりはない。 好意を抱いていることに間違いはないが、まだ積極的にどうこうなりたいというほどに強いものでもない。 それでも自分は女性で、彼は男性だ。こんなに近くに居るというのに、本当になんとも思っていないのだろうか。 そもそも自分から通っていたとはいえ、ここ数週間の間に何度も2人きりになることがあった。それなのに、一度も自分はそういう目で見られなかったのか。 自分もついさっきまでそういう目で見ていなかったことを完全に棚に上げているが、まあそこはご愛嬌。 とにかく、ちょっとだけ女としてのプライドが傷ついたアリスだった。 「おや、もうこんな時間か」 気付けば日はすっかり落ち、辺りはすっかり闇の帳が落ちていた。 「普段なら帰るよう促すところだが……」 そう言いつつ立ち上がった霖之助は、ちょっと待っていたまえと言い残して奥に引っ込む。 戻ってきた霖之助の手には酒瓶とお猪口が2つ握られていた。 「これは霊夢の略奪から運よく逃れた一品でね。折角のお祝いだし、今日飲んでしまおう」 霖之助としても、完成した人形を褒めるだけでは物足りない。 優秀な弟子を労うべく、縁側に出て月見酒と洒落込むことになった。 「僕はこうして月を肴にちびちびとやるのが好きでね。 魔理沙なんかは『酒は豪快に飲んで豪快に酔うもんだぜ』などと言って風情を楽しむということをしない。 その点、君は繊細さで言うと魔理沙とは比べ物にならないし、きっと理解してくれると思うんだが」 乾杯、と杯を軽く合わせ、注がれた酒を少し口に含む。 普段余り酒を飲まないアリスでも、なんとなく良い酒なのだろうとわかった。 「これって結構いいお酒じゃないの? 私より他にお酒の事がよくわかる相手がいると思うんだけど」 「構わないさ。君は僕にとっていわば弟子のようなものだ。頑張った弟子にご褒美を上げるのも師匠の義務というものだよ」 「そう、そこまで言われちゃ断るのも失礼ね。ありがたく頂くわ」 先ほどまでとは打って変わってほとんど会話はなかったが、アリスも霖之助もこの雰囲気を楽しんでいた。 杯を開けては互いに酒を注ぐ。月を眺め、風の音を聞き、ちびりちびりと酒を味わう。 たしかにこれは良い。じんわりとなんともいえない心地よさが広がっていく。 「霖之助さん」 「うん?」 「ありがとう。今日は最高の一日だわ」 月を眺めながらそうささやく。 白い肌は酒のせいかうっすらと上気し、月明かりを受けて神秘的なまでに美しい。 そして何よりも、その微笑みがとても綺麗で、思わず我を忘れて見とれていた。 (参ったな・・・) 自分は当の昔に枯れ果てている。そう思っていたが、 (僕の中にも、まだ男としての感性が残っていたとはね・・・) そんなことは、自分の勝手な思い込みに過ぎなかったようだ。 ここ最近、アリス=マーガトロイドの生活は非常に充実していた。 新しい技術に出会った。 習得するために努力を続けた。 その成果は自分の予想をずっと上回るものとなった。 まだまだ反復し体に覚えさせなくてはならないが、自分を成長させるためならそれすらも喜びと言える。 なのに、 「はぁ……」 口から漏れるのはため息ばかりだった。 数日前に日本人形を完成させたアリス。 生まれて初めて作ったそれは、商品として見ても申し分のない完成度であり、アリスにとって師といえる霖之助も太鼓判を押してくれた。 とはいえ、まだまだ基本を修めたばかり。和と洋の技術を融合させるには至らない。 今は続いて2体目の製作に取り掛かっているところである。 1体目に比べ作業は順調そのもの。 不満などあるはずがないのだが、気がつけば手を止めて物思いにふけっている。 「……私がこんなに寂しがりやだとは思ってなかったわね」 所変わってここは香霖堂。 今日も今日とて、店主の霖之助は読書に没頭……してはいなかった。 なにかやることがある訳ではない。いつもどおりに椅子に腰掛け、いつもの姿勢で本を開く。 後はいつものとおりに本の世界にのめり込むだけなのだが、気がつけば店の扉に目をやり、本をめくる手は止まっている。 「いったい何を期待しているんだろうね……僕は」 ここ最近、森近霖之助の生活は非常に充実していた。 同じ趣味を持つ仲間に出会った。 自分の持つものを惜しげもなく伝授した。 教え子は全幅の信頼を寄せてくれるばかりか、想像以上の成長を見せてくれた。 すぐに自分など追い抜いていくだろうが、それすらも楽しみにしている自分がいる。 なのに、 「ふぅ……」 口から漏れるのはため息ばかりだった。 最初の人形が完成して以来、アリスは1度も香霖堂に訪れていない。 自分ひとりの力で2体目を完成させたい。いつもいつも霖之助を頼るわけにはいかない。 純粋な向上心から霖之助にそう言ったアリスだが、すぐにどうにも落ち着かない自分に気付いた。 霖之助に助言を請い、そのまま香霖堂で人形を作っていたときを思い出す。 会話こそほとんどなかったが、どこか暖かさと安らぎを感じていた。 別に毎日香霖堂で過ごしたわけではない。自宅で人形を作る時間も決して短くはなかった。 それなのに、たった数日霖之助に会っていないだけなのに、心に穴が開いたように感じられてならない。 今まで普通に生活してきた家の中がやけに広かった。 「うー……」 テーブルに頬を押し付けて唸ってみるが、そんなことで気が紛れるわけもない。 香霖堂に行きたい。それは間違いないのだがどうにも踏み出せない。 霖之助に呆れられるのが怖いのだ。 ―――君はもう少し意志が強いと思っていたんだけどね――― そんな台詞が頭をよぎるだけで全身が凍りついたような錯覚すら覚える。 実際には彼がそんなことを言うはずはないとわかっているのだが、万が一を考えると二の足を踏んでしまうのである。 ここ2日ほどそんな葛藤を繰り返していたのだが、 「あーもうやめやめ! 自力で頑張るったって、こんなんじゃいい人形ができっこないわ!」 ついに限界がきたようだ。 霖之助がどうこう言い出しても押し切ってやろう。 そもそも自分がこんなことで悩むようになったのは霖之助の責任だ。 責任がある以上霖之助にはこのもやもやを取り払う義務がある。 理不尽なようだが、ぐるぐると考えることに疲れたアリスはそのことに気付かない。 「見てなさい! 私だって我侭言いたいときくらいあるんだから!」 「……着いた」 勢いのままに香霖堂の前まで来てしまったが、ここまで来ると多少冷静にもなる。 大丈夫よアリス。この前まで普通に話していたじゃない。拒絶されることなんてありえないからそんなに心臓バクバク言わせてんじゃないわよ。 大きく深呼吸を2回。よし、少なくとも顔には出さなくてすむだろう。あとは淡々と、しかし強気で押し切るのみ。 バタン 店の戸を開く音が来客を知らせてきた。だが今回の訪問者は自分の望んでいる人ではないだろう。 何しろ、彼女はもうしばらくは家から出てこないと言ったのだから。 そんなことを考えつつ顔を上げた霖之助が見たものは、 「いらっしゃ・……い……?」 「お久しぶりね、霖之助さん」 来るはずのない、されど待ち焦がれた人形遣いの姿だった。 完全に意表を衝かれ、動かなくなる霖之助。 アリスはアリスで、さっきまでの強気はどこへやら。 「何で来たんだい?」 とか言われやしないかと気が気ではない。 2人の間に沈黙が降りる。 真顔で行われるにらめっこに、先に耐えられなくなったのはアリスだった。 先手必勝とばかりに言葉がつむがれていく。 「その、まだ2体目は完成したわけじゃないんだけどね。なんていうか今まで事あるごとに相談してたから一人で 篭ってるとしっくり来なくて。そりゃ私も『自力で完成させるまで助言は請わないから!』なんていった手前ここに 来るのはちょっと気が進まなかったんだけど、そもそも私の目的は人形作りの技術を身につけることであって、 一人で人形を完成させるのはその手段に過ぎないわけ。 だから調子が出ないのに意地張って作業を停滞させるくらいなら、当初の方針を少しくらい曲げてでも、目的を 達成するために有効な手段をとるのは悪いことではないでしょ? 言っとくけど別に霖之助さんがいなくて寂しいなとかそういうんじゃないから。 環境を変えたせいで調子が出なかったのを何とかしようと思ってここに来ただけだから。 あとここのほうが家よりはかどるなら家で作業する必要はないわよね。 これから毎日朝から夕暮れまで通わせてもらうわ。言っとくけどあくまで作業効率のためよ。 本当は夕方とは言わず夜まで居たいところだけど、前に霖之助さんが心配してくれたし、 暗くなる前には帰ることにしておくから。 もちろんただとは言わないわ。家事は人形たちにさせるし、料理は私が作ってあげる。 霖之助さんも読書に集中できるし、私は魔理沙や紫や霊夢と違って霖之助さんの邪魔はしないから悪い条件じゃない でしょ? というかもうそのつもりで用意してきたから空いてる部屋に荷物置かせてもらうわよ」 本人はいたって冷静なつもりだが、誰がどう見てもいつものアリスには見えない。おまけにごまかそうとして逆に本音がちらほら漏れている。 そもそも普段自分がこんなにまくし立てたりはしないことに気付いていないあたり、アリスもかなりテンパっているようだ。 そんなアリスを呆然と眺める霖之助。 反応が返ってこないことで再び不安になるアリス。 なんで何も言ってこないのよ。 唐突過ぎて驚いているのかしら? それとも呆れられた? 自分から来ないと言い出して連絡もしなかったくせに今度は毎日来るとか言い出したのは拙かったかな。 でも理屈としてはおかしいところはないはずよね……いやでも……。 ええい! なんでも良いから早く何とか言いなさいよ! 緊張のあまりすでに足元の感覚すらなくなっている。 ほんの数秒が永遠のように感じられて気が遠くなりそうだ。 一方の霖之助はというと、普段と違うアリスに戸惑ってはいたものの、要はまた足しげく通ってくれるのだなと結論付けることにした。 「わかった。そういうことなら協力することもやぶさかじゃないよ。 奥に入って突き当たりを左の部屋が空いているから好きにしたまえ」 一瞬その言葉が理解できずに固まるアリス。頭の中で霖之助の言葉がゆっくりと翻訳されていく。 好きにしたまえ→ 部屋を使っても構わない→ 毎日通ってきてもいい! そこまで理解した瞬間、アリスの頭の中で数万人のミニアリスが一斉に諸手を天に向かって突き上げ、大歓声が響き渡った。 おもわず自分まで叫びそうになるが、ここまで喜んでいるのを気取られるのも恥ずかしい。 落ち着け。声を上ずらせるな。後一言、一言だけ返せば部屋で思い切り喜べる。 「そそ、そう? よかった。じゃあ勝手に使わせてもら、もらうわね」 多少噛んでしまったが問題ない。この心境でここまで抑えられれば上出来だ。さあ早く部屋に。もう平静を装うのは限界だ。 だがここで奥に上がろうとするアリスに霖之助が声をかける。 「ああ、アリス」 ビクッと肩が震える。 いったいこれ以上何があると言うのか。話なら後でするからもう開放してほしい。 それともやっぱりダメと言われるのだろうか。 いい加減爆発しそうな心臓の鼓動を感じながら振り返ったアリスが見たものは、 「ありがとう。また来てくれて嬉しいよ」 心の底から嬉しくたまらない、そんな霖之助の笑顔だった。 スー……、パタン。 霖之助にあてがわれた部屋に荷物を置きにあがったアリス。 廊下から見えないように襖を閉めると、糸が切れた人形のように崩れ落ちる。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」 畳に腰を下ろして両手を突き、大きく息を吐く。 本来陶磁器のように白い肌は首まで真っ赤に染まっていた。 心臓はここで一生分働きつくしてやると言わんばかりに回転数を上げ、手足はいまだに軽く震えている。 (あれは反則にも程があるわよ……!) 叫びだしたくなるほどに昂ぶる感情を抑え、アリスは先ほどのことを思い出す。 『ありがとう。また来てくれて嬉しいよ』 ただでさえ受け入れられたことが嬉しくて頭が煮立っている所だというのに、そんなことを言われた日にはもう声も出せなくなってしまう。 真っ白な頭の中とは正反対の真っ赤な顔で、カク……カク……と壊れた人形のように首を縦に振り、転びそうになるのを何とかこらえて部屋に辿り着いた。 訝しがられたかも知れないが、取り繕うことなど不可能だ。 スキマと閻魔と花の妖怪と亡霊の姫に同時に喧嘩を売って無傷で生還するくらい無理だ。 霖之助の笑顔が頭から、言葉が耳から離れない。 上海と蓬莱を呼び寄せて力いっぱい抱きしめる。 「~~~~~~~っ」 声にならない叫びと共に畳の上を転げ回るアリス。その顔はこれ以上ないほどにやけまくっている。 来てくれて嬉しい。 来てくれて嬉しい。 来 て く れ て 嬉 し い! それはつまり、霖之助もアリスに会いたかったということだ。 それもあの朴念仁がわざわざ口に出して思いを伝えるほどに。 期待しすぎてはいけないと理性が警鐘を鳴らそうとするが、このくらい自惚れたって構わないだろうと黙らせる。 いつまでも悶え続けるアリスが再び霖之助と顔を合わせられる程に落ち着くのは、相当後になりそうだった。 一方の霖之助は、部屋から聞こえてくる妙な音に首をひねっていた。 アリスが毎日香霖堂へ通いつめるようになって数日、そろそろ生活のリズムも定まってきた。 朝は夜明けともに起床。サンドイッチなど簡単な朝食を作ってバスケットに押し込み、身だしなみを整えて香霖堂へ。 霖之助も朝は早いのでアリスが来るころには起きている。挨拶を交わしつつ奥の座敷にあがりこむ。 持ってきた朝食を2人で平らげ、食後はのんびりと霖之助が淹れてくれた紅茶を味わう。 本当は自分が淹れてあげたいのだが、『このくらいはさせてくれ』と言われては無碍に断るわけにもいかない。 使った食器を仲良く台所で並んで片付け、霖之助が店の部分を、アリスが住居部分の掃除を行う。 このとき服が汚れてはいけないからと割烹着に三角巾を借りるのだが、日本人離れした顔の割りに良く似合う。 一段落したら霖之助は店番。アリスは客の邪魔にならない場所に椅子を置いて人形作りに取り掛かる。 紅白の巫女や瀟洒なメイド、竹林の師弟に白玉楼の庭師などが来店するが、 これら頻繁に訪れる客にはすでにアリスが霖之助に師事していることを説明済みのため、特にどうこう言われることはない。 日が西に傾き始めれば夕食の用意を始める。 アリスの専門は洋食だが、霖之助が和食を好むため教わりながら作ることも多い。 かつてアリスが語った通り、彼女の腕前は人形たちより数段上だった。夜雀のように店でも開けば大盛況間違いないだろう。 2人で存分に舌鼓を打つと暗くならないうちに自宅に戻る。 人形作りの道具は全て香霖堂に置いてあるため、帰宅してからはスペルカードや人形の操作について研究し、早めに就寝する。 何の不満もない幸福な生活。強いて言えばいっそ香霖堂に住み込んでしまいたいが、それはまだ早いだろう。 自分も霖之助も人間に比べてずっと長く生きる。焦らなくて良い。むしろ親密になっていく過程をじっくり味わおう。 自分の人生はいまから絶頂期に入るのだ。 ……そう、思っていた。 次の話へ
https://w.atwiki.jp/kyoku/pages/258.html
極・魔導物語 ドクマムシ ND 秘封霖倶楽部 洒落怖秘封霖【非公式】 0 秘封霖倶楽部 「洒落怖秘封霖 【非公式】 0 秘封霖倶楽部」(しゃれこわひふうりん ひこうしき 0 ひふうりんくらぶ)は『洒落怖秘封霖【非公式】』のエピソードの一つ。2013年9月29日公開( pixiv )。 - 目次 概要 あらすじ前編 後編 概要 霖之助と秘封倶楽部の出会いを描く回であり、前後編から構成される大長編だが、ツッコミどころもその分多い。 とにかく京都大学を中学か高校と勘違いしているのではないかと思わせる描写が多く、他の回を読んでいれば霖之助の所属学部と履修科目の描写が全く合っていないことも分かる。 今回、なぜかフェミニズムや同性愛を極端なまでに憎悪の対象として描いている。 新女性世界の最後の一人が倒された後、霖之助は彼女たちの動機を疑問に思い「一体何が彼女達をここまで病的に刈り上げたのか分からない」と語る。 あらすじ 前編 紫からメリー監視の命を受けた霖之助は嬉々として外界へと踏み出す。そうして京都大学経済学部に一回生として通うことになった霖之助は、「銀髪の転校生」として学校中の注目を浴びながらも秘封倶楽部の二人を追跡する。しかし、二人は知り合いらしき女子学生に連れられて樹海の小屋へといざなわれつつあり、小屋の中を覗いた霖之助は女性同士の乱交現場を目撃する。逃走しようとしたところを乱交の参加者に目撃された霖之助は、翌日から学校で守島沙也加という人物を強姦したという風評を流されるようになる。また、秘封倶楽部はオカルトサークルという性質から捏造の心霊映像を餌に乱交集団へと勧誘されていた立場で、霖之助からその事実を突きつけられたことで彼への疑念を解きつつあったが、守島の後輩らしき女子学生から襲撃され、三人共々気を失う。 後編 秘封倶楽部の二人は乱交集団に拉致・監禁され、同時に集団が「新女性世界」という女尊男卑とレズビアンの正義を主張する集団であることを知らされる。秘封倶楽部は同性愛を否定し彼女たちに反論するが、多勢に無勢で集団に囲まれて身体を愛撫される。また、守島という人物もまた新女性世界の被害者であり、彼氏持ちの異性愛者だったにも関わらず同性愛者としての調教を受けていたことが判明する。 しかし、一方の霖之助は警察に保護されて無事であり、守島の彼氏・浩介の協力を受けて警察とともに新女性世界の小屋へ向かう。霖之助の案内によって警察は小屋へ侵入し、対する新女性世界は「独特な女の」「不可解極まりないおぞましい匂い」を発しながらヒステリックに抵抗するが、死闘の末にすべての構成員が逮捕され、霖之助は秘封倶楽部の信頼を勝ち取って彼女たちの仲間に加えられる。
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/294.html
これは 未知との遭遇(2)第三種接近遭遇 の続きとして書かれたものです。 変人さんはそこらに落ちてるので探してお読み下さい。正常な方は今すぐ閉じて下さい。どちらでもでもない方は慧音と霖之助がちょっと仲良くなった状態と考えてお読み下さい。 接近遭遇の順序がおかしいのは仕様です。 第四種接近遭遇 霖之助は商品の調達時以外は基本的に外出しない。読書が好きだからとか店番をしなければいけないから等は 体のいい言い訳でしかない。いや、もちろんそれらも大きな理由なのは間違いない、間違いはないが他にもいろ いろとあるのだ、長く生きていれば事情のひとつやふたつなどあって然るべきだ。とまあこれはどうでもいい話。 詰まるところ、今日も今日とて霖之助は香霖堂に籠っていた。 いつもと違うのはこの店にしては珍しく客がいることだ、常連以外の。霖之助にとっては不思議なことだが、 ある日を境に人間の客が急激に増えた。彼らはみな一様に好奇心に溢れた目で店主と商品を見て、たまに売上に 協力している。中にはなぜか霖之助に好戦的な態度を取る者もいた、全く相手にされていなかったが。 いやはや、理由が分からない。 ある陽光麗らかな午後、数人の女性客が店内にいた。彼女らもまた冷やかし目的で来店した集団だ。霖之助は 読書に意識の大半をまわしているので気づいていないが、冷静に見れば彼女らが見ているのが商品ではなく霖之 助であることを看破することは容易い。彼は時たま上がる黄色い声がうるさいとしか感じていなかったが。 「ごめんください」 店主が読書と客にいかにして売上に協力してもらうか姦計を巡らせることに気をやっていると何者かの声がし た。霖之助が本から顔を上げると果たしてその姿が春風に衣をはためかせていた。 「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」 「今さらあなたにそんなことを言われるのは変な感じがしますね。すみませんが今日も何か買おうというわけじ ゃないんですよ」 一応礼儀としての声を丁重に断る彼女――上白沢慧音だった。慧音は自分以外の客に気づいていないらしく、 形としては敬語だがどことなく柔らかい口調で声を掛ける。 一歩店内に踏み込んだ辺りでやっと客に気づく。慧音はすぐさまそれぞれの名前らしいものを挙げ、話しかけ るたが、女性客らは口々に何かを言ってすぐさまきゃいのきゃいのと退店していった。 「なんだったんだ彼女らは……」 その息のあった引き際の良さに霖之助は唖然としてしまった。慧音は自分に出会いの挨拶も交わさず、店主に 別れの挨拶もせずに帰ったことに不満をもらす。 「代わりに謝罪します、すみませんでした。彼女達の内のひとりは私の教え子でしてね、普段は礼儀正しい真面 目な生徒なんですが今日は少々様子がおかしかったようです」 律儀に霖之助に頭を下げる、彼としてはそんなことはどうでもよいのだが。走り去った客の容姿を思い出しつ つ質問する。 「今考えてみると彼女らは全員とも寺子屋の生徒といった風貌ではなかったようだけど」 きょとんと霖之助を見返す慧音だったが、すぐに合点がいった。 「寺子屋と言っても歴史の学校です。本分は歴史を教えて人間と妖怪の共存を図ろうというものですからね、門 戸は広く開けています。多少歳を食っていようと本人にその気があればみんな生徒ですよ。それにしてもあな たが他人の容姿を覚えているとは驚きですね」 それでも生徒は多くありませんが、と付け加えることは忘れなかった。 半妖からすれば人間の容姿を覚えるなぞ馬鹿らしいにもほどがある。彼らにとってのそれは、動物嫌いの人間 が野良犬や野良猫の成長を事細かに記録するような行為なのだ。気がつけば大きくなっているし、気がつけば死 んでいる、当然その内記録することが馬鹿らしくなってくる。それほどまでに寿命に差がある。 それから派生して妖怪などの長命な種族相手ですら容姿を覚えることなどしない。ただ「この相手はどこの誰 だ」という情報のみで事足りてしまう。むしろそれ以外は蛇足だ。 よって彼らにとって大体の場合、外見の記憶とは信愛の証とほぼ同義である。慧音のようにいちいち覚えてい る方がよっぽど稀有な例だ。 「彼女らは君と同じくらいの歳に見えたよ」 店主は客に椅子を勧め、客は店主の言に甘える。 「半獣の私と人間の彼女達を見比べるという愚かしいことをする方とは思っていませんでした。そういえばなぜ 彼女達は私に対してお邪魔しました、なんて言ったんでしょうね」 首をかしげる半獣、香霖堂での彼女は本当に物を知らぬ少女のようだ。 「僕にはがんばってくださいだの応援してますだのだったな。香霖堂の応援をするのならば声援ではなく商品の ひとつでも買って行ってくれた方が数倍助かるのだけど」 同じく首をかしげる半妖、彼に商人としての才があるのか甚だ疑問だ。 「今日は何の用だい? 買い物でないのはさっき聞いたけど」 霖之助は奥からカップをふたつ持ち出してくる。中は黒い液体がなみなみと満ちており、光を飲み込んでいる。 「はい、今日はですね。ええっと、あれです、前回相談したことについてです。あれがどうやら解決したらしい ので、相談した手前森近さんにも話しておくのが筋かと思いましてお邪魔しました」 もちろん霖之助にとってはどうでもいい話だが、彼女自身の気が済まないのだろう。つくづくつまらない堅物 だと霖之助は再認識する。 「その女生徒なんですがどうやらうまく行ったようで、ある男子生徒と一緒にいるところをよく見るようになり ました。うれしそうに礼も言って来ましたよ」 真っ黒な珈琲を啜りながら報告する。 「それは何より。でも少し意外だな、君がその手の相談に的確に答えられるとは思わなかったよ。前回の様子を 見る限りではね」 笑いを噛み殺しながら霖之助はカップを傾ける。慧音は苦々しい顔をするしかない、あれはどう考えても失態 だった。 「馬鹿にしないでください、と言いたいところですが私自身は何もしてないんですよね。礼もなんと答えれば良 いか困っていたところに突然言われたものですから」 「それは妙な話だな、何もしてないのに礼か。自己解決したが一応言っておこうとしたんじゃないのかい? 君 のように」 「その線も考えられますが、勇気を出して先生の真似をしたらうまくいきました、と言われたんです。私の真似 ということは知らず知らず何かをしていたんでしょうね。それが何かはわかりかねますけど」 いやはや、全く理由がわからない。 また珈琲を啜る。そこではたと気がついた。 「ここで珈琲を頂くのは初めてですね。何かあったんですか?」 「ああ、君の家でごちそうになったときにあまり飲めなかったのがくやしくてね。家で練習中なのさ」 「練習しなければいけないようなものは嗜好品とは言えませんよ。楽しめているうちに留めておくのが華です」 慧音の鼻は出された珈琲がなかなかの上物であると判断している。 「そこで何か不快な思いをしてね。最近はちょうど収入もあったから里で仕入れてみたのさ」 半獣はまたもや首をかしげる。 「不快な思いをしたのにわざわざそれを思い出すようなものを買ったんですか?」 「……言われてみればそれもそうだな。どうして僕はこれを買ったんだろう。心当たりはないかい?」 半妖の質問に答えられるはずもない。いや、答えは簡単だ、だがその簡単な答えを持っている存在は今の香霖 堂の店内にはいない。 慧音は黙って珈琲を啜る。霖之助のカップはすでに空だ。 いやはや、全く理由がわからない。わからないったらわからない。 ある夜、霖之助は珍しく表を歩いていた。たなびく雲が月にかかり、風が花を揺らし、霖之助の手にはいくら かの命の水。風情はないが、いい夜だ。彼は春風薫るあまりにいい夜なのでついつい散歩をしていた。 商売人が最も気をつけなければいけないのは情報だと聞いたことがある、なので職人芸というものを知ってお くのも悪くなく、自家製では出せない味を知るのも非常に重要なことだ。品物の価値を見極め、価格交渉をする に至ってはまさに商いの実践演習である。つまり今これを持っているのはつらい修行の一環だということは明ら かである。 普段は飲まぬ少し高めの酒を手に入れて霖之助はご機嫌だった。 まだまだ人里に近いというのに青年の足音を除いて実に静かである。夜遅いことを差し引いても少し静かすぎ る。浮かれた霖之助はそんなささいなことに気が回っていないようだが。 風があるとはいえせっかくの花を見ない手はないと外れに群生する桜を尋ねることにしたらしく、風呂敷包み をゆらゆら道を行く。 桜の木に近づく青年の姿を見つけた妖怪がいた。それは彼をまじまじと見つめ、しばしの逡巡の後に音を立て ずに移動を始めた。 「普段は挨拶挨拶とうるさい君が何も言わずに消えようとするとはどういうわけだ。お互い知らぬ仲ではないだ ろう」 霖之助は素早く動く影を見逃さなかった。もし目で見えなくとも妖怪ならではの気配を察知できただろうが、 確かに彼は彼女の後ろ姿をとらえていた。ばれずに逃げるには彼女の決断は遅すぎた。 「まけると思ったんだが逃げるかどうか迷ってしまったよ」 姿を見られては逃げてもやむなし、慧音はゆっくりと歩いて霖之助の元に寄る。すると木陰と月光を遮る雲に よって陰になっていた姿が露になった。 トレードマークの珍妙な帽子はなく、比喩ではない緑の髪に禍々しい二本角と毛むくじゃらの尻尾、片角には 血の色のリボンが揺れている。里が静かなのも当然だ、月に一度の特に妖怪が元気な夜である。 「やあ、こんな夜に偶然だね。お暇であれば一献どうだい? いいものが手に入ったんだ」 それを知ってか知らずか霖之助は普段と変わらぬ声で包みを持ち上げる。 「それは?」 「般若湯ってやつさ」 「店主殿は仏門に入られてるのか」 あいかわらず堅いねと霖之助は呆れ顔で笑う。 桜を前にふたりはどっかりと座り込んでいた。あり合わせの器に酒を注ぐ。 「肴はないけど宴会ってわけじゃないから我慢してくれ」 霖之助の杯は酒の瓶の蓋だ、おかげでろくに飲めやしない。彼は最初瓶に直接口をつけての回し飲みを提案し たが、下品だと一蹴されていた。 「春風に舞う花吹雪以上の春の肴は知りません、腹は満たされませんがそれ以上のものなど望むべくもない」 慧音の杯はなぜかひとつだけ霖之助が持っていた普通のぐい飲みである。途中で誰にも会わずとも呑むつもり だったのかもしれない。 「じゃあ、夜に」 杯を軽くぶつけ合う、霖之助の椀からはそれでも酒がこぼれた。 「こんな時間になぜ君はここにいたんだい」 やや辛めの味わいを口腔に染み渡らせながら質問をする。 「仕事の最中の小休止だ、ひと月もたまっていると量が多くてかなわん」 白沢化しているせいか普段より口調が強い。霖之助はやっと慧音の変化に気がついたようだ、空を仰ぐと一部 隠れているものの月はまん丸である。 「学校の仕事がたまっているのかと思えば……。そうか、今日は満月か。道理で僕の気分も高揚するわけだ。君 も珍しく洒落っ気を出しているようだし」 「気がついていなかったのか? やれやれ、不用心にもほどがある。それに私が逃げようとした意味がない」 慧音が溜息をつく。出来の悪い生徒に頭を悩ませているようにも見える。先生が板についてきたと言えば聞こ えはいい。 「妖怪を受け流す術なんていくらでもある、それに今の幻想郷で昔より危険な場所があるなら是非ともご教授願 いたいところだね」 昔の世を知っていれば今の幻想郷で恐れるようなものはろくにない。半妖は両者の長所を併せ持つのでずるが しこく出し抜くことも容易だ。ここでは彼らに命の危険などないに等しい。 「そういえばなぜ君は逃げようとしたんだ。普段の君が嫌いそうなことだが」 「質問を続けるのは無礼だぞ。まあ非があるのは私だから仕方ないか。すまない、癖のようなものだ。いくら慣 れ親しんだ相手でも、初めてこの姿を見せると大抵怯えられてしまう。向こうがそういう素振りを見せないよ うにしてるのがわかってしまうのがなおさら辛くてね。あまりこの格好で人前に出ないようにしているんだ」 「それはそれはご立派な心構えだ、しかし半妖相手にその対応は失礼じゃないかね。たかが角の一本や二本生え たくらいで腰を抜かすと思われているようだ」 だからすまないと言っているでしょうとなだめる慧音は酒のせいかゆるい表情だ。早く言えば笑っている。 二人の飲むペースは遅い。慧音はこの後の仕事に障らない程度に飲んでいるし、霖之助はあまり飲んで注いで 飲んで注いでを繰り返すのも無粋だと抑えている。結果、話すか散る花を見送るかのどちらかの時間が長くなる。 「僕に仏門に入っているのかと聞いたが君のほうがそれらしいんじゃないかい? 不邪婬戒も守っているようだ し」 ニヤリと笑う、目はやたらと楽しそうに光っている。もちろん慧音が嫌がるのを承知の上でやっているからた ちが悪い。 「陰険だな、それにお互い様だろう。そもそも、だ。そういう機会がこれまでなかったのだから正確には不邪婬 戒を守っているわけではない」 「はあ、面白い返しのひとつも期待した僕が馬鹿だったよ。口調や態度が違っても君は君だな」 「……悪かったな」 「悪いとも言ってない、生半可な答えを返してくるような相手だったら今こうしていることはなかったろう。そ れにしても本当に一度も恋仲になった男はいないのかい? 声のひとつもかかって良さそうだが」 霖之助の性質を考えればこれは駆け引きでなく純粋な疑問なのだろう、信じがたいことに。 「そういうお話を頂いたことはありますし声をかけられたこともあります。ですがね、迂闊に応えて悲しい思い をするのは御免だ」 「やっぱり考えることはみんな似たようなものになるんだね、僕の場合はそれ以上に面倒だというのがあるのだ けど。それらがなければ今頃僕も君に森近の旦那さんと呼ばれていたかもしれないね」 たぶんない、例え両者ともただの人間だったとしてもおそらくそんなことにはならない。 それに後天性と先天性が会うこともなかっただろう。 「気づかれていたか。商家の男主人は旦那と呼んでいいんですけどね、私は未婚なら店主と呼ぶことにしている」 しばし沈黙が流れる。風の勢いが増し、まるで吹雪のように花が散る。散ってしまう。月も完全に隠れ、ほの 明るい花びらの反射では人の輪郭は見えても表情までは読み取れない。 ふたつの影の片方がぐいと杯を空け、語りかける。 「仲のいい人間がいるな」 その声は高い。 「君が言っているのが魔理沙なのか霊夢なのかはわからないけどね」 「霧雨の娘さんの方だ。貴方の力で彼女を家に帰らせることはできないか?」 「魔理沙の家は森の中だよ。何も言わなくても家に帰る」 「わかっててひねた答えをするな。霧雨の旦那さんも歳は食う、娘が可愛くないわけがないでしょう」 わかっていてもどうすることもできないこともあるし、どうにかする気にもならないこともある。放っておいて 欲しいなら人の生き方に干渉しすぎるのは下策だ。 「僕が霧雨の家にできる魔理沙に関する最大のことは、彼女の最期を見送ることだと思ってる。それは変わらない よ」 珍しくはっきりとした拒否に舌打ちが響く。 「貴方も半分は人間でしょう」 「もう半分は妖怪さ。完全な人間の経験はない、君とは違ってね」 「……皆が仲違いなく幸せに暮らすことができればそれが一番だろうに」 「なにが幸せかなんて本人にしか決められないよ」 説得させるための説得はあえなく失敗に終わった。負け惜しみまで否定するのは少々趣味が悪いが、らしいと言 えばらしい。 休憩のはずが心労が溜めているのはどうなのだろうか。慧音は角の根元のさらに下あたりを押さえながら深いた め息をついている。 それを見て今度はもう片方が杯を干す。まだ満月は雲に隠れている。 「ちょっと酔ってきたようだ、満月のせいかもしれないな。これから先は酔っ払いの鼻歌程度に聞いてくれ」 軽く息を吸う。 「君はなぜそこまで人間に肩入れする? いや、できる? 産まれたての赤子だって五十年もすれば死ぬ、運よく 病を患わなくともせいぜいが七十。親しくなればなるほど死別で傷付くのは自分だってことくらいわかるだろう。 僕は運よく親からだからそういうものとわかっているが、君は違う。先立った者の中には幼馴染や友もいただろ う、だのになぜ今も人の間で笑っていられるんだ」 淡々と声が紡がれる、少なくとも淡々としているように聞こえる。好奇心から来るどうでも良い質問のひとつの ような響きだ。男女の機微に疎く性格上皮肉にも弱いとはいえ、相手は伊達に賢人と呼ばれてはいないが。 「そう、ですね……。逆に質問させてもらうが貴方は目の前に広がる眺めをどう思う? 掃除が大変そうだとかそ ういうひねた答えはいらないぞ」 「素晴らしいと思うよ、もちろんね」 「うむ、桜、蛍、花火、紅葉、満月、一部での雪。美しいとされるものには見られる期間が短いものが多いです。 逆に短いからこそそこに趣を見出すのでしょう。あなたはすぐに散ってしまうからと桜を見ないのですか? す ぐ死んでしまうからと蛍を見ないのですか? 私はできるだけ近くで見たいと思っているだけです。もっとも今 見ているものは必ずしも美しいだけとは限りませんが、それを含めて見るのも一興ですよ」 私がもともとは人間というのもありますけどね、と付け加える。 「いつか貴方から聞いたお話ですがね。私は半妖になってからもしばらくは恵まれていたんだ。両親だけでなく知 り合いのほとんどがそれまでと変りなく接してくれた。もしそうでなかったら今頃私は陰険でひねくれた半妖に なっていたかもしれない。貴方が霧雨の娘さんに対して考えていることのように、私がそのときの恩を返し続け ることは変わらない。返し終える日が来るとは到底思えないがね」 「全く、君は真面目すぎる。いつか足元をすくわれるかもしれないよ」 群雲が晴れ、月が再び顔を出す。 仏頂面の霖之助が自らと含み笑いを帯びた慧音に酌をする。酒はまだほとんど飲まれていない、こんな量で妖怪 と混ざっている者たちが酔えるわけがない。 「すくわれたらすくわれたです、古い歴史が終わって次の歴史が始まる。伝えるべきことを伝え終えたら私が不要 になるだけだ」 愛する人達の為になるならば消えることも吝かでない。しかしそれまではいつ自分が不要になるのかわからぬま ま全力で里を守る、らしい。 「やれやれ、君を見てると悟りを開いた聖人なのかただの白痴なのか判断に苦しむよ。苦痛を受けることを苦痛と 思わないなんて僕の理解できる範囲からは少し外れている」 「私は半妖だからな、体も心も丈夫なんだ。……ただ、受けるのは構わないがその逆は少々辛いものがある」 慧音の表情がやや湿る。淀む口に酒をあおる間に霖之助が先を続ける。 「人から人の形をしたものになった蓬莱人、藤原妹紅、か。確かに彼女ほど寿命比べを挑むのが馬鹿らしくなる相 手はいない」 「知っているのか?」 「ちょっと縁が合って最近ね。あの目の持つ力はやはり永い人生で培ったものなのだろうか」 慧音は驚きを隠そうともしない。霖之助も妹紅も自ら進んで誰かと会うタイプではない、それどころか追い返す ようなこともする人間だ。今でこそ妹紅は永遠亭への患者を護送したりしているが積極的には人の元へは行かない。 ふたりに接点など全く思いつかない。 「どんな縁なんだ」 「聞くは無粋だ。続けてくれ」 動かないふたりの関係に興味津々といった様子である。ならば余計に霖之助が応えるわけがない。 「ああ、妹紅と知り合ったのは少し前でな、そこら辺は今は割愛するか。人と馴れようなんて毛ほども思っちゃい ないとのたまったんだ。人間ならそんなことあるはずないだろうのにな」 霖之助の脳裏には本気で嫌がっている蓬莱人とそれを根っからの善意でつけまわす半獣の姿がありありと浮かん だ。ついでにあまりのしつこさについに根負けする姿も。 「妹紅に笑顔は増えた。だが冷静によくよく考えてみると私がしていることは彼女に苦しみを与えることになりか ねん、親しくしようとすればするほどにな。半妖の永いは長いの言い換えだが、蓬莱人の永いは正真正銘の永い だ。付き添うべきは私のような紛いものではなく竹林にいる月人のような本物なのかもしれないと思うと、ね。 貴方はどう思う?」 花吹雪の名の通り桜が雪のように舞う。夜桜であれば毎回雪月花を同時に楽しめると思えば、なるほど春風も悪 くない。 「これはとある人からの受け売りなんだが……」 小さな杯を乾かしてからゆっくりと口を開く。 「君はすぐに散るからといって桜を見ないのかい?」 しばししてふたりの口の端が吊り上る。まだ声はこぼれない。 「なるほど、うまい冗談とはこういうものなのだな。下らないだけでなくそれ自体で完結している。それに答えと しても二重丸だ」 ひとしきり――やや下品なほどに――高らかに笑い声を上げていた慧音が話し始める。上ずった声と腹を押さえ る手がまだまだ余韻が残っていることを示している。 「だが私を花に例えるとは少しほめすぎだ、それでは精一杯これほどまでに美しい薄桃色の花を咲かせている桜に 失礼というもの。もう少し位を下げてくれ」 「僕は嘘なんて面倒なものは使わないよ。それに君は……、んん、君の人間に対する強い心は桜に負けるとも劣ら ず素晴らしいものだと思う。僕には到底真似できないよ」 対して霖之助は至って落ち着いている。彼女が過剰反応しすぎていると思っているのだろう、彼の笑みは若干引 き吊り気味になっている。 「実際妹紅がどう思っているかかはわからないが少し気が楽になった、感謝する。貴方も陰険なだけじゃなかった んだね」 「今回は少しばかり自信があるから今まで通りに彼女と接すればいい。あともしいい人に見えるなら今僕がべろべ ろに酔っているからだろう。明日になればいつも通りの陰険な店主に戻ってるよ」 それは残念だとまた妖怪が笑う。あまりの笑いっぷりに半妖は引く。 「残念だがまだ仕事もある、今日はここらで退散させてもらうよ」 「なら僕も引き上げるとしようかな」 杯を瓶の口にあてがうと素早く風呂敷で包む。霧雨店での修行の成果を披露する場面の大半が客前でないのが残 念である。 やたらきっちり別れの文句を述べる慧音を霖之助が放置する形でふたりは別れた。最後にやや大きな声で投げか けた感謝の意に対する返事は、あまりに小さくて届くことはなかった。 「悩みがひとつなくなった! ありがとう!」 「こちらこそ」 霖之助の荷物の重量はほとんど変わっていない、それをゆらゆら家路を進む。彼は道すがら今日の会話を思い出 していた。 「そういえばとても不格好な皮肉を言われたような気がするな……」 首を振って自らの記憶を否定する。相手はあの慧音だ、そんなはずはない。 慧音の足取りは軽い、跳ねるように家路を辿る。彼女は道中今日の会話を思い出していた。 「今日は珍しく真面目に話を聞いてくれたししてくれたような……」 首を振って自らの記憶を否定する。相手はあの店主だ、そんなはずはない。 それでも胸の奥底になにか不気味なものを埋め込まれた気がする。 つづけーね
https://w.atwiki.jp/pmvision/pages/145.html
《森近 霖之助》 No.1490 Character <第十六弾> GRAZE(1)/NODE(2)/COST(1) 種族:人間/妖怪 (自分ターン)0: 〔あなた〕はカードの種類を1つ宣言し、〔あなたのデッキの上のカード1枚〕を公開する。公開したカードの種類があなたの宣言したカードの種類と同じだった場合、公開したカードを手札に加える。異なっていた場合、公開したカードを破棄する。この効果は1ターンに一度、メンテナンスフェイズにしか使用できない。 攻撃力(3)/耐久力(2) 「まだ、開店まで随分と時間が有るんだが…いったい何の用だい?」 Illustration:鳥居すみ コメント 香霖堂の店主。 今回も後衛から戦線をサポートすることに努めている。 長々と書いてあるが、要はデッキトップの種類を当てればそのまま手札に加えられる効果。 このゲームのカードはキャラクターカード、スペルカード、コマンドカードの三種類に区分されているので、ただ使用するだけでは1/3の確率でしか手札を増やせない。 おまけに単体での戦闘力は著しく低く、とどめと言わんばかりにルーミア/14弾の圏内なので、何の策もなく漫然と投入しただけではデッキ枠の圧迫にしかならない。 そのため、確実に効果を活かせるようなデッキに投入して積極的にアドバンテージを稼ぐ必要があるだろう。 分かりやすい策としては逆転「リバースヒエラルキー」デッキのような特定の種類を排するデッキに投入してヒット率を水増しすること。 いっそのこと明羅/9弾や河城 にとり/11弾と合わせてキャラクター以外のカードを最小限に抑えたデッキを構築してもいいかもしれない。 自身の店の商品である河童の五色甲羅との相性は抜群、宣言を行う前にデッキの上のカードを操作できるので最低でも1枚は手札に加えられる上に運がよければ2枚まで追加で手札に加わる可能性がある。(QA-320) また、宏観前兆のようなデッキトップを調節できるカードと組み合わせて確実に効果をヒットさせていくのも有効である。 この場合、見たカードの中に小野塚 小町/11弾のように冥界にいてほしいカードが混ざっていた場合、あえて効果を外して冥界を肥やしていくという荒業もある。 上手く使えばノーコストでカードを引くことができるが、最大の敵は効果発動までのタイムラグ。 コマンドを駆使して相手ターンを生き残れるようにしたいが、デッキ構築次第ではそれすらままならないのが悩ましいところ。 また、引くカードを一度相手に見せるという性質上相手に対策を取られやすく、姫海棠 はたて/PRのようなカードに弱い点にも気をつけた方がいいだろう。 収録 第十六弾 Liberal Emotion 関連 森近 霖之助/1弾 森近 霖之助/7弾 森近 霖之助/12弾 森近 霖之助/16弾 森近 霖之助/20弾
https://w.atwiki.jp/thvision/pages/378.html
《梅霖の妖精》 No.157 Character <第三弾> GRAZE(0)/NODE(2)/COST(1) 種族:妖精 (自動α): 〔このキャラクター〕は「貫通」または「先制」を持つキャラクターから戦闘ダメージを受けない。 攻撃力(1)/耐久力(4) 「このお店は住みやすいわ~」 Illustration:雨宮結鬼 コメント 非常に防御向けの能力を持ったキャラクター。 しかしグレイズ値が0であるため、状況によっては攻撃も行うことが出来る柔軟性がある。 先制か貫通を持つキャラクターから戦闘ダメージを受けないという能力は、本人の戦闘力と相まってかなり強い。 ルナチャイルドは通らず、スターサファイアでも負けてしまう。 霧雨 魔理沙/1弾やレミリア・スカーレット/1弾を一方的に止められる。 フランドール・スカーレットや神槍『スピア・ザ・グングニル』を持ったキャラクターを一方的に止められる。 漆黒の風と組み合わせるとどんな相手からでも生きて帰ってくる。 逆に、該当する戦術を持っていない中型以上のキャラには弱いので、デッキによってはあまり意味がない。注意。 2008年5月2日より、ルールサマリー加筆に伴うテキスト変更が加えられた。 戦闘ダメージを受けないため、貫通によるプレイヤーへのダメージも発生しない。 貫通や先制を持つキャラクターが発生源であっても、楼観剣の効果ダメージは残念ながら無効化できない。あくまで戦闘ダメージに限られる。 コストも低く、耐久力も4あるため槌の子の効果を使ってマナチャージに活用することもできる。 公式QAより Q029.「耐性A」や「戦闘ダメージを受けない」、あるいは「(防御キャラクターへの)戦闘ダメージを無効とし~」といった効果を受けているキャラクターを「貫通」を所持したキャラクターで攻撃した場合や、相手プレイヤーへ「貫通」のダメージは発生しますか? A029.いいえ、発生しません。それらの場合、防御を行っているキャラクターはダメージを受けないため、「貫通」の条件である「戦闘ダメージを与える」を満たせないためです。 関連 第三弾 スターターデッキ紅 梅霖の妖精/15弾
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/246.html
同じ年の子がただ無邪気に遊んでいた頃、私には既に目標が出来ていた。 物心ついたころから傍にいた、父とも兄とも言いがたい人。何でも出来て、何でも知っていて、とても優しい人。 その人みたいな大人になりたい。その人と肩を並べられるような自分になりたい。 人生のある時期まで、私はそんな想いを遂げるために生きていた。 私の名前は、霧雨魔理沙。 幻想郷という世界の、人里という集落にある道具屋の子供。 【後継者】 私の家には、修行のために住み込んでる人がいる。その人の名前は、森近霖之助。 本当は人間じゃなくて、お父さんより年上の半妖だって聞いたけど、どう見たってそんなおじさんには見えない。 それがどういうことなのか、まだ小さい私にはよくわからないけど、嫌だなとか、変だなとかは思わなかった。 私の家には、お父さんでもお祖父さんでもない、霖之助という大人の人がいる。ただそれだけのこと。 一つだけ困ったのは、この人をなんて呼んだらいのかわからなかったことだけど、正直に聞いてみたら"香霖"って呼ぶように教えてくれた。 仕事が忙しいお父さんたちの変わりに、香霖はよく私の相手をしてくれる。 香霖といるのはとても楽しい。知らないお話もたくさん聞かせてくれるし、なにより凄いのは、彼の魔法。 やっぱり私には難しいことはわからなかったけど、キラキラした光が飛び回ったり、赤いはずの火が青や緑に変わったりして、いつもただただ感動していた。 「一通り学んでみただけで、僕の使う魔法はたいしたことないよ」 って香霖は言うけど、お父さんはそんなことないって首を振る。 無闇に人を襲う妖怪を追い払ったり、逆に意味もなく妖怪を殺して回る退魔士なんかを懲らしめたりしているんだって。 その話を聞いた時、私は思った。私も香霖みたいな魔法使いになりたい。香霖みたいに魔法を使えるようになって、今は一人で頑張ってる香霖を助けてあげるんだ。 香霖にそう言うと、 「それは楽しみだね」 って嬉しそうに笑って頭を撫でてくれた。 その日から、魔法の修行が私の生きがいになった。 私が魔法の修行を始めてから何年か経った。今、香霖は私の家にはいない。 自分の店を持つのが夢だったからって、魔法の森に行ってしまった。 魔法の森は人里よりもっと妖怪の多い場所だ。 香霖一人じゃ危ないかもしれないし、香霖より魔法の下手な私じゃ会いに行くこともできない。 そう思った私は、それまで以上に頑張って修行に打ち込むことにした。 香霖に一人で会いに行けるようになりたいのもあるけど、いつか香霖が妖怪に襲われて危なくなったときに、私が颯爽と現れて香霖を助けてあげるんだ。 そうしたら、香霖はなんて言ってくれるだろうか。 ありがとう? すごいじゃないか? よく頑張ったね? ……何でもいいや。それがどんな言葉でも、香霖はきっと褒めてくれる。嬉しそうに笑って頭を撫でてくれる。 だからもっと頑張ろう。早く香霖の役に立つために。 そんなある日、香霖が妖怪に襲われた。 昔香霖が追い払っていた妖怪たちが逆恨みして、一斉に香霖の店に襲い掛かってきたらしい。 そのことを聞いた私は、練習用の杖を持って飛び出していた。 香霖が怪我をしたらどうしようとか、そんな心配は全然してなかった。香霖がやられるわけがないって思っていたから。 これはチャンスだ。香霖に私がどのくらい強くなったのか見せてやる。 私が行く前に、妖怪たちを全部倒したりしないでくれよ。 自分の力を見せ付けたくて、私は魔法の森へと急いだ。 見つけた。あれは香霖の使う魔法の光だ。すぐあそこまで行って大暴れしてやろう。 そんなふうに勇んで近づいた私は、徐々に強くなる"殺し合いの光景"に、自分がどれだけ甘いことを考えていたのか思い知らされた。 あたりには妖怪たちの血や肉片が飛び散り、生臭い臭いが内臓にまで染み込んでくる。 木の枝に引っかかったピンク色の肉塊に、思わず吐きそうになった。 口を押さえて視線を前に向けると、香霖はあちこちから血を流して苦しそうにしていた。 妖怪たちはまだ数匹残っている。 離れているからこちらには気付いてない。 だというのに、こういう場面に慣れていない私は、そいつらの放つ本気の殺気に当てられてしまった。 憎しみの篭った咆哮。怒りに歪む表情。容赦のない攻撃。 目に映る全てが、私の想像していたものより遥かに苛烈で恐ろしい。 手はカタカタと震え、足は地面に縫い付けられたみたいに動かない。 そんなふうに私が怯えている間にも、一人で妖怪たちに立ち向かっている香霖はみるみる傷ついていく。 助けなきゃ。このままじゃ香霖が殺されてしまう。 今まで何のために頑張ってきたんだ。香霖と一緒に闘うためだろう。香霖を助けるためだろう。 叫ぶ心とは裏腹に、体は言うことを聞いてくれない。 はやく、はやく助けに行け 香霖を見殺しにしてしまう 今動かないと、今助けないと、香霖が! 動け! 動けって! なんで動かないんだ!? 動け 動け 動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け! 動けって……言ってるのに…… その直後、話を聞いて駆けつけた慧音によって妖怪は退治されたけど、香霖は重症のために昏倒、予断を許さない状況が続いた。 治療しに来た永琳は、日常生活に支障が出ることはないけど、おそらく魔法を使うことは出来なくなるだろうと言った。 「うっ……ぐぅっ……」 どうやら、人間は本気で怒りを感じたときにも涙が出るらしい。 家に戻った私は部屋に閉じこもり、歯をギリギリと食いしばって涙を流していた。 香霖が死にそうになっていたのに、怖くて助けられなかった。いや、助けようとしなかったんだ。 情けなくて、悲しくて、腹が立って、頭の中はぐちゃぐちゃだ。 その日、私は朝までずっとボロボロと泣きながら自分を責めていた。 数日部屋に篭っていると、いい加減怒りも底を尽きる。 疲れ果ててぼんやりとした頭で、私は魔法の道を断念しようと考えていた。 それまで私が目指していた道は、香霖と2人で肩を並べて歩く道だ。 それだけを目標に、ずっと前を歩いている香霖を走って走って追いかけてきたんだ。 でも、香霖は魔法が使えなくなってしまった。私がどんなに凄い魔法使いになっても、その傍らを香霖が歩くことはない。 私が進む魔法の道は、私一人の孤独な道でしかなくなってしまった。 第一、香霖を見殺しにしようとした私が、これ以上魔法の修行を続けたいなんて勝手なことを言えるはずもない。 どうせ返り討ちにあうのが関の山だったとは思う。それでも、何も出来ないなんてことはなかったはずだ。 実際、あの後すぐに慧音が駆けつけたんだから、私が注意を引くだけでも香霖の怪我を減らせただろう。 結果論かもしれないけど。 ……とにかく、香霖が起きたら謝ろう。 助けなかったことと、魔法の勉強をやめてしまうこと、その両方を。 怒られるかもしれないけど、それでもいい。むしろ思いっきり罵倒されたいくらいだ。 それからまたしばらく経って、ようやく香霖は話が出来るくらいに回復した。 お見舞いとお詫びに向かった私を、香霖は笑顔で迎えてくれたけど、今はその笑顔が心に突き刺さる。 少しだけ話をしてから、私はあのときのことを謝った。 涙を堪える私に、気にしなくていい、君に怪我がなくてよかった、って香霖は言ってくれた。 それを聞いて、私はまだ香霖にとって守られるだけの存在なんだ、とか考えてしまった。 香霖は本気で私の無事を喜んでくれているのに。 そんな私が惨めで、魔法の修行をやめるって伝えるときは、香霖の目を見ることが出来なかった。 息を呑む気配のあと、香霖の声は少しだけ硬くなった。 「魔理沙、君がそこまで僕を慕ってくれていることは嬉しい。小さい頃からの目標を失ってショックなのもわかるつもりだ。 それでも僕は、魔理沙に魔法の修行を続けて欲しい。僕が魔法を使えなくなったからこそ、ね」 それを聞いて顔を上げると、香霖は軽く頷いて話を続けた。 「今の僕からは想像できないかもしれないが、昔の僕は結構な野心家だったよ。 人並みより多少覚えがよくて寿命も長いから、いつか幻想郷のパワーバランスを塗り替えるほどに強くなるつもりだった。 まあ、すぐに挫折することになったけどね。どんなに頑張ってもある一定のレベルで必ず壁にぶち当るんだ。 何年努力し続けても破る糸口すら見つからない。 向き不向きの問題かと思ってあらゆる分野に挑戦したけど、結局は器用貧乏の域を出なかった。 それで、僕の能力を活かすべく道具屋になることにしたんだ。 幸いマジックアイテムの製作についてはかなりの水準に達していたからね」 まだ長い時間話すのは辛いらしく、香霖は少し息を整える。 「魔理沙が僕みたいになりたいって魔法の修行を始めたとき、これはすぐに僕なんか追い抜いていくなと思ったんだ。 普通は焦ったり嫉妬したりするんだろうけど、僕はただ嬉しかった。 僕が魔法を身につけたことで、君という優れた魔法使いを誕生させるきっかけになれたからね。 目の前の壁がどうしても破れなくて、絶望と共にうずくまっていたけど、 いつか僕の後ろから君が来て、僕の代わりにその壁を壊してくれる。 僕が自力で見ることの適わなかった、壁の向こうの景色を君が見せてくれる。 魔法使いとして大成することを諦めてからずっとくすぶっていたやりきれない想いを、君が晴らしてくれたんだ。 だから僕は、魔法を使えなくなったことに対して未練や悔いは全くないよ。 僕の後を継いでくれる者として君がいるし、現役の魔法使いとして、最後の最後で一番大切なことを 君に教えることが出来たからね。他者と争う力をつける、その恐ろしさと危険性を」 「……」 言葉もなく香霖を見つめる私。 恥ずかしかった。 こんなに期待してくれていることに気付かなかったことも、そんな香霖に向かって魔法をやめるなんて言ったことも。 「実は、君に渡したくて店を構えてからずっと作り続けていたものがあるんだ。 もともと僕の愛用していた火炉を改良したもので、魔理沙にあわせて調節するのに苦労したんだよ。 いつか君が一人前の魔法使いになったときに使ってもらいたくてね」 そう言って香霖が取り出したのは、手のひらに収まるくらいの小さな八卦炉だった。 受け取ったミニ八卦炉は、握り心地も、私の魔力との馴染み具合も、おそらく使いやすい魔法の系統まで、完璧なまでに私に合わせて作られていて、香霖がどれだけ力を注いで作ったのかよくわかる。 「卑怯な言い方をするけど、君が僕にあこがれていてくれたなら、そして僕に申し訳ないと思ってくれているなら、魔法をや めるなんていわないで欲しい。 これは僕の我侭だ。君が聞く必要なんてまったくないけど、それでもお願いするよ。 魔理沙、僕が胸を張って自慢できるような魔法使いになってくれないか?」 ……私はとんでもない思い違いをしていた。 私がこれから進む魔法の道は、決して孤独な道なんかじゃなかったんだ。 傍らを歩いていなくても、私が歩いていくその姿を後ろで香霖が見てくれている。 くじけそうになって振り向いたら、そこに香霖がいてくれるんだ。 握り締めた八卦炉も、香霖の思いも、重くて重くて押しつぶされそうだったけど、その重さが嬉しくて、私はずっと泣いていた。 「……なんだあんた? 私に一体何の用だい?」 「あんた、強い悪霊なんだろ? 私に魔法を教えてくれよ。私はもっともっと強くならないといけないんだ」 「やれやれ、悪霊に師事しようと頼む人間なんて聞いたことないね。 その度胸は買うけど、それなりの実力を見せてもらわないことには了承できないよ」 「望むところだ。私の覚悟ってやつを見せてやるぜ!」 握り締めた八卦炉はまだ重いけど、いつかこの重さを受け止められるようになってみせる。待っててくれよ、香霖!
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/193.html
前の話へ 次の話へ あらすじ 霖之助の協力のもと日本人形を完成させたアリス 次は一人で作ろうと自宅に篭るが、霖之助にフラグを立てられていたため、寂しくなって香霖堂へ。 なんだかんだでめでたく毎日通うことになりました。 スー……、パタン。 霖之助にあてがわれた部屋に荷物を置きにあがったアリス。 廊下から見えないように襖を閉めると、糸が切れた人形のように崩れ落ちる。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」 畳に腰を下ろして両手を突き、大きく息を吐く。 本来陶磁器のように白い肌は首まで真っ赤に染まっていた。 心臓はここで一生分働きつくしてやると言わんばかりに回転数を上げ、手足はいまだに軽く震えている。 (あれは反則にも程があるわよ……!) 叫びだしたくなるほどに昂ぶる感情を抑え、アリスは先ほどのことを思い出す。 『ありがとう。また来てくれて嬉しいよ』 ただでさえ受け入れられたことが嬉しくて頭が煮立っている所だというのに、そんなことを言われた日にはもう声も出せなくなってしまう。 真っ白な頭の中とは正反対の真っ赤な顔で、カク……カク……と壊れた人形のように首を縦に振り、転びそうになるのを何とかこらえて部屋に辿り着いた。 訝しがられたかも知れないが、取り繕うことなど不可能だ。 スキマと閻魔と花の妖怪と亡霊の姫に同時に喧嘩を売って無傷で生還するくらい無理だ。 霖之助の笑顔が頭から、言葉が耳から離れない。 上海と蓬莱を呼び寄せて力いっぱい抱きしめる。 「~~~~~~~っ」 声にならない叫びと共に畳の上を転げ回るアリス。その顔はこれ以上ないほどにやけまくっている。 来てくれて嬉しい。 来てくれて嬉しい。 来 て く れ て 嬉 し い! それはつまり、霖之助もアリスに会いたかったということだ。 それもあの朴念仁がわざわざ口に出して思いを伝えるほどに。 期待しすぎてはいけないと理性が警鐘を鳴らそうとするが、このくらい自惚れたって構わないだろうと黙らせる。 いつまでも悶え続けるアリスが再び霖之助と顔を合わせられる程に落ち着くのは、相当後になりそうだった。 一方の霖之助は、部屋から聞こえてくる妙な音に首をひねっていた。 前の話へ 次の話へ
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/198.html
「こんにちわ~」 魔法の森の古道具屋、香霖堂に女性の声が響き渡る。 声の主は幻想郷トップクラスの有名人、八雲紫。 今日もまたスキマを使って入ってきた紫に、霖之助が声をかけた。 「いつも言っているが、せめて店の戸を開けて入って来てくれないか? 心臓に悪いんだが」 「だあってこっちのほうが楽なんですもの」 「あんたがどうこうじゃなくてこっちが迷惑だって言ってんのよ……」 突っ込むのは最近店の看板娘となった七色の人形遣い、森近アリス。 今日はいつもの洋服ではなく、水色の着物を着ている。 「こんなか弱い女性を2人でいじめるなんて。このドS夫婦」 「あんたがか弱かったら大概の妖怪は虚弱体質よ」 今日も皮肉の切れ味は良好なようだ。 「霖之助さん、こんな意地悪な女なんかほっといて私とイイ事しない?」 「折角のお誘いだが遠慮しておこう。僕は愛する妻で十分だよ」 「あらあら、お熱いことことねえ。まあ飽きたら言って頂戴。いつでも相手になるわ」 どうやら今回は簡単に引き下がるようだ。 適当に相槌を打とうとした霖之助だが、何かが頭に巻きくのを感じた。 「アリス?」 見れば、アリスが霖之助の頭を胸に抱き寄せて紫を睨みつけていた。 「そんな怖い顔しなくてもほんとに取ったりしないわよ。まったく見せ付けてくれるわ。それじゃあまたね」 そういい残して紫は帰っていった。 が、アリスは霖之助の頭を離そうとしない。 「アリス。そんなことをしなくても僕は逃げたりしないよ?」 「だって……」 「アリス。何度も言っているが、僕が愛しているのは君だけだ。 世界中のどんな美女が言い寄ってこようが僕が動くことはありえない。 僕の心は君でいっぱいで、他の女性が入り込む余裕なんてないんだから」 「……うー」 今までの反動か、事あるごとに霖之助にくっつこうとするアリス。 そのアリスを説得しているうちに、歯が浮くような台詞をこともなげに放つようになった霖之助。 アリスとしては嬉しいやらくすぐったいやらで、むしろ前よりたちが悪い。 結局、今度は赤面してしがみつくアリスが離れてくれたのは、夕食時になってからだった。 前の話へ