約 3,996,851 件
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/93.html
「栞菜、楽しかったわ。ありがとう。」 スイーツと輝きがリミックスバージョンみたいになって耳から離れない私とは対照的に、カラオケ店を出てからもちっさーはご機嫌だった。 「・・・・ちっさーが楽しかったならいいよ。 で、今からなんだけどさ。良かったら、栞菜の家で夕ご飯食べて行かない?」 私が誘いをかけると、ちっさーは慌てて胸の前で両手を振った。 「そんな、申し訳ないわ。私のためにそんなに気を使わないで。今日は、このまっままっすぐ帰るわ。とても楽しかった。」 「でもちっさー・・・ううん、わかった。じゃあ改札まで送るよ。」 強引に誘うのはもうやめた。 本当に名残惜しいのだけれど、まだ私はちゃんとちっさーとの距離の測り方がわかっていないのだから、引くところは引かないといけない気がした。 「じゃあ、またね。」 「ええ。また。」 ちっさーはにっこり笑って、のんびりした足取りで改札へ向かっていく。 定期入れを片手に改札の順番待ちをする姿を眺めていたら、ふいにちっさーの足が止まった。 「ちっさー?」 急に流れを止めたちっさーを、怪訝そうににらみながら後ろのサラリーマンが追い越していく。 何人もの人が、ちっさーを抜かす。邪魔だと言わんばかりにぶつかられても、ちっさーは少しよろめいただけでその場を動かなかった。 「ちっさー、どうしたの?」 あわてて列の中から引っ張り出して、邪魔にならない柱の影まで連れて行った。 「忘れ物でもしちゃった?」 抱いてた肩を離して、正面に向き直る。 「あ・・・」 ちっさーは、私を見ていなかった。 というよりも、視点がどこにもあっていない。 茫洋としていて、あきらかに心がここにないのがわかった。 “千聖は時々ね、すごく遠い目をして、心が全然違うところに行っちゃってるの” さっきのえりかちゃんの言葉が頭をよぎる。 ど、どうしよう。どうしたらいいの。 慌ててケータイを取り出して、えりかちゃんに電話をつなごうとした。 「うわっ!ちょ、ちょっと!」 その時、いきなりちっさーが抱きついてきた。 今日のちっさーは少し高めのヒールのローファーを履いていたから、私たちはほとんど身長差がない。 耳にちっさーの息がかかる。 熱くて甘ったるくて、背中にゾクゾクが走った。 「・・・・・やっぱり、帰りたくない。」 私の手からケータイが落ちた。 「ちっさー、カレーでいいかな?」 「えぇ・・・・・」 幸というべきか、不幸というべきか。 家に戻ったら、お母さんもお父さんも出かけていた。 私たちは向かい合わせになって、リビングでレトルトのカレーを黙々と食べた。 味なんてよくわからない。 この後の展開を考えたら、身がすくむような思いだった。 「・・・あの、ちっさー。私片付けやってるから、適当にテレビでも見てて。」 「えぇ・・・・・」 ちっさーは相変わらず心ここにあらずといった様子で、私が促すままにソファへ移動してテレビを眺めはじめた。 何だか、最近読んだケータイ小説みたいだなと思った。 寂しさや不安をまぎらわすために、いろんな人と関係を持ったりする主人公がちっさー。 えりかちゃんは・・・あれだ、セフレというやつか。 それで、私は行きずりの男。 紆余曲折あって、結局ちっさー・・・じゃなかった、その主人公は幸せを掴むとかいう話で、私は大いに感動して号泣したんだけれど、こうして自分もキャストの一人に当てはめて考えてみると、ちっとも泣けない。いや、むしろ別の意味で泣けるかもしれない。 でも本当に、これでいいのかな。 えりかちゃんですら、正しいかわかっていないことを、私なんかが代わりにしてあげるなんて。 ていうか、そもそも何をどうすればいいのかわからない。 「栞菜。」 いきなり、背中越しにちっさーが声をかけてきた。 「うひゃ!・・・・あ、待って、もうちょっ・・・・!」 ちっさーはいきなり私の手を取って、強引に胸を触らせてきた。 表情はうつろなまま、でも目線だけは私をはっきり捉えている。 振りほどくことはできなかった。 どうにかして、ちっさーを元の状態に戻したい。 (で・・・できる、かも、しれない) 私はちょっとエッチな雑誌とかで得た知識を必死でよみがえらせて、ちっさーの首筋をやんわりとなで上げてみた。 「・・・っ」 ピクンと反応が返ってくる。 (えっと・・・次はどうだっけ、胸?はもう触ってるから・・・) こんな調子で恐る恐る体に触り続けていたら、何だか私もいやらしい気持ちになってきた。 どうしよう。 もっと触ってみたい。 ギュッてしてみたい。 そんな欲望が心を蝕んで、私の指はちっさーのスカートの中に伸びていった。 その時。 「・・・やっぱり、帰りたい。」 (・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ? ) 「ごめんなさい、栞菜。」 「ちょっ・・・ちょっとー!ちっさー、最悪なんだけど・・・!」 私はいきなり脱力して、床にへなへなと座り込んだ。 「ごめんなさい・・・」 まだ少しぼんやりしてるけど、ちっさーは概ねいつものちっさーに戻ったみたいで、介抱するように私の背中をさすってくれた。 ああああああ、もう本当に恥ずかしい。 だって、ちっさーは普通じゃない状態だったから仕方ないけれど、私ははっきりとちっさーをどうにかしてやろうと思ったわけで。 「あー!あー!もー!」 恥ずかしすぎる。ちっさーがいなかったら、私は一人で絶叫して、床をゴロゴロ転げまわりたい気分だった。 「栞菜・・・あの、私、本当に、ごめんなさい。」 「・・・いいよ、気にしないで。」 ていうか早く忘れてください。 何だか、馴れないネコを相手にしているようだった。 全身をゆだねているようにみせて、少しでも距離のとり方を間違えたら、腕の中をすり抜けていってしまうような奔放さと臆病さ。 「ちっさーは、犬だけど猫なんだね。」 「え?」 「いや、なんでもない。 それより、一個だけお姉・・・・栞菜のお願い聞いてくれる?さっきのお詫びと思って。 お母さん達が帰ってくるまでは、ここにいて。帰らないで。ちょっと寂しい。」 ちっさーは軽く目を見開いた後、「ええ、もちろん。」と満面の笑顔で承諾してくれた。 「じゃあ、栞菜の部屋で遊ぼう。」 まだ私は、遠くへ飛んでしまうちっさーの心を繋ぎとめる方法を知らない。 心に抱える果てしない孤独感も共有できない。 それでも私はちっさーが大好きだから、ちっさーが自然と痛みを吐き出せるような、そんな存在にいつかはなってあげたいと思った。 ああ、それにしても、本当に危なかった。 ケータイ小説ばっかり読んでるとアホになるっていうお母さんの小言が、今日ばかりは胸に痛かった。 やっぱりこういうのは私には向いていない。 これからはあせらずゆっくりと、ちっさーに「お姉ちゃん」て思ってもらえるような関係を目指そう。 決意を新たに、私はちっさーの手をギュッと握った。 戻る TOP コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/54.html
そんなわけで私は今、ちっさーが家に来るのを待ち構えている。 ついに念願のメイド・・・と思ったのだけれど、あの時「連れてってください」と言ったちっさーの顔がやけに畏まっていたのが気になる。 ちっさーは、妙に気を使うところがあるからな。本当は行きたくないなら、うちで楽しく遊んで帰るんでもいいと思う。 もっと腹を割って話そうじゃないか、ちっさー! 「舞美~、千聖ちゃんが来た。なんか雰囲気変わった?日傘差してたけど。」 「えっ!いやいや、そんなことないよいつもの元気なちっさーだよ!ししゅ、しすゅん期は気持ちが変わりやすいからそのせいじゃない?」 あっ今のはわざとらしい。どうも私は嘘がつけない。 「?そう・・・下でお待たせしてるから、早く行きなさい。」 呼びに来てくれたお母さんの横を通り抜けて、階段を駆け下りていく。 「舞美さ・・・舞美ちゃん!遅くなってごめんねぇ!これお土産!」 「おーちっさー!」 何となく察してくれたのか、元気なちっさーを装って、ぶんぶん手を振ってきた。 私の家は駅からちょっと歩くから、ちょっとバテた顔をしている。おでこに浮かんだ汗の粒を手で払ってあげると、ちっさーはでへへと恥ずかしそうに笑った。 「暑いねぇ。お母さん、冷たいお茶入れてー!」 ちっさーお気に入りの水色の日傘(フリフリがかわいいから私もひそかに真似してピンクを買った。でもいつも差し忘れる)を玄関の隅に置かせて、2人で私の部屋に直行する。 「どうぞ、千聖ちゃんのおもたせでもうしわけないけど。ゆっくりしていってね。」 「はーい!ありがとうございます!・・・・舞美さん、今日はお招きありがとうございます。」 お母さんの姿が見えなくなると、すぐにちっさーはお嬢様の顔に戻って、ゆっくり頭を下げてきた。 「あーいいよそんなぁ。私とちっさーの仲じゃないか。・・・それより、大丈夫?本当に今日行きたい?」 ちっさーが持って来てくれたクレープを突っつきながら、私はちっさーの目を覗き込んだ。 「ええ、もちろん。楽しみにしてました。」 ふわふわ笑う顔には嘘は見当たらない。 「でも何か、緊張してるじゃないか。無理しなくたって別にいいんだよ。」 「・・・舞美さん、私。」 ふいにちっさーは笑顔を封じ込めて、潤んだ上目づかいに変えた。 「私、ケガをしてから、何だかいろいろなものを失くしてしまった気がして。」 「うん。」 「それを少しずつ補っていきたいので、なるべく新鮮な体験をたくさんしたいと思っているのです。 直接的な効果がなくても、私がその体験から何か得ることができれば、今後の私を構築していくための云々」 うわー漢字がいっぱいだ。私のボキャブラリーではとてもついていけない。 後半はもはや右耳から左耳にトンネルしてしまったけれど、ようするに 「ちっさーはいろいろ体験することで、もっと人間として深くなっていきたいということだね!」 「は、え、えと、そうです。」 いいことじゃないか!舞ちゃんとの逃避行も、愛理とのデート(まあこれは普通の買い物か)も、自分を豊かにするために、ちっさーが自らに与えた試練なのか。 「何かかっこいいね、ちっさー。私もできる限りなんでも協力するよ!・・・で、まずは、服装なんだけどね。」 今日のちっさーは薄いピンク×黄緑色のツートーンカラーのワンピースに、愛理とおそろいの赤いネックレス。避暑地のお嬢様って感じだ。 「可愛いんだけど、その格好はメイド喫茶のお客様っぽくないなあ。」 「そうですか・・・私、以前の洋服があまり好きではなくて。新しい服を買い揃えたいのですが、いろんなバリエーションの服を買うには少しお金が。」 「ふっふっふ。ちっさー。これを見るがいい!!」 私はベッドの正面にある大きなクローゼットをガーッとスライドさせた。 「まあ・・・・!」 千聖が両手で口を押さえて、目を丸くしている。 「最近こっち系にもハマっててさあ。」 メイドカフェの一件から、私はゴスや甘ロリに少しずつ手を伸ばしていた。 例によって私に甘いお兄ちゃんたちがホイホイと買い与えてくれて、私のクローゼットはフリフリモサモサゴスゴス混沌としていた。 外に着ていくほどの勇気はないから家族相手のファッションショーでしか着る機会がなかったけれど、ついにデビューの時がきたのかもしれない。 「やっぱり、こういう格好がふさわしいと思うんだよね。あの空間には。」 「え、あ、え、でも、私、きっと似合わな」 あは、うろたえてる。 「ちっさー!バンザイ!」 「は、はい!きゃあああ!?」 とっさに両手を上げたすきに、ワンピースのすそを持ち上げて一気に脱がしにかかる。 「あの、大丈夫ですから!自分で脱ぎます!舞美さぁ~ん・・・」 む、胸のとこでつっかえてる。生意気な! 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/32.html
明日菜、明日の準備はできていて?忘れ物をしてはだめよ。」 返事ができない。いろんなことが頭の中で整理しきれなくて、自分がおかしいのかお姉ちゃんがおかしいのかわからなくなってきた。 「明日菜。こっちおいで。」 タイミング良くパパが呼んでくれたから、お姉ちゃんの手から逃れるように体を離した。 「パパ。」 「うん、大丈夫だ。何にも心配ない。」 私はまだ何にも言っていないのに、全てを見透かしたかのようにパパは笑って頭を撫でてくれた。 「明日菜も疲れただろ。お姉ちゃんが無事で本当に良かったな。」 「・・・うん。」 部屋に戻ってぼんやりしていると、お姉ちゃんが「まあ。」とか言ってる声が聞こえた。 ちょっと気になって廊下に出たら、ゴミ袋を両手に持ったお姉ちゃんにぶつかりそうになった。 「何やってんの。」 「整理整頓を。私ったら、どうしてこんなに散らかしていたのかしら。恥ずかしいわ。」 「・・・手伝う。」 ゴミ袋を奪い取って、玄関に運ぶ。 お姉ちゃんの部屋を覗いたら、ママにゴミルームとまで言われていた空間が、すっかり綺麗になっていた。 そして、やっとこのキャラがお姉ちゃんのいたずらじゃないことを理解した。いつも部屋の片付けから逃げまくっているお姉ちゃんが、悪ふざけのために大嫌いな掃除までするはずがない。 「手伝ってくれてありがとう。」 「別にいいよ。布団敷いてくるから、どいて。」 お姉ちゃんを押しのけるようにして寝室に入って、乱暴に布団を敷き始めた。 こんなことが、現実にあるんだ。頭打って性格が変わっちゃうなんて。まるでマンガみたいだ。心臓がドキドキする。 「明日菜ねーちゃんこえー。布団ぐっちゃぐちゃじゃん。」 「うっさいよ。早く寝るよ。」 絡んでこようとする弟を上掛けで押さえつける。ギャーギャー騒いで、全然言うことを聞かない。 「どうしたの、2人とも。お布団が乱れてしまってるわ。」 そこに、お姉ちゃんがひょっこり現われた。弟は標的を私からお姉ちゃんに変えたのか、腰をかがめて突進していく。 ちょ、ちょっと待って。その人は今までのお姉ちゃんとは- 「もう、暴れては駄目でしょう?」 押し倒されてベソかくかと思っていたら、お姉ちゃんはまた弟をギュッと抱いて止めてしまった。 「もう寝ないと駄目よ。また明日遊びましょう。お布団直してあげるわね。」 私達は逆らえずに、お姉ちゃんが手際よく整えた布団にねっころがった。 「お休みなさい。」 部屋の明かりをちっちゃい電球1個だけにして、お姉ちゃんが出て行った。 「ねえねえ、お姉ちゃんのことなんだけどさ。」 隣で寝そべってる弟に小さい声で話しかけた。 「今日のお姉ちゃん、どう思う?キモいよね?もっと男っぽかったよね?」 「それより、さっきちさと姉ちゃんにギューッてされた時顔におっぱいが当たってさあ。やっべー」 「あっそ。」 だめだ。男子って本当頼りにならない。バーカ。 中学生のおっぱいやべーとかずっと言ってる弟を無視して、お姉ちゃんが後で寝るスペースに視線を移した。 枕元に、薄いピンクの可愛いパジャマが綺麗に畳んで置いてある。 昨日まで着ていたTシャツ短パンが恥ずかしいと急に言い出して、ずっと前にママが買ってきたっきり一度も着てなかった女の子っぽいやつを、クローゼットから出してきたらしい。 あのよくわからないお姉ちゃんが、今日は隣で練るのか。いや、それどころかこれからずっと一緒に暮らしていくのかと思うと、なんかげんなりしてしまった。 変わってしまったお姉ちゃんが嫌だというより、自分がこれからどうしたらいいのかわからない。 リビングからはパパとママ、お姉ちゃんの笑い声が聞こえる。 ドアの隙間から覗くと、リップとパインを膝に抱いて微笑んでる姿が見えた。 うちのわんこたちは、結構人見知りだ。ああやって大人しく抱っこされているんだから、犬達から見たら今までどおり、優しくて可愛がってくれるお姉ちゃんなんだろう。 普段と何も変わらない風景の中に、性格だけ別人なお姉ちゃんがすっぽりと入り込んでいる。 あのまま家族になじんでしまうのかな。 パパとママはあんな調子で、弟はアホで、私だけがこうやってグズグズ悩んでいるみたいだ。 「もうそろそろ寝ますね。本当に今日は心配をかけてしまって、ごめんなさい。」 ヤバいな。そろそろお姉ちゃんがこっちに来そうだ。もうとっくに寝息を立ててる弟の方に体を詰めて、寝てるふりをした。 しばらくして、細く開いたドアの隙間から、お姉ちゃんがそっと入ってきた。 「もう、寝崩しちゃって。お腹が冷えてしまうわ。」 私と弟の夏がけを直してから、手早くパジャマに着替えたお姉ちゃんは、すぐに横になって眠ってしまった。 私や弟のスペースが狭くならないように、端っこの方で丸まっている。 それを見ていたら何か切なくなってきて、私は2人を起こさないように静かに部屋を出た。 「パパ。ママ。」 「明日菜。まだ起きてたの?寝られない?」 「ちょっと、話がしたいんだけど。」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/447.html
前へ 「・・・もうマジで信じらんない」 「うるさいなー、さっきから謝ってんじゃん!」 「何その態度!謝ってる態度じゃにゃ△×★#!!!」 「ちょっとうるさい千聖・・!・・・・もー、千聖のせいで怒られちゃったじゃん!」 「何で千聖のせいなんだよ!だいたいさぁ、普通ひとにツバかけたりしないでしょ!?しかも顔にかけるとか信じらんないんだけど!千聖が同じ事やったら怒るくせに」 「いや怒らないよ。嬉しいです」 「うわぁ・・・・とにかく、もうこういうことしちゃだめだから!」 「ケチ!あのね、あれはマーキングなの!」 「は?」 「これは舞のだよって印つけといただけだし。何か問題ある?」 「舞のって何それ」 「だって千聖、いっつもふらふらふらふらいろんな人に尻尾振っちゃってさ」 「そんなこと言うなら千聖と遊んでよ!ふらふらしてるのは舞ちゃんのほうじゃん!あいりんとおそろいのパンプスとか!あーあ千聖も舞ちゃんと買い物行きたかった!」 「そ、それとこれとは話が」 「同じだよっ舞ちゃんのばーかばーか!千聖がこんなに舞ちゃんのこと好きなのに冷たくするんだもん!」 「はあ?舞だって千聖のこと大好きだけど?舞にいじめられて嬉しいくせにばーかばーか!」 「ああそうさ嬉しいさ!ばーか!」 「ばーか!もうっ愛しちょるよちしゃとー!」 「舞ちゃぁん!!」 ***** うぜえ・・・。 私は読んでいた文庫本を閉じて、前の座席に向かって咳払いをした。 何で朝も早ようから、バカップルの痴話喧嘩を聞かされなければならないケロ! 仲がよろしいのは大変結構ですが、後ろで砂吐いてる人間がいることをお忘れなく!ああちきしょうめ、できることなら私もみぃたんと・・・!! 「もう、舞にはちしゃとだけだからねー・・?」 「本当ー?信じちゃうよー?舞ちゃんちゅーっ」 うっせえ、爆発しろ。 私はケータイを片手に、“ちさまいICLV(イチャラブ)フォルダ”にデスメールを更新し始めたのだった。 ばーかばーかバカップル! 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/293.html
「ン・・・ちしゃと・・・」 それから私は、そのエッチビデオのことを思い出しては、夜な夜な悶々とする日々を送る羽目になった。 あれは、ストーリーのことを考えなければ、結構実用的(・・・)だと思う。ファンの人にもメンバーにも散々言われてることだけど、私は多分S。こうやって好きな人をネチネチいたぶるみたいなのは、元々嫌いなわけがない。 「んん」 目を閉じて、千聖の顔を思い浮かべる。 “やめて、舞さん” 「んっ」 “お願い、許して” 「・・・ちしゃとぉ」 千聖は泣き虫だから、泣き顔のサンプルはいくらでも頭の中に残っている。・・・こんな形で再生することになるとは思わなかったけど。 布団の中でタオルケットを足の間に挟んで、もそもそと足を閉じたり開いたりしてみる。頭がボーッとしてきた。 痴漢はアカン!だけど心は自由でしょ?実際にしなければいいのではないでしょうか。でも好きなプレイが痴漢(しかもする方)って萩原舞完全終了のお知らせレベルだろ。・・・何を言ってるんだ私は。頭の中にいろんな主張が入り乱れて、支離滅裂。 「あ、あ、あ」 ――そろそろやめないとまずい。こうしてアソコを刺激するの自体は初めてじゃないけれど、いつも怖くて中途半端なとこでやめていた。やめなければ、取り返しのつかないことになりそうな気がしたから。 でも、体が言うことを聞いてくれない。千聖の髪に顔をうずめるように、タオルケットに鼻先を押し付けて声を殺す。 「うー・・・」 どうしよう。ヤバイ。 これ以上のことは、したことがない。なのに、勝手に指がジャージの中に進入していく。 “舞さん、だめ” 「――――っ」 ~♪♪♪ その時、枕元に置いていたケータイが、大音量でメールの着信を告げた。 それは、私が千聖専用にしている“僕らの輝き”。 一緒に歌っている曲でもいいんだけど、やっぱり千聖にはこの曲が一番似合っていると思う。 今の私の状況にもっとも似合わない、そのさわやかで元気な歌声が、頭を冷静にさせてくれた。 「ふぅ・・・」 ベッドに正座して、ゆっくりとケータイを開く。 最近、私たちは喧嘩をした。 私が千聖に、えりかちゃんとのお泊りを中止するよう迫ったのが原因。お嬢様の千聖は優しいけれど、何でも舞の言うことを聞いてくれるっていうのとは違う。“それは、嫌よ。”と思いがけず真面目な顔で言われて、私は「千聖は無神経だ」なんて当り散らしてしまった。 実は今、千聖の誕生日に向けて、みんなで大きなドッキリを企画している。大好きな千聖を喜ばせるための重要なプロジェクトなのに、つまらない意地を張っていてもしょうがない。わかっているけれど、今更どうやって謝ればいいんだろう。 しかも、喧嘩してる相手でエッチな妄想とか・・・・私はダメ人間だ。 千聖からのメールには、無神経なことをしたのならごめんなさい、と謝罪の言葉が書いてあった。 でも、千聖から謝ってくれたっていうのに、私の心は晴れない。だって、結局千聖はえりかちゃんのところに行ってしまうんだから。 千聖は結局、根本的なことはわかってくれていない。いくら好きだと伝えても、その“好き”の意味は伝わっていない。 「千聖がえりかちゃんを好きなように、舞も千聖が好きなの。」 こういう風に言えば確実に伝わるだろう。でも、私にだってプライドがある。こんなことを口にすれば、自分が惨めな気持ちになってしまうのは明らかだった。 千聖は舞のもの。 いつも疑うことなく、そう信じてきたけれど、ここにきてその自信は揺らいでいる。 千聖が今はえりかちゃんを好きでも、最後に舞を選んでくれるなら、本当は嫌だけどまあそれでかまわない。それぐらいの譲歩はできる。でも、今は千聖の気持ちが見えない。 えりかちゃんとあんなことしてるくせに、頼まれれば私にも同じことをする、その胸の内が。 だから私は、せっかくのメールだけど、返事は返さないことにした。 私はいつでも、千聖には素直でいたい。それがいいことでも悪いことでも。だから、こんな気持ちのまま、表面的にだけ仲直りするぐらいなら、このままでいい。 じゃあどうしたら私の気が済むのか、というのはまだわからないけど。 火照りかけていた体は、そんなことを考えていたらいつの間にか静まっていた。 でも下着の中は、ちょっと不快感。もう遅い時間だけど、せめてシャワーだけでも浴びようと、私は静かに部屋を出た。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/362.html
アハハッ ウフフッ ギギギッ 楽しげに高級ジュエリーをショーウィンドウ越しに覗く2人を、阿修羅怒りの面で歯軋りしながら電柱の陰から覗く舞様。 「・・・中華街、行くって行ってたのに。さっさと移動しなさいよね。買いもしない首輪だの耳輪だのずっと見てて楽しいわけ?全く、女の買い物はこれだから」 「いやいや、舞ちゃんも女の子・・・・あっ、移動するみたいだよ!今度はバッグのお店入っちゃった。」 「もー!!」 舞ちゃんはバンバン足を踏み鳴らして、不愉快そうにため息をついた。 カフェを出た二人は、舞ちゃんの予言(?)どおりに中華街のほうへ行くと思いきや、立ち並ぶ雑貨屋さんや洋服屋さんを散策し始めた。 前にショッピングモールでデートした時に思ったけれど、千聖の買い物時間はそれほど長くない。結構パッパッと決めてしまう。 だけど、えりかちゃんはファッションに関してはじっくり慎重に見定めるタイプだから、当然千聖もそのペースに合わせる。そうして時間がどんどん経っていくにつれ、舞ちゃんの眉間の皺も深くなっていく。 私は結構、人の流れとか見ながらボーッとするのが好きなほうだから、別に苦じゃないけど・・・隣で舞ちゃん周辺の空気がどんどん澱んでいくのが恐ろしい。 「あれって、やっぱりおそろいのもの探してるのかな・・・。」 千聖とえりかちゃんは今度はかばん屋さんに入って、カラフルなディスプレイを熱心に見ながら、いろんな色のキーホルダーとか革のストラップを手にとって話し込んでいる。 「舞、千聖と2人だけのおそろいの物とか持ってないんだけど。・・・負けた気分。」 「あれは旅行の記念っていうか、お土産みたいなものじゃない?」 「そうかなあ・・・」 普段は強気なわりに、舞ちゃんは急にしおらしくなったりするのがかわいいと思う。 「千聖の性格からして、おそろいを持つこと自体にそんなにこだわりはないと思うよ。なっきぃとだって、おそろいのストラップつけてたじゃん。あれはよかったの?」 「だって、なっきぃはちーに優しいし変なことしないし。いや、でもあのデスメールではおなっき・・・」 「デス?」 「ううん、こっちの話。愛理、ありがとうね。・・・ね、舞達も何か見に行かない?」 「いいの?」 「舞のちーセンサーによると、まだ当分2人はこのあたりでうろうろするはずだから。」 千聖センサー・・・そりゃ頼もしい。 「ね、行こ?こっそりだよ。」 「ケッケッケ、こっそりね。」 抜き足差し足なんてしたって全然意味ないのに、変にテンションの上がった私たちは、背中を丸めてスパイのようにその場を立ち去った。 「ところで舞ちゃん、どうして今日の2人の同行を把握してるの?舞ちゃんの千聖センサーが優秀だからって、具体的にわかりすぎじゃない?」 「あーうん・・・実は、なっきぃに密偵を頼んだの。ちーは舞がこの旅行に反対してるの知ってるし、えりかちゃんも教えてくれなそうだから、なっきぃにね」 なっきぃかぁ。確かに、千聖と仲良しななっきぃなら、日程について聞き出すことぐらいできるだろうけど・・・ 「もちろん直接聞いたら怪しいから、さりげなく横にいて会話から推測してもらったんだけどね」 「えー・・そうなの?」 何か、不思議な感じ。なっきぃの性格を考えたら、密偵なんかしないで、直接千聖かえりかちゃんにストレートに聞きそうなのに。 「なっきぃは、しばらく舞からのお願いは断れないから。探る方法も、舞がお願いしたとおりにやってもらうんだ」 「断れないって、どうして?」 「どうしても。ふっふっふ」 「・・・」 さっき舞ちゃんが言いかけた、デスメールというなぞの単語が脳裏をよぎる。・・・舞ちゃん、やっぱり恐ろしい子! * 「いいの、千聖?」 「え?」 目を上げると、えりかさんが少し顔を近づけてきていた。胸がトクンと音を立てる。 「舞ちゃんたち、追いかける?」 「あ・・・」 いつのまにか、店外の柱の陰にいたはずの舞さんと愛理は姿を消していた。 何色も種類のある、動物の形のキーホルダーを夢中で選んでいたから、気がつかなかったみたいだ。 「やっぱり、カフェでお見かけしたときに声をお掛けした方がよかったかしら。」 「いやー、あの時は掛けなくて良かったと思うよ。多分」 「そうですか・・・」 舞さんの姿を見つけたときは、少しだけヒヤッとした。 “えりかちゃんと旅行に行くのやめて”舞さんの言葉がふと脳裏をよぎったから。“千聖のためにならない”とも言っていた。 まさか、止めに・・・?だけど、えりかさんが「大丈夫。」と手を握ってくれたから、そのまま気づかない振りを続けた。 舞さんは、私のことを好きと言ってくれた(でも同時にとてもひどい行為を・・・)。今は元通り、仲良しなちさまいコンビに戻ることができたけれど、私は結局何も答えられないままだった。 このまま、いつまでもなあなあにしておくことはできない。でも、どうしたらいいのかわからなかった。だって私は・・・ 「千聖、買うの決めた?」 「ええ、これを・・」 「いいね。それなら色も結構種類あるし、値段もちょうどいいね。割り勘で大丈夫?」 「もちろんです」 えりかさんの手が、商品を持つ私の手ごと優しくつつんだ。 「旅行のおみやげって、こんな近場でおかしいかな?」 「でも、皆さんに差し上げたいのでしょう?」 「うん。急にお揃いのものとか増やしたくなっちゃって。・・・ね、それ買ったら、中華街の前にちょっと行きたい所があるんだけど。近くだから、付き合ってくれる?」 「ええ。もちろん」 ピンク、黄色、オレンジ、緑、青、紫。いろんな動物の形の皮のキーホルダー。今日のお土産に、キュートのみんなに私たちからのプレゼント。 「千聖と舞美は犬なんだね。イメージどおり。舞ちゃんは猫?わかるわかる!」 「ウフフ、そんなに意識して選んだわけではないんですけれど・・・」 両手をお皿みたいにしてキーホルダーをレジへ運ぶ私の肩を、舞美さんがいつもするように、えりかさんは優しく抱いてくれた。 「エアコン、効いてるね。寒くない?肩が冷たくなってるみたいだけど」 「ありがとうございます、大丈夫です」 今日のえりかさんは、何故か私の体によく触れる。普段はどちらかと言えば、適度な距離感を持つ方なのに。柔らかくて滑らかな手の感触に胸が高鳴る。 (思い出づくり・・・?) ふと、考えないようにしていた言葉が心を通り抜ける。・・・やめよう。せっかく誘ってくださったのに。 「千聖?」 「あ・・・ごめんなさい、お待たせして。今、包んでいただいてるので、店内で待ちましょう」 「そか。じゃあ、バッグの方行かない?気になるのがあるんだ」 「ええ。そうしましょう」 今度は腰に手が回って、触られるとムズムズするウエストの辺りをつつかれた。 「きゃんっ!」 「ムフフ」 「・・・もう、えりかさんたら」 いたずらっ子みたいに笑う表情は、えりかさんの大人っぽい顔立ちと対照的で、つい見とれてしまう。 「あ・・・やっぱりパスケースも見たいな。行くよ、千聖。」 「はい。」 いつも優しいえりかさんが、少し強引に、当たり前みたいに私の手を引いてくれるのが嬉しい。 熱心に小物に見入るえりかさんの綺麗な横顔を、すぐ傍でジーッと見つめることができて、幸せだった。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/23.html
前へ これは一体どういうことだろう。 階段落下事件から3日後、ダンスレッスンに現れた千聖は何と日傘を差していた。 「ごきげんよう、愛理さん。」 「あ、はい、ごき、げんよう。」 えりかちゃんが視界の隅でマックシェイクを噴射した。 「私、もっとお肌のお手入れに気を使おうと思いまして。良いお化粧品に心当たりがあったら教えてくださいね。」 「あ、はい、よろ、こんで。」 千聖はにっこり笑うと、着替えのためにロッカー室に入っていった。 ・・・緊張の糸が解け、私は床に座り込んだ。 「愛理、大丈夫?」 「うん・・・えりかちゃんも口の周り拭いてね。」 正直、今までのやんちゃで明るい千聖のことは、同い年なのにちょっと子供っぽいと思っていた。 一緒にふざけたりすることはあっても、真面目に語り合ったりできるのかな?とそういう場面では千聖を遠ざけていたかもしれない。 でも今日の千聖ときたら、見慣れたショートパンツでもTシャツでもない。 淡いピンクのシフォンブラウスに細かいフリルのついたスカートという、ファッションまで変わっていた。 本当に、変わってしまったんだなぁ。思わずため息を漏らす。 「やっぱショックだよね。もうまるで別人じゃない?千聖。」 「う、うん。」 心底悲しそうに呟くメンバーを尻目に、私は少しわくわくしてきていた。 新しい千聖はどんな子なのだろう。 ファッションの話やお化粧の話にも乗ってきてくれるのだろうか。 もっといろんな話ができるようになるだろうか。 元に戻らなかったからっていつまでも嘆いていたくはない。 私は今の千聖を受け入れることに決めた。 男の子っぽくてもお嬢様になっちゃっても、私は結局千聖が好きだから。 「お待たせいたしました。」 「千聖、こっちでいっしょにストレッチいたしましょう?」 私は丁寧にお辞儀をしてレッスン室に戻ってきた千聖の手を取って、あっけにとられる皆の前を通り過ぎた。 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/132.html
「はー!疲れたぁ。」 カレー、ご飯、丸パン、そしてアイスをたっぷり食べて、みんなでゲームをやって、撮影が終わった。 盛り上がりすぎて少し時間が押してしまったから、とりあえず一度千聖とコテージに戻った。 「元気な人は後で舞美たちの部屋に集合!」なんてまだまだ元気な舞美ははしゃいでたけど、うちらはどうだろうか。 今日はいろんなことがあって疲れてしまったから、ちょっと厳しいかもしれない。 私はベッドにダイブして、お隣の様子を伺った。 「千聖?寝るなら着替えた方がいいよ。風邪引いちゃうからお布団入って。」 「んー・・・」 千聖は私服のワンピースのまま、小さく丸まって横になっている。喋るのも面倒なのか、完全に生返事だ。 「ほら、千聖。」 しかたないなあ。私はもたもた起き上がると、千聖のベッドに移動した。 「着替え手伝うよ。はい、バンザイして」 背中のリボンを緩めて、頭側からガバッとワンピースを脱がせる。 あらあら、今日のおブラは白ですか。薄いピンクのフリルが可愛い。 仕事上、メンバーの下着姿なんて見慣れているけれど、わざわざ自分で脱がせたりなんだりするのはやっぱりちょっとドキドキする。 「パジャマ、バッグに入ってる?」 「・・・」 返事がない。目を閉じたまま、むにゅむにゅと口だけが動いている。寝言モードにまで入ってしまってるなら、これは当分起きそうにないな。 私は千聖のかばんを探った。前みたいにTシャツ短パンが入ってるのかと思いきや、 「・・・ねぐりじぇ。」 丈の長い、薄いブルーのお姫様みたいなお召物が鎮座していた。なんだこれは。パフスリーブとプリーツが可愛らしい、いかにも高そうな柔らかい素材だった。舞美が好きそう、こういうの。 「えーこれ、どうやって着せたらいいんだろう。」 私もネグリジェは何枚か持っているけれど、こんなお値段の張りそうなのは持っていない。きっとママにおねだりしたか、お小遣いをためて買ったんだろう。これは、間違っても破いたり汚したりしたくない。 かといって、このまま下着で放置するわけにも・・・ええい、仕方ない! 私は自分のバッグから、パジャマ代わりの水玉のガウンを取り出した。 これなら着脱も簡単!腕を通して、帯を締めるだけ。 あっという間に着替えを終わらせて、掛け布団をかけてあげれば、千聖の就寝準備は終わりだ。 あ、私?私は、前になっきぃからもらったミカン野郎Tシャツがあるから大丈夫!LED発光だから暗闇でも光るよ! 本当はお昼の続きをしたかったけれど、疲れた千聖を起こしてまでやることじゃない。こんな風に、寝顔を眺めてるだけでも満足。 “えりかちゃんは、ちっさーのことが好きなんだよ” 「いやっ、そんなわけない!違う違う!」 さっきの栞菜の妄想劇場を、必死で頭から振り払う。 私ももう17歳。恋というのがどんな感情なのか、さすがに理解しているつもりだ。 恋っていうのはもっと、甘くて苦くて切なくて苦しくて、心が張り裂けそうなものだ。 千聖にエッチなことするときに生まれる感情は、そんなんじゃない。 正直千聖のちっちゃくてふにふにした体はとても抱きごこちがいいし、ずっと腕の中に閉じ込めていたくなってしまうのは否めない。あの子供みたいな顔が気持ちよさにとろけていくのを見るのも好き。お嬢様のくせに、びっくりするほど色っぽい声を出すのもなんかいい。 でもそれはドキドキじゃなくて、どちらかといえば和みや癒しの感情に近いと思う。だからこれは恋じゃない。恋であってはいけない。 “そういう愛の形だってあるんだよお姉ちゃん” 「ああーうるさいうるさい!お黙り、栞菜!」 私は脳内で語りかけてくる栞菜を追い払って、シャワーを浴びにいくことにした。 家から持ってきたバブルバスの素で、浴槽をもっこもこにする。大好きな薔薇の香りがただよい始めて、ちょっと興奮していた私の心も落ち着いてきたみたいだ。 ピンクの泡に体を沈めて、しばし考え事にふけることにした。 どうしようかな、これからの私と千聖のこと。 栞菜はおかしなことをいいつつも全面的に私の味方のようだし、愛理も面白がってはいるものの、千聖が決めることだと言っていた。 舞ちゃんはあんなことを言ってるけれど、実際に私たちが何をしているのかわかっていない。ていうか、中学1年生の女の子の考えが及ぶような行為じゃない。多分。舞美はもっとわかってない。 なっきぃとは結局あの後じっくり話す時間が持てなかったから、誤解を解くことも意見を聞くこともできてない。 本当になっきぃの言うように、私のしていることが千聖にとってよくないことなら、それは即やめなくちゃいけないとは思う。 でも私の本音を言えば、しばらくこの関係を続けていたい。 千聖を救って癒してあげる行為だと思っていたけれど、本当に心を癒されているのは私の方かもしれない。 “えりかちゃんは、ちっさーのことが好きなんだよ” 「・・・・わかんないよ、そんなの」 さっきまでは、違う!と否定できた脳内栞菜の囁きに、今は即答できない自分がいた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/489.html
前へ 千聖は「んー」と短く呻くと、静止して私の顔をじっと見た。 おお、こう見るとやっぱりイケメンだね、岡井少年は。 一人乗り用ブランコに無理やり2人で座っている状態だから、体中の側面がぴったり密着している。 そんな体勢で見つめてくるもんだから、また少し胸がドキドキした。 「・・・絶対、なっきぃと千聖の結婚生活はハッピーだね」 「そ、そう?・・・キュフフ」 さっきから、無駄に男前度が増している岡井はんは、声のトーンまで低くして、私の手をギュッと握ってきた。 何これ?告白!?告白なの!?受け入れていいの? 千聖は結構誰にでもこういうことを言う。それはわかっている。 わかっているけど、こういう真剣な表情とか、唇をついてでるくすぐったい言葉にいちいち心を乱されてしまう。 「まず、家事分担が結構いい感じじゃない?なっきぃは定位置女子だから掃除、千聖は料理。洗濯は仕事の前に二人でやればいいじゃん?買い物も基本一緒かなー」 「いいねいいねー」 「セールスマンとか勧誘電話、なっきぃはうまく追っ払えないでしょ?千聖にまかせて!その代わり、いろんな支払いとか千聖絶対忘れちゃうから、お金の管理はよろしく!」 「・・・なんか、本当に上手くいく気がしてきたんだけど」 千聖の肩に頭を乗っけてみると、その私の頭に、千聖の頭が乗っかってきた。 こんなの、舞ちゃんがいたら絶対やらせてくれない。・・・否、できない。 私は千聖とはキュートの中でも特別仲がいいつもりだけど、千聖にとって私が特別なのかどうかはわからない。千聖には舞ちゃんがいるって思ってたから。 でも、もしかして私にも、千聖の一番手になるチャンスがあるんじゃないだろうか。 今みたいに舞ちゃんが他の人に夢中になっていて、千聖が私・・・というか“私を口説くこと”に夢中になっているのはいい傾向だ。 たらしでおおらかな千聖と、都合のいい女タイプの私。良くも悪くも、相性はバッチリなのだから。 「千聖!」 「うおっびっくりしたぁ」 いきなり顔を上げたことで、さっきより近い距離で千聖と目が合う。 「あのね、結婚はともかく、将来的に千聖ルームシェアならやってみたいかも」 「おっ、まじんがー!?」 「だって、うちらホテル同室になっても全然トラブルになんないし、なっきぃは千聖といると楽しいよ」 「ふがふがふが、でへへ、嬉しいんだけどぉ」 小麦色の肌がちょっとピンク色になって、バシバシ私を叩いてくる。 案外、ストレートに褒められたりするのは慣れてないらしい。シャイで自分に自信がない千聖らしくて、ちょっぴり母性本能をくすぐられる。 「前にね、ママが言ってたんだけど。結婚っていうのは、足りないものを補い合うことなんだって」 「足りないもの・・・」 「うん、だからね、やっぱりうちらは夫婦になれちゃうんじゃない? おおざっぱな千聖に、神経質な私。朝弱い千聖に、夜弱い私。決断の早い千聖に、優柔不断な私。・・・どう?よくない?これからはなきちさで行こうよっ!」 なるほど、女の子を口説くというのは結構面白いものなのかもしれない。 ボーッとあほの子みたいに口を開けて、私の話に聞き入る千聖を見ていると、テンションが上がってしまう。 「どう?なっきぃ基本ぼっちだし、だからこそ絶対千聖をひとりぼっちになんてしないよ?」 「基本ぼっちとか自分で言ってるし!てか、顔近いよ、もう。はずかしいだろっ」 千聖はひとしきりふがふが騒いだ後、またおもむろにブランコからポンッと降りて、私の目の前の柵に腰掛けた。 「でもさぁ、一つ大きな問題があるんだよね、千聖たちの間には」 「ん?何何?」 千聖は私をチラッと見て、なぜかグフフと小さく笑う。 「ちょっとー、はっきり言ってよー。なっきぃが悪いとこあるなら直すし」 「いや、悪いって言うかぁ悪くないけどぉグフフフフ」 「お願い、言って!もしかしたら千聖以外の誰かにも迷惑かけてるかもしんないし」 少々しつこく食い下がると、千聖はしょーがねえなあといった顔で、漸く口を開いた。 「いやぁ、なっきぃってさ、何か結構さあ・・・あれじゃん」 「あれって?」 「んーだから、・・・・・エロいことすんの好きじゃん。ドゥフフ」 「・・・・・・・・・・は?え?」 ――1.5秒、思考が停止した後、私は「ギャーッ!」と絶叫した。 「待って待って、落ち着いてって!叫ぶなすぐ!」 「あがががが」 そうだ、千聖には知られているんだった。 私が舞ちゃんとエグいDVDを鑑賞していた事。 ジャパネットうんたらかんたらの怪しい器具でハッスルハッスルしていたこと。 もももしかしたら、過去にベリキューでお○っきぃしてたこともどっかから漏れたのかもしれない。 (※これらのエピソードはまとめサイト参照ケロ!) 「別に、そーゆーこと一人ですんのはさぁなっきぃの自由だからいいんだけど、千聖そんなにエロいほうじゃないから付き合えないと思うんだよね。えーと、夫婦生活というやつ。グフフ」 「いや、待って!それは納得いかない!千聖だって前にほれあの何だ、えええりかちゃんと何かいろいろしてたじゃん!舞ちゃんとだって」 「あれは私じゃなくてお嬢様!あとね、舞とのことは、なっきぃが悪いんだからね!なっきぃにエロ知識を植えつけられて唆されたって舞言ってたし! ・・・待てよ。なっきぃが襲いかかってきたら、お嬢様に人格を戻せばいいのか。ん?そんなことできんのか? とにかくね、こっちの千聖がなっきぃとそーゆーことするなんて、あ・り・え・ないない♪」 「チャー・・・」 なんということでしょう。 直接的に言われた事はなかったけれど、千聖の中でとっくに私はエロキャラにされていたらしい。 でも、今の私はそんなことぐらいでへこたれない。 「ちさとっ!」 「はいっ!」 だって、チャンスじゃないか。舞ちゃんが浮気心を出している今なら、本当になきちさを公式カップルとして定着させることができるかもしれない。 「・・・大丈夫だよ。性の不一致なんて、大した問題じゃないケロ!ってか、食わず嫌いしないで一度チャレンジしてみたらええねん!そうだそうだ」 「ちょ、え」 「よーし、今夜ためしに私とエッ○しよう、千聖!!!」 nksk、真夏の大胆発言。 思い切って言ったその一言は、夕刻の公園に案外大きな声で響いた。千聖もかなり驚いたのだろう、目を見開いたままフリーズしてしまっている。 ――どどどうしよう。テンションの上げ方を間違えてしまった。 あんまり先陣切って大きい声ではしゃぐことがないから、加減を誤ってしまったみたいだ。 「う・・・うわー・・・」 「ごめん」 「うわー・・・」 「だから、ごめんってば」 でも、よく見ると千聖は相変わらずビックリした状態で止まったままだった。あれ、千聖の声じゃ・・・ない・・? まさか・・・ 「うわー・・・・・」 三度目のドン引きボイス。 よくよく目をこらせば、千聖の背後にある大きな木の陰から、レースのようなサテンのような不気味な白いふわふわが見え隠れしている。 「りーだー!!」 「あはは、乙カレーライス、なっきぃ!何か寄り道したらさー、2人が深刻そうな話してるからさー」 額に汗をかいた、さわやかキラキラ美人がひょっこり顔をのぞかせて微笑みかけてくる。ウエディングドレスと見紛うようなモサモサフリフリ白ワンピ。それから・・・ 「うわー・・・」 「うわー・・・」 「もー、しつこーい!」 わざとらしく手を握り合って、不審者を見る目つきで私を射抜く舞ちゃんと愛理。 ――しくじった。ここは事務所から程近い公園。偶然(かどうかわからないけど)メンバーが集っていたっておかしくないような場所だった。 「ちしゃと、怖かったねー?おいでおいで」 勝利の笑みを浮かべた舞ちゃんが、余裕を感じさせるたたずまいで千聖を手招きする。 「えーん、舞ちゃぁん!なっきぃがセクハラしてくるよぉ~」 「セクハラって!・・・いや間違ってないですけどケドそもそも千聖が」 「ケッケッケ、もう大丈夫だよ~千聖ぉ」 出た、ブラックキューティーガールズ。 悪ノリした愛理の背後に隠れて、千聖が非難の目を向けてきた。舞美ちゃんはにこにこ笑ってる。 当然のように千聖の腕に手を絡める舞ちゃんを見てると、まるで魔法が解けたシンデレラみたいに、スーッと幸せだった気持ちが引いていく。 「全く、舞が少し目を離すとこうなんだから」 「っ!そ、そうだよ!舞ちゃんが千聖を放っておくからいけないんじゃん!」 それでも、私は必死で舞ちゃんに反論を繰り出した。 なんてったって、私は・・・ 「私はね、千聖に“なっきぃとなら結婚できそう”とまで言われたんだよ!キューフッッフ!」 「ふーん」 ――あ、あれ? 私としては結構な切り札のつもりだったんだけど、舞様は表情一つ変えてくださらない。否、浮かんでる。口元に。微笑が。 「あのさーあ、一応言っとくけどぉ。ちしゃとはマジで誰にでもそういうこと言うから」 「あは、こないだ茉麻ちゃんにも“千聖のお嫁さんになって!”とか言ってたね。ケッケッケ」 「自分基本、ノリとフィーリングで生きてるんで。でへへ」 「で、でもでも!」 必死で舞ちゃんから千聖を奪い返そうとするも、「シャー!」とかヘビの威嚇みたいなことをされて、たじろいでしまう。 何、この圧倒的な存在感。そして威圧感。こ、これが本妻の迫力と言う奴か・・・! 「なっちゃん、いい?先日、千聖は舞にこう言いました。“千聖はいろんな人を好きになるけど、絶対に舞ちゃんに戻ってくるから”このハロプロDDが」 「・・・ああ、たしかに言ってたケロ」 「だから、思ったの。舞だって千聖一人に縛られる必要はないんだって。いろんな人と仲良くして、そんで最後は千聖を選ぶってわけ」 ね?と小首を傾げると、千聖は口を尖らせながら一応うなずいた。 「まー、本当はヤだけどぉ、しょうがないよねっ」 「じゃ、じゃあ私と結婚できるって言ったのは何だったの!ルームシェアは!嘘だったの!」 閑静な住宅街の一角の公園で、痴情のもつれから争いを勃発させてる少女たち。しかも同性! 曲がりなりにもアイドルだって言うのに、なんてみっともない! 理性ではそう思っていても、今回は譲る気になれず、私の声も知らずに上ずる。 「それは嘘じゃないよ」 すると、千聖が意外なほど冷静な声でそう返した。 「千聖はなっきぃが好き。でもあいりんも好きだし、舞美ちゃんも好き。もちろん舞ちゃんもどわい好き。 なっきぃが優しくしてくれるから、千聖は頑張れるんだよ。あいりんと一緒にいるだけで心が和むよ。舞美ちゃんとお喋りしてるだけで、肩の力が抜けてくよ。舞ちゃんは千聖の命そのものだよ。 なっきぃ。千聖の周りには、こんなに千聖のことを助けてくれて、愛してくれる素敵な人がいっぱいいるの。だから、その誰かを選ぶなんて千聖にはできないよ。ダメかな・・・?」 「千聖・・・ううん、いい!全然問題ない!千聖が思うとおりにすればいいよ!」 私は何だか感動してしまって、若干目に涙を浮かべながらぶんぶんうなずいた。 「ちっさー、大人になったね!舞美は嬉しいよ!」 ほら、このとおりリーダーも喜んで・・・と思ったら、ブラックキューティーガールズコンビは揃いも揃って「ハッ」と鼻で笑っていた。 「ケッケッケ。何かいい話にまとめようとしてるけどぉ」 「つまり、これからも一人に絞らずガンガン浮気し続けるけど、まあ黙って待ってろやってことでしゅね。 はいはい、別に舞はそれでいいけど?ちゃんと最後には舞を選ぶって宣言もらってるからね。どうぞどうぞって感じ。 なきちさルームシェア?したらいいじゃないでしゅか。どーぜ週に5回は舞のとこに来るに決まってんだから」 「舞ちゃんうけるー!それじゃシェアの意味ないし!」 ――あれ?あれ?どうしてこうなった? 私は確かに千聖に選ばれて、結婚できるとまで言われて・・・いつの間に寝取られた?いや、まさか最初から寝取ったのは私だったってオチ? 「ケッケッケ、どっちか1っこ選べないけど~」 「あなた(たち)がとてもた・い・せ・つってわけケロね・・・」 最後の最後、ちさまいコンビの鉄壁さを見せつけられてしまった気がしなくもないけど・・・いかんせん、私は執念深い。 引っ付き虫とかピクミンとか言われたって、しつこくしてると千聖は結構折れてくれるのを、私はよくわかっている。 2人だけの海外旅行とか、夢と魔法の国とか。まだまだチャンスはいくらでもあるし、作戦の立てようもあるというもの。 「ねーさん、シェアするお部屋をお探しならぁ~カッパ不動産が協力しますよぉ~ケッケッケ」 「へーい、あんがと」 面白がりな愛理の御提案を右から左に受け流しつつ、私はケータイをパカッと開いた。 どうやら今日のデスメールは、とってもとっても長くなりそうだ。 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/62.html
栞菜にお話ししたいことがあるの、とちっさーからメールをもらって、二人の家から中間地点ぐらいにある駅へ私は向かっている。 このごろちっさーは名前呼び捨てだけでなく、敬語をやめてくれつつある。 もちろんとても丁寧に話すことに変わりはないのだけれど、わたしはそれを密かにとても嬉しく思っていた。 それに、何ていうか…私は最近ちっさーのことばかり考えてしまっている。 ちっさーともっと一緒にいたい。いろいろなちっさーを見たい。 ちっさーが私や愛理以外のメンバーと話をしていると悶々としてしまう。 一人っ子だったからか、私はとても甘えん坊で独占欲が強い。 特に強く愛情を持った人とはいつも触れ合っていたいし、いつも自分といてほしいと思ってしまう。 今までも舞美ちゃんや愛理にベタベタしすぎてちょっと怒られたりしたことがあった。 そういう経験を通じて、自分なりに大好きな人との距離の取り方を学んでいたつもりだった。 でもまだまだ未熟だったみたいで、今はとにかくちっさーに近付きたい気持ちでいっぱいだ。 …こんなことだからレズキャラだなんて言われてしまうんだろうな。 なんてことを考えているうちに、待ち合わせの改札に到着した。 まだ待ち合わせ時間まで三十分もある。 お茶でも飲んでようかと構内のカフェに入る寸前、 「栞菜。」 後ろから呼び止められて、ポンと肩を叩かれた。 「千聖!えーっ早いね!」 今まで千聖は待ち合わせギリギリに「かんちゃんごめんねー!グフフッ」とか言いながら走ってくることが多かったから、なんだかびっくりしてしまった。 「栞菜と会えるのが楽しみで、早く来てしまったの。」 「ちっさー…」 はにかみ笑顔で言われて、思わず抱き付いてしまった。 ああ、だめだだめだ私。 「それで、話って?」 手をつないで歩いている途中に聞いてみると、 「あぁ。」と少しためらった後に千聖が言った。 「私、キュートを辞めた方がいいのかしら。」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -