約 85,632 件
https://w.atwiki.jp/bokurobo/pages/501.html
マグマダイバー・プラグマ・SS 連続SS その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7 その8 その9 その10 その11 その12 その13 その14 その15 DBへ SS保管庫へ戻る
https://w.atwiki.jp/dangerousss3/pages/226.html
準決勝戦【豪華客船】SSその1 『ケケケ、海には船っていうじゃありませんか。』 『広い海の上に何かを浮かべるとすれば、一番に思い浮かぶのは船ですよ。』 『ありとあらゆる物語作者が海を描くとき、それはシェイクスピアだろうがヘミングウェイだろうが同じでしょう。』 『アラビアンナイトの世界でもシンドバットは船に乗って海へ出るんだから。』 『そう、海と船はセットなんですよ』 『そうなんです、遭難ですよケケケ』 『あ、つまらなかったですか…』 『古今東西、物語に出てくる船は大概沈むということを、ね。言いたかったんですよ。ウケケ。』 『僕の名前はシャイロック。』 『シャイロックの悪魔。シェイクスピアの強欲な商人の名を持つチンケな悪魔です。』 『そうですね、取立て人ってヤツでしょうか。』 -1- 『青い空。』 『白い雲。』 『照りつける夏の日差し。』 『見渡せば一面のエメラルドグリーンの海、そして海。』 『水平線の彼方まで海だ。』 『豪華客船クルージング。』 『青春ですねえ。』 「に、似合わねえェー…。」 『そ、そんなァ、輝く肌に申し訳程度の水着。』 『酒にフルーツ、健康的な色気。』 「そんなもんはねーっての。いやまてよ?仕事が終わって金がたっぷりある状況なら?や、それでもダメだなぁ、ハハッ」 真夏の日差しを受ける豪華客船デッキの上には不似合いなジャケットの男、赤羽ハルは呟いた。 『ケケケッ、どうでしょ不味いんじゃないですかねぇ。』 「お前が出てくるってことは相当不味いんだろうよ、シャイロック」 『ウケケ、そう邪険にしないでくださいよぉ。』 『僕は貴方の能力の制約みたいなモンなんですから。』 『一心同体、一蓮托生ってヤツです。取立てが近いと思ったら側にいなくてはいけません。』 「制約みたいモンってなんだよ、制約そのものじゃん。しっかし、やってくれやがったなァー。」 『ケケケ、見事に座礁してますねぇ、船。』 『こりゃあ、動きませんよ。』 『ちっともミツコさんが出てこない理由がわかりましたねえ。』 「チッ、あーそーだな、これかよ。さて原因は」 『まァ十中八九エンジン系統でしょ。』 『ハル君もわかっているはずだ。』 『だって僕がわかってるんだから、ケケケッ。』 『そしてこう考えている。』 『浸水状況の確認は必要だがミツコの戦闘力でこの巨大な客船に穴を開けられるだろうか。 ってね。』 「ない。とは言い切れねーなぁ。これはさっさと船ごと換金して海に沈めるべきだったか?」 ジャリン…。 ハルは手近な花瓶を硬貨に換金しポケットに詰め込む。 「資金(ぶき)調達は楽でいいんだが、こりゃ面倒になりそうだな。」 『ケケケッ、大変だァ大変だァ、でも僕としましてもね、お金を回収できるに越したことはないわけでして』 『健闘をお祈りしますよ、ケケケ』 「ハハッ、好きにしろよ。」 赤羽ハル。 手に掴んだ物を換金する能力『ミダス最後配当』を持ち。 金を武器として扱う『日本銀行拳』という暗殺術の使い手。 この豪華客船は彼に無尽蔵の残弾を与えている。 この時は、まだ。 -2- 二日目。 『ミツコさんはガン逃げですかねえ、ケケケ』 「そういうことだろ?んっと、お?TVはつくぞ」 『電気はまだ生きているようですねえ。』 『だとすると、冷凍貯蔵庫が動かなくなったのは発電機や電気回路ではなく。』 「ミツコの攻撃ってことだな、ったく。」 『ウケケ、ほらほら気を落とさないで、お昼休みのショッキングでも見ましょうよ』 「おっ?トミさんはいつも元気だなァー」 TVにはタレントのトミタさんが出ている。 サングラスが似合うマルチ解説者だ。 『エー今日のゲストはフジワラタツヤさんですハイ』 『よろしく、お願いします』 『エー、またドラマの主演が決まったようですねハイ』 『今回ははまり役だと思うんですよね』 『エー、なんてドラマでしたっけ?ハイ』 『【家族-リソース-】って言うんですよ』 『エー、ところで髪切った?ハイ』 『役づくりですよ』 『エー、この主役はエー』 『猪狩誠っていうんですよ』 『エーそろそろお友達紹介?ハイドーゾ』 『あ、じゃあ黒田武志さんで』 『エー、どんな知り合い?』 「さて、飯も食ったし。かくれんぼを再開するかァー。船を換金して沈めれりゃ話は早いんだが」 『それができりゃあ、確かに話が早いんですがねえ、わかってるんでしょ?』 「お前が出てきたって事はそういうことだろ?」 『ケケケ、警告ですよ、警告。これも契約内のサービスですウケケケケ…。』 -3- 4日目。 『まさるが死んだのは、お゛ま゛え゛ら゛のぜいじゃないかあぁッ!!』 ♪世界がー 『イイ演技してますねえ。ケケケ』 「思ったより面白いなァこれ」 TVを消してハルは立ち上がった。 「しっかしなんだよ、面倒くせーなぁ。」 重厚な扉を換金すると同時に部屋の中にコインを撃ち込む。 クローゼットやカーテンの陰になりそうな部分も。 およそ人が潜める可能性がある場所は徹底的にやる。 『待ち伏せからの奇襲、罠。リスクの排除は必要ですからねえ。』 「ッたく。メシ食う場所確保するのも面倒なことだよな。」 ハルは3日かけて現状の確認を終えた。 「とりあえず浸水はないな、これは上々。」 『しかし、操縦系統、エンジン制御などを念入りに壊されてしまってますからねえ』 『船自体も完全に岩礁に乗り上げた状態ですからケケケ』 「水は入ってこないが船体へのダメージは大きいってことだよなあ。」 運良く沈没は免れているがこれではもう自力の航行を望むことはできない。 ミツコが船を操縦する技術を持っているかどうかは不明なので偶然か故意かはわからないが。 少なくとも赤羽どうにかできるレベルを超えた故障である。 つまり、もう船は動かない。 -4- 6日目。 『黒田さん』 『どーした誠?』 『見つけましたよ、奴らの計画の穴を、逆転の一手を…』 『おー、そりゃすげー』 ♪世界がー ♪たとえー AYAMEが歌うエンディング曲が始まったところでTVを消してハルは立ち上がる。 『ドラマで黒田さんも言ってましたが食糧の確保は重要な問題ですよぉ。』 『いかに強靭な魔人であっても、人は食べなければ生きてはいけませんからね。ケケケ。』 「腹が減ってはなんとやらって言うしなァ」 『簡易食糧にはまだ余裕があります。』 『食料庫にはまだ缶詰とかもありますからね、ケケケ。』 「しかし、これが狙いか、チッ。やるじゃねーか。」 ミツコは姿を見せないが地味な破壊活動を続けている。 『ほとんど嫌がらせのレベルですねえ。狙いは徹底的に食糧ですがね。』 「生で食えるモンから潰しやがってよォ、トマト祭りかっつーの」 『ケケケ、昨日のは酷かったですねえ。食料庫の食べ物にケチャップがぶちまけるんだもん。笑っちゃいましたよ、ケケケ。』 「すぐに食えなくなるってわけじゃあないが」 『ケチャップ味だけとかアメリカ人じゃあるまいし、ケケケ。』 『そもそも、痛みやすそうですからねえコレは』 「ったく、メンドクセー」 元々、毒などを混入される危険性を考慮すれば安全な食べ物は缶詰などの保存食に限っている。 実質的な被害はないといってもいいが、精神的なプレッシャーはある。 『メッセージってとこでしょうかね。』 食べ物から目を離すな、というミツコからのメッセージ。 -5- 8日目。 『ゴミめ、社会のゴミッ。貴様らの。その程度の策など。』 『お゛ま゛え゛ら゛がゴミ扱いしたってなぁ!!俺たちは!!俺たちは家族なんだ!!』 ♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー エンディングテーマの途中でTVを切る。 探索をあきらめる。 客室数にして500。 乗務員分の居住室が200。 その他様々な部屋、設備、倉庫。 膨大な部屋、部屋、部屋。 完全に逃げに徹した魔人。 しかも手芸者を追うにはあまりにも労力が多い。 「トラップも仕掛けてやがるしなァ。」 『この一週間で遭遇したトラップは4つですがねえ。』 「少ないと見るべきだ。だが悪質だぜ。完全に無視できないって。油断すれば致命的なダメージを覚悟する必要もあるからなあ。」 「あの時仕留められなかったのが不味かったなァ」 一度だけ、ミツコに遭遇したが、すぐに逃げられた。 「追う途中にトラップが仕掛けられていたことから考えると、罠はこちらの消耗を狙うというよりは」 『出会ってしまったときに逃げるための盾でしょう、ケケケ。こりゃ分が悪い。』 「ハハッ、まあ無駄な神経使って追いかけるのはヤメだ。とりあえずはメシだな」 -6- 16日目。 『黒田さん!黒田さん!ここで、ここで諦めるんですか?ここで!』 『おーこりゃすげー、お前も泣くことがあるんだな…いいもん見れたぜ』 『ぐっ、黒田ざーん!!』 ♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー ♪亡霊にー TVを消して立ち上がる。 『まさか誠の買い占め作戦が読まれているとは驚きでしたねえ、ウケケ。』 『そして今回のドラマの教訓は残された食糧と飲料を確保するのが大事ってことですねえ。』 「ッても、サバイバル能力は相手が上か、何か手段を考えねーとな。」 『料理人に園芸部に手芸者でしたっけ。そりゃ海で魚をとって普通に調理できそうだ。』 『海で待ち伏せします?ケケケ。』 「無駄な労力だろうな、無駄な動きは相手の利益だ」 『相手が来ないなら、こっちも籠城戦ですねえ』 「根比べってか」 ありったけの缶詰と水を集めて、赤羽ハルは籠城を決め込んだ。 -7- 34日目。 『ほらよ』 『なんのつもりだ?誠…。情けならいらんぞ。』 『そんなんじゃないよ。園長のオッサン。俺たちは今や同じ立場だ。』 『ふん…。』 『だからさ、まずは喰おうぜ。俺とあんたの仲だろ。』 ♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー ♪亡霊にー ♪囚われーてもー TVを消す。 腹が減った。 『まさか、園長があんな事になるなんて…。感動ですねえ、ウケケッ。』 「あーあ、動くしかねえか、ここまで、追い詰められる前に出来る事はっとォ。ねーのかよハハッ。」 『ありませんねえ、初手が全てでしたよ、ケケッ。今思えばねえ。』 『初手で船自体を換金することが最善手だったんです。それを逃しちまったんだから』 『ま、ハル君は精神的に追い詰められることはないでしょうがねえ。』 「まずは隣の部屋だな。」 『食べるものが有ればいいんですがねえ。』 『あと僕はドラマの展開が気になりますよ。』 「ハハッ、TVが有るといいな」 -9- 41日目。 「ま゛ゆ゛!!め゛い!!まざるぅぅぅ!!な゛んで立つんだよぉぉぉ お前が強いから人が死ぬんだっ!!ま゛ゆ゛!!め゛い!!まざる!!」 ♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー ♪亡霊にー ♪囚われーてもー ♪私はー TVを消す。 『いやいやいや、何です?この展開は、泣けるじゃないですか。ここまでかんどーできるだなんて』 『僕は涙が止まりませんよ』 「涙って、お前…」 『心の涙ですよお』 「さて、結構なんとかなるもんだな。」 『一般客室には、菓子や飲み物が常備されてましたからねえ。』 『毎日コーラとナッツから始まってのお決まりメニューってのは見てて悲しくなりますがねえ、ケケケ。』 「贅沢は言えないからな、相手からの攻撃を警戒しながらでも寝れるってのは大きい」 『あと客室には各部屋にTVがあるのも大きい。』 『昼の連続ドラマ【家族-リソース-】。これがあればこそって感じですからねえ。』 「しっかし、まさか園長のピンチにまさるがなァ」 『まさか、まさるにあんな使い方があるだなんて』 「意外…だったな」 『ねえ』 -10- 92日目。 『おー、こりゃすげー』 『お、お前はッ!?』 『俺?俺はちょっと目立ちたがり屋のヒーローさ』 『黒田さん!!』 『待たせたな、誠!!地獄の底から帰ってきてやったぜ!!』 ♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー ♪亡霊にー ♪囚われーてもー ♪私はー ♪あなたのー 『熱い、これは熱いですよお』 「脚本家の園堂長次郎…いったい何モンだ?」 TVを消してハルは立ち上がった。 『ケケケッ。部屋の移動を開始して50日ってとこですかねえ。』 『ミツコさんに破壊された部屋も多い事から、そう長くコレは続けられませんよお』 「わかってる、相手を釣りだそうって作戦はどうも上手くいかねえな。」 『ケケケ。ハル君も相当辛抱強いですが、相手も相当だ。』 『僕もこんなに長く居るとは思いませんでしたよ』 『潜在意識の底で支払い期限が近いとハル君が思った時だけ出てくる警告存在ですからねえ』 『この僕、シャイロックの悪魔は』 「ハハッ、死の宣告みてーなもんだからな。」 『まあ、僕も取立てが終われば消える身ですから?』 『ハル君には生きていてもらいたいわけですがねえ。』 『まあ、こんなに話せて楽しかったですよお、ケケケ。』 「そう簡単にくたばりはしねえさ」 『ケケケ、そうあって欲しいもんですがねえ』 -11- 150日目。 『な゛んでだんだよ゛う゛、園長!だんで…何で』 『それはな、誠よ…』 『園長…』 『ワシがお前の家族(リソース)だからじゃ!!ゆけい!!誠、お前は無敵じゃ!!』 『う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!力がッ!!』 ♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー ♪亡霊にー ♪囚われーてもー ♪私はー ♪あなたのー ♪家族に… ♪なりたい… TVを消す。 『おろろーん、泣けるッ!!泣けますねえ。園長の死、誠の覚醒。そしてこのエンディング曲、次回は最終回。』 「そうだな」 『ケケケ、続きはどうします?最終回を見てからってのが無難ですがねえ。』 「いや、最終回はもっと落ち着いて見るさ、決着をつけてからゆっくりとなァ」 『準備は万全とは言い難いですがねえ』 「これ以上の時間はもうねーよ。腹も減ったしな。」 『最後の部屋でしたからねえ』 「随分後手に回っちまったが、ただ時間をかけていたわけじゃあないからな。」 『ウケケ、まあ頑張ってください』 「ハハッ、まあ期待してくれ」 ハルはTVを消す。 そこにはTVと相当額の金が転がった。 『ケケケ、金があってもここじゃ何も買えません。ケツ拭く紙にもなりゃあしません』 「だが、この金で敵を殺せるぜ」 -12- 夏の日差しが暑い。 『ウケケ、甲板の上は流石に暑いですねえ』 「うおおおおッい!!ケルベロスッ!!」 『でかい声だなあ』 「ったく!!やってくれるぜ!!完敗に近いぜ!!だから出てきてやった!!」 『返事はありませんねえ』 「だろうな、これが最後の攻撃だ、受けろよ」 ポケットから取り出した硬貨を指で弾く。 高速で打ち出された効果が空中で一瞬のうちに増殖し甲板をぶち抜いた。 ズズン…。 船が揺れる。 「正式な貨幣、10万円金貨を空中で1円に換金した極大砲だ。重さにして100kg、秒速300mの一撃だァ、当たりゃあ死ぬぜえ」 『ウケケケケ、相手がどこにいるかわからないのにねえ』 「ハハッ、その為にこんだけ時間かけて船中の金目のモンを10万円金貨に換金してきたんだ。どんだけでかい豪華客船だろうがよぉーッ!!」 一撃で展望ブリッジを粉砕する。 「スクラップにしてやるぜェッ!!」 -13- 「ハッハァー!!」 船は大きく揺らいでいる。 いくつもの大穴が空き、浸水が始まっているようだ。 『もう死んだんじゃないですかねえ』 「相手が死ねば、なんらかのアクションがある筈だ、まだだなッ」 豪華客船だけあって調度品はどれも高級なものだった。 持てるだけの十万円金貨の量は20kg分で1000枚、一億円相当。 凄まじい勢いで連射しながら空中で換金。 スピードはそのままに20gの金貨が100kgになって船体にぶち込まれていく。 『ケケケ、でもおかしくありません?』 『船、思ったより丈夫すぎる』 「壊したように見せかけて補強してやがったってのかァ!!」 『糸と植物を使ってってとこですかねえ』 しかし、手を止めるわけにはいかない。 「押しつぶしてやるッ」 ヒュン…。 「っとぉ!!」 『しびれを切らしましたかねえ、ウケケ。』 後方より飛来した針を極大砲で迎撃する。 「ようやくってェーことだなァ」 そこに立っているのはケルベロス“ミツコ” -14- 「フゥッ!」 両手から10発の10万円金貨が撃ち出される。 ゴオン!!ゴオン!!ゴオン!! 金貨が膨れ上がり1円玉の塊となる。 秒速300m、音速よりやや遅いスピード。 質量にして1t。 「防御に優れるということはッ」 「こういうことです」 金属塊がはじけ飛ぶ。 周囲に金属片が飛び散る。 「ぐううッ」 逆に飛来した散弾をコインで迎撃する。 「あなたが準備をしていたように私も準備を怠ってはいません」 「ああーん?」 瞬時に10万円金貨を打ち出すが 空中で爆散する。 「この船には燃料を始めとして無数の可燃物、化学薬品がある。フフ、爆薬のトラップです。」 「タイミングを合わせ移動しトラップを盾にする。化学って素敵ですね。農薬から爆薬まで同じ材料でできるんですから。」 「私たちはあなたの攻撃を耐え切れる。」 「意味がわかんねーよ、何だァ、見えねえ爆薬ってか?」 『ケケケ、どうだろうねえ。床下に爆薬を仕込んでおいてタイミングを合わせれば爆発で指向性の爆発でこういう芸当はできるかもしれませんよお』 「教える必要はありません。」 「そして、貴方は出てくるべきではなかった。」 「少し話をしませんか?」 「必要はねえなァー、あんたの爆薬は有限だろ?金貨とどっちが多いかなァー!!」 「残念です。」 「あなたは出てくるべきではなかった、この場所に。」 ゴオッ!! 赤羽ハルの足元が爆発する。 「っつっだぁ!!ぐおっ!!」 「150日かけました、この船の甲板上は巨大な爆薬です。」 -15- 「痛えェー」 体の半分が爆散した状態で赤羽ハルはまだ息をしている。 「そう簡単にくたばらせてくれねえんだよなァ」 『ケケケ、ですがコレはもう支払い不可能ですねえ』 「ったくよぉー、船の上は爆薬だらけかよ、そら入ったら死ぬわ!!」 『さてハル君、負債の支払いが出来る体に見えないのだが、取り立てさせて貰っていいかな?』 「150日かけてここを爆薬の極地にしたてましたからね」 「最初に船を換金されて金で押しつぶされてしまえば私達の負けでしたが」 先程から話しているのは次女の満子か。 「そうできなくしちまったのは、やっぱり気づかれたなァ。」 『そうみたいですねえ』 「沈没船は負債の塊だ。座礁した船の価値だって?そんなもん撤去費用考えりゃ極大のマイナス決算だっつーの!!」 「あんたァ、わかってたのか」 「私の弟はそういうところに目が効くものですから」 「貴方の負った最初の負債も、おそらく」 「あーそうだよ。似たようなもんだ、マイナスの物件を換金しちまったのさ」 「それでこのザマだよ」 片手だけ上げてヤレヤレとポーズを取る。 「殺せねえ殺し屋に価値があるとは思えねえからよ、殺せよホラ」 「殺しません」 「ああ?」 「だって、あなた最終回が気になりませんか?」 「私たちもずっと見ていたんですよ。家族-リソース-」 「ハハッ、なんだそりゃあ!!」 『あ、僕は気になりますねえ』 「最終回を見たら、話をしたくなるでしょう。ドラマについて。ねえお姉さま、みっちゃん。」 「ソーダねぇー」「確かにね」 「だから、最終回を見たらまた話しましょう」 『君が生き残るなら、まだ負債を返済できる目は残ると思いますし、この船の調度品を換金していけばそれなりに稼げるんじゃないですか』 『治療は大会運営がやってくれますからねえ』 「都合のいいこといいやがってよォー」 「見たいんだろ最終回」 『ウケケッ、ま、ギブアンドテイクですよ。これっくらい融通きかないと悪魔じゃありませんから』 『だってハル君もそうでしょ?』 「ああ、最終回は気になるな、ドラマの為じゃあ仕方ねえな」 「では」 「俺の負けだァー、おらァ!!さっさと美味い飯食って、ドラマ見んぞォー!!さっさと治療しろって!!痛えんだよォー!!」 準決勝 豪華客船の戦い 了 このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/bokurobo/pages/268.html
グランドアース・ストーリーズ・SS ストーリーライン 【閃光のクーガ】ストーリーライン 連続SS 【シャドウミラージュ】 下記リンク参照 ・シャドウミラージュ・SS DBへ SS保管庫へ戻る
https://w.atwiki.jp/tokimeki_dictionary/pages/1104.html
Roller coaster ジェットコースター【じぇっとこーすたー】 『4』以外の全作品に登場する遊園地のアトラクション。 『3』と『GS2』~『GS4』ではいつでもOK。 『1』では2年目の2月、『2』では3年目の8月、『GS1』では3年目の5月と途中で終了してしまうが、その代わりに新しい絶叫系アトラクションが追加される。 『4』でも、何かしらの絶叫マシーンは最初から最後まで用意されている。 絶叫マシーンというのは、どうしても好みの分かれるところである。意外なキャラが得意だったり、苦手だったりするので結構面白い。 『2』では、通常のデート・ダブルデートとも概ね無難な選択だが、水無月琴子はダブルデートでは乗せない方が良い。 水無月のイベント「冷静沈着」でも「悪い印象を与えたかな」という扱いになり、更にアルバムにも収録されない。 そのため、アルバムを作成しつつ彼女を攻略する際には、発生させる意味がほぼ無い。 坂城匠と乗ると「隣で男の悲鳴聞いたって…」と言われ、大はしゃぎする佐倉楓子を見て「そ、そうかあ。そいつはよかった」と言うあたり、『2』の主人公は絶叫系が案外苦手なのかもしれない。 幼年期では、メリーゴーランドと観覧車にしか乗らないが、メリーゴーランドに乗っているシーンからジェットコースターのレールがある事は分かる。 当時、小学校2年生だった主人公と陽ノ下光は身長が足りないという理由で乗れなかったのだろう。 (現実にもシートベルトなどの安全装置が正しく装着できないという理由で、小学生以下又は身長制限に満たない人の搭乗を禁止している遊園地が多い) なお、このジェットコースターのレールも幼年期と本編では違っているが、それは本編でメリーゴーランドを選択すれば確認できる。 幼年期のレール(青)は本編のレール(白)に比べて宙返りが全く無いので、例え乗ったとしても迫力には欠けるだろう。 ひびきのウォッチャーによると、『2』のジェットコースターは老朽化が著しく、水無月のイベントもそれが原因だったのかもしれない。 それが決定打になったのだろうか、以降はオチールに役割を譲ってお役御免となってしまった。 『GS3』『GS4』では、ミニスカート系の服を着ていくと男子の反応が変化する。 このアトラクションでイベントが発生するキャラクター 『2』:水無月琴子 『GS3』:紺野玉緒・設楽聖司(3人デート) 関連項目 絶叫マシーンビビール オチール 大回転コースタードリール バンジージャンプ
https://w.atwiki.jp/gangload/pages/22.html
鳳属性 SSレアカード一覧 御門 清十郎 ■攻撃力:4170 ■防御力:3030 ■必要戦力:27 ■スキル:一閃 ■スキル効果:全属性の攻 極大アップ セラフィーノ 蛍介 ■攻撃力:3540 ■防御力:4280 ■必要戦力:30 ■スキル:血の掟 ■スキル効果:虎属性の攻 極大ダウン 阿国 舞 ■攻撃力:4390 ■防御力:3420 ■必要戦力:30 ■スキル:天舞光臨 ■スキル効果:龍属性の防 極大ダウン 北條 真沙美 ■攻撃力:3950 ■防御力:3870 ■必要戦力:30 ■スキル:激情の女禍 ■スキル効果:鳳属性の防 極大ダウン 氷室 雅人 ■攻撃力:4020 ■防御力:3800 ■必要戦力:30 ■スキル:不敗神話 ■スキル効果:鳳属性の攻/防 極大アップ 東雲 美帆子 ■攻撃力:4610 ■防御力:3470 ■必要戦力:31 ■スキル:グランドマスター ■スキル効果:全属性の攻 極大アップ 南雲 頼 ■攻撃力:3860 ■防御力:4470 ■必要戦力:32 ■スキル:粛清開始 ■スキル効果:全属性の攻 極大ダウン 守乃池 八雲 ■攻撃力:4680 ■防御力:3660 ■必要戦力:32 ■スキル:聖女の恩寵 ■スキル効果:全属性の攻 極大アップ 大徳寺 小雪 ■攻撃力:3500 ■防御力:4320 ■必要戦力:30 ■スキル:飛翔の刻 ■スキル効果:鳳属性の防 極大アップ 【疾】緋乃森 桜 ■攻撃力:3550 ■防御力:4530 ■必要戦力:31 ■スキル:TRICK ONLY! ■スキル効果:全属性の防 極大ダウン
https://w.atwiki.jp/dangerousss3/pages/229.html
裏準決勝戦【特急列車】SSその1 ■Side 内亜柄影法■ 紀伊半島を一巡して琵琶湖畔を抜けて若狭湾へ。 日本海沿いを鳥取まで進み南下、瀬戸大橋ルートで四国へと渡る。 そして、徳島の阿南市から常軌を逸した巨大浮体橋で再び和歌山に。 西日本大環状線は、関西滅亡時にもほぼ無傷で生き残った。 現在では関西の都市機能は、この大環状線沿いに拡散している。 結果として中心部の荒廃を招いたらしいがそんなことは俺の知ったことじゃねえ。 大環状線を貸し切ってノンストップで走らせた特急列車が今回の戦場だ。 列車を止めて乗り込めばいいと思うだろ? だが、ノンストップのまま戦場入りするってのが主催者の趣向だ。 主催者は馬鹿なんじゃないかと俺も思う。 まあ、宇宙の時と同じく光素って奴のクソ魔人能力で転送して貰えばいい話だ。 先頭車両で頼むぜ。 エルフ女もトング女もそんなタイプには見えないが、機関車に細工されたら嫌だからな。 かく言う俺もガチ文系だから細工なんてできねーけどよ。 転送完了。おおー、いい眺めだ。 自動運転だから広い窓から前がよく見えるぜ。 おっ、あの観覧車は白浜のパンダちゃん遊園地か? ここのイルカショーは悪くない。ガキだったら楽しめると思うぜ。 ……おいちょっと待て!?線路の上に何かいるぞ!? ■Side 聖槍院九鈴■ 一方、特急列車の最後尾。 車内に浮かぶ直径約2mの白く丸い『穴』より、二丁のトングを携えた女性が現れた。 能力『タフグリップ』によって、トングで挟んだ物体を永遠に掴み続ける魔人。 その名は聖槍院九鈴。 彼女が通り抜けてきた『穴』は魔人アンバサダーの能力によるワームホールである。 転送失敗によって命を失う可能性すらある危険な移動手段だ。 しかし、雪山でも、底なし沼でも、彼女は臆さずこの『ポータル・ジツ』を利用した。 みずからの生死について、あまり興味がないかのように見える態度であった。 実のところ、この態度は『ポータル・ジツ』を利用するにあたって正解と言える。 この術は、人体を精神的エネルギー状態に変換して遠方に転送する術である。 恐れ、迷い、戸惑い――心の揺らぎは転送に干渉し失敗を引き起こす。 心弱き者に用はない。 アンバサダーたちの能力もまた、主催者が用意した試練のひとつなのだ。 転送が無事完了したのを見届けたアンバサダーは、天井のハッチから車外に出る。 時速160kmの強風に包まれるが、彼は直立姿勢で平然と周囲を見回す。 「イヤーッ!」 そして掛け声とともにアンバサダーは車上より跳躍し、宙返りしながら高架下に消えた。 ■Side リンダ・ゾルテリア■ 線路の上に置かれた、びっくりドンキーに似た名前の店で買った踏み台。 その上に乗っているのは、尖った耳とたわわなバストを持った女騎士。 「我が名は元女騎士ゾルテリア!!いざっ勝負だ特急列車!!」 猛スピードで迫りくる列車に対し、凛として名乗りを上げる。 控えめに言って自殺行為! 「とうりゃー!!」 ジャンプして列車のフロントガラスにレイピアで突きを見舞う! ガラス全面にヒビが入るが丈夫で割れない! 轢かれて吹っ飛ぶびっくりドンキーに似た名前の店で買った踏み台! Pカップの胸がガラスに激突し、ガラスが割れて車内に転がり込むゾルテリア! 激突のダメージは『ZTM(絶対にチンコなんかに負けない)』によって吸収された! 「あっふうぅぅぅん!!凄いのぉぉぉ!!大きくて逞しいのぉぉぉ!!」 卑猥なよがり声をあげ、身体をよじりながら悶えるゾルテリア! 激突の衝撃が変換された性的快感は、ゾルテリアの想像を遥かに超えたものだった! 異世界の住人であるゾルテリアが知らなかったのは無理もない。 鉄道の設計・製造・運用に関わる者の多くが、列車に劣情を催す変態であることを。 いわば、巨大なチンコと正面衝突したようなものである。 むしろ一撃で絶頂を迎えなかったのは幸運というべきだろう。 「ハアッ…ハアッ…今のはあぶなかったわ…」 ■Side 内亜柄影法■ 馬鹿だな。このエルフ、主催者の馬鹿どもを遥かに超える馬鹿だ。 今ので死んでくれたら良かったんだが、仕方ねぇ戦うとするか。 床にうずくまるゾルテリアに声を掛ける。 「大丈夫ですか?騎士道精神にのっとり正々堂々戦いましょう!」 俺の柄じゃねえが、なかなか『気持ちのいい』言葉だろ? 能力発動。生成されたのは七支刀じみた形状の『気持ちのいい』ジョークグッズ。 柄のスイッチを入れると7本の触手がウィンウィンとうねる。 ……どっちかと言えば『気持ちわるい』ぞコレ。 まあ俺は『騎士道精神』なんざ反吐が出るからこんなもんだろう。 「待って!!その武器やばい!!」 ゾルテリアは慌てて飛びのいてレイピアを構えた。 どうやらバイブ剣はかなり有効そうだな。 「そらよッ!だらしなくイッちまいな!」 「くっ…バイブなんかに負けない!」 細身の刀身と、異形のジョークグッズがぶつかり合う。 しかし……うおお!?こいつサバンナの時よりかなり強くなってるぞ? あれか?ホームセンターで勝ってレベルアップしたのか? どうしてコントで剣術の腕が上がるんだよ! 「フフフ……貴男、その武器で戦うのに慣れてないわね?」 「バイブで戦うのなんて生まれて初めてだよッ!」 俺は『ツッコミ』の言葉で『突っ込む』武器――ディルドを生成した。 ゾルテリアに投げつけるが、レイピアのナックルガードで易々と弾かれる。 ……こいつはちょっとヤバい。 ゾルテリアの剣術はフェンシングに近いスタイルだ。 座席間の狭い通路で、前後に動きながら戦うのに適してやがる。 おまけに、俺の背後にはゾルテリアが大穴を開けたフロントガラス。 ゾルテリア以外の生物が窓から落ちて特急に轢かれれば確実に即死。 プシューッ。その時、車両後部のドアが開いた。 待ってました!トング女、聖槍院の御到着だ。 重そうなキャリーバッグをゴロゴロと引きずっている。 中には妙なトングがいっぱい入ってるんだろう。 武器を全部持ち歩かなきゃならないのは大変だな。同情するぜ。 ■Side リンダ・ゾルテリア■ 特急列車は紀伊半島を南下し、江須崎付近を通過中。 聖槍院九鈴はトングで通路の床をカツン、カツンと叩きながらゆっくり近づいてくる。 音の反響で罠の有無を確かめながら進んでいるのだろう。 内亜柄影法はゾルテリアよりも前方に位置どっていた。 つまり、このままいけば『はさみうち』になってしまう。 「前から後ろから二人がかりで私に酷いことする気だったのねっ!」 「狙いはその通りだが、卑猥な表現すんなッ!」 影法は言葉『尻』を捉えた『ツッコミ』を入れエネマグラを生成。 バイブとエネマの二刀流! 「ひいいっ!どう見ても前から後ろから酷いことする気じゃないっ!」 挟撃を回避しようと座席の上に逃げるゾルテリアだが、一瞬遅かった。 トングで足をつかまれ投げられた。 「ガシッ!ボカッ!」アタシは平気だった。スイーツ(笑) 攻撃が性的かどうかは、ゾルテリアの認識に加えて攻撃者の認識も重要である。 聖槍院九鈴の戦いは、聖槍院九鈴の掃除は、自身の罪を雪ぐための神聖な行為である。 例えばお掃除フェラのような、性的興奮を孕んだ掃除ではないのだ。 ドゴーン!ドゴーン! ゾルテリアが振り回され、車内の椅子や棚や天井照明がどんどん破壊されてゆく! そして九鈴は、およそ胸囲1.5mにも及ぶ巨大な脂肪塊を、影法へと振り下ろした! 「うおッ!?ちょっと待て!」 影法は『制止する』言葉でサスマタを生成してゾルテリアを受け流す。 ドゴーン!ドゴーン! 重機じみた速度で迫る即席のゾルテリア・ハンマーを、影法は辛うじて回避し続ける。 (はぁー…まさか自分自身が鈍器になるとは驚いたわねえ…) レイピアで反撃しても届かないし、ダメージはほとんど受けないので、 ゾルテリアは為すがままに振り回されることにした。 やることがなくて暇なので、しょうもないことを考えていた。 (はっ、もしやこれが『びっくりドンキー』!!) ■Side 内亜柄影法■ 「ドンドンドン、ドンキー♪びっくりドンキーに似た名前の店ー♪」 ゾルテリアが酷い歌を歌いだしやがった。歌詞も酷いが音程も酷い。 それ以上に歌う鈍器に襲われてるこの状況が酷い! サスマタで捌きながら、座席の上を飛び逃げるのも限界だ。 「おいッ!提案がある!聞いてくれ!」 聖槍院の奴もゾルテリアにダメージを与えられない状況だ。 交渉の余地はあるはずだ。 「今から俺が列車に穴を開ける!そのブタを外に投げ飛ばせッ!」 「いいかんがえね」 お、聖槍院が同意してくれたぞラッキー! 「そんな酷いっ!反対!HANTAI×HANTAI!ハンタイ・ルージュっ!」 票が減るからファントム発言すんな!ん……?票ってなんだ? 「オッケー。賛成2、反対1で結審だ。さっそく判決いくぜ。主文は後回しだ」 この『主文後回し』ってのは、ほとんど死刑と同義語の『重大な』言葉だ。 能力発動。重くて大きな断頭斧が生成される。 「判決ッ!おっぱいはデカい方がいいが限度があるんだよッ!死刑ッ!」 全身を使って巨大断頭斧を一回転させ車両を輪切りにする! バツン!火花が散って車内照明が消える! やべえ、切っちゃまずいとこ切っちまったか? ギャギャギャギャギャー!急ブレーキ! 俺たち3人は前方に吹っ飛び、フロントガラスに空いた大穴から放り出された! 線路の上に手酷く叩きつけられる。 ……どうやら、全員まだ戦闘範囲内にいるみたいだ。 ゾルテリアは線路上で大の字に固定されている。 すげえな、もつれた一瞬で懐のトングを繰り出し固定する聖槍院の早業だ。 転落の衝撃でゾルテリアのアーマーは壊れ、タイツも破れ全裸に近い状態になっている。 これもすげえな、物理法則を超越したゾルテリアのエロハプニングだ。 レイピアもどっかに吹っ飛んでるようだ。 これなら聖槍院さえ倒せば俺の勝利は確定だろう。 「あんた……いい女だな。結婚してくれ!」 俺は聖槍院にプロポーズした。 「俺の仕事は社会のゴミ、犯罪者の掃除だ。俺たち、気が合うと思うんだ」 「いきなりなにを……」 唐突な求婚に聖槍院は戸惑い、警戒し、後ずさりした。 そりゃそうだろう。 いきなり口説いて『落とす』ようなことを言われても話が『見えない』よなぁ。 でもよ、できれば俺の言葉があんたの『心に届いて欲しい』って思ってるんだぜ? 能力発動。聖槍院の真上に『見えない』刃が生成される。 目に見えぬ刃は、聖槍院の『心臓へ』一直線に『落下』する。 じゃあな。あんた割と俺の好みだったぜ。……ルックスだけならな。 ■Side 聖槍院九鈴■ 広大な太平洋に突きだした、本州最南端・潮岬(しおのみさき)の白い灯台が遠方に見える。 影法の生成した無色無音の刃が降ってくるが、その姿は九鈴には見えない。 不可知の刃が突き刺さり、九鈴の肩から鮮血が噴き出す! しかし! その刃は心臓には届かなかった! 肩に隠し持っていた暗器トングが、刃の軌道を僅かに逸らし致命傷を免れたのだ! 世界のすべてに果てなき謝罪を繰り返す、聖槍院九鈴の壊れた心に言葉は届かない。 鮮血に染まりゆく道着を意に介さず、トングを振るう。 「!よかるまたてけ負」 必殺の刃を凌がれ窮地に陥った影法は、生成した『逆転の』ナイフで反撃する。 トングがナイフを捉える。白刃取り! 影法の視界の天地が逆転し、地面に叩きつけられた。 いま一方のトングが手首を挟み、影法は再び宙を舞う。 「降参だッ!」 二発目の投げ技の軌道上で影法はサレンダーした。 タフグリップが解除され、稀代の悪徳検事は小さな放物線を描いて地に落ちた。 残る敵はほぼ全裸で磔(はりつけ)状態の女騎士ゾルテリアたた一人。 だが、ここからが難事だ。 「くっ殺せ……!!」 「そうしたいです……」 一応、名トング『カラス』による必殺の突きを何発か打ち込んでみる。 「んふんっ! そんなんじゃちっとも感じないわよっ!」 やはりノーダメージ。無理っぽい。 「頑張れ九鈴ちゃーん! レズプレイが有効だぞーッ!」 脱落した影法が愉しげにアドバイスする。 かぶりつきの特等席! もしや迅速なサレンダーはこれが狙いか。 (アレしかないか……。だけど……アレは……) 九鈴にはゾルテリア戦に備えた秘策があった。 でも、できれば使いたくなかった。 己の命にすら無頓着な狂人にも、捨てきれない羞恥心があることは御理解いただきたい。 流石の九鈴も、いかにして自らを淫しているのかを公開するのはすごく恥ずかしかった。 『心を掃除せよ』 亡き父の教えを思い起こす。 為すべきことのみに専心し、その妨げとなる感情は捨て去るのだ。 ――九鈴は意を決して、キャリーバッグに歩み寄った。 (わたしやります! 父さん、母さん、九郎。天国から……見ないでください!) そして九鈴は、キャリーバッグの最も奥からアレを取り出した。 女性に安心感を与える乳白色の柔らかな曲線フォルム。 挟んでよし、挿れてよしの優れた機能性。 聖槍院九鈴、夜の愛用アイテム――その名もTONGU。 ■Side 高島平四葉■ 「 茶 番 」 参加選手にあてがわれたホテルの一室で中継を見ていた四葉は、そう言い捨てた。 あのTONGUが出た以上、勝負は決まった。これ以上の継続は無意味だ。 だが、残虐場面や猥褻場面をフィルタリングするNiceBoat認証画面を わざわざ参加選手権限で解除していることからも、興味を持ってることは明らかだ。 四葉は、あの温泉旅館で自分の身体の上を這ったTONGUの感触を思い出していた。 下腹部から沸き起こった甘い戦慄が全身を包みこみ、四葉は身震いした。 (すごい……あんなに激しく……) TONGUによって乱されるゾルテリアの痴態を、四葉は食い入るように見つめていた。 いつしか、四葉の指は無意識のうちに下着の中に滑り込 (省略されました。全てを読むには投票コメントにワッフルワッフルと書いてください) このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/dangerousss3/pages/103.html
第一回戦【雪山】SSその2 モニタの向こう側には、ただただ単調な白が続く。冷気は車中に染みる事こそないが、それでも死の世界の予感を色濃く滲ませている。 雪に溶けるかのような、白く塗装された対魔人LCV――指揮装甲車。 「あァ~~~、さっむ……」 広漠たる大自然の風景に似つかわしくないそのオブジェクトの中――石丸圭介二等陸尉は、手を擦り合わせた。それは雪原の風景から喚起された、単なる条件反射であったが。 彼が率いる対魔人小隊に緊急出動の指令が下されたのは、わずか20分前の事だ。 「フゥ~~ッ……クソ魔人ごときが……このご時世に呑気に『トーナメント』だァ?」 小規模な戦闘システムの統括すら行う新型LCVの感知能力は、尾根より数kmの地点で試合を始めた『標的』の状況を、余すところなく捉えている。 「ふざけるも大概にしろよ――日本の秩序は人間様のものだ、屑共」 ビスケットを噛み砕く音が、赤いランプに照らされた車内の静寂を割った。 ---- 一面の銀世界。 トン、トン、トン、……一定の間隔で、音は続いている。 聖槍院九鈴と、赤羽ハル。遭遇から6分。未だ互いに有効打を与えられていない。 「近づかない。あなたのその判断は、完全にただしい」 トン、トン。柔らかな雪を叩く音は、九鈴のトングだ。地を一定の間隔で叩きながら距離を詰める、それは異様な動きであった。 「……ハハッ……まずいよな。俺さぁ……普段はもうちょっとだけ、口が回る方なんだけれど。ちょっとここ、寒すぎないか?」 軽口を返す男は、赤羽ハル。距離を離す。残された硬貨は……100円玉1枚。10円玉2枚。広大すぎるフィールドに、落ちた硬貨を覆い隠す雪。 故に残弾はこの3発のみと考えてよかろう。しかも吹雪。これまで撃った6発は、いずれも命中弾となってはいない。明らかに「日本銀行拳」の指弾で処するには不利な環境にある――それでも、距離を離さざるを得ない。 「可愛い女の子とデートする環境じゃあないッつーの……」 赤羽のジャケット。その右袖は破れていた。のみならず、その切断位置……肩の付け根からは、真新しい鮮血が筋になって流れている事が見て取れるだろう。 「次は袖じゃない」 九鈴は言う。……トン、トン。 『タフグリップ』。「聖槍院流トング道」――その特異な武術によって培われた精神認識を核とする、聖槍院九鈴の魔人能力。 彼女のトングが掴んだ物体は、決してそのトングから離れることはない。彼女がトングから手を離そうとも、永遠に。 紙幣を使って、掴まれた袖の根本から切り離す……歴戦の暗殺者の一瞬の状況判断でもなければ、逃れる事はできなかったであろう。 例え自身の肉を巻き込むことになろうと、0.3秒も切断が遅れていたならば、彼の体は九鈴のトング道の技術によって、動きを封じられ、投げられ続けていた筈である。 この極寒の雪山の中で。撲死か凍死するまで、永遠に――だ。 「……袖じゃなく、肉をつかむ」 (違う……) 赤羽ハルは……。その口調の端に、違和感を覚える。本心からの言葉ではないと。 (違うな) 吹雪は強くなり、右手に構えた硬貨の狙いが定まらない。……そうではない。この女の狙い。対処を。 が、トン、トン……と地を叩いていたトングが、突如動きを止めた。 「『ある』事はわかっていたんです。地の下に、何がうもれているか。それがなんであろうと、ゴミを――異物をさがし、ひろうことが、聖槍院の技」 「……チィッ!!」 敵の狙いを悟り走り出すが、既に遅い。 九鈴は瞬間、その地点に深く……深く左のトングを沈み込ませ、『それ』をひきずり出した。 「しね」 およそ4m立方にも及ぶ、巨大な雪氷塊を。 ――雪の日の後のアスファルトがそうであるように。豪雪地帯の雪中には、部分的な日照によって溶け……再氷結した、氷塊が埋もれている。 特に年間を通して雪が降り積もる雪山には、重量にして数tにも及ぶ巨大な雪氷塊がその身を隠しているケースがある―― トングで地面を叩き続ける動きは、反響の感知。ゴミを拾い集める聖槍院の技は、堆積するゴミ山の上からであろうと、中に埋もれた粗大ゴミを見逃すことはない―― そして、自身の重量の数百倍にも及ぶオブジェクトであっても。もう片手、右のトングで絶対的に地を掴む『支点』と、対象物の重量すらもそのまま力に変える、古式トング道の合気を以てするのならば。 「……!!」 重機じみたスピードで薙ぎ叩きつけられた即席のスレッジハンマーが、赤羽ハルの肉体を強く、斜面上方へ吹き飛ばした。 振り切られた雪氷塊の巨重が、低く雪山の静寂を鳴動させる。 「……近づかなくても、結局はおなじ。ゴミは全てそうじする。すべて……すべて」 「こほっ、うォッ……マ、マジか。ハハッ……」 どこか恍惚と呟く九鈴の声が、遠く聞こえる。 血液が多分に混じった吐瀉物が、新雪を赤く汚した。砕けた骨の欠片のようなものが見えるのは気のせいだろうか。 (……強い。日本銀行拳は所詮、都市の環境に依存した暗殺術でしかないわけだ。マジで考えなきゃあな。死ぬ……ぞ) 自然と共に、人工物を廃するために培われたトング術は――まさにこの雪山のような、死の世界のための武術といっていい。何よりこの異様な精神性。まるで組合の暗殺者だ。殺人に一切の躊躇が見られない。 片膝をついて体力の消耗を抑えつつ、赤羽ハルは考える。直接的な戦闘能力であれば、自分の方が上だ。しかし、離れれば氷塊。近づけば『タフグリップ』。隙はあるのか。 (ある。当然だ。……この程度は初めてじゃあないだろ? 自分の経験を舐めるな、赤羽ハル) 例えば、足。 彼女の懐に潜り込むステップの中で、密かに自分の靴を脱げるように仕込んでおく。 赤羽ハルの靴の中敷きには常に一枚の1000円札が仕込んであり――トングに腕を捉えられ、動きを制したと敵に思わせたその瞬間、蹴りで切り裂く。 足指で紙幣を掴み、股間から腹に向けて一閃。赤羽のリーチと蹴速ならば、致 「わたしのせいだ……わたしのせいだ」 無意味な言葉をブツブツと呟きながら、トン、トン、と、再びトングのリズムが鳴り始める。近づいてくる。 「……。確かに止めを刺しそこねたのは、あんたのせいだな。2ラウンド目といくか? 何しろこの寒さだ、そろそろ俺も体力が……。………………?」 赤羽ハルは訝った。聖槍院九鈴も同時に、響き渡った轟音を不思議そうに見上げていた。 白く吹雪く天空に、黒く巨大な鉄の鳥が、菱型の影を浮かべている。 無人戦闘機――対魔人UAV。 ---- 「 茶 番 」 わずか11歳の少女は、口の端を吊り上げて嗤った。 2人の戦闘風景は、当然のように……最初から最後まで、余すところなく捉えている。 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 彼女は今、対魔人LCV――指揮装甲車の車中にいるのだから。 「トーナメント。10億円。……副賞? 人間、視点の狭さは成長しないって事かな……? 『あと一人』ここに対戦相手がいることも、わかっていないんだから」 ――2人が彼女の存在を勘定にすら入れていなかったことも、ある意味で当然の戦局判断ではあった。 体感温度-50度にも達する雪の地獄。如何な魔人能力を持った所で、いずれ11歳の子供が長く生存できる環境ではない。 ……外気を完全に遮断する、装甲車のような装備でも持たなければ。 そう、この装甲車は紛れもなく彼女自身の『装備』であった。 だが彼女のような、組織の後ろ盾を一切持たぬ、たかが11歳の少女が……最新鋭のLCVを所有する事など、現実に起こり得る事態であろうか? 是である。 少女の――三つ巴の第一戦、最後の一人、高島平四葉の魔人能力『モア』。敵よりも強い武器を生み出す。ただそれだけの魔人能力。 ……つまり、彼女の『敵』が持つ装備であるならば。 《んー。このスイッチでいいのかな。赤羽ハル。聖槍院九鈴。君たち2人に告ぐ》 複合レーダーによる自動索敵の起動と、各種電波妨害機構の作動。外部スピーカーによる鎮圧対象への呼びかけ。車内のマニュアルで読み解くべき箇所は、その3つだけで良かった。 言い換えれば、その解読に要する時間まで……あの2人には車の外『遊んで』もらう他なかった、とも言えるが。 《わたしは、高島平四葉――》 斜面上方。数百m先で争う2人に、黒髪の少女は悠然と告げた。 《今すぐ降伏しなさい》 ---- 大音声が、降り積もる雪を震わせる。戦場のバランスは一変していた。 瞬時にしてその力を……彼方まで突出させた、三角形の一角。 《わたしの魔人能力は『モア』。――わたしの敵よりも、少しだけ強い武器を作り出す。それが能力》 証拠もあるわ、と、幼い少女の声は続ける。君たちの武器は、トングと貨幣でしょう――。 赤羽ハルも聖槍院九鈴も、動きを止めずにはいられなかった。はるか斜面の下方、戦闘車両の放ちはじめた威圧的なサーチライトが、彼らの位置からも見えているのだ。 《わたしの目的は、こんなちっぽけな島国のトーナメントでの優勝じゃない。 目的は……世界の征服。そして軍事力と経済力を背景として、そのための『後ろ盾』を手に入れること。 わたしはただ、兵力を集めるためだけに参加している。世界を獲る兵を》 コンソールに映る電波妨害機構の作動状況を横目で確認して、四葉は悪魔的に笑う。 無論この『交渉』の内容は、七葉やWL社はもとより、目高機関にすら知られることはあり得ない。 日本最新鋭の兵器による電子妨害より『ちょっとだけ強い』妨害機構を突破する電子戦能力など、ここが日本である限り、存在し得ないのだから。 《……わたしは『モア』で作った。世界に蔓延する新黒死病よりも、さらに『一段階』強いウィルスを。 そして『一段階』強いウィルスは、既に――わたしの故郷に投下している。今まさに、第二のパンデミックが起こっている》 「……。なにを」 常に零下の温度を保っていた聖槍院九鈴の瞳が揺らいだ。 さらに上にいる赤羽ハルの表情は見えない。だが彼もまた、動いてはいなかった――そうせざるを得ない。 《その犯行は日本政府に予告している。次の犯行――『二段階』強いウィルスによるテロ行為の日時も。 わたしの大会参加と同時に、日本政府はわたしの監視追跡を開始。わたしを大会中に抹殺する準備を整えて、目高機関と今も交渉しているはず……ふふっ。 きっとこの雪山付近にも、兵力は待機している》 ――読み通り。 彼女の装備は――現在の日本で最強の索敵能力を誇る対魔人LCVも。空を哨戒する、3機もの対地攻撃能力UAVも―― ……今現在、『日本政府』がターゲットたる四葉自身に向けている装備の一部に過ぎない。 「敵より少しだけ強い武器を作る能力」。これを以って、世界最強の武器を作り出すためには……まず、何をすべきか。 、 、 、 、 、 、 、 単純な結論だ。世界を敵に回せば良い。 推定でも数千万以上の視聴者が注視するこの大会に自衛隊が強制介入したならば、既に下落しきった日本政府への信頼は、さらに地の底に落ちることとなる。 仮にも『試合』形式である以上、トーナメント外の勢力による試合中の武力介入は、目高機関、七葉……世界を牛耳る勢力によって、全力で妨害されるであろう。 世界を征するに際し――最強最悪の魔人能力『モア』に唯一欠けたるものは、兵器を生み出すための、兵力。 そして単独での戦闘であれば、既に単体にして日本政府を超える『兵器』を無限に生み出す術を持つ四葉が負ける要素など、無い。 日本全域から最強の強者たる魔人能力者が集まるこのザ・キングオブトワイライトなど、この高島平四葉にとって、最強最悪の精鋭兵団をかき集めるための、巨大な集兵場に過ぎぬ――。 《……今、UAV三機の空対地ミサイルが君たちに照準を合わせている。接近すればLCVの迎撃機銃が自動的に君たちを消し飛ばす。 このぜんぶが、日本政府の保有兵器以上の性能を持っているわ。君たちの優勝はあり得ない……それに、いくらお金を手に入れても、願いを叶えても意味はない》 ――いずれこの世界は、四葉の作り出した戦乱に呑まれるのだから。 《それでも君たちは運がいいの。今なら、勝ち馬に乗る事ができるんだから……。 聖槍院九鈴。ゴミを片付ける一番の方法は――不要なものを『捨てる』ことでしょ? 降伏してわたしの側につくなら。世界のすべてを、綺麗に片付けることができる》 九鈴は暗い目で、斜面の底から響く、ただ一人の地獄軍の演説を聞いていた。 愛用する漆黒のトング『カラス』が、ザリザリと雪を掻いた。 《赤羽ハル……一回戦で君に当たってよかったわ。無限に最新兵器を生む、わたしの『モア』。 あらゆる物体を、接触だけで換金する君の『ミダス最後配当』……組み合わせれば、世界の経済を思うがままに動かすことができる。 10億円? そんなくだらない、ちっぽけな金額どころじゃあない。経済と軍事の両面で、世界を支配することが……現実にできる》 赤羽はジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、ぼんやりと空を眺めていた。 3機のUAVの黒い翼が、灰の雲の只中に白い軌跡を引いていた。 「「断る」」 2人は同時に返答した。 ---- ――聖槍院九鈴は、深い失意と悲しみの底にあった。 (ごめんね。……本当にごめん) ゴミ一つない整然とした大ホールの如き澄んだ彼女の心中には、無限の謝罪だけがある。世界すべての存在に対する、底なしの暗い贖罪の深海が。 、 、 、 、 (あのウィルスを、解き放っただけじゃなかった……わたしは、第二の惨劇まで) 申し訳ない、申し訳ない、申し訳ない、申し訳ない――。 聖槍院九鈴は常に、あらゆる人間に謝罪していた。 (核を落としたのもウィルスがまかれたのも父さんがしんだのも母さんがしんだのもおじいちゃんが死んだのも九郎が死んだのも 近所のおばさんが死んだのもわたしの街が滅んだのも地球環境の乱れでしんでいくたくさんのいきものたちも毎日毎日戦争がつづいて たくさんの子供たちが飢えてしんで世界の不幸がきえず人間の心の悪意が連鎖してなにもかもなにもかもなにもかもがいずれ滅びるのも ぜんぶわたしのせいわたしのせいわたしのせいわたしのせいわたしのせいわたしのせいわたしのせいわたしのせいわたしのせい) 、 、 、 、 「わたしが」 黒いトング――『カラス』が、ギャシャリ、と地獄のギロチンの如く牙を開いた。 「掃除できなかったから」 だから世の人の心は荒み、だから争いは起こるのだ。 兵器というゴミを片づけ『られなかった』から、人の命が無駄に散って、ウィルスというゴミを片づけ『られなかった』から、パンデミックが起きた。 人が飢えるのも。世界の悪が消えないのも。 ――地球を汚す人間の形をしたゴミを、九鈴が片付け『られなかった』からだ。 彼女は狂っていた。あの日落ちた核の光が、心を真っ白に漂白してしまっていた。 《……交渉は決裂。それも想定内。問題もない……だってこれは『試合』だもん。 君は死んでも生き返るし、わたしにだって次が――二回戦があると、保証もされている。 とりあえず一回は、恣意行為としてこっちの戦力を示しておこうと思ってたし》 「ゴミめ」 九鈴は、再び自身を巨大な梃子と化して、氷塊を持ち上げつつある。 低い呟きは、雪に儚く溶けた。 ――ここまで、高島平四葉が想定した戦略通りであった。 彼女がこの試合で欲しい人材は、経済要員として巨大な富を生む、『赤羽ハル』のみ。 彼を引き入れ、仮にでも勝者として勝ち進めば……目高機関による選手で在り続けることができる。彼らによる庇護は続く。 事実それができたのならば、10億や副賞程度――赤羽ハルにくれてやっても構わないとすら考える。 聖槍院九鈴ならば、死んでも構わない。 だが、唯一…… 「ゴミが。しゃべるな」 唯一想定外だったのは、その聖槍院九鈴の精神性が、尋常を逸した高島平四葉すらも想像の及ばぬ境地に達していた事であり。 そして、UAVが対地ミサイルの照準を定めるよりも先に。 遠く数百m先で振り上げられたそのハンマーが、四葉を殺し得る手段を持つという事であった。 「掃除婦はモップを振り上げファラオとその家臣の前でナイル川の水を打った」 高く掲げられたトングは、天空の光を乱反射して、黒く輝いた。 先の一撃。赤羽ハルを叩き飛ばした、雪氷塊による一撃。それを振り下ろした震動は――彼女に、何を知らせただろう? 氷塊の位置を知らせる、聖槍院家特有の探知性能……それが、例えば。 柔らかな新雪の下に固められた、なだらかな斜面。 ――『雪崩』を起こし得るその地形を、巨大な震動で探知していたとすれば。 「川の水は血に変わり川の魚は死にエジプト人は」 意図不明の詠唱とともに、九鈴の一撃が強く山を叩いた。 下方に位置する無尽の雪が一斉に断末魔の嘆きを上げて、装甲車に躍りかかった。 「ナイルの水を――」 ――『弱層』と呼ばれる結合力の弱い雪の層が、その下で固められた古い積雪の層に沿ってなだれ落ちる現象は、表層雪崩と呼ばれる。 その速度は、最大でおよそ200km/hにも達し……これは新幹線の速度に匹敵する。 その破壊力は住宅を吹き飛ばし、1平方メートル辺りの衝撃力は、大型トラック1台分にも匹敵する―― いかに無敵の武器を作り出そうとも。 いかに悪魔めいた戦略を打ち出す頭脳を持とうとも。 その圧倒的な自然の力を前に、装甲車はただの小さな棺桶に等しい。 「掃除、完りょ」 バシャリ、と血飛沫が散った。 言葉が終わる前に、聖槍院九鈴は死んだ。 「マジ、か……ハハ、ハハハハ……」 斜面の上に位置する赤羽ハルは、思わず笑った。笑い出す自分を押さえ切れなかった。 空から降ってきた、2足歩行の巨大兵器が――その瞬間に聖槍院九鈴を叩き潰して、赤い血の染みに変えたのだった。 上に待機していたUAVは、対地攻撃用途のものだけではなかった。 それは上方でホバリングし、その無人兵器を投下するタイミングを図っていたのだ……対魔人兵器。かつて別の世界線で国家が使役した、『転校生』にも匹敵する政府最強の兵器。 その名をTA-35といった。 《……もう一度言うわ、赤羽ハル》 兵器が薙ぎ払った熱線が、滑り落ちる雪崩を一瞬で蒸気に変えた。 九鈴の策はそれで終わった。 《降伏しなさい》 ---- 高島平四葉の思考は11歳にしては悪魔的な回転を見せる。だが、そのよく組み立てられた思考プロセスには幼さ故の隙も存在する。 例えば倫理的な観点から、他者が彼女の計画に対して反発する……といったような事柄を、未だよく理解できていない。 ――なぜ、他人の命に拘る必要があるのか? 新たな世界を作るのだから、今までの法や制度に縛られるなど、甚だ不合理な思考ではないか。 わたしの作戦は完璧に合理的だ。ゲーム理論に沿って、この大会参加者全員が最大利益を得られるように動くとすれば。 ……それは全員が、わたしの指揮する『革命』に加わることに他ならない。 当然のことだ。この荒廃した日本の秩序に従って、これから先も同じように苦役の暮らしを続ける事を、誰が望むのか?…… (……なるほど高島平四葉。お前の言ってることは分かる。確かにその能力があれば、俺だって6000億の借金はすぐに返せる。 元々命なんてない身だ。それを知って言ってるなら、11歳にしてお前は見上げた『殺し屋』だよ――) かじかんで紫色になった右手の指から、10円玉が落ちた。 肩からの出血が効いたか。このまま持久戦となっても、いずれ自分が凍死する。マイナス6000億しか持っていないというのに、また10円も無駄にしてしまった……。 ……腕が、動かなくなる。体感-50度。既にして両足も怪しいところだ。 腕と、両足が……動かなくなる。 いずれ死ぬ。 「ちひろさん」 無自覚に呟きが漏れた事に、赤羽自身は気づかない。 『パンデミック』。世界に新黒死病を撒き散らしたといわれる、正体不明の魔人能力者を指して、史上最強の暗殺者と呼ぶ者もいるという。 そしてこの少女がまた、第二のパンデミックを。……最強だと? 《あなたの動きはロックされている……5秒以内に両手を挙げなさい。それ以外の行動は全て、敵対行為とみなすわ》 空が、死で埋まっている。遠く前方の彼方からこちらに向かうUAVは、きっとこちらに狙いをつけている。 赤羽ハルは言った。 「……無人兵器、ってか?」 《……》 「お前が今まで使ってきた兵器ってさ――自衛隊の最新装備から選んでるように見えるけど。 結局AI制御の、自動兵器ばっかりだよなあ。自動的に目標をロックして、自動的に撃って……そーいうヤツばっかりだ」 何が、最強の。 「……その『モア』。武器の使い方は分からないんだろ? ……分かってるなら、長距離砲でも持ってきてこっちに狙いを定めていりゃあ良かったんだ。 結局、お前はただの子供だ。武器を持っている『だけ』の、子供。そんな短い人生じゃあ、鍛錬も何もない。 そんなヤツ、結局下から足元をすくわれる。暗殺か、良くて傀儡がいいとこ…… …………ついていく奴なんていない。本当は分かってるんだろ? ……」 相手に聞こえているはずはないと分かっていても、彼は朗々と喋り続けた。それは精神的優位に立つための儀式だった。 赤羽は、血に染まったジャケットを脱ごうとした。それが合図だった。正面の無人戦闘機がミサイルを射出した。 《――残念だわ》 (馬鹿が。この俺が……魔人暗殺者が、正面から……面と向かって、方向さえ分かってりゃあよ……) 彼は左腕を差し出していた。かじかんで、硬貨の1枚、掴むことすらできない手、だったが。 日本国内のあらゆる兵器を凌駕する破壊力の。マッハ3にも達する、暴力的な鉄の円筒は。 「『触れる』に、」 その瞬間、 「決まってるだろうがボケ!!」 、 、 、 ただの無力な2千枚の紙切れと化して、飛散した。 触れた物体を一瞬にして『換金』する。 『ミダス最後配当』。 《……っ、撃て!!》 その一声に反応し、斜面下方のTA-35は向き直ろうとした。熱線射出兵器を持ってすれば、敵の殲滅は容易であるはずであった。 ――だが、吹雪に紛れる大量の紙幣が、ほんの一瞬、赤羽ハルの体を隠していた。 AIで自動制御されたロック機能は闇雲の攻撃をできず、標的の姿を探した。見つかった。 赤羽ハルは既に、TA-35の懐に。 (……『そり』を) 車中のカメラ越しにその姿を追う高島平四葉の頭脳は明晰だった。 赤羽はあの時。ジャケットを体の下に敷いて……斜面を『滑った』のだろう。 聖槍院九鈴が立っていた。TA-35が今立っている。その位置に向かって…… 「最強の武器が欲しいって? 今、くれてやる」 《や、やめ――》 四葉はすべてを悟った。 赤羽ハルは機械の豪腕に薙ぎ払われるより早く、TA-35に触れていた。その位置は、先ほど九鈴が示した『雪崩の起こる斜面』で―― 事態の打開を求めてとっさに起動した『モア』は、遠く数百mに位置する敵の武器をコピーした。一円玉。 それが四葉の最悪の予測を証明していた。 ……そう、一円玉だ。たかが。 《そんな、馬鹿、な、》 ゴッ、という爆音が鳴った。チャリチャリと鳴る硬貨の金属音が無限に合奏すれば、そういう音になるのだった。 換金された最新兵器――TA-35の価格に等しい、数百億枚の『一円玉』の雪崩は。 その『たかが』数百億グラムの質量で、完膚なきまでに装甲車と高島平四葉を叩き潰した。 「――何時の時代も、金が一番の武器だ」 ゴールドラッシュ。 一面の『銀世界』を斜面の上から一望して、それで暗殺者は踵を返した。 第一回戦第二ブロック。勝者、赤羽ハル。 (了) このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/dangerousss3/pages/184.html
第二回戦【城】SSその1 ◆ 筆者が考察するに、キャラクターが到達できるメタには5つの段階がある。 段階1:キャラがふと、作品背景を無視した発言をほのめかす。 段階2:キャラが作品や作者への批判、意見を述べる。読者へ語りかける。 段階3:キャラが、本来知り得ない情報を知っている。 段階4:キャラが作者の意に反した行動を取り始める。 段階5:キャラが作者と同一の次元に存在する。作品の文章を『改ざん』できるようになる。 さて、筆者としては彼らの『段階5』への到達だけは避けたい。 そこで、キャラが容易に『地の文に到達できない』状況を作り出せば良いと考えた。 そのため、今回、作品内に複数の階層が存在する。 少々、わかりにくい所もあるかもしれないが、ご容赦願いたい。 ◆ 私は、作家。小説『アンノウンエージェント』の作者。また、工藤のキャラ説を読めばわかるが、工藤を生み出した魔人でもある。彼女には、私の能力の一部を貸し出している。 その他には、7年前に、ゴーストライターとしてとある映画の脚本を執筆したこともある。……あれは、素晴らしい出来だった。この世の一切の『負』を詰め込んだ、人の心を動かす映画。私の著作のほとんどは現在、長野県立オーヴァロード図書館に監禁されている。 モニタに眼をやる。 あの人の『姪』が大会に参加していたのは、運命だろう。と、今では感じている。 あの映画を作ったのが私だと知ったとき、彼は、私を『拒絶』した。 その結果、私は『アンノウンエージェント』の主人公『エンドウ』を生み出した。 『この世界はフィクション』なのですよ。あの人にそう教えてあげるつもりだった。 彼が死んでしまった今はもう、叶わない事。 それでもせめて、彼女には、知ってほしい。 知った上でどう動くのか、私は知りたい。……遠藤の姪。 これから執筆する物語で、私の能力『ノン・フィクション・ファンクション』は完成する。 この物語はノン・フィクションであり、 現実は、 寸分違わず私の書いた通りに展開する。 ◆ 小説「アンノウンエージェント」外伝『ザ・セレスティアル・イクウェイター・ウィズ・ザ・エクリプティック』 ◆ 大阪城 王政復古の大号令から鳥羽・伏見の戦いに至るまで徳川慶喜が居城。 その後は討幕派の侍と探偵――新政府軍に占拠された城。 度重なる災害によって大壊していたそれを、大会運営が復旧、再現。 予定より早く完成し、急遽、二回戦『城』の試合場となった。 まずは、この城と最も縁のある探偵の様子を見てみよう。 ◇ ◇ 私(口頭の一人称は『拙』だが、独白上は『私』とする) は御殿の二階、隠し通路の一角に身を潜めている。 待っていると、私の分裂体が今にも死にそうな顔で、ふらふらと現れた。 「大丈夫?」 「ぁ……ぁ」 外傷はない。私は彼女と一体化する。 分裂し、二手にわかれてからの数十分、 彼女の経験した記憶が、私の中に流れ込む…… ◆<回想>40分前 「ウェーイwwwww」 無理だ、殺せない。 「ウェーイwww探偵ちゃんビビってんの?ちょwあwそれともオレの事が気になっちゃうカンジ?wwやっべww」 「……」 指を構えたまま、私は攻撃を繰り出せない。 場所は天守閣、三階大広間(天守閣にあるのは珍しい)。『チャラ男の王』セニオ殿は、挑発するように私の周囲を旋回。どこかで手に入れた日本刀を振り回している。 癖のある毛並。飄々とした動き。独特の鳴き声。 まさしく、イエロー・リスト(絶滅危惧種)のチャラ男。私はつい、ため息がでた。 こんな場所でこんな珍しい生き物に出会えるとは。 「14かーwwwちょい若いけどww今のうちに仲良くしとくのもアリじゃねwな?wwメアド交換しよーぜww」赤い携帯電話を取り出す。 「いえ、拙は生き物と触れ合うためにきたわけでは……」 彼の素早さは私と互角。だが隙が多すぎる。 イマジナリー推理上では、何度も彼を斬り殺すチャンスがあった。 しかし、殺せない。なぜなら、彼は『被害者』で私は『探偵』だから。 殺人鬼の潜む屋敷で夜中出歩き、 カップルで暗い路地裏に赴き、 犯人に濡れ衣を着せられ、 探偵の忠告は絶対に聞き入れない。 彼こそは探偵を探偵たらしめる『被害者』属性の塊 ――チャラ男を殺すことなど、探偵には不可能。 「つれないなーwwでも攻撃してこないってことワwwもうオレら戦わなくていいんじゃね?wwっべオレ天才ww」 深刻なチャラ男不足から、ある社会派の探偵塾はチャラ男の養殖を営んでいた。だがその技術も、パンデミックで失われてしまった。彼はそこで育った一人かもしれない。 いけない、私は戦いにきたのだ。スマートな探偵立国の実現。それがお国のためになると信じている。大会優勝、それが私の目的。 構えを整え、宣言する。「では、推して参ります。……極右・探偵『遠藤終―― 突如、鳴り響く爆音。 「――これはッ!?」 「ちょww」 「――危ないッ!!」とっさにセニオ殿をかばい、前方に跳ぶ。爆炎が背中を掠めた。 「パwwネぇwwちょw救われオレダッサww」 「ヒヒヒヒ!ヒ!日本の城ってよォ、ヒヒ、天守閣?……あんな高い所によォ!何で殿さまがいねーんだぁ?エライやつが高ぇ所にいねーと、……ゲームが盛り上がんね―じゃんッ!」 階段から、声。 「天守って、天主とは違ェのかよォ高いところからラスボス突き落として殺して砕いてその後オナニーしてスッキリするんじゃあねーのかよォ、……わけわかんねえ。わかんねえ」 ギャリギャリと、リボルバーを回し、携帯電話を手に、猫背ぎみの紅蓮寺工藤様が近づいてきた。 「な!」「はw」「ア?」 ドン、と雷のエフェクトが落ちる。『フィクション・ファンクション』。 ……私はとたんに全てを理解した。 そして、「ヤ……アアア――ッ!!」走る。推理光線で工藤様の首を狙う。 「うお、おおおおおお!?」工藤様は首をおかしな方向へ曲げそれを避けた。 「オイ!ちょっとは驚けよ!ヒ、ヒヒ!」 「驚きません!」私は言う。メタフィクションに関する講義は叔父から受けている。 やはり予想通り。 「貴女は」私は跳び、間合いをとる。「『新』本格の『探偵』……ですね」 「ア?」工藤様はリボルバーを頭に押し付ける。 「なあ、……お前、狂ってんじゃあねえの?」 ◆ 多くの探偵と士族が血を流し、明治維新は達成された。 近代化の名の下。士族は職と刀を奪われ、探偵はフェアプレイと推理を奪われた。士族から平民へ。『本格』から『新本格』へ。不満を募らせた彼らは、西郷隆盛を総指揮官にすえ、新政府に反乱を起こす。これが西南戦争である。 小爆発が広間を駆ける。 工藤様の身体能力は高くない。しかし、私も分裂体。パワーは半分。 「ハァ……ハァ……当たらない!」 「ヒヒヒヒ、ヒ!スマートじゃねえなあ、お前」私の口癖を使い、彼女は挑発する。 工藤様は『新本格』。伏線無視、証拠無し、狂言回し。アンフェアを使いこなす推理術。 ……動きが読めない。 「それでぇ、これはどいつのSSだ? ヒヒ!えー、アー、視えねえ……」 携帯電話を耳に当て、工藤様は天井を見上げた。 「ンー、『作中作』の『一人称』の『回想シーン』……ヒヒ!おれ達を!『地の文』から遠ざける作戦かッ!ヒヒヒヒ!」 爆発を転がり避ける。 彼女はこちらを振り返る。携帯電話から耳を離した。 「ヒヒ」 「……」私は無言で睨む。 「そうそう、ちょい役の探偵『エンドウ』。おれの活躍する探偵小説『アンノウンエージェント』にでてくる奴」 「イヤーーッ!」攻撃、空振り。 「ヒヒヒヒ、コイツの元ネタはさァ、実在の小説『ニンジャスレイヤー』にほんの少しだけ出てくる、作中作『サムライ探偵サイゴ』だ」 「…………」 BOMB!と工藤様のいた場所が爆発。 「――ヤァッ!」私は文字通り畳返しを繰り出し、火の粉を防ぐ。 「なア、『忍殺ネタ』使うと票が減るんだろオ?これで何票減ったと思う?ヒヒ、ヒヒヒ」 「いい加減に――……」 「『セット』『セット』『ポータル・ジツ』『ポータル・ジツ』」 突如として、激しい風圧が私達を襲った。 「「バビった?wwwマジパネくねこれ?wwwワリトガチデwwww」」 ◆ 大広間の奥、二つのポータルが私達を吸い込もうとしていた。 セニオ殿が私の『スマート・ポスト・イット』のコピーでいつの間にか二つに分裂。会場に来る際に利用した双子魔人の『ポータル能力』をコピーし使用したのだ。 「「ドゥすんのこれwwwwちょ強すぎくね?ww」」 彼も工藤様の能力でメタ認識を手に入れたはずだが、さっきまで静かだったのは認識に時間がかかったためだろう。今では逆にテンションが上がっている。 「しかし……おかしい!」私の背中は能力で床に貼り付き、引力を逃れている。 「『ポータル』に出入り口の区別は無いはず!それが何故、引力を生むというのか……」 「ヒヒ」工藤様は畳に突き刺さった日本刀にしがみついている。セニオ殿が捨てたものだ。 「わかンねえの?……ぶはっ」飛んできた掛け軸が顔にかかる。「『そういうSSを書いたから』だろッ!一回戦『美術館』勝者がよォ!ヒヒヒ!」 「……それが、理由だと?」 私が未だに把握しきれないのは、これだ。 勝ったほうが『正史』それが世界の『ルール』。工藤様はそう言っているのだ。 BOMB!とセニオ様の方から爆発音。 「「っちょw待ww熱っww熱すぎっしょwwwこれっw」」 工藤様の放った掛け軸がポータルの端にひっかかり、火薬のしかけられていたその掛け軸が爆発した。 さらに、私が薄型コピーし、引き剥がしたいくつもの畳。それらがポータル付近まで吸い寄せられ、炎が燃え移る。 「ヒヒヒヒヒヒ!ヒヒ!」彼女は刀から手を離し、引力に身を任せた。 「あ、その刀 欲しいンならやるゼ。ヒヒ」 「いりません!」私もタン、と床から離れる。 引力に逆らわず、落下するように大広間を駆ける二人。 途中、脇に並んだ邪魔な襖を推理光線で切断。 白赤金に彩られた美しい襖。 背後でその襖が爆発し、爆風が私達を加速させる。 二人のセニオ殿は爆熱にやられ、ポータルを閉じた。 それでも私達の足は止まらない。 「ヒ――――――ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!」 「イヤ――――ァアアアアアアアアア―――ッ!!」 「「――ちょw」」 ゴリッ、と、 工藤様の膝がセニオ殿の股間をえぐった。「ッ…………wぉgっw」 「……ハァ、ハァ!」 一方私は『もう一人のセニオ殿』に指を突きつけたまま、動けない。 「www?ww?w」セニオ殿が不思議そうに笑う。「なぁーんだwwやっぱり殺さねんじゃんwゾっこんかよwwオレにww」 「くっ……」やはり、私には殺せない。 「ヒ、ヒ、ヒ……アー?」工藤様がつまらなそうにこちらを見た。 「じゃあww次こっちのネーちゃんのヤツで遊んでみっかww」セニオ殿は工藤様を見る。 「『セット』!……『ノン・フィクション・ファンクション』!!ww」 セニオ殿が、そう叫ぶ……何も変化はない。 「っと……借りモンだ。おれの能力は、よオ」工藤様が後ずさり、言う。「能力の『主』からだ、ろ。ヒヒ、チャラ男がコピーできるとしたらよオ」 「あwww何か視えてきたwwピンク色の光っw」 「……能力の、主……?」 セニオ殿の能力――キャラ説にはこう書いてある。『対象の能力を何かしらの形で認識するとラーニング』……何とざっくりした条件か……。 つまり、彼は『認識』したのだ。『フィクション・ファンクション』によるメタ認識によって、『作者の能力』を。『メタな視点から影響を与える能力』を。 「……という事は」私が言うw。 「ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒ、……マジ、ヤバいってこれw」工藤様はいつのまにか、私達から逃げw、遠ざかってるwwちょww 「何がそんなに」私はwwセニオ殿wを見。「ヤバいっての?w」ん、何か口調がおかしい気がwwすんだけどwww見ると、イケ様な二人のセニオは元気に肩を組み笑っていwwちょww何コレ好きに書き換えちゃっていいワケ?「あ間違えたwwオレのセリフこっちジャンww」「んでどれがイチニンショウシテンの文章ってやつww?」まーいっかwwwとにかくみんなうたおーぜッ!w 「「「「ウェーーーーーーイwwwwww」」」」 チャラ男の服がはじけ飛ぶ。ハワイアンな海パンで真夏のエンジョイを毎日エブリデイ。 大阪城。かつて多くの武将がこの城のため、血を流した。 ここで今、本物のチャラ男の、真のチャラシャウトが鳴り響く。 チャッチャッラオッ!チャッチャラオッ!チャッチャッチャララララチャラララオッ! チャッチャッチャラオッ!オッ!オッ!オッ! チャラ男が颯爽とビートを刻む。 「オレがCHARA男! だからCHARA王! ここが世界のCHU―央ッ! セカァー、ウィー、ヘェイー、ワ!で国おさめッ!wwFOOO――――ッ!!」 YEAH!YEAH!YEAH!遠藤の推理光線が会場を照らす! (さあ始めましょう!拙どものHIPHOP!) 遠藤の着物がはじけ飛ぶ!隠されていた白スク水着が現れる! 「関西KAIMETSU!ww関東SENMETSUww! パンデミックで超SHIMETSUwww!ファントムルージュで眼がTENMETSUwwww!!」 BOMB!BOMB!BOMB!工藤の爆弾が爆発! (ヒヒヒヒヒ!ワオこいつは最高にCOOLな花火だぜッ!) 工藤のワンピがはじけ飛ぶ!隠されていた花柄ハイレグ水着が現れる! チャッチャッラオッ!チャッチャラオッ!チャッチャッチャララララチャラララオッ! チャッチャッチャラオッ!オッ!オッ!オッ! この荒廃した日本において、赤、黄、オレンジ…… 4人のBEATは一つの光の珠のように、融け合い、共鳴していた ズッ友。そう、オレ達はズッ友だ 4人は肩を抱き、泣きながら母親にThankYou感謝 ◆ ……悪夢のような回想を中断し、私は眼を開いた。 逆説的だが、場面が切り替わらずあのまま『文章が続いていたら』負けていた。 あまりにも無体。 セニオ殿は作者の能力をコピーし、次元上昇(アセンション)したのだ。作者と同じ、文章を改ざんできるステージに。……相川ユキオ様を超えた『上級編集者』の立場となって。 そして理解できた。何故分裂体がスクール水着を着ていたのか。 元々私は水着など着ていない。それを『改ざん』で『着ていた事』にされてしまった。 分裂体との一体化の際に、それが異物となって上手く一体化ができず、わざわざ脱ぐ必要すらあった。 ……次こそ、もっと酷い水着を着させられた上で負けるかもしれない。 対策を練りたいが、放っておけば工藤様はそこら中に爆弾を設置するだろう。 私はすぐさま『スマート・ポスト・イット』を使用。 御殿を抜けると、天守閣へと駈け出した。 ◆ 天守閣、大広間。戦闘の形跡。あの後、文章が途切れた時点から、セニオ殿は『改ざん』できなくなったはずだ。なにせ文章が無いのだから。 作者の視点は今、私を追っている。私とセニオ殿が遭遇すれば、また…… 「お!探偵チャンハッケーン!↑あれあれww水着はドゥーしちゃったの?↓wwせっかくカワウィーのにw」 「――!」不覚! 彼はコピー体だ。ポスト・イット化した身体を天井に貼り付けている。 「も一人のオレもてっぺんで待ってるしwwまた一緒にチャラチャラ歌おうゼーっw」 天井から降り、楽しそうに笑う。彼は本当に楽しいのだ。 もう一人のチャラ男ができた事と、私達をチャラ仲間にできることが。 「……」 もしかしたら、棄権する事を、説得、……できるだろうか。言葉が通じるか不安だが。 彼は今、戦う事を忘れている。 「あの」 「な?ww上に行こうぜwwそれともオレ一人と遊びたい?wwイーヨイーヨww」 「あの、 セニオ殿――――……」 しかし、またしても、ギャラギャラと鳴り響く、音。 「サイゴーはエンドだって。だからエンドウなんだろ。ヒヒッ……じゃあ何でクドーなんだ?……オレそんなクドクドしてるかよ……、クドクドクドクド……ア?」 大声で電話をしている。工藤様だ。 大広間に姿を表した彼女は、どこで調達したのか。花魁風の衣装を身にまとっている。 水着を隠しているのだろーかw。彼女にも羞恥心があるんだwww 「な……w」まずい、 既に能力を使われていたww 文章が『チャラ』化していwルゥイ~wwwwww 「ヘイヘイヘーイwwwみんな集まって来たジャンwっwんじゃもっかい水着パーテーでもして盛り上げよっかww」 「ヒヒヒ、ヒ、なにそれヤバ→イwwwウケるんですけどぉww」 レモンイエローのケータイを持った手を下ろし、工藤が言うw 「!?」 「ちょっと→wwチャラ男せっかくいるんだしぃw女子はモ〒なさなきゃダメじゃな~い?」 「ウェ……ウェーイwww?」 工藤がチャラ男にしなだれかかるww……! wwウェーイ!!wwwwww 「ウフフ→ッwwほら→、遠藤ちゃんもはやく~っw」 「えっ」 遠藤はすかさずチャラ男の肩を揉みはじめるウィッシュww 「えっえっ」サイコーwそうそうそこ揉んでww 「Eーねぇ!wwおネーチャン意外とイケるクチっしょww」 「チャラ男サン鬼パネ→wwイケ様愛キスしたぁーいww」 成立しない会話を成立させ、工藤は着物の肩をはだけ、チャラ男に顔を近づけたww 「バ――――――――――――カ」 ドン、と押され、チャラ男の全身が爆炎に包まれる。。 「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」 「ちwょwkwwr!!……ぐアアアアアアアッ!?」 「―――――ッ!」火薬!肩を揉んでいた腕を引き、とっさに顔を防いだ。腕が焼ける。 「ヒヒヒヒヒヒ!」工藤様が笑い、逃げようと―― 「イヤァ――――ッ!」そこへ、『もう一人の私』が彼女に奇襲をかける。 「うオッ!?ヒヒヒヒ!!」BOMB! もう一度、爆発音。 倒れた私には状況がわからない。 ……左手が動かない。 痛みで身体がしびれる。 右手は……人差し指と中指が焼き焦げていた。 ◆ 「ぐ……っ」右手はかろうじて動くが、もう、『推理光線』は使えない。 私の『本体』の姿は無い。薄い身体が爆散され、消えてしまった。 セニオ殿は……原型をとどめていない。 工藤様は、すぐ近くに倒れていた。重傷のようだ。 「ヒ……ヒヒ……ヒ」よだれを垂らし、床を舐める。 メタ認識を保つため、まだ彼女は殺せない。 手が床をなぞる。落ちたリボルバーと、携帯電話を探しているらしい。 ……自分からギャル化してしまえば、『チャラ』化の影響は受けずに済む。 その隙をついて、セニオ殿を爆殺したのだ。 これが、新本格の探偵。果たして工藤様に『ルール』などあるのだろうか。 花魁衣装を着こみ、自分を捨てなければ、彼は倒せない。 「……がッ」私は壁によろけ、ぶつかった。 「う……」彼女に近づく。「……ハァ……」 推理光線を失った私は、探偵と呼べるのか。 自分はいつから、相手の棄権を望むほど軟弱になったのだろう。 「……うッ」彼女の前に倒れ込む。落ちていた携帯を拾う。 「……そうか」案の定、それは壊れている。 工藤様は、プロローグSSでも何者かと電話をしていた。 彼女は狂人だ。そして、『狂言回し』。 彼女が『壊れた携帯』を手に、電話をかける相手といえば、一人しかいない。 「聴こえ……ますか」 私はそれを耳に当て、言った。 「ハァ……。 勝たせてくれ……などとは言いません。 せめて、『貴女』にとって迷惑な……この状況を、解決する……ために。 アンフェアを承知で、お願いします」 傍から見れば、私は狂人にしか見えないだろう。 「ハァ……どうか、『視点』を。……『変えて』、頂きたい」 返事のない『作者』に、話しかける。 「一人称視点から……『三人称視点』――『地の文そのもの』へと」 ◇ ◇ 遠藤は急いだ。『コピー体』の自分は、もってあと数十分で消えてしまう。 窓から見える太陽は、はるか下方にあり、大阪の街々を黄色く染めていた。 天守閣の最上階。 運営による演出か、そこは謁見の間のごとく再建されていた。 「ハァ……ハァ……!」露出した肩で大きく息をする。 彼女は工藤から奪い取った『花魁風衣装』を身にまとっていた。 はだけて見える肩には、探偵彫りの桜吹雪。そして、 それを覆い隠すのは、『スクール水着』の肩紐部分。 「ちょwwなーんだw水着もう着てんじゃあんwww」 セニオは海パン一丁で、この城の主であるかのように酒を飲み、寝そべっている。 「ヒマしてたんだよねwwケータイも無ぇーしww今度はどんな水着がイーイ?www」 「なんでも結構です」彼女は右手の日本刀を畳の上に置く。 大広間でセニオが振り回し、工藤が利用した日本刀。それが今、遠藤の手に渡っていた。 焼け焦げた人差し指をセニオに向ける。 「 『主観的真実は一つとは限らない。……しかし、事実はいつも一つ』 」 「……?ワケ不明ww」 「実は説も、探偵小説『アンノウンエージェント』のファンなのです。まさか、出演できる日が来ようとは、思っても見ませんでしたが」 「アー、探偵チャンもケッコーおたくなん?wwまいっけどww」セニオは身体を起こした。 「それよりオレとあそぼ~ぜ!w」手をかざす。 「『セット』『ノン・フィクション・ファンクション』!!」 チャラ男がそう叫んだ、直後。 ひゃっっwwwほおおおおおおうwwww 地のw文がwwチャラ男にww支配されwwwルw!! ――屏風の裏に隠れていた『殿様衣装ww』がチャラ男の身を包wみ! ―――畳に置かれた日本刀が粉々に砕ける! ――――次いで遠藤の衣服がはじけ飛び! ―――――その下に着ていたスク水がはじけ飛び!! ―――――――――――その下に隠されていたほとんどヒモwみたいな水着が現れるッ!! ……はずだった。 「www?ww?ww」 遠藤の着物の下に『はじけ飛ぶ』スク水など無い。 着物がはじけると同時に、彼女が『剥がし取った』からだ。能力によって薄型コピーされ、『貼り付け』られていた『スク水の上半身』を。 遠藤は元よりスク水など着てはいなかった。 「ちょwwマジかww」 では、遠藤の姿は?衣服を飛ばされた彼女は、その全裸を全国に中継してしまったのか? ご安心を!……それは、まるで刺青のように、鮮やかな華々が、彼女の肌を覆い隠していた。 ポスト・イット化された生け花である! 「……逆にエロくね?」彼が真顔で言う。 「このSSが探偵小説だという事を、忘れてはなりません。そして今、文章は一人称ではない」 遠藤は刀を拾った。 はじけた着物から飛び散ったレモンイエローの付箋が、宙を舞う。 「セニオ殿……貴方は主観に騙されて、『地の文』で矛盾を……『嘘』を書いた」 壊れた日本刀の先を、セニオへ。 「……それは、例え『新本格』であっても縛られる」 編集者としての責任を遂行する事。 「――この世界で絶対にやってはいけない『ルール違反』」 それが『この能力』の制約。 「……セニオ殿、貴方は――」 チャラ男は、セニオは、……編集者として世界の『責任』を負うには…… 「――――貴方はあまりにも『チャラすぎた』」 セニオの殿様衣装が掻き消え、元のフリーター的チャラい服装へ戻る。 「ちょwwっw」 遠藤の花魁衣装も、壊れていた日本刀も、全て元へと戻る。 「――――――ゴフッ……w!?」 ◇ 刀の刃が再生され、それは彼の胸へと突き刺さった。 絶滅保護チャラ男の胸から流れる、黄色い血。 「wwがッwwまじ……カンベンっw!」 この様な状況で、チャラ男の『王』は一体どんな反応をとるだろう。 世界中のチャラ男生態学者の興味を引く事例が、今、発生した。 右手を振り上げる。 これまで彼は、女性を傷つける事無く試合を行なってきた。 しかし、さすがにこれは正当防衛だ。 悪あがきであっても、抵抗しようと考えるのは当然。 「ハァ……ハァ……!」一方、対する遠藤の手は震え、それ以上動かない。「……ぅ」 遠藤は刃物で人を殺したことがない。「……ぁ」 刀で肉を貫く感覚は、推理光線のそれとはあまりにも違った。 「まじかよ」 (ビビってんのかよ)セニオは思った。 (……ダッサww) セニオは、メタ認識で彼女の事情を知っている。難しい事を言っていたが、目的は彼と同じ『世界平和』だろう。その彼女が、いまさら怖気づくなど。 振り上げた、拳。 そのとき。 彼のチャラ男演算機がフル回転し、チャラ男史上例に無い、実に高度な回答を導き出した。 (ダッサw) (――――泣きそうなオンナ殴りつけて『世界平和』とか、マジ、『ダッサ』) チャラ男の王は遠藤の頭に手を置く。 「――ひっ……」 「入れちゃったもんは……しゃーねーじゃんッ!ww」 「……!?……ぁ」 彼は、チャラ男の本能に任せた。 本能に任せれば、彼には、この様な言葉しか出て来なかった。 「……マジwwないわwwまじメンドクセーワ!wwww ……経験あるようにみせかけてwww……いざ本番でビビるとかwww ちょ~っち血が出ただけジャンww 先っちょくらいでwwやっぱアリエナイだわ~~www処――――――」 「……ぁぁぁああああああッ!」 遠藤の手にわずかに力が入り、「――――――じょ………………ゲフッ!」ずれた刃先が、致命的ダメージをチャラ男へ与える。 「……ぐwwwfw……はッw……」崩れ落ち、胸に手を当て、うめき、苦しむ。 「…………ぁ」 「……wwgtww」強靭な魔人の体力。彼は、これだけではまだ死ねない。 「――生き物を」その男の眉間を、 「無駄に苦しませるのは……良くありませんッ!」部屋に駆け込んだ『もう一人の遠藤』が推理光線で介錯。 「…………!」 指をヒュンと振り、血だらけの遠藤に顔を向ける。 「セニオ殿が抵抗なさるようなら、すぐ貴女に助太刀するつもりだったけど」不思議そうに彼を見た。「……しなかった……ね」 「いえ」血だらけの遠藤はセニオに屈み込み、彼の眼を伏せた。 「彼は、抵抗しました。最期まで、チャラ男として」 ◇ あの時、もう一人の遠藤は、工藤に殺されなかった。 あまりにも薄い身体のおかげで、爆風に飛ばされ、爆炎が届かなかったのだ。……彼女は自分自身を騙し、死んだ事にした。セニオに文章を読まれ、潜伏が悟られるのを避けるために。 二人は一体化し、三階へと降りた。 ◇ 「ヒヒ、ヒヒヒ……」 広間にはまだ、工藤がいた。 「ア、もう終わった?」黄色い血。血まみれの工藤は、赤色の『携帯電話』を持っている。 「その携帯は……」 (セニオ殿の……、いや)遠藤は思った。 (どっちも工藤様が落とした物だったのか……?) どちらの携帯もあの時、視界に入っていた。 (それを拙は、気になった方をとにかく拾い上げて……) 「じゃあ、ヒヒ……こっちも『セット』完了だ、ゼ。ヒヒ」 倒れたまま、携帯に向かって、言った。 「……な」 轟音。 城中の火薬が爆発した音。 「――――――――――――――――ッ!?」 「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!」 遠藤は全速力で窓へと駆ける。炎が全方位から迫った。 「ネーバーエンディングストーーォリィーーーーーッ!あ、おれコレしか知らねえや!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!」背後で工藤の声。 窓枠が崩れ落ちた。 間に合わない。 外には御殿。 黄色い空の下。 薄い身体の『もう一人の工藤』が、天守閣から離れた御殿の屋根で笑っている。同じく赤色の携帯電話を手に……。 遠藤の視界が黄色く染まる。 大阪城が燃え落ちるのは、歴史上何度目だろうか。 (拙の『スマート・ポスト・イット』……それをコピーした赤樺地セニオ殿に……おそらく色仕掛けで……自分を分裂させていた……!そして……あの赤い携帯……二人のセニオ殿から奪った携帯電話で自分と連絡をとり……城中に爆薬を……!) あまりにも迂闊。全てがもう、手遅れ。 (拙はこれから、死ぬ)身体が焼ける。(それでも……勝つために、どんな汚い叙述もアンフェアも、……やる。そう、決めたからには……) 遠藤終黄は考える。 あの時――目にした携帯電話のうち、無意識に『黄色』を選んだのは『自分の名前と同じ色の携帯電話』だからだ。 工藤は言っていた。『勝ったほうが正史』だと。 ……だが、『投票で勝ったSSで、SSの主人公が負けていた場合』どうなる? キャンペーンの自由性からいって、もし……作者が望むなら。その主人公が『勝った場合の世界』を正史にできるはずだ。 ――遠藤終『黄』が、あの時、 『赤』樺地セニオの携帯電話を見逃さず、工藤の企みを見抜けていれば……。 ――連なる並行世界の内。 仮に、『黄色』と『赤色』の『言葉』が、『入れ換わった世界』があるならば……。 選ぶはずだ。赤色の携帯電話を。 (読者なら……その世界へ……『行ける』……) 遠藤終黄は手を伸ばす。 (読者が望みさえすれば、……その世界の『その後』を、『読む』事ができるはず) 酷い読者への挑戦状もあったものだ。 笑うための口はもう動かない。 「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」 紅蓮の炎に焼かれながら、ただ、工藤の笑い声だけが耳にこだました。 紅蓮は、炎の色。赤と黄色の入り混じった、二色の交点。 世界が換わっても、彼女の名前だけは変わらないだろう。 ◆小説「アンノウンエージェント」外伝『ザ・セレスティアル・イクウェイター・ウィズ・ザ・エクリプティック』(赤道と黄道)終 このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/dangerousss3/pages/195.html
第一回戦【ホームセンター】SSその2 仕事を為すには力が要る。 結果を出すには時間が要る。 奇跡を起こすには祈りが要る。 悪魔を呼ぶには生け贄が要る。 人を呪うには覚悟が要る。 呪いを解くには犠牲が要る。 ――グロリア・フォン・サンバースト・トップライト1世『剣の御言葉』 この世界のどこにも存在しない空間に少女の声が響く。 「と、ゆーわけでっ!」 巻物を広げて得意げに解説する黒髪の少女の前にハレルは座っていた。 『刀語』の能力で作り出されたこの異空間は、今はかつて故郷にあった学校のような内装である。 「『イビルドラゴン=ディグラディニス』をタイジしたグロリアちゃんは、 エイユーとしてガイセンしてきたんだね! そこで行ったのがこのエンゼツなんだよ!」 「うん……」 「それまでのシンセイセイジタイセイがホウカイしちゃってたから、 コクナイのチツジョを取り戻すために、グロリアちゃんは王になるしかなかったんだね! ただ、そのときにグロリアちゃんはキョーカイのセイジカイニューを打ち切りたかった」 「教会……」 「といってもハレっちが思ってるような、 ■おいのりをする ■おつげをきく ■どくのちりょう とかをやってくれるシンセツなキョーカイじゃーないよ! トージのキョーカイはコクセイにカイニューしてシューハのケンリョクを……」 「ねえ、アメ。たまに思うんだけど……なんで当時のことを知ってるの?」 落ち込んでいたハレルを見かねたアメが、 「昔話をしてあげる」と言ったのがきっかけだった。 ハレルとしては「アメちゃん武勇伝99連発」みたいなのが始まるかと思ったが、 意外にもアメが始めたのは自分の話ではなく。 「太陽王グロリア1世……私の御先祖様の話よね? どうしてアメが……」 「ふふん、この『年経た霊刀』アメちゃんをぺろぺろ舐めないでほしいね!」 「ダンジョンに封印されてたのに」 「ま、アメちゃんにもね、いろいろあったんだよ」 アメの解説によると、発端は一匹の悪竜だったそうだ。 貪欲に人間や家畜を食らい、瘴気のブレスを吐き、黒き死の灰を撒き散らすドラゴン。 当時の神聖帝国の教会建設ラッシュのせいで疲弊していた国家予算と国民に、 悪竜に抗する術はなく、帝都ロマネスコットは滅び、神聖政治は終わりを告げた。 悪竜退治に決死の覚悟で立ち上がった国内西部の森の民出身のグロリアは、 仲間と共にこれを倒し、竜殺しの英雄として君臨することになった。 彼女は国家の疲弊を招いたのは教会との癒着が原因だと考え、 教会に対して攻撃的に接することを決める。 「アクマとかイケニエとかのコトバを『祈り』と同じ段で使うとゆーのは トージのキョーカイに対してのあきらかなチョーハツだったんだよね」 「うん……それから半年後、30年に及ぶ、 ヴァンデルカントとの『聖別戦争』が始まった……」 「お、サスガに詳しいね!」 当然ながらハレルも王族として、国家の歴史は学んできた。 『グロリアの悪竜退治』の話はおとぎ話となり、国内でも一番の人気を誇っている。 ハレルもその話を愛する者の一人だった。 「じゃあ、この『呪いを解くにはギセイがいる』というのは何のことか、わかるかな?」 「……悪竜の黒い灰のこと?」 悪竜の黒い灰は大量に吸い込むと人体に悪影響を及ぼす。 それにより国土はおおいに疲弊していたという話だ。 しかし、アメはこれに対して首を横に振る。 「ザンネン! ハレっち、『呪い』のテイギはなに?」 「えっと……」 思い浮かべる。 まずは、効果が持続する術式である必要がある。 さらに、人間もしくはそれに近しい知性の持ち主によって行使されること。 最後に、特定の手段を取らない限りは誰にも解除できないということだ。 「そう! たとえばアメちゃんが呪われると、ソウビから外せなくなるよね」 「黒い灰は……あっ」 「わかったみたいだネ!」 悪竜ディグラディニスは実のところ知性は獣のそれだったと言われている。 人間に近しい知性の持ち主とは言えない。 「つまりこのエンゼツでいう『呪い』……それは、 『みんなにしみついたキョーカイの教え』のことだったんだよ!」 ででーん。 どこからともなく謎の音が鳴った。 ……グロリア1世が教会と対立するにあたって予想外だったのは、 思ったよりも民衆が教会の味方をしたことだったという。 ハレルの時代では考えられないことだが、 かつて非常に国民が困窮していた時代に、 人々の支えとなったのはまさに『信仰』だったというのだ。 それをグロリアは『呪い』と考え切り捨てようとした。 神を信仰する人々自身が作り上げた呪いだと。 その考え方を理解する者は多くなかった。 共に悪竜を打倒した仲間のうち幾人かは、そのために袂を分かったという。 「そう、イチバン恐ろしい『呪い』は、 呪いをかけられたヒトのタマシイのチカラをリヨウして強くなる…… 『ファントムルージュ』のようなタイプの呪いなんだよね」 しみじみと語るアメ。 ファントムルージュ。 その名を聞いただけでハレルの心臓は幻痛に襲われる。 しかし感じるのはおぞましさだけではない。 例えるなら、珠玉の宝石を沼に落としてしまったような悲しさがあった。 幻痛を振り払う。 ひとつ思いついて、ハレルは問いかけた。 「ねえ、アメ……グロリア1世はどんな人だったの?」 「…………マジメで、ガンコで、負けず嫌いで、 さみしがりで、いじっぱりで、泣き虫。そんな……フツーの女の子だったよ」 「アメ……アメは、グロリア1世のこと、知ってるんだね」 「……うん」 「……その人が、崩壊した国をゼロから建て直したんだね」 「そーだよ」 なんとなく。 アメのきもちが伝わった気がした。 ダンゲロスSS3裏トーナメント 1回戦第2試合 「呪われし3人の戦い」 「どうも、空飛ぶスパゲッティ・モンスターです。 ……おや、またあなたですか」 「…………」 いや。 椋鳥にはこんな触手の化け物の知り合いはいない。 「ああ、なるほど。つまり平行世界ですね? いやあしかし、この間は酷い目に遭いましたよ」 「何を言ってるかさっぱりわからないんだが……」 「おやおや。意外に頭のめぐりが悪いのですね」 けなされるが、このシュールな触手の化け物相手では腹も立たない。 試合会場であるホームセンターの商品陳列棚まるまる一つを使い、召喚能力を発動した椋鳥。 考えていたのは当然、 (あのクソエルフに有効打を持つようなやつ、出て来ねえかなあ) ということであった。 エルフの元女騎士、ゾルテリアは、 『あらゆるダメージを性的な刺激に変換して無効化する』という、 非常に強力な特殊能力を持つ。 対抗策は、性的行為に関連する攻撃を食らわせて、絶頂させることだ。 その観点からすると、空飛ぶスパゲッティ・モンスターは条件を満たしていると言えた。 何といっても触手だ。 そのうえスパゲッティだ。 世の中にはカップラーメンを使っていかがわしい行為に走るという変態もいるという話だし。 「なるほど、つまりはそのエルフという方をなんとかすればいいのですね」 「できるか?」 「まあやってみましょう」 うねうねと答える空飛ぶスパゲッティ・モンスター。 「そうですね、まずは動物性たんぱく質には一切影響を与えない酸を吹きかけて武装解除、 ヌードル触手で四肢を拘束して、あとは●●型触手で△△を××といった感じに……」 「あー、うん、やり方はなんでもいいや」 こうして空飛ぶスパゲッティ・モンスターはうねうねふわふわと飛んでいった。 ところで、椋鳥の能力は異次元の存在を召喚するというものである。 当然、異次元のものの考え方や常識は、この世界のそれとは異なる場合がある。 会話が成立しないことなどざらだし、 一見成立したようにみえても、実は噛み合っていないことがままある。 「ふうむ、エルフ、エルフ……おっ、あれですね?」 この時がまさにそれであった。 空飛ぶスパゲッティ・モンスターの視線が捉えたもの、それは。 ……フードを被った女性のシルエット。 遠くで連続する銃声を聞きながら、椋鳥は冷や汗をかいていた。 音は対戦相手のトリニティが発砲する音だろう。 標的になっているのは空飛ぶスパゲッティ・モンスターだ。 (……あいつ。先にトリニティと接触しやがった) 椋鳥は判断する。なぜならば。 「我が名はエルフの騎士、ゾルテリア。いくわよ!」 「ちっくしょう!」 今まさに、レイピアを構えた女騎士が椋鳥に突きかかってきている。 大会参加者の中でも有数の酷い能力を持つ女だ。 金髪碧眼、思わず見とれてしまうほどの美貌。……ただし正体を知らなければ。 「私のシルバーレイピアは怪物のほか、SナイトとAナイトに特効! あんたどれ?」 「どれでもねえよ!」 繰り出される細剣の技術は素早いが椋鳥にとっては見切れない程ではなかった。 しかし思ったよりもパワーとスピードがある。 (しかも、こっちには打つ手が大してない……が、やってみるか) 敵の刺突をわずかに横にずれて避け、椋鳥は間合いを近距離まで詰めた。 下腹部に拳を打ち込む。 ただのボディーブローとは違い、女性の下腹部を拳で殴打する行為は、 俗に「腹パン」と呼ばれ、一部の性癖を持つ者はそれで性的興奮を覚えるらしい。 つまり、多少なりとも性の属性を含んだ攻撃のはずだ。 「ふっふ、いいパンチねぇ」 「ぐっ」 ゾルテリアがにやっと笑う。 全く効いていない。 「いいパンチだけど、私をイカせるには五百発は必要ね……うぉらー!」 ゾルテリアは腰を深く落とし真っ直ぐに相手を突いた。 正拳付きを椋鳥は大きく飛び退いてかわす。 エルフはあまり力が強い種族ではないはずだが、伝わってくるプレッシャーは凄まじい。 体勢を崩した椋鳥に必殺の一撃を食らわすべく、ゾルテリアが突っ込んでくる。 「きぇーい!」 裂帛の気合と共にレイピアが振るわれる。 (――かかったな) 椋鳥は、崩れた体勢をさらに崩した。 思いがけず椋鳥が転倒したため、つんのめるゾルテリア。 そこに椋鳥の能力でゲートが開かれる。 「お、おっとっとっとっとっと」 つま先で踏ん張ろうとするゾルテリア。 その足がずるっと滑り、前方へダイブしてしまう。 (異次元に行ってこい!) 椋鳥が念じると同時―― 「ふんぬらばぁー!」 「嘘だろ!?」 ゾルテリアが雄叫びと共に振り回した拳が、ゲートを粉砕した。 ゾルテリアの能力『ZTM』は性的攻撃以外には絶対に負けない。 「おっとっとっとぉー!」 勢いのままにこけるゾルテリア。 咄嗟に椋鳥は体を入れ替え、ゾルテリアの腕を極める。 腕ひしぎ。 ジャンルで言えば『寝技』だ。 名前からして、多少なりとも性の属性が含まれた攻撃のはずだ。 しかし。 腕を極められた不自由な体勢から、ゾルテリアが身体を徐々に起こし始める。 (な――こいつ、女の腕力じゃねえ……! それどころか……) 椋鳥にどうしようもない戦慄が走る―― 「バカな。あれほどのパワーが……?」 特別観戦室。 主催者の七葉樹落葉は、秘書の森田の顔に動揺が走るのを久々に見た。 「森田?」 落葉が声をかけると、森田は我に返ったようだった。 「申し訳ありません。取り乱しました」 恥じ入ったように詫びる。 「一回戦の様子からは考えられない力だったため、驚きました」 「……力を温存していたということ?」 「いえ、それは……」 「私が解説いたしましょう」 声の主は王大人(ワン・ターレン)。 大会において、選手の治療を担当する魔人である。 「これは王殿。なぜこちらへ?」 「お耳に入れておきたいことがございまして」 落葉が頷くと、森田は警戒態勢を解いた。 王は抱えていた資料を机に置くと、静かな声で告げた。 「結論から申し上げましょう。検査の結果が出ました。 ――血液内残留度893pg(ピコ剛力)。 彼女は、ファントムルージュのキャリアーです」 「!!」 その言葉に、森田と落葉が揃って戦慄する。 直感的に、その後に告げられる内容を察したのだった。 「彼女の脳には後遺症が残っています。 具体的には……人体が発揮することができる力を抑制する、 『リミッター』が破壊されているようです」 「普通人は言うまでもなく、魔人にも抑制機能は備わっている。 強すぎる力は、時に自分で自分の肉体を滅ぼすからだが……」 「ええ。彼女は持てる力を100%引き出せるようになっている。 反動ダメージは能力『ZTM』で中和されているようです……現在のところは」 「なんということだ」 森田はかぶりを振る。 呪われし映画、「ファントムルージュ」その効果……これほどとは。 「いつまでやってんぐぁー!」 ついにゾルテリアは体勢を起こした。 離れようとする椋鳥だったが、逆にがっちりと掴まれてしまっている。 片手だというのに、恐ろしい力だ。 「ちくしょうこのクソ女……!」 「ひどぉい……でも以下略」 微妙にゾルテリアの握力がゆるむ。言葉責めに反応したようだ。 その隙を突いて、椋鳥は反撃に出る。 「くらえっ!」 「ふふん、私にそんな攻撃が通用するとで――んほぉっ!?」 素っ頓狂な声を上げるゾルテリア。 椋鳥が攻撃に使ったのは、店の商品である『ドライバー』だ。 当然、普通に使用してもゾルテリアには通用しない。 しかし―― 「あっひゅーーーん」 頬を紅潮させて悶絶するゾルテリア。 ドライバーが突き刺さっている。頬のすぐ近く――すなわち『耳』に。 『耳』は人体における性感帯のひとつ。 耳が敏感な女性は性感が豊かであるという格言もあるくらいだ。 また、耳かきを行うサービス専門のいかがわしいお店もあるらしいし、 恋人同士のスキンシップでも耳かきは定番のシチュエーションである。 このダメージは今までの攻撃の比ではなかった。 「効いたか!?」 「お……おほぉっ、ま、まだ、負けにゃいいいっ……」 ギリギリでゾルテリアは耐えている。 美しい表情は無残に歪んでいる。情けない有様だ。 (もう一押し必要か) 椋鳥は頭を素早く回転させた。 「ええっと……そうだ、このブタ女! 変態牝! 色情狂!」 先ほどわずかに椋鳥の罵倒が攻撃になったのを思い出す。 「このド変態め、そんな恥ずかしい能力で大丈夫か、えーっとそれから……」 「心がこもってないわね!」 「うおっ!?」 シルバーレイピアが唸りを上げて襲いかかる。 のけ反ってぎりぎりかわす椋鳥。 「くっそ……」 「今のは危なかったわ~ん」 ドライバーを引き抜いて服の中にしまいこむゾルテリア。 何に使うのかは考えないことにする。 「長引くと危なそうだし、そろそろ死になさーい!」 ゾルテリアはいきり立って椋鳥に襲いかかる。 チンパンジーのごとき跳躍。 (ちくしょう、しょうがねえ……!) これだけはやりたくなかったが、仕方なかった。 椋鳥は覚悟を決めた。 前方に跳躍。 ゾルテリアのパワーが炸裂する前段階……『溜め』のうちに接触する。 そして―― ……むちゅっ。 二人の唇が触れあう。 直後、躊躇なく椋鳥はゾルテリアの唇に噛みついた。 「~~~~!」 ゾルテリアが声にならない叫びを上げる。 目は裏返って白目ぎみになり、口からは舌が突き出された。 ――ゾルテリアは絶頂してしまった! 椋鳥の口の中にゾルテリアの生臭い息が流れ込んでくる。 椋鳥はゾルテリアから離れると床に唾を吐いた。 能力『ZTM』の解除条件が満たされた。 ゾルテリアの肉体が本来のものに戻っていく。 肌は荒れ気味になり、顔にはほうれい線が浮き出し、引き締まった肉体がたるんでいく。 「ま、ましゃか、私がこんにゃ簡単にイカしゃれるなんてぇ……」 快感の余韻にぷるぷると震えながらも戸惑うゾルテリア。 もう少し性的快感に対する限界値は高かったはず…… だというのに、何故絶頂を迎えてしまったのか。 その理由は、ワン・ターレンが観戦室で解説した通り。 脳のリミッターが外れたゾルテリアは、そのパワーを引き出す代償として、 自身の体に反動ダメージを受けることとなってしまった。 反動ダメージは『ZTM』によって中和される。 ――性属性とは関係のないダメージゆえ、ゾルテリアに対する影響は、 オッパイ一揉みにも満たない性的刺激にとどめられる。大したことはない。 しかし。 長時間にわたって微弱な性的刺激を受け続けるということは、 性的絶頂へのプロセスを加速度的に上っていくことに他ならないのである。 『ファントムルージュ』……その呪いの影響は、予想以上に大きかったのだ。 「でも、まだ負けてない……主婦の底力、見せてあげ――」 椋鳥は音も無く接近した。 大外刈りの要領で足払いをかける。 「あっ」 絶頂により足腰が震えているゾルテリアはあっさりとバランスを崩し―― 「あ~~~れ~~~」 椋鳥が彼女の背後に開いたゲートの中に落下していった。 『――ゾルテリア選手の場外を確認しました』 椋鳥は口を服の袖で拭う。 ゲートの反対側の面から、歌う手乗りヤマタノナウマンゾウモドキが現れ、床に落ちた。 歌う手乗りヤマタノナウマンゾウモドキが歌い始める。 無駄に美声だ。 『ぞ~~~うさん、ぞ~~~うさん、お~~~鼻が長いのね~~~♪』 (あー、うるせえ) と、思いつつ、椋鳥はようやく一息ついた。 『そ~~~うよ、とうさんも、な~~~がいのよ~~~~~オカマッ!』 「あ?」 『ぞ~~~うさん、ぞ~~~うさん、だ~~~れがすきな~~の♪』 なんだこいつと思いつつ、椋鳥は気を引き締める。 いつの間にか拳銃の発砲音は途絶えていたが、大会からのアナウンスが無い以上、 トリニティは脱落していないのは確かだ。 『あ~~~のね、』 (…………ん?) 歌う手乗りヤマタノナウマンゾウモドキの歌が不自然なところで止まった。 訝しみながら見ると、歌う手乗りヤマタノナウマンゾウモドキもまた、つぶらな瞳で見返してくる。 ひたり――と。 椋鳥の首の前に、刃が突きつけられた。 「――チェックメイト」 (こいつ……いつの間に) 気付くと、歌う手乗りヤマタノナウマンゾウモドキが再び歌い始めている。 トリニティの肉体に宿る三人の魔人の一人、無量小路奏。 消音の能力『サウンドオブサイレンス』を使用して、気付かれずに接近していたのだ。 歌う手乗りヤマタノナウマンゾウモドキの歌が途切れた時点で椋鳥にも気付くチャンスはあったのだが、 ゾルテリアを倒した直後で、完全には頭が切り替わっていなかったことが災いした。 付け加えるなら、トリニティの能力の中では、 水を散弾のように撃つ能力『レイニーブルー』が最も脅威度が高かったため、 消音の能力からは意識を逸らされてしまっていたのも原因の一つ。 背後を取られ、ナイフを突き付けられている。 絶体絶命の状態だったが、椋鳥は一切動じなかった。 降参する様子はないと判断したのだろう。 椋鳥が背後を取られてからその瞬間までに経過した時間は約1秒。 トリニティの手に力が入り、ナイフが閃く。 無量小路奏は、驚愕に大きく目を見開いた。 彼女のナイフが敵の首筋を切り裂く、その刹那。 椋鳥が首とナイフとの間に左腕を差し込んだのだった。そして―― がつっ、という硬質な音が響き、刃が滑った。 (防がれた。何故――) 奏の脳裏に、一回戦、洋館の試合が浮かぶ。 相川ユキオが、椋鳥のナイフを左手で受け止めた映像が。 その一瞬が命取りとなった。 椋鳥の肘が奏の胴に突き刺さる。 奏が痛みに怯んだその隙を突いて、椋鳥が大きくのけ反り、そのまま後ろに倒れ込んできた。 避けることもできず、揃って倒れる。 間髪入れず、椋鳥が左手を振った。 ――袖のホルスターに仕込まれたナイフが飛び出し、その手に握られた。 奏の一撃を受け止めたのは、仕込んだそのナイフ。 (ま、ずっ……) 右手のナイフを操ろうとする奏だが、、 体を回転させた椋鳥の右手が肩関節の部分を正確に一撃する。 そして、椋鳥の左手のナイフが迫る。 防御は間に合わない。 奏の首筋が切り裂かれた。動脈から血が溢れる。 (――――!) 意識が途切れる前に。 奏は最後の力を振り絞る。 右手のナイフを振るう。 苦し紛れの一撃は、容易く避けられた。 しかし。 (これ、でいい……) その軌道のまま。奏は自らの左胸と左脇の中間あたりにナイフを突き立てた。 鮮血が迸り、首からの出血と合わせて、黒のジャケットを赤黒い血の色に染める。 (奏……!) (どうして――) 薄れゆく奏の意識に、二つの声が響く。 自分でも驚くほど冷静に、奏は応える。 ――こうすると決めていた、だけ。 ――敗けたときのこと、覚えている? 三人でひとつの肉体を共有する魔人、トリニティ。 彼女らチームが一回戦で敗北したのは、 敵の急激な身体強化に不意を突かれ、マウントポジションを取られて、 不利な状態を崩せぬままに押し切られてしまったのが理由だ。 ――相手も、魔人。捕まれば……簡単には、崩せない。 ――だから…… (わかりましたよ、奏) その声に安堵する。 三傘はわかってくれたようだ。 だから……まだ負けではない。 ――あとは、任せ……る。 …………。 一瞬。 トリニティの取った予想外の行動に、椋鳥が硬直した。 その刹那、トリニティの姿が変化する―― まとめられていた黒髪が解かれ、明るい水色に変わる。 (攻撃を……) 加えようとした椋鳥に不快感が走った。後ろに体を反らす。 それが命を救った――椋鳥の頭のあった場所を高速で何かが通り過ぎる。 ――栗花落三傘。 トリニティの肉体に宿る三人の魔人の一人にして、主人格。 能力は大会参加者中、最大の貫通力を持つ『レイニーブルー』による射撃攻撃。 その威力は、近距離に限れば遠藤終赤の推理光線『一ツ勝』をも凌ぐ。 その能力を前にして、椋鳥には止まることは許されない。 のけ反った勢いのままブリッジ。両手の指に渾身の力を込め、床を掴む。 後転して起き上がり――直後に横に転がる。 幾条もの射線がその後を通り過ぎる。 さらに追い討ちをかけようとするトリニティを、 歩行シノビオカクラゲ(陸棲)の触手が手を刺すことで邪魔をした。 回避行動を取る際、椋鳥が邪魔になるナイフを対価に召喚したモンスターだ。 歩行シノビオカクラゲ(陸棲)をトリニティが傘で払っているうちに、商品陳列棚の陰に飛び込む。 「『レイニーブルー・ブラッディクリムゾン』あなたは許しません」 棚の向こうから聞こえるトリニティの声は人格交替の前とは違って大きい。 そして、怒気に満ちていた。 (血を操った……!) 距離を取るべく走りながら、椋鳥は分析した。 驚いたが、考えてみればそれほど不可思議ではない、と椋鳥は思い直す。 さすがに人体内の水分に対して干渉はできないようだが、流れ出た血液ならばただの液体である。 魔人の認識次第では操ることも可能だろう。 しかし真に驚くべきは一人目の人格が自らを犠牲にしてとったその行動。 覚悟を決め、一瞬も迷わずやるべきことを実行できる者は――手強い。 もちろん、そこまでして守りたいと彼女に思わせるほどの仲間も。 ゾルテリアよりは与し易いなどと考えていれば、負ける。 (……攻撃が止んだ?) 『レイニーブルー』による破壊音が消えた。 歌う手乗りヤマタノナウマンゾウも戦闘に恐れをなして逃げてしまったのか、歌は聞こえない。 ただし微妙な足音や移動するときに風を切るわずかな音は消えていない。 消音の能力ではない。 となると弾切れか、射程範囲外に出たか。 思案する椋鳥に近づいてくる物体があった。 ばっと振り向き身構える。 「いやあ、最近の女性は怖いですねえ」 「お前……」 脱力する椋鳥。 そこにいたのは空飛ぶスパゲッティ・モンスターだった。 しかし、酷い有様である。 体は焦げ、ヌードル触手の一部は溶け、一部は穴が空いている。 「『アシッド・レイニーブルー』などと申されまして。痛い目に遭ってしまいました」 「自分の酸で溶けてるのかよ」 「正直、もう帰りたいのですが」 「勝手にしろよ」 「では、お言葉に甘えまして」 椋鳥が許可を出すと、空飛ぶスパゲッティ・モンスターが消えた。 入れ替わるように、商品陳列棚が帰還する。 「うお! 忘れてた。マジでびっくりするな……」 ともあれ。 空飛ぶスパゲッティ・モンスターが役に立たないなら、別の手を考えなければならない。 椋鳥は帰還した陳列棚を見つめた。 (落ち着きましたか?) 意識の中でやりとりを交わす。 トリニティの肉体に宿る三人の魔人のうち、最後の一人の射手矢岩名が表に出ている。 内に戻った三傘に声をかける。 (ええ――でも……敵には逃げられて……!) (落ち着きなさいと言いましたよ。三傘) 辛抱強く諭す。 控えめな奏と攻撃的な岩名。 トリニティの肉体の本来の持ち主として、 二人のまとめ役であろうとする三傘の気性を岩名はよく知っていた。 そして、彼女が最も感情の起伏が豊かだということも。 (しかし――これじゃあ奏が) (無駄ではありません。先ほど彼は回避行動に徹するしかありませんでした。 これは、三傘の能力が決定打になるということを証明しています) そう……つまり。 三傘を後に残しているこの状況であれば。 岩名は気兼ねすることなく銃を乱射できるということだ。 蜂の巣にしてやろう。岩名はうっすらと笑みを浮かべる。 (くっ……一回戦みたいにスプリンクラーがあれば、こんなことには……) (悔やんでも仕方ありません) 天井にある火災報知機は警報を鳴らすだけのタイプで、放水機構は備えていなかった。 これは空飛ぶスパゲッティ・モンスターを撃退したあと、 事務室にあるPCからインターネットでチェック済みである。 実際に火災報知機を作動させて確かめても良かったのが、奏が異を唱えたのだった。 音を鳴らして居場所を掴まれるリスクを侵すよりは、 倉敷椋鳥とゾルテリアが互いに消耗するのを待つほうが良いと。 この選択は功を奏したと言える。 正直なところ、ゾルテリアを打倒する方法を三傘達は思いついていなかった。 (そのことについてだけは感謝しますよ……倉敷椋鳥。 だから、死合が終わっても恨んだりはしませんから……私に殺されなさい) 岩名の手には黒い影を落とす塊がある。 『ニューヨークリロード』で呼び出した銃。 一回戦で用意したようなハンドガンではなく、ショットガンだ。 スピードのある椋鳥を相手にするにはまず、散弾で手傷を負わせてから、 次に召喚する拳銃で確実にとどめを刺すのが効果的だと岩名は判断していた。 一回戦でこの手を使わなかったのは、 奏の『サウンドオブサイレンス』の効果内で敵を撃つ必要があったからである。 油断なく周囲を見回し、敵の姿を探る。 現在のところ、敵の姿は見えない。 ――正面から首を掴まれた。 「ぐっ……!?」 (真正面……ですって……!?) 頭部だけが異様に大きい男だ。倉敷椋鳥ではない。 なぜ見落としてしまったのか、岩名にはわからなかった。 咄嗟に岩名は銃を構えようとする。……駄目だ。近すぎる。 ショットガンは一旦捨て、拳銃を―― 「可愛さ余って、憎さ百倍! 腹パンマン!」 「な――」 「もうゆるさないぞ! 腹をパンチ!」 「うぐっ!」 どすっ。 岩名の柔らかな下腹部に、拳による打突が刺さる。 「こ、この……」 「腹をパンチ!」 「ぐうっ!」 再びボディーブロー。岩名の体がくの字に折れ曲がる。 岩名は拳銃の引き金を引こうとして―― 「腹をパンチ!」 「ぎいっ……!」 急所を正確に抉られ、痛みと衝撃で息ができない。 「や、やめ――んぐっ!」 「腹をパンチ!」 「いやっ――うっ!」 「腹をパンチ!」 「――――!」 「腹をパンチ!」 ごつっ。 異質な音が響く。 緊急的に表に出た三傘が振り下ろした武傘が、腹パンマンの頭部に命中した音だ。 腹パンマンの頭は陥没した。 ボコドカバキグシャメキョゲシゴツバゴ―― 無言で三傘はそいつを滅多打ちにする。 腹パンマンの挫傷はすぐに回復するが、なぜか頭部だけは元に戻らないようだった。 とどめに武傘を腹パンマンの頭部にブッ刺す。 「か……」 「?」 「面目(かお)が潰れて力が出ない……」 「死ね!」 三傘が大上段から振り下ろした武傘が、顔を真っ二つに切り裂いた。 腹パンマンは消滅し、その場所に商品陳列棚が現れる。 (岩名! 大丈夫ですか!?) (死んではいません……) 三傘は心で問いかける。 返ってきたのは弱々しい声だ。 (油断しました……。『薄い』生命体……横向きになって近づかれたのでしょう) 体積が低いということは、その分視認しづらいということなのだ。 薄い物体が横向きになれば、捕捉される可能性は低くなる。 椋鳥の能力で呼び出されるものは、全く性質の予想がつかない。 何しろ術者である椋鳥にすら予測が立てられないのだ。 しかし、それでも―― 空飛ぶスパゲッティ・モンスターが厚みを持たない体だったことを踏まえれば、 薄っぺらい異形が現れる可能性は想定していても良かったはずだ。 空飛ぶスパゲッティ・モンスターを容易く撃退したことで、どこかに慢心があったのだろう。 (く――) ここに至り、三傘は実感していた。 機転によってゾルテリアの能力を破る判断力。 ゾルテリアと、自分たちトリニティを連続して相手取りながら、 ほとんどダメージを受けていないという事実。 (倉敷椋鳥……私たちよりも遥かに格上の相手……!) (三傘――) (岩名。ごめん……覚悟を決めるしかないみたいです) それでもまだ三傘は諦めてはいない。 その決意は岩名にも伝わる。 (わかりました。どうやら、私は動けそうにありませんが……) (構いません。というより、岩名には生きていてもらわなければ困ります) (……まさか) (最悪相討ちにまで持ち込めれば――それで勝てます) 岩名は反論しようとして――諦めた。 (『トリニティ』のリーダーはあなたです。三傘。あなたに従います) (ええ) (ただ、そのまま挑まないほうがいいでしょう。まずは、化粧室に向かいましょう) 人に近い知性の持ち主によって行使され、 解除が極めて困難である、持続する効果。 それを人は『呪い』と呼ぶ。 一人は落ちた。 残るは二人。 呪いによって人生を蝕まれ、また、呪いによって自らを縛り続ける魔人と、 呪いによって命を失いかけ、また、呪いによって命を繋がれた、三人で一人の魔人。 かくして、決着の時が訪れる。 近づく三傘を椋鳥が待ち受けている。 「来たか」 「随分と余裕ですね……」 三傘の右手には武傘がある。彼女の一部にして愛用の武器である『三傘』だ。 岩名の召喚した散弾銃は置いてきた。 理由は二つ。 三傘が扱ったことのない武器であるため、付け込まれる可能性があるのが理由の一つ。 そして、もう一つの理由が、単純に『レイニーブルー』のほうが威力が高いからだ。 三傘の左手には大きめのビニール製の袋がある。 災害時を想定して生産された『給水パック』 内容量は約2リットルだ。 その中身は当然水道水で満たされている。 「で、それを持って戦うのか?」 「まさか」 三傘が袋を投げた。 ――それが合図となる。 中身が詰まった給水パックは、床に水をぶち撒ける。 そして。 その瞬間、椋鳥が軽く呟いた。 「『許可』する――還れ」 椋鳥の右手に隠されていた、可哀想な魔界ハダカデバネズミが消失する。 ――と同時。 椋鳥の手に帰還する赤い物体。 それは。 「――消火器!?」 「ご名答」 当然、ロックは外され、いつでも使えるようにしてある。 間髪入れず、椋鳥は消火剤を撒いた。 白い粉末が吹き出し、床の水を吸っていく。 「どうして――」 「なんで消火器があるのかって? そりゃ法律で決まってるからだろ」 三傘は唇を噛んだ。 確かに、大型店舗なら消火器の用意があるのは当たり前だ。 スプリンクラーの有無を確かめたとき、 『このホームセンターの火災対策はどうしているのか』と考えなかった。 その失策は、取り返しがつかない―― (これが経験の差ですか) しかし。 (そう簡単に勝てるとは、最初から思っていません) 相手は三傘の能力の封殺に成功している。 だからこそ。 (今この瞬間だけ、わずかに慢心が生まれる!) 三傘の脚が床を蹴った。 武傘を高く掲げる。上段からの一撃だ。 振り下ろす。しかし、そもそも間合いが遠い。 これでは椋鳥までは届かない。 (届かない――そう思っていますね!) 三傘は武傘に『力』を注ぎ込む。 武傘の正体――それは、三傘自身の一部。 三傘の体の一部を分け与えてやれば―― (――大きく長くなるのですよ!) 乾坤一擲の、隠し球を使った一撃。まさに切り札。 しかし、そこで三傘は己の誤算を悟った。 ――椋鳥は自分から間合いを詰めていた。 その手には、工具の一種である『ノミ』が握られている。 商品陳列棚から拝借したのだろう。 この状況で、リーチの不足を不審に思い、機先を制することを選択したというのか。 恐ろしいまでの判断力だった。 (だとすれば――慢心していたのは――) ノミが胸に突き刺さり、鮮血が吹き出す。 だがそこで、椋鳥に驚愕の表情が生まれる。 無理もない。 そこにいたのは水色の髪の女性ではない――ふくよかな体型の、黒髪の女性の姿。 射手矢岩名。 攻撃を避けられないと判断した彼女が、咄嗟に表に出て三傘をかばったのだ。 (岩名――――!) 「――――」 岩名の口から声は発せられない。 しかし、そのメッセージは確かに三傘に伝わる。 呪いによって命をひとつに繋げられた彼女たちなのだから。 宙に赤い液体が舞う。それは岩名の命。 能力を発動すれば、椋鳥の体を貫くだろう。 瞬間。 椋鳥が、『保険』として備えていた仕掛けを発動させる。 「『許可』する――還れ!」 念と共に、空間に遮蔽物が出現した。 (……レジャーシート!) 即席の盾……というよりは一瞬だけの目隠しだ。 水の矢を撃ち込むことが可能なのは、血液が床に落ちるまでのわずかな時間。 それを過ぎれば、床に撒かれた消火剤に染み込んで、能力を使うことは不可能になる。 (必ず当てる……!) シートの向こうにいるはずの椋鳥に届けとばかりに睨みつけ、三傘は能力を発動する。 ――『レイニーブルー・ブラッディクリムゾン』 血流を分散させ、どの方向に逃げたとしても命中するように三傘は血の矢を放った。 しかし、相手はまたも予想を裏切った。 椋鳥がエスケープに選んだ方向は『上』だった。 相川ユキオの編集した、ノートン卿の『影の城塞』を飛び越えた跳躍力。 血の矢はむなしく空を切った。 シートが床に落ちる。 その向こうで着地する椋鳥は自分の銃を抜いていた。 (ここまで――) 三傘は思う。 攻撃をかわしたことで安堵していた椋鳥の表情が、再び強張る。 (――ここまで、岩名の予測通りとは!) 三傘もまた、拳銃を構えている。 最期の瞬間、岩名がメッセージと共に『ニューヨークリロード』によって残した銃。 この距離なら三傘の腕でも命中させることは可能――! 二つの銃が同時に火を噴く。 脚に被弾した椋鳥の体勢が崩れ、一方で三傘は腹部に弾を受けた。 (……っ。――この程度! 岩名のダメージに比べれば!) こうなればあとは根性勝負だ。 再び銃声が響き、二つの銃弾が交差する。 今度は両者ともに手に弾を受けた。 衝撃で椋鳥の銃が後方へと吹き飛ぶ。 そして、三傘は銃を取り落とした。足下に銃が転がる。 (……好機!) 椋鳥の脚の負傷と銃の落ちた場所までの距離からみて、三傘のほうが有利。 負傷した手は使うのを諦め、三傘は武傘を放した。その手で銃を拾う。 (……終わりです!) 三傘が銃を椋鳥に向け――そして、取り落とした。 (…………え?) 思わず手を見る。 その手は、はた目にもわかるほど酷く震えていた。 気がつけば体が熱い。そして手先はどんどん熱を失っていく。 腹部に開いた銃創のためか――否。 「俺の能力……『ストレンジ・インヴィティション』 ――何が出てくるかは使ってみるまで俺にもわからない」 椋鳥が足を引きずり、こちらへ戻ってくる。 その手には銃があった。 「だが、何回も使ってると、たまに見たことあるやつが出てくるんだ。 ハダカデバネズミみたいなやつとかな。 で、こんだけ周りに物があれば、目当てのやつが出るまで挑戦することもできる」 三傘は銃を再び拾おうとして……バランスを崩した。 体に力が入らない。 「とはいえ、今回は偶然だったけどな……クラゲみたいなやつがいただろ? あいつ――」 ――――毒を持ってるんだ。 ぱん、と乾いた音がして、三傘の頭がはじけた。 「しかし全然毒が効いてるようにみえないんで焦ったよ。 ……体質かな? とにかくお前、強敵だったぜ――いや、お前ら、か」 銃をしまい、椋鳥は足を引きずりながら歩き出す。 これから、歩行シノビオカクラゲ(陸棲)を探して、 召喚に使ったナイフを回収しなければならない。 戦闘が終わったのを察したのか、おそるおそる棚の陰から顔を出した、 歌う手乗りヤマタノナウマンゾウモドキを拾い上げてやる。 ――試合終了のアナウンスが流れた。 ◆「呪われし三人の戦い」 おしまい◆ このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/saki_nodoka/pages/31.html
●4スレ目 4-38氏 無題 (いつも通りに部室の扉を開けた咲。しかし何か違和感が……) 4-69氏 無題 (合同合宿以来の龍門渕メンバーに咲は話しかけられる) 4-170氏 無題 (上 SSの続編。アイドルとしての和に不安感を覚える咲) 4-205氏 無題 (上 SSのさらに続編。勢いで告白してしまう咲だが、さらなるすれ違いを生んでしまう) 4-221氏 無題 (上 SSのさらに続編。険悪が続く中、咲は昔の夢を見る) 4-322氏 無題 (上 SSのさらに続編。生まれて初めての恋。和の胸に募る、咲への想い) 4-398氏 無題 (上 SSのさらに続編。素直になれない自分に和は苦しむ) 4-747氏 無題 (上 SSのさらに続編。麻雀を始めた意味を考え始める咲) 4-762氏 無題 (上 SSの完結編?) 4-770氏 無題 (上 SSのさらに続編。まこと久がその後の二人について語る) 4-806氏 無題 (上 SSの完結編) 4-253氏 無題 (クリスマスが近づく。ばったり出会った部長たちに咲は相談を持ちかける) 4-266氏 無題 (上 SSの続編。部活の帰り道、咲は和の家に泊まりたいと申し出る) 4-XXX氏 無題(18禁) (上SSのさらに続編。お風呂で一生の思い出を作る二人……) 4-296氏 無題 (上 SSのさらに続編。二人で迎えた朝。目覚めた咲は、相性診断をする和を見つける) 4-388氏 無題 (元旦を迎え、麻雀部はみんなで初詣に向かう。そこで部長が取り出したものは……) 4-407氏 ONE DAY①~② 4-420 氏 ONE DAY③ 4-433 氏 ONE DAY④ 4-443 氏 ONE DAY⑤ 4-463 氏 ONE DAY⑥ 4-473 氏 無題 (部長から手渡されたのは寝台列車のチケット。しかも同部屋で……) 4-XXX氏 無題(18禁) (上SSの続編。二人きりの寝台部屋で二人は……) 4-486 氏 ONE DAY⑦ 4-506 氏 ONE DAY⑧ 4-583氏 無題 (新年最初の登校日。咲と和はいつものように二人並んで語り合う) 4-592氏 無題 (持久走大会に乗り気でない和に、咲がした行為は……) 4-607氏 ONE DAY番外編 4-624 氏 ONE DAY⑨ 4-634 氏 ONE DAY⑩ 4-652 氏 ONE DAY⑪ 4-664 氏 無題 (だるま市にだるまを奉納しに、自転車に乗る二人) 4-XXX氏 無題(18禁) (上SSの続編。だるま市の帰り道、夜の田舎道で二人は……) 4-727 氏 ONE DAY⑫ 4-737 氏 ONE DAY⑬ 4-742 氏 「でね?思ったんだ。ああ、だから和ちゃんはきれいなんだなって」 4-841氏 無題 (修学旅行で清澄一年生は京都を訪れる。咲との班行動に和の胸は鳴りやまず……) 4-856氏 無題 (上SSの続編。修学旅行二日目は自由行動。しかし案の定咲はみんなとはぐれてしまい……) 4-873氏 無題 (上SSのさらに続編。自分の気持ちの変化に気づきはじめる和) 4-XXX氏 無題(18禁) (上SSのさらに続編。明かり控えめのロビーで「友達の先」を求め合う二人……) 4-906氏 無題 (咲「和ちゃんがPSPに夢中で現実に帰ってきません」)