約 528,505 件
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/4491.html
六月。 梅雨で雨が降り続ける。 水に弱いゆっくりにとって地獄のような季節だ。 「ゆぅ…きょうもかりにいけないよ…」 「まりさ……だいじょうぶよ、まだごはんはたくさんあるんだから!」 「あ、ありす…!」 こんな仲睦まじいカップルも、一週間雨が降り続けば…。 「まりさ!はやくかりにいきなさいよ!もうごはんがなくなってるのよ!?」 「おそとはあめなんだよ!まりさがずっとゆっくりしてもいいの!?」 こんな喧嘩ができるのも元気がある今だけ、梅雨も中盤に差し掛かる頃には…。 「ゆ゛ぅ……は゛でぃざ、おながずいだわ…」 「ゆ゛ぅ……もう、あめがふっででも、おぞどにいぐじがないね゛……」 無謀と知りつつ雨の中、巣から出る二匹。 「「ゆ゛が あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!か゛ら た゛か゛と゛け゛る う う う う う !!!」」 ただでさえ衰弱した体に、覚悟していたとはいえ冷たい雨が当たる。 まりさとありすの体は徐々にふやけて、今にも溶けてしまいそうだ。 二つの饅頭が原型を失くそうとした時、偶然にも雨が止んだ。 「ゆ…ありす、あめが…やんだよ…。」 「…………。」 「あ、ありす…?ありす、ありす?」 まりさはありすに呼びかけるが返事は無い。 そしてまりさは呼びかける以上のことができない。 原形を失う寸前まで雨に曝されたまりさには、既に足が無かった。 「あ゛て゛ぃ す゛う゛う゛う゛う゛う゛!!??」 「…………。」 「ゆ゛っ…ゆ゛っ…」 まりさは食料を求め這い回っていた。 ありすが返事をしなくなった、自分はありすの分までゆっくりしなくては。 そう考えたところで空腹を思い出し、食料を探しにでかけた。 足が溶けて無くなっているため『狩り』は行えない。 移動は体を尺取虫のように動かして少しずつ前に進む。 「いぢゃいよ…あんよがぁ…」 ずーり、ずーり。 少しずつ前に進むものの、その速度は跳ねて移動する時とは比べ物にならない。 ただでさえ雨に濡れて弱った体は道路で容赦なく削られる。 そもそも、食べ物が都合良く落ちているはずがない。 辺りはアスファルトで舗装されており、雑草すら生えていない。 もし仮に食料が手に入ったとしても、こんな姿では長く持つまい。 すぐに物言わぬ饅頭に成り果てるだろう。 そんなこと分かっていた。 しかし、それでも、ありすの分までゆっくりしなくては。 その一心だけでまりさは動き続けた。 泥まみれになりながら、溶けていた足どころか顎の部分まで擦り削り、まりさは一つの『食料』に辿り着いた。 それは、ブロック状の、ゆっくりから見れば大きな――カロリーメ○トだった。 人間の落し物だろう。 それをまりさは泣きながら頬張る。 雨に曝され、ドロドロに溶けたそれに齧りつく。 黴が生えたそれを、天の恵みとばかりに。 本来なら、ゆっくりどころか人間が食べても優良な栄養食たり得るカロリーメ○ト。 しかしそれも真っ当な状態であればこそだ。 道路脇で数日間、排ガスの溶け込んだ水溜まりの中にあったそれは、既に食料ですらない。 おまけに表面には黴まで生えている。 それを、極限まで衰弱しているまりさが食べた。 ありすの分まで生きるどころではない。 「ゆ゛っ!?ゆ゛…ゆ゛…ゆ゛……エレエレエレエレエレ」 吐いた。今齧ったカロリーメ○ト、そして体内にあった餡子の大部分を。 「ゆ゛っ げ え え え ぇ ぇ ぇ …あでぃす゛のぶんまて゛……ゆっぐり…じだがっ……た゛……」 ありすは、 「…………。」 生きていた。 口の中まで雨に溶かされ、喋れない。 まりさより酷く足を溶かされ、這いずることもできない。 去っていくまりさを止めることもできなかった。 それでも、生きていた。 だが、こんな体では何も出来ない。 食料を手に入れるどころではない。 口が溶かされているので咀嚼すらできないのだ。 ここは歩道の真ん中、いつ人間に踏み潰されても不思議ではない。 いつまた雨が降ってもおかしくない。 カラスか野良犬でも来ればあっという間に食い尽くされる。 人間に踏み潰されず、雨にも降られず、カラスや野良犬にも見つからない奇跡をありすはひたすら祈った。 生きてさえいればきっとまりさが迎えに来てくれる。 それだけを信じて。 そして、その奇跡は叶った。 奇跡的にこの一週間、雨は降らなかった。 人間は汚物を避けるようにありすを避けて歩いた。 その町ではカラスや野良犬の駆除に力を入れていたため、それらは現れなかった。 だけど、まりさは来なかった。 一週間前、ありすは自分の空腹は限界だと思った。 今、ありすは自分の体の丈夫さを呪っている。 限界だと思った空腹から更に一週間、飲まず食わずで過ごしたのだ。 まりさが戻ってくることだけを信じて、次第にそれが諦めに変わって。 相変わらずナメクジのように溶けた体だったが、この一週間で変わったことがあった。一週間放置された体は程よく乾き、声が出せるようになっていたのだ。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……お て゛か゛い 、た゛れ か゛…あ て゛ぃ す゛を こ゛ろ し゛て゛……」 やっと声が出るようになった喉は死だけを求めて機能する。 本当の限界が来るその時まで、ありすは路上で死を求め続けた。 このSSに感想をつける
https://w.atwiki.jp/slowlove/pages/643.html
今は昔、あるところに食べ物を作るのは得意だけど怠け者の男がいました。 男は持ち前の技術で和菓子屋を経営していましたが持ち前の怠け癖があったせいか なかなか繁盛しませんでした。 男はどうやったら稼ぎが出るかとかどうやったら早く売れるなど まぁ怠けからきたものですが、一応商売人にとってまともな考えをしていました。 けど考えても何も思いつかず、結局いつものようなだらだらと売ることになりました。 ある朝、起きて店を開こうとすると店の前にゆっくりれいむがいました。 「ゆっくりおかしちょうだい!!!」 お菓子でも買いに来たのでしょうか、白銅の硬貨を口にくわえて綺麗な眼差しでこちらを見ています。 しかし男はれいむを見てドス黒い思考を働かせました。 (こいつ確か饅頭だよな……) 男は近くに誰もいないことを確認するとれいむを店の中へと連れ込んでしまいました。 そして男は調理所へ行きれいむを調理台の上に置きます。 「おじさんもしかしてれいむをたべたいの?じゃあおたべなさい!」 そんなれいむの言葉を無視して男は戸棚から巨大なスポイトらしきものを取り出しました。 何で菓子屋がそんなもの持ってるのかは気にしないで下さい。 そして男はそのスポイトをれいむの下腹部へと一気に突き刺しました。 「ゆっ!?じゃどうぐいはやめてね!!!」 別に男は邪道食いするために刺したのではありません。男はスポイトからどんどんと れいむのあんこを吸い取っていったのです。 吸い取られていくたびにぷにぷにしているれいむの頬はこけ落ちていきました。 「ゆ、ゆっくりはほろびぬ。なんどでもよみがえるさ!!!」 そしてその言葉を最後にれいむの身体はぺったんこになってしまいました。 男は吸い取ったあんこを生地で包みさっと蒸していくと、あっという間に手のひらサイズの お饅頭が二百個くらい完成しました。 原価はタダ、そしてゆっくり一つでこの多さです。 男はどうして今までこんな事を考えなかったのかと自分を嘆きながら その饅頭を普通の饅頭として店で売り始めました。 「あら、お饅頭が安いわね。三つほどもらえる?」 昼になり人気が出てきた頃、れいむのあんこで作ったお饅頭は瞬く間に売れていきます。 いつもの半額の安さ、どこの店よりも安い!をキャッチコピーにした結果 多くの客を手に入れることが出来たのです。 ゆっくりのあんこを使った事は評判が悪くなるので言いませんでした。 「あら、もう閉めちゃうの?」 しかし男は元々怠け者であったためか売り上げのノルマが達成するとさっさと店を閉めてしまいました。 ゆっくりの抜け殻を他人に見つからないように山に埋め、男は床へ付きました。 次の日、起きて店を開けると店の前に大勢の人がいました。 一体どうしたのかと男が訪ねるとそのうちの一人が男に何かを突き出しました。 眠気で閉じかかった目を凝らして見るとそれはちっちゃいゆっくりれいむでした。 「お宅で買った饅頭がゆっくりに変わったのよ!どうしてくれるの!」 男は驚きました。よく見てみると近くにいた人々は全員昨日店で饅頭を買った人でした。 皆は口々に「戸棚に入れておいたのに逃げられた」や「お墓にお供えしていたらいきなり跳ね始めて 驚きのあまりこっちも墓に入りそうだった」などと言っていきます。 男は困り果ててしまいました。ここでゆっくりのあんこ使ったからなどと言ったら この先評判悪くなるどころか村八分にされてしまうかもしれなかったからです。 そう言えばまだ三十個ほど残ってたなと思い男は怒り狂う客達を尻目に 菓子を保存する冷蔵庫がある調理所へと向かっていきました。 調理所へいくと何処か騒がしい声が冷蔵庫の中から響いています。 男は恐る恐る冷蔵庫を開けてみました。 なんと中には手のひらサイズのゆっくりれいむ達が縦横無尽に跳ね回っていたのです。 「「「「「「「「「「「「「「「さあ!おたべなさい!」」」」」」」」」」」」」」」」」」 れいむ達は男の姿を見ると冷蔵庫から飛び出し男の身体を這い上がっていきます。 そして次々と男の口の中へと飛び込んでいきました。 男は何とか飲み込もうとしましたが結局24匹目の時点で喉を詰まらせて気絶してしまいました。 本日の教訓 食品偽装は犯罪です 今まで書いた物 ふえちゃうぞ! のうかりんとむかしのゆっくり ムスカがいたぞW まさにゆっくりハザードだ -- 名無しさん (2009-01-21 10 11 52) イソップみたいな戒めのある話、王道だけどいいね!! -- 名無しさん (2009-01-21 13 34 42) 悪いことをしちゃいかんな、という教訓だね、わかるよぉ。 -- 名無しさん (2009-01-21 15 58 03) 死ななくて良かったな。やっぱり妖怪は怖い。 邪道食いには少し笑った。 -- 名無しさん (2010-04-21 14 19 12) 最後の一行で吹いた。 -- 名無しさん (2017-01-03 15 05 07) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/903.html
「突然申し訳ございません、少々お時間よろしいでしょうか?」 声がしたほうを見るとゆっくりがいた。正確に言えばゆっくりまりさと言われる種類のゆっくりだった。 「…」 飼いゆっくりの中には知能の高いものも多く、人間と同じように挨拶できるものも少なくない。 しかしこのように流暢に言葉を話すゆっくりはいなかったはずだ。 俺は他に今の言葉を発した人間がいるのではないかと思い周囲を見渡した。 「あの、すいません。私です、今喋っているのは目の前にいるゆっくりです」 またもや目の前のまりさが話す。どうやら気のせいではなかったようだ。 「少々聞いていただきたい話があるのですが」 それから数刻後、俺とまりさは俺の部屋にいる。 「こんにちは。ゆっくりしていってくださいね!」 俺の飼いれいむが俺とまりさにお茶を持ってきた。お茶といってもインスタントなのでボタンを押すだけなのだが それだけでもゆっくりにとってはかなり高い知能を有しなければできないことだ。とても利口で可愛い俺のれいむ… 落ち着いたところでまりさは話し始める。 まりさは自分のことを”セブン”と名乗った。セブンの話をまとめるとこうだ。 自分は人間の研究施設によって作られた”高い知能を持つゆっくり”であること。 自分の知能を悪用されることを恐れ研究所を脱走したとのことだった。 「現在、ゆっくりは完全に社会に浸透した存在となっています。 一般的にゆっくり達の知能は低いという認識があるため主要施設の周りをうろついても警戒されません。 人間達この認識を利用して開発されたのが私のように賢いゆっくりなのです。」 「知能が高いのはわかったけど所詮ゆっくりでしょ?盗聴くらいしか使い道ないんじゃないかなあ」 俺のつぶやきにセブンは答える。 「盗聴用ゆっくりは現在でも実用化されているみたいですね。ですが私は違います。」 まりさは帽子の中からおもむろに小型のパソコンとタッチペンを取り出した。 ペンを口に咥え器用にパソコンを操作する。 画面になにやら良くわからない文字の羅列やミサイルの設計図のようなものが現れる。 「これは研究所で開発を命じられた兵器の設計図です。まだ70%程度しか完成してませんが 完成すれば多くの人の命が奪われることになるでしょう。 このように私は人間を遥かに超えた知能を手に入れたのです!」 そう言って俺を見つめるセブン。なんだか急にセブンが俺を見下しているような気がしてきた。 俺の飼いれいむも最初はすぐ側で話を聞いていたが内容が理解できなかったらしく 俺の手によりそってすーりすーりしている。もちもちしたやわらかさが手に伝わる。やっぱりれいむは可愛いな。 「知能の高いゆっくりが増えれば世界は混沌としたものになったでしょう。 私はそれを防ぐため研究所を爆破し逃げることに成功しました。 しかし追っ手が迫っており一人では逃げ切ることができません。そこであなたに私をかくまって欲しいのです。」 「でもなんでセブンは研究所を爆破したんだ?そのまま研究所で働いていればゆっくりに都合のいい世界になったんじゃないのか?」 俺はふと思った疑問をセブンに問いかける。よほど研究所の人間にひどいことでもされたのだろうか? 「私が生まれたのは偶然…いや神の生み出した奇跡と呼ぶべきでしょうか。 神の奇跡は一度で十分。私以外に知能の高いゆっくりなど必要ないのです。」 要するに自分がだけが特別な存在でいたいがために他の可能性を潰したということなのだろう。 これなら復讐のための行動だったほうがまだましだ。 自分の力を悪用されたくないというのも建前で本当は人間の下につきたくないだけなんじゃないのか? 「それに研究所の人間は人間にしては知能が高いですからね。それにゆっくりを道具としか見ていない。 私の思い通りに動かすのは難しいと思ったのですよ。 その点あなたは人間としては平均的な能力のようだし。そのれいむとの関係から察するにゆっくりに対する感情も良いようだ。 どうでしょう、私をかくまっていただけませんか?危険もありますが相当の報酬は約束しますよ。」 やはりこいつは俺を、いや人間を自分より格下の存在と見ているようだ。さてどうしてくれようか… その時俺のれいむがまりさの前に飛び出した。 「ゆゆっ!むずかしいはなしはいいかられいむといっしょにあそぼうよ」 そんなれいむをセブンは冷ややかな目…例えるなら知能に障害のある人間を見下すような視線を送った。 「すいませんが私は大切な話をしているのです。あなたと遊んでいる暇はありません。」 「そんなこといわないでれいむとあそぼーよ。れいむおうたがうたえるんだよ。ゆーゆゆー♪」 れいむは歌を歌いだした。この気まずい雰囲気を察して和ませようとしてくれたのだろう。 れいむは歌のレッスンも受けているので天使のようにきれいな歌声を奏でる。 れいむの歌を聴いたにもかかわらず、セブンは相変わらずれいむを見下した目で見つめながら俺に言った。 「こんな歌や雑用しかできないゆっくりを飼うより私をパートナーにしてみませんか? 私の頭脳と人間の手足が合わさればこの国の経済を支配することも可能ですよ。」 俺はれいむにお茶のおかわりを頼んだ。お茶を入れに別室へ移動するれいむ。 部屋かられいむが消えたのを確認して俺はセブンの体を押さえつけ逃げられないようにする。 「決めたよセブン。どうもお前とはゆっくりできないからゆっくりしてもらうことにするよ。永遠にな。」 セブンは俺の行動と台詞から交渉が失敗したことに気づいたようだ。なんとか助かろうと俺を説得しにかかる。 「私を研究所に売り渡すつもりですか?研究所の味方についてもなんのメリットもありませんよ。 場合によっては秘密を知られたことを危惧しあなた自身の安全を消しにかかるかもしれない。」 「そういうのじゃないんだよなあ。俺はお前が気に入らない、それだけだ 死にたくないのならえらそうな御託はいいから命乞いでもしてみたらどうだ?」 俺はセブン…いやこんな奴ただのまりさでいい。まりさに最後のチャンスを与えた。 「あなたの要求を呑みましょう。ですのでこちらの安全を保障してください」 これで俺の腹は決まった。もしまりさが『ごべん゛な゛ざい゛い゛い゛い゛ま゛り゛ざがわ゛る゛がっ゛だでずう゛う゛う゛う゛う゛』 とでも言って命乞いをしたらそのまま帰してあげたかもしれない。 おれはゆっくりが好きだ。それがたとえ飼いゆっくりでなく畑を荒らすゆっくりでも。 野菜が勝手に生えてくると思う無知さも、人の言うことを簡単に信じる間抜けさも。 いや、そういう知能の低さを愛しているのかもしれない。だが目の前のこいつはどうだ。 知力だけは高いがまったく可愛げがない。 俺はまりさを電子レンジに入れるとそのままスタートボタンを押した。 レンジの中で何かを叫んでいるようだったが良く聞き取れなかった。 「ゆっっ!ごしゅじんさまおまたせ!おちゃをもってきたよ!」 お茶を入れに行っていたれいむが戻ってきた。 「あれ?まりさはどこにいったの?」 「ああ、まりさは急用ができたとかで帰ったよ」 れいむは無いはずの鼻をクンクンとさせる。 「ゆ?なんだかいいにおいがするよ。おりょうりしているの?」 「ああ今焼き饅頭を作っていたんだ。でもあまりおいしくなさそうだかられいむには別のものをあげるよ さっきスーパーでチョコレートを買ってきたんだ。一緒に食べよう。」 「ゆーっ!れいむちょこだいすき!」 チョコが嬉しいのかれいむは俺の周りをひょこひょこ飛び回る。やっぱりれいむは可愛いな。 あのまりさ、知能は高かったかもしれないがそれだけだった。 どんなに知能が高くても所詮手足の無い身のゆっくりでは生き残れない。 生き残れるのはれいむのような利口なゆっくりだろう。俺はそう思った。 ゆっくりはバカだという固定観念を覆してみたかった。でもゆっくりは所詮ゆっくりだった。 まりさは偶然の産物だし研究所ごと資料も消えたので賢いゆっくりは以後作られることは無かったそうです。 過去作 ゆっくり転生(fuku3037.txt~fuku3039.txt) ゆっくりくえすと(fuku3068.txt) ともだち(修正)(fuku3103.txt) ANCO MAX(fuku3178.txt~fuku3179.txt) このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/684.html
※妄想シーンがあります ※お兄さんがキモく、ウザくなります ※ゆっくりが木から生えます 「ゆっくりが実る木」 ある家の玄関に種が入っている袋が落ちていた。 「うん?」 何じゃこりゃと袋を拾い上げるお兄さん。 すると種のほかに紙が置いてあった。 「この種を植えてください 追伸 おなかがすいているのであればこの木から育った実を食べてください」 それしか書いてなかった。 「へぇ・・・ なんかの果物か? ちょうどいい、腹も減ってるし、金もないから、植えてみるか。」 早速中庭に種を植える。 水とか肥料はバッチリだ。 「へへ、そう簡単にならないのは知ってんだよ。 ま、気長に待ちますか。」 実はこの男、前に木を育てたのだが一ヶ月足らずで駄目になってしまった経験がある。 そんなことは関係ないか。と思い家の中に入る。 そして夜。 何か変な音がした。 「何だ?ゆっくりが忍び込んできたか? いや、違う。ゆっくりがこんな時間帯にくるはずがない。」 なんだってんだよー、ったく と思った後、外を見つめた。 すると植えたはずの木があっという間に育っているではないか! 「な・・・なんじゃこりゃアアアアあアアアアあアアアアアアアアアアアアアアあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 しかも立派に育っている。 「やばいってこれ。夢だよ、夢だって、そうさ!いつだってッ!!」 とあわてて家の中に戻り 布団に飛び込む 「だからお休みー」 布団を再びかぶり眠りにつく。 で、翌日。 ぱっと目を覚ました俺は中庭を覗いた。 すると目の前にあったのは・・・ やはり立派な木だった。 「何で夢じゃないのおおおおおおおおお!!!」 ゆっくりのような悲鳴を上げたお兄さん。 さらによく見るともう実がなっている。 「はぇぇ・・・はぇぇよぉ・・・」 この木の成長振りにびびるお兄さん。 よく見ると、その実はどこかで見たような気がする形だった。 「なんかこうウザい感じがするな・・・」 はぁーと、溜め息をした次の瞬間。ぷちりという音がした。 「ん?何の音だ?木の裏側っぽいな、見てみるか。」 と覗くと、黒い髪に赤色リボン。これってまさか・・・ 「ゆっきゅりちていっちぇにぇ!」 一口サイズの小さなゆっくりれいむだ。 「さっきまでいなかったはずのれいむがなぜここに・・・ まさか!」 お兄さんは木の実を見る。 よく見ると、ほかの木の実には黒い帽子、カチューシャ、猫耳帽子、ナイトキャップなどがついている。 これでもう明らかになった。 この木はゆっくりが実る木。 「なんてこった。 俺は大変なものを・・・ あ。」 お兄さんは懐に合った紙を取り出した。 『この種を植えてください 追伸 おなかがすいているのであればこの木から育った実を食べてください』 と書いてあった。 食っていいから大丈夫だよなと思った俺はまりさと思われる実に手を伸ばす。 「よし・・・」 と実をくいっと引っ張った。 すると実は簡単に取れた。 まりさは悲鳴を上げることもなく絶命した。 次に帽子をぽいっと捨てる。 「ゆぅ~にゃにしょれぇ?おいちいにょ?」 と木の実から生まれたれいむがたずねてくる。(以下実れいむ 実まりさなど) 「ん~どだろ。」 ぽいっと口の中へ放り込む。 味はいまいち まだ成長が未発達のせいかそんなにおいしくなかった。 「これ以上増えてもらってはこまるな・・・ 何かいい策はないもんか・・・」 と頭を抱え悩みこむ。 するとお兄さんの家の近くから声がした。 よく見ると一人のお兄さんがれいむとまりさを籠につめ歩いているところだった。 「何してるんですか?」 と問いかけると、お兄さんは苦笑し。 「お前知らないのか。 こいつらを加工所に売り飛ばすんだよ。 そうすりゃ金になる。」 「かごうじょいやあああああああああああああああああ!!」 加工所という単語を聞き暴れるれいむとまりさ 「るっせーな、今楽にしてやるから覚悟しとけ。」 なんてやり取りの後お兄さんはすたこらさっさと逃げていった。 サイドビジネスの予感。 お兄さんは将来の自分を想像した後、とんでもないことを考えてしまった。 「いや、待てよ。 ぽんぽーんと連れて行ったら怪しいって思われて家宅捜索されるんじゃ!?」 創造というよりモロ妄想である サイドビジネスはあきらめた。 金を渡す加工所の気持ちも少しわかった気がする。 「そうだ!木!」 俺はあわてて庭の中へ。 すると実がぽろぽろ落ちてきている。 そしてお兄さんのほうを向いて 「「「「「「「「「「ゆっきゅりちていっちぇにぇ!」」」」」」」」」」 オウ、ノーもう生まれてる。 しかも十匹近く。 でも、こいつらを飼うわけにはいかない 野生に離してもれみりゃが現れるだけ。 どーすんのよ。 殺しまくってストレスを処理しても ぽんぽん増えるやつだから飽き飽きになるだろう。 なので。 数週間後。どこかのマンション トントンとドアのノック音がする。 「うるせーなぁー朝から。つーかチャイムがあるからそれ押せよ。 どんだけレトロな人間だ?お前。」 「すまないなぁ・・・お前が一流の虐待お兄さんとして折り入って頼みがあるんだ。」 「はぁ?」 「友達のよしみってことで・・・ こいつら全部殺してもかまわないぞ」 と差し出されたのは大型サイズの籠にゆっくりたちが無造作に押し込まれている。 「んな!何匹いるんだよ!こいつら」 「んー、50匹くらいかな。」 「キャッホオオオオオオオオオオオオオオオオオオウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」 友達が歓喜の声を上げる。 「まさかこんなにゆっくりを大虐殺する日が来るとは!!」・・・と。 「あ、こいつら5000円な。 あと前に貸した10000円返せ。 それとこのことは誰にも言うな。」 すると友達はマッハの速さで財布を持ってきて。 15000円を渡した後、強くドアを閉めた。 「・・・いよっし!」 とお兄さんはルンルンと笑顔で帰った。 つまり加工所ではなく友達に売り飛ばせばいい。 秘密にさせておけば家宅捜索なんてないんだぜ!(モロ妄想です) そんな簡単なことに早く気づかなかったんだろ。 なんて思いお兄さんは家に帰る。 そして家に帰り木の本へ戻るお兄さん。 実ゆっくりたちのお帰りコールがあったので適当に返事をし木の本へ行く 「やっほ~ぅ。わがいとしのきよぉ~ かえったぞぉ~」 とでれでれと戻ってみると新しい実が実りつつあった。 「おお、金が実る。金が実る。」 お兄さんは次から次へと実を確認しました。 「おお、今日はちぇん・・・みょん・・・ おお、れみりゃだ。 フランまで。 むふふ・・・ お兄さんはうれしいどぉ~♪」 思わずれみりゃの真似をしたお兄さん さらには踊りまで真似する始末。 「うっうー♪うあ♪う・・・うん?」 お兄さんが何かに気がついた。 見たこともない実がはえていたのだ。 すると近くにいた実ちぇんが現れ実を見るなり 「ら・・・らんしゃまあああああああああああああああ!!」 「・・・は?」 「らんしゃまだ!まちがいないよ-わかるよー」 「なにいってんだここにらんがいるわけ・・・」 といい木の実を見ると 確かにいた。 らんがいた。 他にもゆゆことか、えーりん、ゆかりとかも生えていた。 「てかえーりんがここから生まれてもいいのか!?」 なんてお兄さんは思っていたがそれはどうでもいいとして。 まさに希少種のラッシュ。 売れば相当の金額になるだろう。 あと、どうでもいいができればゆゆこは早く生まれてきてほしい お兄さんのほしいゆっくりランキングナンバーワンだからだ。 お兄さんはルンルンとしていた。 まさかあの木からゆゆこが生まれてくるとはと。 翌日には生まれてくるんだ。 楽しみだな・・・ そして翌日。 お兄さんはウキウキしていた。 早くゆゆこうまれねーかな。 その隣にはちぇんがいた。 早くらんしゃま生まれないかな。 お互いはそんなことを考えていた。 すると実がゆれる。 ついに・・・ついに・・・ ゆゆこが(らんしゃま)が生まれるんだ! 実がぽとりと落ちる。 生まれてきたのは・・・ 「どうも、ゆっくりしていってください わたしはきよくただしい きめぇまるです」 きめぇ丸だった。 場の空気が凍りつく。 ついでにきめぇまるは生まれてきてから言語能力が発達しており生まれたにもかかわらず成体ゆっくりに近いような話方をする。 「なんでらんしゃまがうまれないのおおおおおおおお!?わからないよおおおおおおおおお!?」 ちぇんが半狂乱になっている。 「大丈夫だ!落ち着けちぇん!次こそはらんが生まれるって!多分!!」 「ゆ・・・そうだねーおちつくよー」 (さぁこい!ゆゆこ!!生まれたらお兄さんとゆっくりしようね!) お兄さんはそう思い妄想を開始した。 それはお花畑じゃなくてゆっくりたちのゆっくりプレイス 俺はゆゆこと手(?)を取りながら嬉しく虐待をしていた。 「あはははははははは・・・」 「こぼねー」 ゆっくりたちを踏みつけ、蹴飛ばす俺。 ゆっくりたちを容赦なく食らいまくるゆゆこ まさに俺の人生薔薇色! かもぉーん!ゆゆこ!! しかし、木に変化が起きた。 木が見る見ると枯れ、木が朽ち果ててしまったのだ。 当然実は栄養を受け取ることができなくなり黒ずんでしまった。 らんも、ゆゆこも。 「「うっ、うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 すると玄関近くにチャイムの音が 「はい・・・」 それは郵便局の人だった。 「いたいた。実はあなたにこれを渡すように頼まれまして。では。」 一通の手紙を渡した後、郵便局の人はバイクにまたがり去っていった。 その手紙には 「遅れてすいませんでした。 この木はゆっくりを実らす木ですが 一ヶ月たつとかれてしまいます。 お手数をかけすみませんでした。」 と書いてあった。 それを見たお兄さんは 「なんてこったい。俺のゆゆこがあああああああああああああああああああああああ!!」 ちぇんはもう息もしていないらんに泣き縋る。 「うわああああああああん!らんしゃまあああああああああああ!ゆっくりしてええええええええ!わからないよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 お兄さんはその後怒りに身を任せ手紙を力いっぱいに破り捨てた後 、枯れ木などに八つ当たりをはじめ。 最後、暴れすぎたせいか意識がブラックアウトする。 「・・・はぁっ!!」 俺はがばりと起き上がった。 「な、・・・なんだ。」 お兄さんは起き上がり庭を覗く。 気はない、ゆっくりたちの死体もないし、ちぇんもいない。 まさか・・・これは 「夢オチかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 あとがき 最後は夢オチでした。 ゆっくりの出産方法に茎による植物性出産を考え 木からから生まれたらどうなるだろうかと考え作りました。 夢じゃなかったらどうなることかと俺は思う。 byさすらいの名無し 過去作品 いじめ系2850 ゆっくり油火踊り祭 いじめ系2889 ゆっくりべんじゃー いじめ系2932 すぃー吶喊 いじめ小ネタ542 ゆっくりジェットコースター いじめ小ネタ545 ゆっくりボール いじめ小ネタ546 ゆっくり太郎 いじめ小ネタ553 ゆっくりできない川さん いじめ小ネタ562 ゆっくり草野球 いじめ小ネタ567 ゆっくり瞬殺されるよ! いじめ小ネタ573 金バッチがほしいよ! このSSに感想をつける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/1427.html
※このSSはfuku1450の続きというか、アナザーストーリーです。 ※作者の762さん、勝手に設定を使ってしまい、すいません。 その日、フラワーマスターの異名を持つ風見幽香は酷く機嫌が悪かった。 ゆっくりゆうかのせいである。 本当は違うのかもしれないが、ゆっくりゆうかのせいだと思わなければ、彼女はやっていられないのだ。 苛立ちを、近くにいるゆっくりを全て叩き潰す事で僅かに晴らしつつ、幽香はそこら辺をぶらぶらと散歩し続けた。 『ゆっくり後悔し続けてね!』 その数日前。 幽香は、好奇心に満ち溢れた顔で、道を急いでいた。 自分に似たゆっくりがおり、そのゆっくりは花畑を作っていると言われたためである。 花の妖怪である自分に似ているのだから、ゆっくりだとしても花畑を作り出すのは当然という思いから、幽香は道を急いでいた。 ――ここはこの花よりこっちが良いわ。それに、あそこはもっと肥料をあげないと。あなたが肥料になるかしら? ――あぁ、こんな所に肥料をやっちゃダメじゃないの。あなた、本気で花を育てる気があるのかしら? そんな、大量のダメ出しを夢想している幽香は、自分の口が笑いの形に歪んで来ているとは思いもしなかった。 このフラワーマスター、真性のドSである。 ともあれ、幽香は目的の花畑にたどり着いた。 「なにこれ……」 口だけが笑っていた幽香の表情が、驚愕のそれに変わった。 小さい。 いや、ゆっくりが育てると考えると、大きめなのだろう。そもそも、花畑の大小はその美しさに関連はないと幽香は考えている。 種類が4種類しかない。 これも、ゆっくりが育てている事とここの土壌の質を考えると、これが限界だろう。下手に手を加えては自然の美しさが損なわれてしまう。 全体的に肥料が少ない。 ここに肥料をぶちまけようとする者がいたら、幽香によるマスタースパークでチリと化すだろう。肥料はこのままで良い。 そして、美しい。 幽香が驚いてしまうほどに、多数の花が、最も美しく見える様に考え抜かれた配置で置かれている。 その真ん中にいるゆっくりゆうかを見て、幽香はより驚いた。 泥だらけになりながら、本当に楽しそうに、大事な宝物を扱う様に花を慎重に手入れしている。 ――似ているなんてもんじゃないわよ、あれ。 それは、ただ花と一緒に生きられる事だけで嬉しかった、数百年前の風見幽香そのものの姿だった。 幽香は、無言でその場を後にした。 ダメ出しも何もない。ここは、既に完成した花畑である。 確かにフラワーマスターとしての目から見るとまだアラはあるが、それでも、一個の完成しようとしている作品に手を入れる事はできなかった。 その一時間前。 幽香は、何となく面白くない顔で、道を急いでいた。 自分に似たゆっくりが作り続けている作品の果てを見届けるためである。 果てと言っても、マスタースパークをブチ込んで破壊しようという意味ではない。 むしろ、そんな事をしようとする相手に幽香自身のマスタースパークが5発ほど打ち込まれるだろう。 幽香は、一個のまだ荒削りな芸術作品の完成を見届けようとしているのである。 完成後のダメ出しならばいくらでもするつもりだ。自分が手本を見せても良い。何なら連れ帰っても良い。 太陽の畑を、まだ荒削りなその技術で整えようとして何度も失敗を繰り返し、涙を流しながらも何度もやり直すゆっくりゆうか。 そして、叱りつつも段々と成長を遂げていくゆうかを眺めて良い気分になる自分……幽香の脳裏に、そんな未来が現実感を持って迫っていた。 叱る想像をしたから機嫌が直ったのか、笑顔になって更に道を急ぐドS……もとい、幽香。 だから、幽香は途中で5つの饅頭とすれ違った事に気が付かなかった。いや、気が付けなかった。 その数分後。 幽香は、その場に立ち尽くしていた。 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ~♪」 「こっちもうめぇよ! ゆっくりできるよ~♪」 「ここはさいこうのゆっくりプレイスだね!」 「ちがうよ! でんせつのゆっくりぱらだいすだよ!」 「ゆっくりぱらだいす!?」 「しっているのかみょん!」 「ちちんぽ……ぜんぜんしらないちーんぽ!」 「じゃあなんでしってるみたいなこといったの? わからないよーwww」 饅頭どもの爆笑に包まれるそこを見た時、幽香は記憶違いだったかと思ってしまった。 それほどに様変わりしてしまった元芸術作品の片隅で、幽香はただ立ち尽くしていた。 ――そう。 4つあった花畑は、全てが色とりどりの薄汚い饅頭どもによって食い荒らされていた。 ゆっくりゆうかはいない。どのゆっくりがやったのかは分からないが、恐らくは殺されたのだろう。食われたのかもしれない。 ――あの子は、もういないのね。 「あれ、そういえばあのこたちとめーりんは?」 「しらなーい、まだいじめてるんじゃない?」 「あのこたちもめーりんいじめがすきだよねーw」 「ほんとーw ゆっくりするほうがたのしいのにねーw」 ――『ゆっくり』理解させてもらったわ。 「そういえば、ここをかってにせんりょうしてたゆうかはどこ?」 「ゆっくりこっちにすてたよ! あれ、いないよー?」 「あのこたちがつれてったよ、きっと、ゆっくりたべるんだよ!」 「れいむたちもたべたいなー」 「あとでもらいにいこうね! よにんだけなんだから、おねがいしたらすぐくれるよ!」 食べる。あの子を『四人組』が食べる。 太陽の畑へと連れ帰る予定だったあの子を。こいつらが、食べる。 ――お礼に『ゆっくり』させてあげるわ。永久にね。 幽香の頭のどこかから、ブチンと何かが切れる音が聞こえた。 同時刻、ゆっくりの群れ。 「あのこたちはすごくゆっくりしてるよね! こんなにいっぱいごはんあるところをしょうかいしてくれたんだもん!」 「だよね! ほんとにあのこたちはゆっくりしてるよ! おれいに、みんなでゆっくりしてあげようね!」 このゆっくりの群れは、今、心の底から幸せだった。 たくさんのごちそうがある。たくさんの仲間と一緒にいる。たくさんゆっくりできる。 それだけの状況が揃っていて、幸せじゃないゆっくりなんてゆっくりじゃない。そう思うほどに、幸せだった。 不意に、パチンと手を叩く音が響いた。 それと同時に、何か粉の様な物体が辺りを舞う。 日の光で美しく輝くそれは、ゆっくり達が初めて見るものだ。 「うわー、あれなにー?」 「ゆっくりしてるね! すごくきれいだよ!」 「ここはみんなのゆっくりプレイスだけど、ゆっくりできるこならたくさんゆっくりしていってね!」 キラキラと輝くそれを、ゆっくり達は幸せそうに眺めていた。 また、ぱちんと手を叩く音が響く。 影が、それに応じてゆっくりの群れの方へと近づいてくる。 ゆっくり達は、自分の願いが聞き入れられたと思い、嬉しくなって飛び跳ねた。 「ゆっくりしていっぐびゅぅ!?」 気の早いゆっくりがそれに頬をすり寄せようと近づいた……と思った直後、突然その場でぶるぶると震え出す。 異様なその状況に、群れのゆっくり達はざわざわと騒ぎながら近づいていった。 「どうしたの? ゆっくりしてよ!」 「どこかいたくしたの? ゆっくりすればなおるよ!」 「なんでなにもいわないの? おくちのなかいたくしたの……ゆびゃぁぁぁ!!! なにごれぇぇぇ!!!」 近づいたゆっくり達が、一斉にその場から飛び跳ねて逃げる。 そこに「あった」のは、もうゆっくりではなかった。 真ん中に杭が打ち込まれた様に、みっちりと何かが詰まっている何か。 仲間だったものの目から口から、皮を突き破ってどんどんと成長を遂げていくそれを見て、ゆっくり達の群れは恐慌に襲われた。 「ゆぎゃぁぁぁ!!!」 「なにごれぇぇぇ!!!」 「ごわいよぉぉぉ!!!」 それぞれに泣き叫ぶゆっくり達。 だが、真の恐怖はこれから始まるのである。 「ゆぎゅっ! ……ぺっぺっ! けむいよ! なにこれ!」 「くちゅん! ゆっくりできないよ! くちゅん!」 仲間だったそれは、今や完全に樹木と化している。 それの先端からぶわっと煙の様な何かが撒き散らされ、周囲は大量の花粉に覆われた。 「ゆぎゃぁぁぁ!!! いだい! いだいよぉがぶぅ!!!」 「なにごれ! なにごれぇぇぇぎゃらっば!!!」 「だずげで、ゆっぐりざぜでぇぇぇえひぃぃ!!!」 ばつんばつんと、音を立ててゆっくり達の体内から、柔らかい饅頭の皮を突き破って樹木が生えていく。 ゆっくり達の群れは、ほどなく樹木の群れへと生まれ変わったのである。 フウバイカ 「風媒花。どう? とてもゆっくりできるでしょう?」 ぽつりと、無表情に幽香は呟いた。 風媒花とは、その名の通り風を花粉の媒介として利用する種類の植物である。 虫を引き付ける必要がないために花びらがないものもあり、またあっても目立たず、香りもほとんどない。花と言えるかどうかも怪しい。 「本当、生物としても食物としても中途半端なこいつらにはお似合いの墓標ね」 その一言を残して、幽香はその場を後にした。 その一時間後。 幽香は、無表情に道を歩いていた。 その目は暗く光っており、下手に触れると消滅させられてしまうのではないかと思われるほどの恐ろしさに満ちている。 幽香は、時々立ち止まっては何かを探す様に周囲を眺めている。 本来ならば、どんな奥地に潜むものであろうと、草花ですぐに探し出す事が出来る。 だが、幽香はあえて自力で見つけ出そうとしていた。 頭に浮かぶのは、僅か数日前に見つけた、泥だらけで楽しそうに花の世話をする数百年前の自分の姿。 その頃は、自分はここまでの大妖怪ではなく、花との関係も友達のそれであった。 数百年前の幽香は、花の妖怪ではなく、花の世話をするのが好きなだけのただの妖怪未満の少女であった。 ならば、花を利用して探し出すなどできっこない。 幽香は、道の途中途中で見つけたしおれた草花を優しく癒してやりながら、無表情に道を歩き続けた。 「見つけた」 呟きが、風に溶けていく。 目の前には、やけに楽しそうな四匹のゆっくり達と、一匹の四角いゆっくり。 幽香は、誰が見ても分かるだろう作り笑顔で憎むべき饅頭どもの前に降り立った。 「こんにちは、ゆっくりしているかしら?」 「ゆっ! おばさんだれ?」 「ゆっくりできるひと? ゆっくりできないならさっさとどっかいってね!」 「ありすはとかいはなんだからさいこうにゆっくりしてるにきまってるでしょ!? おばさんばかなの?」 「むきゅーん! ばかなおばさんとはゆっくりできないよ! さっさとどっかいってね!」 「うーうー♪」 ただ笑顔で話しかけただけの幽香にここまでの暴言を吐く四匹のゆっくりと、何が楽しいのか分からないが、ただ笑っている四角いゆっくり。 だが、ここまでの腐れた根性の持ち主が良く生き延びられたものだと感心するのはまだ早いだろう。 もうすぐ、五匹は終わる。完膚なきまでに。 幽香は内心の感情を押し込めて、張り付いた様な笑顔のままで誘いをかけた。 「残念ね。もっとゆっくり出来る場所に案内しようと思ったのだけれど」 「ゆゆっ! ゆっくりできるところならいきたいよ! さっさとあんないしてね!」 「ゆっくりプレイスはみのがさないよ! さっさとつれていってね!」 「いなかものはむだにもったいぶるからきらいよ! でも、ゆっくりできるならいってあげなくもないわよ!」 「むきゅきゅん! ゆっくりできるところならぱちぇもたくさんしってるけど、おばさんのいってるとこはもっとゆっくりできるでしょうね!?」 「うーうー♪」 早く早くと急かすゆっくり四匹をなだめながら、幽香はゆっくりと歩き出した。 後ろからフラフラと追いかけてくるうーパックも、せっかくだから連れて行く。 その方向は、太陽の畑。 その二時間後。 「「「ここがゆっくりできるばしょなの!?」」」 「うー、ううー♪」 太陽の畑。 そこは、ひまわりが咲き誇る幽香の庭であり、故郷であり、砦でもある場所。 四匹のゆっくりにうーパックを含めた五匹は、珍しそうに辺りを眺めていた。 「ええ、あなたたちにはここで永遠にゆっくりしていただくわ」 そんなゆっくり達に、幽香はキラキラと光る何かを振り掛けた。 「ゆゆっ!? このきらきらしたのなに? きれー」 「あまくないけど、きれいでしあわせー」 「むきゅん! これはきんぱくね! きらきらしてきれいだわ!」 「きんぱくくらい、とかいはのアリスはしってるわ! とかいのマナーのひとつだわ! おばさんにしてはわかってるじゃない!」 「うーうーうー♪」 キラキラと光る何かを振りかけられて、うーパックは素直に喜び、四匹のゆっくり達も口調が悪いが嬉しそうにしている。 「本来ならばあなた達には絶対に寄生しない菌類なのだけど、特別にあなた達のために性質を変えさせてもらったわ」 嬉しいでしょう? と微笑む幽香に、ゆっくり達は大喜びで跳ね回りだした。 「ありがとう! じゃあ、おばさんにはもうようはないからゆっくりどっかいってね!」 「ゆっくりしたかったらべつのところでしてね! ここはまりさたちのゆっくりプレイスだよ!」 「ここはとかいはのアリスたちのゆっくりプレイスにしてあげるわ! ありがたくおもいながらどっかにきえなさい!」 「むきゅ、にんげんがいたらゆっくりできないから、さっさときえてね!」 「う、ううー?」 豹変する仲間についていけないのか、オロオロとしだすうーパック以外のゆっくり達が口々に出て行けと叫ぶのを聞いて、幽香は穏やかに頷いた。 「分かったわ、じゃあ、私はこれで失礼させてもらうわね。あなた達は、永久にそこでゆっくりしていきなさい」 じゃあね、と口の端のみに浮かべた笑顔を残して消える幽香。 「ゆぎゅっ、きえちゃったよ!?」 「にんげんはゆっくりしてないね!」 「むきゅ、これはてじなね、あのおばさんはマジシャンなんだわ」 「ま、まじしゃんくらいはとかいのじょうしきよね! もちろんアリスもおせわしてあげたわ! あのおばさんもアリスをそんけーしてるはずよ!」 ゆっくり達は目の前からいきなり消失した人間に少々面食らったが、ゆっくりできるのだから言う事はない。 お腹が空いたらそこら辺にあるひまわりをかじれば良いし、この辺りには危険な捕食種もいない様だ。 ゆっくり達は、思い思いにゆっくりし始めた。 うーパックはまだオロオロとしていたが、仲間がゆっくりしているのを見て、一緒にゆっくりしたくなったようで、大人しく近くに羽を休めた。 その二時間半後。 「「「ゆっくりしていってね!」」」 ゆっくり達は、ゆっくりするのにもう飽きたらしく、跳ね回って遊んでいた。 「ゆっくりたのしいねー!」 「すごくゆっくりできるよ! さすがまりさたちのゆっくりプレイスだね!」 「むきゅ、ゆっくりできるね。おばさんにごほんもってきてもらえたらもっとゆっくりできたんだけどね。きがきかないわねあのおばさん」 「パチェはほんだいすきなゆっくりだからね! とかいはのアリスは、ほんがなくてもゆっくりできるよ!」 「むきゅ、ただのうてんきなだけよ。アリスは」 「アリスはどっかのゆっくりと『ゆきずりのすっきり』ができたらいいんだもんね! ゆっくりしようよwww」 げらげらと笑い合うゆっくり達。 その様子をのんびりと見守っているうーパックは、ゆっくりしているためか、自分の体内に不思議なかゆみが出てきた事に気付けなかった。 それが、自分の生命を左右するとも知らずに。 その三時間後。 「うー……うー……うぐっ!」 「ゆぎゅ!?」 「ゆあっ!?」 「あぎゃ!?」 「むぎゅ!?」 びくんと、五匹同時にその場に立ち止まった。 異常な何かが、物体となって自分の内側からどんどんと膨れ上がっていく感触。 おぞましいその感覚に、五匹は身を震わせた。 「おばざん! まじじゃんのおばざん! なんがへんだよごれぇぇぇ!!!」 「なにごれ、ぎもぢわるいぃぃぃ! おばざん、ざっざどだずげでよぉぉぉ!!!」 「ぎもぢわるいぃぃぃ! ぎもぢわるいよぉぉぉ! どがいはになんでごどずるのぉぉぉ!!!」 「むぎゅ……きぼぢわどぅい……げほっ、エ”ホッ! ばぎぞうだよぉ……」 「うぐぐぐ……うー! うー! うー!!!」 いくらもがいても、自分の内側から膨れ上がってくる感触が押さえられない。 四匹は、泣き叫んで様々な者に助けを求めた。うーパックは、感触を少しでもどうにかしたくて、ただただ暴れまわっている。 「「「おばざん! おがーぢゃん! ……ぐずめーりん! ざっざどだずげろ!!!」」」 ゆっくりめーりん。ずっとバカにしていたそいつは、先ほど自分達の手で二度とゆっくり出来なくした。 だが、そんな事もアンコ脳には残っていないのか、ゆっくり達は延々と文句を喚き続ける。 「なにゆっぐりじでんのよぉぉぉ! ざっざどごっぢぎでだずげろばがめーりん!!!」 「おまえにやれるのはぞれだげなんだがら、まりざだぢのやぐにだであほめーりん!!!」 「ありずのがわりにいながもののおまえがどうにがじろまぬげめーりん!!!」 「むぎゅ……いらないごっていわれだぐながっだらざっざどだずげにごいぐずめーりん」 口々に怨嗟の声をあげるゆっくり達の目はにごり、もうどれだけの愛好者であってもこんなゆっくりだけは愛せないだろうと思えるほどに醜かった。 そんな中、症状の重かったうーパックが、凄まじい悲鳴を上げた。 「うぎゅあぁぁぁぁぁ!!!」 「「「ゆ……ゆぎゃぁぁぁぁぁ!!!」」」 がくがくと震えるうーパックの口から目から、様々な場所から、黒色の植物の芽の様なものが次々にはみ出してくる。 そのおぞましい光景に、ゆっくり達は悲鳴を上げる。 だが、慌てて口を閉じ、目を硬くつぶった。 いつ、自分からもあの芽が伸びてくるかわからない。それを考えると、目を開ける事も口を開く事も恐ろしかった。 「無駄よ、それはあなた達の体を突き破って出てくる。口を閉じようが目を閉じようが結末は何も変わらない」 不意に、近くからニンゲンの声が聞こえてきた。 その声が先ほどのマジシャンだと分かったまりさは、即座に口を開いて抗議しだした。 「おばざん! ざっざどまりざだぢをだずげでよ! おばざんがごごにづれでぎだんだがら、おばざんがなんどがじろぉぉぉ!!!」 抗議と言っても、ゆっくりではダダをこねる程度の事しか出来ない。 幽香は、笑顔で一言だけ答えた。 「あなた達を助ける気なんて毛一本ほどもないわ」 更に何か言おうとしたまりさの口から、数本の芽が飛び出してくる。 まりさは、文句を言う気など消えうせ、芽が様々な場所から生えだそうとするその感触を耐える事しか出来なくなった。 四匹のゆっくり達は、完全に寄生植物の宿主と成り果てたのである。 トウチュウカソウ 「冬虫夏草。あなた達に植え付けたのは、そういう名前の植物よ」 あえぐゆっくり達に対して、無表情なままの幽香は、独り言を漏らす様に告げた。 冬虫夏草とは、虫や植物に寄生して成長するタイプの菌類……キノコやカビなどの一種……である。 普通の冬虫夏草ならば、ゆっくりに寄生する事はありえないし、宿主を殺してから成長するのだが、これは幽香の特製である。 このゆっくり達は、もう死ぬ事も動く事も出来ず、冬虫夏草の奇妙な茎部分としてこれからずっと生き続けるのだ。 「あなた達に潰された草花の気持ち、そこでゆっくり理解すると良いわ」 じゃあ、さよなら。一言だけ残して、幽香はその場を後にした。 「まっでぇぇぇ! ゆっぐりざぜでよぉぉぉ!!!」 「おば……おねえざんんん! まりざだげでもだずげでよぉぉぉ!!!」 「ありず、いながものでいいでずがらだずげでぇぇぇ! おねがいでずぅぅぅ!!!」 「むっぎゅー!!! ばぢぇじんじゃう! ほんもよめないごんなどごじゃじんじゃうぅぅぅ!!!」 「うぎゅ……うー……」 五匹がそれぞれに境遇を嘆くその姿を、ひまわりがあざ笑うかの様にゆらゆらと揺れながらただ眺めていた。 花を食べたゆっくりは花に仕置きされるという事で、幽香りんにいじめてもらいました。 このゆっくりは、うーパックも含めて永久に苦しみ続ける事でしょう。 by319 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/449.html
※この文章はフィクションであり、作者の創作を多分に含む物です。 実在の人物・団体とは一切関係なく、またこれらを誹謗・中傷するものではありません。 最初の記憶は、自分を心配そうに見つめる母親の顔だった。 母親に関する最後の記憶は、ボウガンで射貫かれ絶命している顔だった。 母親と――そして自分の姉妹を殺した人間は、自分だけ生かした。 自分を連れて行った先には見たことがないゆっくり達が大勢いた。 『ゆっくり大サーカス』 狭苦しいカゴから出された先は狭苦しくはないカゴで、正直そのゆっくりは自分の命について諦めていた。 ああ、そのうち食べられるんだな、と。 だから自分以外に生きているゆっくりが大勢、少なくとも自分では数え切れないくらいいるのには正直驚いた。 そのゆっくり達は全員等しく薄汚れてはいたが、生命に支障をきたしている様子はない。 「ゆっくりしていってね!!!」 「よこそ」 「ゆっくりしてね」 一見して元気そうだからこそ、ゆっくり達の淡泊な反応が気になった。 きっとゆっくりできない酷いことをされたんだね、と涙するゆっくりだった。 そのゆっくりは暗いカゴの中でしばし放置された。彼女の体内時計で朝、おそらく太陽がかなり高くなる時間帯までは。 彼女は一晩中先客達に話しかけた。 「ここはゆっくりできるところ!?」 「……さあ」 「あなたたちはゆっくりできてる!?」 「……さあ」 「どうしてなんもはなしてくれないの!!」 「……さあ」 終始こんな調子だったので、終いには彼女が腹を立てて黙り込んでしまった。 「もういいよ! ゆっくりできないひとたちだね!」 「……そう」 これで色素の薄い美少女が包帯でも巻いていればまだ楽しめたのだが、周りにいるのはただの薄汚れたゆっくりだ。 いい加減退屈が有頂天になる頃、ようやく光が差し込んできた。暗い部屋の扉が開かれ、人間が入ってきたのだ。 入ってきたのは2人、片方がもう片方に何やら質問している。 「――、――?」 「――。――、――」 「ねえ! こそこそしゃべってないでおみずとごはんをとりにいかせてよ!!」 おそらく自分の家族を殺した人間の仲間であろうことは彼女も理解できるので、せめてもの意思表示をしてみた。 殺すならとっとと殺せ。その気がないなら解放しろ。 人間達は彼女の言葉に気付かなかったかのように会話を続け、しばらくして主に質問をしていた方の人間が彼女がいるカゴの中に入ってきた。 「ゆ? なにすブルァァァァアア!!!」 問答無用で殴り飛ばされた。 堅い棒に柔らかい物を巻き付けた、そんな感触だったのを驚愕の中で彼女は気付いた。 頭に棒を振り下ろされ、右頬を張り飛ばされ、部屋の中で響く殴打の音が止むことはなく。 何で、と。理不尽としか思えない暴力の理由を問う間も与えられず、時間の感覚が無くなるくらいに痛めつけられた。 そう、痛めつけられたのだ。人間に彼女を殺す意図はなく、ひたすら彼女に痛みを与えるだけのための殴打だ。 体が3倍に腫れ上がり、呼吸の仕方が分らなくなったあたりで暴力が止んだ。 何だか知らないが、気が済んだのだろうか。 人間は次に、彼女を暗い袋の中に入れ、天井から吊るした。 厚い布の中はただでさえ少なかった外界からの刺激をほぼゼロにする。 「う……。だじて……」 かろうじて言い返せたが、当然反応はない。それどころか、先ほどまでとは違う激痛が彼女を襲った。 体の中で痛覚が破裂するかのような激痛が。 「ぁ――――!!! っ――――!!!」 彼女は知らなかったが、それは電気ショックによる痛みだった。 全身が痙攣し、意識に反してメチャクチャに暴れる。息が出来ない その激痛が止んだ。 「う……? よかっ――!! ぁぁぁぁぁああ――――!!!」 安息は数秒に満たなかった。激痛が止み、彼女が自身の生存を確認した瞬間に次の波が襲ってきた。 永遠と勘違いする数秒の責め苦と、須臾にすら足りない数秒の安息が交互に繰り返される。 拷問は日が暮れるまで続き、先客のゆっくり達はショックにより空中で跳ね回る黒い袋をじっと……否、ただ漫然と眺め続けた。 それらの顔に一切の感情はない。 彼女が袋から出されたとき、先客達には餌が与えられていた。 彼女が今まで見たどんな食物にも似ていないその物体は酷くグロテスクに見える。 それも当然である。その餌は必要最低限の栄養と満腹感だけをできる限り安く提供するよう作られた合成餌で、 抗生物質と精神安定剤がふんだんに混ぜられていた。 脂汗にまみれた彼女の所にも1匹分の餌がもたらされる。本能が告げる、これを食ってはならない。 「ぃ……やだよ! そんなものたべないよ!」 彼女にとっては決死の宣言だった。おそらくこの人間達は自分を殺すことを全く躊躇しないし、その意思に応える武器も持っている。 だが、人間達にとっては想定内どころか慣れ親しんだ戯れ言に過ぎなかったようで。 慌てるどころか二言三言交わしただけで、1人の人間が彼女に慣れた手つきで注射を施す。 アンプルには『合成麻薬ゆっくり用』と書かれていた。 ――世界が変わった。 時間の流れは止まり、この世には光が満ちた。 空間はねじ曲がり、極彩色の宝石が漂っている。 絹の川の中に溺れ、あらゆる美味が口の中に溢れた。 全能が彼女の中に存在し、全知が目の前に後光を持って屹立していた。 あらゆる苦痛が消え、彼女が幸福の中眠りに墜ちようとしたところで目が醒めた。 暗くて汚いカゴの中に逆戻りだ。 身動ぎ1つ満足にできない狭いカゴの中で彼女は酩酊していた。 冷たい雨が身を打ち、内臓が――内容物が反転しそうな吐き気と脳天に五寸釘を打ち込まれたような頭痛だけが現実だった。 「ゆ……」 とりあえず喉の渇きは抑えられそうだと吐き気を抑えて雨水を飲む。 だが、ひりつく乾きはいつまで経っても止まない。 それどころか時間を追うごとに乾きは熱を以て彼女を苛む。 五寸釘の本数は際限無く増え、シェイクされた内容物は嗚咽とともに今にも口から出てきそうだ。 いっそ殺せ。痛みですり減った精神がそう思えるくらいにまでは回復してきた頃、彼女の意識は暗黒に飲み込まれた。 誰かが自分を起きろとせっつく。 鉛より重いまぶたをこじ開けると、人間が餌の皿を持って目の前にいた。 頭痛も吐き気も相変わらず最悪だ。目の前に置かれた皿を拒絶するつもりで目をくれると、予想外の代物が鎮座していた。 虫の塊である。 彼女とて野生のゆっくりであったのだ。虫くらい幾らでも食べてきた。 なのにその虫を直視することができなかった。 彼女の持つ嫌悪感がそのまま具現化したような醜い虫が彼女に牙を剥いている。 刹那理解した。この虫は自分に取って代わって『自分』に成り代わるつもりだと。 「こここ、このむしさん、どこかにやってよ!」 「――? ――?」 「なんでみえないの! おさらいっぱいにむしさんがいるじゃない!」 どこを見ているんだ、と人間を睨み付けたところで文句が喉の奥に引っ込んだ。 人間の体中に目玉が開いていた。 ギョロギョロと充血した目玉は全て彼女の方を向き、等しく発情していた。 1度見かけた発情期のありすでさえこれほどではなかったと言うほどの情欲が目玉から零れ、彼女を濡らしている。 「いやぁぁぁああ、こ゛わいよ゛ぉぉぉおお!! そのおめめ、やめて゛! なんでもずるがらぁ! た゛すけてぇぇええ!!!」 「――、――」 「ごはん? ごはんたべればおめめやめてくれるの? ごはんて……こ゛のむし゛さんぜんぶたべるのぉぉぉおお!?」 「――?」 「わか゛りました゛ぁぁあああ!! わがままいいませんからぁぁああ!!」 口の中で暴れる感触に嘔吐を堪えつつ、餌をほぼ丸呑みする。咀嚼する勇気はなかった。 餌を食べていると、いつの間にか虫も目玉も消えていた。 さっきまで一体何を怖がっていたのかが分らなくなり、それを思い出すのが酷く億劫に感じる。 「――、――、――!」 「うん? おもったよりらくなやつだ? わたしはすなおでいいこだよ? ほめてくれるの?」 彼女の反応が期待以上だったのだろうか、人間が嬉しそうな声を上げる。 褒められたのだろうと好意的に解釈しておこう。 その後、昨日の大きいカゴの中に戻された。先客達の体臭が少ししたが気にならない。 そのまま暗くて静かなカゴの中で最高にゆっくりできた。 しばらくすると、喉がすごく渇いてきたし、体の中で虫が暴れはじめたが慌てない。 あのご飯を食べるときっと直るから。 だが、ご飯はいつまで経っても与えられなかった。 耳の中が虫の羽音で一杯になり、いい加減ウンザリし始めた頃、ようやくご飯がきた。 だが、彼女にだけご飯が与えられない。 途端に、崖から突き落とされたような我慢できない不安に襲われる。 まさかこのまま? ごはんたべられないの? だが人間は優しかった。言うことを聞けばご飯をくれるという。 どこかへ連れて行かれ、細めの橋の前――平均台の前に置かれる。 どうやらこれを上手に渡れればご飯をくれるらしい。 「ゆ……。こんなのかんたんだよ」 これより狭い橋、川に架かった頼りない棒きれなら何度も渡ってきた。なんてことはない。 見事に渡りきった彼女にご飯が与えられる。 安心してご飯を食べると、先客達がやってきた。 皆、彼女に与えられた課題よりも遙かに難しい課題を次々に成功させている。 燃え上がる輪をくぐったり。 落ちたら大けがをしそうな高さで遊んでいたり――くうちゅうブランコというらしい。 大砲の上に乗って、何かが爆発する轟音にもたじろがすダンスを踊っている子もいる。 なるほど、皆あんな難しいことをしているから、ご褒美にご飯が貰えるんだね。 ようやく理解したよ。 「――!!」 「ゆ。サーカスっていうんだ。ゆっくりおぼえた」 PN水半分 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/slowlove/pages/103.html
レミリアは夢を見ていた。 周りのものが大きく見え、自らに手足がない。その夢ではレミリアはゆっくりゃであった。 なぜ夢なのかわかったかというと、自らの意思で話したり動いたりすることができないため。 レミリアはゆっくりゃの視界から景色を見ていた。 夢の内容は、レミリアがフランの一撃を受けた後から始まる。あの後、レミリアは力なく倒れた。 それに対してフランとゆっくり達が駆け寄る。皆泣き喚いて、冷静さを失っていた。そんな中、遅れて近づいてくる影があった。 幽香だ。 幽香が一歩、また一歩と近づいてくる。 周りを見渡すと、向日葵畑が荒らされていた。先ほどのフランの一撃のせいであろう。完全に怒らせてしまったのかもしれない。 フランは完全に血の気が引いて、かちかちと奥歯を鳴らしていた。向こうはまだやる気なのか。 ゆっくりゃの隣でゆフランが怯えている。フランは皆を守ろうと身構えた。けれども、もう戦う体力と気力が残っていないのは明白だった。 それでも姉とゆっくり達を置いて逃げることはしなかった。だが、今襲われたらあっという間に皆殺しであろう。 こっちは満身創痍。幽香はほぼ無傷。最悪の状況だ。 しかし幽香はそのまま通り過ぎてしまった。そして背中を向けたままフラン達に話しかける。 「別にそんなに怯えなくても大丈夫よ。喧嘩を売ったこっちに非があるんだから、畑の事は気にしなくてもいいわ。 それに、弱いものいじめなんてとっくの昔に飽きたもの。」 フランは内心納得しなかった。あんなに好戦的な幽香がなぜこのような心変わりを。 「どういう風の吹き回し?あんたがあっさり引き下がるとはおもえないんだけど。」 「別にあせることはないかなって思ってね。またいつか別の日に続きをしましょう。」 レミリアたちが知る由もないが、幽香がフラン達を見逃す理由、それは幽香はフランの本当の全力を目の当たりにして、 今仕留めるには惜しいと判断したためだった。 フランはまだまだ強くなる。今はまだ精神面で幼いため、すぐに感情的になる。 その場合能力は本来の力を発揮するが、それでは強大な力を完全にコントロールできない。 「そう、あなたがその力を完全に使いこなせるようになったときに決着を。幻想郷の外の誰も邪魔が入らないところで、 どちらかが動かなくなるまで。」 フランはまだまだ小さな芽である。けれども、いつかフランの心が能力にも負けないくらい強くなり 自らの意思で操れるようになったとき、そのときの美しい花を刈り取るときのような心地よさを楽しみにしている。 ゆくっりゃ達は上目遣いに幽香の事を見て、レミリアとフランに止めを刺さないことに感謝をするかのように声をかけた。 「ゆっくりしててね!」「ゆっくり!」 その言葉に反応してか、幽香は背中越しに微笑んだ。それは誰にも見られることはなかったが、これまでで最も美しく凄惨な微笑であった。 「ええ、ゆっくり待つことにするわ。何年、何十年、何百年、何千年でも。」 そうして幽香は去っていった。お姉さんとお友達を大事にするのよと言い残して。 フランはその能力ゆえに物を壊したことはいくらでもあるが、直したことは殆どない。 ましてや吸血鬼でなければ即死するであろう重傷を負った者に対して、どうすればいいのかわからない様子であった。 「ゆっくり~!!!」 ゆフランがいきなり飛び出して、遠くへと飛んでいく。ゆっくりの名に反して、その速度はこれまで見た中で最も速かった。 フランがさらに動揺する。そんなフランにゆっくりゃが声をかけた。 「ゆっくりまってて!!だいじょうぶ!おねぇちゃんだいじょうぶ!!」 ゆっくりゃがフランを落ち着かせようと芸をした。レミリアを怒らせたあの『いないいない、うー』だ。芸の幅が本当に狭い。 けれども、自らがゆっくりゃとなっていたので表情こそわからなかったが、その声は必死だった。その必死さが伝わったのか、 フランは少し落ち着いた。フランはレミリアの体をぎゅっと抱きしめて待っていた。 少しして、ゆフランが小悪魔を連れてきた。このために飛んでいったのであろう。小悪魔は大急ぎで咲夜を屋敷に運んで、 休むまもなく飛んできたのでふらふらであった。小悪魔はレミリアの体のひどい有様とそれを抱きしめるフランたちの姿を見て、 何が起こったのか把握できない様子であった。それでも小悪魔は気をしっかり持つように深呼吸をすると、震えを帯びた声で言った。 「急いで屋敷に戻りましょう!パチュリー様の治療を一刻も早く受けさせないと!」 以外にも気丈なところがある娘だった。小悪魔は傷ついたレミリアの体を抱えると、紅魔館に向かって飛んでいった。 その後レミリアの体はパチュリーの治癒呪文を受け続けることになった。パチュリーはレミリアの惨状を見てうめき声をもらしたが、 すぐに治療を開始した。この魔女はいつも引きこもっているくせにこういったときには本当に行動力がある。 治療は日が昇っても続いた。美鈴とメイド達がパチュリーの指示によって右へ左へと動き回り、 薬品を持ってきたり儀式の用意をしていた。 ゆっくり達でさえもゆっくりすることなく急いで動き回っていた 「パチュリー、本当にありがとう・・・・」 フランは何度も何度もパチュリーにお礼を言っていた。 「たすけてくれてありがとう!」「ゆ!」 ゆっくりゃとゆフランが続く。 結局、峠を越したのは日が落ちてからであった。パチュリーは体力がないのにずっと働き通しだったので、 ただでさえ青白い顔が余計に白くなっていた。この子がこれぼど必死だったのはめったに見たことがなかった。 そんなパチュリーが言うには、吸血鬼の回復力とパチュリーの魔力を合わせても、 あと少し小悪魔が私の体を連れてくるのが遅れたら間に合わなかったそうだ。そう考えると、 あのときゆフランが小悪魔を連れてくるのが遅れていたら、確実に死んでいたであろう。 それからはフランとゆっくりゃ達はレミリアのそばから離れようとはしなかった。 そんな一人と一匹に対してかわりがわり美鈴、パチュリー、小悪魔、そして怪我から復帰した咲夜が看病を手伝っていた。 レミリアは彼女らをこんな主人にはもったいないと思い、申し訳なさとありがたさに涙が出そうだった。 けれどもそのはゆっくりゃのものだったので涙を流すことはなかった。 1日、2日と時間が経っていく。このとき、レミリアはある異常に気がついた。この体の持ち主の動きが段々ゆっくりしている。 飛ぶことが殆どなくなり、レミリアが寝ているベッドではいずるようになった。 今までずっと屋敷の中を飛び回っていたのに、そのようなことがなくなった。 そしてそれは日が増すごとに顕著になっていった。5日経ったとき、二匹は殆ど動くことはなくなった。 ただじっとレミリアの体の隣でゆっくりしている。 ふと、ゆっくりゃがフランに対してこんな質問をした、いつの間にこんなに語彙が増えたのだろう。 「ふらん、ふらんはおねぇちゃんのことすき?」 フランは満面の笑みを浮かべ、かつて穴が開いていた私の胸をさすりながら一言で答えた。 「えぇ、大好きよ」 レミリアは胸が熱くなった。 「よかった~♪」「う!」 ゆっくりゃとゆフランもうれしそうに反応した。 レミリアはこの子達にあんなにひどいことをしたのに、なんでこんなに喜んでもらえるのだろう。 ふと、この子達が自分とフランの分身であったことを思い出す。 そうだ。この子達も姉妹なんだ。姉と妹が喧嘩しているのを見ていてうれしいはずがない。 結局、レミリアがフランに対して距離を置いていることがゆっくりゃ達にはわかりきっていたということか。 そして目の前のレミリアのまぶたが上がっていくのが見えた。フランが慌てて咲夜に声をかける。 「お姉様が目を覚ますわ。みんなをよんできて!」 そこでレミリアは再び意識を失った。 レミリアが目を覚ましたとき、見慣れた天井が目に映った。 ここは自分の部屋のベッドだった。 体のほうに目を向けるとフランの顔が見えた。今にも泣きそうな笑顔という、矛盾した表情をしていた。 「お姉様。起きたのね!」 「ゆっくり~!」「うぅ~!」 視界を端に向けると、ゆっくりゃとゆフランのほほがあたっていた。なんだかやわらかくて湿っぽい。 部屋を見回すと、皆が集まっていた。ほっとした顔、泣きそうな顔、笑っていた顔、それぞれ違う表情を浮かべていた。 このまま目を覚ますことがないことも考えられたのだろう。 まず、レミリアはやるべきことがわかっていた。レミリアはゆっくりゃとゆフランを抱きしめて、 部屋中に存在する者すべてに向けて言った。 「みんな、本当に迷惑をかけてごめんなさい。あなた達にも八つあたりなんかして、本当にごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」 しかし口からは陳腐な謝罪しか出ない。こんなに迷惑をかけたのだ。いくら謝ってもすまないであろう。 いつの間にかレミリアの目には涙が浮かんできた。 フランを地下に閉じ込めたこと、ゆっくりゃ達に八つ当たりしたこと、フランに手をあげたこと全てが頭の中でぐるぐる回っている。 「お姉様、悪いのは私だよ。だからそんなに謝らないで・・・」 フランはレミリアを抱きしめてそういった。その腕は細く、震えていた。 姉を貫いたときの感触がまだ残っているのかもしれない。 「お嬢様、私も・・・」「あのときは手を上げてすいません・・・」 美鈴も咲夜も駆け寄ってくる。いくら皆のことを思ってとはいえ、主に意見を出したり、手をあげたのだ。 「かってにでていってごめんなさい!」「ゆぅぅぅぅ・・・」 ゆっくりゃたちまで謝ってくる。 けれども悪いのは自分だったとレミリアが返しを入れるので、事態に収集がつかなくなった。 「あ~、まったくいつまでもうじうじと・・・。」 パチュリーが外から業を煮やしていた。。 「ゆぅ!」「う~!」 そのときゆっくりゃとゆフランいいことを思いついたという顔をして、 ベッドから空中へと飛ぶと、皆をレミリアのベッドの回りに集めて、互いのほほをくっつけるように押し付けた。 それはゆっくりゃとゆフランがかつてフランに仲直りを促されたときに行った行為だった。 「こら、なにすんの」「えへへ、くすぐったい」「何か恥ずかしいですね」「うぅ」「ちょっ何で私まで・・・・むきゅ」 「パチュリー様のほっぺた柔らかいです・・・」 「なかなおり♪なかなおり♪」「ゆっゆ~♪」 混乱するみんなの姿をよそに、二匹はとても楽しそうであった。 なんでだろう。勝手にフランを避けて、ゆっくり達に嫉妬して、皆に迷惑をかけたことが馬鹿らしくなった。 数百年のわだかまりを気にするのはもうやめるべきなのかもしれない。 思い出すのはフランを地下に閉じ込めていた時の遠い距離と冷たい罪悪感、 今感じるのは隣で笑っているフランのほほの柔らかさと温かさ。 過去は決して消えない。だからこそ、今のこの瞬間も忘れない限り、いつまでもゆっくり残る。 ゆっくり達は生きることを楽しんでいる。作られた命でありながら レミリアは自らに似ても似つかない、けれども最も欲しいものを教えてもらった分身達に向かって感謝した。 「ゆっくりゃ、ゆフラン、ありがとう。」 「「ゆっくり~♪」」 しかしこれが結局生きたゆっくり達が飛ぶのを見る最後のときとなった。 そして次の日 日がまだ昇っている時間のことであった。 「いないいない、うわぁぁぁぁぁ♪」「うわぁぁぁぁ♪」 「あはは、かわいくなーい」 レミリアとフラン、ゆっくりゃとゆフランは皆で一緒に同じベッドに寝そべっていた。 周りには紅魔館の住人が全て集まっている。レミリアが今までずっと寝ていてつまらなかったのでパーティをしようと言い出した。 吸血鬼のパーティは普通夜に行うが、この日は朝からずっと通しだった。 レミリアはゆっくり達とこうして遊ぶのは初めてだった。 「あんた達には迫力がないわ。こうするのよ。いないいない、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 「こあい、こあい!」「ゆう゛ぇ゛ぇ゛ぇ」 ゆフランが泣き出してしまった。実は怖がりなのかもしれない。 そんなゆフランをフランが慰めた。抱きつかれたまま離れようとはしない。 そんな二人と二匹を咲夜をはじめとした住人達は見守っていた。彼女らの目には目の前のじゃれあう子供達が、 種族が違えどもまるで姉妹のように見えていた。 悪魔の住処紅魔館。この日ばかりはその名も似合わなかった。 そして愛するものと共にゆっくり過ごす時間の安らかさに、レミリアは今までの人生になかった心地よさを感じることになった。 時間が経つにつれて、ゆっくり達は段々動かなくなってきた。言葉に反応するのも遅れている。 日が暮れたころ、目を瞑ったまま動かなくなった。 「ゆっくりゃ、ゆフランどうしたの?」 フランがゆっくり達に声をかける。 しかしまったく反応がない。いつもは呼ばれなくても来るのに。 いつしかパーティ会場はしんと静かになった。皆これがどういうことか気がついたのだろう。 そしてこのパーティの本当の意味を。 口を開いたのはパチュリーだった。 パチュリーはこの生物のベースとなる技術を持っていたため、何か思うことがあったのか 「元々この子達は餡子によって食用に作られた生き物。すぐに食べられる運命のために、その寿命は儚い物だったのでしょうね。 いつかはこうなるとわかっていても、やっぱり愛着がわくと辛いわね。」 そういうと力なくうなだれた。隣では小悪魔がパチュリーにしがみついて泣いていた。 美鈴は大声を上げて人目をはばからず泣いていた。彼女は門番であり、ずっと一人で行う仕事であった。 そんな折に遊びに来てくれた友達が愛おしくて仕方がなかったのであろう。 咲夜は泣いてはいなかった。けれどもまぶたが何時間も泣いた後のように真っ赤に腫れていた。 先ほどまでこのようなことはなかったはずなのに。 周囲を見ると、下っ端のメイド達まで嗚咽を漏らしていた。あの二匹は本当に人懐っこかったのであろう。 ゆっくり達は餡子とひき肉でできた人形。正確には生き物にすら分類されない。 パチュリーが作った人形のように泥でできたのならともかく、餡子ではいつか腐って崩れてしまう。 いくら食べ物を与えても、変えようのない結末だった。そして人形であるがゆえに生まれ変わることができない。 だからこそ、最後にこうして共にゆっくりするのが望みとなった。 フランは二匹を抱き寄せた。もう二度と会えないということが信じられないようであった。 目に光が灯っていない。この子にはその悲しみに耐えられなかったのだろうか。 そのとき、 「こいつらがただの人形だったらあたいも仕事がなくなって楽なんだけどねぇ。」 ドアの近くを見ると何者かが立っていた。見上げるほどの長身、手に持つは大きな鎌。三途の川の案内人。死神の小野塚小町であった。 「どういうこと、それに仕事ってなによ」 「そのままの意味さ。死神の仕事は死者の案内。こいつらはもう人形じゃなくて妖怪なんだよ。ちょいと違うが、 わかりやすくいうと九十九神みたいなものかな。ずいぶん可愛がったみたいじゃないか。ほら、あたいの後ろにいるこいつらもそうさ」 そういうと、小町の後ろから様々なゆっくり達の霊が出てきた。ゆっくりれいむ、ゆっくりまりさ、ゆっくりありす、 その他たくさんの種類のゆっくりがいた。幻想郷の誰かがフランと同じようにかわいがっていたのだろう。物好きがいたものだ。 小町は二匹の遺体を抱えた。連れて行くつもりなのだろう。 「やだぁぁぁっ、連れて行かないでぇっっ。もっと一緒にいるのっ。私と遊ぶのっ。ご飯を食べるのっっっ。」 フランが泣きながら必死で止めようとしたがレミリアはそれを抑えた。 「行かせてあげなさい。フラン。あの子達の顔を見なさい。とても安らかな顔をしているじゃない あなたと、紅魔館のみんなのおかげよ。だから、わかって・・・」 フランは何度か嗚咽を漏らし、手のひらをぎゅっと握り締めて耐えていた。 「吸血鬼の涙なんて珍しいものを見たな。ここからはちょっとしたサービスでもするか。四季様には内緒だよ」 小町が二匹をぽんと叩くと、するりと二匹の体から何かが出てきた。あれはゆっくりゃ達の霊だった。 「さぁ、お別れを済ませてきな」 ゆっくりゃは相変わらずうーうーと鳴きながら館の住人全てに笑顔を向けるとレミリアとフランに向かって飛んでいった。 その元となった吸血鬼とは似ても似つかないが愛嬌のある顔は決して忘れないだろう。 ゆフランは姉の後を追うようにして浮かんでいった。皆に見送られていると見ると、とてもくすぐったそうな顔をしていた。 今まで愛情を注いでくれた皆に感謝をしているようであった。彼女は元となった吸血鬼に似て、姉をとても好いていたのだろう。 二匹は紅魔館の住人達ひとりひとりに挨拶をしていく。ゆっくりと時間をかけて 最後にレミリアとフランの前に飛んできた。 「ゆ!」「う゛!」 それはどこかふてぶてしくも憎めない顔であった。 フランは涙を拭い去り、二匹に向かって目を向け、最後の挨拶をした。 「うん。わかった・・・。今までありがとうね。ゆっくりゃ、ゆフラン。あなた達のこと大好きだったよ。」 ゆっくりゃ達は微笑んだ。その顔がこれまで過ごした時間がどのようなものなのか語っていた。 レミリアは何を言うべきか悩んだ。いくら言葉を尽くしても伝えられないほどの恩がこの子達にはある。そうだ、 だったら一言に百の意味をこめよう。ゆっくり達にとって最もなじみのあるあの言葉で 「ありがとう。向こうでも、ゆっくりしていってね・・・」 二匹はだいじょうぶだよとでもいうように返事をした。 「じゃあこいつらは連れて行くよ。これほどいろんな人に愛されているなら三途の川は渡れるだろうから安心していいさ。」 「うー♪」「う~♪」 そうして二匹は死神に連れられ、死後の世界に旅立つことになった。 ゆっくり、ゆっくりと・・・ その場にいる皆がそれぞれの思い出を胸にゆっくり達の百鬼夜行を見送った。 約1ヶ月という、人外には刹那のような時であったが、誰もの心にゆっくり残るだろうと思われた。 レミリアは思った。あっという間の命だった。けれども決して忘れはしない。 今からでも遅くはない。あの子たちがそうだったように。 フランと共に、これからゆっくり幸せに生きていく。 そう誓った。 その後ゆっくり達がいなくなり、しばらくしてからの紅魔館では、ほとんど以前と同じ姿になっていた。 門番は一人で門を守っていた。一緒に遊んで夜を過ごす友はもういない。 魔女は図書館に引きこもっていた。影でこっそりかわいがる居候はもういない。 小悪魔はそんな魔女の世話をしていた。魔女のいつもと違う一面を見せてくれた客はもういない。 メイド長はメイド達を従えて館を切り盛りしていた。プリンを作ってあげた主の分身はもういない。 しかしひとつささやかな変化があった。それは吸血鬼姉妹であった。姉は甲斐甲斐しく妹の世話をしていた。 ふたりがじゃれあう姿を見て、紅魔館の住人達はあの騒がしくも無邪気であった二匹の饅頭を思い出す。 主とは決して似つかないが、どこか面影のあるあの饅頭を。 妹はこれから様々なことに向かっていくことになる。 力の制御 向日葵妖怪との決着、 外の世界に適応すること 姉はそんな妹にいろいろなことを教えていく。 これまで置いていた距離を縮めるように。 いつか妹が一人前になって生きていけるように そのためにこうやって一緒にいる あせることはない。時間はたっぷりある。ゆっくり頑張っていこう。 蛇足 小町がゆっくりゃ達を連れて三途の川に着いたとき、ゆっくりの霊が大量に居座っていた。 裁判所の中に駆け込むと 「「「「「「「ゆっくりしていってね!!!!!」」」」」」」 「よいぞっ!」 上司であるザナドゥが壊れていた。ここのところ彼女は事務仕事のあまりの忙しさにゆっくりできていなかった。 そこで現れたマイペースの塊、ゆっくり。 そのため、ザナドゥはゆっくりにあこがれるあまり、ゆっくりになりきってしまったらしい。 小町は思わず遠くを見てしまった。 「ゆっくりした結果がこれか。転職先でも探すかな・・・」 いい話でした -- 名無しさん (2008-09-01 12 41 56) 泣いちゃいました… -- 名無しさん (2008-09-10 13 30 32) ゆっくりは姉妹の懸け橋となった・・・このゆっくりには勲章を挙げたい気分だ・・・。 -- 通りすがりのゆっくり好き (2008-09-14 21 52 30) 全俺が泣いた・・・ -- 名無しさん (2008-09-15 17 27 06) イイハナシダナー。もうゆっくりを虐めることなんてできねぇ・・・ -- 名無しさん (2008-09-15 19 52 55) (´;ω;`)ブワワッ!! -- 名無しさん (2008-12-09 01 01 32) 涙が…とまらない…と思ったらえーき様www -- 名無しさん (2008-12-23 07 38 15) 最後のシーンで泣きながら笑った。 -- 名無しさん (2008-12-27 10 34 16) 最後がwwwww俺涙目wwwww -- 名無しさん (2009-02-17 19 20 01) ゆっくりゃとゆフラン大好きだから余計涙腺が… -- 名無しさん (2009-02-18 01 49 55) あれおかしいな、目から汗が・・・ イイハナシダナー -- 名無しさん (2009-03-10 00 23 23) (´;ω;) -- 名無しさん (2009-08-17 04 07 18) お嬢様をひっぱたいた時の咲夜さん辛かったろうな~ -- 闇 (2010-02-18 13 47 36) 泣け・・・ないぜっ・・・泣ける -- 名無しさん (2010-02-18 21 31 41) いい話すぎる(´Д⊂グスン -- 名無しさん (2010-06-11 23 07 18) 切なくも温かいゆっくり出来る話でした。ありがとう。 -- 名無しさん (2010-11-28 11 58 52) イイハナシダッタノニナー -- ザナドゥェ (2010-12-04 02 41 26) やばいマジで泣いてしまった・・・ -- ゆっくり愛護団体団員 (2011-03-20 03 46 11) 俺…ゆっくりいぢめをやめるよ… -- 名無しさん (2011-04-15 16 44 16) 泣けるうううううううううううううううううぅ -- ちぇん飼いたい (2012-03-01 17 01 29) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1583.html
このSSは「ゆっくりいじめ系1222 ゆっくり繁殖させるよ!」の設定を 勝手に流用して書いたものです。 http //www26.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/2112.html 「養殖ゆっくり」 ゆっくりが幻想郷に現れるようになって、はや数年が経った。 ゆっくりが現れた当初から、ゆっくりによる民家襲撃や農作物窃盗が相次ぎ、 人間とゆっくりの間では争いが絶えなかった。 人間は、まず人里に近づいたゆっくりを見つけ次第叩き潰すことでゆっくりによる害を減らそうとした。 しかし、ゆっくりはすぐに増えるため、あまり効果がなかった。 潰しても、数日もすると別のゆっくりが人里への侵入を試みた。 そこで、ゆっくりの巣を探し出し、片っ端から一家を全滅させることで増えないようにしようとした。 ゆっくりの一家や番は、例えるならゆっくり製造機みたいなものである。 こいつらを一家まるごと殺してしまえば、ゆっくりの増えるペースは減ると考えられたからだ。 このやり方では、たしかに一定の効果があったが、それにも限界があった。 ゆっくりは、すぐに増えてしまうからだった。 ゆっくりは一回の生殖で、植物型妊娠・動物型妊娠問わず、最低でも3匹から5匹は子供を作る。 この時点で、すでにゆっくりは確実に増加する傾向にあることが分かるだろう。 さらに、ゆっくりは、その生活形態も様々だ。 個別に独立して暮らすものもいれば、群れを作って共同生活するものもいる。 群れの場合、一度潰せばゆっくりの害は大幅に減るが、ドスがいるような群れはやっかいだった。 逆に、独立して生活している家族や番の場合、散らばって生活しているので個々の一家は潰しやすいが、その分効果が薄く、巣を探すの手間取った。 加えて、人里から一定以上離れた場所にいるゆっくり達には殆ど手を出せなかった。 離れた場所に住むゆっくりを殺す為だけに里の外で夜を明かすのは危険だし、何より自分の畑から何日も離れるわけにはいかなかったからだ。 農耕で生活している以上、里に住む人々の大半は、畑仕事に一番時間を割かねばならなかった。 こうしてゆっくり対策に行き詰まりを感じ始めた里に人たちは、ゆっくりに詳しい者達に力を借りることを決めた。 依頼を受けたゆっくりの加工場の職員や研究者達は、効率的にゆっくりを駆除する方法を考え始めたのだった。 問題点は、以下の2つに絞られた。 どうやって人里から離れた場所(森の奥)にいるゆっくり達も駆除するか? (人里周辺のゆっくりだけを駆除しても、他所から他のゆっくりがやってきてしまう) どうやって数が多いゆっくりを一度に駆除するのか? (ちまちま殺していたら、繁殖力の高いゆっくりの数は減らない) そこで加工場の関係者達は、人工的に養殖させた「非常識なゆっくり」を大量に自然界に放流する方法を思いついた。 勿論、こんなことを春や夏や秋にやれば大変なことになるが、餌が殆ど無い冬直前にやったどうなるだろうか。 こんな計画が持ち上がったのも、研究者達の観察や実験結果により次のようなことが分かってきたからだ。 実は、ゆっくりの最大の天敵は、小動物でも人間でも妖怪でもなく、ゆっくり自身だったのだ。 たしかに、小動物・人間・妖怪はゆっくりにとって脅威となる存在だ。 本気で狙われたら、まず間違いなく殺される(or 喰われる)。 だがそれは、あくまで「狙われたら」という話であり、そんなことはあまり起こらない。 起きたとしても、ゆっくりの数を大幅に減らすほどの影響はない。 ゆっくりと生活圏がかぶっている小動物は、必ずしもゆっくりを襲うわけではない。 草食系の小動物は、まずゆっくりには手を出すことはないし、肉食系の小動物も、基本的には他の動物を狙うので、ゆっくりがターゲットになることはあまりない。 そして、人間は自分達の生活圏の外にいるゆっくりには手出しできない。 妖怪達は、食料としてゆっくりを食すことは珍しくないが、それでもゆっくりの数に殆ど影響を与えていない。 だが、他のゆっくりは違う。 生活スタイル(食べ物・居住環境・生活圏)が同じであるが故に、仲間同士であると同時に生活の糧を奪い合うライバル同士でもあるのだ。 加えて、ゆっくりという生物(食べ物か?)は基本的に自己中心的で頭が悪く、イザコザが耐えない。さらに、ゆっくりの中には「ゲス」と呼ばれる、 ゆっくりを襲うことで生活しているものや、「レイパー」と呼ばれる強姦魔もいるという。 こうした研究結果を踏まえて、ゆっくりにはゆっくりで対処する方が良いと考えられ、今回のゆっくりを養殖する実験計画が立てられたのである。 ちなみに、この方法がダメなら別の手を考える予定である。 この計画の最大の目的は、春になるまでに出来るだけ野生のゆっくりの数を減らすことだった。 とにかく、出来る限り個体数を減らし、農家にかかる負担を軽くしなければならない。 今回、ゆっくりを養殖させるにあたって、雑草や昆虫が大量に集められた。 野生にない食材を与えると、野生のゆっくりが採った餌を受け付けなくなるからだ。 それでは養殖されたゆっくりが、野生のゆっくりの餌を略奪してくれない。 さらに、養殖されたゆっくり達を「教育」する動画も製作された。 野生のゆっくり達に受け継がれている生き抜く方法とは真逆の教育を施す為だ。 他の関係者から、「もし非常識なゆっくりが越冬に成功したらどうなるのか?」という問題点も指摘された。 だが、計画を立案した研究者は自信を持って次のように答えた。 養殖場で生まれ育ったゆっくりは、自然界ではまず生き残れない。 冬以外の季節なら、自力で餌を採る方法を覚えたり、他のゆっくりと暮らし始めて生き残れるかもしれない。 仮に野生のゆっくりと暮らし始めても、自力で餌を採る大変さを理解していないから、すぐに仲違いするだろうが。 しかし、真冬ならどうだろうか。まず餌は手に入らない。人里は我々が完全に守っているから、進入することも出来ない。 おまけに、食料を食べたいだけ食べることが良いことだと教育するので、野生のゆっくりの巣を見つけ出して略奪を行っても食料はすぐに尽きるし、 最終的には共食いしつつ餓死することになる。だから、養殖ゆっくりは春までには全滅するはずだと答えた。 ゆっくりによる被害を受けていた里は、今回の実験を初めて聞いたときは随分驚いていたが、 一切お金を取らないことや、家屋に万全のゆっくり対策を施すことで了承してもらった。 ゆっくりを養殖する施設は、群れから少し離れた開けた場所につくられた。 また、養殖していることを野生のゆっくりに悟られないようにする為、 養殖場の周りを、植物で偽装した高い壁でグルリと囲んだ。そして、鍵を持った職員しか入れないようになっている。 ここで養殖して一斉に放すことになる。 本来は加工上で育てる予定だったが、ゆっくりの群れが住んでいる場所の近辺まで、大量の成長しきった養殖ゆっくりを運ぶ方法が見つからなかったので変更された。 我々は、加工所の中で育てられているゆっくり達に強制的に子供を作らせた。 そして、植物方妊娠をしている親を眠らせ、その子供を採取して隔離した。 こうすることで、他のゆっくりから教育を受けていない、何の記憶も技術も持たない赤ゆっくり(れいむ種とまりさ種)が手に入った。 全部で10匹だ。 採取した赤ゆっくり達を眠らせた状態で養殖場の中に放置した。 養殖場の中は、まだガラ~ンとしている。 バスケットボールぐらいの大きさのゆっくりを、500匹近く収容できるように作ってあるので、仕方が無いといえば仕方が無い。 とにかく、冬直前までに相当数のゆっくりを育て上げなければならない。 ゆっくりの教育は、毎日決まった時間に映像を流す形で行われた。 朝7時になると明かりがつき、モニターに電源が入り、スピーカーから挨拶が聞こえてきた。 「やあみんな、おはよう!ゆっくりしていってね!!!」」 それを聞いた10匹のゆっくり達は一斉に、 「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」 と、返事を返した。 「さあみんな、ごはんだよ!ゆっくりたべていってね!!!」 そうアナウンスされると、天井に付けられた機械が、天井を所狭しと動き回りながら餌を養殖場全体にバラバラと落とした。 いずれは、養殖場いっぱいにゆっくりがひしめき合うのだから、広範囲に餌を撒かないと、餌にありつけないゆっくりが出てきてしまうからだ。 献立は毎回一緒で、甘味料と冷凍雑草と冷凍昆虫を混ぜ合わせたものだった。 基本的に、自然界で容易に手に入る、草と虫以外のものを食べさせることは許されてはいなかった。 「ゆっ!おさらさん、ゆっくりれいむのところにえさを落としてね!」「すごくゆっくりできるえささんだね」「うんめ、めっちゃうんめ!」 「くささん、むしさん、ゆっくりたべられてね!」「きかいさん、ありがとうね!」 「「「「「「むーちゃ、むーちゃ、しあわせ~!!!!」」」」」 養殖場の様々な場所に、栄養素を溶け込ませた水を出す蛇口を取り付けてあるので、 食事を終えたゆっくり達は、思う存分水分を取っていく。 「「「「「「が~ぶ、が~ぶ、しあわせ~!!!!」」」」」」 食事が終わると、今度はお勉強の時間だ。 といっても、研究所と加工場が製作した教育映像を繰り返し流し続けるだけだったが。 『腹が減ったら、他のゆっくりの巣に勝手に入って食べればいい。他のゆっくりに餌を分けない奴はゆっくり出来ない奴だ。』 「ゆっ!すってなあに!」「でもゆっくりできそうなばしょだね!」「れいむもあんなばしょがほしいよ!」 「まりさにたべものをくれないなんて、ゆっくりできないね!ぷんぷん!」 『初めて会ったゆっくりをすっきりさせてあげるのはゆっくりできること。すぐにすっきりさせてあげよう。』 「すっきりってなあに?」「なんだかすごくゆっくりできそうだよ!」 『パチュリーはずる賢い悪いゆっくりだ。ゆっくりできないから、見つけたらすぐ潰そう。』 悪そうな顔をしたパチュリーを踏み潰すイラストを流した。 「ゆっ!ゆっくりできそうにないかおだね!」「あんなのみつけたら、まりさがぎったんぎったんにしてやるんだぜ!」 『ドスは、ゆっくりしすぎで太ってる。減らしてあげれば喜ぶから、すぐに喰いつこう。』 でっぷりした大きなゆっくりを噛みちぎるイラストを流した。喰いちぎられたゆっくりはニコニコしている。 「どすはゆっくりしすぎだよ。」「だいえっとをてつだってあげなきゃね!」 『れみりゃやふらんは敵。見つけたら全力で襲い掛かろう。弱いくせに偉そうにしている。ゆっくり出来ていない。』 「へんなかおだね!」「ぜんぜんつよくなさそうだね!あんなのかんたんにつぶせるよ!」 ゆっくりを捕食する捕食種「れみりゃ」と「ふらん」。 実は、単純に力という点だけを見れば、こうした捕食種は他のゆっくりより圧倒的に上回っているわけではない。 耐久力にしても、捕食種は中華まんだ。饅頭と対して耐久力に違いはない。 基本的に、ゆっくりが捕食種に勝てない理由には、手足の有無や体格差以外にも「絶対に勝てない」という思い込みもある。 バスケットボールぐらいの大きさのゆっくりが、複数で物怖じせずに胴付き捕食種と全力で闘えば、勝算があることは加工所の実験で証明済みだ。 捕食種というのは、頭部だけの状態なら圧倒的に飛行スピードがあるの、まず他のゆっくりに負けることは無い。 しかし、胴体付きに進化すると、手足が使える反面、スピードという利点が無くなってしまううえに、動きが鈍臭くなる。 加えて、まさか他のゆっくりが襲ってくるとは思わないだろうから、隙だらけになる。 ちなみに、フランが捕食種の中でも最強なのは、「狂気」が最大の理由として考えられている。 体格や筋力が同じでも、イカれた人間と普通の人間が喧嘩をすれば、なかなか普通の人間は勝てないのと同じ理屈だ。 養殖場のゆっくり達には、複数のゆっくりがれみりゃに体当たりして容易に転ばせたうえ、踏み潰すという映像を見せた。 映像の中では、れみりゃを殺したゆっくり達が、「む~しゃ、む~しゃ、しあわせ~!」とれみりゃを食べていた。 他にも、 『ゆっくりの巣は、木の根元や洞窟にあるぞ!』 『草や石が固まっているところが怪しいぞ!』 といった、野生のゆっくりの巣の探し方も教えた。 とにかく、こうした身勝手な行動こそが「ゆっくりできること」だと徹底的に教え込んだ。 まあ、こういうことが本来の「ゆっくりできること」なのかもしれない。野生のゆっくりは、厳しい自然環境の中で随分妥協しているけれど。 月日が経つにつれ、次第に養殖場のゆっくりの数は増えていった。 どんなに「すっきりー!」をしても。餌はすぐに降ってくるし、いつでも栄養素が溶け込んだ水を飲めたので、 ゆっくり達は思う存分子作りが出来たのである。 最初は恥ずかしがっていたゆっくり達も、養殖場の中にプライバシーなんぞ無いことを理解すると、 どこでも、子供の前でも、平気で「すっきりー!」するようになっていった。 村では、作物の収穫やゆっくり対策がほぼ終わっていた。 我々が行ったのは、強化ガラスとの交換に始まり、建物の補修、河童の少女と協力して開発したゆっくり撃退装置の設置などの各種ゆっくり対策グッズの設置だ。 ゆっくりの群れの方でも、ほとんどの家庭で餌の貯蔵が終わっていた。後は、本格的に冬が始まったら巣を塞ぐことぐらいだ。 さて、後はこいつらを放すだけか。 俺は、養殖場内のゆっくり達を睡眠ガスで眠らせると、 外に運び出した。 「よいしょっ!・・・と。結構いますね。どれぐらい増やしたんですか?」 「大体600匹ぐらいだな。まだ実験だし、そんなもんさ。けど、もうちょっと増えたらやばかったな。500匹ぐらいを想定してたから、 これ以上増えると、養殖場が維持できなくなっちまう。そうなると、俺達の仕事に『養殖ゆっくりの間引き』なんていう面倒くさい仕事が出来ちまう。」 「じゃあ、よかったすね。」 職員達はコンテナに詰められた養殖ゆっくり達を外に運び出すと、養殖場の撤去作業も開始した。 とても「ゆっくりした」ゆっくり達が一斉に開放された・・・ 群れから少し外れた場所で、一匹のゆっくりれいむが移動していた。 もうすぐ巣穴を塞ぐのだ。来年まで外に出ることは出来ない。 だから、冬篭りの前までに少しでも外の様子を見ておきたかった。 そんな時、れいむは一匹のまりさから声をかけられた。 「ゆっ!れいむ!ゆっくりしていってね!」 「ゆっ!まりさ!ゆっくりしていってね!」 養殖場でゆっくり育てられた養殖ゆっくりは、野生ゆっくりから見て美人に見えるらしい。 すっかり気をよくしたれいむをよそに、まりさの後ろからぞろぞろと養殖ゆっくりが現れる。 「ゆぅ、なんだかさむいよ。はやくゆっくりできるところをさがそうね」 「ぽんぽんさんがすいてきたのぜ。むーしゃむーしゃしたいのぜ。」 れいむの表情は凍りついていた。 こうして養殖ゆっくり達は次々に野生のゆっくりの群れの中心に入り込んでいった。 群れに住む野生のゆっくりたちは何事かと巣から飛び出した。 この時期に大量のゆっくりがやってくるということは、どう考えても食料や住処の略奪としか考えられなかったからだ。 だが、略奪目的にしては、やってきたゆっくりたちの顔色や肌ツヤは非常に良かった。 また、随分友好的でゆっくりとしたな態度をとっていた。 群れのゆっくりたちは次第に、 「これはもしかしたら、別の目的で群れにやってきたのかも」 とか、 「きっと冬篭り前の挨拶に来たのではないか」 と噂を始めた。ドスの元にも報告が行っていた。 そして、徐々に歓迎ムードになっていた。 だが、それから数分後、ある養殖ゆっくりの一言で状況は一変した。 「ゆっ。れいむおなかすいたよ。たべものちょうだいね。」 それを皮切りに、他のゆっくりからも食料を求める声が徐々に上がり始めた。 群れのゆっくり達は驚いた。そして、 「自分達には、あなたがたに分け与えられるような余分な食料はないこと」 と伝えたり、 「そんなに血色が良いのに、あなたたちはどうしてたべものをもっていないのか」 と質問をした。 だが、養殖ゆっくり達には、野生ゆっくりの言うことが理解できなかった。 「食べ物をくれるのはあたりまえ」「季節なんて存在しない」という環境の中で育てられた為、 「どうして食べ物をくれないのか?」「冬篭り?何それ?美味しいの?」という有様だった。 10分も経つと、群れで大騒ぎになっていた。 群れの規模は100匹前後。 しかし、やってきた養殖ゆっくりの数は100匹を優に超えていた。 群れのゆっくりは必死で養殖ゆっくりを押しとどめようとした。 ある養殖れいむが言う。 「おなかがすいたよ。たべものをゆっくりちょうだいね」 さらに養殖まりさが言う。 「たべものをださないなんてゆっくりできないね。」 「かってにもらっていくよ。」 「どいてね!はいれないよ!」 番の野生まりさと野生ありすは家の前で必死に応戦する。 「ゆ~~~!やめてね。勝手にまりさのおうちに入らないでね!でていいってね!」 「それは冬を越すのに必要な食料よ!いまたべるなんてとかいはじゃないわ!このいなかもの」 いくら押しとどめようとしたり、突き飛ばしても、次々と巣に近づく養殖ゆっくりの数にはかなわなかった。 勝手に貯蔵庫の食料に手を付ける養殖ゆっくり達。 「むーしゃむーしゃ・・・う”っべべぇ”ぇ”ぇ”ぇ”! まずっ!げろまずっ!ぺっ!ぺっ!!」 生まれて初めて甘味料のない食料を口にした野生ゆっくり達は吐き出した。 「こんなのたべものじゃないよ!あまあまじゃないよ!ほんとのたべものをかくさないでさっさとだしてね!」 甘い食料など持っていないし食べたことのない野生ゆっくり達は、自慢の保存食料をゴミのように扱われ、ショックを受けた。 「どぼじでぞんなごどいうのおおおおお?」 群れで一番頭のいいパチュリー種の住む巣にも養殖ゆっくり達は押し寄せた。 「ゆっ!パチュリーがいるよ!ゆっくりしんでいってね!!」「ゆっくりできないゆっくりはしんでね!」 「むぎゅう”う”!わたしがなにをしたっていうのよおあああ!」 こうして、ゆっくりが自然界で生き抜く方法を知っている重要なぱちゅりー種は息絶えた。 ドスのいる洞穴にも養殖ゆっくりが入り込んだ。 養殖ゆっくりたちは、笑顔で挨拶する。 「ドスがいるよ!ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」「ゆっくりしていってね!!!」「ゆっくりしていってね!!!」 ドスは最初は驚くが、笑顔で挨拶を返した。 「みんな、ゆっくりしていってね!!!」 外で起きていることはまだ報告が入っていないらしい。 ぞろぞろとやってくる養殖ゆっくり達の中のある一匹が突然どすに食らいついた。 がぶ・・・ 「むーしゃむーしゃ それなりーー!」 分厚い小麦粉皮を喰いちぎって頬張る養殖ゆっくり。 一瞬何が起こったのか分からないどすの代わりに、どすの付き人をしている野生ゆっくりが叫んだ。 「どぼぢでどすのおがおだべるのおおおおお!!!どずはゆっっぐりしてるんだよおおお?ばがなの?じぬの??」 その言葉で我に返ったドスは体を壁にぶつけてそいつを潰し殺した。 「馬鹿なゆっくりはさっさと死んでいってね!」 「どぼぢでよろごんでぐれないのおおおお?ダイエッドにきょーりょくしてるでしょおお!」 理不尽な攻撃を受けていると感じた養殖ゆっくり達は、怒りに燃えてドスに攻撃した。 どすは洞窟の中で暴れようとしたが、広さも高さも足りず、ただただ噛み付き攻撃や這いずり攻撃を繰り返した。 しかし、真正面からドスの口に飛び込むものはおらず、養殖ゆっくり達は全方位から喰らいついた。 ドスは徐々にスタミナを消耗し、まるで蟻に集られる饅頭のように体の体積を減らしていった。 「もっどゆっぐりしたかったよ・・・」 こうして、群一つを潰した養殖ゆっくりによる傍若無人な振る舞いと理不尽な暴力は森の各地に住む野生ゆっくり達に広がっていった。 例えば、とある群れに属さないゆっくり一家は、苛烈な尋問の果てに皆殺しにされた。 養殖ゆっくりの集団が、けっかいで偽装された巣を見つけ、中にいた一家を強引に外に叩きだしたのである。 一家があまあまな食べ物を隠し持っているに違いないと疑ったそのグループは、執拗に尋問を行い始めた。 「あまあまさんなんてしらないよ。ゆっくりかえっていってね!」 「うそをつくななのぜ!すのなかにかくしてるのはわかってるのぜ!!!」 集団は「こーでぃねいと」された巣の中を荒らし回った。 教育であまあまの存在を信じこまされていた養殖ゆっくりの集団は、貯蔵庫の食料を掻き出し、枯葉のカーペットをひっくり返し、一夏の「おもいでのしな」をバラ撒きながら「あまあま」を探し続けた。 しかし、いくら探せどそんなものはない。 最終的に痺れを切らした集団は、一家を踏みつけ突き飛ばし餡庫のシミに変えた。 また、ある子なしの番は強引に集団でスッキリーをさせられ、茎だらけになって永遠にゆっくりした。 勿論、巣の中を滅茶苦茶に荒らされるおまけつきで。 こうして野生のゆっくり達が餡庫に変えられていくなか、空腹に耐え切れず潰れた野生ゆっくりの餡庫を貪るものも出始めた。 「うっめ!めっちゃうっめ!」 極度の空腹に襲われていた養殖ゆっくり達は、同族の餡庫を貪ることにも抵抗を示さなくなっていた。 「野生のゆっくり達は、餡庫ではないあまあまを体の中に隠し持っていた」と強引に思い込み、「共喰いをしている訳ではない」と自分達を納得させたのである。 甘い食料に舌が慣れきった養殖ゆっくりは、日が経つに連れて各地の巣を血眼になって探し続けた。 執念深く巣を見つけては、中にいた種族を問わずゆっくりを引きずり出し尋問し、巣を荒らして餡庫を貪った。 とはいえ、野生ゆっくりの数が減るに連れて徐々に巣の発見率も下がり、最後の手段である同族の餡庫すら手に入りにくくなっていった。 すると、捕食種も襲撃の対象になりはじめ、洞窟に巣を作っていたれみりゃの一家も巣も襲撃を受けた。 「おぜうさまにゆっくりたべられていくんだど~♪」 養殖ゆっくり達に無防備に近づいて手を伸ばそうとしたれみりゃは、後ろから脚にタックルを喰らい、転倒した。 「おお、おそいおそい」 「おお、よわいよわい」 集団で飛び乗り喰いちぎり貪っていく。 「うっめ!めっちゃうっめ!」 「ざぐや”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!!」 「ま”んま”ま”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”」 れみりゃの子供たちも母親と同じ運命を辿った。 その後、養殖ゆっくりによる巣の襲撃は続いたが、滅多に巣を見つけられなくなった。 巣を襲撃できない養殖ゆっくり達も次第に個体数を減らしていった。 養殖ゆっくり同士で共喰いを始めるものも現れた。 すっきりーをして子供を持ったものもいたが、動きが鈍くなるため共食の対象にされた。 対象にされなくとも、これから冬を迎える季節で育てられる可能性は不可能だろう。 それに間違った知識を教えこまれているため、子供への教育もできないので子孫を残せない。 1代限りの存在を許された養殖ゆっくり達は、共食と餓死を繰り返し、 雪が積もり始める頃には姿を消したのだった。 冬も終わり春がやってきた。 月日が経ってもゆっくりによる被害は報告されず、ゆ害は皆無になっていた。 この試み因る効果は数年続くことも分かり、安い初期投資で高い効果が得られることから他の地域でも導入されることになった。 こうして、毎年冬が近づくと野生のゆっくりと養殖のゆっくりによる殺し合いが森の各地で行われることになったのである。 完- かれこれ何年ぶりの投稿でしょうか。 何年か前に途中まで書いた作品を、今日終わりまで書き足して投稿しました。 witten by 御湯栗 過去の作品 http //www26.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/4035.html#id_dd2fb33a
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/788.html
※一部東方やゆっくりと関係の無いものを使っています。申し訳ありません。 一日の勤めを終え、自宅への道のりを歩いた時、ふと私はそれを発見した。 ゆっくりの家族だ。 西瓜程の大きさを持つ親れいむと親まりさ。 それに子れいむと子まりさがそれぞれ二匹ずつの、計六匹の一家だった。 既に日が沈んだ夜。 人間の時間が終わり妖怪の時間になろうかという時間。 一体何をしているのかと近づいてみれば、どうやら畑の野菜を狙っているようだった。 人間に気づかれないように気配を殺しているつもりなのか 「そろ~り、そろ~り」 などと間抜けにも口に出しながら歩いていた。 人間に気づかれないようにしているとは、このゆっくり達は人間の怖さを知っているのか。 私はゆっくり達の進行方向先へ視線を向け……嘆息した。 そこは私が子供の頃から知っているおじさんの家だった。 おじさんは家屋のすぐ隣に畑を作って野菜を育てているのだ。 「ゆっ、ついたよ。おいしいおやさいをおなかいっぱいたべようね」 「しずかにしなきゃだめだよ。にんげんにきづかれちゃうからね」 一家が畑に辿り着いた時、親まりさと親れいむが後続のゆっくり達に囁きかけた。 囁くといっても、二十歩も後方にいる私(ゆっくり達はどうやら私には気づいていないようだった)にすら聞こえるほどだったが。 だが日が沈んでもう家の中にいるおじさんには聞こえなかったろう。 「ゆっ、ゆっくりちずかにちゅるよ」 「れいみゅはいいこだもん」 「たべられなかったびゅんはおうちにもってかえりょうね」 親の言いつけどうり静かな声で返す子ゆっくり達。 親のいいつけを守る、随分といい子じゃないか。 しかしこのままではおじさんの野菜が食べられてしまう。 あのおじさんの作った野菜はおいしい。食べたらまさに「しあわせ~」だろう。 だが私は、ゆっくりの「しあわせ~」など糞喰らえだ。 私は最後尾の子ゆっくりれいむに狙いを定めた。 私はその中に潜り込むイメージを膨らませる。子ゆっくりれいむと自分の姿を重ね、皮を破る感覚を想像する。 頬にぴりぴりと電気のようなものが走る。 次の瞬間 「〝ゆっ!! ゆっくり静にちゅるよ!! みんなで美味しく人間のお野菜をちゃべようね!!〟」 一番最後尾の子ゆっくりれいむが、辺りに響き渡るほどの大声で叫んだ。 辺りに反響する子ゆっくりの声。 その響きが鎮まった時、親れいむが子ゆっくりれいむに向かって静に叫んだ。 「ゆぅぅぅぅ! なんでおっきなこえだすのぉぉ!」 「ゆっ? れいみゅおっきなこえなんだしちぇないよ? 突然怒られてわけのわからない、という反応を示す子ゆっくりれいむ。 当然だ。今のは私が言わせたのだから。 私にはちょっとした能力があった。 自分の考えていることを他人に喋らせる能力。 求聞史紀風に言えば『好きな言葉を喋らせる程度の能力』といったところか。 私はこれを『腹話術』と呼んでいるが。 人語を解すのならば人間はもちろん、妖怪や妖精だって能力の対象とすることができる。 もちろんゆっくりもだ。 そしてこの能力によって喋らされた相手はその間のことは覚えていないのだ。 「なんでうそつくの! うそつきはだいきらいだよ!」 「ゆっ、うそなんてちゅいてないよぉぉ!」 よって子ゆっくりれいむは現在自分に覚えのないことで怒られているのだ。 わけがわからないだろう。自分は喋ってもいないのに怒られているのだから。 うそをついた、ついていないの親子の問答に、他の家族まで混じり始めたその時。 バーン!! と大きな音を立てて畑の隣の家の扉が開かれた。 そして扉から飛び出してきたのは鍬を持つ家主。私のよく知るおじさんだった。 「こらぁぁぁぁぁ!! ゆっくりどもめぇぇぇ!!」 般若の形相でゆっくりの一家へと襲い掛かっていくおじさん。 当然、私がさっき叫ばせた子ゆっくりの声が聞こえたので飛び出てきたのだろう。 おじさんの姿を確認したゆっくりの親子が揃って青ざめた顔をすると、それまでの喧嘩を切り上げて一目散に逃げ出した。 「ゆゆっ、ゆっくりはやくにげるよ!」 「ゆっくりできなくなるよ!」 「ゆぶぅぅぅ、れいむのしぇいだよぉぉぉ!!」 「ゆっ、なんでしょんんなごどいうのぉぉ!!」 「れいみゅがおっきなこえだしゅからだよぉぉ!!」 「だちてないよぉぉぉ!!」 逃げながらも覚えのないことで姉妹に糾弾され涙目になる子ゆっくりれいむ。 やがて子ゆっくりれいむのすぐ前をはねていた子ゆっくりまりさが 「れいみゅのしぇいなんだかられいみゅがあしどめしてね!」 と言いながら子ゆっくりれいむを後方へ突き飛ばした。 「ゆぶぅぅぅ! なにしゅるのぉぉぉ!!」 コロコロと転がり体中泥まみれの涙まみれという酷く汚い状態になった子れいむ。 たった今自分を突き飛ばした姉妹へと恨みの視線を向けるがおじさんの事が気になるのかすぐに後ろを振り返る。 おじさんはすぐそこまで迫っていた。 「ゆ゛ぅぅぅぅ!! たぢゅげで! たぢゅげでよぉぉ!! だぢゅ────ゆぼっ!」 助けの声はおじさんの鍬で潰された。 真上から脳天へと振り下ろされた鍬によってグチャグチャになった子れいむ。 皮は無惨に潰れ、餡子は四散し眼球は勢いよく前方に飛び出て。 肉親に裏切られ、背後から最大の恐怖が迫ってくるという状況で絶望しながら死んでいったことだろう。 「れいむのあかちゃんがぁぁ!!」 「だめだよれいむ! にげないところされちゃうよ!」 「おかあしゃんにげよ!」 潰された子れいむへと駆け寄ろうとする親れいむを押しとどめ、畑から離れていくゆっくり一家。 おじさんは追っ払うことさえできればいいのか追撃はせずそのまま家の中へと戻っていった。 子ゆっくりの死骸はそのままだ。 もっとも、放っておいても蟻が勝手に片付けてくれるだろうが。 おじさんも帰り、ゆっくり一家も去っていった。 さて、私はというと────。 ゆっくり一家の後を尾行することにした。 どうせゆっくりのことだ。また別の人間の食物を狙うに違いない。 私はそのようなゆっくりの「しあわせ~」をぶち壊すため、ゆっくり一家の後方を静かに歩いていった。 間抜けなゆっくりは私に気づかない。 やがて子を失ったショックから回復したのか親れいむも大人しくなった。 ただ、流石に家族を失ったばかりだからだろうか、人里を歩く家族の口数は少なかった。 「ゆぅ……れいむのあかちゃんがぁ……」 「ゆっ、おかあしゃんきにすることないよ! あれはおっきなこえをだちたばかなれいむのしぇいなんだから!」 「そうだよ! そのばかなれいむはもうちんだんだからだいじょうぶだよ!」 「そうだよれいむ。 ほらげんきをだして、またばかなにんげんのたべものをいただこうよ!」 と、落ち込む親れいむに声をかけるのは子まりさ達と親まりさだった。 ……どうやら、落ち込んでいるのは同種のゆっくりれいむだけのようだった。 事実、子れいむを突き飛ばした子まりさを他のゆっくりまりさは糾弾していない。 親れいむと子れいむはZUN、と俯いて落ち込んでいるようだからそこまで今は気が回らないのだろう。 ぴょこぴょこと人里を闊歩するゆっくり達。 いくら日が沈んだとはいえ他の里の者に出会わないのはここが里の外れの方だからだろうか。 それとも気が早くもう飲みに行ったのか。 どちらにせよ、運良くゆっくり達は私以外の誰にも見咎められなかった。 見つかったら殺されていたことだろう。 やがて私はゆっくりより先にゆっくりの食べ物になりそうなものを見つけた。 民家縁側に干されていた柿だ。 ゆっくり達は次はこれを狙うだろう、と思って視線をゆっくり一家に戻す。 が、ゆっくり達はその柿に気づくことなくその民家の側を通り過ぎようとしていた。 いかん、このままでは今思いついた私の計画が狂ってしまう。 それを阻止するため、私は再び『腹話術』を使用した。 「〝ゆっ! お母しゃん。あそこに柿しゃんがあるよ〟」 子まりさの一体に『腹話術』をかけ思い通りの言葉を発せさせる。 子まりさのその言葉にゆっくり一家はぴたりと足を止めると、キョロキョロと辺りを見渡し始めた。 「ほんとうだ! かきしゃんがあるよ!」 やがて子れいむが柿の所在に気づく。それに続いて他のゆっくり達も柿を確認したようだ。 「あんなところにむぼうびにおいてあるなんて、あれはきっとまりさたちにたべてくれってにんげんがおいたんだよ!」 などとひどくゆっくり本位な考えをする親まりさ。 だが他のゆっくり達もその考えに異存はないとか「そうだね!」「だったらたべてあげないとかわいそうだね!」などと賛同の声をあげた。 ……まったく、呆れた屑どもだ。 私はその認識を一層強くすると、子まりさの一体に狙いを定め 「〝じゃあ柿しゃんとってきてね、お母しゃん!〟」 『腹話術』を使用した。 「ゆっ!?」 驚愕の声をあげる親れいむ。 さもありなん。てっきり他のゆっくりが取りに行くものだと思っていただろうからだ。 もちろん、それは他のゆっくり全てに共通する。 自分のために他が動くのが当たり前だと思っているのだ。 だからゆっくり達の柿を取りに行く役目の押し付け合いになる前に、私が流れを決める。 今度は子れいむに向けて『腹話術』を使う。 「〝お母しゃんなら出来るよ! がんばっちぇね!〟」 続いてもう一体の子まりさ。 「〝お母しゃんはあんなばかなれいみゅと違うもんね! ゆっくり取りに行ってね!〟」 「ゆっ、ゆっ~……」 愛しい子供達に揃って懇願され困り果てる親れいむ。 愛する子供達の願いとあっては断れないだろう。しかし怖い人間の家へと行くのは怖い。 助けを求めようと親まりさへと視線を向けるも 「〝バカな人間と違ってれいむは優秀だもん! れいむならできるよ!〟」 親まりさの口から出るのは、私の『腹話術』による私の言葉だけだった。 親れいむは親まりさから突きはなされたかのような驚愕の顔を見せるも、すぐに気をもちなおしたのか、キッと柿の方へと視線を向け、駆け出した。 「れいむがゆっくりかきさんとってくるからね! まっててね!」 勢いよく飛び出したが、もちろん人間に気づかれないように静かに這っていく親れいむ。 ゆっくり一家のいる道から縁側までは十メートル程の距離があった。 その距離を「そろ~り、そろ~り」とまたもや間抜けな声を出して這う親れいむ。 親れいむの姿を後ろから見守る他のゆっくりは「がんばっちぇね」と小声で声援を送る。 さっきの会話では親れいむ以外は意識が飛んでいて会話の一部内容を知らないはずだが、自分の都合の良い展開となっているので特に気にしていないようだ。 まさにゆっくりの餡子脳といえよう。 少しずつだが確実に縁側へと近づいていく親れいむ。 民家の明かりはついているようだから、住人は中にいるはずだが、やはり気づかないか。 ならば、次にとる手段は────。 「〝ゆっ!! 人間に気づかれなかったよ!! バカな人間だね、ゆっくり柿は頂いていくよ!!〟」 親れいむが柿のある縁側へと辿り着いた瞬間の『腹話術』。 もちろんさっき子れいむに発せさせたのと同等の大声だ。 当然 「ゆっくりかっ!!」 住民に気づかれる。 「なんでおおごえだすのでいぶぅぅぅ!!」 「おかあしゃんのばかぁぁぁぁ!!」 「やっぱりおかあしゃんもばかなんだにぇ!!」 スパーン、と障子を開き人間が現れた瞬間、大声を出した親れいむへと一斉に罵声を浴びせかけるゆっくりまりさ達。 当然れいむはそんなこと知らない。 「ゆっ、なにいってるの? れいむはおおごえなんてだして────」 踏み潰された。 死なない程度に餡子を吐き出させる見事な力加減だった。 「いだぁぁぁぁい……なんでごんなごどずるのぉぉぉ!!」 皮が変形し滝のような涙を流しながら後ろを振り返った親れいむは、後ろにいた青年を見つけ愕然とした。 「ゆっ……ゆっ……、ゆっくり……かきさんちょうだいね?」 発した言葉は恐る恐るといった感じで、できるだけ怒らせないようにとした結果だろう。 だが所詮は餡子脳。それで怒らない人間などあんまりいない。 むんず、と青年に髪をつかまれた親れいむ。 「ゆっ、ゆっ、ゆっくりはなしてね!」 パシーン! と、ゆっくりの言葉など無視する痛烈なビンタ。 右頬をはたかれたれいむはさっきよりも涙目になっていた。 「ゆぐっ……ごめんなさい、でもかき──」 パシーン! 左頬。 「ごべんなざいぃぃぃ! でもごはんたべないとれいむたち──」 バチーン! 右頬。 「ゆっ……ゆっぐりでぎ──」 バチーン! 左頬。 「おうぢがえぢ──」 バチーン! 右頬。 「ごべんなざ──」 ビターン! と痛烈に顔面から親れいむは床に叩き付けられた。 子ゆっくりなら即死だろうが親ゆっくりの弾力性なら大丈夫、死なない。 散々痛めつけられた親れいむだが 「ゆっ、ゆぐっ……」 と立ち上がろうとする。 しかし、青年はそれを許さなかった。 ドゴム! と親れいむを庭へと蹴り飛ばした。 破裂しない程度に吹っ飛ばされた親れいむは、餡子を飛び散らせながら空を舞い、地面へと落ちた。 ゆっくり一家はというと、一連の惨状をガタガタ震えながら見守っていただけだった。 だが地面へと落ちた親れいむへと歩み寄っていく青年を確認すると、親まりさが何事か子ゆっくり達に囁きかけた。 子ゆっくり達はそれを聞くと、親まりさと共にその場を駆け去っていった。 このまま青年が親れいむの許へと近づいていけば、庭の外にいる自分たちも気づかれると思ったのだろう。(道と庭がちょっとした柵があるため、しかも夜のため見難い) そんな薄情なゆっくり一家の行動に、親れいむは気づかなかった。 そんな余裕は既に無かったのだ。 「ゆぐっ……ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛っ゛ぐ……」 ボロボロになりながらもなお立ち上がろうとするが 「ゆ゙っっ!!!」 むんず、と髪を掴まれ顔面を地面へと叩き付けられる。 「も゛う゛や゛め゛でえ゛えええ!!!!」 顔面を地面につけたまま、ガリガリと家へと連れて行かれる親れいむ。 当然顔面は土や石によって削られていく。 親れいむが通った後は涙等によって濡れていた。 やがて縁側まで引きづられた親れいむは、そのまま青年に抱えられ 「い゛や゛だあああ! ゆ゛っぐり、じだいいいい!!!」 家の中へと連れ去られていった。 ピシャン、と障子が閉められ完全に親れいむの姿は見えなくなった。 それを見届けた私は、もちろん家族を放って逃げたゆっくり一家の後を追った。 つづく ───────── あとがきのようなもの 作中に出てきた『腹話術』とは、「魔王」という小説に出てくる能力です。 面白そうなので一度使ってみたかったのです。 はい、完全に自己満足です。本当に有難うございました。 他に書いたもの:ゆっくり合戦、ゆッカー、ゆっくり求聞史紀 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/115.html
最近つくられたその施設は、甘い香りで満たされていた。 「ようこそ、おいでくださりました」 年配の男が一人、立ち上がって少女を迎え入れる。 その出迎えに、少女は恐縮気味にぺこりと頭を下げた。 「すいません、ご多忙の折に無理をいってしましまして」 「いえいえ、構いませんよ」 営業用の笑顔が男の唇に浮かぶ。 「では早速ですが、先日のお約束どおり、今日はうちの施設についてご案内いたしますね」 「お願いします」 簡潔な了承を得て、男は施設の奥へと少女を伴って歩き出した。 ついていこうとする少女。 ふと、真鍮のプレートが視界に入る。 『ゆっくり加工所』 そこが、少女の目的の場所だった。 「ここが、捕獲した『ゆっくり』の貯蔵庫です」 男が背の高い柵を指差していた。 柵の隙間には、押し付けられて膨らんだ顔が並ぶ。 「ゆゆゆ……」 少女が上から覗くと、中にひしめき合う「ゆっくり霊夢」と「ゆっくり魔理沙」の一群。三十匹はいるだろうか。 これは、最近幻想郷で見かけるようになった奇矯な生き物たち。 発生源や種のあらましもまったく不明だが、よく似た顔の実在人物とは関係がないことと、中身が餡子などでできていることだけは知られていた。 幻想郷の甘いものが好きな庶民にとっては、甘味を手の届きやすい値段に押し下げた恩人たちといっていい。 そのゆっくりたちは押し込められ、柔らかい体をひしゃげながら、視線の定まらない瞳で虚空を眺めていた。 「ゆっくり?」 が、その瞳に少女の姿が映し出されるなり、一斉に騒ぎ出す。 「おねーさん、ここからだして! おなかすいたよ! おうちかえる!」 ぽろぽろと涙をこぼしながら、柵をぎしぎしと揺らすゆっくりたち。 「ここにいるのは、全て捕獲したものですか?」 「ええ、お客さんの中には天然ものがいいという方もいるので」 少女と男の会話に、ゆっくりの必死の言葉を意に介した様子はない。 「私なんぞは味にうといものですから、繁殖したものと天然ものの違いなんてわからないのですがね」 ハハハと乾いた笑い声を上げる男。 少女も、お愛想の微笑で応じる。 男は冗談が通じたことに一応の満足。 「では、次はその繁殖場面へご案内します」 「はい」 二人、ゆっくりに背を向ける。 「ゆ! ゆっくりしていってよー!!!」 柵をびりびりと震わす声も、扉を閉めるとかすれて消えていった。 「繁殖の成功と効率化は、この事業が成り立つための最大の課題でした」 しみじみと男は呟く。 男と少女の二人が並んで立つのは、背の低い柵の前。 その中には、ゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙が一匹づつ紐で結ばれて転がっている。 「最初に繁殖に成功したのは、この組み合わせです。ですが、問題がありまして」 言うなり、男は無造作に柵に手をつっこむ。 「ゆっ!?」 そのまま、二匹をわしづかみにするなり、手首をぶるぶると小刻みに振るわせ始める。 「ゆー!!! ゆー!!!」 揺すられるがまま、甲高い声を上げ始める二匹。 「ゆー、ゆー、ゆーっ!」 やがて、声がとろんと艶をはらんでいく。 男の手首がさらに激しく蠢動を重ねると、ゆっくりの口がだらしなく開かれ、赤みが濃い色彩を帯び始めた。 「ゆゆゆゆゆゆゆ」 目つきが熱を帯びたところで、男は手を止めた。 「ゆ? ……ゆっくりしていってー!!!」 切なげな声が男の手を追いかけるが、すでに男は少女と向き合っていた。 「こうやって発情させた後、二匹だけにして暗がりに放置しないと繁殖を始めないので、手間がかかる上、数を増やせないという欠点がありました」 「なるほど」 「ですが、ここで繁殖力旺盛なゆっくりアリスという新種を発見したのが事業の転機となりました。今日、ちょうどその繁殖予定日となっています」 男が部屋の奥に視線を投げると、その視線を受けた従業員らしき男が両手にゆっくりを二匹抱えて近づいてくる。 ゆっくり魔理沙より短めの金髪で、赤いヘアバンドが目を引く、珍しいゆっくりだった。 従業員は、柵の中へゆっくりアリスを放り投げる。 「ゆっくりしていってね!!!」 本能なのだろうか。 突如あらわれた同類を見るなり、ゆっくり魔理沙は大きな声でご挨拶。 だが、次の瞬間、表情が固まる。 「まっまっまっ、まりさ!!!」 弾けるように、二匹のゆっくりアリスは魔理沙の元へ。 「ゆ゛っく!?」 定番の台詞も、密着したアリスの頬に邪魔されて満足に動かない。 「ゆ゛っ……ゆ゛っゆゆっ!!!」 それでも懸命に台詞を口にしようと足掻くゆっくり魔理沙の上に、もう一匹のゆっくりアリスが容赦なくのしかかる。 もはや聞こえてくるのは、ゆっくりアリスの荒い息遣いのみ。 ほほをすりあわせて、よだれをこぼしていたアリスも、ぐいぐいと魔理沙を壁際に押さえつけて動けなくする。 壁に押し当てられた魔理沙は、苦しいのかようやく涙がぽろりとこぼれ、間近でその様子を見るはめになったゆっくり霊夢は柵の隅でガタガタと震えだす。 「い゛、い゛や゛あああ」 ゆっくりしていられない、ゆっくり魔理沙の悲鳴。 それも、アリスの声でかき消されていた。 「ゆっくりイってね!!!」 紅潮した声でそろって叫ぶアリスたち。 途端に、ぶるぶると小刻みに震えだした。 「あ、ちょうど繁殖がはじまりましたね」 こともなげに解説をはじめる男。 「もうすぐ、押さえつけられている方が白目を見開いて、裂けそうなほど口を開いた驚愕の表情で固まってしまいます。 そうなると、この個体は徐々に黒ずんで朽ちるのみですが、その頭から蔓のようなものがのび、その先に複数の同種が実ります。ゆっくりアリスの素晴らしい点は、そうなるとすぐに次にゆっくり霊夢で生殖行動を続行することですね」 手馴れた口調で説明を重ねるが、一向に少女の反応はない。 「あ、お嬢さんにはちょっと嫌な光景でしたか。申し訳ありません」 少女の肩が心持ち震えていることに気づいて、男は慌てて謝罪する。 気丈に、少女は微笑んだ。 「いえ、そのことではありません。それに、お願いしたのはこちらですから、お気遣いなく」 男は頭をかきつつ、少女の気遣いに痛み入る。その間にも「ゆっゆっ」と気ぜわしい声が聞こえていた。 「では、こちらはここで切り上げましょう。次は繁殖に成功して増産したゆっくりを使った飼育事業についてご案内します」 異存はない。 「んほおおおおおおおおおおおおお!」 切なげな絶叫が響く部屋を後にする二人だった。 男に案内されたのは、屋外の小屋だった。 いや、二階建ての家屋に等しい大きさでは小屋と言い難い。むき出し木の骨組みと、壁の代わりに金網で覆っただけの粗末なつくりは、小屋そのものではあったが。 男は、ここを厩舎と呼んだ。 「今日は曇り空なので何も覆っていませんが、この生き物は日差しに弱いので、晴天時は上にシートをかぶせています」 そんな説明を聞き流しながら少女が厩舎に近づくと、中から獣のうなり声が聞こえてきた。 「うー! うー!」 奇怪かつ陽気な声に近づいてみれば、ゆっくりの顔の両脇に蝙蝠の翼を生やした、謎の生き物がふわふわと飛んでいる。 「肉まん種の、ゆっくりれみりゃです。ご覧の通りある程度飛べるので、この厩舎は全体を金網で覆っているのですよ」 「ずいぶんと機嫌がよさそうですね」 少女の言葉のとおり、れみりゃは鼻歌が出そうなニコニコ顔で飛び回っている。 「さっき、餌のゆっくり霊夢を与えたからでしょう」 「ゆっくりを?」 「ええ、出荷間近なのでゆっくり霊夢を餌に与えています。味がよくなるとのことで。れみりゃは高級食材などで引く手あまたですから、十分元がとれるといわけです」 なるほど、少女はれみりゃの毛並みの良さの理由がなんとなくわかった。 「大切に育てられているのですね」 「ええ、肉の質を高めるために運動も欠かさずやっています」 男の言葉が合図だったかのように、突然れみりゃが動きを止めた。 れみりゃの視線の先には、れみりゃよりも一回り小さな金髪のゆっくりが一匹。異様さでは類を見ないゆっくりだった。 翼らしきものはあったが、宝石を並べたような代物。瞳は見開いた真紅。 「ゆっくりフランです。」 男にその名を紹介された異種は、れみりゃの周りを満面の笑みで飛び回る。 れみりゃもあどけない笑顔で向き合ってはしゃぎまわっていた。 傍目には、仲睦まじい姉妹かナニカのように見えるのだが。 しかし、それは突然だった。 「ゆっくりしね!!!」 フランの口から拳のようなものが伸び、れみりゃの顔面中央に突きささる。 その拳に顔面をへこまされたれみりゃは呆然と身動き一つしない。 拳がフランの口に戻ってから、ようやくぽろぽろぽろと、とめどなく流れる涙。 「……! ……!!」 口は嗚咽にゆがんで、動転を言葉にする術を知らぬよう。 「うー! うー!」 ただ一匹、フランのみが楽しげに笑っていた。 フランは、再びれみりゃの正面に向きなおる。 「うあー! うあー!」 泣きながら逃げ回るしかないれみりゃ。 「ご覧の通り、なぜかフラン種の方が強いので、フランにはれみりゃを追っかけ回す役をさせています。他にもれみりゃの誘導など、とても助かる存在ですよ」 「牧羊犬みたいなものですか」 少女の言葉に、我が意を得たりといいたげな男の微笑み。 「さて、お次は最後。ゆっくり霊夢、魔理沙からの餡子の回収方法です」 ついにその時がきた。 少女は腕に抱えるそれをぎゅうと抱きしめる。 遠めにもわかる、巨大なゆっくりが部屋の中央の檻に鎮座していた。 その体躯は、高さだけでも少女の背を越していた。 横幅も広く、その重量は計り知れない。 「あれが、巨大種。ゆっくりレティです」 ぷっくりと膨らんだその生物を、男は指差す。 「雑食性ではゆっくりユユコに及びませんが、許容量ではゆっくり一でしょう」 この巨体を前に、男の声は説得力に満ち溢れている。頷くしかない少女。 ゆっくりレティは眠っているのか、目を閉じてくうくうと静かな呼吸音を奏でていた。 遠目には可愛らしいのだが、巨体の異様さは拭いがたい。 「今、先ほどの食料を消化中なのでしょう。そろそろ、お腹が空いて起きる頃です。ちょっとお待ちください」 その言葉を残して、男が部屋から姿を消す。 しばらくして、男はゆっくり霊夢を一匹抱えて戻ってきた。 「おじさん、今日もゆっくりしようね!!!」 その言葉と、黙って抱えられている様子に、ゆっくり霊夢の男への信頼が伺える。 恐らく、その無垢な信頼感は繁殖から育てたゆえだろう。 推察を重ねる少女へ、男は静かに語りかけてきた。 「では始めますよ」 少女の頷きを確認するなり、レティの檻に放り投げられるゆっくり霊夢。 「ゆっ、ゆっくり!?」 遠ざかっていく、ゆっくり霊夢の驚愕の表情。 レティの体躯にあたり、ぽよんとはねて転がる。 同時にのっそりと動き出すレティ。 「ゆゆゆゆゆゆっくりしていってね!!!」 一目散に檻の入り口へ。 しかし。 「早く扉を開けてね!!! 」 すでに男によってロックされた後だった。 地面が揺れる。 ゆっくりレティが飛び跳ねながら近づいてきていた。 「おじさん! ここから出して! もっと、ゆっぐりじだい゛いいいい!!!」 「レティ種は鈍重なので扱いやすいのが利点となります」 扉越しの哀願も、男の穏やかな眼差しを動かすことはできない。 やがて、ゆっくり霊夢の上に差す巨大な影。 レティが、真後ろにいた。 ゆっくり霊夢の顔がくしゃくしゃに歪むのと同時に、開けっ放しのレティの口から分厚い舌がのびる。 霊夢は瞬時に舌に巻き取られた。 「ゆっくりした結果がこれだよ!!!」 悲しげな絶叫を残して、ぺろんとレティの口の中へ。 少女は見た。 飲み込もうとしたレティの口の中にうごめく、何匹ものゆっくりたちを。 レティのベロに抑えられて身動きもできず、滂沱の涙を流して視線を男に向けている。 「レティ種は、リスのように食べきれない分を頬に貯蔵して蓄える癖があるんです。最長で二週間は保存されていますね」 ゆっくりたちの視線に、男は興味を示さない。少女に自らの事業を説明することの方に傾注している。 「餡子の回収は、レティが熟睡した後に、後ろに穴をあけて搾り出します。定量を絞ったら、塞いでまたゆっくりを与えるのです。秘伝のタレを継ぎ足し、継ぎ足し使っている焼き鳥屋を思い浮かべてください」 言われてみれば、寝床に戻るレティの後頭部に隆起部分が。 「ちなみに、一度レティ種に消化させることで、甘味がまろやかになって質がよくなることと、混ざり合うことでの品質の均一化が図れます。生産者にとって大切なことは、量産性と高品質、そしてその維持です。このシステム構築は、私の ゆっくり業者としての矜持なのですよ」 誇らしげな男の言葉が少女の印象に強く残っていた。 職業人魂。 男の言葉を、少女は強く理解できる。 なぜなら、自分も人形という分野で職人的な魂に触れているからかもしらない。 そう。少女は、アリスだった。 可憐な彼女には場違いなその加工所を後にしたアリスは、夕焼けの空に時間の経過を知る。 「今日はずいぶんと大人しかったわね」 一息ついて、見学の間中、両手に抱えていたソレに今日初めて話しかける。 「それにしても、いいお話が聞けたわ、魔理沙」 アリスの腕の中でぶるぶる震えているその生き物は、正確には魔理沙ではない。 数ヶ月前、魔法の森で捕まえたゆっくり魔理沙だった。 「でも、今から震えてどうするの? 魔理沙をあそこに預けるのは、明日よ」 アリスの真顔に、冗談のニュアンスは欠片もない。 「い゛や゛あ……」 ゆっくり魔理沙からこぼれる弱弱しい悲鳴を聞きつけて、アリスは嬉しげな顔を紅潮させる。 「だって、私があんなに優しくしてあげているのに、あなたは逃げ出そうとするんですもの」 言いながら、息も荒くなる。 「だったら、あそこでゆっくりしていってもらうだけよ」 「い゛や゛だあああ! ゆ゛っぐり、じだくない、じだぐないよおおおお!」 「あらあら、ゆっくりにあるまじき言葉ね」 涙やらなにやらで醜く濁ったゆっくりの言葉を、恍惚の表情でまぜかえすアリス。 「どうしても嫌だというのなら、仕方ないわね。その代わり、わかっているかしら?」 「うん! つねったり、踏んだり、……しても、いいから!」 しゃくりあげながらのゆっくり魔理沙を、アリスは一転して慈母の笑みで見つめる。 ぎゅうと、愛情をこめて抱きしめつつ話しかける。 「そこは『いいんだぜ』にしなさい」 「わっ、わかったぜ!!!」 「ああ、本当に可愛い、魔理沙!」 宵闇が迫る夕べを背景に、一つに重なる影。 何やら、それなりに幸せそうな一人と一匹であった。