約 149,886 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5666.html
前ページ次ページ虚無と金の卵 ルイズが学院に入学してから身に付けた癖――魔法の練習を人目に晒すのを徹底的に避ける。 練習のたびに、魔法が出来ない自分をまざまざと自覚するためであった。 そして虚無の曜日にも魔法の練習に励むルイズであったが、結果はいつも通り、無しのつぶてであった。 「はぁ……まったく、今日も成功しなかったわ」 だが、珍しく声色に徒労感を滲ませていない。 明日また頑張ろう――そんな気楽さが入り混じっていた。 ルイズは努力家である。そして努力の積み重ねの結果、数限りない失敗を冒す。 他のメイジの、自分の失敗に対する反応=嘲笑、揶揄、あるいは落胆――今まで、他の貴族の視線は目に見えぬ病いのように、 常にルイズを脅かしていた。 だがルイズは、ウフコックを召喚してからは、さほど気にしなくなっていた。 自分の魔法への執着――無能である自分への歯噛みするような悔しさと、何かを成し遂げたいという渾身の思い。 ウフコックにはそんな自分の感情が嗅ぎ取られている――そして、それを肯定してくれている。 ルイズは変わりつつあった。 余裕ができた、と見る人間が居た。確かに、学院に入学した頃のような針鼠の如き刺々しさは明らかに減っていた。 怒るようになった、と見る人間も居た。確かに、ウフコックに安易に頼る人間に対して怒る場面が増えた。 これまでルイズは癇癪を起こしたり、侮辱や侮蔑に反撃することはあっても、他人のために怒ることはあまり無かった。 光明が差した――あるいは、そういっても過言ではない。 誰よりも小さい体ながら強力な能力を持ち、そして決して驕らず、自己の在り方を問い続けるウフコック。 ルイズは言葉にすることはなかったが、真摯なその姿に胸を打たれた。 自分とウフコックは性格など全く違う。それ以前に生まれも何もかもが違う。 だが、これこそと信じるに足る貴族の姿――ルイズは、その輪郭をウフコックに見ていた。 その彼が自分を肯定し、側に居てくれている。 自分が貴族であろうと思う限り、ルイズはウフコックに何も隠す必要は無かった。 そして自分が貴族足り得ることに執着し、無駄とも思えるほどの努力を繰り返す自分を、心の何処かで受け入れつつあった。 だから今だけは、地べたを這おう。自分の昇るべき正しい階段を見出し、見上げることから始めよう――ルイズは、そう思い始めていた。 だが、努力が実らないことに落胆をしないわけではないし、人恋しいときもある。 せっかくの虚無の曜日の午後、気分転換にウフコックと一緒に街へでも出かけてみようか。そんなことを思い、自室の扉を開く。 「ウフコック、帰ったわよ。今日はちょっと街に出かけま……あれ?」 だがそこにウフコックの姿は無い。 あったのはネズミの手による律儀で下手糞な字の書置き。 『キュルケの部屋に招かれた』 ウフコックを召喚してから得た平穏の日々で、久しぶりに食らう肩透かし感――歴史的とも言える、公爵家へのツェルプストーの横槍。 ツェルプストーのキュルケがウフコックを呼び出す理由がマトモであるはずもなく、ルイズの予感は概ね当たっていた。 一目散にルイズは、キュルケの自室の扉を蹴破るが如き勢いで入り込んできた。 「あら、ヴァリエール。私の部屋に来るなんて珍しいわね。貴女も混ざる? 盛り上がってるわよ」 「虚無の曜日だってのに何を不健康な遊びしてるのよ、ツェルプストー」 キュルケ――ひらひらとカードをもてあそぶ余裕の表情/タバサ――普段通りの無関心の仮面/ ウフコック――びくりと震え、開けたた場所へ姿をさらしてしまった鼠の如く、たじろいでいる――もはや条件反射。 「キュルケ……カジノとか言ったわね。私の許可無く使い魔を唆さないでほしいわ」 「じゃあ一応聞くけど、いいわよね?」「ダメよ」 ルイズの怒りに満ちた拒絶も気に留めず、しなだれかかるようにキュルケは部屋の奥へとルイズを連れ込む。 「ちょ、ちょっと何すんのよ」 「金持ちからは巻き上げるけど、貧乏な振りをすればそこそこ稼げるって噂なのよ。 ねーえ、ルイズ? 貴女だって稼いでくればお家のためになるわよ?」 「イ・ヤ・よ! 第一、博打で財を為したってウチの実家じゃそんなの認められないんだから。 第一、他人の使い魔を巻き込まないでほしいわ!」 「良いじゃないのよー。溢れる才能を埋もれさせる方が罪よ?」 ウフコックの活躍の場を与えてやれているか――ルイズの頭に一瞬過ぎる。だがかぶりを振って反論を続けた。 「だとしてもね、そんな俗っぽいことに連れてってウフコックがグレたらどうするのよ! そもそも、使い魔をカジノに入れられるワケないでしょ」 「……いや、あまりグレるとかは心配してくれなくとも良いんだが、まあルイズの指摘は最もだろう。 動物を連れ込めるカジノなんてあるのか?」 ウフコックが冷静に指摘する。 「それに、念のため言っておくが……カードやサイコロに化ける、というのは無しだ」 キュルケは、あらら、と言葉を零す。内心考えていたことが暴露され視線を逸らした。 「個人的な利益のためにイカサマするつもりは無い。それはノーだ。 利己的な目的で社会に実害を与えるような行為に手を染めてしまったら、俺自身、俺を許せない。 それにカジノのような場所でイカサマが暴露されたら君らの身分や命を危険に晒してしまう。 この国のカジノについて詳しくはないが、決して子供の悪戯で済ませるような穏便な場所では無いだろう?」 「そうよそうよ! ウフコックにそんな卑怯な真似をさせないでくれる?」 「うーん……じゃあ、手袋とかネックレスに化けるなんてどうかしら。 私、ウフコックの人を見る目がとっても凄いと思うのよ。 だから、ウフコックはこっそり小物とかに化けてタバサに助言するの。助言するだけよ。 もしそれでも駄目って言うなら、稼がせてくれそうなディーラーを探すのを、ほんのちょーっと手伝ってもらうだけでも良いわ。 どう?」 「……あんたとウフコック、引き合わせないが良かったわ」 悪用法ばかり思いつくキュルケに、がくりとルイズは肩を落とす。 何より嫌なのは、恐らく、いや、確実に効果を上げてしまいそうなところであった。 タバサは魔法であれ何であれ勝負強いのは噂に聞いていた。だが、キュルケは別の意味で勝ちを拾うのが上手い。 ルイズは、公爵家に連綿と渡る対抗心を感じずにはいられなかった。 「儲かったら3割、いえ4割は分配するわよ。ねぇ、良いでしょ?」 「だから、ダ・メ!」 「ヴァリエールは本当に頭が固いわね……せっかくギーシュとの喧嘩、秘密にしておいてあげてるのに」 「うっ……」 キュルケが唇を尖らせる。痛いところを付いてきた、とルイズは思う。 少なくとも気付く人は気付く。ウフコックの反転変身/ターンは、実際のところ変化とも錬金とも一線を画すことを。 この場にいるタバサとキュルケは気付きつつ、敢えてそれを吹聴もしていない。 実際のところはオスマンが抑えているとはいえ、コルベールのような学者肌の人間がウフコックに近づいていないことが、 何よりの証拠であった。 「それじゃあこうしましょう、ルイズ」 「何よ?」 「魔法学園の生徒らしく、揉めたら魔法で決めましょう?」 魔法学院の堅牢な本塔に吊り下げられた、決してこの学院とは相容れないデザインの木札。 敢えて言うならば、抽象的な人型の切り抜き/顔と心臓の位置に「ここを撃て」と自己主張する同心円状のマーク――明らかに射撃訓練用のターゲット。 「……なんだか物騒なデザインねぇ」 「文句言うんじゃないわよ、せっかく変身させてあげたんだから」 キュルケの発案で、3人と1匹は魔法学院の中庭に到着していた。 さらに加えれば、タバサが使い魔のシルフィードを呼びよせていた。 今、彼女らが見上げるターゲットは、ウフコックがターンして作ったものである。 タバサはシルフィードに乗って学院の屋根まで移動し、そのターゲットをロープにひっかけて釣り降ろした。 ウフコックはターゲットに変身し吊り下げられたまま、中庭でやり取りする人間達を不安げに見守っている。 だが対決に挑む当の二人にそんな思いは全く伝わっていなかった。 一人は楽しげに、一人は怒り心頭のまま話をしていた。 「さーて、それじゃあ説明するわよ」 気を取り直して、キュルケはルイズ向かって言った。 「ルールは単純。あのウフコックが用意した的を、屋根に居るタバサが揺らすわ。 揺れ動いている的を、魔法で撃ち抜いた方が勝ち。 で、私が勝ったら、ここにいる皆は楽しい楽しいカジノ旅行。 ルイズが勝ったら、ここにいる皆はいつも通り学院でお留守番」 「……何かすごく引っ掛かる言い方だけど……っていうか私も入ってるの!?」 「あら、心外ね。ヴァリエールだからって仲間外れになんてしないわよ。 それに使い魔を放っておいて寮で留守番してるつもり?」 「ぐ……そ、それもそうよね」 ルイズは苦虫を潰すような顔で頷く。 「まあまあ、カジノ、楽しいわよー。ルイズもそろそろ大人の社交界デビューしなきゃ! それにねぇ、ディーラーが平民だけど、もの凄ぉーく格好良いのよ!」 「カジノの何処が社交会なのよ……で、ルールはそれだけ?」 「もう、ノリ悪いわね。それじゃあ説明続けるわよ。 使って良いのは魔法だけ。属性・種類は何でも良し。とにかく魔法であの的を撃てればその時点で勝負は終わり。 それだけよ」 「……ええ」 「あ、そうそう、あんたが先攻で良いわ。そのぐらいはハンデよ。それじゃあ始めましょうか」 「わかったわ」 ルイズは頷く。 そして杖を構え、それを見た屋上のタバサが的を降り始めた。 タバサを中心として扇型の軌跡を描いて的が揺れる。時折強風が吹くらしく、的は不確定な揺らぎを見せていた。 距離にして20メイル以上は離れている。動きも時折予測不可能となる。 だがそれ以前のルイズの問題――魔法が当たる、当たらない以前に、そもそも魔法が成功するのか。 だが魔法で勝負しろなどと言われて黙って引き下がることはルイズの選択肢に存在するか――全力で否。 むしろ、自分を対決者として認め、焚き付けて来たキュルケに感謝すら感じている。 外へ飛び立つには、殻を突き破る強い意志が必要なのだ。 もし自分が火の属性に目覚めたら、親愛と感謝を込めてキュルケに火球を食らわせてやろうとルイズは決意した。 集中――内心の毒づきも苛立ちも抑え、ルイズはルーンを唱える。 ファイアボールの呪文。成功すれば杖先から火の球が迸るはずである。 詠唱完了。ルイズは気合を込めて杖を振り下ろす。 ――案の定、火の球が出ることはなく、タバサが揺らす標的の後ろの壁が爆発。本塔の堅牢な壁にひび割れを作る。 爆風はロープを揺らした程度で治まり、また何事も無かったように的ははためいている。 「あっはっは! ロープじゃなくて壁を狙ってどうするのよ! ゼロのルイズ!」 「ううう、うるさいわねっ! ちょっと狙い外したくらいじゃないの!」 「あー、おかしい。ちょ、ちょっと笑いが止まるまで待って……」 「こ、この……!」 けたけたと笑うキュルケ/杖でぶん殴ってやろうとすらルイズは思ったが、勝負に水を指す行為に手を染めるのを、 何とか理性で持って押し留めた。 「こほん、それじゃあ私の番よね」 腹を抱えて笑っていたキュルケだったが、平静を取り戻して集中してルーンを唱える。 杖を構える手つきも、唱えるルーンも、手馴れた鮮やかなもの――そして詠唱の完了。間違いようの無い魔法の成功。 杖先から出たファイアボールがひゅんと音を立てつつ無駄の無い軌跡を描き、あっけなく標的の中心を貫く。 「さて、私の勝ちよね! 優勝商品はガリア旅行、カジノの旅! ってとこかしら?」 「……そうよ、私の負けよ……はぁ……」 キュルケは勝ち誇り、笑い声をあげる。 ルイズはがくりと肩を落とし、草をむしり始めた。 ルイズとキュルケが対決を始める前。サンクでウフコックが猛威を振るっていた丁度その頃。 ――フーケは、宝物庫の壁を丹念に調べていた。 調べれば調べるほど隙の無さを感じる。 フーケは、オスマンの飄々とした顔が憎らしくなる程、メイジとしての手強さを思い知っていた。 落胆しつつあったその頃、ルイズ達が口喧嘩でもするような勢いで中庭にやってきた。 ルイズ達の気配を察してフーケは壁からさっと飛び降り、そして本塔の側の茂みに身を潜める。 そのまま、ルイズとキュルケの対決の一部始終を見守り、その対決の最中の奇妙な現象を目の当たりにした。 「何なのあの魔法……? あの壁にヒビを入れるなんて……」 フーケの耳に届いたのは、ファイアボールのルーンを唱えるルイズの声であった。 だが火の球は出ずに、ただ壁を爆破し、宝物庫のある辺りの壁にヒビを作る。 爆発――どの系統にも、あのような魔法はフーケの記憶に存在していなかった。 しかも効果範囲こそ狭いが、『固定化』された石壁を穿つ程の威力の爆発。 トリステインの様々なメイジを相手し、様々な手練手管を知ったフーケ自身が違和感を持つほど、奇妙な出来事であった。 しばらく考え込んでいたフーケだが、はっと気付く。 始祖ブリミルに感謝したくなるほどの僥倖――まさに今日というタイミングで奇跡が起きたのだ。 「っと、教師どもの癖がうつったかしら。詮索は後回し、絶好の機会には違いないね……!」 フーケはほくそ笑み、詠唱を始めた。 長い詠唱の末、地面に向かって杖を振り下ろす。 フーケの歓喜に応じるように、土が盛り上がり始める。恐らく、重さに換算してゆうに数10トンはあるだろう。 『土くれ』の本領が今、発揮されようとしている。 火球の一撃で木っ端微塵となったターゲットの破片が、蠢くように歪む。物体の表と裏がひっくり返る。 そこに現れる黄金色のネズミ――即ちウフコック。 「やれやれ……ルイズに勝ってもらいたかったところだが、仕方が無いな」 変身後、どんな破片からも元に戻れるウフコックは、ターンした状態で破壊されようと何ら問題無い。 火球の一撃など気にするわけもない。 そんなことよりも、悔しさを滲ませて肩を落とすルイズを慰めてやらねば、それにカジノではどう振舞っておこうか――。 そんな心配を患いながら、てくてくと二足歩行でルイズの元へ歩いていた。 丁度その瞬間。 全くの他人の意思の匂いがウフコックの鼻に届く。 突き刺すような匂い/人が武器を携えて動く瞬間の、決意に満ちたソリッドな匂い。 「……誰だ!?」 言った瞬間、ウフコックの目に映ったのは二本の巨大な柱であった。 柱が震え、持ち上がる――そしてようやく気付く。壁などではない。見えていたのは人型の下半身であり、柱と思ったのは脚である。 小さなネズミの眼には気付かぬほどの巨体。 同時にキュルケ達も気付いて悲鳴を上げる。 「な、何よこれ!」 「きゃあああ!」 そこに居たのは、爪先から頭まで30メイル程にも達しようとするゴーレムであった。 明らかにトライアングル以上の練達のメイジによるゴーレム。地響きを立てて歩み寄ってくる。 そのゴーレムの到達点――明らかに魔法学院の本塔。 そのゴーレムの中間点――ターンを解除したばかりのウフコック。 危ない――ウフコックがそう思った瞬間、駆け出してくるルイズの姿が目に止まった。 「まずい! 来るな、ルイズ!」 ウフコックは叫んだ。 だがもはや後には引けない距離であり、ルイズは後に退かない貴族である。 ゴーレムの巨体で太陽が翳る。ウフコックも、ルイズも、その巨大な影に抱擁された。 「行かないわけがないでしょうっ!」 「くっ……仕方ないっ!」 そして頭上にゴーレムの脚が迫る。 無慈悲に、無関心に――人が足元の虫に気付かぬように、ゴーレムは一人と一匹を踏み潰す。 学院を震わせる轟音。 完全に潰れた。その場にいた誰もがそう思った瞬間、ゴーレムの足元から卵状の物体が転がり出る。 咄嗟のウフコックのターン/摩擦係数を極端に減らした表面/衝撃を分散させる卵型の防壁でルイズを包む。 防壁はゴーレムの押し潰されることなく真横に滑り出る。 ウフコックは外の安全を確認し、卵が割れるようにターンを解除。ルイズがふらふらと現れる。 重篤な怪我――無し。 軽微な損害――乗り物酔い。 「大丈夫か、ルイズ!?」 「う、うう……吐きそう……っていうか吐く……。どうなったの……?」 「生きている、怪我も無い! だからさっさと逃げるぞ!」 朦朧としたルイズの耳元でウフコックはまくしたて、同時にタバサとキュルケを乗せたシルフィードが滑空し降りてくる。 「逃げるわよ! 早く!」 キュルケはルイズを掴んで引っ張り上げる。 タバサは地面スレスレまで風竜を降下させるが、キュルケがルイズを確保したのを確認し着地もさせず強引に急上昇。 ゴーレムの手の届かない範囲まで即座に離脱――さらに目を回すルイズ。 「ああ、焦った……って、ルイズ、大丈夫? ちょっと!」 「いや、大丈夫だ。踏まれそうになった衝撃でショックを受けているが、怪我は負っていない」 「う、ええ……助かったのね、私達」 「ああ。もう大丈夫だ」 渋みのあるウフコックの声を聞いて、ルイズは少しずつ平静を取り戻す。 「しかし、無茶をしないでくれ……。俺はターンしてしまえば破壊されようが問題無いんだ」 「……あ」 ルイズはそのことが頭から抜けていたらしく、間の抜けた声を上げる。 「と、咄嗟のことだから良いじゃないのよ! 大体、使い魔を見捨てるようなメイジはメイジじゃないわ!」 「……そうか。だが、来てくれて嬉しかったよ。ありがとう」 馬鹿ね、当然よ、と小さく呟いて、ルイズはそっぽを向く。 喜びと安堵――ウフコックは、ルイズが放つ感情に安らぎを抱く。 「お二人さん、仲良いところ悪いんだけども」 キュルケが溜息混じりにルイズ達に話しかけ、ゴーレムを指差した。 「あのゴーレム、どうやら宝物庫が狙いらしいわね。こっちは全然どうでも良さそう。 助かったのは良いけど……何だか大事になりそうねぇ」 やっとの思いで到達した宝物庫に、フーケは笑みが零れるのを隠せなかった。 風竜やキュルケが逃げ惑っている姿をフーケは見たが、この距離ならばフードで十分に顔は隠れている。顔を覚えられることはない。 それに多少近い距離だとしても、しばらく学院長の秘書をしていたという顔と実績がある。 早々バレはしないとフーケは踏んでいた。 魔法でゴーレムを練成してからは足元にも特に気を払わず、一直線に宝物庫を目指した。 フーケは目的の宝物庫へ向けて、ゴーレムの拳を鉄に変質させ、殴らせる――手応えあり。拳が壁にめり込む。 ヒビが入ったとは即ち、固定化が解けたということ。そのフーケの想定は間違いなく当たり、壁には人が難なく通れる程度の穴が空いた。 ゴーレムの腕を駆けるようにして伝い、穴から宝物庫へ侵入。 狙うはトリステイン魔法学院の宝物の中でも異彩を放つ『破壊の杖』。 フーケは迷わずに、様々な杖が収められたエリアを目指す――無い。 コルベールから聞き出した奇妙な形状の杖を見紛うとはフーケには思えなかった。 フーケは宝物庫を荒らすように探す。 箒のエリア――無し。刀剣のエリア――無し。装飾品・小物のエリア――影も形も無し。ガーゴイルのエリア――当然無し。 分類不可の宝物のエリア――どれもフーケ好みの珍品揃い。ただし目的の品は無し。 フーケは足早に見回り、とうとう宝物庫の本来の出入り口付近にまで到達してしまう。 諦めかけた瞬間、そこに宝物の目録らしき紙束が置かれた机を発見する。 いや、目録だけではない。所蔵や持出しの履歴も管理されているようだ。 何枚かは紙質が新しく、最近書かれたものらしい。フーケの悪い予感――机の一番上の一枚を手にとり、内容を検める。 曰く。 『<トリステイン魔法学院 宝物庫所蔵マジックアイテム持出し申請書> ~ 召喚儀式における調査のため、借用を申請します。 調査目的の正当性について、また調査内容の詳細については別添の資料を参照願います。 借用対象:破壊の杖(1挺) 申請者 :ジャン・コルベール 上記の者への貸与を特別に認める。 ただし、 (1)取り扱いの際は十分に気を付け、返却期日を厳守すること (2)調査報告書を添付の上、返却すること 以上を命じる。 承認者 :トリステイン魔法学院 学院長オスマン ~』 「……あんのコッパゲとエロジジイがああぁっ!」 美人秘書の肩書きなどかなぐり捨てるような罵声を上げ、激情のあまり机を蹴り飛ばす。 杖のエリアにて、確かに何か持ち出されたような空白の棚があったのをフーケは思い出した。 「ぐっ……こうなったら行きかけの駄賃でも貰っておかないと、腹の虫が治まりやしない……!」 巷を騒がせる怪盗らしからぬ雑な仕事ぶりに、フーケは気が滅入ってくる。 少しなりとも役立ちそうな宝物を幾つか選び、フーケは自分の作った穴から脱出する。 そして去る前に杖を振って壁に声明を残した。 『眠りの鐘、確かに領収致しました 土くれのフーケ』 外では風竜が飛び回っていたが、フーケは敢えて逃げることに専念する。 ゴーレムの肩に戻り、学院本塔から離れた。 魔法学院から大分離れた場所に存在する、うっそうとした森の中、隠れ家にするつもりの無人の廃屋を目指す。 フーケは、追っ手が無いことを確認したところでゴーレムの魔法を解いて土に還し、目当ての廃屋まで森の中を歩く。 そして廃屋にたどり着いたところで、羽織っていた黒いローブなど目立つものを廃屋に手早く隠した。 「さて、と……このまま引き下がるのも癪だね。次の手を考えようじゃないか」 フーケは何事も無かったかのようにミス・ロングビルの仮面を被り直した。 前ページ次ページ虚無と金の卵 以下、小ネタにもならないNG集(第一章7話) * 学院を震わせる轟音。 完全に潰れた。その場にいた誰もがそう思った瞬間、ゴーレムの足元から卵状の物体が転がり出る。 咄嗟のウフコックのターン/摩擦係数を極端に減らした表面/衝撃を分散させる卵型の防壁でルイズを包む。 防壁はゴーレムの押し潰されることなく真横に滑り出る。 ウフコックは外の安全を確認し、卵が割れるようにターンを解除。 中からルイズがふらふらと――現れることはなかった。 ルイズと全く同じマントにブラウス、スカート――ルイズと全く異なる顔/髪型/性別。 ややのんびりとした印象の男が転がり出てきた。 重篤な怪我――無し。 軽微な損害――乗り物酔いと変身の解除。 「ああ、全く、目が回っちまうだよ……」 「どあほ、レイニー! まだカメラ回ってんだぞ! カットだ、カット! フーケ! 壁を殴んな!」 「ええ、聞いてねぇだよ兄弟!」 すぐ側の茂みに潜んでいた別の男がやおら姿を現し、明瞭かつ大きすぎる声でルイズの格好をした男を怒鳴る。 また、ルイズの格好の男から発せられた声は、勿論お世辞にもルイズの声とは似ても似付かぬ、朴訥で舌足らずな男性の声。 この二人、レイニー・サンドマン&ワイズ・キナード――元斥候兵&元通信兵。 ウフコック達と共に、09法案の執行者となったメンバーである。 「あら。演技派のレイニーがNGって珍しいわねー」 シルフィードにのったタバサとキュルケが上空から降りてきた。 やれやれと言った感じで、タバサやフーケなどの出演者やスタッフがレイニーを冷やかす。 「すまねぇだ。でも、危ないシーンだけ呼ばれて代理でスタントするのは、ちょっと納得がいかねえだよ」 「仕方ねぇだろ。大体、出演できない連中や、外見だけで放送コードに引っ掛かる連中がうじゃうじゃ居るんだ。 役があるだけでも満足しやがれ、ってことさ」 「それもそうだなぁ……」 レイニーは、ルイズの格好のまま、ぼやきつつも表情を引き締める。 いや、表情だけではない――輪郭/まぶた/髪の色と長さ/体格と身長など、諸々の外的特徴が一瞬で変化する。 そこに居たのは、まさしくルイズであった。 ”砂男”レイニー。粒子状に変化する皮膚・筋肉の持ち主。腕や脚の太さ、背の高さすらも操作が可能。 また、さらに人口声帯で様々な声色を再現。 あらゆる人間へと変身する、頼れる元斥候兵であった。 「気を取り直して、もう一回撮影行くわよ!」 完璧なまでの釘宮ボイスが学院の中庭に響き渡った。 * 前ページ次ページ虚無と金の卵
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5906.html
前ページ次ページ虚無と金の卵 朝もやも晴れないほど早い時間。 ルイズは一人で馬に鞍を付け、学院を発つ準備に取り掛かっていた。 眠い目をこすりつつ、一人で馬具や旅支度を整えている。 「なあ、ルイズ……。何故断ったんだ?」 「何が?」 「護衛を付けてくれるという話だ」 昨晩のアンリエッタの相談を受けて、ウェールズ宛の手紙を受け取った後、 「信頼できる護衛を呼びますから、昼まで出立は待つように」という言葉をルイズは貰っていた。 だがルイズは、時は一刻を争うと言い張って護衛を付けることを固辞し、早朝から出立することとしていた。 「むしろ少しでも急いだ方が安全よ。護衛の一人くらい、メイジどうしの戦いじゃ意味なんてないじゃない」 「だが、アルビオンに行くには港町に寄って船に乗るのだろう? 多少の誤差ならば、結局船を待つ時間で消化されてしまう」 「でも、悠長に待ってたら途中の旅路が危険になるし、早くラ・ロシェールについて状況を知った方が良いわ」 「確かに、可能な限り迅速に行動するべきではある。だが、自分でもわかっているのだろう? 君は、何時になく焦っている」 「……そうよ、私は焦ってるわよ。悪い!?」 ルイズは鋭く怒鳴り、それきり言葉を聴かず、無心に旅支度を整える。 ルイズは、幼少の頃から馬に親しんでいる。早い話が乗馬のベテランだ。 人に飼われたことのある馬ならば、半刻もしないうちに鼻を鳴らし顔をすり寄せるようになる。 だが、学院に備え付けの厩舎に居る、乗ったことのあるはずの馬は緊張した様子で小刻みに震えていた。 鞍を付けようとするルイズを困らせ、ルイズは悪戦苦闘している。 それ見てウフコックはやれやれと溜息をつき、宥めるような口調で話しかけた。 「……無理に聞き出すつもりは無いんだ。責めているわけでもない」 「じゃあ、何よ」 「君が今から為そうとすることは、実に価値あるものだ。他人ができることではない。 ……君はアンリエッタ姫を救う。そうだろう?」 褒めるようでいて、冷静で厳しい口調。 ルイズは口をへの字に曲げつつも、ウフコックの言葉に耳を傾ける。 「だが、誰かを救おうとする行為に埋没して迷い、自己を見失う君の姿を、俺は見たくないんだ」 「私が、自分を見失っているっていうの!?」 「そうだ。他人を救う前に、まず自分の状態を知るべきだ。自分が何者で、何を思い、何がしたくて、何をしたいのか。 そして最も大事な物は何か……それを忘れたとき、人は自棄に走る。焦げ付いて、安易な手段で代償を求める。 そうなってしまうのならば、俺は君に使われることに抵抗しなければならない」 悲しげな声色で、ウフコックは話し続ける。 「だがどんな結論に至るにせよ、それが自分自身を貫く、偽りない意志であるならば、俺は粛々と従おう。 君がアンリエッタ姫を助けたいように、俺にとって、君の抱える問題は決して他人事ではないのだから。 それが、パートナーシップというものだ」 ルイズの険しい表情がふと緩む。だが、何処か思い詰めたような有様は変わらなかった。 「……ウフコック、ごめん……心の整理が付いていないの。絶対に、後でちゃんと話す」 「気に病むことではない。それまで待っているとも」 「ありがとう。……私、今、すごく混乱しているんだと思う。でも、姫様を助けたいって気持ちが 揺らいでいるわけじゃないの。とにかく、仕事に集中したい。悩むのは、後回しにする」 「わかった。俺が最大限、君を援護しよう。……難しいとは思うが、今は与えられた職務に集中するんだ」 ウフコックは、それ以上は口にせずルイズの準備を見守った。 馬は、どことなくほっとした様子で大人しくルイズに従う。 やがて旅支度が整い、ルイズは厩舎の外へと馬を引く。 ルイズは馬の鞍の前方にウフコックを導いて乗せた頃、何気なく口を開いた。 「ところで、昨日の夜の姫様のお話の件だけど……どうして、助け船を出してくれたの?」 「ん? 助け船?」 「姫様と……ウェールズ様の件よ。余計な知識が無い方が仕事はしやすい、みたいなことを言ってたくせに、 どうして姫様に話させたのか、ってことよ」 「ああ、そのことか」 ウフコックは、自分が振り落とされないようにしがみつける場所が無いか捜していた。 腰を落ち着ける場所をあれこれと試しつつ、ルイズに答えた。 「立場や権威といった仮面を脱ぐことが許されない人間は、どんなに煌びやかでも孤独が臭う。 ま、中にはその立場や権威に合わせて個人を肥大させ、好き放題やっているふてぶてしい連中もいる。 ……だが彼女は違うように見えた。国家の責務を、我が事のように、我が物顔で扱うには経験が少なすぎる。 それならば、お忍びでやってきた一時でも、その重圧から解放してあげた方が後々のためになる、そう思ったんだ」 「それで私達が多少不利になっても?」 「そうだな。少なくとも俺達が行動する、という観点ではメリットになるまい」 それがどうしたと言わんばかりに、ウフコックは珍しく堂々と答えている。 「ではルイズは、話を聞かなかった方が良かったと思うか?」 「そんなわけないでしょう! 私達が聞かなかったら、きっと胸のうちに秘めて悩んだままだったわ。 そりゃ、姫様の事情を察して何も聞かずに解決してあげるのも、一つの信頼ではあると思う。 でも……歳の近い友達として姫様の悩みを聞いてあげられるのは、きっと私だけだったから……」 「そうだろう。君にしか出来ないことをしたのだ。それを思えば些細なメリットなど、 ゴミ箱へ丸めて投げ捨てるのに君は躊躇しないだろう?」 「うん、その通りよ。……それでこそ私の使い魔よ」 ルイズの自信に満ちた言葉に、ウフコックは渋い笑みを返す。 ルイズは思う――何故、この小さなネズミは、こんなにも優しいのだろう。 例えば馬は、ルイズが鞍を乗せるのを手間取らせたように、言葉が通じなくとも人の心の機微を悟り、そして怯える。 刺々しさや苛立ちで曇った心で馬の手綱を握ったところで、十全の力を引き出すことはできない。 だがウフコックは違った。 人のむき出しの心に触れてなお、そこに善意を見出す包容力。 か弱いネズミとして生まれたこの生き物が、何故こんな強靱な魂をもっているのか。 その小さな瞳は何を見て、何を成し遂げてきたのか。 旅立つ前の心のざわめき。痛切に使い魔の心に触れたくなる。 だが、今はウフコックの言うように、目先の仕事に集中すべきだ。 ルイズは慣れた動きで馬に跨った。 「さて、準備も整えたことだし、そろそろ行きましょう。……ウフコックはどうする? そのままだと落ちそうだし……」 「いや……そうだな、とりあえず手袋にターンしておこう。嵌めてくれるか?」 「わかったわ。そういえば、行動するときって手袋が多いわよね。癖?」 「そうだな……自分の定位置という感じがする。使い手が何をしたいかすぐわかるし、俺も即応できる」 「何かあったら宜しくね。まあ何もないことを祈るけど」 「そうだな……」 そして奇妙なざわめきを感じつつ、二人は馬を駆けさせた。 アルビオンへの玄関口、港町ラ・ロシェールへと続く街道。 深い峡谷を縫うように走る、岩肌に囲まれた独特の街道は、アルビオンとトリステンの間を旅する人で賑わっている。 平時ならば、の話だ。 だが内乱が激しくなる今は賑わいなど無く、悲壮に満ちた顔か、ぎらついた戦意を滾らせている顔ばかりであった。 そして内乱の気配を感じ取ってアルビオンからトリステインに逃げ出す者は多い。 そしてその逆は稀であった。 その稀な集団に属する者は、2種類に分けられる。 義務を負って行く者/戦乱の臭いに誘われる者。 そして今、アルビオンの方角へ、一人の男がグリフォンに騎乗し街道の上空を疾駆させていた。 「遍在で行動していた僕の名が割れる……。つまり、裏切り者が出たか」 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。 元・子爵。魔法衛士隊の一つ、グリフォン隊の元・隊長にして、『閃光』の二つ名を持つ男。 つい昨日に国の追っ手を切り裂いた時点で、レコン・キスタの一員という事実が知れ渡った時点で、 地位も爵位も剥奪されているはずである。 こうなれば毒を食らわば皿までか――ワルドは諦観にも似た覚悟を背負い、アルビオンへ一直線へ向かっていた。 元々、レコン・キスタは、聖地奪還を志すための少数の貴族の集まりに過ぎなかった。 政治介入など望むべくも無い社交クラブ未満の位置付け。派閥と呼ぶことすら憚られた。 そんな小さな集まりの頃は、まだ良かった。 共に志を語らい、聖戦の先陣を切ることを夢見た/夢で済ますことができた。 それが変質したのは、思えばクロムウェルが入ってからだろうか。ワルドは思い起こす。 教会の人間として様々な国を渡り歩いた過去を持ち、それでいてアルビオンの一地方の司教として 土地に根差したクロムウェルのコネクションは、十二分に役立つものであった。 だが、明らかに個人の力ではなかった。裏には、ガリアや教会など様々な思惑が絡み合っていた。 クロムウェルが渡しを付け、同じように聖地奪還を志す者。エルフに復讐を誓う者。 聖戦の起きぬ世に不満を持つ者。 そして、ただ現状に漠然とした不満を持つ者。 利益のために志を騙る者。 様々な方面からレコン・キスタに同調できる貴族を集めた。 やはり、アルビオンの出身者が多かった。 大きな権勢を誇る貴族と、長く続く歴史と伝統に裏打ちされたアルビオン王家。 気付けばレコン・キスタの方向性は、自分らの手による聖戦から王家の打倒へと移行しつつあった。 ワルドは、気付きつつ敢えて目を瞑った。 聖戦が叶うならば、聖地を目指せるならば、そのための犠牲に対して省みるつもりなど毛頭無く、 むしろ積極的に活動した。 『遍在』を利用しての裏の支援工作。表の立場を利用しての政治的な働きかけ。 あらゆる努力を惜しむことはなかった。 気付けばレコンキスタは、地下のネットワークと豊富な資金力を持つ秘密の一大集団となるに至った。 何事も為さないでいるには無理が出るほどに。 国と和解するには、自身が強すぎた。 だが戦って完全な勝利を収めるには、敵もまた、強すぎた。 「祖国を裏切った僕が、仲間に裏切られる……。陳腐な筋書きだな」 そしてレコン・キスタは決起した。 地下から表舞台へと飛び出でて、歴史に名を残す。 それは敗者としての名前だろうと、ワルドは今、確信していた。 敗北の味/裏切りの味/理想を穢された味。 その苦さが、今のワルドを駆り立てていた。 「相棒、外すなよ。二発目は無いぜ」 「……風は?」 「北北西、弱いな。峡谷の気流の方が強い。あとはグリフォンの速度に気を付けな。馬の比じゃねぇぜ」 「わかった」 「相棒、おさらいだぜ。 羽で飛ぶ連中は、気流に乗って上昇する。そして降下して速さを稼ぐ。 ツバメだろうがグリフォンだろうが、風に乗る連中は皆一緒だ。わかるな? 一番遅くなる上昇の頂点を狙え。人を乗せたグリフォンだ、気流に乗るのにかなりもたつくはずだ。 俺の見立てなら、ちょうど向かい側の山のへりの辺り、10メイル先あたりがポイントだな。 試射した感覚は覚えてるか?」 「問題ない」 「逃したらもう二度目はねぇぜ。気を付けな」 「……こういうときマスケット銃は不便だな。ライフルがどっか落ちてねぇかなあ」 「手持ちの武器でやりくりするのが傭兵ってもんだぜ」 手綱を握りしめるワルドの手に、何かが掠める。 ワルドは飛行中にディテクトマジックを放ち、周囲を警戒する習慣が身についていたが、 今は何も検知していない。火や風の魔法の感触はなかった。マジックアローか――違う。 おそらく掠めたのはそこそこの質量と、凄まじい速度を持った何か。微かに漂う鉄の臭い。 「銃か!?」 瞬間的に結論を出したと同時に、ワルドの乗るグリフォンが蛇行を始める――羽が舞う。 見れば、グリフォンの翼が破れ、折れた骨が突き出ていた。 蛇行/失速/落下――位置エネルギーが牙を向くまで一分とかからない。 そして激突。 獅子の頑健な胴体が峡谷の岩肌に削られて転がっていく。 だがワルドは、激突する寸前にさっと身を翻して峡谷を滑り降りていた。 精妙な風の魔法がワルドを落下の衝撃から防ぎつつ、砂煙を舞い上げて周囲の目を眩ます。 一切の隙を見せずワルドは体勢を整える。 その優雅な有様の側で、グリフォンがその嘴から悲鳴を上げた。街道に哀れな声が響き渡る。 ――そしてワルドが舞い降りた落下地点。 グリフォンの声もワルドの無事も、一切意に介さず、男が待ち構えていた。 ワルドは砂煙の中から姿を出して、男を睨み付ける。 始祖ブリミルに誓って殺してやろう――決闘慣れしたメイジ特有の、冷静な殺意を込めて。 だが男は動かない。ワルドは疑問に思い警戒を残しつつも、瀕死のグリフォンに近寄った。 息も絶え絶えだ。苦しげなうめき声を上げ、時折、びくり、びくりと体を震わせている。 その無残な様子、ぼろ切れのようになった翼を見れば、二度と飛べないであろうことは、明白だった。 「すまんな……。思えば、僕がグリフォン隊の隊長になった頃からの付き合いだな」 ワルドのエアニードルの詠唱。哀悼を込めて。 「長い間、よく飛んでくれた。お前を置いていった僕を、許してくれ……」 鉄拵えの杖の周囲に鋭利な風を纏わせて突き刺す。それはグリフォンの頭蓋を容易に貫通した。 断末魔は短かった。 ワルドはゆっくりと男に向き直る。 「わざわざ待っていたのか?」 男は答えない。 意に介さずワルドは話を続けた。 「まさか、銃如きで僕のグリフォンを撃ち落とすとはな。油断した……100メイル以上は離れていただろうに。 だが何故君は姿を晒す? 身を潜めたまま、ゆっくりと二発目を僕に食らわせれば良かったものを」 ワルドは、漆黒のマントを汚してもいない/堕とされてなお余裕の表情で自分の額を指さす。 洒脱な態度の奥底で、殺意を燃え滾らせている。 冷徹に相手を分析する肉食動物の目を持ち、適切な殺害手段を頭の中で選んでいた。 「……ワルド子爵だな。お前が最後だ」 「……何だと?」 「トリステイン組のレコン・キスタはお前が最後、ってことだ。他のお仲間は、ニューカッスルに護送付きで運ばれてる」 待ち構えていた男――男と言うより少年というべき若さ/冷め切った表情/背景の峡谷に溶け込むような色の、くたびれた旅装/ 背に担いだ黒光りするマスケット銃――恐らくゲルマニア製。 その銃と、鞘から抜き払った剣だけが研ぎ澄まされた輝きを見せる。 ワルドは、挑発ともとれる少年の言葉に動かされない。だが、少年が懐から何かを取り出し、地面に投げ捨てたのを見た。 ――鉄拵えの魔法の杖が二本。どれも、グリフォン隊の意匠が鍔元に刻まれていた。 ワルドは憤怒の表情を浮かべる。 「貴様……」 「相棒、後が無ぇ野郎は怖いぜ。気を付けな」 「わかってる、デルフ」 「……ほう、インテリジェンスソードか」 ワルドは音もなく杖を構える。軽やかなステップ/閃光のような速度で距離を詰める。 剣などでは及びも付かない威力のエアニードル/少年の背後の岩を穿つ。 「その杖、偽物ではないようだな!」 「お前も杖を捨てて投稿しろ。命は助かる」 少年が距離を詰める/剣で薙ぎ払う。 少年の体躯に見合わぬ意外な膂力。暴風を纏ったはずの杖が思わぬ力で弾かれる。 ワルドの間髪入れずの詠唱/至近距離でのウィンドブレイク。砂埃を纏った暴風が二人の距離を引き剥がす。 杖を構える/剣を翳す。 「投降するなどと、本気で考えているのか?」 「……いや、期待してはいなかったけどな」 「平民の傭兵風情が、手を汚すのを嫌うか? お笑い草だ」 エアニードルとドットレベルの風を巧みに織り交ぜ、ワルドと少年は一合、二合とぶつかり合う。 生半可な鉄など容易に引き裂くはずのエアニードル/少年の剣は刃こぼれもしていない。 「……ふむ、接近戦は慣れているようだな。ならばメイジの距離で戦うまでだ」 バックステップ/エア・ハンマーの詠唱。 巨大な槌の如き空気の圧力をぶつける荒技。 狭い峡谷の中でそれを防ぐ手立てなどあり得ない。 だが、少年が剣を翳したその瞬間に、エア・ハンマーの効力が無くなる。 剣が魔法に打ち勝ったかのような様相――メイジの存在意義が揺らぐ光景。ワルドに衝撃が走る。 エアハンマーの微かな痕跡。そよ風が峡谷に流れる。 「何をした貴様っ!」 ウィンドブレイクでの追撃――それも剣に吸い込まれていく。 ワルドは魔法を囮に距離を稼ぐ/丹念に舐めるように/果実の皮を削り取るように、少年が距離を詰める。 追う者と追われる者の立場が決まった時点で、勝敗は決していた。 だが、サイトが最後の一手を投じる瞬間、闖入者の悲鳴――この場に似つかわしくない少女の叫びが、峡谷に谺する。 「ワルドっ!」 だがその声は今一歩遅く、少年の剣がワルドを貫いた。 前ページ次ページ虚無と金の卵
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5734.html
前ページ次ページ虚無と金の卵 時間は、キュルケ達の出発前に遡る。 ロングビルが準備を整えるまでの間、ルイズ、キュルケ、タバサ、ウフコックの三人と一匹は、オスマンの指示で学院のすぐ外の草原で待機することとなった。 まさに快晴。草原は見渡す限り平和そのもの。だが刻一刻と時間は減り行く。 宝物を手に入れたフーケは逃げる算段など当然打っているだろう――ルイズは苛々とロングビルを待つ。 そんな折、ルイズの肩に乗ったウフコックが口を挟んだ。 「ルイズ……いや、キュルケ、タバサもだ。我々だけで話がある」 「何よウフコック、止める気?」 やれやれ、とウフコックは肩をすくめる。 「止められるのならばな。だが聞き入れてはくれないだろう?」 「わかってるじゃないの」と、ルイズは強気に応じる。 「ま、それは俺もわかっている。だからこそ話がある」 「ヴァリエール、そんな苛ついたって仕方ないじゃない。で、ウフコック、なに?」 キュルケが話を促す。 「フーケについて……と言うより、先ほどの場で、敢えて俺が言わなかったことについて、だ」 「……何ですって?」 「あの場に途中からやってきた女性、彼女がフーケだろう。昨日のあの場に居た人間と匂いが全く一致する」 「ミス・ロングビルが!?」 ルイズは驚いて声を上げる――すぐさまタバサが口を抑えた。 「もがっ……ご、ごめんなさい。周りに聞こえて……ないわよね?」 「まだ来る様子は無いわね……」 キュルケが周囲を見回す。人の気配が無いのを確認し、ウフコックに疑問をぶつけた。 「でも、なんであの場で問い質さなかったの?」 「言い逃れする算段か、あるいは確実に逃げるための算段が付いたのだと思った。 そうでなければ現場に戻ってくるといったリスクを負う必要は無かろうし、そこには強い自信を感じているようだった」 「でも、それでも敢えて戻ってくる理由がわからないわね」 と、ルイズが疑問を呈す。 「盗みを完遂させたという達成感は、味わっていないようだったな。眠りの鐘が目当てではなかったのかもしれん」 「別の目的ねぇ……そういえば、破壊の杖がどうとか言ってたわね」 キュルケの指摘にウフコックは頷く。 「コルベールがその話を持ち出した瞬間、ロングビルから『怒り』の気配が強く発せられた。 だが、破壊の杖の在り処を口に出した瞬間は、それが強い『喜び』と『何かを実行する決意』に転じていた。 元々はこれが狙いだったのだと思う」 「……ずいぶん詳しくわかるのね?」 興味深げに微笑むキュルケ。心配げにルイズはウフコックを見つめる。 「……そんなに話しちゃって良いの、ウフコック?」 「まあこうなってしまえば、俺達はチームのようなものだ。この能力が役立つならば隠す道理は無い。 もっとも薄々気付いていたとは思うが」 「教えてくれるなら、貴方の口から聞きたいわ」 「俺は、感情を匂いで嗅ぐことができる」 タバサ――ぴくり、とまぶたが揺れる。彼女なりの驚き。 キュルケ――ますます笑みが強くなる。何とはなしの予感が当たった表情。 「『サンク』のときは……その、正直、誤魔化した。まあ、半分は当たっているようなものなんだが。 実際はもっと直接に、人の『怒り』や『喜び』といった感情を嗅ぎ、その上で視線やちょっとした動作などを手がかりに人の思考を読み取る」 「……へえ、やっぱりそういうわけね」 「気付いてたの?」 ルイズが驚いた声で尋ねる。 「妙に匂いを気にするし、ウフコックと話す限り、気持ちとか感情に凄く敏感なのはわかってたから。 気付いてたわけじゃないけど、不思議とも感じないわね」 と、キュルケは自慢げに指を立てて答えた。 「……皆、驚かないものなんだな。 ともあれ俺がロングビルと話すことができれば、彼女の素性を聞き出すなり、盗んだ宝物の隠し場所を引き出すなり、できるだろう」 「ま、貴方に隠し事できる人間なんてそうそういないわ」 と、ルイズのもっともな指摘。 「もっとも、大きな問題が残っている。 ロングビルが実はフーケ、という話はあくまで俺の認識というだけで、人に見せられる証拠など何一つ無い。 髪の毛や指紋などを拾っても、ここで有用な証拠とはなりえないし……」 「指紋?」 タバサが興味深そうに尋ねた。 「人間の指の皺のことだ。 例えばガラスを触ったとき、手の脂のせいでガラスの表面に指の皺が写ることがあるだろう? あれは、ガラスのみならず、実際は手に触れた様々な箇所に付着する。目には見えないことが多いが。 それを浮き上がらせて、皺の形状、分岐や端などの特徴点を調べることで、かなりの確率で個人を特定できる」 「初めて聞いた。実に興味深い……」 「俺のいたところでは一般的な捜査手法だった。だが、この国で認知されていない方法で証明したところで何の効力もない。 そして、それは俺の嗅覚も然り。そうだろう?」 「私にはそれで十分だけどね」 ルイズは既にウフコックを信じている。当然じゃないの、と付け足すようにルイズは言い放つ。 キュルケとタバサは、嗅覚云々を抜きにしても、サンクを通してウフコックの慎重さ、善良さを認識していた。 それに結局はのるかそるか一蓮托生であり、ならば二人とも、賭けに出ることが信条であった。 「うん、私も信じるわよ」 「右に同じく」 三人の言葉に、ウフコックは喜びを覚える――だがそれもすぐに隠し、冷静に答える。 「そうか……だがそれでも、赤の他人にとっては根拠の無い戯言に過ぎない。 俺の言葉を信じたところで、フーケが一枚上手だったら君らが貧乏籤を引くだけだ」 「なら結局、やることは一つじゃないの」 「そうよね」 「その通り」 「「「私らがフーケを捕らえて証拠を見つければいい」」」 三人の重なる声――杖を掲げたときほどの緊張は無く、その代わりとても明るく力強い唱和。 「構わないんだな?」 「ウフコックも優柔不断よねー。そんなんじゃ女の子は付いてこないわよ?」 「全くよ。臆病でもエスコートするくらいの勇気がほしいわ」 うら若き乙女の辛口批評/本気で面白がっている。 「勘弁してくれ……。俺はただのネズミであって、いわゆる男性的な観念を期待されても困るんだ」 「もう、そういうところが情けないのよ。 こういうときはバシっと決めなさいよ。私らはもう杖を掲げて、覚悟決めたんだからね」 ルイズの不敵な微笑み。見る者の不安を払拭させる魅力に満ち溢れている。 ウフコックは、敵わないな、とばかりに頷く。 「ああ、十二分に分かったとも。 盗人と臆病風に吹かれた教師たちに、君達の行動がどれだけ正しく、そして誇り高いか、ご覧じてもらおうじゃないか。 そのために俺も全力を尽くす。誓って、誰にも君達を傷つけさせず、そして君達の名誉を汚させはしない」 「それで良し」 ウフコックの宣誓に、ルイズは満足げに頷いた。 「で、具体的にはどうする? 今からでも『破壊の杖』が取られないように何とかしたいところだけど……。 まずはロングビルを先に探しましょうか? 一応は私たちの馬車を用意しておくって話になってるから、 もし準備していないようなら良い口実になるわ」 そうキュルケが話を持ち出したとき、タバサが口を挟んだ。 「……あ、来た」 タバサが指を刺す方向に、蒼髪の女性が馬車を曳いているのが遠目に見える。 ミス・ロングビル/フーケであるはずの女性。 「ふむ、こちらにやってくるようだ。ということは、今すぐ破壊の杖を探して盗む気は無いな。 恐らく、フーケは逃げ出してしまった……という既成事実を作る気なのだろう」 「なら、逆に言えば今こそチャンスよ。こちらが先にフーケと、『破壊の杖』を押さえる。 あとは眠りの鐘の所在さえウフコックが聞き出せば何とかなるわ」 と、ルイズが提案する。 「じゃ、私とタバサがミス・ロングビルについていって捕らえるわ。ルイズとウフコック、貴女は『破壊の杖』をお願いね」 「大丈夫か?」 「メイジ相手の喧嘩なら私もタバサも慣れてるし、今この瞬間ならフーケの正体を知ってる私達が有利よ。 ま、上手く騙すわ。できるだけ危険も避ける」 ウフコックの心配を宥めるように、キュルケは答えた。 「でもオールド・オスマンには3人で行くってことで話が決まったから、言い訳なり何なり考えなきゃ」 「そうねぇ……ミス・ロングビルに不自然に見えない理由がほしいところね」 「貴女達は、仲が悪い。良く知らない他人からすれば」 タバサが口を挟む――示唆に飛んだ一言。 「何よ、本当は仲良いみたいな口されても困るわよ! ……で、つまり?」 「喧嘩別れすれば良い」 そうしてルイズは、キュルケ達と喧嘩別れしたかに見せかけ、馬車が走るのを見届けてから学院内に戻っていた。 ウフコックと相談しながら校舎を駆ける。 「全くキュルケのやつ、途中から本気になってたわ。後で言い返してやらないと」 「その……それを君が言うのか……?」 「何よウフコック、文句あるの?」 「いや、無い。無いとも。それよりも早く行こう」 ウフコックの戦略的撤退。 「そうね、早くオールド・オスマンに話を通さないと……何て伝えようかしら」 「うむ、それもあるが、まずはコルベールに話して、その『破壊の杖』とやらが盗まれないよう対策を取ろう。 それからでも遅くは無い」 「そうね……。じゃあ、コルベール先生の研究室に行きましょう」 ルイズは学院内を駆ける。たまに教師に目撃され驚かれたが、気にも留めずルイズはまっすぐコルベールの研究室へと向かった。 そして遠慮もなく飛び込むように、コルベールの研究室の扉を開く。 「コルベール先生、お話が!」 入室の許可も聞かずにルイズは足を踏み入れた。 そして中に居る人物と目が合う。 「……ミス・ヴァリエール?」 「え、ええっ!」 中に居たのはロングビル=状況的に土くれのフーケ。 明かりもつけず、引出や棚に収められた物を引っ掻き回していたようだ。 乱雑な部屋の中、宝石か何かを手にとって見つめている=どうみても泥棒の所業。 「くっ……!」 ロングビルが杖を振るう=床板を突き破り、ルイズの背丈ほどの“手”が出現。 昨日のゴーレムほどの大きさはないが、相手取るには十分な脅威。明瞭な敵意を持ってルイズに接近する。 「ルイズ、右手で『ぶん殴れ』!」 ウフコックが叫び、ルイズの肩から右手へと器用に移動/黒光りする篭手へとターン。 「な、殴るって言ったって……!」 「俺を信じろ! この右手ならば何の問題も無い、思い切りやるんだ!」 「ええいっ!」 ルイズの細腕から繰り出されるストレート――になっちゃいない、へっぴり腰のパンチ。 だがその衝撃でルイズも“手”も一歩分ほど後ろに下がる。 轟音と共に土くれでできた手の平が陥没している。そこを中心にクラッキングが拡大/威力は絶大。 「……あれ?」 「そういう機能の『篭手』だ! もっとだ、もっと殴れ!」 「わ、わかったわ!」 ルイズの右手の篭手/実際は高性能な超振動型粉砕機。 拳の握り、関節のブレはウフコックが調整/何も気にせずルイズは連打。 土でできた手など何の問題にもせず粉砕/爆砕/木っ端微塵。 「す、凄いわコレ……」 「……う、嘘でしょ? くっ、畜生っ……」 盗人の合理的な判断――逃げるが勝ち。 「逃げる気だ! ルイズ、俺を“構えろ”!」 フーケがルイズの方向に駆けてくる。 錬金で作られた手を破壊されたが故の判断/盗人の嗅覚。だがウフコックの咄嗟の行動が間に合う。 ウフコックは篭手から銀色の杖――スタンロッドへと反転変身。 ルイズの手にぴたりと納まる。ルイズはとにかくウフコックの言葉に倣い杖先を向ける。 その先はウフコックの仕事。杖先/電撃の放出部を伸張。フーケは当然回避――ルイズの素人同然の手捌きなど問題無しのはず。 だがウフコックがそれを許さない。杖自身が長さと方向を調整。相手の避ける方向へ追従、接触。 ざらついた刺激音/スタンロッドからの放電――失神レベルの電圧。 「きゃああああっ!」 フーケは叫び声を上げて倒れる。 「や、やった、の……?」 「失神させただけだ」 ルイズに説明するウフコック。この一瞬の行動に、ルイズはやっと頭が追いついてきた。 状況を整理――引き出しや棚が荒らされたコルベールの研究室。そのコルベールの研究室に居たロングビル。 ロングビルがフーケであり、部屋を荒らして『破壊の杖』を探しに来ていたと述べるに十分な状況証拠。 「しかし、凄いのに変身したわね……。破壊の杖ならぬ、破壊の拳、そして電撃の杖ってところかしら」 ルイズは興味深げに手にした杖を眺める。 トリステインでは滅多にお目にかかれぬほど奇妙な金属。ルイズが片手で簡単に触れるほど軽いのに頑丈で、艶やかな銀色をしている。 「実際は振動型粉砕機とスタンロッドと呼ばれる。それより、ルイズ」 「そ、そうね。まずはミス・ロングビルよね。でもどうして……? キュルケとタバサと一緒に行ったはずなのに……」 「ああ、その通りだ。何らかの手段で帰ってきたのか……? ともあれ、確かに彼女の匂いと昨日ゴーレムを操っていた人間の匂いは一致する。 ……しかし、彼女の匂いが妙に強いな。ずいぶん部屋を探し回ったのだろうか」 ウフコックはスタンロッドの柄の一部を自切し、ネズミの姿に戻る。そして周囲の匂いを嗅ぎ、怪訝な表情を浮かべた。 「また起き上がるかもしれない。杖は君が持っていてくれ。……くそ、匂いがごたついているな。 火薬や薬品の匂いもきつい。それに、まるでフーケと同じ匂いが二つあるような……ううむ……」 確かに、コルベールの研究室は妙な匂いがした。燃料油の研究をしているという話をルイズは聞いていたが、それは真実だったらしい。 妙に揮発臭が強く、それがウフコックの鼻を混乱させているようだった。 「……ともかく、ミス・ロングビルが破壊の杖を狙っていたことには違いなさそうね。 まずはオールド・オスマンとコルベール先生にこの有様を見せないと」 「それもそうだな……」 「そうは問屋が卸さないよ」 その言葉と共に、研究室の破れた床板から再び土が盛り上がり、先ほどと同じ程度の大きな手を模る。 完全な奇襲。華奢なルイズの体を背後から容易に捕縛――強い力で胴体ごと握り締められ、ルイズはスタンロッドを手放す。 「いやあっ!」「ルイズ!」 ルイズの悲鳴、そしてウフコックの行動を抑えるようにもう一本の手の出現――ルイズを捕らえたものよりは幾分細い腕が現れ、ウフコックを捕らえる。 「……まさかここでネタが割れちまうとはね。驚いたよ」 研究室の奥から、足音も立てずに近づく人影――土くれのフーケ。 興味深そうに、ウフコックの作り出したスタンロッドを拾う。 「さて、ネズミちゃん、貴女の主人が大事なら、下手に動くんじゃないよ。ちょっとでも妙な動きを見せたら握りつぶす」 「な、何で何人もあんたが居るのよ!」 微笑を浮かべ、捕らわれていない方のフーケは杖を振るう。 それに応じるように、捕らえたはずのフーケが煙と消える――残ったのは小さな魔法の人形。 「このガーゴイルさ。スキルニルって言って便利な奴でね」 フーケは人形を拾い、愛しげに撫でる。 「血を与えれば、その血の持ち主そっくりの姿・性格に変身して、それを操る人間の命令を何でも聞くのさ。 私程度のメイジでも2、3体くらいは操りながら魔法も使える。さっきはこのお人形に見せかけて、私が隠れて杖を振るってたわけ。 囮に使って良し、芝居に使って良し。まったく、泥棒稼業にはもってこいの道具だよ」 「……そんなものすらあるのか……! くっ、それも宝物庫から盗んだものだな!」 フーケはまるで出来の良い生徒を褒めるように、ウフコックに優しげな声で答えた。 「勘が良いじゃないか、ネズミちゃん。なかなか賢いし、珍しいマジックアイテムを持ってるようね。 一体どうやって私の行動を知ったんだい?」 「余計なお世話よ! 盗人に褒められたって何よ!」 「口の減らない娘だね。ちょっと黙ってな」 人間の胴ほどもありそうなゴーレムの指先が、ルイズの口を塞いだ。 「むがっ…………!」 「ま、なるべく殺しはしないよ。でも骨の一本や二本なら躊躇わないし、私の手先が狂うことだってあるだろう?」 「乱暴はよせ……それだけ口を開くんだ、俺と話す気なのだろう?」 「話のわかるネズミちゃんね」 艶然とフーケは微笑む。 「残念ながら、この状況ならば俺には話をするくらいしかできないからな。要求は何だ?」 「そうね。出来れば私の行動を読んだ手口なんか、ゆっくり茶か酒でも持ち出して話したいところだけど……生憎と多忙な身の上でね。 まず、この杖の使い方を教えてもらおうか」 フーケは、床に落ちたスタンロッドを慎重に拾い上げる――宝物を見つけ出した盗人の喜悦の表情。 「それを?」 「……ええ。まさかこんな一品が手に入るなんてね。無名だとしても十分に盗む価値があるわ。 ああ、何となく使い方はわかるわよ。私のコピーがやられるのは見てたんだからね。 ただ、ちゃんとした使い方を教えておいてほしいのよ」 「……取っ手のスイッチを押せば杖先から電撃が出る。柄の下の目盛りで電撃の強さを調整することが可能だ。 長さは鍔元のネジを緩めればある程度伸び縮みする。 電撃の威力はさほど強くはない。目盛りが最大でも失神させる程度だ」 「なんだ……。ま、あんまり強すぎても取り回しに困るからね、構わないさ。 さっきの篭手もほしいところだけど……。本当に残念さ。変身を許したらこっちが不意打ちを食らいかねないからね」 フーケはウフコックの指示の通り操作し、電撃を放出――素直に驚きを覚えたようだ。 だが、やがて興味をなくしたようにフーケは鞄に仕舞う。それに代わるように、古めかしい小さな鐘を取り出した。 「さて。要求はもう一つ。そう難しいことじゃないよ。……私が逃げ出すまで、気持ち良く眠ってもらおうかしらね」 眠りの鐘――学園の秘宝たるマジックアイテム。 それが今、ウフコックの目の前にあった。 ふと湧き上る額の熱。目の前の道具と何かが通じ合う。 まるで目の前の鐘が、自分の身体の延長のような感覚。 それの構造や使用法が、手に取るように頭へと流れ込む。 (なんだ……これは……? まるで、反転変身を覚えたときのような……) 「この学院の秘宝、『眠りの鐘』さ。流石に使い勝手の良い道具だよ……さあ、お眠り……」 ウフコックの脈動を裏切るように鐘は鳴らされ、眠りへの誘いが襲い掛かる。 魔法の力が込められた音色が、小さく、だが段々と大きく響き渡る。 フーケが鐘の操作に集中していた瞬間――爆音。 「勝手にぃ……話を進めてるんじゃないわよ!」 ウフコックが話している間、体も締め付けられたままルイズはもがき、締め付けられた口を開放させる。 そしてルーンも全く滅茶苦茶に詠唱――当然の失敗魔法/失敗こそが正解。 固定化すら吹き飛ばす爆発がウフコックを掴んでいる手を襲う。 衝撃で土くれの手は半壊し、ウフコックが這い出られる程度には緩んだ。 「今よ! ウフコック!」 ルイズには何も具体的な考えなど無い。 だが自分がどうにかなっても、ウフコックが無事ならば手段はあるはずだった。 ルイズは一縷の希望だけ託し、自分を掴む手を敢えて狙わなかった。 そしてウフコックには、手段など幾らでも用意されていた。 「くそっ! ……な、何っ?」 ウフコックの飛びついた先――眠りの鐘。 マジックアイテムはメイジにしか使用できない。それが不文律。 だが、ウフコックが飛びついた瞬間に眠りの鐘が輝く。フーケが手にしたとき以上に力強い光。 小さな鐘の鳴動――先ほどの音色とは異なる響きがフーケを襲う。 「そ、んな……?」 がくり、とフーケは膝を付く/ばたりと倒れ、規則的な寝息を立て始める。 「や、やったの……?」 意識の消えた証拠――ルイズを掴む手が、手としての形を保てずただの土となり、崩れていく。 つっぷしたフーケの上に土が降り注がれる――土くれと呼ばれた盗人の末路。 二人はあたりを確認し、倒れた人間こそ本物のフーケであることを確認した。 前ページ次ページ虚無と金の卵
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5714.html
前ページ次ページ虚無と金の卵 優秀なメイジ揃いの魔法学院の宝物庫が破られる――前代未聞。 だが崩れ去った宝物庫の壁/刻まれた犯行声明を見て、誰もがその事実を認めざるを得なかった。 ここまで強引な手段と、それが実行可能な実力の持ち主が居るとは、誰も想像すらしていなかった。 結局、教師陣の誰もが責任問題の議論に終始し、同じく誰もが責任回避するための論理を考えあぐねていた。 特に風の属性の教師、ギトーが前日の当直担当のシュヴルーズを責め立て、シュヴルーズが弁償すべしとの意見で纏めようと画策し誘導していた。 オスマンが現場に入ってくるまでは。 現場に集まった教職員を見回し、オスマンは、落ち着いた声で問いかけた。 「さて、この中でまともに当直をしたことのある教師は何人おられるかな?」 オスマンの視線を受け止めるもの――皆無。 「これが現実じゃ。 もし責任があるとしたら我々全員じゃ。勿論儂も含めて。誰もが、賊が入るなどとは夢にも思っておらんかった。 何せメイジ揃いのこの場所、虎穴に入るようなものじゃからな。しかし……」 オスマンは壁の穴を見つめる。 「この通り、大胆にも賊は忍び込み、『眠りの鐘』は盗まれてしまった。 大分荒らされているようじゃから、他の被害状況もはっきりと確認せにゃあならんが……。 ともあれ、この通り全員が油断していたのじゃ」 責任を覚悟していたシュヴルーズは感涙も隠さずにオスマンを見つめる。 照れくさくなったのか、オスマンは二、三度咳払いし、話を再会した。 「さて、犯行現場を見ていたのは誰だね?」 「この三人です」 コルベールが、後ろに控えていたルイズ、キュルケ、タバサ達に前へ出るよう促す。 ウフコックがルイズの肩に乗り、また上空をシルフィードが飛んでいたが、当然数には入っていない。 「ふむ……君達か」 ちらり、とオスマンはウフコックを見据える。 だが、自嘲気味にすぐに視線を外した。 「では、状況を説明してくれたまえ」 最も状況を冷静に見ていたのはタバサだった。 タバサの説明は的確かつ端的で、ところどころキュルケが具体的な補足を入れつつ説明をしていた。 「ふむ……では、ゴーレムの魔法を解いた後の足取りはわからない、と?」 「そうです、オールド・オスマン。深い森の中を進んでいったようで、風竜から追いかけるのは限度がありました」 「……ふむ、他に手がかりは無し、か」 オスマンは己の白い髭を撫でつつ思案な表情をとる。 「そういえば、ミス・ロングビルは何処じゃね?」 「朝から姿を見かけておりませんな……」 コルベールに何気なく尋ねた頃、この現場へ駆けて来る女性の姿があった。噂に上っていた、ロングビルであった。 「申し訳ありません。朝からフーケの件で、調査をしておりましたので」 「おお! 流石、仕事が早いのう。……して、結果は?」 「はい。フーケの居所がわかりました」 「何ですと!」 コルベールが頓狂な声を上げる。 「近所の農民が、森の廃屋に入る黒いローブ姿の男を見かけたそうです。恐らく、フーケの隠れ家かと」 「それは近いのかね?」 「徒歩で半日、馬車で4時間といったところでしょうか」 「うむ、これはすぐ王室から応援を呼んで、兵隊を差し向けて貰わねば」 「馬鹿者!」 オスマンの鋭い叱責――魔法学院を統べる者の威厳に満ちた声。 「応援を呼んでいる間に逃げられてしまうわい。降りかかった火の粉は自分で払うのが貴族じゃ! この件は儂らの手で解決する!」 高らかなオスマンの宣言に教師はどよめく。 誰しも魔法学院の建物の堅牢さを知っていた。それを力任せに破壊するフーケの手並み――まさに想像の埒外。 「では、フーケ捜索隊を編成しよう。我こそと思う者は杖を掲げよ」 誰もが見合わせ、沈黙する中、さっと一振りの杖が上がる。 ルイズの鳶色の瞳――普段以上に真剣で、固い意思に満ち溢れている。 「ミス・ヴァリエール! あなたは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて……」 「誰も掲げないじゃないですか」 誰もが、無理だ、と思った。 だが、止めておけと身を案じる声、生意気と侮る声、ただ痛ましげに見る視線――あらゆる意思をはねのけ、ルイズは屈さない。 「ふん、ヴァリエールには負けていられませんわ」 キュルケが続いて杖を掲げる。 そして物言わずにタバサが続く。 「タバサ、貴方は良いのよ? 関係はないんだから」 「心配」 タバサの偽り無い淡々とした答えにキュルケは感動し、ルイズも、唇をかみ締めて感謝した。 「ありがとう、タバサ……」 その光景を微笑ましげに見ていたオスマンが口を開いた。 「うむ、ではこの三人にお願いするとしよう」 「オールド・オスマン!」 危険すぎる、とシュヴルーズが中心に抗議の声を上げる。だがオスマンはそれを制した。 「彼女らは敵を見ている。それにミス・タバサは若くしてシュバリエの称号を持つほどの者じゃ」 シュバリエとは、決して金では買うことのできない、明白な実績に対して贈られる称号。 タバサは、メイジの実力を裏付けるに十分な爵位であるシュバリエのの持ち主である。 その事実に、キュルケ、ルイズ、そして事情を知らぬ教師陣が驚いていた。 「ミス・ツェルプストーはゲルマニアにて優秀な軍人を輩出する家系じゃ。 ミス・ヴァリエールは……ああ、その、優秀なメイジを多く排出する公爵家の生まれで、将来有望じゃろう。 それに」 オスマンは、ちらりとルイズの肩に乗るウフコックに視線を移す。 「彼女の使い魔は、その小さき体で、グラモン家のギーシュ・ド・グラモンを圧倒するほどの剛の者であるとの噂じゃ」 「そうですぞ! 何せかれはミョズ」 コルベールの軽い口を、オスマンは慌てて押さえる。 「おほん……さて、この三人に勝てると言う者は居るまい。 ……ミス・ヴァリエール、ミス・シュヴルーズ、ミス、タバサ…。儂からお願いしよう。 魔法学院のために、フーケを探し、捕縛してくれるか?」 「杖に賭けて!」 オスマンの真剣な視線を受け止め、三人の少女は力強く唱和した。 「ミス・ロングビル。彼女らが出立するための馬車などを準備してやってくれんか?」 「ええ。畏まりました」 「ギトー君、宝物庫の被害状況を調査してくれたまえ。 ミセス・シュヴルーズ、君は本日の授業はすべて臨時休講とする旨を伝えて、またできる限り外出せぬよう生徒と使用人達に周知してくれるかの?」 「ええ、了解です」 ギトー、シュヴルーズが前に出て首肯する。 「……しかし、ちと不謹慎かもしれませんが……『破壊の杖』が盗まれなかったのは不幸中の幸いでしたな」 話がまとまり、コルベールがやや安堵した声で言葉を漏らす。 ロングビルが密やかに耳をそばだてた。 「全くじゃ。コルベール君も悪運が強いのう。君に貸しておいて本当に良かったわい。 眠りの鐘は、そこそこに強力なマジックアイテムではあるが、破壊の杖ほどの希少な財産というわけでも無し。 怪盗などと世間は噂しておるが、フーケの審美眼も案外大したこと無いのう」 ざらついた空気を払拭するため、敢えてフーケを皮肉るオスマン。 ほとんどの教師がオスマン同様、この不祥事による重い空気を払拭したかった。 皆、緊張が解き解れ、オスマンにつられて笑っている。 ぴくり、ぴくりとロングビルの耳が何故か動く――残念ながら目撃した人間はゼロ。 「はっはっは、全くです。まあ破壊の杖は自分の研究に役立てるつもりでしたが、こんな形で学院に役立っているならば光栄ですとも。 それに私の研究室で鍵付きの金庫に入れ、さらに固定化して保管しておりますから、ご安心くださいませ」 「うむ。……さて、本題に戻ろう。 今、我々が直面しているのは、まさにトリステイン魔法学院の危機である。各々が結束してこの危機を乗り切ろう。 まず、現場の検証に当たる者以外は解散じゃ。諸君らの努力と、貴族の義務に期待する!」 誰かの静かな怒りの気配、そして喜びに転じる気配――気付いた人間、当然の如く無し。 現場を取り纏める者/討伐隊となり、心の内の戦意を高めている者/そして、己の職業意識に燃える者――皆、それぞれの行動を開始した。 まだ学生の身分ながら、威風堂々たるルイズ達の姿がフーケ/ロングビルの網膜から離れない。 決して他人には明かさぬ過去。 彼女にも、貴族らしく振る舞い、家のため、国のために誇り高く生きた頃があった。 羨望すら感じるほどの青さ。輝かしいほど潔く掲げられたルイズ達の杖――自分の中に一つも残っていないもの。 遥か過去に人の手によって捨てられたものであり、そして己の手で捨てたもの。 複雑な胸の内を抱きつつ、彼女は自分の仕事をこなす。 残る仕事を無事終えれば、魔法学院秘書としての生活はそこで終わりであった。 悪くない職場であった。嫌いではない人間も多かったし、嫌いな人間には吠え面をかかせることもできそうだった。 この生活も、自分で捨てるとはいえ惜しいものだった。 結局、何かを盗むたびに、何かを捨てていることには違いなく、今更その性分を変えられるはずもなかった。 これから先、この学院に踏み入れることはあるまい――彼女はそんなこと感慨を込めて最後の仕事へと取り組んでいた。 そして馬車や食料など諸々の準備を整え、フーケの捜索隊との待ち合わせ場所へ馬車を寄越した。 そしてロングビルは、フーケとしての準備を整える。 ――待ち合わせ場所の光景。 醜い罵りあいがロングビルの耳を突き刺す。三人の女性の甲高いわめき声が響く、刺々しい空気が待ち合わせ場所を覆っている。 ――3人の子供の喧嘩が繰り広げられていた。 「私は行くっていったら行くのよ! 私に遅れて杖を掲げたくせにでかい口を叩かないでほしいわね!」 「……身の程知らず」 「魔法が使えない癖に、何を生意気言ってるんだか。あんたなんかフーケの指一本で死んじゃうのよ!?」 「うるさいわねっ、ここまで来て後に退けるワケないでしょう! こっちこそ面白半分で首を突っ込まれちゃ迷惑なのよ! あんたは街に言って男でも引っ掛けてれば良いじゃない!」 「口が減らないわねっ……! そんなんだからアンタの先祖は寝取られるのよ!」 「なによ、泥棒猫のツェルプストーの癖に!」 「何ですって! この寝取られヴァリエール!」 「……ボキャブラリーが貧弱」 「タバサは黙ってなさいよ!」 「そうよ、ヴァリエールなんかと話してたら下品な口調が移るわ。タバサは話しちゃ駄目よ」 ルイズとキュルケ、ついでにタバサは、互いに一歩も譲らずに罵り合っていた。 貴族としての威厳――無し。 オールド・オスマンの面目――無し。 フーケと対峙するという緊張感――何処にも無し。 誇り高く杖を掲げた生徒の醜態――理解不能。 大人の威厳を見せて生徒を叱る――至難。 だが、このままでは互いに杖を向けかねない。 ロングビルはこんな喧嘩と係わり合いになるなど避けたかったが、流石に止めないのは不自然だと気付く。 「あー、そ、その、皆さん……落ち着きましょ? ね?」 ロングビルは、何とも嫌そうな表情を何とか隠しつつ宥めようとして近づく。 「なによ横から煩いわね! ……って、ミス・ロングビル、来てましたの」 言い争いに業を煮やしたキュルケがそれに気付き、ぱっと表情を輝かせた。 「丁度いいところに来たわ。ほら、タバサ、馬車に乗って」 「え、え?」 驚くロングビルを尻目に、キュルケとタバサは無理矢理馬車へ乗り込む。 「ちょっと、私も……!」 「てやっ」 キュルケは杖を振るって威嚇程度の小さい火を放つ。 避けるのは造作も無い速度だったが、血が登ったルイズを驚かせ、時間を稼ぐには十分であったらしい。 ルイズがのけぞった隙に、タバサとキュルケは馬車に飛び乗る――間髪居れずの、タバサの風によるめくらまし。 砂塵を巻き上げ、馬車とルイズの距離をさらに引き離す。 「ミス・ロングビル! 早く馬車を出して!」 「え、ええ!? 良いんですか?」 「ちょ、何するのよ、待ちなさいよっ!」 「ホラ早く!」 キュルケは急かしておきながら、ロングビルの握っていた手綱を奪う。 急な手綱捌きに驚いた馬は、驚いて走り出す。 ルイズだけをその場に残しつつ、馬車は去っていく。 「帰ったら土産話くらいは話してあげるわよー! じゃっあねー!」 凱歌を上げるような勝利宣言。キュルケは、地団駄を踏むルイズを満足げに眺めていた。 はっと気付くように、ロングビルはキュルケから手綱を取り戻す。 「……あのう、私知りませんよ……?」 「大丈夫ですわ、ミス・ロングビル。私もタバサも、こう見えてもトライアングルなんですから。 大船に乗った気でいてほしいですわ」 何処までも楽しげなキュルケに、ロングビルは疑わしげな視線を向ける。 「でもですね……オールド・オスマンに選ばれた以上、足りないというのは問題と思うのですが……?」 「ミス・ロングビルはご存知無いかもしれませんが、ミス・ヴァリエールは魔法が使えないんです。 この場は無理にでも止めてあげるべきなんです。全く、あのフーケと戦うなんて」 優しさと冷徹さ。からかいと思いやり――それらのない交ぜになったキュルケの表情に、ロングビルは思わず感心するように頷いた。 「友達思いなんですね……。でも恨まれますよ?」 「芝居するのは得意ですから。それに、あのくらいの悪態だって日常茶飯事ですの。全然気にしまわせんわ。 それに……」 「それに?」 「貸しを作っておくには、悪くない相手ですから」 キュルケはそう呟き、意味ありげに微笑む。 ロングビルは、つられて微笑む。 キュルケ達を乗せた馬車は魔法学院近辺の草原を抜け、昨日フーケが消えた森に差し掛かっていた。 道中は何事も無かった。フーケどころか、人も獣も、全くキュルケ一行に姿を見せない。 ただただ、平和で閑静な森が広がるばかり。 馬の足音、馬車の車輪の軋み、そして何処かの鳥の囀りだけが響き渡る。 タバサは時折注意深く耳をそばだて辺りをうかがっていたが、異常が無いとわかると、本を開いて読書に勤しんでいる。 キュルケなどは暢気に欠伸しながら、のどかな空気を味わっていた。 緊張感の無さそうな二人に物言いたげに、ロングビルは馬を御しながらちらちらと振り返る。 だが視線を感じてもキュルケもタバサも全く動じない。 それどころか、暇つぶしを求めるように、キュルケはロングビルに向かって雑談をもちかけた。 「何とも平和ですわねぇ。フーケ捕縛なんてお堅い目的じゃなくて、殿方と遊びに来たいところですわ」 「あの……だいじょうぶですか? あと一時間くらいでフーケの隠れ家に着きますよ?」 「大丈夫、幽霊の正体見たり……って言うじゃありませんの。警戒ばかりして消耗していたら、勝てるものも勝てませんわ」 キュルケは何とも暇な様子で、爪にやすりをかけ始めた。 爪先が滑らかな曲線を描くのを見て取り、満足げに微笑む。 「ねえタバサー、今はどう? 周囲に何かありそう?」 「異常なし」 タバサは呼ばれた瞬間のみ、ふと顔を上げる――端的に返事し、また読書に没頭する。 「まあ、良いならば構いませんけど……」 「ええ。全然問題ありませんわ……あふぅ」 また一つ、キュルケは欠伸をかみ殺す。 「しかし、ミス・ロングビルも今朝からお忙しかったのに、御者なんてやらせて申し訳ないですわね」 「いえ。これも秘書の仕事ですから」 「オールド・オスマンも良い人材に恵まれてますわ」 衒いの無い賛辞に、ロングビルは微笑だけを返す。 「でもあれだけの助兵衛ジジイの相手も大変でしょう?」 「…そうなんですよ! 全く、この学院の男性陣は本当、ロクでも無い連中ばっかりで……」 「コルベール先生は何か変ですし……ギドー先生も実力はあるんでしょうけど、ちょっと……ですわね」 「本当、そうなのよ!」 ロングビルとキュルケは口々にこの場に居ない男性教師の愚痴を吐き出しつつ、暢気な馬車の旅は続く。 タバサは興味なさそうに読書したままだが、ロングビルは随分と不満を溜め込んでいたようだ。 しばらく話していただろうか。辛辣かつ気楽な愚痴もあらかた出尽くした後で、キュルケはフーケの話に戻した。 「ところで、ミス・ロングビル。フーケってどんな人なんでしょうね。世間を騒がす怪盗の素顔、なんて凄く気になりません? しかもその怪盗をこれから捕まえようっていうんですから」 「さあ……噂は聞きますが、容姿など全く話に昇りませんからね」 「怪盗と言うくらいですから、きっと渋いオジサマじゃないかしら、って思いません?」 「はぁ……」 「意外と若かったり、あるいは私たちと同じくらいの年だったりしたら驚きよね。タバサはどう?」 「……メイジの実力は、年齢や見かけで判断してはいけない。 同い年の可能性も、老人の可能性もある……」 「おじいちゃんやおばあちゃんだったらガッカリよねぇ」 「年下よりは良い」 タバサの冷静な指摘――のように聞こえるが、実際はキュルケと息の合った会話。 やれやれ、とロングビルは肩をすくめる。だがキュルケは悪びれもせず楽しげに話す。 「じゃあ当たったら金貨1枚なんてどうかしら?」 「私は賭け事はちょっと……」 と、ロングビルは撤退。 「構わない」 タバサは頷く。 「あら、ミス・ロングビル、残念ですわ。じゃあ私とタバサ二人で勝負よ」 「了解」 「私は、そうね……フーケの人相は……」 キュルケは親しげにロングビルに近づいた。 「貴女みたいな人だと思うのよ」 そして同時に、炎を放ってロングビルの杖を燃やす。 「タバサ!」 タバサの行動――呼ばれるまでもなく、ロングビルの腕を極めて杖を首元に突きつける。 「動くな」 「い、一体なにを……!」 「残念でした。もうバレてるのよ。土くれのフーケさん?」 キュルケは距離を取り、油断なくロングビル/フーケを見据える。 長閑な森の空気が凍ったように張り詰める。異常を感じた馬が嘶き馬車を揺らす。誰も動揺を見せない。 「この通り、杖は燃やしたわ。 もし他に隠し持っていたとしても、ここで下手な動きをしたら魔法の撃ち合いになるわね。 タバサは風のトライアングル。錬金の魔法なんかでタバサに不意打ちなんてできるかしら?」 キュルケによる、牽制と誘導を込めたフーケへの説明。反撃の意思を奪うために、キュルケは敢えて攻撃的な物言いをする。 「それにこの場から逃げても、今頃はルイズが教師達を説得してここに引き連れて来るはずよ。 残念だけど、泥棒稼業は今日で畳んでもらうことになるわね」 楽しげな口調――視線は真剣そのもの。 唇をかみ締めるフーケを油断なく見据える。怪盗として巷を騒がせた彼女が、どんな魔法、どんな技を隠し持っているか――。 「……何故私を?」 「鼻の効く仲間が居たのよ。ゴーレムの上に居た貴方は見えなかったでしょうけど。 ああ、『破壊の杖』も諦めてくださいます?」 「くっ……!」 キュルケの視線を受け止めていたフーケ――不意に、怒りに満ちたその表情が緩む。 はあ、と溜息を一つ吐く。 「ふふ、ふふふ……全く、一本取られちゃったわ。まあでも……私の役割は大体果たしたから。 私の首なら貴女達にあげるわよ?」 「……何ですって?」 キュルケの警戒――そしてフーケの驚きの敗北宣言。 「ずいぶん物分かりが良いのね……でも油断させる気なら無駄よ」 「いいえ、本当よ。……人形で良いなら、だけどね!」 ぽん、と音を立てて、ロングビルの体が煙と消える――馬鹿な。 何処へ消えたのか、キュルケは周囲を見渡す。フーケの姿は何処にも無い。めくらましと移動――違う。 「なんでっ? 何処へ行ったの!?」 「……違う、そうじゃない」 タバサが、足元の何かを拾う。 それは手に乗る程度の大きさのアルヴィーであった。 「私たちは騙された」 タバサの声に焦燥が篭もる。 「……それは何?」 「……スキルニル。ガーゴイルの一種。血を吸った人間に変身して行動する、古代のマジックアイテム」 ぎゅ、と力を込めてタバサはアルヴィーを握り締めた。 前ページ次ページ虚無と金の卵
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6186.html
前ページ次ページ虚無と金の卵 サイトが傭兵の内の一人を捕らえて、情報を吐かせた。 足を折られて呻き声を上げている賊の襟首を無造作に掴み、剣の切っ先を首筋に当てて静かに脅しつけるサイトの姿を、ルイズはどこか遠い世界の出来事のような目で眺めていた。 二十人以上を一度に相手にした男と、貴族三人に囲まれて、傭兵は哀れなほどに怯えていた。 実力行使に出るまでもなく、傭兵は壊れた蛇口のように簡単に喋った。 曰く――知らない貴族に雇われた。多分、二十代くらいの男だ。この辺りでは初めて見る顔だった。 曰く――貴族の素性なんてどうだって良かった。内戦も膠着してるから、俺みたいな連中は冷や飯食わされてんのさ。 曰く――山賊の真似事でもして暴れてこいと言われた。あんたみたいな腕利きや貴族が居るなんて知らなかった。 曰く――頼む、助けてくれ。貴族に襲いかかったなんて知れたら、一生表を歩けやしねぇ。 幸い、ルイズ達に怪我はなかった。 賊の大部分は、骨折や打撲程度の怪我を負っていたが、死者こそは出ていないようだった。 戦意を無くし無傷のまま取り残された者も居たほどだ。 ただし、賊の内の一人の傷は重かった。真っ先にサイトに狙われ、袈裟懸けの一撃を受けていたのだ。 だが臓腑や重要な血管を傷付けるには至らず、サイト自身が血止めなど最低限の手当を施していた。 後は、賊の仲間がどう扱うかに任せた。 タバサがぽつりと、殺さずに済ませたのか、と尋ねたが、サイトは何も答えなかった。 事が落ち着いたところで、サイトもルイズも、賊や傭兵崩れなどに構って時間を食う必要はないと結論付けた。 そして「こんなところで立ち話もどうかと思うわよね」というキュルケの一言で、 一行はラ・ロシェールへと向かうこととなった。 ルイズ達が腰を落ち着けるために選んだ店は、『女神の杵亭』であった。 ラ・ロシェールで最も上等な宿であり、宿の中の酒場も外の喧噪からかけ離れた、貴族御用達の高級店である。 貴族3人と使い魔一匹を店員は快く迎えたが、サイトは旅の垢に塗れた出で立ちであった。 店員の一人が近づき、使用人の方は別の部屋にご案内いたします、と申し出てきた。 世慣れたキュルケが店員にチップを握らせて黙らせていた。 「悪いなぁ。随分と旅が楽になった上にご馳走になるなんてな」 全員がテーブルに着いたところで、サイトは頭を下げて礼を言い、グラスに注がれたワインを美味そうに呷っていた。 全くと言って良いほど屈託のない表情で、料理やワインを堪能している。 こうして見れば、自分らと同じ世代にしか見えない、とルイズは思った。 むしろ、苦労を知らないの貴族の息子ような稚気があった。 少なくとも剣を振るったり、傭兵くずれを脅しつけているときとは全く違っていた。 一人の人間の中に、峻厳な戦士と、お気楽な少年が同居しているような――ルイズはそんな感想を抱いた。 「全然気にしなくて良いわよー。私達の奢りだから。遠慮なんて無さらないでくださる?」 「ま、良いわよ。ここの払いくらいは私が持つわ」 キュルケの軽口にルイズは反論もせず、ワインと共に話を呑み込む。 「あら、珍しく殊勝ね」 「まあ……今は私がこいつの雇い主だし、皆には助けられたしね」 と言ってルイズは溜息をつく。 「悪いな、ご主人様。ところで……」 「キュルケよ。この子はタバサ。みんな、トリステイン魔法学院の生徒よ」 「へぇ、学生だったのか」 サイトが、微かな羨望が混ざった声で相槌を打った。 「俺はヒラガ・サイト。見ての通り、その日暮らしの傭兵さ」 「……ヒラガ・サイト?」 あまり物事に関心を持たないタバサが、珍しく発言した。 だが、その声色は堅い。何処か警戒を滲ませている。 「なら、あの様子も納得できる」 「タバサ、知ってるの?」 「……火打ち石」 「どういう意味だ?」 ウフコックが、タバサの呟きに反応する。サイトはタバサに目を向けるだけで何も言わない。 「彼の二つ名。……ガリアでは有名なメイジ殺し」 普通、メイジには属性や得意な魔法にちなんだ二つ名が付く。 風ならば、「疾風」や「風上」。火ならば、「微熱」、「白炎」といったように。 そして時折、平民にも二つ名で呼ばれる者がいる。 メイジ殺し――無味乾燥で、称号と言うよりも忌み名に近い響き。 目の前の男も、そのメイジ殺しであることは間違いない。 サイトがそう呼ばれるに足る実力の持ち主であることを、ルイズ自身目の当たりにしていた。 だがタバサの言葉では、サイトはそうしたメイジ殺しの一人でありながら、メイジ殺しとは呼ばれていないらしい。 由来は諸説ある。 どこまで事実なのかは彼しかわからない――と注釈を付けてタバサは説明を始めた。 それは、軍人のメイジを真っ向から倒したという噂だった。 ゲルマニアとガリアの国境近辺の緩衝地帯では、つまらない理由で小競り合いが頻発する。 そのため、立場のある貴族は巻き込まれるのを嫌い、血気盛んな若い貴族、貧乏貴族や平民の傭兵がよく送り込まれる。 そこでサイトは、ガリア勢の傭兵として戦っていた。 トリステインでもガリアでもゲルマニアでも、傭兵や平民で編成された部隊が貴族の指揮の下で戦う際、平民はメイジから着火の魔法を借りて火縄に火を灯すのが作法だ。 魔法を借りる――即ち、突撃する者に対して魔法の援護を与えるという保証に他ならない。 それ故に平民であっても、屈強な亜人や敵のメイジに対しても、果敢な攻撃を仕掛けることができる。 だがサイトは、魔法の援護もなく、着火の魔法すらも借りずに単身で突撃してメイジの部隊を全滅させ、多くの傭兵や貴族を震え上がらせたという。 平民の使う粗末な武器だけで挑む男。魔法など不要――それを押し通す無礼さと畏怖を込めて『火打ち石』。 タバサって意外とこの手の逸話が好みなのだろうか、などと場違いな感想を抱きつつも、 ルイズとキュルケはタバサの珍しく饒舌な説明に聞き入っていた。 「世間って広いわねぇ……」 キュルケがうっとりとサイトを見つめる。 「火打ち石……物騒な名前だな」 ウフコックが重く呟く。 「ま、確かにそう呼ぶ連中も居るけど」 サイトは、タバサの説明に肯定も否定もしなかった。 ただウフコックの呟きに、困ったような、複雑な表情を浮かべただけだった。 普通、二つ名とは基本的には尊称のようなものだが、当の本人は嬉しそうではない。 そんな彼を見ながら、「偶然か……」と意味深に呟いてかぶりを振るウフコックに、ルイズだけが気付いた。 それを尋ねようとしたところを、キュルケの黄色い声が遮る。 「良いじゃないの。強い殿方って素敵よ!」 「また始まったわ……。大体あんたたち、何しに来たのよ」 溜息混じりにルイズが語るが、キュルケはあっけらかんとした態度を崩さなかった。 「朝早くから出て行く貴方たちを見たから、面白そうだと思って急いで追いかけてきたのよ。 おかげでルイズも助かったじゃない。まったく、持つべき物は友達よね」 「で、今は平民の男を口説いてるってわけ?」 「ま、細かいことは良いじゃないの。ねぇ、サイト。魔法無しで武勲を挙げられる腕前なら、ゲルマニアじゃあすぐに貴族になれるわよ。 あなた、ゲルマニアの爵位には興味はないの?」 「……あー……悪い。傭兵といっても、一応はガリアに貴族の主人が居てさ。 腕っ節を鍛えてこいと放り出されて、武者修行中なんだよ」 「あら、じゃあウチに仕えない? そんな薄情な主人なんて放っておいて。給金くらい弾むわよ?」 「……いや……あまり困らせないでくれ……」 本当に困ったような顔でサイトはキュルケの話を受け流そうとするが、キュルケは構わずに猛攻を続ける。 緊張した空気が薄れ行き、タバサとルイズがキュルケに茶々を入れつつ、運ばれてきた料理や酒に手を伸ばす。 他愛ない会話。そんなものを続ける内に、やっとルイズは、一息吐くことが出来た。 ルイズは、口には出さず、心の片隅でキュルケの明るさに感謝した。 だが、サイトの何気ない一言が、ルイズの心を乱した。 「魔法でも剣でも良いけどさ、腕が立つとか強いとか、そんなんで人間を計るもんじゃねぇよ。 大体俺はそんな大層なもんじゃない。目の前の金とか主人からの褒美とか、手前のためだけに働いてるだけだ。 俺は、国とか理想とかのために本気で命を掛けるような本物の貴族に比べりゃ、つまんねぇ平民だよ」 それは常々、ルイズが思っていたことと似ていた。 貴族は魔法が使えるということではない。貴族として振る舞うことだ。 言っていることは同じだ。だが、実力も立場も、何もかもが逆の少年に言われたことは、ルイズにとって衝撃だった。 「……そんなに強いなら、その力を何か役立てようって思ったりはしないの?」 「結局、俺はただの平民だよ。アルビオンとレコン・キスタの戦争なんて、本当は部外者だ。 働き口が無かったら関わっちゃいないし、気に入らない主人や雇い主だったらとっくに手を切ってるさ」 ルイズは、自己の魔法の非才のために、周囲の誰かを落胆させてきた。 だが、この男は違っていた。貴族という者を魔法が使える、使えない、という目で見てはいない。 というより、中途半端な魔法の腕で、彼が屈服することはなかろう。 ルイズは思う――だから自分はこの平民が怖かったのだ、と。 虚飾や魔法の技量などを剥ぎ取った後に残る、精神の在り方。それこそが貴族たる証。 それは、魔法の使えない貴族であるルイズが出す言葉よりも、魔法など意に介さぬ平民であるサイトの言葉の方が確かな真実味を持っているということに、気付いた。 ルイズが目の前の男から感じる緊張感が、まさしくそれであった。 そして緊張感は、対抗心の裏返しでもあった。 「……本当に貴方って、珍しいのね」 ルイズは思う――果たして、彼の目から見て自分は貴族か。貴族たる証明を示せるか。 そして、それを示さねばならない日が、来るのだろうか。 「ところで、サイトはどうしてここに来たの?」 キュルケがワインをグラスに注ぎながら、何気なくサイトに尋ねた。 「レコン・キスタは知ってるよな?」 「……詳しくはないけどね」 そうルイズが答える。サイトの答えに、ルイズの方が堅くなっていた。 サイトは敢えて無視し、話を進める。 「レコン・キスタってのは、アルビオンの貴族の派閥じゃあなくて、国を跨った貴族間の秘密の同盟だ。最近までは」 「最近まで?」 「レコン・キスタに裏切り者が出て、何処の誰がレコン・キスタに所属してるか全部バレたって話さ」 「へぇ、それは初耳ね。じゃあもう、王党派の天下ってこと?」 キュルケの質問に、サイトは頷く。 「そうだ。だから顔が割れた連中に対しては、アルビオンの王党派も、トリステインも、 やっきになって捕まえようとしているところさ。 主立った連中はほぼ掴まったけど、逃げた連中はアルビオンを目指している。 まあアルビオンの貴族派が本拠地みたいなもんだからな。 王党派は勿論、そんな連中を国に入れるのは願い下げらしい。 だからレコン・キスタの連中の名前を張り出して、そいつらの首に かなりの懸賞金を掛けたってわけさ」 「それを狙ってるってわけね……意外と野心的なのね、貴方」 キュルケが褒めそやし、ルイズはそれを耳にしつつ無関心を装う。 「名の売れた連中が意外に多いんだよ。俺が追っていたのは、グリフォン隊隊長『閃光』のワルドだった。 取り逃がしたけど」 「……それで、まだ追う気?」 ルイズはワイングラスを傾け、ぽつりと尋ねる。目を合わせもしない。 ルイズの言葉に、サイトは、つとめて無表情に頷く。 「ん……ああ。レコン・キスタの残党は、必ずここに来るはずだから」 「まだ、狙う気なの? 逃げられたんだから、止せばいいじゃないの」 「……ま、仕事だからな。それに言っておくけど、俺が狙ってるのはワルド個人じゃあない。 あくまでアルビオン国外のレコン・キスタだ。 相手がそれを降りて諦めない限りは敵同士だし、俺も今のところ、王党派から離れるつもりも無い」 「……どうしたの?」 サイトの答えは歯切れが悪かった。 事情を知らないキュルケとタバサの胡乱げな視線を感じ、ルイズはすぐに首を横に振った。 「……ごめん、なんでもないわ」 いつもならば、キュルケはルイズをからかい、上手く本音を引き出させようと手練手管を使ってくる。 だが、今回ばかりはキュルケは敢えて攻めてこなかったようだ。ルイズは密かにほっと一息つく。 「ところで、他にはどんな賞金首が?」 タバサが口を挟む。 「……まあ、有名どころは何人かいたが大体捕まっちまったな。ほかに残ってるのは、脱獄犯の『土くれ』のフーケってところか」 「フーケ!?」 三人と一匹が一様に驚く。ルイズなど立ち上がりかけて机を揺らしかけた。 それだけの驚きを与えるには十分だった。今ここで名前が挙がって良い人物では無かったのだから。 「……ん? 知ってるのか?」 「知ってるも何も……捕まえたのは私達だもの」 ルイズが驚きながらも答える。 「……へえ。やるもんだなぁ」 サイトはそう言って、微かに目を細める。 「脱獄犯って言ったわよね。今この時期に逃げたしたってこと?」 「さあ、俺も傭兵仲間から聞いただけだしな。トリステインの事情はお前達の方が詳しいんじゃないか?」 「……君自身は、フーケのことは知らないのか?」 ウフコックの問いかけに、サイトは首を横に振った。 「知ってるのは、盗賊フーケが盗みを失敗して掴まったことと、レコン・キスタとして名前が挙がってるってことだけだ」 「……そうか」 「まあ、そういうわけで、そういう危うい貴族派もいる。食い詰めた傭兵だって多い。 このへんの治安は本当に悪いんだ。そんな豪華な指輪付けてたら良い的になっちまうぜ」 「そのくらいわかってるわよ。外では付けなかったんだから」 「そういえばルイズ、良い指輪してるわね。どうしたの?」 ルイズは自分の右手の薬指をキュルケに見せる。そこに嵌められていたのは、アンリエッタ姫から貰った、水のルビーだった。 貴族向けの宿ならば身なりを良くしていた方が扱いが良くなると考え、ルイズは、宿に入る前に何気なく指輪を嵌めていた。 「……珍しい石ね。なにそれ?」 「ルビーよ」 「ルビーって赤色じゃない。なんで青色なのよ」 「そういえばそうよね……あれ?」 ルイズが頭を悩ませた瞬間、サイトが飲みかけのワインでむせて汚い音を上げた。 次はサイトの方が驚く番だったようだった。 「げほっ、な、青いルビーだって?」 「ちょっと、なによ汚いわね!」 ルイズが、間抜けな表情のままのサイトに抗議の声を上げる。誰がどう見てもサイトの姿は不審だった。 「わ、悪かったよ……。それ、もしかして水のルビーか?」 「知ってるの?」 ルイズは驚きも隠さず聞き返した。 アンリエッタ姫から直接賜った指輪だ。名の売れた宝石だったとしても仕方ないだろう。 だがサイトが宝石の目利きができるような人物とはとても思えず、ルイズは頭に疑問符を浮かべる。 「あ、ああ……聞いたことはある。王家ゆかりの指輪だ。水を現わすから青色をしている。 他にも火、土、風と、魔法の属性毎に合わせて四色のルビーがあるらしい」 「へぇ……タバサは知ってた?」 「知ってる……だけど、ルイズの付けている指輪が水のルビーとは知らなかった」 タバサが頷く――それだけ呟いて食事を続ける。 だが自分でも気付かなかったことをサイトが気付いたのががやや不満なようで、妙に箸の進みが速くなったことに、ルイズとキュルケだけが気付いた。 「詳しいな。宝石に興味が?」 と、ウフコックが尋ねる。 「いや、俺はそれほどでも。主人が詳しくってな……。主人がいわゆる好事家ってやつで王家のルビーも欲しがってたから、話を聞かされていたんだ」 言葉少なにウフコックに答えた後、サイトは妙に悩む表情を浮かべた。 だがそれはすぐに消えて、決心した顔つきでルイズに話しかけた。 「なあ、その指輪、俺に売ってくれないか?」 「な、なんでよ! これは大事な指輪なのよ……」 路銀にするように、というアンリエッタ姫からの言いつけも忘れて、ルイズは反射的に断って自分の指を隠した。 ルイズは金に困ったことなど、皆無と言って良い。売り払うという発想自体、今まで無かった。 サイトはルイズの答えを聞いて、がくりと肩を落とす。 「いや、そうだよな。そんな宝を易々と譲るわけはないよな……悪かった」 そう言ってサイトは飲みかけのワインを乱暴に煽り、席を立った。 「長居して邪魔しても悪い。そろそろ席を外させて貰うな。ご馳走様」 「あら、気にしなくて良いのに。何ならもっとご一緒しませんこと?」 キュルケが甘えた声を出して引き留めようとするが、サイトは首を横に振る。意志は固いようだった。 「何処へ?」 「王党派の兵舎が、港のすぐ近くにあるんだ。そこを間借りして寝泊まりをしてる。仕事もまだまだ残ってるから」 タバサの質問に答え、サイトは去ろうとした。 だがサイトは思い出したように振り返り、ルイズに話しかけた。 「何でアルビオンに行きたいのかは聞かないけどよ、どうせスヴェルの月まで船は来ないんだ。 余計なことは考えないで、宿で大人しくしてた方が良いぜ」 「ひっこんでろってこと?」 「……まあ、言葉は悪いけど、そういうことだ。敵か味方かはっきり言わない人間にうろうろされると、困るんだ。 だから、ここで行動するつもりなら、そのあたりをはっきりさせないと王党派からも貴族派からも 敵に見られちまうかもしれないし、気を付けてくれよ。 ……それに俺個人としては、あんたたちに剣を向けたいとは思わないし」 ルイズは、きっとサイトを睨み付ける。 だが、何も言い返すことなく、サイトの後ろ姿を見送った。 サイトは振り返らなかった。 前ページ次ページ虚無と金の卵
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5862.html
前ページ次ページ虚無と金の卵 アンリエッタ姫殿下の行幸した日の夜。 ルイズは歓迎式典を終えた後、大人しく自室に戻り、姫殿下の姿を思い起こしていた。 魔法学院の生徒として、他の生徒や教師と共に姫殿下を出迎えた。 アンリエッタ姫殿下が馬車から降り、緋毛氈の上を優雅に歩いていく姿――自分と同じように成長している。 だが、瞼の裏のお転婆な姿とはそこにはなく、気品と威厳、そして優雅さを兼ね備えた一国の王女であった。 実に立派になった。あの無邪気な頃の姫がいないと思うと少し寂しい。 だが、その寂しさと同じだけの誇らしさを、ルイズは感じていた。 「なあ、ルイズ。アンリエッタ姫が来てから妙に嬉しそうだな。他の学生のように、うかれているという感じでもない」 「あら、そう見えるかしら?」 「親しみと喜びの匂いを感じる。あの一団の中に、誰か知り合いでもいたのか?」 「うん。そうよ……幼馴染が居たの。声はかけられなかったけど……でも、一目見られただけでも本当によかったわ」 しみじみとルイズは語る。 「幼馴染か……。良いものだな」 「ウフコックは、そういう人いる?」 「馴染みの友達なら……ああ、俺の生まれた研究所に、イルカの友達と人間の友達が居る」 「い、イルカ? 貴方みたいに喋るの?」 ルイズの驚いた声に、誇らしげにウフコックは答える。 「ああ。まあ少し荒っぽい性格だが……博識で頼りになる男だった」 「そ、そうなの……。貴方の生まれたっていう研究所をもし見たら、多分卒倒しちゃうかも」 「きっと君の認識の幅が広がることだろう。……ああ、だがチャールズは見ない方が良いだろうな。本気で卒倒しかねない」 「よくわからないけど……ウフコックがそう言うなら、そうなんでしょうね。 ところで貴方、お仕事をしてたのよね。衛士隊みたいに、犯罪者を捕まえていたんだっけ?」 「ん? ……ああ。まあ正しくは、証人保護、生命保全が目的だったが」 「どうしてその研究所から出て、その仕事を選んだの? 他の友達はどうしたの?」 ルイズの何気ない問いに、ウフコックは逡巡した。 ウフコックは嘘を付くことを嫌う。また、同様に何かを秘密にすることも嫌う。 ウフコックの生来の嗅覚の前には、嘘も秘密も意味を為さない。 そのため人間の嘘や秘密と言った概念自体理解することに、意外なほどに時間を要した。 またウフコック自身が誰かを騙す/隠す行為、それは一般人以上に罪悪感を伴う行為だった。 あらゆる心理を嗅ぎ取る自分自身が、何かを隠すこと。それがどれほどの公平性を欠く行為であるのか、 十分以上にウフコックは自覚している。 そのウフコックが、珍しく押し黙った。 「……言い難いことなら、別に良いわよ?」 優しくルイズは諭す。だがウフコックは、遠くを見るような目で語り始めた。 「一緒に、研究所を出て、都市を目指した友……というより、仲間が居たんだ。 皆……強かった。どんな窮地に立たされても、諦めることは無かった」 言葉の響きとは裏腹に寂しげなウフコックの声。ルイズは驚きつつ、耳を傾ける。 「俺が研究所を出たのは……研究所の外の世界に、俺を必要とする人がいると願ったからだ。 まあ、一緒に研究所を出た仲間達の理由は、それぞれ少し違っていただろう。だが俺達は、決して少なくない数の人達を救ってきた。 ……彼らと共に仕事して、恐らく初めて、誇らしさというものを感じたと思う。今の俺があるのは、彼らのお陰だろう」 「その仲間の人達が、好きだったのね……」 「ああ。誰もが、かけがえの無い親友だった」 「……今は、その人達は?」 ウフコックが言いよどむ程のことが起こったのだろう。聞くべきか、聞かずに済ませるべきか、迷う。 だがルイズは、覚悟を決めて尋ねた。 「……何人かは、死に別れてしまった」 「……! そうなの……」 「俺達の仕事とは、証人を守ることだった。 俺達のリーダーは、利益の名の下に踏み潰される人を、苦痛に塗れて生きる人を、救いたかったんだ。 だが、証人が失われることで利益を得る連中は少なくなかった……闘いは避けられなかった」 「……辛かったでしょうね」 ルイズは、ウフコックの背を撫でた。 ルイズの手の平に、背を預けるウフコックの重みが伝わる。 「死に別れたときは……ひどく落ち込んだ。本当に自分の道が正しかったのか、迷いに迷った。 だが今は、彼らの死を無駄にしたくないという気持ちが強いんだ。 俺は、仲間達の意思を受け継いでいる。どんな状況であれ、俺はそれを貫きたい」 「……今度落ち着いて、貴方の仲間のこと、ゆっくりと聞かせてくれる? もちろん、貴方が良ければ、だけど」 「ああ、いいとも。是非聞いてほしい。皆、武勇伝と呼ぶに相応しい活躍だったんだ。しかし一つ不安があるな」 「どんな?」 「皆、本当に頼りになる人間ばかりだったから、俺への関心が薄れてしまいそうで心配だ」 「あら、嫉妬してくれるの?」 「さあて、どうだろうな」 「貴方の代わりなんていないわよ。……そうだ。仲間の話をしてくれたら、私の幼馴染のことも教えてあげるわ」 「それは楽しみだ」 このとき、ウフコックは一つの嘘をつき、一つの事実を隠した。 ウフコックの仲間、そのうちの一人は都市へ出る以前に死亡していた。 そして更に、9人は都市で死亡した。 13人中、生き残ったのは3人のみ――その中に09メンバーの指導者はいない。 戦闘ならばどの軍隊でも全滅と判定するであろうケース。 少なくとも「何人か」という言葉で表してよい数字では無かった。 そして、生き残った3人の内の1人でウフコックの元相棒――その男がウフコック達と決別して 敵の下へ降ったという事実を、ウフコックは口にすることができなかった。 話し込んでいる内に夜も更け、ウフコックもルイズも寝る支度を整えようとした頃。 「もうずいぶん遅くなったわね……。でも、なかなか寝られないわ」 「余韻に浸りながら床に着くのは悪いものではないさ。また明日に色々と話そうか……」 ウフコックがだらしなく欠伸をして布団に潜り込もうとした。 その瞬間、ノックが響く。 始めに、長く2回。そして短く3回。 ウフコックの嗅覚に、ルイズの驚き、戸惑い、そして大きな歓喜の匂いが届く。 「……まさか……!」 ルイズは寝巻きに着替えようとしていたが、急いでブラウスを身に付けて扉を開く。 扉から入ってきたのは、ローブを羽織り、頭をフードをすっぽりと被った女性。 手早く後ろ手で扉を閉め、辺りをディティクトマジックで調べ始める。 「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」 「……姫殿下!」 女性はフードを下ろす。現れたのは、魔法学院総出で出迎えたはずのアンリエッタであった。 ルイズの顔が輝く。アンリエッタの表情も、明るい笑顔に包まれる。 「ああ、ルイズ! 懐かしいルイズ!」 アンリエッタはルイズを愛しそうに抱きしめる。だが、ルイズは嬉しさを堪えるように畏まる。 「姫殿下、こんな下賎な場所に来てはなりません……!」 「ルイズ、堅苦しい言葉は止めてちょうだい! ここには枢機卿も母上も、宮廷貴族も居ないのだから」 総出で迎えたときとは打って変わり、アンリエッタには年相応の明るさが見て取れた。 「お願いよ、そんなよそよそしい言葉はよして、昔を思い出しましょう?」 「姫様……」 「クリーム菓子でつかみ合いの喧嘩をしたこともあったでしょう……本当に懐かしいわ」 「アミアンの包囲線もありましたわ。……ドレスを引っ張り合って、私、気絶してしまいましたわ」 「そうよそうよ! 覚えてるじゃないのルイズ!」 「二人で、泥だらけになってはしゃいでいたりしましたわ。懐かしい……」 昔の話に花を咲かせて屈託無く笑う二人を、ウフコックは優しく見守る。 「ところで、可愛らしいネズミさんね。ルイズの使い魔さんかしら?」 「ええ。ウフコック、ご挨拶なさい」 「初めまして、アンリエッタ姫。俺はウフコック。ルイズの使い魔をさせて貰っている。 特技はまあ、お喋りとお洒落といったところだろうか」 「あら、お喋りもできるのね。毛並みも艶やかで、とても綺麗だわ。お洒落さんには間違いないのね」 「ありがとう、アンリエッタ姫。ところでルイズ、先ほど、俺に幼馴染のことを話してくれるという約束をしたが……。 その約束を果たして貰える、という理解で良いのかな?」 「こ、こらウフコックっ! 姫様の前なんだから、幼馴染なんて気安い言葉、使わないで頂戴!」 だがウフコックは悪びれもせず、ありのままをアンリエッタに伝える。 それを聞いてアンリエッタは嬉しそうに微笑んだ。 「いや、ルイズは貴女に対して、強い親しみと誇らしさを感じている。本当に幼馴染の成長を喜んでいる、という感じだった。 現に先ほどまで、興奮してなかなか寝付けないでいたのだから」 「まあ……嬉しい……」 感極まったように、アンリエッタは涙ぐむ。 「ここ来てよかったわ。貴方の元気そうな顔が見れたのだから」 「私も、姫様のお姿を見れて……とても幸せです。それに昔のことを覚えてくださっているなんて、感激でした」 「忘れるわけがないわ。……昔は、毎日がとても楽しかったもの」 アンリエッタが成長し、ルイズがお相手役を止めて別れ、十年近く経つ。 二人で遊んだ子供の頃の話。別れた後に起きた話。 相変わらず魔法が使えないこと/宰相に愚痴られてばかりであること。 魔法学院に入学したこと/父が死んだこと。 ウフコックを召喚してから変わりつつある日々/政務に追われる日々。 二人は互いを確かめるように、尽きることなく話し合った。 だが、ふと、アンリエッタの顔に影が差す。 「……この先も、どうか、私と遊んだ日々、忘れないでいてくれる?」 「……姫様?」 アンリエッタはまた、来たときのようにルイズを抱擁する。 「きっと貴女なら良いメイジになるわ。ルイズ」 そして去ろうとしてルイズから離れ、扉に手をかける。だが、ウフコックが呼び止める。 「待つんだ。そのまま帰ってしまって、良いのか?」 「……ええ、私はただ、友達の顔が、見たかっただけですわ」 「そうか……まあ、心許せる友人は何より貴重だ。いつまた会えるかわからないとなれば、なおのことだろう。 だがルイズにとっても貴女は友だ。友の身を案じる気持ちというのは、大事にしてあげるべきだと思う」 アンリエッタの、ドアノブを回そうとする手が止まった。 ルイズも何かの気配を悟る。 「……姫様。何かお話したいことがあるなら、仰ってください。私は誓って、他言など致しません」 だが、アンリエッタは哀しそうに首を横に振る。 「……いいえ、言えませんわ。貴女を巻き込めはしない」 「ですが……!」 「迂闊に話したら、貴女も無関係では無くなります。まだ学生の貴女に危険を晒させたくありません……」 王女の孤独――迂闊に触れてはならぬ権威そのもの。 ルイズは、目の前の敬愛すべき姫に、何かしらの危機が迫っていることに気付いた。 ルイズは思う。 助けてあげたい。力になりたい。 だが――今、自分が手を差し伸べることが出来るのか。果たして差し伸べて良いのか。 もしアンリエッタ姫を助けるとして、何を命じられてもウフコックと一緒ならやり遂げることは出来る。 だが――。 ルイズはウフコックを見つめた。 やれやれ、と肩をすくめている――頼もしさを伴うふてぶてしさ。 「姫様。私はそれでも構いません。どうか、お話になってください」 「ルイズ……」 アンリエッタは伏せていた瞳をあげ、ルイズと、ウフコックを交互に見た。 「ありがとう、ルイズ。それに使い魔さん。この話は、どうか他言無用に願います。良いですね?」 「はい、姫様」 「……この学院に来る前は、ゲルマニアに行幸してきました。表向きには……私がゲルマニアの皇帝に嫁ぐため、 そしてトリステインとゲルマニア間の和平を結ぶためでした。それはご存知?」 望まぬ結婚であろうことを悟り、ルイズの声は暗くなる。 「はい。……噂ですが、レコンキスタがアルビオンを牛耳ったときのための策と、聞いております……。 ですが表向き、ということは……」 「本来ならそのはずでしたわ……そういう形式でゲルマニアに行幸しました。でも、実際は裏の目的があったの。 実は、婚姻というのは周囲の目を誤魔化すための方便に過ぎないわ。正式な話は何も無くて、 あくまでありそうな雰囲気を作り出しているだけなの」 「裏の目的……」 アンリエッタは少し沈黙し、言いにくそうに切り出した。 「……アルビオンの外……ゲルマニアやトリステインの貴族の中に、レコンキスタの協力者が居ることがわかったのです」 「トリステインの貴族に!? なんて恥知らずな!」 レコンキスタの影響で国策が決まったとしても、レコンキスタそのものは対岸の火事。 大抵の貴族はその程度の認識であり、ルイズもその大抵の貴族に含まれる。ルイズは驚きを露わにした。 「ええ……とても衝撃でしたわ。それも、私やマザリーニの信頼していた貴族が裏切り、 レコンキスタに協力していたのです……。しかも、私は彼の者に秘密を漏らしてしまいましたわ」 「秘密……」 「……私が、以前にウェールズ皇太子に宛てた手紙です。それを知られれば、トリステインとゲルマニア間の 国交は悪化し、レコンキスタは勢い付くでしょう。それほどの内容の手紙が、あるのです……」 「姫様、その手紙とは……」 ルイズの言葉に、アンリエッタは耐えるように唇を結び、首を横に振る。 「ごめんなさい、ルイズ。それは言えないの……」 「ですが、その、レコンキスタに通じている者がおわかりになるのでしたら……」 「彼らは、誰もが一騎当千の魔法衛士隊の隊員なのです。易々と捕まることはないでしょう。 しかも一人は風の遍在の使い手。こちらが万全を期していても、抑えることは至難の技です」 「そんな人が……レコンキスタなのですね」 「もし捕縛から逃れたら、彼らはアルビオンに逃げることでしょう。そしてその内の一人は、 手紙のことを知っています。レコンキスタが今や危機に陥っている以上、アルビオンや他国を牽制する材料ならば、 手段を選ばずに手に入れようとするはずです」 「はい……」 「私がしたためた手紙のために、歴史あるアルビオン王家が倒れ、そして簒奪者がトリステインに牙を向くようなことがあれば……。 私は、償いきれぬほどの罪を背負うことになります」 その罪の重さに、ぶるりとアンリエッタは震える。 「……今のうちに動けば、気取られる前に手紙を回収することができます。 そしてトリステインも、アルビオンも、混乱させることなく事態は収束するでしょう。 ……しかし魔法衛士隊から裏切りが出たとなれば王宮は浮き足立つことは必須。頼れる者が居ないのです……」 「姫様……ご安心してください。一命に代えましても、その手紙、取り戻して参ります」 ルイズは、アンリエッタの信頼に応えるべく、目を見つめて頷く。 だがそこで、黙って話を聞いていたウフコックが割り込んだ。 「……なあ。言葉を挟んでも良いだろうか」 「えっ、い、いきなり何よ?」 話が纏まりつつ合った瞬間のウフコックの言葉に、ルイズは驚く。 「その手紙の内容については、どうしても言えないということか?」 「そう仰ってるじゃないの」 「まあ、ルイズがアンリエッタ姫の忠実な僕として行くのならば、何の問題も無い。 号令を聞いて飛び出せばよいだけの話で、目的を遂行する以外の余計な知識は、むしろ邪魔だろう」 ルイズは、ウフコックの口ぶりに不穏な空気を感じ取る。 「ウフコック……どういう話をするつもりなの?」 「……ルイズ、構いません。ウフコックさん、お話を続けて貰える?」 アンリエッタに促されて、ウフコックは言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 「ルイズは貴女の忠実な僕として、立派な働きを見せると思う。 首尾よく例の手紙を回収し、国としての危機は回避できるだろう。 そして貴女が頼む限り、貴女に取り入ろうとする誰か、貴女を利用しようとする誰かには 任せることのできない仕事を、ルイズは何も言わずに進んで請け負うだろう」 ひどく客観的な物言いに、アンリエッタは固まる。ルイズは恐々としつつ見守った。 「だがもし、だがアンリエッタ姫、もしルイズとの間の友情を信じるのであれば……。 目の前の友を、どうか信頼してあげてほしい。きっと何を言ったとしても、失望したり、裏切ったりすることはない。 少なくともルイズは、王女としてだけではなく、等身大の人間として君を心配しているんだ。 ルイズも、その手紙がどういうものなのか、薄々勘付いているのだろう?」 「うっ……」 ウフコックの言葉は事実であった。ウェールズに宛てた手紙という話と、アンリエッタの狼狽ぶりを、 ルイズは頭の何処かで冷静に見ていた。 「事情を聞かずに察して行動するのも、一つの絆の在り方だろうし、それでも問題を解決することはできる。 だが、より深い話を、一人の人間としての本音を、聞いてあげるべきだ。それができるのは君だけなのだから。 それとも君はアンリエッタ姫に、王女としての姿しか求めないのか?」 「それは……。でも……」 逡巡を露にするルイズの肩に、アンリエッタの手が置かれる。 「いいのよ、ルイズ。……そうね、取り繕うとした私がいけなかったわ」 アンリエッタの顔は、何処か吹っ切れたような表情をしていた。 「貴女にお願いがあります。命令じゃなくて、お願いよ……私の話を聞いて。そして絶対に、誰にも言わないでくれる?」 「……はい」 「私がウェールズ様に宛てた手紙は……恋文です。ウェールズ様に、恋焦がれていました。 手紙をしたためたときの気持ちは、今も変わりありません」 「そうでしたか……」 「ですが、国を預かる身分の人間が一時の感情に身を任せるなど、あってはならないのです。 それが露見したら、やがては王族への疑心に繋がります。そしてレコンキスタが勢力を盛り返せば アルビオンの戦乱はさらに拡大し、やがては国を挙げての戦争に繋がりかねません……。 手紙を送った当時は、レコンキスタなんて影も形もありませんでした。でも、あんな手紙を送ってもウェールズ様を困らせ、 厄介事を引き起こすだけだなんて、わかりきっていたのに……。私は、自分を御することができませんでした。 私が至らなさのために……皆を、ウェールズ様を苦しめるなんて、耐えられない」 ルイズは気付く。アンリエッタの感じる後ろめたさと、自分の心を。 客観的に判断すれば、完全に姫が悪い。方便とはいえゲルマニア皇帝との婚約の話が持ち上がっている以上、 教会には酷く対面が悪くなる。国内の貴族に関しては、言わずもがな。 ゴシップ好きの野次馬や、王侯貴族にロマンを求める平民を喜ばせる程度だろう。 だが敢えてルイズはそれを気付きつつも、心の片隅で、誉れ高い姫君というアンリエッタという偶像を 守ろうとしていた自分に気付いた。 無邪気に遊んでいた幼少の頃を瞼の裏に浮かべることはできたが、今、目の前にいるアンリエッタが、 過去の延長上の当たり前の17歳の少女ということを無視しようとしていたのでないか――ルイズは自問自答する。 王女であるアンリエッタを助けたいと思ったのは紛れもない真実だ。 だがその裏、権威ある人間に恩を売りたいという気持ちが一点も無かったと言えるのか――否定は難しかった。 恥部を視界の外に追いやり、笑顔だけを向け合う関係――アンリエッタの愚痴るような、宮廷貴族と同じではないか。 ルイズは遠い過去/アンリエッタとの関係を思い出す。 当然ながら未熟すぎる頃は遠慮など何も無かった。 無かったが故に、当たり前のようにぶつかりあった。 ときには互いに罵りあって、掴みあって――そして認めあったのに。 「言うなれば、貴女の友情と忠誠に付け込んで、私の愚かさ、私の泥を被るような仕事を、押し付けようとしていたんです」 「姫様、良いんです」 「……ルイズ」 「私が貴族で、王女に忠誠を誓う身分というのは、代えようがありません。ご命令とあらば、何であれ従います。 でも、それとは無関係に、私は姫様を案じていますし、姫様が私と喧嘩して泥だらけになったり、 男の人を好きになる当たり前の女の子だってことも、私だけは理解してます。 ……だから、困っているのなら、人に言えない悩みがあるなら、私を遠慮なく言ってください。 私は、いつでも正直に答えます」 「ルイズ……」 「ただし、姫様を怒らせることも言うと思いますので! ……だって私達、友達ですから」 アンリエッタは、ただ涙を零すがままに任せた。 ルイズは、アンリエッタをただ抱きしめた。アンリエッタの重圧を軽くしてあげることを祈って。 「ルイズ……手紙をしたため、送ってしまった私が馬鹿だったの。自分の心、自分の未熟さには、自分で決着を着けるわ。 ……でも、どうか今だけ、貴女に頼りたいの。お願い、助けてルイズ」 「はい……姫様。貴女を助けます」 アンリエッタはその言葉を聞いて、ルイズを抱き返した。 「……で、友達として質問があります」 アンリエッタが泣き止むのを待って、にやりとルイズが微笑む。 「ええ、ルイズ。何かしら?」 涙をぬぐいつつ、アンリエッタは言葉を返す。 「ウェールズ様の、どんなところが好きになったんですか?」 ひとしきりルイズはアンリエッタを質問攻めし/無理矢理答えさせ/散々弄りまくった。 お互い年頃の娘らしく、言葉を潜めつつも話の盛り上がりは激しかった。 「ひ、ひどいわルイズ……やっぱり意地悪で厳しいところも変わってないのね」 「血筋ですもの」 泣き止んだはずのアンリエッタが涙目で抗議する。 「私は、ウェールズ様との件は個人的に応援はしてますが、それはまた落ち着いて話をしましょう。 まずは手紙が先決です」 「そうね……」 その言葉でアンリエッタは気を取り直し、ある物を取り出してルイズに渡す。 「ルイズ、これを持っていって頂戴」 「……これは……」 「ウェールズ様宛てに書いた手紙です。ウェールズ様にお読みになって頂ければ、手紙の返却に すぐ応じてくれるでしょう。それと、もう一つ……」 アンリエッタは、自分の指に嵌められた指輪を外し、ルイズの手を握るように手渡した。 「母君から頂いた、水のルビーです。路銀に困ったら、これを売り払ってください」 「……はい。ありがたく、頂戴致します」 「今日は、本当にここに来てよかった。ありがとう、ルイズ。ありがとう、ウフコックさん。 おかげで、何だか心が軽くなったようだわ。……誰かとこんな風に話せたのは何年ぶりのことかしら」 「姫様……」 「気にしないで、ルイズ」 アンリエッタは名残惜しそうにルイズの手を離し、表情を引き締める。 「……正直、アルビオンは危険です。内戦は小康状態ですが、火種が燻っていることには変わりありません。 だからこそ、レコンキスタに身を落とした彼ら――ワルド子爵らに、あの手紙を奪われてはならないのです。 ルイズ……どうかウェールズ様に宛てた手紙を取り戻して、無事に戻ってきて頂戴……」 そして、その名を、ルイズは聞いてしまった。 アンリエッタとは別の、もう一つ過去からの衝撃――あざなえる縄のような悪意に、ルイズの心は縛られる。 前ページ次ページ虚無と金の卵
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6119.html
前ページ次ページ虚無と金の卵 ちゃぷり、とルイズは湯を弄ぶ。 峡谷に沈み行く夕日は、壮大だった。 その夕日が湯に照り返し、ルイズの周囲はどれも赤く染まっている。 空にたなびく雲が無ければ、もしかしたらアルビオンが目に映るかも知れない。 だがルイズは、アルビオンの方向を見つめる気にはなれなかった。 ただ、景色を塗りつぶしていく夕日を見つめていた。 「まさか、こんなところで風呂に入れるとは思わなかったわ」 「そうだな。落ち着いてこんな風に景色を楽しめるとは思わなかった」 サイトに案内されてルイズがやってきたのは、ラ・ロシェールへ向かう街道からやや外れた場所にある小屋だった。 小屋、というよりも、隠れ家に近い。 山間の隙間の死角を上手く利用した場所に建てられた小屋だった。 半分は岩壁に埋まっている。恐らくは、天然の岩を練金で削りだした空間に建てたのであろう。 街道からは完全な死角になっている。ルイズは場所を示されても、実際に辿り着くまで全く気付かなかった。 また、生活の火や煙が出ても、上手く誤魔化すための工夫が凝らされている。 風竜やグリフォンに乗ったメイジが付近を立ち寄ったとすれば発見されるだろうが、 少なくとも盗賊程度ならば十分に身を隠せそうではあった。 そんな、身を潜めることを重視しているような場所だ。 居住性は悪かろうとルイズは思っていたが、それは良い意味で裏切られた。 第一に、新しかった。 風雨にさらされて、さほど日が経っていなさそうであり、使い込んだ形跡もない。 街の安宿のように、最低限の生活用品と、水と食料だけが確保されていた。 第二に、風呂があったのだ。 とはいえ、トリステイン魔法学院にあるような、大理石で囲まれた大浴場とは全く違う。 恐らく風呂と言われなければ、ルイズは風呂とは気付かなかっただろう。 実際それはバスタブなどではなく、大人数が利用する厨房にあるような、大きな古釜が外に据え付けられていた。 所謂、五右衛門風呂であったが、無論、ルイズはそんなものなど知らない。 絶景を見ながら入る風呂も案外悪くはないと思う程度だった。 ウフコックの方は、最初ルイズが風呂に入る間は離れているつもりだった。 ルイズがおもむろに服を脱ぎ出したところでウフコックは「俺は小屋で待ってよう」と慌てて出て行こうとした。 だがルイズがウフコックのズボンのサスペンダーを摘まんで引き留めていた。 結局ウフコックは困り顔で観念し、風呂桶に付けられた木の手すりに腰掛けて、湯で軽く体を拭っていた。 流石にネズミの体では、湯船に浸かることはできないようだった。 「ところで……君はやはり、人使いが荒いと思う……」 「あら、それなりに金は払ってるんだから、恨まれる筋合いはないわ」 サイトに風呂の支度をさせた後は、食事の用意と馬の手入れを申しつけていた。 特に、学院からあてがわれた馬を潰すわけにはいかない。 サイトは、「あんたの使い魔や使用人になったら、もっと酷ぇ目にあってるんだろうな」などと 軽口を叩きながらも、淡々と仕事をこなしていた。 「……まあ、おかげてやっと一心地付けたな」 「本当ね。サイトの話は半信半疑だったけど、意外と悪くないじゃない」 「そうだな。料理も案外悪くなさそうだ。支度している臭いでわかる」 「ま、随分旅慣れてるみたいだしね」 ルイズは頷きながら、湯を手ですくい、軽く顔を拭う。 ルイズが十分に落ち着いているのを見て取り、ウフコックは口を開いた。 「良かった」 「何が?」 「今日の君はずっと気落ちしていたようが、やっと元気が出てきた」 「……心配、かけちゃったみたいね」 ルイズが、ばしゃり、と湯をすくって顔を拭う。 「でも、大丈夫。もう焦って飛び出したりなんてしないわ」 すっきりとした声で、ルイズは答えた。 そのルイズの決意に、ウフコックはゆっくりと言葉を返す。 「……君が何に対して怒りや悲しみを感じているのか、俺はわからない。 ただ、ひどい悲しみを感じると言うことは、君にとって大事な何かが、痛ましいことになったのだろうと推測するだけで」 ウフコックはつぶらな瞳でルイズを見つめる。 「だが、大切なものが君の心にあるのならば、激情に身を任せてはならないと思う。 感情を殺せと言っているわけではない。自分の進路を進むためにこそ、そうした感情を燃焼させるべきだと思う。 ……だから、少しずつで良い。悲しみや怒りと向かい合うんだ」 「……難しいこと、さらっと言ってくれるじゃない」 ルイズは、ウフコックと目を合わせるのが気恥ずかしいらしく、湯に沈んでぶくぶくと息を吐いた。 「ま、つまりは前向きになろうということだ。くよくよしている姿が君に似合うとは思えないし」 ルイズは、ウフコックの方をちらりと見る。 夕日の光を浴びて黄金色に輝くネズミは、まるで精霊のように儚く見えるのに、 所作や言葉の一つ一つが、渋くて、ユーモラスで、そこに確かな存在感を感じさせる。 そのギャップにルイズは微笑みを零した。 「……ん? 俺の格好が変か?」 「ふふ、そんなことは無いわ。普段より素敵よ」 「ふむ? 賛辞ならありがたく受け取ろう」 まあ仕方ない、とばかりにウフコックは頷く。 「ところで、ウフコック。ワルド子爵……って、姫様の話に出てきたのを覚えている?」 「ああ」 ウフコックは頷いて、ややあってから言葉を続けた。 「……そして確か、道中に出会った男を、ワルドと呼んでいたな」 「そうよ。彼のことは知り合いだってサイトに説明したわね。嘘ではないけど正確ではなかったわ」 「というと?」 「婚約者だったの」 重々しくルイズが呟き、ウフコックは驚いた声を出す。 「君に婚約者が? それは初耳だ」 「婚約者と言っても十年以上会っていないのよ」 「つまり、婚約していても、交際は無かった?」 「……そうね。十年前はよく世話になってたけど。彼にとっては子供のお守りくらいの感覚だったと思うわ。 私も、現実的な結婚相手って見ていたわけじゃなかったし。 だから、男の人って言うよりも……頼りになる、大人の人って感じだったわ」 そう言って、ルイズは溜息を付く。 「で、十年ぶりに見たときには、レコン・キスタに入って国を裏切ってたってわけ」 「……それで、君は思い悩んでいたのか……」 「そうよ。……で、このままだと、またサイトがワルドと戦うことになると思う」 「……ああ、そうなるだろう。彼の意志は、固そうだ」 「でもワルドの状況が何であれ、私は私の仕事をしなきゃいけないわ。 むしろ彼が私の仕事に気付けば、きっと邪魔しにくるだろうし。だから彼は、敵のはずなの。 ……でも、簡単には、割り切れないのよ」 「……ルイズ……」 「自分がどうすべきか、どう向き合うべきか、絶対に答えを出してみせるわ。 でもそのためには……もうちょっとだけ、考えていたいのよ」 美しい自然、心地よい湯、それらは快い時間を与えてくれる。 そしてつかの間の休息の中で、心の平静を得ることはできた。 だが決定的な回答をもたらしてはくれない。それは常に、外ではなく内にある。 ルイズ自身が己の心を潜り、掴み取らねばならないものだった。 湯から上がり、ルイズとウフコックは小屋に戻った。 既にサイトが馬の世話と食事の支度を済ませ、手持ちぶたさに待っていたところだった。 デルフリンガーは監視を兼ねるためか、小屋の入り口付近に抜き身のまま立てかけられていた。 「ずいぶんと長湯だな。ま、このあたりは冷え込むから、そうした方が良いんだけどな」 「……風呂は、まあ、思ったほどひどくは無かったわよ」 「そりゃ光栄だ」 軽口を叩きながら、机に深皿を出した。 鍋料理らしい。山菜や、山鹿の肉を煮たものが深皿によそわれている。 塩気の強い香りがルイズの鼻孔を刺激していた。 「……へぇ。美味しいじゃない」 「ヨシェナベだ。トリステインの田舎の村で教わった」 「素朴な香りだな」 ウフコックが鼻をひくつかせながら言った。 「田舎料理だからな。お前も食うか?」 「いや、俺はこれで十分だ」 ウフコックには、生の野菜と豆、水が与えられていて、それらを頬張っていた。 ネズミとしての生態のためか、あまり濃い味の料理は口にしていなかった。 また、ネズミがそうそう多い量を取る必要もない。 すぐに食事を済ませてルイズから離れ、ウフコックはデルフリンガーの側に来ていた。 「なあ、デルフリンガー。一つ質問しても良いだろうか?」 「おう? なんでぇ?」 「ぶしつけな質問かもしれないが……君は、一体どのくらい剣として生きてきたんだ?」 「珍しい質問するヤツだな、おめぇ」 「そうか? インテリジェンスソードと話すのは初めてで、興味があるんだ」 デルフリンガーは訝しげな声でウフコックに答える。 素直に興味をもたれたことに、くすぐったさを感じているようだった。 「ま、俺が生きてるのかどうかは微妙なとこだが……何百年か何千年かなんて忘れちまったよ」 「何千年……とても信じられない」 「多分だぜ。使われずに蔵に置きっぱなしになってたときもありゃ、武器屋の棚で寝てた時間もあるし。 時間の感覚ってのが人間や生き物と同じなのかも、俺にゃわからねぇ」 「……だがそうだとしても、長く生きていることには違いないだろう。俺なんて十年も生きていないのに」 ウフコックが素直に感嘆を示す。 「ネズミでそれだけ生きてりゃ長寿も良いところじゃねぇか。 それに長生きすりゃ良いってもんでもないぜ。……って、武器の俺が言うのも何だけどよ」 「……辛いことや、大変なこともあったのか?」 静かな声でウフコックは尋ねる。ウフコックの目は、妙に真剣だった。 だがデルフリンガーは敢えて気付かぬふりをして、気楽な調子で答えた。 「ま、無ぇとはいわねえがよ。生きてりゃあ嬉しいことも楽しいこともあるもんさ」 「……意にそぐわない使い方をされたことは?」 「……んー、なんつーかなぁ……」 デルフリンガーは鍔をかちゃかちゃと鳴らし、困ったような声を出した。 「俺は剣であって、それ以上でもそれ以下でもねぇのさ。俺の使い道なんて、俺を握る奴の考えるこった。 誰かを守のも、誰かを斃すのも、俺を握る奴の仕事だ。悩むのは俺の仕事じゃねぇんだ。 そもそも、気楽に生きるのが俺のモットーでな」 「割り切りが良いんだな。……俺は悩みを捨てきれない。相棒には口うるさく要求してしまっている」 「良いんじゃねえか? 俺みたいなナマクラの話なんざ参考になりゃしねぇよ」 あっけらかんとした声のデルフリンガー。だが、続く言葉は、真摯な響きを伴っていた。 「ま、でも、相棒に求めるものが無いわけじゃない。 武器をもって戦うヤツなんてロクな死に方しやしねぇからな。だから、できれば幸せに生きてほしいもんさ。 お前さんも、見たところ相当な業物だ。思うところは、あるんだろう?」 「……俺が武器だと、わかるのか?」 「少なくとも、ただのネズミじゃねえってことくらいはわかるぜ。何せ俺は、伝説の……」 そう言いかけたところで、デルフリンガーの柄ににゅっと手が伸びてくる。 サイトの手だった。 「デルフ、そろそろ仕事だ。外の見張りに行くぞ」 気付けばサイトとルイズは食事を終えていた。おもむろにサイトはデルフリンガーを肩にひっさげる。 「ちょ、相棒! せっかく俺が格好付けてるときにそりゃあないぜ!」 「ん? そうだったのか? まあ、話す機会なんていつでもあるだろ」 「くそっ、おめぇは何てひでぇ使い手なんだ!」 デルフリンガーがありったけの悪態を付くが、当然それに抗う術など無い。 一人と一振りは、そのまま小屋の外へと出て行った。 「もしかして、話しているところ邪魔しちゃった?」 ルイズが、やや心配げな顔でウフコックに話しかける。 「ああ……いや、構わない。彼らは何処へ?」 「そのへんを見回ってくるって言ってたわ。ベッドは使って良いって」 ルイズはそう言って、部屋に据え付けられた木のベッドに腰掛けた。 普段寮で使っているものとは比べものにならないほど硬いが、それでも野宿よりは遙かに楽で、何より危険が少ない。 ルイズは安心を感じつつも、溜息を吐いた。 「何故かしら。サイトと話してると緊張するの。……別に、怖いってわわけじゃないだけど……。 だから、会話が続かなくて困ったわ」 「……ふむ、君の周囲には居なさそうなタイプだな。ギーシュやマリコルヌとも違う」 「……何か比較対象が間違えてる気がするけど、そうね。全然違うわ」 そう言った後、ルイズはあくびをかみ殺した。 思えば、ルイズは昨日もろくに寝ていなかった。風呂と食事で、随分と落ち着いてきたらしい。 「……なんだか、今日は凄く疲れたわ……」 「仕方ないことだ。気にせず、ゆっくり休むと良い」 そう言って、ウフコックはベッドの枕の方へ移動した。手招きし、ルイズが寝てくれるよう促す。 「側に居るから、安心するんだ」 「うん……ありがとう……」 そしてルイズは旅装を解いて、小屋に据え付けられたベッドに身を寄せてすぐに寝付いた。 夜鳥の声だけがほんの僅かに響いてきただけで、静かな夜だった。 ルイズは、夢を見なかった。 陽が昇る前にルイズ達は目が覚めていた。 サイトも外で仮眠を取っていたようだが、ルイズが起きた気配を察して目を覚ましていた。 朝食もサイトが用意した。 サイトは、「朝の早い内に出発しておこう」と提案した。 ルイズもそれに文句は無かった。幾らアルビオン行きの船が着くのが二日後とはいえ、道中は何があるかわからない。 二人と一匹は、朝食として白湯と黒パンだけを摂り、手短に旅支度を調えることに専念した。 サイトは自分の馬に乗り、ルイズが跨る馬を先導して街道を歩き出した。 朝の内は、人の気配は全く無かった。 このまま何事もなければ、日差しが高くなる頃には、ラ・ロシェールに入れるはずであった。 既に町の輪郭がルイズの目に届いている。 やっと一段落付く――そう思ったところで、サイトが慌てて馬首を横に並べる。 ルイズを抱きかかえ、慌てて馬から飛び降りた。 「なっ、何するのよ!」 「頭を下げろ!」 何なのよもう――という怒りも、すぐに驚きに変わった。 ルイズは、十分に休息を取れた感謝したくなった。 もしこれが昨日であれば、更にみっともなく取り乱していたかもしれない。 殺意のこもった矢が降り注ぐのを見て、ルイズはそう思った。 「多分、山賊だ。あるいはレコン・キスタが雇ったかもしれない」 サイトがルイズを守るように立ち、最小限の動きで矢を弾き返す。 大分離れているところに、矢をつがえた男、そして剣や斧を持った男達の一団が見えた。 弓矢が効かなかったと見るや、悪罵を叫びながらルイズ達に近づいてくる。 「ワルドかしら……」 「わからねぇよ。全然別の奴かもしれない。敵なんて一杯いるさ」 矢を難なく剣で打ち払いながら、サイトが冷静に答える。 「距離が遠いな……あいつら、こっちに貴族が居ることにまだ気付いてないぜ。 なあ、ルイズっつったっけ。魔法で驚かせちゃくれねぇか?」 デルフリンガーが気楽な調子で聞いた。思わぬ申し出にルイズが挙動不審になる。 「な、な、何よ、私に頼る気?」 「良いじゃねえかよ。まあ俺と相棒で相手できなくはねぇが、メイジが居るってわかったらきっと尻尾を巻いて逃げるぜ。 荒事は避けるに越したことはねぇさ」 デルフリンガーの言うことは正論だった。 少なくとも、何の咎もない貴族に襲いかかろうとする平民など、メイジから魔法で返り討ちされたところで、 問答無用で役人に斬られたところで、文句は言えない。 そんなことはこの国では常識であり、デルフリンガーの案は、トラブルを避けるためには賢明な策と言えた。 「つ、使えないわ」 焦ったような声で、ルイズは言葉を返した。 「なんだよケチな娘っ子だな。精神力が切れてんのか? フライとか念力とか簡単なので良い。 簡単な魔法を見せてやるだけで良いんだぜ?」 「だっ、だから使えないって言ってるでしょ!」 「……なんで?」 不思議そうにデルフリンガーが尋ねた。 「デルフ、さっさと行くぞ」 「相棒、油断は禁物だぜ」 「火薬も火打ち石もある。それにデルフ、昨日の戦いでたらふく食っただろう。いざってときは任せるからな。 ルイズ達は隠れてろ」 「そっちこそ一人でどうする気よ!」 「魔法が使えないんだろう、無理すんな」 サイトはそれだけを言い残し、一目散に傭兵の一団へ走る。 気付いたときには既にぶつかりあっていた。蛮声と剣戟のぶつかりあう音が他人事のように響く。 「凄まじいな」 ぽつり、とウフコックが呟く。 「どういうこと?」 「彼は、戦うこと、殺してしまうことに倦怠感すら感じている。それでも戦いを止められないでいる。……依存に近い。 敵の方は、その日その日の暮らしにも酷い困難さと屈辱を感じている、そんな惨めさに満ちた臭いだ。 ……どちらも、酷く痛ましい」 金の酒樽亭。 その煌びやかな名前に反して、ラ・ロシェールでは場末も良いところの酒場だった。 この時期、そこにたむろしている傭兵は、仕事に飢えていた。 アルビオンを目指した傭兵――と言えば聞こえは良いが、腕利きは既に王党派か貴族派のどちらかに雇われている。 仕事にありつけず、ハイエナのように戦乱の残り滓の仕事を得るだけの連中でしかない。 突然現れた、仮面を被った貴族が依頼を持ち出した時点で、十人近くが話に興味を持った。 多額の報酬に加えて前金で半分が出る、という話を聞いてさらに十人近くが集まる。 だが、男の素性もろくに知らずに仕事を受け入れたことを、この傭兵は既に後悔していた。 今、トリステイン方面からの街道を向かって来ている連中を仕留めてこい――男は言っていた。 ついでに、物取りの振りして街道を混乱させて来い――とも、男は言っていた。 暴れてくるだけの簡単な仕事だ――男はそう結論付けた。 男達も単純にそう思った。危ない橋ではあるが、治安の乱れた今こそが稼ぎどきだった。 それに戦乱の中にあっては、安い仕事に信じられない額を出す馬鹿な貴族も時折出てくる。 仮面の男も、きっとそうした類だろう――その短慮と油断の報いが彼らに降り注がれていた。 ただの平民のはずの男、同じ傭兵であろう男に、今や半数以上が倒されていた。 ある者は斬られ、ある者は骨を折られ、ある者は剣の柄で殴られて悶絶している。 呻き声が聞こえ、倒れた仲間の体が震えている――まだ生きている。 そして得られる二点の推測。 一つ――敵は、相手を殺さずに戦闘不能にできるほどの、異常な腕の持ち主であること。 一つ――敗北の先には尋問が待っていること。 「くそ、こうなったらあの男の仲間だけでも仕留めて逃げるぞ」 仮面の貴族から仕事を請け負った人数は、つまるところ多すぎた。 その際、役割分担で、二人が貧乏くじを引くことになった。 敵に援軍や仲間が居た場合に備え、岩陰などの死角に身を潜めて警戒する役目を追わされる。 敵を仕留めるチャンスが無い以上、給金が減るのは必須だ。 仕事仲間に文句を心の中で幾度も呟きながらも、仕事に徹した。 それが幸運だったと気付きつつあった。 怪我を負うことも無く事態を見つめることができた。少なくとも、今の所は。 「な、なぁ……ありゃ貴族じゃないか?」 もう一人の傭兵が不安げに呟く。 「うるせぇ。それともお前、あの金を諦められんのかよ?」 「で、でもよぉ……」 「よく見ろ、魔法も使っちゃいねぇしビビってる。青い顔してらあ。今がチャンスだ」 男はきりきりと弓を引き絞り、馬に跨った少女を狙い付ける。 少女が思わずこちらを見た。眼があった。 目が眩むほどの報酬と、貴族だろうと構うものかという自棄が、弓矢を引き絞る腕の緊張を解かせた。 それでも、狙いは十分だった。 当然そんな見え見えの殺意など、ウフコックは気付いていた。 だが、問題はその回避であった。 「気をつけろ、ルイズ。弓矢で狙っている敵がいる……。俺が『盾』になるから、目を合わせるな。 矢を弾くのは造作もないが、下手に動くと逆に危ない。任せて、じっとしているんだ」 ルイズは、自分にも危険が迫っていることを自覚し、さっと血の気が引いていくのを感じた。 そして周囲に敵と、敵か味方かあやふやな人間しか居ない状況で、目を合わせるな、という行為自体が困難だった。 幾ら盗人を捕まえた功績があるとはいえ、ルイズは戦場に出たこともない15際の少女だ。 突然始まった命のやりとりの空気に当てられないはずが無い。 ルイズは恐怖に抗えず、振り返った。 殺意と焦り、汗と土、顔を見られた恐怖に塗れた男の表情。それはすぐにルイズの視界に入った。 2,30メイルは離れているのに、弦から離された指先、男のあごから滴る緊張の汗、自分を射るように見つめる男の眼を、 ルイズは確かに目撃した。 タイミングはともかくとして、狙いは十分だったらしい。自分の胸元へ当たる――ルイズは確信した。 「くっ!」 ウフコックの焦った声。瞬間的に堅牢な篭手にターンし、ルイズの右手を強制的に動かす。 だが、矢と篭手がぶつかる一瞬前に、ルイズの視界に火の球が落ちてくる。 矢は、燃え尽きて跡形も無くなっていた。 「ファイアボール?」 「……おお、間に合ってくれたか」 ウフコックの安堵したような声。 何かが羽ばたく音がルイズ達の頭に響き、そして暢気な声が降ってくる。 「さて、一丁上がりっと」 「キュルケ! タバサ! どうして?」 ばさり、ばさりと音を立てながら、キュルケとタバサを乗せたシルフィードが、ルイズの側にやってくる。 風竜に乗ったメイジ二人を見て不利と悟ったか、逃げ出す余力の残っている傭兵達は、既に逃げ出していた。 キュルケ達は深追いはせずにシルフィードから降り、立ち話するような気楽さでルイズに話しかけてきた。 「そりゃ、朝に気付いたら貴方たちが馬に乗って遠くに出かけちゃってるじゃないの。 しかもアルビオンの方角へ。そんな面白そうなこと、放っておくと思う?」 「遊びじゃないのよ!」 「あーら。せっかく助けてあげたってのにご挨拶ね」 「ぐ……。あ、ありがとう。助かったわ」 複雑な表情を浮かべつつルイズは礼を述べ、キュルケは満足げに微笑んだ。 前ページ次ページ虚無と金の卵
https://w.atwiki.jp/mhp3_cheat/pages/126.html
あんなの無理です。 -- (koyoi) 2011-04-18 23 36 10 ↑同じ -- (こじこ) 2011-04-23 13 59 41 ↑と同じ。98%無理 -- (kai) 2011-04-23 20 03 53 耳栓とランナーとスタミナ急速をつけたらできました。 -- (koyoi) 2011-04-24 19 33 42 高級耳栓オンリーでクリア出来ましたけど -- (zf) 2011-04-29 19 32 55 アグナコトル亜種ww -- (紅蓮) 2011-05-01 00 34 06 報酬はなにかな -- (ああ) 2011-05-04 11 49 17 ↑に 邪魔してくる敵の素材& 黄金に光る卵& 有名格安洋服店のコラボチケット などが出ました~ -- (キング) 2011-05-05 19 12 35 無理wwwww -- (アカムwww) 2011-05-17 16 47 13 2でモンスター残像してた -- (アーーー死んだ) 2011-05-22 06 12 04 アグナコトル亜種倒したけどエリア移動 したら復活したwwwwwwwwww -- ((・3・ )) 2011-05-23 18 28 40 エリア9以外のエリアを回って絶句 -- (イビルショー) 2011-06-08 22 59 50 ランナーとスタミナ急速と運搬の達人があれば充分。 ルートは9→7→4→2→1ならいけるよ。 -- (フェイ) 2011-07-10 16 44 53 ガーグァが金の卵を産み落としてくれません -- (MHPメラルー) 2011-07-25 10 01 00 オンラインで友達とやったらエラーおきました -- (oresama) 2011-08-19 11 32 54 ↑オンラインってアドパとかXrinkとかじゃないよね。 -- (名無し3) 2011-08-19 12 24 57 友達とやったら友達のPSPがクエスト受注中にフリーズしました -- (名無しさん) 2011-08-30 18 32 40 エリア9にいるガーグァから金の卵が出ないんですが・・・ -- (う〜ん) 2011-09-15 05 10 54 このクエストおもしれー!!!! -- (青兄) 2011-09-17 20 05 29 報酬はクロネコつながりかwww -- (名無しさん) 2011-09-21 19 10 36 どんな報酬ですか? -- (名無しさん) 2011-12-18 14 59 55 無理か? -- (なまごみ) 2011-12-28 15 46 58 ガーグァがいない!!!! -- (名無しさん) 2012-10-06 19 23 25 金の卵がいっぱいもらえる。 -- (ボッスン) 2013-02-16 19 53 11 金のたまご率低いのかな。 -- (モロ) 2013-03-08 18 36 05 有名格安洋服店のコラボチケット出なかった~ -- (不運) 2013-05-08 20 56 01 己の不運さにがっかりw -- (不運) 2013-05-08 21 00 13
https://w.atwiki.jp/fun-axis/pages/155.html
#blognavi 29日 準備 セッティング 段ボールで郵送した荷物を開け、足りないものがないかチェックした。 用意されたブースに、必要なものをセッティングした。 ディスプレイが動くか、スピーカーの音が出るかなどの動作確認をした。 プロダクトと情報デザインは部屋が別でした。 ポートフォリオ 全員統一の新しいファイルに中身を入れ替え、 斉藤さんが準備してくれた背表紙を入れた。 ▼朝、PCの立ち上げや、夜、電源を落とす時に、誰もメンバーがいない時のために係の人に向けて手順を書いた紙を置いておいた方が良い。誰かが常にいるのであれば、問題ないが。 ▼PCは長期間動かしていると誤作動するかもしれないため、二台用意しておくこと。 30日 初日/オープニングパーティー 昼間の様子 日中は、両方の班で一人いれば十分であった。 お客さんは、プレゼンしてもらう気で来てはいないので、 自分たちから積極的に話しかけてプレゼンテーションすること。 また、プロダクトを見に来ている人が多いのかも。 情報デザインって何? という人にどのようにプレゼンすべきか?? オープニングパーティー オープニングパーティーは、メーカーの人・それぞれの大学の担当の先生が来られて、 学生は専らプレゼンテーションだったり、他の学生のプレゼンを聞いたりといった感じであった。 おそらく、プレゼンテーションデイはパーティーより少し人がまばらで飲み食いがないイメージかと。 プレゼン 誰でも、両方の班のプレゼンが出来るようにしておいた方が良いと感じた。 両方のプレゼンが同時に終わって交代出来ることは稀なので、同じ人が両方の案内を出来た方が良い。 貰ったコメントについては、早目にメモしておいて、時間のある時に他の人と共有しておいた方が良い。 小林 カテゴリ [金の卵展] - trackback() - 2007年09月01日 18 22 19 #blognavi
https://w.atwiki.jp/aniradibgm/pages/71.html
OP Avril Lavigne / What The Hell ED Miranda Cosgrove / Dancing Crazy