約 45,018 件
https://w.atwiki.jp/yaruosurerowa/pages/99.html
コードギアス~邂逅のルルーシュ~ ◆a2zhksM50w 「何処に行くの?」 「さあ? 適当、かな」 レミリアとの会話を終えたルルーシュは当て所なく電波塔を出た。 「道は示せたかしら?」 「……簡単にはいかないな」 「そう」 後ろには羽を羽ばたかせ、宙に浮きながら移動しているレミリアの姿がある。 どうやら着いて来る気らしい。 (空を飛ぶなんて。この娘の言っていた“幻想郷”とやらも、案外本当なのかもしれないな) 数分前、ルルーシュは情報交換の様な形でレミリアと話し始めた。 その中で出てきた単語が“幻想郷”。 詳しくは聞けなかったが、別世界の様なものらしい。 らしいと言うのは、実際は結界で外と区切っているだけだからだと言うが、あまり聞きなれない単語ゆえ、別世界という事で納得しておいた。 そして、ルルーシュもブリタニアの事を話す。ルルーシュにとっては常識である事も、レミリアにとっては驚きの連続だったようだ。 ナイトメア、自分が生きていた時代、その他政治関連等を事細かく聞かれた。 (解せないのは最初、俺がブリタニア皇帝と名乗った時に“ブリテン王”と言っていたこと。 てっきり、俺はブリタニアを知っているものと思ったが……) だが知っているのなら、ここまでルルーシュを質問攻めに合わせなどしないはず。 レミリアの反応はどうにも奇怪に見える。 (なんだろうな、この何かがズレた感じは。……駄目だ頭が働かないな) 普段のルルーシュならば、この散りばめられたピースを一つずつ組み立て、構成し真実に近づけただろう。 もしかしたら、この殺し合いに呼ばれた殆どの参加者達が、“別々の世界から呼び寄せられた”という答えを、既に見出していたかもしれない。 それが可能な頭脳をルルーシュは持っている。しかし、今のルルーシュには得られる情報の全てが、他人事の様に思えて仕方ない。 そのせいで、禄に考察も行えなかった。 ぼうっと、前を見つめながら建物の間を抜けて行く。 前を歩くルルーシュにも、後ろを飛ぶレミリアにも言葉は無い。 暫く歩くと目の前にビルが見えてきた。 特に目的地があった訳でも無い。ただ目に入ったから立ち寄る。 ルルーシュにしては軽率な考えでビルへと近づくと、ビルの出入り口から二人の男性が姿を見せた。 「人ね」 「……接触してみようと思うが、レミリアが嫌ならやり過ごそうか?」 「構わないわ。人間如きに殺される程、柔じゃないもの」 「ふっ、相変わらず物騒な娘だな」 数分振りの会話を終え、二人は出入り口へと向かっていった。 「月」 「ああ、人だ」 ルルーシュとレミリアに気付いた月とやらない夫は身構える。 じっとしていても仕方ないので、ビルから移動する事にした二人だが、まさかこうも早く他参加者に遭遇するとは。 どうするか。 一見、戦力はこちらが有利。あちらは細い肉付きの少年に、羽を生やし飛ぶ以外は幼い少女の二人。 だが、果たして本当にそうだろうか? 例えばあの二人、自分達の知らない特異な能力を持っているのではないか。 何せ、こちらはデスノート以外は丸腰だ。そのデスノートも使うつもりは無いし、仮に使うとしても直接的な戦闘ではまるで意味が無い。 もし相手が殺し合いに乗った参加者であれば、碌な抵抗も出来ずに殺されるかもしれない。 この世界には自分の知らない、予想だに出来ない事ばかり。 殺し合いに呼ばれる以前、死神リュークという異形との遭遇が月の警戒度を引き上げた。 「レミリアよ、レミリア・スカーレット」 (名乗った? 少なくとも、殺し合いをする気は無いという事か) 「名乗ったのだから、名乗り返しなさい。それが礼儀でしょう?」 「……そうだね。僕は夜神月、夜の神に月と書いてライトと読ませるんだ」 一先ず二人が名乗ると、残ったルルーシュとやらない夫も気付いた様に名乗り始める。 「レミリア、その様子だと殺し合いをする気は無いという事でいいかな?」 「ええ、そういう貴方は?」 「同じだよ。僕もやらない夫もね」 安堵の息を着く月だが、まだ気は抜けない。 とはいえ、互いに今のところ殺意が無いのは、本当だと信じても良いだろう。 「そうそう。貴方達、咲夜というメイドに会ってない?」 それは向こうも同じようで、警戒を解いたのか再び話し始めた。 「悪いけど、僕達はここに来てからこの場に居る3人以外、誰とも会ってないんだ」 「……そうだ、人探しと言えば、俺もやる夫って奴を探してるだろ。 体系はメタボで……あの最初、青狸の前でヘラヘラ笑ってた奴と、後姿や体格が似てるんだ」 「……知らないわね。私も貴方達と一緒だもの」 「そっか、俺の親友なんだ。もし見つけたら、俺が探してたと伝えておいてくれ」 ――親友。 ルルーシュの脳裏にある男の姿が浮かぶ。 かつてゼロレクイエムを完遂させる為に、犠牲になったルルーシュのかけがえの無い親友。 ゼロとして生き続ける彼は、今どうなっているのだろう。 (スザク……) 気付けば、ルルーシュは言葉を紡いでいた。 「手伝おうか? その人探し」 やらない夫とレミリアの顔が驚愕に染まり、月が怪訝そうにルルーシュを見つめた。 「あ、ああ。それは嬉しい申し出だろ……でも何で?」 やらない夫が抱く疑問は当然と言える。 いきなり、初対面の人間が人探しを手伝おうなどと不思議に思わないわけが無い。 ルルーシュは顎に手を当て、少し考えにふける。自分でも良く分からなかったからだ。 単に無気力からの気まぐれなのか、それとも――。 「上手く、言えないが俺にも親友が居た。そいつの姿が頭から離れないんだ。 だからなのかな。言ってしまえば、君の親友とそいつが被って見えてしまったのかもしれない」 内心、自分でも呆れている。 普段からは考えられない非論理的な発言。いつもなら、もっと上手く言っていた。 「そうか……」 やらない夫が静かに頷く。 「……まあ、互いに行動を共にするのも悪くはない。レミリア、君は?」 「殺る気が無いのなら、私もそれで良いわ」 月とレミリアも同意した。 「そうとなれば、これからの方針を話し合おうと思う。外で話すのもなんだし、引き返す形になるけどビルの中で話さないか?」 「分かった」 ルルーシュが返事をし4人はビルの中へと入っていった。 【G-2 高層ビル前 初日 深夜】 【やらない夫@やる夫派生】 [状態]健康 [装備]なし [道具]支給品一式、不明支給品(0~2) [思考] 基本:殺し合いから脱出する。 0:ルルーシュ達と話し合う。 1:やる夫を探す。 2:脱出に使えそうな道具や場所を探す。 3:デスノートを誰の手にも渡らないよう処分する。 [備考] ※やる夫と友人関係であり、彼の世界では翠星石とも親交があるようです。 【夜神月@DEATH NOTE】 [状態]健康 [装備]なし [道具]支給品一式、デスノート@DEATH NOTE、不明支給品(0~1) [思考] 基本:殺し合いから脱出する。 0:ルルーシュ達と話し合う。 1:脱出に使えそうな道具や場所を探す。 2:デスノートを誰の手にも渡らないよう処分する。 3:やる夫に似た殺人鬼(キル夫)を警戒する。 ※友人等に恵まれて危険思考に囚われなかった、所謂「綺麗な月」です。(やる夫スレ的改変) ただし原作よりマイルドになった代わりに、多少三枚目よりになっています。 【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュR2】 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:支給品一式、こけおどし手投げ弾セット(2/3)@ドラえもん、ランダム支給品0~2 [思考・状況]基本:どうしたらいいか分からない 1:やらない夫を手伝ってみる。……あいつは、スザクはこの場に居るのだろうか。 2:月達と話し合う。 ※第25話「Re;」にて、死亡した後からの参戦です ※東方世界についてレミリアから聞きました。何処まで把握しているかは不明です。 【レミリア・スカーレット@東方Project】 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3 [思考・状況]基本:館に帰りたい 1:大人しく殺し合いに乗るのは癪だが、邪魔をする者は容赦なく殺す 2:ルルーシュに興味 3:一先ず月達と話し合う 4:咲夜や他の知り合いも来てるのか疑問 ※少なくとも、「東方紅魔郷」以降からの参戦です ※コードギアス世界についてルルーシュから聞きました。何処まで把握しているかは不明です。 38:弓と水晶と誤解フラグ 時系列順に読む 40:サムライハート 38:弓と水晶と誤解フラグ 投下順に読む 40:サムライハート 11 闇を統べる者 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア [[]] レミリア・スカーレット [[]] 13 やらない夫と月は綺麗なようです やらない夫 [[]] 夜神月 [[]]
https://w.atwiki.jp/new2souennokanntai/pages/138.html
トップページ イベント攻略 邂逅 ドーバー海峡からの生還(第一部) [部分編集] 第二部VERYHARDの編成 敵戦力 12162 梯形陣 重油消費:30 戦艦 戦艦 重巡 重巡 軽巡 軽巡 敵旗艦技 金城鉄壁の装甲 敵戦技 スカイバリア 応急修理技術 掃蕩爆雷投射 迎撃主砲発射 全砲門斉射IV 報酬 鋼材400、マニー400 初回クリア時のみ任務にて「G・リュッチェンス(艦長)」が入手可能。 空母、潜水艦が初めに戦技で封じられ、旗艦技により防御力が上がっていることから、戦艦や重巡で挑むのがセオリーだろう。また、島風など、全体攻撃で魚雷を撒ける駆逐艦も戦技を発動させれば大きなダメージを与えられる。とはいえ、制空は簡単に取れるため、★6空母と★4爆撃機(と少数の戦闘機)があれば相応なダメージが与えられる。強力な戦艦や重巡、駆逐艦が不足するなら入れる価値はある。 梯形陣なので、自軍の艦は先頭の戦艦から狙う。先に主力がつぶれるので思ったほどは苦戦しない。戦力11000近くあればなんとか倒せる。場合によっては10000でも数回挑戦すれば(戦技がうまく発動して)勝てるのではないだろうか? ↓情報・コメント等 名前 閲覧数 今日: - 昨日: - 合計: -
https://w.atwiki.jp/megatenroyale/pages/208.html
112話 危険な邂逅 「あなた、デザートなら何が好き?」 「え。ボクっスか?」 唐突な問い掛けに、モコイは短い首を傾げた。 周囲への警戒を怠らず無言で歩いていたかと思えば、いきなりこれである。 モコイもあまり会話の流れなどというものは気にしない方だが、自分ならともかく人の脈絡ない言動は気になる。 しかも相手は一般に悪魔ほど気紛れでないとされている人間で、サマナーという比較的冷静なはずの人種である。 それでもまあ、食べ物の話は嫌いではない。モコイは深く考えないことにした。 「ボク、牛乳好きなんスよ。たまんないね、ミルクプリンとか」 「私はマンゴープリンが好きなの。気が合うわね」 何がどう気が合うのかわからない。しかし美人にそう言われれば悪い気はしなかった。 鼻があれば鼻の下を伸ばすところだが、生憎モコイには鼻がない。 「ところで」 「何スか?」 今度はこの酔っ払いは何を言い出すのだろう、とモコイは生返事をする。 「血の匂いがするわね。かなり近くから」 「……え?」 びっくりして見上げると、酔っ払いサマナー――ナオミは今までとは打って変わって鋭い目をしていた。 これが彼女の本来の姿だ。新しい主人がただの綺麗な酔っ払いではなかったことに、モコイは少し感激する。 「でも」 辺りを見回しながら、モコイは気の抜けた声で言う。 「ボク、鼻ないスよ」 「不便ね」 ナオミは口の端を上げ、少し笑った。 用心深く、ナオミとモコイはシーサイドモールを歩く。 周囲に動くものの気配はない。いくらモコイでもその程度はわかる。 ナオミは相変わらず鋭い目で辺りの様子を窺っている。身のこなしにも隙がなく、殺気さえ感じるほどだ。 「敵だったら戦うんスか? チミ、さっきから雰囲気が怖」 「黙って」 低い声で制止され、思わず震え上がって息を呑む。 が、直後にその声の険しさが怒りのためでないことにモコイは気付いた。 ナオミは前方、ある一点を注視していた。喫茶店らしき店の前に転がっている何か。 周囲には水溜まり、飛び散った液状のもの――一目でわかる、赤黒い血の色をした。 「……死んでるわね」 そっと近付いたナオミが呟く。言葉で言われるまでもなく、「それ」が生きていないことは明白だ。 赤いジャケットにジーンズ姿の男の死体。服装だけ見れば普通の若者に思える。 彼がどんな顔をして死んでいったのか、今となっては知る術がない。 死体には、首から上がなかった。恐らく周囲に飛び散り、地面に赤い染みを残している肉片が彼の頭部だったのだ。 無残な死体に恐れを為す様子もなく、ナオミは屈み込んで死体を調べる。後ろから、モコイも恐々覗き込んだ。 首の断面は不揃いで、少なくとも刃物で切断したのではないことは明らかだ。 焼け焦げているところを見ると、至近距離での爆発によって砕かれたのだろう。 「爆弾か……魔法だね、コレ」 「そのどちらか確かめるだけなら簡単そうよ」 またしてもナオミの意外な言葉に驚かされて、モコイは顔を上げる。ナオミの視線は既に別の所を向いていた。 「よっぽど余裕がなかったのか、誘い込む気か……」 モコイは彼女の視線を辿る。――血の跡だ。 点々と、と言うには血の量が多い。誘うように、ある一方向へと血の跡が続いている。 「この男の血じゃないわね。頭は吹き飛んでいるし、他に欠損した部分もない……それに、あのガラス」 モールに並ぶ店の一つのショーウィンドウをナオミは示す。見ると、焼き切られたような丸い穴が開いている。 その周囲には血飛沫の跡。恐らくは誰かが撃たれ、出血し、貫通した攻撃がガラスに穴を穿ったのだ。 「ガラスにはヒビは入っていないし、溶けている……熱線銃みたいなものかしら。 この男の死体には、その手のもので撃たれた傷は残っていないわ。 ……頭だったら別だけれど、頭を貫通したら即死だものね。わざわざ頭を砕く必要もないことになる」 「はぁ……スゴイね、チミ」 ナオミの観察力にモコイは感嘆する。舌があれば舌を巻くところだが、生憎モコイには舌がない。 「この男を殺した相手は少なくとも、貫通する傷を負っていて…… ガラスが溶けるような高温なら、それだけだと出血は大したことはなさそうね。別の傷も負っているわ。 この血の量だと、相当の重傷……余裕がなかった、というのが正解かしら」 ナオミは血の跡が続く先を睨んだ。痕跡は喫茶店の入口をくぐり、奥へと続いている。 偵察に行けとでも言われるのだろうかと内心びくびくしていたモコイの目と、振り向いたナオミの目が合った。 思わずモコイは後ずさる。その様子を見て、ナオミは可笑しげに小さく笑った。 「見に行けなんて言わないわよ。あなたじゃ頼りないもの」 ほっと安心したものの、複雑だ。モコイはだらんと肩を落とす。 「奥は私が見に行くわ。入口の所で見張りを頼める?」 「おっけぃ。見てるよ、ボク。大丈夫、ドンウォーリー」 落ち込んだのも束の間。それなりに重要な役目を任されて、モコイは一気にしゃきんと居住まいを正す。 ……それでも背筋が伸びきらずぐにゃぐにゃしているのは、モコイである以上仕方ないというものだ。 入口を背にして、外に向かってモコイは丸い目を光らせる。 今のところ誰も近付いて来ていない。転がっている死体も動き出したりするようなことはなく、死体の分に甘んじている。 ものの数十秒でモコイは見張りに飽きた。どうせ誰も来ないだろう、という気分になっていた。 無駄に緊張し、神経を――文字通りの神経は勿論モコイにはないが――磨り減らすこともない。そう結論付ける。 一度スイッチが切り替わってしまうと、モコイは背を逸らしたり身体を捻ったりして後ろに注意を向け出した。 ナオミが入っていった喫茶店。なかなか洒落た店だが、店員もおらず飲み物も出ない今は廃墟と大差ない。 しかし彼女の推理が当たっていれば、その中には先程の男の頭を砕いた犯人が潜んでいるのだ。 そういえばナオミは犯人を見付けてどうする気だろう。モコイは聞いていない。 仲間にするんだろうか。それとも殺すんだろうか。 まだよく知らない主人がどんな人間なのか気になって、モコイは何度も振り返る。 見張りをさぼっては後で怒られそうだから、場所は動かずちらちらと覗くだけ。これでは大して中は見えない。 犯人の姿も見えないし、ナオミが何をしているかもわからない。 だんだん物足りなくなってきて、少しは中が見えるようにほんのちょっと立ち位置を変える。 ナオミだって探索に集中しているだろうから、多少見張りの手を抜いても気付かれないに違いない。 わくわく気分を持て余している内に大胆になってきて、モコイは入口の陰から顔を出し、中を覗き込む。 ――それと同時に、店内から爆音が響いた。 一瞬後、後ろ向きにダッシュしてきたナオミの背中が目の前に現れ、モコイは軽々吹っ飛ばされて外の道路に転がった。 地面に打ち付けた腰をさすりながら起き上がると、すぐ横に頭のない死体が寝ていた。慌てて跳ね起きる。 「何してるの。逃げるわよ!」 ナオミが振り向いて叫んだ。バックダッシュで飛び出してきたということは、中で誰かに出くわしたに違いない。 逃げようと言うのだから、きっと強敵なのだ。 走り出したナオミを追ってモコイも走る。時々ちらちらと振り向いてみるが、追っ手の姿は見えない。 角を曲がった所でナオミは立ち止まった。 振り向きながら走っていたモコイは気付くのが遅れ、勢い余って彼女の背中に追突して引っくり返る。 「こら」 呆れ顔で、ナオミはモコイを摘み上げる。 「いたの、犯人?」 空中で足をばたばたさせながら問い掛けてから、モコイは気付く。 ナオミの左肩は服が焼け焦げ、露出している。それだけなら色っぽい姿だが、とてもそう言える状態ではなかった。 肉が浅く抉られ、血が噴き出している。その周囲には火傷。まるで近距離で爆発でもあったかのような傷だ。 死体の首の断面を思い出す。要するに……今の攻撃がクリーンヒットしていたら、ナオミもああなっていたのだ。 「想定外の相手だわ」 まだ余裕があるのか強がりなのか、苦笑を浮かべてナオミは小声で言う。 「ケガ、してたんでしょ? 相手」 彼女の予想では犯人も重傷を負っているはずだった。血の跡を隠す余裕もなく喫茶店に逃げ込んだのではないのか。 モコイにはナオミの実力の程は測れないが、つい先程見せたあの目の鋭さと隙のなさ、あれは素人のものではない。 かなりの修羅場を潜ってきた腕利きのサマナーだと――希望的観測も込みではあるものの、思っていたのだが。 手負いの相手に後れを取るような心配はしていなかった。それともそれは、見込み違いだったのだろうか。 「こんな傷よりよっぽどね」 肩の傷にちらりと視線を遣ってナオミが答えた。流石に声に苦さが混じる。 「だからこそ危険なの。向こうは必死で……後先なんて考える余裕もないんだわ。全力で攻撃してきてる」 「戦うの、無理?」 「相手は女の子だし、傷も深いから……近付けばこっちのものね。 ただ……この様を見ての通り、魔法の使い手よ。対して私の術は今は使えない、飛び道具もない」 苦々しげに言って、ナオミはモコイをじっと見る。 「……あなたが頑張ってみる?」 モコイはぶるぶると首を振った。強力な魔法を使う、しかも死に物狂いで向かってくる相手とは戦いたくない。 ナオミが魔法を使えないとなると、こちらにある遠距離攻撃の手段はモコイのブーメランと魔法だけ。 が、ブーメランが届く距離まで近付く間、相手が大人しくしていてくれるとも思えない。 魔法も使えるとは言ってもジオ程度。一瞬の足止めがせいぜいだ。 「無理よね。聞いてみただけよ。……逃げ切りましょう」 モコイを地面に下ろし、ナオミはそっと喫茶店の方向を窺う。 ――瞬間、二人が潜むのと道を隔てて反対側の店を閃光が直撃した。 爆音と共にショーウィンドウが砕け散る。 二人の位置まで届くほどの爆発ではなかった。ガラスの破片もここまで飛んでは来ない。 炎も煙も出ていない。爆薬ではなく、一瞬の破壊を引き起こす魔法でなければこのような攻撃はできまい。 直接のダメージしかないものの、モコイはすぐさま感じ取る。ここにいるのは危険すぎる、と。 モコイでも気付くようなことにナオミが気付かないはずもなく、気付けば彼女はもう駆け出していた。 慌てて後を追う。敵は、極めて攻撃的なのだ。 ナオミの姿を見失えば、探すよりも先に手当たり次第に攻撃する。正気の沙汰とは思えない戦法だ。 無駄に魔力を行使すれば疲労も馬鹿にならない。確実に当てなければ自らを危険に晒すだけなのに。 「よっぽど……錯乱してるのね」 息を切らせながらナオミが言う。彼女の走る速度が明らかに落ちてきていることに、モコイは気付いた。 二人の後ろ、先程まで潜んでいた辺りで爆音が聞こえる。 「大丈夫、チミ?」 呼吸の必要がないモコイには、走りながら喋るのも訳はない。ナオミに追い着くと、隣に並んで顔を見上げた。 このシーサイドモールの中を逃げ回っていても埒が明かない。 しかし出口の方へ行くには、先程の喫茶店が面する道を横切る必要がある。 敵が喫茶店の位置を動かずにいたなら、飛び出せば姿を見られることになる。 しかし敵が追ってくることを選んだのなら、ここに留まっていてはすぐ発見されてしまう。 どちらだ。モコイは逡巡する。お世辞にも回転が速いとは言えない頭で考える。湯気でも出そうだ。 ナオミはモコイに振り向く余裕もないようだった。息が荒い。見ているだけで痛くなってきそうな肩の傷。 迷って、迷って、迷って――モコイは飛び出した。 「そこ動いちゃダメだよ、チミ!」 ナオミを追い越して、店の陰から走り出る。先行すれば少なくとも、ここが敵の視界に入るかどうかはわかるのだ。 敵の姿がなければ、ナオミにも後に続いてもらえばいい。 忠誠などというものとは無縁のモコイだが、曲がりなりにも悪魔としての誠意はある。 契約したサマナーのため働くのが悪魔の仁義。時によっては自らの命を投げ出してでも。 開けた視界の中に、モコイは敵影を探そうとする。確か少女だと聞いていた。 が――視線を一巡させる前に、煙が彼の視界を覆い尽くした。 何かが地面で弾けるような音が、続け様に数回。その度に周囲の煙幕は濃くなってゆく。 モコイは慌ててきょろきょろするが、どちらを向いても見えるのは白煙ばかり。 周囲が見えない上にきょろきょろしすぎて、自分がどちらから来たのかも曖昧になる始末である。 「ウォー! こっち来ちゃ駄目、逃げて!」 手を振り回しながら叫ぶ。尤も言われなくとも普通、こんな煙の中には誰も飛び込んで来ないだろう。 しかし、煙はどれほどの範囲に広がったのか見当も付かない。ナオミも煙に巻かれてしまっているかも知れない。 反対側に逃げてくれれば、煙からは脱出できるはずだ。 「ウォーウォー!……あれ?」 手当たり次第に振り回していた手が何かに当たった。モコイは首を傾げ、その方向に視線を向ける。 ――煙の中から、血塗れの細い手が伸びた。 思考が停止する。口をぱくぱくさせるモコイに向けて、煙の向こうの誰かが呪文を唱えた。 「……リムドーラ!」 殺意に満ちた声。追い詰められ、狂った……確かに少女の声だ。 伸ばされた手から凄まじい衝撃波が放たれ、モコイの身体は宙を舞った。 その風圧は、辺りを取り巻いた白煙をも吹き飛ばす。そこにモコイが見たのは一人の少女。 長い髪を振り乱し、白いマントを自らの血と返り血で染め上げた、ぼろぼろの姿の少女。 散ってゆく煙の向こうに、一瞬、ナオミの姿が見えた。 少女はその方向へ向き直る。――その膝が、がくりと折れた。 肩で息をしながら、少女は腰のホルスターから奇妙な形の銃を抜く。もう魔法を使う余力はないのだろうか。 ぼてっと情けない音を立てて、モコイは地面に転がる。 体中が痛いが、軽量が幸いして地面に叩き付けられたダメージは小さい。よろよろと起き上がる。 顔を上げると、銃を構えた少女の姿が見えた。銃口を向けているのは、恐らくナオミの方向。 煙はまだ完全には晴れていないが、ナオミの姿を探す余裕はない。止めなくては! 「必殺ー、恋のターゲット。ズキューン!」 力一杯叫ぶ。必殺でも何でもないが、注意を引き付けるには充分だ。 少女がこちらを向いた。警戒、と言うより寧ろ怯えの表情をしている。 自慢ではないがモコイは、何を考えているかわからないと言われがちである。それが今は強みになっていた。 相手が大した力もない小さな悪魔だと判断するだけの冷静さも、少女には残っていないようだった。 銃口をモコイの方に向け、続け様に発砲する。その狙いもてんで滅茶苦茶だ。 しかし動かずにいるのは流石に怖く、モコイは地面を転がり回る。何度も、すぐ近くを銃弾が掠めた。 転がりながら、ナオミが見えた方向を窺う。 自分が少女の注意を引き付けている間に、ナオミは次の手を打ってくれているだろうか。 まだ出会ったばかりの彼女のことを、モコイはそれなりに信頼している。 運命を委ねると言っていい使役の契約を交わす程度には。 (……来た!) 期待は裏切られなかった。先程見えたよりもずっと近い位置に、ナオミの姿が見える。 彼女が何かを投げてきたのが見えた。一瞬の後、鈍い音がして少女の姿が傾く。 モコイはすかさず起き上がる。身体の柔らかさには自信がある。無理な体勢から起き上がるなど朝飯前だ。 状況は一目で把握できた。ナオミは近くの店の、金属製の看板を投げてきたのだ。 女の力で投げられる程度だ、さほど重いものではない。しかし満身創痍の少女には深刻なダメージになり得る。 看板を身体で受け止め、よろめいて――少女は、絶叫した。 「嫌ああああああ! 来ないでえええええ!」 ぼろぼろの身体のどこにそんな力が残っていたのかと思えるほどの叫び。 退くことなど考えていないかのような、ここで攻撃を止めたら殺されると信じ込んでいるかのような恐怖の表情。 ナオミに殺意がないことを、彼女は理解できていないのだ。 やばい、とモコイは思う。本能的に危険を感じる。 退路を見出せず死に物狂いになった生き物がすることは一つ。攻撃だ。 「リムドーラ!!」 恐らく最後の、ほんの少しだけ残った体力と精神力を注ぎ込み。 衝撃系最大の威力を持つ魔法を、少女は放つ。自らの身体で支え、未だ地面に落とさずにいた看板に。 看板は衝撃にへこみ、捻じ曲がりながら一直線に飛ぶ。最初にそれを投げた人間に向かって。 「チミ、危なっ……」 モコイが叫ぶより早く、看板を巻き込んだ巨大な衝撃波はナオミに向かい―― 連れ立って歩き始めて、もう一時間少々は経っただろうか。 互いに言葉もなく、ひたすら歩き続けるだけの道程。 前を行く神代は目指す場所も告げず、ゆっくりとしたペースで歩を進めている。 道を思い出しながら進んでいる、と言われれば納得できなくもない速度。詰ればそう言い訳するに決まっている。 抜け目のない男だ。疑いはますます濃くなってゆく。 苛立ちながら、それでも無駄口は利くまいと朱実は沈黙を守る。万が一の可能性は未だ捨て切れなかった。 後ろを歩かせているゴブリンはしっかりついて来ている。が、この神代相手では大して役立つ悪魔でもないだろう。 ロキを手元に残しておけば良かったか、と考える。 変わらないペースで、張り詰めた無言と一定の距離を保ちながら歩く二人は、ふと立ち止まる。 「……今」 「ああ、聞こえた」 朱実が呟き、振り向いた神代が応える。 二人の進行方向から確かに聞こえた、戦闘によるものとしか思えない爆音。 遠くはなさそうだ――と言うより、極めて近い。 「シーサイドモールの方向だな」 地図を覗き込んだ朱実の耳に、銃声と足音が届く。――足音? 「! 待て神代君!」 顔を上げると、神代の姿は目の前から消えていた。 既にシーサイドモールの方向へ走り出している彼の姿を認め、小さく舌打ちをして後を追う。 「そこで待ってな。様子見て来る」 「怪我人を独りでは行かせられないな。僕も行こう」 どさくさに紛れて逃げるつもりだろうが、そうさせる訳にはいかない。この男は危険だ。 情報の真偽を確かめたらすぐに始末しないと、後の憂いを残すことになる。 弓子の身を危険に晒す要素になるものは見逃してはおけない。極力、排除しなくては。 モールで起こっている戦闘に首を突っ込むのはあまり気が進まないが、どちらにせよ様子を見る必要はあるのだ。 二人が走る間にも、何度も銃声や爆音が響く。戦闘はまだ続いているようだ。 やがて、進む道の先にモールの入口が見えてきた。 今の位置からは中は見えない。しかし激しい戦闘の痕は、もう見え始めていた。 入口近くにガラスの破片が散らばっている。ドアか、どこかの店のショーウィンドウでも砕け散ったのだろう。 そして、相当の力を加えられたのだろう、ひしゃげた看板が落ちている。 入口近くに戦闘の痕があるということは、戦っていた者達がかなり近くにいる可能性がある。 神代もそれを悟って警戒してか、入口まで十数メートルの位置で足を止めた。 「戦っていたら、どうするんだ」 「どうったって、武器もなしじゃ戦えないだろ? お互い」 そう言う割に不安の色すら見せず、「お互い」を強調するように神代が言う。 どうせそっちは武器を隠し持っているんだろう、とでも言いたげに澄ました顔をしている。 この先で戦っている連中より、まず横にいる相手の出方を見ておこうという考えは同じらしかった。 神代にしてみれば逃げ仰せられるかどうかが懸かっているのだろうから、当然の反応と言えた。予想の内だ。 「戦える自信もなしに突っ込む気か?」 「放っとく訳にもいかないだろ。誰か襲われてるかも知れないんだぜ?」 いけしゃあしゃあと言い放つ。人助けなど心にもないだろうに、よくこうも白々しいことが言えるものだ。 しかし、放っておけないというのは朱実にとっても同じだった。 他者に対して攻撃の意思を持つ者を野放しにするというのは、弓子に危険が及ぶ可能性を残すことになる。 別の誰かと交戦しているのであろう今は、仕留めるのに絶好の機会だ。 「そうだな。まずは見付からないように様子を……」 視界から神代を逃さないように注意しながら、モールの入口を見遣る。 その時だった。 がらん、と音を立て。ガラスの破片が散らばる上に転がっていた看板が、動いた。 朱実は息を呑む。 看板の全体像はここからだと陰になって見えない。酷くひしゃげているせいで、下に何かあるのかどうかさえ不確かだ。 しかし今、間違いなく動いたのだ。下から僅かに持ち上げられ、再び地面に落ちるような動き。 神代も緊張の面持ちで、再び動かなくなった看板を注視していた。 やがて――朱実の視界に、違うものが現れる。 それは、手だった。 モールの外に向け、ゆっくりと、這い出すように手が延ばされる。 「誰かいる……看板の下敷きに」 声を落として呟いた。神代も険しい顔をして頷く。 二人がじっと見守る中、看板が裏返され、奥へ転がってまた煩い音を立てた。 延ばされた手が動く。地面にしっかりと手を突き、身体を支えようとする動き。 そこに倒れている誰かが、起き上がろうとしているのだ。モールの奥からの追撃はどうやら来ていない。 気付けば、銃声も爆発音も今は聞こえなくなっている。 どうにか起き上がれたのだろうか、視界から手が消えた――が、その一瞬後。 再びバランスを崩したのか、その手の主は倒れ込む。シーサイドモールの入口を越え、外に向かって。 朱実も、恐らく神代も見た。倒れる瞬間にふわりと宙を舞った、「彼女」の黒髪を。 「弓子……!?」 見えたのは髪の一房だけ。顔も、服装も見えてはいない。 長い黒髪の女など、何人いてもおかしくはないのに。 それなのに、弓子を連想させるその一つの特徴だけで、朱実は思わず「彼女」に注意を奪われてしまった。 姿を確かめようと、モールの入口へ走る。 ――走り出してから、思い出す。目を離してはいけないはずの男から、目を離してしまったことを。 不覚を悟り振り向いた朱実の眼前で、神代の立つ方向から放たれた何かが広がった。 (網……! ボーラか!) 手で払い落とそうとするが、広がりながら飛んでくる網の一点だけを防いだところで止められるはずもない。 網の目の向こうで、ボーラの射出器と思しき装置を構えた神代が、にやりと笑ってみせた。 防ごうと差し出した手の先に、それから少し遅れて全身に、高速で射出された網が衝撃と共にぶつかる。 踏み止まり切れず、朱実はモールの入口の側へ吹き飛んだ。倒れた上に網が覆い被さる形になる。 「ゴブリン!」 離れた位置に控えさせていた仲魔に号令を出す。神代の背後から、レイピアを持った妖精が飛び掛かった。 絡み付く網を払い除けながら、もう片手でザックの中のCOMPを取り出す。 この距離からなら、立ち上がって追うよりも神代の近くに仲魔を召喚した方が早い。 「ちっ……」 神代は寸での所でゴブリンの突撃を回避する。レイピアの鋭い切っ先が、制服の袖を掠めて引き裂いた。 「悪ぃなアケミちゃん。雑魚の相手してる暇はねぇんだよ」 射出器を投げ捨て、神代はポケットから小さな紙のような物を取り出す。 それがゴブリンに向けて投げられたかと思うと、たちまち炎が噴き出した。腕を焼かれ、怯んだゴブリンが剣を取り落とす。 「貰った!」 「待て……」 すかさずレイピアを拾って反対側へ駆け出す神代を止めようと、身を起こしてCOMPを開こうとする。 が、その時。 「危ない、伏せて!」 すぐ横から女の声がして、制服の裾を強く引かれた。 身体が傾いた拍子にCOMPが手から離れ、地面に転がる。同時に、凄まじい高温の塊が右腕を掠めた。 激痛に息が詰まり、朱実はそのまま倒れ込む。 「あの子……まだ動けるとはね」 苦々しげな声を聞き、呼吸を整えながらその方向に顔を向ける。 長い黒髪の女。弓子ではなかった。頭から血を流しているが、モールの奥を睨む眼差しは力強い。 「大丈夫?……じゃ、なさそうね」 地面に片膝をついた姿勢の女が覗き込む。 「君……は」 「話は後よ。奥に危険なお嬢さんがいるの、相当錯乱してる」 腕の痛みを堪え、通路の中央に出るのを避けて壁を背にして身を起こす。追撃はまだ来ない。 「相手はどうやら光線銃を持ってるわ。魔法も使うけど、多分ほとんど力は使い切ってるわね」 「戦えるのか?……戦う気なのか、君は」 「どうしましょ?」 モールの奥への警戒は解かぬまま、朱実と黒髪の女は身を寄せ合って小声で話す。 この女にも気を許している訳ではない。奥にいる相手と、この女と、どちらが先に攻撃した側かも定かではないのだ。 相手が錯乱しているというのだって、嘘でないとも限らない。 「戦力で言うなら、私は近付ければ戦える。……ナカマも一応いるんだけど、数に入れなくていいわ」 「つまり……相手の気を引いて銃撃を避けられれば、勝ち目はあるんだな。仲間、というのは?」 「さっきまで一緒だったんだけどね。やられちゃったかしら」 肩を竦めて、女は横に転がっていた派手な傘を拾い上げる。 彼女の言う「ナカマ」が人間の仲間なのか仲魔なのかは別として、その反応のドライさに朱実は一層警戒を強める。 共に戦っていた者が死んだかも知れないという状況をあっけらかんと受け入れる。修羅場に慣れた人間の反応だ。 「君は……傷の具合は」 「大丈夫。思い切り吹き飛ばされてクラクラしてたけど、もうすっかり目が覚めたわ」 女はにっこりと笑って、朱実の顔に顔を寄せた。 「そういえばあなた、私を助けようとしてくれたのね。ありがとう」 顔と顔の距離の近さと、場違いなほどの笑みに朱実は少々面食らう。 (こんな状況で色仕掛けか? まさか。弓子の名前を呼んだのが聞こえていなかったのは運が良かったが、しかし……) すぐ目の前に妙齢の美女の顔。息遣いさえ伝わる距離。彼女の頬は、心なしか微かに赤い。 普通の男なら心ときめくような状況だが、朱実にとっては心が動くようなものでもない。 ただ、あまりに場にそぐわないこのシチュエーションに……困った。 この油断ならない女が何を考えているのかが掴めない。どう考えても、今は見つめ合う場面ではないだろう。 冷静に状況を分析しているのを見ると、正気であることに間違いはないようだが……と考えていて、朱実はふと気付く。 彼女が漂わせる甘い香り。ただ甘いだけでなく少し刺激のある、この独特の匂いは――アルコールだ。 (…………もしかして、酔ってる?) 【時間:午前10時】 【ヒロイン(真・女神転生)】 状態:左手首消失、アルケニーの精神侵食、極度の疲労 武器:ロイヤルポケット(残弾なし)、ジリオニウムガン 道具:毒矢×4、煙幕弾×3 現在地:港南区・シーサイドモール 行動指針:ザ・ヒーローに会う、それ以外の人間は殺される前に殺す覚悟 【ナオミ(ソウルハッカーズ)】 状態:左肩に抉られた傷(出血なし)、全身に軽い打撲、頭から少し流血。まだちょっと酔ってる? 武器:なし 道具:日傘COMP、黄金の蜂蜜酒、酒徳神のおちょこ 仲魔:夜魔モコイ 現在地:港南区・シーサイドモール入口付近 行動指針:呪印を無効化する、情報を集める、レイホゥを倒す 【中島朱実(旧女神転生)】 状態:右腕にレーザーによる傷、頬に軽い傷 武器:なし 道具:封魔の鈴、COMP、MAG2700 仲魔:ロキ、ゴブリン他2体 現在地:港南区・シーサイドモール入口付近 行動指針:弓子の安否を確かめる、弓子との合流、弓子以外の殺害 【神代浩次(真・女神転生if、主人公)】 状態:右腕脱臼 武器:レイピア(ゴブリンから奪取) 道具:赤巻紙×2、青巻紙×2 現在地:港南区・シーサイドモールの外 行動指針:レイコの回収、ハザマの探索、デストロイ(アキラとキョウジが最優先) 可能なら中島からCOMPを奪いたいが、自身の安全確保を優先 【妖精ゴブリン(中島朱実の仲魔)】 状態:腕に火傷 現在地:港南区・シーサイドモールの外 行動指針:朱実の命令に従う 【夜魔モコイ(ナオミの仲魔)】 状態:……? 現在地:港南区・シーサイドモール 行動指針:それなりにナオミを助ける Back 111 Next 113
https://w.atwiki.jp/vangard-deardays/pages/29.html
収録カード D-BT02/001 《ドラゴニック・オーバーロード》(Dシリーズ) RRR D-BT02/002 《ヴェルリーナ・エルガー》 RRR D-BT02/003 《クリムゾン・イクスペラー》 RRR D-BT02/004 《ディアブロスジェットバッカー レナード》 RRR D-BT02/005 《柩機の竜 アルビデルド》 RRR D-BT02/006 《極光戦姫 ペリオ・ターコイズ》 RRR D-BT02/007 《唱導の天弓 レフェルソス》 RRR D-BT02/008 《ファントム・ブラスター・ドラゴン》(Dシリーズ) RRR D-BT02/009 《樹角獣 ダマイナル》 RRR D-BT02/010 《鬼首狩り》 RRR D-BT02/011 《焔の拳僧 ダマリ》 RR D-BT02/012 《忍竜 トガチラシ》 RR D-BT02/013 《ドラグリッター イドリース》 RR D-BT02/014 《クリーヴ・マドラー》 RR D-BT02/015 《群集の操獣師 ダリウス》 RR D-BT02/016 《ディアブロスマドンナ メーベル》 RR D-BT02/017 《極光戦姫 デリィ・バイオレット》 RR D-BT02/018 《柩機の兵 サンボリーノ》 RR D-BT02/019 《爆食怪獣 マルノルム》 RR D-BT02/020 《天翔竜 プライドフル・ドラゴン》 RR D-BT02/021 《ステラルレイザー・エンジェル》 RR D-BT02/022 《金剛鏡の女魔術師》 RR D-BT02/023 《感銘の乙女 ウルジュラ》 RR D-BT02/024 《逆流する冥府》 RR D-BT02/025 《野生の知恵》 RR D-BT02/026 《堅城竜 ジブラブラキオ》 R D-BT02/027 《ドラゴンナイト ネハーレン》(Dシリーズ) R D-BT02/028 《バーサーク・ドラゴン》(Dシリーズ) R D-BT02/029 《焔の巫女 ターニャ》 R D-BT02/030 《焔の巫女 パラマ》 R D-BT02/031 《祝福の角笛》 R D-BT02/032 《タイムジャレイト・ドラゴン》 R D-BT02/033 《ディアブロスエッジ グラントリー》 R D-BT02/034 《フリーズ・ブリーズ》 R D-BT02/035 《ディアブロスガールズ ナタリア》 R D-BT02/036 《異能摘出》 R D-BT02/037 《ヘルブラスト・フルダイブ》 R D-BT02/038 《柩機の兵 プラスティア》 R D-BT02/039 《柩機の獣 マリズマ》 R D-BT02/040 《柩機の姫 エコルパ》 R D-BT02/041 《奇想機獣 バグモーター》 R D-BT02/042 《柩機の竜 エンバイロ》 R D-BT02/043 《確保の瞬間!極光戦姫密着24時!》 R D-BT02/044 《精妙の騎士 オーワイン》 R D-BT02/045 《漆黒の乙女 マーハ》(Dシリーズ) R D-BT02/046 《ブラスター・ダーク》(Dシリーズ) R D-BT02/047 《饗応の魔女 ブラーナ》 R D-BT02/048 《天音の楽士 アルパック》 R D-BT02/049 《並び立て、選ばれし騎士達よ》 R D-BT02/050 《樹角獣 アイライータ》 R D-BT02/051 《船団喰らい》 R D-BT02/052 《悲恋の妖精》 R D-BT02/053 《袖引く麗人》 R D-BT02/054 《狂乱の令嬢》 R D-BT02/055 《扇情の蜜》 R D-BT02/056 《ボルカニックガン・ドラゴン》 C D-BT02/057 《クロースロック・ドラゴン》 C D-BT02/058 《ドラグリッター ナーシル》 C D-BT02/059 《装甲竜 マウントキャノン》 C D-BT02/060 《ドラゴンモンク ゴジョー》(Dシリーズ) C D-BT02/061 《忍竜 キザンレイジ》 C D-BT02/062 《焔の拳僧 エンテン》 C D-BT02/063 《焔の巫女 アルーナ》 C D-BT02/064 《鎧の化身 バー》(Dシリーズ) C D-BT02/065 《焔の巫女 ザーラ》 C D-BT02/066 《リザードランナー アンドゥー》(Dシリーズ) C D-BT02/067 《火竜爆撃》 C D-BT02/068 《いつか届く祈り》 C D-BT02/069 《スチームナイト パシャルタタル》 C D-BT02/070 《スパイラクル・スプラッシャー》 C D-BT02/071 《ディアブロスアタッカー アーヴィング》 C D-BT02/072 《不断の氷柱 ジェビンナ》 C D-BT02/073 《スチームアーティスト ナピル》 C D-BT02/074 《ディアブロスマドンナ ヴィオラ》 C D-BT02/075 《ぺスティレント・タロン》 C D-BT02/076 《監視するギアドーベル》 C D-BT02/077 《サイクロン・サイクラー》 C D-BT02/078 《スチームエンジニア ペペリ》 C D-BT02/079 《ディアブロスボーイズ チェスター》 C D-BT02/080 《ディフォームド・ハンマー》 C D-BT02/081 《スペシャル“暴虐”エール》 C D-BT02/082 《柩機の竜 ゼルジオ》 C D-BT02/083 《極光戦姫 メル・ホライズン》 C D-BT02/084 《硬拳竜 メタルナックラー・ドラゴン》 C D-BT02/085 《ツイスティング・ブルドーズ》 C D-BT02/086 《柩機の獣 イスタレート》 C D-BT02/087 《極光戦姫 ビレート・カナリー》 C D-BT02/088 《咬害怪獣 ザボカーニ》 C D-BT02/089 《柩機の姫 アルテポー》 C D-BT02/090 《極光戦姫 ローデッド・アザレー》 C D-BT02/091 《極光戦姫 ワッパー・プルン》 C D-BT02/092 《旋空ロボ ラムドロート》 C D-BT02/093 《炸裂!メルティング・ハート!》 C D-BT02/094 《蝕まれる月光》 C D-BT02/095 《ヴィールレンス・ドラゴン》 C D-BT02/096 《八角報謝の女魔術師》 C D-BT02/097 《厚志の天杖 コルテーゼ》 C D-BT02/098 《雄渾の天刃 ベスティダ》 C D-BT02/099 《ディヴァインシスター ぷちふーる》 C D-BT02/100 《天破の騎士 カパルド》 C D-BT02/101 《アディショナル・エンジェル》 C D-BT02/102 《栄進の魔法 メルココ》 C D-BT02/103 《天轟の騎士 リーディ》 C D-BT02/104 《ブラスター・ジャベリン》(Dシリーズ) C D-BT02/105 《黒の賢者 カロン》(Dシリーズ) C D-BT02/106 《フルバウ》(Dシリーズ) C D-BT02/107 《崇高なる意志》 C D-SS02/108 《シュルドフィッシャー・ドラゴン》 C D-SS02/109 《鉄錨の憤竜》 C D-SS02/110 《棺桶撃ち》 C D-BT02/111 《樹角獣 ボジャルコン》 C D-BT02/112 《乱射怪人 バレットワスプ》 C D-BT02/113 《ロアリングピスティル ランジーナ》 C D-BT02/114 《結束のブレイブシューター》 C D-BT02/115 《樹角獣 ティアルヴ》 C D-BT02/116 《レディ・デモリッシュ》 C D-BT02/117 《樹角獣 ビルバー》 C D-BT02/118 《樹角獣 クロコッテ》 C D-BT02/119 《実りの季節》 C D-BT02/120 《非業の死を乗り越えて》 C
https://w.atwiki.jp/terachaosrowa/pages/1716.html
「この釣り場は小物しかおらへんな~」 「仕方があるまい。このあたりは遠浅であまり大きな生物はいないようだしな。」 そんな相方の言葉を聞きつつ、竿を戻す。 ふむ、またサハギンか。確かに小物ばかりだ。 釣り上げたところを襲い掛かってくる前に矢を打ち込み黙らせる。 最初に襲われた時はうっかり「偽・螺旋剣(カラドボルグ)Ⅱ」で木っ端微塵にしてしまった。 やはり凛のうっかりが写ったらしい。これは危険だ、即刻伝染病認定するべきであろう。 「さっきから半漁人ばっかや。またガノトトスみたいな奴来んかな~?」 「共感は出来るが、あのような大物そうそうそう簡単には居るまいよ。」 サハギンを銛に刺しながら話す優に相槌を打つ。 ガノトトスを釣り上げた時のような感触は滅多に味わえまい。 だとしても、釣れている魚は明らかに小物だらけだった。 しかし、何かおかしい。海の中を棲家にしているサハギンが何故このような沿岸にいるのだろうか? 「おい!大物が二匹居ったで!半漁人を食いまくっとる!!」 何だと?なるほど、サハギンはそいつから逃げるために此処まで来たということか。 ふむ、これは釣り上げるほかあるまい。 幸いにして餌は新鮮なサハギンが私と優が獲ったもので5匹程いる。 木っ端微塵となったものの肉片を餌として使うとしよう。 「いざ勝負!!」 私は竿を振り、掛かるのを待つことにした。 * * * * * * そのころ海の中では、濱口優と巨大魚が戦っていた。 その大きさは10m以上、顎の大きさはおよそ3m。 間違いなく獲物は人間であり、狩人は魚の方であった。 …相手が濱口優でなければ。 彼は、強化された己の肉体を活用し、その魚に喰らいついていった。 「(速い…しかし、こないな大物、逃がさへんで!)」 しかし、いかに相手が大きくとも、素早く動く相手では銛を当てるのは難しい。 濱口は疲れたのか、段々と動きが緩慢になっていき、遂には静止した。 次の瞬間、相手の巨大魚は容赦なく襲い掛かっていった― * * * * * * 「―掛かった!く、かなり強い引きだな。」 思わず出た独り言と共に私は大物を確信した。 サハギンの肉を使ったのだ、間違いなく掛かったのは報告にあった奴であろう。 しかし、ガノトトスの時ほどではないが、引きの強さが並みの魚のものではない。 次の瞬間、獲物が跳ねた。明らかに魚の頭ではなかった。あれは確か図鑑で見た― 「―クロノサウルス。太古の生物まで居ようとはな。」 まあ、どう考えても空想の生物が居たのだから別段驚きもしまい。 竿が軋み、糸は鳴る。久々の大物、逃がす手はない。 「―強化(トレース)、開始(オン)」 慣れ親しんだ言葉と共に全身を強化する。 この身は剣だが、今は竿。獲物は必ず釣り上げてみせる! 相手が段々弱ってきた。全神経を集中し一気に引き上げる― 「フィィィィィィィッッッッッッシュッッッッッ!!!!」 * * * * * * 「(く、来る…)」 巨大魚が迫ってくる。正直疲れてきた。 あいつは俺を食おうとするんやろな。 ―なら、勝負や。次の一撃で決める。 あと少しで奴の大口が開く。 ―今や! 相手が噛み付く前に下に少し潜る。 掠った肌は鮫肌というよりかはトカゲみたいなもんやった。 そいで、無防備な腹に銛を刺して、後は… 「(喰らえや!!)」 手元のボタンを押して高圧電流を流したった。 そしたらピクピクと痙攣しながら腹を向けて浮き始めた。 終わった。俺は水面に上がり― 「獲ったどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 * * * * * * 干将莫耶でクロノサウルスを捌いていると、優の叫び声が聞こえた。 …宝具を何に使ってるんだとか言う突っ込みは無しだ。包丁では歯が立たん。 どうやら優も仕留めたようだ。こちらに向かって手を振っている。 ふむ、少し手助けをしてやろう。そう思い私は釣竿を持った。 ククク、やはり私が何をしたいか分かっていないようだな。 私は優の銛を目掛けて釣竿を振った。 見事に銛に絡まり、優のウエットスーツを引っ掛けた。アーチャーの名は伊達ではない。 そして驚く優を一気に引き上げる! 「フハハハハハハハ!!フィィィィィィィッッッッッッシュッッッッッ!!!!」 「うぉわあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」 はっはっは、愉快痛快。優は大きな悲鳴を上げながら隣に降って来た。 何か巻き込んだ気がするが、どうせ釣り上げたサハギンが生きていたのだろう。 「もっとまともな連れ戻し方は無いんか、ボケェェェェェ!!!」 と、痛烈な一撃を喰らったが。 さて、何はともあれ後は恒例のあの一言で締めくくるとしよう。 「「クロノサウルス、獲ったどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」 【一日目・23時50分/インドネシア】 【濱口優@現実】 [状態]若干の疲労、パワー全開 [装備]改造巨大銛、ゴーグル、ウェットスーツ [道具]木の実5種(それぞれ少量) 、サハギン、クロノサウルス [思考]基本 アーチャーと共に世界中の魚を獲る 1 獲ったどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! 2 とりあえず獲物を獲る!! 3 ウラーラーラーラーラーラー!!!!!!! 【アーチャー@Fate/stay night】 [状態]やけっぱち精神崩壊、凛のうっかり伝染 [装備]釣竿、最新式リール、釣り針、頑丈な釣り糸、三つ編みにしたピアノ線 [道具]釣りミミズ×6、釣りバッタ×5、釣りホタル×17、釣りカエル×9、ガルタイト、ノート [思考]基本 濱口優と共に世界中の魚を釣る 1 フィィィィィィィッッッッッッシュッッッッッ!!!! 2 もうゴールしても良いだろう?凛… 3 優をからかうのも面白いな 4 ウラーラーラーラーラーラー!!!!!!! 【サハギン@ファイナルファンタジー 死亡確認】 死因:濱口の銛×2、アーチャーの矢×2、カラドボルグⅡ、クロノサウルスの捕食×4 【クロノサウルス@白亜紀 死亡確認】 死因:濱口の銛の高圧電流、干将莫耶で三枚に下ろされる 【ディアボロ@ジョジョの奇妙な冒険 死亡確認】 死因:釣り上げられたクロノサウルスwith濱口優に押し潰される
https://w.atwiki.jp/hosituba/pages/433.html
https://w.atwiki.jp/pricone/pages/1314.html
《邂逅 名取 周一&夏目 貴志&ニャンコ先生》 キャラクターカード コスト5/青/CP5000/RANK1 【妖祓い人】/【妖】/【メガネ】 ボーナスアイコン RANK+1 このカードのアタックで、相手のキャラを退場させた場合、 相手のコネクトゲージにあるカード1枚を表向きにする。 このカードが登場した場合、相手のキャラ1枚は、ターン終了時までCP-1000を得る。 阿呆! こんなチョロチョロ動く奴のお守りが、どんだけ大変だと思っとるんだ! 夏目友人帳で登場した青色・【妖祓い人】・【妖】・【メガネ】を持つ名取 周一&夏目 貴志&ニャンコ先生。 関連項目 名取 周一 夏目 貴志 ニャンコ先生 収録 夏目友人帳 01-065 R
https://w.atwiki.jp/for_orpheus/pages/271.html
▼ ――――四月一日、早朝。 無断での夜間外出から戻った龍賀沙代(わたくし)は現在、この冥界における住居である女子学生寮の大浴場(パブリックバス)に、二人の人物を伴って入浴していた。 「―——ふう。やっと人心地付いたな」 一人目は金糸のような髪に赤い瞳をした童女。 彼女はその身を湯船に浸し、優雅に揺蕩わせながらそう溢す。 一糸纏わぬその肌は絹のように滑らかで、湯水に濡れたことで艶めかしさを増している。 しかし、その右腕を覆う鱗と臀部から生えた尾の赤さが、彼女が只人ならざる存在であることを示していた。 「やはりテルマエはよい。心が安らぐ」 「俺は別に、部屋付きの風呂でもよかったんだけどな。 ドラコーが“せせこましい風呂は嫌だ”なんて文句を言うから、面倒な礼装を用意する羽目になった」 童女へとそう言葉を返したのが二人目。 亜麻色の長髪を水面に揺蕩わせた、私と同年代と思われる少女。 こちらもまた一糸纏わず湯船に浸かっており、私だけバスタオルで身を隠している事が、逆に恥ずかしくなってくる。 彼女は童女の様な異形化した部位はないが、男勝りな口調とのアンバランスさが違和感を引き立たせる。 それもそのはず。彼女は本当は――― 「……あ、あの」 「何を言うか葬者よ。身を清めるだけならともかく、安らぐために湯に浸かると言うのであれば、広い湯船を求めるのは当然であろう。 それに大浴場であれば、こうして湯に浸かりながら話し合いもできるしな」 「だとしても、貴重なリソースの無駄遣いは避けるべきなんじゃないのか? せっかく買った礼装を潰して別の礼装に加工するなんて、効率が悪すぎる」 「そこは貴様の不足を恨むがよい。数多の能力を有していようと、行使できるのは一度に一つだけとは、全く難儀よな」 そのことについて問いかけようとするが、あっさり聞き流されてしまう。 声が小さかったのだろうか。 そう思いもう一度、今度は少し強めに声をかける。 「あの!」 「む。なんだサヨ、そのように声を荒げて」 「あまり大きな声は止めてくれ。人が来たら面倒だ」 それでようやく彼女達が私の方へと振り返り、だが向けられた二対の視線に一瞬怯む。 しかしまた話し込まれても困るので、意を決して目下最大の疑問をぶつける。 「あの、えっと……岸浪さんは、その……だ、男性でしたよね! どうして女性になってるんですか!?」 そう。童女――ドラコーと呼ばれたサーヴァントの葬者(マスター)である少女――岸浪ハクノは、間違いなく男だったはずだ。 だというのに、目の前にいる岸浪さんの外見は、どう見ても少女のそれだ。 私の部屋から大浴場へと向かう際に、何かしらの作業をしたと思ったら、唐突に今の姿へと変わったのだ。 これはいったいどいう事か、と問いかけると、彼女(?)は自らの目元を指さしながら答えた。 「ああ。それはこの礼装の機能だ」 「れい、そう……?」 メガネだ。示されるまで気付かなかったが、彼女(?)はメガネを掛けている。 だがあまりにも存在感がない。こうして示された今でも、注視しなければすぐに意識から外れてしまう。 「簡単に言えば認識阻害だ。 俺の外見に岸波白野(ある人物)の幻を被せて、俺を見た人間に“この場所に居てもおかしくない人間”だと思わせることができる。 例えるなら……そうだな。今の時期的に、早めに入寮してきた新入生、くらいに思われるんじゃないか?」 「幻、ですか……?」 「と言っても、そんなに強力なものじゃないからNPCくらいにしか通用しないし、マスターなら……そうだな、幽霊を捜すようなつもりで見られれば簡単に見破れる。 加えて、魔力の乱れですぐ使えなくなるから、コードキャストや他の礼装との併用もできないし」 そう言われて、改めて岸浪さんの姿を、今度はしっかりと意識して視詰める。 すると先程まで見えていた少女の姿は消え、彼本来の裸体―――が!? 「ひう!?」 自分の顔が一気に赤く染まるのを自覚する。 わかっている。さっきまで見えていた少女の姿が裸なのだから、彼の本来の姿も裸なのは当然だ。 だが一度意識してしまったことで、同時に“この状況の異常さ”も強く意識してしまう。 先程の繰り返しになるが、ここは大浴場で、私達は今、一緒に湯船に浸かっている(・・・・・・・・・・・・)のだ。 私とドラコーさんは女で、岸浪さんは男だというのに、だ。 「そ、そそ、そもそも! いくらお風呂だからって、なんで二人とも裸なんですか!?」 あまりの羞恥に、可能な限り声を抑えつつ叫ぶ。 私みたいにバスタオルで隠すとか、簡単な仕切りを用意するとか、何か方法があったはずだ。 「お風呂で裸なのは当然だろう?」 「いえそうですけど、そもそも男女が一緒に入浴だなんて、やっぱりおかしいですよ!」 「それは、おかしいのか?」 「おかしいんです! 男女七歳にして席を同じゅうせず、という言葉を知らないのですか!?」 「そうがなるな。我が葬者は成り立ちと経歴が特異故に性差に疎い。 貴様の乙女心からくる羞恥心はまだ理解が難しかろう」 「意味が解りません! そう言うドラコーさんは恥ずかしくないのですか!?」 「無論、恥ずかしくなどないぞ。余の肉体に恥ずべきところなどないからな」 「っ~~~……!」 だが岸浪さんは状況のおかしさを理解していないのか首を傾げ、ドラコーさんはむしろ見よと言わんばかりに裸体を曝してくる。 その光景を直視できず、赤面した顔を両手で隠しながら湯船に沈み込む。 だが、つい男性である岸浪さんを意識してしまい、指の隙間から彼の方を覗き見る。 そこには、あの男の枯れた身体とは全く異なる、年相応に均衡の取れた男性の――― 「―――!!」 咄嗟に顔を逸らし、強く目を瞑る。 私に出来ることは、どうしてこんなことになったんだろう、とそんなことを考えることくらいだった。 「―――では、そろそろ本題に入るとしようか」 ここまで散々に話を横道に逸らしてきた張本人がそう宣う。 「サヨ。我等は偶然にも貴様を助け、貴様はその謝礼として自らの拠点であるこの場所へと我等を招き入れた。相違ないな」 その言葉に、羞恥に顔を染めたまま姿勢を正し、肯く。 そう。岸浪さん達をこの場所に連れてきたのは私自身だ。 彼女が口にした通り、敵サーヴァントの襲撃を受け窮地に陥った私を、偶然にも居合わせた彼等が助けてくれたのだ。 彼等からすれば、偶々巻き込まれ自身に降りかかった火の粉を払っただけなのだろうが、結果として私が助かったことに変わりはない。 私はその礼をしたいと彼等に告げ、休める場所を求めていた彼等に自らの拠点を提示したのだ。 私の住んでいるこの寮は女子寮だが、元々僚艦の目を逃れて夜間外出していたのだ。逆に彼等を連れ込むことに支障はなかった。 だが想定外だったのはその後。何故か話し合いを、大浴場で行うことが決まってしまったのだ。 ドラコーさんが部屋付きの狭い風呂に難色を示したので、大浴場があると言ったのがいけなかったのだろうか。 ならばついでに情報交換もそこで行おうという事になり、女子寮だから男性である岸浪さんが見つかるのは問題だと言えば、先ほどの礼装が用意される始末。 私に出来た抵抗は、せめて自身の裸は直接見られぬようにと、バスタオルで体を包み隠すことぐらいだった。 本当に、どうしてこうなったのだろうと、あまりの羞恥に茹りそうな頭で思う。 「では質問だ。サヨよ、貴様は自身を襲ったサーヴァントの事をどれだけ覚えている?」 「え?」 どれだけ覚えている? 意味が解らない。どうしてそんなことを、彼女は訊いてくるのだろう。 そう思いながらも、自身を襲ったサーヴァントの事を思い出そうと――思い、出そうと………して。 「……あれ? 思い……出せない……? そんな、どうして?」 茹っていた頭が、急速に冷えていく。 襲われた記憶は、ある。 戦ったことも、殺されかけたことも、助けられたことも覚えている。 私がこの冥界(とうきょう)に招かれてから窮地に陥ったのは、今回の襲撃が初めてだ。 そんな死の恐怖を齎した存在の事を、忘れる事なんてありえない………はず……なのに―――― ■■■を使い■の■■を持った、■■の■■のサーヴァント。■■■■――■■■■・■・■■■■。 記憶に刻まれているはずの、私を襲った存在に関する情報が、何一つとして思い出せなかった。 その事実を否定するために私は、岸浪さん達と出会った時の事を、改めて初めから思い返した。 § § § それは、日付が変わって間もない、日が昇るにはまだ遠い未明の頃の事だ。 聖杯戦争を戦うと決めた私は、他のマスターを捜して夜の東京を彷徨い歩いていた。 だが戦うと言っても、真正面から決闘を申し込むわけではない。 何故なら私には、他のマスターと比べ劣っている点が確実に二つはあったからだ。 一つは戦闘経験の無さ。 私の生まれ育った哭倉村において、荒事は『裏鬼道』の役割であり、私自身は真面な戦いを経験した事がない。 妖怪『狂骨』という力こそ持っているが、特殊な力を持っているのは他のマスターも同じだろう。これだけを当てにはできない。 そしてもう一つが、ライダーが自我を持たぬ人形であること。 普通の主従であれば、マスターの不足はサーヴァントが補ってくれるだろう。だがライダーにはそれが出来ない。 私の指示には完全に従ってくれるが、逆に言えば一から十まで私が指示しなければ、何も出来ないのだ。 つまりこの聖杯戦争でどう戦うかは、マスターである私が決めなければならない。 これまでの人生でただの一度も実戦を経験したことのない、この私が、だ。 最初に思いついたのは、ライダーをバーサーカーのように単独で暴れさせる方法だった。 だが、それは早々に破棄した。他のマスターが多数生存している現状では、先日の怪物達のように複数組で処理されるのが目に見えていたからだ。 そこでその逆。アサシンのように立ち回る方法を模索した。 そうして考えを廻らせた末に、私は自らを囮として他のマスターを釣り出す策に思い至った。 『狂骨』の最大の特殊性は、妖怪であること。つまり、“普通の人間には視認できない”。 姿を消した状態ではサーヴァントにも視認できないことは、ライダーで試して証明済みだ。 あとは無力な少女のフリをして他のマスターに接触し、その際に『狂骨』を憑りつかせればいい。 成功したなら私自身は安全圏へと離れ、そのマスターが隙を晒した瞬間、『狂骨』に命じて殺害する。 それで終わりだ。 当然、他のマスターとの接触には危険が伴うが、たとえその場で戦闘になったとしても大丈夫。 ライダーは非常に頑丈なサーヴァントだ。相手がどんなサーヴァントだったとしても早々に負けることはないはずだ。 そして『狂骨』の方も、実際に害をなす際には姿を現す必要はあるが、憑りつかせるだけならその必要はない。 重要なのは、『狂骨』と私の繋がりはもちろん、その存在を悟られないこと。 この冥界にはあまりにも死霊が多い。 哭倉村の『裏鬼道』がそうであったように、他のマスターが幽霊や妖怪への対策をしていてもおかしくはない。 『狂骨』も強力な妖怪であるため、多少の対策程度なら簡単に破れるが、より特化した対策をされてしまえばわからない。 もし『狂骨』の力が通用しなければ、私にはライダーを暴れさせる以外の方法が無いのだ。 だから、『狂骨』を用いた寮からの抜け出しは頻度を減らし、その移動も最低限にした。 ――それがいけなかったのだろうか。 私自身を囮にして他のマスターを釣り出すという作戦は、思ったような成果を得られなかった。 マスター達の動きが活発になる筈の夜間の外出中にも係わらず、まだ一度も他のマスターと遭遇できていなかったのだ。 昨日の昼間の赤い覆面の人が、私が最後に遭遇したマスターだった。 そうして辿り着いた庭園――新宿御苑で、はぁ、と溜め息を吐いて空を見上げる。 東京の街明かりに照らされた夜空は、星明りが幽かに見えるだけ。 月は見えない。今日が偶々新月だったのか、高層ビルの陰に隠れているのか。 嫌な思い出しかない哭倉村だが、夜空の光景だけは都会よりも美しかったのだと、この冥界に来て初めて知った。 「……今日はもう、帰りましょうか」 視線を下ろし、一人そう呟く。 まだ昼間で、仮にも私を助けてくれた人(ヒーロー)だからと、彼に『狂骨』を憑りつかせなかったのは失敗だっただろうか。 ……いや、戦うと決めてからの夜間外出数は、まだ片手の指で数えられる程度。 それに昨夜に都内上空で行われた戦闘の影響で、偶々他のマスター達も外出を控えていただけ、という可能性もある。 まだ焦る必要はないはずだ。そう自分に言い聞かせ、公園の外へと足を向けた。 ―――その時だった。 「ライダー?」 命令した訳でもないのに、唐突にライダーが実体化した。 こんなことは初めてだった。 一体どういうことか、と声を掛けるが、返事はない。 彼はいつものように命令を待っているだけ……いや、もしかして周囲を警戒している? 普段とは明らかに違うその様子に違和感と、滲み出るような焦りを覚える。 自分が気付かないうちに、いったい何が起きているのか。 そう思い、慎重に辺りを見渡し、ようやく周囲のおかしさに気づく。 ―――公園の街灯が妙にぼやけ、視界が白く霞んでいる。 (これは、■でしょうか……?) 哭倉村でも時折見た光景に、そう判断する。 東京でも■は出るのですね、と妙な感心を懐き、あれ? と首を傾げる。 ……おかしい。 確かに春は■の季節だが、その主な発生条件は風の弱い雨上がりの朝だ。 しかし昨日は雨など降っていないし、今は朝と呼ぶにも早過ぎる時間だ。 田舎と東京とでは条件が違うのかもしれないが、だとしても濃くなるのが早過ぎる。 風が弱いことが条件である以上、他所から流れてきたという事もあり得ない。 つまり、この■は正常なものではなく、それが意味することは即ち―――! 「っ、ライ……ッ!?」 瞬間、鼻の奥で火花が散るほどの痛みに襲われた。 反射的に咳き込み、口を抑え込む。 間違いない。この■は、敵の攻撃によるものだ……! 「ライダー、■を掃って!」 咄嗟の判断で自身に『狂骨』を憑りつかせ、身体機能を強化。 痛みを堪え、敵の攻撃と思われる■の排除を命じる。 「御主人サマの、仰セの通リニ……!」 即座にライダーがその腕を振り抜き、周囲の大気ごと■を“弾いて”排除する。 すると鼻の奥で爆発していた激痛が、完全にではないがスッと引いていく。 (やはりこの■は、敵の攻撃で間違いないですね。 ならこの■をどうにかできれば、私からも反撃できるはず、ですけど……!) ライダーに弾かれたはずの■は、未だに自分たちの周囲を漂っている。 いやむしろ、ライダーに弾かれながらも周囲に留まったことで、この■の異常さが浮き彫りになったと言っていい。 むしろ浮き彫りになったことを幸いと、一気にその濃さを増して私達を飲み込もうと迫ってきている。 その度にライダーに弾かれ、結果空いた穴は周囲の■が即座に埋めている。 ……おそらく、ライダーが全力を出せば、この■を完全に排除することは出来るだろう。 意思を持ったように動くとはいえ、所詮は衝撃波に飛ばされる程度のもの。ライダーの全力攻撃に耐えられるとは到底思えない。 だが、それは出来ない。 なぜなら、■は大気に溶け込んで周囲一帯に漂っている。それを全力で排除するという事は、“全方位に強力な衝撃波を放つ”という事だ。 私の脆弱な身体では、たとえ『狂骨』で身を守ったとしても、その衝撃に耐えられない。 そして私が傷付かないよう加減した一撃ではこの■を掃うことは出来ず、そもそも主人の尊命を第一とするライダーは、それ故にその命令を実行できない。 ならば逆に、こちらから反撃に打って出る? それこそ不可能だ。敵はまず間違いなく、この■の中に潜んでいるだろう。 だがそれを見つけ出す術を、私達は持っていない。 私が今無事なのは、ライダーが■を弾いて寄せ付けないようにしているからだ。 濃度の薄い状態であれほどの痛みを齎したのだ。 彼を攻撃に回してしまえば、私は途端に■に飲まれ、そのまま死ぬだろう。 ならば『狂骨』はどうか。 確かに『狂骨』なら、この■の中でも問題なく進めるだろう。 だが私の方で敵を見つけられない以上、『狂骨』自身に探してもらう必要がある。 加えて、敵が一人とは限らない。私達がそうであるように、マスターとサーヴァントが一緒にいる可能性は十分にある。 この■がどちらの能力かはわからないが、もう一人が周囲の警戒をしていれば、それだけで『狂骨』には対処されてしまうだろう。 つまりは詰み。今の私達に、この敵を倒す術は存在しない。 可能性があるとすれば、ライダーの足手纏いとなっている私が“この場からいなくなり”、ライダーがその全力を発揮した場合だけだろう。 ライダーの能力を用いれば、私だけがこの場から撤退し、その全力を発揮させることが可能となる。 だがそれは、敵の正体が何もわかっていないこの状況で、命令されたことしか実行できないライダーをこの場に残すという事だ。 そして同時に、ライダーが戻るまでの間、彼という最大の守りを失うことと同義でもある。 もしその瞬間に敵に襲われれば、私は成す術なく殺されるだろう。 ここでライダーと共に撤退する、という選択肢もある。 だがそれは、敵の事が何もわからないまま、私達の情報を、少しとはいえ敵に渡してしまうという事だ。 その場合、敵が積極的に私達を狙ってきた時に、何の対処もできないということに他ならない。 間違いなく、私が考えた作戦は実行できなくなる。 この聖杯戦争中、この敵が敗退したと確信できるまで、怯えて過ごす事しか出来なくなるのだ。 ……あるいは、ここで令呪を切るか。 元よりライダーは命令に従順だが、令呪にはサーヴァント単体では不可能な無理を可能とさせる力があるという。 これを用いれば、私がこの場に残ったまま、ライダーにこの■を完全排除させることも可能かもしれない。 だがそれは、たった三度しか使えない切り札を、こんな序盤で切るという事に他ならない。 (いったい、どうすれば……!) 残された選択肢は三つ。 私だけ撤退するか、ライダーと共に撤退するか、令呪を切るか。 そう長くない時間。悩みに悩んだ末に、私はライダーへと命令するために声を上げ――― 「ライ――」 ―――ライダーの巨大な背中に、同化するように張り付く、■■の■■の姿を見た。 「――ダー?」 そのおかしさに、下そうとした命令が頭の中から消し飛ぶ。 「残念、時間切れ」 奇妙に濁った声だった。 何人もの■■が二重、三重に同じセリフを口にしたかのような、不思議な声。 「ッ――――――――!」 ■■の存在を察知したライダーが、マスターの危機を排さんと即座に動く。 だが、致命的なまでに遅い。ライダーが振り抜いた腕をひらりとかわし、■■はそのまま私へと肉薄する。 「じゃあ、斬るね」 そしてその手の■■■を、私の首を目掛けて振り抜き――――。 「―――そこだ、ドラコー」 ■■■を持った少女の■手を、赤い閃光が貫いた。 「ッ!?」 ■■は即座に私から、否、閃光を放った襲撃者から距離をとる。 一方の私は何が起きたのか全く理解できず、そのまま尻餅をつく。 そして閃光を放った襲撃者は、赤い尾で■を掻き分けながら悠々と姿を現した。 「チッ、狙いも魔力の収束も甘い。やはり実体化しておくべきだったか?」 「いや、それだと多分気付かれてたんじゃないかな。ドラコーの気配は、どうにも他のサーヴァントを刺激するみたいだし。 それはそうと、あの見た目。この■と併せて、ドラコーの予想していたヤツで間違いないな」 「うむ。つまり生かしておけば、後々面倒になる。よって手筈通り、ここで仕留めるぞマスター」 現れたのは、高校生くらいの少年と頭と両肩に王冠を被った金髪の童女。 少年におかしなところはないが、童女の方は左腕以外の四肢が赤い異形となっており、尾まで生えている。 その姿からして、少年がマスターで、童女がサーヴァントだろうか。 何か対策をしているのか、周囲の■の影響を受けた様子もなく平然としている。 「■手、なくなっちゃった。ひどいことするなね」 ぽつり、と■■が呟く。その■い瞳は真っ直ぐに二人を見ている。 ■の中からの奇襲という自身の御株を奪われた■■は、酷く冷淡な表情を浮かべている。 「吐(ぬ)かせ、殺人鬼(アサシン)。その程度の傷など、魂喰いをしている貴様なら容易に治せよう」 まあそのような隙は与えぬが、と異形の童女も怯むことなく言い返す。 ■■と金髪。■い■と赤い瞳。背丈もよく似た両者は、ともすれば鏡合わせの存在のようにも思えた。 ―――だがそれは勘違いだ。 「へえ、よく分かったね。でも、別にいいじゃない。魂喰い(それ)はあなたも同じでしょ……ねぇ?」 「貴様と一緒にするでない。余は丹念に調理された皿しか食わぬ。まあ、悪食であることは否定せぬがな」 次の瞬間、童女の顔先で火花が散る。 いつの間にか放たれた■■の■■■を、童女が異形の右腕で弾いたのだ。 だがその隙に■■は後方へと飛び退き、■の中へと身を隠す。 童女も即座に右手から魔力の弾丸を乱射するが、■の中に隠れた■■には中らない。 「チッ、面倒な。だがよい。貴様はどの道、ここで敗退(デッド・エンド)だ」 「やだよ。まだ、お腹すいてるんだもん」 異形の童女が魔力を滾らせる。 その背後に、無事な■手に■■■を構えた■■が肉薄する。 ■に潜んだという利を逆手に取った奇襲。私では反応すらできない。 だが童女は即座に反応し、■■の奇襲を迎撃する。 鏡合わせの様な姿の彼女たちは、歪んだ鏡像(相手の存在)を否定するために、躊躇うことなくその凶器(ちから)をぶつけ合っていた。 「―――よし。対策は、これで出来たはず。 それで、アンタはどうするんだ?」 「え?」 不意に声を掛けられ、呆けた声を出してしまう。 声の方へと向けば、異形の童女のマスターだろう少年が、彼女達の戦いに意識を向けたまま、私を横目に見ていた。 「どうする、とは……」 「見ていた感じ、あのアサシンに殺されかけてたみたいだけど、まだ戦う気はあるのかって訊いてるんだ」 「あ――――――」 言われて、ようやく思い出す。 そうだ。私は殺されかけたのだ。あの■■の■■に。 「は、っ…………!」 今更にやってきた死の実感に、息が詰まり、体が震えだす。 死んでいた。 彼等がいなければ、間違いなく殺されていた。 ……戦うと決めたのに。 自分を囮にしてでも、他のマスターを殺すつもりでいたのに。 何も出来ないうちに、逆に一方的に殺されかけた。 だというのに、彼は何と言った? まだ戦う気はあるのか、と訊いてきたのか? 誰と? あの■■と? それとも……彼等と? 「いえ……私に、戦うつもりはありません」 出来る訳がない。 彼のサーヴァントはあの■■と、この■の中で平然と戦っている。 きっとライダーとも互角以上に戦えるのだろう。 けど、ライダーではあの■■に敵わないことは、すでに証明されてしまった。 もし彼のサーヴァントがあの■■に殺されれば、そのまま私も、今度こそ殺されるだろう。 つまり私に出来ることは、彼のサーヴァントと協力して■■と戦うか、彼女たちの戦いを見届けるかの二つだけだ。 けれど、殺されかけて恐怖に竦んでしまった私には、ライダーに戦いを命じることが出来なかった。 ライダーが近くに居ても殺されかけたのだ。戦いのために彼が離れれば、その瞬間に今度こそ殺されるかもしれない、なんて。 そんな風な考えが、頭にこびり付いて離れなかった。 結局私は、装うまでもなく、無力な少女に過ぎなかったのだ。 ……ああ、でも。 今ならば。 こうしてサーヴァントから離れている、この瞬間であれば。 この少年に、『狂骨』を作戦の通りに――― 「そうか。アンタの後ろの連中(・・・・・・・・・)はやる気みたいだったから、アンタもそうなのかと思ったけど、違うんだな」 ――――――――。 「――――――え?」 待って。 今彼は、何と言った? 「もしかして、視えて……いる(・・・ ・・)んですか?」 元の世界で私が殺した、私に取り憑く彼等の怨念。 それを彼が、“あの人”と同じ様に視ることが出来るのだとしたら、それは――― 「視ようと思えば、だけどな。 基が似たようなものだからか、その手の気配には敏感なんだ」 ―――それは、つまり。 サーヴァントであっても見付けられない筈の『狂骨』を、彼は捉えることが出来るという事で。 延いては、ただの一度も実行にすら移せないまま、私の作戦が瓦解したという事に他ならない。 「そん、な……」 その事実に、戦うと決めたはずの自分の心が、ポキリと折れた音を聞いた気がした。 「ここで仕留める! 合わせよマスター!」 異形の童女は全身から魔力を放出し、己がマスターへと声を張り上げた。 彼女の周囲の■はまさに雲散霧消といった有り様で、当然そこに隠れていた■■の姿も露わとなっている。 少年は即座に私から視線を外し、■■の方へと右手を向けた。 「コード・キャスト――《shock(64);》!」 彼の手から放たれる何かしらの術式。 それは■から炙り出された■■へと見事に命中し、その動きを一瞬だけ硬直させる。 「死に絶えよ!!」 その一瞬の隙に、童女は異形の右腕に膨大な魔力を込め、■■へと叩き付けた。 公園の地面が砕け、周囲の■の大半が吹き散らされる。 ライダーの本気にも劣らない必殺の一撃。その直撃を受けたのであれば、あの■■であっても無事では済まないだろう。 だがその一撃を放った童女は、不満げな表情を浮かべていた。 「―――わたしたちの真名(な)は、■■■■・■・■■■■。 つぎに会ったときは、あなたたちのお名前、教えてちょうだい? ぜったいに、ころしてあげるから……!」 どこからか響く、殺害予告の様な■■の言葉。 それが終わると同時に、僅かに残っていた■も完全に消え去った。 「すまぬ葬者よ、逃げられた。おそらく敵マスターの令呪であろう」 「いや、令呪を使われたのならしかたない。ここは相手に令呪を使わせただけ良しとしよう。 それに一応だけど、アイツのスキルへの対策はしたしな。まあ、それが上手く機能するかは賭けだけど」 それを確認して、少年と異形の童女も戦闘態勢を解く。 それが私の、聖杯戦争における初めての実践。 その顛末だった。 § § § 私を襲ったサーヴァント。その詳細を、思い返した記憶を頼りに再び思い出そうとする。 だが……。 ■■■を使い■の■■を持った、■■の■■のサーヴァント。■■■■――■■■■・■・■■■■。 やはり、何一つとして思い出すことは出来なかった。 ……いや、今となっては、私を襲った存在が、本当にサーヴァントだったのかすら怪しく思えた。 「《情報抹消》、というスキルがある」 覚えているはずの事を何一つとして思い出せないという事実。 その異常さに酷く混乱し動揺する私に、ドラコーさんは落ち着いた声でそう話しかけてくる。 「その効果は文字通りに、戦闘終了時に自身を目撃した者の記憶から自身に関する情報を抹消するというものだ。 無論、その度合いはスキルのランクにもよるが、高ランクになれば記録媒体などからも消し去れるという。 余らが貴様を襲ったサーヴァントに関する情報を思い出せぬのも、おそらくはそのスキルか、類する効果を持つ宝具が理由だろう」 ―――なんですか、それは。 戦いが終われば、自分に関する情報を全てを忘れさせるスキル? そんな能力、反則もいいところではないか。 だってそうでしょう? それはつまり、もし仮に私を襲ったサーヴァントが無害なフリをして近づいてきても、私達には判らないという事だ。 最初に敵対して情報を抜き出しておきながら、次に会った時には味方のように振る舞うことも出来てしまう。 言ってしまえば、私が行おうとした作戦の上位互換。 利用するだけ利用して、最後に寝首を掻くなんてことは容易だろう。 もし途中でバレて敵対しても、“離脱してしまえばまた忘れる”のだから。 「故にこそ、可能であればあの場で仕留めたかったのだが……。 あそこはやはり、我が宝具によって逃げ場を断つべきであったか」 「いや、宝具の発動にはタメがいる。相手が令呪を使ってきた以上、結果は変わらなかったんじゃないか? だとしたら、余計な情報を与えなかった分こっちが正解だ」 ………、あれ? 「あの、どうして令呪が使われたことは覚えているんですか?」 「そこがこのスキルの穴よ。 情報抹消は確かに情報を消し去る。だがそれは、あくまでも“目撃者の得た、自分に関する情報のみ”に対する効果だ。 交戦中にその場におらぬ者と連絡を取れば、その者へと情報は洩れる。目撃者ではないからな。 そして自分ではない以上、マスターの情報も完全には消せぬ。 確かに自身のマスターがその場にいた場合、その者が自身のマスターである事は抹消できよう。 だがそのそのマスターと敵対していた場合、その敵対したという事実はそうそう消し去れぬ。自身が相手と敵対することと、マスターが相手と敵対することは別の話だからな。 故に、このスキルを持つサーヴァントのマスターは、大抵は戦いの場に姿を見せぬ」 それは当然だろう。 いくらサーヴァントが自分の情報を消そうと、マスターが特定されてしまえば意味がない。 そして一向にサーヴァントの詳細が分からないマスターなんて、危険視されて然るべきだろう。 だって何をされるか判らないのだ。そんな危険な人物を放って置く訳がない。 何しろマスターさえ殺してしまえば、たとえサーヴァントがどんな能力を持っていようと、それで御終いなのだから。 ――――それに何より、聖杯戦争は元々、ただ一人の生き残りを決める殺し合いなのだから。 「そしてそれは、令呪であってもそうだ。 確かに令呪とサーヴァントの関係性は深い。だがそれ以上に、その主体はマスターの方にある。 加えて余は、別に相手マスターが令呪を使ったと確信していたわけではない。 確実に仕留めていたはずの状態から逃したという事実。そこから“おそらく”“あの場に居なかったマスターが”“令呪を使ったのだろう”、と予測を立てたにすぎん。 もしかしたら我らが気付かなかっただけで、彼奴にも協力者がおり、その者の手によって逃れた、という事とて十分にあり得る。 むしろ“彼奴のマスターが令呪を使った”と確信していれば、その情報(きおく)は容赦なく消されていたであろうな」 関係性のない、確信のない不確定の情報だからこそ抹消できない。 なるほど。確かにそれは、情報抹消スキルの穴だと言えるだろう。 「して、我が葬者よ。 貴様は言っていたな。彼奴のスキルへの対策はした、と。 その対策とやらを教えてもらおうか」 「わかった」 岸浪さんはドラコーさんの言葉に頷くと、これだ、と言って左腕を見せてきた。 そこにはマジックペンで、何かの名前が書かれている。 「えっと、フランシスコ・ザビ―――」 「違う、それじゃない」 岸浪さんは慌てて左腕を戻しながらそう言って、何かを確かめる様に書かれた文字に触れる。 そして不意に後ろを振り返った後、首を傾げながらメガネを外し、再び左腕を見せてきた。 「なんだ。悪戯でもされたか?」 「どうやらそうらしい。ついでに、ばかじゃないの、と罵倒もされた。意味が解らない」 「ふはっ! もしも(if)の月の王め、内心は鉄の如きであろうと、乙女であることには変わらぬという事か」 (悪戯に、罵倒もされた? それに、イフの月の王って……) 二人の会話に、意味が解らないのは私の方だ、と思いつつ、改めて岸浪さんの左腕を見る。 そこには、何かの刃物で付けられたような傷が、文字のように刻まれていた。 これは、英語……だろうか……。 「えっと……えふ……あーる……おー……」 「FROM HELL―――フロム・ヘル。日本語に訳せば、“地獄より”だな。 ……なるほど、彼奴か。確かに“コレ”を見れば、余は奴を思い浮かべよう」 「あの、何がわかったのですか?」 「無論、貴様を襲ったサーヴァントの正体だ」 ドラコーさんはそう言うが、私にはサッパリ解らない。 私を襲ったサーヴァントとこの文字に、一体どんな関係があるというのか。 「奴のクラスはアサシン、真名は“斬り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)”。 イギリスのロンドンにて娼婦たちを惨殺したとされる正体不明の殺人鬼。その正体の一つとされる、堕胎された水子たちの怨霊の集合体だ。 そしてフロム・ヘルとはな、ジャック・ザ・リッパーが送ったとされる手紙の署名のことだ」 「地獄から……怨霊の、集合体……」 それは、まるで――――。 と物思いに耽る私を横に、二人は言葉を交わし合う。 「しかし、よくこのような証拠の残し方を思いついたなマスター。 ジャック・ザ・リッパーは確かに正体不明であるが、それでも二つの証拠を残している。 一つはジャック・ザ・リッパーが送ったとされる手紙。だがその送り主が、真にジャック・ザ・リッパーであったのかは定かではない。 つまりその情報だけで、あのジャック・ザ・リッパーを指す証拠である、と断言することは出来ない。 そして二つ目が、惨殺された娼婦の死体だ。如何に奴がスキルによって自身の痕跡を消そうと、殺された者の死体は残る。 なぜなら、“殺された娼婦の死体が発見されなければ、ジャック・ザ・リッパーという伝説は生まれなかった”からだ。 そして死体には、何を使って殺されたか、という情報――つまりは傷跡が確実に残る。 その傷は彼奴のナイフによるものであろう? 奴めが取り落とした物を使ったか」 「多分な。俺にはもう内容を思い出せないけど、戦いの前に、ドラコーからあのサーヴァントの情報を聞いた事は覚えてる。 なら“あのサーヴァントの情報”は思い出せなくても、そいつとは関係のない“ジャック・ザ・リッパーの情報”としてなら、連想させることが出来るかも―――と考えた……んだと思う」 「そこは断言せよ。確かに賭けの要素も大きかったが、貴様はその賭けに勝ったのだ。誉めて遣わす。 そして、だ。彼奴らは今頃、我らが自分達の事を忘れていると思っているはずだ。 すなわち、再び奇襲してくるにせよ、味方のフリをしてくるにせよ、その裏をかくことができるという訳だ」 「ああ、わかっている。次は令呪を使う隙も与えずに、確実に倒そう」 その様子はまるで、それこそがマスターとサーヴァントの正しい関係性のようで。 私のサーヴァント(ライダー)がただの人形でしかないことが、少し恥ずか(うらめ)しく思えてしまった。 ▼ ▼ ――――一方その頃。 多彩な事業に手を出す大企業、外資系企業ベネリットグループ。 その末端である、福祉工学に関与するシン・セー開発公社の東京本社。 そこに、龍賀沙代を襲ったサーヴァントであるジャック・ザ・リッパーと、そのマスターのプロスペラ・マーキュリーは居た。 「―――これで、良し。 どうジャック? 違和感はない?」 「うん、だいじょうぶ。ちゃんと思った通りに動くよ、おかあさん」 プロスペラの問い掛けに、ジャックは右手を前へと突き出し、その動きを確かめるように動かしながら答える。 それは龍賀沙代を殺す直前、見覚えのない学生服の少年のサーヴァントによって横槍を入れられた際に吹き飛ばされたはずの右手だ。 それがこうして、何事もなかったかのように存在していた。 無論サーヴァントである以上、霊核が無事で魔力さえ十分なら、たとえ半身を吹き飛ばされようと回復できる。 でありながら、ジャックがこうして右手の動きを確認しているのは、通常とは異なる理由があるからだ。 「一回はずして、つけなおして」 カシャン、と音を立ててジャックの右手首が外れ、ジャックはそれを当然のように付け直し、再び動作確認をする。 ―――義肢。 それが今、ジャックが自身の右手の動作確認をしている理由だ。 ジャックは異形の童女によって吹き飛ばされた右手を、魔力補給によって回復するのではなく、なんと義肢へと置き換えていたのだ。 そして、その義肢が普通と異なるのは。 「うん。ちゃんとつけていれば、ふつうの手にみえる。あとは――」 ジャックが一瞬霊体化し、すぐに実体化する。 そして再び自身の右手を確認すれば、実体化とともに再構築されるはずの右手は、義肢のまま。 さらに言えば、右手の義肢はジャックの霊体化に追従して消えていたのだ。 それは即ち、後付けの義肢がジャックと霊的に結びついている、という事に他ならない。 そしてそれを可能としたのは、プロスペラの技術とジャックのスキルの合わせ技によるものだ。 「霊体化も……うん、もんだいなし。さっすがおかあさんだね」 「凄いのは貴女もよ、ジャック。私では霊的な処置は行えないもの」 そもそもジャックは、プロスペラに召喚されたことで、《義肢製作者》というスキルを後天的に習得していた。 だが基となったスキルの影響か、そのスキルによって作成される義肢は、機能としては十分だが、一見して義肢であると判別できる物になってしまう。 しかしそれを本職の義肢製作者であるプロスペラが一からサポートすることで、霊体化を可能としながらも本物の右腕と見紛う一品として完成させたのだ。 「ふふ、おかあさんといっしょ」 ジャックが自身の右手を義肢へと置き換えたのは、彼女がそう望んだからだ。 失ったのはプロスペラと同じ右手。治すのは容易だが、どうせだったらおかあさんと同じにしたい、と。 プロスペラは母としてそれに応えたが、ジャックのその様子に、内心ではどのように思っていたのか。 「けど残念だったわねぇ。まさかあんな邪魔が入るだなんて」 それを顔に出すことなく、プロスペラはそう口にする。 龍賀沙代。 画期的な医薬品の開発で栄えた大地主の子女。 彼女が葬者(マスター)であることは、比較的早期にに把握していた。 何故なら『龍賀』とは、プロスペラにとって警戒すべき、ベネリット本社以上の権力を有した存在の一つだったからだ。 当然プロスペラは東京に存在する『龍賀』の関係者を調査した。 結果出てきたのが、龍賀沙代の存在。 アサシンに指示を出して周辺調査を行えば、一人上京してきた大地主の子女という、実に分かりやすいプロフィールがそこにはあった。 加えて調査を行ったジャックは、彼女を指してこう口にした。 ―――あの人からは、わたしたちと同じようなにおいがする、と。 ジャックと同じ匂いとは即ち、怨霊の集合体の気配だ。 そんなものを、一介のNPCがさせているはずがない。 龍賀沙代がマスターであることは明白だった。 後は簡単。彼女とそのサーヴァントの情報を抜き出し、利用できそうなら利用して、そうでなければ殺せばいい。 しかも都合のいいことに、彼女は現在の住処を夜な夜な脱け出し、深夜徘徊をしているではないか。 これはもう接触するしかない、と折を見てジャックを送り込んでみた結果が、あれだった。 「ごめんなさい、おかあさん。令呪、つかわせちゃった」 「気にする必要はないわ、アサシン。だって、使ったのは“私達の令呪ではない”もの」 その言葉とともにプロスペラが向けた視線の先には、右腕の義肢が保管されている。 ただし、その義肢はプロスペラが作ったにしてはあまりにも歪なものだった。 だが注目すべきはその拙さではなく、その義肢の手首から先。つまりは右手の部分だ。 何故ならその右手は“生身のもの”であり、さらに言えば、その右手の甲には、二画から成る赤い模様――“一画欠けた令呪”が存在していたのだから。 “それ”は、プロスペラのものではない。 プロスペラの右腕は完全な義肢である為か、彼女の令呪は左手の甲に宿っている。 であれば、その令呪の宿った右手は何なのか。 簡単だ。プロスペラ達が殺したマスターから奪い取ったものに他ならない。 令呪狩りの噂を聞いたプロスペラは、“令呪は奪い取れるものである”事を理解した。 そして義肢を利用することで、その令呪を自らのものとして利用することを思いついたのだ。 無論、たとえ義肢を経由しようと、奪った右手をただ繋いだところで令呪は使えない。 だが、プロスペラにはジャックがいた。 ジャックのスキル《外科手術》は、令呪の移植さえ可能とする。 そのスキルは現在《義肢製作者》に置き換わってしまったが、元々の機能が失われたわけではない。 つまり現在のジャックは、プロスペラと他者の令呪を霊的に繋ぎ使用可能とさせる義肢を製作できるのだ。 これはプロスペラにも出来ない、ジャックだけの特殊技能だ。 それによってプロスペラは、『令呪の補填が容易である』という、他のマスターと比べて圧倒的なアドバンテージを得ていた。 と言っても、それにも限度はある。 一度に使える令呪は、自分本来のものと義肢のものを合わせた六画分までであり、それ以上は義肢を交換する必要が出てくる。 令呪自体を直接プロスペラに移植すればその制限はなくなるが、他のサーヴァントと繋がっていた令呪の移植にはリスクが伴う可能性があった。 ならば義肢の生身部分に移植すれば、と思うかもしれないが、 「でも令呪の負荷で義肢の部分が壊れちゃったから、後で直さないとね」 「うん。もっとたくさんれんしゅうして、次はこわれないように作るね」 生身と生身を義肢で繋ぐという無茶を行っているためか、どうにも義肢に掛かる負担が大きく、今回のように令呪を使用した際に壊れてしまう可能性があった。 そして義肢が壊れてしまえば、義肢に補填された令呪全てが使用不可能になる。 令呪の使用を可能とする義肢の作成はジャックにしかできない。戦闘中に壊れても、その場で直すことは出来ないのだ。 加えて最悪の場合、義肢の破損の影響で、令呪のある右手自体が駄目になる可能性もあった。 そうなってしまえば、補填のための令呪も集め直しとなってしまう。そして令呪を得るには、他のマスターを殺す必要がある。 だがそもそも、令呪とは一人のマスターに三画だけ与えられるもの。マスターを殺す手段を得るためにマスターを殺す、という矛盾がそこにはある。 今はまだそのマスターが複数人いるために解決は容易だが、残り人数が減る程に補填の難易度は上昇していく。 たとえ補填が容易であろうと、令呪がいざという時の切り札である、という事実に変わりはないのだ。 「それに、次はぜったいまけないんだから」 その言葉に思い返すのは、令呪を使う原因になった相手。 彼らの存在は、プロスペラにとって完全な想定外であった。 彼らさえいなければ、ジャックは龍賀沙代を殺し、彼女たちは一歩、聖杯へと歩みを進めていただろう。 だが結果として龍賀沙代は殺せず、彼らが手を組む余地を残してしまった。 無論、得るものはあった。 龍賀沙代の能力の一端と、彼女のサーヴァントの姿。 特に驚いたのは、あのサーヴァントだ。様子こそ異なっていたが、自警団を自称するヘイローを持った少女と同じサーヴァントの姿をしていた。 彼女のサーヴァントは、ヘイローの少女のサーヴァントと同じ英霊なのか。それとも、ただ姿が似ているだけなのか。 同じであれば、彼女たちに対する情報収集は、今よりずっと容易なものとなるだろう。 ……しかし。 その得たものを上回る懸念事項。 あの少年とそのサーヴァントは、初見かつ霧の中という、こちらが圧倒的有利な状況下でジャックを追い詰めて見せた。 そして、そもそも令呪を使う前に殺されてしまえば、どれほど大量の令呪を持っていても意味がない。 今回はプロスペラの令呪使用に対する抵抗が低く、更には初めから撤退を視野に入れていたために事なきを得たが、場合によってはあの場で敗退していた可能性もあった。 加えて。 「だいじょうぶだよ。だってあの人たち、わたしたちのこと忘れてるもん。 だからね、安心して、おかあさん」 単純な能力差でアサシンを圧倒できるであろうサーヴァントは、彼等以外にも存在する。 昨夜に東京都内上空で起きた三騎のサーヴァントによる戦闘は多くの者(マスター)が目撃しており、それはプロスペラも例外ではない。 そして純粋な戦闘能力という面においては、ジャックでは到底彼らには敵わない。 故に、もし真正面から戦うような事態になった場合、令呪の使用は必須となるだろう。 「そうね。信じてるわ、ジャック」 何か、相手の虚を突き、隙を作れるような一手を用意する必要がある。 攻撃であれ、撤退であれ、それによって一瞬でも隙を作ることが出来れば、令呪の行使によって能力差の不利を覆せるはずだ。 プロスペラは楽しそうに右手を動かすジャックの、その義肢を見つめながら、そう口にしていた。 【千代田区・シン・セー開発公社東京本社/一日目・早朝】 【プロスペラ・マーキュリー@機動戦士ガンダム 水星の魔女】 [運命力]通常 [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備]いつもの義肢(右腕)、拳銃及び弾薬 [道具]義肢令呪(残り?画)、他不明 [所持金]とても潤沢 [思考・状況] 基本行動方針:優勝狙い。エリクト・サマヤが自由に生きられる世界を作る。 1.自身の社会的地位や、アサシンの《情報抹消》スキルを活用して他マスターの情報を収集する。 2.1.によって得た情報で、他マスターを利用できそうなら利用する。出来なさそうで、かつ可能なら殺害。 3.他マスターを殺害した場合、可能であれば令呪も奪い、義肢令呪に加工する。 4.学生服の少年(岸浪ハクノ)とそのサーヴァント(ドラコー)のような、初見でアサシンを殺し得る存在を警戒。 5.アサシンの対戦相手に隙を作れるような一手を用意する。 [備考] ※3月31日深夜に都内上空で行われた戦闘を目撃しています。 ※龍賀沙代の冥界におけるプロフィールを把握しています。 【ジャック・ザ・リッパー@Fate/Apocrypha】 [状態]回復済み、右手義肢化 [装備]『解体聖母』、スカルペス [道具]なし [所持金]おかあさんにあずけてる [思考・状況] 基本行動方針:おかあさんの指示にしたがう 1.おかあさんといっしょの右手! 2.次はぜったいころす [備考] ※龍賀沙代から、自分と似たような匂いを感じ取りました。 【義肢令呪】 他マスターを殺して奪った令呪付きの右手を、ジャックがスキルで義肢へと加工したもの。 加工された右手に刻まれた令呪を、プロスペラが自身のものとして使用可能になる。 しかし令呪使用時にその負荷によって義肢部分が破損する可能性があり、破損した場合、残りの令呪は使用不可能になる。 残った令呪ごと破損する可能性もあり、令呪を複数同時に、または連続して使用するほどに破損する可能性は高くなる。 ▼ ▼ ▼ そうして視点は半ば戻り。 これ以上はのぼせるから、と大浴場から上がった岸浪ハクノは現在、龍賀沙代の自室の窓辺で涼んでいた。 春の早朝の風は火照った体には心地よく、しかし藍色に染まり始めた空の明るさは、徹夜明けの目には少々眩しかった。 「して、マスターよ。貴様はこれからどうするつもりだ?」 そんな彼へと、そのサーヴァントであるドラコーがそう話しかけてくる。 彼女はドレスのような衣装を纏っており、その手足も竜ではなく人のものとなっている。 と言っても、尻尾や右腕の鱗などは残っているため、完全に人と同じではないが。 「どうするって、アサシンのことか?」 「アサシンめをどうするかなど、話し合うまでもなかろう。 彼奴は状況が整い次第、早急に倒す。敵として生かしておいて良いことはないからな。 そうではなく、サヨのことだ。あの娘が純粋な謝意で我らを招いたのではないことは、貴様とて気付いていよう」 この部屋の主である龍賀沙代は、まだ戻ってきていない。 身嗜みを整えると言っていたが、すでに十分近い。女性の身支度は時間が掛かるというが、それだろうか。 ドラコーはそれを利用して、彼女が戻るまでの間に対応を決めておきたいのだろう。 「謝礼として一泊の宿を与えられた以上、今すぐ分かりやすい敵対をするという事はないであろう。 がしかし、もし仮に敵対したならば、あの娘を殺し、ここを我らの拠点とするのも一つの手だぞ?」 確かにここは東京の中心に近い。 外敵からの防衛を考えなければ、拠点とするには適しているだろう。 だが。 「ドラコー、その気もないのにそういうことを口にするのはやめろ。 もし彼女に聞かれでもしたら、それこそ敵対まっしぐらだ。 必要のない戦いをする気はないぞ、俺は。せっかくの休息をふいにしてどうするんだ」 「ふふ……そう睨むな、ただの冗談だ。 それでどうするのだ?」 「そうだな……」 龍賀沙代が自分の拠点に岸浪ハクノたちを招いた理由は、まあ簡単に想像がつく。 彼女はアサシンに一方的に殺されかけた。そのアサシンを簡単に撃退した俺たちを、護衛として自分の近くに置いておきたいのだろう。 だがそれに俺たちが付き合う理由はない。一泊が終わり次第、すぐに彼女と別れたって構わないのだ。 もとよりこれは聖杯戦争。そのルールに従うのなら、結局は彼女とも殺し合うことになるのだから。 ……けどまあ。 「別に、どうもしないかな」 「ほう、それは何故だ?」 「俺はまだ、この聖杯戦争に対するスタンスを決めていない。 最終的にどうなるにしても、それが決まるまでは、俺の方からどうこうするつもりはないよ」 なんだったら、彼女が目論んだ通り護衛のように働いたって構わない。 俺だって、月ではリンとラニに何度も助けられたのだ。 なら今度は、俺が誰かを助けるというのも十分アリだろう。 と言っても、唯々諾々と従うつもりはないし、彼女から申し出てこなければそれもないが。 「まあ要するに、今の所は彼女次第ってことだ」 「そうか。ちゃんと理解した上での判断であれば、異論はない。 余もサヨの出方を待つとしよう」 そう言うとドラコーは霊体化して姿を消した。 そうなると沙代が戻るまで暇になってしまうのだが。 「そうだな。今持っているアイテムでも確認しておくか」 岸浪ハクノが現在所有しているアイテムは、大きく分けて三種に分類される。 一つ目は主に現地調達した資金や食料、寝袋。そしてそれらを持ち運ぶためのデイバッグだ。 入手元は主に冥界に呑まれた、あるいは呑まれる寸前の民家などであり、冥界における社会的地位を与えられなかったハクノにとっては、唯一の入手手段だ。 二つ目が、深夜0時にマスターにだけ開かれる謎のショップで購入した、いくつかの魔術礼装や、即席の武器やデコイの作成に使用するための触媒だ。 あの店は濃密な死の匂いがするためできれば頻繁には利用したくはないが、購入できる礼装は自前では一度に一つの能力しか使えない俺にとって、戦闘の手札を増やす非常に有難い代物だ。 実際ここで購入した水晶玉の礼装が、アサシンへと奇襲を掛ける際に非常に役に立った。 もっとも、これらの購入のために調達した資金の大半はこの店で消え、その結果、今に至るまでは野宿生活となっていたのだが。 そして三つ目が、そうして購入した礼装や触媒を利用して製作した、自作の礼装だ。 岸浪ハクノを構成する死者の数は、千年近い集積の中で膨大なものとなっている。 当然その中には陣地作成や道具作成を得意とする者もおり、ハクノはそれらの情報を引き出し行使することができる。 大浴場で沙代に見せたあのメガネも、モノクル型の礼装を素材として製作した物だ。 相手の情報を見れるというから購入してみたが、効果を確かめる前に素材となってしまったのは惜しかった気もする。 「まあ、こんな所か」 所持品の確認を終え、ハクノはそう一人呟く。 龍賀沙代はまだ戻ってこない。 女性の身嗜みは時間が掛かるらしいが、それにしても長いと思う。 もっとも、岸浪ハクノの基準は電脳世界であるSE.RA.PHであり、情報だけで構成されたアバターだ。 データを切り替えれば済むSE.RA.PHと違い、現実の物理法則に即しているらしいこの世界ではこんなものなのかもしれない。 「――――――」 ドラコーの言ではないが、沙代と手を組むにしろ、敵対するにしろ、この場所を拠点とするのはアリだ。 だがその場合、工房(マイルーム)として利用できるよう部屋を改装した方がいいだろう。 そう思い、工房の素材として利用できる礼装や触媒を見繕っていく。 まず休息の効率を上げるための礼装に、この部屋は狭いため中での戦闘は行わないものとして、外からの奇襲に備えるための――― 「………………」 そう思考を巡らせる中、不意に外を見る。 夜明けとともに藍色に染まる、誰かの記憶で作られた偽りの世界。 それはいい。別に気にするようなことではない。 真偽を問うのであれば、SE.RA.PHは電脳空間上の仮想世界だし、サーヴァントだって過去の英雄の再現だ。 そもそも俺自身が、数多の敗者たちの集合体という、誰でもない誰かでしかない。 「…………」 だから、気に食わないのはそれ以外。 この偽りの世界、その土台となっている冥界だ。 誰かの記憶で覆い隠しているだけの、この淀んだ世界そのものが、俺には――――。 「……」 ――――、――。 「…………、眠ったか。 この一週間戦い通しであったからな、思いの外疲れていたのであろう。 よいぞ、我が葬者(マスター)よ。この一時ばかりは、ゆっくりと休むがよい」 § § § 「申し訳ありません、遅くなりました」 そう謝罪を口にしながら、沙代は自室へと戻ってきた。 身嗜みを整えるのと同時に大浴場での話し合いで掻き乱れた心を落ち着けていたら、思いの外時間を費やしてしまった。 岸浪さんに待ちぼうけを食わせてしまったが、彼は呆れたり、はたまた怒ったりはしていないだろうか。 そう恐々としながら自らの部屋を見渡せば、彼は窓辺に腰掛けたまま、深く目蓋を閉じていた。 「岸浪さん……?」 「………………」 慎重に呼びかけてみるが、応えはない。 ……寝ている、のだろうか。 物音を立てないよう足音を忍ばせ、慎重に岸浪さんへと近づく。 彼からはゆっくりとした、静かな吐息の音が聞こえる。 やはり待たせ過ぎてしまったのだろう。彼は寝てしまっているようだ。 「――――――」 そんな岸浪さんへと、徐に手を伸ばす。 彼が起きる気配は感じられない。 僅かに震える私の指先が、そのまま彼へと触れる―――その直前。 「―――そこまでだ。 娘、貴様が我がマスターに触れる事を、余はまだ許してはおらぬ」 唐突に聞こえたその声に驚き、咄嗟に手を引き戻し数歩後ずさる。 改めて部屋を見渡せば、ドラコーさんが部屋の片隅で寛いだ様に椅子に座っていた。 その左手には一抱えほどもある大きな金の盃。彼女はそれをくるくると回し、注がれていた中身を口に含んで味わっている。 「遅かったなサヨ。見ての通り、葬者は貴様を待っている間に眠ってしまった。 まったく、不用心だとは思わぬか? 我らはまだ正式に手を組んではいないというのにな」 その姿を見て、今更に思い出す。 そうだ。ドラコーさんは岸浪さんのサーヴァント。彼の傍には、必ず彼女がいる。 そして彼女の言う通り、私達はまだ仲間ではない。 私の“行い”がどういう心算のものであったとしても、彼女は“それ”を許さないだろう。 その事を私は、すぐに理解することになる。 「しかし、だからこそ不用意なことをするでない。思わず殺してしまいそうになる」 徐にドラコーさんが、その赤い瞳で私を見据える。 「ッ……!」 瞬間、私の背筋がアサシンに殺されかけた時とは異質の恐怖に泡立った。 それはまるで、あまりにも巨大な大蛇に見下ろされているかのような悪寒。 解っている。これはただの警告だ。殺意はおろか害意すら込められていない。 だというのに私は、彼女の瞳に、自分が死ぬ未来を幻視した。 そしてもし私が岸浪さんに触れてしまっていたら、その未来は現実のものとなっていただろう。 だが、そう理解させられた直後、今度は巨大な圧迫感に襲われる。 私のライダーが唐突に実体化したのだ。 「ライダー!?」 私は驚き堪らず声を荒げる。 ライダーは七メートル近いその巨体を限界まで縮こませ、それでも私の部屋を軋ませながら、いつでもドラコーさんを攻撃できるように構えている。 彼が命令もなしに実体化したのはこれで二度目で、ここまでの反応を示したのはこれが最初だ。 今までは命令がなければ何の反応も返さなかったというのに、一体どうしたというのか。 「静かにせよ。葬者が起きてしまうであろう」 だがドラコーさんはライダーを一瞥すると、そう口にして視線を切り、杯を傾ける。 自分より遥かに巨大なライダーから敵意を向けられているというのに、全く気にする様子がない。 その様子にまるで、私達と彼女との格の違いを見せつけられているような気さえしてくる。 「はい。申し訳ありませんでした。ライダーも下がってください」 私は素直に謝罪を口にして、ライダーへと命令を下す。 「……。御主人サマの、仰セの通リニ……」 ライダーはいつもと違い、少しだけ間を置いた後にそう言って霊体化した。 本当に、彼はどうしたというのだろうか。 そう思いつつ部屋を見渡して、壊れた箇所がないことに安心しつつ、岸浪さんから離れ部屋付きのベッドに腰を下ろす。 迂闊なことをすれば、今度こそライダーとドラコーさんの戦いが始まってしまうかもしれない。 だが彼らの戦いの場とするには、この部屋はどうしようもなく狭すぎる。 開戦と同時に消し飛んでしまうことは、まず間違いないだろう。気を付けなければ。 「アサシンと戦っている時も思ったが、なかなかの偉丈夫だな貴様のサーヴァントは」 このまま岸浪さんが目覚めるまで待っているのだろうか、と思っていると、ドラコーさんが不意にそう声を掛けてきた。 「これが通常の聖杯戦争であったのならば、優勝候補の一角であったことは間違いあるまい」 さっきは一瞥で視線を切ったというのに、彼女はそうライダーを称賛する。 けれど。 「ライダーが、ですか?」 その称賛を、私は素直に受け取ることが出来なかった。 ドラコーさんがライダーを見たのは、アサシンに襲われた時と今の二回だけだというのに、一体何が解ったというのだろうか。 確かにライダーは、その能力だけを見れば強力なサーヴァントだと思う。 けれど彼は、自我のない人形でしかない。 予め決められたことを行うだけの絡繰りと同じ。マスターの命令がなければ、その力を発揮することは出来ない。 そして命令を下すべきマスターである肝心の私は、アサシンを相手に、真面に戦うことも出来なかったのだ。 だというのに、そんなマスターを引き当てた彼が優勝候補かもしれない、なんて思えるはずもない。 「信じられぬか?」 「……ええ」 「ま、無理もあるまい。 一見ではあるが、彼奴が酷く機械的なサーヴァントである事は分かる。 クラスもライダーだ。どこぞの梟雄のように暴走することもまずあるまい。 おそらく、何らかの理由で意思を封じられ、何かに乗られてきた人物なのだろうな」 先程とは違う理由で、背筋に悪寒が走る。 彼女達が得たライダーに関する情報は、ほんの僅かなものの筈だ。 だというのにもう、彼がどんなサーヴァントなのかを殆ど言い当てている。 それは同時に、私達の有する問題点も把握出来るという事に他ならない。 「彼奴の霊基は、“道具”あるいは“兵器”としての側面が強く表出している。 言い換えれば、その性能を発揮できるかは良くも悪くもマスター次第だという事だ。 余が先ほど奴を一瞥しただけで済ませたのもそれが理由だ。その意味は、貴様が一番解っていよう」 その予想は正しく、彼女はその問題点を言外に言い当てた。 即ち、私が命令しなければ、ライダーは殆ど何も出来ないという事を。 そして彼女達は、私がライダーへと命令を下す一言の間に、私達に対処してしまえるのだ。 けど、だからこそ解らない。 どうしてドラコーさんは、そんなライダーを高く評価したのだろう。 「本当にわからぬか?」 彼女の言葉に肯く。 「ならば問うが、余が貴様へと警告した時、彼奴が実体化した理由は何だ? あの時、余は貴様へと警告したが害意は示しておらず、貴様が奴へと何かしらの命令を下したわけでもない。 だというのに奴は実体化し、剰え余に対して攻撃態勢をとった。それは何故かわかるか?」 「それ、は……」 わからない。 あんな事は初めてだった。それまでの彼は、ただ命令に従うだけの人形だった。 だから、どうして彼があんな行動をとったのか、私には理解できなかった。 「答えは簡単。ライダーは貴様を守ろうとしたのよ」 「え?」 守る? 私を? 何故? 「彼奴が完全な機械と化していたのであれば、仮に余が貴様を害したとしても、貴様の命令がなくば実態かすらせぬだろう。 余とて憐れにこそ思えど、彼奴を敵とは見做さなかったに違いあるまい。 ―――だが、あのライダーは違う。 どれほど強く意思を封じられようと封じきれぬ意志。余はあの瞬間、奴の姿にそれを見た。 そして意志があるという事は、たとえ命令などなくともマスターの意志に応えることができるという事だ。 マスターと心を通わせたサーヴァントは、たとえどれほど矮小な存在だったとしても侮ることは出来ぬ。 もし貴様が決意を固め、ライダーと意志を通じ合わせ、我等に挑んで来る事があれば、それは決して油断ならぬ戦いとなろう」 「ちょ、ちょっと待ってください。私達と貴女方が戦うって、一体なぜですか!?」 しかも、私達が挑む側だなんて、意味が解らない。 アサシンに手も足も出なかった私では、岸浪さん達には敵わない。 そんなこと、少し考えれば解る筈なのに、何故―――。 「何を驚く。聖杯戦争のルールに則るのであれば、生き残れるのは聖杯を手にした一組だけ。 この先貴様がどうするつもりであろうと、我等の内どちらかはいずれ確実に死ぬのだ」 「あ――――」 そうだ。それがこの聖杯戦争の決まりなのだ。 聖杯を求める限り、両方が生き残ることは出来ない。 私達は、どうあっても殺し合う運命にあるのだ。 「ふむ、そうだな。後で我が葬者にも問われるだろうが、先んじて訊いておこう。 この先の聖杯戦争、貴様はいったいどうするつもりだ?」 「そんな、こと………」 ドラコーさんの問い掛けに、私は答えを言い淀む。 ――この先、わたくしはいったいどうするつもりなのか。 考えるまでもない。その答えは決まっている。 決まっている、のに。 どうしてその答えを、口にする事が出来ないのか。 「まあ、今すぐ如何こうせよという訳でもない。その答えはいずれ聞かせてもらうとしよう。 だが忘れるな。――――死にたくなければ剣を執れ(Sword, or Death)。 貴様がどう思っていようと、戦わわねば生き残れぬという事をな」 そう言うとドラコーさんは、中身を飲み干した金の杯を霧散させ、そのまま自身も霊体化させた。 後に残されたのは、何も答えられなかった私と、静かに寝息を立てる岸浪さんだけだ。 よほど深く寝入っているのか、彼が目を覚ます様子は全くない。 そんな彼の横顔を見ながら、私は再び彼と出会った時の事――その続きを思い出していた。 § § § 「すまぬ葬者よ、逃げられた。おそらく敵マスターの令呪であろう」 「いや、令呪を使われたのならしかたない。ここは相手に令呪を使わせただけ良しとしよう。 それに一応だけど、アイツのスキルへの対策はしたしな。まあ、それが上手く機能するかは賭けだけど」 私を襲ったサーヴァントが撤退し、二人はそう言葉を交わしながら戦闘態勢を解く。 それは即ち、今この場における危機が一つ去った事を意味する。 けれど私は、その事に何一つ安心することが出来なかった。 ―――当然だ。 「……逃げ、た?」 という事は即ち、あの■■がまだ生きているという事で、 それはつまり、また命を狙われる可能性があるという事だ。 いやそもそも、聖杯戦争に参加する限り、命が狙われるのは当然で。 でも、サーヴァントと契約していなければ、この冥界では生きられなくて………。 「私、は……」 ―――死にたくない。 どうしてこんな目に遭わなければならないのか。 私はただ、せめて、自分の中の穢れを消し去りたかっただけなのに。 ……ああ、でも。 震える自分の手を見つめる。 尻餅をついた時に擦り剥いたのか、その手の平には血が滲んでいた。 けど私にはそれが、冥界に落とされる前に殺した人達の血で汚れているように見えて。 でも手の震えは、犯した罪の重さではなく、死への恐怖から来るもので。 「やっぱり……」 聖杯を手に入れるということは、他のマスターを全員殺すということ。 自身の願いの(穢れを消す)ために、この手を他のマスター達の血で汚す。 そのおかしさを気にも止めなかった時点で、結局私も龍賀の一族なのだと思い知らされる。 だからきっと、これは罰なのだ。 私が殺した人たちのように、殺される恐怖に怯えることが、 この冥界で下された、穢れた私の罪に対する――― 「なあアンタ、どうかしたのか?」 不意に声を掛けられ、我に返る。 見上げれば、少年が不思議そうな顔で私の方を見ていた。 「いえ、何でもありません。 危ない所を助けて下さり、ありがとうございます」 頭を振って立ち上がり、彼等へと礼を述べる。 けど彼は、無愛想な口振りで私の謝礼を拒否する。 「別に礼はいらない。アンタを助けたつもりはないからな。 俺たちがアンタたちの戦いに割り込んだのは、ようやく取れたまともな睡眠を邪魔された仕返しだ。 対毒付与のコードキャストが効かなかったら、奇襲のための潜伏なんてしないで、さっさとここから離れてた」 「そ―――」 ……分かっている、そんな事は。 穢れた私に、都合のいい救いの手など、差し出される訳がないのだ。 それにこれは葬者達が殺し合う聖杯戦争で、そして私はマスターで、彼もマスターだ。 つまり私達は、互いに殺し合う関係。あのサーヴァントと、何も変わらない。 ……ただ、NPCでしかない筈の市民さえ守ろうとするヒーローの様なマスター達もいたから、少し勘違いしそうになっただけ。 それだけなのだ。 それなのに。 「? アンタ、怪我してたのか」 彼はそう言って血に汚れた私の手を取ると、何かしらの力で淡い燐光を放った。 「え?」 その途端、私の手の平からは痛みが引いていた。 診れば私の手の平には、擦り剥いた怪我どころか血の跡さえ残っていなかった。 「あの、どうして?」 彼の行動が理解できず、思わずそう彼へと尋ねる。 互いにマスターである以上、私達は敵同士の筈だ。 それなのに、どうして。 「どうしてもなにも、アンタは戦うつもりはないんだろう? つまりは敵じゃない。 敵じゃないなら、ちょっとした怪我くらいは治してやるさ。大した消耗でもないしな」 その問いに、彼は不思議そうに答える。 戦うつもりがないのなら、私達は敵ではない、と。 でもそれはおかしい。だって彼は――― 「視えているのなら、気付いているのでしょう!? 私はとっくに人殺しなんです! それなのに、どうして―――」 「それがどうかしたのか?」 「な――――」 彼は何でもない事のように、私の罪を許容した。 「別に驚くような事か? 聖杯戦争なんて、初めから殺し合い(そういうもの)だろ。 俺たちだって、この場所に来るまでに何組ものマスターやサーヴァントから襲われて、それを返り討ちにしてきた。 つまりは人殺しだ。 アンタがどういう理由で“後ろの連中”を殺したのかは知らないけど、それについて何か言うつもりは俺にはないよ」 私の罪を否定するのではなく、かと言って肯定するのでもなく、ただそういうものだろうと容認する言葉。 それはまるで、たとえ私の罪が許されなくても、そこに居てもいいのだと認められたようで、 「………貴方達は、聖杯が欲しくはないのですか?」 「別に。今のところ聖杯に興味はないよ。 それよりも先に、決めなきゃいけないことがあるからな」 その言葉を口にした彼は、睨み付ける様に、この偽りの東京の空を見上げていた。 「葬者よ、今夜中に休息をとるつもりなら、そろそろこの場を離れるべきだと思うが? 戦いの気配を察して他のサーヴァント等がここに来るやもしれぬし、夜が明けてしまえば、人目を避けるのにも苦労しよう。 もちろん、目くるめく戦いの連鎖をまた味わいたいというのであれば、余は構わんのだが?」 「それは勘弁してほしい。 ここ数日ロクに寝れてないんだ、いい加減休みたい。いくら俺が人より丈夫でも、限度がある」 童女の言葉に促されて、彼はこの場を立ち去ろうとする。 事実、このまま何もしなければ、彼の名も知らないままに別れる事になるだろう。 その事に私は、どうしようもない不安を覚えて、 「じゃあな。お互い、生きてまた会えるといいな」 「あ、あの!」 私達に背を向けてそう口にする彼を、思わず呼び止めてしまう。 「? どうかしたのか?」 それに彼は足を止め、私の方へと振り返りながらそう訊いてくる。 「あ、えっと、あの、その……」 何も考えずに呼び止めたため、次の言葉が咄嗟に出てこない。 それでも懸命に思考を巡らせて、どうにか捻り出した言葉は、 「お、お礼をさせてください!」 そんな、当たり障りのない言葉だった。 「さっきも言ったけど、俺はアンタを助けたつもりはない。だから――」 「それでも、貴方方のおかげで、私達が助かったのは事実ですから」 「…………」 「それに言ってましたよね、いい加減休みたいって。 私の住んでいる場所になら、案内できます。場所が場所なので行動に制限は掛かりますけど、休むくらいなら問題ないはずです」 「それを言われると、ちょっと拒否しづらいな」 そう言うと岸浪さんは、腕を組んで迷ったような素振りを見せる。 もう一押し。 私はそう思うと同時に、どうして彼を呼び止めたのか、と自問する。 決まっている。不安だからだ。 私を襲ったサーヴァントはまだ生きている。 ライダーではあのサーヴァントに敵わないというのに、いつまた襲われるかも判らない。 けど、彼等がいれば、あのサーヴァントにまた襲われても安心できる。 ――――本当に? だって、それ以外に理由がない。 たとえあのサーヴァントが襲ってこなかったとしても、彼等を懐柔することが出来れば、この聖杯戦争を生き残る上で大きな力になる筈だ。 それ以外に、どんな理由があって彼等を引き留めようというのだろう。 「娘。貴様がよくても、貴様のサーヴァントの意見はどうなのだ?」 「言い聞かせます」 私の背後のライダーを見据えながらそう訊いてくる彼のサーヴァントに、私はそう即答する。 ライダーに意見などあるはずがない。彼にとっては私の命令だけが唯一の指針なのだ。 「だそうだが、どうするマスター?」 「…………わかった、その提案を受けよう」 わかっている。これは私の弱さが齎した、醜い保身の表れだ。 それでも。 この世界が、罪を犯したことで落とされた地獄なのだとしても。 この恐怖が、私が犯した罪に対する罰なのだとしても。 聖杯を求めることで、更なる罪を重ねるのだとしても。 「場所を借りるのなら、自己紹介はしておくべきだな。 俺は岸浪ハクノ。こっちはドラコー、クラスはアルターエゴだ」 「私は龍賀沙代と申します。どうぞ沙代とお呼びください」 「ではサヨ、まずは一泊世話になるぞ。存分に持て成すがよい」 それでも私は、もう二度と、死にたくなどなかったのだ。 だから――― § § § ――――死にたくなければ剣を執れ(Sword, or Death)。 脳裏によぎる、ドラコーさんの言葉。 それに正しく、きっと私は、彼らと戦うのだろう。 この聖杯戦争(じごく)に参加し(おち)て間もなく、自らそう決意した通りに。 それを、彼女へと明確に答えられなかったことだけが、 自分でも不思議でならなかった。 【文京区・女子学生寮/一日目・早朝】 【岸浪ハクノ@Fate/EXTRA Last Encore】 [運命力]通常 [状態]健康、睡眠 [令呪]残り三画 [装備]礼装(詳細不明)、擬・奏者のおしゃれメガネ [道具]デイバッグ、礼装(自作含む。詳細不明)×?、触媒(詳細不明)×?、食料 [所持金]ハサン寸前 [思考・状況] 基本行動方針:まずは情報を集め、スタンスを決める。 0.……、………………。 1.今後の事を話し合うため、沙代が戻ってくるのを待つ(つもりだった)。 2.工房(マイルーム)作成用の礼装と触媒を見繕う。 3.アサシン(ジャック・ザ・リッパー)を警戒。対策を考える。 [備考] ※深夜ショップから購入した礼装は、Fate/EXTRAシリーズの物を参照しています。 ※サイバーゴーストを視認できるマスターを含む死者の集合体であるため、通常視認できない幽霊などの気配を察知し、捕捉することができます。 【アルターエゴ?(ソドムズビースト/ドラコー)@Fate/grand order】 [状態]健康 [装備]黄金の杯 [道具]なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:葬者の指示に従いつつ、彼がこの聖杯戦争で何を成すのかを楽しむ。 1.周囲を警戒しつつ、葬者が目覚めるのを待つ。 2.アサシン(ジャック・ザ・リッパー)を警戒。状況が整い次第、今度こそ排除する。 [備考] 【擬・奏者のおしゃれメガネ】 岸浪ハクノが礼装「聖者のモノクル」を素材に自作した、専用の擬装用魔術礼装。 素となった礼装が装着者が視た相手の情報を表示するものだとしたら、こちらは相手が見る装着者の情報を擬装する。 岸浪ハクノを構成する死者(要素)の中から、岸波白野(♀)の肉体情報を引き出し、幻影として纏わせる。 魔術としては外殻投影に類するものであり、装着者がその場に居る事への違和感を軽減する認識阻害効果もある。 しかし即興で作成されたものであるため術式の強度が低く、見破ることは難しくはない。 また多少の魔力の乱れで簡単に効力を失ってしまうため、戦闘はもちろん他のコードキャストや礼装などと併用することも出来ない。 【龍賀沙代@鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎】 [運命力]微減 [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備]なし [道具]なし [所持金]潤沢(大地主の子女としておかしくない程度) [思考・状況] 基本行動方針:自分の中の穢れの痕跡を消し去りたい。 0.もう二度と死にたくない。 1.岸浪さんが目を覚ますのを待って、今後の事を話し合う。 2.岸浪さんを懐柔して、味方に付ける。ただし、ドラコーさんへの対応には要注意する。 3.アサシン(ジャック・ザ・リッパー)を非常に警戒。 [備考] 【ライダー(バーソロミュー・くま〔隷〕)@ONE PIECE】 [状態]健康 [装備]なし [道具]なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:仰セの通りに御主人サマ……。 1.……………………。 2.要警戒対象(ドラコー、■■■■)確認……。 3.要警戒対象の情報ニ一部欠落ヲ確認。得タ情報(ジャック・ザ・リッパー)ニテ補完、完了……。 [備考]
https://w.atwiki.jp/letsrebirth/pages/218.html
「私は、この街に来て良かったです」 「ひとりぼっちだった時となんて、比べものにならないくらい楽しくて」 「ギーに出会うこともできた」 「私は、神さまに感謝しとります」 「ずっとずっと、こんな毎日が続きますように」 「……」 「……うん、嘘」 「ホンマは、私だって分かっとる」 「この街はずっと在るわけやない、全部全部偽物やって」 「……私は、どないすればええんやろ」 「考えると不安になる。目を向けたら怖くてたまらない」 「そんなら、いっそ目を背けてしまえばええと思って」 「でも、私は」 「いったい、何を―――」 ▼ ▼ ▼ 「止まれ!」 「貴様、サーヴァントだな?」 「抵抗するのはやめてもらおうか」 現実とはかくも難解な試練を容易に叩きつけてくる。 それは例えば、「なんでこのタイミングで」と思うようなことが起きたり、急いでいる時に限って足止めを喰らったり。 総じて間が悪いの一言で済まされるような出来事。しかしそれは、迫る危機が大きければ大きいほど致命的な隙として襲ってくるのだ。 少なくとも、今このタイミングでサーヴァントに出会うなど、ギーにとっては最悪に近い間の悪さだ。 ギーの眼前に立つ三人のサーヴァント。全員が同じ顔で、同じ服装をしている。 恐らくは分身か。こちらを威圧するような硬く大きな声で、静止するように迫ってくる。 厄介なことになった、そうギーは内心呟く。 実体化しての行動故に他のサーヴァントから捕捉される危険性は確かに存在した。先はそのせいで奇襲を受ける羽目になったわけだが、まさかこんな近くに更に別のサーヴァントが潜んでいるとは。 この冬木の地に招かれたマスターがどれほどの数になるかは分からないが、これだけの遭遇率を考えるに相当数に及ぶのではないかと推論できる。 だが今はそんなくだらないことを考えている暇はない。可及的速やかに、この場を離脱する必要がある。 「……済まないが、僕たちは今アーチャーのサーヴァントに付け狙われている。早急にそこを通してもらいたい」 だからこそ、放つ言葉に虚偽は一切混ぜない。 このサーヴァントたちが何を目的に行動しているかは分からない。しかし問答無用で襲い掛かってくることがなかった以上、ある程度は交渉の余地があることの証左になろう。 彼らと共闘してアーチャーを迎え撃つ、などと都合のいい夢想は持たない。だが彼らがこの状況を危険と判断してくれさえすれば、こちらとていくらでもやりようはあるのだ。 「なに、アーチャーのサーヴァントだと?」 「だが貴様の言をそのまま受け取るわけにもいかないな。まずは貴様の素性と行動目的を明かし、その後にアーチャーの特徴を我らに提示しろ」 ……ああ、こう来たか。 ギーは表情を変えず嘆息する。外見からしてそのような印象を持ってはいたが、やはりこうなってしまうのかと。 彼ら……複製品じみた特徴を持つため、便宜上レプリカと呼称する……はとても機械的な存在なのだと、そう思う。 感情を解さないわけではないだろうが、その思考は非常にシンプル、かつ単一的。その上完成された軍属気質まで持ち合わせているようにも見えるのだから厄介極まりない。 端的に言えば、彼らは一切の妥協を認めないのだ。不確定の危険が迫っているからと言って眼前に存在するサーヴァントを見逃すことはしないし、まず取れるだけの情報を得ようとする。 三人のうち一人は周囲を見回すように索敵しているが……アーチャーにクラスを相手に、そんな片手間の索敵など気休めにもなるまい。彼らは通常のサーヴァントが知覚し得る限界以上の距離から容易に魔弾を放ってくるのだ。 「……僕はキャスターのサーヴァント。目的は聖杯戦争からの脱出だ。アーチャーの特徴は白い長髪の少女。見たことのない意匠の軍服を着用していた」 しかし、かといって力づくで押し通るわけにもいかない。この近距離で戦闘行為に入ったら、腕の中のマスターがどうなるか分かったものではないのだから。 できるだけ簡潔に、問われた事項を説明する。レプリカたちはそれを聞き届けると、互いに頷き合ってからこちらを睥睨した。 「貴様の言い分は理解した。アーチャーのサーヴァントに狙われているということも信用してやっていいだろう」 「そして貴様の目的はこちらにとって都合がいい。我々と一緒に来てもらおうか」 相も変らぬ鉄面皮で、レプリカはそんなことを言ってきた。 どこまでも大上段から、こちらが上の立場なのだと言外に言ってくるような傲慢さで、反論は許さないと威圧しながら。 二人のレプリカがこちらの腕を拘束しようと迫る。腕の中のはやては恐怖の色を一層濃くして、声にならない悲鳴を漏らした。 ……どうするべきか。 彼らに大人しく従うべきか、それとも宝具を発動してでもこの場を逃れるべきなのか。 彼らは自分の目的に対して都合がいいと言った。ならば彼らのマスターは自分と同じく聖杯戦争からの脱出を目指している可能性がある。 しかしそれは所詮推測、絶対ではない。大人しく連行されたところで、良くて隷属、悪ければ殺される危険性は十分に存在する。 かといって宝具を起動して逃れたならば、仮にレプリカたちが脱出を目指していた場合にも敵対は不可避となる。 しかも、それはあくまで彼らに勝つことが前提条件。もしかしたら、レプリカたちは宝具を使ってなおこちらを圧倒する力量があるかもしれない。 目に見えて分かる八方塞がり、それがギーたちの現状だ。取りとめのない思考に埋没する暇もなく、彼らの腕がこちらへ伸びる。 自分は一体どうするべきなのか。未だ答えは出ず、ただいたずらに時は過ぎて。 「……ねえ、ちょっといい?」 路地の向こうから、そんな声がギーたちに届いた。 年若い、まだ少女のものと思われる声だった。 ▼ ▼ ▼ 「ふと思い出すことがある。それは、まだ私がアイドルだった頃」 「多分、ううん、きっと私は、その時輝いていたんだと思う」 「誰かを笑顔にして、誰かの夢になって、誰をも幸せにする、そんなアイドルを目指して」 「……結局、全部駄目だったけど」 「でも、そんな『夢』に一番救われていたのは、きっと私だったんだ」 「……私は、私が分からない」 「何もできない自分が嫌で、そんな自分を見たくなくて」 「でも、何かを期待されたって何もできない。したくない」 「私には無理だなんて、都合よく諦めて」 「彼と真っ直ぐ向き合うことすらできない」 「私は、何がしたいの?」 「―――私は、また、諦めるの?」 ▼ ▼ ▼ サーヴァントの気配を感じた、と傍らのヒーローが言ったのは、つい数分前のことだ。 彼が言うにはとても濃い魔力の反応があって、恐らく複数のサーヴァントが一か所に集まっているのではないか、とのことだった。 爆発的な魔力の高まりがないから戦闘は起きていないだろうと続ける彼を前に、加蓮はちょっと考えて。 「……なら、私が交渉してみる。あなたはタイガーを呼んできてくれない?」 口を突いて出たのはそんな言葉だった。 当然、ヒーローの彼は猛反対した。あまりにも当たり前のことだ。 そも、タイガーとの事前協議では、加蓮が先に目標を発見したなら令呪を使ってタイガーを呼び出す約束だ。加蓮とて、そんな約束を抜きにしても、マスターが何の備えもなくサーヴァントの前に身を晒すなど愚の骨頂だということは分かりきっている。 けれど。 「でもさ、こんな早くに、しかも大したことない理由で令呪を使うわけにもいかないでしょ」 口から出るのはそんな屁理屈。私は反抗期の子供かと自嘲して、ああそういえば子供だったなと心の中で苦笑する。 加蓮の言葉は、ある意味では間違っていない。 令呪とはサーヴァントを縛る究極の枷であると同時に、サーヴァントを限界以上に強化することもできる切り札にも等しい。考えるまでもなく、その存在は貴重だ。 そして令呪の喪失がマスターの消滅という結果を引き起こすこの冬木において、加蓮が使える令呪は実質二画のみ。考えなしに乱用していい代物ではない。 そう、それは確かな事実であり、故に加蓮が令呪を出し渋るのも一応の道理は通る。複数のサーヴァントが集ってなお戦闘が起きていないという状況も、その考えを後押しする結果となっている。 しかし、加蓮がそうした理由は、そんなセオリーに則った理屈など度外視したもので。 「どうしてもっていうなら、この令呪であなたに命令してもいいけど、それでいいの?」 その言葉に一気に顔を曇らせるヒーローを前に、加蓮の心は何度目かの自己嫌悪に黒く染まる。 無論のこと、加蓮にはそんな自分勝手なことで令呪を使うような度胸など存在しない。 これは単なる子供じみた脅し。この茶番めいた脅迫が通じなければ、その時は素直に諦めて令呪でタイガーを呼び出すつもりだったけど。 「……うん、ありがと。それじゃあよろしくね」 幸か不幸か、結果的に加蓮の要求は通った。 自分たちが戻るまでここを動かないでくださいね、という言葉を残し、ヒーローは慌てた様子で視界の向こうに消えていく。 加蓮は能面のような顔でそれを見送り、その姿が視界から消え去ってからようやく気を抜いた。 「なにがしたいんだろうね、私……」 加蓮がこんな暴挙に出た理由、それは彼女自身にもよくわかっていなかった。 自分ひとりでも何かできると証明したかったのか、マスターの説得という自身に与えられた仕事を見事に果たしたかったのか、それともこの身を死線に晒してタイガーの真意を確かめたかったのか。 分からない。自分が何をしたいのか。 分からない。けれど、既に道は定まって。 「……よし、頑張れ私」 そんな、意味などないと自分が一番良くわかっている薄っぺらな励ましをかけて。 彼女は彼女の戦場へと足を踏み入れたのだった。 そうして。 そうして、加蓮は今ここにいた。四人の男と一人の少女がいる、この場所へ。 全員に緊張が走る。少なくとも、ギーはある種の緊張を覚えた。 「なんだ貴様は。名を名乗れ!」 「私は北条加蓮。聖杯戦争に参加してるマスターだよ。ほら、これが証拠の令呪ね」 突然現れた少女は、己が手を掲げ、自らを聖杯戦争のマスターだと告げた。 場が困惑に包まれる。 何を考えているんだ。それはギーとゾルダートの双方に共通する思考だった。 少女はマスターを自称するが、しかし周囲にサーヴァントの気配はない。 もしかするとアサシンのマスターなのかもしれないが、それにしたってサーヴァントではなくマスターたる彼女が矢面に立つ理由がまるで分からない。 故の硬直状態。未知に対する最適解は、まずそれが何なのかを判別することなのだから、この場の誰もが少女を見極めんと静観を保った。 だからこそ、ギーにとってこの状況はあまり好ましいものではなかった。 いつ背後から白髪の少女のサーヴァントが襲撃してくるか分からない以上、長時間この場に拘束されるのは絶対に避けたい。 しかしこの意図が読めない闖入者の出現により、話はまた混迷を極めるだろう。少なくとも、眼前のレプリカたちが全てに納得するまで解放されることはあるまい。 それ故に、打開の道を探るべく、ギーは少女に問いかけた。 「……それで、君は何故こうして姿を現した。僕にはその理由が分からない」 「待て、我々は貴様に問いを投げることを許した覚えはないぞ」 「……いいでしょ、別に。 私が出てきた理由はね、戦いなんてやめようって、そのために協力しましょうって、そうお願いしに来たの」 ギーとゾルダートの表情が、にわかに変化を帯びる。はやては僅かに顔を綻ばせた。 自らに戦意はなく、だから協力しようという言葉は、実のところギーやゾルダートたちが望んでいた台詞でもある。 しかし、それを素直に信じるかと言われたら話は別で。 「……言葉だけでは信じられんな。証拠を提示するがいい」 「証拠なんて言われても……戦う気がなかったからサーヴァントを連れてこなかったってだけじゃ駄目?」 「駄目だな。アサシンが潜伏している可能性もある」 「……あー、うん。そっか、そういうこともあるか。 でもそこは大丈夫。あと何分もしないうちに、私のサーヴァントがこっちに来るだろうから、それで判断してくれると嬉しいかな」 矢継ぎ早に質問を重ねるゾルダートと、素人とは思えないほどに淀みなく答える北条加蓮。 確かに彼女の言う通り、その姿から敵意といった悪感情は一切感じられない。嘘を言っているとも考えづらく、だとするなら本当に協力の要請のために単身赴いたというのか。 それは疑いようもなく勇気ある行動だ。人は彼女を愚かだと笑うかもしれないが、その行動に含まれる尊さを否定することなどできはしまい。 だが、何故だろうか。 敵意も害意も感じず、嘘の気配も存在しないというのに。 言葉の端から漂うこの空虚感は。 一体、何だというのか。 「……なあ、ギー」 「ああ、分かってる」 腕の中で小さく呟くはやてに、ただ静かに答える。 賭けてみる価値も、信じてみる価値も、この少女には存在する。 けれどまず、この場所に危急の脅威が迫っていることを伝えねばなるまい。 「北条加蓮。横から済まないが、今から話すことを……」 良く聞いてほしい、と。そう言おうとしたところで。 「あっ」 「―――え?」 「ヌゥ!?」 その場にいた誰もが、声を上げた。 大気を切り裂いて飛来する弾丸が、周囲一帯を抉る。 それは先ほどのように単一のものではなく、広範囲にばら撒かれる散弾のように、視界に映る全てを屠る。 巻き上がる粉塵に、何もかもが見えなくなって。 既視感を感じるほどに再び繰り返される光景が、そこに出来上がった。 ▼ ▼ ▼ 「私の名はヴェールヌイ。ロシアの言葉で【信頼できる】という意味を持つ名前だ」 「元々は響という名前だったけど、色々あって今に落ち着いた」 「……この名前は、私の悔恨の象徴でもある」 「後悔は、今でも胸に燻ってる」 「戦争に負けたことよりも、私だけ戦うことすらできなかったという事実が、とても悔しい」 「あの時私も一緒に死んでいれば良かった、なんて。そんなことを言うつもりはないけど」 「それでも、もっと他にできることはあったんじゃないか、そういうふうに考えることは少なくない」 「……私は、マスターにその気持ちを味わってほしくないんだ」 「自分だけが生き延びて、何もかもを失って」 「それでもなお歩き続けなければならないというのは、とても悲しいことだから」 「私は、Верныйの名の下に、マスターを助けようと」 「そう、誓ったんだ」 ▼ ▼ ▼ 暗闇は一瞬だった。 凄まじい衝撃が全身を貫き、視界がぶれたと思ったらすぐに暗転して。それでも、気付けばすぐに目を開けることができた。 「……うぅ、ん……」 まるで起き抜けの子供のような声を上げて、加蓮は意識に光を灯した。 頭が覚醒してくると共に、一時的に感覚が麻痺していた体の節々に、徐々に痛みが伴ってくる。 背中の硬い感触から、多分仰向けに倒れたんだろうなということが分かる。何が起きたのかは分からないが、突き飛ばされでもしたのだろうか。 というか、重い。自分の体に何かが覆いかぶさっている。それは硬いような柔らかいような感触があって、それにしてはやたら重量のあるものだ。 迷惑だなぁ、とか。早くどけてくれないかな、とか。そんなことを思考の端に浮かべながら、加蓮はこの時になってようやく、視界にかかった靄を払うことができて。 「……え?」 それは奇しくも、衝撃が襲ってくる前に発したのと同じ声だった。 何もかもが崩壊していた。道路のコンクリートも、民家を隔てる塀も、近くの庭に植えてあっただろうまばらな木々も。 全てが、崩れなぎ倒されていた。半ばからへし折られた標識が無造作に転がっていて、まるで映画に出てくるゴーストタウンみたいだなとか突拍子もないことを考えて。 けれど、そこで見てしまった。 自分に覆いかぶさっていたものが、何なのか。 身じろぎすると滑った水のような音がして、そういえばさっきから服に水を吸ったような重い感触があって。 そう、それは。 「う、あ、あァ……」 最初の一瞬は、現実感がなかった。 状況を正確に理解した次の一瞬には、吐き気が襲ってきた。 仮病のために朝ごはんを碌に食べてなくて正解だったと、そう思う。そうでなければ今頃盛大に戻していたから。 全身の至るところを削られた人型が、加蓮のすぐ目の前に存在した。 見渡す限り、視界は赤に染まっていた。 加蓮の視界が暗転するより少し前。 破壊の下手人であったヴェールヌイは、一人冷めた目で状況を分析していた。 身を隠しての狙撃体勢を維持し数分、決定的な動きを待っていた彼女の視線の先に現れたのは、一人の少女だった。 恐らくは騒ぎを聞きつけたNPCか、分身型のサーヴァントのマスターかと当たりをつけたが、令呪を掲げる姿を見た瞬間に認識を確定させた。 そして理由は知らないが、都合六名を取り巻く状況に緊張と困惑が走ったのを確認して。 「……好機、だね」 そして、彼らを殺し得るだけの火力を解き放った。 50口径12.7cm連装砲 2基4門、25mm三連装機銃、etc.etc。本来なら地対地に適さない装備であろうとも、アーチャークラスの特権と言わんばかりに構わず熱量を注いだ。 前回の狙撃とは違う、正真正銘の大火力殲滅。弾けるような鋭い音が断続的に木霊し、衝撃で足元は削れ純白の長髪が風にたなびく。 対人規模を完全に逸脱した圧倒的な弾幕が、着弾点に集った六名を残らず襲った。 けれど。 「しくじったな」 それでも、長距離狙撃には適さないという装備の欠点が露呈することとなる。 ヴェールヌイの弾幕は確かに彼らを襲いはしたが、それでも全員を即死させることは叶わなかった。 まず目下最大の標的……キャスターの男は全身の複数個所を抉られ倒れている。狙撃の瞬間、二人の少女を庇うように動き、その身を砲火に晒した結果がこれだ。 あくまで他者を守ろうとするその姿勢は好感を持てるものだが、傷の深さを見るに長くはないだろう。 庇われた二人の少女は、キャスターに覆いかぶられる形で倒れている。死んでいるのか、気絶しているのかまでは判別できないが、無力化できたという意味ではどちらであろうと同じことだ。 そして分身型サーヴァントの内一体は既に消滅している。ヴェールヌイの砲弾を躱すことは叶わず、末期の言葉すら残せずに消え去ったのだ。 「やってくれたな、貴様!」 つまり【分身型のサーヴァント二騎は五体満足で活動している】。 しくじったとはまさにそれだ。一方的な狙撃・殲滅を行ってなお一撃で決められなかったというのは失敗にも等しい。 複数人を同時に仕留め損なったのは痛手という他ない。生き残った彼ら二人は、一人は即座に撤退を開始しもう一人がこちらに怒涛の勢いで迫っている。 こうなることを予期していたからこそ、ヴェールヌイとしては初撃で全てを決したかったのだが。 「……逃がしはしない。ここで倒れて貰うよ」 しかし焦ることはない。 憤怒に燃えるサーヴァントがこちらに迫ってはいるものの、その速度は呆れるほどに遅い。無論常人とは比較にならない俊脚ではあるが、サーヴァントとしては近接戦闘に不慣れなヴェールヌイと比較してもなお遅い。 少なくとも、数百mにも及ぶ彼我の相対距離を一瞬で埋めるほどではない。十分、迎撃の余地はある。 「き、貴様……!」 一発、二発、三発と。 ヴェールヌイの砲が轟音を立てるごとに、向かってくる男の体が削り取られる。 嚇怒と憎悪の表情で、彼はこちらを睨むけれど。しかしそれが何になるわけでもない。 感情の高まり如きで戦況を変えることなど、例えサーヴァントでも不可能なのだ。 「無駄だね」 敢えての冷酷さを前面に出し、ヴェールヌイの砲が四度目の唸りを上げる。 視界の先の男の頭が爆散し、血の華が咲いた。 「……許してもらおうとは思わない。これは戦争だからね」 勢いを失い崩れ落ちる男の姿を確認し、ヴェールヌイは目を伏せる。 どだい、これは戦争なのだ。当然のように人は死ぬし、そのこと自体を避けることはできない。 これで残るはあと一人。それなりの距離を逃げてはいるだろうが、先の男の疾走速度を見るにそれほど遠くには行っていないはずだ。 しかし、傷ついたマスターを置いて逃げるとは流石に予想外だ。いや、そもそも先の少女は分身型サーヴァントのマスターではないのかもしれない。 「……まあいいさ」 どちらにせよ同じだ。ここで全員を潰すことに変わりはない。 今からでも十分追いつける。そう判断し、ヴェールヌイは足に力を入れようとして。 「―――ちょっと見ない間に、なんだか練度が落ちたんじゃない?」 聞き覚えのある声が、耳に届く。 遠くのほうで、逃げ去る男の後頭部に、一本の矢が突き刺さり。 マスターの少女たちが倒れていた場所が、一帯ごと爆炎に包まれて。 「随分と久しぶりね、【響】。なんだか雰囲気変わった?」 吹きすさぶ爆風に髪をたなびかせて。 やけに親しげに、彼女―――瑞鶴は、笑みを浮かべながら話しかけてきたのだ。 ▼ ▼ ▼ 「我等に語るべき言葉はない」 「我等に願うべき個我はない」 「そうだ、我等こそエレクトロゾルダート」 「レプリカとして生れ落ち、今やサーヴァントとしてミサカのために戦う存在」 「それこそが我等の存在理由」 「それだけが我等の存在価値」 「Sieg Heil!」 「ミサカに一万年の栄光を!」 ▼ ▼ ▼ 耳を劈くような爆轟が辺りに響き、膨張するように弾ける火の赤色が視界を焼き、黒色の煙が大きく立ち上る。 思わず目を瞑りたくなるほどの爆風が容赦なく身を打ち付ける中、二人は向かい合うようにして並び立つ。 一人はヴェールヌイ。一つ所に集った敵手を一網打尽に葬らんとしていた、白髪のアーチャー。 そしてもう一人は…… 「……確かに、こうしてまた顔を合わせることになるとは思ってなかったよ、【瑞鶴】。 再会の場所がこんなところじゃなかったら、素直に喜んでいたんだけどね」 「あら、私は嬉しいわよ? 死んだ後でまた戦友に巡り会えるなんて、戦死した兵の誉れみたいなものじゃない」 瑞鶴と呼ばれたそのサーヴァントは、弓道着にも似た意匠の服を纏い、小さな艦載機が付属した弓矢を手に取り、艶やかな黒髪をツインテールに纏めた少女だった。 表情が硬いままのヴェールヌイとは違い、彼女は朗らかな笑みをその顔に浮かべている。 それは、久しく会っていなかった旧友と再会したような気軽さで。 その実、死に別れた戦友との再会を、半ば本気で歓迎している笑みだった。 無論、もう半分はよく見知っているが故の油断ならない警戒心であるが。 「それで、一体何のために私の前に出てきたんだい?」 「大体分かってるくせに、ちょっと意地悪よね貴方。 交渉よ、交渉。ねえ響、私と協力関係に結ばない?」 瑞鶴が提案してきたのは、そんなありふれた同盟の誘いだった。 一方的に爆撃できる立場にあってなお、無防備にヴェールヌイの前に姿を現した時から、その予想はついていたが。 「今更貴方に言うことでもないとは思うけど、戦争って基本的に数なのよね。少なくとも、私達が単騎で戦うのだってそのうち限界が来るわ。 勿論、私達にはそれぞれ譲れない願いや想いがあるのは承知の上よ。だから、これはあくまで期間限定のお誘い」 何の気なしにそう言って、しかしその目は微塵も遊びを含んでいない。 これは正真正銘、本気の提案。 仲間内での気軽な誘いではなく、戦争に勝つための交渉なのだ。 「いずれ裏切り裏切られることを前提とした同盟、かい?」 「……ええ、そうよ。この際綺麗ごとなんて言ってられないわ。今の私は、私だけじゃなくマスターさんのことも背負ってる。四の五の言ってる場合じゃないの。 ねえ、どうなの響。私の手、取ってくれる?」 そう言って瑞鶴はヴェールヌイに手を伸ばす。そこに敵意は何もなく、純粋に彼女の協力を待ち望んでいることが如実に感じられた。 その手を前に、しかしヴェールヌイは尚も表情を変えることはなく。 「……残念だけど、その提案には乗れないな」 「……ふうん、それはなんで?」 「瑞鶴は知らないかもしれないが、今の私はマスターのことの他に、【信頼】の重みも共に背負っているんだ。 少なくとも、他ならない戦友だった貴方を裏切るなんて、私にはできそうにない」 それは瑞鶴の知る響ではなく、その後に改装されたヴェールヌイとしての在り方。 いいや、実のところ、それは名前に由来するものではなく元来の彼女が持ち合わせたものなのかもしれないが……どちらにせよ同じことだ。 これが見も知らぬ誰かからの提案だったなら、これも戦争であると割り切って腹の探り合いを前提とした同盟も組んだだろう。 しかし瑞鶴は違う。彼女はかつて同じ戦場で背中を預け、共に戦乱を駆け抜けた戦友なのだ。いずれ戦う定めではあるが、かといって彼女との信頼を壊すような真似はしたくない。 「そっか。なら仕方ないわね。 ねぇ、響。例え貴方が相手でも、私達の願いは譲れないの。だから」 「ああ、分かってる。私だって同じだ。だから」 腕に現出した砲を突きつけ。 手にした弓弦に矢を番えて。 「「貴方には、ここで果てて貰う」」 互いが互いをよく見知っていた以上、この顛末に陥ることは不可避だったのかもしれない。 両者は己が兵装を展開し、今まさに必殺の砲撃を放とうとしていた。 NEXT 戦闘/力の顕現 BACK NEXT 022 老兵は死なず、ただ戦うのみ 投下順 023 戦闘/力の顕現024 マギステル・マギ 022 老兵は死なず、ただ戦うのみ 時系列順 023 戦闘/力の顕現024 マギステル・マギ BACK 登場キャラ NEXT 019 盤面上の選択者達 八神はやて 023 戦闘/力の顕現027 設問/誰かの記憶 キャスター(ギー) レプリカ(エレクトロ・ゾルダート) 023 戦闘/力の顕現026 夢現ガランドウ 018 One man s fault is another s lesson.(人の振り見て我が振り直せ) 北条加蓮 023 戦闘/力の顕現027 設問/誰かの記憶 ヒーロー(鏑木・T・虎徹) 019 盤面上の選択者達 アーチャー(ヴェールヌイ) 023 戦闘/力の顕現029 願い潰しの銀幕 アーチャー(瑞鶴)
https://w.atwiki.jp/hayamiken32/pages/439.html
ネギ 「もしかしてライザーガールズの皆さんに鷹夫君達!」 鷹夫 「そうだよ」 美夏 「ネギ君、大丈夫ですか?」 明日菜 「助かったわ・・・・」 ネギ 「ハリケンジャーも来てくれたんですね」 鷹介 「もちろんだぜ」 七海 「地球の平和を守るヒーロー同士ですもの・・」 吼太 「ところで彼女達は?」 明日菜 「私達より先にあいつらと戦っていた見たい」 ??? 「うん・・・」 ??? 「捕らわれた人達を助けようとしたら・・・・」 ??? 「見つかってしまいまして・・・・」 明日菜 「そうだったの・・・」 ネギ 「不運でしたね・・」 美夏 「ネギ君達もどうしてあそこにいたんですか?」 ネギ 「僕達も彼女達と同じ理由なんです」 鷹夫 「そうだったんだ」 ななみ 「でもあの人達の狙いって一体・・・・」 陸 「わからない・・・」 あつこ 「でも捕えられた人達を救わないと・・・」 美樹 「そうね・・・」 美香 「今度は私達も行くわ」 あつこ 「もちろん!!」 鷹介 「ネギ、さっき言っていたプリキュアって子たちって、この子達だな」 七海 「人違いじゃないけどいいけど・・・」 吼太 「どうなの?アスナちゃん」 明日菜 「聞いてみます」 ネギ 「つぼみさんですか?」 美夏 「違います!私は獅子沢美夏です」 真琴 「私は甲川真琴だよ」 明日菜 「何か、つぼみちゃん達や響さん達に似ている・・・」 美樹 「私達も驚いたよ」 美香 「うん、鷹夫君達のロボットに似ているロボット達が出てくるもん」 鷹夫 「俺も驚いたよ」 ??? 「えー、子供達がロボットに乗るなんてすごいね」 ??? 「本当ね」 明日菜 「ところで貴方達は?」 ネギ 「みなさんの名前は?」 ??? 「私は美墨なぎさ」 ??? 「私は雪城ほのか」 ??? 「九条ひかりと申します」 ネギ 「皆さんはどうしてここに?」 明日菜 「そういえばどうしてなの?」 なぎさ 「実は私達もここに神秘の力を感じてここに来たの」 ほのか 「そこの美夏さんとアスナさんから反応があったの」 明日菜 「え!?」 ひかり 「はい、お二人から不思議な力を感じました」 美夏 「実は私・・・・とある国の姫なんです・・」 真琴 「美夏はお姫様だよ」 真琴達は美夏がお姫様だとネギ達に知る。 あつこ 「そういうことよ」 ネギ 「驚きました」 あつこ 「2年前、私は王国――ヴェスペリアの危機からエイジさんの駆るレイズナー(SPT-LZ-00X)に助けれてたの」 ネギ 「名前は確か・・・」 明日菜 「彼の本名は佐川栄治?」 あつこ 「違う!アルバトロ・ナル・エイジ・アスカよ!!」 明日菜 「え!?」 僕の名はエイジ。地球は狙われている!