約 24,973 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4378.html
それから数十分後…… 「…………」 「――――」 「…………」 「――――」 「……むにゃ……」 「――――」 「……た、助けて……」 「――――」 「……うわ……捕ま……」 「――いい加減――起きろ――」」 「へぶぅ!!!」 あたしは突然九曜さんに殴られました。しかもグーで。 「何をするんですか九曜さん!」 「暇だ――からといって――時間を――蔑ろに――すべきではない――」 「無駄になんかしてません! あたしは……その……」 徐々に昇りつつある太陽を眺め、ふんっと鼻を鳴らし、気合を一発注入しました。 「今まで別世界の旅人となってアナザーワールドをさまよっていたのです。そして異世界の悪魔に追いかけられていたのです!」 そう、そうなのです。あたしは異世界へと降り立ち、右も左も分からないこの世界を彷徨っていると、突然この世のものとは思えない何か――悪魔が、あたしに襲い掛かってきたのです。 そりゃびっくりしましたよ。食べられるーと絶望に打ちひしがれたりもしました。 でも、あたしは命からがらこの世界に戻ってくることができました。ふう、危なかった。もうこれであの悪魔とはおさらばなのです。 ん? 待てよ? もしかしたらこの世界にも悪魔がやってきてるかも。そしたらこの世界にも危機が…… 「寝てて――悪夢を見てた――って――素直に言えば――いいのに」 「ぎくぅ!」 ち、違います! 寝てなんかいません! 本当です!! 「寝言が――まる聞こえ――だった……」 ぐ……いつもボケーっとしているわりに、なかなか鋭いところをついてきますね、九曜さん。 そりゃー、ほんのちぃーとばかりボーっとしていたのは確かですけどね。もう少し穏便な言い方があるじゃないですか。瞑想をしてたとか、精神を統一していたとか…… 「あなた――は――――夢の世界に――旅立っていた――――いい加減――認めなさい――」 ううう……正解……なんて絶対言わないのです。ここでそれを認めたらなんか悔しいですから。こうなったら言い訳で押し通してやります。 「ほら、この時期ってみんなの霊魂が出雲大社にいくじゃないですか。あたしもそこに旅立っていたんですよ。その途中悪魔に……」 「それは――八百万の――神――それに――今は卯月――――神無月には程遠い――」 く、九曜さん……古事を何時の間に覚えたんですか? 「つい――さっき――――取得した――」 ええー! ……って言いたいですけど、九曜さんですから何でもありですね。よく考えたらキョンくんのモノマネをやるなんて言い出したときも突然でしたしね。 「言い訳は――もういい――それより――面白いことは――ないの――?」 九曜さんは首を1ミリラジアンほど動かしました。いつもは微動だにしない九曜さんがこれ程大きな動きをするとは……相当暇をもてあましているみたいですね。 九曜さんもああ言っている事ですし、あたしの夢の話……いえ違います、異世界の冒険話はこっちに置いときましょう。 「うーん、そうですね。確かにホケケーとしていても、こんなにいい天気だから眠っちゃうのがオチですね。ちょっと散歩でもしませんか? 九曜さん?」 「――――」 「? 九曜さん?」 「わたしは――今――彼である――周防――九曜なる個体は――この空間内に――存在しない――」 ま、まだ彼のモノマネを引きずっていたんですか? 本気の本気で暇をこいてますね、九曜さん……いや、操り主の天体観測……あれ、違ったっけ? 変態両親……? まあどうでもいっか。 「わかりましたよ、九曜さ……キョンくん、散歩にでも行きませんか?」 「わかった――」 そういって九曜さんはベンチから立ち上がり、ストストと歩き始めたのでした。彼女の気の赴くままに。 はあ……何だか、小さい子のお守りをしているみたいです。あたし。 「あっ、待ってください。あたしも……って、あれ?」 九曜さんが徐々に離れていくのを見て、あたしも後を追いかけるべくベンチから立ち上がろうとした瞬間。 あたしは自分の足に違和感を覚えました。何かがまとわりついているような感触が。 ……なんか見たくないような気もしますが、見ないと話が進まないので見ることにしましょう。あたしは目線を下ろし…… 「あ……」 傍から見れば、あたしの顔は綻んでいたんじゃないでしょうか? それくらいびっくり且つ微笑ましいものがそこにいたんです。 あたしの足元にいたのは、なんと犬さんでした。 それも白い毛をモコモコとさせた、とってもかわいらしい犬さんです。 犬さんはあたしの足元、ロングブーツの周りをうろつき、時たまあたしの方を見ては匂いをかいでいました。 うわぁ……かわいい……頭ナデナデしちゃおうかしら。 あたしはしゃがみこんで、この愛玩犬の頭を触ろうとし…… ジョロロロロロ…… 「うおおーっ!!」 ちょい待てぇ! 何してけつかんねんこのクソガキャ!!! 言わしたろかい!!!! 「はしたない――叫び――」 ええっ! しまったぁ!! 善良な市民があたしに白い目線を向けている!! このままじゃあたしが作り上げてきたセレブリティが音を立てて崩れ去ってしまう!! フォローしなきゃ! 「……エェー、コホンッ! 今のは腹話術です。決してあたしの心の叫びなどではありません。お願い信じてください」 『…………』 ……よし、おっけーです。皆が一斉に違う方向を向き始めました。作戦成功なのです! 「目を――合わせたくない――――だけ」 九曜さん! そんなことはありませんって! キョンくんみたいなツッコミは止めてください! 「だって――わたしは――彼――」 ……はいはい、わかりましたよわかりました。キョンくんやめてくださいね。 さて、横槍が入りましたが、今あたしの身に起きたハプニング。なんだか分かりましたでしょうか? 分かりませんかそうですか。ならば解説するのです。 この犬さん、なんと、いきなりあたしのロングブーツにショ○ベンを引っ掛けやがったのです。 あたしが苦労して着服した……もとい、バイトでためたお金で買った靴なのに、なんて事を…… 「わん」 わんって言われても困ります! 責任とって下さい! って言っても犬じゃ無理か……飼い主さんでてきなさい! さもないと、こいつにフライングスーパーエクセレントダイナミック京子アタックダッシュダーボをぶちかましてやるのです!! 「大人げ――ない――」 うるさいです九曜さん! あなたにあたしの気持ちが分かってたまるもんですか! 一度痛い目にあわないと反省しないですよこういう輩は!! ああもうっ! 我慢できません……おい犬っころ! 出てこない飼い主が悪いんですからね! 覚悟なさい!! 「ルソー、ルソー、どこ行ったの? でてらっしゃい」 「わん わん」 タタタタッ…… すかっ 「え……? うそっ!? うわぁぁあ!!」 ゴキャ プチッ ゴキャ プチッ 「…………」 あまりの出来事に、あたしは思わず沈黙してしまいました。 あたしがこのクソ犬に正拳を喰らわそうと、思いっきり殴りかかった瞬間、犬が声の聞こえたほうに走り出したんです。 つまり、あたしは思いっきり豪快に空振りしました。 そして勢い余ってそのまま母なる大地に抱擁をかまして…… へええ……い、痛いですぅ…… 「あら、こんなところにいたのね。ダメでしょ。勝手に走っていっちゃ」 「くぅぅん」 あたしは顔を突っ伏したまま、このやり取りを聞いていました。っていうか、顔面が痛くて動かせません。 で、でも……声のする方を見なきゃ……飼い主かもしれないし…… 痛みを堪えてそちらを見ると、茂みから出てきた少女と戯れるクソ犬の姿がありました。少女はあたしと同じくらいの年齢でしょうか……そして、おそらく飼い主でしょう。じゃれあう姿が正しくそれものです。 「全く……いつまでたってもやんちゃさんなのね」 ……なるほどなるほど。ならば謝罪させてやるのです。弁償するまで許さないんですから。 あたしは起き上がってパンパンと埃を払い、この少女に駆け寄ったクソ犬と負けず劣らずの速度で、彼女を追いかけました。 「ちょっと待って! ……あなた、この犬の飼い主よね?」 「え、ええ……そうですけど」 「この犬、あたしのブーツに……その、おしっこをかけちゃったんですよ。どうしてくれるの?」 「ええっ! 本当なの? ルソー!?」 「くーん」 「ちょっと確認させてほしいのね」 彼女はあたしのブーツに顔を寄せて、そして匂いを嗅ぎ始めました。ちょっと女王様チックで憧れる……ごめんなさい。なんでもないです。 「……この匂いは確かにルソーのものなのね。ごめんなさい。今きちんと拭きますから。すみません。靴を脱いでもらえますか?」 少女は持っていたト-トバッグから如雨露とウエスを取り出しました。あたしは不承不承ながらも靴を脱ぎ、彼女に渡しました。 そして彼女は公園の水道水を如雨露に入れて、ウエスを湿らせながらあたしの靴を拭き始めたのです。 「……………」 あたしは黙ってその作業を見守り続けていました。本当は飼い主であろうこの少女に怒鳴ってやろうと思っていましたが、彼女の態度の毒気を抜かれたからです。 あの如雨露やウエス。本来は電柱に引っ掛けたものを洗い流すためのものなのでしょう。見ていてなんとなく分かりました。 そして彼女のトートバッグ。作業中にチラ見をさせてもらいましたが、ビニール袋やスコップ等、恐らく犬用の下の処理を始末するためのグッズが満載でした。 彼女はペットを飼うことの意義をきちんと認識した、責任感のある飼い主のようです。当然しつけもちゃんと行き届いているのでしょう。 ならば、この犬があたしに引っ掛けたのは恐らく偶然か何かってことになります。 あ、もしかして。あたしの種族を超えた美貌に驚愕して、思わず失禁してしまったのでは? そうですね。そうに違いありません。 だとすれば、こちらがわめき散らしたら罰が当たります。犬がその辺で用を足すのは自然の摂理ですし、雄犬が縄張りを確認するためにあのような行動をするのは当然ですもんね。 少し寛大な気持ちになったあたしは、この犬と飼い主さんを許すことにしました。 あたしってば慈悲深い人間でえらいと思いませんか? えへへ? やっぱりそう思いますか。 「っへっへっへ」 「こらっ、もうこんなことしちゃ駄目だぞ?」 あたしはなおもあたしの周りをうろつく白犬にやれやれと頷き、この犬をなでようとして…… 「きゃぁぁあああ!! そのポーズはもしかして!!」 「ルソー! それは電柱じゃないのね!!」 ……そしてそして再び目標を見据えて発射されました。 「逃げてなのね!」 「ひぇええええ!!!」 「わぉ~ん」 か、勘弁してくださぁ~い!! はあはあはあはあ……こ、ここまで来れば大丈夫でしょう…… でも、あたし何か悪いことしましたか? 何で犬の標的にされなきゃいけないんですか? 「――ユニーク――」 九曜さん……それ、キョンくんのモノマネじゃないですね…… 「おや――こいつは――うっかり――――」 もういいです…… 「本当にごめんなさい。まさかルソーが人様に向かってあんなことをするとは思わなかったのね」 彼女……阪中さんと名乗る彼女は、頭を深々と下げ申し訳無さそうにあたしに謝罪しました。 ここまで卑屈に謝られたら、あたしも許さないわけにはいけません。少々納得できないものもありますが、ここは淑女の対応を致しましょう。 「いえ、まあ、犬のすることですし……飼い主が反省しているのならもういいです。でも、もう今後こんなことはしないようにしつけをお願いします」 「うん……そうします。でもおかしいなあ。今まで人に向かっておしっこを引っ掛けたことなんて無かったのに」 「――彼女の――足が――よほど気に入った――」 九曜さんが変な事を言い出しました。 「そういえば……なんとなくこの子の好きそうな足の形をしているのね」 この人も意味不明なことを仰りやがりました。あの、それってどういう意味でしょうか? 「うーん、平たく言うと……その、なんと言うか……」 ……? どうしたんですか? 何か言いにくい事なんですか? 「いえ、まあ……円柱型で、ええと、色もちょっと……何て言うんだったっけな?」 彼女の言葉は、歯切れの悪いものでした。もう。いいですからちゃんと言って下さい。 「大根――足」 え゛…… 「太くて――不恰好――」 「そうそう、そう言いたかったの。まさにそれなのね……って、どうしました?」 「…………」 ううう、みんなひどい……自分では『バッチリ チリ脚♪』だと思ってたのに…… その後、責任を感じた彼女は染み抜きが家にあるからお詫びがてら是非来てくださいと、あたし達を彼女の家に招き入れたのでした。 あたしや九曜さんは断るすべもなく――というか、当然の対応ですし、何より暇ですし――彼女の家に向かったのでした。 「ここなのね」 彼女が普通に指差した建造物を見て、あたしは彼女に対する恨みは忽然と消えてしまった――くらいのそれは豪奢な佇まいでした。 「ちょっと待ってて」 彼女は鍵を取り出し、ガチャガチャと鍵が複数ついたキーホルダーを取り出し―― 「ルソー、もう少しの辛抱だからじっとしてるのね」 そうこうしている間に鍵が開き、ドアを開けたとたん、ルソーは一目散に駆けていきました。 「さ、入って」 あたし達も阪中さんに釣られて中に入り―― 「うわあ……」 「――――」 思わず声をあげました。なんとこの犬。ちゃんと玄関のマットで足を拭いているのです。自分ひとりで。 「ちゃんとしつけているからね。外から帰ってきたら足を拭くように」 へえええ、凄いですね……頭良いんですね。 「でも――自分の縄張りと――橘――京子の――足は――区別できない――」 九曜さん……嫌な事思い出さないで下さい。せっかく忘れてたのに…… 「彼の――マネ――ツッコミ――」 はいはい。わかりましたよキョンくん。ひどいですぅ。そんなこと言わないで下さい。 これで良いですか? 「感情が――篭っていない――」 あなたに言われると無償に腹が立つんですが…… 阪中家のダイニングでのんびりくつろいでいると、彼女のお母さんが現れ、あたし達に陳謝していました。あの子ったらルソーのこと甘やかせ過ぎだとか、今染み抜きしているから、お菓子でも食べながら待っててねとか…… こうしてみると、彼女のお母さんもいたって普通の人でした。なのであたしはお構いなくと社交辞令を交わした後、九曜さんと談笑していました。 「うわぁ! このシュークリーム美味しいのです! これならいくつでも食べられるのです!」 「――――」 九曜さん? どうしました? 「あんまり――食べ過ぎると――太るぞー―」 大きなお世話です! というか、まだキョンくんのモノマネ継続中なんですか? 「そう――」 もういい加減やめたらどうですか? 「――やだ」 はいはい、そうですか。何が彼女のやる気を爆発させているんでしょうか? わけわかりません。 「わたしは――今日一日――彼――彼の名前――で――呼んで欲しい――――」 ふう、と溜息一つつきました。こんなに強情な九曜さんは初めてなのです。 もしかしたらいい考えがあるのかもしれませんね。こうなったらずっとキョンくんと呼んでやるのです。キョンくんと思って接してやるのです。もう開き直りました。 「わかりましたよキョンくん。どうですか、シュークリーム。食べますか?」 「食べる――あーん」 「ふふふ、キョンくんったら甘えんぼさんですね。はい、あーん」 「美味しい?」 「美味し――い――」 「あ、ほら。唇にクリームがついてますよ。だらしないな、キョンくんったら」 「拭いて――くれ――」 「こら、甘えんぼさんなんだから。あたしがいないと何もできないのね」 「面目――ない」 「はい、拭き拭きしますね――うん、綺麗になったわね」 「――やれやれ」 「ふふふ、本当にキョンくんらしいのですね。ふてぶてしい態度なのに、あたしに甘えるところなんかそっくりなのです。いっつもこんな調子ですもんね」 「――そう」 キョンくんってばかなりのツンデレですからね。二人っきりになるともっとすごいことをやってのけましたからね。 っと、でもこんなことは本人の前では言いません。怒られちゃいますしね。勿論佐々木さんや涼宮さんの前では禁句です。命がいくつあっても足りません。 「お待たせ。大分綺麗になったのね」 阪中さんがあたしのブーツを持ってきました。さっきまで染みになっていた部分は跡形もなく消え去りました。 「本当にごめんなさい。お詫びといっちゃなんだけど、お母さんの新作、3種のクリームが入ったシュークリームがあるからたくさん持っていって」 かなり大き目の袋からは、香ばしい香りが漂ってきました。 「いいえ。こちらこそ色々貰っちゃって。ありがとう」 「ううん。もともとはあたしが悪いんだし。これくらいじゃ罪滅ぼしにもならないけど」 「いいのよ。あたしの知り合いに比べたらマシな方よ。わざとじゃないかってくらい鈍感なのがいるしね」 「あの、それって……」 「え?」 「ごめん、なんでもないのね。それじゃ、また」 「ええ。また遊びに繰るわ。メガーヌにもよろしくね」 「……それ、うちのお兄ちゃんと同じ呼び方。しかもルソーじゃなくてルノーだし」 「え? そうなの? じゃあ、フロンティアオビタルセオリー。略してFOT、フォットよ!」」 「それもお兄ちゃんと同じ……もうルソー関係ないし」 色々とツッコまないで下さい。あたしだってこの辺のことはよくわからないんですから。 「うん。どうでもいいよね」 ルソー。もうあんな事しちゃ駄目ですよ? 「わわん!」 わかったみたいですね。それじゃあこれで。シュークリームご馳走様でした。 「さようなら」 あたしはこうして、たっぷりと貰ったシュークリームに気をよくして、この高級住宅街を後にしたのでした。 あたしとキョンくんの真似を継続中の九曜さんは、さっき頂いたシュークリームをはぐはぐと頬張りながら、街道沿いをえんえんと歩いていました。 「美味しいですね、このシュークリーム」 「美味――しい――」 「いっぱいもらったから、キョンくんにもわけてあげるのです」 「そう――かい――――サンキュ――」 言葉のテンポはゆっくりですが、確かにキョンくんっぽい喋りをしています。九曜さん。 「次は――どこに――いこうか――」 そうですね……シュークリームがあまりにもおいしかったから、あたしの食欲に火がついたのです。丁度おやつの時間ですし、ケーキでも食べませんか? 「いい――」 実はすぐそこのデパートで、ホテルのシェフ謹製ケーキのバイキングイベントが開催されているんです。期間限定ですし、行きたいなーなんて思っていたところなのです。いい機会です。そこに行きましょう。 「分かった――」 九曜さんは頷き、一人でスタスタとデパートに向かって歩き始め、あたしもいそいそと追いかけたのでした。 「うっわぁー! すっごいです!!」 ベージュ色を基調とした、シックな感じの広間。元々はイベントホールか何かなのでしょう。しかし今はパーティションやカーテンで区切られ、甘い香りでむせ返っていました。 大きいのから小さいの、形もデコレーションも種々様々なケーキたちが溢れかえっていました。 「早速食べましょう! 九曜さん!!」 「わたしは――周防――九曜では――」 ああそんなことどうでもいいのです! 早く食べましょう!! 「やれやれ――」 「ふう……おいしかったのです」 あたしは心行くまでケーキを堪能し、食後のセイロンティーを口に含みながら悦に浸っていました。さすがホテル業界、デザート部門で一、二を争うシェフの腕は素晴らしいです。 甘くって、コクがあって、それでいて重くなく……これならいくらでも食べられるのです。 これで1000円は安すぎです。普通なら1つでそのくらいの値段ですよ、このケーキ。 非常に残念なのは、今週までのイベントということですね。これから毎日通って食べようかしら? うん、それがいいかも。 九曜さんもいきますよね? ・・・・・・ 「……あれ?」 九曜さん? どこいったのですか? 九曜さん? ふと横を見ると、隣の席に座っていた九曜さんがいつの間にかいなくなってしまいました。 「おっかしいなー。お手洗いかな?」 とりあえずその場で待機することにしましょう。 っと、どうせだからもう少しケーキを食べますか。甘いものは別腹ってよく言いますし、実際その通りですからね。 誰ですか、だから太るんだって言った人! ……どうせその通りですよ。悪かったですね!! 「遅い……」 それから数分後。九曜さんは一向に戻ってくる気配がありません。心配になって化粧室に見に行ってみましたが、しかし九曜さんの姿はありませんでした。 はっ! もしかして食い逃げ!? あたしにお金を払わせるつもりなんじゃ!! ……って、ここは先払いのシステムでしたね。会計はもう終わらせてあります。この前の合宿で組織から前借りしたお金もそこをつきかけているので、ついお金に過敏になっていました。 でも、九曜さんったら本当にどこに行ったのでしょうか? 「お客様、そろそろ時間でございますので――」 そうこう考えているうちに、タイムリミットが来てしまったようです。バイキングに時間制限はつきものですし、仕方ありません。 あたしは店員さんに光陽園女子学院の制服を着た黒髪長髪の女の子が戻ってきたら連絡下さいと伝言し、席を後にしました。 イベント特設コーナーから出たあたしは、九曜さんが行きそうな店を回ることにしました。 「まずは、本屋ね」 宇宙人は読書好きって言うのが定番ですし、ここにいる可能性が高いですからね。それでは向かいましょう。 ・・・・・・ 「居なかった……」 長門さんとは思考回路が違うのでしょうか? 九曜さんは、リーディングではなく、ライティングが趣味なのかもしれませんね。 ……はっ! と言うことは、文房具屋か画材屋に居るのでは? そっか! そうに違いない!! さえてる今日のあたし!! 折り好くこのデパートには総合文房具屋がありましたし、そこに違いありません。 では早速文房具屋にレッツラゴー! なのです! ・・・・・・ 「居ない……」 おっかしいですね……あたしのカンが外れるなんて。 ライティングでもないと、オーラル? オーラルといえば……確か最上階に歯医者があったはず! なるほど! 九曜さん、思ったよりケーキを召し上がらないと思っていましたが、実は虫歯だったのですね! ダメですよ、ちゃんと歯は毎日磨かなきゃ。それでは歯医者さんに行きましょう! あたしは最上階行きのエレベータに乗り、ガラスの窓で区切られた歯医者さんに単身乗り込みました。 「あのー……」 「はい、初診の方ですか? どうされました?」 「い、いえ、連れを探しているんですが……」 「連れですか?」 「ええ。光陽園学院の制服を着た、髪の毛の長い女の子ですけど、こちらに来ませんでしたか?」 「えーっと、少々お待ちください。探してみますから」 受付のお姉さんは治療室に入っていきました。どうやら診察室の方を確認しているようです。 しかし……この消毒薬のにおい。そして歯を削るドリルの音。どうしても好きになれませんね。あたしは歯医者は大っ嫌いなのです。 昔々、親に連れられて虫歯を治した思い出があるのですが……二度と行かないって誓いました。あんな痛い思いをするなら、きちんと歯磨きをしなければ、などと心に誓ったことが記憶の片隅に残っています。 おかげで学校の歯科検診では今まで虫歯ゼロ。どうです? 素晴らしいでしょ。 「お待たせ致しました。どうやら、今治療中の方にそのようなお嬢さんは居ないようですね……」 受付のお姉さんは、あたしの予想を裏切る返答をしました。 「そうですか……ここにはいませんか、ありがとうございました」 長時間ここに留まっていても仕方ありません。早急に違う場所へ…… 「あ、お嬢さん。ちょっと待って」 はい? 何でしょうか? 「あなた少し口臭がきついわよ。ちゃんと歯磨きしている?」 え? そ、そんな! 毎日欠かさずしていますよ!! 「本当かな? その匂いはサボっているようにしか思えないんだけど」 やってますって! 「そう? なら、ブラッシングが間違っている可能性があるかもよ」 ブラッシング? 「つまり、歯の磨き方よ。いくら毎日磨いても、磨き方を間違えちゃ意味は無いわ。虫歯やその他の歯の病気にかかりやすくなっちゃうわ。そうだ、今から診断しましょうか?」 「い、いえ……結構です。連れを探さないといけませんし……」 丁重にお断りを申し入れました。決して歯医者さんが怖いからでは……ないですから。そこ、笑わないで下さい。 「まあまあ、そういわずに」 「だから、あたしは」 「そのままじゃ、彼氏にも嫌われちゃうよ?」 「!!」 「口臭が原因で彼氏と別れちゃうのはあなたもいやでしょ?」 「あ、あたしはキョンくんとそんな関係じゃ!」 「ふーん、キョンくんって言うの。彼氏。かわいい名前ね」 「だ、だから、彼氏じゃ……」 「ふふふーん。じゃあそういうことにしておきましょうか」 ぜ、絶対勘違いしてるし…… 「それはそれとしてさ、お姉さんに任せなさい。特別タダで診断してあげるから」 「え? タダですか?」 「もちろん。あ、でももし治療が必要だったらお金は貰うけどね。それより何より、今のままじゃいろんな人が不快に思うかもよ? だから診断は必要だと思うの」 そうですか……佐々木さんに嫌われたらあたしの存在意義がなくなっちゃいます。ここは1つ、診断をしてもらうことにしましょう。 「はい、毎度あり~♪」 お姉さんはやたら陽気に、野菜を売るおばちゃんみたいな声を放ったのでした。 あたしは簡単な手続きを済ませた後、歯科用の治療台の上に座らされました。こうやって座っているだけで、あの時の恐怖が蘇ってきます。 口が動かなくなる麻酔、ドリルの高周波音。痛いと思ったら手を上げてねという歯医者の気休め。 ううう、今から引き返してもいいですか? 「お待たせ。それじゃあ診察始めるわ」 あれ? 受付のお姉さんが診察するんですか? 「ええ。口の中を見るだけだし、これくらいのことで先生の手を煩わせる必要は無いわ」 そうですか。怖い顔のおっさんがドアップで迫ってくるよりは精神的苦痛は無さそうですね。腕のほうは心もとないですが…… 「もし治療が必要なら先生に任せるわよ。だから心配しないで。それじゃ大きく口を開けてください」 あーん。 「…………」 「…………」 「…………おや?」 「…………??」 「…………ふむふむ……なるほど……」 「……あほ、ろうれふか?」 「……うーん、これはすごいわね……」 「へっ? はひはふほいんへすは?」 「あ、口はもう閉じていいわ。うがいして頂戴」 ふうー。疲れた。 あたしは横においてあるコップをとり、ガラガラとうがいを始めました。でも、『すごい』って、一体何が凄いんでしょうか? まさか虫歯……? 「大丈夫。あなたの歯には虫歯は一本も無かったわよ。健康そのものの歯ね」 な、なんだ……びっくりしました。凄く含みのある表現だからどんなひどいことになっているかと思いましたよ。 それに言ったとおり、あたしの歯には虫歯が無いのです。目指せ8020運動なのです! 「でもね……」 あたしが心の中で息巻いていると、お姉さんの口から信じられない言葉が発せられました。 「歯石の沈着が酷すぎるわ」 へ……? しせき? 「そう、歯石。歯垢とカルシウム……唾液の成分が結合して、歯茎に堆積しちゃうのを歯石っていうの。歯周病の原因になったりもするわ。口臭の原因はこれね。なるほど、これもひとえに間違ったブラッシングのせいね」 ええっ!! 「とりあえずこの歯石を除去しましょ。それから正しいブラッシングを教えるから。それじゃあ始めるわよ」 ちょ、ちょっと! 今からですか!! 「すぐ終わるから、ほら、暴れないで。まずは右奥から行くわよ。痛かったら手を上げてくださいねー」 ギュイイイーン―― 消毒薬のにおい……ドリルの音……意味の無い挙手…… いやぁー!! 昔のトラウマがぁーー!!! たーすーけーてーぇーーぇぇーーーぇーーー!!! ……… …… … うう、あたし乱暴された…… 痛い痛いって叫んだのに、『我慢してねー』って言って、いやがるあたしを強引に…… これじゃあ強○ですぅ。訴えてやるのです。 もうお嫁にいけないわ…… 「何アホなこと言ってるのよ。歯石が取れたんだから良かったじゃない。それからさっきも言ったように、ブラッシングはきちんとやってね。それと歯石除去代は頂くから宜しくね」 「…………」 泣きっ面に蜂。踏んだり蹴ったりです。例えではなく本気で泣きたいです。 もう二度とここにはきません。こっちからお断りです。 ――そんな感情を心の奥底にとどめ、あたしは歯医者を後にしました。 あたしが口を押さえて歯医者から出ると、あたしを呼ぶデパート構内放送がかかりました。 『迷子のお呼び出しを申し上げます。橘京子ちゃん。橘京子ちゃん。お連れのキョンくんがインフォメーションセンターでお待ちです。繰り返し迷子の――』 ま、まさか……ともかく、インフォメーションセンターとやらに向かいましょう! あたしは一階にあるインフォメーションセンターまで駆け足で移動し、そして例の黒い物体を発見しました。 「やっと――来た――」 「九曜さん! 何ですか今の放送!」 「わたしは――彼――」 「相変わらず彼のモノマネですか……それは百歩譲っていいことにします! でも橘京子『ちゃん』ってなんですか!」 「迷子――だから――ちゃん付け――」 「迷子になったのは九曜さんじゃないですか!」 「わたしは――ずっと――あそこに――いた……――勝手に居なくなったのは――あなた――」 へ? 「奥に――いた……――シェフと――話を――してた――そしたら――――あなたが勝手に――出て行った――」 九曜さんが進んで人と話すなんて……予想外にも程があります! 「わたしは――彼「もうそれはいいです。しつこいから」」 何故九曜さんはこうしてまで、彼のモノマネに拘っているんでしょうか? 「わかりましたよ、あたしが勝手に出て行ったのが悪かったんですね、悪うございやしたすみません!」 「反省――してないぞ――」 「彼の真似はいい加減止めてください!!」 「そんな――態度だから――彼に振られたんだ――ぞ――」 ああ!! もうっ!!! あること無いこと仰らないで下さい!!! クスクスと笑いを上げる受付嬢を尻目に、あたしは顔を赤くして九曜さんを引っ張っていきました。 ……しばらくこのデパートにこれないですね……さよなら、愛しのケーキバイキング…… 橘京子の退屈(後編)につづく
https://w.atwiki.jp/touhoukashi/pages/2446.html
【登録タグ senya た ラクトガール ~ 少女密室 幽閉サテライト 曲 月に叢雲華に風】 【注意】 現在、このページはJavaScriptの利用が一時制限されています。この表示状態ではトラック情報が正しく表示されません。 この問題は、以下のいずれかが原因となっています。 ページがAMP表示となっている ウィキ内検索からページを表示している これを解決するには、こちらをクリックし、ページを通常表示にしてください。 /** General styling **/ @font-face { font-family Noto Sans JP ; font-display swap; font-style normal; font-weight 350; src url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/10/NotoSansCJKjp-DemiLight.woff2) format( woff2 ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/9/NotoSansCJKjp-DemiLight.woff) format( woff ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/8/NotoSansCJKjp-DemiLight.ttf) format( truetype ); } @font-face { font-family Noto Sans JP ; font-display swap; font-style normal; font-weight bold; src url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/13/NotoSansCJKjp-Medium.woff2) format( woff2 ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/12/NotoSansCJKjp-Medium.woff) format( woff ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/11/NotoSansCJKjp-Medium.ttf) format( truetype ); } rt { font-family Arial, Verdana, Helvetica, sans-serif; } /** Main table styling **/ #trackinfo, #lyrics { font-family Noto Sans JP , sans-serif; font-weight 350; } .track_number { font-family Rockwell; font-weight bold; } .track_number after { content . ; } #track_args, .amp_text { display none; } #trackinfo { position relative; float right; margin 0 0 1em 1em; padding 0.3em; width 320px; border-collapse separate; border-radius 5px; border-spacing 0; background-color #F9F9F9; font-size 90%; line-height 1.4em; } #trackinfo th { white-space nowrap; } #trackinfo th, #trackinfo td { border none !important; } #trackinfo thead th { background-color #D8D8D8; box-shadow 0 -3px #F9F9F9 inset; padding 4px 2.5em 7px; white-space normal; font-size 120%; text-align center; } .trackrow { background-color #F0F0F0; box-shadow 0 2px #F9F9F9 inset, 0 -2px #F9F9F9 inset; } #trackinfo td ul { margin 0; padding 0; list-style none; } #trackinfo li { line-height 16px; } #trackinfo li nth-of-type(n+2) { margin-top 6px; } #trackinfo dl { margin 0; } #trackinfo dt { font-size small; font-weight bold; } #trackinfo dd { margin-left 1.2em; } #trackinfo dd + dt { margin-top .5em; } #trackinfo_help { position absolute; top 3px; right 8px; font-size 80%; } /** Media styling **/ #trackinfo .media th { background-color #D8D8D8; padding 4px 0; font-size 95%; text-align center; } .media td { padding 0 2px; } .media iframe nth-of-type(n+2) { margin-top 0.3em; } .youtube + .nicovideo, .youtube + .soundcloud, .nicovideo + .soundcloud { margin-top 0.75em; } .media_section { display flex; align-items center; text-align center; } .media_section before, .media_section after { display block; flex-grow 1; content ; height 1px; } .media_section before { margin-right 0.5em; background linear-gradient(-90deg, #888, transparent); } .media_section after { margin-left 0.5em; background linear-gradient(90deg, #888, transparent); } .media_notice { color firebrick; font-size 77.5%; } /** Around track styling **/ .next-track { float right; } /** Infomation styling **/ #trackinfo .info_header th { padding .3em .5em; background-color #D8D8D8; font-size 95%; } #trackinfo .infomation_show_btn_wrapper { float right; font-size 12px; user-select none; } #trackinfo .infomation_show_btn { cursor pointer; } #trackinfo .info_content td { padding 0 0 0 5px; height 0; transition .3s; } #trackinfo .info_content ul { padding 0; margin 0; max-height 0; list-style initial; transition .3s; } #trackinfo .info_content li { opacity 0; visibility hidden; margin 0 0 0 1.5em; transition .3s, opacity .2s; } #trackinfo .info_content.infomation_show td { padding 5px; height 100%; } #trackinfo .info_content.infomation_show ul { padding 5px 0; max-height 50em; } #trackinfo .info_content.infomation_show li { opacity 1; visibility visible; } #trackinfo .info_content.infomation_show li nth-of-type(n+2) { margin-top 10px; } /** Lyrics styling **/ #lyrics { font-size 1.06em; line-height 1.6em; } .not_in_card, .inaudible { display inline; position relative; } .not_in_card { border-bottom dashed 1px #D0D0D0; } .tooltip { display flex; visibility hidden; position absolute; top -42.5px; left 0; width 275px; min-height 20px; max-height 100px; padding 10px; border-radius 5px; background-color #555; align-items center; color #FFF; font-size 85%; line-height 20px; text-align center; white-space nowrap; opacity 0; transition 0.7s; -webkit-user-select none; -moz-user-select none; -ms-user-select none; user-select none; } .inaudible .tooltip { top -68.5px; } span hover + .tooltip { visibility visible; top -47.5px; opacity 0.8; transition 0.3s; } .inaudible span hover + .tooltip { top -73.5px; } .not_in_card span.hide { top -42.5px; opacity 0; transition 0.7s; } .inaudible .img { display inline-block; width 3.45em; height 1.25em; margin-right 4px; margin-bottom -3.5px; margin-left 4px; background-image url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2971/7/Inaudible.png); background-size contain; background-repeat no-repeat; } .not_in_card after, .inaudible .img after { content ; visibility hidden; position absolute; top -8.5px; left 42.5%; border-width 5px; border-style solid; border-color #555 transparent transparent transparent; opacity 0; transition 0.7s; } .not_in_card hover after, .inaudible .img hover after { content ; visibility visible; top -13.5px; left 42.5%; opacity 0.8; transition 0.3s; } .not_in_card after { top -2.5px; left 50%; } .not_in_card hover after { top -7.5px; left 50%; } .not_in_card.hide after { visibility hidden; top -2.5px; opacity 0; transition 0.7s; } /** For mobile device styling **/ .uk-overflow-container { display inline; } #trackinfo.mobile { display table; float none; width 100%; margin auto; margin-bottom 1em; } #trackinfo.mobile th { text-transform none; } #trackinfo.mobile tbody tr not(.media) th { text-align left; background-color unset; } #trackinfo.mobile td { white-space normal; } document.addEventListener( DOMContentLoaded , function() { use strict ; const headers = { title アルバム別曲名 , album アルバム , circle サークル , vocal Vocal , lyric Lyric , chorus Chorus , narrator Narration , rap Rap , voice Voice , whistle Whistle (口笛) , translate Translation (翻訳) , arrange Arrange , artist Artist , bass Bass , cajon Cajon (カホン) , drum Drum , guitar Guitar , keyboard Keyboard , mc MC , mix Mix , piano Piano , sax Sax , strings Strings , synthesizer Synthesizer , trumpet Trumpet , violin Violin , original 原曲 , image_song イメージ曲 }; const rPagename = /(?=^|.*
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4088.html
「全く……九曜さんのおかげで偉く恥をかいちゃいましたよ。頼みますからあまり変なことはしないで下さい」 「――――」 宴会で、受けると思ってやった一発ギャグが案外受けなくて、しんみりと席上を後にしたしがないサラリーマンのような顔を浮かべながら、あたし達はデパートを逃げるかのように出て行きました。 今はデパートから少し離れた、桜並木を歩いています。 「はあ……」 九曜さんのおかげで被害が被りまくりです。あたしへの精神的ダメージは、ボス戦で8回逃げた後に発生する改心の一撃ラッシュ1ターン分に相当します。 今日の九曜さん、ツッコミ具合が滅茶苦茶です。ひどすぎます。何でここまでキワどいことをするのかしら? 「あなたも――彼に――対しては――迷惑を――かけ過ぎ―ー」 え……? あたしが、彼に迷惑をかけてるですって? 根も葉もないことを言わないで下さい! 「根も葉も――ある……――あなたは――――彼に――空気を読めと――言われているのに――改善の――兆しは――ない――」 そ、それは……あたしだって努力しているわけで……決してわざとじゃないんですってば。 「彼は――それにより――様々な被害を――被っている―」 う……確かに……。いくら空気を読めないヤツと言われても、あたしにだってそれくらいの自覚はあります。以前なんか佐々木さんがいるのに、あたしは気付かずキョンくんを挑発して、後でもの凄く怒られたこともありましたしね。 ……まああのときの場合、正確には空気というより気配だったんですけどね。 「だから――わたしが――彼の心境を――正しく伝えるべく――――行動を起こした……あなたには――悪口を――言う資格は――ない――――彼の――気持ちが――分からない――限り――」 「…………」 あたしは九曜さんのおしゃべりに、沈黙せざるを得ませんでした。 彼の……気持ち……ですか? 「そう――彼は――あなたの成長を――楽しみに――しているはず――あなたの――――心の――成長を――そして――それができた暁には――最高の――パートナーとして――迎い入れる――所存――」 がーん! ……あたしは今、胸と頭と肩と首筋を強打されたような状況に陥りました。 そ、そうだったんですか! キョンくんがあたしに空気を読めって言ったのは、そう言う意味だったのですか! ふふふふふ、全く素直じゃないですね、キョンくんったら。あたしが必要なら必要って言ってくれれば、どれだけでもサポートしますのに。 んん……もうっ! やっぱりキョンくんってばツンデレですね。 「やっぱり――単純――」 九曜さん、何か仰いましたか? 「別に――何も――――」 そうですか? 今悪口が聞えた気がしたんですがね? 「ちっ――こういう時は――鋭い――奴――」 何が鋭いんですか? 「何でも――ない――もう何も――言わない――」 ?……おかしな九曜さんですこと。 でも、おかげであたしのテンションは何故か絶好調になりました!! やる気も沸いてきました! それじゃあ次に向かいますよ!! 「どこに――行くの――?」 特に考えていません!! 「お――い――こら――」 まったキョンくんのマネですか? 可愛いですね、九曜さんったら! 「キャラ――変わりすぎ――怖い――――」 ともかく、あっちのほうに進みましょう! あたしはハイテンションのまま、桜並木をひたすら直進していました。何故だか走りませんが、すっごく気分がいいのです。 そうでしたか、キョンくんはあたしに期待しているのですね。全く、それならそうと早く仰ってくれれば良いのに。ね、九曜さん? ・・・・・・ あれ? 九曜さん? もしかしてまた行方不明? もう! どこに行ったのかしら? お願いですからちゃんとついてきてくださいよ! そうでなくても気配が無いから、探すのにいっつも苦労するんですよ! 「うぃーっす、どうしたの彼女? 意気阻喪気味な表情をしちゃってさ」 「へ?」 あたしがキョロキョロと九曜さんを探していると、背後から声をかけられました。振り返ってみると、そこには男の子がすました顔で突っ立っていました。 背の高さはキョンくんと同じくらい。年も同様でしょうか? ただ、春だというのに冬物のブルゾンを身に纏い、ビリビリのカーゴパンツがダッサダサです。それに何と言っても髪型がオールバックというのが劣悪です。 正直、あんまりお近づきにはなりたくない人です。 「もしかして、今一人? なら丁度良かった。実は映画のペアチケットがあるんだけどさ。一緒に見に行くはずだった相方がドタキャンしてさ、どうしようか困ってたんだ。良かったら見に行かない? チケット代奢るからさ」 そんなあたしの思いを他所に、彼は興味津々とした顔であたしを眺め、そして陽気な声で喋りかけてきました。 ……はっ、これはもしかして、今流行りのナンパというものでは? 佐々木さんが塾行く途中に引っかかってるやつですね。聞いたことがあります。でも、佐々木さんは今ここには居ません。もしかして…… 「あの……あたしに言ってるんでしょうか?」 「あ? ああ。そうだけど? 他にそれっぽい女の子がいないじゃん。君を誘ってるのさ」 ががががーん!! つ……ついに、ついに!! ついにあたしにもナンパされましたぁぁ!!! びっくりです! 阿鼻叫喚です! 驚き桃の木山椒の木なのです!! うゃっっっほーーーーーーい!!!! ……コ、コホン。あたしとしたことが、少々取り乱してしまいました。本日二度目ですね。申し訳ありません。佐々木さんが物凄く自慢してくるので、ちょっとうらやましかったんですよ。ナンパされるのが。 正直、自分の好みのタイプではないですが、でもこうやって声をかけてくれただけでも嬉しいのです。 被ナンパ率では佐々木さんには遠く及びませんが、こんなあたしでも女としての魅力は十二分にあるのですね。 ちょっと自信がわいてきました! あたしはいぶかしげな顔をする彼を尻目に、にひひひひとニヤケタ笑いを浮かべました。 ふふふふ……あなた見た目があるじゃない。お礼として、あなたのナンパに乗ってあげようじゃないですか。感謝しなさい。 もちろん一回限りですけどね。以前佐々木さんに教わったアレを試すときがついに来たみたいです。 即ち。 この男にタダ飯を奢ってもらうという、佐々木流豪華な食事をタダで食い尽くすぜプラン! これにつきます! 実はあたし、うらやましかったんですよ、これが。 説明の必要性は余り無いかもしれませんが、念のためにしておきましょう。 彼があたしの気を引くために、あたしの好きなものを買ってくれるといってくるはずです。男なんてそんなもんですから……っと、これは佐々木さんのセリフですよ? 念のため言っておきますけど。 そこで彼の優しい言葉を逆手にとって、食いだめ買いだめをします。そして頂くもんだけ頂いて、さよならしてやるのです。たしかそんな感じなことを仰っていました、佐々木さん。 そうそう、佐々木さんは以前、この方法で買ってもらったものを売っ払い、ガッポガポ儲けたそうなんです。 あたしも参考までに教わったんですが、ついに有効活用する時が来ました! へへへっ、まずはアレをこうして、そんでもってこうしてこうやって…… 「……彼女、どうしたんだい、彼女?」 へ……? っと、危ない危ない。思わず顔に出すところでした。 「え、ええ。ちょっとびっくりしちゃって……あの、映画って……あたしと二人で、ですか?」 あたしはまず軽く驚いてみました。これで直ぐに喰らいついてホイホイついていくと、軽い女と思われて警戒されるから気をつけたほうがいいと、佐々木さんからのアドバイスです。 「おや、もしかしてこうやって声をかけられるのは初めかい? そりゃあ珍しい。こんなに可愛いのに……そんなに怖がらなくてもいいんだよ。変なことしようってわけじゃないしさ。ただ映画を一緒に見ようってだけだぜ?」 ふふふ、あたしが可愛いという意見には賞賛してあげますが……こいつバカ丸出しですね。あたしが演技でしどろもどろしているってのに気付いてないようです。どうやら彼はあたしの演技に見事引っかかってます。 あたしの完璧な演技を前に、彼はナンパの経験も無いイモ女と勘違いして警戒を解くはずです。そうなればこっちのペースに持っていくのは8割方成功したといってもいいはずです。これも佐々木さんの言葉通りなのです。 ただ……一つ断りを入れさせてください。確かにナンパされたのは初めてなんですが、あたしはイモ女じゃありませんから。あれは言葉のあやですから。 「ねえ、一緒に見に行こうよ。この映画最高に面白いんだぜ。お茶も食事も奢るからさ。もしよかったら何かプレゼントするよ」 「……ぷぷ」 「??……どうしたのさ、彼女?」 「あ……いえ、なんでもないのです」 いやぁ、もう笑いが止まりません。ガードを固くして彼の誘いに簡単にはのらないようにしていると、面白いくらい彼は好条件を突き出してくれました。 こんなに効果があるとは思っても見ませんでした。さっすが佐々木さん。こんなに簡単に引っかかるとは…… もう少しいい条件が出たら軽く付き合ってあげることにしましょう。そして利用するだけ利用してさよなら、です。 「じゃあさ、あたしブルガリの……」 「橘――京子――」 く、九曜さん! あなたいきなり顔を出さないで下さい! 「あ! ……ああ!!」 ん? 彼の顔色が突然変わりました。どうしたのでしょうか? 「す、周防さん……こ、これは……これは関係ないんだ!」 へ……? もしかして、お知り合い? 「そう――元カレ――」 へ……? 今、なんと仰いましたか、九曜さん? 「元――カレ――」 か、カレーの元で……しょうか? 「違う――元カレ――以前――――カレシだった――相手――彼は……――」 え……? ええっ!! えええええっ!!! マジですかぁ!! 九曜さんに……あの九曜さんに彼氏がいたなんて! しかも元ですよ! 元!! 宇宙人の九曜さんが、あの無感情の塊である九曜さんが、あたしよりも早く異性とよろしくやっていたなんて…… 人間……いえ、生物としてのプライドが……く、くやしい…… あたしの心の中の葛藤を他所に、九曜さんは彼に話し始めました。 「彼女には――手を出さないほうが――いい――」 「え? どうして?」 「彼女――既にカレシ持ち――」 「がーん! ……そうだよな。こんなにかわいい娘なら、カレシが居て当然だよな。はあ、ナンパまた失敗か……」 あの……九曜さん? 何ゆえ勝手に話を進めているんですか? そしてあたしはいつカレシができたんでしょうか? 「(いいから――まかせて――彼は――ストーカー並に――しつこい……――別れた――原因が――まさにそれ――)」 九曜さんが元々小さい声を更に弱めてあたしに語り掛けました。……え? ストーカー? 「(そ、そうなんですか?)」 思わずあたしも小声になってしまいます。 「(そう……――だから――あなたは――何も言わないで――欲しい――――)」 「(わ、分かりました九曜さん。よろしくお願いします)」 そう言ってあたしは九曜さんに害虫駆除をお願いしました。……彼のお金で色々おごってもらう計画が頓挫したのは残念ですが、ずっと付きまとわれるのも嫌ですからね。 「彼女のカレシは――あなたと同じ高校で――同じクラス――」 「え? 本当か? 俺の知っているやつか?」 「もちろん――あなたの――よく知っている――人――」 「だ、誰だそいつは? いつの間に彼女と知り合いになったか聞いてやる! 教えてくれ!」 「それは――」 「そ、それは……?」 九曜さんはあたしのほうを一瞬見て、そして彼のほうを見直しました。 「耳――貸して――」 「あ? ああ……」 「…………――」 「…………!?」 「…………――」 「……なっ! それは本当か、周防さん!!」 「本当――」 一体何を吹き込んだのでしょうか? 九曜さんが彼に何かを耳打ちしたとたん、彼の顔が真っ赤に染め上がりました。 ですが、決して九曜さんに惚れて赤くなったわけではないようです。何故だか知りませんが、物凄く怒った表情をしているからです。 そして―― 「あの野郎!! お似合いの相方がいるってのに……他の女に手を出してやがったのか!!」 相方? 他の女? 何を話をしているんでしょうか? 「違う――彼女は――彼を――助けようとしている――――あの人の――束縛から――解放しようと――彼に尽くしている――」 「つ、尽くしているって……まさか、無理やりあんなこやそんなことを!」 「そう――彼女は――健気に――尽くしている――彼の――奴隷のごとく――他にもアレをアソコに(既定事項その1)したり――ナニをナニして――(既定事項その2)――させたり――――」 「ゆ、許せん!!」 彼は例えではなく、本気で顔から湯気を出しながら吼えました。すっごくブサイクで怖い顔です。 「橘さん!!」 「は、はいっ!!」 「あなたはあいつに騙されているんだ!! 俺があなたを救ってみせる!! だから、もう少しの辛抱だ!!」 へぇ? 一体何のことでしょうか? 「いいから――とりあえず――頷いて――」 はあ……分かりました九曜さん。――ええ、それじゃひとつよろしくお願いします。 「分かりました!! それじゃあ今からヤツをシメてきますよっ!!! うおおおおおーっ!!!!!!!!」 疾風怒濤、破竹の快進撃を絵に描いたような勢いで、彼はその場から走り去っていきました。 「あのー、九曜さん。彼に何て言ったんですか?」 「禁則――事項――です」 またキャラ変わっていますよ……九曜さん。 「気の――せい」 はいはい、そうですか。よかったですね。 ……それはさておき、彼を追っ払ってくれてありがとうございました。お礼といっちゃ何ですが、九曜さんのお好きなところに遊びに行きませんか? 「そう――する――行きたい――ところが――ある――」 ええ。ではそこに向けて出発しま……あっ! 「どう――したの――?」 「彼の名前、結局聞いてませんでしたね」 「別に――必要ない――いらない――」 ――それもそうですね。もう会うこともないでしょうし。では改めて出発しましょう! 「九曜さん、それで九曜さんの行きたい場所っていうのはどこですか?」 「もう――すぐ――ほらそこ――」 九曜さんが指差したのは、なんと大手予備校の校舎でした。 「へ? 九曜さん、何故ここに?」 「高校生――たるもの――勉学――第一――」 ううむ、言っていることに間違いは無いのですが、九曜さんが仰ると何故か間違って聞こえるのは気のせいでしょうか? 「それに――今――――受験に向けた――体験授業を行っている――しかも――無料――」 なるほど、無料ですか。それならば体験してみるのもいいかもしれませんね。どうせ今日は暇ですし、わかりました。では行って見ましょう。 あたしと九曜さんは、鉄筋コンクリートで覆われた校舎の中に入り、簡単な手続きをした後、指定された教室の中に入っていきました。 当たり前ですが、あたし達と同年齢と思われる高校生で溢れかえっていました。その後ろには、彼ら彼女らの親御さんと思われる方たちが肩を窄めて立ち尽くしていました。 うーん。なんだか異様な光景ですね。何故そこまでして勉強したいのかしら? そんなにいい大学に入りたいのでしょうか? 大学なんてネームブランドが多少異なるだけで、学ぶことはどこも似たり寄ったりですし。だから家から近いところに行けばいいのにね。 あ、佐々木さんは別ですよ。佐々木さんはあたしの考えが及ばない、崇高な計画があるに違いありませんから。だから佐々木さんには頑張ってもらいたいですね。 あたしは組織の情報操作によって、佐々木さんの行きたい大学に自動的に編入することができますし、敢えて距離を取る――別の大学や専門学校に席を置くこともできます。だから受験勉強というものには縁がありません。 それに、あたしの任務は受験勉強じゃありません。佐々木さんの身の保全。これが第一なのです。 キーンコーンカーンコーン―― チャイムの音が、放送用マイクから響き渡りました。授業開始の音……ここでは、体験授業開始の音です。 ……ちょっと緊張しますね。高校と同じなんでしょうけど、塾って言うのは行ったことが無かったので……どんなことを教わるんだろう? あ! 先生っぽい人が入ってきました! 思ったより若い、なかなかカッコイイ男の先生なのです。 「はい、えー、それでは今から体験授業を始めます。まず皆がここに来た理由ですが、様々なものがあるとは思いますが、根は同じ。希望の大学に受かるためだと思います。もちろん私達も、君達の願いを叶えるべく……」 先生はその後予備校の学習方針やら、受験までのプロセスやら、受験生達に知ってほしい7つの事柄など、様々な内容を喋りだしました。 うーん。かっこいいんですけど、話が長いのが玉にキズですね。もっと要約して、分かりやすく教えないと生徒にも飽きられちゃいますよ? 「……ちょっと聞いてみましょうか。ではそこの君」 「へ……? あ、あたし?」 「そう、あなた。あなたは何故この塾を選んだのですか? 他にも予備校はたくさんあると思いますが、参考までに教えていただきませんか?」 「え、えーっと……」 突然の質問に動揺しまくりました。まさか、暇つぶしで来て見ましたなんて言えません……どうしましょう…… 「はい――先生――」 あたしが返答に困っていると、隣に座っていた九曜さんが手を挙げ、あたしの変わりに喋りだしました。 「彼女は――片思いの――――彼を――一目ぼれした――彼を――探しに――ここまで――来ました――」 「く、九曜さん!?」 どよどよ…… 教室の中は一気にざわめき始めました。そりゃそうでしょう。あんな爆弾発言をしたら、教室の中は盛り上がること請け合いです。 「ち、違います! 決してそんなこと……」 あたしは必死になって否定しました。うそっぱちですから当然です。しかし…… 「ほほう、それは興味深いね。もう少し詳しく聞かせてくれないか?」 ……しかし、その話に興味をもった先生が、その場を沈めるどころか、余計に盛り上げる方向に進んでしまったのです。先生は目を輝かせながら、九曜さんに話を振ってきました。 「ここの予備校に――入っていく姿を――――見ている――だから――彼女も――足を踏み入れることを――決意した――」 「へえ。なかなかいい話だねえ。……で、その人の名前は知ってるの? わが校の生徒なら、名前を調べたら一発で分かるんだけど」 「彼の――名前は――わからない――――だけど――特徴なら――ある程度――言える―――」 「ほうほう、ではその特徴を教えてくれないかな? 僕が全力を持って調べてみるから」 「ありが――とう――彼は――やさぐれた――顔で――中肉中背――短髪だけど――揉み上げは――長め――北高の生徒を――着ていた――やれやれ――が――口癖――」 調子に乗った九曜さんもやたらと喋る喋る。ってかその特徴。キョンくんじゃないですか。何であたしとキョンくんをくっつけようとするんですか!? 「嫌……――なの?」 ううう……別に嫌だ、とまでは言いませんが、その……あたしとキョンくんがイチャイチャすると、あのお二人に制裁されますからね。それに古泉さんや森さんにも命狙われますし。 最近じゃあたしが佐々木さんの神人発生頻度を上げてるんじゃないかって、組織の人にも疑問視されているんです。だからあんまり彼に接近しすぎるのは控えたいんです。 「それは――置いといて――」 置いとくんですか! 「誰か――彼のこと――知りませんか……――」 ざわ……ざわ…… そしてまた教室内がどよめきました。まるで命を賭けたギャンブルを趣味にしている人たちがそうするように。 「あの……いいかな? ちょっと心当たりがあるんだけど」 そして、一人の男子生徒の発言によって、そのざわめきはかき消されました。 「北高で、やれやれっていう口癖の人に該当者がいるんだ。僕も北高の生徒だし、彼とは付き合いが長いから、何となくそうじゃないかと思うんだ。確か彼も以前に行われた体験教室に参加していたはずだったから。もしよければ連絡先を教えるよ」 男子生徒――少し童顔気味の彼は、飄々とした口調で宣言しました。もしかして、キョンくんのリアル知り合いでしょうか……? 「あり――がとう――是非――教えて――――ください――」 あたしがあまりのことにボーっと突っ立っていると、代わりに九曜さんが返答して、そして彼から連絡先を書いたメモ用紙を受け取りました。 「あなたも――お礼を言わなきゃ――」 ……何かすっごく間違っているような気がしますが……ここでもめてもしかたありません。あたしは『ありがとう』と彼に声をかけました。 この住所……もしかして、本当にキョンくんのものだったらどうしよう? あたしはそのことばかり気にしていました。 もしここに書かれている住所が、本当にキョンくんの住所であった場合、キョンくんにこのことがばれてしまいます。そこはかとなくまずいのです。 そして……そして、一番考えたくない可能性もまた秘めています。 彼は北高の生徒だと仰いました。北高の生徒であれば、涼宮さんのことは知らないはずはありません。彼と涼宮さんが親しいかどうかは定かではありませんが、それでも彼の今日の話は、噂話となって北高内に広まる可能性があります。 そして、もし……彼の話が、涼宮さんの耳に入ったら…… 「ひぇえぇえぇぇ!!」 「ど、どうしたの? いきなり素っ頓狂な声を出してさ!?」 ううっ。想像しただけで背筋が凍りつきます。まだ明け方や夜は肌寒いっていうのに、汗がとめどなく流れてきます。 ふう……この場を切り抜けるには、あたしが下手なことを言うより、さっさと認めて、この一件を軽く流したほうがよさそうです。 ……ですが、彼やこの場の人に約束してもらいましょう。あたしはとっさに考え出した策を講じる事にしました。 「あの……皆さんにお願いがあります。できればこのことを、彼に伝えないで欲しいんです。あたしは彼に直接この気持ちを伝えたいんです」 あたしの朗々たる斉唱に、一同注目していました。 「そして……もし北高の生徒さんがいらっしゃいましたら、やはり流布することをご遠慮願いたいのです。うわさで彼に伝わる可能性もありますから」 「うん。それがいいね。分かったよ。僕は北高生に絶対喋らないようにするよ。それと……この中に北高の生徒っているかな?」 彼はあたしの提案を快諾し、そしてあたしの心中を汲み取ってくれたようで、他の皆にも語りかけてくれました。 幸いなことに、北高の生徒は彼一人だけでした。 「どうやら僕しかいないみたいだね。僕が気をつければ、彼にうわさが伝わってくることは無いと思うけど……念のため、ここにいる皆も、北高の知り合いに話をしないようにしてくれると助かるんじゃないかな?」 「は、はい! 是非お願いします! あたし自身の問題ですし、自分で決着つけるのです!!」 あたしは決意に満ちた表情で(演技ですよ、演技)、自分の声を教室内に響かせました。 そして―― 「かっこいいじゃん! 頑張れよ!」 「その勢いがあれば大丈夫よ! ちゃんとゲットしなさい!」 「長年塾講師をやってるが先生は感動した! そういった思いが未来の世の中を動かすんだ!!」 あたしはその場にいる生徒や親御さん、そして塾の先生に賞賛を浴びせ続けられました。 えへへ、ちょっと恥ずかしいのです―― 「ふう、一時はどうなることかと思いましたよ。ですが丸く収まってめでたしめでたし、なのです」 「それは――よかった――」 その後、すっかり塾の説明が遅れたため、余分に時間を使用して体験授業は幕を閉じました。 外に出ると、西日が差し込み、あたりは黄昏色に染まっていました。 「あら、もうこんな時間。今日は色々あったわね。最初は暇で暇で仕方なかったんですが、九曜さんのおかげで結構充実した一日になったのです。ありがとう」 「礼を――言われるほどじゃ――ない」 「九曜さん、また暇になったら遊びましょうね」 「そう――する――」 「それじゃ、九曜さん。また今度」 「また――」 そう言って、あたしは西日に向かって歩き出し、九曜さんはトワイライトな東の空に向かって歩き出しました。 ――こんな感じで、あたしの退屈な一日が幕を閉じました―― 真新しく不釣り合いに大きいランドセルを抱えて登校する小学一年生、初めての制服にぎこちない仕草をみせる中学一年生、そして義務教育を終え、自分の道を歩き始めた高校一年生……エトセトラエトセトラ。 様々なフレッシュなスチューデントを見据え、俺もこんな殊勝な時期があったのかなとつい感慨にふけっていた。 恐ろしく暑い夏が終わったかと思いきや、嘘みたいに寒気団がこの地域にやって来た今年の冬。しかもかなり住み心地よかったらしく、四月になる直前まで名残惜しそうに滞在していたが、それもようやく別れを告げる事が出来た。 草木の芽は明るい大地を見つめ、虫達の数も多くなって来た昨今、俺は公園のベンチに座って春の暖かさを満身に受け止め、そしてこう呟いた。 「ねみぃ…………」 ……しょうがないだろ? 春眠暁を覚えず――英語で言えばIn spring one sleeps a sleep that knows no dawn――などと、世界中グローバルオーバーゼアーに伝えられているように、冬の寒さから開放されたこの季節は特に眠いんだよ。 中にはこの時期特に症状が酷くなる、某アレルギー諸症状緩和のための抗ヒスタミン剤のせいで眠気を催す人もいるが、生憎俺はそのような症状で耳鼻咽喉科のお世話になった事は一度たりともない。 まあそれはともかく、つまり俺は眠りに誘われる程暇を持て余しているのだ。 いつもならこの休日ハルヒが不思議探索と称する市内ぶらつき漫遊記があるのだが、本日も昨日に続きハルヒの緒事情により中止となってしまった。 なんと言うラッキーな一日だ。今日という時間を有意義に過ごすべきだな。さて、何をしようかな…… 家で惰眠を貪るのも一つの手だが、そうしたところで我が妹に阻止されるのは帰納法的に見ても明らかであるし、それにどうせ家にいても暇であるのは当然の理だ。 ならばいっそのことこちらから外に出て、散歩でもする方が吉と思い立ち、こうして公園まで来てみたのだ。俺が何故ここに似るのか、これで分かってくれれば幸いである。 ……が、思いもよらぬ誤算があった。この陽気である。こんなに気持ちいい天気の下では、散策するのも億劫になってきた。 これだけ暖かければ青空睡眠という粋な事をしても、誰一人として俺の行動を咎める奴なんぞいないだろうか? いや、あるはずが…… 「キョン、起きなさい。キョン」 ん……? なんだ、誰だ一体……ってハルヒ。今日は不思議探索は休みだろうが。何故ここにいるんだ? 「やあ、キョン。実は君に少々伺いを立てたいことがあってね。ここまではせ参じたというわけだ」 佐々木もいるのか? で、何が聞きたいんだ? 『あなた、昨日橘さんと何をしてたの?』 「はあ?」と俺。昨日は橘と行動を共にした記憶など爪の垢ほども無い。確かに橘からの着信はあったが、悉く無視した。せっかくの休みを橘のせいで振り回されるのは嫌だったからな。だからこう答えた。 「なんにもしてねえよ」 そう言うこった。じゃあな、俺は寝る…… 『うそおっしゃい』 「うっ!!」 俺は思わず悲鳴を上げた。ハルヒも佐々木も、闇よりも黒いオーラを噴出し始めたからだ。 な、何が彼女らをここまで黒くさせているんだ……? 俺がしどろもどろな対応をしていると、ハルヒが喋り始めた。 「正直に言いなさい、キョン。 昨日橘さんと何をしていたか。正直に話さえすれば、全裸で校庭100周の刑を、全裸で99周プラス3/4周の刑にまけてあげるわ」 減刑少な! 「おや? それとも全裸で光陽園学院の教室に乗り込んで、教壇の上でブレイクダンスをする方がいいのかい?」 どっちも嫌だ。それより何より、俺は昨日橘にあってなど無い。従って何をすることもできん。 『ふっふーん。どうあってもシラを切るつもりなんだ……』 顔を伏せて、呪文を唱えるようにつぶやく二人。いやだからな、やってないものはやってな…… 『ネタは上がってんのよ!!! この色魔!!!』 「ぐふぉ!」 俺は跳ね飛ばされた。二人に纏わりつく瘴気。その一部が噴出された際、具現化した見えざる負の力によって。 「ネタって何だよ! 俺は何も知らん!!」 「なら教えてあげるわ。あなた昨日、デパートに行ったわね!」 そこから既に間違っとるわ。昨日はずっと家にいたんだよ。 「しらばっくれんじゃないわよ! あたしも昨日そのデパートに行って、館内放送であんたが迷子になった橘さんを呼び出したことは明白なのよ!」 なんじゃそりゃ! 「しかも橘さん、あたしのかかりつけの歯医者にも行ったみたいね。受付のお姉さんが話してくれたわ。『橘さんっていう女の子が来て、キョンくんというカレシに嫌われないように、お口の中を綺麗にしていったわよ。これからファーストキスかもね』って!」 だからどうして俺の名がそこで出てくるんだよ! 「阪中からも電話があったわ! ツインテールの女の子が、キョンの名前を連呼してたそうじゃない!!」 人の話を聞けぇ! しかも何で阪中が関係して来るんだよ!! 「あたしが知りたいわよ! 不審に思った阪中が電話をよこしてさ、『連れの女の子をキョンくんに見せかけて、二人でシュークリームを食べあうような練習してた』って言ってたわ!」 なんじゃそりゃ! どうして阪中が橘のことを知ってんだ! 「知らないわよ! でも阪中が言う橘さんの特徴はピッタリ一致してたわ! 間違いなくあの橘さんよ!」 橘ー! お前阪中の家でも迷惑かけてんのかー! ――佐々木、頼む。お前からも注意してやったらどうだ!? 「それには及ばないよ。それより、僕の方にも昨日興味深いことがあったんだ。何でも一目惚れの彼を探しに、女の子がその予備校まで追ってきたそうだ。たまたま模試でその予備校にいた僕だけど、その話で持ちきりだったよ」 佐々木……? お前までいきなり何を? 「で、その場に偶然居合わせたのが国木田だ。彼に少女の詳細を聞いてみたら、『栗色の髪の毛のツインテール』との回答だったよ。おまけに傍にいたのが『光陽園学院の制服を着た、ボリュームのある黒髪の少女』だそうだ」 おい……まさか…… 「まさしく、あの二人に相違ないね。しかも捜索中の彼というのが、「やれやれ」が口癖の北高生だそうだ。……くっくっく。一体誰のことだろうね?」 さ、さあ……誰のことでしょうね……? 「しかも、北高生には秘密にして欲しいとそこで打ち明けたそうだ。彼に自分の思いを伝えるというのが表向きの理由らしいが……本当の理由は、ある特定の人に知られたくなかったのだろうね。それはおそらく……」 まさか、ハルヒとでも言いたいのでしょうか、佐々木さん? 「よくわかっているじゃないか。もし涼宮さんに露呈したら、橘さんは今ごろこの世の住人じゃなくなってしまうからね。完璧に策を施したつもりだったが……、実はそこに落とし穴があったんだ。それは僕の存在だ。幸か不幸か、僕は北高生ではない。ならばいいのだろうと、国木田は詳細を教えてくれたんだ」 …………。 「国木田の話を聞いて、間違いなく橘さんの仕業だって知ったわ。さあキョン。あなた橘さんとどこまで進んでるのか、いい加減白状なさい? 言わないと……」 だぁー! 待てぇー!! 俺は全く知らんぞ! 全部狂言だ! 橘の策略だ! お願い信じてくれ!!! 「あー! こんなところにいやがった! キョン!!」 谷口……お前はなんと言うタイミングで入ってくるんだよ……頼むから話をややこしくしないでくれ。 「お前! 橘さんになんてことしやがるんだ!」 『はぁ!?』 「嫌がる橘さんに(WAWAWWA)や、(WAWAWAWAWAWA!)なんかをしたそうじゃないか!!」 「た、谷口! それ本当なの!?」 「おう涼宮、本人が『うん』って言ったから間違いないぜ!」 「くくく、キョン……どうやら言い逃れはできないみたいだね……」 「キョン……あなたはあの電波を相手にしないって信じてたのに……」 「あんな可愛い娘に、人間とは思えない仕打ちをするとは……見損なったぜ」 「な、なあ……もう少し穏便に話そうぜ。なんだか知らないけど、勘違いしていることが多そうだし……俺の話を聞けば、分かってくれるさ、な?」 三者三様とはよく言ったもので、原因は皆ばらばらのようである。しかし、怒りの矛先はどうやら同じらしく、その方向はつまり……俺であるらしく…… 「ふふふ……そうね」 「くくく……ならば」 「じっくり聞こうじゃないか……」 な、なあ……穏便にって俺は言ったんだけど、何でそんなに表情が固いんだみんな? ほ、ほら、もっと笑って過ごそうぜ? ――プチッ―― 『おのれのせいじゃあああああぁぁぁぁ!!!!!』 うぉぉぉ!! ――俺は一目散に駆け出した。 「待てぇー!!」 「待ちやがれ―!!」 「待てと言ってるのだキョン!!」 ――そんな形相でホイホイ捕まるわけにもいかねえだろうがぁぁぁ!!! ……こうして俺は、暇を持て余す一日から一転、背後から襲う殺気に怯えながら身を隠す恐怖の一日へと変化したのだった。 必死に逃げ惑いながらも、俺は橘への思いを胸に馳せていた。 ――あいつぅ!! 次に会ったらお前を森さんの前に引きずり出してやるから覚えとけぇ!!!―― 「ふう……今日も暇ですね、九曜さん」 「暇――ですね――」 おわり
https://w.atwiki.jp/jidoubunkorowa/pages/87.html
その男たちは、みな同じ格好をしていた。 鉛色のスーツに、鉛色の鞄を持ち、鉛色の帽子を被り、その下はツルツルのはげあたま。そして口には、小さな鉛色の葉巻。 コンクリートのビルを思わせる無機質さが人の形をしたような男たちだ。 色彩が無く黒か白かの濃淡すらも無い、文字通りの灰色の男たちは、みんな一つの人形のようなものの前に整列していた。 「つまり、この殺し合いを中止すると?」 一列に並んだ男たちのなかで、真ん中の男が、驚くほどの棒読みでそう言った。まるで機械じかけの合成音声のような、平たい声だ。 「中止ではないロン。やり直しロン。」 男の声に、なにかのマスコットキャラクターのような声が答えた。そして声にあわせて、男たちの前で、人形が肩をすくめた。 白と黒の人形は、まるで人間には見えない格好なのに、男たちよりも人間らしい声で、鼻で笑いながら言った。 「ジョーカーとして参加者になってるカイが重症を負ったロン。アイツの周りには積極的なマーダーは置いてなかったんだけど〜殺る気スイッチが簡単に入るヤツもいたんだロン、グレラン打ち込まれてノびてるし、ステルスマーダーにしたかった下弦の壱はくたばるし、つまんなくなったロン。だ・か・ら〜……」 ニヤリ、と柔らかさを感じさせない、ツルツルした人形の口が大きく三日月形に歪んだ。 「時間を巻き戻しちゃいま〜〜〜す!」 そういうと人形は、手に持ったいかにもなスイッチを押した。すると、後ろの大きな画面に、デジタル時計が表示される。『06 00 00』という数字が、一秒ごとにカウントダウンを開始した。 「6時間後の7時15分ぐらいに過去に飛ぶようにセットしたロン。もう押しちゃったから今からは変えられないロ〜ン!」 「そうか。それは困ったねぇ。」 「ムム!? またお前、いつの間に現れたロン!」 せせら笑う、なにかのキャラクターのような人形の得意げな声が、声色とともに驚いたものへと変わった。 新たに発せられた声の主を探して、人形がキョロキョロと周囲を見渡す。 「ここだよ。」 「なっ、なにっ! どこにいたっ!」 人形はわざとらしい語尾さえなくなり、慌てて振り返る。カウントダウンが進む画面の前の空中に、その少年はいた。 灰色の男たちとも、白黒の人形とも違う、白の軍服のような服装に仮面をつけた格好。モノトーンな室内で、その少年だけは色を持っていた。 「ギロンパ、困るなあ、勝手にゲームをリセットしちゃ。」 少年はふわりと音もなく空中から地面に降りると、ギロンパと呼ばれた人形に楽しそうに言った。歯ぎしりするような表情になったギロンパとは真逆の、仮面から覗く口元に笑みを浮かべて。 ギロンパはもともと、デスゲームが趣味だった。未来の世界のネコ型ロボット的存在の彼は、そのためにわざわざ大掛かりな仕掛けを用意して、時には食べ物や武器まで用意して、あるいは石に変えたり急速に老化する薬物の入った首輪を開発したりした。 だが、ギロンパが趣味と実益を兼ねて主催したギルティゲームは、たった数人の小学生に打ち破られた。疑心暗鬼を煽り、仲間割れをさせ、それでも気がつけば首輪を解除され、挙げ句の果てに爆破する会場に置いて行かれて脱出された。 だが、それは問題ない。集めた小学生はそういうことができる人間たちだったし、脱出されてもまた誘拐する手はずもあった。なにより、ギロンパは時間を操れる。過去へと戻り、豊富な技術と工業力でひねり潰すことなど造作もない。曲がりなりにもゲームという形である必要はあるが、その範囲内でぶち殺すことなどいくらでもやりようはあった。 それができない目の前の少年が現れるまでは。 ギロンパは血眼になって少年の情報を探した。戸籍を調べDNAから血縁関係を探った。だが、何一つとして少年に繋がるものはなかった。 まったくの空白なのだ。人が人として生きているのなら、必ずどこかでなにかの痕跡がある。それがない。そして、時間を操れる自分すらも及びがつかない謎の力。 (やっぱり間違いないロン! こいつはハッタリじゃなく時間を操れるロン!) (ふざけるなふざけるなふざけるな! あの空条承太郎も、桃花・ブロッサムも! なんでギロンパ様の世界に入ってくるんだロン!) とてつもない過去か、あるいはとてつもない未来か。どちらかはわからないが、ギロンパは少年が自分と同じ時間を操れる人間だと確信した。それが殺し合いを中止しやり直す理由だった。 帝王たるギロンパの世界に入門し、頭上に現れる不埒者。そんな存在を許しておけない、偉そうに喋りかけてくることに耐えられない。 ギロンパにとってギロンパが上でそれ以外は下だ。そのトップとボトムの関係は絶対である。 だから、ギロンパはこのある日突然現れた素性も探れぬ少年の言葉に乗り、この殺し合いを開いた。全ては少年と、彼が取りまきとして連れる灰色の男たちの能力を探り、奪い、抹殺するためだ。 そしてそのための切り札は見つかった。ギロンパにとっては不本意極まりないが、時間を停められる承太郎や桃花は、少年を殺しうる存在だ。それはもろんギロンパにとっても天敵ではあるのだが、だからこそ有用性が信頼できる。 (コイツも時間を操れるなら、一発で殺しきらないとこっちの狙いに気づかれるロン。空条承太郎が向かってるのは上弦の陸を配置した豪華客船、オープニングとイヤミでもう二回も時を止めてるかもしれないのに、何度も連発されたらコイツも気づきかねないロン。桃花・ブロッサムもあのまま深海恭哉の近くにいられると時間をまた止めるかもしれない。こっちも保護しないとまずいロン……!) そのためにギロンパは、ジョーカーの氷室カイに危害が及んだことを理由に独断で時間を戻した。 完全なる建前で、ギロンパとしてはカイも殺す気でいるのだが、近くにいる桃花を保護する理由づけとして最適だった。 もちろんこれだけでは理由としては乏しいので、更なる口実は用意してある。 「困ってるのはこっちだロン。最初の話なら、知り合い同士でまとまってゲームの参加者にするはずだったロン。なのに、単独参戦が50人も60人もいるってどういうことロン! しかも誰とも合わずにあっさり死ぬとか、何もゲームに残せてないやつもいるロン! お前の人選なんだからなんであいつら参加させたのか言ってみロン!」 「……まいったねえ。それを言われると。一人だけで参加させても面白い子たちだと思ったんだ。まさかあんなかんたんに撃ち殺されたり殴り殺されたりするとはねぇ……」 「次は初期配置だけでなく人選にも関わらせロン! 拐ってきて保存してるおもちゃはたくさんあるロン、そいつらと入れ替えるロン! こっちはプロロン!」 300人の参加者のうち60人以上は単独参戦だった。つまり2割以上である。これがどういう意味を持つか、ギロンパはよく理解していた。 基本的にデスゲームは知り合い同士でヤッたほうが盛り上がる。知らない子供二人に殺し合わせるよりも、兄弟や姉妹や親友や恋人同士で殺し合わせる方が見ていて興奮できる。 だから少年の用意した人選は明らかにデスゲームの王道から外れていた。たしかに不思議な力や一芸に秀でた子供もいたが、それを発揮する前に死体になってしまっては元も子もない。放送で名前を読み上げても、誰も知らないのなら、ニュース番組で流れる殺人事件の被害者の名前ぐらいの価値しかない。 ギロンパの叱咤に少年の口元から笑みが消えた。 「まあ、もう変えられないならしょうがないか。わかったよ、次は参加者についても話し合おう。じゃあ、僕らは失礼するよ。」 少年が手をかざすと、灰色の男たちと共に姿が消えた。 「言うだけ言って逃げやがったロン」とギロンパはつぶやくが、内心では笑いたい気分だった。正論をぶつけられて尻尾を巻いて逃げ出したことで、自分の計画がバレずに進められる。 (でも、あのワープは危険ロン。用意したセンサーやレーダーでも、ヤツが何をしたのかまるでわからないロン。科学じゃなく魔法の力なのかロン? そんな非科学的なオカルトはありえないロン!) (とにかく、あと6時間殺し合いをあまりやらせないようにする必要があるロン。ヤツにデータを晒すのはリスクが大きい、霧の濃度を高めて参加者が接触するチャンスを減らすロン。規模が大きいから時間戻すのにも時間がかかるから……そうだ、合成映像流してやるロン。ディープフェイクに気づくか試してやるロン……!) 首輪の中の薬品の一部や、赤い霧の大部分は少年たちが用意したものとはいえ、今回のバトル・ロワイヤルの基本的な部分はギロンパがギルティゲームのために用意したものを流用したものである。都市や会場内に落ちている部品も少年たちへの外注とはいえ、設計もギロンパサイドであり、食品や生物なども仕様はギロンパが指定している。特に監視カメラや種々のシステム・プログラムはギロンパの技術が100%だ。会場内の都市にある監視カメラは全てギロンパが掌握し、それ以外には首輪でのみ参加者の動向を把握できる。そしてその首輪は薬品の一部以外全てギロンパ製だ。 つまり、ギロンパの命令一つで、主催陣の監視の程度が決まる。 ギロンパは密やかな意思を込めてコンソールを叩いた。 「それで、そのまま帰ってきちゃったの? いいの、アイツの好きにさせて?」 「面白そうだしいいんじゃないかな。ギロンパが何を企んでるか楽しみだよ。」 「あまり遊ぶなよ、『社長』。こちらが時間を操れぬとわかればなにをするかわからない。もっとも、私も参加者の人選には異議があったがね。」 所変わって、少年は二人の男とテーブルを囲んでいた。 最初に話した男の名前は、黒鬼。一見すると没個性的ながらも顔の良い、どこにでもいそうでなかなかいないイケメンという印象を周りに与えるが、その名の通りに彼は地獄の鬼である。赤い霧の提供者であり、首輪の薬品の一部の提供者であり、今回の殺し合いにおける人員の提供者であり、別のデスゲームの主催者だ。 もう一方の少年を社長と呼んだ男の名前は、キャプテン・リン。艷やかな金髪を長く伸ばし豪奢な服装に身を包む若き青年は、まるでオペラの舞台から飛び出してきたような珍奇さとそれを自然と受け入れさせる風格を持つ。ラ・メール星は火の国・フラムの実権を自らの率いる火の鳥軍団をもって握った最高指導者である彼もまた、首輪の薬品の一部の提供者であり、今回の殺し合いにおける人員の提供者であり、そして物質的な用意の大部分のスポンサーである。 「参加者については君たち以外からも文句が出てるんだよね。そんなに変な選び方したかなあ?」 「大人が多すぎないかい? こどもが苦しむ方がみんな興奮するよ。」 「水沢パセリさえ参加者から外すのなら、こちらに言うことはない。彼女は我が国の王女の親類でね。身柄を保護しなくてはならないのだ。」 そして彼らの前に座り、ポットから紅茶をついで飲む仮面の少年。その名前は、大形京。黒魔法の使い手であり、灰色の男たち・ギロンパ・黒鬼・リン、そしてこの場にいない全ての主催者を引き合わせた、黒幕である。 変身・窃視・読心・洗脳・墓暴き・瞬間移動・時間停止……幼少よりその魔力に目をつけた魔女の虐待ともいえる英才教育により身につけた数々の黒魔法は、殺し合いを開くにあたって遺憾なくその力を振るった。 その中でも殺し合いの根幹となったのが、画面に入り込む黒魔法である。 この黒魔法は、彼の世界である『黒魔女さんが通る!!』において、黒鳥千代子ことチョコが『若おかみは小学生!』の世界に移動することも可能とした望外の神秘である。すなわち、擬似的な異世界への移動が可能となるのだ。 ただし、この黒魔法を大形が使うにあたって、いくつかの制限がある。 まず、『黒魔女さんが通る!!』の世界をAとし、『若おかみは小学生!』の世界をBとする。当然ながら、二つの世界は交わることはない。 次に、『黒魔女さんが通る!!』の世界における『魔界』をA'とし、『若おかみは小学生!』の世界における『魔界』をB'とする。二つの魔界はそれぞれの世界において限定的に『魔界』でない世界、つまり人間の暮らす『普通の世界』と接し、同時に『魔界』同士でも限定的に接する。 つまり、AはAと、A'はB'と、B'はBと、数珠繋ぎに繋がりがある。『黒魔女さんが通る!!』の世界は『黒魔女さんが通る!!の『魔界』を通じて『若おかみは小学生!』の『魔界』に通じ、『若おかみは小学生!』の世界に通じているのだ。 そこで大形は考えた。条件さえ整えれば、本の中の世界を介して自由に行動できるのではないかと。 大形は魔界を軸に様々な世界へと足を運んだ。中でも、こどもを使ってデスゲームを行う主催者たちは軸として最適であった。彼らは方向性の同じ悪意と、探れども真意も正体も把握しきれぬ謎に包まれていた。あとは簡単だった。地獄の鬼も、未来のロボットも、世界の共通言語は、「こどもが苦しむ姿が見たい」という邪悪な欲望と、「何かを得たい」というシンプルな願い。大形は、鬼には未来の技術の一端を見せ、ロボットには地獄の不可思議な超常現象を見せた。デスゲームという『魔界』により、様々な世界への足がかりを手に入れた彼は、そこで聞きかじったノウハウを横流しすることで強大なコネクションを極めて短期間で作り上げたのだ。 「社長、面会のお時間です。」 「そんな、ようやくギロンパの監視も落ち着いてお茶が飲めたのに。」 「プログラムの成功のためには、ここで無駄にする時間は無いと、我々社員一同は考えています、社長。」 「君たちは本当に時間にきびしいね……失礼するよ。次の会食の時に参加者について話し合おうか。」 そしてそれを可能にした最大の立役者が、大形を社長にした灰色の男たちである。 彼らは人々から契約によって時間を奪う。そして奪った時間を使うことで、大形では干渉しきれない世界であっても、大形より長時間、大形より口が上手く振る舞える。魔王と呼ぶにふさわしい黒魔法使いと言っても小学生である大形にとって、有能なビジネスマンである彼らは自分の手足として申し分の無いものだ。 彼らは『モモ』の世界の時間泥棒。さして本を読まない大形に変わり、数々の児童文庫を侵略先として提案し、彼らの社長に就任することを求めてきた。なぜ、児童文庫ばかりを選んだのか——それは、彼らがある少女のような人間を自分たちの知らないところで大形に刺激を与えられないためだ——は大形にはわからなかったが、元々『若おかみは小学生!』の世界では自分のいる『黒魔女さんが通る!!』の世界が児童文庫として本になっているようなので、さして気にも止めなかった。 彼にとって重要なのは、このプログラムの安定化だ。 数多の児童文庫のキャラクターが一同に会したこの世界を基点に、更に様々な多数の世界への玄関口とする。そのためには、この殺し合いが打破されてはならず、また長引くほうがいい。時間を巻き戻されればまた安定化も最初からだが、大形の知識は巻き戻らないため更に効率的に動ける。同じことは主催者たちにも言えるため警戒は必要だが、大形には自分が負けるはずがないという油断と自信があった。また、デスゲームでは主催が破れた場合参加者全員がゲーム中の生死にかかわらず生還できる場合がある。大形はそれを利用し、主催を討たせ参加者を元の世界に返すことで、彼ら自体を異世界への扉として利用しようとしていた。 つまり、大形にとってこの殺し合いは破綻しようと決着がつこうとどちらにせよ損をすることはないのだ。もちろん大形一人ではバトル・ロワイヤルを開くことはできないため破綻しないほうが望ましいが、破綻しても得るものはある。 「——良い子にしてた?」 その一例に、大形は檻越しに話しかけた。 灰色の男たちからは空にしか見えない牢獄は、全体に黒魔法による結界が張られ、神秘の瞳を持つものならば。それが超常の存在を捕らえるために用意されたものだとわかるだろう。 『それ』のように、大形は既に高度な科学や神秘のなにかを多数有している。殺し合いの参加者として、あるいは支給品として集められたそれらの多くは、プログラムの成否問わず失われることが決定しているが、短い間にも有用な情報をもたらしている。大形には使いこなせずとも、誰かに横流せば利用価値も大きい。 「強気だね。そうだ、差し入れを持ってきたんだ。あれを。」 当然そこに誰かがいるかのように、大形は牢獄へ向かって話した。灰色の男たちの一人が、大形の支持に従い、先程の会食から持ってきたプリンを、檻の隙間から床に置く。空の場所に誰かいるかのように置かれたそれはお供え物にも見えるが、実際お供え物だ。なにせ、中にいるのは『神』である。雛見沢という村で祀られる邪神だと、大形は灰色の男たちに言っていた。姿が見えない彼らは思うところはあってもそういうものだと受け入れる。これまでの間に、不気味な存在である彼らをしても理解の及びつかないものを様々に見てきた。いまさら田舎の邪神だか悪魔だかも気にするほどのものではない。 「じゃあまたね。あっ、君が気にしていた竜宮レナだっけ。彼女、死んだよ。」 帰りがけに大形はそう言うと、わざとらしく耳を塞いだ。彼にだけ聞こえる声を邪神がわめいているのだろうが、この牢獄では大形以外に誰にも届くことはない。 大形のこれまでの計画は人選に文句を言われたこと以外順調だ。あまり強い参加者をいれて破綻させたくないのでふつうの人を参加者にしたが、これまでのプログラムを見る限り多少は強い参加者を増やせと言われても問題はない。第一、本当に強すぎる存在は参加者にできない。一度、鬼舞辻無惨なる鬼のリーダーを捕まえに行ったときには、またたく間に皆殺しにされその後一切消息を追えなかった。他にも都市伝説やら妖怪やらで似たようなことが起きた。正体がわからないものは拐いにくいのだろう。 大形のすべきことは一つ。主催者たちが余計なことをしないように目を光らせることだ。なにせデスゲームの主催者に悪の軍団のリーダーなどいかにも悪事をしそうな存在ばかり集まっている。チャンスさえあれば裏切りもいとわないだろう。特にギロンパは危険だ。彼に黒魔法を教え込んだ黒魔女と同じものを感じる。今頃自分を追い落とす策略を練っているだろうと大形は察していた。 「タブレットをくれる?」 「はい。こちらを。」 「ありがとう。さて、さっき見たと似はまだ10人しか死んでなかったけど、少しは増えたかな。」 大形はタブレットに流れる殺し合いの映像を見る。それは既に、リアルタイムでギロンパのフェイクが紛れ込んだものだが、今はまだ気づかない。 今はただ順調そうだと、喉を掻きながら思うだけであった。 ※主催者が時間を巻き戻します。参加者が一部入れ替わり、バトル・ロワイヤルがリスタートします。 ※主催者に新たに【灰色の男たち@モモ】、【ギロンパ@ギルティゲーム】、【大形京@黒魔女さんが通る!!】、【黒鬼@絶望鬼ごっこ】、【キャプテン・リン@パセリ伝説】が確定しました。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4384.html
「全く……九曜さんのおかげで偉く恥をかいちゃいましたよ。頼みますからあまり変なことはしないで下さい」 「――――」 宴会で、受けると思ってやった一発ギャグが案外受けなくて、しんみりと席上を後にしたしがないサラリーマンのような顔を浮かべながら、あたし達はデパートを逃げるかのように出て行きました。 今はデパートから少し離れた、桜並木を歩いています。 「はあ……」 九曜さんのおかげで被害が被りまくりです。あたしへの精神的ダメージは、ボス戦で8回逃げた後に発生する改心の一撃ラッシュ1ターン分に相当します。 今日の九曜さん、ツッコミ具合が滅茶苦茶です。ひどすぎます。何でここまでキワどいことをするのかしら? 「あなたも――彼に――対しては――迷惑を――かけ過ぎ―ー」 え……? あたしが、彼に迷惑をかけてるですって? 根も葉もないことを言わないで下さい! 「根も葉も――ある……――あなたは――――彼に――空気を読めと――言われているのに――改善の――兆しは――ない――」 そ、それは……あたしだって努力しているわけで……決してわざとじゃないんですってば。 「彼は――それにより――様々な被害を――被っている―」 う……確かに……。いくら空気を読めないヤツと言われても、あたしにだってそれくらいの自覚はあります。以前なんか佐々木さんがいるのに、あたしは気付かずキョンくんを挑発して、後でもの凄く怒られたこともありましたしね。 ……まああのときの場合、正確には空気というより気配だったんですけどね。 「だから――わたしが――彼の心境を――正しく伝えるべく――――行動を起こした……あなたには――悪口を――言う資格は――ない――――彼の――気持ちが――分からない――限り――」 「…………」 あたしは九曜さんのおしゃべりに、沈黙せざるを得ませんでした。 彼の……気持ち……ですか? 「そう――彼は――あなたの成長を――楽しみに――しているはず――あなたの――――心の――成長を――そして――それができた暁には――最高の――パートナーとして――迎い入れる――所存――」 がーん! ……あたしは今、胸と頭と肩と首筋を強打されたような状況に陥りました。 そ、そうだったんですか! キョンくんがあたしに空気を読めって言ったのは、そう言う意味だったのですか! ふふふふふ、全く素直じゃないですね、キョンくんったら。あたしが必要なら必要って言ってくれれば、どれだけでもサポートしますのに。 んん……もうっ! やっぱりキョンくんってばツンデレですね。 「やっぱり――単純――」 九曜さん、何か仰いましたか? 「別に――何も――――」 そうですか? 今悪口が聞えた気がしたんですがね? 「ちっ――こういう時は――鋭い――奴――」 何が鋭いんですか? 「何でも――ない――もう何も――言わない――」 ?……おかしな九曜さんですこと。 でも、おかげであたしのテンションは何故か絶好調になりました!! やる気も沸いてきました! それじゃあ次に向かいますよ!! 「どこに――行くの――?」 特に考えていません!! 「お――い――こら――」 まったキョンくんのマネですか? 可愛いですね、九曜さんったら! 「キャラ――変わりすぎ――怖い――――」 ともかく、あっちのほうに進みましょう! あたしはハイテンションのまま、桜並木をひたすら直進していました。何故だか走りませんが、すっごく気分がいいのです。 そうでしたか、キョンくんはあたしに期待しているのですね。全く、それならそうと早く仰ってくれれば良いのに。ね、九曜さん? ・・・・・・ あれ? 九曜さん? もしかしてまた行方不明? もう! どこに行ったのかしら? お願いですからちゃんとついてきてくださいよ! そうでなくても気配が無いから、探すのにいっつも苦労するんですよ! 「うぃーっす、どうしたの彼女? 意気阻喪気味な表情をしちゃってさ」 「へ?」 あたしがキョロキョロと九曜さんを探していると、背後から声をかけられました。振り返ってみると、そこには男の子がすました顔で突っ立っていました。 背の高さはキョンくんと同じくらい。年も同様でしょうか? ただ、春だというのに冬物のブルゾンを身に纏い、ビリビリのカーゴパンツがダッサダサです。それに何と言っても髪型がオールバックというのが劣悪です。 正直、あんまりお近づきにはなりたくない人です。 「もしかして、今一人? なら丁度良かった。実は映画のペアチケットがあるんだけどさ。一緒に見に行くはずだった相方がドタキャンしてさ、どうしようか困ってたんだ。良かったら見に行かない? チケット代奢るからさ」 そんなあたしの思いを他所に、彼は興味津々とした顔であたしを眺め、そして陽気な声で喋りかけてきました。 ……はっ、これはもしかして、今流行りのナンパというものでは? 佐々木さんが塾行く途中に引っかかってるやつですね。聞いたことがあります。でも、佐々木さんは今ここには居ません。もしかして…… 「あの……あたしに言ってるんでしょうか?」 「あ? ああ。そうだけど? 他にそれっぽい女の子がいないじゃん。君を誘ってるのさ」 ががががーん!! つ……ついに、ついに!! ついにあたしにもナンパされましたぁぁ!!! びっくりです! 阿鼻叫喚です! 驚き桃の木山椒の木なのです!! うゃっっっほーーーーーーい!!!! ……コ、コホン。あたしとしたことが、少々取り乱してしまいました。本日二度目ですね。申し訳ありません。佐々木さんが物凄く自慢してくるので、ちょっとうらやましかったんですよ。ナンパされるのが。 正直、自分の好みのタイプではないですが、でもこうやって声をかけてくれただけでも嬉しいのです。 被ナンパ率では佐々木さんには遠く及びませんが、こんなあたしでも女としての魅力は十二分にあるのですね。 ちょっと自信がわいてきました! あたしはいぶかしげな顔をする彼を尻目に、にひひひひとニヤケタ笑いを浮かべました。 ふふふふ……あなた見た目があるじゃない。お礼として、あなたのナンパに乗ってあげようじゃないですか。感謝しなさい。 もちろん一回限りですけどね。以前佐々木さんに教わったアレを試すときがついに来たみたいです。 即ち。 この男にタダ飯を奢ってもらうという、佐々木流豪華な食事をタダで食い尽くすぜプラン! これにつきます! 実はあたし、うらやましかったんですよ、これが。 説明の必要性は余り無いかもしれませんが、念のためにしておきましょう。 彼があたしの気を引くために、あたしの好きなものを買ってくれるといってくるはずです。男なんてそんなもんですから……っと、これは佐々木さんのセリフですよ? 念のため言っておきますけど。 そこで彼の優しい言葉を逆手にとって、食いだめ買いだめをします。そして頂くもんだけ頂いて、さよならしてやるのです。たしかそんな感じなことを仰っていました、佐々木さん。 そうそう、佐々木さんは以前、この方法で買ってもらったものを売っ払い、ガッポガポ儲けたそうなんです。 あたしも参考までに教わったんですが、ついに有効活用する時が来ました! へへへっ、まずはアレをこうして、そんでもってこうしてこうやって…… 「……彼女、どうしたんだい、彼女?」 へ……? っと、危ない危ない。思わず顔に出すところでした。 「え、ええ。ちょっとびっくりしちゃって……あの、映画って……あたしと二人で、ですか?」 あたしはまず軽く驚いてみました。これで直ぐに喰らいついてホイホイついていくと、軽い女と思われて警戒されるから気をつけたほうがいいと、佐々木さんからのアドバイスです。 「おや、もしかしてこうやって声をかけられるのは初めかい? そりゃあ珍しい。こんなに可愛いのに……そんなに怖がらなくてもいいんだよ。変なことしようってわけじゃないしさ。ただ映画を一緒に見ようってだけだぜ?」 ふふふ、あたしが可愛いという意見には賞賛してあげますが……こいつバカ丸出しですね。あたしが演技でしどろもどろしているってのに気付いてないようです。どうやら彼はあたしの演技に見事引っかかってます。 あたしの完璧な演技を前に、彼はナンパの経験も無いイモ女と勘違いして警戒を解くはずです。そうなればこっちのペースに持っていくのは8割方成功したといってもいいはずです。これも佐々木さんの言葉通りなのです。 ただ……一つ断りを入れさせてください。確かにナンパされたのは初めてなんですが、あたしはイモ女じゃありませんから。あれは言葉のあやですから。 「ねえ、一緒に見に行こうよ。この映画最高に面白いんだぜ。お茶も食事も奢るからさ。もしよかったら何かプレゼントするよ」 「……ぷぷ」 「??……どうしたのさ、彼女?」 「あ……いえ、なんでもないのです」 いやぁ、もう笑いが止まりません。ガードを固くして彼の誘いに簡単にはのらないようにしていると、面白いくらい彼は好条件を突き出してくれました。 こんなに効果があるとは思っても見ませんでした。さっすが佐々木さん。こんなに簡単に引っかかるとは…… もう少しいい条件が出たら軽く付き合ってあげることにしましょう。そして利用するだけ利用してさよなら、です。 「じゃあさ、あたしブルガリの……」 「橘――京子――」 く、九曜さん! あなたいきなり顔を出さないで下さい! 「あ! ……ああ!!」 ん? 彼の顔色が突然変わりました。どうしたのでしょうか? 「す、周防さん……こ、これは……これは関係ないんだ!」 へ……? もしかして、お知り合い? 「そう――元カレ――」 へ……? 今、なんと仰いましたか、九曜さん? 「元――カレ――」 か、カレーの元で……しょうか? 「違う――元カレ――以前――――カレシだった――相手――彼は……――」 え……? ええっ!! えええええっ!!! マジですかぁ!! 九曜さんに……あの九曜さんに彼氏がいたなんて! しかも元ですよ! 元!! 宇宙人の九曜さんが、あの無感情の塊である九曜さんが、あたしよりも早く異性とよろしくやっていたなんて…… 人間……いえ、生物としてのプライドが……く、くやしい…… あたしの心の中の葛藤を他所に、九曜さんは彼に話し始めました。 「彼女には――手を出さないほうが――いい――」 「え? どうして?」 「彼女――既にカレシ持ち――」 「がーん! ……そうだよな。こんなにかわいい娘なら、カレシが居て当然だよな。はあ、ナンパまた失敗か……」 あの……九曜さん? 何ゆえ勝手に話を進めているんですか? そしてあたしはいつカレシができたんでしょうか? 「(いいから――まかせて――彼は――ストーカー並に――しつこい……――別れた――原因が――まさにそれ――)」 九曜さんが元々小さい声を更に弱めてあたしに語り掛けました。……え? ストーカー? 「(そ、そうなんですか?)」 思わずあたしも小声になってしまいます。 「(そう……――だから――あなたは――何も言わないで――欲しい――――)」 「(わ、分かりました九曜さん。よろしくお願いします)」 そう言ってあたしは九曜さんに害虫駆除をお願いしました。……彼のお金で色々おごってもらう計画が頓挫したのは残念ですが、ずっと付きまとわれるのも嫌ですからね。 「彼女のカレシは――あなたと同じ高校で――同じクラス――」 「え? 本当か? 俺の知っているやつか?」 「もちろん――あなたの――よく知っている――人――」 「だ、誰だそいつは? いつの間に彼女と知り合いになったか聞いてやる! 教えてくれ!」 「それは――」 「そ、それは……?」 九曜さんはあたしのほうを一瞬見て、そして彼のほうを見直しました。 「耳――貸して――」 「あ? ああ……」 「…………――」 「…………!?」 「…………――」 「……なっ! それは本当か、周防さん!!」 「本当――」 一体何を吹き込んだのでしょうか? 九曜さんが彼に何かを耳打ちしたとたん、彼の顔が真っ赤に染め上がりました。 ですが、決して九曜さんに惚れて赤くなったわけではないようです。何故だか知りませんが、物凄く怒った表情をしているからです。 そして―― 「あの野郎!! お似合いの相方がいるってのに……他の女に手を出してやがったのか!!」 相方? 他の女? 何を話をしているんでしょうか? 「違う――彼女は――彼を――助けようとしている――――あの人の――束縛から――解放しようと――彼に尽くしている――」 「つ、尽くしているって……まさか、無理やりあんなこやそんなことを!」 「そう――彼女は――健気に――尽くしている――彼の――奴隷のごとく――他にもアレをアソコに(既定事項その1)したり――ナニをナニして――(既定事項その2)――させたり――――」 「ゆ、許せん!!」 彼は例えではなく、本気で顔から湯気を出しながら吼えました。すっごくブサイクで怖い顔です。 「橘さん!!」 「は、はいっ!!」 「あなたはあいつに騙されているんだ!! 俺があなたを救ってみせる!! だから、もう少しの辛抱だ!!」 へぇ? 一体何のことでしょうか? 「いいから――とりあえず――頷いて――」 はあ……分かりました九曜さん。――ええ、それじゃひとつよろしくお願いします。 「分かりました!! それじゃあ今からヤツをシメてきますよっ!!! うおおおおおーっ!!!!!!!!」 疾風怒濤、破竹の快進撃を絵に描いたような勢いで、彼はその場から走り去っていきました。 「あのー、九曜さん。彼に何て言ったんですか?」 「禁則――事項――です」 またキャラ変わっていますよ……九曜さん。 「気の――せい」 はいはい、そうですか。よかったですね。 ……それはさておき、彼を追っ払ってくれてありがとうございました。お礼といっちゃ何ですが、九曜さんのお好きなところに遊びに行きませんか? 「そう――する――行きたい――ところが――ある――」 ええ。ではそこに向けて出発しま……あっ! 「どう――したの――?」 「彼の名前、結局聞いてませんでしたね」 「別に――必要ない――いらない――」 ――それもそうですね。もう会うこともないでしょうし。では改めて出発しましょう! 「九曜さん、それで九曜さんの行きたい場所っていうのはどこですか?」 「もう――すぐ――ほらそこ――」 九曜さんが指差したのは、なんと大手予備校の校舎でした。 「へ? 九曜さん、何故ここに?」 「高校生――たるもの――勉学――第一――」 ううむ、言っていることに間違いは無いのですが、九曜さんが仰ると何故か間違って聞こえるのは気のせいでしょうか? 「それに――今――――受験に向けた――体験授業を行っている――しかも――無料――」 なるほど、無料ですか。それならば体験してみるのもいいかもしれませんね。どうせ今日は暇ですし、わかりました。では行って見ましょう。 あたしと九曜さんは、鉄筋コンクリートで覆われた校舎の中に入り、簡単な手続きをした後、指定された教室の中に入っていきました。 当たり前ですが、あたし達と同年齢と思われる高校生で溢れかえっていました。その後ろには、彼ら彼女らの親御さんと思われる方たちが肩を窄めて立ち尽くしていました。 うーん。なんだか異様な光景ですね。何故そこまでして勉強したいのかしら? そんなにいい大学に入りたいのでしょうか? 大学なんてネームブランドが多少異なるだけで、学ぶことはどこも似たり寄ったりですし。だから家から近いところに行けばいいのにね。 あ、佐々木さんは別ですよ。佐々木さんはあたしの考えが及ばない、崇高な計画があるに違いありませんから。だから佐々木さんには頑張ってもらいたいですね。 あたしは組織の情報操作によって、佐々木さんの行きたい大学に自動的に編入することができますし、敢えて距離を取る――別の大学や専門学校に席を置くこともできます。だから受験勉強というものには縁がありません。 それに、あたしの任務は受験勉強じゃありません。佐々木さんの身の保全。これが第一なのです。 キーンコーンカーンコーン―― チャイムの音が、放送用マイクから響き渡りました。授業開始の音……ここでは、体験授業開始の音です。 ……ちょっと緊張しますね。高校と同じなんでしょうけど、塾って言うのは行ったことが無かったので……どんなことを教わるんだろう? あ! 先生っぽい人が入ってきました! 思ったより若い、なかなかカッコイイ男の先生なのです。 「はい、えー、それでは今から体験授業を始めます。まず皆がここに来た理由ですが、様々なものがあるとは思いますが、根は同じ。希望の大学に受かるためだと思います。もちろん私達も、君達の願いを叶えるべく……」 先生はその後予備校の学習方針やら、受験までのプロセスやら、受験生達に知ってほしい7つの事柄など、様々な内容を喋りだしました。 うーん。かっこいいんですけど、話が長いのが玉にキズですね。もっと要約して、分かりやすく教えないと生徒にも飽きられちゃいますよ? 「……ちょっと聞いてみましょうか。ではそこの君」 「へ……? あ、あたし?」 「そう、あなた。あなたは何故この塾を選んだのですか? 他にも予備校はたくさんあると思いますが、参考までに教えていただきませんか?」 「え、えーっと……」 突然の質問に動揺しまくりました。まさか、暇つぶしで来て見ましたなんて言えません……どうしましょう…… 「はい――先生――」 あたしが返答に困っていると、隣に座っていた九曜さんが手を挙げ、あたしの変わりに喋りだしました。 「彼女は――片思いの――――彼を――一目ぼれした――彼を――探しに――ここまで――来ました――」 「く、九曜さん!?」 どよどよ…… 教室の中は一気にざわめき始めました。そりゃそうでしょう。あんな爆弾発言をしたら、教室の中は盛り上がること請け合いです。 「ち、違います! 決してそんなこと……」 あたしは必死になって否定しました。うそっぱちですから当然です。しかし…… 「ほほう、それは興味深いね。もう少し詳しく聞かせてくれないか?」 ……しかし、その話に興味をもった先生が、その場を沈めるどころか、余計に盛り上げる方向に進んでしまったのです。先生は目を輝かせながら、九曜さんに話を振ってきました。 「ここの予備校に――入っていく姿を――――見ている――だから――彼女も――足を踏み入れることを――決意した――」 「へえ。なかなかいい話だねえ。……で、その人の名前は知ってるの? わが校の生徒なら、名前を調べたら一発で分かるんだけど」 「彼の――名前は――わからない――――だけど――特徴なら――ある程度――言える―――」 「ほうほう、ではその特徴を教えてくれないかな? 僕が全力を持って調べてみるから」 「ありが――とう――彼は――やさぐれた――顔で――中肉中背――短髪だけど――揉み上げは――長め――北高の生徒を――着ていた――やれやれ――が――口癖――」 調子に乗った九曜さんもやたらと喋る喋る。ってかその特徴。キョンくんじゃないですか。何であたしとキョンくんをくっつけようとするんですか!? 「嫌……――なの?」 ううう……別に嫌だ、とまでは言いませんが、その……あたしとキョンくんがイチャイチャすると、あのお二人に制裁されますからね。それに古泉さんや森さんにも命狙われますし。 最近じゃあたしが佐々木さんの神人発生頻度を上げてるんじゃないかって、組織の人にも疑問視されているんです。だからあんまり彼に接近しすぎるのは控えたいんです。 「それは――置いといて――」 置いとくんですか! 「誰か――彼のこと――知りませんか……――」 ざわ……ざわ…… そしてまた教室内がどよめきました。まるで命を賭けたギャンブルを趣味にしている人たちがそうするように。 「あの……いいかな? ちょっと心当たりがあるんだけど」 そして、一人の男子生徒の発言によって、そのざわめきはかき消されました。 「北高で、やれやれっていう口癖の人に該当者がいるんだ。僕も北高の生徒だし、彼とは付き合いが長いから、何となくそうじゃないかと思うんだ。確か彼も以前に行われた体験教室に参加していたはずだったから。もしよければ連絡先を教えるよ」 男子生徒――少し童顔気味の彼は、飄々とした口調で宣言しました。もしかして、キョンくんのリアル知り合いでしょうか……? 「あり――がとう――是非――教えて――――ください――」 あたしがあまりのことにボーっと突っ立っていると、代わりに九曜さんが返答して、そして彼から連絡先を書いたメモ用紙を受け取りました。 「あなたも――お礼を言わなきゃ――」 ……何かすっごく間違っているような気がしますが……ここでもめてもしかたありません。あたしは『ありがとう』と彼に声をかけました。 この住所……もしかして、本当にキョンくんのものだったらどうしよう? あたしはそのことばかり気にしていました。 もしここに書かれている住所が、本当にキョンくんの住所であった場合、キョンくんにこのことがばれてしまいます。そこはかとなくまずいのです。 そして……そして、一番考えたくない可能性もまた秘めています。 彼は北高の生徒だと仰いました。北高の生徒であれば、涼宮さんのことは知らないはずはありません。彼と涼宮さんが親しいかどうかは定かではありませんが、それでも彼の今日の話は、噂話となって北高内に広まる可能性があります。 そして、もし……彼の話が、涼宮さんの耳に入ったら…… 「ひぇえぇえぇぇ!!」 「ど、どうしたの? いきなり素っ頓狂な声を出してさ!?」 ううっ。想像しただけで背筋が凍りつきます。まだ明け方や夜は肌寒いっていうのに、汗がとめどなく流れてきます。 ふう……この場を切り抜けるには、あたしが下手なことを言うより、さっさと認めて、この一件を軽く流したほうがよさそうです。 ……ですが、彼やこの場の人に約束してもらいましょう。あたしはとっさに考え出した策を講じる事にしました。 「あの……皆さんにお願いがあります。できればこのことを、彼に伝えないで欲しいんです。あたしは彼に直接この気持ちを伝えたいんです」 あたしの朗々たる斉唱に、一同注目していました。 「そして……もし北高の生徒さんがいらっしゃいましたら、やはり流布することをご遠慮願いたいのです。うわさで彼に伝わる可能性もありますから」 「うん。それがいいね。分かったよ。僕は北高生に絶対喋らないようにするよ。それと……この中に北高の生徒っているかな?」 彼はあたしの提案を快諾し、そしてあたしの心中を汲み取ってくれたようで、他の皆にも語りかけてくれました。 幸いなことに、北高の生徒は彼一人だけでした。 「どうやら僕しかいないみたいだね。僕が気をつければ、彼にうわさが伝わってくることは無いと思うけど……念のため、ここにいる皆も、北高の知り合いに話をしないようにしてくれると助かるんじゃないかな?」 「は、はい! 是非お願いします! あたし自身の問題ですし、自分で決着つけるのです!!」 あたしは決意に満ちた表情で(演技ですよ、演技)、自分の声を教室内に響かせました。 そして―― 「かっこいいじゃん! 頑張れよ!」 「その勢いがあれば大丈夫よ! ちゃんとゲットしなさい!」 「長年塾講師をやってるが先生は感動した! そういった思いが未来の世の中を動かすんだ!!」 あたしはその場にいる生徒や親御さん、そして塾の先生に賞賛を浴びせ続けられました。 えへへ、ちょっと恥ずかしいのです―― 「ふう、一時はどうなることかと思いましたよ。ですが丸く収まってめでたしめでたし、なのです」 「それは――よかった――」 その後、すっかり塾の説明が遅れたため、余分に時間を使用して体験授業は幕を閉じました。 外に出ると、西日が差し込み、あたりは黄昏色に染まっていました。 「あら、もうこんな時間。今日は色々あったわね。最初は暇で暇で仕方なかったんですが、九曜さんのおかげで結構充実した一日になったのです。ありがとう」 「礼を――言われるほどじゃ――ない」 「九曜さん、また暇になったら遊びましょうね」 「そう――する――」 「それじゃ、九曜さん。また今度」 「また――」 そう言って、あたしは西日に向かって歩き出し、九曜さんはトワイライトな東の空に向かって歩き出しました。 ――こんな感じで、あたしの退屈な一日が幕を閉じました―― 真新しく不釣り合いに大きいランドセルを抱えて登校する小学一年生、初めての制服にぎこちない仕草をみせる中学一年生、そして義務教育を終え、自分の道を歩き始めた高校一年生……エトセトラエトセトラ。 様々なフレッシュなスチューデントを見据え、俺もこんな殊勝な時期があったのかなとつい感慨にふけっていた。 恐ろしく暑い夏が終わったかと思いきや、嘘みたいに寒気団がこの地域にやって来た今年の冬。しかもかなり住み心地よかったらしく、四月になる直前まで名残惜しそうに滞在していたが、それもようやく別れを告げる事が出来た。 草木の芽は明るい大地を見つめ、虫達の数も多くなって来た昨今、俺は公園のベンチに座って春の暖かさを満身に受け止め、そしてこう呟いた。 「ねみぃ…………」 ……しょうがないだろ? 春眠暁を覚えず――英語で言えばIn spring one sleeps a sleep that knows no dawn――などと、世界中グローバルオーバーゼアーに伝えられているように、冬の寒さから開放されたこの季節は特に眠いんだよ。 中にはこの時期特に症状が酷くなる、某アレルギー諸症状緩和のための抗ヒスタミン剤のせいで眠気を催す人もいるが、生憎俺はそのような症状で耳鼻咽喉科のお世話になった事は一度たりともない。 まあそれはともかく、つまり俺は眠りに誘われる程暇を持て余しているのだ。 いつもならこの休日ハルヒが不思議探索と称する市内ぶらつき漫遊記があるのだが、本日も昨日に続きハルヒの緒事情により中止となってしまった。 なんと言うラッキーな一日だ。今日という時間を有意義に過ごすべきだな。さて、何をしようかな…… 家で惰眠を貪るのも一つの手だが、そうしたところで我が妹に阻止されるのは帰納法的に見ても明らかであるし、それにどうせ家にいても暇であるのは当然の理だ。 ならばいっそのことこちらから外に出て、散歩でもする方が吉と思い立ち、こうして公園まで来てみたのだ。俺が何故ここに似るのか、これで分かってくれれば幸いである。 ……が、思いもよらぬ誤算があった。この陽気である。こんなに気持ちいい天気の下では、散策するのも億劫になってきた。 これだけ暖かければ青空睡眠という粋な事をしても、誰一人として俺の行動を咎める奴なんぞいないだろうか? いや、あるはずが…… 「キョン、起きなさい。キョン」 ん……? なんだ、誰だ一体……ってハルヒ。今日は不思議探索は休みだろうが。何故ここにいるんだ? 「やあ、キョン。実は君に少々伺いを立てたいことがあってね。ここまではせ参じたというわけだ」 佐々木もいるのか? で、何が聞きたいんだ? 『あなた、昨日橘さんと何をしてたの?』 「はあ?」と俺。昨日は橘と行動を共にした記憶など爪の垢ほども無い。確かに橘からの着信はあったが、悉く無視した。せっかくの休みを橘のせいで振り回されるのは嫌だったからな。だからこう答えた。 「なんにもしてねえよ」 そう言うこった。じゃあな、俺は寝る…… 『うそおっしゃい』 「うっ!!」 俺は思わず悲鳴を上げた。ハルヒも佐々木も、闇よりも黒いオーラを噴出し始めたからだ。 な、何が彼女らをここまで黒くさせているんだ……? 俺がしどろもどろな対応をしていると、ハルヒが喋り始めた。 「正直に言いなさい、キョン。 昨日橘さんと何をしていたか。正直に話さえすれば、全裸で校庭100周の刑を、全裸で99周プラス3/4周の刑にまけてあげるわ」 減刑少な! 「おや? それとも全裸で光陽園学院の教室に乗り込んで、教壇の上でブレイクダンスをする方がいいのかい?」 どっちも嫌だ。それより何より、俺は昨日橘にあってなど無い。従って何をすることもできん。 『ふっふーん。どうあってもシラを切るつもりなんだ……』 顔を伏せて、呪文を唱えるようにつぶやく二人。いやだからな、やってないものはやってな…… 『ネタは上がってんのよ!!! この色魔!!!』 「ぐふぉ!」 俺は跳ね飛ばされた。二人に纏わりつく瘴気。その一部が噴出された際、具現化した見えざる負の力によって。 「ネタって何だよ! 俺は何も知らん!!」 「なら教えてあげるわ。あなた昨日、デパートに行ったわね!」 そこから既に間違っとるわ。昨日はずっと家にいたんだよ。 「しらばっくれんじゃないわよ! あたしも昨日そのデパートに行って、館内放送であんたが迷子になった橘さんを呼び出したことは明白なのよ!」 なんじゃそりゃ! 「しかも橘さん、あたしのかかりつけの歯医者にも行ったみたいね。受付のお姉さんが話してくれたわ。『橘さんっていう女の子が来て、キョンくんというカレシに嫌われないように、お口の中を綺麗にしていったわよ。これからファーストキスかもね』って!」 だからどうして俺の名がそこで出てくるんだよ! 「阪中からも電話があったわ! ツインテールの女の子が、キョンの名前を連呼してたそうじゃない!!」 人の話を聞けぇ! しかも何で阪中が関係して来るんだよ!! 「あたしが知りたいわよ! 不審に思った阪中が電話をよこしてさ、『連れの女の子をキョンくんに見せかけて、二人でシュークリームを食べあうような練習してた』って言ってたわ!」 なんじゃそりゃ! どうして阪中が橘のことを知ってんだ! 「知らないわよ! でも阪中が言う橘さんの特徴はピッタリ一致してたわ! 間違いなくあの橘さんよ!」 橘ー! お前阪中の家でも迷惑かけてんのかー! ――佐々木、頼む。お前からも注意してやったらどうだ!? 「それには及ばないよ。それより、僕の方にも昨日興味深いことがあったんだ。何でも一目惚れの彼を探しに、女の子がその予備校まで追ってきたそうだ。たまたま模試でその予備校にいた僕だけど、その話で持ちきりだったよ」 佐々木……? お前までいきなり何を? 「で、その場に偶然居合わせたのが国木田だ。彼に少女の詳細を聞いてみたら、『栗色の髪の毛のツインテール』との回答だったよ。おまけに傍にいたのが『光陽園学院の制服を着た、ボリュームのある黒髪の少女』だそうだ」 おい……まさか…… 「まさしく、あの二人に相違ないね。しかも捜索中の彼というのが、「やれやれ」が口癖の北高生だそうだ。……くっくっく。一体誰のことだろうね?」 さ、さあ……誰のことでしょうね……? 「しかも、北高生には秘密にして欲しいとそこで打ち明けたそうだ。彼に自分の思いを伝えるというのが表向きの理由らしいが……本当の理由は、ある特定の人に知られたくなかったのだろうね。それはおそらく……」 まさか、ハルヒとでも言いたいのでしょうか、佐々木さん? 「よくわかっているじゃないか。もし涼宮さんに露呈したら、橘さんは今ごろこの世の住人じゃなくなってしまうからね。完璧に策を施したつもりだったが……、実はそこに落とし穴があったんだ。それは僕の存在だ。幸か不幸か、僕は北高生ではない。ならばいいのだろうと、国木田は詳細を教えてくれたんだ」 …………。 「国木田の話を聞いて、間違いなく橘さんの仕業だって知ったわ。さあキョン。あなた橘さんとどこまで進んでるのか、いい加減白状なさい? 言わないと……」 だぁー! 待てぇー!! 俺は全く知らんぞ! 全部狂言だ! 橘の策略だ! お願い信じてくれ!!! 「あー! こんなところにいやがった! キョン!!」 谷口……お前はなんと言うタイミングで入ってくるんだよ……頼むから話をややこしくしないでくれ。 「お前! 橘さんになんてことしやがるんだ!」 『はぁ!?』 「嫌がる橘さんに(WAWAWWA)や、(WAWAWAWAWAWA!)なんかをしたそうじゃないか!!」 「た、谷口! それ本当なの!?」 「おう涼宮、本人が『うん』って言ったから間違いないぜ!」 「くくく、キョン……どうやら言い逃れはできないみたいだね……」 「キョン……あなたはあの電波を相手にしないって信じてたのに……」 「あんな可愛い娘に、人間とは思えない仕打ちをするとは……見損なったぜ」 「な、なあ……もう少し穏便に話そうぜ。なんだか知らないけど、勘違いしていることが多そうだし……俺の話を聞けば、分かってくれるさ、な?」 三者三様とはよく言ったもので、原因は皆ばらばらのようである。しかし、怒りの矛先はどうやら同じらしく、その方向はつまり……俺であるらしく…… 「ふふふ……そうね」 「くくく……ならば」 「じっくり聞こうじゃないか……」 な、なあ……穏便にって俺は言ったんだけど、何でそんなに表情が固いんだみんな? ほ、ほら、もっと笑って過ごそうぜ? ――プチッ―― 『おのれのせいじゃあああああぁぁぁぁ!!!!!』 うぉぉぉ!! ――俺は一目散に駆け出した。 「待てぇー!!」 「待ちやがれ―!!」 「待てと言ってるのだキョン!!」 ――そんな形相でホイホイ捕まるわけにもいかねえだろうがぁぁぁ!!! ……こうして俺は、暇を持て余す一日から一転、背後から襲う殺気に怯えながら身を隠す恐怖の一日へと変化したのだった。 必死に逃げ惑いながらも、俺は橘への思いを胸に馳せていた。 ――あいつぅ!! 次に会ったらお前を森さんの前に引きずり出してやるから覚えとけぇ!!!―― 「ふう……今日も暇ですね、九曜さん」 「暇――ですね――」 おわり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4082.html
それから数十分後…… 「…………」 「――――」 「…………」 「――――」 「……むにゃ……」 「――――」 「……た、助けて……」 「――――」 「……うわ……捕ま……」 「――いい加減――起きろ――」」 「へぶぅ!!!」 あたしは突然九曜さんに殴られました。しかもグーで。 「何をするんですか九曜さん!」 「暇だ――からといって――時間を――蔑ろに――すべきではない――」 「無駄になんかしてません! あたしは……その……」 徐々に昇りつつある太陽を眺め、ふんっと鼻を鳴らし、気合を一発注入しました。 「今まで別世界の旅人となってアナザーワールドをさまよっていたのです。そして異世界の悪魔に追いかけられていたのです!」 そう、そうなのです。あたしは異世界へと降り立ち、右も左も分からないこの世界を彷徨っていると、突然この世のものとは思えない何か――悪魔が、あたしに襲い掛かってきたのです。 そりゃびっくりしましたよ。食べられるーと絶望に打ちひしがれたりもしました。 でも、あたしは命からがらこの世界に戻ってくることができました。ふう、危なかった。もうこれであの悪魔とはおさらばなのです。 ん? 待てよ? もしかしたらこの世界にも悪魔がやってきてるかも。そしたらこの世界にも危機が…… 「寝てて――悪夢を見てた――って――素直に言えば――いいのに」 「ぎくぅ!」 ち、違います! 寝てなんかいません! 本当です!! 「寝言が――まる聞こえ――だった……」 ぐ……いつもボケーっとしているわりに、なかなか鋭いところをついてきますね、九曜さん。 そりゃー、ほんのちぃーとばかりボーっとしていたのは確かですけどね。もう少し穏便な言い方があるじゃないですか。瞑想をしてたとか、精神を統一していたとか…… 「あなた――は――――夢の世界に――旅立っていた――――いい加減――認めなさい――」 ううう……正解……なんて絶対言わないのです。ここでそれを認めたらなんか悔しいですから。こうなったら言い訳で押し通してやります。 「ほら、この時期ってみんなの霊魂が出雲大社にいくじゃないですか。あたしもそこに旅立っていたんですよ。その途中悪魔に……」 「それは――八百万の――神――それに――今は卯月――――神無月には程遠い――」 く、九曜さん……古事を何時の間に覚えたんですか? 「つい――さっき――――取得した――」 ええー! ……って言いたいですけど、九曜さんですから何でもありですね。よく考えたらキョンくんのモノマネをやるなんて言い出したときも突然でしたしね。 「言い訳は――もういい――それより――面白いことは――ないの――?」 九曜さんは首を1ミリラジアンほど動かしました。いつもは微動だにしない九曜さんがこれ程大きな動きをするとは……相当暇をもてあましているみたいですね。 九曜さんもああ言っている事ですし、あたしの夢の話……いえ違います、異世界の冒険話はこっちに置いときましょう。 「うーん、そうですね。確かにホケケーとしていても、こんなにいい天気だから眠っちゃうのがオチですね。ちょっと散歩でもしませんか? 九曜さん?」 「――――」 「? 九曜さん?」 「わたしは――今――彼である――周防――九曜なる個体は――この空間内に――存在しない――」 ま、まだ彼のモノマネを引きずっていたんですか? 本気の本気で暇をこいてますね、九曜さん……いや、操り主の天体観測……あれ、違ったっけ? 変態両親……? まあどうでもいっか。 「わかりましたよ、九曜さ……キョンくん、散歩にでも行きませんか?」 「わかった――」 そういって九曜さんはベンチから立ち上がり、ストストと歩き始めたのでした。彼女の気の赴くままに。 はあ……何だか、小さい子のお守りをしているみたいです。あたし。 「あっ、待ってください。あたしも……って、あれ?」 九曜さんが徐々に離れていくのを見て、あたしも後を追いかけるべくベンチから立ち上がろうとした瞬間。 あたしは自分の足に違和感を覚えました。何かがまとわりついているような感触が。 ……なんか見たくないような気もしますが、見ないと話が進まないので見ることにしましょう。あたしは目線を下ろし…… 「あ……」 傍から見れば、あたしの顔は綻んでいたんじゃないでしょうか? それくらいびっくり且つ微笑ましいものがそこにいたんです。 あたしの足元にいたのは、なんと犬さんでした。 それも白い毛をモコモコとさせた、とってもかわいらしい犬さんです。 犬さんはあたしの足元、ロングブーツの周りをうろつき、時たまあたしの方を見ては匂いをかいでいました。 うわぁ……かわいい……頭ナデナデしちゃおうかしら。 あたしはしゃがみこんで、この愛玩犬の頭を触ろうとし…… ジョロロロロロ…… 「うおおーっ!!」 ちょい待てぇ! 何してけつかんねんこのクソガキャ!!! 言わしたろかい!!!! 「はしたない――叫び――」 ええっ! しまったぁ!! 善良な市民があたしに白い目線を向けている!! このままじゃあたしが作り上げてきたセレブリティが音を立てて崩れ去ってしまう!! フォローしなきゃ! 「……エェー、コホンッ! 今のは腹話術です。決してあたしの心の叫びなどではありません。お願い信じてください」 『…………』 ……よし、おっけーです。皆が一斉に違う方向を向き始めました。作戦成功なのです! 「目を――合わせたくない――――だけ」 九曜さん! そんなことはありませんって! キョンくんみたいなツッコミは止めてください! 「だって――わたしは――彼――」 ……はいはい、わかりましたよわかりました。キョンくんやめてくださいね。 さて、横槍が入りましたが、今あたしの身に起きたハプニング。なんだか分かりましたでしょうか? 分かりませんかそうですか。ならば解説するのです。 この犬さん、なんと、いきなりあたしのロングブーツにショ○ベンを引っ掛けやがったのです。 あたしが苦労して着服した……もとい、バイトでためたお金で買った靴なのに、なんて事を…… 「わん」 わんって言われても困ります! 責任とって下さい! って言っても犬じゃ無理か……飼い主さんでてきなさい! さもないと、こいつにフライングスーパーエクセレントダイナミック京子アタックダッシュダーボをぶちかましてやるのです!! 「大人げ――ない――」 うるさいです九曜さん! あなたにあたしの気持ちが分かってたまるもんですか! 一度痛い目にあわないと反省しないですよこういう輩は!! ああもうっ! 我慢できません……おい犬っころ! 出てこない飼い主が悪いんですからね! 覚悟なさい!! 「ルソー、ルソー、どこ行ったの? でてらっしゃい」 「わん わん」 タタタタッ…… すかっ 「え……? うそっ!? うわぁぁあ!!」 ゴキャ プチッ ゴキャ プチッ 「…………」 あまりの出来事に、あたしは思わず沈黙してしまいました。 あたしがこのクソ犬に正拳を喰らわそうと、思いっきり殴りかかった瞬間、犬が声の聞こえたほうに走り出したんです。 つまり、あたしは思いっきり豪快に空振りしました。 そして勢い余ってそのまま母なる大地に抱擁をかまして…… へええ……い、痛いですぅ…… 「あら、こんなところにいたのね。ダメでしょ。勝手に走っていっちゃ」 「くぅぅん」 あたしは顔を突っ伏したまま、このやり取りを聞いていました。っていうか、顔面が痛くて動かせません。 で、でも……声のする方を見なきゃ……飼い主かもしれないし…… 痛みを堪えてそちらを見ると、茂みから出てきた少女と戯れるクソ犬の姿がありました。少女はあたしと同じくらいの年齢でしょうか……そして、おそらく飼い主でしょう。じゃれあう姿が正しくそれものです。 「全く……いつまでたってもやんちゃさんなのね」 ……なるほどなるほど。ならば謝罪させてやるのです。弁償するまで許さないんですから。 あたしは起き上がってパンパンと埃を払い、この少女に駆け寄ったクソ犬と負けず劣らずの速度で、彼女を追いかけました。 「ちょっと待って! ……あなた、この犬の飼い主よね?」 「え、ええ……そうですけど」 「この犬、あたしのブーツに……その、おしっこをかけちゃったんですよ。どうしてくれるの?」 「ええっ! 本当なの? ルソー!?」 「くーん」 「ちょっと確認させてほしいのね」 彼女はあたしのブーツに顔を寄せて、そして匂いを嗅ぎ始めました。ちょっと女王様チックで憧れる……ごめんなさい。なんでもないです。 「……この匂いは確かにルソーのものなのね。ごめんなさい。今きちんと拭きますから。すみません。靴を脱いでもらえますか?」 少女は持っていたト-トバッグから如雨露とウエスを取り出しました。あたしは不承不承ながらも靴を脱ぎ、彼女に渡しました。 そして彼女は公園の水道水を如雨露に入れて、ウエスを湿らせながらあたしの靴を拭き始めたのです。 「……………」 あたしは黙ってその作業を見守り続けていました。本当は飼い主であろうこの少女に怒鳴ってやろうと思っていましたが、彼女の態度の毒気を抜かれたからです。 あの如雨露やウエス。本来は電柱に引っ掛けたものを洗い流すためのものなのでしょう。見ていてなんとなく分かりました。 そして彼女のトートバッグ。作業中にチラ見をさせてもらいましたが、ビニール袋やスコップ等、恐らく犬用の下の処理を始末するためのグッズが満載でした。 彼女はペットを飼うことの意義をきちんと認識した、責任感のある飼い主のようです。当然しつけもちゃんと行き届いているのでしょう。 ならば、この犬があたしに引っ掛けたのは恐らく偶然か何かってことになります。 あ、もしかして。あたしの種族を超えた美貌に驚愕して、思わず失禁してしまったのでは? そうですね。そうに違いありません。 だとすれば、こちらがわめき散らしたら罰が当たります。犬がその辺で用を足すのは自然の摂理ですし、雄犬が縄張りを確認するためにあのような行動をするのは当然ですもんね。 少し寛大な気持ちになったあたしは、この犬と飼い主さんを許すことにしました。 あたしってば慈悲深い人間でえらいと思いませんか? えへへ? やっぱりそう思いますか。 「っへっへっへ」 「こらっ、もうこんなことしちゃ駄目だぞ?」 あたしはなおもあたしの周りをうろつく白犬にやれやれと頷き、この犬をなでようとして…… 「きゃぁぁあああ!! そのポーズはもしかして!!」 「ルソー! それは電柱じゃないのね!!」 ……そしてそして再び目標を見据えて発射されました。 「逃げてなのね!」 「ひぇええええ!!!」 「わぉ~ん」 か、勘弁してくださぁ~い!! はあはあはあはあ……こ、ここまで来れば大丈夫でしょう…… でも、あたし何か悪いことしましたか? 何で犬の標的にされなきゃいけないんですか? 「――ユニーク――」 九曜さん……それ、キョンくんのモノマネじゃないですね…… 「おや――こいつは――うっかり――――」 もういいです…… 「本当にごめんなさい。まさかルソーが人様に向かってあんなことをするとは思わなかったのね」 彼女……阪中さんと名乗る彼女は、頭を深々と下げ申し訳無さそうにあたしに謝罪しました。 ここまで卑屈に謝られたら、あたしも許さないわけにはいけません。少々納得できないものもありますが、ここは淑女の対応を致しましょう。 「いえ、まあ、犬のすることですし……飼い主が反省しているのならもういいです。でも、もう今後こんなことはしないようにしつけをお願いします」 「うん……そうします。でもおかしいなあ。今まで人に向かっておしっこを引っ掛けたことなんて無かったのに」 「――彼女の――足が――よほど気に入った――」 九曜さんが変な事を言い出しました。 「そういえば……なんとなくこの子の好きそうな足の形をしているのね」 この人も意味不明なことを仰りやがりました。あの、それってどういう意味でしょうか? 「うーん、平たく言うと……その、なんと言うか……」 ……? どうしたんですか? 何か言いにくい事なんですか? 「いえ、まあ……円柱型で、ええと、色もちょっと……何て言うんだったっけな?」 彼女の言葉は、歯切れの悪いものでした。もう。いいですからちゃんと言って下さい。 「大根――足」 え゛…… 「太くて――不恰好――」 「そうそう、そう言いたかったの。まさにそれなのね……って、どうしました?」 「…………」 ううう、みんなひどい……自分では『バッチリ チリ脚♪』だと思ってたのに…… その後、責任を感じた彼女は染み抜きが家にあるからお詫びがてら是非来てくださいと、あたし達を彼女の家に招き入れたのでした。 あたしや九曜さんは断るすべもなく――というか、当然の対応ですし、何より暇ですし――彼女の家に向かったのでした。 「ここなのね」 彼女が普通に指差した建造物を見て、あたしは彼女に対する恨みは忽然と消えてしまった――くらいのそれは豪奢な佇まいでした。 「ちょっと待ってて」 彼女は鍵を取り出し、ガチャガチャと鍵が複数ついたキーホルダーを取り出し―― 「ルソー、もう少しの辛抱だからじっとしてるのね」 そうこうしている間に鍵が開き、ドアを開けたとたん、ルソーは一目散に駆けていきました。 「さ、入って」 あたし達も阪中さんに釣られて中に入り―― 「うわあ……」 「――――」 思わず声をあげました。なんとこの犬。ちゃんと玄関のマットで足を拭いているのです。自分ひとりで。 「ちゃんとしつけているからね。外から帰ってきたら足を拭くように」 へえええ、凄いですね……頭良いんですね。 「でも――自分の縄張りと――橘――京子の――足は――区別できない――」 九曜さん……嫌な事思い出さないで下さい。せっかく忘れてたのに…… 「彼の――マネ――ツッコミ――」 はいはい。わかりましたよキョンくん。ひどいですぅ。そんなこと言わないで下さい。 これで良いですか? 「感情が――篭っていない――」 あなたに言われると無償に腹が立つんですが…… 阪中家のダイニングでのんびりくつろいでいると、彼女のお母さんが現れ、あたし達に陳謝していました。あの子ったらルソーのこと甘やかせ過ぎだとか、今染み抜きしているから、お菓子でも食べながら待っててねとか…… こうしてみると、彼女のお母さんもいたって普通の人でした。なのであたしはお構いなくと社交辞令を交わした後、九曜さんと談笑していました。 「うわぁ! このシュークリーム美味しいのです! これならいくつでも食べられるのです!」 「――――」 九曜さん? どうしました? 「あんまり――食べ過ぎると――太るぞー―」 大きなお世話です! というか、まだキョンくんのモノマネ継続中なんですか? 「そう――」 もういい加減やめたらどうですか? 「――やだ」 はいはい、そうですか。何が彼女のやる気を爆発させているんでしょうか? わけわかりません。 「わたしは――今日一日――彼――彼の名前――で――呼んで欲しい――――」 ふう、と溜息一つつきました。こんなに強情な九曜さんは初めてなのです。 もしかしたらいい考えがあるのかもしれませんね。こうなったらずっとキョンくんと呼んでやるのです。キョンくんと思って接してやるのです。もう開き直りました。 「わかりましたよキョンくん。どうですか、シュークリーム。食べますか?」 「食べる――あーん」 「ふふふ、キョンくんったら甘えんぼさんですね。はい、あーん」 「美味しい?」 「美味し――い――」 「あ、ほら。唇にクリームがついてますよ。だらしないな、キョンくんったら」 「拭いて――くれ――」 「こら、甘えんぼさんなんだから。あたしがいないと何もできないのね」 「面目――ない」 「はい、拭き拭きしますね――うん、綺麗になったわね」 「――やれやれ」 「ふふふ、本当にキョンくんらしいのですね。ふてぶてしい態度なのに、あたしに甘えるところなんかそっくりなのです。いっつもこんな調子ですもんね」 「――そう」 キョンくんってばかなりのツンデレですからね。二人っきりになるともっとすごいことをやってのけましたからね。 っと、でもこんなことは本人の前では言いません。怒られちゃいますしね。勿論佐々木さんや涼宮さんの前では禁句です。命がいくつあっても足りません。 「お待たせ。大分綺麗になったのね」 阪中さんがあたしのブーツを持ってきました。さっきまで染みになっていた部分は跡形もなく消え去りました。 「本当にごめんなさい。お詫びといっちゃなんだけど、お母さんの新作、3種のクリームが入ったシュークリームがあるからたくさん持っていって」 かなり大き目の袋からは、香ばしい香りが漂ってきました。 「いいえ。こちらこそ色々貰っちゃって。ありがとう」 「ううん。もともとはあたしが悪いんだし。これくらいじゃ罪滅ぼしにもならないけど」 「いいのよ。あたしの知り合いに比べたらマシな方よ。わざとじゃないかってくらい鈍感なのがいるしね」 「あの、それって……」 「え?」 「ごめん、なんでもないのね。それじゃ、また」 「ええ。また遊びに繰るわ。メガーヌにもよろしくね」 「……それ、うちのお兄ちゃんと同じ呼び方。しかもルソーじゃなくてルノーだし」 「え? そうなの? じゃあ、フロンティアオビタルセオリー。略してFOT、フォットよ!」」 「それもお兄ちゃんと同じ……もうルソー関係ないし」 色々とツッコまないで下さい。あたしだってこの辺のことはよくわからないんですから。 「うん。どうでもいいよね」 ルソー。もうあんな事しちゃ駄目ですよ? 「わわん!」 わかったみたいですね。それじゃあこれで。シュークリームご馳走様でした。 「さようなら」 あたしはこうして、たっぷりと貰ったシュークリームに気をよくして、この高級住宅街を後にしたのでした。 あたしとキョンくんの真似を継続中の九曜さんは、さっき頂いたシュークリームをはぐはぐと頬張りながら、街道沿いをえんえんと歩いていました。 「美味しいですね、このシュークリーム」 「美味――しい――」 「いっぱいもらったから、キョンくんにもわけてあげるのです」 「そう――かい――――サンキュ――」 言葉のテンポはゆっくりですが、確かにキョンくんっぽい喋りをしています。九曜さん。 「次は――どこに――いこうか――」 そうですね……シュークリームがあまりにもおいしかったから、あたしの食欲に火がついたのです。丁度おやつの時間ですし、ケーキでも食べませんか? 「いい――」 実はすぐそこのデパートで、ホテルのシェフ謹製ケーキのバイキングイベントが開催されているんです。期間限定ですし、行きたいなーなんて思っていたところなのです。いい機会です。そこに行きましょう。 「分かった――」 九曜さんは頷き、一人でスタスタとデパートに向かって歩き始め、あたしもいそいそと追いかけたのでした。 「うっわぁー! すっごいです!!」 ベージュ色を基調とした、シックな感じの広間。元々はイベントホールか何かなのでしょう。しかし今はパーティションやカーテンで区切られ、甘い香りでむせ返っていました。 大きいのから小さいの、形もデコレーションも種々様々なケーキたちが溢れかえっていました。 「早速食べましょう! 九曜さん!!」 「わたしは――周防――九曜では――」 ああそんなことどうでもいいのです! 早く食べましょう!! 「やれやれ――」 「ふう……おいしかったのです」 あたしは心行くまでケーキを堪能し、食後のセイロンティーを口に含みながら悦に浸っていました。さすがホテル業界、デザート部門で一、二を争うシェフの腕は素晴らしいです。 甘くって、コクがあって、それでいて重くなく……これならいくらでも食べられるのです。 これで1000円は安すぎです。普通なら1つでそのくらいの値段ですよ、このケーキ。 非常に残念なのは、今週までのイベントということですね。これから毎日通って食べようかしら? うん、それがいいかも。 九曜さんもいきますよね? ・・・・・・ 「……あれ?」 九曜さん? どこいったのですか? 九曜さん? ふと横を見ると、隣の席に座っていた九曜さんがいつの間にかいなくなってしまいました。 「おっかしいなー。お手洗いかな?」 とりあえずその場で待機することにしましょう。 っと、どうせだからもう少しケーキを食べますか。甘いものは別腹ってよく言いますし、実際その通りですからね。 誰ですか、だから太るんだって言った人! ……どうせその通りですよ。悪かったですね!! 「遅い……」 それから数分後。九曜さんは一向に戻ってくる気配がありません。心配になって化粧室に見に行ってみましたが、しかし九曜さんの姿はありませんでした。 はっ! もしかして食い逃げ!? あたしにお金を払わせるつもりなんじゃ!! ……って、ここは先払いのシステムでしたね。会計はもう終わらせてあります。この前の合宿で組織から前借りしたお金もそこをつきかけているので、ついお金に過敏になっていました。 でも、九曜さんったら本当にどこに行ったのでしょうか? 「お客様、そろそろ時間でございますので――」 そうこう考えているうちに、タイムリミットが来てしまったようです。バイキングに時間制限はつきものですし、仕方ありません。 あたしは店員さんに光陽園女子学院の制服を着た黒髪長髪の女の子が戻ってきたら連絡下さいと伝言し、席を後にしました。 イベント特設コーナーから出たあたしは、九曜さんが行きそうな店を回ることにしました。 「まずは、本屋ね」 宇宙人は読書好きって言うのが定番ですし、ここにいる可能性が高いですからね。それでは向かいましょう。 ・・・・・・ 「居なかった……」 長門さんとは思考回路が違うのでしょうか? 九曜さんは、リーディングではなく、ライティングが趣味なのかもしれませんね。 ……はっ! と言うことは、文房具屋か画材屋に居るのでは? そっか! そうに違いない!! さえてる今日のあたし!! 折り好くこのデパートには総合文房具屋がありましたし、そこに違いありません。 では早速文房具屋にレッツラゴー! なのです! ・・・・・・ 「居ない……」 おっかしいですね……あたしのカンが外れるなんて。 ライティングでもないと、オーラル? オーラルといえば……確か最上階に歯医者があったはず! なるほど! 九曜さん、思ったよりケーキを召し上がらないと思っていましたが、実は虫歯だったのですね! ダメですよ、ちゃんと歯は毎日磨かなきゃ。それでは歯医者さんに行きましょう! あたしは最上階行きのエレベータに乗り、ガラスの窓で区切られた歯医者さんに単身乗り込みました。 「あのー……」 「はい、初診の方ですか? どうされました?」 「い、いえ、連れを探しているんですが……」 「連れですか?」 「ええ。光陽園学院の制服を着た、髪の毛の長い女の子ですけど、こちらに来ませんでしたか?」 「えーっと、少々お待ちください。探してみますから」 受付のお姉さんは治療室に入っていきました。どうやら診察室の方を確認しているようです。 しかし……この消毒薬のにおい。そして歯を削るドリルの音。どうしても好きになれませんね。あたしは歯医者は大っ嫌いなのです。 昔々、親に連れられて虫歯を治した思い出があるのですが……二度と行かないって誓いました。あんな痛い思いをするなら、きちんと歯磨きをしなければ、などと心に誓ったことが記憶の片隅に残っています。 おかげで学校の歯科検診では今まで虫歯ゼロ。どうです? 素晴らしいでしょ。 「お待たせ致しました。どうやら、今治療中の方にそのようなお嬢さんは居ないようですね……」 受付のお姉さんは、あたしの予想を裏切る返答をしました。 「そうですか……ここにはいませんか、ありがとうございました」 長時間ここに留まっていても仕方ありません。早急に違う場所へ…… 「あ、お嬢さん。ちょっと待って」 はい? 何でしょうか? 「あなた少し口臭がきついわよ。ちゃんと歯磨きしている?」 え? そ、そんな! 毎日欠かさずしていますよ!! 「本当かな? その匂いはサボっているようにしか思えないんだけど」 やってますって! 「そう? なら、ブラッシングが間違っている可能性があるかもよ」 ブラッシング? 「つまり、歯の磨き方よ。いくら毎日磨いても、磨き方を間違えちゃ意味は無いわ。虫歯やその他の歯の病気にかかりやすくなっちゃうわ。そうだ、今から診断しましょうか?」 「い、いえ……結構です。連れを探さないといけませんし……」 丁重にお断りを申し入れました。決して歯医者さんが怖いからでは……ないですから。そこ、笑わないで下さい。 「まあまあ、そういわずに」 「だから、あたしは」 「そのままじゃ、彼氏にも嫌われちゃうよ?」 「!!」 「口臭が原因で彼氏と別れちゃうのはあなたもいやでしょ?」 「あ、あたしはキョンくんとそんな関係じゃ!」 「ふーん、キョンくんって言うの。彼氏。かわいい名前ね」 「だ、だから、彼氏じゃ……」 「ふふふーん。じゃあそういうことにしておきましょうか」 ぜ、絶対勘違いしてるし…… 「それはそれとしてさ、お姉さんに任せなさい。特別タダで診断してあげるから」 「え? タダですか?」 「もちろん。あ、でももし治療が必要だったらお金は貰うけどね。それより何より、今のままじゃいろんな人が不快に思うかもよ? だから診断は必要だと思うの」 そうですか……佐々木さんに嫌われたらあたしの存在意義がなくなっちゃいます。ここは1つ、診断をしてもらうことにしましょう。 「はい、毎度あり~♪」 お姉さんはやたら陽気に、野菜を売るおばちゃんみたいな声を放ったのでした。 あたしは簡単な手続きを済ませた後、歯科用の治療台の上に座らされました。こうやって座っているだけで、あの時の恐怖が蘇ってきます。 口が動かなくなる麻酔、ドリルの高周波音。痛いと思ったら手を上げてねという歯医者の気休め。 ううう、今から引き返してもいいですか? 「お待たせ。それじゃあ診察始めるわ」 あれ? 受付のお姉さんが診察するんですか? 「ええ。口の中を見るだけだし、これくらいのことで先生の手を煩わせる必要は無いわ」 そうですか。怖い顔のおっさんがドアップで迫ってくるよりは精神的苦痛は無さそうですね。腕のほうは心もとないですが…… 「もし治療が必要なら先生に任せるわよ。だから心配しないで。それじゃ大きく口を開けてください」 あーん。 「…………」 「…………」 「…………おや?」 「…………??」 「…………ふむふむ……なるほど……」 「……あほ、ろうれふか?」 「……うーん、これはすごいわね……」 「へっ? はひはふほいんへすは?」 「あ、口はもう閉じていいわ。うがいして頂戴」 ふうー。疲れた。 あたしは横においてあるコップをとり、ガラガラとうがいを始めました。でも、『すごい』って、一体何が凄いんでしょうか? まさか虫歯……? 「大丈夫。あなたの歯には虫歯は一本も無かったわよ。健康そのものの歯ね」 な、なんだ……びっくりしました。凄く含みのある表現だからどんなひどいことになっているかと思いましたよ。 それに言ったとおり、あたしの歯には虫歯が無いのです。目指せ8020運動なのです! 「でもね……」 あたしが心の中で息巻いていると、お姉さんの口から信じられない言葉が発せられました。 「歯石の沈着が酷すぎるわ」 へ……? しせき? 「そう、歯石。歯垢とカルシウム……唾液の成分が結合して、歯茎に堆積しちゃうのを歯石っていうの。歯周病の原因になったりもするわ。口臭の原因はこれね。なるほど、これもひとえに間違ったブラッシングのせいね」 ええっ!! 「とりあえずこの歯石を除去しましょ。それから正しいブラッシングを教えるから。それじゃあ始めるわよ」 ちょ、ちょっと! 今からですか!! 「すぐ終わるから、ほら、暴れないで。まずは右奥から行くわよ。痛かったら手を上げてくださいねー」 ギュイイイーン―― 消毒薬のにおい……ドリルの音……意味の無い挙手…… いやぁー!! 昔のトラウマがぁーー!!! たーすーけーてーぇーーぇぇーーーぇーーー!!! ……… …… … うう、あたし乱暴された…… 痛い痛いって叫んだのに、『我慢してねー』って言って、いやがるあたしを強引に…… これじゃあ強○ですぅ。訴えてやるのです。 もうお嫁にいけないわ…… 「何アホなこと言ってるのよ。歯石が取れたんだから良かったじゃない。それからさっきも言ったように、ブラッシングはきちんとやってね。それと歯石除去代は頂くから宜しくね」 「…………」 泣きっ面に蜂。踏んだり蹴ったりです。例えではなく本気で泣きたいです。 もう二度とここにはきません。こっちからお断りです。 ――そんな感情を心の奥底にとどめ、あたしは歯医者を後にしました。 あたしが口を押さえて歯医者から出ると、あたしを呼ぶデパート構内放送がかかりました。 『迷子のお呼び出しを申し上げます。橘京子ちゃん。橘京子ちゃん。お連れのキョンくんがインフォメーションセンターでお待ちです。繰り返し迷子の――』 ま、まさか……ともかく、インフォメーションセンターとやらに向かいましょう! あたしは一階にあるインフォメーションセンターまで駆け足で移動し、そして例の黒い物体を発見しました。 「やっと――来た――」 「九曜さん! 何ですか今の放送!」 「わたしは――彼――」 「相変わらず彼のモノマネですか……それは百歩譲っていいことにします! でも橘京子『ちゃん』ってなんですか!」 「迷子――だから――ちゃん付け――」 「迷子になったのは九曜さんじゃないですか!」 「わたしは――ずっと――あそこに――いた……――勝手に居なくなったのは――あなた――」 へ? 「奥に――いた……――シェフと――話を――してた――そしたら――――あなたが勝手に――出て行った――」 九曜さんが進んで人と話すなんて……予想外にも程があります! 「わたしは――彼「もうそれはいいです。しつこいから」」 何故九曜さんはこうしてまで、彼のモノマネに拘っているんでしょうか? 「わかりましたよ、あたしが勝手に出て行ったのが悪かったんですね、悪うございやしたすみません!」 「反省――してないぞ――」 「彼の真似はいい加減止めてください!!」 「そんな――態度だから――彼に振られたんだ――ぞ――」 ああ!! もうっ!!! あること無いこと仰らないで下さい!!! クスクスと笑いを上げる受付嬢を尻目に、あたしは顔を赤くして九曜さんを引っ張っていきました。 ……しばらくこのデパートにこれないですね……さよなら、愛しのケーキバイキング…… 橘京子の退屈(後編)につづく
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1168.html
キョン「いでで・・・」 朝倉「あら、ごめんねキョン君。あなたを巻き込むつもりはなかったの」 キョン「なっ!朝倉!」 朝倉「フフ、ずいぶん驚いてるわね」 キョン「な、何しに来たんだ!」 朝倉「誤解しないで。もうあなたを殺そうなんてしないわ」 キョン「っ!!」 朝倉「私がここに来たのは情報統合思念体の裏切り者を消しに来ただけよ。キョン君には何の危害も与えないわ。」 キョン「う、裏切り者?」 朝倉「そ、もう何となくわかるでしょ?」 キョン「・・・長門のことか?」 朝倉「大当たり♪さっすがキョン君」 キョン「くっ・・・」 長門「・・・私は情報統合思念体の意思に反した行動をしたつもりはない」 朝倉「フフ、ならなぜ、この部屋に防壁情報を張っていたのかしら?」 長門「・・・」 キョン「・・・防壁情報だと?」 朝倉「長門さんはね、この部屋を外部から一時的に遮断するようにプログラムしてたの」 キョン「長門が・・・」 朝倉「この情報空間を特定するには相当の時間が必要だったの。で、キョン君に少しお手伝いしてもらったのよ」 キョン「お手伝いだと?」 朝倉「あれ、まだ気が付かない?さっきの電話よ。あれ、私がここの空間を特定する為にかけたコードなの」 キョン「なっ!」 朝倉「助かったわキョン君♪ありがと」 キョン「て、てめぇ・・・ウッ!」 朝倉「ごめんねキョン君、少しの間だけそこでじっとしてて」 キョン「なっ・・・またかっ!」(体が動かない!) 朝倉「さて・・・と」 長門「・・・」 朝倉「長門さん、もうあなたはこの世界に必要とされてないみたいよ?」 長門「・・・」 朝倉「情報統合思念体はあなたを危険視してるわ。だから私がここにいるの。わかる?」 長門「・・・涼宮ハルヒの第一観察責任者はあなたではない。 それにあなたは私を情報連結解除できるほどの権限を持っていないはず」 朝倉「そんなこともうどうでもいいらしいわ。上の人たちはとにかくあなたを消したがってるの」 長門「・・・なぜ」 朝倉「なぜって?そんなこともう分かりきってるじゃないの」 長門「・・・」 朝倉「長門さんらしくないわね。もうあなたの役目は終わったってこと」 キョン「!?」 長門「役目・・・」 朝倉「そ♪だから消えてもらうしかないの」 長門「ここは私の情報制御下」 朝倉「だったら何?」 長門「・・・容赦はしない」 キョン「な、長門!?」 朝倉「・・・残念だわ長門さん。本当に自律神経を持ってしまってたの」 長門「パーソナルネーム、朝倉涼子を敵性と判定。自己情報結合解除を開始する」 朝倉「フフ、本当にやるつもりなのね。あなたには何のバックアッププログラムがないのよ?」 長門「・・・」 朝倉「あーあ、本当は手荒な真似はしたくなかったんだけど・・・仕方ないわ」 長門「・・・大丈夫、すぐに終わる」 キョン「長門!?」 長門「心配しないで」 キョン「おいっ!やめろっ!」 長門「・・・」 朝倉「フフ、いいわ・・・死になさい♪」 続
https://w.atwiki.jp/quq0731/pages/7.html
動画(youtube) @wikiのwikiモードでは #video(動画のURL) と入力することで、動画を貼り付けることが出来ます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_209_ja.html また動画のURLはYoutubeのURLをご利用ください。 =>http //www.youtube.com/ たとえば、#video(http //youtube.com/watch?v=kTV1CcS53JQ)と入力すると以下のように表示されます。
https://w.atwiki.jp/quq0731/pages/4.html
ニュース @wikiのwikiモードでは #news(興味のある単語) と入力することで、あるキーワードに関連するニュース一覧を表示することができます 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_174_ja.html たとえば、#news(wiki)と入力すると以下のように表示されます。 ウィキペディアを作ったiMacが箱付きで競売に登場。予想落札価格は約96万円!(ギズモード・ジャパン) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース メトロイド ドレッド攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) ツムツム攻略Wiki|ゲームエイト - Game8[ゲームエイト] 【グランサガ】リセマラ当たりランキング - グランサガ攻略wiki - Gamerch(ゲーマチ) アイプラ攻略Wiki|アイドリープライド - AppMedia(アップメディア) Among Us攻略Wiki【アマングアス・アモングアス】 - Gamerch(ゲーマチ) マニュアル作成に便利な「画像編集」機能を提供開始! - ナレッジ共有・社内wikiツール「NotePM」:時事ドットコム - 時事通信 マニュアル作成に便利な「画像編集」機能を提供開始! - ナレッジ共有・社内wikiツール「NotePM」 - PR TIMES 【Apex Legends】ヴァルキリーの能力と評価【エーペックス】 - Gamerch(ゲーマチ) モンハンライズ攻略Wiki|MHRise - AppMedia(アップメディア) ポケモンBDSP(ダイパリメイク)攻略wiki - AppMedia(アップメディア) SlackからWikiへ!シームレスな文章作成・共有が可能な「GROWIBot」リリース - アットプレス(プレスリリース) 【ウマ娘】チャンピオンズミーティングの攻略まとめ - Gamerch(ゲーマチ) 【ウマ娘】ナリタブライアンの育成論|URAシナリオ - Gamerch(ゲーマチ) 【ウマ娘】ヒシアケボノの育成論|URAシナリオ - Gamerch(ゲーマチ) 【ウマ娘】カレンチャンの育成論|URAシナリオ - Gamerch(ゲーマチ) 【ウマ娘】フジキセキの育成論|URAシナリオ - Gamerch(ゲーマチ) ドラゴンクエストけしケシ攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【スタオケ】カード一覧【金色のコルダスターライトオーケストラ】 - Gamerch(ゲーマチ) 【スマブラSP】ソラのコンボと評価【スマブラスペシャル】 - Gamerch(ゲーマチ) 【ブレフロレゾナ】リセマラ当たりランキング【ブレイブフロンティアレゾナ】 - ブレフロR攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【ポケモンユナイト】サーナイトの評価と性能詳細【UNITE】 - Gamerch(ゲーマチ) 仲村トオル、共演者は事前に“Wiki調べ”(オリコン) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 【ENDER LILIES】攻略チャートと全体マップ【エンダーリリィズ】 - Gamerch(ゲーマチ) 【ウマ娘】あんしん笹針師の選択肢はどれを選ぶべき? - Gamerch(ゲーマチ) 【ポケモンユナイト】アップデート情報・キャラ調整まとめ - ポケモンユナイト攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【Apex】シーズン11の新要素と最新情報まとめ【エーペックス】 - Gamerch(ゲーマチ) ロストジャッジメント攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【Among us】新マップThe Airship(エアシップ)の解説【アモングアス】 - Gamerch(ゲーマチ) ハーネスについて小児科医の立場から考える(坂本昌彦) - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース ゼルダ無双攻略Wiki|厄災の黙示録 - AppMedia(アップメディア) 【テイルズオブルミナリア】リセマラ当たりランキング - TOルミナリア攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) ウマ娘攻略Wiki - AppMedia(アップメディア) ゲトメア(ゲートオブナイトメア)攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【白夜極光】リセマラ当たりランキング - 白夜 極光 wiki - Gamerch(ゲーマチ) お蔵入りとなった幻の『スーパーマリオ』 オランダの博物館でプレイ可能?(リアルサウンド) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース ナレッジ共有・社内wikiツール「NotePM」が「ITreview Best Software in Japan 2021」のTOP50に選出 - PR TIMES 真女神転生5攻略Wiki|メガテン5 - AppMedia(アップメディア) 【B4B】近接ビルドデッキにおすすめのカード【back4blood】 - Gamerch(ゲーマチ) ポケモンスナップ攻略wiki - AppMedia(アップメディア) 富野由悠季「ブレンパワード」作り直したい!ファンを前に意欲(シネマトゥデイ) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 【ウマ娘】査定効率から見た取るべきスキルとおすすめキャラ【プリティーダービー】 - Gamerch(ゲーマチ) 【スマブラSP】カズヤの評価とコンボ【スマブラスペシャル】 - Gamerch(ゲーマチ) ナレッジ共有・社内wiki「NotePM」が「ITreview Grid Award 2021 Fall」で、チームコラボレーションとマニュアル作成部門において「Leader」を5期連続でW受賞! - PR TIMES メモ・ドキュメント・wiki・プロジェクト管理などオールインワンのワークスペース「Notion」が日本語ベータ版提供開始 - TechCrunch Japan 【ギアジェネ】リセマラ当たりランキング【コードギアス】 - ギアジェネ攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) モンスターファーム2(MF2)攻略wiki|アプリ・Switch移植版 - AppMedia(アップメディア) 【ブラサジ】最強キャラTierランキング【ブラックサージナイト】 - Gamerch(ゲーマチ) 【パワプロ】鬼滅の刃コラボ情報まとめ - Gamerch(ゲーマチ) 【SPAJAM2021】第3回予選大会は「クイズ!WIKIにゃんず!」を開発したチーム「かよちゃんず」が最優秀賞! | gamebiz - SocialGameInfo 検索結果における「ナレッジパネル」の役割とは・・・ウィキメディア財団とDuckDuckGoの共同調査 - Media Innovation ナレッジ共有・社内wikiツール「NotePM」が「BOXIL SaaS AWARD 2021 Autumn」にて「コラボレーション部門」を受賞! - PR TIMES Wikipediaが「中国人編集者の身の安全を守るため」に一部の編集者アカウントをBANに - GIGAZINE 【ドッカンバトル】3.5億ダウンロードキャンペーン最新情報 - ドッカンバトル攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) BTS(防弾少年団)のV、8月のWikipedia閲覧数が韓国アーティストで1位!グループでは4ヶ月連続トップ - Kstyle 【イース6オンライン】リセマラ当たりランキング|召喚ガチャの開放条件は? - Gamerch(ゲーマチ) BacklogからNotePMへwiki情報を自動API連携する「Backlog to NotePM」をSaaStainerに掲載開始 - PR TIMES ライザのアトリエ2攻略Wiki - AppMedia(アップメディア) 真女神転生3リマスター攻略Wiki|メガテン3 - AppMedia(アップメディア) タスクも文書もWikiもデータベースもまとめて管理できる「Notion」とは? - ASCII.jp ナレッジ共有・社内wikiツール「NotePM」が、見るだけ専用ユーザー『無料』の新プランを発表! - PR TIMES 【かのぱず】リセマラ当たりランキング【彼女お借りします】 - Gamerch(ゲーマチ) 【乃木フラ】リセマラの必要はある?【乃木坂的フラクタル】 - Gamerch(ゲーマチ) 【パワプロ】生放送まとめ|パワフェス2021 - パワプロ攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【ポケモンユナイト】サーナイトのおすすめビルド(わざ・持ち物) - Gamerch(ゲーマチ) ルーンファクトリー5攻略wiki|ルンファク5 - AppMedia(アップメディア) シャーマンキングふんばりクロニクル攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【絶句】Wikipedia(ウィキペディア)に去年より低い金額を寄付したら…あまりにも酷い仕打ちを受けた - ロケットニュース24 簡単操作で自分専用Wikiを構築できるMarkdownエディタ「Obsidian」のモバイル版を使ってみた - GIGAZINE ディーサイドトロイメライ攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 情報マネジメントツール「Huddler」がwiki機能を刷新 - PR TIMES シェアエコ配送アプリ「DIAq(ダイヤク)」のアンカーアプリで、高層ビル・商業施設の入館方法などお役立ち情報をまとめた「DIAqwiki」を公開 - アットプレス(プレスリリース) 異常熱波のカナダで49.6度、いま北米で起きていること(森さやか) - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 【ツイステ】マスターシェフの攻略~辛味のふるさと~【料理イベント】 - Gamerch(ゲーマチ) 【ラグナロクオリジン】リセマラは不要?おすすめ職業は?【ラグオリ】 - Gamerch(ゲーマチ) 白夜極光攻略wiki - AppMedia(アップメディア) 【バイオミュータント】2.02アプデ|アップデート1.4情報 - バイオミュータント攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) ニーアレプリカントリメイク攻略wiki|ver.1.22 - AppMedia(アップメディア) 【ウマ娘】ゴルシウィークはいつから?キャンペーン情報まとめ - Gamerch(ゲーマチ) シーズン66 - 【超速GP】ミニ四駆 超速グランプリ攻略まとめwiki - 電撃オンライン 乃木坂的フラクタル攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 「こんなことになるとは…」13年前のエイプリルフールについた“嘘”がネットで… ある男の告白(BuzzFeed Japan) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 整理不要の情報共有ツール(社内Wiki)「Nerve」シードラウンドで総額約3500万円の資金調達を実施 - PR TIMES Nerve - 整理不要の情報共有ツール(社内Wiki) ローンチカスタマー募集開始のお知らせ - PR TIMES パニシンググレイレイヴン(パニグレ)攻略wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【ひなこい】最強ひな写ランキング - ひなこい攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 稲作アクションRPG『天穂のサクナヒメ』における「農林水産省攻略wiki説」は本当なのか? - AUTOMATON スタスマ攻略Wiki【スタースマッシュ】 - Gamerch(ゲーマチ) 無料とは思えない多機能っぷりなWikiインフラ「Wiki.js」レビュー、自前でホスト&外部サービスと連携可能 - GIGAZINE Microsoft Teamsの基本と活用(24) TeamsのWikiを使う - マイナビニュース 『ゲーミングお嬢様』での提起が話題に “企業系wiki”に横たわる問題点とは - リアルサウンド 「エイリアンのたまご」,自動周回機能と公式wikiが登場 - 4Gamer.net 【リゼロス】Re ゼロから始める異世界生活 Lost in Memories攻略まとめwiki - 電撃オンライン 【世界初!】モノの背景を全方位で執筆できるVintage Wiki「VOV」を正式リリース - PR TIMES プロジェクトセカイ攻略Wiki【プロセカ】 - Gamerch(ゲーマチ) パワプロ2021/2020攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) ヌーラボ、「Backlog」の絵文字入力の補完機能やWiki編集の自動マージ機能を改善 - CodeZine(コードジン) ヌーラボ、プロジェクト管理ツール「Backlog」の絵文字入力の補完機能・Wiki編集の自動マージ機能を修正改善 - PR TIMES Backlog、Wikiにファイル添付が容易にできる機能をリリース -- グローバルバーの視認性改善なども実施 - PR TIMES GK川島、パンチング失点でWiki書き換え炎上 「セネガル代表」「プロボクサー」... - J-CASTニュース
https://w.atwiki.jp/quq0731/pages/6.html
アーカイブ @wikiのwikiモードでは #archive_log() と入力することで、特定のウェブページを保存しておくことができます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/25_171_ja.html たとえば、#archive_log()と入力すると以下のように表示されます。 保存したいURLとサイト名を入力して"アーカイブログ"をクリックしてみよう サイト名 URL