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◇===================================== カード名 . ..: 追憶の顕現 無 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ レアリティ...: C≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ カードスキル : 忘却からコグニを1枚と、そのコスト未満のRPのアルマに[反響 敵アルマのRP-自RP][CF終了時破壊][直接攻撃不可]を付与してリアライズ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ ステータス. . : コスト:7 SP:3 【懐古(コグニ)】≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ フレーバー .: あの時を思い出して、それはとても綺麗な記憶だから。=====================================◇ +口上 彼方より、此方より、来たれ。記憶から消える事無く、その炎、鮮烈に世界に遺る。今一度、―― 世界に示せ!ノーマリィルード・リアライズ![追憶の顕現]ッ!byサイコ―― 遺された火種は、今燃え上がる。天を焦がし、光差す道と為らん。華よ、披け。―― ノーマリィルード・リアライズ![追憶の顕現]!by高遠ジゼル
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登録日:2011/02/28(月) 05 18 06 更新日:2024/01/03 Wed 22 04 19NEW! 所要時間:約 6 分で読めます ▽タグ一覧 7 8 はてしない物語 アッハライ アーガックス ウユララ グモルク グラオーグラマーン シュラムッフェン チート ユックユック ヨル 兵器 天使 戦う司書 武器 神 追憶の戦機 戦う司書に登場する七つの戦機。 『常笑いの魔刀(とこわらいのまとう)シュラムッフェン』 『常泣きの魔剣(とこなきのまけん)アッハライ』 『大冥棍(だいめいこん)グモルク』 『彩なる砂戦艦(あやなるさせんかん)グラオーグラマーン』 『韻律結界(いんりつけっかい)ウユララ』 『自転人形(じてんにんぎょう)ユックユック』 『虚構抹殺杯(きょこうまっさつはい)アーガックス』 の七つである。 楽園時代、未来管理者オルントーラは人々を正しい未来へ導いていた。 人間の声ではなく、思考共有の通信でもなく、伝達を伴わずに直接理解に至るような不思議な力を遣い、オルントーラは人々に囁く。 夫婦のいさかいには歩み寄るための言葉を。 村同士の揉め事には互いに損をしない妥協点を。 強き者には謙虚さを。 弱い者には励ましの言葉を。 ほんの小さな、当たり前のような事柄をオルントーラは囁き、そのごくごく小さな、当たり前の事の積み重ねが世界を楽園に変えていた。 だが、人々は次第に、少しずつオルントーラの囁きを無視するようになる。 一度くらいオルントーラの命令に背いたところで世界が楽園でなくなるわけがない。 一度きりの人生だ。楽しむのが一番じゃないか。 そう思い、オルントーラの正しい未来を忘れていく。 そして、犯罪、戦争、国家、民族、対立、差別が生まれていった。 王と名乗る者が一人では使い切れない財産を持ち、人々の命すら握っている。 貴族と呼ばれる者達が、そのおこぼれに預かっている。 ごく当たり前に働いていれば手に入るものを、他人から奪おうとする者がいる。 自分の心の痛みを、他人にぶつけることで紛らわす者がいる。 自分の強さを、他人を虐げることで見せつける者がいる。 もはや、オルントーラの囁きに耳を貸す者はなく、いつしか声すら聞こえなくなっていた。 バントーラやトーイトーラと共に、オルントーラは全力を尽くしてきた。 だが、人々は堕落し、このままではこの世界はどうしようもない最低の世界になる。 オルントーラはついに、正しい未来を導くために、暴力を用いる事を宣言した。 逆徒達を滅ぼすために、七体の懲罰天使を使わせたのだ。 懲罰天使は、全身が輝くような白金でできた、とてつもなく精巧な、美しい女性の像だ。 光に透ける薄布を纏い、背中には同じく白金の羽が生えている。 その顔は美しく端正で、それぞれ異なる道具を手にしていた。 それが、追憶の戦機と呼ばれる七つの戦機だ。 全ての追憶の戦機には神々の力が込められ、常世の呪いがかけられており、人間に追憶の戦機を壊す事はできない。 それぞれ意思を持っていると言われている。 それでは、各追憶の戦機についての説明をする。 【常笑いの魔刀シュラムッフェン】 柄は写実的な蜘蛛の彫刻。 使うときは蜘蛛の足を自分の腕に噛ませる。 すると、蜘蛛の糸を模した、蜘蛛の糸のように細い刀身が、蜘蛛の尻からするすると伸びる。 シュラムッフェンの能力は因果抹消攻撃。 行為と結果の関係を抹消し、振るうだけで離れた所にある物体を切り刻む。 形あるものならば、シュラムッフェンに切れないものはない。 その破壊力は使用者の邪悪さによって変わり、シガル様が使えば最大限の力を発揮する。 正義感の強い女性が使用しても、車を破壊する程度の威力は発揮できる。 防御機能も備えており、使用者に対する攻撃は、たとえ使用者が認識できずとも自動で守る。 近距離からのハミュッツの高速の礫弾すら粉微塵にして防いでしまう。 だが、シュラムッフェンは追憶の戦機の中でも下級の武器で、弱点もある。 まず、因果抹消攻撃は『対象』ではなく『空間』を切るもので、攻撃発動までに若干の時間を要する。 つまり、たとえ相手がシュラムッフェンを振った後でも、自分のいた空間から離れれば避ける事が可能なのだ。 音速で動き回るとかすれば! 武装司書最速のハミュッツですら、最初こそ回避できていたが次第に追い詰められ、ずたぼろにされてしまった。 射程も五、六十メートル程。 防御機能も完全ではなく、シュラムッフェンを所持していなければ当然発動せず、使用者が相手の攻撃に無警戒等の隙があっても発動しない。 更に、『切る』事しかできないため、液体や気体のように切れないものは防げない。 上空から苛性ソーダをかけるとかすれば勝てるだろう。 攻撃と防御を同時には行えず、切り替えの際に一瞬だけ隙ができる。 だが、その隙をつくのはマットアラストのような完璧な予知能力でも持ってなければ難しい。 【常泣きの魔剣アッハライ】 中指ほどの長さしかない、芋虫を模した短剣。 シュラムッフェンと同系統の力を持つが、その威力はシュラムッフェンを上回る。 【大冥棍グモルク】 黒い霧に覆われた質素な棍棒。 手触りから形状を推測することはできるが、実際に見ることはできず、直接目にすれば視力を失うと言われている。 不可視の巨大な打撃力を生み出し、一撃で大地を割り砕く。 【彩なる砂戦艦グラオーグラマーン】 短剣ほどの大きさの鉄片が無数に寄り集まり、持ち主の意思で動きその姿を変える。 空中に浮かぶ要塞のような船。 【韻律結界ウユララ】 蔦(つた)の紋様をしている。 この紋様を宿している者が戦う意思を持っていない時に限り、無敵にして絶対の防御を行う。 【自転人形ユックユック】 羽の生えた、少年とも少女ともつかないうずくまった人形。 この追憶の戦機だけは複製が作られ、複数個存在している。 複数人の魔法権利を一つに束ねることができる。 その結果、一人では到底公使できないような強大な魔法を発動させる事ができるのだ。 人数と時間さえかければ、光速で石を放つ魔法を発動する事も、その魔法が永遠に使用されない魔法を発動させる事も可能となる。 【虚構抹殺杯アーガックス】 この世に二つ存在する杯(さかずき)。 この杯に水等の液体を入れ、消したい記憶を呟いてから飲むと、その記憶を消す事ができる。 呟いてから液体を別の器に移したり、呟いた本人と違う人物に液体を飲ませても効果を発揮する。 これらの追憶の戦機の名称は、ミヒャエル・エンデのはてしない物語からとられたもの。 追記、修正は因果抹消攻撃を避けてからお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- 【過ぎ去りし石剣ヨル】 八つ目の追憶の戦機。 司書天使が所持していた短剣。 現在はラスコール=オセロが所持している。 樫の木でできた柄は人間の腕を模し、苦悶に喘ぐ人間が空を掴む瞬間のような手の形をしている。 刃は肘のあたりから伸びており、柄と同じ長さの、石でできた両刃の直剣である。 この石剣を死者、或いは死亡した場所の近くに突き立てる事で、即座に『本』を取り出す事ができる。 追記、修正は懲罰天使に勝利してからお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 名前 コメント
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766 名前:追憶の綾 ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/21(月) 21 25 01 ID Ruqhb3lQ 中間テストの結果も出た五月の終わり。 綾たちが高校に入学してからおよそ二ヶ月が経とうとしていた。 梅雨前線の動向が天気予報で伝えられるようになったこの頃だが、支倉家のあるこの地には、今のところ長雨の気配はない。 空は晴れ渡り、放課後学校の終わる時間ともなると、地平線に沈もうとする赤い夕日が見えている。 その夕日から溢れ出る橙赤の光に照らされた渡り廊下を、綾は卯月小夜子と一緒に歩いていた。 「ふう……結構重いわね」 呟く綾のその手には、何冊もの分厚い本を重ねて持っている。 よいしょ、と本を持ち直し、いつものように綺麗に頭の両脇で結んだ髪が揺れた。 「ごめんねー、手伝ってもらっちゃって」 「別にいいわよ。これくらい」 「でも、買い物の用事があったんでしょ?」 「タイムサービスの時間はもう少し後だから。時間つぶしが出来て丁度良かったわ」 そう言って笑う綾に、小夜子は胸をなでおろした。 中学三年の頃、同じ学校を目指していると知って声をかけてから、一年と少し。 それなりに付き合いの長い彼女は、綾が放課後帰るのが遅れると、やたら不機嫌になるのを知っていた。 先生からの呼び出し、級友からの誘い――どんなものであれ、少しでも時間をとられると綾は気分を悪くする。 表面に出すのは余程の場合だが、他の人が気付かない微細な変化を、いつしか小夜子は肌で感じるようになっていた。 (自分の場合はどうなのだろう?) 好奇心と不安を抱きながら、この日初めて、小夜子は綾に委員会の仕事を手伝ってくれと頼んだ。 「あー、いいわよ」 あっさりと綾は頼みを聞いてくれた。 そして、今こうして二人は並んで歩き、笑っている。 (やっぱり、私は親友ってことなのかな……?) ちょっと誇らしげな気分に浸りながら、小夜子は隣を歩く綾を見た。 西日に照らされた横顔は、同性の小夜子が見てもドキリとするほど美しい。 級友の中には化粧をする者もいるが、そういったものとは一切縁のない、生まれたままの美しさだ。 細い眉に、薄桃の唇、顔立ちも体つきも繊細で、瞳には凛とした強い輝きが宿っている。 (我が友人ながら、綺麗よねえ……) 一瞬見とれてしまった小夜子に、綾の目が合った。 「ん? 何よ、そんなに見て。何かついてる?」 「あ、い、いや、別に何もついて無いわよ」 「ふーん?」 「……その……綾って綺麗だなあと思ってさ」 小夜子の言葉に綾は転びそうになり、持っていた本が二冊、三冊と廊下に落ちた。 「ちょ……! へ、変なこと言うから落としちゃったじゃない!」 「え? 今の私のせいになるの?」 「そうよ! あなたのせい!」 綾は持っていた本を一旦下ろし、廊下に落ちた本を拾う。 小夜子も本を下ろして手伝った。 767 名前:追憶の綾 ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/21(月) 21 27 45 ID Ruqhb3lQ 「てっきり、綾はこういうこと言われ慣れてると思ったけど」 「女子から言われるなんて、そうそうあるわけないでしょ」 「うーん……こんなに綺麗なのにねえ」 「ま、まだ続けるか……!」 ぺたぺたと顔を触ってくる小夜子に、綾は思わず身をひいた。 「ねえ、綾は恋人とかっていないんだよね」 「いないけど……何よ、いきなり」 「いや、もてるだろうに、不思議だなって思って」 「まあ私の場合は、性格がよろしくないからね。男の人も、良く見てるってことなんじゃないの?」 「ふーん……それだけなのかな? 告白されたことって無いの?」 「……一体何なのよ。いきなりこんな話して」 「ふと気付いたのですよ」 コホンと小夜子は咳払いを一つした。 「思えば綾って、自分の話を全然してくれないなあと」 「は?」 「それって友達としてどうなのよってわけよ」 呆れたように、綾は息を吐いた。 「何も恋愛話をすることが友達の証ってわけじゃないでしょう」 「まあそうだけどさ」 「それに、私の身の上話なんて、聞いて面白いものでもないわよ」 ドン、と本を積み直して、この話は終わりとばかりに綾は立ち上がる。 ちょっと不満げな顔をしながら、小夜子もそれに続いて立ち上がり、二人はまた廊下を歩き出した。 と、その背中に声をかける者がいた。 「あの、支倉さん、ちょっといいかな?」 「はい?」 振り返るとそこには、同じ一年生の男子が立っていた。 「何か用?」 「二人きりで話したいことがあるんだけど……」 「ふーん……」 綾は腕の時計をちらりと見る。 「手短にお願いね」 それまでの会話とは打って変わって、冷たい声で言った。 768 名前:追憶の綾 ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/21(月) 21 28 59 ID Ruqhb3lQ 夕食時、綾は台所に立って晩御飯の支度をし、すぐ隣の居間で陽一はテーブルについて、テレビを見ながら宿題を片付けていた。 二人がこの数年間ずっと繰り返してきた宵の光景である。 包丁がまな板を叩く音、テレビからの笑い声、鉛筆がノートの上を走る音。 それぞれが時に重なり、時に解れ、家の中に響いていた。 「機嫌悪いな」 ふと陽一は手を止めて、先ほどから具材を切り続けている綾に声をかけた。 「んー? 別に、悪くもないけど」 「嘘つけ」 「何で嘘になるのよ。別に悪くないって言ってるでしょ」 「まな板を叩く音がいつもより大きい」 「……」 数年繰り返していれば、些細な変化にも気付くようになる。 他にも鼻歌を歌っていない、そもそも雰囲気がやばいなど色々あったが、とにかく陽一は綾の様子がおかしいことに気がついていた。 「何かあったのか?」 「誰かさんが、ぜんっぜん買い物も料理もしてくれないからねー」 「いや、それはもう今更って感じだろ……」 「今更だからって許されると思ってるんだ」 「……て、手伝おうか?」 「不味くなるからやめて」 ぴしゃりと言って、また黙々と具材を切る。 話しかけるなと背中が語っていたが、いつもは綾の癇癪を恐れる陽一も、こんな時ばかりはと食い下がった。 「あのな、もし困ったこととかあったら話してみてくれよ。これでも兄貴なんだしさ」 「私に解決できないことがお兄ちゃんに解決できるとは思えないけど」 「できる限りのことはするよ」 「ふーん……」 ようやく綾は振り向いて、陽一の方を見た。 「そこまで言うからには、ちゃんと役に立つこと言いなさいよね」 綾はすっと息を吸った。 「告白された」 「え?」 「告白されたのよ。一年四組の藤城って人に」 「……そ、そうか」 「で、お兄ちゃん、人生の先輩として、何かアドバイスはある?」 769 名前:追憶の綾 ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/21(月) 21 29 50 ID Ruqhb3lQ 予想外の内容に、陽一は困ってしまった。 よりにもよって恋愛とは、陽一の一番苦手とする分野である。 異性の友達は居ても、恋人がいた経験や、告白をしたりされたりといった経験は陽一にはなかった。 「え、えーと……」 たじろぐ陽一を、綾はじっと見つめてくる。 「どう? どうしたらいいとか、どうして欲しいとか、ある?」 「……綾はどうしたいんだ?」 「それを言う前に、お兄ちゃんの考えを聞きたいんだけど」 「いや、恋愛となると、一番大事なのは本人の意思だし……」 「私は今のお兄ちゃんの考えを聞きたいって言ってるのよ。付き合った方がいいと思う? それとも付き合わない方がいい?」 できる限りのことをする、と言ったからには、それなりの答えを出さなければならない。 陽一は考えに考えた。 「……藤城君がいい人なら付き合えばいいだろうし、そうでないなら付き合わないほうがいいだろうし……」 「ふーん……それだけ?」 「まあ、今のところは」 「へえー、それだけ」 綾は目を閉じ、額に手を当て、小さく呻いた。 「あれだ。話したことでちょっとは気が楽に……」 「なるわけないでしょ! この馬鹿!」 綾の感情にあわせるように、背後で鍋が噴き出す。 慌てて綾は料理に戻った。 「あちち……!」 「ごめん。やっぱり役に立てなくて」 「……まあ別にいいわ。どうせもう断ったし」 「え? 断ったの?」 驚く陽一を、綾は鼻で笑った。 「私がいちいちそんなことで迷うわけないでしょ」 「じゃあ、結局なんで機嫌が悪かったんだよ」 「それは……」 綾は拳をぐぐっと握り締め、悔しそうに唇を噛んだ。 「その男のくだらない話に時間をとられて、長岡精肉店のタイムサービスを逃しちゃったのよ……!」 「そ、そうか。まあ、気にするなよ。いつも十分にやりくりしてくれてるんだからさ」 コーンと、綾はおたまで鍋を鳴らした。 「ええ、ええ。気にしてないですとも。今は新しい怒りが上書きされたしね」 その日の夕食は相変わらず美味しかったが、少しだけ塩味がきつかった。 770 名前:追憶の綾 ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/21(月) 21 31 05 ID Ruqhb3lQ 次の日の昼休み、綾はいつも通り小夜子と教室で昼食をとっていた。 「もったいない……」 「小夜子、それ今日何度目よ」 「だって……もったいない……」 小夜子は朝からずっと、休み時間の度に、「もったいない」を連呼していた。 「だってさ、藤城君、一年女子の間じゃ一番人気よ? 美形で何でもできるオールマイティー。それを振っちゃうなんて……」 「ふーん。すごい人だったのね」 「何が不満だったの?」 「んー……不満って言うか……」 もとより綾には選択肢は一つしかありえなかった。 「……私にも色々あるのよ」 「ん? ん? その辺詳しく聞きたいわね」 「はいはい。また今度、気が向いた時にね」 綾は笑って小夜子の追究をかわす。 小夜子はぶちぶちと文句を言いながら、綾と弁当のおかずの交換をした。 和やかな雰囲気で昼食は進んだが、しばらくすると来訪者があった。 「えーと、支倉さん、こんにちは」 「……こんにちは」 やってきたのは、購買のパンを持参した藤城だった。 「また何か用? 昨日返事はしたはずだけど」 綾は努めて表情を変えずに尋ねる。 小夜子は興味津々といった様子で二人を見た。 「うん、その、話がしたくて……」 「何の話よ?」 「色々と。友達からでいいから……仲良くなりたいんだ」 近くの席に腰を下ろし、藤城は持ってきたパンをかじりつつ、綾たちに話しかけた。 藤城は綾のクラスにも友人が多く、また女子も自然と集まり、綾と小夜子の机の周りはいつになくにぎやかになったが、綾は内心この上なくうんざりとしていた。 周囲の目がある手前、殴りつけるなんて論外だ。 何とか心を平静に保ち、綾は藤城の話に微笑みながら相槌を打った。 結局藤城は昼休み一杯まで綾たちのクラスで話して、満足気に帰っていった。 藤城が教室を出て、集まっていた面々が各々の席に散ると、綾はがくりとうなだれた。 「な、何なのあの人は……」 「積極的な人だね」 「どうして昨日の今日で来られるのよ。気まずくないのかしら。理解に苦しむわ」 「それだけ綾のことが好きなのよ」 綾は机に伏せて、深く息をついた。 「それこそわからない。どうして私なのよ」 「そりゃあ……綾は美人だし、なんていうか、同じ年の子たちに比べて芯の通った感じがするし。魅力的だと思うよ」 「芯の通った、ね……」 昼休みの終わりを告げる鐘が鳴る。 あと二つ授業を受ければ放課後だった。 「……あの人、放課後も来るかしら」 「一緒に帰ろうって言ってくると思うよ」 「……はっきり言わないとだめなのかしらね……」 綾は、机の上に流れた自分の髪を、ぼんやりと見た。 771 名前:追憶の綾 ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/21(月) 21 33 23 ID Ruqhb3lQ 放課後、綾は家庭科室に一人立っていた。 窓の外には少し強く風が吹き、帰りの女子生徒がスカートを押さえる姿が見受けられる。 空気が動いたせいだろうか、夕日はいつにもまして赤く見え、教室を真っ赤に染め上げていた。 綾が窓の外の景色を眺めていると、背後で引き戸を開ける音がして、人が入ってくる気配がした。 「いらっしゃい」 振り返って、綾は笑う。 笑顔を向けた相手は藤城だった。 「支倉さん……」 「よかった。来てくれて」 「来るに決まってるじゃないか」 藤城は手に手紙を握って言う。 綾の出した、呼び出しの手紙だった。 「それで、話って? ひょっとして付き合う気になってくれたとか……?」 「ううん、逆よ。あなたに諦めてもらおうと思って」 「諦める?」 「もう話しかけたりしないでほしいのよ」 淡々と言う綾に、藤城は動揺して問いかけた。 「僕は……その……嫌われてしまったかな?」 「まあ、正直不快にはなったわね。それに、いつまでも騙しているのは申し訳ないし」 「騙すって……」 窓の外からは、部活にいそしむ生徒たちの声が時折聞こえてくる。 綾は、ほんの少しの沈黙の後、口を開いた。 「あのね、聞きたいんだけど、私のどこが好きなの?」 「え……どこって……」 藤城は照れたように頬をかいた。 「その……何ていうか、凛とした、他の人にはない雰囲気があって……強い感じがするし……」 「そういうタイプの人が好みなの?」 「ま、まあ、そういうことになるのかな」 「あのね、私、あなたが思っているような人間じゃないのよ」 綾はため息をついた。 「全然強くなんてないのよ。どうしようもなくわがままで、いつもぎりぎりの人間なの」 「……」 「普段考えてることと言ったら、自分のことばかりで、何かあるとすぐに腹を立ててるのよ。もう笑っちゃうくらい短気で、自己中心的なの」 「そうは見えないけど……」 「そう見えないように、適当にごまかしているのよ。それであなたも勘違いしちゃったんでしょうね」 藤城はにわかには信じられず、何とも言えない顔をしていた。 「というわけで、私は全然あなたの好みの女じゃないから。諦めてちょうだいな」 「……君がどんな人間であれ、それでも一緒に居られたら幸せだって言ったら、諦めないでもいいかな?」 「私はあなたと一緒にいても何も嬉しくはないからね」 「絶対……絶対後悔させないから!」 藤城は綾に歩み寄ると、その肩をがしりと掴み、叫んだ。 綾は冷たい目で藤城を見た。 「何言ってるの?」 「君を喜ばせてみせる。君を幸せにしてみせるよ」 「どこからそんな自信が湧いてくるの? 私の幸せが何だかわかって言ってるの?」 「それは……今はわからないけど……」 「それでも、そんな確信を持って言えちゃうのね。藤城君は、余程自分に自信があるのかしら」 挑発めいた綾の物言いに、綾の肩を握る藤城の手に力がこもった。 「自信とかじゃなくて、それだけ僕の気持ちが強いってわかってもらえないかな」 眉目秀麗な少年は、真っ直ぐに綾の瞳を見て熱く語りかける。 普通の女子生徒なら、その情熱にひょっとしたら胸を高鳴らせてしまったかもしれない。 しかし、綾の心中はただ乾いた風音が響くだけで、何の感慨も湧かなかった。 772 名前:追憶の綾 ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/21(月) 21 36 18 ID Ruqhb3lQ 「あっはっはっは。粘るわねー。ストーキングも強姦も、色男がすれば犯罪じゃないっていうのは、少女漫画の中だけよ。藤城君、その辺わかってる?」 「そんなこと言わないでくれよ。本当に、君が好きなんだ」 「あなたは……人に拒絶されたことがないから、意地になってるだけだと思うんだけどね」 やれやれと、綾は笑った。 「穏便に済まそうと思ったけど、面倒になっちゃったわね」 「……」 「あのね、私が必要とするのは、私を支えてくれる人、私を全力で守ってくれる人、私を苦しみから救ってくれる人なの。あなたじゃないわ」 綾の言葉に、藤城はますます強く綾の肩を掴んで、ぎりぎりまで顔を寄せた。 「だから……僕はその支えになりたいんだよ!」 「あなたには無理よ」 「どうしてそんなことが言えるのさ!? 僕は……僕は、君のためなら何でもやってみせるよ!」 「そんなに言うなら試してみる?」 「え?」 「あなたに私が支えられるか、試してみる?」 肌が触れてしまうのではないかというほどの近さで顔をつき合わせ、二人とも互いの目を見る。 やがて藤城は静かに頷き、綾の目がにこりと笑った。 「……っ!」 腕に焼け付くような痛みを感じて、藤城は綾の肩から手を離した。 数歩下がって、自分の腕を見る。 左手の肘から手首にかけて、ワイシャツが切られ、その下の肌に赤い線が走っていた。 「え……?」 ぷつぷつと血が球になって溢れ出る。 呆然と綾を見ると、その右手には、鋭く光る小振りの包丁があった。 「あの……支倉さん?」 「例えばね、私の今の苦しみは、あなたを殺すことで解決できるって言ったら、あなたは喜んで死んでくれるかしら」 「え……?」 綾は一足飛びに藤城との間を詰め、握った包丁を振り抜く。 慌てて後ろに跳ねた藤城だが、体をかばうように上げた右の手の平が横一文字に浅く切れ、また血が滲んだ。 「あら、避けたわね。おとなしく死んでよ。私のためなら何でもできるんでしょ?」 「ちょ、ちょっと待って……意味が……」 「私を支えてくれるって言ったじゃない。私が安らかに過ごせるように、さっさと死んでよ」 銀色の刃がきらめく。 藤城はまた身をかわし、今度は包丁は空を切っただけだった。 体勢を整えて綾は藤城に歩み寄り、その分藤城もじりじりと後ろに下がる。 「ね、ねえ、冗談だよね、支倉さん」 「まさか」 藤城の背が壁に当たり、後退していた足が止まった。 「あ……」 「残念。もう逃げられないわね」 夕日を受けた刃が、赤い線となって一直線に藤城の首筋に向かう。 藤城は横に飛びのいてこれもかわしたが、身を起こすよりも早く、綾が藤城の体に飛び乗った。 「ぐっ……!」 仰向けに床に転がる藤城。 綾はその上に馬乗りになり、包丁を両手で握ると、高く頭上に振り上げた。 「ね、ねえ、支倉さん、本気なの? 本気で……」 「試してみたいって言ったのはあなただから」 「殺すって……犯罪なんだよ? 君も捕まるかもしれないし、やめた方が……」 「黙れ」 綾は包丁を振り下ろした。 「ひっ……!」 情けない声をあげ、藤城は上体を丸める。 包丁は、藤城の体を貫くことは無く、首のわずか右の床に、鈍い音を立てて刺さった。 息を切らし、がくがくと震える藤城を、綾は静かに見下ろした。 「……ほらね? 無理だったでしょう」 「う……」 「というわけで、諦めてお帰りください」 「……」 「帰れっつってんのよ」 藤城のみぞおちに綾のつま先がめり込んだ。 藤城は何度も咳き込み、目に涙を浮かべて、転がるように家庭科室を出て行った。 773 名前:追憶の綾 ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/21(月) 21 37 10 ID Ruqhb3lQ しん、と静まり返る教室。 綾はほっと息をついた。 「やれやれ。終わった終わった」 「行っちゃったね」 綾の背後、家庭科準備室の中から、小夜子がぴょこんと姿を現した。 「ええ。やたらしつこいわりに全然ダメだったわね」 「いや、仕方ないと思うけどねえ……」 苦笑しつつ、小夜子は床に刺さった包丁を引き抜く。 刃には微かにだが、藤城の血がついていた。 「うわ、こりゃ凄いね」 「……びっくりしたでしょ。私、こんな人間なのよ」 自嘲気味に笑って漏らす綾に、小夜子は少し考え込んで、 「……まあ、綾が変な人間だってのは、とっくの昔に知ってたし」 今更、という風に返した。 気が強く、芯の強い親友。 小夜子は、その親友の瞳の奥に不安定な情念が揺らめくのを感じることが時折あった。 だから、むしろ今回の発露で、妙に納得した感があったのだ。 「それより綾、どうするのよ。こんなことして。変な噂立っちゃうよ、多分」 「かまわないわよ。鬱陶しいのが来なくなるだろうし」 「ひょっとしたら問題になるかも。怪我させちゃったから」 「その時は犯されそうになったって言うわ。ま、大丈夫でしょう。あんな腰抜けに何かできるとも思えないし」 言って、おかしそうに綾は笑う。 つい先ほどまで刃物を振り回していた人間とは思えない、朗らかな笑顔である。 小夜子はほう、とため息をついた。 「それにしても、綾と付き合う男は、包丁で刺されてもおっけーじゃなきゃいけないのねえ。こりゃ難易度高いわ」 「あのね、断っておくけど、別に何でもかんでも刺したいわけじゃないわよ? ただ、私のために命をかけてくれる人じゃなきゃ、私は……安心できないから……」 「綾って意外とわがままだよね」 「だから自覚はしてるっての」 小夜子はうーむと腕を組んで考え込んだ。 「ちょっと理想が高いんじゃないかなあ……高校生で命を張るなんて、普通いないよ、そんな男」 「いるわよ」 「んん? はっきり言い切っちゃってるけど、今までそういう人に会ったことあるの?」 「会ったことがあるって言うか……」 綾は一瞬黙り込み、視線を床に落とす。 しばしの逡巡の後、口を開いた。 「……私の母親は、ちょっとよろしくない人でね」 「え?」 「小さい頃はひどい目に遭ったわ。色々と」 「ひどい目って……」 「包丁を突きつけられたこともあったわ」 「……」 「でもね、守ってくれる人がいたのよ」 774 名前:追憶の綾 ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/21(月) 21 38 10 ID Ruqhb3lQ 陽一と綾の母、支倉澄は、美しい人だった。 ちょうど今の綾のような、瞳に宿る強い光と、儚げな微笑。 才色兼備の、良き妻、良き母だと、周囲の誰もが憧れの目で見る女性だった。 夫は仕事で留守がちだったが、支倉澄は一人で家を守り、周囲には包み込むような優しさで接した。 ただ一人、自分の娘、綾を除いて。 誰にでも優しい澄だったが、綾が生まれて成長するにつれて、次第に綾を疎んじるようになった。 初めは幼い綾の訴えを時折無視する程度だったが、次第にそれは酷くなっていった。 うっすらと笑みを浮かべながら、冷たい目で綾を見て、ことあるごとに暴力をふるった。 綾が笑うと、殴って泣かそうとする。 綾が泣くと、笑うようにと言ってまた殴る。 食事を食べさせず、部屋の中に閉じ込めることもあった。 綾は体のどこかにいつも青痣をつくり、体もやせっぽちで、家の中の限られたところしか歩かせてもらえず、決して外に出ることは許されなかった。 綾の幼年期の記憶は、母からの暴力と、ひもじさに壁にもたれかかり、何をするでもなく過ごした狭い部屋の光景が大半だった。 苦しみと痛みに満ちた、虐待の日々。 それが幼い綾の人生の全てだった。 父が仕事で居ない家で、澄の支配は絶対だったが、そんな中、陽一はことあるごとに妹の綾を守った。 兄としての義務感といったものが、まだ小さな陽一にあったかどうかは疑問である。 しかし陽一は一つ年下の妹が打たれていると、泣いて母にやめるように懇願し、綾の身を守るようにして綾を抱きしめた。 母に殴られてついた傷の手当てをしたのは陽一だった。 部屋に閉じ込められた綾に、密かに食事を差し入れたのも陽一だった。 ぐちゃぐちゃに形の崩れたおにぎりを持ってきて、ぼんやりと壁に寄りかかる綾に差し出し、 「ごめん。お兄ちゃん、こんなのしか作れなかった。ごめんな」 謝りながら、自分で腕を上げることもできない綾に、おにぎりを食べさせた。 綾は虚ろな目で、呼吸をする以外動きは無く、まるで人形のようだった。 咀嚼もうまく出来ず、口の端からぽろぽろとご飯をこぼす妹の姿に、陽一は涙を流さずにはいられなかった。 不恰好で塩の付き過ぎた、お世辞にも上手とは言えないおにぎりだったが、それが無かったら、綾は狭い部屋の中で死んでいたことだろう。 そして何より、そのおにぎりは、綾の心を救った。 もはや反応する気力も無く、お礼を言うことも出来なかったが、壊れかけた綾の心を繋ぎ止めたのは、他でもない、陽一の温かさだった。 澄は陽一に対しては、母が普通に子供に対するのと同様に、大いに可愛がった。 その息子が綾を守るのが気に食わないのか、陽一が綾をかばうと、その場は退いても、後でますます逆上して綾を打った。 結果として綾の体につく傷はより深刻なものになったが、幼い綾の心が陽一の存在でどれだけ救われたか、綾本人にすら計り知れない。 陽一は澄にどんなに怒鳴られても、脅されても、包丁を突きつけられても、綾を抱きしめてかばい、綾はともすればバラバラに砕けそうになる精神を、かろうじて保ったのである。 綾が小学校に上がる頃になると、澄からの虐待はますます重いものになり、ついにある日、それは起こった。 775 名前:追憶の綾 ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/21(月) 21 39 00 ID Ruqhb3lQ 「ちょうど今みたいな、夕日の光が綺麗な時間だったわね」 目を細めて、赤く染まる西の空を見ながら、綾は言った。 「殺してやるって言われたわ。お母さんに。鬼のような形相でね」 小夜子はどう反応していいかわからない。 綾は感情のこもらない声で話を続けた。 「その時も、その人は逃げなかったの」 776 名前:追憶の綾 ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/21(月) 21 39 50 ID Ruqhb3lQ ぎらつく包丁が、綾の前に立つ陽一の肩越しに見えた。 「陽一、どきなさい……! その女……その女を殺さなきゃ……!」 澄は美しい顔を歪ませて、血走った目で綾を睨みながら、自分の娘を「その女」と呼びつけた。 包丁を握る手は震え、時折狂ったように頭を振って、長い黒髪を振り乱した。 「殺してやる! 殺さなきゃだめなのよ! だめなの! だからどきなさい!」 包丁を陽一の眼前に突き出して、澄は叫びをあげる。 陽一はビクリと体を震わせたが、それでも綾の前から動かなかった。 「陽一……どきなさい。どいて。どかないとあなたも殺すわよ」 「……嫌だよ」 「お願い、どいて。陽一はいい子でしょう? お母さんの味方でしょう?」 「……」 「陽一、包丁で刺されるとね、とっても痛いのよ。死んじゃうの。死ぬと、美味しいものも食べられなくなるし、お友達とも遊べなくなるのよ。そんなの嫌でしょう?」 母の問いに、陽一はこくりと頷く。 そして、はっきりと言った。 「痛いのも、死んじゃうのも嫌だよ……嫌だから、綾がそうなったら可哀想だよ……」 「……お兄ちゃん」 「それに……綾がいなくなるのは痛いのより嫌だよ」 陽一の言葉に、綾はぽろぽろと涙を零した。 数年間、澄に殴られるのが怖くて、綾はどんなことがあっても涙を見せなかった。 しかし、この時ばかりは、こらえることができなかった。 陽一の背にすがり付いて、綾は息を詰まらせて泣いた。 その姿を見た澄は、ますます声を荒らげた。 「陽一、どきなさい!」 「嫌だ」 「どけって言ってるでしょ!」 「嫌だよ」 「本当に刺すわよ!? 本当にあなたも殺すわよ!?」 陽一は決然と澄を見て、綾の前に立ったまま動こうとしなかった。 「あ……」 澄は喘ぐように口を動かし、 「あああああああああああああああああああああ!!!」 大声で叫びながら構えた包丁を前に突き出した。 ――呻くような陽一の声。 呆然と腹を押さえ、陽一は床に尻餅をつくようにして倒れた。 「……お、お兄ちゃん?」 陽一の服が、みるみるうちに赤く染まっていく。 「お、お兄ちゃん……」 「おい、綾、泣くなよ」 「お兄ちゃ……わ、私……ご、ごめ……ごめんなさ……」 次々と涙が溢れて言葉が紡げずにいる綾に、陽一は苦しそうに顔を歪めながら微笑んだ。 「大丈夫だよ」 「で、でも……」 「兄ちゃん、綾の兄ちゃんなんだから、謝るなよ」 痛みに意識が朦朧とする中で、陽一は言葉を搾り出した。 「綾が痛くないなら、兄ちゃん平気だよ」 「お兄ちゃん……」 「兄ちゃん、綾の兄ちゃんだから、これぐらい大丈夫……」 声は抑揚無く、次第に小さくなっていく。 「お兄ちゃん……! お兄ちゃん!!」 綾の呼びかけに、陽一は小さく「大丈夫」と頷く。 刺された腹を押さえて座り込み、焦点の合わない目で宙を見ながら、「大丈夫、大丈夫」と呟いた。 カラン、と音がして、綾は母の方を見た。 澄は包丁を落として、床にへたり込んでしまっていた。 「あ……あ……私……何てこと……陽一……」 かすれた声で、澄は陽一の名前を呼んだ。 777 名前:追憶の綾 ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/21(月) 21 40 51 ID Ruqhb3lQ 「ま、そのお母さんも、今は居ないけどね」 「居ないって……?」 「死んだのよ。自殺して」 そう、自殺ということになっている。 綾は窓の外を見たまま、決して小夜子の方を向こうとはしなかった。 鋭い友人に、表情を見られるのが怖かったから。 778 名前:追憶の綾 ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/21(月) 21 42 05 ID Ruqhb3lQ お兄ちゃん―― その瞬間、綾の頭の中で何かが爆ぜ、綾は床に転がった包丁を掴んでいた。 大切な大切な、たった一つの支え。 自分にとって世界の全てであり、何者にも代えられない存在。 それを害した女。 お兄ちゃんをよくも―― 六歳の少女は、渾身の力を以って、床にへたり込む母の首に包丁を突き刺した。 鋭い切っ先は思いのほか簡単に柔らかな皮膚を突き破り、肉を裂き、血管を切った。 「あ……?」 呆然と、自分の首に刺さった包丁を見て、澄は奇声を上げた。 「ああぁぁああぁあああアアアァあァア」 慌てたように突き刺さった包丁の柄を掴み、引き抜く。 次の瞬間、水音とともに大量の赤い血が床を叩き、澄は静かに床に倒れ臥した。 目からは完全に光が失われ、血溜まりの中でぴくりとも動かない。 綾という少女が、初めて殺人を犯した瞬間であった。 一分もせずに警察官がやってきて、陽一は病院に搬送され、綾も保護された。 澄の叫びを聞いた近所の住民の通報によって駆けつけたものだった。 「支倉澄は心神耗弱状態で息子を刺し、その直後、自ら喉を切って自殺した」 陽一は意識が朦朧としていて前後の状況を覚えておらず、綾の説明と発見時の状況から、そういうことになった。 そう、支倉澄は、自殺したのである。 779 名前:追憶の綾 ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/21(月) 21 43 00 ID Ruqhb3lQ 「……とまあ、つまらない身の上話終わり!」 綾はぱんと手を打って、話を終えた。 「ともかくも、私の理想の人は確かにいるわけよ」 「……綾」 「ん?」 「ごめん……無理に辛いこと思い出させちゃって」 小夜子は涙ぐんで謝る。 綾は軽く手を振った。 「いいから、そんな謝らないで。小夜子に話したくなったから話しただけで、本当に嫌なら絶対話さないし」 「本当……?」 「ホントよホント。当たり前でしょ」 二人は包丁をきちんと洗って家庭科準備室に返し、学校を出た。 780 名前:追憶の綾 ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/21(月) 21 44 04 ID Ruqhb3lQ 「……つまりはさ、綾の理想の人って、陽一さんなわけだよね」 校門に至る道のりで、小夜子がぽつりと言った。 「は、はあ!? 何でそうなるのよ!」 「だって、陽一さんが守ってくれたって……」 「いや、そういう人が居たとは言ったけど、お兄ちゃんとは一言も言ってないでしょ!?」 「毎日家に居て守れる人っていったら、お父さんか陽一さんしかいないじゃない」 「ぐっ……!」 言葉に詰まる綾に、小夜子はくすりと笑った。 「隠すこと無いのに……」 「……お兄ちゃんには言わないでね。調子に乗るから」 「わかってるって。見つかるといいね。陽一さんみたいに、素敵な人」 「まあね」 返事をしながら、そんなことはあり得ないと、綾にはわかっていた。 (結局あの頃から、私は何も変わっていないのよね……) 陽一が世界の全て。 陽一が居なくなった時、陽一に想われなくなった時が、綾にとっての世界の終わりだ。 だから綾は、陽一を害するものは何であれ許さない。 自分と陽一の世界を壊そうとするものは、絶対にその存在を許さない。 (お兄ちゃん……) あの頃のことは、陽一も綾もお互い口にすることは無く、のんきな兄のことだから忘れているのかもしれないとも、半ば本気で綾は思う。 しかし綾は忘れない。 血まみれで微笑んだ兄の顔を。 命をかけて自分を守ってくれた最愛の人の姿を。 「あ! 綾、そういえば……」 小夜子の声に、綾は我に返った。 「何よ」 「もし藤城君が包丁をかわせなかったら、どうするつもりだったの?」 「その時は、あなたに手伝ってもらってどこかに埋めたわ。いざって時には頼りにしてるからね、親友」 「……綾が言うと本気に聞こえるから怖いね」 二人は顔を向き合わせてクスクスと笑う。 親友という言葉が、小夜子には何とも嬉しかった。 782 名前:追憶の綾 ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/21(月) 21 54 17 ID Ruqhb3lQ 綾が家に帰ると、居間には陽一が寝ていた。 疲れていたのだろう、寝転がってテレビを見ていたらそのまま眠ってしまったらしい。 綾はテレビを消して、寝ている兄の傍らにそっと座り、その顔に触れた。 家事は苦手だし、テスト前になると大慌てするし、痴漢には間違われるし、とにかく鈍い。 他の人から見たら情けないところのある人間なのかもしれない。 そんな陽一だが、これ以上ない優しさと勇気を持った人間なのだと、綾は知っている。 「お兄ちゃん……私、お兄ちゃんのためなら何でもできるからね」 語りかけながら綾は陽一の頬を撫ぜたが、陽一は静かに寝息を立て、反応しない。 「寝てる、か……」 確認するように言うと、綾は制服のままで、陽一に重なるようにして身を横たえ、陽一の胸に顔をうずめた。 「お兄ちゃん……」 呟いて綾が目を閉じたその直後、 「ん?」 陽一がむくりと起きて、綾は陽一の胸の上からずり落ち、床にごつんと頭をぶつけた。 「お前……何やってるんだ?」 「お、お、お兄ちゃん、起きてたの?」 「いや、何か重いなと思って、今さっき目が覚めたんだが……」 寝ぼけ眼で頭をかく。 「何してるんだよ、人の上に乗っかったりして……」 「あー、あれよ、その……えー……こ、転びました」 弱々しい声で言い訳する。 陽一は、あっさりとその言葉を信じた。 「そっか。気をつけろよな。もう子供じゃないんだから」 綾の頭に手を置き、よしよしと撫でる。 兄の温かい手の感触に、綾はちょこんと正座して、おとなしく身をゆだねるのであった。 戻る 目次 進む
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冠系 追憶の烏帽子 (ツイオクノエボシ) 【冠】 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (追憶の烏帽子.JPG) 基本性能 価値 重量 防御力 耐久度 6 2.1 12 16 命中補正 回避補正 物理耐性 妖術耐性 − − -10 -10 装備可能 全職【女性専用】 装備区分 頭装備 必要Lv 12以上 付与効果 − 備考 加賀のクエスト「名残の姫小松」の報酬 取引不可
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冠系 追憶の烏帽子 (ツイオクノエボシ) 【冠】 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (追憶の烏帽子.JPG) 基本性能 価値 重量 防御力 耐久度 6 2.1 12 16 命中補正 回避補正 物理耐性 妖術耐性 − − -10 -10 装備可能 全職【女性専用】 装備区分 頭装備 必要Lv 12以上 付与効果 − 備考 加賀のクエスト「名残の姫小松」の報酬 取引不可
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冠系 追憶の烏帽子 (ツイオクノエボシ) 【冠】 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (追憶の烏帽子.JPG) 基本性能 価値 重量 防御力 耐久度 6 2.1 12 16 命中補正 回避補正 物理耐性 妖術耐性 − − -10 -10 装備可能 全職【女性専用】 装備区分 頭装備 必要Lv 12以上 付与効果 − 備考 加賀のクエスト「名残の姫小松」の報酬 取引不可
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ついおくのこえ【登録タグ くろずみP つ 曲 蝶夜 鏡音リン 鏡音レン】 作詞:くろずみP 作曲:くろずみP 編曲:くろずみP 唄:鏡音リン・鏡音レン 曲紹介 いろいろなものを犠牲にしてきた君らだからこそこの曲を今年の最後に歌って欲しい イラストと動画を蝶夜氏が手がける。 鏡音誕生祭2011に投稿された数ある楽曲の一つ。 歌詞 優しい嘘を一つ吐いた 二つ目を吐いて苦しくなった 笑顔でいることは何気ないけど ふと気づいた時は悲しくなって 押し殺して忘れて ごまかしては また陽が昇って ホントは 伝えたいことばかりで あふれて ボロボロになった写真は 祝福の鐘に 生誕を祝う 記憶に残る あの日に見た君に 「さよなら」の声を 新しいものは生まれていき 古くなったものは忘れられていく 心も記憶も形はないけど こんなにも痛くて苦しくなるよ 同じものは二つと無いから 失うこと 恐れていただけ ホントは 泣きたいくらい弱くて 抱えて ボロボロになった両手は また一つ声は 生まれ消えていく 誰もが残す 歴史と言う名の絵画 色褪せてずっと 積み重ねられた積木に 僕らも一つを 紡いでくさまざまなストーリー きっと この声はきっと 今を 伝えて ホントは 残したいことばかりで こぼした 確かに聞いた言葉を さよなら 愛されてきた歌声を 紡いで 確かに残った面影を 追憶の声は 永久を歌えない 消えてく声を ずっと覚えてくから ここに居た君へ 「ありがとう」 忘れてしまうことは こんなにも 悲しいことだから コメント 動画から書き起こしました。正式な歌詞が出た際には変更お願いします。レンリン新曲待ってた!! -- 鳩の人 (2011-12-27 03 00 08) はやい!追加乙!! -- 名無しさん (2011-12-27 12 03 46) 追加おつですっ 絵も曲も素晴らしいっ!! -- noke (2011-12-29 21 16 30) 好きなんだけどなぁ。もっと評価されるべき! -- 名無しさん (2012-04-09 15 29 03) 好きです -- 名無しさん (2012-06-02 07 38 02) すんごく素敵でした。リンレンの声がすごく優しくて感動しました!! -- 名無しさん (2013-06-06 13 22 09) カラオケで歌いたいのは俺だけか?いや、他にもいるはずだー!! -- 名無しさん (2013-06-09 07 12 07) 名前 コメント
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タグ かっこいい 曲名つ DAM/JOYにて配信中 歌 Asriel 作詞 KOKOMI 作曲 黒瀬圭亮 作品 11eyes CrossOverED 追憶の誓い 11eyes Cross Over(Xbox360版)エンディングテーマ
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冠系 追憶の烏帽子 (ツイオクノエボシ) 【冠】 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (追憶の烏帽子.JPG) 基本性能 価値 重量 防御力 耐久度 6 2.1 12 16 命中補正 回避補正 物理耐性 妖術耐性 − − -10 -10 装備可能 全職【女性専用】 装備区分 頭装備 必要Lv 12以上 付与効果 − 備考 加賀のクエスト「名残の姫小松」の報酬 取引不可
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愛と追憶の日々 愛と追憶の日々 夕べの星 コメント 1983年公開のアメリカ映画。ラリー・マクマートリーの同名小説を原作としてジェームズ・L・ブルックスが監督、製作、脚色を担当したドラマ。 愛と追憶の日々 スイクン:オーロラの夫 分類の名前から アマルルガ:オーロラ・グリーンウェイ ひれがオーロラっぽいので 夕べの星 コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る 草案 愛と追憶の日々 アマルルガ:オーロラ・グリーンウェイ ひれがオーロラっぽいので -- (ユリス) 2017-08-19 23 26 48