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酒には、不思議な力がある 適度に飲めば薬であり、しかし、度を過ぎれば毒となるそれ 心を開放的にし、普段口にできぬ悩みすらも、見ず知らずの人間に相談してしまうような事態にすら、物事を進めてしまう 彼、五十嵐にとって、酒の力に流された事は、不幸でしかなかった しかし、少なくともこの日、彼は幸運であったと、そう感じたのだ 「…それはそれは。大変な体験だったようで」 「……はい…まったく…」 ぐでんぐでんに酔っ払っている五十嵐 辺湖市新町の隣町である学校町 そこのとあるバーで、彼は飲んでいた そして、見事に出来上がっていた もう、飲まなきゃやってられない気分だったのである 何が悲しくて、初めてがマッスルな校長でなければならないのだ いっそ、死にたい 彼にとって人生の汚点とも言えるそれを、見事に酔ってしまっていた彼は、たまたま隣の席に座った中年男性に、ぼろぼろと話してしまっていた 恐らく、翌朝覚えていれば、後悔するであろう行為 しかし、この瞬間、己の中に溜め込むのではなく吐き出す事で、彼の心は多少なりとも、軽くなっていた …そして そんな、話されてもどう対応したら良いのかわからない、いっそ引くようなその話を 灰色のコートを着たその中年男性は、静かに聞いていてくれていて 話し終わった五十嵐を見つめ……問い掛けてくる 「…それで。君は、どうしたんだ?」 「え?」 「そんな、パワーハラスメントを受けたんだ。訴えようとか、そう言う方向に考えは及ばないのか?」 言われて、五十嵐は視線を沈ませる …訴える? それこそ、彼にはそんな勇気はなかった 人生の汚点とも言える、禍々しい行為 それを、裁判所に訴えるなど、恐ろしくて、恐ろしくて とてもじゃないが、できない それを、正直に話すと…ふむ、と中年男性は、ゆっくりと続けてくる 「…復讐したいと、そう思わないか?」 「復讐…?」 「君に、そんな行為を行ってきた、その男を。社会的なりなんなり、抹殺したいと……そうは、思わないか?」 酷く、物騒な事を話される それは、と五十嵐は視線を彷徨わせて……悩む それが、できるならば……と、一瞬 ほんの一瞬、考えてしまって その瞬間 ぱりんっ、と 五十嵐の中で…何か、卵が割れたような そんな、錯覚を感じた 『復讐シチマエヨォ、憎インダロォ?』 「--------っ!?」 己の中に、響いた声を 五十嵐は、確かに聞いた 「…どうした?」 「い、いえ、何も」 中年男性に不審がられないよう、慌てて返事をする 何だ? 飲みすぎて、幻聴が聞こえるようになったか? 『殺シテェダロォ?テメェヲ汚シタソノ野郎、メッタメタノギッタギタニシテヤリテェダロォ?』 声が、楽しげに誘惑してくる 酷く、酷く、誘惑的なその声 破壊的なことを行えと、それは楽しげに誘ってくる 何が起きているのか 酔った思考が、混乱する その混乱に、拍車をかけるように…中年男性は、笑って、五十嵐に提案をしてくる 「…都市伝説と、契約して見ないか?」 「都市……伝説……?」 そう言えば、あのおぞましい行為を行っていたとき 校長が、そんな単語を発していたような気がした 「そうすれば、君は新たな扉を開く事ができるだろう……君に、おぞましい行為を行ったその人物を。ありとあらゆる意味で抹殺できるだけの力。それが、手に入るかもしれない」 「…力、が」 『ソウダゼェ!!ホラホラホラホラホラホラホラァ!契約シチマエヨォ!!!』 中年男性の言葉を後押しするように、内なる声が誘う 都市伝説と、契約 そうすれば…力が、手に入る? あの校長に……復讐、できる? 悩む五十嵐の前に…中年男性は、す、と 一枚の紙を、見せてくる 「それは…」 「都市伝説との、契約書だ。君に相応しい都市伝説の名を、既に記入している……後は、君がサインをすれば。君はこの都市伝説と契約できる」 『ホラホラホラホラァ!!目ノ前ニ力ガアルゾォ!受け取トッチマエ!!力ヲ手ニ入レチマエヨォオオオオ!!!!』 二つの声が誘う 契約しろ、と誘惑してくる あまりにも魅力的な、その誘い ……酔って混乱した思考 いや、この瞬間、もしかしたら、酔いが覚めて、冷静になっていたかも、しれないが この夜、彼は悪魔の囁きに乗ってしまった ……帰り道 雪が舞い散る道を、彼は一人、歩いていた 何だか、気分が随分と軽い 一体、自分は何故、あんなにも思い悩んでいたのか それが、何だか馬鹿らしくなってきた 一人帰る、彼の前に 「HAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!」 響き渡る、笑い声 やせいの あにきが てんからまいおりてきた !!! 全裸のマッスル兄貴が、天から降りてきた それは、某最強マッスル禿から生まれた野生の兄貴 男を「ッアー!?」の道へと誘う存在 その、マッスルな姿に おぞましい存在を思い出し、五十嵐は眉を顰める 「OK,そこのお兄さん、Meと熱い夜を…………ん?都市伝説の気配…」 ……あぁ、そうだ 丁度いい 五十嵐は、ニタリと笑う たっぷりの、たっぷりの邪悪が篭った笑顔 彼の携帯が、着信を告げる 五十嵐は、迷う事なく、その電話に出た 『23時15分。私はどこ?くすくすくす』 向こう側から聞こえて来たのは、愛らしい幼女の声 その声に、五十嵐は愛情を込めて、答える 「君は、全裸の変態の背後にいるよ」 「む……!?」 咄嗟に、背後に振り返る兄貴 ……振り返った体制での、その、背後に 彼女は、姿を現した どすっ、と 兄貴の体に、ナイフが突き刺さる 「が……っ!?この……-----!?」 『23時16分。私はどこ?くすくすくす』 「その変態の、足元だよ」 振り返ったとき、それはもう、そこにいない 代わりに、全裸兄貴の足元に…現れて すぱりっ、その足が切り裂かれる 「------っ」 がくり、膝をつく兄貴 五十嵐は、その姿を……汚い物を見下ろすように、笑った 『23時18分。私はどこ?くすくすくす』 「変態の真上だよ……止めを刺してくれ」 『はぁい。くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす………!!』 響き渡る、幼女の笑い声 それを最後に……全裸兄貴の意識は途絶え、その命は学校町から消えた 『えらい?私、えらい??くすくすくす』 「あぁ、偉いよ……質問女」 『褒められた、褒められた!くすくすくすくすくす』 傍らを歩きながら、しかし携帯電話で話してくるその幼女 都市伝説 質問女と手を繋ぎ…五十嵐は、至福の表情だった あぁ、自分は素晴らしい力を手に入れた 素晴らしいパートナーを手に入れた この力があれば……! 「…あぁ、そうだ……今度、あの人に礼を言わないと……」 携帯の番号は手に入れている 後で、礼をしなければ この、素晴らしい力を与えてくれた彼に……恩返しをしなければ 家への帰り道、質問女とて繋いで帰っていきながら 五十嵐は、悪意を滲ませた笑みを、浮かべ続けていたのだった to be … ? 前ページ次ページ連載 - 悪意が嘲う
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西区にほど近い、廃棄された製薬会社。 黒服に指定されたその場所に着いた。 錆びついた看板や窓枠の外された外観が不気味な印象を与えてくる。 「なんだか、嫌な雰囲気の場所だね…」 「そう、だね… でも、紗江ちゃんは私が護るから!」 『都市伝説の気配が致すな…お二人共、用心下され』 アンサーが呟いた。 「お待ちしていましたよ」 建物の入り口から、担当の黒服が姿を現した。 「「…黒服さん?」」 「おや、私が現場にいる事がそんなに不思議ですか…?契約者を担当している黒服も、現場に出る事はありますよ…こちらです」 黒服について、建物内部に入る。 階段を下りて、地下室の、同じような作りの部屋がいくつも並ぶ長い廊下を歩きながら黒服が話す。 「今回の任務ですが…とある都市伝説を救って頂きたいのです」 「都市伝説を…救う?」 「ええ。都市伝説は、忘れられると消滅します。存在を保つには、一人でも多くの人間に存在を知ってもらわなければなりません…貴女方には、この場所にいる都市伝説の存在を保つための手伝いをしていただきたいのです」 どうやら今回の任務はとある都市伝説を救う事らしいが…担当の黒服の不穏な情報の事もあり、その言葉を信じきる事が出来ないでいた。 「……あの、黒服さん…以前お伺いした件なんですが…」 ここで聴き逃したらチャンスが無いような気がして、意を決して、紗江が尋ねる。 廊下の突き当たりの扉を開けながら黒服が呟いた。 「ああ…担当の黒服を変えられるか、という話ですね。その件でしたら、特殊な事情があれば変えられますよ」 あっさりと返ってきた肯定を、喜ぶべきか迷った。 促されて、部屋に入った姉妹。黒服は自分も部屋に入った後、扉を閉めた。 広めの部屋には、二人の黒服がいた。一人は、部屋の中心にビデオカメラを設置している。 もう一人はビデオカメラの近くの床の上に、鉈、鋸、鋏、金属バット等を置いている。 「ぅ…………!」 明らかに異様な光景。そして、部屋の中には猛烈な血の匂いが充満していた。思わず、口元を押さえる。 ふと、部屋の隅に無造作に転がっているものが目に入った。 ―家を出るまで生きて話をしていた、姉妹の、両親の死体だった。 「――――――!!」 「ぁ……うあ……!」 悲鳴を上げたはずだったのに、口からは途切れ途切れの言葉しか出てこなかった。 紗江が、紗奈に死体を見せないように、庇うように前に出た。 両親の死体は、巨大な獣にでも食われたかのように所々食い荒らされていて、腹部に至ってはその中身がこぼれ出ていた。本来は射殺されているのだが、その傷口のあった周辺も食われていた。 「ああ…救って頂きたい都市伝説は『スナッフフィルム』といいます。娯楽用に流通させる目的で行われた、実際には存在しないといわれている殺人ビデオの事です。 なにしろ、存在しないといわれているだけあって、個体数がなかなか確認できていないので… 『スナッフフィルム』が学校町中に広まれば、面白い事になるでしょうからねぇ… ご両親ですが…娘が死ぬのに、親だけ残しては可哀そうですからねぇ…先にあちらに送って差し上げました」 姉妹の前に立って、笑みを浮かべながら話す、A-No.666。 …それは、ある意味で実験材料と呼べるものだったのかもしれない。 ―そんなことの為に、両親を殺したのか 「――貴方っ…!」 言葉が途切れた。いつのまにか傍に来ていた、凶器を並べていた黒服に髪を掴まれて横倒しにされ、仰向けに転がされた。紗江ちゃん!と自分の名を呼ぶ紗奈の声と、床と擦れる背に感じる痛みにも似た摩擦熱と、髪を引っ張られる痛みを感じながら、そのまま部屋の奥までずるずると引きずられていく。 紗江が引きずられていくのを見て、助けようと反射的に上着のポケットから携帯を取り出した。 直後、担当の黒服に携帯を奪い取られた。 「全く…助けを求めるにしろ、都市伝説の能力を使うにしろ、私を忘れてもらっては困りますねぇ…」 そういいながら、無造作に携帯を開くと、ばきり、と真ん中から二つにへし折った。 携帯の残骸を床に落とし、紗奈の腕を掴むと、部屋の真ん中―ビデオカメラの前に引きずって行き、勢いよく突き飛ばした。 ビデオカメラを設置していた黒服が、カメラを回し始める。 ―― 部屋の奥まで引きずられ、ようやく黒服が止まった。 起き上がろうとしたら、三、四回ほど顔を殴られた。 黒服が、懐から何かを取り出した。カチャリ、という金属音。パン、という乾いた音と、脚に激痛を感じた。 思わず目を向けると、脚が赤く染まっていた。 黒服が手にしている拳銃から、硝煙が上がっていた。 黒服は拳銃をしまうと傍にあった金属バットを、紗江の左腕に叩きつけた。 二の腕が赤黒く変色し、曲がるべきではない方向に曲がった。 「……………!!」 声も出ないほどの激痛とおぞましい感覚に、額に嫌な汗が浮かんだ。 そうして、首を絞められた。 ぎりぎりと爪が食い込んで、痛い。息が出来ない。苦しい。 少しずつ周囲の音が遠くなっていく中、紗奈の悲鳴が聞こえた。 (紗奈ちゃん……!?) もがいた右手に、何かが触れた。 それ――小振りの斧を掴んで、黒服の頭に思い切り叩きつけた。生暖かい返り血を浴びた。 首を絞めていた手が外れ、血をまき散らし、斧を頭から生やしたまま、黒服が真横に倒れこんで、動かなくなった。 げほげほと咳き込み、激痛に堪えながら壁を支えにして上体を起こす。 (紗奈ちゃんは―――!?) 視界に、血塗れの紗奈にのしかかった担当の黒服の姿と、三つ首の大きな獣の首の一つが紗奈の脇腹に食らいついているのが見えた。 あの獣が、どこから出てきたかなんてどうでもいい。両親と最愛の妹を害した。それだけ分かれば十分だ。早く殺して、紗奈が手遅れになる前に救急車を呼ばないと。 一人になりたくない、紗奈を失いたくない。 紗江の憎悪に引きずられて犬神が徐々に数を増していくが、その姿は蜃気楼のように揺らいでいて、酷く不安定だった。 紗江は、犬神の数が増える度に、自分が自分で無くなっていくのを感じていた。 (………私はどうなってもいい。紗奈ちゃんだけは、絶対に助ける) 担当の黒服を睨みながら、行って、と犬神達に指示を出す。どうにか形を保っている二十から三十匹ほどの犬神の群れが担当の黒服と、その後ろでビデオを回している黒服に向かっていく。 ――― 両親が無残な姿になっていた。巻き込まれて、死んでしまった。 携帯電話を壊された。 一応、アンサーとの繋がりは感じ取れるものの、都市伝説の能力も使えないし、天地達に助けを求める事も出来ない。 (――どうしよう…どうしよう…!) 腕を掴まれてビデオカメラの前まで連れて行かれ、突き飛ばされた。焦りと恐怖と混乱で半ばパニックになっていた紗奈の視界に、担当の黒服の姿が映った。 ――担当の黒服がサバイバルナイフを振り上げていて、がつっ、と左の掌を貫通して床に突き刺さった。 「――うぁ……!?」 黒服は、床に置いてある凶器の中から小刀を選ぶと、紗奈にのしかかり、右目に小刀を近付けて――ぶつ、と上瞼に突き刺した。 「――あああああああああああああああああああああああああああ!」 ――痛い!痛い! 絶叫を上げた。視界が真っ赤に染まった。 刃ががりがりと瞼の肉を削ぎ、眼窩の骨を削り、神経を寸断しながら何度も何度も抜き差しを繰り返して右目を蹂躙して行く。 自由になっている右手で必死になって小刀を持った腕を引き剥がそうとするも、少女の力では引き剥がせず、ただ縫いとめられた左手の傷を広げていくだけだった。 右目が痛みの坩堝と化していた。涙なのか血液なのかも分からない、熱い液体が頬を濡らしていく。 永遠のようにも、一瞬にも感じた蹂躙が終わりを告げた。 やがて、ごぼ、と濡れた音をさせて、眼球が掘り出された。瞼の裏に、空気が入り込んだ。頬を伝い、眼球は、血の跡を引きながら床に転がり落ちて行った。 朦朧とする意識のなか、涙でぼやけた左目の視界に大きな獣の姿が映った。 直後、脇腹に熱さと苦痛を感じて、一瞬、息が止まった。 呼吸をする度に、脇腹の傷が、絞られる様に痛む。 (…紗江ちゃん、ごめんね…護るっていったのに……) 溢れ出る血液が、体温を奪っていく。 (私…紗江ちゃんに…何にも言えてない……ちゃんと…伝えておけば、良かった…) 紗江への想いを自覚したものの、嫌われたくなくて伝えられなかった事を後悔しながら意識を失った。 閉じられた左目から、一条の涙が零れ落ちた。 「おや…この程度で気を失うとは情けない。もっと楽しませて貰いたかったのですが… ケルベロス、出てきてしまったんですか。仕方ありませんねぇ…」 A-No.666は、血の匂いに反応して出てきたケルベロスに、やれやれ、と肩をすくめた。 首の一つは、紗奈の脇腹に食らいついている。 (都市伝説の存在を一般人に知らせる訳にも行きませんし……このテープは、過激派への土産にでもしましょうか) 「次は……ハラワタでも、引きずり出してみましょうかねぇ」 『グルァァ!』 犬の咆哮が聞こえ、目を向けると二十から三十匹ほどの犬神が、群れとなってこちらに向かってきていた。 「ひっ………!」 後ろでビデオを回している黒服が、引き攣った声を上げた。 だが、A-No.666に焦りは無い。 直後、ケルベロスの二つの頭が、ごう、と口から炎を吐いて、こちらに向かってきていた犬神の群れを一掃した。 『ギャッ!』と、犬神の断末魔が上がり、灰も残さず消滅した。 炎が消えた後、残ったのは床の焦げ跡と、血に染まり、荒い息を吐きながらこちらを睨み据えている紗江の姿だった。彼女の周囲に何十匹もの犬神がいたが、それらは蜃気楼のように揺らいでいて、酷く不安定だった。 能力に、器の方が追い付いていないだろうことは一目で分かった。 都市伝説に、飲まれかけている状態。放っておいても勝手に自滅する。 何より、ケルベロスの炎に耐えられるものなどいない。 己の絶対な優位を疑わず、A-No.666は笑みを浮かべた。 続く…?
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…街中で、たまたま、その姿を見かけて あちらも、こちらに気付いた様子に…魔女の一撃契約者、清川 誠は小さく舌打ちした 隣を歩いていた直希が、小さく首をかしげる 「どうした?誠。あちらの銀髪男性は、君の知り合いか?」 「……知り合い、ってレベルでもないんだがな」 できば、顔を合わせたくない相手である事は、事実だ 秋の終わり、中央高校を陣取ってのあの騒ぎの時、ほんの少し、顔を合わせただけの相手だ とっくに忘れ去られていると思っていたのだが…どうやら、覚えられていたらしい マッドガッサーじゃあるまいし、そこまで特徴的な顔をしているつもりもなかったのだが 「久しぶりだな…魔女の一撃の、契約者」 「………よく、覚えていたもんだな」 無意識に、視線をそらす …あの時は、悪魔の囁きに耳を貸してしまっていた状態だった それを、言い訳にするつもりはない だが、目の前であんな事をやらかしたのである やや、気まずい その銀髪の青年は、じっと、誠を見つめ……何か、納得したように頷いている 「「悪魔の囁き」は、もう離れたか」 「……気づいていたのか」 再び、舌打ちする 自分でも気づいていなかった、内に住み着いた「悪魔の囁き」の存在 この銀髪の男は、あんな短い間しか顔を合わせていなかったと言うのに、それに気づいていたのか マッドガッサーが言っていた通り、対象の状態その他を把握する能力を持っているようだ …そんな能力を持っている相手が、誠は正直苦手だ 普段、表に出さないようにしている、自分のどす黒い…醜い部分まで、全て見透かされてしまうような錯覚 大して親しくもない相手に、それを悟られるのがどうにも落ち着かない 「…?ふむ。一連の会話から察するに、あなたも都市伝説契約者、もしくは都市伝説本体、と判断しても、よろしいのかな?」 誠と銀髪の青年の言葉に黙って耳を傾けていた直希が、小さく首を傾げた その拍子に、青いリボンで結ばれた長い髪が揺れる 直希の言葉に、銀髪の青年は直希に視線をやって 「………」 …一瞬、黙り込む 「……特殊な趣味を持っているようで」 「何を誤解したのか知らないが、直希はただの友人だぞ」 確かに 今、直希は身内の陰謀により、どう見ても女にしか見えません、ありがとうございました、と言う服装になってはいるが たまたま、街で顔を合わせたらちょうどそんな格好だっただけであり、間違っても直希とデートをしていた訳ではない 特殊な趣味なんぞない ただ、翼の事が好きなだけだ 銀髪の青年が言った特殊な趣味、というのがわからなかったのか 直希は、再び首を傾げた 「誠、それは、どんな趣味なのだろうか?」 「あぁ、お前は気にするな」 ぼふ、と軽く頭を撫でてやる 知識欲は人一倍旺盛で、実際、それなりに頭がいいと言うのに、直希はどこか決定的なところで抜けている 首をかしげながらも…直希は、銀髪の青年に向き直ると、小さく頭を下げた 「お初にお目にかかる。あなたも都市伝説契約者、もしくは都市伝説ならば、報せる必要があるだろう…僕は、「仲介者」。都市伝説組織を知らぬ者が都市伝説事件に巻き込まれた際、それを助ける仕事をさせていただいている」 「仲介者……そう言えば、聞いた事があるな。フリーの都市伝説契約者に仕事を斡旋している何者かがいると」 銀髪の青年の視線が、直希に向けられた 直希の情報が、ゆっくりと読み取られていく (……「光輝の書」の契約者……相性が悪いのに、よく扱えているな。都市伝説自身との対話が成立したからこそか…?) ゆっくり、ゆっくりと読み取られていく情報 …その中で、ある、一つの情報に辿り着こうとした、その瞬間 ------ギロリ 直希が手にしていた、「光輝の書」の中の、直希の呼びかけに答える天使たちが………一斉に、銀髪の青年を見やった 「!?」 まるで それを見るな、と言わんばかりに それを知るな、と言わんばかりに 天使達が、情報を読み取るのを邪魔しようとしてきている 「……ふむ?」 手にしていた「光輝の書」に、直希は視線を落として ふむ、と頷くと…ぱたん、と「光輝の書」を閉じた そして、つ…と、その細い人差し指を口元に持ってきて、告げる 「…その先は、僕のトップシークレットだ。まだ、伝えていない友人もいるのでね?」 秘密だ、と かすかに、その淡白な表情に笑みを浮かべる 「どうしたんだ?………まさか」 「あぁ、誠、身構えるな。読まれてはいないはずだ」 多分な、と 銀髪の青年に、警戒体勢を見せた誠に、直希はそう告げる …天使達の視線は、もう、銀髪の青年を向いてはいない 「…申し訳ない。「仲介者」に関しては、その情報が酷く曖昧だったからな。少し、確認をしたかったんだ」 「問題ない。諸事情あって、僕はあまり表に出させてもらえていないのでね。できれば、僕自身がもっと事件解決に動きたいのだが」 「お前は体が弱いんだから。あまり表に出るべきじゃないだろうが。あちこち心配させるぞ」 わしゅ、と 誠が、また直希の頭を撫でた 同じ歳のはずなのだが、どうにも、誠は直希を若干、子供扱いしてしまう傾向があった 直希自身が抗議もしてきていないので、高校の頃から、それはずっとそのままだ 「そこまで、弱いつもりもないのだが…」 「一月の終わりに大風邪ひいて死にかけたのは誰だ。また翼に心配させて」 「………むぅ」 翼の名前を出されて、直希は押し黙る …ちらり 誠は、銀髪の青年に視線をやった 正直、これ以上関わりあいたくない もう、自分の中に「悪魔の囁き」はいないとは言え…どうにも、居心地が悪いのだ 「直希、行くぞ」 「うん?……あぁ、そうだな。それでは、失礼」 銀髪の青年に、優雅に一礼して見せて 直希は、誠の後をついて、この場を後にした 人通りの多い道、羽毛をあしらったマフラーをした女性にぶつかりかけながらも、その姿はすぐに見えなくなった 銀髪の青年は、その二人の後ろ姿に視線をやって 「………?」 …気のせい、だろうか 誠の中に……かつて、己の契約者の中に、見つけたような 黒い、黒い…………「悪魔の囁き」の、卵が 一瞬、見えたような、気がしたのは 「…」 「…誠、どうかしたのか?」 「……いや」 …気のせい、か? さっき、ぶつかりかけた女…どこか、で、見た事があるような? (…確か、あれは…) ……あれは……確か…… 高校の…卒業式の、時 一瞬、見かけた、翼の父親の隣に居た、女だったような? (でも…あれは、翼の母親じゃねぇ) あれは、誰だったのだろうか? それに、あの時見かけたのは…本当に、翼の父親だったのだろうか? どうにも、思い出せない (……まぁ、いい) もし、翼の父親が、翼に接触しようとしたならば、邪魔してやるだけだ …あんな男を、翼に近寄らせて溜まるか もし、無理矢理にでも近づくようだったら…… 自分の中で、黒い感情がかすかに動いた事に 誠は、この時はまだ気づいていなかった to be … ? 前ページ次ページ連載 - マッドガッサーと愉快な仲間たち
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占い師と少女 マッドガッサー決戦編 04 ※Tさん 「マッドガッサーと愉快な変態達:vsヤンデレ弟」のその後、占い師一行視点 ○月×日 20:47 食堂前での戦いが始まってから十数分。 最後に戦っていた両者を閃光包み……閃光を操っていた都市伝説によって、「スパニッシュフライ」に操られていた少年は倒されたようだ。 これでマッドガッサー一味の戦力が減った事になる。 (……よかった) 「あちらさん、もう決着がついたみてぇだぜ」 購買から顔を出し、覗いていた大将が戻ってくる。 「……これで一安心ですかね?」 「いや……そうでもないみたいだな」 「……え?」 相変わらず食堂の方を透視し続けている占い師さん。 私もそちらを見ようとして―― 「先程から視ているようだが、……誰だ?」 ――その時、声が響いた。 「これ、って……私たちに向けられてますよね?」 「みたいだな。どうやらあいつら、こっちに気づいてたみたいだな」 透視をしてみると、あの都市伝説がこちらに手を向けていた。 ……場合によっては、あそこからまた閃光が炸裂することになるのだろう。 「どうするんだ、兄ちゃん」 「さて、どうしたもんかな……。幸い、相手方に敵意はないみたいだが」 「……でも、どう見ても攻撃態勢ですよね、あれ」 「なに、本気で殺しに来るならすぐにでも攻撃してくるさ。こっちの存在に気付いたはいいが、こちらがどっち側なのかは分からない……そんな所だろう」 そこまで話した時、再び壁の向こうから声がした。 「壁を透視できたら、幸せだ」 「…………ちっ」 占い師さんは軽く舌打ちをして、向こうに語りかける。 「こっちに敵意はない! そっちが攻撃しない限りこっちからも攻撃を仕掛けるつもりはないぞ」 「……ならどうして、壁にこちらの能力を阻害する『何か』がかけられてるんだろうな?」 「話し合いっつーのは顔を見てするもんだ。そちらさんからだけ俺たちが見えるってのは、何だか不公平だと思わないか?」 「………………」 「………………」 2人の間に沈黙が降りる。 会話には参加していない向こうの私たちも、そして恐らく向こうの残り2人も、ひどく緊張していた。 ……そんな均衡を、占い師さんが首を振って打ち消した。 「……全く、こんなのは時間の無駄だろうに。分かった、俺たちは購買から出てあんたたちの前に行く。あんたたちはその物騒な能力で俺らを攻撃しない。それでいいな?」 「そっちが攻撃を仕掛けてこないという保証はあんのか?」 「……その声は契約者の方か? 最初に言っただろ。そっちが仕掛けてこない限り、こっちからも仕掛けるつもりはない」 そう言って、占い師さんが立ち上る。 (……いいんですか?) そう目で合図を送る。確か、占い師さんは今回の騒動中に、できるだけ他の人や都市伝説との接触はしたくないはずだった。 「……仕方ないだろ。見つかった以上、下手に逃げればあいつらに敵だと思われる。これから先、またあいつらと会うかも知れない以上遺恨は残したくないからな……」 私たちだけに聞こえるようにつぶやき、占い師さんが私の手を引いて、立ち上がらせてくれた。 ……ほんの30分程度前に同じ事をされたはずなのに、何だかそれから随分経ってしまったような気がする。 「もしあいつらが攻撃を仕掛けてきた場合はすぐに逃げる。大将も、いつでも能力を使えるようにしといてくれ」 「任しとけ。たったの3人なら、どんに強い都市伝説でも気をそらすくらいはできらぁ」 立ち上がった大将と共に、購買の出口である扉に向かって歩き始める。 食堂前で戦っていた都市伝説達は最低限、マッドガッサーの敵ではあるはずだ。 敵の敵は味方……そんな法則が、ここでも生きてくれればいいんだけれど。 前ページ次ページ連載 - 占い師と少女
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悪魔の少女 02 平凡な親、平凡な友達、平凡な学校、平凡な自分、平凡な人生。 漫画やアニメの世界に憧れて十余年。何もない人生に絶望していた俺に、遂に転機が訪れた。 都市伝説「ベッドの下の殺人鬼」との契約。 これが、これこそが、俺が求め続けた平凡じゃない人生! さて、漫画ではこんな時どうなるか?そう、敵キャラの登場だ。契約時にテケテケを倒しているが、そんな雑魚は求めてない。 必要なのはライバルだ。野良なんかじゃない、同じ契約者の敵。そういうのを俺は求めているのだ。 そして遂に、俺は別の契約者を見つけた。 俺は何時ものように、都市伝説を捜していた。 都市伝説から人を助けるなんて事は、平凡じゃない俺にしか出来ない事なのだから当然だ。 そんな時、その女を見つけた。平凡な奴にはわからないだろうが、何しろ俺は契約者、その女がそうである事など一目でわかる。 だから、女と戦う為に俺は女を追った。 女の後を追って着いたのは、どこかのビジネスホテルだった。 女がホテルの一室に入るのを見届けた後、俺は相棒を女の入った部屋のベッド下に移動させる。 数分後には、相棒が女を襲う。突然の襲撃に女は何も出来ずにやられるだろう。 この程度の奇襲でやられるような奴は、俺のライバルに相応し…く、な……い? おかしい。相棒の気配が消えた。契約もきれた。 「な、なんだ?何が起きてるんだ?」 「お前の都市伝説が死んだ、それだけだ。」 女が隣の部屋から現れる。 「!な、お前さっきそこに入ったはずじゃ!?」 「ああ、このホテルな、隣の部屋にベランダを使って行き来できるんだよ。お前がついて来てるのに気付いてたから、移動した。 で、その部屋にいた奴らに『頼んで』私の部屋で待機してもらった。」 有り得ない。主人公がいきなり負けるなんて、そんな漫画知らない。 「さて、誰だか知らないが、いきなり人を襲撃するような奴には、お仕置きしてやらなきゃな。」 ああ、そうか、俺はゲームの主人公だったんだ。じゃあ、そろそろリセットしないと……。ボタンはどこだっけ。 ざんねん! おれの ぼうけんは ここで おわってしまった! * 学校町南区某ホテル 一人の少女がため息をついた。 「はぁ~。まさか着いて一週間もたたずに襲撃されるとは。」 彼女はベッドに寝転びながら、悪魔を憑けた隣部屋の客に彼女の荷物をまとめさせた。 もし、先程の襲撃者がどこかの集団に属していた場合、報復のおそれがある。 下手に騒ぎを起こして、どこぞの「天使の援軍」に見つかりたくはない。 故に、さっさとここから離れようと考えたのだ。 「それじゃ~、行こうか~。」 そう言って少女は、見えないモノ達を引き連れて、学校町の何処かへ消えて行った。 ちなみに、襲撃者と隣部屋の客が、財布の中身が空になっている事に気付くのは、この暫く後である。 前ページ次ページ連載 - 悪魔の少女
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黒服Hと呪われた歌の契約者 14 世の中には、「運命の出会い」と言うものがあるそうです しかし、その「運命」と言うものを信じない方もいらっしゃるでしょう えぇ、いいのです、だって、信じるものは人それぞれですもの ただ、私は、運命というものを信じております 強く、強く、信じております …だって、私は、あの方に会う事ができたのですから だから、私は運命を信じておりますし 出会う事が出来たあの方の為に、少しでも力になりたいと願うのです 私はかつて、とある都市伝説によって捕らえられておりましたの とても口には出せぬ扱いを受け、その内、どこか、遠く離れた国へと、売り飛ばされようとしておりました 私の他にも、何名かの女性が囚われておりました 皆、私と同じ扱いを受け、いつかは売り飛ばされる運命だったでしょう ………しかし、そこに あの方が、助けにきてくださったのです 私たちが囚われていた部屋の扉をこじ開け、私たちに手を差し伸べてくださりました そうあの時は……あの方の髪が伸び続けていましたのが、とても印象的でしたわ 他の皆様は、あの方を怖がっておりました …気持ちは、わかります 皆、私たちを捕らえた男性に、それはもう、酷い目に合わされておりました 私を含めて皆、随分と辱められたものでございます ですから、皆様、男性だと言うだけで酷く怖がりました …しかし、私には 私たちを助けにきてくださったあの方が、まるで、勇者か王子様のように見えたのです あの時、私以外に助けられた方々が、どうなったのか、私にはわかりません 他の方々は、都市伝説とは契約なさってなかったようですので…恐らくは、記憶を消されて、普通の生活にお戻りになられたのでしょうね しかし、私は違いました 私は、都市伝説と契約しておりましたので……そのまま、「組織」に所属させていただく事になりましたの 嬉しい事に、私の担当になってくださったのは、あの方 それを知った時は私、もう、天にも登る気持ちでしたわ 今でも、あの方は私の担当でいてくださっております もう一人、可愛らしいお嬢さんのことも担当なさっておりまして、そちらの事ばかり気にかけていらっしゃるようで…少し、寂しいですけれども でも、平気なんですの 放置される事もまた、プレイの一環 私、甘んじてそれを受けますわ ……そう、私に、とって あの方は、この世でたった一人の、大切な方ですの 私にとっての、勇者様 私にとっての、白馬の王子様ですの ですから、私…あの方の為ならば、なんだってしてみせますわ かつては怖かった、私が契約した都市伝説の力 でも、もう怖くありませんわ あの方の為でしたら、私、いくらでもこの歌を歌いましょう あの方のお力になれるのでしたら、この身が血で汚れても構いません あの方が、何を考えているのか 「組織」をどうなさろうとしているのか そんな事は、些細な事でございます ただ、私はあの方の力になりたい、あの方の為になりたい …ただ、それだけなのでございます fin 前ページ次ページ連載 - 黒服Hと呪われた歌の契約者
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学園祭に向けて準備が進められているとある放課後、双子の姉妹である「犬神憑き」の契約者、天倉紗江と「怪人アンサー」の契約者、天倉紗奈は家路へと歩いていた。姉妹の後ろを、「犬神憑き」の内の一匹の黒い大型犬がついてきている。 「紗奈ちゃんのクラスの出し物、執事・メイド喫茶だっけ?」 「うん、そうだよ。今、荒神先生にも執事服を着せようってクラスの有志で追いかけてるんだけど…なかなか捕まってくれないんだよねー でも、獄門寺くんや小鳥遊くんも手伝ってくれてるんだもの…絶対に執事服を着せてみせる! 紗江ちゃんのクラスは?」 イベントや行事に対してやる気を見せる紗奈。 今回の場合、やる気に加えて普段白衣を着ている荒神先生の執事服を見たいという好奇心もあり、有志の一人として先生を追いかけていた。追いかけられている先生にとってはたまったものではないだろうが。 「(あ、荒神先生も大変なんだなぁ…) 私のクラスの出し物は『ワクワクトレジャーボックス』だよ。手錠で繋がれた男女1組がペアを組んで、校内に置かれた箱の中から手錠の鍵を探すの。箱には鍵以外にもいろいろ景品が入ってて、空けた人が貰えるんだよ。 執事・メイド喫茶かあ…紗奈ちゃんのメイド服見たいなぁ。見に行ってもいいかな?」 「へぇ…なんか楽しそうだね。休憩時間に顔出しにいくからね。 紗江ちゃんなら大歓迎だよ!来てくれるの楽しみにしてるね」 「君たち…注射をしても…いいかな?」 和やかな空気は、毒々しい色の薬品の入った注射器を持って、ボロボロの黒いコートを着た注射男の登場によって霧散した。 「お断りします!」 「よくないっ!」 即答する紗江と紗奈。注射器の中の液体が都市伝説にも効くのか分からないので、念のため犬神を下がらせておく。 「そんなこと言わずにさあ…注射をさせてくれよぉぉぉ!!」 目を血走らせて姉妹に襲い掛かる注射男の攻撃を左右に分かれて回避。 紗江が注射器を持っている方の手首に手刀を打ち込み、取り落とした注射器を遠くへ蹴飛ばす。 紗奈が注射男の手首を取り、外側に返すようにして注射男の体制を崩して地面に倒した。 犬神が倒れた注射男の喉に噛みつく…首の骨が折れたのか、ごきり、と音がしてそれきり注射男は動かなくなった。 「そちらのお二方、少しよろしいですか?」 注射男を倒した直後、背後から声をかけられた。 二人が振り向くと、いつの間に現れたのか、黒いサングラスを付けて黒いスーツを着た男性が立っていた。 「…どちら様ですか?」 「…何か?」 「失礼いたしました。私は、都市伝説から一般人を守る「組織」という機関に所属している黒服…A-No.666と申します。 先ほどの戦いを拝見させていただいた結果、ぜひとも組織に貴女方のお力を貸して頂きたいと思い、お声を掛けさせていただきました。 私達と共に、悪事を働く都市伝説から罪なき人々を守ってはいただけませんか?」 突然の出来事に、しばらく考えていた二人が口を開いた。 「…わかりました。私達の力で、悪い都市伝説から家族やクラスメートを守れるなら…」 「…わかった。せめて、身近な人達は守りたいから」 こうして、天倉姉妹は組織に加入することになる。 組織の闇も知らないまま… 続く…?
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吸血鬼。それはドラキュラを筆頭に世界レベルの知名度を持つ都市伝説である。 少女はそんな吸血鬼の契約者だった。 「足りない……」 足元に転がる死体を見下ろしながら、少女は呟いた。 死体が誰なのか、少女は知らない。知っているのはあまり美味しい血ではなかった事、そして、組織の敵だという事。 「調子はいかがですか?」 いつからいたのか、そばに立つ黒服が口を開いた。 「早めに次の血が欲しいです」 少女は新たに身体を流れる血液が徐々にダメになっていくような感覚に顔をしかめながら、少女は言った。 少女は病気だった。目眩がした、動悸がした、血が止まらなくなった。病名、再生不良性貧血。少女は入院した。 効果の表れない薬。見つからないドナー。定期的な輸血。家計を圧迫する治療費。 『治療の必要の無い身体が欲しいですか?』 そこに組織の黒服は現れた。 そして少女は都市伝説「吸血鬼」と契約した。 頭痛がしない、目眩がしない、走り回っても大丈夫。それどころか、普通の人間以上の身体能力を手にいれた。 何故こんな素晴らしい組織と敵対する人がいるのか、少女には理解できなかった。もとより理解する気などなかったが。 吸血鬼となっても、病気が治った訳ではない。血が必要だった。輸血の代わりに、組織の敵を襲い、血を吸った。 いつしか、少女は組織の過激派の一員として有名になっていた。そんな事、少女にはどうでもよかったが。 「血を、血が必要なんです。次の任務、早く持ってきて下さい」 少女は恐れているのだ。再び、病室での生活に戻る事を。再び、あの不自由な身体に戻る事を。 そして、少女は気付かない。 吸血鬼と契約して数年。それほど大きく無い少女の容量、逆に容量を大きく喰らう都市伝説、長期に渡る能力の使用。 もはや、『人間だった頃の病気』など物ともしない身体になっている事に。身体を流れる血液が異常だという感覚など存在していない事に。 少女は今宵も気付かない。 「単発もの」に戻る ページ最上部へ
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…街中で、ポスターを貼っているあいつの姿を見かけた 正直、顔色はあまりよくない 相変わらず、あまり休んでいないのだろう 「よぅ」 「あ…あなたですか。最近、よく会いますね」 小さく、会釈してきた黒服 ぷるんっ、とのその拍子に胸が揺れて ……だから、そこを見つめてばっかりじゃ駄目だろ俺ぇえええええ!!! 「明日で、元に戻るんだったか?」 「はい。明日には、毒ガスの効果が抜け切るはずですから」 …あぁ、やっぱり勿体ねぇよなぁ… ……って、だからそうじゃなくて!! 「ご用件は、それを聞きにきただけですか?」 「いや、そうじゃねぇよ…」 手を差し出してやる 首を傾げてきた黒服に、続ける 「貸せよ、そのポスター。貼っていかないと駄目だんだろ?」 「……いえ。これは、私が頼まれた仕事ですから」 …頼まれた? こんな疲労困憊のこいつに、頼み事をしたと言うのか どこのどいつだ、そのやろうは!? この黒服は、頼み事を断るのが苦手だと言うのに! ムカムカしたものを抱えつつ、俺は手を引っ込めない 「お前一人でその量は大変だろ?半分くらい、俺が張ってきてやるから」 全部、と言ったら、こいつはきっとやらせてくれない さっき言ったとおり、自分が頼まれたから、といって引かないだろう …だから、半分だけ せめて、これだけは請け負いたい 「……それでは、お言葉に甘えましょうか」 苦笑して、ポスターを半分ほど、俺に手渡してきた黒服 それと、メモを渡された …何か、文字がぐっちゃぐちゃになってて読めない部分が大半なんだが… 「このメモの…ここから、下の部分。大体の住所しかわかりませんが、この辺りに張ってきてください」 「わかった。つか、メモ、俺に渡して、場所わからなくならないか?」 「メモの内容は暗記していますから、問題ありません」 記憶力も良くないと、黒服の仕事はやっていけないものなのだろう こともなげに、こいつはそう言って見せた …そうか、と頷く 「……なぁ」 「はい?」 「『夢の国』に対して、そっちの「組織」は、どう言う動きを?」 俺の、言葉に…黒服は、やや、悲しそうな表情を浮かべた こいつにとって、あまりいい内容ではなさそうだ 「…取り込まれた子供の身も、契約者の身も考えずに…相手の戦力を削る作戦が、つい先日、決行されたそうです…」 「………っ!」 …それは、つまり 「夢の国」に取り込まれている子供や、契約者が…一部、犠牲になったということか なんと言う、非道な作戦 将門様が知ったら、激怒するだろう …そして こいつは、その事実に悲しんでいる その作戦を、止められなかった己の無力さを…悔やんでいる あんな組織、さっさと抜けてしまえばいいのに こいつは、どこまでも、自分は「組織」の歯車であると言って、縛られ続けている …あんな組織、こいつには似合わないのに こいつは、それから離れることができない 「…胸糞悪ぃな」 「……同感です」 苦笑してくる黒服 力なく、首を振ってくる 「これが…組織、ですから」 「……………」 …こいつは 組織に不満を持ちながらも しかし、自分は組織の歯車だからと……組織から離れたら、生きられないと、そう考えて 組織から、離れることができないまま 俺は、こいつを組織から解放させてやりたいのに ……未だに、それができないままだ 「…しかし。これ以上、そんな事をさせる訳にはいきません…一人でも多く、「夢の国」の黒いパレードに取り込まれてしまっている子供たちを、救う事ができればいいのですが…」 「……無理、すんなよ?考えがあるなら、俺にも協力させてくれよ?」 今回の件について、ある程度「組織」と協力体制をとってもいいと、将門様から言われている 特に、この黒服に協力するのなら、文句は在るまい こいつは、俺たちにも、この危機を教えてくれたのだから 俺の言葉に、黒服はどこか自嘲気味に、笑ってきた 「…そう、ですね。その時が来たら…ご協力、願うかもしれません」 きっと、こいつは 己の無力さを嘆いているのだろう 自分には、戦う力がないと、嘆いているのだろう どうか、嘆かないでくれ あんたには、戦う力はないかもしれないけれど …俺は、そんなあんたに、救われたんだ 「…それでは、これで。……お願い、しますね」 「あぁ。任せろ」 黒服は、俺に小さく頭を下げてきて そして、少しふらつきながら、この場を後にする …くぉら、周りの男共 あの胸に見とれてんじゃねぇ!! いや、俺だって、うっかり胸に注目しちまったけど!! 後半、わりと頑張って見てなかったんだぞ、こら あれに触りたい誘惑は、最後の最後まで堪えたんだ!! だから見るんじゃねぇえええ!!!!!! 黒服の胸に見とれてやがった野郎共を、威嚇してから 俺は、ポスターを張りに行こうと歩き出し… 「………げ」 「………」 …小さな、餓鬼が こっちを見ている事に、気付いた 以前、顔をあせた事がある、少女 「…また会ったな」 「…………」 向こうは、ぷい、とそっぽを向いてきた なんだ、俺とは会話もしたくないってか? どうやら、黒服が、今、気にかけているらしい少女 多分、契約者で……あまり、恵まれた環境にいるのでは、ないのだろう だから、あいつが気にかけている …そして 多分、以前会った時の態度から、するに こいつも、あの黒服の事を、少しは気にかけている ……それなら この話を持ちかける価値は、あるかもしれない 「……お前、あいつのこと、心配か?」 「え?」 「それと……お前は、「組織」の一員か?」 俺の、その質問に こいつは、前半には答えてこず、後の方にだけ答えてきた 「…あんな組織、できれば関わりあいたくもないわよ」 「………そうか」 良かった こいつは、組織の一員ではないのか それなら…話しても、いいだろう 「…あの黒服が心配なら、ちょっとついて来い。話がある」 「……?どういう事よ」 「いいから」 そう言って、俺はさっさと歩き出す 少し迷ったようだったが…そいつは、俺の後をついてきた やっぱり、あいつの事が心配だったようだ なら……俺と、同じだ ひとまずは、このポスターをある程度貼っていかないと 安心して話せる場所を探しながら、俺はポスターを張って回る事にした …そして 結局行き着いたのは、カラオケ店 態度の悪い店員が一人きりで、管理なんぞおろそかな店 多少、客の組み合わせがおかしくとも、店員は何も言ってこない だから、俺たち「首塚」組織の面子で、たまに会議とかに使っている店だ 入っても、歌う訳じゃなく、相談しあったり、近況を話し合ったりするのによく使っているのだ 適当な部屋を取って入り…話を切り出す 「…ぶっちゃけて言う。俺は、あの黒服を組織から解放したい」 「……解放?」 「あぁ」 そうだ 解放してやりたいのだ あの黒服は、あの組織に相応しくない …いや、違う、逆だ あの組織が、あの黒服に相応しくないのだ あいつは優しいから、慈悲深いから …あんな非道な組織、あいつに相応しくない それに… 「解放はできなくとも……もし、万が一。あいつが組織に消されそうになった時、助けたいと思っている……あいつは、組織に消されかねない行動もとっている。お前も、それはわかってるだろ?」 「…………」 少女は、俺の言葉に俯いてきた 多分、わかっているのだろう あいつが、そんな行動も取っている事に かなりの数の都市伝説や契約者を見逃し、時には庇っている事を 「…方法が、あるというの?そんな時、黒服を助ける方法が」 「ある」 きっぱりと、俺は答える …やっと、一つ見つけたのだ その、方法を 「あいつは、「組織」の黒服だ。「組織」に不要だと判断されたら、その時点で消えかねない。ここまでは、わかるな?」 「………」 「そうなっちまうのは、あいつが「組織」の黒服だから…「組織」と言う都市伝説の、一部だからだ」 「組織」 それは、都市伝説 そして、黒服は都市伝説の、一部 「つまり、あいつも「都市伝説」である事に、変わりはない。どれだけ、人の心を残していても、あいつは「都市伝説」なんだよ」 「…何が言いたいの?」 「つまりだ……あいつだって、都市伝説なんだから。人間と、契約できるはずなんだよ」 ぴくり こちらの言葉に、少女は反応した はっとしたように、顔をあげる 「ぶっちゃけ、「組織」の実態自体は、構成員すら知らないって言われているらしいな。「組織」の首領が、「組織」と言う都市伝説と契約しているのか、そもそも、バカデカイ野良都市伝説なのか、その辺りは、よくわからねぇが……少なくとも、黒服たち事態、都市伝説なんだ。契約は可能なはずだ」 「…つまり…黒服と、契約すれば……黒服が、「組織」に不要だと、判断されても……消滅しないかも、しれない。そう言う事?」 お、頭の回転の早いお子様だ そうなれば、話は早い 「そうだ、だから…俺は、あいつと契約したいと思っている」 「…………」 こちらの言葉に、むっとしてくる少女 だが、無視して俺は続ける 「だから、お前も協力しろ」 「…なんで、私があんたなんかが、あの黒服と契約する手伝いを…」 「お前も、あいつと契約してくれ」 ……… …………… 「え?」 俺の言葉に 少女は、きょとん、としてくる 「…私、も?」 「あぁ…ぶっちゃけ、俺一人があいつと契約しようとしたら、絶対、あいつに反対される…属性が違いすぎる多重契約は危険だ、って言われてな」 そうだ きっと、あいつは反対してくる 多重契約して、都市伝説に飲み込まれやすくなる事を心配して 絶対に、反対してくるに決まっている …だから 「多分、お前が一人で、あいつと契約するといっても、それは同じ結果になる。反対してくるはずだ…だが、俺とお前。二人であいつと契約するなら、問題ないはずだ」 「………ストップ」 何だよ 調子よく話しているのに 「…一つの都市伝説が、多人数と契約なんて、できるの?」 「半分、裏技みたいなもんだがな。可能だぜ」 それは、確かである はるか昔、復讐のために、2,3人の男が将門様と契約した事があったらしい 一人だったら、将門様の強大すぎる力に、あっと言う間に飲み込まれる だが、それを複数で分担して背負えば…ある程度は、耐えられたらしい そうやって、その男たちは将門様の力を借りて、復讐した 「ほぼ同時に契約を結べば、それは可能だ。そして、それなら…多重契約でも、都市伝説に飲み込まれるリスクは下がる」 それなら あいつは、承諾してくれるかもしれない 俺は、それに賭けたいのだ 「俺一人が申し出ても無理だ。でも、お前も一緒に申し出れば、あいつは承諾してくれるかもしれない」 「………」 「今すぐ、返事をしろとは言わねぇ。俺の携帯の番号教えとくから、答えが決まったら返事しろ」 そう言って、紙に俺の携帯の番号を書いて手渡す …悩んでいたようだったが、こいつはそれを受け取った 「…あ、それと。抜け駆けすんなよ!?俺は、あいつと契約して、あいつの力になりたいんだ。他の奴を割り込ませるなよ!?」 「……わかってるわよ」 やや不機嫌そうに、少女はそう言って来た 今日は、ここで別れる 返事は出来るだけ早く、とだけ言っておいた …そうだ これが、俺が見つけた答え あの黒服を、助ける方法 これしか、見つけられなかった そして、この唯一の方法は…俺一人では、実行できない だから、必要だったのだ 俺のように、あの黒服を心配しているであろう…気にかけているであろう、奴が 俺にとって、あの黒服は父親のようなものだ あの少女にとって、あの黒服がどんな存在かは、わからないが…気にかけているのは、心配しているのは、きっと事実 だから、その唯一をあいつにも話した あいつが話に乗ってくれれば、俺は黒服を助けられる 乗ってこなかったら… その時は、他に話に乗ってくれそうな奴を見つけ出すか これが唯一であると諦めず…他の方法を探すかだ 「…絶対に、あいつを……俺たちのものに、してやる」 二人がかりで説得すれば、きっと大丈夫だ 絶対に、諦めない あいつから預かったポスターを抱えながら 俺は、その決意をしっかりと抱えるのだった to be …? 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「いい?本家様のお子様に、粗相がないようにね?」 母の言葉に、兄と共に頷き、自分はその部屋へと向かった 両親達が、本家様と話している間、自分達は、その子供の相手をすることになった 自分より、少し年下の少年だと聞いていた 歴史あるこの家に生まれた、その少年 だが、その両親は、その少年を一般の子供と変わらないよう、育てようとしているのだとも聞いていた ならば、自分達は、その少年にどう接すればいいのだろう? 答えは見つからないまま、兄に手を引かれ、その部屋につく 「…失礼します」 「……します」 そっと、襖を開ける 板の間の、奥 そこに、その少年の姿はあった 長い前髪で目元が隠れていて、表情はよく見えない ちょこん、とその広い部屋に正座して座って…何かを、じっと見つめているようだった 確か、この部屋には、この家に代々伝わると言う刀が安置されていたはず それを、見ていたのだろうか? 一度だけその刀を見た事がある自分は、あの刀のどこか得たいの知れない雰囲気に圧倒され、恐怖した覚えがあるのだが… この少年は、それが平気だとでも言うのだろうか 「………?誰、だ?」 自分達に気付いた少年が、こちらを向いて首を傾げてきた 和装姿の、幼い少年 …この部屋だけ、時代が今と違うような、そんな錯覚 「お初にお目にかかります。獄門寺家分家 長男の、獄門寺 龍鬼です」 兄が、先に挨拶する …そっと突付かれ、慌てて自分も、頭を下げた 「…お初にお目にかかります。獄門寺 菊、です」 「……そうか」 少年は、顔の向きだけではなく、体ごときっちりと、自分達に向き直ってきた そして、頭を下げ、名乗る 「……獄門寺家本家 長男 獄門寺 龍一だ」 名乗り、頭を上げた少年…龍一 その時、一瞬見えたその瞳に………ゾクリ、と、戦慄を覚えた 自分よりも、年下の少年 まだ、あの時、4,5歳程度だったはず だというのに……その眼差しは、酷く、鋭かった 龍一の両親は、龍一を、普通の子供と同じように育てようとしていた だが、それは無理だろうと…あの目を見た時に、実感した 獄門寺家の、本家に生まれた者 その長男としての、責務 それを、龍一は、あの年齢にして、恐ろしい程までに自覚していた まるで、自分はその為に、その為だけに生まれてきたのだとでも言うように、それを理解して、まっとうしようとしていた 『まるで、八代目様の生まれ変わりのようだ』 親戚一同が、組の人間達が言っていたその内容を、その瞬間、理解する 目の前にいる龍一という少年は、八代目様の生まれ変わり 獄門寺家のあり方を決定付け、その宿命を作り上げた男 修羅に最も近く、しかし、その一歩手前で踏みとどまり、人として生き人として死んだと言うその人の、生まれ変わり …分家に生まれた自分達は、いざとなれば、龍一の代わりとなるのだと 本家を支えるために、いざという時はその本家となって生きるのだと、そう言われて育てられていた だが、あの瞬間に、自分は気付いてしまった 八代目様の生まれ変わりそのものである龍一の代わりなど、自分達には決して無理なのだ、と ならば 分家の子として生まれた、自分は その存在理由すら果たせないのならば、どうすればいいのだ? その日、獄門寺 菊は、10にも満たない年齢で、己の生まれた理由を疑問視することとなった そして、自分なりの答えを何とか見つけ出し………今に、至る 現在 学校町、とあるマンションにて 「…理解した」 「ほんっとーに、理解したんでしょうね?」 「死ねばよかったのに」は、ジト目で菊を見つめる あぁ、と頷いてくる菊 ぱさぱさと長い前髪が揺れて、一瞬だけ、その目が見えた どこか眠たそうな、しかし、鋭さの混じる眼差し その目に、一瞬、「死ねばよかったのに」は、ゾクリと体を振るわせた …ただの、人間の癖に その癖に、どうして、こいつはこんなに鋭い目ができるのだ 「理解したんなら、どうして、まだ契約したいと思う訳?人生歪むって言ってるでしょ?」 「……どうせ、元々歪。生まれてきた目的すら、果たせないのならば、いっそ歪んで、別の方向に役立てた方がいい」 淡々と、そう告げてくる菊 この人間が何を考えているのか、正直、「死ねばよかったのに」には、理解できない 自ら都市伝説と契約を望み、その運命を歪める事を望むとは …狂人なのか、それとも、よっぽどの馬鹿か それとも……何かしらの、強い信念があって、それに利用できるとでも考えたのか 「ま、契約してもらえれば、私にも若干のメリットはあるからいいけど…でも、私、たいした都市伝説じゃないわよ?戦闘能力が高い訳でもない、魔法みたいな素晴らしい力が使える訳でもない……正直、契約によって能力が強化される事はわかるけど、どう言う方面に強化されるかもさっぱりよ」 「……問題はない」 あぁ、もう、どうするべきか、「死ねばよかったのに」は考える …契約は、彼女にとっても渡りに船である あのまま、意味もなくただ人を驚かし続けるなんて、飽き飽きだ もっと、違うことがしたい 女の姿に生まれ、大体それっぽい精神をもってして生まれてしまったのだ 年頃の女のように、綺麗な服の一つだって着てみたいし、化粧だってしてみたい 化粧っ気もない顔で、こんな白い飾り気もない服を着ているだけも、もう嫌だ …だが、この菊と言う人間との契約に、不安を覚えない訳でもない とにかくにも、何を考えているのか、さっぱり理解できないのだ どうにも、こいつと関わっていると厄介事に巻き込まれそうな気がする (…だと、しても) 結局、自分はこいつに、ついてきてしまったのだ (選択肢なんて、ないんでしょうね) 小さくため息をつく …選択肢がない? いや、違う ここまでついてきた時点で、既に自分は選んでいた ただ、それだけなのだろう 「わかったわ、契約しましょう…後悔すんじゃないわよ?」 「…後悔する必要など、存在しない」 そっと、手を握る 都市伝説との契約方法には、様々なものがある 「組織」だか言うところは、簡単に都市伝説と契約できる契約書なる物を作ったらしいが…「死ねばよかったのに」からすれば、そんな物、とんでもない 自分達都市伝説に対する、侮辱以外の何ものでもないと、憤りすら感じる 何故、都市伝説との契約に、様々な種類があるか? …都市伝説にとっても、契約とは重要なものなのだ その方法にも、意味が存在するのだ その過程を無視して、強引に契約させる契約書なんて、とんでもない そんな物、この世から消えてしまえとさえ、考える …まぁ、そんな物騒な思考はさておき 彼女は、契約を試行する 「死ねばよかったのに」 彼女の名前の由来 彼女という都市伝説の本質の言葉 それを、菊の目を見つめ、しっかりと告げる ざわり、全身に、何かが駆け抜ける 己の中に、新たな力が湧きあがる感覚 自分と菊の間に、精神的なつながりが生まれる感覚 それを、噛み締め…契約が、終了した 「…大丈夫?まさか、飲まれちゃいないでしょうね?」 「……問題ない」 菊に、変わった様子は見えない まぁ、自分の逸話的に、契約者に何らかの能力を与える可能性は低いのだ 飲まれてでもいない限り、変化はおきまい 「…お前は」 「?」 「お前は、問題ないのか?」 短く、告げてくる菊 一応、気を使ってくれてはいるようだ 「問題ないわよ。あんたとの契約で、自分の存在がしっかり固定された感覚があるし」 「…そうか」 そう、何も問題はない …今の、ところは 「……ふぁ。契約終わってほっとしたせいか、眠たいわ…」 「…布団を準備する。着替えておけばいい」 「寝巻きに着替えろって?言っとくけど、私、服はこれ以外もってないわよ?」 「……問題ない」 立ち上がる菊 壁をスライドさせると…そこに、たくさんの服が、かけてあった どうやら、このマンションの一室、片側の壁一面が、クローゼットになっているらしい そこから、菊は何着かの服を取り出し、「死ねばよかったのに」の前に並べた 「…何これ」 「寝巻き。好きな物を選べばいい」 言われて、それを見つめる 確かに、それらは間違いなく寝巻きだ ……女物の 「どうして、女物の寝巻きをこんなに持ってるのよ?」 「サンプル」 「…は?」 「サンプル」 短く、簡潔に答えてくる菊 …サンプル? どう言う事だ? …まぁ、いいか とにかく、眠たい 「死ねばよかったのに」が着替え始めると、菊は背中を向けてきた ごそごそと、布団を敷き始めている どうやら、「死ねばよかったのに」用の布団は、客人用らしい ちょっと、立派な布団に見える とまれ、着替えていた「死ねばよかったのに」だが 「----っ!?」 視線を感じ、動きを止めた 都市伝説は、都市伝説を引き寄せる …まさか、もう、何か来たのか!? 急いで、視線をめぐらせると 「…っ隙間男!」 「………?」 「死ねばよかったのに」の声に、菊が視線を向けてきた 「死ねばよかったのに」の、視線の先 それは、家具と家具の間の、小さな隙間 人間など入り込めるはずもない、そこに……人の姿が、見えた 男の姿が 隙間男 名前通りの存在 隙間に住まう不気味な存在 特に、人間に対して害があるという話は聞いた事がない それでも、油断すべきでは、ない 一応、自分は菊と契約したのだ 菊を、護らなければなるまい 「…何の用よ」 隙間男を睨みつける「死ねばよかったのに」 その視線に、隙間男は、やや怯えた様子を見せながらも …ぐ、と 親指を、たてた わりと、いい笑顔で 「な、何だってのよ!?」 「……着替え」 「え?」 「中途半端」 菊に言われて、自分の姿を見下ろす 白いワンピースを脱ぎかけの自分 ちなみに、下着はない 素肌の上にワンピースをまとうと言う、自分でも突っ込みたくなるような格好だったのだ、「死ねばよかったのに」は で、そんな彼女が、ワンピースを脱ぎかけている すなわち、肌は思いっきり露出してる訳で… ……… ………… …………… 「死ねばよかったのに」の望みを、菊は理解した それは、彼女と契約したからできた事か、それとも、この時の彼女の考えが、非常にわかりやすかっただけか 部屋を見回し、長い定規を手渡す ぐ、と「死ねばよかったのに」はそれを構え がすっ!! 「あだっ!?」 がすっがすっがすっ!!!! 「っちょ、痛い!?痛い痛いやめてっ!?着替え覗いたの悪かったからやーめーてーーーっ!!??」 がすがすがすがすがすがすがす 隙間男を、ひたすら定規で突きまくる「死ねばよかったのに」 地味に痛いのか、悲鳴をあげ続ける隙間男 …逃げられないのだろうか、そこから 菊は、しばし、その様子を見つめて …そう言えば、布団を敷くのが途中だったと思い出し、作業を再開させた そう言えば、「死ねばよかったのに」に名前がついていないな、と 後でつけてやった方がいいのだろうか、そんな事を、考えながら 続くかどうか不明 前ページ次ページ連載 - 死ねばよかったのに