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【上田明也の探偵倶楽部37~抜けば玉散る氷の刃~】 「サンジェルマン、なんか俺、この前妙な奴らに襲われたんだけど。 いやお前が準備したのは解っているんだけどさ。 なんか俺まずいこと口走っちゃったみたいで……、うん。 俺の玩具にする目的でお前らはあいつに改造されたのだフッハッハー!とか言ったらさ。 そうそう、ごめんね。妙な事言わなきゃもっっと遊べたのに。 多分あいつはお前の命を狙っているから気をつけろよ。 ミスド買って帰るから許せ。」 プツッ 上田明也はサンジェルマンとの話をさっさと切り上げた。 やはりゲームの世界で彼に襲いかかってきたのはサンジェルマンが暇潰しにした実験の犠牲者だったらしい。 彼は都市伝説の力を使うのではなく、都市伝説で手に入れた技術で強化された人間を戦力として使ったのである。 埋め込み型の外骨格だの白い人工血液だの組織製の身体能力強化手術だのバイオテクノロジーだの文系の彼にはチンプンカンプンだが、 そんな彼にもその技術で容量や年齢やセンスに関係なくある程度の強さが手に入るという事が解った。。 まあ確かに強い人間であれば都市伝説の力なくして都市伝説に立ち向かうことが可能なのは既に証明されていることでもある。 契約者をスカウトするよりは、戦力としての効率が良い。 面白おかしいことをしているものだ、と上田明也は思った。 とてもとても下らなくて笑いが止まらない、とも思った。 彼の父が昔彼に教えてくれた事実がある。 強い人間は努力しなくても強いのだ。 弱い人間は何をしても弱いのだ。 それを改めて自覚させる為に弱い人間に力を与えるなんて中々良い趣味じゃないか。 自らを生まれついての強者と決めつけている上田明也は少し屈折した優越感を抱いていた。 だがそれも、少し時間が経つと虚しいだけの気持ちに切り替わっていた。 「あ、そうだ。」 彼はそのことに電話を切ってから気付いてしまう。 「サンジェルマンって戦闘能力有るの?」 上田明也はサンジェルマンがまともに戦闘しているのを見たことがない。 無論戦えないということは無いのだろうが、 この前の男のような俊敏な動きをする敵の相手が彼につとまるのだろうか? 「まああいつだってお偉いさんなんだから護衛の一人や二人はいるよね。」 もし護衛を頼まれても自分はパスだ。 そもそも自分は何かを守るということに向いていないのだから。 それに自分は明日晶の結婚するとか言う国中佐織の兄について調べねばならないのだ。 自分にそう言い聞かせると彼はそそくさと探偵業務に戻っていった。 日常に埋没していった。 「さて、F№の皆様に招集をかけるとしましょうか。 彼はここの場所を知っていますし、IDカードも持っていますから。」 『組織』の中にある古ぼけた図書館にサンジェルマンは座っていた。 そこが一応F№達の部屋と言うことにはなっているのだ。 だが彼等の規律が『徹頭徹尾フリーダム』である以上そこに素直に集まる者はほとんど居ない。 否、まったく居ない。 であるがゆえに 「招集をかけても誰も来ませんね。セキュリティーのホムンクルスまで来ないなんて。」 この状況にはサンジェルマンも苦笑いである。 恐らく全員が№0の命などどうでも良いのだろう。 図書館のドアが開く。 「招集に唯一応じたのが貴方だとは……、皮肉ですねえ。」 開いたドアが一瞬で燃え墜ちる。 古い本に火花が燃え移って焦げ臭い香りが辺りに充満した。 「どうも信用ならないと思っていたが…… 答えろサンジェルマン、俺に施した改造手術の目的を!」 「そんなの、貴方に上田明也を殺して貰う為に頑張って貰う為に決まってるじゃないですか。 私は嘘は吐いてません。 ただ、それが不可能なのを知っていただけです。」 ドアを開いた男の名前は国中佑介。 彼は上田明也によって妹を殺された男だ。 そして上田明也が身辺調査を始めたばかりの男だ。 「何度か貴方をここに連れてきていましたが……。 勝手に此処まで来るとはどういうことでしょう? 他の部署に比べて手薄とはいえ一応セキュリティーのホムン……黒服が居たはずですよ。」 「燃やしたよ。」 愉快そうに言い放つ佑介。 彼の衣服が揺れる度にそこから炎が舞い上がる。 「……いつの間に契約を?」 「組織に置いてあった契約書を奪い取らせて貰った。 お前が信用ならない以上これからは独自に行動する。 お前に、騙された分のお礼をしてからだがな!」 「ああそうか、『振り袖火事』の契約書を持ち出しましたね?」 「お前に戦闘能力が無いらしいことは知っている! まずは此処に残っている人体改造に関する研究のデータを破壊させて貰うぞ!」 「貴方の後続機を作られたら敵わないとでも?」 「違う、俺みたいな被害者をもう出したくないだけだ!」 「…………それは嘘だ。」 強化された身体能力に任せて飛びかかる佑介に対して、 小さな声でサンジェルマンは呟いた。 「来てください、『超古代文明の遺産(オーパーツ)』!」 サンジェルマンの手のひらがくぱぁと二つに割れる。 そしてそこから大量の剣や槍が雪崩の如く祐介に向けて射出される。 当然、それらの一つ一つが最高級の都市伝説だ。 すこしでも当たれば致命傷は免れない。 だがサンジェルマンの手で改造された人間「国中祐介」はその全てを視認して回避した。 「喰らえ!」 都市伝説の隙間を縫って振り袖火事の炎がサンジェルマンを包む。 だが炎の中から現れたサンジェルマンの身体には火傷一つできていなかった。 「危ない危ない……。」 「それもお前の都市伝説か?」 「そうですね、これが無ければ死んでいたかも知れません。 火鼠の皮衣なんて貴重品ですよ? 貴方が眼にすることなんてもう無いんじゃないでしょうか。」 サンジェルマンは何時の間にか闘牛士のような赤いマントを羽織っていた。 どうやらそれが炎を防いでいたらしい。 「ならば、肉弾戦で倒す!」 「良いでしょう、そろそろ実験データが欲しかった。 上田さんにぶつけた少年だけでは不完全でしたからね。」 佑介の右ストレートがサンジェルマンへと伸びる。 直撃を危険だと判断したサンジェルマンは目にもとまらぬ速さで祐介の腕を蹴り上げた。 「――――――――ッ!」 「おや、痛いのですか? まだ戦闘時の痛覚遮断スイッチが不完全だったようだ。 これは次の手術の時に注意しておかないと。」 サンジェルマンの靴のつま先からは銀色に輝くナイフがのぞいている。 普段から仕込んでいるらしい。 「骨の丈夫さは完璧だ。 上田さんの手入れしてくれたナイフがボロボロになっているんだから間違いない。」 「チッ、小癪な!」 「ほらほら、まだまだ行きますよ!」 長い足を使って威力のある蹴りを次々に繰り出すサンジェルマン。 下段、中段、上段、目にもとまらぬ速さのサイドキックが祐介に炸裂する。 蹴りの勢いで吹き飛ばされた彼は本棚に激突した。 「くそっ、思ったよりも強い……! 組織の施設の中であれば全力で戦えないと踏んでいたのに!」 「ゼロナンバーは全力で戦えば周囲の施設を巻き込んでしまう程度には 強力な戦闘能力を持っています。 でも、だからといって屋内で戦えないことにはならない。 都市伝説も鍛錬で強くなれるんですよ。」 「そうか……、だがお前が純粋な肉体の性能で俺に勝っているとは思えないな。」 祐介は近くに置いてあった机を投げつける。 それを槍型の都市伝説を射出して撃ち落としたサンジェルマンに一瞬の隙がで来た。 「貰った!」 その踏み込みだけで床が震える。 全身の力を込めた裏拳がサンジェルマンに撃ち込まれた。 彼は辛うじてそれを受け止めたが、骨の折れる音がその体内に響く。 「くっ……!」 「確かにお前はそこそこ戦えるみたいだが、それでも人間止まりだよ。 肝心の高レベル都市伝説群も武器として使いこなせていないじゃないか。 さて、お前とお前の研究をたたきつぶしてさっさと此処を離れさせて貰おう!」 「それはさせません!」 無駄だと知りながらもサンジェルマンは再び都市伝説の射出を開始する。 当たりさえすれば肉を消滅し骨を粉砕せしむる圧倒的火力なのだが、 いかんせん当たると言うことがない。 これが上田明也であれば射出と同時に自らも突っ込み相手の動きを止めることができるのだが、 生粋の戦士たり得ないサンジェルマンはそのようなリスクのある行動が出来なかった。 「燃やし尽くせ振り袖火事!」 「くそ……、打ち据えろアグネァアァ!」 刹那、サンジェルマンの背後の空間が二つに裂ける。 そこから目にもとまらぬ速さで純白の槍が飛びだしてきた。 それは一瞬で祐介の身体を貫くと彼を壁に叩き付けて消滅した。 だが驚嘆するべきはその後起きた出来事だ。 とんでもない熱が辺りに広がったかと思うと祐介が叩き付けられた石壁がガラスのように変化してしまったのだ。 そしてその熱と袖振り火事の炎で図書館の本は次々に燃えていく。 その火がとある本棚に回った瞬間、彼は血相を変えた。 「お、どうした?そこに大事な本でもあるのか?」 「くそっ、貴様如きが私の研究を壊す? 巫山戯るな、私の神聖な研究を! 私の私による、世界と己が才能に苦悩する天才達とそして私の愛する人の為の研究を! 彼等と私の深遠なる城に、貴様のようなワラの家が入り込むんじゃあない! まだ壊す気なのか?まだ“俺”の研究を壊そうというなら容赦はしない! 行儀良くお前の喧嘩に付き合ってやっていたがそれももうお了いだ! 殺す、おまえなんざぼろ切れのようにぶち殺してやる! モルモット如きが!自爆装置でも付けておいてやれば良かった!」 「やっと、本性を現しやがったか。」 腹に巨大な穴を開けながらも国中祐介は立ち上がる。 彼はこれ以上の戦闘の継続を不可能だと判断して逃避を選択した。 「逃がさんぞモルモット!お前だけは許さん!」 次の瞬間、彼等の存在する空間が歪みねじれた。 「……ここは、日本庭園?」 国中祐介は自らの目を疑った。 自分はさっきまでかび臭そうな図書館にいたのに いつの間にやら日本庭園のど真ん中に立っているのだ。 「何が有ったんだぁ? って、サンジェルマンじゃねえか。 相当切れちまってるなあ、女がらみか? それとも……男? 無理矢理は良くないぜ?」 どこからか陽気な声が響く。 それはそれは生きていることが楽しくて仕方なさそうなテノールの音色。 「すいませんね、明久。すこしお願いが有ってきました。 貴方の息子さんを仇として狙っている男が其処にいるのですが、 私の図書館に火を付けていってですね。 火を消すまでに少し相手していて欲しいんですよ。」 声の主は日本庭園の池で鯉に餌をやる、腰に刀を差した男性。 上田明久である。 「それなら明也に戦わせてやれよ。 あいつだってガキじゃないんだからさ。 あいつのやったことの責任なんて俺はもう取っちゃいけないよ。」 「駄目です、あいつ足が速いんで私も明也さんも逃がしてしまいます。 私が帰ってくるまでで良いんです! 殺しておいても構いません!」 「無茶な事言うなあ……。」 「くっ、今の内に逃げておくか……?」 戦いを渋る明久。 国中佑介はもう状況を把握して逃げだそうとしている。 そこでサンジェルマンはアプローチを変えた。 「貴方の身体から得たデータを元に作ったホムンクルスですよ? 貴方も戦ってみたくはありませんか?」 「それを早く言えよ!」 子供のように明久ははしゃぐ。 それを確認するとサンジェルマンは次元を歪めて図書館にワープした。 「おい、そこのガキ! 俺はお前の仇とやらの父親なんだがどうする? できるなら殺してみろよ、そしたら明也の奴は多分悲しむと思うけどなあ?」 明久の言葉を聞く前から国中佑介は背を見せて逃走を始めていた。 自分の言葉が無視されて少しばかりむっとなる明久。 「おい、話くらい聞いていけよ。」 次の瞬間には、上田明久は国中佑介の肩を掴んでいた。 「いつの間にここまで近づかれた!?」 「うっせーな、お前の足が遅いんだろうがよ。 これじゃあ鬼ごっこにもなりやしねえ。」 明久の手を振り払うように佑介は明久に殴りかかった。 岩を砕き、鉄に穴を開ける拳、当然人間が喰らえばひとたまりもない。 だが、それはいとも容易く手のひらで止められた。 「体の使い方がなっちゃいねえ。 腰を使え腰!」 止めた拳を掴んだまま振り回して明久は祐介を地面に叩き付けた。 そしてそのまま日本刀を抜いて彼にトドメを刺そうとする。 だが間一髪祐介はそれを躱して明久を距離を取った。 「都市伝説……か?」 「馬鹿野郎、この程度鍛えれば誰でもできるわ! 俺の都市伝説はこの『村雨』だけだ!」 上田明久は腰に下げた刀を自慢げに振り回す。 「ほら、俺を元に作られたホムンクルスなんだろ? もっと骨の有るところ見せてみろよ!」 「くそっ、化け物め……!」 振り袖火事の炎を全身に纏い、国中佑介は上田明久をにらみつけた。 その目を見て始めて、上田明久は満足げに口元をゆるめる。 そして彼の息子がするように鷹のような鋭い目つきをみせた。 上田明久は生まれつき人間離れしたレベルで身体が丈夫だった。 そしてそこそこに勉強も出来た。 そんな彼には人生の全てが退屈だった。 彼の周りには彼ほど肉体・頭脳の両面で優秀な人間は居なかったのだ。 退屈を持てあまし、自分と同格と思える人間の居ない孤独に疲れた彼は、 何時しかこの夜の全ての享楽を味わってみようと思うに至っていた。 そうすれば彼自身の渇きや孤独が癒えると思ったのだ。 そんなときに彼はサンジェルマンと出会った。 彼は明久の才能に興味を持ち、彼の才能を伸ばす手助けをしてくれた。 だがサンジェルマンと世界を巡るうちに上田明久は気付いた。 世の中には自分より異常で異様でしかも優秀な人間が居る。 なんだ、自分は凡人ではないか。 そう思った時、彼は彼の周りの人間が愛おしくなった。 そして彼は自らを研鑽することを止めて、愛する人の為に生きようと決めた。 こうして生まれたのが上田明也とその弟だった。 「くっくっく、久しぶりの闘争だ。 久しぶりの競争だ。 何年ぶりだろうな、俺と戦える奴なんて!」 国中佑介は確信した。 確かに彼が知る上田明也程ではないがその父たるこの男もまた異常なのだと。 「殺し合いするのにあんな満ち足りた顔をした人間が居てたまるかよ……。」 「殺し合いは楽しいぞぉ、どんな人間でも同じ地平に立てる。 死の前では全てが等価だ!」 そう叫ぶと上田明久は国中祐介の懐に踏み込んで刀を抜いた。 「振り袖……」 ストォン 「無い袖は振れないよなあ!」 国中佑介の左腕の肘から先が胴体から離れて宙を舞った。 しかし彼に近づきすぎた明久の身体も炎に包まれた。 「村雨ェ!」 その瞬間、彼の差していた刀の鞘から大量の水が噴き出す。 明久はそれで自らのみを包む炎を消してしまった。 「なんだ、サンジェルマンのホムンクルスだから期待していたのに……。 たいしたこと無いじゃないか。」 「くそっ、調子に乗るなよ……!」 佑介は吹き飛ばされた腕を回収すると無理矢理それを切断面に接ぎ直す。 「ほう、昔の奴より再生力はあがってるみたいだな。 腹の傷もふさがり始めているし……、ハーメルンの笛吹きの研究データでも使ったか?」 気付けば攻防の主導権は上田明久のものとなっていた。 抜けば玉散る氷の刃。 抜けば霊散る氷の刃。 明久の繰り出す村雨は反撃の隙さえ与えずに祐介の肉体を切り刻む。 格別に速いという訳ではない。 格別に重いという訳ではない。 ただ当たり前に刀は繰り出され、血が噴き出す。 人工的に作られたホムンクルス独特の白い血が辺りを染める。 「おらおらおらおらおらおら! もっと頑張って、魅せろ!」 「畜生、こんなところで死ぬ訳には……!」 しかし、彼の祈りは届かない。 そこで奇跡を起こせないのが彼の限界なのだ。 「なんだ、奇跡の一つも起こせないのか? 追い詰められたら『その時不思議なことが起こった』とかナレーション入って逆転勝利だろうがよ! ったくこれだからホムンクルスは駄目なんだ!」 上田明久は一度刀を鞘に収める。 そして少し距離を取った後一気にそれを抜きはなった。 居合抜きの一閃、それは間違いなく国中佑介の胴を捉える。 佑介の胴から吹き出す白い血と内蔵を見た明久はすでに彼への興味を失っていた。 「……飽きた。」 自らの明らかな勝利を確信した上田明久は刀を納める。 彼の瞳はもう国中佑介を見ていない。 「ほら、帰れ。死にたくなければ帰れ。」 「……何言っているんだ!?」 「いやだからさ、お前と戦うの飽きた。 その内蔵仕舞ってさっさ帰って寝ろ。 どうせホムンクルスなんだから治るだろう? で、あとは俺の息子と戦うなりなんなり好きにしろ。」 「そう言って後ろからだまし討ちにするつもりなんだろ!」 「だって、それ必要ないくらい弱いじゃんお前。」 「――――――――――!」 その時突然空間が歪み始める。 どうやらサンジェルマンが帰ってくるらしい。 「ほら、あいつが帰ってくるぞ?」 「く、くそっ!」 国中佑介は脇目もふらず逃げ出した。 「……あいつを逃がしましたね明久さん。」 「だってあいつ弱いんだもん。 せめて俺の息子倒してくるか、俺の息子が強くなる為の餌にするかしないと。 今殺しちゃったらたのしくねえ。」 「戦いを楽しみにするのはやめたんじゃないんですか?」 「うるせえ、やっぱありゃ撤回だ。 戦闘最高戦争最高、世界には俺を楽しませる戦場がまだありました。 これで良いだろう?」 「むぅーん……。」 「闘争は即ち理解し合うことだ。 理解し合うことは即ち愛し合うことだ。 愛し合うことは即ち平和への第一歩だ。 闘争とは全ての存在を平等にして世界を救う為の第一歩なのだよ。 最近は闘争の根幹を理解しない連中が多くて困る。 打ち倒せど辱めず、圧倒すれど侮らず、それでこそ闘争なのだよ。 もっと自分が剣を向ける相手に敬意を抱け我が友よ。 それが出来ないと何時か取り返しがつかなくなるぞ。」 「いやぁ……訳がわかりません。」 「それは残念だ。ああそうだ、ミスド喰う? 葵が丁度買ってきていた所なんだよ。」 「フレンチクルーラーが有るなら良いでしょう。」 「良い返事だ。オールドファッションしかない!」 豪快に笑ってサンジェルマンの肩をたたくと上田明久は妻の名前を呼んだ。 どうやら外で喰おうということらしい。 どこまでも理解の外にいる友人だが、傍に居て居心地が良い。 サンジェルマンは先ほどまでの自分の怒りがゆっくりと薄れていくのを感じていた。 【上田明也の探偵倶楽部37~抜けば玉散る氷の刃~fin】
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これは、[黄昏 正義(たそがれセイギ)]少年が小学6年生になった頃、屋上で起こった出来事だ。 もう少年の安否を見張る必要も無い上、下手に契約者と接触したくないと思い、俺は屋上で座り、瞑想をしていた。 この瞑想というのは俺にとっての回復方法の1つで、 さらに自己の能力の分析をしたり、敵を察知しやすくなったりと都合が良く、時間があれば瞑想をしている。 ―――その次の瞬間、何が起こるかも知らずに――― 不意に都市伝説の気配を察知する。 その気配は、今までの都市伝説とは比べ物にならないほど大きかった。 いつもなら、詳しい位置を調べてから動くのだが、その必要はなかった。 眼を開けると、その都市伝説の居場所が分かった。 そう、真後ろだ。突如真後ろに現れたのだ。そして前には、巨大な鎌が首を斬らんとしていた。 大王「・・・まさか、もう出会う事になるとはな。もう少し心構えができてからにしたかったが。」 ???「私を知っているのか、『Αμαρτωλοσ(アマルトロス)』。」 大王「あぁ、生まれた時からな!絶対に会わない方がいいと教えられた。」 思えば、あの時かすかに震えていた気がする。初めて恐怖を覚えたからであろうか。 それだけ、あの存在は、全てのものが恐れる存在だった。 大王「お会いしたくなかったよ、【Θανατοσ(タナトス)】。」 そう、あの時そこにいたものこそが、神話と呼ばれる都市伝説の1柱【タナトス】だった。 何故か【タナトス】は俺の首にかけていた鎌を下ろす。 タナトス「まさかお前にまで私の名が広まっていたとは思わなかったな、【恐怖の大王】。」 大王「ほぅ、俺こそ光栄だな。神まで俺の名を知っていたとは。都市伝説の死神、【タナトス】。 将来有望の俺を狩りに来たのか?」 タナトス「あぁ。その予定だった。」 大王「『だった』?まさかこの俺の強さに怖気ついたのか?」 あの時はあえてありえない事を言ってみた。 しかしこれが吉となり、色々な情報を引き出す事となろうとは、思いもよらなかった。 タナトス「お前達は私達には絶対に敵わない。お前は『Ταξη(タクシ)』を知っているか?」 大王「『タクシ』?なんだそれは?」 タナトス「まぁ、知らぬものもいるか。都市伝説には強さに応じて『タクシ』、つまり階級がある。」 【タナトス】は鎌を背中のホルダーにかけると、大王に背を向け、教授するかのように話を続ける。 タナトス「『タクシ』はΕ(エプシロン)を最低としてΔ(デルタ)Γ(ガンマ)Β(ベータ) そしてΑ(アルファ)と私達は定めている。」 大王「つまりΑが最高という事か。実に分かりやすいな。」 タナトス「例えば、お前が戦ってきた【ベッドの下の男】はΔ、【口裂け女】【透明警備員】はΓだ。」 どのようなものかと思えば、あっさりと数値が出た。そうなれば当然気になるものがある。 大王「そうか、では俺はどこなんだ?常識ではΓ以上か。」 タナトス「お前は、Αだ。」 【タナトス】が少し溜めてから放った言葉に、流石の俺も驚いた。 まさか神に最高の称号を与えられるとは。だが。 大王「待て、どういう事だ?『敵わない』事についてこの話題を出したなら、お前がΑとなるんじゃないのか?」 タナトス「勘違いするな。私達は、Αではない。」 【タナトス】は振り返り、不敵に笑いながら、こう告げた。 タナトス「その上の、Ω(オメガ)だ。」 大王「ッ!もう一つ、上、だというのか・・・。」 タナトス「都市伝説は信じられ、語られる事によって強さや能力を得る。 なら信仰され、生贄まで捧げられてきた神の方が、 人を怖がらせるためだけに生まれたお前たちより、上だという事だ。」 所詮、神は絶対に越えられない存在だったのであろうか。 次の階級への道の遠さは目の前にある気迫が伝えてくれた。 大王「・・・。それで、改めて訊ねようか。何故俺を狙いに来た?そして何故殺せないんだ?」 タナトス「『Μοιρα(モイラ)』を歪め、悲しませるアマルトロスを消すためだ。」 大王「【モイラ】?神の名か?」 【タナトス】は呆れたかのように溜め息をつき、説明を始める。 タナトス「『モイラ』は『運命』、それを司る神だ。主に人間の運命を定めている。」 大王「人間の運命、そんなものを決めている神を悲しませる?運命を歪める?俺にはそんな事、不可能だ。」 タナトス「いや、可能だ。『モイラ』には元々存在するべきではない都市伝説に関する事は含まれていない。」 大王「それで俺が暴れればその分変わる、か。しかしまだ1人も殺してはいないぞ?念のためか?」 【タナトス】はまた背を向けて、俺に重大な事実を告げた。 タナトス「いいや、お前は歪めた。お前の契約者の『モイラ』を。」 大王「なに、少年の運命?どういう事だ?契約してから少年の寿命が縮んだとでも言うのか?」 タナトス「お前の契約者は、本来とうの昔に死んでいる。死因は自殺だ。」 自殺?ふざけるな!少年がそんな事をする理由は―――その発言を止めたのは自分自身だった。 心当たりがあった。 [心星 奈海(しんぼしナミ)]少女とケンカをした時、あの時なら餓死、あるいは自殺しかねない、そう思ったのだ。 しかし俺は、それを止めた。つまり少年の寿命を延ばした。 それが神に抗うという罪か。 タナトス「さらに、その後を追い自殺するはずだった者も、お前の契約者が生きている所為で生きている。」 大王「あの少女か、確かに少年が死ねばそうなりかねん。 で、このアマルトロス、『罪人』か、何故殺せないんだ?上からの命令か?」 俺はまたありえない事を口にした、つもりだった。 【タナトス】より上があるなどと、その時は思いもしなかった。 タナトス「その通りだ。『お前及びその契約者を殺してはならない』という命令を受けている。」 大王「お前より上がいる、のか?」 タナトス「あぁ、神にもタクシがある。上位達が決めた命令は絶対だ、だが! 急に始まったあの怒りの発言は、何故か鮮明に覚えている。 タナトス「あの餓鬼は悪戯ばかり、格闘馬鹿共は修行に明け暮れ、 誰一人とて神の自覚も無く遊びまわり! 挙句に現最高神は訳の分からない戯言を抜かす!何を考えているんだ!」 【タナトス】のまわりが歪んで見える。 本来なら恐れるべきところだろうか、しかしあの時は、恐れとは別の、『足りない物』を感じた。 タナトス「だが、【モイラ】様は違った。あの方は神の自覚を持ち、人間の運命を、紡ぎ続けていたのだ。」 急に声の調子が変わり、まるで感傷的になった。 しかし次の瞬間にはまた、その眼は威圧するかのように鋭くなった。 タナトス「その【モイラ】様が定めたものを、歪めるものがあるのなら、 この私がそれを狩る。それが私の、使命だ。」 その発言の後、背中に掛けていた鎌を手に取り空を斬る。 すると空間が歪み、言葉では表現できない暗い色をした穴が開いた。 大王「結局、帰るという事か?」 タナトス「『殺さない』という命がある以上、警告が唯一私にできる事だ。」 大王「もし、俺が人を殺したら、どうする気だ?」 タナトス「その時は、奴等の判断と私の判断、どちらが正しかったか分かる時だろう。」 そう言い残し、【タナトス】は自分で開けた穴の中へと入り、穴は何事もなかったかのように閉じた。 残ったものといえば、『神』に関する情報と―――本来沸き起こるはずのない好奇心であった。 【タナトス】については、『鎌の事』『都市伝説狩りをしている事』『死を司る神である事』ぐらいの情報は得ていたが、 この日、新たに『他にも多くの神がいる事』『それは究極の階級を持つ事』 そして『【タナトス】以外は敵意が無いと思われる事』―――。 しかし、得た情報の分、謎も生まれた。『何故俺と少年は生かされているのか?』 そして『何故【モイラ】の定めた運命に都市伝説は干渉しないのか?』―――。 神は謎が多い、本来はそれを恐れるべきなのだろう。 気が付くと、俺の脚はある人物の元へと俺を運んでいた。そこには、俺の契約者である少年がいた。 さらに気付く。俺は少年と共になら神を倒せると思っている事を。 昔の、契約する前の俺だったら、【タナトス】をどうしただろうか。 無闇に戦いを挑み散るか、あの心の不安定さから仲間にしようと試みたか? しかし今では、逆に諦めて逃げるでもなく、むしろ神を超え、自分の限界に挑戦してみたいと思えるようになった。 昔の俺では【口裂け女】を倒せただろうか?【テケトコ】【透明警備員】を倒すための仲間はいただろうか? 少年のおかげで強くなった事は明確だ。 俺は少年に【タナトス】の事を伝えようかと思った。しかし、やめておく事にした。 もし少年が俺のために、いや、これは自意識過剰か。好奇心で神に挑んでしまう可能性があるから、としておこう。 正義「どうしたの?大王、行くよ。」 今日から【タナトス】を越えるほど強くなるまで、修行を積む事にするか。 大王「あぁ。少年、今行く。」 ―――世界征服への道は遠い。 第7話「狙われた日」―完― 前ページ次ページ連載 - 舞い降りた大王
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……さて どう、答えたらいいものやら 「怪奇同盟」より、避難場所として使ってもいい、と言われていた墓場 そこに入り込み、休憩をしていたのはいいのだが… …まさか、こんな話を持ちかけられるとは 「…私と契約、ですか?」 「あぁ」 「そうよ」 青年と少女が、同時に頷いてきた …確かに、自分も都市伝説である 人との契約は、可能だ だが… 「…二人とも、多重契約になるのですよ?危険すぎます」 多重契約 しかも、二人とも、属性が違いすぎる そのリスクは高い 「だから、俺たち二人が、お前と契約するんだよ。それなら、リスクを分散できるしな」 「……まさか、その前に。この馬鹿が他の都市伝説と多重契約してリスクを高めるとは思わなかったけど」 じろり 少女に睨まれて、青年はそっぽを向いている …まぁ、あの場は、そうしなければ危なかったとは言え… ……確かに、多重契約のリスクは高まっている 「…大丈夫だよ。俺は都市伝説に飲み込まれたりしない」 く、と 青年は、黒服をじっと、見つめてきた 少女もまた、黒服を見つめてくる 「……私だって、そうよ。そう簡単に、飲み込まれるもんですか」 「…ですが」 …二人が、そう言ったとしても 黒服は、契約を躊躇してしまう ……自分にとっても、それは悪い話ではない だが、しかし それによって、この二人に、都市伝説に飲み込まれるリスクを背負わせるのが、嫌だった しかし 少女も、青年も、決して引き下がろうとしてくれない 強い強い意思を持って、黒服と契約しようとしているのだ 「あなたの力になりたいのよ……あなた、今のまま「組織」にいたんじゃ危ないわ。今回の件で嫌というほどわかったでしょ?」 「俺達と契約すれば、「組織」を離れても、お前は消滅しないかもしれない。あんな「組織」とっとと見限って、俺たちと契約した方がいい」 決して引かない、強い意志 …これを前に、自分はどうすればいいのだろうか 「………」 黒服は、静かに考える …自分は、明日、Tさんの手伝いをすることになっている …「夢の国」の大元へと、殴りこむ手伝いを 二人と契約すれば、自分も何かしら、能力が付属、もしくは強化される可能性がある そうすれば…「夢の国」の大元との戦いに、自分も、少しは助力できるだろうか…? 「…わかりました」 はたして 自分などが、未来あるこの二人に、そんなリスクを背負わせてもいいものかどうか… 悩みながらも…彼は、決断した サングラスを外し…直接、二人を見つめる 「…私などと、契約して、くださいますか?」 真っ直ぐに、真っ直ぐに、青年と少女を見詰める 黒服を見つめ返したまま…青年も、少女も、同時にはっきりと頷いて その瞬間に、黒服と二人との契約は、成立した 「----っ!?」 二人に、多重契約のリスクがのしかかった事を、黒服は理解する 特に……やはり、青年の方が、その重圧に押しつぶされかけている 一つが「厨2病」と言う多重契約が成功さえすればリスクが少ない都市伝説とは言え…やはり、三つ同時は、危険すぎたか しかし、もはや契約は始まっている 止める事は、できない …契約が、終了した 少女も……青年も 人間の、ままだ …都市伝説に、呑み込まれてはいない その事実に、黒服はほっとした そして 同時に理解する 自分が、何者だったのか 同時に、青年と少女も理解する この黒服が、何者なのか 「…お前」 「…「組織」の黒服なだけじゃ、なかったのね…」 「……そのようです」 苦笑する 何故、今まで気づかなかったのか? …いや、きっと、気付くべきではなかったのだろう もし、気付いていたら、自覚していたら…自分は、「夢の国」に飲み込まれていただろうから 三人は、理解した この黒服は、「組織」の黒服であると同時に…「夢の国」の黒服であるのだと かつて、人間であった頃 彼は「夢の国の地下トンネル」と「夢の国の地下カジノ」と契約していた そんな彼の前に、正気を失った「夢の国」が現れる 彼は、「夢の国」を正気に戻そうとした 元の「夢の国」に戻そうとした 「夢の国」に飲み込まれようとしていた少女を、助けようとして …そして、失敗してしまった 二つの「夢の国」関連の都市伝説と契約していた彼 そのまま死亡しては、「夢の国」に飲み込まれる危険性があった …「夢の国の黒服」になってしまうところだった しかし、「夢の国の地下カジノ」が彼との契約を解除した事により、「夢の国」とのつながりが一つ、なくなって …彼は、「夢の国の黒服」にはならずにすんだ 代わりに、彼は「組織」の黒服へと変わり果てたのだ だが、一度は「夢の国の黒服」になりかけた そのせいで、彼は完全な「組織」の黒服ではなかった 「夢の国の黒服」が、半分混じっている だから、「組織」の端末で行方を終えない 「組織」の完全な管理下におかれていなかったのだ だからこそ…今まで、裏切り行為に近い行為を行っても、消されずにすみ続けた もし 契約前に、その事実を自覚しては…彼は、「夢の国の黒服」へと、完全に変化してしまっただろう それほどまでに、かつての彼は、「夢の国」との関わりが深かったから しかし 彼は、契約してその事実に気付いた だから、「夢の国」に飲み込まれはしない 今の彼は、二つの都市伝説が混ざり合った、非常に奇妙で、稀有な存在 「組織」の黒服であると同時に、「夢の国の黒服」と言う…非常に特殊な存在になっていた 「二人とも、大丈夫ですか?」 「問題ないわよ」 「あぁ、俺もだ」 …若干、青年の方は顔色が悪いが… どうやら、大丈夫そうである 改めて、ほっとした 「すみません…私のせいで、あなたたちに、危険なリスクを背負わせてしまって」 「謝る必要なんてないわよ。私たちがしたくて、あなたと契約したんだから」 照れ隠しするようにそっぽを向きながら、少女はそう言う あぁ、と青年も頷く 「これで、お前を少しでも危険から遠ざけられるなら、問題ねぇよ」 にんまりと 嬉しそうに、青年は笑ってきた 「これで、俺たちは運命共同体だろ?」 「…そう、言うのでしょうかね?」 苦笑する これも、契約の効果なのだろうか 幾分か残っていた疲労が、少し消えている …これならば、明日、Tさんの力になれそうだ 「…ありがとうございます」 サングラスを外した状態のまま…黒服はやんわり笑って、二人に礼を述べたのだった 前ページ次ページ連載 - とある組織の構成員の憂鬱
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とある警察幹部の憂鬱 小ネタその1 4コマっぽいの 警察幹部「何故、私の部下には都市伝説と関わりたがる者が多いのでしょう」(ため息 黒服H「関わるな、と言われると関わりたがるのが人間の性さ」 警察幹部「…かと言って、積極的に関わるように、などとは言えません」 黒服H「だよなぁ?」 警察幹部「……せめて、無茶をしなければ良いのですが。都市伝説と契約している彼が、特に心配です」 黒服H「何だ、そいつに気があるのか?…っち、先に手ぇ出しておけば」 警察幹部「そんな訳ないでしょう。訴えますよ。そして勝ちますよ」 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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Tさん 俺 俺 所属:フリー 本名:伏見舞(ふしみ・まい) Tさん及びリカちゃんの契約者。一人称俺だが女の子。 容姿・社会的地位:高校生、肩口までの長さの髪を適当にまとめている。 備考:普段から鞄の中にリカちゃんを入れて持ち歩いている。喋る人形を特に気にしない雰囲気の場所では頭か肩に乗っけている。 貧乳 契約経緯:都市伝説に襲われていたところを偶然通りがかったTさんに助けられた。そのまま契約。 若干厭世的な気があるがまあそれほど問題はない。たぶん 一人称俺なのはその昔男の子たちと遊んでいるときに一人称が私だとからかわれたために俺を一人称にしてしまいそれが本人の中で定着した。カタカナ表記にすりゃよかったといつも作者は思っている。 Tさんを憎からず思っているが親友とか兄妹とかの感覚に近いかもしれん。……と思っていたら最近思うところがあるようです。 そして想いは成就したそうです。 ツッコミ体質。 好きなもの:Tさん、リカちゃん、コメディ、ぐうたらすること 嫌いなもの:つまらない、めんどくさい、危険 癖・趣味:面白そうなことがあると写真をとることが癖であり、趣味である。 備考:薔薇よりも百合が好き。 はないちもんめ、かごめかごめ、赤い靴、黒服D、黒服さん、口裂け女等と面識・共闘経験あり。 喫茶ルーモア関係者とも面識有り 夢の国の夢子ちゃんと仲良しに。 ってかもう知り合いのみだととんでもない量になってるので誰と知り合いか知りたい君は本編読もうぜ☆ すみません読んでくださるとありがたいですマジで! Tさん 容貌:悟った雰囲気が醸し出ている黒髪の青年。 性格:半歩くらい引いた視点で物事を見ている。 攻撃時に「破ぁ!!」と叫ぶ癖がある。 知識、知性:知識はかなりある。頭の回転も早く、有能。 趣味好物:酒(酒豪)、のんびりすること、契約者、リカちゃん、こちらに対して好意的なもの 嫌いなもの:自分とその周りに危害を加えるモノ 知名度は低いがその話の性質上都市伝説に対して大きな優位性を持つ。 気合いやら何やらで都市伝説を一掃できるがその力の源はかつて契約していたケサランパサランの持ち主に幸せを運んでくる能力の曲解、 お願いすると叶えてくれる能力によるところからきている。(~があると幸せだな。が能力起動キー。口に出す必要は特にない)むしろ能力のほぼ全てはケサランパサラン譲り。 ※便利で有用だがあまり無茶なことは叶えてくれないため専ら気合いの声と共に何か得体のしれないものが飛び出たりしてる。とりあえず死ななければけがを治したり人探ししたりくらいは出来るらしい。 霊体、実体のシフトが自由にできる。 身体能力は常人並。しかし近接戦闘時にはケサランパサランに身体能力の祈祷強化を頼んでいる。 割とエグイ程強い。 人間の時はケサランパサランはあまり持っていることを人に知らせない方が良いという話から人との関わりを持たなかった。 都市伝説化して契約した当初は一人の期間が長かったため目の前の全ての問題を自分一人で解決しようと言う意思があった。(≪夢の国≫との決着も一人でつけるつもりで他のモノが≪夢の国≫の被害に遭わないようにその存在をルーモアにて触れまわった。) しかし猿夢以降、自らの能力は万能ではないと自覚。現在≪夢の国≫相手に暗躍中。 人間時には≪組織≫内でもそれなりに名は通っていた。≪組織≫からの汚れ仕事はほとんど断ってきたため≪組織≫は彼を快くは思っていなかった。 人間であった時のことは特殊事例で都市伝説化したためほとんど覚えており、都市伝説よりも人間に近い。が、本人は人間で会った時のことにそこまでこだわっておらず、ふつうに人づきあいができる現状を好いている。 エンジェルさんのとこの情報屋をよく活用。黒服D、はないちもんめ、かごめかごめ、赤い靴と共闘経験あり。 黒服Hを生前見たことがありその時に薔薇十字と何らかの関係があるっぽいことを把握した。(深くはしらない) ルーモアをよく利用(一人でも契約者付きでも)。その関係者とも一通り面識有り。他、黒服や人面犬などとも知り合いであり、顔が広い。 知り合いのみだと(ry リカちゃん 年齢:初登場時に生まれた 女の子 所属:フリー ≪ひとりかくれんぼ≫でリカちゃんと名付けられたために≪電話をかけてくるリカちゃん≫と混同して生まれた。 綿が中に詰まったおにんぎょうさんの姿をしている。生まれて間もないため会話文はほとんどひらがな。口癖は~なの。 良くも悪くも無知。普段から契約者とはほぼ一緒にいる。 好きなもの:Tさん、契約者、日常、大事にされること 嫌いなもの:怖いこと、いらないといわれること 能力 顔を知っている人間の電話を鳴らすことができ、もし出てしまったらリカちゃんに居場所が割れる。GPSみたいな感じ。 対象に向けて瞬間移動可能。しかし移動距離はごく短いため何度も電話をかけて後を追うことになる。 あと隠れるのがうまい。ただし消えるわけではないので開けた場所では隠れられない。感度のいいレーダー系統の能力にもあっさり見つかる。 一方で 探す ということに関してはTさんを上回る。 人をその手で引き裂ける程度には膂力があるがあまり契約者側は使わせる気がない。 ≪フィラデルフィア計画≫ 契約者 名前:二十代前半の女(名前は?)。フリーター。 所属:首塚組織 容姿:黒髪ロング普乳。 組織内での立ち位置:将門のメッセンジャー兼皆のアッシー君担当。(首塚からだって学校町にひとっ飛びだぜ!) 性格:大人の女の人って感じ(どんな感じだ)。 長所:危機感知能力が高い 首塚組織参加の経緯:契約した直後に野良都市伝説に襲われていたところを≪組織≫と対立したばかりのころの将門(胴体付き)に助けられ、そのまま所属。 長ったらしい都市伝説名のためフィラちゃんと呼ばれるが本人は響きが卑猥だと嫌がっている(もう諦めているが)。 ≪能力≫ フィラデルフィア計画 その中でも鉄の隔壁に守られ影響を受けなかった一部のエンジニアたちの話を能力として有する。 鉄の箱の召喚、その中に入ると発光体が発生。それに包まれることよってほぼ自由な空間跳躍が可能。 鉄の箱の召喚から跳躍までに十秒ほどの時間がかかるため、戦闘能力はほぼ皆無と言ってもよい。 また、無生物と同化したりなどの能力は彼女の≪フィラデルフィア計画≫は擁していない。 鉄の箱に収容できるのならその限りにおいては何人でも空間跳躍可能。さしあたって2,500km以上は跳躍可能なはず。 鉄の箱の大きさは一般的なエレベーターくらい。結界等も基本無視して跳べる。 一応跳躍を願ってきた首塚の人間全員とは面識有り。チャラ男を苦手としている。貴腐人にはわりかし好意的。 ≪夢の国≫への復讐者の登場人物はこちら ≪夢の国≫への復讐者 ページ最上部へ
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マッドガッサーと愉快な仲間たち 15 「マリ・ヴェリテの憂鬱」 群れる事など、できた事がなかった 己は人食い、化け物じみた伝承を与えられたベート 仲間など、作れた事もない 生まれ出れば、すぐに命を狙われる 危険分子と忌み嫌われる 力を隠し、獣の群れに紛れようとした事があった しかし、獣たちすら、己を恐れる 本能的に、自分たちとは違う存在であると…化け物だと、そう認識してきて その群れに加われた事など、一度もない 人食いをやめようとした時期があった 悪事を働くのをやめようとした時期があった しかし、誰にも信じてもらえなかった どうせ悪事を働くに決まっている お前には騙されない 誰にも信じてもらえずに、結局己は犯し、殺し、喰らった 契約者を得ようとした時期がある 契約者を得れば、この永遠の孤独から解放されるかもしれないと ……結果として、己はそれすらも許されなかった 契約した人間は、アッと言う間に、己の力に、存在に飲み込まれた 時に狂いて命を絶たれ、時に己の中に取り込まれ …己は、寄り添ってくれる契約者すら、得る事ができなかったのだ 故郷を離れようと思ったのは、全てに疲れたからだった 己の存在は、故郷以外ではあまり知られていないはず そこでなら…もしかしたら 寄り添える相手が、見付かるのではないだろうか? ほんの少しの、天文学的な確立でもありえないのではないかと思える奇跡にすがり、故郷を離れた やってきたのは、小さな島国 その島国の中でも、特に都市伝説の気配が強いその場所を目指した …その途中で、あいつと遭遇したのだ 「…マリ・ヴェリテのベートだな?俺の野望に、一口乗らないか?」 酷く、魅力的な言葉だった 都市伝説としての…マリ・ヴェリテのベートとしての本能に従う事ができ なおかつ…仲間を得る事ができるかもしれない、そんな誘い 迷う事無く、己はその誘いに乗った 少しずつ、仲間が増えていった 己に恐怖を抱いてもこず、己を信じてくれた存在は初めてだった 仲間を得る事など、群れる事など …生まれて、初めてだったのだ だから、己はこの群れを護ろう それは本来、群れのリーダーの仕事であるが…残念ながら、我等がリーダーには戦闘能力はない だから、自分が護るのだ 戦う事ができる己が 群れた事がある連中にはわからないだろう 契約者を得た事がある、契約者を得ている都市伝説にはわからないだろう 群れる事を許されず、契約者を得る事すら許されなかった都市伝説の絶望が たとえ、誰に何と言われようとも、己はこの群れを護るのだ この群れでの時間を、誰にも奪わせはしない たとえ、どんな犠牲を払ったと、しても fin 前ページ次ページ連載 - マッドガッサーと愉快な仲間たち
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アンケートまとめ アンケート内容 Q00. あなたは都市伝説を信じますか? Q01. あなたはどんな都市伝説が好きですか? Q02. あなたがこのスレで好きな物語はなんですか? Q03. Q02.のどこが好きですか? Q04. あなたがこのスレで好きなキャラクターは誰ですか? Q05. Q04.のどこが好きですか? Q06. あなたの契約したい都市伝説はなんですか? Q07. あなたのフェティズムを教えてください。 Q08. あなたの好きな曲を教えてください(ジャンルは自由です)。 Q09. 御感想、御意見など、御自由にどうぞ!! Q10. さっきからあなたの後ろにいる方はどなたですか? Q11. あなたは赤/好きですか? これまでの回答 ID rx6BfKXi0 さんの場合 投稿日: 2009/08/24(月) 19 19 31.60 ID 9jk9kzAP0 さんの場合 投稿日: 2009/08/24(月) 19 45 51.96 ID odUuEwVe0 さんの場合 投稿日: 2009/08/24(月) 20 28 19.24 ID PKM0+U3N0 さんの場合 投稿日: 2009/08/25(火) 08 06 35.77 ID GyVCWoZpO さんの場合 投稿日: 2009/08/25(火) 21 24 39.05 ID vJqkSs620 さんの場合 投稿日: 2009/08/25(火) 21 42 35.98 ID PuVn4KOxO さんの場合 投稿日: 2009/08/26(水) 23 12 44.58 ID 1+zBu014O さんの場合 投稿日:2009/11/03(火) 23 35 11.19 避難所民その1 さんの場合 投稿日:2009/11/05(木) 00 43 22 避難所民その2 さんの場合 投稿日:2009/11/05(木) 08 21 30 避難所民その3 さんの場合 投稿日:2009/11/05(木) 10 26 59
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『私の世界』 前編 夢の内側から夢を観測している。 自分ではない誰かが自分のフリをして外界へと手を伸ばす。 私が消えてしまう、私が死んでしまう。そういった感覚が背骨の上を走る。 足首が痛い。瞼の裏側が熱い。お腹が、子宮が、疼いている。 私にしか聞こえない声で、あの腕は私に囁いた。 ――――お前は人間ではありえない。 第二話『私の世界』 背中側から発せられる軋みの音で薫は目を覚ました。 体全体を倦怠感が包む。薄いシーツを上にかけてるだけにも関わらず体が熱い。 どうやらベッドの上にいるらしい。 蛍光灯一本が薄暗く部屋を照らすこの部屋は自分の記憶にない。 「起きたか」 自分の視界の外から声を掛けられて、薫は体を起こしてそちらを向く。 窓から入る月明かりが、椅子に腰掛ける長髪の女を照らしている。 目は細く吊り上っていて、頬に二本の傷がある。鼻の形がいいおかげが普通以上の顔に見えるがお世辞にも美人とは言えない。 この女は……誰だ。私は……。 頭がぎしりと痛む。 「痛……」 「無理をするな。仮とはいえ契約した直前に戦闘を行ったんだ、あまり動かないほうがいいぜ」 ――――思い出した。 確か家の前の自販機でカタワさんに襲われて、この月に照らされている女に助けられて。 それから、私が、カタワさんを。 「殺した」 「ん? どうした」 私が殺した。カタワさんの頭を、砕いた。 どす黒い塊が喉の奥にツッかえている。あの時の自分は化け物だった。 と同時に自分の居場所があそこにあったと、そうも思う。 怪異を『力』として使役し、何かを壊す快楽。己の奥に快い暗闇が広がる、あの時間。 欲しいものがあった。自分を迎え入れてくれる環境。 小さい頃に失った、誰もが当然のように笑顔でいられる空間。 その輪を外側からしか眺めることが出来なかった。あの笑顔を自分がすることも、誰かに向けられることもない。 だが、今日私は笑顔をした。 ――――これから殺す、獲物に向けて? そして私は笑顔を貰った。 ――――姿も見えない獣の腕に? 「うぅっ……」 頭が痛い。脳髄が沸騰している。頭蓋の中心が、渦を巻いて私の外に飛び出ようとしている。 そういえば、ここはどこなのだろう。 薫は片手で側東部を押さえながら、女に質問をすることにする。 「ここは、どこなんですか?」 「ウチの割り当てられている部屋だ。あの後お前もぶっ倒れたから仲間に連絡して連れてこさせた」 「貴方は、誰なんですか」 そう質問した時、部屋の扉が勢いよく開く。 「いやー、新入りがいるんだって? 猿から聞いたで」 更にその扉の勢いにも負けないくらいの勢いとテンションの持ち主が入ってきた。 顔は十八、九の青年に見えるが服装はスーツだ。短く刈った髪は真紅に燃え、耳にはジャラジャラとピアスを付けている。 目鼻立ちがよく十分に美形と言えるだろう。だがその顔の半分以上に刺青が入れてある。 異様な人物であることは姿もさることながら、部屋に入ってから片時もお喋りを止めていない所からも見て取れる。 「ナナシさぁ、猿を自由にしとくの良くないで。ああ見えてパラドックス共はお喋りや」 「五月蝿いボケ。ウチ指図するなゴミカス」 「口悪っ! 相変わらず口悪っ! 新入りちゃんはこんなならんどいてな」 「ぶっ殺す。それと、こいつは新入りじゃない」 「え、そうなん? じゃあなんでここにいるん?」 「『巻き込んだ』責任がある」 「でも『適合体』ではあるんやろぉ? なら入っちゃった方が安全とちゃうのん?」 完全に薫を置いて話は進んでいく。自分の置かれている状況がますます良く分からなくなる。 判明したのは、女がナナシと呼ばれている事くらいだ。 この二人の話に割り込むべきか否か。 未だやむ気配のない罵り合いなのか情報開示なのか分からないやり取りを見つつ、長考する。 「ナナシちゃん知っとる? 怒るとおっぱいちっちゃくなるんやで?」 「よし、殺す。キーコに頼んで研究棟の多重擬似深淵牢獄に放り込んでやるよカス」 「あんな化け物だらけの空間嫌やぁ。なあ新入りちゃん」 うむむと顎に手を当てて考え事をしていた薫に予想外のボールが投げられる。 もちろん話など欠片も聞いていないので何も答えることが出来ない。 考えあぐねた結果、先の質問をこの男にも投げかけてみることにする。 あの、ここはどこなんですか?」 「ここ? 東京やで。アポトーシス東京支部」 「おいゴミクズ。そこまで教えるんじゃねェ」 「ええやん、いずれにせよそれを言わんと話も進まれへん」 東京……。随分と遠くに連れてこられたものだ。県を五、六個跨いでいるではないか。 それにアポトーシスという、恐らく支部とつくあたりなんらかの組織名と考えられるソレ。 とりあえず自分の大まかな居場所の把握という目的は達成した。次は一個ずつ謎を潰していこう。 「あの、アポトーシスってなんですか?」 「お、やっぱ気になる?」 「ボケカス、教えんな」 「えー、なんでなん? けちんぼさんやな君はホンマに」 「こいつはこのまま日常に戻ったほうがいいんだよ」 「アレを見たからか?」 いつの間にか例の獣の腕がぷかぷかと扉の前に浮いていた。 薫の心臓がゾクリと跳ねた。あの時の、カタワさんの頭を吹き飛ばした時の感覚が蘇る。 と、同時に右足首が痛むことに気がつく。じくじくと熱を持ってそれが主張する。 表情はなくともあの獣の腕の持ち主が楽しそうに笑っているのが分かる。 「初めはただの上級適合体かと思った。けど、『アレ』はあり得ねェ。あり得ちゃいけねェ範疇だ」 「おいおい、穏やかやないなぁ。何を見たん?」 「……」 黙ってしまったナナシに変わって獣の腕が答える。 「喰った」 「喰った? 何をや」 「矛盾、いや還元していたから『エーテル』というべきか」 「ふはは、冗談キツいで猿ちゃん。そんなん無理や」 チャラチャラした男が一気に苦笑いを浮かべる。それに対しナナシはいらついた様子で応答した。 「理論上は可能だろ。無理やり情報を埋めて取り込んじまえばいい」 「高機能干渉……」 「しかもその間意識が無い」 「天敵やんか」 「パラドックスに対してもウチらにとってもな」 男の方は額にじっとりと汗をかき、ナナシは腕を組んで黙ってしまった。 獣の腕も言葉を発さず。静寂が部屋を満たした。 薫は恐らく己に関する発言の数々を反芻するが一つも理解できない。完全に置いてけぼりを食らってしまった。 今更何を話していいかわからず周りと一緒に黙るほか無い。 今まで把握し切れていたと思っていた自分という存在。その自分が異様な集団に異様と称される不安感。 私という存在に対しての懐疑が大きく己の中で膨らむ。 ――――知りたい。知らなければならない。 拠り所を無くした自分だからこそ、さらに己を失う訳には行かない。 痛む右足。軋む頭。こうなった原因を。この静寂の理由を。私は知らなければ。 薫は自分の下半身を覆うシーツをぎゅうと握り締め口を開く。 「あの、教えてください。貴方たちのこと、あの化け物のこと、それに、私のことを」 全員がこちらに意識を向ける。男は苦笑いをし、女は飽きれ、腕は笑う。 この主張が受け入れて貰えるか分からない。そうなったときに私は食い下がるのか、それとも諦めるのか。 はぁ、とため息を付きナナシが口を開く。 「二つ約束しろ。一つ、今から聞くことを他言しない事。二つ、この話を聞いたら『選択』すること」 「はい、約束します」 「お嬢ちゃん。後悔しなさんなや」 「大丈夫です。私、知りたいんです。嫌なんです、自分を疑うのだけは」 薫は過去の自分に対する出来事によって、ある種の閉塞的な自己嫌悪を抱えている。 その嫌悪に相対していたのが過剰なまでの自己愛と他者への拒絶である。 その自己愛の部分が懐疑によって崩落すれば、残るのは事故嫌悪のみとなる。そうなればきっと、自分は消えてしまう。 ソレが怖い。歩んできた道が全て虚構によるものだと考えてしまうのが嫌だ。 だから少なくとももてる限りの情報は得ておきたい。それから全てを判断すればいい。 「おーけー。とりあえず開示できる範疇だけは全部教えてやる」 ナナシは自分の座っていた椅子から立ち上がると、部屋の隅に付属していた冷蔵庫から缶ジュースを三つ取り出す。 そしてソレを、自分、男、薫に配る。 長くなりそうだからな、そういってプルタブを開けた。 「まず、ウチらが所属している組織から話を始める。ウチらはお前も見たように、ああいった化け物を殲滅する役割を担う組織だ。 "Anti Paradox OPerat TOpsyturvydom SItuational Society"通称『APOPTOSIS』、日本語では『対矛盾戦略及び深淵観測協会』という」 「この俺のスーツの襟元についとるのが証明バッチや。かっこええやろ」 「主な活動内容は、先にも述べた化け物の殲滅と研究。それから深淵、まぁロアでもいいがそれの観測だ」 アポトーシス……知っている。自殺細胞の事だ。己を犠牲に他を生かす細胞。その名を配しているということは恐らくそういう組織なのだろう。 それと、カタワさんと対峙したときにも聞いた深淵、ロアという言葉。 「あの、深淵とかロアとかってなんですか?」 答えてくれるのであれば分からないことは何でも質問したほうが得だ。薫はそう判断する。 「深淵、ウチらは便宜的にそう呼称してるが基本はお前も知ってる。『誰もが知っている誰も知らない世界』のことだ」 「つまりは平行世界『パラレルワールド』や」 「パラレルワールド。そんなものが、本当にあるんですか?」 「ない。が、ある」 「はぁ?」 訳が分からない。この人は本当に答える気があるのだろうか疑問に思う。 「あるのは『エーテル』だけだ。それに膨大な意識が結びついて世界が出来る。だから現実には存在してない。人の意識の集合体の中に存在している」 「ソレが外側に現れるのが深淵や。まぁ、嬢ちゃんには難しい話やんなぁ」 「分かりやすく説明してやる。例えば水槽が二つあるとする。片方は水に満たされている水槽。もう片方は黒い布が掛かっていて中が見えない水槽だ。 水に満たされた水槽には魚が住んでいる。黒い方は分からない。魚は夢想する。きっと黒い布の水槽の方も水が満たされていて、魚が住んでいる。 だが現実には布の下は空の水槽だ。だが水に満たされた水槽の中の魚の中では、黒い布の下の世界が存在する。それが、平行世界だ」 ……例えそうだとしても結局中身が空なら実体がないではないか。 しかし薫を襲ったあの化け物も、あの暗闇の世界も本物だ。質感も、匂いも全て覚えている。 「納得いかんって顔しとるで」 「だって、それだと私の身に起こった事が説明付きません」 「それには次の話に移る必要がある。『エーテル』という世界を満たす情報伝達因子の説明だ」 「エーテル……」 これもまた実体のない話だ。過去、世界はエーテルで満たされてるとした学説が存在した。光、音、そういったものを伝播させる性質をもつ物質。 しかし結局その学説は科学の発展とともに淘汰されていった。高校時代に何かの科学本で読んだ覚えがある。 ならば、この人たちがいうエーテルとは一体なんなんだ。 「お前、幽霊と都市伝説の違いが分かるか?」 ナナシから薫へ唐突にそんな質問が投げかけられる。 幽霊と都市伝説の違い。都市伝説の中にも幽霊が関わっているのも存在するが基本は違うはずだ。 幽霊は、どことなく信憑性にかける気がするが、都市伝説にはどこか信じてしまう部分がある。 遠くと近く。そんな違いがあるように薫は考える。 上記の考えをナナシに提示する。 「三十点だな」 「なんも知らん子にキッツぅない?」 なんとなく悔しい。そもそも両者ともに噂程度の記憶の中にしか存在できないような曖昧な存在ではないか。 ソレに対して違いも何もあったもんじゃない。結局は両方とも怪異という括りで済ますことが出来ると考える。 「じゃあ、仮にその両者が存在しているとして、その生成条件はなんだと思う?」 また問題を出される。しかし先の点数による評価で回答する気をなくした薫は早々に白旗を振った。 それに対し小馬鹿にしたような笑みをナナシは浮かべ、話を続ける。 「霊とは単体の情報にエーテルが集合した物で、都市伝説は情報を有したエーテルが複数集まり形を形成したものだ」 そんなの分かる訳ないじゃないか。理不尽を感じながらも、黙っていたほうが早く話が進みそうなので黙っている。 しかしナナシの後ろで含み笑いをしている男を見て若干のイラつきを覚えた。 話は続いている。 「エーテルとは本来ならば現実に存在することの出来ない曖昧で弱い情報ですら収束する伝導体のことだ。氣・魔力・霊子とも呼称される。 人間には松果体という機関が脳にあり、それが普段エーテルを全て漉し取っているので本来知覚することが出来ない。 が、霊媒の家系・魔術師の家系と言った種類の人間たちの松果体は『開いて』おり、故にそれらを知覚ないし使役することが可能とする」 「アポトーシスはそういう『開けてる』人間が雇われて出来とるんや」 「そしてそのエーテルが全てにおいて重要な役割を果たしているんだ」 「じゃあ霊と都市伝説の違いから、我々の敵であるパラドックスの話をしよか。まず霊からや。 人間は死に際強い恨みや念、イコール膨大な情報を放つ場合がある。それにエーテルが急激に収束し形を成す。これが霊の正体や。 エーテルには強い情報には急激に集まる性質があるからなぁ。ソレが起因になっとる。 生前と同じ動きをする幽霊やとか、自縛霊等は、焼きついた情報があまりにも断定的且つ強すぎて、本来霊にはないはずの『設定』が作られてしまってんねや。 霊のいる場所で体が重くなるっちゅーのも、通常の密度を遙かに超えるエーテル量に常人の松果体が異常反応を起こすからや。 ちなみに呪いも全てはエーテルで証明されとる。過度な濃度で収束を続けるとやがてエーテル体は『腐る』。 その腐ったエーテルを取り込むと松果体が異常反応してメラトニンが過剰分泌され、結果死に至るっちゅーわけやな」 「だが、都市伝説は単一からなる霊とは違い複数からなる。エーテルには似た情報と結合する性質も存在する。 この似た情報が寄せ集まって出来るのが都市伝説だ。そこのハゲカスが言ってたように霊は死んだ人間の念が作り出す。 故に上書きが出来ない。霊はその霊以外に変わることがないんだ。だから対処も容易いし、そこらに転がってる似非霊媒師モドキでも消せる場合がある。 けど都市伝説、いやパラドックスは違う。何度でも上書き可能だ。何度でも何度でも人間が噂を付け足す限り際限なく成長を続ける。 それがパラドックスの恐ろしい所だ。まぁ、だから不安定でウチらの世界では具現化出来ないんだけどな」 「唯一の救いやね」 「つまり、エーテルの存在によって並行世界もパラドックスも生まれ得るという訳だ。 だが、松果体が閉じてる人間には知覚すら出来ない。故に、『ない、しかし、ある』とウチは言ったんだ」 ……。 理解が追いつかない。エーテルという魔法みたいなものが世界中に溢れてて、それのせいで化け物や幽霊が生まれる。 御伽噺を聞きにきた訳じゃない。私が、私が知りたいのは。 「理解し難いか。だがお前も襲われたろう。そろそろ諦めて認めろ」 「でも、それじゃあその『開いてる』人間以外がその存在を知覚できないなら、都市伝説――――パラドックスに襲われる人は皆開いてる人間なんですか?」 「それは違う。違うからこそ都市伝説という名前が付いている」 「そや、パラドックスは都市部でのみ、好き勝手に人間を深淵に引きずりこめる」 「だから、『都市伝説』」 「人口がある一定を超えると、それだけ情報の量は増える。奴らパラドックスにとっては活動しやすくなるって訳だ」 「そもそもそれ以外の場所では不安定すぎてすぐに拡散してしまうけどなぁ」 「ウチらはそういった都市に溢れるパラドックスによる被害を防ぐために先手を打って殲滅する。 都市部にて引き起こる平行世界、深淵を観測しパラドックスを見つけ、殺す。それがウチらの仕事」 「……どうしてパラドックスは人を襲うんですか?」 「そういう設定がされてるからや。いや、そういう設定がされてる奴が人を襲うタイプっちゅーか」 「ある化け物が人を襲う、殺すって噂がエーテルと結びついて形を得れば、当然その化け物は人を殺すだろ。 だってそういう情報で出来てんだからさァ」 「じゃあ、私たちは自分の首を自分で絞めてることになるじゃないですか! そんななんにも考えずに発信した噂に殺されるなんて!」 「人間どの時代だって自分の首を絞めて生きるもんやで、まぁそうさせないために俺らが組織されたんやけどな」 「他を生かすために己を犠牲にする。それがアポトーシスだ」 「おややぁ? ナナシちゃんそんな嘘ついてええのん? ホンマは殺したいだけとちゃいますのん?」 「あぁ!? 粉微塵にすんぞハゲカスが!」 「だって、『復讐』のためでもなかったら、あんな危険な都市伝説と契約するかいな」 「猿吉を悪く言うんじゃねぇ! 好きで連れてんだよ。……ってあれ? 猿吉は?」 「さっき出てったわ。ホンマ自由な腕やで」 薫を置いて喧嘩を始める二人。その間薫は今までの情報を整理することにした。 まず、世界にはエーテルという情報と結合する性質を持ったものが存在する。これに嘘は無いだろう。恐らく本当にある。 更にそれが、人間の噂と結びつき寄せ集まることで平行世界が生まれ、更にその中に都市伝説が生まれる。 これはどうだ。なにか重要な部分を隠されている気がする。とりあえず今はこれも信じるほか無い。 次に都市伝説についてだ。奴らは都市部でしか存在できない。理由は一定の人口数がないと情報の結合が弱くて拡散してしまうから。 これは……概ね真実だろう。仮にこの部分が嘘でもあまり問題はない。 最後に、所々に出てくる設定と契約という言葉。これに関してはあえてノータッチなのか、それともこれから説明してくれるのか。 ――――総合して、『話せる部分のみ話している』と判断する。 初めからそういう取り決めだったが、やはりそれらから核心の部分まで推測するのは不可能に近い。 自分の置かれている立場はやはり対等なものではないと足元も再確認させられる。 ふと気が付くと、先ほど姿を消した獣の腕がなにやら紙を持って入ってくるところだった。 「おお、猿吉どこ行ってたんだよ」 「キーコのところだ。どうせお前らには設定の話がうまく出来ないだろうと踏んで、キーコにわかりやすい資料を制作して貰った」 「猿、気が利くやん!」 「まあな。あと、次に猿っていったら殺す」 薫が紙を受け取ると、ベッドの側面に男とナナシが寄ってくる。結果三人で紙を見ることになった。 * 『 キーコのなぜなに都市伝説☆ 【設定】 ※このフリーペーパーは初めて都市伝説を知った初心者ちゃん向けに発行されています! 都市伝説は『噂』という不確定な情報の複合体がエーテルに焼きつくことで生まれる。 しかしながら非常に不安定な存在なので、不確定要素に対し一定水準の確率を常に安定させることの出来る ロア世界でしか存在できない。(強制的にロア世界に引っ張られる) 都市伝説の行動は全て人間の作り出した噂の影響力・浸透率の大小で決定されている。これが設定である ☆例 カタワさんは人間の血を失った部位に塗りつけると、その部位が生えてくるから人間を殺す。 という情報(噂)が存在するとして、 町規模(日数で言うと一週間前後)でその情報が定着している場合、殺すという事象の大きさも加味して 恐らく傷が治る程度しか機能しない=その設定は正常に機能していない 都市規模(日数で言うと一ヶ月前後)でその情報が定着している場合、殺すという事象の大きさも加味して 恐らく失われているパーツが復元する=設定が正常に機能する 式で表すと 設定=情報の定着量÷事象の大小 が一定の数値を超えると都市伝説に完全に書き込まれる。 事象の大小とは現実世界における影響力の強さであり、 ただ横をすり抜けるだけで危害を加えないという都市伝説の情報よりも、 殺す、呪われるといった影響の強いものほど設定の定着には多くの噂の広がりが必要になる この事象の大小には引きずり込みと呼ばれる、人間をロア世界へ迷い込ませる力にも影響する。 小さい事象ほど小さい範囲で引きずり込みが行われる。 ☆例 車を走らせていると、物凄い速さのババアが隣を走り抜けていった。 ↓ 車の内部ないし人間の体のみこちらに引きずり込めば十分可能。 カタワさんに殺される。 ↓ 町規模で仮想空間としてロア世界を構築しなければ不可能。 人間はその条件や設定が行われるのにもっとも適した範囲でロア世界に引きずり込まれることになる。 殺人などの大きな事象はそれだけ大きな範囲を生成しないと基本的に成り立たない場合が多い 故に複数人で都市伝説に遭遇したり、殺されるシーンや証拠となるシーンを誰も目撃していないというケースが多発する。 基本的な部分は以上! 分かったかな? 』 * こう書いてくれたこうが、会話で教えられるよりも分かりやすいなと薫はうなずく。 隣の二人もしきりに感心して紙を眺めている。 「まぁこの程度のこと知っとったけどな。復習や復習」 「その割には声が上ずってるぜェ足立よぉ」 「はぁ? 何言うてますのん。俺韓国語わかれへんねん」 「テメェ殺す!」 再度二人が喧嘩をし始めた。 と同時に天井付近に付属していたスピーカらしきものから危険を知らせるアラートと、緊急放送が流れ始めた。 【ガガッ――――司令部より緊急放送。研究棟地下実験室よりロアが流出。 AからFまでの隔壁閉鎖。非殲滅部隊は指定の緊急脱出経路より外部へ移行してください。 殲滅部隊壱は脱出経路の警備、殲滅部隊零は地下研究施設にてロアを完全排除してください。】 また、戦いが始まろうとしていた。 To Be Continued… 前ページ連載 - もぐたん
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スパニッシュフライ ヨーロッパにおける伝統的な媚薬。 蝿の一種である。 この媚薬は、日本でのイモリの黒焼きに相当するものでらい、その有効性の真偽のほどもそれに順ずるものとなっている。 その服用法は、焼いたスパニッシュフライを粉末化し、ワインに混ぜて相手に飲ませると言う単純なものだ。 これを服用した相手は、たちまちのうちに恋の虜となって、自分に惚れてしまう……とされていた。 が、前述したように、この媚薬の有効性には疑問点がある。その最たるものが、スパニッシュフライの実在の真偽が明らかではないという点だ。 スパニッシュというからにはスペイン産の蝿だろうが、それと思われる蝿は存在しない。おそらく「陽の沈まぬ帝国」スペインが未開地で見つけた神秘の媚薬と言う触れ込みで売られていただけの、普通の蝿なのだろう。 以上、新紀元社 「魔導具辞典」のスパニッシュフライの項目から抜粋 そして!!そっから妄想した、都市伝説「スパニッシュフライ」の能力はこれだっ!! 都市伝説「スパニッシュフライ」 分類的には、イモリの黒焼きなどの古来の民間伝承系都市伝説 黒こげの蝿の姿をしており、自由自在に飛び回る。 そして、対象の体内に侵入することで、言い伝え通りの効能を発揮する。 花子さんの契約者は「同性相手には効果を発揮しないだろう」と考えていたが、残念ながら同性相手にも効いてしまう それなんて腐女子や百合スキーの妄想材料? 弱点としては、所詮蝿なので生命力や防御力はなく、普通に蝿叩きでも殺せることと 体内に入り込んでいる場合、その対象が気絶すると体外に強制排出されてしまう事である なお、学校町内に何匹出現したかは不明 ネタに使えそうだったらゆっくり使っていってね!!! ページ最上部へ
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三面鏡の少女 21 「面倒な事が色々起きてるから、しばらくは外を出歩かない方がいい」 自分の担当である黒服Hから、電話でそんな一報を受けてからというもの外出を控えているのだが 「……ひまー」 枕を抱いて顔を埋め、ぱたぱたと足を振り回す 合わせ鏡に自分の死に顔が見える――そんな能力は今のところ一度を除いて暇潰し以外には役に立っていない 「鏡にまつわる都市伝説とか増やせないかなー。でも契約する都市伝説を増やすと危ないってHさんも言ってたしなー」 都市伝説との契約とは、都市伝説との同調 強弱の差はあれど、契約を結べば『そちら側』に引っ張られる事になる 人に非ず力を有すれば、それは人でなくなるという事なのだ だが、人は力に惹かれる 力の高みに憧れる者 力を奮う事に酔う者 力が足りぬ事を嘆く者 形は様々でも目的は同じ――力を欲するという事 「うーん、Hさんは忙しそうだし……ていうか組織の人達は皆忙しそうだしなー」 都市伝説について相談できそうな相手はなかなかいない ほとんどの大人は「深入りするな」といった意味合いの事しか返してこないのだ 「やっぱり自力で調べなきゃなー……図書館行こっと」 この町の図書館は、町の歴史、伝奇、都市伝説、怪談等々そういった資料に事欠かない 司書らしい大人の魅力満載のお姉さん(年齢不詳)が趣味で蔵書を増やしているらしいが、やはり土地柄というのもあるのだろうか 「おかーさーん、図書館行ってくるー」 「帰りにどっか適当なとこでお醤油買ってきてー」 「はーい」 キッチンにいた母との何気ないやり取りの後、先日新調したコートに袖を通し寒空の下を駆け出して行った ――― 「お姉ちゃん、今日も図書館?」 いつも通る公園の前で、いつも出会う少年と出会う 寒空の下だという事も気にせずに、手にした缶ジュースをくいと傾けている 「ん、調べものをしてるの。色々大変なんだからねー」 「へぇ、それじゃ俺も手伝ってあげようか?」 その言葉に、少女はうぐと言葉に詰まる 彼女はこの少年が都市伝説契約者だと知らない 当然ながら巻き込むわけにはいかない、そんな考えをしたのだが 「あー、なるほど。みんなこんな気分だったのか」 戦いを繰り広げている者達から見れば、少女はまだ深みに嵌っていない引き返せる場所にいる存在 自分達と同じ場所――もう戻る事のできないところまでは来させたくないのだと 「なんだよお姉ちゃん、変な顔して」 「変な顔とか言わない、お姉さんは難しい事を考えてるの」 「俺だって難しい事ぐらい考えれるぜ? いつだってお姉ちゃんの相談にぐらい乗ってやるから!」 そう笑顔で少年が告げた瞬間、その表情が強張る 「ん、どしたの?」 「お姉ちゃん、後ろっ!」 「へ……うきゃあ!?」 いつの間に近付いて来たのだろうか、目付きの虚ろな男が数人、少女の背後に集まってきていた その手がすぐに少女の身体を捕まえてしまう 「誰っ!? 何っ!? ちょ、痛い痛いっ!?」 腕や肩に食い込む指の力から、尋常ではない存在だという事しか判らない コーク・ロアに支配された人間が増えているという話は都市伝説組織には広まっているが、いつもの事ながら少女の耳には届いていない 「お前ら、お姉ちゃんを放せっ!」 少年が怒鳴りながら、少女を捕らえる男の一人に蹴りを入れる 「ダメだってば! 逃げ……いや、人を呼んできて! あたしはまだ大丈夫だから、早く!」 「お姉ちゃんに何かあったらどうすんだ! お前ら……『放せ』っ!!!」 その言葉に、ほんの僅かにだが男達の力が緩む だが拘束を解くほどには至らない 「『放せ』って言ってんだろっ! 『お姉ちゃんを放してどっか行け』!」 ぐ、と男達の身体が僅かに揺らぐ だがそこまででしかない 「畜生っ……誰か! 『誰か助けて』くれよ! 『誰かお姉ちゃんを助けて』よ!」 涙混じりに大声を上げた、その瞬間 「オーライ、任せときや少年」 そんな声と共に現れた女が木刀を抜き放ち、ありえない間合いから男の一人の顎を打ち抜き、その男はそのまま白目を剥いて地面に倒れ込んだ なんとか逃れようとしていた少女は、一人の拘束が緩んだところでバランスを崩してよろめき それと同時に既に上空に跳んでいた女は、落下の勢いを加えた一撃で一人を叩き伏せ、着地の屈み込んだ姿勢から跳ね上がるようにもう一人の鳩尾に切っ先を捻り込む 「こないだウチらの仲間襲った連中の一味かいな。んー、マッドはんの話だと操られとんのやっけ? まあええわ」 背後から襲い掛かろうとした残る一人を振り向く勢いを加えた一撃で打ち倒し、木刀を鞘代わりのバットケースに放り込む 「一撃はんの話やとこいつらの処理は組織の黒服が動いてるそうやしなぁ……マリの餌にするにしてもマッドはんのガス吸わせるにしても手が足りんか」 ぽかんと自分を見上げている少年と少女の視線に気付き、似非関西弁女は作り笑いを浮かべ 「あー、こないな連中が最近増えててなー。ウチらも色々困って退治して回ってるねん」 退治して回っているというのは嘘だが、困っているというのは事実だ 都市伝説組織の連中が自分達の起こしている騒動以上に動き出しており、少々騒ぎになればすぐに誰かしらが駆けつけてくるからだ 更には警戒した人々は外出を控えたり集団で行動したりと攫うのも難しくなってきている 「そいじゃま、適当に警察とかに通報してこの場を離れておいた方がええで。できればウチの事は内緒でな?」 そう言うとあっという間に駆け出していなくなってしまう似非関西弁女 残されたのは呆然と地面に座り込む少女と、気を失って倒れている数人の男、そして 「……かっけえ」 圧倒的な戦いを目の当たりにして、目を輝かせている少年の姿だった ――― 「んー、少なくともうちの人間じゃないなそりゃ」 僅かに遅れてやってきた黒服Hは、倒れている連中を目立たない場所に片付けながら訝しげに首を捻る 警察を呼ばなければいけないからと、少年は無理矢理家に帰してある 実際に来るのは組織の回収班なのだが ちなみに『うち』は『組織』と『薔薇十字団』両方の意味である 「仲間を襲ったっつってたな? そういやあの男と小動物っぽく震えてた女の子……」 「Hさん、伸びてる伸びてる」 「ん? ああすまんすまん」 「それにしても、マッドガッサーだっけ。あれの他にコーク・ロア? また色々大変になってきたね」 「まあな……とりあえず事件が収まるまで気をつけろよ。夢の国や鮫島の時と違って、派手なドンパチにならない分、こっちも派手には動けないしな」 「うん、気をつける……んー? マッドガッサー? マッド……ガス……」 ふと自分を助けてくれた女の独り言を思い出すが 「無理に首突っ込もうとすんな、鮫島の時みたいに本当に必要な時がまた来るかもしれん。失うわけにゃいかん力なんだからな」 わしわしと頭を撫でられて、なんとなく幸せな気分に浸ったのも束の間 「もし不幸な事があったら、今までストックしたエロい思い出に浸るのが申し訳なくなるしな」 「それが不幸の一つだって気付いてー!?」 「ん~? 聞こえんなぁ~」 わさわさと伸びる髪の毛を糠に釘を打つかのようにぽすぽす叩く少女であった ――― 「んー、あの子ぐらいなら攫っとけたかなぁ。つるぺたすとーんな感じやったけど……まあ今の爆やんでもストライクゾーンみたいやし、案外ちまい子の方がええんかなぁ」 現場から離れ自動販売機でスポーツドリンクを買いながら、一人ぶつぶつと呟いている似非関西弁女 「さてと、ホンマどうしたもんかなー。一旦身を隠した方がええと思うんやけど……どーも一撃はんが拘りがあるみたいやしなぁ。そうなるとマッドはんも止めへんやろし」 ぐーっとスポーツドリンクを飲み干し、空き缶を空中に放り投げ 軽快な音を立てて勢い良く弾き飛ばされた空き缶は、ゴミ箱に吸い込まれるように飛んでいく 抜いた瞬間すら見せずに既にバットケースに差し込まれた木刀から手を離し、似非関西弁女は歩き出す 「ま、ウチが考えてても仕方ないわ。決めんのはマッドはんやしな……それでヤバい事なったら、そん時や」 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女