約 5,754 件
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/549.html
『空へ続く風の階』 目次 prologue~ chapter 1 「暴君」 chapter 2 「別れ」 chapter 3 「森の賢者」 chapter 4 「裏切り」 chapter 5 「永遠の墓標」 chapter 6 「まりさ」 ~epilogue 【 prologue~ 】 そよ風が木々の間を抜ける。 枝葉を、草花をゆらゆらと揺らしながら。 地平線に接するように広がる青空のキャンパスに小さな黒い帽子が舞った。 「ゆんやぁぁ! まっちぇにぇっ! まっちぇにぇっ!! まりしゃのだいじにゃおぼうししゃんがぁぁぁ!!!」 それを追いかけているのはまだ赤ちゃん言葉が抜けきっていないゴムボール程の大きさの子まりさである。 子まりさをあざ笑うかのように風で運ばれる大事なお帽子。 風に攫われてしまったのだろう。 小さな体を一生懸命に動かし、草原の上をたむたむと跳ね続ける。 しかし、子まりさの帽子はなかなか地面に落ちてこない。 糸の切れた凧のように空を縦横無尽に泳ぎ続けていた。 疲れ切った子まりさが涙目になって上空の帽子を見上げる。 「ゆ……、ゆんやぁぁぁぁ!!!!」 「ちびちゃん。 どうしたの?」 叫び声を上げるのと同時に子まりさの後ろから声をかける者があった。 振り返るとそこにはサッカーボールほどの大きさにまで成長した成体ゆっくりのまりさ種が佇んでいる。 自慢の金髪とお下げを風になびかせ、見下ろすように子まりさを見つめていた。 「おきゃあしゃああああん!!!」 ぴょんぴょんとあんよで草を蹴り、その大きなまりさの元へと跳ね寄る子まりさ。 二匹は親子なのである。 親まりさは泣きじゃくる子まりさの頬をぺーろぺーろしながら優しく尋ねた。 「ちびちゃん。 なにがあったのか、まりさおかあさんにゆっくりとはなしてね……?」 「ゆぐっ、ひっく……まりしゃのおぼうししゃんが……いじわりゅしゃれて……ゆぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」 親まりさが視線を上に向けた。 あの高さまで飛ばされてしまった帽子を取り戻すのは、子まりさはおろか親まりさにも不可能だ。 子まりさが大泣きするのも無理はない。 ゆっくりにとって、リボンや帽子、カチューシャ、ナイトキャップは命の次に大事なものであるとされており、それらを失った ゆっくりは“ゆっくりできないゆっくり”として、生涯迫害され続けることとなる。 親まりさは子まりさの頬に優しくすーりすーりをすると、にっこりと笑って言葉を紡いだ。 「だいじょうぶだよ、ちびちゃん」 「ゆぇ……?」 「いつか、かならずおりてくるよ。 ふきやまない“かぜ”さんなんてないから。 ちびちゃんがそんなのじゃ、おぼうしさん がゆっくりおりてきたときに、つかまえられるものもつかまえられなくなくなっちゃうかもしれないよ?」 子まりさにその言葉の意味を理解するのは難しかったのか、首をかしげるような仕草をして困った表情を浮かべる。 親まりさは穏やかな笑みを浮かべると、 「ゆっくりしていれば、おぼうしさんもおりてくるよ。 ずっとあんなたかいところにいるのはつかれるからね」 囁くように呟いた。 やがて。 空を流れる風の道から外れた帽子がまりさ親子の元にふよふよと降りてくる。 子まりさは必死になってその帽子が落ちた先に向かって跳ね続けた。 ぴょんぴょん、ぴょんぴょん。 やっとの思いで目指す場所にたどり着いた子まりさが小さな帽子をさらに小さな口ではむっと咥え、器用にそれを頭に乗せる。 子まりさが上目遣いで自分の元に帰ってきた帽子をチラリと見上げた。 帽子のツバに刺繍された真っ白なフリルが自分に微笑みかけてくれているような気がする。 「……ゆ、ゆっくち~~~!!」 子まりさの上げた嬉しそうな声に親まりさはにっこりと笑った。 戻ってきた子まりさの頬にすーりすーりをする親まりさ。 子まりさの方は泣いたカラスがどこへやら。 嬉しそうに親まりさの頬ずりに身を任せ、うっとりした表情を浮かべている。 一陣の風。 子まりさの頭から再び帽子が逃げ出そうとする。 親まりさがその帽子をそっと押さえた。 帽子が飛ばされてしまいそうになっていた事にも気づいていない子まりさは、嬉しそうに小さなあんよで一生懸命に地面を這っ ている。 親まりさの視線の先。 風に運ばれてどこまでもどこまでも飛んでいく緑色の葉っぱ。 親まりさはその葉っぱに向けて羨望の眼差しを送っていた。 「まりさたちは……おそらをとべないもんね」 呟く。 子まりさが親まりさの前でぴょんぴょん跳ねながら叫んだ。 「ゆゆっ?! まりしゃ、おしょらさんをとべりゅよっ!! おきゃーしゃん!! “たきゃいたきゃい”をしてにぇ!!」 はしゃぐ子まりさの笑顔を見ていると、願いを叶えてあげずにはいられなかった。 頭を下に向けて、子まりさを帽子のツバの上に乗るように促す親まりさ。 子まりさが定位置に着いたことを確認すると、親まりさは小刻みに頭を上下に揺らした。 帽子のツバがトランポリンの役割を果たし、跳ね上げられる子まりさ。 「ゆっゆーん!! まりしゃ、おしょらをとんでりゅみちゃいっ!!!」 親まりさが上下運動を終えると、子まりさが帽子のツバから原っぱに飛び降りた。 「ゆゆ……? もう、おわりにゃの……?」 「ゆぅ……ごめんね? ちびちゃんもおおきくなってきたから、ずっとおそらをとばせてあげるのはむずかしくなってきたよ」 「ゆゆっ!? じゃあ、まりしゃがもっちょもっちょ、おおきくなっちゃら、おきゃあしゃんを“たきゃいたきゃい”してあげ りゅにぇっ!!!」 「それはたのしみだね。 ゆっくりまっているよ」 「ゆゆーん!! ゆっくちりきゃいしちゃよっ!!!」 キリッとした表情になった後、勇んで親まりさの前を力強く跳ね続ける子まりさの後ろ姿。 親まりさはゆっくりと理解している。 大きくなればなるほど、空を飛ぶことが難しくなってしまうということを。 草原の遥か上空を数羽の鳥が横切る。 ゆっくりに空を飛ぶことなどできない。 それでも、親まりさは願う。 あの空へ羽ばたくための翼が欲しい……と。 【 chapter 1 「暴君」 】 森の中央に“お城”が佇んでいた。 その“お城”には一騎当千の力とそこそこの小賢しさを持ち合わせた一匹のゆっくりが住んでいた。 “お城”の主の名は“れいむ”。 ドスのように体が大きいわけでもなければ、他のゆっくりのように強い個性を持っているわけでもない一匹のれいむ種が、群れ 単位の数を誇るゆっくりたちを支配していた。 “れいむ”は人間の住んでいた街から逃げてきたらしい。 都会という荒波に揉まれ、それを乗り越えて森に帰還した“れいむ”にとって、野生で暮らすゆっくりたちは平和ボケした馬鹿 饅頭にしか見えなかった。 そんな“れいむ”にとって力で群れを支配するのは、いともたやすい事である。 平和的に群れを治めていたリーダーは“れいむ”によって倒されてしまった。 圧倒的な力による暴力の前に、森の中でのんびりと暮していたゆっくりたちの生活は激変してしまったのである。 “れいむ”に逆らったゆっくりたちは一匹残らず殺された。 自らを“最高にゆっくりしているゆっくり”と称し、森のゆっくりたちに自分に相応しいおうちを作らせた。 それなりに頭の良いぱちゅりー種に基本構造を練らせ、まりさ種、ちぇん種、みょん種が肉体労働。 ありす種が“れいむ”の趣味の悪い要望に無理矢理応えさせられて、“こーでぃねいと”を施した。 そうして完成したのが、岩山の空洞を利用した天然の要塞。 “れいむ”が誇らしげに言うところの“お城”である。 “お城”を作り上げるのには膨大な時間と労力を要した。 その作業の中で永遠にゆっくりしてしまったゆっくりの数は百や二百ではない。 逆に言えばそれだけの数のゆっくりを“れいむ”は力だけで支配していたのである。 「むきゅ……“れいむ”におこられないかしんぱいだわ……」 「なにをいってるのぜ……これいじょう、“れいむ”にごはんさんをむーしゃむーしゃされたら、まりさたちがゆっくりできな くなっちゃうのぜ……」 「しっ……。 “へいたい”にきこえちゃうわ……」 丁寧に編みあげられた草の籠に溢れんばかりの食料を入れて、ぱちゅりーとまりさが“お城”に向かっていた。 二匹は夫婦である。 “れいむ”は狩りをしない。 森のゆっくりたちに狩りを行わせて食料を得るのだ。 だからと言って“れいむ”は森に生息している大部分のれいむ種のように狩りが苦手というわけではない。 むしろ、森に住むどのゆっくりよりもその手の労働に長けていると言えるだろう。 「“れいむ”さまにごはんさんをもってきたみょん?」 “お城”の入り口で睨みを利かせているのは“兵隊”と呼ばれている“れいむ”の傘下に入っているみょん種だ。 みょんはじろじろとぱちゅりーとまりさを隅々まで眺めた。 “れいむ”は警戒心の強いゆっくりである。 それは都会で生き抜くために得た知恵であった。 “れいむ”は“お城”の“兵隊”たちに、少しでも怪しい素振りを見せたゆっくりはすぐに殺すように指示を出していたのだ。 そして、“れいむ”に対して無礼を働いたゆっくりを“お城”の中に入れた“兵隊”は、そのゆっくり同様に処刑される。 “兵隊”たちも必死なのだろう。 「“れいむ”さまと、ちびさまたちがおなかをすかせているからさっさともっていくみょん」 ぱちゅりーとまりさが、ずりずりとあんよを這わせて“お城”の中に入っていく。 “お城”の中は薄暗く注意をして移動しないとすぐに地面から隆起した岩に顔をぶつけてしまう。 凛とした冷たい空気が二匹を包み込んだ。 前へ進むたびに冷や汗が頬を伝う。 二匹が目指す場所はそこだけスポットライトが当てられているかのように照らされていた。 岩壁の裂け目から太陽の光が入り込んでいるのだ。 「ゆっくち……。 ゆっくち……」 どこからともなく赤ゆの声が聞こえてくる。 二匹を囲むようにその声の重なりが大きくなっていった。 カチカチと歯を鳴らして震えるありす。 「ごはんさんをもってきたの?」 ゆっくり特有の言葉が冷厳な口調で放たれた。 その瞬間、びくっと体を震わせてあんよを止める二匹。 そこには森の支配者である“れいむ”が悠然と佇んでいた。 顔中に小さな傷の跡が残されている。 それは“れいむ”が幾度となく修羅場を乗り切ってきた証なのだ。 “れいむ”はずりずりとあんよを這わせて二匹の元へとやってきた。 「ゆっくり……ごはんさんをもって、きたよ……」 まりさが咥えていた草のかごを地面に下ろす。 ぱちゅりーもそれに続いた。 “れいむ”は無表情のまま、かごに入った食料に視線を落とす。 「これだけなの?」 「ゆゆっ?!」 「これだけなの、ってきいてるんだよ? ばかなの? ……しぬの?」 お決まりのセリフも“れいむ”が口にするとその意味は大きく変化する。 「ご……ごめんなさいっ! みんな、おなかがぺーこぺーこで、ゆっくりできなくて、それで……」 “れいむ”が顔を勢いよく横に振って揉み上げをまりさの左頬に叩きつけた。 「ゆ゛ぎぃ゛ッ?!」 まりさの左頬が真っ赤に腫れ上がる。 そこから、じわりと痛みが広がっていく。 まりさは涙目にながら必死に「ごめんなさい」を繰り返した。 “れいむ”が溜め息をつく。 「みんなのおなかがぺーこぺーことか、れいむにはどうだっていいよ。 ごはんさんはこれだけしかないのってきいてるんだけ ど……りかいできる……?」 「できます!! りかいできまずぅぅ!!! これだけしかないでずぅぅぅ!!! ごべんな゛ざい゛ぃ゛ぃ゛!!!!」 「……ゆっくりりかいしたよ。 かわいいかわいいれいむのちびちゃんたち、ゆっくりしないで、でてきてね」 「ゆっくち~~~~♪」×108 「ゆ……ゆああああああああ!!!!」 叫び声を上げるぱちゅりーとまりさの周囲に集まったのは百八匹もの赤れいむの大群である。 どの赤れいむもかごの中の食料を凝視して、ぼたぼたと涎を地面に垂らしていた。 「さぁ、ちびちゃん。 ゆっくりごはんさんをむーしゃむーしゃしてね」 「ゆっくちりきゃいしちゃよっ!!」×108 円を描くように待機していた赤れいむたちが一斉に一点を目指し収束する。 赤れいむの波に呑まれた二匹は成体ゆっくりであるにも関わらず押しのけられてしまう。 百八もの赤れいむがかごの中に我先と頭を突っ込み餌を奪い合うその様は醜悪な光景だった。 「むーちゃ、むーちゃ、しあわちぇぇぇ!!!」 「うっめ! これめっちゃうっめ! ぱねぇ!!!」 ぐちゃぐちゃと不快な音を立てながらかごの中の食料を食い漁る赤れいむたちを“れいむ”が微笑みながら眺めている。 それも束の間。 鋭い視線をぱちゅりーとまりさに突き刺した。 「なにみてるの? れいむはまだごはんさん、むーしゃむーしゃしてないよ?」 「そ……それは……」 「れいむは、おんこうなゆっくりだから、おひさまさんがさよーならするまえに、ごはんさんをもってくればゆるしてあげるよ」 「で、でも……」 「ゆっくりしないでさっさとごはんさんもってきてね!!! ぷっくうぅぅぅぅ!!!!!」 「「ゆひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」」 “れいむ”のぷくーは、森のゆっくりたちにとって恐怖の象徴とも言える。 あまりの恐ろしさにしーしーを漏らしながら“お城”の外へと一目散に飛び出す二匹。 “れいむ”はそんな二匹の間抜けな後姿を見ながらゲラゲラ笑っていた。 「さぁ、ちびちゃんたち。 ごはんさんをむーしゃむーしゃしたら、ゆっくりすーやすーやしようね」 「しゅーやしゅーやすりゅよ……っ」 “れいむ”の声に一斉に寝息を立て始める赤れいむたち。 耳障りな寝息の音に混じってどこからかすすり泣く声が聞こえてきた。 暗闇の中、岩壁に頬を押し付けて涙を流す別の赤ゆたちがいる。 種類は実に様々で、まりさ種、ありす種、ぱちゅりー種、ちぇん種、みょん種、と勢ぞろいだ。 「まりしゃたちも……むーちゃ、むーちゃ……したいのじぇ……」 「わきゃらにゃい……わきゃらにゃいよぉぉ……」 “れいむ”はとりあえず赤れいむに餌を与えてから、残り物をその他の赤ゆたちに食べさせる。 当然、その量は赤ゆたちが満足できるようなものではない。 “お城”の中にいる赤ゆたちは驚くべきことに全て“れいむ”の子供である。 “れいむ”は群れのゆっくりたちの大半を“れいぽぅ”して自分の子供を作らせた。 子供を宿したゆっくりは“お城”の中に監禁し、子供を生み終えた後、即座に叩きだすのだ。 そして、れいむ種は“れいむ”の寵愛を受け、それ以外の種は凄惨な迫害を受ける。 “お城”の中で僅かながら共に過ごした母体のゆっくりは自分の子供が気が気ではない。 “れいむ”にとって赤ゆは、群れ全体の人質でしかなかった。 仮に人質が死んでしまったとしても、また別のゆっくりに子供を生ませれば良いだけの話である。 “れいむ”は自らの圧倒的な戦闘能力と群れ中のゆっくりの子供を盾にすることで強力な支配体制を確立させていた。 一度、成体ゆっくりたちが十数匹で徒党を組み、“れいむ”に戦いを挑んだが返り討ちにあっている。 その後、反乱を起こしたゆっくりの子供は例外なく皆殺しにされた。 つがいのゆっくりも死ぬまで“れいぽぅ”されて辱めを受けながらその命の灯を消す。 誰も“れいむ”に逆らえるゆっくりはいなかったのだ。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 巣穴の中にうっすらと光が差し込む。 小鳥のさえずりが外から聞こえてきた。 目覚めの朝である。 「ゆっくりしていってね!!!」 一番最初に目覚めた親まりさが元気に第一声を上げた。 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!!」 それに呼応するかのように目を開けたばかりの親ありすと子まりさが返事を返す。 ゆっくりの一日はこのやり取りから始まる。 もぞもぞと巣穴を這って朝食の準備を始めるのは親ありすだ。 巣穴の奥に敷いてある葉っぱの上に僅かながら備蓄された食糧を咥えて運んでいく。 一家は同様にしょんぼりとした表情を浮かべた。 皿代わりの葉っぱに盛られた食料は、育ち盛りの子まりさを含めた一家にとって十分な量はまかなわれていない。 親まりさと親ありすに促され、申し訳なさそうに木の実や雑草を口に含んで口をもぐもぐと動かす子まりさ。 「むーちゃ、むーちゃ、それなりー……」 芋虫などのご馳走は“れいむ”に献上しなければならない。 お世辞にも美味しいとは言えない食料を口にして、幸せな声を上げることはできなかった。 両親も後に続き同じ言葉を漏らす。 ゆっくりは基本的には雑食なのだが他の野生生物と比べて味覚が強く、無駄に味にうるさい。 口の中に入れてしまえばどうせ餡子に変換されるだけなのだが、それに気づいている者などいるはずもなく。 味にさえこだわらなければ何を食べても生きていけるのにも関わらず、それを頑なに拒むため短い寿命をさらに縮めてしまうこ とが多々ある。 ただでさえ脆弱な存在が自らの首を絞めるような真似をするので、ゆっくりたちは“動く死亡フラグ”などといった二つ名を与 えられてしまうのだ。 「ゆゆっ! ごはんさんをむーしゃむーしゃしたら、まりさはかりにいってくるよ」 「おきゃあしゃん。 まりしゃもがんばりゅにぇっ!」 この子まりさは風で飛ばされた帽子を追いかけて泣いていた子ゆっくりである。 子まりさには姉妹がいたが、みんな様々な理由で永遠にゆっくりしてしまった。 姉妹の思い出は少ない。 一緒に過ごした時間はあまりにも短すぎた。 「おちびちゃんはだめだよ。 ありすおかあさんといっしょにゆっくりおるすばんをしててね」 「どおしちぇぇ?! まりしゃだって、もうごはんしゃんをあちゅめられりゅよっ! ぷんぷん!!」 「ちがうよ。 まりさおかあさんがかりにいっているあいだ、ありすおかあさんをまもってあげてね」 ふくれっ面の子まりさに親まりさが穏やかな口調で言葉を返した。 それでも子まりさは納得がいかないらしい。 まりさ種が一人前として認められるのは狩りの腕次第なのだ。 生後二カ月弱の子まりさにとっては大事なことなのである。 そんなまだまだ幼さの抜けきらない子まりさに親ありすがそっと頬を寄せた。 「ちびちゃん。 ありすおかあさんをまもってくれないかしら……? とってもつよくて、とってもゆっくりしているちびちゃ んにまもってもらえたら、ありすおかあさん……すごくうれしいんだけどな……?」 「ゆ……ゆゆー……。 そ、それじゃ、しかたにゃいにぇ……。 ありしゅおきゃあしゃんのことは、まりしゃがまもっちぇあ げりゅよっ!!」 得意気な顔で体全体を“むんっ”といからせる子まりさ。 その様子を見て親まりさと親ありすは互いに目配せをしたのち、一呼吸置いて小さくクスリと笑った。 親まりさがぴょんぴょんと飛び跳ねて巣穴の入り口へと向かう。 子まりさは親ありすにぴったりと寄り添いその後ろ姿を見つめていた。 「ちびちゃん! ありすおかあさんのことをよろしくね!」 「ゆっくちりきゃいしちゃよ!!!」 振り返りざまの親まりさの言葉に元気よく返事を返す子まりさ。 親まりさは自信に満ち溢れた覇気のある声を聞き遂げた後、森へ向けて力強くあんよを蹴った。 「ゆぅ……ゆっくりおそくなっちゃったよ……」 親まりさが出かけた目的は狩りではなかった。 今日は群れの一部のゆっくりたちと“れいむ”に対する会議を行う日だったのだ。 群れの疲労は日を追うごとに大きくなっていく。 自然の恩恵にも限界があるのだ。 それを“れいむ”が際限なく貪るため、その他のゆっくりへの被害は甚大なものである。 そこで、何度か“れいむ”を倒す話し合いを秘密裏に行ってきた。 正攻法でぶつかって“れいむ”を倒すのは不可能だ。 群れのゆっくりが総出でかかればこれを撃破することも可能だったか知れないが、“お城”は内部も入り口も狭く、一度に襲い かかることは難しい。 これに加えて“お城”の周辺には“兵隊”たちがいる。 怪しい動きを見せれば即座に捕えられ、“れいむ”によって処刑されてしまうだろう。 「ゆぅぅ……れいむは、もう、げんっかいっ!だよ……」 集まったゆっくりたちのうち、一匹のれいむが会議の第一声を上げた。 そのれいむ種はボサボサの髪に傷だらけの顔、大事なリボンもところどころ破れているという惨めな姿をしている。 “れいむ”とそっくりというだけで群れのゆっくりたちから迫害を受けていたのだ。 おかげでまだ若いゆっくりであるにも関わらず、友達を作ることも恋をすることもできずに一匹寂しく巣穴の奥で日々を過ごす。 暴君“れいむ”はあらゆる意味で群れにとっての癌そのものだった。 「むきゅっ……きょうはみんなにこれをみてほしいの……」 そう言ってぱちゅりーが取り出したのは赤トウガラシである。 初めて見る赤トウガラシに、集まったゆっくりたちは一斉に注目した。 しかし、見た感じではただの植物でしかない。 これを使ってあの“れいむ”をどうやって倒そうと言うのか皆目見当がつかなかった。 「いったい、これでどうするの……?」 「こんなものじゃあ“れいむ”はやっつけられないよ……」 「……とかいはじゃないわ……」 「わからないよー……」 それぞれが顔を傾けながら困惑の表情を浮かべ、赤トウガラシをつついたりしている。 「これを……」 「なにをやっているのぜッ?!」 説明をしようとしたぱちゅりーの声を遮るように“兵隊”まりさが集まったゆっくりに向けて怒鳴り声を上げた。 途端に顔面蒼白になり、震えだすゆっくりたち。 そこへ悠然と“兵隊”まりさがやってきた。 “兵隊”まりさはゆっくりたちの中央にポツンと置かれた赤トウガラシを見ながら、 「これはなんなのぜ?」 問いかける。 「……よければ、まりさもいかがかしら……? おしごとさんは、たいへんでしょう?」 ぱちゅりーが務めて冷静に言葉を返す。 “兵隊”まりさが「ゆふん」とわざとらしく息を上げ、偉そうに赤トウガラシの元へとやってくる。 そして赤トウガラシを口に咥え、可能な限り低い声で宣告をした。 「“れいむ”さまにかくれてごはんさんをむーしゃむーしゃするようなゲスは、“れいむ”さまにせいっさいっ!してもらうこ とにするのぜ!! げらげらげらげら!!!!」 笑い声を上げる“兵隊”まりさをよそに、俯き涙目でその場を一歩も動けないでいるのは集まったゆっくりたちである。 “兵隊”まりさが赤トウガラシを歯で噛み砕く。 口をもごもご動かしながら、 「むーしゃ、むーしゃ……ゆ゛ぶべばっはぁ゛あ゛あ゛ぇ゛ぉ゛ぁ゛あ゛ぁあ゛ッ???!!!!!!」 次の瞬間、飛び出さんばかりに目を見開き顔を文字通り真っ赤にしながら中身の餡子を大量に吐き出す“兵隊”まりさの姿があ った。 滝のように涙を流し、狂ったように草の上を転げまわる“兵隊”まりさはなおも餡子を吐き続けている。 やがて中身を失った“兵隊”が永遠にゆっくりしてしまった。 開いた口が塞がらないゆっくりたち。 「ど……どういうことなの……?」 「むきゅ……これには、ものすごい“どく”がはいっているのよ」 「……“どく”……ッ?!」 口を揃えて身を寄せ合いながら、赤トウガラシを改めて注視する。 「まだ、ぱちゅがあかちゃんだったころ……ぱちゅのいもうとがこれをむーしゃむーしゃして、えいえんにゆっくりしてしまっ たわ……。 これを“れいむ”にむーしゃむーしゃさせれば、“れいむ”をえいえんにゆっくりさせられるはずよ」 「と……とかいはだわっ! ぱちゅりー!! あなたはさいこうにとかいはなゆっくりだわ!!」 「わかるよー!! すごいんだねー!!」 「でも、ひとつだけもんだいがあるわ……」 表情を輝かせているゆっくりたちは裏腹にぱちゅりーの表情は暗い。 浮かれた声を出すのをやめて真剣な眼差しをぱちゅりーに送る。 「“れいむ”がこれのことをしっていたら……これをたべさせようとしたゆっくりが……“れいむ”にえいえんにゆっくりさせ られてしまうはずよ……」 ぱちゅりーの言葉に絶句する一同。 “お城”を築き、“兵隊”に守らせ群れを支配している“れいむ”のことだ。 赤トウガラシの存在を既に知っている可能性のほうが高い。 チラチラと互いの顔を見合わせる。 この危険な任務を自ら進んで請け負うような勇敢な者はいないだろう。 集まったゆっくりのどれもがそう思っていた。 「まりさがやるよ」 「――――ッ!?」 名乗りを上げたのは、子まりさに留守を任せ会議に遅れてやってきた親まりさである。 赤トウガラシに向けられていた視線が一斉に親まりさへと向きを変えた。 「まりさ……あなた……」 「だれかがやらないといけないんだよね? だったらまりさがやるよ。 ゆっくりまかせてね」 「……ま、まって。 そんなにかんたんにひきうけてもいいの?」 「まりさにはちびちゃんがいるんだねー……。 まりさになにかあったら、ちびちゃんがかなしむよー……?」 「………………」 「そんなにあわてるひつようはないのよ……? もっとよくしらべてからでもおそくはないわ」 「……でも、そのあいだにも“れいむ”は、むれのゆっくりたちにめいわくをかけるよ」 「まりさ……」 親まりさの決意は固い。 群れの疲労は限界が近かった。 手を打つのなら早い方がいい。 “れいむ”に群れを支配されてからの生活で、親まりさの子供は二匹も死んでしまった。 一匹は空腹に耐えることができず。 もう一匹は“兵隊”とぶつかったという理由だけで潰された。 親まりさはこの生活に終止符を打ちたかったのだ。 そして、それは群れの悲願でもある。 心配そうに見つめるゆっくりたちに親まりさは笑みを浮かべた。 「だいじょうぶだよ!」 「ま、まりさ……かんがえなおしたほうがいいわ……あなたには……」 「ちびちゃんのことならだいじょうぶだよ。 ちびちゃんは、もうりっぱな“おとな”だから」 ぱちゅりーから赤トウガラシを受け取る親まりさ。 親まりさはそれを器用に帽子の中に入れるとぴょんぴょんと跳ねて戻っていった。 残されたゆっくりたちが親まりさの後姿を見送る。 「……まりさは、やっぱりせきにんをかんじているのかしら……?」 「むきゅぅ……」 「あれはしかたのないことなんだねー……」 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 「ゆっくりただいま!! 「ゆっくりおかえりなさい!!」 「おきゃえりなしゃい!!」 巣穴の中に戻ってきた親まりさを迎えるのは親ありすと子まりさ。 親まりさの顔についた汚れを舌で綺麗に舐め取る親ありす。 「まりしゃおきゃあしゃん!! ごはんしゃんはたくしゃんとれたにょ?」 親まりさはバツが悪そうに顔を横に振った。 子まりさがふくれっ面になって親まりさに文句を言いだす。 「ゆゆぅ! だかりゃ、まりしゃもいっちょにいくっちぇいったにょにぃ……!」 「ごめんね、ちびちゃん。 でもおみやげがあるんだよ」 「ゆゆっ?!」 子まりさの前に芋虫が置かれた。 まだ動いており鮮度は抜群である。 子まりさは久しぶりに見た御馳走を前にして思わず涎を垂らした。 芋虫と親まりさの顔を交互に見る。 「た……たべちょも、いいにょ……?」 「あたりまえだよ。 それはちびちゃんのごはんさんなんだよ!」 「ありしゅおきゃーしゃ……」 「よかったわね。 ちびちゃん。 ちゃんとまりさおかあさんに“ありがとう”してからたべるのよ?」 「ゆ……ゆわああ!! まりしゃおきゃあしゃん!! ゆっくち、ありがちょう!!!」 親まりさと親ありすが微笑む。 子まりさは芋虫を少しだけかじった。 弾力のある食感が歯と舌を通じて子まりさをゆっくりさせていく。 「むーちゃ、むーちゃ……しあわちぇぇぇぇ!!!」 涙目で叫ぶ子まりさ。 久しぶりにゆっくりたちの大好物である芋虫を食べさせてもらえて感無量のようだ。 与えられた芋虫を食べ終わった子まりさは、しばらく巣穴の中ではしゃいでいたが疲れてしまったのだろう。 いつのまにか、すーやすーやと寝息を立てていた。 親ありすは子まりさにそっと葉っぱをかぶせると、親まりさの方に向きを変える。 「それで……どうだったのかしら……?」 「ゆゆ……ゆっくりはなすよ」 親まりさは会議の内容をかいつまんで親ありすに伝えた。 まりさ一家同様に群れ全体の疲労がそろそろ限界に来つつあること。 赤トウガラシを使って“れいむ”を倒す計画。 そして、その計画の実行者が親まりさであること。 話の内容を聞いて、親ありすは静かに目を閉じ頷いた。 「……とかいはだわ。 ありすのだいすきなまりさなら、きっと“れいむ”をやっつけられるとおもうの」 「ありす……」 「はんたいするとおもったの? とかいはなありすは、まりさのことならなんでもおみとおしだわ」 「ごめんなさい……」 「……とかいはじゃないわ。 そんなにあやまられたら……なに、も……もんく……いえなぃ…………っ!!!」 気丈な親ありすがぽろぽろと涙をこぼし始めた。 親まりさが何も言わなかったのは、いや、言えなかったのは親ありすの瞳が滲んでいくのに気付いていたからだ。 “れいむ”を倒すための危険な賭け。 賭けに負ければ親まりさは間違いなく命を落とすだろう。 そして親ありすもまた、ただではすまないはずだ。 二匹の大切な最後の子まりさも。 「ありす。 それでも、まりさは……やるよ」 親ありすが泣きながら頷く。 親まりさと“れいむ”の間には因縁があった。 “れいむ”が初めてこの群れにやってきたときのリーダーは、親まりさの母親だったのだ。 “れいむ”はたった一匹でリーダー率いるゆっくりたちを叩きのめし、残るリーダーに戦いを挑んだ。 その力はほとんど五分と五分。 “れいむ”のほうがスタミナが勝っていた分、長期戦にもつれ込むにつれてリーダーの動きが鈍くなっていく。 このときの親まりさは、ちょうど今の子まりさぐらいの大きさだった。 リーダーの子供として様々なことを母親から教わっていたが、初めて目の当たりにした命のやり取りを前に、当時の親まりさは 一歩たりともあんよを動かすことができなかった。 もしも、自分がリーダーの加勢に入り、二対一で戦っていたら……“れいむ”を倒せていたのかも知れない。 そんな事を考えて毎日毎日巣穴の奥で泣いて過ごした。 群れ中のゆっくりたちが、「ちびちゃんのせいじゃない」と言ってくれてもその時の親まりさは聞き入れなかったのだ。 程なくして“れいむ”による恐怖政治が始まる。 “れいむ”は、あの日戦ったリーダーに子供がいたことは知らなかった。 だからこそ、親まりさは今日まで生きている。 暗い巣穴の中から、親ありすが外に引っ張り出してくれなかったら、一匹寂しく巣穴の中で生涯を終えていたことだろう。 「……わかってるから……。 だから、もぅ……なに、も……いわ……ないで……っ!!!」 泣き止まない親ありすの頬に自分の頬をすり寄せる親まりさ。 あの頃の、弱虫で泣き虫だった自分に手を差し伸べてくれた親ありす。 掴んだその手を今度は自ら離すのだ。 過去の自分と決別するために。 最愛の親ありす。 かけがえのない子まりさ。 二匹の永遠の幸せを願って。 【 chapter 2 「別れ」 】 あの会議の日から一週間が経過した。 “お城”に向かってずりずりとあんよを這わせるのは、親まりさと親ありすの二匹である。 “れいむ”は午前中と午後の二回、必ず食料を届けるように命令をしていた。 一日のうちに二家族が餌集めに奔走することになる。 子まりさは他のゆっくりたちと一緒に別件で狩りに出かけていた。 「…………」 二匹とも無言であんよを進める。 やがて、独立した岩山とその麓にぽっかりと口を開ける洞窟が視界に入った。 仇敵“れいむ”が誇る牙城である。 親まりさは誰にも気づかれないように唇を噛み締めた。 「まつんだねー!!」 “兵隊”のちぇんが二匹を呼びとめた。 親まりさと親ありすの周りをくるくると回り出す。 「とおっていいんだねー! わかるよー!!」 “兵隊”ちぇんが“お城”の入り口を顎で指して中に入るよう指示をする。 「そろそろくるかとおもっていたよ。 れいむをまたせるとかゆっくりしてないね」 思わず呆気に取られてしまった。 “れいむ”自らが“お城”の中から現れたのである。 “兵隊”ちぇんは突然キリッとした表情になり動かなくなった。 ……敬礼のつもりなのだろうか。 「ゆゆっ? そこのありすは、なかなかの“びゆっくり”だね。 れいむがすっきりー!してあげてもいいよ!!」 そう言って素早く親ありすの横に移動し頬に舌を這わせる。 「や……やめて……とかいはじゃないわっ!!」 あまりのおぞましさに思わず声を上げる親ありす。 “れいむ”は親ありすの嫌がる表情を見て陰鬱な笑みを浮かべた。 「ゆふふ……。 れいむはね。 むれの“りーだー”なんだよ。 “りーだー”はつかれるんだよ? だから、むれのみんなは れいむにやさしくしないといけないんだよ? れいむは“いやし”がほしいんだよ? りかいできる……?」 冷たく低い声。 親ありすを見て一瞬だけはしゃいでいた時の声と表情が嘘のようだ。 いや、こちらが“れいむ”の素顔である。 涙目になって“れいむ”から視線を外そうとする親ありすをますます気に入ったのか高らかに宣言した。 「ゆっ! ありす。 いまきめたよ。 きょうはありすとすっきりー!するよ」 「そ、そんな……っ!!」 「そんなにらんぼうなことはしないよ……。 じっとしていればすぐおわるよ……。 ……ゆふふ」 親ありすが涙を流す。 そこに親まりさが割って入った。 “れいむ”が訝しげな表情で親まりさを睨みつける。 (……れいむにむかってこんな、なまいきなたいどをとるゆっくりがまだいたんだね……) 親まりさが口を開く。 「“れいむ”さま。 おそくなってごめんなさい。 きょうのぶんのごはんさんをもってきたよ。 ゆっくりうけとってね」 「……ゆっくり、りかいしたよ」 “れいむ”の前に草で編んだかごを降ろす。 親ありすかごを降ろそうとしたとき、“れいむ”がその頬に自分の頬をすり寄せた。 「い、いや……っ!!」 「ありすは、“びんっかんっ!”なゆっくりだね……。 ……こんなかわいいゆっくりをひとりじめしている、まりさには“せ いっさいっ!”がひつようだね……」 「おかしなことをいわないでっ!」 「いちいちはんのうしないでいいよ。 ちょっとまりさがうらやましいな、っておもっただけだから。 ……えいえんにゆっく りさせてやりたいくらいに……」 冗談めかして冷え切った台詞を連発する“れいむ”に親ありすは生きた心地がしていなかった。 それでなくとも、今夜は“お城”の中で“れいむ”に“れいぽぅ”されてしまうのである。 気が狂いそうだった。 “れいむ”がかごの中の食料をチェックしていく。 やれ、「いもむしがすくない」だの、「きのみはかたくてゆっくりできない」だのと言いながら。 「……ゆっ?」 “れいむ”があんよを止めた。 口で咥えて引きずり出したのは例の赤トウガラシである。 親まりさと親ありすが表情を強張らせて“れいむ”の動きを注視した。 “れいむ”はそれを見つめながら、まるで匂いを嗅ぐような仕草をしたり舌の先をちょん、と当てたりしている。 親まりさの頬を冷汗が伝う。 「これはなんなの? はじめてみるたべものだよ」 「それはおいしいごはんさんだよ。 めずらしくてなかなかてにはいらないから、“れいむ”さまにもってきたよ」 「……ふーん……」 考え事をしている時の表情は他のゆっくりと対して変わらない。 “れいむ”はしばらく「ゆんゆん」唸っていた。 そして。 「ゆゆっ! そんなにおいしいものなら、ありすにたべさせてあげるよ! きょうはありすといっしょにすっきりー!するから いっぱいたべてげんきになってね!」 二匹の表情が凍りつく。 “れいむ”はそれを見逃さなかった。 ずりずりとあんよを這わせて親まりさの眼前へと詰め寄る。 「……どうしたの? ゆっくりできない……? おいしいごはんさんをありすがむーしゃむーしゃできるんだよ? よろこばな いの?」 「そ……それは……」 親まりさがしどろもどろになって俯く。 “れいむ”は赤トウガラシをそっと口に咥えた。 そのまま親ありすへと向き直る。 親ありすの表情が見る見る青ざめて行った。 “れいむ”が口元を緩める。 「さぁ、ありす。 たくさんむーしゃむーしゃしていいよ!!」 親ありすの口に無理矢理赤トウガラシをねじこもうとする“れいむ”。 親ありすはそれを必死になって拒んでいた。 それでも“れいむ”の力に抗うことができない。 同じくらいのサイズとは思えないほどの力だった。 歯に押し付けられた赤トウガラシが徐々にそれをこじ開けて行く。 「……んぅっ!! …………ゆ゛ぅ゛ぅっ!!!」 一瞬。 親ありすが目を丸くした。 「ゆ゛ぐぅっ??!!!」 “れいむ”の体が草むらの上を転がる。 親まりさは鬼のような形相で“れいむ”を見下ろしていた。 「ま……まりさっ!!!」 「ありす……ごめんね」 「どおしてこんなことするの? れいむ、すっごくいーらいーらしてきたよ。 まりさみたいなよわいゆっくりがれいむにはむ かうとかばかなの? しぬの? ……ゆっくりできない、まりさは……ゆっくりしんでね」 両者が互いの体をぶつけ合う。 勢いよく弾き飛ばされたのは当然親まりさのほうだ。 親まりさの攻撃は体当たりだが、“れいむ”の攻撃はぶちかましとでも言えばいいだろうか。 とにかく力の差が歴然だった。 一度不意打ちを食らっているはずの“れいむ”が一方的に親まりさを攻撃し始める。 「まりさがいけないんだよっ!! ……れいむにっ、ひどいことっ!! するからっ!!!」 感情的になりながら親まりさの顔に体当たりや踏みつけを繰り返す“れいむ”。 次第に親まりさの顔が変形していく。 それでも、歯を食いしばりながらワンサイドゲームの攻撃に耐えていた。 “お城”の中から“兵隊”たちが飛び出してくる。 あっという間に二匹は囲まれてしまった。 「ゆ……ゆあああああああ!!!」 親ありすが一直線に体を“れいむ”にぶつける。 「あ……ありすっ!!! やめてねっ!!!」 「いやよっ!!!」 ぽろぽろと涙をこぼしながら親ありすが“れいむ”を睨みつけた。 騒ぎを聞きつけた他のゆっくりたちも集まってくる。 “お城”の前が騒然となっていく。 ボロボロになった親まりさの姿を見たゆっくりたちが一様に“れいむ”を睨みつけた。 かつて自分たちのリーダーを理不尽に奪った暴君に、その忘れ形見まで奪われてなるものか。 「みんなっ!!! ゆっくりたたかうよっ!!!!」 群れ中のゆっくりたちが“れいむ”と“兵隊”たちに向かって突撃を開始する。 すぐに両陣営の先頭が激しくぶつかり合った。 その様子を見ながら“れいむ”が舌打ちをする。 親まりさは瀕死の状態で“れいむ”に笑顔を見せた。 「……ゆっくり、しんでね」 その笑顔に応えるかのように“れいむ”が穏やかな笑みを浮かべた。 親まりさがあまりにも自然なその笑顔に表情を凍りつかせる。 “れいむ”はぴょんぴょんと“お城”の中に入ると口に数匹の赤ゆを咥えて戻ってきた。 そのまま大声を張り上げる。 「みんな!!! じぶんたちがなにをやっているかわかってるの? ばかなの?!」 群れのゆっくりたちと“兵隊”がその場で動きを止め、“れいむ”へと視線を移す。 「おきゃああしゃああああああん!!!」 「たしゅけちぇぇぇぇぇ!!!」 「ゆんやあああああ!!!!」 「ちびちゃああああああんッ!!!!」 赤ゆたちの悲痛な叫び声に一匹のゆっくりが悲鳴を上げた。 人質に取られた赤ゆの親なのだろう。 泣き叫ぶ赤ゆたちを見て金縛りにあったように動きを止めるゆっくりたち。 “れいむ”が不敵な笑みを浮かべた。 “兵隊”たちによって一方的に暴行を受けるゆっくりたちに抗う術などない。 赤ゆたちを盾に“れいむ”たちによる反乱の鎮圧が始まる。 その主たるメンバーは親まりさと共に会議を行っていたゆっくりたちが中心だ。 みんな、親まりさが心配でこっそりと後をつけてきていたのだろう。 リーダーの子である意識がそうさせるのか、泣きながら必死に仲間の命を助けるように懇願する親まりさを“れいむ”は嘲笑し ていた。 「ゆるすとおもったの? れいむをゆっくりできなくさせようとする、ゲスなゆっくりは……せいっさいっ!してやるよ!! げらげらげらげら!!!!」 「やべでぇぇぇぇぇ!!!」 そこに更に遅れて騒ぎを聞きつけたゆっくりたちが集まってくる。 その中には子まりさもいた。 親まりさの表情が青ざめていく。 子まりさはボロ雑巾のようになった母の姿を見てぷるぷると震えていた。 恐怖で声を発することができないのだろう。 それでいい、と親まりさはにっこりと子まりさに笑顔を向けた。 その顔が癇に障ったのか“ れいむ”が親まりさを潰さないよう注意しながら踏みつける。 苦痛に表情を歪めながらも決して子まりさから視線を外そうとはしない。 数匹の“兵隊”に押さえつけられた親ありすも子まりさをずっと見つめていた。 (ちびちゃん……。 ちびちゃんは……まりさのちびちゃんだから……そこからあんよをうごかせないはずだよ……。 でも、 それでいいよ……。 まりさやありすのことはいいから……せめてちびちゃんだけでもゆっくりして――――) 「おきゃあしゃんを……いじめりゅにゃああああッ!!!!」 懇親の叫び。 “兵隊”たちの怒号とゆっくりたちの悲鳴しか聞こえないその中において、突如上がった子まりさの絶叫は皮肉にも全てのゆっ くりの動きを止めてしまった。 “れいむ”が子まりさを睨みつける。 子まりさも“れいむ”を睨みつけていた。 両者の視線が空中でぶつかる。 親まりさと親ありすが思わず目を見開く。 全身を震わせてはいるものの凛と鋭い視線をぶつける子まりさの瞳に涙は滲んでいない。 目の前で繰り広げられる仲間たちの凄惨な最期。 見るに耐えない状態にまで痛めつけられている両親の姿。 それを目の当たりにしながら、子まりさは自分よりも倍以上のサイズを誇る“れいむ”を睨み続けていたのだ。 「……そこのちびちゃん」 ついに“れいむ”が口を開く。 親まりさと親ありすは子まりさの無事を願い顔面蒼白になり歯をカチカチと鳴らしている。 「……まりしゃは、まりしゃだよっ!!! ちびちゃんにゃんかじゃにゃいよっ!!!」 抜けきらない舌足らずな口調で子まりさが啖呵をを切った。 見下ろす“れいむ”。 見上げる子まりさ。 まるで吸い寄せられるように子まりさの元へと移動していた事に気づいた“れいむ”が思わず目を丸くする。 もしも、子まりさが成体ゆっくりであればこの一瞬の隙を突いて先手を打つこともできたかも知れない。 “れいむ”もそれに気がつき眉をしかめた。 バスケットボールほどものサイズの成体ゆっくりがソフトボール程度の大きさしかない子まりさに対して一瞬でも呑まれてしま った。 「おでがいじばずぅぅぅ!! ちびちゃんにびどいごどじないでぇぇぇぇ!!!」 動かしかけたあんよを止める“れいむ”。 戦いが始まっていれば子まりさは即死していただろう。 「おきゃあしゃん!! じぇったいにまりしゃがたしゅけちぇあげりゅよっ!!!」 悲痛な親まりさの声に応えるかのように子まりさが雄々しい声を発した。 それを取り巻く“兵隊”たちもゆっくりたちも、その親子の様子を無言で見つめていることしかできない。 群れのゆっくりたちが今にも泣き出しそうな表情で佇む。 諦めの念が見て取れる。 かつてのリーダーを殺され、その子供である親まりさも瀕死の重傷を負わされ、更に子まりさまでも殺されてしまうのか。 この、突然森に現れた残虐なる支配者。 暴君“れいむ”によって。 これから起こるであろう凄惨な結末を予測し、もはや己を奮い立たせるほどの心は持ち合わせていない。 「ちびちゃん……。 れいむはやさしいゆっくりだから、ちびちゃんにひどいことはしないよ」 「……ゆっ?」 「でも、れいむになまいきなたいどをとったゆっくりには、せいっさいっ!がひつようだよ。 りかいできる?」 「りきゃいできにゃいよっ!! せいっしゃいっ!されりゅのはれーみゅのほうじゃよっ! ゆっくちりきゃいしちぇにぇっ! !!!」 “れいむ”の揉み上げが勢いよく子まりさの頬を叩いた。 瞬間、「ゆぴっ」と短い悲鳴を上げる子まりさ。 ころころと草の上を転がりようやく止まった時には、既に起き上がり“れいむ”を睨みつけている。 打たれた左の頬を真っ赤に腫らして。 “れいむ”はそれ以上、子まりさに危害を加えるつもりはなかった。 子まりさを潰してしまえば、“お城”の中に監禁してある赤ゆたちも同様に潰されてしまっているということを周知する形にな ってしまうからだ。 “れいむ”の支配体制は赤ゆという盾があって初めて成立する。 盾が失われれば群れ中のゆっくりが玉砕覚悟で“お城”に攻め入ってくるだろう。 いくら“れいむ”でも一匹でその相手をするには手に余る。 狭い“お城”の中であれば戦いで負けることはないだろうが、体力的な問題で全てのゆっくりを返り討ちにするのは難しい。 「ゆんやああっ! はなしちぇにぇっ!! はなしちぇにぇっ!!!」 “れいむ”によって口に咥えられた子まりさが必死になってあんよを振る。 身動きの取れない両親がその様子を怯えながら見つめていた。 子まりさを“兵隊”のうちの一匹に預け、ゆっくりたちへ高らかに宣言する“れいむ”。 「みんな!! ゆっくりきいてね!! いまかられいむをゆっくりできなくさせようとした、ゲスなまりさをせいっさいっ!す るよ!!!!」 ざわつく群れのゆっくりたち。 会議に参加していたゆっくりたちは悔しさのあまりに唇を噛み締めた。 赤ゆたちさえ人質に取られていなければ。 暴君の言いなりになる必要もないというのに。 「ゆぐ……ゆっくり、はなして……っ!!」 二匹の“兵隊”によって親まりさが“お城”の近くに突き出た平たい岩の上に乗せられ、動きを封じられる。 “れいむ”は自分に対して無礼を働いたゆっくりをこの岩の上で処刑するのが好きだった。 より多くのゆっくりたちに制裁対象が潰される様を見せつけることができるからだ。 「いやああぁぁぁぁっ!!!」 親ありすが叫ぶ。 処刑台の上の親まりさはご丁寧に目の前に連れてこられた子まりさをじっと見つめていた。 「ちび……ちゃん……」 「おきゃあしゃん……っ!! おきゃあしゃん……っ!!」 風に舞う木の葉。 草木の揺れる音。 静まり返る群れ。 “れいむ”が親まりさの顔を何度も何度も踏みつける。 「ゆ゛ぶっ!! ぎゅべっ!! ゆ゛ぎぃッ?! ゆ゛ぼぉッ??!!!」 「ゆんやあああああああああああ!!!!!!」 「ちびちゃ……ゆ゛げぇ゛っ??!!!」 「まりさああああぁぁぁあぁぁ!!!!」 「ゲスはゆっくりしないでしね!!!!」 親まりさの顔が潰れ中身の餡子が飛び散った。 ぼさぼさになってしまった金髪が頭皮ごと地面にぱさりと落ちる。 飛び出した目玉がころころと転がり、子まりさの前でその動きを止めた。 “れいむ”のあんよにはべったりと餡子が付着している。 風に乗って辺りに死臭が漂い出す。 そのゆっくりできない臭いが、群れのゆっくりたちにかつてリーダーを失ったときの焦燥感をフラッシュバックさせていく。 子まりさは変わり果てた親まりさの姿を呆然と眺めていた。 穏やかな笑顔を見せてくれた母親の面影はそこにない。 ぐしゃぐしゃに潰された餡子まみれの皮が岩の上に張り付いているだけだ。 「うわああああ!!! ごろ゛じでや゛る゛ッ!!! じね゛ッ!!! でいぶぅぅぅ!!!! じね゛ぇ゛ぇ゛ッ!!!!」 親ありすが表情を破壊させながら“れいむ”に罵声を浴びせる。 “れいむ”は贈られる呪詛さえも心地よいと言わんばかりに口元を緩め、絶望に染まった子まりさの表情を眺めていた。 子まりさが一歩も動く事ができないのを確認すると“兵隊”に指示を出し、“お城”の中に運び込ませる。 “兵隊”の口に咥えられぷらぷらと揺れながら、子まりさは無言でぽろぽろと涙をこぼしていた。 その姿が親ありすの目に入る。 「はなしてえぇぇぇっ!!!」 一瞬の隙をついて“兵隊”の拘束から逃れる親ありす。 “れいむ”が振り返る。 親ありすは赤トウガラシを咥えていた。 子まりさを運ぶ“兵隊”もあんよを止めて視線をそちらに向ける。 「れいむ!! あなたなんかにすっきりー!させられるぐらいなら、えいえんにゆっくりしたほうがましよ!!!!」 「ありしゅ……おきゃ……」 「ちびちゃん。 ――――ゆっくりしていってね!!!」 親ありすが赤トウガラシを噛み潰し咀嚼する。 「むーしゃ、むー……ゆ゛があ゛あ゛ぁ゛あ゛ッ???!!!!」 顔を真っ赤にした親ありすの顔中に嫌な汗がぽつぽつと浮かぶ。 舌から全身に広がっていく熱と痛みが親ありすを蹂躙していく。 その痛みに耐えきれず、四方八方に転げ回り、何度も額を地面に打ち付ける。 半分飛び出しかけた目玉。 垂れ流される涙、涎、汗、しーしー、うんうん。 強く食いしばった歯が負荷に耐えきれず砕けて地面に落ちた。 「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛!!! い゛だい゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!」 ゆっくりのものとは到底思えない禍々しい絶叫が響き渡る。 「お゛ぎゃあ゛じゃあ゛あ゛ぁ゛ん゛!!!! ゆ゛ん゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」 小さなお尻をぷりんぷりんと振って抵抗をしながら叫ぶ子まりさ。 恐ろしい形相で子まりさを凝視するその姿に、大好きな親ありすの面影は微塵も残されていない。 狂ったように歪み切った顔。 親ありすは最後の最後まで愛おしそうに子まりさを見つめていた。 しかし、見つめられた子まりさは恐ろしさのあまりにしーしーを大量に漏らしてしまう。 視界が暗くなっていく。 子まりさは親ありすが最後に呟いた唇の動きを見ることもなく、気を失ってしまった。 ――――だ い す き よ 。 ま り さ と あ り す の … … ち び ち ゃ ん 。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 闇に閉ざされた空間の中に子まりさがうずくまるような姿勢で転がっていた。 泣き疲れて眠ってしまっていたのだろう。 与えられた苦痛は肉体的にも精神的にも子まりさの心の限界を超えるものだ。 目尻から頬にかけて残る涙の痕が痛々しい。 その子まりさの後頭部付近に水滴が一粒、二粒。 「……ゆ……」 もぞもぞとあんよを動かしながら体を起こす。 なかなか開こうとしない目を懸命に開いた。 それでもその瞳に光は差し込まない。 子まりさは自分がどこにいるのかわからなかった。 その場で顔をひねりきょろきょろと周囲を見回す。 一面に広がる闇。 枯れ果てたかに思えた涙が自然に溢れてくる。 そのとき子まりさの頬に何かが触れた。 「ゆぴっ!」 短く悲鳴を上げる子まりさを制するように言葉をかけられる。 「まりしゃ……あんしんしちぇにぇ……」 「ゆぇ……?」 「まだおめめがみえにゃいんだにぇ……そのうち、みえりゅようになりゅよ」 子まりさが目をこらす。 まだ暗闇に慣れていない子まりさの目に声の主は一向に視界に映し出されなかった。 目の前にいたのは子まりさよりも少し小さいくらいのサイズのありす種のゆっくり。 その後ろに隠れるような形で赤ぱちゅりーが覗き込んでいた。 「むきゅ……まりしゃはあたらしくつれちぇこられちゃのかしら……?」 「ゆ……? ゆっくちまりしゃにおしえちぇにぇ……。 ここはどきゃにゃの?」 ようやく暗闇に目が慣れてきた子まりさが再び辺りに視線を泳がせる。 突き出した岩の壁。 ごつごつした岩の隙間に隠れるように何匹か別の赤ゆの姿が見える。 声をあげないようにすすり泣いているもの。 壁に顔を向けたまま無言で震えているもの。 その様子は様々であったが、一匹たりともゆっくりできていないことだけは理解できる。 子まりさが不安そうな表情を浮かべた。 赤ぱちゅりーがずりずりとあんよを這わせ子まりさの元にやってくると、 「まりしゃのおきゃあしゃんも……“れいむ”に“れいぽぅ”されちぇしまっちゃにょ……?」 瞬間。 餡子に刻まれた記憶がよみがえる。 “れいむ”によってぐしゃぐしゃに踏み潰されていく親まりさ。 赤トウガラシを自ら口に含みその命を絶った親ありす。 そして、それを目の前に何もすることができなかった自分自身。 子まりさがカタカタと震え始めた。 ゼンマイの切れかけたオモチャのように力なく震える子まりさを見て、二匹が頬をすり寄せて慰めようとする。 質問をした赤ぱちゅりーは涙目で謝罪をしながら、 「むきゅぅ……ごめんなしゃい、ごめんなしゃい。 ぱちゅ、しょんなつもりじゃにゃかったにょ……」 泣きながら謝る赤ぱちゅりーを見て申し訳なく思ったのか、子まりさが震えを止めて二匹に向き直った。 「まりしゃも……ごめんにぇ……。 ぱちゅりー、きにしにゃいでにぇ……?」 一呼吸置いて、子まりさが二匹に質問を始める。 「ここは……どこにゃの?」 「ここは“れいむ”の“おしろ”よ……みんにゃ、つかまっちぇいりゅの……」 「“れいむ”……!!」 「むきゅ……もしかしちぇ、“れいむ”をやっちゅけようとしたちびちゃん、って……まりしゃのこちょにゃのかしら……?」 「……まりしゃは、なんにもできにゃかっちゃよ……」 赤ありすと赤ぱちゅりーが互いの顔を見合わせた後、強い意志の宿った瞳で子まりさに視線を向けた。 「ありしゅやぱちゅのおきゃあしゃんたちが、“れいむ”にまけちゃうのは、ありしゅたちがここでちゅかまっちぇいりゅから にゃの……」 悲しみに暮れようとしていた子まりさが思い出していく。 あの時、確かに群れのゆっくりたちは両親に助け船を出そうとしていた。 それを見た“れいむ”は“お城”の中から赤ゆを咥えてきている。 すると攻撃を仕掛けようとしていたゆっくりたちはピタリとあんよを止めてしまった。 二匹の言うことは正しいのだろう。 一瞬だけ。 ほんの一瞬だけ、両親が殺されてしまった原因の一つが捕らわれの赤ゆたちだと気づき憎しみの感情がわいた。 しかしそれを責めることなどできない。 好きでこんなところにいるわけでもないだろうし、何より自分も今捕まってしまった。 苦しめ続けられている群れのゆっくりたちにとっての足かせになってしまったのだ。 「だかりゃ、にぇ?」 赤ありすと赤ぱちゅりーが顔をずいっ、と寄せて子まりさに告げた。 「ありしゅたちが……“れいむ”をやっちゅければいいのよ……」 表情は興奮している様子だったが大声を出せば“れいむ”に気づかれてしまう。 必死に声を抑えながら、それだけを子まりさに囁く。 「むきゅぅ……ぱちゅたちとかわらにゃいくらいのちびちゃんが、“れいむ”にむきゃっていったときいちぇ……きめちゃのよ ……」 「それはできにゃいよ」 ばっさりと斬り捨てる子まりさの一言に二匹が顔をしかめた。 「“れいむ”にはまりしゃたちみちゃいな、ちいしゃいゆっくりだけじゃ、じぇったいにかちぇにゃいよ」 「ゆぅ……」 赤ありすがしょぼくれる。 赤ぱちゅりーも諦めたように表情を曇らせた。 「だかりゃ……まりしゃたちをたしゅけちぇくれりゅ、みかたをつくらにゃいといけにゃいよ」 「「みかた……?」」 子まりさの言葉に二匹が口を揃えて問い返す。 「ときゃいはじゃにゃいわ……みんにゃ、“れいむ”にはさきゃらえにゃいわよ……」 「だから……“れいむ”のこちょをしらにゃい、ゆっくりにたしゅけちぇもらえばいいんだよっ」 キリッとした表情で子まりさが自分の意見を述べる。 「むきゅぅ……にゃにをいいだしゅのかちょおもえば……」 「まりしゃ? この“おしろ”からはでられにゃいのよ……。 もしでられちゃとしちぇも……おそとには“へいたい”しゃん がいるわ……」 反論する二匹の表情が暗闇の中でぼんやりと浮かぶ。 「さっきからうるさいよ。 ばかなの? しぬの?」 少し離れた位置から声が聞こえてきた。 空気がピンと張り詰めていくのが理屈でなく直感でわかる。 “れいむ”の声だ。 怯えて声の主へと顔を向けることができない赤ありすと赤ぱちゅりーをよそに、子まりさはじっと一点を睨みつけていた。 その視線の先には大好きな両親を死に追いやり、群れのゆっくりをゆっくりできなくさせているすべての元凶。 視線を外そうとしない子まりさの顔を見ながら二匹はなおも震えている。 こんな態度を取っていれば只では済まされない。 それを理解しているからこそ沸き上がる感情だった。 「ちびちゃん」 子まりさが一歩あんよを踏み出す。 「れいむがきらい?」 予想だにしない質問に思わず歯を食いしばる子まりさ。 それを見た“れいむ”が下卑た笑みを浮かべる。 「ちびちゃんのやさしいおかあさんを、えいえんにゆっくりさせてごめんねっ?!」 ゲラゲラと笑いながらそれだけ告げた。 「ゆがあああっ!!!」 雄叫びを上げて“れいむ”に飛びかかる。 子まりさの体当たりが“れいむ”の頬に当たるも当然びくともしない。 まるでまとわりつくハエを払うかのように子まりさを咥えて地面に投げる。 「ゆぴゃっ!」 子まりさの悲鳴に二匹がしーしーを漏らし始めた。 「ゆぐぅうぅ・・・っ」 「ゆっくちしんじぇにぇっ!!」 起き上がろうとした子まりさの周囲で蠢いている何かがそう叫んだ。 その正体は数匹の赤れいむたちである。 赤れいむたちは次々に子まりさに体当たりを仕掛けた。 からみつくように四方から攻撃される子まりさは身動きが取れない。 「ちびちゃん。 れいむのかわいいかわいいちびちゃんたちを、ひとりでもえいえんにゆっくりさせたら・・・こっちのちびち ゃんたちをえいえんにゆっくりさせるからね・・・?」 そう言った“れいむ”の傍らには赤ありすと赤ぱちゅりーがいた。 泣きながら子まりさを見つめている。 子まりさは歯を食いしばり赤れいむたちの攻撃を受け始めた。 子ゆと赤ゆでは大きさにそれほどの差はない。 その上、数匹がかりで飛びかかってこられては子まりさの受けるダメージも予想以上に大きく、ぶつかられた箇所がうっすらと 腫れていく。 自分よりも遙かに体の小さな赤ゆに痛めつけられる子まりさ。 「ゆっゆーん! れーみゅはちゅよいんだよっ!!」 「れーみゅたちよりも、おっきいまりしゃなんきゃにもまけにゃいよっ」 「れーみゅたちがきょわくて、まりしゃはにゃんにもできないんだにぇっ!!!」 嬉々として子まりさに襲いかかる赤れいむたちが口々に勝手なことを繰り返す。 子まりさがちょっとジャンプして踏みつければ即座に潰れて死んでしまう程度の存在が、まるで自らを最強の種族と言わんばか りに高笑いをする。 子まりさへの蹂躙は、赤れいむたちが疲れて寝息を立て始めるまで続いた。 薄汚れた赤れいむたちのあんよで顔を泥だらけにされた子まりさが俯いている。 「げしゅな……まりしゃを……やっちゅけ……むーにゃ、むーにゃ……」 夢の中ででも悪の子まりさを制裁する自分に酔っているらしい。 涎を垂らしながらヘラヘラと笑う赤れいむたちの顔はその筋の人間が一目見れば、たちまちこの場を地獄絵図に変えてしまうほ ど醜悪なものだった。 「ゆふふ……ちびちゃんたちとあそんでくれて、ゆっくりありがとう」 “れいむ”が赤ありすと赤ぱちゅりーを解放して子まりさの元へとあんよを向ける。 「……あしたも、よろしくね」 ギリギリと歯を食いしばる子まりさ。 そして。 「……やっと、ありしゅとぱちゅりーをはなしちぇくれちゃにぇ……」 「……ゆ?」 「ゆっくちしにぇっ!!!」 叫んで飛び上がる。 “れいむ”が目を丸くした。 それは子ありすと子ぱちゅりーも同じである。 「ゆぴー……ゆぴぶりゅぇ゛ッ??!!!」 ひと思いに。 あんよを踏み抜く。 赤れいむの餡子がどろりと地面に飛び出る。 水たまりのように広がる餡子の上に、子まりさがいた。 「ま……まりしゃ……」 がたがた震えながら赤ありすが子まりさを見上げる。 そのとき、“お城”の中がうっすらと明るくなった。 雲に隠れていた月が顔を出し、その光が岩の裂け目から入ってきたのだ。 子まりさはその一点を見つめている。 「この……くそちびがぁぁぁっ!!!!!」 気が狂ったように絶叫する“れいむ”。 それに呼応するかのように“お城”の外を見張っていた“兵隊”ゆっくりが六匹ほど入ってくる。 捕らわれの赤ゆっくりたちも一様に飛び起きた。 両者の視界に飛び込んだのはあまりにも意外な光景である。 般若のような表情の“れいむ”。 原型を失いひしゃげて動かなくなった赤れいむ。 その上で暴君を睨み上げる子まりさ。 差し込む光の角度はまるで三者の姿をその場にいた者に見せつけるかのように伸びていた。 「みんにゃっ!!! ゆっくちきいちぇにぇっ!!!!」 子まりさが高らかに声を上げた。 まどろみの赤れいむたち。 飛び起きた数多の赤ゆっくり。 呆然と立ち尽くす六匹の“兵隊”ゆっくりたち。 凄まじい形相で子まりさを睨みつける“れいむ”。 子まりさの言葉は捕らえられていた赤ゆっくりたちに向けられたものだ。 「まりしゃが・・・まりしゃが、じぇったいにみんにゃをたしゅけちぇあげりゅよっ!!!」 刹那。 “お城”の中に突風が舞い込んだ。 入り口から吹き込んだ強烈な風は子ゆっくりたちや赤れいむをころころと転ばせた。 子まりさが起き上がった瞬間、声が響く。 「まりしゃぁっ!! そこのあなしゃんからおしょとにでれりゅかもしれにゃいわっ!!!」 “兵隊”たちも“お城”の中だ。 赤ありすの言葉に子まりさが意を決する。 月の光が差し込む岩の裂け目に向かって、傷ついたあんよを蹴る。 「ぴょんぴょんしゅりゅよっ!!!」 「ゆゆっ!! みんな!! あのくそなまいきなちびをつかまえてね!! すぐでいいよっ!!!!」 “れいむ”の指示に“兵隊”たちが一斉に動き出す。 しかし。 「は・・・はなすのぜっ!!! なんなのぜっ??!!!」 「はなすんだみょぉぉぉん!!!!」 “兵隊”たちの髪の毛や皮に噛みついて動きを制しているのは赤ゆっくりたちだ。 “れいむ”が歯ぎしりをする。 「ゆっくちがんばりゅよっ!!!」 「まりしゃっ!! ちぇんたちのぶんまじぇ、がんばりゅんだにぇーー!!!」 赤ゆっくりたちが懸命に“兵隊”たちを抑えつけ、“れいむ”に対して威嚇を行う。 “れいむ”は激怒した。 しかし、目の前にいるのは群れを支配する為の盾だ。 易々と潰すことはできない。 “お城”の中に捕らわれている赤ゆっくりたちを大量に潰されてしまったとあれば、親ゆっくりたちは死なばもろとも最後の抵 抗を見せるだろう。 「ゆ゛んぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ッ!!!!」 岩の裂け目に到達した子まりさが“お城”の内部を見下ろす。 「ゆっゆっおー!」 「えいえいゆー!!」 どの赤ゆっくりたちも必死に戦っていた。 “兵隊”の一匹も倒すことはできないが、子まりさを“お城”の外に逃がすという目的だけで。 そして、赤ゆっくりたちはその戦いに勝利した。 子まりさは月の光に照らされている。 「みんな……ッ!!!」 “お城”の中のゆっくりたちが一斉に子まりさを見上げた。 「ゆっくち……ありがとうっ!!!!」 そう言い残して裂け目から出て行く子まりさ。 脇目もふらずに岩肌を駆け降りる。 固い岩を蹴ってあんよが痛みを訴えていたが気にしない。 自分を逃がすために命を賭してくれた仲間のためにも、弱音を吐くわけにはいかなかった。 月夜の森が子まりさを妖しく迎え入れる。 振り返ることもせず。 ただひたすらに。 「ゆっくりまつのぜ!!!」 「にがさないんだねー!!!」 「つかまえるみょんっ!!!」 追っ手が差し向けられたらしい。 まりさ種、ちぇん種、みょん種。 いずれもゆっくりたちの中では攻撃・移動に特化したメンバーだ。 子ゆっくりと成体ゆっくりというハンデを抜きにしても、この難を乗り切ることは厳しい。 それでも、子まりさはあんよを蹴り続ける。 目の前に川が飛び込んできた。 (そんにゃ……っ!!!) 「ゆっくりしねぇっ!!!」 “兵隊”まりさによって体当たりを受ける子まりさ。 宙に投げ出され草むらの上をごろごろと転がる。 ぶつかられた拍子に脱げてしまった帽子が川の端に着水した。 逆さになって水に浮かぶ帽子を見た子まりさが、反射的にその上に飛び乗った。 「ゆゆゆゆぅぅぅぅぅぅッ??!!!」 野生の水上まりさはなかなかお目にかけることはできない。 三匹の“兵隊”たちは水に浮かぶ帽子の上に乗るまりさ種を初めて見た。 ちぇんやみょんが、恐る恐るあんよを水につけるがとてもじゃないが無事でいられるようには思えない。 下流に向かって流されていく子まりさ。 ここに来るまでの疲労。 先ほど受けたまりさの体当たりなどにより満身創痍の子まりさは眠るようにその瞳を閉じた。 水の流れる音が心地よい。 どんどん小さくなっていく水上の子まりさを見つめながら呆然となる“兵隊”たち。 「ど……どうするのぜ?」 「わかるよー……あのちびちゃんは、かわにおちてえいえんにゆっくりしたことにするんだねー」 「さすが、ちぇんだみょん!!」 夜の冷たい風が子まりさの頬をそっと撫でる。 まるで、今はもういなくなってしまった親まりさと親ありすにすーりすーりをしてもらっているかのような感触に、子まりさは 思わず口元を緩めた。 【 chapter 3 「森の賢者」 】 「むきゅー……。 おかあさん。 このちびちゃんはだいじょうぶかしら……?」 「けがをしているようだけれど、えいえんにゆっくりしてしまうようなことはないわ……。 ちびちゃんがそばにいてあげてね」 「むきゅ……。 おかあさん。 ぱちゅ、もう、ちびちゃんじゃないよ……」 「むきゅきゅ。 それじゃあ、よろしくね。 ちびちゃん」 淀み、濁った意識の中に聞いたことのない声が届く。 子まりさは葉っぱで作られた布団の上に寝かせられていた。 重い瞼を開けることはできなかったが、自分の周りをずーりずーりと這う何者かの存在を感じる。 その正体は一匹のぱちゅりーだ。 まだ成体ゆっくりになったばかりのぱちゅりー。 子まりさよりも少し早く生まれたのだろう。 時折、子まりさの頬をぺーろぺーろしたり、顔色を窺ったりしている。 「ゆ……」 微かに子まりさのお下げが揺れた。 その反応を見たぱちゅりーが懸命に声をかける。 「むきゅっ! まりさ! まりさ! ゆっくりおきてね!」 今度ははっきりと声が届く。 子まりさがゆっくりと目を開いた。 それを見たぱちゅりーが嬉しそうに微笑む。 そんなぱちゅりーをようやく視界に入れた子まりさは安心したのか思わず。 「ゆ……まりしゃは……おなかがすいちゃよ……」 「わかったわ。 ちびちゃん、すこしだけまっていてね。 いまからぱちゅがおかあさんをよんでくるから」 「ゆぁ……」 ぴょんぴょんと飛び跳ねるぱちゅりー。 病弱で有名なぱちゅりー種にしては比較的元気な個体のようである。 それよりも、子まりさは“お母さん”という単語に反応し、小さな体をぷるぷると震わせていた。 目の前で非業の死を遂げた最愛の両親。 “お城”の中で自分を助けてくれた子ゆっくりたち。 全ての元凶である“れいむ”。 キリッとした表情のまま子まりさの頬を涙が伝う。 無言で涙を流す子まりさの元にぱちゅりー親子がやってきた。 子まりさの様子を見たぱちゅりーがぴょんぴょんと飛び跳ねて頬をすり寄せる。 「むきゅぅ……だいじょうぶかしら……? どこかいたい……?」 子まりさは何も答えない。 ぱちゅりーは悲しそうな顔で子まりさを見つめていた。 ずりずりとあんよを這わせ、少し皮の張りが衰えたもう一匹のぱちゅりー種が寄ってくる。 老ぱちゅりーは、子まりさの目の前に移動するとにっこりと微笑んだ。 「ちびちゃん。 なにもしんぱいしなくてもいいわよ。 ここにはちびちゃんをゆっくりできなくさせるような、わるいゆっく りはいないわ……」 「……まりしゃは……」 「「?」」 「まりしゃは……おかあさんたちを……えいえんにゆっくりさせられちぇ……。 ゆぐっ……ひっく……」 自分のこれまでを振り返るように呟く子まりさに、ぱちゅりーと老ぱちゅりーが思わず互いの顔を見合わせる。 「まりしゃを……“おしろ”からにがそうとしちぇ……みんにゃががんばってくれちぇ……」 流れ続ける涙。 「みんにゃ……すごく……ゆっくりしているゆっくりなのに……“れいむ”みたいな、わるいゆっくりのせいで……」 「ちびちゃん……。 よければ、ぱちゅりーにくわしいおはなしをきかせてもらえないかしら……?」 老ぱちゅりーが諭すように囁く。 子まりさはしばらく嗚咽を繰り返した後、顔を小さく縦に振った。 “れいむ”によって支配された群れ。 捕らわれの子ゆっくり。 目の前で殺された親まりさ。 自ら赤トウガラシを口に含みその命を絶った親ありす。 赤れいむたちによる集団リンチ。 “お城”からの脱出。 そして、何よりも強い想い。 「まりしゃは……“れいむ”をやっつけて、あのもりでみんなといっしょにずっとゆっくりしていきたいよ……っ!!!」 話を聞いていたぱちゅりーは目に涙を浮かべていた。 老ぱちゅりーも居た堪れない表情をしている。 泣きながら言葉を紡ぐ子まりさの意思は強いのだろう。 しかし、たった一匹で群れを支配するような“れいむ”に体の小さな子まりさが太刀打ちできるはずがないのだ。 大袈裟な言い方をすれば、蟻が象に戦いを挑むようなものである。 「ちびちゃん……?」 「まりしゃはまりしゃだよっ!! ちびちゃんじゃないよ!!!」 泣きながら叫ぶ。 自分とまったく同じことを言っている子まりさに思わず顔を赤らめて老ぱちゅりーの表情を窺うぱちゅりー。 老ぱちゅりーはクスリと笑った。 「むきゅきゅ……。 ごめんなさいね、まりさ。 たしかにあなたはちびちゃんじゃないわ」 「むきゅぅぅぅ?! どおしてぇ? ぱちゅだって、もうちびちゃんじゃないわよぉぉぉ!?」 本当に元気なぱちゅりーだ。 群れの中のぱちゅりーはみんな暗い表情をしていたように思う。 今にして思えばあれは“れいむ”によって支配されていたからだったのだろうか。 子まりさは百面相のように表情を次々に変える年上のぱちゅりーを見て思わず笑みを浮かべてしまった。 ぱちゅりーが目ざとくそれに気付く。 「むっきゅーー!! ちびちゃん!! いま、ぱちゅをわらったでしょ?! ぷんぷん!!!」 「ゆっくり……ごめんなしゃい」 「まだ、ちびちゃんことばもぬけてないのにぃぃぃ」 「……ゆふふ」 子まりさの笑顔を見て老ぱちゅりーが安心したような表情に変わる。 ぱちゅりー親子のおうちは穴を掘って作られたシンプルな巣穴だ。 巣穴の外は、子まりさが“お城”を脱出した時から丸一日が経過しているのか薄暗くなってきている。 三匹は少し早目の晩御飯を食べた。 夕食に出された芋虫を咀嚼しながら、お土産と称して親まりさが食べさせてくれた芋虫を思い出してまた泣きそうになったが、 ぱちゅりー親子に心配をかけるまいと堪えた。 「むーしゃ、むーしゃ……しあわせぇぇぇ!!!」 食事中、涙目になっての幸せ宣言。 嬉し涙を装い、子まりさは与えられた食事を次々に口の中に入れていった。 悲しみの涙を誰にも悟られるようなことがないように。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 「せっせ! せっせ!」 サッカーボールほどの大きさにまで成長したまりさが森を駆け抜ける。 帽子の中には大量のキノコや芋虫が入っていた。 “お城”を脱出してから既に一月ほどが経過している。 ぴょんぴょんと力強く飛び跳ねながらぱちゅりー親子の巣穴へと向かう。 まりさはそこに居候をしていたのだ。 本当ならすぐにでも群れに引き返して“れいむ”を倒したいところだが、老ぱちゅりーによって制されていた。 “あなたのおかあさんたちが、いのちをかけてまもった、あなたじしんを……たいせつにしなさい” それを言われると言葉を返すことができなかった。 しかし、いつまでもこの巣穴で暮らしているわけにはいかない。 だから決意した。 “まりしゃが、もっとおおきくなっちゃら……じぇったいに“れいむ”をやっちゅけにいくよ!!!” 老ぱちゅりーは呆れたような顔をして何も言葉をかけてはくれなかった。 その日以来、まりさと老ぱちゅりーの会話が少なくなる。 板ばさみにされたぱちゅりーは戸惑うばかりだ。 まりさは毎日森に出かけて狩りをするようになった。 たくさん食べて早く大きくなること。 少しでも体を鍛えて“れいむ”に対抗するだけの力を身につけること。 無言で自分をおうちに置いてくれているぱちゅりー親子に美味しいものを食べさせてあげること。 理由はいくつかあれど、やはり最大の目的は“れいむ”打倒の下準備なのである。 あれから月日も流れ、体のサイズだけは“れいむ”と同じくらいにまで成長した。 毎日強く地面を蹴っているあんよの皮もちょっとやそっとでは傷つかない。 少なくとも小石を踏んだくらいで転げまわるようなヤワなゆっくりのあんよとは違う。 それでも、まりさはまだ“れいむ”を倒せるとは思っていない。 “れいむ”の顔には無数の傷がついていた。 多くの修羅場をくぐりぬけてきた証だろう。 それに比べて自分の顔のなんと綺麗なことか。 狩りは、食料に対しての一方的な暴力でしかない。 まりさには実戦経験が明らかに不足している。 百戦錬磨の“れいむ”を相手に満足のいく戦いができるはずがないのだ。 だからと言って、ぱちゅりーを相手に喧嘩の練習をするわけにはいかない。 元々ぱちゅりー種は大人しいゆっくりだ。 巣穴の中のぱちゅりーも、まりさが採ってきたキノコをもそもそと食べては老ぱちゅりーとお喋りをし、一日を終える。 「ゆっくりただいま!!」 「むきゅ。 ゆっくりおかえりなさい」 「きょうはたくっさんっ、きのこさんがとれたよ!!」 「おいしそうなきのこさんね。 まりさ、いつもありがとう……」 「ゆゆっ! まりさはぱちゅりーたちにおせわになっているんだから、とうぜんだよっ!!」 「むきゅぅ……ぱちゅのことは、ぱちゅとよんでちょうだい」 「ゆっくりりかいしたよ、ぱちゅりー」 「むっきゅぅぅぅぅぅ!!!」 ぱちゅりーは他のぱちゅりー種に比べれば活発なほうだった。 お姉さんぶって失敗することのほうが多く、まりさにもこうしてよくからかわれている。 老ぱちゅりーは頭の良いゆっくりのようだったが、子供のぱちゅりーにはあまり受け継がれてはいないようだ。 とは言ってもまりさよりは多くの知識を身につけている。 まりさはぱちゅりーとの会話の中で多くのことを学んだ。 その際に何度かぱちゅりーに“れいむ”を倒す方法について聞いてみたが答えは返ってこなかった。 「ぱちゅりー……。 ぱちゅおばさんはゆっくりできてる……?」 夕食の準備をしながらまりさがぱちゅりーに問いかける。 ぱちゅりーは黙って顔を横に振った。 老ぱちゅりーは天寿を全うしようとしていたのである。 短命な上にあらゆる死亡フラグを立て続けるゆっくりが、寿命で永遠にゆっくりしてしまうということは自然界では珍しい。 奇跡と言っても過言ではないだろう。 老ぱちゅりーはいつの頃からか眠っている時間が長くなった。 朝、目覚めの挨拶をしてもなかなか返事をしてくれない。 誰も何も言わなかったが、それぞれがどういうことかを理解していた。 老ぱちゅりーは自分の死期が近いことを。 ぱちゅりーは母親との別れが近いことを。 まりさは老ぱちゅりーがそう遠くないうちに永遠にゆっくりしてしまうのだろうということを。 「まりさ、がんばってごはんさんをたくさんとってくるよ。 だから、ぱちゅりーもげんきだして……ね?」 「むきゅ……ありがとう」 ぱちゅりーがわざと明るく振舞っていることにまりさは気づいている。 それが痛々しくて見ているのが辛い。 まりさはぱちゅりーから顔を背けながら葉っぱの上に芋虫やキノコを乗せていった。 「げほっ、げほっ……」 巣穴の隅で壁によりかかるような姿勢で眠っている老ぱちゅりーが時々咳き込む。 元から決して良いとは言えない顔色も心なしか悪くなってきている。 ぱちゅりーはまりさには絶対に悟られないように涙を浮かべていた。 「…………」 まりさはそんなぱちゅりーの後姿を見つめている。 理解していた。 ぱちゅりーが泣きたくて仕方がないのをずっと我慢していることを。 共に過ごした時間は短いが、まりさにはぱちゅりーの気持ちが分かる。 大好きな親を失う悲しみ。 心の中に風穴が開くかのような感覚は大切な何かを失った者にしか分からない。 それでもまりさはぱちゅりーに対して声をかけなかった。 本当なら優しい言葉の一つでもかけてあげるのが普通なのかも知れない。 しかし。 その悲しみを理解するまりさだからこそ、かける言葉が思いつかなかったとも言える。 まりさの言葉はぱちゅりーの心の奥深くにまでは届かないだろう。 「ぱちゅりー。 いっしょにごはんさんをむーしゃむーしゃしようね」 「ゆっくりりかいしたわ」 まりさにできることはあくまでぱちゅりーと自然に接することだけだ。 「むきゅ……。 まりさのとってくるごはんさんがどんどんふえていくわね」 「ぱちゅりーのおかげだよ。 ぱちゅりーがまりさにいろんなことをおしえてくれるからだよ」 「まりさ。 たまには……ぱちゅがきいてみてもいいかしら……?」 「ゆん? なに……?」 「……おかあさんが、えいえんにゆっくりしてしまったときは……かなしかった……?」 「…………!」 ぱちゅりーは真っ直ぐにまりさを見つめたまま動かない。 まりさもぱちゅりーの真剣な表情から冗談でこんなことを聞いているわけではないということに気付く。 いろんなことを知っていても、分からないのだろう。 当然だ。 かけがえのない存在を失うということの悲しみは経験して初めてわかるものだ。 それは知識として得るものではない。 どれだけ勉強をしても、決してわからないことがたくさん世の中にはある。 「ゆげぇっ!!! えれえれえれ……ッ!!!!」 老ぱちゅりーが辛そうに咳き込んだ後、その仲間を吐き始めてしまった。 まりさとぱちゅりーが互いの顔を見合わせる。 すぐに老ぱちゅりーの元へと駆け寄った。 まりさが俯く。 両親のことを思い出しているのだろう。 唇を噛み締めたまま、まりさはぱちゅりーの後ろをついていった。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 「ぱちゅりー……」 「むっきゅうぅぅぅ!! おかあさん!! おかあさん!!!」 弱々しくぱちゅりーを見つめる老ぱちゅりーの瞳。 老いのせいか少しだけ濁っているように見えるが、凜としたその眼差しはぱちゅりーを捕らえてしっかりと離さない。 ぱちゅりーは泣きながら老ぱちゅりーの頬にすーりすーりしたり、ぺーろぺーろしたりしている。 その様子を見てまりさが静かに目を閉じた。 不謹慎にも、“ぱちゅりーは幸せだな”などと思ってしまう。 まりさにはできなかったのだ。 親まりさにも親ありすにも、永遠の別れを嘆いて頬をすり寄せることや最期の言葉を交わすことが。 老ぱちゅりーはまりさに視線を移した。 瞬間、その瞳に吸い込まれるような錯覚を覚え、老ぱちゅりーから視線を外せなくなる。 森の賢者の瞳に、世界はどのように映し出されていたのだろうか。 最愛のぱちゅりーと共に二匹だけで過ごす決して長くはない時間。 「まりさ……ぱちゅのこえが……きこえるかしら……?」 静かに語りかけてくる。 「“れいむ”をやっつけようとするのは、やめなさい」 「?!」 まりさもそうだが、ぱちゅりーも目を丸くして老ぱちゅりーを見つめていた。 まりさがぴょんぴょんと老ぱちゅりーの元に駆け寄る。 今にも消え入りそうな命がつぶやくように言葉を繋いだ。 「“れいむ”にはかてないわ……あなたの、おかあさんの、おかあさん……。 ぱちゅのしっているかぎりで、もっともつよく てやさしい……あのむれのリーダーだったまりさ……」 「なにを……いっているの……?」 「あのまりさですら……“れいむ”にはかてなかったのだから……」 訝しげな視線を向けるまりさに淡々と昔話を語って聞かせる老ぱちゅりー。 「ぱちゅは……あなたとおなじむれでくらしていたのよ……」 「……?!」 「リーダーだったまりさと、およめさんのちぇん。 ふたりがまとめていたむれは、ぱちゅたちにとって、じまんの“ゆっくり ぷれいす”だったわ」 「まりさのおかあさんの、おかあさんが……むれの……リーダー……?」 「むきゅ……そうよ」 「まりさおかあさんも、ありすおかあさんも……そんなこと……いってないよ……?」 在りし日の両親の姿が瞼の裏から蘇る。 そういうことだったのだろうか。 群れのどのゆっくりも手を出せない状況の中で、それでも“れいむ”に挑み倒そうとしたの両親の行動は。 「……あなたのおかあさんがまだちびちゃんだったころ、おうちのなかでまいにちないていたわ」 「……どうして……?」 「リーダーのまりさが、“れいむ”とたたかっているとき、じぶんはこわくてなにもできなかった、って。 いっしょにたたか っていれば、“れいむ”をやっつけることができたかもしれないのに、って……」 「…………ゆぁ…………」 同じだった。 まりさも、目の前で親まりさがいたぶられている時、何もできない無力な自分を呪っていた。 「まりさも……おかあさんとおなじだよ……」 「……それはみんなおなじなのよ……。 “れいむ”におびえてリーダーといっしょにたたかうことができなかった。 ……こ ろされるのは、ほんとうにこわいことだから」 まりさとぱちゅりーが息を呑む。 老ぱちゅりーの言葉は二匹の心の奥深くを抉るに十分な迫力を持っていた。 まりさは考えていなかったのだ。 “れいむ”を倒すということ以外を。 “れいむ”に負けてしまった場合のことなど考えていなかった。 戦いに負ければ、自分は惨たらしく殺されるだろう。 まりさの体が一瞬だけ、ぶるっと震えた。 老ぱちゅりーはそれを見てにっこりと笑う。 「こわいでしょう……?」 「…………」 無言のまま、まりさが頷く。 「……それでいいのよ。 しんでしまうのはだれだってこわいわ。 ……ぱちゅだって、いま、こわくてたまらないのよ……?」 「……おかあさんっ!」 ぱちゅりーが叫ぶように老ぱちゅりーに呼びかける。 「まりさ。 こわがることは、すこしもはずかしいことじゃないのよ……?」 「……でも、……でもっ!」 「……こわがったうえで、“れいむ”にたたかいをいどみなさい」 まりさとぱちゅりーの動きが止まった。 老ぱちゅりーはまりさが無策で“れいむ”に戦いを挑もうとしていることを憂いていたのだ。 無謀と勇気は違う。 “れいむを倒す”ために戦うのではなく、“生き残る”ために戦うのだ。 その二つは似ているようで決定的に違う事だった。 まりさがしょぼくれた表情に変わる。 それを見た老ぱちゅりーは「むきゅきゅ」と笑いながら、なおも消え入るような声で言葉を紡いだ。 「がんばって。 ……“こわい”とおもいながらたたかうことができれば、きっとむちゃなことはしないはずよ。 それができ なければ、“れいむ”にかつことはできない……」 「……“れいむ”は、“こわい”なんておもってないのかな……? もし、そうなら……」 「いいえ。 “れいむ”はこわがりよ」 「?」 「こわがりだからこそ、“れいむ”はとてもつよいのよ……。 なにかおもいあたることはないかしら?」 まりさが思考を巡らせる。 群れのゆっくりたちに作らせた“お城”。 それを守る“兵隊”。 人質として捕まえた子ゆっくり。 まりさが悟ったように小さく頷いた。 それを見た老ぱちゅりーが満足気な笑みを返す。 「む゛ぎゅっ!!! げほっ!! げほっ!!!」 「お……おかあさん!!!!」 勢いよく咳き込む老ぱちゅりーに頬をすり寄せながらぱちゅりーが叫ぶ。 「むきゅ……きゅ。 ぱちゅは、しあわせなゆっくりだったわ……」 「むきゅうぅぅぅぅん!!! “だった”ってどういうことなのっ? ずっと、ずっと、しあわせなおかあさんでいてよぉぉ!!」 「ぱちゅりー……。 あなたも、……しあわせに。 ……ゆっくりしていってね……?」 「おかあさあああああん!!!!!」 「……まりさ」 ゆんゆんと大声で泣き続けるぱちゅりーをなだめながら、まりさに向けて唇を動かす。 「ぱちゅりーのことを、よろしくね」 「……ゆっくりりかいしたよ」 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― まりさとぱちゅりーは老ぱちゅりーの墓を作ってあげた。 二匹で一生懸命に小さな穴を掘って、その中に老ぱちゅりーの亡骸を収めた。 土をかぶせた後も、その場を凍りついたように動こうとしないぱちゅりー。 地面に頬をすり寄せては大粒の涙をこぼす。 寂しくて、寂しくて、堪らないのだろう。 まりさが声をかけてもぱちゅりーはそこを動こうとしない。 ぱちゅりーの気持ちが分かるからこそ、まりさは無言のまま巣穴へとあんよを向けた。 巣穴の中に集めていた食料を葉っぱでくるんだものをいくつか用意して、帽子の中に器用に入れて行く。 まりさは“れいむ”を倒すべく、あの森に帰ることを決意したのだ。 自分用に残していた芋虫を口の中に入れる。 それを飲み込んだ後、お決まりのセリフも言わずに巣穴の入り口へと這って進む。 「どこにいくの……?」 巣穴を出た瞬間、ぱちゅりーに声をかけられる。 泣き腫らした目でまりさを凝視するぱちゅりー。 「……まりさは、まりさたちのくらしていたもりに、かえるよ」 「……ぱちゅは?」 「ゆ?」 「むきゅぅ……。 ぱちゅのおかあさんにいわれなかったかしら……? ぱちゅのことを、よろしく、って」 「……“れいむ”はつよいよ。 ぱちゅりーをきけんなめにあわせたくないから、いっしょにいくことはできないよ……」 「まりさ」 ぱちゅりーは真剣な眼差しをまりさに向けていた。 まりさも、目を離したりはしない。 ぱちゅりーは老ぱちゅりーの墓を振り返ると、 「……まりさたちのむれでは……みんな、ぱちゅみたいにかなしいおもいをしているんでしょう……?」 「……そうだよ」 「それじゃあ、ゆっくりできないわね」 「……そうだよ」 ぱちゅりーがまりさへと向き直る。 「ぱちゅもいっしょにいくわ」 譲るつもりはないらしい。 「おかあさんがいっていたこと……」 かつてのリーダーを助けてあげられなかったこと。 老ぱちゅりーはずっと後悔し続けていた。 群れから、“れいむ”から、たった一匹逃げ出したことを。 ぱちゅりーはまりさの群れとは何の関係もないはずだ。 それでも、まりさと共に行こうとするのは母の遺志を継ぐためだろう。 老ぱちゅりーは、まりさに“れいむ”と戦うように言った。 まりさなら、それができると。 それがどういうことか。 老ぱちゅりーにとっても、“れいむ”打倒は悲願だったのだ。 「おかあさんがかなえられなかったねがいを……ぱちゅがかなえてあげたいわ」 過去、“れいむ”に挑んだゆっくりたちは例外なく戦いに敗れ、永遠にゆっくりさせられてしまった。 かつてのリーダーまりさも。 親まりさも。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 親子三代にわたる因縁のゆっくりである“れいむ”を討つべく、まりさは群れが暮らす森へとあんよを向ける。 その後ろをぱちゅりーがずりずりとついていく。 程なくしてまりさが流されてきた川へとたどり着いた。 目指すべき場所はこの川の向こうだ。 ぱちゅりーはまりさに川の上流へと向かうように伝えた。 ぱちゅりー曰く、上流に水深の浅い場所があり水面から顔を出した石の上を飛んで渡ることができる場所があるらしい。 二匹は並んで川沿いにあんよを進めた。 普通のぱちゅりー種であればこれほどの距離を進んできた時点で体力を使い果たしていてもおかしくないはずだが、意外なこと に平気そうな顔をしている。 水の流れる音を聞きながら真っ直ぐに進む。 出発してからそれほど時間は経過していないが、二匹はお互いに一言も口を利いていなかった。 ぱちゅりーの前を行くまりさは無言のままひたすら前へ、前へと進んで行く。 「…………」 特有のジトッとした目つきでその後ろ姿を見つめるぱちゅりー。 その表情は少しずつ訝しげなものに変わっていく。 ずりずりとあんよを這わせ続けるまりさ。 仮に今、ぱちゅりーがあんよを止めたとしてそれに気付くだろうか。 まりさは明らかに余裕を失っていた。 ただ一点を見つめて離さない。 ぱちゅりーはまりさの後ろで小さく溜め息をついた。 意を決して声をかける。 「まりさ」 呼ばれたまりさが一瞬だけビクッ、と体を震わせて振り返る。 少し強張った表情。 額にうっすらと浮かぶ汗。 定まらない視点。 「……どうしたの?」 努めて冷静に答えたつもりなのだろうが、その声は上ずっている。 まりさは不思議そうにぱちゅりーの顔を覗きこんでいた。 「むきゅ。 ちょっとだけきゅうけいしましょう?」 一瞬だけ間を置いた後、ぱちゅりーの申し出を承諾するまりさ。 休憩すらも聞き入れないような状態だったとしたらどうしようかと考えていたぱちゅりーが少しだけ表情を緩める。 「ぱちゅりー。 おうちからごはんさんをもってきたよ。 ゆっくりむーしゃむーしゃしようね」 「むきゅきゅ。 ゆっくりりかいしたわ」 声をかけられれば冷静になれるのだろう。 それならば少しはマシというものである。 しかし、やはりナーバスになっているのかキノコを口の中でもぐもぐさせていても、まりさの表情は固まったままだ。 ぱちゅりーが心配そうにそれを見つめる。 それに気付いたまりさが口を開いた。 「どうしたの……?」 「……むきゅう。 まりさ? おちついてきいてちょうだいね?」 「ゆっくりわかったよ」 「まりさ……すこしだけ、あわてていないかしら?」 「……まりさが?」 「むきゅん」 まりさは少し考え込むような仕草を取った。 これで思い当たる節がないと言うなら少し落ち着かせなければならない。 そんな事を考えているぱちゅりーに向けて、まりさは照れ笑いをしてみせた。 「ゆふふ。 そうだね。 もう、かわのむこうがわにわたることしかかんがえていなかったよ」 それからペロリと舌を出す。 思わず口元を緩めるぱちゅりー。 ぱちゅりーにとっては、まりさは年下だ。 種の違いもあって、物事を冷静になって考える力もぱちゅりーよりは遥かに劣って然るべきである。 しかし、このまりさはどうか。 指摘された事を素直に認め、自身を振り返ることができる。 まりさは改めてぱちゅりーに問いかけた。 「ぱちゅりー。 かわのむこうがわについたら、まずは“おしろ”とむれのみんながよくみえるばしょをさがすよ」 「そうね。 ぱちゅはまだ“おしろ”をみたことがないから……。 “れいむ”もそのなかにいるんでしょう?」 「よるはまちがいなく“おしろ”のなかにいるとおもうよ」 「むきゅぅ……」 「ゆ? どうしたの?」 「ぱちゅのかんがえをきいてもらってもいいかしら?」 「もちろんだよ! ゆっくりきかせてね!!」 まりさは嬉しそうにぱちゅりーへ向けて微笑んだ。 強い意志を内に宿していても、無邪気な表情はまだまだあどけない。 それもそうだろう。 成体ゆっくりになってまだ一カ月弱しか経っていないのだ。 それを思えば、二匹がこれから挑もうとしている“れいむ”は圧倒的に長く生きている。 生きている、と言うよりも生き残るだけの力を持っている、という言い方のほうが正しいだろうか。 ぱちゅりーの考えはこうだ。 “れいむ”、“お城”、“兵隊”を一度に相手にしては勝てる見込みがない。 まずはこの三つを分断する必要がある。 現段階で戦力はまりさと、ぱちゅりーの二匹。 “れいむ”はもちろん、“兵隊”を倒すことも難しいだろう。 となれば、まずはなんとしてでも“お城”を制圧する必要がある。 その中に人質として捕らわれている子ゆっくりたちがいるというのなら、なおさらだ。 “れいむ”が作り上げた盾を奪い去ることで、群れのゆっくりたちが反撃できる状況を生み出す。 群れ中のゆっくりたちが総攻撃を仕掛ければ、“兵隊”を倒すことができるだろう。 しかし、“れいむ”は別だ。 これまでの話を総合すると、“れいむ”の戦闘能力は桁外れに高い。 “兵隊”との戦いで疲弊しきった群れのゆっくりたちでは、数で勝っていても“れいむ”を倒すのは難しくなる。 この流れで戦いを挑むとすれば、やはり“れいむ”を直接倒すのはまりさとぱちゅりーの二匹になるだろう。 しかし、確実に“れいむ”を仕留めるための知恵が浮かばない。 まりさはここまでのぱちゅりーの案を聞いて、思わず呆けてしまった。 端的に言えば、まりさはぱちゅりーと二匹でどうやって“れいむ”を倒すかしか考えていなかったのだ。 “れいむ”を取り巻く環境から潰していくことなど、思いつきもしなかった。 ぱちゅりーはゆっくりであり、人間ではない。 人間であれば当たり前のように思いつく作戦ではあっても、ゆっくりがそれを思いつくというのは次元の異なる話だ。 そもそも、まりさが“お城”で捕まっていたとき、子ぱちゅりーと子ありすに何と言っていたか。 “まずは味方を作る”ようなことを言ってはいなかっただろうか。 まりさはそれすらも忘れていた。 無論、その後にまりさを襲った幾多の困難を思えば記憶から消えてしまっていても仕方がないのかも知れなかったのだが。 ぱちゅりーはやはり、森の賢者と称えられた老ぱちゅりーに育てられただけのことはある。 「できれば、かわさんをわたるまえに……“おしろ”をみておきたいのだけれど……それはむずかしそうね……」 「このあたりは、もりにかこまれてるから……“おしろ”はなかなかみえないとおもうよ……」 「むきゅ……こそーりこそーりすすむしかなさそうね……」 「ゆぅ……。 ぱちゅりーにはむずかしそうだね……」 「ど……どぉしてそんなこというのぉぉぉぉ??!!!」 まりさの一言に“むっきゅーー”とふくれっ面になって声を上げるぱちゅりー。 ぱちゅりーは冷静だが不意を突かれると感情が大袈裟に溢れだす。 ある意味、ゆっくりらしいと言えばゆっくりらしいのだが。 この辺りが老ぱちゅりーとぱちゅりーの決定的な違いなのかも知れない。 散々大きな声を出したあと恥ずかしそうに俯くぱちゅりー。 まりさがそれを見て小さく笑った。 小休止を終えた二匹が川の浅瀬にたどり着く。 ぱちゅりーが言うようにここからなら石の上を飛んで向こう岸に渡ることができそうだ。 既に空は薄暗くなりつつある。 一日で移動できる距離はこのくらいが限界だろう。 川の向こうは“れいむ”のテリトリーである。 疲労を溜めた状態でその中に飛び込むのは危険極まりない。 “れいむ”を倒すための決定的な策も見つかっていない状態ではここを越えることはできないのだ。 しかし、故郷の森は近い。 いつまでもこの周辺に留まっていては見回りに来た“兵隊”や捕食種に見つかってしまう可能性もある。 急ごうとすればするほど、目の前に深い霧が立ち込めていくような焦燥感。 それは、まりさもぱちゅりーも同じだった。 迂闊に敵の懐に飛び込むことはできない。 「……むれのゆっくりのふりをして……まぎれこむのはむずかしいわよね……?」 「ゆぅ……。 “れいむ”も“へいたい”もよく、ゆっくりのおうちをあらしにくるよ」 「まりさは……“れいむ”におかおをおぼえられているでしょうしね……」 木の根元を掘って作った即席の巣穴に身をうずめて話し合いを続ける。 二匹がやっと入れる程度の窪みでしかないが、野ざらしで夜を明かすよりは幾分かマシだろう。 明確な解決策を見いだせないまま、二匹は頭上に広がる星空を見上げていた。 ぱちゅりーが呟く。 「まりさ。 しっているかしら? おつきさまはおおきくなったり、ちいさくなったりするのよ」 「どういうこと……?」 「む、むきゅ……ぱちゅもよくはしらないのだけれど……。 ちいさくなったおつきさまは、ぱちゅたちからはみえなくなって しまうのよ」 「ふぅん……。 そういえば、きょうのおつきさまはちいさくて、くらいね。 まんまるなおつきさまのときはすごくあかるく てきれいなのに」 「おつきさまも、まいにち、げんきなわけじゃないのよね……」 「…………」 「むきゅ。 あしたはどうしようかしら……? いつまでもここにいるわけには……」 「ぱちゅりー」 不意にまりさが真剣な顔でぱちゅりーに向き直り呟く。 頬を染めるぱちゅりー。 しどろもどろで言葉を発する。 「な、なにかしら?」 「まりさが“おしろ”からにげだしたとき、“おしろ”のかべのすきまからおつきさまのひかりがはいってきてたんだよ」 「それがどうしたのかしら?」 「ぱちゅりーがいってたみたいに、おつきさまがみえなくなったときなら、“おしろ”のなかはまっくらになるはずだよ!!」 「…………」 「そのときに“おしろ”にしのびこめば……」 「だめよ」 「ゆゆ?」 「しのびこんでどうするの? “れいむ”もねむっているかもしれないけれど、まっくらのなかではたたかうこともできないわ。 もともと、“おしろ”は“れいむ”のおうちなのよ? “おしろ”のなかのことは“れいむ”のほうがくわしいから、こっちが まけてしまうかのうせいのほうがたかいはずよ」 「ゆぅ……」 「……まりさ」 ぱちゅりーが静かな口調で囁くように呟いた。 困ったような表情のまま、まりさが顔をかしげる。 「むれのゆっくりたちと、おはなしができないかしら?」 「ゆ?」
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/592.html
!!注意!! このssのシリーズには 胴付きゆうか、ドスまりさ、HENTAIで、しかも虐殺好きなお兄さんが出ます …どうなるかもう解りますよね? しかも、「お兄さんとゆうか1」には全くゆ虐描写がありません。こんなもんうpしてもいいんだろか? なんかお兄さんが厨臭い性能持ってますが、それでもOKな方以外は読まない方がいいと思われます あと、かなり滅茶苦茶なssですので、 この時点でもう無理という方はすぐさまブラウザバックしてください それでも全然モウマンタイな方が一人でもいることを願ってます 「お兄さんとゆうか1」 この夏、僕は高校の夏季休暇を利用して旅行に出た。勿論、目的はゆっくり狩りだ。 高校に入ってから勉強やら部活やらで全然趣味の時間が取れなかったのでおそらく一週間ぐらいは家に帰れない。 いや、帰らないつもりだ。 場所は都市からかなり離れた所にあるのどかな田園地帯で、近くにはゆっくりが住む山があった。 ドスがいるという話は聞いていないが、なかなか楽しめそうだ。まあ、ドス用の「道具」も一応持っていくのだけれども。 「暑ぃ~…こんな暑いならうちのゆっくりちるの連れて来るんだったなぁ」 ここはかなり交通の便が悪く、途中からはバスを降りて六時間程歩かされる羽目になった。 日の出と同時に出発したつもりが、ここに着く頃にはもう正午頃となっているとは…まあいい。これから一週間はヒャッハーし放題なんだから。 ヒャッハーし放題というが、このままだと、熱中症でぶっ倒れてせっかくの虐殺ウィークがふいになってしまうかもしれない。 とはいえ、日陰となるようなものが一切無い農道では、ただひたすらに歩くしかないのだが。 おまけに、虐殺用の「道具」だけでも10キロ近くあるのに、テントや寝袋、 その他諸々の装備で計20キロの「超」が付くほどの大荷物を運んでいるのだから疲労も凄まじい。 もしこれで一週間分の食料を持って行こうものなら、きっと家を出た時点で圧死もとい、ギブアップしてただろう。 一週間、ゆっくり共を食べて生活する事になりそうだ…別にゆっくり食は嫌いじゃないけど。帰ってくる頃にはきっと体重が2,3キロ増えてそうだ。 「重い…暑い…疲れた…少し休もう、でなきゃやってられん」 目的地にはもう着いたようなものなのだが、予め調べておいた野営地から2,3キロ離れた所で小休止しようと思ったら、 視界が真っ暗になった。別にサイコなカマキリがブラックアウトをしたわけじゃない。 その証拠に、ヒデオの文字が無いじゃないか。 なんて馬鹿な事は置いといて、こんな人通りがまったく無い所でぶっ倒れたら死ぬかもしれない。いや、死ぬな、多分。 ああ眠い…ドス用の道具なんて持ってこなきゃよかったかもな… 「あら、大丈夫?」 甘い香りにやわらかな感触。此処はきっと天国だぁHAHAHAHAh、そんなわけ無い。実際に呼吸をしてるし、腹も減っている。 しかも、今までに何百匹、いや、何千匹ものゆっくりを虐殺したんだ、煉獄はともかく、天国に逝ける筈が無い。 とりあえず、目を開けてみた。 目の前には、深緑の髪の少女(幼女?)がこちらを心配そうに覗き込んでいる。 ああ、これなら天国だと勘違いしてもおかしくないわな。とりあえず、礼を言わなければ。 「もしかして、道で倒れてるところを助けてくれたのかい?」 「ええ、そうよ」と少女。やけに大人びてるなあ。 ロリコンでも、そうでなくても、その笑顔は見るものを魅了するだろうな、なんてどうでもいいことは置いといて、 「ありがとう、熱中症で死ぬなんて末代までの恥になるところだったよ」多分、僕の代で血筋は途絶えるけどね。 「もう動けるかしら?そろそろ足が痺れてきたのよ」 「すまんね、今退くよ」少女の膝から頭を離す。さよなら、MYエデン。 立ち上がって周りを見ると、ここが縁側に接した部屋で、もう夕方になっている事がわかった。 「お、気がついたか。ゆうかがおまえさんを見つけてなかったら今頃どうなってた事か…」 縁側で盆栽の手入れをしていた老人がこっちに振り向く。あの少女はゆうかっていうのか、覚えておこう。 「ありがとうございました」 「いい、いい、礼など言わんでええ」 「あの…僕の荷物知りません?」あれが無いと困る、いろんな意味で。 「これの事かしら?」とゆうか ゆうかが荷物を持って来ようとしたが、流石にあんな重いもの持たせるわけにもいかないので、手伝う事にした。 「おまえさん、ここにはどういった理由で此処に来たんだ?」 「暫くの間キャンプをしようと思って」 一応ゆっくり狩りに来た事は伏せておく。まだまだ、ゆ虐は世間に順応した訳じゃない。この老人が愛で派だったら尚更だ。 「キャンプに行くのに『弓』なんて必要かの、それに飯も無い。解っとるよ」 げ、中身を見られてたとは…今度からは鍵を付けるようにしよう。 「おまえさんも鬼意山なら飼いゆには手を出すなよ。それにしても、若さってものはいいもんだ…」 なんか知らんが感心されてしまった。てか、お爺さん、あんたも鬼意山だったのかよ。 「今日は泊まっていきなさい。また野垂れ死にかけても困るからな」 「何も無いとこだけどゆっくりしていってね」と、ゆうか。 「ゆっくりしていくよ …え?もしかして、君ゆっくりなの?」 今までに、結構沢山ゆっくりを虐殺してきたつもりだけど、今までに見てきた胴付きゆっくりなんてれみりゃかふらん、よくてきめぇ丸ぐらいだったな。 どれも喋って動くラブドール程度にしか考えてなかったけど。 「気付かなかったの?お兄さんって案外鈍いのね」 よく考えたら、緑髪にSな発言、そして下膨れの顔、気付かない方がおかしいな。熱に浮かされてたとはいえ、僕もまだまだ虐殺不足だな。 命を救ってもらった挙句、夕飯をご馳走になって、しかも泊めてもらうなんて、なんか申し訳無い感じがしたけど、 「たまには賑やかなほうがいいし、今時の鬼意山の話を聞いてみたいから」とお爺さんが言ったので、お言葉に甘えさせてもらった。 お爺さんはここで、長年連れ添ってきたお婆さんと農業をしていたのだけど、 子宝に恵まれなかったため、ゆっくりゆうかを飼いはじめたところ、ある日突然胴付きになっていたらしい。 今では、近所(といっても一番近いお宅でも1キロぐらい離れているが、)の皆に可愛がられているとか。 夕食の時にはお爺さんに、 「今時の鬼意山はどんな虐待をしているんだ?」とか、「最近は畑を荒らすゆっくりが増えて困る」だとか 取り留めの無い事を話していたような気がする。なにせゆうかが膝の上に乗っていたんだから話に集中できないのも無理は無いよね?ね? まあ、当の本人は全然気にせず、夕飯のおかずの赤ゆの糠漬けを食べる直前まで虐めまわしていたんだけども。 それにしてもお婆さん特製の赤ゆの糠漬けは旨かったなあ。明日、作り方を教わる事にしよう。 「そういえば、畑がゆっくりに荒らされてるって言ってたっけ。丁度いいし手伝う事にするかな」 自分しかいない客間でそう呟く。 「そうしてくれるとありがたいわ」 突然の返答にかなり驚き、襖のほうへ振り返ってみるとゆうかがいた。流石捕食種、気配を消すのはお手の物って感じだ。 「そ、そうさせてもらうよ。それじゃおやすみ」 「おやすみなさい」 「あ、ちょっと待って」自分からおやすみを言っておいて呼び止めるのも失礼だが、とりあえず聞いておく事にした。 「この辺ってさ、ドスまりさとかっているの?」下調べの時点ではいなかったものの、もしいたら何よりも優先して始末するつもりだ。 「いないわ。聞きたい事はそれだけ?」彼女は少しぶっきらぼうに答えた。 「ああ、それだけだよ。今日は助けてくれてありがとう」 「…………」 無言で出て行ってしまった…嫌われたのかな? 今日はいろんなことがあって疲れた。明日は早そうだしもう寝ることにするか。 あとがき どうも、初投稿です。 こんなところまで読んでくれる読者さんに感謝です! まだssは数えるくらいしか書いた事はありませんが、餡庫の皆さんの期待にそえるように頑張って書いていきたいと思います。 あと、ssについての補足ですが、主人公の鬼意山は今までに虐殺がてら胴付きふらんや、れみりゃ、きめぇ丸をすっきり死させています。 HENTAIといっても差し支えないレベルです。 更に、鬼意山は高校でアーチェリー部に所属していて、その技を虐殺に生かせないかと弓を持ってきています。詳しくはドス対決編で説明するつもりです。 最後になりますが、「ここまで読んだけどまだまだいけるぜ!」という方は是非とも「お兄さんとゆうか2」も読んでみてください
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/4236.html
『お掃除まりちゃ』 2KB いじめ 小ネタ 赤ゆ いつもの小ネタです。ちょっと短いです。 「ぺーりょぺーりょ…ゆぅぅ…くっしゃいのじぇ…なんかきたないのじぇ…」 顔をしかめながら舌を伸ばして、真っ白な床を舐めなる一匹の帽子なしの赤まりさ。 一舐めする事に身を震わせて涙をこぼし、聞かれてもいないのに感想をボソボソと呟く。 この赤まりさは、生まれる寸前で親まりさに無理やり茎からもぎ取られ、最初の食事も済ませぬまま床を舐めろと強く命令され、訳も分からずにそれに従っている。 「ゆっくち…ゆっくち…どーしちぇ…にゃんで、こんなことしなくちゃだめなの…じぇ?おとーしゃ…ゆっひぃ…ゆっくち…ゆっくちしちゃい…」 生まれてすぐの重労働で、そろそろ疲れてきた赤まりさは上目遣いで親まりさの顔色を伺う。 だが親まりさはそんな赤まりさを人睨みすると、お下げで掴んだ小さな帽子を見せびらかすようにゆらゆらと揺らした。 赤まりさは親まりさと自分の帽子を見比べると、唇を噛みながら涙をこぼして小さく唸る。 「ゆっくち…ゆっくち…きちゃない…ゆっく…くっしゃい…ゆっくち…ゆっくち…もうやだ…ひっく…おうちかえりゅ…ゆっくち…ゆっくち…ゆびぇぇ…」 チラチラと親まりさの顔を横目で見つつ、舌を動かして床を舐める赤まりさ。 体は自らの涙と唾液でベトベト。 床に付着した汚れや臭いにまみれてたせいで目も虚ろだ。 それでもなんとか白い床を全て舐め終わると、暗い表情のまま親まりさを見上げる。 「ゆぅ…おとーしゃ…ゆっくちおわったの…じぇ…ゆぐぅ…だから…まりちゃのおぼーちかえしちぇ…」 両目を潤ませながら首をかしげるように体を傾け、わざとらしくブルブルと震えてみせる赤まりさ。 「ふむ、ご苦労。でもあんまり綺麗にはならなかったな…」 「ゆぅぅ…ゆっくち…」 「じゃあな。トイレットまりさ、さよならだ。そびえ立つうんうん帽子にもお別れだ」 だが親まりさは持っていた帽子をお下げで破ると、赤まりさの目の前の水たまりの中に投げ捨てた。 「ゆ…ゆっ?…ゆぅ…?…ゆっ!…ゆんびゃぁぁぁぁ!まりちゃのおぼーち!おしょらにそびえる、くろがねのおぼーち!ゆんやぁぁぁぁぁ?!」 親まりさがそう言うと、赤まりさの周囲に突然水が流れ出す。 水に浮かんだ帽子に向かって、必死に舌を伸ばしていて泣いていた赤まりさは、その流れに乗って水たまりの中に落ちる。 「ゆっぴぃぃぃ!なにこぼべぇぇぇ?!ゆごぼげぼぼぶごぼぉぉ…」 流れはそのまま小さな渦を作ると、赤まりさを巻き込んで吸い込まれるように何処かに消えてしまう。 親まりさは帽子を取ると、赤まりさの入っていた白い床を眺めるような位置に置かれた鉢植えの上に鎮座する、肌色の物体の上に帽子を乗せた。 ぐぶぅ…ぶぶぶ…ぐぶ!…ぶんぶんぐぶぶぅぅ…!! 唸っているのか震えているのか、口を縫い付けられた鉢植えに押し込められたゆっくりは、涙目で帽子をかぶっていた男をを睨みつける。 「そんな怖い顔をするなよ、『おとーしゃん』。お前がこの家の庭に現れなければこんな事にはならなかったんだぞ?まあ、可愛い我が子を見られて『しあわせー!』だろ?なあ、トイレットまりさ君」 男は鉢植えのゆっくりを馬鹿にするかのように語りかけると、和式トイレを後にした。 鉢植えのゆっくりは悔しそうに顔を歪めてブルブルと震えるが、額から生えた茎に実った二匹の実まりさを見上げて悲しそうに涙をこぼすのだった。 完 徒然あき
https://w.atwiki.jp/hutaba_ranking/pages/154.html
・餡子ンペ10夏作品 ・書いたのは麦茶あき ・餡子コンペじゃなくて餡子ンペだったんだねー間違えて恥ずかしいよ お兄さんはペットショップでれいむを買った。 れいむは嬉しそうに「ゆっくりしていってね!!!」と挨拶をした。 お兄さんもれいむに挨拶し、れいむはめでたくお兄さんの飼いゆっくりになった。 しかし、これが悲劇の始まりである。 れいむはいい飼いゆっくりさ 「おにいさん!れいむにおちびちゃんができたよ!!」 「ゆふ~ん♪れいむとまりさのおちびちゃんだよ、おにいさんはまりさをかいゆっくりにしてね!」 ある日お兄さんが家に帰ると飼っていた飼いゆっくりのれいむが妊娠していた。 相手は隣にいる汚いまりさだろう。 一発で野良だということがわかる。 窓は閉まっていたはずなのに開いている。 おそらくれいむが開けたのだろう、器用な奴だ。 れいむの頭には自慢のおちびちゃんとやらが実っていた。 全部で六匹。 植物型妊娠では多いほうである。 六匹の赤ゆっくりは幸せそうに眠っていた。 「おにいさん!まりさをかいゆっくりにしてほしいよ!」 「おねがいだよ!まりさをかいゆっくりにしてね!!」 どうやらこのまりさ飼いゆっくりになりたいがためにれいむとすっきりしたそうだ。 ちなみにれいむはまりさと自分の子供が欲しかったためすっきりーした。 もちろんお兄さんは・・・・ 「駄目」 「「どぼじでえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ????!!」」 当たり前である。 「なんで?!すっきりしたらかいゆっくりになれるんじゃないの??!」 「ゆゆ!!おにいさん!いじわるしないでね!!」 すっきりーしたから飼いゆっくりになれるとはどこまで餡子脳なのだろう。 もちろんそんなバカなことが起こることは一切ない。 後は飼い主の逆鱗に触れたまりさは制裁され、れいむは飼いゆっくりとしての価値を失い捨てられる。 というのが本来の筋書きなのだが・・・ このお兄さん、怒るどころか逆に喜んでいるように見える。 「まりさ、飼いゆっくりにはなれないけどこのれいむと番になることは許してあげるよ」 「「ゆ??!」」 お兄さんの予想外の言葉に戸惑う二匹。 どうやらこのお兄さん、飼いゆっくりになることは駄目と言ったがまりさと番になることは許すと言ったのだ。 れいむはそのことで喜んだが、まりさは飼いゆっくりになれないことに落ち込んでいた。 「なんでまりさはかいゆっくりになっちゃいけないの?!」 「まりさ、世の中にはそのまま人間に潰されるゆっくりだっているんだぞ。 君は運がいい立場にいると考えたほうがいい」 「ゆぅ・・・」 まりさは納得できなかったが、渋々お兄さんの言葉を理解した。 しかしこのお兄さんどういうつもりなのだろう。 「野良としての生活をまた送ってもらう、だがその代わりこちらから飯を食えるだけの食料を提供しよう」 「ゆっ??!いいの!?」 なんとこのお兄さん、まりさが野良のままでいる代わりに食べ物を分け与えようというのだ。 一体なにを考えているのだ? 「じゃあ、れいむもまりさと・・・」 「お前は飼いゆっくりのままだ」 「どぼしてええ??!」 れいむがまりさと共に行こうとしたがお兄さんに止められてしまった。 納得がいかないれいむ。 「なんでなの、おにいさん!!」 「お前はこのまま俺の飼いゆっくりだ。まりさとはいわいる別居生活だな」 「ゆ~・・・」 「別に会えないわけじゃない。別居してもらうだけさ、面会もさせてやる」 れいむはお兄さんの言葉に従った。 まりさとの生活が名残惜しかったが仕方が無かった。 「れいむ・・・・あしたあいにいくよ」 「わかったよ、まりさ」 まりさとれいむは互いに別れを告げそれぞれの家へ帰っていった。 まりさのお帽子には沢山のお菓子が入っていた。 れいむにはわからないことがあった。 何故まりさと一緒に居させてくれないのか。 お兄さんにその疑問をぶつけてもはぐらかすだけだった。 だがお兄さんは「れいむにはまりさとの子供がいるじゃないか」と言った。 そうだ、れいむにはまりさとのおちびちゃんがいた。 嬉しそうに眠っている自分のおちびちゃん。 そんな時お兄さんが「おちびちゃんに早く会いたくないか?」と言ってきた。 れいむ自身おちびちゃんにも会いたかったし、何よりまりさやお兄さんも喜ぶはずだと、 れいむはお兄さんにお願いした。 お兄さんはれいむにオレンジジュースを飲ませた。 これでおちびちゃんが早く生まれるらしい。 そして・・・・ プルプル・・・ ポテッ・・ 「「「「「「ゆっくちしちぇいっちぇね!!!」」」」」」 「ゆっくりしていってね!!!」 茎から子供が落ち無事に産まれた。 赤れいむ 3 赤まりさ 3である。 みな元気そうでゆっくりしていた。 れいむは自分の子供にす~りす~りをし、頭に生えていた茎を子供たちに与えた。 「「「「「「む~ちゃ、む~ちゃ・・ち、ちあわせー!!!」」」」」」 赤ゆっくりたちは初めて食べる茎の味に感激しながら食べていた。 れいむはそのことに喜びながら自分の子供を見つめていた。 だがその時一匹の赤ゆっくりれいむがお兄さんに持ち上げられた。 赤ゆっくりは「おしょらちょんでぇりゅみちゃい!!」なんて騒ぎ、 他の赤ゆっくりたちはそのことで羨ましがっていた。 れいむはきっとお兄さんが自分のおちびちゃんと遊んでくれるのだろうと思っていたが、 お兄さんのした行動はれいむの思考と180度逆だった。 お兄さんは赤ゆっくりを握りしめるような状態にして・・・ 力をそのまま入れた。 ギュウウウウウウウウウ・・・・・ 「ゆぎいいいいいいいいいいい!!!」 「おちびちゃああああああああああああああああああああんん??!!」 突然赤れいむが苦しみ始めた。 お兄さんが握り締めているせいである。 何故そんなことするのかれいむには理解できなかった。 「やめてね!!!いたがってるよ!!」 お兄さんはれいむを無視し、そのまま握り続けた。 ギュウウウウウウウウウうううう・・・・・ 「ちゅ・・・ぶれりゅうう・・・・・・!!」 「くるちい・・・・!!!」 赤れいむは握り締められて体が圧迫されている。 すでに顔は赤くなっており、口からは餡子が出ている。死の兆候だ。 「たしゅ・・・・け・・・!!」 「おにいさああああああああああああああん!!!やめてええええええええええええ!!!」 そして・・・ ブシュウッ!!! 「ゆべえ!!」 赤れいむの口、目、まむまむ、あにゃるから餡子が一斉に出た。 お兄さんは赤れいむだったものをれいむの目の前に捨てた。 れいむは目を開き、目の前で起きたことがわからなかった。 どうしておちびちゃんがしんじゃったの・・・? なんでおにいさんこんなことするの・・・? れいむ・・・わるいこと・・・した?? そんなことを思いお兄さんを見つめていた。 お兄さんはそんなことは知らずに次の赤ゆっくりを持ち上げた。赤まりさである。 「おきゃーしゃんたしゅけちぇええええええええ!!!」 赤まりさの助けの声で我に返ったれいむ。 必死で赤まりさを助けようとしたが高さがありすぎて届かなかった。 「はなしてね!!おちびちゃんをはなしてね!!!」 もちろんお兄さんは無視。 お兄さんは赤まりさを台所へ持っていくとコンロに火をつけた。 れいむはお兄さんが何をするか理解できた。 やめて欲しいと叫んだが無視された。 お兄さんは赤まりさを串に刺し、 ブスッ・・・ 「いじゃいいいいいいいい!!!」 そのままコンロの上へ持っていった。 「あじゅいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!いじゃいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」 「おちびちゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん????!!」 直火焼きのようである。 お兄さんは串を回し始め赤まりさの全身を焼き始めた。 赤まりさは「あつい!!」「やめて」と叫んでいたが全身が黒くこげかけた頃から段々と声が小さくなり、 「ゆ・・・・・ぇ・・・いじゃ・・・・・ぃ」 「・・・・・」 「もっちょ・・・・・ゅ・・・・・」 永遠にゆっくりした。 れいむにはわけがわからなかった。 優しいお兄さんがどうしてこんなことするのか全然理解できなかった。 れいむはお兄さんを非難しようとしたがれいむは見てしまった。 お兄さんの顔が笑っている・・・・ 何故笑っているんだ?? おちびちゃんを殺して何故?? れいむはわからなかった。 「どぼじてぇ・・・??」 「教えてあげようか?れいむ・・・・」 その声はいつもと同じ優しいお兄さんの声だった。 「なんで赤ちゃんを殺しちゃったか・・・・・それはね・・・俺がそうしたかったからさ」 れいむは驚愕した。 お兄さんがそんなこと言うなんて!!! 酷い、酷過ぎる!! 「別に侮蔑してもいいよ、やりたくてやってるわけだし」 お兄さんは赤ゆっくり全員を持ち上げれいむが届かない位置に移動させた。 れいむは助けようとしたが届かなかった。 赤ゆっくりたちはお兄さんに怯えていて一箇所に固まっている。 一匹はしーしーを漏らしてしまったようだ。 お兄さんは赤れいむを摘み、赤れいむを見て何か考えているようだ。 「さて、どうしようかな・・・・そうだ」 何か思いついたようだ。 お兄さんは引き出しの中から爪楊枝を出した。 「典型的な虐待だが・・・・エイッ」 ブスッ 「いじゃああああああいいいいい!!!!」 ブスッ ブスッ ブスッ ブスッ ブスッ 「いじゃいいい!!いじゃいいよ!!やめちぇえええええええ!!!」 「これだけ刺しているのに元気な奴だ」 お兄さんは赤れいむに爪楊枝を刺しまくり赤れいむを虐待した。 ある程度虐めたらオレンジジュースをかけてやり傷を治す。 そしてそれの繰り返し。 何度か刺していたら赤れいむは「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ」と痙攣し、 「もっちょゆっくちしちゃかっちゃ・・・」と言って死んでしまった。 「おち・・・び・・」 れいむはもう放心状態になりかけている。 お兄さんは次に赤まりさを選んだ。 引き出しから霧吹き器を出したお兄さんは水を入れ赤まりさにかけてやった。 プシュッ! 「ゆ!!きょれおみじゅしゃんじゃ!!」 霧吹き器の霧をかけられた赤まりさは微妙に濡れた。 お兄さんは何度も何度もかけてやり赤まりさに霧を浴びせた。 すると大量に水分を吸ってしまった赤まりさの体が溶け始めて原型を保てなくさせた。 「ゆぎいぃぃぃ!!!とけちゃうううう!!!」 お兄さんはそれでもかけてやりその様子を見て嬉しそうだった。 赤まりさはもうほとんど溶けてしまっていた。 「ゆぅ・・・・ぎぃ・・・・・・・」 完全に溶けきり物言わぬ何かになってしまった。 「お前はこっちな」 お兄さんは最後の赤まりさを霧吹き器の中に入れた。 赤まりさはなんとか抜け出そうとしたが出れずに落ちてしまった。 そのまま水が溜まっているところに落ちるかと思ったが帽子が下に落ちたのでなんとかその上に乗ることができた。 赤まりさは自分の安全を確認するとお兄さんに「はやくここからだせ」と言ってきた。 だがこの状況はお兄さんにとっては好都合だった。 お兄さんは赤れいむを電子レンジの中に入れた。 レンジを操作し、作動させた。 ゆっくりが電子レンジの中に入って温めたらどうなるか・・・・ 答えは簡単だ。 「ゆ?なんだきゃあったきゃくなっちゃよ!」 それも今のうち・・・ 「あちゅいよ!!きょきょきゃらだちてね!!」 「あちゅいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!れいみゅちんじゃうううううううううう!!!」 「やじゃあああ!!!ゆぎいぃ??!ゆがが・・・!!!」 パンッ!!!・・・・ 赤れいむは電子レンジの高温に耐え切れず破裂してしまった。 中に餡子が飛び散りお兄さんは「しまった・・・」と後悔した。 赤まりさの方にも異変は起きた。 自分を支えてくれた帽子が溶けているのだ。 赤まりさは助けてくれと言ってきたが、 お兄さんは無視してどうなるか期待の目でまりさを見ていた。 赤まりさの帽子に水が入ってきてついにやばくなった。 赤まりさは「助けて!」「いい子になりますから!」と懇願してきた。 だがお兄さんはもちろん無視した。 帽子に水が溜まり赤まりさは水の中に落ちてしまった。 赤まりさは生きようと水の中で泳ぐが、そのせいで体の方が崩れてしまった。 「ぼか・・・・がぼ・!・・が・・・」 何が言いたかったかわからないまま赤まりさは溺れて溶けてしまった。 れいむは呆然としていた。 するとお兄さんが注射器のようなものを持ってきてれいむのまむまむに挿し込んだ。 れいむは自分のまむまむに異物が入ってきたことに嫌がっていたが、 お兄さんはまむまむに何かを注入した。 すると・・・・・ ニョキニョキ・・・・・ れいむの頭に茎が生えた。 「なんでれいむがにんしんしてるのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお???!!」 お兄さんが入れたものはゆっくりの精子餡だ。 当然そんなものを入れればゆっくりは妊娠してしまう。 お兄さんは先ほどのオレンジジュースをれいむにかけてやった。 すると茎についている実ゆっくりは次第に成長し始めた。 「成長剤入りと栄養剤たっぷりのオレンジジュースが気に入ったようだな」 実はこのオレンジジュースには実ゆっくり用の成長剤と栄養剤が混ざっているのだ。 そんなものを妊娠しているゆっくりに飲ませればどうなるかは一目瞭然。 実ゆっくりはすごい速さで成長し、 実ゆっくりは赤ゆっくりとなり生れ落ちた。 「「「「ゆっくちしちぇいっちぇね!!!」」」」 赤ゆっくりが元気に挨拶するが親であるれいむから返事が来ない。 れいむはハッと気づき赤ゆっくりたちに逃げるよう伝えた。 「おちびちゃんたち!!いますぐにげてね!!」 「「「「にゃんで??」」」」 赤ゆっくりにはわけがわからなかった。 何で自分たちが生まれたのに母親は挨拶をしてくれないんだろうと、 赤ゆっくりたちは怒り始めた。 「「「「ぷきゅー!!」」」」 「そんなことしてるばあいじゃないでしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお???!!」 れいむはわからなかった。 何で自分の言うことを聞いてくれないのか。 そんなあほなことしているうちにお兄さんが赤ゆっくりたちに近づいて・・・・ シュッ・・・・ 「「「「ゆっ・・・??!」」」」 最初赤ゆっくりたちは何をされたかわからなかった。 だが突然自分たちの体に激痛が走った。 「いじゃいいいいいいいいいいいいい!!!」 「くるちいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」 「あっがががががg!!!」 「ゆびゃああああああああああああああ??!!」 赤ゆっくりたちは激痛でのた打ち回った。 お兄さんは赤ゆっくりたちに先ほどの霧吹き器をかけたのだ。 といっても中身が違った。 中に入っていたのは水で少々薄めただけの激辛エキスだ。 薄めているとはいえそんなものを赤ゆっくりにかければどうなるかはさっきの結果である。 お兄さんは赤ゆっくりたちにもう一度かけてやり反応を見た。 「いじゃ・・・・・・・・・ぃ」 「ゅ・・・・・・・ゅ・・・・・」 赤ゆっくりたちは激痛で動けなかった。 動かせるものはもう自分たちの思考だけだ。 なんでこんな目にあっているのかと赤ゆっくりたちは必死に考えた。 すると赤ゆっくりたちはれいむの方を見て・・・・ 「「「「ゆ・・・くち・・させて・・くれない・・おやは・・・・・・・・・ちね!!!!」」」」 そう言った次の瞬間お兄さんに霧吹き器をかけられ餡子を吐いて死んでしまった。 れいむは自分の目の前で起きていることに全く理解ができなかった。 お兄さんはそんな困っているれいむにこう答えてくれた。 「なんで赤ゆっくりにこんなことするか聞きたいかい?」 「なんで・・・???」 「それはね・・・・・・ 俺は赤ゆっくりが死んでいくのがみたいからだよ」 「・・・・・・・・・ゆえ??」 れいむはお兄さんが何を言ったか理解できなかった。 「俺はさぁ・・・こういう小さい生き物が死んでいくのを見るのが大好きなのさ。 おかしいだろ?ガキの頃はそうやって遊んでいたもんな・・・・・・・ でもさ、大人になっていくにつれそのことに罪悪感が芽生えてきたんだよ・・・何でこんなことしてるのかって・・・ でも俺はそう考えるのはやめたんだ。 考えるのやめたらなんかすっきりしたよ、むしろやっていく内に楽しくなってきてね・・・」 お兄さんはベラベラとれいむに話した。 その内容は最早狂気だ。 「一番楽しかったのはゆっくりだな、特に赤ゆ。 あいつら虐待していくとすごくすっきりできた。」 れいむはもうお兄さんが何を言っているのかわからない・・・ 「だかられいむを飼ったんだよ」 れいむはその言葉に耳を疑った。 そんな理由で自分を飼ったのか?! 「なんでれいむなの??!」 「その方が都合がよかったからね、赤ゆっくりを産んでくれるのに」 「??!」 「れいむってのはさ、他のゆっくりに比べて子供を産む数が多いんだよ、だからさ。 俺がより多くの赤ゆっくりを潰せるために沢山赤ゆを産んでくれるお前を飼ったのさ。 あとは妊娠なんだけど、どうしようかと迷っていたうちにまさかれいむから妊娠してくれるなんて思わなかったよ。 あのまりさにお菓子を与えたのもお礼のつもりさ、野良は金が掛からないしね」 れいむは自分がしたことに後悔した。 きっとお兄さんはまりさと勝手にすっきりーしたから怒っているんだと思っていた。 「ごべんなさいいい!!!もうまりさとあいません!!おちびちゃんはいりません!!!」 「何で謝るのさ、むしろ俺は大歓迎だよ」 れいむは必死に謝ったがお兄さんには伝わらなかった。 それどころかどんどんすっきりして子供を産んで欲しいとまで言ってきた。 「ごべんなさい!!!ごべんなさい!!!」 「だから謝る必要なんてないよれいむ。 これからもおちびちゃんを作ってね!」 「やだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」 れいむはもう三回もすっきりーさせられた。 産まれた赤ゆっくりは当然のごとくお兄さんに殺されてた。 気がつけば次の日の朝になっていた。 お兄さんが「まりさが来たぞ」と言ってきた。 れいむは急いでまりさの元に駆け寄った。 自分の愛しのまりさ。 番のまりさ。 会いたかった。 れいむは相変わらず汚いまりさに挨拶し、す~りす~りをした。 そしてお兄さんが自分たちのおちびちゃんにやったことを全て話した。 だがまりさかられいむの予想もつかない返答をされた。 「しってるよ」 「ゆうう!!?ど、どいうことなの??!」 なんでまりさがそのことを知っているのかわからなかった。 「さっきおにいさんがおしえてくれたんだよ。まりさたちのおちびちゃんはころしちゃったって」 「だったらまりさ!れいむをたすけ・・「やだよ」ゆうぅぅぅぅ!!!??」 まりさがれいむを拒絶した。 なんで拒絶したかれいむには理解できなかった。 「まりさはれいむとのおちびちゃんをつくることであまあまをもらえるんだよ、そんなことできるわけないじゃない」 「ま、まりさああああああああああ!!!おちびちゃんがかわいそうじゃないのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!??」 「わるいけど、まりさがいきるためにひつようなぎせいだよ。そもそもれいむとすっきりーしたのもまりさがかいゆっくりになりたかったからだよ」 「れ、れいむをだましたの・・・?うらぎったの・・・??」 「さいしょからそのつもりだったけど、もうそのひつようはないよ。だってまりさはあまあまもらえてゆっくりできたから・・・ れいむにはすごくかんしゃしてるんだ。あとおにいさんにもね」 「こ、このゲスがああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」 「かまわないよ、のらのたいはんがみんなゲスだから・・」 れいむはまりさの裏切りに怒りを隠せなかった。 自分が愛した相手はこんな奴だったのかとまりさに怒りをぶつけた。 そんなことしていたらお兄さんがやってきた。 「こらこら、喧嘩は駄目だろ?・・・じゃあまりさ、頼むよ」 「・・・・・・わ、わかったよ」 まりさは少し怯えながらお兄さんの指示に従った。 まりさはれいむの後ろに行き、す~りす~りをし始めた。 「ゆ??!まりさなにしてるの?!」 「・・・・・・」 まりさは黙ったままれいむとす~りす~りし続けた。 やがて二匹とも顔が赤くなり激しく擦り合わせた。 交尾である。 「ゆぅぅぅぅっぅうううううううううう!!!すっきりーしちゃうううううううううううううううううう!!!」 「・・・ッ!!・・・・!」 二匹が絶頂を迎え・・・ 「「すっきりー!!」」 すっきりーした。 れいむの頭に茎が伸び始めた。妊娠したのである。 「ありがとう、まりさ」 「・・・・・・・ゆぅ・・」 「今度はお友達も連れてくるといい、いつまでも同じ種類じゃつまらないからね。 みんなの分のお菓子もあげるから呼んできてくれたまえ」 「・・・・・わかったよ」 まりさはお兄さんにお菓子をもらうと帰っていった。 すっきりーされたれいむは頭に生えた茎を見て絶望した。 また自分の子供にあんなことするのかと・・・ 「さて、始めよう」 「!!!」 お兄さんがオレンジジュースを持ちながられいむに近づく。 れいむはお兄さんに逃げるように後ずさるが壁にぶつかってしまった。 上を見ると、 お兄さんは笑っている。 その笑顔は穢れが無い笑顔に見えた。 「赤ゆ虐待♪」 「ゆわあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 あれかられいむは何度もすっきりーさせられ妊娠し、目の前で赤ゆっくりを潰された。 すっきりーさせられる相手は野良まりさとその仲間だ。 お兄さんの家に上がらせてもらいれいむとすっきりーしてあまあまを貰っている。 今その最中だ。 「いやだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!ずっきりいいじだぐないいいいいいいいいいいいいいい!!!」 「んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!すっきりいいいいいいいいいいいい!!!」 「わかるよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!きもちいいんだねえええええええええええええええええ!!!」 「ビックぺにすううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!」 またれいむの頭に茎が生え始めた。 今度のは尋常じゃないほどの茎が生えてきた。 それもそうだ、3匹相手にすっきりーさせられたのだ。 お兄さんはれいむにオレンジジュースを浴びさせ実ゆっくりを成長させた。 その動作を続けながらまりさたちにお菓子を大量を与えていた。 「今日の分だ。仲良く食べろよ」 「「「「ゆっくりりかいしたよ・・・・」」」」 まりさとちぇんは帽子にお菓子を入れ仲間と共に帰っていった。 帰り際赤ゆっくりたちの悲鳴が聞こえたという。 「まりさ・・・・これでいいのよね」 「うん・・・れいむにはわるいけど・・・しかたないよ」 まりさたちはお兄さんのやっていることに怯えていたのだ。 自分の飼いゆっくりにあそこまで酷いことをやってきた人間は見たことが無かったからだ。 しかもその目の前で赤ゆっくりを虐待している。 そんな凶行にまりさたちはもう野良から飼いゆっくりになろうとは考えなくなった。 そんなことされる位ならまだ野良の暮らしの方がマシだからだ。 まりさたちは明日もそんなことを繰り返す・・・・ れいむは目の前で赤ゆっくりたちが殺されるのを見守るしかなかった。 今日大量に産まれた赤ゆっくりたちはお兄さんの手で殺し合い、共食い、すっきりをさせられた。 れいむの前には大量の飾りが積まされていた。 お兄さんはその様子を見て嬉しそうだった。 「もうやめてくださいいいいい!!れいむがわるかったです!!!!」 「悪いことなんてやってないじゃないか、だってお前は・・・ 俺をゆっくりさせてくれる素直でいい飼いゆっくりさ」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 れいむは子供が産めなくなるまでお兄さんの飼いゆっくりでいたという・・・・・・・・ おしまい
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3500.html
『まりさ一家の転落ゆん生』 35KB いじめ 虐待 制裁 観察 自業自得 番い 群れ 野良ゆ 赤ゆ 子ゆ 現代 13作目 照明が消える。 ざわついていた場内がしんと静かになった。 真っ白なスクリーンに、パッと色鮮やかな風景が映し出された。 一家の大黒柱、親まりさ。 子供たちの憧れ、親ありす。 そんな二人に溺愛されて育った子まりさ。 生まれたばかりの赤ありすと赤まりさ。 「ゆっ、ゆっ、ゆ~♪」 「ゆっくち、ゆっくちっ」 「ときゃいはっ、ときゃいはっ」 「ゆっくりしていってね! ゆっくりしていってね!」 「ゆふふ、おちびちゃんたちはとってもとかいはね!」 ゆっくりできる山の中で、とてもゆっくりしている家族。 彼らはこれから、もっともっとゆっくりしているゆっくりプレイスに向かうのだった。 「さあ、おちびちゃんたち! これからにんげんさんの『まち』にむかうよ!」 「とってもとかいはで、とってもゆっくりできるプレイスなのよ!」 「ゆわわああい! まりさ、ゆっくりするよっ!」 「ありちゅも! ありちゅもときゃいはっ!」 「まりちゃも、ゆっくちすりゅ!」 朗らかに笑い合うゆっくりたちを、濁った瞳で見つめながら。 そのゆっくりたちは、静かに涙を零した。 「まりさ一家の転落ゆん生」 マンネリあき 事の発端は、まりさとありすがうっかりすっきりをしてしまったことだった。 無事越冬が完了して春になり、気が抜けたせいだろうか。 群れで厳禁とされていたすっきりをした挙げ句、おちびちゃんをにんっしんしてしまったのだ。 「まりさ、ありす。ついっほうされるほうがいい? それともおちびちゃんをえいえんにゆっくりさせる?」 「だめえええええ! えいえんにゆっくりさせるのはだめええええ! おちびちゃんはっ! おちびちゃんはとってもとってもとってもとってもとおおおおおおおおおっても、とかいはあああなのよおおおおおおおおおおおおお!」 親ありすがじたばたと暴れ狂った。 「おさ……。 まりさきめたよ、にんげんさんのゆっくりプレイスにひっこすよ!」 「そ。つまり『ついっほう』をえらぶのね。 ……そういうことなら、にんげんさんのゆっくりプレイスまであんないする ゆっくりをつれてくるわ」 「ゆゆ!? そんなゆっくりがいるの!?」 まりさは初耳だった。 人間さんのゆっくりプレイスへ、わざわざ案内してくれるゆっくりがいるだなんて! 「すのなかのしょくりょうを、いまのうちにたべておきなさい。 おちびちゃんのためにもね」 「ゆっくりりかいしたよ! おさ! ありがとお!」 「ありがとう、ぱちゅりー! とってもとかいはだわ!」 「ありがとう、おさ!」 「ときゃいは! ときゃいは!」 「ゆっくちときゃいは!」 家族を見送ったあと、ぱちゅりーはやれやれと溜息をついた。 「にんげんさんのゆっくりプレイス……ね。 はたして、それがゆっくりにとってのゆっくりプレイスなのかしら?」 だが、どんなに忠告しても無駄だろう。 元より、忠告する義理もない。彼らは本能に負けて、群れの掟を破った。 そして、おちびちゃんを殺すよりもゆっくりする方を選んだ。 その時点で、長ぱちゅりーにとっては群れの障害以外の何者でもないのだ。 数日後。 ぱちゅりーに指定された場所で、 ゆっくりした表情のまりさ一家は案内ゆっくりを待っていた。 少し前に出産された赤ゆ二匹は、既にまりさの帽子の中で「ゆぴー、ゆぴー」とお休み中だ。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆ、ゆ……れいむ?」 まりさ一家は、現れたゆっくりれいむに戸惑いを見せた。 (あんまりゆっくりしてないれいむだよ……) そのれいむは、おめめが変なゆっくりだった。 何か銀色でキラキラして、デコボコしていた。 「れいむ、へんなおめめでごめんね! でもだいじょうぶだよ! ちゃんとあんないするからね!」 「ゆ、ゆっくり……していってね」 まりさが愛想笑いを浮かべていると、ありすが大声で囁いた。 「まりさ……このれいむ、とかいはじゃないわ……! ゆっくりできないわ!」 子まりさも当然それに同調する。 「ゆっくりしてないれいむだね! せいっさいしてもいい?」 「ゆゆ、ゆっくりおちついてね。れいむはたしかにゆっくりしてないれいむだけど。 こんなれいむでもいきているんだよっ。 おかざりもきれいだし、おめめがちょっとへんなくらい、がまんしてあげようね!」 傲慢とも言える言葉だが、それでもまりさは譲歩したつもりらしい。 「……しかたないわね」 「ゆっくりりかいしたよ……」 れいむへ蔑んだ表情を隠そうともせず、ありすと子まりさは頷いた。 「おはなしはおわった? それじゃ、れいむのすぃーにのせてあげるね!」 ずるずると、れいむが巨大なすぃーをひっぱってきた。 何と、屋根までついた豪華なすぃーだ。 「ゆわあ……このすぃー、とってもゆっくりしているね!」 「ふん、このすぃーだけはとってもとかいはね」 「まりさ、このすぃーほしいよ! おとうさん、これほしい! れいむにあげるようにいってね!」 「ゆふふ。このすぃーは、れいむにしかうんってんできないんだよ! ゆっくりおちびちゃんもりかいしてね!」 その言葉にカチンときたらしい子まりさが、威嚇のぷくーをしながら叫んだ。 「まりさはおまえのおちびちゃんなんかじゃないよ! れいむは、まりさのことをまりささまってよぶんだよ! ぷっくぅぅぅぅ!」 ……が、れいむは子まりさのぷくーを見ることすらなく、 「それじゃゆっくりしゅっぱつしんこうだよっ」 といって、すぃーを走らせ始めていた。 「ぷくー! ぷっくぅぅぅぅぅ……は、はやいいいいいいいいいいいいい!?」 すぃーは恐るべき速度で発進した。 周囲をけっかいさんで守られているとはいえ、さすがにこのスピードは空前絶後の体験だった。 「きょ、きょわいよおおおおおおおおおおおおおおお!」 ぷしゃー! と勢いよくおそろしーしーを垂れ流す子まりさ。 「たちゅけてえええええええええええええええええ!」 「ゆっくち! ゆっくちいいいいいいいいいいいい!」 同じくおそろしーしーを垂れ流す赤ありすと赤まりさ。 「とかいはじゃないわあああああああああああああ!」 「とめてえええええええええええええええええええ!」 ……そして、おそろしーしーを噴射する親ありすと親まりさ。 結局、全員がおそろしーしーを垂れ流しながらすぃーを走らせること十五分。 「「「「「ゆわあああ……」」」」」 群れが言うところの「ぎんいろのもり」――人間たちのゆっくりプレイスに辿り着いたのだった。 五匹はすぃーを下ろされ、想像以上に高いビルにぽかーんと口を開いている。 「とっても……とかいは、だわ……」 「そうだね……とかいは、だよ……」 親まりさと親ありすは、うっとりとその雑居ビルを見上げていた。 「ゆぅ~……これならまりさのゆっくりぷれいすにしてあげてもいいよ」 「「ゆっくちちたーい!」」 そんな家族を、銀目のれいむはニコニコ見ながら思い出したように言った。 「そうそう。ひとつだけ、きをつけてね。 このにんげんさんのゆっくりプレイスは、ゆっくりしているゆっくりたちに、 ときどき『とっぷうさん』をふかせることがあるよ!」 「とっぷうさん?」 「つよいつよいかぜさんだね! それがふいたら、そこからたちさったほうがいいよ! だいじょうぶだよね! ゆっくりしているゆっくりだってしょうこなんだから、とっぷうさんがふくのは、 むしろこうっえいだとおもってね!」 「「「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」」」 あまりよく分からないが、とりあえずゆっくりしているゆっくりという褒め言葉に 気をよくしたまりさ一家は、声を揃えてそう言った。 「それじゃあ、まずはごきんじょさんをあんないしてあげるね!」 銀目れいむはそう言って、彼らを先導するように歩き出した。 時折こちらを振り返って、銀目でじっと家族を見つめている。 「ゆふふ。とてもゆっくりした一家だね! このゆっくりプレイスでもゆっくりできるように、れいむいのってるよ!」 「ゆうん。へんなおめめのわりにはおめがたかいわね!」 親ありすがくねくねしていた。 親まりさは赤ありすと赤まりさが帽子のつばで飛び跳ねるので、少しハラハラしている。 「おちびちゃん、おねがいだからそこでとばないでねっ! おっこちたらいたいいたいだよ!」 「「ゆっくち、ゆっくち~♪」」 子まりさは、初めて見る人間さんのゆっくりプレイスに目を輝かせて、きょろきょろしている。 そのせいで、ついつい遅れがちだ。 「ゆ! にんげんさん! ゆっくりしていっ――」 通りすがった人間に挨拶するが、その挨拶を聞くことすらなく、人間たちは去っていく。 最初の方こそ、聞こえなかったのだろうと思っていた子まりさも、次第に不満を覚え始めていた。 「おとうさん、にんげんさんがちっともゆっくりしてくれないよ!」 その言葉に親まりさが振り返り、怪訝そうに人間を見る。 ちなみに、彼らは銀目れいむの誘導により歩道の端っこを歩いていたが、 次第に真ん中にずれ始めていた。 「ゆゆ? ほんとうだ、にんげんさん! おちびちゃんのあいさつにちゃんとこたえてね!」 「そうよ、このいなかもの! あいさつにこたえないなんて、とかいはじゃないげすのすることよ!」 「「げーちゅ! げーちゅ!」」 「うるせえ、どけ!」 「いなかも――――――ぽぎゅ!?」 歩道の真ん中でぎゃあぎゃあ騒いでいたのが気にくわなかったのだろう。 一人の人間が、ありすを軽く蹴り飛ばした。 「「「「お、おかあしゃあああああああああああああん!?」」」」 「ほ、ぐっ……!? ぐぼ!?」 「……」 「にんげんさん、ごめんなさいね!」 銀目れいむがそう言うと、その人間が『ああ』と納得して鼻で笑った。 「お前等、あんまり歩道の真ん中を歩くんじゃねえぞ。いいな?」 「ありす! ありす! ありすうううう!」 「おかああしゃああん!」 「と……きゃ……いはっ……!」 親まりさと子供たちは重傷でもないのに取りすがって泣きじゃくり、親ありすは重傷でもないのにぴくぴくと痙攣していた。 「……聞いちゃいねえ」 呆れた様子で、人間は立ち去った。 「さいなんだったね! でもだいじょうぶ! あのにんげんさんは、ちょっとありすがゆっくりしすぎていたことにいらいらっ、てしたんだね!」 「ゆう……ゆっくりしているゆっくりをみれば、ゆっくりできるはずなのに……」 「そうだね! まあでも、どうでもいいことだからさきにいこう! もうちょっといけば、あまあまがあるよ!」 「「「「「あまあまはゆっくりできるね!」」」」」 あまあまという言葉に、あっさりと痛みを忘れてまりさ一家は飛び跳ねる。 やがて銀目れいむはビルとビルの隙間に入り込み、まりさ一家もそれに続いた。 「ゆ。きんじょのめーりんとまりさだね、ゆっくりあいさつしようね!」 銀目れいむがそう言うと、まりさ一家は一斉に蔑んだ表情を浮かべた。 「めーりん? めーりんって、あのゆっくりしてないめーりん?」 「なにかのまちがいじゃないの? こんなゆっくりプレイスにめーりんがいるの?」 「めーりんってゆっくりしてないげしゅ、なんだよね?」 「めーりんゆっくちちてない! ぷひゅひゅひゅ!」 ダンボールのおうちから、のそのそとめーりんとまりさが出てきた。 「ゆう……うるさいんだぜ。せっかくのおひるねたいむをじゃまするんじゃ……ゆぅ!?」 街のまりさが銀目れいむを見て、ぎょっと立ちすくんだ。 「ゆっくりしていってね! れいむはぎんめのれいむだよ!」 銀目れいむがそう言って挨拶すると、街のまりさははああああと溜息をついた。 「じゃおう……」 街のめーりんも何だか元気なさげに街のまりさにすり寄る。 「ゆっくりしているゆっくりのしょうかいなのぜ?」 「そう! このまりさたちはとってもゆっくりしているんだよ!」 「ふうん……ゆっくりしていってね」 街まりさが睨むようにまりさ一家を見る。 まりさ一家は、這い出てきたまりさを見て――――ゲラゲラと笑い出していた。 「ゆぷぷぷぷ! まりさ! まりさ! あのまりさのおぼうし……ぷぷぷぷ!」 「しーっ。わらっちゃわるいよありす! でもあのおぼうし……ぷ、ぷぷ……ゆぷぷぷぷ! ぜんっぜん……ゆっくりしてないね……ぷぷぷぷ!」 親ありすと親まりさは、街まりさのツギハギだらけの帽子を見て嗤っていたのだ。 全身、どことなく薄汚れている様は、薄汚いドブネズミを思わせた。 おさげも少し千切れて短くなってしまっている。 「おまけにめーりんとつがいなんてっ……ゆぷぷぷ! ありすだったらしにたくなるわあ!」 「げらげらげら! いいすぎだよありす! まりさだったら、れみりゃにあんこすわれるほうがいいけどね……ゆぷぷぷぷ!」 さて、こんな「ゆっくりしていない」ゆっくりを見て、子まりさたちは何を考えるであろうか? 答えは簡単。親の真似事である。 「ぷぷぷ! これじゃ、まりさのどれいになるていどしかつかいみちがないよ! でもまりさかんっだいだから、どれいにもやさしくするよ!」 子まりさはそう言って、自分の数倍以上の体積を持つ街まりさに命令した。 「おい、どぶまりさ! あまあまもってきてね! すぐだよ! すぐ!」 親まりさと親ありすも、その暴挙を止めることがない。 何故なら、彼らは「ゆっくり」という単一の価値観で暮らしてきたからだ。 「ゆっくりしていないゆっくりは、何をさておいてもゆっくりしているゆっくりに奉仕しなければならない」 「ゆっくりしていないゆっくりは、ゆっくりしているゆっくりよりも弱っちい(ゆっくりしていないから)」 そんなことを、本気で当たり前のように考えている。 いや、実際にある程度の群れではそれは正解なのだ。 「ゆっくりしてないゆっくり」より「ゆっくりしているゆっくり」の方が数が多い以上、 数の暴力で圧殺できる。 無論、賢い長がいて幹部たちの統率がきちんとされていた場合は異なるが……。 いずれにせよ、子まりさの発言はそこそこ正当性があったのだ。 ただし子まりさの理論が通じるのは、野生の群れだけである。 「そうだね、おちびちゃんのいうとおりだね。まりさたちはおなかぺーこぺこなんだよ! だから、ごはんさんをまりさたちにちょうだいね!」 親まりさがそう言うと、街まりさはあっさりと答えた。 「は? いやだぜ」 「…………」 「…………」 「…………」 「どぼじでごどわるのおおおおおおおおおおおおおおおおお!? まりさはどぶまりさでしょおお!? ゆっくりしてないでしょおお!? ゆっくりしてないんだから、ゆっくりしているまりさたちにごはんをさしだすべきでしょおおお!」 「なんってとかいはじゃないのおおおお! このいなかものおおお! ありすたちにごほうしっできることを、こうっえいに おもわないのおおおおおおおおお!?」 「このくそまりさああああ! このまりささまがせいっさいしてあげるからね! ないてもしらないよ! いたいいたいしてもしらないからね!」 ぽすん、ぽすん、と体当たりしてくる子まりさを絶対零度の視線で見つめた街まりさは、 短いおさげでぱん、と子まりさをはたいた。 「ゆびいい!? いじゃい! いじゃいいいいいいい! おとうしゃあああん! どぶまりしゃがあああ! どぶまりしゃがぶっだああああああ!」 「そっちがぶつかってきたんだぜ?」 「うるざあああああい! どぶのくせにっ! ゆっくりしてないぐぜにいいいいい!」 「おちびちゃああああん! よくもおちびちゃんをおおおおおおおおおおお! ゆるさないよおおおお! ぷっくうううううううううううううううううう!」 親まりさがいきり立ってぷくーっと膨れ上がった。 街まりさと街めーりんが、ちらりと銀目れいむを見た。 「……」 銀目れいむが無言で頷いたのを見て、まずめーりんが仕掛けた。 「じゃお!」 「ぷっくうううう…………ぼべ!?」 親まりさが思い切り吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。 ……言うまでもないが、めーりんの皮の厚さは他ゆっくりとは一線を画している。 野生で厚い皮を持つ親まりさといえども、めーりんのポテンシャルには及ばないのだ。 「いだあああい! いだい! いだいいいいいい!」 何より。彼らは今まで、戦うことなどほとんど知らずに生きてきた野生ゆっくりである。 れみりゃが生息していたり、みょんが戦う術を教えていればまた違ったかもしれないが……。 「まりさああああ! まりさあああああ!」 「おとおしゃあああああん! まりさのつよくてたくましくてりっぱでゆっくりしているおとうしゃああああん!」 「じゃお……」 「めーりん。そんなやつに、ごはんさんをあたえることないんだぜ」 「じゃおう……」 「れいむからもおねがいするよ!」 「ゆ? ……なら、いいんだぜ。めーりん! ほぞんしょくと、しょうみきげんさんがきけんなものをくれてやるんだぜ!」 街まりさと街めーりんが、がさごそとダンボールの中から幾許かの食料を取りだした。 「ゆ……あま……あま?」 「ぜいたくいうなだぜ」 街まりさは寄り添って啜り泣く一家に、ビニール袋に包まれた食料を投げ渡した。 「ごはんさん! ごはんさんよ、おちびちゃん!」 ありすが喜び勇んで、ビニール袋をくわえ込んだ。 「とっととうせろ、だぜ!」 「「「「「ゆっびいいいいいいいいいい!」」」」」 悲鳴をあげながら、まりさ一家は這々の体で逃げ出した。 「じゃおう……」 「かわいそう? たしかにちょっとどうじょうはするのぜ。 でもあいつはめーりんをめーりんというだけでさげすんだのぜ。 どうじょうのよち、なしだぜ」 「……じゃおう!」 「れいむがくれたあまあまでもたべて、またすこしねるのぜ……。 ゆうがたになれば、にんげんさんのてつだいなのぜ」 この二匹、ビルの管理者からはお目こぼしされている。 その代わり、人間でも嫌がるような不衛生な箇所の掃除やゴキブリ退治を 請け負うことで代償を支払っているのだ。 仕事はあまりゆっくりできないが、こうしてのんびりめーりんと暮らすことが できるので、不満はない。 「じゃおーう」 街まりさと街めーりんは揃ってダンボールに潜り込み、再び眠り出した。 ……。 ……。 ……。 「ゆふう……ひどいめにあったよ……」 「なんていなかもののめーりんとまりさ……ちのうしすうがひくいのかしら……」 「まりさ、おなかぺーこぺこだよう……」 「ゆっくちおなかがすいたよ!」 「ゆふん。そうだね、おちびちゃんたち。ごはんさんにしようか」 まりさがビニール袋を引っ繰り返した。ぱらぱらと、保存食用の枯れかけた雑草と腐りかけのからあげがぽろりと零れ落ちた。 期待に満ちていたまりさ一家の表情が、たちまちがっかりしたものに変わった。 「ごはんしゃん……すくないにぇ……」 「これだけなのお……?」 「で、でも。このからあげさんはとってもゆっくりできるものよ!」 「しょれなら、まりしゃがたべるよ!」 「ありちゅも!」 二匹の赤ゆっくりが一斉にかぶりついた。 「むーしゃむーしゃ……ゆげ!? ぐび……ま、ま、まじゅいいいいい!」 「こんにゃのいにゃかもののたべものよおおおおお! ちょかいひゃのありしゅにはむりよおおおお!」 「えええ? そんなはず……ゆび、うべえ! まずい、まずいわああ!」 腐りかけのからあげである。 美味い不味い以前に腐臭が口の中に篭もるせいで、味覚が刺激されてしまうのだ。 「ゆび……でも……ありすたちがむーしゃむーしゃしないと……」 ありすはけなげにも、雑草を食べさせることにしたらしい。 「まりさにまかせてね……!」 まりさが一旦、雑草をむーしゃむーしゃと咀嚼してからぺっと吐き出した。 こうすれば、雑草の苦みはまりさの唾液で少し甘くなる。 「おちびちゃん……ゆっくりごちそうだよ……」 「むーしゃ……むーしゃ……しょれなりー」 「ちょっとだけ……ちょかいはだわ……」 「ゆあああん……あまあまたべたいよおお……」 泣きながら子供たちが雑草と平らげるのを見届け、 親まりさと親ありすは腐ったからあげを半分こずつにして、吐き気を堪えながら何とか飲み込んだ。 「ゆべ……ぎもぢばるい……」 「とかいは……どがいばあ……」 既にまりさ一家は、このゆっくりプレイスに来たことを後悔し始めていた。 ……が、後悔はあっても反省という言葉などまりさ一家には存在しない。 自分たちがゆっくりできないのは、当然環境の方が間違っているのだと考える。 「まりさ……ぎめだよ……うぷっ……このまちを……ただしいほうこうに…… みちびくよ……」 「ありすもてつだうわ……こんないなかもののまち……」 「まりさも……」 「まりちゃも……」「ありちゅも……」 結束を新たにしたまりさ一家を面白そうに眺めながら、銀目れいむが告げた。 「それじゃあ、そろそろこうえんさんにいこうね! ゆっくりたちがたくさんすんでいるよ!」 「ゆっくりたちが……」 まりさ一家に希望が満ちる。 そうだ、ゆっくりの群れに行けばいい。 そうすれば、このゆっくりプレイスを支配することも夢ではない。 いや待て。まず、あのはぐれのめーりんとまりさをせいっさいしよう。 こんなゆっくりした一家ならば、二つ返事で言うことを聞いてくれるはずだ。 「れいむ! そこにあんないしてね! まりさは、そこの『おさ』になってあげるよ!」 親まりさが胸を張った。その頼もしい言葉も目を輝かせる。 「ゆっくりわかったよ!」 銀目れいむは満面の笑顔で頷いた。 小さな公園には、野良ゆっくりたちがいつものように雑草を引き抜いていた。 「ゆんしょ、ゆんしょ。ふいー、やっとぬけたよ!」 「れいむ。くささんをしょくりょうこにはこんでちょうだい!」 「ゆっくりわかったよ!」 「ゆうか! おはなさんはどう?」 「とてもゆっくりしているわ。もうすぐおはなさんがいっぱいにさくわよ」 ゆらゆらゆれるつぼみを見ながら、ありすとゆうかはニッコリ笑った。 「ゆふふ。たのしみね!」 金バッジをつけたゆうかは野良ではない。飼いゆっくりである。 優しい飼い主の下、ゆっくり暮らしていたゆうかだが一つだけ不満があった。 マンション住まいのため、小さなプランターしか育てることができないのだ。 花を育てることをアイデンティティーとするゆうかにとっては、辛いことだが飼い主の 家の事情も理解しているため、無理に要求することはなかった。 そんな折り、散歩途中にたまたまこの公園を見つけたのである。 放置されていた花壇に我慢ならなくなったゆうかは、飼い主にお願いした。 あの公園の花を育てさせてくれ、と。 飼い主も駄目元で役所に陳情したところ、すんなり話が通ってしまった。 早速ゆうかは花壇の花を育て始めたのだが、困ったことが一つある。 「ゆう……いつまでもここでみはっているわけにもいかないわね」 公園の花壇は、ゲスゆっくりや無知なゆっくりたちにとっては餌なのだ。 飼いゆっくりであるゆうかの前でトラブルを引き起こすゆっくりはいなくとも、 彼女が見ていなければ、花壇を無茶苦茶に荒らすこともあるだろう。 そこで、ゆうかは野良ゆっくりの群れと交渉し、ゆっくりフードを定期的に分け与える 代わりに、ありすたちに花壇の見張りを依頼したのだ。 ありすたちにとっても悪くない取引である。 花は味が薄い割にボリュームも少なく、腹持ちもあまりよくない。 そんなものを食べるよりは、花を育ててゆっくりフードを貰った方が遙かに良いのである。 何より、鮮やかな花は見るだけでゆっくりできるものなのだ。 「あら? あのまりさたちはしんいりさん?」 ゆうかが気付いた。 小さな群れだからだろう、ゆうかは全員の顔を記憶している。 「まりさ? まりさってどのまりさ……」 くるりとありすが振り返り、ぎょっとした。 見慣れぬまりさ一家と銀目のれいむが、そこにいた。 「ごめんなさい、ちょっとはなしてくるわね」 ありすはゆうかにそういって、ぴょんぴょんとまりさ一家の下へとやってきた。 (……いなかものだわ) 一目でありすは見抜いた。 どいつもこいつも、自信満々で薄ら笑いを浮かべながら群れを見回している。 「ゆふふ……みんなゆっくりしてないね!」 「これならだいじょうぶだわ!」 「みーんな、まりさのどれいにしてあげるね!」 「ゆっくち、どれい!」 「どれーい!」 決定的だ、ありすは溜息をついて挨拶した。 「ゆっくりしていってね!」 「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」」 親まりさが尋ねる。 「ありすがここのおさ?」 「そうよ。あなたたちは、ひょっとしておやまさんからきたのかしら?」 「ゆゆ!? どうしてわかったの!」 まるわかりよ、とありすはつぶやいた。 「それで、なんのよう? むれにはいりたいの?」 「むれに……はいりたい?」 「そうよ。だからきたんでしょう?」 親まりさと親ありすは顔を見合わせ――笑いだした。 「ゆぷぷぷぷ! むれにはいりたい? むれにはいりたいだって! こんなゆっくりしてないむれに『はいりたい』だなんておもう!?」 「しかたないわあ! みんないなかものっ、だもの! とかいはなありすたちについてこれるはずないわ!」 「いい、おさのありす? よーくきいてね? たったいまから、このむれはまりさがおさになってあげるよ!!」 その言葉に長ありすも、群れの皆も、無関係なゆうかでさえポカンと口を開けた。 「「「…………は?」」」 「は? じゃないよ、あたりまえでしょ! このむれをゆっくりさせてあげるから、おさになってあげるって いってるの!」 「そうよおお! おさありすも、このむれのみなも、ぜんっぜんゆっくりしてないわ! だから、まりさとありすがむれをひっぱっていってあげる!」 「おとうしゃん、りーだーっ!」 「ゆっくちりーだー! りーだー!」 「…………」 餡子脳ならずともフリーズしてしまいそうな発言を、 ようやくアリスはのみ込んだ。 それから、こんな厄介種を連れてきた銀目れいむを恨めしそうに見る。 「ええと、おことわりするわ。 わるいことはいわないから、いますぐやまにかえったほうがいいわよ」 「なにいっでるのおお! ゆっくりしたまりさがおさになってあげるっていってるんだから! ありすはだまっておさのざをゆずるべきでしょおおおお!」 「おさのざをゆずるきはないわ。 いまならまだちょっといたいおもいをしただけで、 やまにかえることができるわよ」 無論、そのためにはおちびちゃんを『永遠にゆっくりさせる』ことが 必要なのだが。 「ゆぎいいいい! もう、ほんっとうにありすはわがままだね!」 「ほんと! おなじありすとして、うすよごれたあなたはけいべつするわ!」 「そうだね! こっちのありすとくらべて、おさありすのかちゅーしゃは すごくきたならしいね!」 「いなかものね! かちゅーしゃのていれくらい、ちゃんとしておくべきなのに! ものぐさなのかしら!」 「……ふうん」 長ありすの冷たい声に、果たしてまりさ一家は気付いたかどうか。 さて、そんな風に親まりさと親ありすが揉めている間に、腹を空かせたおちびちゃん たちは、真っ直ぐ花壇へと向かっていた。 「ゆっくち、ゆっくち。おなかぺーこぺこさん! くささん、くささん。 まりさたちにたべられてね!」 「ゆっくち……おなかすいちゃ……」 「おはなしゃん……たべちゃい……」 花壇に辿り着いた彼らは、躊躇いもなく咲きかけの花を食べようとする。 「ふん!」 ――となれば、当然のようにゆうかが反応する。 彼女の軽い体当たりで、子まりさと赤まりさ、赤れいむは一匹残らず跳ね飛ばされた。 「ゆびゃあ!? いじゃい! いじゃいいいい!」 「ゆっち……いじゃいよおおお!」 「ぎゅうぇぇえ! いじゃいいい!」 その悲鳴に、親まりさと親ありすが反応した。 見れば、飾りのついてないゆうかがおちびちゃんたちをいじめているではないか。 「なにするんだあああああ! まりさのっ、まりさのだいじなだいじなおちびちゃんにいいいいい!」 「このげすゆうかあああ! いなかものはいなかものらしくできないのおおおお!?」 「ちょ、なにやって……やめなさあああああああああああい!」 長ありすが顔面蒼白になって制止する。 このままでは、ゆうかは殺されないまでも傷つけられるかもしれない。 そうなっては、下手をすれば一斉駆除という運命が待ち受けている。 「ゆうか、にげてえええええ!」 「いやよ! こんなれんちゅうにせなかをむけるなんて!」 ゆうかもゆうかで逃げられない事情がある。 背中には大事に育てた花壇があるのだ。 この状況で逃げられるはずもない。 「みんなああああ! そのまりさたちをとめるのよおおお!」 長ありすの号令と共に、群れのゆっくりたちが一斉に彼らに襲いかかり――。 「わわわ、とっぷうだよっ!」 そんな言葉と共に、物凄い勢いで親まりさと親ありすが蹴り飛ばされた。 「ゆべ!?」 「ゆぼお!?」 あまりの衝撃に、二匹は数メートル以上すっ飛んだ。 「…………」 「…………」 親まりさと親ありすはしばし見つめ合い――。 「「いじゃあああああああああああああああああああああああい!」」 そう言って、びだんびだんと体を跳ねさせて泣き叫び始めた。 「あの……ええと……」 「れいむはぎんめのれいむだよ」 ゆうかが救出されたにも関わらず、奇妙な目でれいむを見つめていた。 「さすがにかいゆっくりにけがをさせたらだいもんだいだからねっ」 「はあ……」 「ゆうか、だいじょうぶ?」 「ええ、くるまえにけりとばされたもの。それじゃ、もうすぐごはんさんの じかんだし、ゆうかもかえるわね。これはいつものゆっくりふーど」 ゆうかが手近のビニール袋を差し出した。中にはゆっくりフードが全員に行き渡るくらいに 詰め込まれている。 「ありがとう、ゆうか。 それじゃ、ありすたちはあのばかまりさたちをせいっさいするから」 そう言って、長ありすは凍るような瞳で痛みに悶えるまりさ一家たちを睨み付けた。 まりさ一家は、周囲をぐるりと成体ゆっくりに囲まれていた。 銀目れいむは、ニヤニヤとそれを見守っている。 「いったいなにを……ゆべえ!」 何かを言おうとした親まりさの顔に、石がブチ当たった。 取り囲んでいたれいむが、吹いたのだ。 「ゆっくりだまってね! おさ! こいつはむれのおさになろうとしただけじゃなく、 かいゆっくりまできずつけようとしたよ!」 「そうね。ほんらいなら、おやまについっほうがだとうだったけど、 ゆうかにけがをさせようとしたのは、ぜったいにゆるせないわ! みんな、えださんをよういして!」 言葉と同時、周囲のゆっくりが一斉に枝を口に咥えた。 「あ、ありす。とかいはに、とかいはになりましょう? ありすなら、それがわかってるはずよね? ね、ね、ね? とかいは……とかいはああ!」 「やめてね! やるならまりさをやってね!」 おそろしーしーを垂れ流しながら、親ありすと親ありすたちがそう叫ぶ。 「ゆ、ゆ、ゆっくりできてないゆっくりたちのくせになまいきだよ! いますぐまりさたちをかいほうしてね!」 空気を読まない子まりさの言葉。 「ゆわああ……きょわいのじぇえ……」 「ちょかいは……ちょかいは……」 赤ゆたちは震えるだけだ。 長ありすはそれを見て、すうっと息を吸って叫んだ。 「せいっさい、かいし! まずはおめめさんよ!」 「ゆああああああ! やめで! やめでやめでやめで……いじゃいいいいいいいいいいい! ありすの! ありすのおべべがあああああああああああああ!」 「まりさの! まりさのをやっで……いだいいいいいい! おべべ! おべべぷーすぷーすしないで! おねがい! おねがいいいいいいいい!」 「まりさ、ぷくーするよ! ぷくー……おべええええ! いじゃいいいいい! しゃしゃないじぇえええ! ぷーすぷーすやじゃああああ! おごっ、ごっ、ごああああああ! おめめさん! おめめざんがあああああ!」 「ゆぴ……ゆぴ……ゆげええええええええええええええ! ゆっくち! ゆっくちいいいいい!」 「ちょかいはあああああああああ!」 まず、それぞれ片目を抉られた。 白く柔らかい瞳を、荒い枝で突き刺し、こねくり回した。 「あんよをやっちゃって!」 「ざあああわあああるうううううなああああ! いじゃいよおおおおおお!」 「まりさの! まりさのしゅんっそくあんよさんがあああああああ!」 「まりちゃのあじもおおおおお!? やだよおおお! まりちゃのかもしかあんよをいだいいだいじないでええええええ!」 「「いじゃいいいいいいいいい! いじゃいよおおおおおおお!」」 次に、あんよを走れない程度にぷーすぷーすれた。 ささくれだった枝が、あんよの頑丈な皮をズタズタに斬り裂いた。 餡子がたちまち漏れ出すが、無理矢理立たされることで流出を防がれる。 しかし、傷がある部分を自身の体重で押さえつけているのだ。 痛くないはずがない。 「かみよ!」 枝を捨てたゆっくりたちが、次々とまりさ一家の髪に噛みついて毟っている。 「いやよおおおおおお! だずげでまりざざあああああああああああ!」 「やべでぐだざい! ありずの! ありずのきらきらかみのけをむしっちゃだめえええ! とってもとってもきれいなんでずうう! どがいばなかみのげえええええ!」 「いじゃいよおおおおお! まりしゃのかみのけにいだいいだいはやめええええ!」 「ゆくじ! いじゃああああああああああああ!」 「いじめにゃいでええええ! ちょがいばあああ! ぢょがいばあああああああ!」 たちまち、落ち武者のような饅頭が五匹誕生した。 「ぺにぺにとまむまむも! あにゃるはだめよ! そこらじゅうでたれながされたらゆっくりできないわ!」 成体ゆっくりたちは、親まりさたちを挟み込んで揺らした。 発情した彼らがぺにぺにを露出させた瞬間、枝で一斉に突いた。 「……っ! そ、それだげはやべでえええええええ! おちびちゃん、おちびちゃんがつくれなくなっじゃうううううう! おぶっ! いじゃい! ぺにぺにのさきっぽがいじゃいいいいいいい!」 「んぼおおおおおおお! ありすのごくっじょうまむまむをきずつけないでええええ! てんぐうのかみざまだってじょうっでんずるのにいいいいいいい!」 「いじゃいいいい! そぎょはぞぎょはまむまうでしゅうううううう! まりしゃおちびちゃんちゅくりたいんでしゅううううう!」 「さいごに、おかざり!」 彼らのお飾りを強奪し、枝で引き裂き、ジャンプして壊し、噛み千切って壊した。 「やべでええええ! いながものになっじゃううううう!」 「どがいばあああ! どがいばにいいいいいいい!」 「ゆっぐりでぎなくなっじゃうよおおおおおおおおおおお!」 「まりしゃのおきゃじゃりいいい!」 「ありちゅの! ありちゅのちょかいばっておかあしゃんがほめてくれた かちゅーしゃあああああああああああ!」 「これでせいっさいはしゅうりょうよ。 このまりさいっかは、きょうからあたらしいどれいまりさよ! むれのなかまだけど、なかまじゃないわ!」 「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」 瀕死の状態で横たわるまりさ一家は、虚ろな表情で長ありすの言葉を聞いていた。 (どれい……まりさたちが……どれい……? どれいはゆっくりしてないよ……ゆっくりしてないゆっくりがどれいになるべきだよ……) (あれ? まりさいま、ゆっくりしてない……。 じゃあ、まりさはやっぱりゆっくりしてないゆっくりなの……?) (おかしい……おかしいよ……。 こんな、はず、じゃ……) この日、まりさ一家はたった一日で完全にゆん生を転落した。 ――数日後。 「ゆふう……ゆふう……」 まりさたちは奴隷ゆっくりとなり、野良ゆっくりがやらなければならない仕事でも かなり過酷なものを押しつけられていた。 這いずり回ってゴミを拾い、ありすと共同でゴミ袋を引き摺っていく。 彼らが向かうのは、不衛生な雑居ビルの隙間などだ。 こんな場所では、幸運に恵まれて捨てられたあまあまさんを拾うことなどまずない。 ただただ、腐ったゴミをゴミ袋に入れるだけ。 それも、ドロドロした訳の分からないものを一旦口に入れて、ゴミ袋に 吐き出さなければならないのだ。 その不快さは、親まりさが餡子を吐き出しすぎて瀕死になりかかるほどだった。 いつまで経っても慣れることのない、拷問。 そればかりではない。 プライドの高い二匹には、とてつもなく辛いことが待っているのだ。 「……」 「めーりん……まりさ……ゆっくり……」 「ゆっくりしているゆっくりにしては、ずいぶんとまあさえないんだぜ」 街まりさの冷たい言葉。 そして――。 「じゃおん……」 何よりも堪えるのが、街めーりんの同情した目線なのだ。 冷たく睨まれるのは、もう慣れてしまった。 だが、めーりんはそんな自分たちに同情してくれている。 それは、これまでめーりんをゆっくりの最下層にカテゴリしていた彼らには、とても 耐えられることのないものだった。 「ありす……いくよ……」 「とかいは……とかいは……」 ありすはぶつぶつと、とかいはという言葉を念仏のように呟いている。 唱えるのを止めれば、死んでしまうというように。 おちびちゃんたちも悲惨なものだった。 子まりさは、まずぱちゅりーが教師となる学校で働かされていた。 「むきゅ。まりさ、このくささんをたべてみなさい」 「ゆゆ!? たべさせてくれるの!? ゆっくりむーしゃむーしゃするよ!」 少量の草を喜び勇んでむーしゃむーしゃした途端、口がものすごく痒くなった。 「ゆびゃ! かゆい! かゆいよおおおおおおお!」 「いい? このくささんは、むーしゃむーしゃするととってもおくちがかゆいかゆいになるの! たくさんたべるとたくさんかゆくなるから、ゆっくりたべちゃだめよ!」 「「「ゆっくちりかいちたよ!」」」 「ぶびゃあああ! がゆいいいい! がゆいいいいいい!」 まりさは危険な食べ物を、いつも食べさせられる。 腐った食べ物、毒のある草、固くて食べられない木の実……。 そういったものを食べたらどうなるかを、きちんと教えているのだ。 何しろ、子まりさが実験台なおかげで「たべてもれいむはへいきだよ!」などと言い出すアホが 皆無になってくれるのが親たちとしては大助かりだった。 それだけではない。 「あまあまだど~♪」 「ゆんやああああ! たすげでえええええええええええええ!」 子まりさは必死になって、空をふわふわ飛ぶ子れみりゃから逃げている。 だが、周囲の群れは反応が薄い。 この子れみりゃは「飼いゆっくり」だ。飼い主に頼まれ、ときどき「かり」の真似事 をさせているのだ。 無論、なるべく殺さないという条件付で。 「ゆひいいいい! やだよおおお! れみりゃどっかいってよおおおお!」 「あまあま~♪ れみりゃのごはんになるんだど~」 子まりさは必死になって逃げ回り、子れみりゃはニコニコ笑顔であまあまを追いかける。 見守る飼い主は、「元気になってよかったなあ」などと考えている。 子まりさのゆん生は毎日毎日が、チキンレースだ。 そして、赤ありすと赤まりさは。 「ぺーろぺーろ……ぺーろぺーろ……」 「ぺーろ……うぷっ……ちょかいはじゃ……ない……」 公衆便所を舐めさせられていた。 何ともいえない不快な臭い、不潔で冷たい便器。 赤ゆたちは、何も教えられずにただひたすら舐めて綺麗にすることを命じられている。 これは銀目れいむの発案である。 「おちびちゃんのころから、べんきになれさせたらだいじょうぶかも」 確かに、赤ゆたちはここが「にんげんさんがうんうんしーしーするところ」であることを知らない。 知っていれば、ただちに餡子を吐き出して死ぬだろう。 知らなくとも、誰かに教えられてしまえばその瞬間に終わりだ。 子まりさに負けず劣らずゆん生綱渡り、それが二匹の赤ゆっくりたちだ。 ゴミを頬張る親まりさと親ありす。 「ゆべえ……ゆべえ……」 毒を食べさせられる子まりさ。 「ゆぎ……うおえ……」 便所を舐めさせられる赤ゆっくりたち。 「ぺーろ……うべ……ぺーろ……」 山にいたころのゆっくりした生き方など、もうどこにも見当たらなかった。 家族とのゆっくりした会話もほとんど皆無になり、仕事が終わればただ 寄せ集まってすーりすーりしながら啜り泣くだけだ。 疲れ切った体で眠りに就くたび、親まりさは考える。 (これは、ゆめだよ……ぜったいに、ゆめ……。 めがさめたら……きっと……なにもかも……もとどおり……) そして、目が覚めるたびに 「ゆめ……ゆめじゃ……ゆめじゃないよお……」 そう言って、嘆き続けるのだ。 ――さあ、親まりさ君。これがあなたたちのゆん生ですよ。 スクリーンの映像が停止し、照明が照らされる。 親まりさも、親ありすも、子まりさも、赤まりさも、赤ありすも。 皆、涙を流していた。 自分たちのみっともなさを、第三の視点から見てひたすら泣いていた。 銀目れいむが、ニコニコしながらまりさ一家に尋ねる。 「楽しんでいただけましたか?」 親まりさはそうして初めて「おかざり」に関係なく、目の前の『れいむだったもの』を 認識した。 「にんげん……さん……」 「おや、バレてしまいましたか。騙していてすいませんね」 白衣の中年男は、銀色のビデオカメラで親まりさを撮り続けながら再度問い掛ける。 先ほどまで腕に縛られていたれいむのリボンは、ポケットにしまい込まれていた。 「さあ、まりさ君。幸せを失った気分は、どうですか?」 だがもう、まりさ一家たちにとってはどうでもよい出来事だった。 れいむがれいむでなくなろうが。 自分の転落ゆん生を人間たちが笑って見ていようが。 自分の舐めていたものが、どれほど不潔なものかを知らされようが。 「ゆぴ……ゆぴぃ……ゆぴぃぃぃ……。 かなしいよお……かなじいいよおお…………。 いやだよお……こんなゆんせい……いやだよお……。 ゆっくりしたいよお……ゆっくりさせてよお……。 ……もう、やだよおお…………」 ただただ、あのときのしあわせーだった自分たちを思い出し――彼らは 泣き続けるしかないのだ。 <あとがき> 転落まりさ一家の下に、うんうんまりさ一家がいます。 感想スレ http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13854/1304613952/ 過去の作品 anko3216 愛するでいぶ anko3238 ゆ虐思考 anko3257 赤ゆ十連発(前編) anko3263 赤ゆ十連発(後編) anko3271 手を触れずに殺害せよ anko3274 子ゆっくりのゆん生が終わるまで anko3300 何もしない 赤ゆ編 anko3312 れうこくろりぐる anko3342 テンプレ的自滅シークエンス anko3358 くらくなるまでまってね! anko3368 ぷりぷりもるんもるん anko3428 子まりさと仲良し家族 挿絵:
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/1883.html
anko0202 アントクアリウムでゆっくり 【挿絵】 anko0203 1人は みんなのために anko0204 ゆっくりぷくーしていってね! 【挿絵】 anko0205 れいむとまりさがだーい好き!! 【挿絵】 anko0206 ゲスとかレイパーとかでいぶとか、みんな死ねばイイのに anko0207 数は罪 数は暴力 数は罰 上 anko0209 れいむ視点と人間視点 anko0210 俺の嫁ゆっくり anko0211ある日の加工場の一幕 2 anko0212 それをしてはいけないわけ 【挿絵】 anko0213 れいむの失敗 anko0214 つむりはとってもゆっくりできるんだよ! 【挿絵】 anko0215 真夏はゆっくりできるね 【挿絵】 anko0216 割とどうでもいい話 anko0217 ゆっくりのみるゆめ anko0218 おまえはなにもわかっちゃいない anko0219 ゆっくりにあったこわいはなし anko0220 ゆうかりんのご奉仕授業 【挿絵】 anko0221 おまえはなにもわかっちゃくれない anko0223 ぼくはぼくをわかっちゃいない anko0224 夏の公園にて anko0225 雨さんはゆっくりしてるね anko0227 陰口 anko0228 ここはみんなのおうち宣言 anko0229 鞭打 anko0231 守るべきもの anko0232 ゆっくりみわけてね! anko0233 ぐずはきらいだよ! anko0234 モンスターゆアレント 【挿絵】 anko0235 竜巻さんでゆっくりしようね anko0236 糞饅頭 anko0237 ゆっくりに選ばせる青年 anko0238 ぱちゅりおばさんの事件簿 anko0239 虐待派不虐待日記 anko0240 ユグルイ その1 anko0241 寄生生物とゆっくり anko0242 春の恵みさんでゆっくりするよ anko0245 ユグルイ その2 anko0246 バトルゆ虐! anko0247 かわいいおちびちゃん 【挿絵】 anko0248 お姉さんのまりさ飼育日記 anko0249 ゆっくり繁殖していってね! anko0250 ちぇんの素晴らしきゆん生 【挿絵】 anko0251 ユグルイ その3 anko0252 ゲス愛で派 anko0253 相棒 anko0254 おんもでゆっくりしよう!① anko0255 とてもゆっくりした蛇口 anko0256 ユグルイ その4 anko0257 ぱちぇと学ぼう!ゆっくりライフ anko0258 やめられない虐殺 anko0259 ゆっくりちるのの生態(前編) anko0260 人間の畑だと説得してみよう anko0261 お姉さんとまりさのはじめてのおつかい anko0262 にんげんさんはゆっくりできない anko0263 ゆっくりばけてでるよ! anko0264 ゆっくりばけてでるよ!後日談 anko0265 どすすぱーくをうつよ! anko0266 ミント anko0267 ケツ anko0268 選ばれしゆっくり anko0269 台風さんでゆっくりしたいよ 【挿絵】 anko0270 頭でなく心に訴える anko0271 ユグルイ その5 anko0272 もうわからない anko0273 子まりさはゆっくりできない anko0274 屠殺 anko0275 長寿と繁栄を・・・前編 anko0276 おんもでゆっくりしよう!2 anko0277 おいまりさ、涙の味はおいしいか? anko0278 ゆうかの花 anko0279 新種ゆっくり誕生秘話 選ばれしゆっくり番外編 anko0280 数は罪 数は暴力 数は罰 中 anko0281 それでもゆっくりは畑を守る 【挿絵】 anko0283 ゆっくりたねをまいてね! 【挿絵】 anko0284 長寿と繁栄を・・・後編 anko0285 ゆっくりはじけてね! 【挿絵】 anko0286 そして家族の崩壊 【挿絵】 anko0287 まりさのだいじな anko0288 餡小話の感想れいむ・その後 anko0289 末っ子れいむの帰還 anko0290 町の赤ゆの生きる道 【挿絵】 anko0291 ゆっくりせいいをみせてね! anko0292 ゆっくり見ていってね anko0293 ゆっくりした教育 anko0294 ぱちゅりーのお話 第1話 anko0295 むかしなつかしゆーどろ遊び 【挿絵】 anko0296 下卑た快感 anko0297 制裁は誰がために 【挿絵】 anko0298 ルームランナー 【挿絵】
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/244.html
『鍵のない檻』 序、 人里離れた森の奥深く。そこには群れを治めるリーダーはいないものの、自然に集まってできた天然のゆっくりぷれいすがあ った。群れのリーダーも掟も存在しないゆっくりの集団など瞬時に崩壊してしまうような印象を受けるが、この界隈のゆっくり たちは総数こそ多いものの互いに強く干渉しないせいか争いも起こさず平和に暮らしていた。ゆっくりたちの言葉を借りるなら ば、とても“ゆっくりしている”群れであると言えよう。 季節は春。ここ数日の間に降った雨が春一番の風に耐えた桜の花びらを落とし、春の代名詞はすっかり葉桜となってしまって いる。気温も少しずつ上昇し始めていた。人間にとってもゆっくりにとっても過ごしやすい季節。その群れのゆっくりたちは皆、 思い思いに春を満喫していた。 「ゆゆん! まりしゃ! こーろこーろでどっちがはやく、おきゃーしゃんのとこりょにいけりゅかきょうそうしようにぇっ!」 「ゆっくちりきゃいしちゃよっ!!!」 ピンポン玉サイズほどの赤ちゃんゆっくり姉妹が並行に転がり、親ゆっくりの元へとたどり着く。親ゆは子供たちの愛らしい 姿を見て悦の表情を浮かべながら、頬についた泥を舌で綺麗に舐め取ってあげていた。くすぐったそうに笑う赤ゆたちは、その まま親ゆの頬に自分たちの頬をすり寄せた。こーろこーろ、ぺーろぺーろ、すーりすーりの三連コンボである。その筋の人間が この光景を見てしまえば発狂さえしかねない。 また別の場所ではバスケットボールほどのサイズにまで成長した二匹のゆっくりが、ぷろぽーずの真っ最中である。訪れた春 を喜び有頂天になっているこの季節のゆっくりは、全体的にガードが甘くなっており告白の成功率は年間通じて高い数値を示し ていた。やがて数多の“らぶらぶかっぷる”が誕生して、家族仲良く森の中を跳ね回る姿を見ることができるだろう。 森はこれほどの数のゆっくりを養えるだけの自然を有していた。人間たちも開発などで手を出すことのない未開の地であった ため、ゆっくりたちにとってはまさに楽園と言っても過言ではない。組織として群れを成しているわけではないので、ふらふら とこの地にたどり着いたゆっくりも多い。それらの間で揉め事が発生しないのは全てのゆっくりたちが等しく自然の恩恵を受け ることができているからだろう。衣食足りて初めて礼節を知るのは、人間の世界でもゆっくりの世界でも同じことらしい。 「ゆ?」 地にあんよをつけた数匹のゆっくりたちが反応を示した。大地が小刻みに震えている。その振動が徐々に大きくなっていく。 「ゆゆゆゆ……っ!!」 地震である。最近よく発生しているが小規模な揺れであるため、それを気にしているゆっくりは一匹もいなかった。もちろん、 地震に対して恐怖心は抱くものの揺れが収まってしまえば何事もなかったかのようにまたゆっくりし始める。もともとそういう 危機感からはかけ離れた存在のゆっくりであるが、ここ数日は頻繁に地震が起きているので慣れてきてしまっているのもあるだ ろう。 「ゆぅ……じしんさんはゆっくりできないよ……」 「れいむ! あっちにちょうちょさんがいたのぜ!!!」 「ゆゆーん! まりさ、いっしょにむーしゃむーしゃしようね!!!」 「ちょうちょさん! まってねっ! ゆっくりまりさにむーしゃむーしゃされてねっ!!!」 「れいむもぉ!! れいむもだよぉ!!!」 ふらふらと現れた蝶々を追いかけて跳ねていく二匹のゆっくり。周りもそういう姿を見ているとすぐに感化されてしまう。の ーびのーびしたり、むーしゃむーしゃしたり。森のあちらこちらから「しあわせー!」という声が聞こえてくる。 先ほど蝶々を追いかけていた二匹のゆっくりは森を抜けて開けた場所まで出てきていた。遠くに人間たちの街が見える。その 風景に目を奪われ蝶々を見失ってしまった。 「れいむ……? あれはなにかな……?」 「ゆぅ……?」 空を見上げていたまりさの言葉にれいむも上空に目を向ける。二匹にはそれが何か理解することはできなかったが、一機のヘ リコプターが人間たちの街へ向けて飛行している最中だった。 「すごいね~……れいむもおそらをとびたいな……」 「ゆふふ……れいむは“ゆめみがち”なゆっくりだねっ! でも、その……っ、そんなところも……か、かわいいよ……」 「ゆぇっ?!」 茹で饅頭と化してしまった二匹はしばらくお互いの顔をチラッ!チラッ!と見合った後、そっと身を寄せ合った。後は若い二 匹にゆっくりとしてもらうことにして、別の場所に視点を移そう。 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせぇぇぇ!!!!」 木の根っこに生えていたキノコを口に入れながら涙目で叫ぶれいむ。キノコ狩りにやってきた数匹のゆっくりたちが固まって うろうろしている。草をかきわけたぱちゅりーも数種のキノコを採取していた。森の自然はゆっくりたちの空腹を満たすのに一 役も二役も買っていた。食料の豊富さのおかげで越冬に失敗した家族はほとんどいない。これほどの環境下で越冬に失敗するよ うなゆっくりは真性の馬鹿である。それでも、越冬成功率が百パーセントに達することがないのが、ゆっくりらしいと言えばゆ っくりらしいのだが。 「むきゅっ! みんな! きのこさんをさがすのにむちゅうになっていると、どうぶつさんにむーしゃむーしゃされてしまうか のうせいがあるわっ! きをつけてそろーりそろーりもどりましょう!」 「「「ゆっくりりかいしたよ!!!」」」 ぱちゅりーの心配は杞憂だった。ここ最近、動物たちの数が減ってきている。越冬前は狩りに出たゆっくりが野犬やイノシシ に食い殺される事は日常茶飯事だったが、春が訪れてからと言うものぴたりとその姿を見かけなくなってしまった。ゆっくりに とっては願ったり叶ったりである。れみりゃやふらんなどと言った捕食種であれば“けっかいっ!”を張っている限り巣穴に逃 げ込めばやり過ごすことができるが、野生動物を相手にするとそうはいかない。動物たちは嗅覚でゆっくりを追い詰めるため、 対抗する手段が皆無なのだ。 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら森の“居住域”に向かうゆっくりたちがあんよを止めた。前方から地鳴りが聞こえてきたのだ。 「ゆっくり……」 最初は地震と勘違いしていたゆっくりたちだったが、すぐに顔色が変わった。土煙を上げながら一直線に自分たちに向かって くるのは動物たちの群れである。 「ゆ……ゆあああ!! まってねっ! まってねっ!! かわいいれいむをたべないでねっ!! こっちこないでね!!!」 途端に騒ぎ出すゆっくりたち。ぱちゅりーは既に他界していた。残りのゆっくりたちも恐怖であんよを一歩も動かすことがで きない。生きたまま食われて殺される。それを悟り、大粒の涙を流しながら震えるゆっくりたちには目も暮れず動物たちが一直 線に駆け抜けていく。だからと言ってゆっくりたちが助かったわけではない。粉塵に視界を奪われ、無数の足で踏みつけられ、 中身を押し出されたゆっくりたちは、まるでダンプカーにでも轢かれたかのようにぐちゃぐちゃに潰れて絶命していた。 「も……と、ゆ……く、り……した……かっ――――」 ここだけではなかった。同じような現象が森のあちこちで起こっている。同じように大地を唸らせ駆け抜ける動物たちの一団 を見たという話は森の各地から報告されていた。ゆっくりたちの中には自分たちが動物たちを追い払ったと勘違いして喜び跳ね 回る者もいた。動物たちの意図はともかく、自分たちの生活を脅かす存在がゆっくりぷれいすからいなくなってしまうのはあり がたい。このゆっくりぷれいすはますます発展していくだろう。 やがて陽が落ち、静寂が森を包み込む。巣穴の中に戻ったゆっくり一家たちは五、六匹の単位でぴったりと体をくっつけて寝 息を立てていた。 「ゆぅ……ゆぅ……」 「ゆぴー……」 「……まりさたちはこんなにかわいいちびちゃんたちといっしょにゆっくりできて、しあわせだね……」 「ゆぅん……まりさ、れいむといっしょにずっとずーっとゆっくりしてね……」 「ゆっくりするよ……すーりすーり……」 「すーりすーり……」 ……幸せ。 その頃。 ゆっくりたちの元には届かないが、人間の街ではテレビのニュースやラジオを使って“情報”が絶え間なく流れ続けていた。 ――双葉岳上空です ――四月に入ってから活発な火山活動を続けている双葉岳ですが、先日“火山観測所”が噴火の警戒レベルを“2”に引き上げ たことを発表しました ――付近の住民はこれまで以上に火山噴火の情報に耳を傾け、各市町村のハザードマップなどを頼りに避難経路の把握を今一度 確認して有事の際に備えてください ――なお、これに伴う小規模な地震が発生していますが………… 一、 動物たちがゆっくりたちの周りからいなくなってから一週間ほどが経過していた。 外敵が極端に少なくなったことに歓喜した群れのゆっくりたちは、日増しに頻度を増す小規模な地震に怯えながらも静かに暮 らしている。地震が起きるといっても巣穴が崩落するほどのものではない。それを理由にこの理想郷から離れようとする者は一 匹もいなかった。 「ゆっくりのひ~ まったりのひ~」 呑気に歌を歌いながらたわむれる数匹のゆっくりたち。豊富な餌は健在だ。ここで暮らしていく分には何の問題もなかった。 「れいむぅ。 それじゃあまりさはかりにいってくるのぜ!」 「ゆっくりりかいしたよ!」 そんなやり取りをしているのは人間の街を眺めながらプロポーズを行っていた二匹である。結局あの後、二匹は“けっこんっ!” して一緒に暮らしていた。まだ子供を作る時期には来ていないようだが、周りから見てもパルパルしてしまうくらいに仲が良い。 まりさがぴょんぴょんと草の向こうに消えてしまった後。 「……ゆ?」 空を見上げるれいむ。上空から音が聞こえてきたのだ。それはヘリコプターのプロペラ音。木々の隙間から一瞬だけヘリコプ ターの機体が覗いた。れいむが怪訝そうな表情を浮かべる。四月にしては湿った風がれいむの頬を撫でた。 「ゆっくり……していってね……?」 呟く。まるで心の中を覆う暗雲を払うかのように。れいむの言葉を聞いているゆっくりは周囲に一匹もいなかったが、それで も呟かずにはいられなかったのだろう。ヘリのプロペラ音はその日一日中ひっきりなしに森のゆっくりたちの元に届いた。 「ねぇ、ぱちゅ……あのおとはいったいなんなのかしら……? うるさくてとかいはじゃないわ……」 「むきゅぅ……ぱちゅにもよくわからないわ……」 「わからないよー……」 ぱちゅりー、ありす、ちぇんの三匹がれいむ同様に不安そうな顔でお喋りを続けている。空はこんなにも晴れ渡っているのに、 ゆっくりたちの表情は心なしか曇っていた。 「ゆっくちできにゃいよぉ……」 「おきゃあしゃん……ありしゅ……きょわいよ……」 「ゆ……ゆぅ……」 ある巣穴の中では親ゆっくりにぴったりと頬をくっつけて震えている赤ゆの姿があった。 群れの中で争いが起きているわけでもない。動物や捕食種の集団に襲われて死の危険に晒されるわけでもない。食料が足りな くなっているわけでもない。 それどころか、本当なら長く苦しい冬を乗り切って皆で仲良く暮らしていたはずだ。そんなに長く生きているわけではないが、 皆一様に違和感を感じていたのだろう。越冬を終えても、ゆっくりできる日々は訪れない。いや、決してゆっくりできていない わけではないのだ。だからこそ戸惑いを隠すことができなかった。それぞれが、何に対して怯えているのか理解できない。 そのとき、大地が小刻みに振動を始めた。ゆっくりたちが不安そうな顔になる。もう慣れたとはいえ、ゆっくりできない事に は変わりない。おろおろはしながらもしばらくすれば地震は収まる。 「……ゆ?」 「ゆゆっ?」 巣穴の中で隠れて震えていた数単位の家族が飛び出してきた。 「どお……して……?」 地震は収まらない。それどころか、徐々に揺れが激しくなっているような気がする。そして、それは気のせいなどではなかっ た。 「ゆ……ゆわああ!!!」 激しく震える大地に数匹のゆっくりたちがころころと転がった。あんよに力をかけていなければその場に留まっていることが できない。一度転んでしまった赤ゆはいつになっても起き上がることができなかった。同じような事態が森の各所で起きている らしい。あちらこちらから泣き声が聞こえてくる。 「ゆゆっ! じしんさんっ! ゆっくりしないでおさまってね! れいむたち、こまってるよっ!!」 「とかいはじゃないわっ!! ありすもいいかげんにしないとおこるわよっ?! ぷ……ぷくぅぅぅぅ!!!!」 地面に向かって威嚇を始める成体ゆっくりたち。それに対して怒りを露わにするかのように大地が跳ね上がった。思わずあん よが地から離れ投げ出されるゆっくり。 「ゆぎゃあああ!!!!」 「たしゅけちぇぇぇぇ!!!」 巣穴の入り口が崩落してしまい、取り残された赤ゆが外にいる親ゆに向かって悲痛な叫び声を上げる。しかし、体勢を保つこ とのできない親ゆにはどうすることもできない。大地が唸りを上げる。その衝撃以降、巣穴の中から聞こえてきた赤ゆの悲鳴は 途絶えてしまった。天井が崩落し、押しつぶされて絶命したのだろう。親ゆが絶叫するが、他のゆっくりはどれも気づかない。 突如起きた“異変”に思考がまったくついていかず、歯をカチカチと鳴らして震えているだけだ。 「ゆっくりにげ……」 遅い。と言わんばかりに大地が咆哮を上げた。これまでにない強い衝撃である。球体に近い体型のゆっくりたちはまとめて宙 に放り出されてごろごろと地面を転がっていく。頭を、顔を、頬を、土や小石が蹂躙していく。 「ゆあああああ!!!」 「じめんさん!! ゆっくりしてね!! ゆっくりしてね!!!」 体中をそこかしこに打ち付けながら物言わぬ大地に対して必死にお願いを続けるゆっくりたち。木に叩きつけられて止まった 一匹のありすが表情を凍りつかせた。冷や汗がだらだらと頬を伝う。口をぱくぱくと動かしながら一点を見つめていた。未だ揺 れの収まらぬ中でありすの元に駆け寄る別のゆっくり。 「あ……。 あ、あぁ……」 駆け寄ったまりさがありすの見つめる方向に視線を向ける。 「あれは……いったい、なんなのぜ……?」 木々の隙間から遥か彼方に“山”が見える。その山も唸り声を上げていた。まりさが見たのは山頂から天空に向けて昇る巨大 な火柱。まるで生き物のようにうねりながら噴き出される炎。見えている炎はほんの一部でしかなかった。同様に吐き出された 分厚い噴煙のヴェールが紅蓮の柱の大部分を覆っている。 澄み切った青を埋め尽くすかのように広がっていく黒。不気味なコントラストを生み出し己の存在を誇示し続ける赤。それは まりさやありすを含め、群れのどのゆっくりが一度も見たことがないような光景である。 森中からゆっくりたちの泣き叫ぶ声が上がった。 ――平成二十二年 四月十三日 午前十一時三十七分 双葉岳噴火。 「ゆっぎゃあああ!!!!」 「だずげでぐだざいぃぃぃ!!! おでがいじばずぅぅぅ!!!!」 「ちびちゃん!!! ちびちゃん!!! かくれんぼじないででてきでねっ!!! すぐでいいよ!!!!」 地面の揺れ事態は収縮しつつある森の中でパニック状態に陥っている無数のゆっくりたち。火山噴火の際の衝撃で跳ね飛ばさ れた際にケガを負ってしまい動けなくなった者や、ピンポン玉サイズしかない赤ゆとはぐれてしまった者。それぞれがそれぞれ の危機的状況に晒され右往左往していた。 刹那。 凄まじい轟音と衝撃が響き渡った。大地を抉り砂塵を巻き上げる“それ”がゆっくりたちには何か理解できなかった。数匹の ゆっくりが“それ”に押し潰されて死んだ。“それ”が生み出した衝撃の波はゆっくりを大きく宙に吹き飛ばした。 火山弾、である。 火山弾とは噴火の際に溶けて宙に投げ出された岩の破片が空中を飛んでいる際に冷えて固結したものである。噴火の規模が大 きければ大きいほど、山の岩を吹き飛ばした範囲は広くなる。それは、双葉岳を中心にまるで流星のように降り注いだ。木々を なぎ倒し、大地を削り、森を徹底的に破壊していく。ゆっくりたちの叫び声や絶叫は少しも聞こえてこない。着弾の際の轟音が その全てを掻き消しているのだ。 瞬間的な衝撃は地震のそれを上回る。耳をつんざくような音。襲いかかる衝撃。それらが森に住んでいたゆっくりたちを殲滅 させるかの如く続いて行く。 「ゆっくりにぎゅべっ!!!!」 火山弾の餌食になったゆっくりの数は凄まじいものがあった。規模は大小さまざまではあるが空から突如襲ってきた侵略者に 対して為す術などない。運まかせにあんよを動かして逃げるしかないのだ。広がる樹木の葉っぱに遮られてどこから火山弾が降 ってくるか予測がつかない。仮に予測がついたとしても、気付いたときにはもう潰されてしまっているのだろうが。 「い゛だい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」 上空高くに投げ出された拳大の岩でさえ凶器となる。巨大な火山弾に潰されて即死したゆっくりはまだ幸せだったのかも知れ ない。一匹のれいむは顔の三分の一を陥没させた姿で地面の上をのた打ち回っていた。助けてくれるゆっくりなど一匹もいない。 激しい痛みに体を滅茶苦茶に動かす。破れた皮から餡子が四方に飛んでいく。 「むっきゅううううん!!! む゛ぎゅうぅ゛ぅ゛!!!!」 火山弾に髪の毛を挟まれて身動きが取れなくなっているのはぱちゅりーだ。次々と降り注ぐ自然の弾丸に怯え、汗と涙としー しーを大量に噴射している。ぱちゅりーの近くに火山弾が落ちてくるたびに凄まじい衝撃が顔を襲う。土煙によって視界を遮ぎ られたぱちゅりーが、誰へともなく助けを求め続ける。そのとき、火山弾が木に直撃してそれを真っ二つに破壊した。それを見 て顔面蒼白になっているぱちゅりーを更なる悲劇が襲う。木が、ぱちゅりー目がけて倒れてきたのだ。 「む゛ぎゅぇっ!!!!!」 視界を倒れてくる木で覆われ、潰される最後の一瞬まで絶望に苛まれながら、ぱちゅりーはようやくこの恐怖から解放された。 「おきゃああしゃああああん!!!」 「ちびちゃんたち!! ゆっくりしないでにげるよっ!!!」 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら森を逃げ回っているのはまりさ親子だ。既につがいであったありすは死んでいる。泣き叫ぶ子 供たちを引き連れて、山頂に現れた真紅の悪魔から少しでも遠くに離れようと必死だ。まりさが子供たちを振り返る。 「ゆ゛げぇ゛ッ?!!」 間抜けな叫び声を上げるまりさの視界に映し出されたのは一直線に自分たちのもとへと転がってくる巨大な火山弾だった。そ の足色たるやとてもゆっくりのあんよで逃げ切れるようなものではない。助かるための選択肢はいくつか残されていたが、正し い判断を下すことはできなかった。それどころかその場でぴたりと立ち尽くし、迫る火山弾を見ていることしかできなかった。 「ぎぴっ!!」 「ぴゅげっ!!!」 まるで計算されていたかのように二匹の赤ゆを叩き潰しながらまりさに襲いかかる火山弾。まりさは頬に空気を溜めて火山弾 に対し威嚇を試みた。次の瞬間、まりさがいた場所は小さな水溜まりの餡子が残されているだけだった。 一瞬にして群れを壊滅の危機にまで追い込んだ火山弾はその勢いを留めることはない。ゆっくりたちだけではない。木や草や 花。あらゆる命を破壊していった。 火山弾の直撃を逃れたゆっくりたちは巣穴の中や岩陰に身を潜めてがたがた震えていた。この場所もいつ崩落してしまっても おかしくない。それを分かっていながら外に出ることはできなかった。出たら火山弾によって潰されてしまう可能性がある。八 方塞がりのゆっくりたちは泣きながら地獄と化していく森の姿を眺めていることしかできないのだ。 「おきゃ……しゃ、れーみゅ……あちゅくて……ゆっくち……ゆっ、ゆっ、ゆっ……」 突如、巣穴の中の温度が上がり始めた。それにいち早く反応したのは体の小さな赤ゆたちである。空気が焼けるように熱い。 「もっちょ……」 一瞬にして体中の水分を奪われた赤ゆがばたばたと死んでいく。まるで巣穴という窯の中で蒸し焼きにされているかのような 熱さだった。かろうじて生き残った親ゆがたまらず巣穴の外にあんよを向ける。干からびた赤ゆを見て流した涙は一瞬で蒸発し てしまった。切れ切れの呼吸で巣穴から顔を出した親ゆは一瞬で消し炭となって死に絶えた。 火山弾に加えて群れを蹂躙する新たな脅威が現れたのだ。まるで生き物のように斜面を滑り落ちるのは高温の火山ガスと火山 灰。灼熱の霧のようにも思えるその正体は“火砕流”である。森を焼き払いながら山頂から流れてくるその姿はまるで悪魔の魔 手のようにも見えた。まるで獲物を探して腕を伸ばすかのように地形に合わせて流れを変化させていく火砕流が、一匹のありす をその手中に捕えようとしていた。他のゆっくりたちとはぐれてしまったありすは単身森を逃げ続けていた。 「や……やめて……、い、いや……」 目の前に迫る火砕流はもはや動く壁にも等しい。怯えて動けないでいるありすを飲み込もうとその勢いは衰えるところを知ら ない。 「いやぁ……ッ――――――――……っ、かはぁぁぁぁッ!!!!!!」 ありすが一瞬で焼きつくされる。高温の火山ガスに触れた皮は焼けただれ、吸いこんでしまった高温ガスにより体内を焦がさ れる。それはあまりにも熱く情熱的な無慈悲なる灼熱の抱擁。灰塵となったありすには脇目もふらずにその手を次の獲物へと伸 ばしていく火砕流。それが通過した後には真っ赤な炎が咲いていた。徐々に燃え広がっていく。 降り注ぐ火山弾。全てを焼き尽くしながら森を飲み込んでいく火砕流。自然が引き起こした圧倒的な暴力が何もかもを破壊し ていく。 「ゆっくりして……ゆっくりしてね!! おねがいだからゆっくりしてね!!!」 まだ夜が訪れる時間ではないはずなのに周囲が暗くなっていく。火口から吹き上げられた噴煙が上昇気流に乗って空高く登り、 太陽を覆い隠してしまったのだ。 「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 ますます悪化していく状況に適応することなどできるはずもなく、次々に命の灯を消して行くゆっくりたち。粉塵や噴煙。焼 き払われていく木々から伸びる黒煙が視界をどんどん奪っていく。そして、突如闇の中から現れる悪魔の洗礼に訳も分からない まま殺される。 「だれか……だれでもいいからたすけてねっ!!! かわいいかわいいれいむたちをたすけてねっ!!! おねがいだからたす けてねっ!!!! れいむたち、なんにもわるいことしてないのにぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」 二、 未だに地鳴りと共に小規模な爆発が山頂から響いている。降り続いた火山弾はようやく落ち着きつつあった。火砕流もそれ以 上流れ出すことはなく、巣穴の中に隠れて奇跡的に生き残っていたゆっくりたちがようやく外に這い出てくる。薄暗い森の中。 額にじんわりと汗をかく。周囲の気温が極端に上昇しているらしい。視界の悪い中でお互いの顔を確認することができたゆっく りたちは泣きながら頬を寄せ合い、それぞれの無事を喜んでいた。そこへぴょんぴょんとまりさが一匹跳ねてくる。その表情は お世辞にもゆっくりしているとは言い難い。 「た……たいへんなのぜ!! もりが……もりが、もえてるのぜ!!!」 「――――ッ?!」 火砕流の高温ガスと熱風が熱源となり、木に燃え移ったのである。そして秒速十メートルものスピードで斜面を一気に駆け抜 けるそれは強い風を生み出す。燃え盛る炎は強風で煽られ燃焼範囲を一気に広げてしまった。火砕流による二次災害がこの時既 に発生していたのである。 妙に息苦しいのも気温が高くなっているのもそれが要因の一つに間違いないだろう。しかし、生き残ったゆっくりたちはどこ に向かって逃げればいいのかがわからない。大規模な山林火災が発生しているのは間違いないが、その炎がどこからやってくる かまでは予測できないのだ。 「ゆゆっ!?」 深い霧の中にいるような状態だが、れいむは気づいた。霧の向こう側がやけに明るくなっている箇所がある。他のゆっくりた ちもそちらに意識を向けると微かに枝木が燃えて弾ける音や、倒されていく木々の凄まじい音が聞こえてきた。それぞれの顔を 見合わせたゆっくりたちは、そこから火の手が迫ってきていることを理解した。焦げくさい匂いが漂う砂塵の霧に向かって飛び 込むゆっくり。前が見えなくても前に向かって逃げるしか道が残されていなかった。そこら中に転がった火山弾に移動ルートを 限定されながらも必死になって跳ね続ける。 「た……たすけて……」 れいむ以下三匹のゆっくりたちは微かに聞こえた助けを求める声に反応し、霧の中を一生懸命に探し始める。ゆっくりたちは 根元から倒れた木に挟まれて動けなくなっているありすを見つけると、頬をすり寄せたり破れてしまった皮の周りを舐めて癒そ うとしたりし始めた。ありすはそれらの行動に少しだけ安心したのか静かに涙を流し始めた。れいむたちからは見ることができ ないが、ありすの後頭部は完全に木によって押し潰されて既に形を成していない。それでもありすがかろうじて生きているのは “自分はまだ動けないだけだ”と思い込んでいるからだろう。虚ろな視線をれいむたちに向け、涙交じりの声で“たすけて”を 繰り返す。 「まっててね、ありす! れいむたちがぜったいにたすけてあげるよっ!!!」 「ゆぅ……れいむ、ありがとう……ほんとうにありがとう……」 「こまったときはおたがいさまだよっ! それっ……ゆーえす! ゆーえす!!」 れいむの掛け声に合わせてゆっくりたちが木をどかそうと頬を押し付けるがそれで動くはずなどない。必死の形相で木を動か そうとしているにも関わらず、びくともしないのを見てありすが半ば諦めたような表情を浮かべた。ぽろぽろと涙がこぼれてく る。 「れ……、れいむっ……!」 想像以上に火の回りが早い。当然だ。ここは森の中である。拡大していく炎を遮るものは一切存在しない。気がつくとれいむ たちの周囲に火が迫りつつあった。苦虫を噛み潰したような顔で炎を睨みつけるれいむ。 「もう、むりよ……ありすのことはいいから……みんなはにげて……」 「……ゆーえす……ゆーえす……っ!!」 「れいむ……ありすのことは……」 「ゆ、ぎぃぃ……っ!! はやくどいてね!! ゆっくりできないよっ!!!」 「おねがい……っ! もういいから……っ! れいむたちまでゆっくりできなくなっちゃう!!!」 目の前で燃え上がった木が崩れ落ちる。炎から発せられる熱風がゆっくりたちの頬を軽く撫でた。がたがた震えながら眩しそ うに炎を凝視して涙を流す一行。まるでドミノ倒しのように崩れていく無数の樹木たち。辺りが火の海と化していく。れいむも ぶるぶる震えていた。震えて泣きながら、ありすの頬に自分の頬をすり寄せた。 「ゆっくり……ごめんなさい……」 「いいのよ……ありがとう、れいむ。 ありすはれいむのこと……ぜったいにわすれないから……」 見ず知らずのれいむとありす。それでもれいむはありすを助けてあげたいと願った。ありすも、自分の命よりもれいむの無事 を願った。何が二匹をそうさせたのかはわからない。 「れいむ……っ!! はやくにげるのぜっ!!」 唇を噛み締めて涙を流すれいむの姿を見て、ありすがにこりと微笑んだ。ありすは飛び跳ねて行くれいむの後姿をいつまでも 見送っていた。せめて、あなたは生き伸びてほしい。そんなことを願いながら。ゆっくりは情に弱い生き物である。 「……っ!!!」 ありすの視界に映るのは自分を動けなくさせている木に燃え移った炎。ゆらゆらとその残酷なまでの赤と熱がじわりじわりと 這い寄ってくる。ありすがぎゅっと目を閉じる。もう理解できているのだ。今から自分は焼かれて死ぬ。目の前でボロボロにな って壊れていく木々と同じような末路を辿る。ありすの金髪に炎が触れた。 「あ……あぁぁぁ……っ!!!」 そこから一気にありすの全身を炎が包み込んだ。ぶすぶすという音を立てながら髪が、カチューシャが、目が、舌が焼かれて いく。熱い。痛い。苦しい。 「ゆ゛ぎゃああ゛あ゛あ゛あ゛っ!!! あ゛づい゛よ゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛!!!!」 森の中を逃げ続けるれいむたちがあんよを止める。どのゆっくりも振り返るようなことはしない。後方から聞こえてくるあり すの恐ろしい叫び声を聞いて全身が硬直してしまっていた。時間にしてほんの僅かな出来事だったはずだ。それなのに、ありす の絶叫は永遠に続くのではないだろうかと思うぐらい長い時間に感じた。ありすの声が完全に聞こえなくなってから、ようやく 後ろを振り返る。まるで炎で全身を覆われたありすがその場にいてこちらに近づいてきているかのような錯覚を起こす。 「ご……ごわ゛いよ゛お゛ぉ゛!!!」 「もうやだぁ!! おうちかえるぅぅぅ!!!!」 炎の鮮やかな色を反射させながらオレンジ色の霧が迫ってくる。同じように森の中を逃げ惑っているのはこの一団だけではな い。あちらこちらで焼け饅頭の残骸を見たり、火だるまになった他のゆっくりが徐々に焼け死んでいく姿を見てしまった。体力 的にも精神的にも限界が近付いており、中身もほとんど底をつきそうになっている。燃え盛る森の中で食料を探し出すのは不可 能である。程なくして一歩も動くことができなくなったれいむたちをありすと同じように炎が蹂躙し、焼け饅頭の仲間入りを果 たした。 山火事の勢いが弱まる気配は一切なかった。恐らくこの森を焼き尽くすまで山火事は続くのだろう。それでも未だに逃げ続け ているゆっくりたちもいるにはいた。もはやゆっくりたちの生死には関係のないことではあるが、噴火口から溶岩が流れ出して きた。谷の部分をゆっくりと流れてくるその姿はまさに巨大な紅蓮の大蛇である。既に火山弾と火砕流で周囲を焼け野原に変え つつあると言うのに、自然の猛威は一切の情け容赦を持ち合わせてはいないようだ。 一瞬にして森は死んだ。同時にゆっくりぷれいすも壊滅した。豊富な食料も残らず焼き尽くされてしまったのである。この地 で生物が生きていくことは、事実上不可能に近い状態にまで陥っていた。 真夜中になっても火の勢いは衰えない。まるで真昼のように夜空を赤く染め上げながら時間をかけて森を蹂躙していく。生き 残ったゆっくりたちは呆然としながらその様子を見つめていた。息を吸い込むと喉が熱くなり咳き込んでしまう。そんな環境の 中でも食料を見つけて口にしなければ生きていくことはできない。いつまでも呆けているわけにはいかなかった。かろうじて焼 けずに残った雑草などに口をつけた数匹のゆっくりが、苦悶の表情を浮かべてそれらを吐き出した。 「ゆげぇっ!! ぺっ、ぺっ!!!」 しきりに唾を吐き出す。草は砂まみれだった。正確には火山灰が降り積もっているのである。爆発の際に上空高く舞い上がっ た火山灰がこの時間になってようやく降灰し始めたのだろう。気がつけばゆっくりたちのあんよは汚れにまみれている。基本的 に綺麗好きなゆっくりたちは、泥や砂の付着した食料を食べるようなことはしない。 「……ゆっ、ゆっ……」 それでも食料を口にしなければいずれは死んでしまう。口の中でじゃりじゃりと灰混じりの草を咀嚼していく。 「むーしゃ、むーしゃ……それなりー……」 火の勢いが弱まってきた場所ではなんとか食料を探すくらいの余裕が生まれてきているのだが、森全体に目を向けてみれば山 火事はまだまだ続いている。あちらこちらで火だるまになったゆっくりたちがのた打ち回っていた。生きながらにして火で焼か れるのは想像を絶する苦痛だろう。 夜の闇を激しく照らし続けた炎は一晩中燃え続けた。火山灰と黒煙がゆっくりたちの行動を著しく制限する。巣穴の中に隠れ ているわけにもいかない。引きこもっていては変化していく状況についていくことができなくなるのだ。一晩かけて麓まで流れ 出した溶岩流もようやくその動きを止めた。未だ液状の形態を保っており、焼け落ちた木屑などがそこに触れると一瞬にして溶 けてなくなる。溶岩流は森を東西に分断してしまった。 翌朝。 溶岩流の中央に大きな岩が顔を出している部分があった。 「おでがいじばずぅぅぅ!! れいぶだぢをだずげでくだざぃぃぃぃ!!!」 「ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛……」 岩に取り残された親れいむと子れいむ、子まりさが必死になって助けを求めている。子れいむは顔の一部が真っ赤に膨れ上が り、髪の毛とリボンも燃え屑のような状態になってしまっていた。炎に包まれた森の中を逃げてくる途中に引火してしまったの を親れいむと子まりさが必死になって消したのだが、間に合わず顔まで火傷を負ってしまったのである。更に子れいむの火を消 すのに夢中になっている間に溶岩流が流れてきた。進路も退路も塞がれたれいむ親子は少しでも高い岩の上によじ登り、迫りく る溶岩流から逃げようとしたのだが、現在は炎の河の中州に取り残されている状態となっている。 溶岩流の熱が岩に伝わり、激しく熱されていく。それはまさに自然が生み出した天然のフライパン。溶岩流から吹きあがる熱 気とあんよに直接伝わる岩の熱が三匹に地獄の責め苦を味わわせようとしていた。 「おぎゃ……じゃ、まり……しゃ……おみじゅしゃん……ごーきゅ……ご……しちゃい……」 体内の水分をほとんど失ってしまった子まりさが、消え入るような声で親れいむに訴えかける。表面積の小さな二匹の子ゆた ちのあんよは既に焼けただれており、岩にくっついてしまっている。最初は狂ったように泣き叫んでいたが、今となっては泣き 叫ぶ力も残されていないのだろう。乾燥しきった目玉が親れいむの方向を向いたまま動かない。ゆっくり、ゆっくりと焼き上げ られて変わり果てた姿となっていく我が子の姿を見て、親れいむもまた発狂しそうなほどに怯えていた。 「あぢゅいよぉ……あちゅいよぉ……」 ほぼ全身を火傷している子れいむも力なく訴える。親れいむもまた岩にあんよをつけていられるような状態にはない。しきり にその場で小さく飛び跳ねていた。しかし、それは親れいむの死期を早めることとなる。二匹の子ゆたちも今の親れいむと同じ ことをした。そのせいで中身の餡子をどんどん消費してしまい、最後は動けなくなってあんよを丹念に焼き焦がされた。では、 どうすればいいのか。答えは簡単である。諦めるしかないのだ。人間の跳躍力を持ってしても岩からどちらかの岸に飛び移る事 は不可能である。溶岩流が冷えて固まってしまった後ならその上を飛び跳ねて脱出することはできるだろうが、それを待ってい れば家族揃って焼け死ぬだけだ。頭の悪い親れいむが考えても理解できた。この状況を打開する方法は何一つしてない。ただ、 岩の上で意識を失うまでじわじわと皮を焼かれるしか道は残されていなかった。 「おぎゃ…………――――」 損傷の激しかった子れいむがついに永遠にゆっくりしてしまった。それはある意味幸せだったとさえ思えるほど、現実は酷い ものだった。涙も枯れ果てた子まりさは、もうまともに言葉を喋ることができなくなっていた。カサカサになった舌がだらりと 垂れる。目を見開き、びくびくと痙攣を起こしていた。時折、“がひっ、こひっ……”などと咳き込むように呼吸らしきものを 行う。 「あ……あ゛づい゛……っ!! ゆっぐりでぎな゛い゛……っ!!! どぼじで……どぼじでぇぇぇ??!!!」 あんよに感じていた熱が強くなっていく。既に親れいむにも耐えることができない温度まで岩は加熱されていた。親れいむが 暴れ始めるとほぼ同時に子まりさがぴくりとも動かなくなった。死んだのだ。 「あ゛づい゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!! ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 絶叫しながら身を捩る親れいむ。どれだけ抵抗しても、どれだけ泣き叫んでも岩の熱が弱まることはない。懇願する相手も、 呪詛をぶつける相手もいない。孤独の中、ひたすらあんよを焼かれ続ける。 「ゆ゛ぎいぃぃぃぃ!!!」 熱さはやがて痛みと化していく。歯を食いしばり苦悶の表情を浮かべる姿は、ゆっくり本来の表情など微塵も残されていなか った。ひたすら激痛が親れいむの全身を蝕む。溶岩流の熱気が親れいむを包み込んでいるため呼吸をするのも息苦しい。あまり の苦しさに体を滅茶苦茶に動かす親れいむ。そのとき、振り回された揉み上げが既に息絶えた子れいむに当たった。 「ゆぁっ……!!」 岩の下に落ちて行く子れいむ。溶岩流に触れた瞬間、じゅっ……という音を立てて跡形もなく溶けて消えた。燃えたのではな く、溶けたのだ。親れいむの額を冷汗が伝う。もうどこにも逃げられない。溶岩流が岩の上まで到達することはないものの、高 温となった岩に触れている限り安息の時は決して訪れないのだ。 「だ……だれがぁぁぁ!!! だずげでぇぇぇぇ!!!!」 天空に向かって叫び声を上げる。もちろんそれに応えてくれる者などいない。 「ゆゆっ?!」 一瞬の出来事だった。熱さに耐えることができずに暴れ回っていた親れいむはあんよを踏み外して岩から落ちてしまった。 「おそらを……」 仰向けに落下していった親れいむが最後に見たのは灰色の空。溶岩流に“着水”した親れいむは一瞬で溶けてその一生を終え た。 三、 炎による蹂躙は三日三晩に及んだ。ようやくその勢いを弱めつつある山火事の片隅では、奇跡的に生き残ったゆっくりたちが 這いずりまわっている。都会に住んでいるわけでもないのにどの顔も泥だらけだ。 辺り一面が焼け野原である。体力のあるゆっくりたちが食料集めを兼ねて付近を散策していたが、徒労に終わってしまった。 破壊の限りを尽くされた森の中には食料など残されていなかったのだ。かつてのゆっくりぷれいすは跡形もなく消え去ってしま った。もちろん、全てのゆっくりが火山弾や火砕流、溶岩流に飲み込まれて死んでしまったわけではない。群れの半数は死滅し てしまったが、なんとか無事に逃げることができたゆっくりも少なくはないのである。 しかし。本当の地獄はここからだった。 太陽は厚い噴煙に覆い隠され森に陽の光は届かない。四月の半ばであるということも手伝って気温がなかなか上がらないのだ。 それどころか肌寒さすら覚えるので、巣穴の中に籠ったきり出て来ないゆっくりたちが多かった。春を迎えたゆっくりたちは、 予期せぬ越冬に嘆き苦しんでいる。食料の備蓄は皆無に等しい。突然越冬を強いられたゆっくりたちは家族単位で死んでいった。 それでも果敢に食料を集めようとするゆっくりもいた。しかし、堆積した火山灰に埋もれとてもじゃないが口に入れることは できない。この時、双葉岳噴火の際に噴出された噴煙による火山灰は直径二十キロメートルほどの範囲を埋め尽くしていた。そ の山の麓に存在していたゆっくりぷれいす。十キロもの道のりを飛び跳ね続けることのできるゆっくりはいない。根性論などで はなく、成体ゆっくりでも途中で中身が尽きて動けなくなってしまうのだ。この時点で、生き残ったゆっくりたちも、死から逃 れることはできない運命を背負わされていたのである。 真綿で首を絞められるような長い長い苦痛。中身が失われていくのをゆっくりは理解しているという。だからこそ、必死にな って食料を集めようとするのだ。しかし、ありもしない食料を探して飛び跳ねることは自殺行為としか言いようがない。実際、 志半ばで永遠にゆっくりしてしまう者が多かった。死んでしまったゆっくりから沸き立つ死臭は森全体を漂っている。晴れる見 込みのない粉塵の霧に、大地を灰色に染め上げる火山灰。これに死臭までが加わってしまった。視覚、嗅覚、味覚を同時に奪わ れながらも、それに対抗する手段を思いつくものは一匹もいなかった。 「おきゃあしゃん……まりしゃ、おにゃかすいちゃよ……」 やつれた一口饅頭が巣穴の中で情けない声を漏らした。巣穴の中を見回してみると、確かにそこには何もなかった。食べ物を 乗せていた葉っぱも口の中に入れたのだろう。あまりにも殺風景なゆっくりのおうちである。どうすることもできない成体ゆっ くりのまりさとありすは、ぺーろぺーろと子供たちを舐めながら空腹を紛らわせようとしていた。当然、そんなことは無意味で ある。 「ゆゆ……ん、きょんなとこりょに、いもむししゃんが……いちゃよっ。 ゆっくち、むーちゃ……むーちゃ、しゅりゅよ……」 「ゆゆっ?」 赤まりさの言葉にまりさとありすが視線を向ける。赤まりさは小石を口に咥えてそれを飲み込もうとしていた。小石が芋虫に 見えたのだろう。慌ててその小石を払いのける親ありす。 「ゆぐぇ……どおちて……こんにゃこちょ、しゅりゅのぉ……?」 「ちびちゃん! ゆっくりりかいしてね!! いまのはいもむしさんなんかじゃないよ!! むーしゃむーしゃなんてできない んだよっ!!」 「まりしゃの……いもむししゃん……いもむししゃん……ゆっくちしにゃいで……まりしゃに……たべられちぇにぇ……?」 「ちびちゃ……」 二匹の親ゆの声は届いていないらしい。ずりずりとあんよを這わせて小石の元へとたどり着き、それを口の中に入れた。 「むーちゃ、むーちゃ……」 などという台詞とは裏腹にゴリッ、ゴリッという音が聞こえ赤まりさの歯が粉砕されていく。 「ちあわちぇぇぇぇ……」 口を開いた瞬間、親ゆたちは絶句した。砕けた歯でズタズタになった舌が露わになったのだ。激しく餡子を吐きながら、 「ちあわちぇ。 ちあわちぇ。 ちあわちぇ……」 とうわ言のように繰り返す。親まりさと親ありすは互いに身を寄せ合って震えていた。やがて、ゼンマイが切れた人形のよう にぴくりとも動かなくなる赤まりさ。顔面蒼白のまま固まってしまっている赤まりさの口から小石がころりと落ちる。 「う……うわああああ!!!!」 絶叫する親ありす。ぶるぶると震えながら、親まりさにぴったりと頬をくっつける。親ありすは親まりさにすーりすーりで慰 めてもらうのを期待していた。しかし、親ありすに与えられたのは安堵感ではなく鋭い激痛である。 「いだい゛ぃ゛ぃ゛!!!」 突如自分を襲った激痛に思わずその場から飛びのいて状況を確認しようとする。大好きな親まりさを視界に入れて安心したの も束の間だった。 「むーしゃ、むーしゃ……しあわせ……」 「ま……までぃざぁあ゛あぁあ゛ぁ゛ッ??!!!」 親まりさが咀嚼をしているのは噛みちぎった親ありすの頬の皮である。親ありすが激痛の意味をゆっくりと理解した。親まり さによって噛みちぎられた箇所から中身のカスタードが滴り落ちる。親まりさが親ありすの元へとにじり寄ってきた。親まりさ の目は正気の沙汰ではなかった。繰り返される大異変。次々と死んでいく仲間、友、家族。それらすべてが親まりさを狂わせた のだろう。その狂気は長い間一緒にゆっくりしてきた親ありすへと牙を向けさせた。親まりさが親ありすに飛びかかる。恐怖で あんよを動かすことができなかった親ありすがあっさりと捕捉される。親まりさの下で苦悶の表情を浮かべながら足掻く親あり す。 「ゆっくり……しないで、はなし……て……っ!!!」 振りほどこうとするものの、親まりさを押しのける力は残されていない。それどころか力をかけると破れた皮からカスタード がぴゅるぴゅると飛び出してしまう。 「ゆぐぅ……っ!!」 一瞬の隙をついて、親まりさが親ありすの左頬にかぶりつく。親まりさの親ありすを求める力は凄まじいものがあった。これ ほど激しく自分を求められたことなどない。そして、それが恐ろしくてたまらなかった。親まりさは、親ありすの事をもはや食 料としか見ていないようである。一思いに皮をぶちぶちと噛みちぎる。 「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 再び襲う激痛。親まりさは親ありすの皮を乱暴に咀嚼しながら、親ありすの破れた皮に自分の顔を突っ込んだ。中身に直接侵 入されてそこを食い散らかされる凄まじい激痛に、痙攣を起こし二度三度と体を跳ね上げる。もう枯れ果てたと思っていた涙が まるで噴水のように噴き出す。親まりさは親ありすの皮と中身を滅茶苦茶に食い荒らした。 「い゛だい゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!」 体が、心が激痛に蝕まれていく。大好きな親まりさが捕食種のごとく自分の体に食らいついている。ぐちゃぐちゃと音を立て ながら親ありすの顔に何度も、何度もその歯を立てる。目玉を、口を、舌を、次々と飲み込まれていく。親ありすは自分の体が 少しずつ崩れていくことに恐怖し涙した。親まりさは一心不乱に親ありすを食い続けた。やがて親ありすはその意識を完全に閉 ざした。耐え難い苦痛に心が崩壊してしまったのである。親まりさはそれでもなお、親ありすの皮を破っては口の中に入れてい った。 「むーしゃ……むーしゃ、…………しあわせええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!」 巣穴の中に狂ってしまった親まりさの絶叫が響き渡る。親まりさは、親ありすの髪の毛一本も残さないようにその全てを自身 の腹の中に収めた。 「ゆぎゃああああああ!!! やめでぇぇぇぇ!!! れいむはおいしくないよぉぉぉぉぉ!!!!!」 巣穴の外からも他のゆっくりたちの悲鳴が聞こえてくる。極限状態のストレス。耐え難い飢え。その全てがゆっくりたちを狂 わせてしまったのだろう。森のあちこちで、ゆっくりを食うゆっくりの姿が散見される。一匹のれいむは数匹のゆっくりに追い 回されている最中だった。 「ゆんやああああ!!!」 追い詰められたれいむが子供のような悲鳴を上げる。れいむを追いかけていたゆっくりたちの口周りには餡子や生クリームが べったりと付着していた。真っ先に運動が苦手なぱちゅりーが狙われたのだろう。 「やべでええええええ!!!!!」 れいむの視界に映るは無数の口、口、口。動物のように鋭い歯を持たないゆっくりたちが皮を噛みちぎるのには時間がかかる。 その間中、れいむを耐え難い激痛が襲うのだ。四方から皮を引っ張られ、やがてそれが弾けるかのように引きちぎられる。 「うっめ!! これめっちゃうっめ!!! ぱねぇ!!!!」 先ほどの親まりさ同様にれいむの皮を咀嚼するゆっくりたち。すぐに飲み込んでしまい、第二陣がれいむを襲う。離れた位置 から見るとそれはゆっくりとはいえ、恐ろしい光景だった。数匹のゆっくりたちが固まって頭を上下に動かし、顎を震わせてい るのである。 「もっど……ゆっぐり……じだが……」 同族に食われて殺されるという最悪な形で死を迎えたれいむがこと切れる。ぐちゃぐちゃのボロ雑巾のような姿になったれい むが森に放置された。何もかもを火山灰で覆い隠されてしまったゆっくりたちの食料は皆無に等しい。生き延びるためには、同 じゆっくりを食らうしか道は残されていなかったのである。 それは檻だった。自然が作り上げた巨大な檻。その中に閉じ込められてしまったゆっくりたちに生きる術は残されていなかっ たのである。脱出しようと思えばいつでも脱出できるのに、決して脱出することはできない無情の檻の中で、ゆっくりたちは最 後の一匹になるまで互いの皮を食らい続けた。 やがてその最後の一匹も、孤独の中で餓死してその命の灯を消すこととなる。 圧死。焼死。餓死。共食い。火山の噴火はゆっくりたちに様々な死の洗礼を浴びせた。かつて、南九州を襲った七千三百年も 前の大噴火。鹿児島の鬼界カルデラをその端とする巨大な爆発による火山灰は西日本一帯を覆ったという。 その圧倒的な力を前に、ゆっくりたちが抗うことができるだろうか。 いや。できない。 絶対に。 おわり 日常起こりうるゆっくりたちの悲劇をこよなく愛する余白あきでした。
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/1142.html
俺は虐待鬼威参、突然だがこんな俺にも彼女が出来た。 趣味も価値観もぴったり、今度プロポーズする予定なんだが…… ゆっくりをテーマにプロポーズするなんて言ってしまって猛烈に困っている。 もちろん彼女もゆっくりは好きだ、苛めたくなるほどに。 ただ、どうやってプロポーズにゆっくりを取り入れたらいいのか、ない頭を絞って考える。 「ゆぎぎぎぃぃぃぃ!でいぶをじぼらないでぇぇぇぇぇ!!」 「はー」 出るのはため息ばかりなり。 あほな事言わなきゃよかったかな? まあ、あれこれ悩んでも仕方ない、色々やってみるか。 「俺の気持ちです、受け取ってください!!」 「ゆゆっ?!なんなのぜこのくそばばあは?まりささまのどれいこうほなのぜ?」 「……………」ビキッ! 「しかたないのぜ!くそばばあはきょうからまりささまのd」グチャッ! 「なぜだあぁぁぁぁ!」 「……くそばばあって言われて気分良い訳ないでしょ?」 「くっ」 「給料の3か月分です」 「あみゃあみゃもっちぇきょい!くちょどりぇい!」 「………」ブチッ! 「これもだめか?!」 「…あんたの給料3か月分はこの1匹の赤ゆなの?」 「うけるとおもったのにぃぃぃぃぃ!!!」 俺は泣いて走り去る。 「………まあ、おもしろかったけど…」 「お代官様、お納めください子ゆっくりの詰め合わせです。」 『ゆっくりしていってね!!』キリッ×12 「越後屋、何か間違っておるぞ?」グチャッ×12 「お届け物です!」 「ゆゆゆっ?なんn」バーンッ!! 「…プレゼントから離れなさい、なんかおかしな方向に走ってきてるし…」 「…むぅ」 「俺、このドスを倒したら帰ってお前と結婚するんだ!」 ユッ!ドスハナニモワルイコトハシテナイヨ! 「あんたじゃ無理よ、止めときなさい」ドガッ! ユベボッ!! ?!!ドス!ドス!シッカリシテェェェェェェェェェ!!!! 「…………強いな(汗……」 「お前のために、この町の野良ゆを全部駆除するぜ!」 「それ、無理だから!それにそんな事したら楽しみが減るでしょ?」 「…うむぅ」 …ここまで来て手詰まりか?俺は何も出来ないのか?! そう絶望していたところだったが、一筋の希望が見えてきた。 そうだ、まだあれがある!思い立ったら即行動だ! 「おれのぉぉぉぉぉ!きもちをぉぉぉぉぉぉ!!」 俺のスピードは加速する、思いをのせて加速する。 「うけとれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 そういって大きく振りかぶる。 そう、これは古来から言われてきた言葉だ。 「ゆっくりぃぃぃぃ!バスタァァァァァァ!!」 そう叫ぶと、大きめのまりさを彼女めがけて放り投げる。 「おぞらおぉぉぉぉぉとんでるみだぁぁぁぁぁぁぁぁぁいいい!!」 こんな時にも律儀な奴だ。 「?!」バーーン!!グジャ! 「よし!」 成功だ、まりさは見事に彼女に命中、当たって砕けたのだ。 「………」プルプルプル! 餡子まみれになった彼女が震えている、感極まったのか?俺の思いは届いたのか? そんな事を考えていると… 「このぉぉ!おおばかもんんんんんnnnn!!!」 バキッ!!!! 「あら?」 瞬間、俺は宙を舞っていた。 「おそらをとんでるみたーい!」 嗚呼、愛が痛い。 完 過去に書いたもの ふたば系ゆっくりいじめ 819 ムシゴロウ王国 ふたば系ゆっくりいじめ 826 ムシゴロウ王国2 ふたば系ゆっくりいじめ 828 ムシゴロウ王国3 ふたば系ゆっくりいじめ 831 ムシゴロウ王国~王国の仲間達~ ふたば系ゆっくりいじめ 835 罰ゲーム ふたば系ゆっくりいじめ 836 ショート ふたば系ゆっくりいじめ 841 ゆんセルク ふたば系ゆっくりいじめ 842 ハイテンション
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/1542.html
anko0500 れいむ・マスト・ダイ(後編) anko0501 俺が、ゆっくりだ! anko0502 ただ一つの anko0503 ゆっくり戦記・前編 anko0504 2200円れいむ(後編) anko0505 kodoku anko0506 お前もポールさんみたいにしてやろうか!? anko0507 町ゆっくりの食料事情 anko0508 お尋ねゆっくり anko0509 明日に向って飛べ! anko0510 僕と『あの子』とゴミ饅頭と anko0511 偽りの賢者 anko0512 復讐の為にゆっくりに畑という概念を教えてあげた anko0513 ゆ怨 【挿絵】 anko0514 バケツまりさ anko0515 ゆっくりブリーダー anko0516 ゆう俗店 anko0517 ゆっくり天地創造 anko0518 れいむのだんなさん anko0519 みんなの幸せのために anko0520 黒色の魔法 anko0521 久城学園の不思議 anko0522 俺が、ゆっくりだ! 2 anko0523 ゆレー射撃 anko0524 戻らずの丘 【挿絵】 anko0525 おうたをうたったけっかがこれだよ! anko0526 はげの行進 【挿絵】 anko0527 俺が、ゆっくりだ! 3 anko0529 幸せ 【挿絵】 anko0530 投稿しよう 起・承 anko0531 俺が、ゆっくりだ! 4 anko0532 ゆっくり親子 とクズ人間 ~Another~ 【挿絵】 anko0533 俺が、ゆっくりだ! 5 【挿絵】 anko0536 俺が、ゆっくりだ! 6 【挿絵】 anko0537 苦悩に満ちたゆん生 【挿絵】 anko0538 ビッグゆっくり爆誕 【挿絵】 anko0539 俺が、ゆっくりだ! 7 anko0540 ゆっくりほめ anko0541 れいむとまりさとありすとぱちゅりーがゆっくりするSSさん anko0542 てんこがゆっくりするSSさん anko0543 肉まんと出かけよう 前編 anko0544 希少種の価値 anko0545 ドスハンター anko0546 俺が、ゆっくりだ! 8 anko0547 俺とゲスと自業自得な餡子脳 anko0548 おきゃあしゃんのおうちゃはゆっきゅちできりゅね! anko0549 希少種の価値 1,5 anko0550 希少種の価値 2 anko0551 ユグルイ その7 anko0552 俺が、ゆっくりだ! 9 anko0553 体3 anko0554 空から降る100万のぷくー 【挿絵】 anko0555 俺が、ゆっくりだ! 10 【挿絵】 anko0556 ゆっくり研究発表 anko0557 ユグルイ その8 anko0558 あるドスまりさの一生 とてもゆっくりした群れ anko0559 ドゲスー anko0560 ゆっくりとサバゲー対決 anko0561 弱虫まりさとほんとの勇気 anko0562 投稿しよう 転・結 anko0563 赤ゆ出産テンプレ虐待 anko0564 フォレスト・オブ・マッドネス anko0565 ゆ身売買 anko0566 おぼうしをおいかけて 【挿絵】 anko0567 古い言い伝え anko0568 おんもでゆっくりしよう!3 anko0569 ありす観察日誌 anko0570 おぼうしをぶん投げて anko0571 ユグルイ その9 【挿絵】 anko0572 えーき様とお義母様 anko0573 ドゲスまりさの優雅なひと時 anko0574 虐待・前篇 anko0575 ドール anko0576 野良ゆっくりの一家の訪問を受けた anko0577 ゆっくりを愛でてみた anko0578 ゆ狩る海峡冬景色(ver1.02)改行 anko0579 おぼうしのなかにあったもの 【挿絵】 anko0580 やさしいまち anko0581 採用通知? anko0582 虐待・後篇 【挿絵】 anko0583 死体 【挿絵】 anko0584 公園で暇つぶし anko0585 ドスと理想と長の資格 前 anko0586 どうしてちがうの? anko0587 人間vsゆっくり 前編 anko0588 罪 anko0589 裁 anko0590 れいむの平和な一日(前編) anko0591 ゆっくりしたハロウィンさん 【挿絵】 anko0592 肉まんと出かけよう 完全版 anko0594 れいむの平和な一日(後編) anko0595 独り占め anko0596 ドスと理想と長の資格 後 anko0597 蹴る anko0598 あるドスのゆっくり anko0599 DYC
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau9/pages/2157.html
ゆっくりいじめ系2100 メタな人たち 前編からの続き 「ゆっ?まりさのかわいいかわいいあかちゃん?」 辺りを見回しても、あの小さな饅頭の姿はもう無い。 ただ赤れいむがいたと思しき場所に、人間さんの大きな足が、柱のように突き立っているだけだった。 飛び散った餡子の温もりだけが、まりさの頬にびちゃりと貼りつき、次第に乾燥していった。 「はーい駆除――――」 「ゆ?ゆ・・・?まりさのあかちゃんは?まりさのとってもかわいいあかちゃんどうしたの? どうしたの!!どこにいったの!!こたえてね!!ゆっぐりごだえでね!!!」 「削除しました。だからお前らの考えるゆっくりなんて偽者なんだって、全部嘘っぱち! ゆっくり出来なくなるためのゆっくりなんて、ゆっくりじゃないだろ? 赤ゆはその最たるもの。 偽善と欺瞞の塊である赤ちゃんがいなくなってよかったね。これで少しはちゃんとしたゆっくりに近づけたかな」 そう吐き捨てるお兄さんの顔には、何の感慨も浮かんでいない。 ゆっくりを虐めて楽しむ子供、或いは大人のような、明るい笑顔すら無い。 虫を殺したような……というよりむしろ、困っているお年寄りを助けた後のような、当たり前の顔をしていた。 そんな彼の姿を見て、お姉さんの方は眉を顰め、明らかに引いていた。 「うわあ、きったない……よくそんなの踏めるね。赤ゆなんて虐厨のオナティッシュみたいなもんじゃん」 「おい、ちょっとは発言に品性というものをな」 そう言いながらもお兄さんは慌てて足を持ち上げ、足首をスナップさせて靴にこびりついた餡子を跳ね落としていく。 砂と混じったその一かけらが、ぴしりとまりさの目元に当たる。そして、まりさはキレた。 「ゆがああああああああああ!!よぐもばりざのがわいいあがぢゃんを!! ぜったいにゆるざないがらね!!あかちゃんごろじだにんげんざんはゆっぐりじねぇぇぇぇ!!!」 全てのゆっくりを奪われ、完膚なきまでに追い詰められたまりさの身体を動かしたのは、 今までに感じたこともないような憤怒の感情だった。 全身の皮や餡子をフル稼働させ、ただ目の前の人間への悪意を体現する為、激しい体当たりを繰り出す。 赤ちゃんれいむの命を奪った憎き人間の足に、ぽすんぽすんと衝突を繰り返す。 ぶつかるたびに、まりさの顔も痛かった。大きな石さんにぶつかったような痛みだった。 しかしやめる訳にはいかなかった。まりさの心はその何倍も痛かったし、 無残に殺され、死してなおその命を侮辱された赤ちゃんの痛みは、その遥か上を行くはずだからだ。 「うわ、ほんとに全然効かないんだ」 「弱体化されまくってるからなぁ。俺の知ってるゆっくりだったら、俺なんて数秒で消し炭にしちゃうんだけどねぇ~」 「っていうかこんな風に怒りまくってる時点で、みんなが知ってるゆっくりじゃないし(笑) まりさ、ゆっくりしていってね(笑)」 「うるざいよ゛!!かってにしゃべらないでだまっでね!!ばりざにゆっぐりじないでやられてしんでね!! ばかなにんげんさんたちはさっさとじね!!ばりざだぢをゆっぐりざぜないばかはじねえええぇぇぇ!!」 まりさがもう何度目になるか解らない体当たりをする瞬間、お兄さんは足をひょいと上げ、 突っ込んでくるまりさの身体をかわし、そのまま通り過ぎていくまりさの後頭部をちょんと爪先で突いた。 勢い余っていたまりさは、コロコロと前方に転がっていった。 「ほ~ら出た、暴言、ゲス口調。何でそんなに口汚いの? 相手にゆっくりして欲しいんじゃないの?」 「多分、虐厨以外の普通の人でもムカつくゆっくり、ってのを演出したかったんでしょ。 その結果ゆっくりでも何でも無い生物になってちゃ世話ないけどね(笑)」 「悪口を言うだけの機械だな……ただ生きてるだけでもうゆっくりしてないじゃん。 こんな意味不明なもの虐待して楽しいのかね、キチガイどもは」 「・・・・・ふざけないでね・・・・まりさはおこってるんだよ・・・・・!!」 無様な前転から何とか身を起こしたまりさは、静かに怒りを口にした。 相手に手玉に取られたことで少し頭を冷やしてもなお、煮えたぎる感情は収まる気配を見せなかった。 「あかちゃんは・・・・あかちゃんはすごくゆっくりしてたんだよ・・・みんなまりさのあかちゃんがだいすきだったんだよ・・・!! それにもうすぐ・・・・かわいいかわいいいもうとがうまれるって、わくわくしてたんだよ・・・・・ りっぱなおねえちゃんになるって・・・・まいにちまいにち、ゆっくりがんばってたんだよ・・・・!! れいむのおなかにいるあかちゃんも、おねえちゃんにあえるのをすごくたのしみにしてたんだよ・・・・・・!! それを・・・・それをにんげんさんたちはぜんぶこわしちゃったんだよ・・・!!ぜったいにゆるせないよ!!」 そこまで言い切り、まりさは顔を上げ、ギッと人間を睨み付けた。 先ほど威嚇でやったように、無理に怖い表情を作ったのではない。それよりも恐ろしい形相が、自然と顔に浮かんで来た。 暴力の手段をあまり持たないゆっくりにとって、口上が持つ意味は大きい。 これがゆっくり同士の争いであれば、まりさの喋りは怒りと気迫を相手に伝える、かなり上出来のものと言えただろう。 良心を持ったゆっくりが相手であれば、場合によっては泣いて謝ってきたかもしれない。 しかし相手は、尋常ならざる人間。 情に駆られるなどというわけもなく、その表情はますます苛立ちを増した。 「あ……? もう一匹赤ゆがいんのか?」 その返事を聞いて、今度こそまりさの頭は完全に冷え切った。 人間さんは、まりさの話なんて全く聞いていない。 それだけならまだいい、まりさに都合の悪い情報だけはしっかりと聞いている。 害虫の羽音を耳にして、その意味や内容を考える人間は普通いない。黙って殺虫剤を取り出すだけだ。 ゆっくりの赤ちゃんへの嫌悪という殺虫剤が家族に向けられようとしているのを、まりさは感じた。 そして同時に悔いた。自らもまた、人間さんが赤ちゃんを嫌いだと言っているのに耳を貸さずに喋っていたことを。 「ゆ・・・・い、いないよ・・・・あかちゃんはここにいたおねえちゃんだけだよ・・・・・」 「え~もういい加減スルー推奨なんですけど。キリないじゃん」 「いや、俺は目の前に害虫の巣があると解ってたら、無視は出来ないタチなんだ」 まりさが家族を守るために吐いた嘘も、むなしく掻き消されていく。 人間さん達が赤ちゃんを殺すの、殺さないのという話をしている間、まりさの冷めた餡子は冷静に思考していた。 それは極限状況でのみ実現する、日常のまりさではありえない量と速度の思考だった。 (このままにんげんさんにつかまったら、おうちのばしょをいわせられるかもしれないよ。 ぜったいにいわないっていっても、いっぱいこわいめにあわされて、むりやりしゃべらせるかもしれないよ) (それともまりさをつかまえて、もりのなかからまりさのおともだちのありすやぱちゅりーをみつけて、 このまりさのおうちはどこ?ってきくかもしれないよ。ゆっくりできるひとのふりをされたらおしまいだよ) (おねえちゃんのかたきはうちたいけど・・・しんじゃったおねえちゃんよりも、 いきてるれいむと、うまれてくるあかちゃんのほうがだいじだよ・・・ごめんね、おねえちゃん!!) 数秒間のゆっくりとした思考の後、まりさは道から飛び出し、草むらに飛び込んでいた。 人間達はまりさが自分からその場を放棄することなど想定していなかったのか、やや驚いてそちらを見た。 実際にはまりさは、草むらを二、三歩進んだだけだ。 しかし生い茂る草さんに身を隠せているので、既に逃げおおせた気持ちで、その後の人間さんの声を聞いた。 「あ~らら、逃げられちゃった(笑)」 「やれやれ、しょうがないな。じゃあ森中探し回って、それらしい赤ゆを見つけ次第駆除していくか。 今の奴の巣をピンポイントで狙えれば良かったんだけど、仕方ないね」 (ゆゆ!?) とんでもないことを言い出した。 このままではまりさのせいで、森中のゆっくりがみんなゆっくり出来なくなってしまう。 いっぱい赤ちゃんが殺されて、次世代を失った群れはなくなってしまう……。 まりさは激しく動揺したが、しかし一方で冷酷に割り切ってもいた。 人間さんは、とても強い。人間さんがやろうと思ったことを止めることなど、とてもじゃないが出来ない。 それは先程本気で戦ったことで、無意識レベルまで徹底的に刷り込まれた。 それにそうでなくても元々、まりさは一人の弱いゆっくりだ。出来ることといえば、自分の家族を守ることくらい。 だから、人間さんを止めるなんて大それたこと言わない…… 愛するれいむだけでも、人間さんに見つかる前に安全なところに移す。 そう最終決定を下したまりさの行動は、文字通り速かった。 すばやく草むらの中を駆け、迷い無く一直線に、我が家へと向っていく。 狩りでどんなに速い虫さんを追いかけた時でも、これほどのスピードは出していなかった。 まりさは今、森で一番速いのが自分であるかのように感じていた。しかしそれでも、焦りに応えるには全然速度が足りなかった。 (れいむ、まっててね!まりさがぜったいにたすけてあげるよ!ぜっっっったいだよ!!!) 隠れ場所は、どこにしよう……小さい頃にかくれんぼをした洞穴にしよう。 あまりにも上手に隠れすぎて、お母さんもお姉ちゃんもまりさを見つけられず、一晩孤独に泣き明かした思い出の洞穴。 あそこなら絶対に人間さんも見つけられないはず、そこでゆっくり赤ちゃんを産んでもらおう…… そんな風に思案しながら、ついにおうちある木の根元に辿り着いたまりさの視界に飛び込んで来たのは、 滅茶苦茶に壊されたおうちの入り口と、その両側に佇む、赤ちゃんを殺した人間さん達だった。 「ゆっ・・・・!?ど、どうして・・・・」 「あ、ようやく来た。マジで遅いんだね虐待用ゆっくりって。一応ゆっくりしてるってことかな? こんなところばっかり都合よくゆっくりさせて、ゆっくりらしさを確保したつもりなのかね(笑)」 「行き先見てから先行余裕でした。ちょっと煽っただけですぐに自分から急所晒すんだよね。 ちなみにこの荒らしテクニックは虐厨に結構効果的なので俺はよく使ってる」 草むらに飛び込んでからほとんど動かなかったまりさの位置と動きは、完全に把握されていた。 まりさは未知のスピードの世界を体験していたが、それは人間からすればジョギングで追い抜ける程度のものだった。 まりさの向かう方向でそれらしいものを探せば、おうちを特定することは簡単だったのだ。 しかしまりさにとって、そんなことは今は問題ではない。 「な、なんでにんげんさんたちがばりざのおうちに・・・・・・ れいむ・・・・れいぶはどうじだのおおぉぉぉ!!でいぶうぅぅぅぅぅぅ!!?」 人間には脇目も振らず、ただ愛する伴侶の安否を確認するため、おうちに飛び込んでいくまりさ。 家族を失ったことで少し広々として見えるおうちの真ん中には、両目から涙を流すれいむが鎮座していた。 その涙の理由を考えるよりも先に、まりさはれいむが生きていることを喜んだ。 「れいむうぅぅぅ!!ぶじだったんだね!!まりさとってもうれしいよおぉぉぉぉ!!」 「ぶじじゃないよ・・・まりさ・・・ぜんぜんぶじじゃないよぉぉ・・・」 「ゆ・・・?」 再会を喜ぶすりすりをしようとして、まりさは気付いた。 れいむから流れ出しているのは、二筋の涙だけではないことに。 お腹の真ん中から生まれたての赤ちゃん特有の、サラサラとした液状の餡子が漏れ出てきている。 その流出源、れいむの産道からは、おそらく素敵なお帽子になるはずだった黒い襤褸切れの破片が覗いている。 「ゆ?れ、れいむ・・・・あかちゃんは・・・・・」 「もういきてるわけないでしょ・・・・にんげんさんにおなかをけっとばされてしんじゃったよ・・・・・ たすけて、たすけてってずっといってたのに、まりさはたすけてくれなかったよ・・・・・ にんげんさんは、おなかのなかのあかちゃんをちょくせつけりとばしたんだよ・・・ だからまむまむもずたずたになっちゃったよ・・・・もう・・・もうごれじゃにどとあがぢゃんうめないよおぉぉぉぉぉ!!」 れいむの慟哭が最高潮に達した瞬間、その頭上、巣の外では二人の人間達がハイタッチをした。 「ふぅ~、また一つ悪の根源を絶てたな」 「つーかぺにまむ付きゆっくりとかマジキモイよね。交尾の形態まで人間に似せないと気が済まないのかっていう。 まさに人間さんの醜い自己の投影のキワミ(笑)この世から消滅して欲しいわ」 「やれやれ、ちょっと虐待用ゆっくりという汚物を見すぎて目が腐りそうだわ。 帰ってニコニコ見ようぜ」 「そだね。mugenトナメのゆっくり無双動画でも見て今日の汚れを落とそうか」 「中和、中和ー」 そうして人間さん達が和やかに談笑しながらその場を去り、どこへともなく姿を消していく間も、 まりさは泣きじゃくるれいむの前で、ただただ呆然と、呆然としていた。 支えを全て失い、まりさの心は立っていられなかった。立っている意味が無かった。 赤ちゃんはみんな死んでしまった。もう赤ちゃんは生まれない。だからもうゆっくり出来ない。 いや、最初からゆっくりなど無かったのだ。結局、全てはあの人間さん達が言った通りになってしまった。 しかし、自分達がゆっくり出来なくなるために生まれてきたのなら。自分はその本懐を今、果たした。 「・・・ゆっくりのあかちゃんはしぬためにうまれてくるんだよ」 「・・・・ゆ?まりさ?」 「あかちゃんはころされて、おかあさんをうんとかなしませて、なかせるんだよ。 うまれるまえにおやくめをはたしたまりさのあかちゃんは、やっぱりすごくゆっくりしてるよ」 「まりさ?なにいっでるの!?しっかりしでね!ゆっぐりしていってね!!!」 「れいむ、はいきんぐにいったあかちゃんもちゃんとしんじゃったよ。 すごくたくさんゆっくりして、それがまるごときれいにつぶされちゃったよ。 れいむもそのぶん、いっぱいなきさけんであげてね。そしたらみんなゆっくりできるんだよ。 れいむ、これからもいっしょにゆっくりしようね。いっぱいゆっくりできなくなろうね」 「ばりざがおがしくなっぢゃっだよぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 滅びを受け入れたものから消えていく。 この森に住むゆっくりの群れは、このまりさを中心にして徐々にゆっくり出来なくなり、滅亡の一途を辿った。 自然に発生したゆっくり達がそれに取って代わり、以前からの住人のような顔をして群れを形成する。 そして森中に、幻想郷中に、約束された悲鳴を響き渡らせ、心を絶望のために消費していく。 そうしてこの世界は回っている。 了 あとがき: オチに悩んだ。そして悩むことをやめた。