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あまあまプレイス 12KB 虐待-普通 調理 現代 ゆっくりは美味しい! 『あまあまプレイス』 「お……、お……おいしく……ゆぐっ……えぅ……」 入念にあんよを焼かれた一匹のれいむが透明な箱の中に閉じ込められ、嗚咽混じりに何か言おうとしている。 「オラァ!! べそべそ泣いてねーでちゃんと客引きやれや!! このクソ饅頭がぁ!!!!!」 「ゆひぃぃぃっ!!!!」 そのれいむに対して罵声を浴びせるのは、白い前掛けに三角巾を頭に巻いた職人風の男。 れいむが怯えた表情でその男を見上げる。 まるでナイフのような鋭い視線がれいむを射抜く。 今すぐこの場所から逃げ出したい……いや、せめて箱の反対側の壁に顔を押し付けて少しでもこの男から離れたい。 そうは思っていても、その場から動くことは叶わない。 「ゆぐっ……おい……おいしく……おいしくたべていってね!!!」 ようやく男の望んだセリフをれいむが口にすると、箱の中のれいむに一瞥しながら、 「チッ……手間かけさせんじゃねーよ」 それだけ言い残して店の中に戻っていく。 「ゆぅぅぅ……ゆっぐり……ゆっぐりしたい゛……したいよぉぉぉぉ…………」 炭化したあんよ、涙の痕、悲痛な表情で泣き続けるれいむ。 こんな有様でも、れいむはこの店の客引きを担当しているのだ。 れいむの閉じ込められている透明な箱のすぐ脇に、大き目の看板が立っている。 【回転ゆっくり:あまあまプレイス】 なんとも怪しい響きの店名だが、それなりには繁盛している。 “回転寿司のゆっくり版”。 それが、この店の事を最も簡潔に説明する言葉になるだろう。 普通なら、まず客は寄り付かない。 涙ながらに人語を用いて助けを求める生き物が客引きをやっている店など、どう考えても常軌を逸している。 それでも、このやり方で店が運営できているのにはちゃんと理由があるのだ。 一つ。 店の運営は近隣の加工所と提携しており、安い元手で商売を行うことが可能である。 二つ。 ストレス社会の渦中に放り出された人々は泣き叫ぶゆっくりを見ているだけでも癒される。 三つ。 苦痛を与えられたゆっくりは、単純に“食べ物”として美味しい。 中には、「ゆっくりがかわいそう」と言って毛嫌いする人もいるのだが、この世界においては少数派である。 これまで散々、社会問題になってきたゆっくりたちだ。 それらを駆除しようとは思っても、保護しようと考える者は少ない。 食べて美味しいのなら、どんどん食べよう。 そういうコンセプトで、この店はつい最近オープンした。 あまり詳しいことは知られていないが、加工所ではおびただしい数の“食用ゆっくり”が量産されている。 その数は一万や二万程度のものではない。 その量産方法については割愛させていただくが、無限に、しかも手軽に増殖可能なゆっくりを利用しない手はなかった。 統計学的に見て、加工所産のゆっくりは基本的に人間に対して友好的ではない。 親ゆっくりの餡子に刻まれた負の記憶が如実に受け継がれているからであろう。 こういう理由から、ペット用としてのゆっくりは野生で暮らしているゆっくり家族を拉致してくるのがベストだとされている。 一時期、ゆっくりの品種改良なども考案されたが、存在そのものが謎であるゆっくりに対して現代の科学では不可能とされた。 「ゆんやあああああああああああああ!!!!!!!!」 店内から、赤ゆの叫び声が聞こえてくる。 職人たちが、下ごしらえを始めたのだろう。 客が多い日であれば、一日で千匹近くのゆっくりが“調理”されて、そのゆん生を終える。 開店と同時に、既に数名の客が店内に足を踏み入れていた。 「お……おいしくたべていってね……!!」 力なく、それでも笑顔を絶やさないように自分の前を素通りしていく人間に声をかけるれいむ。 意思と無関係とは言え、同族を「美味しく食べてね」などというれいむの姿。 その様子は、れいむの情けない泣き顔の効果も上乗せされて、あまりにも滑稽なものであった。 「ぷっ」 「馬鹿じゃねーの」 通りすがりの人間に、笑われて馬鹿にされるれいむは、悔しくて悲しくて下を向いたまま、ずっと涙を流していた。 「へい、らっしゃいっ!!!」 内装は、時代劇に出てくる茶屋をイメージして作られている。 店の中央には回転寿司屋でよく見かけるベルトコンベア。 そこを流れていく皿の上には、様々な種類の“お菓子”が載せられていた。 「ゆっゆっゆっゆっ……」 一様に、がくがくと震えながら目だけを動かして席に座っている客に視線を向ける。 客引きのれいむ同様、あんよを焼かれているのだ。 逃げ出すことはできない。 「ゆぁぁぁぁ……っ!!! やめちぇにぇ!! やめちぇにぇっ!!!」 禿饅頭になっている赤れいむだか、赤まりさだかはわからない赤ゆっくりの載っていた皿に客の一人が手をかけた。 コンベアの上を流れている間中、そこから降ろされた仲間がどうやって死んでいったかは、鮮明に餡子脳に焼き付いている。 「ゆ……ゆわぁぁぁぁ!!!!」 禿赤ゆの眼前には、少し大きめの爪楊枝のようなものが迫っている。 「い゛ち゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛ぃ゛ぃ゛!!!!」 目と目の間に、思いっきり爪楊枝を突き立てる。 叫び声を上げる禿赤ゆは、ちょろちょろとしーしーを垂らしている。 客も狙ってやっているのかは知らないが、一口サイズなのに、一口で食べようとはしない。 禿赤ゆの顔の三分の一程を、噛みちぎって咀嚼する。 「ゆ゛ぎゃああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」 甲高い悲鳴が店内に響く。 恐ろしいのはその悲鳴を聞いて、店内にいる人間全てが不気味な笑みを浮かべている事だろう。 ちなみに張り紙には、「他のお客様の迷惑になりますので、店内で“ヒャッハーー!!”と叫ぶのはご遠慮ください」とある。 「まりじゃの……まりじゃの……きゃわいいおきゃおがあぁぁぁぁぁ!!!!!」 誰もわからなかったが、禿赤ゆの正体は赤まりさだったらしい。 「おにぇがいしましゅぅぅぅぅぅ!!! たちゅけちぇぇぇぇ!!!!」 「やぁぁぁぁ!!! れいみゅ、おいちくにゃいよぉぉぉぉぉ!!!」 「ときゃいはじゃにゃいわぁぁぁ!!!」 「わきゃらにゃいよぉぉぉぉぉ!!!!!」 「むきゅぅぅぅぅ!!!! むっきゅぅぅぅん!!!!」 泣き叫ぶ仲間の声に呼応するかのように、喚きだす他の赤ゆたち。 客に出される商品は、全て赤ゆである。 そうでなければ皿の上には載らないし、何より新鮮な赤ゆは非常に美味しい。 「大将!!」 「へい!!」 「れいむの炙り」 「あいよっ!!!!」 「「「ゆんやああああああ!!!!!」」」 「「「「やじゃやじゃぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!」」」」 客から“れいむ”という単語が口に出された時点で、大きな箱の中に詰め込まれた赤れいむたちが途端に騒ぎ出す。 そこに、大将が手を延ばすと、その叫び声は一層大きくなった。 「おしゃらをとんじぇるみちゃいっ!!!!」 ぐしゃぐしゃの泣き顔でも、本能に抗うことはできないのか、一瞬だけ笑顔で叫ぶ。 大将は、リボンをつまんでおり、そのままの状態で赤れいむをまな板に打ち付けた。 「びゅぎゅっ??!!!」 打ち付けた瞬間、手首のスナップを利かせて赤れいむのリボンと髪の毛を引きちぎる。 「い゛ぎゃあ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ッ??!!!!」 まな板の上にぐったりと横たわる赤れいむは既に禿饅頭となってしまった。 赤れいむに与えた苦痛は、餡子に濃厚な味を染み込ませたことだろう。 わずか数秒で赤れいむを瀕死に追い込みながらも、皮には傷一つついておらず、餡子を漏らしてしまっている事もない。 まさに匠の技である。 「いちゃい……れーみゅの……きれいにゃ……きゃみのけ……ぴこぴこしゃん……」 泣き崩れている赤れいむの目の前には、竹串と小型のバーナーを手にした大将がいる。 「ゆっ……?」 気付いた時にはもう遅い。 「ゆ゛ん゛っ、や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!」 赤れいむの動きを固定するために竹串を必要最低限の長さ分、皮に突き立てる。 その場から必死に逃げ出そうとするが、思うようにあんよを動かすことができない。 そこに、バーナーの炎が赤れいむの顔面に放たれる。 「ん゛っびゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!!!!!!!!!!!!!」 ピンポン玉ほどのサイズしかない赤れいむは、一瞬で全身に火傷を負い苦痛に身を捩らせている。 竹串に突き刺したまま赤れいむを持ち上げ裏返すと、あんよだけは少し長めに炎を浴びせる。 赤れいむのあんよが、ひくひくとしか動かなくかった事を確認すると、大将はようやく竹串を引き抜いた。 「へい!! “れいむの炙り”お待ち!!」 皿の上に載せられ、凄まじい形相のまま固まってしまっている赤れいむが客に出される。 「やべ……ちぇ……」 この期に及んで、まだ命乞いを続ける“れいむの炙り”を一思いに口の中に放り込んで噛みつぶす。 「うめぇ!! やっぱ饅頭はちょっと火で炙ったくらいが一番美味いぜ」 歓喜の声を上げる客の口の中からは、小さな小さなか細い声で、 「もっちょ……ゆっくち……しちゃかっちゃ……」 その後も次々に惨殺されていく無数の赤ゆたち。 大き目の水槽の中に入れられている少しだけ大きくなった赤ゆたちも、声も上げることができずに四隅で震えている。 このぐらいのサイズになると、たまに箱を飛び越えて脱走するゆっくりがいるので、隔離しているのだ。 最も、客にとっては恐怖で顔を歪める赤ゆを見るのは楽しかった。 客の中には水槽の中の赤ゆを指名して調理して欲しいという者もいたので、案外無駄にはなっていないのだ。 「大将! チョコパフェ一つ!!」 「あいよっ!!!」 「その端っこのちぇんと、中身吐いてないそこのぱちゅりーで頼むわ」 「へいっ!!!」 「わ……わきゃらないぃぃぃぃぃ!!!!」 「むぎゅぅぅぅぅ!!! やめちぇちょうらいっ!!!」 水槽の裏側に、従業員が回ると蜘蛛の子を散らしたように赤ゆたちが逃げ回る。 「こっちこにゃいじぇぇぇぇぇ!!!!」 「ゆんやああああああああああ!!!!!!!」 「やぁぁぁぁ!!!!」 「ゆひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」 その様子を見て、客は満面の笑みを浮かべていた。 今さらだが、この店に来る客は、“あちら側”の人間が多い。 中には、 「フフン。 水槽の中で逃げ惑う赤ゆを見ると、すぐ勃ちやがる……」 などと言っている者もいた。 先端に、鋭いフックのついた柄の長い棒が水槽の中に侵入し、正確に赤ちぇんの顔面を貫いた。 「に……ぎに゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!! 深々と体内にフックが突き刺さったまま宙に浮かされる。 「おしょ……りゃを…………っ!!!」 二本の短い尻尾をふるふると左右に振って、抵抗を試みるが無駄なことこの上ない。 ちなみに、注文されたのは“チョコパフェ”。 ちぇんの顔や皮がどうなろうと知ったことではない為、多少乱暴に扱われる。 わざわざ手荒な真似をする必要はないのだが、その方が客受けがいいのだ。 「やめちぇぇぇぇ!!! いちゃぃぃぃ!!! わきゃらにゃいぃぃぃ!!!!」 二本の尻尾をそれぞれ指でつままれた状態のまま、タッパーの上に持って来られる。 そして、尻尾を左右に強く引っ張る。 ぶちぶち……ッ、という音と共に赤ちぇんの顔が真っ二つに引きちぎられた。 「がひっ……っ!!!」 その中からチョコレートがぼとぼとと落ちてくる。 「お客さん! こいつ一匹じゃ足りないんで、他のちぇんも使いますよ?」 「お願いします」 同じように、赤ちぇんと赤ぱちゅりーが数匹ずつ顔を引き裂かれ、その中身をタッパーに垂らす。 その後、数分でチョコパフェを完成させてそれぞれの中身が客の腹の中に収まった。 「ありすのぺにぺにの輪切り!!!」 「へいっ!!!」 「「「「ときゃいはじゃにゃいわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」」」 今度は、赤ありすたちが絶叫する。 しかし、大将が箱から取り出したのは成体のありす種だった。 ピンポン玉のぺにぺにの大きさなどたかが知れている。 商品にはならない。 「ゆ……ゆっくりしていってねっ!!!」 既に恐怖で思考が麻痺しているのだろう。 ありすは、大量の冷や汗をかきながら歯をカチカチと鳴らしていた。 「よっ!」 ありすを持ち上げてゆする。 「ゆっ?? ゆゆゆゆ…………っ、お……おにぃさ……へんなこと……しないで……ね?」 ゆする。 まだゆする。 「ん……んぅっ……!!!」 見る見るうちの頬を紅潮させ、息を荒げ始めるありす。 顎の辺りから十センチほどのぺにぺにが出現していた。 「んっほおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ……!!!!!」 十分に興奮したところで、一思いに出刃包丁でぺにぺにを切り落とす。 「ッ??!!!!!」 目を見開き、口を引き裂けんばかりに大きく開く。 顔面蒼白になっており、切り口からはぽとぽとと中身のカスタードが漏れ出している。 「ゆ……? ゆゆ……?」 余りにも突然の出来事でフリーズしてしまっているのだろう。 「あ……ありすの……とかいはなぺにぺにがあああああああああああああ!!!!!」 まな板の上に無造作に転がるぺにぺにを見ながら泣き叫ぶ。 それに淡々と包丁が落とされ、切り分けられていく。 「ゆああああああああああああああ!!!!!!!!!」 「へいっ!! ぺにぺにの輪切り、一丁!!!」 「美味ぇ!! 芳醇なカスタードを包む、ちょっとコリッとした外側の皮がたまんねぇ!!!!!」 まだ何か叫ぼうとしているありすを包丁で叩き切り、袋の中に捨てる。 ぺにぺにの為だけに、取りだされたありすの末路は大抵こんなものだ。 ちなみに、目の前で調理されるゆっくりを見るのが目的という客の方が圧倒的に多いので、コンベアの上の赤ゆは基本無視される。 ぐるぐる、ぐるぐる。 ずっと回り続けて、売れ残る。 いつ客に自分が載っている皿を取られるか分からない状況で、仲間の惨たらしい最期を見るしかないのだ。 閉店後。 客引きのれいむが入った箱に、甘い香りのする何かが投げ込まれた。 (ゆぅ…………みんな……ゆっくり……ゆっくりしていってね……っ) れいむには、“それ”が何かわかっているのだろう。 今日、売れ残った同族の中身。 これが、れいむに与えられる食事だった。 店の外にいても、ずっとゆっくりたちの叫び声は聞こえてくる。 従業員が看板を片付け終える。 いつまで経っても、与えられた“餌”を食べようとしないれいむ。 従業員はその様子を見ても、特に何も言わない。 どうせ、翌朝には綺麗にたいらげているのだ。 箱をノックする。 れいむが従業員を振り返った。 「美味しく食べていってね」 おわり by余白 余白あきの作品集 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る ( ´∀`) -- 2017-10-14 08 47 57 うまそうジュルリ -- 2016-09-04 09 21 01 こんなのがあったら食べに行きたいな。 -- 2014-10-27 14 37 50 おいしいのか・・・食べたいね。 このSSはいいものを題材にしてくれた。食料になるものがどんな気持ちなのか・・ だから、残さず食べようぜ!!! -- 2012-08-03 22 28 13 ↓原料2円原価30円定価80円 -- 2012-07-27 13 15 10 最高です!! 一皿いくらなんだろ -- 2012-01-26 18 32 04 これは良作! ありがたい! -- 2011-08-04 21 18 34 毎日通いたいぜ! -- 2010-12-23 01 46 40 しかしゆ虐趣味の人は全員糖尿病を患ってそうだ -- 2010-12-12 16 20 07 9cmの某朝国民涙目だなw -- 2010-08-20 04 36 51 ありすのぺにぺには10cmもあるのか・・・ -- 2010-08-19 19 26 46 行きたいなここ -- 2010-07-09 22 40 06 ちぇん・ありす・ぱちゅりーは洋菓子好きとしては三大食べたいゆっくり -- 2010-07-01 00 29 30 良い店だ。 -- 2010-06-28 16 18 12 面白かった -- 2010-06-19 12 06 00
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『限りなく透明に近いはこ』 5KB 虐待 観察 赤ゆ 透明な箱 思いつきと勢いだけで… んあー。こういうのは絵でやったほうが向いてるのかもだなあ ・小ネタです ・赤まりさです ・虐待です ・直接手は出しません 『限りなく透明に近いはこ』 よちよちと歩いていく赤まりさ。 不意に、その歩みが止まる。 あんよに力はこもっているが、体がそれ以上前に進まないようだ。 赤まりさは顔面に圧迫感を感じていた。 あんよに力を込めれば込めるほど、それは強まる。 まるで『かべ』さんに顔を押しつけているみたいだった。 「じゅーり……? じゅーり……っ?」 なぜ、どれだけ進んでも風景に変化がないのか。 そう不思議に思いながらも、赤まりさはあんよを動かし続ける。 前方からかかる不思議な力に抗おうと、あんよにさらに力を込める。 赤まりさは自分がまったく前に進んでいないことに、まったく気付いていない。 とうとう疲れて、あんよを止めてしまう。 「ゆぅぅぅぅ! い、いじわるしないでね!」 赤まりさは怒りを感じていた。罵倒しようとした。 だが自分が何に怒りを感じているのか、わからない。 自分の言った「いじわる」とはなんのことなのかも、わからない。 誰がそれをしているのかも。 「まりしゃ、ぷきゅーするよ?!」 返事など、ない。 「ぷっきゅぅぅぅぅぅぅー!!」 赤まりさのぷくーに怯えるものも、あざ笑うものも、いない。 ぷくーを無視するものも、ぷくーに気付かないものすら、いない。 今そこにあるのは、小さな饅頭が口に空気をためて頬を膨らませている、という現象だけ。 赤まりさはぷくーをやめた。 「…………」 呆けた顔をしている。 赤まりさは、自分がなぜぷくーをしたのかわからなかった。 これが、もし『石』や『水』といった形として認識できるものであれば、違ったであろう。 ゆっくりは生命の無い物質に対しても、生命あるものに対するのとと同じように 慈しみ、語りかけ、そして時に怒りをぶつける。 だが、今は何もないのだ。 ただ 『なんだか前に進めない』 という理解不能な現象があるだけ。 誰もいないのに、その“いじわる”を誰がしているのか。 そもそもそれは“いじわる”なのか。 “いじわる”でないのならば、なぜ前に進めないのか。 赤まりさの頭脳が持つ論理構造では、それ以上、思考することすらできない。 「……ゆっ」 たっぷり10分かけて、ようやく赤まりさの瞳に意思の光が戻ってくる。 『誰が』も『何が』も『なぜ』もなく、理屈も理由もなく、 ただ進めないという事実のみが赤まりさの餡子に刻まれる。 だから次からは早かった。 向きを変えた赤まりさは別の方向へとあんよを進め、そこでも“進めない”ことを知り、 またさらに別の方向へと進んで“進めない”ことを知った。 そして、赤まりさはどこへも進めないことを知った。 「……………」 赤まりさはまた、呆ける。 赤まりさのあんよで端から端までおよそ1分ほどの広さ空間。 それだけが今の自分の全てで、世界の全てであること。 それが意味することを考えられなかった。 それはきっとあまりにも恐ろしいことだった。 誰もいない。何もない。どこへも行けない。 疑問をぶつける相手も、怒りをぶつける相手も、 疑問を抱く理由も怒りを抱く理由も何も一切見当たらない。 赤まりさにあるのは、ただ自分という存在だけ。 「………………ゆっ」 呆けた顔のまま、赤まりさは歩きはじめる。 唐突に世界から切り離された、まりさだけの世界の中を ただぐるぐるとくねくねと無意味に歩き続けた。 + 最終的に赤まりさは、滑らかであんよを傷付けるものもない地面であるにもかかわらず、 あんよが破けるほどに歩き続け、それでも歩こうともがき続け、 そして一言も……「もっとゆっくりしたかった」とも言わずに無言で事切れた。 「地味なのに……見てるこっちまで不安になってくるものがあるな……」 モニタで赤まりさが動かなくなるのを確認したあと、 俺は部屋の隅に設置した底の一辺が1メートル、高さ50cmほどの箱を開けた。 中では、モニタに映されていた赤まりさが 体の下半分から餡子のラインを長々と引いて突っ伏していた。 これは『おひとりさま』という名のゆ虐グッズだ。 その筋の人には評判の良いとある小さな会社が作ったもので、 一応は正式な商品ではなく実験作という扱いになる。 「思いつきで作ってみたけど場所取っちゃうし成功率低いんで没になりました! せっかくだから欲しいって方に抽選で3名様に『おひとり様』1号~3号をプレゼント!」 なんてざっくばらんな企画を公式サイトでやっていて、 つい好奇心で応募してみたら当たってしまって今こうして俺の手元にあるわけだ。 ちなみにこれは3号。多分、出来は一番良いのだろう。 構造はとてもシンプルで、 ゆっくりの目には大自然の風景に見える絵が内側にプリントされた外箱、 その内部を見るための小型カメラ、音声を拾うためのマイクは箱底面に仕込み済みで、 そしてこのグッズのキモである『限りなく透明に近いはこ』。 この『はこ』、なんでも屈折率とか加工法ががどうとかで、 人間でもうっかりすれば気付かず蹴っ飛ばしてしまうくらいの透明さなのだ。 こうして外箱のふたを開ける今も、言われなければそこにあるのがわからないくらいだ。 動画サイトでは「技術の無駄遣い」だとか言われまくり、 海外のサイトでも取り上げられて「また日本か」とか言われまくったほどの逸品である。 そんなものをわざわざ作った目的はただひとつ。 「ゆっくりが完全に認識不可能な“壁”を作ったらどうなるか」 それを確かめるためだった。 そのついでに、自分が狭いところにいると思わせないための箱を作ってみたところ、 おや意外にも……という結果になったのだという。 実行手順もとても簡単。 まず人間である自分の存在を悟られずにラムネなどで赤ゆを眠らせて拉致り、 外箱の中に安置して『限りなく透明に近いはこ』を被せる。 あとは赤ゆの思考がうまい具合に推移してくれるのを見てるだけ。 商品化しなかった原因である成功率は、だいたい6割くらいとのことだ。 地味だし、モニタ越しにしか見れないし、 その上これだけのためにスペースだいぶとるわで、 なるほど商品化できなかったのもうなずける。 だが、なんともいえない後味のする虐待だった。 「これ作ったひと、どういう性格してるのやら」 俺は赤まりさの死体を片付け、死臭消しスプレーを床面に吹き付けた。 これでまた使用するための準備は整った。 「さーて、お前もこんなふうに死んでくれるのかね」 今日はこのために10匹ほど野生の赤ゆを拉致ってきてある。 その中の一匹、健やかな寝顔を見せる赤れいむをつまみあげ、 俺は新たな期待とともに『限りなく透明に近いはこ』をセットするのだった。
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『限りなく透明に近いはこ』 5KB 虐待 観察 赤ゆ 透明な箱 思いつきと勢いだけで… んあー。こういうのは絵でやったほうが向いてるのかもだなあ ・小ネタです ・赤まりさです ・虐待です ・直接手は出しません 『限りなく透明に近いはこ』 よちよちと歩いていく赤まりさ。 不意に、その歩みが止まる。 あんよに力はこもっているが、体がそれ以上前に進まないようだ。 赤まりさは顔面に圧迫感を感じていた。 あんよに力を込めれば込めるほど、それは強まる。 まるで『かべ』さんに顔を押しつけているみたいだった。 「じゅーり……? じゅーり……っ?」 なぜ、どれだけ進んでも風景に変化がないのか。 そう不思議に思いながらも、赤まりさはあんよを動かし続ける。 前方からかかる不思議な力に抗おうと、あんよにさらに力を込める。 赤まりさは自分がまったく前に進んでいないことに、まったく気付いていない。 とうとう疲れて、あんよを止めてしまう。 「ゆぅぅぅぅ! い、いじわるしないでね!」 赤まりさは怒りを感じていた。罵倒しようとした。 だが自分が何に怒りを感じているのか、わからない。 自分の言った「いじわる」とはなんのことなのかも、わからない。 誰がそれをしているのかも。 「まりしゃ、ぷきゅーするよ?!」 返事など、ない。 「ぷっきゅぅぅぅぅぅぅー!!」 赤まりさのぷくーに怯えるものも、あざ笑うものも、いない。 ぷくーを無視するものも、ぷくーに気付かないものすら、いない。 今そこにあるのは、小さな饅頭が口に空気をためて頬を膨らませている、という現象だけ。 赤まりさはぷくーをやめた。 「…………」 呆けた顔をしている。 赤まりさは、自分がなぜぷくーをしたのかわからなかった。 これが、もし『石』や『水』といった形として認識できるものであれば、違ったであろう。 ゆっくりは生命の無い物質に対しても、生命あるものに対するのとと同じように 慈しみ、語りかけ、そして時に怒りをぶつける。 だが、今は何もないのだ。 ただ 『なんだか前に進めない』 という理解不能な現象があるだけ。 誰もいないのに、その“いじわる”を誰がしているのか。 そもそもそれは“いじわる”なのか。 “いじわる”でないのならば、なぜ前に進めないのか。 赤まりさの頭脳が持つ論理構造では、それ以上、思考することすらできない。 「……ゆっ」 たっぷり10分かけて、ようやく赤まりさの瞳に意思の光が戻ってくる。 『誰が』も『何が』も『なぜ』もなく、理屈も理由もなく、 ただ進めないという事実のみが赤まりさの餡子に刻まれる。 だから次からは早かった。 向きを変えた赤まりさは別の方向へとあんよを進め、そこでも“進めない”ことを知り、 またさらに別の方向へと進んで“進めない”ことを知った。 そして、赤まりさはどこへも進めないことを知った。 「……………」 赤まりさはまた、呆ける。 赤まりさのあんよで端から端までおよそ1分ほどの広さ空間。 それだけが今の自分の全てで、世界の全てであること。 それが意味することを考えられなかった。 それはきっとあまりにも恐ろしいことだった。 誰もいない。何もない。どこへも行けない。 疑問をぶつける相手も、怒りをぶつける相手も、 疑問を抱く理由も怒りを抱く理由も何も一切見当たらない。 赤まりさにあるのは、ただ自分という存在だけ。 「………………ゆっ」 呆けた顔のまま、赤まりさは歩きはじめる。 唐突に世界から切り離された、まりさだけの世界の中を ただぐるぐるとくねくねと無意味に歩き続けた。 + 最終的に赤まりさは、滑らかであんよを傷付けるものもない地面であるにもかかわらず、 あんよが破けるほどに歩き続け、それでも歩こうともがき続け、 そして一言も……「もっとゆっくりしたかった」とも言わずに無言で事切れた。 「地味なのに……見てるこっちまで不安になってくるものがあるな……」 モニタで赤まりさが動かなくなるのを確認したあと、 俺は部屋の隅に設置した底の一辺が1メートル、高さ50cmほどの箱を開けた。 中では、モニタに映されていた赤まりさが 体の下半分から餡子のラインを長々と引いて突っ伏していた。 これは『おひとりさま』という名のゆ虐グッズだ。 その筋の人には評判の良いとある小さな会社が作ったもので、 一応は正式な商品ではなく実験作という扱いになる。 「思いつきで作ってみたけど場所取っちゃうし成功率低いんで没になりました! せっかくだから欲しいって方に抽選で3名様に『おひとり様』1号~3号をプレゼント!」 なんてざっくばらんな企画を公式サイトでやっていて、 つい好奇心で応募してみたら当たってしまって今こうして俺の手元にあるわけだ。 ちなみにこれは3号。多分、出来は一番良いのだろう。 構造はとてもシンプルで、 ゆっくりの目には大自然の風景に見える絵が内側にプリントされた外箱、 その内部を見るための小型カメラ、音声を拾うためのマイクは箱底面に仕込み済みで、 そしてこのグッズのキモである『限りなく透明に近いはこ』。 この『はこ』、なんでも屈折率とか加工法ががどうとかで、 人間でもうっかりすれば気付かず蹴っ飛ばしてしまうくらいの透明さなのだ。 こうして外箱のふたを開ける今も、言われなければそこにあるのがわからないくらいだ。 動画サイトでは「技術の無駄遣い」だとか言われまくり、 海外のサイトでも取り上げられて「また日本か」とか言われまくったほどの逸品である。 そんなものをわざわざ作った目的はただひとつ。 「ゆっくりが完全に認識不可能な“壁”を作ったらどうなるか」 それを確かめるためだった。 そのついでに、自分が狭いところにいると思わせないための箱を作ってみたところ、 おや意外にも……という結果になったのだという。 実行手順もとても簡単。 まず人間である自分の存在を悟られずにラムネなどで赤ゆを眠らせて拉致り、 外箱の中に安置して『限りなく透明に近いはこ』を被せる。 あとは赤ゆの思考がうまい具合に推移してくれるのを見てるだけ。 商品化しなかった原因である成功率は、だいたい6割くらいとのことだ。 地味だし、モニタ越しにしか見れないし、 その上これだけのためにスペースだいぶとるわで、 なるほど商品化できなかったのもうなずける。 だが、なんともいえない後味のする虐待だった。 「これ作ったひと、どういう性格してるのやら」 俺は赤まりさの死体を片付け、死臭消しスプレーを床面に吹き付けた。 これでまた使用するための準備は整った。 「さーて、お前もこんなふうに死んでくれるのかね」 今日はこのために10匹ほど野生の赤ゆを拉致ってきてある。 その中の一匹、健やかな寝顔を見せる赤れいむをつまみあげ、 俺は新たな期待とともに『限りなく透明に近いはこ』をセットするのだった。
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『楽しいゆ虐合宿 その1』 18KB いじめ 虐待 制裁 親子喧嘩 姉妹 子ゆ 透明な箱 現代 虐待人間 独自設定 ぺにまむ 燃えろ燃えろ真っ赤に燃えろ 教授あきの作品です 希少種は出ませんが、優遇されています。 オレンジジュース的な独自設定があります。 かなりご都合主義です。 お兄さんが玉の輿に乗っています死ねばいいのに 以上の点に違和感を覚えた方はご遠慮下さい。 俺は鬼井としあき。今、山の中を走っている4WDの高級車に乗っている。 隣りには恋人(?)の尾根衣双葉が実に楽しそうな笑顔を浮かべていた。 彼女は日本でも有数の企業である尾根衣グループの孫娘だ。 今車を運転しているのも、彼女の護衛兼世話係の黒岩とかいう、初老の黒服さん。 対して俺は加工所のしがない作業員である。 俺と彼女がどうして付き合う事になったのか――その答えは、今日の目的が大きく関わっている。 4WDの後ろに付いてるトラック一杯に詰め込まれた主役達を虐待する。 つまり、ゆっくり虐待が今日の目的だ。 「んー! 山の空気が美味しいわ」 長い時間座り続けていた双葉さんが伸びをしてリラックスしている。 「それでは、今日はよろしくお願いしますね、としあき様」 「いや、その様ってのはやめてもらいたいんですが……」 冗談とも本気とも取れる双葉の言葉に頬を掻いた。 「お嬢様、としあき様、持ってきた道具類は全て出し終わりました。ゆっくりはいくつ出しましょうか?」 「そうですね。箱に小分けされてる筈でしたから、とりあえず2箱くらいお願いします」 「かしこまりました」 その間俺は出してもらった道具を準備する。 組み立てる必要がある道具もあるので、テキパキと組み立てる。 準備している間、双葉さんは後ろで俺の作業の様子を眺めていた。 その目はクリスマスプレゼントの包装紙を破こうとする子供の目だ。 双葉さんは本当に綺麗で、深窓の令嬢という言葉が似合う女性だ。 尾根衣グループの後継者としての教育も行き届いている、理想のお嬢様である。 だが、彼女がここに来た理由が、まさかゆっくり虐待だとは誰も思うまい。 俺が務めている加工所を吸収合併するとかで、工場見学に来た双葉さんからゆっくりについて色々と聞かれたのが事の発端だった。 最初はゆっくりの生態について、ワリと常識的な事を尋ねてきたのだが、次第にその内容がおかしな事になってきた。 例えば効果的にゆっくり出来なくする方法、ゆっくりの耐久性能、たくさんのゆっくりを集める方法など…… 言ってしまえば、完全に我々の、ゆ虐の世界の内容を根掘り葉掘り聞いてきた。 俺はそれに対して、ついうっかりペラペラと喋ってしまった。 オタクという生き物は、自分の好きな事に対して聞かれると聞かれていない事まで話てしまうものだ。 それがいけなかった。 双葉さんは俺に対して尊敬の念を抱き始め、それがどういう訳か婚約者という関係にまで来てしまった。 いや、まぁ、嬉しいことは嬉しいのだが。 今日は彼女が「ゆっくりを虐待をしたい」と言うことで、こんな山奥までやってきたのだ。 彼女は街では滅多にやれない、火を使った虐待をしたいそうで、キャンプ場をまるまる一つ貸しきった。 また、彼女の希望から必要と思われる道具や物資を指定すると、すべて用意してくれた。 尾根衣グループ恐るべし、と思わず思った程だ。 「私はね、ゆっくりが死ぬのを見るのが大好きなの。 特に炎にやかれて死ぬ様は、とっても“ゆっくり”できるわ。 それにその灰は畑に巻けばゆっくり避けにもなる。 ね? これほど実益を伴う趣味なんて、そうそうないでしょう?」 彼女が菩薩のような笑顔でそんな事を言い出したとき、頭を抱えた。 ついでに勃起した。 準備が終わった頃に、黒岩さんが帰ってきた。 「おまたせいたしました。ゆっくりを持って参りました」 「ああ、どうもありがとうございます」 黒岩さんが運んで来たのは透明な箱に入ったゆっくり。 加工所が捕獲した野良や野生のゆっくりで、人様に迷惑をかけて反省すらしなかったゲスどもだ。 一箱に十数匹くらいいるだろう。 種類としてはれいむやまりさ、ぱちゅりーやちぇんと言った基本種で、成体ゆっくりだけでなく、子ゆっくりも混じっている。 「としあき様、どうしてわざわざ処分予定だったゆっくりを使うのですか?」 双葉さんが箱のゆっくりを見て聞いてきた。 彼女ならそんな駄ゆっくりではなく、ペットショップで売れるようなゆっくりや、希少種も用意出来るだろう。 だが、俺はそれを制して加工所で処分されるだけのゆっくりを用意してもらったのだ。 「言ってしまえば趣味です。結局こいつらは人間の事を見下して捕まったマヌケです。 にも関わらず、未だに自分たちの方が優れてると勘違いしています。 俺は、そんな自分が偉いと思っているゆっくりにノーと言いつつ虐待するのが好きなんです」 これが希少種や善良種、はてまた加工所で使ってるゆっくりだとそうはいかない。 希少種や善良種というのは人間の強さを知っており、また、基本的に友好的だ。 確かに世の中には『何も悪くないゆっくりを理不尽に痛めつけるのが好き』という人もいるが、個人的にどうも好きになれない。 なんだかんだ言って、俺はゆっくりが好きなのだ。 また、加工所産だと、人間に都合がいいように教育されたり、希望を失ったりしている。 そんなゆっくりを虐待しても面白くない。 エゴだと言われれば、そうであるとしか言いようがない。そのあたりは自覚している。 「さて、それでははじめましょうか」 「はい! それで、まずどうすればいいでしょうか?」 待ってましたとばかりに、元気よく返事をする双葉さん。 「お嬢様はどのゆっくりからやりたいですか?」 「そうですね……では、れいむ種を」 「わかりました。まぁ、基本から始めるのは悪くない選択です」 とりあえず、箱の中かられいむ種を取り出して、別の箱の中に放り込む。 ついでに、そのれいむの子供が「おかーさん!」とか言って自己申告するので、そいつらも取り出す。 「れいむ種の特徴は、その強い母性です。まぁ、母性と言っても大したものではありませんが」 防音使用の箱の中には母れいむが2体と、その子が5匹ずつくらい入っている。 「そもそも、ゆっくりにとって、子供とはゆっくりできる存在です。 なので去勢や避妊手術を極度に嫌がります。母性が特に強いれいむ種ならなおさらです」 だから、手始めにやることは一つだ。 「そういう訳で去勢と避妊手術を始めます。とりあえずやって見せますね」 今日の趣旨は双葉さんとゆ虐をする事だが、彼女は初心者だ。 色々と勉強してきたらしいが、実際にやったことがない初心者である。 「ゆ? おいじじい! でいぶはしんぐるまざーなんだよ! さっさとあまあおそらをとんでるみたいー!」 「テメェの旦那はまだ生きてるわ! 勝手に番を殺すんじゃねーよ!」 突っ込みを入れつつ、れいむを上下にシェイクして発情させる。 「ゆふ~ん。なんだかれいむあつくなってきちゃったよぉ」 ものの5秒で恍惚とした表情を見せるれいむ。 人で言う処の顎から小指以下のぺにぺにが現れる。 「……うわぁ」 初めて見るであろう発情したゆっくりに、流石に双葉さんも引いていた。 だが、こちとらベテランの加工所職員である。こういう作業は慣れたものだ。 「今からやるのはペットにやるものと同じです。ただ違うのは、ラムネを服用させないことだけです」 「ラムネを食べさせると眠るんですよね?」 「そうです。眠らせておかないと、人間に対して不信感を持ったり、絶望したりするので。 でも今回はあえて眠らせません」 そう言いながら、俺は持っていたハサミで粗末なぺにぺにをちょんぎった。 「……ゆ?」 「これで精子餡を出す事はできなくなりました。しかし、このままでは懐妊はできるので……」 ハサミをポケットにしまい、代わりにチャッカマンを取り出し、まむまむにあてる。 「焼いておきます」 「ゆんやああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 ぺにぺにが切られた事に気付いた直後にまむまむを焼かれ、れいむは耳障りな悲鳴をあげた。 「これで、こいつは子供を作ることは出来なくなりました」 「ゆ、ゆゆ? れいむ、もうオチビちゃんができないの?」 双葉さんへの説明を聞いたれいむが、不安そうに俺を見上げる。 「ああそうだ。お前は二度と子供を作ることは出来ない」 「どぼじでえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」 れいむが俺に掴まれたまま、滝のように涙を流し始める。 「せいぜい、今いるオチビちゃんを大事にすることだな!」 透明な箱を開けて、その中に死なない程度の強さで叩き込んだ。 「……とまぁ、ここまでがワンセットです」 「流石に、実際に見てみるとすごいですね」 透明な箱で未だに泣いているれいむを眺め、しみじみと感想を述べる双葉さん。 「可哀想になってきましたか?」 一応聞いてみると、 「いえ全然! としあき様、私にもやらせてください!」 全っ然、そんな事を思っていなかった。むしろやる気になっている。 「やめでえええええええええええええええええ! れいむのまむまむやかないでえええええええええええええ!」 「だ・め・よ。これからあなたを赤ちゃんを産めない体にするんだから」 「おねがいでずうううううううううう! なんでもじまずからあああああああああああああ!」 「……なんでも?」 「はいいいいいいいいいいいいいいいいいい! ですから、どうかまむまむだけはああああああああああ!」 「じゃあ、まむまむ焼くね」 「……ゆ? ゆ゛ん゛や゛ああああああああああああああああ! なんでええええええええええええ!」 「だって、なんでもするんでしょう? あっ、ぺにぺに切るの忘れてました」 「ああ、大丈夫。順番はどっちからでも構いませんよ」 「ゆふっ、ゆふぅ……ゆ? れいむのぺにぺにさん! ぺにぺにさんはあああああああ!」 「ふふふ。だ~め」 「ゆんぎゃあああああああああああああああ!」 「これで貴女は赤ちゃんを産めなくなったわね」 「ごのぐぞばばああああああああああああ! なんでごんなごどずるんだあああああああああああ!」 「あなたは知らなくてもいいの」 透明な箱の中で、双葉が去勢したれいむが泣き叫んでいた。 「こんなものでどうでしょうか?」 「いやぁ、正直びっくりしました」 手際もよければ、言葉責めの内容も適当だった。 つーか俺より酷ぇ。 「でも丁度よかったです、こちらも準備が終わりましたよ」 彼女がれいむを去勢している間に、装置の準備を行っていた。 木製の柵で囲いをして、その中には透明な箱を置いてある。 囲いの大きさは透明な箱をを除けば成体ゆっくりが丁度入るくらいの大きさだ。 透明な箱の中には若干薄い橙色の液体が1センチ程度注ぎ込まれ、側面のうち3面だけに、箱よりも少し大きく、厚い木の板を立てかけてある。 「この液体はオレンジジュースですか?」 恐らく、ゆっくりの治療薬である事を知っているから出た台詞であろう。 「おしい。確かにオレンジジュースも入っていますが、乳酸菌飲料が混ざっています」 「さて、虐待にとりかかるとしましょう」 去勢済みれいむを囲いの中に、そのれいむにくっついていた子れいむを透明な箱の中にいれる。 「おかあさああああん! たすけてええええええええ!」 「おちびちゃあああああん! いまたすけるからねええええええええ!」 もう子供を産めないれいむにとって最後のオチビちゃんとなる子れいむを取り返そうと、透明な箱に詰め寄る。 透明な箱はれいむが中を見れるように置かれている。 「今日は火を使った虐待をするということで、少し考えてみました」 「あら、底面は焼かないのですか?」 「あんよ焼きですか? まぁ、この場合だと母親の足を焼くってのはアリです」 助けたいけど足が動かず助けられない、というジレンマを味合わせる意味で、よく使われる。 それにゆっくりは移動力そのものは低いものも、一瞬だけの瞬発力は実は高い。 暴れられる可能性もあるので、その手間を考えてあんよ焼きを行う。 「ですが、今回は道具が揃っていますし、あえてあんよ焼きはしないことにします」 そう前置きして、チャッカマンを用意し、透明な箱の木の板に着火する。 「ゆ、ゆゆぅ! ひさん! ひさんがめーらめーらしてるううううううう!」 「おちびちゃあああああん! おいクソにんげん! さっさとオチビちゃんをたすけろおおおおおお! 「ああ゛? テメェでなんとかしろよ」 「とうめいなかべさんがじゃまでたすけられないよ! いいからさっさとたすけてあげてね! そのあとゆっくりしんでね!」 間違った意味での他力本願はゆっくりがよくすることである。 というより『自ゆん以外のものは、自ゆんをゆっくりさせるためだけに生えてくる』というのが奴らの考えだ。 何か困った事があったら、自分でどうにかする前にすぐに他人に助けを求める。 「おいチビども。テメェの母親はお前らを助けたくないんだとよ。ゆっくりそこで死んでいってね!」 『ゆんやああああああああ! おかあさああああああん!』 れいむに子れいむを助ける意思がある事を知りつつ、そういう事を言ってみる。 「そ、そんなことないよ! にんげんさん! おねがいです、オチビちゃんをたすけてあげてくださいいいいいい!」 れいむにとって俺は最後の希望である。 「断る」 無論、そんな希望はぶち壊すが。 ついでに、木の板がなかった面に同じ木の板をセットした。 これで、親れいむは中の様子を見ることは出来ず、子れいむの悲鳴だけが聞こえる状態となった。 すぐにセットしたばかりの板に火が燃え移り、子れいむの周囲は完全に炎に包まれる。 「ひさん、こっちこないでね! じゃないとぷくーするよ! ぷくうううううう!」 『ぷくうううううう!』×4 箱の中で子れいむが頬をふぐのようにふくらませる。 ゆっくりが攻撃の意思を表現する際に行う、息を吸い込んで体を大きく見せる『ぷくー』だ。 顔の大きさで強さを判断するゆっくりは、このぷくーの大きさを優劣を決める要因の一つとしている。 他の野生動物でも、このように体を大きく見せて威嚇する事はあるし、効果もある。 ただし、それが意思のない炎に対して効果がある訳がない。 「ゆあ? ゆうううううううううう! れいむのせかいがうらやむしっこくのかみさんがああああああああ!」 まっさきにぷくーをしたれいむの髪に火の粉が降りかかり引火した。 「おちびちゃん!? にんげんさんおねがいしますううううううううう!」 「つーかさ、箱に体当たりすればいいんじゃねーの? 上手く行けば箱が転がって助けられるかもしれねーぞ」 「ゆ、わかったよ! はこさんにたいあたりするよ!」 何も考えずに、ただ教えられたように行動しようとする母れいむ。 少しだけ助走をつけて、透明な箱に体当たりした。 人間に対してはまったく効果がないゆっくりの体当たり。 だが、なんだかんだ言って餡子が一杯に詰まった全高30センチの饅頭である。 透明な箱は転がるまでは行かずとも、大きく揺れた。 ところで、木の板は接着剤などでくっつけているわけではなく、立てかけてあるだけだ。 そして、そんな状態で大きな衝撃を受ければどうなるか。 当然、倒れるに決まっている。 『ゆんぎゃあああああああああああ! ひさんがあああああああああ!』 炎に巻かれた木の板が子ゆっくりに襲いかかる。 丁度、それぞれの板同士が重なり支えあって櫓のようになっているが、それでも一番真ん中にいたれいむ以外は板と接触した。 「あつっ! めっちゃあつうううううううううううう!」 「やめてね! おかざりさんがああああああああああ!」 「おかーさんのばがあああああああああああああああ!」 「ゆっぐりできないいいいいいいいいいいいいいいい!」 「ゆ、ゆ、ゆ?」 「あーあ、お前のせいでよけいに苦しんじゃったなぁ」 わざとらしく、親れいむに語りかける。 「ゆわああああああ! ごめんねえええええええ! おちびちゃんごめんねええええええええええ!」 「しばらく放置しましょう。今の虐待は火を使いつつ、れいむ親子を虐待するものでした。 実は嬉しい誤算がありましたが」 「誤算、ですか?」 黒岩さんが用意してくれた、ビーチパラソルセットの椅子に腰掛けて解説を始める。 「体当たりするように言いましたよね? 予想だと、あんな風に綺麗に倒れずに、あの時点で3匹くらい死ぬ予定だったんです。 それが、ああやって倒れてくれた事で、あの液体の効果がさらに出るようになりました」 「そういえば精神安定剤が入っているとか。なんの為に混ぜたのですか?」 「あの液体自体、ゆっくりを死に難くするための薬なんです。 ご存知のように、オレンジジュースはゆっくりにとっての万能薬。 ですが、心の傷までは治せません。そのための乳酸菌飲料です」 最近判明した事なのだが、乳酸菌飲料はゆっくりに服用させるとストレスを緩和する役割を果たすらしい。 乳酸菌といえば某薔薇乙女だが、あれはストレスじゃなくて血圧だったよな……。 オレンジジュースで傷が修復することも含めて、本当にデタラメな生物だ。 「ゆっくり、特に子ゆっくりはストレスが貯まると非ゆっくり症を発症させます」 「ゆっくり出来ない環境におかれてストレスが溜りすぎた結果、人間で言う所の植物状態になる病気でしたわね?」 「そうです。そうならない為の乳酸菌です。あのれいむを見てください」 例のゆっくりたちは“まだ”生きている。 母れいむは箱の前でうろうろしているだけだが。 そろそろ、透明な箱が内部の炎のせいで熱くなっているのだろう。 「あのれいむにとって、子供が非ゆっくり症になるのはもちろん“ゆっくりできない”ことですが、それ以上に辛いのは……ああ、そろそろかな」 「……して……」 「ゆ、ゆ? オチビちゃん? なんて言ったの?」 我が子のかすかな声を聞きつけ、熱いのを我慢して箱に近づく。 すると、オチビ達の声がはっきりと聞こえ出した。 「ころしてえええええええええ! もうめーらめーらさんはいやああああああああああああ!」 「ゆっくりしたいいいいいいいいい! ゆっくりさせろクソおやああああああああああああ!」 「おまえのせいだああああああああ! おまえがよけいなことをしたからああああああああ!」 「どおしてれいむをうんだんだああああああ! こんなおもいをするならうまれたくなかったああああああ!」 「おねえええちゃああああああん! いもうちょおおおおお! ゆっくり、ゆっくりしてええええええ!」 聞こえてくるのは呪詛の声。 自らの死を望む声や、親をクソ呼ばわりし、責任を追求する声。 最後のは恐らく中心にいた子れいむだろう。 「どぼじでぞんなごどいうのおおおおおおおおおおお!」 「とまぁ、あんなものです。親が一番ゆっくりできない子ゆっくりの台詞は、子供から死ねとかゲス呼ばわりされるもの、 『どうして自分を産んだのか』という自己否定、そして自らの死を望む言葉です」 本来ゆっくりできる存在である筈の子ゆっくりがそんな事を言い出したら親はゆっくりできなくなる。 「あの子ゆっくり達は、オレンジジュースのおかげで簡単に死ねません。 死に瀕する程ゆっくりできないのに、乳酸菌飲料のおかげで簡単に精神崩壊できません。 親は目の前で我が子が死にかけているのに、その声を聞くことしか出来ません。 その声にしたって、ゆっくり出来ないものです」 それを踏まえての『嬉しい誤算』である。 流石に押し潰されればオレンジジュースも効かない。 全ゆんが生き残れば、予想よりも3匹分のゆっくりの悲鳴があがるということである。 「なるほど……単純に焼き殺すだけではなく、そんな深い意味があったとは……。 でも、このままではあのれいむ達は死なないのでは?」 双葉さんの言うとおりである。 子ゆっくりはオレンジジュースのせいで、火が着いたとしても転がればすぐに回復出来る。 親ゆっくりに関しては、確かにゆっくりできないが死ぬわけではない。 「ですので、そろそろいい時間になりましたし、最後の仕上げをしたいと思います」 俺は予め用意していた手頃な箱をれいむの元に持って行き、透明な箱の横に置いた。 「ほら、これで箱の中に入ってオチビを助けられるぞ」 箱が丁度いい踏み台となり、透明な箱の熱ささえ耐えれば中に入ることができるだろう。 「ゆん! やっとかいっしんっしたみたいだね!」 そしてこの顔と台詞である。 「オチビちゃん! いまたすけにいくよ!」 箱を踏み台にして、一気に箱の中に飛び込む母れいむ。 しかし、 『あぎゅぺっ!』 どうしてれいむは自分の重さで子供が潰れる事を考えなかったのだろう。 箱の大きさは大体成体ゆっくりと同じ。つまり、30センチの高さからダイブしたのだ。 その先には熱さで死にかけ、逃げ場のないオチビ。 母れいむが飛び込んだせいで、燃えて脆くなっていた木の板が壊れ、木の板ごとオチビの上に落下し、潰した。 そして、 「あ゛つ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛! めーらめーらざんがあ゛つ゛い゛い゛い゛い゛い゛!」 決死のダイブにも関わらず、れいむは子を助ける事すら出来ずに炎に包まれた。 「これで一通り終わりました。どうですか、感想は」 親子ともども燃え尽きたれいむ達の残骸を袋に入れつつ、双葉さんに尋ねる。 「とってもゆっくりできました!」 そう言う彼女の目は「はやく私もやりたい、すぐやりたい、今やりたい」と訴えている。 「では、準備をしましょう。今度はジュースなしでやってみましょうか」 「それも面白いかもしれませんね」 まだ時間もゆっくりもある。 なるべく彼女が楽しめるように、せいぜい頑張ることにしよう。 あとがき 続きます。 精神安定剤が乳酸菌になったのは、ちょうど眼の前にあったからです。 科学的意味はもちろん、深い意味はありません。 やっぱり、私の虐待衝動は『燃やす』だと思うんです。 火を使うときは周りに十分注意しましょう。 ちなみに最初は、尾根衣さんが恋人の前で一人でゆっくりを色々と工夫しながら燃やし尽くすお話でした。 読了、ありがとうございました。 今までに書いた物。 anko3561 ゆっくりぱるすぃ anko3586 ゆっくりしけんするよ anko3592 ゆっくり燃えつきろ anko3638 ゆっくり剣道道場 anko3642 とよひめと桃の恨み anko3651 ハウスキーパーみょん anko3663 オチビちゃんは…… anko3690『ゆっくり』とは
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静かな夜。生暖かい風が森の木々をざわつかせた。夜空を漂う雲が今宵の月を見え隠れさせる。 中規模程度の森の端に沿って小さな県道が走っていた。二車線すらない細い道。そこを二条の光が移動していく。運搬用のトラックだ。 舗装はされているものの、ところどころ穴が開いていたりするせいで走行中のトラックがガタガタと揺れる。 トラックのエンジン音で何も聞こえないが、コンテナの中にはすすり泣くたくさんのゆっくりたちがいた。 月明かりに照らされたコンテナの側面には黒塗りのペンキで「虹浦町保健所」との文字が見える。 積載されているのは、町で捕まえられた野良ゆっくりたちだ。或いは捨てられた飼いゆっくりたち。 「ゆっくりぃ……ゆっくりぃ……」 「おきゃーしゃん……、きょわいよぉ……しゅーりしゅーりしちぇぇ……」 「どぉして……こんなことにぃ……」 虹浦町には野良ゆっくり回収ボックスというゴミ箱があった。 その中に押し込められていた野良ゆっくりたちは、自分たちをそこから出してくれた保健所の職員に対して泣きながら感謝したのだ。しかしまた、今度は大きな箱の中。 野良ゆっくりたちは自分たちの境遇を嘆き悲しんだ。 生まれた時から野良ゆっくりで、町で静かに暮らしていただけだと言うのに人間たちは皆、自分たちを捕まえる。 どんなに謝っても、何も悪い事をしていないと主張しても聞き入れて貰えない。それどころか、その場で潰されてしまう仲間たちもいた。 しかし、どれだけ己の不遇を呪おうとも、それをどうにかする力は雀の涙ほども持ち合わせていない。 性質の悪い事に、野良ゆっくりたち自身もそれを十分に理解しているせいで尚の事救いが無いと言えた。 「ねぇ……これから、ありすたちはどうなるの……?」 「むきゅー……わからないわ」 トラックの中で交わされる会話。こんなやり取りがコンテナの中で延々繰り返されていた。 (れいむは……しってるよ) コンテナの一番奥。隅っこで壁に頬を押し付けていた一匹のれいむが心の中で呟く。 そのれいむは同乗している野良ゆっくりと比べて小奇麗な身なりをしていた。黒い髪にはまだ艶があり、顔にも泥や埃が付着していない。 (れいむたちは、きっと……“かこうじょ”につれていかれるんだよ……) ゆっくり視点で見ればなかなかの美ゆっくりであるれいむだったが、それに対して声を掛けるようなゆっくりは一匹としていなかった。 れいむの赤いリボン。それが半分近く破られている。それだけで、周囲のゆっくりにとってれいむはとてつもなく惨めな姿に映っているのだ。 泥にまみれ、生ゴミの匂いが纏わりつき、目玉を片方失っていても尚、れいむの姿を見て嘲笑するゆっくりたちがいる。 「おお、あわれあわれ……」 「ゆぷぷ……あれじゃ、こいびとさんもみつからないんだぜ」 そんなゆっくりたちの誹謗中傷はどこ吹く風と言った様子で、れいむが静かに目を細めた。 (おにいさん……れいむのこと、きらいになっちゃったの……?) 飼いゆっくりだったれいむは、ある日突然捨てられた。 れいむは虹浦町に住んでいたわけではない。そこから三十キロ近くも離れた虹黒町で、飼い主と幸せな生活を送っていたのだ。 目を閉じればすぐに思い浮かべることのできる「お父さん」と「お母さん」と「お兄さん」。みんな、とてもれいむを可愛がっていた。 それなのに、幸せな生活はいきなり終わりを告げたのである。 必死に知りたくもないことを教えられて、叩かれたり蹴られたりしながら死ぬような思いで取得した銅バッジ。加工所の事もその時に得た知識だ。 そんな大事な銅バッジを命よりも大切なリボンごと破られて毟り取られた。何がなんだかわからなかった。涙も出なかった。ただ、ただ呆けている事しかできなかった。 それから、れいむは車に乗せられた。いつも「家族みんな」でお出かけするのに使っていた自家用車。 れいむは少しだけ安心した。バッジがなくても一緒にいてもらえるのだと。 家族は河川敷に車を止めるとれいむを堤防の下に向けて転がした。草の上をころころと転がるのが気持ち良かった。何度もこうやって遊んでもらっていたのだ。 だから、今日もたくさん遊んでもらえると思い込んでいた。 しかし、いつまで経っても堤防の下に家族はやって来ない。 れいむはずっと待っていた。日向ぼっこをしたり、草を食べたり、虫を追いかけたりしながら暇をつぶしていた。 それから数時間。 夕日が山の向こうに沈んで行くのを見ながら、ようやくれいむは気付いたのである。 ――自分は、捨てられたのだ…… と。 れいむはペットショップで虐待と言っても過言ではない程の学習を強要させられた。 自分のしたいことは何一つさせてもらえず、毎日毎日ゆっくりできない日々を強いられ、泣きながら眠りにつく日々。 そうまでして頑張って、ようやく与えられた幸せも呆気なく失ってしまった。 自分に幸せを与えたのも人間ならば、それを奪ったのもまた人間だった。 れいむは必死になって考えた。 ――自分にとっての生きる意味とは何なのだろうか。自分の価値とは何なのか。 無論、そんな高尚な言葉を使って物事を深く考えていたわけではないが、餡子脳でれいむなりにそのニュアンスに近しい事を考えていたのである。 だから。 これから行くことになるであろう“加工所”で殺される前に……どうしても、知りたいのだ。 どうしても……。 そして、願わくば……自分が今日まで生きてきた理由を誰でもいいから自分に教えてほしかった。 一、 某日。早朝。 夜中のうちに搬入された野良ゆっくりたちとれいむは殺風景な白い部屋の中に入れられた。 緊張と空腹で疲弊しきった野良ゆっくりたちは、部屋の隅っこで一塊になって震えている。 れいむはその輪の中に入れてもらえなかった。もう片方の隅っこで一匹俯くれいむ。飾りのあるなしの隔たりは余りにも大きいものだった。 それから、コツーン……コツーン……という足音が扉の向こう側から聞こえてきた。 一斉に身構える野良ゆっくりたち。互いの頬を更に強く押し付け合った。成体ゆっくり、子ゆ、赤ゆ問わず泣きながら震えている。 ここがどういう場所かはわからずとも、何か嫌な予感だけはひしひしと感じているのだろう。 不意に部屋の扉が開く。 臆病な赤ゆが一匹、「ゆぴぃ?!」と飛び上がった。 一斉に部屋の中に入ってきた人間に目を向ける野良ゆっくりたち。れいむも、久しぶりに見た人間をぼんやりと眺めていた。 「多いな……。まったく、潰しても捨てても勝手に生えてくるゴミとか本当にタチが悪い……」 白衣を着た加工所職員が面倒臭そうに、用紙が挟まれたバインダーを取り出して、連れてこられたゴミの数を種別ごとに記入していく。 「ま、まりさたちは……」 「あ?」 「まりさたちは、かってにはえてこないのぜ……っ! ごみんさんでもないのぜっ!」 「だから何だ?」 「あ……あやまるのぜっ! ひどいことをいうにんげんさんは……あやま……ゆひぃぃぃぃ?!!」 生意気な口を利いたまりさに向けて一直線に歩み寄る職員。すぐにまりさのお下げを掴んで宙釣りにした。 お下げが千切れようとしているのか、ミチミチ……という不快な音が聞こえる。まりさは身を捩らせて苦痛に泣き叫んでいた。 そのまりさを床に向けて思い切り叩きつける。 まりさの顔面が床に激突した瞬間、まるで水風船が勢いよく弾けるように中身の餡子を四方八方にぶち撒けて爆散した。 飛び散った餡子が目を丸くして微動だにできない野良ゆっくりたちの顔にべちゃべちゃとかかっていく。 静まり返る部屋の中。 職員の声だけがやたらと大きく聞こえる。 「ゴミだし、勝手に生えてくるよ……。お前ら、ゆっくりなんていくらでもな……。ったく、数字が変わっちまったじゃねぇか」 まりさ種の項目に書いてあった数字を消しゴムで消して、消した数字から一匹減らした数字を新たに書く。 「どぼ……じで、ごんな゛ごど……」 「おい、そこのゆっくり」 「ゆ゛ッ!?」 潰される、と思ったのだろう。目をぎゅっと閉じて顔を下に向ける野良ゆっくりの一匹。 「喋るな。ゴミは喋らない」 「~~~~っ」 分かりました、と言うように口を真一文字に結んで額を地面に何度も打ち付ける。 一連のやり取りを見た野良ゆっくりたちはぼろぼろと涙を流しながら、小刻みに震えていた。泣き叫びたい気持ちを必死に抑える。声を出したら殺されるのだ。 職員は用紙に記入したちぇんとぱちゅりーの数字を鉛筆の後ろでコツコツと叩きながら溜め息をついた。 「チョコと生クリームが不足気味だったんだがな……」 それぞれ二、三匹ずつしかいないちぇんとぱちゅりーをじろりと睨み付ける職員。 それから近くにいた薄汚いれいむを思いっきり蹴り飛ばして壁にぶつけた。壁と濃厚なちゅっちゅをしたれいむが、「ゆ゛っ、ゆ゛っ」呻きながら痙攣を起こす。 「大して需要のない餡子は毎回、毎回、馬鹿みたいに持って来られるってのによ……」 職員が部屋を出て行く。 ガタガタと震える野良ゆっくりたち。どれ一匹として声を上げようとしない。ただ、ぽろぽろと涙を流すのみ。 しばらくして職員が別の男をつれて部屋に帰ってきた。 その男が大きな袋の中にちぇんとぱちゅりーを掴んで投げ込む。ちぇんとぱちゅりーであれば、成体、子などのサイズは関係ないらしい。 「むきゅぅぅぅぅん!! いや、いやよっ! たすけてちょうだいっ!!」 「わからないよーー!! こわいんだねぇぇ!!」 袋の中からちぇんとぱちゅりーの悲鳴が聞こえてくる。野良ゆっくりたちは皆、一様に俯いたまま歯をカチカチと鳴らしていた。 そんな残りの野良ゆっくりたちには目もくれずに部屋を出て行く男。ちぇんとぱちゅりーの悲鳴がだんだんと遠くなっていき、最後には何も聞こえなくなった。 しばらくして今度は別の男が部屋に入ってきた。今度は泣き叫ぶありすを手当たり次第に袋の中へと投げ込んでいく。 「とりあえず、ホワイトチョコはまだいいかな……。残りは全部、ミキサーにかけてゆっくりフードにするか……」 職員の言葉の意味がわからない野良ゆっくりたちは「ゆ? ゆゆ?」と互いの顔を見合わせている。 それから、職員が思い出したように呟いた。 「れみりゃにやる生餌を忘れてたな。何匹か持って行くとするか……」 “れみりゃ”という単語に何匹かの野良ゆっくりが反応する。それだけで目にじんわりと涙を浮かべるモノもいた。 職員が入り口の扉とは別の扉に手をかけてそれをゆっくりと開けると、すぐに中の電気をつけた。 そこは殺風景な小さな部屋。その中央には焼却炉を彷彿とさせるような機械が設置してある。 それを見た途端、一匹のありすがカタカタ震えて涙を流した。 「いや……ゆっくりできない……」 ありすの消え入るような声を聞いて、周りの野良ゆっくりたちがありすと同じ視点へと移動する。 そして。 「ゆ、ゆ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!!」 「ゆ゛ぎぃぃぃ……っ! ゆっぐ……でぎ、な……っ、あ゛……ぁあ゛ぁ゛っ!!!」 その機械から放たれる強烈な死臭。人間には決して感知できないにも関わらず、鼻を持たないゆっくりたちはこの“ゆっくりできない臭い”を激しく嫌悪する。 それはフェロモンの一種であるとする研究者もいれば、残留思念の様なものであるとする研究者もいた。 理屈はともかく、目の前の機械から放たれる死臭に野良ゆっくりたちは、まるでおぞましい悪霊でも見ているかのように全身を震わせた。 職員が慣れた手つきで機械の中央付近にある小窓のようなものを開く。それに合わせてよりいっそう強くなる野良ゆっくりたちの悲鳴。 全ての赤ゆは漏れなくしーしーを漏らしていた。目はどこを見ているのかわからない。或いは、宙を漂うゆっくりの亡霊でも見えているのだろうか。 そこから始まる淡々とした作業。 職員は、れいむの揉み上げを、まりさのお下げを、ありすの髪を乱暴に引っ掴んで次々と機械の中に放り込んでいった。 「ゆぎゃあぁぁ!! だじで!! だじでぇ!! お゛う゛ぢがえ゛る゛う゛ぅ゛ぅ゛ッ!!!」 「い゛や゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!! じに゛だぐない゛ぃ゛ぃ゛!! れ゛い゛む゛、もっどゆっぐりじでたい゛よ゛ぉ゛ぉ゛!!」 外観に比べて機械の内側は狭い造りになっていた。 どうやら内部は中身を刳り抜かれた円柱のような形になっていて、その中心に巨大な柱が立っているようだ。 後から後から野良ゆっくりが放り込まれるものだから、内部はだんだんとすし詰めのような状況に変化してきている。 そんな時、一匹のありすの頬に鋭い痛みが走った。 「いた゛ぃぃ!! ありすの゛どがい゛はな゛お゛がお゛がぁぁぁ!!!」 「つ゛ぶれ゛る゛……どいで、ね……どいでねっ!! れ゛い゛む゛、あんよ゛が……い゛だいよ゛ぉ゛っ!!!」 柱。床。壁。その三カ所には巨大な刃が取り付けられていた。それらは全て内側を向いており、その三カ所に密着している野良ゆっくりたちの皮を切ろうとしているのだ。 加工所特製の巨大なジューサーミキサー。いや。ゆっくりミキサーとでも言うべきだろうか。 ここで挽き肉ならぬ挽き饅頭にされた野良ゆっくりたちは様々な製造工程を経て、固形のゆっくりフードへと生まれ変わる。 職員の動きを見ながら、れみりゃの生餌用に選ばれた五匹の野良ゆっくりは怯えていた。 その中には元・飼いゆっくりのれいむの姿も見える。 職員がおもむろに機械のスイッチをオンにした。 「ゆ?」 「ゆかが……ゆっくり、うごきはじめたよ……?」 真っ暗で何も見えないが床が回転し始めているは理解できた。そして、少しずつ両側の壁が内側に向けて迫ってくる。 「え゛ぎゅぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ッ?!! れ゛い゛む゛……づぶれ゛ぶりゅあ゛ぁ゛ぁ゛ッ?!!」 柱と壁の中央付近にいた野良ゆっくりたちが同胞たちによって押し潰されて絶命した。 柱や壁に頬がくっついていた野良ゆっくりたちは、鋭利な刃が少しずつ体内へ潜り込んでくるという恐ろしい感触に、この世の物とは思えない叫び声を上げている。 やがて、中央の柱が時計周りに。周囲の壁が反時計周りに回転し始めた。その回転速度が徐々に上がっていく。 そこからはもう何が何だかわからなかった。 皮が千切れ飛んだ。流出した中身がまるで命を得たかのように所狭しと暴れ回る。弾け飛ぶ目玉。涙か、しーしーか、涎か……とにかく大量の液体。 それらが全てが一つになって、また滅茶苦茶に引っ掻き回されていく。 ほとんどゲル状にまで変質してしまった大量の野良ゆっくりたちの成れの果てが、ミキサーの中で無言のままダンスを踊り続けていた。 回り、飛び、くっついては離れてを繰り返し、また勢いよく爆ぜる。 野良ゆっくりたちの絶叫は轟音に掻き消され、流した涙はどれのものとも分からぬ皮や中身によって埋め立てられる。 機械は程なくして停止した。もう、何も聞こえない。不気味なまでの静寂。 外側からは見えないが、体をぐちゃぐちゃに引き裂かれて中身を全て流出させてしまった野良ゆっくりたちが、ペースト状になって機械の底に溜まっていた。 死ぬ最後の最後まで足掻き苦しんだのだろう。新たな死臭が生かされた命に語りかけてくる。 気丈に仲間たちの最期を見つめていたれいむも、中身を吐き出しそうになるのを必死に抑えながら無言で泣き続けている。 その傍らでまりさは白目を剥いて気を失っていた。 「お前らは全部れみりゃに食わせる。良かったな。今、死んだ連中より少しだけ長く生きることができて。……ゆっくりすることができて、か?」 「ゆひっ……ゆひぃ……」 顔を横にふるふると振って厭だ嫌だイヤだと必死にアピールする野良ゆっくりたち。 どれだけ泣かれても、叫ばれても、嫌がられても、それで職員の気持ちが揺らぐ事はないのだ。職員歴十五年。十五年も職員はこうしてゆっくりを殺し続けてきた。 「ゴミの言葉に耳を貸すほど優しくないんだよ、俺は」 振り返らずに言葉だけ発する。今度は倉庫の扉を開けてそこから約一メートル四方のアクリルケースを取り出した。それを備え付けてあった台車に載せる。 職員が野良ゆっくりたちに近づくと、それだけで数匹がしーしーを漏らした。自分たちが何をされるか分からないのが恐ろしくてたまらないのだろう。 逃げようとするがあんよが動かない。それどころか何も考えることさえできなかった。 れいむも職員に訊きたいことがあったが訊くことができないでいた。喋っただけで殺されるかも知れない。それがれいむの言葉を詰まらせる。 どれもが何かを言いたそうだった。しかし、何を言うでもなく一匹ずつアクリルケースの中に入れられていく。 もちろん、れいむもその中に入れられた。 ガラガラと音を立てて進む台車の上は、コンテナの中ほど乗り心地は悪くなかったが、生きた心地がしなかった。 二、 台車に載せられたれいむたちは、職員によって開けられた扉の向こう側へと進み、新たなフロアへとやってきた。 「んっほぉぉぉ!!! まりさの……まむ、ま……ずっぎ……もう、い゛や゛……ずっぎり゛じだぐ……ゆぅぅ……ず、ずっぎり……じぢゃ……」 「ゆぎゃぁぁ!! あでぃずぅぅ!!! もうやべでぇぇ!! までぃざ、もう゛、ちびちゃんうみ゛だぐな゛ぃぃ……ゆぁぁ……す、すっぎ……」 「「ずっぎりぃぃ!!!」」 こんなやり取りがフロア全体から聞こえてくる。 れいむたちは自分たちの目を疑った。 台車に載せられたものと同じようなアクリルケースがフロア全体に敷き詰められている。 アクリルケースは二匹につき一箱となっているようで、傍から見れば透明のロッカーか、或いはカプセルホテルを彷彿とさせた。 「ゆああぁぁ……まだ、ぢびぢゃんがうばれぢゃう゛ぅぅぅ」 「まりさぁ……ごべんなざい、ごべんなさいぃぃい!! ありず、からだがいう゛ごどをぎいでくれ゛ないの゛ぉぉ……」 先程、すっきりー!を行っていたまりさの額からにょきにょきと茎が生えて、そこに赤まりさと赤ありすが実る。 まりさはうつ伏せのような姿勢でアクリルケースの一番手前に固定されているようだった。しかも、尻はありすに向けて突き出すような形になっている。 茎は、アクリルケースに開けられた小さな穴から外側に向かって伸びていた。まりさの額はその小さな穴に合わせて固定されているようだ。 「ちびちゃん……っ!! ゆぐぅ……ひっく、がわいい゛よぅ……ゆっぐりでぎる゛よぉ……」 泣きながら笑うまりさ。 れいむたちにはまりさのこの行動が理解できなかった。 あんなに可愛いちびちゃんを見て、どうして涙を流す必要があるのかと。この地獄でも新しい命を芽吹かせることができる。素晴らしいことではないのだろうか。 不意にどこからともなく、やはり白衣を着た男性職員が現れる。 まりさはその男性職員の姿を見て、顔をぐしゃぐしゃにしながら力の限りに叫び声を上げた。 「お゛でがい゛じばずぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!! ぢびぢゃんをごろざな゛い゛でぐだざい゛ぃ゛い゛ぃぃぃい!!!」 「――――!?」 台車の上でれいむたちが驚愕の表情に変わる。 まりさを後ろから犯し続けていたありすも、ぼろぼろと涙を流していた。先ほどの興奮が未だに醒めぬのか、頬を染め、舌を垂らし、虚ろな瞳で男性職員を見つめている。 「ゆんやぁぁ! おきゃーしゃん、にんげんしゃんが、こっちにくりゅよぅ! たしゅけちぇにぇ!!」 「ぢびぢゃん……ごべんね……ごべんねぇ……」 「お、おきゃーしゃ……?! なにをやっちぇりゅにょ?! はやきゅ、にげちぇにぇ!」 「ときゃいはじゃにゃいわぁぁ! ありしゅたち、ゆっくちできにゃえびゅぇッ?!!!!」 「う、うわあああぁぁぁぁ!!!」 赤ゆは、茎からぶら下がっているだけの存在だ。 自分で身を守ることはおろか、動くことすらできない。母親ゆっくりが動かなければ、その場から離れられないのだ。 だから、赤ありすは呆気なく潰されて死んだ。僅か十秒弱の命。ただ、親指と人差し指で挟まれて潰されただけ。生まれてきて自分の身に起きたのは、たったのそれだけ。 初めての挨拶もできず、食べることも、笑うことも、眠りにつくこともできずに、赤ありすは死んだ。 同じ茎に実っていたもう一匹の赤ありすも同様にして殺された。 茎に残った二匹の赤まりさが絶句してガタガタ震えている。茎に実ったばかりでどこにそんな水分があるのかと問うほどに、涙としーしーを無様に垂れ流していた。 「い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!! あ゛でぃずのどがいはな゛ちびぢゃんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「何回目だよ、その反応。いい加減慣れろよ。うるせぇ糞ゆっくりが」 「ひどいよ゛ぅ……ひどずぎる゛よ゛ぉ……。ちびちゃん、なんに゛も、じでな……わる゛い゛ごどだげじゃなぐで……な゛ん゛に゛も゛じでな゛い゛のにぃぃぃ!!!」 まりさがぎゅっと瞼を閉じて全身を震わせながら泣く。 ありすはうわ言のように「ごめんね、ごめんね」と繰り返していた。 ここは、食用ゆっくりの養殖部屋。このアクリルケースの中に入れられた二匹一組のゆっくりは、赤ゆ製造機だ。 アクリルケース内の床はスイッチ一つで小刻みに振動し、中に入ったゆっくりをあっと言う間に発情させる。 まりさ同様の姿勢で固定された各種ゆっくりの後ろには常にありすが入れられており、興奮状態になったありすがもう一匹を犯して子供を作るという仕組みだ。 良く見れば“受け側”のゆっくりの頬には全てチューブが突き刺さっている。あのチューブから常に栄養が送られてくるため、何度すっきりー!しても疲れることがない。 結果、栄養不良で死ぬこともできず、毎日ひたすら望まぬすっきりー!を繰り返し、実った赤ゆは目の前で潰されるという凄惨な毎日を過ごす羽目になっているのだ。 まず、ここで実った赤ありすの九割が生まれると同時に潰される。 ありすは他のゆっくりよりも性欲が強いということで、常に“責め側”のポジションだ。すっきりー!を繰り返せば、赤ありすが溢れてしまうことになる。 だから、赤ありすは間引くのだ。そうすることによって、残ったありす種以外の赤ゆに多く栄養が行き渡る。つまり、成長速度が速くなるのだ。 もちろん、ありすを養殖するためのアクリルケースも存在しており、そこでは赤ありす以外の赤ゆが生まれてすぐに潰される。 日進月歩でゆっくりの研究は続いているが、未だに人工的なゆっくりの繁殖に成功した例はない。 だが、こうして一度に発情させて一度にすっきりー!させて、一度に赤ゆを実らせれば意外と採算は取れるものである。 アクリルケースの数は総数で三百箱を数えるほどだ。二匹ずつ赤ゆを養殖したとして、一日に六百匹もの赤ゆが“生産”されることになる。 大体、母親ゆっくりの額に茎が実ってから三時間ほどで栄養供給が安定してくるのか、赤ゆは「ゆぴぃ」と眠りにつく。 その頃合いを見計らって、母親ゆっくりから茎を引き抜き、それを今度は砂糖水の中に突っ込むのだ。 大量の茎が刺された砂糖水の入った容器を見ると、まるで生け花ならぬ生け赤ゆとでも表現できそうな様子だ。 「や゛べでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! れ゛い゛む゛のおぢびぢゃん、づれでいがない゛でぇぇぇぇぇ!!!!」 今度は別のゆっくりが悲痛な声を上げた。 先程、すっきりー!が終わったばかりのアクリルケース列とは、別の列から聞こえた絶叫である。 こちらの列の茎に実った赤ゆは三時間が経過して安定期に入ったのだろう。 数人の職員が手分けして茎を指で触ったり、赤ゆの頬をぷにぷにしたりして完全に安定しているかどうかを判別する。それは彼らの熟練した赤ゆの観察眼が成せる技だった。 「おきゃーしゃあぁぁん!!! たしゅけちぇぇぇぇ!!! れーみゅ、はにゃれちゃくにゃいよぉぉぉぉ!!!!」 「にんげんざん゛ん゛ん゛ん゛!!! お゛でがい゛じばずぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!! ゆっぐりじだごにぞだででみぜばずがら゛あ゛ぁ゛ああぁ゛!!!」 「育てなくていい。お前らはガキを造り続ければそれでいいんだよ」 「どぼじでぞんな゛ごどい゛う゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!?」 「こんなの育てて誰が得するっていうんだよ。お前らが馬鹿の一つ覚えみたいに“ゆっくりできる”とか言うだけじゃねーか」 「おいコラ新入り。いちいちゆっくりの話を聞くんじゃない。そんなことより一本でも多く茎を抜け」 「す、すいませんっ」 こうやって新人はたまにゆっくりの言葉に反応してしまう。 しかし、ゆっくりを生き物だとは決して思ってはいけない。ここにいるのは赤ゆを造るためだけの道具なのだ。 メンテナンスは週に一回行われている。とは言っても、二匹の後頭部に注射器を突き刺してオレンジジュースを流し込むだけの簡単な作業ではあるが。 一本、また一本……と茎が引き抜かれるたびに母親ゆっくりが絶叫を上げる。 ワンパターンな反応。いい加減慣れろと言われても慣れるわけがないだろう。 無理矢理子供を作らされ、生まれた傍から半分が潰されて、三時間後には茎ごとどこかに連れていかれる。 「ゆ、ゆひっ、ゆふへ……ぱ、ぱぱぱ、ぱ、ぴ、ぷ、ぺ、ぽーーーーーー!!!」 「う、うわぁぁぁ!! まりさ! まりさ! しっかりしてよぉぉぉ!!!!」 中にはこうして発狂してしまうゆっくりも当然ながらいた。それを見つけた職員がすぐに内線で別の部署と連絡を取る。 「はい。三十六番のまりさ、発狂しました。こちらで処分しておきますので替えのまりさを用意してください」 それから気が狂ったまりさは職員によってあっと言う間に処分され、替わりに別のまりさがすぐにアクリルケースの中に入れられた。 こちらの列の茎の回収が全て終わったのだろう。 職員の一人がスイッチを押して、床を小刻みに振動させる。そこから始まる醜悪な性の営み。 無数のゆっくりの喘ぎ声と、互いの皮がぶつかり合う乾いた音がフロア全体に響き渡る。 そして、そこかしこから「すっきりー!」という絶望に染まった絶頂から漏れ出す歓喜の声が上がり始めた。 「も゛う゛……ずっぎり、じだぐない゛……。ぢびぢゃん……う゛み゛だぐ、な゛い゛……ゆぐっ、ひっく……」 泣こうが喚こうが、ゆっくりたちは子供を作り続ける。眠ることすら許されず、ただひたすらに。 れいむたちは台車の上で泣いていた。こんな理不尽は話があるものか、と悲しみに打ち震えていた。 そんなれいむたちに、台車を押し始めた職員が優しく語りかける。 「な? お前らは勝手に生えてくるだろ?」 生えては引き抜かれを繰り返す赤ゆの実った茎を横目で見ながら、ゆっくりたちは言葉を失って俯いた。 しかし、れいむだけはぽそりと呟いた。 「かってには、はえてこないよ……」 「あ?」 「あのはこのなかにいる、ゆっくりたちががんばってるから……っ! かけがえのないちびちゃんたちがうまれるんだよっ!!! そんないいかたしないでねっ!!!」 「れ、れいむ……」 泣きながら叫ぶれいむを見ながら、台車に載せられたゆっくりたちが涙を流す。 職員はそんなゆっくりたちのくだらない茶番に声を出して笑った。それに対してれいむが威嚇を始める。この地獄のど真ん中で泣きながら頬を膨らませた。 「かけがえのない命があんなにポンポン生まれるわけねーだろ。饅頭の癖に命がどうとか夢見てんじゃねぇよ」 それっきり、れいむは黙りこくってしまった。何を言っても自分たちの言葉は通らない。それを理解して、また何か反論しようという気にはならなかった。 無情にも繰り返される母親ゆっくりと赤ゆの絶叫を後方に聞きながら、れいむたちはようやくこの場所から次のフロアへと移動をさせられた。 三、 台車に載せられたまま、加工所の更に奥へと入っていく。 透明な壁で仕切られた長大な部屋を分断する中央の廊下部分を進む職員と野良ゆっくり一同。 周囲を見渡した野良ゆっくりたちが再び息を呑む。 「あ゛づい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ!!!」 「あ゛ん゛よ゛が……ゆ゛っぐり゛でぎな゛ぃよ゛ぉ゛ぉお゛おおぉ゛!!!!」 壁からゆっくりが五匹ずつ一列に整列した状態で下ろされる。それぞれの頭は金属製のアームで挟まれ身動きができないようになっていた。 下ろされた先は黒い鉄板。鉄板はゆっくりたちのあんよを焼くためのものだ。あんよは、機械的に十五秒間ずつ高熱で一気に焼き上げられる。 垂れ流される涙としーしーがジュワジュワと音を立て蒸発していくのを見れば、あの鉄板がいかに高温であるかが理解できるだろう。 鉄板の上でゆっくりたちは自分たちの顔の皮が引き千切れるのではないかと思うほどに、身を捩らせていた。しかし、それ以上の動きは頭のアームが許さない。 まさか自分の顔を引き千切るわけにもいかないので、抵抗はすべて虚しく、最後には並んだ五匹が五匹ともあんよの機能を完全に喪失させられるのである。 この仕掛けは壁に六ヶ所設置されており、大体三十秒間隔で三十匹のゆっくりが同時にあんよを焼かれる仕組みとなっていた。 十五秒間が過ぎると、アームは再び放心状態……或いは完全に意識を失っているゆっくりたちをその傍らで流れているベルトコンベアへと移動させる。 無言のまま、ベルトコンベアの上を流れて行くあんよが炭化したゆっくりたち。 中には、あんよを徹底的に焼き上げられても必死に周囲の職員に助けを求めるゆっくりもいた。 「だずげでぐだざい゛ぃ゛ぃ゛!! あ゛ん゛よ゛がう゛ごがな゛い゛ん゛でずぅ゛ぅ゛ぅ゛!!! ばでぃざは、も゛っどゆ゛っぐり゛じだい゛んでず゛ぅ゛ぅ゛!!」 「お゛でーざんっ!! あ、あぁぁ゛っ!! お、お゛に゛ぃ゛ざん゛っ!! だずげ……む、むじじないでぇ゛え゛ぇ゛ええぇえ!!!」 もちろん、誰も耳を貸さない。雑音にいちいち答えてやるほどこの職場は暇な場所ではなかった。中には耳栓をつけて仕事をしている者もいる。 ベルトコンベアの先には分岐点があり、そこには二人の職員が立っていた。 れいむ種、まりさ種、ありす種、ぱちゅりー種、ちぇん種、みょん種。それぞれ専用のベルトコンベアが用意されているのだ。 職員は一緒くたにベルトコンベアに載せられたゆっくりたちをを種類ごとに分けていくために配置されている。 「あ゛でぃずのぎゅーでぃぐる゛ながみ゛のげざんがぁあぁっ!!!」 「までぃざのお゛ざげざんが、ぢぎれ゛る゛の゛ぜぇぇぇぇ!!!!」 丁寧に扱う必要はなかった。それぞれが髪を掴まれて別のベルトコンベアに載せられていく。 ゆっくりの状態など、この後関係なくなるのだ。とりあえずは“中身を仕分けできればそれでいい”のである。 それぞれの種族ごとに流されていくベルトコンベアの先にはトンネルのようなものがあった。そのトンネルの入り口には赤い光が見えた。 トンネルの中は暗い。この先に何があるか分からない。恐ろしくてたまらないのだろう。ベルトコンベアの上でちょろちょろとしーしーを漏らすゆっくり。 程なくしてそのトンネルの中に入っていく。赤い光にゆっくりが触れた瞬間、音を立てて機械が動き始めた。 「ゆひぃぃぃっ?!!」 勢いよくしーしーを前方に発射させる。動かぬあんよを呪いながら、顔の部分だけを少しでも後ろに後ろにと持っていくが無駄な抵抗だった。 「がひっ!??」 いきなり。頭頂部に何かが突き刺さったかと思えばそれがあんよを貫いて貫通した。 瞳孔が開く。全身から汗が噴き出すのを感じた。眩暈。吐き気。まるで脊髄にナイフが刺さったかのようような衝撃と虚脱感。 体全体が小刻みに震える。身を捩らせようとすることもできなかった。瞬きをするだけで全身に痛みが走る。 そして。 「ゆ゛べばあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ??!!!」 貫通していた何かが体内で二つに分かれて一気に拡がった。突き刺さっていた底部が勢いよく引き裂かれ、顔を真っ二つにされる事でそのゆっくりは死んだ。 行き場を失った餡子がぼとぼととその真下に設置してあったトレイに落ちて行く。 他の場所でも同様に、カスタードや生クリームが次々とトレイに載せられていった。 このエリアは“ゆっくりの中身を抉り出して食用品として回収”していくための場所。だから、髪が千切れようがあんよが炭化していようが関係ないのである。 ベルトコンベアに載せられたゆっくりは、その中身にしか価値を見出されないのだ。いや、見出されるだけマシというものかも知れない。 「か、かわいそうなんだぜっ! みんな、いやがってるのぜっ!! やめてあげるのぜぇっ!!!」 先程のフロアでのれいむの勇気にほだされたのか、台車に載せられたまりさが涙ながらに叫んだ。 その声を聞いて、加工所内にいたゆっくりたちが同じように声を上げる。 「だずげでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! れ゛い゛む゛、い゛ぎでい゛だい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」 「ゆっぐりじだいだげな゛のに゛ィィィイィィ!!!」 「ごんな゛じにがだはいや゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!! ずぎな゛ゆっぐりどい゛っじょに、え゛いえ゛ん゛にゆっぐりじだいよ゛ぉ゛ぉ゛!!!」 「どぼじでごんな゛ごどずる゛の゛ぉぉお゛ぉ゛!! み゛ん゛な゛、なんに゛も゛わる゛いごどじでないの゛にぃいぃぃ゛い゛いぃぃぃ!!!!!」 絶望の合唱。心の底から絞り出されるかのような強い懇願。 それでも、与えられるモノと言えば、焼かれて、貫かれて、引き千切られて。そんな苦痛と、決して穏やかであるとは言えない凄惨な“死”のみ。 このエリアで加工されるゆっくりは、全て加工所産のゆっくりである。ここで殺されるためだけに生まれてこさせられて、今日まで生かされてきただけの存在。 それ故に野良ゆっくりのような不衛生さは皆無だ。 今、れいむたちを載せた台車がある渡り廊下と生産ラインの部屋が完全に仕切られているのは安全衛生のためである。職員たちも白衣にマスク、帽子、滅菌手袋と完全装備だ。 阿鼻叫喚の地獄の中、台車が移動を始める。 「だずげでぇぇぇ!! れいむぅぅぅ!!! だずげでよぉぉぉ!!!」 ベルトコンベアを流れるゆっくりと目が合ったれいむが助けを求められた。しかし、どうすることもできない。 そのゆっくりはずっとれいむの事を見ていた。れいむも、目を逸らすことができなかった。 結局、お互いの姿が見えなくなるまで、二匹はずっと視線を合わせていた。 うなだれたままのれいむたちを載せた台車がすぐ隣のフロアへと移動する。 そこでもまた、甲高い悲鳴がれいむたちを迎えた。 「ゆんやあぁぁぁぁ!!! やじゃ、やじゃ、やじゃあぁぁぁぁ!!!!」 「やめちぇにぇっ!! やめちぇにぇっ!! ゆっくちできにゃいよぉぉぉぉ!!!!」 先程のフロアは、成体ゆっくりの食品加工を行う場所だった。対してこのフロアは、赤ゆっくりの食品製造場所だったのである。 このフロアには先ほどのベルトコンベアのようなものはないが、代わりに内部がホテルの厨房のような作りをしており、壁には無数の調理器具が掛かっていた。 室内は熱気に包まれており、ここで働く職員たちは額にうっすらと汗を浮かべている。 フロアの一画には巨大な鍋が設置してあった。傍らには大量の赤ゆが生きたまま入った透明なボウルが見える。その中の赤ゆたちは喉を枯らさんばかりの勢いで泣いていた。 おもむろに職員の一人がそこに近づく。その姿を見た赤ゆたちはボウルの中で一斉にしーしーを噴射した。ボウルが職員によって持ち上げられると、悲鳴は更に大きくなった。 れいむたちは台車の上からその様子を固唾を飲んで見守っていた。これから起こるであろう何かに対して嫌な予感だけが餡子脳裏をよぎる。 そして、その嫌な予感は見事に的中した。 巨大な鍋。 れいむたちからは見えないが、中には油の海が広がっており、それは十分すぎるほどに加熱されていた。そこに、ボウルの中の赤ゆがぼちゃぼちゃと放り込まれる。 「ゆ゛っぎゃああ゛あ゛あぁ゛ああ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁッ!!!????」 鼓膜を突き破らんばかりの勢いで、上げられる凄まじい絶叫。 台車に載せられていたありすは、おそろしーしーをぷしゃぁぁ……と漏らしていた。他のゆっくりも開いた口が塞がらない。頬に涙が伝う感触だけを感じていた。 ジュワアァァ……という音と共に、絶命した赤ゆたちが一匹、また一匹と油の海面に浮かんでくる。ぴくりとも動かない。既に死んでいるのだろう。 職員は皮がこんがりと狐色に揚げあがった赤ゆを一匹ずつ掬い、キッチンペーパーと新聞紙の敷かれた場所に並べて行った。 ここから様々な製造工程を経て、加工所産のお菓子として人気の高い“揚げ赤ゆ”が市場に並ぶ。 眩暈がするような凄惨な光景を見続けていた台車の上のれいむたちが虚ろな表情に変わっていった。 「だしちぇにぇっ!! しゃむいよぉぉぉ!!!! もうやじゃあ、れーみゅ、おうちかえりゅぅぅぅ!!!!」 れいむたちが声のした方向へと振り返る。 そこにはステンレス製の巨大な冷凍庫のようなものが置いてあった。これは、赤ゆを瞬間冷凍して、冷凍食品に加工するための機械である。 使い方は簡単で指定された数の赤ゆを内部に放り込み、スイッチを入れるだけ。 一瞬で凍結した赤ゆたちはそのまま物言わぬ冷凍饅頭となり、各家庭の電子レンジで再び目が覚めるのだ。目が覚めたところで、その先に未来はないのだが。 冷却作業が終わったのか、冷凍庫の扉が開けられる。凍りついた赤ゆたちを次々に回収していき、袋の中に詰める作業が始まった。 更に他の場所に目を向けると、今度は三匹ほどの赤ゆが生きたまま袋の中に入れられていた。 「くりゅぢぃよぉぉ!!!」 小さな袋の中で赤ゆたちがぎゅうぎゅう詰めにされている。その袋の口に掃除機のチューブのようなものが当てられていた。 職員がその掃除機のようなもののスイッチを入れる。 刹那、袋は一瞬にして圧縮され、内部の赤ゆも苦悶の表情を浮かべたまま動かなくなった。赤ゆの真空パック、である。 滝のように涙を流し、涎を撒き散らして、しーしーを所構わず噴射しながら、赤ゆたちは泣きに泣き叫んでいた。 誰も助けてくれないことを呪いながら。自分たちの置かれた境遇を呪いながら。 自分たちをこの世に産み落とした母親ゆっくりを呪いながら。 「さっき生まれたガキ共も、半分はここで死ぬんだよ」 「…………」 「ここで死ななかった連中も、大人になってから食べ物に加工される。……あぁ、さっき見せたな。あんよを焼かれてたゆっくりがそれだよ」 「…………なんなの?」 「ん?」 「にんげんさんたちにとって、れいむたちゆっくりは……なんなの?」 れいむが職員と目を合わせないようにしながら、恐る恐る言葉を紡いだ。台車の上のゆっくりたちは、完全に意気消沈してしまっており、無言のまま動く気配がない。 職員はれいむの問いかけに、「クク」と喉を鳴らして嗤った。 「さっきも言っただろ。勝手に生えてくるゴミだよ。お前らは」 「…………あんまりだよ…………」 「あんまり? 失礼なヤツだな、お前は。生きてるうちは何の役にも立たないお前らに俺たち加工所職員は価値を与えてやってるんだぜ?」 れいむの揉み上げがぴくん、と動いた。 悲しみを通り越して、沸々と怒りが湧き上がっていく。あまりにも理不尽な物言いに、れいむはこの人間が憎らしくてたまらなくなった。 「お前らゆっくりはな。死んでからやっと世の中の役に立てるんだ。路地裏で野垂れ死ぬ連中よりも、よっぽど生きた意味があると思わないか?」 「れいむたちが、いきるいみは、れいむたちがさがすよ……。にんげんさんたちにみつけてもらうものじゃないよ」 「そう言ってお前らゆっくりは何をする? せいぜい、ゴミを漁って街を汚し、死んでも誰も片づけないからやはりゴミが生まれるだけじゃないか」 「……ゆぐぅ……っ!!」 「さ、行くぞ。これから、お前らに生まれてきた意味を与えてやる」 そう言いながら職員は台車を押し始めた。台車は更に奥へとやってきたようだ。 職員が陽気な声で呟く。 「終点だよ」 部屋の中は真っ暗だった。れいむたちがアクリルケースの中で不安そうにきょろきょろと周囲の様子を伺う。 そして。 「うー☆ うー☆」 台車の上のゆっくりたちが一斉にしーしーをぶちまけた。 四、 職員が部屋の電気をつけるとそこには四匹のれみりゃがいた。どれも張り付いたような笑顔のまま、自由気ままに空を飛び回っている。 れみりゃたちは「うっうー☆」と言いながら、職員の下へと集まってきた。 その様子を見てれいむたちがアクリルケースの中で目を丸くする。 自分たちと同じようにれみりゃも人間が怖いはずだ。そう思っていた。 しかしどうだろうか。れみりゃは地面にあんよをつけて職員の足に頬を摺り寄せている。しゃがみ込んだ職員はれみりゃの頭を優しく撫でた。 ここはゆっくりの加工所。 この部屋に連れて来られるまで、ゴミ同然に弄ばれる数多の命を見てきた。どれ一匹、慈悲の言葉をかけられることなくただ淡々と潰されていた同胞たちの姿。 それなのになぜ。何故、目の前のれみりゃは人間を恐れず、また人間はれみりゃに対してこうも好意的なのだろうか。少しも理解が追い付かない。 「どうして、れみりゃも自分たちと同じゆっくりなのに、こんなにも扱いが違うのかっていうような顔をしてるな」 職員の言葉にれいむたちの表情が変わる。自分たちの考えていたことをピタリと言い当てられて戸惑っているようだった。 「体で教えてやるよ」 そう言ってアクリルケースの上に手を伸ばす職員。 ありすの金髪が乱暴に鷲掴みされて持ち上げられた。あんよをくねらせながら悲鳴を上げるありす。漏れ出たしーしーが滴のように床へポタポタと落ちていた。 「い、や……。と、とかいはじゃ……」 「そら、れみりゃども! 餌だぞ!」 ありすの言葉には一瞬たりとも耳を貸さずに右手に持っていたありすをれみりゃたちの中に放り込んだ。 顔面から床に叩きつけられたありすが、二度、三度とバウンドしてようやくその動きを止める。そして、ありすが泣きながら顔を上げようとしたその時だった。 「ゆ゛ぎゃあ゛ぁ゛!! い゛だい゛ぃぃい゛ぃ゛!!!」 四匹のれみりゃが一斉にありすに飛び掛かる。その鋭い牙がありすの皮に突き立てられて、あっという間に引き裂かれていく。カスタードが弾けるように宙を舞った。 ぶちぶちと引き千切られる髪の毛。カチューシャはとっくに毟り取られて近くに放り捨てられていた。 舌を絡めるような艶めかしいキス……ではなく、れみりゃがありすの舌に噛み付いてそれを引き抜きながら租借していく。 ありすは瞳孔を開き切ったまま、その目尻からカスタード混じりの涙をぼろぼろと流していた。 れみりゃがありすの唇を剥ぎ取る。そのまま、ありすの口を横に側頭部付近まで引き裂いた。 もはや、吐き出されているのか、漏れ出しているのか、それすらも分からないほどにありすの体内から流出していくカスタード。 「かひーーーっ、こひゅっ……ひっ、ひゅー、ひゅっ、……ッ!!!」 声は出せない。ありすの口は完全に破壊され、音を発することができなくなっていた。 目はずっと台車の上に載せられたアクリルケースに向けられている。助けを求めているのだろう。求めているつもりなのだろう。 ありすは、その二つの目玉をれみりゃに抉り出されて食べられるまで、アクリルケースを見つめていた。 それから激しい痙攣を起こし始めるありす。やがてその痙攣は止まり、今度はれみりゃがありすの体内を貪ることで残された皮が生き物のように蠢く。 「ゆげろぉぉぉッ!?? ゆ゛ぉ゛え゛ぇ゛ぇ゛ッ!!!」 「う、うわあぁぁぁ!!! あ゛でぃずがあ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」 目の前で繰り広げられる残酷で凄惨な弱肉強食の現実に、アクリルケース内のゆっくりたちは嫌悪感から中身を吐き出したり、叫び声を上げたりした。 ありすの残骸の上で羽をぱたつかせるれみりゃが嬉しそうにアクリルケースを眺めている。 その中のゆっくりたちは歯をカチカチと鳴らして震えていた。 今、ありすがれみりゃに捕食されるまでどれくらいの時間があっただろうか。短い時間ではないということだけは、どのゆっくりにも理解できた。 痛いのか。熱いのか。苦しいのか。泣きたくなるのか。中身を吐くのか。動けなくなるのか。 わからない。 “死”の感覚はわからない。今際の際にならねばわからない“死”の感覚にゆっくりたちは怯えた。恐怖であんよを動かすことができない。 「にんげんさんのいう、れいむたちがうまれてきたいみをおしえてくれる、っていうのはこういうことなの……?」 れいむが呟いた。れいむは震えていなかった。“死”を覚悟して受け入れたのだろう。穏やかな表情でアクリルケースの中から職員を見上げていた。 「ああ、そうだよ」 職員が平然と答えながらアクリルケース内のゆっくりを次々とれみりゃたちの元へ放り投げた。 れいむは動かない。綺麗な放物線を描いて、床に叩きつけられ、それかられみりゃたちに食い散らかせる仲間を見ながら、なおも職員に質問を続けた。 「にんげんさんたちのごはんになるか、れみりゃたちのごはんになるか……。れいむたちは、そのどっちかにしかなれないの?」 「何かになれるだけマシだろう」 「じゃあ、どうして、れみりゃは……れいむたちとおなじゆっくりなのに、にんげんさんにごはんさんをたべさせてもらえるの?」 「れみりゃは、お前らみたいなゴミを無償で食べてくれるからな。例えるなら、お前らが害虫でれみりゃは益虫なんだよ。……ああ、わからないか」 ぐちゃぐちゃに引き千切られていく、かつてゆっくりだった物。 れいむはそれをぼんやりと眺めていた。 あんなぐちゃぐちゃの姿になるまでは、ゆっくりしようと一生懸命頑張っていたのだろう。 必死になって食糧を探してゴミを漁り、死に物狂いでおうちを作って街の景観を損なわせたのだ。 れいむは一つの答えにたどり着いた。 (れいむ、ゆっくりりかいしたよ……) れみりゃたちがアクリルケースの中のれいむに向けて「うー☆」と合唱を始める。れいむを食料として欲しているのだろう。 (れいむたちみたいなゆっくりがいきようとすることが……にんげんさんたちにめいわくをかけちゃうんだね……) れいむのあんよが宙に浮いた。片方の揉み上げを掴まれ宙釣りにされる。 (……だから、にんげんさんたちにとって、れいむたちはいきてちゃいけないんだ……) 放り投げられたれいむがれみりゃによって滅茶苦茶に食い荒らされていく。 生きる意味などなかった。この世界で自分たちが生きて行くことの価値は見出せない。どこに行っても疎まれる。 それをゆっくりと理解した。釈然としない気持ちはあったけれども、それを覆すような力も知識も何もない。 れいむの存在した証が……体が、少しずつ失われていく。 薄れゆく意識の中でれいむは静かに呟いた。 ――れいむ、うまれてきてごめんね 選択肢 投票 しあわせー! (55) それなりー (5) つぎにきたいするよ! (0) 名前 コメント すべてのコメントを見る 余白あきさん -- (名無しさん) 2017-11-04 18 46 58
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『存在価値』 38KB 虐待 調理 野良ゆ 赤ゆ 捕食種 加工場 現代 以下:余白 『存在価値』 序、 静かな夜。生暖かい風が森の木々をざわつかせた。夜空を漂う雲が今宵の月を見え隠れさせる。 中規模程度の森の端に沿って小さな県道が走っていた。二車線すらない細い道。そこを二条の光が移動していく。運搬用のトラックだ。 舗装はされているものの、ところどころ穴が開いていたりするせいで走行中のトラックがガタガタと揺れる。 トラックのエンジン音で何も聞こえないが、コンテナの中にはすすり泣くたくさんのゆっくりたちがいた。 月明かりに照らされたコンテナの側面には黒塗りのペンキで「虹浦町保健所」との文字が見える。 積載されているのは、町で捕まえられた野良ゆっくりたちだ。或いは捨てられた飼いゆっくりたち。 「ゆっくりぃ……ゆっくりぃ……」 「おきゃーしゃん……、きょわいよぉ……しゅーりしゅーりしちぇぇ……」 「どぉして……こんなことにぃ……」 虹浦町には野良ゆっくり回収ボックスというゴミ箱があった。 その中に押し込められていた野良ゆっくりたちは、自分たちをそこから出してくれた保健所の職員に対して泣きながら感謝したのだ。しかしまた、今度は大きな箱の中。 野良ゆっくりたちは自分たちの境遇を嘆き悲しんだ。 生まれた時から野良ゆっくりで、町で静かに暮らしていただけだと言うのに人間たちは皆、自分たちを捕まえる。 どんなに謝っても、何も悪い事をしていないと主張しても聞き入れて貰えない。それどころか、その場で潰されてしまう仲間たちもいた。 しかし、どれだけ己の不遇を呪おうとも、それをどうにかする力は雀の涙ほども持ち合わせていない。 性質の悪い事に、野良ゆっくりたち自身もそれを十分に理解しているせいで尚の事救いが無いと言えた。 「ねぇ……これから、ありすたちはどうなるの……?」 「むきゅー……わからないわ」 トラックの中で交わされる会話。こんなやり取りがコンテナの中で延々繰り返されていた。 (れいむは……しってるよ) コンテナの一番奥。隅っこで壁に頬を押し付けていた一匹のれいむが心の中で呟く。 そのれいむは同乗している野良ゆっくりと比べて小奇麗な身なりをしていた。黒い髪にはまだ艶があり、顔にも泥や埃が付着していない。 (れいむたちは、きっと……“かこうじょ”につれていかれるんだよ……) ゆっくり視点で見ればなかなかの美ゆっくりであるれいむだったが、それに対して声を掛けるようなゆっくりは一匹としていなかった。 れいむの赤いリボン。それが半分近く破られている。それだけで、周囲のゆっくりにとってれいむはとてつもなく惨めな姿に映っているのだ。 泥にまみれ、生ゴミの匂いが纏わりつき、目玉を片方失っていても尚、れいむの姿を見て嘲笑するゆっくりたちがいる。 「おお、あわれあわれ……」 「ゆぷぷ……あれじゃ、こいびとさんもみつからないんだぜ」 そんなゆっくりたちの誹謗中傷はどこ吹く風と言った様子で、れいむが静かに目を細めた。 (おにいさん……れいむのこと、きらいになっちゃったの……?) 飼いゆっくりだったれいむは、ある日突然捨てられた。 れいむは虹浦町に住んでいたわけではない。そこから三十キロ近くも離れた虹黒町で、飼い主と幸せな生活を送っていたのだ。 目を閉じればすぐに思い浮かべることのできる「お父さん」と「お母さん」と「お兄さん」。みんな、とてもれいむを可愛がっていた。 それなのに、幸せな生活はいきなり終わりを告げたのである。 必死に知りたくもないことを教えられて、叩かれたり蹴られたりしながら死ぬような思いで取得した銅バッジ。加工所の事もその時に得た知識だ。 そんな大事な銅バッジを命よりも大切なリボンごと破られて毟り取られた。何がなんだかわからなかった。涙も出なかった。ただ、ただ呆けている事しかできなかった。 それから、れいむは車に乗せられた。いつも「家族みんな」でお出かけするのに使っていた自家用車。 れいむは少しだけ安心した。バッジがなくても一緒にいてもらえるのだと。 家族は河川敷に車を止めるとれいむを堤防の下に向けて転がした。草の上をころころと転がるのが気持ち良かった。何度もこうやって遊んでもらっていたのだ。 だから、今日もたくさん遊んでもらえると思い込んでいた。 しかし、いつまで経っても堤防の下に家族はやって来ない。 れいむはずっと待っていた。日向ぼっこをしたり、草を食べたり、虫を追いかけたりしながら暇をつぶしていた。 それから数時間。 夕日が山の向こうに沈んで行くのを見ながら、ようやくれいむは気付いたのである。 ――自分は、捨てられたのだ…… と。 れいむはペットショップで虐待と言っても過言ではない程の学習を強要させられた。 自分のしたいことは何一つさせてもらえず、毎日毎日ゆっくりできない日々を強いられ、泣きながら眠りにつく日々。 そうまでして頑張って、ようやく与えられた幸せも呆気なく失ってしまった。 自分に幸せを与えたのも人間ならば、それを奪ったのもまた人間だった。 れいむは必死になって考えた。 ――自分にとっての生きる意味とは何なのだろうか。自分の価値とは何なのか。 無論、そんな高尚な言葉を使って物事を深く考えていたわけではないが、餡子脳でれいむなりにそのニュアンスに近しい事を考えていたのである。 だから。 これから行くことになるであろう“加工所”で殺される前に……どうしても、知りたいのだ。 どうしても……。 そして、願わくば……自分が今日まで生きてきた理由を誰でもいいから自分に教えてほしかった。 一、 某日。早朝。 夜中のうちに搬入された野良ゆっくりたちとれいむは殺風景な白い部屋の中に入れられた。 緊張と空腹で疲弊しきった野良ゆっくりたちは、部屋の隅っこで一塊になって震えている。 れいむはその輪の中に入れてもらえなかった。もう片方の隅っこで一匹俯くれいむ。飾りのあるなしの隔たりは余りにも大きいものだった。 それから、コツーン……コツーン……という足音が扉の向こう側から聞こえてきた。 一斉に身構える野良ゆっくりたち。互いの頬を更に強く押し付け合った。成体ゆっくり、子ゆ、赤ゆ問わず泣きながら震えている。 ここがどういう場所かはわからずとも、何か嫌な予感だけはひしひしと感じているのだろう。 不意に部屋の扉が開く。 臆病な赤ゆが一匹、「ゆぴぃ?!」と飛び上がった。 一斉に部屋の中に入ってきた人間に目を向ける野良ゆっくりたち。れいむも、久しぶりに見た人間をぼんやりと眺めていた。 「多いな……。まったく、潰しても捨てても勝手に生えてくるゴミとか本当にタチが悪い……」 白衣を着た加工所職員が面倒臭そうに、用紙が挟まれたバインダーを取り出して、連れてこられたゴミの数を種別ごとに記入していく。 「ま、まりさたちは……」 「あ?」 「まりさたちは、かってにはえてこないのぜ……っ! ごみんさんでもないのぜっ!」 「だから何だ?」 「あ……あやまるのぜっ! ひどいことをいうにんげんさんは……あやま……ゆひぃぃぃぃ?!!」 生意気な口を利いたまりさに向けて一直線に歩み寄る職員。すぐにまりさのお下げを掴んで宙釣りにした。 お下げが千切れようとしているのか、ミチミチ……という不快な音が聞こえる。まりさは身を捩らせて苦痛に泣き叫んでいた。 そのまりさを床に向けて思い切り叩きつける。 まりさの顔面が床に激突した瞬間、まるで水風船が勢いよく弾けるように中身の餡子を四方八方にぶち撒けて爆散した。 飛び散った餡子が目を丸くして微動だにできない野良ゆっくりたちの顔にべちゃべちゃとかかっていく。 静まり返る部屋の中。 職員の声だけがやたらと大きく聞こえる。 「ゴミだし、勝手に生えてくるよ……。お前ら、ゆっくりなんていくらでもな……。ったく、数字が変わっちまったじゃねぇか」 まりさ種の項目に書いてあった数字を消しゴムで消して、消した数字から一匹減らした数字を新たに書く。 「どぼ……じで、ごんな゛ごど……」 「おい、そこのゆっくり」 「ゆ゛ッ!?」 潰される、と思ったのだろう。目をぎゅっと閉じて顔を下に向ける野良ゆっくりの一匹。 「喋るな。ゴミは喋らない」 「~~~~っ」 分かりました、と言うように口を真一文字に結んで額を地面に何度も打ち付ける。 一連のやり取りを見た野良ゆっくりたちはぼろぼろと涙を流しながら、小刻みに震えていた。泣き叫びたい気持ちを必死に抑える。声を出したら殺されるのだ。 職員は用紙に記入したちぇんとぱちゅりーの数字を鉛筆の後ろでコツコツと叩きながら溜め息をついた。 「チョコと生クリームが不足気味だったんだがな……」 それぞれ二、三匹ずつしかいないちぇんとぱちゅりーをじろりと睨み付ける職員。 それから近くにいた薄汚いれいむを思いっきり蹴り飛ばして壁にぶつけた。壁と濃厚なちゅっちゅをしたれいむが、「ゆ゛っ、ゆ゛っ」呻きながら痙攣を起こす。 「大して需要のない餡子は毎回、毎回、馬鹿みたいに持って来られるってのによ……」 職員が部屋を出て行く。 ガタガタと震える野良ゆっくりたち。どれ一匹として声を上げようとしない。ただ、ぽろぽろと涙を流すのみ。 しばらくして職員が別の男をつれて部屋に帰ってきた。 その男が大きな袋の中にちぇんとぱちゅりーを掴んで投げ込む。ちぇんとぱちゅりーであれば、成体、子などのサイズは関係ないらしい。 「むきゅぅぅぅぅん!! いや、いやよっ! たすけてちょうだいっ!!」 「わからないよーー!! こわいんだねぇぇ!!」 袋の中からちぇんとぱちゅりーの悲鳴が聞こえてくる。野良ゆっくりたちは皆、一様に俯いたまま歯をカチカチと鳴らしていた。 そんな残りの野良ゆっくりたちには目もくれずに部屋を出て行く男。ちぇんとぱちゅりーの悲鳴がだんだんと遠くなっていき、最後には何も聞こえなくなった。 しばらくして今度は別の男が部屋に入ってきた。今度は泣き叫ぶありすを手当たり次第に袋の中へと投げ込んでいく。 「とりあえず、ホワイトチョコはまだいいかな……。残りは全部、ミキサーにかけてゆっくりフードにするか……」 職員の言葉の意味がわからない野良ゆっくりたちは「ゆ? ゆゆ?」と互いの顔を見合わせている。 それから、職員が思い出したように呟いた。 「れみりゃにやる生餌を忘れてたな。何匹か持って行くとするか……」 “れみりゃ”という単語に何匹かの野良ゆっくりが反応する。それだけで目にじんわりと涙を浮かべるモノもいた。 職員が入り口の扉とは別の扉に手をかけてそれをゆっくりと開けると、すぐに中の電気をつけた。 そこは殺風景な小さな部屋。その中央には焼却炉を彷彿とさせるような機械が設置してある。 それを見た途端、一匹のありすがカタカタ震えて涙を流した。 「いや……ゆっくりできない……」 ありすの消え入るような声を聞いて、周りの野良ゆっくりたちがありすと同じ視点へと移動する。 そして。 「ゆ、ゆ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!!」 「ゆ゛ぎぃぃぃ……っ! ゆっぐ……でぎ、な……っ、あ゛……ぁあ゛ぁ゛っ!!!」 その機械から放たれる強烈な死臭。人間には決して感知できないにも関わらず、鼻を持たないゆっくりたちはこの“ゆっくりできない臭い”を激しく嫌悪する。 それはフェロモンの一種であるとする研究者もいれば、残留思念の様なものであるとする研究者もいた。 理屈はともかく、目の前の機械から放たれる死臭に野良ゆっくりたちは、まるでおぞましい悪霊でも見ているかのように全身を震わせた。 職員が慣れた手つきで機械の中央付近にある小窓のようなものを開く。それに合わせてよりいっそう強くなる野良ゆっくりたちの悲鳴。 全ての赤ゆは漏れなくしーしーを漏らしていた。目はどこを見ているのかわからない。或いは、宙を漂うゆっくりの亡霊でも見えているのだろうか。 そこから始まる淡々とした作業。 職員は、れいむの揉み上げを、まりさのお下げを、ありすの髪を乱暴に引っ掴んで次々と機械の中に放り込んでいった。 「ゆぎゃあぁぁ!! だじで!! だじでぇ!! お゛う゛ぢがえ゛る゛う゛ぅ゛ぅ゛ッ!!!」 「い゛や゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!! じに゛だぐない゛ぃ゛ぃ゛!! れ゛い゛む゛、もっどゆっぐりじでたい゛よ゛ぉ゛ぉ゛!!」 外観に比べて機械の内側は狭い造りになっていた。 どうやら内部は中身を刳り抜かれた円柱のような形になっていて、その中心に巨大な柱が立っているようだ。 後から後から野良ゆっくりが放り込まれるものだから、内部はだんだんとすし詰めのような状況に変化してきている。 そんな時、一匹のありすの頬に鋭い痛みが走った。 「いた゛ぃぃ!! ありすの゛どがい゛はな゛お゛がお゛がぁぁぁ!!!」 「つ゛ぶれ゛る゛……どいで、ね……どいでねっ!! れ゛い゛む゛、あんよ゛が……い゛だいよ゛ぉ゛っ!!!」 柱。床。壁。その三カ所には巨大な刃が取り付けられていた。それらは全て内側を向いており、その三カ所に密着している野良ゆっくりたちの皮を切ろうとしているのだ。 加工所特製の巨大なジューサーミキサー。いや。ゆっくりミキサーとでも言うべきだろうか。 ここで挽き肉ならぬ挽き饅頭にされた野良ゆっくりたちは様々な製造工程を経て、固形のゆっくりフードへと生まれ変わる。 職員の動きを見ながら、れみりゃの生餌用に選ばれた五匹の野良ゆっくりは怯えていた。 その中には元・飼いゆっくりのれいむの姿も見える。 職員がおもむろに機械のスイッチをオンにした。 「ゆ?」 「ゆかが……ゆっくり、うごきはじめたよ……?」 真っ暗で何も見えないが床が回転し始めているは理解できた。そして、少しずつ両側の壁が内側に向けて迫ってくる。 「え゛ぎゅぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ッ?!! れ゛い゛む゛……づぶれ゛ぶりゅあ゛ぁ゛ぁ゛ッ?!!」 柱と壁の中央付近にいた野良ゆっくりたちが同胞たちによって押し潰されて絶命した。 柱や壁に頬がくっついていた野良ゆっくりたちは、鋭利な刃が少しずつ体内へ潜り込んでくるという恐ろしい感触に、この世の物とは思えない叫び声を上げている。 やがて、中央の柱が時計周りに。周囲の壁が反時計周りに回転し始めた。その回転速度が徐々に上がっていく。 そこからはもう何が何だかわからなかった。 皮が千切れ飛んだ。流出した中身がまるで命を得たかのように所狭しと暴れ回る。弾け飛ぶ目玉。涙か、しーしーか、涎か……とにかく大量の液体。 それらが全てが一つになって、また滅茶苦茶に引っ掻き回されていく。 ほとんどゲル状にまで変質してしまった大量の野良ゆっくりたちの成れの果てが、ミキサーの中で無言のままダンスを踊り続けていた。 回り、飛び、くっついては離れてを繰り返し、また勢いよく爆ぜる。 野良ゆっくりたちの絶叫は轟音に掻き消され、流した涙はどれのものとも分からぬ皮や中身によって埋め立てられる。 機械は程なくして停止した。もう、何も聞こえない。不気味なまでの静寂。 外側からは見えないが、体をぐちゃぐちゃに引き裂かれて中身を全て流出させてしまった野良ゆっくりたちが、ペースト状になって機械の底に溜まっていた。 死ぬ最後の最後まで足掻き苦しんだのだろう。新たな死臭が生かされた命に語りかけてくる。 気丈に仲間たちの最期を見つめていたれいむも、中身を吐き出しそうになるのを必死に抑えながら無言で泣き続けている。 その傍らでまりさは白目を剥いて気を失っていた。 「お前らは全部れみりゃに食わせる。良かったな。今、死んだ連中より少しだけ長く生きることができて。……ゆっくりすることができて、か?」 「ゆひっ……ゆひぃ……」 顔を横にふるふると振って厭だ嫌だイヤだと必死にアピールする野良ゆっくりたち。 どれだけ泣かれても、叫ばれても、嫌がられても、それで職員の気持ちが揺らぐ事はないのだ。職員歴十五年。十五年も職員はこうしてゆっくりを殺し続けてきた。 「ゴミの言葉に耳を貸すほど優しくないんだよ、俺は」 振り返らずに言葉だけ発する。今度は倉庫の扉を開けてそこから約一メートル四方のアクリルケースを取り出した。それを備え付けてあった台車に載せる。 職員が野良ゆっくりたちに近づくと、それだけで数匹がしーしーを漏らした。自分たちが何をされるか分からないのが恐ろしくてたまらないのだろう。 逃げようとするがあんよが動かない。それどころか何も考えることさえできなかった。 れいむも職員に訊きたいことがあったが訊くことができないでいた。喋っただけで殺されるかも知れない。それがれいむの言葉を詰まらせる。 どれもが何かを言いたそうだった。しかし、何を言うでもなく一匹ずつアクリルケースの中に入れられていく。 もちろん、れいむもその中に入れられた。 ガラガラと音を立てて進む台車の上は、コンテナの中ほど乗り心地は悪くなかったが、生きた心地がしなかった。 二、 台車に載せられたれいむたちは、職員によって開けられた扉の向こう側へと進み、新たなフロアへとやってきた。 「んっほぉぉぉ!!! まりさの……まむ、ま……ずっぎ……もう、い゛や゛……ずっぎり゛じだぐ……ゆぅぅ……ず、ずっぎり……じぢゃ……」 「ゆぎゃぁぁ!! あでぃずぅぅ!!! もうやべでぇぇ!! までぃざ、もう゛、ちびちゃんうみ゛だぐな゛ぃぃ……ゆぁぁ……す、すっぎ……」 「「ずっぎりぃぃ!!!」」 こんなやり取りがフロア全体から聞こえてくる。 れいむたちは自分たちの目を疑った。 台車に載せられたものと同じようなアクリルケースがフロア全体に敷き詰められている。 アクリルケースは二匹につき一箱となっているようで、傍から見れば透明のロッカーか、或いはカプセルホテルを彷彿とさせた。 「ゆああぁぁ……まだ、ぢびぢゃんがうばれぢゃう゛ぅぅぅ」 「まりさぁ……ごべんなざい、ごべんなさいぃぃい!! ありず、からだがいう゛ごどをぎいでくれ゛ないの゛ぉぉ……」 先程、すっきりー!を行っていたまりさの額からにょきにょきと茎が生えて、そこに赤まりさと赤ありすが実る。 まりさはうつ伏せのような姿勢でアクリルケースの一番手前に固定されているようだった。しかも、尻はありすに向けて突き出すような形になっている。 茎は、アクリルケースに開けられた小さな穴から外側に向かって伸びていた。まりさの額はその小さな穴に合わせて固定されているようだ。 「ちびちゃん……っ!! ゆぐぅ……ひっく、がわいい゛よぅ……ゆっぐりでぎる゛よぉ……」 泣きながら笑うまりさ。 れいむたちにはまりさのこの行動が理解できなかった。 あんなに可愛いちびちゃんを見て、どうして涙を流す必要があるのかと。この地獄でも新しい命を芽吹かせることができる。素晴らしいことではないのだろうか。 不意にどこからともなく、やはり白衣を着た男性職員が現れる。 まりさはその男性職員の姿を見て、顔をぐしゃぐしゃにしながら力の限りに叫び声を上げた。 「お゛でがい゛じばずぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!! ぢびぢゃんをごろざな゛い゛でぐだざい゛ぃ゛い゛ぃぃぃい!!!」 「――――!?」 台車の上でれいむたちが驚愕の表情に変わる。 まりさを後ろから犯し続けていたありすも、ぼろぼろと涙を流していた。先ほどの興奮が未だに醒めぬのか、頬を染め、舌を垂らし、虚ろな瞳で男性職員を見つめている。 「ゆんやぁぁ! おきゃーしゃん、にんげんしゃんが、こっちにくりゅよぅ! たしゅけちぇにぇ!!」 「ぢびぢゃん……ごべんね……ごべんねぇ……」 「お、おきゃーしゃ……?! なにをやっちぇりゅにょ?! はやきゅ、にげちぇにぇ!」 「ときゃいはじゃにゃいわぁぁ! ありしゅたち、ゆっくちできにゃえびゅぇッ?!!!!」 「う、うわあああぁぁぁぁ!!!」 赤ゆは、茎からぶら下がっているだけの存在だ。 自分で身を守ることはおろか、動くことすらできない。母親ゆっくりが動かなければ、その場から離れられないのだ。 だから、赤ありすは呆気なく潰されて死んだ。僅か十秒弱の命。ただ、親指と人差し指で挟まれて潰されただけ。生まれてきて自分の身に起きたのは、たったのそれだけ。 初めての挨拶もできず、食べることも、笑うことも、眠りにつくこともできずに、赤ありすは死んだ。 同じ茎に実っていたもう一匹の赤ありすも同様にして殺された。 茎に残った二匹の赤まりさが絶句してガタガタ震えている。茎に実ったばかりでどこにそんな水分があるのかと問うほどに、涙としーしーを無様に垂れ流していた。 「い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!! あ゛でぃずのどがいはな゛ちびぢゃんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「何回目だよ、その反応。いい加減慣れろよ。うるせぇ糞ゆっくりが」 「ひどいよ゛ぅ……ひどずぎる゛よ゛ぉ……。ちびちゃん、なんに゛も、じでな……わる゛い゛ごどだげじゃなぐで……な゛ん゛に゛も゛じでな゛い゛のにぃぃぃ!!!」 まりさがぎゅっと瞼を閉じて全身を震わせながら泣く。 ありすはうわ言のように「ごめんね、ごめんね」と繰り返していた。 ここは、食用ゆっくりの養殖部屋。このアクリルケースの中に入れられた二匹一組のゆっくりは、赤ゆ製造機だ。 アクリルケース内の床はスイッチ一つで小刻みに振動し、中に入ったゆっくりをあっと言う間に発情させる。 まりさ同様の姿勢で固定された各種ゆっくりの後ろには常にありすが入れられており、興奮状態になったありすがもう一匹を犯して子供を作るという仕組みだ。 良く見れば“受け側”のゆっくりの頬には全てチューブが突き刺さっている。あのチューブから常に栄養が送られてくるため、何度すっきりー!しても疲れることがない。 結果、栄養不良で死ぬこともできず、毎日ひたすら望まぬすっきりー!を繰り返し、実った赤ゆは目の前で潰されるという凄惨な毎日を過ごす羽目になっているのだ。 まず、ここで実った赤ありすの九割が生まれると同時に潰される。 ありすは他のゆっくりよりも性欲が強いということで、常に“責め側”のポジションだ。すっきりー!を繰り返せば、赤ありすが溢れてしまうことになる。 だから、赤ありすは間引くのだ。そうすることによって、残ったありす種以外の赤ゆに多く栄養が行き渡る。つまり、成長速度が速くなるのだ。 もちろん、ありすを養殖するためのアクリルケースも存在しており、そこでは赤ありす以外の赤ゆが生まれてすぐに潰される。 日進月歩でゆっくりの研究は続いているが、未だに人工的なゆっくりの繁殖に成功した例はない。 だが、こうして一度に発情させて一度にすっきりー!させて、一度に赤ゆを実らせれば意外と採算は取れるものである。 アクリルケースの数は総数で三百箱を数えるほどだ。二匹ずつ赤ゆを養殖したとして、一日に六百匹もの赤ゆが“生産”されることになる。 大体、母親ゆっくりの額に茎が実ってから三時間ほどで栄養供給が安定してくるのか、赤ゆは「ゆぴぃ」と眠りにつく。 その頃合いを見計らって、母親ゆっくりから茎を引き抜き、それを今度は砂糖水の中に突っ込むのだ。 大量の茎が刺された砂糖水の入った容器を見ると、まるで生け花ならぬ生け赤ゆとでも表現できそうな様子だ。 「や゛べでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! れ゛い゛む゛のおぢびぢゃん、づれでいがない゛でぇぇぇぇぇ!!!!」 今度は別のゆっくりが悲痛な声を上げた。 先程、すっきりー!が終わったばかりのアクリルケース列とは、別の列から聞こえた絶叫である。 こちらの列の茎に実った赤ゆは三時間が経過して安定期に入ったのだろう。 数人の職員が手分けして茎を指で触ったり、赤ゆの頬をぷにぷにしたりして完全に安定しているかどうかを判別する。それは彼らの熟練した赤ゆの観察眼が成せる技だった。 「おきゃーしゃあぁぁん!!! たしゅけちぇぇぇぇ!!! れーみゅ、はにゃれちゃくにゃいよぉぉぉぉ!!!!」 「にんげんざん゛ん゛ん゛ん゛!!! お゛でがい゛じばずぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!! ゆっぐりじだごにぞだででみぜばずがら゛あ゛ぁ゛ああぁ゛!!!」 「育てなくていい。お前らはガキを造り続ければそれでいいんだよ」 「どぼじでぞんな゛ごどい゛う゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!?」 「こんなの育てて誰が得するっていうんだよ。お前らが馬鹿の一つ覚えみたいに“ゆっくりできる”とか言うだけじゃねーか」 「おいコラ新入り。いちいちゆっくりの話を聞くんじゃない。そんなことより一本でも多く茎を抜け」 「す、すいませんっ」 こうやって新人はたまにゆっくりの言葉に反応してしまう。 しかし、ゆっくりを生き物だとは決して思ってはいけない。ここにいるのは赤ゆを造るためだけの道具なのだ。 メンテナンスは週に一回行われている。とは言っても、二匹の後頭部に注射器を突き刺してオレンジジュースを流し込むだけの簡単な作業ではあるが。 一本、また一本……と茎が引き抜かれるたびに母親ゆっくりが絶叫を上げる。 ワンパターンな反応。いい加減慣れろと言われても慣れるわけがないだろう。 無理矢理子供を作らされ、生まれた傍から半分が潰されて、三時間後には茎ごとどこかに連れていかれる。 「ゆ、ゆひっ、ゆふへ……ぱ、ぱぱぱ、ぱ、ぴ、ぷ、ぺ、ぽーーーーーー!!!」 「う、うわぁぁぁ!! まりさ! まりさ! しっかりしてよぉぉぉ!!!!」 中にはこうして発狂してしまうゆっくりも当然ながらいた。それを見つけた職員がすぐに内線で別の部署と連絡を取る。 「はい。三十六番のまりさ、発狂しました。こちらで処分しておきますので替えのまりさを用意してください」 それから気が狂ったまりさは職員によってあっと言う間に処分され、替わりに別のまりさがすぐにアクリルケースの中に入れられた。 こちらの列の茎の回収が全て終わったのだろう。 職員の一人がスイッチを押して、床を小刻みに振動させる。そこから始まる醜悪な性の営み。 無数のゆっくりの喘ぎ声と、互いの皮がぶつかり合う乾いた音がフロア全体に響き渡る。 そして、そこかしこから「すっきりー!」という絶望に染まった絶頂から漏れ出す歓喜の声が上がり始めた。 「も゛う゛……ずっぎり、じだぐない゛……。ぢびぢゃん……う゛み゛だぐ、な゛い゛……ゆぐっ、ひっく……」 泣こうが喚こうが、ゆっくりたちは子供を作り続ける。眠ることすら許されず、ただひたすらに。 れいむたちは台車の上で泣いていた。こんな理不尽は話があるものか、と悲しみに打ち震えていた。 そんなれいむたちに、台車を押し始めた職員が優しく語りかける。 「な? お前らは勝手に生えてくるだろ?」 生えては引き抜かれを繰り返す赤ゆの実った茎を横目で見ながら、ゆっくりたちは言葉を失って俯いた。 しかし、れいむだけはぽそりと呟いた。 「かってには、はえてこないよ……」 「あ?」 「あのはこのなかにいる、ゆっくりたちががんばってるから……っ! かけがえのないちびちゃんたちがうまれるんだよっ!!! そんないいかたしないでねっ!!!」 「れ、れいむ……」 泣きながら叫ぶれいむを見ながら、台車に載せられたゆっくりたちが涙を流す。 職員はそんなゆっくりたちのくだらない茶番に声を出して笑った。それに対してれいむが威嚇を始める。この地獄のど真ん中で泣きながら頬を膨らませた。 「かけがえのない命があんなにポンポン生まれるわけねーだろ。饅頭の癖に命がどうとか夢見てんじゃねぇよ」 それっきり、れいむは黙りこくってしまった。何を言っても自分たちの言葉は通らない。それを理解して、また何か反論しようという気にはならなかった。 無情にも繰り返される母親ゆっくりと赤ゆの絶叫を後方に聞きながら、れいむたちはようやくこの場所から次のフロアへと移動をさせられた。 三、 台車に載せられたまま、加工所の更に奥へと入っていく。 透明な壁で仕切られた長大な部屋を分断する中央の廊下部分を進む職員と野良ゆっくり一同。 周囲を見渡した野良ゆっくりたちが再び息を呑む。 「あ゛づい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ!!!」 「あ゛ん゛よ゛が……ゆ゛っぐり゛でぎな゛ぃよ゛ぉ゛ぉお゛おおぉ゛!!!!」 壁からゆっくりが五匹ずつ一列に整列した状態で下ろされる。それぞれの頭は金属製のアームで挟まれ身動きができないようになっていた。 下ろされた先は黒い鉄板。鉄板はゆっくりたちのあんよを焼くためのものだ。あんよは、機械的に十五秒間ずつ高熱で一気に焼き上げられる。 垂れ流される涙としーしーがジュワジュワと音を立て蒸発していくのを見れば、あの鉄板がいかに高温であるかが理解できるだろう。 鉄板の上でゆっくりたちは自分たちの顔の皮が引き千切れるのではないかと思うほどに、身を捩らせていた。しかし、それ以上の動きは頭のアームが許さない。 まさか自分の顔を引き千切るわけにもいかないので、抵抗はすべて虚しく、最後には並んだ五匹が五匹ともあんよの機能を完全に喪失させられるのである。 この仕掛けは壁に六ヶ所設置されており、大体三十秒間隔で三十匹のゆっくりが同時にあんよを焼かれる仕組みとなっていた。 十五秒間が過ぎると、アームは再び放心状態……或いは完全に意識を失っているゆっくりたちをその傍らで流れているベルトコンベアへと移動させる。 無言のまま、ベルトコンベアの上を流れて行くあんよが炭化したゆっくりたち。 中には、あんよを徹底的に焼き上げられても必死に周囲の職員に助けを求めるゆっくりもいた。 「だずげでぐだざい゛ぃ゛ぃ゛!! あ゛ん゛よ゛がう゛ごがな゛い゛ん゛でずぅ゛ぅ゛ぅ゛!!! ばでぃざは、も゛っどゆ゛っぐり゛じだい゛んでず゛ぅ゛ぅ゛!!」 「お゛でーざんっ!! あ、あぁぁ゛っ!! お、お゛に゛ぃ゛ざん゛っ!! だずげ……む、むじじないでぇ゛え゛ぇ゛ええぇえ!!!」 もちろん、誰も耳を貸さない。雑音にいちいち答えてやるほどこの職場は暇な場所ではなかった。中には耳栓をつけて仕事をしている者もいる。 ベルトコンベアの先には分岐点があり、そこには二人の職員が立っていた。 れいむ種、まりさ種、ありす種、ぱちゅりー種、ちぇん種、みょん種。それぞれ専用のベルトコンベアが用意されているのだ。 職員は一緒くたにベルトコンベアに載せられたゆっくりたちをを種類ごとに分けていくために配置されている。 「あ゛でぃずのぎゅーでぃぐる゛ながみ゛のげざんがぁあぁっ!!!」 「までぃざのお゛ざげざんが、ぢぎれ゛る゛の゛ぜぇぇぇぇ!!!!」 丁寧に扱う必要はなかった。それぞれが髪を掴まれて別のベルトコンベアに載せられていく。 ゆっくりの状態など、この後関係なくなるのだ。とりあえずは“中身を仕分けできればそれでいい”のである。 それぞれの種族ごとに流されていくベルトコンベアの先にはトンネルのようなものがあった。そのトンネルの入り口には赤い光が見えた。 トンネルの中は暗い。この先に何があるか分からない。恐ろしくてたまらないのだろう。ベルトコンベアの上でちょろちょろとしーしーを漏らすゆっくり。 程なくしてそのトンネルの中に入っていく。赤い光にゆっくりが触れた瞬間、音を立てて機械が動き始めた。 「ゆひぃぃぃっ?!!」 勢いよくしーしーを前方に発射させる。動かぬあんよを呪いながら、顔の部分だけを少しでも後ろに後ろにと持っていくが無駄な抵抗だった。 「がひっ!??」 いきなり。頭頂部に何かが突き刺さったかと思えばそれがあんよを貫いて貫通した。 瞳孔が開く。全身から汗が噴き出すのを感じた。眩暈。吐き気。まるで脊髄にナイフが刺さったかのようような衝撃と虚脱感。 体全体が小刻みに震える。身を捩らせようとすることもできなかった。瞬きをするだけで全身に痛みが走る。 そして。 「ゆ゛べばあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ??!!!」 貫通していた何かが体内で二つに分かれて一気に拡がった。突き刺さっていた底部が勢いよく引き裂かれ、顔を真っ二つにされる事でそのゆっくりは死んだ。 行き場を失った餡子がぼとぼととその真下に設置してあったトレイに落ちて行く。 他の場所でも同様に、カスタードや生クリームが次々とトレイに載せられていった。 このエリアは“ゆっくりの中身を抉り出して食用品として回収”していくための場所。だから、髪が千切れようがあんよが炭化していようが関係ないのである。 ベルトコンベアに載せられたゆっくりは、その中身にしか価値を見出されないのだ。いや、見出されるだけマシというものかも知れない。 「か、かわいそうなんだぜっ! みんな、いやがってるのぜっ!! やめてあげるのぜぇっ!!!」 先程のフロアでのれいむの勇気にほだされたのか、台車に載せられたまりさが涙ながらに叫んだ。 その声を聞いて、加工所内にいたゆっくりたちが同じように声を上げる。 「だずげでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! れ゛い゛む゛、い゛ぎでい゛だい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」 「ゆっぐりじだいだげな゛のに゛ィィィイィィ!!!」 「ごんな゛じにがだはいや゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!! ずぎな゛ゆっぐりどい゛っじょに、え゛いえ゛ん゛にゆっぐりじだいよ゛ぉ゛ぉ゛!!!」 「どぼじでごんな゛ごどずる゛の゛ぉぉお゛ぉ゛!! み゛ん゛な゛、なんに゛も゛わる゛いごどじでないの゛にぃいぃぃ゛い゛いぃぃぃ!!!!!」 絶望の合唱。心の底から絞り出されるかのような強い懇願。 それでも、与えられるモノと言えば、焼かれて、貫かれて、引き千切られて。そんな苦痛と、決して穏やかであるとは言えない凄惨な“死”のみ。 このエリアで加工されるゆっくりは、全て加工所産のゆっくりである。ここで殺されるためだけに生まれてこさせられて、今日まで生かされてきただけの存在。 それ故に野良ゆっくりのような不衛生さは皆無だ。 今、れいむたちを載せた台車がある渡り廊下と生産ラインの部屋が完全に仕切られているのは安全衛生のためである。職員たちも白衣にマスク、帽子、滅菌手袋と完全装備だ。 阿鼻叫喚の地獄の中、台車が移動を始める。 「だずげでぇぇぇ!! れいむぅぅぅ!!! だずげでよぉぉぉ!!!」 ベルトコンベアを流れるゆっくりと目が合ったれいむが助けを求められた。しかし、どうすることもできない。 そのゆっくりはずっとれいむの事を見ていた。れいむも、目を逸らすことができなかった。 結局、お互いの姿が見えなくなるまで、二匹はずっと視線を合わせていた。 うなだれたままのれいむたちを載せた台車がすぐ隣のフロアへと移動する。 そこでもまた、甲高い悲鳴がれいむたちを迎えた。 「ゆんやあぁぁぁぁ!!! やじゃ、やじゃ、やじゃあぁぁぁぁ!!!!」 「やめちぇにぇっ!! やめちぇにぇっ!! ゆっくちできにゃいよぉぉぉぉ!!!!」 先程のフロアは、成体ゆっくりの食品加工を行う場所だった。対してこのフロアは、赤ゆっくりの食品製造場所だったのである。 このフロアには先ほどのベルトコンベアのようなものはないが、代わりに内部がホテルの厨房のような作りをしており、壁には無数の調理器具が掛かっていた。 室内は熱気に包まれており、ここで働く職員たちは額にうっすらと汗を浮かべている。 フロアの一画には巨大な鍋が設置してあった。傍らには大量の赤ゆが生きたまま入った透明なボウルが見える。その中の赤ゆたちは喉を枯らさんばかりの勢いで泣いていた。 おもむろに職員の一人がそこに近づく。その姿を見た赤ゆたちはボウルの中で一斉にしーしーを噴射した。ボウルが職員によって持ち上げられると、悲鳴は更に大きくなった。 れいむたちは台車の上からその様子を固唾を飲んで見守っていた。これから起こるであろう何かに対して嫌な予感だけが餡子脳裏をよぎる。 そして、その嫌な予感は見事に的中した。 巨大な鍋。 れいむたちからは見えないが、中には油の海が広がっており、それは十分すぎるほどに加熱されていた。そこに、ボウルの中の赤ゆがぼちゃぼちゃと放り込まれる。 「ゆ゛っぎゃああ゛あ゛あぁ゛ああ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁッ!!!????」 鼓膜を突き破らんばかりの勢いで、上げられる凄まじい絶叫。 台車に載せられていたありすは、おそろしーしーをぷしゃぁぁ……と漏らしていた。他のゆっくりも開いた口が塞がらない。頬に涙が伝う感触だけを感じていた。 ジュワアァァ……という音と共に、絶命した赤ゆたちが一匹、また一匹と油の海面に浮かんでくる。ぴくりとも動かない。既に死んでいるのだろう。 職員は皮がこんがりと狐色に揚げあがった赤ゆを一匹ずつ掬い、キッチンペーパーと新聞紙の敷かれた場所に並べて行った。 ここから様々な製造工程を経て、加工所産のお菓子として人気の高い“揚げ赤ゆ”が市場に並ぶ。 眩暈がするような凄惨な光景を見続けていた台車の上のれいむたちが虚ろな表情に変わっていった。 「だしちぇにぇっ!! しゃむいよぉぉぉ!!!! もうやじゃあ、れーみゅ、おうちかえりゅぅぅぅ!!!!」 れいむたちが声のした方向へと振り返る。 そこにはステンレス製の巨大な冷凍庫のようなものが置いてあった。これは、赤ゆを瞬間冷凍して、冷凍食品に加工するための機械である。 使い方は簡単で指定された数の赤ゆを内部に放り込み、スイッチを入れるだけ。 一瞬で凍結した赤ゆたちはそのまま物言わぬ冷凍饅頭となり、各家庭の電子レンジで再び目が覚めるのだ。目が覚めたところで、その先に未来はないのだが。 冷却作業が終わったのか、冷凍庫の扉が開けられる。凍りついた赤ゆたちを次々に回収していき、袋の中に詰める作業が始まった。 更に他の場所に目を向けると、今度は三匹ほどの赤ゆが生きたまま袋の中に入れられていた。 「くりゅぢぃよぉぉ!!!」 小さな袋の中で赤ゆたちがぎゅうぎゅう詰めにされている。その袋の口に掃除機のチューブのようなものが当てられていた。 職員がその掃除機のようなもののスイッチを入れる。 刹那、袋は一瞬にして圧縮され、内部の赤ゆも苦悶の表情を浮かべたまま動かなくなった。赤ゆの真空パック、である。 滝のように涙を流し、涎を撒き散らして、しーしーを所構わず噴射しながら、赤ゆたちは泣きに泣き叫んでいた。 誰も助けてくれないことを呪いながら。自分たちの置かれた境遇を呪いながら。 自分たちをこの世に産み落とした母親ゆっくりを呪いながら。 「さっき生まれたガキ共も、半分はここで死ぬんだよ」 「…………」 「ここで死ななかった連中も、大人になってから食べ物に加工される。……あぁ、さっき見せたな。あんよを焼かれてたゆっくりがそれだよ」 「…………なんなの?」 「ん?」 「にんげんさんたちにとって、れいむたちゆっくりは……なんなの?」 れいむが職員と目を合わせないようにしながら、恐る恐る言葉を紡いだ。台車の上のゆっくりたちは、完全に意気消沈してしまっており、無言のまま動く気配がない。 職員はれいむの問いかけに、「クク」と喉を鳴らして嗤った。 「さっきも言っただろ。勝手に生えてくるゴミだよ。お前らは」 「…………あんまりだよ…………」 「あんまり? 失礼なヤツだな、お前は。生きてるうちは何の役にも立たないお前らに俺たち加工所職員は価値を与えてやってるんだぜ?」 れいむの揉み上げがぴくん、と動いた。 悲しみを通り越して、沸々と怒りが湧き上がっていく。あまりにも理不尽な物言いに、れいむはこの人間が憎らしくてたまらなくなった。 「お前らゆっくりはな。死んでからやっと世の中の役に立てるんだ。路地裏で野垂れ死ぬ連中よりも、よっぽど生きた意味があると思わないか?」 「れいむたちが、いきるいみは、れいむたちがさがすよ……。にんげんさんたちにみつけてもらうものじゃないよ」 「そう言ってお前らゆっくりは何をする? せいぜい、ゴミを漁って街を汚し、死んでも誰も片づけないからやはりゴミが生まれるだけじゃないか」 「……ゆぐぅ……っ!!」 「さ、行くぞ。これから、お前らに生まれてきた意味を与えてやる」 そう言いながら職員は台車を押し始めた。台車は更に奥へとやってきたようだ。 職員が陽気な声で呟く。 「終点だよ」 部屋の中は真っ暗だった。れいむたちがアクリルケースの中で不安そうにきょろきょろと周囲の様子を伺う。 そして。 「うー☆ うー☆」 台車の上のゆっくりたちが一斉にしーしーをぶちまけた。 四、 職員が部屋の電気をつけるとそこには四匹のれみりゃがいた。どれも張り付いたような笑顔のまま、自由気ままに空を飛び回っている。 れみりゃたちは「うっうー☆」と言いながら、職員の下へと集まってきた。 その様子を見てれいむたちがアクリルケースの中で目を丸くする。 自分たちと同じようにれみりゃも人間が怖いはずだ。そう思っていた。 しかしどうだろうか。れみりゃは地面にあんよをつけて職員の足に頬を摺り寄せている。しゃがみ込んだ職員はれみりゃの頭を優しく撫でた。 ここはゆっくりの加工所。 この部屋に連れて来られるまで、ゴミ同然に弄ばれる数多の命を見てきた。どれ一匹、慈悲の言葉をかけられることなくただ淡々と潰されていた同胞たちの姿。 それなのになぜ。何故、目の前のれみりゃは人間を恐れず、また人間はれみりゃに対してこうも好意的なのだろうか。少しも理解が追い付かない。 「どうして、れみりゃも自分たちと同じゆっくりなのに、こんなにも扱いが違うのかっていうような顔をしてるな」 職員の言葉にれいむたちの表情が変わる。自分たちの考えていたことをピタリと言い当てられて戸惑っているようだった。 「体で教えてやるよ」 そう言ってアクリルケースの上に手を伸ばす職員。 ありすの金髪が乱暴に鷲掴みされて持ち上げられた。あんよをくねらせながら悲鳴を上げるありす。漏れ出たしーしーが滴のように床へポタポタと落ちていた。 「い、や……。と、とかいはじゃ……」 「そら、れみりゃども! 餌だぞ!」 ありすの言葉には一瞬たりとも耳を貸さずに右手に持っていたありすをれみりゃたちの中に放り込んだ。 顔面から床に叩きつけられたありすが、二度、三度とバウンドしてようやくその動きを止める。そして、ありすが泣きながら顔を上げようとしたその時だった。 「ゆ゛ぎゃあ゛ぁ゛!! い゛だい゛ぃぃい゛ぃ゛!!!」 四匹のれみりゃが一斉にありすに飛び掛かる。その鋭い牙がありすの皮に突き立てられて、あっという間に引き裂かれていく。カスタードが弾けるように宙を舞った。 ぶちぶちと引き千切られる髪の毛。カチューシャはとっくに毟り取られて近くに放り捨てられていた。 舌を絡めるような艶めかしいキス……ではなく、れみりゃがありすの舌に噛み付いてそれを引き抜きながら租借していく。 ありすは瞳孔を開き切ったまま、その目尻からカスタード混じりの涙をぼろぼろと流していた。 れみりゃがありすの唇を剥ぎ取る。そのまま、ありすの口を横に側頭部付近まで引き裂いた。 もはや、吐き出されているのか、漏れ出しているのか、それすらも分からないほどにありすの体内から流出していくカスタード。 「かひーーーっ、こひゅっ……ひっ、ひゅー、ひゅっ、……ッ!!!」 声は出せない。ありすの口は完全に破壊され、音を発することができなくなっていた。 目はずっと台車の上に載せられたアクリルケースに向けられている。助けを求めているのだろう。求めているつもりなのだろう。 ありすは、その二つの目玉をれみりゃに抉り出されて食べられるまで、アクリルケースを見つめていた。 それから激しい痙攣を起こし始めるありす。やがてその痙攣は止まり、今度はれみりゃがありすの体内を貪ることで残された皮が生き物のように蠢く。 「ゆげろぉぉぉッ!?? ゆ゛ぉ゛え゛ぇ゛ぇ゛ッ!!!」 「う、うわあぁぁぁ!!! あ゛でぃずがあ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」 目の前で繰り広げられる残酷で凄惨な弱肉強食の現実に、アクリルケース内のゆっくりたちは嫌悪感から中身を吐き出したり、叫び声を上げたりした。 ありすの残骸の上で羽をぱたつかせるれみりゃが嬉しそうにアクリルケースを眺めている。 その中のゆっくりたちは歯をカチカチと鳴らして震えていた。 今、ありすがれみりゃに捕食されるまでどれくらいの時間があっただろうか。短い時間ではないということだけは、どのゆっくりにも理解できた。 痛いのか。熱いのか。苦しいのか。泣きたくなるのか。中身を吐くのか。動けなくなるのか。 わからない。 “死”の感覚はわからない。今際の際にならねばわからない“死”の感覚にゆっくりたちは怯えた。恐怖であんよを動かすことができない。 「にんげんさんのいう、れいむたちがうまれてきたいみをおしえてくれる、っていうのはこういうことなの……?」 れいむが呟いた。れいむは震えていなかった。“死”を覚悟して受け入れたのだろう。穏やかな表情でアクリルケースの中から職員を見上げていた。 「ああ、そうだよ」 職員が平然と答えながらアクリルケース内のゆっくりを次々とれみりゃたちの元へ放り投げた。 れいむは動かない。綺麗な放物線を描いて、床に叩きつけられ、それかられみりゃたちに食い散らかせる仲間を見ながら、なおも職員に質問を続けた。 「にんげんさんたちのごはんになるか、れみりゃたちのごはんになるか……。れいむたちは、そのどっちかにしかなれないの?」 「何かになれるだけマシだろう」 「じゃあ、どうして、れみりゃは……れいむたちとおなじゆっくりなのに、にんげんさんにごはんさんをたべさせてもらえるの?」 「れみりゃは、お前らみたいなゴミを無償で食べてくれるからな。例えるなら、お前らが害虫でれみりゃは益虫なんだよ。……ああ、わからないか」 ぐちゃぐちゃに引き千切られていく、かつてゆっくりだった物。 れいむはそれをぼんやりと眺めていた。 あんなぐちゃぐちゃの姿になるまでは、ゆっくりしようと一生懸命頑張っていたのだろう。 必死になって食糧を探してゴミを漁り、死に物狂いでおうちを作って街の景観を損なわせたのだ。 れいむは一つの答えにたどり着いた。 (れいむ、ゆっくりりかいしたよ……) れみりゃたちがアクリルケースの中のれいむに向けて「うー☆」と合唱を始める。れいむを食料として欲しているのだろう。 (れいむたちみたいなゆっくりがいきようとすることが……にんげんさんたちにめいわくをかけちゃうんだね……) れいむのあんよが宙に浮いた。片方の揉み上げを掴まれ宙釣りにされる。 (……だから、にんげんさんたちにとって、れいむたちはいきてちゃいけないんだ……) 放り投げられたれいむがれみりゃによって滅茶苦茶に食い荒らされていく。 生きる意味などなかった。この世界で自分たちが生きて行くことの価値は見出せない。どこに行っても疎まれる。 それをゆっくりと理解した。釈然としない気持ちはあったけれども、それを覆すような力も知識も何もない。 れいむの存在した証が……体が、少しずつ失われていく。 薄れゆく意識の中でれいむは静かに呟いた。 ――れいむ、うまれてきてごめんね La fin 『存在価値』をゆススメに登録する
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『平日はゆっくりできない』 15KB 日常模様 番い 現代 久方ぶりにSSを書いたのぜ 寒い冬の朝が訪れた。 お天道様が昇るが外界の気温はそんなに上がることは無い。 当然家内の部屋も氷点下近くまで冷え込んでいる。 「ゆぴゅ~っ……。ゆぴぃ~ぃ……」 遮光カーテンが日の光を遮る寒い部屋で、れいむが安らかに寝息を立てる。 涎を一筋垂らしながらだらしなく頬が緩みきっていた。 「ゆぴゅ~っ……。もうたべられないよぉ~っ……」 れいむはお約束の寝言を呟きながら口元をもにゅもにゅと動かす。 喉元を鳴らした後、何事も無かったように深い眠りへと落ちていった。 これほど寒い部屋でこれほどの余裕があるのには訳がある。 れいむの足元にある長方形の大きな台座から、ぽかぽかと暖かい熱源が発生しているのだ。 それはまるで電気カーペットのような働きをして冷えきったれいむの体を温めている。 てこでも動かない位に、れいむの体はベッタリと箱の頂点にへばりついていた。 その箱をよく観察してみると前方に文字盤が埋め込まれている。 現在は長針と短針が大きく距離を開けて数字を指し示していた。 時刻にして午前6時59分57秒。 そして長針が12の数字に移動した時、不意に箱が小刻みに振動する。 「ゆびゃあぁあああっ゛!?」 高らかにあがった爽やかな朝に相応しくない大きな悲鳴。 れいむは両目を見開き、人間なら絶対に顎が外れそうな位のありえない口幅で突然我が身に訪れた不幸をアピールした。 「ゆっ……ぶぇええぇええっ゛! ぶぇえぇえええええんっ゛!?」 眠気は瞬時に消えたが、れいむは軽い錯乱状態になっていた。 激痛を訴えたいのだがどこが痛いのかもわからない。 あえて言うなら全身が苦痛を訴えかけている。 助けての声はその痛みに負けて泣き声に変わって口から吐き出される。 下半身からはしーしーを垂れ流し、箱の表面を水流が駆け下りていく。 そして泣き叫ぶれいむの台座とあんよの隙間から黒い餡が滲んできた。 どうやら足に何かが刺さっているらしい。 「ぶぇっぇえええんっ゛! ぶぇええぇえ……ぶぎゅるっ゛!?」 ぴこぴこを振り振りしながら泣いていたれいむの頬に横殴りの衝撃が襲う。 台座ごと吹っ飛んでいったれいむは、床に敷かれたカーペットの上を数回跳ねた後、無様に顔面から落ちて動きを止めた。 「もう朝かよ……」 男は払った右腕をそのまま自分の頭において、寝癖で乱れた髪を無造作に掻き毟る。 更に酷さを増した寝癖が重力を逆らい部屋の天井向けて直立した。 「起きるか」 幽鬼のような生気の無い表情で呟くと、暖かい毛布を名残惜しそうにそっと自分から引き剥がす。 そのままベットを降りた男は、先ほど吹っ飛んでいったれいむに向かってダラダラと歩を進めていく。 「ゆっ゛……ゆっ゛ゆっ゛ゆっ゛……!?」 床に転がるれいむは近づく男を救世主のような熱い眼差しで見つめてる。 口に広がる餡子と折れた歯が頬の内側に深く刺さっていて、とても喋れる状況ではなかった。 でも、言葉が伝えられなくても思いは通じる! そんな愚かな幻想を抱いていた。 「眠い眠い眠い……」 ぶつぶつと怨念のように眠いと繰り返す男はれいむを拾い上げる。 その箱に埋められた文字盤が現在の時刻を忌々しく男に伝えていた。 さっさと事を済まして仕事に行けと。 諦め交じりの小さなため息を付くと、速やかにれいむの処理に動いた。 柔らかいれいむの胴回りを片手で握り締め、そのまま上へと引っ張り上げる。 「……ゆっ゛!?」 当然そんな事をされたれいむはたまらない。 今まで全身に感じていた痛みは下半身に集中し始める。 激痛は治まることなく増すばかり。 れいむの眼球からは濃い砂糖汁がだらだらと太い筋を伴い流れ落ちる。 れいむの乗っていた台座は目覚まし時計。 指定された時刻になると鋭い針が上部から飛び出しゆっくりを串刺しにする。 そして高らかに奏でるソプラノでアラームを演出するという一般的な機能を持つ嗜好品だった。 「んんぶぅううっ゛!? ゆぶぅううううんっ゛!」 にちゃにちゃという音を響かせながら刺さった針から開放されていくれいむ。 れいむを貫いた針はそんなに長くは無い。 人間の親指くらいの全長だ。 ただし……形状は太くて針の先には返しがついている。 この返しがれいむを苦しめていた。 「あぁああああっ゛! あぁああああぁあっ゛!?」 れいむは顔を左右に振りながら痛みを訴える。 もう辞めてくれとの思いを滲ませた悲痛な表情で周囲に語りかける。 大切な何かが失われていく感覚。 針の返しはれいむの内部をズタズタに切り裂いていった。 「……ふわぁ~っ……眠み」 だが、そんなれいむをお構いなし。 男はあくびをすると乱雑にれいむを針から引き抜いた。 一際高い悲鳴を上げたれいむは白目を向いてグッタリとした体を宙にさらす。 痛みが限界を超えて意識を遮断したのだ。 男は片手に掴んだ哀れなれいむをそのままゴミ箱目掛けて放った。 多少の黒い餡を床に撒き散らしながら小さい円柱に収まる。 それを見届けた後、男は部屋のノブを回して寒い廊下へと足を運ぶ。 そして男は小さなくしゃみをしてから階段を下りていった。 男が部屋から去った数秒後、ゴミ箱に収まったれいむが薄目を開けて覚醒する。 冷たい硬い地面から立ち昇る異臭で目覚めたのだ。 れいむはその原因を探ろうと焦点が合わない視線で見つめる。 そのまま永眠していた方が幸せだったのに。 「……! ……!?」 れいむが見たものは同胞の亡骸。 みっちりと敷き詰められた肉襦袢の上でれいむは横になっていた。 おぞましいこの世の地獄をみたれいむは反射的にここから逃げ出そうと試みる。 しかし、あんよは地面を捉えない。 れいむは必死に動かしているつもりなのだろう。 だが、ズタズタになったあんよはピクリとも動いていないのだ。 何も進展しない目の前の風景に嗚咽が走る。 喉元から餡子の塊が逆流してきて、折れた歯を交わせながら口から泥のような物を大量に吐き出した。 床に広がった暖かい餡子は冷たい同胞の体温で冷やされ熱を奪われていく。 そして体積が著しく減ったれいむの体からも例外なく熱を奪っていった。 れいむの頭によぎるのは死。それを本能で悟る。 涙を流しながらまだ見ぬ希望を求めて無様に体を揺らし始める。 しかし、残酷な未来を弱小なれいむは変える事はできない。 そしてゴミ箱から漂う死臭がれいむのお飾りと全身に染み渡る頃……。 れいむの命は終わりを迎えた。 男がトントントンと大きな音を立てながら2階から降りてくる。 ゴミ箱に入れられたれいむがあの世に旅立ったと同時に台所へと入室してきた。 まだ眠そうな顔を擦りながら冷蔵庫を開けて物色し始める。 「……おおぅ」 お目当ての卵は切らしていた。 朝食のおかずはわびしい物になる事がこれで確定したのだろう。 男は益々テンションを下げながらも、袋に入っていたウインナーをひとつ掴んで口へと入れた。。 「「! !? ぶっ……!?」」 ウインナーを租借している男は小さな声に反応して顔を向ける。 そこにはまりさとぱちゅりーが鎮座していた。 双方恨めしそうな顔で男の口元を凝視しながら、醜い腹の音がデュオを奏でる。 そのハングリーなまりさとぱちゅりーの姿は一言で例えるなら異様の一文字だろう。 足を黒く焦がしたゆっくりが植木鉢のようなものに乗せられ、口元は溶接したように閉じられた挙句、ご丁寧に糸で縫われている。 そして頭からは大量の茎が生い茂り、その茎には大小様々な赤ゆが実っていた。 「今日卵って安売りだっけ?」 男はそんな様子を気にする事もなく、横に置いてあった霧吹きを手に取ると、ゆっくり目掛けて三回ずつプッシュする。 中身は極めて薄い砂糖水のようだ。 当然こんなカロリーでは満足などできないのだろう。 通常より少し痩せこけたゆっくり達は、充血した大きな目が外に飛び出しそうな威圧を纏いながら栄養を要求する。 「新聞は……と」 しかし男は華麗にスルー。そのまま玄関へと向かう。 男を見送ったまりさとぱちゅりーは、さめざめと涙を流して改善されない現状を嘆いた。 戻ってきた男は食パンを取り出してトースターへと入れる。 そしてウインナーを電子レンジへ突っ込みタイマーをかけた。 台所にたちこめるパンが焦げる匂いと、鼻腔を擽るウインナーの弾けた油の香ばしいかおり。 まりさとぱちゅりーは両目を見開きながら体をぐねぐねと動かし始める。 その姿は昔流行ったオモチャのようだった。 ただし、美観は圧倒的にこちらの方が劣る。 正直見る人が違うならば気持ち悪いと思う動きをしているだろう。 「(カリッ!)」 焼き終えたパンを男が齧る。 焦げたパンの欠片がテーブルの上に舞い、ハラハラと降り積もる。 まりさとぱちゅりーは、その小さな欠片すらも逃すまいとの形相で見つめていた。 パンを齧ると視線は上へ。 花弁が散るように舞う狐色の欠片が落ちる度に目線は下へ。 その恨めしそうな視線は益々厳しさを増していく。 「(ポキッ!)」 半分ほどパンを食べるとウインナーに手を伸ばし、同じように半分ほど歯で噛み千切る。 電子レンジで加熱しすぎた為に表層が裂けた亀裂から、男が食した衝撃で内部の油が外部へと飛び出した。 その美味しそうな油が皿に滴り落ちる度に広がる悩ましい香りが、飢餓状態のまりさとぱちゅを甘く誘惑する。 あれをひと舐めしたらどれだけ幸せになれるのだろう? あの空に浮かぶウインナーを口に含んで飲み込みたい! 双方の強い思いが心の中で竜巻が発生したかのように乱れ狂う。 しかし……男にそのような願いは一切届かず、念願のウインナーは無常にも憎い相手の腹の中に納まった。 「……!? ……びゅっ゛!」 それを見て項垂れる両者。 貴重な水分は惜しげもなく目元から流れて、植木鉢に敷き詰められた土へと染み込んでいく。 湿った土は枯渇寸前の宿主へ微量の水分を還元する。 当然それでは満ち足りる事は無く、ギリギリの生をまりさとぱちゅに与えるだけだった。 まりさの口内で短い舌が水と食べ物を求めて小刻みに振動する。 根元からバッサリと切られた舌は、自害封じにとられる初歩的な処置。 ただゆっくりの舌は再生する事が出来ない。 切ったらそれまでの乱暴な部類に入る手段ともいえる。 でも……これが一番楽な方法なのだ。 家庭菜園として置かれているゆっくりにはよく使われる手法でもある。 「…んびゅ゛!?」 まりさが苦しそうなうめき声を聞いて目線を上へと向ける。 すると視線が目標へと達する前に、小さな黒い物体が上から下へと通り過ぎた。 その数は一個や二個ではない。 自分に瓜二つな可愛い無数の赤ゆが、乾燥した土の上へ落ちていく。 「びゅぇえぇっ゛!?」 「……ゆっ゛……ゆっ゛ゆっ゛」 「ゆびゃあぁぁあ」 まりさの周りでもがき苦しみ小さな体をうねらせる赤ゆ達。 中には大きな声で泣き叫ぶ赤まりさも居た。 だが……その赤ゆ達の体は、大小様々な黒い斑点模様で埋め尽くされている。 完全な栄養不足とゆっくり不足。 その過酷な状況で、親ゆがこのまま赤ゆを宿していると身の危険が訪れる、という判断で切り離したいらない赤ゆ達。 しかし、これは無意識の内に行われている生存本能だった。 その残酷な習性を自覚していないまりさは、自分の回りに散らばる赤ゆ達を救う為に身を捩る。 声をかけて励ましたい! ぺーろぺーろして安らぎを与えたい! すりすりして愛情を伝えたい! だがそのような願いはひとつも叶うことは無い。 舌を根元から切られた後、口を念入りに焼かれて縫い糸を通された。 そして這いずり回って逃げようとしたら、フライパンに入れられて自慢だったあんよも黒ずみにされたのだ。 唯一まりさの意思で動かせる箇所は、右側に垂れ下がる三つ網に結われた髪の毛だった。 しかし……上下に頼りなく揺らす。 これが限界だった。 まりさはその今出来る最高のパフォーマンスを発揮させ、枯れた体内から搾り出すような僅かな水分を目尻に滲ませながら 次々と息絶える赤ゆ達を悲しそうに見下ろしていた。 「…むゅっ゛! ……!?」 まりさの隣にいたぱちゅりーも苦しそうな声を曇らせる。 ぱちゅがおかれた今の状況は殆どまりさとかわりは無い。 舌は切られ口は塞がれ、赤ゆは地面に落ちて死んでいく。 そして赤ゆに手を差し伸べられない無力極まりない哀れなゆっくり。 ほぼまりさと同一といっていいだろう。 ただ、多少まりさと違う部分は残されていた。 「ミルクミルク」 ぱちゅりーの目の前に来た男は、緑色の茎に手を伸ばして少し黒ずんだ赤ぱちゅりーを摘み取った。 摘み取った小さい赤ゆを、そのまま左手に持っていたカップの中へと沈める。 カップに注がれていた液体は漆黒に彩られたコーヒーだった。 自作でブレンドした豆から轢いて、じっくりとじっくりと抽出したこだわりの一品。 その香ばしくも複雑なアロマがぱちゅの五感を刺激する。 しかし、ぱちゅはコーヒーの中に赤ゆを慈悲なく投下されたショックで体が固まっている。 その固まっているぱちゅから、男はまたひとつ赤ゆをもぎ取って自慢のコーヒーの中に落とす。 一部始終を見届けたぱちゅりーはこう思った。 ……またか。と。 そして、ぱちゅの頬は瞬時にえれえれしたクリームで膨れ上がる。 だが一切外には漏れ出さない。 吐いて絶命したらどれだけ楽になれるのだろうか? そんなことを思いながらもう数ヶ月が過ぎた。 この男は赤ゆを食う為だけに自分は飼われているのだと認識したのも数ヶ月前だった。 まだまだぱちゅりー達の地獄は終わりを迎えそうにない。 「~♪ いい香りだ」 男はそんな絶望に打ちひしがれるぱちゅりー達をよそにコーヒーの香りを楽しんでいた。 引き出しから取り出したスプーンの先を、カップの底に軽く打ち付けるように数回ノックする。 サラリとしたささやかな手ごたえを感じた後でくるくると黒い液体を混ぜた。 すると徐々に漆黒が薄い灰色へと変化していく。 熱湯に入れられた赤ぱちゅの濃厚な生クリームがブレンドコーヒーに新たな風味をプラスさせる。 ほのかに甘い液体を口に少しづつ含みながら、まだタールのようにへばりついた眠気を徐々に覚ましていく。 そして、男は覚醒した頭で新聞に眼を通した後、身支度を整えて会社へと向う。 外出した男を死んだ魚のような目で見送ったぱちゅりーは、先ほど嘔吐した生クリームを反芻するかのように嫌々飲み込みこんだ。 ぱちゅりーの朝ご飯は今日も変わらず自らのえれえれで幕を閉じた。 現在時刻は午後6時。 お天道様も東へ沈み、真っ暗に染め上げられた世の中をひとりの男がてこてこと歩いてくる。 自宅に到着して鍵を使い玄関を開けた後、靴箱の上に置かれている観葉ゆっくりに水をかけた。 そのゆっくりが洩らしたうめき声には一切耳をかさずに台所へと足を運ぶ。 そこには朝のようにまりさとぱちゅりーが植木鉢の上で鎮座していた。 朝と違うところは、それぞれの頭に生えていた茎は枯れ果て、実っていた赤ゆは全て土の上に散らばっている状況だろう。 双方虚空を見つめながら体を定期的に大きく振動させている。 多分、土の上に散らばった赤ゆの養分を僅かながらに吸っている事実を認めたくないのだろう。 だから現状を考えずに空想の世界へと身を委ねていた。 しかし、その目を覚ますような冷たい水が浴びせかけられた。 男はまた霧吹き三回プッシュで水分と栄養を与える。 その後、目薬をさすようにそれぞれのおでこに白い液体を投与した。 成すがままになっていた両者は、体を駆け巡る赤ゆの生成に身を固めて抵抗し始める。 目力を強めて残念な未来を回避しようと努力するが、その願いは全く叶わない。 ものの数分後には、通常よりも二周り程小さな赤ゆ達がたくさん実った。 それを絶望の目で見上げる哀れなゆっくり達。 枯れたはずの涙は両目から溢れ出し、乾いた土をしっとりと湿らせる。 明日も食われてしまう赤ゆ達が出来てしまった事を恥じるように、我が身が裂けるような後悔をともないながら見つめていた。 いっそ明日なんていいのに。 そう何度も心中で数え切れない程考えた微かな思いは、時の流れというものに打ちひしがれる。 まりさとぱちゅりーは、自分達そっくりな我が子を見つめながら眠れない夜を過ごす。 男は階段を昇って寝室へと向かう。 まりさとぱちゅの心境などお構い無しに熱めの風呂へと浸かって夕食と晩酌を済ませた。 明日は早く出かけなければならないので、今日は少し余裕を持って就寝することにしたようだ。 台所に居るまりさとぱちゅりーは飼われている。と自分で勝手に解釈していたようだが、男にとってはただの家庭菜園だった。 餡子が飽きたのでコーヒーに入れる生クリームが欲しい。 その程度の認識。 まりさとぱちゅは愛情を注がれて育てられた園芸より遥か下の価値でしかない。 今男の手に包まれている箱もそうだった。 その小さな箱はアイスカップのような形状をしている。 蓋横に刻まれた溝の突起を摘んでビリビリと一周させた。 これで蓋とカップを繋いでいたロックが外れ、なんの抵抗も無く蓋が上へと持ち上げられた。 「ゆっくりしていってねっ!」 丸いカップの中で声をあげたのはゆっくりれいむ。 男はその声に返答せずに赤い飾りを摘んで、れいむの体を宙へと浮かす。 お返事して欲しいやら、お空を飛んでるだのとはしゃいでいたれいむは、文字盤の付いた箱の上へと乗せられた。 れいむは寒い室内であんよが温いという至福でゆっくり気分を味わう。 そのままもぐもぐと何やら呟きながら、小さな寝息を立てて安らかに就寝した。 れいむはこれが最後の夜になるとは夢にも思ってないに違いない。 この箱の上から降りれば未来もある。 しかし、降りれば寒い室内で凍えて震えてしまうだろう。 ゆっくりはゆっくり出来ない事を何よりも嫌うのだ。 死臭が風呂場で洗い流された清潔な天板の上で、れいむは鼻息を伴いながら涎を垂らし始める。 その顔はとてもゆっくりしていた。 「あ~あ……」 男はそんなゆっくりしているれいむには一切目もくれず携帯を操作していた。 画面に映るのは、とあるサイトのスレのようだ。 そこにはゆっくりが絶望の表情をしながら酷い目にあっている。 しかし、ゆっくり達が凄惨な状況にあっているにも関わらず、それを見つめる男の目元は笑みを感じさせるものだった。 「ゆ虐してぇ~」 男は平日の忙しい時では大好きなゆ虐が出来ない事を嘆いていた。 頭の中は次の休日に行うゆ虐でいっぱいになっている。 嘘バッジでも与えようか? 無理矢理歯を全部抜いて歯茎に荒塩でも擦り込むか? 安売りゆっくりチラシあったっけ? あ、特売の卵買ってくるの忘れた……。 男がそこまで思案したとき、無常にもタイムアップの時が訪れる。 れいむが眠る下の文字盤が指し示す時刻は、流石にもう寝なければ業務に差支えがでる時間帯になっていた。 渋々と布団を被り男は就寝する。 休日までは後三日。 まだまだ自由な時間がとれるのは先のようだ。 せめて夢で楽しいゆ虐がみれますようにと祈りながら。 ……そして、今日もお天道様が西から昇る。 寒い部屋に少しばかり騒がしいモーニングコールを奏でた朝が訪れる。
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山桜がたおやかな春風にふかれて揺れている。樹冠の落とす木漏れ日もまたおなじ。空 の青さは指をかざせば染まってしまいそうなほどだ。蝶は舞い、花は咲き、梢にとまる小 鳥たちは盛んにさえずり愛を謳っている。 野山はさんざめいていた。 ついに、ゆっくりが待ち望んでやまない季節がやってきたのだ。 この季節、ありとあらゆるゆっくりが巣穴を飛びだして春をむさぼる。 そのため。 とあるゆっくりプレイスでは、惨劇が発生していた。 「うー。……うまいんだどー!」 「ゅ……ゆ……ゆっ」 「うー、うー。あまあまなんだどー」 「はなちぇー! はなちぇー!」 「むーしゃむーしゃするんだどー」 「やべでね! れいむに いたいこと しないでね! ……ゆぶべぇぇっ!」 午睡を誘う麗らかな春の日に、れみりゃ種による饗宴がくりひろげられていた。 胴体の有無を問わず、十数体のれみしゃ種がゆっくりの踊り食いにふけっている。 すでに、コロニーは壊滅状態にあった。 百頭を越えていたゆっくりプレイスの構成員は、捕食種の襲撃から一時間もへたずして 壊滅状態に追いこまれ、顔面の造作をまるごと失ったれいむや、内部の餡子をすすられて のっぺりとした皮と化したまりさといった、酸鼻をきわめた宴の残骸がそこかしこに散乱 しているという、まったくもって惨憺たる光景が呈せられるようになった。 生存しているゆっくりもいないわけではない。だが、そのほとんどはすでにれみりゃの 手中にあるか、さもなくば瀕死のまま放置されていた。 そしていま、れみりゃの毒牙から逃げのびつづけていた最後の家族が、食物連鎖の一端 に連なろうとしていた。 「ぶぎゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ! ぎょわいっ、ぎょばいぃぃぃぃっっっ!」 「あっぢいげぇぇぇぇえぇっ! あっぢいげぇぇぇっっっ!」 「ゆぴぃぃぃぃぃぃぃぃっ! ゆぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!」 「ごっぢごな゛い゛でね゛ぇぇぇぇぇぇっっ!」 「ぷきゅぅぅぅぅぅぅっっ! ぷ、ぷ、ぷ、ぷきゅぅぅぅぅぅぅっっ! ぶ……ぶぎゅぅぅぅぅぅっっ!」 胴付きれみりゃがうつ伏せになり、崖にうがたれた横穴に太った右手をつっこんでいる。 その穴からは、号泣と慟哭と怒声のいりまじった聞くに堪えない叫び声がだだ漏れになっ ていた。見てのとおり、れみりゃが「おうち」に逃げこんだゆっくりを引きずり出そうと しているのである。 「うー。とどかないんだどー」 しかし惜しくも奥にまで手がとどかなった。獲物は横穴の奥にぴったりと背中をつけて いて、かつ横穴にはかなりの距離があった。 いったん手を引っこめた。 それと同時に声をあげての泣きわめきはむせび泣きに転じた。 横穴の奥底では五頭のゆっくりがふるえている。 家族構成は成体のまりさとれいむ、それから赤ゆのまりさが一頭とれいむが二頭だった。 成体まりさの口がひらく。 「お、お、おぢびぢゃん、だ、だいじょ、だいじょうぶ、なん、なんだぜっ、 れみ、れみ、れみりゃ、おぢびぢゃん、おぢびっ、おぢびぢゃんば、 ば、ば、ば、ばりぢゃが、まも、まもるんだぜっ」 成体まりさの強がりなど、気休めにもならなかった。家族の恐怖は極限にたっしていた。 こんな状態でなぐさめの言葉を授けたところで、効果のほどはたかが知れている。 家族一同、おびえているどころではなかった。 だれもかれも、涙線は完全に崩壊している。しーしーもうんうんも垂れ流しだが、その 汚臭を気にするゆっくりは一頭もいない。五頭の足もとには、落涙ゆえか失禁ゆえか、あ るいはその両方ゆえか、砂糖水が溜まり池をつくっていた。成体まりさの血走った眼球は 前方にせりだし、いまにもこぼれおちそうだ。親子ともども、まりさ種は歯をかちかちと 噛みならし、れいむ種は下唇を痛いほどにかみしめている。そして全員、氷点下の青空に 放り出されてもこれほどでもあるまいと思えるほど激しくふるえている。 れみりゃの腕が再度侵入してきた。 「ゆぎぃぃやぁぁぁああぁぁぁっっ! ぐるな゛ぁぁぁぁぁああぁっっ!」 「ぎょばいぃぃぃぃぃっっっ! な゛んでぐるのぉぉぉぉぉぉぉっっ!」 「ま゛、ままままままままままままりじゃ、まりじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃっ、 ぢゅよいっ、ぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅよいんだじぇぇぇぷぎゃぁぁぁぁああぁぁっ!」 目と鼻のさきで捕食者の太った五指がわきわきと躍っているのだから、たまらない。 だが手は虚空をつかむばかり。 悪魔の触手が引っ込んだ。 泣き声がやむ。 さきほどから泣いてはやみ、やんでは泣くの繰りかえしだ。 「ゆ゛……ゅ゛……ゅ゛……ゅ゛……もう、ぐるんじゃ、ないん、だぜ、ぐるな、ぐるな、ぐるな、ぐるなぐるなぐるな……」 「ゅあ……ゅ゛……ゅ゛……ごないでね゛っ、ごないでね゛っ、ごないでね゛っ、ごないでね゛っ、ごないでね゛っ」 「ま、まりじゃ、まりじゃば、ぢゅよいんだじぇ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎだら゛、ようじゃ、じな゛いんだ、じぇっ」 「ごべんなざい゛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ! ごにゃいでぇぇぇぇぇっ! ごないでにぇぇぇぇぇっっ」 うねうねと、手がやってくる。 家族の声がそろった。 『ぎだぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!』 だが何度やっても結果はおなじだった。 獲得するのは悲鳴ばかりで、かんじんかなめのあまあまは巣穴の奥底で無傷だった。 あと数センチばかりれみりゃの腕が長かったら、いまごろ家族は仲良くれみりゃの胃液 を泳いでいることだろう。現在の状況が永続するならば、いずれれみりゃも諦めてくれる かもしれない。 だが、眼前で死が躍っている状況で安堵できるほど、ゆっくりは豪胆ではなかった。 かれらは見知らぬものには無意味なほどに横暴になれるが、一度経験した危険に対して は病的なほど臆病になる。そして、れみりゃ種をふくむ捕食種への恐怖は、餡子脳の根底 に深々と刻みこまれている。知らないどころではなかった。 恐怖が臨界点を突破したのか、家族は目も当てられない愛憎劇を演じつつあった。 「いぐっ……ぃぐっ……ぎょばいよぉぉ、ぎょば……ぎょばいよぉぉぉぉおおおぉぉっっ! おどぉぉぉぉじゃぁぁぁぁぁんっ! だずげでよぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!」 赤ゆのれいむの無我夢中の哀哭に接し、成体れいむの目に殺気のような希望がやどった。 「ぞ……ぞうだっ! ば、ばりざ! れみりゃをやっづげでねっ! いぐっ、 ゆっぐりじでないで れみりゃを やっづげでね! ざっざどじでねぇぇぇっ!」 成体まりさはツガイの命令に反抗した。 どれだけ理性を働かせて回答したかは分かったものではない。 「い……いや゛なんだぜ! ごろざれるん゛だぜ! でいぶが いぐんだぜぇぇ!」 いちおう、ゆっくりにも母性や父性がある。家族愛もあるし、保護欲もある。 が、薄っぺらな家族愛など圧倒的恐怖によって引っぺがされていた。いまやゆっくりを 支配しているのは、理性のすぐ下にうずくまっていた防衛本能だけだった。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? な゛に いっでるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!? でいぶば がわ゛いーんだよぉぉぉぉ! ばりざが じんでねぇぇぇぇええぇっっ! がぞぐを、がぞぐを まもるんでじょぉぉぉぉぉぉぉっっ!」 「でいぶ なんだぜぇぇぇぇぇ! でいぶが じねぇぇぇぇえぇぇっっ!」 もはや夫婦喧嘩という水準にはなかった。敵意をむきだしにして、お前が死ねいいやお 前が死ぬべきだとやりあっている。家族をまもるはずの両親が見るにたえない悲喜劇をは じめてしまったから、赤ゆたちは困惑をきわめた。 「ゆぴゃぁぁぁぁああぁぁぁっっ! げんがじないでねぇぇぇぇええぇぇっっっ!」 「うるざいよぉぉぉぉぉぉっっ! げずの おぢびぢゃんば だまっででねぇぇぇぇぇ!」 「ぎゃばいぐっでごめん゛ね゛ぇぇぇぇぇぇぇ! ぎゃばいぐっでごめん゛ね゛ぇぇぇぇぇぇぇ!」 「ずーばーじーじーだいぶぅぅぅぅぅっ! ずーばーじーじーだいぶぅぅぅぅぅっっ!」 侃々諤々の議論の結果、つぎにやってきたれみりゃの腕を、まりさが迎え撃つことにな った。家長の役目を思い出したというよりも、押し切られただけであった。家族一同、ま りさの迎撃を固唾をのんで見守る。 はたして、触手のような腕がやってきた。 まりさは白蛇のような五本指に対して、 「ぷ……ぷ……ぷきゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」 威嚇した。 突撃するわけでも噛みつくわけでもない。あんよは一ミリたりとも前進していない。 ゆっくりの代表的威嚇行動である「ぷくー」を展開するばかりだった。 あまりにも情けない敗北主義をまのあたりにして、れいむは激昂した。 「まじめに゛やっでねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!」 首を絞められたように目をみひらき、ツガイのまりさを蹴りとばした。 まりさは回転しながら前方につんのめった。 起きあがったとき、横穴の入口に背を向けたかっこうになっていた。 後頭部に衝撃がはしり、総毛だった。 捕食者に後ろ髪をつかまれたのだ。 すかさずまりさは「ゆん」と叫び、あんよに力をこめた。 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」 火事場の馬鹿力というやつか。通常のゆっくりが胴つきれみりゃの膂力にかなうはずが ない。ないのだが、たしかにその場に踏ん張っている。それでも、種族のちがいに根差し た腕力の差は埋めがたく、すこしずつ外へとひっぱられてゆく。 「だ……だずげでぇぇぇぇ! でいぶぅぅぅぅぅぅぅ! おぢびぢゃぁぁぁぁぁぁんっ!」 まりさは死にものぐるいで助けをもとめた。しかし家族は立ちすくむばかりで動こうと さえしない。それどころか、ツガイのれいむは勝ち誇ったようなうすら笑いをたたえるの だった。赤ゆたちのほうがはるかに心配そうな目をしている。 「で……でいぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! どぼじで わらっでるんだぜぇぇぇぇぇっ! だずげろぉぉぉぉぉぉぉっ!」 「ふんっ! ぷくーなんかで ごまかそとした げすへの『てんっばつっ』だね! ゆっくり りかいしてねぇぇ!」 一向に家族をまもろうとせず、あまつさえ自分の身代わりになれと吼えちらかし、よう やく父親の役割を再認識したかとおもったら、ぷくーなどで誤魔化そうとするまりさなど、 もはやツガイではなかった。かくしてれいむはツガイに三下り半を突きつけるにいたった。 だが、生死のはざまに立たされているまりさにとっては、そんなことはどうでもよい。 「な゛にいってるんだぜぇぇぇぇぇぇ! だずげろっでいっでるんだぜぇぇぇぇぇぇぇっ!」 恫喝のような救援をもとめるまりさを見て、れいむの目は哀憫の色を浮かべた。 その色を発見し、まりさは胸をなでおろすとまでは行かなくても、希望をつないだ。 「へ。そこまでいうなら……たすけてあげるねぇ!」 ずるり。と、まりさがいま一歩後退を余儀なくされた。成体は歯を食いしばってその場 にとどまる。れいむは今まさに奈落に引きずり込まれようとしているかつてのつがいに歩 み寄った。 そして、くるっと一回転した。 「きゃわいくってごめんねぇぇー!」 ウィンクして、ポーズを決めた。 まりさは絶望した。 というより、意味が分からなかった。 ところが赤ゆたちの目はかがやいた。 それは、れいむが常日頃から行っている挨拶のようなものだった。 降ってわいた日常に、かれらは恐怖を忘却した。 「れいみゅもやりゅー!」 「れいみゅもやりゅー!」 「まりしゃもやりゅー!」 赤ゆたちがれいむの隣にならんだ。 れいむはもみあげの先端で赤ゆたちを撫でた。家族揃ってまりさと向きあう。 「おちびちゃん、いくよ~~! いっせーの……」 『きゃわいくっちぇ ぎょめんにぇー!』 母と娘が同時にポーズを決めた。 一寸の乱れもなかった。 「だずげでねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ! ばがやっでないで だずげでねぇぇぇぇぇぇっっ! ゆ゛ぎぎぎぎぎ……!」 「みゅみゅっ!? しぇっきゃきゅの『きゃわいくっちぇごみぇんにぇ』だよ!?」 「どーちて りきゃい できにゃいにょ? ばかにゃにょ? ちぬの?」 「おとーしゃんは ゆっきゅり できにゃいよ! ちんでね!」 まりさは唾を飛ばして助けを呼んだ。 が、赤ゆは総じて不満をあらわにしていた。 自分たちの「かわいくってごめんね」が、かつてないほど綺麗に決まったのに、どうし て意味不明な救援を求めるのだろうと、赤ゆたちは心底疑問だった。その回答は父の発狂 に求められた。父はおかしくなったのだ、と。狂気を孕んだゆっくりなどもはやゆっくり ではなく、ましてや親なんかではなく、そのために赤ゆは親を罵倒しても、てんとして恥 じなかった。 ところが、れいむがまりさの眼前に進み出て言うのである。 「わかったよ! これなら どう!?」 まりさの黒瞳に、打ち砕かれるべき希望が宿った。れいむはつがいにあんよを、正確に いえば肛門を向けた。ちなみにゆっくりは肛門を「あにゃる」と呼称する。そのあにゃる から、ムリッと、黒いものがせりだしてきた。 「すーぱー! うんうん! たいむ!」 「ゆ゛……!?」 まりさの驚愕の声を聞くと、心躍った。肛門に力をこめた。うんうんは弾道軌道をえが いて助けをもとめるまりさの口に着地した。 「すっきりー!」 れいむは恍惚とした。ひとかけらのうんうん。それが差し出された助けだった。 まりさの眼光に怒気が差した。 その一方で、赤ゆたちは歓声をあげた。 うんうんがゆっくりのおくちに! ありえない現象を目撃しておもしろがった。 「まりしゃもー!」 「れいみゅもー!」 「れいみゅもー!」 赤子とは、面白いものを真似したがるものだ。 たちまち、死に瀕するまりさの眼下に三匹の赤ゆがならんだ。そして、一様にあんよを 親まりさに向ける。掛声一銭。うんうんを射出してみせた。だが、腹部の力が弱かったた めか、口には入らず顎に命中したのだった。 『しゅっきりー!』 「おちびちゃんたち! おじょーずだよー! ぺーろぺーろしてあげるね!」 「くすぐっちゃい~」 「ゆゆ~。おきゃーしゃんの ぺーりょぺーりょは とっちぇも ゆっきゅり できりゅんだじぇ~」 ひとしきり赤ゆを舐めあげると、れいむはまりさに向きなおった。 そろそろまりさの死力も枯渇する。 むしろ、いまの今までれみりゃの膂力に抗いつづけていられたことが奇跡にもひとしか った。歯ぎしりをして悔しがるまりさに対し、れいむは愉快げに言った。 「げすまりさは れいむの うんうんを いっぱい むーしゃむーちゃしていいよ!」 『いーよー!』 赤ゆの合唱が追従した。 まりさの口の端から、うんうん混じりの黒い唾液がしたたりおちる。 「……ゅ……ゆ゛……ゅ゛……」 「んん~? どうしたの? さっさとむーしゃむーしゃしてね!」 『しちぇにぇ~』 赤ゆの甲高い声がひびきわたった、そのときだった。 「ごろじでやるぅぅぅぅっっ! ごろじでやるんだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!」 「ゆゆぅぅぅぅっっ!?」 まりさは絶叫した。 成体一頭と赤ゆ三匹、殺意におされて後ずさった。 「ごろじでやるぅぅぅ! でいぶもっっ! ちびどももっっ! ごろじでやるんだぜぇぇぇぇぇっ!」 「ゆ゛……ゆ゛……」 「ぎょばいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ! ぎょばいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」 「ごっぢ ごないでねぇぇぇぇぇっ! あっぢ いっでねぇぇぇぇぇぇぇっっ!」 「ゆぴぃぃぃぃぃぃぃっっ! ゅぴぃぃぃぃぃぃっ!」 あろうことか、まりさは前進を始めていた。 後頭部を引っ張るれみりゃの腕力にあらがって、ひきさがるどころか、鬼神の殺意を目 もとにたたえつつ、家族のもとへと這ってゆく。まりさは変身していた。怒声、罵声、脅 し文句を思いつくかぎりならべたて、屑どもに接近する。赤ゆたちはさきほどまでの歓喜 はどこへやら、いまは力のかぎり泣きわめいている。 れいむは震える歯を噛みしめて、力いっぱいさけんだ。 「ゆっくりしていってね!!!」 赤ゆがほがらかにこたえた。 『ゆっきゅりしちぇいっちぇにぇ~』 まりさも言った。すばらしい笑顔を浮かべたまま。 「ゆっくりしていってね!!!」 ゆっくりたるもの、ゆっくりしていってねと言われれば、ゆっくりしていってねと答え るほかない。死のふちに瀕していようが、隠密行動の最中だろうが、もし十秒以内にゆっ くりしていってねと叫ぶと森羅万象が滅ぶと認めていたとしても関係ない。 本能のようなものである。 そしてこの言葉を発するとき、ゆっくりは力が抜ける。 「ぎょぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! ゆごぉぉぉぉぉぉぉっっ!」 まりさの姿が急速に小さくなったいく。一瞬のうちに横穴の外にまで引きずり出された。 れみりゃはやっと獲得した一匹目を堪能すべく、身を起こし、あぐらをかいて、これをむ さぼりはじめた。おそらをとんでいるみたいとか、やめるんだぜまりさはおいしくないん だぜとか、色々聞こえてきたが家族にとってはどうでもよいことだった。 れいむはほっと安堵の吐息をもらした。 巣穴の入り口に背をむけて、赤ゆたちに声をかけた。 「すっきりしたね! おちびちゃん!」 「したにぇー!」 「したんだじぇー!」 れいむが赤ゆたちの視界を遮っていなかったなら、もう少しましなことを言っていたか もしれない。巣穴の外では悲鳴まじりに黒い雨が降っていた。れみりゃは、またたくまに 一匹目のゆっくりを食らいつくしてしまっていた。だが、まだ満腹には及ばない。そこで 身をかがめて巣穴をうかがった。 そこにれいむ種の背中を発見した。 覗くものは、覗きこまれるものである。 赤ゆたちの視界のはしには、れみりゃの赤い瞳が見えていた。 「……ゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!」 赤ゆは悲鳴をあげて後ずさった。が、れいむは背中で何が起こっているのか分からない。 分かったのは、巣穴に差しこんでいた日の光が、突然にさえぎられて家が暗くなったこと だけだった。 「え? ……ゆごぉっ!」 れみりゃの手が伸びてきて、無防備な後ろ姿をわしづかみにした。 れいむは踏ん張った。こちらも馬鹿力だった。まりさが引きずり出されるときと、ほと んど同じ光景が現出した。ちがいといえば、死に淵に立たされているのがまりさではなく れいむだということと、助けを求める相手に成体ゆっくりが含まれていない、という二点 だけといえた。 いや、もうひとつ。 まりさの時とは違って、後ろ髪ではなく皮膚をつかまれていたために、皮膚が後ろに引 っ張られ、あわせて顔面の造作が左右にのび、鬼面ができあがった。 「ふごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ! おちびちゃんだぢぃぃぃぃぃっっ! だずげでねぇぇぇぇっっ!」 「ゆ゛ぇええええぇぇぇ゛ぇぇぇ゛っっ!」 「ゆっぎゅりでぎないぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!」 「ごっぢごないでねぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」 「たずげでっでいっでんでぢょぉぉぉぉぉぉぉっっ! ざっざどじろぉぉぉぉぉぉっっ!」 必死の形相で叫んだかいがあり、赤ゆは母が危険に陥っていると悟ることができた。 そこで赤ゆたちは審議をはじめた。 「ゆぅ……? おきゃーしゃん。ゆっきゅり してないね~。どーちて?」 「ゆぅ……。どうちよ……」 「ゆっくちー、ゆっくちー。ゆっくち しゅりぇば いいよ!」 「おきゃーしゃんは たすけて って……ゆ~。どーゆーこちょ?」 「たしゅけりゅんだよ!」 「ゆぅ……ゆぅ! しょっか! たしゅけりゅよ!」 「おきゃーしゃんを たしゅけりゅよ!」 まったりとした審議中、れいむは叫びまくっている。 が、シングルタスク脳である餡子脳にとってはそれはほとんど他人事、あるいは雑音、 風の音のようなものにしかならず、右から左へと抜けていた。 ともかく結論は出た。 赤ゆたちはれいむの前に横一列にならんだ。 そして、 『きゃわいくってぎょめんにぇー!』 ポーズを決めた。 びしっと。 一糸乱れぬポーズだった。 「ゆがぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁっっ! ごろずっっ! ごろじでやるぅぅぅぅぅぅぅっっっ!」 赤ゆにとっては予想外の展開だった。親まりさが引きずり出されそうになったとき、親 れいむはこれでまりさを助けようとしたのだ。このあとは「すーぱーうんうんたいむ」で 完璧だ、とさえ思っていた。 「どぼじでおごるにょぉぉぉぉぉっっ! れいみゅは『たすけ』だのにぃぃぃぃぃっっ!」 「『たすけ』たのに まりしゃを おこりゅ げしゅな おきゃーしゃんは ちねっ! ゆっくりちねっ!」 赤ゆのまりさが宣戦を布告した。 たちまち姉妹も同調し、死相を浮かべる親れいむに突撃した。 「ちんでねっ!」 「ちね、ちねっ!」 「ちねっ、ちねっ、げしゅは……ちねっ!」 ぽんぽんと、ぶつかっては跳ね返されてゆく。 れいむは殺意にかられた。 「ゆぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……ごろずぅぅぅぅぅぅ……ゆべぇっっ!」 突然、れいむは解放された。 唐突の出来事に力の制御がきかず、つんのめり、赤ゆをはじきとばした。 「はぁ! はぁ! ……おぢびぢゃんだぢ……よぐも……よぐも……」 ゆるゆると起きあがる。そこに赤ゆの悲鳴がきこえてきた。 「ゆぅぅぅぅぅ! ゆっぐりでぎにゃい ゆっぐりが いりゅぅぅぅぅぅっっ!」 れいむの頭部から、ゆっくりれいむの象徴たる赤いお飾りが紛失していた。 胴付きれみりゃがもぎとってしまったのだ。そのころれみりゃは、お飾りを見て「うー?」 と首をひねり、ぽいと放り投げてしまっていた。 視点を巣穴にもどす。 「ん? ……ああ? ぁ……ぁ……お……、お、おがざりがぁぁああぁぁあああぁぁ!? ずべでの ゆっぐりの あこがれがぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ! でいぶの がわいい おがざりがぁぁぁぁぁああぁぁっっ!! ゆ゛っぐりの しほうがぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」 れいむは発狂していた。あたりを見まわしてもお飾りはない。子供たちはいきなり出現 した見知らぬゆっくりに、わなないている。二頭いる赤ゆのれいむの一頭にいたっては、 モリモリッと、あにゃるから糞を流していた。 緊張のあまり腹部が弛緩してしまったのだろう。 「……おちびぢゃんだちの ぜいだねぇぇぇ……ん? ふぎょわぁぁぁああぁぁぁぁっっ!」 お飾りを失くした原因を、赤ゆに求めた。 が、直後、巣のなかが暗くなった。 れいむは入口に見て、そこに巣穴をのぞいている捕食種を発見した。 殺される! と思うや、母親が赤ゆのれいむのお飾りを口にはさんだ。 「……ゆゆ?」 「ゆんっ!」 うなりを上げて赤ゆが出入口に吸い込まれてゆく。 投げたのだ。 「おしょりゃとんでりゅみちゃいぃぃぃぃぃ……ゆごっ!」 放り出された赤ゆのれいむを、れみりゃは見事にキャッチした。悲鳴をあげるまもなく、 母の身代わりとなった赤ゆはひとのみに飲みこまれた。胃液に溶かされながら苦しみ悶え て死ぬしかないので、なかなかに辛い死に際であろう。母が子を殺した一部始終は、のこ りの二頭の赤ゆにしっかりと見られていた。 「いもーちょをかえちぇぇぇぇ!」 「かえちてね!? まりしゃのいもーちょかえちてね!」 懲りずにはじまる親子喧嘩。 「ふんっ。おまえらなんか、こうだよ!」 れいむは赤ゆからお飾りと帽子を略奪し、それを巣穴の入り口へと投げすてた。 「ゆゆぅぅぅぅぅ! まりしゃのおぼーちがぁぁぁ!」 「れいみゅのおきゃざりぎゃぁぁぁ!」 「ふん! れみりゃがくるよ!」 「ゆゆぅ!」 赤ゆはようやく、外に捕食種がいることを思い出した。 さすがに命は惜しかった。帽子と飾りを潤んだ目つきで見つめるしかなかった。 その後、もう一度れみりゃの手がもぐりこんできて、また去っていった。 回廊に堕ちていた帽子とお飾りは消えさっていた。 引き下がる腕に巻きこまれたのだ。 胴つきれみりゃは地団太を踏んだ。 成体まりさと赤ゆのれいむは食べられたが、あと三頭も残っている。悔しい。 道具を使う、という発想はなかった。 そこに翼を生やしたれみりゃ、胴なしのれみりゃがやってきた。 「なにやってるんだどー?」 「このなかにあまあまがあるんだどー。はいれるんだどー?」 「とっでぐるんだどー!」 家が暗くなった。 「……ゆ?」 家族は入口を見やった。 れみりゃの顔が浮かんでいた。 「ぶぎょぉぉぉぉぉぉぉ!」 「ゆごぉぉぉぉぉ!」 「ゆぴぃぃぃぃぃ!」 「うー、うー」 胴なしれみりゃが巣穴に侵入をこころみていた。 ところが。 「う~~~~~!」 巣穴の大きさは、成体ゆっくりが一列縦隊で入れるほどの隙間しかなかった。 そのため、翼をもっているれみりゃは、翼の付け根がひっかかって入れなかった。 「うう~~~~~~!」 うす暗がりに、れみりゃの声が充満した。一家は抱き合いながらさんざんに泣きあって いたが、やがて、れみりゃがその大きさのために入ってこれないことに気付くと、一転し て勝ち誇り、侮蔑の笑みさえたたえた。一家は入口へと跳ねていく。そして、おもいおも いに、れみりゃをからかいはじめた。 「は……は……こっぢごれないよ! ざまぁー! ざまぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」 「うー、うー」 「きゃわいくっちぇぎょめんにぇぇぇぇ!」 「うー、うー、うー」 「ゆゆーん。まりしゃは とっちぇも ゆっきゅりしちぇいりゅんだじぇ~~」 「うー、うー。……う~~~~っ!」 「どうしてこっちこないの? ばかなの? しぬの? ほーらほーら、れいむはここにいるよー」 「うー。どくんだどー」 「あれ?」 胴付きれみりゃが業を煮やして、胴無しのれみりゃをどかした。 そして、巣穴の中をのぞく。 「うー?」 手近にいたゆっくりを捕らえた。成体れいむである。おそらとんでいるみたいと、場を わきまえぬ戯言を繰りだす。直後に目をみひらくと、息が吹きかかりそうな近距離にれみ りゃの顔があったので絶叫した。れみりゃは両手で果実を持ち、不細工きわまる泣き顔を じっくりと観察した。 なお、子は成体れいむが引きずり出されたあいだに、奥に逃げ去ってしまっていた。 「う~?」 「ぁ……あ……は、はなしてね! れいむをはなしてね!」 「うー?」 「……な、なかにおちびちゃんがいるよ! あっちのほうがおいしいよ! 「うー!」 「……そ、そうだよ! れいむは おいしくないよ! おちびちゃんは おいしーよ!」 「うー……」 「やめてね! ……れいむを、ゆぇぇ、た、たべない、でね! れいむば、ゆぐっ、じにだくない……」 「うー……」 「やじゃぁぁぁぁぁぁっっっ! でいぶ じにだくないよぉぉぉぉぉぉ! じにだくないぃぃぃぃぃぃっっ!」 「うー!」 れみりゃは、れいむの肛門に指をつっこんで餡子をほじくりだした。ついで、あんよを 握りつぶしてその穴から餡子をすすった。さらに右目をえぐりだして口にふくみ、こりこ りとした食感をたのしんだ。まだれいむには意識があった。成体ゆっくりの大味は、満腹 になりかけた胴付き舌には不満だった。放り投げた。ぐしゃりと潰れた音を立てて墜落し た。みあげた生命力だった。瀕死ではあったが死んではいなかった。だが、そこに胴無し のれみりゃが飛んできて、おこぼれにあずかる。 胴付きは赤ゆを楽しもうと巣穴をのぞく。 甲高い声がもれてくる。 「し……しりゃにゃい ゆっきゅりが いりゅんだじぇ!」 「しりゃにゃい ゆっきゅりが いりゅぅぅぅ!」 赤ゆのまりさとれいむは、おたがいに目をやって同時に悲鳴をあげていた。 お飾りと帽子が失われているから、おたがいだれだか分からない。 そして同時に、お互いを排除すべき異物と認識した。 先手をとったのまりさだった。 「ちね!」 「ゆん!?」 体当たりをかました。 赤ゆのれいむが転がった。 「ゆゆ~。おぼうちのないゆっきゅりは、ちね!」 「ゆゅ!?」 こんどはれいむが反撃した。 まりさは転がったがさしたる打撃にはなっていない。 はた目には、じゃれあっているようにしか見えないだろう。 「ちね!」 「ちね! ちね!」 しかし、当人たちは本気の殺し合いを演じているつもりである。 赤ゆが死闘をくりひろがている間、外では決定的な異変が起こっていた。 胴付きと胴無しが話しあっている。 「うー、うー!」 「うー? どうしたんだどー?」 「うーにあやまらせるんだどー」 「なんでなんだどー?」 「れみりゃをからかったんだどー。あやまらせるんだどー。あやまるなら あいつら ゆるしてやるんだどー。たべちゃいけないんだどー」 「どーしてなんだどー?」 「おなかいっぱいなんだどー。それと、れみりゃを ばかにした ゆっくりは ひさしぶりなんだどー。ゆーきに めんじるんだどー」 「わかったんだどー。うーも おなかいっぱい なんだどー」 胴付きれみりゃが、巣穴をのぞく。 姉妹の決闘はつづいていた。 「ちね! ちね!」 「うー。おちびちゃーん。でてくるんだどー」 「ちねっ! ちねっ!」 「おちびちゃーん。うーに あやまるんだどー」 「ちねぃっ!」 「あやまるんだどー」 「ちね! ちね!」 「あやまれば たちさるんだどー?」 「ちねぃ! ちねぃ!」 「うー。あやまらないんだどー。ばかなんだどー。……こーなったら、こーするんだどー」 れみりゃは巣穴に尻を密着させた。 ばふっ。 と、濁った音を立てて、黄ばんだ煙がれみりゃの肛門から発射された。 胴付きれみりゃの屁は、あらゆるゆっくりに死をあたえる。 指向性のついた毒けむりが巣に広がってゆく。 「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」 殺し合いどころではなくなった。 殺到する黄色い煙をまえにして、まりさはれいむの背中に移動した。 「か、かくれりゅんだじぇー!」 「ゆゅっ!? は、はなちてね! れいみゅを はなちてね!」 「ゆゅ~~。れいみゅばりあー!」 まりさはれいむにしがみ付いて離さない。 髪の毛に顔をうずめて、煙をやり過ごそうとする。 れいむは、もがいた。 「はなちてね! きゃわいい れいみゅを はなちてね! しゃっしゃと はなしゃないと おこりゅよ!」 「は、はなちてね! ゆゆ! ゆっきゅりできにゃいよ!? ぷっぷーさんがくりゅよ! は、はなち、はなちてね……ふごっ!」 ついに赤ゆのれいむは毒ガスを吸い込んだ。 「ゆ゛……ゅ゛……ゅ……ゅぐ……あ……」 臭気はたちまちれいむの全身にめぐり、体内餡子を汚染していく。 赤ゆのれいむは震えだし、白目をむき、電気を帯びたようにはげしく痙攣し、肛門がひ らいてうんうんが搾りだされ、まむまむから汁がひらいて汁がちょろちょろと垂れながさ れ、うめき声とともに口からべろりと舌が垂れ、その多目的器官は病的なまでに黄色く変 じていた。 「ぃぃぃぃぃぃ……ぎぎぎぎぎぎ………ゆごっっっ!」 赤ゆが大きくふくらみ、爆発するように大量の餡子を嘔吐した。 その背中に隠れていたまりさは、楯がいきなり薄っぺらになって防禦機能を喪失してし まったため、戦慄した。 「ぶぎゃぁぁぁぁぁああああぁぁぁっ! な、なにやっでりゅんだじぇぇぇぇぇぇぇっっ! じゃ、じゃっじゃど もどに もどっでねぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ! べーりょべーりょしであげりゅねぇぇぇぇぇぇぇっ! ぺーりょぺーりょ……ゆべぇぇぇぇっ!」 赤ゆの死骸にはたっぷりと毒ガスが沁みこんでいた。まずいどころか危険である。 ぷっと餡子を吐きだした。 そこに死刑宣告にもひとしい声がとどろいた。 「もっとするんだどー!」 ばふっ、ばふっ、ばふっ! 放屁の三連射だ。 濃厚な煙が、赤ゆを抱こうと突進する。 卒倒しそうになった。 「ゆぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ! ゆぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!」 なにか身を隠すものはないかと、血相をうかべてあたりにさぐった。 あった。 「しょ、しょーだ! おといれしゃんに にげりゅんだじぇー!」 この家にはトイレがあった。 それもゆっくりにしてはかなり本格的なものだ。 巣の一隅に高台が築かれていて、そこに小さな縦穴が掘られている。 ちなみに、高台にトイレがあるのは、赤ゆの落下をふせぐ措置である。高台にあれば 赤ゆは登れず、登れるような運動能力を獲得したときにはゆっくりの大きさは穴の直径 をこえている。 赤ゆのまりさも、いつもは直接にたれ流すのではなく、葉っぱに用を足していた。 その葉っぱを両親が回収し、トイレにすてるのだ。 だから赤ゆのまりさは直接にトイレにうんうんを放ったことはなかった。 だが構造は知っていた。 穴が開いていると知っている。 そこに入れば、れみりゃの放屁をやりすごせるだろう。 まりさはトイレに向かい、 「ゆぅっ!」 と、さけんで高台に乗った。 決死の自己保存本能が、赤ゆの運動性能をあげていた。 このときのまりさは、トイレの底がどうなっているかが想像できるほど知恵が発達し ていなかった。うんうんは、さながらブラックホールのように――むろん、そんな知識 などなかったが――どこへともなく消失するものと思っていた。 「ゆん!」 と、いきおいよく草の蓋をのけて、 「ゆんやっ!」 と、トイレの穴に身を投げた。 「おしょらっ!」 ぽちゃりと音がした。 直後。 「くちゃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ! きちゃにゃいぃぃぃぃぃぃっっっ!」 縦穴から悲鳴がはっせられた。 まりさは混乱のきわみにあった。 れみりゃが絶対に手をだせないと思っていた安住の地には、鼻をねじ曲げるような熾 烈な臭気がみちみちていた。動けば動くほど、古餡子があんよにねっとりとからみつく。 それに暗い。いや暗いどころか一筋の光もない。また、狭かった。身動き一つできそう になかった。それでも、身をよじってなんとか天井をあおいだ。白い穴が開いていた。 その穴はたいへんに小さかった。 れみりゃはいぶかしがっていた。 放屁でいぶりだせるかと思ったが、どれだけたっても赤ゆは出てこない。 巣穴をのぞいてみても、どこにも赤ゆの姿はなかった。 「うー。あきらめるんだどー」 成体れいむの残骸をむさぼっていた翼のれみりゃとともにきびすを返し、群れにもどっ ていった。 日のたかいうちに、いなごの大群は次なるゆっくりプレイスを探しに旅立った。 夜が来た。 春の涼気が野山をひたし、おぼろな月が空に泳ぐ。 とてもとてもゆっくりできる夜が来た。 だが、たった一匹だけ、ゆっくりできないゆっくりがいた。 奈落の底に落ちたゆっくりが、汚物にまみれて泣いていた。 「たしゅけちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ! ぴゃぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ! みゃみゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! れいみゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ! たしゅけちぇにぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ! ゆ……ゆ……ゅ……ゆんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! どぼじでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ! だずげで ぐれないのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ! ば……。 ば……。 ばりざは……。 ばりざは ここに いりゅよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」 月が大地に溶けこむまで、慟哭はつづいた。 泣き声は日を追うごとに小さくなっていき、数日後には永遠に聞こえなくなった。 (おわり)
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山桜がたおやかな春風にふかれて揺れている。樹冠の落とす木漏れ日もまたおなじ。空 の青さは指をかざせば染まってしまいそうなほどだ。蝶は舞い、花は咲き、梢にとまる小 鳥たちは盛んにさえずり愛を謳っている。 野山はさんざめいていた。 ついに、ゆっくりが待ち望んでやまない季節がやってきたのだ。 この季節、ありとあらゆるゆっくりが巣穴を飛びだして春をむさぼる。 そのため。 とあるゆっくりプレイスでは、惨劇が発生していた。 「うー。……うまいんだどー!」 「ゅ……ゆ……ゆっ」 「うー、うー。あまあまなんだどー」 「はなちぇー! はなちぇー!」 「むーしゃむーしゃするんだどー」 「やべでね! れいむに いたいこと しないでね! ……ゆぶべぇぇっ!」 午睡を誘う麗らかな春の日に、れみりゃ種による饗宴がくりひろげられていた。 胴体の有無を問わず、十数体のれみしゃ種がゆっくりの踊り食いにふけっている。 すでに、コロニーは壊滅状態にあった。 百頭を越えていたゆっくりプレイスの構成員は、捕食種の襲撃から一時間もへたずして 壊滅状態に追いこまれ、顔面の造作をまるごと失ったれいむや、内部の餡子をすすられて のっぺりとした皮と化したまりさといった、酸鼻をきわめた宴の残骸がそこかしこに散乱 しているという、まったくもって惨憺たる光景が呈せられるようになった。 生存しているゆっくりもいないわけではない。だが、そのほとんどはすでにれみりゃの 手中にあるか、さもなくば瀕死のまま放置されていた。 そしていま、れみりゃの毒牙から逃げのびつづけていた最後の家族が、食物連鎖の一端 に連なろうとしていた。 「ぶぎゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ! ぎょわいっ、ぎょばいぃぃぃぃっっっ!」 「あっぢいげぇぇぇぇえぇっ! あっぢいげぇぇぇっっっ!」 「ゆぴぃぃぃぃぃぃぃぃっ! ゆぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!」 「ごっぢごな゛い゛でね゛ぇぇぇぇぇぇっっ!」 「ぷきゅぅぅぅぅぅぅっっ! ぷ、ぷ、ぷ、ぷきゅぅぅぅぅぅぅっっ! ぶ……ぶぎゅぅぅぅぅぅっっ!」 胴付きれみりゃがうつ伏せになり、崖にうがたれた横穴に太った右手をつっこんでいる。 その穴からは、号泣と慟哭と怒声のいりまじった聞くに堪えない叫び声がだだ漏れになっ ていた。見てのとおり、れみりゃが「おうち」に逃げこんだゆっくりを引きずり出そうと しているのである。 「うー。とどかないんだどー」 しかし惜しくも奥にまで手がとどかなった。獲物は横穴の奥にぴったりと背中をつけて いて、かつ横穴にはかなりの距離があった。 いったん手を引っこめた。 それと同時に声をあげての泣きわめきはむせび泣きに転じた。 横穴の奥底では五頭のゆっくりがふるえている。 家族構成は成体のまりさとれいむ、それから赤ゆのまりさが一頭とれいむが二頭だった。 成体まりさの口がひらく。 「お、お、おぢびぢゃん、だ、だいじょ、だいじょうぶ、なん、なんだぜっ、 れみ、れみ、れみりゃ、おぢびぢゃん、おぢびっ、おぢびぢゃんば、 ば、ば、ば、ばりぢゃが、まも、まもるんだぜっ」 成体まりさの強がりなど、気休めにもならなかった。家族の恐怖は極限にたっしていた。 こんな状態でなぐさめの言葉を授けたところで、効果のほどはたかが知れている。 家族一同、おびえているどころではなかった。 だれもかれも、涙線は完全に崩壊している。しーしーもうんうんも垂れ流しだが、その 汚臭を気にするゆっくりは一頭もいない。五頭の足もとには、落涙ゆえか失禁ゆえか、あ るいはその両方ゆえか、砂糖水が溜まり池をつくっていた。成体まりさの血走った眼球は 前方にせりだし、いまにもこぼれおちそうだ。親子ともども、まりさ種は歯をかちかちと 噛みならし、れいむ種は下唇を痛いほどにかみしめている。そして全員、氷点下の青空に 放り出されてもこれほどでもあるまいと思えるほど激しくふるえている。 れみりゃの腕が再度侵入してきた。 「ゆぎぃぃやぁぁぁああぁぁぁっっ! ぐるな゛ぁぁぁぁぁああぁっっ!」 「ぎょばいぃぃぃぃぃっっっ! な゛んでぐるのぉぉぉぉぉぉぉっっ!」 「ま゛、ままままままままままままりじゃ、まりじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃっ、 ぢゅよいっ、ぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅよいんだじぇぇぇぷぎゃぁぁぁぁああぁぁっ!」 目と鼻のさきで捕食者の太った五指がわきわきと躍っているのだから、たまらない。 だが手は虚空をつかむばかり。 悪魔の触手が引っ込んだ。 泣き声がやむ。 さきほどから泣いてはやみ、やんでは泣くの繰りかえしだ。 「ゆ゛……ゅ゛……ゅ゛……ゅ゛……もう、ぐるんじゃ、ないん、だぜ、ぐるな、ぐるな、ぐるな、ぐるなぐるなぐるな……」 「ゅあ……ゅ゛……ゅ゛……ごないでね゛っ、ごないでね゛っ、ごないでね゛っ、ごないでね゛っ、ごないでね゛っ」 「ま、まりじゃ、まりじゃば、ぢゅよいんだじぇ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎだら゛、ようじゃ、じな゛いんだ、じぇっ」 「ごべんなざい゛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ! ごにゃいでぇぇぇぇぇっ! ごないでにぇぇぇぇぇっっ」 うねうねと、手がやってくる。 家族の声がそろった。 『ぎだぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!』 だが何度やっても結果はおなじだった。 獲得するのは悲鳴ばかりで、かんじんかなめのあまあまは巣穴の奥底で無傷だった。 あと数センチばかりれみりゃの腕が長かったら、いまごろ家族は仲良くれみりゃの胃液 を泳いでいることだろう。現在の状況が永続するならば、いずれれみりゃも諦めてくれる かもしれない。 だが、眼前で死が躍っている状況で安堵できるほど、ゆっくりは豪胆ではなかった。 かれらは見知らぬものには無意味なほどに横暴になれるが、一度経験した危険に対して は病的なほど臆病になる。そして、れみりゃ種をふくむ捕食種への恐怖は、餡子脳の根底 に深々と刻みこまれている。知らないどころではなかった。 恐怖が臨界点を突破したのか、家族は目も当てられない愛憎劇を演じつつあった。 「いぐっ……ぃぐっ……ぎょばいよぉぉ、ぎょば……ぎょばいよぉぉぉぉおおおぉぉっっ! おどぉぉぉぉじゃぁぁぁぁぁんっ! だずげでよぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!」 赤ゆのれいむの無我夢中の哀哭に接し、成体れいむの目に殺気のような希望がやどった。 「ぞ……ぞうだっ! ば、ばりざ! れみりゃをやっづげでねっ! いぐっ、 ゆっぐりじでないで れみりゃを やっづげでね! ざっざどじでねぇぇぇっ!」 成体まりさはツガイの命令に反抗した。 どれだけ理性を働かせて回答したかは分かったものではない。 「い……いや゛なんだぜ! ごろざれるん゛だぜ! でいぶが いぐんだぜぇぇ!」 いちおう、ゆっくりにも母性や父性がある。家族愛もあるし、保護欲もある。 が、薄っぺらな家族愛など圧倒的恐怖によって引っぺがされていた。いまやゆっくりを 支配しているのは、理性のすぐ下にうずくまっていた防衛本能だけだった。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? な゛に いっでるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!? でいぶば がわ゛いーんだよぉぉぉぉ! ばりざが じんでねぇぇぇぇええぇっっ! がぞぐを、がぞぐを まもるんでじょぉぉぉぉぉぉぉっっ!」 「でいぶ なんだぜぇぇぇぇぇ! でいぶが じねぇぇぇぇえぇぇっっ!」 もはや夫婦喧嘩という水準にはなかった。敵意をむきだしにして、お前が死ねいいやお 前が死ぬべきだとやりあっている。家族をまもるはずの両親が見るにたえない悲喜劇をは じめてしまったから、赤ゆたちは困惑をきわめた。 「ゆぴゃぁぁぁぁああぁぁぁっっ! げんがじないでねぇぇぇぇええぇぇっっっ!」 「うるざいよぉぉぉぉぉぉっっ! げずの おぢびぢゃんば だまっででねぇぇぇぇぇ!」 「ぎゃばいぐっでごめん゛ね゛ぇぇぇぇぇぇぇ! ぎゃばいぐっでごめん゛ね゛ぇぇぇぇぇぇぇ!」 「ずーばーじーじーだいぶぅぅぅぅぅっ! ずーばーじーじーだいぶぅぅぅぅぅっっ!」 侃々諤々の議論の結果、つぎにやってきたれみりゃの腕を、まりさが迎え撃つことにな った。家長の役目を思い出したというよりも、押し切られただけであった。家族一同、ま りさの迎撃を固唾をのんで見守る。 はたして、触手のような腕がやってきた。 まりさは白蛇のような五本指に対して、 「ぷ……ぷ……ぷきゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」 威嚇した。 突撃するわけでも噛みつくわけでもない。あんよは一ミリたりとも前進していない。 ゆっくりの代表的威嚇行動である「ぷくー」を展開するばかりだった。 あまりにも情けない敗北主義をまのあたりにして、れいむは激昂した。 「まじめに゛やっでねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!」 首を絞められたように目をみひらき、ツガイのまりさを蹴りとばした。 まりさは回転しながら前方につんのめった。 起きあがったとき、横穴の入口に背を向けたかっこうになっていた。 後頭部に衝撃がはしり、総毛だった。 捕食者に後ろ髪をつかまれたのだ。 すかさずまりさは「ゆん」と叫び、あんよに力をこめた。 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」 火事場の馬鹿力というやつか。通常のゆっくりが胴つきれみりゃの膂力にかなうはずが ない。ないのだが、たしかにその場に踏ん張っている。それでも、種族のちがいに根差し た腕力の差は埋めがたく、すこしずつ外へとひっぱられてゆく。 「だ……だずげでぇぇぇぇ! でいぶぅぅぅぅぅぅぅ! おぢびぢゃぁぁぁぁぁぁんっ!」 まりさは死にものぐるいで助けをもとめた。しかし家族は立ちすくむばかりで動こうと さえしない。それどころか、ツガイのれいむは勝ち誇ったようなうすら笑いをたたえるの だった。赤ゆたちのほうがはるかに心配そうな目をしている。 「で……でいぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! どぼじで わらっでるんだぜぇぇぇぇぇっ! だずげろぉぉぉぉぉぉぉっ!」 「ふんっ! ぷくーなんかで ごまかそとした げすへの『てんっばつっ』だね! ゆっくり りかいしてねぇぇ!」 一向に家族をまもろうとせず、あまつさえ自分の身代わりになれと吼えちらかし、よう やく父親の役割を再認識したかとおもったら、ぷくーなどで誤魔化そうとするまりさなど、 もはやツガイではなかった。かくしてれいむはツガイに三下り半を突きつけるにいたった。 だが、生死のはざまに立たされているまりさにとっては、そんなことはどうでもよい。 「な゛にいってるんだぜぇぇぇぇぇぇ! だずげろっでいっでるんだぜぇぇぇぇぇぇぇっ!」 恫喝のような救援をもとめるまりさを見て、れいむの目は哀憫の色を浮かべた。 その色を発見し、まりさは胸をなでおろすとまでは行かなくても、希望をつないだ。 「へ。そこまでいうなら……たすけてあげるねぇ!」 ずるり。と、まりさがいま一歩後退を余儀なくされた。成体は歯を食いしばってその場 にとどまる。れいむは今まさに奈落に引きずり込まれようとしているかつてのつがいに歩 み寄った。 そして、くるっと一回転した。 「きゃわいくってごめんねぇぇー!」 ウィンクして、ポーズを決めた。 まりさは絶望した。 というより、意味が分からなかった。 ところが赤ゆたちの目はかがやいた。 それは、れいむが常日頃から行っている挨拶のようなものだった。 降ってわいた日常に、かれらは恐怖を忘却した。 「れいみゅもやりゅー!」 「れいみゅもやりゅー!」 「まりしゃもやりゅー!」 赤ゆたちがれいむの隣にならんだ。 れいむはもみあげの先端で赤ゆたちを撫でた。家族揃ってまりさと向きあう。 「おちびちゃん、いくよ~~! いっせーの……」 『きゃわいくっちぇ ぎょめんにぇー!』 母と娘が同時にポーズを決めた。 一寸の乱れもなかった。 「だずげでねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ! ばがやっでないで だずげでねぇぇぇぇぇぇっっ! ゆ゛ぎぎぎぎぎ……!」 「みゅみゅっ!? しぇっきゃきゅの『きゃわいくっちぇごみぇんにぇ』だよ!?」 「どーちて りきゃい できにゃいにょ? ばかにゃにょ? ちぬの?」 「おとーしゃんは ゆっきゅり できにゃいよ! ちんでね!」 まりさは唾を飛ばして助けを呼んだ。 が、赤ゆは総じて不満をあらわにしていた。 自分たちの「かわいくってごめんね」が、かつてないほど綺麗に決まったのに、どうし て意味不明な救援を求めるのだろうと、赤ゆたちは心底疑問だった。その回答は父の発狂 に求められた。父はおかしくなったのだ、と。狂気を孕んだゆっくりなどもはやゆっくり ではなく、ましてや親なんかではなく、そのために赤ゆは親を罵倒しても、てんとして恥 じなかった。 ところが、れいむがまりさの眼前に進み出て言うのである。 「わかったよ! これなら どう!?」 まりさの黒瞳に、打ち砕かれるべき希望が宿った。れいむはつがいにあんよを、正確に いえば肛門を向けた。ちなみにゆっくりは肛門を「あにゃる」と呼称する。そのあにゃる から、ムリッと、黒いものがせりだしてきた。 「すーぱー! うんうん! たいむ!」 「ゆ゛……!?」 まりさの驚愕の声を聞くと、心躍った。肛門に力をこめた。うんうんは弾道軌道をえが いて助けをもとめるまりさの口に着地した。 「すっきりー!」 れいむは恍惚とした。ひとかけらのうんうん。それが差し出された助けだった。 まりさの眼光に怒気が差した。 その一方で、赤ゆたちは歓声をあげた。 うんうんがゆっくりのおくちに! ありえない現象を目撃しておもしろがった。 「まりしゃもー!」 「れいみゅもー!」 「れいみゅもー!」 赤子とは、面白いものを真似したがるものだ。 たちまち、死に瀕するまりさの眼下に三匹の赤ゆがならんだ。そして、一様にあんよを 親まりさに向ける。掛声一銭。うんうんを射出してみせた。だが、腹部の力が弱かったた めか、口には入らず顎に命中したのだった。 『しゅっきりー!』 「おちびちゃんたち! おじょーずだよー! ぺーろぺーろしてあげるね!」 「くすぐっちゃい~」 「ゆゆ~。おきゃーしゃんの ぺーりょぺーりょは とっちぇも ゆっきゅり できりゅんだじぇ~」 ひとしきり赤ゆを舐めあげると、れいむはまりさに向きなおった。 そろそろまりさの死力も枯渇する。 むしろ、いまの今までれみりゃの膂力に抗いつづけていられたことが奇跡にもひとしか った。歯ぎしりをして悔しがるまりさに対し、れいむは愉快げに言った。 「げすまりさは れいむの うんうんを いっぱい むーしゃむーちゃしていいよ!」 『いーよー!』 赤ゆの合唱が追従した。 まりさの口の端から、うんうん混じりの黒い唾液がしたたりおちる。 「……ゅ……ゆ゛……ゅ゛……」 「んん~? どうしたの? さっさとむーしゃむーしゃしてね!」 『しちぇにぇ~』 赤ゆの甲高い声がひびきわたった、そのときだった。 「ごろじでやるぅぅぅぅっっ! ごろじでやるんだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!」 「ゆゆぅぅぅぅっっ!?」 まりさは絶叫した。 成体一頭と赤ゆ三匹、殺意におされて後ずさった。 「ごろじでやるぅぅぅ! でいぶもっっ! ちびどももっっ! ごろじでやるんだぜぇぇぇぇぇっ!」 「ゆ゛……ゆ゛……」 「ぎょばいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ! ぎょばいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」 「ごっぢ ごないでねぇぇぇぇぇっ! あっぢ いっでねぇぇぇぇぇぇぇっっ!」 「ゆぴぃぃぃぃぃぃぃっっ! ゅぴぃぃぃぃぃぃっ!」 あろうことか、まりさは前進を始めていた。 後頭部を引っ張るれみりゃの腕力にあらがって、ひきさがるどころか、鬼神の殺意を目 もとにたたえつつ、家族のもとへと這ってゆく。まりさは変身していた。怒声、罵声、脅 し文句を思いつくかぎりならべたて、屑どもに接近する。赤ゆたちはさきほどまでの歓喜 はどこへやら、いまは力のかぎり泣きわめいている。 れいむは震える歯を噛みしめて、力いっぱいさけんだ。 「ゆっくりしていってね!!!」 赤ゆがほがらかにこたえた。 『ゆっきゅりしちぇいっちぇにぇ~』 まりさも言った。すばらしい笑顔を浮かべたまま。 「ゆっくりしていってね!!!」 ゆっくりたるもの、ゆっくりしていってねと言われれば、ゆっくりしていってねと答え るほかない。死のふちに瀕していようが、隠密行動の最中だろうが、もし十秒以内にゆっ くりしていってねと叫ぶと森羅万象が滅ぶと認めていたとしても関係ない。 本能のようなものである。 そしてこの言葉を発するとき、ゆっくりは力が抜ける。 「ぎょぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! ゆごぉぉぉぉぉぉぉっっ!」 まりさの姿が急速に小さくなったいく。一瞬のうちに横穴の外にまで引きずり出された。 れみりゃはやっと獲得した一匹目を堪能すべく、身を起こし、あぐらをかいて、これをむ さぼりはじめた。おそらをとんでいるみたいとか、やめるんだぜまりさはおいしくないん だぜとか、色々聞こえてきたが家族にとってはどうでもよいことだった。 れいむはほっと安堵の吐息をもらした。 巣穴の入り口に背をむけて、赤ゆたちに声をかけた。 「すっきりしたね! おちびちゃん!」 「したにぇー!」 「したんだじぇー!」 れいむが赤ゆたちの視界を遮っていなかったなら、もう少しましなことを言っていたか もしれない。巣穴の外では悲鳴まじりに黒い雨が降っていた。れみりゃは、またたくまに 一匹目のゆっくりを食らいつくしてしまっていた。だが、まだ満腹には及ばない。そこで 身をかがめて巣穴をうかがった。 そこにれいむ種の背中を発見した。 覗くものは、覗きこまれるものである。 赤ゆたちの視界のはしには、れみりゃの赤い瞳が見えていた。 「……ゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!」 赤ゆは悲鳴をあげて後ずさった。が、れいむは背中で何が起こっているのか分からない。 分かったのは、巣穴に差しこんでいた日の光が、突然にさえぎられて家が暗くなったこと だけだった。 「え? ……ゆごぉっ!」 れみりゃの手が伸びてきて、無防備な後ろ姿をわしづかみにした。 れいむは踏ん張った。こちらも馬鹿力だった。まりさが引きずり出されるときと、ほと んど同じ光景が現出した。ちがいといえば、死に淵に立たされているのがまりさではなく れいむだということと、助けを求める相手に成体ゆっくりが含まれていない、という二点 だけといえた。 いや、もうひとつ。 まりさの時とは違って、後ろ髪ではなく皮膚をつかまれていたために、皮膚が後ろに引 っ張られ、あわせて顔面の造作が左右にのび、鬼面ができあがった。 「ふごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ! おちびちゃんだぢぃぃぃぃぃっっ! だずげでねぇぇぇぇっっ!」 「ゆ゛ぇええええぇぇぇ゛ぇぇぇ゛っっ!」 「ゆっぎゅりでぎないぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!」 「ごっぢごないでねぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」 「たずげでっでいっでんでぢょぉぉぉぉぉぉぉっっ! ざっざどじろぉぉぉぉぉぉっっ!」 必死の形相で叫んだかいがあり、赤ゆは母が危険に陥っていると悟ることができた。 そこで赤ゆたちは審議をはじめた。 「ゆぅ……? おきゃーしゃん。ゆっきゅり してないね~。どーちて?」 「ゆぅ……。どうちよ……」 「ゆっくちー、ゆっくちー。ゆっくち しゅりぇば いいよ!」 「おきゃーしゃんは たすけて って……ゆ~。どーゆーこちょ?」 「たしゅけりゅんだよ!」 「ゆぅ……ゆぅ! しょっか! たしゅけりゅよ!」 「おきゃーしゃんを たしゅけりゅよ!」 まったりとした審議中、れいむは叫びまくっている。 が、シングルタスク脳である餡子脳にとってはそれはほとんど他人事、あるいは雑音、 風の音のようなものにしかならず、右から左へと抜けていた。 ともかく結論は出た。 赤ゆたちはれいむの前に横一列にならんだ。 そして、 『きゃわいくってぎょめんにぇー!』 ポーズを決めた。 びしっと。 一糸乱れぬポーズだった。 「ゆがぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁっっ! ごろずっっ! ごろじでやるぅぅぅぅぅぅぅっっっ!」 赤ゆにとっては予想外の展開だった。親まりさが引きずり出されそうになったとき、親 れいむはこれでまりさを助けようとしたのだ。このあとは「すーぱーうんうんたいむ」で 完璧だ、とさえ思っていた。 「どぼじでおごるにょぉぉぉぉぉっっ! れいみゅは『たすけ』だのにぃぃぃぃぃっっ!」 「『たすけ』たのに まりしゃを おこりゅ げしゅな おきゃーしゃんは ちねっ! ゆっくりちねっ!」 赤ゆのまりさが宣戦を布告した。 たちまち姉妹も同調し、死相を浮かべる親れいむに突撃した。 「ちんでねっ!」 「ちね、ちねっ!」 「ちねっ、ちねっ、げしゅは……ちねっ!」 ぽんぽんと、ぶつかっては跳ね返されてゆく。 れいむは殺意にかられた。 「ゆぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……ごろずぅぅぅぅぅぅ……ゆべぇっっ!」 突然、れいむは解放された。 唐突の出来事に力の制御がきかず、つんのめり、赤ゆをはじきとばした。 「はぁ! はぁ! ……おぢびぢゃんだぢ……よぐも……よぐも……」 ゆるゆると起きあがる。そこに赤ゆの悲鳴がきこえてきた。 「ゆぅぅぅぅぅ! ゆっぐりでぎにゃい ゆっぐりが いりゅぅぅぅぅぅっっ!」 れいむの頭部から、ゆっくりれいむの象徴たる赤いお飾りが紛失していた。 胴付きれみりゃがもぎとってしまったのだ。そのころれみりゃは、お飾りを見て「うー?」 と首をひねり、ぽいと放り投げてしまっていた。 視点を巣穴にもどす。 「ん? ……ああ? ぁ……ぁ……お……、お、おがざりがぁぁああぁぁあああぁぁ!? ずべでの ゆっぐりの あこがれがぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ! でいぶの がわいい おがざりがぁぁぁぁぁああぁぁっっ!! ゆ゛っぐりの しほうがぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」 れいむは発狂していた。あたりを見まわしてもお飾りはない。子供たちはいきなり出現 した見知らぬゆっくりに、わなないている。二頭いる赤ゆのれいむの一頭にいたっては、 モリモリッと、あにゃるから糞を流していた。 緊張のあまり腹部が弛緩してしまったのだろう。 「……おちびぢゃんだちの ぜいだねぇぇぇ……ん? ふぎょわぁぁぁああぁぁぁぁっっ!」 お飾りを失くした原因を、赤ゆに求めた。 が、直後、巣のなかが暗くなった。 れいむは入口に見て、そこに巣穴をのぞいている捕食種を発見した。 殺される! と思うや、母親が赤ゆのれいむのお飾りを口にはさんだ。 「……ゆゆ?」 「ゆんっ!」 うなりを上げて赤ゆが出入口に吸い込まれてゆく。 投げたのだ。 「おしょりゃとんでりゅみちゃいぃぃぃぃぃ……ゆごっ!」 放り出された赤ゆのれいむを、れみりゃは見事にキャッチした。悲鳴をあげるまもなく、 母の身代わりとなった赤ゆはひとのみに飲みこまれた。胃液に溶かされながら苦しみ悶え て死ぬしかないので、なかなかに辛い死に際であろう。母が子を殺した一部始終は、のこ りの二頭の赤ゆにしっかりと見られていた。 「いもーちょをかえちぇぇぇぇ!」 「かえちてね!? まりしゃのいもーちょかえちてね!」 懲りずにはじまる親子喧嘩。 「ふんっ。おまえらなんか、こうだよ!」 れいむは赤ゆからお飾りと帽子を略奪し、それを巣穴の入り口へと投げすてた。 「ゆゆぅぅぅぅぅ! まりしゃのおぼーちがぁぁぁ!」 「れいみゅのおきゃざりぎゃぁぁぁ!」 「ふん! れみりゃがくるよ!」 「ゆゆぅ!」 赤ゆはようやく、外に捕食種がいることを思い出した。 さすがに命は惜しかった。帽子と飾りを潤んだ目つきで見つめるしかなかった。 その後、もう一度れみりゃの手がもぐりこんできて、また去っていった。 回廊に堕ちていた帽子とお飾りは消えさっていた。 引き下がる腕に巻きこまれたのだ。 胴つきれみりゃは地団太を踏んだ。 成体まりさと赤ゆのれいむは食べられたが、あと三頭も残っている。悔しい。 道具を使う、という発想はなかった。 そこに翼を生やしたれみりゃ、胴なしのれみりゃがやってきた。 「なにやってるんだどー?」 「このなかにあまあまがあるんだどー。はいれるんだどー?」 「とっでぐるんだどー!」 家が暗くなった。 「……ゆ?」 家族は入口を見やった。 れみりゃの顔が浮かんでいた。 「ぶぎょぉぉぉぉぉぉぉ!」 「ゆごぉぉぉぉぉ!」 「ゆぴぃぃぃぃぃ!」 「うー、うー」 胴なしれみりゃが巣穴に侵入をこころみていた。 ところが。 「う~~~~~!」 巣穴の大きさは、成体ゆっくりが一列縦隊で入れるほどの隙間しかなかった。 そのため、翼をもっているれみりゃは、翼の付け根がひっかかって入れなかった。 「うう~~~~~~!」 うす暗がりに、れみりゃの声が充満した。一家は抱き合いながらさんざんに泣きあって いたが、やがて、れみりゃがその大きさのために入ってこれないことに気付くと、一転し て勝ち誇り、侮蔑の笑みさえたたえた。一家は入口へと跳ねていく。そして、おもいおも いに、れみりゃをからかいはじめた。 「は……は……こっぢごれないよ! ざまぁー! ざまぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」 「うー、うー」 「きゃわいくっちぇぎょめんにぇぇぇぇ!」 「うー、うー、うー」 「ゆゆーん。まりしゃは とっちぇも ゆっきゅりしちぇいりゅんだじぇ~~」 「うー、うー。……う~~~~っ!」 「どうしてこっちこないの? ばかなの? しぬの? ほーらほーら、れいむはここにいるよー」 「うー。どくんだどー」 「あれ?」 胴付きれみりゃが業を煮やして、胴無しのれみりゃをどかした。 そして、巣穴の中をのぞく。 「うー?」 手近にいたゆっくりを捕らえた。成体れいむである。おそらとんでいるみたいと、場を わきまえぬ戯言を繰りだす。直後に目をみひらくと、息が吹きかかりそうな近距離にれみ りゃの顔があったので絶叫した。れみりゃは両手で果実を持ち、不細工きわまる泣き顔を じっくりと観察した。 なお、子は成体れいむが引きずり出されたあいだに、奥に逃げ去ってしまっていた。 「う~?」 「ぁ……あ……は、はなしてね! れいむをはなしてね!」 「うー?」 「……な、なかにおちびちゃんがいるよ! あっちのほうがおいしいよ! 「うー!」 「……そ、そうだよ! れいむは おいしくないよ! おちびちゃんは おいしーよ!」 「うー……」 「やめてね! ……れいむを、ゆぇぇ、た、たべない、でね! れいむば、ゆぐっ、じにだくない……」 「うー……」 「やじゃぁぁぁぁぁぁっっっ! でいぶ じにだくないよぉぉぉぉぉぉ! じにだくないぃぃぃぃぃぃっっ!」 「うー!」 れみりゃは、れいむの肛門に指をつっこんで餡子をほじくりだした。ついで、あんよを 握りつぶしてその穴から餡子をすすった。さらに右目をえぐりだして口にふくみ、こりこ りとした食感をたのしんだ。まだれいむには意識があった。成体ゆっくりの大味は、満腹 になりかけた胴付き舌には不満だった。放り投げた。ぐしゃりと潰れた音を立てて墜落し た。みあげた生命力だった。瀕死ではあったが死んではいなかった。だが、そこに胴無し のれみりゃが飛んできて、おこぼれにあずかる。 胴付きは赤ゆを楽しもうと巣穴をのぞく。 甲高い声がもれてくる。 「し……しりゃにゃい ゆっきゅりが いりゅんだじぇ!」 「しりゃにゃい ゆっきゅりが いりゅぅぅぅ!」 赤ゆのまりさとれいむは、おたがいに目をやって同時に悲鳴をあげていた。 お飾りと帽子が失われているから、おたがいだれだか分からない。 そして同時に、お互いを排除すべき異物と認識した。 先手をとったのまりさだった。 「ちね!」 「ゆん!?」 体当たりをかました。 赤ゆのれいむが転がった。 「ゆゆ~。おぼうちのないゆっきゅりは、ちね!」 「ゆゅ!?」 こんどはれいむが反撃した。 まりさは転がったがさしたる打撃にはなっていない。 はた目には、じゃれあっているようにしか見えないだろう。 「ちね!」 「ちね! ちね!」 しかし、当人たちは本気の殺し合いを演じているつもりである。 赤ゆが死闘をくりひろがている間、外では決定的な異変が起こっていた。 胴付きと胴無しが話しあっている。 「うー、うー!」 「うー? どうしたんだどー?」 「うーにあやまらせるんだどー」 「なんでなんだどー?」 「れみりゃをからかったんだどー。あやまらせるんだどー。あやまるなら あいつら ゆるしてやるんだどー。たべちゃいけないんだどー」 「どーしてなんだどー?」 「おなかいっぱいなんだどー。それと、れみりゃを ばかにした ゆっくりは ひさしぶりなんだどー。ゆーきに めんじるんだどー」 「わかったんだどー。うーも おなかいっぱい なんだどー」 胴付きれみりゃが、巣穴をのぞく。 姉妹の決闘はつづいていた。 「ちね! ちね!」 「うー。おちびちゃーん。でてくるんだどー」 「ちねっ! ちねっ!」 「おちびちゃーん。うーに あやまるんだどー」 「ちねぃっ!」 「あやまるんだどー」 「ちね! ちね!」 「あやまれば たちさるんだどー?」 「ちねぃ! ちねぃ!」 「うー。あやまらないんだどー。ばかなんだどー。……こーなったら、こーするんだどー」 れみりゃは巣穴に尻を密着させた。 ばふっ。 と、濁った音を立てて、黄ばんだ煙がれみりゃの肛門から発射された。 胴付きれみりゃの屁は、あらゆるゆっくりに死をあたえる。 指向性のついた毒けむりが巣に広がってゆく。 「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」 殺し合いどころではなくなった。 殺到する黄色い煙をまえにして、まりさはれいむの背中に移動した。 「か、かくれりゅんだじぇー!」 「ゆゅっ!? は、はなちてね! れいみゅを はなちてね!」 「ゆゅ~~。れいみゅばりあー!」 まりさはれいむにしがみ付いて離さない。 髪の毛に顔をうずめて、煙をやり過ごそうとする。 れいむは、もがいた。 「はなちてね! きゃわいい れいみゅを はなちてね! しゃっしゃと はなしゃないと おこりゅよ!」 「は、はなちてね! ゆゆ! ゆっきゅりできにゃいよ!? ぷっぷーさんがくりゅよ! は、はなち、はなちてね……ふごっ!」 ついに赤ゆのれいむは毒ガスを吸い込んだ。 「ゆ゛……ゅ゛……ゅ……ゅぐ……あ……」 臭気はたちまちれいむの全身にめぐり、体内餡子を汚染していく。 赤ゆのれいむは震えだし、白目をむき、電気を帯びたようにはげしく痙攣し、肛門がひ らいてうんうんが搾りだされ、まむまむから汁がひらいて汁がちょろちょろと垂れながさ れ、うめき声とともに口からべろりと舌が垂れ、その多目的器官は病的なまでに黄色く変 じていた。 「ぃぃぃぃぃぃ……ぎぎぎぎぎぎ………ゆごっっっ!」 赤ゆが大きくふくらみ、爆発するように大量の餡子を嘔吐した。 その背中に隠れていたまりさは、楯がいきなり薄っぺらになって防禦機能を喪失してし まったため、戦慄した。 「ぶぎゃぁぁぁぁぁああああぁぁぁっ! な、なにやっでりゅんだじぇぇぇぇぇぇぇっっ! じゃ、じゃっじゃど もどに もどっでねぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ! べーりょべーりょしであげりゅねぇぇぇぇぇぇぇっ! ぺーりょぺーりょ……ゆべぇぇぇぇっ!」 赤ゆの死骸にはたっぷりと毒ガスが沁みこんでいた。まずいどころか危険である。 ぷっと餡子を吐きだした。 そこに死刑宣告にもひとしい声がとどろいた。 「もっとするんだどー!」 ばふっ、ばふっ、ばふっ! 放屁の三連射だ。 濃厚な煙が、赤ゆを抱こうと突進する。 卒倒しそうになった。 「ゆぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ! ゆぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!」 なにか身を隠すものはないかと、血相をうかべてあたりにさぐった。 あった。 「しょ、しょーだ! おといれしゃんに にげりゅんだじぇー!」 この家にはトイレがあった。 それもゆっくりにしてはかなり本格的なものだ。 巣の一隅に高台が築かれていて、そこに小さな縦穴が掘られている。 ちなみに、高台にトイレがあるのは、赤ゆの落下をふせぐ措置である。高台にあれば 赤ゆは登れず、登れるような運動能力を獲得したときにはゆっくりの大きさは穴の直径 をこえている。 赤ゆのまりさも、いつもは直接にたれ流すのではなく、葉っぱに用を足していた。 その葉っぱを両親が回収し、トイレにすてるのだ。 だから赤ゆのまりさは直接にトイレにうんうんを放ったことはなかった。 だが構造は知っていた。 穴が開いていると知っている。 そこに入れば、れみりゃの放屁をやりすごせるだろう。 まりさはトイレに向かい、 「ゆぅっ!」 と、さけんで高台に乗った。 決死の自己保存本能が、赤ゆの運動性能をあげていた。 このときのまりさは、トイレの底がどうなっているかが想像できるほど知恵が発達し ていなかった。うんうんは、さながらブラックホールのように――むろん、そんな知識 などなかったが――どこへともなく消失するものと思っていた。 「ゆん!」 と、いきおいよく草の蓋をのけて、 「ゆんやっ!」 と、トイレの穴に身を投げた。 「おしょらっ!」 ぽちゃりと音がした。 直後。 「くちゃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ! きちゃにゃいぃぃぃぃぃぃっっっ!」 縦穴から悲鳴がはっせられた。 まりさは混乱のきわみにあった。 れみりゃが絶対に手をだせないと思っていた安住の地には、鼻をねじ曲げるような熾 烈な臭気がみちみちていた。動けば動くほど、古餡子があんよにねっとりとからみつく。 それに暗い。いや暗いどころか一筋の光もない。また、狭かった。身動き一つできそう になかった。それでも、身をよじってなんとか天井をあおいだ。白い穴が開いていた。 その穴はたいへんに小さかった。 れみりゃはいぶかしがっていた。 放屁でいぶりだせるかと思ったが、どれだけたっても赤ゆは出てこない。 巣穴をのぞいてみても、どこにも赤ゆの姿はなかった。 「うー。あきらめるんだどー」 成体れいむの残骸をむさぼっていた翼のれみりゃとともにきびすを返し、群れにもどっ ていった。 日のたかいうちに、いなごの大群は次なるゆっくりプレイスを探しに旅立った。 夜が来た。 春の涼気が野山をひたし、おぼろな月が空に泳ぐ。 とてもとてもゆっくりできる夜が来た。 だが、たった一匹だけ、ゆっくりできないゆっくりがいた。 奈落の底に落ちたゆっくりが、汚物にまみれて泣いていた。 「たしゅけちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ! ぴゃぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ! みゃみゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! れいみゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ! たしゅけちぇにぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ! ゆ……ゆ……ゅ……ゆんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! どぼじでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ! だずげで ぐれないのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ! ば……。 ば……。 ばりざは……。 ばりざは ここに いりゅよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」 月が大地に溶けこむまで、慟哭はつづいた。 泣き声は日を追うごとに小さくなっていき、数日後には永遠に聞こえなくなった。
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『虐待・前篇』 【虐待】 虐待(ぎゃくたい)とは、自分の保護下にある者(ヒト、動物等)に対し、長期間にわたって暴力をふるったり、世話 をしない、いやがらせや無視をするなどの行為を行うことを言う。一言に虐待といっても、対象や種類は様々である。 ―――――――――ウィキペディアより、引用 序、 男はペットショップへと足を運んだ。目的は、200円から売られている処分品のゆっくりを購入すること。勿論、 虐待用にするつもりだ。週に3回程、こうしてペットショップを訪れ、1000円前後でゆっくり一式を購入し、部屋 で潰したりして遊んでいる。男はゆっくりが好きだった。無論、その好きという感情の歪み方は異常とも言えるもので あったが。 「い…いらっしゃい…ませ…」 カウンターの中にいるバイトの女が怯えたような出迎えをする。当然だ。この男は先週、店で「ゆっくり詰め放題1 袋600円」というセールのときに現れ、今にも圧死寸前といえるほどのゆっくりを袋の中に押し込んだ。レジに持っ てきたときには、袋の上の部分を掴んでいるせいで既に赤ゆが一匹潰れて死んでいた。そのときの男の狂気じみた笑顔 が女の脳裏に焼き付いて離れないのだ。 その虐待者で間違いない男が今日はえらく時間をかけてゆっくりを品定めしている。何度も足を運んでいるせいか、 店の中のゆっくりたちもこの男の顔を覚えているのだろう。ショーウィンドウの中に入れられたバッジ持ちのゆっくり とは無縁なのだが、処分品の籠の中に入れられたゆっくりたちはすでにガクガク震えている。動物は本能で相手の感情 を感じ取るというが、処分品ゆっくりのものは“それ”とは違う。男の瞳の奥に、剥き出しになった明確な殺意を感じ、 その切れ味鋭いナイフのような視線がゆっくりたちを射抜いているからだ。 飼いゆへの道を閉ざされたゆっくりたちで店側としても処分するために籠の中に入れてあるのだが、この時ばかりは ゆっくりたちが気の毒にさえ思う。もともと、籠の中のゆっくりは売れても虐待の道具にされるか、ペットの餌にされ るか…あるいは買っていった人間のおやつにされるか。売れ残ったとしても、叩き潰されて店の飼いゆっくり用の餌に されるかのいずれかの道しかないわけだが。 男が籠の中に手を伸ばす。 「ゆ…ゆううううぅぅぅぅっ!!!」 「ゆっくち!…ゆっくち!!」 伸ばした手の周辺にいたゆっくりたちが狭い籠の中を逃げ回る。赤ゆは他のゆっくりの頭の上を這って逃げたりして いたが、バスケットボールほどのサイズもある成体ゆっくりは籠の端に顔を押し付け、泣きながら男の手を見ているこ としかできなかった。 「駄目じゃないか…“商品”が客から逃げたりしちゃ…」 静かに、ゆっくりと、低い声で、男が語りかける。ゆっくりたちは十分に理解している。この男に買われたら、間違 いなく殺されるということを。…この男に限らずとも殺されるのはほぼ確定しているのだが、品定めの段階でそれがわ かるのはこの男ぐらいのものだった。男が素早く、一匹の赤れいむを掴み上げた。持ち上げられ、うねうねとあんよを 動かしている。宙を蹴っているつもりなのだろうか。 「ゆ…ゆっくち…やめちぇ…はなちちぇ…」 泣きながら男に訴える。男は不気味な笑みを浮かべ、赤ゆの顔のギリギリまで口を近づけて、 「客が選んでやったんだ…離して、はないだろう…?」 ボソボソと話しかける。 「ゆひぃっ…」 ゆっくりが悪寒を感じるのかどうかは疑問だが、表情から察するに寒気がこの赤れいむを襲ったのは間違いなさそう だった。逃げられないことと、離してはもらえないことを悟った赤れいむは声を上げて泣いた。他の客もこの様子を見 ていたが、ペットショップではよくある光景だ。 連れてこられた段階で親とは引き離されているため、そういう涙ながらのゆっくりの悲劇を目の当たりにすることは ないが、籠の中にはたくさんの赤ゆ、あるいは売れ残って成体サイズまで成長したゆっくりたちがいる。その中から無 理矢理引き離されるのは、やはり不安で仕方がないのだろう。 男は赤れいむを籠の中に戻した。しばらくはぐしゃぐしゃの泣き顔で呆けていたが、あんよを動かし自由を取り戻し たことを確認すると、そばにいた赤まりさの元へ這い寄り、 「こわきゃっちゃよぅ…ゆぅん…ゆぅん…」 泣きすがる。女は、あの赤れいむはもう死んだ、と思っていただけにこの光景には目を疑った。男は籠の前から離れ ない。今日は本当によく吟味している。 やがて、今度はバレーボールほどのサイズの子ゆっくりのれいむを持ち上げた。この大きさまでくると成体まであと 少し、と言ったところである。舌足らずな言葉遣いも抜けており、人間で言えば高校生ぐらい…若さと希望に満ち溢れ ている時期のゆっくりと言えよう。その希望の灯は、今まさに消えようとしている。赤れいむと同じように、持ち上げ られただけで顔をいやいやと振る仕草をする。両手で顔を掴まれているので、身を捩っているようにしか見えないが。 「ゆ…ゆっくり…、おろしてねっ!にんげんさんは…ゆ…ゆっくりできないよっ…」 ショップ内のゆっくりによる人間への発言は、ショーウィンドウの外側にいるゆっくりであれば店側に過失は問われ ない。そもそも真っ当なゆん生を送る権利さえ奪われているため、それらの意見はあってないようなものなのだ。むし ろ、客に暴言を吐いたゆっくりなどは、虐待目的でそのまま購入されていくケースも多い。暴言を吐くゆっくりは籠の 中のものぐらいで、籠の中のゆっくりを覗くのは大抵、虐待目的の人間であったため特に問題はなかった。 「ああ…違う。ゆっくりできないのは…これからできなくなるのは…お前だよ」 静かに言い放つ。どうやら男はこのれいむを“お買い上げ”することに決めたようだ。れいむは死の宣告に顔中から 冷や汗を流し、涙を溢れさせ、ぶるぶるぶるぶる震えている。言葉も発することもできないようだ。普段ならば、ここ で籠の中のゆっくりや、店員に大声で助けを求めたり、自分を買って行こうとする客に“やめて”と懇願する光景が見 られるものだが、それさえなかった。 逆に籠の中のゆっくりたちも一言も声を発するものはなかった。ただ、一様に…恐怖に染められた数多くの瞳が男を 無言で見つめている。男は、れいむを買い物カゴに入れると、蓋をした。暴れて逃げ出すゆっくりが多いからだ。完全 に外部との接触を遮断されたれいむはここにきて、誰に助けを求めるでもなくただ泣き始めた。 男は泣き続けるれいむを無視し、今度は同じくらいの大きさのまりさを片手で掴んだ。親指が顔の中心にめり込むよ うに持ち上げられ、まりさは不服そうに男を睨みつけていた。肝だけは据わっている…と言えよう。まりさ種の特徴は、 生意気なことと根拠のない自信。今も、決定的に足りない餡子脳内で男を倒すための策を講じているのであろう。 男はニタリと笑った。 「これにしよう」 男はゆっくりを生物だと認識したことは一度たりともなかった。 物だ。 喋る物なのだ。殴れば悲鳴を上げ、潰せば使いものにならなくなるだけの、ただの物。少なくともこれまではそうい う扱いを徹底してきた。 店で買ってきては潰し、また店で買ってきては潰しを繰り返していた男にそれ以上の感情が湧くはずはなかった。だ から、いつものように適当に籠の中に手を突っ込み、ぽいぽいと買い物カゴの中に入れていくような買い方ではない、 男の行動に、女は違和感を覚えたのだ。 男がまりさを先ほどのれいむと同じように買い物カゴに入れる。蓋を開けた瞬間にれいむが外に飛び出そうとしたが、 まりさごと再び買い物カゴの中に押し込んだ。 「まりさあぁぁぁ…ゆうぅぅぅん…ゆうぅぅぅぅん…」 「れいむ!しっかりしてね!まりさがまもってあげるね!」 外側からは見えないが、買い物カゴの中の様子が目に浮かぶようだ。商品が、商品に助けを求め、慰め合う。喜劇以 外の何物でもない。 男は、処分用のゆっくり売り場のすぐ隣にある…「ゆっくり詰め放題」のケージに足を向けた。 ケージの中のゆっくりのほとんどが赤ゆだった。一袋600円なので、あまり大きな個体を商品にすることはできな いのだ。れいむ種、まりさ種、ありす種の三種類しかいないが、男には十分だった。男はケージの脇にあるビニール袋 を掴むと、赤ゆたちを手当たり次第にその中に投げ入れ始めた。 「ゆんやああああああ!!!」 「やめちぇええぇぇ!!!」 「やじゃやじゃやじゃあぁぁぁぁ!!!」 「いちゃいよぅ!!!」 「ちゅぶれりゅう…」 「ゆぶぶぶぶ…」 「もっちょ…ゆっくち…しちゃ…」 女はため息をついた。あの日の出来事そのままだ。可能な限り袋の中に詰め込もうとするから、最初に詰められた赤 ゆはどんどん追加されていく後続の赤ゆに押しつぶされて死んでいく。袋に張り付いた内部の赤ゆの凄惨な死に顔を見 せつけられて、残された赤ゆがおそろしーしーを大量にぶちまける。 男が袋の口を無理矢理に縛る。その瞬間、新たに三匹の赤ゆが潰れて死んだ。男はそれをレジへと持って行く。もち ろん、れいむとまりさも一緒だ。 「1050円になります」 「おねーーーざああああぁぁぁん!」 「ゆっくりたすけてね!ゆっくりしたいよぉぉぉぉぉ!」」 女が目を逸らす。 「うるせぇ」 短く言葉を発し、二匹の入った袋を壁に叩きつける。 「んべっ!」 「ゆんぐっ!」 静かになった袋を片手に男はゆっくりと店を出て行った。女は安堵の表情を浮かべた。 男がアパートの扉の鍵を開け、帰宅する。入ってすぐの位置に流し台がある。そのステンレスの台所の上に、あんよ を焼かれて身動きの取れなくなった、赤れいむがいた。男に気付くと涙を流しながら、 「ゆっくちしちぇいべびゅるぶゆぐぅ!!!!!!!!!」 男は赤れいむが挨拶を言い終わる前に、潰して“それ”を制した。一瞬でただの饅頭の皮になってしまった同族の姿 を見せられ、一斉に叫び声を上げる袋詰めにされた赤ゆたち。この赤ゆは家に帰ってきたとき、すぐに潰すというため だけに、この位置に“置いて”ある。扉を開け、拳を振り上げ、赤ゆを一匹潰す。それが男の日課であった。 「私さぁ…あなたのそういうトコロが好きじゃないわ」 部屋の奥から女の声が聞こえる。男の恋人だ。 「一寸の虫にも…って言葉、知ってる?」 男は答えない。 「それから、なんでゆっくりを買いに行かせたかも、覚えてる?」 男は、女に見られない位置で、またニタリと顔をゆがめた。 「わかっているさ…。1カ月でいいんだろう…?」 女は、しかめっ面で男を睨みつける。男の手から袋を受け取る。袋の中にはぼろぼろと涙を流し、ガクガク震えてい るれいむとまりさがいた。恐怖に染まった瞳で女を見上げている。 「…かわいい」 「どこが可愛いんだか…そんな連中…」 「約束通り、1ヶ月後よ」 女はそう言って油性ペンを取り出し、れいむを片手で抱き上げた。 「ゆっ!ゆっ!!」 「チッ」 子れいむの声が癇に障ったのか、男が舌打ちをする。 「はい、できました…っと」 床に降ろされたれいむは、辺りをキョロキョロ見回しながら、 「ゆっくり?ゆっくりぃ!」 などと言っている。少し混乱しているのだろう。語彙が少ない。やがて、男のベッドの下にずりずりとあんよを這わ せて隠れてしまった。 「何をしたんだ?」 男が女に尋ねる。女は取りだしたまりさにも油性ペンで何か書いているようだ。今度は男の前にまりさをずいっ、と 差し出した。男の顔を目の前にしたまりさが、 「ゆひいっ!」 と短く叫ぶ。男の手がぶるぶると震えている。しかし、女の持ちかけた“ゲーム”の内容を理解した以上、この饅頭 を潰すわけにはいかなかった。 「このハートマークのついたまりさと…さっきのれいむ。1ヶ月後に死んでいたら…あるいはいなくなっていたら…あ なたとの婚約は破棄させていただきます」 一、 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 「「「「「「「「「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!!!」」」」」」」」」 最初に目覚めたれいむが挨拶をして他のゆっくりたちを起こす。まりさと、かろうじて喋れる位置に口がきている赤 ゆたちが一斉に返事を返した。 「「ゆうぅぅぅぅ…ん!!」」 れいむとまりさは満足そうに、互いの頬をすり寄せる。 「ゆっ!きょうもみんなといっしょにゆっくりしようね!」 しかし、周りには二匹以外、ゆっくりはいない。 「ゆゆっ?みんながいないよ…?」 二匹の子ゆはキョロキョロとあたりを見回す。そして、自分たちを囲んでいるガラスの壁に気が付いた。 「ゆ?でられないよ!」 「かべさん!まりさたちのじゃまをしないでゆっくりどいてね!」 てしてしとガラスの壁に体当たりをしたり、顔を押し付けてみたりしているれいむとまりさ。無駄な行動を繰り返す うちにどうやら腹が減ってきたらしい。くぅぅぅ…と情けない音がれいむとまりさの下顎のあたりから聞こえてきた。 「ゆぅぅぅ…おなかすいたよぅ…」 「おねーさんはなにをしてるの?まりさおなかすいたよ!ぷんぷん!!」 ペットショップの籠の中に入れられていたときには、あの女性店員が餌を放り込んでいたのだが、れいむとまりさが いくら待っても女性店員は一向に現れない。更に腹の虫が鳴る。 「ゆ…ゆゆ…」 「おなかすいたよーーー!!!」 とうとう空腹で泣き始めるれいむとまりさ。そこへ早朝の散歩を終えた男が帰ってきた。ゆっくりたちの“騒音”で 目覚めさせられるのが気に入らない男にとって早朝の散歩は日課だった。物音に気付き、玄関のほうに顔を向ける二匹。 男はスタスタと箱に近づいていく。男が近づいてくるのに気付いた二匹は、目を輝かせて、 「「ゆっくりし…」」 男が箱を足の裏で蹴り飛ばした。床を一直線に滑っていき壁に激しくぶつかり止まる。突然の出来事に呆然としてい た二匹は、慣性の法則に逆らえず額をガラスの壁に強打して呻いていた。れいむはゆんゆん泣いているだけだったが、 まりさは頬をぷくーっと膨らませて威嚇をしてきた。 「ひどいよにんげんさんっ!どうしてこんなことするのっ?!」 「お前らがゆっくりだからだよ」 「ゆゆゆっ?!」 暴力を振るわれた理由の理不尽さに、まりさは戸惑いを隠せなかった。だからと言ってどうすることもできない。ま りさはれいむの方に向き直ると涙を舌で拭ってあげながら、 「れいむ!しっかりしてね!まりさがいるからあんしんしてね!」 泣いているれいむを励ましていた。男は箱を二度、三度と蹴った。男の足と部屋の壁の間に挟まれた二匹は、繰り返 し響く衝撃にただ怯えているだけだった。二匹は声を上げて泣いた。 「ゆああああああん!!!ゆっくりできないよーーー!!!!」 「ゆっくりしたいよーーーー!!!!!」 「「ゆっくりさせてよおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」 恐怖で声を出せなくなるまで、男は箱を蹴り続けた。強化ガラスの箱は傷一つつかない。虐待者の間で透明な箱は必 須アイテムだった。通常一匹用のこの箱に、子共とはいえ二匹のゆっくりが入っている。その中で何度も横転し、壁に 叩きつけられ、れいむとまりさは既に満身創痍だった。 ようやく箱を蹴り終えた男は、朝食の準備を始めた。目玉焼きを作っている。調理中の匂いはもちろん、れいむとま りさの元へと届いた。二匹は恐怖で忘れかけていた空腹を思いだす。さっきまでは気づかなかったが、袋詰めされた赤 ゆたちも、 「おにゃかすいちゃよぅ!」 「ゆっくちなにかたべさせちぇにぇ!」 「あみゃあみゃでいいよっ!」 口々に叫んでいる。しかし男は振り向かない。れいむとまりさはぐぅぐぅと腹を鳴らしながら、男をじっと見つめて いた。 やがて出来上がった目玉焼きをテーブルの上に置き、男が食事を始める。わざわざ、れいむとまりさの入った箱を食 事風景がよく見える位置に置いて。れいむが泣きながら訴える。 「おにいさん!おねがいしますぅ!!れいむたちにもなにか…なにかたべさせてくださいぃぃぃぃ!!」 「おなかがへってしにそうだよっ!おねがいだよっ!おにいさん!!!」 まりさも目の前で、男が目玉焼きを口に入れる様子を見て涎を垂らしながら、懇願する。男は黙々と食事を続けてい た。 コップに入った水を飲み干す。 「あ…ゆあ…」 味噌汁を飲み干す。 「ゆ…っ!ゆぅ…っ!!」 ご飯をかきこむ。 「「んゆぅぅぅぅぅぅ!!!!」」 目玉焼きの最後の一口を口に入れる。れいむとまりさは唇を噛み締めて、ぼろぼろと涙を流すと、 「「ゆんやあああああああああ!!!!!!!」」 大声で叫んだ。その様子を見て男はくぐもった声で笑った。そして箱の蓋を小さく開け、その中に食事で使った何も 盛られていない皿を置いた。泣きやんだ二匹は、首をかしげながら目の前の空の皿を眺めている。 「食え。それがお前らの今日一日分のメシだ」 「…ゆ…?」 「なにを…いってるの…?」 食え。男はそう言った。何を? 目の前にあるのは皿だけだ。れいむがずりずりとあんよを這わせ、皿の傍へと移動する。目を凝らして見る。やはり 何もない。れいむは男を見上げると、 「おにいさん…?おさらさんに…なにものってないよ…?」 「たべものがないとたべることができないよ…?ゆっくりりかいしてね…?」 「馬鹿言うな…。皿を舐めれば味はするだろうが」 男は冷たく言い放つと、赤ゆの入った袋を取り出した。赤ゆたちの絶叫が部屋中に響き渡る。そんな中でれいむとま りさはようやく理解した。この皿に残った目玉焼きの汁や白身の切れっぱし。インスタントみそ汁の溶けきらなかった 味噌の残りカス。これを食べろ、と男は言ったのだ。 「ゆぐぅ…ぺーろ…ぺーろ…」 「ぺーろ…ぺーろ………し……ゆぅ…」 ゆっくりは食事をするときには“むーしゃむーしゃしあわせー”という言葉を発する。れいむもまりさも、むーしゃ むーしゃできてない上に、当然幸せでもないので口にしたくてしょうがない言葉を言うことができない。 生き残った赤ゆたちを袋から取り出しては、手で握り潰したり、壁に叩きつけて殺したりして遊んでいる男を見なが ら、二匹が叫ぶ。 「おにいさああああああん!!!!」 「ゆっくりしないでたべものさんちょうだいねっ!これじゃしあわせーできないよーーー!!」 何かが潰れる音がした。その音に気付いたれいむとまりさは箱の壁を見る。そこには、ガラスの箱に叩きつけられた 赤ゆだったものがいた。皮が破れ中身が飛び出し、その衝撃によりべったりと壁に張り付いている。飛び出す場所のな かった目玉は見開かれたまま、固まっている。まるで二匹を凝視しているかのようだった。 「ゆひいいいぃぃぃぃっ!!!!」 れいむがしーしーを漏らす。まりさもずりずりと後ずさる。男は箱に顔を近づけると、ポツリ、と言った。 「しあわせー…できない?お前らなんか幸せにさせてたまるかよ」 「どうして…?どうして…っ?」 まりさが泣きながら質問する。 「お前らが、“ゆっくり”だからさ」 男は、泣き続けるれいむを箱から取り出した。れいむは怯えてがたがた震えている。そのれいむの顔面に、男は拳を めり込ませた。拳がゆっくり独特の柔らかい皮に包み込まれていく。顔の中心の餡子が周囲に押しやられたせいか、あ にゃるから、ぶぴっ、という音と共に餡子が飛び出した。男が拳を引き抜くと、顔の中心部を真っ赤にしたれいむが、 「い゛だい゛よ゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!!!!」 「…痛くて当然だろう。痛がらせようとしてるんだから、よ」 「どぼじでごんな゛ごどずる゛の゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛???!!!!!」 れいむが顔をぐしゃぐしゃにしながら、悲痛な声で男に訴える。 「お前らが、“ゆっくり”だからさ」 先ほどの、まりさの質問に対する答えと同じだった。男はれいむの髪を掴むと、腕が疲れるまでれいむの顔に往復ビ ンタを繰り返した。乾いた音が数十発、部屋に響く。しかしれいむの顔は崩れない。男は力加減を心得ていた。このま ま数百、数千発、叩き続けたとしてもれいむを潰さず苦しめる自信が、男にはあった。 れいむの方も、顔を右に左に振り回されながらも、決定的な痛みによる自己防衛のための失神を行うことすらできな かった。我慢できない痛みではないが、痛い。それを延々と繰り返される。同じところを何度も叩かれるたびに、皮が ヒリヒリしていく。 「九十八!九十九!!百!!!!」 百発目は、再びグーでれいむの顔面を殴りつけた。同時に髪を掴んでいた左手を離したため、壁に向かって飛んでい き、叩きつけられる。そして、ぽてっ、とその場に倒れ込んだ。これほどのダメージを受けたにも関わらず、 「ゆ゛う゛ぅ゛ぅ゛…」 まだ呻いて苦しんでいる。死んではいない。死ななければ良いのだ。 歯を食いしばり、大粒の涙を流し、顔を床に押し付け、左右の揉み上げで打たれた頬を抑えながら、のたうち回って いる。 「ざまぁ」 男はそんなれいむに追い打ちをかけるように、汚い尻を蹴り上げた。 「ゆ゛っぐ………ゆ゛っぐぃ゛…じで…」 「喋ってんじゃねぇよ、ゆっくりの分際で」 れいむはひたすら泣いた。涙が止まらなかった。 「泣いてんじゃねぇよ、ゆっくりの分際で」 れいむは必死に涙を拭った。涙を流すまいと必死だった。 「だから!!!」 男は、再度、れいむを蹴り上げる。 「ゆ゛ぎぃぃぃぃぃっ!!!!!!」 「人間の真似してんじゃねぇよ、ゆっくりの分際で」 後篇へ続きます