約 31,756 件
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/355.html
親父抜きの大晦日から 「……ハルヒ」 「何よ?」 「……風呂のおかげで、生き返った」 「たいがいにしなさいよね。本当に死んだらどうすんの!?」 「ああ、すまん」 「あんたは助けに駆けつけたつもりだろうけど、そうなったのは全部あのバカ親父のせいだけど、力つきたあんたを発見するあたしの身にもなりなさい!」 「すまん。あやまる」 「わかったら、さっさと着替えなさい! 風邪引くわよ!」 「ハル、パジャマ、出してあげた?」 「出したわよ」 「サイズはどうかしら?」 「一寸の狂いも無く、ぴったりよ」 「これ、親父さんのじゃないよな?」 「ぜんっぜん違うわ」 「よかったわ。キョン君がいつ泊まりに来てもいいようにと買っておいたの。さすが、ハルの採寸ね。本当にぴったり」 「採寸って、おまえ、そんなことしたか?」 「覚えてないなら、忘れてよし! いいえ、ぜひ忘れなさい。今の会話、全部!」 「はあ。どこからだ? 『本当に死んだら……』あたりからか?」 「それは教訓として、まぶたの裏に刻みなさい」 「ふふ。だっこするとウエストや胸回りはわかるし、腕を組んでも袖丈のサイズがわかるわね」 「母さん!」 「……」 「あんたも、このタイミングで黙るな!」 「あと、お互いの服を交換したり……」 「母さん、暴走し過ぎ!」 「あら。お父さんが、二次創作でも、このあたりは押さえとけって……」 「夫婦の会話にメタな視点を持ち込まない!」 「キョン君、お腹すいたでしょ? カロリー補給しないと、体温を維持できないわ。とりあえず具のたっぷりめのスープはできたのだけど、それでひと心地ついたら、ちゃんとした食事にしましょう。ハル、給仕が終わったら、母さんを手伝ってね」 「分かってるわよ。はい、ひよこ豆と厚切りベーコンのスープ。トマト味だけど、大丈夫よね?」 「ああ。どっちかっていうと好物だ。……うまい」 「あんたの好みって、いまいちわかんないのよね。うまい/まずいをもっと顔に出しなさい」 「いや、腹減ってると食えるだけで幸せ、ということがあるだろ?」 「それは分かるけど、つくる方の身にもなりなさい。張り合いっていうか、工夫のしがいっていうか……」 「ハル、つくる方からメーデー(救援信号)よ」 「あ、はい! ごめん、母さん」 「大丈夫、想定の範囲内よ。でも、お腹をすかせた人とおしゃべりしても、その人を満たすことはできないわ」 「って、このメモ! 全部、作るの!?」 「もともと和洋中のおせちって提案したのは、あなたよ、ハル」 「で、でも、親父も帰って来れないし、あたしたち2人じゃ余ると思うわ。あ」 「キョン君を入れれば3人よね」 「ええ、でも……」 「お父さんが担当するはずだった中華は、かあさんが引き受けるわ。だからハル、キョン君と一緒に洋の方をお願いね。レシピは……この本よ。該当箇所にポストイットを貼っておいたから、二人で頑張って。あ、キョン君、食べてからでいいのよ」 「ちょっと、母さん、これフランス語!」 「だって西洋料理で、母さんがちゃんと知ってるのって、フランス料理だけだもの」 「じゃなくて、この本!」 「Le Répertoire de la Cuisine(ル レペルトワール ドゥ ラ キュイジンヌ)。英訳もどこかにあったはずだけど、どのみち料理の単語は発音が違うだけでほとんど同じスペルよ。声に出せなくたって二人なら大丈夫」 「何が根拠なのよ! あと、これ、分量、一切書いてないわよ!」 「フランス料理のバイブルみたいな本なんだけど。新米シェフはそれで勉強するの。いちいち計ってたら面倒くさいでしょ?」 「バイブルじゃなくて入門書が欲しかったわ……。キョン、あんたが食べる間に、本棚あさってくるから。素材ごとで悪いけど、これ自家製ハム、ソーセージ、あと今朝焼いたパン。なんとかお腹持たして。新年を迎える前にやり遂げないと大変なことが起こるわ!!」 「た、大変なことって?」 「とにかく大変なことよ!! いい、キョン、生き延びるためには、やるしかないの!」 親父抜きの大晦日その後^2へ
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/303.html
親父さんと谷口くん5から オヤジ 母さん、ちょっと頼みがあるんだが。 ハル母 なんですか、お父さん。 オヤジ 今から、谷口ってのが戦勝報告にくるらしい。まえにハルキョンも連れて、初デートを覗きにいった奴がいたろ? もう3ヶ月経つが、うまくいってるんでお礼方々伺いたいんだと。 ハル母 礼儀正しい方ですね。ハルヒと中学から同級の人でしたね。 オヤジ うーん。やっぱりうちのバカ娘は育て方を間違えたか? ハル母 あれでも、外ではちゃんとしてるみたいですよ。 オヤジ 粗暴なのは親父限定か。あ、それでな。男女別々に話を聞こうと思うんだが。 ハル母 そうなの? じゃあ、彼女さんにはお茶の用意を手伝ってもらいます。 オヤジ 頼む。親父の道楽に付き合わせてすまんな。 ハル母 ふふ、何をいまさら。それに楽しいことじゃないと私も付き合わないわ。 谷口 おじゃまします! 彼女 あの、失礼します。 ハル母 まあ、ようこそ。さあ、上がって下さいな。 彼女 (谷口君、いまのが涼宮さんのお母さん? すごい美人) 谷口 (ああ。そうなんだ。あ、親父さんだ) オヤジ よお、谷口、元気そうでなによりだ。こっちの可愛らしいお嬢さんはお初だな。 谷口 あ、親父さん、ごぶさたしてます。あの、紹介します。彼女が…… オヤジ 『彼女』か。めでたいな。母さん、赤飯を炊いてくれ。 ハル母 はいはい。 引野 あの、谷口君とお付き合いさせてもらってます、引野です。はじめまして。 オヤジ マーヴェラス! ナイス・トゥ・ミーチューだ。なんて礼儀正しい子だ。知ってのとおり、谷口はバカだが悪い人間じゃない。よろしく頼む。飽きたり、粗相があったら、俺に連絡くれ。後腐れなく別れさせるから。 ハル母 お父さん、初対面の人に飛ばし過ぎです。引野さん、固まってるわ。 オヤジ ああ、すまん。感動したんだ。まあ、ふたりとも座ってくれ。 ハル母 アロエ・ジュースなんだけど、苦手じゃないかしら? 引野 あ、大丈夫です。 谷口 嫌いなものなんてないです。 ハル母 お口にあえばいいんだけど。 谷口 (うまい!) 引野 (ほんとだ。すごく、おいしい) オヤジ 実はここだけの話…… 谷口&引野 は、はい オヤジ おれ、人の名前を覚えるのが苦手なんだ。円周率は日が暮れるまで言えるんだけどな。あとひとつ、名前を覚えると基本的に『呼び捨て』になっちまう。だから谷口が『谷口』なんだ。気を悪くしないでくれると助かる。あ、でも、引野さんは、もう覚えたから。 引野 あ、わたし、『さん付け』でなくても、全然平気です。 オヤジ いや、谷口が『許さねえ』とガン飛ばしてる。だから自重するさ。今日は気分がいい。なんか、いい話を聞けそうだしな。 谷口 あ、はい。その節は、いろいろありがとうございました。 オヤジ なんか、したっけ、おれ? 谷口 いや、その、いろいろアドバイスとか。 オヤジ ぜーんぜん役に立たなかったろ(笑)? 谷口 いや、そんなことは! 親父さんのアドバイスがなかったら、引野さんとも会えてないし、会っても仲良くなれなかったと思います。おれにはできない技とか工夫とか、そりゃありましたけど、肝心なとき、親父さんの言葉を思い出して、前に進めました。 オヤジ そういうのは、前に進んだ奴の手柄なのさ。リスクもリターンも全部、当人が受けるんだ。もひとつ白状しとこうか。引野さんとの初デートの前に、谷口がおれんとこに来た。おれは『待ち合わせには10分遅れて行け』と言ったんだ。こいつ、何時に待ち合わせ場所に来た? 引野 えっと、時間通りだったと思います。 オヤジ ちなみに引野さんは何時に着いた? 引野 あ、あの、あたし、方向音痴なんで、待ち合わせ場所の辺りもあまり来なくてわからないとどうしようと思って……結局、20分前に着きました。 オヤジ なるほど。……あ、引野さん、なんか持ってきてくれてる。親父が喋り過ぎてタイミングがとれなかったろ。今がチャンスだ。 引野 あ、はい。あの、手土産とか、そういうの、どうしたらいいかわからなくて、失礼にならないといいんですけど。 オヤジ 母さん、クッキーだ。彼女が焼いたらしい。 ハル母 まあ、素敵。お菓子を焼いて来てくれるお嬢さんなんて! これは腕を振るってお茶を入れないとね! 引野 あの、でも、涼宮さんは、お料理なんかも上手で、万能選手だって、お聞きしてます。 ハル母 ハルはねえ……できることはできるのだけれど、勉強も料理も、格闘技の一種だと思ってる節があるわね。親の教育が良くなかったのかしら。 オヤジ 思いついたぞ、母さん。この二人に夕飯食べてって貰おうと思うんだが、どうだろう? ハル母 大賛成よ、お父さん。 オヤジ ということで、ハルキョンは電話して足止めしとこう。……よう、バカップル、元気か? 今朝会っただろ? それが何の証拠になる、お天気屋め。あのな、晩飯、二人でどっか食って来い。ああ、タダとは言わん。おれと行ったことのある店なら「オヤジにツケといて」でOKだ。何をたくらんでる? 飯を食わせたい客が来たんでな、ただの厄介払いだ。遅く帰ってこいよ。今日中じゃなくてもいい。あ? そんな土産話はいらん。じゃあな。……失礼。みっともないが、これがうちの日常会話なんだ。……と、肝心の二人の賛否を得てなかったぞ。どうだろう、お二人さん? おれんちで飯食っていかないか? 引野 あ、あの、ご迷惑では? オヤジ 全然。むしろ助かる。ま、あまり遅くなっても、あれだし、明るいうちから早い夕食にしよう。 引野 (いいのかな、谷口君?) 谷口 (いいと思う。せっかくの親父さんの提案だし) 谷口&引野 すみません。じゃ、ごちそうになります。 ハル母 引野さん、お客様にお願いするなんて、ほんと失礼なんだけど、お茶の用意、手伝って下さらない? 気合い入れて本格的なのを、と思ったんだけど、ちょっと大変そうなの。 引野 あ、はい。お手伝いします! ハル母 ごめんなさい。 引野 いえ、お気になさらずに。……うわ、すごい。本格的なティースタンド。 ハル母 ポートベローでね、最初に、この子と目があったの。 引野 それってロンドンで一番大きなアンティーク・マーケットの、ですか? ハル母 ええ。でね、マーケットをあちこち回ってるうちに、次々この子の兄弟と遭遇しちゃって、なんと5人分そろっちゃったの。それをお父さんに磨いてもらったんだけどね。だから思い出はあるけど、高いものじゃないのよ。……さて、ひさしぶりにちゃんとしたブリティッシュ・アフタヌーン・ティーね。特別なお客様でも来ないと活躍する機会がないので、今日はこの子達も喜んでるわ。 引野 「特別なお客様」だなんて、そんな、……あの、恐縮します。 ハル母 それはもてなす側の責任ね。Please relax and make yourself at home. くつろいでもらえるとうれしいわ。 オヤジ 谷口。 谷口 はい! オヤジ いい子だな。 谷口 はい! オヤジ よかったな。 谷口 はい、親父さんのおかげです。 オヤジ 「おかげ」はよせ。おまえさんの努力の結果だ。 谷口 いえ、あのまま、ナンパを続けてたら『彼女』は、ひょっとするとできたかもしれませんが、彼女には、引野さんみたいな娘には会えなかったと思うし、会えても、うまくいかなかったと思います。だから、思い切って、親父さんのところに相談に来て、本当によかったです。 オヤジ おまえ、女の好み、変わったろ? 谷口 え、あ、はい。そうですね。引野さんみたいな娘、前は全然イメージしてなかったです。 オヤジ ……京都の北西の方に御室寺って寺があるんだけどな、そこは八重桜ってのが、たくさん植わってることでも有名なんだ。八重桜は咲く時期が遅くて、俺たちが花見でイメージする桜、ソメイヨシノとかああいうのな、普通の桜が散って青葉が出た頃に咲く。だから口の悪い京都人の間じゃ「嫁ぐのに行き遅れた女性」を『御室の桜』と呼んだりするんだが……。4月に咲こうと5月に咲こうと、花は花だし、鳥たちも虫たちも来てくれる。だから自分の時期に自分の花を咲かせりゃいい。……という絵本を読んだことがあるんだが、知らないか? 谷口 え、ええ。わからないです。 オヤジ そうか。今度探しとく。見つかなけりゃ自分で作る。絵も話も、頭の中にはあるんだ。いずれにせよ、手に入ったら知らせるから、もらってくれ。 谷口 え? あ、はい。 オヤジ 押し付けがましいが、卒業証書みたいなもんだ。 谷口 は、はい! オヤジ ……ん、スコーンを焼く匂いだ。なんかお茶まで本格的だな。うちでは、いい客が来ると、いいものが食えるんだ。 親父さんと谷口くん その1 その2 その3 その4 その5(最終回)
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/242.html
親父さんと谷口くんから 「えーと、前にも尋ねた覚えがあるんだが、誰だっけ?」 「このあいだ、親父さんの教えを受けた谷口です」 「おー、そうだった。その後、どうだ? もてたか?」 「おばあさん相手に100人切りを完遂しました。どっちかというと、返り討ちにされた気がしますが、勉強になりました」 「で、今はどうしてる?」 「はい、それが高じて、介護施設にボランティアへ」 「そうか。人生何が幸いするかわからんな」 「親父さん、もう一度、チャンスをください!」 「ん?何の?」 「大変充実した日々を送りましたが、本来のナンパ道から遠ざかっている気が。それに、おれ、正直言って、若い女が好きなんです!」 「それで、なんか、アドバイスすればいいんだな?」 「ぜひともお願いします!」 「アーリー・ラーニング・セットって知ってるか?」 「いや、いいえ」 「20世紀最大の催眠療法家ミルトン・ハイランド・エリクソンは、クライエントに何気ないおしゃべりをしたり、握手をしたりするだけで、相手を催眠に入れる凄腕野郎だが、そのための準備として種をまく。その種まきのバリエーションの一つだ。何でも良いんだが、誰もが体験しているような「はじめての学習体験」について話をするんだ。それも、今目の前に情景が広がるように詳しく描写的にな。たとえば初めて自転車に乗れたときの話、初めて文字を覚えたときの話。その話に引き込まれると、何かを学び始める時の脳の状態にセットされるという訳だ。これが催眠に入るという初体験への準備になる」 「で、女の子を催眠に入れて、いろいろするんですか? ぐへへ、げ、外道ですね」 「言っとくが、相手を催眠に入れて犯したりしたら、酒に酔わせて襲うのと同じで準強姦罪に問われるぞ。もう一ついうと、そういう邪な考えはすぐバレてしまうんで、相手はそもそも催眠につきあってくれん」 「がっかり」 「そういう妄想は2次元で満たしておけ。本題はここからだ。詳しい話をしてそこに引き込むと、相手の脳の状態をセットできる。これを応用してみるか。催眠なんて必要ないぞ。何の話をすれば良いと思う?」 「えーと、さっぱり」 「ずばり、恋の話だ。妄想はパターンが決まってて、あまり人を引きつけない。だから実話に限るぞ。それも詳しく描写的にな。さらに言うとだ、初恋ばなしは、相手を初めて恋をした状態にするので、相手を落とすのにもってこいだ。どうだ?」 「ああ、ものすごく納得したんですが、いますぐにでも試してみたいと思ったのですが……、すみません。人に語れるような恋を、この谷口、まだしたことがありません!!」 「顔を上げろ。エリクソンは数えきれないほどのテクニックを開発したが、その一つに、『マイ・フレンド・ジョン』技法というのがある。『おれのダチのジョンって奴がいて、そいつが〜』と前置きして、自分の友人の話として喋るんだ。これだと、かなりエロい話も、オブラートにつつんで話せるぞ。つまり、おまえ自身の話じゃなくとも、おまえの周りにいる奴について語っても良いんだ。相手を、初恋ばなしの世界に入れればいいだけなんだからな」 「うほ、それなら、心当たりがあります! ありまくりです!」 ● ● ● 「バカ親父!! 出てきなさい!」 「出てくるも何も、同じ家に住んでるだろ」 「あんた、アホの谷口に何教えてたのよ!?」 「んー、忘れた」 「あのアホ、あたしたちの話をネタに、ナンパしてんのよ! 当然失敗してるけど、あんまりあちこちでやるもんだから、あたしたちの話が町中で大ブームよ」 「ほう、ハルキョンで町おこしか。西宮市もやるな」 「やるな、じゃない!」 「マニアの巡礼スポットに、『神足の恋愛スプリンター谷口の像』を入れるように提言しとこう」 「しとこう、じゃない!!」 親父さんと谷口くん その1 その2 その3 その4 その5(最終回) 神足(しんそく): 仏典に登場する六つの神通力(神足通・天耳通・他心通・宿命通・死生智・漏尽通)のひ とつで、「一刹那の中にでも、百千億・百万の仏国土を飛び越えて行く」ほど、めちゃくちゃ足が速いという意味。 大辞林の「六神通(ろくじんずう)の一。自由自在に自分の思う場所に思う姿で出現し、思いどおりに外界のものを変えることのできる超人的能力」というのは、ちょっと行き過ぎかも。 以下、出典です。 漢文 設我得仏国中人天不得神足於一念頃下至不能超過百千億那由他諸仏国者不取正覚 読み下し文 たとひわれ仏を得たらんに、国中の人・天、神足を得ずして、一念のあひだにおいて、下、百千億那由他の諸仏の国を超過することあたはざるに至らば、正覚を取らじ。 世尊よ。もしも、かのわたくしの仏国土に生まれた生ける者どもが皆、たとえ心のほんの一刹那の中にでも、百千億・百万の仏国土を飛び越えて行く(神足通)ということによってでも神通自在の最高の完成に達しないようであったら、その間はわたくしは、<この上ない正しい覚り>を現に覚ることがありませんように。 (『無量寿経』(梵文和訳)/岩波文庫 より)
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/159.html
親父書きがSSを読む その1:お姫様抱っこで保健室に
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/217.html
親父の英会話 Lesson 4から 存在の英語から状態の英語へ オヤジ 前回は、存在の英語「〜がある」をやったな。おわりに「I see / find」ってネタをふっといたが、覚えてるか? キョン ええ、さすがに。昨日の今日ですし。 オヤジ とりあえず復習がてら、「道に100円玉が落ちていた」ってのを考えてみな。 キョン うーん。とりあえずthere isとhaveを使った2つを作ります。えーと、 There is a 100-yen coin on the street. ??? …… have a 100-yen coin on the street. キョン 落ちてるってのは、誰のものでもないですよね。ちょっと「誰か」とモノの関係を考えるのが難しい。 オヤジ そうだな。確かにその100円玉は誰のものでもない。だが、「100円玉が落ちていた」と言ってる奴は誰だ? キョン 目撃者、ですか? オヤジ そうだな。確かにそいつはまだ100円玉を自分のものにしていない。しかし、その存在を発見してはいる。だから、その誰かと100円玉の間には、何らかの「関係」がある。 キョン そうか。だからsee / findなのか。 I found a 100-yen coin on the street. オヤジ ばっちりだ。人とモノの関係は「所有・もつ」だけとは限らんということだ。「目撃・みる/発見・みつける」という関係は、重要だ。「Esse ist percipi(存在するとは知覚されることだ)」というのが大げさすぎるとしても、一面の真理ではある。まだ誰も「見ていない/見つけてないもの」については、語ることができないからだ。語ることが出きるなら、誰かがそれを見つけてる、自分じゃなくてもな。 もう一度、 There is a 100-yen coin on the street. I found a 100-yen coin on the street. を見てくれ。ここで言われているのは、ただ「100円玉の存在」についてだけじゃない。「100円玉が道に落ちている」という「状態」について、この英文は語っている。今日やりたいのは、こいつだ。状態を語る英語だ。 オヤジ 「存在」について語るとき、さしあたって注目される、そのモノがあるのか/ないのか、だった。 「状態」について語るなら、「ある/なし」以上のことに触れる必要がある。 おれを例にとろうか。 Oyaji is. 親父がいる(存在している)。 I found Oyaji. 親父を見つけた。(存在の知覚) Oyaji is angry. 親父は怒っている(状態)。 I found Oyaji angry. 親父が怒ってるのがわかった。(状態の知覚) キョン 「親父」って固有名詞だったんですか。 オヤジ そういう扱いだと思ったぞ。違うのか? オヤジ 例を変えるか。 I found the leaf red. を訳すのに「葉が赤いのに気付いた」というのが正解なんだろうが、「紅葉していた」とだけ訳してもいい気がしないか。 日本語の場合だと「〜が〜な状態である」という事実の方が重くて、それを誰が見つけたかとか誰が報告しているかとか、どうでもいいところがある。 だから、日本人が、英語を話したり書いたりするとき、主語のところでつまずきやすいんだが。 キョン 親父さん、「What a Wonderful World 」の歌詞を訳してましたね。 I see trees of green, red roses too 木には葉が繁り、バラも真っ赤に I see them bloom for me and you 咲いていやがる 俺たちの方を向いて オヤジ ああ、もっとちゃんとした正式な訳があるんだがな。この「I see」も描写だ。だから訳には出てこない。もっとも「咲いていやがる」とやっちゃ、アタマ隠してなんとやら、だな。 オヤジ ちゃんと覚えてないんだがな、漱石の『こころ』の英訳で、たしかこんなのがあった。 I find him in the garden. 彼は庭へ出て何かしているところだ。 小説だし、一人称で書くか三人称で書くかという話もでかいが、こんな風な描写も英語だと「I find」が使える。これを「He was doing something in the garden.」とやったら、なんだか「台無し」な感じがしないか? オヤジ もう一個、例を出そう。これも元ネタは、『こころ』の英訳だ。ちょっとアレンジしてあるが。 I find my daughter loving occasionally. 娘もいつの間にか恋のひとつもするようになる。 She will finally find him. あいつも誰かと運命的に出会うんだろう。 おっと、最後のは余計だ。findの用例というより、finallyを「運命的に」と訳してるのがミソだ。赤い糸伝説が背景にあるのかね。 そろそろ、今日の話も閉めるか。 No Grand Cause is to be found at sea 航海の行く手に、大義なんかありはしない (三島由紀夫著ネイサン訳『午後の曳航』 新潮文庫74ページ (The Sailor Who Fell from Grace with the Sea ))。 親父の英会話 Lesson 6へつづく
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/138.html
「すまん、人の名前が覚えられない質でな。誰だっけ?」 「あの、谷口です。涼宮さんと中学から同じクラスの」 「あー、5分で振られた恋愛スプリンターの。娘がとんだ失礼を。あの顔であの性格だし、ろくな死に方しねえな、と常々思ってるんだ」 「いや、でも、いまラブラブで幸せ一杯に見えるんですが」 「キョンって、パッとしないように見えて偉大なんだな」 「いや、それはいいんですが。実はご相談があって参りました」 「なんだ、そうと早く言ってくれれば。俺は、若い奴の相談事が三度の飯より好きなんだ。経験談にはろくなネタがないけどな」 「ほっ。人に頼るなんて、と叱られるかもドキドキしてました」 「実際は自立した人間ほど、たくさんの人間に依存してるんだ。依存っぽい奴は、依存する相手が一人とか、家族だけとか、限られてるから問題を起こす。で、相談ってのは?」 「はい、俺は常々ナンパ道を極めようと日々精進を怠らないように心がけているんですが」 「しかし、まったくモテない?」 「そ、そのとおりです」 「うむ。どんなダメ男でも、たちどころに持てる秘策があるんだが聞くかい?」 「ええ、ぜひとも」 「結婚しろ」 「は?」 「結婚しろ。既婚者は何故だかモテる。確実に持てる。データを持ってこようか?」 「いや、あの、そこまで行き着く前に、息絶えるかもしれません」 「生き急いでるんだな。じゃあ、明日のためのその2。ばあさんをナンパしろ」 「は?」 「狙うのは、美人のばあさんだ。背中がしゃんとして、おしゃれで、今でも街に遊びに行くのを楽しんでるばあさん。彼女たちは美人歴5〜60年で、しかも話好きだ。話を聞きたがる若い衆が行けば、たちどころに落ちる。そして彼女たちの話を、耳かっ穿じって聞け。そこには男と女の秘技/秘訣がてんこもりだ。どんな女が、どんな男が、どういう運命を辿るか、もらさず聞いてこい。話を聞くトレーニングにもなって一石二鳥だ」 「な、なるほど」 「さしすめ、おまえさんみたいなタイプは、顔、スタイル、見た目なんかで、女子をランキングするだろ?」 「は、はい」 「横並びに相手を見ているようじゃ、向こうからも軽く見られる。今、向かい合ってるばあさんと自分しか、この宇宙にいないと思え。今という時間の100%を目の前の相手に使うんだ。もてない奴の中には、やたらと保険をかけたがる奴がいるが、そんな余力があらうなら、100%で行ってさっさと振られてこい。何も押せ押せで行けというんじゃない。むしろアンテナを一杯に張るんだ。相手から出てくる言葉、身振り、表情を残らずつかまえて、焼き付けるくらいの気構えで行け。真剣に話が聞けるのは、誰もがしゃべりたがる、話を聞いてもらいたがる現代社会では、金が取れるほどのスキルだ。昔は、女性に食わせてもらってるヒモだったら、みんな身につけていたスキルなんだが。とにかく『真剣に相手をする』というスキルなしに、誰かに真剣に相手にされる訳が無いだろう」 「は、はい。なんだか目が覚めたような……」 「それから、次の言葉を朝晩、唱えるんだ」 「はい(ごくり)」 「『俺はナンパじゃない、自分の愛に対して硬派なんだ』」 「おおっ!!」 「では、行きたまえ。世界中の女性が、君を待っている。ただし『一回につき一人』を忘れるな」 「あ、ありがとうございます! 人生の師と呼ばせてください!」 「んー。なに、朝っぱらから、誰か来てたの?」 「ん? ああ、誰かさんに5分で振られた谷口が、モテるコツを聞きに来た」 「そんなの親父に聞いてどうすんのよ?」 「まったくだ。そんなこと、キョンに聞けばいいのにな」 「なんで、そこにキョンが出てくんのよ!?」 「あいつの周りは美人だらけだ。まったく、どこのギャルゲーかと思うぞ」 「むー。有希だってみくるちゃんだって、最初はあたしが見つけたんだからね!」 「今度、コツを聞いといてくれ」 「だから、コツなんかないって言ってるでしょ!!」 親父さんと谷口くん その1 その2 その3 その4 その5(最終回)
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/258.html
オヤジ バカ娘、ちょっと言っていいか? ハルヒ 何なの? 時と場合を考えてよね。 オヤジ とりあえず雑魚の方は引き受けてやるから、ボスキャラっぽいのは任せる。 ハルヒ 花を持たせてやるっての? 2mくらいありそうなんだけど。 オヤジ 7フィート(=2.1336m)はある。総合(格闘技)か何かやってるな。人の骨を折る音が大好きなタイプだ。 ハルヒ 丸ごと偏見じゃないの。 オヤジ そうでもない。スキンヘッドはウケ狙いじゃなく、髪の毛をつかまれないためだ。低い姿勢で入ってくるぞ。間違っても膝で合わせようなんてするなよ。 ハルヒ わかってるわよ。そっちこそ、雑魚相手に息切らさないでよね。 オヤジ 潜水は得意だ。・・・おーい、おまえら。俺に勝てたらな、この娘、くれてやる。 (うぉおおおおおおおおおお) ハルヒ なんか、異様に盛り上がってんだけど? オヤジ おいおい、スキンヘッド。おまえもこっちか? ハルヒ みんな列つくってるわよ。 オヤジ 後ろの奴は20分待ちだな。退屈しのぎに「ハレ晴レユカイ 」でも、踊ってやれ。 ハルヒ ぜったいイヤ。 オヤジ 一番手はお前さんか。キョンだと思って殴るからな、多分、傷の治りは遅いぞ。 ハルヒ 普段、どういう目でキョンを見てんのよ!? オヤジ 口ではうまく言えん。今から拳で語ってやるから見てろ。 ハルヒ うわ!ひえ!ちょ、ちょっと、気を失ってる相手を、何もそこまで……。 オヤジ 待て。もうちょっとで最初の一言が出てきそうなんだ。 ハルヒ ……次の人。闘(や)ってもいいわよ。 オヤジ 母さん、好きだあああ!! ハルヒ この、バカ親父!! 何の脈絡もないでしょ! オヤジ 渾身の力を込める時、一番気合いの入る言葉を叫ぶのは、基本だろ? ハルヒ ……以前、それと同じようなことを言ったバカが居たわね。 オヤジ キョンの奴、そんなことまで!? ハルヒ もういい。なんか疲れたから、終わったら呼んで。 オヤジ 俺たちは朝まで盛り上がるぞお! (うぉおおおおおおおおおお) ハルヒ さっさと闘(や)りなさい!! オヤジ なんだ、スキンヘッド、もうおまえの番か? 一戦前に一曲舞う? ムエタイの選手か、おまえは? 演目は「黒髪」? ここに来て地唄舞とは……。 ハルヒ いいかげん、さっさと闘(や)りなさい!!
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/358.html
「お父さんが今度の仕事で点数稼いだから、多少の無理はきくそうよ」 とハルヒのお母さんは言った。 以下は、後で親父さんに聞いた話である。 「んー、仕事か? いつものモメゴト・シューティングだ。町村合併でな、もともと仲が悪かった町がひとつになった。片方は古くからの温泉を中心にした町で、向こう側にあるスキー場が生業の町だ。水と油ならぬ、湯と雪の間柄って訳だ。元々地熱のせいで、ここのスキー場は雪解けが早くて営業できる期間がよそより短い。そういうところに人間様が後からやってきた訳だが、自然に怒りをぶつけてもしょうがないから、地熱憎けりゃ温泉旅館まで憎い、ってことらしくてな」 「涼宮さん、すぐオヤジが参りやす。しばらく遊んでってくだせえ」 「なるほど。おれは、うまい飯といい女に目がないんだが、よく分かったな」 「へへへ、それは男なら誰でも同じでしょう」 「そういう訳で、女房には、パリで2つ星のレストランをきりもりしてたオーナー・シェフを選んだ。もちろん料理の腕だけじゃない、絶世の美女だ。頭も切れるし、腕も立つ。おれが何十人かのバカ相手に殴りあいしてたのを、邪魔するやつはみんな投げ飛ばし、おれのところまで来て、平手打ちをくれたくらいだ。……さて、あと何を言えば、あんたの顔をつぶさず、おれは一命を取りとめる? 誰であれ恥をかかせたくないが、おれは仕事でここまで来てる。何もしないうちに死ぬのはごめんこうむる。女房を愛してるといえばいいか? それとも女房に殺されると言った方がいいのか? あと、そうだな、一人娘はまだ高校生なんだ」 「ま、待ってくれ。しばらく待ってくれ」 「わかった。待つ。あんたを信用して任せる」 「若いもんがとんだ失礼をしたようで」 「いや、こっちの自己紹介が遅れただけだ。さっきの男は何も悪くない。信用してよかった、と後で伝えてくれ」 「この街に、火中の栗を拾いにくるのが、どんな奴なのか、知っときたくてな。無理を言って来てもらった」 「無理は聞いてない。会うべき人間には会っておきたいと誰だって考えるだろう。はじめて来た街なら、なおさらだ」 「あんたには、この街はどう見える? 随分、いろんなところで仕事をしてきたそうじゃないか」 「着いたばかりで何も知らんし何も言えん。だが、自分から、このよそ者に会いに来た男がいる。おれの短い経験からいうと、そういう奴がいるところでは失敗はない」 「それはおだてか?」 「おだててるのでも、誉めてるんでもない。おれに一番最初に会いに来る奴が、その街を一番深く思っている。言い換えれば、まちの浮沈に自分の利害が一番絡んでる。逆に「自分がこの街を一番愛してる」とうぬぼれてる輩は、大抵はその街に片足突っ込んでる程度のくせに、得体の知れないよそ者を邪魔するか追い出す方が先に来る。『よそ者に何が分かる?』まあ、そう思う方が普通の神経だ。さて、あんたは自分が実力者であることを知ってるが、それだけじゃ足りないことも認めてる」 「ずけずけ言うんだな。大ホラ吹きなのに、今は正直に喋ってる」 「そうした方がいい相手にはそうする」 「まず、何をするつもりだ?」 「昼間はスキーだな。全部のゲレンデを滑って回る。夜は温泉だ。これも全部入る。人が集まってるようなところは、とにかくしらみつぶしに回る。つまり、とにかく遊び回るんだ。それから、次に人を集める。なるだけたくさんがいい。普段、街のことをしゃべったこともないような連中も呼びたい。そういう奴ほど、言いたいことがあるもんだ」 「そんなので話がまとまるのか?」 「話なんかまとまらなくていい。どれだけきれい事並べようが、役所の基本計画なんてただの言葉だ。誰も覚えちゃいないし、思い出しもしない。そいつをつくるのに、人が集まる方がよほど重要だ。そこでみんなの感情を沸騰させる。忘れられない集まりになる。後は各自が思い思いのものを持ちかえって、それぞれが「良い」と思ったことをやればいい。モザイクは色も形も違う小片からできている。見る角度で色合いも変わる。だが遠くから見ると、一枚の絵になってる。簡単に言うと、そういうことだ」 「さっきも言ったがあんたは正直だ。だからわしも正直に言おう。わしらはこの街が分裂していた方が都合がいい。つまり金になる」 「あんたの下には100人ぐらい、食わせなきゃならん若いものがいるだろう。この街の役所より大所帯だ」 「107人だった。笑いごとだが、大学へ行かせた孫まで帰ってきた。これで108人だ」 「帰って行ける田舎があるのは、いいことだ」 「だが、この街には未来はない」 「ああ。あんたが死ねば、途端にその108人は路頭に迷うぞ」 「どうすればいい? あんたは答えを持ってるのか?」 「おれが持ってきたのは問いだ。悩むのは当事者の仕事だ。誰も代わってはやれん。答えは銘々が見つけるしかない。こいつが理解されたら、おれの仕事は9割が終わったようなもんなんだが。……さて、あんたに頼みがある」 「わしはあんたの敵だ。わしがやると思うのか? いや、聞きたいのはそれじゃない。わしに何かできることがあるのか?」 「あんたにしかできないことがある。それをこれから説明する」 「その親分だか顔役に何言ったんですか?」 「簡単だ。若い衆を解雇しろ、と言った。放りだせ、くびにしろ、だったか、まあ、そういう風なことだ」 「それを飲んだんですか、相手は?」 「そりゃそうだ。一番の懸案事項についての、最速かつ確実な解決法だからな」 「でも、若い衆が路頭に迷うって」 「だから、そいつらの『再就職』を、おれが引き受けた」 「100人もの働き場所なんてそう簡単には……」 「当たり前だ。だが、相手にリスクを負わせるには、自分もリスクを引き受けるしかない。こんな簡単なことも分からんから、話がややこしくなるんだ。おれだって手品師じゃない。帽子から鳩や兎を出すみたいに仕事が用意できるわけじゃないぞ。まあ、たとえできても、そんな真似はしない。若い連中をただ甘やかしてもつまらん」 「涼宮さん」 「よう。こないだは世話になったな」 「そのことは、もう。……だが、俺たちは納得してねえ。あんたが納得させてくれるとも思ってねえ」 「だが、雁首揃えてやってきた、ってわけか」 「オヤジ、……と呼ぶなといってっけ。おやっさんは、曲がった事は決して言わねえ。誰かを騙して得をとる人間でもねえ。だから、おれたちは、おやっさんの言うことには、これまで黙ってしたがってきた。それで間違いはなかった」 「だが、今度の事はさすがに腹に据えかねるか。もっともだ。だが、ひとつだけ修正させてくれ。おまえさんたちのおやっさんは、ひとつだけ間違いをおかした。うるせえ、黙って聞け! おれを信用し切ってないまま、おまえらをよこした事だ。信用できないなら、何一つ耳を貸さず、おれを街から追いだせ。おれは手を引く。家に買えって女房と娘相手に七面鳥でも焼くことにする。だが、ひとつ見直した事がある。おまえらだ。おまえらは挨拶の仕方を知ってる。ちゃんと相手の目を見て話を聞く。背丈の半分しかないばあさん相手なら、おまえらはちゃんとしゃがんで話をするだろう。若い連中を見ろ、あさっての方を見て「あざーす」、これが挨拶だ。おれたちには2週間しか時間がない。しつけに1週間も費やしてみろ、間に合うものも間に合わん。お前らなら、今日からでも使いものになる。さあ、決めてくれ。おれがこの2週間でやろうとしてることを聞きたい奴は残れ。残らず話してやる。聞きたくない奴は、そう思った時点で出て行ってくれ。今も言ったように時間はあまりない。はじめていいか?」 「あ、ああ。とにかく聞かせてくれ」 「やることは、言葉で言えば簡単だ。この街を変える、街が変わったと大勢の人間に思わせる。一番楽なのは、良いところを悪くする事だ。良い部分は、街でもなんでも、誰が毎日の努力で支えてる。そいつを取り除けばいい。だが、俺たちは、そんなことはしない。その逆をやる。つまり、悪いところを良くする。分かりやすいのは、一番悪いものを変えることだ。この街で一番悪いものが何かわかるか? 温泉街とスキー場の対立か? ちがう。この街で一番悪いものは、そこからアガリをせしめてるお前たちだ。だから、お前たちが変わるのが一番わかりやすい。そして親分はお前らをクビにした。おまえらの悪評の元はなくなった。お前らはもう、昨日のおまえらとは違う。さて、次に何をやるか説明するぞ」 「そのひとたち、ほんとにしゃがんでおばあさんと話してたんですか?」 「知らん。その街に着いたばかりだから知るはずがない。おれはただそれを前提にして話しただけだ。だが、おれがそう言った後は、みんな必ずそうしてた。それが良いことだと、まずは頭で、やってみると全身で、納得できたからだ。この手のことはな、キョン、やればすぐに分かる。相手の顔が全然違ってくる。だから、おれは期待を『前払い』しただけだが、連中はすぐに自分の行動(もの)にした」 「掃除ったあ、どういうことだ!?」 「掃除は掃除だ。汚れているところをきれいにする。やったこと、あるだろ?」 「それが今回の話と、なんの関係があるんだ!?」 「じゃあ聞くが、おまえさんが組に入って最初にやった仕事はなんだ?」 「そ、それは……」 「こんなかで、掃除をしたことない奴はいるか? いないはずだ。おまえらは、最初にやった仕事だから、下っぱがやる詰まらない仕事だとおもってやがるな。どこの世界でも、弟子入りしたら、まず掃除からやる。理由は3つだ。ずぶの素人がやっても、丁寧にさえやれば、それ以上汚れる事だけはない、つまり必ず成果が上がる。若い奴に自信をつけさせるには、仕事をやらして成果をあげさせることが一番だが、何もできないうちにまかせることができる仕事は、そんなにない。二つ目。誰でもできるようだが、いい加減にやると、それもはっきり結果に出る。そいつにずっとついて見てなくても、そいつの仕事ぶりが一目で分かる。大勢の若い連中を仕込むのには、こんなに効率のいいやり方はない。そして最後の理由だ。掃除って仕事には切りがない。今日やり終えたから、明日からしなくていい、なんてことがない。だから仕事がなくならない。理由は以上の3つだが、おれたちにはあとひとつ、でかい理由がある。これをやると確実に街が変わる。いいか、確実にだ」 「……」 「納得できんだろうから、話をしてやる。ひとつ目は身近な話だ。自分の家や仕事場の前に、ゴミが落ちていたら、誰だってそのままにはしないだろう。自分でやるか、人にやらすかは別にして、掃除するだろう。じゃあ、逆にゴミがそのままで誰も片付けないとしたら、どこだ? ……人々に見捨てられた場所、誰も愛着はおろか関心さえ持ってもらえない場所がそうだ。そこでは、誰でも平気でゴミを捨てて行く。誰も目を向けない、誰の目も届いてない場所なら、そのゴミに火をつける奴が出てくる。放火だ。次はヤバい物の取引、その次が殺人、用済みになった奴をこっそりバラすのは、きまってそんな場所だ。そこで殺される奴は身寄りがない。そいつが死んでも誰も気付かない。そういう奴が、そういう場所で最後を迎える。 ニューヨークにハーレムって街がある。ああ、一番ヤバい危険なところだ。11万しか人がいないのに毎年100人が殺される。100じゃ大した事ないか? 日本の人口と比べやすいように計算すると、毎年11万人だ。日本じゃ殺人で死ぬのは毎年6000人だから、18倍だな。 だがハーレムはここんところ変わってきた。ゴミが山になってた空き地にあるばあさんが花を植えた。その上にもゴミを捨てるバカはいて、最初は花なんて育たなかった。花を盗む奴までいた。だが、ばあさんは、ゴミを取り除いて花を植えつづけた。しつこくやってると、ばあさんを手伝う奴も出てきて、やがてその小さな空き地は花壇になった。ばあさんがやったのは、たったこれだけのことだ。だが、ハーレムで殺される奴の数は、今は毎年20人だ。日本からすると、まだ3.6倍だが、とにかく1/5になった。やったのは無論、ばあさんだけじゃない。 犯罪があんまりひどいんで『捨てられた』ビルの落書きだらけのシャッターに、あるおっさんはペンキで絵を描いた。おっさんが描いた上に落書きするバカもいたが、おっさんは描きつづけた。治安がマシになったいまでも描きつづけてる。いまじゃ観光バスのコースにもなってる名物だ。 ……まちを掃除するってのは、こういうことだ。少なくとも、掃除をやった人間だけは、この街を見捨ててないし、見放してない。ちゃんと関心をもって見てる、それも毎日そうしてる。そんなことが分かる奴には分かる。汚れた場所は、掃除したって、また汚れるだろう。だが掃除しつづければ、誰かがその場所に関心を持っていることが、愛着を持つ人間が存在することが、みんなに伝わっていく。これで、何も変わらないなら、その方がどうかしてる。……アメリカの話なんか、つまらんか。じゃあ、日本の話をしてやる。ほとんど、似たような話だがな」 「キョン、柳川って街をしってるか? 知らなきゃググれ。いまは水郷めぐりなんかで観光客も来るぐらいだが、その水郷もきれいにするまでは『埋めちまえ』と毎年嘆願が出るようなドブ川だった。そこを何十年も一人でゴミを拾いつづけたおっさんがいたんだ。最初は『そんなことやってなんになる』と馬鹿にされてたが、10年もやってりゃ、そのうち手伝いたいって変わり者も出てくる。ゴミ拾いが広がって、ドブ川の泥を運び出す予算がついて、そして街がよみがえった。きっかけは、一人のおっさんが飽きもせずにゴミを拾いつづけた事だ。……おれたちには、そこまでの時間はなかったんでな、ちょっと人海戦術を採らせてもらった」 「何をやったんですか?」 「一番金にならず、しかし人の喜ぶことだ。おまえも見知らぬ街で食うのに困ったら、ほうきか火ばさみを借りるか、なけりゃ手でゴミを拾え。掃除のまねごとだ。これだけで、どんなに人相の悪い奴でも善人に見える。金にはならないが、人情にはすがれる。結果から言うと飢え死にしない。体験からおれが言うんだ、これだけは間違いない」 「本当に掃除させたんですか?」 「そうだ。まちで一番汚いところから順に、とにかく徹底的に掃除させた。それから通りかかる人にはきちんと挨拶だ。たったこれだけのことでな、キョン、街はてきめんに変わる。どいつもこいつも地元で手の付けられない悪だった連中がだ、あっという間に善人に生まれ変わったんだからな。これ以上の奇跡は、ちょっとおれでも起こせん」 「よく、みんなやりましたね」 「ああ、こっからが感動的なところだ。例の親分な、率先して、街で一番汚い場所、駅前の公衆便所の掃除を始めた。それも雪の振る日にだ。これでも、ごたごた言う奴がいたらぶん殴るところだが、基本的にはみんな人のいい連中なんだ。おれが何の指示もしなくても、自分達で掃除道具をそろえて、汚いところを見つけてきて、掃除しだした。親分の人徳だな」 「オヤジが仕込んで、その親分さんに掃除させたんでしょ? えげつない手」 「誤解だ、バカ娘。大人をあんまり甘く見るなよ。あのおっさんはな、最初はあえて、子分達を説得しなかった。『涼宮の言うことなら何でもやれ』と命じておく方がずっと楽だ。あとはおれの仕事だからな。だが、おっさんはそうしなかった。その代わり、子分がおれに反発するままにしといて、自分は一人で一番汚いところの掃除を始めたんだ。人に言われてそこまでできるか? やらされてるなら、そんなことは自然とばれる。さっきも言ったが、掃除ってのは、やる人間の気持ちの入れようが、そのまま結果に反映するからな。あとで親分が掃除した便所に案内してやる。この街が変わり出した輝ける第一歩だ。今は、掃除用具が置いてあって、この話を聞き知った連中が誰彼なしに掃除にやって来る。まるでお参りだ。おっさんは、便所掃除で「聖地」を作ったんだ。あそこを見れば、この街がどうなっていくかが分かる。今でも、人に見せたいくらいに、ぴかぴかだぞ」
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/357.html
親父抜きの大晦日その後^2から おれとハルヒは、日付と年が変わるのを待つというより、むしろ迎え撃つように、お重に入り切らなかった和洋中のおせちを、互いに競い合って腹に詰め込んだ。 箸と箸でつばぜり合いを演じているうちに、どこかこの近くの寺の鐘が108つをとっくに越えて突かれまくり、ようやく最後の鐘となったところで、主のいない涼宮家の電話が音をたてた。 「誰よ、こんな時間に?」 「当然、親父さんだろ?」 「あー、あいつなら、やりかねないわ」 となおも箸を止めないおれたちのかわりに、ハルヒのお母さんが受話器を取った。もとい、スピーカーのスイッチを入れた。 「皆の衆、ハッピィ・ニュー・イヤー。なんだ、キョン、まだいるのか?」 「いちゃいけないっていうの? 話によっては相手になるわよ!」 「年越しだ。過去の遺恨は水に流せ」 「正月早々、下水が詰まりまくりよ」 どれだけ膨れ上がったか見当もつかない遺恨の方はさておき、 「では、改めて。あけましておめでとう。今年こそ、いい年だといいな、バカ娘」 「去年も、今年も、来年も、ずーっとあとまで、毎年がいい年よ、あたしは。 ね!」 ハルヒ、電話の向こうとはいえ、親父さんの前で、そのアイ・コンタクトに応えろというのか。 「ね!!」 わ、わかった。わかったから、まずフォークとナイフをテーブルに置けって。そんなもの人に向けるな。 「ああ、そうだな。……親父さん、明けましておめでとうございます」 「うむ。宇宙の命運はおまえにかかってるからな。今年は長門の映画もあるし、よろしく頼むぞ」 いや、メタとはいえ、そのネタ振りは鬼門の上に長門で、しかも前門の虎、後門の狼では? 「有希の映画ってどういうこと!?」 まてまて、ハルヒ。新年に入って、たった1分で暴れるな。 「キョン、前売り券は団員分、確保してあるんでしょうね?」 そっちかよ!? この上、リアクションの取れないメタ・ネタをかぶせてくるな。収拾がつかん! 「舞台挨拶はどことどこ!?」 だから、収拾がつかないんだって!! 「二人とも、そろそろ出なくていいの?」 さすがは、ハルヒの母さん、ナイスなタイミングで助け舟を出してくれる。 「そうだわ。いくわよ、キョン!」 「じゃあ、親父さん、失礼します」 電話の向こうに挨拶する。 「ああ、また、近いうちにな」 何でもないようでいて、伏線めいた言葉を、親父さんは笑って言った。 ハルヒとおれは、深夜の初詣をすませ(その間の出来事は、諸般の都合により割愛する)、再び涼宮家の前まで戻って来た。何故だか雪はすっかりやんでいて、星まで見える始末だ。ま、わるいことじゃないけどな。 「じゃあ、駅前に9時きっかりに集合だからね!」 新年早々、SOS団は今年もそろって初詣ラリーである。 「わかってる」 「帰りはSOS団のみんなもうちに来てもらうわ。あたしたちだけじゃ食べ切れないもの」 「ああ、それがいいな」 でないと食べ切れんし、もったいないお化けが出る。 「きょんくーん、おそーい」 妹め。年越しとはいえ、午前2時を回ってるぞ。 「遅いのはおまえだ。いつまで起きてるんだ? 明日の集合に寝坊しても、置いてくぞ」 「だって、キョン君に『おめでとう』って言わないと」 妹よ、なんと殊勝な心がけだ。 「むにゃむにゃ……でよかったね、おめでとう、キョン君」 何だって? 何がよかったんだ? 「だから、むにゃむにゃ……だよ! もう、新年早々、すごいふぃるたー!」 なにしろ新年だからな。明日は早い。世間的には普通だが、あいつらに世間の常識は通用しないからな。早く寝ろよ。無論、おれも寝る。 「うん、おやすみ、キョン君。おいてっちゃお仕置きだよ」 親父抜きの大晦日その後^4へ
https://w.atwiki.jp/akatonbowiki/pages/5832.html
このページはこちらに移転しました 親父 作詞/192スレ407 親父が嫌いだ! 親父が憎い! 俺はなんにも悪くはないよ 俺の全てを否定してくる 俺の好みの全てを否定する 好きな映画 髪型 服装 何一つ認めちゃくれなかった 俺の全てを否定してくる 俺の生き方を全否定する 好きな音楽 夢に友達 何一つ認めちゃくれなかった 親父が嫌いだ! 親父が憎い! 俺はなんにも悪くない 喧嘩 喧嘩 死ぬその時まで お互いに認め合う事はない 何一つ認めちゃくれなかった 何一つ認めちゃくれなかった 何一つ認めちゃくれなかった 親父のクソヤロー!!!!!