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第一章 使い魔は暗殺者 中編 リゾットとルイズが歩いて城に戻ると、すでに次の授業は始まっていた。 ルイズは渋々ながら使い魔を引き連れて次の授業に出席しようとしたが、リゾットはそれを聞いてあっさりと首を振った。 「悪いが、仲間たちの様子を見に行きたい」 その言葉遣いにルイズはご主人様に対する礼儀がなってない! と叫んだが、リゾットは何処吹く風といった様子だったので、まあしょうがないわね、と許可を出した。 何しろ、これ以上遅れたら教師にどれだけ怒られるか分からない。 ルイズは近くを歩いていた黒髪のメイドに声を掛けると、リゾットを救護室まで案内することと寮の自分の部屋の場所を教えるように言った。 ルイズと同じ年頃のメイドはそれを礼儀正しく承ると、リゾットを連れて救護室へと向かった。 話は少し遡る。 まだリゾットとルイズが草原を歩いている頃、コルベールによって運ばれた六人のうちの一人が目を覚まそうとしていた。 トリステイン学院の救護室はかなり広い。 戦争が起きた場合、この学院も砦として活用されるので、大勢の兵士を収容するためなのだが、平和なときは無駄な広さである。 しかし、今はコルベールが連れてきた六人の奇妙な平民たちが眠っていた。普段使用しないベッドにもシーツを敷き、布団をかけて昏々と寝ている。 水のトライアングルメイジである治療師は全員に外傷が無いのを確認し、目が覚めたときの説明役のために椅子に座る。 地方の小貴族の三男坊だった彼は、一応貴族ではあるが、領土は持ってない。 領土がないということは、職が無いということなので、働かなければいけない。 けれど、この職が中々見つからない。実力の無いメイジだと門戸は狭いし、やっと就職できたとしても給料は安い。 そのせいで危険だけれども金になる傭兵や泥棒などになるメイジもいる。 国はそんなメイジを貴族の恥さらしと呼んで必死になってとっ捕まえようとしているが、そんなことをする前に給料上げた方がいいんじゃないのか、と彼は思っている。 ちなみに彼は水のトライアングルであったし、治癒魔法に優れていたのでけっこう門戸は広かった。 そんな中でこの学院の治療師を選んだのは年老いても出来そうな仕事だったからだ。それに、子供たちと触れ合う事も楽しかった。 そんな彼も六十の半ば。そろそろ退職時期かと考えていた。けれど後任の治療師が来ないので今に至る。 (オスマン学院長もそろそろ誰か採用してくれんかのー。この歳だと患者をベッドに寝かせるのも一苦労なんじゃ) コルベールが手伝ってくれたからどうにかなったものの、六十代の老人には少々骨の折れる仕事だった。 何しろ全員屈強な男たちだ。一人だけ女のような奴がいたが、しっかり筋肉はつけているようで、中々持ち上がらなかった。 (にしても、奇怪な格好だわ。最近の平民の間ではこんな服が流行っとるのかの。見たことの無い材質もあるようだし……。特にあの片目を隠すのは最先端流行ファッションとかいうやつかの?) 治療師は一番奥のベッドに寝ている男に視線を移す。 最初は女だと思った平民だ。 ちゃんと見ると男だと分かるのだが、他のがっしりとした骨格の男たちに囲まれると、アレ? となる。 奇妙な対比である。 しかし、彼らが運ばれてからすでに三十分ほど経過しているが、誰も起きない。 治療師は少し退屈してきたので、自室から本でも持って来ようかと腰を上げた。 と、そのとき、 「……う……うぅ……?」 眠っている一人が僅かな唸り声を上げた。 見れば一番奥のベッドで横になっていた妙な目隠しをつけた男がもぞもぞと動いている。 治療師は驚き、彼にしては早いスピードで側に近寄った。 「おお、目が覚めたかの?」 枕に顔を擦りつけ、ごにょごにょと何かを口にしている男に、治療師はそう尋ねた。 「…………ん? 何だ、ここは……。オレはいったい…………はっ、蛇だ! 蛇が!」 すると、声に反応して目を開けた男は突如として上体を起こして叫んだ。 治療師はそれを避けようとしてひっくり返りそうになったが、後ろの壁に手をついて何とか体を支える。 「お、落ち着きたまえ。ここに蛇は居らんよ。ここはトリステイン魔法学院の救護室じゃ」 「って、ここは駅じゃない? テルミニ駅にはこんな石で出来た部屋はないはずだ……。 ということは、何者かに運ばれたという事か? ブチャラティの奴らではないな……。 ボスの配下か?」 が、男は治療師の声が聞こえていなかったらしい。 ブツブツと独り言のような声で早口に何かを喋っていた。 治療師はこの平民が『サモン・サーヴァント』で呼び出されたことを思い出して、男の混乱に納得する。 そうして、もう一度声を掛けた。 「ここはトリステイン魔法学院だよ。 君たちは生徒の『サモン・サーヴァント』によって呼び出されたんだ。 ここまではミスタ・コルベールが魔法で運んできてくれたんだよ」 ぴくっ、と男の肩が揺れた。どうやら今度はちゃんと耳に届いたようだ。 治療師はこれで一安心と息を吐きかけて、 「トリステイン魔法学院? 『サモン・サーヴァント』? 魔法で運んだ? …………どういうことだ? 答えろ! お前は誰だ?!」 ぎょっとした。落ち着くどころか益々興奮した男が治療師の胸倉を掴んで喚く。 だらだらと汗を流して、眉は吊り上がり、目は爛々と輝き、唇の端は捲りあがっている。そのあまりの剣幕に治療師はひぃっと、小さく悲鳴を上げた。 怖すぎる。左目だけがこちらを睨んでいるのも怖い。 杖は職務机の脇に立てかけているので魔法を使うことも出来ない。 「答えろって言ってるだろ?! ここは……、ここは……、魔法が存在する世界なのかッ?!」 「…………………………………………………………………… ……………………は?」 ああ、わしの人生オワタと、心の中で始祖ブリミルに対する祈りの言葉を唱えていた治療師は、 続いてとても嬉しそうに発された間抜けな質問に、心底気の抜けた声を出した。 プロシュートはぼんやりとした気持ちでどこかに立っていた。どこかは分からない。 というより、足に何かが触れている感じがしない。 黒で塗りつぶされた空間の中に、曖昧な感覚のまま立ち尽くしていた。 自分は死んだはずだ。と、プロシュートは思った。 ブチャラティと戦い、列車の外に飛ばされ、ブチャラティの策略にはまり落とされた。 それでもペッシを援護するために車輪に捕まり、ザ・グレイトフル・デッドを使っていたが、 段々意識が薄れていきとうとう…………途切れた。 ――ペッシは娘を手に入れられたのだろうか? メローネとギアッチョはどうしているのだろうか? リゾットはボスを倒せたのだろうか? 残された仲間の事が気に掛かるが、プロシュートには確かめる術も無い。 ただ、この漆黒の闇に囲まれていることしか出来ない。 それにしても、ここはどこなのか。天国でも地獄でも無いことは確実だが。 死後の世界とはこういうものなのだろうか。 何もすることが無いので、プロシュートはこの場所について考える。 けれど、すぐに堂々巡りするだけだと気付いて、別のことを考えようとした瞬間、 ぐいっと何かに引かれる感触がした。 ――何だ? プロシュートは錆び付いた歯車のように働かない思考で呟いた。 その間にもプロシュートはぐいぐいと引っ張られていく。 上か下かは分からないが頭の方向へと、何かがプロシュートを運んでいくのを感じる。 それと同時にプロシュートを囲っていた闇が薄くなっていった。 頭上から光が射してきたのだ。 それは瞬く間にプロシュートの周りの闇を払うと、さらに輝きを強くする。 ――くっ、目が! プロシュートは反射的に顔を庇った。 そうして、あまりの眩しさに目が開けられなくなったとき、目が開いた。 「……か! ディ・モールトッ! ディ・モールトッ! よいぞぉッ!」 目が覚めた瞬間、プロシュートは自分がベッドに寝ていることに気付いた。 白い、清潔そうなシーツだ。あまり使われて無いらしく、生地は少し硬い。が、手触りはよかった。 「…………またメローネがゲームをやってるのか。 普段は冷静で頭脳派なんだが、ジャッポネーゼが絡むと途端に人が変わるからな……。 それがなけりゃあイイ奴なんだが……」 起き抜けに聞こえたメローネの歓声から、ここがチームの家だと判断したプロシュートは 二度寝をしようともう一度毛布を頭から被り――、 「ちょっと待てぇぇぇぇぇッッッッ!!!!! これはどおぉぉいう事だあぁぁぁぁぁッッッ!!!!」 有らん限りの音量を振り絞って叫んだ。 そうして、それを耳にした残りの仲間たちが、 「なんだ?! プロシュート! 敵か?!」 「おいおい、プロシュートォ。いきなり叫ぶなよ。煩いだろぉ」 「プロシュート兄貴! なんかあったんですかい?!」 「うっせぇぇなぁプロシュート。オレは眠いんだ。起こすなよ」 と、プロシュートとの関係がよく分かる言葉を発してくれた。 ホルマジオとペッシは非常事態だと思い、勢いよく上体を起こした。 イルーゾォとギアッチョは耳を塞いで眠る気満々の姿勢だ。 そんな二人の反応――ホルマジオとペッシは飛び起きたのでよしとする――にプロシュートはギアッチョよりも盛大にブチギレた。 「これが叫ばずにいられるかぁッ!!! なんでオレは……オレたちはここに居るんだッッ?!! オレたちは……それぞれに別れてブチャラティたちを追っていたはずだ!!!」 その言葉に、ベッドの上に居た六人は、この状況の異常さに気付いた! 「そうだ! オレは……ナランチャの野郎に殺されたはずだ!」 「オレはあの三人と戦って変なウイルスに……。 クソッ、もう少しで鍵を手に入れることが出来ていたのによぉ!」 「お、オレは兄貴の仇を取ろうとしてブチャラティにバラバラにされたはずなのに……。 な、なんでこんなところに?」 「オレは……、ミスタの野郎を殺そうとして、新入りのヤツに殺された……。 クソクソッ! あと一歩だったのによ!」 「オレはブチャラティを列車から落とそうとして逆に落とされた。 最後の力でザ・グレイトフル・デッドを使ったが……。駄目だったと言うわけか」 五人はベッドから飛び降りると、輪になって互いに自分たちが失敗したときのことを語り合った。 そして、全員が語り終わると同時に、部屋に沈黙が落ちる。 自分たちは負けた。それならばリーダーは? 数少ない情報でボスを倒せたのだろうか。それとも、死んでしまったのか。 「…………とにかく、なんでオレたちはこんなところにいるんだ? 全員、別々の場所で死んだっていうのに、こんなところに揃ってるのはおかしいだろ」 まるで通夜か葬式のような雰囲気になった気分を吹っ切るためにプロシュートは強引に話を切り替えた。 最初に気付いたせいか、当初の驚愕は比較的治まっていた。 混乱して喚いていても、任務の失敗を思い出し沈鬱としていても、意味は無い。 今やらないといけないことは、この状況を把握してリーダーのところへ帰ることだ! 五人は戸惑い揺れていた瞳に決意と覚悟を宿すとぐっと表情を引き締める。 そうして、互いの顔を見合わせた――ところで、メローネがいないことにようやく気付いた。 「おい、メローネのヤツはどうした?」 「まさかあいつだけここに来ていないとかいうオチじゃねーよな」 「そ、そんな……。メローネだけ居ないなんてこと……」 「チェッ、あいつだけ仲間はずれってことか?」 「いや、オレはあいつの声で目が覚めたんだ……」 仲間が一人居ない。そのことに妙な不安を感じて四人は顔を見合わせる。 が、一人プロシュートだけは確信をもって周りを見渡し……、 「おお! すごいぞ! こんなことも出来るのか!」 「ほっほっほっほっ。 これは基本の基本である『錬金』で、位が高いメイジならさらにすごい事も出来る。 わしはトライアングルメイジの中級クラスぐらいの実力だからそうはできんがな。 それに、『錬金』を得意とするのは土のメイジだから水のメイジであるわしはあんまり使用せん」 「なるほど、なるほど。相性というものだな? ふむう……しかし魔法というのは貴族の血を引かないと使えないのだろう? それなのに全てのこういった作業を魔法だけで行っているのか?」 「うむ。メイジは数が少ないからね、非効率ではある。 それに、こういった仕事は給料が低い事もあって専門的に行うメイジはほとんど居らん。 自分が必要だと感じたときに自分が必要な分だけ作るというのがメイジの基本になっとる」 和気藹々と語り合うメローネと、黒いローブを纏った変な老人を見つけた。 こちらがすごい覚悟をした後で、少々盛り上がっていたところなので、そのギャップはかなりすごかった。 どれくらいすごいかというと、 シリアスなシーンでスマイル全開でタップダンスを踊るリゾットを目撃してしまった! ぐらいの衝撃である。 「……………………………………………… ………………………………………………」 「……………………………………………… ………………………………………………」 「……………………………………………… ………………………………………………」 「……………………………………………… ………………………………………………」 「……………………………………………… ………………………………………………」 さっきとはまた違った意味で不穏な空気が五人を包む。 ペッシは、どこからともなくゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴという音や、 ド ド ド ド ド ド ド ドという音が聞こえてきた気がした。 なんだか周りに居る仲間や兄貴の顔が大変な事になっていっている。 反対に自分はどんどん脂汗を流しているような気がしてきた。 (プロシュート兄貴ィィ~~~~~ッ。目がイってるぜ~~~~~ェェッッ) ペッシは後退る。ブチャラティとの戦いでマンモーニから脱却したとはいえ、 まだまだ経験の浅いひよっこでしかない彼には、この本物たちの放つ気配は重い。 「なるほど! なるほど! ディ・モールト! ティ・モールト! よく分かったぞぉ! だからこそ貴族は平民を支配できているのだな! そういった科学技術を独占する事で!」 「そうとも言えるな。平民には鉄を精製したり火の秘薬を作ったりすることはできん。 ところでカガクとはなんなのだ?」 「あっ! あっ! それは秘密だな。 オレたちにとって重大な秘蘊(ひうん)だからだ。タダで教えるわけにはいかないものだ」 そんな彼らとは正反対に、メローネは至極楽しそうに会話を続けている。 ああ、こんなに楽しそうなメローネはベイビィ・フェイスの息子を操作しているときか、ジャッポネーゼ絡みのときだけだ。 そう、老人と語り合う彼は、とても、とても、とても――――幸せそうであった。 ブッチィィィィ―――――z______ンッ!!!!! その瞬間、何かが切れる音をペッシははっきりと耳にした――と思った。 「めぇぇぇぇぇぇろぉぉぉぉぉぉねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 ペッシを除く全員が、声を揃えて怒鳴る。 あまりの大音量に毛布が浮かび上がった。枕も宙に浮く。ベッドも床から足を離した。 地球のギネスブックには、『閉店だ!』と叫んだ酒屋の亭主が窓ガラスを割った記事があるが、 そのレベルの大声である。ローブを着た老人は漫画のように飛び上がった。 しかし、メローネはふんふんと鼻歌を歌いだしそうなくらいの上機嫌な空気を撒き散らしつつ、 「オマエたち起きるのが遅いな。寝てばっかりいると脳が溶けるぞ」 と、のたまった。 ――ちなみにそれに対するプロシュートたちの返答は――スタンドでの容赦ないオラオララッシュであった(人、これを自業自得と言う!)。
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おれは…死ぬのか…吸血鬼にもなれず…無様な姿をジョジョに晒して…死ぬのか… ……いやだ、そんなのは嫌だーーーッ!!!! おれは使い魔になるぞジョジョーッ!第一話 ふと我に返るとおれは地面に仰向けに寝ころんでいた。抜けるような青空が眼前に広がっている。 周りからは太陽の光を浴びた青草の匂いがかすかに漂ってくる。 おれは死後の世界など信じていない。だが、もし本当に死後の世界があったのだとしたら… まさかおれは天国に来たのか? 反省も後悔もする気はないが自分の行っていた事が良い行いだとは到底思えない。 だとしたら神という奴はとんでもない―馬鹿野郎だと言うことだッ! と、いきなり視界に少女の顔が写る。おれを覗き込んでいるらしい。 「あんた…誰?」 変な髪の色だ―それがディオの第一印象であった。幼さを残しながらも顔立ちは整っている。 だが髪の色が桃色がかっているのはどういう事だッ!天使というのはまさかピンク色の髪をしているのか? それにあのスカート!ボヘミアン(*19世紀の自由人)の踊り子でもあんな短い丈ではないぞッ! 顔を上げてあたりを見回すと、似たような格好をした人間が沢山いることに気がついた。 遠くには中世を思わせる城もある。どうやらここは天国でもあの世でもないようだ。 「あんた誰って聞いてんのよ!」 先ほどおれを覗き込んでいた少女(ガキ)がまた尋ねてきた。まずは状況を把握する必要がある。 「ここは…どこだい?」 「質問を質問で返すなーっ!!疑問文には疑問文で答えろと、教えられてるのか!?」 どうやら怒らせたらしい。フン、自分から聞いてきて勝手に怒り出す。これだからガキは。 手で草を払いながらできるだけ丁寧に対応する。 「失礼した、ぼくはディオ・ジョースター…」 ここで考える。おれはジョースター卿を殺そうとした。また、あのジョナサンと同じ姓でいる事にももはや耐えられなかった。 そろそろジョースターの名を棄ててもいい頃合いだろう。 「すまない、言い間違えた。ディオ・ブランドーだ。」 「どこの平民?」 胡散臭い目で見つめてくる。それよりも平民だとッ!?このディオの格好はどう見ても貴族の格好だ。 少なくともよほど裕福な庶民でない限り間違える事はないだろう。 だが、こいつは今おれの事を平民だと断定した。よく聞くと周りからも 「ゼロのルイズが平民を召還した…」 「やっぱりルイズはルイズだ…」 という声が聞こえてくる。ところどころから笑い声も聞こえる。どうやらあのガキはルイズというらしい。 だが奴らの目――まさかこのディオを笑っているのか!?年端もいかないガキどもが――ッ! 「フン、どこに目がついているのかは知らないがこれでもぼくは貴族でね」 「はぁ?マントも杖もないのにどこが貴族なのよ?」 杖?マント?何を言っているんだ、こいつは。 よく見ると周りの奴らも全員マントに杖を持っている。 するとおれは死んだのではなく黒魔術かなにかでここに召喚されたというのか…? よく見ると奴らの足下には様々な動物がいる。まさかおれがあいつらと同じだというのかッ! このディオがッ! ルイズはショックを受けていた。今まで魔法は失敗だらけ、この春の召喚に失敗したら ひと思いに退学…させて…NO!NO!NO! りゅ…留年?NO!NO!NO! りょ…両方ですかぁーっ?YES!YES!YES! もしかして家門の恥として絶縁ですかぁーっ!YES!YES!YES!OH!MY!GOD! な結果になるのは目に見えている。だからこそ爆発の後、なにかが倒れているのを見た時は喜びで泣きそうになった。 だが現れたのはドラゴンはおろかネズミでも蛙でもない、一介の平民だった。 そ、そりゃちょっとハンサムだけど今私が欲しいのは使い魔であってイケメンの平民じゃない! だからこそルイズは詰め寄る。 「ミスタ・コルベール!もう一度召喚をやり直させてください!」 だが現実の壁は非情だった。 「ミス・ヴァリエール、それはできない。二年生に進級する際、君達は『使い魔』を召喚する。今やっているとおりだ。 それによって現れた『使い魔』で、今後の属性を固定し、専門課程へ進むんだ。一度呼び出した『使い魔』は 変更する事はできない。何故なら春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ」 「でも…」 「ミス・ヴァリエール。今君の選べる選択肢は二つだ。あの青年と契約するか、それとも留年するかだ。」 「くっ…」 「あら、よく見るといい男じゃない。ねえ、タバサ」 「…。」 この一連の流れを外野は楽しんでいた。 「あの」ゼロのルイズが使い魔召喚に成功したと思ったらよりによって平民を召喚したのだ。 『全く期待していなかったサーカスを見に行ったら意外と面白かった』その場の空気の殆どがそんな感じであった。 特にキュルケは楽しんでいた。ルイズはツェルプストー家にとって今、最低限張り合うに値する人物となったのだから。 タバサは…見ていなかった。本を読む方に既に意識を移していたのである。 視界の片隅で先ほどのガキが禿の男と揉めている。話の内容から察するにどうやら本当におれは奴らに『召喚』されたらしい。 吸血鬼だってこの世に存在するんだ、今では召喚だってあり得る話だ。ディオがそう考えていると 男との口論を終えた少女はディオに歩み寄ってきた。 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから!」 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。 この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 またも意味のわからない事を畳みかけてくる少女に反論しようとした瞬間、ルイズの唇がディオのそれと重なる。 ズキュウウゥンッ!! どこからともなくそんな音が聞こえてきた。 「やった!さすがゼロのルイズ!俺たちにできないことを平然とやってのける!そこに痺れるあこがれるぅ!」 とは後に当時の事を語るマリコルヌの弁である。 (ど…どうなのかしら…?) ルイズがディオの顔を見ると、ディオは醜悪な顔――はっきりと人間の表情でいえば怒っていた。 「貴様!このディオに対していきなりなんの真似だーッ!」 ディオの拳がルイズに迫る。避けられない!ルイズは思わず目を瞑った。だがいつまでたっても殴られる気配はない。 恐る恐る目を開けるとディオは左手を庇うようにして屈み込んでいた。 「ぐっ……貴様…何をした……ッ!」 そこにははっきりと使い魔のルーンが刻まれていた。 (も…もしかして成功した?) 「ミス・ヴァリエール、進級おめでとう」 ふと気がつくと後ろでコルベールが微笑んでいた。 『ゼロ』のルイズ、魔法が生涯で一度も成功した事がないと揶揄されたルイズであったが使い魔の儀式は成功したのだ。 今まで張り詰めていた気が抜けたルイズはへたへたと座り込んだのであった。 to be continued…
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人間がこの世に存在するのは金持ちになるためではなく、幸福になるためである byスタンダール ドアを開けるとそこにいたのはワルドだった。 「おはよう。使い魔くん」 「おはようございます」 「おはようございます」 五月蠅いぞギーシュ。会話に入ってくるな。 しかし朝からどうしたというんだ?朝食にはまだ早いだろう? 「ええと、ギーシュくん。少しの間ご退出願えるかな」 「は、はい」 ギーシュは戸惑いながらも出て行く。 「きみは伝説の使い魔『ガンダールヴ』なのだろう?」 そしてギーシュが完全にいなくなったことを確認すると、ワルドは突然そう切り出した。 「は?」 心臓がバクバクする。誤魔化せれた、誤魔化せれたよな!?なにも顔には出してないよな!? うまく惚けた振りできたよな!? なんで知ってんだよ!?ありえねー!ふざけんなよ!? 「……その、あれだ。フーケの一件で、僕はきみに興味を抱いたのだ。そしたら伝説の使い魔『ガンダールヴ』だそうじゃないか」 ワルドは何か誤魔化す様な感じで首を傾げながら言う。反応からしてどうやらこちらの変化には気づいてないようだ。 よかった、いつも無表情でいて。……よし、落ち着いた。もう大丈夫。 私が『ガンダールヴ』だということを知っているのはオスマン、ならびにオスマンと一緒に調べた(らしい)コルベールだけだのはずだ。 知っているはずがない。それに『ガンダールヴ』は伝説なのだ。オスマンはそれを勿論知っている。コルベールもだ。 伝説が復活したとなれば色々騒ぎになるはずだ。その騒ぎを恐れてオスマンとコルベールは秘匿しているはずなのだから喋るわけがない。 さすがに色仕掛けだとかそんなもんで喋るものでもないだろう。 ルーンを見られたという可能性もあるがいつも手袋をしてるし、洗濯等の水周りぐらいでしか外さない。 それにルイズにすらルーンを見せてないしな。 おかしい、そして怪しい。 「『ガンダールヴ』ですか?それは一体?」 誤魔化すことにしよう。そしてワルドの様子をさぐる。 「いや『ガンダールヴ』だよ。まあいい。僕は歴史と、兵(つわもの)に興味があってね。フーケを尋問したときに、きみに興味を抱き、王立図書館できみのことを 調べたのさ。その結果、『ガンダールヴ』にたどり着いた」 確定だ。こいつは怪しいんじゃない、怪しすぎる。敵である可能性もでかい。 何でその王立図書館で俺のことが調べられるんだ?どうしてそこで『ガンダールヴ』が出てくる?敵かもしれないという可能性は暴論じゃないはずだ。 敵じゃなくても何か隠してるのは間違いない。 「あの『土くれ』を捕まえた腕がどのぐらいのものだか、知りたいんだ。ちょっと手合わせ願いたい」 おいまさか…… 「……それのことですか」 そう言ってワルドの腰に刺さっている杖を指し示す。 「これのことさ」 ワルドは薄く笑いながら杖を引き抜く。もしかしたら試合中の事故とか言って私のことを殺すつもりなのかもしれない。 「断ります」 「へ?」 ワルドは目を丸く見開き呆けた表情をする。断れるとは思って無かったのだろう。滑稽だな。 しかしすぐに正気に戻る。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。お互いの力量が測れるいい機会だと思わないかい?お互いの実力がわかれば戦闘においても作戦が立てやすくなる」 しつこいな。そんなにしてまで私を殺したいのか? 「心配しなくてもあなたの実力は大体予測がついてます」 「へ?」 「おそらく『風』のスクウェアメイジで接近戦でも強いであろうということ。それと戦いなれしているであろうということ。それだけわかれば十分です」 体つきがいいからな、鍛えているのだろう。だから接近戦も出来るはずだ。もしかしたらそこに魔法を織り交ぜてくるのかもしれない。 『風』だと判断したのはギーシュの使い魔への攻撃とギーシュに迫る矢を防いだ時に『風』属性の魔法を使っていたからだ。 とっさに何かする場合、自分が得意とする属性が出るものだと思っている。それに魔法が使える奴は自分の得意な属性を贔屓したがるようだしな。 なんにせよ、ワルドの呆けた顔は滑稽だった。
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鏡の世界は左右対称で、生き物は『許可』しないかぎり一匹たりとも存在しないが、それ以外は非常に忠実に外の世界を再現する。 爆発音についでルイズの声(なんか怒ったような調子で俺を呼んでいた)、少なからず危険を感じたオレは とりあえず鏡の中から『外』の様子を推測してみる事にした。(ビビってるんじゃない、慎重なんだ。) 生き物(主に人間だな)が映らなくとも、その気配を探るのは割りと簡単な事だ。 人が歩く時、そいつが特に気を使わなければ、荷物は空中を移動し、絨毯は撓み、ドアはひとりでに開く。 (鏡の世界になれていない奴が見ると、相当に気持ちの悪い光景だ) もっと注意してみれば埃の舞い上がる様子だとか。どれぐらいの人数がどちらへ移動するか、大体ならばわかるのだ。 無残に吹っ飛ばされたドアから、大人数が出て行く感じがある。 ふうん、授業だとか言ってたかな、あのハゲ。ここは学校なのだろうか。 慎重に『教室』と思われる部屋を覗き込む。確かに大学なんかの講義室に似ている・・・・が、 机や椅子は派手に吹っ飛び、窓ガラスは割れ、酷い有様だ。やはり爆発か? 爆発だとしたら、鏡の中でも危険だな。 『物体』はこちらの世界でも変わらず動く。 ラリッた野郎がナイフを振り回したり銃を乱射したりすれば、それらは俺に当たるんだ。 勿論半端なモンならマン・イン・ザ・ミラーで叩き落とせる。パワーは無いが、鏡の中はコイツの世界だ。 オレはどんなに頑張ったってティッシュボックス一つ動かせはしない。が、 正反対に『マン・イン・ザ・ミラー』は、全てを動かす権利を持っている。 (『許可』して引き込んだものはその限りじゃあないんだが。『鏡に映ったもの』だけが、マン・イン・ザ・ミラーの自由になる。) だが爆発ってのは突然だし、思いもしないもんがスッ飛んで来るじゃあないか。 咄嗟に破片を防いでも、衝撃で後ろから本棚なんか倒れてきたら笑えもしないし 大体弾が出るモノは銃の形をしているが、爆発するものは爆弾の形をしていない方が多いだろ。心構えが出来ない。 『マン・イン・ザ・ミラー』はそんなに素早い動きは出来ないからな・・・・ 『熱風』なんかが無い分やっぱり『こっちの世界』の方が安全なんだが、それでも危険なのに間違いは無かった。 恐る恐る周囲の状況を探る・・・・オレを守れよ、『マン・イン・ザ・ミラー』・・・・何が爆発したんだ・・・・? 「おっと。」 足元で何かが動く・・・・塵取り?塵取りと箒だ。無駄の多い動きでガラス片を集めている。 ――――『罰掃除ですか?そんな・・・・』 『こっち側』へ引っ込む前に聞いた言葉を思い出す。 という事は、ここにルイズが居るって事か?掃除を? (罰掃除・・・・って事は、この爆発はルイズのせいなのか。) それなら原因なんか探す必要も無い。爆発物は『ルイズ』だ!『ルイズのスタンド』だッ! スタンド使いを前にして大切な事は、『よく考える事』だ。 スタンドって言うのは考えれば考えるほど色んな事が出来て、色んな事が出来ない。 自分は何をすべきか、相手は何が出来るのか、考える事が『大切』―――― ルイズのスタンドは(『なんとか・サーヴァント』ってやつ)動物を連れてくるって言っていたな。 爆発なんて、言っていなかった。隠していたのだろうか? 昨日の会話を思い出し、推測し、結論を出すべきだ・・・・『爆発する』『それを隠していた』事を踏まえて・・・・ ――――あたしは猫とか梟とか、出来たらドラゴンとかが良かったの! 動物を呼び出してどうするんだ?大体何に使うんだ 動物のがマシよッ!アンタみたいに口答えしないでしょ ――――『サモン・サーヴァント』は召還するだけで、帰すなんて出来ないわ ――――それに出来たってね、帰しやしないわ。あんたは私の使い魔だもの。あたしの―――― あ、あたしの・・・・何だって・・・・これは、これはッ! 恐ろしい仮説が成り立つッ!『サモン・サーヴァント』・・・・不自然な所の!説明がつくッ! 『それに出来たってね、帰しやしないわ・・・・あんたはあたしの――――爆弾だもの。』 こ、こういうことじゃあ、ないのかッ?! 『何処かから生き物を呼び出し、そいつを爆弾に変える』もしくは『爆弾を取り付ける』・・・・凶悪な能力だ。 呼び出された動物が勝手にうろつくのを利用して、離れたところでドカン!か? 『動物がいい』のは『口答えしないから』。確かに人間だと面倒くさい。説明が無いのもうなづける。 こんにちは、イルーゾォ。早速だけどあなた、もうじき爆発するから――――なんて言われたら、俺はすぐさまあいつを殺すだろう。 だとすれば、どうする?オレはもうルイズのスタンド攻撃を受けている!『まだ爆発していない』ことは確かだが・・・・いつだ? 『爆弾をとりつける』ってんなら、オレはもう安心だ。『マン・イン・ザ・ミラー』はオレしか許可しなかった・・・・ 知らず知らずのうちに取り付けられた『爆弾のスタンド』は、鏡の外に置き去りにされたはずだ。 だが、もうひとつ可能性がある。『オレ自身が、爆弾になっている』、十分にありうる!(スタンド能力ってのは、理屈なんかお構いなしだからな。) 鏡を通り抜ける時、違和感が無かった。無い、『それこそ違和感』だッ。後者のほうが、後者のほうが可能性が高いんじゃあないか? その場合、ヤバい。物凄くヤバい。いつ爆発するかさっぱりわからないぞ・・・・どうする?オレは?何かきっかけがある筈だ・・・・ (怖がってる時間は無い!冷静に考えるんだ、イルーゾォ・・・・おまえは暗殺者だ!) そうだ、さっきルイズの奴。なんて言った? イルーゾォは何処なのよ、だ。居なくなったオレの事を気にしていた。そりゃあ爆弾なんだから、危険なものだから気にはするだろう。 だが、その危険なものがさっき、ルイズの近くで爆発していた! でかい爆発なら本体も危険。遠距離がいい。『爆弾の動物』を遠くまで歩かせて、爆発させるのが。それが何故だ? 無理矢理になるが・・・・一つ可能性をあげるならば、『爆発は近くでしか起きない』だ。 勿論そんなのはおかしい。近くで物が爆発するスタンドなんて危険で仕方ないからな。 しかしそこで、『イルーゾォは何処』、だ。仮に『近くで爆発する』なら、近くに居ないオレの事を気にする必要があるか? そう、そうだ・・・爆発は『近く』じゃない、『見えるところ』で起こる! ルイズが視認する限りッ!ルイズが、『爆弾に変えた生き物』は『爆発させることが出来る』!! こ、これで間違いないはずだ、『サモン・サーヴァント』の能力・・・・仮説は間違ってないはずだッ (注:根本から間違っています) う、うあああああああ・・・・『ルイズにサモン・サーヴァントについて聞こう』だなんて・・・・俺は恐ろしい事を考えていた。 そんなもん聞いたら十中八九、消し飛ばされる!危ない、危ないところだったぞ・・・・ しかし、逆に考えると、俺の『マン・イン・ザ・ミラー』の能力ならルイズから隠れきる事が出来る。 ありがとう、『マン・イン・ザ・ミラー』。お前のお陰でオレは大丈夫だ! しかしそんな危険なスタンド使いの『爆発』にビビらず、しかも『罰掃除』なんか言いつける奴が居るって事は、 どうやらこの学校、スタンド使いだらけらしい。(なんて事だ!) スタンド使いだらけのギャング組織だってあるし、スタンド使いだらけの学校があっても不思議じゃあないな。 って事は勿論、幹部に当たる『教師』も、ボスの『校長』も、まとめて殆どスタンド使いで、ルイズよりも『格上』・・・・ッ! 畜生!どうすればいい・・・・味方は居るのか?オレは、オレはどうやって帰ったらいいんだ! 唯一つ確かなのは、『鏡の中は安全』・・・・それだけ! オレは『此処からでちゃあならない』!めったな事が無い限りッ!
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モット伯の屋敷が焼け落ちてから数週間が経過したが、大きな動きはなかった。 王宮としても現在はアルビオンへの対処に頭を悩ませなければならないのでそんな一メイジ、それも悪評が立ちまくりなやつなどどうでもよかったのだ。 領地で働いている平民には事故だと知らされ、もうしばらくすれば複数の領主がその土地を分割する手はずになっていた。 「運がよかったわね」 「そうですね。お尋ね者になってしまえば僕も困ってました」 マチルダと花京院はトリステインとゲルマニアの国境付近にある街の酒場で食事をしていた。二人が顔を合わせるのは久しぶりのこと。 マチルダが屋敷から盗み出した宝石などの貴重品を闇市場で金に替えて分配すると、二人組がどうたらこうたらと手配をされた場合に備えて別々に行動していたのだ。 それも杞憂だった、ということだが。 「さて、無事に再会したのを祝したところで、これからどうする?」 「個人的に、行きたいところがあるんですが」 「どこだい?」 「魔法学院、というところです」 マチルダはあからさまに嫌そうな顔をした。そんなところに行けば水が襲ってくるからである。仮にンドゥールが興味なかったとしてもオスマン当たりなどの実力者に発見されれば手痛い目にあうかもしれないのだ。 勘弁願いたいところである。いくら運命に身を任せたといっても急すぎる。 「とりあえず、理由を聞いてくれませんか?」 「ああ。言ってみな」 「この数週間、そこらの書店を見て周り、この世界にやってきた原因を僕なりに調べていました。それで有力なものが見つかりました」 「なんだい?」 「サモン・サーヴァント、というものです」 マチルダは、そういえばンドゥールもルイズの使い魔であったなと思った。 目の前の男もどこぞのメイジがやったそれの失敗で召喚された可能性は大いにある。 「僕の考えはどうですか?」 「……ああ。正しいと思うよ。ま、どこの阿呆がやってくれたのかは知らないけどね」 「いえ、あのまま死んでいた僕を助けてくれたのだから感謝してますよ」 笑っていた。 マチルダは自分も昔、使い魔召喚の儀式を一人で行ったことを思い出した。失敗したが。 「でもねえ、あんた、学院に行ってどうするの? まさか図書館に入らせてくださいって頼んで、やすやすと入らせてもらえると思ってる?」 「駄目でしょうかね」 「そりゃもちろん。だってこの前、盗みが入ったんだもの。注意深くなるに決まってるじゃないか」 「本人が言いますか」 マチルダがかっかと笑った。彼女はすでに花京院に自分の素性を話している。というよりも『土くれ』のフーケなんですか、と、尋ねられたので肯定しただけだが。手配書のまんまであるため気づいて当たり前だった。 「ですが、それでも駄目もとで尋ねてみます」 「仕方ないねえ……」 花京院は放っておいたとしても一人でいくだろう。マチルダとしてもンドゥールにもう一度顔を合わせて自分の感情を整理させておきたい。そこまで考え、マチルダは最初から決まってるじゃないと心の中で笑った。 「いいわ。明日にでも行きましょう」 「ありがとうございます」 二人は馬を駆り、整備されている街道を走っていった。急ぐ旅でもないため村や街に立ち寄り、時には亜人を退治して金を稼いでもいた。 そして出発してから数日後の夕暮れ、タルブという村に二人は着いた。亜人退治のために訪れたわけではない。単に休息のために立ち寄っただけである。 なんでも、変わった料理があるらしいので、ものはついでと食いたくなったのだ。 マチルダが。 「いやしんぼッ! このいやしんぼめッ!」 「お黙り! 別にいいじゃないのさ。そう急ぐもんじゃないだろ」 「まあそうですけどね。それに、景色もいいですし」 二人の視線の先には草原が広がっている。ところどころ朱に染まった花が咲き乱れ、風が吹くと草が波打っていた。 花京院がその光景を眺めながら笑みを浮かべ、語りはじめる。 「この世界に来る直前も旅をしていたんですが、過酷なところばかりでした。海中、砂漠、飛行機は落ちるし……」 「ひこうき?」 「空を飛ぶもんです。ここにはありません」 竜かなにかかしら、と、マチルダは思った。 花京院はかすかな笑みを浮かべてこう付け加える。 「それでも楽しかったものです」 「なんだか羨ましいね。ほら、さっさと宿を探すよ」 マチルダは草原から離れ、村に入っていった。花京院もあとに続く。 タルブの村はこれまで何度も訪れた農村と同じものだった。果樹園があり、畑があった。 手入れを欠かしたことがないのだろう。いまにも収穫できそうに膨らんだ果実があった。 小さな喜びを積み重ねている村の歴史が想起できた。花京院が仕事帰りの人間に声をかける。 「すいません。どこか泊まれるようなとこはないですか?」 「ん、なんだ、あんたら旅人か? それなら村長のところにいけばいいぜ」 「ありがとうございます」 二人は礼をした。 村長に話をすると、快く招いてくれた。商人をいつも泊めているらしく、離れの客室は立派なものだった。しかし、マチルダは一つだけ不満があった。 「なんで布団が一つなんだい」 「まあ男と女の二人旅ですからね。そう勘違いされるのも仕方ないでしょう」 「あんたと恋仲になったつもりはないんだけどね。飯時にでも言うか。で、これからどうする? 寺院でも見に行くかい?」 寺院というのは本来、始祖ブリミルを祭るものであるがこの村ではちっと違うとのことだ。 いや、ブリミルを崇めることには変わりないが、大昔にふらっとやってきてそのまま 居ついた人物が妙な寺院を建て、『竜の羽衣』と呼ばれる御神体を飾っているとのことだ。 興味は引かれる。 花京院は外を見た。夕日がまた落ちていない。 「そうですね。行ってみます。マチルダさんはどうします?」 「あたしも行くさ。ノリアキ」 村長にすぐ戻ると言いつけ、外れの寺院に向かった。 その寺院は村長の言葉通り、妙な形をしていた。丸木で組み立てられた門に石ではなく板と漆喰で作られた壁、木の柱、白い紙と綱で作られた紐飾り。 一般的なものとは大きく変わっている。 「確かに珍しいねえ。どういう流れでこんな形を取ってるんだろうね」 ブリミルを祭るとはいえ、始祖が降り立ってから数千年が経過しているため地方や国ごとに形は変わっている。 とりわけここ最近のものは新教徒などというものが出てきたため古い寺院と形が大きく変わっているところがあった。 しかし、この目の前のものをマチルダは見たことがない。可能性があるとしたら東方かと、彼女が頭を悩ませていると隣の花京院が地面に崩れ落ちた。 「急にどうしたんだい」 「……あまりに驚いて、その、腰が抜けました。すいません」 マチルダの手を借り、花京院が立ち上がる。彼は額に大粒の汗をかいていた。 「戻って休むかい?」 「いや、それには及びません。中の御神体を見てみましょう」 「わかったよ」 花京院は別に体調が悪くなったようではなかった。マチルダは気に掛けながらも寺院に近づいていった。 ところが、彼女はある奇妙なことに気づく。門がゆれているのだ。それも風に。 脳裏にある男の影が過ぎった。 すぐさま杖を引き抜く。精神を戦闘のできる状態にまで引き上げる。 「ノリアキ、スタンドで中を探って」 マチルダの強い声に、花京院はすぐさま『法王の緑』を出現させる。 しゅるしゅると身体をひも状にして中へ伸ばしていく。 「誰かいる?」 「いえ。ですが痕跡があります。ついさっきまで誰かがここにいました」 「そう。ノリアキ、スタンドを戻して」 マチルダは周囲を見やる。誰もいない。気のせいだったかと思いかけたとき、視界の隅に見覚えのある帽子を被った男がいた。そいつは草原の近くにある森の中に隠れるように走っていった。 なぜあいつがここにいる。マチルダは、背筋に冷たいものを感じ、即座に走り出していた。 「ついてくるんじゃないよ!」 マチルダが森の中に入り、歩き回るうちに日は完全に落ちてしまっていた。それでも彼女が見た人影は見つかっていない。見間違い、だったとは思えない。 寺院の中から吹いた風、あれは間違いなくあの男のものだったのだ。 しかし、どうやら完全に見失ってしまったようであった。彼女はひとまずタルブに戻るべきかと踵を返した。その目前に、男はいた。 「久しぶりだな。マチルダ」 「やっぱりあんただったんだね。ワルド」 男、ワルドは木の幹に背を預けている。右手に影に溶け込む黒の手袋をしていた。 あれはおそらく義手だ、と、マチルダは当たりをつけた。 彼女は杖先を向け、全身にじわりと殺意の熱を伝導させる。 体と心を構えた。 「いまさらこの国に何の用だい」 「下見だ。近々侵攻作戦が行われるのでな」 「へえ。ま、あたしは全然興味ないけどね。勝手にやってたらいいさ。でも、わざわざ顔を出したってことはそれだけじゃないんだろ?」 「話が早くて助かる」 ワルドは杖を抜いた。 「マチルダ。レコン・キスタに来い。我らには優秀なメイジが必要だ」 「いやだね。貴族やらなんやらは懲り懲りだよ」 「そうか」 風が襲い来る。強風ではなく暴風、木をへし折りマチルダを軽々空に舞わした。彼女はそれでも慌てない。宙を舞いながらしっかりとワルドを見つめ、魔法を唱えた。 ワルドのそばにゴーレムが生まれ、土の拳で殴りかかった。それは顔面に命中、したが、彼は霞になった。風の遍在。 マチルダは地面に着地し、身体を思い切り捻った。 肩に痛みが走る。血が飛ぶ。歯を食いしばり蹴りを見舞う。 「――さすがだなマチルダ」 「それはどーも。あんたのせこさに敵いはしないけどね」 マチルダは肩を押さえる。即座に反転したおかげで傷は浅い。 彼女の目の前には脇腹を押さえているワルドがいる。最初から背後に隠れ、遍在で攻撃させたのだ。だがマチルダも経験は豊富。相手の能力がわかっていればどういう作戦を立ててくるかも想像がつくもの。本物が顔を見せるとは砂粒ほども思っていなかった。 「やはりお前の力は欲しい。魔力だけではなくその判断力。レコン・キスタに入れ。 お前ほどのものであればそれなりの地位に着ける」 「いやだっつってんでしょ」 「お前の意見は聞いていない」 杖が唸りを上げて迫った。マチルダはそれを避けながら詠唱を始める。 だが、ワルドもそれは同じ。 『エア・カッター』 『ゴーレム』 ワルドの魔法をゴーレムで防ぐ。錬金が甘かったため簡単に真っ二つになったがその隙にマチルダはナイフを投げた。 「ちい!」 外したマチルダ、かろうじて避けたワルドが発する。 「姑息だな」 「そうさ。あんたみたいにね」 「そう言われれば、もっと卑怯な手を使うことにしよう」 マチルダを暴風が襲う。砂が巻き上げられ、地に踏ん張ることもできなくなり空を飛ぶ。 フライで体勢を変え地上に降り立とうとするが、彼女の視界に杖を差し向ける四人のワルドが見えた。 「マッズイわね、こりゃ」 風が幾重にも重なりマチルダに襲い掛かる。無数の刃に切り裂かれ、細かい傷がつけられる。愛用のコートもずたボロだ。どうにかレビテーションで着地をするも、畳み込むように魔法が向かってきた。殴られ切られ、弱い電撃を浴びせられる。杖は離していないが詠唱する暇がない。このままでは、なぶり殺しにされてしまう。 ちくしょう―― 「ぬおあ!」 急にワルドの悲鳴がした。魔法も止む。 マチルダは痛む身体を起こした。見ると、ワルドの遍在が一体消し飛んでいた。そして彼らが睨むその方向には、深緑の男が立っていた。この短い旅で親交を深めた、花京院。 「やはり、きたか」 ワルドが呟く。 花京院は黒眼鏡を外し、懐に収める。 「まるで予測がついてたようですね」 「そうさ。だから、お前の相手も用意している」 地より水が突き上げた。 「これは……」 それは花京院へ向かう。蛇のような不規則な動きで襲い掛かる。しかし、マチルダの知るものよりはるかに速度が遅い。花京院も『法皇の緑』で宝石を打ち出し水を散らした。 「遅いぞ」 「すいませんね。いや、ちょっと準備に手間取りまして」 そう言って、もう一人姿を現した。顔の半分が火傷に覆われている。マチルダと花京院にも見覚えがあった。先日仕置きをしてやった水のメイジである。 名前は、モット。 「なんであいつが生きているんだい」 「ああ、彼は予備の杖を地下に隠しておいたのだよ。それでも、あの火災で気を失っていたようだがね」 詰めが甘かった。マチルダは悔いるが、遅い。 「よくもまあ、あっさり仲間になったもんだね。女を渡してやるとかいったのかい?」 「ああ。性格は誰よりも醜いが、力だけはある。モット殿、そっちの男は任せましたぞ」 「おお!」 モット、すでにレコン・キスタに魂を売った男は花京院を森の奥に引き寄せた。彼にとって予想外だったのは水を使った攻撃をいとも簡単に打ち払われること、それだけだ。 作戦はすでに進行している。 人がいい、その弱点を突く。 「エメラルド・スプラッシュ!」 緑の像から宝石が打ち出される。モットは俊敏さが皆無のため氷を盾にしてそれを防ごうとする。しかし、なにぶん数が多いため二つほど身体に当たってしまった。 しかし彼も水のトライアングル、すぐさま治癒は完了する。 と、続けざまに宝石が飛んできた。魔法使いではない。詠唱を必要としないのだから厄介な相手である。まともにやりあえば力押しされて今度こそ殺されるか再起不能にされてしまう。だが、モットはただの悪党ではない。腐った悪党であった。モットは物陰に隠していたものを引っ張り出した。 「貴様……」 花京院が攻撃を止めて怒りをもらす。モットの腕の中に、裸の女がいた。 その人物はモットの毒牙にかからずにすんだものだった。 「わかってるだろうなあ。お前が動いたら、この女を見るも無残な姿に変えてやる」 「人質とは、随分汚い手を使う」 「なんとでもいえ。俺を舐めてくれた代償だ。お前たちはぜっっったいに、許さん! 出て来い!」 モットの声に応じ、木の陰から武器を持ったものが何人も出てきた。着ている服から傭兵などではなく農民だというのがわかる。しかし、タルブの村のものではなかった。 彼らの中に、姉を救ってくれと懇願してきた少年がいた。彼は顔面に大きな痣がついている。 「……ごめん、にいちゃん。俺は、」 少年の瞳には涙が溜まっていた。恩人に刃を向ける、そのことがどれほど辛いことか。 そして、己に逆らってきたものたちが苦しむさま、それらがどれほどモットに心地よいものか。 「いいか! さっきの使い魔を出すんじゃないぞ! 出したら即刻この女を殺してやるからな!」 花京院はおとなしくスタンドを消した。 「やれ!」 少年とその親であろう者たちは襲い掛かった。慣れていない武器をふるって花京院を殺そうとした。しかし鍬やカマとは使い勝手が全然違ううえ心が拒否をしている。この男を、恩人を殺したくないと。 標的の身のこなしもあって、いつまでたってもこの戦いは終わりそうになかった。だが、モットはここで一つのゲームを提案する。 懐から短い蝋燭を取り出した。 「いいか。これにいま火を点ける。この蝋燭が溶けきって、それでもまだ毛ほどの傷も男になかったら、この女の胸をえぐる」 「人間、ではないな。罪悪感はないのか」 「ざいあくかんんん~? 虫けらどもにそんなものが湧くか! お前たちはただ俺を楽しませればいいのだ!」 甲高い、醜い笑いがこだまする。 「さあ、スタートだ!」 火をつけられて女の家族はもう心の枷を外した。一心不乱で花京院に襲い掛かる。 何よりも大事なのだ。かけがえのないものなのだ。そのためには罪をも犯す。 涙を流し、喚き、剣を振るった。しかし、花京院にはそれでも当たらなかった。 かすりもしなかった。 「おいおい、当たってあげたらどうなんだ?」 「断る。貴様の思い通りにはならない」 「聞いたか? お前たちの姉がどうなってもいいんだとよ。ほら、早く殺してしまえ」 モットはそういうが、花京院は軽々と避けていく。少年たちは何度も当たってくれと泣き叫んだ。 やがて時間が進み、ろうが溶けきろうとしていた。そのときになって、ようやく花京院は己の足を止めた。 「観念したようだぞ! はやくやれ!」 女の家族たちは武器を握り締め、彼を囲んだ。にげようとしなくなったので心の火が急速に勢いを弱めたようだった。 「ほらほら時間がないぞ。早くしないか」 憎い男の声がした。できることならあの人物を切り刻みたい。みなそう思っていた。 しかし、できない。無力であるから、力がないから言われたとおりにするしかない。 じりじりと、女の弟である少年が花京院に近寄っていった。ナイフの切っ先を向ける。 「――ごめん」 少年のナイフは当たるどころかかすりもしなかった。花京院はすっと彼を避けて歩みだした。拍子抜けしたモットだったが、すぐに水を花京院の目の前に突き出した。 「なんのつもりだ? この女がどうなってもいいのか?」 「いや、よくない」 「なら後ろに下がれ。下がって狩られろ!」 「それはやめておく。痛いのは嫌だ」 「ふざけてるのか!」 「ふざけてない。僕は、たんに貴様の思い通りになるのが嫌なのだ。貴様みたいな小物に従わせられることが。誇りがあるからな」 「誇りだあ? お前みたいな平民がなにを言っているのか。そんなものを口にしていいのは貴族だけだ。俺のような、魔法を使えるメイジだけだ!」 花京院は笑った。 「なにがおかしい」 「おかしいさ。こんなことをしておいて、まだ自分に誇りなんてものがあると思い込んでいるんだからな」 馬鹿にした笑いだった。見下された笑いだった。 それはモットの怒りに薪を注ぎ足す行為だった。 「もう……もういい。お前たちは、泣け。泣き喚け。絶望に身をよじろおおおお!」 花京院の眼前にあった水がモットに飛び掛った。それは女を、身動きのできぬ女を狙ったものだった。 刃はやすやすと肉を突き刺した。 「なあ、なあああああ、なんんでえええ水が俺を刺したんだよおおおおおおおお!」 モットの手から杖が落ち、彼の身体を突き刺していた水は形を成さずに地面に流れた。押さえが外れたためその上に血が流れ落ちる。 人質になっていた女は、モット自身が直前に放したので無事だった。花京院は彼女を抱えて少年たちに向かって歩いていった。 そして大柄な体格をしたもの、恐らく父親に渡した。 「さて、おまえをどうするかだが、どうなりたい。モット」 「ひ、ひぎいい、痛いんだ。痛いんだよおお。な、治してくれええ。杖を取ってくれるだけでもいいからよおおおお」 「そうか助かりたいか」 花京院はモットのところに戻った。 「何も知らないままではかわいそうだ。せめてもの情け、どうして水がお前を突き刺したか、それぐらいは教えてやる。僕のスタンド、法王の緑は紐状になることができる。そして人の身体の中に侵入して操ることができる。僕はお前の意識だけを残し、身体を操った。 さて、それで、これからどうすると思う?」 「た、助けて、助けてくださいいいい。いのち、命だけは、命だけはああ……」 「お前はいままでそう懇願してきたものを助けてきたか?」 いいや、痛めつけて悲鳴を奏でさせた。 「や、やめて、やめて、やめてくれえええ」 「だめだね」 花京院はモットに背を向けた。 「絶望に身をよじり、死ね」 言葉が終わると、モットの中で何かが切れた。彼の人生はここで終結した。 花京院のもとに少年がやってきた。痣だらけの顔には、またしても涙が流れていた。だけど言葉は、生まれてこなかった。謝罪をするべきだ。 礼を言うべきだ。 でも、彼の口からは何も出てこなかった。 「俺、俺……」 花京院は布を当てる。 「その顔、君はあの男に殴られたものだろう?」 縦にうなずいた。片目がつぶれていて腕や足にも傷がついている。 「よくやった。敵わなかったが、それでも君は、この『世界』と戦ったんだ。 誇りに思えばいい。貴族でもないし、魔法も使えないけれども、君は立派だよ」 「……」 「それじゃあね。僕はあの人のところにいかないといけない。今回は駄目だったかもしれないけど、生き残ったんだ。次こそ、いつか危ない目にまたあったとき、守ってやればいい。がんばれ」 「……がんばる」 ぽんぽんと少年の頭を叩き、二人は別れた。 ワルドは改めて杖を構える。花京院とモットは少し離れたところで戦いを始めていた。 「さて、お前の頼みの綱は切れたぞ。フーケよ、まだ下らんか」 「当たり前じゃないか!」 マチルダは地面の土を蹴り上げた。それは魔法で鋭利な刃と化しワルドを襲った。 不意を突いたおかげでいくつか掠めるが軽傷だ。 勢いと重量が足らない。 「どこまで刃向かうつもりだ?」 「そうさね。どこまでもか、ね」 風の拳に殴られる。胃液を吐く。血が出ないことから内臓は大丈夫のはずだ。 打撲ぐらいにはなってたりするかもしれなかったが。 ワルドが近寄り、マチルダを見下ろした。感情のこもっていない瞳。 「お前は、なぜ頑なに拒否をするのだ」 「わからないのかい?」 マチルダは立ち上がる。ふう、ふう、と、荒い呼吸を繰り返す。全身から血が流れ、顔も土に塗れている。圧倒的な敗北、それを前にしている。それでもなお、彼女は以前戦った少年のように強く気高い視線を向けた。 「あんたってさあ、一つのためになりふりかまわず、どんなことでもするでしょう。 どんな汚いことでも、ね」 「ああ。もちろん」 マチルダは笑う。 「だからさ。こんな盗人で、どうしようもないあたしだけど、大切なもんがあるんだよ。 もし、あんたたちに与して、そういうことをして、そこそこの地位を得て、金を得たところで、その大切なもんはきっとあたしから遠ざかっていくんだよ。だから、あんたの仲間になっちゃいけないのさ。だから、あんたたちに――」 マチルダは後ろに下がった。 「負けやしないんだよ!」 杖を振り魔法を使う。その呼びかけに応じ、彼女の足元から大型のゴーレムが生まれ出てきた。 「ふん。くだらん感傷だ。マチルダ、お前には失望した」 「結構だね! やっておしまい!」 命令を受け、ゴーレムは腕を振るった。木々をなぎ倒しワルドを狙う。だがその質量のため動きは遅い。ワルドも風の扱いは一流、蝶のように避け魔法を放つ。それは直撃しないもののマチルダに新たな傷を作っていく。 さらにワルドの遍在も四体に戻り、彼女をペンタゴンのように囲んでしまう。 逃げ場所は、ない。 「まずはその煩わしいゴーレムからだ!」 五人のワルドが同時に魔法を放った。五つの風がゴーレムに食らいかかり巨体を揺らす。破壊力を逸らすこともできず、ゴーレムは粉みじんに砕け散る。土が地面へ降り注いだ。 ワルドはここで気づいた。マチルダがいない。彼女はゴーレムの破壊に乗じてその身を隠したようである。 逃げた、わけではない。土を被り息を殺しているのだろう。ワルドの顔に笑みが浮かんだ。心底滑稽だといわんばかりの。 彼は魔法を使った。風が周囲の土を巻き上げていく。マチルダごと巻き上げてしまいそうな暴風だった、が、彼女は地面に蟻のように張り付いていた。 「無様だな。マチルダよ」 そう言ってワルドは歩み寄る。マチルダはうつぶせになって睨み上げていた。 その瞳にまだ諦めはない。用心をする。 「なにか、まだあるのか?」 ワルドがすぐそばに近寄り、見下ろした。瞬間、マチルダは身体を捻りワルドの身体を剣で切り上げた。錬金で作り上げた剣を地面に埋もれさせていたのだ。 しかし、 「惜しいな。それも遍在だ」 そう言い、ワルドはマチルダの腕を剣杖で貫いた。 「ああ、あああああ!」 「ふむ、妙齢の女の悲鳴か。モットが喜びそうだが、俺にとってはただうるさいだけだ」 マチルダの腹を踏んだ。彼女は息がつまり、悲鳴も止んだ。 ワルドは杖を引き抜いた。 「さて、最期の勧誘だ。レコン・キスタに入れ」 勝敗は決した。兎が虎に勝てぬように、トライアングルはスクウェアには何があろうと勝てはしないのだ。 ワルドはそう思っていた。 マチルダは見上げた。 「あんた、あんたが――………」 「聞こえん。大きな声で言え」 マチルダはつばを飲んだ。 「………あんたが、やったんだ」 「はあ?」 「不思議に、思わないかい?」 「なにをいっている……」 ワルドは気づいた。この最期のときにおいて、マチルダの瞳に絶望というものがないということを。 マチルダは続けた。 「あんたが巻き上げた土。あれは、どこに――」 ワルドは聞けなかった。己の絶叫と、痛みで。 彼の肩に一本の剣が突き刺さっていた。杖が落ちる。 「――な、なんだこれは!」 続けて遍在にも剣が突き刺さり、消えていった。ワルドは上空を睨んだ。空には、信じがたい光景が広がっていた。 剣、ナイフ、それが宙に浮いていた。種類はそれだけだ。だがその数は、空を覆わんばかり。 それほどの無数の刃が彼らに向けて落ちてきていた。 「は、はは、さしずめ『ソード・レイン』っていったところかね」 ワルドはこの土がどこから出てきたのか、すぐに勘付いた。 「貴様、俺が巻き上げた土に錬金を――」 「正解。あたしの風だけじゃ心もとなかったからね。あんたのを利用させてもらった、よ!」 懐のナイフでワルドの足を刺した。 「逃がしはしない。この雨を、受けきりな!」 「よせ! 剣を変えろ! お前も死ぬぞ!」 「それもいいんじゃないかい?」 「そんな! そんな馬鹿な! この俺が、こんなところで――」 ワルドの声が途絶えた。喉を貫かれたからだ。さらに続けて全身を刃が貫く。 剣と血の雨が降った。 マチルダはワルドを蹴っ飛ばした。 彼女の身体には無数の傷がつけられていたが、大きなものは一つもなかった。 自身が作り上げた剣やナイフは当たりはしたが、深くはならなかったのだ。これは運がよかったというのではなく、盾を使ったからだ。 ワルドという肉の盾を。 もはや物言わぬ死体を見下ろし、マチルダは呟いた。 「こういうとき、なんていうのかね」 「正義は勝つ、でいいのでは?」 その声に振り向くと、花京院が立っていた。満身創痍のマチルダと対照的に無傷である。完勝したようであった。 「そっちはどうだったい?」 「少々疲れました」 「あたしはもう動けないぐらいだよ」 花京院が手を差し出した。マチルダはちょっと考えたものの、土と血で汚れたままの腕を差し出した。そのとき、花京院は予想外の行動に出た。 「ちょちょ、ちょっと!」 「どうしました?」 「どうしましたじゃないよ! なんでかかえる必要があるのさ!」 その通り、花京院はマチルダを立たせたのではなく俗に言うお姫様抱っこをしたのだ。 二十を過ぎてこんなことをされては彼女も恥ずかしい。だが、いくら叫んでも彼は彼女を降ろそうとはしない。 「動けないっていったのはあなたじゃないですか」 「それはそうだけど、あたしゃいい年だよ。ちょっとキツイ……」 「我慢してください」 やがてマチルダも体力がないので暴れることをやめ、花京院に身を預けることにした。 しかし、最期に一つ。 「あたしなりの敬意だよ」 魔法を使い、ワルドの体を土に埋めた。墓標はない。 「ああ、もうこれでスッカラカンだ。とりあえず眠るから、説明は頼むわ」 「わかりました」 マチルダは花京院の首に顔をうずめ、静かに眠りについた。
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使い魔 色 画像 レベル 攻撃力 HP 速度 能力 黒 3 3 3 普通 ■使用効果 ■両者の魔力と魔力増加量を3にする 両者をブーストする気まぐれカード。どちらに味方するかはプレイヤー次第。 両者の魔力と魔力増加量を3にする。 基本的には自分の魔力をブーストするために使うカード。 2ターン目に使えば、次のターンは「使い魔が待機所で、使用できる魔力が6」という状況になる。 エルフと違って魔力も増えるので、使った直後も動きやすいのが利点。 魔力が6あればほとんどのカードを次のターンに使うことができる。 5ターン目以前と以降では少々価値が変わることも頭にいれておこう。 5ターン目以前に使えば魔力増加量を増やすことにもなり、重いカードを扱うのが楽になる。 このあたりはエルフと似た感じの流れである。 5ターン目以降になると通常なら魔力を3にする能力となる。 後述するが、主に相手の貯めた魔力を潰したり、相手のエルフで増えた魔力増加量をリセットする目的。 また、ダークエルフに魔力増加量を減らされた場合にリセット出来る。 5ターン目以前にも可能だが、5ターン目以降なら相手へのメリットが気にならなくなる。 魔力ブーストの効果はかなりのものであるが、 相手も同じだけ恩恵を受けることを忘れてはいけない。 特に使った直後は反撃のための魔力を与えてしまい、その結果痛い目を見ることも。 イニ無しでクジラされたり、森神でカウンターされたりすると一気に不利になってしまう。 気付かないうちに使い魔のせいで相手を有利にしていることもしばしば。 ウィッチとは異なるタイプのデメリットと言える。 相手にも同じ効果を与えるのでアドバンテージを得るには、魔力ブーストの効果を活かすことが不可欠。 そのためには重いカードの採用がほぼ必須となる。 しかしながら、デッキを重くしすぎると使い魔が来なかった時に困ったことになってしまう。 ウィッチやサモナーで別の流れを作るなど、勝率を上げるにはデッキの配分を工夫する必要があるだろう。 相手が軽いカードを中心としたデッキの場合は、カードパワーで主導権を握れる。 クジラで妨害したり、リッチや白虎で行動をロックしたりすればなお有利に戦うことができる。 戦場が混沌の影響下の場合は挙動が少々ややこしい。 「魔力と魔力増加量を3にする」とあるが、実際にはそれぞれ3になるように増減処理している。 そのため、現在値が3未満の場合は現在値より下がり、3を超える場合は上昇することになる。 例えば、混沌下で魔力2ならば魔力1になり、魔力増加量4なら魔力増加量5になる。 魔力を溜めて朱雀や青龍で逆転を狙うようなデッキが相手の場合、それを妨害する方向にも使える。 相手がドルイドやエルフで得ようとした魔力アドバンテージをかき消すような役割が可能。 豊富な魔力で少しずつ相手を追い詰める遅延型のデッキに対しては、有効な対抗策となりうる。 他に、魔力ロックから逃れたり、魔力減少効果をかわしたりといった使い方もある。 狙えるかは微妙だが、相手の使用効果などの暴発を誘うこともできなくはない。 マグマ男やデュラハンなどの使用効果や魔界樹の勝利効果などがその例。 逆にこれらのカードを採用する際は、相手の使い魔に注意するようにしたい。 関連項目 魔力・魔力増加量関連 消費魔力関連 意見所 名前 コメント
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オスマンとコルベールは、『遠見の鏡』で一部始終を見終えると、互いに沈黙した。 気まずい空気の中、コルベールが震えながら何かを言おうとする前に、オスマンが言った。 「勝ったのは、ミス・ヴァリエールの使い魔じゃったな」 「オ、オールド・オスマン……私には、まだ自分の目が信じられません…」 「ほぅ。ならば、そんな役立たずな目は、早めに抉ってしもうた方がよいのぅ。ミスタ・コルベール」 「い、いえ…そんな…!私はただ、平民がメイジに勝ったという事実に…」 「平民?平民じゃと?お主はアレをまだ人間じゃと思うとるわけか?」 オスマンの目が、コルベールを射抜いた。 「切られた腕を再生させ、青銅のゴーレムを砕き、挙げ句グラモンの血を吸うたアレを、人間と呼ぶか。 お主も痛い目を見た口じゃろうに。 ますますもって役立たずじゃのう、お主の目は」 コルベールは萎縮した。 オスマンは、フンと鼻息を荒げた。 「しかしのぅ、あの化け物の左手のルーン…。 ワシも長年を生きてきたが、とんと見当がつかぬ物じゃったわ。 ミスタ・コルベール。お主も見たな?早々に調べておくのじゃ」 ---まさか、ルーンまで見過ごしておったのではなかろうな、と言うオスマンに、コルベールは慌てて首を横に振った。 これ以上失態をさらせば、本当に目を抉られてしまうと、コルベールは思った。 「し、調べて参ります…!」 コルベールは早急に学院長室から退室した。 オールドオスマンは、そんな彼を見送りもせずに、秘書のミス・ロングビルを見た。 オスマンとコルベールのやり取りを、見ない振りをして書類仕事をしていたロングビルは肩を一瞬 震わせた。 「ミス・ロングビル」 「…はい、学院長」 努めて普通にロングビルは答えたつもりだが、その内心はオスマンには筒抜けだろう。 「お主もみたじゃろう。さっきの戦いを。 ……ワシの目には、奴が瞬間移動をしたようにしか、思んのじゃが…意見を聞かせてもらえるかのぅ、ミス・ロングビル」ロングビルは、ペンを机の上に置くと、オスマンに答えた。 「いいえ…オールド・オスマン。私にも判りかねます。ただ、瞬間移動したとしか」 「…そうか。あいや、ただ聞いてみたかっただけじゃ。気にすることはない」 オールド・オスマンは、机からパイプを取り出して、火をつけた。 2・3回プカと煙を口から吹いた後、オスマンは言葉を続けた。 「ミスタ・コルベールの手伝いをせい、ミス・ロングビル。 あの足では書物の捜索は難儀じゃろう。 それと……」 ロングビルは椅子を引いて立ち上がり、オスマン の次の言葉を待った。 「……あの化け物に、内々に目を配っておけ」 ロングビルは頷いて、学院長室から出ていった。 コルベールと書物を漁るのは退屈だが、学院内を歩き回る良い口実を得たので、ロングビルは満足した。 全くエラいところに潜り込んでしまったものだと、しかし、ロングビルはため息をつくのを止められなかった。 オールド・オスマンは、誰もいない学院長室内で、一人立ち上がって『遠見の鏡』を再び見た。 鏡には、見知らぬルーンの刻まれた左手を血に染めたDIOが、悠々と広場を立ち去るところが映されていた。 オスマンはその様子を見て、鷹のような目を、ますます鋭くさせた。 「DIO………DIOか。このトリステイン魔法学院の内憂とならねばよいがのぅ……そうなった場合、もみ消すのも一苦労じゃ」 ---その時だった。 鏡の中で、背中を見せて歩いていたDIOが、突如素早く振り返り、こちらを睨んできたのだ。 DIOの真紅の目が、オスマンをしっかりと捉えている……少なくともオスマンはそう感じた。 流石のオスマンも、この時ばかりは心臓が止まるかと思った。 『遠見の鏡』が気づかれるなんて、有り得ないことだった。 あまつさえ自分と目が合うとは---だがオスマンはこの後、心底驚愕した。 鏡の中のDIOは半身になって、血に染まる左手で顔を隠し、右手で此方を指差した。 『………貴様、『見て』いるな……!?』 DIOの言葉にオスマンの思考が反応する前に、鏡に巨大な人影がいっぱいに映し出された。 人と言うには余りにも巨大なそれは、その巨体に見合う…いや、過剰な筋肉を有していた。 腕は丸太のように太く、脚はそれよりもっと太いそれは、全身が白いせいか、石でできたような印象を受ける。 鏡に突如映し出されたその巨人は、右腕を振りかぶると、その大砲の弾のような拳を轟と振り下ろした。 "ガシャアァアアン!!!"という高い音を響かせて、『遠見の鏡』は、粉々に砕け散った。 破片がオスマンに襲いかかり、オスマンは慌ててローブで己の身をかばった。 全く予想外のことで、杖を振る暇もない。 机の下で眠っていた、オスマンの使い魔であるネズミのモートソグニルが、チュウチュウと鳴いた。 破片が飛び散り終わると、オスマンは恐る恐るローブから顔を出した。 見るも無惨な姿を晒す『遠見の鏡』を見て、オールド・オスマンはうろたえた。 「…おぉ……これは…なんとしたこと…」 オスマンは、あの化け物が、自分の思っていた以上にとんでもない存在であることを痛感し、ただ呆然と、割れた鏡を見つめた。 鏡の修復には、かなりの時間が必要になりそうだった。 その費用を瞬時に頭の中で目算し、オールド・オスマンはただただ頭を抱えるばかりだった。 to be continued …… 27へ
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 一人で食べる食事というのは味気ないものだ。 だから、そんなときにやってきた食事のお誘いは大歓迎なわけで。 しかも誘ってくれたのが十人中十人が振り向く絶世の美女であれば、もうなにも言うことはないのであった。 「おいしそーだなあ―――!いただきまあ―――す!」 肉汁滴るステーキにかぶりついた康一は、目を輝かせた。 「おいしい!」 キュルケは微笑んだ。 「喜んでいただけてうれしいわ。あなたのために特別に用意したんですもの。」 「へぇー!うれしいなぁ!」 どれもこれも絶品だ! しかし、グラスを手にしたところで康一はキュルケに尋ねた。 「これってワイン・・・ですよね?」 「それがどうかして?」 「いやぁ、ぼくの国ではお酒って大人にならないと飲んじゃいけないものだったんですよ。」 あら・・・。とキュルケは目を丸くした。 「あなたのお国はどちらなの?」 「え!?え、えーっとぉー、ロバアルカリイエ・・・てとこかな。」 康一はとりあえずルイズが言っていたようにすることにした。 「そう。あなた東方の出身なの。だから顔つきもそんなにエキゾチックなのね。」 キュルケはワイングラスを軽く掲げて見せた。 「でも、ここはトリステインなのだから、あなたも気にせずに飲めばいいと思うわ。」 「そ、そうかな?じゃあ、ちょっとだけ・・・」 グラスをちびちびと傾ける。 「あれ、でもなんだかお酒って感じがしないね。結構飲めるかも・・・」 「いいワインは人を選ばないの。お気に召した様で良かったわ。」 ふーん・・・。そういうもんかぁ・・・。ワインをちびちびと舐めながら康一は感心したが、ふと疑問に思った。 「そういえば・・・どうしてぼくを食事に誘ってくれたの?わざわざこんな料理まで用意して・・・」 ヴァリエールとツェルプストーの因縁の話を思い出した。 「ひょっとして、ルイズのことが聞きたいの?でもぼく、まだここに来てから日も浅いし、そんなにすごいことは知らないよ?」 おほほほほ。とキュルケは口に手を当てて笑った。 「あたしはルイズなんて眼中にないの。それにこんな回りくどいことはしないわ。」 キュルケは顔を赤らめた。 「あたしが知りたいのは、あなたのことよ・・・」 「ぼ、ぼくですかぁー?」 キュルケが潤んだ瞳で見つめてくる。康一はなんだかドキドキしてきた。顔が赤くなるのがわかる。 「最初はちょっとした興味だったの。ルイズがあなたみたいな不思議な使い魔を召喚したから。」 キュルケは立ち上がった。 「あなたは小さくて可愛らしいわ。でも、見ているうちに分かったの。あなた、その瞳の奥に、それだけじゃない『何か』を持ってる。」 キュルケはテーブルクロスを指でなぞりながら、ゆっくりと康一のところへ歩いてくる。 「トドメに、あの決闘。ギーシュを倒したあなた、すごくかっこよかったわ。まるでイーヴァルディの勇者のようだった・・・。あの時のあなたの強い瞳を見て、あたしの心は今までにないくらい燃え上がってしまったの。」 康一の肩にそっと手を乗せた。 「恋してるのよ。あたし。あなたに。恋はまったく、突然ね。」 ほっぺたに、スープがついてるわよ? キュルケは康一の耳元で囁くと、康一の頬についた汚れを、小さく舌を出して舐め取った。 「なななななななにを!!」 康一はガタン!と立ち上がり後ずさった。 しかし、足元がおぼつかなかない。 ふらつく康一の手を、キュルケが握った。 「急に立ち上がったら危ないわ。ベッドに座りましょ?」 「う、うん・・・。」 どうしたんだろう。頭がぼうっとする・・・。 康一はふらつきながらも、キュルケに導かれるまま、ベッドに腰掛けた。 キュルケも隣に座って、しかし、康一の手は離さなかった。 暑くなってきたわね。とキュルケはブラウスのボタンをもう一つ外した。 ついそちらに目が行く。 康一君を責めるのは酷である。正常な男であれば目が行かないわけがないのだ。 それでも康一は慌てて目を逸らした。 「からかってるの!?」 すでに顔は真っ赤だ。 「いいえ。あたしは本気よ。あなたが好きなの。あなたのことがもっと知りたいのよ。」 キュルケは、康一の手を握っているのとは別の、もう一方の手で康一の膝頭を軽く弄った。 「う、うわぁ!」 こ、これはなんだかまずいぞ!と康一は思った。 このままではまずいことになる! 「ま、待って!ぼくには恋人がいるんだ!」 「あら、そうなの?でも当然よね、あなたのような可愛いくて頼もしい魅力的な男の人を、女が放っておくわけないもの。」 「い、いやぁ。そういうわけでもないけど・・・」 今まで由花子さん以外に浮いた話などまったくない康一である。 でもね・・・。 キュルケは続けた。 「ここはハルケギニアよ。はるかかなたにあるロバアルカリイエは、あたしたちの恋を邪魔できないわ・・・!愛してるの!コーイチ!」 キュルケは康一の頬を両手で挟んで、情熱的な口づけをした。 ベッドの上に押し倒されると、康一の頭の中で世界がぐるんぐるんと回転した。 押しのけようとしたが、腕に力が入らない。 あたまがぼーっとする。 ごめん由花子さん・・・。ぼくはこのへんてこな世界でお星様になりそうです。 そのとき。バターン!とものすごい音がして、扉が開いた。 「・・・なにをしてるわけ?」 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 廊下の明かりを背にそこに立っていたのは、白い肌にくっきりと青筋を立て、ドラゴンも逃げ出しそうな怒気をまとった、康一のご主人様だった。 数分後。康一はルイズの部屋で正座をしていた。 髪型を貶されたときの仗助もかくや、という勢いでプッツン来ていたルイズは、キュルケから康一を引っぺがし、そのまま襟首を持って部屋まで引き摺ってきたのだ。 ルイズが康一を見下ろす。まるで、道端に落ちた馬の糞を見るような目である。 康一の顔は未だ真っ赤だ。 部屋に連れ帰ってからもぼーっとした様子を見て、ルイズはようやく康一が酔っ払っていることに気づいた。 「(そっか・・・これが酔っ払うってやつか・・・)」 康一は回らない頭でぼんやりと考えた。 ルイズの手には乗馬用の鞭が握られている。 「・・・で、食事に誘われたわけね。」 「うん。」 「初めてのお酒を飲まされたと。」 「うん。」 「ついでに、ベッドにも誘われたと。」 「うん。」 「お酒のせいで、ろくな抵抗もできずに。」 「うん。」 「わたし、言ったわよね。ツェルプストーなんかにデレデレするなって。」 「うん。」 「デレデレしたら死刑って言ったわよね。」 「うん。・・・・・・え!?そんなこと言ったっけ?」 「言ったのよ。心の中で。」 康一は目をあげた。ルイズの目が本気と書いてマジだったので、康一は言い訳するのをやめた。 ルイズはぷるぷると震えている。 「それなのに・・・!それなのに・・・・!この・・・!スケベ犬がぁー!!!」 バシンバシンと鞭が振り下ろされ、康一は悲鳴をあげた。 「い、痛っ!やめっ・・・!痛い痛い!」 逃げまわる康一を、ルイズは鞭を振り回しながら追い回した。 「(がんばった使い魔に、せっかくご褒美を用意してたのに!一緒のベッドで寝させてあげようと思ってたのに!)」 よりによってキュルケに先を越されてしまうなんて! べ、別にわたしは康一を誘惑しようとしたわけじゃないけど! あの万年発情期のキュルケと違って! ルイズは追走劇の結果、ボロ雑巾のようになった康一を見下ろした。 「もう・・・知らない!」 ルイズは鞭を投げ捨てて、ベッドにもぐりこんだ。 ようやく折檻から開放された康一がふらふらと起き上がった。 ルイズは毛布にもぐりこんで丸くなっている。 「・・・ぼくは、どこで寝ればいいんでしょう。」 凍て付くような視線が帰ってきた。 「犬は床って、相場が決まってるわ。」 今度は毛布すらなかった。 しかたなく康一は、部屋の隅に丸くなった。 寒い。床が自分の体温を奪うのがよく分かる。 ぼくがなにをしたっていうんだ・・・ 康一は赤い顔で溜息をついた。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 康一は、一本の道を歩いていた。 隣では仗助くんと億泰くんがいて、一緒に馬鹿話をしている。 道の左手からは、露伴先生が現れて、一緒に取材に行こうとぼくを誘う。 康一どのー!という声が聴こえた。右手から玉美と間田さんが合流する。 やれやれだぜ・・・。という声が聴こえた。後ろでは承太郎さんがぼくたちを見守ってくれている。 由花子さんが道端に立ってぼくを待っていた。並んで歩く。 仲間達と共に歩く。 こうして歩いていれば、ひょっとしたら雨が降るかもしれない。小石に躓いて転んでしまうかも。 でもぼくには仲間がいる。寂しくなんかない。 この道は、杜王町へと続いている。 えーんえーん・・・ 康一はふとあたりを見回した。 子どもの泣き声が聴こえる気がするのだ。 康一は道をはずれ、その声の主を探しにいくことにした。 声を追い、藪を分け入って進むと、小さな池が現れた。 池の真ん中には小船が浮いていて、鳴き声はそこから聞こえてくるようだ。 子どもが池に一人取り残されて泣いているんだ。と康一は思った。 康一は池の中に踏み込んだ。そこまで深くはない。腰ほどの高さだ。 じゃぶじゃぶと水をかき分けて進む。 船にたどりつくと、ピンクブロンドの髪の女の子が毛布にくるまっていた。 女の子は小船の中で、独りぼっちで泣いていたのだ。 「もう大丈夫だからね。」 康一はその女の子を抱き上げた・・・。 康一は目を開いた。 知らない天井?いや、馴染みこそないが、ぼくはこの部屋を知っている。 コンコン、とノックがあり、扉が開いた。 目を向けると、黒髪でメイド姿の少女が現れた。 「コーイチさん。目が覚めたんですね!」 「し、シエスタ!?」 シエスタは胸に手をあて、大きく息を吐いた。 「よかった・・・。心配したんですよ・・・。あんなに大怪我して・・・!」 康一はようやく、自分が何をしていたかを思い出した。 「そっか・・・。ぼく、気を失っちゃってたんだ・・・」 「はい。三日三晩ずっと眠り続けてました。」 「そんなに!?」 徹夜でゲームをしてしまった翌日だって、そんなに眠ったことはない。 「頭を強く打ってましたから、そのまま起きないんじゃないかって心配しました・・・。」 康一はワルキューレに散々殴られたり蹴られたりした時のことを思い出した。 「他にも、両腕にはヒビが入ってましたし、歯も折れてました。肋骨は3本ほど折れて、一本は肺に突き刺さっていたそうです。」 「う、うわぁ。重症じゃないか・・・。」 康一は他人事のように答えた。自分の体を触ってみる。 「でも・・・あれ?その割には痛くないんだけど・・・。」 脇腹を触ってもうずく程度でそんなに痛くはない。腕にもあまり違和感はない。舌で口の中を確認したが、折れたはずの歯が元に戻っていた。 「ええ。コーイチさんをここに運び込んだミス・ヴァリエールが、先生に頼んで、水魔法の治療を施してくださったんです。」 シエスタは窓を開けた。 窓から日の光が差し込んできて、康一は目を細めた。 そして気づいた。 自分のベッドのうえにルイズが頭を乗せて眠っている。 ピンクブロンドの髪が太陽の光を反射してきらきらと光っている。 「ミス・ヴァリエールはこの三日間、ずっと学校にもいかず、ほとんど寝ないでコーイチさんの看病をしていたんですよ?」 「そうなの!?」 康一はルイズの寝顔を見つめた。 この我が侭娘が、そんなにぼくのことを心配してくれたのか・・・! 康一はルイズの頭を撫でた。 ルイズは、う~ん・・・とムズがっていたが、不意に目を開けると、がばっと起き上がった。 自分の頭に手を当てて顔を赤くする。 「ななな何してんのよ!!」 「いや、寝顔が可愛かったから・・・つい。ずっと看病してくれてたんだって?」 ルイズの顔が、ボッっと音を立てて真っ赤になった。 「ば、馬鹿じゃないの!犬のくせに・・・!自分の使い魔が怪我したら、面倒を見るのは当然でしょ!!」 そしてはっとした表情になった。 「そういえば、体は大丈夫なわけ・・・?」 心配そうに尋ねる。 「うん。もうなんともないよ!」と腕を振り上げて見せた。 実はその瞬間、脇腹にビキッっとした痛みが走ったが、辛うじて表情には出さずにすんだ。 「そう・・・よかったわ・・・。」 ルイズはほっと胸をなでおろした。 「あんまり無茶するんじゃないわよ。あんた、下手したら死んでたのよ?」 「ごめん・・・。」 康一は頭をかいた。 ルイズはそんな康一に一つ溜息をつくと、立ち上がる。 「じゃあ、どいて。」 「え?」 「わたし、あんたが寝てる間ほっとんど寝てないの。眠いの。」 「え、ご・・・ごめ・・・」 「だからほら!ベッドを空けなさいよ!」 ルイズは康一をベッドから引き摺り出すと、そこにするりと飛び込んだ。 毛布にもぞもぞと猫のように包まる。 そしてそのまま寝息を立て始めた。 「追い出されちゃったよ・・・。」 苦笑いするとシエスタと目があった。 ふふふっと笑いあう。 「それじゃあ、ちょっと厨房にいらっしゃいませんか?お腹が減ってるんじゃないかと思うんですけど。」 「そういわれると・・・」 代わりに康一のお腹がグルグルキューと返事をした。 「・・・減ってるみたい。」 「よかったぁ。」 シエスタは嬉しそうに手を合わせた。 「マルトーさんに、コーイチさんの目が覚めたら連れてくるようにって言われてたんです。」 シエスタは康一に、あの学生服を手渡した。 「寝ておられる間に、洗って修繕しておきましたから。」 康一にとっては、こちらで持っている唯一の服である。 「ありがとう!助かったよ!」 康一は、寝ている間に着せられていたのであろう、パジャマのような服を脱ぐと、いつもの学生服に着替えた。 そしてシエスタについて、厨房へと向かうことにした。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔