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トリスタニアの街から離れた、ある森の一角に王立魔法研究所の第二研究塔はあった。 敷地は高い塀で囲まれていて、外からはおり中を見ることはできないようになっており、草原になっている広場の広さは、魔法球技『クィディッチ』ができるほどある。 その敷地内にて、ルイズの姉であるエレオノールはとある実験を行っていた。 研究員らしい白衣を着た、ややぽっちゃりとした体形の女性が、同じ格好のエレオノールに間延びした声を投げかける。 「エレオノール様ぁ。準備できましたよぉ~」 「いいわ、でも『そろそろ』ね。作業員に安全確保を徹底なさい」 エレオノールは考え事をしながら、彼女の近くにすえつけられている大砲を見ていた。 「はぁ~い。ではぁ、ごじゅうさんぱつめ、いきますぅ~」 あの助手有能なんだけども、やや間が抜けてるのよね。 あのピンクの髪が、どことなくカトレアを連想させるし。 そう思っているエレオノールの体を、大砲の轟音が包み込んだ。 かなりの時間、エレオノールの視界が黒煙によって完全にさえぎられる。 それにもめげずに、大砲の方向を注視し続けた彼女は、発射煙の合間に発射実験の結果を見ることができた。 大砲は砲身がささらのように開いている。 砲身の命数が尽きたのだ。 「だめね、これじゃ。とても実用的とはいえないわ」 ため息をつくエレオノールに、助手がのんびりとした声をかける。 「ですからぁ~。箍をはめて砲身を補強しましょうよぉ~」 「だめよ!!! それでは作業工程が三割増しになるじゃない。『錬金』工法のメリットがなくなるわ!」 エレオノールはため息をついた。 まったく、この子は。今回の研究の本質をわかっているのかしら? エレオノールはそう思いながらも、助手を変えようという発想にはならなかった。 なぜなら、エレオノールの癇癪を器用に受け流すことができるのは、王立アカデミーでは彼女しかいないからだ。 エレオノールたちは、現在王立造船所に出向し、新しい砲の製造法を研究していた。 それは木材を大砲の形にくりぬき、それに高度な『錬金』の魔法をかけることで、安価にかつ大量に大砲を量産する方法である。 いまだ試験段階だが、もしこの生産方式が実用化されれば、従来のいわゆる『溶接工法』の半分程度の手間で生産することが可能とエレオノールは思っている。 通常『錬金』の魔法は、エレオノール達王立アカデミーの研究員の力を借りずとも簡単に唱えることが可能だ。 だが、大砲に使われるような金属には、細かい成分調整が必要である。 しかも、トリステインは、この新式の大砲に新しい合金を材料にしようと考えていた。 そのような合金を練成するならば、アカデミーが研究中の、新式の『錬金』魔法が必要なのだ。 エレオノールたちは、そのために大砲の砲身に『錬金』魔法をかけていた。 「やっぱり粘度が足りないわね……もう少し亜鉛の比率を上げてみるか……」 そうつぶやき、考え込むそぶりを見せるエレオノールの姿には鬼気迫るものがあった。 今のエレオノールに声をかけようと思うものは、トリステインの中では数少ない。 その数少ない人間の中に、ルイズはいた。 「シエスタに会いたい研究員って、姉さまのことだったの?」 ルイズが、ブチャラティと、シエスタとともに衛兵に案内されながら歩いてきたのだ。 「あら、あなたがミス・シエスタ?」助手を帰らせたエレオノールが言った。 「そんな、高名な貴族様にミスだなんて。私のことは、ただシエスタと呼んでください」 「あのねえ、あなたはシュバリエになったんだから、一応はあなたも貴族なのよ。しゃきっとしなさい!」 「は、はい!」シエスタは体をびくりと震わせる。 「ルイズ、あんたの隣にいる男は誰?」 「オレはルイズに召喚された、彼女の使い魔だ」ブチャラティがいった。 「ふ~ん」 エレオノールはブチャラティを頭からつめの先までジロジロトねめつけた。 「まさか、ちびルイズの恋人ってわけじゃないでしょうね」 「違うわ!」ルイズが言った。 「まあ、いいわ。ところでルイズ、あなたなんでここに来たの?『鉄竜』の使い手はミス・シエスタのはずよ」 そういわれたルイズは体を硬直させる。出す声も心なしかこわばっている。 「だって、姉さま。シエスタは私の知り合いですし……」 ルイズは次の言葉を言いかけて、アンリエッタとの約束を思い出した。 だが、その思考を奪うかのように、エレオノールが詰問する。 「まさか……鉄竜と同時に発見された『虚無の使い手』って……アンタ?」 「……はい」 「嘘でしょ?」今度はエレオノールが絶句する番であった。 そのスキに乗じて、ルイズが話す。 「だって、アカデミーの人間が話を聞きたいなんて。もしシエスタが解剖されるようなことがあれば、知り合いの私が守ってやらないと……」 「ひえぇぇ」シエスタがルイズの服のすそをつまんでうずくまった。腰が抜けたのだ。 その様子を見て、エレオノールが顔をしかめた。 「あのね……アカデミーはそんなことしないわよ。少なくとも今は」 「だって、うわさがあるもの。実験小隊なんてもの作って、町をそっくり焼いたとか」 「まあ、リッシュモン殿が長であった先王の時代はいろいろやってたみたいだけどね。今はこじんまりとしたものよ。まあ、せいぜい『幻の第四課が始祖ブリミルの遺体を解読している』といううわさがある程度ね」 ルイズとシエスタは顔を見あわせた。安堵の表情だ。 「たとえば私の第二課はね、ゲルマニアから伝わった『科学的研究法』を用いて、基礎の魔法の法則を再構築しているのよ」 ルイズとシエスタは再度顔を見あわせた。困惑している。 その様子をみたエレオノールは、ルイズに向かって言った。 「ルイズ、今学院で受けている魔法の授業は、古文書や始祖ブリミルの魔法書を解読しているような形態でしょ?」 「はい、姉さま」 「それは、昔の人が経験したことをそっくり真似ているだけなの。それを、私たちは経験や観察、実験を通して一般的な経験則を打ちたてて、新たな『理論』として体系付けているのよ」 「そうなんですか……」 ルイズはエレオノールの言っていることがいまいちわからない。 「そうよ。ゲルマニアの研究書には、『エネルギー保存の法則』なんて怪しげなモノもあるけど。研究の手法そのものは正しいわ。研究の蓄積を進めていけば、将来新しい魔法を開拓することも夢ではないわね」 エレオノールの話は続く。 「ルイズ。うちの領地の農場では、春の麦植えの季節に母様が地鎮の儀式を行うでしょう」 「はい」 「ヴァリエール家は領地が広いし、母様は風系統だから、うちでやる儀式はほんの形式的なものだけれど、これが領地が小さめの、たとえばグラモン家なんかの土系統の貴族だと、家伝の錬金魔法をかけて、農地の活性化を図るのよ」 エレオノールの目がどんどん危なくなっていく。もはや彼女にはルイズたちは眼中にない。 「そのような口伝や家伝に頼っていたため、トリステインの応用的な魔法技術は家系ごとにばらばら。ひどいものよ。それを収集、実験して統一性のある高度な魔法体系を構築することがアカデミーにとって、いいえ国家にとって急務なのよ!」 「すごいですね、ルイズさんのお姉さんって」 シエスタは驚嘆の声を上げる。 それを聞いたルイズは、 「すごいでしょ。これくらいなんか、ヴァリエール家の人間なんかへっちゃら何だから」 無駄に、自分に自信を持ったようにエレオノールには見えた。 だからエレオノールは、 「なに言ってるの、ちびルイズ! あんたの功績じゃないでしょ!」 思いっきり右頬をつねってやった。 「いひゃひゃひゃ……ごめんなひゃい」 「ところで、ちびルイズ。あなた虚無の魔法に目覚めたって言うけど、どんなことができるようになったの?ま、どうせちびルイズのことだし、タルブの村で見せたような、失敗魔法の拡大版くらいのものでしょうけど」 ルイズの心は激しく傷ついた。 「ちがうもん!ちゃんとすっごい魔法が使えるようになったもん!」 「そこは『違うんです』でしょ!」 「いひゃい!」 ルイズの左頬は真っ赤になるまでつねられた。 「で、具体的にどんなことができるわけ?ここでやって見せなさい」 だが、ルイズは応えることができない。 「どうしたのよ?」 「えと、虚無の魔法は、精神力をすごく使うの。で、今は精神力が十分たまっていなくて……」 「あきれた。じゃあ、あなたは当分『ゼロ』のままね」 「まて、ルイズはこれでもがんばっているんだ」ブチャラティが口を挟む。 「あんた平民? なら黙っていなさい!」 エレオノールの高飛車な剣幕にしかし、ルイズの使い魔はたじろぐ様子を見せない。 「断る。俺は相手が貴族だろうが王族だろうが、正しいと思ったことを行うクチなんでね」 「ブチャラティ……といったかしら?あなたには使い魔としての『教育』が必要のようね……」エレオノールの口調はあくまで冷静のようだが。 ルイズにはわかった。 ――エレオノール姉さまは激しく怒っているわ! その証拠に、ねえさまの眼輪筋がピクピクとうごめいてるもの! 「ルイズ、あなたの使い魔、しばらく借りるわね……ミス・シエスタ。あなたの相手は明日になりそうだわ。しばらく待っていて頂戴」 「わ、わかりました」とはシエスタの弁。 ルイズは、自分の使い魔の危機を肌で感じ取った! 「そういえば、ブチャラティは暇つぶしで忙しいんだったわ! ねえさま、そういうわけだから」ルイズはとっさの一言は、 「言ってることが矛盾してるぜ、ルイズ」反対にブチャラティに慰められた。 「いい度胸じゃない、ブチャラティとやら。このアカデミーの中庭にはどういうわけか教練場があってね、そこまで来なさい」エレオノールはやけにさわやかな笑みを浮かべて、ブチャラティの返事を待たず、一人去っていったのだった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― その日、トリスタニア王宮の外交の間にて、アンリエッタは一人の黒髪の青年に謁見を賜っていた。 ロマリア皇国からの使者を名乗る男は、物怖じすることもなくアンリエッタにの眼前に跪いていた。 彼はなぜか、右手にだけ白い手袋をしている。 「どうしても、アルビオン帝国に対して異端宣告を出すことはできないというのですか?」 アンリエッタは詰問した。詰問というよりは、憤怒の声であった。 「まことに申し訳ない。彼らは、始祖の教えに関しては偏執的ともいえるほど教義に従っておりますゆえ」 ロマリアからやってきた、元司祭と名乗る黒髪の男は、まるで悪びれた様子を見せず、アンリエッタに再度頭を下げた。 「始祖ブリミルの末裔である、アルビオン王家の血族を根絶やしにしてもですか?」 「それに関しては、私個人としてはまったく姫様に同感なのですが。アルビオン王家はかつて教会に税をかけようとしたことがありまして。考えようによっては、『始祖の教えを破ったアルビオン王家を、貴族派が忠罰した』といえなくもないのでございます」 「何ですって!」 そう叫んだアンリエッタをさえぎるように、 「待ちなさい」 マザリーニが発言した。 明らかに無礼だが、この際仕方がない。 「それは、ロマリア皇国の考えですかな?」 「いえ……とある枢機卿の個人的な発言にございます」 「なるほどな。では、教皇聖下はなんと?」 「それについてはご容赦を。ですが、我々、ロマリア人の義勇兵を送ってきた事実からご推察ください」 「了承した。姫様、ロマリアは我々の味方をしてくれそうですな。今のところは」 マザリーニはそういいながら、アンリエッタの顔を盗み見て、表情を確認した。 どうやら、アンリエッタは落ち着きを取り戻したようだ。 「わかりました。トリステイン王国は、あなた方義勇軍を快く受け入れます。別命あるまでトリスタニアの街を楽しんでいってくださいまし」 アンリエッタはそういうと、マザリーニに頷いた。 マザリーニはロマリアの男をつれ、彼の宿舎へと案内していった。 アンリエッタはため息をつくと、自分の執務室へと向かっていった。 その日のアンリエッタの朝見はこれを最後に終了したのだ。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― アンリエッタの部屋には、すでに人物がいた。 「失礼しております」女の声がアンリエッタの執務室に響く。 「何用ですか、アニエス」 アンリエッタにそう呼ばれた女性は、近衛騎士隊の制服の上に、シュバリエの証であるマントを羽織っていた。 彼女が金髪を短く切り上げているのは、その腰に下げた剣を振りやすくするためか。 「女王閣下、アルビオンに放っておいた『草』から、不穏な報告がございます」 「どのような報告でしょうか?」 アンリエッタは机に向かいながら質問した。彼女の視線の先には大量の命令書がある。 「不確実な情報ですが、アルビオンが、トリステイン魔法学院に奇襲をかけ、生徒を人質にする計画があるとか」 アンリエッタはわずかに表情を曇らせた。 「そうですか……彼らも必死なんでしょうね」 「何か対策をお考えですか?」 「アニエス、あなたはどう考えますか?」 そういわれた女剣士は腕を組み、しばし考え込んだ。 そう、この人物は杖を持っていない。 メイジではないのだ。 「私としては、策が『何でもあり』であるならば、この問題を捨て置くべき、と思います」 「どうしてかしら?」 「はい。もし、この計画が真実だとするならば、アルビオンは重大な過失を負うことになります。むしろ、トリステイン王国政府としては、彼らの奇襲が成功し、なおかつ人質を二、三人殺してくれればなおよろしい。トリステインがアルビオンと比べて道義的な国家となり、国際社会において、社会的弱者としての特権を存分に振るうことができます」 「そして、戦争に消極的なトリステイン貴族たちを一致団結させることができる。違いますか?」 「おっしゃるとおりです」 アニエスは自分の凄惨な笑顔をさわやかに王女に向けた。 元が平民である彼女にとって、貴族の師弟は平民の子供となんら変わりはない。 彼女にとっては、生徒たちは絶対的に守るべき対象ではないのだった。 だが、他のトリステイン貴族からしてみれば、到底受け入れられない思想ではあった。 アンリエッタは少し考え事をした後、フフフ、と笑った。 その笑い方にはどこかしら陰がある。 「私もまだまだ甘いわね。その案は却下します。アニエス、あなたはトリステイン魔法学院に赴きなさい。学生に戦時訓練を施すことを名目とします。十分な銃士隊を連れて行きなさい」 「われわれに警備をおこなわせる、と?」 「ええ。ですが、くれぐれも生徒や教員に、真の目的を悟られぬようお願いします」 「了解いたしました。ですが、その前にするべきことがあります」 アニエスはやや引き攣れた敬礼を返し命令に応えた。 「何か?」アンリエッタは自分に問うた。出した命令に漏れがあったのだろうか? 「はい、例のウェールズ公の件で捜索に進展がありました」 その言葉を聴いたアンリエッタの体がこわばる。 彼女にとって、ウェールズの単語は、今では半ばトラウマになっていた。 だが、今の彼女は女王である。そのような感傷は許されない。 「私がウェールズ様……あの死体と一緒にこの城を抜け出したとき、衛兵とは一人も顔を合わせませんでした。あの時に、衛兵に指示をだせた人物は多くありません」 やはりあの男か……アンリエッタは歯噛みした。先王の時代から使えていたあの男は、いつからこの国を裏切っていたのでしょうか? 父上が死んでから? 父上が国王になってから? それとも、最初から? アンリエッタの思考を打ち切るように、アニエスの小声がアンリエッタの鼓膜を振動させる。 「はい、ですが、その当時命令を受けたと思われる衛兵達は、当日ウェールズ公を追いかけ、みな死にました。決定的な証拠はありません」 「ならば、こちらから『仕掛ける』必要がありますね」アンリエッタは言った。 アニエス・シュバリエ・ド・ミランは一人、用命を果たすために王宮の外へと、とトリスタニア王宮の回廊を歩いていた。 彼女の帯びた長剣が、カチャカチャと不快に高い金属音を生じさせている。 そのリズムに合わせるように、近くにいる貴族たちのヒソヒソ声が、アニエスに聞こえよがしに響き渡る。 「剣などと……無粋よのう」 「所詮あやつは粉引き風情(ラ・ミラン)ですからなあ」不快な笑い声が、空気の振動となってアニエスの周りをおおう。 だが、彼女にとってはいつものこと。気にせずに通り過ぎる。 いや、通り過ぎようとした。 この日に限っては、アニエスは自分に対する嫌味の言葉に対し、硬い表情をした。 彼女の前方、陰口をたたく貴族たちの一団に、『ある人物』がいたのだ。 ――リッシュモン高等法院長―― アニエスは、先日『草』が捕らえたばかりの情報を瞬時に脳裏に引き出した。 ――こいつが、国家の『裏切り者』―― アニエスはその中年男性を凝視した。 ――証拠はないが、この男でしかありえない―― リッシュモンが、アニエスの視線に気づく。 ――そして、この男こそが、私の『仇』―― 「やあ、粉引き娘殿。今日も姫様のご機嫌とりで忙しそうですなあ」 ――そして、おそらく『ダングルテールの虐殺』の張本人―― 「アンリエッタ陛下はすでに女王だ。姫様ではない」 「そうでしたな、私としたことが。先王や皇后陛下が政をつかさどっていたのであれば、魔法の使えない連中がこの王宮を我が物顔で歩き回る光景を許すはずがなかろうものですなあ」 「それ以上の暴言は王室への侮辱と受け取ります」 リッシュモンはおどけた様な笑みを浮かべる。 「おお、怖い。私はこれでも由緒ある貴族の端くれ。正当な王室に歯向かうなどとは考えたこともない。それにしても、その物言い。それではお前が『アンリエッタ陛下の権力を私の物としている』うわさされても、仕方のないことですな」 アニエスはリッシュモンの目をますますにらみつけた。 それを意に介さず、リッシュモンはアニエスに話し続ける。 「先王の時代はよかった……平民は働き、貴族は戦う。それぞれが己の本分を全うし、お互いに相手の領分を侵そうなどという不遜な輩は現れなかった」 「時代は変わるものです」 「そうだな。だが、よいものは時代が変わっても本質は変化せぬものとわしは思う」 「近頃の『変化』が気に入らぬ様子ですな」 「ふん。まったく最近の平民共は。他人に管理育成されなければ、無軌道に自分のやりたい放題に生きて、抑揚というものを知らぬ。あのダングルテールの村人共も、そのように考えもなしに『実践教義』などたわけた代物に飛びつきおって。貴族と平民は始祖の前において平等だと?」 アニエスの目が光った。 「ダングルテールの虐殺は、あなたが立件したことでしたな」 「何を言っておる。アレはただの鎮圧行動だ。それにあやつらは国家の転覆を図っていたのだ。奴等には当然の結末だよ」 「なるほど。反逆罪には死を与えてもよい、か」 「どうした、アニエス。何か含むことあるようだな?」 ――私はお前を惨殺できる、というのだな―― 「いえ、あなたの方法には賛同できかねますが、結論にはまったくの同意見です」 彼女はそう答え、一礼をして王宮を出て行った。 アニエスの思わぬ言葉と礼儀正しさに、リッシュモンはあっけにとられた。 「そ、そうか」彼はアニエスの背中にそう答えたのだった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 平穏だったトリステイン魔法学院に、騒音を持ち込んだのはやはりアニエスだった。 彼女は目の前の男に向かって節度ある話し方をしていた。 目の前の男、岸辺露伴は、 「つまり、僕とブチャラティにアンリエッタを『かくまえ』っつーことか?」 ぶっちゃけ、やる気が見えない。 いま、アニエスは露伴と二人っきりで話をつけている。アニエスとて、ブチャラティと直接交渉したいのであるが、ブチャラティは、ルイズやシエスタとともにアカデミーにいて連絡がつかないのだった。 「まあ、無駄な修飾を省けばそうなるな」 「う~ん。僕はめんどくさいなあ~」 「その後の大捕物を観察できるぞ」 「なら、仕方がない、手伝ってやるか。感謝しろよ、アニエス」 「相応の働きをすれば、それなりの感謝と報酬は保障してやろう」 アニエスは計画の仔細を露伴に打ち明けた。 「ふん。きにいらないな、その方法は。やり口が汚くて読者に好かれない」 「何とでも言うがいい」 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 三日後、トリステインの安宿にて。 「よろしくお願いいたします」アンリエッタは町娘に扮した格好で露伴と話していた。 「今さらだが、筋書きを確認しておくぞ?」露伴がいう。 アンリエッタがウェールズ公と逃げ出した日のことだ。 彼女たちが城から出て行ったとき、警備の人間とは出会わなかった。 証拠はないが、そのように当日の警備を変えた人間がいたのだ。 つまるところ、トリステイン王宮の内部に『レコン・キスタ』の人間がいる、ということである。 今回、アンリエッタがアニエスの手引きで王宮からひそかに外出し、人目を忍んで露伴と会っているのはわけがある。 「で、もう一度あんたが『失踪』すれば、トリステインの『裏切り者』は、アルビオンの仕業だと思い込む」露伴は部屋の外を伺いながら言った。 「ええ、そうすれば、『裏切り者』は、今回の『失踪』を、アルビオン側に問い合わせるでしょう。スパイの連絡網を使って」 「そして、その『連絡者』が、この宿のどこかに潜んでいるってわけか……」 「ええ、そろそろアニエスがつれてくる筈なのですけれど……」 そう話しているところ、宿の廊下をどやどやと大人数が走り回っている。 さすがは安宿、床の軋み声がものすごい。 走行しているうちに、二人のいる部屋の扉が、乱暴にノックされた。 「おい! あけろ! 俺たちは女王様をさらった人間を探しているものだ!」 アンリエッタは少しだけびくついたが、それも一瞬のこと。落ち着いて露伴に頷いた。 露伴は無言で頷き返すと、おもむろにドアを開ける。 『ヘブンズ・ドアー!』 一瞬の間のあと、廊下に立っていたマンティコア隊の隊員と見られる男はあっけに取られた様子で露伴を見つめていた。 「お前はここではアンリエッタを見つけてはいない。そうだな?」 「あ、ああ……よし、次を探すぞ!」その男は半分ほうけた風になりながらも、見つかるはずのない女性を捜し求めて去っていった。 入れ替わりに、若い娘が大きな麻袋を抱えて部屋の中に入ってきた。 「待たせたな、露伴」アニエスだった。 彼女は肩に抱えていた麻袋を無遠慮に床に落とす。 「ぐぇ!」中から苦悶の声がする。 アニエスが袋の口をあけると、中には若い男が猿轡をされた状態で入っていた。 彼の目は敵対的な目つきをしている。 「なるほど、結構根性がありそうだ。簡単には口を割りそうもないな」露伴が男の様子をじろじろと見ながら言う。 「当たり前だ。われわれは貴族だ! 貴様らなんぞに!」猿轡をはずされた男は開口一番、そう言い放った。 だが、 「関係ないね」露伴はそう言い放つと、 『ヘブンズ・ドアー』問答無用に彼の頭の中を覗き込むのであった。 「どうですか、露伴さん?」 「アタリだ。やはり『裏切り者』はリッシュモンだ。それにしてもすごいな。やつはアルビオンから一億と四十万エキューの賄賂をもらっているぞ」 アンリエッタは嘆息した。が、彼女は気丈にも気を取り直した。 「ならば、彼の元に向かいましょう、露伴さん」 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― タニアリージュ・ロワイヤル座の劇場の中に、リッシュモン卿は一人入っていった。 開幕が真近だというのに、ほとんど観客がいない。 と、いうのも、役者の腕が悪すぎて批評家たちに酷評され、人気がまったくないのであった。そのようなくだらない内容にもかかわらず、彼は毎週のようにこの劇場に来ていた。そして予約していたらしき席にすわり、ひたすら開演のときを待っていた。 次に入ってきたのは岸辺露伴である。彼はリッシュモンに気づかれることのないように、席の最奥に、一人ひっそりと陣取ったのであった。 開演してしばらくたった時のこと、リッシュモンの隣の空席に、フードをかぶった少女が座り込んだ。 「失礼だが、そこは私の待ち人が来るのだ」リッシュモンは言った。 だが、少女は席を立つ様子を見せず、フードを跳ね除けた。 果たしてそれはアンリエッタであった。 「アンリエッタ様ではないですか。あなたは失踪したのではなかったのですか?」 「私がアルビオンの手勢に攫われたのがうそなのが、それほどまでに悪い知らせのようですわね」 「なにをおっしゃる。ご無事で何より」 「お互い、無駄なごまかしは無しにいたしましょう。ここであなたと会うはずのアルビオン人はすでに捕縛してあります。あなたが裏切っていたことはもうすでに自明の事ですのよ」 「ほう」リッシュモンは、興味を惹かれた風に頷いた。まったく驚いたそぶりを見せない。 「クロムウェル殿は、私をアルビオンまで連れて行きたいようでしたからね。そのうえ、苦労して作ったトリステインのスパイ網が、あなたの逮捕によって一網打尽になるのですから。あなたの真の主にとって、とても悪い知らせになりそうですわね」 「まあ、このままではそうですな。ですが、私がこのままあなたをアルビオンに連れてゆけばよいまでのこと。そうすれば、『Oh、グッドニュース!』に早変わり、というわけですな」リッシュモンはそういうと、やおら立ち上がり、ぱちんと指を鳴らした。 次の瞬間、舞台の上に上がっていた役者たちが、やおら懐に入れていたらしき杖を取り出し、その先をアンリエッタに向けた。 「さて、私と一緒にアルビオンまでご足労願いましょうか」 わけもわからずに逃げ惑う少数の観客の中、アンリエッタはリッシュモンにつれられえて舞台の中央に引きずり出された。アンリエッタをスポットライトの光が襲う。 「役者はみなアルビオンの手勢でしたのね。どおりで、演技が致命的なまでに下手でしたわ」アンリエッタが淡々と言う。 「そのとおり。ですが、舞台装置は逸品ですぞ。いくら王族といえども、これだけのメイジを相手にはできないでしょう」 「そうね、『私一人』では、この窮状をどうにもできないでしょうね……」 「私は芸術を監督する高等法院官。あなたのお美しい顔を無碍に傷つけたくはない。さ、おとなしくしていただきましょうか」 「いやだ、といったら?」 「それは、私の本意ではないのですが、無理やりにでも連れて行きます。どうします? ここにはあなたの味方はいない。銃士隊の一人すらいやしない。絶対絶命というやつですな。それとも、先ほどから席の奥にいる、あの奇妙な男が何かするのですかな?」 「いや、僕はもう何もしないさ」露伴はつぶやいたが、誰の耳にも入らなかった。 その代わりに、アンリエッタの声が響き渡る。 「ならば仕方がありませんわ。あなた方に同情いたしますわ。情けはかけませんが」 「なにを言っておられる?」 「おいでなさい! 私の『使い魔』!」 次の瞬間、アンリエッタの隣に、醜悪な紫色の人影が出現した。 「なんだ、これは――ぐぁあ!」 アンリエッタのすぐ隣にたっていた、元役者のメイジが昏倒した。泡を吹いている。 それを皮切りに、次々に、舞台の上に立つものが倒れていく。 みな、無残に皮膚が溶け出し、苦悶の表情をかもし出している。 「うばしゃあぁぁぁ!!!!」 アンリエッタのそばに立つ人影は、涎をたらしながらあたりに向かって霧のようなものを出している。 「なんだッ、これはッ!」 リッシュモンはそう叫んだ。彼の脳裏は、現在起こっている状況を把握することを拒否した。 アンリエッタは、狂信の信徒が異端者を見る目つきでリッシュモンを見た。 「私の使い魔、『パープル・ヘイズ』。性格は凶暴ですが、慣れるとかわいらしいものですわ」 アンリエッタはそういうと、自分のハンケチを取り出し、愛おしそうにパープル・へイズの涎を拭いてやった。そして、両手でパープル・へイズの顔を覆うように優しくなでた。 「ふふふ……私のパープル・ヘイズ。お利口さんね」 「ぐぁふぅッ!」パープルヘイズは、主人によくなついたプードル犬のような目つきでアンリエッタを見つめている。 時が時でなければ、よい主人とよくなついたペット、といえようもなくはなかった。だが。 「ば、化け物めッ――」リッシュモンはうめいた。 アンリエッタがパープル・ヘイズと耽美な時を過ごしている間にも、彼の手勢は次々に惨殺されているのだ。 「さて、今生の覚悟は御済みになって?」アンリエッタが聞く。 その傍らには戦意十分のパープル・へイズ。 気がつけば、舞台の上で生きている人間は、アンリエッタとリッシュモンだけになっていた。 リッシュモンは、引きつった笑顔を隠すことができない。 人間がおびえた時の、恐怖の笑いだ。 だが、 「まだまだですな」彼はそういい、床を強く踏みしめた。 次の瞬間、彼の足元に穴が開き、彼の姿を飲み込んでいった。 その部分は、舞台のせり担っていたようである。 リッシュモンは逃がした。だが、アンリエッタはまったくあせる様子を見せない。 「アニエス、後は頼みましたよ……」 彼女はそういったあと、パープル・ヘイズを見えなくしたのだった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「あのアマ、とんでもない隠し玉をもっていたな……」 リッシュモンはそういいながら、暗がりの中、トリステインの下水をたどるように歩いていた。その行く手に立つ影がひとつ、 「ここまでだ、リッシュモン。お前の悪事も、この薄汚い溝で清算する日が来たようだな」 アニエスであった。 だが、リッシュモンはアニエスの言葉に動じる様子はない。 「人は誰でも『救い』が必要だ……」 彼は呟いた。 「わかるか、この意味が……」 「何を言っている?」 「私はただ金や地位がほしくて高等法院という地位にまで上り詰めたのではない」 「お前が無辜の平民を奴隷のように扱いたいたかったのか?だがそれも今日でおしまいだ」 リッシュモンは頭を振る。 「アニエス。お前は何もわかっちゃいない。」彼は不敵に笑う。 「この世には二種類の人間が存在する。いいか、『二種類』だ。男女の違いでは断じてないぞ? それはな、『支配されるもの』と『支配するもの』だ。 陳腐な言い草のようだが……この世には、与えられた自由をもてあましてしまう人種が存在するのだ」 「何が言いたい!」 「つまり、アニエス。お前のような、魔法の使えない、この世では暴力でしか立身出世できない人種のことだ。 知性が暴力に勝るように、アニエェス! お前はわし達、真の貴族にとって単なるナイフにしか過ぎんのだ!」 「ふざけるな! 私は人間だ! 自由意志を持つ、お前たちと同じ人間だ!」 「違うな。私は始祖ブリミルの遺体に選ばれたのだ! 今! 証拠を見せよう!」 リッシュモンは懐から何か長細いものを見せた。 「何だッ――それは、リッシュモン!」 「今こそ、『始祖ブリミルの脊椎』よ!われを導き給え!」 リッシュモンの体が鈍く光る。 それと同時に、あたりに夕日の光が充満していった。 一瞬の間のあと、アニエスは気づいた。 これは……いや、ここは…… 先ほどまでいたはずの下水の通路とは、あまりにも空気が違いすぎる。 ダングルテール? いや、それよりも、リッシュモンは? アニエスの背後で、リッシュモンの声がする。 「いやはや、お前まで始祖の恩恵を受けるとはな……ちょっとした計算外だ……」 「リッシュモン。これが、この瞬間移動がお前の切り札か?」 「そうだ、いや、『そうだった』。やはり私は運がいい。転移先がここだとは。私は第二の切り札が使えるようになった! みよッ! これが、私の最後の切り札だッ!」 リッシュモンは懐から銀色の円盤を取り出し、それをためらいもなく頭に差し込んだッ! 次の瞬間、信じられない光景がダングルテールの町跡に繰り広げられた。 燃え盛る火、火、業火。 逃げ惑う人、焼かれる人。それに向かって無心に杖を向けるメイジの一団。 突如出現した人々は、どの人間の表情もうつろだった。 アニエスが戸惑っている間にリッシュモンはメイジの一団にまぎれていった。 リッシュモンの声が響き渡る。 「どうだ、わしの切り札『アンダーワールド』は。脊椎で転移した場所がここでよかった。ここでは、メイジ以外の人間はみな焼け死んだ。どうするアニエェス! このまま、焼け死ぬがいい!」リッシュモンは、すでに煌々とした表情をしている。 「人類が品種改良した家畜は自然界では簡単に淘汰される。 狼などの野獣に、簡単に食い殺されてしまうからな…… あいつらが生きていくには、人間の保護が必要なのだ。 家畜が自然界で生きられないようにッ! お前たち平民がッ! メイジの加護なくして生きられようはずがないのだぁッッッ!」 「ならばッ! そのための牙だ! われわれは自ら生きるためにッ!六千年もの忍従の時を経てッ! 剣や銃という牙を研いできたのだ!」 アニエスは近くの民家に身を潜める。だが、そこにもメイジの一団が容赦なく火炎の魔法を浴びせかけてくる。 「くそッ。絶体絶命か……」 そう考えるアニエスのもとに、一人の少女が背後から歩み寄ってきた。 「この村の大人たちはみな焼け死ぬの……私のお父さんも、お母さんも…… これからあと十分後、私の両親は二階で抱き合ったまま焼け死んじゃうの…… それはもう決まったこと。誰にも変えられないわ」 アニエスは思わず、その少女を抱きしめた。 「大丈夫だ。お前は私が守ってみせる」 「いいえ、あなたには私を救うことはできない。これは過去に起こった地面の記憶。誰にも過去に起こった出来事を変えることはできない」 「そんな……」アニエスは絶句した。だが、同時に、あることに気がついた。 「どうした、もうあきらめたのか?」リッシュモンの嘲笑じみた怒号が、火の街を響き渡らせる。 リッシュモンの目の前に、アニエスが現れた。 彼女は村の少女を小脇に抱えている。 「観念したようだな」リッシュモンはきざに杖を振り回し、火炎の魔法をアニエスに向けはなった。 だが、アニエスはまったくよけようともしない。 それどことろか、少女をたてにして、リッシュモンの方向へと駆け寄ってくる。 「馬鹿な!そんな餓鬼ごとき、お前もろとも焼き尽くしてくれるわ!」 リッシュモンの放った魔法は直径三メイルほどの火球となってアニエスたちを襲う。 だが、刹那。 どういうわけか、彼の放った魔法は少女の前面で掻き消えた。 「なっ!」リッシュモンの驚愕は一瞬、だが長い一瞬の間であった。 「うぐッ!!!」間合いのつめたアニエスの長剣が、リッシュモンの腹を貫く。 「あの時私は焼け死ななかった! 私は生き延びた! この過去の記憶は、誰にも変えられない!」 「そうか……貴様……生き残りか……」 「そのとおりだ。今こそ、ダングルテールの民の敵、討ち取る!」 アニエスは突き刺した長剣の柄をねじった。そこから、リッシュモンの体内に酸素が猛毒となって送り込まれる。 「畜生……貴様ごとき……下賤の平民風情に……」 終わった。 アニエスは地面に倒れこんだ。両膝ががくがくと笑っている。 『幼いアニエス』を盾にしたからといって、リッシュモンの魔法をすべて『いなした』わけではない。今の彼女には、立ち上がる気力をためる時間を必要としていた。 「お姉ちゃん、大丈夫?」少女が言った。 「ああ、もう大丈夫だ」そう答えたアニエスは、少女が半透明に消えていくのに気がついた。 「おまえ……」 「ええ、スタンドの力がつき始めたのよ。その前に、パパやママのところに行かなくちゃ。そこで、私は気を失うの」 アニエスは後を追おうとしたが、足に力が入らない。 「まて……」 アニエスの言葉に耳を貸す様子もなく、少女は納屋の二階へと上っていった。 そこから話し声がする。 「…この子だけでも……」 「…疫………て持って…ない・・・」 どうやらそこに、実験小隊の指揮官がいるようだ。 なんとしても、その男の小隊長を突き止めねば…… アニエスは残りの力を振り絞って、張って二階に向かっていった。 だが、そこにはすでにメイジの姿はなかった。 変わりにいたのは……平民の夫婦だけ。 だが、アニエスは、その二人に見覚えがあった。 「……パパ…ママ……」 二人はアニエスの存在に気づくことなく、ベッドの上で静かに息を引き取って言った。 最後に、 「アニエスに、神のご加護が……あらんことを……」と呟きながら。 「パパ!ママ!」 アニエスが一瞬送れてそう叫んだ先には、土の壁しかなかった。 リッシュモンのスタンドの力が尽きたのだった。 「母さん……父さん……」 アニエスは、止め処もなく流れてくる涙を、どうにかして止めようとしても、もうどうにもとめられなくなっていた。 第五章 カネによる忘れられゆく記憶 Fin...
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前ページ次ページ使い魔は紅き薔薇 「――――動かない」 ルイズは呟いた。 人形に契約の口付けをしても、使い魔のルーンが刻まれても動く事は無かった。 少しだけ待っても、動かない。 「……どうして。 どうしてなの……!?」 ルイズは、やや青ざめながらも理由を探す。 ――これは、主の代わりに呪いを受ける人形? ――これは、主の危機に目を覚ます人形? ――これは、ただの鑑賞用……!? 「――ぷっ」 誰かが、耐えきれないといった様子で声をもらした。 「あは、あはははは!! 流石だわルイズ! 動かない人形を召喚するだなんて!」 「見た目だけ豪華なのは同じだな!」 「流石はゼロ!」 「ゼロのルイズ!」 しかしルイズにその言葉を聞く余裕は無かった。 ――どうして、どうして動かないの!? ルイズは抱いた人形を隅から隅まで見る。 赤いドレス。 まるで紅薔薇の様な華やかさ。 緑のリボン。 白い肌。 金の髪。 見た目は美しい。 だが、動かなければ意味がない。 「どうして……!」 耐えられず、ルイズの目に涙が溢れてゆく。 使い魔の召喚には成功した。 でも現れたのは、見た目は美しい、でも動かない人形。 ルイズは人形を胸に抱き締めた。 柔らかい。 暖かさは無いけれど、まるで小さな子供を抱き締めているようだ。 本当に生きている様に、美しい。 花の様な儚さを持つ、緻密にして繊細な人形。 これを作ったのは、とても腕の良いメイジだろう。 土系統のスクウェアだろうか。 しかし美しいのは見た目だけ。 飾る人形としてこれに比肩する物は無いだろう。 だが、それでは意味が無い。 ルイズは使い魔を召喚したのであって、鑑賞用の人形を出したのではない。 「どうせ、その人形も買ったのでしょ?」 「ヴァリエール家ですものね!」 「そんな人形は買えて当たり前だろ!」 「……う、るさいっ……」 だが声は掠れていた。 かろうじて聞こえたのはコルベールぐらいなものである。 ふと、ルイズは奇妙な場所に気が付いた。 背中。 リボンのある場所。 そこに、穴の様な物が……。 「……これは」 ゼンマイを巻く為の穴だ。 ルイズは箱を見る。 ちゃんとそこに、金の細工も美しいゼンマイがあった。 ――これだわ。 これを回せば、きっと使い魔は動く。 きっと、自分に従順で素直な使い魔となる。 ルイズは、目を涙で潤ませながらゼンマイを差し込み巻く。 ――そうよ、私は『巻く』って言ったわ! 『巻く』とはきっと、ゼンマイを巻くという意味! 二回、ゼンマイを回したその時。 ひとりでに、ゼンマイが回り始めた。 「きゃっ!」 ルイズは人形から手を離す。 しかし人形は、宙に浮いていた。 誰もレビテーションの魔法は使っていない。 宙に浮き、ゼンマイが回っていた。 何回も何回も。 周囲の生徒やコルベールも黙してその様子を見守る。 ただ、コルベールは杖を人形に向けていた。 いつでも魔法は使える。 奇妙な動きをしようものなら、生徒を預かる教師として燃やすつもりだった。 キリキリと、ゼンマイは回る。 やがて、止まった。 人形の、赤いドレスとは反対に青い目が開かれる。 ふわりと優雅に地に降りると、人形はルイズを見た。 視線が合う。 そして。 「……まったく、貴女が泣いたおかげでドレスが濡れたじゃない」 はっきりと言葉を口にした。 「……し、喋った……」 ルイズの言葉はその場に居る誰もの思いを代弁していた。 喋った。 人形が、喋った。 ルイズのすぐ傍まで歩み寄り、やや見上げる。 「レディが、人前で簡単に涙を見せてはいけないわ。 どんなに辛くても、心に咲いた花は枯らせてはいけないのよ」 そう言って、微笑んだ。 まるで花が咲いたかの様に。 ――慰められた。 その事実にルイズは一瞬呆然とし、すぐに涙を拭う。 「あ、当たり前じゃないの! 私は貴族なのよ!」 「そう、良い子ね」 さしてそう思ってはいない声。 だが、優しさを感じられる。 この優しげな声が、本当に人形のものなのだろうか。 新種の亜人ではないかと囁く声がする。 「おまえ、名前は?」 「おま……!?」 貴族に向けるにはあまりにも無礼な発言だった。 だが人形ならば仕方ない、もしこれが平民ならばファイアーボールやエア・ハンマーをぶつけていた。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。 『ご主人様』と呼びなさい、あんたは私の使い魔なんだから」 五芒星がよく見える様にと胸を張る。 「あら、そう。 ルイズ」 呼ぶつもりは全く無い様子。 『ご主人様よ!』 ルイズが使い魔に対する躾としてそう言おうとするより先に、人形が言った。 「私の名は真紅。 ローゼンメイデンの第五ドール」 「ろ、ローゼン……?」 分からない単語が飛び出し、ルイズは言葉を飲み込む。 ――ローゼンメイデン……薔薇、乙女? 確かにこの人形は薔薇の様に美しい。 美しい、が。 「そしてルイズ。 おまえは、これより真紅のしもべとなる」 「なっ――!?」 いくら人形でも限度がある。 誇り高き貴族。 それも名門である、ヴァリエール公爵家が三女のルイズに向かって『おまえ』そして『しもべ』。 しもべになれ、など有り得ない。 有り得てはならない。 ルイズは手にした杖を振りかざした。 「ファ――」 「その左手にある指輪にキスをしなさい」 凛とした上からの言葉。 ルイズは『ファイアーボール』を唱えるのを止めて、自分の左手を見た。 金。 精緻な飾りの施された、指輪。 嵌めた覚えなど無いそれが、いつの間にか薬指にあった。 「な、何よこれ!」 無理やりにでも抜こうとする。 しかし、ルイズの指によく合うサイズで、まるでルイズの左手の薬指に付ける為に誂えたかのようだ。 ぴったりとして抜く事が出来ない。 「無理に抜くと、肉が削げるわよ」 当たり前の様に言われ、ルイズは手を指輪から離す。 今まで黙っていたコルベールが急いで駆け寄り、薬指を見た。 「これは……」 抜く事が出来ない。 人形の言う通り、抜いてしまうと肉が削げてしまう。 「ご主人様に何という事をするの、今すぐ外しなさい!」 ルイズは言う。 しかし人形――真紅は、何処か達観した、諦めも含んだ表情でルイズを見る。 「私からすれば、使い魔になれというのは不本意だわ。 おまえが『しもべ』を不本意だと思う様に、私からすれば『使い魔』は不本意だもの。 でも私はネジを巻かれてしまった、人工精霊ホーリエの問いに、応えたはずよ」 「問い――!?」 ルイズの脳内を、先ほどの声が駆け巡る。 『巻きますか、巻きませんか』 それにルイズは巻くと答え、確かに巻いた。 「で、でもね! 使い魔の契約とは神聖な物なのよ! あんたの言う『しもべ』よりも意味があるわ!」 「おまえの言う『契約』がどんなに神聖で順序の高いものでも、私にとってはそうではないていうこと。 薔薇の指輪にかける誓いは、とても神聖なものよ」 二人の話は平行線だった。 どちらも譲る気は無い。 耐えかねてコルベールが言う。 「お二人とも、少しよろしくですか」 「……何ですか、ミスタ・コルベール」 「そこの人間よりはまともそうね、何かしら」 両者、共に人の話を聞かないタイプではない事が証明された。 ただ、お互いの認識と常識とは違う話をされて対立しているだけである。 まず、とコルベールは周囲に居た生徒達を部屋に戻らせた。 生徒達は後ろ髪を引かれるかの様に振り向きながら、『フライ』で去っていく。 その中でも、青い髪の少女タバサは無表情な瞳の奥に『興味』を抱きながら。 「ミス・シンク。 その、ローゼンメイデンとは何ですか?」 「お父様が作った、ドールよ」 「『お父様』とは……」 「お父様はお父様よ。 『アリス』を探しているの、たった一人で長い間……」 真紅は昔を思い出すかの様に遠い目をする。 「どんな花よりも気高くて。 どんな宝石よりも無垢で。 一点の穢れも無い、世界中のどんな少女でも敵わないほどの、至高の美しさを持ったアリス」 ――姫様……。 ルイズの幼い頃共に遊んだ、トリスティンの王女を思い出す。 気高く、美しい少女。 しばらく会っていないが、それらには磨きがかかっているだろう。 「そのアリスを追い求めて形にしようと創られたのが、私達、ローゼンメイデンのドールよ。 でも……」 真紅は少し俯く。 「私達は誰もアリスに届かなかった。 お父様は、悲しみに暮れて姿を消してしまった」 「…………」 コルベールは返しようもなく、沈黙した。 ドールとは人形の事。 お父様とは作者の事だろうが、姿を消したとはつまりそのままだ。 彼女には親が居ない。 そういう意味だ、悲嘆に暮れた様子は無いが。 「だから私達は戦う。 アリスゲームを戦い、アリスになる為に生き残る。 その為には、指輪を嵌めた者が必要なのよ」 そして、真紅の指輪を持つのはルイズ。 「……ミス・シンク。 あなたの事情は分かりました。 しかし、此方にも事情はあるのです。 貴女が使い魔になることを了承して下さらないと、ミス・ヴァリエールは最悪退学になってしまう」 「そ、そうよ! 退学になったら、そのアリスゲームだとか、やってられない、んだから……」 語尾が小さくなる。 未来を想像したのだ。 『ゼロ』と笑われ誰からも相手にされない、自分を。 そのまま、老いて逝く自分を。 「……私が知る使い魔とは、主のしもべだわ」 「主の目となり耳となり、秘薬を集め、主を守るのが使い魔です」 コルベールは言う。 真紅はその意味を理解したのか、ゆっくりと頷いた。 「その秘薬を集める事や、目と耳になるのは出来ない。 でも、私は誇り高きローゼンメイデン、戦う力くらいは有るわ。 交換条件よ。 おまえは、その指輪にキスをし誓うのよ。 薔薇の指輪にかけて、私のローザミスティカを護ると。 その代わりに私はおまえの使い魔となり、護るわ」 「ローザ、ミスティカ……?」 ルイズは問う。 「私達の力の源よ。 無くなってしまえばただの人形になってしまう。 それで、どうするのかしら?」 「私は……」 ルイズは、暫し迷う。 それならば、真紅は自分の使い魔となり両方丸く収まる。 問題は無い。 『しもべ』になるのは、貴族の誇りが許さない。 でも退学はもっと許せない。 ルイズは覚悟を決めると、真紅と真正面に向き合った。 「良いわよ。 この指輪にキスをし、誓えば良いのね」 そう言うとルイズは指輪にキスをした。 途端周囲を薔薇が舞う。 赤い、赤い薔薇。 真紅に相応しい、紅薔薇。 今ここに、二人の二つ目の契約が結ばれた。 『しもべ』と呼ばれるルイズと『使い魔』と呼ばれる真紅。 そんな二人の、奇妙な契約が。 前ページ次ページ使い魔は紅き薔薇
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特に何も無い毎日が過ぎていった。大盗賊が襲撃してきたりすることはなく、王女が訪問してきたりすることもなく、どこぞに冒険に出かけるようなこともない。極めて平和な日々が続いていた。それに不満があるわけではない。 しかし、そこに大きな満足もない。いや、ほんの数ヶ月前までなら彼はそれに満足していたのだ。授業を適当に聞き流し、昼休みや放課後には女子にちょっかいを出してみる。本命にばれやしないかというスリルにゾクゾクしながらなんてことのない日々を送っていた。 だが、もう以前の彼ではない。世界はそんな生ぬるいものではなく、いつか襲い掛かってくることを知っている。それなのにどうして学院という籠の中にいられるというのだ。時間はあるようで、ない。戦わなければいけないときは、前兆なくやってくる。そのときのために強くなりたい。 敗北を知り、彼はそう思うようになった。 「決闘だ!」 「あんたいきなり何言ってんの?」 キュルケが馬鹿にするような声で言ってやった。ルイズも呆れた目でギーシュを見た。 「だから決闘を申し込むんだよ。受けてくれるかい?」 「誰によ」 この場にいるのは先にあげた二人とシエスタ、そしてンドゥールである。この四人で何をしていたかというと、またあいかわらず魔法の練習だ。爆発の余波を受けていた おかげで真っ黒になったルイズはシエスタから濡れ布巾を受け取り顔をぬぐう。 「まさかンドゥールとやるの?」 「その通り!」 「やってあげてンドゥール」 ルイズがそう言うと、ンドゥールは懐から手袋を取り出し、投げた。それは丸めてあったので空気抵抗が弱く、ひゅるひゅるとギーシュの顔に向かっていった。そして当たる直前、その手袋に向かって水が突き上げた。 ギーシュは背筋が寒くなった。その手袋はなんかやばい。彼はとっさに後ろに下がった。すると、彼の少し前に落ちるはずの手袋が突如動き出して喉元に掴みかかってきた。 「ぐえええ!」 水が詰まった手袋に首を絞められた。ギーシュは暴れるも水の力は強く、手袋は離れない。声が出ないので魔法も使えない。 つまり、どうしようもないということである。 決着。 「というかだね、始めの合図も何もなしに仕掛けるのは反則だと思うんだよ。だからあれは僕の」 「負けよ」 「負けね」 「負けです」 「うん。そうだね」 アハハと乾いた笑いをしてギーシュは水を飲んだ。いまはちょっと小休憩、ルイズも精神力はともかく体力が限界に近かったので食事を摂っている。 疲労があるので食べやすい一口サイズのサンドイッチだ。 「それで、いきなり決闘なんてどうしたの?」 「いやだね、その、アルビオンではフーケに負けてしまったからね。今度は勝てるように鍛えようと思ったんだ。それで本とかを読んだりしてて、次は実戦だと、ね」 「相手が悪いわ。ダーリンが手加減してくれたのもわかるでしょ? もうちょっと実力が近い相手と戦いなさいな」 容赦ない言葉。しかし、それは事実。ギーシュは涙を堪えた。 「しかしだね、他のものと決闘しても普通の魔法ぐらいしかやってこないじゃないか。 もっとこう、こっちが驚くようなことをする相手じゃないと」 「なんで?」 「ガチンコでやりあっても仕方ないじゃないか。裏を掻くようなことをしないとフーケのように実力がはるか上の相手には勝てないだろ?」 「なるほどね」 彼の言うことももっともである。キュルケも実戦の経験、といってもちょっとした喧嘩のようなものであるが、単なる力押しで勝ったのは相手が弱く、馬鹿なときぐらいだ。時には頭を使わなければならないときもある。ギーシュはフーケとの戦いで魔法以外を使うことを知ったのだろう。 「それじゃあ、あんたこの子とやってみなさいな」 キュルケが言ったこの子とは、シエスタ、ではもちろんなくルイズのことであった。 「ちょ、正気かい? 君、ルイズは、その」 「成功率ゼロよ。でもねギーシュ、やりようによっては彼女はあんたに勝つかもしれないわよ」 「なんか腹立つわね。その通りだけどゼロゼロ言わないでよ」 「ルイズ、君はやる気なのかい?」 「当たり前よ。舐めてんじゃないわ。シエスタ、離れてちょうだい」 ルイズはまだ乾いていない髪をゴムで縛り、上着を脱いだ。煤で真っ黒になるため安いマントを羽織っていたのだ。 「さあ、始めましょう。負けは杖を落としたらでいいわよね」 「ああ、まあ、いいよ。けど本当にやるのかい?」 「くどい! さっさと構えなさい」 ギーシュはルイズの剣幕に押され、杖を懐から抜いた。だが、彼は心の中でこの決闘にまったく乗り気ではなかった。それは相手が女性だということもあるが、明らかに力が弱いということが大きな原因だった。大体強くなりたいために決闘を申し込んだのだ。弱いものイジメをしたいためではない。 しかし、彼は気づいていなかった。これとまったく同じ状況に以前遭遇していたことに。 そのとき完膚なき敗北を喫したというのに。 「ワルキューレ!」 まず手始めとして、いつかのように自慢のゴーレムを生み出した。 だが本気ではない。 たったの一体だけだ。 爆発が起こった。それはワルキューレを軽々と吹っ飛ばした。 失敗には違いない。しかし、威力は十二分にある。ギーシュはようやく本気で掛からなければいけないと、理解した。 「すまないルイズ。僕は君を舐めていたよ」 「不愉快ね」 「ああ。これからは全力だ」 詠唱し、杖を振った。すると今度は四体のゴーレムが生まれでた。それぞれ手には短めの棒が握られている。 「行け!」 先ほど倒されたものも起き上がり、合わせて五体ものゴーレムがルイズへと襲い掛かっていった。シエスタが悲鳴を上げるが、ンドゥールもキュルケもルイズ本人も動じることはなかった。 爆発が起きる。ゴーレムが吹っ飛んだ。一体ずつとはいえ詠唱は速く、ゴーレムは近づくことができない。正面からは。 「きゃあ!」 ルイズが羽交い絞めにされた。後ろに振り返ると、ギーシュのゴーレムがそれをしていた。前方に意識を集中させ、背後から忍ばせていたのだ。 「降参したまえ」 「い、や、よ」 ギーシュに応じず、彼女は魔法を唱えた。今度の爆発は超小規模で、ルイズを押さえているワルキューレの肩で起こった。それをさらにもう一度することで、拘束は簡単に解かれた。おまけに止めとばかりに 頭と胴体を爆発で抉る。 「さあ、いくわよ」 ルイズは走り出した。その進行を止めようとギーシュはまだ動けるワルキューレを向かわせた。だが、それすらも爆発で吹っ飛ばされる。これは彼女なりの成長である。 最近の練習のおかげで爆発の規模を調整することと対象を選択することがかなり細かくできるようになったのだ。 「食らいなさい!」 ルイズが杖を振るう。ギーシュは腕で守りを固めたが、無意味。爆発は彼を吹き飛ばした。 「ぐあっ!」 地面に転がる。全身が痛みに呻いていた。馬鹿と鋏は使いようとはよく言ったものだなあ、と、ギーシュは思いながら身体を起こす。と、彼の目に走り寄ってくるルイズが見えた。 このままでは敗退、それは嫌である。三連敗など情けない。ギーシュはどうすべきか頭を悩ませ、逆転の方法を思いついた。 「降参なさい!」 彼の目の前にやってきたルイズがそう命令した。彼女を見上げながら、ギーシュは言ってやった。 「い、や、だ、ね」 「――ッア、」 ルイズの腹を青銅の棒が突いていた。それはギーシュの手に握られている。 彼は土の中に錬金でそれを作り上げていたのだ。 「僕の、勝ちだ!」 そして彼はそのままルイズの杖を弾き飛ばした。くるくると宙を舞い、あとは地面に落ちるだけ。完全な勝利、だと彼は思った。しかしルイズは、勝利を逃すのが我慢ならなかったのか頭が興奮していたのか、おもむろにギーシュをぶん殴った! 「オラァ!」 「へぶ!」 さすがにその反撃は想定できなかった。ギーシュはまともに顎に食らい、杖を放して地面にぶっ倒れた。と、ルイズの杖も地面に落ちた。 「勝ったわ! ちい姉さま、私やりました!」 「いい、いや、ちょっと待ちたまえ! 杖を放したのは明らかに君が先だったじゃないか! これは僕の勝利だ!」 「何言ってるの。勝負は先に杖を地面に落としたほうが負けって決めてたじゃないの」 「そうは言ってもだね、君が殴りかかってきたときにはもう勝負がついてたんだ。 潔く、敗北を認めたまえ」 「潔く? あんたが負けたのよ。あ、ん、た、が!」 「いいや、君だ。勝ったのは僕だ。君が負、け、た、の、だ!」 「違うわ。勝ったのは私。わ、た、し、よ!」 「ぼくだ!」 「わたしよ!」 口論は続くよどこまでも、というわけにはいかないのでキュルケは軽い炎を浴びせてやった。 「落ち着いたかしら。二人とも」 ルイズとギーシュはこっくりとうなずいた。シエスタが急ぎ濡らした布巾を渡す。 結構見た目は悲惨なことになっているがダメージは軽いものであった。 「で、ダーリン、この勝負はどうだった?」 「引き分けだろう」 『そんな馬鹿な!』 「私もそう思うわ。納得しなさい。大体勝ち負けを争うのは二の次でしょ。違う?」 ルイズは口を尖らせ、ギーシュはうつむいた。その通りなのだ。こんな小さなことで争っているのではない。なんとか胸のむかつきを二人は抑えた。 「にしても、二人ともよくやったわよ。強い強い」 「私はあんなもんじゃないもの。手加減してやったんだもん」 「それを言うなら僕だって。わざわざ羽交い絞めしてやったんだぞ。本当ならあの時点で勝負はついていたんだ」 「あら、それを言ったら最初の爆発であんたをぶっ飛ばしてもよかったのよ?」 「なんだと?」 「なによ」 「また口論?」 『イイエソンナコトハアリマセン』 二人は息がそろっていた。 「でもやっぱり修行するにしても全力を出せないんじゃあちょっと問題ありよね」 「そうだな。互いの命を取らないという約束があれば腕は鈍らなくても上達するには 時間が掛かる。アルビオンでのような戦いができればそれに越したことはないのだが」 ンドゥールの言葉にルイズとキュルケ、ギーシュがないないと手を振った。あんなものが何度もあれば修行云々どころの話ではなくなってしまう。 「でも、それに似たようなことならできるわ。ちょっと待ってて」 キュルケはそう言ってその場から離れていった。そして数分後、彼女はどっさりと紙束を持ってきた。 「なんなのそれ」 「これはね、宝の地図よ」 「……また怪しいものを持ってきたね君は」 ギーシュの言葉は全員の心を代弁していた。そんな宝の地図なんていうものは九割九分偽物と決まっているのだ。森林で一枚の葉っぱを探し出すようなものである。 「そんなもの、大抵亜人の巣の奥に宝石が眠ってるとかそんなのだろ?」 「そうよ。だからいいんじゃない」 ギーシュはキュルケの真意がわからなかった。しかし、ンドゥールは理解した。 「その亜人とやらを退治するのが本当の狙いということか」 「正解。さすがダーリン、話が早いわ。チューしましょいだ!」 「寝言は寝て言いなさい」 キュルケの額をルイズが杖で突いたのだった。先は尖っているので痛みはある。キュルケは涙目になりながらも改めて説明した。 「宝探しのついでに亜人と戦って経験を積みましょうってことよ」 「ああ、なるほどね。それなら決闘よりは有効だろう。よし、行こうじゃないか。 亜人退治に」 話はとんとん拍子に進み、シエスタもついて行くと言い出しどうせだからタバサも呼ぼうとなり、大所帯で冒険に出かけることになった。ルイズも最近は訓練と学業だけの生活だったので気晴らしができることが嬉しく、ちょっとわくわくしながら荷を纏めていた。だが、その最中に学院長に呼び出されてしまう。 「何の御用でしょうか?」 学院長室にルイズが入る。中にはオスマンがおり、口にくわえていたパイプを取って声をかけた。 「よく来たの。先日はご苦労じゃった。疲れは癒せたか?」 「は、はい。もう大丈夫です。それで、」 「ああ、呼び出したのは他でもない。アンリエッタ王女に関してのことじゃ。このたび公式に発表されることじゃが来月、王女とゲルマニア皇帝の結婚式が執り行われる ことになった」 喜ばしいこと、とは一概に思えない。ルイズはあの勇敢なウェールズ皇太子を知っている。姫君は彼を愛していたのだ。その人物が散った矢先に好きでもない男と結婚など。ルイズの脳裏に愛しいアンリエッタが思い浮かんだ。 少しも笑ってない。苦しくなった。先ほどまでの心の躍動は消えていた。 オスマンは顔を曇らせているルイズを見やり、思い出したように一冊の本を差し出した。 「これは?」 「始祖の祈祷書じゃ」 それは王室に伝わる伝説の書物。なぜそんなものを、とルイズが尋ねるとオスマンは説明してくれた。 なんでも王族の結婚式では貴族から選ばれし巫女が『始祖の祈祷書』を手に、式の詔を詠みあげる習わしがあるという。その巫女に、ルイズは姫から指名されたのだ。 「その、詔は」 「おぬしが考えるんじゃ」 「わ、私がですか!?」 「そうじゃ。ま、草案は王宮の連中が考えるじゃろうがの。だが名誉なことじゃぞ。 王女自らが示してくださったのじゃ。普通の貴族では式に立ち会うこともできんのにの」 ルイズはアンリエッタのことを思うと胸が締め付けられた。彼女のためなら嫌だとはいえなかった。 「わかりました。謹んで拝命いたします」 「そういうわけで、いけなくなったわ」 ルイズはいざ出発しようとしているキュルケたちに向かって言った。事情を説明すると、彼女らもさすがにそれじゃあ仕方ないかと納得してくれた。肝心の巫女が行方不明になっていては結婚式の段取りに問題が生じる。 学院でじっとしていなくてはいけないのだ。 「それじゃあ、その、ンドゥールさんはどうされるのですか?」 「そうねえ。私としては来てもらいたいんだけど」 「だ、そうだ。ルイズ、俺はどうしたらいい?」 いきなり問われて、ルイズは困った。別にンドゥールがずっとそばにいる必要はない。十分働いてくれたのでここいらで羽を伸ばさせてあげたほういいかもしれないし、亜人と戦いにいくのに彼女らだけではいささか不安。トライアングルが二人にドットが一人とはいえ、魔力が切れてしまえば全員ただの人。 そうなったときにンドゥールがいれば守れるかもしれない。 だから、行かせるべきかもしれない。 「ンドゥール、あなたはどうしたいの?」 「そうだな。どちらでもいいが、強いて選ぶとするなら外へいくほうがいい。いまだに俺はここのことをよく知らないのでな」 その言葉にルイズの胸にぽっかりと穴が開いた。 「そう。なら、行ってきて。ちゃんとキュルケたちを守りなさいよ」 「わかった」 ルイズの心を切ないなにかが走りいく。 あれ、どうしたのかしら、これは。 翌日、ルイズは朝日とともに起き上がり、服を着替えて寝癖を直す。そうしてベッドに座り、チコチコと時計の音を聴いて時間を待つ。だが、いつになっても使い魔は入ってこない。 これじゃあ朝食に遅れてしまう、と思ったときに気づいた。 「そっか、いないんだ」 ルイズは小さく呟き、マントを羽織って部屋を出た。始祖の祈祷書をもつことも忘れない。肌身離さず持ち歩かなければならないのだ。とぼとぼと床を見ながら食堂まで歩いていき、時折彼女はハッとなって後ろに振り向いた。けれどもそこに背の高い男はいない。そのたびに違和感が生まれる。 歯車が噛みあっていないような。 食堂で祈りを捧げ、朝食を取り、今度は教室に歩いていくのだがそのときにも何度も後ろを振り向いた。だがいない。当たり前のはずなのに、なんだか気分が悪い。あの音が聞こえないからかもしれない。 ンドゥールの規則正しい、杖の音が。 教室でいつもの席に座り、授業を受けてもまともに集中することができない。 そばにンドゥールがいない、それだけでなにかがおかしい。 「ミス・ヴァリエール、聞いていますか」 「あ、はい。大丈夫です」 「本当ですか? なら――」 そのときの教師はルイズに問題を出した。それを彼女はすらすらと答えた。 授業は聞いていなくともとっくに予習していたのだ。 その日の授業が終わり、風呂にも入ってルイズは自室に戻った。ばったりとベッドに倒れこみ、ごろごろと回ってから起き上がる。 「ンドゥール」 名前を呼んでも返事はない。この部屋にいるのは自分だけだ。いつも藁束の上で耳を澄ましている男はいない。元々彼とは話すこともほとんどなかった。静けさも何もかわらない。ただ、自分の部屋が異様に広く見えていた。 あの男がいない、それだけ。 それだけであるが、ルイズの心には途方もない寂しさが広がっていた。まるで世界でたった一人しかいないような気分であった。いや、それは真実でもあった。 彼女はゼロのルイズと蔑まれ、いつしか殻に閉じこもるようになっていた。それが、ンドゥールの出現で変わった。 彼女の生活に入り込んできたあの男は静かに殻を壊し、外の世界へ連れ出してくれた。そのぶんフーケやワルドといった危険が迫ったが、彼が守ってくれた。 そして、気づかぬうちに孤独からも救ってくれていたのだ。そのことに気づくと、ルイズはベッドに潜り込み、毛布に包まった。そして名前を呼んだ。 ンドゥール、ンドゥール、と。
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サクラガソリネラ 産駒一覧 ステージ 馬名 競争成績 36S サクラコヒエンド - 37S マリアカラス -
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前回のあらすじ 早朝から雪で遅れつつもなんとか岡山から特急やくもに乗り、新見までたどり着いたひいらぎ。しかし次の列車までは2時間待ち。「もう1本後の列車に乗ってもよかった」とか思いつつも雪に覆われた新見市を満喫し、芸備線のホームへ。そこで出会ったものとは・・・。 新見→備後落合~典型的ローカル線への入り口~ 備後落合→三次~ローカル線はまだまだ続く~ 三次→広島~ローカル線から大都市近郊路線へ~ おまけ、広島の電車たち 新見→備後落合~典型的ローカル線への入り口~ さて、いよいよ芸備線の列車が入ってくる時間が近づいてきました。 ちょっと駅の時刻表でも見てみましょうか。 一日当たり平日7本、休日6本、しかも半分くらいは途中の東城までで、備後落合まで行く列車は1日3本のみしかありません。 かつて芸備線を全線走破し、広島と新見を結ぶ急行たいしゃくという列車がありましたが、備後落合~新見は普通列車としての運転であり、この区間の末端さぶりがうかがえます。 芸備線の列車は全て1番線から発車です。 ふと気付いたんですけど、新見駅の放送では○番線と言っています。JR西日本のほとんどの駅では○番のりばと案内しているので珍しいですね。 ▲待ってる間に上りの岡山行きやくもが到着。やくもは4両編成もあるのですね。 そしてしばらく待っているとようやく乗る列車が1番線に入ってきました。 ▲昼からはかなり晴れてきて、光がうまく絞れてない・・・ 新見12時47分発の普通 備後落合行き ワンマン列車です。 この列車に使用されているのは名をキハ120形と言います。 バスの部品を流用した軽快気動車と呼ばれるディーゼルカーで、ローカル線の期待の星としてJR西日本管内の非電化ローカル線に配備されており、自分も過去何度かこのディーゼルカーのお世話になっています。 備後落合行きワンマン列車は定刻通りに新見を発車。 運転系統上は全列車新見発着ですが、実は途中の備中神代(びっちゅうこうじろ)までは伯備線を走ります。 備中神代を過ぎてから芸備線としての本領発揮ですね。 ▲軽快気動車と呼ばれるとおりキハ120は軽快に走ってくれます。 備中神代から東城までは国道182号線、そして中国自動車道が併走しています。 高速道路相手ではスピード面で完全に不利な芸備線。しかし「負けるつもりで走るつもりはない!」と言わんばかりに全力を出して力走してくれます。 東城を過ぎると高速道路とは別れ、より山深いエリアに入っていきます。景色はご覧の通りまたもや雪!! さて、備後落合に近づくにつれてだんだん多くなってくるものがあります。 それがこれ・・・ やけにスピードが遅くなっていますが、別に雪がすごいから速度を落としてるわけじゃないですよ。 この辺りにはこの標識がとても多いのです。 ちょっとワイパーで見えにくいですが、制限25km/hの表示がされています。 ところによっては制限20km/hや制限15km/hまで速度を落としています。 あんまり徐行ばかりしてると燃費が悪くなりそうですね。 この極端な徐行区間はJR西日本のローカル線ではよく見られるもので、あまりに整備が行きとどかない末端区間ではお客様の安全を確保するためやむを得ず速度を落としてるのだとか。 要は保守がめんどいってことですね。 そんなゆっくりと進みながらも列車は終点、備後落合に・・・・ 着く前に一つ前の道後山で運転士さんが客室内に入ってきて、こんなことを言いました。 ▲道後山駅は御覧の通りぱっと見で駅なのがわからないくらい雪で埋もれてました。 「この先、木次線がタクシー代行輸送ですけど、備後落合から乗り換えられる方はいらっしゃいませんか。」 備後落合駅では芸備線の他に木次線というローカル線が乗り入れてますが、今日は終日運休だそうで備後落合からはタクシーによって振り替え輸送が実施されていました。 運転士さんは木次線に乗り換える乗客の数を確認すると、電話をかけタクシーを予約していました。 ▲備後落合駅も乗るところ以外は雪に埋もれてました。一緒に乗ってた女の子たちがはしゃいでました。 そして、ようやく備後落合に到着。 備後落合→三次~ローカル線はまだまだ続く~ 備後落合に着くと、合わせるかのように芸備線の乗り継ぎ列車が到着してきました。 備後落合14時36分発の普通 三次行き ワンマン列車です。 今度も同じくキハ120ですが色が違いますね。 それはともかく、発車まで20分あるので寒いホームで待たずに済んでよかったというものです。 ▲そしてこれまで乗ってきたディーゼルカーは割とすぐ折り返して新見へ帰っていった・・・ ▲乗る人が全然いないので車内を撮影してみました。ボックスシートもありますが大半がこのようなロングシートとなっています。 ▲え、音だけ・・・? 本当に発車するまで乗客がなく、車内で悠々自適に過ごしていた自分。新見の猪ラーメンも朝兼用だったので小腹が空いてきた。 ということで密かに岡山で買っておいた駅弁でも食べるとしましょうか。 瀬戸内名物あなごめし。 カバンにずっと入ってたせいかちょっと寄ってますがこのようにご飯にあなごがぎっしり! やわらかなあなごの身が美味しいです。あと漬物のショウガが絶妙にマッチングしてます。 そんなこんなで食べ終わってしばらくしてからようやく列車は発車。 発車時点での乗客は自分を含めて3人でした。 ▲運休のせいで列車が通らない木次線の線路は完全に雪に埋まってました。 発車後、木次線と別れますがやはりまだまだこの辺は雪深いですね。そして必殺徐行区間もまだしばらく続きます。 ▲備後落合の次の駅、比婆山。屋根がまっしろけ でも徐々に 雪はなくなってきました。 ▲備後西城駅、駅名票が倒れそう・・・ 途中の備後庄原で今日初めての列車交換。 てか、新見から備後落合の間では一切列車交換してないんですよね。ということはあの区間はあの列車1本ですべて賄っていることに・・・ あれからちらほらと乗客は増えたものの、結局は両の手で数えられるほどの乗客を乗せて列車は終点三次に到着です。 三次→広島~ローカル線から大都市近郊路線へ~ 三次駅では乗り換え時間がたった3分しかありません。 降りた同じホームの向かい側に止まってる列車に急いで乗り換えます。 三次16時2分発の快速みよしライナー 広島行きです。 かつて広島~三次には急行みよしが走っていましたが、2007年に廃止され、この快速に置き換わったのです。 車両はキハ120ではなく、国鉄時代から使われてるキハ47形です。車体中央に寄った両開きドアが特徴です。 乗り込むとすぐに発車したみよしライナー。三次市に入ってまたもや雪がちらほら目につくようになりました。 ▲何やら大量に土管が置いてあるけどそこにも雪がちょっと積もってますね さすがは元急行列車のスジを受け継いだ列車。停車駅もそこそこに順調に快走していきます。最大で25分間、無停車運転をする区間もありますが、最近の快速ではなかなかないですね。 三次発車後はしばらくワンマン列車でしたが、気が付いたらいつの間にか車掌さんが乗務してました。 ▲反対側に停まってるのは当駅始発の普通列車広島行き 列車は下深川(しもふかわ)に到着しました。 この駅から終点の広島までは各駅に停車しますが、車内の様子も激変します。 今までローカル線然とした閑散とした車内が徐々に混み始めてきたのです。 下深川の次、玖村(くむら)では大量の学生さんが乗ってきて混み具合が顕著になってきます。 それまで自分一人で独占状態だったボックスシートも一気に4人全員分が埋まりました。 JR西日本広島支社は関西地区のアーバンネットワークに対抗して(?)広島シティネットワークを展開おり、芸備線の広島近郊区間もそれに含まれているのです。 そのためそれまで1日数本しかなかった本数も下深川以南では毎時2~3本を確保してます。 そんな完全なラッシュ状態の中、みよしライナーは終点広島の8番のりばに到着。 とうとうたどり着いたぜ広島ぁあああ!! この時、岡山から既に9時間が経とうとしていたのでした。 おまけ、広島の電車たち ファンの間ではよく國鐡廣島などと揶揄される広島地区。 そのゆえんは、在来線の列車でJR化後に造られた車両が1両もないことにあります。 ちょっと見上げれば新幹線で最新車両がビュンビュン走ってるのにこの差はなんなの・・・ ※じつは1日数本だけ広島駅に入線してくるJR車両はあります。新見と備後落合から乗ったキハ120が稀に広島駅に入ってくるのです。 そんな広島、実は地方都市でいち早く「シティ電車」の概念を取り入れた地域です。 シティ電車とは要するに、パターンダイヤを取り入れ、高い頻度の運転本数を確保した列車で、今じゃどこでも見られるものです。 それまではやたら長い列車が不規則かつ長い感覚でやってきた地方都市。 広島ではそんな列車を短くする代わりに大幅に本数を増やし、かつ等間隔で走らせることで利便性を高めるということを実施。これが見事に成功して全国にシティ電車が波及したわけです。 そんな先進的なエリアだった広島。 時代を先取りした結果、その後30年ほど車両が変わらないということに・・・ どうしてこうなった! 今このように末期色が熱い広島。でもそれだけじゃありません。 数は少ないですがこんなかぼちゃ色の電車もまだ残ってます。正確には湘南色と言います。 入線時にご当地ソングが流れる岡山駅に対し、広島はオリジナルのメロディを入れてきます このクリーム色に濃紺の帯を巻いたのは瀬戸内色と呼ばれています。 これはいつも誰からも思われている事なのですが、広島の電車ってなぜか前面の幕が白くてぱっと見何線のどこ行きかわかんないんですよね。 時刻表と案内表示からかぼちゃ色は呉線 普通 広行き 瀬戸内色は山陽本線 普通 西条行きだそうです。 せめて何線なのか出してくれるとありがたいですよね。 こちらはカメラの性能のせいで見えてないですがちゃんと幕を使ってます。可部線の緑井行きだそうです。 この電車、105系と言いますが、この顔は愛知県にいるこの電車と良く似ています。 そう、飯田線で走ってる119系です。 両者はほぼ同時期にデビューした双子の兄弟みたいなもんですね。同じ顔だけど用途に合わせてこのように区分されました。 1番のりばからは山陽本線 普通 岩国行きが発車です。 さきほどの末期色や瀬戸内色とはまた違うこの塗装は広島色と言います。いわばこれが広島のスタンダードカラーということですね。 ちなみにこれらの車両、115系と呼ばれており、山陽地区以外にも新潟地区や信州などでも活躍しています。 ただし、この動画のように、片側2ドアのタイプは山陽エリアでしか走っていません。 さらに言うと、見た目は色以外30年変わってないものの、大幅なリフォームを受けており、昔の直角のボックスシートだった車内は今や関西の新快速並みの転換座席に変わってます。 古い車両を大切に末長く使いましょう という計画のもと、JR西日本が本気を出した結果でした。 現在、山陽本線は昼間には快速がありませんが(2010年まではあった)、夕方になると快速通勤ライナーが走ります。 でも、見た目ではやっぱり違いがわかりませんね(笑) それにしても絶賛末期色化プロジェクトが進行中のはずの広島。 しかし、実際に広島駅で会った末期色は1本だけ。他はまだ塗り替えられてません。 聞いた話によれば・・・末期色に塗り変わった車両は優先的に広島以外の地域に回されてるので広島以外の方が末期色を見やすいのだとか・・・ 本当はイヤなの・・・・? 第二章終わり 次回に進む 前回に戻る 入り口に戻る なまえらしきもの: おきがるにひとこと:
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左手に焼き鏝を当てられたような痛みが走った。気がつくと左手になにかの文字が浮かび上がっている。 まさか…おれは使い魔になってしまったのか?このディオがッ! おれは使い魔になるぞジョジョーッ! 第二話 「それでは儀式は終了だ。各自寮に戻るように。解散!」 コルベールが告げると生徒達は思い思いに帰って行く。ある者は召喚獣に跨り、ある者は『フライ』を使い…そして後には 「ゼロのルイズ、てめーは歩いて帰れ」 「あいつ『フライ』はおろか『レビテーション』さえもまともにできないんだぜ」 「悪いね、ルイズ。ボクの使い魔は一人用なんだ」 「なんならその使い魔に背負ってもらったらどうだー?」 次々と空に浮かび上がる生徒を呆然と眺めるディオとルイズだけが残されていた。 『ジョナサンを殺して人間を超越しようとしたらいつの間にかピンク色の髪をしたガキの使い魔になっていた』 な…何を言っているのか(以下略 次々と空を飛んで帰っていく生徒達を黙って見つめていたルイズは自らの使い魔に向き直ると大きく息を吸い込んで 怒鳴ろうとして… 「それでは説明してもらおうかッ!これがどういうことなのかをッ!」 使い魔に機先を制されて言葉を飲み込んだ。 「…ハァ。あんた全然状況を理解していないのね。」 使い魔を使役する為には主人が絶対の上にいる事を使い魔に理解させなくてはいけない。 「いいわ、歩きながら話しましょ」 これからが苦労しそうだとルイズは密かにため息をついた。 「まずはじめになぜ彼らは空を飛んでいるんだい?」 このハルケギニアに魔法を知らない平民がいるとは知らなかった。たぶんよほどのド田舎か山奥にでも住んでいたのだろう。 いわゆる『どこいな』である。 「そりゃ飛ぶわよ。メイジなんだから。レビテーションくらい知ってるでしょ?」 ディオの住んでいた世界で人間が空を飛んだのは1852年の飛行船が初である。飛行機に至っては1903年まで待たなければならない。 だがディオはその少ない情報からここが異世界である事、ルイズ達がメイジ…魔法使いと呼ばれる特権階級であり 魔法で空を飛ぶ事は彼らにとって当たり前の事だと言うことを理解した。 その後ディオは歩きながらルイズからこの世界について聞き出した。ハルケギニアについて、メイジについて、 トリステイン魔法学院について、そしてルイズについて…。そして部屋に着くころにはディオはこの世界について概ね把握していた。 一方ルイズも何時間もかけてディオが違う世界から来たであろう事をなんとか理解した。 「なるほど、ぼくが今君の使い魔であるという事は理解したよ、ルイズ」 優雅な格好で窓に腰掛けながらディオは夜食を取っているルイズに語りかけた。ディオに渡された夜食は潰れたパンだけであったが。 「そう、よかった…。」 ちなみにルイズはディオを完全な平民として扱うことに決めた。 ディオの一つ一つの物腰は貴族の気品を感じられるものであったが、ルイズには魔法が使えない貴族というものがどうしても理解できなかった。 それに礼儀程度はどこかの裕福な商人の過程であれば身につくものだ。 ちなみにディオはダリオのことを欠片も話していない。話す価値もない『無駄』な事だからだが、話したところで ディオが貴族ではなく平民であるという事を隠すための言い訳ぐらいにしか捉えられなかっただろう。 「あんた、元の世界に帰りたいと思わないの?」 夜食をすませ、口元をナプキンで拭きながらルイズは尋ね、ディオはなんの躊躇いもなく答える。 「ああ、元の世界は色々と住み心地が悪くてね。今更帰る気はないよ」 ジョナサンに虐待されていたと嘘をついてもいいがこの甘ちゃんのルイズ(暫く話している内にあの鬱陶しいジョジョと似たものを感じた) はまず間違いなくディオに同情するだろう。そしてディオは自分が憐れまれることを何よりも嫌う人間であった。 ルイズはこの一日で非常に疲れていた。 召喚に成功したと思ったら出てきたのは平民だし、その上扱いにくい事この上ない。 まるで一見大人いように見えながらも絶対に人を乗せようとしない馬のようだ。 同じ使えないならこんな高慢ちきな奴よりどこかの少しスケベでも従順な馬鹿犬のような使い魔の方がよかった。 使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるはずだけどそんな兆候は全く見えないし 主人の望むものを手に入れてくる事も無理。かといって私を守れるとも思えない。 「それじゃあせめて掃除や洗濯ぐらいはしなさい。手足が付いてるんだし何もできないんじゃないでしょ」 その程度であれば特に問題もない。こんな小学校を卒業したばかりのような小娘にこき使われるのは我慢ならなかったが この世界のことを全く知らない以上、しばらくは忍耐する必要があるだろう。 無言を肯定と見なしたのかそれに満足したルイズにディオが尋ねる。 「ところで…ぼくの寝床はどこだい?」 ディオの目の前で服を脱ぎながらルイズは黙って床を指さした。古い毛布が一塊おいてある。 「貴様!このディオを奴隷だと見なすのか!この小娘がァッーーーーーッ!!!!」 次の瞬間、ルイズはディオに殴られて床に倒れていた。 19世紀イギリス社会では奴隷は人間以下と見なされていた。貴族の女性が裸でいるところに奴隷が入っても 女性は眉一つ動かさない。最初から人間とは認めていないからだ。人間ではない相手に裸を見られても恥ずかしくない それがイギリス上流階級の考えであり、ルイズの考えも同じであった。 つまりディオはルイズから 「おまえはこのルイズにとっての モンキーなんだよディオォォォォーーーーーーッ!!」 と言われたに等しいである。 「な、なによ…」 いきなりのプッツンに動揺するルイズの腕を掴んで引き寄せると腹の底から絞り出すような声でディオは恫喝した。 「いいか、これから君の使い魔になったからといってぼくにイバったりするなよな。お前がぼくを奴隷扱いする限り ぼくはお前の事は主人だとは認めないッ!」 そう言うとディオはルイズを突き放し、部屋の外へと出て行った。後には唖然とする半裸のルイズと床に散らばるルイズの服だけが残された。 そしてルイズは明日からディオを徹底的にしつけてやろうと決心するのであった。 to be continued…
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ルイズ達が本塔に着いた時、フレイムと森から先に戻って来ていたシルフィードが既に戦っていた。 シルフィードが炎を吐き、フレイムが体当たりを繰り返す。二匹の攻撃に『そいつ』は成す術が無く、一方的にやられている様に見えた。 「なんだ、別に大した事無いじゃない。」 キュルケが構えていた杖を下ろしながらそう言った。 確かに近くにいた者の魂を入れ替える魔法など聞いたことないが、『そいつ』はそれ以外には何も出来ず、物理的な力も無いようだった。 「フレイム!もうとどめを刺しちゃいなさい!」 「とどめ」 キュルケとタバサが各々の使い魔に命令した。 フレイムが前から突っ込み、シルフィードは後ろから尻尾をたたき付けた。 前後から同時に打撃を受け、『そいつ』の左腕の肘から先が吹っ飛び、右足ももげ、上半身と下半身が両断された 呆気ないが終わった、と五人は思った。上半身と下半身が両断されているのだ。『生物』ならば生きてはいるまい。『生物』ならば… その頃になってギーシュが漸く本塔の近くに来た。 「ハァハァ…マリコルヌめ…少しは痩せとけよ…」 マリコルヌの身体はお世辞にも運動には向いているとは言えない。そのため一人遅れていたのだ。 皆の方を見ると、五人共構えていた杖を下ろしていたし、遠目にも確認出来たフレイムの炎も見えなくなっていた。 「なんだ…もう終わったのかな…」 ギーシュが歩み寄ろうとした時、パキッと小さな音がした。ちょっと驚いて足元を見ると矢のようなものを踏み付けたらしかった。 「なんだ、これ?」 ギーシュは魅せられたかの様に屈んでそれを拾い上げた。 その瞬間 ガシィッ! 「ひッ!」 右足首を何者かに掴まれた。 目の前の『そいつ』はバラバラになっても、残った右腕を器用に使ってどこかへ行こうとした。 それを見たタバサは呪文を唱えると杖を振り、氷の矢で『そいつ』の身体を地面に固定した。 「これで動かない。」 タバサはそう言った。 身体を焼いたり、バラバラにしても死なないのには驚いたが、逃げないようにすれば問題は無いだろう。 急いで『そいつ』を殺し、元に戻る方法を(少なからず喜んでいる例外が三人いたが)見つけねばならない。 監視を二匹に任せ、五人が相談しだしたその時だった。 バキバキバキバキッ 何か硬いものが折れるような音がした。 「きゅ、きゅるきゅる!」「きゅいきゅい!」 フレイムとシルフィードが怯える様に鳴きだした。 その鳴き声に五人が振り向いた瞬間、黒い影が五人の間を駆け抜けて行った。 「な…ああ?」 それはばらばらにしたはずの『そいつ』だった。 いつの間にか上半身と下半身、そして右足がくっついており、今までとは打って変わって敏捷な動きでまた違うどこかへ向かって走りだしたのだ。 そして『そいつ』が向かった先には矢を手にしたギーシュがいた。 「な、なななんなんだよ!この腕ェェェ!!?」 ギーシュは自分の右足首を掴んでいる黒い腕を見て絶叫した。 足を思いっきり振って払おうとしたが、雨でぬかるんでいた地面に足を滑らせ転倒した。 更に腕はますます強い力でギーシュの右足首を絞めだした。 「い、痛い、痛いッ!だ、誰か…!ワ、ワルキューレ!」 ギーシュは手に持った薔薇を振ると三体のワルキューレを作り出した。 「ワルキューレ!この腕を引きはがせ!」 ワルキューレ三体を使い自分の足首を締め付ける腕を引きはがさせようとした。 だが、ワルキューレを出すタイミングが遅過ぎた。 バキバキバキ…! 腕はギーシュの右足首を完全に粉砕してしまった。しかしなお腕は粉砕した足首を締め付けた。 「ギャアアアアアッ!」 ギーシュは痛みと恐怖の余り再度絶叫した。 「ワ、ワルキューレ!早くするんだ!早く!」 ワルキューレに再度指令を出した。 やがて三体のワルキューレは漸く腕を引きはがした。 「た、助かった…」 ギーシュはホッとした。 しかし、彼はその一言を最後に喋る事は出来なくなってしまった。 彼の喉を黒い右手が貫いていた。 「ギ、ギィィィィィシュ!」 マリコルヌが叫んだが、もうその言葉はギーシュに届くことは無かった。 目の前にあるギーシュ、いや、マリコルヌの肉体はもはや原型を留めておらず、肉の塊としか言いようがなかった。 ルイズやキュルケは直視できず、目を背けた。タバサもショックを受けていた。コルベールは教師でありながら生徒を守れなかった己を責めた。 (何故私は彼を一人置き去りにしたのだ…彼を一人にしなければ…!!) 「ギーシュ…仇は僕がとってやるからな…!」 マリコルヌは涙を拭くと『そいつ』の向かった方へ一人で追い掛けだした。 「ま、待ちなさい!」 コルベール達もその後を追った。 「うぁぁぁッ!」 マリコルヌは杖を振り回しながら突進して行った。 「エアハンマー!」 空気の塊が『そいつ』に衝突し、『そいつ』は地面を転がった。 「とどめだッ!」 マリコルヌが杖を振り上げた時、その手をコルベールが掴んだ。 「落ち着きたまえ!」 「嫌です!離して下さい!!あいつはギーシュを…!」 「無駄」 ポン、とタバサがマリコルヌの肩を叩いた。 「な…」「どういう事かね?」 「あいつはさっきバラバラにしたのに今じゃピンピンしてるのよ?またバラバラにしてもまた戻っちゃうでしょうね。」 キュルケがタバサに代わって言った。 「焼いても無駄、バラバラにしても無駄。じゃあどうしろと言うんだ!」 「だーかーらー、それを探さなくちゃならないんじゃない。まだ殺せないなんて決まった訳じゃないんだしね。」 「…分かったよ…」 マリコルヌが渋々頷いた。 「待って…何か変じゃない?」 ルイズがいきなり言い出した。 「変?何が?」 「あいつ、なんでいきなりギーシュに向かって走りだしたの…?それに何か変わってない?なんかさっきと…」 全員ハッとした。考えてみれば、何故いきなりギーシュを殺したのか、その理由がはっきりしないのである。 「ギーシュは何かをしたから殺されたんでしょうけど…一体何で…」 「矢。」 全員がタバサの方を見た。 「どういう事?タバサ」 「殺す前左腕ごとなかった。けど持ってる必要は無いのにまた持ってる。」 ルイズはハッとした。確か召喚した時、矢は何故かあいつの方に転がっていった。ならば、矢が何らかのヒントなのかもしれない! 「矢…あれを奪えばいいのか?」 タバサはふるふると首を横に振った。 「奪えば殺される。ギーシュみたいに」 う、とマリコルヌは呻いた。ギーシュはきっと何も知らなかったんだろう。だが、彼の(肉体は自分のだが)お陰で多少ながら倒す方法も見えてきた。 「じゃあ破壊すればいいんだな?」 「それもちょっと違うみたいよ。」今度はキュルケが答えた。 「何で分かる?」マリコルヌが食ってかかった。 「これを見て。」 キュルケはシルフィードの尻尾に出来た痣を指差した。 「この子、炎を吹き掛けてたんだけど、どうも矢の形の痣があるのよ。」 きゅいきゅい…とシルフィードが痛そうに鳴いた。 「つまり、矢を攻撃しても無駄。」 「~!!」(これじゃあギーシュの仇を取れないじゃないか!) マリコルヌは頭を抱えた。 だが、ただ一人、四人とは違うものに注目した者がいた。それは桃色のブロンドの長髪を持つ少女、ルイ…じゃなかった。コルベールである。 To Be Continued...
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 康一は、学院の中庭で荒く息をついた。髪も服も、もみくちゃにされてボロボロである。 ちょうど厨房での熱烈すぎる歓迎から逃げてきたところなのだ。 「歓迎されるのはうれしいけど、引け目があるぶん素直に喜べないんだよなぁー」 褒められれば褒められるほどなんだか申し訳なくなってくる。 以前テスト中、はずみで他の人の答案が目に入ってしまったときの気分だ。 いい点数を取って先生や親に褒められたが、嬉しいというよりも後ろめたくなってしまうものだ。 康一はところで・・・と、あたりを見回した。 「ここ・・・どこだ?」 康一のまわりを塔が囲んでいる。 このトリステイン魔法学院は、中央の本島を囲むようにして、火や水などといった名前を冠する塔が立ち並んでいる。 どれもこれも似たような石組みの建物なので、まだここに来てまもない康一は自分がいるのがどこなのかわからなくなってしまった。 「ここは火の塔と風の塔の間にある中庭ですよ。」 康一が振り向くと、メガネをかけた女性がこちらに歩いてくるのが見えた。 妙齢の美女といっていい。緑色のストレートな髪が風になびく。 それにしてもこっちの人の髪の毛はカラフルだよなぁー。と康一は思った。 「えーっと、どなたです?」 「わたくしはオールド・オスマンの秘書をやっています。ロングビルです。あなたをお迎えにきました。」 ミス・ロングビルは「お目覚めになったと聞いたので。」と微笑んだ。 「オスマンさんがぼくに何か用なんですか?」 ひょっとして帰る方法が分かったのだろうか。 「詳しくは直接お話したい、とおおせつかっておりますの。ついてきて頂けますか?」 「いいですよ。」 康一は二つ返事で承諾した。 そもそも、部屋を追い出され、厨房から逃げてきた康一には、行くところがなかった。 「よかったですわ。それではこちらへ。」 ミス・ロングビルは康一を先導して歩き出した。 ミス・ロングビルはノックをしてから扉を開けた。 以前にも来た事がある。学院長室だ。 「失礼しまぁーす。」 ロングビルに続いて康一も中に入った。 康一の中では、学校の職員室に来るときのような感覚である。 「おお、よくきてくれたね。ミスタ・コーイチ!」 奥の大きな机の向こうに座って、書きものをしていたらしいオールド・オスマンが、相好を崩した。 「ギーシュ・ド・グラモンとの一戦。遠巻きながら見させてもらったよ。もう体は大丈夫なのかね?」 実はあのとき、決闘をとめようとした教師達をオスマンは制止し、遠見の水晶球でその様子をすべて見ていたのだ。 当然康一のことを観察するためである。 「お、お陰様で・・・。」 康一は冷や汗を流した。 最初にあったとき、スタンドを見せてはいけないと知らなかった康一は、堂々と目の前でACT3を出してしまっているのだ。 オスマンはロングビルに目配せをした。 ロングビルは一礼して学院長室から出て行く。 二人っきりになったオスマンは、康一に椅子をすすめた。 「まぁかけなさい。いろいろしなければならない話もあるしのぉ。」 薦められるまま、康一はソファーに腰掛けた。 その正面に座った気のいい老人は、第一声でこういった。 「きみの『スタンド』は『マジックアイテム』ではないんじゃのぉ。」 康一はぎくりとした。 火あぶり、という単語が意識を横切る。 「さ、さぁ。どうでしょうね。」 康一はとぼけてみた。 オスマンは目を細めた。 「あの時、『ディテクト・マジック』をかけた生徒は、君が『マジックアイテム』を持っていないといった。しかし、君は以前見たのとは別の、二体の『スタンド』を出した。」 まさか全部見られていた!? 康一は驚愕した。 死角を使い、一瞬の隙を使い。できるだけばれないようにしていたのに! 康一は黙り込んだ。 「わしは、このハルケギニアで人よりも少々長く生きてきた。そのせいか、どうも常識に捕らわれてしまうことがあるようじゃな。」 ほっほっほっほ、とオスマンは笑った。 「どうしたかね?なにやら緊張しているようじゃが・・・」 ひょっとしたら、今すぐ逃げたほうがいいのかもしれない。 今なら目の前に座っているのは老人一人。切り抜けることができるかもしれない。 康一は半分覚悟を決めた。 「・・・この世界では、『系統魔法』以外の異能の力は『先住』と呼ばれているそうですね。」 「ほう。よく知っておるのぉ。」 「・・・ぼくの力が『系統魔法』によるものでないとしたら、どうしますか?」 康一は部屋の窓を確認した。あそこを破って飛び出せないだろうか。 「この部屋の窓は、スクウェアクラスの『固定化』がかけられておる。体当たりしたくらいではやぶれやせんよ。」 康一は身を硬くした。 心を読まれた!?そういう魔法でもあるのだろうか。 オスマンは顔の前で手を組んだ。 「君はどうやら誤解をしているようじゃの。わしが君を『先住』の使い手として王宮に突き出すと思っているのかね。」 康一は何も言えずに押し黙った。 「少しこの老人の話を聞いてもらえるかの?」 オスマンはソファーにもたれかかった。 「我々メイジが『系統魔法』を扱うことで、特別な地位を築いていることは知っておるね?平民やちょっとした魔物など、訓練されたメイジが一人いれば簡単に蹴散らせてしまう。」 「しかし、例外もある。それがエルフじゃ。エルフは始祖ブリミルの時代より聖地をめぐり、戦ってきた相手。そして、我々メイジは、『先住魔法』を使うエルフ達についぞ勝った事がないのじゃよ。」 「だから我々は『先住魔法』を極端に恐れるのじゃ。自分達が知らない力は、『先住』として恐れ、狩り立てる。」 じゃが・・・。オスマンは続けた。 「本来『先住魔法』とは自然界に宿る精霊の力を借りて力を行使するものじゃ。じゃから、別名を『精霊魔法』とも呼ばれておる。」 「ひるがえって君を見るに、君が見せてくれた3体の『スタンド』は、自然界の精霊とは明らかに異なっておる。わしも長く生きるが、そんなものは見たことがないのじゃよ。」 「じゃから興味が沸く。どうじゃね。『スタンド』とはなんなのか、わしに教えてはもらえんじゃろうか。」 話せる所まで構わんぞ?とオスマンはウィンクした。 康一は観念した。 「・・・『スタンド』は、『生命エネルギーが作り出す、パワーあるヴィジョン』と言われています。ぼくは、自分の『分身』って言ったほうがしっくりくるんですけど・・・」 「『分身』かね。」 「ええ、『スタンド』は『スタンド使い』の魂の形や強い思いを反映すると言われてます。ですから、一人一人形状も能力も違うんです。」 「君が『ACT3』と呼んでいたものは、『ものを重くする能力』というわけじゃな?」 「ええ。まぁそういうことです・・・。」 オスマンはこの康一の告白に驚くと同時に少し興奮していた。 「(この歳になってまだ知らぬことがあるとは、この世界も捨てたものではないわい!)」 しかしそれを表情には出さない。 「しかし・・・その『スタンド』とやらはどうやったら手に入るものなのかね?」 「いろいろです。生まれつきもっている人もいますし。ぼくは『矢』に貫かれて『スタンド使い』になりました。」 「『矢』・・・とは、あの弓で飛ばす矢のことかね?」 「はい。ある特殊な矢で刺されると、『スタンド使い』になる可能性があります。」 「可能性・・・ということは、なれないこともあると。」 「はい。相性のようなものがあるようです。」 「『矢』か・・・」 オスマンは何かを考えるようにして顎鬚を撫で付けた。 「何か心当たりでもあるのですか?」 「いや・・・恐らく君がいっているものとは違うじゃろう。じゃが、宝物庫に『弓と矢』がしまってあるのを思い出したのじゃよ。」 「そうですか・・・」 「(まぁここに『あの弓と矢』があるわけがないよなぁー。)」 黙り込んでしまったオスマンに、この際なので康一は疑問をぶつけることにした。 「あの・・・実はぼく、すごく不思議に思うことがあってですね・・・」 「ん?なんじゃね。いってみなさい。」 「本来は、基本的に『スタンド』は『スタンド使い』にしか見えないんです。」 「なん・・・じゃと・・・?」 オスマンは目を見開いた。 「でも、こちらの人はみんな『スタンド』が見えるみたいで・・・。だから最初、みんな『スタンド使い』だと思ったんです。」 「ふーむ・・・」 オスマンは腕組みをした。目を瞑って何かを考えているようだ。 「あのー・・・」 康一は不安になって尋ねた。 「ぼくはこれからどうなるんでしょうか。」 オスマンは目を開けた。 「君さえよければ、ミス・ヴァリエールの使い魔を続けてくれるとうれしいんじゃがの。」 「よかったぁー!」 康一は胸をなでおろした。どうやら大事にはならなさそうだ。 「驚かせてすまなかったの。もう帰ってもいいぞい。」 「あ、はい。それじゃ、ぼくそろそろルイズの部屋に帰りますね。」 康一は立ち上がった。 扉に向かう康一にオスマンは「君の『スタンド』じゃが・・・」と声をかけた。 「はい?」康一が振り向く。 「メイジではない、平民に見せたことはあるかね?」 「? えーっと・・・そういえば、ない・・・のかな・・・?」 「今度ためしに見せてみてはどうかね?ひょっとして何かわかるかもしれん。」 「はぁ・・・わかりました。」 康一は首を傾げながらも頷いた。 康一が出て行った後、オールド・オスマンは本棚から一冊の分厚い本を取り出した。 ぱらぱらとページをめくり、とある章で目を留める。 「・・・『ガンダールヴ』・・・か・・・」 その本を机の上に置く。 開かれたページには様々な紋章のようなものが並べられている。 そのうちの一つ。『始祖の使い魔』という項目に描かれていたのは、康一の左手に使い魔の印として刻まれているルーンだった。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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魔法学院の正門をくぐって、王女の一行が現れた。 整列した生徒達が一斉に杖を掲げて、歓迎の意を表す。 本塔の玄関にはオスマン氏が立ち、王女の一行を出迎えた。 呼び出しの衛士が、緊張した声で王女の登場を告げる。 「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなりであるッ!」 枢機卿のマザリーニに続いて現れた姫殿下の姿を見て、 生徒達は歓声を上げた。 アンリエッタはニッコリと微笑を浮かべて、優雅に手を振った。 誰も彼もが、緋毛氈の絨毯を進む一輪の華に釘付けかと思われたが、 いつの時も、例外はある。 「ねぇ、ルイズ。 さっきの授業……少しばかりやりすぎじゃなかった? そりゃあ、胸がスッとしたのは確かだけど」 観衆達より一歩引いた場所にいたルイズ御一行である。 キュルケは、最初こそ異国トリステインの王女を物珍しげに眺めていたが、 あらかた値踏みをすると、瞬く間に興味を失っていた。 「言及無用よツェルプストー。 あのゲス、思い返しただけでムカムカするわ。 あんなのがのさばってたら、貴族の格が落ちるっての。 殺したいほどだわ……!」 物騒なルイズの返答に、キュルケは空恐ろしいものを感じた。 皆王女に夢中なので、今現在話し相手がルイズしかいないキュルケは、 自己憐憫に終始することとなった。 タバサは……まだ帰ってきていない。 心配といえば心配だが、まさか取って食われたりはしないだろう。 そう考えて、この場にいない親友の無事を祈りつつ、 キュルケは再びルイズを見た。 先程まで、キュルケと同じように暇そうな空気を纏っていたルイズが、 途端に真面目な顔つきで一点を見つめている。 何事かと思い、キュルケはルイズの見ている方に目を凝らした。 その先には、見事な羽帽子をかぶり、これまた見事な髭をたくわえた、 凛々しい貴族の姿があった。 特に、髭のもたらすダンディーな雰囲気が、 キュルケにとってストライクであった。 久方ぶりに己の胸に去来する微熱を感じつつ、 キュルケはしたり顔で笑った。 ほほぅヴァリエールめ、近頃妙に豪儀に見えたが やはり色事には弱いと見える――― そう思い、早速からかってやろうとしたが、 ルイズの真面目な表情は、 次第に苦虫を噛み潰したようなそれへと移り変わった。 そして、見ているだけで不安になってくる程真っ青になって、 ブルブル震え始めた。 「ロ、ロードローラーが……」 などとブツブツ独り言を言い出す始末。 少なくとも、好いた惚れたといったような反応ではない。 どう声をかけてやればよいか分からず、その場に立ちすくむキュルケをよそに、 ルイズは踵を返して、寮の方へと帰っていってしまった。 そして、のっしのっしと肩を怒らせて歩み去るルイズと入れ替わるように、 タバサがキュルケの方に歩いてきた。 ミスタ・コルベールによる教育的指導が終わったのだ。 本を片手に俯いているので、どんな顔をしているのかは分からなかったが、 大丈夫なようだ。 「あらタバサ! お勤めご苦労様といったところね。 心配してたわよ!」 そう労って、キュルケはタバサの頭をガシガシと撫でた。 綺麗な空色の髪がボサボサになったが、 いつものことながらタバサは無反応だった。 「ま、これでわかったでしょ? あの先生の前で、頭の話は禁句なの」 キュルケのからかい半分の言葉に、タバサの肩が僅かに揺れ、 ゆっくりと顔を上げた。 顔を上げたタバサの目には、 光が全くなかった。 虚ろな、死んだ魚のように黒く澱んだ瞳が、 ぼんやりと虚空を捉えている。 「彼ノ頭ハ素晴ラシイ」「へ?」 突如口を開いたタバサ。 キュルケはタバサの声を聞いて、ようやく彼女の異変に気づいた。 彼女の形相はまさに、邪教徒が教祖を崇めるそれであったのだ。 「彼ノ頭ハ、コノ黄金ニ輝ク太陽ヨリモ明ルク、 私達ノ道ヲ照ラシ出シテイル……」 まるで無理やり合成して絞り出したかのような無機質な声である。 キュルケの目から、ポロポロと涙が零れた。 ―――あぁ、何ということか。 あまりにも過酷な仕打ちに、このか弱い少女の心は 耐えきれずに押し潰されてしまったのだ。 流れる涙を拭いもせず、キュルケはタバサを抱きしめた。 温かな胸の中で、タバサがもがいたが、 それは余りにも弱々しいものだった。 「彼ノ頭ハ……!」 「えぇ……えぇ! 分かったわ。 分かったから、私達も行きましょう、ね?」 譫言のように繰り返すタバサの手をそっと取って、 キュルケは学生寮へと向かった。 おぼつかない足取りのタバサだが、それでも握った手は離さない。 2人の手は固い何かで結ばれているかのように、 しっかりと繋がれていた。 ……まぁ、一晩したら治るだろう。多分。 その日の夜、ルイズはベッドに腰掛け、 枕を抱いてぼんやりと自分の使い魔を見つめていた。 ソファーに横たわるDIOは、相変わらず本を読んでいる。 もう殆どトリステインの言語体系を身につけたのか、 本のレベルが近頃上がっている気がする。 明けても暮れても本本本なこの使い魔、図書館をコンプリートするつもりだろうか。 ルイズは思う。 これまでの立ち振る舞いで分かったが、 元いた世界では、DIOはかなり身分の高い者だったのだろう。 実際はジャイアニズムの体現みたいなことばかりやってるくせに、 文句一つ言われないのがいい証拠だ。 みんな自覚の有る無しは別として、無意識下で認めてしまっているのだ。常に人を使役する者のみが身に纏うオーラ。 DIOからはそれが痛いほどに伝わってくる。 だからこそ不思議だった。 そこまで唯我独尊な奴が、どうしてホイホイ私の使い魔なんかになってくれているのか。 そしてそれよりも、DIOがこれまで送ってきた人生に強い興味を持っている自分がいた。 「そういえば、アンタってば召喚された時、 バラバラのグッチョグチヨだったのよね……」 何の気なしに声を掛けられて、 DIOは本から顔を上げた。 「何があったのかしら? よければ教えて頂戴。 興味があるの」 DIOは深い苦悩のため息をついた。 およそ自分を帝王と名乗るような男には不釣り合いな行動に、 ルイズは少し眉をひそめた。 DIOは暫く言うべきかどうか悩んだ後、 ようやっと口を開いた。 「……ルイズ、君は『運命』を信じるか?」 何を急にロマンチックな事を言い出すのかと思ったが、 DIOの顔は真剣そのものである。 部屋を支配し始めた緊張に、ルイズは背筋を伸ばした。 「運命……?」 「そうだ。 どれだけ絢爛な路を歩んでいようが、 ふとした瞬間、何の間違いか道端に転がる石に躓いてしまう。 ……神が本当にこの世にいるとして、 そうした采配を司る運命というものの存在を、 君は信じるか?」 言われて、ルイズの脳裏には、仇敵であるツェルプストーの顔が浮かんだ。 何代にもわたって紡がれてきた因縁の歴史。 殺し殺された一族の人数は、双方とももはや数え切れないほどだ。 領地も隣同士で、その上魔術学院では部屋も隣同士。 なるほど、運命と言っても過言ではないかもしれない。 ツェルプストーの胸が豊かなのに比べて、 私の胸が、その、お世辞にも大きいとは言えないのも。 私が魔法を使えない『ゼロ』なのも、 ひょっとすると運命なのだろうか。 「私が若い頃……まだ人間だった頃…… ジョースターという一族の男と争うことになった。 ジョナサンという名でな。 叩けば叩くほど伸びる、爆発力を持った男だった。 奴との争いの日々の中、私は吸血鬼となり、 人間という枠を超えた生物となったが……」 「その、ジョースターって奴に?」 「…うむ、不覚を取った。 私は敗れ、海中に逃れ、百年の眠りにつく羽目になった。 そして目覚めた後も……そう、一度ならず二度も、 私は同じ一族の末裔に敗れたのだ。 まさに運命の巡り合わせによる皮肉と言えるだろう」 ルイズは目を見開いた。 信じられない。 負けたというのだ、このDIOが。 それも二度も。 どんな傷だって治るし、 どんな貴族だってかなわないほどエレガントなこのDIOが。 変な能力だって持ってるし、 目からビームだってだせるのに。 敗れたというのか。 最初こそ何てキモい使い魔かと思ったものだが、 今ではすっかり慣れたものだし、慣れればなかなか役に立つ奴だ。 何を考えているかとんと分からないが、 強いし頼りになる。 俄かには受け入れられない話だった。 「それが、あんたの人生で、 取り除かねばならない汚点……!!」 唇を血が滲むほどに噛み締め、ルイズは震えた。 我が事のように、ルイズは怒りを覚えていたのだ。 見たことも、聞いたこともない一族に対して、 メラメラと黒い炎が燃え上がる。 それは、ルーン越しに伝わってくるDIOの感情なのか、 それともルイズのシンパシーなのかは最後まで分からなかったが。 怒りに打ち震えるルイズの前に、DIOが立ち上がった。 「ルイズ、覚えておけ。 君が覇道を進むにおいて、いつか、何らかの形で障害が現れるだろう。 それは試練のようなものだ。 君はそれを乗り越えねばならない。 あらゆる恐怖を克服しろ…… 帝王にはそれが必要だ」 もちろん、彼の話は他人事として聞き流すことが出来ないものであった。 得体の知れない怒りの中であっても、ルイズの心の冷静な部分が、 DIOの話を一つの教訓として刻んでいた。 「……って、ちょっと待ってよ! それじゃまるで、私が世界征服でも目論んでるみたいじゃない!!」 ルイズの突っ込みに、DIOはさぞ驚いたというような顔をして笑った。 「じ、冗談じゃない!…………………かな? い、いや、私の言いたいことはそういうことじゃなくって!」 否定しきれないところが、ルイズの迷いの現れだった。 モニョモニョと指をいじくりながら、 恥ずかしそうに俯くルイズだが、意を決して顔を上げた。 「……やっぱり私は『運命』なんて受け入れない。 信じるとしても、良い運命しか信じないわ。 例え崖から突き落とされたって私は諦めない。 最後の最後まで、ロープが垂れてくるって信じてる。 悪い運命なんて、それこそ叩き潰してしまえばいいんだわ。 あんただってそうするでしょう、違う?」 DIOはルイズの目を覗き込んで、笑みを深めた。 そして、ルイズの頭をクシャクシャと撫でた。 綺麗な桃色の髪がボサボサになったが、 ルイズは思わず目をつむってされるに任せた。 カトレアに抱き締められるのとはまた違った安心感が、 ルイズを包む。 「ハハハハハ……だからこそ君は私の 『マスター』なのだよ、ルイズ」 DIOの手は冷たくて、死人のように温度を感じなかったけれど、 ルイズは確かな温もりを覚えていた。 「な、何笑ってんのよこのバカ!!」 慌てて頭に置かれた手をはねのけて、 ルイズはDIOの胸をバシバシと叩いた。 本当は頭を叩いてやりたいところだったが、 悲しいかな、ルイズの身長ではどれだけ背伸びをしても、 胸のあたりで精一杯だった。 羞恥心で真っ赤になりながら叩くルイズだが、 DIOはそれでも笑っていた。 子供扱いされている気がして、ルイズの羞恥は頂点に達した。 「ッッ~~~笑うなァ!」 とうとう蹴りを入れはじめたのであった。 そんな風にルイズが一人相撲をしていると、 ドアがノックされた。 初めに長く二回、それから短く三回と……。 規則正しく繰り返されるそのノックの仕方に覚えがあるのか、 ルイズがはっとした顔になった。 いそいそと乱れたブラウスを正してドアへと駆けより、 ルイズはドアを開いた。そこに立っていたのは、 真っ黒な頭巾をすっぽりとかぶった少女だった。 to be continued…… 50へ 戻る 52へ
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◆キャラクター紹介 CV:戸谷公次 自ら胸に7つの傷をつけ北斗神拳伝承者を騙る。シンを狂気に導き、レイの妹アイリを連れ去った張本人でもある。北斗神拳以外に南斗聖拳をも使いこなし、ショットガンやガソリンなど勝つためには手段を選ばない男である。兄より優れた弟など存在しないという信念の持ち主。 (コンシューマ版説明書より引用) ▼特徴 ▼初心者向け攻略 ▼カラー ▼コマンド表 ▼通常技解説 ▼必殺技解説 ▼コンボ ▼立ち回りとキャラクター別対策 ◆特徴 相手の行動を阻害する「ガソリン」をばらまきつつ、判定の強い2Cや、強力な対空として機能するJAなどを使って立ち回っていく設置キャラ。 防御面ではノーゲージでは信頼できる無敵技がなく、切り返し面で苦戦を強いられるが、いざオーラーゲージが溜まったら発生が早く、割り込みや時にはリバーサル行動として非常に頼りになる「北斗羅漢撃」を中心に切り返していける。 小さめの空中食らい判定や、しゃがみ喰らいのモーションが短いなど、コンボを決められにくいなどの特徴を持つ。 長所 しゃがみ喰らいのモーションが他キャラより短い為、しゃがみ喰らい中は一部キャラのコンボ(シンの近C バニ、レイの2B 2Dなど)が繋がらない グレイブが全キャラ中唯一中段であったり、対処法を知らないと抜けづらいドラム缶起き攻めなど所謂初見殺しが豊富 短所 通常技、必殺技共に発生が遅く癖の強い技が多い しゃがみガードを多用しているとガードゲージの有無にかかわらず、石像が壊れてガードクラッシュが発生する。 壁コンを除くコンボの火力が全体的に安い ◆初心者向け攻略 ガソリンは転ばぬ先の杖 必殺技の一つである「ガソリン」は相手の行動を阻害し、マッチによる着火で攻撃手段ともなる重要な技。ガソリンを撒くことで相手の地上での攻めを躊躇わせることができる。地上戦を嫌がったところに斜めショットガンや、後述するJA対空で立ち向かえば、ある程度有利に立ちまわることも可能だろう。 とはいえそこまで信頼できるものでもなく、関係なくコンボを食らってしまったり、空中からブーストを使って攻めこまれたりすることも多いので、ガソリンが撒かれているからといってあまりうかつな行動はしないように。 ジャンプAは対空の要 ジャギのJAは発生が早く判定も強く、更に連打することができる。空中にいる相手に対してはジャンプしながらAボタンを連打するだけで強力な対空として機能する。対空に乏しいジャギの数少ない対抗手段なので、空中から攻めてくる相手にはJAを擦りながら立ち向かってみよう。 バニシングコンボで確実にダメージを ジャギは短所で述べた通り、壁コンと呼ばれる一部のコンボや、バスケなどの比較的高難易度なコンボを除いたコンボの火力が非常に低い。よってまずは、比較的簡単に高いダメージが取れるバニシングコンボの練習をしよう。 慣れてきたら、今度は一撃必殺奥義を締めにつなげるコンボも練習してみること。ジャギの一撃必殺奥義は攻撃判定が少々特殊で、バニシングから直接つなげても相手に当たらないことが多い。 キャラクターごとに一撃の入れ方を変えるのは少々面倒だが、最低でも入りにくいキャラは覚えておかないと一撃が入らずに逆転されるといった事態になりかねない。なるべく覚えて練習しておこう。 究極奥義「北斗羅漢撃」! ジャギ最大の武器とも言えるのが究極奥義「北斗羅漢撃」だ。発生が非常に早く、相手の攻めに対して割り込んだり、通常技から繋げてダメージを取ったり多岐にわたって活躍する。ガードされても追加入力で上手く針を出すことが出来れば反撃を受けることはほぼない。いざというときはすぐ出せるようにコマンドは練習しておこう。 ◆カラー 左からA,B,C,D,Eボタンカラー ◆コマンド表 必殺技 技名 コマンド 備考 ショットガン(正面) 236A 通称 ショットガン ショットガン(斜め上) 623A 通称 斜めショットガン や・・やめてくれ!!た・・頼む!! 214B タメ可 北斗千手殺 空中で236A 通称 千手 南斗邪狼撃 214C タメ可 通称 ジャロウ ドラム缶 214B ガソリン 214D マッチ 236B よく出来た弟~!! 632146D 立ち状態の相手に当てると行動制限通称 弟 バカめ!勝てばいいんだ何を使おうが ショットガンの近くでダウン中C 連発可オーラゲージ0.5使用 究極奥義 技名 コマンド 備考 北斗羅漢撃 236236C 動作中追加入力A、B、Cのいずれかで3発まで含み針を撃てる 通称 羅漢 まだまだ読みが甘いわ 236236A 相手にガソリン付着。ショットガン、マッチが当たるとガードしたかどうかは問わず引火する通称 超ガソ 今は悪魔が微笑む時代なんだ シンの近くで641236C ダメージはなく相手のオーラ、ブーストゲージを減らす 俺の名前を言ってみろ 相手の近くで6321463214C オーラゲージ2本使用一回目の三択不正解時236A追加入力でもう一度三択通称 俺の名 一撃必殺奥義 技名 コマンド 備考 フフフ・・この時を待っていたのだ 236C+D