約 23,303 件
https://w.atwiki.jp/genshikenss/pages/315.html
短編集 【投稿日 2006/05/17~】 カテゴリー-笹荻 終末の過ごし方 「例えば・・・明日世界が滅ぶとしたらどうしますか?」 「うーん、そうだなあ・・・。」 「やっぱり、いつもは出来ないことしたいと思います?」 「いやー・・・。」 「・・・。」 「いつもどーりに過ごすかな。」 「え?」 「いつものように大学行って、部室来て。」 「そんなんでいいんですか?」 「そして、荻上さんと一緒に過ごすんだ。」 「・・・。」 「それが一番でしょ?」 「・・・はい。」 痕 「・・・まだ、思い出す?」 「まあ・・・。忘れることは出来ません・・・。」 「そっか・・・。」 「でも。」 「・・・?」 「前みたいに無理に忘れようとは思わなくなりました。」 「それは・・・。」 「それでいいんです。」 「・・・うん、そうだね。」 家族計画 「あ、小学生だ。」 「やっぱり子供はかわいいね。」 「・・・それ・・・。」 「違う違う、決して性的な意味じゃ!」 「・・・わかってますよ。」 「・・・・・・からかったね。」 「でも・・・。子供は確かにかわいいですよね。」 「・・・欲しい?」 「えっ!そんなこと急にいわれでもぉ・・・。」 「あ、あ、いや、将来的なことで!今すぐって訳じゃなくて!」 「・・・・・・将来、ですか?」 「あ・・・。まあ、そうなったらいいとは思うんだ・・・。」 「はい・・・。二人くらいは欲しいかな・・・。」 「そうだね・・・。一人はかわいそうだしね。」 CROSS†CHANNEL 「荻上さんって、どういうときにネタが浮かぶの?」 「え・・・。アニメ見ててちょっと絡んでたりとか・・・。」 「そういう直接的なものだけ?」 「・・・道端で男の子が仲良く話してるとか。」 「・・・うん。」 「・・・・・・二人乗りしてる高校生見たりすると・・・。」 「・・・。」 「・・・びびびって。来るんですよ、何かが。」 「何か。」 「・・・・・・はい。何か。」 To Heart 「プハーーーーーーーーー。」 「おお、義姉さん、呑むようになったね。」 「うるさいですね!さっきのうさ晴らしです!」 「うさ晴らしって・・・。いつもは出来ないの?」 「してますよ!!でもしたいときにしたいじゃないですか!」 「じゃあ、いつもはエロエロなの?」 「エロエロですよー!あのですね・・・。」 「ふんふん。」 「へ・・・。」 「・・・。」 「おい、笹原、荻上さんすごいことになってるぞ。 春日部さんも大野さんも妹さんもなんか聞き入ってるし・・・。」 (もうやめてくれ荻上さん!!) CLANNAD 「そういえば、荻上さんって弟さんいるんだよね。」 「ええ。」 「・・・大学入ったりする時期じゃないの?」 「そういえば今年受験したって言ってましたけど・・・。」 「え、どこに?」 「さあ・・・。それ言わないんですよね。合格したってのは聞いたんですけど。」 「・・・・・・うちなんじゃないの?」 「ええええ!!それはぜってーにないですよ!」 「・・・なんで?」 「馬鹿ですもん、あの子。」 「・・・・・・ひどいなあ。でも隠してるって・・・何かありそうじゃない?」 「・・・・・・怖い事いわないで下さいよ。」
https://w.atwiki.jp/genshikenss/pages/509.html
30人いる!その12 【投稿日 2007/09/30】 ・・・いる!シリーズ 結局笹原は、その日はほぼ丸1日寝て休みを潰し、翌日も殆どの時間を荻ルームで過ごした。 その間何度か自室にも戻ったが、恵子は眠ったままだった。 翌々日の朝、出勤の準備の為に自室に戻った。 恵子はまだ眠っていた。 一昨日自室を脱出した際と、状況は殆ど変わっていない。 つまり恵子はあれから丸2日寝ていたようだ。 その寝顔を見ている内に、彼女がここまで頑張って作ろうとする映画がどのように作られているのか、現場に見に行ってみたいと思った。 荻上会長からいろいろと話は聞いていたが、直に見てみたくなったのだ。 幸い今日は午後からC先生宅に行く予定だから、帰りに部室に寄ることにする。 昼過ぎ、笹原はC先生に会ってネームのチェックを終えた後、部室にやって来た。 屋上に来てみると、あちこちに畳ぐらいの大きさのベニヤ板が置かれている。 その1枚に向かって、豪田はしゃがんで鉛筆を走らせている。 長い金属製の定規を片手に線を引き、幾何学的な模様を書き込んでいく。 別の1枚には、沢田がメタリックシルバーのペンキを塗っていた。 ペンキを塗り終わった分には、豪田が鉛筆を一旦置いて細かい手直しを加える。 そして部室のプレハブの壁際では、巴がベニヤ板を並べて立てかけている。 そのベニヤ板には、先程のメタリックシルバーの塗料をベースに、メカニカルなデザインの塗装が施されている。 いくつかの小さな穴(後で豆電球を入れるのだ)の開いたその板のデザインは、異様に精巧でリアルだ。 巴「あら笹原先輩、こんにちは」 最初に笹原の存在に気付いた巴に続き、あとの2人も挨拶する。 笹原「こんちわ、これは?」 沢田「ケロロ小隊の作戦司令室の壁です」 笹原「(心底感心して)上手いね」 豪田「(照れて)こんなのちゃんと撮られたら粗見えまくりですよ。手前の人物に焦点合わせて照明暗めにして、やっとそれらしく見える程度です」 笹原「あれ?豪田さんが美術ってのは聞いてるけど、巴さんと沢田さんは映画に出るんだよね?」 巴「私は夏美役なんですけど、今回は最初と最後にちょこっと出るだけですから、実質的なセカンド助監督なんです。だから忙しいとこ手伝うのは当然ですよ」 笹原「セカンド?あっ、そうか、確か伊藤君がチーフ助監督だったね」 沢田「私はドロロ役なんですが、終盤でちょっと出るだけなんで、サード助監督です」 豪田「私もセット作った後は手空きなんで、照明担当します。そんでこの2人は、交代で録音も担当します」 笹原「録音?」 豪田「8ミリの音はアフレコですけど、音入れる時にライブの音があった方がいいらしいんで、撮影時の音取ることになったんです」 笹原「何か本格的だね…」 その後しばらく、笹原は女子会員3人といろいろ映画について話した後、部室に入ろうとした。 部室のドアに手を掛けようとして、ピタリとその動きを止めた。 ドアの横に貼られた張り紙に気付いたからだ。 縦長のその貼り紙には、毛筆で「G作品制作本部」と書かれていた。 笹原「何だこりゃ?」 巴「あっ、それミッチーが書いたんですよ」 沢田「彼女ペン習字だけでなく毛筆の習字も1級なんです」 笹原「なるほど達筆だね…じゃなくて、G作品て何?」 豪田「今回の映画の仮称ですよ。伊藤君、まだサブタイトル決めてないんです。監督と相談して決めたいからって」 沢田「元々は『ゴジラ』の企画段階での仮称だったらしいんですけど」 笹原「国松さんの提案?」 巴「(にっこり笑って)やっぱ分かります?」 笹原「彼女しか居ないからね、こういうの提案する人は」 豪田「まあ今回は、現視研のGとでも解釈して頂ければいいと思います」 3人に苦笑気味に微笑んで、笹原は部室のドアを開けた。 笹原が部室に入ってみると、2つのテーブルを2グループが各々使っていた。 片方のテーブルは、映画に出る荻上会長、スー、アンジェラ、ニャー子、有吉、そして大野さんが囲んでいた。 全員台本を持っているから、台本の読み合わせをやっているようだ。 もう片方のテーブルは国松と日垣と伊藤と神田が囲み、テーブル上は大量の自動小銃や短機関銃のモデルガンが占領していた。 荻上「あっ笹原さん」 荻上会長が気付いたのをきっかけに他の会員たちも笹原に気付き、互いに挨拶する。 大野「荻上さん、しばらく抜けていいですよ」 荻上「えっ、いいですよ」 大野「まあまあ、照れなくてもいいですよ。それにOBの人ほったらかしってのも何でしょ?スー、あなたしばらく軍曹さん役もお願いね」 スー「(渡辺久美子似の声で敬礼しつつ)了解であります!」 笹原「…似てるね」 荻上「スーちゃんはケロロに出てくる声優さん、全員マネ出来ますよ」 笹原「凄いね。今日はみんなで台本の読み合わせ?」 荻上「まあ、そんなとこです」 アンジェラ「てゆーか演技指導?」 笹原は大野さんの服装に注目した。 この暑いのに上下黒づくめで、上は長袖、下はロングスカートだ。 笹原「もしかしてその格好…」 大野「(顔半分を髪で隠し)さあ、仮面を被るのよ」 笹原「月影千草か…」 荻上「それをやりたかっただけですよ」 しばし笹荻並んで、台本の読み合わせ風景を見つめる。 大野さんが積極的にチェックを入れていく。 「有吉君、声が吹き替えになるからって台詞おろそかにしちゃダメ!」 「アンジェラ!台詞なんだから語尾に『あるね』付けちゃダメ!」 そんな様子に感心する笹原。 「けっこう本格的なんだ、演技指導」 荻上「何でも一夜漬けで演劇関係の本読んで勉強したそうですよ。(少し考え)今日はどうしたんですか?」 笹原「いや、ちょっと現場を見ときたくなったんだ。恵子があそこまで入れ込んでる映画の制作現場をね」 荻上「まあ入れ込んでるというか、何かスイッチ入っちゃったみたいですね。正直私も驚いてるんです、1年の子たちの報告聞いて」 笹原は先日聞いた国松の推測について話した。 荻上「そういうのもあるのかも知れませんね…」 笹原はもう片方のテーブルに目を向けた。 伊藤はテーブルの上にモデルガンの薬莢(カートリッジと呼ばれる)を並べ、火薬(キャップと呼ばれる)を次々と詰めていく。 日垣はモデルガンの銃身や銃口にノギスを当てて何やら測り、手元に置いた図面に数字を書き込んでいく。 国松は次々とテーブルの上の銃を手に取り、肩に付けたり腰だめにしたりして構えていた。 そして神田は、台本や彼女の物らしきシステム手帳を見ながら、何やらノートに書き込んでいる。 笹原「伊藤君それは?」 伊藤「ギロロが使う火器なんですが、今から発火テストをやりますニャー」 日垣「銃そのもののテストはこの間やったんですが、今日は実際に使う国松さんに撃ってもらおうと思って」 笹原「ここで?」 伊藤「まあその時は皆さんに一時避難してもらうことになりますけど、まだまだ掛かりますからニャー」 笹原「まだまだって?」 日垣「この手の銃で30発も撃とうと思ったら、弾の用意だけで1時間近く掛かるんです」 伊藤「それをフルオートで撃ったら10秒かそこらで弾切れ、そして後の分解掃除にさらに1時間、全く不条理な趣味ですニャー」 笹原「何か大変そうだね…」 その時国松が、銃を降ろしながらため息を付きつつ呟く。 「けっこう重いわね。モデルガンにしては」 日垣「金属製だからね。それでも本物よりはやや軽いんだけど、どう振り回せそう?」 国松「(再び銃を持って、いろいろポーズを変えて構え)ただ振り回すだけなら何とかなりそうね。でも問題は発火した時よね」 日垣「まあいざとなれば、発射するシーンと銃持って走るシーンと分けて撮って、撃つシーンを上半身アップにして下から銃引っ張るって手もあるし」 国松「そこまでしなきゃいけないぐらい反動強いの?」 日垣「この手の銃のフルオートって、薬莢吐き出す時に重たい遊底が連続して前後するから、けっこうきついと思うよ。片手撃ちで制御するのは」 国松「そうなんだ。でもまあ、とりあえずどうするか決めるのは、撃ってみてからね」 笹原「何かこっちも大変そうだね」 国松「でも浅田君と岸野君が銃貸してくれたおかげで、ギロロの装備は何とかなりそうです」 笹原「まあ確かにギロロの装備って、ガンダム系のやつか実銃系のやつだから、モデルガン使えば一応格好は付くね」 国松「ほんとはビームライフルぐらい作りたいんですけど…」 日垣「まあビームライフルだと、あとで光線描き込むのが大変ですから」 笹原「日垣君は何してるの?」 日垣「試射してみたんですが、煙と薬莢はしっかり出るけど銃口は塞がってますから、銃口から火が出るようにしようと思いまして」 笹原「銃改造するの?」 日垣「借り物ですし、それやると法律に引っかかるんで、サイレンサーみたいなのを別に作って銃口にはめて使おうと思うんです」 笹原「(日垣の手元の図面見て)何か本格的だね」 日垣「(笑って)そんな大がかりな仕掛けじゃありませんよ。要はサイレンサー状の筒の中に短く切った花火を何本か仕込み、長さの違う導火線つないで点火するだけですから」 笹原「短く切る?」 日垣「普通の花火なら1分近く火が出るでしょ?それを銃の発射炎みたいに一瞬だけにする為ですよ」 笹原「導火線の長さってのは?」 日垣「もちろん1度に発射するのを防いで、フルオートの連発に見せる為です。まあよく見れば銃口があちこち変わるのが分かるでしょうけど、銃ブラせばバレませんよ、多分」 笹原「いろいろ考えてるんだね」 「銃もいいけど、タイムカプセルの方はどうなってるの?」 神田が口を挟んだ。 日垣「おもちゃ屋やホームセンターを回って、改造して使えそうな物を物色してるとこだけど、急ぐ?」 神田「スケジュールの関係から行くと、多分クランクインしてすぐぐらいに出番があるわ。日向家でのシーンから撮影スタートすると思うから」 日垣「そんじゃあ急ぐよ。最悪プラ板で1から作るし」 「どんなスケジュールになってるの?」 笹原が口を挟んだ。 それに対し神田は、以下のような説明をした。 クッチーの就活(と言うか公務員試験)の関係で、ベム絡みのシーンの殆どの撮影は後回しになる予定だ。 ちなみにこれは、特殊技術の国松からの意見を入れたせいでもあった。 ベム絡みのシーンには、着ぐるみが破損する危険性が高いものが多い。 特にギロロに撃たれるシーンでは、着ぐるみに弾着を仕込む(と言っても、ニクロム線に繋いだ火薬を着ぐるみに貼るだけだが)ので、かなりひどい破損になることが予想される。 ベムの着ぐるみはラテックス製だから、熱には弱いのだ。 日々の撮影で生じる傷や汚れ程度は、修理しつつ撮影続行するが、熱で溶けた破損となると修理にどれぐらいかかるか見当が付かない。 最悪の場合、着ぐるみがオシャカになるかも知れない。 そこでギロロに撃たれるシーンを1番最後に持って来たのだ。 そういった事情により、必然的にその他のシーンからの撮影になる。 撮影現場は主に2つに別れる。 日向家内でのシーン中心の屋内撮影と、クルル時空での着ぐるみバトル中心の屋外撮影だ。 この時点でまだ屋外でのロケ地が決定してないこと。 屋外シーンの方が小道具や仕掛けが多く、準備にまだ時間がかかること。 そして9月前半に外での着ぐるみバトルの撮影は、まだ暑いので初心者にはキツいこと。 それらの理由により、前半は主に屋内撮影、後半は屋外撮影中心で撮ることに決めたのだ。 「なかなか大変だね、撮影スケジュール組むのも」 そんな笹原の感想に、神田は笑顔で答えた。 「いやこれはこれでなかなか楽しいですよ。みんなの日々の生活とか、どんな科目履修してるのかとか分かりますし、それに…」 笹原「それに?」 神田「OBの方々にも頻繁に連絡出来ますしね」 笹原「OB?」 神田「この部室、けっこう皆さんよくいらっしゃるでしょ?でも今後しばらくは留守にすることも多いから、念の為に撮影スケジュールはその都度連絡しようと思うんです」 笹原「まめだね」 神田「特にシゲさんは頻繁にいらっしゃるから、まめに連絡しなきゃいけないですからね」 さらに言い訳するように付け加えた。 神田「あっこれ仕事ですからね。ついでに誘惑しちゃおうなんて考えてないですからね」 一同『それが狙いだったのか…』 「ただ今戻りました!」 そう言いつつ、浅田と岸野が部室に入って来た。 荻上「お疲れ様、どうだった?」 岸野「とりあえず撮影に使えそうな空き地や原っぱ、数ヶ所見繕っときました」 荻上「ご苦労様、ビデオには撮ってあるの?」 今や半ば彼の愛機と化したDVX100を前に差し出しつつ、浅田が答える。 「こいつに収録してありますよ」 岸野もデジカメを差し出しつつ付け加える。 「写真もこいつに撮ってあります」 部室のテレビで、ロケハンして撮ってきた映像が再生された。 台本の読み合わせをしていた組も一時中断し、会員全員でそれを見る。 国松「うわーシナリオのイメージにピッタリじゃない!『仮面ライダー』の撮影に使われてた造成地みたい」 岸野「ここなら住宅地から離れてるから、少々騒いでも問題無いと思うよ。それに何とか近くまで車も入れられるし」 浅田「まあ難点は、トイレと電源が取れそうな施設が近くに無いことかな」 国松「シナリオのイメージ的には夕暮れ時以降だけど、昼間撮影すればいいんじゃない?フィルターか何かで画面暗めにするとかして」 荻上「暗くなってから素人がアクションシーン撮影するのも危険だし、その方がよさそうね」 みんなも賛同し、後で恵子にその線で話してみることになった。 この辺りから、会員たちは自然にミーティングへと移行し始めた。 「屋外はそれでいいとして、屋内の方はやっぱり私んちでいいかな?」 神田の発言で話題は日向家内のロケ地に移った。 岸野「リビングとか台所とかはいいと思うけど…」 神田「何?」 岸野「冬樹の部屋がねえ、何というか神田さんの部屋だとちょっと…」 神田「あっそうか。私の部屋だと、相当模様替えやらないといけないわね」 笹原「神田さんの部屋も、やっぱり俺たち同様オタルームなの?」 神田「オタルームってほどじゃないですよ。そりゃ本棚は殆ど漫画本だし、壁にポスター貼ってるし、抱き枕あるし、フィギュアも飾ってますけど、それぐらいは普通ですよ」 笹原「…いや十分オタルームだと思うよ」 荻上「他の部屋は?」 岸野「他の家族の方の部屋も同様です」 荻上「片付けるの手間そうだし第一神田さんに悪いから、冬樹の部屋はまた別で考えましょう。あと決まってないのは?」 浅田「あとはケロロの部屋とクルルズラボですね。ケロロの部屋って窓の無い地下室だけど、そんな部屋さすがに神田さんちにも無いですし」 荻上「まあ日本の家屋の部屋って、普通は窓あるもんね」 岸野「まあ最悪カメラアングルで上手く誤魔化すって手も無くは無いですけど」 「無ければ作ればいいわ」 話に割り込んできたのは、ひと仕事終えて休憩しに部室に入ってきた豪田だった。 岸野「作るって?」 豪田「窓の上に、周囲の壁と同じ色塗った板貼って隠しちゃうのよ。それで不自然だったら、最悪その窓のある壁ごと大きい板で隠しちゃってもいいし」 荻上「えらく大がかりな方法だけど、やれそう?」 豪田「私がやれば何とかなりますよ。ベニヤ板とペンキだけで」 浅田「それなら場所だけ探せばよさそうだね。あとクルルズラボはどうしよう?」 豪田「このシナリオだと室内全景を映す必要は無さそうだから、クルルの背景だけ作って照明暗めでバストショットで撮影すればいけるわよ」 浅田「そう言や作戦司令室もそれに近かったね」 豪田「背景さえあれば場所はどこだって構わないわよ。例えばこの部室でもいいし」 一同『何て頼もしい美術担当なんだ…』 「うっしゃー!」 気合いと共に台場が部室に来た。 荻上「どうしたの?」 台場「やりましたよ会長!サンライズと交渉して、ケロロの主題歌とBGMの使用許可もらってきました!あとは著作権の方申請したら、サントラから音取り放題です!」 国松「お疲れ、晴海!」 笹原「何か話がどんどん大きくなってるな…」 次回予告 さていよいよ次回、長き眠りから覚めた恵子監督が復活し、撮影準備も佳境に入る。 そして彼女の肉体に、ある異変が… (て言うか、まだ撮影始まらないのかよ) 30人いる!その13に続く
https://w.atwiki.jp/genshikenss/pages/266.html
雨待ち風 【投稿日 2006/04/12】 カテゴリー-ハルコさん 第一幕 部室にて ハルコ「えっ?」 部室でぼんやりとしているところ、突然声をかけられて、ハルコは驚いた。 春日部「だからー、今回の合宿で笹原と荻上さんをくっつけちまおうっ て言うの!聞いてたの?今の話、ハルコさん!もちろん、そんな強引な真似は する気無いけどさー」 そばで大野がウンウンと頷いている。 春日部「それとも、二人の事、気付いてなかったとか?」 ハルコ「もっもちろん、気付いてたわよ!」 とお茶をすすりながら、ハルコは慌てて弁解した。 そう言いながらも、本当はハルコがそれに気付いたのは最近の事だった。最初 は普通にハルコと接していた荻上が、急に素っ気無くなったのは何時の頃から だったか・・・。思えば、その頃から荻上は笹原の事を意識し始め、笹原と親 しくする自分に穏やかでいられなかったのだろう。 (ほんと鈍いなー、わたし・・・) そう思いながら、頭を掻いた。 春日部「それでさ、さっき話した通り、俺が笹原にもっと積極的に押すように 促すからさ、ハルコさんたちは荻上さんの気持ちを和らげる方向で頼むよ」 ハルコ「はは、ここはドンとお姉さんに任せなさい!」 とハルコはここぞとばかりに、年長者風をふかした。 (自分の恋もままならないのに、人の恋路の手伝いしてる場合カネ?!) 春日部「頼むよ・・・笹原には色々と入学の頃から、ぐちを聞いてもらったり、 世話になってっからさー。こんなお節介、俺らしくないけどね・・・」 そう言いながら春日部は昔を思い出すような遠い目をした。 そんな春日部の姿を見て、ハルコもまた、春日部との昔の思い出が脳裏をよぎ った。 第一印象はお互い最悪だった。むしろ嫌いだったかもしれない。ハルコはハル コで、せっかく入った女子新人の真琴を手放したくなかった。 腐女子の先輩に誘われて入部した現視研は創作活動をしないオタクや腐女子 には居心地のいいところだった。男子もいたが、不干渉な領域にはお互い干渉 せず、共通の、例えば『くじあん』とかの話題で盛り上がっていた。 先輩が卒業してからはハルコ一人が女子だった。それに不自由はなかった。田 中や久我山もハルコを異性として意識する事無く、気さくに接していたし、ハ ルコもまた意識せず気さくに彼らとオタク話を楽しんだ。 だが、やはりやおい話ができないのは寂しいと密かに思っていたところへの真 琴の入部希望だったから・・・。 春日部も逆にきっと嫌っていたことだろう。意中の女性の趣味が彼には到底理 解できないものだった。なんとか辞めさせたくてしかたがなかったはずだ。ハ ルコも思いっきり意地悪をして、やおい趣味と男女の交際とは「別物」だと言 って、春日部を口惜しがらせたものだった。 (何時からだろう・・・この感情が変わったのは・・・) 変わったのはハルコの感情だけではなかった。二人の関係は二人の性格にも影 響を与えた。ハルコの外見の変化も著しかった。野暮ったい服を春日部に指摘 されてからは服装にも気をつかうようになった。昔からの友人の高柳と久しぶ りに会った時、「知らなかった!ハルコが女だったとは!」と言われた。「昔か ら女だよ!」と軽口をたたいたが、悪い気はしなかった。 ただ、昔のような気さくな関係に戻れない事を寂しくも思った。田中が大野と 付き合い始めた頃にも同様に長年の友人を失ったように寂しく感じたものだ った。 春日部「・・ルコさん!」 ハルコ「えっ、ああ、はい!」 春日部「今日はどうしたの?ぼんやりしてばっかりいて!」 ハルコ「あらあら、ごめんなさい」 (こうして春日部君と話すのもいつまで続くのかな・・・) そう言って不思議そうな顔をしている春日部に笑いかけた。 第二幕 別荘への風景 合宿当日の空は晴れ渡っており、空気も爽やかだった。樹々の生い茂る緑の光 が眩しかった。いつもと違う環境は心も軽やかにする。現視研サークル一行を 先導する惠子も普段以上にはしゃいでいる。 惠「こっち、こっちだよ」 惠子は春日部の手を引っ張って、合宿所のあるペンションまで導いた。恵子は 春日部への好意を隠そうともしない。ハルコは惠子をうらやましく思った。 真琴はあいかわらずおっとりぼんやりしている。イラストレータの仕事を在学 中から始めており、その締め切りに追われて、疲れた様子だ。 見せ掛けでない天然の愛らしさを持つ真琴は不思議と人の悪意に無縁に見え る。真琴自身も、また周囲からも・・・。 ハルコは真琴を見つめてため息をついた。 静謐な林の中にたたずむ別荘は、小さいながらも木目の内装の綺麗な吹き抜け の作りで、趣向をこらした雰囲気がとても良かった。惠子と大野は真っ先には しゃぎながら、温泉のある浴室を探し当てた。二人は温泉がやや予想よりも作 りが雑な上、外から丸見えな事に失望していたが、ハルコはまずまずだと思っ た。 春日部「じゃあ、当初の計画通りに・・・」 と春日部はハルコに耳打ちした。 ハルコ「うっうん!」 ふいに春日部の顔が近づいた事に驚き、顔を赤らめながら答えた。 二人の様子をうかがうと、笹原が荻上に視線を向けても、荻上は意識的に顔を 合わせようとしない。むしろ不自然なくらいに見えた。 荷物の片付けが終わると、大野は荻上を散歩に誘った。惠子も春日部を誘って ショッピングに出かけたがったが、徹夜続きの疲れからすぐに寝入ってしまっ た真琴のそばに春日部は居たがった。 ハルコは真琴は自分が見てるから安心して出かけていいよ言い、春日部を安心 させて送り出した。笹原と朽木も疲れたからと、居残る事になった。 ハルコが笹原と二人になると知った時の、荻上の複雑な表情にハルコは気付い た。 ハルコ「やっと、落ち着いたわね!」 笹「そうですねー、でもまさか本当に軽井沢に来る事になるとは思いませんで したねー」 ハルコ「そうよね、そもそも私たちのサークルじゃ合宿なんて考えられなかっ たけど、色々タイミングも合ったからね・・・」 二人は気兼ねなく雑談を交わした。ハルコ自身、会長という立場もあり、また 人に気遣わせる性格でも無かったので、笹原とは普段から気さくによくオタク 話で盛り上がっていた。 元々、笹原は同世代とオタク話がしたくて入部したのに、同期入部した男子が 一般人の春日部だけだった上、春日部の相手も結局笹原がした為、笹原自身の 望みは主にオタク話も好きなハルコを相手にする事が多かった。 それが荻上の心を落ち着かないものにさせていたとすれば、笹原にも申し訳な いなとハルコは思った。 ハルコ「でさ・・・どうだったの?」 笹「どうって?何がです?」 朽「サー!やはりのぞき・・・あっ斑目先輩!」 ハルコ「あのねえ・・・(怒)」 結局、お約束の期待を裏切らずに朽木が乱入した為、ハルコは肝心の会話を続 ける事ができずに終わってしまった。だが邪魔が入ってむしろほっとしてもい た。 (難しいよ、大見得切った手前、どうしよう・・・) ハルコはぼやっとした笹原の表情が自分を見ているようで、腹立たしく感じら れた。 第三幕 合宿初日の出来事 夕食前に皆がそれぞれ戻ってくると、急に部屋が賑わしくなった。特に惠子が 大騒ぎしている。春日部は笹原に何やら耳打ちしている。笹原の顔が途端に青 ざめた。何を話したかはハルコには聞こえなかった。 春日部「真琴、ずっと寝たまま?」 ハルコ「そうね、ずっと私たちここにいたけど、熟睡しっぱなし・・・」 春日部「そうかー、よっぽど疲れてたんだなぁ ま 今日はもうしょうがない けど・・・」 愛しげに春日部は真琴の寝顔を見つめている。 ハルコ「(・・・『明日は一緒に出かけたい』ってことね・・・)」 春日部「で、どんな感じ?」 ハルコ「まっまあ、なんとか・・・」 春日部「そう・・・じゃあ夕食後にも手はず通りにね」 近くのレストランで夕食後、再び部屋に集うと、春日部が皆に言った。 春日部「じゃあ、女性陣先に温泉入りなよ!クッチーはこっちで一緒に酒盛り しような!逃がさんよ」 朽木はそう言われると、いかにも残念そうな口ぶりをしたが、態度はかまって もらって嬉しそうであった。 ハルコ「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」 最初はハルコと大野が温泉に入る事になった。 ハルコ「で、どうだったの?」 大「そうですね・・・何が問題なのかは大体分かりましたけど・・・」 大「その理由となると まだちょっと・・・」 ハルコ「ふーん 別に私と笹原君の事 勘ぐってるわけじゃないよね?」 大「そうじゃないみたいですよ・・・もっと別の理由で・・・」 ハルコ「ならいいけど、でも別の理由というのも、それはそれで気になるけ ど・・・それは後で・・・」 大「そうですね」 ハルコ「おーい、次いいよー」 荻上が恐る恐る、そーっと浴室に入ってきた。ハルコが浴槽から出ると、大野 の視線がハルコの胸にいった。 (む!) 無意識に勝ち誇った大野の目にカチンときた (おのれ!この女はー) ハルコ「ねえ、オギー 胸は大きさじゃなく、形だよね!」 荻「はあ?」 ハルコ「そこはソウデスネと言ってほしかった!」 風呂から上がると、すでに男性陣の酒盛りは、特に春日部が一人で飛ばして盛 り上がっていた。朽木はすでに酔い潰されていた。笹原はなんとか相手にして いるが、時間の問題かもしれない。 大「なんか、春日部君、当初の目的忘れてませんか?」 ハルコ「まあ、いいんじゃない・・・こっちはこっちでやりましょう」 女性陣の酒盛りの盛り上げ役はハルコだった。やたら高いテンションでやおい 話を連発して、場を盛り上げようとした。大野は乗り気でその話に乗り、荻上 はやや遠慮がちに話に加わり、恵子は完全につまらなげに話を聞いていた。む しろ恵子は春日部のグループに加わりたがっていたが、大野が押し止めていた。 ハルコの計画では荻上の緊張をほぐして、酒の勢いも借りて荻上から本心を引 き出すつもりでいた。だからこそ普段以上に大はしゃぎし、荻上に酒をどんど ん勧めた。 ところがそれが裏目に出たと分かったのはすぐだった。酔っ払った荻上は聞き もしない自分の過去話をし始め、恋愛告白話と思ったハルコと大野は、最初は 場を盛り上げて話を促したのだが、深刻な内容と気付くと、様子が一変した。 恵子は完全にドン引きし、一刻も早く、この場から逃げ出したい様子だった。 ハルコ「なっなんか話が目的から大きく脱線したような・・・」 大「どうなんですか?こういう事って日本じゃよくあるんですか?創作系の人 が周りにいなかったんで分かりませんけど・・・」 ハルコ「いや、実在の人をモデルにするって話は知ってるけど・・・」 二人はコソコソと内緒話をして、オロオロしながら荻上の話を聞いていた。 荻「わたしがいけねくて・・・そんで・・・巻田君が今でもそれ気にしてたら・・・ どうしよう・・・」 その様子にハルコは途方にくれた。泣き崩れる荻上に大野はすっかり同情し、 笹原に絶対幸せにしてもらうと息巻いている。 こうした事情を春日部や笹原に説明し、理解してもらう事は非常に困難な様に 思えた。 とりあえず、ハルコは荻上を落ち着かせ、なだめて寝付かせた。 落ち着きを取り戻しはしたが、苦しみで顔を歪めている荻上の目じりには薄っ すらと涙が浮かんでいる。笹原と荻上の事は所詮頼まれ事で、他人事のような 気持でいたが、この時初めて何とかしてあげたい気持ちにハルコはなった。 ハンカチで目じりから頬に伝う涙をぬぐってやりながら、 (なんて業の深い・・・わたしはどうしてあげたらいい?) そう思い、途方にくれた。 ふと目をやると真琴が何も知らずにスヤスヤと無邪気に健やかな表情で寝て いる。苦悩を知らないその表情がうらやましくもあり、妬ましくも感じられた 第四幕 合宿2日目の出来事 翌朝、荻上は飲み慣れない酒に二日酔いになってしまった。男性陣はといえば、 そうとう飲んだのに春日部はけろっとしている。また早々と潰された朽木や笹 原も大丈夫だった。朝食の場で、荻上の看病をどうするかという話の段になり、 結局大野の強い主張で荻上の看病を笹原に任せることになった。 二人だけの状況にしてよいものかと、一抹の不安を感じながらも、ハルコも春 日部たちと一緒に外出した。大雑把な事情は春日部にも伝えた。首をかしげ、 理解できない様子だったが、事態を楽観的に見ていた。 春日部「大丈夫でしょ!よく分からないけど笹原次第だと思うよ」 ハルコ「まあ・・・特殊な事情と言えば事情なんだけど・・・」 性格なのか、悲観的になってしまう。 戻ってみると、案の定荻上が外に飛び出して、逃げ去っていく。驚いた春日部 と大野は別荘に走っていき、笹原がその後飛び出して、荻上の後を追っかけて いった。 真琴「青春ね!」 事情を理解しているのかしてないのか、真琴はいつも通りのおっとりとした口 調でにこやかに言う。 ハルコはといえば、事態の急転直下な展開に戸惑い、傍観者としてただ平静に 見ることもできず、かといって積極的にこれに関わることさえできずに、オロ オロしてるばかりだった。 二人を待っている時間がもどかしかった。部外者でいることがこれほど苦痛と は思わなかった。二人が無事に戻ってきて、荻上が前向きな姿勢を取り戻した 時は心からほっとした。 ハルコ「これで何とか無事にすみそうじゃない?でも私たちにも隠してる事っ てなんだろ?」 大野と二人きりになった時、ハルコは大野に尋ねた。 大「いやだなあ、ハルコさん 『あれ』ですよ、『あれ』!」 ハルコ「『あれ』って?本当に分からないんだけど・・・」 大「あれ?ハルコさんには荻上さん、見せてないんですか、笹春を!」 ハルコ「はあ?まさか・・・まさか、笹原君と春日部君の!」 大「たぶんその事だと思いますよ。似顔絵だけ見せてもらった事ありますか ら・・・」 ハルコ「えええええ!だって・・・だって・・・どう考えても春笹でしょう!」 大「ですよね!ですよね!でも荻上さんにはそう見えるんでしょうね」 ハルコ「趣味が・・・じゃない!私たち思いっきりずれた会話してる!」 大「そっそうでした・・・」 ハルコ「ああ、オギー・・・オギー・・・あなたって・・・」 ハルコは立ちくらみに似た感覚に襲われた。 大「きっと、大丈夫ですよ!笹原さん予備知識だって持ってるし・・・」 ハルコ「本当に・・・本当に・・・そう言い切れる?オギーが傷つく反応を示 さないと言い切れる?」 大「それは・・・正直・・・。私から笹原さんに念押ししておきましょうか?」 ハルコ「いえ!・・・私がやります・・・もちろんもう一人の『当事者』にも 何も言っちゃダメですよ!私も言いません!」 いつもなあなあで流して誤魔化そうとする普段のハルコと違う様子に、大野は 戸惑いながらも 大「じゃあ、お任せしますよ?・・・」 とハルコに事を委ねた。 (オギーも笹原も周囲の手助けを得たとはいえ、少なくとも自分から動き出し た。私もここで何かしなければならない・・・そう、待つのではなく・・・) 第五幕 合宿三日目 前日、大野にああ言ったものの、ハルコは笹原と二人きりになる機会を見つけ ることができずに、うろうろしていた。時間ばかりがたつ。大野も心配な目で 見ている。 考えてみれば、そんな器用な真似が自分にできるはずが無かったのだと後悔し 始めてもいた。そうこうしてるうちに、軽井沢のショッピング街にたどり着い た。それぞれ、自分の買いたい物に目を奪われて、ばらけ始めた。この機会を 逃すともう後は無いだろう。そう思って、笹原のそばに寄った。すると笹原は 携帯を開いて、メールチェックをし始めた。やや離れたところでは、荻上が顔 を赤らめながら、携帯を閉じている。ハルコははっとその意味に気付き、笹原 に声をかけた。 ハルコ「やっやあ、ササヤン!」 そう声をかけると笹原は驚いた表情でハルコの方を向いた。『ササヤン』と呼 ぶのはもっぱら春日部で、ハルコがそう呼ぶことなど無かったからだ。 笹「ハルコさん、どうしました?」 ハルコ「いや、あの、その・・・」 喉が渇き、声は裏返り、言葉もしどろもどろになった。 (何て言ったらいいの・・・) 頭の中がぐるぐると回る感覚に襲われた。しかしどうにか浮かんだ言葉を声に した。 ハルコ「どっどんな事があっても、受け入れなさい!あなたの感じたすべてを 偽り無く、ありのままに伝えなさい!」 そう言って、ゼイゼイ息切れしてしまい、言葉が続かなかった。 笹原は最初はきょとんとして驚き、やがてハルコが伝えんとしている事の意を 悟り、無言で会釈した。 ハルコ「じゃ!じゃあ、そういう事だから!」 そう言って、顔を真っ赤にして、走り去った。 (限界!これが限界!) でもやりきったという気はした。言葉で伝えられる以上の事を伝えられた気が した。後は二人の問題だ。自分の事もこうできればいいのに・・・。 第六幕 一週間後 ハルコ「あら?お久しぶり!オギー」 部室の扉を開けると、そこには合宿以来顔を合わせることも無かった荻上がい た。 荻「あ こんにちは お久しぶりです」 ハルコ「私も仕事忙しくて、一週間ぶりなんだけど・・・けっこう来てた?」 荻「ええ、私 けっこう来てますよ」 ハルコ「他の人は?みんな忙しいのかしらね?」 荻「どうでしょう?大野先輩なんか旅行からずっと田中さんちにいるみたいで すよ 昨日 メール来てました。」 ハルコ「そう・・・大野も来てないんだ・・・」 (バタバタして、こっちから電話もメールもしそびれてたな・・・) ハルコ「・・・さっ笹原君も?」 荻「あ そうですね 研修とかで今週は・・・」 ハルコ「えー、しょうがないわね、一週間も音沙汰なしで!早く結論出しなさ いって!」 荻「え?」 ハルコ「え?」 荻「・・・・・・」 ハルコ「また私だけ知らなかったの~(涙)」 荻「あっいえ別に隠していたわけじゃなくて・・・聞いてきた人にしか教えて なくて・・・あまり言いふらす事でもないんで・・・聞かれた人にも言いふら さないようにお願いしてましたから・・・」 ハルコ「まあ、いいんだけどね(涙)」 荻「でも・・・本当に斑目先輩には・・・お世話になりました・・・。」 ハルコ「なんにもしてないって!」 荻「いえ、笹原さんからも聞いてました」 ハルコ「・・・あ・・・別にたいした事言ったわけじゃないし・・・とにかく 良かったね!」 荻「いえ、本当に・・・」 ハルコ「・・・ところで・・・『あれ』はもう誰にも見せない方がいいかもね・・・」 荻「そうですね(汗)」 ハルコ「それもやおい?」 荻「まっまずいっすかね?」 ハルコ「まあ、イインジャナイデショウカネ」 二人は顔を見合わせて笑いあった。 ハルコ「色々ばたばたしちゃったけど、今度こそ温泉でゆっくりしたいね」 荻「そうですね」 ハルコ「次は女だけで行きましょ!」 荻「いいですね!」 (色々な事が・・・きっと良くなってくる・・・) 荻上の笑顔からは以前の暗い面差しは少しも感じられることは無かった。荻上 の苦悩を自分の事のように苛んだハルコもようやく安らいだ気持ちになった。 第七幕 ハルコの告白 急に激しい雨足の夕立が降り注ぎ、慌ててハルコは雨宿りできる場所を探して、 駆け出した。急に駆け出したので、同じように駆け出した男の人とぶつかって しまった。 ハルコはよろめきながら叫んだ。 ハルコ「ちょっとどこ見てるの!」 春日部「あれえ!ハルコさんじゃん!危ない!」 そう言いながらよろめくハルコの手をつかんだ。 ハルコ「え!春日部君?」 春日部「やばい、やばい、濡れちゃうよ!」 そう言いながら春日部はハルコの手を引っ張って、近くの建物の軒下に避難し た。 (うわ、うわ) 顔を赤らめつつ、内心でハルコは思わずそう叫んでいた。 ハルコ「どうしたの?こんなところで!久しぶりだね!」 春日部「ハルコさんこそ!俺は出店する店舗の下見にきてるんだけどさ」 ハルコ「この辺なんだ!私は会社が役所に提出する書類を届けた帰りで・・・」 春日部「ああ、会社この辺なんだ。と言っても俺の場合、ここは出店候補地の 一つなんだけどね」 ハルコ「そうなんだ・・・」 春日部「まあ・・・立地条件とか、家賃とか・・・折り合いが難しくて・・・」 ハルコ「大変だねー」 春日部「ところで、ハルコさんのOL姿なんて初めて見たよ!うわ、新鮮!」 ハルコ「じろじろ見るな!」 そう言ってハルコは春日部の足を蹴飛ばした。 春日部「痛てて・・・相変わらずキツイね・・・」 ハルコ「・・・昔は毎日のように嫌がらせしてたねえ・・・わたし」 春日部「まあ、それも良い思い出だよね・・・」 ハルコ「よく続いたよねキミ、あんなオタサークルで・・・染まりもせずに・・・」 春日部「そうでもないよ、漫画読むようになったし・・・コスプレもするはめ になったし!二人でねえ!」 ハルコ「うっ!それは・・・」 二人は顔を合わせて笑い出した。 春日部「あれ?前にもこんな事無かったっけ?」 ハルコ「!! そうだっけ?覚えてないなあ・・・」 春日部「いや、あったよ!あの時は構内でやっぱり急に雨が降って雨宿りし て・・・」 (覚えてますよ・・・。最初から気付いてましたよ・・・。キミが手を引いて くれた時から・・・) 鼻毛の件も言ってしまおうか?あの時だ・・・。あの時の表情がとても可笑し くて・・・笑いを堪えて・・・いつも格好つけている男が・・・。あの時から・・・。 春日部「そうかー、覚えてないんならいいんだけど・・・」 (ああ、でも・・・覚えててくれているんだ・・・あんな事でも・・・) ハルコの胸の鼓動は鳴り止まず、熱い気持ちがこみ上げてきた。 言ってしまおうか・・・言ってしまおう!オギーや笹原だって自分で勇気を出 したじゃない!そして私にも出来たじゃない!こうして手遅れになるのを待 ちつづけて、諦められると思わなくても・・・。 ハルコ「あの・・・」 春日部「・・・でさー、真琴にプロポーズしようと思ってんだよねー」 ハルコ「!!・・・そう・・・それはおめでとう・・・」 春日部「ああ見えて、真琴は俺がいないと駄目なんだよね。俺が必要なんだ」 ハルコ「必要としてるのはキミの方でしょう・・・」 小さくか細い声でハルコは呟いた。 春日部「えっ?何か言った?」 ハルコ「いやいや、しょってるね!って言ったんだよ!」 春日部「ああ、ひどいね、やっぱりハルコさんは!」 春日部は笑った。 ハルコもまた笑った。 ハルコ「晴れたねえ!あんまり帰るの遅いとサボってるって言われちゃうね! じゃあまた!結果教えてね!」 ハルコはそう言って小走りに駆け出した。 その夜、会社の飲み会の二次会で、同僚達とカラオケに行ったハルコは周囲の 目もお構いなしに、アニソンを熱唱した。普段大人しいと見られていたハルコ の意外な面に、逆に同僚達は面食らって、やんやと喝采を浴びせた。三次会に も誘われたが、歌い足りないからと、カラオケで同僚達と別れた。 そして一人カラオケを熱唱し、人知れず涙を流した。 終幕 花信風の季節 5月初旬、梅雨入りする前の晴天続き、草花が雨を待ち望んでいる時節、ハル コは休日前の週末の夜を自宅で何する事無く過した。笹原たちも卒業し、新社 会人として忙しい事もあり、以前のように気楽に会うことは出来なくなった。 もちろん、春日部や真琴とも。 荻上とは休みが合えば、イベント等に一緒に出かける事が多くなった。しかし それでも大学に足を運ばないとなかなか会えない。大野は自分の趣味で忙しい らしく、やはりご無沙汰している。 だから週末の夜に予期せぬ訪問者が来るとは思ってもいなかった。 春日部「ハルコさんいる~?」 ドンドンとドアをたたく音が聞こえる。聞き覚えのある声。 ハルコ「春日部君じゃないの!どうしたの?こんな時間に!しかもこんなに酔 っ払って!」 春日部「いえね、飲み歩いてたら、近くにハルコさんちがあるの思い出してね、 水もらえないかと思ってね」 ろれつの回らない口調で春日部はしゃべった。 ハルコ「しょうがないなあ!」 ハルコはでかい図体の春日部を引きずって、部屋に入れて、水を飲ませた。 春日部「ありがとうございま~す」 春日部はおどけた調子で笑い声をあげた。 ハルコ「・・・なんかあった?」 春日部「・・・・」 ハルコ「言ってみなさい!」 春日部「いえね・・・真琴に・・・結婚しようかって言ったら、仕事が面白い し今は嫌だって言われてね・・・それで喧嘩して・・・」 ハルコ「何だ、そんなことか・・・。別に今嫌って言ってるだけでしょう!」 春日部「喜んでもらえると思ってたんだよ!それが・・・」 ハルコ「はいはい、のろけはここまで!調子よくなったら帰ってね!」 春日部のグチは止まらない。 春日部「大体、イラストなんか兼業主婦でもできるだろうに・・・、俺の仕事 のプレッシャーが分かってないんだよ・・・親父の援助受けているからって、 うちの親父がそんな甘いわけが・・・俺そっくりな・・・親父の手口は分かっ てる・・・俺が英会話勉強し直した時だって・・・援助して成功したらグルー プの傘下に入れて、失敗したら・・・資金回収して、経験つんだ人材を引き抜 く・・・飼い殺しに・・・銀行屋の娘とか・・・」 止まらないグチにハルコは初めて、春日部の抱えているプレッシャーの重さに 気付いた。何か元気付ける言葉をかけてやりたかったが、思いつかなかった。 春日部「ハルコさ~ん」 そう言って春日部はハルコにのしかかり、くちびるを合わせた。 ハルコは驚き、もがいて春日部を払いのけた。 ハルコ「この酔っ払い!どけなさい!出てって!」 力をこめて春日部を部屋の外に押し出した。 しばらく春日部は部屋の前で騒いでいた。謝っている様子だったが、頭に血が 昇って耳に入らなかった。しばらくして静かになり、立ち去った事が分かった。 ハルコは急にガクガクと足が震えてへたり込んだ。ハラハラと涙がこぼれた。 ハルコ「出会わなければ良かった・・・」 何時の間にか寝てたらしい。泣いていたのだろう。枕もとが濡れて、目がくし ゃくしゃになってる。よろよろと、起き上がりシャワーを浴びた。 頭からかぶったお湯が頬を伝い、くちびるを濡らす。口元を指でさわり、昨晩 の感触を思い出す。夢などでは無かった。 バスルームを出で、初めて携帯の時刻を見るともう昼近い。メールが入ってい る事に気付く。春日部からだ。 ハルコ「・・・・・」 『昨晩は申し訳ありません ハルコさんには無様な姿ばかり見られてます。合 わせる顔もありません。もし許してもらえるなら返事をください』 ハルコは返信を送った。 『許さない。罰としてやおいのイベントの行列に並んでもらう』 すぐ返信が返ってきた。 『分かりました。覚悟します 真琴とはもう一度話し合ってみます』 携帯を折りたたむと、ハルコはアパートの窓から外の景色を眺めた。今日もや はり空は晴れ渡っていて、草木の葉は少し乾いてる。雨を待ち望む声を上げて いるかのように風に吹かれて、カサカサ音を立てている。心地よい風が頬を撫 でる。 アパートのそばでは白木蓮が大きな花をつけて香気を放っている。ハルコは木 蓮に目を奪われた。春は可憐な桜の花や梅の花に目を奪われる事が多く、木蓮 の花は気付かれる事無く、かえりみられる事も少ないが、木蓮もまた春の花で、 悠然とたたずみながら、春を彩り飾っている。 ハルコ「鈍いなあ、気付きなさいよ、馬鹿」 そう呟くと、ハルコは窓から振り返り、クスクスと笑いながら、春日部をどの イベントに並ばせてやろうか、どんな顔して並ぶだろうかと想像した。 (慌てふためいて、さぞ可笑しいだろうな・・・それで許してやるかあ・・・。 でももったいないかな。しばらく意地悪してやろう・・・フフッ) ハルコはその日何度も、その光景を想像しては、プッと吹き出し、心が浮き 立つのを止めることができなかった。 終劇
https://w.atwiki.jp/roster/pages/1867.html
プロフィール 凡例 外野手 8 1980/6/10 180/80 右右 福岡
https://w.atwiki.jp/sfthsummary/pages/685.html
196 名前:ガダラの豚[] 投稿日:01/12/16(日) 19 26 一巻・カルトの内情 2巻・TVヤラセ番組アフリカ紀行、失敗。 3巻・超能力者はオヤジだった。 全部まとめて言うと・・まとめられるかよおおぉ~! 第二回 SF要約選手権
https://w.atwiki.jp/genshikenss/pages/27.html
浦島太郎 【投稿日 2005/10/29】 カテゴリー-童話パロ 竜宮城で荻上という可憐な竜神族の娘に恋をした笹原浦島。 荻「わたしが人間と付き合うわけないじゃないですか!」 笹原は手ひどく振られ、傷心のまま地上に帰ると乙姫に告げた。 咲「じゃあ、みやげにこの同人誌をさしあげます。絶望したらこれを御覧なさい」と同人誌を手渡した。 地上に帰ると、肉親や友人が誰一人生きていないと知る。地上ではすでに数百年の時が流れていたのだ。 笹「ああ、愛する人が生きていない世界に一人で生きるのは哀しい」と絶望し同人誌を見ようとしました。 すると荻上がゼエゼエ息を切らせながら現れた。 荻「そっそれを見てはいけません!呪われちゃいます!本当に!私に返してください!」 笹「でも乙姫様からいただいた贈り物をお返しするわけにはいきません」 荻「じゃ、じゃあ、それを見ないようわたしがずっと見張ってますから!」 数年後二人はどうしているかというと、荻上は『わたしが人間と付き合うはずが無い』と子供をあやしながらいまだに言い続けている。 そして必ず『絶対見ちゃダメですよ!』と夕食後に笹原にお茶を入れながら念を押している。 笹原はそれにウンウンうなづきながら、お茶をすすってゆるりとした毎日を二人で過ごしているのであった。
https://w.atwiki.jp/genshikenss/pages/206.html
彼女は私のもの 【投稿日 2006/03/07】 カテゴリー-荻ちゅ関連 私は荻上のことなら何でも知っている。 彼女が好きなことも、嫌いなことも全て。 だから、私は彼女を思うようにできる。 それは当然の権利。 なぜなら私は荻上を愛しているから。 私が荻上と出会ったのは、中学に上がってすぐ、部活動を選んでいた時だった。 (私の中学では強制的に部活動を強いられるのだ) 自慢じゃないが私は勉強も、運動神経も良く、先生からの受けも良かったので、かえって選択に迷っていた。 結局決めかねて教室に戻ってくると、彼女がいた。 彼女は回りのことなど気にもかけずに、ノートになにやら書き込んでいる。 分厚いメガネ。ぼさぼさの髪。制服の着方だって校則通りで、むしろだらしなくさえ感じる。 ガリ勉クンかな、とも思ったが、机の上にあるのは教科書ではなく、マンガ。 純粋に好奇心から声を掛けてみた。(クラスメートの名前と顔くらいとっくに全部把握していた) 「荻上さん、何書いてるの?」 彼女は固まってしまった。仕方ないので隙間から覗き込むと、どうもマンガを写していたらしい。 マンガの誌名をみると…ああ、知ってる。一応少女漫画だが、妙にホモの多い奴だ。 「ふーん」 わざとらしく聞こえるように言ってやる。 すると彼女はますます小さくなっていく。その様は小動物が身を守ろうとするように見えて、私の保護欲を誘った。 (気に入った。彼女を『飼おう』。優等生を演じるのはそれなりにストレスだし) 当時の私の荻上の認識はその程度でしかなかった。 早速行動に移す。荻上の希望する部活をそれとなく聞き出し、誘導し、二人揃って文芸部に入部した。 やる気のない先生。能力の無い先輩。だらけきった空気。私が好き勝手やるにはもってこいの環境だ。(一応、過去の出版物を読んだ上での評価だ。少なくとも私の目にかなう作品などなかった) 彼女を『飼う』のは楽しかった。最初は頑ななのに、一線を越えると急に親密になり、基本的にうっかりさんで、不意に弱く、リアクションが大きいのだ。 おだてるとのぼせて、しかるとうなだれて、冷たくすると必死にすがってきて、優しくすると赤子のように信頼してくれる。からかうとむきになって怒り、誉めると真っ赤になって照れる。 しばらくすると、私は彼女を手放せなくなっていた。 私がその手の『ホモ』小説を書き出したのは、彼女がきっかけだった。 彼女になぜホモにこだわるのか聞いたら、生意気にも「書けばわかります」などと言われたからだ。 私はマンガを書く気は無かったので、必然的に小説になった。(挿絵を彼女に書かせよう、という思いもあったが) 参考図書は家には山ほどあった。(私の父が文字通りの『読書家』で、文字があればマンガから辞書まで、純文学からエロ小説まで見境なしに読み集め、しかも整理が下手なので、多少借りたところで気も付かないという人物だったせいだ) とりあえず、彼女の好きなマンガの人物の名前を借りて、そこらの本から換骨奪胎して適当にでっち上げると、彼女に読ませた。 酷評だった。こうも辛らつな言葉が彼女の口から発せられるとは思わなかった。 「…書きたくないなら書かないで下さい」 そう締めくくられた時、私は決意した。この身の程知らずなペットに教えてやると。自分が一体誰に口を利いているのかと。 それからしばらくは蜜月と言っていい日々が続いた。 私の小説を彼女が批評し、彼女のマンガを私が批評し、時には協力して挿絵付きホモ小説を書いた。 いつの間にか、私たちの作品のファンだ、とかいう人間まで集まってきた。 だけど私には彼女らなど眼中に無かった。 いや、彼女以外に私の興味を引くものなど無くなっていたのだ。 そして、当時の私は今が永遠に続くと信じていた。 そんなものなど無いと誰よりも知っていたはずなのに。 その日は彼女の様子が変だった。 妙に落ち着きが無く、話し掛けても上の空で、いつもなら私だけを見ているはずの彼女の目は何も見ていない。 そしてその日、彼女は初めて部活を休んだ。 どうでもいい人間と、どうでもいい会話をしながら、退屈をもてあそぶ。 ついに耐え切れなくなり、早々に帰った。 そして見た。神社から出てくる彼女を。その笑顔が自分以外に向けられている事を。 その時は不思議と何の感情も無かった。 彼女とあれは別々の家路に向かう。 私は彼女の後をついて行く。彼女は一度も振り返らず、私に気付くことなく玄関をくぐっていった。 その後は良く覚えていない。 気が付いたら朝だった。 私は制服のままで、枕もとが濡れていた。 昨日、今日と彼女がよそよそしくなっていく。声を掛けても返事が返ってこなくなる。声を掛けようとするといなくなってしまう。 私の彼女がいなくなってしまう。 私のものなのに。 そして決定的な出来事。 「荻上が巻田とつきあってるんだって」 うそだ。そんなはずはない。かのじょはわたしのものだ。なぜ。わたしはきいてない。うらぎりもの。 私は策を練る。彼女を『あまり』傷つけず(多少は罰のうちだ)、あの男を徹底的に叩き潰して、彼女を取り戻すのだ。 そうだ、あの男を『受け』にしたイラストを彼女に描かせ、見せつけてやろう。 あの男には到底受け入れられないようなハードな奴を。 付き合ってる彼女が自分がヤラれるイラストで興奮していた、と知ったらあの男なら耐えられまい。 彼女を捨てて逃げ出すに決まってる。 そうしたら私は彼女に言うのだ。 「男なんてあんなものよ。大丈夫。私はあなたの全てを肯定して受け入れてあげる」 その時の彼女を思うだけでしびれるような快感を感じる。 さあ、渾身の力をこめてあの男の『受け』小説を書こう。 荻上が二の句を継げないような、彼女の創作欲を刺激するような奴を。 そして彼女を取り戻すのだ。 彼女は私のものだ。 彼女は私だけのものだ。 私は彼女を愛している。 ならば 彼女が愛していいのは私だけだ。
https://w.atwiki.jp/genshikenss/pages/421.html
26人いる!その4 【投稿日 2006/12/03】 ・・・いる!シリーズ 現視研の売り場を出る直前、神田が思い出したように言った。 神田「あっ、それからこれ、会長からのアドバイスなんだけど、売り子2人の内の1人はなるべく浅田君か有吉君にしてって」 浅田「そりゃまた何で?」 神田「何でもサブリミナル効果があるんだって。売り上げを伸ばす」 男子一同「???」 有吉「でも、どのみち僕は今から着替えに行くし、浅田君は神田さんの同人誌運ぶし…」 伊藤「なるべく早く帰って来てニャー」 有吉「それしかなさそうだな。じゃあ後頼むね」 神田「じゃあ私たちも行こうか」 岸野「そんじゃあ行って来るから、店番頼むね」 こうして売り場には、猫耳伊藤と長身の日垣という珍コンビが残った。 日垣「ところで伊藤君、何で会長は有吉君か浅田君が売り場に残るように言ったんだろ?」 伊藤「それは会長がメガネ受け基本だからだと思うニャー」 日垣「メガネ受け?受けっていうと…ヤオイのカップリングで言う女役のこと?」 伊藤「そうだニャー。だから多分、会長原理主義のうちの女子の間では、僕と有吉君、浅田君と岸野君で妄想カップリングが繰り広げられているニャー」 日垣「マジで?てことは、伊藤×有吉で?」 伊藤「多分ね。全くネコなのにタチ役とはこれ如何にだニャー」 ちなみにネコとタチとはレズ用語である。 (最近はゲイの人の間でも使われているらしい) ネコがいわゆる女役、つまりヤオイで言う受けである。 そしてタチがいわゆる男役、つまりヤオイで言う攻めである。 開場直後、会員たちの分担購入の配置を確認した後、荻上会長は久々の笹原とのデートをしばし楽しむ。 当初自分も分担購入の担当を持つ積りだった。 現視研と別のサークルで午前中売り子に駆り出されることを、神田が直前まで言い忘れていたのだ。 それで当初の分担購入計画に穴が出来たので、会長自らが埋めようとしたのだ。 だがそこでスーとアンジェラが、それなら自分たちがやると言い出した。 当初言葉の問題もあって分担購入の戦力には数えてなかった2人だが、予想以上に(多少難有りだが)日本語が上手かったので、1年生たちは賛成し荻上会長も了承した。 それはまた、1年生たちと2人がカラオケで早くも仲良くなって、お客様扱いでは無く仲間と認めたことの証明でもあった。 2人を入れて分担購入計画を練り直したおかげで、神田の穴を埋めてなおかつ1人当たりの担当範囲が狭くなった。 そのせいもあって1年生たちは「会長は笹原先輩とゆっくり買い物楽しんで下さい」と言ってくれた。 そこで素直に好意に甘えることにしたのだ。 笹原「荻上さん、どっかお目当ての買い物はある?」 荻上「うーん、殆どのとこは1年の子たちにまかせてあるし、大手は巴さんが何とかしてくれるから…」 笹原「あっ、そう言えばうちの売り場の方には顔出さないの?」 荻上「もうちょっと後で、1時間ぐらいしてから行きます。開始早々会長が行っても、会員たちに余計なプレッシャーかけるだけですから」 笹原「それもそうだね」 荻上「笹原さんこそ、お目当ては無いんですか?」 笹原「実はひとつだけあるんだけど…」 荻上「じゃあそれ行きましょう、どこです?」 笹原「企業ブースにプシュケが新作を出品してるんだよ」 荻上「高坂先輩の会社が?」 笹原「うん、この間電話で話したんだけど、高坂君が作ったらしいんだ、その新作」 荻上「…ちょっと興味ありますね。たとえ男性向けのエロゲーだとしても」 笹原「それが男性向けだけじゃないらしいんだ、彼の話によれば」 荻上「…そんなたくさん作ったんですか?」 笹原「何でも、同じキャラや初期設定を使って、男性向け、女性向け、一般向けの3バージョン作ったんだって」 荻上「???」 笹原「まあそれ以上は高坂君教えてくれなかったから、実際に行ってみようよ」 企業ブースのエリアに来た笹荻コンビは、石化した。 プシュケのブースの前では、高坂がメイド姿の女装コスでビラを配っていた。 しかもそのコスは、普通のメイドコスとは違っていた。 布地の大半は黒のシースルーで、前面は白い前掛けで隠れているが、後ろからはパンティとブラの紐が丸見えだった。 前掛けの胸元には、ブラジャーのように貝殻のマークが2つ付いていた。 (49話の扉絵のメイドコスをベースに考えると、想像しやすいかも知れない) そんな姿の高坂が、にこやかに笑顔を浮かべて「どうぞ見て行って下さい、ご主人様」などと言いつつビラを配っていた。 ビラをもらった客たちは皆、男女問わずまんざらでもない顔をしていた。 笹荻は2人とも、最大出力で赤面しながら固まり続けていた。 笹原『似合う、似合い過ぎる。それに可愛い。しかもきわど過ぎる、あの格好…』 笹原は不覚にも、己のピーが反応していることを自覚した。 笹原『やばい!こんなの荻上さんに見られたら…』 思わず荻上会長を見る笹原。 だが彼女の意識は、既に太陽系を脱出しかけていた。 笹原「『デスドライブ中かいっ!』荻上さん!気を確かに!」 筆を激しくシビビビする笹原。 荻上「はっ、ここは誰?私はどこ?」 そんな2人に、問題の高坂が笑顔で近付いてきた。 高坂「お久しぶりです、ご主人様」 笹荻は高坂にプシュケの企業ブースの中に連れて来られ、新作ゲームの説明を受けた。 ゲームのタイトルは「どっきり魔冥土(マーメイド)サッキー」。 ストーリーは次の通り。 主人公は人魚のサッキー、海底の人魚の世界でメイドとして働いている。 ある嵐の夜、豪華客船の沈没事故に遭遇したサッキー、海に投げ出された乗客の、金持ちのお坊ちゃんを救出する。 お坊ちゃんにひと目惚れしたサッキー、人間になって人間界で生活することを決意する。 そして魔法使いのお婆さん、ではなくマッドサイエンティストのお爺さんに相談する。 お爺さんはサッキーがサイボーグの実験台になることを条件に、彼女の体を陸上でも生活出来るように改造する。 先ず魚の下半身を人間の下半身の完全義体に取り替え、呼吸器を水陸両棲可能に改造した。 ついでにサービスであちこち改造し、最終的にサッキーは脳以外殆どサイボーグ化される。 その結果、10万馬力の怪力、音速で走れる加速装置、人魚の数倍の水中行動能力、千里眼と透視能力を秘めた超視力、1キロ先で落ちる針の音を聞き取る超聴力等の能力を得る。 こうしてサッキーは人間界に行き、首尾良くお坊ちゃんの大邸宅にメイドとして住み込むことに成功する。 高坂「で、ここからのストーリー展開は3つに分かれるんだよ」 パターンA お坊ちゃんがいずれ引き継ぐ予定になっている莫大な遺産を狙って、親類が次々と刺客を送り込んでくる。 それを知ったサッキー、お坊ちゃんを守るべく刺客たちと戦う、という格ゲーバージョン。 パターンB お坊ちゃんの周りの親類縁者の男たちは、いずれもスケベな変態揃い。 新しいメイドのサッキーを狙って、彼らの魔手が次々と、というエロゲーバージョン。 パターンC マッドサイエンティストのお爺さんは、サッキーが男性に変身出来るという、余計な追加サービスを施していた。 お坊ちゃんの親類縁者がみんな男色家で、彼らの魔手が次々とサッキーに、というBLゲーバージョン。 高坂「まあうちみたいな弱小会社は、1度作ったキャラや設定は何回も使い回さないともったいないからね。それでこういうゲームを考えたんだよ」 笹原「それにしてもサッキーって…これってもしや」 高坂「(にこやかに)うん、主人公は可愛くて強くて優しいヒロインにしたかったから、咲ちゃんをモデルにしたんだよ」 ゲームのパッケージに描かれた主人公は、春日部さんを少し幼くした感じだった。 荻上「…それって、春日部先輩知ってるんですか?」 高坂「うん、ちゃんと話したよ。そしたら了解してくれた」 荻上「よく了解してくれましたね」 笹原『まあ多分、諦めたんだろうけどね…』 「それにしても、ほんとあの2人のおかげで助かったわ」 沢田と共に小休止していた豪田が呟いた。 沢田「そうね。ミッチーが他所の売り子に取られた穴を見事に埋めてくれたものね」 豪田「まあまさかあの2人、あそこまで日本語上手いとは思ってなかったからね。だから分担購入の戦力には数えてなかっただけに、ほんとありがたいわ」 沢田「まあこれで、押さえるべきとこは殆ど押さられたわね。笹原先輩に頼まれたA先生の資料用のも買ったし、荻様用のメガネ受け本も買ったし」 豪田「あと大野先輩用のハゲヒゲ本も買ったし」 そこへ国松と台場が来た。 豪田「おう、お疲れ。どうよ初参戦の戦果は?」 10数冊の同人誌の入った紙袋を差し出す国松。 豪田「まあ初めてなら、そんなもんね」 沢田「まあ千里の本番は、特撮ネタ扱う2日目だし」 国松「いやあ、まだ元ネタが分かる本の方が少ないのよ、正直言って。だから分担購入の分を買うのが精一杯だったわ」 台場「まあ確かに、初日は千里の未読未見の作品ばかりみたいね」 豪田「まあまた明日がんばんなさい」 「あっ、あれマリアじゃない?」 豪田は並ぶ人混みの中に、見慣れた人影を発見した。 沢田「凄い荷物ね。紙袋4つは持ってるわよ」 台場「それに何あの動き、ズンズン前進してるじゃない」 国松「さすがは巴さんね。周囲の人の圧力に全然負けてないわ」 豪田「て言うか、むしろ周りの人押しのけてるように見えるんだけど…」 「あっ、あれクッチー先輩じゃない?」 今度は台場が人混みの中に、見慣れたひょろ長い人影を見つけた。 豪田「クッチー先輩も張り切ってたからね。午前中売り子やってる男子たちの分まで買うって」 沢田「いいのかなあ、4年生に買い物係やらせちゃって」 台場「あの人は好きでやってるから大丈夫よ。それに男子の本番は3日目だから、そんなに気合い入れて買いまくってる訳じゃないし」 国松「そうでもないかもよ。見て」 クッチーは異常な速度で前進していた。 巴のように周囲の圧力を押し返して進んでいるのではない。 何の予備動作も無しにスッと前進して行き、たちまち最前列に来てしまう。 台場「…ねえみんな、今の動き見えた?」 沢田「…見えなかった」 豪田「私も…」 国松「何か2~3メートルずつテレポートしてるみたいに見えるんだけど…」 台場「毎年コミフェスでループしてると、あの域に達するのかなあ…」 一同「朽木先輩、恐るべし!」 その後4人は再び解散して、各自の分担エリアを再度回ることにした。 自分の担当エリアをほぼ回り終わった台場は、再び国松と合流した。 国松「そう言えば、確かこの辺に藪崎先輩の売り場があったわね」 台場「まああそこは多分会長経由で本はもらえるだろうから、分担購入のルートから外してたけど、一応行っとこうか」 「やぶへび」の売り場では、藪崎さんとニャー子が売り子をしていた。 台場「どうですか、調子は?」 藪崎「まあぼちぼちや。開始1時間ちょっとで20ぐらいやから、まあこんなもんやろ」 国松「凄いですね。ん?」 国松は売り場に飾られた、不思議なオブジェに注目した。 いろいろな形のブロックをズンズン積み上げただけのような、やたら上に細長いオブジェ。 藪崎「ああ、それは『青春の塔』のミニチュアや」 国松「そんなの『ハガレン』に出てましたっけ?」 台場「それって『ハチクロ』のじゃないですか。何でまた?」 ニャー子「うちは最初は『ハチクロ』で本出す予定だったから、私が作ったニャー。でも先輩土壇場で『ハガレン』にしちゃったもんだからー…」 藪崎「そんでこのアホが、『せっかく作ったんだから、もったいないですニャー』とか言って飾りよったんや」 国松「じゃあこれニャー子さん作ですか?(顔を近付けて)うわあ凄く細かくてリアル」 台場「あんた『ハチクロ』読んだことあるの?」 国松「まだ読んでないけど分かるわよ。(あちこち指差し)この辺とか、この辺とか、ひと目見れば何かモデルになるものがあって、それを忠実に再現してるって」 ニャー子「そう言ってもらえると、作った甲斐があったニャー」 それがきっかけとなって、しばしの間国松とニャー子はミニチュア談義を展開した。 そこへスーがやって来た。 国松「お疲れ、スーちゃん。どう調子は?」 スー「(低音で)問題ナイ。全テハしなりお通リダ」 まだあまりスーとは話していない、藪崎さんが口を挟んだ。 藪崎「確かに物まね上手いなあ。それにしても、えらいようけ買うたな」 スーはパンパンに膨らんだ紙袋を2つ、カートにくくり付けて引っ張っていた。 国松「凄―い!これだけの時間でよくそんなに…」 台場「途中で1回スーちゃん見かけたけど、この子いざとなると凄いオーラ出るみたいで、周りの人みんな左右にどいて道開けちゃうのよ」 ニャー子「まるでモーゼの十戒ですニャー」 スー「押忍!映画の「十戒」なら十回見たであります!」 固まる一同。 台場「もしかして…ダジャレ?」 藪崎「(感心し)ほう…なあスー、布団に爆弾仕掛けたら」 一同「?」 スー「吹っ飛んだ」 こける一同。 藪崎「電話鳴ってるのに誰も」 スー「出んわ」 またこける一同。 藪崎「裏の空き地に囲いが出来たんだってねえ」 スー「格好いい」 またまたこける一同。 藪崎「大変だ、屋根に穴開いちゃった」 スー「やーねー」 またまたまたこける一同。 台場「あの、何やってるんですか藪崎先輩?」 藪崎「この子の日本語の語学力のレベル、かなり高いで」 またまたまたまたこける一同。 藪崎「お前らもなかなかえーリアクションしてるなあ」 台場「どこが語学力なんです!単なるダジャレじゃないですか!」 藪崎「ドアホ、ダジャレを侮ったらあかん」 スー「(右手の人差し指を立てて)侮ッテハイケナイ」 藪崎「あのな、ダジャレ言おう思たら、それなりの語彙が無いとでけへんのや。それにな、ギャグの基本はダジャレやけど、ギャグの奥義を究めた完成形もまたダジャレなんや」 台場「そうなんですか?」 藪崎「いとこい(夢路いとし・喜味こいしのこと)さん見てみい。上方漫才の無形文化財の漫才が、ネタそのものはしょーもないダジャレの連発やで」 台場「そう言えば1度聞いたことあるけど、確かにそうでしたね」 藪崎「せやろ。それを言い方とか間で笑わすのが、いとこいさんの腕やねん」 ニャー子「あの先輩、話の趣旨がズレてきましたニャー」 藪崎「まあとにかく、この子の日本語能力はかなりのもんやっちゅうこっちゃ」 台場「へえー、ダジャレって奥が深いんですね」 スー「(腕を組み)奥ガ深イ」 藪崎さんたちが話し込んでいる間に、国松はスーの買ってきた同人誌を広げていた。 国松「あの、スーちゃん。私この漫画まだ読んでないからネタ分からないけど、これって男性向けじゃない?」 確かに国松が持っている同人誌には、男女の絡みが描かれていた。 アンジェラ「スーも私も、あんまり男女の違いには拘らないあるよ。男×女でも男×男でも女×女でもセックスはセックス、萌えられれば問題無いあるよ」 そこへちょうど通りかかったアンジェラが、割り込んで説明する。 国松「(赤面して)そんなセックスなんて露骨に…そうなのスーちゃん?」 スー「ワイノしゅーとハ2枚刃ヤ」 台場「男女どちらでもオッケーてことね。そう言えばアンジェラの方の収穫はどう?」 アンジェラ「あんまり買えてないあるよ」 アンジェラが見せた紙袋の中身は、袋の半分にも満たなかった。 台場「こりゃまた少ないわね。マリアと互角の怪力の持ち主にしては」 国松「何かあったの?」 アンジェラ「(赤くなり)実はね…」 アンジェラが喋りかけたその時、「おい、居たぞ!」という声と共に、大勢の男たち(言うまでもなくオタ)がこちらに向かって走ってきた。 何事?と身構える台場と国松。 事情が呑み込めず、彼らをキョトンと見つめるスーと藪ニャーコンビ。 男たちはアンジェラに向かって1列に並んだ。 そして先頭の男から順に、メモ帳やスケブや色紙等を差し出す。 それにアンジェラは順番にサインしていく。 男たちは意外と礼儀正しく、皆丁寧にお礼を言って去って行く。 国松「これはいったい?」 アンジェラ「(やや困り顔ながらサインをしつつ)何だか分からないけど、あちこちでサイン求められて、なかなか買い物が進まなかったあるよ」 台場「私こういうことあんまり詳しくないんだけど、アンジェラって誰か外人の歌手とか女優とかに似てるの?」 国松「(首を横に振る)そういうの関係無いみたいよ。だってアンジェラのサインって、本名を筆記体のアルファベットで書いてるだけよ」 突如強烈なオーラを感じて、振り返る国松と台場。 そのオーラは「やぶへび」の売り場から発せられていた。 藪崎さんが鬼の形相と化していた。 国松・台場「ひっ?」 ニャー子「あーあ、先輩キレちゃったー」 スー「?」 やがて藪崎さんは売り場の机を乗り越え、自分の座っていたパイプ椅子を振り上げて、サイン男たちに突進した。 藪崎「(椅子を振り回し)おのれら何時まで昭和40年代のメンタリティーしとんねん!」 たちまち退散するサイン男たち。 ニャー子「あのー先輩、何ですか昭和40年代のメンタリティーって?」 藪崎「昔大阪で万博があった時な、外国人のお客さんにサインねだるのが流行ったんや」 国松「そりゃまたどうしてですか?」 藪崎「当時はまだ外人が珍しかったからや。それに敗戦からまだ25年しか経ってなかったから、外人コンプレックスが今より強かったってのもあるやろ」 一同「…」 藪崎「そやから外人ってだけで、5割増しぐらいで綺麗でかっこ良く見えたんやろな。そんでただの観光客の外人が、映画スターや歌手みたいに見えたんやろ」 ニャー子「あのー先輩って歳いくつですかニャー?」 藪崎「お前の1個上や!これはおかんから聞いた話や!私はまだその頃、生まれるどころか影も形も無いわ!」 国松「で、何でそれを今のオタクがやってるんですか?」 藪崎「多分『クレしん』の映画の影響やろ」 国松「『クレヨンしんちゃん』ですか?」 台場「あっ分かった!『オトナ帝国』だ!」 藪崎「せや。正確には『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』ちゅうんやけど、その映画の冒頭の万博再現シーンで今の話が紹介されたんや」 台場「それで一部のオタクの間で流行ってると?」 藪崎「そういうこっちゃ」 アンジェラ「あの、よく分かんないけど、ありがとうございましたあるね」 アンジェラはいきなり藪崎さんに接近し、頬にキスした。 藪崎「ぎえ~~~~!!!何さらすんじゃい、この変態外人!」 ニャー子「先輩落ち着いて下さい。アメリカじゃそのぐらい挨拶代わりですニャー」 藪崎「ここは日本や!」 アンジェラ「あのう、お礼の積りだったあるが、お気に召さなかったあるか?」 藪崎「当たり前や!」 アンジェラ「そうか、キスでは足りないあるか…」 しばし考え込むアンジェラ。 アンジェラ「ならばしょうがないある。後で一緒にホテルに行きましょうある」 藪崎「何考えとんのや、この変態外人!」 アンジェラ「私の体では、お気に召さないあるか?」 藪崎「当たり前やろ!」 アンジェラ「私はあなたみたいなポッチャリ型が好みあるが、あなたは私みたいな金髪の巨乳は嫌いあるか?」 藪崎「そういう問題やない!そもそも私もお前も、両方とも女やないか!」 アンジェラ「男女の違いなんて、地球や宇宙のレベルから見れば誤差みたいなもんあるよ。そんなことは大した問題じゃないあるよ」 藪崎「ドアホ!大した問題や!お前みたいな変態外人には分からんやろけどな、私の女の操はな、理想のメガネ君に出会った時に捧げると決めてるんや!」 一瞬時が止まる周囲。 国松「あの先輩、女の操って…」 自分の言い放ったことの意味に気が付いた藪崎さん、自らダメ押しをしてしまう。 藪崎「知ったな!私が処女だということを知ったな!」 ニャー子「知ったと言うか、まあそんなことだと思ってましたニャー」 さらによせばいいのに、とどめのひと言を付け加えてしまう。 (本人に悪意は無いのだが) ニャー子「まあ別に誰も先輩のこと非処女だとは思ってませんでしたけど、何もそんな大っぴらに公表しなくても…」 藪崎「うわあああああああああ!!!」 藪崎さんは泣きながら走り去った。 藪崎さんは涙の逃避行の途中、笹荻コンビに会った。 荻上「ヤブ、どしたの?」 藪崎「(涙目で)勝ったと思うな!」 再び走り去る藪崎さん。 荻上「意味分かんね…」 笹原「でも泣いてたよ、藪崎さん」 荻上「何かあったかな?」 後を追おうとした荻上会長に、不意に背後から加藤さんが声をかけた。 加藤「そっとしておいてやって」 荻上「加藤さん?」 加藤「ちょっと事情があってね、今回ばかりは荻上さんが行くのは、傷口に岩塩すり込むようなもんだから」 笹荻「???」 10数分後、藪崎さんは現視研1年女子と「やぶへび」の中から急遽メンバーを選んで編成された救助隊に捕捉され、粘り強い説得によって何とか落ち着き、売り場に戻った。 ちなみに救助隊編成の条件は、処女であることだった。 前述のカテゴリーの女子群の殆どが該当した為にかなりの人数が集まり、藪崎さんが「自分1人じゃない」と思えたことが勝因となった。 (誰が非処女かは、個人情報保護の観点から発表は差し控えさせて頂きます) その後1年女子からの連絡で、それらの顛末を聞いてひと安心した荻上会長は、笹原と共に現視研の同人誌売り場に顔を出した。 有吉と伊藤が売り子をやり、その後ろで日垣が同人誌におまけコピー本を挟む作業をしていた。 荻上「どう、調子は?」 伊藤「まずまずですニャー。今でもう50冊近く出てますニャー」 笹原「そりゃまた順調だねえ」 開始からまだ1時間半程度しか経っていない。 有吉「思ったより特装版が効いたみたいですね。朝神田さんと2人でとりあえず50冊ばかり作っといたんですが、売れたの全部特装版でした」 日垣「だからとりあえずあと50冊ばかり特装版にしときます」 そこへ浅田と岸野が戻って来た。 浅田「すまん、遅くなって」 有吉「随分かかったね」 岸野「まあ、ちょっと…いろいろあってね…」 2人はその顛末を話し始めた。 浅田と岸野の2人は、入場後まず売り子用のコスに着替え、先に入って売り場の準備をしてた神田と共に、神田の一家が委託販売している売り場へと向かった。 その売り場の売り子を担当していたのは、神田の両親だった。 母親の方の服装はTシャツにオーバーオールにバンダナと、さほど奇異な感じはしなかったが、父親は少し異様だった。 中途半端な長髪に眼鏡に無精ひげという、いかにも古参のオタという風貌の上に、「宇宙戦艦ヤマト」の艦内服に似たデザインの長袖Tシャツにホワイトジーンズという服装だ。 2人とも軽く40代半ばには達していると思えた。 神田父「いやいや、わざわざコピー本を運んでくれて、ほんとにありがとう。まあちょっと寄って行きたまえ。ミッチー、店番頼むよ」 売り子を神田に任せると、父は浅田と岸野を売り場の中に招き入れた。 岸野「それでコピー本運んだお礼にって、これもらったんだよ。神田さんとこの家族の人が作った同人誌」 岸野が出した同人誌は、神田が作った分を含めて4種類あった。 興味深げにそれを見る一同。 浅田「その『宇宙戦士バルディオス』のがお父さん作、『ケロロ軍曹』のがお母さん作」 岸野「そんで『魔法のプリンセス ミンキーモモ』のが神田さんのお兄さん作で、『テニスの王子様』のが俺らが運んだ神田さん作」 笹原「お父さん渋い…」 荻上「神田さんってうちでもコピー本出してるのに…凄いわね」 日垣「お母さん若い…」 有吉「いくつなんだ、神田さんの兄貴?ミンキーモモだってバルディオスとそう変わらんぐらい古いんだけど…」 荻上「笹原さんバルディオス見たことあるんですか?」 笹原「ビデオでね。まあ何しろ四半世紀ぐらい前の作品だから、今見ると粗も目立つけど、コアなファンの人がいるのも無理ないと思える、いい作品だよ」 浅田「実はそれを見せられてたんですよ、俺たち」 岸野「お父さんがノートパソコン持って来てて、それに全話入ってるもんで」 浅田「1話見終わったとこで神田さんが間に入ってくれたから助かったけど、下手すりゃあのまま全話見せられるとこでしたよ」 岸野「まあその代わり、宿題もらってきましたけどね」 岸野がDVDを数枚取り出す。 笹原「まさかそれに…」 浅田「ええ、全話入ってます。まあ確かに1話見た感じではけっこう面白そうだったんで、コミフェス済んだら一気に見てみようかと思います」 一同『神田一家恐るべし…』 その後現視研の売り場には、クッチーとスー&アンジェラも顔を出し、神田一家の同人誌をみんなで見ている中、春日部さんがやって来た。 春日部「よっ、久しぶり。今年も店出してたんだな」 荻上「あっ春日部先輩、こんちわ」 1年一同「こんちわ」 春日部「(外人コンビに)あっ、あんたらも来てたんだ」 アンジェラ「お久しぶりあるね、春日部先輩」 スー「押忍、春日部先輩!」 26人いる! その5
https://w.atwiki.jp/genshikenss/pages/245.html
バレンタインデー 【投稿日 2006/03/28】 カテゴリー-笹荻 1 部室の棚の時計はお昼 笹、スーツ姿、手帳を見てニヤけている 今日は2月12日、2月14日に印が付いている オギー例によってノック無しで入室、ちょいビックリ+笑顔「こんに……あっ、笹原さん」 笹、手帳を閉じて「あっ、荻上さん、こんにちは」 2 荻「今日はもう終わったんですか?」 笹「いや」「今日はこれからでね」「もうぼちぼち出かけるとこ」 無言で見つめ合う二人、微笑み会う、オギーちょっと赤面 荻「あの」「笹原さん」 笹「ん?」 荻「前から聞こうと思ってたんですけど…」 笹「なに?」 3扉 荻「私のどこを好きになってくれたんですか?」 笹超ギックリ、顔のっぺら、汗だく 4 笹うつむく、オギー微笑んで笹の横顔を見てる「…………?」 笹人差し指ふりふり「えーと」「その」「つまり…」 バタン、扉開く 大野「こんにち……あれ? お邪魔でした」 荻「いえ、そんなこと……チッ」余裕のニヤケ顔で 大野「うわー舌打ち」「ムカツキますねー」大野さんスイカ口で対抗 笹は助かったーって顔 5 笹「じ、じゃ荻上さん」「またね」 荻「あ はい」「いってらっしゃい」 バタン 見送るオギーと大野 大野「……で」「何の話してたんですか?」 荻赤面「え-と」「……」「大野先輩は」 大野「はい?」 荻笑顔「田中先輩のどこが好きなんですか?」 大野「え?」 6 二人とも赤面 大野「どこって」「そりゃ……」「……もう全部ですよ」 荻「あー……」「そうですか……」 大野「……」「……え」「なんですか?」「そんな話を笹原さんと?」 荻「あ いえ」「私がじゃなくて」「笹原先輩が、私のどこを好きになったのかなって……」 大野「あー」「でも確かに」「昔の荻上さんだと」「ちょっとそれは気になりますね」 荻「……ですよね」 7 大野「ツンデレな所とか」 荻「……デレは無かったと思います」 大野「じゃあツンダメですか?」 荻「何ですかそれ;」 大野「んー」 大野「あ! あれですよ!」 荻「え?」 大野「ほら! 部室でベアトリーチェのコスプレをした時!」「あれがかわいかったからですよ!」 荻「……またコスプレですか?」 8 荻「んー」「いや それはないですよー」 大野「そんな事ないですって!」「本当にかわいかったじゃないですか!」 荻「そんな事言ってまたやらせようとしても無駄ですよ!」 大野「本当なのにー」「笹原さんもかわいいって言ってたじゃないですかー」 荻「はいはいわかりましたよ」 大野「……ところで」「荻上さんは笹原さんにチョコとかもう用意してるんですか?」 荻「え?」 9 荻「いや」「もちろん差し上げるつもりですけど」「なんか慣れてなくて買いそびれて……まだ」 大野「手づくりはしないんですか?」 荻「まぁ作れなくはないと思いますけど」「……やっぱり作った方がいいですかね」 大野「んー」「初めてのバレンタインなら」「そーゆーのもアリなんじゃないですか?」 荻「そうですか……」 大野「そこでコスプレでお出迎え!」「プレゼント!」「これですよ!」ビシッ 荻「またそーゆう……」 大野(えーだって効果絶大は実証済みですよ?) 荻(マジっすか!!) 10 荻赤面鉛筆ふりふり「……」「んー」「いや、今回は」「チョコだけにしておきますよ」 大野さんちょっと不満そう、(!)、何か思いつく 大野「あ」「じゃあこれなんかどうですか?」 部室を漁る大野さん 荻「?」 部室外観 「コレですよ」「!」「かわいいですよ? きっと笹原さんも大喜びですよ?」「……」 11 ページ上は5巻105ページみたいな感じで コスプレ衣装を合わせる大野田中 仕事中笹原小野寺(顔密着) 台所に立つ荻上(チョコ湯せん中) 2月14日―――― 12 笹原、原稿とセリフ写植を目の前にして腕を組んで悩んでいる 小野寺「コラ」(バシ)本の背表紙で叩く 笹「つ」 笹「あ、す、すいません」 小野寺「何やってんの」「笹原くんの希望でのマガヅン編集部研修だろー」 13 小野寺「研修もそろそろ終盤だし」「学生気分が抜けないようじゃ困るぞ」 笹「はっはい」「すいません」作業を再開する笹 椎応大学 部室に入る恵子「こーんにーちはー」 14 中にいるのは大野さんとクッチー、二人とも自然な感じ 大野「あら、恵子さん」 クッチー(こんにちはですにょー) 恵子「ねーコーサカさんはぁー!」 一コマの間 大野、クッチーを向いて「……朽木さん最近見かけました?」 クッチー「……見てないです」 15 恵子「えー」「じゃーねーさんは?」 大野「…………」 クッチー「…………」 (はぁっ)恵子ため息 大野「……バレンタインデー……ですか?」 クッチーちょっと反応、恵子、大野さんを見る ちらっとクッチーも見る 16 恵子「いえ、いいです」「お邪魔しました」 バタン、大野クッチーを残して帰る恵子 困った顔で見つめ合う大野クッチー 大野「じゃ」「ま」「朽木さんにも」 大野さんクッチーにチロルチョコを1個渡す クッチー明らかに落ち込んでいる、大野さんあくびなんかしたり 17 つまんない顔して帰る恵子 何か気づく、向こうから斑目がやってくる すれ違いざまに押しつけるように「あんたにやるよ」って押しつける、高そうなチョコ 背中で去る恵子、斑目超困惑 18 笹、腕組みしながら超困った顔してオギー邸に向かって歩いている。 (どこを好きになったって……)(「過激なコスプレを見たからです」……って) (絶対に言えない)(でも本当の事だし……) 悩んでいるうちにオギーハウス前に着いてしまう 19 笹、扉の前で迷う ためいきを1つついて ドアホンを押す「ピンポーン」 うつむく笹 カチカチ「あ、あの、笹原さん、どうぞ」 ガシャ「……荻上さん、こんにち……」 20(縦2コマ) 「さ、笹原さん、いらっしゃい……にゃ」(←「にゃ」だけ小文字) 3巻25ページのネコミミメイドカチューシャ装着オギーがチョコを差し出している 笹原のっぺら顔、汗だく 21 固まるオギー、徐々に後ろに倒れる笹原 ゴン、笹の背中が扉に当たる、笹顔伏せている 「あの……ちょっと……笹原さん?」恐る恐る笹に近づくオギー 笹の顔を覗き込もうとするオギー 近づいたところで笹の両手がオギーを抱きしめる 「ひゃっ……さ、笹原さん?」 22 「かっ、かわいいよ荻上さん……」 笹笑顔だけどちょっと涙目でオギーを抱きしめる 「えええ~~」赤面して動揺するオギー 「荻上さん、そこだよ」 「え?」 「荻上さんの、そんな可愛い所が大好きだよ……」 23 「…………」オギー輪郭の外まで真っ赤 そっと笹原に抱きつき返す、自分の持っているチョコをそっと見る 二人を上空からカメラ目線 24 ページの上2コマを、荻上巻田の神社での笑顔シーンありますね。 あれを笹荻でやって(構図を同じにする)、3コマ目、 2人がオギールームで仲むつまじく会話しているシーンで締める。 視線の高さは7巻80ページと同じで、場所はソファーのある例の部屋がいいですね テーブルの上には食べかけのチョコ。もちろん食べかけは2つですよ? おわり
https://w.atwiki.jp/genshikenss/pages/426.html
26人いる!その7 【投稿日 2006/12/17】 ・・・いる!シリーズ 2006年夏コミ2日目。 現視研一行は椎応大学の最寄の駅から始発でやって来た。 今日は「やぶへび」の面々は漫研の会員たちと行動するので居ない。 女子会員たちは初日でお目当ての大半をゲットしたので、2日目は軽く巡回する程度で、さほど熱心に買い物する積りは無い。 男子会員たちも、本番の男性向け中心は3日目なので、2日目は軽く流す積りだ。 ただ1人目を爛々と光らせているのは国松だ。 特撮命の国松にとっては、特撮ネタの出てくる2日目こそがメインだからだ。 昨日急遽、会員たちの昼食と飲料水を管理するマネージャー役を買って出たので、国松もある程度大荷物になるはずだったが、そういう理由で国松の分は日垣と巴と台場が持った。 巴と台場はカートに括り付けたクーラーボックスを持ち、日垣は昨日よりも大型の本格的な登山用のリュック(浅田が急遽高校の後輩から借りてくれた)を背負った。 それだけの大荷物になったのは、ざっと25人分の昼食を作ったからだ。 どうせならと、コスプレする人だけでなく会員全員分の昼食を用意したのだ。 家が近かったこともあり、台場と巴も朝からやって来て昼食の用意を手伝った。 そして迎えに来た日垣と共に、巴と台場が昼食を持ったのだ。 そんな訳で必然的に、2日目の現視研の活動の焦点はコスプレとなった。 今日は初日とは別な意味で、会員たちの荷物は異様に多かった。 前述のような理由で、日垣、巴、台場は異様な大荷物だ。 コスの大半はロングコートタイプの軍服なので、コス組の荷物は昨日よりかさばる。 特にクッチーのコスはソリッドな着ぐるみなので、昨日のベム以上にかさばる。 荻上会長のコスも、金髪のヅラにロングコート、そして樹脂とプラ板で出来た義手なので、これまたかさばる。 昨日同様分担購入の割り当て(昨日ほど厳密では無く、大体この辺りが誰それという程度)を開場直前に確認し、入場すると各自散った。 当然のごとく、国松は特撮のエリア担当だ。 一緒に付いて行くのは、日垣と台場、そしてスーという変わった組み合わせだ。 ちなみに昼食を分担して持った巴は、この日は高校の時の知り合いのサークルの売り場に行くので別行動だ。 台場「スーちゃん特撮にも興味あるの?」 スー「押忍!」 台場「どんなのが好きなの?」 スー「(ナチュラルな英語の発音で)スパイダーマン」 台場「やっぱ向こうの人はアメコミ好きよね。サム・ライミ監督のやつ?」 スー「(スパイダーマン風の前傾姿勢から大声で)まーべらー!」 国松「そっちかい!」 台場「そっちって?」 国松「昔、70年代の終わり頃(正確には78年)に日本の東映が、アメリカのマーベルコミックスとキャラクター使用契約をして「スパイダーマン」の特撮ドラマ作ったのよ」 日垣「やっぱり壁登ったり糸出したりするの?」 国松「それはやってたけど、オリジナルと同じなのは名前と外見と能力だけよ」 台場「あとは違うの?」 国松「スパイダー能力は宇宙人から授かったし、レギュラー悪役は宇宙人の秘密結社だし、毎回終盤にマシーンベムっていう怪人が巨大化するし、殆ど別物の内容よ」 日垣「で、スパイダーマンどうやってその巨大化したやつと戦うの?」 国松「宇宙人にもらった宇宙船呼ぶの。それがマーベラーっていうのよ」 台場「で、その宇宙船で怪人と…」 国松「それにスパイダーマンが乗り込んで、さらにレオパルドンという巨大ロボットに変形して、巨大化したマシーンベムと戦うのよ」 日垣「何か戦隊シリーズみたいだね」 国松「そりゃそうよ。この番組が戦隊シリーズでお馴染みになったパターンのプロトタイプなんだから」 日垣「そうだったんだ」 国松「戦隊シリーズは、元祖の『秘密戦隊ゴレンジャー』と後番組の『ジャッカー電撃隊』の後、1年ちょっとブランクをはさんで『バトルフィーバーJ』から再開するんだけど…」 台場「そのバトル何とかがスパイダーマンの…」 国松「後番組じゃないけど、スパイダーマンの終了間際に始まるのよ、バトルフィーバー。そして今の戦隊シリーズの巨大ロボ路線は、バトルフィーバーから始まるのよ」 スー「押忍!ちなみにバトルフィーバーの元ネタは、マーベルコミックスの『キャプテン・アメリカ』であります!」 日垣「そうなの?」 国松「そうよ。だから企画段階の仮題は『キャプテン・ジャパン』って言うのよ」 日垣「国松さんはともかく、何でそんなのまで知ってるんだ、スーちゃん?」 台場もちょっとスーに質問してみることにした。 スーの趣味の幅が知りたいので、わざとメジャーだが古めの作品を挙げてみる。 台場「アメリカのアニメはどんなのが好き?やっぱ『ワッキーレース』とか『ファンタスティックフォー』とか?」 スー「押忍!『チキチキマシン猛レース』と『宇宙忍者ゴームズ』は大好きであります!ムッシュムラムラ!」 台場「だから何でそっちを知ってる!?」 察しのいい方は既に気付いているだろうが、台場が挙げた作品名はアメリカで制作されたオリジナル版タイトル、そしてスーが挙げたのはその日本語版タイトルである。 1970年前後の数年間、地上波で夜の7時台に海外のアニメを放送していた時期があった。 当時は海外との情報の行き来は少なく、著作権の意識も薄かったので、日本語版のタイトルやキャラクター名や台詞などは、語呂合わせやその場のノリやアドリブで決められた。 その結果、直訳どころか意訳にすらなっていないタイトルやキャラ名や台詞が横行した。 特に台詞は、当時の声優にはお笑い系の人(由利徹、牧伸二等)が多かったせいもあってか、アフレコと言うよりネタをやってるような人も多かった。 ちなみに「ムッシュムラムラ!」とは、「宇宙忍者ゴームズ」(ファンタスティックフォー)のキャラのガンロック(ベン・グリム)が、パンチ等で怪力を使う時のかけ声。 これは当時の日本語版スタッフの間でポーカーが流行ってて、関敬六(ガンロックの中の人)が最後にカードを見せる時のかけ声だったそうだ。 もちろんオリジナル版には、そんな台詞は無い。 その頃荻上会長は、またもや笹原とデート気分で買い物に勤しんでいた。 昨日は思わぬアクシデントに振り回されて、あっと言う間にデート気分が吹き飛ばされたので、今日はその分を取り返そうと意気込んでいた。 (とは言っても、どのみち昼までの限定的なデートだが) 笹原もその気のようだが、それでも時折取材の為に立ち止まり、他のお客さんに声をかけて写真を撮ったり、インタビューめいたことをやっていた。 入社してから買ったらしい、デジカメとワイヤレスマイク状の録音機を駆使して、次々と相手を変えて「簡略に」取材を繰り返す。 それは夏コミを楽しみに来たお客さんたちに手間を取らせまいとする、オタクならではの気配りからだった。 その一方で笹原は、取材一辺倒にならぬように荻上会長にも気を使っていた。 それが分かるだけに、荻上会長も文句は言えなかった。 『まあたまには、彼氏の仕事ぶりを間近に見るのもいいか…』 お客さんに対して、真剣だが穏やかでにこやかな顔で接する笹原の顔を、荻上会長は飽かずに眺めていた。 笹原「ごめんね荻上さん、ほったらかしにして」 荻上「しょうがないですよ、仕事なんだから」 笹原「昨日バタバタしてて、あんまし取材出来なかったから、つい熱中しちゃったよ。今日はこの辺にしとくよ。あとは1年の子たちに話聞けば何とかなるし」 再び歩き始める笹荻。 笹荻が2人組の男性とすれ違いかけた時、ふと笹原は立ち止まった。 1人は少々肥満気味で頭にバンダナを巻いており、もう1人は中途半端な長髪と無精髭でガリガリという、ありがちなオタコンビだ。 ただバンダナが普通のTシャツにGパンなのに対し、もう1人は薄手の作務衣を着ていたのが周囲の目を引いた。 バンダナは色の薄いサングラスを、作務衣はメガネをかけていた。 2人組は何故か、笹荻の方を見てうろたえた表情を浮かべていた。 いや正確には、笹原を見てうろたえていた。 ため息を付く笹原。 荻上「?」 笹原「『全く、メガネかけたら変装になると思ってるのか、この先生は?そんな作務衣なんか着てたら、余計目立つでしょうが』あの…こんなとこで何やってるんですか、B先生?」 B先生とは、笹原が担当している漫画家の1人だ。 ちなみに隣のバンダナは、B先生のアシスタントのM君である。 (彼は普段はメガネをかけている) 作務衣の男ことB先生は露骨にうろたえて自爆する。 漫B「知ったな!僕がプロになってからも毎年コミフェスに来てることを知ったな!」 よく見ると2人とも、けっこうな量の荷物を持っていた。 漫B「うわああああああああ!!!」 荷物を放り出して、泣きながら走り去るB先生。 M「あっ先生、待って下さい!」 M君は助けを求めるような顔で一瞬笹原を見ると、B先生を追いかける。 笹原「ヤバい!」 笹原も走り出した。 荻上会長も追って走り出す。 荻上「笹原さん!B先生って?」 笹原「俺が担当してる漫画家の先生だよ!あの人自殺癖があるから止めないとヤバい!」 荻上「自殺?」 笹原「まあ多分本気じゃないとは思うけど、もし成功しちゃったらヤバいから俺も止めに行って来るよ!悪い、後で連絡する!」 笹原はスピードを上げて走り去った。 もはや荻上会長には付いて行けない猛スピードだ。 1人取り残された荻上会長は悟った。 『これだったんだな。笹原さんが足速くなった理由は…』 笹原がB先生に追いついた時、B先生はコスプレ広場から飛び降りようとしており、M君はそれを必死に止めようとしていた。 笹原もM君に加勢して止めに入るが、結局もつれて3人とも落ちてしまう。 だが幸い彼らの下に、催し物のテントがあったので奇跡的に全員無傷で済んだ。 (さすがにテントは壊れたが) 笹原はポケットから気付け薬(B先生の前の担当の人から、常時持っておくようにと渡された)を出し、気絶したB先生の鼻先で開けて目を覚まさせる。 笹原「大丈夫ですか、先生?」 漫B「死んだらどうする!」 笹原・M『それは俺たちの台詞だろうが、全く…』 「うっしゃー!」 笹原がM君と共にため息を付いていた頃、国松は勝利の雄叫びを上げていた。 「ウルトラマンメビウス」ネタの同人誌を紙袋いっぱい買い込んだのだ。 国松「ねっ晴海、私の言った通りだったでしょ?」 台場「そうね、まさかリュウ、ここまで総受け状態とは思わなかったわ」 リュウとは「ウルトラマンメビウス」の怪獣攻撃チームGUYSのアイハラ・リュウ隊員のことである。 彼の親友でメビウスの正体でもあるミライ隊員、彼の慕うセリザワ元隊長はもちろん、他の男性キャラ全員がリュウ相手だと攻めとなった。 たまに女性隊員と絡んでるノーマルカップルのもあるが、それとて逆レイプっぽい。 粗暴で、偉そうで、巻き舌気味のダミ声で、言葉使いが荒くて、一部の2ちゃんねらーたちからはDQN呼ばわりされているリュウ隊員。 そんな彼は、一見ヤオイなら攻め系のキャラに見えるかも知れない。 だが彼はその一方で、涙もろくて、死んだ元上司に何時までも恋々とする女々しい、もとい乙女チックな一面も持ち合わせていた。 最近見始めた台場には分からなかったリュウの本質を、第1回からずっと見ていた国松は看破していた。 途中で会った大野さんが口を挟む。 大野「うーん、国松さんの薦めでメビウス見てみたけど、私も攻めっぽいと思ってたな…」 国松の表情が一変して鬼の形相と化した。 国松「受けですう~!絶対受けですう~!」 大野「!?」 国松「リュウさんは全身から受けオーラ出てますよ!総受けですよ総受け!分かってない!大野先輩、リュウさんのこと全っ然分かってない!」 大野「(冷や汗)ははは、ごめんなさい…『何か前に、これに似たこと誰かに言った覚えがあるんだけど…』」 ひと通り回り終わり、現視研の面々は昼食を済ませることにした。 日垣と国松が昼食を並べる。 国松の献立はシンプルだった。 主食もおかずも、おにぎりオンリーだ。 中身はかつおぶしと、梅干と、たらこの3種類。 あとは各自の好みに応じて付けられるように、ごま塩と味付け海苔が別添えになっている。 その代わりに、量は凄まじく多かった。 国松はざっと25人前用意したと言うが、軽く30人前以上はあった。 それにデザートに、1人3本ぐらいはありそうな大量のバナナを用意してある。 そして飲み物は、1ダースもの大型ペットボトルに入ったコーラだった。 神田「あれっ?スーちゃんとアンジェラは?」 大野「もう少し買い物の方粘ってから来るそうですよ。アメリカの友だちに頼まれた分が売ってるのが今日らしいんで」 国松「それじゃあ2人分取って置きますね」 国松は竹の皮を2枚取り出し、その上におにぎりを10個ずつ置いて包む。 恵子「そんなもんまで用意してたんだ…」 沢田「初めてリアルで見たわ、竹の皮でおにぎり包むのなんて」 有吉「僕も。時代劇でしか見たことない…」 豪田「つーか千里、アンジェラはともかくスーちゃんに10個は多過ぎない?」 国松「育ち盛りなんだから、無理してでも食べなきゃダメよ」 一同『スーの年齢、育ち盛りって想定してるんだ…』 食べ始める一同。 豪田「おいしい!でも何か変わった味の御飯ね。所々茶色いし」 国松「特性のブレンド米使ってるからね」 沢田「ブレンド米?」 巴「白米と、麦飯と、玄米と、もち米のブレンド米よ」 荻上「そりゃまた随分凝った組み合わせね」 国松「栄養とエネルギー効率と腹持ちの良さ最優先で考えましたから。と言ってもこれ実は、高校の時の柔道部の合宿のメニューの1つなんですけどね」 笹原「あれ?国松さん、このコーラ炭酸入ってないよ」 国松「それわざと炭酸抜いてあるんです。そうすると即エネルギーになりますから」 笹原「そうなの?」 国松「マラソンの選手には、炭酸抜きコーラを競技中の水分補給に使う選手も居るぐらいですから」 一同「へー」 斑目「もしかしてバナナも?」 国松「はいっ、即効性のエネルギー食です」 斑目「何かほんとに栄養とエネルギー本位だね、まあ美味いからいいけど」 国松「あと食事の後でいいですから、これ1人2~3錠ずつ飲んどいて下さい」 国松は錠剤がパッキングされた束を取り出した。 荻上「これは?」 国松「塩の錠剤です」 一同「塩?」 国松「浅田君がたくさん持ってたんで分けてもらったんです」 浅田「軍用の救急キットとかサバイバルキットなんかに少量入ってるんですけど、夏場は熱中症予防にたくさん使うんで、別口で大量にまとめ買いしといたんです」 朽木「それならおにぎりに塩ふって食べれば済むのでは?」 国松「それだと塩辛過ぎて、水余分に飲み過ぎちゃうから錠剤にしたんです。あっ、朽木先輩はこれだけ飲んどいて下さい」 国松は、ざっと20~30錠の塩の錠剤をクッチーに渡した。 朽木「隊長、いくら何でもこれは多過ぎるのでは?」 一同『隊長?』 周囲がその呼び方を奇異に感じてるのに対し、国松はそれを完全に流して続ける。 国松「これでも少ないぐらいです。朽木先輩はきくち英一さんをご存知ですか?」 朽木「菊地エリなら知ってるけど…いや、何でもないです。で、どなたですかな?」 20歳にも満たぬ女の子が、現在でも熟女もので活躍してるとは言え、80年代半ば頃の人気AV女優の名前を知る訳も無く、あっさりクッチーのボケを流して国松は解説する。 国松「帰ってきたウルトラマンに入ってた人です。彼は当時、サラダを食べる時にはサラダが見えなくなるぐらいの量の塩をふって食べていたそうです(作者注、本当です)」 朽木「もはやサラダというより生野菜の塩漬けですな」 国松「そんな食生活を送ってたきくちさんが、最終回の撮影後に精密検査に行った際に、塩分不足だと言われたそうです」 朽木「何ですと!」 国松「分かって頂けました?」 朽木「たいへんよく分かりました!(塩の錠剤をコーラで一気に流し込む)」 国松「今日はクーラーボックスで水やスポーツドリンクたくさん持って来てますから、塩の錠剤と一緒に小まめに補給して下さい。くれぐれも、ぶっ続けでやらないで下さい!」 朽木「GIG!」 食後のデザートのバナナを頬張る斑目。 それを傍らで見てニャマリと笑う台場。 その視線に気付く斑目。 斑目「?」 台場「なっ、何でもないですよ!」 斑目「?」 台場「ほんとですってば!参考になんかしてませんから!」 その声に反応してシンとなる一同。 沈黙に耐えられなくなった台場、自ら墓穴を掘ってしまう。 台場「知ったな!斑目さんがバナナをくわえてるのを見て、私がピーをくわえてる図を想像してることを知ったな!」 斑目を筆頭に、バナナを食べていた者たちは思わずバナナを吹きかける。 固まる一同。 荻上「あの、誰もそこまで言ってないから、そんなハッキリ言わなくてもよかったのに…」 台場「うわあああああ!!!」 泣きながら走り去る台場。 荻上「もう、しょうがないなあ…」 立ち上がり、台場を追おうとする荻上会長。 それを神田が制する。 神田「大丈夫ですよ、会長。あれ最近私たちの間で流行ってるんです」 荻上「あれって『知ったな!』が?」 豪田「ああやれば大概の恥ずかしい場面は、笑ってごまかせますから」 荻上「あんまりごまかせてない気がするけど…」 斑目「むしろ却って傷口広げてるような気がするんですけど…」 食事が終わり、各自コスへの着替えタイムとなった。 例によってクッチーの更衣室には、国松と日垣がやって来た。 今日のアルのコスは、本物の鎧を参考に作ったから、構造は本物の鎧とほぼ同じだ。 だから基本的には1人でも着付けは出来る。 ただそれでも、やはり助手が居るに越したことは無い。 それに本物の鎧と違い、今日も機電を仕込んで目が光るようになっている。 鎧の目の部分は黒いメッシュが張られ、その上にLED球が付いている。 ベムの時と違い目の位置がクッチーの目の位置に近い為、クッチーは電球の脇からやや寄り目でのぞき見るような格好になる。 鎧を着込み終わったところに田中が入ってきた。 田中「着付けは終わったみたいだね。朽木君、ちょっと股間に手を入れてみて」 自分の股間に手を入れるクッチー。 国松・日垣「?」 田中「股間に何かつまみみたいな物があるの分かるかな?」 朽木「ありますなあ」 田中「それを捻ってみて」 つまみを捻るクッチー。 鎧の腰から股下にかけての部分が、パンツを前後に切ったようにパカッと外れ、クッチーのトランクスが丸見えになる。 朽木「にょ?田中さん、こりゃいったい?」 田中「昨夜ちょっと思い付いて改造したんだよ。(国松に)ごめん、夜中に急に思い付いたんで、連絡しないでやっちゃったよ」 国松「いえ、それは構わないですけど、これは何の為に?」 田中「朽木君のことだから、夢中になったらギリギリまでトイレ我慢しちゃうだろうと思って、最悪の場合鎧のままトイレに駆け込めるようにしたんだよ」 日垣「なるほどね」 国松「うーん…おっしゃる意図は分かるんですけど、トイレは出来るだけコス脱いでから 行って欲しいですね。休憩の意味も込めて」 日垣「国松さん、もちろん朽木先輩も田中先輩も、原則はそうされるお積りだよ。ただね、男性は女性に比べてトイレをかなり我慢出来るんだよ」 国松「???」 日垣「特に朽木先輩の場合、ノッてきたら我慢すると言うより忘れちゃうから、いざトイレとなると待った無し状態になりかねない。だからこういう非常手段は必要だと思うよ」 田中「日垣君の言う通り、これはあくまでも非常手段だから、なるべく使わないでね。(鎧の腰を元に戻しつつ)これ1回開けちゃうと、自分で元に戻すのは手間だから」 朽木「GIG!」 田中「すっかり気に入ったみたいだね、その返事の仕方。あと、ちょっと動いてみてくれるかな?」 昨日と違って、真面目に空手式のキックやパンチを放つクッチー。 鎧の可動範囲は意外と広いようで、軽々とハイキックや後ろ廻し蹴りを放てる。 朽木「良好であります!」 国松「あの田中先輩、ひょっとして関節も改良なさったんですか?」 田中「股間を改造するついでに、少し関節の可動範囲を拡げたんだ。よく分かったね」 国松「私の設計だと、あそこまでは動けないはずですから…」 国松が少し落ち込んだので、田中はフォローする。 田中「まあ国松さんの設計も、初めてにしては上出来だよ。普通に動く分にはあれで問題無いと思うよ。ただ朽木君の動きっぷりは普通じゃないからね」 朽木「いやーお手数をお掛けします」 田中「まあファーストで言えば、国松さんがテム・レイで、俺がモスク・ハンってとこかな。だから気にすんな」 実はファーストはひと通り見たものの、キャラクター名を完全には把握出来てない国松には、この田中の例えはピンと来なかった。 ただ最初に叩き台を作ったことを評価してくれたことは理解した。 だがそれでも田中と自分の差を思い知り、自省の念に駆られる。 国松「やっぱり田中先輩は凄いですね。私なんかまだまだですよ」 日垣「まあそう落ち込むなよ。田中先輩と国松さんじゃ、キャリアが全然違うんだから」 日垣は単純に、この間始めたばかりの初心者と、大学生活の殆どをコスにつぎ込んだOBとの差をイメージして言ったのだが、田中の話はそれを軽く凌駕した。 田中「あのさあ、俺が初めてコス作ったの、小学5年生の時なんだよ」 一同「えっ?!」 田中「まあ正確には学芸会の劇の衣装だけど、俺が衣装全部作る条件として、当時人気のあったアニメやゲームのキャラの衣装そのまんまのを作ったんだ」 一同「え~~~~!!!」 田中「まあ当時はファンタジー系のゲームが一般化し始めていた頃だったから、中世の話の衣装として使っても、さほど違和感無かったよ。けっこう好評だったし」 一同「…」 田中「だから国松さんも日垣君も、俺と比べてあれこれ悩むなよ。君らは始めてひと月も経ってない。俺はもう干支ひと周りしたんだ。それで同程度だったら、俺かわいそうだろ?」 国松「それもそうですね…(明るく)分かりました!」 田中「さてと、それじゃあ分かってもらえたようだし、朽木君の方はこれで良さそうだから、お2人はこちらに来てもらおうか」 国松・日垣「えっ?」 朽木「何をなさるのですかな?」 田中「まあそれは後のお楽しみということで」 現視研の面々は、コスプレ広場に集結した。 コスをする会員プラスOBだけでなく、コスをしない1年生たちも集まった。 姿を見せてないのはスー&アンジェラのコンビと伊藤、そして田中、大野さん、日垣、国松の新旧コスプレカップル(日垣と国松はそう言っていいかは微妙だが)だけだ。 荻上会長(エド),笹原(マスタング)、恵子(ホークアイ)、斑目(ヒューズ)、クッチー(アル)は、既にコス姿でスタンバっている。 豪田「わー荻様すてき!エドそのまんま」 巴「ほんと、オートメールもよく出来てるし」 荻上会長の髪や腕を撫で回す2人。 荻上「ちょっ、ちょっとやめて、くすぐったいから」 台場「よく出来てると言えば、朽木先輩のアルもよく出来てるわね」 沢田「ほんと、とてもプラスチックで出来てるようには見えないわね」 そう言いながら、クッチーの胸板を軽く叩く。 コンコンと、プラスチックの軽い音がする。 朽木「にょ~?」 沢田「すいません、見た目は金属みたいな質感なんでつい。何かもっと金物的な音がしそうな気がしたんで」 神田「恵子先輩も金髪似合いますね。春日部先輩みたい」 恵子「そう?」 まんざらでも無さそうな恵子。 豪田「ほんと、恵子先輩ステキ!」 恵子をハグする豪田。 恵子「ムギュッ、ちょっ、ちょっと離れろよ、重いし暑いから」 神田「笹原先輩も、その格好するとほんと大佐そっくりですね」 笹原「ハハハ…」 浅田「斑目先輩、今日は四角いメガネですね」 斑目「ああ、これ就活の時使ってたやつだよ。今日はヒューズのコスだから、それに合わせる為に久々に出したんだ」 岸野「ひょっとして、その不精ヒゲも?」 斑目「1週間ほど剃らなかった」 浅田・岸野「何て真面目な人なんだ…」 豪田「あれっ?有吉君、伊藤君知らない?」 有吉「何か昼からは、別口の知り合いと一緒に回るらしいよ」 そう言う有吉は、少し寂しそうだった。 豪田「どしたの?」 沢田「伊藤君の知り合いって、実は彼女らしいのよ」 1年女子一同「なっ、何だって~~~!!!?」 沢田「そんなMMRみたいな驚き方しちゃ伊藤君かわいそうよ」 豪田「マジなのそれ?」 沢田「私、伊藤君が女の子と並んで歩いてるの見たのよ。顔は見えなかったけど、ツインテールの女の子だったわ」 豪田「それで落ち込んでるのか、有吉君。伊藤君が女の子に取られたって」 有吉「あの、僕と伊藤君って、そんなみんなが期待するような関係じゃないから」 豪田「じゃその落ち込み方は何なの?」 有吉「僕も伊藤君も、高校の3年間彼女無しで過ごしたからさ、ちと寂しいだけだよ」 豪田「伊藤君に裏切られたとか抜け駆けされたとか思ってるの?」 有吉「全然無いとまでは言い切らないけど、伊藤君には幸せになって欲しいとはマジで思ってるよ」 豪田「有吉君、いい人なんだね。まあそう落ち込みなさんな。現視研には彼氏募集中の女の子がたくさんいるし、ヤブさんに頼めば漫研の女の子にもつなぎ取れるだろうし」 有吉「ありがと…」 豪田「(そっぽを向き)何なら、私でもいいし…」 有吉「えっ?」 豪田「何でもない!」 笹原「荻上さん、田中さんと大野さんは?」 荻上「何でも日垣君と国松さんに、急遽コスしてもらうっておっしゃてましたよ」 笹原「そりゃまた急にどうして?」 荻上「2人とも今日はマネージャー役でコスプレ広場にずっと居るから、それならコス姿の方がいいって田中さんが言い出したそうです」 笹原「てことは、昨日いきなりコス用意したのかな、田中さん?」 荻上「大野さんの話では、昨夜の内に突貫工事で作ったらしいですよ」 そこへ問題の4人がやって来た。 田中「すまん遅くなって。ちょっと日垣君の方で手間取ってね」 ハゲヅラの田中が謝る。 大野さんのラストと田中のグラトニーについては心の準備が出来ていたので、感心はしてもさほど驚かなかった一同だったが、国松と日垣を見て呆然とする。 国松はチャイナ服風のシャツとズボンを身に着けていた。 髪は左右2つのお団子に束ね、その根元には弁髪状の髪の束を左右各3本ずつ下げている。 国松はさほど髪が長くないので、おそらくヅラであろう。 ブルース・リーがブームになった頃のカンフー映画で、カンフーをやるヒロインにありがちな格好だ。 その肩には、子猫ほどの大きさのパンダの縫いぐるみが、鷹匠の鷹のように立っていた。 もっと異様なのは日垣だ。 服装こそノースリーブのシャツに黒のジャージのズボンとありきたりな格好だが、上半身の皮膚は褐色に塗られ、頭のてっぺんには白髪のヅラを被っている。 しかも右腕には奇怪な模様の入れ墨があり、額から目にかけて×状の傷跡がある。 国松がちょっと嬉しそうなのに対し、日垣は恥ずかしそうだった。 豪田「スカー…なの?」 巴「なかなか似合ってるじゃない。日垣君背高いし体格いいから、ピッタシのキャスティングね」 浅田「国松さんのは…メイ・チャン?」 岸野「よくこんな短時間で用意したな、田中先輩」 グラトニー姿の田中が説明する。 田中「日垣くんのコスは彼の私物での間に合わせだよ。国松さんのは、前に荻上さん用に試作したものを改造したんだ」 荻上『私に何のコスさせる積りだったんだ、田中さん?…』 沢田「日垣君の肌の色はどうやったんです?」 国松「明日の絶望先生のコスで使うファンデーション使ったのよ」 台場「そう言えば千里、明日はマリア役だったわね」 国松「昔シャネルズが黒人メイクで使ってたやつよ」 台場「シャネルズって…ラッツ・アンド・スターのこと?」 斑目「この場合、オタ的には国松さんの言い方の方が正しいな」 台場「といいますと?」 斑目「昔『キン肉マン』の中で、キン肉マンが黒塗りメイクでサングラスかけてシャネルマンって名乗ったことがあっただろう?あれの名前の由来がシャネルズなんだよ」 台場「ああ、ありましたね、そんな話が」 国松「???」 台場「あんたの言い方の方が正しいって話よ」 斑目「まあ何にせよ、これだけは言えるな。(1拍間を置いて)田中恐るべし!」 一同「激しく同意…」 田中「しかし今日は、ほぼみんなコスプレ広場に集まったな。これならみんなの分のコスも作っときゃよかったな」 それを聞いた会計担当の台場の顔に影が差し、地獄の底から響くような低音で呟く。 台場「よさ~~~~~~~~~ん!」 田中「ひっ?」 台場「今回作ったコスだけで赤字なのに、よさ~~~~~~~~~ん!」 どこからともなく算盤を取り出し、まるで神社の巫女が鈴を鳴らすようにシャカシャカと算盤を鳴らす。 田中「落ち着け台場さん!あくまでもそうだったらいいなって話だから!」 台場「(急に普段の顔に戻り、算盤もどこかに仕舞い)ならいいです」 荻上『とりあえず会計は、引退まで台場さんに任せて大丈夫そうね…』 そこへ藪崎さんと加藤さんがやって来た。 藪崎「うわー、こりゃまた化けたなオギー」 加藤「よく似合ってるわよ、荻上さん」 荻上「ありがとうございます。今日は漫研の方はどうです?」 加藤「まあ可も無く不可も無くってとこかしら」 藪崎「不可です!甘いこと言うてたらあきません、加藤さん!」 加藤「でもさっきのあれは、ちょっと言い過ぎよ」 荻上「あれ?」 加藤「藪崎ね、さっきうちの女子たち泣かしちゃったのよ」 藪崎「人聞きの悪いこと言わんといて下さい!私は正論を言うただけです!」 荻上「何言ったの?」 加藤「うちの同人誌見て、絵が型通りだのコマ割が在り来たりだのと滅多切りにしたのよ」 荻上「うわー容赦無いなー」 藪崎「あんたはあの同人誌見てないから、そない言えるんや。あとで1冊持って来たるから見てみい。絶対文句言いたなるわ」 荻上「そんなに酷いの?」 藪崎「絵えそのものは悪うないんや。けどな、漫画の入門書でも見ながら描いたみたいに全て型通りで、描いた本人の個性とか主張とかが全然無いんや」 加藤「まあ確かに、藪崎の評は間違ってないわ」 藪崎「要するに、夏コミで出品出来る枠があるから描いてみたみたいな、その程度のノリなんや。現視研みたいに、今回で終わりかも知れんちゅう切迫感があらへんのや」 加藤「だからって、今回の絵描きの子が泣いちゃったのに、それにさらに追い討ちかけちゃやり過ぎよ」 荻上「追い討ち?」 藪崎「ちょっ、ちょっとやめて下さいよ加藤さん、みっともない!」 構わずに加藤さんは続けた。 加藤「藪崎はこう言ったのよ。『その涙は何や!あんたの涙でええ同人誌が作れんのか!完売出来んのか!』って」 そこへ国松が割り込んできた。 国松「藪崎先輩って、まるでモロボシ・ダンみたいですね」 藪崎「出たな特撮娘。モロボシ・ダンって『ウルトラセブン』の人やろ。どういうことや?」 国松「ダンは『ウルトラマンレオ』ではMACの隊長やってるんですよ。それでレオに変身するオオトリ・ゲンにいろいろ特訓するんです」 藪崎「特訓?何の?」 国松「もちろん怪獣倒す為の特訓ですよ。それが厳しくてゲンが泣いちゃった時に、ダン隊長が言うんですよ。『その涙は何だ?お前の涙で怪獣が倒せるのか?』って」 藪崎「…『ああ喋らせるんやなかった』」 国松「ダメですよ藪崎先輩、後輩の人たちに無茶な特訓させちゃ」 藪崎「せえへん!」 国松「ジープで追い回したりしちゃダメですよ」 藪崎「するかい!て言うか、それ何の特訓やねん?」 ちなみにジープで追い回すとは、突進して来て肩の角で突くのを必殺技にしているカーリー星人なる宇宙人に勝つ為の特訓である。 特撮系の2ちゃんねらーの間では、レオと言えばジープと言われるほど有名なエピソードである。 これはまた後の話だが、「ウルトラマンメビウス」の11月の放送の際にレオが登場した。 レオことオオトリ・ゲンはミライに対し、かつてダンに言われた「その涙で~」の台詞をまんま言い放ち、ジープで追い回す特訓こそ無かったが空手の特訓を命じる。 2ちゃんねるのメビウススレは祭状態と化し、当然国松も翌朝までスレに参加した。 月曜になっても興奮冷めやらぬ国松は、現視研でも何か特訓をやろうと言い出した。 体育会系の巴と特訓大好きのクッチー、そして今や国松の舎弟状態の日垣もそれに乗った。 そこへ更に、野外でのサバイバル経験の豊富な浅田・岸野コンビが、どうせやるなら冬の雪山でサバイバル訓練をやろうと言い出し、他の会員たちも賛同しかけた。 荻上会長が部室に来た頃には、行き先は八甲田山(明治時代、帝国陸軍が行軍訓練中に遭難し、ほぼ全滅しかけたことで有名な難所)で具体的に話が進みかけていた。 さすがにまずいと判断した荻上会長、会長就任以来初の強権発動を断行し、特訓をかろうじて止めさせた。 26人いる! その8