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背中 【投稿日 2006/07/13】 未来予想図 七月 *** 7月の始め。荻上さんは悩んでいた。 ここのところ、ずっとスランプ気味だったのである。 (う~~………うまくシチュエーションが思いつけね………。 今までは勝手にイメージが向こうからやってきて、描く手が追いつかないほどだったのに………。) 今回、夏のコミフェスに当選して、ようやくハレガンで同人誌が出せる!と気合いが入っていたのに。 (どうすっかなー…。とりあえず今まで書き溜めてたイラストとかのシチュを使いまわしで、もっかいネームにおこして………。 いやいや、駄目だ。コミフェスで売る本だべ?やっぱ自分の力を存分に出しきらねーと!! 前回は50作って11しか…そのうち2冊はあげちゃったし。ってことは、売れたのは9冊。) (…今回は50作って、目標30冊は売りたいなァ…。そのためにもやっぱ、中身のクオリティを上げねぇと………。) …力みすぎてプレッシャーがかかっていたのだった。 (………考えすぎて頭痛い………ちょっと休憩するべか。 …はっ。もうこんな時間!?笹原さんがもうすぐ来るのに!!) 慌てて部屋を片付け始めた。 笹「こんばんは、荻上さん」 荻「こんばんは。…どうぞ」 笹原が来たのは夜11時ごろだった。今日も大変だったらしい。 荻上さんが麦茶を入れてくると、笹原はスーツの上着を脱ぎかけたままで床に伸びていた。 荻「…今日も疲れてるみたいですね」 荻上さんがテーブルに麦茶を置くと、笹原はゆっくりと起き上がり、グラスを手に取った。顔がげっそりしている。 笹「ああ、まあねぇ………担当の漫画家さんがなかなかネームあげてくれなかったからね。 もう2回ネームの〆切延びてるのに………。」 荻「え、2回?そんなに〆切延ばせるんですか?」 笹「いや、もうそろそろ原稿に入らないとやばいんだけどね。さっきようやくOK出て、やっと帰ってこれたんだ。」 荻「へえ………。大変ですね」 笹「…担当してる先生、煮詰まってくると逆切れはじめるからねえ………。 『思いつかないものは仕方ないじゃん』とか、まあそんくらいならいいんだけど、昨日は『君達が見てると集中できない』とか言い出してさ。 でも見張ってないと逃げそうなんだもん。実際何度か逃げたことあるらしいし。 そのうち八つ当たりになってきてさ。」 荻「へ、へえ………」 笹「あんまり理不尽なことばっか言うから、ついこっちも腹立ってさ。 『漫画描きたくないんなら、漫画家にならなきゃいいじゃないですか!』って言っちゃったんだ………」 荻「………………………(汗)」 笹「あとで小野寺さんに注意されたよ。『先生も言い過ぎだけど、言い過ぎ』って。でもねえ………」 荻「…笹原さんってけっこうキツいですよね」 笹「えー、そうなのかな?よく言われるけど…」 荻「ほら、現視研で夏コミに当選したことあったじゃないですか。それで、〆切前になっても漫画全然できてなくて。 そのとき久我山さんに、けっこうひどいこと言いましたよね。」 笹「でもあれは久我山さんが………」 荻「ええ、久我山さんが言い訳ばかりしてて、責任とろうとしなかったんですよね。久我山さんが悪いです。それはわかってます。 ………でも、あれは言い過ぎだと思うんですよ。」 笹「え?」 笹原は荻上さんのほうを見た。荻上さんは目線を下に落として考えながら話している。 荻「『だから久我山さん、マンガ家になれないんですね。マンガ家になろうとしたこともないじゃないですか。 安いプライドを守りたいだけでしょ?』………って。」 笹「………………」 荻「その言葉はひどいと思いました。いくら描きたい気持ちはあっても、描けないことだってあるのに。 自信がなかったり、思ったように描けなかったり、納得いくものができなかったり………。すごく悩むんです。 それを『安いプライド』って言葉で切り捨てられるのは、聞いてて辛かったです。」 笹「…そっか………」 荻「もちろん、だからって責任回避していいわけじゃないです。笹原さんが怒るのも無理なかったです。 でも。私には久我山さんの気持ちもわかるから………。」 言いながら、荻上さんは思っていた。 (………『描きたい気持ちはあっても、描けないことだってあるのに』って、それ今のわたすのことだァ………。 気持ちばっかり焦って、イライラして、どーしようもねぇ……………。) 笹「そうかあ………久我山さんにも、先生にも、悪いこと言っちゃったなあ………」 笹原はしょんぼりと肩を落とした。 荻「………………でもまあ、きつい言葉が必要なときもあるんですけどね。」 笹「そうなの?」 荻「あの時の久我山さんも、きっと一押し背中を押してもらいたかったんじゃないですかね?笹原さんに。」 笹「ええ?でもあの時久我山さん、喧嘩ごしだったじゃない。俺、『原口みたいだよね』って言われたし。」 荻「ああ…」 荻上さんは苦笑した。 荻「…まあ、なかなか素直にはなれないものなんですよ。 思ったように描けなくて、すでにプライドが傷ついてるときに、笹原さんにも指摘されて。 『何で描けないんだろう』って、自分でも思ってるのに、他人にも言われると腹が立つんですよ。 …もちろん、描くのを引き受けた以上は、そんな風に怒るのは理不尽なんですけどね………。」 笹「ふうん………。そうかあ…。俺、漫画ほとんど描いたことないからよくわかんなかったよ。 俺の担当の先生も、そんな気持ちだったのかなあ。」 荻「もしかしたら、ですけど、そうだったんじゃないですかねー………。」 荻「…あ、でも、後で久我山さん喜んでましたよ」 荻上さんはあることを思い出した。 笹「ええっ?」 荻「ほら、笹原さんが、斑目さんと印刷所に入稿しに行った日。 あの日、笹原さんたちが出てから久我山さん、力尽きて寝ようとしてたんですけど、その前に私にこんな風に言ってたんです。 『笹原がサークル申し込みして、俺に漫画描いてくれって言ってきてくれたから、ようやく漫画描いて残すことができた。 本当はずっと描いてみたかったけどなかなか勇気が出せなかったから。 最後、学生時代にいい思い出ができて良かった。笹原には感謝しないとなあ………』って。」 笹「………………久我山さん、そんなこと言ってたんだ」 笹原は驚いた顔をしていた。 (久我山さんがそういうの、分かる気がする。わたすも………。) 現視研で初めてサークル参加して、あの経験のおかげで自分も同人誌を出してみたいと思ったのだ。 いや、本当はずっとやってみたかったけど勇気が出なかった。 ………趣味を隠していたし、あの当時、自分の801妄想を描いた本を出して誰かに見せるなんて、考えられなかった。 ………でも本当は誰かに見て欲しかった。自分の描いたものを読んで、面白いと言ってくれる人がいたらどんなにいいだろうって、心の奥ではずっと思っていたのだ。 …なかなか自分に素直にはなれなかったけど。 …あの、中学時代のこともあったし。 笹「あ、そう言えば夏コミの原稿、進んでる?」 笹原に言われ、ぐっと言葉につまる荻上さん。 荻「いえ、まだ………」 笹「そっか。荻上さんいつも早いから、珍しいね」 荻「………………なんか、スランプになってるみたいです。うまく思いつかなくて………」 笹「うーーん。…そういえば、801ってどんなときに思いつくの?」 荻「ええ!?…そ、そーっスね。ハレガンとかだと、漫画読んでたりアニメ観たりしてるときに………。 あとは、急に思い出すんですよ。授業中とか、家までの帰り道とか、お風呂入ってリラックスしてるときとか。 『あのセリフ良かったなあー』とか、『あのシーンは使えるな』…って。 エドが、大佐と口論してるとことか。エドが大佐にどんだけつっかかっても、大佐は大人だから余裕なんですよね。 それでまァ、エドと大佐が口喧嘩してるうちにだんだんその………。 ええーと、ま、まあそんな感じです」 笹「ふーん、そうなんだ。」 荻「………………な、なんか恥ずかしいっすね、口で説明すると」 笹「あははは」 荻上さんは顔を赤くして下を向いてしまった。笹原はそれを見てつい笑ってしまう。 荻「わ、笑わねーで下さい!」 笹「いやいやゴメン、荻上さんが可愛いから」 荻「なっ………」 荻上さんは真っ赤になったが、ふと頭の中にイメージがよぎる。 (………………自分の辛い気持ちを大佐に吐き出すエド。『悪い、弱音なんか吐くつもりなかったのに…』 辛そうな表情で大佐を上目づかいで見上げると、大佐は何故かいとおしそうな目でエドを見つめる。 『そんな風に弱音を私に吐くなんて珍しいじゃないか』『悪い、もう言わないからさ…』 『いや、もっと聞きたいものだな』『え?』『その間ずっと、普段は見られない君の憂い顔を見つめていられるからさ』 『た、大佐…?何言って…』『すまない。君が可愛いからいけないんだ』『なっ………』 そんであーなってこーなって………………………) 笹「………さん、荻上さん?」 荻上さんははっと我に返った。笹原が困ったような笑顔をこちらに向けている。 笹「またワープしてたね」 荻「いえその………………(汗)」 笹「どうですか先生?そのネタ、原稿になりそうですか?」 荻「え、ええ、まあ………………」 返事をしながら、 (うわーでもこのネタ絶対笹原さんには見せらんね、恥ずかしい!!) …と思った荻上さんであった。 お風呂で浴槽につかりながら、荻上さんは考えていた。 乗り物に乗っているときとか、寝る直前とか、お風呂に入ってるときなど、気持ちがリラックスしているときに漠然とイメージが沸いてくる。 そんなとき、好きなカップリング同士が話してる所を想像すると、勝手にキャラが動いて会話が進んでいくのだ。 色々シチュを想像している間にいつの間にか漫画のネタができてくる。 そうやって想像しているときが一番楽しいかも知れない。実際にネームに切ってみると、イマイチってことも多いのだが。 頭の中で、コミフェスに出す本のイメージがだんだん固まってきた。 風呂から上がると、笹原はくじアンの新刊を読んでいた。 笹原は先に風呂に入ったので、スーツからラフなTシャツ姿に変わっている。 頭にタオルを載せたまま、床にぺったり座って真剣に読みふけっている。 荻「………………………」 荻上さんは、とりあえずドライヤーで髪を乾かした。 (…この耳の横の髪がいつもハネちゃうんだぁ。真横にぴーんと。やだなぁ。髪下ろしてると目立つなァ…。 寝癖で後ろの髪の毛まで逆立ってるときがあるし。) できるだけ下にまっすぐになるように念入りに乾かした。 髪を乾かし終えると、笹原のほうをちらっと見る。 笹原は真剣な顔で、ページを遡って読み返しているようだ。 (………時間かかるんかなぁ。そういえば、今回の新刊、卒業した会長が出てくる話があったっけ?笹原さん会長好きだから………。) (………………………。) ふと思い立って笹原の背後のほうに寄っていき、後ろに座る。 (…何やってんだァ私) (んでも、こっちに気づかんねぇかな………。) 笹原の背中を横目で見ながらしばらく待ってみるが、笹原はこっちを振り向かない。 (………………………………。) 一言声をかけてみればいいのだが、何となく声をかけづらい。 (………なんで声かけられねんだろ?) 心のどこかで、笹原さんのほうから気づいてこっちを振り向いてくれないかな、と考えているのだ。 (というか、何を期待してんだろ?私。い、いやそーでねぐて!) 一人で赤くなる。 笹原の背中を眺めた。 (男の人の中では笹原さん、小さい方だけど、私よりずっと肩とかがっしりしてて…。骨格とかも…。) 後ろから抱き付いてみたい、と思ったが、数センチ先の背中になかなか手を伸ばせない。 (………何で素直になれないんだろ?) さっきから自問自答ばかりしている。 (………………卒業式の日は、服に気合い入れて行ったどさくさで勇気出せたんだけどなァ…。でも大野先輩の罠にかかるところだったんだっけか。くそー大野先輩………) 思い出して腹が立ってきた。 (…って、そんなことはいいや、今は…。) また背中のほうへ目を向ける。 (………………………………………。) 気づいてもらえないのが、だんだん寂しくなってきた。自分から手を伸ばせないことが、勇気を出せないことが切なかった。 何故だろう?好きなのに。付き合ってるのに。 何で素直になれないんだろう?と、もう一度考える。 ………恥ずかしいから? そうだ。自分から手を伸ばすのが恥ずかしい。そしていつも、照れ隠しのためにきつい口調になってしまう。 素直になれないのは、………自分に負けてるようで、なんだか悔しい。 …でも。 (悔しいとか、恥ずかしいとかでねぐて…、ただ笹原さんが好きだから、でいいんじゃないだろうか? それが素直な気持ちなんだから、素直に伝えたらいいんじゃないだろうか?) 急に胸がいっぱいになる。思わずそのまま手を伸ばしていた。 漫画に夢中になっていた笹原は、急に背中から抱きつかれてびっくりした。 笹「うわ、びっくりした!…荻上さん?」 荻「…笹原さん」 荻上さんは笹原の背中に顔を押し当て、しがみつくように笹原の胴に腕を回した。 小さい声で名前を呼んだ。 笹「ん?…どうしたの?」 優しい声で荻上さんに言葉を返す。その声を聴いて、荻上さんの強張っていた体から力が抜けた。 荻「…大好きです」 さっきよりも小さい声で、ようやく一言つぶやいた。 笹「………うん」 荻「………………………………。」 (………言葉が続かない。どうしよう) やっぱり恥ずかしくて、一人で内心焦っていると、笹原が話し始めた。 笹「…荻上さんから好きって言ってくれたのって、初めてじゃないかな?」 荻「………そうですか?」 笹「うん。」 荻上さんは抱きついたまま、笹原の背中ごしに上を見上げる。 後頭部しか見えないので表情は分からないが、耳が赤くなっているのがわかった。 それを見て、胸の奥に暖かいものが広がる。 荻「…そ、そうですか?前にも一回言ったじゃないすか」 笹「え?そうだっけ」 荻「そうですよ。もしかして忘れちゃったんですか?」 …本当はこれが初めてだと分かっているのだが、照れ隠しからか、ついこんなことを言ってしまう。 困らせてみたくなったのだ。 笹「ええーーー?えーと、いつだったっけ?」 笹原の焦る声が聞こえる。そうやって焦ってくれるのが嬉しかった。自分のことを本当に好きでいてくれてるんだな、とわかるから。 我ながらイジワルだなァとも思うけど。 笹原が真剣に悩んでいるようなので、だんだん申し訳なくなってきた。 冗談ですよ、すみません、と荻上さんが言おうとしたとき、笹原が急に大きい声を出した。 笹「あ!もしかしてあの時かな?」 荻「へっ!?」 荻上さんはびっくりした。今回初めて言ったはずなのに、笹原は何を思い出したのだろう。 笹「えーと、ホラ、そのー…初めてしたとき………」 荻「ふぇッ!?」 (えっ!?そうだったっけか!?え?え?あの時!?でも記憶にないし…) 荻上さんが内心めちゃくちゃ慌てていると、笹原は聞いてきた。 笹「確かそうだったんじゃないかな?どうだっけ、荻上さん?」 荻「え、や、その…ち、違います!」 笹「あれ?でもあの時………」 荻「言ってません!絶、対、言ってません!」 笹「あれ~~~?」 荻「も、もういいです、その話は………」 笹「じゃあ正解教えてよ」 荻「教えません!」 笹「ええ~~~?気になるなあ」 荻「きっ、気にしないで下さい!!」 笹「あ、じゃあさ」 荻「…何ですか?」 笹原は自分の胴から荻上さんの手をゆっくりとどかし、荻上さんのほうに向き直った。 笹「答えの代わりに………もう一回、言ってくれないかな?」 荻「………………何をですか」 笹「や、だからそのー…大好き、って」 荻「もう言いません!」 笹「頼むよー」 荻「言いません!」 笹原は困ったような笑顔で荻上さんの顔を見る。 荻上さんは赤くなってうつむいてしまう。 笹「…荻上さん」 笹原が荻上さんの肩に手を置く。 顔がすごく近くにあるのを視界の隅にとらえながら、荻上さんはうつむいたままで言った。 荻「ま、また今度!…き、………気が向いたら………?」 笹「はい」 荻上さんがふと顔を上げると、嬉しそうな笹原の顔があった。 その顔がだんだんと近づいてゆく。 ………その後、恋人同士がすることは一つでしたとさ。 END 続く。 おまけ4コマ的な。 【そっち方面でも強気攻め】 小「笹原君って意外とキツイな。顔に似合わず」 笹「はは…。昔サークルの先輩にも言われました。やっぱ直したほうがいいですかねぇ…」 小「いや…そういうのもアリなんじゃない?面接で言ってたことと逆だけどね」 笹「え…そうでしたっけ?」 小「『作家のやる気を無くさせること』が一番してはいけないこと、って言ってただろ?」 笹「そうでしたかねぇ。でも、自分が言いたいと思ったことを言わないのは、自分を否定することになりますからね…。」 小「ほーー。」 笹「だから原稿をもらいに行くときは、強気でいかせていただきます!!」 小「あ、そう。まあ頑張れ」
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影踏み 【投稿日 2006/01/19】 カテゴリー-笹荻 初冬にさしかかろうという、ある乾燥した日の朝、笹原は唸りながら、目覚 めた。 笹「さむ!!むっ」 喉が痛い。頭痛もする。肩や足も筋肉痛がする。 (風邪か?昨日、ヒーターつけたまま、コタツでうたたねしちまったから な・・・) むくむくと布団からはい出し、四つんばいで、がさごそ部屋を漁り始めた。 (体温計・・・あれ、くそ!どこに片付けたっけ?めったに使わねーから な・・・救急箱・・・。ああ、あったよ・・・はは、押入れのエロゲーの雑 誌の下敷きになってら・・・) 布団にごろんと横になり、体温計で体温を測り始めた。 (・・・38度2分・・・。けっこうあるな・・・) 笹原は布団にもぐりこみ、掛け布団に丸まった。 (寝てりゃ直るかな・・・どうせ講義も無いしな。風邪薬・・・ありゃ使用 期間過ぎてるよ!大丈夫か?) 笹原はそんなに頻繁に病気になる人間ではない。薬関係も大学入学時に購入 したきりだ。服用しても問題ないような気がしたが、不安になってやめた。 汗が止まらない。熱がさらに上がったようだ。 (・・・惠子・・・あいつ今日はどこだ?メールで・・・) 笹原はなれない手つきで、惠子にメールする。 「風邪ひいたみたいだ。動けない。風邪薬とか買ってきてくれ」 なかなか返事が返ってこない。じりじりと笹原は待つ。やっと返事がくる。 「兄貴 悪い 今横浜のダチの家に遊びにいってる 無理」 笹「くそ!」 笹原は携帯を壁に投げつけた。熱で気が立っている。八つ当たりすることで は無い。最近、惠子もここには寄り付かなくなった。惠子なりに気を使って いるのだ。しかたがないことだ・・・。 (荻上さん・・・) 荻上の顔が脳裏に浮かんだ。だがすぐにかぶりを振った。駄目だ。かっこ悪 い。最近ようやく、甘えてくれ頼りにしてくれるようになったのに・・・。 こんなことで、迷惑はかけられない。自分でなんとか・・・。 しかし、思ったより笹原の症状は重かった。着替えて、よろよろと外出を試 みようと、扉の鍵を開けた。その時点で立ちくらみして、歩ける状態じゃ無 い事に気付いた。次第に意識が薄れてきた。 (やばい!マジでやばい!こんな一人で洒落にならない・・・) 笹原はかろうじてメールで荻上にメッセージを送った。 「風邪ひきました」 これだけ送信して、普段着のまま布団にもぐりこみ、そのまま寝入った。 次に笹原が目を覚ました時、そばには心配そうな表情の荻上がいた。 笹「荻上さん?どうして?」 荻「どうしてじゃないですよ!メールで風邪ひいたって送られてきたから、 返信して症状聞いても、一向に返事返ってこないし、心配になって見舞いに 来て見たら、ドアは開いたままで、声かけても出てこないし・・・」 笹「はは、そのまま寝入っちゃったみたいで・・・」 荻「死んじゃったのかって驚きましたよ!何回か声かけても目を覚まさなか ったし・・・」 荻上の顔は動揺して、目は涙目になっている。 笹「心配かけたね、ごめん・・・」 荻上のその表情に胸が痛んだ。 荻「とにかく、着替えてください!汗だらけです。着替えはどこです?」 笹「ああ・・・そこ衣装ボックスに・・・あっ自分でやるから・・・」 荻「こっこれですね、体が冷えると危険ですから、急いで!」 荻上は笹原の下着とパジャマを手に取り、すこし顔が赤らんでいる。 笹「うっうん。」 荻「まだ、熱はありますね。少し寝てて待ってください。必要なもの買い揃 えてきます」 笹「悪い・・・」 荻「まあ、前にお世話になりましたからお互い様デス」 荻上は買出しに出かけた。笹原は布団の中で、ふーと安堵の声を上げた。正 直、一人で病気になった時、これほど不安な気持ちになるとは思ってもいな かった。目を覚ました時に、荻上がそばにいてくれた事が、どんなに嬉しか ったか分からない。 荻上は小さい体に両手に大きな買い物袋を抱えて、戻ってきた。 笹「色々買ってきたね!」 荻「ええ、薬のほかに、スポーツドリンク、レトルトのおかゆ、あと食材も 少々・・・」 笹「そんなに・・・悪いよ・・・」 荻「いえ!前に風邪の看病してもらったじゃありませんか。わたしもすこし 勉強しましたから」 笹「薬飲んで寝てりゃ直るよ・・・そんな大げさな・・・」 荻「ヒスタミン系の薬は強いですけど、強い解熱剤は回復を遅くします。飲 んでも漢方薬系の薬で、水分と栄養を補給する事が一番です!水分もただの 水では体力を奪いますから、スポーツドリンクを飲んで汗をかいて安静にす るんです。寝ててください」 笹「うっうん。わかった」 笹原は荻上の迫力に気おされて、大人しく寝た。 荻上は台所で何かしている。 笹「ゲホ ゲホ 何してるの?」 荻「空気、乾燥してますよね。風邪に良くないですから、やかんでお湯を沸 かしてます。加湿器無いですもんね」 笹「そうなんだ・・・。昨日もヒーター付けっぱなしで、空気乾燥させたし・・・」 荻「何か食べれます?」 笹「そうだね、おかゆとか軽いものなら・・・」 荻「そうですか。じゃあ、これ・・・」 荻上はレトルトのおかゆに添え物にゆずを刻んだものを出した。 笹「これは?」 荻「実家から送られたものです。ゆずを刻んで蜂蜜と砂糖、酢で漬け込んだ ものです。おかゆとからめて食べると美味しいですよ」 笹「ああ、ほんと!ゆずの香りが食欲そそるね!甘くて美味しい・・・」 荻「あと、生姜湯もあります。それとネギを刻んだ湯豆腐・・・。あの・・・ この前の・・・アイスクリームのお返しで・・・」 荻上は顔を赤らめて、油豆腐をれんげに取って、笹原の口に運んだ。 笹原も顔を赤らめて、それを口にした。 笹「あっありがとう」 満腹になると、笹原は睡魔に襲われて、寝入った。そして夢を見た。それは 合宿の黄昏の空の色だった。浅い眠りの夢うつつの中、笹原は考えていた。 あの時と逆だな・・・。こんなにも病気が人の心を弱くするとは思ってなか った・・・。荻上さんもこんな不安な気持ちでいたのかな・・・。俺・・・ そんな彼女につけこんだみたいだ・・・。あの時の彼女の寝顔をずっと見守 っていきたいって気持ちには偽りは無いのだけれども・・・。 笹原が目を覚ますと、となりで荻上もうたたねしていた。 荻「あっ!わたしもうっかり寝ちゃってました!」 笹「・・・ねえ、合宿の時、君、俺に『何でここにいる』のかって聞いたよ ね。こんなこと・・・聞くなんて・・・男らしく無いと思うんだけど・・・ 何故君は俺のそばにいてくれるの?」 荻「何故って・・・だって・・・笹原さんは・・・わたしが一番いてほしい と思った時にそばにいてくれたじゃありませんか・・・それだけです・・・」 笹原は顔を見せたくなくて、背を向けて布団をかぶった。 笹「俺も・・・今そんな気持ちだよ」 荻上は気恥ずかしさに場をはずして、窓辺に目を向けた。 荻「ああ、ここからつつじの木が見えるんですね。春になったら花が咲くん ですね。今は散ってますけど・・・。わたし夢を見てました。子供の頃です。 幼馴染と影踏みとかして遊んでるんです。キャッキャ飛び跳ねて、夢中にな って遊んで、黄昏時になってもやめないんです。でもあたりが薄暗くなり、 わたしが振り向くと友達の顔や影が見えなくなってるんです。あんなに仲良 く遊んだのに顔が思い出せないんです・・・」 笹「・・・そうだね。でも俺も君も影じゃないし、今たしかにここに・・・ いるし、消えたりは・・・しないよ。・・・うまく言えないけど・・・二人 でいれば散らない花も見れると・・・思う・・・ははっまだ熱があるみたい だ!こんな恥ずかしいセリフ!」 荻「そうですね。熱のせいにしましょう。元気になって良かったデス!」
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サマー・エンド1 【投稿日 2006/03/19】 サマー・エンド 梅雨の気配も近づく春の終わり。 建物に挟まれた狭い線路の上を電車が滑っていく。 日が沈んだ街の間を、宝石を飲み込んだ青虫みたいに窓に灯りを蓄えた車体が陸橋を走り去る。 実際、その電車の車内には女友達のグループや歳の近い親子、それと恋人同士が 思い思いの紙袋を提げて乗っているのだ。それぞれの袋に自分、もしくは相手の見立てに 合った服や靴や帽子や雑貨が詰まっているはずである。 夜空には月が出ていた。 『CLOSE』のボードがガラス越しに揺れるショップに咲の姿があった。 ガラス張りの店構えに白いアクリルの床。覚めるような涼感の照明が凛とした雰囲気を醸している。 並べられた商品の数も品揃えから比べて少なめであり、ある種の高級感さえ感じられた。 目当ての顧客年齢層は10代よりも20代中心というあたりだろうか。 シャッターの下りかかった店の奥で、咲は本日の売上を勘定していている。その表情は真剣だ。 (う~ん………、今日のところはまずまずかあ…、でもまだ赤だな…。) 咲は心の中でそう呟くと、顔を上げて店内を見回した。 自分の思いの丈を込めてこだわりにこだわった内装に当初は十分満足していたのだが、 いざ開店してみると反省点がチラホラ。 (ちょっと入り難いかなあ……。う~ん…、どうだろ…? やっぱもっと下のコが入り易いように した方が良かったか……。でもまだ開店したばっかだしぃ~……。う~ん………。) その苦悩は深い。 開店準備に奔走していた当初から感じていたが、現実に自分の店を持つというのは恐ろしいものだとつくづく思う。 バイトとして働いていたころとは責任が雲泥の差であるし、判断と決断が求められる。 開店日が近づくにつれてプレシャーが重くのしかかってきた。 現れては一年と持たずに消えていくショップも数多見てきたし、その厳しさは分かっているつもりだったのだが…。 (ああ…、なんかタバコが欲しくなってきたなあ…。けっこうビビってんじゃん、私…。) チョキの形の指を唇に当てて力なく笑う。咲の横顔に疲れが滲んでいた。 ふと、店の前で人影が立ち止まった。 真新しい革靴に、真っ白なYシャツと、量販品のさしてオシャレでもないスーツ。紺色のネクタイは少し緩んでいる。 中に入ろうとするが、鍵のかかった扉に一瞬面食らった。 「こんちわー、っと…。」 尻切れとなった挨拶が、ガラス越しにくぐもって店内に響いた。咲は笑って鍵を開けてやった。 「うーす。ササヤンおつかれー。」 「はは…、お邪魔します。」 照れ笑いを浮かべつつ、笹原は店内に入る。肩から提げたビジネス鞄をレジの横に置いた。 咲の出してくれて少し脚の高い椅子に不器用に腰掛けて笹原が言った。 「どだった、今日?」 咲は作り置きのコーヒーをマグカップに注いでいる。 本当はちゃんとしたコーヒーを入れたかったのが、店内に臭いが篭るので作り置きを入れたポットを常駐させていた。 「まあ…、今日はボチボチかな。」 「おー! 良いじゃないすか!」 「でもまだ赤だよ~。現実は厳しいなあ~。」 咲の顔に本来の笑顔が躍った。やはり友達の顔を見るとホッっとする。 利害関係の無い相手というの社会人になると貴重なんだなあとしみじみと感じる。 笹原も同じだった。 「ま~、初めのうちはそんなもんでしょ~? これからこれから。」 笹原はいつもの屈託のない笑顔で励ました。 担当する作家のアトリエが近いこともあり、笹原はちょくちょく咲の店に顔を出している。 初めは借金返済のために働いている恵子を監督指導するためであったのだが、近頃は恵子のシフトでない ときでも訪れることが多くなっていた。 卒業を機に引っ越したことで現視研メンバーやOBと顔を合わせる回数も減った。 学生時代のルーズな生活もできなくなり、仕事終わりに会うのは難しい。 職場の先輩や同僚、担当作家はあくまで仕事上の関係であり、ざっくばらんにプライベートの話ができるわけでもない。 咲の店は、気の置けない話ができる唯一の場所と言っても良かった。 咲が事務処理に戻ると、笹原は鞄から雑誌を取り出して広げた。それは意外にも女性向けファッション誌だ。 少し驚いたように咲が言った。 「あ、何? 何でそんなん読んでんの?」 笹原は照れ笑いで応える。 「ははは…、いや、作家さんが女の人でね。こういうの詳しいんだよね。俺も勉強しないと話が合わなくてさ…。」 「へへ~~、ササヤンも頑張ってんだね。」 「はは、まあ少しはね。まだ先輩の後にくっついてるだけですけど…。」 「まま、これからこれからってね。」 お互い笑いってコーヒーをすすった。温かいコーヒーがじんと体に染み入ってくる。 ほうっと咲も笹原も吐息を漏らした。 「恵子のヤツちゃんとやってる? サボってたらバイト代出さなくていいからね。」 「いやいや、けっこう頑張ってくれてるよ~。女子高生とかの相手は恵子のが上手いしね。」 ほー、っと感心しつつ笹原はコーヒーをすする。 「今日って恵子は?」 「もー帰った。なんかデートだって。」 ブッ!! 笹原は思わずコーヒーを吹いてしまった。Yシャツに口から零れた雫が垂れそうになって慌てて口を拭う。 「きたねーなあ!」 「ごめん…。え、アイツって彼氏いたの?」 「そうなんじゃない? 私も最近知ったんだけど。」 「あー…、ふ~ん…、そうですか…。」 咲の目がギロリと光った。 「ああ、気になりますか? 兄として。」 「いやまあ…、それなりにねぇ…。」 いやな予感に笹原は視線を咲から逸らした。しかし、時既に遅し。 「私はオギーとササヤンの愛の日々のが気になってんだけどね~。」 うわーーーー……。 という心の声が顔に出てるのを確認すると、咲はますます目を光らせて笹原に迫った。 「どうなんすか、最近? 楽しんじゃってますか?」 「いやあ…、まあねぇ…。フツウですよ…。」 「あ~~~ん、フツウ? どういうことするのがフツウなんですかあ?」 「あはははは………。」 笹原は苦笑いを返すのみだ。そうしてソッポを向いて、店内をわざとらしく徘徊する。 壁に掛けてあるドライフラワーのブーケを見入ったフリなんかしたりしている。 事務処理の残る咲は射程距離外に逃げ去った獲物に歯噛みした。 (くっそぉ~! ふ~、そうだな…、ここは戦法を変えよう!) 「いや、マジは話さ…。最近どうなの? ちゃんと会えてる?」 邪悪な笑みを押し殺して真剣な表情を作る咲。真面目に二人の仲を心配している作戦である。 ニヒヒと心の底で笑いつつ笹原に目をやると、思いがけない表情の笹原がそこに居た。 「う~ん、まあね…。」 そう言った切り、笹原はディスプレイしてある商品をじっと眺めている。淡い色の夏物のキャミソール。 ちょうど荻上ぐらいのサイズかもしれない。 咲は今度は演技の必要もなく、真剣な顔つきで言った。 「何かあった? 相談ならいつでも乗るよ?」 「うん………。」 笹原は視線をキャミソールに固定したままそう言った。 咲は笹原を見つめる。笹原の目はキャミソールを映していたが、焦点はその先に結ばれているようで、 体には仕事による疲労とは違う種類の疲れが暗くこびりついていた。 時折、口をもぞもぞ動かして何かを思い起こしては、声に出さずにいくつかの言葉を呟く。 咲は事務処理に手を動かしながら、チラチラとその様子を窺っていた。 重苦しい空気がに店内に流れる。 カラスの向こうを酔った男女が快活に笑いながら、また苦虫を噛み潰したような顔をした中年の会社員や、 ゴテゴテの巻き髪をなびかせた水商売風の無表情の女性や、目深に帽子を被ったミニテュアダックスフンドを連れた女が 彼らの前を横切って行った。 咲が書類をまとめ終えるころ、笹原が静かに言った。 「優しいだけじゃダメなのかなぁ…。」 口をついた言葉がそれだった。笹原の目は、まだどこか遠くを見ている。 「え…?」 「あ、いや………、なんでもない…。」 咲の視線に気づいて笹原は慌てて愛想笑いをする。自分の意に反して心の中だけの呟きが、声になってしまっていた。 冷めたコーヒーを飲み干して、笹原は自分のカバンを取った。 「長居してごめん。もう帰るよ。コーヒーごちそうさま。」 足早に帰ろうとする笹原。 「ササヤン!」 咲は呼び止める。 そして軽くため息をついて、困ったように笑った。 「あんま頑張り過ぎんなよ。普通にしてればいいんだって。」 笹原は疲れた笑顔を浮かべて、 「それじゃまた。」 とだけ言って店を出て行った。 (いろいろ大変なんだな…、ササヤンも…。) 咲はマグカップに残ったコーヒーを飲み干す。口の中に苦味が広がっていく。 「人の心配してる場合じゃないか…。」 咲の口から言葉が漏れた。 誰も居ない店内は静か過ぎて、それは反響するように頭の中に重く残った。 笹原はスーツ姿のまま原稿に目を通していた。視界の端で荻上の気配を感じながら。 キッチンから冷蔵庫のくぐもった唸り声が響いてくる。白く光る蛍光灯の向こうで、キッチンに灯りは無くなお暗い。 荻上は机の前で原稿を繰る笹原をじっと凝視している。期待と緊張の面持ちだ。 笹原はそれを確認すると気が滅入った。 手にしているのは801ではなく、荻上のオリジナルの漫画である。 内容は地方の中学校を舞台にした女子中学生同士の淡いラブストーリーといったところか…。もう少しで全部読み終えてしまう。 笹原は眉根を寄せて悩んでいた。 (どう言えばいいかな………。) 問題はそこだ…。 正直言って、半分くらい読んだところで大体の評価は決まっていたのだが、それをありのまま言っていいものかどうか…。 できれば予想を裏切る大オチを期待したいところだが…。 そんな期待も呆気なく裏切られ、案の定な結末で物語は幕を閉じてしまった。 「どうですか…?」 待ちきれない荻上は間髪入れずに尋ねる。笹原はう~んと唸って原稿をまとめた。 (…………………とりあえず保留しとこう。) 「いやあ…、もっかい読んでからで…。」 笹原は愛想笑いを浮かべてまた原稿に目をやる。荻上は不満そうに口を尖らせたものの、再びじっと笹原を凝視し始めた。 笹原の脇にイヤな汗が噴き出す。もはや意識の大半は原稿そのものではなく、その後の対応に傾注されていた。 たっぷり時間をかけて読み終えたところで、再び荻上が尋ねる。 「で…、どうでした?」 「うん…。」 原稿をテーブルに広げつつ、慎重に言葉を選ぶ。 (え~と…、え~と、え~と、え~~~と~~~………。) できるだけ荻上さんを傷つけないように、かつ有効なアドバイス…。 「このキャラ良いね…。目つきキツイけど、かわいいし、良いよね…。」 「はあ…。」 「あと、この構図も好きかな…。かっこいいし、キャラの内面が良く出てる…。」 「はい…。」 テーブルに映った荻上の影は微動だにしない。抑揚のない返事がガスのように室内に溜まる。 笹原は呼吸に不自由を感じ始めた。 とりあえず1,2枚の原稿を手にとってみる。 (え~と…、え~と…、あと何だったっけ?) 「校舎とか、教室のとか、よく描けてるね…。ディテールがしっかりしてる…。」 「………。」 荻上は無言である。 笹原は焦って声に力を込める。 「あーこれこれ! このキスシーンの表情とか特に萌えちゃ…。」 その瞬間、荻上の影が原稿を覆った。 「もういいです。」 笹原の手から原稿を奪うとテーブルの上のものも含めてさっさと片付けてしまった。 見上げた荻上の顔は無表情で、笹原に一瞥だにしない。 「笹原さんに聞いたのが間違いでした。」 原稿を茶封筒に仕舞うと冷めた声でそう言った。また室内に冷蔵庫の唸りだけが響く。 「え…、何で…?」 困惑顔の笹原にはそう搾り出すのが精一杯だった。赤いソファの上で机に向かってしまった荻上を見つめた。 荻上は鉛筆を握ったまま窓の外を見ている。卓上スタンドが煌々と荻上の横顔を照らしていた。 堪らず笹原は言葉をつないだ。 「俺…、何か怒るようなことしたかな…。」 卓上スタンドのせいだ、と笹原は思った。椅子に背筋を伸ばして座る荻上にスタンドの強い照り返しの光が下から当たって、 荻上の顔を恐ろしげに浮かび上がらせている。笹原は飲み込んだ唾の理由をそう解釈した。 荻上はきっぱりとした口調で返した。 「つまらないならつまらないって言って下さい。」 図星を衝かれた笹原は背中に痛みが走るのを感じた。 荻上は続ける。 「私だってそんな面白いと思って見せてるわけじゃないです。ダメなところが一杯あるのはわかってますよ。 それを無理に褒められたってむしろ不愉快です。」 そう一息に言い切ると荻上は大きく息を吸い込んだ。顔は僅かに赤みを帯びて汗ばんでいるが、目は変わらず鋭く尖っている。 笹原の口を開いたまま荻上を見つめる。 頭の中には言い訳や弁解や自分の気持ちがどんどん溢れてくる。 が、口をついて出たのはいつもの言葉だった。 「………ごめん。」 言った傍から激しく後悔した。こんな風に謝ると彼女は決まって不機嫌になったことを思い出したのだ。 「やめて下さい。」 荻上は外を見たまま、冷たい声でそう言った。 笹原はひどく寂しい気持ちがした。 それでも気を取り直して笹原は明るく言う。これ以上、重苦しい空気は耐えられない。 笑顔を作って荻上に向ける。 「今度はちゃんと批評するから、もっかい見せてよ。」 「もういいですよ。」 荻上は笹原を見ない。そして次の言葉は笹原の心をえぐった。 「どうせ笹原さんは優しいですから。」 力が抜けた。 体中の力が抜けて、笹原はソファにもたれかかっていた。目は焦点を結ぶのを忘れて何も見えない。 耳の奥でいろいろな声が、荻上の声が鳴り響いて、首筋を掻き毟ってしまいたかった。 体の中の神経という神経がビリビリと張り詰めて何もかもが痛い。 筋肉が骨を締め付けて動けないでいた。 そのうち、胸の底から何かが競り上がってきた。それがぐいぐいと喉を突き上げる。 それは今までじっと飲み込んできた言葉だ。言いたくなかった言葉だ。 でも、もう我慢できなかった。 「優しくちゃダメなの…?」 荻上は振り返った。聞いたことのない笹原の声に弾かれたように。 俯いて座っている笹原に、荻上は胸が詰まった。 それは、いつか感じたあのどうしようもなく嫌な感覚を思い出させた。 「どうせ優しいって………何なの?」 「あ、や………。」 「優しいのが嫌なの、荻上さんは?」 「別にそういうことじゃ…。」 言いかけた荻上の言葉を笹原が強く、煮えたぎるような声で遮る。 「最近いつもそうだよ! 俺が優しく接しても、何か不機嫌そうで! 何なのそれ? ぜんぜんわかんないよ!! そんなに優しいのが嫌なの? つまんないの? 俺は荻上さんが好きだから優しくしたいし大事にしたいだけなのに! そういうのじゃタメなの?! 荻上さんはもっと乱暴に、いい加減に扱って欲しいの?!!」 声を失って笹原を見つめる荻上。顔は青ざめて、目は涙を流すのも忘れていた。 笹原は顔を伏せて、ただ自分の両手をきつく握り締めている。 そこには冷蔵庫の唸り声だけが鈍く響いていた。 「荻上さんが好きなのってさ…。」 笹原はもう自分ではどうしようもなかった。言いたくないのに、全部吐き出してしまうまでは体は言うことを聞いてくれない。 どんなに苦痛を感じてもその一言を止めることができなかった。 「荻上さんが好きなのって、俺なの? それとも………、荻上さんの頭の中の俺なの?」 後のことは、もう何も覚えていない。気が付いたら、一人で夜道を歩いていた。 彼女がどんな顔で聞いていたのか、自分がその表情を見たのか。その後どんな会話を交わしたのか。 笹原は思い出せなかった。 つづく…
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一人ぼっちの現視研 【投稿日 2005/10/13】 カテゴリー-笹荻 コンコン。 荻上は部室に入るときいつもノックをしている。 ガチャ。 「・・・・だれもいないか・・・。」 最近、こんな日が多い。 「仕方がないといえばそうなんだけど、大野先輩もいないのか。・・・・上野かな?」 そうか、と思い当たる。今日は火曜日。大野は午前のみの授業なのだ。 とりあえず、しんとした部室の中に入って荷物を置く。 狭いはずの部室が、一人だととても広く感じられる。 「・・・・別にいいか。誰かいたからってなにかあるわけじゃないし。」 落書き帳を広げて、いつものように絵を描く。 お気に入りのキャラを納得がいくまで描き込むのが荻上の絵を描くときの楽しみ方だ。 最近のお気に入りは、某ロボットアニメ主役の親友。 笑顔、怒りの顔、悲しみの顔。 横顔、うつむいた顔、振り向いた顔。 「・・・・・。」 黙々と書き続ける。 カリカリ・・・・。ゴシゴシ・・・・。カリカリ・・・・。 一時間も経っただろうか。 「ふう。」 ふと時計を見、少し、驚く。 (この時間でも誰も来ないのか・・・。) いつもなら、大野か咲がやってきて賑やかに会話する。 二人は荻上をよくおちょくる。会話のテーマに対しての意見を聞く。 それについて子供っぽい意見をかえす荻上を笑ったりからかったり。 「・・・ないとないで・・・・。」 (寂しい?そんな・・・。) そう思った自分がとてもらしくないと感じて。 「でも、あるはずのもんがないと、やっぱ寂しいよなあ・・・。」 少し笑って、考える。 (自分は、何でここにいるんだろう?) (別に絵を書くならここにいなくたって。) そう思うけど、ついここに来ている。 誰かいるかなって思って、来る。 「なんで、私は・・・・。」 荻上は、知らず知らずのうちに大きな存在になっていたこの空間に気付く。 斑目達がいなくなって、人がいないことが多くなった。 大野は一番いるが、時間があるときは上野へ行ってしまう。 咲はお店のことで大変なようで、たまにしか来なくなった。 高坂はゲーム会社に缶詰で顔すら見ていない。 笹原は、就職活動で大変そうだ。 「みんな忙しそうだあ。しょうがないよな・・・。」 荻上にとって、ここは唯一の人との接点だ。 性格もあって普通の人にも、あれな人の中にも友達はいない。 荻上に関わってくる人がいるのはここだけなのだ。 いつの間にか、迷惑と思ってた彼らの言動を、求めていた自分がいた。 ポタ、ポタ。 描いていたキャラクターがぼやける。 「あれ?なんで・・・・。」 寂しさのためだろうか、自分が情けなくなってきたのだろうか。 本人にもわからないのだろうけど、泣いていた。 「うぇ・・・。ヒック、ヒック。ええぇぇ・・・・。」 止め処がなくなってきて、堪え切れなくて声を上げて泣いた。 五分ぐらいたっただろうか。少し収まってきた。 「・・・・弱いまんまだ。あの頃となあんも変わってねえ。」 中学時代のいやな思い出。一人で強くなろうと上京した日。 自分を変えようと頑張ってきたはずなのに。 「・・・こんなんじゃあ、駄目だぁ。一人でも生きてけるようにしなきゃあ・・・。」 きっ、といつもの表情に戻って心を立て直そうとする。 「・・・そろそろ帰んべぇ・・・。」 その時。 ガチャ。 扉の開く音にはっとする。 「あ、荻上さんだったのか。」 笹原だ。いつのも柔らかな笑顔をたたえてはいるが、疲れは隠せない。 スーツの上着を脱いで、ふらふらと入ってきて座る。 「せ、先輩!どうしたんですか。」 荻上はさっきまで泣いてたことを悟られないかと、ひやひやしている。 「いやー、明日二次面接なんだけどね。時間が出来たから少しよろうかと。」 「そうなんですか。」 なるべく平静を装って。さっきまでのことがばれないように話す荻上。 「まあ、大学でのすべてはここだったからね。願掛けみたいなものかな?」 「それにしては今までは不発だったようですけど・・・。」 「あはは、そうね・・・。」 乾いた笑いをする笹原。しまった。そう思う荻上。 いま必死にやってる人に言ってはいけない事を言ってしまった。 「す、すいません、無神経なこといってしまって・・・・。」 「ん、ああ、いいよ。事実だし。」 少しの沈黙。 「・・・今度も同じ業種ですか?」 「んー、まあ、似たようなものかな。結果が出たら教えるよ。」 「はい。でも、まだあるんですね、募集。」 「うん、なんか新聞に載っててね。まあ、受けてみようかと。」 「そうですか・・・。頑張ってください。」 「うん。」 笑顔で応援に答える笹原。 先輩、頑張ってるんだな。そう思って、少し励まされた気分になった。 「それにしても早い三年半だったなあ。」 笹原はんーっと背伸びをしてぼんやりと回りを見渡す。 「こんなサークル入るなんて思ってなかったしなあ。」 「そうなんですか?はじめからこういうところ入ろうと思ってたんじゃないんですか?」 荻上にとって意外だった。 笹原は他の先輩達に比べるとめちゃくちゃ濃いわけではないが立派なオタクだ。 「入ろうとは思ってたけど、俺隠れオタだったしねえ。」 「え?隠れオタですか?」 「そうそう、高校の頃は自分隠してて本当の友達なんて出来なかったし。」 「え・・・・?」 「俺大学デビューっていうのかな?ここ入るきっかけですらドッキリだったからねえ。」 「毎年恒例って言う・・・。」 「あれで自分が興味があること看破されなかったら今も同じだったかもね。」 (あ、そうか、だから先輩は私に優しいんだ。) 荻上が自分と似た境遇であることを気付いていた笹原。 この難儀な後輩のことを常に気遣っていたのである。 「いやー、一回覚悟決めると後はまあ、知ってのとおり。堕ちるところまでって感じ。」 笹原はあはは、と笑う。 「でも後悔はしてないよ。この大学生活が終わることが寂しくてたまらないんだ。」 就職で必死になっている間に思い出していた今までの生活。 笹原はぼんやりと周りを見渡す。 「本当、色々ありました。」 笑みを浮かべ、懐かしむようにつぶやく。 そのまま、机に突っ伏して、顔を組んだ腕の中にうずめる。 「先輩・・・・?」 すー。すー。 そのまま寝入ってしまったらしい。 「疲れてるんだなあ。」 泣き止んだ頃に帰ろうかと思っていた荻上は、 「先輩をほっといて帰るわけにも行かないし・・・。 いや、そうじゃない。きっと私はここにいたいんだ・・・。」 先輩がいっしょにいる空間。 もう、そう長くあるわけではないこの空間にいられるから。 (寝ててもいい。少しでもいっしょに・・・) (やっぱ私は弱いのかな?でも、それでも・・・。) (少し疲れちゃったなあ・・・。) そう思うと荻上も机に突っ伏して、いっしょに寝入ってしまった。 「・・・うえさん、荻上さん。」 声をかけれられて目を覚ますと、笹原が微笑みながら起こしてくれていた。 「・・・はっ、すいません。私寝入っちゃったみたいで・・・。」 「いやいや、お互い様だよ。俺が先に寝ちゃったからねえ。」 あはは、といつもの笑い方をする。 「あ、もうこんな時間。先輩、帰らなくてよかったんですか?」 「ああ、別に明日まではどこにいても。荻上さんが起きたら帰ろうかなって思ってたけど。」 「す、すいません・・・。」 「だからいいって。・・・・いいもの見れたしね。」 「え?」 「いや、いや、なんでもないよ・・・。あはは・・・。」 (いえないよなあ・・・。寝顔を見てたなんて・・・。) 「そうですか・・・。じゃ、帰りましょうか。」 「うん、そうしよっか。」 荻上は手早く荷物をまとめると、すくっと立ち上がる。 笹原も荷物を持つ。 「あ、荻上さん。」 「なんですか?」 「なにかあったら相談してね。頼りない先輩かもしれないけど、話聞く位なら出来るから。」 「え・・・。なんで、急にそんな事言うんですか。」 「いや、大したことじゃないんだけどね・・・。最近、これないからさ。なにかあっても、わからないし。」 「・・・・大丈夫ですよ、私そんなに弱くないですから。」 「そっか。ならいんだけどね。あはは。」 つっけんどんな荻上の答えに、いつものように、笹原は笑う。 (先輩、泣いてたの気付いてた?・・・でも、突っ込んで聞いてこないなあ・・・。) それが彼の優しさである事にとうに気付いている。 「・・・でも、一人で手に負えないときは・・・お願いします・・・。」 「ん?ああ、まかせてよ。頼りにならないかもしれないけど。」 「いえ・・・、そんな事ないですよ・・・。」 (きっとそう。私が困っているときに一番頼りにするのはこの人なんだろうなあ。) (誰よりも、この人に会いたかったのかな、私は・・・。) 自分の中で新しい感情が目覚めていることにはとうに気付いていた。 (先輩が就職が決まったら・・・。この想い、いってみるのもいいかな・・・?) 今はきっと言っちゃいけないから。 (でも先輩、就職決まるんだべかぁ?) 「荻上さん?」 「え、あ、はい!」 「なにか考え事?」 少し笑って、訊ねてくる笹原。 「い、いえ、なんでもありません。就活、頑張ってくださいね。」 荻上は考えを読まれてしまった気がして、真っ赤になってうつむいて答える。 「うん、そうだね。頑張るよ。いろいろ、あるしね。」 「いろいろ?」 「あ、あ、なんでもないよ。さあ、帰ろうか。」 笹原はあわてて扉のほうに向かう。 (いろいろ・・・?考えても仕方ないか・・・。) 荻上も後ろについていく。 ガチャ。 バタン。 帰り道にて。 「そういえば、今日は他に誰も来なかったねえ。」 「そうですね。大野先輩は午前のみだからきっと上野だし。」 「春日部さんと高坂君も忙しそうだしねえ。・・・・朽木君は?」 「あ!」(わすれてたあ・・・。)
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花中島マサル(セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん) 数々の名言で知られる作品の主人公。アニメのOPも必聴。 主役らしくセクシーLv6~9と高めから最大まで成長するほか、 チャームポイントで初手からセクシーコマンドー使用可能、 弱点である前フリ技の不発でも心眼により強引に当てられる、 挑発で無理やり射程内に呼び寄せることもできるなど、 セクシーメイトとして一流の能力を持つ。 他にも耐久が少し高めで抵抗力Lv1もありエリーゼ不発時も少し安心で、 Lv1脱力という特徴もありフォルダ内ではかなり使いやすい。 なお、超回避Lv1も持つが、手動で素の回避は低めなので忘れていい。 可能なら特殊効果発生率の補強が第一だがめったに存在しないため、 普通はセクシーコマンドー使用回数確保のためEN強化か、 不発時の安定性補強のために耐久強化が選択肢になる。 セクシーコマンドー(セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん) 作品タイトルにもなっている格闘技の総称。 達人であろうと隙を突くことで倒せるという理念のもと、 隙を作りだすことに特化している。 詳しくは原作を読もう。 データでは『エリーゼのゆううつ(以下エリーゼ)』からの追加攻撃で 『セクシーコマンドー(以下コマンドー)』が発動するようになっている。 (※一部例外あり) 特徴が複数あり、箇条書きにすると 『セクシーコマンドー全体』 エリーゼ(&放課後キャンパス)からの追加攻撃でコマンドーが発動する。 『エリーゼのゆううつ』 射程1。気力105。 先SL0精視属性。 CT+15 & セクシーLv×2%増加。 『セクシーコマンドー』 エリーゼから自動発動する追加攻撃。 射程1。EN30。気力105。 命中-99(エリーゼのSL0発動が命中の条件になる) 基礎火力1500+KL0+オR(セクシーLv×50上昇)。 つまり、コマンドーの火力はほどほどに高く使い勝手も良いが、 必中がない限りコマンドーの命中はエリーゼのクリティカル頼りになり、 安定感に欠ける、ということになる。 また、射程1なので射撃中心の相手には防戦一方になるのと、 EN30と比較的大きく連射に不向きなのが弱点。 肝心のSL0発動率だが、主役のマサルさんが技量166、最大セクシーLv9なので、 技量130ザコ=81%、技量150汎用=41%と雑魚にもあまり安定しないが、 技量200ボス=16%と大物にもワンチャン狙えるようになっている。 下手をすれば雑魚にも苦戦するが、上手くすればボスも無傷で倒せると、 ある意味で非常にらしい性能をしている。
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26人いる!その2 【投稿日 2006/11/12】 ・・・いる!シリーズ 有吉「僕が編集でいいかな?」 豪田「自分がメインで描きたくないの?」 有吉「何と言っても時間が無いから効率最優先にすべきだと思うし、サークル参加なんだからみんなの総力で本作りたいんだ」 豪田「まあ確かに、同人誌って本来そういうもんだし」 有吉「それに女性向けで18禁なら、やっぱり妄想力こそが作品を作る原動力だよ。僕が理屈で話書いてもいいんだけど、それじゃ妄想力半減でしょ?」 豪田「そうねえ…みんなもそれでいい?」 一同「さんせーい」 有吉「まずプロットは台場さん。みんなの中で、1番ヤオイ関係の知識と経験と情報量は豊富みたいだからね」 台場「問題は組み合わせだけね。キョンが攻めか古泉が攻めかの二者択一かあ…」 「リバ可や!」 突如大声の関西弁が轟く。 漫研会員であり、サークル「やぶへび」主催者の藪崎さんが乱入してきたのだ。 荻上「ヤブ!」 藪崎「まいどオギー!話は外で大体聞いたで!そういう場合はなあ、前半キョン×古泉にして後半古泉×キョンにしたら全て丸く収まるし、1冊で2度おいしいやろ!」 一同「なるほど…」 台場「ありがとうございます、藪崎先輩!それで行きます!」 荻上「ありがと、ヤブ。でも何時から聞いてたの?」 藪崎「もう30分ぐらい前からずっとや」 台場「そんな長いこと立ち聞きしてたんですか?」 藪崎「アホ、こっちかて忙しいから、はよ入りたかったわ。そやけど部室の前で何かゴム塗ってた子に、延々と怪獣の縫いぐるみの話聞かされとったんや」 「着ぐるみです!」 突如ドアを開け、国松はそのひと言だけ言ってまたドアを閉めた。 藪崎「なっ、あの調子やから、なかなか話終わらへんかったんや。そんであの子の言うこと聞き流しとったら、自然に部室の中の話が聞こえてきたと、まあそんな訳や」 その後藪崎さんは、ハルヒ以外の作品についてもカップリングについて延々と1年生たちと議論した末に、本来の目的であった荻上会長所蔵のイラスト集を借りて部室を後にした。 有吉「それで割り当ての続きだけど、シナリオやネームは沢田さん」 豪田「確かに台詞回しは彩が1番上手いもんね」 有吉「で、コマ割りと絵コンテは豪田さん」 台場「確かに小学生の時から漫画描いてる、蛇衣子のコマ割りセンスは1番いいわね」 有吉「で、原画は巴さん、神田さんと僕はペン入れから仕上げまで、これを基本に各工程で残りみんながメインの人の仕事を手伝う、こんな感じでいいかな? 巴「あの、私が原画でいいの?私はどっちかと言えば、汗や筋肉ばっか過剰に描く方なんだけど」 有吉「そういうスポ根系の絵の方が、キョンと古泉には案外似合う気がするんだ。何と言っても短気な熱血漢とクールな優男って、スポ根系ヤオイの基本だから」 台場「いいんじゃない?マッチョな美少年も」 神田「私もそういう絵描いてみたいから賛成!」 巴「分かった、やるわ」 豪田「決まりね」 沢田「あの、私それもやるけど、それと別にハルヒのSS書きたいんだけど、どうかな?」 台場「いいわね、それ。みんな、どう?」 一同「さんせーい!」 そこへ伊藤が入って来た。 伊藤「こんちニャー。ハルヒのSSなら僕も書きたいですニャー!」 高校の時は文芸部で、脚本家志望の伊藤だが、SSも数多く書いている。 ただこの男、シナリオでは説明的な台詞やナレーションが過剰になりがちな傾向があった。その結果字数が規定オーバーしてしまい、コンクール用の原稿を〆切までに書けずに挫折した経験が数多くあった。 ちなみに伊藤はそういう原稿を書き直して、ラノベとして完成させて別のコンクールに応募していた。 そんな安直な作りにも拘らず、あるコンクールで佳作をもらったことがあるそうだから、話そのものは面白いものを書けるみたいだ。 以前にそういう話を聞いていた台場は、やんわりと釘を刺した。 「あんまり長いのはダメよ。印刷代高くなっちゃうから」 伊藤「かしこまりましたニャー。それにしてもリバ可で2度おいしいとは、なかなか考えましたニャー」 荻上「伊藤君、あなた何時から聞いてたの?」 伊藤「多分30分ぐらい前からですニャー」 豪田「そんな長いこと立ち聞きしてたの?」 伊藤「そんな人聞きの悪い、国松さんに捕まって着ぐるみの話を…(以下略)」 荻上「あれ完成するまでは、当分あの子部室の門番状態ね」 こうして今回の夏コミ出品作品は、全部で20ページほどになるヤオイ漫画1本とSS2本の同人誌となった。 しかも希望者にはコピー本3冊(執筆は豪田、台場、神田)を特別付録に付ける豪華版だ。 ちなみに絵のメインである巴、SSも書く沢田、それに編集を兼ねる有吉は今回はメインの同人誌1本に絞った。 笹原「それにしても田中さん、今回はいっぱい作りましたね」 田中「さすがにしんどかったけど、国松さんと日垣君が頑張ってくれたからね」 笹原「そう言えば、田中さん以外の人がコス作るのって初めてですね」 田中「去年はそこまで考える余裕無かったけど、今年は1年生11人もいるから、本格的にコス作りのスキルを現視研に残して行こうと思ったんだ。俺も来年卒業だからな」 笹原「そりゃいいですね」 田中「とりあえず着付けや採寸の問題もあるから男女1人ずつ欲しいと思って、絵描き属性の無い国松さんと、1番器用そうな日垣君に仕込むことにしたんだ」 笹原『(日垣をチラリと見て)そう言えば日垣君、俺が来てから挨拶した以外ひと言も喋らずに、ずっとミシン動かしてるな』 田中「国松さんは造形はまだ甘いけど、とにかく熱心だよ。日垣君は彼女に比べりゃ消極的だけど、真面目だし何と言っても器用だ。2人とも将来が楽しみな逸材だよ」 大野「もっとも、絶望先生の方のセーラー服と、ハルヒの方のブレザーは有り物の流用ですけどね」 田中「そう、セーラー服は豪田さんの高校の制服、ブレザーは伊藤君と有吉君の高校の制服を借りてきて、後で直せるようにちょっとだけ手を加えたんだ」 笹原「やっぱりさすがに、この数作るのは無理ですか」 田中「作れないことは無かったよ。たださあ、台場さんと国松さんに怒られたんだよ」 笹原「怒られた?」 田中「今台場さん、うちの会計やってるんだけどさ、過去4年間の会計状況と今回の予算の見積もり見た彼女に、予算使い過ぎだって大野さんと2人揃って散々説教されたんだ」 荻上「台場さんは簿記の他に珠算でも級持ってるから、凄くお金には細かいんです」 笹原「国松さんは何で?」 大野「ある意味彼女の方が、台場さんより予算の問題にはシビアなんです」 田中「特撮の世界では、着ぐるみや特撮シーンの使い回しは日常茶飯事だからね。バラゴンの進化論を引用して、延々説教されたよ」 笹原「バラゴン?」 バラゴンとは、東宝の特撮怪獣映画「フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン」に登場する怪獣だ。 この怪獣の着ぐるみは、その後テレビ特撮番組「ウルトラQ」のパゴスに改造された。 さらに後番組「ウルトラマン」のネロンガ、マグラ、ガボラと改造され続け、さらにアトラクション用のネロンガに改造された後に東宝に返却された。 そしてオールスター怪獣映画「怪獣総進撃」で再びバラゴンに戻された。 笹原「えらくマニアックな説教ですね」 田中「とは言っても、本人は本来なら作る気満々なのに、敢えて苦渋の選択をした訳だから、こちらも文句は言えんさ」 笹原「国松さん、普通のコスの方も作ってたんですか?」 田中「最初は普通のコスも一緒に作ってたんだ。もっとも着ぐるみが予想以上に手間だったんで、今は殆ど着ぐるみオンリーだけど」 笹原「もう1着のアルの方は、もう出来たんですか?」 田中「俺の部屋にあるよ。基本的な設計と本体制作は国松さんが済ませたから、後は俺が外側の装飾をやるだけさ」 笹原「田中さんが仕上げるんですか?」 田中「ああ、外側はプラ板だから、等身大のアクションフィギュアみたいなもんだ。ほんとはそっちも彼女が最後までやりたかったんだけど、予想以上にベムが手間だったからな」 その時、日垣が声を上げた。 「田中先輩、出来ました!」 田中「お疲れさん。これで着ぐるみ系以外はほぼ揃ったな。」 日垣「国松さんの方、様子見てきます」 部室を出る日垣。 荻上「あの2人も、熱心さでは同人誌組に負けてないわね」 そんな様子を見ていた荻上会長、次期会長問題について少し考えた。 『国松さんも思ったよりしっかりしてるし、あの子と日垣君をそれぞれ女子と男子のリーダーにして、2人会長体制ってのも有りかも知れないわね』 その夜、荻上会長宅に笹原が訪れた。 メンヘル気味のB先生は今日は何故か機嫌が良く、原稿も順調に仕上がっていた。 この調子なら、B先生も世間一般よりは短いが盆休みが満喫出来そうだ。 それで思いがけず時間が出来たので、荻上会長に連絡して会ったのだった。 笹原は改めてA先生からの依頼について詳しく話した。 荻上「それじゃあ笹原さん、純粋に夏コミ楽しむって訳には行かないんですね」 笹原「そりゃ仕方ないさ。こういう仕事だからね」 荻上「まあ私も似たようなもんだから、いいですけどね」 笹原「えっ?」 荻上会長は、「月刊デイアフター」で秋から連載開始する予定の原稿を、絵コンテの段階まで仕上げて編集部からOKをもらっていた。 あとは本格的に仕上げるだけの状態だった。 タイトルは「あきばけん」と付けた。 ちなみに内容は前作「傷つけた人々へ」の主人公(つまり彼女自身)の後日談、つまり「げんしけん」荻上編そのまんまだった。 これは後の話になるが、おかげで荻上会長は第1回の原稿を〆切までにかなりの余裕を持って入稿出来た。 後日時間的に余裕が出来たので、現視研同人誌の原稿も仕上げは手伝ったほどだった。 荻上「まあ私にとっても、今度の夏コミは次の原稿の為の取材も兼ねてる状態です。ネタ探ししながら参加する点では笹原さんと一緒ですよ」 笹原「お互い大変だね」 その夜、笹原は荻上宅に泊まった。 寝る前にふと思い出したことを尋ねた。 笹原「ねえ荻上さん、今日あれから斑目さんって部室に戻って来たの?」 荻上「…そう言えば、戻って来なかったですね」 笹原「斑目さん役に入り過ぎ!大丈夫か、あの人?」 こうして前日までに全てのコスは完成した。 同人誌の原稿も納期に間に合った。 わざと徹底的にありがちなシチュエーションでシンプルにまとめた台場のプロットに基づいて、沢田が凝りに凝った妖しい台詞の応酬のネームを書き上げた。 それを豪田がまた凝りに凝ったコマ割り構成でコンテを描き、巴が剛腕で劇画のごとく筋肉質で汗まみれの裸体(バキの格闘シーンの寝技展開を想像してもらえれば、雰囲気を理解してもらえると思う)を描く。 そしてそれを神田と有吉の、長年鍛え抜いた職人芸で仕上げる。 仕上げは荻上会長や他のみんなも手伝ったので、ページによって多少仕上がりのタッチにバラつきがあるのが難点だが、逆にそれがいかにも同人誌という趣を醸し出した。 同人誌に掲載するSSも〆切に間に合った。 沢田の書いた話は、男体化した長門とキョンという変則ヤオイ話だ。 長門の上司(と言うのか?)の情報統合思念体が何故かヤオイに興味を持ち、具体的なデータが欲しいからと長門に指示した為という、少し不思議系のSFとして仕上がっていた。 一方伊藤の書いたのは同人誌の定番、人格入れ替わりものだった。 長門が情報統合思念体の命令で宇宙に一時帰還し、その隙に世界のバランスが崩壊。 その影響でキョンとハルヒ、みくると古泉の人格が入れ替わる。 肉体がキョンと化したハルヒは、いい機会だからとヤオイを体験してみようと、肉体が古泉と化したみくるに迫る。 必死で止めようとする肉体がハルヒと化したキョンに対し、それなら我々も百合をやってみようと、肉体がみくると化した古泉が迫る。 そして各々がいよいよことに及ぼうとしたその時、地球に戻った長門が世界のバランスを修正、全員人格が元に戻る。 必死で逃れようとするキョンとみくるに対し、「これはこれでなかなか」とそのまま続行しようと迫る古泉とハルヒというハチャメチャな図で物語は終わる。 コピー本も仕上がった。 各自の題材だが、豪田は元々王子様や貴族フェチなので、その流れを汲むセレブ系ということで「桜蘭高校ホスト部」にした。 台場はヤオイの基本はやっぱりジャンプ系ということで、「NARUTO」にした。 そして神田は「ガンダムSEED」だった。 あくまでも種ガンダムであり、種死ではない。 さすがのアスラン好きの神田でも、種死ばかりは黒歴史と認識していた。 これで物的な準備は整った。 だが荻上会長には、もうひとつの懸案事項があった。 それは集合時間だ。 斑目が会長をやっていた頃までは、最終電車で都内に出て漫画喫茶で始発を待つというパターンが多かった。 ただこの数年、この風習は廃れつつあった。 女子会員の方が多くなり、男子ほどの強い執着は無い上に、体力的にあまり長時間並ぶのも問題があるということで、次第に始発には拘らなくなっていったからだ。 だが今年の会員たちは違った。 11人中コミフェス参加経験者は、神田(赤ん坊の時から両親に連れて来られている上に、売る方でも小学生から参加)、有吉(高校時代から年齢を偽って18禁男性向け同人誌を出品)、豪田(買う方のみだが小学生から参加)、台場(中学から出品している)の4人だ。 この4人はさほどでもないが、あとの7人のテンションは高かった。 はっきり言って、初参加で完全に舞い上がり、祭状態だった。 彼らは本当は、前日からビッグサイト前で泊り込んで並ぶ、いわゆる密航系のイベントを望んでいた。 だが初心者の彼らは、師父斑目の教えに従って(そしてそれを忠実に守っている荻上会長の指示により)それはするまいと決めていた。 ならばせめて最終電車で都心部に出て、どこかで集まって始発を待って朝一番で出動、そういう形での参加を求めていた。 だが男衆の多かった斑目たちの頃と違い、今は女の子の方が多い。 忘れがちだが彼女たち1年生は、ついこの間まで高校生だった、法的には未成年なのだ。 それを深夜、それも夏休み中の都心部という著しく治安の悪い地域に送り込むことに、荻上会長は難色を示した。 と言うのも、古臭い考え方かも知れないが、彼女は1年生の女の子たちについて「嫁入り前の娘さんを親御さんから預かっている」という意識が強かったからだ。 結局いろいろ議論の末に決まったのは、次のような方法だった。 まず前日までに、コス関係やコピー本などの大荷物を全部、上野の田中宅に運び込む。 そして前日の夜に各自上野まで来て、田中宅に程近いカラオケボックスに集合、ここで始発の時間まで夜を明かすのだ。 何しろ当日の参加者は、前日に来日しているスー&アンジェラと、OBの田中と笹原を含めて19人もいる。 この人数では漫画喫茶やファミレスでは手狭だ。 カラオケボックスなら、ふた部屋取れば何とか全員納まる。 あとは始発の少し前に男子会員たちと田中が田中宅の荷物を取りに行き、再び合流してから始発で全員出動という流れだ。 今回異様に多いコスを円滑に運び、なおかつ1年生たちのお祭気分を暴走し過ぎない程度に満喫させる為には、この方法が最良と思えた。 (田中にかける負担が大きいのが難点ではあるが) そろそろ世間では盆休みに入りかけた8月10日の日の落ちかけた頃、現視研の一行は各自上野へと向かった。 最初に集合場所に来たのは荻上会長だった。 同人誌制作(ちょっと手伝ったが)もコス制作も殆ど1年生たちに任せ、オブザーバーとして見守っていた荻上会長は、気が付くと当日1番フリーに近い立場になった。 それならせめて場所取りぐらいはしておくかと、まだ日が落ちる前に早々に出かけたのだ。 あまり早く場所を取り過ぎるのも場所代がかかり過ぎるが、夏休み中なので早目の時間に取っておくに越したことはない。 狙い通りに大広間が取れた。 店員に指定された部屋に入ってみると、かなり広い。 これなら1室に全員集まっても、十分に余裕はありそうだ。 とりあえず会員たちに連絡する。 集まり出すのが日が落ちてからということを考慮して、数人ずつのグループでこちらに向かうように会員たちに指示してあるので連絡件数自体は少なく、ほんの十数分で終える。 これからは会員たちが集まるまでの間、3日間のスケジュールの最終的な点検と、カタログのチェックに費やす予定だ。 「な~く~した~約束はほ~しに~♪」 隣の部屋のカラオケの音が聞こえてきた。 「ハチクロかあ…」 やや調子っ外れだが、声質や舌っ足らずな感じは似ている。 その後も隣の部屋のカラオケは時折聞こえてきたが、殆どがアニソン系の曲だった。 「まあ今日は、私らとおんなし目的で集まってる人もいるのかもなあ…」 やがて待ち合わせ場所に、会員たちは次第に集合し始めた。 最初に来たのは、部室に残った最後の大荷物を持って一緒にやって来た、田中・クッチー・国松・日垣だった。 でも田中と日垣はまたすぐ出て行く。 大野さんと、彼女のところに泊まっているアンジェラ&スーを迎えに行くのだ。 当初田中1人で行こうとしたが、荻上会長が日垣にも付いていくように指示したのだ。 荻上「もし何かあった時に、女性3人を田中さん1人で守るのはキツイですから」 朽木「あの荻チン、そういう理由なら僕チンが行こうか?」 荻上「朽木先輩じゃ相手の被害が大き過ぎて、逆の意味でヤバイからダメです」 その後は次のような順に集まっていく。 腐女子四天王の豪田・台場・沢田・巴。 (人数が多いし、豪田と巴が並みの男より強いので、女の子だけにも関わらず許可した) 伊藤・有吉コンビ。 都心に遊びに来てて、そのままやって来た恵子。 休み前の仕事を終えて、そのままこちらに来た笹原。 そして浅田・岸野コンビプラス神田という珍しい取り合わせだ。 神田は現視研のとは別口のコピー本をギリギリまで作っていて、今日の夕方までかかったのだ。 神田からその旨を聞いた荻上会長は、岸野と浅田に集合場所まで同行するように指示した。 日が落ちてから女の子1人で行動するのは危険と判断したのだ。 それにコピー本を運ぶ人手を確保する意味もあった。 残るは大野さんと、彼女の部屋に昨日から泊まっているアンジェラ&スー、それに3人を迎えに行った田中と日垣だけだった。 とりあえず一同は恵子が来た頃ぐらいから、自然発生的にアニソンカラオケ大会を始めた。 荻上会長はトイレに立った。 隣の部屋から、先程までの舌っ足らずなアニソンと打って変わって、地獄の底から響くようなハスキーな歌声が聞こえてきた。 「花よ綺麗と~おだてられ~咲いて見せれば~すぐ散らされる~馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な女の~怨み~ぶ~し~♪」 梶芽衣子の代表作である映画「女囚701号さそり」の主題歌、「怨み節」である。 最近は映画「キル・ビル」のエンディングにも使われたので、若い人にも聞き覚えがある人は多いかも知れない。 実は荻上会長は「女囚701号さそり」を見たことがあった。 中学での例の一件の後の自殺未遂騒動の後、彼女は怪我が癒えてからも学校を休み、自室に引きこもっていた時期があった。 その頃彼女は、1日中テレビを見ていることが多かった。 実家はケーブルテレビの契約をしていたので、昔のアニメやドラマや映画をたくさん見た。 その中のひとつに「女囚701号さそり」があったのだ。 エロとバイオレンス満載の女囚映画は、ある意味単なるポルノ映画以上に男性専用のジャンルだ。 だが冒頭の東映マークと同時に流れた「君が代」に気を取られ(戦争映画か何かだと思って、そのまま見てた)、気が付いたら最後まで見てしまったのだ。 (ちなみに冒頭のシーンは、刑務所の所長が上から表彰されたことを朝礼で報告するに当たって、劇中で本当に吹奏楽団が演奏していた) 決して女子中学生にとって面白い内容では無いが、映像や音楽や台詞のひとつひとつが妙に記憶に残り、ある意味トラウマのようになっていた。 「でも確かあの映画って、30年ぐらい前の作品だよな。今時誰があんな歌歌ってるんだ?」 チラリとドアの窓から部屋の中を見る。 歌っていたのは、スラリとした長身の長い黒髪の女性だった。 長い髪の為に横顔は隠され、顔までは見えなかった。 「さそり」のヒロインの梶芽衣子のように、黒のマキシのスカートに黒いシャツ、そして部屋の中なのに黒いアコーハット(極端につばの広い帽子)を被っているという、明らかに「さそり」を意識した服装だ。 若いオタクにとっては、赤屍蔵人が下半身ロングスカートにして女装したような感じ、と言えば想像しやすいかも知れない。 とても先程までアニソン歌ってた女の子(今歌ってる女性と同年代とは思えなかった)の連れとは思えなかった。 「まあ多分、もうお客さん入れ替わってるんだろうな。私が来てからだいぶん時間経ってるし」 一方現視研の大部屋からは、隣の部屋の「怨み節」と正反対の、国松の「ウルトラマンメビウス」のこれ以上ないポジティブな歌声が響いていた。 「悲しみなんか無い世界、夢をあき~ら~めたくない、ど~んな涙も~必ずか~わく~♪」 そのコントラストが何となくおかしくて、笑みを浮かべつつ荻上会長はトイレに向かった。 「き~みのってっで~、き~りさっいって~♪」 トイレから戻り現視研の大部屋に戻る直前、今度は隣の部屋から「ハガレン」の主題歌が聞こえてきた。 先ほどまでの舌っ足らずな女性の声とも、地の底から響くような女性の声とも、また違う女性の声だ。 上手いが、思い切りこぶしが効いている。 「何か演歌みてえな『メリッサ』だなあ」 再び隣の部屋をのぞいてしまう荻上会長。 思わずこけそうになった。 歌っていたのは藪崎さんだった。 「あら荻上さん」 不意に、本当に不意に背後から声がかかった。 「ひへっ?」 驚いて振り返ると、そこには漫研の加藤さんが立っていた。 先程「怨み節」を歌っていた女性と同じ服装だ。 映画のラスト間際、自分を罠にはめた刑事に復讐しに行く時の梶芽衣子に似た格好だ。 それが印象に残り過ぎて、トラウマと化している荻上会長は戦慄した。 荻上「こっ、こんばんわ…加藤さん、なしてここに?」 加藤「こんばんわ。あなた方と同じよ。ここで始発まで夜明かし。そちらもかなり賑やかにやってるようね」 ちょうどその時、現視研の大部屋では「クックロビン音頭」をクッチーが熱唱し、みんなも手拍子しつつ一緒に歌っていた。 荻上「(赤面し)朝まで体力温存しとけって言ったんすけど、みんなはしゃいじゃって…」 加藤「年に2回のお祭りなんだから、しょうがないわよ。ちょっとうちの部屋に寄ってかない?」 荻上「えっ、いいんすか?だって漫研の人…」 表面上現視研と漫研は和解したものの、漫研女子の中に荻上会長を快く思ってない者も少なからず居た。 荻上会長が憂慮したのは、「やぶへび」の3人以外の漫研のメンバーの反応だった。 加藤「大丈夫よ。今日集まってるのは『やぶへび』の3人だけよ」 荻上「『つー事は、やっぱりさっきの怨み節が加藤さんで、舌っ足らずな方はニャー子(仮名)さん?』今年漫研って、もちろん夏コミにもサークル参加しますよね?加藤さんたちは?」 加藤「今年は『やぶへび』の方1本でやるわ。藪に漫研の原稿描かせたら、また誰も描かない。今の漫研の悪循環断つ為には、藪を別口で参加させて、残りの面子で本作らせるのが1番の荒療治だと判断したのよ」 荻上「それってもしかして…」 加藤「あなたが責任を感じることは無いわ。むしろきっかけを作ってくれて感謝したいぐらいよ。いずれこういう形で、私たちは漫研内独立部隊として動く積りだったから」 荻上「独立部隊?」 加藤「腐女子として賛同できる相手ならば、現視研はもちろんあらゆるオタクと公正に交流し活動する。そういう漫研内治外法権的サークルなのよ、『やぶへび』は」 荻上「まるで公安9課ですね」 そう言う荻上会長は、現視研が文化サークルの第2小隊と呼ばれてることを知らなかった。 その後荻上会長は、加藤さんにやぶへび部屋へと連れ込まれ、「いなかっぺ大将」「紅三四郎」などド演歌系のアニソンを数曲、藪崎さんとデュオで熱唱する破目になった。 どんな歌でも演歌調で歌う藪崎さんと、何故か演歌だと抜群の歌唱力を発揮する荻上会長のデュオということで、自然にそういう選曲になったのだ。 荻上「ヤブんとこも1日目だっけ、同人誌売るの?」 藪崎「せや、今回は『ハガレン』で行くで」 荻上「前『ハチクロ』って言ってなかった?」 藪崎「こないだ『ハガレン』見直しとったら、ヒューズもええメガネやて気付いてなあ、ギリギリで変えたんや」 荻上「ヒューズさんって、愛妻家で親バカで世話好きで男気あって、あんましヤブの好みとは違うと思ってたけど」 藪崎「いいや、ヒューズはことマスタングに対してだけは、とことん尽くすメガネや」 荻上「そう言われてみれば、そうかも知れないけど…」 藪崎「彼の言動は一見攻め的やけど、攻撃こそ最大の防御ちゅう言葉もある。ヒューズはオフェンシブなタイプの受けや。私はそこに惚れてロイ×マーズ本にしたんや」 荻上「『ハガレン』と言えば、うち2日目に『ハガレン』のコスやるんだけど」 藪崎「ほんまかいな?オギーもやるの?」 荻上「エドやる」 藪崎「まあその背丈やったらちょうどええなあ(笑)」 荻上「誰が顕微鏡でないと見えないミジンコドチビか~~~!!!」 ニャー子「やる気満々ですニャ~」 荻上「(赤面)おっ、大野さんに頼み込まれたから、仕方なくやるだけです…」 藪崎「それよりロイとマーズは居るんか?」 荻上「マスタング大佐が笹原さんで、ヒューズ中佐が斑目さん」 藪崎「斑目っちゅうたら、前に言うてたオギーが今の彼氏とカップリングしてもた先輩かいな。マーズやるんやったら、やっぱ総受けのええメガネやろな」 藪崎さんは斑目と面識が無かった。 1年生の時は、漫研女子と現視研が最悪の関係にあったので、殆ど接点が無かった。 2年生以降は、斑目が卒業したのでこれまた接点が無かった。 ちなみに藪崎さんは笹斑の1件について荻上会長から聞いていたが、さすがに絵の現物は見せてもらってなかった。 最大出力で赤面する荻上会長。 加藤「まあまあ。身近な男性でカップリングして、その1人と添い遂げるなんて、腐女子の本懐じゃない。荻上さん、もっと胸張りなさい」 荻上「そっ、そっすか?(藪崎さんに)エッヘン」 藪崎「勝ったと思うな!」 ニャー子「見事にオチましたニャー」 大野さんたちバイリンガルトリオと、迎えに行ってた田中と日垣が到着したのは、宴もたけなわ、沢田&豪田&神田という異色トリオが、ちょうど「ハレ晴レユカイ」(しかも振り付け有りで、意外と上手い)を歌い終わりかけた時だった。 (しかも曲の終盤では、左右を浅田と岸野のぎこちない踊りのフォロー付き) 一瞬一同に緊張が走る。 各自外人さんの新入会員を迎撃、もとい歓迎すべく英会話の勉強をしていたものの、皆あまり自信は無いからだ。 笑顔を浮かべるアンジェラの背中におぶさって、スーは眠っていた。 ソファの空いたスペースに、アンジェラはスーを座らせた。 浅田「うわーすげー巨乳」 岸野「しかも美人だし」 有吉「ちっこい方の子も可愛い…」 豪田「本当、お人形さんみたい」 沢田「凄い髪長い…」 国松「何かいろいろ着替えさせたくなりますね」 大野「じゃあみんな改めて紹介します。今ちょっと疲れて眠っている子がスザンナ・ホプキンス。スーとかスージーとか呼んで下さい。で、おぶって来た子がアンジェラ・バートンです」 アンジェラ「ハーイ、どもみなさん初めまして、わたしアンジェラあるよ。どぞよろしくあるね」 呆然とする一同。 笹原「日本語喋れるようになったの?」 アンジェラ「去年の冬コミの後ぐらいから、猛特訓したあるね」 恵子「何で中国人みたいな喋り方なの?」 アンジェラ「あれっ?わたしの喋り方変あるか?おかしいあるな」 笹原「誰に習ったの?」 アンジェラ「わたしの友だちの日系人に習ったあるよ。その友だちこう言ったあるね。日本語語尾難しいから、慣れるまではとりあえず『ある』付けとけば大丈夫あると…」 大野さんを見る一同。 大野「いやーどーも彼女、中国系の人に一杯食わされたみたいですね」 アンジェラ「まあいいあるよ。意味通じれば問題無いあるね。今日のお客さん、ちょっとやりにくいある」 浅田「何でゼンジー北京なんて知ってる?」 アンジェラは次々と新1年生たちの間を回り、挨拶と共に握手する。 照れる男子会員たち。 一方女子会員たちの反応は様々だ。 小柄で童顔な国松と沢田は、ハグのおまけ付きの挨拶で赤面する。 普通に握手した台場と神田は、にこやかに「ナイストゥーミートゥー」などと返す。 豪田は握手と共に何故か食い入るようにアンジェラに見つめられ、赤面してしまう。 それと対照的に、巴は闘志のこもった目でアンジェラを見つめ、アンジェラも先程までと微妙にニュアンスの違う笑顔を浮かべていた。 アンジェラが大野さんたちの方に戻ると巴が豪田に囁く。 巴「どうしたの?」 豪田「いや何か、凄く妖しい目で見られて、変な気持ちになっちゃった。マリアも何か変だったけど、何かあったの?」 巴「あの子、凄い握力だったのよ。私の7割ぐらいの力の入れ方で、ちょうど釣り合うぐらいだった」 豪田「あんたの7割って言えば…」 巴「普通の人間なら手が痛くなる程度の力はあるわ。それをあの子、笑顔で受けた。ただもんじゃないわね」 その時、眠っているスーが囁く。 スー「ぱとらっしゅ、僕疲レチャッタヨ」 一同「?」 スー「デモ僕幸セナンダ、ダッテるーぺんすノ絵ガ…」 大野「Sue(スー)~~~~~!!!!!!それは死亡フラグ!!」 笹原「何かまた腕上げたんじゃない」 有吉「何すか、腕って?」 アンジェラ「スーはアニメや漫画の台詞の物真似が得意技あるよ」 一同「おー(感嘆)」 目を覚まし、椅子から降りて立つスー。 台場「スーちゃんが…立った!」 神田「わーい、スーが立った~!」 伊藤「クララじゃないんだからニャー」 目を覚ましたスーに、アンジェラが状況を説明する。 周りを見渡したスー、ひと息置いて口を開いた。 「やまとノ諸君、久シブリダナ」 一同「お~!」 朽木「なかなか渋い挨拶ですな」 巴「ねえねえ、他にも何か出来る?そうだ、ローゼンメイデンなんて知ってるかしら?」 豪田「うわーローゼンだったらハマリ過ぎ!」 しばし沈黙した後、スーは口の端を歪めて低い声で喋り始めた。 スー「エエ、今ヤ日本ノ漫画ヤあにめハ、世界ニ誇ルベキ文化デアリマシテ…」 一同「そっちかい!」 浅田「つーか、何でそっちのローゼン知ってるの?」 その後もスーは、そんな調子でいろいろ物真似のネタを披露した。 そんな中、やぶへび3人娘に捕まってた荻上会長が帰ってきた。 荻上「あっ大野さん、いつ来られたんです?」 大野「今さっきですよ」 アンジェラがダッシュで迫る。 アンジェラ「ハーイ千佳、あっ今は会長と呼ぶべきあるね。お久しぶりあるよ」 荻ハグするアンジェラ。 荻上「(赤面して)日本語、喋れるようになったんですね」 その様子を見ていたクッチーが、豪田をけしかけた。 朽木「クリチン(クッチー限定の豪田の愛称。由来は豪田のペンネームのクリスチーヌ豪田)荻ハグですぞ」 豪田「さすが外人さんですね。私もああいう風に自然に荻様ハグしたいなあ」 朽木「そうじゃなくてクリチン、ここは先輩の威厳をビシッと見せて、荻ハグの見本を見せるにょー」 巴「(ニヤリと笑い)それいいかもね、日米荻ハグ合戦」 豪田「荻様お帰りなさ~い!」 荻ハグしようと迫る豪田。 アンジェラ「私ももう1回ハグするあるよ~!」 アンジェラの割り込みと荻上会長のフットワークにより、豪田とアンジェラは互いに誤爆ハグする。 しかしアンジェラはまるで気にせず、より力を込めて豪田を抱きしめる。 豪田「ぎえええええ!」 アンジェラ「あなたなかなか可愛いあるね」 アンジェラの目が妖しく光る。 豪田「おっ、大野さん、これは?」 大野「アンジェラって、実はポッチャリ型が好きなんですよ」 豪田「ポッチャリって…私どう見てもデブでしょ?」 大野「アメリカじゃあなたの倍近い人がゴロゴロしてますから、十分アンジェラのストライクゾーンですよ、豪田さん」 アンジェラ「正確には女の子の場合はそうだけど、男の子の場合は細身のメガネ君が好きあるね」 豪田「女の子の場合って…?」 アンジェラ「私男女の違いには、あまり拘らないあるね」 アンジェラの唇が豪田に迫る。 豪田「やめれええええ!」 迫るアンジェラの頭をガッシリと掴んで引っ張る手。 巴だ。 アンジェラ「NO~!」 思わず豪田から離れる。 夏蜜柑をも握り潰す巴の握力で締め上げられては堪らない。 アンジェラ「(ニヤリと笑い)あなたなかなか力持ちあるね」 前屈みになってやや腰を落とし、両手を前に出すアンジェラ。 巴「(ニヤリと笑って)面白い」 アンジェラの意図が分かった巴、彼女の両手を自分の両手で、指を絡ませるように握る。 2人はいわゆる手四つの体勢になった。 2人とも全身に力がみなぎり、汗をかきながらブルブルと震え出す。 固唾を呑んで見守る現視研一同。 およそ1分近く経過したが、2人の手の位置は殆ど変わらない。 互角の勝負だ。 荻上「アンジェラって、あんなに力あったんですか?」 大野「もともとテニスとか水泳とかやってましたけど、半年ぐらい前から護身術兼ねてレスリング習い始めたらしいですよ」 やがて手四つ怪力合戦の2人の震えが止まった。 互いに手を放す。 しばし見つめ合う2人。 2人の目が輝きを増したその時、互いに右手を差し出し、力強く握手した。 荻上「?」 大野「どうやら筋肉で友情が芽生えたみたいですね」 何故か会員一同から、盛大な拍手が送られた。 アンジェラ絡みの騒ぎが一段落すると、スーが荻上会長にトコトコと寄って行く。 そして肩幅ぐらいに足を左右に広げ、腹の前で拳を握った腕を十字に合わせ、それを切るように肘を腰の後方に引きつつ挨拶した。 「押忍(おっす)!センセイ荻上!」 荻上「せんせい?」 スー「押忍!私センセイ荻上に、ヤオイの道の何たるかを学ぶ為に日本に来たであります!」 荻上「その喋り方は?」 スー「押忍!外国人が日本人の先生に習い事する時、頭にセンセイと付けてお呼びし、喋る前に押忍と合いの手を入れる、それが日本で修行する者の作法と習いました!」 荻上「それ誰に習ったの?」 スー「押忍!センセイ梶原原作の空手漫画にそう書かれてたであります!」 笹原「多分、『空手バカ一代』とか『四角いジャングル』とかを読んで参考にしたんだと思うよ」 スー「押忍!センセイ梶原のおっしゃることは全部実話だから、その通りにすれば間違いないと、日夜修行に励んだ成果であります!」 実は梶原一騎先生が漫画の劇中で「これは実話である」と断言していることの半分ぐらいは梶原先生の創作なのだが、敢えて笹原はそのことにはツッコまなかった。 (参考) 「兄ちゃんって、よく分かんないまま話書き始めちゃうんだよ」 梶原一騎先生原作のある格闘技漫画について、先生の実弟の真樹日佐夫氏(空手家で漫画原作者でもある)の証言。 朽木「ところで大野さん、前から疑問に思っていたのですが、スーちゃんって歳いくつなのでありますか?」 大野さんに注目する一同。 実は1年生たちが1番疑問に思っていたことだからだ。 アンジェラの方は大野さんの友だちということで、自分たちより少し年上かもとおおよその想像は出来る。 だがその2人と対等に話しているスーは、どうみても同い年には見えない。 それによく見ると、2人のスーへの対応はお姉さん的でもある。 その為スーの年齢を推測することは困難を極めた。 その場にいる多くの者の総意の代弁という点では、ある意味クッチーのこの質問、彼の生涯で最も空気を読んだ発言かも知れなかった。 大野さんが満面の笑みを浮かべた。 だがその唇の端は微かに痙攣していた。 次の瞬間、テレポートと見紛うばかりの俊敏な動きで、大野さんはクッチーの背後を取る。 そしてこれまた音速に近いスピードで、クッチーの首筋に右腕を絡みつけつつ左手で後頭部を押す。 スリーパー・ホールド、いわゆる裸絞めの体勢だ。 クッチーの頚動脈は、大野さんの前腕部と上腕部で急激に絞め上げられ、瞬時に血流を停止した。 何が起こったのか分からぬまま、クッチーは落ちた。 それでも僅かに背中で大野さんの巨乳の感触を味わったせいか、クッチーの寝顔は安らかだった。 大野さんの無言の笑顔は、まだ続いていた。 冷や汗を流し、凍り付く一同。 この大野さんの一連の動きが、スーの年齢についての話題が禁則事項であると雄弁に語ったからだ。 一同『て言うか、いくつなんだよスー?』 その後もカラオケ大会は続いた。 1人で1曲歌うパターンは徐々に減り、全員で合唱するパターンが続いた。 終盤の頃には、「やぶへび」の3人も乱入しての大騒ぎになった。 夏コミ本番に差し支える為に、荻上会長は飲酒を禁止していた。 だから全員シラフなのだが、それにも関わらず皆ハイになり盛り上がっていた。 そうなると現視研一のお祭り野朗クッチーも復活し、歌うわ踊るわ脱ぐわ大野さんにどつかれるわ1年女子には意外にウケるわの大騒ぎとなった。 いい加減みんなを大人しくさせることをあきらめた荻上会長も、開き直って笹原とデュオで熱唱して、藪崎さんに「勝ったと思うな!」を連発させた。 (でも何故か演歌ばかり) 最後はスーのリクエストで「宇宙戦艦ヤマト」をみんなで歌った。 ヤマトはかつてアメリカでも放送されて人気番組となり、アメリカの古いオタには、ヤマトがきっかけでオタの深みにハマったという人が多数実在する。 それは単にヤマトの良さにハマっただけではない。 ヤマトを巡るパラレルな展開の真相を知るべくわざわざ日本語を勉強して来日し、調査の過程でガンダム等の数々の名作を発見した為でもあった。 夜明け直前、田中と1年男子たちが田中宅に預けた荷物を取りに出かけた。 その帰りを待つ間、荻上会長は部屋の片隅で笹原が眠っていることに気が付いた。 荻上「まあ昼間仕事やってからそのままこっち来たから、疲れが出たのね」 恵子「なかなか可愛い寝顔してるじゃん。姉さん、キスして起こしてやったら?」 荻上「(赤面しつつ)ぎっ、ぎりぎりまで寝かしといたげなさい!」 そう言いつつも、可愛い寝顔というのには同意する荻上会長だった。 田中たちの帰りが出発の合図となり、全員(「やぶへび」の面々を含む)外に出る。 夜が明け始めていた。 荻上「じゃあみんな、出発するわよ」 一同「はいっ!」 スー「地球ニ向カッテ、シュッパーツッ!」 大野「Sue、それは帰りの時の掛け声だってば」 いよいよと気を引き締める荻上会長。 ふと見ると、クッチーが朝日に向かって柏手を打って手を合わせていた。 朽木「今年はいいことがありますように!」 荻上「初日の出じゃないんだから、止めて下さい!」 朽木「何をおっしゃる!これは師父斑目より教わりし、お目当ての同人誌をゲットする為の伝統ある出陣の儀式ですぞ!」 荻上「最近あの人、いい加減なこと教えてねえか?」 1年生たちとアンジェラ&スー、それに大野・田中カップルや笹原兄妹、そして「やぶへび」3人娘までもが、同様に朝日を拝み、それを見て頭を抱える荻上会長。 でも結局「まあいいか」と、会長自らも手を合わせて朝日を拝んだ。 がんばれ荻上会長、本当の戦いはこれからだ。 26人いる! その3
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アルバムを覗けば 【投稿日 2006/04/05】 カテゴリー-笹荻 「あ、これアルバム・・・。」 荻上は笹原の家に遊びに来ていた。そこで、たまたまアルバムを発見した。 「み、見てもいいですか・・・。」 「え、あ~、見ても面白くないよ~。」 笹原は苦笑いしながらお茶を運んできた。 「あ、いや、その・・・。」 荻上は少し恥ずかしそうに顔を伏せると、声を出した。 「昔の笹原さん、見てみたいっていうか・・・。」 その言葉に思わず赤面の笹原。 「え、あ、まあ、いいよ。面白くないと思うけど・・・。」 「そうですか!」 ぱぁっ、と顔が明るくなる荻上。 その喜びように苦笑いすると笹原は荻上の横に座る。 「じゃあ、一応解説でも・・・。」 「は、はい!」 近づく笹原の顔に、少しどぎまぎしながら荻上はアルバムを開く。 しかし、もうする事までしたっていうのになんとまあ初々しい。 「あ、赤ちゃんですね。」 まず出てきたのは赤ちゃん。生まれたところから順に張ってある。 ペラペラめくっていく。この辺は記憶もないのか特にいう事もないらしい。 「あ、ファミコンしてる。」 その写真にはファミコンをしてる笹原に、恵子がくっついているものだった。 「DQ3ですか?」 「そう。懐かしいな~。あのころ5歳とか?そんなもん。」 懐かしむように写真を見る笹原。 「まだよくわからなくてね~。何度も何度も死んでた。 よく恵子が邪魔してね。電源切るとかリセット押すとかしてたね。 あいつも二歳とかなのに理不尽にも怒ったりしてね~。 今思うとすげー悪いことしたなって思う。」 苦笑いする笹原。 「でも、覚えてないんじゃ・・・。」 「いや~、でもさ~今の状況考えるとね~。」 「あ、もしかしたら構って欲しかったんじゃないですか、その時。」 「それはあるかもね。でも、もう昔の事だし。」 「今もそうなのかも・・・。」 「ええ~?それはないでしょう~。」 そういう笹原に対して、荻上は少し考え込む。 (もしかして、恵子さんブラコン?だって、嫌っているなら会いにはこないだろうし。 まさか、本気で禁断の愛とか・・・?高坂さんとか全部ブラフで・・・。ええ・・・?) 「荻上さん?」 その声にはっとすると、自分がどこかいっていた事がわかる。 「あ、すいません・・・。」 「はは。まあ、そんな感じ。ゲームが今のようになった切欠かなー。」 「あー、そうなんですか。」 「うん。DQは4以降もやったし、FFにも手を出したしねー。」 そういって笹原は笑う。 「漫画もありますね・・・。」 「そうだねー。昔から人よりは読んでたかも。」 少し大きくなった笹原が読んでいたのはセイヤだった。 「なつかしいねえ。当時はDBかセイヤって時代でさ。 ほとんどの奴らがDB派でね。 なんかセイヤのクロス着てるのが弱く感じられたみたい。」 俺はセイヤの方が好きだったけどね、と付け加える。 「もちろん、DBも好きだったなあ。アニメも見てた。 気円斬のポーズは皆一度はやってるよね。」 「私も・・・セイヤは読んだことあります・・・。」 「あ、そう!?誰が好き? 俺はシリュウが特に好きだったんだけど・・・。」 「私的には・・・カミュ×ヒョウガ・・・。」 そういいかけて、荻上は顔を赤くする。 「い、いや、問題ないんじゃない、そういう楽しみ方もさ。」 苦笑いをする笹原に、荻上は冷や汗をたらす。 「確かに多かったらしいからねえ、そういう創作。 今の二日目飛翔系の走りといってもいいんじゃないかな。」 そういうと、笹原は自分からページをめくった。 「あ、次はSFCだ。スト2ですか?」 今度の画面には小学校高学年くらいになった笹原がいた。 「そうそう。これにははまったなあ。 凄く人気だったしね。面白かった。 今の格ゲーの基礎っていうか、そういうの築いたよね。」 「へ~、使用キャラは・・・。」 「最初はさー、波動拳コマンドとか昇竜拳コマンドとか出来なくて 溜めキャラ使ってたんだ。チュンリンとかー・・・。」 その言葉に少し荻上が反応する。 「やっぱり、そういうキャラがいいんですよね。」 「え、まあ、なんていうかさ、一人しかいないし。 女性キャラはさ。溜めだしね、そう、そういうこと。」 言い訳がましく言葉をつむぐ笹原。荻上は次の写真に眼を移す。 「・・・でも、こっちじゃ衛・・・。」 そこには、飢えた狼2の画面が移っていた。 「いや、そっちも女性キャラ一人だったし、そ、そういうこと。」 「でも、溜めコマンドじゃない・・・ですよね?」 「あ・・・はい。」 「なんで、男性キャラを使わなかったんですか・・・?」 「いや、使ってたよ?使ってたって。本当。 たまたま画面のがそうなってるだけで・・・。」 「・・・モウイイデス。」 拗ねた様な表情になって視線をアルバムに戻す荻上。 「お、荻上さ~ん・・・。」 笹原は情けない顔で苦笑いするしかなかった。 「あ、剣道。」 「そう、俺中高と剣道部だったんだよね~。」 「へえ・・・。」 意外、という顔をする荻上。 「まあ、特に高校からだけど、こういう趣味してるって隠してたから、 運動部入ってないとね、変に思われるからさ。」 「段とか持ってるんですか?」 「一応ね~。今はぜんぜんやってないけど。 入った動機も動機だし。」 「へ?」 「るろ剣、流行ってたでしょ~?」 そういって苦笑いする笹原。 「ああ。」 「そういうこと。よく中学の武道場でこっそり真似してた事あったなあ。」 「他にも同じ動機で入った人がいたりして・・・。」 「ええ~?それはない・・・ちょっと待てよ・・・。」 笹原はそういうと一人考える表情を見せる。 その顔に、荻上は戸惑いながら、言葉を待つ。 「・・・もしかしたらあいつもそうだったのかなあ・・・。」 「あいつ?」 「中学の頃、俺が武道場入ったときに牙突っぽいポーズきめてた奴がいて・・・。 その時は、そう思ったけど突っ込めなくてね・・・。 なんか今思うとそういう雰囲気の奴だった気もする・・・。」 「あはは。もしかしたらいい友達になれたかもしれませんね。」 「そうだねえ。まあ、今も同窓会とかで会うから、それとなく聞いてみようかなあ・・・。」 「あ、女の人と二人・・・。」 その声に少しあせった表情を見せる笹原。 「あ、ああ、その子ね、高校のときのマネージャーなんだよ。」 「・・・ソウデスカ。」 その声色に思わず冷や汗をたらす笹原。 「う、うん。優しい子でねえ、後輩なんだけど。」 「・・・二人で映ってるの多くないですか?」 「え、そう?皆その位撮ってたと思うんだけど・・・。」 「・・・・・・怪しいです。」 「いやいや、高校の頃だよ?それにそういう関係じゃなかったし・・・。」 「そういう関係ってどういう関係ですか?」 「いやいや、荻上さん?」 「・・・すいません。ちょっと言い過ぎました。」 笹原が少し困った顔をしたのを見て、荻上は少ししょんぼりした。 「あー・・・。まあ、その当時好きじゃなかったといったら嘘になるかなあ・・・。」 「・・・ソウデスカ。」 「まあ、告白なんて当時考えも付かなかったし、 逆に言えばそこまで好きじゃなかったのかもね。」 その言葉に、告白された自分の事はそこまで好きなんだ、と意味を受け取った荻上は、 顔が上気し、赤くなるのを感じた。 「この頃って何にはまってたんですか?」 「ああー、そうだねえ、隠れながらっていうか、 家でひっそりとゲームと漫画、アニメはチェックしてたかなあ。 中学はゲームはさくら対戦とか、アニメはエビャとか、やっぱ見てたよね。」 「やっぱその頃のアニメって凄いの揃ってますよね。」 「うーん、今のが悪いって訳じゃないんだけどね。 たしかに、切れ味の鋭いアニメは多かったと思うよ。ウタナとかね。」 「・・・その頃私はまだ中学になるかならないかって感じです。」 「でも見てたんでしょ?」 「・・・ええ、まあ。」 三つ子の魂百までということか。 「高校に入ると部活が忙しかったけど・・・見れるものは見てたかなあ。 漫画も1ピースとか、アイひなとか、いろいろ流行ってたけど、 一番好きだったのは、マンキンだったかなあ。」 「マンキン・・・!!」 少し顔が強張る荻上。 「ど、どうかした?」 「い、いえ!」 (私が一人きりで高校生活過ごしてたとき、はまってたのもマンキン・・・。 時期はずれてんだろうけど、これって・・・運命?) しかし、その楽しみ方はぜんぜん別物だったであろう事に気付いていない。 「そう?でも、あの終わり方はなかったよねえ~。」 「ラストのコマの下に”蜜柑”ですか?」 「うん。思わず笑っちゃったよ。”未完”とかけてるんだろうけどさあ。」 「あ、現視研だ。」 「この辺からもう大学だね。懐かしいなあ。」 「サークルは初めからこういう関係のを?」 「まあ、そうだね~。そういう仲間欲しくてしょうがなかったし。」 そう言った後、少し懐かしそうに視線を上に向ける。 「何でまた大学からそうしようって思ったんですか?」 「んー・・・。一番はやっぱりくじアンについて一緒に話せる人が欲しかった、かなあ。」 「くじアン、ですか。」 「うん。あれには本当やられたからなあ。 なんか、一人で悶々してるのが耐えられなくってね。」 「・・・。」 「せっかく環境も変わるわけだし、って一念発起。 でも、すぐに変われるわけじゃないしねえ。あのドッキリなかったらどうなってた事やら。」 「それは・・・。私も思うかも・・・。」 「そうだねえ、俺達意外と似たもの同士?あはは・・・。」 そうお互い笑うと、荻上は少し思ってた事を口にした。 「会った頃からそう思ってませんでしたか?」 「え、ああ。そうかもね。性格は違うかもしれないけど、境遇は似てるかもなあ、と。」 「だから、ですか?」 「え?」 「私に優しくしてくれたのは。」 「いやー、まあ、それだけじゃないんだけど・・・。」 そう苦笑いすると、真剣な表情の荻上に視線を移す。 「シタゴコロ?っていうのかな、そういうのは少なからずあったかもね。」 「え・・・。」 「女の子には優しくしとけ、っていうか。そういう感じの。」 「・・・正直ですね。」 「嘘ついてもしょうがないから。」 その言葉が出て、少しの間の後また二人で笑った。 「でまあ、そんな私の半生だったわけですが・・・。」 まるで斑目が言うような妙なしゃべり方をする笹原。 「どうでした?とかいっても感想なんてないよねえ、あはは・・・。」 「・・・嬉しかったです。」 「へ?」 思っても見なかった感想が飛び出て、笹原は少し驚いた。 「昔の笹原さんって、どんな人だったかとか・・・、想像はしてたけど・・・。 話が聞けて嬉しかったです。そういうの・・・知りたかったんです。」 「え・・・。」 「・・・。」 顔を赤らめて二人の時間は少し沈黙に包まれる。 「・・・った?」 「え?」 笹原が搾り出すように声を出したのを、聞き取れなくて聞き返す荻上。 「・・・想像してたのと、どうだった?同じ?違う?」 「え・・・。まあ、その。大体合ってました。」 「大体、かあ。」 「格ゲーで女性キャラばっかりとか、マネージャーさんと仲良しとかを除けば。」 「お、荻上さ~ん。」 「・・・冗談ですよ。」 情けない声を出す笹原に、荻上は片方の口の端を上げて意地悪な笑みを浮かべた。 その荻上に少しばかりムッした表情をした笹原は、すぐに表情を変える。 ニヤリと口の端が歪む。 「・・・・・・お仕置きだね。」 「ええ~、そうなるんですか~?」 そういって、おびえる表情を作る荻上。しかし顔は笑っている。 「そうなるんです。では。」 「ん。」 ヤル事は一つなので、以上! と思ったのですが、ぎりぎりまで観てみましょう。 そう、まさに限界まで。限界に挑戦です。 おお、どうも場所を変えるようですよ? 布団を・・・。変えてますね。 元々あったのは恵子さんのなのでしょうか? で、そのまま二人横になって・・・。 最初は前戯でしょうか? キス、長いですね~。 ああ、触りだした、ちくしょう、笹原のヤロウ・・・。 ああああああ。うらやましい・・・。 なんか目がトロンとなってますよ、荻上さん? あ、やばい、脱ぎだした! みなさん、どうもすいません!ここまでのようです!すいません! さようなら、さようなら~!! オマケ 「で、兄貴の家に入りびたり?」 「・・・問題ありますか?私の家のときもありますし。」 「いや~・・・。私の布団の上で色々やられてると思うとねえ・・・。」 「(貴方の布団では)してません!」 「ふーん。・・・まあ、いいんだけどさ。別にさ・・・。兄貴が何してようと・・・。」 「・・・ヤキモチですか?」 「はぁ?だれが、だれに?」 「恵子さんが、私に。」 「な、なんでよ!」 「いや、そういうのなのかなあ、って。」 「そ、そんなわけねーじゃん!!」 (・・・この慌て様・・・。あやしい・・・。) 「笹原さんの事、どう思ってます?」 「え、サル。」 「それ以外は?」 「えーと、まあ、頼りになる兄貴・・・うそ?褒め言葉しか浮かばねえ・・・。」 「・・・駄目ですよ?」 「な、なにが?」 「近親相姦は世界のタブーですから。」 「わ、わかってるよ!そんなことするわけねーじゃん!!」
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武将名 なかじまちかよし R中島親吉 長宗我部家臣。長宗我部国親・元親の二代に仕えた。本山氏との土佐の覇権をめぐる争いでは神森城、朝倉城といった本山氏の重要拠点を攻め落とし、天正10年の中富川の戦いでも功をあげ元親の土佐、ひいては四国の統一に多大な貢献をした。「君のことは、私が守るよ。 あの方と、そう約束したからね」 出身地 土佐国(高知県) コスト 1.5 兵種 槍足軽 能力 武力5 統率1 特技 一領 疾駆 計略 崩城の備え 【国令】(特技「一領」を持つ武将のモードを変化させる)武力と移動速度が上がり、攻城すると城内の敵にダメージを与えられるようになる。 必要士気4 Illustration 白茶葉? 1.5コストで一領持ち武力5、さらに疾駆持ちの槍という優秀なスペックを持つ。 計略を抜きにしてもスペック要員として採用しやすいだろう。 計略は自身のモードを変化させ、武力+4に移動速度が上がる。 さらに攻城すると、城内の敵に約40%のダメージを与えることが出来る効果を持つ。 効果時間は6c、統率依存は0.6c。(以上 2.22A)