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名称:ゆあ【水着】 レアリティ:☆5 アイコン編集 実装日 2021/8/7 クラススキル1 敵全体に陽属性の大ダメージ味方全体の魔法防御を一定ターン小アップ クラス まほうつかい クラススキル2 味方単体を小回復味方単体の魔法攻撃を一定ターン中アップ 属性 陽 とっておき 自身の魔法攻撃を一定ターン小アップ敵全体に陽属性の特大ダメージ自身の物理防御が一定ターン小アップ
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とりかえばや物語 【投稿日 2006/02/05】 カテゴリー-笹荻 オギルームで笹原と荻上は頻繁に会うようになっていた。 二人はキスを交わしている。互いに目をつぶり、うっとりした表情でく ちびるを重ねている。そしてお互い、ゆっくりとくちびるを離し、閉じた目 を開け、お互いの目の前の顔を見つめた。そして、『その異変』に気付いた。 笹・荻「えっ!」 二人が見たものは、お互い見慣れた自分の顔だった。 荻(笹)「俺?こっこれはどういう・・・」 笹(荻)「しっ信じられない・・・こんな事が・・・」 荻(笹)「おっ落ち着いて!いや!落ち着かなきゃいけないのは俺か・・・」 笹(荻)「落ち着けって言ったって無理ですよ!」 二人は混乱する頭をどうにか収めようと、懸命に状況の判断に努めたが、事 態を理解する事はできなかった。 荻(笹)「とっとにかく、整理してもう一度考えよう。なっ何か分からない けど、俺たちの体が、もとい心が入替ったと・・・。原因は不明・・・。誰 かに相談は・・・。」 笹(荻)「むっ無理ですよ!こんな・・・漫画かアニメみたいな話・・・。 信じる以前に気が狂ったと思われますよ!」 荻(笹)「だっだよねえ・・・。となると原因が分かるまでこのまま・・・。」 事態を受け入れ、落ち着きを取り戻すと、二人は今後の事を相談し始め た。まず何時元に戻れるか分からないので、しばらく一緒にいると言う事、 その間、この事は周囲には秘密にしておき、二人の生活を続けると言う事に した。 とりあえず、笹原は卒論の為のゼミの単位が残っており、それを落とす わけにはいかないので、荻上に出席してもらう。ゼミの交友関係は事前 に説明した。もちろん笹原にも荻上の出席する講義に出てもらうという 事にした。講義やゼミの内容は後でお互い情報交換するという事もこま ごま決めあった。 荻(笹)「とりあえず、いのちの危険や生活に支障は無いわけだから・・・」 笹(荻)「大有りですよ!他人の体なんて!それに男の体なんて・・・」 荻(笹)「まあ、それは俺も一緒だし・・・はーこれからどうなんのか・・・。 ってごめん、トイレ行きたくなった」 笹(荻)「!!!!!!!」 笹(荻)「ダメです!絶対ダメです!」 荻(笹)「無茶だよ・・・。漏れちゃうよ・・・」 笹(荻)「大丈夫です!何とかなります!でっでも漏らしたら、呪います! 舌かみます!」 荻(笹)「そんな馬鹿な!つかもう無理・・・」 笹(荻)「あっ!」 バタン ジャー (静寂) 荻上はうなだれている。 笹(荻)「・・・見ましたか・・・聞きましたか・・・」 荻(笹)「(汗)・・・いや見てないよ・・・聞いてないし・・・」 笹(荻)「ウソです!!こっこんな生き恥・・・」 荻(笹)「おっ落ち着いて!いまさらそんな恥ずかしがっても・・・」 笹(荻)「(涙)どんな間柄でも見られたくないもんありますよ!ああもう・・・」 荻(笹)「うわー、窓から飛び降りても、ここ一階だから意味無いって!取 り乱されると、荻上さんの体じゃ、俺の体押さえられないんだ!落ち着い て!」 ぜえぜえ息を切らせて、ようやく落ち着きを取り戻した荻上はへたり込んで、 グスグス泣き始めた。 荻(笹)「しかたないよ・・・お互い様と言う事で・・・」 笹(荻)「グスグス・・・そうですね・・・。とりあえずトイレの時にはア イマスクと携帯プレーヤー付けてください」 荻(笹)「それで気がすむなら(あまり意味無いと思うけど)そうするよ。 トイレットペーパーは・・・」 笹(荻)「使うしかないですね・・・。ウォシュレット使用して、紙は多め に・・・。防臭スプレーも・・・。ううっこんな・・・変態ですよ・・・変 態・・・こんな会話・・・(涙)エロゲーのピーみたいな会話・・・」 笹原は荻上に慰めの言葉も見つからず、途方にくれていたが、自分自身も事 の大変さに気付き始めて、気が遠くなった。とりあえず、今晩は笹原が荻上 宅に泊まることになった。外出する気になれず、夕飯は家にある適当な食事 ですませた。 荻(笹)「・・・あの・・・風呂・・・どうしようか・・・」 笹(荻)「!!もっもちろん、入らないわけにはいきませんね・・・わたし が洗います!目隠ししてください!」 荻(笹)「ええっ?」 笹(荻)「何か文句でも?」 荻(笹)「いえ(汗)」 目隠しをされた笹原は荻上に手を引かれて、浴室まで先導された。脱衣所で 荻上の手を借りて、服を脱ぎ、目隠しをしたまま浴室に入った。荻上は当然 服を着たまま、一緒に浴室に入った。 (かなり変だ。かなりヤバイ状況だよな・・・) と笹原は思った。 荻上はボディーソープをタオルにつけて、笹原、もとい自分の体を洗い始め た。笹原は自分の体じゃないとはいえ、触覚は自分のものなので、タオルが 体をはう感触はしっかり感じていた。 荻(笹)「目隠ししてると、なっ何か変な気分になってきたんだけど・・・」 笹(荻)「わっわたしもですね。なんか腹の下が痛いんだけど・・・。いっ いやらしいですね!」 荻(笹)「なっ!いやらしいのは君だろう!」 ギャーギャー言い争いながら、どうにかこうにか、笹原は入浴を終えた。笹 原は荻上のパジャマに着替えた。 笹(荻)「次はわたしですね」 荻(笹)「手伝うよ」 笹(荻)「けっこうです!」 荻(笹)「ずるい!」 笹(荻)「はあ?」 荻(笹)「いえ、何も・・・(汗)」 荻上が入浴中、笹原はコンタクトをはずした状態でぼんやりと部屋の様子を 眺めていた。 (うわ、何も見えない・・・。近眼ってこんな感じなのか・・・眼鏡の場所 聞いてなかったな。コンタクトのつけ方も教えてもらわなきゃダメなわけ だ・・・) やがて荻上も入浴をすませて出てくる。 荻(笹)「荻上さん、長かったね。眼鏡どこ?何も見えないんだ」 笹(荻)「ああ、ここですね、すみません」 荻(笹)「ありがとう。ん?何その手鏡は?風呂に何を持ち込んでたの(怒)」 笹(荻)「いえ、あの・・・これは・・・その・・・(汗)」 二人はクタクタに疲れて、その日は寝入った。明日になれば元に戻ると、かすかな期待を抱きながら・・・。 だが翌日、目を覚ましても事態に変わりは無かった。戸惑いながらも二人は 入替りの生活を続けた。そうこうしてる内、一週間が過ぎた。 咲「おや、久しぶり!仲のよろしい事で!」 二人は一緒に久しぶりにげんしけんに顔を出した。 咲「一緒に住んでるんだって?早いよね」 笹(荻)「言っておきますが、同棲ではなく、同居!同居ですからね(怒)!」 咲「??笹ヤンらしくないなー、どう違うわけ?」 荻(笹)「(汗)まあまあ、おや、朽木く・・・いや先輩!」 朽木が部室に入ってきた。 朽「おや!お久しぶりですなー。お二方!いえいえ、荻上さんとはわたくし めが落とした講義でお会いしてますか!」 荻(笹)「そうだ・・・ですね」 朽「それにしても、荻上さん、クラスの最近評判がいいですよ!」 荻(笹)「えっ?」 朽「にこにこ笑顔をわけ隔てなく振舞ってますし、男子達も雰囲気変わった って驚いてますよ」 荻(笹)「そっそう?普通に振舞ってるだけなんだけど・・・(普段の彼女っ ていったい・・・)」 朽「ところで、先日も本屋で荻上さんを見かけましたよ!エロゲーの雑誌の コーナーで立ち読みされてましたよね!荻上さんも興味あったとは知りま せんでしたな!わたくし!」 荻上は笹原をキッとにらむ。笹原は冷や汗を流して、目をそらした。 咲「それより、笹ヤンの評判が心配だよ。聞いたよ、ゼミの討論で論争吹っ かけて、相手をけなしまくったとか・・・。それに笹原を乙女ロードで見か けた奴がいて、笹原の交際は実はカモフラージュで、実はガチホモだっつー 噂が・・・」 荻(笹)「そんなわけないでしょう!」 咲「まあ、荻上が一番知ってるわけだろうけど・・・」 咲はニヤニヤしながら、二人を見た。 笹原が荻上をジッと見ると、荻上は滝のような汗を流してスッと顔をそむけ た。 帰ってから、二人は口喧嘩を始めた。 荻(笹)「あの時、遅く帰ってきたのはそんな理由で・・・俺の評判が・・・」 笹(荻)「笹原さんこそ!わたしの姿で変な事しないでください!」 結局、その日は二人は口もきかずに寝てしまった。そして次の日の朝・・・ 笹(荻)「あれ?どうかしました?」 荻(笹)「なんか・・・おなかの下が・・・痛い・・・気分も悪い・・・」 笹(荻)「あ・・・」 荻(笹)「何なのこれ・・・」 笹(荻)「せっ生理ですね・・・。すみません、ドタバタして忘れてました。」 荻上はいたたまれない表情で、顔を真っ赤にして、表情を歪めた。 荻(笹)「そんな・・・謝らなくても・・・(俺もデリカシーが無かった)こ んなに苦しいもんなの?」 笹(荻)「普段はそんなにひどく無いですよ。たぶん、ストレスで・・・と にかく、生理痛の薬とかありますから・・・それと・・・」 笹原は荻上に教えられた通りにしたが、やはりこういうデリケートな事柄は 二人ともいたたまれず、気まずい雰囲気になった。 笹(荻)「じゃあ、寝ててください。わたしはゼミ出席と卒論の資料借りて くるのに、大学行きますから・・・」 荻(笹)「うん・・・わかった・・・」 荻上が出てってから、笹原はぼんやりと考えた。 (大変だな・・・何と不自由な・・。何も気配りしてやってなかったんだな、 俺・・・) この不思議な体験を通じて、理解した『つもり』になっていたのに、実 は何も理解してなかったと分かった。変な話だが、笹原は男の自分の体 を見て、興奮するとは思いもしなかった。 女の人もそういうもんかと思ったが、荻上に言うと、傷つけそうなので 言わなかった。最近はそうではないが、やはり自分の汚い面や恥ずかし い面を見せる事への恐れが荻上にはあったから。 笹原は近眼の目で、鑑に薄ぼんやりと映った荻上の姿を見て思った。 (そういや、まじまじと彼女の『姿』見たこと無いよな・・・一人だし・・ いい機会だよな・・・) 笹原はパジャマのボタンに手が伸びて、一つ目のボタンを外した。だがそこ で、荻上に申し訳ない気がしてやめた。やがて生理痛の薬が効いてきて、眠 りについた。 荻上は大学に向かう電車の中で思った。 (男というのも、思ってたより不自由なものね・・・) 散々、自分の妄想の中で弄んでいながら、いざ自分が男になってみると、意 外なほど自分が無知であると気付いた。(笹原には悪いが)しげしげと眺め てみると、想像してたよりも不恰好で、自分の意志に反した部分であるとい うのも驚きだった。 先ほども、こともあろうに自分の体に興奮していたなど、笹原に知られるの が怖かった。 (本当にわたし、女子大生?) 自分の無知に呆れると同時に、自分のその抑えがたい欲望と好奇心が妄想に 拍車をかけていたと気付いた。同時に、やおいに対する嗜好とはそれは別な のだが、そうした生々しい自分の恥ずかしい面を笹原に見せても、考えてい たよりも平気な自分に驚いた。 (望まずともお互い見てしまったわけだし・・・) 荻上は『その時』の事を思い出し、顔を赤らめた。好奇心を抑えがたく、こ のまま弄んだら・・・とあの時思ったが、さすがに罪悪感に囚われ、それは やめた。 笹原が目を覚ますと、目の前に自分の顔があった。 荻(笹)「寝てた・・・」 笹(荻)「もう大丈夫ですか?」 荻(笹)「うん・・・」 笹(荻)「思ったんですけど・・・キスしてこうなったんですから、同じよ うにキスすれば戻るんじゃないでしょうか・・・」 荻(笹)「戻らなければ?」 笹(荻)「一生このままでもしょうがないですね。お互い隠すものなど、も う何もありませんから・・・。あるいは・・・さらに先の方法を試すという 手も・・・」 荻(笹)「俺が『受け』で君が『攻め』?」 笹原は荻上に笑いかけた。 笹(荻)「逆でもいいですよ」 荻上も笹原に微笑み返した。 笹原と荻上は目をつぶってキスを交わした。 目を開けると、あるべき姿が目の前にあった。 笹「なんだ、意外と簡単だったんだね!」 荻「悩んで損しましたね!」 もう一度試してみたが、今度は変わらなかった。 笹「たまには変わるのもいいかな?」 荻「わたしはもう嫌ですね!!」 とある二人に起こった不思議な出来事・・・。
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現聴研・第九話 【投稿日 2006/06/01】 現聴研 舞台の脇で司会のお姉さんがマイクを手に、明るく紹介する。 司会「次は、マイナー曲を広める使命を帯びたバンドだそうです。 それでは『げんちょうけん』の皆さん、どうぞー!!」 夏祭りの野外ステージに照明が灯り、現聴研のバンドメンバーが 白い光に照らし出された。 ステージの真ん中にはタンバリン片手の斑目が立っている。 暑いが細身のスーツっぽい、装飾の派手な衣装を着ている。 男性メンバーは全員、似たような感じで統一されている。 斑目の左側では、セミアコースティックギターを抱え、髪を下ろして 赤いノースリーブの、ロングのチャイナドレスに身を包んだ荻上が 緊張してモジモジとしている。 右側には笑顔で汗一つかいていない高坂が見える。その後ろにはキーボードが有り、 真っ青なサリー(インドの衣装)の大野が居る。顔を伏せているので髪で顔は見えない。 ステージの奥にはドラムセットがあり、久我山が座っているのが見えるが、既に汗が だらだらと顔を伝って流れている。 観客の家族連れや中高生の集団が、ステージ上を見ながら軽くざわついている。 ステージ上から見ると、意外と人は多いが、近いうえにそう広くないので、 見に来ている人々の顔が良く見えて、どんどん緊張しそうになるが、最前列に 朽木と田中がカメラを片手に手を振っている。 田中は、衣装の出来栄えが気になるようで、かなり凝視している。 席に座らず横手に立っている、高柳の姿も見える。フォーク同好会も今日、 このあと演奏するので待っているのだ。 斑目「えー、ご、ご紹介に……あずかりました、げんちょうけんです…!!」 そう言うと、ぱらぱらとまばらな拍手を受ける。好意的な観客のようでちょっと安心する。 斑目「俺たちは、あまり知られていない名曲を、えーっと、掘り出して楽しんでまして、 今日は、皆さんにお勧めのマイナー曲をお届けしようと思います。 演奏はともかく、良い曲です。えー………それでは始めます。 1曲目は、ダバザックで『遠いメロディー』です。」 ちょっとグダグダ感のある自己紹介をなんとか終えて、久我山がスティックを打ち鳴らす。 久我山「ワ、ワン、ツー、スリー!」 バスドラムが響くリズムに合わせてギターのアルペジオが始まる。 キーボードの和音と、ベースのうねりも加わったところで斑目が歌いはじめた 斑目「♪そぉっと耳を澄ませて 遠い遠いメロディー…君の小さな胸に届く…」 すこし低い哀愁を帯びた歌声。まずまずの滑り出しだ。 上ずっていた歌声も、だんだんと潤って、伸び伸びとしてくる。 斑目「♪歯車にかき消され 人は何故 歌を失ったのーーー…」 淡々としたサビに合わせて荻上のギターはシンプルな伴奏を確実に刻み、 歌のメロディに絡まるように大野のキーボードもついてくる。 そして曲が終わると、パチパチと拍手が起こる。まずまずの反応だ。 特に目立った失敗も無く、1曲目は上手くいった。 斑目「どうだったでしょうか?続きまして、同じくダバザックで『星の誓願』。」 荻上は足元の切り替えスイッチを踏み、アコースティックギターのエフェクターに切り替える。 高坂のベースに合わせて、ザクザクした感じのギターストロークが響きはじめた。 斑目「♪僕はここにいる 君に遭う為に 数百年の時を越えて…」 だんだんと歌に入り込んでくる斑目。荻上のギターにも力が入る。 ズッチャ、ズッチャ、ジャーーン、ジャーーンとリズムパターンも変わる。 斑目「♪その時のためだけに 僕は生まれてきたのさ…」 間奏ではベースのソロもあったが、高坂はソツ無くこなす。 熱唱を終えた斑目は、曲が終わると少し肩が上下しているようだ。 露店や歩道を歩いていたお客さんも足を止め、立ち見したり、椅子の方に 入ってきたりと、徐々に空席が無くなってきた。 斑目「ハァ、ハァ…ありがとうございました。続きまして、宇佐実森『タペストリヰ』。」 そう言われて、荻上はビクリとしてから、その場に今まで使っていたギターを置くと 斑目が立っていたステージ中央にやってきた。 笹原が身をかがめて、横に立ててあったアコースティックギターを手渡す。 笹原「落ち着いてね。いつも通りに」 小声で言われて荻上はコクリとうなずく。 小柄な荻上に似合う、やや小ぶりなギターを抱えると、マイクに向かった。 荻上「今から歌うのは、私が小学生の頃にCMでやってた曲です、ではよろしく……。」 語尾が小声で消えていったが、それをかき消すようにギターを弾き始めた。 3拍子のリズム。ドラムのスネアも加わり、ハイハットで一旦締めると歌が始まる。 穏やかな歌い出し、だがサビに差し掛かると歌も、ドラムも情熱的だ。 荻上「♪時を載せてタペストリヰ 雛罌粟の華も 出会った空の蒼と一つになって往く…!!」 左足も細かく踏んでリズムを刻んでいるが、上体も大きく揺れている。 身をよじり、熱唱する荻上。今日の赤いチャイナドレスはこの曲のPVを意識したものだ。 コーラスに入りながら、斑目もタンバリンを叩く手に力がこもる。 間奏が終わり、最後のサビに差し掛かると転調して半音上がったが ここで荻上はギターを弾くのを止めるとマイクをスタンドから外して しゃがみこむように、マイクを抱え込んで強く歌い上げる。 荻上「♪時を載せて 描いてゆく タペストリヰーー… ah――― ohw―――」 歌のパートが終わり後奏に合わせて荻上の歌声がさらに響く。 今日はスタジオでの淡々とした様子と違い、実に情熱的である。 大野も長い髪を振り乱しての熱演であった。荻上の情熱パルスが伝染したようだ。 荻上「…どうも、ありがとうございました。」 パチパチパチ……(ピィーーーッ)強い拍手に混じって口笛も聞える。 その様子に驚きつつ、曲紹介をする。 荻上「次で、最後です。」 客席から「えーーっ」と聞える。お約束の返答だが、見ると高柳だ。 少し落ち着く荻上。落ち着くと、席の前列でGJポーズの朽木も見える。 それからは、とりあえず目を逸らした。 荻上「川島英六さんといえば演歌っぽいお酒の歌が有名ですが、フォーク歌手で、 アルバムを聴いていると代表曲以外にも良い曲が多いです。 その中から『月と花のまつり』、聴いてください。」 落ち着いたことの効用で、長い紹介を無事に述べることが出来た。 荻上「♪あの空の上の月 今は欠けてるけれど 生まれ変わってまた満ちてくる――」 斑目「♪あの空の上の月 今は欠けてるけれど 生まれ変わってまた満ちてくる――」 上のパートを荻上、下のパートを斑目が歌うデュエット編成だ。 曲調は川島本人の原曲を元にしているが、歌部分は実の娘のユニット、マキ&アナムの バージョンでいく模様である。 荻上のギターはこの曲ではリズムを刻むのみ。キーボードの比重が大きい編成に なっている。笛の音は笹原の打ち込みである。 久我山はドラムセットでなく、ボンゴを叩いていた。 荻上「♪何もかもが生まれ変わる 月も花も繰り返す波も―――」 斑目「♪ 何もかもが~アーーー 繰り返す波も……」 一部、斑目が主旋律に引っ張られそうになるが、特に違和感無く歌は続く。 荻上「♪命は遠く 空から降りた 地上に咲いている幾千万の花―――」 斑目「♪ラララ ラララ…………。」 曲が終わると、お客さんの拍手の中、全員で立って舞台の前に出て並んだ。 「「どうもありがとうございました!!」」 挨拶に合わせて大きくなる拍手。 そこで司会のお姉さんが出てくる。 司会「はい、げんちょうけんの皆さんでした。初めて聴く曲ばかりでしたが 良い曲はたくさん有るんですねぇ。それではありがとうございました。 では次のバンドに入れ替えです、少々お待ち下さい―――。」 その声に合わせて、客席がガヤガヤ、ざわざわとし始める。 席を立って食べ物や飲み物を買いに行ったり、トイレに行ったり、あるいは別の イベントを見に行ったり岐路に着く人も居るのだろう。 暗くなった舞台の上で、興奮に包まれながらも、係の人たちに急かされて 大急ぎで機材を撤収する現聴研の面々だった。 その日は一旦大学に帰ると、夜遅くなっていたが某大手チェーン居酒屋と カラオケ屋のハシゴで朝までコースだった。 皆、疲れているはずなのに大盛り上がりであったが、カラオケ屋では 「あの曲が無いのがおかしい!」「うぉぉ、例のバンドが消えてる!?」 と、毎度繰り返されるマイナー曲迫害意識に、熱意を新たにする現聴研であった。
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その七 地雷を踏んだらコニョニョチワー【投稿日 2006/01/05】 カテゴリー-3月号予想 クッチーは別荘周辺の森の中を彷徨っていた。 と言っても道に迷った訳ではない。 ヒップバッグの中には、周辺の地図とコンパスが入っている。 それも軍用のレンザティックコンパスだ。 彼は合宿直前、ランドナビゲーション(地図とコンパスで、現在地点や目標地点への方角や距離を正確に調べること)のやり方を一夜漬けながら一通りマスターしていた。 だから出鱈目に彷徨っていても、帰って来れる自信はあった。 彼の手には、相変わらずデジカメが握られていた。 念の為にヒップバッグには、予備のバッテリーやSDカードやカメラを入れていた。 さらに腰にはホルスター状の革ケースに入った、米軍払い下げの暗視スコープがあった。 すでに日は落ちたが、これがあれば夕暮れ程度の明るさで撮影できる。 (クッチーは夜目が利くので、暗視スコープも念の為に用意したマグライトも、歩く分には必要無かった) それにフラッシュ使わないで済むので、隠し撮りにも最適だ。 とは言っても、彼は別にいかがわしい写真を撮る気は無かった。 いや正確には、チャンスがあれば撮るかもしれないが、それのみを求める積りは無かった。 今回クッチーは写真係を務めるに当たり、新たにデジカメを購入した。 彼とてオタクの端くれだ。 何か新しい道具を仕入れるとついいろいろやりたくなり、可能な限り付属の道具を揃えようとする。 その結果が今回の重装備だった。 もっとも今回に限っては、それは正解だった。 日がな一日写真を撮り続けている内に、彼の中の眠れる光画魂が覚醒したのだ。 (注、光画=写真 またあーるネタでスマン) 写真の初心者であるクッチーに、どういう写真が撮りたいというビジョンは無い。 どういう写真がいいのかという判断基準も無い。 だが撮りたいという欲求だけは無限大に膨らんでいる。 ならば先ずは撮りたいだけ撮るだけだ。 従来のカメラと違って、デジカメならフィルム残数は殆ど考えなくていい。 撮りたいという気持ちに忠実に撮り続ける、彼の光画道はそんなスタイルで始まった。 実はクッチーがこうして彷徨っているのは、建前上は写真を撮る為では無かった。 笹原が荻上さんを追って出た後、他のメンバーたちはとりあえず別荘で待っていたが、日が落ちても帰って来ないので全員で捜しに行くことになった。 そして手分けして捜すことになったのだが、彼にはその気は全く無かった。 彼は多少過大評価気味なほど、笹原のことを信頼していた。 だから「荻チンのことは笹原先輩にまかせておけば大丈夫にょー」と安心し切っていた。 世間一般には空気の読めない奴と認識されがちだが、実はクッチーは空気に敏感だった。 現視研で最も野生に近い感覚を持ったクッチーは、相手の表情や喋り方やしぐさから、大ざっぱにだが考えていることや思っていることを嗅ぎ取ることが出来た。 (新人勧誘の時にコス泥棒にいち早く気付いたのもその為だった) ただそれに対するリアクションが末期的に不適切な為に、結果的に空気の読めない奴になってしまうだけなのだ。 だから彼は笹荻が相思相愛であることにも気付いていた。 それと同時に、荻上さんに何か重いトラウマがあるらしいことにも感付いていた。 だがその詳しい内容を知らないせいもあって、彼はそれでも笹原を信頼し、事態を楽観視していた。 「さてと、戻るかにょー」 クッチーは別荘に向かった。 「笹原さんと荻チンは帰って来たかにょー?」 見つかり次第、見つけた者が他全員に連絡することになっていたが、まだ連絡は無い。 渓谷の向こう側に人影が見えた。 星明かりの下では2人ということぐらいは分かるが、顔や体型などの細かい所まで見るには暗く、距離も離れていた。 1人がもう1人から逃げるように走り、柵を乗り越えて川に飛び込んだ。 「何ですと?」 あとの1人も飛び込み、先に飛び込んだもう1人を助けて河原に上がった。 「何があったにょー?しまった!シャッターチャンスを逃したにょー!」 クッチーはデジカメを最大望遠にし、暗視スコープを出してデジカメのレンズに宛がう。 (接続できるアタッチメントは無い) そして2人を見て驚愕する。 「笹原先輩と荻チン?」 レンズの向こうで、笹原は携帯を出して何やら操作していた。 だがやがてそれを放り出し、荻上さんの様子を見ている。 「そうか、救急車呼びたいのに携帯が濡れちゃって使えないんだな。よっしゃ、僕チンが呼ぶにょー」 慌てて携帯を取り出したクッチー、119番に電話する。 だが場所を訊かれて答えに窮する。 山の中なので目標になるような建物も無く説明しにくい上に、そもそも今自分がどの辺に居るかが分からない。 追い詰められたクッチーの頭の中で、ザクロに似た物体が弾けた。 彼の潜在能力が目覚めたのだ。 常人では考えられないスピードで地図を広げてコンパスを操作し、自分の位置と笹荻の位置を割り出し、地図上の座標を用いて細かく具体的に彼らの位置を119番のオペレーターに伝える。 電話が終わるとクッチーは再び2人を見た。 思わず固まってしまった。 レンズの向こうでは、笹原が荻上さんに対してマウストゥーマウス(口移し)法で人工呼吸を行なっていたのだ。 だがクッチーの立ち直りは早かった。 すかさずシャッターを押した。 念の為に何枚も撮った。 確認してみると、ちゃんと撮れており、しかも上手く2人の顔が写る角度だった。 「ハラショー!」 今日最高のベストショットに、勝利の雄叫びを上げるクッチーだった。 笹原は思ったよりも早く荻上さんを捕捉した。 拒絶して逃げたにも関わらず、荻上さんは追って来た笹原を見て喜びがこみ上げた。 だが次の瞬間、彼女の脳裏に浮かんだのは笹原が落ちていくビジョンだった。 いけない、今度は笹原さんを傷付けてしまう! 荻上さんは逃げ出した。 笹原も追跡する。 小柄軽量な為に本来敏捷なのだが、二日酔いで飲まず食わずで寝てたので、荻上さんの足はいつもより遅い。 一方笹原は体力はあったが、彼女ほど足は速くない。 そんな2人の追っかけっこは、付かず離れずで山奥まで続いた。 そしてクッチーが彼らを発見した渓谷まで来て、荻上さんはとっさに川に飛び込んだのだ。 荻上さんの飛び込んだ川は浅かったが、彼女の背丈では水面は口元にまで達した。 さほど流れは速くなかったが、疲れ切った彼女にとっては大きな負荷となった。 だから彼女はすぐに溺れて失神した。 一方笹原は首から上が何とか水面より上に出て、流れの速さにも体力的に対応出来た。 だからさほど泳ぎが上手くない笹原でも、荻上さんを抱き抱えて「歩いて」救助することが出来た。 河原に荻上さんを横たえた笹原は、携帯で119番に連絡しようとした。 だが水に浸かった為に携帯は使えなかった。 どうするか一瞬迷ったが、やがてある決断をした。 話はおよそ1週刊前、笹原内定の直後に遡る。 「編集者ってのは、漫画家の為にいろいろ雑用をこなさなきゃならん何でも屋だ。やれることは1つでも多いに越したことは無い」 そういう信念から、小野寺は笹原にいろんな課題を与えた。 「普通免許ぐらいは持っとけ」と自動車学校に通わせたり、「絵描きの友だち居るんなら線の引き方と色の塗り方ぐらいは習っとけ。最悪の場合、君が原稿仕上げにゃならんことだって有り得るからな」といった具合だ。 そんなある日のこと。 笹原「応急手当講座?どうしてまた?」 小野寺「いいか、漫画家ってやつは精神病の一歩手前のデリケートな生物だ。締め切りに追い詰められてテンバったら、いつ自殺してもおかしくない」 笹原「なるほど、だから第1発見者になる可能性の高い編集者が対応しなきゃいけないと・・・」 小野寺「そうだ、何としても蘇生して原稿だけは上げてもらわないと」 笹原「そっちの心配ですか、ハハッ『この人鬼だ』」 その応急手当講座は意外と本格的で、人工呼吸の方法まで教わった。 だから救急車が呼べないとなった時、真っ先に頭にそれが浮かんだ。 一瞬笹原はためらった。 『荻上さんの唇に俺の唇を・・・馬鹿っ、こんな時に何考えてんだ、俺!荻上さんの命が危ないってのに!』 だが次の瞬間には自分自身を叱り、荻上さんの唇に自分の唇を重ね、人工呼吸を施した。 意識の戻った荻上さんがまず見たのは、大粒の涙を流している笹原だった。 そして笹原はいきなり荻上さんを抱きしめた。 笹原「(泣きながら)良かった・・・もし荻上さんが死んじゃったら、俺、俺・・・」 多少びっくりしながら、荻上さんは自分に何があったかをようやく思い出した。 荻上『そっか。私また飛んじゃったんだ。笹原さんが巻田君みたいに傷付くのが怖くて逃げようとして・・・』 ここで荻上さんは、自身の思考の矛盾に気付き、混乱した。 荻上『笹原さん傷付けたくないから逃げたのに、それが笹原さん傷付けてしまった・・・』 混乱した荻上さんは、本能で答えを出した。 笹原の背に腕を回し、自分が抱かれているのに負けないぐらい強く抱きしめた。 笹原「荻・・・上さん?」 荻上「(泣きながら)ごめんなさい・・・」 そこでクッチーの呼んだ救急車がやって来た。 救急車の中で、笹原は救急隊員から状況についてあれこれ訊かれた。 一通り問診が終わると、今度は荻上さんに声をかける。 救急「君ね、彼の処置が適切だったから助かったけど、下手したら危なかったよ」 荻上「すいません・・・」 救急「ほんと彼には感謝しなさいよ。愛のキスのおかげで助かったんだから・・・」 荻上「えっ?」 笹原「(赤面して)ちょっ、ちょっと、そっ、それは・・・」 救急「つまりマウストゥーマウス、即ち口移し式の人工呼吸を彼がやってくれたんだよ」 一気に赤面して失神する荻上さん。 笹原「荻上さん!しっかりして!」 救急「(荻上さんを見て)大丈夫、気絶しただけだから。(怪訝な顔で)キス、まだだったの?」 笹原「(最大級に赤面)・・・はい『それ以前に付き合ってないし・・・』」 救急「もしや・・・彼女とどうかというのも置いといて・・・初めて?」 笹原「・・・はい」 タイミングを合わせたように、荻上さんがうわ言を言う。 荻上「人工呼吸・・・初めてのキスなのに・・・」 救急「どうやら彼女も始めてみたいだね」 赤面したまま固まる笹原。 救急「(ニンマリ笑い)いやー青春してるねえ」 やがて荻上さんを乗せた救急車は病院に着いた。 いろいろ検査を受け、とりあえず数日入院することになった。 救急隊員たちが帰る際に、笹原は素朴な疑問を口にした。 笹原「そう言えば救急車、どなたが呼んで下さったんですか?」 救急「やっぱり君じゃなかったのか」 笹原「俺の携帯、水に浸かって使えなかったんです。それよりやっぱりって?」 救急「名前訊く前に切っちゃったらしいんだよ、119番してくれた人。まあ物凄く正確に地図上の座標で現場教えてくれて、こっちも助かったから表彰したいんだけどね。何でも、語尾に『にょー』って付ける変な喋り方してたらしいんだけど・・・」 笹原「にょー?」 荻上さんの入院手続きを終えると、笹原は1度別荘に戻った。 みんなへの連絡と、荻上さんの荷物を運ぶ為だ。 たまたま戻っていた斑目の携帯で他全員に連絡し(クッチーだけつながらなかった)、斑目と一緒に再び病院に向かった。 (心配かけない為に、みんなには荻上さんが誤って川に落ちたということにした) 1時間後、クッチーを除く全員が病院に集結した。 泣きながら抱きしめる大野さんや、泣きながら怒鳴りつける咲ちゃんに、改めて大変なことをしたと後悔し、同時にげんしけんがいかに自分にとって大事な場所かを悟る荻上さん。 荻上『わたすには帰るところがあったんだ。こんな嬉しいことはねっす。って、こんな時にガンダム台詞パロやってる場合ですか?これだからオタクってやつは・・・』 みんなが揃ってから数十分後にクッチーも病院に着いた。 咲「どこまで行ってたんだよ?連絡もしねえで」 朽木「いやー申し訳無い、携帯の電池切れちゃって・・・」 それは本当だった。 ここ数日充電するのを忘れてた上に、119番した時に細かく具体的に場所を説明してたら予想以上に長電話になってしまい、名前を問われて答えようとした途端に電池が切れたのだ。 そんなクッチーに物凄い勢いで駆け寄り、彼の右手を両手で力強く握る笹原。 朽木「にょ?」 笹原「ありがとう(涙を流し)本当にありがとう朽木君!」 咲「何かあったの?」 笹原「朽木君が救急車呼んでくれたんだよ」 咲「ほんとかクッチー?(強く肩を叩き)でかした!」 荻上「あの朽木先輩・・・ありがとうございました」 他のみんなも口々にクッチーを褒め称える。 実はクッチー、病室に入るまでは人工呼吸の写真を見せる気満々だった。 だがさすがに空気への対応力の無いクッチーと言えども、このいい場面であの写真を見せる度胸は無かった。 それに彼の中には、みんなに見せたい反面、自分だけの秘密にしておきたい矛盾した欲求もあったので、今回は後者の欲求に従うことにした。 それから数年後。 今日は笹原と荻上さんの結婚式。 咲「みんな揃ったか?」 斑目「大野さんと田中がいないみたいだけど」 咲「あの2人は新郎新婦の着付け手伝ってるよ」 斑目「今日の衣装って何かのコスなの?」 咲「よく分かんないけど、田中が作ったらしいから」 斑目「高坂は?」 咲「仕事で遅れるけど、式には間に合うと思うよ。久我山は受付だっけ?」 斑目「ああ。朽木君がまだみたいだな」 咲「またあいつか。あたしん時もすっぽかしやがったからなあ。(恵子に)何か聞いてないの?」 恵子「知んねえよ。2ヶ月前に南米の○○共和国でクーデターがあるから参加するってメールあって、それっきり音信不通、携帯も通じないんだ」 斑目「参加って・・・オリンピックじゃないんだから」 咲「またかよ。お前もえらいのと付き合っちまったな」 恵子「(少し赤くなり)しゃーねえだろ。戦場で写真撮ってるあいつ、けっこうかっこよかったんだから・・・」 斑目「ああ、去年NHKでドキュメンタリーでやってた、えーと『戦場の真ん中でイエーと叫ぶカメラマン』だっけ?」 恵子「そうそれ!あん時のあいつ、チョーかっこよかったんだよねー」 クッチーは合宿後、本格的に写真を始めた。 田中から基礎的なことを学び、あとは写真の専門学校に入り、大学と並行して通った。 卒業後しばらくは某有名カメラマンの助手になり、独立後は「戦場なら腕やキャリアよりも、戦場に行く度胸だ」と某新聞社の記者にそそのかされて戦場を仕事場にするようになり、気が付けば戦場カメラマンとして有名になっていた。 斑目「でも大丈夫かな?確か3年ぐらい前に戦場で写真の仕事があるって聞いて行ってみたら記録写真担当の軍人で、戦場にいる期間より新兵の訓練期間の方が長かったってぼやいてたなあ・・・」 咲「あいつ語学力中途半端なくせに自分で仕事の交渉するからなあ」 恵子「そうなのよ。この間だってアフリカで傭兵の取材で行ってみたら、仕事の内容が傭兵そのもので、給料よかったけど写真はあんまし撮れなかったって言ってた」 咲「何やってんだか・・・」 斑目の携帯が鳴る。 斑目「(画面見て)久我山か(電話に出て)どした?・・・わーった、すぐ行く」 咲「どしたの?」 斑目「受付に何か荷物が届いたらしいんだ。ちょっと見て来る」 受付に届いていた荷物とは、畳ぐらいの大きさの板状の包みだった。 久我山「斑目、これ、それに付いてた手紙。朽木君からみたい」 斑目「(封筒を受け取って中身を出し)何々、ご結婚おめでとうございます。お祝いの品を送ります。わたくしの生涯最高傑作をパネルにしました・・・どれどれ」 包みを開けてみて、仰天しつつ赤面する2人。 久我山「こっ、これは・・・?」 斑目「そうか・・・あの時のあれかあ。(ニヤリと笑い)久我山、これさあ、式の途中でお披露目するぞ」 久我山「そっ、それはちょっと過激では・・・」 斑目「(手紙を差し出し)まあ続きを読めよ」 久我山「えーと・・・本当は一生お蔵入りにする積りだったのですが、何しろ何時死ぬか分からん仕事だし、いい機会なので生きてる内にお渡しすることにしました」 斑目「命がけの男の大ボケ、男なら応えてやるべきだぜ」 久我山「そういう問題なのかなあ・・・」 そして結婚式のキャンドルサービスの直後。 斑目「それではここで、新郎の後輩で新婦の先輩、そして世界的戦場カメラマンである朽木学先生からのプレゼントが届きましたので、ご紹介します!」 司会の斑目の宣言と共に、前に運ばれてきたバネルのカバーが外される。 それを見て最大級に赤面する笹荻。 固まる新郎新婦の親族や仕事関係の出席者と対照的に、拍手喝采のげんしけん一同。 そのパネルの写真は、笹原が荻上さんに人工呼吸してる瞬間を撮ったものだった。 タイトルは「ファースト・キス」となっていた。
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現聴研・第四話 【投稿日 2006/04/16】 現聴研 笹原「荻上さん、ギター弾けるんだね」 荻上「ええ、まあ…」 荻上さんが路上での弾き語りまで出来ることが部員に知れ渡って数日後。 現聴研部室では、皆でその腕前を堪能しようということになり、お馴染みの会議が開催された。 議題- 「第123回荻上さんに演奏してもらいたい曲を決めよう会議」 しかし…。 大野「流行りのアレンジレンジの“鼻”とかどうで…」 荻上「あんなチャラチャラしたバンドは却下です。前にも言ったハズですが、私硬派なんで、ラブソングや流行歌なんか歌いませんから」 それを聞いて大野は憮然としている。 咲「なかなか頑固だな荻上~、かえってイタイよそれ」 ツッコまれた荻上も憮然としている。 頑な荻上の態度に、会議はなかなか進まなかった。 部室の雰囲気が険悪になってきた時、斑目がパンパンと手を打った。 「はいはいはい~!せっかくのギタリスト降臨なんだからここは一つ議題を絞ってね、ロックで行こうよロックで!」 改題- 「第124回荻上さんに演奏してもらいたいロッカーを決めよう会議」 笹原「ロッカー…ですか?」 大野「曲じゃなくて?」 斑目「そうそう、そーよ。どんなバンドでも恋愛ソングは一つ二つあるもんだ。ここは硬派に“ロッカー”と縛りを入れることで、荻上さんも同意しやすいんじゃないかな、と?」 荻上は「まあ、いいですけど…」とやや及び腰だが、皆はかまわず議題を進めた。 咲「あー、私はロックとか趣味じゃないし、しいて言うなら“ジョルノグラフティ”くらいかなあ…」 田中「“伊エ門”はどうかな。吉井カズ哉は日本人離れした感じで、和製ネックジャガーっつうか…」 久我山「あ、い、“忌野喜代志郎”は…」 高坂「アニソンだけど、“Gクリップ”って知らないかなあ。一応ロックなんだけど、いい詩だよ」 斑目「うーん、キミたちはメジャーで順当すぎてイマイチかなあ~。高坂は逆にマニアック過ぎるな」 斑目は勝手に仕切りはじめた。 大野「モービィなんかどうですか?」 斑目「ありゃちょっとアレンジ難しいよな」 田中は大野の隣で、(モービィか…、ハゲだからだな…)と分析した。 笹原「メジャーどころではあるけど、ホテイさんのギターは好きですよ。“ボフイ”“コンピレックス”とか、ソロで一貫して硬派というか…」 斑目「笹原お前、最近までウォンタウンバンドとやらの“アイノウタ”を着メロにしてたろーがよ。ここぞとばかり硬派ぶるなよ~」 荻上さんにもジト目で睨まれて焦る笹原。 笹原「うわ、まだそのコト憶えてたんだ…」 斑目「俺は気に入らないものは何時までも憶えてるぜぇ。しつこいぜ、前世がヘビだからな!」 朽木「ハイハーイ!ボクは“UNDER-13”がいいと思いマース!」 斑目「…朽木君は廊下で議題を100回復唱してから入室してください(汗」 斑目は、ゴホンと一つ咳き込むと、「…どいつもこいつも、真剣にロックというものを論議せずに結果だけを追い求めておる」と大上段に語りはじめた。 笹原「いや、弾き語ってもらうロッカーを決めようって言ったの斑目さんだし…」 久我山「し、しょーもないオチに行き着くのを、だ、黙って見ているのが吉」 斑目「ロックというものはな、孤独なものなんだよ。誰にも理解されなくても、自分の信念をロックンロールに乗せて世の中にシャウトするものなんだよ!」 咲「聴くだけの音楽オタがよくまあエラソーに…」 斑目「うるさい、商業音楽に魂を引かれた心貧しき地球人よ」 斑目はイスを蹴飛ばすように立ち上がると、グッと拳に力を入れて語る。思わず一同も固唾を飲んで見守った。 「本当のロッカーとはなあ…、本当の…ロッカーとは……“ラ・ムゥー”のボーカリストォ、菊血ぃぃぃ桃子さんだァ!」 一同「(菊血桃子ォ………ッ!?)」 斑目「笹原ァ貴様見習ってるか桃子さんを!?」 笹原「…はぁ?」 斑目「愛はココロの仕事だ馬鹿者!」 田中「思いっきり恋愛ソングじゃねーか」 久我山「あ、こ、これ大月ケンヂのネタだよ…」 咲は、「ホント馬鹿ばっかでしょこのサークル…」と傍らの荻上に語りかけた。 「はぁ……」荻上も言葉が見つからない。しかし、彼女がラ・ムゥーも弾けることは秘密だ。 こうして部室内では、会議で挙がったアーティストの曲で、荻上さんが演奏可能な曲を弾き語りし、時には皆で歌て楽しいひとときを過ごした。 一方、斑目は廊下に立たされ、議題を100回唱える朽木の隣で、ラ・ムゥーの「愛はココロの仕事です」20回歌唱するはめになったのであった。
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「ありがとう」 【投稿日 2006/05/25】 最終回に寄せて もう外は明るくなり始めてきた。 荻上さんの家に到着。部屋の鍵を開けた。 当の家主は背中の上で寝息を立てている。 すっかり酔っ払ってしまったみたいだ。 かくいう自分も足取りが心もとない。 玄関に入り、荻上さんをおぶった体勢のまま靴を脱ごうとすると、 「あっ、も、もう大丈夫ですっ」 「…あ、起こしちゃった?」 背中から荻上さんの声が聞こえてきた。 「いや、…ゴメンなさい、寝ちゃって…」 「大丈夫、大丈夫」 ふと部屋の中の時計を見ると、針は五時を指していた。 「もうこんな時間か……」 二人とも部屋に入って、このまま眠りにつこうかと思っていた矢先、 手に何も持ってないことに気付く。 「あああっ!!」 「ど、どうしたんですか?」 「忘れたぁぁ!!」 「へ?」 「同人誌…」 「…そんなんどうだっていいじゃないですか!!」 「いや、…そうね…、う~んでも…」 かなりお気に入りだったんだよなぁアレ。 「…寝ていいですか」 呆れた様子で、荻上さんはソファに寄りかかる。 「…でもまさか、あんなになるとは思わなかったなぁ」 「まだ同人誌ですか」 「いや、…それもあるけど、そうじゃなくて、 女性陣は随分盛り上がってたなあって思って」 合宿の時は仕切られてたからどんな話をしてたか全然分からなかったけど、 知らない間に随分と仲良くなってたんだな、と思った。 無理矢理ついてきた恵子とも、それなりに打ち解けてたのが、 ちょっとした驚きだったり。 「笹原さんこそ、おとなし過ぎですよっっ!」 「チラチラ見てても、酒呑みながらいつものオタク話 ばっかりだったじゃないですか!」 「んー… でも俺達いつも、あんな感じだしなぁ…」 男性陣は男性陣で、まったりといつものオタク話。 斑目さんと高坂くんの仕事話や田中さんの衣装話も 軽く話したりしたけど。 でもそんな話を気兼ねなく話せる人たちだし、それだから 楽しく続けていられたんじゃないかと、今になって思う。 「それにしたって!!」 「最後なんですよ!もっと色々 話す事とかあったじゃないですかぁっ…ヒッ!…ク」 息を吸い込みすぎたのか、しゃっくりが出てきた。 「……まだ酔ってる?」 「酔ってないです!!」 「水、持って来るね」 「大丈夫です!…話聞いてますか笹原さん!?……ブツブツ」 ソファーに座りながら煮え切らない様子の 荻上さんを尻目に、台所から水を取りにいく。 …コンパの後は二次会、三次会、カラオケとオールナイト。 久我山さんも残業後にかけつけてくれた。 全員が久しぶりに集まる。お酒も随分空けたし、 朽木君が例によってハメを外したりしたけど、 それも含めて凄く楽しい夜だった。 多分もうこんな機会はないだろうなと思う。 「…荻上さんさ、」 汲んできた水を渡す。勢い良く水を飲む荻上さん。 「どこか大野さんに似てきたよね」 「!!」 驚いたように水をこぼす。 「ど、どこがですかっ!!」 「…いや、良い意味でだよ」 「似てませんよっ!!」 「でもさ、」 服の上に零した水を拭いてあげながら、言葉を続けた。 「以前の荻上さんだったら、あんな風に泣いたりしなかったよね」 「………」 入学当初、誰も寄せ付けないような感じだったのに。 …別れ際、春日部さんと話してて涙ぐんでた荻上さん。 酔っ払って、タガが外れたのだろうか。 春日部さんも大野さんも困ってたな。 荻上さんが感情を表に出すのって珍しいから。 春日部さんは荻上さんを落ち着かせようと 頭を撫でながらよしよしやってたけど。 大野さんは貰い泣きしちゃってたみたいだ。 「…だって、……卒業しちゃうんですよ……」 急に声が尻すぼみになる。 「大野先輩達はまだ居るし、笹原さんは傍にいますけど…」 「もしかしたら、もう会えないかも…」 そういって荻上さんの目が潤む。 「荻上さん…」 「春日部先輩や、大野先輩にっ……。現視研に…私…、どれだけっ……」 そのまま言葉を詰まらせてしまった。 「……大丈夫だよ」 「……っく……ひぐっ…」 荻上さんの隣に座る。 「みんな荻上さんの気持ち、分かってると思うよ、きっと」 なかなか素直にはなれないけど、 本当の荻上さんは真っ直ぐな気持ちを持っているってこと、 現視研のみんなはもう知ってる。 「それに…卒業したって、また会えるし、ね」 「……」 「だから、…大丈夫だから、ね?」 そういって、目の前の彼女を抱き締める。 「………ハイ……」 こうしていると、根は本当に良い子だよなあと、改めて思う。 「かわいいな、荻上さんは」 「……どさくさに、何言ってるんですかっ……」 「…ハハ」 荻上さんにとって、いつのまにか現視研が かけがえの無いものになっていたんだな、と思う。 もちろん、自分にとっても同じだ。 何となく、嬉しい気持になった。 「ありがとう」 「……」 誰に向けるでもない言葉が、自然と自分の口から出てきた。 いや、目の前の人に向けた言葉には違いないんだけど、 それだけじゃなくて。 酔っ払ってるせいだろうか。 「そんな…まるで、これで終わりみたいな風に言わないで下さい」 「そんなんじゃないよ」 「分かってます…ケド…」 「…ずっと一緒ですよ」 そういいながら、彼女が抱き付いてきた。 「うん」 返事をしながら抱き返す。 しばらくそのまま、目を瞑ってみる。 すると、さっきまで一緒にいたみんなの顔が浮かんできた。 本当に、四年間…色々あったな…… …気がつくと、傍から寝息が聞こえてくる。 あれだけハシャいだもんなぁ。 …自分も眠くなってきた…… カーテンの隙間から差し込む明かりと 隣に感じる温もりを感じながら、 ゆっくりとソファーに身体を預けていく。 こんな感じで、僕達の卒業式は終わっていったのだった。
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やわらかい月 【投稿日 2006/10/09】 カテゴリー-笹荻 「はわわっ……んんっ!でねくて…!」 夕暮れの中を駅に向かって歩く荻上は、強い風にあおられてよろめいた。 最近見たアニメの影響でオタクくさいリアクションが口をついて出てしまい、 よろめいた事より「はわわ」と言ってしまったことに焦っている。 (誰か知り合いに見られてねぇべな…?) 後ろを振り返り、前方をきょろきょろと見回すと、早足で歩き出すのだった。 上陸こそしなかったものの台風の影響で風は強い。 中秋の名月の翌日のこと、十六夜の丸い月が藍色の空に浮かんでいるが 荻上はそんな事に全く気付いていないようで、一瞥もせず歩き続けている。 今日は土曜日で、さっきまでサークル活動だった。 会長として現視研をまとめ、個人誌や合同誌、ゲストなど同人活動も忙しく 充実した日々を送っている。だからこそ、笹原と会える日は全力で密度の高い 時間を過ごしたいと思い、気が急いているのだった。 (えーと、笹原さんのさっきのメールで、仕事から帰ってきて駅に7時頃に 着きそうって事だったから、今からじゃ家で料理仕込んでる時間も無いし 『外食より二人で家で過ごそうか。疲れてるしゆっくりしたいんだけど』 って書いてあったしなぁ。何かすぐ食べられるもの買って…休むって事だし 何して過ごすべか?ゲーム?DVD?TV番組何か有ったっけか?) 急いで携帯で、今夜のTV番組をチェックすると、特に二人で楽しめそうな 番組が無いので、駅前に着くとまずレンタルビデオ店に駆け込んだ。 (えーと、コメディ?アニメ?恋愛物?あっこれ懐かしい!でも笹原さん 好きかどうかわかんねぇ…決めらんね……あうー…あうーって言うな私!!) だいぶ混乱しているようだ。急がば回れというが、傍目に非常に効率悪く 棚を行ったり来たりしている。 (録画も溜まってるって言ってたしなぁ。無駄な事してねぇか? いや、二人で過ごす為にワンランク上を目指さねば!) 迷いに迷った挙句、古典だが荻上は通しで見たことが無かった宇宙戦艦ムサシを 借りてみたのだったが、店を出る頃にはもう駅前の噴水の所に笹原が立っていた。 ちょうど笹原は携帯を取り出して電話を掛けている。鞄の中で携帯を鳴らし ながら慌てて駆け寄る荻上。少しハーハー息をしながら 「笹原さんっ、おかえりなさい!」 と呼びかけると、つまらない表情だった笹原の顔にも笑みが浮かび こちらに嬉しい視線を向け、歩いてきた。 「あー、何かDVD借りたの?」 「ムサシ借りてみましたから、うちで観ましょうよ。」 「うぉっまぶしっ?」 「そっちじゃなくって、宇宙戦艦ですよっ(笑)!」 二人して、肩を叩きあって声高に笑いあう。そのテンションの高さに 周りの人々が少し目を向けるが、気にして無いようだ。 「あー、古典だねぇ。荻上さん女の子だし年齢的にも、あんま観て無い?」 「ええ、そうなんですよね。ところで夕食今から買うんですけど。」 「珍しく呑みたい気分なんだけど…。そこのスーパーで何かつまむもの 買って帰ろうよ。あ、荻上さん呑まなければ何かお弁当でもさ。」 「いえ、私もお付き合いしますよ。少しなら。」 駅前の高級で無いデパート地下で、刺身やサラダ、フライドチキンや スナック菓子などをカゴにどんどん入れていく。余らせるぐらいの分量に見える。 酒コーナーでは特売の缶チューハイと発泡酒を買い込む。 軽い菓子などの袋を持った荻上と、重い荷物を手に食い込ませた笹原は 二人で今週有った事の愚痴などを冗談めかして話し、笑いあいながら 疲れた足を騙し騙し、早足で家路につくのだった。 ふと、前方の道端に人が立っているのに気付く。 禿頭の老人が一人、煙草を燻らせながら、酒屋の前に出て、 歩道に立って空を仰いでいる。 笹原と荻上は足を止め、空を見てみた。 丸く白い月が、雲ひとつ無い墨汁のような空のなかに、居た。 本当はすごく遠いと知識では知っているが、すぐ近くに 居るように見えるその存在に今夜初めて気付いた二人は、 しばし月を眺め続けると、どちらともなく 「満月…?」 とつぶやいた。 「満月、十五夜は昨日だったんだがね。」 すぐ近くに立っていた老人に答えられ、びくっとして振り返る。 「今日は十六夜だが、いいお月様だな。」 「あ、そうだったんですね、すっかり忘れてました。」 笹原はそう答えるが、老人は笹原でなく月を眺めながら 煙草を吸い込み、大きく空に吐き出した。 風が強いので、笹原や荻上に煙が掛かることも無く消えてゆく。 会話も続かず、さりとてこのまま立ち去る雰囲気でもない。 「あの、お店、まだ開いてますか?」 笹原は酒屋の店内を見て、老人に話しかけた。 「ああ、まだまだ開いてるよ。何か買うかね?」 老人はやはり酒屋の店主らしく、店内に入っていった。 レジの横の灰皿で煙草を消すと、笹原と荻上に色々と 勧めてくる事も無く、贈答用の包装紙をまとめている。 店内には、大手スーパーよりやや割高なセール品の ワインや焼酎なども並び、手前の冷蔵庫にはビールや 発泡酒、瓶ビールなどが埋まっている。 二人して焼酎やビールを眺めるが、二人とも焼酎は 得意な味ではなかった。 「これ、瓶が綺麗でラベルも良いですね。」 奥の冷蔵庫に入った、やや小ぶりの日本酒に荻上が目を留めた。 青い瓶に和紙のラベルで「月」と朴とつに書かれている。 「荻上さん、日本酒大丈夫?」 「うーん、呑みやすいのと呑みにくいのが有るんですけど…。」 そんな会話をしていると、二人の後ろに店主が立っていた。 「最近は焼酎が流行ってるんだが、若いのに日本酒かね。」 「あ、いえ、あんまり呑んでないんですけど(苦笑)。 それで全然分からないんですけど、どれがお勧めですか?」 笹原の問いかけに、冷蔵庫を開けながら老人が答える。 「呑みやすい、呑みにくいってお嬢ちゃんが言ってたがね…。」 半分ぐらいになった酒瓶を3本取り出すと、隣の机に 置いてあったお盆から小さな杯を二人に手渡した。 「吟醸酒、中でも大吟醸っていうとだいたい呑みやすいもんだ。」 そう言って注がれて、戸惑う二人。 「さ、味見だから遠慮なくどうぞ。」 少し微笑んで促され、ようやく口に付けた。 口の中に、サラリとした淡い酸味と、木の香りが広がる。 「うん、美味しいですね。」 「これなら私も呑めます。」 「ただこれは、4合瓶で4千円ぐらいするけどなぁ。 兄ちゃん、こんなの買う財布の予定、無かったろう?(苦笑)」 そんな二人に、また次の瓶から酒を注ぐ。 「あ、今度は味が濃いですね。美味し…。」 「私はこれ、ちょっとキツイかも…。」 ちょっとキツイと言った荻上が気になり、笹原は荻上を見遣る。 苦いものを食べたような表情の荻上。 「そうか、普通の純米酒なんだがなぁ。これはどうかね。」 次に3本目の酒を注いでもらう。 「これはまた、全く違った感じですね。」 「へー。ちょっと甘いです。」 そういう荻上の表情も、甘みを含んだ笑みが頬に浮かぶ。 「これなら一本1400円で、この瓶の奴だがね。」 そう言って示されたのは、荻上が最初に興味を示した青い瓶だった。 買って出ると、店主のお爺さんは店の外まで見送ってくれた。 「ちょうど今夜も十六夜だし、甘口で好みのが見つかって良かったな。」 荻上は、そう言うお爺さんの頭も、満月のようだと思ったが 小さい子供ではないので微笑で答えると、会釈をした。 月明かりが照らす中、月を眺めてゆっくりと歩く。 二人の足音は、ゆったりと夜道に響いていた。 笹原も荻上も、せかせかした気分からすっかりと のんびり出来ているようだ。 笹原は荷物が重いが、荻上はさっきの酒瓶を嬉しく思えて 上機嫌になっていた。笹原もそんな様子をしみじみ見歩く。 早く呑みたいというより、今の楽しさを月の下で感じていたくて 足取りはますます遅くなっていくのだった。
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その二 正夢~恋は夕暮れ【投稿日 2005/12/26】 カテゴリー-3月号予想 「お、荻上さん・・・。」 笹原は息を切らしながら、ひざに手を突き、前かがみになる。 顔を上げると、荻上は沈んだ表情で俯きながらそこにいた。 「・・・・!」 よもや追いかけてくるとは思ってなかったのか。 その顔が驚きに染まる。 「なんで・・・。なんで来るんですか・・・。」 「ん・・・。」 「私は!人を傷つけて!大切だった人を傷つけて! それでもまだ自分の好きなことをしたくてたまらなくて・・・。 それがその人を傷つけたのに・・・。」 「・・・・。」 笹原は最初何を言い出しているのかがわからなかった。 戸惑いを表情に出そうとしたすぐあとに、夏コミのことを思い出した。 『精神的なものなので・・・。』 「それなのに!私は幸せになりたいと思ってしまって! 私は・・・。そうなっちゃいけないんです・・・。」 そういって、再び涙を流す。 「そっか・・・。」 「だから、笹原さんも私にかまわないで・・・。 笹原さんは私みたいなのに近づいちゃいけないんです・・・。」 (そっか。そういう意味だったのか。) 先ほど振られたときの言葉の本意を聞けた。 大野と咲がなぜ追いかけろといったのか。 全てがつながったような気がした。 そしてその態度で、 自分への感情がどういうものなのかを読み取るには十分だった。 「・・・それはできないよ。」 すこし困った顔で笹原は笑う。 「な・・・。なんで・・・。」 「だって、俺がそうしたいから。これは俺のわがままで。 荻上さんに幸せになって欲しいから・・・。」 「だから私は!」 「いいよ。自分ではそう思ってても。 それでも俺は、荻上さんを守りたいと思うから・・・。」 その台詞にまた心の温かみが戻っていく。 しかし思い浮かべるのはあの『悪夢』。 「だめ!私は・・・!」 「荻上さんは・・・・。俺のこと、どう思ってる?」 口の端は笑みを浮かべてはいるものの、笹原の目は真剣だ。 いつにもない真剣な表情で見つめられて荻上は鼓動が早まる。 「・・・・!私は・・・。」 嘘をつけばいい。 また、「オタクが嫌い」といえばいい。 この人が嫌いだといえば、あの悪夢は起こらないはずだ。 でも・・・!でも・・・! 「荻上さんが、俺のこと嫌いだって言うなら、 もう、何もしないよ。」 「・・・・!」 嫌いといったら、もう笹原は近くに来ない。 言えばいいじゃない。嫌いだって。 それで全てがすむのなら。この人を傷つけずにすむのなら。 その瞬間、今まで見てきた様々な笹原がフラッシュバックする。 頼りない笑顔。 真剣な表情で意志を通した意外な顔。 困った顔で諭す顔。 私のことをまるで自分のことのように喜んでくれた顔。 いつからか、自分のことを気にかけてくれていた。 そんなこの人に。 言えるはずが無い。 「・・・嫌いなわけ、無いじゃないですかあ・・・・。」 本音が漏れた。弱ってる荻上がいつもの外面を保てるわけも無く。 目を腕で覆いながら、涙を流した。 「それなら、俺は荻上さんを助けるよ。 何の役にも立たないかもしれないけど。」 荻上は首を大きく振る。 「笹原さんは・・・。今までたくさん助けてくれました・・・。 だから私はあなたを・・・。傷つけたくないんです・・・。」 近くにいると・・・。傷つけます。きっと。」 「それでも、俺は傍にいたいからさ。」 そういって、笹原は笑う。 「やっぱ、俺はわがままなんだな。オタクだしね、はは。」 「笹原さんは・・・。気持ち悪くないんですか、私のこと。」 荻上にとって聞きたかったことだった。 あの本の中身を見ても、なぜこの人は私を・・・。 「ん?ああ・・・。別に・・・。俺だってエロゲーやるし。 そんなこと、人に言えるわけないじゃん。」 「でも・・・。」 「いやね、理解はできないよ?でもさ。それはそれかなって。 それもひっくるめて・・・。好きなんだ・・・。」 再度の告白。今度はさっきよりも自信を持って。はっきりと言った。 「なんで荻上さんが昔、人を傷つけたのかはわからないけれど・・・。 多分、俺は大丈夫だから・・・。」 笹原は言葉を終える。 「私は・・・。私も・・・。」 荻上は、もう感情が爆発寸前だった。 うれしい思いと反面、やはり思い浮かぶのは・・・。 「でも・・・。それでも・・・。」 「俺のこと、信用できないかな・・・。」 少し沈んだ表情で自嘲の笑みを浮かべる笹原。 「そんなこと・・・!」 自分はきっと人を傷つけるから。どんな相手でもそうだろうと。 でも、今笹原は大丈夫といった。 それを信用するの?できるの? できる。 この人なら・・・。きっと・・・。 「ないです・・・!私は・・・。」 バタン。 「お、荻上さん!!」 葛藤の末、体力もなかったこともあり、荻上は倒れてしまった。 夢を見た。 いつもの悪夢かと最初は思った。 中学の教室。 始まる怒声。 逃げる私。 屋上。 フェンスを乗り越える。 落ちる。 しかし、そこからが違っていた。 手を握る人がいた。 私は助けられた。 気付くと今の自分だった。 そして、その手の先にいたのは。 笹原。 「ん・・・。」 荻上が目を覚ますと、もう外は暗くなっていた。 「どうしてたんだっけ・・・。」 体を起こそうとする。二日酔いはかなり消えていた。 腰の横の辺りになにか、黒い塊が見える。 「笹原さん・・・。」 それは笹原の頭だった。つっぷして、寝てしまっている。 「お、起きたね。」 声の方を振り向くと、惠子が入ってきていた。 「大丈夫そう?」 「ええ、まあ・・・。」 「そりゃよかった。兄貴もおきたら安心するよ。」 惠子はにやりと笑って寝ている兄の方を見やる。 「びっくりしたよ。あんた抱えた兄貴が帰ってきたときは。 汗だくになってさあ、必死な形相でさ。」 「・・・。」 その様が想像できて、心が痛む荻上。 それと同時に、うれしさもこみ上げる。 「で、どうするのさ。」 「どうするって・・・。」 「兄貴の告白、咲さんと大野さんから聞いたけど。 付き合うのかってきいてんの。」 「・・・・付き合います。」 少し笑みを浮かべた表情で惠子の言葉を肯定する荻上。 「へえ。なんだ、私の読み当たってたんじゃん。」 「でも、あの時点では付き合ってませんでしたから!」 「オタクとはなんちゃらって言ってたじゃん? まー、それはともかく。兄貴はいいやつだから。よろしくね。」 そういって、惠子は外に出て行く。 寝ている笹原の顔を見る。それだけで、今は十分だった。 「・・・あ。荻上さん。起きてたんだ。」 笹原が目を覚ます。大きく伸びをした後、肩をならす。 「体、大丈夫?」 「ええ。もう大丈夫です。迷惑おかけしました。」 「ん?いいよ。気にしないで。」 そうやってやはり笑う。 「・・・・。あの・・・。」 「ん?ああ・・・。」 少しの沈黙。荻上が、声を絞り出す。 「私は・・・。やおいが好きで・・・。 人を傷つけて・・・。わがままですけど・・・。 それでも・・・。好きなんですか?」 「ん。そうだよ。わがままはお互い様だし。 荻上さんはいつも一生懸命だし、現視研で本出したときも、 すごく頑張ってくれたじゃない。とてもうれしかった。 それに、いつも頑ななのに、どこか、脆く見えてさ・・・。 ほっとけない。そう気付いたらそう思ってた。」 微笑みながらの笹原の言葉。 荻上は、その言葉に顔を満面に赤くした。 そして自分のことをここまで見てくれて、 その上で自分のことを好きになったこの人のことを大切にしなければ、と思った。 「私も・・・。笹原さんが好きです。」 面と向かって言われ、顔が赤くなる笹原。 「でも、傷つけたくないから・・・。付き合いたくなかった・・・。 なのに笹原さんは自分を信用しろって言うんですね。」 「うん・・・。ごめんね。」 「謝らないでください!・・・わかりました・・・。」 「え?」 「信用したかったんです。本当は。でも・・・。怖かったから・・・。」 表情を沈ませる荻上。笹原は言葉が出ない。 「・・・。」 だがその後、すぐに顔を上げ、少し微笑んで荻上は言う。 「でも、もう逃げません。」 「それって・・・。」 「笹原さんと・・・、付き合いたいです。」 「ほ、本当?」 「はい・・・。いいですか・・・?こんな私で・・・。」 「いいもなにもないよ。勿論。はあ・・・。」 ため息をついて、安堵の表情を浮かべる笹原。 「こううまくいくとは思わなかったよ。」 「・・・きっと後悔しますよ?」 「ん。大丈夫。色々あるだろうけど・・・。きっと、楽しいよ。全部。」 「だったら・・・。いいですね・・・。うふふ・・・。」 満面の笑顔を浮かべる笹原に対し、荻上も、笑う。 目に光が宿る。 その表情に鼓動が早くなるのは笹原。 (うあ、始めてみたかも。荻上さんが笑うところ。) 「じゃあ・・・。これから・・・。よろしくお願いします・・・。」 「ん?ああ、そうね・・・。こ、こういう時どうするもんなのかな?」 「え、え?わ、私にわかるわけないじゃないですか・・・。」 沈黙が二人を包む。 (え?普通にしてればいいのか?何をするって?え?え? ゲームじゃここから普通は・・・。) (やべ。わがんね。付き合ってすぐって何するもんなんだ? 別に何もしないものなのか?それとも・・・。) 悩む二人の視線が交わされる。見詰め合う二人。 二人の距離が縮まる。 少し・・・。少しづつ・・・。 唇が触れそうになったその瞬間・・・。 「おー!元気になったって!!・・・・って。」 咲。扉を開けて最高に最悪なタイミングで登場した。 「え・・・?何かあった・・・。おい?」 「どうかしまし・・・。えええ?」 その横から斑目と大野も顔を出す。 二人は視線を三人に向けたまま固まる。 「あー、ごめんね?お楽しみの最中でしたか。すまんすまん。 ・・・続きどうぞ。」 「できるわけないじゃないですか!」 荻上の叫びが軽井沢に轟いた。 次の日。みんなは一緒に観光をしていた。 「よかったじゃない。」 「あはは・・・。本当、感謝してます。」 「たぶん笹原が頑張ったからだよ。私たちだけじゃどうもならなかったって。」 そういって咲は前の方で大野と一緒に会話をしている荻上を見た。 髪は完全に下ろしていた。服はワンピース。咲が荻上のために用意したものだった。 その服には帽子が良く似合う。 「そういってもらえると・・・。」 「どうやって説得したのさ?」 「ん・・・。一緒にいたいって。ただそれだけ。」 そういって笹原も前にいる荻上のほうに、優しい目を送った。 「でも、すぐはなれちゃうことになるね・・・。」 あと六ヶ月。卒業まで。 「うん。だからこの六ヶ月、できる限り一緒にいようと思うんだ。 まだきっと心に残ってるから。消えてないだろうから。 その間に、少しでも心が軽くなれば・・・。」 「聞いたの?」 「んー。具体的には聞いてない。でも、それでいいと思う。」 「そっか・・・。」 いずれ、荻上は自分からそのことを言うだろう。 そのときは、きっと二人の心が本当に通い合ったときだろう。 「なーんか、かっこよくなっちゃって!」 「へ?」 「始め合った時とぜんぜん違うじゃん。」 「あはは・・・。いろいろ、あったからねえ・・・。」 「笹原さん・・・。」 「ん?」 気付くと目の前には荻上がいた。 「あの・・・。そ、その・・・。」 「なに?」 「なにじゃねーよ、笹原!一緒に歩きたいんだろ! ったく、そういうところがまだまだだねえ・・・。」 咲が苦笑いで笹原をけしかける。 「あ、あー。ごめん。一緒に行こう。」 「は、はい。」 そういって二人は先に進む。 「・・・うまくいったじゃねえか。良かったなあ。」 近くには斑目がいた。 「そうだけど、二人が大変なのはこれから。でも、荻上、表情良くなったよね。」 「ああ、それは俺でもわかる。目が生きてるよな。」 昨日から、荻上の目は少し変わっていた。光が小さくだが、宿った。 「ん。まあ、色々あるだろうけどさ、笹原なら大丈夫じゃない?」 「うん、大丈夫。笹原君ならね。」 高坂も現れて会話に混ざる。 「でも、荻上さんを不幸にしたら許しません!」 「うわ!いつのまに!!」 気付くと後ろに大野と田中がいた。 「まあ、これからこれから。大野さんも長い目で見てあげなよ。」 田中が大野の発言に答えていった。 「兄貴が彼女持ちかー。よく考えてみたらすごいことじゃん。」 惠子も近づいてきた。 「んー。一段落だね。後は笹原にお任せだね。」 咲がそういった後、みんなで二人の方を見る。 そこには、今まで見たこともないような笑顔の荻上がいた。 「あ、笹荻にクッチー接近。」 「写真とってますね。」 「荻上さんが普通に対応してるね。」 「・・・・何枚とるつもり?あの人。」 「やべ、荻上さんが切れそう。」 「撮るたびイエー!イエー!いってればなあ・・・。」 「ああ!ついに怒った!」 「お。でも笹原ナイスフォロー。朽木君しょんぼりして戻ってきます。」 「あはは・・・。 しかし、ああいうちょっとしたことでもうまくいきそうな予感はするね。」
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いくらハンターⅡ 【投稿日 2006/02/07】 カテゴリー-笹荻 大学の帰り道、まだ明るい時間帯のこと。 荻上はコンビニに寄ると、またしても弁当コーナーに 「ミニいくら丼 395円」という新商品を発見した。 狼の目で手にとって真剣に眺める荻上だったが 『でも、まだ夕食時間じゃないし…ミニなら夜食かな?』 ちょっと名残惜しそうに棚に戻す。 なんだか前と同じ失敗をしそうな荻上だが…。 夜も更けて。今夜は、夏コミで本を買ってくれた人からの依頼で くじあん女性向けアンソロ本に寄稿することになって、 2ページ分の原稿に向かっていた。 冬コミではなく他のイベントでだが、マイナーな 盛り上がりに参加できるのは嬉しくも有った。しかし…。 「降りてこないナァ」 1枚物のイラストなのでアイデア勝負なのだが、今日に限って なかなかコレ!という萌えシチュエーションが降りてこなかった。 右側に描くものが決まらないので、左に描くピーな物の シチュエーションも決められない。 その時、携帯の着信メロディーが穏やかに鳴る。 BUMP OF KITCHEN(通称バンキチ)の「超新星」。 しみじみと良い曲で笹原への感謝を忘れないように という自戒の意味もある。 すぐにぱかっと携帯を開いて笹原のフォルダを開く。 「なんか原稿やるって言ってたよね?差し入れしに寄るよ。 あ、泊まらないから気を遣わないでね。邪魔しちゃ悪いし。 今からコンビニだから何か欲しいものあったら言ってね。」 「ありがとうございます。締め切りは遠いので気を遣わないで下さいね。 でも嬉しいです!それで…ミニいくら丼を買って来て貰えれば……。 笹原さんの好きなチャイと角砂糖の準備をして待ってますね。 寒いから気をつけてください。」 返信を送ると、気分転換になると思い、シナモンなど香辛料と茶葉を ごそごそと取り出しにかかる荻上だった。 しかし、なかなか笹原は来なかった。 30分ぐらいなら気にならないが、40分、50分となると不安が募る。 「夜に来る時は自転車で来る事も多いけんども、今日は歩きなんべか? それとも交通事故とか…いやいや、心配性過ぎだナァ……」 などと考えていると呼び鈴の音。 荻上は返事もせず扉に走ると、覗き窓も見ないでそのまま扉を開ける。 「あ、ごめん。遅れちゃって……。 あと、もひとつゴメン!いくら丼探したけど無かったんだ」 荻上の憮然とした表情に、笹原は焦って言い訳を続ける。 「今日は自転車だったから4軒巡ったけどどこにもなくって―――」 「いいですから!」 笹原の冷えた手を、荻上の小さく温かい掌が包む。 「イクラ丼より笹原さんが来てくれたのが嬉しいんですよ」 「えっ、でも………」 「心配だったんですから。もう……入ってください」 とりあえず買ってきたミートソーススパ1つを机に置き、 まずは二人で熱いチャイを飲む。 「笹原さん、チャイだけは砂糖山盛りなんですよね」 「ん、まあね」 「それ、食べる時はレンジで温めるから言ってね。 原稿続けてよ。―――調子はどう?」 「やー…その……じょ、女性向け2Pなんですけど、どうも……」 「あ(汗)ひょっとして俺のせい? ほんとゴメン」 「いえ、その前からアイデア出てませんでしたから……」 しばし無言になる二人。 立ち上がると、スパゲティーをレンジに運ぼうとする笹原だったが 「あ―――、ちょっと」 「え?あぁ、ひょっとして…気分じゃない(苦笑)?」 「うぅ……ごめんなさい、せっかく買ってきてもらったのに」 ちょっとへこんで、へにゃっと潰れ気味になる荻上だった。 「いや、前にもいくらモードになると他の食べ物が入らなくなるって事が有ったし ひょっとしてって思って、これ1つだけ買ったんだ(苦笑)。俺が食べるよ」 「なにから何までスミマセン…ありがとうございます」 ちょっと涙が滲みそうな雰囲気だが、流石にこんなことで泣けないと ぐっと表面張力で頑張る荻上だった。 『笹原さん、ありがとう……私って、けっこうワガママなんだな……』 笹原はそんな荻上の潤んだ瞳を見て一瞬顔を曇らせたが、次の瞬間 晴れやかな笑顔でこう告げた。 「じゃあさ、二人で探しに行こうか!」 「―――え?」 「だからさ、深夜のコンビニツアーに、探索の冒険に出立さ(笑)」 ちょっとおどけた笹原の口調。 『深夜…ツアー…探索…冒険』 そのキーワードと、笹原の楽しそうな様子につられて荻上にも笑顔が戻る。 「なんか、わくわくしてきました」 「夜明けを待たないで帆を張るんだよ」 「私達、愚かな夢見人ですね(笑)」 二人にしか通じない、歌詞の引用。バンキチの「船出の日」だ。 笹原はもう立ち上がるとコートを羽織り始めている。 荻上も、慌ててコートと手袋とマフラーを準備した。 外に出ると、真っ暗な闇夜に白く雪がきらめいている。 そして笹原が自転車に跨って振り返っている。 「さあ、乗ってよ」 「っはい!」 荻上の頬が少し赤いのは、寒さのせいではなく興奮しているせいだ。 後輪の軸のステップに足を掛けると、荻上はしっかりと笹原の胸に抱きつく。 前に二人乗りした時は、肩に手を付いて離れて不安定になったり、逆に 首を絞めてしまって大変な事になった経験が生かされている。 まあ、笹原もこれで心身ともに暖かくなるだろう。 二人乗りの自転車は重いダイナモの音を響かせながら 雪の夜道に旅立っていった。 「沿線の違うあっちの町に行ってみようか?」 「私、あっちの道は喫茶霊峰までしか行ったことありません」 二人で雪の深夜に出かける、そして探索の旅。そのことで高揚した二人は きっとすぐに目的のいくら丼と、楽しい記憶の財宝を手に入れるだろう。 荻上が深夜の自転車二人乗りのシチュエーションで原稿を仕上げたのは また後の話―――。
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188 名前:ひゅうが[age] 投稿日:2023/04/01(土) 13 56 35 ID p6280002-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp [28/235] 一本できましたので投下します 中島 二式艦上偵察機「彩雲」 全長:11.15m 全幅:12.50m 全高:4.02m エンジン:ロールスロイス マーリン66(日本名:水星66型)液冷V型2段2速過給機付き12気筒エンジン(定格2000馬力 高度3500m時、定格1860馬力 高度8000m時)×1 プロペラ:ロートル社式4翔3.5m径プロペラ 最高速度:729㎞/h(150オクタン価燃料・亜酸化窒素噴射機使用時) 745㎞/h(左記に加えロケットブースター使用時) 巡航速度:400㎞/h(同、150オクタン価燃料使用時) 航続距離:6109㎞(300ガロンペーパータンク使用時) 武装:後部7ミリ機銃×1(のち廃止) 乗員:3名 【解説】――中島飛行機が開発した第2次世界大戦時唯一の艦上偵察機 その高性能ぶりから日英米三国の機動部隊に採用され第2次世界大戦前期から終戦まで空母機動部隊の目として活躍した 主エンジンには、空力的洗練を考慮して1940年当時量産が開始されたばかりのマーリン66エンジン(スピットファイアMk.9などに採用)を採用 偵察機ということで割り切って米国からの輸入品である150オクタン価の特別燃料を使用し、緊急時には亜酸化窒素噴射を行う緊急ブースト機能を搭載したことから1941年当時としては異例の毎時700キロ台突破を成し遂げた機体でもある また、空力的洗練のために特殊な塗料加工(史実紫電改などでも採用)をあわせて行ったことや英国製樹脂強化ペーパータンクの採用、そしてロートル社製の大直径プロペラを用いたことで増加燃料タンクありでは驚異の6000キロ超えの航続距離を誇った これは、英国北部の基地からナチスドイツ領域の奥深くであるバルバロッサ・ポリス(旧モスクワ)にすら往復偵察が可能という性能であり、実際に1941年から1943年にかけては陸上運用された本機による枢軸国各国はもとよりドイツ東部やロシア戦線強行偵察が実施されている この際に遭遇した敵戦闘機を余裕で振り切った際に発せられた「ワレに追いつくメッサーなし」という電文はあまりにも有名であり、各地の部隊によりしばしば真似された また、2段2速過給機を搭載したことにより高高度性能も良好であり、大戦中期にかけては戦略爆撃時の先行偵察にも投入され活躍 登場当初は事実上、待ち伏せ以外での本機の迎撃が不可能であったことからドイツ空軍からは「凶鳥」として忌み嫌われた ただし艦上運用を前提として機体が絞り込まれたことから主翼などは8割がインテグラルタンクであり、機体自体も剛性において妥協されていることからカタパルト発艦は不可能であり、通常の発進か、ロケットブースターによる加速発艦が前提であった さらにはもともとが陸上戦闘機用の1500馬力級エンジンであるマーリンを限界までブーストしたエンジンである66型を採用したことから使用時においてはアメリカ製点火プラグや潤滑油の使用が前提であり、亜酸化窒素噴射機使用後は整備屋泣かせの機体であったという(稼働率低下はアメリカ方式の徹底した絵付き整備マニュアルの配布と訓練で乗り切られた) こうした登場当初から限界ギリギリを攻めた機体であったことから性能陳腐化は意外に早く1945年には陸上運用の偵察機たちにその役割を譲った ただし機動部隊運用機としては代替機が開発されなかったことから1950年前後まで艦隊配備が継続されている 最大の特徴はこの高性能ながらも登場時期が1941年末というごく早い時期であることだろう そのため、地中海や大西洋、北海での戦いに投入され長大な航続距離と高速性能をもって枢軸艦隊を常に、ときには単機で数時間にわたって連続して捕捉し続けることができたともいえる