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G 【投稿日 2006/03/09】 カテゴリー-現視研の日常 「あ、前も言いましたけど自前っすよ、自前」 衝撃コスプレから半年、またしてもクッチー独りコスプレ大会を目撃してしまった。 夏休み明けのげんしけん部室は、気まずい空気に包まれていた。 しかしあえて空気を読まないクッチーは、むしろ大野にコスプレ語りをしている。 「やー、学祭のコスプレ大会?楽しみでアリマス!」 「私、新宿のショップで買っているんですが、大野会長は田中先輩の手作りで良いですよね」 「ワタクシも下、田中さんに直接頼んでみたいものですにゃ~。ははは」 「着たいもの優先で、どんな系統のが似合うかは二の次なんですが!」 大野は辟易してしまい、返事は返せないがスルーも仕切れずダメージを受けている。 コスプレにポリシーが有るので、やってることの相違には言いたいことは多々ある が、コスプレすること自体は否定できない。学祭でどうクッチーを封じたものか…。 何といったら良いものやら。 「あうぅ……(汗)」 荻上に助けを求める視線を送ってみるが、荻上は冷や汗をかきながら ノートに鉛筆を走らせている。 あえて大野と朽木の方を見ないようにしている。 『う、恨みますよ、荻上さん―――!!』 『無理無理、無理です!!』 心の声はクッチー以外には丸聞こえだが、残念ながらこの場には3人しか居ない。 「荻上さん―――わ、わたし帰りますね!ちょっと用事が!」 現視研でまったり過ごす時間のはずだが、大急ぎで帰っていく大野だった。 残された荻上は、何やら漫画教則本を読みながらノートに向かっている。 朽木は話しかけるネタが何も出てこず手詰まりだ。 『ゲームの選択コマンドが表示されないバグでしょうか!?(汗)』 「…………。」 「お、オギちんは帰らないんですか?」 「…今日は、笹原さんが研修明けで部室に来るって事なので待ってますよ。」 「………あ、そうなんですかァ。なるほど――――」 『そ、それってもう付き合ってるって事ですか?私、情報に乗り遅れですか?疎外感ですか?』 「ワタクシ、ちょっとはばかりに…。」 『居るのも野暮というか、お邪魔かにゃ~。その場に居るのも気まずいですし』 トイレへの逃避行。とりあえずの、逃げの一手を打ってみる朽木だった。 が、鞄を持って出ている。これは帰っているんじゃないのか? 独りきりになった荻上は、慣れたものだという様子で過ごしている。 『朽木先輩と二人きりなんて、さすがにまだキツイしなぁ……』 教則本のページをめくる。 『笹原さん、泊まりで研修だったから会うの久しぶりだなぁ』 そして鉛筆がちびている事に気付き、鉛筆削りを持ってゴミ箱へ移動。 くるくると回すと、ガリガリという音が部室に響く。 『んー、照れくさいというか……どんな顔して会うべか』 ちょっと赤面してくるうちにも、鉛筆は削り終わった。 席に戻ると、何やら新しい構図表現に挑戦し始めた。 笹原のこともすぐに頭から消えて、部室で独りの時間を過ごす。 いつのまにか少し部室が暗くなった気がした。 荻上は立ち上がって、壁のスイッチを押して部屋の照明を灯すと、 何かの気配を感じた。 上の方で何か動いたような……でもただのシミですよね? 天井に楕円形の黒いもの。 『ああ、なんだゴキブリか。霊とかじゃなくて良かった。。。』 荻上は、そのまま席に戻りかける。 「―――!!」 じゃなくって!!奴が居たのだ。 ぐるっと振り返って、見るもおぞましい奴を確認する。 立派に黒く、しっかりと触覚が揺れている。 『う、動いてる、すぐ頭上で!?○△×※□……』 自分が動くとゴキブリも動く気がして、固まってしまう荻上。 その目はぐるぐると渦を巻く。 1分、あるいは5分も静止していただろうか。 荻上の頭の中では会議が開かれて、議論が継続中だった。 A『荷物をまとめて部室から逃げるのよ』 B『荷物をまとめるなんて悠長なことは言ってられない!即刻退避!』 A『笹原さんに電話をして呼ぶのは?』 C『久しぶりで「ゴキブリ退治に至急来て」ってロマンチックさの欠片もない…萎えるわぁ』 B『それより奴を殺さないと、明日から安心して部室が使えないではないか!』 A『じゃあ、スプレー買って来るか、叩く物を作るの?』 B『馬鹿!叩いたら中身が……中身が出るじゃない!それにスプレーは油で本とか汚れるし』 C『私はアイツに、丸めた雑誌ぐらいまで近づけないですよ』 A『……どうしたもんだべか?』 B『攻撃方法を考えるんだ!長いホウキで窓から追い出すんだ!』 「可決!」 小さくつぶやくと、荻上は天井のゴキブリから目を逸らさず、 慎重に窓を開け、隅に立ててあるホウキに手を伸ばす。 ホウキを動かすと、ゴキブリもあらぬ方向へ移動し始める。 「ああっ!」 棚の後ろに逃げられては元も子もない。 「えいっ、えいっ!」 必死でホウキを振るう荻上の勢いにやられたのか、ホウキの毛にゴキブリが絡まる。 いや、しがみついている感じだ。 『今しか無いっ!!』 獣の槍を手にした少年のような鋭い眼差しでホウキを操る荻上。 ホウキの先を窓から出すと、ブンブンと振るう。 ぽろりっ。 「やた、やったっ!」 ゴキブリは見事、落ちていった。 晴れやかな笑顔で溜息をつく荻上だったが。 『なっ、ナニぃぃぃ!!』 天井と、部室の扉に2体のエネミー発見。 「ヒィ…………」 荻上の目に涙の粒が浮かぶ。 しかし涙目のまま、ホウキで特攻を敢行してしまう。 結果は当然、目標ロスト……。 『う、動いたら殺られる!?』 ホウキをを両手で胸に抱えたまま、立ち尽くす荻上だった。 ガチャ。 「ちはー」 ドアの陰から顔を覗かせたのはシャツにネクタイ、スラックス姿の笹原だった。 「さ、笹原さぁ~~~ん………」 首をぎぎぎと入り口に向ける、青い顔の荻上が見えた。 「……?あれ?どうしたの?」 苦笑しつつ普通に部室に入ってくる笹原だったが 「駄目です!今……今、アレが居ます!黒い悪魔が―――!!」 ホウキを抱えたまま、笹原の傍に駆け寄る荻上。 「黒い悪魔?うーん、ひょっとしてゴキブリ出たの(苦笑)?」 上着と鞄を机の上に置くと、笹原は腕組みをした。 「はい……1匹はホウキで出したんですけど、さらに2匹出て……消えました」 「あ、上に……!」 机の上に有った先月のエロゲ誌を丸めると右手に構える笹原。 「だっ駄目ですよ!中身が出るじゃないですかっ!」 「えーーー(苦笑)それじゃどうするの?」 「さっきはホウキで窓から出しました」 「じゃあホウキ貸して(苦笑)」 手を伸ばす笹原。荻上の手の上を握ってしまう。 「あっ」 少し赤くなる二人。荻上は視線を逸らして照れている。 ベタベタバカップルへの道は遠い。 気を取り直してホウキを構える笹原。 「無残殺虫ホイホさんでも有ればなぁ」 などとマイナーな殺虫メカのネタを呟く。 もっとも、春にクッチーがコスプレしていたのも、そのライバル であるコンバッツさんなのだが。 とりあえず、天井に居るターゲットに向かってホウキを伸ばす笹原と 不安げに両手を胸の前に組み、それを見守る荻上。 その時、不意にゴキブリが飛んだ! 荻上の方に向かって一直線――――。 「きゃーーーーーーーっ!!!」 「荻上さんッッ!」 普段はそう声も高くないが、叫び声は甲高い荻上の悲鳴が サークル棟にこだまする。 荻上が目を覚ますと、床の上で笹原に抱き抱えられていた。 『うわーーー大胆……でねくて!』 「あ、あの、笹原さん?」 「…だ、大丈夫?窓から落ちそうだったから」 「ありがとうございます。アレは、奴はどうなりました?」 「うん、窓から飛んで出て行ったのが見えたよ」 「ホントですか?……よかった」 「やー、でもあと1ぴ――――」 ガチャり。 「大丈夫でありますか!?」 何故か近くに居たらしき朽木が、部室に入ってきた。 「――――やや!?こっ、これは失礼しました……」 「「ちがーーーう!!」」 笹原と荻上はハモって否定すると、大急ぎで立ち上がる。 「ゴキブリが出てね、荻上さんに向かって飛んだから」 笹原はやや必死に説明をしかける。 その説明に耳を傾けつつ、あごに手を構えてポーズを作り、朽木がゆっくりと歩む。 「そうでありマスカ」 ペキッ。 「「「ぺきっ??」」」 3人が朽木の足元に目をやると、靴の端から見える、黒い触角と脚。 顔をあわせて固まる3人だった。 後日、ゴキブリの巣は発見された。 田中が去年の夏にクワガタを買おうとした飼育ケースが ロッカーの上の奥に有り、中のものは時間の経過で ゴキブリの巣に変換されていた。 「やー、自然の驚異だねぇ……」 田中にしては珍しい失敗だ。誤魔化して笑うしかない。 「あれ以来、ワタクシの二つ名が『一撃殺虫』とか言われますし 荻上さんが何か前より距離を置くんですよ……」 流石に落ち込む朽木。 「すみません!けど、アレを思い出してしまって!」 テーブルの向こうで荻上が叫ぶ。 「お詫びに、学祭用に衣装を朽木君にも1着作るよ」 「それじゃあ無残殺虫ホイホさんのメイドVer.で―――」 「懲りてないのかよ!!」 笹原、斑目、大野のツッコミを受けて、してやったりの朽木だった。
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11人いる!後編 【投稿日 2006/02/19】 ・・・いる!シリーズ 荻上さんは改めて目の前のひょろ長い男を見た。 2年前に出会った時は意味不明のウザオタでしかなかった男が、いつの間にか彼なりにいろいろ考えながら自分の人生を歩み始めている。 そんなクッチーを見てて、荻上さんは不意に悟った。 『朽木先輩は、もう1人の私なんだ』 考えてみれば2人は似たもの同士だ。 2人とも他人とのコミュニケーション能力に難があった為に、別のサークルを追われて現視研にやって来た。 たまたまクッチーはでかくてウザい男だった為に厳しく躾けられつつも放置され、自分は見た目も中身も幼かった為に構われ甘やかされただけだ。 対応の違いはあっても、2人とも厄介者だったことには変わりない。 その2人の厄介者が今では、それぞれの人生を模索し始めている。 そんなことを考えている内に結論が出た。 時計の針を巻き戻すことは出来ない。 ならば変化に戸惑っている暇は無い、進むしかないと。 荻上「あの、朽木先輩」 朽木「にょ?」 荻上「ありがとうございました…何か気が楽になりました」 朽木「いやー荻上会長のお役に立てて光栄ですにょー」 「会長、こんなとこにいらしたんですか?」 不意に声がかかる。 声をかけたのは1年生の神田美智子だ。 彼女は高校の時は笹原のような隠れオタだったらしいが、その一方で1人で漫画を描いてコミフェスに出品したりする、荻上さん的な側面も持っていた。 荻上「どうしたの神田さん?」 神田「大野さんがお呼びです。ミーティングやりたいからって」 荻上「何でまた?」 神田「何か重大な発表があるそうです。ちょうど1年生全員居るからって」 荻上「ったくあの人、何時までも仕切りたがるなあ」 朽木「姑付きの現視研ですな」 サークル棟の入り口まで来ると、1年生の浅田と岸野がパイプ椅子を運んでいた。 2人は同じ高校の写真部出身なせいか、一緒に居ることが多い。 浅田「あっ会長」 岸野「ちわっす」 荻上「どしたの?」 浅田「(1度椅子を置いてメガネを直し)いやー今日大入りなんすよ、部室」 岸野「(1度椅子を置いて、少し乱れたリーゼントの髪を手で直し)何かOBの方、今日はあらかたみなさんいらっしゃるんで椅子足んないんです」 部室の備品の椅子は、以前は9脚しかなかった。 だが新入生の大挙入会で当然足りない。 OBの出入りも多いので、それも考慮して自治会に交渉して新たに8脚もらってきた。 それでも足りないのかと、ため息をつく荻上さん。 浅田「あっ朽木先輩もいらっしゃるんですか…1脚足らないな…」 朽木「僕チンのはいいよ、すぐ引き上げるから」 神田「そうは行きませんよ。私が椅子お持ちしますから先に行ってて下さい」 朽木「すまんね、ミッチー」 いつの間にか愛称で呼ぶようになってるクッチー。 部室の前の廊下に来ると、あちこちで1年生たちとOBたちが話し込んでいた。 廊下の一角では、1年生で初心者オタの日垣と国松千里を相手に、斑目がオタ談義に精を出していた。 日垣「いやー勉強になるなあ、斑目先輩物知りだなあ」 国松「凄いシゲさん!なのじゃよ博士みたい!」 斑目「いやいや、こんくらいは普通知ってるって『なのじゃよ博士って何?』」 そう言いながらも、まんざらでもない斑目。 その姿は孫に囲まれた幸せな好々爺といった風情だ。 身長185センチの大柄な日垣と、身長150センチほどの小柄でロリ顔な国松。 まあ確かに、この2人に尊敬の眼差しを向けられれば、悪い気はしないだろう。 メガネでガリガリで作業着姿で、甲高い声でテンションの高い喋り方をするところから、いつしか斑目は1年生たち(特に女子)の間で「シゲさん」という愛称で呼ばれるようになっていた。 ちなみに「なのじゃよ博士」とは、ウルトラシリーズ第1作「ウルトラQ」の登場人物で、専門が何なのかよく分からない謎の科学者、一の谷博士の愛称である。 喋る時、語尾に「~なのじゃよ」と付けるのでこう呼ばれる。 ちなみにこの愛称は、80年代の懐かしテレビ系の某番組内で言われたのが語源で、普通彼女の年齢では筋金入りの特撮オタでない限り使わない。 隅っこにいた咲ちゃんと恵子が声をかけてきた。 咲「(軽く手を上げ)よっ」 恵子「ちゅーす」 荻上「こんちわ」 朽木「こにょにょちわー」 荻上「今日はどうしたんです?」 咲「いやーこいつが何時までもフラフラしてるから、うちの店で働かせようと思ってね…」 恵子「あたしゃ別にフラフラしてねえよ」 咲「最近学校行ってないだろ?毎日ここに来てるそうじゃない」 恵子「いや前だって行ってないし」 咲「(恵子をどつき)自慢になるか!」 朽木「それはそうと、みなさん何故廊下に?」 咲「あれよ」 咲ちゃんが部室のドアの方を親指で示す。 新1年生の有吉と伊藤がテーブルを運び出していた。 最近はミーティングの際には、全員分椅子を並べると狭いので、テーブルを外に出して椅子を並べるようにしているのだ。 有吉「あっ会長、ちゅーす」 伊藤「こんちにゃー」 顔が猫に似ている伊藤は、動作も猫に似ていて、喋る時も語尾に「にゃー」とつける癖があった。 この2人も同じ高校出身なので一緒に居ることが多い。 もっとも伊藤は文芸部、メガネ君の有吉は漫研だったそうだが。 2人はテーブルを外へ出し終わると、空いてる壁に立てかけた。 そこへ浅田と岸野が椅子を抱えて帰ってきた。 国松「おかえんなさい」 日垣「手伝おうか?」 浅田「いいよ。人数居ても却って狭くなって動けないから」 部室に入る2人。 浅田「ダメだな。テーブル出しても狭いな」 岸野「今日は窓際のテーブルとテレビも行くか」 廊下からも叫び返す。 有吉「よし、先にテレビとビデオとゲーム機出すぞ」 伊藤「ほい来たにゃー」 別の一角では、高坂が腐女子四天王の沢田彩と台場晴海の2人と話しながら、何やらノートパソコンに入力していく。 今度自社で出すBL系ゲームの企画について、2人に意見を聞いているのだ。 ショートカットの文芸少女風の沢田と、優等生風メガネっ子の台場は、話をしながら妖しい視線を高坂に向けている。 それを咲ちゃんは見逃さなかった。 咲「こらこらそこの2人、たとえ妄想の中でも高坂に変なことやらせんなよ!」 沢田「いやですよ、春日部先輩。してませんよ、総受けになんて」 咲「してるじゃねえか!」 台場「ちょっと彩!高坂先輩に失礼でしょ!」 咲「そうそう」 台場「高坂先輩は総攻めの魔王に決まってるじゃない!」 咲「そうじゃねえだろ!」 沢田「そうよそうよ、高坂先輩は受けだって!」 咲「お前も違う!」 そんな3人の会話を笑顔で見つめていた高坂、ポツリと言った。 高坂「咲ちゃんも分かってきたね」 咲「えっ?」 高坂「いや、前だったら『高坂に色目使うな!』とか言ってただろうから」 咲「そう言えば…」 ニヤニヤしながら咲ちゃんを見る沢田と台場。 咲「(視線に気付き)ちっ、違うぞ!あたしゃそんな趣味は無いぞ!」 沢田「隠さなくてもいいですよ、先輩」 台場「さあこちら側の世界へ…」 咲「やめんかっ!」 別の一角では、大野さんが腐女子四天王の残りの2人、水中用モビルスーツのような体格の豪田蛇衣子(ごうだじゃいこ)と肩幅が広くて巨乳の巴マリアを相手に議論している。 ヤオイのカップリングについてらしい。 そんな様子をまた別の片隅で見ているのが、田中と久我山の2人。 男オタ2人は隔世の感に呆然としていた。 久我山「しばらく来ない間に…随分変ったね」 田中「ああ…」 そんな様子を見つつ、荻上さんは考え込んでいた。 荻上『あちゃー、全員集まったらやっぱ凄い人数だな…いい機会だから「例の計画」発表してみるかな…あれっ?笹原さんがいないな…まあさすがに全員は集まらんか…』 そんな荻上さんの肩がポンと叩かれる。 振り返ると笹原が立っていた。 笹原「やあ、何か凄い人数だね」 荻上「…こんちは」 2人の後ろから声がかかる。 神田「こんにちは、笹原先輩」 椅子を抱えた神田だ。 笹原「やあ、たいへんだね」 神田「笹原さんも見えたんですか。椅子足りないな」 有吉「俺取って来るわ」 テレビ等窓際のテーブル周辺の機器を運び出し終えた有吉が、自治会室に向かった。 笹荻揃うと笹荻オーラが発生するせいか、それまで話に夢中になっていた面々が一斉に注目する。 「あっこんちわ」「ちゅーす」「ちわーっす」「うっす」「ういーっす」「おはようございます」 様々な挨拶の言葉が飛び交う。 豪田「荻さまー!どこ行ってらしたんですかー!」 言いながら突進し、荻上さんに抱きつく豪田。 ムギュッ! 体重百キロ近い水中用モビルスーツのような体型の腐女子にハグされては、小柄な荻上さんはひとたまりも無く、たちまち目が渦巻きになる。 傍らで笹原は呆然としていた。 話には聞いていたが、荻ハグを目の前で見るのは初めてだったからだ。 巴「ダメよ蛇衣子、独り占めは」 物凄い怪力で豪田の腕を振りほどくと、自分がハグする巴。 豪田ほどの体重は無いが、ソフトボールで鍛えた怪力で大野さん並みの巨乳を顔に押し付けてくるのだから、再び彼岸の彼方寸前まで行く荻上さん。 豪田「ズルいーマリアー。私ももう1回ハグしたいー」 巴「じゃあ2人でサンドイッチでしましょう」 2人の耳に手が伸びてきて引っ張られる。 恵子の手だ。 豪田・巴「痛たたたた…」 恵子「お前らいい加減にしろ!千佳姉さん殺す気か!」 豪田・巴「(平身低頭で)すんません」 恵子「まあ千佳姉さん可愛いからハグしたい気持ちは分かるけど、ほどほどにしろよ。(笹原に)アニキも止めろよ!」 笹原「ごっ、ごめん。荻上さん、大丈夫?」 荻上「(目に渦巻き残しつつ)なっ、何とか…」 窓際のテーブルがどけられた後の床は、跡は残っているものの埃や汚れはなかった。 こんなところにも、1年生たちの掃除が行き届いていることが分かる。 有吉が戻ってきて、ようやく全員分の椅子が揃った。 窓際には椅子が3つ、ドアの方を向いて並べられている。 会長で議長である荻上さんの席と、今回重大発表があるという大野さんの席、そして学生ではないが現役会員という微妙なポジションの恵子の席だ。 あとの椅子は、窓の方を向けて3脚ずつ並べられている。 前半分の列に1年生たちが座り、後半分の列にOBたちが座る。 (クッチーは1年生たちの最後列が1脚余るので、そこに割り込んだ) 窓際の中央の席に、会長の荻上さんが座る。 窓際の左右の席に着いた大野さんと恵子は、椅子をやや横に向けて荻上さんの方を向く。 そして1年生たちとOBたちは、全員荻上さんの方を向いている。 つまり、荻上さんは他全員と向かい合う形になる。 何かのカルチャースクールのような光景だ。 荻上「『まるで授業参観だな』(立ち上がり)それじゃあ、えー第256回、今週の緊急ミーティングを始めます!」 1年生一同「そんなにやってましたっけ?」 OB他一同「そこは流せ!」 まるで何回も練習したみたいに、気味悪いほどピッタリと声が合う。 荻上「ったく、『いいとも』じゃないんだから…えーとそれじゃ先ず、大野さんから何か重大な発表があるとのことなので、お願いします(座る)」 大野「はーい。(立ち上がり、1年生たちに)喜べ、男子!えー実はですね、私がアメリカに居た時の友だちが、9月からこの大学に留学することが決まりました!」 一同「おー!」 浅田「その言い方からすると、女の子ですよね?」 大野「もちろんです!」 斑目「それって、スーとアンジェラなの?」 大野「はいっ!」 1年男子一同「スーとアンジェラ!?」 日垣「(後ろを向き)斑目先輩、知ってるんですか?」 岸野「(後ろを向き)どっ、どんな子なんですか?」 他の1年男子も口々に質問を斑目にぶつける。 斑目「(皆を手で制しながら)ハイハイハイ、静かに!(ニヤリと笑い)聞いて驚け。君たちの大好きなブロンドの巨乳ちゃんと、ロリロリ少女だ!」 1年男子一同「おー!」 その騒ぎの中、荻上さんは軽いショック状態にあった。 決して思ってはならない一言が、一瞬脳裏をかすめた。 『まだ増えるのかよ…』 だが先程クッチーといろいろ話した効果か、立ち直りは早かった。 荻上「(立ち上がって手を叩き)ハイハイハイ、静かに静かに!」 一瞬で静まる一同。 荻上「大野さん、続けて下さい(座る)」 大野「えーとえーと、どこまで言ったっけ?」 荻上「スーとアンジェラが留学してくるってとこまでです」 大野「そうそう。ちょっと待ってね」 自分の鞄の中をゴソゴソする大野さん。 何やらパソコンからプリントアウトしたらしい紙の束を出す。 数枚のプリントをホチキスで束ねたものらしい。 大野「(荻上さんと恵子、それに前列の席の1年生たちに渡しながら)ちょっと全員分は無いかもしれないから、無い人は隣の人のを見て下さい」 笹原「(プリントを見て)これは…?」 プリントの束の1枚目には、アニメ風のイラストに大きな文字で「GENKEN」のロゴが入っていた。 咲「ゲン…ケン?」 各々パラパラとめくってみる。 中は漫画やアニメのイラストと英文が溢れている。 大野「(1年生に)スーとアンジェラは、去年の夏コミに来てたんですけど、その時にうちのサークルのこと気に入って、向こうでも同じようなサークル作ったそうなんです」 神田「じゃあこれは、その会報か何かで?」 大野「そう、ネットで送ってもらった、原稿の一部です」 荻上「じゃあこの『GENKEN』って?」 大野「スーたちのサークルの名前ですけど、会報名も兼ねてるみたい」 荻上「ちゃんと通訳して下さい!SHIが抜けてるじゃねっすか!」 大野「ハハハ…ごめんなさい」 斑目「うちはハルマゲドンはやってないんだけどな…」 大野「とにかく!向こうでうちみたいなサークルやってて、その会員の内の何人かも留学を希望していて、ひょっとしたらあの2人以外にも何人か留学してくる可能性があります」 再び軽いショック状態に陥る荻上さんだったが、一方でこれで「あの計画」を発表するきっかけは出来たと秘かに意気込む。 朽木「ほほー、いよいよ我が現視研も国際化の時代ですかにょー」 高坂「凄いね」 久我山「やはり時代は変ったね」 田中「ああ…」 豪田「と言うことは、男の子も増える可能性ありますよね」 大野「そうですね。まだ未定だから何とも言えないけど」 ワイワイと盛り上がる部室内。 荻上「みんな!ちょっと聞いて!(OBたちに)先輩方も聞いて下さい!」 シンとなる一同。 荻上「この場を借りて、提案したいことがあります」 恵子「何なの、改まって?」 荻上「みなさん見ての通り、今の部室はたいへん手狭です。(一息置いて)そこで、部室を移転しようと思うのです」 一同「えっ?」 再びざわつく部室内。 咲「で、どこに移転する気なの?」 大野「そうですよ。サークル棟は年中満室で、代わりの部室なんて無いですよ」 荻上「屋上に…プレハブを建てようと思うんです」 一同「プレハブ?」 荻上「私が見た限り、サークル棟周辺で空いてるスペースは、そこだけです」 笹原「なるほど、あそこなら邪魔にはならないね」 田中「プラモ作りにもピッタリだな」 台場「でもあそこ、毎日人が出入りするには危なくないですか?柵も無いし」 荻上「周囲は鉄柵か金網を張ろうと思います」 恵子「張ろうと思いますって、予算はどうすんのよ?」 荻上「…春夏秋冬賞の賞金を使います」 一同「おー!」 沢田「百万ならプレハブぐらいは余裕ですね」 巴「でも鉄柵や金網まで入れるとどうかしら?」 荻上「そこでOBの方々には、もし私の分だけで足りない場合の経済的援助をお願いしたいのです」 頭を深々と下げる荻上さん。 咲「荻上、成長したな」 荻上「えっ?」 咲「前のお前だったら、自分の金だけで何とかしようとして煮詰まってたと思う。だけど今のお前は、自分で頑張る分と人にお願いする分とをちゃんとわきまえてる」 大野「ほんと大人になったわね、荻上さん」 荻上「(赤面)よっ、よして下さい」 高坂「よし、そういうことなら僕も少し出すよ」 斑目「俺は金ねえから、代わりに社長に話してみるよ。社長なら土建屋に顔利くだろうから、安いとこ紹介してもらえるかもしれんし」 笹原「『初任給まだもらってないんだよな』おっ、俺も…」 恵子「アニキはいいよ」 笹原「なっ、何で?」 恵子「千佳姉さんが賞獲った漫画って、アニキが描けって勧めたんだろ?だったらアニキとの合作みたいなもんじゃん。アニキは愛情だけでいいってさ。ねー千佳姉さん」 荻上「(赤面)なっ、何を…」 笹原「(赤面)ばっ、馬鹿!」 「そういうことなら、僕も力を貸そう」 OBたちプラス大野さんには聞き覚えがあるけど忘れかけていた、クッチーより下の世代には聞き覚えの無い、間の抜けた声がドアの方から聞こえた。 いつの間にか開いていたドアの前には、小柄で撫で肩で、メガネをかけた犬のような顔の男が立っていた。 OB一同・大野「初代会長!」 初代「や、久しぶり」 呆然とする1年生たち、クッチー、恵子、そして荻上さん。 荻上『この人が噂に聞いていた初代会長か』 有吉「初代ってことは…OBの方?」 伊藤「そうだにゃ」 日垣「でも確か、斑目先輩って2代目の会長だって言ってなかったっけ?」 国松「それにしては、もっと年上のような気が…」 そんな1年生たちを咲が制する。 咲「(冷や汗)その問題に触れるな」 そんな会話の間に、初代会長は何時の間にか荻上さんの前にいた。 初代「今の会長の荻上さんだね?」 荻上「はっはい。はじめまして、荻上です」 初代「はじめまして。さっそくだけどさっきの計画、OB会の方で資金を提供するよ」 ポケットをゴソゴソする初代会長。 やがてポケットから銀行の通帳と実印らしきいかつい印鑑を取り出した。 名義は「現代視覚文化研究会 OB会」となっていた。 斑目「OB会?」 笹原「そんなもん、あったんですか?」 初代「まあ一応ね。こんな時に備えて蓄えておいたんだ。(通帳と印鑑を差し出し)さあ荻上さん、これを使ってくれたまえ」 荻上「(通帳を開き)こっ、こんなに?」 初代「それだけあれば部室と鉄柵作っても余るでしょ?お金の問題をクリアした上で鉄柵なり金網なりまでこちらで作ると言えば、自治会も説得しやすいと思うよ」 荻上「でもほんとうにいいんですか?こんな大金…」 それを手で制する初代会長。 初代「現視研を頼むよ、荻上会長。僕はいつでも君たちを見ているから」 荻上「はいっ!」 純粋に感動する荻上さんや1年生たち。 だがOBたちは、言葉通りの意味に解釈して戦慄する。 特に咲ちゃんは「やはりあるのか?」と監視カメラを探してキョロキョロする。 荻上「みんな!お礼言うよ!(最敬礼で)ありがとうございました!」 一同「(最敬礼で)ありがとうございました!」 そして一同が顔を上げたその時、再び声を合わせて叫んだ。 一同「いないし!」 その後、新しい部室は夏を待たずに完成した。 自治会との交渉の際、荻上さんは屋上に現視研の部室を作る交換条件として、屋上に柵を作ることを提案したのが効いたのだ。 自治会でも前々から屋上に柵が無いことを気にしていたのだが、予算が無い為に放置していたのだ。 その為、まさに渡りに船とばかりに荻上さんの提案はすぐに承認された。 新しい部室は快適だった。 従来の部室の3倍近い面積になり、テーブルを2つ並べても全員が余裕で座れた。 エアコン付きの上、水道まで付いていた。 屋上の周囲は、高い金網で囲まれているので見晴らしは悪くなったが、安全性は高まった。 さらに部室の備品も、OBたちからの寄贈によって充実した。 ビデオ、ゲーム、漫画、同人誌、DVD、プラモデル、フィギュア、ポスター、そしてコスの在庫は、ちょっとしたアキバ系ショップ並みの品揃えとなり、展示スペースも広くなった。 難点と言えば、トイレに行くには下に降りなければならないことと、荷物を運ぶ時がたいへんなこと、それに何よりも部室に来ること自体にけっこう脚力がいることだ。 (サークル棟は4階建てだから、屋上は実質5階。エレベーター無しではチトきつい) それでも部室そのものの快適な条件ゆえに、会員たちには好評だった。 いやサークル自治会内でも好評で、他のサークルからの来客も増えた。 かつての部室は、荷物を運び出された後でドアに板を打ち付けて、完全に封印された。 次の使用サークルが決まるまで、それは解かれることはない。 昔、椎応大学でも学生運動が盛んだった頃、大学側にロックアウトを宣告されたサークルが部室で篭城するという騒ぎがあった。 まあ今ではそんな心配はないだろうが、部室の不正使用を避ける為、この習慣はその頃から今日まで続いていた。 部室の封印が終わった後、荻上さんは旧部室のドアの前に「移転のお知らせ」の張り紙をした。その下には小さくこう書かれていた。 「オタ空間よいとこ1度はおいで」 こうして荻上新会長の初の大仕事は無事に終わった。 だがこの後にも夏コミに学祭、そしてスー&アンジェラ来襲とイベントは尽きない。 がんばれ荻上会長、オタクたちの自由と平和の為に。
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その五 続き【投稿日 2005/12/28】 カテゴリー-3月号予想 ガチャ 笹「こんちはー あ みんないるね」 咲「お 笹原 ………ん?」 笹原の背後に隠れるようにしてもじもじしている荻上 咲「……荻上?」 荻「ひっ!?」 大「……え? お 荻上さんですか!?」 笹「ほら 荻上さん みんな心配してたんだよ」 荻「……す、すいませんでしたっ!」 大「っぐ……えっぐ……うわぁぁあぁぁぁん!」 荻「大野先輩……」 大「……私が勝手なことして それで荻上さんがもう誰も信じられなっちゃって……でもよかったぁ 本当によかったぁ!」 咲「コイツこの一ヶ月ずっと思い詰めてたんだぞ ……荻上現視研来なくなっちゃったし 学内で見かけても……」 荻「本当にすいませんでした……っ……ひっ……ひぃー……」 荻上にハンカチを差し出す笹原 笹「よかったね荻上さん」 荻『──────そっか───あんときとは違う ──私にはちゃんと居場所があるんだ─── ───────────それに──────』 温かい笑顔を向ける笹原 荻『───私を包んでくれる人が─────』 咲「いやー よかったよかった! ………でその様子を見ると2人は…?」 ニヤニヤしてwktkしている咲 笹「……うん……」 荻「………………」 咲「ん そうか 時間かかったけどもう大丈夫だな おめでと」 大「うわぁぁぁああぁぁん! 幸せに……幸せになってください! おめでとうございます!」 荻「……ありがとうございます……」
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笹荻の帰省 【投稿日 2005/12/03】 カテゴリー-笹荻 東北新幹線は年末の帰省客の混雑で押し合いへし合いのありさまであった。 指定席の取れなかった笹原と荻上は早朝から上野駅に向かい、自由席に乗り 込んだが、その混雑ぶりに疲れきっていた。外の景色をかえりみる余裕さえ なかった。乗換駅で鈍行列車に乗り換えて座席に座る事が出来て、ようやく 二人はほっとして微笑んだ。 荻「すみません、こんな慌ただしい帰省に付きあわせてしまって・・・」 笹「いや、とんでもない。それにしても綺麗な雪景色だよね。山も綺麗だ。 修学旅行以外で関東平野から一度も出た事無い俺には新鮮な光景だよ。こ れが見れただけでも・・・」 荻「逆に東京に出てきた時、私には山が無い事が驚きでしたよ」 笹「そんなもんか。でもこれが荻上さんの『風景』なわけだ。」 鈍行列車はゴトゴトと音を立てながら、二人を荻上の生まれ故郷まで運んで いった。ダイヤは大幅に狂い、予定よりも遅い時間に二人は到着駅についた。 古びた駅の構内。まばらな人。笹原は慣れない寒さにブルッと震えた。 荻「寒いですか?もっと厚着してくれば良かったですね」 笹「いや、大丈夫。でもすごい雪景色だね」 荻「これでも昔ほど降らなくなったんですよ。温暖化の影響で。今年は珍し くこの時期から降ったみたいですね。何も無くて恥ずかしいです・・・」 笹「じゃあ、行こうか!」 荻「すみません、車を運転できる父が用事で迎えにこれねくて。でもタクシ ー使うほどの距離でもねし。」 笹「いいって。タクシー代がもったいないよ。それに荻上さんの生まれ故郷 ゆっくり見たいしね」 二人はゆっくりと歩き出した。笹原の目からも荻上の表情が段々生き生きと していくのが分かった。会話も自然にお国言葉になっていった。笹原は荻上 の嬉しそうに話す表情を見るのが心から楽しかった。 笹「けっこう、傾斜が多いね。あれが荻上さんの通ってた中学校?」 荻「ええ、山沿いの町の上、地形が入り組んでて曲がり道も多い上、平地も 少ないんです。寂れて全然変わってません。」 笹「駅前にはコンビニも無かったよね?」 荻「あるにはありますけど、駅前より、街道沿いの方が開けてます。車が無 いと東北の生活は不便ですから」 笹「ふーん」 二人はどんどん歩いていったが、神社の前に差し掛かると、荻上は急に黙り こくり、足早にその前を通り過ぎようとした。笹原はその理由がわからなか ったが、何も聞かずに黙って従って荻上について行った。 笹「けっこう思ったより歩くね。」 荻「ええ、でも自転車だとそんなに遠くは感じませんでした。高校はとなり 町の公立女子高でしたから。駅まで毎日・・・始発で・・・」 笹「うわっ、すごいね!」 荻「これでも皆勤賞もらったんですよ。雪が降ると父が送り迎えしてくれま した。本当に毎日、毎日・・・」 とうとう二人は荻上の実家までたどり着いた。二人は緊張の趣きで顔を合わ せ、意を決して玄関を開けた。 荻「ただいま!!」 母「はーい、あら千佳ちゃん!遅かったね。悪りかったね、迎えにいけねく て!ああ、よくいらしゃった。御疲れでしょ!さあ、どうぞ汚いとこです けど!」 笹「とっ突然押しかけて申し訳ありませんでした!笹原完治と申します!」 母「あんまし、固くなんねで、ゆっくりなすってください」 弟「いらっしゃい!ねえちゃん!土産は?」 笹「??こんにちは!(ええっ、ほんとに弟さんいたんだ!てっきりあの時 の苦し紛れのウソだと思ってたのに)」 荻「(だから本当にいるって言ったじゃありませんか)」 ヒソヒソと二人は話し合った。 荻「おとさんは?」 母「まだ、けえってこねよ。」 荻「んだか、したらあたしたちおとさん帰るまで自分の部屋さいていい?」 母「ええよ、けえってきたら呼ぶから、疲れてるべからゆっくりなさい」 荻上と笹原は自室に入って、荷物をどさっとおろしてようやくハーと安堵の 声を上げた。 笹「いや、疲れた!いや緊張した!会社の面接より緊張したよ!あとお父さ んへのご挨拶も残ってるよね!はー。持つかな俺・・・。」 荻「ちっ父は無口ですけどそんな気難しい人ではありませんから」 笹「うん・・・それにしてもなんか落ち着くねー、ようやくゆっくりできた よね。」 荻「全然女の子らしい部屋じゃなくて恥ずかしいです。本ばかり・・・」 笹「いや、荻上さんらしいよ」 しばし、沈黙が続く。二人の顔が赤らんだ。 弟「ねえちゃん!かあちゃん呼んでるよ!」 荻「!ノックしなさい!」 弟「ごめん、なして顔赤いんだ?」 荻「うるさい!」 母「あんた、元旦だけ隣町の宮司やってる伯父さんの手伝いに巫女さんして ほしいんだけど」 荻「巫女?なして?」 母「当てにしてたバイトの子に逃げられたんだって!」 荻「んーわがった」 母「あと、夕食の支度手伝って。おとさんも今帰ってきたから」 荻上が家事の手伝いが終わり、居間に戻ると、笹原がすでに父親の酒の相手をさせられていた。山盛りに盛り付けられた味の濃い田舎の料理と酒を、勧められるままに苦笑いしながら食べていた。 笹「もう限界です!!」 父「若いもんがだらしない!ささ!!」 そう言いながら先につぶれたのは父の方であった。荻上は笹原に正月 の元旦だけ、隣町の初詣の大きい神社の手伝いに行く事を告げた。 母「したら、父さんに送ってもらうかね。朝早いんだべ、年越しそばはもう 少ししたら、食べるかね。んで笹原さんにはどこで・・・」 荻上は顔を赤らめる。 荻「そしたら、笹原さん・・・」 笹「もも勿論、弟さんの部屋で!!いいよね!!君!!」 弟「せまいけど、どうぞ。うれしいな、兄貴が欲しかったんですよ、俺。」 笹「頼りないお兄さんかもしれないけどね。」 弟「そんなこと無いですよ。編集の仕事されるんですって?いいなあ、俺も 東京に出たいんですけどね。姉貴も地元にいるよりは東京の方がいいでし ょうし。」 笹「それは例の中学の時、好きな人に同人誌を見られたって話と関係が?」 弟「ええ、俺も小学生だったから、当時。また聞きですけど。親父もお袋も その件は口を閉ざすし。なにしろネタにされた本人が登校拒否・・・」 笹「いや、ちょっと、具体的な話は聞いてないんだ。根堀葉堀聞く事じゃ無 いし。」 弟「やべ・・・」 笹「大丈夫、詳しく・・・」 笹原は弟の部屋を出て、廊下の窓辺の側を流れる小川を眺めた。 笹「俺って薄っぺらいな・・・」 その晩、荻上は夢を見ていた。 幼い頃、東北でも有名な雪祭りに家族で旅行した光景だった。 夜、無数のかまくらから光がこぼれる。自分はその側にあるかがり火を見つ めている。その焔は闇夜をこがすかのように夜空に向かって燃え上り、火の 粉は闇夜に吸い込まれて行った。不思議な興奮と畏れに襲われ、不安にから れて、家族のもとに駆け出した。大きめのちゃんちゃんこと藁の長靴が体に からまり、トテッと転んだ。父親が自分を抱きかかえ、そして父親にしがみ つきながら震えていた。 荻上ははっと目を覚ました。両の目からは涙がこぼれている。あの時、あの 時の私が許されない罪を自分自身に対してしたとすれば・・・、あの時私は 罪の意識をしっかりと感じて、畏れを抱きながら同時に身も心も喜悦に包ま れていた事を自覚していた事だろう。荻上はベットから起き上がり、廊下に 出ていった。すると笹原が窓辺にたたずんでいるのに気付いた。 荻「眠れないんですか?」 笹「ああ、荻上さん・・・。そうだね」 荻「私もです。明日は早いのに・・・。」 笹「俺ねえ、荻上さんのコスプレ姿にいやらしいこと考えたことあるんだよ」 荻「・・・そうですか。私も笹原さんと斑目さんとでいやらしいこと考えた 事ありますよ」 笹「どうしようもないねえ、俺たち」 荻「どうしようもないですね、私たち」 お互いに微笑み合い、自然に二人は手を取り合って握りしめあっていた。 明け方前、父親の車で笹原と荻上は隣町の稲荷大社まで連れて行ってもらっ た。 伯父「待ってました!!じゃあ千佳が着替えている間、笹原さんにはお守り とか破魔矢とか業者が搬入してくる奴を運んでもらおうかな!!」 荻「うわっちゃっかりしてるー」 伯父「まあまあ、ささ、こっちこっち!」 父親は一旦家に帰り、笹原は神社の職員の言われるままに社務所で手伝いを していた。そうこうしているうちに、巫女姿に着替えた荻上が現れた。その 姿に茫然自失となり、白無垢と袴姿に我を忘れ、声をかけられてはっとする まで気がつかないありさまだった。 笹「・・・綺麗だ・・・天女様かと思った・・・」 荻「馬鹿ですね!」 荻上は恥ずかしそうに小走りに立ち去っていった。 昼頃に、ようやく二人は開放され、帰途についた。正月の残りの日は何をす ることもなく、ゆっくりと過した。雪かきをして、転んで荻上に笑われたり、 二人でゴロゴロとみかんを食べながらコタツに横になった。 また正月番組のハードゲイの芸人の登場に咳き込んだり、荻上の買いためた 漫画を二人で読み返したり、おもちや雑煮をたらふく食べたり、荻上の体重 計の数字を覗き込んで怒られたり・・・。そうして過している内に帰る日に なった。 荻「じゃあ、『帰り』ます」 その言葉の真意を両親は悟った。 母「送ってかなくていいのかい?」 荻「しばらくこれないと思うからゆっくり景色を目に焼き付けていきたいか ら」 父「まあ、がんばんなさい」 笹原も深く会釈して礼を言った。帰り道、再び神社の前に差し掛かった。 荻「ここに少し寄っていきたいんですが」 笹「ここに?」 荻上の弟から詳細は聞いていたが、弟もくわしくは知らなかったので、神社 が何を意味するかは分からなかった。 荻「キスしてください」 笹「ここで?」 荻「ええ、神前で心にやましいことなど一つとしてありませんから!!」 荻上の毅然とした態度に気おされたわけではなかったが、素直に荻上にキス をしてあげた。 荻「じゃあ『帰りましょう』」 いつもの荻上に即座に戻った。笹原はこれからもこの子には振り回されると 思ったが、それが大変だとこれっぽっちも思わなかった。 管理人注:この下は感想として書かれた続きSSに、 作者の方がさらにSSをつなげたものです。 大「お、荻上さんっ! み、巫女さんの格好をしたって本当ですかっ!?」 ヤバい目をして荻上に詰め寄る大野 荻「え、ええまぁ 格好っていうか、本当に巫女の仕事をしたんですけど」 大「笹原さん!」 笹「え? なに?」 大「デジカメとかで撮ってませんか!?」 笹「ああ、うん、ちょっとまって………ほら見てよ、荻上さんの地元。 本当にいいところだったよ」 大「違いますよ! 巫女荻のですよ!」 笹「(巫女荻……?) ごめん、ちょっと無いなぁ……」 大「……チッ!」 笹「(舌打ち……?)」 するとケータイを取出し誰かにかける大野 大「……はい……そうです……三日以内に荻上さん用の巫女コスをお願いします!……え?学校の課題がある?……巫女コス優先です!……頼みましたよ!」 ケータイをたたむ大野 笹「……今かけたのは……?」 大「荻上さんには三日後に私の前で巫女コスをしてもらいます!」 荻「はぁ? なんでですか!」 大「私が見たいからです! 会長命令です!」 荻「横暴です!いくら会長だからって!ねえ笹原さん!」 笹「・・・・・・」 荻「?笹原さん?」 笹「(大野さん!田中さんにですね・・・その・・・巫女コスできれば・・・ 譲ってもらえないかと・・・)」 大「(キラーン)同志ですね!!」 荻上回想編タイトル 「目眩く(めくるめく)」 笹原新境地編タイトル「覚醒め(めざめ)」
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人魚姫 【投稿日 2005/10/27】 カテゴリー-童話パロ 第一幕 むかしむかしあるところに荻上という名のとても可愛らしい人魚のお姫様がおりました。 あるとき嵐が起こり、人間の船が難破して二人の男が海に投げ出されてしまいました。 荻上は可哀想に思って、二人を岸まで運びました。見ると若い男です。荻上はいけない妄想に囚われてちょっとおちゃめないたずらをして去りました。気を失っていた二人は目を覚ましました。 笹「うわっ、侍従長!なんで俺の股間に顔をうずめてるんだ!」 斑「王子こそ私のネクタイで首をしめようとなさってるじゃありませんか!」 二人はギャーギャー騒ぎながらも命が助かったことを喜びました。 荻上は遠目にその様子をうかがい、クスクス笑いながらワープしてました。 しばらくたち、荻上は王子と呼ばれている男の事が忘れられなくなっているのに気づきました。でも人魚の身では会いに行く事もできません。そこで大野という魔女に相談にいきました。 大「じゃあ、コスプレしてください!」 荻「嫌ですよ!どうしてもしなきゃだめですか?」 大「はい!」にっこり笑って答えました。 しぶしぶ言われるままにコスプレしましたがさっぱり人間になれません。 荻「あのー、本当にこれで人間になれるんですか?」 大「いえ!これは私のただの趣味です!前置きはここまでにして、この薬を飲めば人間になれますよ!その代わり欲しいものがあります」 荻「(怒)・・・何ですか?」 大「あなたの笑顔と愛嬌をください!」 荻上はその条件に承知して薬をもらい人間になりました。 第二幕 突然現れた身元不明の女の子に港町の町長のヤナは困っていました。 彼女は港町の女たちとことごとく喧嘩を売り、あてつけに塔から飛び降りるという大騒動をしでかしていたからです。 このままでは女の子の身が危険です。知人の侍従長の斑目に相談し、城で引き取ってもらうことにしました。 斑「荻上さん、君には王子の側付きメイドをしてもらうから。」 斑「まあ、王子には君がぴったりだと思うよ」 荻「なんですか、このハレンチな趣味の悪い服は!こんなの着れません!」 斑「いや、それしか無いし・・・。というかその調子でいいよ」 笹原王子は実はツンデレ好きでした。というよりツンだけ・・・。 荻「ツンデレの嫌いな荻上です!どうしてそんなにツンデレが好きなんですか!」 初対面から容赦ありません。しかし、王子は幸せでした。荻上も言葉とは別に心は幸せでした。 しかし幸せは長く続きませんでした。隣の国の王女が婚礼にきたからです。 ス「アンタバカー?」 侍女のアンジェラと共に嫁いできた隣国の王女のスージーは極めつけのツンでした。王子はすっかりスージに夢中になりました。荻上はとても悲しくなり、海辺に泣きにいきました。 咲「オギー!オギー!」 荻「咲姉さん!どうしたの?」 咲「あんたにかかった魔法は好きな人が心移りしたらあんたは泡になっちゃうんだよ!それを防ぐにはこのあんたの書いた同人誌を好きな人に見せるんだよ!」と言い、荻上の同人誌を手渡しました。 城に戻った荻上は悩みました。恥ずかしい自分の趣味を王子に見られるくらいなら泡になったほうがましに思えました。すると部屋の鏡に魔女の大野が写りました。 大「荻上さんー。もう同人誌見せましたかー?」 荻「本当に見せないとダメなんですか?またからかってるんじゃないんですか?」 大「・・・・そんなわけありませんよー(汗)」と顔をそむけながら言いました。 荻「(・・・あやしい)絶対嫌です!!」 荻上は見せないと決心しました。たとえ本当でも後悔はありませんでした。荻上は王子に別れの挨拶にいきました。涙は見せたくなかったので以前かけていた厚底メガネをかけていきました。 荻「今日でお暇いただきます!」 笹「荻上さん?メガネも可愛いよね。ていうか昔船で難破した時に助けられた時見た夢の女の子にそっくりなような・・・」 荻「ちっちがいます!」と顔を赤らめて言いました。 その時、スージーが部屋に入ってきました。手には荻上の同人誌を持っていました。 ス「グッドジョブ!サインプリーズ!」と同人誌を二人の前にガバーと広げました。 荻上さん?ええ、お約束通りお城の窓からダイブしましたよ。 王子が懸命に捜しましたが、その後一週間ほど行方不明になりましたけどね。 今はどうしてるかって?御伽噺のラストのお約束は決まってるじゃありませんか。
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甘い話 【投稿日 2006/03/01】 カテゴリー-笹荻 「デート、ですか?」 食器を片付けながら荻上が聞き返す。 「うん。俺たちがその、付き合いだしてからずいぶん経つけど、そう言うことをしたこと無いな~って思って」 笹原の声を背中に聞きながら、考える。 (確かに一緒に買い物したり、マンガ喫茶で作品談義をしたり、手料理を食べたり、…「する」ことはあっても、デートか?と聞かれれば微妙かも。でもデートってどういうの?と言う事になると…そんな経験ないし…) 「…俺も『研修』とかで忙しかったけど、今度の日曜に丸一日休みが取れたんだ。だから、行きたいところとかあれば、教えてくれる?」 「いえ、笹原さんの行きたいところならどこでも…」 荻上の内心の葛藤に気付かない笹原の問いに、とりあえず無難な答えを返す。 「それじゃ困るんだけど…考えておいてくれるかな?」 笹原は軽く苦笑を浮かべると、荷物を持って立ち上がり、玄関へ向かう。荻上は慌てて手を拭くと、エプロンを外して追いかけた。 「本当は泊まっていきたいけど…ごめん」 「いえ」 答えと裏腹に浮かべた寂しげな表情に、笹原は思わず彼女を抱き寄せ、キスをした。 「おやすみ…千佳」 真っ赤になりながらそう言うと、逃げるように出て行く。荻上は黙って見送る。 「…おやすみなさい……完士…さん」 彼以上に真っ赤になった荻上の返事は、それからずいぶん後だった。 「こんにちわ~♪」 「…」 「ちわーす」 翌日、部室で荻上がノートを前にぼんやりしていると、妙にご機嫌な大野、不機嫌な咲、いつも通りの恵子がやって来る。話を聞いていると、どうやら卒業式後の「春日部咲コスプレ大会」の為に、最終的なサイズ合わせをしたいらしい。 「…だから、咲さん。一度合わせてみないと。恥ずかしいなら、私も一緒に着ますから」 「そう言う問題じゃないの。当日ちゃんと着ればいいんだろ?」 「そうはいきません。着る以上、きちんとしたものを着るべきです!」 「な~、ねーさん。いいかげんあきらめたら~」 「じゃあ、お前が着るか?」 「死んでもヤダ」 「私だってあなたには着てもらいたくありません」 「あの…皆さんはデートしたことってありますよね?」 「え」「へ」「ハァ?」 険悪化しつつあった空気を破ったのは荻上の場違いな質問だった。他の3人は顔を見合わせると、にんまりと笑って向き直る。 「そりゃありますけど」「なんでそんなこと」「聞くのかなあ~?」 荻上は失敗を悟ると、「聞いてみただけです」などと言い逃れようとしたが果たせず、洗いざらい話すはめになり…結果、3人を机に突っ伏させることになった。 「人に聞いておいてなんですか、その態度は」 「あのな、おぎー。自分がものすごい『のろけ話』してるって自覚…聞くだけ無駄か」 いち早く立ち直った咲が、苦言を呈しようとしてやめる。バカップルにつける薬無し。しかし、二人の仲を取り持った以上、放り出すには気が引けた。 「とにかく、笹原は『荻上の行きたいところ』を聞きたいんだから、思ったところを言えば?」 「私は笹原さんとならどこでも…」 「わかったから、ちょっと黙れ。大野!恵子!起きろ!!なんか言え!」 「…だったら定番のコースでも行ったらどうです?動物園でも遊園地でも…」 「うわ、古っっ!!それなんて80年代!?」 恵子の突っ込みに大野のこめかみに青筋がたつ。 「だったら恵子さんならどうするんです?」 「やっぱ買い物!全部アニキ持ちで。こういうときぐらい『かいしょー』見せてもらわないと!」 「そんな事できるわけが無いでしょう!!」 荻上がいきり立つ。 「まあまあ…だったらこういうのは?」 あーでもないこーでもないと話は続く。内容が2巡ほどしたころ、恵子が疑問を投げかけた。 「でもさ、なんで今更デート?べつに改まってするような事じゃねーじゃん」 咲と大野も気付く。確かに今更、だ。そこには何か目的があるはず…。 「「「プロポーズ?」」」 「!」 ボン、と音を立てそうな勢いで赤くなる荻上。 「でも、付き合い始めて…ヶ月だろ?」 「そんなの関係ないって」 「手を出したから責任取らないと、とか」 「!!」 「でもそこまでするか、普通」 「結構堅いからな、うちのアニキ」 「妊娠させた、とか」 3人の視線が荻上に向かう。 「わ、わたし帰ります!!!」 荻上は慌てて荷物をまとめると、バッグを胸に抱いて部室を飛び出した。 結局、「どこでもいいです」とメールで送るのが精一杯だった。 返事は次の日の朝だった。了承と日曜日まで会えないことと、そのお詫びが記されていた。 Q.デートは結局どこになったのですか? A.水族館でした 「「ただいま」」 言いながら荻上のアパートの玄関をくぐる。 「なんかほっとしますね。家に帰ってくると」 「ごめん、疲れた?」 「そうじゃありません。とても楽しかったです」 そんなやり取りをしながら笹原は思う。 (自分のアパートより、ここの方が『帰ってきた』って感じるようになったなあ。いや、部屋じゃなくて、『彼女』がそうなのか。『彼女』さえ居てくれればどこでも…って何考えてるんだ、俺!?) 顔を赤くして首を振る。荻上が不思議そうにこちらを見つめていた。 ソファーに並んで座り、今日の思い出を語り合う。そして、思い出したように笹原はポケットから小さな箱を取り出し、荻上に渡す。 その瞬間荻上の脳裏に部室でのやり取りが浮かぶ。顔が赤くなる。鼓動が早くなる。期待と不安で何も考えられない。 恐る恐る小箱を開けると、そこにあったのはシンプルな細い銀の鎖。少なからず気落ちしながら鎖を引くと、その鎖にはこれもシンプルな銀の指輪が通してあった。 思わず振り返ると、照れくさげに笹原が頬を掻いていた。 「あの。これはどう言う…」 「本当はちゃんとしたやつを送りたかったけど…無理だったのと、あと…他の誰にも渡したくないのと、こんな事言うと怒られそうだけど、『予約』ということで…」 指輪と笹原を交互に見た後で、荻上は微笑む。 「馬鹿ですね、笹原さんは…物よりも、はっきり言葉にしてくれれば良いんです」 そう言って指輪を笹原に返すと、左手を差し出す。笹原はひとしきり慌てた後、咳払いをすると尋ねた。 「荻上千佳さん。結婚してください」 「喜んで」 荻上が応える。彼女の薬指に指輪を通す。口付けを交わす。 そのまま覆い被さろうとする笹原の目の前に左手をかざす。そこにはぶかぶかの指輪。 「う」 「今度は『ちゃんとした』のをくださいね?」 しぶしぶ笹原は体を起こす。荻上は立ち上がると鎖を首に回す。胸元の指輪を押さえながら尋ねる。 「…泊まっていきますよね?」 翌日、荻上が部室を訪ねると、なぜか「荻上御懐妊」の噂が流れていて、大騒ぎになったのはまた別の話。
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曲名 レベル ライオン 4
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東北の反逆児 【投稿日 2005/10/27】 カテゴリー-他漫画・アニメパロ 荻上は夏コミ以来、積極的にイベント参加をするようになった。最近は売り手としての参加にも慣れ、 その名も少しは知られるようになり、ある種の覚悟が固まりつつあった。 だが…知られるとともに同人の「別の要素」がみられるようになる。 そう、彼に象徴される「自称知り合い」のたぐいのような… 「大野さん声優してみな~い?知り合いが探してるんだよ~エロゲだけどねww」 「いえ…やめておきます」 大野加奈子は顔を引きつらせつつ、無難に原口の誘いを受け流した。 (何でこの人ここにいるんだろう…) 何か手伝いをするでもなく、当日ふらりとあらわれて当然のようにスペースに居座る。 することといえば自己満足の「批評」か誰それに会ったとかいう「自慢」だけ。 「あ、荻上さんだっけ?見たよ同人~」 「なれなれしく触らないでください」 「あはは、そんなんじゃ駄目だよ~」 「だからオタクは対人能力がないとか言われちゃうんだよね~。社交的な俺としては心外なんだけどさ~はは。」 原口はなれなれしく笑いかけると、もういちど荻上の肩に手を置く。 その瞬間。荻上は立ち上がり叫ぶ。もう、我慢の限界はとうに踏み越えた。 「ああ、そうさ!私はただのオタクだ!ちゃんとすた常識もねえ、おめみてえなご立派な人脈ってやづもねえ。 それでもただ一つ、一つだけオメさ勝っているモノがある! さあ見せてやる! これが!これだけが!私の自慢の”創作者(かみ)の右手”だぁぁっ!!」 22年前より、東北(ロストグラウンド)に生まれた新生児の約2%に特殊能力が発現するようになった。 周囲の物質を、意志の力で原子レベルにまで分解し、再構成するというその能力を「アルター能力」と言う。 また、再構成されたものを「アルター」、能力者のことを「アルター使い」と呼ぶ。 アルターには様々な形態・能力があるが、それらは能力者の性格や願望を反映しているといわれている。 「ふーん?ならこれでどうかな?僕は変身できるタイプなんだ…」 原口の気が膨れ上がっていく…それはそこにいる全ての人間を圧倒する強さとなって場を制する。 「私の戦闘力は530000です。ですが、フルパワーで戦うつもりはありませんからご心配なく。」 「な、何て気だ!ちくしょう震えが止まらねえぜ…」 「え…い、今の誰ですか?」 某サイヤ人の王子様がいたような気がしたが気にしないことにした。 あまりの力の差に呆然と立ち尽くしたその時!1本の薔薇が空を切った! 「ラ・煙幕ボンバー!!」 小さな爆発とともにしょぼい煙幕があたりに立ち込める! そして、その中から黒のシルクハットにタキシード、そして怪しげな仮面を被った男が姿を現した。 「タキシード仮面(20%増量中)参上!!」 「…何やってるんですか田中さん」 「わわっ、ちょっと…加奈さん…こっちへ…」 「…こういう時は気付いても黙ってて…」 「はあ…」 「でね…」 「え…本気ですか?」 「うん…やってみない?」 「…そうですね、ちょっと面白そうだし…」 タキシード仮面(20%増量中)は一旦走り去ると、もう一度煙幕をはなち叫ぶ。 「タキシード仮面(20%増量中)参上!!」 「タキシード仮面様!」 大野は指示通りに「タキシード仮面に憧れる美少女戦士」を演じ切る。ノリノリで。 ………やってる本人達は楽しそうだが…その姿は、痛々しいカップルレイヤーそのものであった。 「荻上さん、これは…何があったの?」 「あ、笹原さん…って、そ、それは…」 笹原はなぜか青の軍服姿…おそらくハレガンの「大佐」コスであろう――を着て登場、 荻上をかばうように原口と対峙する。 (うわ…予想はしてたけんど…すっげえ似合いすぎだべこれ…) 荻上はあまりの衝撃に――自分の「キャラ設定」も忘れ――いつのまにか笹原をじっと見つめていた。 「…荻上さん?」 「い、いやその、大佐好きなんで――」 「そ、そうなんだ…」 「……………」 初期のげんしけんからは考えられないラヴコメ的空気に、完全に飲まれてしまった原口。 そこから自分が排除されている現実を突きつけられ、彼は―― 「初めてですよ…この私をここまでコケにしたおバカさん達は… ゆ…ゆるさん… ぜったいにゆるさんぞ虫ケラども!!!じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!!!」 さらに気を高め、げんしけんの仲間達に襲いかかる。しかし―― 「…笹原さん。」 荻上の呼びかけに無言でうなずく笹原。すでに構築された信頼関係がそこにあった。 「その馬鹿を極める!!その身に刻め!熱情のシェルブリット!!!」 荻上の妄想が―――笹×斑が、田×斑が――そして原×斑が!右手に凝縮し、弾丸のように原口に押し寄せる! 《くっ…原口さん、どうか…笹原だけは…》《ふふっ、わかってるよ…斑目君…》以下略 「ちょ…ぼ、僕が斑目くんと?さ、さすがにそれは…うわ、そ、そんなことまで…」 「か、勘弁してくれーーー!!!」ドカーン(カメラ引き、爆発) 変幻自在の妄想を武器に全てをやおい化し、男同士の恋愛に至上の価値を見出す―― 奴の――奴の名は――反逆者(トリズナー)荻上―――!!! 「これが最後の原口とは思えない…いつか第2第3の原口が…」 「あ、いたんですか斑目さん」 「い…いたんですかって…ずっといたわい!」 「それ何でしたっけ…Rですか?」 「ん?ああ、笹原もわかってきたようだな。いかにもこの場合の元ネタはRといって差し支えない。 オタクがしたり顔で第2第3の…と語っているというところがこのパロネタのキモであって…」 「はあ…ま、荻上さんも災難だったね…ホントにあの人はねえ…いつまでも半端者で…」 「いえ、あの位どうってことないですよ」 「はは…ま、大丈夫とは思ってたけどね。今の荻上さんがあの人なんかにどうこうできるとは思えないし。」 集まっていた野次馬も徐々にいなくなり、周囲はいつもの――毎年行われるコミフェスの日常を取り戻す。 荻上製作の本は売れ行きも上々、終了まで余裕を持って、初の完売となった。 初の完売に喜びを隠せない荻上。その様子を見るとこっちまで嬉しくなってくる。 (よかったですね、荻上さん…) ケンカして、青春して、お世話して――色々あったけど、荻上のオタクとして、いや人間としての成長は、 大野加奈子の心の中にあたたかいなにかを残し――荻上はいまや生涯の友、いやオタク道を極める同志となった。 「我、生涯の友を得たり!!ふふっ」 「お、結城秀康だっけ?大野さん花の一夢庵とかああいうのも見て…あ、当然といえば当然だね。」 「さすが笹原さん、わかってらっしゃる!今の私はまさにそんな気分なんですよ、本当に。」 「うん。わかるよ。こうやって仲間と同じ時間を共有するってのは、何事にも変えがたい財産だよね…」 (笹原さん、言うようになって…もう本当名実共に『大佐』って感じですね…) 「笹原さん、やっぱり似合ってますね。」 「そうかな?」 「ええ、あとはもうちょっと強気っぽい感じが出せればパーフェクトです」 つい演技指導に熱が入り、斑目・田中も巻き込んだハレガン会議が始まってしまう。 時間の経つのも忘れ、撤収を進める手もついつい休みがちとなり…気が付けば周りはほぼ撤収の準備を終えていた。 「あ!おい笹原、もうこんな時間だぞ!」 「うわ!み、みんな撤収!急いで!」 あわてて撤収を進めるげんしけんの仲間達。 「よし、これで全て完了、と。」 既に人の流れのピークは過ぎ去った会場前、ようやくげんしけんメンバーは今回のコミフェス全てを終わらせた。 「と、忘れるところでした、はいご注文の買出しです」 「あ、ありがとう…」 大野加奈子は、笹原に頼まれていた同人誌をカートの中から取り出す。だが―― 笹原に手渡そうと振り返ったその時、前に進み出た笹原と衝突。その同人誌を豪快にぶちまけてしまった! 「ぷるぷる魔乳艦長」「お前何党?俺おっぱい党」「第3次スーパー乳揺れ大戦α」 「諸君、私はおっぱいが好きだ」「玉姉の秘密」「こよみかわいいよこよみ」 (ちょ…ふぉ、フォローしないと!えーとえーと…) 「す…すいません!………あ、あの、笹原さんは豊かな胸の女性が大好きなんですね!」 「………」 「や、や、その、これは…そう、2次元の趣味だから!現実とは違うっていうか…はは…」 「………」 「お、荻上さん?」 「何ですか?私には…ぜん゛ぜん゛…関係…ないですよ…」 「ですよね!笹原さんの趣味をどうこう言っても仕方ないですもんね!」 荻上は大野を泣きながらにらみつける。いつもの――殺し屋のような目で。 「…え?わ、私が何か…」 「その無意味に育った胸に反逆する!!」 「え?え?」 荻上のアルターが大野加奈子にせまる!だが!その時!大野加奈子のNeko Mimi MoDeが発動した! 《大野加奈子が生命の危険を感じたその時!Neko Mimi MoDeは零コンマ5秒で発動し、本体を守る!》 《これぞネコミミモード最大の秘儀!抜剣覚醒である!!!》 「そ、その姿は!」 荻上が驚愕の表情で大野に視線を送る。 「私も、まさか荻上さんがネイティブ・アルターだとは思っても見なかったですよ…」 大野加奈子は毅然とした表情で荻上を見つめ返す。だが―― 『抜剣覚醒』には1つ難点があった。 それは――変身するキャラを選べないことである。 「…」 「言わないんですか?」 「…何をですか?」 「でじこ、がんばるにょ~って。にょ~なんて朽木さんみたいですけど(嘲笑)」 「いいんです言わなくても!キャラを愛する心があれば!」 「内面も表現する!んじゃあなかったんですか?」 「うう…」 「ま、そんなものですよね。…どうせもうコスプレでしたりしてるんでしょう?」 荻上が決定的な一言を口にする。 「…から」 「え?」 「目からビーーーム!!」 「きゃん!!!」 「あ~らまるで萌えキャラみたいな悲鳴ですね~!荻上さんってか~わいい☆」 「………」 「あの…二人とも…」 「「斑目さんは黙ってて下さい!!!」」 「…はい…。」 げにおそろしきは女の争い…そして斑目はどこまで行っても斑目であった。 荻上が妄想を叩きつけ、大野はそれを全て吸収しビームを充填する。 激しい攻防のさなか、大野加奈子はふと荻上の服が変わっていることに気付き、指摘する。 「…それHOLYの制服コスですよね?なのに何でシェルブリット使ってるんですか?」 「う…」 荻上は言葉に詰まるが… 「そ…」 「そ?」 「それはそれ!これはこれ!!」 (言い切った―――――!!) 「でも…あなたは昨日も『コスプレなんて恥ずかしい』とか言ってませんでしたか?」 「そ、それは…」 「ああ、コスプレじゃない、アルター能力の副産物ですか?でも、はたから見ればコスプレそのものですよ?」 「あ、あの…その…」 精神面から切り崩され、荻上は見る見る追い詰められていく。 そして…荻上が限界を超えそうになったその時! 「荻上さん!」 笹原が瞬間的に大きな炎を起こし、あたりは閃光に包まれた! 「うわ!…ってああッ、逃げた!」 全速力で逃げる笹原と荻上。荻上は泣きながら笹原に抱えられている。 「も、もうあんな…なにがなにやら…」 「あ、あれも一つの『フタリノセカイ』な、なんだな。うん。」 「うわ!久我山さんもいたんですか!?」 次回予告 「世界の…敵?」 (伏線なしに)からみあう謎、(後付で)判明する新しい事実! 「ふっふっふ、ワタクシ朽木にセプターとしての才能が眠っていた事には気付かなかったようですね!」 朽木も出るけどたぶん敵でやられ役 うんこにょー 死相が出てる 次回「ステージ名:椎応大学」チャンネルはそのままで!