約 1,378,931 件
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/589.html
前回の話 「如月ちゃんと二人で踊ったのって久しぶりですね」 「やっぱりダンスは戦闘とはまた別のいい運動になるしストレス発散にもなるわよねえ、大鯨ちゃん」 「でもカラオケもストレス発散にはよかったですよ。 如月ちゃんも一人じゃなくて二人で歌ったら楽しいでしょ」 私は大鯨。旧日本海軍の潜水母艦大鯨の力と魂を受け継いだ艦娘です。 大鯨って女の子らしくない名前ですって?違います。大鯨という名前は艦娘としての名前です。 私の本当の名前ですか?それはひ・み・つ。秘密です。 ちなみに彼女は如月。睦月型駆逐艦二番艦如月の艦娘です。 如月ちゃんは艦娘としても、一人の少女としての名前も如月なんです。 艦娘といっても中身は普通の女の子とほとんど変わりありません。ただほんの少しだけ他の人と違うのです。 兵器ではなく人間ですから戦ってばかりではまいっちゃいます。だから休むことも心と体のために必要です。 今日は私達は揃ってお休みなので、二人で街に出かけました。ダンスしたりカラオケしたりと楽しかったです。 「でも大鯨ちゃんは司令官と一緒ならもっと楽しいんじゃない?」 「え…はい…でも提督は私達以上に忙しくて機会が中々……」 「でもそんなあの人と結婚するんでしょ?羨ましいわね。 あの人と結婚なんて将来性から考えても玉の輿も同ぜ…」 「如月ちゃん!」 「もぅ…冗談よ…あなたはそんな事で考えるような人じゃないってわかっているわ」 「そうですよ、冗談言わないでください。 私はただ、あの人が素直に喜ぶ顔が見たくて、 それを見て私も素直に喜べて……………………」 161 :ド・キ・ド・キ 幼妻大鯨ちゃん:2014/11/16(日) 13 10 52 ID zXX5I0tk 私があの人と出会い、好きになり、結婚しようと思った事に彼が提督だったからという事の否定はしません。 だけど、それはあくまでも彼が提督だったからこそ私達が出会えたという意味であり、 提督という立場だから好きになったわけじゃありません。 私が提督と初めて出会った時に提督は私に親切にしてくれましたけど、如月ちゃん曰く 『あそこまで親切な司令官は見たことない。もしかしたら大鯨に気があるんじゃない?』 との事でしたのでもしかして…とは思いました。 その時は会ったばかりで提督の人となりがあまりわかりませんでしたけど、 提督が少し具合が悪そうに見えた時になんだか心配になってしまって… その時はただの空腹みたいでしたけど、 でもその時に私の中で何かが生まれたのかもしれません。 そんなモヤモヤした気持ちが少しずつ広がっていく中で提督の食生活が酷いものだと知り、 たまたま提督の部屋にお邪魔して本当に酷い食生活とわかった時、 戦闘能力に乏しい私だからこういう時にこそ提督の役に立たなきゃと思い 上層部に掛け合ってその後提督と一緒に生活を始めました。 最初の頃はどちらかといえば『提督』の役に立ちたいという気持ちでしたけど 提督が私の作った料理をいつも褒めてくれて、 それでもっと喜んでもらいたいと思って創意工夫を凝らして…… ……気がついたらあの人の事が好きになっていました。 あの人が私の事を世話役とかそういったものとして好きというわけではなく、 最初から人として好きだったっていうのがわかったのは互いの気持ちが通じ合った時でしょうか。 162 :ド・キ・ド・キ 幼妻大鯨ちゃん:2014/11/16(日) 13 11 34 ID zXX5I0tk ある日の事です。私がシャワーを浴びていたらあの人に見られてしまって……ドキドキしちゃいました。 私が勝手にシャワーを浴びていたのが悪いのですし、 あの人は私がお風呂掃除をしていると思ったから入ってきたわけですから仕方ありません。 でも私のドキドキは止まりませんでした。 その夜、私はあの人のお布団の中に忍び込みました。 あの人が私のあられもない姿に興奮していて、 それを思い出して我慢出来ずに私を求めちゃうだろうと思って…… 今思ったら恥ずかしいです。本当は私からあの人に手を出そうかと思っていました。 だけどもし私の思い違いだったらと思うと、はしたない女の子に思われるのはともかく 今の関係が壊れてしまって未来まで失ってしまうのが怖かったんです。 だから私は言い訳がきくよう隣でただ目を閉じていただけです。 覚悟はしていました。あの人に私の初めての口づけを……初めての………… …………覚悟というよりも期待という方が正しいのかもしれません。 でも…あの人は何もせず、私を起こそうとせず私の布団に運んだんです。 ショックでした。あの人が私の事を好きだと思っていたのは私の思い違いだと思ってしまって、私は枕を涙で濡らしました。 でもそんなところを見たからなのか、その後私に告白してきたのです。 あの人は情に絆されやすいところもありますが、 それでも自分がこれだけは駄目だと思えば断固拒否する人でしたから、告白された時は心から嬉しかったです。 ただ、あの人もあの人で少しだけ勘違いしていたみたいでしたからちゃんと私の気持ちも伝えました。 まあ何はともあれ結果オーライでよかったです。 ……こういう考え方って、あの人に少し影響されちゃったかな? 163 :ド・キ・ド・キ 幼妻大鯨ちゃん:2014/11/16(日) 13 12 10 ID zXX5I0tk 「…………ちゃん……大鯨ちゃん…………」 「………………あ、はい!」 「もう…何ボーっとしてるのよ」 「ごめんなさい、少し考え事とか、昔の事を思い出したりとか……」 「それはまあいいけど…あれ、見て…」 「え………!?」 言われて見てみるとあの人が見知らぬ金髪の女性と食事をしていました。 「司令官が綺麗な女の人と一緒に食事してるみたい。 何か言い争っていて…あ、女の人が水のおかわりに行ったみたい」 「……きっと大丈夫とは思うけど……確かめてきます……」 「ちょっと!?」 私はあの人を信じているけど、 だけどどうしても確認したいと思って席を立ってあの人の所に向かいました………… 164 :ド・キ・ド・キ 幼妻大鯨ちゃん:2014/11/16(日) 13 13 03 ID zXX5I0tk 「あの子も結構強い個性を持っていそうだし、これも艦娘の運命か……」 俺はそう小さな声で独り言を呟きながらこれからどうするかを考えた。 「て・い・と・く」 「っ!?」 「提督っ」 不意に声をかけられ驚いた。振り返ればそこには大鯨… いや、今日は休養日だから大鯨というべきではないか…… 「提督、ここで何をしていらっしゃるのですか?」 「新しい艦娘が新鎮守府に来るから駅まで迎えに行っていたんだ。 こんな時間だから新鎮守府に帰る途中で昼食を取ろうと思ってな」 俺は堂々と事実を言い切った。やましい事なんて何一つしてないからな。 もしやましいことがあるなら繕うような言い方をするはずである。 「あら?貴女誰?」 「あなたこそ誰ですか?」 「ドイツの誇るビスマルク級超弩級戦艦のネームシップ、それが私よ」 「え…………ビスマルクって…………あの…………?」 「そう。ドイツらしい重厚かつ美しいデザインでしょう。 この国でも縦横無尽に活躍するわ。期待しなさい!」 その雰囲気と佇まいに圧倒される大鯨。 「あの…ビスマルクさん…さっきは何を怒っていたのかしら……?」 如月が何か会計を済ませたのか財布を仕舞いながら尋ねる。 「提督に日本料理をご馳走するよう言ったのにタイワンラーメンとかいう辛いのを頼んだのよ」 「台湾ラーメンはれっきとした日本食だ。高雄も愛宕も金剛も榛名も台湾にはこんなのなかったとか言うが、 これはある料理屋の店長が故郷の坦々麺を思い出してまかないで作り、 それを辛党だった店長が辛く味付けして作ったんだ。 だから創ったのは日本人じゃないとはいえ、れっきとした日本料理だ」 「……とにかく口直しを要求するわ」 俺はソフトクリームを頼んだ。他の二人は既に食べたからいらないみたいだ。 165 :ド・キ・ド・キ 幼妻大鯨ちゃん:2014/11/16(日) 13 14 32 ID zXX5I0tk 俺はソフトクリームを頼んだ。他の二人は既に食べたからいらないみたいだ。 「ふふっ、中々おいしいじゃない。いいのよ、もっとくれたって」 『さぁ、豪華なランチを奢ってもいいのよ?』 俺の頭にある少女の言葉が響いた。 ああそうか、この子もこんな感じか。俺は何か糸口が見えたような気がした。 「でもここってラーメン屋なのに甘味も充実していますね」 「そもそもここは甘味処から始まったのだからな」 「ねえ、もっとソフトクリームないの?」 「買いたいのはやまやまだがそろそろ新鎮守府に行かないと時間がない。 心配するな。新鎮守府には外郎とか名古屋銘菓を沢山買い込んであるからな」 「何だか食べたら『お前の体は私のものだ』って乗っ取られないかしら」 この時俺は確信した。そんな知識があるのならこの子とみんなとでやっていけるだろうと。 166 :ド・キ・ド・キ 幼妻大鯨ちゃん:2014/11/16(日) 13 16 52 ID zXX5I0tk 東海地方含め多くの地域に新しい鎮守府が作られた理由。それを語るには夏頃まで話を遡らなければならない。 夏のAL/MI作戦において自分の担当の出撃任務を終えた俺は故郷に帰省していた。大鯨も護衛として一緒だった。 さすがに家族や親戚に会わせる勇気はないから近くでウインドウショッピングをしてもらった。 そして鎮守府に帰る前に富田の鯨船行事という祭りを楽しもうとした矢先、 四日市港や名古屋港が深海棲艦の襲撃を受けていると緊急連絡が来た。 この場には大鯨しかいなかったものの、襲来した敵の強さが大したことなかった事と 大鯨の練度が高かったこともあり比較的楽に殲滅できた。 後で聞いた話だが、日本の重要港湾クラス以上の港が深海棲艦による襲撃を受けていたらしく、 幸いにも伊勢湾地域に襲来した敵は伊良湖沖で大半は殲滅されていたとか。 とにかく艦娘達のほとんどがAL/MI作戦に出撃している最中だった為に日本には艦娘があまりいない状態だった。 そこをついた奇襲という形だった感じだがあまりにもタイミング良すぎて………… とにかく事態を重く見た上層部は艦娘の活動拠点の増設と艦隊再編を行った。 横須賀鎮守府に主戦力を集中しつつ、それ以外の重要港湾以上の港湾所在地域に新しい鎮守府 (旧来の鎮守府と区別して新鎮守府と呼ばれる)を置いた。 新鎮守府は主力艦隊の拠点となる横須賀とは違い、輸送船団の護衛や地域防衛等が主な仕事である。 俺の新しい勤務先の東海地方の新鎮守府はそれ以外にも艦娘の教育機関がある。 艦娘は軍人のようなものではあるが、本来ならば義務教育下にある艦娘も数多い。 今までも教育自体は各鎮守府でされていたが、地域による教育格差や講師の分散等問題もあった。 その為東海に作られた新鎮守府はそういった艦娘達の為の教育機関も兼ねているのである。 主力であるはずのビスマルクが再編でここに来たのはドイツ語の教師として来たという面が大きいだろう。 俺は東海の新鎮守府で勤務することになったものの 今までの部下達は大半が義務教育下にある駆逐艦娘が大半だった為 長門や陸奥、赤城などの主力艦娘が横須賀に残留したくらいで俺の艦隊の顔触れに変化はほぼなかった。 装備も強力な装備は横須賀に運ばれたが、戦力はなるべく集中させた方が良い為との判断でもある。 また、新兵器の開発についてもまた別の新鎮守府に集中するとのことだ。 色々あったものの、故郷に近い地域に勤務する事になった為、俺のやる気は潰える事はなく、むしろ増大していった。 やはり俺には東海三県の空気が合うのだろう。 年頃の沢山の艦娘達を導いていく不安をそれで打ち消していきたかった。 167 :ド・キ・ド・キ 幼妻大鯨ちゃん:2014/11/16(日) 13 18 09 ID zXX5I0tk 10月31日、今日はハロウィンだ。子供達がお菓子くれなきゃいたずらするぞで有名な日だ。 実際はもっと別の理由があるが、こう変化しちゃうのも日本人らしい。 だからなのか朝から騒々しいなあ…… 「しれ…提督、潜水母艦大鯨よ。トリックオアトリート」 「ん…どうしたんだ暁?」 「お菓子くれなきゃいたずらしちゃうわよ」 もう悪戯してるも同然だろう。暁は大鯨の服を着ていたのだから。 物凄い遠目から何気なく見たら一瞬は騙されたかもしれないだろう。てか大鯨はどうした? 「暁ちゃ~ん、私の服を返してくださ~い!」 振り向くと大鯨は暁の服を着て走ってきていた。胸や腰周りがぱつんぱつんで色っぽ……苦しそう。 つーか何故着たし。他に服はなかったのか。 「見てみて、この輝く肌、ねえもっと近くで見てあげてよ」 続いて如月がやって来てそう言った。自分ではなく大鯨の事を指しているのだろう。 何となくだが首謀者がわかった気がする。 「暁ちゃん、お菓子あげるから服を返してくださいよ……」 物凄く恥ずかしそうに涙目で赤面する大鯨の顔はドキドキするくらい可愛かったが、 さすがにこれ以上大鯨を悲しませるのは心が痛む。 「ふふっ、サイズの大きい服を着て大人びる子供…パーフェクト!」 何故か那智が割り込んできた。那智がパーフェクトと言うとか、こいつもそういう方面の知識はあったのか。 そんな事を考えたのは俺と、いれば漣くらいだろう。 「お子様言うなー!」 「じゃあなんでこんな真似したんだよ」 「本当は一人前のレディーがこんなことする必要はないんだけど、 学年行事としてやらなきゃいけないから仕方なくやっただけよ」 「眠たかったからせっかく来てくれたのにお菓子をあげられなくてごめんなさい。でも服は…」 「如月ちゃんから何をやったらいいのか聞いてみたのよ。だから大鯨さんの服を着ちゃったの」 「で、何故大鯨は暁の服を着たのだ?」 「如月ちゃんからやり返すなら同じ事をって……え?」 話が繋がった。二人の衣装チェンジはやはりこいつが原因か。 168 :ド・キ・ド・キ 幼妻大鯨ちゃん:2014/11/16(日) 13 19 03 ID zXX5I0tk 「こうして見ると二人とも結構似ているわね」 強引な話題転換である。 「大鯨ちゃんも暁ちゃんと似ているし、暁ちゃんも大鯨ちゃんと似ているし…… 司令官と一緒にいたらまるで本当の家族みたいね」 「そうだな……お前達の子供の顔が早く見たいものだ」 如月の言葉に俺達は赤くなって驚き、 その後の那智さんの言葉にはまるで今までの成長を見てきた年長者的な雰囲気さえあった気がした。 真面目なのか残念なのか判断に困る。二人とも真面目なんだろうけど。 「ところで司令官、今度の祝日は司令官のお誕生日でしょう。 どうしてその日に結婚式をしようとしなかったのかしら?」 「確かに。司令官が結婚式を行おうとしている11月15日は渾作戦の真っ最中なのよ。 だから余裕がある時にしておいた方が…」 「今回の渾作戦は横須賀鎮守府の艦隊が中心だ。横須賀鎮守府は戦闘能力に長けた艦娘が集結しているからな。 俺達の役割は本土の防衛だ。この前のような事があったらかなわんからな」 ちなみに次の作戦名は渾作戦だと漣にメールで送ったら大量の大根を買ってきた。まあ予想通りである。 「作戦期間中とはいえ作戦初期だし、 することはいつもやっている事の延長線上にある事だからある程度の余裕はある。 それに結婚する事と結婚式の日程を報告したら快く承諾してもらったし、 作戦発表後に上層部に伺ったら結婚式を行う事を咎められる事はなかったしな。 まあ作戦期間中は休み無しになり終了後の後始末もやらなきゃいけなくなるが 俺の勝手な都合で結婚式をするんだから仕方ない」 「…まあ上層部がそう判断したんだったら私達から何も言う事はないわ。 私達が出来る事が後方支援だっていうのなら、それを全力でやるのよ」 暁の言葉と共に俺達はこれからへの決意を新たにした。 169 :ド・キ・ド・キ 幼妻大鯨ちゃん:2014/11/16(日) 13 19 46 ID zXX5I0tk そこへ空気を読まないかの如くドアが激しく開く音がした。 「トリックオアトリート!お菓子くれなきゃ私の歌を聴けーっ!」 ビスマルクがとある歌姫の扮装をしながら乱入してきた。 何か間違っている気がしたがハロウィンを彼女なりに楽しんでいるみたいだ。 彼女も完全にここに馴染んでいるようだった。 「なんでみんなお菓子をくれないのかしらね」 「それだけビスマルクさんの歌が上手だからですよ」 「本当!?ありがとう。いいのよ、もっと褒めても。 でもここでは変わった事をするのね」 ビスマルクの方がハロウィンとは微妙に違った事をしている気がしたが何も言わなかった。 俺のいる新鎮守府ではハロウィンに合わせて盛大なイベントが開かれていた。 他の鎮守府でも小さいながらイベントが行われていたが、この新鎮守府では一段と大きなイベントが行われていた。 というのもこの新鎮守府は小中学生の年代の艦娘が大半を占める為、 思春期の不安定な心を戦闘行為だけを行う事により壊してしまうという事がないよう 情操教育の点から近隣住人達とのふれあいにより人間らしい心を失わないようにとの考えである。 また、地域の人達からの信頼を得て様々な支援を受けやすくするという狙いもある。 「でも楽しかったわ。これからももっと楽しいことがしたいわ」 彼女の存在はドイツ語講師や戦力を抜きにしてもここに必要不可欠だった。 彼女は現状雷撃できる唯一の戦艦故に渾作戦期間中は横須賀鎮守府の主力艦隊に配属されることになっていた。 激戦地に赴く彼女や、他の艦娘達が無事に帰ってくること。それが俺達の願いだった。 170 :ド・キ・ド・キ 幼妻大鯨ちゃん:2014/11/16(日) 13 20 28 ID zXX5I0tk そして11月15日。俺達は結婚した。神の前で俺達は永遠の愛を誓い合った。 何故作戦が始まったばかりのこんな時に結婚式を行ったのか。 それは俺の父親と母親が30年前に結婚したその日だったからである。 俺を今まで育ててくれた両親。その両親に今まで散々苦労をかけてきたのだ。 俺の事を心から愛してくれた人達を俺は何回も悲しませ、落胆させ、失望させてきた。 それでも俺を信じてくれた両親。俺は両親に自分が立派になった姿を見せたかった。 そして、その姿を両親の30回目の結婚記念日のプレゼントにしようと思ったのだ。 正直言ってきちんとできたのか、それとも駄目だったのか、緊張していたためかあまり覚えていない。 でもどちらにしろ親からすれば子供はいつまでも子供なのだと思う。 子供だと思っていたら思った以上に大人になっていた、あるいは未だに子供地味ているか…… どちらにしたって最終的には子供という目で見てしまうものかもしれない。 それに失敗したとしても後に『あの時はああだったなあ』とみんなで笑いながら話せるのならそれはそれでいい。 それよりも俺にとってはある意味結婚式以上に大事な事が控えていた。 日が変わって11月16日。81年前、潜水母艦大鯨が進水した日である。 俺達もまた、新たなる所へ進もうとしていた。 171 :ド・キ・ド・キ 幼妻大鯨ちゃん:2014/11/16(日) 13 21 23 ID zXX5I0tk 「不束者ですが、よろしくお願い致します」 俺と初めて出会った時、そして俺と彼女の心が一つに結び付いた時。 その時と同じ、しかしそのどちらとも意味合いが少し違う言葉だった。 「………とうとう…私達……」 生まれたままの姿で照れながら、しかし笑みを浮かべる彼女はとてもかわいかった。 結婚式の時の彼女はこの世で一番綺麗な存在と思えるほどだったが、 こうして見ると彼女の童顔が更に際立つ。 もちろんどちらも彼女の魅力の一端という事に変わりはないのだが。 「ん…………」 俺は彼女の唇に自分の唇を重ねた。ただ唇と唇を触れ合わせるだけのキス。 でも、それだけでも凄くドキドキした。はたから見たら童貞と一目でばれるだろう。 キスの最中、俺は彼女の体を抱きしめ愛撫していた。 しっとりとしていて、それでいて重くない髪はいつまでも触っていたかった。 そして髪の毛から肩、背中、腰。尻へと右手を下に下ろしながら触っていく。 彼女の体は肉付きがよく、とても暖かかった。 お尻もとても大きくて柔らかい。きっと元気な子供をたくさん生んでくれるだろう。 一方左手は豊かな胸に行っていた。程よい弾力と柔らかさ、暖かさが心地よい。 その大きな果実とも形容できるものの先には鮮やかな色をした小さな果実があった。 その果実は硬かった。しかしただ硬いというだけでなく程よい弾力があった。 「……はあ…………んんっ!?」 俺は彼女に唇から己の唇を離すとそのグミのような果実に口づけ、吸った。 「あ……ん……そんなに吸ったって…出ませ…んっ!!」 彼女は潜水母艦大鯨の艦娘である。潜水母艦は潜水艦を支える艦、つまり母親のような存在だった。 胸が大きいのは彼女が潜水母艦の艦娘だからなのか、それとも胸が大きいから艦娘になれたのか。 そんなことはわからないが彼女はまだ母親になっていないため母乳は出ない。 出るとすればホルモンバランスがおかしくなっているのだろう。 いつまでも彼女の乳房を堪能したかったがそうはいられない。俺は彼女の一番大事な所を右手で触れた。 とてもぬるぬると濡れていた。俺は指で探した。 すると少しへこんだ所があったので俺は中指に少し力を入れた。 にゅるん、と入っていった。入口はきつかったが中はとても滑りがよく暖かかった。 指を動かし感触を楽しむ俺は一刻も早く己のいきり立ったものを入れたかった。 172 :ド・キ・ド・キ 幼妻大鯨ちゃん:2014/11/16(日) 13 22 03 ID zXX5I0tk 「ん……い……入れてください……あなたの……おちんちん……」 「いいのか……」 「ええ……もう我慢…できないの…あなたも…でしょ……」 彼女の言葉通り俺も限界だった。というか最初にキスする前から既にしたかった。 俺は己の全てを込めるものに手を添え、先ほどのへこんだ所に押し付けた。 「そこ……です…………ッ……!!」 俺は彼女の中に入っていった。先端から今までに感じたことのないような気持ちよさが伝わる。 気を抜けばあっさりと達してしまうだろう。それだけは避けたかった。 彼女を気遣って一気に突っ込むことはしなかったが、何かに阻まれた時、力を入れた。 プツリッ! 何かを破いたような気がした。そして思わず一気に最奥まで貫いてしまった。 結合部の根元を見ると赤いものが見えていた。 そうか、俺は彼女にとって初めての男になったのか…… 彼女は俺を拒むのではなく受け入れたということか。 「ッ…………」 「…くっ…すまない…もう……」 俺の言葉は彼女を気遣うつもりが苦しめてしまった事を謝ったのか、 それとも彼女が達する前に自分だけ達してしまいそうな事への事なのか。 どちらも正しいだろう。不意に気が抜け、襲ってきた射精感に俺はもう我慢できなかった。 俺の先端からびゅるりという感触が延々と続いた。 俺は彼女が達する前に勝手に達していたのだった。 173 :ド・キ・ド・キ 幼妻大鯨ちゃん:2014/11/16(日) 13 23 21 ID zXX5I0tk 「ん…………」 「はあ…はあ………」 俺は彼女の一番奥で全てを吐き出していた。 彼女に包まれ、暖かさを感じていた俺はそれに甘えていた。 しばらくして射精が収まったあと、俺は少しの後悔に襲われていた。 なぜ勝手に達してしまったのか、もう少し優しくできなかったのか。 そんな考えを見透かしたのか、彼女の言葉は優しかった。 「……私で気持ちよくなってくれて…ありがとうございます……」 痛くて苦しいだろうに、彼女が俺にかけた言葉は感謝の言葉だった。 「……こっちこそ……ありがとう……」 俺は涙を流しながらそう答えた。確かに罪悪感や済まなささはある。 だけど初めての人が彼女で、彼女の初めての男になれた喜びの涙でもあった。 「…こんな私を、愛してくれて、本当にありがとうございます… 私は……私はとても幸せです。そして、いつまでも、あなたと一緒に…………」 それは彼女の偽らざる本心なのだろう。 俺は彼女を苦しめただけかもしれない。だけど、それでも彼女は俺を愛してくれた。 だからこそ俺は彼女を気持ちよくさせられなかったであろうことを後悔していた。 出来るなら少しでも早く彼女を気持ちよくさせたい。だけど俺は提督だ。 俺の行動一つで艦娘達やこの地上に生きる全ての人達の命運が決まってしまう可能性もある。 それに平和の為に戦わなきゃ彼女を愛する事もできなくなる。 俺は全ての幸せの為に戦う事を改めて決意した。 何一つ思い悩むことはなく彼女と愛し合えるようになるには、まだ時間がかかるのかもしれない………… ―続く― +後書き 174 :幼妻大鯨ちゃん:2014/11/16(日) 13 27 06 ID zXX5I0tk そんなわけで『お・し・か・け』の続きです エロ薄めな上に関係ないところで独自設定やネタ多数 俺は地元に近いところで愛する人と生きて行きたかったんです…… 長編で明確に続けると宣言して投下したのは初めてです 続きも現実の時間軸に合わせて書いて投下するつもりです それではまた これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/396.html
139 :139:2014/05/20(火) 23 21 54.02 ID FIAR9bk5 提督×浜風9-43と提督×浜風9-174に浜風ものを投下した者です。 あれの最終話を書いたのでこれから投下します。 140 :139:2014/05/20(火) 23 25 12.03 ID FIAR9bk5 1 シーツの縒れを手元に見て、せり出す嬌声は枕にくぐもる。下手な息継ぎの度、胸を満たす枕の香りがより一層の恥辱を煽っていた。 水音の響きと連動するようにして腰が婀娜やかに蕩揺し、淫らな雫がつぅと大腿を滑っていた。後には蛞蝓の這ったような光沢が一直 線に刻まれて、そのこそばゆさに思わず掌の力が強まった。浜風は四つん這いの体勢で、彼からの刺激をただただ無抵抗に受け続けて いる。 朱の孔は熱く、時折呼吸するように蠢いた。まるで童女のそれと違わないばかりであった彼女の女陰も、毎夜のように施された悦楽の 指教によって、今や爛熟の滴りである。 彼の指先は、肉芽の上を叩くようにして刺激した。まるで掌が腰を支えるように添えられて、中指の全体は陰唇に埋まっている。跳 ねた愛液は彼の手首までをも汚し、尚一向に留まりはしない。 背筋から腰にかけて、電流の流れたような痙攣が彼女の絶頂を示した。くたりと仰向けにへたり、柔らかな乳房は胴の上、重力によ って平たく潰れる。彼女は顔を背け、目尻に重なるように腕を置き、荒い息をつくだけになった。そしてやはり、提督はそれ以上手を 出す事もせず、クリネックスを取りに立ち上がったのだった。 今回で何回目の伽であるのか。終わった後にはじっとりと汗ばんでしまう季節になって、だが胸を刺す寂寥は、未だに亭々と根を張っ ている。この切なさを恋を認知するに浜風は存外時間を要した。いや、今でも深層の部分においては認めていないのやも知れない。彼 女が思い描き正道とした恋心は、春水沸き出ずる果て、清らかに咲く一輪の花のようなものなのである。微恙の際の熱と似たものが、 ぽっと胸底に燈った時、それこそが真正の恋であるのだと夢想していた。故に情欲をきっかけとしたこの想い、穢れの中に生まれた感 情を一絡げに定義するのは憚られた。 愛して欲しい。そう心の中で独り言ち、途端憂鬱に苛まれる。自身が酷く驕慢な、醜いものに思われた。求められたいという欲求が 切なく胸を締め付けて、ますます自己嫌悪の陰気に当てられる。 提督が褥に戻ったのを横目に見て、彼女は身を起こした。怪訝な視線を受けながら首に腕を巻きつけると、持ち上げた体を再び蒲団 へと寝かした。引っ張られた彼は堪らず腕立て伏せのような格好で彼女の上にしなだれて、それは端から見れば押し倒した風にも見える 状態であった。 「キスを、ください」 真剣でいて悲壮の色を湛えた瞳が、突き刺すように彼を見る。息を飲んだ提督は、だがやはりそれを憫殺した。 額に唇が押し当てられる。そうして前髪を梳くように撫でてから、彼は身を捩り隣に寝転んだ。視線を交わす事も無く、たったそれ だけで終わりである。 胸を開いて中を覗き見る事が出来たならどれだけか楽になれるだろう。諦観と少しの願望を乗せた溜め息が、口から独りでに漏れ出 した。浜風は提督を信用してはいなかったが、失望をしているのでもなかったのだ。何時か、いづれ何時かはと、彼の優しげな愛撫にその 先を幻想しながら、一方では口惜しさに歯を食いしばる。彼にパジャマのボタンを閉じてもらう度、競り上がる涙を堪えながら拳をぎ ゅっと握るのだった。 あなたを殺して私も死ぬ。この頃、彼女の頭の中にはこの短文が居座りだした。浅ましい甘ったれの、エゴイスティックな人間が使 う台詞だと自覚しながら、しかし彼の顔を見ると知らずの内に心内で唱えてしまうのである。あなたを殺して私も死ぬ。あなたを殺し て私も死ぬ。あなたを殺して私も死ぬ、と。 心中の美学は、この国に生まれた者ならば生まれつきに理解している事柄なのだろう。かつて死に行く皇国のため、仲間のために自 らも海中へ没した彼女は、それを醜悪とは思わなかった。むしろ、純粋な恋。春水の沸き出ずる……に近似した究極の白壁。微瑕一つ も有らざりき、誠の心。そう思われた。 浜風は彼の手を取ろうとして、しかし止めた。 141 :139:2014/05/20(火) 23 27 53.31 ID FIAR9bk5 2 子の刻。夜の重たい静けさを裂く、賑やかな談笑の声があった。間引きに付けられた蛍光灯が廊下を薄暗く照らす中、唯一食堂だけ は真昼と思えるほどの目映さを放つ。 限定海域攻略完了の祝いとして開かれたこの酒宴は、その姦しさの峠も越え、ぽつぽつと自室へ帰る者の姿も現れだした頃合である。 こと駆逐艦の大半はその姿を消していたのだが、唯一浜風だけは提督の隣に座り続けており、その雰囲気たるや沈欝の極みであった。 彼女は視線を虚空に固定しながら冷えたグラスに唇を当て、中のモスコミュールを舐めるように飲んでいた。他方、提督は思い出し たように声を掛けるが、どれも無視をされるか一言相槌を打たれるばかり。酔いも回りだした頃には何やら無性に苛立ちが募り、日本 酒を手酌してはその感情を無理やり腹底へ下している。 壁掛けの時計を眇め見つつ、提督はとうとう痺れを切らすと、 「僕はもう寝るけど……」 と言った。引き止めて欲しかった訳でもなく、ただ報告しておこうというような心緒である。最後に口を開いてから既に一刻は過ぎ ており、ざらついた喉が不快な音を発した風だった。 「そうですか」 果たして浜風の反応も平坦の極み、清閑な湖の水面が如く起伏の一端もありはしない。提督は憮然と立ち上がると、早足にその場を 後にした。 彼の背中を眺め、浜風の心内には猛然と湧き出すわだかまりがあった。悲観の憤怒と諦観の絶望とが、体に巡るアルコールの熱に火 をつけたようだった。上ずった気が何が何やら分からない内に涙となって溢れ、堪え切れなかった幾らかの嗚咽がしゃっくりのように 零れ出す。噛み締めた下唇は真っ白に、濡れる眼は真っ赤になった。 競り上がろうとする嗚咽を何とか飲み込んでいると、力の込もる拳や肩が独りでに震えだす。それが厭に無様に思われて、恥辱の涙 をも混ざりだした。浜風はグラスの残りを一気に呷り、うずくまる様に下を向いた。 どれほどか時が過ぎ、涙は留まる事を知らないが呼吸は落ち着いてきた頃合、隣に腰掛ける艦娘がいた。右手には冷酒の徳利とお猪 口が二口、左手には荒く千切られたキャベツ盛り。唯でさえ露出の多い服を更に乱しながら、武蔵は朗らかな笑顔で席についた。 「浜風よ。貴様、まだこういうのは知ら無いだろう。まぁ飲め」 差し出したおちょこに並々と透明の雫を注ぎ入れ、彼女は開口一番にそう言った。体中の元気がごっそりと消え去っていた浜風にと って、その絡み方は何とも煩わしいものであったのだが、わざわざ遠慮すると言うのもそれはそれで面倒くさく思われ、逡巡の後に結 局は渋々、その小さな器に口をつけた。 焼かれたのかと思えるほどの膨大な熱が、一気に胃の底へと駆け下りた。切羽詰った浮遊感が呼吸を乱し、しかし不快な感触ではな い。目の覚める強烈な苦味が舌の上で踊り続け、それは刺青のようにずっと刻まれたままであるようだった。 形容するならば、多幸感である。忘却の彼方へ打ち捨てられていた胸の温かみが、じんわりと体に広がってゆく。たちどころに良く なる機嫌をどこか不気味にも感じながら、しかし気持ちのいいことに変わりは無い。悲観や苛立ちは流され出て行き、唯一残った負の 感情は、してやられたという悔しさだけである。得意げな顔つきの武蔵を恨めしく見ながら、彼女は杯を置いた。 「もっとください」 そうして、待ってましたと言わんばかりに、徳利は傾けられたのだった。 142 :139:2014/05/20(火) 23 31 03.34 ID FIAR9bk5 「提督と何かあったのか」 自身も杯を呷りながら、武蔵は浜風を横目に見、窺う声音にそう聞いた。当人は気が付いていないようであったが、先ほどの落涙を 見た者は存外に多く、そしてその誰もが聞きたいであろう質問でもあった。 武蔵には別段、それを言いふらそうというような魂胆は無かった。あるのは好奇心と彼女への配慮のみである。しかし浜風は気丈に も顔を上げ、空元気に答えたのだった。 「いえ、別になんでもありません」 「よく言うぜ……。まず目の充血をどうにかしてから言うべき台詞だな」 「少し、酔っ払ってるだけです。提督は関係ありません」 彼女がそういった方向について厭に意固地になることを、武蔵とて心得ていた。懐柔に時間を惜しまず、兎に角酒を注ぎながら辛抱 強く聞いてゆく。どれだけ強大な意思があろうとも、本能の方は内包している思いをぶちまけたいはずであった。なれば、酒さえあれ ば何れか理性が頽れる。果たしてその目論見どおり、彼女の口はお猪口の呷られる度、徐々に徐々にと緩くなっていったのだった。 二本の徳利が空になる頃、浜風の瞳は再び潤みだしていた。口から漏れ出す提督への呪詛。最初こそは抽象的な、ただ言いたい文句 を連ねただけだったそれは、次第に同情や憐憫を売りたい為に、より事実の暴露に迫っていった。武蔵がうんうんと気前良く聞いてく れる事もあり、とうとうその全てを告白しなくてはもう恨み言も言えない段になると、浜風は意を決し、事のあらましを口に出し始め た。 あの口淫や、自慰や今の半端な同衾関係についてである。羞恥も惨めも打ち捨てて、赤ら顔に告白し続けた。 まさかそういった所にまで発展しているとは思っていなかったのだろうか。武蔵は目を見開き、唯何も言わずにそれを聞いていた。 「私、提督の事が好きみたいなんです」 最初、明るく始まったその物語も、結びの文言に至ると余りに重苦しい悲惨さ。息の詰まるような激情を冷静さの奥に見出して、武 蔵はため息をつかずにはいられない。彼女の瞳に映る純真と、表情に顕れるくたびれが痛々しく思えてならなかった。 絶対に報われない恋慕である。本人にも自覚があるらしい事が、なお一層不憫であった。痛みを伴わない解決の機会は永遠に失われて おり、あとはどれだけ傷を浅く済ますかという不承の始末だった。武蔵はお猪口を呷ると、一口に飲み込んでから口を開く。 「まだこの艦隊に来て間もない頃の話だがな、今の貴様みたいに練度向上を目的として秘書艦をやっていた時期があった」 浜風はあの痛ましい眼を向け、無言に話の続きを促した。前口上を終えてしまった今の段になって今更席を立つことはできないと知 りながら、武蔵は逡巡に口を閉ざしてしまう。 果たして自らが終端のきっかけとなってもいいのかと自問した。これから話す内容によって、浜風のもしかしたらという希望は呆気 なく潰えるだろう。客観視して間違えなく最善だった。しかし苦しみの伴う事も明白である。決断は、疎ましくも自身に委ねられてい た。 十秒は経った後、彼女はおずおずと話を再開した。心内では謝罪を呟きながら、平然とそれを口にする。 「提督に押し倒された事があった。その時は酒も入っていたし、私とて別段嫌ではなかったのだがな。……まぁ、色男だ。決して尊 敬はできないが、魅力はある。まぁいいかとも思って、なされるがまま好きにやらせていたんだが……。あいつ、私が処女だと知った 途端に止めやがった」 143 :139:2014/05/20(火) 23 33 49.19 ID FIAR9bk5 そこまで一息に言い切って、武蔵は浜風を盗み見た。今、彼女の心が一体どれだけ荒れたのか。口を堅く結び、無表情に見つめるそ の様子からは一切憶測もできはしないが、尚それでも覚ろうとした。 虚ろな視線に薄ら寒い思いを抱きもする。しかし武蔵はあくまで彼女を案じ続けていた。嫌悪をされたとしても、事実の客観を意識さ せることこそが唯一残された救いへの道。そう考えていた。 「あいつは慣れすぎているんだよ。女心を弄ぶのは得意だが、気遣うことは一片もできやしない。提督職を追われたなら、まず間違 いなく男妾になるぜ」 浜風の胸の内に、男妾。その一単語がずんと響いた。今驚くほどの心の粛然。その裏に燃え上がる嫉妬や落胆はそのまま、何故だか 男妾という言葉が残響するように胸を打った。 まさしく提督の性質だと、感心にも似た清々しさが感じられた。彼女は、自身がどこか集合住宅に住まい、提督が居候している生活を イメージした。尽くせども尽くせども言い寄る女を邪険にしない彼は、ふらっと外へ出ては遊戯する。愛想尽き果て打ち捨てる事がで きたなら良いのだろうが、なまじその男妾の性質が楔である。何時までも期待を抱き続け、そして破滅。そういった物語が克明に再生さ れたのだった。 「あんな男、真剣になればなるほど損しかない。早く諦めたほうが良い」 纏められた終わりに、確かにそうだと同意した。あんな男は打ち捨てたほうが良い、何の得にもなりはしないと思えども、しかしど うしようもなく惹かれる心。……魂と呼んでもいいやもしれない。彼を欲する感情は、ひたすらに強大で堅牢だった。彼さえあればそ れでいいと、彼が愛してくれるのならばそれだけで全てが満たされるのだと、心内で増殖する渇望は、完全な理屈をもってしても制圧 叶わないように思われた。 「……どうやったら諦める事ができますか」 顔を伏せた浜風に、武蔵は間髪入れず答えた。 「まず何より、もう逢わないことだな」 144 :139:2014/05/20(火) 23 37 12.17 ID FIAR9bk5 3 蠅取り蜘蛛の足音さえ聞こえそうなほど静まり返った執務室。その窓際に立ちながら、提督は一人キャスターマイルドを喫んでいた。 一人の時にしか喫煙しないのは、勿論艦娘の健康を考えているからでもあるのだが、最大の理由は女々しい銘柄に魅せられていること への羞恥があった為である。かなりの昔、海軍兵学校にいた頃の話であるが、初めて買った娼婦から銘柄を揶揄されたことがあった。 JPSを愛喫していたその女からすれば、どんなパッケージを見たところで子供の遊びにしか思えないのだろうが、まだその時分、不 慣れの純朴な田舎上がり。精白に近い心は大いに傷ついて、以来人前でタバコを吸うのに抵抗を覚えるようになったのだった。背伸び してタールの多いものへ乗り換えようとした時期もあったが、バニラの甘みが無いと何とも口寂しく苛々も募る。中毒なほど多く吸う わけでもなく、結局はキャスターを愛飲し続け今に至る。 一人広い部屋に閉じこもると、何とも集中の切れやすい提督であった。秘書の浜風は珍しくも大破。入渠に掛かる時間を見、練度の 高まりが意識された。お小言を言う艦娘がいなくなれば元より自堕落な彼であるから、積まれた書類は見て見ぬふりをし、開けた窓か ら朱に染まる岸辺を眺める。吹き込む風の湿り気に、梅雨の気配が感じられた。 つと、扉をノックする者があった。提督は大仰に背筋を震わすと、慌てて煙を扇ぎ吸殻を外へと投げ捨てた。別段、喫煙しているこ とそのものを秘匿にしていたつもりも無いが、どこかこれは疚しい事なのだとも思えている。少し待てと大声に返答し、スプレーを吹きか けてから椅子に座った。さも執務に忙しい風を装い、万年筆を手に取って入れと言う。 戸を開け目に付いたのは、大胆な白さらしに褐色の肌。颯爽と入室した武蔵は 「邪魔するぞ」 と一言、執務机の対岸に立った。 「何か用か?」 「いや何、“浜風の奴がいる前ではできない話”だ」 「……お説教かな」 威圧を不敵な笑みに載せ、射抜く視線は凄みに煌く。提督は背筋に冷や汗が滲むのを感じながら、腕を組み佇立する彼女を窺い見た。 「何でも貴様は、私と気まずくなるだけでは飽き足りないらしい」 「別にそういう訳じゃない」 「ならどういう訳なんだ?」 提督は一瞬、何かを言いたげに口を開けたが、そのまま黙し顔を伏せてしまった。どういうつもりかと問われても、特にどういうつ もりもないのだから、答えようも無かったのだ。浜風が望んでいる事は知っていて、だがそれを叶えるのは嫌であった。ならどうして 毎夜遊戯するのかと言われれば、それもよく分からなかった。謗られるべき悪行なのだろうし、そういった自覚もある。しかし、いつ の間にか気が付いたら習慣化していたのだから、もうそれは仕様が無いじゃないかとも思うのだ。 「分からない」 静寂の意識された頃、彼は正直に答えた。 「言うと思ったぜ」 すかさずに吐き捨てたれた言葉の語調には、呆れと怒りが垣間見えた。武蔵は続けて、 「お前、そんな調子じゃいつか刺されるぞ」 「実は昔、ここに着任する前なんだけど、住んでた下宿に包丁を持った娘が来襲した事があってね」 「経験済みだったのか」 「幸か不幸か死にはしなかった。……なんで僕はこう、好かれてしまうんだろう。嫌ってくれたほうが楽なのに」 「よく言う。寧ろ積極的に関係を持ってるのはお前の方じゃないか」 提督は再び沈黙という逃避、部屋には武蔵の来るより前とまったく同じような静寂が広がった。その場に立ち続ける彼女と、ペンを 握り顔を伏せた彼の足元を、ゆったりとした時間が無意味に通り過ぎていった。 145 :139:2014/05/20(火) 23 40 18.66 ID FIAR9bk5 「貴様のせいで私は疵物」 どれほどか経ち、沈黙を破った武蔵の呟きは、耳が静寂に慣れてしまったせいかかなり大きく聞こえた。声音に怨みは無く、ただ寥々 たる響きである。 「最後までした覚えはない」 提督はすかさずにそう言った。 「だからこそだよ。あの後私は一人外で飲んで……。まぁ、顔には自信があるんだぜ。引く手は数多。一番マシな奴を見繕ってな」 「おい、冗談だろう」 珍しくも彼の顔つきは険しくなっていた。それを見ると武蔵の心内には途端、愉快な気持ちが沸いてきて、何時もの笑みから更に口 角が吊りあがった。 「貴様が処女は嫌だって言ったんだぜ?」 「別にそうとは言ってない! あれは……僕がただ臆病なだけだったって話じゃないか」 「なんだ生娘は嫌う癖に独占欲はあるんだな。つくづく度し難い奴だ」 「からかうなよ」 必死な声音にとうとう堪えきれなくなると、彼女は腹を抱えて破顔した。目尻には涙が浮かび、床へ悶え転びそうなほどにふらついて、 ひたすら喉を振るさせている。 「お前、僕を馬鹿にしてるな」 「すまんすまん」 「嘘だろう、それは。僕をからかいやがった」 「どうだろうな。……確認してみるか?」 笑いを引き摺り高い声でそう言うや、彼女は早足に机を回り、提督の側まで近づいた。狼狽し慌てて椅子を引く提督の姿。それを嘲 謔する心地に見て、横合いから体躯を滑り込ませる。肩に手をかけ背もたれへぐいと押さえつけると、情交への興奮、眠っていた嗜虐 の心が悦楽への欲望を燃え上がらせた。 「ほら、脱がせてくれ。……あの時みたいに」 彼女の体躯がしな垂れかかり、提督の胸板の上では柔らかな乳房が押し潰される。熱い吐息が頬を撫ぜ、それは次第に下へと下がっ ていった。顎を過ぎ、首筋を滑り、そして首根に到達すると温い柔らかさが愛撫を始めた。人の最大の弱点へ人の最大の凶器が迫る。不 安や恐れ、どこと無く胸騒ぎがして落ち着かないこの感覚こそ、首へのキスの本質的快楽であると思われる。信頼という保証があるに しろ、自身の生命を完全に預けるという危うさ。相手の支配に堕ちるという悦が、背筋をすぅと駆け下りた。 提督は彼女の背中に手を回し、さらしの横筋一本一本をなぞった。時折敏感な所を指が滑ると、肩が僅かにぴくりと跳ね、口の隙間 からは、か細い声が漏れ出した。どこか羞恥があるのか、そういった反応を寄こした彼女は直後には首へ強く吸い付き、朱の跡を刻み 込む。 悪戯に仕返す悪戯。子供の遊戯のような睦み合いは次第にその淫靡さを増してゆく。鎖骨にまで唾液の垂れる頃、武蔵は顔を上げる と濡れ光る唇を彼の口へと近づけた。開いた隙間から舌が探りを入れるように進入すると、彼もまたそれを向かい入れる。踊るように弄 り合い嬲り合う紅は、段々とその水音を大きくさせていった。 一度離された口の両端に、雫の橋が掛かった。それは行為への名残惜しさを代弁するが如く粘性を保ち、そして遂には自重で崩れ落 ちた。 「煙草、吸っていたんだな」 「ああ」 「……脱がせてくれ。今度は最後まで」 提督は再び彼女の口へ吸い付くと、さらしの結び目に指を掛けた。 146 :139:2014/05/20(火) 23 43 17.50 ID FIAR9bk5 4 のぼせた頭の疼痛に息を荒らげながら、浜風は服を着込んでいた。 酒宴での警告はしこりとして胸にわだかまり、尾を引いていた。夜伽は最早習慣として体に組み込まれて、今更引き剥がす事など無 理であった。彼の手を受け入れるたび危機感のようなものが心を痒がらせ、その感触は背徳の快楽を現出させる。今日こそは、今日こ そはと思い続け、しかし重ねてきた同衾の悦。今や他人の温みの無い、冷えたシーツの感触を思い出せない彼女である。さっぱりとした 体と更けた時分は、これからするであろう事にお誂え向きとも思われた。 自己嫌悪に涙することなど今の彼女には日常茶飯事で、だから幾つかの雫が目尻から頬へ流れたことにもしばらくは気が付かなかっ た。顎先がくすぐったく、服の裾で掻いてみれば小さく染みができたので、そこでようやく自身が泣いているのだと分かったのだ。 止まろうと思えば止まる事ができるのに、破滅への街道を一夜一夜と進んでゆく。そして今日とて歩は止めず、彼の手に溺れるのだ。 なんて浅ましく卑しい事だと、自嘲の言葉は心内に尽きない。 入渠施設を出て執務室へ向かう途中、廊下の果てに人影を見た。間取りからその人物は提督のの元へ行った帰りなのだと分かったが、 ともすれば幾らかの駆逐艦などは就寝している時刻である。とりとめもない用事なら明日に後回すであろうし、そして何より自身の入 渠中に会っているということが彼女の心に波風を立てていた。目を凝らしその娘の姿を見んとすると、果たして浜風は息を飲んだ。 武蔵はどこか幸福に浮かれた様子で、跳ねるように廊下を進んでいた。浜風が姿を認めてから大分遅れて彼女も気付き、何時もの微 笑みで軽く手を振ってくる。 「入渠上がりか」 声を掛けられ、すかさず 「はい。……あの、執務室に何か?」 「別に、とり止めもないことさ」 武蔵は会話に立ち止まる事もせず、呆然と立っている彼女の横を通り過ぎた。 徐々に小さくなる背を眺め、胸に切羽詰ったような苦しさが広がる。焦燥や不安に駆られ、頭に思い出されたのは男妾と言う言葉で あった。いやに上がってしまった呼吸を飲むようにしていると、今度は胸を叩く動悸が気持ち悪いほど大きく響く。そんな筈はないと 思ってみてもその根拠の薄弱さ、結局は信頼という一言に集約されてしまうのだった。信用に足らない相手であった。だのに心は夜を 重ねるたびに少しずつ、侵略されていたのである。 幾分かは落ち着いた後、執務室へ向かい戸を開いてみると、まず書類の片づけをしている提督が見えた。彼は彼女の入ってきた音が 聞こえるなり、顔を向けないまま口を開き、 「お帰り。もう僕は寝るけれど」 「あの、さっきまで武蔵さんがいませんでしたか?」 「うん。まぁ、少しちょっとした野暮用でね」 屈んだ姿勢に露出した首筋。浜風はそこに咲いた朱を見逃しはしなかった。 147 :139:2014/05/20(火) 23 46 18.56 ID FIAR9bk5 決定的であった。その瞬間彼女は、自身の願望が一片も叶えられはしないことを心底から悟った。彼の目は決して自身を向いてはい ない、例え抱かれていてもそれは好意によるものではない。今までの全ては無為であったのだと気が付き、願望は砂地に水が立ち消え るが如く霧散した。そして途端心内に、この想いを断ち切らねばならないという決意にも似た覚悟が芽生えたのだった。 嫉妬ではない。寧ろ、武蔵はそれを分からせるために提督に跡を残したのかとも考えた。だが幾ら予想を立ててみた所で、それは本人 にしか分かり得ないことであったし、わざわざ彼女がそれを告白するとも思えなかった。 提督の怪訝な視線を受けて、自身が再三泣いている事を自覚した。今度は空虚とやるせなさの涙であって、もうこの数ヶ月で全ての 涙を制覇した気にもなる。 早急に区切りをつけなければならない。そう思い至ったのは、元よりの彼女の性質の為か、或いは傷付き過ぎた心が自衛として仕向 けた事なのか。 思考の纏まるより先、言葉が口に上った。それは奇しくも、最初の夜と同じような心地であった。昂ぶった感情と、どこか冷静な客 観。そして何より、自分の楽を求める為だけにするという、エゴの自覚。 「提督、私を抱いてください」 嗚咽交じりに吐き出された言葉は、どこか床へ沈殿するようだった。 「もう、もうこれで終わりにします。抱いてくれさえしたら、もう普通だった頃に戻りますから。……抱いてください。でないと私、 何時かあなたを殺してしまう」 それから泣き声だけの静寂が、厭に長く経過した。 提督は彼女に歩み寄ると、髪を梳くように撫でてから背中へと手を回した。 褥に座り、浜風は何よりも先にキスをせがんだ。唇と口腔へ望んだ感触が得られるや、それまでの後ろめたい陰鬱は歓喜によって吹 き飛ばされた。飽きることなく吸い吸われ、いよいよ息づかいの切なさ極まり、彼女は自ずからセーラー服のボタンを外す。彼の後頭 に掌を当て一時も離れないようにすると、後は舌根が疲れ果てるまでひたすら接吻を続けた。 服を脱ぎ去るのは早かった。何時もは皺にならないように畳むそれも、脱げた側から捨てるように放る有様。提督が彼女を組み伏せ ば、下着や上着の幾らかは折られたまま背に押し付けられた。流石に気を遣い、引っ張り抜く為身を起こそうとした彼であったが、浜 風はすかさず首に手を掛け離反を許しはしなかった。そのまま怒った風に烈しく口へ吸い付き、舌の運動は益々苛烈になる。唾液の零 れるのを厭わず、どちらの物とも知れない雫が頬を滑ってもそれを掃いはしなかった。 148 :139:2014/05/20(火) 23 49 43.08 ID FIAR9bk5 「いい加減、苦しい。がっつき過ぎ」 肩を押さえ、無理やりに体を話した提督は息も絶え絶えそう言った。彼としては半ば冗談のつもりで放った言葉であったが、つと見 下ろせば彼女の眼は潤みを湛えている。やはりそういった所について、提督は浜風を好んではおらず、僅かに沸いた苛つきから表情を 保つのには労をとった。 堪った鬱憤を晴らすかのように、彼は双丘の片方を乱雑に掴んだ。指や掌が捏ね、のたうち動くと、乳房は従順に波打った。数多愛 撫を受け続けてきた浜風は、痛みと快楽の境界にあるようなこの荒々しい行為に、しかし被虐の悦を享楽している。 「もっと、ください」 嬌声の最中、自身でも羞恥を感じるほどの声音で彼女は言った。提督は白く細い首筋へ唇を近づけ、吸い舐め弄ぶ。 接吻は首筋のみに留まらず、耳の端、鎖骨の窪み、頤などにまで及んだ。その悉くが切なさを際立たせる性感帯。行為の度に思うこ とではあったが、今回は一層、そういった慣れを垣間見るといよいよ心苦しくなるのだった。 仕返しをする心緒に浜風はぐいと彼を抱き寄せ、その首筋、既に刻まれた跡を上書きするが如く吸った。充分すぎるほどに経過して 一舐めした後口を離すと、そこは虫刺されやら打撲痕やら、そういった言い訳の聞かぬほど婬猥な造形に紅く染まった。 胸のすっとするような心地に恍惚があり、蕩けた眼に再びキスをせがんだ。唾液の跳ねる音を聞きながら、まさしく恋人のような睦 み合いをしている事。それが悦びの極地なのである。呼吸の合間、浜風は身を捩ると提督の下を抜け出した。 「どうしたの」 「口でします」 言うと同時、彼の寝巻き甚平の下へ手を掛ける。 露出したそれが硬度を持っているのを見て、言い得も知れぬ満足感が湧き出した。感情は兎も角、肉体的には発情しているのだという 事実に、鬼の首を取ったような心地になる。浜風は得意なままに、肉槍へ接吻したのだった。 竿の根元から舌を這わし、時折唇で挟むようにした。膨らんだ部分に辿り着けば再び根元へ戻っていって、ぴくりと反応を寄こす所 を見つければ執拗にキスを繰り返す。 しばらくの後、陽物の先端には付着した唾液とは別の雫が、一粒の玉となって溢れていた。彼女は一旦口を離すと、とうとう陰茎の 先からを頬張っていった。 無理に喉まで押し込もうとはしなかった。苦しくなる限界までで妥協して、代わりに亀頭の返しや膨らみを舌で舐めまわしていく。 時折、口腔内に苦く潮っぽい味が広がって、彼女は眉を顰めた。とても美味しいとは言えないそれは、だが確かに幸福の味でもあった。 嚥下すると彼のものを体に取り込めたという悦が、より興奮を促してゆく。 顎の疲れに一旦の小休止のつもりで口を離すと、提督は彼女の肩を押してゆっくりと蒲団へ倒した。物足りないという気にもなった が、彼の眼光には先に進む意思が見て取れて、途端不満は消失した。 149 :139:2014/05/20(火) 23 53 12.26 ID FIAR9bk5 提督は確認するように、彼女の陰唇を指でなぞった。そこは既に湿潤に蒸れ、指には多分に愛液が粘る。竿の先を宛がって、彼女の 様子を見下ろしてみれば、肩が異様に持ち上がり掌はぎゅっと握りこまれていた。 「するよ。力抜いて」 肩や手をとんとんと叩かれ、浜風は羞恥に頬を赤くした。言われるがまま息を吐き出し、体中の力を緩めた瞬間、烈々とした異物感が 下から込み上がってくる。 臓腑を直接押されるような苦しさであった。熱さと、痛みと、圧迫感。待ちに待ち望んだ歓喜の苦痛に、だが違和感もあった。彼女は すぐにでも、また肉槍による衝撃が下腹を突くと身構えていたが、提督に一向動く気配はなかった。彼は入れたままに髪や頬へキスを し、小さい子をあやすが如く頭をよしよしと撫でている。 屈辱でもあった。元より昂ぶっていた感情が更に波風を荒らげて、冷静さが悉く消え果てる。彼女は怒りに口を開き、叫ぶようにし て言った。 「動いて、動いてください!」 「生娘が生意気言うよ。辛いでしょ。しばらくこのままでいい」 それを聞くと、途端口惜しさに詮方無く悲しいやら嬉しいやらの胸の痛み。一体彼の気持ちはどこに向かって、そして自身の気持ち は何を目指してと言った台詞が頭の中をぐるぐると巡った。 「……優しくしないでください」 か細い哀れな懇願は無視をされ、益々惨めな気になりながら、それでも確かに欣喜がある。彼は優しく接吻すると、ようやくじれっ たい速さに動き出した。 鈍痛和らいで、下半身のみが自分の体から切り離されたように感じる頃、彼の温かみが腹内に広がった。それが唯一の、この恋慕に よって得られた証でもあった。そして彼は引き抜かれ、尚浜風は死体のように動かなかった。 終端の景色を目の前に、彼女の胸中には何もない。穴の広がり続ける虚無が、ずっと地平まで続くようだった。目の前の男への愛し さは、だがそれも寝て起きれば忘却の彼方に捨て去る約束である。無常へ寂寥を思うに、体の熱が熱すぎた。 事後の処理を終え、隣に彼が寝そべった。最後に眺める事のできる横顔であるし、最後に感じられる体温でもある。何もかもが、終 わり。そう思うと途端胸が一杯になって、思わず提督の手を握っていた。果たして、握り返される事はなかったが、それでもいいと本 心から思えていた。 眠りにつくまで、枯れた涙の辛さが心を抉るように痛めつけた。 150 :139:2014/05/20(火) 23 54 25.83 ID FIAR9bk5 以上でシリーズ完結です。長々と失礼しました。 これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/170.html
雨、降り続く雨。また、僕は一人になってしまったのか。 帰りついて見れば、夜の帳も降り、待つ人などいないと思った。 艦隊壊滅の報はすでに届いているはずだし、僕一人では次の作戦もままならない。 だから、帰還を告げる気はなかった。 だけど、提督は待っていた。凄い人だ。 誰を待っているのだろうか。山城か扶桑、もしかしたら最上かな。何にせよ彼女たちは幸せだ。 次は何をするのか分からないけど、今日のところは休もう。 踵を返した刹那、雨音の他に音のなかったドックに足音が響いた。 「誰だ?」 当惑、困惑、そう言った感情が分かる。ああ、言わなきゃならないのか。 「時雨、ただいま帰還しました」 聞かれるのは他の娘の無事だろう。そう思っていた僕を提督は抱きしめた。 降り注ぐ水。雨ではなく、暖かいそれに驚いた。菊の紋すらない駆逐艦の無事に涙しているのかと。 良かった、本当に良かったと呟く提督を抱き返し、唇を奪う。触れるだけの接吻。 呉では、幸運は女神が接吻を交わす事で授けると言われているらしい。 僕の力なんて些細なものだけど、できるなら提督には生き延びて欲しかった。だから、何度も何度も接吻を繰り返す。 ああ、そうさ譲れない。譲れるはずがない。 だけど、よく見れば提督の目は虚ろで、僕を捉えてなどいない。 映るのは僕か、それとも誰かの偶像なのか。確かめるのが急に怖くなった。 だから、装備を外して一つに繋がろうとした。今くらいは、僕だけを見てほしい。それはおこがましいだろうか? 僕でない誰かを見ていたら、分かるはずだから。 手始めに提督の全身に接吻を加えて行く。寓話のように唇だけ無事などとはならないように。 額から足の先まで終え、目線を上げればそそり立つものが。良かった。きっと提督は僕を見てる。 一つに繋がり、腰を振り、はたと気づく。どうして提督の手は空を切っているのか。 ああ、そうか。そこにはないものを掴もうとしているのだね。 扶桑も山城も凄かった。僕だけではなく覚えているのだろう。 提督の薄い子種を体の中に感じ、虚しくなる。雨もいつか止むのだろう。けれど、その前に。 装備と一緒に置いた短刀を取り、緩やかに振り上げる。願わくば、止めて貰えるようにと。 崩れ落ちる提督の体を支えれば頭上に降り注ぐ赤い雨。あは、良い雨だ、僕もこれで行けるね。
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/450.html
π艦巨砲主義 ※ふたなり千歳&ふたなり千代田のオナニーもの。 「おかしいわね。一体どこにいったのかしら、私の……」 思案気な顔で鎮守府の宿舎の廊下を歩く女性、その名を千歳という。帝国海軍に空母として籍を置く、所謂艦娘である。 つい先ごろ任務を終えて鎮守府に帰還し、羅針盤の都合で想定より日数の長引いた疲れと汚れを洗い流してきたその帰りであった。 「誰かが気を利かせて洗濯に出してくれた……?けれど、アレだけというのも……うーん。」 彼女が探しているのは入浴前に着用していた下着であった。浴室を出てみたところ何故かそれが見当たらない、しかも下だけが。 羅針盤の都合で作戦日数が延びて替えの下着が不足したため、つけ続けていたもののため汚れが酷い物だ。正直人に洗濯を任せるのは気が引けた。 「千代田なら何か知っているかしら……下着が無いなんて伝えたら、泥棒だとか変に暴走してしまいそうで困るのだけど。」 ふと脳裏に浮かんだ妹の姿に溜息をつく千歳。自身を極めて強く慕ってくる妹。 愛情が深いのは姉妹として望ましいのだろうが、千歳の身の回りにいらぬ気を回しすぎたり愛情表現が時折執拗すぎることが千歳の悩みの種であった。 「千代田、いるかし……」 『……ねえ……お、ねえっ……ちとせ、おねえっ……!』 妹の部屋の前に立ち、戸を叩こうとした千歳。それに先んじ部屋から洩れてきた声に動きを止めてしまう。 妹が連呼しているのが自身の名、しかも妙に熱っぽい声であることに気づき思考をしばし混乱させる千歳。 「……風邪、よね?多分。出撃中も妙に熱っぽそうに私を見たり、なんだか辛そうにしてたもの……」 強い違和感を感じながらも強引に自分を納得させる千歳。 しかし改めて戸を叩こうと意を決したその時……聞こえてきた言葉は、千歳の認識を根底から打ち崩すものであった。 『ほぉぉぉッ……お姉のっ、千歳お姉のパンツぅっ♥♥んおッ♥はひぃぃぃッ……♥♥』 「えっ……」 反射的に息を飲み、無意識に音を殺して扉を僅か開く千歳。細く室内を覗かせる戸口から覗いた室内の光景、それは…… 寝台の上にいる妹、千代田。しかしその着衣は前を肌蹴られ……豊かな乳房と、そして股に聳えた肉の器官を剥き出しにしていた。 「千歳お姉っ♥千歳お姉っ♥千歳お姉ぇぇっ♥お゛ッ、ほぉぉぉぉッ♥♥♥」 「う、そ……千代田?なんで、アレは私の……下着?」 当の千歳に見られているとも気づかず、寝台の上で千歳の名を連呼しながら股間で勃起する肉竿……男性と同様の生殖器を一心不乱に扱く千代田。 血管を浮き立たせ脈打つ凶悪な肉棒を摩擦するのと逆の手に絡ませ口元に押し当てた布……それは無くした筈の千歳のパンティであった。 クロッチの部分に鼻を押し当て大きく息を吸い込んだ千代田が酩酊したような表情となり、一際激しく喘ぐ。 「んお゛ぉぉッ♥キツいッ♥千歳お姉の体臭染みついてるぅッ♥おっほぉぉッ♥ちんぽバキバキになるぅぅッッ♥」 「う……ぁ……」 替えの不足のため、汚れても仕方なく履き続けた下着……行方不明になったと千歳が思っていたソレにむしゃぶりつく千代田。 発情期の獣のように発情し乱れ、赤黒くパンパンに腫れ上がった陰茎を乱暴に扱き立て続ける。 「ん゛ふうゥゥゥゥンッ♥千歳お姉のッ♥おしっこ染みッ♥美味しいぃぃッ♥イグッ……ほお゛ぉぉぉぉッッ♥♥」 「ひっ……そ、そんな……」 下着の僅かな染みを見つけ、そこを飴でも舐るかのように口に含んで蕩けた貌をし喘ぐ千代田……あまりにも卑しく淫らな妹の姿。 妹の過剰な好意も行き過ぎた姉妹愛に過ぎない……そう信じていた千歳にとって、妹が自身を性欲の的……自慰行為の種としている姿は衝撃的であった。 「出りゅっ♥ザーメンッ♥千歳お姉のおまんこ臭嗅ぎながらぁぁッ……チンポからザーメン射精ッ♥♥チンポ射精でいぐぅぅぅぅッ♥」 「……!!」 瞳を上向かせ背筋を弓なりに反らせた千代田が感極まった声で叫ぶ。肌蹴た胸元から零れたたわわな乳房が跳ね、肉茎が激しく脈打つ。 次の瞬間、弾かれたように跳ねた男根が精液を噴き……まるで蛇口を全開にしたかの如く放出された精液は宙にアーチを描いて撒き散らされた。 その射精は凄まじく、寝台の側とは逆の壁まで届きそうな勢いで精液が放たれ……粘つく黄ばんだ精液を床にこびり付かせていく。 「ふお゛ぉぉぉぉンッ♥♥お姉ッ♥お姉ッ♥千歳お姉ぇッ♥♥大好きぃッ♥千歳お姉とセックスしたいッ♥セックスぅぅッ♥♥」 激しい射精に痙攣する自身のモノをなお執拗に扱き、狂ったように千歳の名を呼び欲望を叫び続ける千代田。 妹の痴態、心を許していた相手の狂気、自己に向けられた情欲の深さ、それから……様々な衝撃に千歳は瞬きすることすらできず氷つく。 室内から漂ってくる牝の発情臭と栗の花の香りが混濁した匂いが千歳の脳を痺れさせ、思考を麻痺させていた。 「ふう゛ぅ~……あはあ゛ぁ~♥千歳お姉ぇ……♥ここ、ここにぃ……千歳お姉のチンポ欲しいのぉ♥お姉のチンポぉぉ……♥♥」 大量射精の余韻に脱力していたのも束の間……下着を握ったままの手で未だ硬さの残る陰茎を扱き、逆の手で枕元から何かを取り出す千代田。 男根を模した器具、それを口に含んで唾液を絡ませると自身の秘所に押し当て擦りつける……まるで雄を誘う淫乱な牝のような表情で。 「んぎぃぃっ♥千歳お姉ッ♥突いてぇっ♥私のおまんこズブズブ抉ってッ♥姉妹セックスで気持ち良くなってぇぇッ♥♥」 「っ……ぁ……あんな風に、私にされるのを……思い浮かべて……ぅ……」 その行為を幾度繰り返してきたのか、自身の熟々に潤った蜜壺へ荒々しく突き込んだ疑似男根を激しく出し入れしすぐさま喘ぎだす千代田。 千歳の名を呼びながら器具で膣穴を抉るたび彼女の陰茎は激しく跳ね、膣よりの快楽の強さを明瞭に伝えてくる。 妹の淫蕩に浸る様を盗み見する……あまりに異常で背徳的な状況に本人の意思とは裏腹に千歳の体の一部は激しく反応していた。 「う、ぁ……勃起してる、私の……。妹の、ぉ……おなにー、見て……ダメ、駄目なのに……ンンッ♥」 扉の向こうで更に熱の入った自慰に耽る妹の姿を覗き、己のスカートを内から持ち上げる硬く怒張した物体……自身の男根を恐る恐る撫でる千歳。 その途端。想像以上に鮮烈に痺れを伴った疼きが奔り、思わず悲鳴を上げかける。咄嗟に口元を押さえ、室内を伺う千歳。 「千歳お姉ぇっ♥チンポ凄いっ♥お姉チンポぉっ♥ゴツンゴツン来てッ♥お姉もイイのッ!?私もッ♥♥お姉のチンポイイィッ♥♥」 下着を絡めた手で陰茎を摩擦し、膣穴を疑似男根で責める。両性具有者のみが味わえる両性器からの快楽に溺れ乱れ狂う千代田。 その千歳に視姦されていようとは気付かぬ様子で獣の啼き声に近い喘ぎを上げ、姉との仮想性交に耽り続けている。 「だ、めぇ……こんなことっ、妹にオカズにされて……それで興奮するなんて、これじゃ私……変態じゃない、ンくぅぅっ♥♥」 撫でるように緩慢な刺激にも忽ちに硬く勃起しきる千歳の陰茎。もっと強い快楽を求めるかのようにビクビクと跳ね自己主張する。 口元を塞いで必死で声を殺しながら肉竿を握る手の動きを徐々に速め、妹の自慰を凝視しながら興奮に溺れていく千歳。 「チンポぉッ♥お姉のチンポッ♥チンポチンポォォッ♥♥チンポ扱きチンポセックスお姉とするのイイのおォッ♥ンお゛ぉぉぉッ♥♥♥」 「千代田、あんなに激しく私をっ……いけないのに、こんなのダメなのに……止まらないっ、んあっ♥はひっ、はへぇっ……♥♥」 常軌を逸した状況で興奮し、背徳的な自慰を止められない自分。こんな浅ましい姿を妹に見つかってしまえばどうなるか……? 何の躊躇もなく、組み伏せられ犯されるかもしれない。あの自慰のように激しく、卑猥に、熱烈に凌辱され……そんな妄想が更に千歳の手淫を速める。 「イくっ、チンポイくっ♥マンコもイくッ♥千歳お姉とチンポセックスでイグッ♥♥イグイグイグぅぅぅッ♥♥♥」 「だめっ、だめだめだめぇっ……私も、出……んうぅぅッ、バレちゃうっ……んぁぁぁぁぁっ♥♥♥」 もう堪えきれないといった様子の乱れ方で猛烈に膣と肉竿を自責する千代田。同調するように千歳も自制を失っていく。 互いに互いと性交する様を妄想し興奮を頂点まで猛らせ、極限の自慰快楽に耽る姉妹。次の瞬間、両者は同時に限界を越え…… 「孕ませてっ♥♥お姉ザーメンで妊娠させてぇぇぇッ♥♥ン゛オ゛ォォォッ♥♥私もチンポイグウ゛ぅぅぅッッッ♥♥♥♥」 「千代田ッ、私も……ンンンン~~~~~~~ッッ……♥♥♥♥」 淫らな絶叫に紛れ込ませるように己もまた蕩けた悲鳴を上げ、妹と同時に絶頂し精を放つ千歳。 妹が背を反らせて腰を突き上げ、精液を噴水の如く撒き散らす痴態を凝視しながら千歳もまた扉に精液を思うさま吐きかける。 部屋の内外に精汁の青臭い濃密な芳香が満ち、その嗅覚刺激になおも興奮が高まって射精中ながら更に大量の精液を精巣から送り出し噴射してしまう。 「お゛~~~っ♥んお゛ォ~~~……♥♥ちとせ、おねえ……しゅき♥らいしゅきぃ……♥♥」 「ふう゛っ……ん゛ぅぅっ……♥ちよ、だ……ふぁぁっ♥」 大量射精の余韻にビクビクと四肢と男根を痙攣させ、緩慢な手淫で射精の残滓を搾り出し合う姉妹。 荒く息を吐きながらしばし法悦に満ちた意識のまどろみに浸り続ける。永遠にその陶酔が続くかに思われた、その時。 「あっ……?ッ!!」 絶頂の反動で力が抜け、崩れ落ちかけた千歳。咄嗟に踏みとどまり……床が想像を上回る大きな軋みを上げた。 咄嗟に我に返り、萎れた陰茎をスカートの裾に押し隠してその場を走り去る千歳。後に構う余裕など一切ない。 「誰か、いた……?見られて、いた?……あ。」 寝台にぐったりと体重を預け、己の精液をねっとり絡ませた姉の下着を口に含んで恍惚に浸っていた千代田が身を起こす。 殆ど裸同然に着崩していた衣類を羽織り直しながら恐る恐る室外に顔を出すも、そこに既に人影はなく…… しかし。そこに視姦者がいた事を明確に主張するかの如く、ベットリと濃厚に雄臭さを放つ大量の精液が扉を伝い落ち……床に白い池を作っていた。 「あ、れ……これ?この臭い……んちゅ♥んふぁぁぁっ……そっか……そっかぁ、ふふふっ……♥♥♥」 持ち主不明の精液溜まりの匂いを嗅いだ千代田。なんの躊躇もなく精液を掬いとって口に含み……陶酔に満ちた呼気を吐いた。 忽ちに胸に湧き上がった興奮にまたも陰茎を硬く屹立させ、発情した牝の貌で淫らに歪めた唇から妖艶な哂いを漏らす。 彼女の胸に姿を浮かべた人物との、これから始まる快楽と淫蕩の日々……その光景を夕闇の暗がりの向こうに空想しながら。 「待っててね、千歳お姉……♥」 +後書き 486 :名無しさん:2014/06/15(日) 20 09 23 ID OcZ4O/c2 続きは無いんですけどね。 以上にて終了です、この場をお借り致しましたことに感謝。 おっぱいふたなり女性に変態オナニーをさせるのって楽しいです。 また次なにか書く機会がありましたらどうぞよしなに。 これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/388.html
「遅いぞ。…なんだその顔は」 古めかしい板張りに朝の冷気が心地よい、早朝の舞鶴鎮守府内・修練場。 そこから一段降り、弓道場も兼ねた庭場に、飾り気のない簡素な道着を来た艦娘の姿があった。 「…まさか今日、普通に朝練してるとは思わないじゃないの」 油断して寝過ごし、いつもより30分ほど遅れて現れたもう一人の艦娘は、抜身の木刀を一人振るっていた相方に向かって口を尖らせる。 「いつも言っているだろう。私のような弱い人間には、地道に毎日続けるということが大きな心の支えになっているんだ」 「良く言うわー。アンタが弱いってんならここの艦娘はほとんど戦力外だわよ」 「そんなことより早く用意をしろ。素振りばかりでは修練にならない」 手ぬぐいで額の汗を拭いながら板張りに上がってきた日向に背を向け、伊勢は立てかけてある木刀を取る。 「はいはい。…つっても、今日ばっかりはヘタなケガさせるワケにはいかないのよね…」 「なんだと?らしくないことを。遠慮なんかしてくれるな」 「あたしが後で皆に怒られるでしょーが!」 本気で首をかしげる相方に、ため息を付きながら首を振る伊勢。 ――本当にこいつは、今日自分が何をする日なのか分かっているんだろうか? *** 「時間だな。――ありがとうございました」 型通りにぴっと頭を下げるその姿は、美しくないと言ったら嘘になるだろう。 「ありがとうございました。で、今日は遅れる訳には行かないんだからね。きちっと予定開始時刻までに現地に移動しなさいよ」 「分かっている、大丈夫だ。今日は一級主力として、役目をきっちりと果たさせてもらう」 悩む時期はもう過ぎた、と。 気遣うような、やや心配気な表情の相方に向かい、軽く微笑んでそう呟く。 見たことのない表情だ、と伊勢は思った。 「明日の朝も――」 「明日の朝は、アンタは来ないんじゃないかな」 賭けてもいいよ、とにやにやしながら伊勢は言った。 私の話をちゃんと聞いていたのか、と日向は若干むくれて答えた。 *** 高い高い蒼空。 笑顔で祝福してくれる、仲間たち。 幸福と慈愛に満ちた態度でエスコートしてくれる、――愛しい人。 こんな日が来ることを、一体誰が予想しただろうか。 「すごい――綺麗よ、日向。今日の貴女は、間違いなく、世界一美しい軍艦だわ」 そう言われても、なんと答えていいか分からない。柄にもなく頬が熱く、頼りない純白の艤装の奥で、胸が高鳴るのを覚える。 「――美しさと強さを両立した扶桑型の一番艦に誉められるとは、光栄の到りだよ」 いいえ、今日は素直に負けを認めるわ。華のような笑顔でそう答えた彼女は、ブーケ・トスを受けるべく祝福者の輪の中に下っていった。 仲間たちに背を預け、全艦隊の旗艦を務めるかのような錯覚を一瞬、覚えた後―― 慣れない指輪の嵌った手で、彼女はブーケを背後の虚空に放った。 *** 「しかし――物好きだな、キミは。本当に私で良かったのか?」 「何回同じことを言わせる気だい?」 ベッドの中で抱きかかえられる、顔が近い。 かつて、いや、今も上司である人。提督。 私は今日、この人のものになった。 何らの実感はないが、独特の安心感はあった。まずはそれでいいか、ととりあえず日向は思った。 「これ――傷かな?」 肩のあたりの古傷を見つけたらしい。 「あいにくと、誰かに差し上げるつもりなど無かった身体でね」 今さら失望されても困るぞ、と日向は言った。 しかし。優しく抱きしめて唇を合わせてくるその反応は予想通りで――少し卑怯なやり方だったかもな、と日向はぼんやりと思った。 「…ん…」 互いに舌を絡め合う。燃えるような溶けるような、本能の予感。 相手の興奮を感じる息遣いが、更に自分を高めてゆく。 ほとんど全てのことは、邪魔な理性と共に思考から追い出されていった。 *** 一糸まとわぬ姿にシーツを手繰り寄せてベッドの上に座った日向の背を、提督の指が背を撫ぜる。 「ここにも傷がある。本当にたくさんあるね」 無神経といってもいい言葉だったが、全く気にはならなかった。人徳故か、はたまた――惚れた弱みか。 「正面も。見ていい?」 囁くような声。断れるはずがない。 他の誰にも晒したことのない双丘を、熱意と好奇心に溢れた表情が見つめる。 最初はおそるおそるという風に、やがて大胆にやわやわと愛撫する提督の感触が、視線が、――たまらない。 「提督…あまり見られると、恥ずかしいんだが」 「…本当、可愛いな。日向さんは」 日向さん、というのは嫁になっても継続するつもりなのだろうか。 嫁、という単語が平然と脳内に現れたことに、自分で軽いショックを受けていると―― 「…んぁっ」 色づいた左胸の先を、指先がぴんと跳ね上げた。痺れるような感触が頭頂を突き抜け、おかしな声が漏れる。 「て、提督、そこは…ぁ…」 意外にも無骨な指が、しっかりと日向の感じる場所を捉え、甘く切ない感触を脱力するほどに伝えてくる。 右乳房の下から先端までを爪先でなぞられ、総毛立つ感覚に思わず背を反らし、短い髪がふるふるとうなじを撫で擦る。 脇のあたりからちろちろと攻めてきた提督の舌先が、これまでに経験のないほど固く屹立した日向の乳首を掠め、焦らし、 「ぅあぁぁっ!」 ――それをついに咥えられ口中で転がされた瞬間、日向は快楽に一際高く啼いた。 「あっ、あ、はっ…あぁぁ…っ」 指が腰をなぞり、首筋に触れ、髪を撫ぜる。 そのたびに発せられる、刺激と快楽をねだるような、みだらな雌の声。 快楽に喘ぎながら、次々に女を目覚めさせられる自分。 ――伊勢には見せたくない姿だな、という思いがちらりと頭を掠めた。 *** 「あっ?!」 全身に及ぶ愛撫にくったりと力も抜けきった頃、その手が唐突に、片方の膝裏を持ち上げた。 とろとろに熱く焦らされてしまった秘肉に、指先が触れてくる。 「ここも、綺麗だね…日向さん」 「やだ…ぁっ」 つぷ、とさしたる抵抗もなく、濡れた谷間に提督の指が第一関節のあたりまで浅く埋まった。日向の身体がびくりと震え、それにもまして心が期待し、逸る。 ゆっくりと襞を押し開き、狭い膣内の壁を味わうように、心地よいそれが自分の中をなぞり、抜かれ、――再び、今度は根本まで、深く、深く。 「――くっ、あっ、あっ、」 半身を寝床に押し付けて、高く開かれた脚をわななかせながら、自分の性が、反応が、くちゅくちゅと隠微な水音を寝室に響かせる。 「や、あっ、それ、気持ちいい…気持ちいい、ていと…く…っ!」 片足を抱えられたまま、指先を出し入れされ、肉芽をぬるぬると摘まれ、もはや理性など欠片も残っていない。 シーツを握りしめた左手に、更に力が入る。 「そろそろ、いいかな…少し、痛いかもしれないけれど」 こんな疵物の身体でも、欲してくれるのか。――愛して、くれるのか。 得体の知れない温かさが、腹の中から上がってくる。 好きだ。繋がりたい。――このひとと。 「いいぞ…乱暴でも、激しくても……思うように、愛してくれ。提督」 開いた両膝を立て、両手を伸ばして誘い入れる。提督が、日向の白い身体に覆いかぶさる。 「――うっ、くっ…」 熱くて固いそれを自分の中に受け入れた瞬間は、かすかな違和感と痛みに呻いたが。 「日向…さん…」 「大丈夫だ…もっと、奥まで来てもいいぞ」 やがて獣のように足を絡ませ、互いに自分からくねる腰を打ち付け合い、唇を合わせ、互いの体温を感じて、 「…っ、ふぅっ、うぁ、ぁっ…」 ぬちゅ、ぬちゅ、と巨きくて温かいそれが胎内をこするたび、これまで想像もしたこともない、痺れるような快楽が背筋を駆け上り、 「提督、もう、ダメだ、き、気持…よすぎ…、う、あぁん――!」 「っく…日向…さん…ッ!日向さん、日向さんっっ!」 やがて最高潮の快楽が、びくびくと提督の自身を震わせ、精を自分の中に放たせた瞬間―― 呼吸すらも続かない悦楽の中。 日向は、幸福とは何かをはっきりと知ったような気がした。 *** 「――好きだよ、日向さん」 「私も――と、言ってやればキミは満足するのかな」 結局、何度身体を重ねただろう。心地よく火照った頬を、彼の胸に押し付けた形で呟くような睦言を交わす。 「病めるときも健やかなるときも、真心を尽くすことを誓いますか?」 「それはもう、昼に誓うと言ったろう。私は」 「中破状態での無理な進軍は、今後しないと誓いますか?」 「――あのな。私は戦艦だぞ。武人だ。攻めるべき時に生命を惜しんでは――」 「誓いますね?」 もう君一人の身体じゃないんだよ、と提督は言った。 その言葉に秘められた意味を悟り、日向には言い返す言葉はなかった。 「ま、その時は秘書艦としてそばに居てくれればいい。君がどう思ったとしても、殺気立ったみんながきっと、君を戦場には立たせてくれないだろう」 「それは――なんだかくすぐったいな。この私が、守られる側になるなんて」 それこそ、想像もしなかった未来だ。 しかし自分はもう、その道を選んでしまったのだ。 「分かった。誓うよ。――それで、キミは何を誓ってくれるんだ?私だけってことはないだろう?」 「取っ組み合いの夫婦喧嘩は、一生しないと誓います」 日向はまるで少女の頃のように、声を上げて笑った。 「さて、…そろそろ離してくれ。朝の修練に行く時間になってしまった」 駄目ー。と、普段の姿からは想像もつかないような声でぎゅっと自分を抱きしめた提督の姿に、思わず眉間が寄った。 「こら。こんな甘えた男を、旦那にしたつもりはないぞ」 やだー、と同じ声が応える。こんな姿、他の艦娘が見たらどう思うだろう。 「それは命令か。提督としての」 「いいえ。愛する夫のお願いです」 「それなら――」 伊勢は正しかった訳か。 彼女の笑いが目に浮かぶようだったが――愛しい人と唇を合わせた瞬間、そんなことはどうでも良くなった。 これまでと殆ど同じで全く違う、新しい日々。 これからはこの幸福を、いつまでも続けるための努力をしてみようか、と日向は思った。 (End.)
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/382.html
@Wikiサポートです。 ご連絡いただきありがとうございます。 お問い合わせいただきました件に関しまして、 左メニューの?#endregion?が一つ 不足していただことが確認できました。 該当wiki内の潜水艦の項目に?#endregion?が 不足していた可能性がございましたので、 追加させていただきました。 お手数おかけ致しますが、間違いがございましたら 修正していただきます様よろしくお願い致します。 その他、ご不明点などございましたらお気軽にお問い合わせください。 これからも@Wikiをどうぞよろしくお願いいたします。 このメールは送信専用のメールアドレスです。 メールをご返信いただいてもお答えすることができません。 お問い合わせは以下のお問い合わせフォームよりお問い合わせください。 ===================== @Wiki(あっとうぃき) URL http //atwiki.jp/ お問い合わせフォーム http //desk.atfreaks.com/form/atwiki/ ===================== お問い合わせ日時 2014-05-19 03 21 58 URL http //www55.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/275.html 本文 2014年5月19日午前三時前、該当ページのメニューを編集し、その編集完了後、該当まとめwikiに不具合が発生 不具合内容 該当まとめwikiにおけるトップページが一部しか表示されない その表示されている一部ページのリンクにアクセスしてもそのページにとべない ログインもできない(ブラウザに表示されるURLはかわる) モバイルwiki表示ではメニューページのみがおかしい模様 ブラウザはクローム、エクスプローラ両方現在最新バージョンにて不具合ページでしかみれません
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/45.html
【高ランクの兵裝を開発するため、鎮守府ではそれぞれ担当する艦による作業が日々続いている】 【開発は、専用の“砲”を股間に有する艦娘による、担当艦への受精着床行為―――種付けによって行われる】 【砲/砲弾開発】 「ふむ、今日の相手は金剛四姉妹か。よろしく頼む」 「はいこちらこそ、長門さん。じゃあまずはマイク……じゃなくって、主砲のチェックを」 「ワオ、長くてぶっとい主砲デース! さすが世界のビッグ7ネー!」 「あ、あの……最初は榛名に……もう準備、できてますからっ」 「了解した。うむ、安産型の良い尻だ。性器の濡れ具合も良好だな、遠慮なく貫かせてもらおう」 「……ぁああっ!? ち、力を感じます! 長門さんのたくましい主砲っ、奥ずんずんノックしてます!」 「榛名ったら立ちバックであんなに腰振っちゃって、おとなしい顔してスミにおけまセンネー」 「くっ……いい締まりだ、そろそろ子種を流し込むぞっ! 子宮の準備はいいな!?」 「はっはい! 妊娠いつでもOKですっ! 榛名、頑張って強い装備いっぱい孕みますっっ!」 「ヒトフタマルマル、着床を確認しました……姉さんたち、次は誰が注いでもらいますか?」 「わ、私も負けません! 気合っ入れてっ妊娠しますっ!」 【艦載機開発】 「くっ、あふ、加賀さんの膣内、締まりすごいですっ……昨日の翔鶴さんや瑞鶴ちゃん以上かもっ……!」 「当然よ、五航戦なんかと一緒にしないで。それより由良さん、私は忙しいんだから早く終わらせて頂戴」 「(むっ)わかりました、はやく終わらせればいいんです……ねっ!」 「……っふぁ!? や、ちょ、ちょっと、今何か変な感覚が、ぁひっっ!?」 「いい声出せるじゃないですか。こうやって子宮の入り口、亀頭で小刻みに揺すられると凄いでしょう?」 「う、嘘っ、この私が、声我慢できな……いぃッ!? まっ待って、ちょっと止めっ……んひぃぃ!?」 「これされるとみんな私の単装砲、大好きになっちゃいますからねー。加賀さんもそうなっちゃって下さい」 「わ、私はそんな、こんなの好きになんか……(ぐりゅりゅっ)あぁーッ!? だっダメ、イッ……!」 「一緒に射精しますねっ、おふ、ふぁ……あぁあ! んおっ! でっ出てるっ、すごい量出てますっ!」 「あ、ああ……! ゆ……優秀な子たちを産むわ、期待しててちょうだい……」 【ソナー/爆雷開発】 「はーい五十鈴っち、力抜いてねー。ずぶずぶ~っといきますよー」 「んくっ……ふあ、北上さんの魚雷すごっ……! 一気に奥っ、こつんって当たって……あぁんっ!」 「あー気持ちいい、すぐイキそ。ところで五十鈴っち……ちょい見ないうちにずいぶん胸育ってない?」 「え、そ、そうかな!? ……って揉まないでぇぇ! む、胸とあそこ一緒にするのっ反則ぅぅ!」 「やっぱでかいってこれ。同じ改二なのに腹立つなー、今日は二回や三回の斉射じゃ許さないことに決定~」 「うっうそっ、そんなにされたら私、壊れちゃ、ぅうううううっっっ!? ひぃあぁぁーっ!」 「ふっ、食らいついたら離さない、それが重雷装艦の本領ってヤツよ……あ、やば、出る出る」 「くっ、なによあの女っ……! 北上さんの兵裝を妊娠するのは私なんだからね……!」 (つづかない)
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/497.html
2レスほどぺたぺたします。別に、えろくなんてないけどね 陽炎型の三人に新ボイスという事なのでちょっと放置→つついてきて書いた 不知火の場合(ちょっと嬉しそう) 貴方はふと書面から顔を上げた。その視線に気づいて、何事でしょうかと、不知火は片方の眉をついと持ち上げた。 すみませんね、秘書艦をやってもらっているのに、暇にしてしまって。貴方がそう詫びると、彼女はそれを否定するように首を振った。心底、心外です。そういう事を言った。 「不知火は決して、退屈などしていません」 彼女はそう言って、数度瞬きをしてから、おもむろに軽く脚を組み替えた。抗議するように一度椅子が軋んだ。 それでも。貴方は少し食い下がった。すると、彼女は机に肘をついて、両手の指を互い違いに合わせて、それから小さく肩をすくめた。 「……いえ、構いませんよ」 そうですか。 貴方は再び顔を伏せた。狭まった視界の端、ぎりぎりのところで、不知火がそっぽを向いた。その唇が僅かに動いて、ぼそりと、かすかに呟いた。 「どうぞ、ご自由に……」 不意に貴方は酷くばつが悪くなってしまい、それからふと、頼める事があるのに気がついた。これなら、そこまで手のかかる訳でもなく、頼み事には丁度いいと思われた。 なら一つ、お願いできますか。何気ないふうにして訊ねた。 少しだけ身動ぎをして、彼女はあくまで平静に首肯した。けれど、返ってきたその声には、幾ばくかの喜色が浮かんでいるようだった。 ――不知火に、何か、御用ですか。 黒潮の場合(ちょっと怒ってそう) ふと書き付けていた筆を止めて、貴方は考え込んだ。迫りくる一大規模攻勢(イベント)。大本営がこのところ折々で匂わせてくる例のあれを前にして、ふっつりと黙り込んだ。 時勢は既に、備えを求めている。未だ発表はされていないが、号令がかかってからでは、明らかに遅い。戦争が誰の目にも明らかになってから準備を始める軍隊など、無能以外の何ものでもない。 しかし、そもそもこの時期に、この大型艦建造を行うというのは、はたして如何なものだろうか。 ゆっくりと、息をついて、眉間を強く揉んだ。 「なあなあ、司令。ちょっとええか?」 ああ、しかし、大和型不在で臨む事こそが、慢心と称されるのではないだろうか。 建造計画書の数字は、どこを見ても素晴らしいものだ。 もちろん、見積もられたコストも、素晴らしかった。とてもではないが、気軽に承認できるものではなかった。 「司令はん? ……司令はーん?」 不要の長物といえば、そうだろう。駆逐艦たちをあくせく労働に従事させずに済むし、希望する連中に好きなだけ出撃させられる。朝のおかずが一品増えたり、潜水艦に休日だって出せるかもしれなかった。 「聞こえてないんやろうかぁ……。まあ、ええか。のんびりしよー」 要不要と、確立と、様々な事を考え合わせて、そこでようやく、貴方は彼女に意識を向ける事ができた。 彼女の方でも、それに気がついたようだ。 ――司令はん。なんやろかー? 朗らかで、いつも柔和な笑顔を絶やさない黒潮の、それは冷たい声音だった。 貴方は苦笑いをして、どうか、機嫌を治すよう頼み込むのだった。 (……陽炎? 遠征からまだ……) これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/363.html
128 :スターリン:2014/04/28(月) 21 25 49.96 ID SsCgXSYY ビスマルクです。例によって腹黒いので御注意ください。 『ブロンドVSブルネット』 1. 提督の執務室では、第一艦隊の旗艦を勤めた艦娘が報告を終えたところだった。 ラバウル赤旗艦隊の提督は、報告書の戦果に目を通している。若い面差しに似合わず、彼の肩の階級章は大将の位を示していた。 彼は英国・ダンヒル社製のパイプへ煙草を詰めた。パイプは、火を点じてから煙が出てくるまで時間がかかる。 たっぷり時間をかけて紫煙をくゆらせてから、若い軍人は帰投した艦娘を褒め称えた。 「素晴らしい戦果だ。よくやった、ビスマルク」 「当然でしょう! もっと褒めてもいいのよ」 戦艦の艦娘ビスマルクは喜色満面に胸を張った。 自慢げに鼻を鳴らす彼女の前で、司令官は机から腰を上げる。 紺碧の瞳で彼を情熱的に見つめるビスマルクに近寄ると、提督は白い手袋を外した。 艦娘の頬に手をやり、彼女の金糸のような美しい髪を指先に梳った。 「君の勇敢さは言葉では表現できない。アレクサンドル・スヴォーロフ勲章ものだ」 提督が艦娘ビスマルクの白い頬を撫でると、彼女は長い睫毛を伏せ、じゃれつく猫のように自分の手を男の手に添える。 心地よさげに吐息をこぼす艦娘の目を見つめ、提督は静かに言った。 「君の力をこれからも俺のため役立ててほしい」 「Wie Sie meinen. お望みのままに、提督」 提督が彼女の腰を抱き寄せると、ビスマルクは生け贄のように首筋を彼へ差し出す。 すでに艤装を外した首許に手をやり、提督は留め具を外していった。 ビスマルクの目が生きたサファイアのように輝いて見る前で、提督は緋色の錠を取り出した。 「勲章をやることはできないが、信頼の証を与える」 蕩然とビスマルクが見る前で、彼女のミルク色の首に首輪が嵌められた。 甘くため息をつき、ビスマルクは自分の首に揺れるハート型の錠に目を落とす。 満ち足りた顔で胸元を撫でる彼女を、提督は酷薄に見下ろした。 「これで君は、俺の許可なく解体されることも、近代化のエサにされることもない」 「失敬ね。私を誰かの材料にするですって?」 提督の不遜な発言に、ビスマルクは面白そうに唇の端を吊り上げた。 提督はいたって平静たる声で口にした。 「この鍵は俺以外には解けない。もし俺が死んでも、君たちは消えない」 無言のまま、ビスマルクは錠を指先でなぞった。 幼子のように目を輝かせて感触を確かめる美女の額に、提督はキスした。 2. 澄みきった蒼穹に陽光が煌いて、ラバウルの浜辺を照らしている。 浜辺に面したドックの壁に腕を組んで寄りかかった長門は、長い黒髪を潮風に揺らせていた。 彼女は玲瓏たる美貌の眉間に皺を寄せ、唇を一文字に引き結んでいる。 左右対称の凛然とした美貌は、なにやら不機嫌なオーラを放っていた。 「旗艦は、またあの新入りか」 燻るような口調で呟く長門に、加賀は静かな目を向けた。 彼女の周囲には、艦載機を操る妖精たちが羽虫のように緩やかに浮遊している。 彼らを白魚のような指先で労わってやりながら、加賀は指摘した。 「仕方ないわ。先程の演習でも、貴女は調子が出なかったもの。忖度するところではないわ」 いつも冷静な長門は、憎々しげに拳をドックの壁に叩きつけた。 長門の拳の形に凹んだ壁の穴を、加賀は無感情に眺めた。 「不機嫌そうね」 「当たり前だ! 私は、提督がお作りになった最初の戦艦だぞ!」 長い黒髪の美女は怒りを露にした。 長門や加賀にとって、沈んだ彼女たちを“建艦”して艦娘として復活させた提督は、単なる軍司令官ではなかった。 彼女たちは提督を上官ではなく、神にもツァーリにも等しい存在として崇めていた。 「私は、あの新入りより少ない資源で作られ、はるかに多くの戦果を挙げている! 奴とは比較にもならん!」 長門のビスマルクに対する怒りは、さまざまな要素が絡まったものだった。 戦艦ビスマルクは、第一次世界大戦を経たドイツ第三帝国の技術をつぎ込まれ、イギリス王立海軍との熾烈な戦闘の中で轟沈した。 一方、長門の前世になった戦艦は、長く出し惜しみされ、性能を発揮できなかったばかりか、敗戦後に敵だった国に引き渡された。 役立たずどもが、長門に力を振るわせず、あまつさえ敵の新兵器の実験台にさせたのだ。 建艦され、現世に転生したとき、長門が覚えていたのは、彼女を作った人間どもへの怒りだった。 辱めを受けた長門を、黄泉から呼び戻したのは提督だった。彼が長門に新しい命と、新しい戦場と、勝利を与えた。 提督とは長門にとって王であり、主であり、父であり、すべてだった。 ビスマルクは、前世の長門ができなかったことをした許しがたい存在というのみならず、王の寵愛を奪おうとする存在だった。 「お父様は、いったい何をしている? 最近はあの新入りと潜水艦の育成ばかりだ」 「我々はすでに南方海域の奥まで手をかけました。深海棲艦どもの巣に一発喰らわせるのも近いはず」 苛立たしげに舌打ちする同僚に、加賀は先程の長門のように腕を組んでみせる。 珍しく怒りを発露させている姉妹を前に、加賀は風に揺れる自分の黒髪を指先に絡めながら声を発した。 「来たるべき総攻撃を前に、造物主様は全員を戦力とすることをお考えなの」 「お父様の艦隊に、我々以外は不要だ!」 加賀の懇切丁寧な解説に、長門は柳眉を吊り上げ激昂した。 胸の前に突き出した拳を震えさせ、長門は忌々しげに太平洋を見やった。 「深海棲艦どもも新型を出してきたそうではないか。早く戦って殺したい!」 「ずいぶん彼女たちが憎いのね」 「とんでもない。私は連中が大好きだ」 長門は加賀に向き直ると、唇を冷酷な形に歪めた。 「殺せば殺すほど、お父様に愛してもらえるからな!」 南海の明るい陽光はラバウル全体に降り注いでいる。 長門の紅玉色の瞳は、その光を照り返して宝石のように煌いていた。 そこに燃え盛っているのは盲愛と、沈んだ艦船の怨恨だった。 姉妹の目を見て、加賀も薄く笑った。 「それは、同感ね」 真っ白な砂浜には、黒ずんだ案山子のような歪なものが突き立てられている。 杭に縛り付けられた、深海棲艦たちの死骸だった。 建艦された艦娘たちが、提督に忠誠を示すと称して、海から引きずって来たのだ。 彼女たちの中には、すでに骨になった者もいて、空の眼窩から故郷の海に悲しげな視線を送っている。 折り重なる深海棲艦たちに混じって、制服を着た骸骨がひとつあった。 潮風に晒され、すっかり色褪せてしまっているが、彼の腕章は“憲兵”と読めた。 ここはラバウル基地。 死の基地。 3. 執務室には男女の音と匂いに満ちていた。 「はぁ……ふぅ……」 壁に背を預けたビスマルクは、創造主と睦み合っていた。 重ねた唇から、男の舌が彼女の口腔へ差し入れられ、形のよい歯を舌先でなぞる。 絡まった白い指に力をこめ、金髪の美女は切なげに喘いだ。 「て、いとく……」 艦娘が提督の下腹部を繊手で探ると、すでに男は服を押し上げ昂ぶっていた。 彼を服の上から撫でさすって宥めながら、ビスマルクは必死に主の舌を吸った。 「ちゅ……んちゅ、ちゅぷ」 提督はそれに応じ、ビスマルクの胸の優しい脹らみに手を乗せた。 完璧な彫刻のような乳房を、彼女が自分にしているのと同じように、服の上から弄ぶ。 心臓の鼓動を確かめるように愛撫すると、ビスマルクは彼を慰めるのを止め、提督にしがみついた。 「あ……」 「お前は、実に優秀な艦娘だ」 ビスマルクの金色の髪を撫でながら、彼女の主は鉄のように熱く硬くなった陰茎を外気に晒した。 「ふ、ふん、こんなもの見せるなんて……本当に規律が緩んでいるわね」 欲望のはけ口を求めて反り返っている男根が現れるや、金髪の美女は醜悪な肉塊へ愛しげに頬をすり寄せた。 柔らかい頬の感触に、男根はますます刺激を求めて猛り狂った。 口では反抗的な科白を言いつつ、ビスマルクは茎に接吻した。 陰茎を頬張って、男を悦ばせる動きを始める艦娘の頬を、提督は撫でた。 「お前が優秀だから、こうなった」 「あら、そう? では、私が事態を収拾するのは当然ね」 鈴口に悪戯っぽくキスすると、ビスマルクは背を壁に預ける。 ビスマルクのすでにボタンを外した襟を、提督は人形でも着せ替えるように広げた。 豊かに張り出たミルク色の乳房が露になる。 自分の長い脚を肩にかけていく提督に、ビスマルクは微笑した。 提督は、彼女の唾液にまみれた男根の先端を、彼女の金色の草叢にあてがった。 ビスマルクが自信ありげに唇を嘗める。 期待に満ちて待ちわびる彼女の中へ、提督は侵入していった。 怒張した男の体が艦娘の中にずるずると滑り込んでいく。 「ん、あ、ああ……」 自分を犯しぬいていく提督を感じ、彼女は碧眼を虚空に向けて頤を震わせる。 完全に提督が体の中に収まってしまうと、金髪の艦娘はだらしなく顔を蕩けさせた。 軽く突き上げられると、ビスマルクは長い脚を提督に絡めた。 ビスマルクの中に入るのは、極上のオイルの中に入るようなものだった。 彼女に飲み込まれた男根の四方八方から、滑らかな快感が下腹部に伝わってくる。 提督は顔をしかめて濃厚な衝撃に耐えた。 抱えあげた艦娘を壁に押しつけ、提督は美女の奥を突き上げる。 かすかに眉間にしわを寄せ、確かめるように動き始める提督に、ビスマルクは問いかけた。 「ん……どうかしら、提督?」 彼女の勝気な科白と表情の奥に、提督はかすかな不安の響きを聞き取った。 提督はビスマルクの上気した頬に手をやった。 とたんに驚いて目を見開くビスマルクに顔を傾け、提督は彼女へ唇を重ねた。 最初は安心させるように唇を啄ばみ、続けて舌で口の中をなぞる。 逃げようとする舌を絡め取り、彼女に自分の唾液を送り込む。 彼に貫かれたまま、ビスマルクは一心に提督の唾液を嚥下していった。 提督が彼女から口を離すと、ビスマルクは飲みきれなかった提督と自分の涎を唇の端から溢れさせる。 潤んだ紺碧の瞳を見返し、提督は囁いた。 「素敵だ」 「も、もう、馬鹿ね……」 提督は息を荒くするビスマルクの胸元に手を伸ばし、ミルク色の乳房をつかんだ。 指に吸いついて押し返す乳房を揺すり、桜色の頂をいじってやると、ビスマルクは期待に満ちた息をこぼす。 「ん……あ……」 長い脚を震えさせ、彼女は腕を提督の首に回す。 ビスマルクは汗で顔に貼りつく髪をなで上げ、自信ありげに笑った。 「ていとく……私がやってあげてもよくってよ」 ビスマルクは提督の胸に手をやり、彼女を抱えあげていた男を後ろへ押しやる。 促されるまま押された提督は、艦娘と結合したまま床に尻をついた。 提督が冷淡な目で見上げる前で、金髪の美女はニヤリと笑った。 主に跨って、彼をくわえ込んだビスマルクは腰を妖艶に揺らせた。 提督を見下ろし、ビスマルクは唇を嘗めた。 彼の下腹部をしとど溢れる液で濡れさせ、ビスマルクは提督の上で腰を躍らせ始める。 豪奢な金髪を柔らかく髪を振り乱し、形のよい乳房を揺らして、ビスマルクは提督を味わった。 提督はビスマルクの腰に手をやり、ゆっくりと彼女に合わせ始める。 「ああ」 提督の耳元で、彼にしがみつくような格好のビスマルクは歓喜の鳴き声を漏らす。 ビスマルクは提督を喰らう動きを早めていった。 提督は、高みへ上っていく彼女の背に腕を回して抱き寄せた。そして、ビスマルクの子宮を思い切り突いた。 ビスマルクは悲鳴を上げた。それを無視し、提督は腰を思う様ビスマルクの子宮に叩き込む。 濃すぎる快楽から逃げようとする尻をしっかりと押さえ、提督はビスマルクの中を掻き回した。 「てっ、ていとくっ、強すぎるわっ」 よがり狂うビスマルクの乳房に顔を埋め、形のよい吸いやすい大きさの乳首に吸いつく。 充血した頂を歯で挟んで舌で転がすと、ビスマルクはより激しく悶えた。 ビスマルクの中が男の体に吸いついてくる。 滾った肉の剣を打ち込まれ、欲情した艦娘の体が熱い迸りを求めていた。 淫蕩に耽る艦娘を散々に責めさいなめ、提督は彼女へ欲望のたけを注ぎ込んだ。 「あ、ああ、あ……」 134 :スターリン:2014/04/28(月) 21 30 47.63 ID SsCgXSYY 提督が自分の中で力強く痙攣するのを感じて、金髪の美女は淫靡に歌った。 彼に脱力した身を預け、ビスマルクは涙まで流した。提督の懐にすがりつき、戦艦の艦娘はむせび泣いた。 「提督、熱いわ……」 提督は無言のまま、彼女の金糸の髪を撫でた。 4. 「あの子達がそんなことを? 仕方のない連中だ。俺に似たのか」 机の上に乗った妖精となにやら話し込む提督の背後の壁には、旧ソ連の映画『戦艦ポチョムキン』のポスターが貼り付けられている。 ビスマルクが同僚たちから聞いたことには、かつては第六駆逐艦の艦娘たちが描いた掛け軸が掲げられていたのだそうだ。 だが、彼はその掛け軸をしまい込んで誰にも見せなくなってしまったらしい。 とはいえ、そのようなことはビスマルクにとっては瑣末なことだった。 すでに艤装を身に着けたビスマルクは、机の前に侍り、提督を見上げて微笑していた。 傾いた太陽の光が支配する、この茜色の世界で彼と過ごすことに比べれば、そんなことは取るに足らない問題だった。 「ありがとう。下がっていい」 妖精は光になって机上より舞い上がり、部屋から消失した。 ビスマルクが見つめる前で、提督は壁の戦略地図へ目をやった。 「南西海域に深海棲艦どもが戦力を集結させている」 提督は揺らがない目でビスマルクを見下ろした。 侍るビスマルクは、敬愛の目で提督を見返す。 若い軍人は彼が創った艦娘に言った。 「摩耶や木曾たちを随伴させる。行って俺を喜ばせてくれ、ビスマルク」 「お任せを、造物主殿!」 不敵な笑顔とともに、ビスマルクは颯爽と立ち上がった。 提督の前で拳を握り締め、ビスマルクは宣言した。 「この私、戦艦ビスマルクが出る以上、深海棲艦どもの行き先は唯一つ、地獄よ!」 身を翻し、ビスマルクは意気揚々と執務室を退出した。 扉を閉めると、彼女は提督に気づかれないよう、音を出さないようにしてドアへ凭れた。そして、自分の首筋を艤装の上から撫でる。 服の上から、提督に嵌められた錠の感触を確かめる。何度確かめても飽きなかった。 ビスマルクは信頼の証を受け取った喜びに震えた。 その場に立ち止まって、次に執務室へ呼ばれるのはいつか考えていると、廊下の奥から向かってくる人影が目の端に入った。 二つの人影が誰か理解するや、金髪の美女は形のよい唇を綻ばせる。 「あら? 旧式の戦艦さんね」 ビスマルクの揶揄に、長門は動じた風もなく彼女を見返した。 彼女の隣の加賀には見向きもせず、ビスマルクは長い黒髪の美女へ、無遠慮に視線を走らせる。 面白そうに桃色の唇に指先を這わせると、ビスマルクは長門を眺め、毒に満ちた猫撫で声を放った。 「ねえ、古い姉妹。日本には、むざむざ敵国に引き渡され、原爆の的にされた船がいるそうね」 加賀は大気が一瞬で張り詰めるのを感じた。張り詰めるどころか、凍りつき、ひび割れる音さえ聞こえそうだ。 黙っている長門の前で、ビスマルクは花のように唇を綻ばせた。 「そんな情けない船は提督に相応しくないわ。そう思わないかしら」 「虫ケラ姉妹が」 静かに煮え立つ殺意を露に、長門はビスマルクを見下ろす。紅玉色の瞳には冷たい火が燃えていた。 ビスマルクは意に介した風もなく、険しく強張った美貌を紺碧の瞳で傲然と見返した。 長門は、たいていの男を凌駕する長身をわずかに傾け、ビスマルクを睨めつけた。 「造物主殿の前で恥をかかんよう用心することだ」 「古い姉妹。吠え面かかないよう気をつけるのね」 剥き身の刃のような応酬が終わると、ビスマルクは自信ありげに鼻を鳴らし、踵を返した。 軍靴の硬い足音が回廊に反響する中、背を向け合った二人の艦娘は炎の目を燃やしていた。 das Ende/koniec/кoнец/おわり +後書き 136 :スターリン:2014/04/28(月) 21 35 51.24 ID SsCgXSYY ビスマルクと聞くとおっさんしか思い浮かばなかったのにビスマルクちゃんが来てから悪い影響が出始めました 山本長官か誰かが、兵器の名前に個人名つけるのよくないって言ったらしいですけど本当にそう思います ビスマルク育成中、うちの長門とビスマルクちゃんがこんな会話をしてませんように
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/681.html
92 :クズ ◆MUB36kYJUE:2015/06/08(月) 23 30 47 ID QjAZivQs 以前あきつ丸が加賀さんから提督を寝取る話を書いた者です 吹雪が初恋する話を書いたので投下します 長い(三万字弱) エロシーン少ない 艦娘同士がギスギスする 要素を含むので苦手な方は注意をお願いします 1 『八月二十日 早朝より家中取片付け塵を払ふ。驟雨の涼味喜ぶべし。午を待ちて妻と散歩す。上野に赴き精養軒に至り昼食を喫す。 海老フライ二尾、スープ。今生最後の機会やもしれぬと思ふに甚だ悲し。明日ラバウルへ発つにつき荷造りせんが故早々に帰りたり。 炊事の中途に妻泣き頽れるもかけるべき言葉思い至らずただ黙して肩抱くのみ。泣き声一層烈しくなるに後ろめたき気持ち湧き出ず。 詮方なきことと割り切るには悲愁余りに大きくただ酸鼻だ酸鼻だと胸の内に言ちたり』 夜虫の鳴き声が耳にされる、真夏の彼誰時である。その男はむくりと持ち上げた上体を障子越しの月光に晒しながら、毛布を手繰り まどろみに眼を細めていた。端整と形容するに足る顔は、だがどこかくたびれた印象を感じさせ、実齢三十前半とも思えぬ薄幸と気苦 労の雰囲気を放っている。それは生来の顔つきのみを要因とするのではなく、心の憔悴していることが表情にまで顕れた結果なのであ った。 ラバウルへの転属を命じられてからというもの、今日までの暮らしは思いのほか静謐になされた。彼も彼の妻も、足元に流れる悲し みには意識して目を向けないようにして、ただ来ては過ぎ行く一日一日を大切に営むだけであった。なるたけいつも通りの、幸せの光 景を作る事に躍起になり、そしてそれはつい昨日の日暮れまで保たれ続けていたことなのでもある。 東京で過ごす最後の日に思い出を反芻する外出をしてしまったがため、増幅した水が盆の縁を登攀するように妻から悲哀の情が溢れ 出た。気丈に振舞い続けた彼女の、心の底に燻っていた想いが、滂沱とする涙や嗚咽に吐露されて、また当然ながら男の方も平常心で はいられなかった。無力感と自責の念に苛まれ、食事中も風呂の最中も、果ては最後の夜伽の際にあってももう温かみを得られる心地 ではなかったのだ。笑顔だけを心に留めてもらいたいという妻の願いは、このたった一度だけの失敗によりついに達成されることはな かった。 寝息をたてる妻を起こさぬよう、彼はじれったい速さにようやく蒲団から這い出した。扉の前に畳まれている軍服をそのまま崩さず 両手に抱え、居間に移動してから着替えを済ませる。洗面も音を立てぬよう気を使い、まとめておいた背嚢を背負ってしまえばとうと う外に出る準備は完了した。 見送る余地も残さず姿を消そうとしているのは、海軍の出征習慣に則ったこともあるが、以上に起きてよりの妻の有様へ恐怖を覚えて いたためでもある。足元に縋られ懇願でもされたら、ただでさえ重苦しい足。もう職務を放棄するのに躊躇もなくなってしまうだろう。 個人の幸福と世界の海の平和とを天秤にかけ、後者を逡巡なしに選び取れるほど人間のできている彼ではなかった。玄関扉に手をかけて から、せめて最後に顔だけでも見に戻るかと葛藤し始める惰弱さである。結局五分も佇立した後にようやく、ゆっくりと差し出された 右足が敷居を跨ぐに至ったのだった。 空は紺色に薄明るくなっている。 まったく酷い朝だと、彼は思った。昨日の雨と夜露の湿り気が、地表の汚さを混ぜ合わせながら空気に戻り、肺を冒してくるようだ った。呼吸は苦しく、目眩も酷い。その作用によるものか、一瞬妻の目覚めた後の姿が脳内に虚像として想像され、もう振り返ること もできず足を速める。 戦争の終わるまで、帰ってはこれない。それが何時になるのかも分からない。一年か、五年か、十年か……。 飛行機の中にあって、彼はとうとう自身の抱く寂寞と郷愁が、そのうちに自身そのものを壊すであろうことを悟ったのであった。何 時開放されるとも知れぬ境遇に、毎夜毎夜云千キロの向こうを思い続けるのは酷だった。だから妻の顔も忘れ、上野の街も忘れ、端か ら現地の人間であったかのように振舞おうと腹を据えたのである。妻の寝顔を見に戻らなかったことは、覚悟を決めてしまうには都合 が良かった。 無論湧きだそうとする思い出をすぐに押さえ込むことはできないが、意識して心に検閲をかけ続ければ虚像は幽く薄らいでゆく。楽 になる決意を固めてしまうと、幾らか気も和らいだらしい。迫る胸の痛みから懸命に逃避しているうち、いつの間にか彼はリクライニ ングに身を預けすっかり眠りに落ちていた。 気丈に振舞っていた日々の中では、今日という日が来る事をずっと考えないようにしていたわけだ。それを逆転させるだけなのだか ら、何も難しいことはない。忘れることは得意な男なのである。 乗り継ぎのため、一旦ポートモレスビーに降り立ったのは、東京を発ってより六時間の後。存外気候にそれほどの変化は感じられな かった。ただ窓越しに見える椰子の木の列や英語を基準にした案内看板からは、十二分に異国の情緒が放たれていたし、何より雑踏す るロビーにたった独りでいるという孤独は胸に堪えるものがあった。 この空港でラバウル行きの飛行機に乗り換える手筈であったが、その便は本国が彼だけの為に特別に手配してくれたものであった。 受付へパスポートを手渡すと、裏から仰々しくスーツの大男が顕れた。何か空恐ろしくなる“over here”の声音と共に、ゲートの脇、 観葉植物に挟まれたドアの方へと案内される。 専用の裏口を使うのは初めての経験であった。滑走路を車に乗って走るのも、搭乗橋を使わずに昇降タラップで乗るのも、そもそも 小型のビジネスジェットに乗るのも全部初めてのことである。自分ひとりだけの為に一体何人が動いていたのかと、機内のソファに座 ってから後ろめたさに頭を抱えたくなった。 離陸の動きは機敏だった。いち早くその空港から離れられるのは、気持ちの上では楽だった。大型機よりも揺れは大きく、地に足の 着いているうちは電車の中にいるようで、空に浮かんでからは洋上のフェリーの甲板に座ったみたいな感覚がある。およそ二時間のフ ライトは、すなわち酔いとの闘いであった。夕日の射し込む小窓を割り砕き、荒ぶる風に身を晒したい衝動に駆られもした。着陸体勢 に入る頃には、身を上げておくこともできずソファに寝そべり、呻き声を漏らし続けている始末である。吐き気はまだしも脳の蕩ける ような目眩は、朝の空気を思い出させるから本当に勘弁ならないものがあった。 ようやく地に降り立つことができたのは、夕日の輪郭が天穹へ滲み出し、地平線が一層朱く光っている頃合だった。機外に出て待望 の新鮮な空気を肺一杯に吸い込むと、異郷の香りが仄かに物悲しい。湿気って熱い夏の空気は東京のそれと似ているはずなのに、きっ と都会の穢れが無いからなのであろう。慣れない清らかさが鼻につく。 顔を上げ辺りを見渡してみると、また何ともその印象に劣らぬ殺風景な景観があるのだった。ただ真っ直ぐに整備された滑走路がど こまでも一本伸びているだけ。一切人工の建築物はなく、林が壁のように四方を取り囲んでいた。 昇降タラップの一段目に足をかけると、佇立し敬礼する少女の姿が視界の隅に入ってきた。髪は黒、玲瓏たる肌は夕日を写し橙色に 淡く染まっている。強風に煽られたスカートが掲揚された旗のように揺れ、プリーツ同士が叩きあってバタバタと大仰な音を発してい た。 田舎の小奇麗な女学生としか思えないその立ち居姿には、烈々とした場違いの感がある。眼窩に収まる大きな瞳は、期待と緊張にきら きら輝いている風だった。 「はじめまして、吹雪です! よろしくお願いいたします」 声は顔つき以上に凛とし高く、まるで童女のようである。 男がタラップを降りきると、彼女は一層背筋を伸ばし大きなその瞳に彼を見据えた。吹雪という名を耳朶にしてようやく、男は眼前 のこの少女が、上層部から聞いていた“意思を持つ新兵器”であるという事に気がついた。 深海棲艦という超常生物が世界の海洋に出現して以来、早いものでもう四ヶ月になる。海面に浮かぶ人工物を無作為に破壊しつくす その亡霊共は、通常兵器の一切を無効化する特殊な剛性を兼ね備えていた。出現から一週間も経たずして人類は海洋を簒奪されるに至 り、そしてその状況は好転もせず依然世界に安全な海路は絶無である。 深海棲艦へ対抗するには、また深海棲艦と同種の力が必要であることに海軍はようやく気がついたのだ。二ヶ月前に行われた大規模 作戦。多大な物的人的資源を引き換えに捕縛した、たった一匹のイ級駆逐。その徹底的な解析によって、人類は新たな兵器を得るきっ かけを掴んだのだった。 「……艦娘?」 上官より伝えられたその力の名が、独りでに口に上っていた。 「はい! 駆逐艦、吹雪です!」 口元に笑みを浮かべた彼女は、今一度胸を張り、誇らしげに名を宣言する。 それは少女の形をしている。 それは人と同じように意思を持ち口を聞く。 それは前大戦の艦の記憶を引き継ぐ。 詳細に聞き及んでいた事ではあったが、実際にその姿を目の前にすると、この痩躯にあの脅威へ対抗する力があるのか疑念を抱かず にはいられなかった。 外見の仔細を眺めていると、彼女は気まずげに視線を逸らして、眉を困らせた。 「あ、あの……司令官」 「……すまない。これからよろしく、お願いする」 答礼しつつの言葉が幾らか吃りぎみだったのは、果たしてどのような言葉遣いが適正なのか判断しかねていたからだった。上官の立 場になったとて威張り散らす真似はしたくない。ましてや彼女は、話が本当ならば人類の救世主といっても過言ではない存在なのであ る。なるたけ丁寧に受け答えしようと考えるのだが、しかし眼前にあるのは野暮ったく垢抜けない少女。膝を折って目線を合わせて頭 でも撫でてあげたいような雰囲気を放っているから、また当惑してしまうのだった。男は、遠い昔に病気で死んだ、自分の従姉妹のこと を思い出していた。 まさかこの齢に年頃の娘へどう接すべきか悩むような羽目になるとは、しかもそれが国の安保に関わる重要な仕事の上に起こってい る問題なのである。彼は短く嘆息をつき、どうせその内に丁度良く収まってくれるだろうと楽観して、喫緊の話題を口にした。 「この飛行場ってトイレはあるかな」 「はい!? いえ、ありませんが……。ここからだと鎮守府のトイレが一番近くて、歩いて十五分ほどです」 「……間に合わない。ごめん、ちょっとそこで吐いてくる」 男は小走りに、林の茂みへ急いだ。 外見から、この吹雪という娘は何にでも生真面目なタイプなのであろうと予想した彼であったが、果たしてそれはまったく正解であ った。穴を掘り、胃液を吐けるだけ吐いてからそれを埋め、背嚢から水筒を取り出して口を濯ぐ。その一連の行為の最中、彼女はずっ と彼に寄り添い背を擦っていた。無論男としてこれほど無様なこともないので、離れて待機しているよう初めての命令を下しもしたの だが、彼女は頑として首を縦に振らなかった。曰く、司令を支えるのが秘書艦の役目。即ち看護も立派な勤め。司令は艦娘を使役する全 権を担うが、同時に艦娘の仕事を不自由なく行わせる義務も背負っている。その義務に背く命令は承服しかねるし、また客観的な見地 に立ってもこの判断は妥当である、とのこと。気が弱いかと思いきや、存外強情の娘でもあるらしい。 胃の中を空にすると、砂地へ水が立ち消えになるようにすっかり気持ち悪さが無くなった。ケロリとした顔に茂みを出る彼は、無論 気恥ずかしさや情けなさに苛まれ何でもないような顔を演出していたのでもあるが、兎角吹雪に先立ち颯爽と歩を進めた。 鎮守府への道は滑走路の南東の端、取って付けたように伸びている細道の先にあるとのこと。 「大丈夫ですか?」 と繰り返し問いかけてくる彼女に適当な笑顔を返信しながら、辺りの情景を眺めていると、郷愁の憂いに胸が痛む。上野を思い出そ うとする思惟の奔流を慌ててせき止めようとした彼は、また知らずのうちに苦々しい顔となっていたらしい。吹雪の気遣う声が止むこ とはないのであった。 彼女の先の言葉どおり、十五分も歩くと突然視界が開けた。鉄柵の門戸が迎える先、ラバウル基地はまるで、南国リゾート地のペン ションが連なっているかのような佇まいに敷設されてあった。どの建屋も玄関扉が大きいか、そもそも簾が掛かっているだけで間仕切 りの無い構造になっているのは、この地域の気候に合わせた様式なのであろう。またよく見れば一等大きな工廠らしき建物以外、どれ も高床構造に作られており、何とも異国情緒に溢れた景観だった。 「執務室と司令官の部屋があるのはあっちです」 圧倒され立ち尽くしていた彼の前へひょっこりと身を滑らせた吹雪は、一番手前に佇立する平屋を指し示した。 「随分、イメージと違う」 「お気に召されませんか?」 「いや……ただなんだか、旅行に来たような気分になる」 「私も最初はそんな風に思ってました」 後ろ首に手を当てながら可愛らしくはにかんだ吹雪に、彼もまた表情をほころばせた。 その建物に近づく道すがらに、嘔吐の途中に浮かび出ていた疑問を口にする。 「吹雪君はいつ来たの」 「三日前です」 「三日。……こんな広いところに三日も独りでいたの。寂しくなかった?」 「妖精さんがたくさんいたので大丈夫でした。施設の勝手を調べるのにも忙しかったですし……。って、子供扱いしないでください!」 「失礼。どうにも小さい娘の扱いには慣れてなくてね……」 「……そ、それはわざとおっしゃっているのですか」 口角のにわかに上がっていることから真剣に怒っているわけではないらしいことを察し、しかし「子供扱いをされたくない」という言 葉は本心であろうから、接し方の指針にもなる。冗談を交えつつも、彼は彼女との距離を真剣に探していて、またそれは彼女も同じな のだろう。 「独身でいらっしゃるのですか?」 話の流れからして湧いて当然の疑問だった。とっさに否定の言葉を吐こうと口を開きかけた彼は、だが飛行機の中での決意に思い当た り、逡巡した。決意に則せば首肯すべきであるが、今更の名残惜しさが急に増大し、顎を引くちょっとの動作さえをも引き留めるのだ った。 言葉に詰まった彼を見るや、吹雪はさぁっと顔を青くした。 「す、すみません! あの、深入りするつもりはなかったんです!」 「いや、いいよ。……一応、独身、かな」 訥弁にそう言い終えてしまうと、途端悔悟の念が湧き出してくる。 婚約者がいたがこのラバウルへの転属をきっかけに別れたというような、でまかせの創作話が口から漏れ出た。それは逡巡に言い詰 まったことへの羞恥をかき消すためだけのものであったが、彼女の関心と気まずさの混じった表情を見るとまたそれも居心地悪く、話 に区切りをつけたいのにそのタイミングが分からないといった、泥沼の焦燥に駆られる。結局建屋の中に入り、執務室の場所を吹雪に 教えられるまで、その話題は継続したのだった。 ダンボールの乱雑に重ねられたその部屋には、まだ新居特有のニスっぽい香りが残っていた。熱も篭っていたので窓を開けると、岸 壁に波の打ち付ける音と一緒に、清涼とまでは言えないにしろそれなりには心地よい風が、さらさらと吹き込んでくる。右手手前には工 廠の大きな建屋が聳え、クレーンがゆったりと身を振っていた。航空障害灯の赤色がもう随分目立っている。左手の護岸された海辺も すっかり暗く、白波が異様に映えていた。 「こっちが私の部屋かな」 廊下に続く扉とは別、彼が半間の押し戸を指し示して聞くと、吹雪はおずおず首肯した。その仕草が露骨に物憂げであったから、 「どうかしたかい」 となるべく優しく聞こえるよう努力した声をかけると、何か心の中にせめぎ合っているのか、十秒も沈黙してから 「いえ、なんでもありません」 そう、微笑を作った。 「そう? ……吹雪君とは、多分これから長い付き合いになると思うけど」 「は、はい!」 「えっとつまり、何かお互いに気を使い続けるような関係ではいたくないと……少なくとも私はそう思っているんだけど、君はどう?」 「あ……。わ、私も、司令官と同じ思いです」 「そうか、よかった。……無理強いしないけど、もし聞きたいことがあるなら遠慮しないでくれていいよ」 なんと堅苦しい諭し方だと心の中に自嘲した彼は、だが彼女がスカートの裾を握って必死に言葉を選び取っている様子を見て、一先 ず胸を撫で下ろした。 過剰な遠慮や気遣いへ釘を刺す必要があろうことを彼は察していたのだった。頑張りすぎる傾向を持つ年端もいかぬ少女となれば、 そういったケアも大切だと思われた。果たして幾分かの緊張を顔に顕しながらも、吹雪はそれを口にする。 「司令官は、後悔していませんか。こんな所に、来てしまって」 胸を抉る質問だった。しかし彼女の抜け目ない視線が表情の仔細を伺っている故、しかめ面になるわけにはいかなかった。 遠慮しないよう強いた手前、また自分も彼女に対しては素直でなければ誠実とは言えない。既に重大な嘘を一つついたが、だからこ そこれ以上は誤魔化したくなかった。 「……無いと言えば、嘘になる。でもたとえ命令されていたのだとしても、ここに来たのは自分の意思だよ。だから大丈夫」 自分に言い聞かせるように提督としての決意を口にすると、吹雪も一つ、頷くのだった。 『八月二十一日 ラバウルが夕陽、朱く近し。国の暮らし忘却せんと思い定めたりしもこの日記焼捨つるに忍びず。帰還すべき場所まで も忘るるは本末転倒ゆえ日々拙文記す習慣継続せんと思い定めたり。駆逐艦吹雪清廉な娘なり。秘書艦に任命す』 2 『九月二十四日 秋暑熾なり。気付けばラバウル赴任より一月過ぐ。辣腕無き故戦力増強遅遅なれど今ラバウルが艦保有数二十を越し たり。今朝雷巡の建造開始せむ』 午後のラバウルは蒸し暑い。もうずっと水風呂の中に入っていたいと思わせるほど、その気候は苛烈で過酷だった。 執務室は空調設備によって全体快適な温度と湿度を保っていたが、生憎この提督は窓も戸も閉め切られた環境にあると、どうしても じっとしていられなくなる性分なのであった。窓を開けては熱風の吹き込むのに耐えられず、閉める。席につくと落ち着かなくなり、また 窓を開けに腰を上げる。そんなことを十回も繰り返していたのだから、もしかしたら軽度の閉所恐怖症なのやもしれない。今まで精神 科に掛かったことはない為詳しいことは知れないが、兎角この提督には、窓の閉ざすことを条件とした涼味の享楽を受け入れることは できないのである。 深海棲艦の出現する前、日本本土にあった頃は、机の前にふんぞり返っていられるような立場にはなかった。寧ろ泥臭い外仕事が多 かったから、別段この性質が何か仕事に支障をきたすようなこともなかった。 たった数ヶ月の戦争が多くの将官を非業の死に追いやった。本来この任に就くべきであったのは、適性があり才気にも富んだ、智勇 兼備の人であった。この提督も無能とまでは言えないにしろ、本国からの臥竜鳳雛であるべしという期待を背負うには余りに乏しい両 の肩。その日も吹雪を旗艦とする第一艦隊、その任務成功の知らせを聞くや、彼は書類仕事を放り出して颯爽と外に繰り出してた。お 目付け役のいない今、何をしたところでそれを引き止める者はない。流石に戦闘指揮はさぼれないにしろ彼女らも帰還くらいは通信無 しにできるわけで、ともなればこの提督、心の中の天使と悪魔の対決は既に終えているのだった。 大方そういった事情で鎮守府の敷地内を散策する彼は、だが照りつける太陽から逃避したいのでもあった。既に常習化していると言 ってもいいほどにサボりの回数を重ねていた為、それを都合よく解決できる場所も熟知していて、足の向かう先に一切迷いはない。 執務棟から二、三十メートル。景観にそぐわない無機質の壁を持った建屋は、この基地内に最大の大きさを誇る一施設でもある。中 では小型のクレーンが右往左往し、素材の箱を持つ妖精があちらこちらを駆けてゆく。ラバウルの工廠は今日も変わらず、各々が任を 果たさんと騒然たる様子だった。 中は吹き抜けの広い一間だが、脇の階段を昇った先には吊り廊下とそれぞれ四隅に小部屋があって、まるでひさしのように内側へは み出ている。提督は慣れた様子に、北側の部屋の前にまでするする進んでゆくと、元より開かれている扉を二回ノックした。 特徴的なおさげを揺らし、中の彼女は振り返った。本部よりの資材提供のうち、特殊な支給の管理を担当するその娘は、提督の姿を 見るなり大仰な嘆息をつく。 「また、サボりですか?」 呆れた声音の明石は、それでも薄らと口元に笑みを浮かべていた。 「人聞き悪い。視察視察。邪魔だった?」 「まぁ、私はいいんですけど……。この間吹雪ちゃんが愚痴っていました」 「へぇ。なんて?」 「うちの提督は良い人だけど、私がいないと仕事をしないって」 したり顔の明石から思わず視線を逸らした彼は、つまりそれだけ胸に痛みを覚えていたわけでもある。あの吹雪であるから、尋常な ストレスでは上官への愚痴など吐かないであろう。或いはそれくらいの悪態をつけるほどに距離が縮まったとも解釈できるが、兎角影 で自身の仕事ぶりを批判され、それに何も感じないほど真摯さを欠く彼ではなかった。 「真面目になろうとは努力しているんだよ。ただ上の要求が過大だと……ほら、萎えるじゃない?」 思わず惨めに言い訳をしてから、こういうところが駄目なのだと気付き自嘲する。目を伏せた彼を見、想像以上に深手を与えすぎた らしいことを察した明石は、 「そこの椅子、どうぞ」 そう言って場を取り持つのだった。 何時ものキャスター付きの安物椅子に腰掛けると、吹き抜けに面した窓から一階の作業の様子が見て取れた。建造機からの物静かな 脈動が、遠くからでも感じられる風である。 何度眺めても、ぞっとしない光景だった。一個の知的生命体が、数多のホースに繋がれたあの得体の知れない装置からむくむくと生 まれてくる。しかも年端もいかぬ少女の形に、闘争を目的としてである。人類にとって必要だからと倫理に背くことを是するのは、この 提督には辛い事だった。 装置を眺める彼の横顔を暫時観察した明石は、また吹雪の話題から逃避もしたくて視線の先の物について口に出した。 「明日の朝までには建造完了するらしいですよ。例の軽巡の娘」 「軽巡? 雷巡って話ではなかったか? たしか名前は……北上」 「知らないんですか? 最初は軽巡、練度をある程度上げると雷巡として改造できるようになるんです」 「初耳」 やれやれと頭を振る明石をよそに、提督は実際かなり大きなショックを受けていた。まだ軽空母も配備されていないこの艦隊におい ては、先制雷撃ができる雷巡は貴重な戦力として勘定できるはずだったのだ。難度の高い海域の攻略に、丁度乗りだそうとしていた手 前、この見落としは大きな痛手だった。 「……今日帰還したら、吹雪君は一段階目の改造が可能になる、はずなんだ」 「はい」 「一ヶ月だな。秘書艦に任命すると大体一ヶ月で改造可能になる。建造終了次第北上君を秘書にしつつ、いつもの第一艦隊メンバー も出撃させて、一ヶ月計画で全体に練度を上げていこうと思うんだけど、どうかな」 「私に聞かないでください。そういうことを判断するのが、提督のお仕事です」 ぐうの音もでない正論に提督は後ろ首を掻いた。 少々時間をかけすぎるプランニングとも思えるが、かと言って現状のまま吶喊するのもリスクが大きいわけである。どうせいつかは 無能と謗られる身、今更性急に功を収めようとしたところでぼろもでるだろう。なれば犠牲の無いまま任を終えるのが、得策かと思わ れた。 兎に角練度を上げることに集中しようと今一度腹を据えたタイミングに、明石がつと容喙してきた。 「吹雪ちゃんが妬きそうですね」 「あの娘が旗艦の誉れに執着するタイプだとは思えんが……」 「いえ、そういうことじゃなくてですね……」 生来鈍感な彼であったが、流石に彼女の言わんとしていることを察する程度には情事の経験を積んでいる。 「もういい歳したおじさんだよ、私は」 そう一笑に付そうとするも、まだ明石の瞳は真剣だった。 「分かっていませんね。最近の子は提督みたいなちょっと抜けた年嵩の人に弱いんですよ」 「まだ知り合って一ヶ月しか経ってない」 「だからこそです。大人は臆病だから相手のことを深く知らないと恋愛感情を持てませんけど、子供は違います。もっと深く知りた い、もっと独占したい。そういう自分の欲求に根ざした想いを恋愛と認知するんですよ!」 いつになく熱弁を振るう彼女を、提督は意外な心地に眺めていた。なるほど明石とて、外見からすればそういうことに夢を見る年頃 なのかもしれなかった。興味はあれど自分がどうこうしたい訳ではなく、他人の観察によって心を満たす。その倒錯は、こと女学生あ たりには普遍的である。 「私から言わせれば、君もまだ子供」 「でも、吹雪ちゃんよりかは大人です」 「耳年増」 「し、失礼ですね!」 身を乗り出して柔く睨む明石に向かい提督が次に口に出したのは、からかいの範疇を逸脱する冗談であった。それは彼にとっての自 傷行為。心にもないことを口にするのは、以前の決意を強かにするためである。 「君はどうなの」 「何がですか」 「年嵩の抜けている男は好き?」 「なっ……」 ぱっと頬を染めてあからさまに狼狽した様子の彼女は、暫時の後にその反応自体に羞恥を覚えたか、 「提督は私のタイプじゃありませんね!」 顔を背け、慌てて取り繕うのだった。果たして提督も、本国の記憶が虚像にちらつき、またこんな事が言えてしまえる程度には順調 に忘却の途を歩んでいる事実に胸を痛ませ、更には下種な企みに明石を巻き込んだ事を悔悟して、もう一杯一杯になっていた。 悪の道にも三つある。己が正義を貫くために悪に堕ちた確信犯。己が愉悦を享楽するために良心を切り捨てた愉快犯。そして最も忌 むべきなのが、己が利益の為に悪を為しながら表面的には嫌だ嫌だと、これは致し方なくしている事だと後悔の念を垂れ流す、外道。 提督は自身が腐ってゆくのを、もう諦観の境地に受け入れている。だからこそ、そしらぬ風に苦渋の表情を浮かべることができるのだ った。 誰もいない執務室をその目に入れたとき、吹雪の失望は甚だ凄まじかった。元より提督にサボり癖のあることは知っていたが、出撃 を労うという事、つまりは艦娘を大事にするという最低限の任くらいは全うできる人だと、知らずの内期待していたらしかったのだ。ま してや今回の戦闘は最初の改造が可能となる節目の出撃であったのだから、普段温厚な吹雪とて憤慨に至るのにも無理はない。 他の艦娘たちは提督が不在と知るなり、さっさと入渠に向かってしまった。ことに龍田などは、 「あらぁ、私もうくたくたよ。吹雪ちゃん、提督への報告任せてもいい?」 と悪びれる様子も無く、首肯したのも見ずして部屋を後にした。独り取り残されてみるとむくむくと不平感が湧き出してきて、それ が提督への苛立ちに更に拍車をかけたのだった。 窓を眺め、何時来るかも分からない彼の姿を捜し、その内に足が疲れてきたから執務机の前にある高級そうな椅子にも座った。無論 普段の彼女からは考えられない行動であるのだが、胸中を渦巻く莫大な怒りがあらゆる無礼、無遠慮も気に掛けなくさせていた。それ から五分、十分と経ってゆくと、何故わざわざこんな仕打ちをする提督ごときを待ってなくてはならないのかと、この待機の目的その ものに疑問が湧いて出てくる有様で、書置きをして自身も入渠しようと決意を定めるのにも結局一刻は掛からなかったのである。 執務机の上に適当なメモ帳などは見当たらなかった。山積されている紙の束は本国との書簡であるとか承認待ちの契約書などで、一 枚たりともチリにできるものではなかった。 まさかこういったデスクワークに所用をメモできる白紙が必要でない訳が無い。多少の躊躇はあったが、吹雪は仕方無しに脇の引き 出しを開けて、中を漁り始めたのだった。 一番上の引き出しには電卓やら万年筆のインクやらの、机周りの日用品。舌打ちしつつ二番目の引き出しを開けてみると、B5のノー トが整然と七冊ほど重なって置いてあった。表紙に何か書き込みはなく、しかし角が縒れ浮き上がっている様から全くの新品で無いこ とは察せられる。 一番上のノートを手に取って中をぱらぱらと捲ってみたのは、断じてこれの正体について覚えがあったからではないし、ましてや彼 への当て付けに弱みを握ってやろうと悪巧したからでもない。ただ、書置きできる紙が欲しかった。本当に、本心から、それだけのこ とだったのだ。 まず目に付いたのは日付だった。それぞれのページ一番上から、簡潔な文章を挟みつつ日付が羅列されてあった。八月二十二日から 始まり、大体二、三日おき不定期に、ノートの四半分の更に半分あたりまで書き込みがあり、最新の記事は九月の二十四日だった。そ れが提督の日記であることに気がつくと、さしもの吹雪も一瞬怒りを忘失し、罪悪感と焦燥に顔を上げて慌ててあたりを見渡した。 問題なのは今手にしているノートは最近のものであって、引き出しの中に彼が本国にいた頃のものであろう日記がまだぎっしりと詰 まっているということだった。つまりは彼の過去を仔細に知り尽くせる機会を、思いがけず手に入れたということである。 婚約者の話を聞いた。その顛末が語られると、目の前の男が間違いなく異性であったのだという確証のようなものが閲歴されて、一 層興味が深くなった。もっともっととせがんでみても、余り口を開きたがらない彼である。よほど深く心に傷を残した出来事なのだろう と謬見を持った彼女は、最近になると気を遣ってしまって、その話題を出すこと自体忌避するようになっていた。 吹雪にはまだ懸想の自覚がなかった。だからなぜこんなにも提督一個人に拘っているのかも、分からないままだった。漠然と心の熱 の滾っているのを不思議な心地に眺めるばかりで、その熱情をどう形容するのか決めあぐねていたのである。 いつの間にか引き出しの中のノートにまで手を伸ばしている自分を客観視したとき、自身が愚かに思えて仕様がなかったのもそうい った心理故だった。 上から二冊目、最初のページ最初の日付は、一年前の八月九日であった。文を追ってゆくと、海のまだ平和な時分、何時かの海軍将兵 を目指し下っ端の身分に走り回る快活な彼が幻視された。まだ直接は見たことの無い東京という街、ことに上野の清閑と歓楽が混ざり 合った様子は吹雪の憧憬を大いに煽った。そして、そこかしこにありありと刻まれた、一人の女の影。 最初吹雪は、この女性こそ提督の話に上った婚約者であり、家を共にしているらしいことについては同棲しているためだと解釈した。 実際ノートの半分を過ぎるまでは、たしかにその考えで違和感を覚えることもなかったのである。しかし段々と、例えば言葉遣いや接 し方、鼻につく所帯染みた気だるさや、何よりどれだけ読み進めても一向に結婚への意識が吐露されない事へ不審の念が募っていった。 読み終わりすかさず三冊目にまで手を伸ばすと、とうとうその疑念が確信へと変わった。四ページ目、二年前の六月、ジューンブライ ドに浮かれる彼の嬉々とし踊る文面を見たとき、吹雪の胸に今一度失望の風が凪いだ。 どうしてと口の中に呟いていた。どうして嘘を吐いたのか、どうして今まで黙っていたのか。荒ぶる心の、仮初の静謐さえ儘ならな いうちに、およそ最悪のタイミングに戸が開く。 「すまない!」 提督は肩で息をしながら、椅子に腰掛け顔を伏せる彼女の姿を視界に入れた。 艦娘としての尋常ならざる反射神経が、彼女の手を敏捷かつ粛然と動かし、意識の向くより先に日記は綺麗に仕舞われていた。だか ら彼女には焦燥もなければ罪悪感もなくて、ただどうして配偶者のいる事を隠したのか、それを詰問したい葛藤に駆られているばかり である。 「吹雪君? あの、本当にすまなかった。言い訳もできない。……報告は後にしてくれて構わないから、兎に角入渠を済ませてくれ。 ……何か、その。困った事とかは、なかったかな」 矢継ぎ早でありながらところどころ吃りつつ、提督の声音は気遣わしげだった。 冷静さを失ったときにも一歩身を引く判断ができるのは、彼女の戦場における聡明さがそのまま日常にまで作用している結果だった。 「大丈夫、でした。入渠してきます」 怒りの篭らない平坦な物言いは、彼を必要以上に逼迫させることとなったが、兎角吹雪はなんとか執務室を後にすることができた。 何故嘘を吐いたと問うてしまえば、日記を盗み見たことが露見する。無意識に、彼女は信頼の危機を脱したのだ。 夜の執務は沈欝とした空気の中、既に行程の半分を終えていた。入渠を終え改造まで済ませた吹雪はしかし依然怒りを継続させたま まで、沈黙に耐え切れなくなった提督が気散じな雑談を振る度に、露骨にぷいと顔を背けていた。返事を期待する眼差しが後頭部に感 じられなくなるまで、ずっと壁の方を向く。一見愛らしい仕草ではあるのだが国家の一代表として艦娘を預かる提督という身、何より これから北上の件を話さなくてはならないわけであるからただ慈しんでもいられない。 「吹雪君、こっちを向いてくれないかな」 何度繰り返したかも分からないこの台詞を吐き出して、しかし彼女もまた態度を軟化させることはない。提督は意を決すと、腰の横 に握られていた彼女の手を軽く掴みとった。 「頼む。どうしても話さなくてはならないことがあるんだ」 手の触れた瞬間驚いた表情に振り向いた吹雪は、目が合ったことに気がつくと慌ててまた顔を逸らした。無論、提督もこの程度で傾 聴の態度を得られるとは思っていなかった。立ち上がり、手を離さないままに正面へ立ち、 「頼む」 再三度の伺い立ては、真剣な顔と声音を維持するのにかなり労を取った。彼女の顔をよく見てみると漫画のキャラクタのように頬を ぷっくりと膨らませていて、古典的に過ぎる怒りの表現に危うく破顔しかけたのだった。 十秒、二十秒と場の空気の止まったまま時が流れ、彼女の横顔を見つめるのにも息が詰まってきた頃合に、ようやく吹雪の譲歩があ った。 「なんですか」 時計を見れば、およそ五時間ぶりの会話である。 「……海域攻略の進捗が悪い。これから一ヶ月掛けて艦隊全体の地力を底上げしたいんだ」 「はい」 「その……明日建造が終わる軽巡を秘書艦にしたいんだ。先行雷撃能力を獲得する為に、集中的に練度を高めたい」 言い終えるまでの時間はとてつもなく苦痛だった。驚きに見開かれた彼女の瞳が次第に失望の色を湛えてゆくと、手を握っているこ とさえも簡便できなくなる。こんな状況に追い込んでしまった要因は紛れもなく自身にあって、だからただ徒に彼女を傷つけるしかな くて、弁解もできず、慰める資格もない。 吹雪が口を開くより先、臆病な彼は逃げの手を打つのだった。 「吹雪君は……本当に今日までよく仕事を果たしてくれた。こんな私なのに支えてくれて、尽くしてくれて……。お礼がしたいんだ。 何かして欲しい事とか、欲しい物とかがあったら言ってくれないかな。何でも、用意するよ」 「……何でも、ですか」 「何でも」 日記を見たことに対する罪悪感とそれに背反する憤怒、彼に報いを与えたいという欲望とが吹雪暫時の思考に渦巻いた。それら欲求 全てを勘案したときの妥当な着地点は、存外にすぐ見つかった。歪みのない性根、白壁に極限まで近づいた無垢さは、自身を見つめな おす時にはかなり有利に働いてくれるのだ。 「司令官の、昔の話が聞きたいです。どんなところに住んでいたのか、とか。“元婚約者の方はどんな人だったのか”とか」 提督の一瞬の動揺を目敏く見つけて、吹雪は内心嗜虐の愉悦にほくそ笑んだ。 確実に、一定のダメージを負わす事に成功した。日記を盗み見たことは知られずに、だが彼の口から彼自身をより深く知れるのだ。 婚約者とは即ち、本土に残した細君なのだから。 今までの仕打ちから考えればまぁ妥当な埋め合わせだと、そう口の中に無理やり言ちて、苛まれる良心から目を逸らす。 夜の雑務、残り半分はそのまま朝へと繰り越された。 『九月二十五日 記載なし』 3 『十月三十日 午後より雷鳴あり。湿気甚だしからず。明日の出撃任務無事完了したれば北上一段目の改造可能となる。ラバウル艦隊 一応の陣容整えたり。 追記 現在時刻朝四時半。不眠症未だ続く』 ラバウル泊地の医務室は食堂棟の隅にこじんまりと、まるで隠されているかのように設けられてある。艦娘は人の形をしながら怪我 の修復に医学療法を用いる必要はなく、故にこの設備はほぼ提督だけの為に備えられていると言っても過言ではないものであった。軍 事基地にしては余りに小さな規模であるのもそういった理由があっての事で、手術室も無ければベッドも無い。レントゲン設備も見当 たらないしパソコンさえ置かれてはおらず、机の上にはたった一枚のカルテが乱雑に転がっているだけだった。窮屈な室内を更に狭苦 しくさせている白い棚には、薬瓶が整然と威圧的に並べられていて、プレートに種類が分けられているようだった。ともすれば学校の 保健室の方がましとも思えるほどだが、生憎勤務中基地の外には出られ規則であるからここで我慢するより仕方ない。たとえ目の前に している医者がおおらかな表情をした体長二寸ほどの妖精だったのだとしても、この提督に選択の余地などないのである。 「今日はどうしました?」 提督が椅子に座ると、そいつは低く響くバスの声で、なんとも医者らしい余裕を醸し出しながら言うのだった。 「最近寝つきが悪くて。睡眠薬を貰いたいんですが……」 「眠れないんですねぇ。蒲団に入ってからどれくらいで寝れますか?」 「二時間とか、三時間とか。結局徹夜しちゃう日もあります」 「いつ頃からそうなったかとか、分かります?」 「一月前、くらい」 「重症ですねぇ」 医者妖精はひとつ唸ると、仔細顔に何か思案しているようだった。 嫌な予感があった。提督が医務室に訪れるより前にこうならなければいいなと願った展開が、今眼前に再現され始めているらしい悪 寒だった。 「あの、ほんとに薬さえ貰えたら私はそれでいいんですけど」 果たして、言外の意を汲み取られることはない。或いは察した上で黙殺されたか、妖精はにっこり微笑むと 「不眠症、ことにあなたのような入眠障害の要因はストレスです。雑草は地上に生えている部分だけ毟っても、今度はもっと長く再 びにょきにょき生えてくる。根ごと引き抜かなくてはなりません。カウンセリングも平行してやっていきましょう」 さも当然、といった風にのたまうのだった。 「提督職は忙しいんです。中々そう何度もここに足を運ぶわけには……」 「しかし不眠を何時までも放っておくわけにもいかないでしょう? 暇を見つけてこつこつ治療を継続することが肝要です」 「じゃあ、今回だけでもいいんで薬貰えませんか。次はきちんと時間をとって来るんで」 「医者は嫌いですか」 「ええ」 「どうして?」 「カウンセリングされるから、かな」 その小さな身体を揺すって哄笑した妖精ととりあえずといった心緒にはにかんだ提督は、互いが互いに察し合いつつのけん制をするよ うな奇妙な連帯感を覚えるのだった。どちらが譲歩するか、進行する会話が根比べの様相を呈すると、やはり頭を下げる立場にある提 督の方が不利だった。 彼はどれだけ今忙しいのかを説明し、妖精はただうんうんと頷いた。互いに笑顔を保ったまま雑談の皮を被った対決が幾ばくか展開 され、だが結局提督が粘れたのは一刻ばかりである。 「では、また暇を見つけてここに来ます。そのときにカウンセリングと、お薬を」 「なるべく早くに来てください」 席を立つと、キャスター椅子がカラカラ鳴った。 執務室への帰路についたその足に食堂にまで顔を出したのは、決して先に待つ業務を億劫に思ったからではない。もっともどちらに せよ褒められた理由でないことに違いはないのだが、決してサボりの悪癖が頭をもたげたとか、そういった事ではないのであった。実 情はより切実で逼迫している。 食堂のカウンターに顔を覗かせ、一番近くにいた妖精に声をかけた。 「ごめん、間宮さん呼んでくれる?」 幾らくたびれた外見をしていようとも一応はこの基地の最高責任者。声を掛けられたそいつは大きな首肯を一つ、ハチドリのように 駆けていった。 呼ばれ奥からのっそり姿を現した間宮は、もう既に提督の訪ねてきた理由を察しているのであろう。半目に眉をしかめた表情である。 「やぁ、間宮さん。ごめんね忙しいのに」 「私は構いませんけど……。どうかしましたか」 「……お酒ちょうだい」 「またですか」 いつも、何をされようとも鷹揚としている彼女の、露骨に溜息を吐く様というのは貴重だった。指先を額に当てて、ゆるり二、三頭 を振って、彼女は眇めた眼を提督に寄越した。 「今日で何度目ですか? 前回これで最後にするって確かにおっしゃいましたよね」 「予定が狂ったんだ。医務室のけち妖精が、カウンセリング受けなきゃ睡眠薬あげないって言うんだよ」 「ならうければいいじゃないですか」 「嫌だ。ぞっとしないねあんなの。だからお願い! あれがないと眠れない」 「中毒ですよ」 「まさか。誓って言うけど、昼間はほんとに飲んでないんだ。眠る前だけ」 「……今回だけですよ、ほんとに。少し待っててください」 面倒に思われているのか、手こずるだろうと予想した酒の調達は存外にすんなり達成できた。帰ってきた間宮の手にはいつもの一升 瓶が握られ、透き通った液体が中でちゃぷちゃぷと優雅に揺れていた。度数五十の泡盛、この基地においては本来調理酒として使用さ れるはずの物である。 間宮曰く、魚の臭い消しやかえしなど普段使う分には安価な日本酒でも十分なのだが、時折特殊な調理を行うのに泡盛があると味が 引き締まる、とのこと。あまり体質的に酔わない提督にとって、アルコール度数のとにかく高いこの酒がラバウルに給されているのは 都合が良かった。 コップ二杯を一気に飲んで、そのままベッドに横になれば数分のうちに意識が飛んでいる。ホットミルクやら整理体操やら様々試し 果てた末に見つけた不眠解消法であるが、提督とて無論これが危険と隣合わせの野蛮な手段であるという自覚は持っていた。いくら寝 れなくても毎晩は飲まず、最初二、三時間は自力で眠る努力をして、どうしても昼間辛くなりそうな予感のある日にだけこの手段に頼 っていた。 だから決して中毒になっている訳ではない。少なくとも彼自身はそう判じているわけなのだが、カウンセリング中この事実が露呈する のを嫌ってもいるから、深層心理には疚しさを抱えているらしかった。何より、中毒患者には中毒の自覚がないというのが世間一般の 通例的な認識である。 一升瓶を手渡すとき、間宮の目に浮かんだのは憐憫の情なのやもしれなかった。 執務室に戻ると、部屋の中央に置かれたソファへアザラシのように身を横たえた艦娘があった。深緑のセーラー服が縒れるままに白 い大腿やウエストを露出せしめ、特徴的なおさげを胸元に潰しながら、北上はゆったり提督へ一瞥を寄越した。 「遅かったじゃん」 「そう? お前が早かっただけだろう」 この艦娘に相対するとき、提督は口調をくだけさせるきらいがあった。彼女は彼女自身に完結していて、だから心配する必要もなけ れば心配されることもない。現に入渠と改造を済ます間に医務室へ行ってくる旨の事を言ったときも、彼女はその理由も聞かずただ頷 くだけだった。これが吹雪なら事細かに事情の一切を報告しないことには、廊下に出ることさえも叶わなかったであろう。気を遣わな いでいいという居心地の良さが、彼を提督という役職から剥離させてゆくのだった。 「それ何」 提督の手に握られた瓶を指し、北上が問うた。 「泡盛」 「ふぅん。……お酒?」 「強い、酒」 「いいねぇ!」 「いや……あげないよ」 「なんだ。これから酒盛りでもするのかと思ったのに」 興味を無くすや仰向けに臥した北上は、数分のうちにすやすや寝息をたて始めた。このしどけない仕草は特別今日の任務が忙しかっ たとか何かしらの事情に拠るものではなく、いつの間にか習慣として根付いてしまっているただの昼寝である。 彼女は秘書艦としての適性を欠いていた。何事にも向き不向きがあるということを身を持って知っている提督は、だから彼女を責め る事も、ましてや折檻を加える事もしないで、ただ甘く傍観するだけ。最近では寧ろ一緒に海岸線を散歩したり基地を抜け出したり、サ ボりの共犯者を見つけた風なのでもあった。 そんな状態にあっても執務にそれほどの遅れが出ていないのは、不眠の時間がそのままツケの支払いに使われているからだった。と もすると今の自身は、肉体の健康を対価に精神的な安息を獲得している状態とも言えるわけである。そう考えると不眠症を害為すもの として完全に治療してしまうのも、どこか気が引けてくるのであった。 外気とは裏腹、執務室は存外冷房に冷える。北上にブランケットをかけてやってから、提督は執務を再開させた。寝息を環境音に珍し く集中が持続して、ふと顔を上げた時の部屋の暗さにぎょっとするほど。時間の切り取られたような錯覚はしかし眼前に積み上げられ た署名済みの書類が否定してくれて、その高さに自分でも驚くくらいだった。久方ぶりに感じる心地よい疲労、充足感が気だるく窓辺 の夕焼けに融けてゆく。 結局、夕飯の時間になるまで北上は眠り通しであった。 夜分、小腹の空いてくる亥の刻。珍しく脇に佇立し書類の片づけを手伝っていた北上が、つと声をかけてきた。 「ちょっと耳に挟んだんだけど」 「なに」 「改造が済むと、提督って何でもひとつ言う事聞いてくれるんだよね?」 「……どこ情報だよ、それ」 聞いておきながら、その答を知っている彼である。吹雪は素直な娘で、かつ年頃の少女らしく迂闊な面があった。気の置けない友人 に――具体的には睦月などに、虚実織り交ぜたあの過去の話の断片をうっかり口にだしてしまったのであろう。どうしてそんなこと知 っているのかと問われれば、当然その夜のこと自体についてまで話さなくてはならなくなる訳で、それを偶然居合わせた北上が耳朶に したと、そういった顛末が考えられた。 「提督、私、あのお酒が飲みたいな」 露骨に媚びた声を作って、北上は提督の肩にしな垂れた。 「年齢的にだめだろ」 「私って、今何歳?」 「外見年齢的に駄目だろって話だ」 幾ら耳元に囁かれた所で、彼女はまだ深緑のセーラー服が似合う年端もいかぬ少女であった。色気などというものを自然に醸し出せ る訳もなく、ただ外見だけ取り繕った仕草に胸の高鳴ることもない。この提督は既に異性の本質的な性欲の発露を何度も目にしてきて いるから、上辺だけの児戯を真に受けることもなかったのである。 「今の日本に艦娘を取り締まる法律はないよ」 しかし昂然と放たれたこの論理を、果たして覆すだけの舌も備わっていない。結局幾らかの押し問答の後北上がソファに腰掛けて勝 手に杯の準備を始めた段にもなると、もう彼も諦めて食堂から肴を調達しに行くのだった。 間宮の目を盗みつつまず適当なナッツをくすね、それから深皿にこんもりと氷を盛った。食料の保存されている大型冷蔵庫からレモン やライム、更に片隅の飲料保存場所からコーラや牛乳やオレンジジュースを一本ずつ拝借する。加えて炭酸水を引っ張り出してそれら 全部を、危うげではあるが何とか胸に抱え帰路につく。 ストレートで飲むのは睡眠薬の代用としてであって、普通に楽しむ分にはやはり何か割るものが必要である。酒に不慣れなはずの北 上であるから、いっそカクテルにしてしまうのが無難だと思われた。艦娘の身体構造は非戦闘時においては普通の人体に極限まで接近 するとの研究結果もあり、つまりは彼女のアルコールの摂取量にも十分注意を払わねばならないのである。濃度を薄めても味まで薄ま るわけではないカクテルは、摂取量をコントロールするにも都合が良かった。 執務室に戻ると手にコップを弄ぶ北上が、燦爛とした眼を寄越してきた。 「随分、なんかいろいろ持ってきたね」 「色々作ってみようと思ってね。コーラとか、オレンジジュースとか……」 「ロック、だっけ? 氷入れてストレートで飲むんじゃないの?」 「君にはまだ早いよ」 席について、しかし思えば泡盛のカクテルなど作ったこともないのだから、偉そうなことばかり言ってもいられない。日本酒には柑 橘系が合うという話を思いだし、提督はとりあえずオレンジと輪切りレモンと氷とを彼女のグラスにいれて、後から少量の泡盛を注い だ。 「飲んでみて」 「乾杯はしないの」 「……あ、そっか」 毒味させてみることにばかり意識が向いていて、言われるまで自身のグラスの事を忘れていたのだった。提督も彼女のとまったく同 じ物を作り、それから気の抜けた乾杯が行われた。北上が恐る恐るといった様子にグラスを傾け小さく喉を震わしたのを確認した後で、 彼もそれ以上の慎重さをもって中の液体を嚥下する。 きっかり一口飲み終わると、互いが互いを伺うような暫時の視線の交錯があった。映画の見終わった後などにも発生するあの緊張で ある。初手の感想を言うには、まず相手の感想を知っておきたいという矛盾。 「どう?」 先に口を開いたのは提督だが、放たれた文言は逃げ口上のそれだった。北上はいつものポーカーフェイスを幾らか綻ばして、 「これが大人の味かぁ」 と感心した風に言った。 「まずい?」 「ううん。まぁまぁかな」 「それ飲んだら次はコーラだな。色々試してみよう」 泡盛の量が多かったか、少し苦みと酸味の調和が甘みを押し退けすぎている感がある。提督個人としては別段文句のないバランスだ ったが、北上には優しくない味だろうと思われた。まぁまぁと形容した時、彼女の顔に少し苦悶の色が滲んだ事をこの男は見逃さなか ったのである。 都合コーヒーシロップを幾つか持ってきていたので、北上のグラスに一つ入れた。果たして酒に調和するか不安があったが、彼女の 一口あたりの消費量が増えたことから味に問題をきたす結果にはならなかったようである。 オレンジ割りを飲み終える頃には、彼女の頬は淡く色づいて少し上体も揺れていた。 「酔った?」 「たぶん、大丈夫。コーラちょうだい」 濁った眼に提督を見据え、小首を傾げて催促をした。グラスを差し出そうと屈んだ彼女のセーラー服の隙間から、色白い鎖骨が映え ていた。薄地のキャミソールが膨らむように垂れて、あわや下着に縁取られる胸元の曲線まで露わになりかけていた。 背徳の情感に思わず提督は目を逸らして、彼女の身を案じる言葉も出てこずに机の上のコーラ瓶に視線を集中させた。たとえどれだ け女の裸に耐性があろうとも、歳をとってしまうと幼年者への色情には敏感になるものである。 端的に言えば目のやり場に困る状況と形容できるが、実際にはそんなコミカルな言葉にはまとめきれない深刻な問題をも孕んでいた。 北上は目尻に皺を寄せ、口角を釣り上げ――つまりは提督を誘惑する意図を持ってわざと胸元を見せていたのである。 それを認めたときの彼の思惟は、まず何故という疑問の念に支配された。無論仲の悪いことはない。しかしそれでもたかだか一ヶ月 の付き合いであるし、到底身体を許す間柄にはなり得ない親密さであったはずなのだ。 年の功とも言えるか、彼の選択した手段は理性的であった。北上のグラスへコーラ瓶を傾けつつ、空いていた方の手は自身の胸元へ 伸ばされて、人差し指と中指にとんとんと胸骨を叩いた。 「見えてるぞ。隠せ」 「んぅ? あぁ……」 北上がしらじらしく上着の背中側の裾を引っ張ると、胸元の垂るみはきゅっと締まった。たったそれだけの手間で露出を無くせられる のだから、やはりわざと見せていたということなのであろう。あきれた風に極短い嘆息をついたのも、その証左なのだと思われた。 コーク泡盛を一口、舐めるように飲んだ後、彼女は意を決したように上目遣いに切り出した。 「ねぇ提督。怒らないで聞いて欲しいんだけどさ……」 「もう既に少し怒ってるけど」 「……あぁー、そう、なんだ」 牽制の言葉は一定の効果を発揮したらしい。口を噤み顔を横に向け半笑いに頬を掻く北上の様子を見て、提督はこの気まずげな沈黙が ずっと続てくれることを願った。ここで話題が終わってしまえばこれがただの思い過ごしであったのだと、何も深刻なことなどなかっ たのだと、各々の心の裡はどうであれ体面は何とか繕われるわけである。 だが現実には、彼女の仕草はほんの少しの躊躇いを表していたに過ぎず、たった十何秒かの沈黙の後彼女は膝に手を置き身を乗り出 して続きの文句を口にしてしまったのだった。 「私を、抱いて欲しいん……だけど」 怯えと緊張とを含んだ作り笑みに、僅かに正面から背けられた顔。それでいて視線は提督をまっすぐ射抜き、眼には媚びの色が顕れ ている。 返答の文言を捜すのに手間取っているうちにその無言を肯定と解釈したか、北上はソファから腰を上げて彼のすぐ正面へと立った。 黒のスカーフの結び目へ、細く艶やかな指が伸びた。手品のような器用さにほとんど撫でるのと変わらない僅かな動きの中で、いつ の間にかリボンは解かれ、皺だらけに膨らんだ布が二房垂れ下がるだけになる。 「冗談はよしてくれ」 結局逸る思惟においては、月並みな言葉しか浮かばないのであった。 「提督もさぁ、溜まってるんじゃないの? ここに赴任してきてもう二ヶ月だし」 「私が君達と信頼関係を築くのはそれが仕事であるからだ。……言っている意味はわかるな。それ以上ふざけたことを言ったらぶつ ぞ」 怒気を孕ませた声音は、計算の上に作られたものである。そもそも彼には、毛頭打擲気する気などない。彼女の突然のこの狂態には 当然理由があるはずで、それを引き出すためにはまず何より彼女に冷静さを取り戻させる必要があったのだ。 ほんの少し、屈辱的な発言に対する本心の怒りを織り交ぜて、酔いの興奮を沈めさせる空気を演出する。提督の思惑は一縷の差異無 くこの執務室に展開されたが、北上の暴走はそれにもめげない強固な意志に基づくものであった。 「ごめんね提督。でもぶたれたくらいじゃ、艦娘の装甲には傷一つつかないよ」 泡盛の一升瓶へ手を伸ばし、それから提督の方へ身を乗り出すと、彼女は空いているほうの手を彼の胸元へ置いた。 提督の迂闊は、つまり目の前の娘が尋常ならざる兵器であるという事実を忘れていたということだった。押さえつけられた胸には欠 片も圧迫を感じない。だのに気付けば、ソファから尻を浮かせるどころか、ちょっと身を捩ることさえもまったく叶わないのである。 それこそ彼女の骨は全て鋼鉄によって形成されていて、この華奢な腕の指の節までもが何万馬力の油圧機構を持っていると言われても 不思議には思えないくらいだった。 三つ編みが暴れるほど大仰に一升瓶を呷った北上が、口腔へ留めた液体に頬をぷっくり膨らませて、乱暴に提督へと口付けた。 大方、驚きの念はあまり無い。ただここから場をどう収めればいいのか、その方法が思いつかず苛立ち焦っているだけだった。 ぬたつく舌と触れた箇所悉くを熱く焦がす液体が、容赦なく口へと割り入ってくる。子供が悪ふざけでするように一気に頬を凹ませ 流し込んでくるものだから、口の端からは相当量の泡盛が零れ落ちてスラックスをびしゃびしゃに濡らしていくのだった。最後口の中 にまだ泡盛が無いか、確認するように一巡舌を廻らして、彼女はようやく身を離した。 嚥下してからアルコールの吸収されるまでの僅かな時間が、彼女を説き伏せる最後のチャンスとなるのであった。しかし北上は既に 二口目の泡盛を呷っていて、 「待て……」 提督が明瞭に発音できたのは、たったこれだけであった。再びの口付けと口移しの悦楽が、後の言葉をただのうめき声と化けさせた。 それから何巡とその行程が繰り返されたのか。息が浅くなり頭の重みが厭に大げさに感じられ、その場に流れる空気、ソファの柔ら かさ、胸を押す掌。そういったものの実感が随分希薄になっている。時間の流れさえ正しく認識できなくなって、現実が自分から乖離 してしまったような感覚が容赦なく彼の思考を霧散させていった。 熱病に臥した病床の上と似たような思惟の霞み具合だった。だが彼女の香りは克明に肺臓から脳幹へと突き抜けて、口移す物もない ただの睦みとなったキスの甘美もより生々しく、性の感触だけは寧ろより鋭敏に彼を苛んだ。 スカートのファスナーが降ろされる。ショーツの淵とそこから伸びる滑らかな大腿が、鋭角に露出してゆく。留め具を摘む指からふと 力が抜けた一瞬、引っ掛かりを無くしたそれは力の抜けたように地面へと転落していった。 下肢の完全に露わになった羞恥に駆られながら、だが北上の思考は依然として沈着と目的の達成を目指していた。それは例えば提督 を篭絡させるだとか独占するというのではなく、性行為という手段そのものが即ち目的となっているのである。北上は彼のことを恋慕 っているわけではなかった。 艦娘として、人の意識を持つ生物として現代に転生建造された彼女の、まず地に下り立ち最初に抱いた感情は、人と同じ生を謳歌で きるという未来を前にした喜びだった。呼吸をして、二本足に歩いて、口を使ってものを食べ、瞼を瞑って眠りに落ち、鼓膜が音を手 繰りよせ、触れた指先が感触を伝える。そういった人の当たり前を自分が体験できるという事が嬉しくてならなかったのである。 彼女が人類種へ憧憬の念を抱いたのは戦後の復員輸送任務がきっかけだった。当時足を無くしていた彼女は工作艦として、鹿児島に 停泊する復員輸送艦の改修整備にあたっていた。あの忌々しきクレーンが艦を直し、ひいては海外に残された人々を助けるのに役立つ。 本土の地を踏む元海兵を見るたび、安堵と誇らしさを綯い交ぜに、またどこか羨望の念をも感じてしまうのだった。彼らにはこれから 帰るべき故郷があり、何もかも無くなった日本を復興させるという使命があり――長い未来が待っている。解体されゆく自身とは対照 的なその姿が、生を謳歌する事への強烈な憧れを胸に刻み込んだのだった。 男を知る絶好の機会を前に、果たしてこの娘に欲求を押さえ込むことなどできるわけがなかったのだ。バックルを緩めさせ濡れたス ラックスと下着を強引に剥いでも、提督はもう僅かな身じろぎさえしなかった。性交という、人が生命維持に支障のないものの中で最 も執着する行為を実践しているということが、彼女の中で性的な意味外の興奮を呼び起こさせているのだった。 既に陰茎は充分な硬度を持っており、彼女の眼前にいかめしくそり立っている。生娘の下手なキス程度で、しかも泥酔した上で相手 から一方的に舐られた程度でこんな有様になっているのは、その行為に至るのがただ久しぶりであったためである。つまりは極当然の 生理反応としてそうなってしまっただけの話なのだが、北上は自身の技の純然たる結果によるものと誤解し、性への自尊心を高めるば かりなのであった。 まだ僅かばかり胸の裏に残っていた知識の欠乏を基にする慎重さが、この謬解によって失われてしまった。或いは血管を這いずるア ルコールが、彼女の判断力を鈍らせていたのやもしれない。提督に覆いかぶさるようにソファへ両膝を乗せた北上は、ショーツまで脱 ぎ去るのは恥ずかしく、必要なところだけの布地をずらし彼の先端をそこへとあてがった。 淫裂は触れた指を湿らす程度には濡れていたが、処女を散らすには不足だった。戦場に身を置く艦娘の稟賦としてある程度の豪胆さ を持ち合わせている事、また目的を達成するにあたり過程に頓着しない性格であったのは不幸である。北上は深呼吸の後、足の力を抜 き去って彼のものを一気に最深にまで迎え入れた。 「……痛っ、ぃ! っぐぅう……!」 牛挽きにあった時絶命に至るまでに感じる痛みはこれと同じものであろうと、北上は千々に裂かれ霞む頭に思った。額に珠の汗が滲み 目尻から涙が溢れる。犬のように速まった息が情けなく思えて無理に腰を動かそうとするも、少し力を入れただけで鋭く尖った氷の粒 が脊髄を這い上がるような、烈しい痛みに苛まれた。 ぬたりと、滑る感覚があった。最初その要因を愛液によるものだと思ったのは、男性の感触を得た身体が痛みへの対応に敏捷に反応 を寄こしたのだと考えたためであった。だから視線を下に向けたとき、結合部からソファへ滔々と血の流れ出ている様を目にして、北 上は非常に大きな衝撃をうけた。 彼女にも破瓜の知識はあったが、まさかソファを真っ赤に穢すほどにまで血が溢れ出てくるとは思ってもみなかったのである。大し て濡れてない処女の秘所へ一気に肉槍を突き立てた結果、膣壁に大きく外傷を負ってこんな惨事になったわけだった。つまりは不注意と 慢心による当然の結果である。 提督の肩に手を置いて、何とか腰を浮かせて引き抜いた。栓を抜いたみたいに、ごぷりと音の鳴ったような気がした。色白の太もも に一筋、二筋と血の轍が刻まれ、それらは膝にまでするする滑り降りると朱色の水玉模様をソファへと描いた。 横目に提督のものを覗き見ると、またその外観もグロテスクの極みにある。先から根元までべっとりと、原色の油絵の具にまみれた 様に紅色に染まりきっており、段々萎びてゆくのが深海生物の触覚を思わせた。 到底、行為を続ける事などできない。さしもの北上とて、そう結論付けざるを得ない状況であった。腰はまだズキズキと、焼けた鉄 杭に刺されているかのように痛んでいる。辺りには何か、血の香りも漂っているらしかった。明確に吐き気まで感じないにしろ、それ に類する内臓からの気持ち悪さが彼女の気を萎えさせていた。 提督は既に昏倒しているから、たった一人の力によってこの処理を済まさなくてはならないのである。今更の悔悟と自嘲の念が、胸 の内を虚しく埋めていった。彼の血染めの半身を拭うのにティッシュ一箱のうちのほとんどが消費され、僅かに残った四、五枚ばかり をずっと痛むそこに宛がっている。 そういった段に、心がぽきりと折れたらしい。もう後片付けをする気力もなく、ショーツを履くのさえ億劫に思え、気付けばそんな 無様な姿勢のままに眠りに落ちているのだった。 翌朝は悲鳴によって目が覚めた。意識を失ったタイミングがまったくバラバラであった両者だが、この起床については同時になされ たもので、またクロック数の落ちた脳内に言ちた言葉も同一のものだった。即ち、しまったと思ったのである。 開け放たれた執務扉の前でまるで殺人現場でも見たかのように口を手で覆う吹雪は、二人の視線を受け止めると走ってその場を後に した。慌てて時計を確認すると時刻は七時を十五分過ぎた頃合。朝食に来ないのを心配して様子を見に来たところこのような惨状を目 にしたと、そういうわけであるらしかった。 自身の手元、ソファの上に血の染みを認めて、提督はひとつ嘆息を吐いた。それは複合的な要因に思わず口から漏れ出たものであっ たが、中でも彼の心緒を一番に傷つけていたのは、北上に迫られている最中、自身の細君の存在をすっかり気にかけていなかったのを 思い出した事だった。確かに忘却することを望み、またラバウルではその存在をなるたけ認知しないように振る舞ってきた彼であった が、まさか貞操に関わる事態にあってまでその姿勢が維持されるとは思わなかったのである。世間からは愛妻家との評価を得ていた。 また自負もあった。最近の不眠の遠因にはホームシックがあるのだろうし、毎日日記に向かう間だけは戒めを解いているのだ。 提督は何か空恐ろしくなって必死に本国の自分の家の外観、内装、それから妻の顔立ちから身体の肉付きを脳内の虚像に思い浮かべ た。それは解き方のわかっているパズルを一から組み立てるようなごく簡単な作業であった。事実記憶は鮮明に滞りなく溢れ出てくる ようであったが、終わってみると額からは珠の汗が流れ、手はガタガタ震え、息は詰まっている。 「提督。ごめん……なさい」 彼のそんな表情を曲解したか、北上の声音は彼女にしては珍しいほどの真剣さであった。 「謝るなら最初からするなよ馬鹿」 「うんまぁ、ね?」 眠りから覚めて以来、初めての発声は幾らか思考を現実的にさせた。吹雪への弁解をどうするか考えながら眼は敏捷に彼女の様態を 確認し、今後すべき事をその重要性によって順序立ててゆく。 「どこまでやったんだ」 「提督ぅ、それ聞くの? そりゃあもうズッコンバッコ……」 「真面目に答えろ」 寝起きの悪い提督である。本人にそんなつもりはなくとも、その声音にはある種の凄みがあって、北上は慌てて襟を正して真面目に 受け答えするようになる。 「挿入れはしたけど、痛すぎて抜いちゃった。それでそのまま血拭いていたらいつの間にか寝ちゃったらしくって」 「入渠してこい」 「いや、大げさだよそんな」 「人間なら病院送りにさせられるような案件なんだよ。風呂に入ってればなんでも治る便利な身体してるんだから、言う事聞いてさ っさと行ってこい」 自身の非人間性を指摘されたように思え北上は少しの怒りを覚えた。だが、現在の立場上まさかそれを大っぴらに発露させるわけに もいかず、大人しく頷いて側に放られたスカートとショーツを身につけるのだった。 どうせシャワーを浴びたいとは思っていたんだと、心の中に呟く事でわだかまる感情を押さえ込んだ。いざ執務室を出ようかという 時、不愉快を背負ったその背中へ提督は言葉を継ぎ足した。 「昨晩の事は忘れよう」 「……うぅん。一生に一度は言われたかった台詞だねぇ」 「少なくとも私は忘れるからな。今後私の前でこの日の話をする事を禁止する。いいな」 「こんなイイ身体の味を知って、忘れられるの?」 北上の冗談に対し、彼の返答はあまりに辛気臭かった。 「忘れる事は得意なんだ」 吹雪の心情は、この一ヶ月捏造を畳なわらせるばかりであった。自覚無き思慕の念は、熱情の合理的な解釈を求めるあまりに歪な形 へと改められた。即ち嫉妬は不信へ、寂寥は屈辱へ。滾る感情の答えを彼への慕情と求めるのを、意識の埒外に避けていた。彼女の生 真面目さが僅かでも淡く、律儀さが少しでも緩かったならば、あるいはこの歪は生まれなかったのやもしれない。非倫理的な感情を肯 定するある種の図々しさを持ち合わせていなかった事が、良くも悪くもこの少女の運命を決定付けた。身を寄せ合い眠るあの二人の姿 を目にしたとき、彼女は思惟の歪みを矯正する機会を永遠に失ったのである。 一ヶ月前の業務引継ぎの時、吹雪は北上の態度や雰囲気を決して快く思っていたわけではなかった。提督の自堕落な性質を鑑みれば、 ある程度の真面目さを持たない者に秘書の任など務まらないことは明白だと思われた。何事も楽なほうへ逃げようとする北上の稟性を 感じた彼女は、表情にこそ出さなかったものの胸の内に敵愾心を強めていた。 秘書の役職を解かれることについて、どこか面白くない思いを抱いているという自覚はあった。吹雪はその由来を、彼と接する時間 を奪われる事への嫉妬として解したのではなく、提督を支えるにふさわしくない艦娘が役職に宛がわれたという不信に押し付けたのだ。 業務がどんどんと滞っていって、最終的には自身に泣きつき懇請する提督の姿を妄想しては、湧き出す苛々を収めている。 一週間が経ち、二週間が経ち、寧ろ仕事の能率が上がっているらしいことが知れたとき、彼女の絶望は甚だしかった。自分勝手なこと と知りながら、酷い裏切りにあったかのような烈しい怒りを覚えたのだ。 ある日の廊下では、二人が親密そうな様子に会話している場面を見た。自身の部屋の窓から、二人が仕事を放り出して海岸を散歩し ているのも目にした。自身には見せた事の無い彼の気散じな笑顔が、子供と大人、部下と上司、そういう隔たりを意識させ、一層募る はずの嫉妬の念もただ歪んでゆくばかり。 少女の繊細な心は泥沼の苦しみに苛まれ、三週間も過ぎると毎晩涙が枕を濡らしていた。逃げ道の無い責め苦の続いたこの一ヶ月はま さに彼女にとっては地獄の季節で、それを耐え抜いた果てにまみえた結末があの情事の場面だったのである。 その夜、秘書職に復帰できる喜びを抱きながら久方ぶりに穏やかな心緒に眠りについた。目覚ましより早く希望の焦燥に目を覚ました 彼女の、その時の心情などもう語るには及ばないだろう。執務室を飛び出した後、だが呼吸は驚くほど静謐だった。 遅れて食堂に入ってきた提督に対して、吹雪は事情の一切を聞かなかった。彼に対しては、あの場面を見たことをすっかり忘れたか のように振舞うと腹を決めたのである。彼女なりの決意の示し方は、奇しくも彼と同一の方法だった。 その日の朝食が済んだ後、入渠施設から艦娘宿舎へと通ずる外廊下に立っていると、一刻もしないうちに当の北上が恬然とした様子 に歩いてくるのが視界に入った。遅れて吹雪に気がついた彼女は一瞬露骨に顔を顰め、それから何か諦めたように短く嘆息をつき、彼 女の前に立ち止まるのだった。 「どうかしたの」 至極迷惑そうな語調に臆さず、吹雪は訥弁ながらに言うのだった。 「北上、さん。……提督には、奥様がいます。……に、日記に書いてあったんです。私、隠れてそれを読んで……あの、信じてもらえ ないかもしれないですけど、本当のことなんです。提督には本国で帰りを待っている奥様がいます」 聞き終え、北上の慧眼はすぐさま吹雪の欺瞞を見抜くのだった。話された内容の真偽などどうでもよい。重要なのは吹雪が倫理を盾 にして、彼と自身との関係を消滅させようとしている事そのものであった。熱情に浮かされ潤んだ吹雪の瞳を見れば、これが純然たる 正義感によって放たれた言葉ではない事など楽に知れた。 即ち吹雪はただ嫉妬しているだけなのだ。その感情が醜いと思うから、倫理的問題を隠れ蓑にして行為を糾弾してくるわけなのであ った。 「今後提督とはお酒を飲まないし、夜を一緒に過ごしたりもしない。誓って約束するからここを通してくれない」 「……本当に約束してくださいますか」 「本当に、約束するよ」 一歩、二歩と横にずれると、北上は荒々しい歩調に歩き出した。 「……やっぱ駆逐艦ってうざいわ」 擦れ違いざまに明確な悪意を持って放たれた罵言は、吹雪の純粋な心に傷を与えた。それが端緒となって、わだかまっていた想いの 数々に一時の間に胸が一杯になって、吹雪は堪らずその場に頽れて嗚咽を漏らした。 もう彼への慕情を認める術は残されていなかった。提督には既に結ばれた人がいる。故にああいったふしだらな真似はするべきでは ない。北上を責め立てた文句はそのまま彼女自身にも向けられていた事だったのだ。公然とそれを口にしてしまった手前、今更掌を返 せるわけもない。彼女の心を苦しめる最たる要因は、彼女の生真面目な性質そのものであるのだから。 吹雪の初恋はこうして、始まらずして終わったのだった。 『十一月一日 今宵月冴えわたりぬ。南国に漸く秋の色滲みたり』 <完> + 後書き 120 :クズ ◆MUB36kYJUE:2015/06/09(火) 00 11 18 ID 3E66EVT6 以上で完結です ほんとうに長々と失礼しました これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/