約 2,752,238 件
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/2090.html
『4seasons』 秋/静かの海(第六話)より続く ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― §プロローグ ――なんでキスなんてしたのよ。 十二月二十四日。冬の夜を私は走っていた。 丸裸の街路樹は、葉を茂らせる代わりにオレンジ色の豆電球を身にまとい、夜の街にぼんやりと浮かび上がっている。行き交う車のヘッドライトは街の底を進む光の川のようだった。どこかの店舗から『ジングル・ベル』のメロディが流れてきて、行き交う人々は皆どこか幸福そうな顔をしていた。その顔を見て、私はディケンズの『クリスマス・キャロル』を思い出していた。 ――なんでキスなんてしたのよ。 聖なる夜は住宅街の夜景も一変させている。そこかしこでささやかなイルミネーションがまたたいて、闇の底を普段より少しだけ明るくさせている。ドアにかけられたリース。窓に浮かび上がる家族の人影。楽しそうな笑い声。クリスマスチキンを焼いているのだろう、漂ってくるハーブの香り。それが、商店街を満たしていた作られたクリスマスムードよりずっと日本のクリスマスらしくて、胸がつまる。 ――なんでキスなんてしたのよ。 さっきまでちらちらと見えていた青い髪の後ろ姿も、今はもうない。脱兎のごとき逃げ足の速さに、あらためて舌を巻く思いだった。いや、逃げているのが狐で、追いかけている方が兎じゃないか。そんなどうでもいい考えが頭の中に浮かんできて、それが少しだけおかしかった。 ――逃げるくらいなら、キスなんてするな! 初めてのキスはケーキの味。甘い甘いバニラエッセンスの香り。ホイップクリームのように唇の上でふわりと溶けた。 ――イチゴの香りを嗅ぐとショートケーキを思い出しちゃう。 そう云ってつかさが笑ったのは、いつのことだったか。随分前のようにも思える。つい最近のようにも思える。 ストロベリーケーキは、私の中でキスの味になった。これから先誰かとキスをする度に私はあの味を思い出すだろうし、ケーキを食べる度に今日のキスのことを思い出すだろう。 こなたの唇は、少しだけ濡れていた。 ちらちらと雪が降ってきて、思わず笑ってしまった。 イエスか聖霊か父なる神か、その悪戯をしたのが誰かはわからないけれど、余りにもできすぎている。余りにもできすぎていて、まるで私がこの世界の主人公みたいで、思わず笑ってしまった。 けれどどこかの家から「あ、雪が降ってるよ」と子供の声が聞こえてくるのを聞いて、主人公は私だけじゃないのだと思い直す。こんな夜には誰もが主人公になれるのだ。誰もが聖夜に祝福されて、誰かにとって特別な人になる。ましてや雪なんて降れば尚更だ。 『今夜は今年一番の寒さとなるでしょう』天気予報はそう云って、その通りに雪まで降ってきたのに。走り続ける体には、身につけているコートが暑いくらいだ。 ぜーぜーと息を吸う。必死に息を吸うことしか頭になくて、吸った息はどこに行ってしまったのかと思う。勿論呼気となって吐き出されて白い雲を作って消えていくのがそれなのだけれど、そんなことを考える余裕は頭の中にはなかった。息を吸うこと。それとこなたを捕まえること。それだけが頭の中にあった。 それだけを考える私を突き動かしているのは、どちらかというと怒りの感情だ。 なんで逃げるんだ、あのバカは! こなたへの、自分への、こんな夜への、舞い散る雪への、受験というシステムへの、男と女に別れた人間への、そんな全てを孕んだ世界への、怒り。 そんな感情が疲労に崩折れそうになる足を奮い立たせていて、そうして私はそれが醜いと思う。 雪は強くなってきていた。夜の薄闇を背景に月の光を受け、白いすだれのように空を埋めていく。じっと眺めていると見当識を失って、それが降っているのか舞い上がっているのかわからなくなってくる。 積もるのかもしれないな。そんなことを考える。 いっそ積もってしまえばいい。そんなことを考える。 降って降って降り積もって、世界の全てを埋めてしまえばいい。カッカと私の頭を湧き立てる怒りも、逃げていくこなたの弱さも、大人と子供の間で怯えて震えている私たちも、みんなみんな埋まってしまえばいい。 そうしてまっさらな雪原となって、フラットな平面になって、何百年か後に掘り返されたときに、みんなきれいな氷の彫刻となっていればいい。 愛だとか、友情だとか、未来だとか、夢だとか。言葉にすればどこまでもきれいなのに、きらきらと光輝いて見えるはずなのに、どうしてそれを口にする私たちの思いはこんなにも汚れているのか。愛は嫉妬を、友情は打算を、未来は不安を、夢は逃避をどうして内包してしまうのか。 ――だから。 ――だから、そんな私の感情は、雪に埋もれて凍ってしまえばいいのだ。 そうして何年か経って、何十年か経って、心の奥の方に埋まった今日のこの日のことを思い出して懐かしめればいい。どろどろした感情なんて全部記憶から捨て去って。 思い起こせばあの頃は純粋だったなと、子供だったんだなと。 そう思えればいい。 ずっとずっときれいな物だけを見て、いつだってきれいな感情だけを抱いて生きていきたいのに。 そんな風に考える今の私の感情は目を背けたくなるほど醜くて、どこまでも必死で、どうしようもなく苦しくて。 ――なんで、キスなんてしたんだよ! 十二月二十四日。冬の夜を私は走っていた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 4 s e a s o n s 冬 / き れ い な 感 情 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― §1 「あー、B判定かぁー」 返ってきた進研模試の合否判定を眺めて、私はため息をつきながら机に突っ伏した。それでもC判定だった夏前に比べると上がっているし、十分合格圏内ではあるはずなのだけれど。 六十~八十%というその確率が果たして安心していい数値なのかどうか、私は決めかねていた。確か去年の進研模試の判定と実際の合格率を検証してみた結果では、難関私立大では軒並み実際の合格率が判定結果の下限近くに位置していたはずだ。してみると今の私の合格率はぎりぎり六十%くらい。六十%なんてほとんど五十%と変わらないわけだから、結局のところ受かるか落ちるか半々でどっちかわからないんじゃないか。 今日の天気は雨か晴れかのどちらかでしょう。そんなやる気のない天気予報は聞いたことがない。必死で頭をひねって解答した結果が“どっちかわからない”ではなんのための模試だったのか。いや、そのために頭をひねった分知識は頭に刻み込まれているはずだから無駄ではなかったのか。 『アニメなんかだとさ、確率が低ければ低いほど百%に近づくよね~』 慌てた顔をしてそう云ったあいつのことをふと思い出す。 秋口のころのことだった。模試の結果を体の後ろに隠しながら、あいつは云ったものだった。確かにアニメやなにかだと、九十九%の確率で負けるとなったら残り一%の確率で主人公は勝つのだし、0.00001%の確率でも主人公が乗ったロボットは起動する。けれど現実はアニメじゃない。それは全部本当のことだし、みんなが寝静まった夜に窓から空を見ていてもとてもすごいものは見られない。ってなんだこれは、なんのネタだったか。ああ、そうだ、ガンダムのどれかの主題歌だ。私もいつのまにか染められているな、なんてことを思う。 『ガンダムはオタクの基礎教養なのだよ、かがみんや』そんな風に猫口をニマニマとさせながら、あいつがガンダム主題歌をカラオケで熱唱したのはいつのことだっただろう。そうだ、春だった。あれは確か、まだ三年生になっていない春休みのことだ。 私がまだ、こなたへの恋心を自覚する前のことだ。それだけはよくわかる。 私の中で、春のあの日以前とそれ以降のことは、記憶の中で明確に区別されていた。それ以前のことは“思い出”であり、それ以降のことは“今”だった。それだけあの日気がついたことは――こなたに恋をしていると気がついたことは、私の中で世界が壊れるほど衝撃的な出来事だったのだ。たとえるなら、ある日自分が毒虫ではなく『異邦人』であることに気がついたグレゴール・ザムザのように。 そうしてこなたが私のように『異邦人』である確率は――同性のことを好きになれる確率は――三%以下であり、それはアニメならぬ現実においてはほぼあり得ないに等しいのだ。 ――わかっている。自覚している。私は目の前の試験結果から目を逸らしている。 教室のそこかしこから同じようなため息が聞こえてくる。HR後の教室は、授業が終わった開放感など微塵も感じさせない淀んだ空気に満たされていて、なんとも気が滅入るものだった。 十二月も半ばに入り、三年の教室がある高等部校舎西翼の三階そのものが、ピリピリとした受験ムードに包まれていた。けれど窓の外の景色は去年の冬とまるで変わらない。野球部員たちがちらほらと集結しているグラウンドの向こう、枯れた木々が寒空に梢を張り巡らせている。その先は住宅街と畑が点在している光景の中、遠くには土手に覆われた大落古利寝川が鈍色の空を写して流れていた。 この場所からそんな景色を眺められるのも、あと三ヶ月と少し。まだ先だ、まだ先だと思いながら過ごしてきた一日一日がこんなところまで私を連れてきていて、気がつけばもう卒業の二文字が目の前にある。 こんな風にしてきっとこれから先の人生も過ぎていくのだな。目の前の机に刻まれたひっかき傷を見ながら、そんなことを思う。それは私がつけた傷ではなく、最初からこの机についていたものだ。化粧板を貫いて深くうがたれた二つの穴と、その下に弧を描いて刻まれた長いひっかき傷。それは笑っている人の顔のようにも見えて、私は毎朝こっそりとその顔に挨拶をしていたものだった。 こなた辺りにばれたら散々弄り倒されるだろうそんな日課も、あと少しで終わる。三月になったら私たちはこの陵桜学園を卒業するのだ。 そのとき、果たして私は笑っているのだろうか。そんなことを考える。 ひとえにそれを決めるのは、私が目当ての大学に入れているかどうかではなくて――。 「よぉ、黄昏れちゃってどーしたかがみぃ。そんなにモロ落ちそうな成績だったのかぁ?」 物思いに耽っていたところに、底抜けに脳天気な声が聞こえてきた。 「そんなんじゃねーよ。っておいっ! 勝手に見るなバカ!」 伏せていた判定結果の用紙をめくろうとするみさおを制止して、ポカリと頭を叩いた。 「むぅー、かがみが叩いたー」 そんなことを云って、わざとらしくあやのに抱きつくみさおだった。 全くこいつも少しくらいは空気を読んで欲しいものだ。皆それぞれに自分の成績と向き合っている受験生だらけの教室で、堂々と判定に言及するなんていい根性をしている。ましてや落ちそうな成績だとか、タブー中のタブーに気軽に触れやがって。案の定、周囲の席で何人かの生徒が頭を抱えているのだった。 そんなことを思っていると、そのバカの口からは続いて爆弾発言が飛びだした。 「まー、私はもう推薦決まってっから人ごとなんだけどな。ほんと受験生は大変だよなぁー、うひゃひゃひゃひゃ」 その瞬間静まり返ったクラスの雰囲気をどう表現すればいいのだろう。突然極寒のオホーツク海に投げ出されたようにというか、こなたと観に行った『時をかける少女』のクライマックスで未来人ケン・ソゴルが時間を止めたときのようにというか。 とにかく凍りついた教室の中で、ただ一人何も気づかずにへらへらと笑うみさおのことを、私は危うく尊敬しかけるところだった。 「……みさちゃん、いつか刺されるよ……?」 そのとき聞こえてきた地の底から響いてくるような低い声が、あやのが発した物だと気がつくまでは。 §2 珍しいと云えば珍しい。 鷹宮駅で電車を降りたとき、一緒にいたのは私とあやのとみさおの三人だけだった。十一月頃からは皆ほとんど寄り道もせずに帰宅するようになっていたから、鷹宮駅からあやのたちと一緒に帰るのは当たり前のことだったけれど。いつも一緒にいるはずのつかさは、今日は進路相談があるとのことで学校に残っているのだった。 「あ、ちょっと寄り道していいか?」 商店街を抜けようかというころだった。ふと、残りが心許なくなっていたものを思い出して、ついでに買っていこうと思ったのだった。 「うん、いいわよ。どこいくの?」 「裏通りに確か手芸用品売ってるところあったわよね? ちょっとニット買ってこうって思って」 「あ、あー。あったけど……。あそこ、ちょっと前に潰れちゃってるわよ?」 「え、うわっ、まじかっ!」 「おーっと、どんだけかがみが普段編み物してないか、それが今白日の下にっ」 「うっさいわっ! あんたに云われたくないっ!」 「へへん、私の場合はそーいうの全部あやのがやってくれっからいぃのだっ」 「いばるようなことかよ。あんただって一生あやのと一緒に生きてくことなんてできないだろ。志望校だって別なんだし」 「いやー、でもあやのは兄貴と同じとこだしなぁ。それに……なぁ、あやの?」 「……う、うん」 目配せするみさおに、顔を赤らめて答えるあやのだった。その含羞に染まった顔を見ていて思い出す。あやのはみさおの兄と付き合っていて、もしかしたら結婚するかもしれないという関係なのだと云うことを。 その人のことは、中学生の時に二、三度みさおの家で見かけたことがある。その頃彼は多分高校生で、本人を見て受けた印象としては、礼儀正しくて優しそうな人だということしか記憶にはない。ただ、あやのやみさおと話しているところを見て、この三人は本当に仲がいいんだなと、そう思ったことを覚えている。 「……もう、またかがみちゃん、そんな顔して」 「いや、別にそんな呆れたとか地雷踏んだとかじゃないわよ。ただ、そのことについて、あんまり深く考えてなかったのよね。そっか、結婚したらみさおのお義姉さんなのか……」 それは、ある意味この二人に一番ぴったりとくる関係なのかもしれないと思う。今でもすでにあやのはみさおの姉のような存在なのだ。いや、それは今に限ったことではなく、私がこの二人に出会った頃からそうだった。なにせ初めてこの二人とちゃんと会話を交わしたとき、あやのはみさおがはしゃいで飛ばしてしまったブレザーのボタンを縫い止めていたのだから筋金入りだ。二人と同じ小学校だったクラスメイトが云うには、昔からこんな感じだったらしかった。 そんな二人だからこそ、姉妹という関係は余りにもぴったりしすぎていて、そうして私はそこに一抹の違和感を感じていた。 それは、余りにもぴったりすぎるのだ。 その先のことを考えるのは、あやのにもみさおにも、そして何よりみさおの兄に失礼な気がして、私はそこでそれ以上考えるのを辞めた。友達相手でも簡単に踏み込んではいけない領域があって、そうして今の私はまだそこに踏み込む覚悟を持っていないのだから。 友達であっても親友であっても、他人と関わろうとするならばそれだけの覚悟が必要なのだ。今年の夏、私はそれを学んだ。 「まあ、あやのはお義姉さんっていうより、すでにあんたのお母さんみたいな感じだけどな」 そう云って、ニシシと笑う。 「まっなー、正直私の母さんよりお母さんらしいと思うぜ」 「……いや、別に褒めたわけじゃないんだが」 「な、なんだってー! かがみ、あやののことバカにしてたのかっ」 「バカにしたのはおまえのことだー!」 ギャーギャーとわめき立てる私たちのことを、あやのは嬉しそうに微笑みながら眺めていた。 道すがら、閉店してしまったという手芸用品屋の話をしながら歩いた。私が中学生の頃、少しは女らしい事でもしようと思って手芸に手を出していた時のこと。みさおは例によって私の不器用振りを思い出して笑った。あやのは例によってほんわかと微笑みながらそんな私のフォローをした。 「最近は、駅前の商店街もシャッターが降りてることが多いよね」 「そうよね。お父さんも商工会に顔出したりするけど、どこもいっぱいいっぱいだって云ってたわよ」 「そりゃそうだよな。食いもんなんてスーパー行くし、小物だってでっかい専門店にまず当たるもんな。駅前のちっちゃい店舗なんてあてにしないっつーか」 かく云う私も、気晴らしに手芸をしようと思って買い物に行ったのは、糟日部駅前のミズサワヤなのだった。 「あのお店やってた小母さんはどうしたの? あやのは最近まで常連だったのよね?」 「うん、お店たたんで東京の娘さん一家と暮らすんだって云ってた」 「そっかぁ、不義利してて云えたことじゃないけど、なんだか寂しいわね」 「覚えてっか? 八百屋のこういちのとこも、店継ぐはずだった長男がIT企業だかに就職したとかで、潰すの潰さないのでもめてるらしいぞ」 「あー、いたいた。あの丸刈りの。そっか、あんた野球部で仲良かったもんね」 ――変わっていくんだな、と思う。 子供の頃、まだ何も知らずに近所を走り回っていた頃は、この街は大きくて、何もかもしっかりしていて、色んな物がずっと変わらずにそこにあるのだと思っていたけれど。大人になって改めて見てみると、なんてもろくて移ろいやすいものなのだろうと思う。 この、人の世というものは。ほんのちょっとしたことで壊れてしまい、そうしてもう二度と元には戻らないのだ。 みさおとあやのだって、そしてあやのの恋人であるみさおの兄だって、きっとそういったすれ違いの可能性を何度も乗り越えて、今もあの頃と変わらないように見える関係を築いているのだろう。 けれどきっと、私には見えないところで、三人は子供だったあの頃とは少しずつ違っているはずだった。 一度大人になってしまえば、男と女の違いを識ってしまえば、あの頃みたいな無邪気な関係なんて決して築けやしないのだから。 そう、私とこなたの関係のように。 住宅街の外れで、手を振ってみさおと別れた。飼っている犬が、キャンキャンと吠えながら尻尾を振ってみさおに飛びかかっていた。あの犬も昔と変わらない。けれどもう、寿命も近いはずだった。 用水路沿いを、あやのと歩いていた。 さやかな水の流れはちろちろと澄んだ音を立てていて、空を写した水面には小魚の銀色の背が光って揺れている。夏の盛りには色々な草花で萌え芽吹く土手道も、今は枯色に染まっていた。 その小川の向こうには、鬱蒼と茂った森林が見えている。そこが私たちの住む鷹宮神社を取り囲む鎮守の森だった。子供のころ、つかさと一緒に探検気分で迷い込んでからは一度も足を踏み入れたことがない、天孫降臨の神代から続いている――と、云われている――曰くつきの森だった。 かさりと私が枯れ草を踏んだとき、あやのがおもむろに口を開いて云った。 「かがみちゃん、さっき変なこと考えたでしょう?」 目を細めておっとりと笑うあやのの表情は、私に放課後の教室を別の意味で凍りつかせたときのことを思わせた。 「な、なによ変なことって。全然わかんないわね」 「……そう? ならいいけど」 「……目が笑ってないわよ」 「あら、失敗失敗」 にっこりと笑うあやのは本当に楽しそうで、私は改めてこの子に対する認識を新たにするのだった。 「かがみちゃんが何を考えたかはわからないけど。あの人のことは本当に大好きよ。女としてね」 「……ずるいわね」 嫣然と微笑んで、あやのは頬を桜色に染めた。私はそんなあやのにどぎまぎしてしまって、自らの業の深さを呪いながら視線を逸らして嘯いた。 「ずるい? どうして?」 「女として、なんて云われたらね。私たちのグループであんたに対抗できるやつなんていないわよ」 「変なこと云うのね。対抗とか、そういう事じゃないでしょう? 私はみんなのこと大好きよ。それぞれ色んな物を背負ってて、頑張ってるじゃない。泉ちゃんだって、普段見せてる通りの子じゃないんでしょ?」 用水路を渡る風は、冬の冷気を孕んで身を切り裂くように吹いている。私のツインテールが、あやのの彼氏が好きな長さに切りそろえられた髪が、風に踊る。慌ててマフラーを引き上げて顎を覆うようにしても、全身に感じる寒気は中々ぬぐえなかった。 「――でもね。私にとってはみさちゃんはどうしても特別なの。みさちゃんは私にとって太陽で、ヒーローで、心の拠り所だから。好きとか嫌いとか、女としてとか恋人としてとか、そんなことじゃなくって、私はみさちゃんがいないと生きていけないんだ」 「――わかるよ」 「うん。かがみちゃんならわかってくれると思ってた。本当は、大学も一緒がよかった。……でも、それは駄目だよね」 用水路を渡ると、あやのの家はすぐそこだ。 ――結局、片足を踏み込んでしまった。 別れ際に見せたあやのの笑顔は、どこかそれまでのものとは違っていて、何かの重荷を下ろしたようにさっぱりとした印象を受けた。 あやのは恐らく同性愛者でもなければ両性愛者でもない。それでも、いや、それだからこそ、あんな風にみさおのことを愛せるのかもしれない。そんなことを考えた。 ならば、その感情はきっとどこまでもきれいだ。 鬱蒼と生い茂る、迷宮のような鎮守の森を見渡しながらそんなことを思って。 私は、自分がこなたに対してもっている感情が、酷く汚れているように感じていた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『4seasons』 冬/きれいな感情(第二話)へ続く コメントフォーム 名前 コメント 読みました!やっぱり最高 -- 名無しさん (2008-05-27 17 16 47) 待っていました。 -- 名無しさん (2008-05-26 12 24 56) 久しぶり!そして乙!! -- 名無しさん (2008-05-26 07 33 12)
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/2097.html
『4seasons』 冬/きれいな感情(第一話)より続く ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― §3 ――ずっと、きれいな人になりたいと思っていた。 男の子は誰でも一度は世界最強を夢見るそうだけれど、女の子は誰でもきれいになった自分を夢見るものだ。 美しくなりたい。可愛くなりたい。そう思って女の子は誰でもいつか鏡の前に立つ。自分の顔の、体のパーツをいちいちあげつらっては、それがきれいかそうではないかと真剣に思い悩んで、他人と比べて落ち込んだりする。 男たちは、それが男にもてたくてやっている行為だと思っているようだけれど、実のところそれは少し違う。勿論きれいな自分を褒めてもらえれば嬉しい。素敵だねと云ってもらえれば嬉しい。けれどそれはただ誰かに褒めてもらうことだけが目的ではなくて、きれいだと思える自分がそこに存在していることが重要なのだ。 だから、例え世界に自分一人だけが取り残されたとしても、私は毎朝身だしなみを整えるだろうし、できるだけ背筋を伸ばして生きようとするだろう。 『誰も見ていないと思っても、お天道さまが見てるんだよ』 改築前の縁側でそう云ったお婆ちゃんは、本当にきれいな人だった。しわくちゃで、背筋が曲がっていて、杖がなければ真っ直ぐ歩くこともできなかったけれど。私の目にはお婆ちゃんの背筋はいつでも凜と天頂に向けて伸びていたし、その眼差しはどこまでも真っ直ぐに前を向いているように見えていた。 人と人とが殺し合い、誰かが誰かと一つのものを奪い合う。そんな時代を生き抜いてきた人だ。女性の社会進出なんて夢のようだった時代に、たった一人で娘を育ててきた人だ。そういう人生を生きてきてなお、お婆ちゃんはきれいな人だった。 私が小学校二年生の頃に亡くなってしまったけれど、その死顔は微笑んでいるように安らかだった。 そんな風に、きれいになりたいと思っていた。 見た目だけではなくて、心も体も清潔に。 たとえばだらしなく過ごしてしまった休日の夜には一日を無駄にしてしまったと落ち込むものだし、本当は間違っているとわかっていることをあれこれと云い訳をしてやってしまったりすれば、あとで必ず後悔するものだ。 そんなことなら、最初からやらない方がいい。そう思って生きてきた。 いつでも誰かが見ていることを意識して、だらしない格好はせず、ちゃんと前を向いて、間違っていることは間違っていると云って、そうしてせめてつかさを護れるくらいには強く。 あの日のお婆ちゃんが、私の目標だった。優しくてきれいで正しくて強い。そんな人間になりたかった。 けれど気がつけば、いつのまにか私は堅物キャラで通っていた。 ドラマや少女漫画でよくある、主人公を目の敵にする融通の利かない委員長キャラ。その作品を読んでいるときには、なんてつまらない人間なのだろうと思っていたはずなのに。いざ口を開けば、私の言動はそんなキャラたちにそっくりだった。 男の子たちにはからかわれることが多かったけれど、それでも私は私が信じる正しくてきれいな行動を取り続けていった。女の子には頼りにされていて友達もよくできたけれど、その反面、男勝りな女の子という扱いを受けることが多かった。他人に自分のことを任せきりで、いつも持ち歩いている手鏡を覗き込んでは男の子にしなを作って媚びを売る。クラスが変わっても大抵一人か二人はいるそんな女の子はいつだって男の子にもてていて、私はなんだかそれが理不尽な気がしていた。 ずっときれいになりたいと思ってきたはずなのに、いつからか私は違ってしまったのだろうか。私は、きれいな女の子じゃないのだろうか。 そんな風に悩んで、自分を変えようと思ったこともある。中学二年になった時のクラス割りは、あまり親しい子とは一緒にならなかったから。私はふと思い立って、委員長キャラを払拭しようとしてみたのだ。あまり自己主張せず、同級生を叱りつけたりするなどもってのほかで、可愛い声と仕草を意識しながらおしとやかに歩く。 けれどそんな試みはすぐに瓦解した。みさおと同じクラスになってしまったのが不運で、そのだらしなさと底抜けの無邪気さとやる気のなさを前にして、私は突っ込みと世話焼きを抑えきることができなかったのだ。 もっとも、あとであやのに聞いたところによると、私のイメージは最初から委員長キャラで首尾一貫していたようで。成功するはずもない無駄な努力をして周囲から失笑を浴びることにならなかっただけ、よかったのかもしれない。 今でもあのときの数週間のことを思い出すと、少しだけ顔が赤らむのだった。 ――ずっと、嫌いだった。 きれいになりたい、正しくありたいと思っているだけなのに、生真面目で攻撃的に見えているという自分。 凛々しくありたい、ぴんと背筋を伸ばして立っていたいと思っているのに、少し好意的な言葉をかけられるだけで、途端に動揺して照れてしまう自分。 そんな自分が醜く思えて、ずっと嫌いだったのだ。 ――あの日、こなたに出会うまでは。 あの春の日に、桜に覆われた空の下でこなたが『ツンデレ萌え』と云ってくれたとき、私の中で何かが変わった。 つい我慢できずにきついことを云ってしまっても『ツンツンモード萌え』と不思議な喜び方をしてくれて。 私がすぐにつかさの元に行ってしまうことを、他の友達は大抵嫌がったものだったのに。こなたは『双子キャラ最高だよ!』なんて云って、二人纏めて一緒に友達になってくれた。 私が照れて頭の中が真っ白になってしまったときには、そんな私を楽しそうにみつめては『ツンデレキター!』なんて涙を流しながら喜んだ。 私が何をしても、どれだけ恥ずかしいことをしても、後で思い出して落ち込んでも、自分で自分のことを嫌いになってしまっても。 その全てを、こなたは笑いながら受け入れてくれた。『萌え』という一言で、私の全てを肯定してくれた。 だから、私はやっと自分のことを誇れるようになったのだ。 こなたに許されたことで、私はずっと憧れていたきれいな自分に、初めて出会えたのだ。 こなたがいるだけで、私はきれいになれる。 でも、それではこの感情をどうすればいいのだろう。 こなたのことが好きだという、このやり場のない感情は。 口が裂けてもこなたに伝えることができないこの秘められた感情は、こなたに許されることもなく、私の中で渦巻いているのだ。 あの秋が過ぎて、私は少しだけ落ち着いた。 以前みたいに、こなたのことをもっと知りたいだとか、こなたに自分のことをもっと知って欲しいだとか、そう思って焦ることもなくなった。 それはこなたの故郷を訪れて、こなたを産みだしたルーツに触れることができて、簡単には切れることがない絆を結べたと感じたからかもしれない。恋という感情が互いの未知な部分に抱く憧れだと定義するならば、それはすでに恋心とは呼べないものだろう。 けれど、それでもこなたを好きだというこの感情は、消えることなく残っていて。 それどころか、以前にも増して強く燃え上がっていて。 そうして私はそれが醜いと感じている。 他人の身体を思うさま貪りたいと思っている女の子は、到底きれいとは云えないだろう。 では、その感情をどうすればいいのだろう。 もしそれをこなたに云ったならば、きっとまた泣きゲーがどうの百合アニメがどうのとひとしきり世迷い言を並べ立て、そうして最後に『でもそんなかがみ萌え』と云っていつもみたいに受け入れてくれるだろう。 私には醜く思えるそんな感情も、『それも萌え要素なんだよ』と云って全てそのまま受け入れてくれて、そうしてそれを驚くほどきれいな物に変えてくれるだろう。 けれど、そんなことが云えるはずもなくて。 だから私は、こうして一人醜い心を抱えて惑っているのだった。 §4 「ただいまー」 階下から聞こえてきた声に、私は慌てて顔を上げた。 一瞬、ここがどこで今がいつなのか、それがわからなくなって混乱する。 けれど次第に意識がはっきりとしてきて、ここが自室の机の上であることに気がついた。私は机に向かったまま眠ってしまっていたのだった。 慌てて時計を見たら、まだ家に帰ってきてから一時間ほどしか経っていない。寝ていたのはせいぜい十分くらいだろう。 夜遅くまで勉強するのはいいとして、それで居眠りしてしまったり眠さで効率を落としてしまったら意味がないじゃないか。そんな風に反省していた私の耳に、トントンと階段を上がってくる跫音が聞こえてきた。そうだ、ただいまというつかさの声で目が覚めたのだ。 急いで身支度を調えて、挨拶をしようと立ち上がったとき、コンコンとドアをノックする音がした。 「あ、おかえり、どうぞー」 カチャリとドアを開けて入ってきたつかさは、外が寒かったのか、少しだけ頬を赤くしていた。それがつかさの顔立ちの可愛らしさを引きだしていて、私は改めてこの妹のことをきれいだと思う。 「ただいま。ニット買ってきたよ~」 「おー、ありがとう」 そう云った私の顔を、つかさはまじまじと見つめていた。そうして突然破顔したかと思うと、口元に手を当てておかしそうにころころ笑い出した。 「な、なによ急に……。私の顔、なんかついてるか?」 「あはは、お姉ちゃん居眠りしてたでしょう?」 「えっ、あれっ、な、なんでわかっちゃったの?」 「ほっぺに数式が書いてあるよ。……三角関数?」 「はうっ」 慌てて卓上鏡を見ると、居眠りをしていたときにノートの上に乗ていた左のほっぺたに、シャーペンで書かれた文字がくっきりと写っているのだった。 「だ、誰にも云わないでよこんなこと」 そう云って、鏡を見ながら手でぐしぐしと頬を拭った。鏡の中から見返してくる私は頬を真っ赤に染めていて、やっぱり私はそれがみっともないなと思う。 「あはは、云わないよ。それよりお姉ちゃん、こっち向いて」 「ん?」 振り向いた私の頬に、冷たい感触が当てられた。つかさが、持っていたウェットティッシュで、私の頬を拭いてくれたのだった。 「あ、ありがと」 頬に感じるウェットティッシュの感触はなんだかとても心地がよかった。そうして丁寧に私の頬を拭くつかさも、これ以上なく嬉しそうな満面の笑みを浮かべていて。 私は、こんな時間がもう少し続いてもいいかな、なんて思っていたのだった。 ※※※ その夜のことだった。 「ねえつかさ、聞きたいことがあるんだけど、今平気かな」 「あ、うん、大丈夫だよ」 振り返ったつかさは、鼻と上唇の間にシャーペンを挟んだ面白顔をしていた。 つかさの部屋は、ベランダに通じる大きな掃き出し窓があるせいか、私の部屋よりも少しだけ寒く感じた。寒くなってきてからカーテンを厚手の物に取り替えたのだけれど、それでも忍び寄る冷気には勝てないようだった。丹前と膝掛けと厚手のロングソックスで完全武装した面白顔の女子高生の姿は、あまり他人に見せられないと思う。 「ここがちょっとわからないのよね。教えてもらえる?」 顔はとりあえず無視して私が取り出したのは、勿論問題集でもなければノートでもない。さすがにつかさに勉強を教わるほど、まだ私は落ちぶれてはいないつもりだった。 「あれ? 手袋なの?」 「う、うん、そうだけど……」 「ゆきちゃん用のも、みさちゃん用のも、あやちゃん用のも、ミトンだったよね?」 「そ、そうだけど、ほら、なんとなくミトンは慣れてきたからさ、最後に手袋にも挑戦してみようかなって思ってね?」 「あ、そうだよね、挑戦してみるのは大事だよね」 「……なんかひっかかる云い方だな」 にこにこと笑っているつかさには何を云っても通じなさそうで。私は精一杯憮然とした表情を浮かべながら、編みかけの手袋をつかさに差し出した。 「あ、ここはほら、指の股の部分が必要だから増し目をして、あとから拾っていけばいいってことだよね。指のところは普通に輪編みで」 そう云って、つかさは目の前で少しだけ実演してみせてくれた。 「うわぁ、さすがに手の動きが違うわね」 「え、えへへ、でもこんなのやってれば慣れるし」 照れたようにそう云って、つかさは進めたところを自分でほどいてから返してくれた。私が自分で編まなければ意味がない。つかさもそれをわかっているから、何も云わずに元に戻してくれたのだ。 「こ、こう?」 「あ、ちょっと違うかな? そこは右の針で奥から手前に、こう、こうやって」 ベッドの上でたどたどしく編み棒を動かす私を、つかさはやきもきした感じで手を動かしながら見ていてくれた。 「こうかな?」 「やん、違うよー、そこはこうやって左の針に移すんだよー」 「あー、もう、難しいなっ」 そう云ってかしかしと頭を掻く私だった。 そうしてつかさはそんな私を不思議そうな顔でみつめていた。 「な、なによ?」 「……知らなかった。お姉ちゃんって凄く不器用なんだね」 「はぁ? 今更何云ってるのよ。そんなこと、普段私が料理してるところ見てきたあんたが一番よく知ってるじゃないの。何年一緒に生きてきたと思ってんのよ」 「そ、そうなんだけど……なんでだろう。よくわかんないけど、お姉ちゃんだから、できないんじゃなくて、なんかそうする意味があるんだと思ってたの」 「あはは、なぁにそれー。あんた云ってること変だよ? お鍋を吹きこぼしたり、卵焼き焦がしたり、皮むきでどんどんじゃがいもが小さくなってくことに、意味なんてあるわけないじゃないの」 「だってだってっ、わたしにとってのお姉ちゃんって、ずっと憧れの存在だったんだもん。強くて優しくてなんでもできて」 ――それに、すっごくきれいで。 顔を赤らめながら上目遣いに見つめるつかさだった。 私はまさかつかさにそんなことを云われるなんて思いもしていなくて、思わず手にしていた編み棒を取り落としてしまった。ベッドに置いてあった玉巻に編み棒が当たって落っこちる。それはころころと赤い糸を繰り出しながら転がっていき、やがて部屋の隅で止まった。 「な、なななな、何云ってるのよつかさ」 「……本当だよ?」 そう云って、にっこりと笑った。 「……ありがとう。でも私、本当はそんなに出来た人間じゃないんだよ」 「うん、最近はちょっとわかるようになったの。お姉ちゃん、わたしのためにずっと無理してたんだなって」 つかさは、転がっていった玉巻を拾ってくるくると巻きだした。その瞬間私たちの間には赤い糸が架かっていて、けれどすぐに巻き終わって玉巻をベッドに置くと、その絆も消えてしまった。 「――別に、あんたのためじゃないわよ」 「でも、わたしのためになってたから。だからこんな風にお姉ちゃんのために何かできるの、すっごく嬉しいな」 つかさは、隣に座って落ちていた編み棒を私に握らせた。 腰を据えて教えるつもりになったのだろう、真剣な顔つきをしていて、きりりと上がった眉尻がなんだか酷く頼もしく見えた。 「あ、ほら、そこはそのまま拾っちゃうと、穴が開いちゃうでしょう?」 「……ほんとだ」 「こう、くるっとねじって拾い目するといいんだよ」 「くるっと?」 「こう、くるっと」 「……わかんない」 そう云って口を尖らすと、つかさは突然ぷーっと吹き出してケタケタと笑い始めた。 「わ、笑うなー!」 「あはははは、だ、だってお姉ちゃん、凄い可愛いんだもん」 お腹を抱えて足をぱたぱたさせながら、涙を流して笑い続けるつかさだった。 「ちょっと……笑いすぎだよ」 「あははは、ご、ごめん、なんかつぼに……あははは」 私のために何かできるのが嬉しい。そう云ったさっきの台詞は一体なんだったのか。 ――もう放っておこう。 ひーひー云ってるつかさを無視して、編み物に精を出す。 くるっとねじって拾い目、か。 編み地から一本渡っている糸を拾って、ねじってから通そうとするけれど、今一ピンとこなくて上手くいかなかった。改めて私はなんて不器用なんだろうと思う。それは編み物のことだけではなくて、こなたとのことだってそうなのだろう。 不器用で、融通が利かなくて、生真面目で。 本当はきっと、もっとスマートできれいな解決方法があるのだろう。でも私にはそんな解決方法は思いつきもしなかったのだ。 そんなことを考えていると、突然背中にふわりと柔らかい感触が降ってきた。 「――つかさ?」 気がつくと、つかさに後ろから抱きしめられるような格好になっていた。肩に顎を乗せたつかさの顔が、私の顔のすぐ横にある。 「んーっとね、こうやってねじって、付け根から指先の方に棒を通すんだよ」 そう云って、後ろから私の指を取って動かしてくれた。なるほど口では説明しづらいと思って、手を取ってみせてくれたのだろう。 ――でも、これは。 つかさの吐息が頬にかかって、それが少しだけくすぐったい。 たまに頬と頬が触れあうと、そのすべすべとした感触に驚いて。 ふわりと漂う香りは私とは違う、つかさだけが纏っている匂いなのだった。――つかさは、夏頃からは私の真似ではなく、自分で選んだ化粧水を使うようになっていた。 そうして背中を包み込むつかさの身体は柔らかくて暖かくて、私はその感触に少しだけどきどきしていた。けれどそれ以上に、妹に抱きしめられているというその事実は私の心をほっこりと暖めてくれていて、冬の最中だというのに寒さなんて少しも感じられなかった。 「――あ、こうか!」 「そうそう、それだよー。ごめんね上手く説明できなくって――って、あっ!」 やっとできるようになって二人で顔を見合わせて笑っていたのに、つかさは突然そんな叫び声を上げると、弾かれたような動作で私の背中から身を引いた。 「どうしたのよ?」 「あ、ううん。その、ごめんねわたし、抱きついたりして迷惑だったかな……?」 うつむきがちにそう云ったつかさを見ていて、私はやっとつかさの考えを飲み込めた。自分が抱きつくことで、私が変な感情を感じてしまったら困るだろうと。つかさはそう思って身を引いたようだった。 「なぁにそれ、気を遣いすぎだって。心配しなくても、妹に欲情したりしないわよ」 苦笑して、つかさのおでこを軽く突っついた。 それは、確かに少しどきどきはしたけれど。そんなことはわざわざ云うことでもないだろう。 「そ、そっか、そうだよね。えへへ、ごめんね。わたしそう云うのよくわかんなくって」 「まあ、家で男の人って云ったらお父さんだけだもんねー」 「そうそう、だからそういうの想像できなくって。お父さんのこと考えても全然なんていうか、ねー?」 ひとしきり実の父親のことを好き勝手に云い合って、ふと時計を見上げればもうつかさの部屋に来てから二十分ほど経っていた。 「ああ、いけない、そろそろ勉強に戻らないと――」 そう云って立ち上がろうとしたけれど、それはできなかった。 後ろから覆い被さってきたつかさが、ぎゅっと私の身体に腕を回して抱きしめていたからだ。 「――つかさ?」 先ほどとは違う、抱きしめることを目的としたその行為に驚いて、そうして馬鹿みたいに少しだけ胸が高鳴った。 「お姉ちゃん、大学受かったら一人暮らしするって、本当?」 私の背中に顔を埋めたまま、くぐもった声でつかさが問いかけた。 ――ああ、そうか。誰かからもう聞いていたのか。 それは、云おう云おうとは思っていたけれど改めてつかさに云うタイミングがみつからなくて、ずっと云えないままにしていたことだった。 「――うん、慶応に受かったら、だけどね。そう考えてるよ」 「――どうして」 「んー、やっぱり片道二時間とかはきついかなぁって」 「それだけ?」 「相談してみたら、そのくらい負担じゃないくらいの収入はあるからって。いのり姉さんからも背中押されちゃったしね」 「それだけ?」 「家事を全部やらないといけないのは大変だけど、やっぱりそういうの全部つかさに頼りっきりの人生だと情けないからさ」 「それだけ?」 「司法試験の予備校とかもあって、そういうところに通うときにも東京の方が色々便利だよね」 「本当に、それだけなの?」 その声はいやに近くから聞こえてきて、振り向くとつかさの顔はすぐ目の前にある。今にもおでこが触れあいそうなほど近くで私を見つめるつかさは、少し涙ぐんでいた。 「こなちゃんから距離を取りたいとか、わたしから離れたいとか、そういうことじゃないの?」 段々と容積を増やしていったつかさの涙は、云い終わると同時にぽろりと決壊して、目尻からこぼれ落ちていく。 人の涙はどうしてこんなにきれいなんだろう。そんなことを考える。 「――違うよ。そんな部分も少しはあるかもしれないけど、本当にさっき云った理由がほとんどだよ」 そう云って、肩に置かれたつかさの手に手を重ねて撫でさする。 ――その時私は、小さな嘘をついた。 こなたから距離を取りたいなんて思わないけれど、つかさから離れたいとは少しだけ思っていた。 こんなに優しくて暖かいつかさと一緒にいたら、きっと私は駄目になってしまうから。いつもつかさがいるというだけで安心してしまって、一歩も前に進めなくなってしまうから。 だから私は、一人でやっていけることを自分に証明しないといけないと、そう思ったのだ。それができなければ、こなたとの新しい関係なんて、到底築くことはできないだろう。 つかさだってそうだ。本当は一人でなんでもできるのに。もっともっと色々な可能性を持っているはずなのに。私がいることで、私が護ろうとしたことで、私はつかさの可能性を狭めてしまっていた。 もう、私たちはそれぞれの道を進まないといけない。二人で一人の双子ではなくて。お互いがお互いに依存する関係ではなくて。それぞれに別れたそれぞれの道を。 あの夏の日に別れてしまった、その道を。 けれどこれ以上つかさを悲しませたくなくて、私は小さな嘘をついたのだ。 そんな嘘なんて、私にとっては簡単なものだった。この半年間、もっともっと沢山の嘘を私はついてきたのだから。 「――どうして」 「ん?」 私の背中に顔を埋めて、いやいやをするように頬を押しつけながらつかさは云った。 「どうして普通の女の子は女の子を好きになれないの? もしわたしがそうできたなら、絶対お姉ちゃんを離さないのに……」 「――そんなこと」 言葉を続けようとした私の喉から、奇妙なくぐもった音が漏れ出して。 「――そんなこと、云わないで」 そうして私の瞳からも、涙が次々とこぼれ落ちていく。 冬の夜。その部屋を二人分の泣き声が満たしていって。 私たちは、また少しだけ大人になった。 『4seasons』 冬/きれいな感情(第三話)へ続く コメントフォーム 名前 コメント かがみ×つかさ も良い ですね! -- チャムチロ (2012-08-15 14 26 38) かがつかフラグ…っ! かがみはつかさに欲情しないとか言ってるけどバイなんだから実際はちょっと意識してるんだろうな その微妙なかがみのドキドキ感も描写されてて改めて凄いと思った -- 名無しさん (2008-08-13 02 26 16) 続き、続きは~?まだ~? -- 名無しさん (2008-05-31 20 43 12) 何でこんなに続きが気になるのでしょうか……orz gj! -- 名無しさん (2008-05-30 17 09 56) つかさ……なんて恐ろしい子…! -- 名無しさん (2008-05-30 13 50 02) 大人になるってなんだろう?人を好きになる、愛するってなんだろう?……すごく難しい -- 名無しさん (2008-05-30 06 27 19) ああ、何て切ないんだ…。 どうかラッキー・スターたちに幸せな春が訪れますように。 余談ながら、更新されたかどうか一日に八回ぐらいチェケしてます。 いつも素敵なお話をありがとう! -- ぱぶ (2008-05-30 02 48 32)
https://w.atwiki.jp/4seasons/pages/4.html
ニュース @wikiのwikiモードでは #news(興味のある単語) と入力することで、あるキーワードに関連するニュース一覧を表示することができます 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_174_ja.html たとえば、#news(wiki)と入力すると以下のように表示されます。 マニュアル作成に便利な「画像編集」機能を提供開始! - ナレッジ共有・社内wikiツール「NotePM」:時事ドットコム - 時事通信 マニュアル作成に便利な「画像編集」機能を提供開始! - ナレッジ共有・社内wikiツール「NotePM」 - PR TIMES 【アイプラ】リセマラは必要?当たりキャラランキング【IDOLY PRIDE】 - Gamerch(ゲーマチ) 篠原悠希×田中芳樹が明かす「歴史ファンタジー小説ならではの悩み」(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 【Apex Legends】ヴァルキリーの能力と評価【エーペックス】 - Gamerch(ゲーマチ) モンハンライズ攻略Wiki|MHRise - AppMedia(アップメディア) 【ウインドボーイズ】リセマラ当たりランキング(最新版) - ウインドボーイズ攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) ポケモンBDSP(ダイパリメイク)攻略wiki - AppMedia(アップメディア) 【テイルズオブルミナリア】リセマラ当たりランキング - TOルミナリア攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) SlackからWikiへ!シームレスな文章作成・共有が可能な「GROWIBot」リリース - アットプレス(プレスリリース) 【ダンカグ】登場キャラクターと担当声優一覧【東方ダンマクカグラ】 - AppMedia(アップメディア) 【ウマ娘】チャンピオンズミーティングの攻略まとめ - Gamerch(ゲーマチ) 【ウマ娘】ナリタブライアンの育成論|URAシナリオ - Gamerch(ゲーマチ) ドラゴンクエストけしケシ攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) サモンズボード攻略wiki - GameWith 【スタオケ】カード一覧【金色のコルダスターライトオーケストラ】 - Gamerch(ゲーマチ) 【スマブラSP】ソラのコンボと評価【スマブラスペシャル】 - Gamerch(ゲーマチ) 【ブレフロレゾナ】リセマラ当たりランキング【ブレイブフロンティアレゾナ】 - ブレフロR攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【ポケモンユナイト】サーナイトの評価と性能詳細【UNITE】 - Gamerch(ゲーマチ) 仲村トオル、共演者は事前に“Wiki調べ” - 沖縄タイムス 【ENDER LILIES】攻略チャートと全体マップ【エンダーリリィズ】 - Gamerch(ゲーマチ) 【ウマ娘】あんしん笹針師の選択肢はどれを選ぶべき? - Gamerch(ゲーマチ) 【ポケモンユナイト】アップデート情報・キャラ調整まとめ - ポケモンユナイト攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【Apex】シーズン11の新要素と最新情報まとめ【エーペックス】 - Gamerch(ゲーマチ) ロストジャッジメント攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【Among us】新マップThe Airship(エアシップ)の解説【アモングアス】 - Gamerch(ゲーマチ) ハーネスについて小児科医の立場から考える(坂本昌彦) - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース ゼルダ無双攻略Wiki|厄災の黙示録 - AppMedia(アップメディア) ウマ娘攻略Wiki - AppMedia(アップメディア) 【まおりゅう】最強パーティー編成とおすすめキャラ【転スラアプリ】 - Gamerch(ゲーマチ) ゲトメア(ゲートオブナイトメア)攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【白夜極光】リセマラ当たりランキング - 白夜 極光 wiki - Gamerch(ゲーマチ) お蔵入りとなった幻の『スーパーマリオ』 オランダの博物館でプレイ可能?(リアルサウンド) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース ナレッジ共有・社内wikiツール「NotePM」が「ITreview Best Software in Japan 2021」のTOP50に選出 - PR TIMES 真女神転生5攻略Wiki|メガテン5 - AppMedia(アップメディア) 【B4B】近接ビルドデッキにおすすめのカード【back4blood】 - Gamerch(ゲーマチ) 【ウマ娘】サイレンススズカ[サポート・配布SSR]のイベントと評価 - Gamerch(ゲーマチ) ポケモンスナップ攻略wiki - AppMedia(アップメディア) 富野由悠季「ブレンパワード」作り直したい!ファンを前に意欲(シネマトゥデイ) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 【スマブラSP】カズヤの評価とコンボ【スマブラスペシャル】 - Gamerch(ゲーマチ) ナレッジ共有・社内wiki「NotePM」が「ITreview Grid Award 2021 Fall」で、チームコラボレーションとマニュアル作成部門において「Leader」を5期連続でW受賞! - PR TIMES メモ・ドキュメント・wiki・プロジェクト管理などオールインワンのワークスペース「Notion」が日本語ベータ版提供開始 - TechCrunch Japan 【ギアジェネ】リセマラ当たりランキング【コードギアス】 - ギアジェネ攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) モンスターファーム2(MF2)攻略wiki|アプリ・Switch移植版 - AppMedia(アップメディア) 【ブラサジ】最強キャラTierランキング【ブラックサージナイト】 - Gamerch(ゲーマチ) 【パワプロ】鬼滅の刃コラボ情報まとめ - Gamerch(ゲーマチ) 【SPAJAM2021】第3回予選大会は「クイズ!WIKIにゃんず!」を開発したチーム「かよちゃんず」が最優秀賞! | gamebiz - SocialGameInfo 検索結果における「ナレッジパネル」の役割とは・・・ウィキメディア財団とDuckDuckGoの共同調査 - Media Innovation 【FGO】サーヴァントコインの入手方法・使い道 - AppMedia(アップメディア) ナレッジ共有・社内wikiツール「NotePM」が「BOXIL SaaS AWARD 2021 Autumn」にて「コラボレーション部門」を受賞! - PR TIMES 【ロストジャッジメント】「タイムカプセルのゆくえ」の攻略チャート【ジャッジアイズ2】 - AppMedia(アップメディア) 「ゼルダの伝説 BotW」のマラソンで23秒? 驚きの速さで完走した方法が話題(リアルサウンド) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース Wikipediaが「中国人編集者の身の安全を守るため」に一部の編集者アカウントをBANに - GIGAZINE 【ドッカンバトル】3.5億ダウンロードキャンペーン最新情報 - ドッカンバトル攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) BTS(防弾少年団)のV、8月のWikipedia閲覧数が韓国アーティストで1位!グループでは4ヶ月連続トップ - Kstyle 【イース6オンライン】リセマラ当たりランキング|召喚ガチャの開放条件は? - Gamerch(ゲーマチ) BacklogからNotePMへwiki情報を自動API連携する「Backlog to NotePM」をSaaStainerに掲載開始 - PR TIMES ライザのアトリエ2攻略Wiki - AppMedia(アップメディア) 真女神転生3リマスター攻略Wiki|メガテン3 - AppMedia(アップメディア) ガーディアンテイルズ(ガデテル)攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) タスクも文書もWikiもデータベースもまとめて管理できる「Notion」とは? - ASCII.jp ナレッジ共有・社内wikiツール「NotePM」が、見るだけ専用ユーザー『無料』の新プランを発表! - PR TIMES 【かのぱず】リセマラ当たりランキング【彼女お借りします】 - Gamerch(ゲーマチ) 【乃木フラ】リセマラの必要はある?【乃木坂的フラクタル】 - Gamerch(ゲーマチ) メトロイド ドレッド攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【グランサガ】リセマラ当たりランキング - グランサガ攻略wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【パワプロ】生放送まとめ|パワフェス2021 - パワプロ攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【ポケモンユナイト】サーナイトのおすすめビルド(わざ・持ち物) - Gamerch(ゲーマチ) ルーンファクトリー5攻略wiki|ルンファク5 - AppMedia(アップメディア) 【ふんクロ】リセマラ当たりランキング【シャーマンキング】 - ふんクロ攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 簡単操作で自分専用Wikiを構築できるMarkdownエディタ「Obsidian」のモバイル版を使ってみた - GIGAZINE ディーサイドトロイメライ攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 情報マネジメントツール「Huddler」がwiki機能を刷新 - PR TIMES シェアエコ配送アプリ「DIAq(ダイヤク)」のアンカーアプリで、高層ビル・商業施設の入館方法などお役立ち情報をまとめた「DIAqwiki」を公開 - アットプレス(プレスリリース) 異常熱波のカナダで49.6度、いま北米で起きていること(森さやか) - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 【ツイステ】マスターシェフの攻略~辛味のふるさと~【料理イベント】 - Gamerch(ゲーマチ) 【ラグナロクオリジン】リセマラは不要?おすすめ職業は?【ラグオリ】 - Gamerch(ゲーマチ) 白夜極光攻略wiki - AppMedia(アップメディア) 【バイオミュータント】2.02アプデ|アップデート1.4情報 - バイオミュータント攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) エッチな犯罪許しません! 『電脳天使ジブリール』サービス終了に落涙 - 電撃オンライン ニーアレプリカントリメイク攻略wiki|ver.1.22 - AppMedia(アップメディア) アイプラ攻略Wiki|アイドリープライド - AppMedia(アップメディア) 【ウマ娘】ゴルシウィークはいつから?キャンペーン情報まとめ - Gamerch(ゲーマチ) シーズン66 - 【超速GP】ミニ四駆 超速グランプリ攻略まとめwiki - 電撃オンライン 乃木坂的フラクタル攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 「こんなことになるとは…」13年前のエイプリルフールについた“嘘”がネットで… ある男の告白(BuzzFeed Japan) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 整理不要の情報共有ツール(社内Wiki)「Nerve」シードラウンドで総額約3500万円の資金調達を実施 - PR TIMES 【ウマ娘】隠しイベントの発生条件と効果まとめ - Gamerch(ゲーマチ) Nerve - 整理不要の情報共有ツール(社内Wiki) ローンチカスタマー募集開始のお知らせ - PR TIMES Among Us攻略Wiki【アマングアス・アモングアス】 - Gamerch(ゲーマチ) 【ひなこい】最強ひな写ランキング - ひなこい攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 稲作アクションRPG『天穂のサクナヒメ』における「農林水産省攻略wiki説」は本当なのか? - AUTOMATON 無料とは思えない多機能っぷりなWikiインフラ「Wiki.js」レビュー、自前でホスト&外部サービスと連携可能 - GIGAZINE Microsoft Teamsの基本と活用(24) TeamsのWikiを使う - マイナビニュース 『ゲーミングお嬢様』での提起が話題に “企業系wiki”に横たわる問題点とは - リアルサウンド 「エイリアンのたまご」,自動周回機能と公式wikiが登場 - 4Gamer.net 【リゼロス】Re ゼロから始める異世界生活 Lost in Memories攻略まとめwiki - 電撃オンライン ヌーラボ、「Backlog」の絵文字入力の補完機能やWiki編集の自動マージ機能を改善 - CodeZine(コードジン) ヌーラボ、プロジェクト管理ツール「Backlog」の絵文字入力の補完機能・Wiki編集の自動マージ機能を修正改善 - PR TIMES Backlog、Wikiにファイル添付が容易にできる機能をリリース -- グローバルバーの視認性改善なども実施 - PR TIMES
https://w.atwiki.jp/ruugle_sennsei/pages/228.html
Seasons ゲーム T山さんが新しいボードゲーム買うじゃないですか。 やるじゃないですか。楽しいじゃないですか。 でも勝てなくて、またやりたくなるじゃないですか。 中々人数揃わないと出来ないじゃないですか。 ここで紹介するじゃないですか。 興味持ってやりたくなる人増えるじゃないですか。 私の勝てる機会が増えるじゃないですか ドヤア ということで、ボードゲームの紹介 ○ざっくりとした説明 プレイヤー達は一流?の魔術師。 使い魔や魔法の道具を召還し、他の魔術師よりも高みを目指す。 魔術師の価値はクリスタルの数で決まる。あらゆる手段を駆使してクリスタルを手に入れろ 運命を決めるのはダイス。その目に星は輝くのか。 漆黒のカードがもたらすのは勝利への鍵かそれとも…… 戦いの季節は3年。足場を固める一年目、戦況が脈動する二年目、そして決着の三年目 焦ってはいけない。ただ、気をつけろ時に季節は靴を履いて走るように過ぎ去っていく。 戦いを彩る使い魔と道具は実に50種類。その組み合わせと戦略は無限大。 自分だけの戦略、コンボを作り出せ。 さあ、魔術師達の戦いが始まる! ○ゲーム説明(以下は読むよりやった方が面白い) プレーヤーはなんやかんやして9枚のカード(使い魔や道具)でデッキをくみます。 デッキを分けたり順番を決めたりして準備完了 スタートプレーヤー(親番的な)がサイコロを人数に応じた数だけ振ります(ゴロゴロ スタートプレーヤーから順番にサイコロを取っていきます。 サイコロの目に応じてアクション 魔力(コスト)を溜めたり、召還ゲージを上げたり、カードを引いたり、クリスタルをもらったり…… まずは魔力を貯めてカードを召還 カードの効果でさらに色々 みんながアクションすると、季節が進んでスタートプレーヤー交代 で、所定の季節が過ぎるまでこの繰り返し 場にカードが貯まってくるとアクションが複雑になって盛り上がり まあ、やらないと分からんよ。 ○カード紹介(完全に雰囲気紹介の駄文) ●道具編 じじい:一定の魔力をコストと交換できる。使えない。点が低い(召還したカードは終了時に一定のクリスタルになる)。ダントツの不人気キャラ サイコロ:自分の取ったサイコロを振り直すことが出来る。プレイヤーを考えない凡愚に変える危険なカード ガントレット:召還する際のコストが下がる。人気者、主婦の味方、H田の御用達 ツボ:召還すると好きなコストがもらえる。ガントレットとの組み合わせでさらにお得 図書館: おっさんの像:召還するとクリスタルがたくさんもらえる。見た目はあれだが、そこそこ人気 王冠:好きだけど、使っても勝てない 聖杯:fateとは無関係。 引いたカードをコスト無しで召還できる 夢のお薬:ドラッグ スタッフー:召還するたびにボーナスがもらえる。 序盤で出せれば優秀 靴:季節を戻したり進めたり出来る。 侮る無かれめっちゃ危険 T山のお気に入りその1 ◎使い魔 きも兎:人の物まねが得意 中二猫:猫税(クリスタル)を取り立てる フクロウ:ルールを知って一躍時の人に ケルちゃん:さすが番人 首長:T山のお気に入りその2 感じ悪いさん:人のクリスタルを減らせる。 感じ悪い これでもまだ全体の1/3くらいしか紹介してないんだぜ。 しかもまだ使ってない上級者向けのカードもあるんだぜ(2012/11現在) 興味がわいてきたらすぐにT山の予定を確認するんだ セカンドハウスはいつでも君たちを歓迎する。 みんなの興味を引くようにどんどん編集して良いのよ 初心者狩り・・・かっこ悪いw -- 名無しさん (2012-11-29 18 38 46) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/hidebulol/pages/94.html
Seasons 邦題:12季節の魔法使い ほげーずん どみとMTGが混ざったようなカードゲーム(げろ談) 山からプレイヤー毎に9枚配ったのから1枚引いて、残り8枚を隣に渡しあい ぐるぐる回してデッキ作っていくドミニオンっぽいカードゲーム 仕様上、敵のFirstPickが見えないので、自分のデッキ構築の致命傷が選ばれているとggとかもある カードをプレイしあって最終的に勝ち点(≒クリスタル)が高い人が勝ち ゲーム画面 よく判らないと話題になる場所 季節とマナなどについて 1年目1月という表記と青緑黄赤「季節」: このゲームのターンに相当する 12ヶ月過ぎると年度がかわり、4年目に突入したターンでゲームが終了する 青緑黄赤がそれぞれ冬春夏秋を表しており、季節ごとにマナの算出可否が変わる 現在の季節は「 > 」が指し示す 季節の移り変わりは選ばれなかったダイスによって決まる。詳しくは「ダイス」の説明項にて ①②③の下にあるアイコン「マナ」: カードをプレイするのに使う、使いきり型のリソース Seasonsのマナ算出はMTGの土地などと違い、全プレイヤー共通の季節ダイスによって決定される ターンはじめに各季節のごとのダイスが振られ、算出されるマナが決定する ①などの数字はマナの出易さに相当する(①でやすい、②でづらい、③でない) また希少度にも相当しており、勝ち点(クリスタル)に変転する際にそのままレートにもなっている(冬の緑は③なのでx3の単価3点) 「ボーナス」ボタン:最終的な勝ち点を犠牲にして強力な効果を発動する。各使用につき2/5/8点マイナスされ最大3回まで使える 「魔力変転」ボタン:マナを勝ち点であるクリスタルに変換できるボタン。ターンに取得したダイスにより使用可否が変わる 「特殊能力」ボタン:読んで字のごとく、有り無しは設定によるが個人単位で1つ持つ 「エンチャント」ボタン:有り無しは設定によるが全員共通の場の効果 「ダイス」の説明 季節ダイスはゲーム参加人数+1個振られる 各ダイスにカーソルを合わせることでも説明を読む事ができる ☆:召喚ゲージ。これがないとカードを場に出すことができない。ダイス運とダイスの選択順によっては入手できないターンも 各マナアイコン:そのダイスを選ぶことによって手に入るマナ。0個~2個の場合がある 一番下の・:各プレイヤーに選ばれなかったダイスの・の数だけ季節(月)が進む(「・・」であれば2ヶ月進む) ○の有無:マナをクリスタルに変転させられるかどうかを表す 情報欄の解説 左上から sマーク:ターンが始まる場所を表す。この画像の場合はnniから開始 手のアイコン:ハンドのカード枚数 黒い炎みたいなの:クリスタル(≒勝利点)。クリスタルの段階では奪われたりするので注意 B:ボーナスの使用回数(上限3回) ☆:現在召喚数/最大召喚数。召喚ゲージ。場にカードを配置できる数 青黄緑赤:各マナ所持数。最大7マナ。特定アイテムで10マナまで所持可能 青い背景の数字:特殊能力の通し番号 月:運命ポイント。特定のエンチャントの際に使用する 一番右の青い■:当該プレイヤーがそのターンに選択したダイス。「ダイス」の項を参照 ゲームの流れ 1.人数毎に山札から9枚カードが配られるうち1枚を選択し、隣のプレイヤーに残り8枚を渡す。これを全員で繰り返しデッキを構築する 2.各季節の季節ダイスを振る。sマークがついているプレイヤーからダイスを選択していく。つまり欲しいマナや召喚ゲージが手に入らないターンも存在する 3.手札をプレイし、勝利点を稼ぐ。勝利点はカードを召喚する(カード上部に表記)、マナをクリスタルに変転させる等の手段で稼ぐことができる
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/2129.html
『4seasons』 冬/きれいな感情(第二話)より続く ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― §5 放課後の学校は不思議なほどひっそりとしている。 今までならば、授業は終わってもしばらくの間教室や廊下は騒がしいものだった。 部活に向かう者や委員会の集まりがある者だけではない。どこかに遊びに行く算段をしている生徒たちや、ここぞとばかりに机を並べていちゃついている恋人たちや、なんとなく話に花が咲いてしまって立ち去りがたく感じている仲良しグループや。 そんな生徒たちがちらほらといて、時折華やいだ声を上げるはずだった。 私たちがその仲良しグループの最たるものだったからよくわかる。放課後の学校というものは、拘束から解放され、今日一日何をしようかと期待に胸を弾ませる高校生たちの高揚感で溢れているものだ。 けれど今この高等部校舎三階の西翼を満たしているのは、静寂だけだった。受験生たちは、授業が終わったとしても、開放感などとはまるで無縁な生き物だ。いそいそと荷物を纏めて、足速に家路を急いでいく。英単語の一つでも、年号の一つでも覚えるため、自宅の机へ向かって急いでいく。 本当についさっきまでここに四百人近い生徒たちがいたのだろうか。ふとそれが信じられなくなる。生徒たちがいない学校がこんなに寂しいものだとは思いもしなかったのだ。結局のところ校舎というのはただの容れ物で、そこに中身がなければ何の意味もないのだろう。そんなことを考える。 「そんなところかな。お前の方から他に訊きたいことはあるか?」 灰色の進路指導室に響く桜庭先生の抑揚のない声は、静寂に吸い込まれて消えていってしまいそうだった。 桜庭先生は、整った顔立ちをしているのにまるで外見に気を遣わない人だった。頭はぼさぼさで、いつも着ている白衣にはところどころスープでも跳ねたのか染みがある。靴のかかとを踏みながらペタペタと歩き、所構わず禁煙パイポを食わえだす。趣味は禁煙だということで、それを初めて聞いたとき私は『禁煙ほど簡単なことはない。私はこれまで百回は禁煙に挑戦した』というマーク・トウェインの言葉を思い出したものだった。 普通ならば生徒に人気が出る類の先生ではなかったけれど、桜庭先生は不思議なほど生徒にもてた。それも、男子にも女子にも同じくらいに。 その原因は、なんと云っても小学生みたいな低身長にあるのだろう。同学年の中でもかなり背が低いこなたと同じくらいの背丈で、とても成人女性には見えなかった。けれどそんな容姿でありながらも蓮っ葉な口調で筋の通ったことをづけづけと云う。そんなミスマッチが人気の秘密なのだと思う。 「――いえ、特には」 私がそう云うと、先生は束ねた資料を机に立ててトントンと揃えだした。それが面談は終わったという合図だと受け止めた私は、椅子を引いて立ち上がろうとする。けれど腰を浮かしかけたところで、先生はつけ加えるように私に云った。 「――まあ、柊姉に関しちゃ私はほとんど心配していない。お前なら落ちてもそれをバネにしてまた頑張れるだろうからな」 「ちょ、ちょーっ! 待ってください! 私、落ちるの前提なんですかっ!」 「冗談だ。いやなに、一度は私も柊姉に突っ込まれておきたいと思ってな」 云うに事欠いてその理由は一体なんだろう。そんなに私は突っ込みキャラとして名を馳せていたのだろうか。 少しだけ厭な眩暈を感じながらも、律儀にお望みの突っ込みを返す私だった。 「それは夢が叶ってよかったですね! っていうか、云っていい冗談と悪い冗談があると思うんですが!」 「ああ、あるな。今のは云っていい方の冗談だ」 「とてもそうは思えませんけど……」 「だから云ったろう、お前に関しては私は何も心配していないんだ」 そう云って先生はニヤリと笑った。 なんだか上手く云ったようで、結局のところただトートロジーで誤魔化しただけじゃないか。 そう云ってやりたいと思ったけれど、“上手く云ってやった”みたいな顔をして得意そうに目を細めている先生を見ると、つい毒気を抜かれてしまって私は苦笑する。 そうか、こういう目に私は弱いんだな。そんなことを考える。 「……一応、ご期待に添えるよう頑張ります。ありがとうございました」 けれど、深く礼をして進路指導室を出ようとした私の背中に、再び先生の声が投げかけられた。 「――本当に、他に訊きたいことはないのか?」 その真面目そうな口調に思わず振り返った。灰色の部屋の灰色の椅子に座って、先生は私のことをじっと見つめている。眼鏡の奥、見開かれた大きな瞳。今までみたことがない表情だった。それは、今までずっと見せてきた教師としての顔ではないように私は思った。 「――ありません」 云いかけた言葉をぐっと飲み込んで、私は答える。 「そうか。柊姉は私に訊きたいことがあるんだと思っていたが、気のせいだったか」 唐突に私に対する興味が失せたように、先生は手元の書類に目をやり始めた。私はそんな先生にもう一度会釈をして扉を閉める。 ――訊けるはずがない。 先生はレズビアンなんですか? なんてこと。 口さがない生徒の間でよく話題になる。桜庭先生は養護教諭の天原先生とは幼なじみで、二人は恋人同士なんだと。 『レズなんだってー、なんかキモッ』 『マジで変態なんだ、ちょっとがっかり』 『どっちがタチでどっちがネコなんだろうな』 クラスメイトがそう云っているところも一度だけ聞いたことがある。わりと勉強はよくできるグループの人たちだったけれど、他人に対する配慮が少し欠けていて、他の人の反感を買うことも多かった。 案の定、そんな話を快く思わなかった正義感の強い子がいて、その三人の前にずかずかと歩いていって云いはなった。 「ちょっと、失礼なうわさ話やめなさいよ! 桜庭先生がそんなのなわけないでしょ!」 ――あれは、確か九月くらいだったか。 その言葉を聞いたときの衝撃を覚えている。 心臓に錐を突き刺されてかき回されるようだった。 ――“そんなの”なんだ、私は。 そう云われるのが失礼になる。そんな存在なんだ。 わかっていた。それはわかっていたはずだ。 自分が同性に恋をできる人間だと気がついてから、その手の本はよく読んできたのだから。けれど知識として理解するのと、実際に現実として目にすることとはまた違っていて。 私はそんな彼女の言葉に傷ついて、そうして慄然として青ざめた。彼女の言葉のその先にあるものに思い至って、少しだけ手が震えた。 ――もし。 あいつのことだからあり得ないとは思うけど、もし――こなたにそんな風に云われてしまったら。 それ以降、私は生きていく自信がない。 そう、思ったのだ。 後ろ手に扉を閉めると、部屋を出た廊下は静寂で満たされている。 聞こえる音と云えば、私の上履きがリノリウムの床を踏んで立てるコツコツという音くらいで。消火栓のランプが赤い光を投げかけていて、それが私を責めたてているように思えた。 ――もし、私があの質問をしたなら、桜庭先生はどう答えただろう。 訊いてみたかった気がする。二人が本当にビアンだったなら。 幼なじみだった二人がどこでどうその気持ちに気がついて、どうやってそれを受け入れていったのか。二人共がそうなのか、それともどちらかは違うのか。違うなら、その関係はどういうものなのか。二人のことを誰が知っているのか。両親に告げたときどういう反応をされたのか。将来のことをどう思うのか。 訊いてみたかったと思う。訊いても良かったのかも知れないとも思う。 みだしなみに気を遣っていないはずの桜庭先生の爪は。 きれいに深爪されてヤスリがかけられていた。 §6 一旦誰もいない教室に戻って荷物を手に取ると、念のためB組の方も覗いてみることにした。けれどやっぱりそこもがらんとしていて、薄暗い教室の中、何かの遺跡のように机が立ち並んでいるだけだった。 ここにもいないと云うことは、まだ会議中なのだろう。そう思って長い廊下を奥に進んでいくと、案の定K組の教室にはまだ灯りがついていて、中から人の気配がしていた。 丁度会議が終わったのだろうか、折しも後ろの扉を開けて何人かの生徒が教室から出てくるところだった。その中の一人は我がC組の学級委員で、私は片手を上げて挨拶をする。 「おーっす。おつかれさま、今終わったところ?」 「ああ、柊さん進路指導だったんだっけ。うん、今終わったところ。高良さんなら中にいるわよ」 別れの挨拶をしてから教室に入ると、果たしてみゆきはそこにいた。お互いの顔が見えるように四角く並べた机の中でも中心の席に座っていて、何人かの生徒たちと談笑している。 ただの学級委員会とは云っても、十三クラス分ともなれば総数二十六人の大所帯だ。一人二人全然知らない人がいてもおかしくはないのだが、幸いそこにいたのは全員見知った顔だった。 「あら、かがみさん、そちらも終わったのですね」 「うん、一緒に帰ろうって思ってね。あ、そんなに急がなくていいわよ。なんの話してたの?」 「ええと、この一年間楽しかったですね、と。そのようなことです」 そう云ってみゆきは立ち上がる。背もたれのコートを羽織って帰り支度をするところをみると、本当に話は終わっていたようだった。 残りの学級委員たちに手を振って教室から出ると、みゆきと二人で歩きだす。リノリウムの床を踏んで立てるコツコツという音が、今度は二人分、廊下に響いては消えていく。 「――なんだか信じられない気がします。つい先日入学したように感じますのに」 「――そうよねぇ」 長身のみゆきは私より歩幅が大きくて、のんびり歩いているように見えるのに、ともすれば私は遅れがちになる。普段私たちと歩くときにはつかさと一緒に後ろの方にいることが多いけれど、ずっと気を遣って合わせていたのだろうな。そんなことを考える。 桜色の長髪が踊っているその背中は、不思議と普段より大きなものに見えていた。思えば私は、ずっとこんな風にこの親友の背中を眺めてきたのかもしれない。 「――あ、ちょっと速すぎましたか? すみません、考え事をしてしまって」 ふと気がついた風で振り返り、顔を赤くして歩幅を緩めるみゆきだった。 「ううん、気にしないでって、みゆき、前っ!」 「は?」 慌てて前を向いたときには遅かった。目の前の障害物に思い切りぶつかったみゆきは、きゅぅ、と変な声を発して私の方へ倒れ込んでくる。ずしりと重い――それはあくまで私やつかさやこなたと比べての話で、BMIで云うなら平均値だ――みゆきの身体を受け止めて、私は足を踏ん張った。 「すいません、すいません」 ずれた眼鏡を直そうともせずにひたすら謝るみゆきだったけれど、まずは眼鏡を掛け直して何にぶつかったのかを確かめる方が先決だと私は思った。 「――みゆき、あんたが謝ってる相手、それ下駄箱だから」 「あ、あう」 それでもこういうドジなところは昔から変わらない。 眼鏡をかけ直してほっと吐息を漏らすみゆきを眺めながら、そう思った。 「よかった、ぶつかった人はいなかったのですね」 「……おい、どこのウィスキーのCMだそれは」 思わず私はまた突っ込んで。 二人で顔を見合わせて笑った。 そうするだけで、殺風景だった昇降口も少しだけ華やいだ。 「あの、少し寄り道してもよろしいですか?」 「いいけど、どうしたの? みゆきが寄り道なんて珍しいわね」 「ええ、実はちょっと」 みゆきが私を連れてバスを降りたのは、大池公園前のバス停だった。ここは、この周辺としてはかなり大きい公園だ。その名に反して少々こじんまりとした池の周辺には遊歩道や芝生が敷き詰められていて、市民の憩いの場になっている。 私たちが降り立ったバス通り沿いには、公園の外周に沿って長い長い藤棚がしつらえられていて、今はその面影もないが、藤が咲く季節には紫色の綺麗な花を咲かせていたものだった。 「懐かしいわねー、藤祭りのときにみんなで来たわよね」 「ええ、まるで昨日のことのように思い出します。こなたさんが、かがみさんとつかささんの髪を藤に見立てて色々と仰ってましたよね」 「……変なことばっかり覚えてるわね、あんたは」 「ふふ、そうではないことも覚えてますよ」 そう云って微笑んだみゆきに私は苦笑する。この子なら本当にどんなことでも覚えていそうで、何を云ってもやぶ蛇になってしまいそうだったからだ。 「あの日は花曇りの曇天でしたけれど、藤の花やパレードの華やかさは少しもそうは感じさせませんでした。かがみさんはこなたさんがからかって云う言葉にいちいち赤くなったりそっぽを向いたり口調を荒げたりしていて、私は普段のかがみさんより少しだけ敏感だな、と思ったのです」 「――悪かったわね、私だってどうしていいかわからなかったのよ」 「ええ。やはりあのころからでしたか。かがみさんがこなたさんへの思いに気づかれたのは」 何も云わなくても、やぶ蛇なのだった。 みゆきはその話をするためにここで降りたのだろうか。そんなことを考える。 移動販売の屋台でクレープを買って、行儀が悪いと思いながらも歩きながら二人で食べた。私は生チョコバナナを、みゆきはミックスフルーツを買っていた。 うららかな休日には賑わっているであろう公園も、平日の薄曇りともなれば閑散としている。 常緑樹の緑は弱い陽射しを浴びて空に溶け込むように滲んでいて、梢を枯らした落葉樹の灰色がそこかしこに突き出ている。鈍色の空を写した池はそよともゆらがず鏡のように佇んでいた。 女子高生の姿なんて、私たちぐらいだ。その他にみかける姿と云えば、散歩をしている年配の方や、ベビーカーを押している若い母親などだった。 なんとなく喋りながらなんとなく歩いて、なんとなく自販機で買ったコーヒーを啜りながら、なんとなくベンチに座って池を見下ろした。 「――やはり、少し寒かったですね」 そう云って、身を縮ませるみゆきだった。 「今年の冬は例年より寒くなるって云ってたわね」 「そうみたいですね。なんだか本当に地球が温暖化しているのかどうか、疑問に思ってしまいます」 「そりゃねぇ。いくら温暖化って云っても、数年での変化なんて微々たるものでしょうよ。年ごとの揺らぎ幅の方が大きくて当たり前じゃないの」 「ええ、そうなんでしょうね。なにせ、つい三十年前までは毎年気温が下がっていたようですし」 「え、そうなの? 産業革命以降の温室効果ガスの増加が温暖化を引き起こしているなら、長期的には緩やかに上がっているはずじゃない」 「そう思いますよね。実際温室効果ガスが温暖化に果たしている割合はやはり大きいようで、今年の気候変動に関する政府間パネルによる第四次評価報告書では、人間の活動により温暖化が引き起こされている確率はかなり高いとのことでした。この報告は信頼できます」 「ああそう、それそれ、九割以上の確率で温室効果ガスが主要因になってるってやつよね。……でも、それじゃなんで三十年前までは気温が下がってたのかしら?」 「不思議ですよねぇ。千九百三十年代から七十年代までは例年気温が下がっていっていて、気候学者たちは真剣に地球が寒冷化していくのかもしれないと話し合っていたようですよ」 「……むう」 「まあ、気象なんて複雑系の最たるものですから、ちょっとしたことで変わってしまうのでしょう。百年後の未来予測なども出ているようですけれど、一週間後の天気もよくわからないのですからねぇ」 「まあねー。ってか百年後なんていいから、せめて二ヶ半後の未来のことを誰か教えて欲しいもんだわね」 「あら、でも今それを知ってしまったら、合格しているにしろそうでないにしろ、これからの行動に影響が出てしまって、未来が変わってしまいませんか?」 「それはほら、努力して未来を変えたってことで――って、そうするとその未来はもう未来じゃないから、未来をみたことにはならないのか」 ――そうですよ。 みゆきはそう云って、ころころと笑った。 こんな風にちょっと真面目な話をできる相手なんて友達の間ではみゆきだけだったから、久しぶりに二人きりで話せて楽しかった。けれどこれはやはりどう考えても雑談で、一体みゆきはこの公園にきて何がしたかったのだろうと気になった。 「ねえ、それで何しにここにきたのよ?」 「あ、目的ならもう達成しました。おつきあいいただいてありがとうございます」 「へ? 何よそれ」 「ええと、笑わないでくださいね?」 「そりゃ、内容によるわね」 そう云って、口元に手を当ててニシシと笑う。みゆきはそんな私を見て、なぜだか頬を桜色に染めていた。 「えっと、お友達と歩きながらクレープを食べてみたかったんです」 「――へ? そんなこと?」 「はい。さきほど会議が終わった後の雑談で、この辺りにはいつもクレープ屋さんがいて、美味しかったと仰っていた方がいらっしゃいましたので」 そう云って恥ずかしそうにうつむくみゆきを見ていると、私も同じように恥ずかしく感じてしまって、頬が赤らんでいくのを自覚する。 「そういえば、みゆきとはあんまりこんな感じの出歩き方はしなかったものね」 家が遠かったから。 田園調府からみゆきを呼び出すには、それなりのイベントが必要だったのだ。 ちょっとした買い物なら大宮あたりで済ませていたし、こなたの家は自転車でいける距離だったから埼玉近辺で遊ぶことが多かった。学校帰りに買い物に行ったりはよくしたけれど、糟日部駅前のお店に入った後にファストフードでお喋りをしていくくらいで。 クレープ屋で買い食いするようなことも、こなたやつかさとはした覚えがあるけれど、そういえばみゆきとはしたことがなかったかなと思う。 「いざ終わりが近づいてみると、なんだかやり残したことが沢山あったように思えてしまいまして……」 「……みゆき」 「億劫がっていないで、もっと積極的にみなさんと遊びに行っていれば良かったと。今更ながらに後悔の念が襲ってくるのです」 こんな風に寂しそうにしているみゆきを見るのは初めてだ。 みゆきはいつもにこにこと笑っていて、なんでも穏やかに受け止めて、膨大な知識量に裏打ちされた智慧でどんなことも乗り越えていって。 そう、みゆきは私のカミングアウトにもまるで動じずに、さも当たり前のこととして受け止めてくれていた。性的指向や性自認が環境によらず生まれつきの“特徴”なのだと知っていて、それを殊更に重く受け止めることをしなかった。ただ髪の色や背の高さが違うのと同じような感覚で扱って、そうしてずっと私とこなたのことを見守ってくれていた。 思えばそれは、なんと得難きことだったのだろう。そんな親友を持っている性的マイノリティなど、一体この国にどれだけいることか。 今も何十万人という女の子や男の子が、自分の感情に戸惑って、家族にも友達にも云えずに、きっと一人で泣いている。自分は異常なのだと、変態なのだと自分で自分を責めて、他人にも責められて、世界に押しつぶされそうになって泣いている。 そんな中、私には何もかもわかってくれる親友と、自分も同性を愛せればよかったのにと云って一緒に泣いてくれる妹がいるのだ。 私はきっと、世界一幸せな性的マイノリティだろう。 そうしていつも私を幸せにしてくれるみゆきが寂しそうにうつむいているのを見ていると、私は胸が締めつけられるような気持ちになるのだった。 「別にさ、これで終わりってわけじゃないじゃない。やり残したことがあったなら、これから全部一緒にやっていこうよ。私たちはずっと友達なんだから」 そう云って、みゆきの手を取って撫でさする。その感触はつかさのものともこなたのものとも違っていて、ふわふわと柔らかくてどこまでも沈んでいってしまいそうな、そんなみゆきの手だった。 「――はい、ありがとうございます。ふふ、これからもよろしくお願いいたしますね」 ぺこりと頭を下げて。 顔を上げたみゆきはいつも通りのふわふわした笑顔をしていて、私は少しだけ安心する。 「よろしくね。ってか、どうせまたずっと私とかつかさとかこなたがよろしくされる日々なんだろうけどなー」 私がそう云うと、みゆきもそれが満更でもなさそうで、口元に手を当ててころころと笑っている。 そんなことを離しているうちに、気がつけばいつのまにか陽も落ちかけていた。オレンジ色の暮色が斜めに差し込んで、こじんまりとした池を黄金の海に変えている。どこもかしこも黄金に輝いて、私たちは今光の国にいる。 「――ですが」 ぽつりと、みゆきが云った。 「ですがきっと、大学生になった私たちは、みんな今とはちょっと違っているのでしょう。あの灰色の校舎に同じ服を着ておしこめられて、同じ物を見て泣いたり笑ったりしながら、少しずつ他人と違う自分だけのものを見つけていって、やがて一人ずつ違っていく。少女だった、子供だった、思春期だった私たちとは――」 そのとき私が目を細めていたのは、夕陽が眩しかったからではない。 夕陽を浴びて陰を曳いている、みゆきの横顔があまりにもきれいだったからだ。 私はそのとき、アンドレ・ジイドの言葉を思い出していた。 ああ! 青春! 人は一生に一時しかそれを所有しない。 残りの年月はただそれを思い出すだけだ。 青春や思春期を詠んだ言葉は多かったけれど、その渦中にある私にはどれもいまいちピンとこなかった。この言葉も正直よくわからなかったけれど、思い出したのはその最後の一文のことをふと考えたからだ。 ――私は、この三年間のことを時々思い出しながら、ずっと生きていくのだろう。 その言葉を詠ったアンドレ・ジイドは、同性愛者だった。 §インテルメッツォ そんな記憶が次々と浮かんでくる。 ともすれば降る雪に紛れてしまいそうな、そんな記憶が思い浮かぶまま、私は走っている。 あやのも、みさおも、つかさも、みゆきも。私だって。 みんな懸命に三年間生きてきた。自分にも他の誰かにも、自分の未来や人生にも、せめてできるだけ誠実に。きっとそう思って、懸命に足掻きながら生きてきた。 ――なのに、なんであいつは逃げてるんだ! わかってる。こなたが背負っているものを、私は全部知ることはできない。それは私の物よりも重いのかもしれない。わからない。つかさの物よりも重いのかもしれない。わからない。みゆきの物よりも重いのかもしれない。わからない。 けれど、云ってくれなければ、わかりようがない。 思えば夏のときもそうだった。 あいつはすぐ一人で溜め込んで、何も云わずに勝手にぐるぐるして、誰にも頼らずに傷ついて。 そうしてある日激情を爆発させて、たった一人で逃げるんだ。 これだけ周りに頼れる人がいるのに。私はともかく、みゆきや、そうじろうさんや、ゆいさんや。つかさやあやのやみさおだって、きっと喜んでこなたを支えるはずなのに。 いつも無理して、なんでもないふりをして、笑ってる演技ばかり上手くって。 ――けれど、声をかけたこなたの背中は泣いているように見えていた。 あの日。あの夏の日に、私は泣きながら逃げるこなたを追いかけることができなかった。私は自分のことで精一杯で、うちのめされてただ路地に倒れ込むだけだった。 けれど今はもう違う。みゆきに助けられ、つかさに励まされ、そうじろうさんに託され、かなたさんの墓前で誓った。 だから私は走っている。だから私は走ることができている。 角を曲がると、公園が見えてきた。 次々と空から落ちてくる雪が世界をほの白いグラデーションに染めていて、視界はどこまでも悪かった。けれどあの街灯の下に揺れている青い髪のことを私が見間違えるはずもない。公園の入り口で柵に手をついてうずくまっているのは、私が追いかけてきた相手、泉こなたに他ならない。大きく揺れている背中は、乱れた呼吸を整えようと深呼吸しているせいか。 ――運動不足ね。 こなたが慣れない受験勉強に身を入れていて助かった。おかげでこうしておいつくことができたのだ。 ぐっと足に力を篭めてラストスパート。 ――待ってろこなた。 私が、全部許してやる。 十二月二十四日。 冬の夜を、私は走った。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『4seasons』 冬/きれいな感情(第四話)へ続く コメントフォーム 名前 コメント 本当に羨ましい。 私はネットでしか同性が好きなことを 公言できないです(´ω`) 1人でも話せる相手がいれば…って思うけど チキン故に結局誰にも言えないで 友達として好きな子と一緒にいます。 異性が好きになればよかったのになぁ -- 名無しさん (2012-11-20 00 04 50) 「文学」の定義なんて考えるだけ無駄だけど、 それでもあえて言いたい。 この作品は「文学」だと。 -- 名無しさん (2008-06-05 00 13 53) 読む度にこの作品にあえて良かったと思います -- 名無しさん (2008-06-04 20 46 57) 結末を知りたいけど終わってほしくないような…何度も頭から読み返してしまう -- 名無しさん (2008-06-04 15 32 41) いよいよクライマックスも近いのかな… -- 名無しさん (2008-06-04 13 00 30)
https://w.atwiki.jp/lian4302/pages/90.html
seasons 詞曲:syuuzou 編曲:syuuzou 演唱:波音リツ 翻譯:啞歌 拾い集めた 静寂の色 (拾起集中起來的 寂靜之色) 寄り添う声のカタチも (挨緊的聲響的形狀也) 揺らぐ旋律 色を失くして (搖搖欲墜的旋律 失去了顏色) 流れてくなら また繰り返してく (若是就此流逝而去 再次重複) 聞こえて… (請聽見吧) 流れていく この時間に (在向前流動的 這段時光裡) 身を委ねて ただ堕ちていくの (僅是委身於其中 隨之墜落) 溢れ出した 涙が空を (直到滿溢而出的淚水) 彩るまで 灰色の世界に (將天空妝點上色彩 輕吻著 口づけを… 灰色的世界) 朽ちて行くなら 錆びて行くなら (若是就此枯萎 就此鏽蝕的話) いっそ消えてしまえばいいさ (乾脆消失也無妨) 君が残した 世界の中に (你還在的這個世界裡) 忘れてきた記憶 彷徨い続けて (漸漸遺忘的記憶 持續徬徨著) 感じて… (請感受吧) 移り変わる この季節を (緩緩改變的 這個季節) 彩るだけ それだけでいいさ (裝飾著色彩 如此便足夠了) こぼれ落ちた 涙がいつか (直到落下的淚) 消えてくまで 虹色の世界に (消失於虹色的世界為止) さよならを… (再見) 散りばめた 始まりの声 (四散而出的 初始之音) 最果ての音と 重なって (和盡頭的音色重疊) 溶け出した 希望の色は (溶解而出的 希望之色) やがて空を 包み込んで… (於焉包覆天空) 流れていく この時間に (在向前流動的 這段時光裡) 身を委ねて ただ堕ちていくの (僅是委身於其中 隨之墜落) 溢れ出した 涙が空を (直到滿溢而出的淚水) 彩るまで 灰色の世界に (將天空妝點上色彩 輕吻著 口づけを… 灰色的世界)
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/2162.html
『4seasons』 冬/きれいな感情(第五話)より続く ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― §10 ――暗闇。 ――暗闇。 ――暗闇。 暗闇の中、私はぽかりと浮かんでいる。水の中たゆたっているように、ふわふわと私は揺れている。 ここはどこだろう。今はいつだろう。わからない。何もわからない。その何もわからないことこそが、私に今夢を見ているのだとわからせた。 ――寒い。 ――暗い。 ――苦しい。 それも当たり前の話だ。なぜならここは何もない宇宙空間なのだから。そこに私は浮かんでいるのだから。 凍えそうに寒いのはそのせいだ。闇に閉ざされて何もみえないのはそのせいだ。苦しくて苦しくて今にも胸がつぶれてしまいそうなのはそのせいだ。 遠く、手の触れられないほど遠くに、星の光が見えている。 明るく輝く四つの星は、その近くにいけば暖かいのだろう。けれど私がいるここまでその熱量が届くことはない。今こうして見えている光であっても、その光子の波はもう何年も前に星を飛びだしたもので、それを発した星々は、ほら、何光年もの彼方に佇んでいる。 穏やかな光を投げかける赤色巨星は、全てを包み込んでしまいそうなほど大きくて、きっとこんな星の惑星には緑豊かで知的な王国が築かれているだろうと思わせた。 暖かな光を投げかける純白の恒星は、周囲に星間物質のベールを纏っていて貴婦人のように優雅な佇まいだ。きっとこんな星に近づけばどんな傷も治ってしまうだろう。けれどその光に篭められた力も、私のところまでは届かない。 キラキラと強い光を放つ元気な星と、控えめなオレンジ色に輝く星は、お互いがお互いの周りを回っている連星だ。最初は元気な星がオレンジの星の周りを回っているように見えていたけれど、その一瞬後にはオレンジの星が元気な星の周りを回っているようにも見えた。くるくるくるくるとワルツのように回っていて、けれど全体を覆うのはオレンジの光だった。 ――ああ、いいな。あそこにいけたらいいな。 そう思う私は、けれどただその場に漂うのみで、腕を振り回しても足を蹴立ててもどこにいくこともできないのだった。 当たり前だ、と私は苦笑する。作用反作用の法則があるのだから、その場でいくら動いても加速度を得る事なんてできやしない。宇宙空間でどこかにいこうとしたら、何かを捨てて反作用を受けないといけないのだ。 夢の中のはずなのに、ニュートン力学は変なところでシビアなんだな。そんなことを考えて、私はまた苦笑する。 ――さて、何を捨てようか。 そう思って自分が持っているものを見渡しても、どれもこれも大切なものばかりで、何一つ捨て去ることなんてできないのだった。 例えばそれは子供の頃の夢だとか。 あの夏の夜の草いきれだとか。 ずっと憧れていたきれいな自分だとか。 女の子になった日に流した涙だとか。 家族で山登りにでかけていって、山頂から見下ろした朝焼けの色だとか。 それを捨て去ってしまえばもはや自分が自分ではなくなってしまう、私が持っているのはそんなものばかりだ。そうして自分が自分ではなくなってしまったならば、あの星の元へと辿り着いたところできっと意味がないのだ。 だから私は、ただ悄然としてふわふわと漂っている。 けれど、そのときすぐ近くに、突如として光り輝く新星が現れた。 そのあまりの光の強さに目がくらむ。暗黒の空間が白い光の洪水で満ち、閉じた眼蓋の裏で赤い斑点がちらついた。 その爆発はきっと超新星爆発なのだろう。ぎりぎりまで縮退していった物質が限界を超えて爆発するスーパーノヴァ。 その後に誕生するのは、全てを吸い込んで黒く黒く無限に縮退していくブラックホールか。 それとも圧縮された物質がついに巨大な原子核になり、やがて中性子と陽子で構成された超密度の強靱な星、中性子星を作り出すのか。 けれどそれはそのどちらでもなかった。 そこに忽然と現れたのは、やはりというかなんというか、泉こなたなのだった。青い長髪をなびかせて、素っ裸のこなたがそこに浮かんでいる。なぜか無重量状態でもピンとアホ毛が立っているのがおかしかった。 まあ、夢だから仕方がない。いっそ早く醒めてくれないものかと考えていた私の前で、こなたは口を開く。 『好きだよ、かがみ』 ああ、夢だから。これは全部夢だから。 その含羞に赤らんだ頬も。切なげに見上げた眼差しも。胸の前でぎゅっと組んだ腕も。全部全部夢だから。 『なんていうか、まるであんたらしくないわね。こんな夢見てる自分が恥ずかしくなってくるわよ……』 こなたは素っ裸のまま私に抱きついてくる。猫みたいに身体を擦りつけてきて、感触を楽しむように重ねた頬をすり寄せた。 『むふー、恋する乙女は皆こんなものなのだよ、かがみん』 そう云って、猫口の端をきゅっとつり上げて、いつもみたいにニマニマと笑う。 『これが夢なら、私は何したって構わないのよね?』 『夢じゃなくても、何したって構わないよ』 そういうこなたは夢の存在なのだから、その言葉に何の保証もあるわけがない。 けれど今目の前にこなたがいることは間違いがないので、せめてその身体を思い切り抱きしめた。ん、と小さく息を吐く音が聞こえてきて、私の胸の中でこなたはうっとりと目を閉じる。 けれど抱きしめた腕の感触は、どこか普段とは違っていた。 『なによこれっ』 よくよく見直してみると、その腕は私の腕ではない。手の指はごつごつと節くれ立ち、関節と関節の間に淡い毛が生えている。曲げた腕には筋肉の筋ができ、二の腕に力こぶが膨らんでいる。慌ててこなたの身体を離して自分の身体を見下ろせば、肩幅は広く胸の膨らみも腰のくびれもなく、股間には見たことがない器官がついている。 ――男だ。 私は男の身体になっていた。 『かがみ、素敵だよ』 そう云って抱きついてこようとするこなたを必死の思いで押しとどめる。 『駄目っ、駄目だってば、こんなの私じゃないわよ!』 『でも、それなら私のことが抱けるじゃん?』 その指摘に動きを止めた私に、こなたはしなだれかかってくる。柔らかい身体、甘い匂い、すべらかな肌。その感触に一瞬陶酔しかけてしまって、けれど私はやっぱりそれが間違っていると思う。 『やめて、違うよ! やっぱりこれは違うよ!』 私はこんなものが欲しかったわけじゃない。こんな風にこなたを抱きたかったわけじゃない。ただ私のままでいたかっただけだ。女としてこなたを好きな、私のままでいたかっただけなのだ。 そう思って、泣きそうになりながらこなたのことを突き飛ばす。作用反作用の法則に従って、二人の距離がどんどん開いていった。こなたは漂っていきながら、眼をまじまじと開いて私のことを見つめていた。 『ごめんなさい』 『……謝んないでよ……』 うつむく私に、こなたは再度謝罪の言葉を口にする。 『あんなことしちゃって、ごめんなさい』 『……こなた?』 あんなことって、どんなことだろう。 二人の距離は、すでに互いの表情が見えないほど離れていて。 そう思った私の意識は、半ば暗闇の中に溶け始めていた。 「本当に、ごめんなさい!」 そう叫んだこなたの声が私の本物の耳に聞こえてきて。 そうして私は、ぽっかりと夢から浮上する――。 眼を開けると、天上が高い。 眼に見える天上は白い化粧板に盤面のような溝が刻まれていて、ああ、ここは自分の部屋ではないのだなと思う。薄暗いのは陽が落ちているからではなく、ベッドの周りを覆ったカーテンが陽射しを遮っているからだと気がついた。 お世話になったことはないけれど、この場所に見覚えはある。私は、保健室のベッドで眠っていたのだ。 ――さっきまで見ていた夢のことは、すっかり目覚めた今でも鮮明に覚えていた。 酷い悪夢を見た。本当に、酷い悪夢を見た。冬だというのにぐっしょりと寝汗をかいていて、それが気持ちが悪かった。心臓は様々に渦巻く感情にドクドクと音を立てて暴れていた。私はそんな胸を押さえながら、そこに柔らかな膨らみがあることに心の底から安堵する。 カーテンを透かして、何人かの人影が見えていた。背後の窓から差し込む陽射しを背負って、話し合っている何人かの人たちがカーテンに影を落としていた。 「泉はこう云っているが、お前はどうだ」 桜庭先生の声は、いつも通りに淡々としていたけれど。やる気のなさそうな口調は影を潜めていて、代わりにほんの少しの緊張感を孕んでいた。 「いや、それはいいッスけど……。滅茶苦茶痛かったッスよ……」 くぐもった声で不満そうに云うのは件の男の子だろうか。 どうやら私が寝ている横であの出来事の後始末をしているらしい。私も話に参加しないといけないな。そう思って身を起こすと、衣擦れの音が聞こえたのか、「ちょっと待ってください」と声がしてカーテンが開けられた。 「柊さん、起きましたか」 そう云ったのは擁護教諭の天原先生だった。つややかな黒髪は背中を半ば覆っていて、前髪は綺麗に切りそろえられている。日本人形のように清楚な印象を与える女性だ。 「はい、ご迷惑をおかけしました」 その声は少しかすれていて、私は小さく咳払いをする。 「――かがみ?」 問診をしたり脈を取られたりしているうちに、閉じられていたカーテンを開けてこなたが顔を出した。その向こうに件の男の子の心配そうな顔が垣間見えていた。鼻にはガーゼが詰められているようで、先ほどのくぐもった声はそのせいだろうと思った。けれど視線を隠すようにこなたがカーテンを引いて、その顔もすぐに見えなくなる。 「こなた、あんた……」 「よかった、かがみ大丈夫?」 そう云って私の額に手を当てるこなただった。 「大丈夫みたい、ってかおでこ触っても熱はないわよ」 「――そっか」 笑いながらペロリと舌を出す。 天原先生は、そんなこなたに先ほど私にしたのと同じような説明をした。緊張やストレスから迷走神経が刺激されて、脳に酸素がいかなくなって気を失うのだそうだ。 「その後中々眼が醒めなかったのは、疲れや寝不足の影響だったのでしょうね」 「あー、つまり寝ちゃってたってことですか?」 「そうとも云いますね」 「なるほど、つまりかがみんにねぼすけ属性が追加された、と……」 「されてねぇよ。なにがつまりだ」 突っ込まれて嬉しそうに笑っているこなたを見て、私は少しだけ安堵する。 ――けれど。 ああ、こいつもいつも通りだ、なんてことは決して思わない。 あんな出来事の後で、こいつがいつもと同じだなんて事はありえない。今朝は騙されてしまったけれど、もう二度と騙されやしない。本気で仮面を被ったこなたは、どうやら私にも簡単には見破れないほどの演技をするようだ。ほっとしたのは、こなたが仮面を被れるほどの余裕を取り戻していたのは確かだと思ったからだ。 『周りの状況に合わせて的確に演技をしていくようなやつだった』 ふと、いつだかそうじろうさんが云っていた言葉を思い出す。 それは濡れたような月の下で、夜の海を見下ろしながら聞いた言葉だ。銀の糸のようにたなびく煙。風にゆれる木々の梢。無意識の底にたゆたう海。そんな光景を思い出す。 そう、それは秋にお墓参りについていったとき、夜のラウンジでそうじろうさんが云った言葉だ。 なるほど、と実感が沸く。当時はぴんとこなかった台詞だけれど、こんなこなたを見てしまえば、その言葉も納得がいくというものだ。 天原先生が出してくれた濡れタオルで顔を拭いて、身だしなみを整えてから起き上がる。こなたが心配そうによってきたけれど、大丈夫だからと云って押しとどめ、私はカーテンを引いて外に出た。 そこにはおよそ予想通りの人たちがいた。 窮屈そうにしている例の男の子。白衣に両手をつっこんでいる桜庭先生。こなたの担任の黒井先生。それと、いるとは思っていなかったけれど、我がC組の学級委員長。 思い起こせば彼女もあのとき教室にいたはずだったから、目撃者として呼ばれたのだろうか。天原先生とこなたもすぐにカーテンの向こうからやってきて、それで話の出席者は全員だろう。 「……あー、なんつーか、悪かったよ、柊。あんなにショック受けるとは思わなかったんだ」 私と眼が合った途端、ばつが悪そうに眼を伏せて男の子が云う。 その態度を見る限り、本当にあの発言に他意はなかったのだろう。私を傷つけようとして云った言葉ではなかったのだろう。 無邪気に他人を傷つけ、しかもそれに気づいていない人間と、明確な悪意を持って誰かを傷つける人間、より度し難いのはどちらなのだろう。そんな答えがでるはずもない疑問をちらりと考える。 「うん、もういいわよ、気にしてないから。私もちょっと過剰反応だったかもしれないしね」 「まあでも、あれは一、二発ぶん殴られても仕方ないと思うよ。私も正直むかついたもん」 委員長がそう云うと、男の子はますます縮こまっていった。そんな彼を見て、私はなんだか酷く悲しくなってしまった。これから先、私は彼にどんな種類の好意も抱くことはないだろう。そう思ってしまう私が、そうさせてしまった彼が、なんだか酷く悲しいと思った。 「せやけどまあ、泉がしたんは明らかにやりすぎやなぁ」 「私が診た限りでは、投げられた打ち身は大したことはないです。鼻も骨は折れていませんし、出血ももう止まっているようで、怪我の程度としては軽傷もいいところですね」 「まあ警察沙汰にするほどのことでもないだろう。上に報告はするが、学年内で収めるよ。……で、残るは当事者間のことになるわけだが」 ――どうだお前は、親御さんを呼ばれたいか? 桜庭先生は、ずいと見上げるようにして、糸目を見開いて男の子の顔を凝視する。 「……あ、いや、オレは……できれば云わないで欲しいと……」 ちらりとこなたの方を見て男の子は云った。それもそうなのだろうと思う。どう見ても小学生みたいなこなたにぶん投げられ良いように殴られて、それをよくもやったなと糾弾すると云うのは、男の子にとっては屈辱なのだろう。 「せやけど泉の方は――」 黒井先生がそう云いかけた言葉を、こなたが叫ぶようにして遮った。 「そ、それだけはどうかご勘弁をっ! レバ剣でもなんでも差し上げますからっ」 「うぉいっ、いくらウチでもそこまで公私混同せんわ! そもそもウィズが片手剣もらってもしょーもないやん」 「そ、それじゃ夜天の魔導書で手を打つというのは? あれドロップするネームドってプレイスホルダーが無駄に強い上にタイマーは二十四時間だしライバルは多いしで、わたしプルには自信が――」 「ええから受験生は勉強せえっ!」 他のメンバーが眼を白黒させている前で、ついに雷が落ちてこなたの饒舌をせき止めた。本当にこいつは仮面を被っているのだろうか。ちらりとそんなことを思う。 きっと大部分は素のままなのだろう。賑やかで無邪気な仮面で傷口を覆って、さも本人もそれに気がついていないように振る舞っているのだ。その傷は、今もどくどくと血を流しているはずなのに。 ――けれどきっと、それは私がしていることと同じことなのだ。 「まあ、泉もいいんじゃないですか。謝っていたことですし。……お前はどうだ?」 桜庭先生が水を向けると、男の子もしぶしぶと云った感じでうなずいた。 「本当、ごめんね?」 可愛く小首を傾げて、両手を顔の前で合わせてウィンクをするこなただった。その余りの白々しさに、男の子以外の、普段からこなたのことをよく知っている全員が仰け反った。 「ま、まあ。お前は二度と他人に対してああいう発言はするな。泉は二度と他人に手をあげるな。以上終わり」 ――はい。と異口同音に答えたところで、桜庭先生がひらひらと手を振って解散をうながした。やはり皆緊張していたのだろう。その瞬間、保健室にいた誰もがほっとしたようだった。 こなたは黒井先生に頭を押さえられながら出口に向かっていき、委員長は私の背中をぽんと叩いて笑いかけてくれた。 「――ありがとう」 私がそう云ったとき、こなたががらりとドアを開けて。 ――その瞬間、沢山の声が降ってきた。 「お姉ちゃん、こなちゃん、大丈夫?」 「こなたさん、かがみさん、どうなりましたか?」 「かがみちゃんに泉ちゃん、平気なの?」 「おお、ちびっ子っ! お前マジですごかったんだってなっ」 全員一斉に喋りだして、何がなんだかわからない。 案の定、そこにはつかさにみゆき、あやのとみさおが、心配そうな顔をして私たちが出てくるのを待っていたのだった。一人だけずれた発言をしている奴がいるようだけれど、きっと気のせいだろう。 こなたが私の方を振り向いて苦笑とも取れる笑いを見せて、私もそれに笑い返した。けれど、そうして保健室から出ようとしたときに、桜庭先生の声が聞こえてきたのだった。 「あー、柊姉。お前はちょっと残れ」 振り返ると、桜庭先生と天原先生が真剣な眼差しで私のことをみつめている。 ――ああ、そうか。 二人がどんな話をしたいのか。なんとなくそれに気がついた。 「おや、まだなんや話が残ってたんかいな」 「いや、こっちの話ですよ」 「……ああ、なるほど。そっちの話やな」 黒井先生は頬を掻きながら、つかさ達に一言二言声を掛けて去っていった。私は心配そうなつかさ達にごめんと謝って、ドアを閉めて桜庭先生達に向き合った。 「――どっちの話、なんでしょう?」 「そりゃ勿論、三年C組の話だ」 苦笑している桜庭先生に近づいて、私は小声でこう云った。 「お話は外に聞こえないようにお願いします。きっとみんな聞き耳立てていますから」 「ああ、わかってる」 私たちは奥のスペースまで引っ込んで、並んでいるベッドに腰を掛けた。私に向き合うように桜庭先生と天原先生が座っていて、なんだか面談みたいだなと私は思った。 「――柊は、同性を好きになれる人間だろう?」 「……はい。私はバイみたいですけれど。……やっぱりわかっちゃいますか?」 「まあ、同類はな。なんとなくわかるもんだ」 そう云って、白衣のポケットから煙草を取り出して吸おうとする桜庭先生だった。けれど口にくわえたところでそれを天原先生が取り上げて、プラスチックの禁煙パイポと取り替えた。 文句も云わずにそれをくわえているところを見ると、きっと良くある儀式みたいなものなのだろう。 「そうですね」 私はそれを、眩しい物を見るような思いで眺めていた。 「泉か」 「……はい」 「泉のほうは――」 「こなたは、ヘテロでしょう。あんなですけど、本質は至ってストレートだと思います」 「そうか……あいつのことは良く読めないが。お前がそう云うならそうなのだろうな」 私はうなずいて思う。 そう、あいつは異性愛者だ。もし私に性的な関心があったなら、あんな風に無邪気に触れてくるはずがない。べたべたと相手に甘えて気を惹こうとする女性もいるけれど、そんな媚態は見ればそれとわかるものだ。それに、そんな目的だったならもっと意味ありげに触れようとするだろう。 こなたのあの触れ方は、あのいじり方は、ただ楽しい玩具を見つけた子供のそれだった。その度に私が顔を赤らめたり憎まれ口を叩いたりするのを見て、それを楽しむための接触。あるいは身体同士を触れあわせることで仲の良さを確認する、女の子同士の無邪気なスキンシップ。 実際に、私のセクシャリティは見破ったみゆきが『期待するな』と云っているのだ。その時点で、こなたが私のことを好きになれる可能性はほとんどないと云っていいだろう。 「柊さんは、自分の性的指向についてどれくらい把握していますか? 今苦しい? 自分は間違っていると感じている?」 「とりあえず、セクシャリティやジェンダーに関する本は色々と読みました。私は私を受け入れています。でも……」 「でも?」 天原先生は優しく私の手を取って、穏やかな口調で問いかける。 「苦しいです。私は苦しいです……こなたのことが好きだから」 そう云ったら涙が零れてしまいそうになって、私は慌てて顔を手で覆ってうつむいた。 「少しはわかるつもりですよ。本当に……親友を好きになってしまうと辛いものよね」 うつむいたままの私の肩をふわりと抱きしめて、天原先生がそう云った。 「はい……」 口を開いたら、こらえていた涙が零れ出してしまった。ぽろぽろと零れていく涙を止めようもなくて、私は肩を振わせて泣き出した。本当に私は近頃泣いてばかりいる、そんなことを心のどこかで考えた。 ベッドがギイと軋み、衣擦れの音が聞こえてくる。桜庭先生が立ち上がったのだろう。 そのまま窓際の方まで歩いていくと、桜庭先生はがらりと窓を開けた。カチカチと音がしているところからすると、きっと煙草を吸おうとしているのだろう。天原先生も、今度はそれを止めなかった。 「泉さんって、どこかひかるちゃんに似ている気がするわ」 そんなことを云うので、私は思わず笑ってしまった。泣きながら笑ってしまった。 「私も、私もそう思ってました」 「ふふ、私たちって、どこか似ているのかもしれませんね。お互いに似たような女の子を好きになってしまって」 ――よかったら、泉さんの素敵なところ聞かせてくれないかな? 天原先生のそんな言葉に促されて、私はこなたのことを語り始めた。不思議なほど素直に、私はそうすることができたのだ。 こなたがどれだけ優しいか。 こなたがどれだけ可愛いか。 いつも周りに気を配っていて、けれど明るくて、一緒にいると楽しくて、私の厭な所も全部長所に変えてくれて。 実は私以上にツンデレなところがあるだとか。家庭の事情で本当は寂しがり屋だったりするのだとか。家事とか料理が得意で女の子らしいところも沢山あるのだとか。 閉口するようなオタク趣味もあるけれど、ときに呆れるほど自分自身に気を遣わない所もあるけれど。そんなこなたの全てを私は好きなのだと。 私は、語った。 誰にも云えなかった気持ちを、赤裸々にありのままに解放していった。 それはつかさにもみゆきにも云えなかった言葉だ。死ぬまで心の裡に秘めていようと思っていた言葉だ。いくら理解してくれていても、異性愛者の二人には云えるはずもない、そんな恋心を私はぽつりぽつりと天原先生に伝えていった。 天原先生は口を挟まず、たまに相づちを打ちながらただ聞いてくれていた。優しく肩に回された手が、私に勇気を与えてくれていた。 一言一言、口に出す度に気持ちが軽くなっていく。 澱のように心の中に降り積もっていて、今にもその中で窒息しそうだった淀んだ思いが、少しずつ透明になっていく。 窓から冷たい風が吹きこんでくるけれど、不思議なほど寒くはなかった。微かに漂ってくる煙草の匂いも、なぜだか嫌だとは思わなかった。遠くから聞こえてくる車のクラクション。一、二年生だろうか、窓の外を通っていく生徒達の笑い声。カチカチと時を刻んで揺れる壁掛け時計の音。 そんな保健室で、私は、少しだけ立ち向かうための力を得ることができたのだ。 「なにか困ったことがあったらいつでも掛けてこい」 そう云って桜庭先生は、二人分のケータイ番号をメモに書いて渡してくれた。 「ありがとうございます。どうしようもなくなったら、また泣きつくかもしれません」 「柊さんは頑張りすぎる傾向があるから気をつけてくださいね。それは一人で立ち向かうには大きすぎるものですから」 「はい。でもきっと大丈夫です。……頼れる、友達がいますから」 「――そう」 にっこりと笑った天原先生のことを、私はとてもきれいだと思う。 そうしてもう一度お辞儀をして、私は保健室のドアを開けて外に出た。 ――ドスン。 その途端何かが床に落ちる音が聞こえてきて、思わず声を上げて飛びずさってしまった。 「どうした柊」 その音に驚いたのか、桜庭先生もこちらに駆けてきた。 「……な、なにやってんのよあんたたち」 頭痛い。 そこに、床に転がりながら喜色満面の笑みを浮かべるみさおがいた。こなたはその袖を掴んだまま、心底嫌そうな表情を浮かべているのだった。 ――これはつまり。 「か、かがみ。これはその、みさきちがどうしてもって……」 「おー、かがみ、すっげーぜちびっ子のアイキドー。お前も投げられてみろよ!」 「場所と状況を考えろこのバカっ! 遊んでる場合か!!」 本当に、こいつらは頼れる友達なんだろうか。 思わず天原先生に云った言葉を撤回したくなる。 ――あやのとつかさとみゆきは、少し離れたところで他人のふりをしているのだった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『4seasons』 冬/きれいな感情(第七話)へ続く コメントフォーム 名前 コメント 今回も読みました、頑張ってください! -- 名無しさん (2008-06-23 00 25 26) あえて言おう…男ざまぁwww -- 名無しさん (2008-06-22 20 32 46) 反作用という言葉がうまく生かされていたと思う。 -- 名無しさん (2008-06-22 15 07 16) 今回も面白かったです。GJです。 -- 名無しさん (2008-06-22 15 05 36) 理解ある友人達と、同じ立場の先生達……かがみは確かに恵まれてる。 でもやっぱり、頼るのが下手だなとも思う。こなたは輪をかけてだけど。 -- 名無しさん (2008-06-21 23 10 53)
https://w.atwiki.jp/2525chorus/pages/34.html
ミュージカル「RENT」よりSeasons of love 合唱形式でSeason of loveを歌う 進行状況 下記の歌詞で確定 音源提出中 参加者 男声パート 『す』(仮) ◆zWD74BM92E ずっと俺の合唱団 ◆FlH7Fxj0oM コドモゴコロ ◆RnfOaQJRjg シャオ ◆obMnWi5awM 女声パート ここなっつ◆coco72oO.Q あさみ♪ ◆Asami.MMIE LR ◆QGwXN0YoV2 井戸 ◆P6rBQWtf4. MIDI作成 ここなっつ 音声編集 コドモゴコロ 動画編集 あさみ♪ 使用音源 http //hisazin-up.dyndns.org/up/src/60438.zip 参考音源 ミュージカル名場面集-06【RENTより】 歌詞 ※(男声のみ)【女声のみ】のかっこで分けてます。わからない方はスレまで~。 Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes Five hundred twenty-five thousand moments so dear Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes How do you measure measure a year? In daylights In sunsets In midnights In cups of coffee In inches In miles In laughter In strife In Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes How do you measure a year in the life? How aboutlove? How aboutlove? How aboutlove? Measure in love Seasons of love (Seasons of)love 【Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes Five hundred twenty-five thousand Journeys to plan Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes How do you measure the life Of a woman or a man?】 (In truths that she learned Or in times that he cried In bridges he burned Or the way that she died) It s time now - to sing out Tho the story never ends Let s celebrate Remember a year in the life of friends Remember the love Remember the love Remember the love Measure in love Seasons of love ... (Seasons of) love 完成品 【コラボ】Seasons of Love【RENT】 コメント欄 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/ddr_dp/pages/2507.html
Seasons(楽) 曲名 アーティスト フォルダ 難易度 BPM NOTES/FA(SA) その他 Seasons TOMOSUKE feat. Crystal Paloa X3 楽5 168 169 / 13 STREAM VOLTAGE AIR FREEZE CHAOS 32 28 0 32 0 楽譜面(5) / 踊譜面(8) / 激譜面(12) / 鬼譜面(-) 属性 縦連 譜面 http //eba502.web.fc2.com/fumen/ddr/x3/seasons_8b.html 譜面動画 https //www.youtube.com/watch?v=2Uxs6K-ImmU (x?.?, NOTE) プレイ動画 http //www.youtube.com/watch?v=epwnokCtJwE (x1.5, NOTE, 4 39~) 解説 4分はあったとしても縦連主体で、上位譜面のような踏み辛い配置は殆ど無い。それなりに早いBPMに付いていけるなら逆詐称 -- 名無しさん (2017-01-01 10 51 29) 名前 コメント コメント(私的なことや感想はこちら) 名前 コメント