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弾ける光球から現れたその姿は、人々からすれば、白き鋼の鎧に太陽の如く光り輝く雄雄しき翼を携えた、 まさしく混迷の大地に神が遣わした太陽の戦神そのものであった。 「・・・すげぇ、なんだ、ありゃ・・・? つかあれランスロットじゃね?」 「お前の言うことは偶によく分からん」 「あれって・・・ロボット? でも、他のに比べると随分小さい・・・」 「でっかけりゃいいってもんじゃない! っておねーちゃんがいってるの」 「ええ・・・それは、まごう事なき真理真実ね」 「何の話をしている? ともかく、もう少し逃げたほうがいいだろう。幸い敵の注意はあれに向いている」 「だな、後はアレに任せるとするか」 天より舞い降りた戦神の中では軽い痴話喧嘩が発生していたが、それもひとまず沈静化。 「でだ麟音、大丈夫か?」 「ええ、もう大丈夫。それよりも、この状況は」 「どう見ても、やったのはあの黒いロボどもだな。どう見てもMMMICSじゃないし、マシンゴーレムの類でも なさそうだ。ソーレッタ、生態反応は?」 <むむむむ・・・うむ、わかったのです! コアチップCPUからの命令伝達と処理解析速度向上のために おそらくはクローニングで大量生産した脳神経組織を使ってはいますが、定義上は無人です!> 「ちっ、ドイツ語読みの17・18じゃあるまいに、どんな糞野郎が考えた制御法だっての。そりゃ確かに 人の頭脳を100%使って並列化すりゃCPUにゃ勝ち目は無いとはいえ、だったら作って混ぜりゃいいだろって」 「汚らわしいにも程があります。宗次君、やってしまいましょう」 「だな。どうやら向こうもやる気みたいだし・・・学園に飛んでた頃以来か、MMMICS以外と戦うってのは。 だがもういい加減ゴーレムとかドラゴンの相手は勘弁してくれよなぁ!」 光の翼をはためかせ、鋼鉄の戦神が黒き巨人へと飛翔する。 <突然何事かと思ったけれど、そんな精々6m程度のロボットがいきがった程度で、何が出来ようと いうのかしらねぇ? やってしまいなさいジュ・ゲイム!> ジュラフマーより高らかに響くファウストの声に従い、ジュ・ゲイムの一機が白いロボットへ立ち向か 「遅い!」 白き戦神は輝く光の矢と化し天を翔け、腰に据えた翼状刀を抜き放ち、ジュ・ゲイムを一閃の下に両断する。 「まずは一体! ・・・つか、どんだけヤワい装甲使ってんだ? 合金トイよりヤワいって・・・そうか、 さすがに1000年前じゃ重粒子合金系やナノメタルマテリアルの類は作れないのか」 <な、い、一撃ですって!? ・・・た、たかだか一機倒したくらいでいい気にならないことね! それにその速度、どうやら音速以上のようだけれど、どこまでソッチの体が持つかしらねぇ?> ファウストFはジュ・ゲイムの群れを散発的に襲わせることで、パイロットの気力と体力を削ぐ戦術に出る。 だが、宗次にはその程度の戦略など意味がない、むしろチャージのためには好都合。 デカブツの中の人には残念なようだが、このディヴァイザーはマッハ5を想定して機体強度を設計しているし、 コクピットブロックの慣性制御機構もそれに準じたものを備えている。 それにこちとら「瞬転」のESP持ち、速さに関しては生涯一度も苦になるような場面に出くわしたことはない。 さて、そいじゃいい具合にあったまってきたし、そろそろ一発かましてやりますかね・・・ 「ソーレッタ、WBDチャージ効率算出!」 <はいな! WBD充填量、問題ナッシングです!> 「よっしゃ、やるか!」 両腰の翼状刀を手にし連結、腕部グラビティワイヤーのアンカーに固定し、投擲の要領で勢い良く振り回す! 唸りを上げて風を切る刃はやがて「波動」の停滞により固着された重力子と、それに引き寄せられた 光子の収束により眩い輝きを放ち始める! 「光牙の舞、烈光の刃、避けられるものなら避けてみな! ウィング・ブレイダー・ディバイド!!」 高速旋廻する光纏う刃が、暗雲を切り裂きジュ・ゲイムの円環の群れに食いつき、そのまま一気に円周上の 機体群を爆砕し突き進む! 次々に爆散するジュ・ゲイムを遠目に見つつ、 <そ、そんな馬鹿なことが・・・30機のジュ・ゲイムがこんな一瞬で・・・!?> ファウストは驚愕する。 自分が作り上げた現在のボディでもあるこのジュラフマーもそうだが、ジュ・ゲイムも、単機であらゆる任務を 遂行するために知りうる限り最高水準の知識と技術をつぎ込んで完成させた逸品であることに違いは無い。 そんな我が手足となるべき存在が、かくも容易く破壊されるものなのか・・・!? 否、そんなことが断じてあるはずがない! <行きなさいジュ・ゲイム! あの喧しい虫を叩き潰してやりなさい!> 近接戦で両断あるいは赤熱爆砕された5機、今の攻撃で30機をものの10分足らずで失い、残る15機の ジュ・ゲイムに命じるより他無い。ジュ・ゲイムで時間を稼いで、収束荷電粒子砲でこの世界から跡形もなく 消し去ってやる・・・! 「ソーレッタ、残りは?」 <小さいほうが15機と、あとデカいのが荷電粒子砲のスタンバイを始めてるようですよ?> 「荷電粒子砲? 今更あんな500年前にフォトンブラスターに取って代わられた骨董品で何を、って ココじゃ最新以上の武器なのか・・・とはいえ撃たれたら俺らは無傷でも地表面が面倒になるな」 「それに、あの巨体は普通に倒したんじゃ、落下時点で被害を極小にするのは難しいわ。小さいほうなら 必要以上にダメージを与えて破壊するかレッド・インパクターでどうにかなったけれど」 「だよなぁ・・・なぁソーレッタ、あのデカブツ確実に消すにゃ、やっぱ70は要るよな?」 <アーカイバのSGN射出ログとシミュレート、敵さんの推定質量からすると、やっぱり70は欲しいですねぇ> 「となると、専念すべきか・・・すまん麟音、ユーハブコントロール」 「畏まりまして。アイハブコントロール」 「メインシートはSGNチャージモードへ移行。ESP SEED、Break Out!」 宗次の全身を金属繊維と特殊金属で出来たメタルフルコートが被い、右腕も特殊金属製のガンドレットが 装着される。それと共にSGSドライブ及びHSLの臨界駆動パラメータ値やESP充填度パラメータ等が表示された ホロパネルが多数展開される。 「私の役目はあくまでも時間稼ぎにてございますれば。麒宮 麟音、参ります。麒宮流薙刀術の冴え、 遙かに古の世にも知らしめて差し上げましょう」 ジュ・ゲイムを大量に爆砕し帰還した翼状刀は、収納された柄が伸びてそのまま双刃薙刀となる。 SGSドライブが唸りを上げ、HSLが周囲に拡散する魔素を吸い上げ始める。 <推力が落ちた・・・? ふふ、どうやらさっきので著しくエネルギーを消耗してしまったようね? ですが残念、こちらにはまだまだ駒はあるのよ!> 「品性の無い人と話すほど暇ではありませんので、静かにしていていただけますでしょうか」 さらりと言ってのける麟音はディヴァイザーを駆り、流麗乱舞。 ESP技能により機体性能を100%発揮できる宗次と違いあくまでもチャージモード時の防衛用でしかないが、 元々の機動性能の高さや柔軟性は、麒宮流薙刀術を扱うには申し分の無いレベルである。 さらに麟音は薙刀を使わせたら文字通り右に出るものは居ない、史上最年少免許皆伝の名誉を受けた逸材。 となれば、二人にとっては時代遅れのジュ・ゲイムに遅れをとることなどありはしない。 「せぇい! まずは一体! ・・・宗次君、どの程度時間を稼げばよろしくて?」 「70まで上げるとなると、そうだな、5分くれ!」 「心得ました。5分で14体、何とかなるやも知れませんわね」 麟音はディヴァイザーをジュ・ゲイムの群れに向かわせる。 その戦い、舞うが如し。ジュ・ゲイムはディヴァイザーに触れることすら叶わず、次々と爆砕する。 「申し訳ございません、私では下に被害が出ないように倒すのは難しいので、せめて人の居ないところに」 人気の無い場所を目視確認した上で、そこにジュ・ゲイムの残骸を叩き落していく。 <SGSドライブ及びHSLの臨界突破値180、グラビトロンチャンバー1への光子充填量250を突破。放射口開放、 余剰光重力のスラスター及びPMWへの転換を開始します> 「やっとこさ50、もうちょい頼む!」 「お任せあれ!」 背部ウィングの光がさらに光度を増し、煌きが戦場を駆け回る。 「・・・おいおい、MAPWに気力連動特殊機能持ちか? 大概だなありゃ」 「言ってる意味はよく分からんが、とりあえず凄い事なのだと言う認識で居ればいいわけだな」 「にしても、最後の最後、一番オイシそうな出番盗られちまったなぁ・・・」 既に蚊帳の外と化した翠や苓達は、戦場を離れつつ天上大決戦を見守る。 <ジュ・ゲイム、全滅・・・!? まぁいいわ、時間稼ぎは出来たわ!> ジュラフマーの腹部シャッターが開き、複数設置された砲門が中央部に集約される。 <ざぁんねぇん! 遅かったようねぇ! さぁ、これでも喰らいなさい!> 意気揚々と砲口を白いカトンボへと向け、高らかに勝利を確信し吼えるジュラフマー。 「ソーレッタ、蓄電量から推定照射距離、照射時間の算出と弾いて一番被害の出ない角度を算出!」 <あいあい!> <さぁ、消し飛びなさぁい! 収束荷電粒子砲、発射ぁ!> 現行世界の化学工学では明らかにオーバースペックな、必殺とも言える破壊の閃光が、今放たれる! 「麟音、アイハブ! それが・・・どうしたぁあああああああああああああああ!!!!!!!!」 排気口とPMWから黄金の閃光を迸らせ、翻る翼が破壊の閃光を打ち据える! 「うぉおおおおおおおおおおお! っらっしゃあああああああああああああ!!!!!」 黄金色の翼に激突した荷電粒子砲は、その牙を何にも突き立てることなく、電荷の自然放電と拡散により 一切の用途と果たすことなく消滅する。 <そん、な、ばかな・・・荷電粒子砲を弾き飛ばすなんてそんな> 「時代遅れの骨董品ごときで、俺達を如何にか出来ると思うなよ!」 <それなら、圧倒的かつ絶対的な質量差で押し潰してやるわぁあああ!!!> 推力100%で驀進するジュラフマーと、それを静止し待ち受けるディヴァイザー。 推進の勢いに、300tを超える質量が乗り、ジュラフマーの拳が発揮する威力は、直撃すれば荷電粒子砲と 遜色ないだけの破壊力を秘めている。 <この一番単純で粗暴ながらも確かな破壊力、その身でとくと味わい> 「んなもん効くかよ!」 全高以上の大きさの拳の接近を、タイミングを合わせた払い腕で弾き飛ばす! <ばかなぁあああああああああ!? そんな細い腕でそんな、ありえない!?> 「大図書館の隅っこにあった本で覚えたスキルだが、まさかまた役に立つとはなぁ!」 腐女子の巣窟と化していた大図書館の片隅で、とある学園生の父親にしてあの世界で最も凶暴かつ恐ろしい 魔女王の旦那が執筆したらしい学術論文やら、半分ライトノベル気分で読んだ歴史書やら、意味もなく 読んでみた魔道書やらと一緒にあった、「私のいい考え百選」とかいう本に載っていたので冗談半分で 頑張ってみたらホントにどうにかなってしまった「大きさの概念を棄てる」スキル。 ドラグガドリウムとの戦いで大いに役立ったスキルだが、今またこうして役立てる機会が来るとは。 「中の人はデフォでサイズ差補正無視持ちか・・・」 「またよくわかんない単語が出てきた・・・バカ兄、ゲームのしすぎじゃない?」 至極分かりやすい単語も、知らない人からすれば何のこっちゃである。 「さて、そろそろ終わりにしようか! SGS及びHSLオーバードライブ!」 全身から黄金の闘気を巻き上げるが如くに光子を噴き放ち、瞬間、ジュラフマーに肉迫、 「おおおおおぉぉおおおおおぉぉ!!!!!」 ディヴァイザーの拳と蹴りがジュラフマーを打ちのめし、 「次はこいつだ!」 翼状刀を両手に構え、蹴り飛ばしたジュラフマーに追いつき、その全身を駆け巡り切り刻み、 「連結ランサーモード、麟音、ユーハブ!」 「アイハブ! はぁぁああああああああ!!!」 切り上げ上空に叩き上げた巨躯を薙刀が織り成す流星の舞が襲い、 「ウィンガーモードへ! ユーハブ!」 「アイハブ! WBDと同時に脚部パイルバンカースタンバイ、地表面に向けてアンカー射出!」 上空高く、満身創痍のジュラフマーへ倒滅の光刃が迫ると同時に、ディヴァイザーは地上へ急降下する! 「対ショック備え! 麟音、舌噛むなよ!」 麟音が頷いた数カンマ秒後、爆音と共に地上へ降り立つ。 <な、ぐ、一体、何を、するつもり・・・!?> ロールアウトしてからまだ3時間と経過していない、なのになぜこの至高にして究極の機械神ジュラフマーが これほどまでに損傷しなければならない!? 既に損耗度は70%を越え、稼動限界損耗を上回っている。宙に浮いていなければ自重で潰れていても おかしくは無いレベルにまでこの機体を損壊させられるなど、あっていいことではない! 何故だ! 「知識」の宝珠から引き出したデステクノと世界各地の最高水準の頭脳を結集、あるいは知識のみ 吸い出させて結集させた現在人類の英知の全てをつぎ込んだ筈のこのジュラフマーが、何をどうしたら あんなカトンボ風情にこれほどまでに破壊されねばならない!? <こちらもただやられていたわけではなくってよ! 荷電粒子ほ> 「サイキック、ウェイィィィィィブ!!!! ってなもんだぁ!」 両腕にインパクターガンドレットを展開、敵を拘束する「波動」のESPを打ち込まれたことで、ジュラフマーは 完全にその行動を封じられる。 「ソーレッタ、標的の高度算出! 5000越えてるかどうかだけでいい!」 <あいあい! 現在敵さんの高度は5380±10、黒雲突き抜けなおも上昇中!> 「オーライ、んじゃ、対ショック閃光防御! アイカメラシャッターON、照準、トリガー!」 <いえっさ! 準備万端整いまして!> 「フォトングラムシリンダー展開、パベルノン・クラスター開放、Gチャンバー1射出シークエンスへ移行! 旅立て、星生まれ出ずる輝きと無限の虚空の彼方へ! 光子超重力爆砕太陽砲(ソル・グラヴィトン・ノヴァ)、ぶちかませぇぇぇぇえええええええええ!!!」 宗次の雄叫びと共に引き絞られたトリガーに合わせ、胸部から漆黒のエネルギー体が極超音速で、 ジュラフマー目掛け一直線に撃ち放たれる! <そんな単発弾ごとき・・・な、なにこのエネルギー量、まるで> ファウストF、ならびにジュラフマーの思考はそこで絶える。 極大音の爆砕の中にジュラフマーは完全無欠なまでに破壊され、光子の高濃度圧縮と衝撃破砕による 地を焼き尽くすほどの熱量と直視した者の眼を焼き尽くす閃光、耳を突き抜ける爆砕音、その全ては 一拍明けて空間を割り開かれた虚空の顎へ飲み込まれ・・・一陣の烈風のみを残し消え去る。 烈風は立ち上る戦火を吹き消し、黒雲を吹き飛ばす。 黒雲吹き去り再び開かれた空。 動乱の終結を祝福するかのごとく、ベルリンの町を、赤々と曙光が照らしていた。 「ふぅ・・・ひとまず終った、か。さてどうすっか」 <ひとまず極東共栄圏諸島政府、じゃなかったこの時代だとニッポン、ですかね? そこに行くのは どうでしょう? この時代ならマスターが良く行く神田の特別閉鎖区も普通の町並みですよ!> 「そういえば、この時代には2937年の対火星動乱で沈没したオキナワ島は健在で、G兵器の直撃の余波で 閉鎖された地域も、極普通の街なのよね?」 「ま、それに俺らが生まれる1100年前、でないかも知れんが、とりあえずは故郷のようなもんだ。ひとまず 行ってみることにしようか。ソーレッタ、各所チェック、クールダウンまであとどの程度掛かる?」 <あと580秒といったところです。とりあえず普通に稼動するのであれば問題ないのですよ~> 「よし、じゃ、そろそろ行くか。長居は無用、変に絡まれるわけにもいかんしな」 ディヴァイザーは再び飛翔、瞬く間に暁紅の中へその姿を消すのであった。 人々は、閃光と共に現れ、太陽の如き輝き纏い悪鬼を打ち倒したその鋼の戦神を、神が遣わした 神聖なる機動戦神、Divine Weapon と呼び語り継いだと言う。
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【電磁人の韻律詩42~ラプラスの悪魔~】 原因があるから事象がある。 事象はすべからく原因と化す。 この物語の最初に述べた通り、それは自明のことなのだ。 不完全ながら私との契約を可能にした少女もそんな世の中の法則で動いているし、 この物語の主人公もそんな法則の中で動いている。 だが、世の中にはそんな法則を越えた理不尽が少なからずいる。 たとえば世界を征服したアレキサンダー たとえば日の沈まぬ国を陥落させたドレイク 不確定性原理を提唱したハイゼンベルク 全て私の能力を超えて力を発揮してきた人間だ。 ここで挙げてきた人間は歴史に名を残した人々ばかりだが、 当然歴史に名を残さなくても因果を越えた人間存在は居る。 それこそがこの物語の最後の敵。 前回の話より遡ること三日前、明日真は笛吹探偵事務所の前に立っていた。 自らを鍛えた上田明久に焚きつけられて、彼は上田明也に勝負を挑むことにしたのだ。 本来であれば明日を止めるはずの恋路が明日真との痴話喧嘩で居ないことも彼の無茶を支えていたことは否定できない。 「……よし、行ってみるか。」 上田明久は自ら笛吹探偵事務所に電話して明日が来る旨を告げていた。 同時に 「正面から真面目に戦わないとお父さん遊びに行っちゃうぞー」 と宣って明也を戦慄させていたので明日に上田からの不意打ちの心配は無くなっていた。 明日真は迷うことなく探偵事務所につながるエレベーターのボタンを押した。 「来たか、明日真。」 エレベーターの扉が開くと少女が待っていた。 赤毛の少女、橙レイモン。 ラプラスの悪魔の契約者。 「ってレモンか。所長は居るのか?」 「橙レイモンだ、今回の私は笛吹探偵事務所警備担当。つまりお前の相手だよ。 私を倒さなければ上田とは戦えないと思ってくれ。」 「いや、俺はあいつと戦いに……。」 「冷静に考えてみろ明日真、上田明久が出た時点で我らが所長は絶対に勝負に来ない。 彼の無茶苦茶さは君自身が最も知っているはずだ。」 「でもだからってお前が俺と戦うっていうのか?」 「ああ、それが上田明也が上田明久と会わないでお前との戦いを終わらせる方法だからな。」 そう言ってレモンは明日の背後に向けて指でコインを撃ち出した。 「あ痛ッ!」 「予測通り、息子が妙な真似をしようとしないか監視する為に来ていたか。」 「あ、明久さん!?何処に隠れていたんです?」 「私の能力の管理下から逃れうる人間は居ないぞ!」 「くっそ……、明也の奴良い仲間持ってるんじゃねえか。 隠れるのは別にちょっと昔戦った忍者の技を真似ただけだ。」 額に当たったコインの痕をなでさするサムライポニーテールの大男。 上田明久である。 彼は息子が自らの弟子に対して卑怯な手を使わないように見張りに来ていたのだ。 「ところで念のために聞いておこう上田明久。 私が上田明也と戦う前に彼と戦っても問題無いよな? なんせ私はこの事務所の警備担当な訳だから不審者を排除する義務がある。」 「だが俺のお膳立てした俺の息子と俺の弟子の勝負を邪魔する権利はないな。」 「ああ、だが始まらなければ勝負じゃないだろう?」 「お嬢ちゃん、何か勘違いしているようだが……。 それはお嬢ちゃんが俺より強くなければ成り立たない話じゃねえか?」 「何を言っているんだ上田明久。私とお前では役者が違う。」 「はっ、ガキのくせにこの俺に対して大口叩くじゃあ……」 「―――――ウォーリーを探さないで。」 そう言った瞬間、上田明久は明日真の前から姿を消した。 「やれやれ、何時までも若い気で居る老人というのは迷惑な物だよ。」 「…………嘘だろ?」 「これが現実だ、受け入れろ。」 明日真はレイモンと面識がある。 だが明日はレイモンが戦闘能力を持っているなどと思いもしていなかった。 だからあの圧倒的な強さを持つ上田明久を一瞬で消し去った彼女の能力に明日真はただただ驚いた。 「さて、次はお前の番だ。 抵抗しても良いぞ? どこかの探偵と違って私は容赦しないし優しくないからな。 侵入者が来たらすぐ排除、シンプルで良いだろう?」 「まて……!」 レイモンが指を鳴らす。 次の瞬間、明日真の姿はビルの中から消えた。 「……ここは?」 「私の能力で作った空間だよ。まあウォーリーを探せの一ページだが。」 ブリキの兵隊 黒髭危機一髪 五体バラバラになった兎のぬいぐるみ 目玉のとれたリカちゃん人形 マジンガーゼット そのどれもが巨大 何時の間にか明日真は巨大なおもちゃ箱の中に立っていた。 「私を一歩でも歩かせたら上田に会わせてやる。」 レモンはそこら辺に転がっていた人間と同じ大きさのBB弾を蹴飛ばす。 それが玩具の携帯電話にぶつかって携帯電話の上に置いてあった箱が倒れる。 その中に入っていた沢山のビーズが明日とレイモンに降り注ぐ。 「うぉ!?危ない!」 「安心しろ、当たっても死にはしない。」 ビーズと言っても当然巨大。 当たればそれなりに痛いし、打ち所が悪ければ怪我もするだろう。 だから明日真は必死でそれから逃げ回る。 「くっそ……!」 一瞬マイクロ波を撃とうとする明日。 だが彼女がまだ子供であるという意識が彼にそれを躊躇わせる。 次の瞬間、降り注ぐビーズの一つが明日の頭を直撃した。 明日は吹き飛ばされて熊のぬいぐるみにぶつかる。 「おいおい頼むぞ明日真。 仮にもうちの所長を倒そうという男がそんな事では困る。 私を倒さなくては所長も倒せないんだからな。」 「言われなくてもやってやる!」 マイクロ波の射出能力の応用。 明日はマイクロ波に変換する前の体内を巡る電流を使い、肉体を活性化させる。 強化された肉体で明日真は転がってくるビーズを飛び越えてレイモンに迫る。 「だがそれも想定済みだ。」 降り注ぐ大量のビーズのうちの一つをレイモンは懐から取り出したエアガンで撃つ。 カツン それはわずかに軌道を変えて熊のぬいぐるみに引っかかっていたビーズにぶつかる。 カツン そのビーズは転がって穴が空いた大きなビーズにぶつかる。 カツン そして大きなビーズは三角の積み木の上に乗ったスプーンにおちる。 すかさずレモンがブリキの兵隊が何故か持っていた子供銀行の巨大な十円玉を撃ち抜く。 それはブリキの兵隊の掌から落ちて下にある積み木の上に置いてあったスプーンの柄の部分にぶつかる。 シーソーのようにしてスプーンの上のビーズが空中を飛ぶ。 ―――――――直感 それが間違いなく自分に向いていると明日真は直感だけで気付いた。 彼は横っ飛びに飛ぶ。 「うわっ、危ないじゃねえか!」 「いやいや、危ないのはお前だよ明日真。 私にはなんでお前がそれを避けたのか理解出来ない。」 カツン 降り注いだビーズが穴あきビーズにぶつかってその軌道を空中で変えた。 「うわあああああああああああ!!!」 予想できない攻撃に、明日真は押しつぶされると思って目をつぶった。 「……あれ?」 明日真は辺りを見回す。 視界はピンク一色で染められていた。 彼は穴あきビーズの穴の中に嵌ってしまっていたのだ。 「まったく、これでチェックメイトか明日真? まあここで止めておけば無傷で帰れるぞ。」 「そんな訳無いだろ!」 「オーケー、じゃあ怪我して帰れ。」 そう言った瞬間、レイモンの近くに巨大ロボが倒れ込んでくる。 巨大なマジンガーゼットの超合金玩具だ。 「やっと来たか。」 それは丁度良くレモンの手の届くところにロケットパンチのスイッチがついていた。 そしてロケットパンチは丁度良く明日真の方を向いていた。 バネの勢いよく跳ねる音。 「うなーれー、鉄拳ロケットパンチ~。」 ロケットパンチが明日真の入っているビーズを撃ち抜いた。 「うぉわああああああああ!!!」 ロケットパンチのサイズが成人男性の拳骨くらいだとすると 明日真のサイズは現在成人男性の小指くらいである。 明日真はビーズごと簡単に吹き飛ばされた。 彼は既におもちゃ箱の底に全身を打ち付けてボロボロである。 しかしレイモンは戦闘が始まってから一歩も動いていない。 すでに勝負は付いていた。 「おや、もう駄目かな?生きてるか明日真?」 「………………。」 返事はない。 「うぉおおおおおおおおおお!」 突然、レイモンの後ろから明日真が現れる。 明日真はロケットパンチがあたって吹き飛んだビーズの中からこっそり逃げ出していたのだ。 そして明日真はそこら辺に落ちていた巨大なビーズを投げつけようとする。 「だがそれも予想済みだったけどね。」 レモンがエアガンで明日の手を撃ち抜く。 そしてビーズが明日の手から落ちた。 「これで潰されて……!?」 その時、レイモンの予知が外れた。 レモンの予知では明日がそのビーズに押しつぶされてその勝負は終わるはずだったのだ。 「ビーズはフェイント、本命は直接お前を捕まえることだよッ!」 レイモンには反応できない早さで明日が近づいてくる。 レイモンはエアガンで明日を撃とうとしたがそれも全て躱される。 「おっしゃあ、捕まえた―――――ゼッ!」 レモンは近くに有った剣の刺さった黒髭危機一髪の剣にエアガンを撃ち込む。 黒髭危機一髪が明日に直撃した。 「……思ったより危なかったかな。」 「く、そ……。」 明日真はそれ以上動けなくなってその場で気絶した。 次に明日が眼を覚ますと明日は家の前に投げ捨てられていた。 普段なら恋路が回収してくれるのだが今は諸事情の為彼女は家に居ないのだ。 「俺、あの子供にも負けたのかよ……。 俺の修行ってなんだったんだ……。」 明日真は大いに落ち込んで家のドアを開ける。 ドアをあけると何故か玄関にはスケ番風の金髪カチューシャお姉さんが立っていた。 「よう少年、大分落ち込んでるみたいじゃねえか。 そういえば磁力を使えばピッキングなんて楽勝だよね。」 「笹木さんじゃないですか。なにやってんですか。」 「家に上がれよ、お姉さんがお片付けくらいはしておいてやったぞ。 しかし少年がこんなエロ本読んでいたなんて……。」 「そこ俺の家です! ていうか何勝手に上がり込んでるんですか!」 「ジャンプでも良くいるだろう、押しかけ女房。」 「誰のせいで恋路が出て行ったと思ってるんです!」 「私は恋敵を追い出しただけだ、私は何も悪くない。」 笹木は明日より背が高い為に話そうとするとどうしても見下ろす形になる。 笹木の艶やかな唇が喋る度に揺れる。 だが明日はどうしても胸に視線が釘付けになっている。 とりあえず家に入らないとどうしようもないので明日は家の中に入ることにした。 ちなみにその頃の上田明久は 「ウォオオオオオオオオオオリィィィィイイイイイイイイイイイ! もっと戦えええええええええええええ!」 「うわ、こっちくんな!」 「あれがジャパニーズサムライ……。」 「お前ら逃げるぞ!」 「俺に構うな先に行け!」 「数の力で押しつぶせば勝てるって!」 「いや無理だから!」 「何あれ、無双乱舞つかってるよ絶対!」 「ていうか常に無総ゲージマックスなんじゃねえの!?」 「りょ、りょ、呂布だああああああああ!」 「おらおらお前ら奇跡の一つくらい起こしてみやがれ!」 「命だけは助けてえええええ!」 「駄目だああああああああああ! これでも手加減してやってるんだからもっと頑張りやがれええええええ!」 ウォーリーをさがせの世界の内部にいる偽ウォーリー達のほとんどを切り倒していた。 彼がウォーリーをさがせの世界を自力で破壊して出てくるのはこの十分後のことである。 【電磁人の韻律詩42~ラプラスの悪魔~fin】
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突発的に婚約が決まった御剣怜侍と狩魔冥の祝いの場は、保護者付きなら子どもの 入店も許されている居酒屋だった。ごく普通の個室の座敷だ。庶民的なのは、その日は 元々、御剣を除くメンバーが集まる予定だったからだ。 御剣は知らなかったが、冥は帰国すると成歩堂たちと会っていたらしい。舌の肥えた 冥に最初は緊張したが、B級グルメにも興味津々で気さくだという。 「レイジが知ったら高いお店に連れて行って貰えなくなるわ」と冥は箝口令を敷いて いたが、実にもって全くその通りだ。食事絡みの時だけは、細かく言えば支払いの 時だけは冥は「兄妹弟子」を主張するので奢らされていたというのに。 店に来る前、裁判を終えた御剣は、ロビーにて本日二度目の衝突があった。 帰国して裁判所に顔を出していた狩魔冥と、子どもの頃のような派手な口喧嘩をやったのだ。 長い片想いに疲れた冥が、話の流れでホテル生活と脈が無い御剣を待つのに飽きたとブチ切れた。 青天の霹靂、七歳年下の自分の師の娘に手を出す選択肢を持たなかった御剣は、望むならぜひ 一緒に住もうと上から目線で「同棲」を持ちかけたのだった。 一の勧誘に百の棘を持つ抵抗が返ってくると身構えた御剣の胸に、あの気の強い冥が泣き、 胸に飛び込んで来たのは驚きだった。困惑し宥めていると、口論のプロである現役検事同士の はた迷惑な痴話喧嘩をハラハラと見守っていたその場の関係者が安堵し、大きな拍手を持って 祝福してくれた。その最中は幸せな時間だったが、さらに時間が経った今では、公衆の面前かつ 自分たちの職場での失態故に半年ばかり職場放棄したい、いっそ海外に飛ばして欲しい……と 現実から目を逸らしたくなっていた。 「おめでとう……で、いーのかな。上手くいって良かったよ」 「成歩堂」 一度でクリア出来る期待はしていなかった。カンペキを求める狩魔の娘に対して、なんとも 見苦しい告白だ。御剣も最初は、「指輪が無い」「改めて夜景のきれいな場所で交際を 申し込め」等、落ち着いたら冥は徹底的にダメ出ししてくるに違いない、どう論破して くれようと迎え撃つ構えだった。 が、冥はまるで夢のようだ、お互い忙しいから式も旅行もいらない、しばらくは他の国の 仕事は断わると塩らしいことを言い……「同棲」ではなく、冥の頭の中は一足飛びに「結婚」 という、厳しい現実を突きつけられたのだった。 自分の人生で具体的に結婚を考えたことが無かった御剣は、酷く動揺したが後の祭りだ。 その後、冥は普段の彼女を取り戻していった。泣かれるならなじられる方がずっと彼女 らしくて安堵する。冥の怒りは自分を子ども扱いし、プロポーズを待っていたのに行動を 起こさなかった御剣に対しての恨みつらみで、一途に惚れられていたことを痛感した。 言葉は攻撃的だが、何を言われても可愛く感じる自分にも戸惑ってしまう。 それらのやりとりを思い出すと自然に笑みが漏れてしまい、御剣は慌てて咳払いで誤魔化した。 用事を済ませた、もう一人の主役が到着すると、歓声が上がった。 強制的に御剣の隣に座らせ、ニヤニヤと他のメンバーが祝いの言葉で取り囲む。 「プロポーズされて仕方なく受けた」「まだ若いし私はもっと後でも良かったのよ」などと 醒めた口調なので、ほっけを解す作業に集中するふりをしていた御剣は次々出てくる偽証に 吹き出すのを堪え、酸欠状態に陥った。 ――検事を見たら嘘つきと思え。 「式や指輪の相談は、次に帰国した時ですか?」 と霧緒が冥に尋ねる。冥は明日、別の国に発つからだ。後が怖いので御剣は何一つ省く つもりは無かったが、隣で冥が拒否した。 「いらないわ」 「えーっ、かるま検事、せっかくだし最初がカンジンなんだからたこ焼きくらいの指輪 貰っちゃおうよー。お宝はいくつあっても困らないし」 唆すような真宵の言葉に、冥は首を振った。 「レイジが私を選んでくれたっていう、その自信が私の宝石なの。これ以上飾る必要はないわ」 幸せそうに微笑む冥にその場の女子が悲鳴を上げ盛り上がり、過去散々鞭打たれて来た 男性陣はまるで人格の変わってしまった冥の発言に引き気味になっていた。 「悟りの境地の狩魔検事がなんだかブキミッス」 「イトノコ刑事、他人の婚約者をブキミとか言うな!……気持ちはわかるけど」 「安心したまえ。この私もキミたちに限りなく近い心境だ」 成歩堂たちと一緒の時は、冥は安酒も普通に飲むという。自分に奢らせる時は煩いほど 銘柄に拘るのにと御剣は面白くない。が、ワインやシャンパンのグラスを気取って口に 運ぶ彼女とは違い、楽しそうに焼酎や国産ウィスキーをロックで呷る男前な飲みっぷりは 気持ちが良く、惚れ直しそうだった。 お約束の「いつから好きだったか」の問いに、冥は「一目惚れよ」と即答した。 御剣の方は、初めて会った時の冥の印象は薄い。というのも、挨拶する御剣の顔をじっと 見つめた後、冥は無言で自分の部屋に消えてしまったからだ。 「王子様が我が家に来た!って、幼い私には大事件だったの。恥ずかしくて隠れたわ」 (第一印象から睨まれ、敵対視されてると思っていたのだが) 「目に浮かぶようだ……」 成歩堂は顔を引きつらせ相槌を打つ。小学生ですら女子が御剣を見る目は違かった。 鈍感・御剣の総スルーの天然タラシっぷりは、冥の場合も健在だったらしい。 「レイジは恥ずかしがり屋で、せっかく私が勇気を出してアピールしてるのに、検事に なる勉強で忙しいっていつも逃げてたのよ!」 想い出して憤怒する冥のその横で、御剣は一人、首を傾げてしまった。 (無言で背後から六法全書で殴られれば、逃げて当然ではないか) 祝いの席で異議を申し立てるのは大人気ないので、御剣は「その節はすまなかった」と 棒読みで謝っておく。偽証の裏づけ発言をしている気分だ。 「勉強の話題の時だけは話を聞いてくれたから、レイジを私に振り向かせたくて、 さらに私も勉強に力が入るようになったわ」 それは、彼女の力であって、自分は良い競争相手になっただけだ。感謝するとしたら、 御剣の才能を信じ育ててくれた師と彼女の家族にだ。右手にテディベア、左手に絵本 ではなく六法全書を携える七歳年下の天才少女の存在は常にプレッシャーだった。 あの非日常的で特殊な環境が、今の自分の下地を形成している。 「あ、あの。わたくし、みつるぎ検事さんのお話もお聞きしたいです!」 逃げるつもりだったのに、質問者が頬を赤らめた子どもの春美だったので出来なくなった。 御剣の回答に期待し目を輝かせる女子に下手なことを言えば袋叩きで、慎重に言葉を選ぶ。 「私は、見ての通り勉強と仕事以外の事は一切排して来た。潜在的にはおそらく、 メイが初恋の相手だと思う」 強引に、そういうことにしておく。脳裏に狩魔家で迎えたクリスマスの夜、冥に宿木の 下に引きずり込まれ奪われたファーストキスの記憶が蘇った。そのキスは拒めないという 風習を知らぬ御剣は憮然として、冥と口論になった。しかも、男女の条件が逆転して いるのだから、当時から今日まで御剣は全く成長がない。 再びテンションの上がった女子を横目に思考する。少なくとも、検事になった後も冥とは 滅多に顔を合わせる環境ではなかった。自覚したのは……今日だ。 (私が初対面で冥に惚れてたら犯罪だというのに、女性の気持ちは理解しかねる) テーブルの下で、冥の右手が御剣の膝に置かれた。グローブ越しで感触や体温は 伝わらないが、異性のそれを知っている身は、脱がせたい触れたい欲求に駆られる。 現在の冥は、左手に鞭、右手は甘い砂糖菓子だ。指を重ね返した御剣には軽く一瞥くれた だけでガールズトークに参加していた。計算ずくの行為にモヤモヤしそうになる。 この日の冥はたくさんの笑顔を見せ、酔い潰れ、御剣の膝で眠り込んでしまった。 いろんなことが一度に起こり過ぎて、御剣自身まだ実感が沸かない。一方的に冥が喋る ばかりで、殆ど発言せず来年籍を入れる話に決まっていたからだ。 一生独身でも何の問題も無いが、冥が相手なら逆らうよりいっそ流される方が楽だ……と、 冥に負けず劣らず、素直ではない自分に御剣は苦笑した。 ラストオーダーの時間になった。今後も当然のように部下の糸鋸の手を借りるつもり だった御剣は「婚約者なのに」「自覚は無いのか」と総攻撃を受けた。 自力で運ぶのは面倒なので、仕方なく起こすことにする。 薄目を開けた冥はぼんやりと御剣の顔を見つめ返し、目を凝らしていた。 「……夢、だったの……?」 悲しそうに冥が呟く。婚約のことを言っているらしい。 「プロポーズの話なら夢ではない。帰ろうメイ」 「……レイジ!」 寝ぼけているにしては力強く胸倉を捕まれ、冥が首に抱きついて御剣の口を塞いだ。 油断していたために、御剣は冥に圧し掛かるような体勢になりジタバタする。 「御剣検事、目に毒ッス!場所を弁えるッス!」 積極的になった冥はなかなか離れようとせず、その場でふしだらな何かが始まりそうに なるので、御剣は説得を試みた。 「ぐ。メイ、こんな場所で、そのようなアレは困る」 「ふふっ。照れてるレイジ、可愛い……」 酔いが醒めてない冥は御剣の手を自分の胸に押し付けて来た。元々年齢よりは大人っぽいが、 女の顔で自分を誘う冥に大人の御剣ですらドキリとさせられる。 クールな天才検事にはそぐわない情熱的、扇情的な振る舞いに「さすが海外経験の ある検事さんは大胆ッスー」とマコからも感心されてしまった。 「イ、イトノコギリ刑事……」 御剣がまとわり付く冥を引き剥がそうと助けを求めるが、 「正気に戻った後の狩魔検事の制裁が恐ろしいッス!」 醜態を見られたことを冥が知りどれだけ荒れるか。その想像で糸鋸は身震いしていた。 「な、成歩堂……」 「悪いけど眠った春美ちゃんが背中にいて手が離せない。……帰ろう、真宵ちゃん」 「えーなるほどくん、おもしろそーだよ。無料だし」 「真宵くん!これは見世物では無いッ!」 二人の邪魔をしてはいけないという遠慮なのだろう。「不要だ、そんな気遣いは不要だ!」 という御剣の必死の訴えは却下され無視されてしまった。 「おやすみ御剣。今日はお祝いだから、ぼくらからの奢りだ」 「失礼するッス」 「おやすみなさいッスー」 「指輪はゼッタイですよー、みつるぎ検事」 「末永くお幸せに」 彼らの声が遠ざかっていく。この日は恥をかき倒す運命だったのかもしれない。 いつのまにか、御剣の下で冥が静かになっていた。さすがに暴れ疲れたらしい。 冥の証言は御剣の視点ではムジュンの塊だが、もし冥が被告人なら検事側ではなく あの時と同じように弁護側に回り、冥を信じ抜いてみせよう。 自分が冥を口説き落として花嫁にするという「真実」も悪くない。 「帰るぞメイ」 念のため声をかけたが、「うるさい」と怒られた。本来の冥だ。 起こすのは可哀想だし、担ぐなり抱えるなりしてタクシーを使うことになる。それは 構わない。新たに抱えることになった問題は、中途半端に冥から誘惑されたお陰で、 御剣は部屋に連れ帰り大人しく一人で寝るのは不満だという現実。 大人の自分を挑発し弄んでくれたこの小娘に、お返ししないと気が済まなかった。 裁判、口喧嘩に続き、本日三本目の勝負。最初がカンジンだ、と真宵も言っていた。 (今夜はこのまま平和に寝てられると思うなよ、狩魔冥) フィアンセという立場になった妹弟子に対し、御剣は心の中で挑戦状を叩きつけるのだった。 おわり
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酒の肴/2005年08月25日/マジか?! #blognavi
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登録日: 2015/01/22 Thu 22 32 00 更新日:2021/04/02 Fri 08 04 19 所要時間:約 8 分で読めます ▽タグ一覧 無限のファンタジー めくるめく スカートめくり ファミ通文庫 ライトノベル 世界の危機 世界の危機はめくるめく! 佐藤了 大魔王 完結 小説 異世界 痴話喧嘩 神 藤真拓哉 選ばれし者 長野県 魔神 『世界の危機はめくるめく!』とは、ファミ通文庫出版のライトノベル。 著作:佐藤了 イラスト:藤真拓哉 本編は全7巻、番外編が1巻発売中。 ■ストーリー ある日の事、宮田真吾は真っ白い世界に居た。 その世界にたった一つある電話ボックスが鳴り響いていたので、 電話に出てみると、神様を名乗る女性が真吾をこの世界に呼んだのだった。 女神様曰く自分の手違いで地球の危機になったけど、自分には別の仕事がある。 しょうがないから地球には手違いの犠牲になってもらう事にした。 ただ、それだと寝覚めが悪い。そのため選ばれし者達に力を託し危機と戦ってもらいたいと言う。 どんな力が欲しい? と女神は尋ねるが、真吾はそんな事信じなかった。 女神が軽い性格だったことも手伝いこの世界を夢だと判断した真吾は、あるものを求める。 女の子の、スカートをめくる力が欲しい! スカートめくりの力が欲しい……真吾は男のロマンを求めてしまった。 女神様は真吾の正気を疑うが夢だと思っている真吾が決して譲らない。 呆れた女神様は真吾に力を託し、真吾は夢から目覚めた―― 翌日真吾はいつも通り長野県県ヶ丘高等学校に登校すると、先日の夢に疑問を覚え、力を試してみた。 すると真吾に『スカートをめくる力』がある事が発覚する。 もの凄く喜ぶ真吾の前に、美須々ヶ丘女子高に通う美少女・住吉穂香が現れ告げる、自分も「選ばれし者」だと。 彼女は女神から『仲間を感知する力』『世界の危機を感知する力』を貰ったという。 穂香の力の存在に仲間が出来て喜ぶ真吾は驚愕し、自身の力を恥ずかしく感じ逃げ出してしまう。 その後なんとか仲直り出来た真吾達は残りのメンバーを集める事になったのだが……。 集まったメンバーは小学生に、人形遊びをするオタクの浪人生、そして犬。 メンバーに驚愕する真吾だが、この中で一番の役立たずが自分というのにも驚愕した。 そしてついに世界の危機が訪れる―― ■登場人物 宮田真吾 県ヶ丘高校2年3組に通う本作の主人公。 エロい妄想をすると興奮度が増していき、口から妄想が漏れると言う悪癖がある。 リーナと婚約して以来回避スキルなどが上昇中。 最終巻ではかなり変態な事を告白し、穂香にとんでもない事をする。 神から貰った力は『スカートをめくる力』……男の子だもん仕方ないよね。 腕を振るう動作か「めくれろ」の声で発動し、女の子が座っていてもめくる事が可能。 振るう勢いか、声の大きさで効果も変わるが、怪しまれず行うためには一人が限界。 恥も外聞も捨てれば大人数も可能だが、真吾はまだ人生を諦めてはいない。 1巻はこの能力でなんとか乗り切ったが、2巻からは神に強化してもらい、 スカートだけでは無く服すら脱がせるようになった。拡大解釈しすぎだろ……。 その後も強力になって行き、津波をめくり返したり、時間を未来や過去へめくり返したりと凄い事に。 住吉穂香 男女交際に厳しい美須々ヶ丘女子高等学校に通うヒロインの一人。 演劇部に所属しており、部長から役作りの修行の一環でコスプレをすることもある。 真吾の力の実験台で頻繁に被害にあう。 幼い頃男子にいじめられていた所を真吾に助けてもらった過去があり、好意を抱く。 神に貰った力は『仲間を感知する力』『世界の危機を感知する力』 仲間を集めたり、世界の危機の始まりと終わりを仲間に伝える役割がある。 さらに神からお目付け役としてグランディオーソという意識を与えられた。 グランは監視の他に、地球だけの滅びならともかく、 次元規模に影響がでると判断すれば地球を壊して世界を安定させる役目もある。 リーナ・シェン・フィス・オクターヴァ ヒロインの一人で異世界に存在する惑星オクターヴァの第一王女。 13歳であり色々幼いが、真吾達が束になっても敵わないほど強い。 武器はオクターヴァの至宝、神殺しの魔剣ブルレスケ。 地球の神ラメントが言っていた世界の危機とは彼女の事で、オクターヴァの神・トランクィロの命で地球に来た。 オクターヴァの王女は身内以外に肌を見せてはならないと言う掟があり、 真吾の力のせいで肌を見られてしまい真吾と婚約してしまう。 その後、県ヶ丘高校2年3組に転校し学校のアイドル的存在に。 真吾を籠絡させるためにトランクィロは地球の漫画で勉強した知識をリーナに与えるので、 幼稚園児の恰好をしたり、裸リボンをしたりする。 八坂光夫 県ヶ丘第一小学校に通う6年生。 生意気な性格で真吾達には懐かないが、穂香には懐いた。何故なら男が嫌いだから。 こうなったのも理由がある。 神から貰った力は『何でも防ぐバリア』小学生らしいが非常に強力。 目に見えないバリアは大抵の攻撃は防げるうえに触れた物を消滅させ、生命体が触れても気絶で留めると言う便利なバリア。 弱点としてこのバリアは、男を守ってはくれないので光夫の後ろに隠れる必要がある。 何故かと言うと神にそう頼んだから。 松川淳 今年で成人する予定と言う浪人生。 薫と名付けた人形を妹と呼び溺愛しており、自宅学習と言って部屋に引きこもっているオタクでもある。 真吾に負けず劣らず変態で、『二次元世界における特殊能力発現時の女性への影響』とい論文を作っていると言うほど。 神から貰った力は『瞬間移動』 移動出来る距離に制限は無いが、自分がイメージできる場所にしか行けない。 国の名前を知っていても想像できなければ移動できない。 さらに神様から『瞬間移動石』も貰っている。これを使えば淳が居る場所へ移動できるというもの。 しかしこの力には欠点があって、女性が瞬間移動すると下着が空を舞うようになっている。 勿論これも淳が神に願ったから。 タロウ 地域で有名なパトロール犬で、警察にも表彰された事もある。 犬の癖にかなりのスケベ。実はタロウの飼い主が……。 神に授かった力は『分身能力』 最大で100犬ぐらいまで増える事が出来るが、動かそうとすればせいぜい30犬程度。 清内路清美 2巻から登場した新たな選ばれし者。 神の啓示を受ける神社の娘であり、常時巫女服。 今回神様からの啓示で、世界の危機は自分と真吾の子を作る事で回避すると言い真吾に迫る。 しかし穂香は清美から世界の危機を感じ、そして選ばれし者の反応がするという。 神から授かった力は『誘惑の力』 ■サブキャラ 楢川大輝 小学校からの付き合いである真吾の親友。 勉強もできてスポーツも出来るが、行動原理が不明確な変人。 カメラマンを目指しており、現在は『無限のファンタジー』を求めパンチラ画像を盗撮して真吾に売っている。 真吾の力に速攻で気付き、盗撮に利用する代わりに自分の情報力を生かして真吾の活動に協力する。 彼のアドバイスは適格の一言。真吾がどんなに苦しくても諦めないのは彼のおかげ。 清内路家に連なる家系であり、大輝も神から『情報感知能力』を貰っていた。これは決定的な瞬間をカメラに収めたい大輝と神の利害が一致したため。代わりに神から真吾を導く役目を与えられた。本編開始の5年前からであり、真吾がスカートめくりの能力を貰うように仕向けたのも大輝の教育によるもの……。つまり神の策略。真吾達がリーナに敵う筈がないと分かっていても選んだり、真吾の能力に神があまり文句を言わなかったのも、オクターヴァの風習を事前に知っていたため。全てはラメントの手の上だった。 ガルヴァン・ディー・デス・オクターヴァ オクターヴァの王にしてリーナの父親。 雲を突くような巨体だが伸縮自在で人間サイズ(それでも2m)になる事も可能。 力も強大で隕石を降らしたり炎や風を操ったりできる。 ちなみに奥さんは13歳のリーナとそんなに変わらない容姿。 梓川柚子 真吾達のクラスの担任。 スタイルもいいが真吾にスカートをめくられたり、脱がされたりと災難もある。 クラスに王女が真吾の婚約者として転校してきたので頭を悩ませていたのに、 清美が真吾と子供を作るといいながら転校して来たので、国際問題になるのではと気にしている。 正体はトランクィロ。 武石理沙 穂香の先輩で演劇部の部長。 穂香に役作りと言う名目でコスプレさせているが、彼女の趣味。 正体はラメント。 ラメント 地球が存在する宇宙の神。 神への電話番号は『5330-831-317110』(神様万歳、清内路) かなりフランクな女神様で責任感があるのか無いのか分からない。 途中から行動に怪しさが現れ、真吾達に疑われる。 自分が行動しないのには理由があるが……アレな理由である。 全ての元凶。 トランクィロ 惑星オクターヴァが存在する宇宙の神。 ラメントに比べ礼儀正しい大人の女性。 こちらの電話番号は『10916-30-831』(トランクィロ様、万歳) 遥か昔、外宇宙から攻めてきた魔神と戦っていたオクターヴァの民に、魔剣ブルレスケを授けた。 ■用語 選ばれし者 地球の神ラメントから凄まじい力を託された、真吾達6人の事。 他にも過去に似たような役割を与えられた『県巫女』というのが存在したようだ。 本人達も気付かなかった共通点がある。 魔神 神になれなかった人間のなれの果て。 各地に封印されており、目覚める時こそ世界の危機。 しかし倒すたびにちょっとした災害が起こるようになった。 大魔王の力の一部。 ・大魔王 遥か昔オクターヴァを襲撃したものの、リーナの先祖によって倒されトランクィロ によって未開の惑星だった地球に封印された。現在はラメントによって着々と復活しつつある。大魔王は地球と言う殻を破って復活するらしく、戦う事すら出来ない存在。元々は破壊を好む神であり、ラメントとトランクィロ と何か関係があるようだが……。 追記・修正は無限のファンタジーを求める方がお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] なんで項目建ったし…。 -- 名無しさん (2015-01-23 01 04 14) 高校の時に買ったわ -- 名無しさん (2015-01-24 14 14 52) まさか記事があることに驚き。松本に住んでいた自分には主人公たちの学校が本当にある学校名だったから読んだ後、地元の見る目が変わったな -- 名無しさん (2016-04-17 19 41 20) ↑ お前さんの地元すごいな -- 名無しさん (2018-06-04 10 13 10) 名前 コメント
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昨日一昨日はいつもの4人に加えてみさきちと峰岸さんを加えた6人で卒業を記念して我が家でパジャマパーティーを開いた。 結局みさきち達とは3年の2学期からの付き合いだったけど、やっぱり一緒に大きな事をやり遂げると繋がりは強くなるんだね。 桜藤祭をきっかけにして今ではもうすっかり仲良くなり、皆で集まってはおしゃべりをしたり勉強の息抜きに遊んだりもしたっけ。 進路は皆バラバラだけど、別れる時にまた機会があれば皆で集まろうって約束もした。 そして卒業式から2日後のお昼休み。 最後の役目を果たしたはずのセーラー服を着て、紙袋を片手に稜桜学園の廊下をてくてく歩く。 行き交う何人かの生徒が私を見て振り向くけどまぁ仕方ないかな……って、私ってそんなに有名だったっけ? まぁ細かいことは気にせずに第2の目的地である保健室に到着すると、ノックと共に挨拶してドアを開ける。 「あら? 泉さん?」「む? なぜお前が今ここに来てるんだ?」 と予想通りの2人、天原先生と桜庭先生の当然とも言える質問の後、もう1人の聞き慣れた声が同じように問いかけてきた。 「なんや、泉? 忘れ物でもしたんか?」 「いやいや、そんなんじゃないですよ。黒井先生が寂しがってないかな~、なんて思って会いに来たんですよ」 「何ゆうてんねん。手の掛かる生徒が無事卒業してくれてせいせいしとるわ」 「まぁまぁ2人とも。立ち話もなんですから中にどうぞ、泉さん」 「じゃあお言葉に甘えますね、天原先生」 教師3人に卒業した元生徒1人という不思議な顔触れの昼食会……と言っても、私は天原先生の淹れてくれたお茶だけど。 「で、泉。卒業したお前が何のようだ? 忘れ物の回収などと言う殊勝な話ではあるまい?」 さらりときつい事を言う桜庭先生。 「うぉ、桜庭先生。それはいくらなんでもひどい言い方ですよ? まぁ実際そんな訳ないですけど」 「だったらなんやねん? いくら寂しい言うても、こんなすぐに来るのも考え物やで?」 今度は呆れたような顔で黒井先生が溜め息を1つ。 「いやまぁ。そこまで寂しがりじゃないですけど、顔を見たいってのもありますよ。少しは」 「少しかい! 全く可愛げのないやっちゃな。そこは嘘でも寂しかった言うのが人情ってもんやないかい」 「じゃあ寂しくて寂しくて夜も眠れませんでした~……よよよ」 目元を押さえながら黒井先生に抱きつくと、 「取ってつけたようにゆうな! 抱きつくな!」 顔を赤くして私の頭を押さえつけてくる。そんな様子を見て天原先生がこんな事を言う。 「ふふふ、お2人は本当に仲がいいですね。黒井先生、頬が緩んでますよ?」 「んなっ! いや、これは、なんちゅうか……」 「おやおや~? 実際寂しかったのはそっちじゃないんですか~、黒井せんせー?」 「やれやれ、ここまで仲のいい教師と生徒も珍しいな」 「さ、桜庭先生まで?! こら、泉! いい加減に離れんかい!」 まぁ先生をからかうのはこのくらいにしておこう。卒業したのにゲンコツをもらうのはいただけないしね。 「ったく。で、本当に何の用や? いくら卒業生やからって軽々しく遊びに来ていいもんでもないんやで?」 「用ならちゃんとありますよ。黒井先生と天原先生に。最初に職員室に行ったらこっちだって聞いたものですから」 「黒井先生と私に? 何でしょう?」 不思議そうな天原先生の問いかけに紙袋から取り出した2つの包みで答える。 「はい。お世話になった黒井先生と、いつもゆーちゃんがお世話になってる天原先生にお礼です」 「へ?」「あら?」「ほほぅ」 呆気に取られたような黒井先生と天原先生、感心したような桜庭先生の声が重なる。 「ありゃ? こういうのってまずかったですか?」 「いや、そうやあらへんけど……まさか泉からこんな風にされるとは思わんかったからな」 「私は改めてお礼をされるような事をしてる訳じゃないですから……」 「まぁいいじゃないか、2人とも。黒井先生は素直に教え子が成長した事を喜べばいい。ふゆきにしてもお前がそうは思わなくても、世話される方にとってはお礼をするに値するという事だろう。なぁ、泉?」 桜庭先生のフォローにむずがゆく感じるけど、 「あ、いや……そう言われるとちょっと照れるんですけど。まぁそういう事です」 すると2人とも納得したのか、顔を見合わせると笑顔で 「おおきにな、泉」「ありがとう、泉さん」 と優しくお礼の言葉をくれた。 「や、その……どういたしまして」 2人の笑顔に見惚れてしまい、頬を掻きながらそう答えるのがやっとだった。 その後は私の持ってきた包み、お菓子の詰め合わせだけど、をお茶請けに4人でのんびりとおしゃべりをした。 黒井先生も桜庭先生も受け持ちの授業はなく、怪我人や病人も来なかったので天原先生の仕事もなかったのは運が良かったと言うべきか。 気づけば放課後になっていて、時間が経つのは早いなぁとか思いながらお茶会をお開きにすることになった。 「それじゃ先生、今までありがとうございました!」 「おぅ、こっちこそな。なんやかんや言っても3年間楽しかったで」 「ふっ、こうして話をしたのも何かの縁だ。気が向いたらうちの部に遊びに来い。確かお前は田村と仲が良かったはずだしな」 「ええ、そうですね。ひよりんは可愛い後輩ですよ」 「その前に桜庭先生。ちゃんと部の方も指導して下さいね?」 「やれやれ。相変わらず一言多いな、ふゆきは。それにこんな時くらい『桜庭先生』は止めたらどうだ?」 「それはそれ、これはこれです。そもそもまだ勤務中ですよ」 「ほほぅ、自分から進んでお茶を淹れていたのは誰だったかな?」 「そ……それはそれ、これはこれです」 「なんや、痴話喧嘩かいな? うちらの仲がいいゆうてたけど、自分らだって人の事言えんやないですか。なぁ泉?」 「ええ、全くです。説得力ないですよ、ふゆき先生」 「ふ、2人とも、からかわないで下さい!」 「いいぞ。もっと言ってやれ、2人とも」 そんな風に4人で笑い合い、最後にもう1度頭を下げて保健室を後にする。 用事は済んだものの何故か真っ直ぐ帰る気になれずに、あちこちで生徒の話し声がする中を当てもなく歩く事にした。 気の向くまま歩くと着いた所は3-Bの教室だった。 誰もいない教室に1人でいると、何とも言えない不思議な感覚に囚われる。 世界で今いるのは自分1人なんじゃないか、とか、振り返ればクラスの皆がいるんじゃないか、とか。 「そんな事ある訳ないじゃん」 1人呟いて窓に近寄れば校庭で部活に励む生徒の姿が見えるし、窓を開ければ掛け声や歓声だって聞こえる。 さっきまでの楽しさと今1人でいる状況が生み出したギャップでそう感じただけなのか、やっぱりこの学校を離れる事が寂しいのか。 きっと両方だと思う。 この学校で過ごした時間が、それだけ大切でかけがえのないものだったんだろう。 「さて。感傷に浸るなんて私らしくないぞ、泉こなた!」 そう自分に声を掛けて教室から出ると、 「そんな事ないよ、お姉ちゃん」 静かな、だけど力強く声が掛けられた。 「え? ゆ、ゆーちゃん? なんでここに?」 「クラスの人から聞いたんだよ。お姉ちゃんがこっちに向かったって、ね」 「そ、そうなんだ……って、そんなに目立ってたかな?」 「うん。お姉ちゃんは気づいてないかも知れないけど、結構人気あったんだよ?」 「へ? う、うそっ?!」 「ほら、桜藤祭でチアダンスやったでしょ? あれでお姉ちゃん達のファンになった人とか私のクラスにもいたしね」 「そっかー……全然知らなかったよ」 「でも……正直言うと、嬉しさ半分心配半分だったんだけどね」 「え? なんで? あれがきっかけって事は、私だけじゃなくてゆーちゃんにもファンとか……」 そこまで言い掛けて気づく。 確かに好きな人に人気が出るのは嬉しいと言うか誇らしいけど、これでもしゆーちゃんに変な虫がついたらと思うと…… ゆーちゃんも同じように思っていたんだろう、ぎゅっと抱きついてきたので、苦笑しながら頭を優しく撫でて上げて、 「心配性だね、ゆーちゃんは。私が浮気でもすると思った?」 「そんな事はないけど……でも、やっぱりお姉ちゃんがそういう人達に愛想良くするのは見たくないな」 「大丈夫だよ。私はゆーちゃんの事が世界で1番好きなんだから」 「ん……じゃあ証拠見せてくれる?」 そう言って目を閉じるゆーちゃんに、今私に出来る最高の愛情表現をしてあげた…… 「いやー、すっかり遅くなっちゃったねぇ」 夕日に照らされながら、2人手を繋いで家路を歩く。 「おじさんとゆいお姉ちゃん、待ちくたびれちゃってるかな?」 「んー、さっきの電話の様子ならまだ大丈夫でしょ」 寂しがり屋のゆーちゃんにキスをして、そのまま……といった所でお父さんとゆい姉さんからの着信が来た時には本当にビックリしたよ。 「お祝いだからお寿司を取るんだーって言ってたけど、あの調子だと特上とか平気で頼みそうだね……」 「うん……ゆいお姉ちゃんもすごく元気だったよ? お土産楽しみにしててね、だって」 「……ゆきおばさん達とか、かがみ達とか呼んだ方がいいかな?」 「ちょっとお母さんに電話してみるね?」 「私もかがみにメールしてみるよ……多分こっちは無理っぽいけどね」 結局かがみ達は自分の家でお祝いしてもらうから無理、ゆきおばさん達も来れそうにないとの事だった。 駅に着いてから家に電話して、帰宅した私達を待っていたのは…… 「ちょっと、ゆい姉さんにお父さん。いいからそこに座る」 「いやいや、1人娘のお祝いだぞ? 奮発しなくてどーする!」 「そーだよ、こなた! 可愛い妹の新たな門出を祝うんだからパーっとやらないと!」 「だからって! どう見ても頼み過ぎでしょ、これ?!」 4人分を遥かに超える、お寿司を始めとしたパーティーメニューの数々だった…… 「ま、まぁゆいちゃんもここまで頑張ってくれるとは思わなくてな? だが後悔はしない!」 「そのとーり! おじさんが責任持って食べてくれるから!」 「ゆ、ゆいちゃん?! 裏切ったな?!」 「お姉ちゃんもちゃんと責任持って食べるの!」 「ゆ、ゆーちゃん? 『も』って事はおじさん、許してもらえないのかな?」 「安心していいよ、お父さん。ゆーちゃんが許しても私が許さないから」 「そ、そんな……こんなに食べたらお父さんお相撲さんになっちゃうぞ?」 涙目になって懇願する2人を見て、横にいるゆーちゃんと一緒に苦笑する。 「まぁお祝いしてくれるのは素直に嬉しいからさ。ほら、冷めないうちに食べちゃお?」 「そうですよ。私達もがんばりますから。ね、こなたお姉ちゃん?」 「だね。余ったらゆい姉さんのお土産にすればいいしね」 「ありがとー2人とも! じゃあ早く着替えておいで。テーブルの準備をしておくからな!」 「じゃあ私は飲み物の用意しちゃいますね」 一転して羽根でも生えたように軽やかに動き出すお父さん達に呆れながら、ゆーちゃんと部屋に向かう。 「やれやれ、あの2人は本当にしょーがないね」 「さすがに今日のはやり過ぎだけど、これからもずっと、こんな風に楽しく過ごせればいいね、お姉ちゃん!」 「ん、そうだね。これからもよろしく、ゆーちゃん」 そう言って優しく抱き寄せて、微笑んだまま瞳を閉じるゆーちゃんに唇を重ねた…… コメントフォーム 名前 コメント
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使い魔大作戦! 決闘!レポート1 「助かっちゃうなー。ホント」 「いえ、ただの賄い食ですから」 横島脱走未遂事件から数日後。 あれから横島が再び脱走をはかることはなかった。 フレイムから炎のシャワーを浴びた後、ルイズにこってりたっぷり小一時間ほど説教されて懲りた・・・・のではない。 もとよりシバかれ慣れている横島にとって、それらはさほど苦痛ではなかったのだが 説教中、ルイズが口にした「使い魔が主人の命令に逆らい続けると、身体に刻まれたルーンからとてつもない魔力が発生し、使い魔を死に至らしめる」という言葉のほうが大問題だった。 もちろんこれは、あまりに反抗的な使い魔に言うことを聞かせるためのウソなのだが ルーンによって霊力が抑えられているという実感のある横島にとっては、これほど真実味のある恐ろしい話はなく、泣く泣く言うことを聞かざるを得なくなったのだった。 ここで一生こき使われるのもイヤだが、死ぬのはもっとイヤー!!というわけである それからというもの、ルイズの態度はいっそう厳しくなり、掃除洗濯はもちろんのこと 自分が授業中魔法に失敗し、教室の窓ガラスや備品などを大量に破壊してしまい 当然のごとく命じられた後片付けも、横島一人にやらせて自分は悠々と食堂へという始末。 その食事の面でも、さすがに一日三食食べさせてもらえるようにはなったが、 ルイズ達貴族はテーブルに並べられた豪勢な食事を 一方横島は、床に置かれた質素な食べ物を這いつくばっての食事。 そう、まさしく犬そのものの扱い。横島が食事のたびに涙を流していたのは言うまでもない。 「そんなことないって、今までの生活を振り返ればとんでもないご馳走だよ・・・うぅ、全部貧乏が悪いんや・・・・」 「ヨコシマさんって本当に苦労なさってるんですね・・・・」 そこにあらわれた救いの女神が、以前洗濯中に知り合った少女、シエスタであった。 食堂の配膳中に、貴族の華やかな食事にまじって、上記のようなスタイルで食事をとる横島を見、あまりに情けな(ry あわれな姿に、同情を禁じえなくなった彼女が「よければ私たちの賄い食でも・・・」と声をかけたのだった。 もちろん断る道理もなく、二つ返事でご馳走になると言った横島は、今ではこうして ルイズとともに食堂へは行かず、食堂の裏の厨房で食事を取っているのだった。 「そこで助手の美神さんを救いつつ、颯爽と現れた俺が悪霊どもに言い放つんだ {この世に未練を残す気持ちはわかるが、少々やんちゃが過ぎたようだな!このGS横島忠夫が極楽へ生かせてやるぜ!}ってな具合でさ~」 「ふふ、ヨコシマさんはいつもいいところで駆けつけるんですね」 「え?あぁ、それはもうねーハハハ」 賄い食は都合上、シエスタと食べることが多く、食事が終わり手持ち無沙汰になった 横島は、シエスタの時間が許す限り、もといた世界での話を彼女に語って聞かせるようになっていた。 多少の脚色が入ってはいるのだが もちろんシエスタも話半分で聞いていたのだが。 「あら、もうこんな時間ですね」 「あぁ、給仕の仕事?手伝う手伝う」 「本当にいつもすいません」 「いいって、いいって。働かざるものなんとやらさ」 すでにお約束になりつつある会話をし、二人がイスから腰を上げる。 さすがにただ飯食らいは居心地が悪いと、横島から言い出したことである しかし、やってみるとこれが意外と大変であり、やっぱ言い出さなきゃよかった、とちょっと思ったのは彼だけの秘密。 さて、場面は食堂に移って 「最近あなたと使い魔クン、いっしょにご飯食べないのねぇ?ルイズ」 ルイズが黙々と食事を取っていると、目の前にぬっと豊満な胸が現れた。 顔を見なくてもわかる、なんとも特徴的な身体である 「キュルケ、なにが言いたいの?」 「うん?だから、また逃げられたのかなーっていうことよ?」 ルイズは心底うんざりした。今日だけでこの質問は何回聞かれ、その説明を何回したであろうかわからない。 それはそうだ、ただでさえこの食堂で一際目立っていた横島がぱたりと姿を見せなくなり かわりにメイドのあとに引かれて配膳やら食器の片付けなどをやっているのだ。 最初に見たときはあいた口がふさがらず、すぐに横島に追求し事情をはかせたものだ その後、よくよく考えればそれほど問題があるわけでもないと自分に言い聞かせ 食事以外の場面では従順な態度なので放任している、しているのだが 「シエスタちゃん、こっちは?」 「それは左のテーブルにお願いします」 視界に入るメイドと使い魔を見ていると行き場のないイライラがふつふつと沸いてくる。 「別に、食べたくないって言うんならいいじゃない」 「ふぅ~ん」 キュルケの含みのある言葉を無視しながら、半分ほど残した食事をあとに、席を立とうとしたその時。 「ま、待ってくれ!これは何かの間違いさ!僕は君だけを―――」 「ギーシュ様!ひどいです!私はあなただけだったのにっ!」 「誤解なんだよ、落ち着いて話し合おう、そうすれば・・・」 「その香水はミス・モンモランシーのものじゃないですか!」 「ギーシュ・・・あなたやっぱり・・・!」 「はぅ?!違うんだモンモランシー!」 なんともはた迷惑な痴話喧嘩が勃発していた。 騒動の中心は女たらしで有名なギーシュのようだ。 以前から彼が二股をかけているという噂があった。 大方、それが発覚して相手二人に詰め寄られ、言い訳に四苦八苦する情けない男、という構図だろう (はぁ、くだらない。年中発情しているのかしら、あいつみたいに・・・) 直後、なんであいつが出てくるのよ!と頭をぶんぶんと振るルイズをよそに パンっと頬をはたく乾いた音が2度。次いで「しらない!」「さようなら!」 と前者は怒り心頭、後者は涙声の別れ文句が食堂に響いた。 その場に残ったのはギーシュと、先ほどのやりとりに対しての失笑だけであった しばらく頬を腫らし放心していたギーシュだが、しばらくするとこの惨劇の発端を思い出し、すぐ後ろにいた横島に向かってつかつかと歩み寄る。 「君ぃ・・・・見ての通り僕はすべてを失い、おまけに恥をかいた。どうしてくれるんだい?」 「え?お、俺?!俺っスか?!俺はただ落ちた小瓶を拾っただけで・・・」 「あの時、僕は知らないと言った筈だが?君が適当に話を合わせてくれさえすれば二人の女性は傷つかずに済んだ!違うかい?」 それはほぼ八つ当たりに近い言い分であるのはギーシュ自身もわかっていた。 しかしながら、先ほどの一件で彼はどうにも収まりがつかなくなっているのだ。 今は所謂「貴族の悪い癖」が彼を動かしていた。 だが、時すでに遅し。賄い食という憩いの場を得がても、それなりにこちらの世界の環境などで ストレス溜まっていた横島にとって、その言い分はあまりにも理不尽かつ腹の立つものだった 彼の中の何かがキれ、悪魔がそっとささやく モテる奴は敵だ、と 「いいかげんにしろぉぉぉ!! お前は!お前はなぁ!モテない男の気持ちを少しでも考えたことがあるのかぁー!? グワーってせまればキャー!とか言われて!変質者扱いされる男のつらさをこれっぽっちでも考えたことがあるのかぁ?! 二股がバレた?!それがどれほどうらやましい境遇かわかっているのか! 女をとっかえひっかえしながらいろぉんなことがしたい!それができずに 妄想の中の女に包まれながら、一人寂しく自分を慰める男の気持ちがわからん鬼畜め! 俺なんか!俺たちなんか一生モテずにカリカリしとけと言うのかぁ?! ちょっとでも女の子と絡むとYOKOSHIMA化だとか掲示板でぬかすかぁー!! ええぇ?!どうなんだコラぁ!?」 血の涙を流しながらブチギれた横島の、まさしく魂の叫びというのにふさわしい怒涛の猛攻。 シエスタの中の横島への好感度が下がったことや、食堂にいた一部男子から声援が上がったことは この際置いておくとして、事態はさらに悪い方向に転んでいた。 「っく・・・・平民が貴族に手を上げるとは、いい度胸じゃないか!」 「・・・・・へ?」 見るとそこには鼻血がだらだらとたらしながら、それを両手で押さえつつ怒り全開といった感じのギーシュくんが どうやら怒りのあまりギーシュくんをぶん殴ってたらしい横島くん。 ある意味自業自得とはいえ、ビンタ2発にパンチ1発とは、ギーシュ。今日は踏んだりけったりである。 「あのバカ犬・・・」 そして深いため息をつくルイズ一人 「え、あ、あのですね、それはぼくの中のお茶目なぼくが勝手に・・・」 「ますますいい度胸だな君は・・・・!」 一触即発か!、と誰もが思ったその時であった 「その辺にしときなさい、ギーシュ。それとアホ犬。見苦しいわ」 救いの女神パート2である。 「ルイズ・・・?そうか、彼はたしか君の使い魔だったね、たしかに見苦しいな。 さすが<ゼロのルイズ>の使い魔なだけはある」 「あら。特に見苦しいのはあなたよ、青銅のギーシュ?二股がバレて四苦八苦。 おまけに八つ当たりでうちの使い魔に絡むだなんて」 最初は二人の仲裁。いや、これ以上厄介ごとにならないように横島をつれて帰ろうと 二人に割って入ったルイズであったが、ギーシュの態度にカチンときてしまい 売り言葉に買い言葉となってしまった。 「・・・・使い魔はメイジに似るとは言うが・・・ いいだろう、使い魔の不始末はメイジの不始末だ責任は君にあるとも言い換えれるね」 「へぇ?だったらどうだって言うの?二股のギーシュさん」 次はギーシュがカチンとする番だ。 ついさっきまではギーシュVS横島の構図だったのが今ではギーシュvsルイズに変わってしまっている 貴族同士、プライドの高い者同士の性というやつであろうか。 「決闘!・・・・と言いたいところだが、貴族同士の決闘は禁じられているし、 いや、失礼。それ以前に君には無理だったな」 「っ!・・・・いいわ!その決闘、受けてやろうじゃないの」 「決まりをやぶるのか?」 「バレれば私のせいにでもなんでもすればいいじゃない。ここを去るのは私だけ、何か問題でも?」 「本気のようだね、いいだろう!明日、ヴェストリの広場で待つ!」 そう言い残すと、ギーシュは足早に食堂から出て行く。 貴族同士の決闘・・・・あまりの事態に、横島の後ろでビクビクしながら様子を見守っていたシエスタは、足の力が抜けその場にへたりこんでしまった。 周りにいたギャラリーもギーシュが去った後も先ほどと変わらず、静まり返っていた 「あ、あのぉ・・・・」 しばらく呆気にとられていた横島だが、自分とギーシュに割って入る形で立ち尽くしている ルイズが気になり、おもむろに声をかける 「・・・・あの、ルイズ・・・様?」 「・・・・聞こえてるわよ。大丈夫、ちょっと考え事してただけ」 「あ、そうですか・・・・って、ホントいいんスか?俺なんかの為に決闘なんて」 「勘違いしないで。これは私のプライドの問題よ。あそこまで言われて引き下がるなんて、それこそいい笑いものよ」 「そ、そうっスよねー。あの爆発魔法さえあればこわいものナシ!って感じですもんねーハハハハ」 学校を去るとかどうとか言っていたがそれは大丈夫なのだろうかと思いつつ 自分に対しての怒りはないんだな、とホッとする横島。 そんな彼に「爆発魔法」という言葉に対して、ルイズが拳をギリっと強く握り締めていることに気付けという方が無理であった。 「は? なに言ってんの?直接戦うのはあんたじゃない」 「・・・・・・・・今なんと?」 「だから、ギーシュのワルキューレと戦うのはあんたよ」 「・・・・・・・・」 「・・・・なによ?」 「ウソだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 魂の叫びパート2
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プロローグ 「それは、むかーしむかしのお話です。あるところにお父様とお母様を亡くし深い悲しみに暮れる幼いお姫様がいました。そんなお姫様の前に白馬に乗った、旅の王子様が現れます。凛々しい姿、優しい微笑み。王子様は、お姫様を薔薇の香りで包み込むと、そっと涙をぬぐってくれたのでした。「たった1人で深い悲しみに耐える小さな君、その強さ、気高さをどうか大人になっても失わないで」と。「私たち、また会えるわよね」「その指輪が、君を僕のところに導くだろう」王子様がくれた指輪は、やはりエンゲージリングだったのでしょうか?……それはいいとして、お姫様は、王子様に憧れるあまり、自分も王子様になる決意をしてしまったのです。でもいいの〜?ほんとにそれで〜。 若葉「うーん、遅いなー もー、いつまで待たす気かしらー!新学期早々遅刻しちゃうじゃない」 女子生徒「若葉ー!何してるの?そんなとこで」 若葉「ひひん。彼氏と待ち合わせなのさー」 女子生徒「彼氏?ははーん、あんた、振られたわね。彼氏ならとっくに朝寮を出たわよ?」 若葉「うっうっ、おのれ、ゆるさーーーーん!」 カツコツカツコツ ウテナ「ん?」 先生「天上ウテナさん、あなたは新学期になっても、そのヘンテコな格好を続けるつもりですか?」 ウテナ「ヘンテコ〜?」 先生「ヘンテコ」 ウテナ「男子はみんな似たような格好してますよ〜?」 先生「あなたは女子!だから!なぜ男子の!制服を!着ているの!ですかぁーーーーー!」 ウテナ「うーん。女子が男子の制服を着ちゃいけないって校則はないなー。問題ないです。じゃ、そういうことで!」 先生「おのれ……新学期も誤魔化し続けるつもりだなー?」 キャーーーーーー キャーーーーーー ウテナさまーーーーーー 男子生徒「あーあ。やれやれ。また完敗か」 キャーーーーー あー、ウテナさまー!私のタオル使ってくださいーーー ウテナ「はいはい、順番にね」 男子生徒「ふふん。なあ天上?お前がうちのバスケ部に入ってくれたら地区予選は楽勝なんだけどなー」 ウテナ「あのねぇ、僕は女子!嫌だ汗臭い男子に紛れてバスケやんのはー」 男子生徒「いいじゃーん。男子みたいなもんだろう?天上は」 ウテナ「失礼なこと言うなよな?」 男子生徒「じゃあ、なんで学ランなんか着てるわけ?」 ウテナ「王子様だよ」 男子生徒「はぁ?」 ウテナ「僕は、守られるお姫様より、カッチョいいい王子様になりたいの!」 男子生徒「なんじゃそりゃ」 ウテナ「あ……この香りは。 薔薇の、香りだ。いつからだろう。薔薇の香りに懐かしさを感じるようになったのは ん?あれれ、なんだ?痴話喧嘩かー?そーいうのは人の見てないところでやってよねー」 パチン! ウテナ「おいおい。ちょっとやり過ぎだよー」 ガシッ ウテナ「は、よかったー」 若葉「こらーーーー」 ウテナ「若葉、重いーーー」 若葉「さ、私をおいてきぼりにした罰よ!謝んなさーい!」 ウテナ「んあ、はいはいー。」 若葉「あら?西園寺様」 ウテナ「西園寺?」 若葉「知らないのー?西園寺様をー」 ウテナ「へー、有名人なんだ。 手前のやつは知ってるよ?確か生徒会長の桐生冬芽だろう?」 若葉「そ。で、もう1人の方が副会長の西園寺莢一様」 ウテナ「あの、女の子は?」 若葉「ん、ああ、姫宮アンシーよ?」 ウテナ「姫宮アンシー」 若葉「頼まれもしないのに薔薇の世話ばっかりしてる変な子。今日から私達と同じクラス。」 ウテナ「ふーん。西園寺って、あの姫宮って子と付き合ってんの?」 若葉「まさか! 硬派な西園寺様が、あんな子に関心を持つはずがないわ!同じ生徒会だから、一緒にいるだけよー」 ウテナ「若葉ってあーいうのがタイプなんだー。フーン」 若葉「もうやーねー、妬いたりしてー。心配しなくても、私はウテナだけのものよー? だってだってもうその辺の男子よりずっとずーーとカッコイイんだから〜」 西園寺「急な呼び出しだねえ、生徒会の諸君」 幹「西園寺さん、僕たちは薔薇の刻印により選ばれたメンバーです」 有栖川「掟を守ることは、我々の唯一のルールだってことを、忘れるな」 桐生「西園寺、近頃お前の花嫁の接し方には、少々問題が」 西園寺「へー、そうなのかい」 桐生「確かに花嫁は今、お前とエンゲージしてる。だがそれは、節度なく好き放題していいってことじゃない。」 幹「好き放題」 有栖川「好き放題って?」 桐生「花嫁への、乱暴はよせ、西園寺。我々生徒会の存在は、世界の果ての意思だそのことを知れば、世界の果ても決して快く思うまい」 西園寺「ッフフフ、余計な御世話だ。花嫁は現在、僕とラブラブな関係にある。他人の君たちにとやかく言われたくないねぇ。」 ピッ 幹「ラブラブ……」 アンシー「私は今、西園寺様の花嫁です。全て西園寺様の思うがままです」 西園寺「まあ、2人はそういうことだ。そこまで、薔薇の刻印の掟に拘るんなら、掟通り、決闘で花嫁を勝ち取るんだなぁ。生徒会の諸君。」 桐生「すぐにも次の決闘があることを忘れるな」 西園寺「誰が挑んでくるか楽しみにしてるさー。ハッハッハッハッハ」 アイキャッチ 若葉「わー、綺麗ねー、薔薇の模様。ね、それって、うちの学校の校章?」 ウテナ「そう見えるよねー」 若葉「誰かにもらったの?」 ウテナ「白馬の王子様」 若葉「へ?」 ウテナ「この指輪が、君を僕のところに導くだろう」 若葉「なにそれ?」 ウテナ「確か、誰かにそんなことを言われてもらったような気がするんだけど、小さい頃だったからよく覚えてないんだ」 若葉「あるある、そういうの。私の子供の頃ね、ママに「あんたは玉ねぎ王国のお姫様よ」って言われて信じてたもんね」 ウテナ「昔からそういうおでこだったんだー」 ザワザワ 若葉「あれ?何かしら?」 ウテナ「なんだ?」 男子生徒「誰かのラブレターが貼り出されているんだってさー」 ウテナ「ラブレター?」 男子生徒「ええと、何々?「そして私は、夢の中で西園寺さんと踊っていました。あなたは優しく微笑んでいます。私って馬鹿ですよね」だってさー!ハッハッハハッハッハ」 ウテナ「馬鹿はお前らだ!」 ビリッ ウテナ「悪趣味だからこーいうのは無し!」 男子生徒「貼ってたら読むぞ、普通」 ウテナ「こーいう場合、いい男は読まない!……あ 若葉…… 若葉ー!」 若葉「ううっ、うっ……」 ウテナ「この手紙、若葉が西園寺に?」 ウテナ(許せないな。西園寺ってやつ!) 西園寺「知らないねぇ。大方僕の捨てた手紙を誰かがゴミ箱から拾って勝手に貼り出したんだろう」 ウテナ「どうして人目につくような場所に捨てた!」 西園寺「僕の手紙を僕がどう処理しようと勝手だろう。しかし、なるほどなあ。あんな馬鹿な、いや、愉快な手紙はみんなで使うのが一番の使い道だ 話しってのは、それだけかい?」 ウテナ「いや」 西園寺「ああ?」 ウテナ「あんた、剣道部の主将だってな。今日の放課後、僕と決闘だ!」 西園寺「なんだ、お前は?……そうか、君が次の挑戦者だったのか」 ウテナ「何のことだ?」 西園寺「わかった。放課後、学園裏の決闘広場で会おう」 ウテナ「森って、あの立ち入り禁止になってる森のことか?」 A子「かしらかしら、ご存知かしらー?」 B子「今日も裏の森でまた決闘があるんですってー」 A子「おー勇者さま、お友達のために戦う、お節介な勇者さま」 B子「でもでも、勇者さま?」 A子「これに掟があることを?」 B子「果たしてあなたはご存知かしら?」 A子「かしらかしら」 A子B子「ご存知かしらー?」 ウテナ「なんだよー。こんなところにどうやって入れって言うんだ?」 ガチャン(キラーン) ウテナ「やっぱり、鍵がかかってるじゃないかー」 ピチョーン ウテナ「冷たいっ」 ドオオオ ウテナ「なんだ、この入り口は? ともかく、入ってもいいってことだな!」 (♩絶対運命黙示録) ウテナ「どうして空中にお城が?」 西園寺「よう」 ウテナ「は」 西園寺「あの城を見るのは初めてだったのか」 ウテナ「なんだ?あれは。あんなの森の外から見えなかったぞ?」 西園寺「蜃気楼の一種さ。ま、手品みたいなものだと思えばいいさ」 ウテナ「蜃気楼?」 西園寺「それにしても、生徒会以外にも君のように薔薇の刻印を受け取った者がいたとはな」 ウテナ「薔薇の刻印?」 西園寺「これのことさ」 ウテナ「その指輪」 西園寺「アンシー!用意しろ」 ウテナ「姫宮アンシー 姫宮、なぜ君がここに?」 西園寺「花嫁は当然立ち会うさ。決まりだからね」 ウテナ「花嫁?はっ(この香り……同じだ。あの人の薔薇の香りと)」 アンシー「この胸の薔薇を散らされた方が負けですから」 ウテナ「え?」 アンシー「頑張ってくださいね」 パンッ アンシー「ああっ」 ウテナ「何をする!」 西園寺「ふざけるなアンシー。お前は薔薇の花嫁だ。つまり僕だけの花だ。なのに他の奴に頑張れとはどういうことだ」 アンシー「すみません、西園寺様」 ウテナ「馬鹿!こんなにされて、なんでヤツに従う!」 アンシー「西園寺さまが、今現在の決闘の勝者ですから、私を思いのままに出来るのです」 ウテナ「なんだよそれ・恋人じゃなかったのか?」 西園寺「さ、始めようぜ」 ウテナ「よく分からないけど、ともかく、奴に勝てばいいんだな」 アンシー「気高き城の薔薇よ」 ウテナ「なんだ?また手品か?」 アンシー「私に眠るディオスの力を、主に応えて、今こそ示せ」 西園寺「世界を革命する力を!」 ゴーンゴーンゴーンゴーン (♩) カキン!カキン! 西園寺「はっはっはっは」 ウテナ「くっ、くっ」 西園寺「はっはっはっはっはっはっは なかなかやるじゃないか。女の子にしてはか弱いお姫様を助ける王子様のつもりか?フッフッフッフッフッフはっ!」 ウテナ「!まさか その手品の剣、本物なのか?」 西園寺「驚いたな。なんの仕掛けもないただの竹刀で、このディオスの剣に挑んでくるとはね」 ウテナ「ディオスの剣?」 西園寺「ディオスの剣を知らないのか?君は何者なんだ?興味深い存在だ」 ウテナ「まだ、勝負はついちゃいない」 西園寺「確かに。お望みなら、一突きで胸の薔薇を血に染めてあげよう。命をかけてぼくに向かってくる勇気が、もし君にあるんならねぇ。お姫様を救う白馬の王子様。フッフッフッフッフッフ」 ウテナ「はーっ!」 王子「たった1人で、深い悲しみに耐える小さな君、その強さ、気高さを、どうか大人になっても失わないで」 西園寺「何!?」 ウテナ「はーっ!」 アンシー「ああっ!」 西園寺「馬鹿めー!」 ウテナ「やー!」 西園寺「はー!」 西園寺「そんな……僕が、負けた……はっ、アンシー」 アンシー「ごきげんよう、西園寺、先輩?」 ゴーンゴーンゴーンゴーンゴーン 桐生「意外な展開だ。あの子、確か中等部の子だったないいね、ベイビィ。俺のハートに火をつけたぜ」 ウテナ「あーあ。なんだかヘンテコな目に遭わされたなー。一体何だったんだ?もう早く忘れよう あ?君は」 アンシー「お待ちしておりました、ウテナ様。私は薔薇の花嫁。今日から私は、あなたの花です」 次回予告 ウテナ「明日の放課後、決闘広場でリターンマッチだって?その生徒会の規則に逆らうものは、学園に居られなくなるって本当か?」 アンシー「いいんですか?ウテナ様。もう決闘は受けないんじゃなかったんですか?」 ウテナ「わざと負けるさ。それで問題はないわけだ」 アンシー「ええ、お好きなように」 ウテナ「次回、少女革命ウテナ 誰がために薔薇は微笑む」 アンシー「絶対運命黙示録」
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178 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2013/07/23(火) 05 20 24.92 ID JgjQr+Eb0 「あっちぃーなぁ……」 「夏ですからね」 夏休みに入って、本格的な暑さになってきた七月の下旬── 降り注ぐ陽光の中、俺は愛する妹──ではなく、友人である天使と一緒に海に来ている。 ジリジリと熱せられた白い砂浜には、どういうわけか俺たち以外に姿はない。まるで、二人きりの世界のようだ。 …………いや!いやいやいやいやっ!勘違いするなよ!これは、断っじてっ!浮気とかじゃないぞ!? これには、海より深いわけがあってだな――――― ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ―──お兄さんが語り部だと、こんなふうに物語が始まるんでしょうか。 わたし、新垣あやせは高坂京介さんと海に来ています。 彼は、桐乃のお兄さんであり、桐乃の恋人(本人たちは、名目上『普通の兄妹』と言い張ってますが……)であり―――そして、わたしの初恋だった人。 今回お兄さんと海へ来たことには理由があって……そうですね、お兄さんの名誉のために少しフォローしておくとしましょうか。 事の発端は、数日前、お兄さんから相談を受けたのが始まりでした。相談の内容はもちろん桐乃のこと。 簡単に説明すると『桐乃と喧嘩したのでなんとかしてくれ』──こんな感じの電話があったことが原因でした。 情けない人ですよね。というより、わたしに相談してくる神経がさっぱり理解できません。 一時の気の迷いとはいえ、わたしはこの人に告白したことがありまして…………まぁ、見事に振られてしまったわけです。 そんな相手に、恋愛相談をするというこの理不尽な仕打ち!…………ほんっ――――――――とう、にっ!無神経ですよね!? ……ということで、わたしはお兄さんのためなんかじゃなく、桐乃のために一肌脱ごうと決めたわけです。勘違いしないでくださいね? ―――もう少しフォローしておくと、お兄さんは桐乃に秘密にして二人きりで会うのには抵抗があるらしく、わたしたちは現地集合で海に来たというわけです。 二人きりで会うのには抵抗があるということで、わたしたちの他にもう一人いたんですが―――調子に乗った発言をしたためビーチから『失踪』してしまいました。 「──で、わざわざ海まで来たわけだが……桐乃と仲直りすることに必要なことなんだろうな?」 「当たり前じゃないですか。そうじゃなければ、あなたと海に来る意味なんてありませんから」 「……以前、俺に告白してきたやつと同一人物とは思えない発言っすね」 「あれは忘れてください。わたしの人生で最大の汚点ですから」 「おまえって、サラッと酷いことを言うやつだよな」 「お兄さんにだけは言われたくありません!」 あいかわらず失礼な人ですね!……そんなに殺されたいんでしょうか? ……まあ、桐乃が悲しむから我慢してあげますけど。 「あの、あやせさん……その眼力だけで人を殺そうとするのをやめていただけませんかね……」 「えっ、なんのことです?そんなことより、そろそろ今日の作戦について説明しますよ」 「……お手柔らかに頼むぜ」 なぜかわたしと距離を取るお兄さんに、桐乃と仲直りする作戦を説明しようとした時、視界に一台のクルマが映った。 ―――どうやら作戦開始のようです。 「説明する手間が省けました。お兄さん、あそこを見てください」 「あそこ?……うおっ!?な、なんだ……あの異様に痛いジープは……!?」 「まぁ、見ててください」 「お、おう…………って、ん?いま降りてきたのって……桐乃じゃねぇか!」 「予定より早く到着したみたいですね」 メルルのプリントがされたジープは、わたしたちから少し離れた場所に停車し、中から桐乃が降りてくる。 お兄さんは驚いた様子でわたしに尋ねてきた。 「おい、あやせ……どういうことか説明してくれ」 「うーん、そうですね……名付けて『桐乃と仲直り大作戦』と、言ったところでしょうか?」 「そのまんまじゃねぇーか!」 「では、そろそろ種明かしをするとしましょうか」 ―――そして、わたしはお兄さんにネタバラシをする。 実は、今回お兄さんがわたしに相談してきた裏で、桐乃が黒猫さんに『京介と仲直りしたいんだケド……』という相談を持ちかけていたんです。 ふふっ――――笑っちゃいますよね?同じ日に、同じ内容の相談をしてるなんて。 うん……やっぱり、この二人は似たもの兄妹です。 「――えーっと、それってつまり、桐乃も俺と仲直りしたいと思ってるってこと?で、みんなが協力してくれたってわけか?」 「まあ、簡単に言うとそういうことになります」 「そっかそっか。へへっ……悪い、あやせ――俺ちょっと行ってくるわ!」 そう言って、お兄さんは桐乃の下へと駆け出した。 まったく、せっかちな人ですね―――わたしはいつかのように呟く。 「――いってらっしゃい、お兄さん」 わたしにお伝えできる物語はどうやらここまでのようです。お話の続きを綴るのは、わたしの大嫌いな親友に任せるとしましょう――― ※ 「てかさぁー、なんでアンタたちと海に行かなきゃいけないワケェ?」 「あなたね……何度同じ話題をループするの?」 「だって、あんた泳げないじゃん?潮干狩りでもするの?」 「フッ――その情報は古いわ。泳げないことなど既に克服済みよ」 「えっ、マジで?泳げるようになったの?」 「ええ、もちろんよ。浮き輪を装備していれば、水に顔を浸けてバタ足することが可能になったわ」 「ってことは、やっぱり潮干狩りかぁ~~~!」 「話を聞いていたの?泳げると言ってるでしょう」 「あんたが言ってるそれは泳げるうちに入らないから。オーケー?」 「……なん、ですって……」 ――いつものやり取りが交わされる賑やかな車内。 沙織の姉である香織さんが運転する痛ジープに揺られながら、私たちは貸し切りの海へと向かっている。 私たちが海を目指している理由は、数日前、桐乃から恋愛相談を受けたのが始まりだった。 『京介のやつチョーうざいんだよねー。マジありえなくない?今回ばかりは愛想が尽きた』 『――そう、じゃあ別れたら?』 『むっ』 この一連のやり取りを要約すると『京介と喧嘩したのでなんとかして』――こうなる。 痴話喧嘩の愚痴という名目の惚気話が、少なくとも一ヶ月に一度はある。 どうせすぐに仲直りするから放っておいても良かったのだけれど、同胞である新垣あやせから連絡がきたことで、私も仲直り作戦に参加すると決めたのだ。 理由はもちろん、面白そうだったから。実はこの二人、未だに海やプールでデートをしたことがないらしい。 恐らく――『桐乃の肌を他の男に見られたくない』という京介の独占欲が原因で、海やプールデートができないのだろう。 そこで私は沙織に相談をしたところ――― 『まあ、それでは一生海でデートができないじゃありませんの!黒猫さん――わたくしにお任せください!』 沙織の『二人のために貸し切りで豪華な海デートをプレゼントいたしますわ!』というブルジョワ発言から今回のような計画を立てたのである。 さすが沙織。スケールが違う。……というか、貸し切るならプールで良かったと思うんだけど……。 ――そして、桐乃を誘って現在に至るというわけだ。 オタクっ娘メンバーで遊ぶ時は基本的にオタク趣味を前提にして集まるため、こういう遊びはかなり新鮮である。 桐乃と海に遊びに行くなんて、実は結構ドキドキしている私であった。 「しょーがないなぁ~、あんたが泳げるようになるまであたしが特訓してあげるよ」 「そ、そう……そうね、じゃあ……お願いしようかしら」 「へっへーん!まっかせなさい!」 こういうお節介なところは本当に誰かさんとよく似ている。 まったく、相変わらず似たもの兄妹だ。 「そうそう、それよりさ、ちゃんと考えてくれた?」 「なにを?」 「だ~か~ら~!京介と仲直りする方法のこと」 「ああ、そのことね。ちゃんと考えてあるから安心なさい」 「ちょっと、なにそのテキトーな感じ」 「大丈夫ですわよ、きりりんさん」 そこで、助手席に座っている沙織が会話に混じってきた。 「沙織も協力してくれるの?」 「ええ、もちろんですわ。京介さんのことは、ちゃんと計画を練っておりますから安心してください」 「……ならいいケド」 「ふふふ――ですから仲直りの件はひとまず置いておいて、今日は貸し切りの海でパーッと遊ぼうではありませんか」 「うーん……でもなぁ~、もう三日くらい口利いてないんだよねぇ~」 「あら、今回は長いのですね」 「そうなのぉ~!三日も経つとさすがに心配になってきちゃって……」 「たったの三日で大袈裟ね」 私は呆れ混じりに溜息を吐く。 まあ、この兄妹にとっての三日というのは、実際の感覚の三日よりもずっと長いのだろうけれど。 「むっ、たったの三日で悪かったわね」 「それで、あなたたちはせっかく夏休みが始まったというのに、口も利かずに険悪に過ごしていたの?」 「うん、そうだよ。一緒のベッドでぇ、頭なでなでしてもらってぇ、ぎゅーってしてもらって寝るのはいつも通りだったけどぉ、マジでチョー険悪!」 「そう…………はぁ」 「ちょ!さっきからなによ、その溜息は!」 「なんでもないわ」 いつものことではあるけど、どこが喧嘩なのかと小一時間ほど問い詰めたくなる内容である。 ……これが毎回なのだから堪らない。 「ふふっ、それはきりりんさんが心配になるわけですわね」 「でしょ?ふへへ、沙織は分かってくれると思ってた」 「ふむ―――なあ、我が妹よ。たまにはお姉ちゃんと一緒に寝てくれないか?」 「結構です」 ――そんな会話を楽しみつつ、ほどなく一行は目的地に到着した。 香織さんの運転する痛ジープは、遠慮なく貸し切りのビーチに侵入する。 辺りを見渡すと――少し離れた場所にマヌケな顔をした先輩と、新垣あやせの姿を発見した。 どうやら、向こうもこちらに気付いているようだ。沙織がこっそり話しかけてくる。 「黒猫さん、そろそろネタバラシしますか?」 「そうね、そうしましょう」 私は隣にいるはずの桐乃に「この貸し切りの海は、あなたたちが仲直りするために用意したサプライズ企画なのよ」と言おうとしたが―― 「あっつーい!てか、この海マジで貸し切りなんだ!ほらぁ、あんたたちも早く降りてきなよ!」 「……まったく、相変わらず落ち着きのない女ね」 しかし、相変わらずなのは桐乃だけではなかったようで――暑苦しい男がビーチを走ってやってくる。 「――桐乃!」 「えっ……きょ、京介!?な、なんであんたがここに!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「その水着……超似合ってるぞ」 「……あっそ」 思ったとおり、すぐに仲直りをした兄妹。 ……波打ち際で二人だけの世界を創っている。やっぱり放っておけば良かったかしら。 私が二人を見守っていると、隣から新垣あやせが話しかけてくる。 「結局すぐに仲直りしましたね」 「この二人はいつものことよ」 「喧嘩の原因って知ってます?」 「桐乃が買ってきた水着を褒めなかったからと聞いたわ」 「お兄さんは、桐乃がまた水着の仕事を始めたのかと思って、それで不機嫌になったらしいですね」 「あの女は元から家で着るつもりで買ってきたみたいだけれどね。……まったく、つまらない喧嘩の原因よ」 「でも嬉しそうじゃないですか」 「そうね」 あれだけ嬉しそうな二人を見ていると、サプライズを企画した甲斐があったというものだ。 そう思っていると隣から突っ込みが入る。 「わたしが言ったのは黒猫さんのことですよ?」 「私?」 「はい。さっきからずーっと、ニヤニヤしてるじゃないですか」 「ふんっ……あなたの方こそ人のことを言えない顔をしてるわよ」 「ふふっ、お互い様ですね」 「そうね――」 これからもこの兄妹に振り回される日々が続いていくのだろう。 私は――今年の夏も忘れられない想い出がたくさんできることを心から願う。 「みなさーん!スイカ割りでもしませんかー?」 沙織がスイカ割りの準備をしてくれたようで、みんな嬉々とした表情で沙織の下に集まっていく。 ……今年の夏も、きっと忘れられない想い出がたくさんできると『新・運命の記述』に記しておこう――― 『ちょ、あやせー!埋めたまま忘れてんじゃねーよ!あたしはスイカじゃねーぞ、コラァ――ッ!』 ―おしまい― ----------
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[17]Accelerator05―結標淡希の一番長い一日 その4 丁度とある坂道でちょっとした窃盗事件が起きていたのと同じ頃、黄泉川愛穂の部屋は結構散らかり始めていた。 結標がこの部屋に来た時には驚くほど片付いていたはずなのだが今では見る影も無いぐらいに混沌としている。 (あの短時間でここまで散らかせるとは……) 結標は思わず顔に手を当てた。 これで片付けた人間と散らけた人間が同じだなんて、正直な話全然信じられない。 いや、もしかしたら自分で散らけるからあれだけ片付けに力が入るのだろうか? (いや、それは考えすぎね) 一方通行がいうのは部屋が片付いてる時は何か揉め事というか、問題が起こったときだけ、との事だったが。 結標のつま先に何かが当たった。 空き缶だ。 下を見れば床には空き缶がいくつも転がっている。 ぐびが生だったり、札幌が黒かったり、端麗が緑だったり、七福神の一人があれだったり、冬季限定のサワーがどうだとかアクアがブルー だとかギュギュっと何かが搾ってあったり。とにかく銘柄はいろいろ。 (えーと、一本、二本、三本……あぁ、めんどくさい、あといっぱい!) 全部集めれば冬休みの工作として結標の身長くらいありそうなでっかい電気ネズミとか作れたりしそうだ。 作るのが誰かは知らない。少なくても私では無い。と結標は思った。 とりあえず手当たり次第で手に持った学園都市指定のゴミ袋へと空き缶達を次々放り込んでいく。 自分だって客のはずなのになんで結標が掃除してるのか……それは結標本人にだってわからない。 一つわかっている事は、今この部屋にいる人間の中で彼女以外は掃除しそうに無いって事だけだ。 芳川なら掃除ぐらいしそうなのだが、彼女も今は散らける側っぽい。 「ん……?」 空き缶は当然、発生源になっている黄泉川、芳川両名の側に集中している。 酒のつまみにとガラステーブルの上の深皿には、柿の種とかチーズおかきとかのお菓子類がこんもりと盛られていた。 打ち止めにはお酒は飲ませないようにしていたので彼女用のオレンジジュースのコップも置かれていた。 そのすぐ側には打ち止めの小さな背中。 可愛らしい青のワンピースは打ち止めによく似合っている。 後ろを向いてるので表情まではわからない。 でも、なんだか小刻みに小さな肩が震えている。カリカリと変な物音もする。 「打ち止め?」 どうしたんだろう?と疑問を持って結標が声をかける。 声に応えて打ち止めがくるりと振り返った。 (うわぁ……まじで?) 結標はそう思った。 「ハムスターみたいよ……打ち止め」 そして率直な感想が口に出た。 「――、―――――、―――――」 振り返った打ち止めの口元には食べかすがいっぱい。 口いっぱいに頬張っている。まさにハムスター。 でも頬張ったまま喋るのでまるで言葉になっていない。 「ごっくんしなさい……打ち止め。ごっくんってしてから喋りなさい」 こくこく。打ち止めの首が上下に大きく振られた。可愛い。 「お酒のつまみばかり食べてると鼻血でるわよ、打ち止め」 オレンジジュースが減っていく。 「っぷは――チーズおかきの真ん中っておいしいかも……。ミサカはミサカはもうコレに夢中だったりする」 小皿の上には真ん中だけ無くなったチーズおかきの成れの果て。 ごっくん、と残骸を飲み込んだ打ち止めの口元をスカートのポケットからハンカチを取り出して拭ってあげる。 打ち止めは「うにゅ~」とわけのわからない鳴き声を発していた。ますます小動物のようだ。 「はぁ……なんで私こんな事してるんだろう……」 元凶たる人物の方へと視線を送り、やがて諦めたかのようにぼやく。 打ち止めの不思議そうな瞳でそれを見ていた。 「淡希っちぃ、その制服って霧ヶ丘女学院(きりがおかじょがくいん)だろ?結構いいとこ通ってるじゃんよ」 声の主は一人掛け用ソファーには背を預け、缶ビール片手にほろ酔い状態の黄泉川。 飲み始めより大分アルコールがまわって来た様で頬はほんのりと桜色に染まっている。 髪をかきあげる。ただその仕草だけでも同性である結標から見ても妙に色っぽい。 (こういうのってフェロモンっていうのかしら?それとも大人の魅力?) 結標だって年頃の女の子だ。化粧もすればアクセサリーだってつける。 いつもは二つに分けて纏めている髪をほどいたりして髪型を変えてみるのも良いだろう。香水を少しつけてみるのもありだ。 クローゼットを開いてコーディネイトを考えて時間をかけてオシャレな服を選んで着こなせば、それなりに大人びて見えたりもする。 (……と思うわ、この人見てるとなんか自信無くなるけど) だが黄泉川のソレはそういう後付の色っぽさとは一線を画す物だ。人工物では無くあくまでも本人から滲み出る天然の色気。 (着ているのは普通のジャージの上下なのに……羨ましい限りだわ) ピンク色の毛布を抱えた結標はとりあえず、「ええ、"一応"」と限りなくグレーゾーンの言葉でお茶を濁した。 結標淡希は一応霧ヶ丘女学院所属にはなっているがそれはあくまでも記録上だ。 残骸事件の影響でいまだ扱いは留学中のまま。 学園都市の中にいないと言う事になっているので今は霧ヶ丘女学院の女子寮には住んでいない。 現在はあのプカプカ逆さ人間がどこからか手配したワンルームマンションで一人暮らし中。 風の噂で耳にした話だと残骸事件で結標に協力していた仲間達も似たり寄ったりな境遇らしい。 もっとも連絡は取れた試しが無いのだが。 (とはいえ、実際問題として霧ヶ丘への復学の見込みは低いのよね……。アレイスターは長点上機学園か常盤台付属辺りにでも転入処理して やっても良いとか言っていたけど、どこまで本気やら) 実際、大能力者(レベル4)である結標が申請を出せば大抵の学校は「はいはい」と二つ返事を返してくるだろう。 少し考えただけでもいろいろなパターンが思い浮かぶ。 転校、転入、新しい空間。 (それもいいかもしれない) 結標がふと口を開いた。 そういえばこの黄泉川は現役の教師だったはずだ。 (どんな学校なんだろう) 「黄泉川さんの所の学校……」 少しばかり黄泉川の勤める学校に興味が湧いた気がした。 「うん?」 「高校でしたか?」 「そうじゃんよ」 グビっと缶を傾ける黄泉川。教え子達の事でも考えてるのか、その表情は柔らかい。 「どんな学校ですか?特徴っていうか、その、特色みたいな?そんなのってあります?」 「いや、全然無いじゃん」 即答。 思考時間にして一秒以下だろう。 「学力レベルが高かったり?」 「いや、全然」 これも即答。 空き缶が床に転がった。 「スポーツが盛んだったり?」 「コレといって記録を残してるクラブは無いじゃんよ」 三度即答。 ガラステーブルの上の皿から柿の種を口に運び、ぽりっと齧る。 「小学校からエスカレーター式のマンモス学校?」 「うちは高校のみの単品だったりするじゃん」 しつこいが即答だ。 辛いものばかり食べてたら甘いものが欲しくなったのか、今度はコンビニ羊羹に手を伸ばす。 「じゃあ……」 少し間を空けて結標が本命を聞く。 器用に片手と口で羊羹の包みが開かれた。 「能力開発が」 「それもいたって平凡なもんじゃんよ。上は強能力者が片手の指でお釣りが来るぐらい。下は正真正銘の無能力者まで。 特徴っていう程の特徴は……、無いことも無いか。強いていえば生徒がやたらと個性的な事ぐらいじゃんよ。 特に一年生のクラスの一つは個性的って言葉が馬鹿らしくなる様なのが何人かいるじゃん。まぁ、見てる分には退屈しないかもね」 皆まで言うなとばかりに途中で先を言われてしまった。 ここで黄泉川が再び缶ビールを呷り始めたので結局それ以上は聞くことが出来なくなってしまった。 「ふぅ」 (個性的……。個性的とそうでないの線引きってどこからかしら?) 結標はそこで毛布を持って三人掛けソファーの前まで来て、そこで寝ている人物へと視線を落とした。 そう、個性的な人間ならここにもいる。それもとびきりの。 学園都市最強。質、量を問わず、あらゆるベクトルを支配下におく超能力者(レベル5)。学園都市の全能力者二百三十万人の中の第一位。 現在むかつくぐらい気持ち良さそうに睡眠中。 穏やかな寝息が結標の耳に届く。 変な人格の人間を個性的って乱暴に一括りにしてもいいのなら、結標の知っている人物の中に一方通行程個性的な人間も見当たらない。 彼がこうなったのは確か十分ぐらい前の事だっただろうか?確か三十分まではいかなかったと思うが、とにかく少し前。 「勝手にやッてろ」 の捨て台詞と共に三人掛けソファーを大胆に占領して、不貞寝してしまった事だけははっきり思い出せる。 (一方通行って学校行ってるの?) 結標の手がソファーで寝ている一方通行の肩辺りまで毛布を掛けた。 もともと、こうする為に隣の部屋から毛布を持ってきたのだ。 更にソファーのアームレストは枕には少々硬すぎるだろうと、少年の頭を下から少し持ち上げて白と水色のクッションを二つ折りにして 滑り込ませた。 毛布がくすぐったかったのか一方通行が身じろぎし、ゴロンと寝返りを打った。 横を向いていた白い少年の顔が九十度向き変更で結標の正面へと来る。 ビクゥ!?と露出している結標の肩が大きく震えた。 「び、びっくりさせないで欲しいわ……」 多分今の台詞を一方通行が聞いていたら確実に半殺しモードだろう。 だけど寝顔だけは、なんというかとても穏やかであり、なんだかカワイイ気がしないでも無い。 「う゛ッ……」 思わずたじろぐ結標。不覚にもスヤスヤと寝息を立てぐっすりと夢の中にいる一方通行に目を奪われてしまう。 (反則だわ……この顔は反則だってば……なんでこんなに) 「カワイイじゃんよぉ。なんなら襲ってもいいよ淡希っち」 「ひぇえぇぇ!?」 結標の心の声に合わせる様に黄泉川の声が訪れた。 変な悲鳴が結標の喉から飛び出た。 完全な不意打ちに呼吸は乱れ、心臓はバクバクと落ち着かない。 ただ口をパクパクと開いたり閉じたりするだけで声にならない。 それでも、しどろもどろでなんとか言い訳を探す。 「み、見とれてませんよっ!寝顔がカワイイなんて思ってませんよ!」 結標はそう言い切り、身振り手振りを織り交ぜてブンブン両手を振り回して黄泉川に訴える。 が、返ってくるのは暖かな視線が二つ。 いつの間にか芳川まで「あらあら、初々しいわねぇ」とかすっかりお姉さんモードだ。 ガラステーブルを挟んで黄泉川と一緒に 「若いわねぇ」 「若いじゃんよ」 「でも口喧嘩してなかった?」 「喧嘩するほど仲が良いじゃんよ。それに一方通行と口喧嘩できるなんて人間、そうそういないじゃんよ」 とか少し暢気な会話をしている。 「夫婦喧嘩っていうんだよね。ってミサカはミサカはミサカネットワークから引き出した情報を得意気に使ってみたりする」 にょきっと出てきた打ち止めが会話に乱入した。そして結標のスカートの裾を引っ張る。 「淡希、夫婦喧嘩って何?ミサカはミサカは詳しく聞いてみる」 「ぁぅ……」 答えられない。 「違うじゃん打ち止め、あれは痴話喧嘩っていうじゃんよ。キチンと固有名詞で登録しておくじゃん」 「愛穂」 「何?桔梗」 「あんまり打ち止めに変な事ばかり教え込まないで頂戴」 「そっかそっか、わかったじゃん。なら打ち止め、夫婦の一個下のランクで『恋人』とか『彼女』とか登録しておくといいじゃん、これなら バッチリじゃんよー」 なにがバッチリなのかわからない。 ばちこーん☆と黄泉川のウインク。 「だ、だから違うっ!私はコイツ(アクセラレーター)とは何でも無いんですって!?さっきから何回もそう言ってるのに信じ――」 「ぶぅぇつにぃー、淡希っちの事だとは一言も言って無いじゃんよー」 「あらあら……墓穴を掘ったわね」 ニヤニヤとした生暖かい視線の中、結標に出来るのは両手をバタバタと振って抗議する事ぐらいだった。 「ミサカもこの人で遊びたいかも、とミサカはミサカは準備運動を始めてみたり」 幼女が助走をつけようと壁際まで下がったのはすぐ後の事。 ソファーにダイブしようとした打ち止めを結標が空中で阻止して一言。 このままでは自分の身が持たない、と結標の目が物語っていた。 「ら、打ち止め……さ、散歩、そう、外に散歩とか行きましょうよ。ついでにお菓子的な物、買ってあげるから、ね、ね」 [12月23日―PM15 17]