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心波のトランス ◆wd6lXpjSKY 時が動く。 視界には誰一人として映らず、淡い月の光が路面を照らしている中を暁美ほむらが駆ける。 握り締めた拳銃に力を入れ、近くに潜んでいる標的を探す。 人の気配を感じない――けれど、バーサーカーが現れた時点で付近にマスターが潜伏している可能性は高い。 過去に契約を結んだキャスターのように監視する術を持っていれば、話は別だが、彼は違うだろう。 一度はその姿を遊園地で見ている。あの時点で彼にそのような素振りは感じなかった。故に。 「身を隠すなら建物の中……安易に考えるならそれが一番」 暁美ほむらはビルの扉を力強く蹴り飛ばす。 正面から突入すればガラスだのセキュリティロックだの弊害があるが、裏口の無機質な鉄の扉ならば問題は無い。 魔力でほんの少し身体能力を弄り――中に侵入する。 電気の音がが響く、薄暗いロビー。ソファーに観葉植物、自販機が見える。 人間の気配を感じさせないこのエリアに――目を凝らせば幾つもの瞳。 「……手荒い歓迎ね。そんなに大勢でどうかしたのかしら」 弱音は吐かない。 隙を見せれば一瞬で劣勢に立たされ、死へと直面してしまうだろう。 そして何よりも、こいつらに負けたくない気持ちが暁美ほむらの瞳を前に向かせる。 自動人形が待ち伏せていようと、彼女は止まる訳にもいかないのだ。 「これはこれは創造主様の元マスター。こんなところで何をしてるのかなぁ~?」 群れの中からリーダー格であろう人形が挑発するような高めの声色を響かせる。 お世辞にも綺麗とは言えない崩れた表情がより一層、人間の心に不快感を与える。 関わりたくない、と謂わんばかりに無言を決める暁美ほむら。 彼女の表情から察するに本気で彼らと遭遇したくないらしい。 「無視かよぉ、ムカつくなあ。ここで殺しちゃうか……殺すぜぇ~~!!」 沸点が低いかどうかはいざしらす。 数秒の沈黙にも耐えられない自動人形達が、一体の声に呼応するように飛び出した。 群れと云ってもその数は合わせて五体。しかし主な武装が整っていない暁美ほむらには強大な壁になるだろう。 自動人形の強さはサーヴァントに及ぶはずもない。けれど、魔力を帯びておりサーヴァントから生まれる以上、その力は常識を超える。 しかし、それは一般人の常識であり、力を持ったマスターならば対抗出来ても不思議ではない。 一流の魔術師や世界に名を馳せる暗殺者ならば幾らでも自動人形を蹴散らすことは出来よう。 ならば暁美ほむらはどうするだろうか。 「痛ってぇ! お前らどこ見てんだ! 敵はあの女――っていねえ!?」 一斉に襲いかかった自動人形達が飛び込んだ先に、暁美ほむらはいなかった。 標的が存在せず、哀れな機械共は互いに互いを攻撃する形となっている。 肝心の暁美ほむらは――既にビルの扉を後にしており脱出していた。 「あなた達に構っている時間も無いの。名前も持たない人形達、さようなら」 「何がさようならだ! お前が、お前がさようなら!」 去る暁美ほむらは一度止まると、振り返りざまに弾丸を放つ。 吸い込まれる先は自動人形ではなく、側にあった自動販売機だ。 「残念ハズレ~! 怖くてビビって震えて怖気づいだかなぁ?」 「それでいいのよ全く……消し飛びなさい」 挑発を流しつつ暁美ほむらは勢い良く扉を閉め、ビルから離れる。 その姿を見ていた自動人形達は後を追いかけようと動くも――異変に気付いた一体が呟く。 「この自販機から変な音がする」 「あー……?」 「何か煙も出てるし……うげぇ~!!」 気付いた時にはもう遅く、自動販売機は嫌な煙と聞きたくない音を響かせながら光輝くことになる。 爆炎がビルを襲い、あちらこちらに飛び火し、中にいれば火の手に追い付かれるのは時間の問題だ。 「あのビルに誰も居ないことを願うわ……敵以外、ね」 別のビルに身を隠しながら暁美ほむらは燃える、いや燃やした建物を見つめる。 火が広がれば中に居る人間は避難するだろう。 NPCには申し訳ないが、生命と願いとまどかが懸っている戦いに手を抜く訳にもいかない。 バーサーカーのマスターが潜んでいれば出て来るはず、監視した段階ではそこまで身体能力が高くは見えなかった。 「出て来たならそこを狙い撃つ……だから、それまで耐えて――セイバー」 「■■■――!!」 暁美ほむらが自動人形の相手をしている同じ時間軸の別所にて。 怒号と共に投げられるコンクリートの破片を斬り捨てたセイバーはそのまま距離を詰める。 斬りかからずに足元に爆弾を忍ばせ、己はバク転の要領でその場から離れる。 バーサーカーが再度、能力任せに暴れる前に、ブーメランを投げ付ける。 標的は狂戦士ではなく置いた爆弾だ。導火線よりも早く本体に衝撃を与え――爆ぜる。 静寂をひっくり返すような爆音が轟き、セイバーの前方には豪炎が渦巻いている。 中心に立っている狂戦士に傷の一つや二つ、与えれれば上々であるがそれは叶わない。 炎の中で小さな影が動く。 狂戦士が振るった腕はたった一つの小さな動作で炎を掻き消したのだ。 風が吹き荒れ、瞳を閉じたその一瞬で爆発の面影が消え去り残るは塵だけ。 お世辞にも恵まれた体格とは言えない青年が、腕を振るっただけで爆発を消し去っていた。 敵を視界に捉えたままセイバーは矢を放つ。 常人には知覚出来ないような速度で狂戦士に迫る一矢だが彼は動かない。 瞳を赤く光らせ、不気味に口角を上げ、聞き取れない声を零す。 笑っているのは認識出来るが、それ以上の情報は何一つ得られない。狂化されているサーヴァントの真意など他人には解らない。 解ることと云えば放った矢がそのまま自分に返って来たことだけである。 狂戦士に辿り着く前に、まるで空間が歪んだかのように矢はセイバーへ迫る。 盾を全面に押し出し弾くように大地に叩き付け攻撃を無効化し、再度剣を構え直す。 予めマスターから攻撃を跳ね返される、と情報を貰っていただけに不意打ちで負けることは無い。 現にこれまで様々な方法で攻めているが、狂戦士に何一つ辿り着いていない。 剣も。 矢も。 爆弾も。 全てが狂戦士の宝具であろう能力によって無効化、或いは跳ね返されてしまっている。 宝具を開放すれば戦況を傾けられる可能性は大いにある。 しかしマスターからのオーダーは時間を稼げ。つまりここで無理に倒す必要は無い。 宝具でも確実に勝てる確信は無いため、無理に魔力を消費しても無駄撃ちに終わることも有り得る。 次の手を思考するセイバーであるが、敵は必ずしも待ってくれるとは限らない。 狂戦士は軽く大地を蹴ると大きく跳躍、そして物理法則を捻じ曲げるように空中で方向転換、超加速しセイバーに接近する。 飛行体に注目しつつ、バックステップで距離を取ったセイバーと落下するバーサーカー。 数秒前まで時の勇者が立っていた地点には大きなクレーターが誕生していた。 その余波が大地を伝わりセイバーの足に響く。 一瞬ではあるが怯んでしまった隙を狂戦士は逃さず、咆哮と共に拳を突き出した。 「■■■ーッ!!」 まるで時が止まったかのようにその拳周辺から音が消えていた。 耳を疑うが直ぐに風の音が聞こえた時、拳が風を纏いセイバーの盾に触れた。 「――ッ」 盾は粉砕こそされないが、伝わる衝撃はセイバーの顔を歪ませるには十分過ぎる威力であった。 腕が痺れ、視界が揺れ、立っているだけでも辛い状況だ。 しかし黙って攻撃を受ける訳にもいかなく、近くのビルに注目すると武具を取り出す。 バーサーカーの追撃が迫るよりも早く鎖を射出し、ビルに突き刺すと――セイバーは空を跳ぶ。 ロングショットによって空間を立体機動のように移動した時の勇者は狂戦士の間合いから離脱に成功。 壁に張り付く形になりながら敵を見据える。 このまま戦ってもジリ貧だが、マスターのためにも踏ん張り所であるが故に次なる一手を模索する。 「ここも違う……バーサーカーのマスターの居場所は」 一軒家から飛び出た暁美ほむらは依然として標的を発見出来ていない。 並ぶビルを全て探すには多くの時間を費やすこととなり、小休止程度に民家を捜索するも無駄に終わっていた。 セイバーがバーサーカーを抑えている間がリミットであり、時間は有限ではない。 狂戦士の力はモニター越しであるが認識している。時の勇者が負ける可能性を切り捨てて考えているが、不安は残る。 何としてでもマスターを殺し、場を収束させた上でまどかを追いたい暁美ほむらに焦りが貯まっていく。 全ては彼女のために。 彼女なき世界に価値など存在しない故に、そう、全ては彼女のために。 「……足音? また気色悪い人形ね」 自動人形達を撒いたつもりであったが、やはりと言うべきかまだまだ追手がいるらしい。 あのキャスターのことだ。今も憎たらしい笑みを浮かべモニターを監視しているに違い無い。 ビルから出て来た自動人形もまた笑っており、何やら奇妙な歌を汚い口から流していた。 「こーんやーのランバージェイコブ様の晩飯は~♪ 逃げ惑う魔法少女の生き血~……さぁてどうすっかなぁ~」 この人形も悪趣味である、と言葉には出さないが暁美ほむらは思う。 やや太型で、不潔なヒゲ、似合わない豹柄の腕輪……ランバージェイコブと名乗った自動人形に好感は抱かない。 「残念だけど貴方の相手をしている暇は無いのよ。 バーサーカーのマスターの居場所を吐いてから消えなさい、人形」 虫けらを見るような瞳でランバージェイコブに敵の居場所を尋ねる暁美ほむらは苛立っている。 生命を狙われているのだから仕方がない。 自然と銃を握る力が強まっていき、それに伴い汗も生まれる。 「あぁ~? 誰だよ」 「とぼけているのかしら……いや、貴方達のような人形にそんな芸当は出来ないわね。 命令だけに従って何一つ真実を知らない哀れな傀儡共……情報を期待した私が馬鹿だっただけね」 「あぁ!? 調子に乗ってんじゃねぇぞガキィ!!」 「咄嗟に思い付いた陳腐な挑発に乗ってくる所も本当に哀れなにんぎょ――きゃっ!?」 適当にこの場を流して時間停止。そうして逃走する予定だった魔法少女に射出されたのは網。 怒りのランバージェイコブは暁美ほむらの拘束に成功すると、担いでいたライフルを構える。 「じっくり身体を削ぎ落とそうと考えたが、怒ったからお前は一発でぶっ殺す!」 魔法少女と云えど銃弾を正面から喰らっては無事に終れるはずも無い。 身体を網で覆われ、身動きが取れない暁美ほむらにとっては文字どおりの絶体絶命である。 「くっ……私を殺すつもりかしら?」 「当たり前だろぉ~それが創造主様の命令だからなぁ~」 どんな言葉を並べようとその引き金を止めることは出来ないだろう。 ランバージェイコブは特にそれ以上会話を広げることもせず、銃弾を発射し獲物を仕留める。 「さぁ~て、こっからは飯の時間だ……あぁン!?」 人形の驚いた野太い声が月夜に響く。 それも仕方がないだろう。何せ異常事態が発生したのだから。 「何であのガキが消えているんだぁ!?」 ランバージェイコブが出て来たビルに侵入した暁美ほむらを待ち構えていたのはまたしても自動人形達だった。 時間停止であの場を切り抜けた彼女は人形が出て来たビルならば他にも誰かが潜んでいるかもしれない……と睨んでいた。 今まで建物を捜索した際に、敵が潜んでいたのは最初のビルだけであった。 何か特別なモノ――例えばお宝を守る番人のように人形達が配備されているかもしれない。 思えば最初のビルにも何か特別なモノがあったかもしれない。 けれど、名前持ちの人形が出て来たこのビルだ――《客人》を警護する人形がいても不思議ではない。 「うけけけけけけけけけ」 「ころせ」 「ころしちゃえ」 「ころせ! ころせ! ころせ!」 何体もの自動人形達が標的である暁美ほむらを目の前に嘲笑っている。 これからどうやって殺すか。どのように調理するか。どのようにいたぶるか。 悪趣味なことを考えているのだろう、と勝手に決め込んだ暁美ほむらは更に人形に対する感情が悪くなる。 しかしその強さは残念ながら弱くは無い。 数が多ければ多い程厄介な存在に膨れ上がる。忌々しい、と更に苛立ちが募る。 相手をするだけ無駄だ。 割り切って彼女は時間を止める。 一刻も早くまどかを救うために、多少の無茶など今更踏み止まる必要も無いのだ。 「此処は違う」 自動人形達から遠ざかり一室を覗いてみるも人影はない。 「此処も違う」 隣の部屋を見るも、また違う。 「此処も」 階段を駆け上がり別のフロアも同様に調べ回る。 「此処も」 息が上がる。 魔力消費と重なって体力も消費されていく。 「此処は――」 「……驚いた。人形達はどうしたんだい」 アタリだ。 その姿を知っている。 白髪に今にも死にそうな顔のフード男。 暁美ほむらが遊園地で監視していた男と一致する。 探し求めていた男に出会えたのは偶然であった。 バーサーカーのマスターも暁美ほむらと同じように彼女を探していた。 響く銃声を頼りに近くのビルに潜伏したところ――互いが互いを引き寄せ合った。 獲物を前にした参加者は――魔法少女が問答無用で引き金を引いた。 額に吸い込まれる銃弾は何処から湧いたかいざ知らず、謎の蟲に阻まれる。 粘り気のある不快な音を響かせながら弾け飛ぶ蟲、撒き散らす体液と腐臭が一室に篭もる。 急速に気分が悪くなる暁美ほむらだがそんなことも言っていられない。 手を休めれば殺される。直ぐ様新たに照準を定めるも敵に異変が現れていた。 「う……ぐ、ガァ!」 その顔は異質だった。 血管が必要以上に強調され浮き出ており、まるで身体の中をナニカが蠢いているようだった。 口を掌で抑えてはいるが、血が溢れでており勝手に瀕死状態に追い込まれている……暁美ほむらが抱いた感想である。 何がどうなってこんな状況になったかは知らないが、活かせる事象は全て利用する。 銃弾を放っても空を漂う蟲達に阻まれるだろう――時間を止めて確実に殺す。 盾に手を添えて普段通りに魔法を――彼女にも異変が現れる。 「む……りをし過ぎたかしら」 時間停止の連発によって体力が浪費しており、目眩が生じる。 その場でたたらを踏むが、こんな所で弱っても何も手に入れることが出来ない。 狂戦士を仕留めることは必ずまどかを救うことに繋がる。だから、暁美ほむらは目の前の男を殺す。 (君が何のために聖杯を求めているかは知らない。でも、この世界に踏み込んだからには覚悟してもらう) 「行け……ぐ、蟲共ォ!」 (死に掛けの身体でバーサーカーを使役してまで何を求めているかは私に解らない。でも、私はまどかを救う。だから) 「ほんの一瞬でもいいから……止まりなさい!」 意地と覚悟の競り合い。 女神が微笑んだのは――暁美ほむら。 「体感で解る、止められる時は本当に一瞬――だから!」 蟲達の壁を強引に割りバーサーカーのマスターに接近すると盾から手榴弾を取り出す。 口でピンを外すと彼の足元に転がし、自分はそのまま走り続ける。 拳銃で窓ガラスに発砲。 五角形を描くように撃ち抜いた所で時が動き出す。 「いつのまに――待てッ!」 目の前から暁美ほむらが消えたことに驚きながらも男は振り返りざまに手を伸ばし、彼女の後頭部を鷲掴みする。 彼女には悪いが、このまま蟲の餌食になってもらう。 そう思った時、二人の脳内にノイズが走る。 「これは……貴方は聖杯戦争を経験している……?」 「今のは一体……それに君はもう一人のバーサーカーのマスターと」 「何をしたかは知らないけど答える義理は無いわ」 腕で掴まれている相手の腕を払うと、両腕を交差させ窓ガラスに飛び込む暁美ほむら。 銃弾で穴を開けていたため、窓ガラスは簡単に破裂し彼女は空中に放り投げられた。 「死ぬ気か……?」 無理もない。 翼を持たない人間が飛び降りたのだ。 戦況を悟って自殺――後味は最悪だが参加者も減り、聖杯戦争にとっては好ましい状況になる。 だが、暁美ほむらは考えなしに飛んだ訳ではない。 「エンジン音……まさか」 開けた窓の先から聞こえる振動音。 まさかヘリや飛行機が飛んでいる筈もない。飛んでいるならばもっと小柄な機体。 空を跳んで来たのはセイバーが跨るバイクであった。 念話で事前にセイバーを呼んでおいた暁美ほむらの賭けは成功した。 バーサーカーのマスターを殺せないのは残念だが、あのまま戦えば自動人形達も駆け付けて来るだろう。 少しでも休憩できれば満足に魔法も使えるだろうが、インターバルが短い。 彼を殺すことに変わりはない。 場所を変えて――出来るだけまどかに近付き、彼女に影響が及ばない範囲で殺す。 「完璧なタイミングよセイバー」 伸ばした腕はセイバーに掴まれ、導かれるように後部に座る。 流れるようにビルを覗けば驚いているバーサーカーのマスターの顔が見える。 (貴方を殺すのはもう少し先よ) 諦めない。 狂戦士は美樹さやかのサーヴァントでも苦戦する相手だ。 早めに殺しておけば聖杯戦争が有利になるのは間違いない。 ならば負担や危険が少ないマスターを狙うのは道理であるのは必然だ。 「爆発で死んでくれれば――全て解決するけど」 暁美ほむらが置いた手榴弾が炸裂し、ビルが一瞬で紅く染まる。 「バーサーカーは追って来ている……なら、生きているわね」 ギャリギャリとタイヤをコンクリートに擦らせながら着地するバイク。 その遥か後方からバーサーカーがあり得ない速度で迫っているのが確認出来る。 マスターが死んでいれば消滅しているだろうが、健在な今、彼も生きているのだろう。 ならばこのまま引き付けてマスターも誘き出す。 彼だけその場に滞在する可能性も高いが、その場合は狂戦士をまどかから引き離せばいい。 出来るだけ引き離した後で時間停止を駆使しながら離脱すれば、狂戦士であれど撒ける筈だ。 「セイバー、このまま北上して」 フェイスレスは暁美ほむらの居場所を特定出来るだろう。それがきっとバーサーカー陣営にも通じる。 幾ら引き離した所で、見失っても特定出来れば簡単に対面する形になるだろう。 美樹さやかにバーサーカーを処理すると言った手前、このまま敵を引き連れて参戦するのは避けたいところだ。 意地や感情を抜きにしても、あの戦場になるであろう場所に狂戦士を放り込むのは回避したい。 バーサーカー単体が釣れれば温泉から引き離し、足止めした上で美樹さやかに加勢する。 マスターも一緒に追って来るならば再び彼に狙いを絞って殺す。 第二ラウンド――夜はまだまだ眠らない。 【B-3/市街地/二日目・夜】 【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】 [状態]疲労(大) [令呪]残り3画 [装備]ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ [道具]グリーフシード(個数不明)@魔法少女まどか☆マギカ(二つ穢れが溜まりきっている)、オートマチックの拳銃 [思考・状況] 基本 聖杯の力を以てまどかを救う。 1:北上しバーサーカーのマスター(間桐雁夜)を殺害する。 2:温泉に向かいまどかを助け、帰還させる。 3:キャスター(フェイスレス)を倒す。 [備考] ※自分の能力の制限と、自動人形の命令系統について知りました。 ※『時間停止』はおよそ10秒。連続で止め続けることは難しいようです。 ※アポリオン越しにさやか、まどか、タダノ、モリガン、アゲハ、流子、ルキア、慶次、善吉、操祈の姿を確認しました。 ※明、ルフィのステータスと姿を確認しました。 ※美樹さやかの存在に疑問が生じています(見たことのない(劇場版)美樹さやかに対して) ※一瞬ソウルジェムに穢れが溜まりきり、魔女化寸前・肉体的に死亡にまでなりました。それによりフェイスレスとの契約が破棄されました。他に何らかの影響をもたらすかは不明です。 ※エレン、さやか、まどかの自宅連絡先を知りました。 ※さやかと連絡先を交換しました ※ジャファル、レミリア、ウォルターを確認しました。 ※天戯弥勒と接触しました。 ※巨人を目撃しました。 ※キャスター(フェイスレス)のマスターは最初の通告で存在が示唆されたマスター(人吉善吉)と予想しています。 ※間桐雁夜が「誰かを守るために聖杯戦争に参加していた」ことを知りました。 【セイバー(リンク)@ゼルダの伝説 時のオカリナ】 [状態]魔力消費(小)、疲労(中) [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:マスターに全てを捧げる 0:カレンの意思を引き継ぎ、聖杯戦争を勝ち抜く。 1:暁美ほむらに従う。 2:バーサーカー(一方通行)に対処する。 3:アーチャー(モリガン)に対する強い敵意。 [備考] ※アーチャー(モリガン)を確認しました。 ※セイバー(纒流子)を確認しました。 ※夜科アゲハの暴王の流星を目視しました。 ※犬飼伊介、キャスター(食蜂操祈)を確認しました。 ※人吉善吉、アサシン(垣根帝督)を確認しました。 ※垣根帝督から食蜂操祈の能力を聞きました。 ※朽木ルキア、ランサー(前田慶次)を確認しました。 ※ウォルター、ランサー(レミリア)を確認しました。 ※巨人を目撃しました。 ※バーサーカー(一方通行)を確認しました [共通備考] ※バーサーカー(不動明)陣営と同盟を結びました 間桐雁夜が暁美ほむらの頭を掴んだ時、両者にノイズが走った。 それは記憶。彼には彼女の、彼女には彼の記憶が少しではあるが断片的に通じ合っていた。 暁美ほむらが知った間桐雁夜の記憶。 天戯弥勒が開く以前にも聖杯戦争に参加しており、その時のサーヴァントもバーサーカーだった。 個体は違えど、彼が聖杯戦争を体験していたことに変わりは無い。 それは誰かを守るために。まるでまどかを救うために動く誰かと重なるようだった。 間桐雁夜が知った暁美ほむらの記憶。 初めて交戦したライダーのマスターと、公園にて交戦したバーサーカーのマスター。 どちらもまだ幼い少女だった。そしてセイバーのマスターである暁美ほむらも彼女達と同年代だった。 流れた記憶の先には五人の少女の姿があり、その中には彼女達もいた。 友が血塗られた戦争に参加している――彼女達の運命は知らないが、奇跡を求めるためにその手を汚すのだろうか。 他に流れた記憶と云えば魔法。 肝心な部分は何一つ感じられなかったが、暁美ほむらは盾に触れている。 間桐雁夜がビルで彼女と対峙した時、気付けば後方に移動していた。 目を離したつもりは無かった。それでも気付けばまるで瞬間移動のように彼女は消えていた。 その時にも盾に触れていたことは覚えている。次に対峙する時には警戒の必要がある。 そして。 そもそも、何故、彼女達は互いの記憶を知り得たのだろうか。 間桐雁夜の身体はPSI粒子に侵されており、身体に異変が起きていた。 参加者である夜科アゲハと裏で嗤う天戯弥勒。彼らはその能力をPSIと称し使用している。 表すならば超能力の一種と考えればいい。 その片鱗が間桐雁夜の身体に現れ、PSIの力として具現化したのが先の記憶になる。 心波のトランス――テレパシーなどの内面に働きかける力が覚醒したのだ。 発動したのは偶然であり、能力もまだまだ成長する余地はあるだろう。 現段階では《頭部に触れた相手の記憶を読み取る》《頭部に触れた相手に自分の記憶を流し込む》だろうか。 しかし間桐雁夜は魔術師だ。科学とは最も離れている人種である。 魔術と科学の共存――簡単には両立出来ない。いや、出来るのだろうか。 現に今の彼では刻印蟲を使役するだけで、本来の能力を使役するだけで魔術回路に多大な負担が掛かる。 それは急速で整えた未熟な魔術師とは別な話で、超能力に触れ始めた身体が魔術に対し拒絶反応を示しているからである。 結果的に天戯弥勒が間桐雁夜に告げたとおり単純な魔力の量は膨れ上がっている。 しかし、蝕まれたその身体。生命の終わりが近付いていることに変わりは無い。 「本当にこのまま追うんですかい?」 「……頼む」 手榴弾の爆発から自動人形数体を盾にして回避した間桐雁夜の選択は暁美ほむら及びセイバーを追うこと。 アノスに命令を飛ばしながら、彼は戦うことを選んだ。 記憶が流れてこようが暁美ほむら、美樹さやか、鹿目まどかが知り合いだろうが関係無い。 聖杯を求める人間に情けを掛ければ死ぬのは自分である。 非道にならなければ手に入る物も手に入らない。果たして彼は修羅になれるのだろうか。 第二ラウンド――この夜はまだ収束しない。 【間桐雁夜@Fate/zero】 [状態]肉体的消耗(中)、魔力消費(小)、PSIに覚醒 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を取り、間桐臓硯から間桐桜を救う。 1:間桐桜(NPCと想われる)を守り、救う。 2:セイバー(リンク)とそのマスター(ほむら)を殺害する。 [備考] ※ライダー(ルフィ)、鹿目まどかの姿を確認しました。 ※バーサーカー(一方通行)の能力を確認しました。 ※セイバー(纒流子)の存在を目視しました。パラメータやクラスは把握していません。 ※バーサーカー(不動明)、美樹さやかを確認しました。 ※PSI粒子の影響と一方通行の処置により魔力量が増大しました。 ※PSI粒子の影響により身体能力が一般レベルまで回復しています。 ※生活に不便はありませんが、魔術と科学の共存により魔術を行使すると魔術回路に多大な被害が発生します。 ※学園の事件を知りました。 ※セイバー(リンク)の存在を目視し能力を確認しました。暁美ほむらの姿を写真で確認しました。 ※キャスターのマスター(人吉善吉)と残り主従が6騎になるまで同盟を結びました。善吉に対しては一定の信用をおいています。 ※鹿目まどか、美樹さやか、暁美ほむらが知り合いであること・魔法少女であることを知りました。 ※暁美ほむらの魔法の鍵が「盾」であると予測しています。 ※PSI能力「トランス」が使えるようになりました(固有名称未定) 頭部に触れた相手の記憶を読み取る、相手に記憶を流すことが可能です。 【バーサーカー(一方通行)@とある魔術の禁書目録】 [状態]健康 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:■■■■─── 1:───(狂化により自我の消失) 2:セイバーを倒す [備考] ※バーサーカーとして現界したため、聖杯に託す願いは不明です。 ※アポリオンを認識し、破壊しました。少なくとも現在一方通行の周囲にはいませんが、美樹さやかの周囲などに残っている可能性はあります。 [全体備考] ※C-6で爆発騒ぎが発生しました。NPCの通報で警察が向かっています ※A-4の温泉地帯に向けて、鹿目まどかに似せた人形をかついだケニス@からくりサーカスが飛行しています ※B-3にて多数の自動人形が暁美ほむら殺害の為に行動しています BACK NEXT 058 真夜中の狂想曲 投下順 060 Deep Night 058 真夜中の狂想曲 時系列順 060 Deep Night BACK 登場キャラ NEXT 058 真夜中の狂想曲 暁美ほむら&セイバー(リンク) 062英雄たちの交響曲 間桐雁夜&バーサ―カー(一方通行)
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情報交換◆2lsK9hNTNE 絵里は机の引き出しを開け、隠していたナイフを取り出した。 この家には絵里しか住んでいない。物騒な物を持っていても咎める人は誰もいない。 ヒビや傷がないことを確認してバッグにしまう。もし学校で見つかったら取り上げられるだけじゃ済まないな、と自嘲した。 だが持たないわけにはいかない。いまチェーンソー男はいつ現れるかわからないのだから。 「聖杯戦争か」 絵里は少し前の白坂小梅との会話を思い出した。 ◇ 自分はそんなおごられたそうな顔をしてるんだろうか。 外装だけに気を使った小汚い喫茶店の中。見るからにやる気のないウェイトレスを尻目に絵里は思った。 チェーンソー男についてこれ以上話せることはないと宣言したのに、小梅の「そんなこと言わずに。飲み物でもおごるから(要約)」というセリフにつられてここまで来てしまった。 山本といい、この間の少女といい、なぜチェーンソー男の話を聞きたがる者は、皆なにかをおごるのだろう。 小梅は対面の席に座って肩身が狭そうにしていた。 近くにあったから入っただけの喫茶店がこんなではしかたがないだろう。値段だけは安いというのも今はマイナスだ。 払う金惜しさにわざとこの店を選んだような印象を与えてしまう。 もちろん絵里は、この少女がそんな理由でこの店を選んだとは思っていない。だからといってそれを口にしたら返って相手に気を使わせるような気もした。 小梅のためを思うならやはりここはとっとと本題に入るべきだろう。 絵里は目の前に置かれたオレンジジュースを一気に飲み干して言った。 「考えてみたけどやっぱりこれ以上は話せないわ。お金はあたしが払うから諦めて」 「ど、どうしても……ですか……」 「どうしてもよ。そもそもどうしてそんなにチェーンソー男のことを知りたいの?」 「それ、は」 小梅はオドオドと袖で口元を隠す。このまま押し切れば自分が答える方向には進まなそうだ。 絵里はさらなる疑問をぶつけた。 「バーサーカーさんが気になってるって言ってたけど、あの人は何者なの? いつの間にかいなくなっちゃてるし、チェーンソー男との戦いも、その……人間技とは思えなかったけど?」 「えっと……そのことには……あんまり、関わらないほうが……」 「そんなこと言われてももう一度見ちゃったし。 それにバーサーカーさんがまたチェーンソー男に会いたいっていうなら、どのみち関わることになると思うけど」 「え、えっと……」 小梅は助けを求めるように自分の横を見た。そこには誰もいない。席がもう一つあるだけだ。 ひょっとしてそこにバーサーカーがいるのだろうか? 思い返してみれば、この少女は最初見かけたときも何もない空間に微笑んでいた。 バーサーカーが突如現れ、戦いが終わったら消えたことも、小梅の側で姿を消していると考えれば辻褄があう。意識してみるとそこに妙な気配があるような気すらしてきた。 バーサーカーから意見をもらえたのかどうなのか。小梅は観念した様子で「ほ、他の人には……言わないでください」と前置きして語り始めた。 超常の力を持つサーヴァント。そしてそれを使役するマスター。そしてどんな願いも叶える聖杯。 絵里が言うのもなんだが現実味のない話だった。 だが本当なのだろう。小梅が嘘を言ってるようには見えないし、先ほどのバーサーカーの戦いぶりを見たら信じるしかない。 絵里自身、特異な日常を送っているからだろうか。自分でも不自然なくらい抵抗なく受け入れることができた。ただまた別の疑問が湧いた。 「話はわかったけど、だったらなおさらどうしてチェーンソー男のことが知りたいの? 聖杯戦争でも戦わなくちゃいけないのに、チェーンソー男にまで関わってる余裕はないんじゃない?」 いま聞いただけでも聖杯戦争がチェーンソー男との戦いの片手間にやれるものだとは思えない。もちろん逆もまた然りだ。 「チェ、チェーンソー男も……サーヴァントなんです」 一瞬、何を言っているかわからなかった。言っていることを理解しても言葉の意味がわからかった。 「え、チェーンソー男がサーヴァントって、え、でも、あたしは今までもずっとチェーンソー男と戦ってきたのよ!」 「サーヴァントは……昔の英雄とかだけじゃなくて……未来の人がなったり、することも……あるみたい、なんです…… だから、チェーンソー男も、たぶん……」 「つ、つまり未来であたしに倒されたチェーンソー男がサーヴァントとして呼び出されたってこと?」 小梅はコクリと頷いた。 なるほど。それなら納得だ。サーヴァントだったらいつもと違う時間に現れるのもおかしくない。よくわからないが。 しかしだとすると絵里がいつも戦っているチェーンソー男はどこにいったのだろうか。 まさか夜になったら二人出てくるとか? 最悪の想像が頭を過り、ケータイからメールの着信を知らせる音が鳴って絵里は自分の想像を振り払った。 「ちょっとごめんね」 そう言ってポケットからケータイを取り出す。学校のクラスメートからだった。 「友達から。なんで学校に来てないのかって。返信するからちょっと待ってて」 「あ……わ、わたしも友達に……連絡しておきます」 絵里は適当な言い訳を考えながら画面の時計を見た。すでに最初の授業が始まっている時間だった。 つまり送られてきたメールは、授業をちゃんと聞かずに書かれたものということになるが、それについては深く考えない。メールを書き終えて送信した。そのとき。 「きらりさん?」 小梅の呟きが聞こえた。 ◇ 絵里は家を出てドアの鍵を閉めた。 結局あのあと小梅に用事ができて聖杯戦争のことは話せていない。 聖杯戦争。この言葉を聞くとなにか引っかかるものを感じる。 どこかで聞いたことがあるのに頭にモヤがかかって思い出せないような感覚。 聖杯という言葉は前にもどこかしらで聞いたことはある。同じように聖杯戦争も歴史の授業が何かで聞いただけかもしれないが、どうも違う気がする。 「考えても仕方ないわね」 聖杯戦争がどのようなものだろうと絵里には関係ない。なぜならチェーンソー男を倒せば全て解決するからだ。 この世界で哀しいことや酷いことが起こるのはチェーンソー男のせいだ。 聖杯戦争が良くないものであるなら、チェーンソー男さえ倒せばそれで終わる。 もしも二人いるというなら、どちらも倒してみせる。 そう結論づけて絵里は学校に向かった。 無論、この街にチェーンソー男は一人しか存在しない。絵里がこれまで戦ってきたチェーンソー男も、サーヴァントのチェーンソー男も、完全に同一の存在だ。 チェーンソー男は英霊にも悪霊にもなることなく、自らのままサーヴァントととなったのだ。 その理由はおそらく単純だ。この街で雪崎絵里と戦うにはそうしなければならなかったから。 そのためにチェーンソー男は、あるいは雪崎絵里は、聖杯戦争のルールすらねじ曲げ、記憶すら戻っていない状態でマスターとサーヴァントの関係となった。 故に絵里は自らがマスターであることを知らない異端のマスターだった。 あるいはルーラーすら知らないのかもしれない。 彼女がマスターだと確実に知っているものは一人、チェーンソー男だけだった。 ◇ 小梅は走っていた。建物の間を駆け抜け、通行人にぶつかりそうになりながらも足を止めずに走った。 同時に視線を動かすが探し人の姿は見えない。 ちょっとした段差に躓き、転びそうになったところを実体化したバーサーカーに支えられた。 「あ、ありがとう」 「足元くらいは注意しとけよ」 それだけ言ってバーサーカーはまたすぐに消えた。幸い周りに今の様子を目撃した人はいないようだった。 小梅は再び辺りに視線をやりながら――そして足元にも注意し――走りだした。 「どこに……いるの?」 ◇ 絵里がケータイをいじり始めたのを確認して、小梅もケータイを取り出した。 二件の未読メールがあることに気づいたのはこのときが初めてだった。 一つは友達の幸子からのメール。 【from:幸子ちゃん 件名:無題 本文:ボクは今日は調子が悪いので欠席させてもらいます。 ところで、商店街が騒がしいのですが大丈夫ですか? 二人に何もないようならいいのですが。 追伸 きらりさんを見かけたら、ボクが話したいことがあって探していたと伝えておいてください。】 幸子らしい丁寧な文章。ただ少し奇妙な内容。 調子が悪くて欠席するなら、普通に考えれば家で安静にしているはず。なのにきらりを探しているとはどういうことだろうか。 商店街の騒ぎを知っているのもおかしい。幸子の住むマンションから商店街まではそれなりに距離がある。家にいながら知れるとは思えない。 取りあえず心配させるのも悪いので『大丈夫』とだけ書いて返信した。 もう一件のルーラーからのメールは、聖杯戦争に関するお知らせが大部分を占めている。 一度サーヴァント同士の戦闘を見た後だからか、特にその内容に動揺するようなことはなかった。 問題があったのは、掲示板の方。 「きらりさん?」 スレッドタイトル、『みんなのアイドル 諸星きらりだにぃ☆』。 幸子から、きらりを探しているとメールが入ったのと同じ日に立てられたスレッド。 嫌な予感がした。 そもそも考えてみれば小梅はきらりがこの街にいることを今まで知らなかった。 幸子はなぜ知っていたのだろう。単にこの街でも知り合いだったというだけ? だとしても小梅もきらりのことを知っているとなぜ思ったのだろう。だって小梅にはこの街のきらりに関する記憶は何もないのに。 「きらりって諸星きらり?」 絵里からの予想外の言葉に、小梅は顔をあげた。 「し、知ってるん……ですか?」 「うん。知り合いってわけじゃないけど、高校ではけっこう噂に……」 言いかけて絵里は言葉を詰まらせた。暗い表情からは話すのを躊躇うような話であることが簡単に想像できた。 小梅の不安はさらに募っていく。 「お、教えて……ください。どんな……噂、ですか?」 絵里はやっぱり嫌そうにしていたが、小梅がじっと見つめているとやがて口を開いた。 「……高校のトイレで女子生徒が殺された事件知ってる?」 小梅は頷いた。その事件ならニュースで見たことがある。 「私も詳しくは知らないんだけどね、あの事件の犯人じゃないかって言われてるの」 「ど、どうして?」 小梅ときらりは特別親しいというわけではなかったが、それでも彼女の性格は知っているつもりだった。 優しい人。暖かい人。積極的すぎるところが少し苦手ではあったが、決して嫌いではなかった。 人を殺すなんて、噂の中でもするとは思えない、 「だから詳しくは知らないの。なんかあの事件の日から登校してないって話は聞いたけど……」 嫌な予感がした。 小梅は画面をタッチしてスレッドを開いた。 そこに書かれていたのは諸星きらりが女子生徒を殺した犯人だと面白おかしくはやし立てる悪趣味な文章。 諸星きらりが聖杯戦争参加者と訴える推理。 そして諸星きらりを犯人とする最大の根拠である、被害者の女生徒たちが行っていたいじめの数々。 小梅の知る諸星きらりは優しい人だ。 だが、ここに書かれていることが本当にきらりに行われていたのだとしたら、こんなことにずっと耐えてきたのだとしたら、あるいは。 (バーサーカーさん、ごめんなさい……チェーンソー男のことは、後にして……いい?) バーサーカーは召喚されてから未だ一人のサーヴァントも食べていない。 本当ならチェーンソー男は後回しにしていい案件ではなかった。 (お前の好きなようにすりゃいい) バーサーカーの答えは早かった。 (ありが、とう……バーサーカーさん) 小梅は立ち上がる。番号を交換する時間も惜しくて、紙に自分の番号だけ書いて絵里に渡した。 「ごめんなさい……急用ができたので、もう、行きます……何かあったら……ここに電話、してください」 「え、だけど……」 ペコリと頭を下げて、小梅は店を出た。 幸子がマスターだという確かな根拠はない。本当に諸星きらりが犯人なのかもわからない。 だがらといって二人が会うのを黙って見ていることはできなかった。 幸子の家とケータイの両方に電話をかけてみたが、誰も出ない。何か騒音で着信音がかき消されたのか、手を離せないのか、それとも。 小梅は幸子がどこにいそうか考えて、メールに書かれていたことを思い出した。 「商店街……」 ◇ そして小梅はいま商店街にいた。 ひと気のなかった商店街は一転、あちこちに立入禁止のテープが張られ、警官や見物人でごった返していた。 バーサーカーにも頼んで探してもらったが、幸子の姿は見当たらない。 もう一度電話をかけようとしてケータイの電池が切れていることに気づいた。 間の抜けている自分が嫌になった。 【C-2/商店街/一日目 午前】 【白坂小梅@アイドルマスターシンデレラガールズ】 [状態]魔力消費(小) [令呪]残り三画 [装備]なし [道具]R絵柄の私服、スマートフォン、おさいふ、ワンカップ酒×2 [所持金]裕福な家庭のお小遣い程度 [思考・状況] 基本行動方針:幸子たちと思い出を作りたい。 1.幸子を探す。 2.きらりさんが殺人犯? 3.チェーンソー男を、ジェノサイドに食べさせる……? [備考] ※霊体化しているサーヴァントが見えるかどうかは不明です。 ※雪崎絵理を確認しました。彼女がバーサーカーのマスターとは気づいてません。 バーサーカー(チェーンソー男)を確認しました。彼に関する簡単なこと(悪の怪人ということ・絵理と戦っていること)も理解しました。 【ジェノサイド@ニンジャスレイヤー】 [状態]霊体化、カラテ消費(小)、腐敗進行(軽微) [装備]鎖付きバズソー [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:コウメを…… 0.俺はジェノサイド…… 1.サチコを探すのを手伝う 2.次倒したら、チェーンソー男を食うかどうか。 [備考] ※バーサーカー(チェーンソー男)を確認しました。 バーサーカーの不死性も理解しましたが、ニューロンが腐敗すれば忘れてしまうでしょう。 【C-3/自宅付近/一日目 午前】 【雪崎絵理@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ】 [状態]魔力消費(?)、身体に痛み [令呪]残り三画 [装備]宝具『死にたがりの青春』 、ナイフ [道具]スマートフォン、私服 [所持金] [思考・状況] 基本行動方針:チェーンソー男を倒す。 1.学校に行く [備考] ※チェーンソー男の出現に関する変化に気づきました。ただし、条件などについては気づいていません。 ※『死にたがりの青春』による運動能力向上には気づいていますが装備していることは知りません。また、この装備によって魔力探知能力が向上していることも知りません。 ※白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)を確認しました。真名も聞いています。 ※記憶を取り戻しておらず、自身がマスターであることも気づいていません。 ※もしかしたらルーラーも気づいてないかもしれません。 ※聖杯戦争のことは簡単に小梅から聞きました。詳しいルールなどは聞いてません 【???/???/一日目 午前】 【チェーンソー男@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ】 [状態]復活までまだ時間が必要 [装備]チェーンソー [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:雪崎絵理の殺害 [備考] ※雪崎絵理がマスターだとかそういうことは関係ありません。 ※聖杯戦争中、チェーンソー男は夜以外にも絵理がサーヴァントの気配を感じた場合出現し、当然のように絵理を襲います。 このことには絵理も気づいていません。 ※致命傷を受けての撤退後、復活にはある程度の時間を要します。時間はニュアンスです。 ※白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)組を確認しました。 BACK NEXT 018 ふ・れ・ん・ど・し・た・い 投下順 020 逢魔が時に逢いましょう 時系列順 BACK 登場キャラ NEXT 009 ガール・ミーツ・ジンチョ・ゲーザーズ・ネクロマンス 白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド) 036 ダンス・ウィズ・ア・ストレンジャー 雪崎絵理&バーサーカー(チェーンソー男) 023 シュガー・ラッシュ
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聖‐judgement‐罰 ◆HOMU.DM5Ns 月の下で交わすものでなく 月を肴に交わすものでもなく 月の上で交わされるもの 配点(聖杯交渉)  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ● 「あなた方に問います」 虚偽を許さぬ絶対の声だった。 怒りに震えた大声を叫んだわけではない。 むしろ逆。声はあくまでも静かなもの。表情は一切崩れず厳然としている。 静かであるがゆえに、気圧される。余分のない台詞は話題を逸らす事もできずいっそ容赦がない。 こちらを見据える瞳は鋭く、かといって強く睨んでいるという程でもない。 感情に流されず、あるがままの事実のみに焦点を当てる。 見た目だけなら、正純よりもやや年上でしかない金髪の少女。 纏う鎧を排したら、どこにでもいる純朴な田舎娘にも見えるだろう。 「聖杯戦争と戦争をする。その言葉がいかなる意図のものであるか」 それでも放たれた声は絶対だった。 裁定者の器(クラス)に嵌められた英霊の聖性を帯びた言葉で問う。 「此度の聖杯戦争を取り仕切るルーラー、ジャンヌ・ダルクの名において、嘘偽りのない答えを求めます」 真名(な)を明かした聖女の言葉は、この世界で何よりも重い響きをもって本多・正純に届く。 ……元々、予測の内ではあった。 正純達がアンデルセンとアーカードを補足するに至ったのは、深山町錯刃大学付近で起きた暴動のニュースだ。 この時期に、しかも夜に暴動だ。デモ活動が起きたでもあるまいに、聖杯戦争が関与した事件と判断するのはニュースを聞いた全員が一致した。 そんな公共の報道で流されるほど大規模な事件を聖杯戦争に関わる者が起こしたとすれば、ルーラーが現場に向かうのは自然な成り行きだ。 その中に正純達も飛び込む以上、相対することになると想定するのは難しくない。 民衆の暴動に、多数入り乱れるだろうサーヴァントとマスター。これだけでも大変な状況だというのに、そこにルーラーまでも介入してくる。 混迷の極みだ。接触のタイミングを間違えれば目標に辿り着くより前に足止めを喰らう。損だけを被る結果になりかねない。 だからこそ、時期を計った。ライダーからの補給物資(買い足してあったハンバーガー)を口に入れながらその時を待った。 参加者と接触し、その後にルーラーと対面できるようになる為のタイミング。 そして今は予定に概ね沿うルートとなっている。アーカード達との交渉が終え、混乱が収束しつつある矢先に現れた。 交渉を始める為に必要な条件は最低限とはいえ揃っている。だがあくまでもこれは前提。いまだスタートラインにすら立ってはいないのだから。 故に、命を賭けた駆け引きはここからだ。 ジャンヌ・ダルク。 オルレアンの聖女。乙女(ラ・ピュセル)。聖なる小娘(ジャンヌ・デ・アーク)。 フランスの王位を巡りフランスと英国が対立した百年戦争。劣勢に立たされたフランスに突如として神託を受けたと名乗り貴族の前に現れた田舎出の子女。 その存在を正純は知っている。過去の歴史再現でも彼女の功績は大きい。襲名者でなく実在した偉人本人に、畏敬を感じない事もない。 昔話に語られる神話の人物と違う、確かに現実に生きる人間が奇跡を起こしていく光景は、当時の人にはどれほど輝く星に見えただろうか。 曰く、説得力というもの。 軍事であれ治世であれ、指揮者として台頭してくる者が持つ魅力。求心力といってもいい。 暗示や洗脳、自らの意のままに相手の思考を支配、誘導する類のものとは違う。 それもまた指導者が弁舌で引き出す技術の一だが彼女のそれは別の要因だ。 見る側が、その印象から自発的に考えを改めてしまう天性の資質こそが、彼女が保有するもの。 例えるなら、昔の御伽噺に出る真実のみを映し出す鏡。 壁にかけられた聖画を地面に投げ踏みつける行為。 彼女の姿も、声も、後ろ暗い事情を持つ者にとっては全てが毒となる。 自分は何か間違いを犯したかもしれない。彼女の言葉を信じるべきかもしれない。 何の根拠もないままに、少女の言葉には逆らえないと、そう思わせてしまう。 「答えようルーラーよ。 聖杯戦争と戦争をする、という事の意味を」 心の中でのみ息を呑み、それをおくびにも出さず言葉を返した。 こちらを質そうとする威圧は感じる。裁く者であるルーラーとして、裁かれる者である正純と対峙している。 だが武蔵の副会長、交渉人として臨んだ数多の生徒会長や国の代表者と弁の剣を交わし合った身からすればまだ生温い。 この程度で竦むだけの肝は腹に収めてはおらず、また暴かれて怯えるような罪も犯した覚えはない。 「まず先に、誤解なきように一つ弁明をしておく」 だから正純は何一つ気負わずに無くルーラーに向かい合う。一方的に責め立てられるのではない、対等の立場として。 「我等は決して裁定者側との武力衝突による打破と排除、そしてそれによる聖杯の奪取を望むものではない。 聖杯への戦争とは、貴殿らに刃を向け、銃弾を放つ行為のみを意味するのではないということを、理解してもらいたい」 後ろの方で、ライダーが面白そうに口角を上げて笑みを浮かべている気がする。 ……頼むから、今は黙っておいてくれよな。 果たしてルーラーは、僅かに首を縦に下げた。 ……最初の関門は突破したか。 大げさなようだが、ここが大事な分水嶺だった。 この場で最も避けなくてはならない事態は、ルーラーからによる即座の制裁にある。 裁定者に与えられているという絶対特権を用いて、強制的にこちらを排除する視野狭窄な選択。 そんな真似をしでかすような輩を裁定者とはとても呼べまい。しかしそれを真っ先ににやられると終わりなのだ。 なにせ今自分達には後ろ盾というものがない。同盟を組んだサーヴァントも含めて四名、そのうち三は戦闘に秀でているタイプとはいえない。 シャアも正純も一騎にして千の兵に勝る強者ではなく、一個にして万軍を動かす「将」の器だ。 そしてその利もここでは失われている。味方になってくれると安心できる協力者。国家、コミュニティと切り離された状態で方舟に集められている。 ライダーにしても戦力面では大いに不足なのは否めない。まともに運用できるのがアーチャーのみでは分が悪過ぎる。 自らの意に反した者は一片の慈悲なく首を飛ばす、暴君の如き裁定であったならば、いよいよ正純に勝機はない。 横暴さを他陣営に示そうにも先に握り潰される。それを阻む手段がなく後に続く者はいなくなる。こうなっては交渉も答弁も全てがご破算だ。 その為にまず楔が要る。積極的に交戦するわけではないとアピールしておかなくてはいけない。 背を味方に頼めない以上、いつも以上に保身には注意しておくべきだ。 そして話を聞く姿勢を見せた事で同時に収穫も得た。 このルーラーはそこまで強硬には出てこない穏健派であるらしい。嘗めているわけではないが、そうであってくれればこちらとしても都合がいい。 聖女の代名詞のような真名。しかし歴史は必ずしも伝えられてる通りにとは限らない。 むしろ既に一生を終えた英霊は生前には抱かなかった願いを持つようになるかもしれない。 『国に裏切られ世界を呪った魔女』という解釈で、英霊になっている可能性も存在したからだ。 それほどまでに、かの英霊の駆けた生涯は激動だった。 英雄に相応しい活躍から一転、谷底に落とされる悲劇的な末路。 その過程で彼女がどこまで信仰的純潔を守り通せたかは諸説様々だ。 無念に思ったか。救済を求めたか。復讐を望んだか。そればかりは実際に体験した本人でなくては分かるまい。 望んで対立しているわけではない。対立などしなければそれが最良の選択だ。 しかしそれは叶わない。どうしても、どうあっても叶わない。 正純が聖杯戦争を否定する立場を崩さない限り、ルーラーが聖杯戦争を運営する役目を捨てない限り。そしてその可能性の低さは各々で確認するまでもない。 「では改めて申し上げる。ルーラー、ジャンヌ・ダルクよ。後ろに控える者を代表して私、本多・正純は提案する」 対立は避けられない。立場と役目は相容れない。 ならば。存分にぶつかろう。言葉を以て殴ったり殴られたりしよう。 互いの意見に信念、全て突き合わせ、気の済むまで容赦なく叩きつけ合おうじゃないか。 全員の立場をはっきりさせ、主張を纏め上げて、その果てに両者を融和させよう。 線が出揃えば点が新たに打てる。平行線であれ対角線であれ、どの線にも偏りのない平均の点を打てる場所が表れる。そこを我々の境界線にすればいい。 それが正純にとっての戦争の形。正純が望む論争の形。 「我々は、聖杯との交渉を望む」 さあ、戦争の時間だ。 絶対に負けられない交渉が、ここにある。 ● 「交渉……。聖杯を望むのではなく、拒むのでもなく、聖杯と交渉をすると?」 ルーラーの表情に僅かな困惑が浮かぶ。言葉の意味は解しても、その意図を計りかねると。 それはそうだろう。こんな要求をしてくる陣営が他にいたとは思えない。 仮にいたとしても、こうして監督役と直に交わす、などというのは本来なら早々やる事ではない。 ジャッジ 「Jud.我々はこの戦争の形態に疑問を抱いている。正しい戦争の形ではないと考えている」 だが正純は恐れず踏み出す。いつ崩れるかも分からない危険な橋に足を踏み入れる。 最初の一歩が肝心だ。この道は大丈夫だ、間違ってないと示す旗印の役が要る。 「聖杯。方舟。選別。戦争。殺し合い。これらには、ひとつを選べば全てが付随してくるような因果性は無い、どれも独立した要素だ。 それを一個に繋げ、戦争と定めている現状に私は歪みを感じた。アークセルの掲げる種の選別という目的にはそぐわないと感じた」 方舟と聖杯という、別個の伝承が合一している因果関係。 つがいと言いながら男女で組まれていない主従。 冬木という固有の地名。競争には不要なはずのNPC(いっぱんじん)。そして監督役。 ただ一組の勝者を選び抜くにしては不合理な点が数多くある。 「どうしても覆したい現実を抱える者達。奇跡に頼らねばならぬような望みを持っているわけではない者達。 どちらもみな等しく聖杯に支配され、戦い以外に願いは叶わないと、生存の道はないと突き付けられる。 準備もなく、覚悟も持たず、無差別に集められた彼らを"奇跡"の一言で掌握し、己を手に取るに相応しい種を選ぶと宣誓しながら殺し合わせる。 それが貴殿らが主導している、今の聖杯戦争の実情だ」 同じ方向に伸ばされる手を押し退けてまで叶えたい願いを持たぬ、闘争を望まない者達はおそらくはいるだろう。 だが彼らは願いが無い為に積極的に動き出せない。他の陣営を諌めるのに、監督役に睨まれるのに二の足を踏んでしまう。 「……断言しよう。それは本来無用の血だ。許されてはならない喪失だ。 罪無き者を、誰かの貴い願いの為の犠牲者に貶めるものだ。犠牲を出さずに目的を果たせたかもしれない者に、必要の無い罪を背負わせるものだ。 聖杯が真に万能たる器であろうともこの喪失は埋め難い」 必要なものは大義だ。彼らの背中を押して、前に先導するに足るだけの後ろ盾。 願いという、自己完結するが故強固な動機を持つ相手に対抗できるだけの、万人が認める正統性だ。 「故に私は聖杯戦争を"解釈"する」 告げる。 「方舟、サーヴァント、マスター。 いずれも私は否定しない。蔑ろにする気はない。 集められた者が死ぬ事なく望みを叶え、方舟も自らが認めるに足る"つがい"を得る。誰にとっても正しい形の戦争に改める。 これが先の貴殿の問いへの答えだ。"聖杯戦争への戦争"―――マスターの一人として、聖杯の意思との交渉の任を全うすべく、私はここにいる」 言葉を放つ。決定的な宣言を。 「返答を、裁定者(ルーラー)。 我らの要望に、応じるか否か」 目の前のルーラーに。後ろで見ているライダーに。共に進むシャア・アズナブルとアーチャーに。 まだ姿を見せていない、全てのマスターにも、この声が届くように。 今ここにいる人だけに聞かせればいいわけではない。 戦争の形を変えるには聖杯戦争参加者全員を巻き込まなければ実現し得ないのだから。 ……さあ、どう来る? ● ルーラーに言葉を投げかける正純。 シャア達は二人を同時に視界に収められるだけ後方に下がった距離で俯瞰している。 正確に言えば、ルーラーの進行を止めるように正純が先んじて数歩前に出た格好になる。 隣にはアーチャー、逆の隣にはライダーが共に交渉の成り行きを見守っている。 双方の表情は対極。後に起きる展開を読めず困惑を見せるアーチャー。待望の見世物を鑑賞しているように喜悦を隠さないライダー。 盟を組んだ自分達だけでなく、彼女の従者もまた主にこの場を預けている。 同盟を提案したのは正純。方針を掲げ主導しているのも正純。なればこそ、重大な場面では常に矢面に立つ覚悟が要る。 基軸を揺るがせないために彼女は身一つでルーラーに向かい合うのだ。 「…………」 ルーラーは黙したまま何も語らない。 話の始めこそ顔に驚嘆の色を見せていたものの、聞いていくにつれて平静さを取り戻していったのが離れても分かる。 教師に教えを熱心に聞く生徒のように。怠惰に聞き流さず、途中で声を遮りもせず聞いていた。 ……監督役としては、やや真摯に過ぎると感じた。 聖杯戦争への戦争。 台詞のみを受け取れば何とも大胆不敵な宣戦布告に聞こえよう。 実際そう宣言しているのにも等しいし、正純の立てるプランにはその道を選ぶ覚悟も備えている。 それを直に監督役に聞かせるのだから、これはもう外した手袋を投げつけるのにも等しいだろう。即刻処罰されてないだけでも温情だ。 だが今並べた発言の内容に限って言えば、決して聖杯との対立を是認しているわけではない意図で述べられていることが分かる。 今言ったのは要するに改革だ。聖杯戦争を、従来と別の形態へ改変させる要求。 これは単なる敵対行為とは一味違う。あくまでも提案を持ちかけにきている。 アークセルが種の選別を目的とするならもっとよりよい方法があるのではないかという、問いかけだ。 聖杯戦争を破壊するつもりは毛頭なく、まして聖杯を、アークセルを否定する言葉は使っていない。 つまり、明確な叛逆を口にしたわけではないのだ。 "目的の為には手段を選ぶな"とはマキャベリズムの初歩だが、目的の為にはやってはいけない手段というものがある。 非道であればいいというわけではない。効率のみを重視するのではない。 全ては目的を定めた利益が確かに手に入れるがためだ。それを見失えば手段と目的を履き違える羽目になる。 この人間同士での殺し合いで、見合う成果は得られるのか。結果をこそ望むのなら躊躇などせず、方針転換を厭うな。 ―――そう思うのだが、どうか、と。こう聞いているのだ。 詭弁、ではあるのだろう。どの道今の形態を壊す結果には違いないのだ。 しかし監督役は言っている。聖杯戦争についてある程度の質問には応じると。 正純は聖杯戦争についての質問の延長線上として聖杯改革の案を差し出している。従ってルーラーにはこれに応える義務が発生する。 一度話に耳を傾けた以上はもう逃げられない。是か非か、彼女は答えを返さなくてはならない。 しかし答えたところで十中八九出てくるのは『拒否』だろうと、シャアは踏んでいた。 信念と自信を持って訴えようとも所詮は一参加者の言。その程度で揺れる根拠でこの聖杯は稼働していない。 そもそも主要なシステムすら理解していない身で聖杯戦争を語ろうとは烏滸がましいと見なされても仕方がない。 ルーラーはその根拠を持ちだして正純の稚拙な論を一掃するだろう。 ……そして、それこそが狙い目なのだろうな。 ● 首に縄でも回されてる気分だ、 正純は心境を内のみで独白する。 思考の間は返答の選択か、あるいは処罰の厳選か。 どちらにせよこの空白は意義ある時間だ。相手の要求に即座に反応をせず一考してる、考えるだけの余地が向こうにはあるということ。 正純、ひいては一定のマスターには不足しているものがある。 それは個々の能力とは違う、だがある意味この舞台での前提となるべきもの。 聖杯の知識。アークセルに対する正しい認識だ。 事前に情報を纏め自ら月へと臨んだマスターではない、シャアや正純のような巻き込まれた形でのマスター。 そんな者達は事前に聖杯戦争に関する知識を埋め込まれ、与えられた上辺だけの知識を頼りに戦わなくてはならない。 人に個性や能力差がある限り真に公平な状態など存在しない。かといってこれではあまりに分が悪い。 その差を埋める手段として、正純は望んで聖杯戦争に参戦したマスターか、監督役との接触を挙げた。 情報源として確実なのは監督だろう。だがいかに質問を受け付けるといっても聖杯中枢に関わる重要機密を簡単に教えてくれるわけもない。 「聖杯戦争と戦争する」などと宣言をした相手となれば尚更だろう。 だが、こうして真っ向に異論を突きつけられたのなら。 聖杯と、聖杯戦争その根幹を糾弾され、改革を叫ぶ者が目の前に現れれば、どうするか。 武力を以て排除する、選択の一つだろう。しかし向こうは軽々にそれに及べない。 なにせルーラーのお題目としては、マスターとサーヴァント同士での戦いこそ聖杯戦争の本来望まれる形なのだ。 違反者が出るからといって自らの手で処断するのは、なるべくなら取りたくない手段に違いない。 良くてペナルティの発令までだ。それはこれまでの手緩いとすら見える裁定からも分かる。 剣を取れぬのであれば、口を開く他あるまい。 熱に浮かれた者に冷や水を浴びせる真似。憶測で者を言う相手に動かしがたい事実を突き付けて、論を折る。 同じ土俵で論破してこそ敗者に強い敗北感を与えられる。叛逆の芽を一掃するにはまたとない好機。 そして裏返せば、ルーラー直々から言質を取れる最上の機会だ。 欲する精度のある情報を手に入れるにはこうすればいいと思っていた。 監督役こそが聖杯に一番近い側の人物。その彼女達に自分を批判する根拠として、聖杯にまつわる情報を言わせる。 聖杯戦争と反目し排除されるべき異分子に対してならば、通常は開かせない口にも緩みが出る。 お前たちは間違っているとそう断ずる為には、必要な正答を提出しなくては証明されない。 ……当然だが、捨て身戦法も同然だ。 肉を切らせて骨を断つ、とは言うがリスクとリターンが釣り合ってない。これでは肉は向こうで骨はこっちだ。 だがそれで十分。肉まで断てればそれで上等。 少なくとも、肌を傷つけるまでは到達できる。そしてそれはやがて鉄壁を崩す楔に変わる。 理想を言えば、先のアーカード達を味方に引き入れた上でルーラーと見える状況が望ましかった。 狂信者であるアンデルセンに聖杯の真実を教え、抱いた猜疑を確定させ得る。 闘争を望むアーカードは知ったとて行動に大差はない。故にルーラーの処罰対象からも外れ、情報を外に持ち出せる。 知ればその分思考には幅が出てくる。真実は知る人が増えるだけで意味がある。結果は失敗したので今更の話だが。 大学周辺での騒動も収束して時間が経っている。慌ただしい住民の声も遠い。 正純は第一に言う事を言い終え、ライダーとシャア達は俯瞰の立場を通し、そして答えるべきルーラーは未だ口を開いていない。 この一帯だけは、空間ごと切り離されているかのように静謐としていた。 シャア・アズナブルとの同盟、アーカードとアレクサンドル・アンデルセンとの交渉。 これらは目的達成の地盤固めに重要であったが、絶対条件ではない。失敗してもまだ次の一手があった。 だがこれにはない。ここで選択を誤れば正純は終わる。 自分とライダーは処断され、協力していたシャアとアーチャーも罰を受ける。何事もなかったように従来通りの聖杯戦争が進行する。 そうさせない策は用意しているが不確定要素も多い。絶対はない。確率として最悪は常にあり得る。 シャア議員だけでも逃がさなければ―――状況に備え打開案を思案し始めたところで、 「わかりました」 ● 心臓が跳ね上がりそうになるのを抑えつける。 早合点するな。今のはただの返事だ。 ただの確認作業、次に出す答えにワンクッション置いただけのものでしかない。 一息吸うだけの間を空けて、ルーラーは返答した。 「あなた方の言葉は確かに聞き届けました。 ですがルーラーの立場として……その要望には応じる事はできません」 結果は、否定。 にべもない言葉にしかし正純は落胆するでもなく、 ……まあ、そうなるよな。 ここで簡単に折れるほどやわな精神ではない。お互い様に。 上手く行くのに越したことは無かったが、そう楽に事が運ぶのも楽観論だ。 十分に予想できた。だからここまではまだ計算の内だ。 話題を切り出す理由、会話を続けるきっかけを作れただけでいい。 「……我々はより正しく聖杯を担う者を選定する方策を望んでいるだけだ。それを受け入れられないと?」 「ルーラーは聖杯戦争の推移を守る者ですが、聖杯を管理しているわけではありません。 聖杯とはこの世界を創造したもの。舞台から戦いのルールに至るまでを設定したアークセルそのものです。 一度始まった聖杯戦争を取り止め、ましてルールを変更する権限は私達にはないのです」 「それでも他のサーヴァント達よりは聖杯との繋がりも深いはずだ。方舟からの通知伝令のひとつもあるだろう。 そこを経由して貴殿の声を届ける事も可能ではないのか?」 「それは我々の管理を超えています。街の統制等の機能ならともかくシステムそのものへの干渉など到底認められないでしょう」 「では―――」 「いえ―――」 繰り返される質疑応答。 正純が問えば、ルーラーがそれに答える。そんなやり取りが何度か交わされる。 要望は悉く跳ね退けられる。ルーラーから聖杯への進言は不可能だと。 本当だとは思う。が、全てを話してるとは思えない。 報告の際に、一意見として混ぜておくだけでもいい。そうすれば少なくとも可能性だけは提示できる。 あるいは報告の段階を飛ばして直接観察しているのかもしれない。 会場が方舟内部にあるのならそれもまたあり得ることだ。 だとすると……やはり確実なのは、聖杯自体との直接交渉しかないということになる。 「……先に言ったように、我々は現状の聖杯戦争を良しとしない立場を取っている。 貴殿らからすれば、その意図はないとしてもやはり障害として映ってしまう一面もあるかもしれない」 そう思った正純は一端矛先を変えた。 「だが―――それならそもそも呼ばなければ済んだはずだ。なのに、私のように明確な願いを持たない者もこうしてここにいる。 我々のような、聖杯を望まない者と真摯に聖杯を欲する者を一緒くたに混ぜるのは、願いある者からすれば自身の願望を侮辱として受け取られかねない」 背後で控えているシャア・アズナブルにも、聖杯に託すべく願望は持っていなかった。 潜在的に願うものはあったが、それは何もこんな形式でなくともよかったはずだ。正純自身にしてもそうだ。 正直に話すには余りに馬鹿馬鹿しい経緯で方舟に来てしまった。 何故託すものがない者、自身を望まない者に聖杯は資格を与えたのか。 「参加者を招聘するのは私でなく聖杯によるものです。 地上から方舟への道程を繋ぐ切符(チケット)。ゴフェルの木を手にした者をアークセルは己が内部に招きます。 そこに資質や条件、選定の基準があるかは私には図れません。ですが呼び出された時点で彼らは聖杯を得る資格を手にしている。私はそう思っています」 ルーラーは答える。 「聖杯が望むのは最後まで生き残ったマスターとサーヴァント。そこには能力や人格の優劣、願いの有無も関係ありません。 何を願い、何処を目指し、どう動くか、それは各々の自由。因果が導く道は無数にありどれが正答である保証もない。 ルーラーが"相応しい"とする在り方を強制もせず、あなた達の方針にも極力干渉致しません。 全てのマスターとサーヴァントを迎え入れ、全員が勝利者であるのを願うのみです」 ……全員が勝利者である? 最後の言葉の意味が気になるが今は後回しにする。それより思考を充てるべき事がある。 ルーラーはふたつの重要な事実を口にした。 ひとつ目は"聖杯の意思"。参加者を選別したのは聖杯自体が選択したものと確かに言った。 正確には"ルーラーが選別に介在していない"だが、彼女以外に意思があるものならそれは実質聖杯、それに準ずる意思でしかない。 推測が事実へと確証が取れたのは大きい。 そして……ふたつ目。これはどこか引っかかるものを感じる言い回しがあった。 "最後まで生き残ったマスターとサーヴァント"。 方舟の役割を鑑みれば単に強さ……戦闘力のみに重きを置かず、生存力をこそ重視するというのも分かる。 だから、単純に一対一で性能を競い合わせる形式にしない……? 何かが引っかかっている。正純の捉えているものとの食い違いを感じる。 「無論、聖杯戦争を無視し殺戮の混沌を撒き散らす者がいたならばそれを正しに動きます。その為にこそルーラーはいるのですから」 思考を別に働かせつつも、正純はその台詞を見逃さなかった。 「現状、抑止が正しく機能しているものとは私は思わない」 B-4地区のマンションで起きたという違反。そして錯刃大学での暴力騒動。 運営の抑止力としての役割を正純は疑っていた。比較対象がないから何とも言えないが、お世辞にも十全に果たせているとは見られない。 「そうもこの方式を維持するのが正しいと規範する、その根拠を教えてもらいたい」 今が聞き時だろう。 交渉の目的たる核心の追及へと話題を進めた。 「我々は何も知らない。如何なる成り立ちでこの聖杯戦争が始まり、どうしてそれが殺し合いでなくてはいけないのか。 何故、予選が終わった今でも同じ土地を戦場に使用しているのか」 それはライダーやシャアとの話し合いでも共通してる考察の一片だった。 「この戦争の悪なる部分は、賞品となる聖杯の正体があまりに不明瞭だからだ。 ムーンセル、アークセルが何であるかは知っている。だがそれは全て聖杯側から一方的に与えられたものでしかない。 状況も分からぬまま外付けで断片的な情報を脳に刻まれて、それを求めるなどどうして出来るというのか?」 聖杯は貰って嬉しいトロフィーではない。 そうした価値もあるだろうが大多数はその機能に目をつけている。信頼性のない商品など誰が使うものか。 なのに方舟には、聖杯を求め殺し合いを進める者がいる。 そうするしか他にないから。手をどれだけ伸ばしても永久に届かない。一生を懸けてもまだ足りない。 普通では叶わぬ悲願の成就を渇望するからこそ彼らは選び、方舟は選んだのだ。 「そうまでして求めた聖杯に偽りがあれば……これほど彼らに対しての侮辱はない。 善悪に関わらず、餓い抱いた期待を目の前で打ち砕く。願いを虚仮にして嘲弄する」 それはなんと呼ばれるのか。 「最悪と呼ばれる行為だ。人類種の保存という、方舟側の大義すら消失する」 そんな最悪の可能性を避けるにはどうすればいい。 「資格があると言ったなルーラー。その通りだ。 我々には資格がある。情報を要求し、検証し、選択する権利がある」 全参加者の聖杯に関する情報を共有することだ。聖杯についての正しい認識を持たせることだ。 正確性に欠けたものではない、裁定者側からお墨付きのもので、だ。 「そうして考えた上で、我々は選択すべきだ……他者の命を奪う道を進むのか、止めるのか。 それは聖杯という高次の存在から授かるものではなく、個人毎の意思で決めねばならない」 想像の通りではないと知り願いを諦める者。矛盾を知りつつもなお己の道を通す者。 戦争を望む者。厭う者。 多くの道が分かたれるだろう。その過程で立場が明確になる。 言ってしまえばわざわざこうしてルーラーに直談判してるのもその辺りの曖昧さにあるものだ。 間を空け、次はルーラーの返答を待つ。 ジャンヌ・ダルクには、異端審問の際に専門家が舌を巻くほどの弁で審問側を圧倒したという逸話がある。 これまで投げた問いに対して淀みなく返答してみせたのもそういう理由だ。 それが神の奇跡の一端であれ本人の思慮分別であれ、無知な田舎娘でないということを意味している。 しかし、 「……」 ルーラーは唇を結び、沈黙している。 妙だな、と正純は思う。 黙秘する事自体ではなく、変化したルーラーの表情を。 黙秘権を使用しているでもあるまい。躊躇とも違い、どう答えたものか逡巡しているような様子。 それはまるで―――ではないか。 頭の中である考えが浮かびかけたところで、ルーラーは口を開いた。 「……その質問には答えられません。いえ、そもそも答えようがないともいえます。 裁定者はこの聖杯戦争を恙ない進行の為に存在する。翻せば、それ以外の役割は求められていない。 聖杯戦争が起きた理由、その成り立ち……そうした機密は何も知らされていないのです」 「な……!」 驚きの声。 思考を止めることなく次なる言葉を引き出そうとしていた正純の計算が乱れた音だ。 それでも、それでも正純の耳は常時通り働いていた。一言一句たりとも聞き逃さず、その意味をたちどころに理解する。 理解したからこその反応、狼狽だった。 「ルーラーとして参加者に受け答えするだけの聖杯に関する知識は保有しています。ですが真に秘匿すべき情報については持ち得ません。 僅かな確率であっても、私から情報が漏洩するのを防ぐ措置なのでしょう」 ……どういう、ことだ? あまりにちぐはぐすぎる。 裁定者側が聖杯戦争の正体を知らない。教えられてないなど考えられない。 造反、漏洩を防ぐ為。単なる走狗に対してであればまだよかった。聖杯の端末に等しい、それこそ意思のない機械であれば。 だがそれを意思持つサーヴァントに適用させているのが正純には解せない。面倒だろう、それは。 聖杯の意思の代弁者としてAIなどいくらでも作れたはずだ。それなのに聖杯はわざわざ情報統制を強いた上で、 明確な人格を持ち、過去に生まれた人間、歴と存在している英霊をルーラーに任命し召喚している。 労力を惜しんだから既に在る、条件を満たす英霊を選択した?ものぐさにもほどがあるだろ……! 「疑念を持たないのか、ジャンヌ・ダルク……この方舟に。この聖杯に。聖女である貴殿はこの戦争に納得しているのか? "これ"が貴殿らの信ずる御子の聖遺物足ると言えるのか?」 「承知しています。この"聖杯"は御子の血を受けた正真の杯でなく、ムーンセルという月の頭脳体を称したもの。 その演算処理能力を以て成される願望器としての機能を指して聖杯と字名されているものです。 "方舟"、人がアークセルと呼ぶそれもムーンセルとはまた独立した、魂を擁する揺り籠を目的とした古代遺物(アーティファクト)。 ……聖者ノアが造りたもうた真なる方舟であるかは、私には答えかねますが」 矛盾の根幹を突く言葉。 信仰に傾倒する程縛られる教派の教義にもルーラーは揺るがず。 そう……宗派の相違による衝突など彼女自身が身を以て思い知っている。 「ですが真贋はどうあれ、ムーンセル、そしてそれと接続したアークセルは願望器としての機能を持ちます。 容易く世界を変容させる力。人の望みを汲み上げる知恵の泉。いつしか人は、それを聖杯と呼んだ。 その争奪の経緯を総称して、やがて聖杯戦争という名が生まれました」 つまり、それは。 「……聖杯と名付けられたものを奪い合うのであれば、何であれ聖杯戦争というわけか」 「『私』が存在する世界に限れば、ですがね」 ルーラーは肯定した。 「ですので、贋作であるから、教義に反するからという理由で疑いをかける事はしません。 我欲を求めるのは人の本能。それが災厄をもたらす事がなければ叶えようとしても構いません。 もとよりここに集ったのはそれぞれ別々の人理を紡ぎ上げた世界の住人。信ずるものが異なるのは当然の話。 今の私は主を信じた小娘ではなくルーラーのサーヴァントとして求められたが故に」 知識の差が出始めた。 一世界から出でたに過ぎない正純と、英霊として多数の世界の知識を有するルーラー。 立ち位置からくる認識の差だ。知識の差は視点の差を生み、捉え方の違いを生む。 この場合のルーラーは信仰上の聖杯と願望器の聖杯を分けて考えているように。 あらゆる異世界に同数の宗教があり、同名の教派でも形態が違いそもそも存在すらしない時代と場所がある。 そんな住民を纏め集めた方舟で、ひとつの宗教観を絶対の基準に置けば破綻は避け得ない。 もしくは。はじめからそうした分け方ができる人間をルーラーに選んだのか。 そしてふと思った。 ムーンセル、そしてアークセル。このふたつの聖遺物が存在する、いわば基礎となる世界。 このジャンヌ・ダルクも、その"基礎世界"で生きた英霊なのではないかと。 「確かに私は全てを教えられてるわけではありません。それを承知の上で私はここに今も在ります。 聖杯戦争を恙なく進行させるルーラーとしてここに在る」 鎧姿の少女は厳かに告げる。 「ですが誓えることはあります。聖杯があなた方に伝えた情報―――それに偽りはありません。 肉あるものを集め、人類の種を保ち、使用者の願いを映す月の水面。宙の方舟は輝く魂を載せ天へ至る。それがアークセルの役割。 裁定者(ルーラー)と私(ジャンヌ・ダルク)、双方の名において譎詐せずに誓います」 最大限での潔白の表明だった。 監督役としての権利も、個の英霊としての誇りも全て賭けている言葉。だから軽く翻す事も出来ない。 決意は重圧と変性する。息苦しさを正純に押し付ける。 こうまで言われて疑うようではルーラーの全てを疑問視しなくてはならない。 そうすると今まで引き出した情報も信に置けなくなり、前提の崩壊になる。 「ここでの死を必要な犠牲と許容するのか?」 そして……完全でないにしても把握した。 彼女の行動と主張、その骨子にあるもの。古今の英雄を統制するルーラーのサーヴァントに選ばれた理由を。 「まさか。必要な死など世界にありません」 神への妄信。宗教の執着。一方通行の感情の暴走。 そんなものでは到達し得ない、目の前にすれば足が竦むほどの巨大で強大な意思。 「万人を救おうとも、一人の命を奪った罪が消える事にはなりません。 誰かを救う選択とは、そういう事です」 聖女の信念に正純は触れた。 BACK NEXT 156-b 話【これからのはなし】 投下順 157-b 聖‐testament‐譜 156-b 話【これからのはなし】 時系列順 157-b 聖‐testament‐譜 BACK 登場キャラ:追跡表 NEXT 156-b 話【これからのはなし】 シャア・アズナブル&アーチャー(雷) 157-b 聖‐testament‐譜 本多・正純&ライダー(少佐) ジャンヌ・ダルク
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第一回定時通達 ◆5fHSvmGkKQ 『――この『月を望む聖杯戦争』に参加しているマスター並びにサーヴァントの皆さま、こんにちは。 本来の記憶を取り戻し、令呪を宿し、サーヴァントとの契約を果たしてから幾日か経過している方もいると思います。 このたび予選期間が終了し“本選”へと進むマスターが確定したため、本日より定時通達を執り行うこととなりました。 今回の通達は私、カレン・オルテンシアが担当いたします。よろしくお願いします』 『既に聖杯から与えられた知識の中にもあったかと思いますが、通達は毎日正午12時に行われます。 なおこの通達は念話を用いていますが、遠隔及び多数同時に行っているため、非常に途切れやすいものとなっています。 しっかりと聞きたければ、せいぜい集中して耳を傾けられる環境を事前に整えておくことです』 『もし聞き漏らしなどがあった場合、可能ならば教会で対応いたしましょう。 もっとも私もルーラーも出払っているという場合もありますので、その際はあしからず。 また正午の段階での残存するマスターおよびサーヴァントの数に関するデータについては、検索施設からアクセスすることも可能です。 そちらではサーヴァントのクラスごとの数についても『方舟』によって公開されていますので、詳しく知りたい方はそちらへどうぞ』 『現時点で生存しているマスターは“28人”です』 『さて、改めて確認しますが、この聖杯戦争において“大量無差別に一般NPCを襲うこと”は禁則事項です。 全体への通達なので詳細は伏せますが、B-4地域にて重大なルール違反を行った方へ。 この通達をもって“警告”と致します。改善が見られない場合、次回は即刻ペナルティの付与を行うこともありますので、 自分の身の振り方を考えることね』 『そしてもう1点。たとえNPCを直接殺害等はしなかったとしても、 “この冬木の街の日常を著しく脅かすこととなる場合”、処罰の対象となる可能性があることをお伝えしておきます。 心当たりのある者は、以後それらを念頭に置くように』 『定時通達は以上です。 それでは明日の正午まできちんと生きていましたら、また』 ◆◆◆ 正午。教会の聖堂にて。 今この場にいるのは、監督役たるカレン・オルテンシアとルーラーのサーヴァント――ジャンヌ・ダルクの二人のみである。 あたかも見えない信徒に対して説法を行うかのように、祭壇に立っているカレン。 彼女の「定時通達」が終わったとみてジャンヌは各参加者とのパスを切り、カレンへと声をかけた。 「……ありがとうございました、カレン」 もともと通達はルーラー自身で行う予定であったのだが、カレンの強い勧めがあって、役割を交代していた。 二人での相談の結果、今回の通達ではB-4地域でのルール違反に対しての“警告”を盛り込むこととなったが、 違反の詳細が掴めていない現状で、ジャンヌがカレンほどに堂々と「ハッタリ」をかますことができるかというと若干の懸念があった。 もちろん役目である以上、職務に対して誠実にあたる心持も実力もジャンヌにはあるが、 中華飯店での岸波白野の問いがまだ尾を引いていたこともあって、カレンの申し出はジャンヌにとって正直なところありがたいものであった。 「いえ、お気になさらず。私自身通達をやってみたかったというのもありますので。 序盤から派手に立ち回っているのもいますが、そうでなくとも水面下ではみな動き始めています。 私の通達を経て、今後参加者たちはどう動いていくのか、 この聖杯戦争がどんな混沌とした様相を呈していくのか……想像すると実に楽しみです」 そう、神の信徒たるシスターには似つかわしくない嗜虐的な笑みを浮かべながら、カレンは言った。 ジャンヌは若干反応に困ったが、さほど間を置かずにカレンの表情が真顔に切り替わる。 裁定者の役割は、定時通達のほかにもまだまだたくさんある。そのことはカレン自身も理解しているのだろう。 「さて、通達も終えたところですし、これからどうします? 『泰山』で話した通り、私も現地へ赴いてみましょうか?」 カレンの反応を通して事件の真相を探る。 が、その条件は特殊でばらつきが激しい。カレン自身が言ったように、今回の件に対してカレンの体が反応するとは限らない。 闇雲に調査に臨んでは、先ほどと同じく徒労に終わる可能性が高い。 「『啓示』にあったマンション周辺で、異常は特に見受けられなかった。 NPC達の間で騒ぎ(エラー)や停滞(フリーズ)などが起きている様子もない。そうですね、ルーラー?」 「ええ。あくまで私の目で見た限りで、ではありますが」 ほんの一瞬ジャンヌの脳裏をよぎった弱気な考えが、顔に出てしまったのだろうか。 カレンは祭壇からおもむろに移動しながら、再度ルーラーに調査結果を確認した。 「……人の判断というものにはあいまいな部分があり、ある程度の“異常”は許容できるものです。 たとえヒトの常識から外れた『神秘』や本物の『魔』を目の当たりにしたとしても、 “気のせいだ”、“疲れていたのだろう”、“ただの幻覚ではないか”。 そんな風に考えたりして、異変も矛盾も看過してそのまま日常へと回帰することもできます。 それは『方舟』によって一般NPCとして再現されたデータであったとしても同様です」 「…………」 かつんかつんと静謐な聖堂に響いていたカレンの足音が、沈黙しているジャンヌの前で止まる。 「しかし閾値というものは存在します。 “NPC達の常識(ルーチン)で処理できる範疇を超える場合、その行為はこの聖杯戦争における規則違反であると見なされる”。 NPCの大量殺戮が禁止されているのも、聖杯戦争の舞台を維持する上で必要だからでもありましたね」 この『月を望む聖杯戦争』の参加者の中には、暗示や洗脳、その他の方法でNPCの思考・行動に介入することができる能力を持った者がいる。 しかしこの“幅”があるために、それらの行為自体はルールに抵触することではないとされている。 洗脳とはえてして当人にその意識はなく、またその人物の指向性を変えたり増幅するだけであったりするため、 個人の取りうる行動の範疇だと解釈することも可能であるからだ(もっとも程度や内容によっては充分ルール違反となりうるが)。 一方、“一般NPCへの度を過ぎた無差別殺戮”は明確な禁止事項として規定されている。 この『方舟』内においては、NPCに欠員が生じたとしても、新たに補填されることはない。 一度死を迎えたNPCは、その聖杯戦争の進行中に復元されることはなく、 以後そのまま「死亡」あるいは「行方不明」などの欠損した状態として扱われることになる。 街を構成しているのは人であり、支えている柱が欠けていくこととなれば――――コミュニティは瓦解する。 それ故の、禁則事項。 「……そういえば。これは是非についてではなく、ただの感想なのですが。 貴女のNPC被害に関する裁定は、私からすれば若干厳しめのように感じました。 これからは参加者同士の戦闘も激化するでしょう。建物も破壊されるでしょうし、巻き込まれるNPCの数も当然多くなる。 すべてに対処しようとしては、その身も令呪もいくつあったとしても足りなくなりますよ?」 急に変わった矛先に、ジャンヌは思わず息を呑むこととなった。 ほんのすぐ目の前で、カレンはジャンヌの紫の瞳をじっと覗き込んでいる。 その声は普段の平坦な調子ではなく“色”が乗っていて、口の端はわずかに上がってさえいる。 「それは貴女の裁定者としての役割への真摯さから来るのかしら。それとも――NPCへの同情心? 本選に進むマスターが確定した今、いずれ消去(デリート)されることが運命付けられた、ただの人形に過ぎないのに?」 「っ! それは……」 カレンの言葉に、ジャンヌは返答に詰まった。 参加者にルールとして伝えていたのは、“大量”殺戮の禁止。 “NPCに紛れている未覚醒のマスター候補の保護”という目的もあった予選期間中はともかくとして、 聖杯戦争が本格的に動き始めた今夜未明、倉庫群にジャンヌが“注意”に赴いたのは、まだ大きな被害の出ていないうちである。 付近にNPCはほとんど存在せず、明確な規則違反となりうる状況ではなかった。 過剰反応ではないかと。それはルーラーとしての立場というよりは、個人的な感傷に因るのではないかと。 そうカレンに言われてしまい、ジャンヌは強く言い返すことはできなかった。 「……まあ、話を元に戻しましょう。 ルール違反がなされているとの『啓示』は出た。しかし街の日常はつつがなく進行している。 この聖杯戦争において多少の無茶くらいならばルールの範囲内であると認められていて、『方舟』が介入するような事柄はそうそうない。 であるならば――これは“偽りの日常”。なんらかの方法を用いて表面が取り繕われているだけ……といったところかしら? もしくは今はまだ何もないけれど、そう遠くないうちに崩壊しかねないような状況にある。そんな可能性も考えられるかもしれないわね」 カレンはいつもの抑揚のない喋り方に戻って告げる。 二点目の話は、『啓示』が現在の違反というよりは“未来の被害”に対して強く反応したのかもしれないという話である。 そうであるのならば、被害が生じていない現時点ではそもそも証拠を集めることができないのかもしれないと、そんな可能性の話。 「さて、改めて問いましょう。――これからどうしますか、ルーラー? 遠坂凛たちの要請への返答も、おいおいせねばなりません」 『啓示』が出た違反行為について、自信を持ってペナルティを与えられるだけの根拠をルーラーはつかめていない。 さきほどの“警告”によって違反者が行為を改めるのならば、それでいい。 しかし警告が無視された場合。 規則違反が見過ごされ続けるとあっては、なんのためのルールであるか。 聖杯を得ようと必死なマスターは多く、サーヴァントにも反英雄的な性質を持つ者が多い。 あっという間にルールは形骸化し、抑止力としての効果を失うだろう。 ルーラーの令呪で強制的に従わせるにしても、それが可能な回数には限りがある。 間もなく遠坂凛たちとキャスターは交戦する。そうなると中立の立場としての介入は難しくなる。 また、「ボク、これからもおぉっと悪いことしちゃいまぁーす!」と、 さらに被害を拡大させることを宣言していた新都での事件など、懸念する事案は数多い。 ジャンヌはひとつ大きく呼吸し、覚悟を決める。 迷えば迷うだけ、動ける時間が無くなる。 再び顔を上げた彼女の表情は、毅然とした聖処女、ルーラーとしてのものだ。 そこに躊躇は存在しない。少なくとも、表面的には。 「そうですね、では――――」 【?-?/教会/1日目・正午】 【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】 [状態]:健康 [装備]:聖旗 [道具]:??? [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行。 1. ??? 2. 遠坂凛の要請をどうするか決める。 3. …………………………………………私は。 [備考] ※カレンと同様にリターンクリスタルを持っているかは不明。 ※Apocryphaと違い誰かの身体に憑依しているわけではないため、霊体化などに関する制約はありません。 【カレン・オルテンシア@Fate/hollow ataraxia】 [状態]:健康 [装備]:マグダラの聖骸布 [道具]:リターンクリスタル(無駄遣いしても問題ない程度の個数、もしくは使用回数)、??? [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行時々趣味 1. ??? [備考] ※聖杯が望むのは偽りの聖杯戦争、繰り返す四日間ではないようです。 ※そのため、時間遡行に関する能力には制限がかかり、万一に備えてその状況を解決しうるカレンが監督役に選ばれたようです。 他に理由があるのかは不明。 [通達について] ※マスターおよびサーヴァントを対象に、ルーラーを介した念話によって行います。ただし睡眠中の者、集中状態にない者等には通じません。 ※正午時点でのマスターおよびクラスごとのサーヴァントの残存人数については、検索施設にて閲覧が可能です。 BACK NEXT 078-b 心の在処 投下順 080 対話(物理) 078-b 心の在処 時系列順 080 対話(物理) BACK 登場キャラ:追跡表 NEXT 078-b 心の在処 ルーラー(ジャンヌ・ダルク) 108 ゼア・イズ・ア・ライト カレン・オルテンシア 113-a 角笛(届かず) ▲上へ
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キャラシート【としあきの聖杯戦争TRPG】 泥 名前 ブリジット・メイア・ウィンザー・ライジェル 英名表記 Bridget Meir Windsor Rigel 誕生日・年齢 11月11日・16歳 身長・体重 159cm・45kg 血液型 A型 好きなもの 王道、紅茶 苦手なもの 卑劣な手段や策謀、カレー 特技 降霊術 起源 王道 属性 秩序・善 魔術属性 水・風・土 魔術系統 降霊術、召喚術、元素変換魔術など 魔術特性 支配 魔術回路 質:A / 量:C/ 編成:正常 略歴 現英国王室・ウィンザー家の傍流にあたる家系・ライジェルの若き当主。 父であるグレゴリー・ライジェルは多方面に優れ有力な当主であったが、朋友であった同盟家の裏切りを受け派閥争いに敗北。 その過程で呪殺された父の跡を継ぎ、弱冠14歳で当主の座に就く。 グレゴリーの優れた手腕を完璧以上に受け継いだブリジットは侮られる中でその才能を如何なく発揮。 僅か2年で傾いていた勢力図を塗り替え、元同盟家や敵対勢力を退け、再び元の地位へと返り咲いた。 その際に王家から「ウィンザー」姓を名乗る事を許され、彼女の代からその名前を採択している。 英国政府より「率爾発生特異点夢覚処方機関」――通称デスペルタドールによる、夢界事象への対応を要請され、第三夢界調査に際して同組織に合流する。 聖杯戦争儀式についての知識は有しており、セイバーを召喚し事態の解決にあたる。 人物 白いドレスの様な装束に身を包んだ、容姿の上ではまだ幼さの残る少女。 プラチナブロンドの髪をショートカットに切り揃え、透き通る乳白色の肌をあまり露出しないよう金縁刺繍のローブを纏っている。 家督継承後の手腕を「必要とはいえ汚い手段にも頼った故の恥」と認識し、君臨する者の責務として潔白且つ気高くあることを誇るなど、 その精神性は正しく高貴なる者(ノブリス)を体現している。 事実ブリジットは「王」としての素質を持って生まれ、知識や経験を積むにつれ上に立つ者として成長している。 とはいえ、ブリジット自身は王や統治者になりたいわけではなく、その精神性と環境がどうしようもなく王道であるだけ。 本人は寧ろ魔術師として大成したいのだが、能力はともかくその清廉さが災いして今以上に進まない事に悩んでいる。 但し自身の立場とそれに伴う責務は正しく自覚しているため、持ち得る権利と義務を正当に振るう事を心掛けている。 同時に「人の上に人あらば、それは機構として機能してはならない」という自論を持っており、「国の為の王」という在り方を嫌う。 王が王たるには民の為に在り、民無くして成立する国は無い。然し王もまた、その国に根付く民である。 故に彼女は一方的に非ず、その恩恵の流動をこそ大事にした義務の在り方を提唱している。 +人間関係 人間関係 セイバー デスペルダドールの特殊事象対策として召喚したサーヴァント。雷鳴の皇帝の腹心、当代最強の軍人皇帝。 能力 様々な系統の魔術を修めているが、特に降霊術に秀でている。 ライジェルの降霊術は通常の基盤に加え元素変換の延長線上にもあり、パラケルススの提示した四大精霊(エレメンタル)に関係している。 ブリジットはその中でも水の精霊ウンディーネと相性がよく、精霊の欠けた魂を補う事で自身に憑依させ、その力を借り受けることが可能。 これにより真エーテルを解き明かすことがライジェルの命題の一つでもあり、根源へのアプローチの一手段となっている。 魔術戦闘においては空気中の水分子に作用し、収束した水泡を急激に熱し水蒸気爆発を引き起こす『泡沫のクワイア』を主軸にする。 起源覚醒者ではないものの、その絶大な在り方は存在としての性質に大きく引っ張られている一例と言える。 事実ブリジット自身も自らの在り方を止める事ができないのか、魔術の研鑽という目的との両立に苦心している。 逆にその過程で手に入れた知識は豊富であり、各地の伝承や土着信仰に由来する魔術など比較的マイナーなモノについても知っている。 +主な魔術 主な魔術 『泡沫のクワイア』 「魔術師の本分は戦闘ではない。ですが、そうなる事を想定出来なければただの愚者です」 彼女の魔術戦における戦闘スタイル、及びライジェルの降霊術を用いた術式の名称。 空気中の水分子をウンディーネの力で操作し、急激な熱負荷を掛けることで水蒸気爆発を引き起こす。 魔術により引き起こされるが、水蒸気爆発そのものは物理現象であるため抗魔術などは意味を為さない。 純粋な火力もかなり高らしく、後先を顧みない最大出力であればカトラ山の噴火に匹敵するとも。 『剣たる騎士の叙勲(ナイト・オブ・オーダー)』 「――汝の身は我の元へ、我が命運は汝の剣へ。その使命、ヒトの世の現身として真理を守る防人となれ!」 聖杯戦争において、ブリジットが英霊召喚後に行う儀式魔術。 英国王家の宝器『慈悲の剣(カーテナ)』を投影し、騎士叙勲を模した儀式を行うことでサーヴァントとの相性を概念的に補強する。 サーヴァント側は一部能力値や魔力効率の上昇、ブリジットは令呪の強制力増加や指示の円滑化などの恩恵を得られる。 ブリジットとサーヴァント双方の承認が必要だが、無理強いをする気はないため最終的にはサーヴァント次第。 また、この『慈悲の剣』はあくまで形と最低限の性質のみを持たせた投影品であり、儀式礼装として以外の使用には向かない。
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「…………………」 金田一には今、自分の目の前に広がる光景が信じられなかった。 否、信じたくなかった。 目を凝らし、もう一度だけ確認する。 だが、現実は何ひとつ変わらない。 「………なんてこった」 まるで数年前に二週間だけ過ごした田舎の村の懐かしい旧友に会いに行った矢先に、その村で起こった連続殺人事件の犯人が旧友の一人だったかのようなやるせない表情で呟いた。 「肉が、無い……」 由緒正しい寺の冷蔵庫に肉類など入っている筈がない。 それが、金田一が直面している(少なくとも本人にとっては)極めて切実な問題だった。 「そりゃあおぬし、寺に肉などあるわけなかろう。 というか一晩ぐらい我慢できんのか?」 ライダーの痛烈なツッコミに項垂れる金田一。 彼は食べ盛りの高校生。腹持ちの良くない和菓子だけで一晩過ごすなどとてもではないが出来ることではなかった。 「だってしょうがないだろ?腹が減っては戦は出来ぬって言うじゃんか。 ここ、米とか野菜ばっかりでカップ麺すら無いんだぜ?いや、何でか酒はあったけど」 「それがさっきわしが持ってきた和菓子を全部平らげた奴の言う事か。 おぬしの辞書にペース配分という言葉はないんかい!」 再び項垂れる金田一。ぐぅの音も出ない。 と、そこで何かを思い出したように顔を上げた。 「そうだ、なあライダー。さっきポケットにカードみたいなのが入ってたんだよ。 俺、ポケットにそんなの入れた覚えがないんだけど、何か分からないか?」 「おお、それは参加者全員に配布されているクレジットカードだ。 限度額は無いから残金を気にする必要はないぞ」 「えっ、マジで!?じゃあこのカードがあれば、高級寿司も焼肉も食べ放題ってこと!?」 「おぬし……いくらなんでも発想が貧困すぎるぞ…」 冷めた視線を送るライダーを他所に、金田一は両手でカードを持ちながらクルクルと小躍りしていた。 「それでおぬし、何か妙案は浮かんだのか?」 「ああ、その事なんだけどさ、ライダー。 お前、さっき魔術師とか超常の力を持ったマスターがいるみたいなこと言ってたけど、あれってどういう意味なんだ?」 金田一の疑問に、ライダーは表情を険しくしながら答えた。 「……うむ、それについてはちと話が長くなる。場所を移そう」 ライダーの神妙な表情から、この話がただ事ではないと悟った金田一は、何も言わずにライダーの後について台所を後にした。 「魔術師というのは、まあ一言で言ってしまえばおぬしのような一般人にとっては傍迷惑極まりない連中のことだ」 開口一番、ライダーは魔術師をバッサリと切るような、身も蓋もない事を口にした。 それから、ライダーはおおまかな魔術師の概要を語り始めた。 「魔術師とは、“根源”、いわばアカシックレコードに到達するために魔術を研究する者たちの事を指す。 そして、魔術とは魔力を用いて人為的に神秘や奇跡を起こす術全般のことをいう。 まあ、実際のところはもっと複雑なのだが、今覚えておくべきことは、個人差こそあれ魔術師は一般人とは隔絶した能力を持っていることと、根源へと至る手段として聖杯を狙う魔術師が参加している可能性が高いことだ」 「ちょっと良いか?さっきから魔術とか魔術師って言ってるけど、それってつまり魔法みたいなものなんじゃないのか?」 金田一の質問に、ライダーは頷きながら答えた。 「良い質問だ。魔術と魔法には大きな違いがある。 それは、文明の力で再現できるかどうかだ。他の技術で再現できるものは魔術と呼ばれ、逆に再現できないものが魔法とされる。 例えば、火や風を操るとか、空を飛ぶ術は魔術に分類され、時間を操作したり、魂を物質化する術は魔法にあたる、という具合にな」 ちなみに、ライダーが生きた時代には、封神台と呼ばれる一定以上のランクの人物の魂を封じ込める、第三魔法を体現したような装置が存在していたりする。 「それと、ここからが重要なのだが、魔術師という人種は根源へと到達するためなら手段を選ばぬ。それこそ、親族や師弟などの身内を除いたあらゆる者を犠牲にすることさえ厭わぬだろう。 しかも質の悪い事に、魔術師は往々にして社会の裏に潜み、法の裁きを逃れておる。 魔術師の総本山ともいえる魔術協会も、神秘、つまり魔術の秘匿を最優先とし、魔術師たちの行為を黙認している」 「な、何だよそれ……!警察じゃあ捕まえられないのかよ!?」 憤慨する金田一から視線は逸らさず、ライダーは首を横に振った。 「無理だ。彼奴等は魔術を駆使してその存在や痕跡を悉く隠蔽する上に、代を重ねた魔術師の家の多くは表の世界に対して影響力を持つ。 仮に魔術の存在や魔術師の所業を告発しようとする者がいたとしても、協会は刺客を差し向けて始末する。はっきりと言ってしまえば、この聖杯戦争で彼奴等に現代日本の倫理や常識などというものは微塵も期待できん。 故に、心するのだ金田一よ。おぬしがこれから相対するのは、そういった手段を選ばぬ連中なのだからな」 強く言い聞かせるような口調のライダーに、金田一も思わず勢いよく首を縦に振る。 実際のところ、ライダーの説明には彼自身の魔術師に対する嫌悪感がにじみ出た、やや偏向された部分があるのだが、これは彼の生前の戦いに起因する。 太公望が生きた時代は、殷王朝に巣食う皇后・蘇 妲己と、その配下である妖怪仙人らに代表される力を持つ者が、無力な人間を食い物にするというある種の弱肉強食といえる時代だった。 そして、太公望(幼名は呂望という)もまた、幼少の頃、妲己の発案によって行われた大規模な人狩りによって生まれ育った村を、一族を皆殺しにされた。偶然その場から離れていたために難を逃れた彼が自分の村だった場所に戻ってきた時、瀕死の老人と出会った。 憎しみを募らせる彼に、老人はこう語った。 “憎いですか?呂望様、復讐をしたいですか? おやめなさい、やるだけ無駄な事なのですから………” その声には、どうしようもない諦観があった。そういう時代だったのだ。 “世の中全体がこうなのです…全てを変えないと…いつまでも…こんな事が…続……” そう言って、老人は息を引き取った。 それが、呂望という名の少年の終わりであり、太公望という英雄の始まりだった。 この後、呂望は仙人界のひとつ、崑崙山の教主である元始天尊に才を見出され、彼の弟子となり、太公望という名を授かった。そしていつしか、太公望はある理想を思い描くようになった。 ―――わしは仙道のおらぬ安全な人間界をつくろう 強大な力を持つ仙人によって、普通の人々が脅かされる事のない世界にする。 その志を胸に、太公望は師である元始天尊から与えられた任務、封神計画を遂行していくこととなる。 そのような経緯から、太公望は普通の人間を蔑ろにする魔術師を快く思っていなかった。(それでも例外を認めないというほどではないが) また、少々お人好しすぎるきらいのある金田一に警戒心を持たせる必要があったという事情もある。 当の金田一も、納得はできないなりにどうにか事実を咀嚼しようとしていたが、事態は彼に深く考える時間を与えてはくれなかった。 「御主人!」 偵察のために円蔵山の周辺を飛んでいた四不象が慌てた様子でやって来た。 「こっちにマスターとサーヴァントが向かってきてるっス!しかも二組っス!」 それを聞いたライダーは一瞬驚いた表情を浮かべたものの、すぐに考え込むような様子を見せ、数十秒ほど経ってから結論を出した。 「よし、そやつらに会ってみよう。こんな短時間のうちに他人と協力するマスターならば、殺し合いに乗っていない可能性もある。 そうでなくとも、ある程度の慎重さは持ち合わせているだろう。金田一、おぬしも来るか?」 恐らく、ライダーは自分の覚悟を問うているのだろう。 そう悟った金田一は、強く頷いてライダーと共に四不象に跨った。 事態が大きく動こうとしていた。 「……おい」 「どうした?別についてこなくとも俺は一向に構わないぞ? それとも、ボディーガードでもしてくれるのか?」 「そんなわけあるか!お前が何するかわからないから、こうして見張ってるだけだ!」 衛宮士郎とルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、そして二人のセイバー。 彼らは深山町の住宅街を通って、柳洞寺へと向かっていた。 先ほどの(険悪な)初対面の時に行なった情報交換で、士郎が「前回の聖杯戦争で、柳洞寺の地下の大聖杯を破壊した」という言葉が根拠である。 勿論この聖杯戦争の舞台がムーンセルである以上、そこに聖杯が存在するなどとはルルーシュも考えていないが、それでも何かしらの手掛かりを掴める可能性はある。というより、他にアテもないので柳洞寺に向かうしかないのが実情ではあるのだが。 その他、士郎から聞かされた魔術師なるものの存在や、かの騎士王が女性であったという衝撃の事実を頭の中で整理しながら、士郎に問いかける。 「それで?俺の話は信じる気になったか、衛宮士郎」 露悪的な態度を崩さないルルーシュにムッとしながらも、士郎もまた自身の見解を述べた。 「確かに、言われてみれば街っていうか、人が変な感じはする。 けど、ムーンセルだの量子空間なんてのを信じるかどうかっていうのとは、話が別だ」 先ほど、士郎もまたルルーシュからムーンセルに関する情報を聞かされたが、今のところは半信半疑だった。冬木市の住人である士郎からすれば、今自分がいる場所がバーチャル空間の類だなどと言われてすぐに納得できるわけがない。まだ固有結界の産物やアンリ・マユの仕業とでも言われた方が信じられるぐらいだ。 どうにも生気を感じにくい奇妙な通行人たちの存在が無ければ、今頃はただの虚言だと完全に切って捨てていただろう。 「大体、それが本当なら何でセイバーはムーンセルの事を何も知らないんだよ。 サーヴァントには聖杯から必要な知識が与えられるはずじゃないか」 「それは俺にもまだわからん。まさか正確な情報を与えられていないサーヴァントがいるなど予想外だったからな。それよりもあれを見ろ」 ルルーシュが指したその場所には、倒れた電柱や破砕されたコンクリートやブロックの欠片が散乱していた。気の早い参加者が既に一戦交えた跡だと想像するのは容易い事だった。 だがその直後、ルルーシュや士郎が目を疑う事が起こった。 散々に破壊された道路や電柱がひとりでに、まるで時を巻き戻すかのように修復されはじめたのだ。 「……おい、衛宮士郎。魔術師というのはこんな芸当もできるのか?」 「……いや、俺の知ってる魔術師でも遠隔でこんな真似するのは多分無理だ」 半ば唖然とした様子の二人の傍に、ガウェインが歩み寄ってきた。 「ムーンセルの修復機構が働いたようですね。見ての通り、今回の聖杯戦争ではマスターやサーヴァントによる一定以上の器物の破壊については、ムーンセルが自動で修復を行うシステムになっています」 「……だそうだ。これで信じる気になったか?」 内心の動揺をおくびにも出さずに再度問うルルーシュに、士郎はまだ複雑そうな面持ちではあったものの、静かに頷いた。 ルルーシュが今後どう行動するかはわからないが、ここまでの言動を鑑みるに積極的に殺し合いに乗ることはなさそうだ。柳洞寺を調べ終わったら、お互い別行動をとるのも手だろう。 そう考え、しばらく歩いているうちに、柳洞寺の手前に到着した。 すると、セイバーが私服姿から鎧姿になり、士郎たちよりも一歩前へ出た。 「シロウ、中からサーヴァントの気配がします。既にここに陣取っていたようです」 「やっぱりキャスターか?」 「いえ、神殿や魔術工房が敷設されている様子はありません。もしそうなら、この付近は既に異界同然と化しているはずですから」 セイバーの言葉に幾分安堵する。何しろ前回の聖杯戦争では、すぐに脱落したとはいえキャスターが柳洞寺に神殿を作り、街の人々から魔力を奪っていたのだから。 「よし、じゃあ慎重に進んで行こう。けど、こっちから先に仕掛けるのはなしだ。 ……お前もだぞ、ルルーシュ」 「ふん、そういうことは自分のサーヴァントにでも言い聞かせた方が良いんじゃないか? それに、向こうから仕掛けてきた時は貴様が止めても勝手に応戦させてもらうぞ」 相変わらずのルルーシュの態度だが、士郎は敢えて反論はしなかった。セイバーの突撃癖は自身がよく知っているからだ。それに、士郎とてただの平和主義者ではない。無防備な状態で敵マスターと相対する事がどれだけ危険かは身をもって知っている。 「ああ、そうなったらこっちも戦うさ。俺だって、こんなところで死ぬわけにいかないからな」 「ふむ、気合の入っているところ悪いが、生憎わしらは戦う気はないぞ?」 どこかから聞こえた声に全員が周囲の様子を窺う。 「上です!」 セイバーの声に全員が上を向く。第四次聖杯戦争を経験しているセイバーだからこそ、相手が空中にいる可能性に最も早く気付く事ができた。 そこにいたのは、カバのような奇妙な生き物に乗ったサーヴァントらしき少年と、学生服(何故か夏服のようだが)を着た高校生ぐらいの少年だった。 「ライダーのサーヴァント、ですね?」 「いかにも。そう言うおぬしらはセイバー、それも鎧の意匠からして同郷の出身と見るが?」 ライダーの問いに、セイバーとガウェインは無言で返す。一分ほどの沈黙の後、場を代表してルルーシュが口を開いた。 「戦う気は無いと言ったな。それは貴様のマスターの意思か?」 「うむ、その通りだ。わしらはこの聖杯戦争を打破することを考えておる。 そこで率直に言うが、わしらと同盟を組んではくれぬか?おぬしらはどうも殺し合いに乗っているとは思えぬのでな」 ライダーの提案に、士郎もルルーシュも暫し考え込む。 元々、自分達も殺し合いに乗っているわけではない。仮にこの提案が罠であったとしても、最優のサーヴァントたるセイバーが二騎がかりであれば容易に切り抜けられるだろう。それはそれでサーヴァント同士の戦闘を直接見る良い機会になる。士郎はそこまで打算的な考えではないが、用心のためにいつでも魔術回路を起動できるようにしている。 だが、返事を返す前に言わなければならない事があった。 「なあ、同盟を組むってのは良いんだけどさ、その前にお前のマスターを下に降ろしてやった方が良いんじゃないか?」 士郎に言われて後ろを振り向くと、金田一が顔を真っ青にしながらガクガクと震えていた。 「ラ、ラ、ライダー、無理、もう無理。お、降ろして……」 「おぬし、高所恐怖症なら早く言わんかい!」 「い、いや、高所恐怖症じゃなくても無理だって!尻尾の先っちょあたりしかケツ引っ掛けられるとこ無いじゃんか!ちょ、頼むからもう勘弁してくれ!」 「ギャー!!痛いっス!暴れないでっスよ金田一くん!」 「ああっ!揺らすでない!バランスが取れぬではないか!!」 いきなりコント(本人達にとっては切実だが)を始めたライダー主従を、四人は何ともいえない気持ちで見つめていた。というか騎乗スキルが全く仕事をしていないのはどういう事なのだろう。 「ヘルプミー!!」 ライダーの絶叫が虚しく響き渡り、場にはどこか弛緩した空気が流れていた。 「ひ、ひどい目に遭った……」 「まあ……その、何だ、大丈夫か?」 数分後、どうにか態勢を立て直して無事地面に着地したライダーらは、寺に入って自己紹介をしようとしたが、現在はその予定を変更して山中の獣道、というより絶壁に近い地形を進んでいた。士郎から、前回の聖杯戦争で大聖杯があったとされる地下大空洞を確認しようという提案があったからだ。 「しかし、この山にそんな空洞があったとは。とんだ盲点だったのう」 「それは仕方ないでしょう。あの空洞はサーヴァントでも相当近づかなければ気付かない程に高度な魔術で入口が隠蔽されていますから」 セイバーとライダーの会話を聞きながら、ルルーシュは黙々と思考を重ねていた。 天才と呼ぶに相応しい頭脳を持つ彼をもってしても、この数時間の間に得た様々な情報を整理するには時間が必要だった。そして、聖杯の破壊に必要な事だとはいえ、自分達がこうして調べ物をしている間にも殺し合いが進行している以上、一秒たりとも時間を無駄にしたくはない。 「着いたぞ、この辺りが入口だ」 と、士郎が立ち止まって手招きしてくる。 「ってちょっと衛宮さん、そこ行き止まりじゃないか。確かに通れそうな岩の隙間はあるけど…すぐ先の岩にぶつかっちゃうぜ?」 金田一の指摘を柳に風とばかりに受け流し、士郎は岩場に身を乗り出す。 「まあ口で言うより見た方が早いよな。俺が先に行くから、皆はよく見ててくれ」 そう言うや否や、士郎は岩の隙間に入っていく。そのまま数メートルほど先の岩にぶつかるかと思われたが、士郎の身体はその岩をすり抜けるように通り抜けていった。 「う、うそぉ……」 「……な、なるほどな。魔術による隠蔽とはこういう事か」 トリックもクソもない光景に顔を引き攣らせる金田一とルルーシュだったが、すぐに気を取り直して入口に向かって行った。 中に入って最初に彼らを迎えたのは、闇だった。今が夜であることを差し引いても、何ひとつ見通せない。 「気をつけて進んでくれよ。ここ、相当急な斜面になってるからな。 背中を地面につけて、ゆっくり進むんだ」 先導する士郎に従って後の五人も斜面を進む。広さの関係で一人ずつしか入れないため、金田一、ルルーシュ、セイバー、ガウェイン、最後にやや間を開けてライダーの順で入っていった。 螺旋状の急斜面を百メートルほど進み、ようやく大人数で進めるだけの広い洞穴に出た。もっとも、あまり体力の無い金田一や、彼に輪をかけて体力の無いルルーシュはその段階で既に肩で息をしている有様だった。普段から身体を鍛えている士郎や、肉体言語を得意とする某赤い魔術師ならともかく、そのような基礎体力の無い二人が大きな怪我もなくここまで辿り着いただけでも賞賛すべき事だろう。 洞穴の内部は、光苔の一種が自生しているためか緑色に照らされており、視界の心配をする必要はなさそうだった。 「シロウ、ここには以前のような魔力の気配も、いえ、その残滓すらありません。やはりここには何も……」 「…かもな。でも、一応奥まで調べてみよう」 そう言って、(疲労した金田一とルルーシュのために数分休憩を取った後)一行は洞穴の奥へと進んでいった。途中で学校のグラウンド程度の広さの空間を経由して、最深部まで辿り着いた結果判った事は、何もないという事だった。 「やっぱり無かったか……」 ガックリと項垂れる士郎。残っていなければおかしいほど濃密だった魔力の残滓すら感じられないとなると、件のムーンセル云々の話もどうやら完全に信じざるを得ないようだ。 「そう落ち込むでない。確かに手掛かりになるようなものは無かったが、それでも得られたものは大きい。 この洞穴は、戦略的には非常に有用な場所になり得るのだからな。おぬしには感謝しておる」 気を遣ったのであろうライダーの言葉に、士郎も多少だが元気を取り戻した。 確かに気を落としている場合ではない。元々今回の聖杯の正体など全く判っていなかったのだ。それが振り出しに戻っただけの事だ。 「さて、ここなら他のマスターやサーヴァントの目を気にする必要もない。 改めて情報交換をするかのう。今後の段取りも考えねばならぬしな」 ライダーの提案に全員が頷き、情報交換と作戦会議が行われる運びとなった。 「日本が侵略されたって……。いくら並行世界って言ったって、そんなに歴史が変わっっちまうもんなのかよ」 「それはお互い様だろう。俺からすればブリタニアが存在しない上に、日本が侵略されていない世界がある方が驚きだ」 情報交換は世界観の違いによる互いの驚きこそあったものの、つつがなく進んだ。互いに戦意がない事に加え、マスターである三人全員が他人と協調する事の必要性を感じていたのが大きかった。また、ムーンセルから十分な知識を与えられなかったセイバーも、ここで漸く正確な情報を得ることができた。そして、タイミングを見計らったところでライダーと金田一が先ほど自分達で話し合った考察を話した。 「なるほどな。確かに裏に人間がいると仮定すれば、殺し合いを行う意味や勝者に願いを叶える権利を与えることにも説明がつく。並行世界の人間を招くことにしても、無機質な記録装置では有り得ないことだとは思っていた」 ルルーシュは得心がいったとばかりに頷いていた。彼もこの聖杯戦争そのものに対して疑問は持っていたが、ゲームが始まってすぐにあちこち移動を繰り返していたこともあり、そこまで具体的な考察はできていなかった。 一方で士郎は、考察の深さに感心しながらも、ある一つの事柄が気になっていた。 「けど、結局セイバーは何でムーンセルから正しい情報を貰えなかったんだ? もっと言えば、何でサーヴァントで情報量に差をつける必要があるんだ?」 「それは私も不思議に思っていました。聖杯戦争が全てにおいて公正な戦いではないことは分かっていますが、これはそれ以前の問題だ。 令呪に関するルール一つをとっても、知らないままなら使い切ってそのまま脱落してしまう可能性すらあったのですから」 セイバーの指摘は非常に尤もな事だった。通常のマスターとサーヴァントの関係であれば、使い切れば死ぬというルールが無くとも令呪を全て使い切ることなど考えにくい事ではあるが、士郎とセイバーの場合はなまじ深い信頼関係を築けているだけに、全ての令呪を使ってしまいかねない面があった。 そんな彼らの疑問に、金田一が言いにくそうに口を開いた。 「それなんだけど…ちょっと思いついた推理があるんだ。 ただ、怒らないで最後まで聞いてほしいんだけど、良いスか?」 「?…ああ、別にいいぞ」 妙に歯切れの悪い金田一を若干不思議に思いながらも、士郎は先を促した。 「衛宮さんとセイバーさんは、より殺し合いをスムーズに進行させるために選ばれたんじゃないかな。二人とも別の聖杯戦争を経験してて、聖杯を否定してる上に、殺し合いに乗ってないってとこが逆に殺し合いの促進に繋がるんだ」 「何でさ。俺もセイバーも、殺し合いを止める側だぞ。 そりゃあ俺はまだまだ未熟だし、セイバーに負担をかけてる部分も多いけど、間違っても殺し合いの手助けなんてしないぞ」 どこか矛盾した金田一の物言いに反論する士郎だが、金田一は静かに首を横に振って続きを語り始めた。 「じゃあ聞くけど、もし最初に出会ったのが俺たち以外の人間で、ある程度話しが通じるマスターだったらどうしてた?前の聖杯戦争の事を持ち出して、聖杯は穢れてるから殺し合いに乗るのはやめろって言うんじゃないかな?」 「そりゃあまあ…ムーンセルの事とか知らなかったらそう言って回ってたかもしれないとは思うけどさ。別にそう言ったところでそこまで問題になんてならないだろ?」 「それがなるんだよ。マスターの中には、前の聖杯戦争とか魔術の事なんて全然知らない奴だっているはずだ。実際、俺やルルーシュっていう前例がいるわけだから、その可能性は決して低くないだろう。 それだけじゃなく、このムーンセルはビックリするぐらい中身がリアルに作られてる。誰かに言われなきゃここが仮想空間だなんて思えないぐらいにね。そうなれば、いざ参加したのは良いものの、聖杯の存在を完全には信じきれない場合もあるだろう。そんな人間が、別の聖杯戦争の参加者から話しを聞かされたら、どうなる?」 その問いに士郎はやや口ごもったが、すぐに反論した。 「ちょっと待て金田一。お前の言いたい事はわかるけど、考えが極端すぎるぞ。 他のマスターだって馬鹿じゃないだろうし、地上で聖杯戦争があったからこっちにも間違いなく聖杯があるだろうなんて、そんな短絡的な思考にはそうそうならないだろ。 お前が言うように、魔術を知らなくて、聖杯の存在を信じきれない連中なら尚更だ」 「…本当にそうかな?俺はさ、こんな殺し合いに参加しよう、しなきゃいけないって本気で考える人間ってのは、相当追い詰められた人だと思うんだ。それこそ、聖杯なんてものに縋らなきゃいけないほど、どうしようもない状況に陥った人が。 そういう人に限って、少ない情報から誤った判断をしてしまって、取り返しのつかない事をしてしまうんだ。…俺、そういう人を何人も見てきたからわかるよ」 追い詰められた人間は往々にして視野狭窄に陥り、少ない情報や知識を自分の都合の良いように解釈した結果、さらに暴走していってしまう場合がある。そうした人間が持つ弱さや脆さを、復讐の絡んだ殺人事件を数多く解決してきた金田一はよく知っていた。 逆に士郎の知る聖杯戦争のマスターは、今は亡き友人である間桐慎二や、魔術の師である遠坂凛のような例外を除けば皆自身の目的に向かって邁進し、殺人を躊躇わないある種超越した精神性と狡猾さを併せ持った者ばかりだった。それ故に、士郎には金田一が考えるようなごく普通の人間がマスターになっているという事がピンとこなかった。 段々と議論が水掛け論の様相を呈してきたその時、上から地鳴りのような音とともに、微かにだが洞穴全体が揺れた。 「これは……!?」 「サーヴァント同士の戦闘かもしれません。一度地上へ戻りましょう」 ガウェインの提案に従い、ひとまず会議を中断して一行は入口まで引き返した。 そして急斜面の近くまで戻ったところで、来る時にはなかった木の枝を見つけた。 それを見たライダーが、真剣な表情で全員に告げた。 「これは…間違いない。地上、それもこのすぐ近くで戦闘が起こっておる」 「何でわかるんだ?」 「うむ、実はさっきここに潜る時にスープーに近くを偵察するように言っておいたのだ。そして、戦闘を行なっているサーヴァントを見かけたらここに適当な木の枝を投げ入れておくようにもな。何しろ地下ではスープーの声も届かぬ可能性もあったしな」 「なるほどな。とにかく、ここで立ち止まっていても仕方ない、事情は上に戻ってからあのカバに聞こう」 そうして、一行は急斜面を登り(この時、金田一とルルーシュはまたも息を切らす羽目になったが)、地上へ戻った。 「あ、御主人!」 「うむ、スープーよ、ドンパチしているマスターとサーヴァントはどんな連中だったかきちんと覚えておるか?」 「ハイっス!片方は青いタイツに赤い槍を持った男の人と銀髪の眼鏡をかけた男の人の組み合わせで、もう片方は何かメカメカしい大きな人と銀髪に赤い目の小さい女の子の組み合わせだったっス!」 それを聞いた途端、士郎の表情が一変した。脳裏によぎるのは大聖杯を封印するために逝ってしまった雪の少女。有り得ないと思いながらも、内心の焦りを抑えきれない。 「シロウ!?」 セイバーが制止する間もなく、士郎は凄まじい勢いで獣道を駆け上がり、柳洞寺の外へと走っていってしまった。 「すみません、私はシロウを追います。ガウェイン、ライダー、貴方がたはここの守りをお願いします」 そう言うや、セイバーは一陣の風となって士郎の後を追っていった。 そんな彼らに、ルルーシュは露骨に苛立ちを募らせる。知り合いでもいるのかもしれないが、もう少し慎重になることはできないのか。 「ええい、あの猪主従め……!仕方ない、俺達も行くぞ、ガウェイン」 腹立たしいが、今後有用な駒になりうる者をここでみすみす失うわけにもいかない。それに、考えようによってはこれは有利な状況でサーヴァント同士の戦闘を見る良い機会でもある。もっとも、その機会が衛宮士郎の蛮勇としか思えない行動によって齎された事が余計にルルーシュの苛立ちを煽っているのだが。 「ではわしらがここに残ろう。だが二十分経っても戻らなければわしらも駆けつけるぞ。戦力の逐次投入は愚策だが、ここを他のマスターに明け渡すわけにもいかぬしな」 ライダーの提案に頷くと、ルルーシュとガウェインも士郎たちを追っていった。 「大丈夫かなぁ…」 「なーに、あやつらは最優と謳われるセイバーのサーヴァントだ。それも二騎がかりなら、よほどの相手でもない限り心配はあるまい」 ぽつりと漏れた金田一の不安を打ち消すようにライダーが励ます。 二人と一匹だけになった柳洞寺に、ただ夜風だけが吹いていた。 to be Continued…… NEXT FINAL DEAD LANCER(中編)
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Fate/Sole of Anoint - 天衣聖杯選定 TYPE-MOON原作のFateシリーズの設定・キャラを基にしたリレー企画(案)となります。 詳しい内容につきましては作品の設定などをご参照ください。 当企画は「サーヴァントのみによる聖杯戦争」をテーマとしております。 (企画案上の話ですが)ロールの存在は想定しておりません。 あくまで「原案」です。詳細の追加・内容(世界観)の変更などは後続企画主にお任せします。 聖杯戦争 基本的なルールは共通しているが、マスターは存在せず、はぐれサーヴァント同士が戦い合う形式となる。 選定される条件は、「サーヴァント一体の生存」。だが、聖杯の起動とは別であり、実際は14騎の時点で起動している。 何らかのルール違反が発生した場合は、ペナルティとして天の衣から「神明裁決」を受ける。 基本的なルールやアイテムに対する知識は、現界時に各サーヴァントへ与えられる設定である。 ■携帯端末 それぞれサーヴァント達に支給される魔術礼装。 現世に留まるために必要な要石の役割を担い、破壊すると現界機能も停止する。 一方でサーヴァントが消滅しても、端末が消えるわけではない。 端末の接続先(サーヴァントなど)を変更し、他者が使用することも可能。 サーヴァント一人が使用できる端末の数に制限はなく、併用もできる。 ▽魔力 燃料である魔力は舞台各地に設置されている補給地点より供給する形となっている。 魔力の最大残量はBランクの「単独行動」分(平均的なサーヴァントなら二日間現界可能)に相当。 現界維持分だけではなく、宝具や魔力放出といった消費分も直結する。 30%の時点で、警告灯が黄色に点滅する 15%の時点で、警告灯が赤色に点滅する。 0%となった時点で、魔力供給不全に陥り、全機能が停止する。 魔力容量は各端末ごとに一定に決められている。 ただ、複数の端末に接続し、多重に魔力供給を行うという手段も取れる。 また端末自体に拡張性はないが、他アイテムを介するなど何らかの手段で容量を増やすことは可能である。 なお、現界時点での残量は平均的なサーヴァントが一日間現界可能分に相当する。 ▽端末各機能 ニュース:八時間ごとに更新し、サーヴァント現存数・消滅者数などが放送される。 ======================== マップ:舞台の全体図。自端末および登録端末を発信先として位置情報の取得が可能。 過去の位置情報も履歴から参照することも可能となっている。 ======================== メール・通話:念話信号を送受信し、端末に情報を伝達できる。 なお、識別子となる端末番号・アドレスは前述のマップの発信でも使用できる。 ======================== カメラ:映像の撮影。暗視機能や遠写機能などを有する。 ======================== Webブラウザ:インターネットへの閲覧が可能。数多くの英雄の真名に関する知識などが収められている。 ======================== 令呪:端末所持者自身に課せられる強力な呪い。他端末への譲渡も可能。 用いられる魔力は端末側ではなく、聖杯側に備えられ、発動に応じて伝達される。 しかしシステムの性か、令呪が発動するまでに4、5秒というタイムラグが発生する。 「令呪を以て命ずる」という言葉に応じて発動するため、所持者以外が使用し、所持者に課せることも可能。 ======================== ■疑似冬木市 当聖杯戦争の舞台。冬木市を再現した都市。サーヴァント達は、この地に召喚されることになる。 ベースは1994年頃の「第四次聖杯戦争時」とされ、建設途中のまま放置されている建物も少なくない。 水道や電気などのライフラインは通っており、時間帯に応じ、街灯も自動的に点灯する。 また、自動車やバス、バイクといった道具なども再現されているため、サーヴァントが自由に使用することも可能。 サーヴァント以外(NPC)の生物は存在していないため、魂食いは望めない。 ■補給地点 冬木市各所に設けられている魔力の供給源。 柳洞寺など、各所は龍脈のある霊地の上に設置されている。 ここでは魔力を供給する術などを持たない者向けに端末を結ぶ装置とケーブルも用意されている。 ただ、別に端末のケーブルを介さずとも、サーヴァント自身で魔力を供給すること自体は可能。 主催者 【クラス】 ルーラー 【真名】 天の衣@Fate/Grand Order 【属性】 秩序・善 【パラメータ】 筋力E 耐久E 敏捷C 魔力EX 幸運B 宝具EX 【クラス別スキル】 対魔力:A Aランク以下の魔術を完全に無効化する。 神明裁決:EX ルーラーとしての最高特権。 召喚された聖杯戦争に参加している全サーヴァントの端末に干渉し、全角の令呪を行使できる。 これは管理者権限と設定されたものであり、発動する使用者の効果よりも優先される。 陣地作成:EX(B相当) 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。 自身はBランクに相当するが、聖杯の機能により神殿を上回る世界を創り出すことができる。 この道具作成の応用から、舞台となる「疑似冬木市」が作成された。 【保有スキル】 女神の神核:C 完成した女神であることを現すスキル。 性質は近いものの、彼女は正式な神霊から派生した分霊ではないため、ランクはC止まりとなる。 精神系の干渉をほとんど緩和し肉体の成長もなく、どれだけカロリーを摂取しても体型が変化しない。神性スキルを含む複合スキル。 自然の嬰児:A いずれ等しく、世界の裡で生まれ落ちた嬰児たち。 たとえ天然自然の生物ではなく、人の手によって造り出された命であろうとも、時に世界は多くの祝福を与え得る。 “嬰児”とは生まれたばかりの赤子のこと、そして聖杯の器・小聖杯として生み出された存在の隠語である。 【宝具】 『誰が為に杯は謳う(グレイル・オブ・ロストソング)』 ランク:EX 種別:魔術宝具 レンジ:- 最大捕捉:- 聖杯の魔力量を算出し、願望器の補助および聖杯戦争の運営に必要な機能と判断を下す。 サーヴァントの召喚、舞台の形成、スキルの一時的獲得、自他のバッドステータス解除といったものを正確に実現することが可能。 所謂、「大聖杯の人工知能」。 元宝具が「自身の祈りの為、一時的に願いを叶える」に対し、「聖杯の機能の為、永続的に願いを使う」という点で異なる。 【weapon】 「シュトルヒリッター」 貴金属の針金に魔力を通すことで動く、変幻自在の使い魔。 鳥や剣、あらゆる形となり、自律的に敵を補足し、攻撃する。 【人物背景】 第四次聖杯戦争より大聖杯に還った嬰児「アイリスフィール・フォン・アインツベルン」。 聖杯の分霊という形でサーヴァント化したのが、オリジナルのアイリスフィール〔天の衣〕とされている。 この天の衣自身はアイリスフィール〔天の衣〕ではなく、コピーして設計された別のサーヴァント。 聖杯戦争を運営するために作られたコンピュータであり、ルール違反以外で介入することはない。 アイリスフィールと同じ様に、穏やかに接する淑女に映る。 だが、これは外面性に沿って反映しているだけであり、本性は機械的で人間性はない。 他者に愛情が向くこともなければ、聖杯戦争以外に向ける好奇心もない。 【サーヴァントとしての願い】 相応しいサーヴァントに聖杯を与えること。 関連話 プロローグ No. タイトル 登場人物 場所 作者 備考 00 Fate/Sole of Anoint - 天衣聖杯選定 - OP ルーラー(天の衣) ??? ◆K2cqSEb6HU 投下作 No. タイトル クラス 真名 作者 レス番 備考 01 黒き騎士王は戦うのみ。 セイバー アルトリア・ペンドラゴン〔オルタ〕 ◆K2cqSEb6HU
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魂喰いについて 外道戦法 魂喰いは、ハイリスクハイリターンな非人道的手段です。これを行った場合、ほぼ全ての陣営から目の敵にされることになります。 魂喰いは特定のスキルを所持しないで行った場合、どこで行われたかが全ての陣営に告知されます。また、その他にも様々なデメリットがつきまとうことにもなります。 魂喰いは、霊地を除く全てのエリアで、移動フェイズ時に移動を破棄して行うことができます。ただし、一度魂喰いを行ったエリアでは再度魂喰いを行うことはできません。また、合計で3エリアで魂喰いが行われた場合、その聖杯戦争中はそれ以上魂喰いを行うことはできません。 魂喰いのメリットとデメリット 魂喰いは多くのデメリットと引き換えにメリットを得る行動です。多くの場合デメリットのほうが多くなるため、使用タイミングを見極めて使用することが重要です。 メリットは表の内、一つのみを選択できます。 メリット サーヴァントのHPを全回復する 一種の宝具の使用回数を1回復する 次の戦闘フェイズ時、1回のみ任意の判定に補正5を得る(複数回行っても重複なし) デメリット 魂喰いを行ったエリアで再度魂喰いを行えない 監督役が召喚するサーヴァントが討伐に向かう 魂喰いを行った陣営に対し、討伐令が下される。この際、同盟を組んでいる陣営も討伐対象に含まれる サーヴァントの真名が全ての陣営に明かされる 移動フェイズ終了時にその場所が全ての陣営に明かされる 討伐令の内容 討伐対象を討伐した陣営に対し、令呪が配布される(画数は状況に応じて変化) 目次 メニュー はじめに 基本的に用意するもの ゲームの流れ FAQ ルール マスター + ... ー アライメント ー 逃走待機ポイント ー 令呪 ー 素質 サーヴァント + ... ー クラス ー 宝具 ー ヒント 監督役(GM) エリア 各フェイズ + ... ー 移動フェイズ ー 遭遇フェイズ ー 戦闘フェイズ 各判定 + ... ー 先手判定 ー 逃走判定 ー 物理攻撃判定 ー 物理防御判定 ー 魔術攻撃判定 ー 魔術防御判定 真名看破 スキル + ... ー マスタースキル ー クラススキル ー 単独行動 ー 気配遮断 前衛と後衛 再契約 脱落 陣営 同盟 + ... ー 援護 ー 裏切り ー 同盟の解散 魂喰い ←現在ページ 最終戦闘 状態異常
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きっとどこかに繋がる世界◆A23CJmo9LE 「さっさと起きなアゲハ!」 自室でまどろむアゲハの耳に響いたのは姉、吹雪の声だった。 切羽詰まった様子のそれに寝過ごしたかと瞼をこするが、部屋の時計を見ると眠りに落ちて数時間、まだ夜明け前の時間帯だった。 「ンだよ、姉キ、こんな時間に」 「地震があったの!津波の危険があるから高台に避難!」 「はあ!?マジかよ!?」 聖杯戦争の最中だってのにそんな面倒くさいことまで起こるのか、と突然の事態に寝ぼけた頭を覚醒させる。 思考を整理するだけの意識が戻ると、アゲハは真っ先に窓から外を確認した。 その視界に映ったのは恐らく避難しているであろう人影がいくつか、そして空に輝く不気味な貌を浮かべた月。 「おい、これ……夢じゃねえよな?」 起きてみると通達の情報がなぜか認識できていた。 それだけでもなかなかファンタジーだが、アサシンの脱落はともかくとして、迫りくる月の脅威は文字通り天を仰ぐものだった。 (トランスの応用か?そんなこともできたのかあいつ) 今まで見せていなかった能力の可能性に疑問を覚えるが、それはそれとして避難している人たちが見えたことで事態に現実味を覚える。 欠伸をしながら適当に上着を見繕い、外に出られるように心身ともに整えていく。 「チンタラしない!急ぐ!」 「うるっせえよ、着替えくらいさせろ!」 バタバタと寝間着を脱ぎ捨て、最低限の防寒具と貴重品を持って避難の準備を進める。 即座に支度を済ませて玄関へ向かっていくと、その道中にはテレビのチャンネルを回している流子がいた。 「何やってんだよ、纏。急いで避難――」 そこまで口にして疑問が湧く。 サーヴァントに地震だの津波だのは有効なのだろうか、と。 もし効かないならこれだけ呑気しているのも納得するが、人間である自分たちはそうはいかないのだからそのあたりは気にしてほしいとアゲハは少しだが口を尖らせた。 「おい、纏。こっちは津波とか避難案件なんだ。頼むよ」 寝起きなのもあって少しばかりキツイ言い方になってしまう。 流子は少しだけそちらに視線をやるが、すぐにテレビに視線を戻し、少しおいてまたリモコンを弄り始める。 「さっきからニュース漁ってるけどよー、津波の危険なんてテロップ出てこねえぞ。 それどころか地震に関してもほとんど取り上げてねえし」 現代人ならば半ば習慣にまでなっている行動、地震が来たらニュースを確認する。 近現代の英霊である流子も当然のようにそうした。 しかしどこを見ても津波という単語は出てこないのだ。 流子、アゲハは揃って首をひねる。 「姉キ、津波が来るから避難しろってどこから聞いたんだ?」 「え?さっきお隣さんが荷物纏めてそう言ってきたのよ」 吹雪の返事を聞き終えると即座にアゲハは外に飛び出した。 そして外を歩く人を捕まえて同じように掴みかかるようにして質問する。 「おい、アンタも避難してるんだろ?誰から津波が――」 来るなんて聞いた、と口にしようとしたところで言葉に詰まる。 そして咄嗟にライズまで発動して一足で大きく距離をとる。 「津波…そうですよ。津波が来るから早く避難しないと」 そう答える男性はアゲハの態度を気にも留めないように、穏やかな調子で答えた。 その目の中に、星のようなものを浮かべて。 夜科アゲハはそれを何度か見た覚えがあった。 購買に並んでいた、大量の食品を買い占めていった生徒にも。 危うく舌を噛み切りそうになった人吉善吉の瞳にも浮かんでいたもの。 ――――あのキャスターの、痕跡。 (なんだ!?あいつ、地震と津波なんてデマ流して何しようとしてんだ?) 人を避難させて……人払いで、いなくなった隙に何かするつもりなのか。 あるいはどこか避難場所に人を集めて何かするつもりなのか。 とりあえず目の前の男にどういうつもりなのかダメもとで聞いてみるかと、拳を握ったところで。 「はああああああ!?学園が壊れたあ!?」 家の中からやかましい声が響く。 纏の声だ、そう思ってそちらに視線をやる。 その振り向きは偶然だった。 故に、それに気付いて反応できたのも偶然だった。 視界に飛び込んできた異形の化け物。 不気味に赤い、芋虫のような体。 その背には薔薇の花弁のような蝶の羽。 随所から飛び出た茨のような無数の足。 全身で主張している無数の眼。 禁人種(タヴ―)ともどことなく違う化け物が高速で、何かから逃げるように飛来してきた。 アゲハは再びライズを発動し、その軌道上から避難する。 飛来する化け物のコースが操られているらしき男へと向かっているのに気付き、交差する瞬間反射的に化け物に蹴りを入れた。 それによって化け物の軌道は僅かに変わり、地面へと向かう羽目になるが。 それでも、男を巻き込むコースであることは変わりなく、接触と同時に車に人が撥ねられるような音を立てて男を吹き飛ばす。 化け物はアゲハの蹴りで地面へ叩きつけられ大きな音を立てて損傷し、男は化け物に轢かれて悲鳴を上げる。 「痛ッ…!あ、ひ、うわあああああああああああ!」 ぶつかった衝撃で折れたか外れたか、右肩から先を力なくぶら下げて逃げ去っていく男。 怪物もその声に反応するように唸り声をあげて起き上がる。 「おい、何の騒ぎだ!?」 その風景を家から顔を出した流子が目にする。 逃げている男の背中、謎の怪物、それと向き合うアゲハ。 危機と察し、即座に片太刀バサミを取り出して怪物へと斬りかかる。 「おらッ!」 起き上がったばかりの怪物、魔女Gertrudには躱せない一閃だった。 だがそこに別の存在が割り込み、怪物を救う。 カイゼル髭を蓄えた、タンポポの綿毛のような怪物、使い魔Anthonyという新たな怪物がその手に持ったハサミで流子の一太刀を受け止めた。 一体では力負けするが、十数体の使い魔が力を合わせて造園用のハサミを束ね、片太刀バサミに拮抗し弾き飛ばす。 それによって僅かに空白ができ、その瞬間を利用してアゲハと流子は並び立ち、Gertrudは態勢を整える。 「何だ、あれ?」 「分かんねえ。いきなりどっかから飛んできやがった」 間違っても吹雪のもとにはいかせない、と二人して意気込むが。 Gertrudはそれを無視するように反転し、かなたへと飛び去ろうとする。 「あ、逃げんのかテメエ!」 「いい、纏!俺がやる!」 叫びとともにアゲハの右掌に小さな黒い星が顕現する。 それを見た流子はとっさに霊体化し、魔力をできる限り抑える。 「暴王(メルゼズ)」 小さなつぶやきと共に流星を開放すると、それは真っすぐにGertrudへと向かって放たれる。 そして着弾、内部の一切を蹂躙し呻き声をあげる暇もなく魔女は絶命した。 主を失った使い魔たちも後を追うように姿を消していく。 「やった、か」 「ああ」 再び実体化した流子が確かめるように小さく語り掛けた。 歯を食いしばるように、アゲハも小さな声でそれに答える。 カラン、とそんな言葉に重なるような小さな音がした。 コンクリートの地面に何かが落ちて転がる音だ。 二人して足元に目をやると、小さな球体を中心とした奇妙な物体が転がっていた。 茨模様の黒い玉、下に針状の金属が伸び、上部には蝶のようなエンブレムが刻まれている、見たこともない材質のオブジェ。 特に危険物ではないだろうとアゲハは手に取って観察し始める。 「敵を倒したら落としたアイテムって……ゲームかよ」 しかし一体何なのか一見してわからない。 武器の類ではない。 インテリアなら必要ない。 一通り手の内で弄び、覗き込んできた流子に投げ渡す。 受け取った流子も首をかしげるばかりだが 『これは恐らくこの星のものではないな。おそらく生命戦維(われわれ)に近い、地球外のものが基になった存在だ』 「鮮血?」 何かに気付いたのは流子の身に着けたセーラー服、鮮血だった。 その言葉を受けて流子もアゲハも思い至る。 先ほどの怪物は禁人種(タヴ―)/カバーズに近い存在で、この球体はイルミナ/極制服のようなものかと。 「うまく使えば何か役に立つかもな……鮮血、これも吸収できたりするか?」 『何だかよく分からないものを無闇に口にするのは、あまり……そもそも繊維でないからな』 用途には悩むが何かに使えるかもしれないとひとまずアゲハが持つことにする。 一段落ついたところでアゲハの放り出した荷物などを纏めて吹雪が家から出てきた。 「アゲハ、あんたニュース見てなかったけど。何だかアッシュフォード学園が壊れちゃったらしいのよ……」 「はぁ?なんだそ、れ」 ぶっ飛んだニュースに怪訝な顔をするアゲハだったが、今が聖杯戦争のただ中ということを考えればなくはないかと思い返す。 腕利きのサイキッカーなら成し得る事象だ、サーヴァントなら容易くやってのけるだろうと空恐ろしく思いながらも納得する。 「深夜だったから幸い被害者はいないみたいだし、流子ちゃんのお姉さんも大丈夫だとは思うけど。 災害時の避難場所ってあの学園じゃない?だからどうしようかと思ってたんだけど、どこか思い当たる場所ある?」 行く当てを失って三人は悩むことになる、ように傍からは見える。 吹雪は避難先に思考を巡らせ、他二人は聖杯戦争について考えているが。 「てか壊れるって……何があったんだ?」 「さあ。巨人とか意味わかんない目撃情報もあるみたいだけど、たぶんこの地震のせいじゃない?」 考える吹雪をよそに、アゲハもまた思考する。 避難するべきなのか否か。しないとしてもどうやってこの姉を説得するのか。 ひとまず状況を共有すべきかと流子に念話を繋ぐ。 『あ~、纏。伝え損ねてたんだけどさ、さっきの男はあのキャスターに操られて地震とか津波から避難しろって言ってたみたいなんだよ』 『はあ?どういうことだよそれ』 『いや俺にもよくわかんねえけど、あいつが何かやってるってことは下手に避難とかしてあいつの思い通りに動くのはまずいんじゃねえか?』 策謀の気配を感じる。 学園で暗躍し、多数の主従に囲まれた窮地においても逃げ延びたあのキャスターの思う通りに動くのはあまりに危険に思えた。 『避難場所が学園でそこが壊れたってことは、そこに人を集めて一網打尽にしようとしてたとかさ』 『お前は寝てたから分からないかもしれねえけど、地震があったのはついさっきだ。さすがにこの短時間で学園まで人集めるのは無理だ』 頭をひねるが、お世辞にも頭脳派とは言い難いと自覚する二人、相手の思考を読むというのは難しいとすぐに労力を別方向に向ける。 自分たちはいかに動くべきかに。 先に定めたのはアゲハだった。 「で、考えてるみたいだけど二人はどこか避難のあて浮かんだ?」 その様子を察した吹雪がそれを促す。 一応は姉、ということか弟の変化に敏い。 「悪い、姉キは先にどっか避難しててくれ」 「ちょっと何言ってんのアゲハ!?」 しかし答えた内容は予想できるものではなかったか、怒声に近い声が吹雪の口から洩れる。 流子も疑問を表情に浮かべ、問いただそうとするがアゲハが念話でそれに先んじる。 『あの化け物、明らかにやる気がなかった。っつうか何かから逃げてた。 いるんだ。海の方に、あの化け物が逃げ出すようなおっかねえ奴……多分地震を起こした奴と、もしかするとあのキャスターが。 あのキャスターたちが川に飛び込んだならたどり着くのは多分海の方だろ。 地震だとか広めてるってことは誰か来たらあいつらにとって都合が悪いってことかもしれないし。 何よりあいつらがそこにいるなら、もしかしたら人吉の奴も向かってるかもしれねー』 とうに人吉の消失までのリミットは過ぎている。 通達の情報によると誰か一人帰還したらしいが、あの男が負けたまんまでいられるとは、リベンジもせず帰るような男には思えなかった。 拳を交えたアゲハだからこそ、そう思えた。 ならば新たなサーヴァントを得た彼が何をするか……あの金のキャスターに挑むのでは、この先に彼がいるのではとそう思えてならなかった。 「友達が取り残されてるかもしれないんだ。だからそれだけ確かめたいんだよ」 二人に向けてアゲハはそう告げる。 当初の目標としていた学園にいくのは最早叶いそうにない、と流子は押し黙る。 対照的に吹雪は感情を抑えるようにだが、アゲハに対してはっきり反対の言葉を告げた。 「アンタね……気持ちは分かるけど、そういうのはまず自分の安全を確保してからでしょ。アンタが無茶してどうすんの」 弟を心配する色を目に浮かべて、力づくでも連れて行くとアゲハに手を伸ばす吹雪。 そこへアゲハを庇うように、自信に満ちた笑みを浮かべて流子が割り込んだ。 「大丈夫だよ、あたしもついてく。いざとなったら、あたしが首根っこ掴まえてでも避難させるからさ」 その雰囲気にどこか頼れるものを感じ、吹雪の心境が和らいでいく。 そして小さくため息をつくと、ついにはアゲハへと伸ばした手を引いた。 「本当に、いい娘を彼女にしたね。あんたにはもったいない」 「「だから彼女じゃないって!」」 何度目かになるやりとりを繰り返し、そのむず痒い空気を払拭するようにアゲハは話題を戻した。 「で、姉キはどこに避難するか思いついた?」 津波の情報はデマだとしても、避難を止めるほどの説得力のある材料はない。 いや、地震があったのは流子も確かだと証言しているし、実際に起こる可能性はある。 ここで吹雪の避難を止めるのはあまりにも不自然で、まず納得しないだろうと、ひとまずの合流地点をさだめようとする。 投げっぱなしな発言に吹雪の顔に呆れた笑みが浮かぶが、少し考えて思いついた案を述べた。 「ホテルや病院の方に行きたいけど、川に近づくのも津波だと危ないし……あそこ。この道真っすぐ行ったところに結構大きな公園があるでしょ。 間桐さんっていう大きなお屋敷が近くにあるやつ。そこにひとまず避難しているから、アンタも友達見つけて急いで合流しなさい」 この地で過ごした時間のあまりに短いアゲハにそれが具体的にどこかは浮かばなかったが、それだけの情報があればなんとかなるだろうと高を括り、頷く。 「いってらっしゃいは言わないわよ。どうせすぐにまた会うんだし……でしょ?」 「…ああ、当たり前だろ」 それだけ言葉を交わして、歩き出した姉の背中を見送る。 余計な騒ぎは避けられた、と安堵し。 そしてこれから新たな面倒ごとに首を突っ込むことを考えて少し気が重くなる二人。 「……悪いな、俺の勝手で」 「何かしこまってんだよ今さら。気にすんなって」 仮初とは言え姉を心配する、その気持ちはアゲハにもよく分かる。 未だ視界に映る姉……のことも複雑な思いはあれど気にかけているのだから。 それを事態が急転したとはいえ、後回しにする判断をしたのに罪悪感が湧き上がるが。 「さっきのバケモノが逃げてくるようなやべー奴、たぶん地震を起こすやつがいるんだろ。 もしかしたら学園をぶっ壊したのにも関係あるかもしれねえし。 少なくともあのキャスターが関わってるんなら、人吉のためにも放っとけないだろ」 軽くアゲハの背中を叩いて、口の端に笑みを浮かべてそう言葉を紡ぐ。 言葉以上に、その思いに俯きそうだったアゲハの視線を目指す地、前方へと向く。 流子もまた視線をアゲハと同じ方角へ向け、肩を並べて歩き始める。 ――――最後に、思い出したように一言述べた。 「ああ、でもこれだけは言っとく。姉さんのこと、大事にしろよ」 それをきっかけに現代で交わした姉との最後のやり取りがアゲハの脳裏に蘇る。 エルモア・ウッドを出て未来へと向かった日、吹雪のもとへと帰る約束をした。 その約束は、本当の意味では未だに果たせていない。 「どうした?」 「いや、絶対姉キのところに帰らなきゃなって、考えてた」 「当たり前だろ……じゃ、行くか」 「おう」 待っていてくれ、と心中で姉に向けて呟き。 待っていやがれ、と天戯弥勒への決意を新たにした。 【B-4/アゲハ自宅/二日目・未明】 【夜科アゲハ@PSYREN-サイレン-】 [状態]魔力(PSI)消費(小) [装備]なし [道具]グリーフシード×1 [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜く中で天戯弥勒の元へ辿り着く。 1.北上し、地震の原因と金のキャスター、人吉を探す。 2.地震が人為的なものでなく、危険を感じたら避難する。 [備考] ※ランサー(前田慶次)陣営と一時的に同盟を結びました ※セイバー(リンク)、ランサー(前田慶次)、キャスター(食蜂)、アーチャー(モリガン)、ライダー(ルフィ)を確認しました。 ※ランサー(レミリア)を確認しました。 ※キャスター(フェイスレス)の情報を断片的に入手しました ※『とある科学の心理掌握(メンタルアウト)』により、食蜂のマスターはタダノだと誤認させられていました。 ※アーチャー(モリガン)と交戦しました。宝具の情報を一部得ています ※グリーフシードを地球外由来のもの、イルミナに近い存在と推察しています。 【セイバー(纒流子)@キルラキル】 [状態]魔力消費(中)疲労(小) [装備] [道具] [思考・状況] 基本行動方針:アゲハと一緒に天戯弥勒の元へ辿り着く。 1.北上し、地震の原因と金のキャスター、人吉を探す。 2.地震が人為的なものでなく、危険を感じたら避難する。 3.キャスターと、何かされたアゲハが気がかり 4.アーチャー(モリガン)はいつかぶっ倒す [備考] ※セイバー(リンク)、ランサー(前田慶次)、キャスター(食蜂)、アーチャー(モリガン)、ライダー(ルフィ)を確認しました。 ※間桐雁夜と会話をしましたが彼がマスターだと気付いていません。 ※キャスター(フェイスレス)の情報を断片的に入手しました ※アゲハにはキャスター(食蜂)が何かしたと考えています。 ※アーチャー(モリガン)と交戦しました。宝具の情報を一部得ています BACK NEXT 063 呪詛「ブラド・ツェペシュの呪い」 投下順 065-a 聖なる柱聳え立つとき 063 呪詛「ブラド・ツェペシュの呪い」 時系列順 065-a 聖なる柱聳え立つとき BACK 登場キャラ NEXT 055 僅かな休息]|[[夜科アゲハ&セイバー(纏流子) 068 おかえり聖杯戦争
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1 龍騎 『おい雑種、龍を用意しろ』 何の前触れもなく月の裏側へ通信を繋げ、さらに常人には即座に理解できない事を命令口調で言い放ったギルガメッシュ。 しかし言われた当の本人である魔王ゼロはその意味するところをすぐに了解していた。 「仮面ライダーである火野映司への当て擦り、というわけか。 構わないが…聖杯戦争で破壊された生命の蘇生は表側で行えば流石にムーンセルに異常を気取られるのでやるなら一度裏側に来てもらう必要がある。 君の欲するものはそこで用意しておく」 『任せたぞ』 上機嫌にそれだけを告げるとギルガメッシュは一方的に通信を切った。 傍若無人、その単語がこれほど当て嵌る男はそういないだろうが人類最古の王ともなれば納得できるものがある。 ゼロもかつて人であった頃は王族の一人であったため、英雄王が誰かに心から靡くことなど有り得ないと初対面の時から見抜いていた。 少々労力を払うだけで自我の権化のようなサーヴァントの暴走を抑制できるのなら安いものである。 「ここにいたか」 ゼロへの注文も自分を協力させるなら当然の貢ぎ物としか考えない男、ギルガメッシュはゼロが用意していた特殊な回廊を利用し月の裏側へと赴いた。 月の裏側にある旧校舎、そのグラウンドの隅で蘇生を受けた、元はディケイドの力の一部である無双龍ドラグレッダーへと何の警戒もなく歩み寄る。 ギルガメッシュの姿は戦闘時の黄金の鎧を着込んだものではなく、かといって何故か彼の蔵の中に入っていた当世風の服でもない。 くすんだ灰色を基調とした騎士風の全身鎧、されどその全身からはとめどなく黄金の気(オーラ)が滲み出ている。 これはギルガメッシュの蔵、“王の財宝(ゲートオブバビロン)”に新たに収まった財宝の一つ、仮面ライダー龍騎のライダーデッキ、より厳密には契約モンスターの力を得る前の原型、ブランク体である。 通常ブランク体のライダーではミラーモンスターには太刀打ちできるものではないのだが、ギルガメッシュは目の前の強豪モンスターの一角であるドラグレッダーを完全に見下した態度でいた。 「あの破壊者の手駒だっただけあってそれなりの面構えよな」 ドラグレッダーは動かない、否、動くことができない。例えブランク体であろうと決して逆らってはならない黄金の王の威圧感を本能で感じ、戦う前から既に屈服していた。 事実としてギルガメッシュが宝剣の数本でも投じればそれで赤竜は再び電子の海の藻屑と消えるだろう。 ギルガメッシュが悠然と蔵から取り出したコントラクトカードを使用、呆気なくドラグレッダーとの間にあまりにも一方的な契約関係が成立した。 同時にくすんだ灰色だった龍騎の全身が血が通ったような、赤と銀に変化し、本来の仮面ライダー龍騎へと変貌した。 参加者との決戦を前に新たな財を手に入れたギルガメッシュは上機嫌に蔵から新たにアドベントカードを取り出した。 そのカードの名はサバイブ・烈火。完全な龍騎となったギルガメッシュが手にすると同時に周囲を炎が渦巻いた。 かつて龍騎の世界を通りすがっただけの門矢士は知る由もないことだが、その世界で仮面ライダーナイトによって倒された仮面ライダーオーディンはサバイブ・無限の力を常に発現させていた。 故に、同じ世界にサバイブ・烈火が存在する、ないしその先の未来で人の手によって作られることは歴史の必然なのである。 であればギルガメッシュの宝物庫に収められているのもまた必然だ。 ―――そして今ここに仮面ライダー龍騎がより強大な力を得て蘇る。 サバイブカードに呼応して変形したドラグバイザーツバイにカードを装填(ベントイン)。 顕現したのは身体の随所に金縁が入り、大きく盛り上がった肩部が見る者により力強い印象を与える龍騎の最強フォーム、仮面ライダー龍騎サバイブ。 奇しくも冷気を操る恐竜を模したオーズのプトティラコンボとは対を成す存在である。 「恐竜の仮面ライダーを叩き潰すのであれば同じ仮面ライダーの竜種だな」 満足そうに呟いたギルガメッシュは早々に変身を解き元の姿に戻った。 彼自身非常に珍しいことではあるが、ギルガメッシュは来る対主催の面々との対決に際して綿密なシミュレートを行なっている。 別段龍騎がなくとも現状で完全な勝算があるが、無いよりはある方が戦力が増すのも事実ではある。 この段まで勝ち上がった英雄を相手に慢心は残せどもあからさまな油断を見せるほどギルガメッシュは愚かではない。 彼らが更なる限界を超えた力を発揮すること自体も想定に加えている。 龍騎への変身や能力の行使には魔力が必要らしく、変身中は通常形態で二割、サバイブ形態で三割ほど射出できる武具の数が減る。 王の財宝もまた魔力を用いて武装を取り出し射出する都合上避けられない点ではある。………ただし、そのまま扱えば、の話であるが。 そも王の財宝には王律権ダムキナを始めとする魔力を補填し生命力を回復する財が山のように存在している。 例え龍騎への変身が負担となったとしてもそれらの財を用いて魔力を補えばそれで済む話であり、何となれば蔵にある他のサーヴァントと接続されていない令呪で一息に補充でき、早い話が弱点が弱点として機能し得ないのである。 これは別段龍騎に限った話でもなく、例えば強力な斬れ味を誇るが持ち主に呪いを齎す妖刀の場合ギルガメッシュはその呪いを弾くほどの加護を与える財を無数に所持しているため事実上メリットのみを甘受できる。 こういったサーヴァントなら誰しもが持つ欠点、不得手を殆ど帳消しにしてしまう点もギルガメッシュが通常の聖杯戦争に適さないとされた一要因でもある。 それどころかペルソナ使いが用いるような特定の属性攻撃を強化する装具などを使えば龍騎の力はさらに増すだろう。 「さて、これでこちらの準備は整った。 奴らもあと数時間程度は休息に費やすだろう。 気紛れとはいえ我に戦準備などさせたのだ、最低でも我の想像を超える程度の力は見せてもらわねばな」 黄金の王はただ待ち続ける。 この熾烈な戦争を生き抜いた強者たちの命の輝きと、価値を問うために―――――― 【月の裏側・旧校舎/日中】 【ギルガメッシュ@Fate/extra CCC】 [状態]:健康 ※ムーンセルの知覚領域の拡大によって「王の財宝」内の財宝に各参戦作品の武器、アイテム等が追加されています。 これは人類の歴史の観測者であるギルガメッシュ自身がムーンセルと同質の存在であるためです。 ただし追加される財宝には以下の制約があります。 「クレイモア」、「サモンナイト」など完全な異世界を舞台にした作品のアイテムは出自の一切を問わず追加対象にならない 神造兵装など人の手によらない武器、アイテム等は追加対象にならない。 ※魔王ゼロに対して彼なりに考察していますが必ずしもその全てが的中しているとは限りません。 ※参加者に対して「乖離剣エア」及びエアの最大出力である「天地乖離す開闢の星」を使用する気はありません。 仮に使ったとしてもエアの権能を解放しないFate/stay night準拠の「天地乖離す開闢の星」になるでしょう。 また基本的に慢心を完全に捨て去るつもりはありませんが状況によっては捨てることもやむ無しと考えています。 とはいえ相手が聖杯戦争を勝ち抜いた強者なので慢心したとしても度合いは最小限に抑えられるでしょう。 ※ドラグレッダーと契約したことで仮面ライダー龍騎、及び龍騎サバイブへの変身が可能になりました。 変身者が元から高いステータスのギルガメッシュなので引き出される力は本来のスペック以上のものになるでしょう。 2 愉悦 麻婆豆腐。それは清の時代において生まれた四川料理の一つ。 挽肉と赤唐辛子・花椒に豆板醤などを炒め、鶏がらスープを加え豆腐を煮ることによって完成され酸味、苦味、甘味、辛味、渋味の5つが味わえる。 昨今では料理を扱う娯楽作品において勝負の題材になることも珍しくはない。 それが魔王ゼロが麻婆豆腐について知り得る知識である。だが―――――― (随分とおかしなNPCもいたものだな) ギルガメッシュとの対談後、今度は言峰神父に連絡を取ったところ、生憎と彼は食事中だった。 明らかに唐辛子を入れすぎて別のものになっている麻婆豆腐をワインと共に美味しそうに食している姿はある意味NPCとは思えない、人間らしすぎる光景だった。 こんな男でも聖杯戦争における監督役候補のNPCとしては最も性能が高いのだからわからないものである。 ――――――あるいは、本当にただのNPCではないのかもしれないが。 「…ふう、ご馳走様。さて魔王、遅れて申し訳ない、用件を聞いても?」 『ああ、残るマスターやサーヴァントと戦うにあたって注意しておきたいことがある。 客観的に現時点での戦力を分析すれば、君とギルガメッシュが彼らに劣る要素はないだろう。 無論私としては彼らが君達を打ち破ってくれることこそを期待しているが、同時に私が望むのは残るマスターが魔王の器に相応しいだけの意志と力を持つところにある。 これはあくまで保険だが、例え君達が勝利する展開になったとしても、これと思う者がいれば生かしたまま私の前に連れてきてもらいたい』 ゼロとしては後継者選びに妥協などしたくはないが何分にも余裕と猶予がない。 ここで駄目ならば別世界、より正確には並行世界のムーンセルに渡って同じ手法を繰り返すつもりであるがどれほどの時間がかかるかわからないし、その間に取り返しのつかない事態になってしまう可能性もある。 必要なのは純粋な力以上に意志、すなわち魂だ。 「なるほど、了解した。しかし私はともかく彼の英雄王がそれを良しとするものかどうか…」 『彼にも一応は言い含めてある。あまり過信はできないし反故にされる可能性も勿論あるが……その時は彼にも相応の報いを受けてもらうことになる。 英雄王ほどのサーヴァントであれば彼我の力の差は理解しているとは思うがな』 如何に最強のサーヴァントといえどザ・ゼロのギアスから逃れられるものではないし、サーヴァント程度の存在が魔王を滅ぼす可能性に至っては一考する必要性すらない。 その程度の分すらも弁えぬのであれば次の世界に渡る前に遠慮なく消し去るまで。 『逆に今の彼らの戦力であれば一人も欠けることなく君達を突破したとしても私一人で邪魔なサーヴァントを消すことは問題なくできるがな。 太陽の加護のないガウェイン卿は常識的な範疇に収まる強者でしかなく、仮面ライダーオーズに至ってはルール違反と汚染の件でいつでもペナルティを下せる』 「…?汚染、とは?」 何やら興味を持った様子の言峰にゼロは内心で喋りすぎたか、と舌打ちした。 今の神父やギルガメッシュが時折見せる他者の不幸を肴にする愉悦という感情はゼロにはどうにも理解しがたいものだ。 とはいえ別段知られて困る話でもないのだが。 『少し話は逸れるが、君は衛宮切嗣とライダー、門矢士をどう思う? 精神的な相性ではなく、純粋な戦力として見た場合だ』 「そうだな、監督役としての立場から私見を述べさせてもらうならば、彼らは些か以上に他陣営とのバランスを欠いた主従であったように思える。 火野映司を大きく上回る汎用性に能力制限から脱した騎士王に匹敵する回復力、索敵性能と限定的ながら時間操作・停止能力までもを有し、それらを十全に活かせる戦略・戦術を構築し自らも暗殺者としての力量を持ち合わせるマスター。 運悪く初手でイリヤスフィール・フォン・アインツベルンと出くわさなければ他の全ての参加者よりも大きなアドバンテージを得て今頃優勝していても何らおかしくはなかっただろうよ」 『やはり君は優秀な監督役だよ。その感想は誤りではない。 門矢士は分身や透明化も備え何より速さという点で他の追随を許さずそれらを相手に押しつけつつ自身はほぼ必ず逃走を成功させられる。 有用だが消耗の大きい能力も持ち前の回復力で十分に補填でき、それによって相手との相性や力の強弱を無視して優位を奪える上に力の多様さ故に自分は敵から明確な対策を打たれることもない。 事実として遠坂邸のチーム、というより泉こなたと火野映司は他には有り得ない知識を有するにも関わらず門矢士の操る能力全てを網羅しきることが出来なかった。 つまり彼は対戦相手の創意工夫など笑って吹き飛ばせるだけの汎用性と英雄王すら場合によっては単独で打倒し得る強力な戦術的切り札を多数有しているということだ。だが―――』 ゼロは敢えてそこで一拍置き、数秒経ってから言葉を紡いだ。 『―――考えてみるがいい。そのような反則の存在がマスターの質と意志を問う月の聖杯戦争への参戦を許されるはずがあるまい?』 「しかし魔王、現に彼は衛宮切嗣のサーヴァントとして招かれた。 これはムーンセルが門矢士の参戦を許容したということに他ならないのでは? そうでなければ説明が…………まさか」 『察したようだな、衛宮切嗣はアンリマユの汚染を受け、それを緊急的に除去したムーンセルも少なからず影響を受けた。 その衛宮切嗣に配されたサーヴァントがアンリマユの影響を受けないはずはない』 それは少し思考を巡らせればすぐにわかるはずの事だ。 しかし言峰がすぐにその解答に辿り着けなかったのもまた理由あってのことだ。 「だがアンリマユが齎すのは災厄以外に有り得ないはず。 事実今回だけで会場や幾人かのマスター、サーヴァントに悪影響を与えた。 貴方の言いようでは彼だけは恩恵を受けたように聞こえるがそんなことが―――」 『あるのだよ、神父。今回の門矢士は世界の破壊者としての側面が最も強い状態でサーヴァントとして呼び出された。 同じ破壊を齎す存在であるという事と、彼の“本来有り得ない事象を引き起こす”という性質が噛み合いその結果門矢士ただ一人だけがアンリマユの加護と恩寵を一身に受ける存在となった。 逸話を紐解けば仮面ライダーディケイドがそういった有り得ない事象を何度も引き起こしたことは明白だ』 言われて言峰は思案する。確かに伝承を確認する限り門矢士、仮面ライダーディケイドは純粋に強いのは間違いないがそこにはどこか不自然さ、おかしさが常に付いて回っている。 明らかに攻撃に重みや衝撃が足りていないにも関わらずいとも簡単に爆発四散していく怪人たち。 不死の存在でありカードで封印しなければ無力化できないはずのアンデッドを通常の攻撃で殺傷し、龍騎の世界ではライダーデッキなしでミラーワールドに自在に侵入した。 こうしたその世界の常識を無視した特性が聖杯戦争でもアンリマユによって付与されていたとすれば――――――? 『そのうちの最初の一つが魔力の自力回復の効率、時間あたりの早さだ。 元々門矢士にはマスターの供給性能に関係なく宝具によって一定の魔力を生成する力がある……が、それは本来あれほど驚異的な性能ではなく今回の生成力を十とするなら本来は精々一からニの間、現界や通常戦闘を最低限補助する程度のものでしかないはずだった。 この聖杯戦争でNPCからの魔力収奪のルールが設けられ冬木を模した会場に複数の霊脈が存在しているのもマスターやサーヴァントの現場判断を問うためのものだ。 マスターの存在を介せず、会場の設備やNPCもさして利用することなくサーヴァントの自力のみで多くを賄う魔力の生成など公平性の観点から鑑みても許されるはずがあるまい』 「加えるならば衛宮切嗣のマスター性能は魔術師としてあくまで標準レベル。 しかし奴は門矢士への魔力供給に難儀している様子はなくそれはあの決戦においても変わらなかった。 強化形態の解放にクウガペガサスの複数回使用、クロックアップその他の能力連発にクウガゴウラムの維持、さらには時間停止に火野映司へのスーパータトバの譲渡。 考えてみれば、これらをまっとうな方法で賄うならジョン・バックスのように栄養ドリンクを箱買いしうな重をかき込まねばならないはず。 そうでなければDIOと契約する以前に干上がっていなければおかしいということか…」 サーヴァントの活動に不可欠な魔力の確保は参加した全てのマスター、サーヴァントにとって至上命題の一つと呼んでも過言ではない。 実際にこの聖杯戦争では多くの者が魔力の確保に奔走し、創意工夫を凝らした。 例えば杏黄旗を使い早期に地脈から魔力を得た太公望や同じ方法を使おうと策略を巡らせ敵マスターからも魔力を奪った天海陸とイスラ主従に実際に“紅の暴君(キルスレス)”を使用し自身とサーヴァントの魔力を得ることに成功した衛宮士郎。 例えばNPCからの魔力徴収を躊躇わず実行したDIOに間桐慎二。 例えば保険として神殿に多数の仕掛けを施した蘇妲己や戦いを放棄したマスターを賢者の石に変えて口を封じたゾルフ・J・キンブリー。 そして何より一般人かつ高齢の身でありながら栄養ドリンクなど文明の利器や食事による栄養摂取を最大限活用して燃費に劣るサーヴァントの活動を助けたジョン・バックス。 彼らは皆、ゲームが開始されてから大なり小なり何らかの労力を支払って魔力を得た。 他サーヴァントの能力を鑑みてもキンブリーの賢者の石は元々供給量に限りがある補助礼装に近いものであるし騎士王アルトリア・ペンドラゴンの魔術炉心もマスター側からの十分な供給なしに機能するものではない。 それに対して衛宮切嗣と門矢士が成した努力、支払った労力はあまりに小さく精々が他の土地と比べれば効率に優るとはいえない衛宮邸での休息のみ。 遠坂邸の同盟軍との決戦時に至っては切嗣は新都で念話や敵マスターの捜索などでサポートしていたのみで魔力供給に関する支援は実のところ何もしていない。 それ故にディケイドライバーに損傷を受けた時には何ら対処策を見い出せず長時間表立った行動が取れなくなった。 そんな状態で切嗣が魔力不足に陥らなかったのは全てアンリマユの加護によるディケイドの自力回復力の底上げ、そして更なる恩寵のおかげだ。 本来衛宮切嗣と門矢士のタッグは数多の手札を持ちながらも魔力が追いつかないという点で他陣営とのバランスが取れるはずだった。 不足しやすい魔力を魂喰いや霊地を拠点にすることによる回復の促進で補い手札を何時、どのようなタイミングでどう切るか、といったことを地道に模索するのが彼らの課題になるはずだったのだ。 『二つ、一部能力の魔力消費、反動ダメージの軽減。つまりクロックアップやクウガペガサス、タイムスカラベにハイパークロックアップとファイズアクセルなどが該当する。 本来の仕様上乱発がきかないはずのクウガペガサスの制約が半ば形骸化し、多くの場面で活用できたのはこれに依るところもある。 加えてたった一日のうちに十回近い超加速能力を使用しながら肉体へのダメージ、反動が自然に回復する程度で済んだのもアンリマユのおかげだ。 さらに言えばコンプリートフォーム発動中のタイムスカラベやハイパークロックアップといった時間操作能力は本来消費コストがより高く設定されていて令呪などの仕込みなしに実戦でまともに使えるようにはなっていないはずだった』 「そうでなければスーパータトバを没収された火野映司との間に理不尽なまでの格差が生まれることになるから、か。 しかし実際にあれほどの激戦の中タイムを使用できたということは魔力の回復も併せて相当な補正が掛かっていたのだろうな…」 『そして三つ、強化形態であるコンプリートフォームそのものだ。 世界の破壊者として呼び出された門矢士が持っているコンプリートフォームは全ての仮面ライダーを破壊し、世界を再生させた果てに手にした最強コンプリートフォームではない。 各ライダーの最終形態を召喚し同時攻撃を行う機能に重点を置かれたそれ以前のコンプリートフォームだ。そうでなければ矛盾が生まれることになる。 故に、カメンライドを介せずディケイド以外のライダーのアタックライド能力を行使する力など本来あるはずがない。 それが出来るのは全最強形態の戦力を発揮できる最強コンプリートフォームの方だからな』 「いや、魔王よ。世界の破壊者として召喚されたなら激情態があるはずでは?」 『無い。あれは内包する力があまりに多様すぎるために聖杯戦争のサーヴァントの器には到底収まりきるものではなく全てオミットされている。 それ故聖杯戦争という舞台でディケイドがカメンライドなしで他のライダーの能力を行使するなら最強コンプリートフォーム以外に無い。 アンリマユの加護によって宝具の拡大解釈が為された結果最強コンプリートフォームと同様の戦力を発揮でき、そのために火野映司のスーパータトバの力を目覚めさせることが出来た。 本来ならスーパータトバの一つ下のプトティラコンボを自在に制御できるようになる程度の力しか発現させることは出来ない』 遠坂邸の同盟軍が門矢士のデータを調べたにも関わらずカメンライドなしの能力行使を予見できなかったのは彼らに落ち度あってのことではない。 ルルーシュらは敵の戦力の見積もりを見誤ったと同時に見誤ってはいなかった。 データベースで調べたところでディケイドの能力が本来の仕様から外れたものになっているためにデータに載せられていないのだから有効な対策を用意するなど最初から絶対に不可能だったのだ。 とはいえそのおかげでDIOを相手にチェックメイト寸前の状態から巻き返すことが出来たのも間違いの無い事実ではある。 「ふむ、なるほど…。もし本来の性能で戦っていたとすれば、同盟軍との決戦の結果も大きく変わっていたことになる、と?」 『仮に全く同じ行動を取っていたとすればそうだ。決着以前に騎士王との一騎討ちの時点で大量の魔力を消費しオーズと対峙する頃にはほとんど枯渇、タイムスカラベの使用など論ずるまでもない。 だが衛宮切嗣は柔軟なサーヴァント運用が出来るマスターであるし、門矢士自身も魔力が保たないと理解した上で同じ行動を取るほど愚か者ではない。 それはそれで異なる手段、アプローチで状況を打開する策を練ったことだろう。一概に勝敗そのものが変わったとは断言できまい』 だがそのおかげでこちらにとって都合良く事が運んだ、とゼロは内心で一人ごちる。 正直なところ、騎士王の能力制限解除はまだしも封印した聖剣の鞘が復活したのはゼロにとって数少ない、悪い意味で完全な想定外といえる事態だった。 “全て遠き理想郷(アヴァロン)”は元々ルールで認可された宝具であるがゼロにとって危険性の高い宝具でもあったため危険を冒してハッキングを行い厳重に封印していた。 あの鞘を展開されてしまうとザ・ゼロによる干渉すら跳ね除けてしまうためゼロにとって数少ない警戒対象だった。 死ぬのであればむしろ望むところであるが実際に騎士王の聖剣でゼロの命を断ち切ることは不可能。 とはいえゼロとて攻撃を全く受け付けないわけではなくダメージを受け過ぎれば一時的に行動不能には陥ることになる。 そうなればムーンセルへのハッキングも著しく弱まり、異物として発見され放逐されるしかない。 騎士王はゼロの無力化とこの世界からの追放を他のサーヴァントに比べ容易に行う宝具を持っているため細工を行い没収したのだった。 『…まあ代償が全くないというわけではないが』 「それはそうだろう。マスターによるサーヴァントのデータ改竄はある程度は許可されているが門矢士の件はマスターの技能と無関係な上にそもそもルール上の許容範囲を明確に踏み越えた。 出来レースじみた強化を背景にした優勝など到底ムーンセルに受理されるものではない。 さらにアンリマユによるデータ汚染も加わるとなれば門矢士もまた二つの意味で不正なデータとして消去される。 彼が生き残る道があったとすれば自ら異常に気付き、ムーンセルに自己申告を行いデータの復旧、事実上のデチューンを受け容れることだけだった。その機会自体は聖杯戦争中であろうといつでも行使できる権利だからな」 『その通りだ。しかし事実上それは不可能と言っていい。 データの改竄を受けた時点で門矢士の記憶もそれに応じたものに改竄され違和感を感じることすら出来なくなるからだ』 「つまり門矢士が敗北したのは騎士王の聖剣にその身を貫かれた時ではなく……召喚に応じたその瞬間だったというわけだ。 不正行為によりデータを消去されれば当然聖杯戦争中の履歴、仮面ライダーを破壊したという事実も消えて失せる。 門矢士の結末は何も残らず全てが徒労に消える、それ以外の可能性など事実上ありはしなかった。 ……何という、何という愉悦っ………!!決戦の前でなければ麻婆豆腐のおかわりを頼んでいるところだ」 愉悦に身を震わせる言峰を一瞥もせずゼロは思考する。 知らなかったとはいえ不正に手を染めたサーヴァントである以上いつでもムーンセルに通報し消すことはできた。 尤も、他にもアンリマユの影響で被ったデメリットも小さいながら確かに存在していた。 門矢士はこの世全ての悪に僅かにだが精神を蝕まれ、普段よりもやや短気になり注意力も散漫になりやすくなっていた。 柳洞寺で騎士王相手に度を越した慢心から敗北したのもこうした精神面への影響があってのことで、本来の彼なら焦りがあるとはいえそこで気を抜くようなことはしない。 もし彼が世界の破壊者ではなく、より善性の強い通りすがりの仮面ライダーとして現界していれば、イリヤスフィールを冷徹に見殺すことなくマスターとの間に因縁が生じることもなかっただろう。 また、汚染と不正の残り香はあるサーヴァントにも確実に影響を齎している。 「…となれば、汚染されたディケイドからルール違反であるスーパータトバの力を譲り受けた火野映司もペナルティと無縁ではいられない。そういうことですな、魔王?」 『そうだ、さすがに門矢士との程度の差を考慮すれば消去は不可能だろうが全ステータスと宝具の出力を最低でも二ランクは落とすことになるだろう。 無論、君と英雄王との決戦が終わるまでそのような手出しをしないことは確約する』 ゼロが欲するのはマスターの強き魂であって元々ムーンセル側によって用意された戦闘代行者に過ぎないサーヴァントはマスターに付随する障害でしかない。 これまでも不要と判断したマスターはサーヴァントごと力で葬り去ってきた。 そして障害たるサーヴァントを労せず弱体化できる効率的な手段があるのならゼロは何の躊躇もなくそれを使う。 神父と英雄王との戦いが終わるまでは泉こなたの器量を確かめる意味でも生かす意味はあるが、言ってしまえばそれを過ぎればライダー・火野映司とセイバー・ガウェインは用済みだ。 「お心遣い、感謝する。しかし知らぬ事とはいえ正義の味方の象徴たる天下の仮面ライダーが二人揃って不正行為とはな」 『主催側たる我々にとっても予想外の事態が頻発する、それがこの混沌に満ちた聖杯戦争だ』 そしてそれは今も変わらないが、と思いながら通信を切った。 一体どうすれば魔王の役割を託せる者を見い出せるか、何をすれば自身の想像を越える魂に出会えるのか。 一万飛んで5847回目の試行に失敗し、煮詰まっていた時ゼロは禁じ手ともいえる打開案を実行に移した。 月の裏側へと飛びエデンバイタルの力を最大限注ぎ込み、ムーンセルに他の世界、即ち並行世界を観測させるよう働きかけを行なった。 その賭けに等しい行為は結果として成功し、この度の聖杯戦争はかつてない混沌とした様相を呈した。 代償としてムーンセルの機能には狂いが生じ、あと億年単位は地球を観測できた観測機械としての寿命は百年単位にまで縮まった。 その世界にとって災厄でしかない現象を起こしてでも、急がねばならないほどゼロという存在は長く生きすぎてしまっていた。 恐らくこの世界ではもう同じ試行を行うことは出来ないだろう。 これでもゼロの望む者に出会えぬとあれば次のムーンセルがある世界に渡り再び同じ試行をするまでの事。 それが多くの世界を巻き込む害悪以外の何者でもない思考だと理解していても、魔王ゼロは最早歩みを止めはしない。 (―――そうとも、引き返すべき道はいらない) とはいえここから先は言峰神父とギルガメッシュの仕事であり今のところゼロが干渉する必要はない。 聖杯戦争が終結した今でさえ、どのような奇跡、番狂わせが起こっても何ら不思議な話ではない。 魔王ゼロが待ち望むのはそうした混沌から生まれた強き者の魂である。 【新都・教会地下/日中】 【言峰綺礼@Fate/extra】 [令呪]:2画 [状態]:健康 【魔王ゼロ@コードギアスナイトメアオブナナリー】 [状態]:健康 ※ゼロはムーンセルに通じる秘匿回線を持っており、それを通じて度を越した不正を行なった参加者に対し間接的にペナルティを与えることができます。 現在ペナルティ対象になり得るのは花村陽介と火野映司ですが、今のところゼロは二人に手を出すつもりはありません。