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アリス・イン・カレイドスピア 猫とともに去りぬ ゲート 自衛隊彼の地で斯く戦えり ΑΩ―超空想科学怪奇譚 ケルベロス 境界線上のホライゾン カンピオーネ! ゼロの使い魔 迷宮街クロニクル マザーズ・タワー ドラキュラ紀元 ドラグネット・ミラージュ 召喚教師リアルバウトハイスクール アリス・イン・カレイドスピア 著者:最近 出版:星海社FICTIONS 天に浮遊する巨大な大陸“地上(天獄)”。重力に縛られた広大な大地“地底(地獄)”。地上と地底を貫く天地の通路“世界槍”が聳え立つ世界――。魂なき人類“哲学的ゾンビ”たちが住まう地底都市ザドーナと、その哲学的ゾンビを退治すべき“異獣”と見なす地上の北辺帝国は、激烈な交戦状態にあった。互いに空想を撃ち合い、解釈で殴り合う。荒唐無稽な想像力が勝敗を決する改竄戦争の舞台で、一騎当千の“妄想狂”たちの、天地の覇権を懸けた壮絶な“世界の書き換え合戦”が幕を開ける!! 某小説投稿サイトにて『幻想再帰のアリュージョニスト』によって業界(の一部)に衝撃を与えた最近氏の初の商業作品。『幻想再帰のアリュージョニスト』と世界観を共通する本作は、シェアードワールド企画『ゆらぎの神話』を筆頭に「数限りない虚構の引用によって構成されて」いる。 その『参照先』は、それこそ太古の昔から語り継がれる神話や人類史に名を刻む古典から、現代のアニメ・漫画、果てはネットに氾濫する個人作品まで及び、そしてそれに留まらない。古典哲学に自然科学に思考実験、都市伝説や民間伝承、ネットの流行り、etc.etc……数多のイメージを押さえつけることなく、圧倒的スケールで纏め上げた本作はれっきとしたオリジナルの作品でありながら、これまで存在したあらゆる物語によるクロスオーバーであるとさえ言える。これがカオスフレアの参考にならずしてなんになるというのか。ストーリーそのものは王道であり、『奇怪な世界観と王道ストーリー』の取り合わせもまたカオスフレア的といえる。 まあ、そのような細かいことを考えずとも、330Pに限界を超えて詰め込まれたカオスな戦いはそれだけであなたの想像力を嫌というほど刺激してくれるはずだ。哲学的ゾンビ達が『自然科学(この世界ではそれすら呪術の一種だ!)』によって築き上げた「科学の魔法の入り混じった」(作品世界的に適当な表現ではないがあえてこう記述する)軍団の描写はネフィリムやテオス、あるいはロードモナークの参考に。そして自らの世界観を世界に押し付け自在に改変する『邪視者』たちの力は、コラプサーを始めとする超存在たちの描写に役立つだろう。 炎の邪視者が『アストラルネット』を『炎上』させ、吸血鬼が放つ蝙蝠の群れが軍隊を高度に情報化する。主人公の幼馴染は200人の『脳内彼氏』の軍団を具現化させて使役し、闇妖精のヒロインの羽は、『たっぷりと苺のジャムを塗った蝶の如きパン』! なんともカオスフレア的ではないか。 なお、迷言の宝庫でもある。「島よりも壁の方が大手だからな」をシリアスなバトル中に解説役が放つ様は、まさにカオス。 猫とともに去りぬ 著者:ジャンニ・ロダーリ 訳者:関口英子 出版:光文社 さあ、考えてみよう。銃を使わないでピアノを使うカウボーイはどう悪に立ち向かう?魚が釣れない釣り人がタイムスリップする理由は?シンデレラの世界がSFだったら?といった、突拍子もない物語が詰まった短編集。著者の物語理論が詰まっている集大成的作品だが、その理論が素晴らしくカオスフレア的。 まったく関係のなさそうな二つの要素を一つにするとまったく新しいものができる。物語の中に変なものを入れると違う物語ができる。単語に「非」や「全」といった言葉をつけるとまったく違う言葉になる等がある。周りとトンチキで差をつけたいなら買って損はしないだろう最初に挙げた物はカオスフレアでも容易に発見できる。代表的なのは日本とSFの富嶽だろう。 そして、登場人物が超常現象が起こっても社会的決まりを変に気にする。美酒町の参考にも。 ゲート 自衛隊彼の地で斯く戦えり 著者:柳内たくみ 出版:アルファポリス(全5巻) 20xx年。東京・銀座に忽然と出現した“門”から現れた中世時代の如き軍勢は『帝国』を名乗り、民間人に対する無差別殺戮に及んだ。後に銀座事件と呼ばれるこの騒乱は、皇居を利用した警察・機動隊の民間人避難と籠城、そして自衛隊の出動により帝国軍勢の撃退と“門”の確保で幕辛うじて収束。日本政府は帝国に対する銀座事件の損害賠償と再発防止の為に“門”の向こう側=「特別地域(特地)」への自衛隊の派遣を決定した。特地側の“門”を中心に自衛隊の基地が作られ、実地調査の為に特地の奥へと偵察部隊が出動する。その中の一隊、第3偵察部隊を指揮するのは、銀座事件で皇居利用を立案した功績者にして筋金入りのオタク自衛官、伊丹耀司二等陸尉だった――。 投稿小説サイト「Arcadia」で2006年~2009年に連載されたウェブノベルを元に、商業単行本化されたファンタジー(+現代)小説。所謂「異世界召喚モノ」の系譜ではあるが、個人~組織の範囲で収まる事の多い異世界との接触を国家・社会レベルにまで広げた意欲作である。中世ファンタジー世界の『特地』に派遣された自衛隊が現地の住人と交流し、時に戦う姿は、カオスフレアの根幹の一つである「異世界同士の接触」の光景と重なり、主人公である伊丹二尉がオタクならではの機転と判断力で特地での任務を切り抜けていく辺りもまたカオスフレアにおけるフォーリナーの有り様に通じる所が有ると言えよう。」 ΑΩ―超空想科学怪奇譚 著者:小林 泰三 出版:角川書店 原因不明の旅客機墜落。乗客乗員全滅という凄惨な事故現場より、諸星隼人は腕一本の状態から蘇った。それは真空と磁場と電離体からなる世界より、正体不明の「影」を追って地球に飛来したプラズマ生命体「ガ」によるものだった。隼人の復活を奇跡として活動を活発化させる新興宗教アルファオメガ。あらゆるものを飲み込んで巨大化する竜。世界を覆い尽くさんとする人間もどきレプリカント。人類が破滅の危機が迫る時、隼人の肉体は膨張し、白銀の巨人へと変身していた! 新進気鋭のホラー作家、小林奏三が手がけた超SFハード・アクション。一見してグロテスクな描写に溢れるが、それでも「ガ」による隼人の復活、巨人への変身プロセス、次々に現れる想像を絶する異形の敵との戦いなど、その枕詞に恥じぬ空想科学怪奇な物語が繰り広げられている。 わけても興味深いのは《光の巨人》達の「世界」が描かれている事だろう。人類の理解の範疇を完全に超越した彼らの生活描写や、また人間である隼人と交流し、パスを繋げ、共に最終決戦に挑む様などは《光の巨人》のロールプレイの参考にならない筈がない。 加えて、元ネタを知らなくても楽しめるパロディのやり方という意味においても、本作は参考になるだろう。細部に散りばめられた小ネタは、ネタ元がわからなくてもすんなりと読めるように施されている。そもそもからして本編自体が『ウルトラマン』のパロディであるにも関わらず、その描写は『ウルトラマン』頼りではないのだから。 まあ、細かいことは脇においておいて、夜の街を舞台に「ゼアッ!」と叫びながら巨人が大怪獣に跳びかかる様に胸を踊らせ、我々の街を脅かす「影」のおぞましい侵略行為に恐れおののき、強敵が「まだ私は変身を二つ残している」だの「貧弱貧弱ゥッ!」と叫ぶのに腹を抱えて笑いながら、物語を楽しんでいただきたい。読み終えた時、あなたは不思議な満足感に浸れる筈だ。 ケルベロス 著者:古橋秀行 出版:メディアワークス文庫 三首四眼五臂六脚、戦場に現れ一軍をも滅ぼすという、これは一匹の怪物の物語である。 不死にして最強の“もう一匹の怪物”覇王ラガンによって国々が蹂躙されていた時代、国境間近の街に三人の半端者が流れ着いた。口八丁の無気力なヒョウ使い。突くべき鐘を持たない巨漢の鐘突き男。亡国の皇姫を自称する薄汚れた小便餓鬼。奇妙な彼らが出会う時、“怪物を殺す怪物”が凄まじい産声をあげる……! 『ブラックロッド』によって鮮烈なデビューを飾り、『シスマゲドン』で妹萌えを明後日の方向に放り投げ、『サムライレンズマン』『デモンベイン外伝』で既存世界の未来を侵略した“鬼才”古橋秀行の最新作。シェアードワールド企画「龍盤七朝」と題し、 秋山 瑞人の『DRAGONBUSTER』と同時にスタートした、中華ファンタジーである。しかしながら特筆すべきは、その凄まじいまでの武侠モノの雰囲気だろう。 怪物としか言いようのない覇王ラガンの想像を絶する強さを手始めに、登場する武侠たちが積み上げてきた攻夫の冴えは武侠をプレイするならば必読であろう。 また重要なガジェットとして登場する《龍の佩玉》の“重さ”や、主役三人がパスをつなげていく様、そしてそのパスが世界へと広がっていく様は、実にカオスフレア的だ。 ある種、今現在で最も入手容易かつ読み易い武侠小説であるので、そういったモノに興味があるという人も、是非一度読んでみて頂きたい作品である。 境界線上のホライゾン 著者:川上稔 イラスト:さとやす 出版;メディアワークス電撃文庫 人類が天上から戻った時代。極限環境と化した地球上で唯一の人類生存領域・極東を分割統治する列強各国は、“聖譜”に記録された人類史に従い歴史を再現する事で再び天に到らんとしていた。列強によって極東に引かれた国境線、その上を航行する極東所属の航空都市艦『武蔵』―― 武蔵が独立自治領・三河への寄航を控える最中、武蔵アリアダスト教導院の生徒会長“不可能男”葵・トーリは、周囲を巻き込んでパン屋に勤める自動人形の少女P-01sに告白せんと意気込んでいた。しかし、三河が引き起こした事件は世界列強を揺るがし、白日の下に晒された事実が二人を引き裂く。葵は教導院の仲間達と共に、列強に立ち向かう事を決意する。少女を今度こそ救う為に。10年前に誓った夢を、叶える為に。 1997年刊の『パンツァーポリス1935』から(世界時間軸を前後しつつ)十年以上に渡って続く『都市世界』シリーズ最新作。従来の基板世界の上に学園モノ、日本史、世界史、SF、ファンタジー等の要素を盛り込み、クロスオーバー色が最も色濃いシリーズとなっている。 ローマ教皇と本多正純が舌戦を繰り広げ、東国最強と西国最強が刃を交える。天動説と地動説を自在に操る魔神ガリレオに、戯曲世界を具現化する眼鏡少女のシェイクスピア。航空戦艦を操るは、艦名を冠したメイド服の自動人形達。野球部主将はバントで魔法攻撃を叩き落し、有翼の魔女は巨大ロボ“武神”とドッグファイトを繰り広げ、陸上部員は八艘飛びで航空艦を飛び越え、商人は財力にモノを言わせて武神の剛力と互角に殴りあう!――種族・歴史・幻想・国家・科学・魔法、ありとあらゆる要素と概念が入り混じるその様は、カオスフレアに負けず劣らずのトンチキ(褒め言葉)っぷり。シリーズ開始に先駆けて、A4版780頁に渡る設定資料が用意されたのもむべなるかな、である。 「ライト」ノベル名義に反して一巻毎のページ数が半端無く、その厚さは電撃文庫の枠を越え既にライトノベル全体での最厚記録の上位ランカーとなっている。シリーズ半ばの巻の時点で前シリーズ『終わりのクロニクル』最終巻のページ数を越え、最新巻では1000頁寸前にまで到達。最早タテ置きで自立するのは当たり前、生半可なブックカバーの庇護を受け付けない、鈍器の域だ。 本編全29冊・番外編3冊+電撃文庫magagine連載の未単行本化番外編『課外授業』+アニメ版BD特典の前日譚全8冊+ウェブ連載中の続編からなるボリュームは「是非一読を」とは気軽に書けないレベルに達しているが……カオスフレアに旧版から付き合い続けている筋金入りのGM/PL諸氏には、是非“挑んで”頂きたく思う。色々な意味で。ところで。金髪巨乳美女とゲーム全般をこよなく愛し、番外編の三分の二を割いて中世時代の食事の解説と製作方法を(写真付で)書き連ねる川上氏は、ハッタリカイザーの二人と物凄く通じる部分が多いと思うのだが。如何か。 2011年・2012年秋には誰もが「正気か」と目と耳を疑ったアニメ化も実現。原作のⅠ上下(※普通のラノベなら4冊分のボリュームです)を枝葉切り押しとしつつⅠクールに纏め上げる力技と、コメンタリー脚本から特典小説までノリノリで書き上げる川上氏の勢いに注目である。 カンピオーネ! 著者:丈月城 イラスト:シコルスキー 出版:集英社スーパーダッシュ文庫→ダッシュエックス文庫 草薙護堂は神殺しである。 人間でありながら神を殺しその権能を簒奪せし魔王、カンピオーネ。最も若く新しいカンピオーネである草薙護堂の騒がしいながらも平穏な生活は、神器ゴルゴネイオンを託されたことから終わりを告げた。再び神と相見える時が来たのだ…… 著者が「超必殺技」と呼ぶに相応しい10の化身を持つ東方の神、ウルスラグナの権能。ぶっちゃけその使用制限が厳しすぎる超必殺技“だけ”を持った主人公護堂がいかにして難敵を破るかが本作の見せ所である。その様はクライマックス限定特技や1シナリオ1回特技だけをひたすら取った、対ダスクフレア戦闘特化の聖戦士をするときに非常に参考になるだろう。 そして彼に付き従い護る女性陣も本作の魅力のひとつ。自称護堂の愛人である魔術師にして騎士のエリカ、霊視の力を持つ巫女祐理、エリカのライバル魔術師のリリアナにボーイッシュや野生児な剣の巫女祐理といった個性的なメンバーからなる典型的なまでのハーレムパーティである。他にもサブキャラとして20代の美女にしか見えない高齢の魔女ルクレチアや麗しき最強の仙女武侠羅濠教主等等…。それぞれのコロナが何なのか想像するのも楽しいだろう。 コラプサーを演じるに当たっても実に参考になる作品である。傲岸不遜、人間のことなど塵芥ほども意識していない超越者たちの描写も見事。 是非一度読んでもらいたい作品である。 ゼロの使い魔 著者:ヤマグチノボル 「あんた、あたしの使い魔になりなさい!!」 平凡な少年、平賀才人の人生は光り輝く鏡に触れた瞬間に一変した。異世界ハルケギニアのトリステイン魔法学園女子生徒、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールによって召喚されてしまったのだ……彼女の「使い魔」として! メイジ=貴族の家柄でありながらも魔法の才能が無い"ゼロの"ルイズに振り回されながら、才人はやがて、彼女と自身、そして世界の秘めた謎へと近付いて行く事になる…… 「ツンデレ」ブームを巻き起こした傑作ファンタジーライトノベルである。カオスフレア等でお馴染みの「異世界へ召喚される」という王道に「使い魔として」という一文をくっつけ、主人公である少年の苦労、そして主人とのラブコメをきっちり描きつつ、世界情勢や二人の秘めた謎について進行していく物語は、まさにキャンペーンのシナリオソースとして最適だ。 ヒロインであるルイズは、その特殊な才能による鬱屈から「ツンデレ」的な性格を持っているのだが、彼女によって酷使される主人公の姿はフォーリナーの暗部を描いている……と言っても過言ではあるまい。二次創作においてはその部分が大きくフューチャーされている(なにせ『家畜人ヤプー』を組み合わせた同人誌まであるのだ!)事を除いても、いきなり呼び出された挙句、半ば強制的に「勇者/使い魔」扱いされて扱き使われてしまうのだ。リプレイ『世界の卵』で姫子がテオスに捕まった事を鑑みても、この状況を他人事と笑えるフォーリナーは少なかろう。 また「魔法の存在する中世封建世界」を(多少設定や登場人物の行動がアレな面があるとはいえ)きっちり描いているのも、オリジンの参考資料としては適切かと思われる。もちろん、オリジンと違ってハルキゲニアには貴族と平民といった身分制度はしっかりあるのだが、本来は存在しないだろう「ゴムの入った下着」やら「黒板とチョーク」やら、蒸気エンジンを開発しても「魔法でやれば良い」と言われる技術者の姿、また「エロ本」が凄まじい価値を持つ一品として扱われるなど、実にカオスフレア的である。 ヒロインのルイズは「魔道書を邪剣にした邪剣使い」であり、主人公のサイトは「光翼騎士」、また彼の相棒である魔剣デルフリンガーは《伝説の剣》である為、そういったキャラクターを演じる時のロールプレイの参考にもしていただきたい。 迷宮街クロニクル ①迷宮まで何マイル? ②散る花の残すもの ③夜明け前に闇深く ④青空のもと 道は別れ 著者:林亮介 出版:GA文庫 ――京都、迷宮街。ここでは人は簡単に死ぬらしい。 一昨年前に京都を襲った大地震は、意外な副産物をこの街に残した。地下に広がる大迷宮への入り口と、そこから溢れ出る怪物達。自衛隊による掃討作戦に失敗した政府は、迷宮の探索と怪物駆除を一般人の志願者に解放。更に怪物達の身体から得られる稀少化学物質を高額で換金する事を発表した。――それは正に現代のゴールドラッシュ。死亡率14%と云うリスクにすら怯まぬ若者達は、挙って京都に集結した。ある者は一攫千金を夢見て、またある者は迷宮探索に生き甲斐を求めて、そしてまたある者は…… これは現代に出現した迷宮街・京都に集う者達の、生死隣り合わせの群像劇である。 「もし、現代日本に怪物の潜む地下迷宮が出現したら?」――そんな発想の元に書かれたWeb小説『和風Wizardry純情派』。Web連載から5年を経て、大幅な加筆修正を加えて商業書籍化されたのが本書である。商業化に際しタイトルから名こそ外れたが、本作の根幹を為すのがあの名作RPG『ウィザードリィ』である事には変わりない。商店街に冒険者の酒場ならぬ居酒屋と簡易宿泊所とコンビニが軒を連ねていたり、冒険者達がインターネットで情報を発信したり、本業を持ちつつ休日に迷宮に挑む“週末冒険者”が存在する辺りは、現代日本が舞台ならではだろう。 Web連載当時、筆者は登場人物の生死をダイスで決めていた。故に主人公枠であろうが脇役であろうが、フラグを立てていようがいまいが、作中での死の可能性は均等に待ち構えている(そして京都にはカント寺院は存在しない!)。その事が物語に緊張感を持たせていると共に、群像劇としての重さと彩りを生み出している。ゲームをモチーフとしていながら登場人物の描写が所謂『ゲーム的』と一括り出来ないのも、その辺りが大きな要因だろう。 現代の京都の地下に広がる大迷宮は、同じくウィザードリィを原典とするニューマンハッタンと試練場に重ねる事が出来る。しかしそれ以上に注目したいのは、「ごく普通の日本の若者が、命を賭けた冒険に赴く」と云う点だ。日常の生活から非日常の冒険に――それは正にオリジンに降り立ったフォーリナーも同じだ。無論、迷宮街の若者達は選ばれた勇者でも無ければフレアも操れない。だが、非日常の世界で己の力を頼りに戦い、生死隣り合わせの状況に晒され、それでも生き延びんとする姿は、現代人のメンタリティを持つフォーリナーを演じる上で大いに参考になるのではないだろうか? とりあえず、ヘルメットは買っておこう。話はそれからだ。 マザーズ・タワー 著者:吉田親司 出版:ハヤカワSFシリーズJコレクション 西暦二〇三八年、スリランカ―インド間を結ぶ巨橋を拠点とする《マザーズ教団》は、難病の子供達の末期医療に従事していた。教団代表の葵飛巫子はインド州軍の襲撃を予測し、巨橋を崩壊させて教団ごと避難する決意をする。攻撃開始の日、それぞれの理由で巨橋に居合わせた4人の男達は、飛巫子の素顔と、人類の未来を左右する真の目的を知った。医学、財産、電脳、怪力――それぞれの要素に恵まれた男達は、彼女の為命と才覚の全てを賭け、太陽系最大の建造物・軌道エレベータの建造に挑む! 登場人物は個性溢れるという表現では言い表せない濃いメンバーばかり。脳医学の世界的権威にして凄腕の潜入捜査官、そして神懸かり的な女装の達人ノートン、仏に帰依した僧侶にしてスキューバダイビングとロッククライミングを極め、そして電脳の世界を支配する天才ハッカーナンディ、凄腕トレーダーにして天才弁護士、そして巨万の富を注ぎ込んで作り上げたハイテク密輸船の船長でもある飛鷹、南極で200人以上の子供をたった一人で救助した心優しき英雄にして、全長数キロの巨橋を支えるほどの剛腕と卓越した戦闘スキルで一個師団すらも壊滅させる戦闘サイボーグジェルジンスキー。そして、彼らが命をかけて守ると誓った美貌の少女飛巫女。 何と言う登場人物、何と言うカオスなのか。生まれた場所も時も異なる男達が共闘する様はまさにカオスフレアそのものである。普通の作品なら一人が持つ一つの要素だけでも十分主人公を張れるキャラクター達。これでもかっ!と言うほどミームとブランチをマルチしたその姿はカオスフレアをする際の参考にぴったりだ。その戦いの果てにあるものを、是非その目で確かめて頂きたい。 ドラキュラ紀元 著者:キム・ニューマン 出版:創元推理文庫 ヘルシング教授敗れる!ドラキュラ伯爵は女王との婚姻に成功し、遂に英国を支配した。そんな中、霧の都ロンドンにて吸血鬼娼婦ばかりを狙った連続殺人事件が発生。マイクロフト・ホームズの命令を受けて調査に乗り出したのは諜報機関ディオゲネス・クラブの敏腕スパイ、チャールズ・ボールガード。彼は四世紀を生き延びた永遠の美少女、吸血鬼ジュヌヴィエーヴと共に<銀ナイフ>或いは切り裂きジャックと呼ばれる殺人鬼を追いかける。事件の背後に存在するのはモリアーティ教授か、モロー博士か、はたまた……虚実入り乱れる一大群像劇! 「ドラキュラによって支配された英国」という舞台設定を用意する事で、19世紀を題材にした各種小説映画演劇作品の登場人物を集合させる事に成功した傑作クロスオーバーである。それだけでも文庫一冊に相当するだろう巻末の登場人物辞典も必見。知らなくても楽しめて、知っていれば更に面白い。これぞクロスオーバーのあるべく姿であろう。 尚続編の『ドラキュラ戦記』では、第一次世界大戦を舞台に連合国のラジオドラマ撃墜王部隊VSレッドバロン率いる史実のドイツエース部隊、そしてそれを見守るエドガー・アラン・ポーという夢の様な光景が繰り広げられる。そして第三作『ドラキュラ崩御』では20世紀のローマを舞台に、若き英国諜報員へイミッシュ・ボンド(!)が映画の登場人物、俳優の間を潜り抜けるミステリ・サスペンスに一変! 因みにシリーズ通してのヒロイン、吸血鬼ジュヌヴィエーヴは、同著者がジャック・ヨーヴィル名義で発表したウォーハンマーの小説作品『ドラッケンフェルズ』にも登場している。近年になって復刻されたので、是非手に取って頂きたい。 ドラグネット・ミラージュ 竹書房ゼータ文庫/著者:きぬたさとし(原案:賀東招二) 画:篠房六朗 小学館ガガガ文庫/著者:賀東招二 画:村田蓮爾 15年前、西太平洋上に突如として出現したゲートは、妖精や魔物が存在する剣と魔法の世界『レト・セマーニ』へと通じていた。現在、ゲート同時に出現したカリアエナ島サンテレサ市は地球側の玄関口として機能している。両世界の移民で賑わうこの街は、その一方で魔法的物品や近代兵器、民族対立と文化衝突の介在する混沌と化していた。 同僚を殺した呪術師と、誘拐された妖精を巡る事件を追っていた敏腕刑事ケイ・マトバは、同じく妖精を連れ戻す使命を帯びた騎士との合同捜査を命じられる。ところが現れたのは美少女騎士ティラナ・エクセディリカであった。習慣と文化の違いから衝突を繰り返しながら、二人は真実を探して走り出す。 きぬたさとし氏こと『フルメタル・パニック!』の賀東招二による、刑事ドラマ――というより、どう見てもカオスフレアな小説である。サンテレサ市は正しくニューマンハッタンそのものだし、神と正義と名誉の為に突貫するティラナと、現代社会のやり方で捜査を進めようとするケイの対立(「怪しい奴を片端から捕らえれば……」「こっちにゃ基本的人権って神様がいるんだよ!」)のやり取りなども、実にカオスフレア的だ。 またケイが「彼女は彼女達の『科学』に基づいて調査している」という事実を認め、ティラナが「この銃にはラーテナ(フレア)が宿っている!」と驚き、相互理解を深め、共に事件解決にあたる展開は、カオスフレアの参考作品としても、純粋な娯楽小説としても、太鼓判を押してお勧めしたい。 ゼータ文庫の休止により2巻にて終了・絶版となっていたが、2009年11月に小学館ガガガ文庫より『コップクラフト DRAGNET MIRAGE RELOADED』として再刊行され、2011年には新作となる第3巻も発売された。挿絵が篠房氏から村田蓮爾氏にバトンタッチし、ティラナの年齢を含め若干表現がマイルドになった辺りは評価が分かれる所だが、ここは素直に復活を祝いたい。 召喚教師リアルバウトハイスクール 著者:雑賀礼史 出版;富士見ファンタジア文庫 1996年東京都板橋区にある大門高校。この学校には生徒間の揉め事を当事者同士の戦いによって解決する「Kファイト」という制度があった。5月にその高校へと赴任してきた英語教師南雲慶一郎。大学卒業後世界各地を放浪した凄腕の武術家であり「神威の拳」という仙術闘法の使い手でもある彼は、Kファイト制度の切っ掛けになったケンカ番長にして神威の拳の使い手・草なぎ静馬を「調教」するために校長によって招聘されたのだった。しかし彼は一方で「異世界ソルバニアで召喚獣として怪物退治をしている」という誰にも言えない秘密を抱えていた。そんな彼の秘密偶然知ってしまった少女御剣涼子。彼女は草なぎ静馬を唯一武力によって倒した生徒であり木刀を使って戦う「サムライガール」であった。そして日本に帰ってきた慶一郎は、かつて唯一心から安らいでいられた母のような女性の忘れ形見・鬼塚美雪と出会う。そんな彼らの出会いは、やがて様々な騒動を引き起こしていく。 1996年から2010年まで発表された「リアルファイト・ファンタジー」小説。本編全19巻、番外編・短編集全5巻、御剣涼子を主役とした前日弾アーリー・デイズ編全3巻からなる。 装着者/武侠/クライムファイターであり悪人を見つけるとアニメのお面を被って《コスチュームヒーロー》となり容赦なく《ジョイントブレーク(手足)》などで容赦なく再起不能にし、異世界で怪物と戦う時は装着者の力で根源属性の攻撃をたたきこんで粉砕し、果てはスパイ衛星をも撃墜する作中の人物曰く「人間サイズの怪獣」な慶一郎(おまけにきっかけは強制されたものだったが彼を熱愛する香港人の嫁(武狭)もいる)、装着者/フィストウォーリアー/番長/アスリートで戦いをスポーツとしてとらえて存分に楽しみ、慶一郎との戦いで装着者の力の効率的な使い方に気づき必殺技《神気天翔》を開発し、情報収集にたけた相方をもつどんなことがあろうと前へ進む静馬、序盤で剣術の師に出会い剣の腕を磨き、後半では特殊感覚を身につけサポート向きだが怪物と戦う力を得た剣客/協力者の涼子といったようにタイプの違う濃い3人の主人公たち。逃げ脚とかく乱・変装術にたけ慶一郎を巧みに利用するアメリカ忍者、慶一郎との敗戦をきっかけに魔力によって再生し再戦を図る超巨大な装着者/コーポレートな悪の総帥、静馬とストリートファイトを繰り広げるフィストウォーリアーたちといったように様々な個性豊かな対戦相手達との熱いバトル。学校の人物もどう考えても黒幕そうな校長や筋肉フェチの保健教師、乗りのいいKファイトレポーターなど人物紹介だけで結構カオスフレア的だったりする。 またKファイトでは「戦いを申し込まれた方が試合形式を決められる」というルールのため、様々な種目が競技となる。アーリー・デイズ編3巻ではこのルールの下「草なぎ静馬を打ち負かせるジャンルの達人な少女」たちを集めた「新撰組」と静馬との「武力だけでない真剣勝負」というアスリート同士の争いが描かれていたりする。 この作品で語られる「神威の拳」、その本質はカオスフレアという存在を考えさせるものである。 また異世界「ソルバニア」は、後半で実は未来で「魔法」を開発した超人類にして魔王(リアリティハッカー/エンシェント)がリアリティハッカー能力を使って「完全なる世界」を作り崩壊に瀕した世界を再編するために虚数空間のコロニー・そしてその中の「無限に情報を記録できる魔道書」内で未来人たちの総意に基づき「完全なる世界」を創生するためのシミュレーター空間であることが判明。そして慶一郎を召喚していたリアリティハッカー/マシンライフの少女型セキュリティプログラム(《無言のヴェール》持ち)が大門高校に来たことで、高校はカオスな世界に・・・。 そしてこの作品最大のテーマの一つは、慶一郎と美雪の救済である。親に望まれずに生まれ孤独に育ち、やっと手にした安らぎも自らの過ちとそこから来る罪悪感から逃亡してしまい、生きているだけでいい・何も責任を負いたくない・自分からは何かをしようとは思わないと諦観してしまっている慶一郎。両親の死・そして自分だけが知る最悪なその真相から生に絶望し、自分を守ると誓ってくれた慶一郎を慕うが故に罪から来るジレンマに苦しんだあげく、終盤で魔王との契約で強大な力を手にし元々あった顕現者/巫女としての力を増大させ半ばダスクフレアと化してしまった美雪。この物語は南雲慶一郎という男が自分にパスがあると気付き聖戦士としての自覚を持って美雪を救うまでの物語とも言える。 リオフレード学院のノリやクライムファイターのあり方・フィストウォーリアーのストリートバトル、リアリティハッカーや侍、シングルとマルチの違いなどカオスフレアのキャラのネタが多数ある。ぜひ読んでみてほしい。
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小説名「The Gift of the Times ~時の贈り物~」 毎週日曜更新予定ですbほとんどの話が短いので飽きやすい人にもお勧めできますよ~∑d(゚∀゚) 暇つぶし程度にでも読んで行って頂けると嬉しい限りです。 各話の終わりにコメント機能を付けてありますので、ご意見ご感想等して下さるとなお嬉しいですヽ(゚∀゚ )ノ あと、当サイトはネット小説ランキングにエントリーしており、ページ下部の投票ボタンを押して下さると感激します(*´∀`) 1話 2話 3話 4話 5話 6話 7話 8話 9話 10話 11話 12話 13話 14話 15話 16話 17話 18話 19話 20話 21話 22話 23話 24話 25話 26話 27話 28話 29話 30話 31話 32話 33話 34話 35話 36話 37話 38話 39話 40話 41話 42話 43話 44話 45話 46話 47話 48話 49話 50話 51話 52話 53話 54話 55話 56話 57話 58話 59話 60話 61話 62話 63話 64話 65話 66話 67話 68話 69話 70話 71話 72話 73話 74話 75話 76話 77話 78話★NEW! ミニぎふ!~時の贈り物裏側~ 第一回 第二回 第三回 第四回 第五回 第六回 第七回 The Gift of the Times ~時の贈り物~に投票 ネット小説の人気投票ですb投票していただけると励みになります(*´∀`) トップページへ戻る
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小説作品の一覧 Free Life Fantasy Online ~人外姫様、始めました~ S-Fマガジン 2010年5月号 あたしメリーさん。いま異世界にいるの……。 かくも親しき死よ 天鳥舟奇譚 ほねがらみ ゆるコワ! ~無敵のJKが心霊スポットに凸しまくる~ りゅうおうのおしごと! アポカリプスエッジ ウは宇宙ヤバイのウ! ウルトラマンティガ 輝けるものたちへ クトゥルフと夢の国 クトゥルフ神話TRPG ノベル オレの正気度が低すぎる クトゥルフ神話TRPGリプレイ みなせゼミの名状しがたき夏休み クトゥルフ神話の宇宙怪物 闇にささやく者 クトゥルーはAIの夢を見るか? クトゥルーを喚ぶ声 クトゥルー怪異録 クトゥルー短編集 銀の弾丸 グラーキの黙示 特典冊子 シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 ソード・ワールド2.0リプレイ Rock n Role ダブルクロス The 3rd Edition クロウリングケイオスリプレイ 黄昏の探求 ダ・ヴィンチ 2007年10月号 トンネル・ザ・トロールマガジン Vol.5 ボギー 怪異考察士の憶測 マリノア 世界をえがいた女の子 モンスター娘のお医者さん 優しい幽霊たちの遁走曲/怪異筆録者 出航/血の配達屋さん 別冊幻想文学②クトゥルー倶楽部 別冊幻想文学⑩ラヴクラフト・シンドローム 史上最小の神話小説集 リトル・リトル・クトゥルー 小説 ティガ・ダイナ ウルトラマンガイア 超時空のアドベンチャー 幻想とクトゥルフの雫 幻想と怪奇 ショートショート・カーニヴァル 幻想と怪奇11 ウィアード・ヒーローズ 冒険者、魔界を行く 幻想と怪奇13 H・P・ラヴクラフトと友人たち アーカムハウスの残照 怪異の掃除人・曽根崎慎司の事件ファイル 生ける炎は誰が身を喰らうか 斬魔大戰デモンベイン 新本格魔法少女りすか 日本ホラー小説大賞《短編賞》集成1 殺されて井戸に捨てられたチート怨霊がイケない勇者とハーレム美少女達にコワーイお仕置きイッパイしちゃうゾ! 深海大戦 Abyssal Wars 深淵を歩くもの 滴水古書堂の名状しがたき事件簿 災難探偵サイガ 探偵の史上最悪の災難 玩具修理者 異界心理士の正気度と意見 1 ―いかにして邪神を遠ざけ敬うべきか― 百舌魔先生のアトリエ 破滅エンドから逆行したら、二周目は何故か愛されルートでした~闇堕ち令嬢は王子への復讐を諦めない(のに溺愛される)~ 秘神〜闇の祝祭者たち〜 書下ろしクトゥルー・ジャパネスク・アンソロジー 秘神界 歴史編 艦これRPGリプレイ 願いは海を越えて 虚実妖怪百物語 赤虫村の怪談 超常気象 異形コレクションLⅣ 超時間の闇 超訳ラヴクラフト ライト 1 超訳ラヴクラフト ライト 2 邪神の怪談 ぼくの学校には名状しがたき怖い神様たちがすんでいる 邪神宮-闇に囁くものたちの肖像 鍋で殴る異世界転生 風に乗りて歩むもの 魔王様の街づくり! ~最強のダンジョンは近代都市~ TRPGリプレイ小説 「TRPGリプレイ小説」をタグに含むページは1つもありません。 邦訳小説 アウトサイダー クトゥルー神話傑作選 アメリカ怪談集 インスマス年代記(上) インスマス年代記(下) カットナー クトゥルフ大全 魂を喰らうもの クトゥルフ神話への招待 遊星からの物体X クトゥルーを喚ぶ声 グラーキの黙示1 ミステリマガジン 2023年11月号 モンスターを書く 創作者のための怪物創造マニュアル ユリイカ1984年10月号 増頁特集*ラヴクラフト幻想文学の彼方に ラヴクラフトの世界 ラヴクラフトの遺産 別冊幻想文学⑩ラヴクラフト・シンドローム 古きものたちの墓 クトゥルフ神話への招待 壊れやすいもの 季刊 幻想文学 第6号 特集[ラヴクラフト症候群] 幻想と怪奇13 H・P・ラヴクラフトと友人たち アーカムハウスの残照 幽霊島 平井呈一怪談翻訳集成 悪魔のおとし子 世界こわい話ふしぎな話傑作集4 アメリカ編 戦慄のクトゥルフ神話 狂気の山脈 新編 怪奇幻想の文学4 黒魔術 猫の街から世界を夢見る 血を呼ぶ絵 世界こわい話ふしぎな話傑作集16 アメリカ編 超時間の闇 超訳ラヴクラフト ライト 1 超訳ラヴクラフト ライト 2 神話かもしれない要素がある小説 ホラー女優が天才子役に転生しました ~今度こそハリウッドを目指します!~ 多々良島ふたたび ウルトラ怪獣アンソロジー 都合のいい肉玩具 四匹の未亡人
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涼宮ハルヒが小説を書き始めたは、十一月も終わりに差し掛かった頃。 人々が灼熱に喘いでいた日々を完全に忘れ、冬の厳しさを身を持って思い出し始めた頃だった。 閉塞的な服装でとぼとぼと行き交う人々が世界に溢れ帰り、北高内はといえば、生徒たちは口々に学校指定のコートへの不満を漏らし、先日終わった文化祭での思い出を語り合い これより到来する冬を謳歌するべく、気早に道楽の計画を立て……極めて平穏で、ありふれた日々が流れていた。 ハルヒが小説を書くのだと宣言した時、俺はそれを止めようとはまったく思わなかった。小説を書く。それはハルヒがこれまでに企ててきた催しものと比べれば、遥かに大人しく、平穏な事のように思えたのだ。 少なくとも、ハルヒが一人大人しく執筆に勤しんでいる限り、俺を初めとするsos団の面々が面倒な作業に借り出されることもないだろう。 とは言え、あの涼宮ハルヒのすることである以上、そのうちには俺たちに、何らかの形で火の粉が降りかかる事もあるだろうとは思った。 が、しかし、それを理由にハルヒを止めようとした所で、ハルヒが俺の提言を聞き入れ、胸に咲いた花を散らせてくれるとは思えないし、そもそも、もしその時ハルヒを止めたところで、どうせすぐにまた新しい何かを持ってきて、騒ぎ立てるに決まっているのだ。 だったら、一先ずの実質的な被害は被らずに済みそうだと思えるあたりで妥協しておいたほうがいいじゃないか。 兎に角。俺たちにそれを宣言した翌日、ハルヒは学生鞄の中に、今の流行とは思えない、分厚いノートパソコンを詰め込んで登校してきた。 「こういうのは、慣れたやつじゃないと上手く行かないのよ」 ハルヒはそう言った。これまでの人生の中で俺は、パソコンを使って小説を書こうとした事はない、なので、ハルヒの云うそれが本当なのかどうか分からない。しかし、ハルヒにとっては、それは少なくとも正しいことなのだろう。 放課後の文芸部室で、ハルヒは団長席に腰を掛け、据え置きのパソコンのキーボードを脇に追いやり、そこに持参したノートパソコンを広げた。 ハルヒはそうして小説を書き始めた。これまでで一番平穏な始まりだった。 ◆ 一体どういった経緯で、小説を書くということに、涼宮ハルヒが興味を持ったのか。俺はそれについてハルヒから聞き出そうとする事が無かったし、ハルヒはそれについて、俺に口頭での説明をしようとは思わなかった。 そのことについて、長門はこんなふうに語った。 「涼宮ハルヒはあなたに対して秘匿している何かを持っている。涼宮ハルヒが創作しているものは、それの象徴」 掻い摘んで云うと、ハルヒの書いている小説とやらは、ハルヒが俺に知られたくない何かをテーマにしたもの。だということらしい。 「分からん。だったら初めから、俺たちに宣言なんかしなければいいだろ」 俺は言った。 「ハルヒが小説を書こうが円周率を暗記しようが、俺はそんな事知ったことじゃない。俺に知られたくなければ、初めから俺に知られないように、こっそりとやってたらいいんじゃないのか?」 「そのほうが効率は良い」 長門は頷き、俺の目を見た。 「しかし、涼宮ハルヒは、あなたの前で、小説を書くのだと宣言した。 その理由は、私の情報処理能力では、適切な理由は見つからなかった。 恐らくそれは、有機生命体特有の習性によるもの。 ……感情」 感情。 「私が考えるよりも、あなたが考えた方が、答えが見つかる可能性は高い」 考える頭と感情があるなら、自分で考えろ、コノヤロー。 掻い摘んで云うと、そういうことらしい。 有機生命体の俺は、それについて暫く考えてみた。しかし、俺の情報処理能力を持ってしても、適切な理由は思い当たらなかった。果たして俺は、本当に有機生命体なのだろうか? 「感情があるから、人は小説を書く」 オマケにように、長門はそう言った。 もしも長門が小説を書くとしたら、どんな理由で書くのだろう? ◆ 相変わらず授業の内容は一つも覚えていない。俺が部室を訪れると、俺より遅く教室を出たはずのハルヒが既に到着しており、定位置に腰を据え、例のノートパソコンと激戦のにらめっこを繰り広げていた。白のダウンを着込んだままだった。 「精が出るな」 俺が声をかけると、ハルヒは一瞬だけ俺のほうを見たあとで、再びパソコンの画面に視線を戻し、いかにも不機嫌そうに首を傾けた。 直感的に、ハルヒの精神のベクトルが前を向いていないと悟った俺は、なるべくハルヒを刺激しないように、コートをハンガーラックに掛け、軽い鞄を自分の席の脇に放り出した。室内に朝比奈さんの姿はない。二年は今日、放課後にミーティングがあるのだ。 まさかご機嫌斜めのハルヒ様にお茶を淹れさせるわけにもいかず、俺は自らポットの前に立った。見ると、ハルヒの手元には、ちゃっかりと自分の湯のみが置かれており、玄米茶と思わしき液体が注がれている。一体こいつは、どれだけのスピードでこの部室までやってきたのだろう。 「調子はどうだ?」 そのまま無言で居ることもできず、俺は恐る恐る、ハルヒに訪ねた。ハルヒは画面から視線を外さぬまま返答する。 「最悪よ、早くもスランプだわ」 ハルヒが小説を書き出してから一週間強。そろそろ行き詰ってもいい頃だとは思っていた。 ハルヒはカチューシャを邪魔そうに指で避けながら頭をぼりぼりと掻き、お茶を一息で飲み干した。俺のこの半年間の経験からして、今のハルヒは、一番機嫌の悪いときよりは随分と穏やかな状態を保っているように思えた。 「言葉はね、お茶みたいなものよ」 ハルヒは言った。 「そこらで見つけたもので、これでいいや。と、満足するのは簡単なのよ。でも、それよりもずっといいものがどこかにある、それは確かなの」 「お前は満足したくない」 「そうよ」 ハルヒは少し満足そうに頬を緩ませると、空になった湯のみを、俺の方にすいと押し出した。 涼宮ハルヒはスランプである。俺はそこらに転がっていた紙切れにそうメモし、頭の浅い辺りに仕舞いこんでおいた。 ◆ 世界は虚ろだ。少し気を緩めると、時間がダムの放流か何かのように流れ出してしまう。うとうとと眠りかけてしまい、その間に随分と長い時間が過ぎてしまっていた時の感覚に似ている。俺はそれに抗おうとする。しかし、それは俺の意識などでは太刀打ち出来ないほど、分厚く俺の意識を覆ってしまう。 気がつくと俺は、ハイキング・コースの通学路をとぼとぼと登っているところだった。 「なんだか最近、ボーっとしてる事が多くて」 俺の心を読んだのは朝比奈さんだ。お互いコートを着込んだ姿で、いい加減に塗りかえるべき煤けた校舎に見下ろされながら、彼女は言った。 「涼宮さんの動向が落ち着いてるからでしょうか、気が抜けてしまってるみたいです」 彼女はそういうと、自分の頭を小さなこぶしでコツリと叩き、舌を出し、愛らしく笑って見せた。俺の妹がおどけてするそれによく似ている。そうしていると、朝比奈さんはまるで、小学五年生の少女のようだった。 「今のハルヒは、落ち着いているんですか?」 「はい。少なくとも……あたしたちの組織が観測している限り、大きな変動は確認できてません」 俺は先週の終わりに、部室で頭を掻き毟っていたハルヒを思い出した。つまりあのあと、アイツははじめてのスランプとやらから無事抜け出す事が出来たのだろうか? 「今のところ、涼宮さんが小説を書き始めたのは、彼女にとって凄くいい事……であるように思えます」 「そのうち、何かに借り出されるかもしれませんよ。気をつけてないと」 俺はハルヒが、パソコンの画面から視線を上げ、唐突に傍らの朝比奈さんを捕まえ、なにやら無理難題を喚きたてる様を思い浮かべてみた。 さしづめインスピレーションを求めての臨時不思議探索といった所か。その場合、せめて校内のみに留まってくれれば、俺としてはありがたい。寒空の下に出て行くのはごめんだ。 朝比奈さんと別れ、教室に辿りつく。いつもの席のいつもの場所に、涼宮ハルヒの姿は無かった。HRが始まっても、一間目の授業が始まっても、ハルヒは現れなかった。まるでハルヒなど初めから存在していなかったとでも云うかのように。 ◆ 授業はいつの間にか終わっている。校内に昼休みを告げるチャイムが鳴り響いた直後だ。眠ってしまっていたわけでもない。ただ、まるでタマシイが一人で旅に出てしまっていたかのように、俺の頭の中に空白が存在している。 「寝坊したのよ」 昼休みの文芸部室に、朝から見かけなかったハルヒの姿があった。 ハルヒは弁当の中身を、律儀に箸で摘んで口の中へ移動させながら、昨日から引き続き心持ちのよくなさそうな声色で吐き捨てた。 「夢の中にね、小説の事が出てきたの。どうしてもうまい表現が見つからない部分を、何度も何度も書き直す夢。何度書き直しても終わらないのよ。そして、何か相応しい言葉が見つかるまで、あたしは目を覚ませないの」 「それで、見つかったのか」 「多分ね。」 どんなんだったかは、覚えてないわ。ハルヒはそう言って、又つまらなそうな顔をした。 ◆ 気がつくと時間が経っている感覚にも、だんだん慣れてきた。慣れてしまえば、時間が早く過ぎると言うのは悪くないものだった退屈な時間をごっそりと省く事が出来る。 時々考える。俺の脳が記憶していない過ぎてしまった時間というものは、果たして本当に存在していたのだろうか。などと。 「変わったこと、か。別に何もないけどな」 俺は電話口の古泉の問いかけに対して、大して考えもせずに返答した。時刻は午後十時二十分。まだ浅い時間だと云うのに、俺は不思議な眠気を感じていた。 「そうですか。でしたらよろしいのですが」 「何か問題でもあるのか? ……ハルヒの動向について、とか」 「いえ、何もありません。むしろ、このところはとても落ち着いていますよ」 朝比奈さんが言っていたのと同じ事を、古泉は言った。 「ただね。それが奇妙なんです。これまでにも、閉鎖空間の発生件数が落ち着き 変わった動向も見受けられず、平和な期間と云うものはありました。 しかし、そういった場合、決まって涼宮さんの機嫌はこの上なく良好だったのです。 しかしこのところ、涼宮さんの機嫌は……悪くはありませんが、そう良好とも思えませんよね?」 「そうだな」 「それが少し奇妙で……気になったんです。普通に考えれば 外からの要因でなく、自己の内部でわだかまりが発生している場合 それを発散させる宛てもなく……つまり、一番閉鎖空間が発生しそうなケースなんですよ。今回のようなケースが」 俺は古泉の話したことについて、色々な考えをめぐらせて見る。 「つまり、ハルヒはアレで意外と機嫌がいいのか?」 「単純に考えると、そうなのかもしれません。ですが……そう思って彼女に話しかけてみたところ、どうも機嫌が良いとは思えない返答をされてしまいまして」 電話の向こうで、古泉がすこし寂しそうに笑っている様子が、俺の頭に浮かび上がってくる。 「それと、個人的な事なのですが……このところ、何と言いますか。意識が不明瞭なのです」 「何だって?」 古泉は言った。 「何と申し上げたら良いのでしょうかね。妙にぼんやりとしているといいますか…… ただ注意力が散漫になるというのでもなく、気がついたら、随分と長い時間を 過ごして居る事があるんです。授業中とか、登校中だとか、そういう場合に」 「ボケたんじゃないのか。閉鎖空間の行き過ぎだ」 「ははは。だとしたら、責任の二割ほどはあなたにありますね」 古泉の軽口に何かを言い返そうとした直後、電話は切れてしまった。 プツリ。そんな音が聞こえたような気がする。 ◆ 夢を見る暇もないくらいに、深く、純度の高い眠りだった。いつの間にか眠ってしまっていた俺は、同じく、いつの間にか目覚めていた。 雑な朝食と、冷えた朝一番の空気を乗り越え、登校路を歩いている途中で、ハルヒの後姿を見つけた。朝食代わりのつもりなのか、片手にナッティ・チョコレート・バーをぶら下げ、それを齧りながら登校していた。 「昨日は早く寝たの。驚いたわ、早起きになっても良いって思ってたのに、きっちり目覚ましの時間まで寝ちゃったわ」 「またスランプの夢を見たのか?」 「昨日は何も見なかったわ。ただずーっと眠ってただけ。」 ハルヒはチョコレートをもぞもぞと噛みながら、むやみやたらに疲弊した顔をこちらに向けた。 「でも、スランプは抜けたのよ」 「そりゃあ良かったな」 「良かったわ。早寝して、朝起きたら、いきなり思いついたの。大急ぎでパソコンを開いて、その部分だけ書き上げてきたわ」 「だから、朝飯も食えなかったのか」 俺がそう茶々を入れると、ハルヒはきっと強張らせた視線で、俺の顔面を射抜いた。 「一回ぐらい朝ごはんの手を抜くだけで、スランプが乗り越えられるなら、安いもんよ。それに、糖分は大事なのよ。小説を書いてると、すごく頭を使うんだから。コレは栄養的に優れた補給食なの」 ダイエットに勤しむ同年代の女性達に聞かせたら、火でもつけられそうな言い分だった。 「早く続きが書きたいな」 独り言のように呟くと、ハルヒはダウンのチャックを胸の辺りまで降ろし、首をポキポキと鳴らした。風が吹く。冬の朝である。 ◆ 「古泉一樹が感じているもの。朝比奈みくるが感じているもの。あなたが感じているもの。そして、私が感じているもの。それらはすべて同一の必然」 放課後、部室以外の場所に存在してる長門。そんなレアモンスターと俺は、いつだか古泉と話をした中庭で、そのいつだかと同じように、丸いテーブルを挟んで向かい合って座っていた。 「しかし、我々の意識に発生している現象が、一体どのようなものなのか。何が要因となって発生しているものなのか。すべては不明。情報統合思念体の情報処理能力では、適切な説明が出来ないもの」 「それはやっぱり、ハルヒが原因なのか」 「そう。と、言い切れるだけの材料はない。しかし、そうとしか考えられない。しかし、観測はできていない」 何から何までが分からない。多分ハルヒの所為。そんなところだろうか。 具体的な被害は、どう言ったら良いんだ? 「……ランダムで発生する、突発的な意識の消失。しかし、意識自体には何の以上もない。我々の肉体は、我々が意識を失って居る間も、問題なく動作を続けている」 「話だけ聴くと、二重人格みたいだな」 「症状としては、有機生命体の陥る解離性同一性障害の軽度の症状と似通っている。しかし、本質的には異なるはず」 要するに何も分からないのだ。分かったのは、やっぱりハルヒは、只で転んではくれないのだと云うことぐらいだ。 「対処法は、現段階では適切なものが提示出来ない。大きな実害は発生していないから、このまま暫く様子を見るほかない。……あなたは、問題ない?」 「ああ、大丈夫だよ」 「……そう」 長門は最後に一言だけ言い残すと、コーヒーの紙コップをテーブルの上に残したまま、ゆらりと立ち上がり、そのまま校舎へと消えて行ってしまった。 後に残された俺は、二人分の紙コップをゴミ箱へと放り捨てた。 ◆ 「強引にお連れしてすみません。タイミングが重要だったものでして」 いま 俺はいつだかのようなタクシーの車内で、意味の分からない古泉の言葉を聴いていた。辺りは薄暗い。 「午後九時です。お食事中のところを呼び出させていただきました。覚えていらっしゃいますか?」 「さっきのことだろ」 「そう、さっきの事です」 古泉は言った。 「先に申し上げておきますが、今日は別に、貴方をどこかへ連れて行く気はありません。ただ、外は寒いですから。お話をするなら、いっそ車の中のほうがよろしいかと思いまして」 「喫茶店でもどこでもよかったんじゃないのか」 「次回からはそちらをチョイスいたしますよ。ですが、今回は本当に、できるだけ早く本題に入りたかったので」 「なら、こんな無意味な問答をしてる場合じゃないだろ。……そもそも、お前が何故そんなに急いでるのか、俺には見当がつかんのだが」 「何と言いますか。早くしないと、またお互い、ぼんやりとしてしまうではないですか」 穏やかな声色を保ったままで、古泉は言った。 「……実のところ、僕はどうしても気になっていたんです。 これまで経験したことのない奇妙な意識の欠落。 僕はそれが、どうしても、涼宮さんに由来する何かであるような気がしたんです。 調べてみたんですよ。僕と涼宮さんの生活を照らし合わせて 僕が件の『ぼんやり』を感じている時、涼宮さんがどうしているかを」 俺に何か相槌を求めて居るのだろうか。特に相応しい相槌が思いつかなかったので、俺はそのまま黙り、古泉が話すのを待った。 「それで、分かったんです。……僕らが意識を失って居る間、涼宮さんの意識は、僕らではない、他の何かに向けられているんです」 「……もう少し分かりやすく話せ」 「失礼。そうですね……逆に。涼宮さんが僕らの事を考えて居るあいだ、僕らは自分の意識を保っていられている。とでも言しょうか」 古泉は話した。 「僕らが意識を失っている……この表現もおかしなものですが。 その期間の涼宮さんの行動をチェックしてみたんですが 主に登校中、或いは授業中。そして、睡眠中。 大体の場合が、この三つのケースのうちのいずれかに当てはまりました。 逆に、僕らが現在のように、明確に意識を保っていると言えるとき。 涼宮さんは、文芸部室に居て、僕らと会話をしている。そして、或いは……小説を書いたり、小説についての事を考えていたりする。」 どうも古泉は大マジメらしい。 なんだ? ハルヒ、思う。故に、我有り。コギト・エルゴ・スム。とでも言いたいのか? 「冗談のように思っていらっしゃいますか? ですが、これは結構マジですよ」 やがて、タクシーは止まった。俺たちの街から電車で五駅ほど移動した街にある、中くらいの規模の自然公園の門の前だった。 当たり前のように古泉が降り、俺も其れに続く。冷たい空気が、パジャマの上にコートを羽織っただけの体を甚振る。 「彼女の書いている小説が一体どんなものなのか…… 僕にはわかりませんが、それは恐らく、我々……と、言っておきましょうか。 我々にまつわる何か、なのだと思われます。 そうすれば、線引きは容易くなります。 即ち。彼女が我々を意識している間、我々は明確に意識を保っていられている。 分かっていただけますか?」 分かりたくないな。 一体何故そんな事になった? 「さあ……それは僕にも見当がつきません。 ……そうですね、或いは。いつからか、我々は 涼宮さんの創り出した世界に入り込んでしまっているのかもしれませんね」 「あいつが小説を書き出してからか」 「恐らくそう思われます。が、本当はもっと早くからだったのかもしれません。 ……彼女が小説を書き始めた理由はわかりませんが 考えようによっては、小説を書くことと、閉鎖空間を作り出す事は 似ていると思いませんか?」 「……似てる、かもな」 俺はハルヒが、自分の想像した理想や、自分の感じた世界への不満や……兎に角いろいろな事を、文章にしてノートパソコンにぶつけている様を想像してみた。 なるほど。それは閉鎖空間と同じメカニズムだ。完全に自分の思うとおりになる世界での、ストレスの発散。 きっとハルヒの書いた小説には、主人公が居る。その主人公は、閉鎖空間における、あの青の巨人に当たる役割を果たすのだ。 「彼女がこれまで作り出してきた閉鎖空間とは違う 彼女が自ら意識して作り出すものです。 ……多分、そこに力が作用してしまっているんでしょう。 僕らは今、彼女の小説の中に居るのですよ。そう考えると、なかなか素敵な事だと思いませんか?」 「迷惑な事だ」 「そうですか? 悪くないと思いますよ。 意識が飛ぶといっても、本当に眠り込んでしまうわけではありませんし。 僕の仮説が正しければ、涼宮さんの小説が完成したとき この奇妙な現象は収束するはずです。 そして……小説は、閉鎖空間とは違い、後に残ります。 彼女が自分の中に生まれたわだかまりを 自分の力で乗り越えた、その証です。 ……素敵だと思いますよ、僕は。本当に」 「……そうかもな」 俺は白い息を漏らしながら、空を見上げた。猥雑とした街の空にしては、今日は星がよく出ている。ここが、ハルヒの小説の中? ……不思議なことじゃないな。俺はハルヒの創り出した世界の中にさえ行った事があるのだ。小説よりも実体のない、どこか宇宙の端っこに生まれてしまった、適当な世界だ。 「何を書いているんでしょうねえ」 隣を見ると、古泉が随分と楽しそうな様子で、俺と同じように夜空を見上げていた。 俺は目を閉じて、ハルヒがキーボードを叩く音が聞こえないかと、耳を済ませてみた。しかし、遠い街の車の音と風の音以外、何も聞こえはしなかった。 ◆ ハルヒ、思う。 故に、我有り。 ◆ 「家に帰る道がね。すごく嫌いだったの、昔」 夕焼けを背中に浴びながら、ハルヒは言った。 「丁度今くらいの時間。学校が終わって、みんなで目一杯遊んで…… 夕焼けの放送を聴いて、みんなで分かれて、家に帰るとき。 どんなにそれまで楽しく遊んでいても、その瞬間、現実に戻るの。 それは抗いようのないことなのよ。楽しい時間を過ごして居る間は そんな事は忘れちゃう。でも、そのときは必ずやってくる ……それがすごくいやだった」 振り返るハルヒの顔は、以前のようにハツラツとはしていないものの、ここ最近のやつれきった様子と比べれば、随分と健康的だ。 「中学に上がって、友達と馬鹿騒ぎもしなくなって…… そしたら、それが世界の全てだと思えば、それで楽だった。 もう二度と、あんなぽっかりとした気持ちにならなくて済むと思ったの。 でも……いつからか、また楽しい事を知りたくなった。 寂しくなるのは分かってるのに、馬鹿よね。 でも、私が楽しいと思う事を目一杯楽しむことは 私の行っていた中学校じゃ難しかった。……話したわよね」 「ああ」 「中学校の三年間は、そんな感じのまま過ぎて…… 高校に入学して、SOS団のみんなと会った。キョン、あんたが最初だったわね。 ……楽しかったわ。野球大会も、夏の旅行も、すごく楽しかった。 でも、やっぱりやってきたのよ。例の、どん底みたいな寂しい時間が。 ああ、やっぱりなって思ったのよ。 ……でも、もうあたしは、それを寂しいと思うだけの子どもじゃないの。 立ち向かおうとしたのよ。悲しみなんてどっかに押し寄せるくらい… 今以上に楽しい事を探そうとした。 ……それで、書いてみたの。……小説をね」 冷たい風が吹く。 「でも、本末転倒よね。小説を書いてばっかりで、みんなと遊ぶのもおざなりになっちゃってたし。キョン、構ってあげなくて寂しかったでしょ?」 「ぬかせ」 「何よそれ。正直に言いなさいよ、あたしが遊んであげなくて寂しかったでしょ? ふふん、あんたも書いてみれば? 小説」 背中に夕陽を浴びるハルヒを、細めた目で見る。その上機嫌な表情を見る限り、小説療法とはなかなか効果が期待できるもののようだ。 「で、どんなのができたんだ?」 「それはヒミツよ。あとちょっとの辛抱でしょ、家までガマンしなさい」 「学校に持ってくりゃ良かったじゃないか」 「いやよ! 誰かに盗み見られたらこまるでしょ」 誰もそんな物を見やしないだろう。 「……そうそう、その話で思い出したわ。一つだけね。思ったんだけど」 ハルヒが口を開く。 「あたしね、結婚。って、どういう事だか分からなかった。 っていうか、人を好きになる、惚れた腫れたも、いまいち分からなかったわ。 例えば好きな人とデートしたって、結局帰らなきゃいけないときが来るんだし。 そもそも人を好きになる事が分からないのに 結婚ってのは一体何なのよ? って思ってたの ……でも、違うのよね。考えて見たら。 楽しい時間の後の、家に帰るその時間さえ、一緒にいちゃえるようにする。……そのために、人は結婚するんでしょ?」 「……俺に聞かれても困るな」 「あんた、ロマンが無いからね」 ハルヒが笑う。知らぬ間に、随分と少女趣味になったようだ。 「そろそろよ」 本格的に夜の帳が折り始めた頃、ハルヒは俺の傍から駆け出し、進行方向から右に逸れる横道の前で俺を振り返った。 「早くしなさい、キョン! ありがたく思いなさいよ、あたしの部屋に上がるのは、SOS団で一番乗りなんだから!」 「ああ、はいはい」 子どものようなハルヒの振る舞いに苦笑しながら、俺は小走りで、ハルヒの元へと駆け寄った。白い息が揺れ、赤い色に反射する。 「いい? 笑わないで読むのよ? 笑ったら、死刑だから」 ハルヒは追いついた俺を更に引き離すべく、閑静な住宅地の奥へと駆けていった。白のファーが揺れる。遠くで鳥が鳴く声が聞こえた気がした。 おわり
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マークウィリアムフィリップカンリフリスター(マーク・ウィリアム・フィリップ・カンリフ=リスター) 連合王国貴族のスウィントン伯爵の一。 関連: ウィリアムエドワードカンリフリスター (ウィリアム・エドワード・カンリフ=リスター、息子)
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ピクミン交流広場の小説 俳句系投稿掲示板に投稿されている。ピクミン3に関係のある小説です。 虹色オニヨン ピクミン3 ~新たな冒険~
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マクシミリアンフィリップヒエロニムス(マクシミリアン・フィリップ・ヒエロニムス) バイエルン選帝侯の系譜に登場する人物。 ロイヒテンベルク公。 関連: マクシミリアンイッセイ(2) (マクシミリアン1世、父) マリアアンナフォンエスターライヒ (マリア・アンナ・フォン・エスターライヒ、母)
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小説 (書き終わったら各自自分の所に置いて下さい) 色波 ○パブロフの犬 ○お題小説『空/地底/愛/100円玉』 シーサー 未確認動物 読み切り yuki@ わるきゅーれ DON・My※
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フィリッパドゥーチ(フィリッパ・ドゥーチ) フランス王の系譜に登場する人物。 関連: ジャンアントニオドゥーチ (ジャン・アントニオ・ドゥーチ、父) アンリニセイ(2) (アンリ2世、夫) ディアーヌドフランス (ディアーヌ・ド・フランス、娘) ジャンドサンセヴラン (ジャン・ド・サン・セヴラン、夫) 別名: フィリッピーヌデデュック (フィリッピーヌ・デデュック)