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絶対絶望少女 part68-24~34・38~47・49~59・65~74・76~86・107~121 24 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 19 06.71 ID MjoKrHxS0 書き込みテスト 絶対絶望少女、ざっくりまとめ終えたので投下します。 今回はプロローグの終わりまで投下する予定です。 25 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 21 13.32 ID MjoKrHxS0 至って普通の女子高生の苗木こまるは、監禁生活と言う異常な日常を送っている。 窓の外には頑丈な鉄格子が嵌められ、玄関のドアは決して開かれることはない。 朝昼晩に与えられる食事が数少ない犯人との接触だが、壁越しのため姿は見えないし声も聞こえない。 そのため、誰が監禁しているのかも、その目的も一切不明のまま一年半が経つ。 お陰で、2LDKという小さな世界での生活にも慣れてしまった。 毎朝制服に着替え、玄関に向かって抵抗を続けるのも、日課のようなものだ。 脱出を諦めたわけではないが、希望を持っているわけでもない。 希望を抱くこともなく、かといって絶望することもなく。こまるはそんな日々を過ごしている。 こまるがいつものように朝食を食べていると、玄関から物音が聞こえてきた。 誰かが助けに来たのだろうか? 外の何者かに向かって助けを求めるが返事は無く、代わりに鋭い爪が分厚いドアを貫いた。 縦に裂かれたドアの向こうから、赤い光がこまるを捉える。 歪んだドアを引っぺがして現れたのは、白と黒のクマ――モノクマだった。 ○苗木こまる(ナエギ コマル) 1の主人公である苗木誠の妹。声が変わりアンテナが生えた。兄は超高校級だが、彼女自身は何の変哲もない一般人。 どこかの2LDKで理由もわからぬまま監禁生活を送っていたが、それも突然終わりを迎える。 状況をほとんど把握できないせいで、序盤は怯えるか戸惑ってばかり。 ○モノクマ おなじみのモノクマだが、こまるは監禁されていたので外の出来事を殆ど知らない。のでモノクマのことも知らない。 両手に備えた鋭い爪に鉄板程度なら簡単にぶち抜くパワー、丸い体型に似合わない俊敏さを持ち合わせており、大人でも立ち向かうのは難しい。 今回は自動操縦なので、「うぷぷ」とか「ぐへへへ」とか声は発するものの、意思疎通は不可能。 普通のモノクマ以外にも、爆弾を投げてくる「ボンバーモノクマ」やゾンビ映画に出てきそうな「ジャンクモノクマ」など、バラエティ豊かなモノクマが登場する。 モノクマの襲撃を逃れ、外に飛び出すこまる。マンション内と思しき廊下では、あちこちから火の手があがっている。 辛うじて辿り着いたエレベーターホールで、こまるは数人の黒服の男達に出会う。 先頭に立つ青年が、こまる――の背後に迫るモノクマに拡声器のようなものを向けた。 そこから放たれた青い光が命中すると、モノクマは一瞬で爆発した。 26 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 24 02.67 ID MjoKrHxS0 「苗木こまる…だな。未来機関第十四支部、十神白夜だ」 ○十神白夜 1の生き残りで、超高校級の御曹司。今回はちゃんと本物。 コロシアイ生活を生き延びた後は、仲間と共に未来機関に所属している。 十神がここに来たのは、こまるを助けるためだと言う。 このマンションに「要救助民」が監禁されている…そんな情報が未来機関に入って来たのだ。 十神は訝しんでいる。情報は正しかったようだが、何故ここにモノクマがいるのか。 未来機関が来たのを見計らったように始まった暴動もタイミングが良すぎる、と。 モノクマのことも、外で起きているらしい暴動のことも知らないこまるは混乱するばかりだ。 「モノクマを知らないとは呑気なものだな。そんなところは、最初に会った頃のあいつとそっくりだな」 「あいつ…?」 本当に何も知らないようだな、と呆れた様子の十神。 「だったら教えてやるが……今はそんな無駄話をしている場合ではないぞ」 十神の視線の先では、未来機関のメンバー達がモノクマの群に襲われていた。 天井から、廊下の奥から、たくさんのモノクマが溢れてくる。 十神は拡声器のような機械をもう一つ取り出し、こまるに渡す。 ○拡声器型ハッキング銃 未来機関が開発したハッキング装置。プログラムコード=コトダマを電波で飛ばす仕組み。 自発破壊を促す「壊(コワレロ)」は、モノクマも一撃で破壊する威力を持つ。 停止している機械を強制作動させる「動(ウゴケ)」など、破壊する以外にも様々なコトダマがある。 27 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 26 52.94 ID MjoKrHxS0 「向かいのファミレスに未来機関の人間が待機している。お前にも逃げるくらいは出来るだろう」 言われるままエレベーターに飛び込むこまる。 モノクマと戦う十神達を残して、エレベーターは動き始めた。 一年半ぶりの外だが、そこでもモノクマが人々を襲っている。 ファミレスに入って助けを求めるが、ガラスを破り飛び込んできたモノクマが店員に襲いかかった。 店内にいた客達も、なだれ込んできたモノクマに次々と殺されていく。 「緊急事態です、皆さん、ただちに避難してください!」 設置されたテレビの向こうでは、キャスターが繰り返し叫んでいる。 避難と言われても、いったいどこに逃げればいいのか。 運良く物陰に隠れられたが、見つかるのも時間の問題だ。 「逃げないと……」 ここから逃げないと。こまるは何とか自分を奮い立たせ、ハッキング銃でモノクマを撃退した。 静まり返った店内に一人立ち尽くすこまる。そこに誰かの声――笑い声が響く。発生源はテレビの中だ。 モノクマに襲われたのだろうか、避難を呼びかけていたキャスターは血塗れになって伏している。 「がおーっ、オレっちはゾンビだぞーっ!」 突然、テレビの中に数人の子供が現れた。彼らはキャスターの死体を使ってゾンビごっこに興じている。 死体を弄び、走り回る子供達。その様子は、まるで人形で遊んでいるかのようだ。 中央に車椅子の少女が進み出て、カメラに向かって語りかけてきた。 「はじめまして。私達は希望の戦士です。モノクマちゃんの、ご主人様です。 私達は、この街に子供達の子供達による子供達のための楽園を建設することにしました。 そういうわけなので、大人の皆さんはもう必要ありません! さようなら~」 少女の宣言を最後に、テレビは沈黙した。 28 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 29 52.07 ID MjoKrHxS0 【プロローグ 希望の妹と希望の戦士】 今から一年半と少し前、世界を一変させたある事件が起きた。発端はある学校――希望ヶ峰学園で起きたとされる学生運動。 それはあらゆる地域を巻き込んで、深刻な事件へと発展していった。 窃盗、殺人、放火…あらゆる犯罪の発生率が増加。それは復讐という形で更なる事件を引き起こし、犯罪発生率は劇的に跳ね上がった。 やがて事件は戦争へと発展…世界は絶望に染め上げられた。 こまるは、それでも大丈夫だと信じていた。自分の世界は大丈夫だ、と。 クラスメイトが7人死んだ時も、まだ大丈夫だと自分に言い聞かせ続けていた。 だが、こまるの世界はある時あっさりと崩れ去った。見知らぬ男達によって家族と引き離され、監禁生活が始まったのだ。 それから一年半が経ち、絶望が終わった先に待っていたのは更なる絶望。 希望なんて持つもんじゃない……彼女は改めて、そんな思いを噛みしめている。 相変わらず外ではモノクマが暴れまわっている。 十神の言葉を思い出し、ファミレスにいるはずの未来機関の人間を探す。 それと思しき男は傷を負ってはいるものの、何とか生きていた。 こまるが要救助民だと知った彼は裏口を指さす。裏口の先には公園がある。そこに未来機関のヘリがあるはずだ。 その時、再びモノクマが飛び込んできた。 「急げ、逃げるんだ!」 躊躇するこまるだが、自分が残ったところで何も出来ないに決まっている。だから逃げることしか出来なかった。 外は酷い有様だった。そこかしこに死体が転がり、地上では何度も爆発が起き、爆炎が空を赤く染めている。 涙目になりながらも公園に辿り着いたこまるは、待機していた未来機関の人間から大まかな事情を聞かされた。 29 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 32 09.07 ID MjoKrHxS0 ○未来機関 「人類史上最大最悪の絶望的事件」から世界を立ち直らせるために活動している組織。 要救助民=こまる達を救出するため、この街にやって来た。 ○塔和シティ 巨大な埋立地の上に建設された都市。「塔和シティ」というのは通称だが、今ではそちらの方が有名。 こまるが監禁されていたマンションもここにあった。 ○塔和グループ 塔和シティを統治する、最新鋭の技術を誇るIT企業。 毒ガスによる大気汚染を解決する空気清浄器を短期間で開発するなど、世界の再建に大きく貢献している。 塔和グループの威光のおかげか、塔和シティは世界中を席巻した絶望的事件の被害をほとんど受けていない。 塔和シティを突如襲った暴動。現れたモノクマ、謎の子供達の放送。 未来機関も、何が起きているのかは把握出来ていないらしい。 一旦塔和シティから脱出しようという未来機関の提案に、こまるも賛同する。 ここにいたらきっと殺されてしまうだろうし、何よりも家族に会いたいという思いがあった。 こまるは家族の消息も知らないまま一年半を過ごしてきたのだ。 「ああ、君の家族なら……」 「ちょっと待って……何か、聞こえない?」 耳を澄ましてみると、歌が聞こえてくる。いつの間にか、小さな子供が公園の遊具の上に腰かけて歌っていた。 その背後から何体ものモノクマが現れ、未来機関の人間に襲いかかる。 未来機関のメンバーはモノクマに襲われながらも、こまるをヘリの中に匿う。だが、操縦席は既にモノクマに乗っ取られていた。 こまるとモノクマを乗せて、空高く舞い上がる未来機関のヘリコプター。 モノクマの滅茶苦茶な操縦に耐えきれず、操縦桿がへし折れる。制御不能に陥ったヘリコプターは地面へとまっさかさま。 爆発炎上するヘリから何とか脱出したこまるだが、その目の前にモノクマが立ちはだかった。 前だけではない。右にも左にも、背後にも。降って湧いたように現れたモノクマ達が、こまるを包囲する。 絶望的な状況。無数のモノクマの視線の中で、こまるは意識を失った。 30 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 34 36.96 ID MjoKrHxS0 …誰かの呼びかけで、こまるは目を覚ました。いつの間にかベッドに寝かされていたようだ。 またしても、どこかわからない場所に連れて来られたらしい。 側にいた青年は「召使い」と名乗った。 ○召使い どう見ても2の「超高校級の幸運」狛枝凪斗。左手に手袋を付けている以外は特に変化なし。 安全なはずの塔和シティにやって来た早々に暴動が発生し、希望の戦士に捕まってしまった不幸な人。 必死に命乞いをして子供達の召使いになることで助けてもらった。 召使いの印なのか、首には鎖付きの首輪をはめている。 狛枝もとい召使いによると、こまるは丸二日もの間眠っていたらしい。 「丸二日……世界が様変わりするには、十分過ぎる時間だよね。 けれど、キミは世界の事なんかより、自分の事の方が心配なんだよね? これからどうなっちゃうのか、ってさ」 「ど、どうなるんですか……?」 普通すぎるこまるの反応に、召使いは溜め息をついた。曰く「キャラが立っていない」そうだ。 召使いはこまるを「平凡で退屈でつまらない人間」と評するが、だからこそ合格だと語る。 世界の九割は、平凡で退屈でつまらない人間で構成されている。彼らが感情移入出来るのは、こまるのような人間なのだと。 しかしそれは召使いの意見であって、「彼ら」には関係の無い話だ。だから、テストを受けてもらわなければならない。 話が全く見えてこないこまるに、召使いは例のハッキング銃を渡した。 彼はこの装置を解析して「ゲームバランス的に」調整しておいたらしい。 テストの内容は、この部屋から出て「みんな」のところへ辿り着くこと。 ハッキング銃を返してもらった事は口外しないようにと念を押して、召使いは立ち去った。 未だに状況が掴めないままだが、自分はテストとやらをクリアしなければならないらしい……。 部屋の外には、例の如くモノクマがウロウロしている。 召使いの調整のせいか、ハッキング銃は大幅に弱体化されていた。 コトダマの種類が減っているし、弾数制限もついているし、モノクマを一撃で破壊できるはずの「壊(コワレロ)」は半減以下の威力になっている。 それでも、進むしかない。辿り着いた部屋には、テレビの中ではしゃいでいた例の子供達…希望の戦士が待ち構えていた。 「お姉ちゃん、いらっしゃい。来てくれて嬉しいな♪」 31 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 37 11.98 ID MjoKrHxS0 何もわからないこまるのために、希望の戦士は律儀に自己紹介をしてくれる。 ○希望の戦士 モノクマを従える五人の子供達。彼らは皆、希望ヶ峰学園付属小学校の生徒だったらしい。 彼らの目的は、塔和シティに「子供の楽園」を作る事。 ○大門大(ダイモン マサル) 希望の戦士の勇者にしてリーダー。希望ヶ峰付属小学校では「超小学生級の体育の時間」と呼ばれていた。 肩書からも見た目からもわかるように、運動得意の元気っ子。 リーダーらしく希望の戦士をグイグイ引っ張る、ガキ大将っぽいポジション。 ちなみに彼がリーダーなのは、ジャンケンで勝ったから。 ○新月渚(シンゲツ ナギサ) 希望の戦士の賢者兼副リーダー。「超小学生級の社会の時間」と呼ばれていた少年。 得意科目は体育以外全般で、二つ名は社会のエリートになることを期待された故のもの。 子供達の中では冷静な性格で、ともすれば脱線しがちな子供達をまとめる役どころ。 ○煙蛇太郎(ケムリ ジャタロウ) 希望の戦士の僧侶であり、「超小学生級の図工の時間」と呼ばれていた少年。 布きれを繋ぎ合わせたような、奇妙なツギハギの覆面を被っている。 他人に嫌われることで安心を覚えるという変わった思考を持つ。 ○空木 言子(ウツギ コトコ) 希望の戦士の戦士担当、キャワイイものが大好きな女の子。 「超小学生級の学芸会の時間」と呼ばれていた天才子役。 CMに出演するなど知名度は高かったようだが、本人曰く昔の話。 あらゆる方面で過激な言動を連発する。 ○モナカ 希望の戦士の魔法使いでムードメーカー、「超小学生級の学活の時間」と呼ばれていた。 足が不自由で、常に車椅子に座っている少女。 人をまとめる能力に優れ、彼女の周りには自然と人が集まってくるらしい。 基本的にほんわかしているが、子供達の中では多分一番カッ飛んでる。 ○希望ヶ峰学園付属小学校 コドモの才能の育成と研究を行う特権的教育機関。 希望ヶ峰学園への進学者を多数輩出する小学校でもある。 高い水準の教育が行われており、入学試験は難関大学にも匹敵する難易度だとか。 32 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 39 20.25 ID MjoKrHxS0 希望の戦士を名乗る彼らは、魔物から世界を救う救世主であると主張する。 そして、今の自分達は塔和シティで最もえらい! つまりこの街の支配者なのだ。 正直、冗談にしか思えない。魔物だとか、支配者だとか…そもそも子供なんかが一つの街を支配するなんて…。 「子ども『なんか』?」 こまるの呟きに、子供達の顏から笑みが消えた。 「あーあ……『なりかけ』だからどうかと思っていましたけど、もう立派な魔物みたいですね」 力さえあれば、大人や子供といった順列は簡単にひっくり返せる。 彼らの言う「力」とはモノクマのこと。モナカの魔法で、モノクマ達は希望の戦士の言いなりだ。 残酷なことはやめてくれという懇願にも、五人は耳を貸してくれない。 塔和シティの大人を排除する事は、楽園の建設には不可欠なのだ。 「あなた達の言ってる事…さっぱりわかんないよ…」 理解できない様子のこまるに、とうとうモナカが駄々をこねはじめた。 「わーかーらーなーくーなーいーのー! モナカがー、そうだってー、言ったらー! そーうーなーのー!」 他の4人が、慌ててモナカをなだめる。 モナカを怒らせたこまるに、リーダーの大門は怒り心頭。絶対にお前を狩ってやると宣言する。 狩りとは、モナカ考案のゲームのことだ。 ○ゲーム ターゲットの「魔物」を塔和シティに放ち、誰が最初に狩るかを競うゲーム。 通称デモンズハンティング、掛け声は「一狩りいこうぜ!」 33 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 42 20.21 ID MjoKrHxS0 いつの間にか背後にいた召使いが、こまるの左手に腕輪を取りつけた。 それはゲームのターゲットに与えられる特注の腕輪。ゲームのターゲットとは、他でもないこまるのことだ。 ゲーム開始を宣言する希望の戦士に、怯えながらも問いかける。 何故こんな残酷なことを? 少なくとも自分には、そんなことをされる理由なんて無いはずだ。 それを聞いた子供達は爆笑する。楽しいからゲームをやる、当たり前のことじゃないか、と。 「お姉ちゃんの基準で考えても意味ないんだよ。楽しいから、これをやるんだよ」 どこまでも無邪気な子供達。どうやら冗談ではないらしい。 新月だけは乗り気ではないが、それは楽園の建設を優先したいからであって、大人を殺すこと自体には何の躊躇いも無いようだ。 こまるには理解できない。彼らがどうしてそんなに笑っていられるのか、どうしてもわからない。 大人から見ればそうなのかもしれないが、希望の戦士からすれば、そんな言い分はどうでもいいのだ。 「それにね、苗木こまるさん。今のあなたに何かを選ぶことなんて出来ないんだよ。 だって…あなたがいる場所は道じゃないもん」 モナカは言う。こまるが立っているのは道ではなく、ポッカリと空いた穴の上。こまるに出来るのは、奈落に落ちていくことだけ。 その言葉を現実にするように、足元の床が抜け落ちる。奈落の穴を抜けた先は、塔和シティ上空。 背中のパラシュートが開かれ、こまるは風に流されるまま、落ちて行った。 「これで、やっとピースが揃ったね。後は絶望の蓋が開かれるのを待つだけか…」 ゲーム開始に沸き立つ希望の戦士。その輪から外れて、モナカは一人微笑んでいる。 そして、召使いにも彼なりの思惑があるようだ。 「さあ、頑張ってね。キャラの立っていない、平凡で退屈でつまらない…主人公さん」 34 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 46 34.90 ID MjoKrHxS0 ここまででプロローグ終わりです。 あと自分は前スレで予約した者ですが、 18の書き込みは別の方です。 38 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 01 16.14 ID kc3T5ZYY0 絶対絶望少女、プロローグでわかりにくい部分があったので補足です。 最後にこまるが落っこちた場面は、飛行中の巨大ヘリから空中に放り出される→パラシュートで落下…という流れです。 そいではチャプター1投下します。 39 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 03 39.85 ID kc3T5ZYY0 【チャプター1 地獄の中心で愛を叫ぶマモノ】 どこかの屋上に墜落したこまる。ピンチなのは相変わらずで、フェンスをよじ登りモノクマが迫ってくる。 そこに突然、セーラー服の少女が現れた。彼女は両手に持ったハサミで次々とモノクマを倒していく。 「見~っけ。あんた、苗木こまるっしょ!? 違うなら違うって言ってよ、バラすから!」 いきなり物騒なことを言われる。問答をしている間にもモノクマが次々と湧いてくるので、一旦物陰に身を隠す。 助けてくれたのかと思いきやそういうわけでもないらしく、彼女の目当ては十神白夜らしい。 こまるが持っているハッキング銃から十神の匂いがするそうな。 更に、十数え終わるまでに教えないとブチ殺すという死の宣告を受ける。 そう言われても、知らないものは知らないんだけど…。 「3、2、1……いち……い…ち……」 万事休すと思った時、彼女の様子がおかしくなった。 目を回しながらハサミを落した次の瞬間、雰囲気が一変。 「あ……あんた、誰よ!?」 ○腐川冬子 1の生き残り面子の一人で、「超高校級の文学少女」。被害妄想の激しい性格。 三つ編みが解けているのとボロボロの制服以外は、あんまり変わってない。 が、苦手な血を克服しようと試みるなど、彼女なりに努力を重ねてはいる様子。 相変わらずの十神白夜一筋で「白夜様がいれば地球もいらない」と言い放つほど。 妄想…想像力も健在で、チャプタークリア時に評価してくれる十神も、彼女の妄想の産物である。 ○ジェノサイダー翔 こまるの前に突然現れた「超高校級の殺人鬼」。腐川冬子の別人格で、とっても陽気な性格。 お手製のマイハサミで萌える男子だけを狙う腐女子。モノクマについては「壊す」という扱いなので問題ないらしい。 彼女にかかれば自動操縦のモノクマも雑魚同然。ゲーム中では比喩抜きでの無敵キャラ。 気絶したりクシャミをすると人格が変わるが、今作ではスタンガンによる電気ショックで任意の人格交代も可能になった。 40 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 04 53.79 ID kc3T5ZYY0 それぞれの人格は記憶を共有できないので、ジェノサイダー翔だった時のやりとりを腐川は知らない。 こまるの方も腐川の事情を知らないので、お互いに混乱しっぱなしである。 せめて、敵か味方なのかだけはハッキリしていただきたい。腐川はどもりながらも味方だと答えた。 ここから逃げ出そうと提案するこまるだが、腐川はモノクマを倒すべきだと主張した。 数も多いし、仮に逃げられたとしても追って来たら厄介だ。 腐川はスタンガンでジェノサイダー翔に交代し、モノクマを一掃する。 (十神に命令されて)ジェノサイダー翔を制御するために色々と試した結果、スタンガンで入れ替われることを発見した。 しかも、電力に応じて時間を調整でき、一定時間が経てば腐川の人格に戻ることが出来るのだ。 二重人格だの何だの、実に荒唐無稽な話だが、こまるは腐川の言葉を信じることにする。実際この目で見たわけだし……。 「簡単に人の言う事を信じるなんて、バカなのかしら」 刺々しい腐川の態度に、こまるはどう反応すればいいのか迷ってしまう。 ジェノサイダー翔。ふと、その名前に聞き覚えがあるような気がした。 以前、ワイドショーで騒がれていた連続殺人鬼がそんな名前だったような…。 まさしくそれなのだが、腐川曰く殺人鬼だったのは昔の話。今のジェノサイダー翔は、完全に飼いならされていると豪語する。 心強い味方だと思ったのだが、腐川は怒り出す。電気ショックは体に負担がかかるため、そうそう多用は出来ないのだ。 次は腐川が質問する番だ。十神が持っていたはずのハッキング銃を、何故こまるが持っているのか。 こまるの「十神に助けてもらった」という一言から謎の妄想を繰り広げ、腐川は勝手に敵愾心を燃やす。 十神を助け出し、その勢いで結ばれてみせる! 妄想はともかくとして、「助け出す」という一言に驚くこまる。 なんと、十神は敵に捕まってしまったらしい。そうでなければこの街に残る訳がないという腐川。 ともかく、まずはこの建物から脱出することが先決だ。流れのまま、二人は行動を共にすることになる。 道中、妙な子供に出会う。未来機関と会った公園で見た、あの子供だ。 ○モノクマキッズ おそろいの制服と、モノクマを模したヘルメットを被った子供。モノクマと共に大人達を殺して回っている。 腐川がこの街に来た時には、既にたくさんのモノクマキッズがいたらしい。 基本的に仲間同士としかコミュニケーションをとらないようで、こまる達に対しても「くすくす」などと笑うだけ。 物騒な歌でモノクマを凶暴化させたり、「挑戦状」と称した謎解きを挑んできたりする。 一方でハッキング銃の強化をしてくれるなど、こまるをサポートするような行動も見せる。 41 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 07 22.98 ID kc3T5ZYY0 あちこち崩れかけた建物から、何とか脱出した二人。 こまるは、出会った時から気になっていたことを尋ねてみた。何故、腐川は自分のことを知っていたのだろう。 腐川は、未来機関のヘリの中で、十神の話を聞いていたのだと答えた。彼女も未来機関の一員なのだ。 …と言っても研究生扱いで、制服は支給されていない。使い古したセーラー服を着ているのはそのためだ。 だけどそれもあと少しの辛抱。ジェノサイダー翔が殺人を犯さないように制御できれば、正式な隊員になれる。十神にそう誓ったのだ。 「オカルト占いクソ野郎」や「水泳バカ」でさえ、正式な隊員として認められているのに…と歯噛みする腐川。 友達にすごいあだ名をつけるんだね…そんなこまるの呟きに、腐川は腹を立てた。 「友達じゃないわよ、あたしには未だかつて友達がいたことなんて……さりげなく心の傷を抉ってんじゃないわよ!」 言いつつも、腐川は十神さえいれば友達がいなくとも構わないらしい。 だから未来機関のヘリにこっそり忍び込んで、十神について来た。なのに暴動の混乱ではぐれて、一人きりになってしまった。 こまると出会うまで、腐川は単独行動をしていたということだ。では、十神が捕まったという情報はどうやって知ったのか。 腐川は「色々あった」とだけ言い、言葉を濁した。 これからのことを考える二人。こまるは危険な街から早く逃げ出したいと思っているが、腐川は十神を捜すために街に残るはず。 こまるは、一人では怖くて仕方ない。一人でいたら、きっとすぐに殺されてしまう。 無茶な願いだとはわかっている…それでも、腐川に付いてきて欲しい。こまるの頼みを、意外にも腐川はあっさりOKしてくれた。 感激するこまるだが、ちょっとだけ不安もある。十神を捜すという腐川の目的は大丈夫なのだろうか? 言われずとも、腐川も色々と考えているらしい。 「そっか、腐川さんはすごい人だもんね。私みたいな普通の子が心配しても、仕方ないよね」 本音を言うと、腐川が同行してくれるのはとても嬉しい。 監禁生活が始まってからずっと一人ぼっちで、頼れる人間なんて、どこにもいなかったから。 繰り返し喜びの感情を伝えるこまるに、腐川は尋ねる。この街から逃げる手段については考えているのか。 監禁されていたこまるも、そして腐川も塔和シティの地理には詳しくない。 「埋立地」という情報を思い出したこまるは、橋を目指すことを思いつく。橋を渡れば、街の外に出られるはず。 大きな橋を見たという腐川の記憶をもとに、そこに向かうことにする。 42 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 11 58.39 ID kc3T5ZYY0 道路はあちこち崩落を起こしており、更に大破した車などが道を塞いでいる。 廃墟になったホテル内にあった電話で警察を呼ぶことを思いつくが、腐川はクソアイデアと切り捨てた。 現在の塔和シティでは、電話はもちろんネットもメールも通じない。 若干気落ちしつつも、迂回を繰り返して橋の近くまでたどり着く。 ここまで来れば脱出は目前。喜ぶこまるだが、一方の腐川は浮かない表情だ。嫌な予感がすると言う。 そんな二人の所に、少年が駆け寄ってきた。日焼けした肌と人懐っこそうな顔つきが印象的だ。 久しぶりにまともな人間に会えたという少年は、こまるの左手の腕輪を見て表情を強張らせた。 見れば、少年の左手にも例の黒い腕輪がはめられている。彼も希望の戦士に捕まり「ゲーム」と称して塔和シティに放り出されたらしい。 同じ境遇の相手に出会い、ちょっとだけ安心するこまると少年。 一人蚊帳の外だった腐川だが、少年が名乗ると何やら反応した。 ○朝日奈悠太 こまると同じく、ゲームのターゲットにされた少年。 一目見ればわかるが、1の「超高校級のスイマー」朝日奈葵の身内。背格好的に兄弟っぽい。 運動が好きで、陸上部に所属している。 橋を渡る三人だが、橋は半ばで途切れていた。これでは対岸へはたどり着けない。追い打ちをかけるように轟音が響く。 遠くから、モノクマキッズ達が橋を眺めている…彼らが爆弾を仕掛けていたのだ。 来た道を必死に戻る三人。その背後で、橋は完全に崩れ落ちてしまった。 悠太は諦めず、対岸まで泳いでいこうとする。絶望的な状況を前に、かえって開き直れたらしい。 陸上は得意な悠太だが、水泳には自信が無い…正しくは、近くに凄い奴がいたため避けていた。 だが、今はそんなことを気にしている状況ではない。 そんな悠太に思いとどまるよう言ったのは腐川だった。 対岸までは相当な距離がある。それに、この辺りは水温が低いし環境汚染の影響もある。 どんな危険があるかわかったものではない…それでも悠太の意志は固い。 向こう岸に辿り着いたら、未来機関に連絡して助けを呼んでくる。それまで待っていてくれ、と二人に笑って見せた。 43 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 13 59.34 ID kc3T5ZYY0 眼下の海へと飛び込む悠太。自信が無いと言っていた水泳の腕前はかなりのものだ。 このスピードなら、対岸に辿り着くのも可能かもしれない。 一心不乱に泳ぐ悠太。その左手にはめられた腕輪が警戒音を鳴らし始めた。 腕輪に刻まれたモノクマのマークが赤く輝いた直後、悠太がいた場所で大爆発が起きた。 突然の出来事に、こまるは呆然とする。助けに行かないと…うわ言のように呟くこまるを、腐川は冷たく突き放した。 さっきの光景を目にしてなお、彼が生きていると本気で思っているのか。 朝日奈悠太は、わけのわからない爆発に巻き込まれて死んだ、それが現実だ。こまるはその場にへたりこみ、泣き出してしまう。 しばらく放っておいた腐川だが、やがて立ち上がるように呼びかける。 挫けてしまったこまるはその場から動けない。もう無理だ…どんなに頑張ったって、どうせ死んでしまう。 自分は何もできない、ただの平凡な人間なのだから。 「…だから、諦めるっていうの?」 わけのわからない場所に放り出され、家族にも会えないまま死んで、本当にそれでいいのか。 …いいわけがない。こまるの家族に会いたいという気持ちは、今だって変わらない。 けれど、家族とは一年以上も離れ離れで、どこにいるかもわからない。どうせもう会えないんだ。 希望を持ったところで、もっと酷い絶望が待ち受けているだけだ。弱音を吐き続けるこまるを、腐川は叱咤する。 そんな絶望は乗り越えて行けばいい。もっとも今のこまるには無理だろうが。だが、逃げることは出来るはずだ。 「どうせ死ぬ」と言える程度の覚悟があるのなら、死ぬ覚悟で逃げればいい。 その先に死が待っていたとしても、ここから動かないまま死ぬよりはずっとマシだ。 もう少しだけ頑張ってみる……腐川に言われて、こまるはほんの少しだが立ち直った。 腐川は、街には地下鉄があったことを思い出す。そこに行けば脱出できるかもしれない、電車は動いていないかもしれないが。 「そうだよね、動いてる訳ないよね…」 速攻で弱気になるこまるに、腐川はイライラ状態。 電車が動いていなくても線路を歩いていけば出られるかもしれないと付け足す。 悠太の分まで頑張らないと……ようやく、こまるにも少しだけ元気が戻ってきたようだ。 感傷的なこまるを余所に、腐川は何やら独り言を呟いている。 「あんな安い受け売り文句で元気になるなんて、単純な女ね。 …でも、気が重いわね。さっきの件、あの水泳バカにも伝えない訳にはいかないし。 まあ、それもあたしと白夜様がこの街から帰れたらの話だけど…」 44 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 16 23.23 ID kc3T5ZYY0 地下鉄がどこにあるのかは腐川も知らないので、自力で探し出すしかない。 それでも、腐川と一緒なら見つかりそうな気がする。 「腐川さん。絶対に、一緒にこの街から帰ろうね」 「……」 希望が見えてきて、こまるはちょっとだけ前向きになれた。 ようやく見つけた地下鉄の入り口は、一つは瓦礫で塞がれ、もう一方はシャッターで閉ざされていた。 瓦礫はどうしようもないが、シャッターの方は何とかなりそうだ。 紆余曲折の末シャッターの鍵を手に入れ、ようやく地下鉄へと入る。 これで助かるんだよね。こまるの呟きに、危険があるかもしれないと言う腐川。 「じゃあ、行かない方がいいのかな? 腐川さんが止めた方がいいって言うなら……」 意志が超絶弱いこまるに代わって、腐川は地下鉄に入ることを決定する。 地下通路の中は真っ暗だ。暗闇が苦手な腐川は耐えきれず叫ぶ。 「あーもうっ、誰か灯りを付けなさいよ!」 突然、スポットライトの照明が二人を照らし出す。 地下鉄へ続く通路を歩いていたはずが、フェンスで囲まれた、円形の大きな広間へ入り込んでいた。 入って来た道は鉄格子によって塞がれ、閉じ込められる形になる。周りの客席にはモノクマキッズの大観衆。 「やいやい、もう逃がさねえぞ魔物ども!」 華麗な前転宙返りを決めながら現れたのは、希望の戦士の勇者、大門大。 彼は地下鉄の入り口に罠を張り、二人を待ち構えていたのだ。 常に最前線に立ち仲間を引っ張る勇敢なリーダー、それが大門の理想像のようだ。 威張って隠れてばかりの大人とは違うんだ。誇らしげな大門に、モノクマキッズ達のエールが飛ぶ。 ここはコロシアム、魔物を「殺す」ための場所だという大門。腐川は「コロシアム」と「殺す」は無関係とツッコミを入れる。 45 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 19 08.82 ID kc3T5ZYY0 「うるさいうるさい、お前ら魔物のくせに生意気だぞ!」 さっきから大門が繰り返す「魔物」という単語も、腐川には何のことか理解できない。 おそらく大人達を指しているのだろうと、こまるは推測する。 オトナは魔物、自分達コドモの敵だ。だから魔物を一匹残らず狩りつくし、塔和シティに平和な楽園を作るのだ。 大門は憎悪の宿った目で二人を睨みつける。彼の足元の扉が開かれると、そこにあったのは死体の山。 曰く、これは「産んで育てた」というだけで、コドモ達を支配していた魔物。 そんな魔物から、コドモ達を解放してやったのだという大門。 惨たらしい光景を目の当りにしてしまい、こまるは怯える。 「どうして、こんなことが出来るの? あなた達だっていつか大人になるのに…」 「オトナになんかならねーよ!」 大門は絶叫する。魔物になるくらいなら、コドモのまま死ぬ。希望の戦士とそう約束したのだと。 魔物を一匹残らず狩りつくせば、もう理不尽な暴力に怯えないで済む。痛いのも暗いのも、いくら殴られても怖くない。 自分の右手が震えていることに気付いた大門は、震えを止めようと殴りつける。痣が出来るほどの力で、自分の腕を何度も何度も。 もう手遅れだと呟く腐川。生き死にの概念がどうでもよくなってる時点で、もう末期だ…。 こまる達はまだ「なりかけ」のようだが、二人も近いうちに魔物になる。そうなる前に退治してやる! どこかから飛んできたコントローラーの起動スイッチを押す大門。すると、地面を突き破って巨大なロボットが出現した。 ○勇者ロボ マークガイバー 大門大が操る巨大ロボ。白を基調としたボディと、両腕についた大きなドリルが特徴。 機械なので、モノクマと同じくハッキング銃が効く。 ついでにジェノサイダー翔でも倒せる。殺人鬼マジチート。 46 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 22 06.81 ID kc3T5ZYY0 こまるのハッキング銃によって、破壊されたマークガイバー。 戦いを観戦していたモノクマキッズ達が、追いつめられた大門を取り囲む。 大門の姿はキッズ達の中に埋もれて見えなくなり…そして、彼の付けていた白いヘッドホンだけが残された。 突然の事態を見ているしかない二人。どうも仲間割れとも違うようだ。 「まさか……負けた『おしおき』…?」 ひとまず危機も去ったのだし、二人は一旦地上に戻ることにする。 罠だったことに落ち込むこまるに、腐川はもっと周りを観察しろと言う。 さっきは埋まっていたはずの、もう一つの地下鉄への入り口。いつの間にか瓦礫が綺麗に撤去されていた。 地下鉄に行けると喜ぶが、腐川の方は呆れた様子だ。 自分達が戻ってきたら通れるようになっているなんて、都合が良いにもほどがある。 「じゃあ、やっぱりやめたほうがいいのかな…」 行くなと言っているのではなくて、罠の可能性を考えろと言っているのだ。 他に当てもないのだし、選択肢は無い。二人は恐る恐る地下鉄へと入って行く。 そんな彼女達を、ビルの上から謎の影が見つめていた…。 47 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 26 26.65 ID kc3T5ZYY0 チャプター1、これにて終わりです。 次回以降の投下はちょっと間が開くと思います…。 49 :ゲーム好き名無しさん:2014/11/06(木) 19 58 52.03 ID im33i+gX0 47 乙。補足だが、悠太については爆発イベント後に橋で拾える手記に 「姉ちゃんなら楽に泳ぎきれるんだろうけど~」っていう感じの一文があるから弟で間違いないと思う。 50 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 20 43.10 ID q/szu9Hu0 絶対絶望少女 チャプター2を投下します。 49 補足ありがとうございます、すっかり忘れてたヨー。。 51 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 22 07.82 ID q/szu9Hu0 【チャプター2 革命学区のおとぎばなし】 仏壇の中央に、大門大の遺影が飾られている。希望の戦士は静かに彼の死を悲しんでいた。 偉そうで馬鹿でエッチだったけどいい人だったと悲しむ言子。 蛇太郎は、いっそ嫌われ者の自分が死ねばよかったのに…と自虐的だ。 「リーダーがいなくなって…モナカ達はこれからどうすればいいの?」 モナカも泣きじゃくっている。一人、新月だけは違う考えを持っていた。 報告からわかる事実は、「オトナに捕まり安否不明」ということだけ。生きている可能性だってあるはずだ。 新月の意見を、モナカは否定する。安否不明、意識不明…平和な頃、ワイドショーでよく言われていた言葉。 それを聞く度、「どうせ死んでるんだろう」と思ったはずだ。だから大門も死んだのだ、と。 それでも食い下がる新月。念の為でもいいから、助けを向かわせるべきではないか。 モナカは無駄だと言うばかり。彼女の中では、大門の死はもう確定事項らしい。 怒らせたくない新月は、仕方なく従うことにする。 祈りを捧げてすっきりしたモナカ。さっきまでの悲しみが嘘だったかのように、ゲームの続きをしようとはしゃぎだした。 楽園の建設を優先すべきだと考えている新月は、ゲームの続行に異議を唱える。 ワガママを言ったから嫌いになっちゃった? モナカのこと、好き? 新月に重ねて問うモナカ。 好きとか嫌いとか、そういう問題ではない…新月は言葉に詰まる。 「新月君の態度……ちょっとオトナっぽいよ?」 オトナになるくらいなら、死んだ方がましだ。新月は必死に否定する。 もう一度好きかと尋ねられて、真っ赤になりながら頷いた。 「で、でも、一緒に楽園を目指す仲間としてであって、恋とかそういうわけじゃあ…」 「大変だぁ、新月君がヤケド状態だよ!」 赤面する新月を、蛇太郎と言子がからかっている。そんな二人をモナカがたしなめた。 「新月君をいじめちゃだめだよ。みんなで仲良くして、一緒に狩りを楽しもうよ」 新たなリーダーに新月を指名すると、モナカはどこかへ行ってしまった。希望の戦士も知らない用事があるらしい。 ちょっとだけ気になるが、自分達が知らなくても問題ないから何も教えないのだろう。 きっと、このゲームにも意味があるはず。新月はそう言い聞かせるのだった。 52 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 24 44.95 ID q/szu9Hu0 地下鉄に降りたこまると腐川。いちおう電気は通っているが、人の気配はない。 予想していた通り電車は止まっていた。瓦礫だらけの地下を進んでいくが、途中から完全に通れない状態になっている。 その上、崩れかけていた天井が完全に崩落。これでは地下鉄からの脱出も不可能だ。 もう、この街から逃げられないのだろうか…どこまでも運の無い状況に落ち込み、こまるは弱気になる。 逃げられないなら、助かる方法は一つだけだ。子供達に立ち向かうしかない。 腐川は言うが、こまるは戦うなんて無理とマイナス方向に自信満々だ。 そこに、モニタを担いだモノクマキッズが現れた。映し出されたのは希望の戦士の僧侶、煙蛇太郎。 彼が接触してきたのは、二人にあることを教えるため。 こまるの手にはめられた腕輪は、街から出ようとすると爆発する仕組みになっているのだという。 橋の上で出会った悠太が爆死したのも、それが原因だった。腐川は、こまるが死ぬところだったと憤っている。 彼女の「気持ち悪い」という評価にも、蛇太郎は嬉しそうにしている。 蛇太郎は人から嫌われると安心する嫌われ星人なのだ。嫌われてしまえば、好かれる努力をしなくてもいいから。 もっと嫌いになってもらうために、蛇太郎は自分の作ったジオラマを見せる。 ――巨大なモノクマと積木のお城。その周りを、人々が音楽に合わせて踊っている。 楽しそうな、しかしどこか歪な光景。よくよく見れば、踊っているのはモノクマが操る人形だ。 いくつもの釘や針金で木の板に縫い付けられた、血を流している人形。人形…? モノクマの手から伸びる糸に繋げられたそれは、人形ではなくて―― その光景に言葉を失う二人。蛇太郎は一方的に話を打ち切り、モノクマキッズは去っていった。 ショックを受けたこまるは、その場に座り込んでしまう。 逃げられないなら戦うしかない。ハッキング銃があれば、不可能ではないはずだ。 腐川は繰り返すが、こまるは出来ないと言うばかり。 腐川と違って、自分は何もできない普通の女子高生なのだ。そんな自分に戦える訳がない…。 「…何のために、あたしがいると思ってるの」 こまるの傍には腐川がいる。一人では無理かもしれないが、二人で協力すれば何とかなるかもしれない。 だから、もう少しだけ頑張りなさい。腐川に励まされて、ちょっとだけ元気を出す。 地下鉄の出口に向かうが、そこにはモノクマがうじゃうじゃと集まっていた。引き返し、別の道を探すことにする。 出口を求めて地下商店街をさまよっていると、誰かがモノクマに襲われているところに出くわした。 頭から布を被っていて姿はわからないが、このままでは命が危ない。ハッキング銃を持って飛び出し、モノクマを撃退する。 モノクマに襲われていたのは…なんとモノクマだった。 53 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 29 31.76 ID q/szu9Hu0 ○シロクマ 全身真っ白のモノクマ。本来黒の左半身を白く塗っており、赤い左目を包帯で隠している。 彼(?)には人工知能が搭載されているため、他のモノクマと異なり意思を持つ。 自称優しいクマ。争いを好まない平和主義者で、大人をモノクマの襲撃から匿っている。 ついでにチャプター1の最後でこまる達を見ていた奴。 こまる達の境遇を聞いたシロクマは、二人を安全な場所へ案内してあげると提案してきた。 地下には大人が隠れている秘密基地があるらしい。 こまるはシロクマをすっかり信用しているが、モノクマというだけで受け入れられない腐川は懐疑的だ。 だが、他の出口にもモノクマがうろついているという話を聞かされ、仕方なく着いていくことにする。 シロクマのことが疑わしくて仕方ない腐川。登場からして不自然すぎるシチュエーションなのだ。 確かにシロクマは二人の先回りをしていた。でもそれは、二人が困っている時に助けようと思っての行動だ。 実際は、逆にこまる達に助けられることになったのだが。 どうして、自分達の力になろうとしたんだろう…理由を聞くこまるに、シロクマは答える。 人を助けるのに理由なんていらない。自分がそうしたいから、しているのだ。 腐川はそれでも疑惑の目を向ける。人工知能があるとは言っても、モノクマであることには変わりない。 他の個体と異なる思考パターンを持っていることについては、説明がつかないのだ。 その理由はシロクマ自身にもわからない。だが、だからこそ自分の心に正直でありたいとシロクマは語る。 地下道のさらに奥…下水道のその先には、巨大な貯水庫があった。 ここは塔和シティが出来た当時からある古い施設で、子供達にも見つかっていない場所だ。 シロクマの言うとおり、秘密基地にはたくさんの大人がいた。大半はモブだけど。 54 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 32 21.48 ID q/szu9Hu0 ○葉隠浩子(ハガクレ ヒロコ) 1の「超高校級の占い師」葉隠康比呂の母親。バツイチ。 シロクマの秘密基地に匿われている女性。彼女もまたゲームのターゲットにされた一人。 物語の本筋にはほとんど関わらないが、こまる達が拾ってきた「殺すリスト」をもとにターゲットの救出を試みてくれる。 描写は無いが成果は出てるっぽい。 ○殺すリスト 希望の戦士が行っているゲームの、ターゲットの弱点や生息地が書かれた紙。 子供達が落としたらしきものが街のあちこちに落ちている。 ○塔和灰慈(トウワ ハイジ) 右腕にギプスをはめている男。塔和グループ会長の息子、いわゆる御曹司。 と言っても街がこんな状態のうえ会長が行方不明の今となっては、その地位も無いも同然だが。 右腕の傷はモノクマに襲われた時のもので、神経まで達する深い傷の為治る見込みがない状態。 現在は秘密基地にいる大人達のリーダー的立場で、レジスタンスを結成している。 仕事にあまり関わっていなかった灰慈は、塔和グループの事情についてほとんど知らない。 そのため、彼もこの街で何が起きているのかはわからない。 せめて街からの脱出方法は無いかと尋ねるが、外へのルートは全て潰されている。灰慈だって知りたいぐらいだ。 しょぼくれるこまるに、灰慈は悲観するなと言う。少なくともここにいれば、子供に見つかることはない。 何故戦わないのかという腐川。灰慈は無茶を言うなと頭を振る。 丸腰でモノクマに立ち向かうなど無理な話だ。今はここに隠れて反撃の機会を窺うのが得策だ。 反発する腐川を、こまるが止めた。自身の無力さを知っているからこそ、灰慈の言い分に共感していたのだ。 そんなこまるに対しても、腐川は辛辣な言葉を浴びせる。 こまるは確かに特別な才能もない凡キャラかもしれない。だが、それは戦わない理由にならない。 普通、平凡…そんな言葉で言い訳ばかりで、いつまで立っても立ち向かおうとしない。 そんなこまるが、昔の自分に重なって見えるのだ。苛立ちを隠せないでいる腐川。 55 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 35 30.65 ID q/szu9Hu0 「どうして、自分で変えようと思わないの? あいつはどんなに辛くても怖くても、ちゃんと前を向いて進んでたわよ」 だが、希望も無しに突っ走るのは馬鹿のやることだ。 この街からの脱出方法も、こまるの腕輪を外す方法も無い状況ではどうしようもない。 腕輪ぐらい未来機関なら一発で外せると言う腐川。まあ、例えで持ち出しただけであって、助けを呼べたならの話だが…。 「未来機関」の名を聞き、灰慈は急に不機嫌になる。二人に出て行けとだけ言って去ってしまった。 仕方なく秘密基地から出ようとするが、シロクマの勧めで一晩だけ泊まることにする。 広場に出ると、大人達が何やらざわついていた。中央に置かれたテレビ付きの宣伝車の前に、人だかりが出来ている。 映っている映像を指さして、一人の男が叫んでいる。 「あれは私の妻なんだ! 誰か、助けてくれ……」 見ない方がいい、とシロクマは言う。ここに逃げてきても、助かったわけではないのだと。 腐川が未来機関の人間であると知り、シロクマは頼みたいことがあった。 シロクマは無線機を二人に渡す。塔和グループが開発した最新の機械で、映像も送れる優れものだ。 これを使って未来機関に助けを呼んでほしいという。 塔和シティ全域に放射されているジャミング電波によって、外への通信は不可能。 だが、発生源の塔和ヒルズより高い場所ならば、通信が出来るはずだ。 その条件を満たす建物が、この近くに一つだけある。街のシンボルでもある塔和タワーだ。 モノクマと戦える力を持っている二人なら、きっと出来ると言うシロクマ。 危険な場所に飛び込むのは怖いけど…助かる可能性があるのなら、塔和タワーに行きたい。 奮起したこまるに、何故か腐川は歯切れが悪い。さっきは「逃げずに立ち向かえ」と言っていたのに…。 そして翌朝。カラフルな街並みを抜けて塔和タワーに向かう。近くで見るとかなりの大きさだ。 入り口の顔出しパネルに違和感を覚えたこまるが覗き込むと、そこには蛇太郎がいた。 周囲のトラックから、次々とモノクマが飛び出してくる。どうやら二人を待ち構えていたらしい。 モノクマを一掃するが、戦っている間に蛇太郎はいなくなっていた。 シロクマの罠を疑う腐川。例えそうでないとしても、タワー内は危険に違いない。 それでも行くつもりかと聞かれ、こまるは頷く。秘密基地を追い出された上、他に手立ても無いのだ。 56 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 38 03.19 ID q/szu9Hu0 通信をするのは高い場所がいいということで、一番上を目指すことにする。 正面にエレベーターが見えるので、あれを使えばあっという間だろう。 だが、こまる達がボタンを押しても動く気配が無い。動かすには専用のカードが必要なようだ。 そんなもの当然持っていないので、諦めて引き返そうという腐川。 しかしこまるは諦めない。エレベーターが無理なら階段を昇ればいいのだ。 休みながら進んでいけば大丈夫と前向きになるが、腐川はあんまり嬉しくなさそう。 階段を上って行く途中、一人の男性に出会う。モノクマの襲撃から逃れて、ここに隠れていたらしい。 ○不二咲太一 1で登場した「超高校級のプログラマー」不二咲千尋の父親。 ちょっと頼りなさそうな性格。家族にも「頼りない」とよく言われたとのこと。 プログラマーである太一は、パソコンを使って腕輪を外そうとしていたらしい。残念ながら無理だったようだが。 こまる達の目的を知った太一は、二人に協力することにする。太一は、セキュリティ関係の仕事に携わったことがあった。 その時の経験を生かせば、エレベーターを動かせるかもしれない。一階に戻りセキュリティの解除を試みる。 モノクマの襲撃を凌ぎ、無事エレベーターの起動に成功。 二人のお陰で希望が見えてきたという太一。これならきっと助けを呼べる、家族にも会えるはず―― そんな希望を打ち砕くように、エレベーターから飛び出してきたモノクマが襲いかかった。 致命傷を負っても、太一はこまる達のことを案じている。 「君たちはきっと助かるよ、最後に役に立てて良かった……。 僕には子供がいるんだけれど、ちょうど、君たちと同じくらいの年なんだ」 自分の子に会えなかったことが心残りだけれど――そんな言葉を最後に、太一は息絶える。 彼の服から落ちた手帳には、一枚の写真が挟まっていた。 そこには笑顔の太一と、可愛らしい女の子(※不二咲千尋)が映っている。 きっと、彼女が太一の子供なのだろう。 「せめて、この子は元気でいるといいな……」 写真に目を落としたまま、こまるはそんなことを呟くのだった。 57 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 40 20.07 ID q/szu9Hu0 こまる達を乗せ、エレベーターは上昇していく。だが、最上階に着く前に突然停止してしまった。 扉をこじ開けて外に出ると、そこは例のコロシアム。待ち受けていたのは蛇太郎だ。 腐川の懸念通り、タワー内で待ち伏せしていたのだ。 嫌いになってくれたかどうかを気にしている蛇太郎。言われずとも腐川はとっくに大嫌いである。 だが、蛇太郎は首を振る。本当に嫌いなものを見る時の大人の目は、そんなものじゃない、と。 彼が覆面を被っているのは、どうもそれが関係しているようだ。 「ボクちんの顔を見たら、お姉ちゃんの目はドロドロに腐っちゃうんだよ。 本当なんだよ! だって、そうじゃなきゃ、ボクちんは何の為にこんな息苦しい覆面を被せられてたの?」 重ねて警告する蛇太郎。目が腐る…おそらく親から言われた言葉なのだろう。彼はそれを頑なに信じ込んでいるようだ。 要するに、大人への復讐がしたいのか。吐き捨てるように腐川は呟く。 蛇太郎は誤解だと落ち込んでいる。復讐なんかではなく、自分達は世界を変えるために頑張ってるのに。 こまるは震えていた。恐怖ではなく、怒りにだ。 どんな理由があろうと彼らがやっているのは人殺しだ。たくさんの人を簡単に殺すなんて、許せない! 蛇太郎は目を輝かせる。自分のことが憎くて、気持ち悪くて仕方ないという視線。やっと本気で嫌ってくれたと喜んでいる。 観衆のモノクマキッズは蛇太郎にブーイングを飛ばし、敵のこまるに声援を送る。 「ああ…やっぱり、ボクちんはコドモ達からも嫌われてたんだね…えへっ、嬉しいな」 これだけ嫌われていれば、好かれる努力をしなくたっていい。好かれる努力も必要ないから、好き放題にできる。 飛んできたコントローラーで、蛇太郎は巨大ロボを起動した。 「いくら嫌われても、いくら憎まれても、僕らは絶対に正しいんだよ。 だって、『ジュンコお姉ちゃん』がそう言ってたんだもん!」 58 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 42 50.67 ID q/szu9Hu0 ○僧侶ロボ ドクトルボンゲロ 蛇太郎が操る、青を基調とした巨大ロボ。 背中についたブースターで飛行しながら、モノクマ風のミサイルを打ち出す。 こまる達の前にドクトルボンゲロは沈んだ。 大門の時と同じように、モノクマキッズが蛇太郎に迫る。もみくちゃにされ、剥される覆面。 その下に隠されていた彼の素顔は、醜いという言葉はとても似つかわしくないような美少年だった。 だが、それもモノクマキッズの中に埋もれてすぐに見えなくなった。 またしても繰り返された意味不明な光景。仲間割れなのか、それとも別の理由があるのか。 自業自得だよ…こまるはそれだけ言い捨てると、蛇太郎を顧みることなく踵を返すのだった。 再びエレベーターに乗り込んだ二人。今度はちゃんと最上階の展望台まで辿り着けた。 早速無線機を起動し、腐川に頼んで未来機関に繋いでもらう。 こまるは無線機に向かって何度も呼びかける。ノイズだらけだった画面に、少しずつ映像が映りだした。 「こちらは未来機関。未来機関、第十四支部……」 安堵しかけたこまるだが、それはすぐ驚きに変わる。 「未来機関第十四支部の――苗木誠です」 間違えようもない。画面の向こうにいたのは、兄の苗木誠だった。 59 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 44 25.67 ID q/szu9Hu0 チャプター2終了です。本筋だけ書いていくと結構あっさり。 余談ですが、不二咲太一は名乗らないまま死亡したため、こまる達は殺すリストで彼の名前を知ることになります。 65 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 28 02.92 ID wQG5gS/x0 絶対絶望少女のチャプター3を投下します。 66 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 29 30.58 ID wQG5gS/x0 【チャプター3 少女戦線異状あり】 塔和タワーの頂上で、ようやく未来機関と連絡が取れた。 通信相手が兄だったことに、こまるはびっくり。画面の向こうで誠も驚いている。 ○苗木誠 こまるのお兄ちゃん。「超高校級の幸運」にして「超高校級の希望」。彼の活躍については1を参照。 十神達と同じく未来機関に所属している。今回はお留守番。 こまる曰く兄妹仲は悪く、一緒におやつを食べたり漫画の貸し借りをする程度らしい。つまり仲良し。 「うわあぁあん! お兄ちゃん、生きててよかったよぉ~!」 予期せぬ再会。色々な感情が綯交ぜになって、こまるは泣き出してしまう。 嬉しいのは誠も同じで、妹の無事を喜んでいる。だが、こまるが両親のことを尋ねると表情が曇った。 両親の行方については、誠も知らないらしい。でも、きっとどこかで生きているはずだと言う。 元気だという確証は無い…逆に、無事ではないという確証もない。誠は弱気になる妹に、希望を信じようと言い聞かせた。 兄が未来機関所属のうえ、腐川や十神とも知り合いだったことが発覚し、更に驚かされる。 事情を知っていたはずなのに、腐川は何も話してくれなかった…。 三人は希望ヶ峰学園での同級生であり、絶望的な体験を生き抜いた仲間同士でもある。 「人類史上最大最悪の絶望的事件」の最中に学園に閉じ込められ、彼らはコロシアイをさせられたのだ。 犠牲を出しながらも、誠達はコロシアイ学園生活の黒幕を倒し、希望ヶ峰学園を脱出した。 そして保護されたことをきっかけに、現在は未来機関に所属している。 あの事件が終わった今も、なお絶望を広めようとしている「絶望の残党」と戦うために。 当時の苦労を思い出し、涙を浮かべる腐川。 すぐに諦めていた自分と違い、兄はどんな困難にも立ち向かっていた。 以前よりもずっと頼もしく見えるのは、その経験があるからだろう。誠自身は何も変わっていないと言うが。 それに引き替え、自分は監禁されていた頃から何も変わっていない…。 しょんぼりするこまるに、誠は謝らなければいけないことがあると打ち明けた。 67 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 31 28.12 ID wQG5gS/x0 こまるが監禁されていたのは、他でもない誠が原因だった。 コロシアイ学園生活の黒幕はメンバー達の関係者を選び出し、そして監禁した。 大切な人が殺し合う光景を見せつけることで、コロシアイの動機にしようとしていたらしい。 幸い動機に使われることは無かったものの、黒幕の死後も「絶望の残党」によって監禁生活は続くことになった。 そのせいで、未来機関は要救助民…こまる達の消息を掴めないでいたのだ。 しかし、数日前に思わぬ手がかりが手に入った。 塔和シティのマンションに、コロシアイ学園生活の関係者が監禁されている…そんな匿名の通報があったのだ。 未来機関が塔和シティに向かい、それと同時に希望の戦士による暴動が発生した。 十神も言っていたが、あまりにタイミングの良すぎる暴動には何らかの陰謀を感じる。 あるいは、あの通報自体が未来機関を誘い出す罠だったのかも…それだけではない、と言う腐川。 要救助民はただのエサではない、子供達の悪趣味なゲームのターゲットにされている。 これは明らかに未来機関、そしてコロシアイ学園生活を生き延びた誠たちへの挑発だ。 こまるがゲームに巻き込まれていることを知り、動揺を隠せない誠。 その上、蛇太郎が言っていた「ジュンコお姉ちゃん」……どうやら腐川だけでなく、誠にも心当たりがあるようだ。 「まさか…江ノ島盾子のこと?」 ○江ノ島盾子 1で登場した「超高校級のギャル」で、誠達のクラスメイト。 その正体はコロシアイ学園生活を仕組んだ黒幕であり、「真の超高校級の絶望」。 既に故人だが、その存在は今も「絶望の残党」に影響を与え続けている。 「絶望の残党」は江ノ島を唯一神のように崇め続けている。実体がなくなった分、生きている時よりも厄介な存在かもしれない。 自分達は、確かに江ノ島に勝った。だが彼女はこの状況も見越していたのではないか…誠はそう思う時がある。 …まるでフィクションのような話だが、それは今だって同じようなものだ。 早く助けに来てと泣きつくこまるだが、腐川がそれに反発した。 子供達は、未来機関の介入を防ぐために十神を人質にとっている。もし未来機関が塔和シティに来れば、十神の身に危険が及ぶ。 誠が助けに来るのなら、こまるを殺すとまで言い出す腐川。 さらに悪いことに、誠との通信が急に途切れてしまった。まさか、敵に勘付かれた? 展望台の窓が次々とシャッターで閉ざされていく。照明が落とされ、暗闇の中パニックになる腐川。 そもそも、こまるが助けを求めようとしたから、こんな事態になったのだと詰ってくる。 気まずい空気の中、二人は塔和タワーを脱出するのだった。 68 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 33 27.46 ID wQG5gS/x0 一方その頃の子供達。いつまで経っても戻らない蛇太郎…きっと殺されたのだとモナカは悲しんでいる。 葬式はしなくていいのかという言子の質問に、飽きちゃったと答えるモナカ。蛇太郎がいないから仏壇も作れないし。 飽きたなら仕方ないと言いつつ、言子は若干引き気味である。 仲間のことを気にかけている言子に、モナカは微笑んだ。言子ちゃんは「優しい」んだね。 その言葉に、言子の脳裏に忌まわしい記憶がフラッシュバックした。 天才子役、空木言子。彼女は仕事をこなす裏で、母親と一緒に「営業」をしていた。 もちろん自分の意思ではなく、彼女を売り込みたい親に強制されてのことだ。 嫌がる言子に大人達は言う。言子ちゃんは可愛いから、みんな優しくしてくれるよ――と。 優しいのは嫌だ…そう言って怯えはじめる言子に、モナカは拳を振り上げた。 言子をこんな風にしてしまった魔物は、やっぱり最悪な存在だ。大丈夫、モナカは優しくしないよ。 醜くて汚い魔物に、存在する価値なんてないんだ。モナカに抱きしめられながら、言子は大人への憎しみを吐露する。 そこに新月が現れた。塔和タワーで行われている通信に気付いた彼は、ジャミング電波の強化を施すなど大忙しだったようだ。 二人組の魔物――こまる達を利用して大人を一網打尽にする作戦を思いついたという新月。 大人達が隠れている秘密基地を発見したというのだ。 それを聞き、モナカは喜ぶ。楽園の完成までもうすぐだ。振り向いて、誰かに呼びかけるモナカ。 視線の先に座っていたのは、全身を真っ黒に染めたモノクマだった。 ○クロクマ 真っ黒なのでクロクマ。右目を眼帯で隠していて、金ピカグッズを身に着けている。 シロクマと同じく人工知能が搭載された個体で、希望の戦士の相談役。 黙っていると死ぬのではないかという程のお喋り。子供達もウザいようで、マナーモード付き。 マナーモードを解除された途端に喋り出すクロクマ。 相変わらずのうるささに、閉口する子供達なのだった。 69 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 35 40.45 ID wQG5gS/x0 塔和タワーからの脱出を果たした二人。 未来機関との連絡を絶たれ、こまるは不安になる。兄は助けに来てくれるだろうか…。 腐川は、十神が危険に晒されるから、未来機関が来るわけにはいかないという。 だったら、自分は危険な目に遭ってもいいのか。こまるの質問に、腐川は仕方ない…と気まずそう。 こまるが未来機関を呼ぼうとするなら、全力で阻止する。十神の為ならなんだってするのが腐川冬子である。 腐川のことを信頼し、友達だと思っていたこまる。だが腐川のほうはそうではなかったらしい。 それまでの不信感が積み重なって、こまるは腐川と別れて単独行動をとろうとする。 行き先を訊かれるが、関係ないと突き放す。散々頼ってきた癖に、と吐き捨てる腐川。 確かに、腐川に色々と助けられてきたのは事実だ。でも、こまるだって自分なりに頑張ってきたのに。 他人を褒めたり、礼を言ったことなんて一度も無い。そんな腐川の態度に、とうとうこまるがキレた。 「そんなんだから、腐川さんには友達がいないんだよ!」 いなくて結構、一人でいる方が好きなのだという腐川。 こまるみたいな言い訳ばかりの弱虫と付き合うくらいなら、孤独死のほうがマシだ。 そんな言葉に反して、腐川は結局付いて来るらしい。互いに無言のまま、地下の秘密基地へと戻る。 シロクマが出迎えてくれたが、大人達の表情は暗い。地下での生活が堪えているようだ。 灰慈らが今後について話し合っていたが、状況は何も変わっていないようだ。 今モノクマに立ち向かったところで無駄死にするだけ。 大人達の命を預かっている以上は危険な道は選べない…それが灰慈の方針だ。 子供達を説得しようと言うシロクマの意見も却下される。 話が通じる相手ならこんな事態になっていない。何より、残酷な仕打ちを行った子供達が許せない。 「親子の絆」なんて通用しそうもないし、そもそも基地の大人は子供がいない者ばかり。 戦うのも話し合いも出来ない……だから今は耐え忍ぶ時だと灰慈。 70 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 39 18.01 ID wQG5gS/x0 そう言って、結局何もしないでいるだけか。腐川は刺々しい態度だ。 こまるは、間違ってるのは腐川のほうだと責める。 自分の弱さを知っている故に、何かをする自信が持てない。そんな弱い人達の気持ちを腐川はわかっていない。 だって腐川は、希望ヶ峰学園や未来機関に入れるような、才能のある強い人だから。 こまるの言い分に、腐川は激昂した。 「ふざけるんじゃないわよ! あたしのどこが強いのよ、こんな劣等感みたいな塊の、あたしが…!」 腐川だって、自信を持って行動しているわけではない。それは昔も今も変わらない。 でも、言い訳するだけでは何も変わらないことを知っているから、弱くても前に進もうと必死にもがいているのだ。 それを「選ばれた人間」という一言で片付けられるのは、絶対に許せない。 二人の険悪な雰囲気が限界に達しようとした時、広場で悲鳴があがった。 秘密基地にモノクマが攻め込んできたのだ。モノクマの爪に、次々と切り裂かれていく大人達。 シロクマは、こまる達にみんなを守ってくれとお願いする。せめて、時間を稼ぐだけでもいいから…。 何とかモノクマを退けたが、犠牲が出てしまった…。傷を負い、呻いている大人もいる。 お前らのせいだ。灰慈は、こまる達を責める。二人が来てから間もなくモノクマの襲撃が起きた。 子供達は、未来機関と連絡を取った二人に目を付けたのだろう。あのモノクマは、こまる達が連れてきたも同然だ。 それだけではない。灰慈は、二人が子供達のスパイである可能性を疑っている。 弁解も聞き入れられず、二人は別々の独房に閉じ込められてしまった。 …腐川は独房の中で悶々としていた。独房の中は埃っぽく、気を抜くとクシャミが出そうになる。 それもこれも、全部こまるのせいだ。こんな所にいられるか、早くこまると一緒に脱出して―― 気付けばこまるのことを思い浮かべている自分に、腐川は苛立つのだった。 …独房の中で、こまるは一人落ち込んでいた。 モノクマに襲われ逃げまどう大人達。自分のせいで、みんなが傷ついてしまった。 ここに戻らなければ、彼らは無事だったかもしれない。自分が弱くなければ、みんなを守れたかもしれない。 さっきは反発したけれど、腐川は正しかった。 自分は言い訳ばかりして、誰かに助けてもらうことばかり考えている弱虫だ…。 71 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 42 18.25 ID wQG5gS/x0 こまるが泣いていると、希望の戦士の一人、言子が現れた。ドアを破壊して独房に乗り込んでくる言子。 言子はこまるを狩りに来たのだが、気が変わったので逃がしてやると言い出す。 曰く、こまるが「とてもキャワイイ」からとのこと。ただしキャワイくない腐川は別だと言う。 腐川を置いていくわけには…迷っているこまるに、言子はとりあえず独房から出ようと促す。 迷いつつも出て行こうとするこまるの首に、何故か入れ歯が食らいついた。 背後から、言子が持っていた「入れ歯発射ガン」で攻撃したのだ。薬が盛られていたらしく、体が動かない…。 キャワイイのは罪。キャワイイと酷い目に遭う。だから、自分で身を守らないといけない。 それが出来ないなら、何をされても仕方ない。動けないこまるを見下ろし、言子は囁く。 意識が遠のいていく中、こまるは彼女の名を呟いた。 「腐川…さん…」 ふと、誰かに噂されているような気がした腐川。思わずクシャミをしてしまい、ジェノサイダー翔と入れ替わる。 きっと白夜様が噂してるのね♪と、ハイテンションなジェノサイダー翔。 独房から飛び出し、こまるの独房に向かう…が、そこはもぬけの殻。 まだ匂いは残っているのに…と考えている彼女の前に、モノクマキッズが現れた。 彼らは、大人達に奪われたハッキング銃とスタンガン、そして何かの端末を差し出してきた。 どうやら、こまるの腕輪に取り付けられた探知機の場所を示しているらしい。 渡りに船だが、こいつらは何故自分を手助けしてくれるような真似をするのだろう…。 「さては、あっちのアタシがメンドクセーこと企んでるとか…?」 まあ、細かいことはどうだっていい。どんな理由があるにせよ、腐川と自分の目的は同じはずだから。 キッズ達の手から道具を奪い取ると、ジェノサイダー翔は外を目指して走り出した。 72 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 44 59.71 ID wQG5gS/x0 棺桶を立てたような形状のオブジェに、こまるは磔にされていた。 キャワイイこまるを、言子は「開発」するらしい。身動きできないこまるの体に、触手が迫る…。 ここで何の前触れもなくミニゲーム開始。失敗すると開発完了、以降は発禁モノなのでゲームオーバーになる。 必死に耐えるこまる。どうしてこんなことをするの、と言子に問う。 言子だって、同じことを何度も大人に聞いた。彼らの返事はいつだって同じ…「カワイイから」。 自分は大人達にされたことを仕返しているだけなのだから、何も悪くない。 そう言うと、こまるへの「開発」を続行する。 地上に飛び出したジェノサイダー翔は、発信機が高速で移動していることに気づく。 首を傾げる彼女の視線の先を、モノレールが駆け抜けて行った。 疾走するモノレールの窓を突き破って、内部に侵入するジェノサイダー翔。 襲い来るモノクマを蹴散らし、先頭車両へと突き進む。 入れ歯発射ガンを手に待ち受けていた言子をものともせず、あっという間に彼女(の服)を切り刻んだ。 ジェノサイダー翔の活躍で、何とか無事に救出されたこまる。 あんな喧嘩の後だったから、助けに来てくれないと思っていた…こまるはジェノサイダー翔に抱き着く。 「友達がいない」なんて酷いことを言ってしまった。腐川を置いて逃げようとしてしまった。 堰を切ったように、泣きながら謝罪する。ジェノサイダー翔は、そんなこまるを見て呆れているようだった。 「オメーって、マジで間抜けだな…殺人鬼なんかを信じてんじゃねーよ…」 タイミングよくクシャミが出て腐川に交代。全く状況がわかってない腐川と共に、とりあえず外に出る。 モノレールを出た先はコロシアムだった。服を着替え直した言子がにこやかに出迎える。 内心はかなり怒っているらしいが、元天才子役である彼女にとっては簡単なお芝居だ。 みんなと一緒の普通の子供がよかったという言子。彼女は親の夢を背負わされ「営業」をさせられてきた。 そんな自分を助けてくれたのが、ジュンコお姉ちゃん。 江ノ島を慕っている言子に、腐川は騙されているのだと言う。あの女がどれだけ「優しく」したか知らないけど… 不意打ちのトラウマワードに、言子は酷く取り乱す。 73 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 47 15.07 ID wQG5gS/x0 「優しいのは……やめてください……優しくするくらいなら、ブッ殺してくださあぁぁぁい!!!」 血を吐くような絶叫と共に、言子は巨大ロボを起動した。 ○戦士ロボ ハイランダー・ザ・グレート 赤を基調とした巨大ロボ。巨大な斧を軽々と振り回す。 装甲の厚い重量級だが、ブースターで機動力を補っているぽい。 ハイランダー・ザ・グレートを撃破した二人。先の希望の戦士と同じく、言子にもモノクマキッズが襲いかかった。 それを助けたのはスタンガンで交代したジェノサイダー翔。言子から情報を聞き出すのが目的だ。 言子を尋問しようとする腐川の前に、希望の戦士の賢者、新月が現れた。 新月は、二人に塔和シティから出て行ってくれと言う。彼の言葉に、こまると腐川だけでなく、仲間である言子も驚いている。 モナカが怒るのではないか…言子が心配するが、それでも新月は二人を逃がすつもりだ。 希望の戦士の目的は、子供の楽園の建設。こまる達がいなければ、計画は順調に進んでいたはずなのだ。 新月は叫んだ。これ以上邪魔をしないでくれ。僕達から逃げて、この街から出て行ってくれ! モナカはひとり、魔法陣を作って遊んでいた。嬉しそうなモナカに、クロクマが声をかける。 仲間が頑張っているお陰で、全てが絶好調で進んでいる。モナカは楽しそうにはしゃいでいる。 もうすぐ、あいつの遺志を継ぐ「二代目」が誕生する――不気味な言葉とともに、クロクマは嗤うのだった。 74 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 55 03.10 ID wQG5gS/x0 ここまででチャプター3終了です。 ちなみに、要救助民についての補足として、クリア後に読める小説「絶対絶望葉隠」によれば、 コロシアイ学園生活のメンバー達にとって特に大切な人という位置づけらしいです。 時間があれば、今夜中に続けてC4も投下したいと思っています。 76 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 16 02.98 ID b0qq7tDp0 引き続き、絶対絶望少女のチャプター4を投下します。 77 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 18 23.64 ID b0qq7tDp0 【チャプター4 これが、わたし達の生きる道】 もう、この街から出て行ってくれ。 希望の戦士の賢者、新月からの予想外の頼み。彼は土下座したうえ、こまるの腕輪も外してくれた。 仲間の言子も、新月の行為に戸惑っているようだ。彼のやったことをモナカが知ったら…。 新月は、それでもこうするべきだと主張する。楽園を完成させるには必要なことだと。 モナカは自分に期待してくれている。だから、きっとわかってくれるはずだ。 秘密の抜け道…万一の時に備えて用意していた、街の外に出られる唯一のルート。 新月は、二人をそこに案内すると言う。 腐川は乗り気ではないようだ。新月を疑っている…だけではないように見える。 こまるは街から逃げたがっていたはずだ。仲間の気持ちを考えろと新月に言われ、腐川は渋々従う。 モナカに嫌われたくないのなら付いてくるな。言子にそう言い置いて、新月はこまる達と出て行った。 秘密の抜け道へと向かう三人に、モノクマが襲いかかってきた。仲間の新月がいるのに…。 新月の裏切りが知られたのだろうと腐川は推測する。 そんなはずがない…誰よりも子供の楽園のことを考えている自分が、裏切り者なわけがない。 説明すれば理解してもらえるはずだと、新月は道案内を続ける。 道中で、無数の大人の死体を目にする。この光景を見ても、新月はなんとも思わないのだろうか。 こいつらは魔物…自分達の敵だ、と繰り返す新月。彼は大人が怖くて仕方がないと言う。 大人さえいなければ穏やかに暮らせる…ずっとそう思いながら、自分達は生きてきた。 希望の戦士は、かつては希望ヶ峰学園付属小学校の生徒だった。 五人とも「問題児」とされる生徒が集まるクラスにいたのだが、それは間違いだと新月は言う。 彼らの問題は、大人…自分達の親が作ったものなのだ。 新月の親も、最悪の魔物だった。 新月の両親は、まるでゲームのレベル上げのように勉強を強いた。 三日四日の徹夜は当たり前。ひたすら勉強し通しの生活を強制し、新月に「経験値」を積ませていた。 …それが家だけなら、まだ良かった。 新月の父は、希望ヶ峰学園付属小学校の教師であり、また才能の研究者でもあった。 彼は自分の息子を研究の被験者として使っていた。そんな境遇も、他の皆に比べれば軽い方だ。 例えば、車椅子に座っていたモナカ…彼女の足が不自由になったのは、父と兄によるものらしい。 それでも彼らは親を憎まなかった。親を憎んでいいなんて、その時はまだ知らなかったから。 78 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 19 39.93 ID b0qq7tDp0 追い詰められた子供達は、地獄のようなこの世界から逃げようとした。そんな時、彼らの前に江ノ島が現れた。 江ノ島は新月達が捨てようとした命を拾い、五人に子供の楽園という夢を与えてくれた。 「魔物」という価値観も、江ノ島に教えられたものだ。 利用されているだけだと言われても、新月は一向に構わない様子。 最低の大人に利用されるくらいなら、最高のお姉ちゃんに利用される方がずっとマシだ。 とうとう、彼らは魔物のボス…自分達の親を手にかけた。 そして希望の戦士の躍進が始まるという時に…江ノ島は死んだ。どこかのバカに殺されたのだ。 江ノ島がいなくなり、どうすればいいかわからない中で、唯一モナカだけは違っていた。 ジュンコお姉ちゃんが与えてくれた希望は、自分達の手で叶えればいい…。 そう言うモナカはまるで江ノ島のようだったと、新月は語る。 舞台に塔和シティを選んだのも、モノクマを用意したのもモナカだ。 彼女が、今回の事件の黒幕なのだろうか? 新月達には、悪いことをしている自覚はまったく無い。 正義や悪は大人が作った価値観で、何かを救う悪もあるし、誰かを傷つける正義もあると新月は主張する。 それでも、誰かを傷つける希望は間違っている…こまるはそう思うのだった。 神社へと辿り着いた三人。ここに来て、腐川がこまるを引き止めた。 このまま逃げ出して、本当にこれでいいのか…? こまるは返事に詰まる。 自分が今まで頑張って来たのは、塔和シティから出るためだ。未だ行方不明の両親だって探したい。 でも、腐川は街に残るはずだ。十神を救うことが彼女の目的なのだから。 自分も塔和シティに残るべきだろうか…腐川は、自分に残ってもらいたいのだろうか? 秘密の抜け穴は、神社の境内に隠されていた。 念願の脱出口を前にして、こまるはまだ迷っていた。 腐川に、本当に行ってもいいのかと尋ねる。好きにすればいい、もう自分は関係ない…つっけんどんな腐川。 そこに召使いが現れた。こまるがゲームを投げ出さないよう、説得するために来たと言う。 こまるにゲームをクリアしてもらうこと…それが召使いの目的だ。 勝手なことを、と怒る新月に、召使いは冷ややかな態度をとる。 79 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 21 09.44 ID b0qq7tDp0 「キミは薄々勘付いていたんだよね…? キミの大好きな魔法使いさんは、楽園よりもゲームを選ぶって」 それをわかった上で、自分勝手な目的の為に働く人間を、裏切り者と言うんだよ。 召使いに気圧され、新月はどこかへ走り去ってしまった。 召使いは、ゲームを投げようとしたこまる以上に、腐川に対して落胆しているようだ。 腐川と召使いは、ある取引をしていた。 腐川の役目は、苗木こまるを子供達の本拠地まで連れて行くこと。見返りはもちろん十神の身柄だ。 本拠地に辿り着いた後は、こまると十神の人質交換を行う段取りだったのだが…。 信じられない事実を聞かされ、動揺するこまる。腐川に聞いても、沈黙したままだ。 そもそも、二人の出会い自体が偶然ではなかった。 こまるが落ちてくる場所をあらかじめ教えられていたから、腐川はあの場に現れたのだ。 召使いが腐川の協力を仰いだのは、こまるにゲームをクリアしてもらうため。 こまるにハッキング銃を渡したのも、モノクマキッズのサポートも、全てはそれが理由だった。 これは「こまるに成長してもらう為のゲーム」だ。もっとも、そうしたのは召使いの意図だが。 全ては希望のため。江ノ島盾子を倒した「超高校級の希望」苗木誠の妹でありながら、何の素質も無いこまる。 そんな彼女が成長を遂げて絶望から立ち上がる姿が、人々に希望を与えるのだ。 「たとえどんなに大きな絶望が立ちはだかろうと、必ず最後には希望が勝つ…。 だから、ボクは安心して絶望にもなれるんだ」 こまるは愕然とする。 今まで一緒にいてくれたのも、助けてくれたのも、十神の身代わりにするためだったなんて…。 召使いの言うことなんて、きっと嘘に決まってる。 「…そんな訳ないじゃない。今まであんたを守ってやったのも、励まして来たのも、全部白夜様の為に決まってるじゃないの!」 80 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 25 49.20 ID b0qq7tDp0 腐川は、こまるを騙していた。 二重人格で殺人鬼。そんな異常な自分を信用してくれた人間なんて、今まで一人もいなかった。 信用されなくて当たり前…だから、こまるを騙すことだって、安心して出来たのに。 こまるは出会った時からずっと腐川を信じてきた。腐川は、そんなこまるが最初から大嫌いだったと言い放つ。 嘘がばれた以上は力ずくでも連れて行く。腐川はスタンガンでジェノサイダー翔に交代する。 まさかのこまるvsジェノサイダー翔。 こいつを倒すなんて無理だろ…と思いきや、ハッキング銃でスタンガンを無効化されたジェノサイダー翔は時間切れで気絶。 目を覚ました腐川。こまるに負けた…もう自分では止められないから、さっさと逃げてしまえと言う。 嘘だ…こまるは気づいていた。腐川は自分を逃がすため、わざと負けたのだ。 ずっと一緒にいたからわかる。本気を出した腐川に、自分が敵うわけがない。 一緒にいたのは、腐川も同じだ。こまるは、迷った時はいつも腐川に頼ってきた。 辛辣な言葉も襲いかかってきたのも、こまるの背中を押すのが目的だった。 二人を見ていた召使いは、腐川に加担することにする。 このままこまるを逃がせば、大事な十神の命が危なくなる…そう言いつつ、コショウを取り出す召使い。 コショウを腐川の顔に振りかけ、クシャミによってジェノサイダー翔が再登場。 ハサミを両手に襲いかかるジェノサイダー翔。彼女が攻撃したのはこまるではなく、召使いだった。 二人が共有しているのは知識だけではない、感情もだ。でなければ揃って十神を好きになっていない。 ジェノサイダー翔の感情は、召使いを殺してこまるを逃がせと言っているのだ。 足を切られ、動けない召使いを殺そうとするジェノサイダー翔を、こまるは制止する。 二度と人を殺させない――腐川はそう誓っていたはずだ。 だが、召使いを野放しにすれば、こまるを逃がしたことがバレてしまう。 そうなれば十神に危険が及ぶ…だから、ジェノサイダー翔は彼を殺さなければならない。 それなら自分が残ると、こまるは言い出した。確かに、腐川が自分を騙していたのは紛れもない事実だ。 でも、結局は裏切れなかった。腐川は危ない橋を渡ってでも、こまるを逃がそうとしてくれた。 自分は普通の女子高生で何も出来ないけれど、普通のことくらいなら出来る。 困っている友達を助けるのは普通のことだ。たとえ腐川が嫌がっても、一緒に付いていく。 「本当にバカだな…それに、アタシのことを全然わかってねーよ」 …嫌がる訳がないじゃないか。ジェノサイダー翔は小さな声で感謝を述べた。 まだコショウが残っていたのかクシャミが出て、腐川に戻る。 腐川にも、さっきのやりとりは何となく聞こえていたらしい。こまるの「友達」という言葉に嬉しそうだ。 そして腐川のデレ期が始まる。これまで「おまる」呼びだったのがちゃんと名前で呼んでくれるようになったり、 こまるに下の名前で呼ばれて激しく身悶えたりする。 81 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 29 12.11 ID b0qq7tDp0 怪我の功名とも言うべきか、結果的に召使いの目的は達成された。 召使いによると、この計画は彼一人だけのものではないらしい。 パートナーについては明かさなかったが、自分がいなくてもサポートは続くだろうとのこと。 十神を助けるには、子供達の本拠地へ行き暴動を止めるほかは無い。 ならば行くしかないと、こまるは決意を固める。腐川を置いて自分だけ助かる訳にはいかない。 子供達の本拠地は塔和ヒルズ、塔和シティの中心地だ。 周囲は大量のモノクマで固められており、二人で乗り込むのは自殺行為だ。 そんな召使いの助言に、こまるは灰慈達に協力してもらうことを思いつく。 再び秘密基地を目指すべく、こまる達は境内を去った。 動けない召使いは、そのまま一人取り残される。そこに現れた巨大な影。 巨大ロボを従えた新月が、怒りの表情で召使いを見下ろしていた。 …成り行きとはいえ、二人は脱獄犯も同然の状況だ。大人達は耳を貸してくれるのだろうか。 不安な腐川に対し、こまるは何とかなるといった雰囲気。 子供達の暴動を止める…自分達と大人達の目的は同じ。きっと説得すれば理解してもらえるはずだ。 すっかり前向きになったこまるの成長に驚きつつも、腐川は彼女の言葉を信じることにした。 一方、子供達の本拠地。 自分達の言いなりに過ぎないはずだった存在の叛逆に、怒り心頭の新月。 縛り上げた召使いを蹴りつけながら問い詰める。最初から自分達を騙していたのか。 クロクマがジョークでおどけるが、それを流す余裕もないほど頭に血が上っているようだ。 そんな新月を見て、何故か召使いは笑っている。 こまるを引き止めるよう召使いに頼んだのは、モナカだった。 全ては「二代目江ノ島盾子」のため。モナカは「子供の楽園」には最初から何の興味も無かったと言う。 本人の口から聞かされ、愕然とする新月。 これからも、モナカの為に頑張ってよ。そう言い、新月にキスをする。 モナカは最初から、新月には何の期待もしていなかった。だから「二代目江ノ島盾子」のことも黙っていた。 だって新月は弱いコドモだから。期待する価値なんてどこにもない。 そもそも、誰かから「期待されている」ということ自体が新月の幻想だったのではないか…? 82 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 30 43.59 ID b0qq7tDp0 モナカの言葉に、新月は思わず手をあげる。 「女の子をぶつなんて、新月君はカッコ悪いね…でも、カッコ悪くて誰にも期待されていない新月君が、モナカは大好きなんだよ。 モナカに期待されたかったら、もっともっと、モナカのお願いを聞いてね。 …死ぬ気で、大人を殺しまくってね?」 新月は呆然としたまま、その場に崩れ落ちた。 …秘密基地に戻ってきたこまる達。中から大人達の悲鳴が聞こえてくる。 またしてもモノクマが襲撃してきたのだ。おまけに前より数が多い。 シロクマの懇願もあり、二人はモノクマを撃退する。 敵は、秘密基地を本気で潰しに来たようだ。きっと今回だけでは終わらない。 このままではジリ貧だ…シロクマは、二人にある提案をしてきた。 モノクマ達は、秘密基地の奥に開けられた穴から攻め込んできている。 その穴を塞ぐことが出来れば、しばらくはモノクマ達の襲撃を凌げるだろう。 自分の体には、自爆用の爆薬が大量に積まれている。唐突にそんなことを打ち明けるシロクマ。 シロクマは自身を犠牲にして穴を塞ぐつもりなのだ。 しかし、大人達を守って負った傷のせいで、シロクマの自爆スイッチは壊れてしまっている。 起爆させる方法はただ一つ…こまるのハッキング銃で、シロクマを破壊すること。 シロクマを犠牲にするなんて、そんなこと、出来る訳がない。 いくら怖くても、戦わなきゃいけない時がある。死を恐れず立ち上がらなければならない時がある。 「大事なものを失ってからじゃ、遅いんだよ!」 躊躇うこまるに、必死に訴えるシロクマ。 それでも出来ないと言うのなら…シロクマは左目を隠していた包帯を取り、こまるに襲いかかった。 こまるはハッキング銃で、シロクマを破壊する。 ありがとう――こまるへの感謝を残して、シロクマは爆発した。 83 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 32 56.27 ID b0qq7tDp0 爆風に吹き飛ばされ、気を失っていた二人。シロクマはどうなったのだろうか…。 大人達に尋ねると、彼の犠牲のお陰で無事穴は塞がったそうだ。 灰慈は今回の件で、こまる達への疑いを解いてくれた。だが、状況が好転したわけではない。 穴からの侵入は無くなったが、今度は入り口からモノクマが押し寄せてきている。 このままでは、秘密基地の大人は全滅だ…。 こまるは意を決して、大人達に立ち上がるよう呼びかける。グダグダになったうえ、半分くらいはシロクマの受け売りだけど。 それでも、こまるの言葉は大人達の心を動かしたようだ。灰慈もその一人で、何やら準備をしてくると言って去ってしまう。 ついでにシロクマが生きていたことが発覚。頭だけという斬新な状態だが。 先程の言葉を聞いていたシロクマは、立派だったとこまるを讃える。 戻ってきた灰慈。何でも「奥の手」が隠されている場所に行くらしい。 詳しい説明はしてくれないが、それは子供達を止められる「最後の希望」だと言う。 バイク(運転:こまる)に乗り、どこかの空き地に到着。何もない…と思ったら、足元で隠しエレベーターが起動した。 非常時の現在、灰慈と彼の父だけが動かせるエレベーター…その先にあるのは、塔和グループの秘密工場。 灰慈によれば「最後の希望」は工場の最深部にあるのだが、工場内はモノクマによって警備されている。 警備室は暴動が起きた以降は音信不通…おそらく、工場内の警備モノクマも暴走しているのだろう。 突っ込みどころ満載の説明だが、灰慈は行けばわかるとしか言わない。 センサーの張り巡らされた工場内を進んでいく三人。灰慈の予想通り、警備室にいた大人は殺されていた。 だが、これは子供達の仕業ではない…工場内を警備していたモノクマに襲われたのだ。 工場のラインは、まだ稼働しているようだ。流れていく部品には見覚えがあるような…。 気のせいではない、この工場で作られているのはモノクマだ。 塔和グループの工場が、どうしてモノクマを…? 最深部に鎮座していたのは、超巨大なモノクマだった。これが、灰慈の言う「奥の手」にして「最後の希望」。 塔和シティの防衛兵器…その名も、ビッグバンモノクマだ。 84 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 35 06.34 ID b0qq7tDp0 もはやキナ臭いどころではないレベルなので、腐川が問い詰めまくる。 ここのモノクマは、本来ならば日常生活や労働の補助を目的として製造されたもの。 いわゆる「お手伝いロボット」として開発されている…はずだったのだが。 子供達の暴動によって暴走し、今は殺戮マシーン状態になっている。 そもそも何故モノクマのデザインなのか? 灰慈によると、開発責任者が勝手に決めていたらしい。 胡散臭い灰慈の話を聞いていると、巨大ロボと共に新月が現れた。 まさか、あいつに聞いたのか…? 灰慈は何やら呟いている。 それにしても、新月の様子がおかしい。明らかに目が死んでいる。 「皆…希望の戦士に…僕に期待してくれてるんだ…。 皆の期待に応えるためにも、楽園を完成させなくちゃいけないんだ! だから…もっと僕に期待してくれよ…僕を見捨てないでよ…。 お父さんもお母さんも、ジュンコお姉ちゃんも、モナカちゃんも…!」 モナカの言動に完全にやられてしまったようだ。ほとんど見境なしに攻撃してくる。 最後の希望…ビッグバンモノクマを守るためにも、こまるはハッキング銃を構えて立ち向かう。 ○賢者ロボ ハンニバルX 新月が操る巨大ロボ。暗めの緑を基調としたボディに、外套をまとっている。 武器は銃と爆弾。素早い動きで遠距離攻撃を仕掛けてくる。 ハッキング銃の攻撃を受け、限界を迎える巨大ロボ。 傍らで必死に操作する新月の頭上めがけて、崩れた部品が落ちてきた。 「期待を背負いたがって、最期は機体に潰されちまったってわけか…」 そんなことより、早く助けないと…新月を心配するこまるに、灰慈は放っておけ、と切り捨てた。 イカれたガキを助けたところで、同じことを繰り返すだけだ。そんなことより…。 ビッグバンモノクマの巨体を見上げ、灰慈は声を上げる。 ようやく、俺達は希望を手にしたんだ…! 85 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 36 27.20 ID b0qq7tDp0 ――薄暗い部屋の中で、モナカが陽気に鼻唄を歌っている。 「新月君は今頃、大人達の希望に潰されちゃってるんだろうな~。 さすが新月君。期待を裏切りませんなー♪」 血塗れの扉を開き、中にいる誰かに向かって話しかける。 「ねえ…こっちに来て、一緒に地獄の蓋を開けようよ。ほら、お父さんもお母さんもさ。 もうすぐ、あなた達のコドモが『二代目江ノ島盾子』として孵化するクライマックスが始まるよ」 86 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 01 02 59.80 ID b0qq7tDp0 最後の最後で規制されていましたorz これでチャプター4終了です。初めての友達に浮かれる腐川さん超かわいい。 次の投下が最後になる予定です。 107 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 22 37 44.60 ID kCAPqHAl0 遅くなりました、絶対絶望少女 チャプター5~エピローグまで投下します。 【チャプター5 絶対絶望少女】 ビッグバンモノクマが地上を闊歩する。大人達は歓声を上げ、子供達は逃げまどう。 無数のモノクマが行く手を阻むべく襲いかかるが、そこらのビルをゆうに超える巨体の前では羽虫も同然。 あっという間に、モノクマの大群は切り刻まれていく。 そんな光景を、ビッグバンモノクマの操縦席から誇らしげに見下ろす灰慈。 ビッグバンモノクマの進撃はモナカも見物していた。そこに現れた召使い、別れの挨拶をしに来たらしい。 ついでに、モノクマキッズから塔和シティに単独の侵入者があったという報告をお知らせする。 そんなことよりも、モナカはビッグバンモノクマに夢中のようだ。 どう見ても子供側の劣勢なのだが、モナカの計画は超順調らしい。 例の「二代目江ノ島盾子」が関係していると召使いは考えているが、モナカはお口チャックで教えてくれない。 モナカの計画がどんなものであろうと、最後には希望が勝つ…頑なに希望を信じている召使い。 「召使いさんって本当に愉快だね。自分が絶望に落ちてることに気づいてる癖に、それも希望の為って割り切れるなんて。 それってジュンコお姉ちゃんの影響? それとも昔からそうなの?」 モナカの問いに答えないまま、召使いは去っていった。 塔和ヒルズ前に、武器を持った大人達が集結している。 この街をガキ共の手から取り戻す――灰慈の演説を受けて、大人が勢いづく。 離れた所から、その様子を見ているこまる達。何だか大変なことになってしまった…。 一人冷静な葉隠浩子とシロクマも、同じように不安を感じている様子だ。 大人達はモノクマだけではなく、子供のことも憎んでいる。そんな大人と子供が衝突したら…。 灰慈が隠していた「最後の希望」の強大な力は、シロクマにも予想外だったようだ。 シロクマは、子供達の武器であるモノクマを停止させることを提案する。 人工知能を持ったシロクマと違い、モノクマ達は自動操縦。どこかに命令を出している装置があるはず。 それがあるのは、おそらく子供達の本拠地…塔和ヒルズ。 流石にモノクマを失って無力化された子供に手を出すことは無いだろう…と信じたい。 問題は、誰が実行するか。大量のモノクマが待ち構える本拠地に乗り込み、在り処も不明の装置を捜すなんて無茶な話だ。 自殺行為だと腐川は拒否。街を救ってほしいとシロクマは言うが、自分達はそんな大それた目的を目指してなんかいない。 こまるは行くことを決意する。大人達をこのまま放っておけないし、何もしなかったら、きっと自分が後悔する。 それに、十神を助ける為にも塔和ヒルズへ行かなければならないのだ。 腐川は折れることにするが、あくまで目的は十神の救出だということを念押しする。 ビッグバンモノクマの攻撃で守備が手薄になったところを狙い、二人は塔和ヒルズへと突入した。 108 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 22 43 20.46 ID kCAPqHAl0 ヒルズ内で発見した希望の戦士の手記。その中に気になる記述を見つける。 モノクマキッズ達は、モノクマヘッド…あの変なヘルメットで洗脳されているらしい。 子供の洗脳を解かないと…そんなことを考えるこまるに、あまり背負い過ぎるなと腐川は言う。 こまるが成長したのは確かだ。だが、一方で腐川は不安を感じてもいる。 彼女の成長も含めて、全ては仕組まれたことなのではないか? 腐川の考えを理解しつつも、こまるは楽観的。この騒動を止めることが出来れば、敵の目論見も崩れるはずだ。 時々、こまるの言動が誠と重なる。もしかして、兄のようになりたいのか? 腐川にブラコン認定される。 上を目指して昇って行くが、開かない扉に阻まれる。カードキーの類が必要なのだろうか。 そこに、ビッグバンモノクマに乗っているはずの灰慈が現れた。 彼もモノクマを操っている装置が目当てらしい。どうも、シロクマから教えられたようだ。 ここのロックは手動でないとかからない。最後に見た時はロックされていなかったはずなのに。 まさか、これも「あいつ」の仕業? 灰慈は何やらブツブツ呟いている。 扉のロックは網膜認証で解除する仕組み。そして、それが出来るのは灰慈の父…塔和グループ会長のみ。 会長は行方不明だと灰慈から聞かされていたが、実際はモノクマに襲われ、既に死亡しているという。 灰慈はその事実を認めたくない故に、あえて行方不明扱いにしていたのだ。 認証自体は目があればなんとかなる。ついでに会長の死体があるのはこの階…正直、嫌な想像しかできない。 灰慈によれば、ロックをかけた誰かは、彼に解除させようとしていたらしい。 「あいつ」の悪趣味に付き合うくらいなら、装置を諦めるほうがマシだ。それだけ言って灰慈は立ち去ってしまう。 予想通り、こまる達が会長の首をここまで持ってくることになる。 更に、こまるの前に会長の霊が現れた。ヘビー過ぎる体験のせいで、とうとう幻覚が…。 ちなみに霊=非科学的=存在しない派の腐川には何も見えてない。 ○塔和十九一(トウワ トクイチ) 塔和グループ会長、灰慈の父。灰慈の目の前でモノクマに殺害されている。 会長の霊はこまるの口を借りて語り始める。 最中――モナカの暴走を止めてくれ。塔和の栄光の歴史を終わらせないために。 モナカは、十九一が愛人に産ませた子供。 母親が捨てたので拾ってやったのに、モナカはその恩を忘れて塔和グループに反旗を翻した。 「あの女」がモナカを狂わせたのだ――あの女? 腐川の超いい加減な読経で十九一の霊は退散、話は途中で打ち切られる。 大事な話の途中だったのに…。腐川は幻覚だと取り合わない。 109 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 22 49 45.25 ID kCAPqHAl0 途中、モノクマに襲われている言子に遭遇。見捨てるのも気が引けるので、助けてあげる。 どうやら彼女も裏切り者扱いになっているらしい。 楽園には最初から興味が無かった…モナカが新月に話した真実を、言子も聞いていたのだ。 希望の戦士が敗北した時にモノクマキッズが襲ってきたのも、おそらくモナカの仕業。 モナカは自分だけの王国を造り、そこに二代目江ノ島盾子として君臨するつもりなのだ。 あいつは嘘をついていたばかりか、希望の戦士を裏切り、殺した。にこやかな演技をしながら、憤る言子。 彼女の話を信じていいものか…迷う二人に、言子は耳寄り情報を教えてくれる。 モナカがいるのは、塔和ヒルズに停泊中のエクスカリバー号。プロローグでこまるが落とされた、あの巨大ヘリだ。 モノクマを操っているのはモナカだから、装置もそこにあるはずだと言う。 ついでに十神の居場所も教えてもらえた。ヒルズ最上階付近の倉庫だが、そこの鍵もモナカが持っている。 何にせよ、まずはモナカの所へ行かなければならないようだ。 塔和ヒルズの中を進む間、気になる部屋をいくつか発見する。 一つは不気味な扉。開いてみると、中はどう見ても拷問部屋だった。 後から着いて来た灰慈が怖い顔をしている。ここは、大人達の身内が拷問を受けていた部屋だと言う。 秘密基地で「自分の妻が…」と叫んでいた男性のことを思い出す。 子供達は、基地に置かれた宣伝車を通して、身内が拷問される様子を大人に見せつけていたのだ。 床に血文字らしきものを見つけるが、早く部屋から出たい腐川に急かされて、読み取ることは出来なかった。 もう一つは、梯子の上にあった扉。 部屋の中には、壁一面に江ノ島盾子の写真が貼られていた。その中に、笑顔のモナカと江ノ島が写っている写真を見つける。 微笑ましい写真だが…腐川に言わせれば、江ノ島の隣でこんな顔が出来るのは、まともな人間ではないらしい。 おそらくここはモナカの部屋なのだろう。こまるは、何か引っかかるものを覚える。 モノクマの猛攻を突破し、ようやくエクスカリバー号の奥へ辿り着く。 二人を待ち構えていたのはモナカ…ではなくクロクマ。 モナカは現在おねんね中とのこと。寝室はすぐ近くにあるのだが、何故か扉が三つある。 三つのうち、二つはうるさいクロクマ対策の即死トラップ。 放っておけば三年起きないらしいので、正解の扉を当てないといけないようだ。 こまるは道中のあることを思い出し、梯子の上にある扉を選んだ。 扉を開けると、勢いよくモナカが飛び出し、華麗な着地を決めた。 「立った…モナカが立った!」 驚きのあまり叫ぶクロクマ。それは灰慈が言った方が良かったのに。 あの車椅子は偽り。モナカは、足が不自由なふりをしていたのだ。 長い梯子の先にあった、モナカの秘密の部屋。本当に足が不自由なら、あんな場所に自分の部屋を作るはずがない。 110 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 22 55 00.41 ID kCAPqHAl0 モナカは、複雑な事情のせいで家に居場所が無かった。さらに彼女の優秀さが、家族からの嫉妬に拍車をかけた。 モナカは考えた末、「可哀想な子供」になることにした。それが、足が不自由なふり。 車椅子での生活は苦労したが、その分見返りはあった。 モナカの境遇に同情して、希望の戦士たちが集まってきた。 父も兄も、少しだけ優しくなった。自分のせいでモナカの足が不自由になったと同情して。 腫物扱いされていた自分が生きるには、そうするしかなかったと語るモナカ。 父と兄…塔和十九一と灰慈のことだ。あれは幻覚じゃなかったのか。 ○塔和最中(トウワ モナカ) 希望の戦士の「魔法使い」モナカの本名。 小学生にして、塔和グループのロボット開発部門最高責任者となる優秀な頭脳を持つ。 召使いと共に、こまるを本拠地に誘い込んでいたのもモナカだった。 彼女にとって楽園なんてどうでもいい。大事なのは「二代目江ノ島盾子」だけ。 こまるをここまで連れて来させたのは、彼女が「二代目江ノ島盾子」にどうしても必要な人間だから。 モナカは懐からコントローラーを取り出した。 これはモノクマの操作と、モノクマキッズの洗脳をコントロールしている機械…モナカの「魔法」の正体。 つまり、あれを破壊して十神が囚われている部屋の鍵を入手すれば、全ての問題が解決する。 モナカは例の如く巨大ロボを呼び出し、襲いかかってきた。 巨大ロボに立ち向かうこまると腐川。その勇姿が塔和ヒルズ屋外に映し出されていた。 外の大人達が、二人の少女に声援を送っている。 ○魔法使いロボ ブラックサスペリアン 今までの巨大ロボの全ての武器を兼ね備えたようなロボ。 複雑な機構を制御する為か、クロクマが内部に入ってモナカとともに操縦する。 モナカのとっておきも、こまる達の奮戦によって敗北。 爆発に巻き込まれ大破したクロクマは、そのまま窓を突き破り地上へと落ちて行った。 敗北したモナカは、信じられないという様子で茫然としている。 コントローラーが壊されたら計画が終わってしまう、二代目になれなくなる…泣き出すモナカ。 腐川に脅されて、渋々コントローラーを差し出した。 これを壊せばモノクマは止まり、子供達の洗脳も解ける。こまるは呆気ない展開に、ちょっと拍子抜けだ。 壊す >壊さない 111 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 00 11.11 ID kCAPqHAl0 全て終わる……はずなのに。何故か何かが引っ掛かるような気がして、こまるは躊躇する。 慌てた様子で言子が割り込んできた。子供の洗脳が解けたら、せっかく出来た友達がいなくなってしまう。 友達というか、操っていただけなのだが…言子には些末な問題のようだ。果てはモナカと口論を始める始末。 腐川はとっととコントローラーを壊して終わらせたい。こまるは混乱気味だ。 「ねえ…苗木こまるさん、モナカからもお願いだよぉ…。お願いですから、正しい選択をしてくださいね」 壊す >壊さない コントローラーを壊せないこまるを、何故かモナカが唆してくる。 「お姉ちゃんは、狂ったコドモ達を止めたかったんじゃないの? お兄さんみたいな、『みんなの希望』になりたかったんじゃないの?」 いつの間にかコントローラーを壊してほしい態度になっていることに、腐川は違和感を覚える。 モナカ曰く「そういうシーン」だからだそうだ。 腐川は、こまるに任せることにする。何が起きたとしても、自分も一緒に責任を負う。 だから…こまるが思うとおりに決めればいい。 壊す >壊さない 少なくとも、今は壊さない方がいい…。それがこまるの結論だった。 恒例のように遅れてやって来た灰慈。妹のモナカを罵倒し、コントローラーを壊せと迫ってくる。 壊せと言う灰慈と、壊すなと言う言子。彼らを眺めながら、モナカはただ微笑んでいる。 壊す >壊さない コントローラーを壊さなかったこまるに、安堵する言子。 一方の灰慈は苛立っている。何故ガキ共を庇う…耳を澄ましてみろ。 「壊せ!壊せ!壊せ!」 外では、大人の群衆がモニタに向かって叫んでいる。二人がモナカを倒す瞬間を、大人達は見ていた。 今は、こまるがコントローラーを壊して、この悪夢を終わらせてくれるのを待っているのだ。 こまるを後押しするために、灰慈はモナカを脅してこれまでの所業を語らせる。 112 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 05 42.35 ID kCAPqHAl0 始まりは、モナカが希望ヶ峰学園付属小学校に通っていた頃のこと。 後に希望の戦士となる四人に、モナカがふざけて自殺をけしかけていた時、江ノ島盾子が現れた。 その出会いは偶然ではなく必然。江ノ島は以前からモナカに目を付けていた。 当時、モナカは既に塔和のロボット開発部門の最高責任者となっていた。 モノクマを量産できる企業を探していた江ノ島は、モナカを利用するために近づいたのだ。 稼いでくれるうちは好きにさせておこう…父や兄は、モナカの行いについては見てみぬふりをしていた。 そのため、モナカの「次世代ロボットを作りたい」という見え見えの嘘も、二人は見破れなかった。 腫物扱いされていた自身の立場も把握したうえで、彼女はモノクマの大量生産をやってのけたのだ。 父の十九一がそれに気づいたのは、モノクマが「人類史上最大最悪の絶望的事件」に投入された後。 モノクマの生産をやめれば、江ノ島は塔和グループがモノクマを造っていたことを暴露するだろう。 モナカは十九一を脅し、モノクマの製造を続けさせた。 その上ビジネスチャンスだと唆して、今度はモノクマに対抗するための武器を造らせた。 毒ガスに有効な空気清浄器を開発できたのは、塔和グループこそが毒ガス製造者だから。 塔和シティが例の事件の被害を受けていないのは、絶望に加担していたから。 塔和グループは裏で絶望と手を組んで、壮大なマッチポンプを行っていたのだ。 十九一も最終的には進んで協力し、江ノ島のパトロンのような存在になっていたという。 灰慈が未来機関を嫌っていたのはそれが原因。彼にとっては、塔和グループは守りたい場所なのだ。 しかし、これから世界中が絶望に染まるという時に、江ノ島は死んだ。こまるの兄…苗木誠のせいで。 それを機に十九一は手の平を返し、モナカの言葉も聞かずに絶望と手を切った。 モナカの目的は子供の楽園でも大人への復讐でもなく、江ノ島盾子の遺志を継ぐこと。 江ノ島は口癖のように言っていた。世界を絶望に染め上げたい…と。 その遺志を継ぐために、モナカは戦争を起こそうとしている。 こまるが持っているコントローラーを壊せば、世界を絶望に染め上げる戦争が起きる、と言い出す。 どうせハッタリだ、と灰慈は言うのだが…。 壊す >壊さない 唐突に言子が何かを思い出す。子供達が被せられているモノクマヘッドは、モノクマの動力と連動している。 モノクマが停止したら、爆発する仕組みになっているというのだ。 モナカとクロクマが内緒話をしていたのを偶然聞いたらしいが、それがもし真実だとしたら…。 壊す >壊さない 子供達が死ぬかもしれない…モナカのハッタリだとしても、可能性がある以上は壊せない。 子供達は洗脳されているだけで、自分の意思でやっているわけではないのだから。 灰慈はそんなのはどうでもいいようだ。いくら復讐してもし足りない、自分達はそれだけの仕打ちを受けてきた。 ガキ共が死のうが自業自得、そんな態度だ。 113 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 11 27.68 ID kCAPqHAl0 それまで黙っていた腐川が、モナカの意図に気付く。モナカの目的は、塔和シティと未来機関との戦争だ。 コントローラーを壊しモノクマヘッドが爆発すれば、街中に子供の首なし死体が転がることになる。 未来機関がその事態を知れば、ほぼ確実に生き残っている大人の仕業だと考えるだろう。 加えて、塔和グループと絶望の癒着…未来機関は塔和シティの人間を「絶望の残党」と見なし、街を制圧しに来るに違いない。 塔和シティと未来機関の戦争…それだけでは終わらない、とモナカは言う。 世界中に散らばっている「絶望の残党」もまた、塔和シティの大人を自分達と同じ「絶望の残党」だと思うはず。 未来機関との戦争が始まると知れば、きっと彼らは塔和シティに集まってくるだろう。 かつて江ノ島が起こした絶望が、塔和シティを起点に再び始まる…。 「そこまでやればさ、『二代目江ノ島盾子』を名乗ってもいいよね?」 灰慈は狼狽しながらも、モナカの話をハッタリだと切り捨てる。 もし事実だとしても、未来機関の人間である腐川が事情を説明すればいいはずだ。 しかしモナカの態度は変わらない。塔和シティが絶望に加担していたという事実はどうしようもない。 そもそも、街中に子供の死体が転がっている時点で完全にアウト。「子供の被害者」というのは、それだけ強烈なのだ。 子供のいない大人を生き残らせて、身内が拷問される様子を見せつけていたのも、大人達の復讐心を煽るため。 こまるをサポートし成長させていたのも、大人達の希望にするのが目的だった。 「大切な人の解体ショーを生中継された人間に、希望を与えたらどうなると思ったー? 明るく前向きに頑張ってくれると思ったー? そんな訳ないじゃーん。 その人は絶対に、復讐に生きる魔物に進化しちゃうんだよ」 外からは、狂ったような叫びが聞こえてくる。 「殺せ!殺せ!殺せ!」 大人達は、子供の頭が爆発しようが気にもしない…それどころか、喜びの声を上げるだろう。 彼らは正真正銘、本物の魔物になってしまったのだから。 そしてそれは全て、大人達の希望を煽った、こまるのせい。言われたこまるは困惑するしかない。 灰慈が、モナカの話はおかしいと言い出す。 今までの話が本当なら、モナカは戦争を起こすために、何としてもコントローラーを壊したいはずなのだ。 モナカはそれではダメだと首を振り、立ちあがる。 「立った! モナカが立った!?」 驚いている灰慈は置いておいて、モナカはこまるに詰め寄る。 「それで、こまるさんは結局どうするの? どうやって、これを終わらせるの?」 子供達を殺して大人達を救うか、子供達の命を助けて、虐殺を続けさせるのか。 どちらを殺してどちらを生かすのか…こまるが選び、どちらかを殺すのだ。 114 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 16 27.80 ID kCAPqHAl0 壊す >壊さない 無理だ、壊せない…そんなことをしたら…。しかし、モナカはこの先のことがわかっているらしい。 こまるがコントローラーを壊し、子供達の頭が吹っ飛んで、戦争が始まる。 そして、新たな絶望の象徴「二代目江ノ島盾子」が誕生する…こまるが「二代目江ノ島盾子」となる。 モナカではなく、苗木誠の妹が「二代目江ノ島盾子」になるほうが、より絶望的だ。 だから、コントローラーを壊して子供達を殺すのは、こまるでなければならない。 コントローラーを壊せば、その映像は録画されて未来機関に送られる手筈になっているという。 灰慈は痺れを切らし、コントローラーを寄越せと言い出す。 こまるは拒絶する。コントローラーは渡せない…子供達を死なせるわけにはいかない。 ならば俺達はどうすればいい? どうすれば虐殺を止められるんだ、大人達の復讐はどうなるんだ。 必要ない、理由ない、関係ない…それがこまると灰慈の違い。 だから、モナカはこまるの復讐のために、ある人達に協力を頼んでおいた。 モナカが合図をすると、モノクマキッズがモニタを運んできた。 ――映し出されたのは、例の拷問部屋。 堆く積まれた大人の死体…その中心に、一組の男女の死体が吊り下がっている。 女性が身に着けているスカートに、血で文字が書かれている…。 それが意味するものを理解した瞬間、こまるはその場に崩れ落ちた。 拷問部屋で見つけた、かすれた血文字。おそらく、床に書いた後に力尽きて倒れ込み、その時に下敷きになったのだろう。 そのせいで反転しているが、スカートに書かれていたのは「こまる」「まこと」…自分と兄の名前だ。 「憎い? 憎いに決まってるよね? あんな風に、大切な人の死体を弄ばれたら、ぶっ殺してやりたいくらい憎くて当然だよね」 こまるはモナカを睨みつける。…そんなに壊してほしいのなら、壊してやる。 大人がどうなろうと、子供がどうなろうと…この街が、世界がどうなろうと。 もうどうだっていい! どうなったって知るか! そう叫ぶと、コントローラーを振り上げた。腐川の制止も届かない。 「腐川さん…ごめんね。わたしには無理だったよ…。 わたしは…お兄ちゃんみたいにはなれないよ…!」 モナカは言う。こうなることは、初めから決まっていた。 こまるが抱いた希望は、絶望するためのもの…。 「そう、最初から決まってたんだよ。あなたは絶対絶望するってね」 >壊す 壊す 115 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 21 20.23 ID kCAPqHAl0 コントローラーを壊そうとしたその時、腐川が動いた。 こまるを突き飛ばしてコントローラーを奪い取ると、守るように腕で抱える。 確かに、こまるはこれを壊そうとした。けれど、本心ではこんなことはしたくないと思っているはず。 だから、代わりに自分がこれを守らなくてはならない。 モナカは、そんな腐川に鍵を見せる。十神が捕えられている部屋の鍵だ。 コントローラーと交換で、この鍵をあげると提案してくる。今度は腐川が選ぶ番だ。 「わかったわ…白夜様の鍵を渡して」 笑うモナカ…コントローラーを渡すよう要求するが、腐川は拒否。 こまるも十神も、両方とも連れて帰る。腐川にとってはどちらも大切な存在だ。 だから、どちらかを切り捨てたり選んだりなんてしない。絶対に、どっちも守る! 灰慈が力ずくでコントローラーを奪おうとするが、言子が必死に妨害。 こまるは突き飛ばされてから放心状態、軽くカオスな状況になる。 そこに闖入者が現れた。外にいるビッグバンモノクマが、拳を振り上げている。 ビッグバンモノクマを操縦できるのは、灰慈と十九一の二人だけ、そのように造られている。 なのに、何故動いている? モナカにも理由はわからないようだ。 エクスカリバー号の外壁を破壊するビッグバンモノクマ。腐川達は巻き込まれまいと退避する。 モナカはその場に立ち尽くして、ビッグバンモノクマを見上げている。 「この感じ、知ってるかも……もしかして!」 モナカが笑みを浮かべると同時に、ビッグバンモノクマの腕が天井を破壊した。 外へと逃げ出した腐川とこまる。呆然となっていたこまるを正気に戻したのは、腐川の平手打ちだった。 何故か叩いた腐川が痛がっている。叩いた手が痛いのだ…それだけじゃない。 今度は、こまるに自分を叩けと言い出す。友達がいなかった腐川は、こういう時にどうすればいいのかわからない。 こまるも叩けばおあいこだから、とにかく叩け! 言われた通り、ビンタをかます。 腐川の言うとおりだ。痛いのは、手だけじゃない…。 これでおあいこ、一緒…自分達は一緒なのだ。こまるの頭を撫でながら、腐川は言う。 こまる一人でどうしようもない時は、腐川が頑張ればいい。腐川だけでどうしようもない時は、こまるが頑張ればいい。 そうやって二人で頑張れるのが、一緒でいることの強み。 腐川は慰めも同情もしない。あの映像だって、こまるの両親だと決まったわけではない。 そんなことに悩むよりも、大事なのは今どうしたいのか。 どうしたいか、どうするのか…決めた? 腐川に問われて、こまるは頷く。 どっちも守りたい…どっちかじゃなくて、大人も子供も助かる方法を探したい! 116 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 27 08.47 ID kCAPqHAl0 ビッグバンモノクマが、こまる達の姿を捉える。狙いはコントローラーのようだ。 こまるは涙を拭いて、そびえ立つ巨体を見据える。どっちも守ると決めたから、だから…戦う。 友達が友達を助けるのは当然のことと、腐川もヤル気満々。 助け合える友達がいれば、絶望なんて怖くない。 もう諦めない、捨てたりしない、屈したりしない、絶望なんかしない! 「絶対絶望するなんて…それは違うよ!」 二人のコンビネーションが、ビッグバンモノクマを圧倒していく。 こまるのハッキング銃と腐川のスタンガンが合わさって生まれた希望のコトダマが、巨体を貫いた。 崩壊するビッグバンモノクマ。その操縦席から、何とシロクマの頭が飛び出してきた。 そして、クロクマと同じように地上へと落下していった。 モナカは瓦礫に下半身を挟まれ、動けないでいる。 まだ、何も終わってない…子供の洗脳も、大人達の復讐心もそのままだ。 それどころか、ビッグバンモノクマという希望を破壊され、大人は怒り狂っている。 こんなの、結論を先送りにしただけだ! 喚いているモナカに、こまるは鍵を渡すよう要求する。 「…ま、このあたりが妥協点かもね…」 モナカは苦々しく呟く。十神という人質がいなくなれば、未来機関がやって来る。 そうすれば「絶望の残党」も集まってきて、ある程度の戦争は起こるだろう。 モナカの誤算は、こまるを過大評価しすぎたこと…こまるだけではない、自分も同じようなものだ。 モナカは江ノ島の、こまるは兄の真似をしようとした。けれど、二人ともその器ではなかった。 こまるは、そんなモナカの言葉を否定する。 「真似なんて、出来る訳ないよ。だって、わたしはお兄ちゃんじゃないもん。 わたしはわたし…お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん」 エクスカリバー号が崩壊を始めている。慌てて逃げ出そうとする言子。 動けないモナカを発見すると、言子は微笑む。さっきまでのは演技で、今もモナカのことが大好きだと言う。 「だから、モナカちゃんは最後まで、カッコ良く、可愛らしく、死んでくださいね」 お辞儀をして、言子は去っていった。 117 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 33 12.76 ID kCAPqHAl0 ビッグバンモノクマを破壊され、呆然としていた灰慈も、どこかへ歩き去ろうとしている。 モナカは灰慈に向かって呼びかける。モナカに復讐したくないか、自分の手で殺したくはないか。 こんな終わり方は嫌だ…希望も絶望もできなかったなんて、ジュンコお姉ちゃんに嫌われてしまう…! 「希望…? 絶望…? そんなもん…どこにあるんだよ…」 モナカに目もくれず、灰慈はそれだけ呟いて行ってしまった。 一人残されたモナカ。やがて彼女は笑いだす。 「ああ、そっか…これが一番絶望的なんだね」 轟音と共に、エクスカリバー号は沈んでいった。 塔和ヒルズに戻り、十神のもとへ向かっていた二人。こまるは、腐川にある決意を明かす。 子供も大人も助けるために、自分はどうするつもりなのかを。 「あのね、腐川さん。わたし…この街に残るよ」 ---- チャプター5終わりです。 途中の選択肢で「壊す」を選ぶと、街中が爆発している一枚絵の後「GAME CLEAR」となります。 モナカが仕組んだゲームをクリアしたという意味であって、プレイヤー的にはゲームオーバーです。 118 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 41 48.34 ID kCAPqHAl0 【エピローグ わたしとあたしで変わる世界】 目を覚ましたモナカは、いつの間にか召使いに背負われていた。召使いは瓦礫の街を歩いていく。 彼は気が変わり、最後まで見届けるためにここに戻ってきたという。 モナカと同じように、召使いもこの結末にはガッカリしていた。 いっそ戦争が起きればよかった…そうすれば、きっと素晴らしい希望が生まれていたはずなのに。 召使いは、モナカに二代目になってみないかと持ちかける。 誰よりも彼女を憎んで愛している自分なら、モナカを本物よりも本物らしい偽物に育ててやれる。 そんなことを言う召使いに、モナカはただ一言呟くのだった。 「…キモイ」 二人の背後を、クロクマとシロクマを乗せた猫車が通り過ぎていく。 「ギャッハッハ、まだ二代目とか言ってんのかよ!」 「しーっ、聞こえちゃうよ。まあ、まだ消えてない存在の二代目を作ろうって時点で、根本的に間違ってたね…」 「提案した俺様が言うのもなんだが、やっぱガキんちょは頭弱いぜ!」 「コドモだけじゃなくて、オトナもだけどね…ちょっと不安を煽ったりするだけで、コロコロ転がされちゃってさ」 「テメェ、そんなナリして腹黒いのな! 大福かっつーの!」 「腹黒いのはお互い様でしょ? だって、ボク達は……」 「いや…俺達っていうか、俺? っていうか…――私様?」 うぷぷぷぷ…クロクマ達は笑い出す。 「白い絶望も黒い希望も、結局どっちつかずだったけれど…別にそれもいっか。 だって最初っからこんな街に興味ないし。 それより、アイツらが前のめりになってくれたことのほうが、ずっと大きな収穫よね。 そういう意味では上出来よね、ガキの割にはよく頑張ってくれたわ。 最終決戦の布石としては絶望的に完璧すぎ! ねえねえねえ、そう思わない?」 猫車を押していた何者かは、無言でクロクマとシロクマの頭を叩き潰した。 「えー、何これ…うざいって? アンタにも、まだそんな感情があったんだ。 それとも、そう感じるべき状況だからそうしてみただけとか? とにかく後は任せたからね…と言っても、次に会う時は別の姿だろうけど。 うぷぷ、これで少しは楽しくなるといいね。アンタが予想できない未来に、なるといいね…」 それぞれの頭から部品を抜き取ると、クロクマ達が話しかけていた相手はどこかへと去っていく。 後には、壊れた残骸だけが残された。 119 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 48 21.96 ID kCAPqHAl0 神社の抜け穴から塔和シティを脱出した十神は、誠に連絡を取っていた。 十神だけではない、生き残った要救助民も一緒にいる。だが…苗木こまると腐川冬子は、ここにはいない。 驚く誠に向けて、十神はこまるから預かって来たメッセージを再生した。 塔和シティに残る…今まで脱出する為に頑張って来たのに、それではまるっきり逆ではないか。 困惑する腐川に、こまるは説明する。 「どっちも守りたい」と言った時、それまで抱いていた恐怖や迷いが吹っ飛んで行った。 巨大なビッグバンモノクマを前にしても、どうしてか勇気が出てきたのだ。 それはきっと、自分がやるべきことだと確かな自信を持てたから。 もし十神達と一緒に塔和シティから出て行ったら、この街はどうなるのだろう。 暴動を鎮圧しに来た未来機関が、塔和グループの過去を知ったとしたら。 そして、「絶望の残党」が集まって来たとしたら…きっと、モナカの言う戦争が起きてしまう。 そうならないように…どっちも守るために、この街に残りたい。 今までは腐川に頼ってばかりで、自分で何かを決めたことなんてほとんど無かった。 でも「どっちも守りたい」というのは、こまるが自分で決めたこと。 もちろん怖いし、不安だけれど…それも分かった上での決意だ。 だから最後まで諦めない。ちゃんと、どっちも守ってみせる。 その間、未来機関がこの街に干渉しないようお願いして欲しい。こまるは、腐川にそう頼むのだった。 「あー、もう…なんであたしが、こんな街に残らなきゃいけないのよぉ!」 いつの間にか、腐川も街に残ることになっている。彼女は十神と一緒に帰りたがっていたはずなのだが…。 こまるが残るのに、自分だけが帰る訳に行かない。腐川だって「こまると一緒」と決めているのだ。 だから自分も残る。これは腐川自身が決めたことだから、こまるに文句は言わせない。 「だからね…わたしがこの街に残ることにしたのは、誰かに強制されたりした訳じゃなくて… ちゃんと、自分で決めたことなんだよ」 自分が残ったところで何かが変わる訳じゃないし、兄のように誰かの希望になれないこともわかってる。 だから、こまるは待つことにした。誠達が「絶望の残党」をやっつけて、この街に迎えに来る日を。 両親のことについては、結局わからなかった。拷問部屋には、もう何も残っていなかったのだ。 あの時モナカが見せた映像は、あらかじめ録画したものなのだろう。 わからないということは、どこかで元気にしている可能性もある…だったら、それを信じることにする。 画面の中のこまるは、笑顔でそう言うのだった。 120 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 53 30.98 ID kCAPqHAl0 「今度会う時は…お兄ちゃんがビックリするくらいに成長してるかもよ。 わたしが、お兄ちゃんを見てビックリしたのと同じくらいにね。 …じゃあね、お兄ちゃん」 誠は、とっくにビックリしていた。 十神と会った時も、誠と連絡をとった時も、こまるは怯えてばかりだったのに…。 あいつらの期待を裏切る訳にはいかない。十神の言葉に、誠も頷く。 「十神クン、ボクは決めたよ。もし次にこんな状況になったら… たとえそれが危険な罠だろうと、そこに飛び込んでいくよ。 自分の手で、ちゃんと終わらせるためにね」 誠の決意を聞いた十神は、かつて希望ヶ峰学園で誠が言っていた言葉を思い出していた。 「希望は伝染する…か」 こまると腐川への借りを返すまでは、誠に協力してやる。 十神もまた、一つの決意を抱くのだった。 荒れ果てた塔和シティにも、朝は来る。 元気なこまるに対して、腐川はややグロッキー気味。こまるの寝相とイビキと寝言のせいで睡眠不足のようだ。 一人で寝れば済む問題なのだが、幽霊が怖い腐川は一人だと眠れない。 塔和ヒルズでの一件以来、腐川はすっかり幽霊の存在を信じるようになった。 彼女の苦手なものが、また増えてしまったようだ…。 「ほら、さっさと行くわよ。あたしらが目を光らせてないと、連中はすぐ争いを始めるんだから…」 歩き出した腐川を、こまるは慌てて追いかけていく。 「ねー、ちょっと待ってよー…冬子ちゃんってばー!」 121 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/03(水) 00 08 08.09 ID yduxnIM00 これで絶対絶望少女終わりです。 エピローグは文章だけだと分かり辛いので、いくつか補足しておきます。 前提として、絶対絶望少女は1と2の間の話にあたります。 シロクマとクロクマに搭載されている人工知能=江ノ島盾子のアルターエゴ。 作中の描写からの推測ですが、二体はそれぞれ以下のような役目を持っていたようです。 クロクマ…希望の戦士=子供側を誘導する役。モナカに「二代目江ノ島盾子」の計画を持ちかけた張本人。 シロクマ…大人側を誘導する役。子供がいない=復讐心を煽りやすい大人を選別して生き残らせていた。 さりげなく灰慈を誘導していたりするので、やってることがクロクマよりえぐい。 こまるの成長を促すのも役目の一つかも。 二体の頭を破壊したのはカムクライズル(=2の日向創)です。 彼が持ち去った部品、或いは別の江ノ島アルターエゴがジャバウォック島に持ち込まれる →2のコロシアイ修学旅行開始…という流れになります。 十神と誠のやりとり(罠だろうと飛び込んでいく~)も、2の6章への布石っぽいです。 クロ&シロクマの人工知能を仕込んだのは誰かとか、5章冒頭の侵入者とか、明らかにならないままの謎もいくつか。 (作中の人物に限定するなら、どっちもカムクラあたりっぽいですが) ちなみに、エンディングでそれぞれのその後が何となくわかります。 大人達は争いを続けていて、モノクマを壊しているようです。灰慈は燃え尽きた抜け殻みたいになっています。 モナカと言子以外は死亡したような気がする希望の戦士ですが、全員ちゃっかり生きてました。 モナカは二代目を目指すことにしたのか、江ノ島っぽくイメチェン。 洗脳されたままの子供達を使ってモノクマ製造に励んでいるようです。 本筋はフルボイスで、おなじみの2.5Dに3Dムービーやアニメパートなど盛り沢山。 こまると腐川が互いに支え合って成長していく物語も、王道でとても良いです。 単体ではオススメしづらいのが難点なのですが、ダンガンロンパシリーズをプレイ済みなら是非やってもらいたいです。 本編シリーズとは別の方向でグロい表現(死体の山とか)があるので、そこは注意かも。
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絶対絶望少女 part68-24~34・38~47・49~59・65~74・76~86・107~121 24 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 19 06.71 ID MjoKrHxS0 書き込みテスト 絶対絶望少女、ざっくりまとめ終えたので投下します。 今回はプロローグの終わりまで投下する予定です。 25 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 21 13.32 ID MjoKrHxS0 至って普通の女子高生の苗木こまるは、監禁生活と言う異常な日常を送っている。 窓の外には頑丈な鉄格子が嵌められ、玄関のドアは決して開かれることはない。 朝昼晩に与えられる食事が数少ない犯人との接触だが、壁越しのため姿は見えないし声も聞こえない。 そのため、誰が監禁しているのかも、その目的も一切不明のまま一年半が経つ。 お陰で、2LDKという小さな世界での生活にも慣れてしまった。 毎朝制服に着替え、玄関に向かって抵抗を続けるのも、日課のようなものだ。 脱出を諦めたわけではないが、希望を持っているわけでもない。 希望を抱くこともなく、かといって絶望することもなく。こまるはそんな日々を過ごしている。 こまるがいつものように朝食を食べていると、玄関から物音が聞こえてきた。 誰かが助けに来たのだろうか? 外の何者かに向かって助けを求めるが返事は無く、代わりに鋭い爪が分厚いドアを貫いた。 縦に裂かれたドアの向こうから、赤い光がこまるを捉える。 歪んだドアを引っぺがして現れたのは、白と黒のクマ――モノクマだった。 ○苗木こまる(ナエギ コマル) 1の主人公である苗木誠の妹。声が変わりアンテナが生えた。兄は超高校級だが、彼女自身は何の変哲もない一般人。 どこかの2LDKで理由もわからぬまま監禁生活を送っていたが、それも突然終わりを迎える。 状況をほとんど把握できないせいで、序盤は怯えるか戸惑ってばかり。 ○モノクマ おなじみのモノクマだが、こまるは監禁されていたので外の出来事を殆ど知らない。のでモノクマのことも知らない。 両手に備えた鋭い爪に鉄板程度なら簡単にぶち抜くパワー、丸い体型に似合わない俊敏さを持ち合わせており、大人でも立ち向かうのは難しい。 今回は自動操縦なので、「うぷぷ」とか「ぐへへへ」とか声は発するものの、意思疎通は不可能。 普通のモノクマ以外にも、爆弾を投げてくる「ボンバーモノクマ」やゾンビ映画に出てきそうな「ジャンクモノクマ」など、バラエティ豊かなモノクマが登場する。 モノクマの襲撃を逃れ、外に飛び出すこまる。マンション内と思しき廊下では、あちこちから火の手があがっている。 辛うじて辿り着いたエレベーターホールで、こまるは数人の黒服の男達に出会う。 先頭に立つ青年が、こまる――の背後に迫るモノクマに拡声器のようなものを向けた。 そこから放たれた青い光が命中すると、モノクマは一瞬で爆発した。 26 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 24 02.67 ID MjoKrHxS0 「苗木こまる…だな。未来機関第十四支部、十神白夜だ」 ○十神白夜 1の生き残りで、超高校級の御曹司。今回はちゃんと本物。 コロシアイ生活を生き延びた後は、仲間と共に未来機関に所属している。 十神がここに来たのは、こまるを助けるためだと言う。 このマンションに「要救助民」が監禁されている…そんな情報が未来機関に入って来たのだ。 十神は訝しんでいる。情報は正しかったようだが、何故ここにモノクマがいるのか。 未来機関が来たのを見計らったように始まった暴動もタイミングが良すぎる、と。 モノクマのことも、外で起きているらしい暴動のことも知らないこまるは混乱するばかりだ。 「モノクマを知らないとは呑気なものだな。そんなところは、最初に会った頃のあいつとそっくりだな」 「あいつ…?」 本当に何も知らないようだな、と呆れた様子の十神。 「だったら教えてやるが……今はそんな無駄話をしている場合ではないぞ」 十神の視線の先では、未来機関のメンバー達がモノクマの群に襲われていた。 天井から、廊下の奥から、たくさんのモノクマが溢れてくる。 十神は拡声器のような機械をもう一つ取り出し、こまるに渡す。 ○拡声器型ハッキング銃 未来機関が開発したハッキング装置。プログラムコード=コトダマを電波で飛ばす仕組み。 自発破壊を促す「壊(コワレロ)」は、モノクマも一撃で破壊する威力を持つ。 停止している機械を強制作動させる「動(ウゴケ)」など、破壊する以外にも様々なコトダマがある。 27 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 26 52.94 ID MjoKrHxS0 「向かいのファミレスに未来機関の人間が待機している。お前にも逃げるくらいは出来るだろう」 言われるままエレベーターに飛び込むこまる。 モノクマと戦う十神達を残して、エレベーターは動き始めた。 一年半ぶりの外だが、そこでもモノクマが人々を襲っている。 ファミレスに入って助けを求めるが、ガラスを破り飛び込んできたモノクマが店員に襲いかかった。 店内にいた客達も、なだれ込んできたモノクマに次々と殺されていく。 「緊急事態です、皆さん、ただちに避難してください!」 設置されたテレビの向こうでは、キャスターが繰り返し叫んでいる。 避難と言われても、いったいどこに逃げればいいのか。 運良く物陰に隠れられたが、見つかるのも時間の問題だ。 「逃げないと……」 ここから逃げないと。こまるは何とか自分を奮い立たせ、ハッキング銃でモノクマを撃退した。 静まり返った店内に一人立ち尽くすこまる。そこに誰かの声――笑い声が響く。発生源はテレビの中だ。 モノクマに襲われたのだろうか、避難を呼びかけていたキャスターは血塗れになって伏している。 「がおーっ、オレっちはゾンビだぞーっ!」 突然、テレビの中に数人の子供が現れた。彼らはキャスターの死体を使ってゾンビごっこに興じている。 死体を弄び、走り回る子供達。その様子は、まるで人形で遊んでいるかのようだ。 中央に車椅子の少女が進み出て、カメラに向かって語りかけてきた。 「はじめまして。私達は希望の戦士です。モノクマちゃんの、ご主人様です。 私達は、この街に子供達の子供達による子供達のための楽園を建設することにしました。 そういうわけなので、大人の皆さんはもう必要ありません! さようなら~」 少女の宣言を最後に、テレビは沈黙した。 28 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 29 52.07 ID MjoKrHxS0 【プロローグ 希望の妹と希望の戦士】 今から一年半と少し前、世界を一変させたある事件が起きた。発端はある学校――希望ヶ峰学園で起きたとされる学生運動。 それはあらゆる地域を巻き込んで、深刻な事件へと発展していった。 窃盗、殺人、放火…あらゆる犯罪の発生率が増加。それは復讐という形で更なる事件を引き起こし、犯罪発生率は劇的に跳ね上がった。 やがて事件は戦争へと発展…世界は絶望に染め上げられた。 こまるは、それでも大丈夫だと信じていた。自分の世界は大丈夫だ、と。 クラスメイトが7人死んだ時も、まだ大丈夫だと自分に言い聞かせ続けていた。 だが、こまるの世界はある時あっさりと崩れ去った。見知らぬ男達によって家族と引き離され、監禁生活が始まったのだ。 それから一年半が経ち、絶望が終わった先に待っていたのは更なる絶望。 希望なんて持つもんじゃない……彼女は改めて、そんな思いを噛みしめている。 相変わらず外ではモノクマが暴れまわっている。 十神の言葉を思い出し、ファミレスにいるはずの未来機関の人間を探す。 それと思しき男は傷を負ってはいるものの、何とか生きていた。 こまるが要救助民だと知った彼は裏口を指さす。裏口の先には公園がある。そこに未来機関のヘリがあるはずだ。 その時、再びモノクマが飛び込んできた。 「急げ、逃げるんだ!」 躊躇するこまるだが、自分が残ったところで何も出来ないに決まっている。だから逃げることしか出来なかった。 外は酷い有様だった。そこかしこに死体が転がり、地上では何度も爆発が起き、爆炎が空を赤く染めている。 涙目になりながらも公園に辿り着いたこまるは、待機していた未来機関の人間から大まかな事情を聞かされた。 29 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 32 09.07 ID MjoKrHxS0 ○未来機関 「人類史上最大最悪の絶望的事件」から世界を立ち直らせるために活動している組織。 要救助民=こまる達を救出するため、この街にやって来た。 ○塔和シティ 巨大な埋立地の上に建設された都市。「塔和シティ」というのは通称だが、今ではそちらの方が有名。 こまるが監禁されていたマンションもここにあった。 ○塔和グループ 塔和シティを統治する、最新鋭の技術を誇るIT企業。 毒ガスによる大気汚染を解決する空気清浄器を短期間で開発するなど、世界の再建に大きく貢献している。 塔和グループの威光のおかげか、塔和シティは世界中を席巻した絶望的事件の被害をほとんど受けていない。 塔和シティを突如襲った暴動。現れたモノクマ、謎の子供達の放送。 未来機関も、何が起きているのかは把握出来ていないらしい。 一旦塔和シティから脱出しようという未来機関の提案に、こまるも賛同する。 ここにいたらきっと殺されてしまうだろうし、何よりも家族に会いたいという思いがあった。 こまるは家族の消息も知らないまま一年半を過ごしてきたのだ。 「ああ、君の家族なら……」 「ちょっと待って……何か、聞こえない?」 耳を澄ましてみると、歌が聞こえてくる。いつの間にか、小さな子供が公園の遊具の上に腰かけて歌っていた。 その背後から何体ものモノクマが現れ、未来機関の人間に襲いかかる。 未来機関のメンバーはモノクマに襲われながらも、こまるをヘリの中に匿う。だが、操縦席は既にモノクマに乗っ取られていた。 こまるとモノクマを乗せて、空高く舞い上がる未来機関のヘリコプター。 モノクマの滅茶苦茶な操縦に耐えきれず、操縦桿がへし折れる。制御不能に陥ったヘリコプターは地面へとまっさかさま。 爆発炎上するヘリから何とか脱出したこまるだが、その目の前にモノクマが立ちはだかった。 前だけではない。右にも左にも、背後にも。降って湧いたように現れたモノクマ達が、こまるを包囲する。 絶望的な状況。無数のモノクマの視線の中で、こまるは意識を失った。 30 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 34 36.96 ID MjoKrHxS0 …誰かの呼びかけで、こまるは目を覚ました。いつの間にかベッドに寝かされていたようだ。 またしても、どこかわからない場所に連れて来られたらしい。 側にいた青年は「召使い」と名乗った。 ○召使い どう見ても2の「超高校級の幸運」狛枝凪斗。左手に手袋を付けている以外は特に変化なし。 安全なはずの塔和シティにやって来た早々に暴動が発生し、希望の戦士に捕まってしまった不幸な人。 必死に命乞いをして子供達の召使いになることで助けてもらった。 召使いの印なのか、首には鎖付きの首輪をはめている。 狛枝もとい召使いによると、こまるは丸二日もの間眠っていたらしい。 「丸二日……世界が様変わりするには、十分過ぎる時間だよね。 けれど、キミは世界の事なんかより、自分の事の方が心配なんだよね? これからどうなっちゃうのか、ってさ」 「ど、どうなるんですか……?」 普通すぎるこまるの反応に、召使いは溜め息をついた。曰く「キャラが立っていない」そうだ。 召使いはこまるを「平凡で退屈でつまらない人間」と評するが、だからこそ合格だと語る。 世界の九割は、平凡で退屈でつまらない人間で構成されている。彼らが感情移入出来るのは、こまるのような人間なのだと。 しかしそれは召使いの意見であって、「彼ら」には関係の無い話だ。だから、テストを受けてもらわなければならない。 話が全く見えてこないこまるに、召使いは例のハッキング銃を渡した。 彼はこの装置を解析して「ゲームバランス的に」調整しておいたらしい。 テストの内容は、この部屋から出て「みんな」のところへ辿り着くこと。 ハッキング銃を返してもらった事は口外しないようにと念を押して、召使いは立ち去った。 未だに状況が掴めないままだが、自分はテストとやらをクリアしなければならないらしい……。 部屋の外には、例の如くモノクマがウロウロしている。 召使いの調整のせいか、ハッキング銃は大幅に弱体化されていた。 コトダマの種類が減っているし、弾数制限もついているし、モノクマを一撃で破壊できるはずの「壊(コワレロ)」は半減以下の威力になっている。 それでも、進むしかない。辿り着いた部屋には、テレビの中ではしゃいでいた例の子供達…希望の戦士が待ち構えていた。 「お姉ちゃん、いらっしゃい。来てくれて嬉しいな♪」 31 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 37 11.98 ID MjoKrHxS0 何もわからないこまるのために、希望の戦士は律儀に自己紹介をしてくれる。 ○希望の戦士 モノクマを従える五人の子供達。彼らは皆、希望ヶ峰学園付属小学校の生徒だったらしい。 彼らの目的は、塔和シティに「子供の楽園」を作る事。 ○大門大(ダイモン マサル) 希望の戦士の勇者にしてリーダー。希望ヶ峰付属小学校では「超小学生級の体育の時間」と呼ばれていた。 肩書からも見た目からもわかるように、運動得意の元気っ子。 リーダーらしく希望の戦士をグイグイ引っ張る、ガキ大将っぽいポジション。 ちなみに彼がリーダーなのは、ジャンケンで勝ったから。 ○新月渚(シンゲツ ナギサ) 希望の戦士の賢者兼副リーダー。「超小学生級の社会の時間」と呼ばれていた少年。 得意科目は体育以外全般で、二つ名は社会のエリートになることを期待された故のもの。 子供達の中では冷静な性格で、ともすれば脱線しがちな子供達をまとめる役どころ。 ○煙蛇太郎(ケムリ ジャタロウ) 希望の戦士の僧侶であり、「超小学生級の図工の時間」と呼ばれていた少年。 布きれを繋ぎ合わせたような、奇妙なツギハギの覆面を被っている。 他人に嫌われることで安心を覚えるという変わった思考を持つ。 ○空木 言子(ウツギ コトコ) 希望の戦士の戦士担当、キャワイイものが大好きな女の子。 「超小学生級の学芸会の時間」と呼ばれていた天才子役。 CMに出演するなど知名度は高かったようだが、本人曰く昔の話。 あらゆる方面で過激な言動を連発する。 ○モナカ 希望の戦士の魔法使いでムードメーカー、「超小学生級の学活の時間」と呼ばれていた。 足が不自由で、常に車椅子に座っている少女。 人をまとめる能力に優れ、彼女の周りには自然と人が集まってくるらしい。 基本的にほんわかしているが、子供達の中では多分一番カッ飛んでる。 ○希望ヶ峰学園付属小学校 コドモの才能の育成と研究を行う特権的教育機関。 希望ヶ峰学園への進学者を多数輩出する小学校でもある。 高い水準の教育が行われており、入学試験は難関大学にも匹敵する難易度だとか。 32 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 39 20.25 ID MjoKrHxS0 希望の戦士を名乗る彼らは、魔物から世界を救う救世主であると主張する。 そして、今の自分達は塔和シティで最もえらい! つまりこの街の支配者なのだ。 正直、冗談にしか思えない。魔物だとか、支配者だとか…そもそも子供なんかが一つの街を支配するなんて…。 「子ども『なんか』?」 こまるの呟きに、子供達の顏から笑みが消えた。 「あーあ……『なりかけ』だからどうかと思っていましたけど、もう立派な魔物みたいですね」 力さえあれば、大人や子供といった順列は簡単にひっくり返せる。 彼らの言う「力」とはモノクマのこと。モナカの魔法で、モノクマ達は希望の戦士の言いなりだ。 残酷なことはやめてくれという懇願にも、五人は耳を貸してくれない。 塔和シティの大人を排除する事は、楽園の建設には不可欠なのだ。 「あなた達の言ってる事…さっぱりわかんないよ…」 理解できない様子のこまるに、とうとうモナカが駄々をこねはじめた。 「わーかーらーなーくーなーいーのー! モナカがー、そうだってー、言ったらー! そーうーなーのー!」 他の4人が、慌ててモナカをなだめる。 モナカを怒らせたこまるに、リーダーの大門は怒り心頭。絶対にお前を狩ってやると宣言する。 狩りとは、モナカ考案のゲームのことだ。 ○ゲーム ターゲットの「魔物」を塔和シティに放ち、誰が最初に狩るかを競うゲーム。 通称デモンズハンティング、掛け声は「一狩りいこうぜ!」 33 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 42 20.21 ID MjoKrHxS0 いつの間にか背後にいた召使いが、こまるの左手に腕輪を取りつけた。 それはゲームのターゲットに与えられる特注の腕輪。ゲームのターゲットとは、他でもないこまるのことだ。 ゲーム開始を宣言する希望の戦士に、怯えながらも問いかける。 何故こんな残酷なことを? 少なくとも自分には、そんなことをされる理由なんて無いはずだ。 それを聞いた子供達は爆笑する。楽しいからゲームをやる、当たり前のことじゃないか、と。 「お姉ちゃんの基準で考えても意味ないんだよ。楽しいから、これをやるんだよ」 どこまでも無邪気な子供達。どうやら冗談ではないらしい。 新月だけは乗り気ではないが、それは楽園の建設を優先したいからであって、大人を殺すこと自体には何の躊躇いも無いようだ。 こまるには理解できない。彼らがどうしてそんなに笑っていられるのか、どうしてもわからない。 大人から見ればそうなのかもしれないが、希望の戦士からすれば、そんな言い分はどうでもいいのだ。 「それにね、苗木こまるさん。今のあなたに何かを選ぶことなんて出来ないんだよ。 だって…あなたがいる場所は道じゃないもん」 モナカは言う。こまるが立っているのは道ではなく、ポッカリと空いた穴の上。こまるに出来るのは、奈落に落ちていくことだけ。 その言葉を現実にするように、足元の床が抜け落ちる。奈落の穴を抜けた先は、塔和シティ上空。 背中のパラシュートが開かれ、こまるは風に流されるまま、落ちて行った。 「これで、やっとピースが揃ったね。後は絶望の蓋が開かれるのを待つだけか…」 ゲーム開始に沸き立つ希望の戦士。その輪から外れて、モナカは一人微笑んでいる。 そして、召使いにも彼なりの思惑があるようだ。 「さあ、頑張ってね。キャラの立っていない、平凡で退屈でつまらない…主人公さん」 34 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/03(月) 19 46 34.90 ID MjoKrHxS0 ここまででプロローグ終わりです。 あと自分は前スレで予約した者ですが、 18の書き込みは別の方です。 38 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 01 16.14 ID kc3T5ZYY0 絶対絶望少女、プロローグでわかりにくい部分があったので補足です。 最後にこまるが落っこちた場面は、飛行中の巨大ヘリから空中に放り出される→パラシュートで落下…という流れです。 そいではチャプター1投下します。 39 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 03 39.85 ID kc3T5ZYY0 【チャプター1 地獄の中心で愛を叫ぶマモノ】 どこかの屋上に墜落したこまる。ピンチなのは相変わらずで、フェンスをよじ登りモノクマが迫ってくる。 そこに突然、セーラー服の少女が現れた。彼女は両手に持ったハサミで次々とモノクマを倒していく。 「見~っけ。あんた、苗木こまるっしょ!? 違うなら違うって言ってよ、バラすから!」 いきなり物騒なことを言われる。問答をしている間にもモノクマが次々と湧いてくるので、一旦物陰に身を隠す。 助けてくれたのかと思いきやそういうわけでもないらしく、彼女の目当ては十神白夜らしい。 こまるが持っているハッキング銃から十神の匂いがするそうな。 更に、十数え終わるまでに教えないとブチ殺すという死の宣告を受ける。 そう言われても、知らないものは知らないんだけど…。 「3、2、1……いち……い…ち……」 万事休すと思った時、彼女の様子がおかしくなった。 目を回しながらハサミを落した次の瞬間、雰囲気が一変。 「あ……あんた、誰よ!?」 ○腐川冬子 1の生き残り面子の一人で、「超高校級の文学少女」。被害妄想の激しい性格。 三つ編みが解けているのとボロボロの制服以外は、あんまり変わってない。 が、苦手な血を克服しようと試みるなど、彼女なりに努力を重ねてはいる様子。 相変わらずの十神白夜一筋で「白夜様がいれば地球もいらない」と言い放つほど。 妄想…想像力も健在で、チャプタークリア時に評価してくれる十神も、彼女の妄想の産物である。 ○ジェノサイダー翔 こまるの前に突然現れた「超高校級の殺人鬼」。腐川冬子の別人格で、とっても陽気な性格。 お手製のマイハサミで萌える男子だけを狙う腐女子。モノクマについては「壊す」という扱いなので問題ないらしい。 彼女にかかれば自動操縦のモノクマも雑魚同然。ゲーム中では比喩抜きでの無敵キャラ。 気絶したりクシャミをすると人格が変わるが、今作ではスタンガンによる電気ショックで任意の人格交代も可能になった。 40 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 04 53.79 ID kc3T5ZYY0 それぞれの人格は記憶を共有できないので、ジェノサイダー翔だった時のやりとりを腐川は知らない。 こまるの方も腐川の事情を知らないので、お互いに混乱しっぱなしである。 せめて、敵か味方なのかだけはハッキリしていただきたい。腐川はどもりながらも味方だと答えた。 ここから逃げ出そうと提案するこまるだが、腐川はモノクマを倒すべきだと主張した。 数も多いし、仮に逃げられたとしても追って来たら厄介だ。 腐川はスタンガンでジェノサイダー翔に交代し、モノクマを一掃する。 (十神に命令されて)ジェノサイダー翔を制御するために色々と試した結果、スタンガンで入れ替われることを発見した。 しかも、電力に応じて時間を調整でき、一定時間が経てば腐川の人格に戻ることが出来るのだ。 二重人格だの何だの、実に荒唐無稽な話だが、こまるは腐川の言葉を信じることにする。実際この目で見たわけだし……。 「簡単に人の言う事を信じるなんて、バカなのかしら」 刺々しい腐川の態度に、こまるはどう反応すればいいのか迷ってしまう。 ジェノサイダー翔。ふと、その名前に聞き覚えがあるような気がした。 以前、ワイドショーで騒がれていた連続殺人鬼がそんな名前だったような…。 まさしくそれなのだが、腐川曰く殺人鬼だったのは昔の話。今のジェノサイダー翔は、完全に飼いならされていると豪語する。 心強い味方だと思ったのだが、腐川は怒り出す。電気ショックは体に負担がかかるため、そうそう多用は出来ないのだ。 次は腐川が質問する番だ。十神が持っていたはずのハッキング銃を、何故こまるが持っているのか。 こまるの「十神に助けてもらった」という一言から謎の妄想を繰り広げ、腐川は勝手に敵愾心を燃やす。 十神を助け出し、その勢いで結ばれてみせる! 妄想はともかくとして、「助け出す」という一言に驚くこまる。 なんと、十神は敵に捕まってしまったらしい。そうでなければこの街に残る訳がないという腐川。 ともかく、まずはこの建物から脱出することが先決だ。流れのまま、二人は行動を共にすることになる。 道中、妙な子供に出会う。未来機関と会った公園で見た、あの子供だ。 ○モノクマキッズ おそろいの制服と、モノクマを模したヘルメットを被った子供。モノクマと共に大人達を殺して回っている。 腐川がこの街に来た時には、既にたくさんのモノクマキッズがいたらしい。 基本的に仲間同士としかコミュニケーションをとらないようで、こまる達に対しても「くすくす」などと笑うだけ。 物騒な歌でモノクマを凶暴化させたり、「挑戦状」と称した謎解きを挑んできたりする。 一方でハッキング銃の強化をしてくれるなど、こまるをサポートするような行動も見せる。 41 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 07 22.98 ID kc3T5ZYY0 あちこち崩れかけた建物から、何とか脱出した二人。 こまるは、出会った時から気になっていたことを尋ねてみた。何故、腐川は自分のことを知っていたのだろう。 腐川は、未来機関のヘリの中で、十神の話を聞いていたのだと答えた。彼女も未来機関の一員なのだ。 …と言っても研究生扱いで、制服は支給されていない。使い古したセーラー服を着ているのはそのためだ。 だけどそれもあと少しの辛抱。ジェノサイダー翔が殺人を犯さないように制御できれば、正式な隊員になれる。十神にそう誓ったのだ。 「オカルト占いクソ野郎」や「水泳バカ」でさえ、正式な隊員として認められているのに…と歯噛みする腐川。 友達にすごいあだ名をつけるんだね…そんなこまるの呟きに、腐川は腹を立てた。 「友達じゃないわよ、あたしには未だかつて友達がいたことなんて……さりげなく心の傷を抉ってんじゃないわよ!」 言いつつも、腐川は十神さえいれば友達がいなくとも構わないらしい。 だから未来機関のヘリにこっそり忍び込んで、十神について来た。なのに暴動の混乱ではぐれて、一人きりになってしまった。 こまると出会うまで、腐川は単独行動をしていたということだ。では、十神が捕まったという情報はどうやって知ったのか。 腐川は「色々あった」とだけ言い、言葉を濁した。 これからのことを考える二人。こまるは危険な街から早く逃げ出したいと思っているが、腐川は十神を捜すために街に残るはず。 こまるは、一人では怖くて仕方ない。一人でいたら、きっとすぐに殺されてしまう。 無茶な願いだとはわかっている…それでも、腐川に付いてきて欲しい。こまるの頼みを、意外にも腐川はあっさりOKしてくれた。 感激するこまるだが、ちょっとだけ不安もある。十神を捜すという腐川の目的は大丈夫なのだろうか? 言われずとも、腐川も色々と考えているらしい。 「そっか、腐川さんはすごい人だもんね。私みたいな普通の子が心配しても、仕方ないよね」 本音を言うと、腐川が同行してくれるのはとても嬉しい。 監禁生活が始まってからずっと一人ぼっちで、頼れる人間なんて、どこにもいなかったから。 繰り返し喜びの感情を伝えるこまるに、腐川は尋ねる。この街から逃げる手段については考えているのか。 監禁されていたこまるも、そして腐川も塔和シティの地理には詳しくない。 「埋立地」という情報を思い出したこまるは、橋を目指すことを思いつく。橋を渡れば、街の外に出られるはず。 大きな橋を見たという腐川の記憶をもとに、そこに向かうことにする。 42 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 11 58.39 ID kc3T5ZYY0 道路はあちこち崩落を起こしており、更に大破した車などが道を塞いでいる。 廃墟になったホテル内にあった電話で警察を呼ぶことを思いつくが、腐川はクソアイデアと切り捨てた。 現在の塔和シティでは、電話はもちろんネットもメールも通じない。 若干気落ちしつつも、迂回を繰り返して橋の近くまでたどり着く。 ここまで来れば脱出は目前。喜ぶこまるだが、一方の腐川は浮かない表情だ。嫌な予感がすると言う。 そんな二人の所に、少年が駆け寄ってきた。日焼けした肌と人懐っこそうな顔つきが印象的だ。 久しぶりにまともな人間に会えたという少年は、こまるの左手の腕輪を見て表情を強張らせた。 見れば、少年の左手にも例の黒い腕輪がはめられている。彼も希望の戦士に捕まり「ゲーム」と称して塔和シティに放り出されたらしい。 同じ境遇の相手に出会い、ちょっとだけ安心するこまると少年。 一人蚊帳の外だった腐川だが、少年が名乗ると何やら反応した。 ○朝日奈悠太 こまると同じく、ゲームのターゲットにされた少年。 一目見ればわかるが、1の「超高校級のスイマー」朝日奈葵の身内。背格好的に兄弟っぽい。 運動が好きで、陸上部に所属している。 橋を渡る三人だが、橋は半ばで途切れていた。これでは対岸へはたどり着けない。追い打ちをかけるように轟音が響く。 遠くから、モノクマキッズ達が橋を眺めている…彼らが爆弾を仕掛けていたのだ。 来た道を必死に戻る三人。その背後で、橋は完全に崩れ落ちてしまった。 悠太は諦めず、対岸まで泳いでいこうとする。絶望的な状況を前に、かえって開き直れたらしい。 陸上は得意な悠太だが、水泳には自信が無い…正しくは、近くに凄い奴がいたため避けていた。 だが、今はそんなことを気にしている状況ではない。 そんな悠太に思いとどまるよう言ったのは腐川だった。 対岸までは相当な距離がある。それに、この辺りは水温が低いし環境汚染の影響もある。 どんな危険があるかわかったものではない…それでも悠太の意志は固い。 向こう岸に辿り着いたら、未来機関に連絡して助けを呼んでくる。それまで待っていてくれ、と二人に笑って見せた。 43 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 13 59.34 ID kc3T5ZYY0 眼下の海へと飛び込む悠太。自信が無いと言っていた水泳の腕前はかなりのものだ。 このスピードなら、対岸に辿り着くのも可能かもしれない。 一心不乱に泳ぐ悠太。その左手にはめられた腕輪が警戒音を鳴らし始めた。 腕輪に刻まれたモノクマのマークが赤く輝いた直後、悠太がいた場所で大爆発が起きた。 突然の出来事に、こまるは呆然とする。助けに行かないと…うわ言のように呟くこまるを、腐川は冷たく突き放した。 さっきの光景を目にしてなお、彼が生きていると本気で思っているのか。 朝日奈悠太は、わけのわからない爆発に巻き込まれて死んだ、それが現実だ。こまるはその場にへたりこみ、泣き出してしまう。 しばらく放っておいた腐川だが、やがて立ち上がるように呼びかける。 挫けてしまったこまるはその場から動けない。もう無理だ…どんなに頑張ったって、どうせ死んでしまう。 自分は何もできない、ただの平凡な人間なのだから。 「…だから、諦めるっていうの?」 わけのわからない場所に放り出され、家族にも会えないまま死んで、本当にそれでいいのか。 …いいわけがない。こまるの家族に会いたいという気持ちは、今だって変わらない。 けれど、家族とは一年以上も離れ離れで、どこにいるかもわからない。どうせもう会えないんだ。 希望を持ったところで、もっと酷い絶望が待ち受けているだけだ。弱音を吐き続けるこまるを、腐川は叱咤する。 そんな絶望は乗り越えて行けばいい。もっとも今のこまるには無理だろうが。だが、逃げることは出来るはずだ。 「どうせ死ぬ」と言える程度の覚悟があるのなら、死ぬ覚悟で逃げればいい。 その先に死が待っていたとしても、ここから動かないまま死ぬよりはずっとマシだ。 もう少しだけ頑張ってみる……腐川に言われて、こまるはほんの少しだが立ち直った。 腐川は、街には地下鉄があったことを思い出す。そこに行けば脱出できるかもしれない、電車は動いていないかもしれないが。 「そうだよね、動いてる訳ないよね…」 速攻で弱気になるこまるに、腐川はイライラ状態。 電車が動いていなくても線路を歩いていけば出られるかもしれないと付け足す。 悠太の分まで頑張らないと……ようやく、こまるにも少しだけ元気が戻ってきたようだ。 感傷的なこまるを余所に、腐川は何やら独り言を呟いている。 「あんな安い受け売り文句で元気になるなんて、単純な女ね。 …でも、気が重いわね。さっきの件、あの水泳バカにも伝えない訳にはいかないし。 まあ、それもあたしと白夜様がこの街から帰れたらの話だけど…」 44 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 16 23.23 ID kc3T5ZYY0 地下鉄がどこにあるのかは腐川も知らないので、自力で探し出すしかない。 それでも、腐川と一緒なら見つかりそうな気がする。 「腐川さん。絶対に、一緒にこの街から帰ろうね」 「……」 希望が見えてきて、こまるはちょっとだけ前向きになれた。 ようやく見つけた地下鉄の入り口は、一つは瓦礫で塞がれ、もう一方はシャッターで閉ざされていた。 瓦礫はどうしようもないが、シャッターの方は何とかなりそうだ。 紆余曲折の末シャッターの鍵を手に入れ、ようやく地下鉄へと入る。 これで助かるんだよね。こまるの呟きに、危険があるかもしれないと言う腐川。 「じゃあ、行かない方がいいのかな? 腐川さんが止めた方がいいって言うなら……」 意志が超絶弱いこまるに代わって、腐川は地下鉄に入ることを決定する。 地下通路の中は真っ暗だ。暗闇が苦手な腐川は耐えきれず叫ぶ。 「あーもうっ、誰か灯りを付けなさいよ!」 突然、スポットライトの照明が二人を照らし出す。 地下鉄へ続く通路を歩いていたはずが、フェンスで囲まれた、円形の大きな広間へ入り込んでいた。 入って来た道は鉄格子によって塞がれ、閉じ込められる形になる。周りの客席にはモノクマキッズの大観衆。 「やいやい、もう逃がさねえぞ魔物ども!」 華麗な前転宙返りを決めながら現れたのは、希望の戦士の勇者、大門大。 彼は地下鉄の入り口に罠を張り、二人を待ち構えていたのだ。 常に最前線に立ち仲間を引っ張る勇敢なリーダー、それが大門の理想像のようだ。 威張って隠れてばかりの大人とは違うんだ。誇らしげな大門に、モノクマキッズ達のエールが飛ぶ。 ここはコロシアム、魔物を「殺す」ための場所だという大門。腐川は「コロシアム」と「殺す」は無関係とツッコミを入れる。 45 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 19 08.82 ID kc3T5ZYY0 「うるさいうるさい、お前ら魔物のくせに生意気だぞ!」 さっきから大門が繰り返す「魔物」という単語も、腐川には何のことか理解できない。 おそらく大人達を指しているのだろうと、こまるは推測する。 オトナは魔物、自分達コドモの敵だ。だから魔物を一匹残らず狩りつくし、塔和シティに平和な楽園を作るのだ。 大門は憎悪の宿った目で二人を睨みつける。彼の足元の扉が開かれると、そこにあったのは死体の山。 曰く、これは「産んで育てた」というだけで、コドモ達を支配していた魔物。 そんな魔物から、コドモ達を解放してやったのだという大門。 惨たらしい光景を目の当りにしてしまい、こまるは怯える。 「どうして、こんなことが出来るの? あなた達だっていつか大人になるのに…」 「オトナになんかならねーよ!」 大門は絶叫する。魔物になるくらいなら、コドモのまま死ぬ。希望の戦士とそう約束したのだと。 魔物を一匹残らず狩りつくせば、もう理不尽な暴力に怯えないで済む。痛いのも暗いのも、いくら殴られても怖くない。 自分の右手が震えていることに気付いた大門は、震えを止めようと殴りつける。痣が出来るほどの力で、自分の腕を何度も何度も。 もう手遅れだと呟く腐川。生き死にの概念がどうでもよくなってる時点で、もう末期だ…。 こまる達はまだ「なりかけ」のようだが、二人も近いうちに魔物になる。そうなる前に退治してやる! どこかから飛んできたコントローラーの起動スイッチを押す大門。すると、地面を突き破って巨大なロボットが出現した。 ○勇者ロボ マークガイバー 大門大が操る巨大ロボ。白を基調としたボディと、両腕についた大きなドリルが特徴。 機械なので、モノクマと同じくハッキング銃が効く。 ついでにジェノサイダー翔でも倒せる。殺人鬼マジチート。 46 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 22 06.81 ID kc3T5ZYY0 こまるのハッキング銃によって、破壊されたマークガイバー。 戦いを観戦していたモノクマキッズ達が、追いつめられた大門を取り囲む。 大門の姿はキッズ達の中に埋もれて見えなくなり…そして、彼の付けていた白いヘッドホンだけが残された。 突然の事態を見ているしかない二人。どうも仲間割れとも違うようだ。 「まさか……負けた『おしおき』…?」 ひとまず危機も去ったのだし、二人は一旦地上に戻ることにする。 罠だったことに落ち込むこまるに、腐川はもっと周りを観察しろと言う。 さっきは埋まっていたはずの、もう一つの地下鉄への入り口。いつの間にか瓦礫が綺麗に撤去されていた。 地下鉄に行けると喜ぶが、腐川の方は呆れた様子だ。 自分達が戻ってきたら通れるようになっているなんて、都合が良いにもほどがある。 「じゃあ、やっぱりやめたほうがいいのかな…」 行くなと言っているのではなくて、罠の可能性を考えろと言っているのだ。 他に当てもないのだし、選択肢は無い。二人は恐る恐る地下鉄へと入って行く。 そんな彼女達を、ビルの上から謎の影が見つめていた…。 47 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/04(火) 23 26 26.65 ID kc3T5ZYY0 チャプター1、これにて終わりです。 次回以降の投下はちょっと間が開くと思います…。 49 :ゲーム好き名無しさん:2014/11/06(木) 19 58 52.03 ID im33i+gX0 47 乙。補足だが、悠太については爆発イベント後に橋で拾える手記に 「姉ちゃんなら楽に泳ぎきれるんだろうけど~」っていう感じの一文があるから弟で間違いないと思う。 50 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 20 43.10 ID q/szu9Hu0 絶対絶望少女 チャプター2を投下します。 49 補足ありがとうございます、すっかり忘れてたヨー。。 51 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 22 07.82 ID q/szu9Hu0 【チャプター2 革命学区のおとぎばなし】 仏壇の中央に、大門大の遺影が飾られている。希望の戦士は静かに彼の死を悲しんでいた。 偉そうで馬鹿でエッチだったけどいい人だったと悲しむ言子。 蛇太郎は、いっそ嫌われ者の自分が死ねばよかったのに…と自虐的だ。 「リーダーがいなくなって…モナカ達はこれからどうすればいいの?」 モナカも泣きじゃくっている。一人、新月だけは違う考えを持っていた。 報告からわかる事実は、「オトナに捕まり安否不明」ということだけ。生きている可能性だってあるはずだ。 新月の意見を、モナカは否定する。安否不明、意識不明…平和な頃、ワイドショーでよく言われていた言葉。 それを聞く度、「どうせ死んでるんだろう」と思ったはずだ。だから大門も死んだのだ、と。 それでも食い下がる新月。念の為でもいいから、助けを向かわせるべきではないか。 モナカは無駄だと言うばかり。彼女の中では、大門の死はもう確定事項らしい。 怒らせたくない新月は、仕方なく従うことにする。 祈りを捧げてすっきりしたモナカ。さっきまでの悲しみが嘘だったかのように、ゲームの続きをしようとはしゃぎだした。 楽園の建設を優先すべきだと考えている新月は、ゲームの続行に異議を唱える。 ワガママを言ったから嫌いになっちゃった? モナカのこと、好き? 新月に重ねて問うモナカ。 好きとか嫌いとか、そういう問題ではない…新月は言葉に詰まる。 「新月君の態度……ちょっとオトナっぽいよ?」 オトナになるくらいなら、死んだ方がましだ。新月は必死に否定する。 もう一度好きかと尋ねられて、真っ赤になりながら頷いた。 「で、でも、一緒に楽園を目指す仲間としてであって、恋とかそういうわけじゃあ…」 「大変だぁ、新月君がヤケド状態だよ!」 赤面する新月を、蛇太郎と言子がからかっている。そんな二人をモナカがたしなめた。 「新月君をいじめちゃだめだよ。みんなで仲良くして、一緒に狩りを楽しもうよ」 新たなリーダーに新月を指名すると、モナカはどこかへ行ってしまった。希望の戦士も知らない用事があるらしい。 ちょっとだけ気になるが、自分達が知らなくても問題ないから何も教えないのだろう。 きっと、このゲームにも意味があるはず。新月はそう言い聞かせるのだった。 52 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 24 44.95 ID q/szu9Hu0 地下鉄に降りたこまると腐川。いちおう電気は通っているが、人の気配はない。 予想していた通り電車は止まっていた。瓦礫だらけの地下を進んでいくが、途中から完全に通れない状態になっている。 その上、崩れかけていた天井が完全に崩落。これでは地下鉄からの脱出も不可能だ。 もう、この街から逃げられないのだろうか…どこまでも運の無い状況に落ち込み、こまるは弱気になる。 逃げられないなら、助かる方法は一つだけだ。子供達に立ち向かうしかない。 腐川は言うが、こまるは戦うなんて無理とマイナス方向に自信満々だ。 そこに、モニタを担いだモノクマキッズが現れた。映し出されたのは希望の戦士の僧侶、煙蛇太郎。 彼が接触してきたのは、二人にあることを教えるため。 こまるの手にはめられた腕輪は、街から出ようとすると爆発する仕組みになっているのだという。 橋の上で出会った悠太が爆死したのも、それが原因だった。腐川は、こまるが死ぬところだったと憤っている。 彼女の「気持ち悪い」という評価にも、蛇太郎は嬉しそうにしている。 蛇太郎は人から嫌われると安心する嫌われ星人なのだ。嫌われてしまえば、好かれる努力をしなくてもいいから。 もっと嫌いになってもらうために、蛇太郎は自分の作ったジオラマを見せる。 ――巨大なモノクマと積木のお城。その周りを、人々が音楽に合わせて踊っている。 楽しそうな、しかしどこか歪な光景。よくよく見れば、踊っているのはモノクマが操る人形だ。 いくつもの釘や針金で木の板に縫い付けられた、血を流している人形。人形…? モノクマの手から伸びる糸に繋げられたそれは、人形ではなくて―― その光景に言葉を失う二人。蛇太郎は一方的に話を打ち切り、モノクマキッズは去っていった。 ショックを受けたこまるは、その場に座り込んでしまう。 逃げられないなら戦うしかない。ハッキング銃があれば、不可能ではないはずだ。 腐川は繰り返すが、こまるは出来ないと言うばかり。 腐川と違って、自分は何もできない普通の女子高生なのだ。そんな自分に戦える訳がない…。 「…何のために、あたしがいると思ってるの」 こまるの傍には腐川がいる。一人では無理かもしれないが、二人で協力すれば何とかなるかもしれない。 だから、もう少しだけ頑張りなさい。腐川に励まされて、ちょっとだけ元気を出す。 地下鉄の出口に向かうが、そこにはモノクマがうじゃうじゃと集まっていた。引き返し、別の道を探すことにする。 出口を求めて地下商店街をさまよっていると、誰かがモノクマに襲われているところに出くわした。 頭から布を被っていて姿はわからないが、このままでは命が危ない。ハッキング銃を持って飛び出し、モノクマを撃退する。 モノクマに襲われていたのは…なんとモノクマだった。 53 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 29 31.76 ID q/szu9Hu0 ○シロクマ 全身真っ白のモノクマ。本来黒の左半身を白く塗っており、赤い左目を包帯で隠している。 彼(?)には人工知能が搭載されているため、他のモノクマと異なり意思を持つ。 自称優しいクマ。争いを好まない平和主義者で、大人をモノクマの襲撃から匿っている。 ついでにチャプター1の最後でこまる達を見ていた奴。 こまる達の境遇を聞いたシロクマは、二人を安全な場所へ案内してあげると提案してきた。 地下には大人が隠れている秘密基地があるらしい。 こまるはシロクマをすっかり信用しているが、モノクマというだけで受け入れられない腐川は懐疑的だ。 だが、他の出口にもモノクマがうろついているという話を聞かされ、仕方なく着いていくことにする。 シロクマのことが疑わしくて仕方ない腐川。登場からして不自然すぎるシチュエーションなのだ。 確かにシロクマは二人の先回りをしていた。でもそれは、二人が困っている時に助けようと思っての行動だ。 実際は、逆にこまる達に助けられることになったのだが。 どうして、自分達の力になろうとしたんだろう…理由を聞くこまるに、シロクマは答える。 人を助けるのに理由なんていらない。自分がそうしたいから、しているのだ。 腐川はそれでも疑惑の目を向ける。人工知能があるとは言っても、モノクマであることには変わりない。 他の個体と異なる思考パターンを持っていることについては、説明がつかないのだ。 その理由はシロクマ自身にもわからない。だが、だからこそ自分の心に正直でありたいとシロクマは語る。 地下道のさらに奥…下水道のその先には、巨大な貯水庫があった。 ここは塔和シティが出来た当時からある古い施設で、子供達にも見つかっていない場所だ。 シロクマの言うとおり、秘密基地にはたくさんの大人がいた。大半はモブだけど。 54 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 32 21.48 ID q/szu9Hu0 ○葉隠浩子(ハガクレ ヒロコ) 1の「超高校級の占い師」葉隠康比呂の母親。バツイチ。 シロクマの秘密基地に匿われている女性。彼女もまたゲームのターゲットにされた一人。 物語の本筋にはほとんど関わらないが、こまる達が拾ってきた「殺すリスト」をもとにターゲットの救出を試みてくれる。 描写は無いが成果は出てるっぽい。 ○殺すリスト 希望の戦士が行っているゲームの、ターゲットの弱点や生息地が書かれた紙。 子供達が落としたらしきものが街のあちこちに落ちている。 ○塔和灰慈(トウワ ハイジ) 右腕にギプスをはめている男。塔和グループ会長の息子、いわゆる御曹司。 と言っても街がこんな状態のうえ会長が行方不明の今となっては、その地位も無いも同然だが。 右腕の傷はモノクマに襲われた時のもので、神経まで達する深い傷の為治る見込みがない状態。 現在は秘密基地にいる大人達のリーダー的立場で、レジスタンスを結成している。 仕事にあまり関わっていなかった灰慈は、塔和グループの事情についてほとんど知らない。 そのため、彼もこの街で何が起きているのかはわからない。 せめて街からの脱出方法は無いかと尋ねるが、外へのルートは全て潰されている。灰慈だって知りたいぐらいだ。 しょぼくれるこまるに、灰慈は悲観するなと言う。少なくともここにいれば、子供に見つかることはない。 何故戦わないのかという腐川。灰慈は無茶を言うなと頭を振る。 丸腰でモノクマに立ち向かうなど無理な話だ。今はここに隠れて反撃の機会を窺うのが得策だ。 反発する腐川を、こまるが止めた。自身の無力さを知っているからこそ、灰慈の言い分に共感していたのだ。 そんなこまるに対しても、腐川は辛辣な言葉を浴びせる。 こまるは確かに特別な才能もない凡キャラかもしれない。だが、それは戦わない理由にならない。 普通、平凡…そんな言葉で言い訳ばかりで、いつまで立っても立ち向かおうとしない。 そんなこまるが、昔の自分に重なって見えるのだ。苛立ちを隠せないでいる腐川。 55 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 35 30.65 ID q/szu9Hu0 「どうして、自分で変えようと思わないの? あいつはどんなに辛くても怖くても、ちゃんと前を向いて進んでたわよ」 だが、希望も無しに突っ走るのは馬鹿のやることだ。 この街からの脱出方法も、こまるの腕輪を外す方法も無い状況ではどうしようもない。 腕輪ぐらい未来機関なら一発で外せると言う腐川。まあ、例えで持ち出しただけであって、助けを呼べたならの話だが…。 「未来機関」の名を聞き、灰慈は急に不機嫌になる。二人に出て行けとだけ言って去ってしまった。 仕方なく秘密基地から出ようとするが、シロクマの勧めで一晩だけ泊まることにする。 広場に出ると、大人達が何やらざわついていた。中央に置かれたテレビ付きの宣伝車の前に、人だかりが出来ている。 映っている映像を指さして、一人の男が叫んでいる。 「あれは私の妻なんだ! 誰か、助けてくれ……」 見ない方がいい、とシロクマは言う。ここに逃げてきても、助かったわけではないのだと。 腐川が未来機関の人間であると知り、シロクマは頼みたいことがあった。 シロクマは無線機を二人に渡す。塔和グループが開発した最新の機械で、映像も送れる優れものだ。 これを使って未来機関に助けを呼んでほしいという。 塔和シティ全域に放射されているジャミング電波によって、外への通信は不可能。 だが、発生源の塔和ヒルズより高い場所ならば、通信が出来るはずだ。 その条件を満たす建物が、この近くに一つだけある。街のシンボルでもある塔和タワーだ。 モノクマと戦える力を持っている二人なら、きっと出来ると言うシロクマ。 危険な場所に飛び込むのは怖いけど…助かる可能性があるのなら、塔和タワーに行きたい。 奮起したこまるに、何故か腐川は歯切れが悪い。さっきは「逃げずに立ち向かえ」と言っていたのに…。 そして翌朝。カラフルな街並みを抜けて塔和タワーに向かう。近くで見るとかなりの大きさだ。 入り口の顔出しパネルに違和感を覚えたこまるが覗き込むと、そこには蛇太郎がいた。 周囲のトラックから、次々とモノクマが飛び出してくる。どうやら二人を待ち構えていたらしい。 モノクマを一掃するが、戦っている間に蛇太郎はいなくなっていた。 シロクマの罠を疑う腐川。例えそうでないとしても、タワー内は危険に違いない。 それでも行くつもりかと聞かれ、こまるは頷く。秘密基地を追い出された上、他に手立ても無いのだ。 56 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 38 03.19 ID q/szu9Hu0 通信をするのは高い場所がいいということで、一番上を目指すことにする。 正面にエレベーターが見えるので、あれを使えばあっという間だろう。 だが、こまる達がボタンを押しても動く気配が無い。動かすには専用のカードが必要なようだ。 そんなもの当然持っていないので、諦めて引き返そうという腐川。 しかしこまるは諦めない。エレベーターが無理なら階段を昇ればいいのだ。 休みながら進んでいけば大丈夫と前向きになるが、腐川はあんまり嬉しくなさそう。 階段を上って行く途中、一人の男性に出会う。モノクマの襲撃から逃れて、ここに隠れていたらしい。 ○不二咲太一 1で登場した「超高校級のプログラマー」不二咲千尋の父親。 ちょっと頼りなさそうな性格。家族にも「頼りない」とよく言われたとのこと。 プログラマーである太一は、パソコンを使って腕輪を外そうとしていたらしい。残念ながら無理だったようだが。 こまる達の目的を知った太一は、二人に協力することにする。太一は、セキュリティ関係の仕事に携わったことがあった。 その時の経験を生かせば、エレベーターを動かせるかもしれない。一階に戻りセキュリティの解除を試みる。 モノクマの襲撃を凌ぎ、無事エレベーターの起動に成功。 二人のお陰で希望が見えてきたという太一。これならきっと助けを呼べる、家族にも会えるはず―― そんな希望を打ち砕くように、エレベーターから飛び出してきたモノクマが襲いかかった。 致命傷を負っても、太一はこまる達のことを案じている。 「君たちはきっと助かるよ、最後に役に立てて良かった……。 僕には子供がいるんだけれど、ちょうど、君たちと同じくらいの年なんだ」 自分の子に会えなかったことが心残りだけれど――そんな言葉を最後に、太一は息絶える。 彼の服から落ちた手帳には、一枚の写真が挟まっていた。 そこには笑顔の太一と、可愛らしい女の子(※不二咲千尋)が映っている。 きっと、彼女が太一の子供なのだろう。 「せめて、この子は元気でいるといいな……」 写真に目を落としたまま、こまるはそんなことを呟くのだった。 57 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 40 20.07 ID q/szu9Hu0 こまる達を乗せ、エレベーターは上昇していく。だが、最上階に着く前に突然停止してしまった。 扉をこじ開けて外に出ると、そこは例のコロシアム。待ち受けていたのは蛇太郎だ。 腐川の懸念通り、タワー内で待ち伏せしていたのだ。 嫌いになってくれたかどうかを気にしている蛇太郎。言われずとも腐川はとっくに大嫌いである。 だが、蛇太郎は首を振る。本当に嫌いなものを見る時の大人の目は、そんなものじゃない、と。 彼が覆面を被っているのは、どうもそれが関係しているようだ。 「ボクちんの顔を見たら、お姉ちゃんの目はドロドロに腐っちゃうんだよ。 本当なんだよ! だって、そうじゃなきゃ、ボクちんは何の為にこんな息苦しい覆面を被せられてたの?」 重ねて警告する蛇太郎。目が腐る…おそらく親から言われた言葉なのだろう。彼はそれを頑なに信じ込んでいるようだ。 要するに、大人への復讐がしたいのか。吐き捨てるように腐川は呟く。 蛇太郎は誤解だと落ち込んでいる。復讐なんかではなく、自分達は世界を変えるために頑張ってるのに。 こまるは震えていた。恐怖ではなく、怒りにだ。 どんな理由があろうと彼らがやっているのは人殺しだ。たくさんの人を簡単に殺すなんて、許せない! 蛇太郎は目を輝かせる。自分のことが憎くて、気持ち悪くて仕方ないという視線。やっと本気で嫌ってくれたと喜んでいる。 観衆のモノクマキッズは蛇太郎にブーイングを飛ばし、敵のこまるに声援を送る。 「ああ…やっぱり、ボクちんはコドモ達からも嫌われてたんだね…えへっ、嬉しいな」 これだけ嫌われていれば、好かれる努力をしなくたっていい。好かれる努力も必要ないから、好き放題にできる。 飛んできたコントローラーで、蛇太郎は巨大ロボを起動した。 「いくら嫌われても、いくら憎まれても、僕らは絶対に正しいんだよ。 だって、『ジュンコお姉ちゃん』がそう言ってたんだもん!」 58 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 42 50.67 ID q/szu9Hu0 ○僧侶ロボ ドクトルボンゲロ 蛇太郎が操る、青を基調とした巨大ロボ。 背中についたブースターで飛行しながら、モノクマ風のミサイルを打ち出す。 こまる達の前にドクトルボンゲロは沈んだ。 大門の時と同じように、モノクマキッズが蛇太郎に迫る。もみくちゃにされ、剥される覆面。 その下に隠されていた彼の素顔は、醜いという言葉はとても似つかわしくないような美少年だった。 だが、それもモノクマキッズの中に埋もれてすぐに見えなくなった。 またしても繰り返された意味不明な光景。仲間割れなのか、それとも別の理由があるのか。 自業自得だよ…こまるはそれだけ言い捨てると、蛇太郎を顧みることなく踵を返すのだった。 再びエレベーターに乗り込んだ二人。今度はちゃんと最上階の展望台まで辿り着けた。 早速無線機を起動し、腐川に頼んで未来機関に繋いでもらう。 こまるは無線機に向かって何度も呼びかける。ノイズだらけだった画面に、少しずつ映像が映りだした。 「こちらは未来機関。未来機関、第十四支部……」 安堵しかけたこまるだが、それはすぐ驚きに変わる。 「未来機関第十四支部の――苗木誠です」 間違えようもない。画面の向こうにいたのは、兄の苗木誠だった。 59 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/09(日) 22 44 25.67 ID q/szu9Hu0 チャプター2終了です。本筋だけ書いていくと結構あっさり。 余談ですが、不二咲太一は名乗らないまま死亡したため、こまる達は殺すリストで彼の名前を知ることになります。 65 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 28 02.92 ID wQG5gS/x0 絶対絶望少女のチャプター3を投下します。 66 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 29 30.58 ID wQG5gS/x0 【チャプター3 少女戦線異状あり】 塔和タワーの頂上で、ようやく未来機関と連絡が取れた。 通信相手が兄だったことに、こまるはびっくり。画面の向こうで誠も驚いている。 ○苗木誠 こまるのお兄ちゃん。「超高校級の幸運」にして「超高校級の希望」。彼の活躍については1を参照。 十神達と同じく未来機関に所属している。今回はお留守番。 こまる曰く兄妹仲は悪く、一緒におやつを食べたり漫画の貸し借りをする程度らしい。つまり仲良し。 「うわあぁあん! お兄ちゃん、生きててよかったよぉ~!」 予期せぬ再会。色々な感情が綯交ぜになって、こまるは泣き出してしまう。 嬉しいのは誠も同じで、妹の無事を喜んでいる。だが、こまるが両親のことを尋ねると表情が曇った。 両親の行方については、誠も知らないらしい。でも、きっとどこかで生きているはずだと言う。 元気だという確証は無い…逆に、無事ではないという確証もない。誠は弱気になる妹に、希望を信じようと言い聞かせた。 兄が未来機関所属のうえ、腐川や十神とも知り合いだったことが発覚し、更に驚かされる。 事情を知っていたはずなのに、腐川は何も話してくれなかった…。 三人は希望ヶ峰学園での同級生であり、絶望的な体験を生き抜いた仲間同士でもある。 「人類史上最大最悪の絶望的事件」の最中に学園に閉じ込められ、彼らはコロシアイをさせられたのだ。 犠牲を出しながらも、誠達はコロシアイ学園生活の黒幕を倒し、希望ヶ峰学園を脱出した。 そして保護されたことをきっかけに、現在は未来機関に所属している。 あの事件が終わった今も、なお絶望を広めようとしている「絶望の残党」と戦うために。 当時の苦労を思い出し、涙を浮かべる腐川。 すぐに諦めていた自分と違い、兄はどんな困難にも立ち向かっていた。 以前よりもずっと頼もしく見えるのは、その経験があるからだろう。誠自身は何も変わっていないと言うが。 それに引き替え、自分は監禁されていた頃から何も変わっていない…。 しょんぼりするこまるに、誠は謝らなければいけないことがあると打ち明けた。 67 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 31 28.12 ID wQG5gS/x0 こまるが監禁されていたのは、他でもない誠が原因だった。 コロシアイ学園生活の黒幕はメンバー達の関係者を選び出し、そして監禁した。 大切な人が殺し合う光景を見せつけることで、コロシアイの動機にしようとしていたらしい。 幸い動機に使われることは無かったものの、黒幕の死後も「絶望の残党」によって監禁生活は続くことになった。 そのせいで、未来機関は要救助民…こまる達の消息を掴めないでいたのだ。 しかし、数日前に思わぬ手がかりが手に入った。 塔和シティのマンションに、コロシアイ学園生活の関係者が監禁されている…そんな匿名の通報があったのだ。 未来機関が塔和シティに向かい、それと同時に希望の戦士による暴動が発生した。 十神も言っていたが、あまりにタイミングの良すぎる暴動には何らかの陰謀を感じる。 あるいは、あの通報自体が未来機関を誘い出す罠だったのかも…それだけではない、と言う腐川。 要救助民はただのエサではない、子供達の悪趣味なゲームのターゲットにされている。 これは明らかに未来機関、そしてコロシアイ学園生活を生き延びた誠たちへの挑発だ。 こまるがゲームに巻き込まれていることを知り、動揺を隠せない誠。 その上、蛇太郎が言っていた「ジュンコお姉ちゃん」……どうやら腐川だけでなく、誠にも心当たりがあるようだ。 「まさか…江ノ島盾子のこと?」 ○江ノ島盾子 1で登場した「超高校級のギャル」で、誠達のクラスメイト。 その正体はコロシアイ学園生活を仕組んだ黒幕であり、「真の超高校級の絶望」。 既に故人だが、その存在は今も「絶望の残党」に影響を与え続けている。 「絶望の残党」は江ノ島を唯一神のように崇め続けている。実体がなくなった分、生きている時よりも厄介な存在かもしれない。 自分達は、確かに江ノ島に勝った。だが彼女はこの状況も見越していたのではないか…誠はそう思う時がある。 …まるでフィクションのような話だが、それは今だって同じようなものだ。 早く助けに来てと泣きつくこまるだが、腐川がそれに反発した。 子供達は、未来機関の介入を防ぐために十神を人質にとっている。もし未来機関が塔和シティに来れば、十神の身に危険が及ぶ。 誠が助けに来るのなら、こまるを殺すとまで言い出す腐川。 さらに悪いことに、誠との通信が急に途切れてしまった。まさか、敵に勘付かれた? 展望台の窓が次々とシャッターで閉ざされていく。照明が落とされ、暗闇の中パニックになる腐川。 そもそも、こまるが助けを求めようとしたから、こんな事態になったのだと詰ってくる。 気まずい空気の中、二人は塔和タワーを脱出するのだった。 68 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 33 27.46 ID wQG5gS/x0 一方その頃の子供達。いつまで経っても戻らない蛇太郎…きっと殺されたのだとモナカは悲しんでいる。 葬式はしなくていいのかという言子の質問に、飽きちゃったと答えるモナカ。蛇太郎がいないから仏壇も作れないし。 飽きたなら仕方ないと言いつつ、言子は若干引き気味である。 仲間のことを気にかけている言子に、モナカは微笑んだ。言子ちゃんは「優しい」んだね。 その言葉に、言子の脳裏に忌まわしい記憶がフラッシュバックした。 天才子役、空木言子。彼女は仕事をこなす裏で、母親と一緒に「営業」をしていた。 もちろん自分の意思ではなく、彼女を売り込みたい親に強制されてのことだ。 嫌がる言子に大人達は言う。言子ちゃんは可愛いから、みんな優しくしてくれるよ――と。 優しいのは嫌だ…そう言って怯えはじめる言子に、モナカは拳を振り上げた。 言子をこんな風にしてしまった魔物は、やっぱり最悪な存在だ。大丈夫、モナカは優しくしないよ。 醜くて汚い魔物に、存在する価値なんてないんだ。モナカに抱きしめられながら、言子は大人への憎しみを吐露する。 そこに新月が現れた。塔和タワーで行われている通信に気付いた彼は、ジャミング電波の強化を施すなど大忙しだったようだ。 二人組の魔物――こまる達を利用して大人を一網打尽にする作戦を思いついたという新月。 大人達が隠れている秘密基地を発見したというのだ。 それを聞き、モナカは喜ぶ。楽園の完成までもうすぐだ。振り向いて、誰かに呼びかけるモナカ。 視線の先に座っていたのは、全身を真っ黒に染めたモノクマだった。 ○クロクマ 真っ黒なのでクロクマ。右目を眼帯で隠していて、金ピカグッズを身に着けている。 シロクマと同じく人工知能が搭載された個体で、希望の戦士の相談役。 黙っていると死ぬのではないかという程のお喋り。子供達もウザいようで、マナーモード付き。 マナーモードを解除された途端に喋り出すクロクマ。 相変わらずのうるささに、閉口する子供達なのだった。 69 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 35 40.45 ID wQG5gS/x0 塔和タワーからの脱出を果たした二人。 未来機関との連絡を絶たれ、こまるは不安になる。兄は助けに来てくれるだろうか…。 腐川は、十神が危険に晒されるから、未来機関が来るわけにはいかないという。 だったら、自分は危険な目に遭ってもいいのか。こまるの質問に、腐川は仕方ない…と気まずそう。 こまるが未来機関を呼ぼうとするなら、全力で阻止する。十神の為ならなんだってするのが腐川冬子である。 腐川のことを信頼し、友達だと思っていたこまる。だが腐川のほうはそうではなかったらしい。 それまでの不信感が積み重なって、こまるは腐川と別れて単独行動をとろうとする。 行き先を訊かれるが、関係ないと突き放す。散々頼ってきた癖に、と吐き捨てる腐川。 確かに、腐川に色々と助けられてきたのは事実だ。でも、こまるだって自分なりに頑張ってきたのに。 他人を褒めたり、礼を言ったことなんて一度も無い。そんな腐川の態度に、とうとうこまるがキレた。 「そんなんだから、腐川さんには友達がいないんだよ!」 いなくて結構、一人でいる方が好きなのだという腐川。 こまるみたいな言い訳ばかりの弱虫と付き合うくらいなら、孤独死のほうがマシだ。 そんな言葉に反して、腐川は結局付いて来るらしい。互いに無言のまま、地下の秘密基地へと戻る。 シロクマが出迎えてくれたが、大人達の表情は暗い。地下での生活が堪えているようだ。 灰慈らが今後について話し合っていたが、状況は何も変わっていないようだ。 今モノクマに立ち向かったところで無駄死にするだけ。 大人達の命を預かっている以上は危険な道は選べない…それが灰慈の方針だ。 子供達を説得しようと言うシロクマの意見も却下される。 話が通じる相手ならこんな事態になっていない。何より、残酷な仕打ちを行った子供達が許せない。 「親子の絆」なんて通用しそうもないし、そもそも基地の大人は子供がいない者ばかり。 戦うのも話し合いも出来ない……だから今は耐え忍ぶ時だと灰慈。 70 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 39 18.01 ID wQG5gS/x0 そう言って、結局何もしないでいるだけか。腐川は刺々しい態度だ。 こまるは、間違ってるのは腐川のほうだと責める。 自分の弱さを知っている故に、何かをする自信が持てない。そんな弱い人達の気持ちを腐川はわかっていない。 だって腐川は、希望ヶ峰学園や未来機関に入れるような、才能のある強い人だから。 こまるの言い分に、腐川は激昂した。 「ふざけるんじゃないわよ! あたしのどこが強いのよ、こんな劣等感みたいな塊の、あたしが…!」 腐川だって、自信を持って行動しているわけではない。それは昔も今も変わらない。 でも、言い訳するだけでは何も変わらないことを知っているから、弱くても前に進もうと必死にもがいているのだ。 それを「選ばれた人間」という一言で片付けられるのは、絶対に許せない。 二人の険悪な雰囲気が限界に達しようとした時、広場で悲鳴があがった。 秘密基地にモノクマが攻め込んできたのだ。モノクマの爪に、次々と切り裂かれていく大人達。 シロクマは、こまる達にみんなを守ってくれとお願いする。せめて、時間を稼ぐだけでもいいから…。 何とかモノクマを退けたが、犠牲が出てしまった…。傷を負い、呻いている大人もいる。 お前らのせいだ。灰慈は、こまる達を責める。二人が来てから間もなくモノクマの襲撃が起きた。 子供達は、未来機関と連絡を取った二人に目を付けたのだろう。あのモノクマは、こまる達が連れてきたも同然だ。 それだけではない。灰慈は、二人が子供達のスパイである可能性を疑っている。 弁解も聞き入れられず、二人は別々の独房に閉じ込められてしまった。 …腐川は独房の中で悶々としていた。独房の中は埃っぽく、気を抜くとクシャミが出そうになる。 それもこれも、全部こまるのせいだ。こんな所にいられるか、早くこまると一緒に脱出して―― 気付けばこまるのことを思い浮かべている自分に、腐川は苛立つのだった。 …独房の中で、こまるは一人落ち込んでいた。 モノクマに襲われ逃げまどう大人達。自分のせいで、みんなが傷ついてしまった。 ここに戻らなければ、彼らは無事だったかもしれない。自分が弱くなければ、みんなを守れたかもしれない。 さっきは反発したけれど、腐川は正しかった。 自分は言い訳ばかりして、誰かに助けてもらうことばかり考えている弱虫だ…。 71 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 42 18.25 ID wQG5gS/x0 こまるが泣いていると、希望の戦士の一人、言子が現れた。ドアを破壊して独房に乗り込んでくる言子。 言子はこまるを狩りに来たのだが、気が変わったので逃がしてやると言い出す。 曰く、こまるが「とてもキャワイイ」からとのこと。ただしキャワイくない腐川は別だと言う。 腐川を置いていくわけには…迷っているこまるに、言子はとりあえず独房から出ようと促す。 迷いつつも出て行こうとするこまるの首に、何故か入れ歯が食らいついた。 背後から、言子が持っていた「入れ歯発射ガン」で攻撃したのだ。薬が盛られていたらしく、体が動かない…。 キャワイイのは罪。キャワイイと酷い目に遭う。だから、自分で身を守らないといけない。 それが出来ないなら、何をされても仕方ない。動けないこまるを見下ろし、言子は囁く。 意識が遠のいていく中、こまるは彼女の名を呟いた。 「腐川…さん…」 ふと、誰かに噂されているような気がした腐川。思わずクシャミをしてしまい、ジェノサイダー翔と入れ替わる。 きっと白夜様が噂してるのね♪と、ハイテンションなジェノサイダー翔。 独房から飛び出し、こまるの独房に向かう…が、そこはもぬけの殻。 まだ匂いは残っているのに…と考えている彼女の前に、モノクマキッズが現れた。 彼らは、大人達に奪われたハッキング銃とスタンガン、そして何かの端末を差し出してきた。 どうやら、こまるの腕輪に取り付けられた探知機の場所を示しているらしい。 渡りに船だが、こいつらは何故自分を手助けしてくれるような真似をするのだろう…。 「さては、あっちのアタシがメンドクセーこと企んでるとか…?」 まあ、細かいことはどうだっていい。どんな理由があるにせよ、腐川と自分の目的は同じはずだから。 キッズ達の手から道具を奪い取ると、ジェノサイダー翔は外を目指して走り出した。 72 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 44 59.71 ID wQG5gS/x0 棺桶を立てたような形状のオブジェに、こまるは磔にされていた。 キャワイイこまるを、言子は「開発」するらしい。身動きできないこまるの体に、触手が迫る…。 ここで何の前触れもなくミニゲーム開始。失敗すると開発完了、以降は発禁モノなのでゲームオーバーになる。 必死に耐えるこまる。どうしてこんなことをするの、と言子に問う。 言子だって、同じことを何度も大人に聞いた。彼らの返事はいつだって同じ…「カワイイから」。 自分は大人達にされたことを仕返しているだけなのだから、何も悪くない。 そう言うと、こまるへの「開発」を続行する。 地上に飛び出したジェノサイダー翔は、発信機が高速で移動していることに気づく。 首を傾げる彼女の視線の先を、モノレールが駆け抜けて行った。 疾走するモノレールの窓を突き破って、内部に侵入するジェノサイダー翔。 襲い来るモノクマを蹴散らし、先頭車両へと突き進む。 入れ歯発射ガンを手に待ち受けていた言子をものともせず、あっという間に彼女(の服)を切り刻んだ。 ジェノサイダー翔の活躍で、何とか無事に救出されたこまる。 あんな喧嘩の後だったから、助けに来てくれないと思っていた…こまるはジェノサイダー翔に抱き着く。 「友達がいない」なんて酷いことを言ってしまった。腐川を置いて逃げようとしてしまった。 堰を切ったように、泣きながら謝罪する。ジェノサイダー翔は、そんなこまるを見て呆れているようだった。 「オメーって、マジで間抜けだな…殺人鬼なんかを信じてんじゃねーよ…」 タイミングよくクシャミが出て腐川に交代。全く状況がわかってない腐川と共に、とりあえず外に出る。 モノレールを出た先はコロシアムだった。服を着替え直した言子がにこやかに出迎える。 内心はかなり怒っているらしいが、元天才子役である彼女にとっては簡単なお芝居だ。 みんなと一緒の普通の子供がよかったという言子。彼女は親の夢を背負わされ「営業」をさせられてきた。 そんな自分を助けてくれたのが、ジュンコお姉ちゃん。 江ノ島を慕っている言子に、腐川は騙されているのだと言う。あの女がどれだけ「優しく」したか知らないけど… 不意打ちのトラウマワードに、言子は酷く取り乱す。 73 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 47 15.07 ID wQG5gS/x0 「優しいのは……やめてください……優しくするくらいなら、ブッ殺してくださあぁぁぁい!!!」 血を吐くような絶叫と共に、言子は巨大ロボを起動した。 ○戦士ロボ ハイランダー・ザ・グレート 赤を基調とした巨大ロボ。巨大な斧を軽々と振り回す。 装甲の厚い重量級だが、ブースターで機動力を補っているぽい。 ハイランダー・ザ・グレートを撃破した二人。先の希望の戦士と同じく、言子にもモノクマキッズが襲いかかった。 それを助けたのはスタンガンで交代したジェノサイダー翔。言子から情報を聞き出すのが目的だ。 言子を尋問しようとする腐川の前に、希望の戦士の賢者、新月が現れた。 新月は、二人に塔和シティから出て行ってくれと言う。彼の言葉に、こまると腐川だけでなく、仲間である言子も驚いている。 モナカが怒るのではないか…言子が心配するが、それでも新月は二人を逃がすつもりだ。 希望の戦士の目的は、子供の楽園の建設。こまる達がいなければ、計画は順調に進んでいたはずなのだ。 新月は叫んだ。これ以上邪魔をしないでくれ。僕達から逃げて、この街から出て行ってくれ! モナカはひとり、魔法陣を作って遊んでいた。嬉しそうなモナカに、クロクマが声をかける。 仲間が頑張っているお陰で、全てが絶好調で進んでいる。モナカは楽しそうにはしゃいでいる。 もうすぐ、あいつの遺志を継ぐ「二代目」が誕生する――不気味な言葉とともに、クロクマは嗤うのだった。 74 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/16(日) 18 55 03.10 ID wQG5gS/x0 ここまででチャプター3終了です。 ちなみに、要救助民についての補足として、クリア後に読める小説「絶対絶望葉隠」によれば、 コロシアイ学園生活のメンバー達にとって特に大切な人という位置づけらしいです。 時間があれば、今夜中に続けてC4も投下したいと思っています。 76 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 16 02.98 ID b0qq7tDp0 引き続き、絶対絶望少女のチャプター4を投下します。 77 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 18 23.64 ID b0qq7tDp0 【チャプター4 これが、わたし達の生きる道】 もう、この街から出て行ってくれ。 希望の戦士の賢者、新月からの予想外の頼み。彼は土下座したうえ、こまるの腕輪も外してくれた。 仲間の言子も、新月の行為に戸惑っているようだ。彼のやったことをモナカが知ったら…。 新月は、それでもこうするべきだと主張する。楽園を完成させるには必要なことだと。 モナカは自分に期待してくれている。だから、きっとわかってくれるはずだ。 秘密の抜け道…万一の時に備えて用意していた、街の外に出られる唯一のルート。 新月は、二人をそこに案内すると言う。 腐川は乗り気ではないようだ。新月を疑っている…だけではないように見える。 こまるは街から逃げたがっていたはずだ。仲間の気持ちを考えろと新月に言われ、腐川は渋々従う。 モナカに嫌われたくないのなら付いてくるな。言子にそう言い置いて、新月はこまる達と出て行った。 秘密の抜け道へと向かう三人に、モノクマが襲いかかってきた。仲間の新月がいるのに…。 新月の裏切りが知られたのだろうと腐川は推測する。 そんなはずがない…誰よりも子供の楽園のことを考えている自分が、裏切り者なわけがない。 説明すれば理解してもらえるはずだと、新月は道案内を続ける。 道中で、無数の大人の死体を目にする。この光景を見ても、新月はなんとも思わないのだろうか。 こいつらは魔物…自分達の敵だ、と繰り返す新月。彼は大人が怖くて仕方がないと言う。 大人さえいなければ穏やかに暮らせる…ずっとそう思いながら、自分達は生きてきた。 希望の戦士は、かつては希望ヶ峰学園付属小学校の生徒だった。 五人とも「問題児」とされる生徒が集まるクラスにいたのだが、それは間違いだと新月は言う。 彼らの問題は、大人…自分達の親が作ったものなのだ。 新月の親も、最悪の魔物だった。 新月の両親は、まるでゲームのレベル上げのように勉強を強いた。 三日四日の徹夜は当たり前。ひたすら勉強し通しの生活を強制し、新月に「経験値」を積ませていた。 …それが家だけなら、まだ良かった。 新月の父は、希望ヶ峰学園付属小学校の教師であり、また才能の研究者でもあった。 彼は自分の息子を研究の被験者として使っていた。そんな境遇も、他の皆に比べれば軽い方だ。 例えば、車椅子に座っていたモナカ…彼女の足が不自由になったのは、父と兄によるものらしい。 それでも彼らは親を憎まなかった。親を憎んでいいなんて、その時はまだ知らなかったから。 78 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 19 39.93 ID b0qq7tDp0 追い詰められた子供達は、地獄のようなこの世界から逃げようとした。そんな時、彼らの前に江ノ島が現れた。 江ノ島は新月達が捨てようとした命を拾い、五人に子供の楽園という夢を与えてくれた。 「魔物」という価値観も、江ノ島に教えられたものだ。 利用されているだけだと言われても、新月は一向に構わない様子。 最低の大人に利用されるくらいなら、最高のお姉ちゃんに利用される方がずっとマシだ。 とうとう、彼らは魔物のボス…自分達の親を手にかけた。 そして希望の戦士の躍進が始まるという時に…江ノ島は死んだ。どこかのバカに殺されたのだ。 江ノ島がいなくなり、どうすればいいかわからない中で、唯一モナカだけは違っていた。 ジュンコお姉ちゃんが与えてくれた希望は、自分達の手で叶えればいい…。 そう言うモナカはまるで江ノ島のようだったと、新月は語る。 舞台に塔和シティを選んだのも、モノクマを用意したのもモナカだ。 彼女が、今回の事件の黒幕なのだろうか? 新月達には、悪いことをしている自覚はまったく無い。 正義や悪は大人が作った価値観で、何かを救う悪もあるし、誰かを傷つける正義もあると新月は主張する。 それでも、誰かを傷つける希望は間違っている…こまるはそう思うのだった。 神社へと辿り着いた三人。ここに来て、腐川がこまるを引き止めた。 このまま逃げ出して、本当にこれでいいのか…? こまるは返事に詰まる。 自分が今まで頑張って来たのは、塔和シティから出るためだ。未だ行方不明の両親だって探したい。 でも、腐川は街に残るはずだ。十神を救うことが彼女の目的なのだから。 自分も塔和シティに残るべきだろうか…腐川は、自分に残ってもらいたいのだろうか? 秘密の抜け穴は、神社の境内に隠されていた。 念願の脱出口を前にして、こまるはまだ迷っていた。 腐川に、本当に行ってもいいのかと尋ねる。好きにすればいい、もう自分は関係ない…つっけんどんな腐川。 そこに召使いが現れた。こまるがゲームを投げ出さないよう、説得するために来たと言う。 こまるにゲームをクリアしてもらうこと…それが召使いの目的だ。 勝手なことを、と怒る新月に、召使いは冷ややかな態度をとる。 79 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 21 09.44 ID b0qq7tDp0 「キミは薄々勘付いていたんだよね…? キミの大好きな魔法使いさんは、楽園よりもゲームを選ぶって」 それをわかった上で、自分勝手な目的の為に働く人間を、裏切り者と言うんだよ。 召使いに気圧され、新月はどこかへ走り去ってしまった。 召使いは、ゲームを投げようとしたこまる以上に、腐川に対して落胆しているようだ。 腐川と召使いは、ある取引をしていた。 腐川の役目は、苗木こまるを子供達の本拠地まで連れて行くこと。見返りはもちろん十神の身柄だ。 本拠地に辿り着いた後は、こまると十神の人質交換を行う段取りだったのだが…。 信じられない事実を聞かされ、動揺するこまる。腐川に聞いても、沈黙したままだ。 そもそも、二人の出会い自体が偶然ではなかった。 こまるが落ちてくる場所をあらかじめ教えられていたから、腐川はあの場に現れたのだ。 召使いが腐川の協力を仰いだのは、こまるにゲームをクリアしてもらうため。 こまるにハッキング銃を渡したのも、モノクマキッズのサポートも、全てはそれが理由だった。 これは「こまるに成長してもらう為のゲーム」だ。もっとも、そうしたのは召使いの意図だが。 全ては希望のため。江ノ島盾子を倒した「超高校級の希望」苗木誠の妹でありながら、何の素質も無いこまる。 そんな彼女が成長を遂げて絶望から立ち上がる姿が、人々に希望を与えるのだ。 「たとえどんなに大きな絶望が立ちはだかろうと、必ず最後には希望が勝つ…。 だから、ボクは安心して絶望にもなれるんだ」 こまるは愕然とする。 今まで一緒にいてくれたのも、助けてくれたのも、十神の身代わりにするためだったなんて…。 召使いの言うことなんて、きっと嘘に決まってる。 「…そんな訳ないじゃない。今まであんたを守ってやったのも、励まして来たのも、全部白夜様の為に決まってるじゃないの!」 80 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 25 49.20 ID b0qq7tDp0 腐川は、こまるを騙していた。 二重人格で殺人鬼。そんな異常な自分を信用してくれた人間なんて、今まで一人もいなかった。 信用されなくて当たり前…だから、こまるを騙すことだって、安心して出来たのに。 こまるは出会った時からずっと腐川を信じてきた。腐川は、そんなこまるが最初から大嫌いだったと言い放つ。 嘘がばれた以上は力ずくでも連れて行く。腐川はスタンガンでジェノサイダー翔に交代する。 まさかのこまるvsジェノサイダー翔。 こいつを倒すなんて無理だろ…と思いきや、ハッキング銃でスタンガンを無効化されたジェノサイダー翔は時間切れで気絶。 目を覚ました腐川。こまるに負けた…もう自分では止められないから、さっさと逃げてしまえと言う。 嘘だ…こまるは気づいていた。腐川は自分を逃がすため、わざと負けたのだ。 ずっと一緒にいたからわかる。本気を出した腐川に、自分が敵うわけがない。 一緒にいたのは、腐川も同じだ。こまるは、迷った時はいつも腐川に頼ってきた。 辛辣な言葉も襲いかかってきたのも、こまるの背中を押すのが目的だった。 二人を見ていた召使いは、腐川に加担することにする。 このままこまるを逃がせば、大事な十神の命が危なくなる…そう言いつつ、コショウを取り出す召使い。 コショウを腐川の顔に振りかけ、クシャミによってジェノサイダー翔が再登場。 ハサミを両手に襲いかかるジェノサイダー翔。彼女が攻撃したのはこまるではなく、召使いだった。 二人が共有しているのは知識だけではない、感情もだ。でなければ揃って十神を好きになっていない。 ジェノサイダー翔の感情は、召使いを殺してこまるを逃がせと言っているのだ。 足を切られ、動けない召使いを殺そうとするジェノサイダー翔を、こまるは制止する。 二度と人を殺させない――腐川はそう誓っていたはずだ。 だが、召使いを野放しにすれば、こまるを逃がしたことがバレてしまう。 そうなれば十神に危険が及ぶ…だから、ジェノサイダー翔は彼を殺さなければならない。 それなら自分が残ると、こまるは言い出した。確かに、腐川が自分を騙していたのは紛れもない事実だ。 でも、結局は裏切れなかった。腐川は危ない橋を渡ってでも、こまるを逃がそうとしてくれた。 自分は普通の女子高生で何も出来ないけれど、普通のことくらいなら出来る。 困っている友達を助けるのは普通のことだ。たとえ腐川が嫌がっても、一緒に付いていく。 「本当にバカだな…それに、アタシのことを全然わかってねーよ」 …嫌がる訳がないじゃないか。ジェノサイダー翔は小さな声で感謝を述べた。 まだコショウが残っていたのかクシャミが出て、腐川に戻る。 腐川にも、さっきのやりとりは何となく聞こえていたらしい。こまるの「友達」という言葉に嬉しそうだ。 そして腐川のデレ期が始まる。これまで「おまる」呼びだったのがちゃんと名前で呼んでくれるようになったり、 こまるに下の名前で呼ばれて激しく身悶えたりする。 81 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 29 12.11 ID b0qq7tDp0 怪我の功名とも言うべきか、結果的に召使いの目的は達成された。 召使いによると、この計画は彼一人だけのものではないらしい。 パートナーについては明かさなかったが、自分がいなくてもサポートは続くだろうとのこと。 十神を助けるには、子供達の本拠地へ行き暴動を止めるほかは無い。 ならば行くしかないと、こまるは決意を固める。腐川を置いて自分だけ助かる訳にはいかない。 子供達の本拠地は塔和ヒルズ、塔和シティの中心地だ。 周囲は大量のモノクマで固められており、二人で乗り込むのは自殺行為だ。 そんな召使いの助言に、こまるは灰慈達に協力してもらうことを思いつく。 再び秘密基地を目指すべく、こまる達は境内を去った。 動けない召使いは、そのまま一人取り残される。そこに現れた巨大な影。 巨大ロボを従えた新月が、怒りの表情で召使いを見下ろしていた。 …成り行きとはいえ、二人は脱獄犯も同然の状況だ。大人達は耳を貸してくれるのだろうか。 不安な腐川に対し、こまるは何とかなるといった雰囲気。 子供達の暴動を止める…自分達と大人達の目的は同じ。きっと説得すれば理解してもらえるはずだ。 すっかり前向きになったこまるの成長に驚きつつも、腐川は彼女の言葉を信じることにした。 一方、子供達の本拠地。 自分達の言いなりに過ぎないはずだった存在の叛逆に、怒り心頭の新月。 縛り上げた召使いを蹴りつけながら問い詰める。最初から自分達を騙していたのか。 クロクマがジョークでおどけるが、それを流す余裕もないほど頭に血が上っているようだ。 そんな新月を見て、何故か召使いは笑っている。 こまるを引き止めるよう召使いに頼んだのは、モナカだった。 全ては「二代目江ノ島盾子」のため。モナカは「子供の楽園」には最初から何の興味も無かったと言う。 本人の口から聞かされ、愕然とする新月。 これからも、モナカの為に頑張ってよ。そう言い、新月にキスをする。 モナカは最初から、新月には何の期待もしていなかった。だから「二代目江ノ島盾子」のことも黙っていた。 だって新月は弱いコドモだから。期待する価値なんてどこにもない。 そもそも、誰かから「期待されている」ということ自体が新月の幻想だったのではないか…? 82 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 30 43.59 ID b0qq7tDp0 モナカの言葉に、新月は思わず手をあげる。 「女の子をぶつなんて、新月君はカッコ悪いね…でも、カッコ悪くて誰にも期待されていない新月君が、モナカは大好きなんだよ。 モナカに期待されたかったら、もっともっと、モナカのお願いを聞いてね。 …死ぬ気で、大人を殺しまくってね?」 新月は呆然としたまま、その場に崩れ落ちた。 …秘密基地に戻ってきたこまる達。中から大人達の悲鳴が聞こえてくる。 またしてもモノクマが襲撃してきたのだ。おまけに前より数が多い。 シロクマの懇願もあり、二人はモノクマを撃退する。 敵は、秘密基地を本気で潰しに来たようだ。きっと今回だけでは終わらない。 このままではジリ貧だ…シロクマは、二人にある提案をしてきた。 モノクマ達は、秘密基地の奥に開けられた穴から攻め込んできている。 その穴を塞ぐことが出来れば、しばらくはモノクマ達の襲撃を凌げるだろう。 自分の体には、自爆用の爆薬が大量に積まれている。唐突にそんなことを打ち明けるシロクマ。 シロクマは自身を犠牲にして穴を塞ぐつもりなのだ。 しかし、大人達を守って負った傷のせいで、シロクマの自爆スイッチは壊れてしまっている。 起爆させる方法はただ一つ…こまるのハッキング銃で、シロクマを破壊すること。 シロクマを犠牲にするなんて、そんなこと、出来る訳がない。 いくら怖くても、戦わなきゃいけない時がある。死を恐れず立ち上がらなければならない時がある。 「大事なものを失ってからじゃ、遅いんだよ!」 躊躇うこまるに、必死に訴えるシロクマ。 それでも出来ないと言うのなら…シロクマは左目を隠していた包帯を取り、こまるに襲いかかった。 こまるはハッキング銃で、シロクマを破壊する。 ありがとう――こまるへの感謝を残して、シロクマは爆発した。 83 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 32 56.27 ID b0qq7tDp0 爆風に吹き飛ばされ、気を失っていた二人。シロクマはどうなったのだろうか…。 大人達に尋ねると、彼の犠牲のお陰で無事穴は塞がったそうだ。 灰慈は今回の件で、こまる達への疑いを解いてくれた。だが、状況が好転したわけではない。 穴からの侵入は無くなったが、今度は入り口からモノクマが押し寄せてきている。 このままでは、秘密基地の大人は全滅だ…。 こまるは意を決して、大人達に立ち上がるよう呼びかける。グダグダになったうえ、半分くらいはシロクマの受け売りだけど。 それでも、こまるの言葉は大人達の心を動かしたようだ。灰慈もその一人で、何やら準備をしてくると言って去ってしまう。 ついでにシロクマが生きていたことが発覚。頭だけという斬新な状態だが。 先程の言葉を聞いていたシロクマは、立派だったとこまるを讃える。 戻ってきた灰慈。何でも「奥の手」が隠されている場所に行くらしい。 詳しい説明はしてくれないが、それは子供達を止められる「最後の希望」だと言う。 バイク(運転:こまる)に乗り、どこかの空き地に到着。何もない…と思ったら、足元で隠しエレベーターが起動した。 非常時の現在、灰慈と彼の父だけが動かせるエレベーター…その先にあるのは、塔和グループの秘密工場。 灰慈によれば「最後の希望」は工場の最深部にあるのだが、工場内はモノクマによって警備されている。 警備室は暴動が起きた以降は音信不通…おそらく、工場内の警備モノクマも暴走しているのだろう。 突っ込みどころ満載の説明だが、灰慈は行けばわかるとしか言わない。 センサーの張り巡らされた工場内を進んでいく三人。灰慈の予想通り、警備室にいた大人は殺されていた。 だが、これは子供達の仕業ではない…工場内を警備していたモノクマに襲われたのだ。 工場のラインは、まだ稼働しているようだ。流れていく部品には見覚えがあるような…。 気のせいではない、この工場で作られているのはモノクマだ。 塔和グループの工場が、どうしてモノクマを…? 最深部に鎮座していたのは、超巨大なモノクマだった。これが、灰慈の言う「奥の手」にして「最後の希望」。 塔和シティの防衛兵器…その名も、ビッグバンモノクマだ。 84 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 35 06.34 ID b0qq7tDp0 もはやキナ臭いどころではないレベルなので、腐川が問い詰めまくる。 ここのモノクマは、本来ならば日常生活や労働の補助を目的として製造されたもの。 いわゆる「お手伝いロボット」として開発されている…はずだったのだが。 子供達の暴動によって暴走し、今は殺戮マシーン状態になっている。 そもそも何故モノクマのデザインなのか? 灰慈によると、開発責任者が勝手に決めていたらしい。 胡散臭い灰慈の話を聞いていると、巨大ロボと共に新月が現れた。 まさか、あいつに聞いたのか…? 灰慈は何やら呟いている。 それにしても、新月の様子がおかしい。明らかに目が死んでいる。 「皆…希望の戦士に…僕に期待してくれてるんだ…。 皆の期待に応えるためにも、楽園を完成させなくちゃいけないんだ! だから…もっと僕に期待してくれよ…僕を見捨てないでよ…。 お父さんもお母さんも、ジュンコお姉ちゃんも、モナカちゃんも…!」 モナカの言動に完全にやられてしまったようだ。ほとんど見境なしに攻撃してくる。 最後の希望…ビッグバンモノクマを守るためにも、こまるはハッキング銃を構えて立ち向かう。 ○賢者ロボ ハンニバルX 新月が操る巨大ロボ。暗めの緑を基調としたボディに、外套をまとっている。 武器は銃と爆弾。素早い動きで遠距離攻撃を仕掛けてくる。 ハッキング銃の攻撃を受け、限界を迎える巨大ロボ。 傍らで必死に操作する新月の頭上めがけて、崩れた部品が落ちてきた。 「期待を背負いたがって、最期は機体に潰されちまったってわけか…」 そんなことより、早く助けないと…新月を心配するこまるに、灰慈は放っておけ、と切り捨てた。 イカれたガキを助けたところで、同じことを繰り返すだけだ。そんなことより…。 ビッグバンモノクマの巨体を見上げ、灰慈は声を上げる。 ようやく、俺達は希望を手にしたんだ…! 85 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 00 36 27.20 ID b0qq7tDp0 ――薄暗い部屋の中で、モナカが陽気に鼻唄を歌っている。 「新月君は今頃、大人達の希望に潰されちゃってるんだろうな~。 さすが新月君。期待を裏切りませんなー♪」 血塗れの扉を開き、中にいる誰かに向かって話しかける。 「ねえ…こっちに来て、一緒に地獄の蓋を開けようよ。ほら、お父さんもお母さんもさ。 もうすぐ、あなた達のコドモが『二代目江ノ島盾子』として孵化するクライマックスが始まるよ」 86 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/11/17(月) 01 02 59.80 ID b0qq7tDp0 最後の最後で規制されていましたorz これでチャプター4終了です。初めての友達に浮かれる腐川さん超かわいい。 次の投下が最後になる予定です。 107 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 22 37 44.60 ID kCAPqHAl0 遅くなりました、絶対絶望少女 チャプター5~エピローグまで投下します。 【チャプター5 絶対絶望少女】 ビッグバンモノクマが地上を闊歩する。大人達は歓声を上げ、子供達は逃げまどう。 無数のモノクマが行く手を阻むべく襲いかかるが、そこらのビルをゆうに超える巨体の前では羽虫も同然。 あっという間に、モノクマの大群は切り刻まれていく。 そんな光景を、ビッグバンモノクマの操縦席から誇らしげに見下ろす灰慈。 ビッグバンモノクマの進撃はモナカも見物していた。そこに現れた召使い、別れの挨拶をしに来たらしい。 ついでに、モノクマキッズから塔和シティに単独の侵入者があったという報告をお知らせする。 そんなことよりも、モナカはビッグバンモノクマに夢中のようだ。 どう見ても子供側の劣勢なのだが、モナカの計画は超順調らしい。 例の「二代目江ノ島盾子」が関係していると召使いは考えているが、モナカはお口チャックで教えてくれない。 モナカの計画がどんなものであろうと、最後には希望が勝つ…頑なに希望を信じている召使い。 「召使いさんって本当に愉快だね。自分が絶望に落ちてることに気づいてる癖に、それも希望の為って割り切れるなんて。 それってジュンコお姉ちゃんの影響? それとも昔からそうなの?」 モナカの問いに答えないまま、召使いは去っていった。 塔和ヒルズ前に、武器を持った大人達が集結している。 この街をガキ共の手から取り戻す――灰慈の演説を受けて、大人が勢いづく。 離れた所から、その様子を見ているこまる達。何だか大変なことになってしまった…。 一人冷静な葉隠浩子とシロクマも、同じように不安を感じている様子だ。 大人達はモノクマだけではなく、子供のことも憎んでいる。そんな大人と子供が衝突したら…。 灰慈が隠していた「最後の希望」の強大な力は、シロクマにも予想外だったようだ。 シロクマは、子供達の武器であるモノクマを停止させることを提案する。 人工知能を持ったシロクマと違い、モノクマ達は自動操縦。どこかに命令を出している装置があるはず。 それがあるのは、おそらく子供達の本拠地…塔和ヒルズ。 流石にモノクマを失って無力化された子供に手を出すことは無いだろう…と信じたい。 問題は、誰が実行するか。大量のモノクマが待ち構える本拠地に乗り込み、在り処も不明の装置を捜すなんて無茶な話だ。 自殺行為だと腐川は拒否。街を救ってほしいとシロクマは言うが、自分達はそんな大それた目的を目指してなんかいない。 こまるは行くことを決意する。大人達をこのまま放っておけないし、何もしなかったら、きっと自分が後悔する。 それに、十神を助ける為にも塔和ヒルズへ行かなければならないのだ。 腐川は折れることにするが、あくまで目的は十神の救出だということを念押しする。 ビッグバンモノクマの攻撃で守備が手薄になったところを狙い、二人は塔和ヒルズへと突入した。 108 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 22 43 20.46 ID kCAPqHAl0 ヒルズ内で発見した希望の戦士の手記。その中に気になる記述を見つける。 モノクマキッズ達は、モノクマヘッド…あの変なヘルメットで洗脳されているらしい。 子供の洗脳を解かないと…そんなことを考えるこまるに、あまり背負い過ぎるなと腐川は言う。 こまるが成長したのは確かだ。だが、一方で腐川は不安を感じてもいる。 彼女の成長も含めて、全ては仕組まれたことなのではないか? 腐川の考えを理解しつつも、こまるは楽観的。この騒動を止めることが出来れば、敵の目論見も崩れるはずだ。 時々、こまるの言動が誠と重なる。もしかして、兄のようになりたいのか? 腐川にブラコン認定される。 上を目指して昇って行くが、開かない扉に阻まれる。カードキーの類が必要なのだろうか。 そこに、ビッグバンモノクマに乗っているはずの灰慈が現れた。 彼もモノクマを操っている装置が目当てらしい。どうも、シロクマから教えられたようだ。 ここのロックは手動でないとかからない。最後に見た時はロックされていなかったはずなのに。 まさか、これも「あいつ」の仕業? 灰慈は何やらブツブツ呟いている。 扉のロックは網膜認証で解除する仕組み。そして、それが出来るのは灰慈の父…塔和グループ会長のみ。 会長は行方不明だと灰慈から聞かされていたが、実際はモノクマに襲われ、既に死亡しているという。 灰慈はその事実を認めたくない故に、あえて行方不明扱いにしていたのだ。 認証自体は目があればなんとかなる。ついでに会長の死体があるのはこの階…正直、嫌な想像しかできない。 灰慈によれば、ロックをかけた誰かは、彼に解除させようとしていたらしい。 「あいつ」の悪趣味に付き合うくらいなら、装置を諦めるほうがマシだ。それだけ言って灰慈は立ち去ってしまう。 予想通り、こまる達が会長の首をここまで持ってくることになる。 更に、こまるの前に会長の霊が現れた。ヘビー過ぎる体験のせいで、とうとう幻覚が…。 ちなみに霊=非科学的=存在しない派の腐川には何も見えてない。 ○塔和十九一(トウワ トクイチ) 塔和グループ会長、灰慈の父。灰慈の目の前でモノクマに殺害されている。 会長の霊はこまるの口を借りて語り始める。 最中――モナカの暴走を止めてくれ。塔和の栄光の歴史を終わらせないために。 モナカは、十九一が愛人に産ませた子供。 母親が捨てたので拾ってやったのに、モナカはその恩を忘れて塔和グループに反旗を翻した。 「あの女」がモナカを狂わせたのだ――あの女? 腐川の超いい加減な読経で十九一の霊は退散、話は途中で打ち切られる。 大事な話の途中だったのに…。腐川は幻覚だと取り合わない。 109 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 22 49 45.25 ID kCAPqHAl0 途中、モノクマに襲われている言子に遭遇。見捨てるのも気が引けるので、助けてあげる。 どうやら彼女も裏切り者扱いになっているらしい。 楽園には最初から興味が無かった…モナカが新月に話した真実を、言子も聞いていたのだ。 希望の戦士が敗北した時にモノクマキッズが襲ってきたのも、おそらくモナカの仕業。 モナカは自分だけの王国を造り、そこに二代目江ノ島盾子として君臨するつもりなのだ。 あいつは嘘をついていたばかりか、希望の戦士を裏切り、殺した。にこやかな演技をしながら、憤る言子。 彼女の話を信じていいものか…迷う二人に、言子は耳寄り情報を教えてくれる。 モナカがいるのは、塔和ヒルズに停泊中のエクスカリバー号。プロローグでこまるが落とされた、あの巨大ヘリだ。 モノクマを操っているのはモナカだから、装置もそこにあるはずだと言う。 ついでに十神の居場所も教えてもらえた。ヒルズ最上階付近の倉庫だが、そこの鍵もモナカが持っている。 何にせよ、まずはモナカの所へ行かなければならないようだ。 塔和ヒルズの中を進む間、気になる部屋をいくつか発見する。 一つは不気味な扉。開いてみると、中はどう見ても拷問部屋だった。 後から着いて来た灰慈が怖い顔をしている。ここは、大人達の身内が拷問を受けていた部屋だと言う。 秘密基地で「自分の妻が…」と叫んでいた男性のことを思い出す。 子供達は、基地に置かれた宣伝車を通して、身内が拷問される様子を大人に見せつけていたのだ。 床に血文字らしきものを見つけるが、早く部屋から出たい腐川に急かされて、読み取ることは出来なかった。 もう一つは、梯子の上にあった扉。 部屋の中には、壁一面に江ノ島盾子の写真が貼られていた。その中に、笑顔のモナカと江ノ島が写っている写真を見つける。 微笑ましい写真だが…腐川に言わせれば、江ノ島の隣でこんな顔が出来るのは、まともな人間ではないらしい。 おそらくここはモナカの部屋なのだろう。こまるは、何か引っかかるものを覚える。 モノクマの猛攻を突破し、ようやくエクスカリバー号の奥へ辿り着く。 二人を待ち構えていたのはモナカ…ではなくクロクマ。 モナカは現在おねんね中とのこと。寝室はすぐ近くにあるのだが、何故か扉が三つある。 三つのうち、二つはうるさいクロクマ対策の即死トラップ。 放っておけば三年起きないらしいので、正解の扉を当てないといけないようだ。 こまるは道中のあることを思い出し、梯子の上にある扉を選んだ。 扉を開けると、勢いよくモナカが飛び出し、華麗な着地を決めた。 「立った…モナカが立った!」 驚きのあまり叫ぶクロクマ。それは灰慈が言った方が良かったのに。 あの車椅子は偽り。モナカは、足が不自由なふりをしていたのだ。 長い梯子の先にあった、モナカの秘密の部屋。本当に足が不自由なら、あんな場所に自分の部屋を作るはずがない。 110 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 22 55 00.41 ID kCAPqHAl0 モナカは、複雑な事情のせいで家に居場所が無かった。さらに彼女の優秀さが、家族からの嫉妬に拍車をかけた。 モナカは考えた末、「可哀想な子供」になることにした。それが、足が不自由なふり。 車椅子での生活は苦労したが、その分見返りはあった。 モナカの境遇に同情して、希望の戦士たちが集まってきた。 父も兄も、少しだけ優しくなった。自分のせいでモナカの足が不自由になったと同情して。 腫物扱いされていた自分が生きるには、そうするしかなかったと語るモナカ。 父と兄…塔和十九一と灰慈のことだ。あれは幻覚じゃなかったのか。 ○塔和最中(トウワ モナカ) 希望の戦士の「魔法使い」モナカの本名。 小学生にして、塔和グループのロボット開発部門最高責任者となる優秀な頭脳を持つ。 召使いと共に、こまるを本拠地に誘い込んでいたのもモナカだった。 彼女にとって楽園なんてどうでもいい。大事なのは「二代目江ノ島盾子」だけ。 こまるをここまで連れて来させたのは、彼女が「二代目江ノ島盾子」にどうしても必要な人間だから。 モナカは懐からコントローラーを取り出した。 これはモノクマの操作と、モノクマキッズの洗脳をコントロールしている機械…モナカの「魔法」の正体。 つまり、あれを破壊して十神が囚われている部屋の鍵を入手すれば、全ての問題が解決する。 モナカは例の如く巨大ロボを呼び出し、襲いかかってきた。 巨大ロボに立ち向かうこまると腐川。その勇姿が塔和ヒルズ屋外に映し出されていた。 外の大人達が、二人の少女に声援を送っている。 ○魔法使いロボ ブラックサスペリアン 今までの巨大ロボの全ての武器を兼ね備えたようなロボ。 複雑な機構を制御する為か、クロクマが内部に入ってモナカとともに操縦する。 モナカのとっておきも、こまる達の奮戦によって敗北。 爆発に巻き込まれ大破したクロクマは、そのまま窓を突き破り地上へと落ちて行った。 敗北したモナカは、信じられないという様子で茫然としている。 コントローラーが壊されたら計画が終わってしまう、二代目になれなくなる…泣き出すモナカ。 腐川に脅されて、渋々コントローラーを差し出した。 これを壊せばモノクマは止まり、子供達の洗脳も解ける。こまるは呆気ない展開に、ちょっと拍子抜けだ。 壊す >壊さない 111 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 00 11.11 ID kCAPqHAl0 全て終わる……はずなのに。何故か何かが引っ掛かるような気がして、こまるは躊躇する。 慌てた様子で言子が割り込んできた。子供の洗脳が解けたら、せっかく出来た友達がいなくなってしまう。 友達というか、操っていただけなのだが…言子には些末な問題のようだ。果てはモナカと口論を始める始末。 腐川はとっととコントローラーを壊して終わらせたい。こまるは混乱気味だ。 「ねえ…苗木こまるさん、モナカからもお願いだよぉ…。お願いですから、正しい選択をしてくださいね」 壊す >壊さない コントローラーを壊せないこまるを、何故かモナカが唆してくる。 「お姉ちゃんは、狂ったコドモ達を止めたかったんじゃないの? お兄さんみたいな、『みんなの希望』になりたかったんじゃないの?」 いつの間にかコントローラーを壊してほしい態度になっていることに、腐川は違和感を覚える。 モナカ曰く「そういうシーン」だからだそうだ。 腐川は、こまるに任せることにする。何が起きたとしても、自分も一緒に責任を負う。 だから…こまるが思うとおりに決めればいい。 壊す >壊さない 少なくとも、今は壊さない方がいい…。それがこまるの結論だった。 恒例のように遅れてやって来た灰慈。妹のモナカを罵倒し、コントローラーを壊せと迫ってくる。 壊せと言う灰慈と、壊すなと言う言子。彼らを眺めながら、モナカはただ微笑んでいる。 壊す >壊さない コントローラーを壊さなかったこまるに、安堵する言子。 一方の灰慈は苛立っている。何故ガキ共を庇う…耳を澄ましてみろ。 「壊せ!壊せ!壊せ!」 外では、大人の群衆がモニタに向かって叫んでいる。二人がモナカを倒す瞬間を、大人達は見ていた。 今は、こまるがコントローラーを壊して、この悪夢を終わらせてくれるのを待っているのだ。 こまるを後押しするために、灰慈はモナカを脅してこれまでの所業を語らせる。 112 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 05 42.35 ID kCAPqHAl0 始まりは、モナカが希望ヶ峰学園付属小学校に通っていた頃のこと。 後に希望の戦士となる四人に、モナカがふざけて自殺をけしかけていた時、江ノ島盾子が現れた。 その出会いは偶然ではなく必然。江ノ島は以前からモナカに目を付けていた。 当時、モナカは既に塔和のロボット開発部門の最高責任者となっていた。 モノクマを量産できる企業を探していた江ノ島は、モナカを利用するために近づいたのだ。 稼いでくれるうちは好きにさせておこう…父や兄は、モナカの行いについては見てみぬふりをしていた。 そのため、モナカの「次世代ロボットを作りたい」という見え見えの嘘も、二人は見破れなかった。 腫物扱いされていた自身の立場も把握したうえで、彼女はモノクマの大量生産をやってのけたのだ。 父の十九一がそれに気づいたのは、モノクマが「人類史上最大最悪の絶望的事件」に投入された後。 モノクマの生産をやめれば、江ノ島は塔和グループがモノクマを造っていたことを暴露するだろう。 モナカは十九一を脅し、モノクマの製造を続けさせた。 その上ビジネスチャンスだと唆して、今度はモノクマに対抗するための武器を造らせた。 毒ガスに有効な空気清浄器を開発できたのは、塔和グループこそが毒ガス製造者だから。 塔和シティが例の事件の被害を受けていないのは、絶望に加担していたから。 塔和グループは裏で絶望と手を組んで、壮大なマッチポンプを行っていたのだ。 十九一も最終的には進んで協力し、江ノ島のパトロンのような存在になっていたという。 灰慈が未来機関を嫌っていたのはそれが原因。彼にとっては、塔和グループは守りたい場所なのだ。 しかし、これから世界中が絶望に染まるという時に、江ノ島は死んだ。こまるの兄…苗木誠のせいで。 それを機に十九一は手の平を返し、モナカの言葉も聞かずに絶望と手を切った。 モナカの目的は子供の楽園でも大人への復讐でもなく、江ノ島盾子の遺志を継ぐこと。 江ノ島は口癖のように言っていた。世界を絶望に染め上げたい…と。 その遺志を継ぐために、モナカは戦争を起こそうとしている。 こまるが持っているコントローラーを壊せば、世界を絶望に染め上げる戦争が起きる、と言い出す。 どうせハッタリだ、と灰慈は言うのだが…。 壊す >壊さない 唐突に言子が何かを思い出す。子供達が被せられているモノクマヘッドは、モノクマの動力と連動している。 モノクマが停止したら、爆発する仕組みになっているというのだ。 モナカとクロクマが内緒話をしていたのを偶然聞いたらしいが、それがもし真実だとしたら…。 壊す >壊さない 子供達が死ぬかもしれない…モナカのハッタリだとしても、可能性がある以上は壊せない。 子供達は洗脳されているだけで、自分の意思でやっているわけではないのだから。 灰慈はそんなのはどうでもいいようだ。いくら復讐してもし足りない、自分達はそれだけの仕打ちを受けてきた。 ガキ共が死のうが自業自得、そんな態度だ。 113 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 11 27.68 ID kCAPqHAl0 それまで黙っていた腐川が、モナカの意図に気付く。モナカの目的は、塔和シティと未来機関との戦争だ。 コントローラーを壊しモノクマヘッドが爆発すれば、街中に子供の首なし死体が転がることになる。 未来機関がその事態を知れば、ほぼ確実に生き残っている大人の仕業だと考えるだろう。 加えて、塔和グループと絶望の癒着…未来機関は塔和シティの人間を「絶望の残党」と見なし、街を制圧しに来るに違いない。 塔和シティと未来機関の戦争…それだけでは終わらない、とモナカは言う。 世界中に散らばっている「絶望の残党」もまた、塔和シティの大人を自分達と同じ「絶望の残党」だと思うはず。 未来機関との戦争が始まると知れば、きっと彼らは塔和シティに集まってくるだろう。 かつて江ノ島が起こした絶望が、塔和シティを起点に再び始まる…。 「そこまでやればさ、『二代目江ノ島盾子』を名乗ってもいいよね?」 灰慈は狼狽しながらも、モナカの話をハッタリだと切り捨てる。 もし事実だとしても、未来機関の人間である腐川が事情を説明すればいいはずだ。 しかしモナカの態度は変わらない。塔和シティが絶望に加担していたという事実はどうしようもない。 そもそも、街中に子供の死体が転がっている時点で完全にアウト。「子供の被害者」というのは、それだけ強烈なのだ。 子供のいない大人を生き残らせて、身内が拷問される様子を見せつけていたのも、大人達の復讐心を煽るため。 こまるをサポートし成長させていたのも、大人達の希望にするのが目的だった。 「大切な人の解体ショーを生中継された人間に、希望を与えたらどうなると思ったー? 明るく前向きに頑張ってくれると思ったー? そんな訳ないじゃーん。 その人は絶対に、復讐に生きる魔物に進化しちゃうんだよ」 外からは、狂ったような叫びが聞こえてくる。 「殺せ!殺せ!殺せ!」 大人達は、子供の頭が爆発しようが気にもしない…それどころか、喜びの声を上げるだろう。 彼らは正真正銘、本物の魔物になってしまったのだから。 そしてそれは全て、大人達の希望を煽った、こまるのせい。言われたこまるは困惑するしかない。 灰慈が、モナカの話はおかしいと言い出す。 今までの話が本当なら、モナカは戦争を起こすために、何としてもコントローラーを壊したいはずなのだ。 モナカはそれではダメだと首を振り、立ちあがる。 「立った! モナカが立った!?」 驚いている灰慈は置いておいて、モナカはこまるに詰め寄る。 「それで、こまるさんは結局どうするの? どうやって、これを終わらせるの?」 子供達を殺して大人達を救うか、子供達の命を助けて、虐殺を続けさせるのか。 どちらを殺してどちらを生かすのか…こまるが選び、どちらかを殺すのだ。 114 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 16 27.80 ID kCAPqHAl0 壊す >壊さない 無理だ、壊せない…そんなことをしたら…。しかし、モナカはこの先のことがわかっているらしい。 こまるがコントローラーを壊し、子供達の頭が吹っ飛んで、戦争が始まる。 そして、新たな絶望の象徴「二代目江ノ島盾子」が誕生する…こまるが「二代目江ノ島盾子」となる。 モナカではなく、苗木誠の妹が「二代目江ノ島盾子」になるほうが、より絶望的だ。 だから、コントローラーを壊して子供達を殺すのは、こまるでなければならない。 コントローラーを壊せば、その映像は録画されて未来機関に送られる手筈になっているという。 灰慈は痺れを切らし、コントローラーを寄越せと言い出す。 こまるは拒絶する。コントローラーは渡せない…子供達を死なせるわけにはいかない。 ならば俺達はどうすればいい? どうすれば虐殺を止められるんだ、大人達の復讐はどうなるんだ。 必要ない、理由ない、関係ない…それがこまると灰慈の違い。 だから、モナカはこまるの復讐のために、ある人達に協力を頼んでおいた。 モナカが合図をすると、モノクマキッズがモニタを運んできた。 ――映し出されたのは、例の拷問部屋。 堆く積まれた大人の死体…その中心に、一組の男女の死体が吊り下がっている。 女性が身に着けているスカートに、血で文字が書かれている…。 それが意味するものを理解した瞬間、こまるはその場に崩れ落ちた。 拷問部屋で見つけた、かすれた血文字。おそらく、床に書いた後に力尽きて倒れ込み、その時に下敷きになったのだろう。 そのせいで反転しているが、スカートに書かれていたのは「こまる」「まこと」…自分と兄の名前だ。 「憎い? 憎いに決まってるよね? あんな風に、大切な人の死体を弄ばれたら、ぶっ殺してやりたいくらい憎くて当然だよね」 こまるはモナカを睨みつける。…そんなに壊してほしいのなら、壊してやる。 大人がどうなろうと、子供がどうなろうと…この街が、世界がどうなろうと。 もうどうだっていい! どうなったって知るか! そう叫ぶと、コントローラーを振り上げた。腐川の制止も届かない。 「腐川さん…ごめんね。わたしには無理だったよ…。 わたしは…お兄ちゃんみたいにはなれないよ…!」 モナカは言う。こうなることは、初めから決まっていた。 こまるが抱いた希望は、絶望するためのもの…。 「そう、最初から決まってたんだよ。あなたは絶対絶望するってね」 >壊す 壊す 115 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 21 20.23 ID kCAPqHAl0 コントローラーを壊そうとしたその時、腐川が動いた。 こまるを突き飛ばしてコントローラーを奪い取ると、守るように腕で抱える。 確かに、こまるはこれを壊そうとした。けれど、本心ではこんなことはしたくないと思っているはず。 だから、代わりに自分がこれを守らなくてはならない。 モナカは、そんな腐川に鍵を見せる。十神が捕えられている部屋の鍵だ。 コントローラーと交換で、この鍵をあげると提案してくる。今度は腐川が選ぶ番だ。 「わかったわ…白夜様の鍵を渡して」 笑うモナカ…コントローラーを渡すよう要求するが、腐川は拒否。 こまるも十神も、両方とも連れて帰る。腐川にとってはどちらも大切な存在だ。 だから、どちらかを切り捨てたり選んだりなんてしない。絶対に、どっちも守る! 灰慈が力ずくでコントローラーを奪おうとするが、言子が必死に妨害。 こまるは突き飛ばされてから放心状態、軽くカオスな状況になる。 そこに闖入者が現れた。外にいるビッグバンモノクマが、拳を振り上げている。 ビッグバンモノクマを操縦できるのは、灰慈と十九一の二人だけ、そのように造られている。 なのに、何故動いている? モナカにも理由はわからないようだ。 エクスカリバー号の外壁を破壊するビッグバンモノクマ。腐川達は巻き込まれまいと退避する。 モナカはその場に立ち尽くして、ビッグバンモノクマを見上げている。 「この感じ、知ってるかも……もしかして!」 モナカが笑みを浮かべると同時に、ビッグバンモノクマの腕が天井を破壊した。 外へと逃げ出した腐川とこまる。呆然となっていたこまるを正気に戻したのは、腐川の平手打ちだった。 何故か叩いた腐川が痛がっている。叩いた手が痛いのだ…それだけじゃない。 今度は、こまるに自分を叩けと言い出す。友達がいなかった腐川は、こういう時にどうすればいいのかわからない。 こまるも叩けばおあいこだから、とにかく叩け! 言われた通り、ビンタをかます。 腐川の言うとおりだ。痛いのは、手だけじゃない…。 これでおあいこ、一緒…自分達は一緒なのだ。こまるの頭を撫でながら、腐川は言う。 こまる一人でどうしようもない時は、腐川が頑張ればいい。腐川だけでどうしようもない時は、こまるが頑張ればいい。 そうやって二人で頑張れるのが、一緒でいることの強み。 腐川は慰めも同情もしない。あの映像だって、こまるの両親だと決まったわけではない。 そんなことに悩むよりも、大事なのは今どうしたいのか。 どうしたいか、どうするのか…決めた? 腐川に問われて、こまるは頷く。 どっちも守りたい…どっちかじゃなくて、大人も子供も助かる方法を探したい! 116 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 27 08.47 ID kCAPqHAl0 ビッグバンモノクマが、こまる達の姿を捉える。狙いはコントローラーのようだ。 こまるは涙を拭いて、そびえ立つ巨体を見据える。どっちも守ると決めたから、だから…戦う。 友達が友達を助けるのは当然のことと、腐川もヤル気満々。 助け合える友達がいれば、絶望なんて怖くない。 もう諦めない、捨てたりしない、屈したりしない、絶望なんかしない! 「絶対絶望するなんて…それは違うよ!」 二人のコンビネーションが、ビッグバンモノクマを圧倒していく。 こまるのハッキング銃と腐川のスタンガンが合わさって生まれた希望のコトダマが、巨体を貫いた。 崩壊するビッグバンモノクマ。その操縦席から、何とシロクマの頭が飛び出してきた。 そして、クロクマと同じように地上へと落下していった。 モナカは瓦礫に下半身を挟まれ、動けないでいる。 まだ、何も終わってない…子供の洗脳も、大人達の復讐心もそのままだ。 それどころか、ビッグバンモノクマという希望を破壊され、大人は怒り狂っている。 こんなの、結論を先送りにしただけだ! 喚いているモナカに、こまるは鍵を渡すよう要求する。 「…ま、このあたりが妥協点かもね…」 モナカは苦々しく呟く。十神という人質がいなくなれば、未来機関がやって来る。 そうすれば「絶望の残党」も集まってきて、ある程度の戦争は起こるだろう。 モナカの誤算は、こまるを過大評価しすぎたこと…こまるだけではない、自分も同じようなものだ。 モナカは江ノ島の、こまるは兄の真似をしようとした。けれど、二人ともその器ではなかった。 こまるは、そんなモナカの言葉を否定する。 「真似なんて、出来る訳ないよ。だって、わたしはお兄ちゃんじゃないもん。 わたしはわたし…お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん」 エクスカリバー号が崩壊を始めている。慌てて逃げ出そうとする言子。 動けないモナカを発見すると、言子は微笑む。さっきまでのは演技で、今もモナカのことが大好きだと言う。 「だから、モナカちゃんは最後まで、カッコ良く、可愛らしく、死んでくださいね」 お辞儀をして、言子は去っていった。 117 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 33 12.76 ID kCAPqHAl0 ビッグバンモノクマを破壊され、呆然としていた灰慈も、どこかへ歩き去ろうとしている。 モナカは灰慈に向かって呼びかける。モナカに復讐したくないか、自分の手で殺したくはないか。 こんな終わり方は嫌だ…希望も絶望もできなかったなんて、ジュンコお姉ちゃんに嫌われてしまう…! 「希望…? 絶望…? そんなもん…どこにあるんだよ…」 モナカに目もくれず、灰慈はそれだけ呟いて行ってしまった。 一人残されたモナカ。やがて彼女は笑いだす。 「ああ、そっか…これが一番絶望的なんだね」 轟音と共に、エクスカリバー号は沈んでいった。 塔和ヒルズに戻り、十神のもとへ向かっていた二人。こまるは、腐川にある決意を明かす。 子供も大人も助けるために、自分はどうするつもりなのかを。 「あのね、腐川さん。わたし…この街に残るよ」 ---- チャプター5終わりです。 途中の選択肢で「壊す」を選ぶと、街中が爆発している一枚絵の後「GAME CLEAR」となります。 モナカが仕組んだゲームをクリアしたという意味であって、プレイヤー的にはゲームオーバーです。 118 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 41 48.34 ID kCAPqHAl0 【エピローグ わたしとあたしで変わる世界】 目を覚ましたモナカは、いつの間にか召使いに背負われていた。召使いは瓦礫の街を歩いていく。 彼は気が変わり、最後まで見届けるためにここに戻ってきたという。 モナカと同じように、召使いもこの結末にはガッカリしていた。 いっそ戦争が起きればよかった…そうすれば、きっと素晴らしい希望が生まれていたはずなのに。 召使いは、モナカに二代目になってみないかと持ちかける。 誰よりも彼女を憎んで愛している自分なら、モナカを本物よりも本物らしい偽物に育ててやれる。 そんなことを言う召使いに、モナカはただ一言呟くのだった。 「…キモイ」 二人の背後を、クロクマとシロクマを乗せた猫車が通り過ぎていく。 「ギャッハッハ、まだ二代目とか言ってんのかよ!」 「しーっ、聞こえちゃうよ。まあ、まだ消えてない存在の二代目を作ろうって時点で、根本的に間違ってたね…」 「提案した俺様が言うのもなんだが、やっぱガキんちょは頭弱いぜ!」 「コドモだけじゃなくて、オトナもだけどね…ちょっと不安を煽ったりするだけで、コロコロ転がされちゃってさ」 「テメェ、そんなナリして腹黒いのな! 大福かっつーの!」 「腹黒いのはお互い様でしょ? だって、ボク達は……」 「いや…俺達っていうか、俺? っていうか…――私様?」 うぷぷぷぷ…クロクマ達は笑い出す。 「白い絶望も黒い希望も、結局どっちつかずだったけれど…別にそれもいっか。 だって最初っからこんな街に興味ないし。 それより、アイツらが前のめりになってくれたことのほうが、ずっと大きな収穫よね。 そういう意味では上出来よね、ガキの割にはよく頑張ってくれたわ。 最終決戦の布石としては絶望的に完璧すぎ! ねえねえねえ、そう思わない?」 猫車を押していた何者かは、無言でクロクマとシロクマの頭を叩き潰した。 「えー、何これ…うざいって? アンタにも、まだそんな感情があったんだ。 それとも、そう感じるべき状況だからそうしてみただけとか? とにかく後は任せたからね…と言っても、次に会う時は別の姿だろうけど。 うぷぷ、これで少しは楽しくなるといいね。アンタが予想できない未来に、なるといいね…」 それぞれの頭から部品を抜き取ると、クロクマ達が話しかけていた相手はどこかへと去っていく。 後には、壊れた残骸だけが残された。 119 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 48 21.96 ID kCAPqHAl0 神社の抜け穴から塔和シティを脱出した十神は、誠に連絡を取っていた。 十神だけではない、生き残った要救助民も一緒にいる。だが…苗木こまると腐川冬子は、ここにはいない。 驚く誠に向けて、十神はこまるから預かって来たメッセージを再生した。 塔和シティに残る…今まで脱出する為に頑張って来たのに、それではまるっきり逆ではないか。 困惑する腐川に、こまるは説明する。 「どっちも守りたい」と言った時、それまで抱いていた恐怖や迷いが吹っ飛んで行った。 巨大なビッグバンモノクマを前にしても、どうしてか勇気が出てきたのだ。 それはきっと、自分がやるべきことだと確かな自信を持てたから。 もし十神達と一緒に塔和シティから出て行ったら、この街はどうなるのだろう。 暴動を鎮圧しに来た未来機関が、塔和グループの過去を知ったとしたら。 そして、「絶望の残党」が集まって来たとしたら…きっと、モナカの言う戦争が起きてしまう。 そうならないように…どっちも守るために、この街に残りたい。 今までは腐川に頼ってばかりで、自分で何かを決めたことなんてほとんど無かった。 でも「どっちも守りたい」というのは、こまるが自分で決めたこと。 もちろん怖いし、不安だけれど…それも分かった上での決意だ。 だから最後まで諦めない。ちゃんと、どっちも守ってみせる。 その間、未来機関がこの街に干渉しないようお願いして欲しい。こまるは、腐川にそう頼むのだった。 「あー、もう…なんであたしが、こんな街に残らなきゃいけないのよぉ!」 いつの間にか、腐川も街に残ることになっている。彼女は十神と一緒に帰りたがっていたはずなのだが…。 こまるが残るのに、自分だけが帰る訳に行かない。腐川だって「こまると一緒」と決めているのだ。 だから自分も残る。これは腐川自身が決めたことだから、こまるに文句は言わせない。 「だからね…わたしがこの街に残ることにしたのは、誰かに強制されたりした訳じゃなくて… ちゃんと、自分で決めたことなんだよ」 自分が残ったところで何かが変わる訳じゃないし、兄のように誰かの希望になれないこともわかってる。 だから、こまるは待つことにした。誠達が「絶望の残党」をやっつけて、この街に迎えに来る日を。 両親のことについては、結局わからなかった。拷問部屋には、もう何も残っていなかったのだ。 あの時モナカが見せた映像は、あらかじめ録画したものなのだろう。 わからないということは、どこかで元気にしている可能性もある…だったら、それを信じることにする。 画面の中のこまるは、笑顔でそう言うのだった。 120 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/02(火) 23 53 30.98 ID kCAPqHAl0 「今度会う時は…お兄ちゃんがビックリするくらいに成長してるかもよ。 わたしが、お兄ちゃんを見てビックリしたのと同じくらいにね。 …じゃあね、お兄ちゃん」 誠は、とっくにビックリしていた。 十神と会った時も、誠と連絡をとった時も、こまるは怯えてばかりだったのに…。 あいつらの期待を裏切る訳にはいかない。十神の言葉に、誠も頷く。 「十神クン、ボクは決めたよ。もし次にこんな状況になったら… たとえそれが危険な罠だろうと、そこに飛び込んでいくよ。 自分の手で、ちゃんと終わらせるためにね」 誠の決意を聞いた十神は、かつて希望ヶ峰学園で誠が言っていた言葉を思い出していた。 「希望は伝染する…か」 こまると腐川への借りを返すまでは、誠に協力してやる。 十神もまた、一つの決意を抱くのだった。 荒れ果てた塔和シティにも、朝は来る。 元気なこまるに対して、腐川はややグロッキー気味。こまるの寝相とイビキと寝言のせいで睡眠不足のようだ。 一人で寝れば済む問題なのだが、幽霊が怖い腐川は一人だと眠れない。 塔和ヒルズでの一件以来、腐川はすっかり幽霊の存在を信じるようになった。 彼女の苦手なものが、また増えてしまったようだ…。 「ほら、さっさと行くわよ。あたしらが目を光らせてないと、連中はすぐ争いを始めるんだから…」 歩き出した腐川を、こまるは慌てて追いかけていく。 「ねー、ちょっと待ってよー…冬子ちゃんってばー!」 121 :絶対絶望少女 ◆l1l6Ur354A :2014/12/03(水) 00 08 08.09 ID yduxnIM00 これで絶対絶望少女終わりです。 エピローグは文章だけだと分かり辛いので、いくつか補足しておきます。 前提として、絶対絶望少女は1と2の間の話にあたります。 シロクマとクロクマに搭載されている人工知能=江ノ島盾子のアルターエゴ。 作中の描写からの推測ですが、二体はそれぞれ以下のような役目を持っていたようです。 クロクマ…希望の戦士=子供側を誘導する役。モナカに「二代目江ノ島盾子」の計画を持ちかけた張本人。 シロクマ…大人側を誘導する役。子供がいない=復讐心を煽りやすい大人を選別して生き残らせていた。 さりげなく灰慈を誘導していたりするので、やってることがクロクマよりえぐい。 こまるの成長を促すのも役目の一つかも。 二体の頭を破壊したのはカムクライズル(=2の日向創)です。 彼が持ち去った部品、或いは別の江ノ島アルターエゴがジャバウォック島に持ち込まれる →2のコロシアイ修学旅行開始…という流れになります。 十神と誠のやりとり(罠だろうと飛び込んでいく~)も、2の6章への布石っぽいです。 クロ&シロクマの人工知能を仕込んだのは誰かとか、5章冒頭の侵入者とか、明らかにならないままの謎もいくつか。 (作中の人物に限定するなら、どっちもカムクラあたりっぽいですが) ちなみに、エンディングでそれぞれのその後が何となくわかります。 大人達は争いを続けていて、モノクマを壊しているようです。灰慈は燃え尽きた抜け殻みたいになっています。 モナカと言子以外は死亡したような気がする希望の戦士ですが、全員ちゃっかり生きてました。 モナカは二代目を目指すことにしたのか、江ノ島っぽくイメチェン。 洗脳されたままの子供達を使ってモノクマ製造に励んでいるようです。 本筋はフルボイスで、おなじみの2.5Dに3Dムービーやアニメパートなど盛り沢山。 こまると腐川が互いに支え合って成長していく物語も、王道でとても良いです。 単体ではオススメしづらいのが難点なのですが、ダンガンロンパシリーズをプレイ済みなら是非やってもらいたいです。 本編シリーズとは別の方向でグロい表現(死体の山とか)があるので、そこは注意かも
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絶望少女 クロナ VR 闇文明 (7) 5000 クリーチャー:マジカル・ガール スペシャルマジカル・プリズム(バトルゾーンに自分のマジカル・ガールが5体以上いるとき、このクリーチャーは次のSMP能力を得る) SMP-このクリーチャーが攻撃する時、相手は自身の山札を一番下の2枚を残してすべて墓地に置く。その後、相手のクリーチャーをすべて破壊する。このクリーチャーがシールドをブレイクする時、相手はそのシールドを手札に加えるかわりに、持ち主の墓地に置く。 フレーバーテキスト DMOC-04 フフッ、チェックメイトですわ… ---絶望少女 クロナ 作者 広ヒロ 評価・意見 名前 コメント 収録セット DMOC-04 悪魔の祝杯
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開催日:2009年1月18日 会場:恵比寿 LIQUIDROOM 出演者 大槻ケンヂ 絶望少女達 小林ゆう 新谷良子 野中藍 沢城みゆき セットリスト Intro/大槻ケンヂと絶望少女達 ニート釣り/大槻ケンヂ・新谷良子・野中藍・小林ゆう・沢城みゆき アベルカイン/大槻ケンヂ ピアノ・デス・ピアノ/大槻ケンヂ 強引niマイYeah~/新谷良子・野・小林ゆう・沢城みゆき マリオネット/大槻ケンヂ・新谷良子・野・小林ゆう・沢城みゆき ヒキツリピカソ・ギリギリピエロ/大槻ケンヂ・沢城みゆき 無神論者が聖夜に/大槻ケンヂ・新谷良子・野中藍 人形たち/大槻ケンヂ・野中藍 絶望遊戯/大槻ケンヂ・小林ゆう 綿いっぱいの愛を! 絶望少女版/大槻ケンヂ・新谷良子・野中藍・小林ゆう・沢城みゆき さよなら!絶望先生/大槻ケンヂ・新谷良子・野中藍・小林ゆう・沢城みゆき 人として軸がぶれている/大槻ケンヂ・新谷良子・野・小林ゆう・沢城みゆき アンコール 豚のご飯/大槻ケンヂ・小林ゆう 空想ルンバ/大槻ケンヂ・新谷良子・野中藍・小林ゆう・沢城みゆき おやすみ-END/大槻ケンヂ・新谷良子
https://w.atwiki.jp/booker/pages/306.html
82点 出演:伊藤英明、ミムラ、宮藤官九郎、愛川欽也、臼田あさ美、ダンカン 黄泉がえりスタッフがおくる泣けるSF映画。やっぱええのう。このスタッフの映画は個人的ツボかもしんない。原作含めて。 出張で福岡の門司を訪れることになったヒロ(伊藤英明)。20年前にくらしていた町並みに懐かしさを覚えるヒロだったが、なんと20年前の自分に遭遇する。同じ飛行機に乗り合わせていたチンピラ布川(勝地涼)と再会し、自分達は20年前の1986年にタイムスリップしたことを知るのだった。 泣けるSFを標榜される梶尾作品らしくタイムスリップもの。時かけ以来だなぁ。やはり雰囲気は黄泉がえりに通じるものがある。気がする。 主人公の心残りを改変する、つまり過去をいじって未来を良くすることがメインなんですが他の三人(宮藤官九郎、勝地涼、倍賞千恵子)のその時代でおもいのこしたことを巡るサブストーリィもいいですねぇ。個人的にはクドカンの話が好きです。ドラえもんにパパがらみで似た話があった気がするなぁ。 ミムラがいいですね。キャラにあってる。そういえば最近みないなぁ。まぁドラマをほとんどみないんですが。 伊藤も海猿以外ではみたことないんですが、真面目でちょっと茶目っ気がある役はあってるような気がします。憎めないキャラというか。 ラストの2,3分にシーンはサービスカットってことでいいんですかね。みんなが幸せな理想の世界というか舞台裏というか。今思うと舞台裏でキャスト同士に新たな恋が見たいなストーリィのほうが幸せか? 本筋のラストが和美一人のさびしい感じなんでそれでちょっと救われる気がします。 個人的には好きな雰囲気の話です。病気とかを全面的に押し出して同情をひくドラマ、映画がちょっと好きではないのでこの程度のほうがいいですね。ちょっと長いのが難点といえばそうかな。でもオススメです。 予告なかったんでワンシーンをば この胸いっぱいの愛をワンシーン
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大槻ケンヂと絶望少女達をお気に入りに追加 大槻ケンヂと絶望少女達のリンク #bf Amazon.co.jp ウィジェット 大槻ケンヂと絶望少女達の報道 月ノ美兎のアルバムを全曲解説――人気VTuberが大槻ケンヂや長谷川白紙ら豪華制作陣とのデビュー作で継承/革新する〈サブカル〉 - Mikiki 劇場版「かくしごと」テーマ曲はテレビアニメに続きflumpool&大滝詠一(動画あり) - ナタリー 大槻ケンヂ率いる特撮、5年3ヶ月ぶりとなるニューアルバムをリリース - http //spice.eplus.jp/ TVアニメ『かくしごと』大槻ケンヂと絶望少女達「あれから(絶望少女達2020)」【毎日1曲おすすめのアニソンをあなたに 塚越淳一のアニソントラベラーvol.52】 - アニメイトタイムズ 『さよなら絶望先生』シリーズ、キャラと楽曲の数だけある魅力 サブスク解禁を機に色褪せない各曲を紹介 - リアルサウンド 『さよなら絶望先生』シリーズ関連楽曲が一挙解禁! - PR TIMES 『さよなら絶望先生』楽曲がサブスク解禁 大槻ケンヂと絶望少女達の新曲も - CINRA.NET(シンラドットネット) 『さよなら絶望先生』楽曲がサブスク解禁。「人として軸がぶれている」など主題歌からサントラ/キャラソンまで - PHILE WEB - PHILE WEB よみがえる 大槻ケンヂと絶望少女達 アニメ「さよなら絶望先生」シリーズの関連楽曲がサブスク一斉解禁 - http //spice.eplus.jp/ 春アニメ『かくしごと』大槻ケンヂさんインタビュー|『絶望先生』から時を経てようやくポジティブに物事を感じられるようになった男の集大成ソング - アニメイトタイムズ 『かくしごと』、大槻ケンヂが第6話に登場!絶望少女達2020のキャスト情報 - マイナビニュース 『かくしごと』第6話に大槻ケンヂさんが「もりどくん」役で出演、コラボCDの試聴動画を公開!「絶望少女達2020」の声優も明らかに - アニメイトタイムズ 『かくしごと』第6話登場「もりどくん」キャストは大槻ケンヂ!絶望少女達も大復活で試聴動画公開 - http //spice.eplus.jp/ 大槻ケンヂと『かくしごと』コラボCD発売、「絶望少女達」も復活!! - アニメージュプラス 春アニメ『かくしごと』第6話「スクールランドセル」の先行場面カット解禁! 大槻ケンヂさんが声優として出演決定 - アニメイトタイムズ 大槻ケンヂ楽曲と久米田康治原作アニメはなぜ相性が良い? 『さよなら絶望先生』と最新作『かくしごと』から考察 - Real Sound アニメ『かくしごと』愛する娘のため1話から隠すことに必死です - 電撃オンライン TVアニメ『かくしごと』、めぐろ川たんていじむしょと大槻ケンヂのコラボCDが発売決定!「大槻ケンヂと絶望少女達」が復活!? - 超! アニメディア TVアニメ『かくしごと』、大槻ケンヂコラボCD発売決定!第1話先行カット - マイナビニュース 「かくしごと」めぐろ川たんていじむしょと大槻ケンヂのコラボCD、絶望少女達の新曲も - マイナビニュース 大槻ケンヂとアニメ「かくしごと」コラボCDリリース、絶望少女達との新曲も(コメントあり) - ナタリー 『さよなら絶望先生』と『かってに改蔵』が夢の共演 - BARKS 絶望&改蔵シングルに特撮リメイクと「ヌイグルマー」テーマ曲 - ナタリー さよなら絶望先生、三度目の絶望。 - BARKS 大槻ケンヂと絶望少女達、アニソンの祭典「アニサマ」参戦 - ナタリー 大槻ケンヂと絶望少女達とは 大槻ケンヂと絶望少女達の37%は厳しさで出来ています。大槻ケンヂと絶望少女達の18%は気合で出来ています。大槻ケンヂと絶望少女達の13%は罠で出来ています。大槻ケンヂと絶望少女達の11%は陰謀で出来ています。大槻ケンヂと絶望少女達の9%は果物で出来ています。大槻ケンヂと絶望少女達の8%は白インクで出来ています。大槻ケンヂと絶望少女達の4%は歌で出来ています。 大槻ケンヂと絶望少女達@ウィキペディア 大槻ケンヂと絶望少女達 Amazon.co.jp ウィジェット 掲示板 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る ページ先頭へ 大槻ケンヂと絶望少女達 このページについて このページは大槻ケンヂと絶望少女達のインターネット上の情報を集めたリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新される大槻ケンヂと絶望少女達に関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
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◇ 朝の陽射しに照らされる殺し合いの会場。 多くの参加者が散在するこの舞台に響くは、創造主たる女神の唄声。 魅惑的な歌姫の声から運ばれる、その曲の名は『コスモダンサー』。 それは、とんでもなく不幸なある少女が産み出した、破壊の慟哭。 怨恨の旋律。憎悪の波動。悲哀の感情。 あらゆる負の想いを詰め込んだかのような、そんな楽曲。 「キャハハハハハハハハハッ!!」 会場に垂れ流される暴力的なその曲調に合わせるかのように―――その作曲者たる少女は踊り、嗤い、狂い、牙を剥く。 今の彼女は謂わば、破壊の権化。 少女が踊れば、爆炎が生じ。 少女が嗤えば、硝煙が漂う。 少女が放つ狂気は、世界のそのものを呪うが如く、災禍の中心となっていた。 「オラオラぁッ!!どうしたよ、臨也おじさんよぉっ!!逃げてばっかじゃ、ゲームにもならねえじゃねえか!!」 その少女―――ウィキッドの狂気の矛先は、今一人の男へと向けられている。 バク転、側転などアクロバティックな身のこなしで、ウィキッドの爆撃を華麗に回避し続け。 時にはナイフを投擲し、手榴弾を打ち落としていく、その男の名は、折原臨也。 一見すると、追い詰められているように見えなくもないが、その表情は尚もポーカーフェースを貫く。 「うんうん…なるほど、君の殺意は、確かに苛烈だね。身をもって実感している。いやぁ、とても恐ろしいよ」 そう言いながら、臨也は宙へとくるりと返り、大樹の上へと着地し、その双瞼で魔女を見据える。 パルクール―――壁や障害物を利用して三次元的に移動し、目的地へ到達する移動術。 池袋の日常の中で、平和島静雄という『怪物』との喧騒において培った技術を駆使し、彼はウィキッドの攻撃を回避し続けたのだ。 「だからこそ俄然知りたくなったよ、君がこの殺し合いにおいて、何を望むのかを、さ」 「減らず口が叩けるとは、随分と余裕じゃねえか!!良いねえ、私としても益々あんた の顔を苦痛に歪めてやりたくなってきたぜ!!」 μのライブが終わり、ステージの幕が下りると、フィールドは静寂に包まれる。 見下ろす臨也に、見上げるウィキッド。両者の会話だけが、その場に響いている。 そして、二人とも共通して、顔には薄らと笑みを浮かべていた。 魔女はまるで、狩りを楽しむ肉食獣のように。 情報屋はまるで、玩具を与えられた子供のように。 彼らはこの状況を心の底から楽しんでいるようだった。 「まぁ、そう急かないでよ。少し気になったんだけど、さっきμが唄っていたあの曲……『コスモダンサー』だっけ?察するに、君があの曲のコンポーザーってことで良いのかな?」 「あぁ、そうだ!!アレは私が手掛けた自信作だよ。お気に召してくれまして〜臨也おじさまぁ〜♪」 揶揄うような口振りで、ケラケラと嗤うウィキッドに対し、臨也は静かに微笑む。 「うん、素晴らしかったよ。あれは実に俺好みの曲だね。じっくり聴けなかったのが、本当に残念だよ」 「そりゃ光栄なこった。だがなぁ……生憎、あんたがあの曲を聴くことはもう二度とないからっ!」 瞬間、獰猛な笑みと共にウィキッドが手榴弾を投擲。束の間の平穏を取り戻していた筈の森の風景が一変し、爆風によって木々が激しく揺れ動く。 「―――そういえば、君は、霧雨魔理沙や金髪の彼に言ったよね……」 だが、木っ端微塵となった樹の上に、既に臨也の姿はなく、彼の声のみが森に響く。 「『愛』だの『絆』を信じている連中を絶望させて、蹂躙したい、と。さっきの曲の歌詞にも、そういった類のフレーズがあったけど……どうして、そこまで人間の想いを弄ぶことに固執するんだい?」 刹那、ウィキッドの真横よりナイフが飛来し、彼女の足元の地面に突き刺さる。 チィッと舌打ちをして、得物が飛来した方向を睨みつけると、そこには、コートのポケットに両手を入れながら、変わらず不敵な表情を浮かべる臨也が佇んでいる。 ――この太々しさ、やっぱり気に入らねえ。 一瞬苛立ちを露わにするウィキッドだったが、すぐにその感情を掻き消すように、彼女はニタリと笑う。 「決まってんじゃねえか。それは――」 「――楽しいからだろ?『愛』だの『絆』なんてものは幻想に過ぎない。そんなものを信じる人間は愚かしく滑稽で、馬鹿らしい。だから、それが壊され、まるで長い夢から醒めたかのように、現実を突きつけつけられた時の人間の絶望が愉快で堪らない……といったところかな?」 臨也の言葉を聞き、ウィキッドは更に口角を上げる。 「分かってんじゃねえか、なら――」 「でもね、俺は君が否定する『愛』だの『絆』に溺れる人間を愛している」 「……あん?」 またしても言葉を遮られ、ウィキッドが眉を顰める。 いよいよもって、不機嫌な表情を見せるウィキッドだが、臨也は臆することなく、言葉を紡いでいく。 「だってそうだろ?『愛』だの『絆』なんていう得体の知れないものの為に、人は時に無謀なことをしたり、命懸けの行動に出たりもする……それもそれで、とても人間らしくて愛おしくて堪らないじゃないか。だから、俺は彼らが好きなんだ、愛している、と胸を張って言える!」 「アンタの下らねえ性癖なんざ知ったこっちゃねえよ!!さっきからベラベラ喋ってんじゃねぇぞ、このクソ野郎がッ!!」 もう沢山だ、早くこの不愉快極まりない男を殺したい。 その一心で、ウィキッドはバックステップとともに勢い良く跳躍し、臨也目掛けて手榴弾を投げ付ける。 「おおっと、怒らせてしまったかな。いやぁ怖いなぁ。流石はオスティナートの楽士ウィキッド、まさに負の感情の化身だね。」 降り掛かる爆弾とそこから生じる爆発をまたしてもアクロバティックに回避。爆発による風圧と土煙を受けながら、臨也は囁きかける。 「でもさ、そんな感情を剝き出しにする君のことも、彼ら同様に、等しく俺は気に入っている。」 ―――黙れ。 「今この場で、ゲームに乗った一人の殺人者として、俺を殺そうとしている君も―――」 ―――死ね。 「DTMで人間の善性を呪うような曲を作りだす君も―――」 ―――消え失せろ。 「電子人形から与えられた力を以って偽りの世界で現実逃避に勤しむ君も―――」 ―――壊れちまえ。 「どうしようもなく人間的で、みっともなくて、俺は好きだ。」 プツンと、ウィキッドの中で何かが切れる音がした。 そして、次の瞬間――。 「―――――殺すッ!!」 沸騰した感情の赴くままに、ウィキッドは手に持つ手榴弾の量を増やし、怒涛の勢いで臨也へと投げ付けていく。 「――ごちゃごちゃ、気持ち悪い事吐かしやがって!!最高にムカついたぜ、アンタに私の何が分かるってんだ!?」 その攻撃は先程までの比ではなく、その量と威力は段違いであり、臨也はパルクールを駆使した回避に専念するようになる。 やがて二人の男女による鬼ごっこは森を抜けて、崖上へと舞台を移す。 崖下には急流の川が流れており、落ちることあらば、ただでは済まないだろう。 「うん、分かるよ。少なくとも、君以上には、君の事を理解したつもりだよ」 「――あぁあ“あ”?」 窮地に立たされているも関わらず、臨也は相変わらず、襲い掛かる爆炎から避けつつ、『魔女』に語り続ける。 「そして俺は君という『人間』を理解した上で、こう宣言しよう―――」 ―――うぜえ。 「例え、世界が君という存在を拒絶していたとしても―――」 ―――クソが。 「俺は君という『人間』の存在を受け入れ―――」 ―――反吐が出る。 「君のことも他の『人間』と同様に、愛するよ、平等に。」 ―――もう、うんざりだ。 自分の内側にグイグイと土足で入られたような悪寒が走り、ウィキッドの怒りが頂点に達する。 「うるせぇえええええええ!!知った風な口を利いてんじゃねえ!!大人しく死んどけぇええええええっーー!!!」 叫ぶと同時に、ウィキッドは猛攻を仕掛ける。次々と投擲される爆弾はまるで弾丸のように凄まじい速度で、臨也へと迫る。 そんな彼女の怒りすらも愉しむように……否、慈しむように、臨也は尚も薄ら笑いを張り付かせ、これを躱していくのだが――。 「――ッ!?」 次の瞬間、臨也の身体は宙へと放たれていた。 自発的ではない。まるで見えないワイヤーに引っ張られるかのように。 宙に投げ出された臨也は、目を見開く。 彼の視線の先には蒼い空と、こちらを射殺すような視線で見下ろす魔女の姿。 「あぁ、そういうことか……」 瓦礫と共に落ち行く中、臨也は己の身に何が起きたかを悟る。 ウィキッドが投げた手榴弾の爆発によって、崖の地面に亀裂を造り、その割れ目が臨也の足場を破壊したのである。 「―――少し熱くなりすぎたか……」 重力に従い、崖下の川へ落下していく臨也は、観念したかのように溜息を漏らすと、そのまま――どぼんと、急流の中へと飲み込まれていったのであった。 「……はぁ、はぁ……」 急流に落ちていった臨也を、崖上から見送り、ウィキッドは荒くなった呼吸を整える。 ようやく怒りが収まったのか、彼女の顔からは笑みが溢れて、狂った笑い声が辺りに響き渡る。 「キャハハッ!ざまあ見やがれっ!!クソ野郎がっ!!」 あの高さと流れの速さならば、助かる可能性は極めて低いだろう。 仮に生きていたとしても、まともに動けるような状態ではあるまい。 そう結論づけ、ウィキッドは大きく深呼吸をし、乱れた髪を手で整える。 「……さてと、あのクソの死体を確認したいのは山々だけど、今はそいつよりも優先すべきことがあるんだよなぁ」 そう呟いたウィキッドはくるりと踵を返し、紅魔館の方角へと向き直る。 思わぬ乱入者によって、当初の予定からは遅れが生じてしまったが、前々から獲物と定めていたカナメはまだ付近にいる筈……。 彼に王への復讐心だけではなく、無力な女の子を気遣う良心があるならば、行方不明のままとなっている自分を探しに、此方に向かってきている可能性がある。先の放送で、魔理沙の死亡が正しくアナウンスされていたのであれば、尚更だ。 「あはっ♪カナメさんったら、私の事心配してくれてるかな?だとしたら、感動的な再会になるかもしれませんね♪」 未だあちこちに小さな炎が点在し、戦闘の爪痕残る森の中。 その中をスキップしながら歩く彼女の口調はもはや魔女のそれではなく、年相応の優等生のそれへと戻っていた。 ◇ 『情報屋』と『魔女』の闘争が終息し、静寂に包まれている森の中。 紅魔館を出発したカナメとStorkの二人は、木漏れ日に晒されたそれを発見し、足を止めていた。 「……魔理沙……クソッ!!」 黒焦げになって原型は留めていないが、その背格好や周囲に転がっている帽子や箒の残骸から、この亡骸が霧雨魔理沙のものであると容易に判断できた。 「……カナメ君、君達を襲撃した金髪の青年は、炎を操っていたと聞いたけど……」 黒焦げの少女。周囲に散らばる残火。 コウノトリを模したマスク越しに見える凄惨たる光景は、Storkの過去の過ちを刺激せずにはいられなかった。だが、それでもStorkは懸命に平常心を保とうと、努めて冷静に質問を投げ掛ける。 「……ああ、恐らく魔理沙を殺ったのは奴だろうな……」 「そうか……」 状況から察するに、霧雨魔理沙殺しの犯人はウィキッドではなく、金髪の青年のようだ。 だとすれば、ウィキッドは本当に普段の凶暴性を抑えこみ、この殺し合いには乗らないように努めているということになるだろうか。 そうであれば、彼女に対する疑念は杞憂となるのだが―――。 Storkの中でモヤモヤとした疑問が渦巻いていく。 「カナメ君……僕はもう少しここら辺を調べたい。君は、引き続き折原君達を捜索してきてくれないか?」 「……分かった。アンタも無理すんなよ。まだ奴は、近くにいるかもしんねえからよ」 「お互い様にね」 互いに軽く手を振って別れると、現場検証をするStorkを残して、カナメは更に奥へと進んでいくのであった。 ◇ 「フンフンフンフン~♪」 上機嫌に自分の楽曲を口遊みながら、森の中を歩くウィキッド。 その外見は、臨也と交戦していた時のそれではなく、ネクタイを律儀に結び、整った制服を見に纏い、蒼のリボンで結い合わせたお下げを靡かせた、殺し合いの場に似つかわない真面目な少女の装いであった。 今の彼女はウィキッドではない、真面目で模範的な優等生・水口茉莉絵なのである。 彼女は紅魔館へと戻るべく、山を下っていた。 (あははははははっ、カナメ君ったら、合流したらどんな感じで壊してやろうかな♪) 道中、彼女は頭の中に思い浮かぶ残虐な妄想に耽る。 それはもう、楽しそうな笑顔を浮かべながら。 「--ッ!?」 しかし、呆けているのも束の間、前方から人の気配を察知し、いち早く木陰の裏へと身を隠す。 「…………」 気配を殺し、じっと目を凝らすと、森の奥より姿を現したのは、彼女が焦がれていた男であった。 「……カナメさん!!」 「っ!?水口さん、無事だったのか……」 「はい!私もカナメさんもご無事だったんですね!本当に良かった!」 驚いた様子を見せるカナメに対し、喜びを飾った声を上げ、駆け寄ろうとする茉莉絵。 しかし――。 「動かないでくれ」 「え?」 制止の声を受け、茉莉絵は目を見開き、その場で立ち止まる。 カナメの手には、黒光りする銃が握られ、その銃口は真っ直ぐ、茉莉絵に向けられていた。 茉莉絵に向けられるカナメの視線は以前のそれではなく、鋭く警戒に満ちたものとなっていた。 「……ど、どういうことですか?どうして、そんなものを向けるんですか?」 「確認したいことがある……水口さん……いいや、オスティナートの楽士、ウィキッド……」 「――ッ!」 瞬間、ゾクリと茉莉絵の全身に寒気が走る。 まるで心臓を直接掴まれたかのような錯覚に陥り、思わず身震いしそうになるが、それを堪えて必死に表情を取り繕う。 「アンタがμに楽曲を提供する楽士だということは知っている。それもどんな曲を提供して、メビウスでは普段どんなことを行なっているのかもな……」 思わず舌打ちをしてしまいそうな衝動をぐっと堪え、茉莉絵は静かに息を呑む。 折原臨也と対峙したときもそうだったが、ウィキッドとしての普段の素行と正体について、茉莉絵の預かり知らぬところで、タレ込んでいる者がいるようだ。 楽士側の人間か―――。 それとも帰宅部の連中か―――。 どうやって水口茉莉絵=ウィキッドという情報に辿り着いたかは知らないが、余計なことをしてくれたものだと、心中で毒付く。 茉莉絵は少しの間を置いてから、やがて観念したかのようにため息をついた。 「はい……確かに私はオスティナートの楽士ウィキッドとして、メビウスではμに楽曲を提供していました。先程μが歌った『コスモダンサー』という曲も私が作曲したものとなります。」 「メビウスでのアンタは攻撃的で、どうやって何かを壊そうか考えてばかりと聞いたが……」 「カナメさんがどのような話を耳にしたかは分かりませんが、素行不良だったと言われると否定はできませんね……」 俯きがちに、どこか悲しげに答える茉莉絵。ここは余計に否定せず、肯定した方が得策だろうと、判断した上での態度である。 だが問題の肝はそこではない。 「ですが、誓って言いますが、私は人殺しなんて恐ろしいこと出来ません!そんな事、絶対にしませんっ!!」 カナメが気にしているのは、この殺し合いにおける茉莉絵のスタンスのはず。 幸いなことに、魔理沙殺しについてはジオルドの仕業に見せかけるよう工作しており、唯一の目撃者は先程始末したばかり。ここで茉莉絵が殺し合いに乗っていることを悟られる心配はない。 「……さっき、其処で魔理沙が死んでいたが、あれは---」 「魔理沙さんが亡くなったのは、放送で知りました……彼女は、私を先に逃して、彼と戦うために一人残りました。そして、その後に……亡くなったと……」 「……そうか……」 目に涙を滲ませ、顔を伏せる茉莉絵。哀憫漂うその姿はまさに悲劇のヒロインのそれ。そんな彼女の様子を、カナメはじっと観察するように見つめていた。 「もう一つ確認したい。折原臨也という男に、出逢わなかったか?アンタ達を探しに行ったはずなんだが」 繋がっていやがったか―――と茉莉絵は、内心歯噛みするも、平然を装いつつ答えた。 「おりはら…いざや…さん…ですか? いえ、私、魔理沙さんと別れてからは誰とも会っていないです……」 「そうか……」 キョトンとした顔を浮かべる茉莉絵。カナメの探るような眼差しに気づきながらも、あえて気付かぬフリを決め込む。 暫しの沈黙を挟み、カナメは銃を下ろす。その様子を見て、口元を緩めそうになる茉莉絵だったが、それも束の間―――。 「―――だそうだぞ、アンタはどう思う?」 と、カナメが背後を振り向く。 「えっ?」、とそれを目で追う茉莉絵。 すると木陰から黒い影が一つ、ゆらりと現れる。 日に照らされ徐々に明らかになるそのシルエット。 「なっ!?」 茉莉絵が驚愕するのも無理はなかった。何故ならその人物は――。 「折原……臨也……!?」 つい先程、崖下に落として始末したはずの男だったのだから。 「……。」 いつもの黒衣を纏った情報屋は能面のまま、コートの両ポケットに手を突っ込みながら、じっと茉莉絵を見据えていた。 「な、何で……、どうして……!!」 想定外の事態に、驚愕し混乱に陥る茉莉絵。 ―――あり得ない。どう考えたってあり得ない。 目の前の光景を否定しようとする。 しかし、彼女の目の前にいるのは紛れもなく、あの折原臨也その人。 見間違うはずもない。 「……っ!!」 必死に頭を回して状況を整理しようとする茉莉絵。 そんな茉莉絵の様子を、臨也とカナメは無言を貫いたまま眺め、そしてゆっくりと彼女に近づいていく。 その圧に、思わず後退る茉莉絵は、葬り去ったはずの男に向かい叫びだす。 「お前ッ!?どうして生きてやがるッ!?」 「……。」 「ふざけんなよ……!!アンタは確かに崖下に落ちたはずだろうがッ!?」 「……。」 「例え一命は取りとめても、無事じゃ済まねえはずだろッ!?」 「……。」 「さっきの無駄な問答も、お前の入れ知恵ってわけかよッ!?全てを分かったうえで、私の反応を楽しもうといった魂胆か!?悪趣味なお前らしい、クソみてえな発想だなぁ!!ああ”あ”あ”あ”?」 ハァハァと呼吸を乱して、ドスの効いた声で捲し立てる茉莉絵。 もはや彼女の口調は清廉潔白な少女のそれではなく、野蛮で暴力的な魔女のそれへと変貌していた。 そんな少女の豹変ぶりを、冷ややかに見届けた臨也とカナメ。 そして、臨也はカナメの肩にポンと手を乗せ、口を開いた。 「カナメ君、分かっただろ?これが彼女の本性だよ」 「……あぁ。まさかこれほどまでとはな……」 カナメは臨也の言葉を受けて、静かに目を瞑り、深いため息をつく。 そして得心の言った顔で茉莉絵を睨みつける。 「―――アンタを信じたかったぜ、水口さん」 「はっ?はっ?はっ?」 状況を飲み込めず困惑する茉莉絵。 だが、次の瞬間―――彼女は信じられないものを目撃する。 「―――ッ!?」 カナメの横に佇む折原臨也の姿が、変貌していくのであった。 黒から白へと。まるで靄が晴れていくかのような調子で、彼の服装と背丈は変わっていき、最後には顔までもが仮面に覆われていく。 その面貌にウィキッドは覚えがあった。 嘴を携え、紅い瞳を模したそのペストマスクは、忘れようもない。 ウィキッドと同じく、メビウスを守護する『オスティナートの楽士』の一人。 「―――お前……Storkッ!!」 白のタキシードに、赤の蝶ネクタイ、黒のポケットチーフといった、如何にも紳士的な格好をした仮面の男・Storkがそこに佇んでいたのであった。 ◇ 時は遡る―――。 それは、Storkがカナメと別れて、霧雨魔理沙の殺害現場付近を調べていた頃。 彼は、霧雨魔理沙のものと思わしき脚の彼は、霧雨魔理沙のものと思わしき脚の欠片を検分していた。 遺体そのものは黒焦げとなり、原型も留めていなかったが、不思議と飛び散っていたこの脚については、そういった形跡は見当たらない。 カナメたちを襲撃した青年は、細剣を所持していたというが、この欠損ぶりからすると、切って落とされたのではなく、何か爆発のようなものに巻き込まれて吹き飛ばされたかのような印象を受ける。 ―――爆発……。 その単語を脳裏に浮かべた時、Storkの脳裏では、彼女のことが浮かび上がった。 手榴弾などの爆発物を自らの得物として、ラガードを狩る彼女の姿が……。 そして、更に足を進めて、森の奥地へと進む彼の視界に、あるモノが入り込む。 「……これは……」 戦闘の跡と思わしき、撒き散らされた炎の近くに、落ちている複数の銀色の得物。 Storkはその傍まで歩み寄り、手に取って確認する。 「やはりそうだ……これは折原君の……」 Storkが手にしたそれは、折原臨也が所持していた投擲用のナイフ。 テレビ局を出発する前に、互いの装備を確認した際に、臨也が若干ドヤ顔気味に「俺の武器はこれになるかなぁ」と、見せびらかしてきたのが記憶に新しい。 そのナイフがここに落ちているということは、恐らく、彼はここで何者かと交戦したのだろう。 そしてこの場所には、先の爆発跡から、魔女がいたことも推測される。 霧雨魔理沙、殺し合いに乗った青年、ウィキッド、そして折原臨也。 四人がこの場所で、どのように接触し、何が起こったのか―――。 それを、はっきりさせるためには、やはり当人達の口から聞かないことには何もわからない。 中でも注視すべきは、ウィキッドがどういった行動を行なったかについてだ。 彼女がメビウスに蔓延る噂通り、奸計を用いて、他参加者を抹殺するべく行動しているのであれば、被害者が増える前に、その悪意を暴き、正さなければならない。 Storkは大急ぎで、カナメを追いかけ、彼の協力の元、策を講じるのであった。 ◇ 「――そして僕は、カナメ君と相談して、君が接触するようなことがあれば、折原君に擬態して、君の前に現れるようにしたんだ。君が、折原君を見て、どのような反応をするのか探るためにね……」 擬態能力―――。覗きの道を究めて、求め続けたStorkに与えられし力。 ある時は腰掛に擬態してはJKの太ももを、ある時は自販機に擬態してはJKのうなじを、ある時はライオンのオブジェに擬態しては女湯を……。 一見、無機物にのみに特化して擬態できるかに思えるが、その実は人間に擬態することも可能な万能の力である。 そんな擬態能力を駆使したStorkの術中に、まんまと嵌った茉莉絵は、悔しそうに拳を握りしめ、ワナワナと怒りに震えていた。 「結果はStorkの危惧した通り、クロだった訳だ。なぁおい、お前折原をどうした?」 カナメは再び銃口を茉莉絵へと向けて、冷たい視線を向ける。 「……。」 そんな彼に対して、茉莉絵は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。 「―――答えろ」 有無を言わさぬ迫力で睨みつけてくるカナメに対し、茉莉絵は暫しの沈黙を挟み。 やがて。 「キャハッ……」 グニャリと口角を吊り上げた。 「キャハハハハハハハハハッ!!折原臨也ぁ?さっきも言っただろ?あの変態野郎なら、この先の崖下に突き落としてやったよ!!今頃川底でくたばってんじゃねえのかぁ!?いやぁ〜いちいち癇に障ることを、ペチャクチャ喋るイケ好かねえ野郎だったわぁ」 果たして人間とはここまで変わるものだろうか。 それまで大人しそうな見た目だった少女は、悪魔のような笑みを浮かべ、饒舌に自らの犯行を語ったのである。 「……霧雨魔理沙さんを殺したのも、君なのか……?」 「ピンポーン♪察しが良いねえ!アイツは私が『金髪の大将』と手組んで、ぶっ殺してやったってわけよ!!いやぁ私に裏切られたと悟った瞬間の、あの女の泣き顔、THE絶望って感じで傑作だったわぁ」 「お前ッ―――!!」 「カナメ君ッ!?」 激昂するカナメ。 怒りに震えながら、拳銃の引き金を引こうとし、Storkがそれを諫めようとするが――。 二人よりも速く、『魔女』は行動を起こした。 「爆ぜろッ!!」 「なっ!?」 ポイと投げられたのは、拳サイズほどの塊。 弧を描きながら、己が方向に飛んでくるそれを見上げるカナメ。 恐らくは爆弾の類―――。 であるからには、何かしらの回避行動を取らねばと、カナメが動き出そうとする。 「―――させないよっ!!」 咄嗟にStorkが鞭を振るって、それを叩き落とした。 地面に落下したと同時に、爆発が巻き起こり、爆風が二人を襲う。 「ぐっ――」 「うおっ!?」 Storkとカナメは身を屈めてやり過ごす。 辺りに漂う煙幕が徐々に晴れ、二人の目に飛び込んでくるのは、森の奥へと走り出す茉莉絵の後ろ姿。 「待ちやがれッ!!」 「駄目だよ、カナメ君。ここは冷静に―――」 「うるせえっ!あいつだけは絶対に許さねえッ!」 制止しようとするStorkの手を払いのけ、カナメは茉莉絵を追って駆け出した。 一人ポツンと残されることとなったStorkだが、やがて―――。 「……あぁもうっ!仕方ないなっ!!」 髪を掻きむしりながらも、カナメの後を追うべく、走り出すのであった。 ◇ ―――許さねえ。 カナメの心は憎悪で溢れ返っていた。 折原臨也に、霧雨魔理沙。 彼らがカナメと接したのは、ほんの僅かな時間であり、その素性もろくに知れてはいない。 知るには、時間が足らなすぎたのだ。 だがそれでも。彼らには還るべき場所があった筈だし、彼らの帰りを待つ者もいたはずだ。 各々がそれぞれの想いを抱いて、今日まで生きていたはずなのだ。 そんな彼らを殺害し、嘲笑い、あまつさえ貶める。 自らの蛮行をまるでゲームのように愉しそうに語り、悦に浸るあの女の姿は、『奴』に酷似していた。 『そうだカナメ!! 全部お前のせいだ!!』 『お前が弱いくせに俺をコケになんてするから!』 脳内に、あの時の『奴』の言葉が鮮明に響く。 『無関係な子豚ちゃんがこんな哀れな姿になる!』 『可哀想に!!』 俺への復讐の為に、無関係な俺の友達を殺したあの野郎の声が。 『子豚ちゃんにはやりたい事はたくさんあっただろう!! 家族だっていただろう!!』 『将来の夢も! 人生の喜びも! 彼はカナメ君のせいで全て失ったのです!!』 俺はあの時に覚悟を決めた。人を人とも思わないコイツらは人間じゃない。 コレは誰かがやらねばならないゴミ掃除だ。 「だから俺は―――」 カナメは銃口を、前方ひた走る『魔女』へと向けて、躊躇なく引き金を引いた。 パァンと乾いた銃声が響き、硝煙の匂いが鼻腔を刺激する。 「お前達を『人間』だとは思わない。全力でお前という存在を否定する。」 背後から放たれた銃弾に、茉莉絵ことウィキッドは、超人的な反応速度で、真横へと飛び跳ねて、これを躱す。 そして振り向けざま、お返しとばかりに、複数の手榴弾を投擲してきた。 手榴弾が自身に降りかかる前に、カナメは木陰に転がり込み、その衝撃から逃れる。 爆発音が立て続けに起こり、木々が薙ぎ倒されていく。 「アハハハハハハハハ!!良いねえ、カナメ君。殺る気満々じゃねえか!!そうこなくっちゃ、壊し甲斐がねえよなぁ!?」 狂気じみた笑い声をあげながら、ウィキッドは獲物を仕留めるべく、跳躍。 上空から狂気の笑みと共にカナメを見出すウィキッド。 その外見は、いつの間にか、髪はボサボサで、着込んだ制服も無駄に開けさせた『魔女』の姿へと変貌している。 「そーら!たっぷりと痛めつけてやるから、惨たらしく踊れよぉ!!」 凶悪な笑みを浮かべながら、両手に先ほどよりも小型の爆弾を大量に取り出し、カナメ目掛けて投下する。 その姿はさながら爆撃機―――。カナメは舌打ちと共に前方へ猛ダッシュし、空から振り返りる暴力の雨をどうにか掻い潜るも、勢い余って転倒。 地面に着地したウィキッドは、その隙を見逃さない。 「キャハハハハハハハっ!!」 高々と笑い上げ、再びカナメ目掛けて、無数の小型爆弾を投げ込む。 カナメも起き上がり、回避しようとするが間に合わない。 だが―――。 ビュン!と風を裂く音とともに、爆弾は空中で爆発。 「カナメ君、無事かいっ!?」 「水差すんじゃねえよ、変態鳥仮面っ!!」 カナメを救ったのはStorkの鞭であった。ぜぇぜぇと呼吸を乱しながらも駆けつけた彼のファインプレーにより、間一髪のところで、カナメは爆撃から逃れたのである。 「……ウィキッド、こんなことは止めるんだ。ここで僕らが殺し合って何の意味がある!?」 「あはははっ、何?ここで私が『はい、分かりました』って言ったら、あんたら私とまた仲良しこよししてくれるわけ?もう既に何人も殺してる私と?あははっ!」 説得を試みるStorkであるが、ウィキッドは聞く耳を持たず。 「あ〜この際だから言っとくけど―――」 今度はStork目掛けて、爆弾を投げつける。 「前々から、お前のことは気に入らなかったんだよ!お前が作るラブソング、聞いてるだけで耳が腐り落ちちまいそうになるからなぁ!!」 「――っ」 Storkは後退しつつ鞭を振るって、飛来してくる爆弾を叩き落としていくが、ウィキッドは軽い身のこなしで木々を行き交いつつ、四方八方あらゆる方向から爆撃を加える。 「お前の反吐が出るほどの甘っちょろい曲も、アイドル路線でメルヘンチックな曲も、ひたすら憂鬱な引きこもりの曲も、無駄にゴージャスで奔放な曲も、うるさいだけの軽薄な曲も、ジメジメした薄っぺらいラブソングも、全部クソ喰らえだ!!」 爆音と爆炎が絶えることなく巻き起こる中、ウィキッドは攻撃の手を緩めることはない。 Storkは防戦一方だ。ただひたすらに鞭を振るい続け、迫り来る爆弾を叩き落とさんとする。 「てめえら屑どもが作る曲なんかよりも、人間が内に秘めている欲望。執着。狡猾さ。破壊衝動。それを自由に解放できる私の曲こそ、トップを飾るに相応しいんだ!!」 そう言うや否や、ウィキッドはStorkの正面に着地し、それまでと比べられないほどの大きさの爆弾を顕現。 狂気に染まった笑みを浮かべたまま、Storkに向かってそれを放った。 その巨大な爆弾もまた、Storkの鞭によって、叩き落とされるが―――。 どがん、と。 これまでとは比べ物にならないほどの大爆発が巻き起こる。 直撃こそは避けられたものの、嵐のような瞬間風速により、Storkは吹き飛ばされた。まるで宇宙の塵のように。 「うぐっ……」 「キャハハハッ!!」 無様に地面へと転がったStorkの息の根を断たんと、ウィキッドは次の爆弾を取り出す。 しかし、そうはさせまいと、地面から這い上がったカナメが、彼女に銃口を定める。 だが―――。 「おーっとぉ♪」 ウィキッドはそれをいち早く察知。 手に持つ爆弾を、今度はカナメの方へと投げつけた。 「―――っ!?」 爆弾はカナメの手前に落下し、炸裂。 衝撃と熱波がカナメを襲い、彼の身体は数メートル後方へと投げ出される。そして、衝撃で拳銃を手離してしまう。 「カナメ君っ!」 「アンタはデザートってことで。この変態鳥仮面をぶっ殺してから、たっぷりと遊んであげるから。ちょっと、待っててね、カナメ君♪」 カナメの無力化を確認したウィキッドは愉悦に浸りながら、再びStorkへと向き直り、爆弾を顕現させようとする。 が、その瞬間ーーー。 ヒュン!という風切り音と共に、彼女の手の甲にナニカが生えた。 「――っ!?」 目を見開くウィキッド。 その瞳に映るは、銀色のナイフ。 投擲された刃が、ウィキッドの手の甲に突き刺さっているのだ。 「――あまり調子に乗るなよ、ウィキッド」 「……っ、てめえ……」 ウィキッドが怒りの形相を浮かべ振り向くと、そこには腐葉土の上に座りながらも、ナイフの投擲を完了したカナメの姿があった。 「……お前に突き刺さったそのナイフ、俺のではない。たまたま、吹き飛ばされた此処の地面に落ちていたものだ。恐らく折原がお前とやり合った時に投げたものだろうな」 そう告げた瞬間、カナメは自身異能、火神槌により、手元に新たな拳銃を顕現させる。 「――っ!」 ウィキッドも慌てて、反撃せんと試みるが、それよりも早くカナメは引き金を引き絞る。 パァン!と乾いた銃声と共に、ウィキッドの右腕が鮮血に染まる。 「――うぐっ……!?」 「痛いか?だがお前がやってきた事と比べれば、まだまだ温い方だろう?」 灼熱の痛みに顔を歪ませるウィキッドを睨みつけながら、カナメは銃口を向ける。 「その気になれば、俺はお前の脳天を撃ち抜くこともできた。だが、それはしない。お前みたいな外道は楽には死なせない。お前が散々弄んできた人間と同じ苦しみを味わせてやる」 「――っ、ざけんじゃーーー」 パァン!と再び乾いた銃声が鳴り響く。 「―――っ!?」 左肩口を撃ち抜かれ、顔を顰めるウィキッド 。 既に血まみれとなっている手で、傷口を押さえ込み、どうにか止血しようと試みる。 カナメは銃口から硝煙を立ち上らせながら、言葉を続ける。 「精々、生き地獄を味わいながら、お前が殺してきた人達への懺悔をするんだな」 「――クソが……」 憎悪に満ちた視線を向けてくるウィキッド。 カナメは、そんな彼女を冷ややかに見据えながら、再び引き金に手を掛けようとするが―――。 「……駄目だよ、カナメ君っ!」 Storkがカナメの前に立つことで、それを阻止する。 「……退け、Stork」 カナメは静かな口調でそう告げる。 すると、Storkは首を左右に振った。 「確かにウィキッドのやったことは許されない。だけど、それでも、ここで彼女を殺してしまうと、それこそテミスの思う壺だ」 「……」 「それに……彼女は一応僕の仲間でもあるんだ。見捨てることはできない」 「そうか……。」 カナメはゆっくりとため息をつくと、手に持つ銃を下ろす。 そして、無言のままStorkに一歩近づくと。 「分かってくr---ごふっ!?」 銃を下ろしたことに安堵していたStorkの鳩尾に拳を打ち付けた。 「……悪いな、Stork。それでも、俺は人を玩具のように扱うこいつらだけは絶対に許さない。」 「……カ…ナ…メ君……」 Storkは腹部に受けた衝撃と、吐き気に思わず膝をつく。 その隙にウィキッドは傷口を抑えながら、逃亡する。 「逃がすと思うか……!」 カナメは即座に拳銃を構えると、逃げるウィキッドの追跡を開始する。 その姿は正に処刑人。古に行われた『魔女』狩りの如く、罪人の背中を追い続けるのであった。 ◇ ――ちくしょう……。 森の中を駆け抜けながら、ウィキッドは窮地とも言える現状に歯噛みする。 ぽつりぽつりと、身体に出来た穴から零れる血液が、彼女が通った道筋を赤く染め上げていく。 カナメに追われているという点で言えば、先程も似たような状況ではあったが、今回はあの時と訳が違う。 先程のそれは、折原臨也と交戦した際に見知った場所へ誘い、地の利を活かして連中を蹂躙するため―――狩りを楽しむために、獲物を自らの狩場に引き摺り込むための策であった。 しかし、今はウィキッド自身が手負いの獲物---狩られる側として、追い詰められている。 故に逃走経路も、ただ闇雲に逃げているだけに過ぎない。 背後を振り返ると、銃を構えたカナメが冷徹な表情で追いかけてきているのが見える。 その気があれば、ウィキッドを撃ち抜くことも可能なはず。しかし、敢えてあの男はそれをしない。あくまで追い立てるだけだ。 その行為が、ウィキッドにとってはまた堪らなく屈辱であった。 やがて、ウィキッドの逃走劇も終着点を迎える。森を抜けて、折原臨也を葬ったあの断崖絶壁の場所まで戻ってきたのだ。 「……ちっ」 舌打ちしながら、ウィキッドは振り返ると、カナメは銃口をこちらに向けながら、近づいてくる。 「随分と逃げ回ってくれたが、これで終わりだな」 ――ここで終わる?私が? ふざけるな。冗談じゃない。こんなところで終わってたまるか。 折角メビウスに招聘されて、手足を自由に動かすことが出来るようになり、好き放題に遊ぶことが叶ったというのに、それを奪われてなるものか。 まだ私は満足していない。まだまだ遊び足りない。 もっと沢山壊せる。もっともっと面白いものを目にすることが出来る。 「―――ふざけんじゃねえぞ!!」 そう唸ると同時に、ウィキッドは一転攻勢。 傷に痛む身体に鞭打って、両手に爆弾を顕現させる。 「殺すっ!!絶対に殺してやるっ!!」 そう叫びながら、ウィキッドはカナメに向かって爆弾を投げつけた。 咄嵯に後退することで回避するカナメ。 爆炎と土煙が巻き上がる中、ウィキッドは更に追撃を加えるべく、次なる爆弾を取り出す。 「二度と調子に乗れねえよう、バラバラに吹き飛ばしてやるよ!!」 ウィキッドは跳躍。空中からカナメに照準を合わせるべく、索敵を始める。 しかし――。 バァン! と乾いた銃声が響く。 「―――っ!?」 瞬間、ウィキッドの右脚の太腿に伝う灼熱感。 カナメはいち早く、ウィキッドの行動を予見し、狙撃したのだ。 「―――んの野郎!!!」 ウィキッドは空中で苦悶の表情を浮かべつつも、カナメに反撃すべく、爆弾をオーバハンド気味に投擲。 爆弾はカナメの足元に落下すると同時に炸裂するも、カナメは咄嗟に真横へと転がり、これを躱す。 ウィキッドはバランスを崩した態勢のまま、落下。 右脚を撃ち抜かれているため、受け身を取ることが出来ず、そのまま地面へと叩きつけられる。 「――っ、がっ……」 ウィキッドは苦痛に顔をしかめつつ、どうにか立ち上がろうとするが、彼女の前にポンと何かが放り投げられた。 「お前言ったよな―――」 「―――っ!?」 カナメの手から離れて、投げ出されたソレは、手榴弾。 彼の異能によって創生されたものだ。 「折原の奴を、崖から落としてやったって……」 慌てて地面を這うように後退するウィキッドだったが、もう遅い。 安全圏内に避難する前に、ドカンッ!と爆発音が響くと、爆風と衝撃波がウィキッドの身体を弾き飛ばす。 「――ぐっ!?」 ウィキッドは悲鳴を上げる間もなく、その華奢な身体を宙に舞わせ、吹き飛ばされた。 そしてそのまま、断崖絶壁の上空へと投げ出される。 その遥か下には急流が待ち構えている。 「これは報いだ。せめて、あいつと同じ苦しみを味わって、死ね」 まるでゴミを見つめるような目で、こちらを見据えるカナメの姿。 忌まわしいその顔が段々と遠のいていく。 (はんっ!正義の味方気取って天誅のつもりかよ、気持ちわりい) そんな情景を目に映しながら、ウィキッドは乾いた笑いを漏らす。 (結局あの時と同じじゃねえか) 全身に纏わりつく気色の悪い浮遊感。 落ちていく。スローモーションのように崖下へと落ちていく、その感覚に。 ウィキッド―――否、水口茉莉絵はかつて現実世界で、自身を脊椎損傷患者にした、歩道橋からの転落事故を想起した。 ―――どうして。 いつもそうだ。 後、一歩のところで邪魔が入る。 あと少しで、自分の思い通りに事が運ぶはずだったのに。 それが何故だか、いつも最後の最後で、こうなってしまう。 ―――どうして。 いつもそうだ。 理由もわからず毎日のように肉親にぶん殴られ、学校でも腫物扱いされ、友達も出来ず、誰も助けてくれなかった。 だからこそ、他人をドン底に突き落とし、悦に浸ることで自分を満たすようになった。 他人が苦しんでいる姿を見ると、とてつもない快感が押し寄せる。 どうしようもなく不幸な自分にとって、他人の不幸は蜜の味だった。 だけど、最終的にはそれすら奪われてしまう。 ――どうして、私ばっかこんな目に。 神様なんか信じちゃいない。 そんな存在がいるのであれば、自分のような不幸な人間は生まれてこないはずだから。 だけど、もしどこかで、このクソみたいな人生を綴る何者かがいるとすれば、こう言ってやりたい。 「いい加減にしろよ、クソったれ……。」 ありったけの憎しみを込め、恨み言を吐き捨て。 ウィキッドは引力に吸い込まれるようにして。 奈落へと堕ちていく 「ウィキッドッ---!!!」 筈だった。 「……は?」 ぴしりと足に巻きついた鞭が、なす術なく重力に従って落下していく彼女を辛うじて繋ぎ止めたのだ。 「なん……で……」 訳もわからず、崖の上に視線を送ると、そこには崖下へと懸命に手を伸ばして、鞭を伸ばすStorkの姿があった。 「お前何やってんだよ!そんな奴助ける価値なんてねえだろうが!」 隣に佇むカナメから怒号が飛ぶも、Storkは首を左右に振り、鞭を引っ張っていく。 それに伴いウィキッドの身体は引き上げられていく。 「ごめんよ、カナメ君。それでも僕は彼女を救いたいんだ」 「何故だ!?同じ楽士とはいえ、コイツはアンタのことも殺そうとしたんだぞ!?」 まるで釣られた魚のように、逆さ吊りとなり、引き上げられていくウィキッド。 カナメやStorkから見ると、下着も丸見えといった滑稽な格好ではあるが、ウィキッドは混乱の渦にあり、そんなことを気にする余裕はない。 ――訳が分からない。 何故Storkはこんなにも必死になって、自分を助けようとするのか。カナメの言う通り、奴が自分を助ける義理なんかないはず。立場上、メビウスでは同じ陣営にいたとは言え、元々オスティナートの楽士なんざ、メビウスの維持だけを目的としただけの集団。 互いの利益のためだけに、手を組んでいるだけに過ぎず、仲間意識などはなかったはず。 「うん、そうだね。彼女は僕を殺そうとした。それに同じ楽士とはいえ、メビウスにいた頃は、彼女から交流を持とうとしたことはなかったし、僕自身も彼女のことはあまり知らなかった」 「だったらーーー」 「でもね、カナメ君。僕は彼女のことはよく知らないけど、彼女もμに招かれたメビウスの住人。きっと彼女もまた現実で悩み、苦しんできた人間のはずなんだ」 Storkはそう言いながら、鞭を引き上げる腕に力を込める。ウィキッドの身体もそれに比例して、上へ上へと運ばれていく。 「僕の友達μは彼女をきっと救おうとしたはずーーー。だから僕もただの傍観者にはならず、μが救おうとした彼女に手を差し伸べたいんだ」 「お前―――。」 ――そう言うことかよ。 ようやく崖上の二人の顔がはっきりと見えるようになった頃、ウィキッドは呆れたようにため息をつく。 あの変態仮面は、ただのお人好しだけじゃない。ポンコツドールとの友情を貫いた上で、私自身も救い出そうとしている大馬鹿だ。 カナメもStorkの想いが伝わったのか、それ以上は何も言わず、ただ黙って成り行きを見守っている。 やがてウィキッドの身体は崖上まで、後数メートルのところまで引き揚げられた。 「さぁウィキッド 、この手を掴むんだ。」 鞭を掴む手とは別の方の腕をStorkは差し出す。 ーーこの手を掴めば……。 もしかしたら、自分のこれからは大きく変わるかもしれない。 もしかしたら、彼が真摯に自分の不幸を受け止めてくれるのかもしれない。 これまでの人生において、一度も感じたことのないものが、その先にあるかもしれない。 ウィキッドは逆さまの状態から、上体を起こし、鮮血滴る腕に動かさんとする。 そして―――。 「私を哀れむんじゃねえよ!!クソがああああああああ!!」 顕現させた爆弾をStorkの顔面目掛けて放り投げたのである。 ――そうだ、同情なんてクソ喰らえだ。 Storkが悲鳴を上げる間もなく、爆弾は見事に直撃。 彼の上半身はその威力により、吹き飛ばされ、下半身だけがぐちゃりと地面に転げ落ちると同時に、鞭から解放されたウィキッドの身体はまた急流へと落ちていく。 「てめえぇえええええーーー!!!ウィキッドぉおおおおおおっ!!!」 激昂するカナメ。 そんな彼を挑発するように、少女はひたすらに愉快そうに笑い声を上げ、叫ぶ。 「あはははははっ!ざまあみろっ!!哀れみなんざいらねえんだよ!!バーカ!!」 カナメの表情が歪むのを尻目に、ウィキッドは心の底からの嘲笑を浴びせて、落下していきーーー。 ド ボ ン!! とかつてないほどの衝撃を全身に浴び、その意識は闇に堕ちていった。 ◇ 男は悔いていた。 燃やされる家屋を前に、傍観者のままであり続けたことを。 男は苦しんでいた。 尊き三人の命を燃やされるその瞬間に、ただ傍観者であり続けた罪悪感に。 だから今度こそ、傍観者のままでいることをやめ、手を差し伸べた。 しかし結果として待ち受けていたのは、あまりにも残酷な結末であった。 最期の瞬間。 迫りくる爆弾をマスク越しに眺めながら、彼の頭によぎったのは、自身の行動に対する後悔でもなければ、少女に対する恨み節でもない。 ただ申し訳ないという気持ちだけ。 死神と化した目前の少女と、バーチャドールの友人に向けたー――。 救ってあげられなくて、ごめんよ、という謝罪の言葉だけが頭の中で反覆していた。 【Stork@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-死亡】 ◇ 気が付いたら、闇の中にいた。 体は動かない。 全身に感じるのは、ひたすらの無重力。 手足の感覚もなく、途方にくれていると声が聞こえた。 『茉莉絵はいい子だよ。あたし、知ってる』 ああ、クソったれ。 忘れもしない。あの女の声だ。 こいつと同じ名前の花が咲いているのを見ると、本当に反吐が出る。 『茉莉絵はあたしの親友。いまでも、心からそう思ってる』 何が親友だ。あんなことをされて、まだそんなことが言えるのか。 温室育ちのお前と、泥水をすすりながら生きてきた私。 対等になんかなれやしない。 『いろんなこと、いっぱい話そうよ。ね』 馬鹿かお前は?話し合えば分かり合えるとでも思ってんのか? お前に私の何が分かる?お前はただの偽善者だ。 お前なんかが、私の気持ちを理解してたまるか。 『この子はいつ死ぬんです?』 また別の声が聞こえる。このしおれた声も覚えている。 うちの祖父の声だ。 『どうして死んでくれなかったんだ……!』 咽びながら医者に泣きつく祖父。 だったらさっさと殺せよ、と思う。 肉親に早く死んでほしい、と願われる忌み子―――それが私だ。 『さぁウィキッド 、この手を掴むんだ。』 うぜえぞ、トリ公。 同情も哀れみもいらない。仲良しこよしなんざ虫唾が走る。 だから、あいつのことはぶっ殺してやった。 ざまあみやがれ。 『お前達を『人間』だとは思わない。全力でお前という存在を否定する。』 ああ、上等だよ。元から私は社会から弾き出された最底辺の嫌われ者。 お前らにどう思われようと知ったことじゃない。 私のことを肯定する奴なんざ、一人もいな―――。 ―――いるよ。 ……あん?誰だお前? 突然出てきてしゃしゃりでるんじゃ―――。 ―――君の存在を受け入れる人間は此処にいる。 っ!? 何気持ち悪いこと言って―――。 いや、待て。この声っ!? お前まさか……!! 動揺が走ると同時に、私の視界は真っ白な光に包まれていく。 そして、ふわりと意識が浮上していくのを感じた。 「うっ……。」 目を覚ますと、こちらを覗き込むようにして見下ろしてくる男の顔があった。 「―――俺は、君に言ったはずだ。」 「お前……。」 得意げな顔で、こちらをねっとりと眺めるその男の面を見ているだけで、不快な気分になる。 仕留めていたと思っていた男が目の前に現れたことで、思わず歯軋りをする。 「俺は君という『人間』を受け入れ、そして他の『人間』同様に愛するってね」 その男―――折原臨也はしたり顔を浮かべて、クソ生意気な戯れ言をほざいてきやがった。 ◇ G-5の川辺、折原臨也が見守る中で、ウィキッドは目を覚ました。 川の流れる音だけが響き渡る中、彼女は自分の状態をすぐに確認し、違和感を覚える。 「……どういうことだよ……、こいつは……。」 今の彼女は下着だけの姿。 彼女が来ていた制服の類は、すぐ近くの木の枝に干されてある。 対する臨也もシャツ一枚と下着一枚。彼のコート類も茉莉絵の制服と一緒に乾かされている。 しかし、ウィキッドが違和感覚えたのは二人の容姿ではない。 今は何故か手足を五体満足に動かせる………。転落による強打による鈍痛こそ感じるが、身体に撃ち込まれた銃創の類は全て塞がっており、あの灼熱感は嘘のように引いているのだ。。 「何をしやがった、折原臨也……。」 臨也を睨みつけ、問うウィキッド。 対する臨也は、相変わらずの不敵な笑みを崩さずに答える。 「いやなに、調べてみると、君の身体にあちこち穴が開いていたからさ。こいつを使って治療してみたのさ」 ドヤ顔をしつつ、臨也が見せびらかしてきたのは小さなお守り。 「こいつは俺の支給品なんだけどさ。何でも、傷口を塞ぐ効果のある、ありがたい代物らしいんだよ。 いやまあ、俺も最初は疑い半分だったんだけど、いざ君の傷口にかざしてみると、これがもうすごいのなんの―――」 「……なんで私を助けた……?」 上機嫌に語りだす臨也を遮るように、ウィキッドは言葉を被せる。 「俺はどこかの誰かさんと違って、殺し合いには乗っていない善良な一般市民だよ。 そりゃあ川の上流から血まみれの女の子が流れてきたら、良心あれば助けるのが普通ってもんでしょ?」 「……っ!?てめえっ!!」 瞬間、ウィキッドは起き上がり、臨也の首元を掴んで、その身体を持ち上げる。 「ボロボロの私を見て、哀れんだっていうのかよ、おい!!お前は危うく私に殺されかけたんだぞ!!」 激昂したウィキッドは、そのまま力を込めて、臨也の首を締め上げようとするが、それでも臨也は涼しい表情のまま。 「さっきも言ったよね、俺は『人間』を愛していると。例え相手が、君のような殺人者だろうが、霧雨魔理沙さんのような善人だろうが、分け隔てなく愛するよ。 うん?これだけじゃ理由にはならないかな?まあ、他にも理由はあるけどさ。 例えばそうだね……、いけ好かないと思っていた人間によって一命をとりとめたことに気付いた君がどんな反応をするのか、興味があった……。ってのはどうかな? 」 「……ふざけんな……!」 怒声と共に臨也の身体を放り投げるウィキッド。 臨也は空中でクルリと回転して、着地すると、ウィキッドに向けて一指し指を向ける。 「正解っ!」 「ああ”あ”っ!?」 怒号のような声でウィキッドは威嚇するが、臨也は尚も言葉を続ける。 「君が、今この場で俺の首をへし折らなかったのは、少なからず俺に対しての利用価値を期待しているからだろ? 激情に流されるまま、俺を殺そうとしなかった君の判断も、実に『人間』らしく、称賛に値するよ」 「てめえ――」 舐めた口調で語る臨也に対し、ウィキッドは再び怒りをぶつけようとするが、寸前で踏みとどまった。このままでは、いつまで立っても臨也のペースのままであると悟ったからだ。 そして、一呼吸おいてから問いただす。 「―――それで、結局アンタは私に何を望んでんだよ、臨也おじさんよぉ」 尚も殺意と憎悪の眼差しを向けてはいるものの、ウィキッドの姿勢は、攻撃のためのそれではなく、対話のための姿勢へと変わっている。 そんなウィキッドの様子を、臨也は満足そうにうんうんと頷きながら見つめると、ゆっくりと口を開いた。 「なに簡単なことさ。俺に、もっと君という『人間』を『観察』させてほしいんだよ。」 彼の口から発せられたのは、ウィキッドにとっては察しがついていた回答だった。 予想通り、予定調和の回答。 故に特に反応示すことはないが、臨也は特に気にも留めず、わざとらしく両手を広げながら、更に続ける。 「楽士ウィキッド、いいや、水口茉莉絵さん―――。」 臨也は語る。新しい玩具を見つけた子供のように。 「俺は君という『人間』がこの殺し合いの場で、今後どのように行動し―――。」 臨也は語る。新しい遊び場を発見した少年のように。 「どのような選択をし、どのような結末を辿るのか―――。」 臨也は語る。新しい娯楽を手に入れた青年のように。 「それを間近で見届けたいんだよ、この眼で、さ」 臨也はそう言うと、ニタリとした笑みを浮かべた。 それは、紛れもなく純粋な好奇心による笑顔であった。 そして、そんな臨也の熱烈なラブコールを受けたウィキッドはというと、 「……アハッ……」 思わず、笑いを漏らしたかと思えば。 「……アハハ、アハハハハハハハハハハハハ!!!」 堰を切ったように、腹を抱えて笑いだした。 「アハハハハハハハハハハハハハハ!!私に殺されかけたというのに、まだそんな戯言を言い続けるとか、本当にイかれてるよ、あんたは!」 笑いながら、魔女は思う 目の前の男は、本当にどうしようもなく弱い奴なんだと。 人間の生み出すすべてを『愛』と言って、人間のやる事なす事全部『理想』にして、一貫して受け流さそうとするその姿勢は、どこまでも滑稽だなと。 だけど―――。 「いいぜえ、出血大サービス! 特等席でお前に見せてやるよ」 この男の徹底した「弱さ」は利用できると考えた。 こいつ自体は信用できないが、こいつの「弱さ」は信用に足ると思った。 「私が演出する最高にイカれたグッチャグチャのヒューマンドラマってやつをよお!!」 「仲間」といった反吐の出る枠組みでもない。 「共犯者」というほど趣向や目的が一致しているわけではない。 ただ単純に折原臨也の「弱さ」を「駒」として利用していくだけの話だ、とウィキッドは割り切った。 本来の彼女であれば、ここまで不愉快でいけ好かない男と行動を共にするなど、考えただけでも虫唾が走るところだが、今は違う。 先程カナメ達に煮え湯を飲まされた手前、使える駒は出来うる限り取り込んで、徹底的に利用していく。 それが、彼女が今後この殺し合いで生き残り、遊んでいくために下した決断であった。 「うん、話は決まりだね。それじゃあ、これから仲良くやろうね、茉莉絵ちゃん」 臨也は、ニコニコしながら手を差し出す。 ウィキッドはというと、笑顔を張り付けながら、パチンとその手を払い除け、 「はい、宜しくお願いしますね♪折原さん」 と、所謂優等生モード、水口茉莉絵の口調で返すのであった。 ◇ 「悪いな、お前ら……。今の俺には、これくらいしかしてやれない」 火神槌で創出したスコップを用いて、土を掘り起こして作った二つの穴。 そこに、Storkと魔理沙の遺体を埋めたカナメは、静かに言葉を洩らす。 既に魔理沙の墓標には、彼女のトレードマークでもあった帽子が置かれている。 Storkの墓の上にも彼のトレードマークでもあった、ペストマスクを供える。 爆発によって既に原型を留めていないそのマスクを。 「大莫迦野郎だよ、アンタは……」 魔理沙と同様に、カナメはStorkのこともよく知らない。 彼がこの殺し合いに巻き込まれる前の日常で、何を考えて、何に悩み、どんな風に生きていたかなんて、数時間程度の付き合いでは知る由もなかった。 だが、彼には信念があり、それを曲げずに行動していたのだけは確かだ。 その信念がどのような過程で培われてきたものなのかはわからないが、決して揺るがぬ強い意志があるのは伝わっていた。 そして、彼はその信念によって足元を掬われて、こうして無残な最期を遂げてしまった。 死んだら元も子もないのに。あの悪辣な女に手を差し伸べてしまった結果がこれだ。 結果だけ見れば、大莫迦野郎としか言いようがない。 だけど、彼は此処で死ぬべき人間ではなかったのもまた事実だ。 「魔理沙、Stork……。お前らの死は無駄にはしない」 カナメは、先程回収した二人の首輪をギュッと握り締める。 その双瞼に氷のような冷たい怒りと、固い決意を宿して。 「必ず主催者を潰して、このクソゲーを終わらせてやる」 カナメはそう言い残すと、踵を返して、先を進む。 為すべきことは二つ―――。 まずは、言わずもがな首輪の解析。 二人の遺体から回収した首輪。決して無駄にするつもりはない。 とは言え、カナメは技術者ではない。 工具の類は火神槌で幾らでも工面できるが、解析する技術はカナメ自身にはない。 だから、そういった技術に明るい参加者を見つけだし、解析させる。 そして、会場に蔓延るゴミ掃除。 ウィキッドは手足を撃ち抜かれた状態で、あの高さから急流へと転落した。 助かる見込みはまずないだろう。 だが、この会場にはもう一人の巨悪・王がいるはず。 ウィキッドと対面して改めて確信した。ああいう手合いは必ず消さなければならない。 シノヅカを殺したあいつにも、必ず報いを受けさせる必要がある。 やるべきことはたくさんある。 前途多難と言っても過言ではない。だがカナメは立ち止まらない。立ち止まるわけにはいかない。 死んでいった者たちのためにも、こんなふざけたゲームを終わらせるためにも、今はただひたすら突き進んでいくしかないのだから。 【F-6/西部/午前/一日目】 【カナメ@ダーウィンズゲーム】 [状態]:疲労(極大)、王とウィキッド への怒り、全身打撲(小)、肋骨粉砕骨折(処置済み)、全身火傷(治療済み) (シュカの喪失による悔しさ) [服装]:いつもの服装 [装備]:白楼剣@東方Project [道具]:白楼剣(複製)、機関銃(複製)、拳銃(複製)、基本支給品一式、不明支給品2つ、救急箱(現地調達)、魔理沙の首輪、Storkの首輪、Storkの支給品(0~3) [思考] 基本:主催は必ず倒す 0:ひとまずは周辺探索。王を見つければ殺す。 1:回収した首輪については技術者に解析させたい 2:【サンセットレーベンズ】のメンバー(レイン、リュージ)を探す 3:王の野郎は絶対に許さねぇ 4:ウィキッドのような殺し合いに乗った人間には容赦はしない 5:ジオルドを警戒 6:折原の安否が気がかり。ウィキッドの口ぶりからすると望みは薄いか……。 [備考] ※シノヅカ死亡を知った直後からの参戦です ◇ 「―――そうか……Stork君は逝ったのかい」 「あぁ、ざまあねえよな。死ぬ間際のアイツの表情、どんな風に歪んでいたか拝みたかったけど、マスクのせいで見えなかったのが残念だよ。本当に馬鹿な奴だったよ、あの変態」 乾かしていた服を着込みつつ、カナメ達との間で何が起こったのかを、ウィキッドから聞かされた臨也は少しだけ寂しげに呟いた。 「俺も残念だよ。何かを引き摺りつつも、本性に抗い、愚直に突き進む彼もまた『人間』 らしい、非常に興味深い存在だったからね。彼の最期を見送ることが出来なかったのは、痛恨の極みと言える」 「はんっ!!あいつの死を悼むんじゃなくて、『観察』し損なうことを悔やんでいやがるとは、『善良な一般市民』とやらが聞いて呆れるな」 臨也の言葉を聞き、鼻で笑うウィキッド。 「いやいや、少なからず、俺は彼の死に心を痛めているよ。だけど、それ以上に、俺は彼の死も愛したいと思っている。彼は最後まで己の意思を貫き通したんだろ?だったら、彼という『人間』を愛する者として、その顛末にも敬意を持って見届けるべきだった…と思うんだよね」 「あっそ」 これ以上聞きたくもないといった口調で、臨也の語りを一蹴したウィキッドは、制服のネクタイを結び終えると、「それで」と、人区切りおいて、今後の行動方針について話を切り出す。 「これから、どうするつもり?私としては、直ぐにでもカナメ君に仕返ししにいきんだけどさぁ」 「まぁまぁ、そう焦らないでよ。その機会は必ず用意してあげるからさ。そうだね、まずは他の参加者を探してからの情報収集と行こうか。 どこかの誰かさんが大暴れしてくれたせいで、放送の死亡者発表以降の内容を聞き逃しちゃったからさ。 『情報屋』を名乗っている以上、その辺の情報は押さえておかないとだしね。 君が本気で勝ち残りを考えているのであれば、そういった情報も疎かにしてはいけないよ―――とアドバイスはしておくよ」 「一々説教くせえんだよ、おっさん。けど、まあいいや……今だけは、アンタの口車に乗ってやるよ。今だけはな」 舌打ちしつつも、臨也の提案を受け入れたウィキッドに対して、情報屋は「あ、そうだ」と思い出したかのように言葉を続ける。 「これから出会うであろう参加者には、君が不利になるような『情報』は売らないでおくよ。 だから、安心していいよ。君は君らしく考えて、あるがまま立ち振る舞ってくれればいいさ」 「はっ!アンタに言われるまでもねえよ!それと、もし裏切るような素振りを見せたら、その時は遠慮なくぶっ殺すかんな!」 「あらら、俺って信用がないんだね。少し傷ついたよ」 「けっ!どの口がほざきやがるんだ、口先野郎」 軽口をたたき合いながら、二人の男女は次なる目的地に向けて歩きだすのであった。 ◇ 結論から言わせて貰うとね、彼女―――水口茉莉絵さんは、どうしようもなく弱い『人間』なんだよ。 川上から流れ着いた彼女を拾い上げたとき、彼女は呻いていたんだよ。 何て言ってたと思う? どうして……、何で私だけ……と。 普段は暴力的かつ残忍な振る舞いをする彼女の本心が垣間見えた気がしたんだ。 彼女は言っていったよね。人間が育む『愛』や『絆』といったものを壊して、それらを信じていた連中を絶望させるのが、自分の願いだと。 だけど、俺にはこうにも聞こえるんだよね。 羨ましいー――。悔しいー――。私も『愛』してほしいー――。『絆』が欲しいとー――。 彼女はそういったものを憎み、壊すことを愉悦としている節はあるけど、その裏返しとして、誰よりも『愛』や『絆』といったものに飢えて、憧れて、渇望しているんだよ。 そして誰よりも寂しがりやの彼女は、楽曲という形で、いつも泣き喚いているんだ。 痛い。怖い。寂しい。くやしい、と。 あの『コスモダンサー』という曲。一見すると破壊的かつ攻撃的な曲にも聴こえるけど、実際は可哀想で、不幸で、惨めで、無力な、女の子の慟哭なんだよ。 あはははははははははははははっ!!だけど彼女は気付かない、いいや、気付こうとしていないんだ。 心の中では、誰よりも『愛』や『絆』に飢えているというのに、それに気付こうとせずに、狂気と憎悪を振り撒いて、虚勢を張っている。 さも「私は独りでも平気です、仲良しこよししているお前ら馬鹿じゃねえの?」みたいな顔をしながら、その実、誰かに愛されたくて、認められたくて、仕方がないんだよ。 だからこそ、彼女はあんなにも孤独で、悲しくて、惨めで、とても『人間』らしいんだ。 とても愛らしいと思わないかい? 俺は、そんな彼女の「弱さ」をもっと見てみたい。彼女という『人間』の「弱さ」が、『人間』達にどんな影響を与えるのか、そして彼女自身がどんな結末を迎えるのか、非常に興味があるんだ。だから、彼女が他の『人間』に交われるように、手引きはしてあげようと思う。どんな化学反応が起きるかが楽しみだからね。 ああ、もちろん、必要以上に彼女に肩入れするつもりはないし、彼女の殺しに加担するつもりもないよ。俺は善良たる一般市民だし、何より、俺の目標はあくまでも主催連中に一泡吹かせることにあるしさ。 でも、もしかしたら、そっと彼女の背中を押すこともあれば、逆に周囲の『人間』に彼女に疑いが向くよう仕向けるかもしれないけど、そこは勘弁してくれよ。 俺は『人間』が大好きだからさ。それこそ、喜劇だろうが悲劇だろうが関係ない。 もっとも効率よく、彼らを『観察』できると思ったら、そうさせて貰うだけさ。 いやぁしかし、Stork君といい、彼女といい、この殺し合いに参加させられている『人間』は、誰もかれも素晴らしいね。興味が尽きないよ。 水口茉莉絵を取り巻く『人間』模様。これからどうなっていくのか、本当に楽しみで楽しみで楽しみで仕方がないよ!! ◇ かくして、『情報屋』と『魔女』は本格的に交わり、行動を共にすることとなった。 方や『人間』を平等に愛する男。 方や『人間』が生み出す絆や想いを、破壊する女。 相反する二人は互いの「弱さ」を理解した上、それを利用し己が願望を成し遂げることを目指すのであった。 【G-5/川岸/午前/一日目】 【ウィキッド@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】 [状態]:疲労(大)、右腕に銃痕(回復済み)、左手甲に刺し傷(回復済み)、左肩口に銃痕(回復済み)、右太腿に銃痕(回復済み)、全身強打、王、カナメへの怒り。臨也への苛立ち。 [服装]:いつもの制服(濡れている) [装備]: [道具]:基本支給品一色、不明支給品0~2 [思考] 基本:自らの欲望にしたがい、この殺し合いを楽しむ 0:臨也と共に、他参加者を見つける。壊しがいのある参加者だと良いなぁ 1:壊しがいのある参加者を探す。特に『愛』やら『仲間』といった絆を信じる連中。 2:参加者と出会った場合の立ち回りは臨機応変に。 最終的には蹂躙して殺す。 3:金髪のお坊ちゃん君(ジオルド)は暫く泳がすつもりだが、最終的には殺す。 4:さっきの爬虫類野郎(王)は見つけ次第殺す。 5:舐めた真似してくれたカナメ君には、相応の報いを与えたうえで殺してやる 6:暫くは利用していくつもりだが、臨也はやはり不快。最終的にはあのスカした表情を絶望に染め上げた上で殺す。 [備考] ※ 王の空間転移能力と空間切断能力に有効範囲があることを理解しました。 ※ 森林地帯に紗季の支給品のデイパックと首輪が転がっております。 ※ 王とウィキッドの戦闘により、大量の爆発音が響きました。 【折原臨也@デュラララ!!】 [状態]:疲労(中)、全身強打 [服装]:普段の服装(濡れている) [装備]: [道具]:大量の投げナイフ@現実、病気平癒守@東方Projectシリーズ(残り利用可能回数6/10)、不明支給品0〜2 [思考] 基本:人間を観察する。 0:茉莉絵ちゃんと一緒に他の参加者を探すとしよう、第一放送時の死亡者情報も知りたいし。 1:茉莉絵ちゃんを『観察』する。彼女が振りまくであろう悪意に『人間』がどのような反応をするのか、そして彼女がどのような顛末を迎えるのか、非常に興味深い 2:茉莉絵ちゃんは本当に面白い『人間』だなぁ 3:平和島静雄はこの機に殺す。 4:新羅はまあ、気が向いたら探してやろう。セルティは別に... 5:佐々木志乃の映像を見た本人と、他の参加者の反応が楽しみ。 6:主催者連中をどのように引きずり下ろすか、考える。 7:『帰宅部』、『オスティナートの楽士』、佐々木志乃に興味。 8:Stork君は面白い『人間』だったなぁ。最期を見届けられなかったのは非常に残念だ。 [備考] ※ 少なくともアニメ一期以降の参戦。 ※ 志乃のあかりちゃん行為を覗きました。 ※ Storkと知り合いについて情報交換しました。 ※ Storkの擬態能力について把握しました ※ ジオルドとウィキッドの会話の内容を全て聞いていました。 ※ どこに向かっているかは、次の書き手様にお任せします。 【支給品紹介】 病気平癒守@東方Project 傷を癒す守矢神社のお守り。 このロワ内では、これを傷口にかざすことで、みるみるうちに該当箇所を回復させることが可能。 但し、利用回数は有限で、10回利用すると回復力はなくなってしまいます。 前話 次話 病院戦線、終幕(後編) 投下順 詐謀偽計 前話 キャラクター 次話 トラゴイディア-The beginning-(後編) 折原臨也 奏でよ、狂騒曲 トラゴイディア-The beginning-(後編) ウィキッド 奏でよ、狂騒曲 トラゴイディア-The beginning-(後編) Stork GAME OVER トラゴイディア-The beginning-(後編) カナメ 崩れてゆく、音も立てずに
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せいいっぱいのあい【登録タグ せ アップルP 初音ミク 曲】 作詞:アップルP 作曲:アップルP 編曲:アップルP 唄:初音ミク 曲紹介 アップルPの9作目。 MIX:里内 色 Illustration:雪政 Movie:立花 琳 歌詞 数えきれないキスを重ね 愛し合った君はもういないの 不確かな君に送る歌は 僕にできるせいいっぱいの愛 ふと手に取った古いアルバム 描かれてた僕たちの未来 過ぎゆく季節に取り残された 僕の自己満話さ あの日交わした言葉の意味なんてさ 期待しすぎた僕がいけないのかな? 日が暮れる 眩しい夕陽が君を見えなくさせるの 無理やりな笑顔を振りまいた 君の胸の奥が知りたくて 何度も何度も嘘をついた 誰かこの僕にどうか裁きを 冷たくなってく君の温もりが 今の僕には少し心地よかった 「僕も行くよ」「そこで待ってて」 そろそろ時間だ さあ深呼吸 数えきれないキスを重ね 愛し合った君はもういないの 不確かな君に送る歌は 僕にできるせいいっぱいの愛 一人この場所で見る夜空に 最期の君を思い浮かべるの 不確かな君に送る歌は 僕が作る最後のメロディ コメント 名前 コメント
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登録日:2011/04/24(日) 17 02 39 更新日:2022/01/10 Mon 16 56 33NEW! 所要時間:約 4 分で読めます ▽タグ一覧 ARIMATSU NARASAKI かってに改蔵 さよなら絶望先生 アニソン トラウマパンク ナゴム ハードロック バンド パンクチーム プログレ 三柴理 大槻ケンヂ 快獣ブースカ 水木一郎 特撮 絶望少女達 音楽 特撮は日本のロックバンド。 ☆概歴 1999年、筋肉少女帯の大槻ケンヂ、内田雄一郎、三柴理、COALTAR OF THE DEEPERSのNARASAKI、BLOODY IMITATION SOCIETYのARIMATSUにより結成。 2000年 内田が脱退。 2006年 筋肉少女帯再結成につき、特撮は充電期間突入。 2007年~ 実はさよなら絶望先生関連の楽曲は声優以外の面子は特撮である。 2011年 筋肉少女帯の活動と平行して再始動。 4月23日にかってに改蔵のOVAの主題歌である「かってに改造してもいいぜ」を"水木一郎と特撮"として発売。 大槻ケンヂと水木一郎が一緒にCDを出すのは、「筋肉少女帯と水木一郎」名義で出した「221B戦記」以来である。 6月29日に、ニューアルバム「5年後の世界」をリリース。 絶望先生、改蔵の主題歌のセルフカバー及び新曲を収録。 2012年 1月21日にDVD「復活ライブ2011!5年後の世界」発売。 ☆音楽 音楽ジャンルとしては、基本的にはハードコアとハードロック。 ただ曲によってはプログレだったりポップス調だったりもする。 大槻ケンヂによる素晴らしい歌詞や三柴理の非常に美しいピアノがポイント。 また、1st~4thアルバム、及び初めての特撮 BEST vol.1の初回版にはそれぞれ隠しトラック(※)が収録されている。 ※隠しトラック 爆誕→アベルカイン~かわいいヴァージョン~ ヌイグルマー→ケテルビー(Demo Version) Agitator→デス市長 オムライザー→オム・ライズ(tokyo girl mix) 初めての特撮 BEST vol.1→あの娘が遊びに来る前に ☆メンバー 現メンバー Vo.大槻ケンヂ バンドの顔。 大抵の曲の作詞はこの人。 特撮結成時は筋肉少女帯を脱退していた。 Gt.NARASAKI バンドのサウンドプロデューサー。 COALTAR OF THE DEEPERSのメンバー。 ブギーポップは笑わないのサントラに参加してたり、はなまる幼稚園やUN-GOのアニメに音楽担当で関わってたりする。 COALTAR OF THE DEEPERSの方で輪るピングドラムのEDを担当。 大槻ケンヂと共に小林ゆうにも楽曲提供している。歌声とデス声の差が物凄い。 Dr.ARIMATSU 腕に刺青をしている。 当初、大槻はARIMATSUの刺青を恐がっていたようである。 L Arc~en~CielのhydeのバンドであるVAMPSのサポートドラムでもある。 Pf./Key.三柴理 ヒゲ面巨漢のピアニスト。 その姿からは想像出来ない程の美しいピアノの音色を響かせる。 NARASAKIのとんでもないノイズギターから唐突かつ強引に洗練されたピアノのメロディーに移行するのがもはや定番。 ピアノ・デス・ピアノなどはまさにそのタイプの楽曲。 筋肉少女帯の元メンバーであり、現在はサポートメンバーである。 元メンバー Ba.内田雄一郎 結成時は筋肉少女帯の現役メンバー。 1stシングル、1stアルバム発売後に脱退。 ☆ディスコグラフィー シングル アベルカイン ジェロニモ ヨギナクサレ パティー・サワディー 綿いっぱいの愛を! かってに改造してもいいぜ("水木一郎と特撮"名義、収録2曲目は"特撮と水木一郎"名義の「ヌイグルマー」) アルバム 爆誕 ヌイグルマー Agitator オムライザー 夏盤 綿いっぱいの愛を! 5年後の世界 ベストアルバム 初めての特撮 BEST vol.1 ロコ!思うままに 大槻ケンヂと絶望少女達 人として軸がぶれている 空想ルンバ 林檎もぎれビーム! メビウス荒野~絶望伝説エピソード1(収録2曲目は特撮の「アングラピープル サマー ホリディ~2011版」) かくれんぼか鬼ごっこよ 絶望大殺界 非売品 ロコ!思うままに カラオケ(ベストアルバム「ロコ!思うままに」初回盤販売店等特典) 鬼墓村の手毬歌(DVD「復活ライブ2011!5年後の世界」販売店特典) その他 『大槻ケンヂ全詩歌集 花火』付属CD(4曲収録) かってに改蔵 コンセプトアルバム スーパーDX超合金(新曲「戦え!改造!!ん、違う?」で参加) パーティーは今(レーベルメイトのももいろクローバーZとのコラボ曲) DVD FIGHTING! NUIGULUMAR TOUR ライブ盤 めんどうなこと言うなら、もう帰る!! 復活ライブ2011!5年後の世界 初めての特撮 P.V.4+X オレ、wiki篭もり、34歳独身 ぬいぐるみのめいでんと二人ぐらし アニヲタでニート どうして、もっと人の心を動かす項目を オレは立てられないんだろう いつも悩んでいる悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで…… ……つらいつらいつらいつらい、つらいなー 「ボク、めいでん! 君の代わりに追記・修正してあげるよー!」 本当かい? △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 充実してほしい項目。スキル不足で貢献できないのがもどかしい。再始動後が本当に素晴らしいし、今年は20周年なので、注目されてほしいなぁ -- 名無しさん (2020-10-21 02 28 32) 名前 コメント
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一章 二章 三章 四章 五章 全体考察 各キャラクター 苗木こまる 腐川冬子 ジェノサイダー翔 十神白夜 苗木誠 召使い 大門大 煙蛇太郎 空木言子 新月渚 モナカ 葉隠浩子 不二咲太市 シロクマ クロクマ 塔和灰慈 朝日奈悠太