約 758,471 件
https://w.atwiki.jp/83452/pages/16165.html
スーパーウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐分かりづれええええっ! 和と仲がいいだけに優等生コンビだな、とは思ってたんだけど、 ここまで高度で知的なボケを駆使する子だとは知らなかった。 そうして私が呆けた顔をしてるのが面白いのか、高橋さんは笑顔を崩さず続ける。 「終末に邪神とか言ってるから、そういう話なのかと思っちゃって、つい……。 本当にごめんね、りっちゃん」 「風子って本当に北欧神話が好きよね。 でも、風子がそれを言うなら、 私としては終末はキリスト教圏の方を支持したいわね。 天使が七つのラッパを吹く事で訪れる黙示の日。 そっちの方がこれから訪れる終末には相応しいと思うのよ。 大体、これから訪れる終末がラグナロクの方だとしたら、 もう既に巨人族の侵攻が起こってる時期でしょ?」 高橋さんのボケ(?)に更に和が難しい会話を被せ始めた。 やめてくれ……、日本語で喋ってくれ……。 隣に目をやると、唯も私と同じように頭を抱えて唸ってるみたいだ。 頭がいい人と自分が一対一で話すのならともかく、 頭がいい人同士が話すのを傍から見せられる事ほど、どうしようもない事は無いよな、マジで。 特に和は頭のいい天然ボケだ。下手すれば唯の数倍は強敵となるだろう。 これはどうにか空気を変えねばなるまい。 大丈夫。私は居るだけで空気を変えられる事で定評のあるりっちゃんだ。 相手が和達という強敵ではあるけど、違う話くらいは振れるはずだ。 「そ……それよりさ、和。 和が生徒会の仕事をしてたってのは分かるけど、どうして高橋さんと一緒に居るんだ? 高橋さんは別に生徒会ってわけじゃなかったよな?」 私が言うと、唯が和に見えないように私の後ろで親指を立てた。 グッジョブって意味なんだろう。 幼馴染みとは言っても、唯も和の知的過ぎる一面は苦手としてるみたいだ。 私もたまに暴走する澪は苦手だからなあ……。 私の言葉を聞いて、流石の和も自分が高橋さんと話し過ぎてたと実感したらしい。 一つ咳払いをしてから、風に揺らされる眼鏡を掛け直した。 「今日はね、風子には生徒会の仕事を手伝ってもらってたのよ。 風子とは一緒に音楽室に顔を出す予定だったから、それまでの時間、ちょっとね……。 おかげで溜まってた仕事は全部片付いたわ」 「音楽室に顔を出す予定……?」 澪が首を傾げて和に訊ねると、それには高橋さんが応じた。 「うん、そうなの。 昨日ね、唯ちゃんから土曜日にライブをやるってメールを貰ってから、 居ても立っても居られなくなっちゃって……。 土曜日に会える事は分かってたんだけど、それまでに軽音部の皆の顔を見ておきたかったんだ」 「そうなんだ。嬉しいな。ありがとね、風子ちゃん」 唯が笑顔で近付いて、高橋さんの手を取る。 すると、唯に釣られるみたいに、高橋さんも満面の笑顔になった。 「ううん、私の方こそお礼を言わせてほしいくらいだよ、唯ちゃん。 私ってこんな性格でしょ? 終末が近付いてるからって何ができるわけもなくて、図書室でずっと本ばっかり読んでたの。 本を読んでる時だけは、終末に対する不安も見ずにいられたから……。 でも、この前ね、図書室でたまたま会った若王子さんから聞いたの。 こんな時だけど、軽音部がずっと練習してるよって。 多分、最後にライブをしようとしてるんだろうねって。 私……、嬉しかったなあ……。 こんな時でも頑張ってるクラスメイトが居るって思うと、すごく心強くもなったの。 だから、唯ちゃんからメールを貰った時、 私もそのライブを見ていいんだって思うとすっごく嬉しかった。 ありがとう、皆……」 その高橋さんの言葉に、唯は少しだけ呆けていた。 高橋さんが何を言ってくれているか、ちょっと理解し切れていないらしい。 私は唯の近くまで駆け寄って、耳元で「褒められてんだよ」と教えてやった。 少し赤くなって、唯がまた幸せそうな笑顔を浮かべる。 鈍感な奴だが、それも仕方ないかな。 こんなに褒められる事なんて、ライブやった時もそうは無かったからなあ……。 ふと振り返ると、澪達も頬を染めてるように見えた。 褒められ慣れてないから、照れ臭いんだろう。 背中がむず痒くなってる私も、人の事は言えないんだけどさ。 「それにね……」 私達の顔を見ながら、高橋さんが続ける。 「嬉しかったのは私だけじゃないよ。 皆の顔が見たいって子は、他にも居るんだよ」 言うと、高橋さんがグラウンドの端の方に生えてる樹の陰に視線を向ける。 これまで気付かなかったけど、その木陰には見覚えのある人影があった。 小柄で、後ろに髪を束ねている、眼鏡のクラスメイト……。 「宮本さん?」 澪がその人影に向けて声を掛ける。 小さくなりながらだけど、 その人影……、宮本さんはゆっくりと私達の方に歩み寄って来た。 すごく仲がいいわけじゃないけど、宮本さんが照れ屋で赤面症なのは私も知ってる。 それで宮本さんは遠くから私達を見てたんだろう。 「アキヨちゃんもライブを観て来てくれるの?」 唯が嬉しそうな声色で、近寄って来た宮本さんに訊ねる。 宮本さんは赤面しながらも、唯の瞳を見つめながら軽く頷いた。 「宮本さんはね……」 宮本さんが何を言うより先に、和が嬉しそうに微笑みながら言った。 人より先に話し始めるなんて和らしくないけど、 多分、それだけその話を伝えたくて仕方が無かったんだろう。 「宮本さんとはさっき音楽室に顔を出した時に出会ったんだけど、 宮本さんはずっと音楽室の中の様子を気にしてたみたいだったわよ。 人の気配がしないから、本当にライブをするのかって不安になってたんじゃないかしら。 だから、私は宮本さんと一緒に貴方達を捜す事にしたのよ。 練習はあんまりしない部だけど、今はたまたま音楽室に居ないだけで、 ちゃんとライブに向けての準備はする部だって知ってもらいたかったしね」 「普段から練習くらいしとるわい!」 私が口を尖らせて言うと、「そうかしら?」と和が苦笑する。 高橋さんがそんな私達を楽しそうに見つめ、宮本さんも軽くだけど表情が緩んだ。 小さな声だけど、はっきりと宮本さんが言葉を出し始める。 「皆……、最後のライブ、頑張ってね……。 私、応援してるから……。 ずっと皆で、終末なんか関係なく、音楽続けてね? 私、軽音部の音楽、好きだから……。 軽音部のライブ、すっごく面白かったから……!」 こんなに宮本さんの声を聞いたのは初めてかもしれない。 口数が少ない子だし、照れ屋な子だしな。 それでもこんなに話してくれるって事は、 私達の音楽を本当に好きでいてくれてるって事なんだろう。 面白かったって感想は複雑だけど、好きでいてくれてるんならそれでもいいよな。 頑張らなきゃな、と私はまた思った。 和も高橋さんも宮本さんも、 勿論、それ以外の皆も私達のライブを楽しみにしてくれてる。 これはもう私達だけのライブじゃないって感じる。 これは私達放課後ティータイムに関わってくれた皆が、 世界の終わりに見せ付けてやる一大的なロックイベントなんだ。 見せてやろうじゃないか。 神なんだか何なんだか、世界を終わらせようとしてる誰かさんに。 私達は生きているんだって。 「ねえねえ、和ちゃん」 そうやって決心を固める私を置いて、 唯がまた場にそぐわないマイペースな事を言い始めた。 「どうしたのよ、唯?」 「予備の眼鏡とか持ってない?」 「何よ、いきなり」 「だって、皆が眼鏡掛けてるから、私も掛けたくなったんだもん」 「何を言い出すんですか、いきなり……」 呆れた表情で梓がこぼす。 確かにまたいきなり何を言い出すんだ、唯は……。 まあ、唯の言う事も分からないでもない。 今ここに居る軽音部以外のメンバー全員が、見事なまでに眼鏡を掛けてるからなあ……。 妙な所で流行に敏感な唯が眼鏡を掛けたくなったとしても、不思議じゃなくはある。 だけど、残念ながら、和が呆れた表情で唯に返した。 「悪いけど予備の眼鏡は、今日は持って来てないわ。 私の眼鏡をちょっとだけ貸してあげるから、それで満足しときなさい」 「えー……。 皆で眼鏡を掛けて、記念撮影とかしたかったのにー……」 「おいおい。何個眼鏡が必要になると思ってん……」 「ならばその願い、私が叶えてあげましょう!」 私が唯に突っ込み終わるより先に、 その言葉はよく聞き慣れたあの人の声に潰されてしまった。 そう。 その人こそこれまた眼鏡を掛けたファッションパイオニア……、さわちゃんだった。 またいつの間に来たんだ、この人は。やっぱり瞬間移動の使い手なのか? 和と高橋さんは何となくさわちゃんの本性を知ってるみたいだから特に驚いてなかったけど、 無垢で儚げな印象の宮本さんは、さわちゃんのそんな本性に思いも寄ってなかったみたいだった。 若干怯えてる感じで私の方に走り寄って、私の背中の後ろに隠れる。 「また神出鬼没だな、アンタ!」 宮本さんを庇いながら言っってみたけど、 さわちゃんは私の突っ込みを華麗にスルーし、ひどく心外そうな表情で唯に言った。 「もう……、駄目でしょう、平沢さん。 着たい服がある時とか、ファッションに関しての悩みがある時とか、 そういう時はいつでも先生に相談してっていつも言ってるじゃないの」 「あー、そっか。さわちゃんに相談すればよかったんだよね。 忘れててごめんね、さわちゃん」 「次からは気を付けるのよ、平沢さん」 「はーい」 ボケなんだか何なんだか、 和と高橋さんとは違った意味で高次元の会話を交わす唯とさわちゃん。 これはもう私達に踏み入れる領域じゃないな……。 「って、先生。 願いを叶えるって、もしかして……」 澪が不安そうにさわちゃんに訊ねる。 さわちゃんは心底うれしそうに、その澪の言葉に答えた。 「そうよ。貴方達、眼鏡を掛けたいんでしょ? 安心しなさい。被服室に二十個くらい眼鏡を置いてるから、貸してあげるわ。 秋山さん達も遠慮なく掛けたらいいわよ」 どうしてそんなに眼鏡を置いてるんだ、とは誰も訊ねなかった。 さわちゃんはそういう人なんであって、それに対して疑問を持つのは、 何で酸素と水素が結合すると水になるのか、って考えるのと同じくらい無意味だった。 さわちゃんの謎は、そういう自然の摂理みたいなもんなんだ。 それでいいいのだ。 そんなわけで。 筋道を立てて話すのも面倒臭いけど、 何故だか私達はこれから皆で眼鏡を掛ける事になった。 ○ 被服室に行ったさわちゃんを見送り、 皆でぞろぞろと音楽室に戻ると、一人の人影が私達を待っていた。 もうさわちゃんが眼鏡を取って来たのかと一瞬思ったけど、そうじゃなかった。 私達を待っていたのは、大きな弁当のバスケットを持った憂ちゃんだった。 私達にお弁当の差し入れを持って来てくれたらしい。 そういえば、もう昼時だ。 気配りのできる子の憂ちゃんに、私達は感心する。 でも、予想外に人数が増えちゃったから、弁当足りるかな。 私達だけで食べるのも、和達に悪いし。 さわちゃんは間違いなく、つまみ食いしてくるだろうし。 ……とか思っていたら、 憂ちゃんの持って来てくれたバスケットには、明らかに十人分を超える量の弁当が入っていた。 憂ちゃんが言うには、軽音部のお客様が居ると思って、 念を入れて多めにお弁当を作って来たんだそうだった。 すげー。エスパーか? 本当に準備のいい子の憂ちゃんに、私達は心底感心する。 量的に問題が無くなった事だし、 私達は和達と一緒に一足早めの弁当を頂く事にした。 床にシートを敷いて、憂ちゃんの弁当を広げる。 一応私達が個人で持って来ていた弁当も一緒に並べると、 異常なくらい豪勢な食卓がシートの上にできあがってしまった。 こう言うのも何だけど、最後の晩餐……って感じか? 不謹慎な上に不吉ではあるけど、本当にそんな気がしてくる。 ……って、駄目だ駄目だ。 何だかんだと、あの空の光景に少し圧倒されちゃってるのかもしれない。 負けないよう、しっかりしなきゃな。 頭の中に浮かんだ後ろ向きな考えを振り払い、私はどんとシートの上に腰を下ろす。 あぐらを組んだ事を澪に注意されたけど、それは気にしない事にした。 これから訪れる世界の終わりに真正面から向き合うには、 正座で縮こまるより、あぐらで大きく構えてた方がいいと思ったからだ。 勿論、あぐらの方が楽だからってのもあるけどな。 そうして皆で弁当を食べていると、 何故か少し疲れた感じでさわちゃんが音楽室に入って来た。 どうしたのか訊ねると、被服室の眼鏡はすぐに見つけたんだけど、 走って音楽室に来ようとしているところを、古文の掘込先生に見つかったらしい。 それで「終末が近いのに変わらんな」とか、 「そもそも高校生の頃から何も変わってないぞ」とか説教されたんだそうだ。 道理でさわちゃんにしては音楽室に来るのが遅かったわけだ。 普段のさわちゃんなら、下手すりゃ私達より先に音楽室に来ててもおかしくないもんな。 疲れた様子のさわちゃんを尻目に、 唯が興味津々な表情でさわちゃんの持って来た袋の中に手を入れる。 私も唯の腕の隙間から袋の中に目をやると、中には大量の眼鏡ケースが入っていた。 37
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/41516.html
終焉の一項 UC 水文明 (7) 呪文 ■S・トリガー ■この呪文が表向きにして置かれたシールドがシールドゾーンを離れたとき、そのターンを飛ばす。 ■この呪文を自身の手札から唱えたとき、墓地に置くかわりに自身のシールドを一つ選びその上に置く。(こうして重ねたカードの束を1枚のシールドとみなす) 作者:キャス コンセプトは終末の時計ザ・クロックの呪文化。 手札から唱えないと効果を発揮しないが、マナゾーンに見えるだけで相手に圧力をかけることができる。 ワールドブレイクや最後の盾落ちだと弱いかわりに自分のターンにも準備できる点が差別化点。 基本的に置かれたシールドは最後に殴られるか最初に殴られるため極端なカードである。 フレーバーテキスト 終末の時計が持っていたとされる本、その最後のページには5番目の終末について記されていた。 評価 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/cloud9muscular/pages/203.html
5.x 漆黒のヴィランズ【終末の序曲編】 <概要> エオルゼアの物語(ストーリー)を、時系列に沿って、順番に振り返ります。動画の目次(チャプター)には、「クエスト名」と【見どころ】を載せています。 <目次> 【暁の帰還編】 Ⅰ 【終末の序曲編パッチ5.4,5.5】 Ⅱ 【終末の序曲編5.5エンドロール】 ストーリー一覧に戻る Ⅰ【終末の序曲編パッチ5.4,5.5】 Ⅱ【終末の序曲編5.5エンドロール】
https://w.atwiki.jp/83452/pages/16137.html
でも……。 そこまで考えて私は不安になる。 本当に金曜日で間に合うのか、とても不安になってしまう。 新曲は完成してないし、 梓の問題も澪との関係もまだ解決してない。 こんな状態でまともに演奏なんて出来るんだろうか……。 そうやって私は唸っていたけど、 気になって目をやると、私の様子を和が静かに見てくれている事に気付いた。 唯の事を話す時みたいな優しい表情の和が私の瞳の中に映る。 見守ってくれてるんだな、和……。 思わずそう考えていたけど、その考えは少し気恥ずかしくて、 私は顔が熱くなるのを感じながら、その気恥ずかしさを誤魔化す事にした。 「和、悪いけどもう少し考えたいから、ちよっと待ってくれるか? あと立たせたままってのも悪いし、何処か空いてる席に座ってくれよ」 「じゃあ、お言葉に甘えて」と和が私の言葉に従って、席の近くまで移動する。 バランス的に澪の席に座るんだと思ってたけど、 それから和が選んだのは意外にも私のすぐ隣の梓の席(と言うより椅子)だった。 予想外に和と接近する事になって、私は少し緊張してしまう。 同時に普段梓が座っている席に和が座っている状況に新鮮さを感じる。 ありえない話ではあるんだけど、 もしも和が軽音部に入ってくれていたら、 こういう席割で一緒にお茶してたりしてたのかな。 「どうしたの、律?」 「ん、あ、いや、何となく……さ。 新鮮だなー、って思って」 「何が?」 「和と二人でこんなに近くで話すなんて、あんまりなかったじゃん?」 私がそう言うと、和が何となく悪戯っぽい顔を見せた。 最近、和がたまに見せてくれるようになった顔だ。 「そうね。 私が律に話し掛ける時は、大抵がお説教だったものね」 「いやいや、そんな事はありませんって。 和様にはいつも本当に感謝しておりますって。 たまに頂くお説教もありがたい事ですって」 笑いながら私が言うと、和も小さく微笑んでくれた。 いつも真面目で優等生な和だけど、冗談が通じないわけじゃない。 本当にたまにだけど、和の方から冗談を言ってくれる事も最近は増えてきた。 確信はないけど、それが私達の仲良くなった証拠だったら嬉しい。 「そういえば、それは何なの?」 微笑みながら和が指差したのは、唯の置いた書き置きだった。 机の上に置いたままにしてたから、目に入って気になったんだろう。 私はその質問には答えずに、「あいよ」と和にその書き置きを手渡した。 見てもらった方が分かりやすいし、自分で考えた方が面白いだろうと思ったからだ。 渡された書き置きを見た和は一瞬困った顔をしたけど、 すぐに「ああ、そっか」と明るい顔になって呟いた。 「この猫みたいな何かが『あずにゃん』って事ね」 「分かるの早いな! 私でも分かるのに二十秒くらい掛かったぞ? 流石は幼馴染みってやつか?」 軽くからかったつもりだったけど、 急に和の表情が萎んでいくのが目に見えて分かった。 あんまり急激に表情が変わるもんだから、 何かまずい事を言っちゃったのかって私が不安になるくらいに。 冗談を言う時の悪戯っぽい顔は見せてくれるようになった和だけど、 そんな本当に辛そうな表情の和を見るのは初めてだった。 そんな今にも泣き出しそうな和なんて……。 何て声を掛ければいいのか迷ったけど、私はまずは謝る事にした。 和の表情が辛そうに変わった原因が私の言葉なんだとしたら、 私は和に謝らないといけない。 「あの、和……。 ごめん……な」 「何……が……?」 「だって、そんな……。 そんな辛そうな顔してるの、私のせいなんだろ……? ごめん……。いつも私、そういうのに気付けなくて……」 「律のせいじゃないわ……」 「だけど……」 「いいのよ。私の方こそごめんなさい、律……。 律相手なら、何とか耐えられるって思ってたんだけど……。 駄目みたいね。本当にごめんなさい……」 「耐えられる……って?」 一瞬、弱気な私が顔を出して、 和が私の事を嫌いだからその嫌悪感に耐えてる、って後ろ向きな考えをしてしまう。 和がそんな人じゃないのは分かっているのに。 分かり切ってるのに。 何を考えてるんだよ、私。 本当におかしいぞ、今日の私は……。 勿論、和の「耐えられる」って言葉は、そういう意味じゃなかった。 和は静かに私のその被害妄想を解き放つ言葉を口にしてくれた。 「唯の事を考えるとね……。 駄目なのよ……」 私は自分の被害妄想を恥じながら、 それでも今は和の言葉の続きを聞く事にした。 恥ずかしがるのは後からでも出来る。 今は和に失礼な考えをした分、和の言葉を聞かなきゃいけない時だった。 「唯と……、何かあったのか……?」 「ううん、そうじゃないわ。 唯はずっと私の幼馴染みで腐れ縁で、こんな時でも明るく話し掛けて来てくれる。 本当に明るい顔で笑ってくれる。 だから、唯の事を思うと、辛くなるの……」 「だけど、さっきは……」 「ええ。唯の話で笑えたわ。笑えてたと……思う。 でも、それはライブをするっていう未来の事を考えられるからなのよ。 まだ先に唯の笑顔を見られる時間があるって、それが嬉しくて安心出来るのよ。 だから、先の話じゃなくて、昔の話を思い出しちゃうと駄目だわ。 まだ私達が小さくて、小さい唯が笑ってた頃を思い出しちゃったら、 否応無しに私達に残された時間は本当に短い事に気付いちゃって……。 それが、辛いのよ……」 和の言葉を聞いていて、私は一つ気付いた。 さっき和は軽音部に入る前に、ドアの隙間から部室の中を覗いていた。 それは私がトンちゃんに話し掛けているところを覗き見したかったからじゃない。 きっと和は唯が部室の中に居るかどうかを確かめてたんだ。 唯の顔を見ると辛くなるから、 私一人しか居ない事を確かめてから部室に入ってきたんだ。 今の私が澪と顔を合わせる事が恐いのと同じように。 和はまた言葉を続けようと口を開く。 多分、ずっと我慢していたんだろう。 和の言葉は止まる事はなかったし、私も止めようとは思わなかった。 タイプは違っているけれど、私と和は本当はかなり似てるんじゃないかと思えたんだ。 「もうすぐ終末が来るらしいわよね……。 それは私も分かってるし、もう逃れられないってのも分かってる。 勿論、私自身が死ぬのは恐いし、嫌だわ。 私だってまだやりたい事が沢山あるもの。まだ死にたくないわよ。 でも、私が死ぬ事よりもっと恐い事があるの。 それは多分、律も同じだと思う」 「私も……? そうか……。うん、そうだよ……。 私だって死にたくない。死ぬのは本当に恐い。 周りに恐がってる様には見せないけど、やっぱり恐いよ。 でも、私も和と同じにもっと恐い事があるな……」 そのもっと恐い事について、 和はとりあえずは触れなかった。私も今は触れなかった。 その代わり、和が少しだけ落ち着いた表情になってから、私に訊ねた。 「律もやっぱり恐いのよね……」 「和もな」 「私が言うのも何だけどね。 律ってこんな時でも毎日学校に登校してるみたいだし、 いつも唯と一緒に楽しそうに遊んでるから、終末なんて恐くないように見えたのよ」 「和が言うなよ。 和だって毎日じゃないけど学校で見るし、 ちょっとボケてみてもすごい冷静な顔で私に突っ込むじゃんか。 和には世界の終わりなんて何ともないんだって思ってたぞ」 「失礼ね。私を何だと思ってるのよ、律は」 「和の方こそ、私を何だと思ってんだよ」 言って、私は頬を膨らませて和を軽く睨む。 和も少し不機嫌そうな顔で私を見つめて……。 それから、すぐ後に二人して苦笑した。 何だよ。 二人ともお互いを同じ様な目で見てたってわけか。 やっぱり私達は何処か似てる所があるのかもしれない。 「何かさ……。 強がっちゃうんだよな……」 つい私は口に出していた。 和の前だと何故か素直になれている気がする。 近過ぎず、遠過ぎず、とても微妙な距離感の仲の私と和。 遠い他人じゃないけど、近くて本音を言えない相手とも違う。 二人きりになる事は少ないし、ずっと傍に居たいと依存してるわけでもない。 それでも、絶対失いたくない相手。 多分だけど、私と和はそんな関係の大切な友達なんだろう。 和もそう思ってくれているのかもしれない。 辛そうな表情は完全になくなってはいなかったけど、 それでも少しの優しさと穏やかさを取り戻した表情で和が言った。 「私は強がりとは違うんだけど……、 どんな時も落ち着いてなきゃって思ってたわ。 兄弟も小さいし、恐がってる姿なんて見せられないもの。 でも、それってやっぱり強がりなのかしらね? 下手に落ち着こうとするのは、逆に恐がりな証拠って話もよく聞くし……」 「難しい話はよく分かんないけど、でも、言いたい事は分かるな。 私は世界の終わりが恐くて、それよりも恐がってる自分がもっと恐くて……さ。 上手く言えないけど、だから、恐がりたくなかったんだよな。 多分、いつもの自分じゃない自分になるのが、本当に恐かったんだと思う。 でも、それよりももっと恐いのが……、悲しいのが……」 そこで私は口ごもる。 言葉にするのが恐かった。 言葉にして実感してしまうのが恐かったし、 言葉にして和に実感させてしまうのが恐かった。 これからも強がるためには、それに気付かないふりをしている方がいいんだろう。 でも、その私の言葉は和が力強く継いでくれた。 そう。和は見ないふりをするのをやめたんだ。 「死ぬのは恐いわ。 きっと色んな物を失っちゃうんだろうって思うと恐いわよね……。 だけど、そんな事より、皆が死んじゃう事の方がずっと恐いわ。 家族が、唯が、憂が死ぬ事を考えたら、自分が死ぬ事を考えるより嫌な気分になる。 悲しくなるのよ、とても……」 「そうだよな……。 そう……なんだよな……」 私も父さんや母さんに聡……、 澪がもうすぐ死んでしまうって現実がすごく恐くて、悲しかった。 自分が死ぬのは嫌だけど、多分、それだけなら私も耐えられると思う。 だけど、私以外の誰かが死ぬって想像だけは、恐くてたまらなかった。 私自身より、澪が死んでしまう事の方が、何倍も辛かった。 だから、和は泣きそうな顔をしてるんだ。 私も泣き出したくなってるんだ。 もうすぐ私達は消えていなくなってしまう。 人間も、人生も、歴史も、何もかもが消え去ってしまう。 大切で、大好きな人が跡形もなく消えてしまう。 残された時間は本当に少なくて、 それまでの時間を私はせめて大切な幼馴染みと過ごしたいと思った。 幼馴染みに無理をさせて、自分で無理をして、 お互いに無理ばかり重ねながらだけど、それでも一緒の時間が欲しかったんだ。 もうすぐ終わる世界で、泣きながら過ごしたくなかったから。 「友達が居なくなるのは、嫌だもんな……」 私は自分に言い聞かせるように呟いてみる。 言葉にしてみると、少しずつ実感出来てくる気がした。 そうだよな。 別に難しい事じゃなかったんだ。 この世界の終わりが恐くて、悲しい理由は本当はすごく単純だったんだ。 友達を無くしたくないんだ、私は。 だから、澪を無理して学校に登校させてる。 だから、梓に嫌われたと思うのが、本当に悲しかったんだ。 「そうよね。 自分の傍に居てくれた誰かが居なくなるなんて、嫌よね……」 私の呟きは和にも聞こえていたらしい。 和も私の言葉に頷きながら呟いた。 馬鹿みたいに単純だけど、 人が死にたくない本当の理由はそんなものなのかもしれないよな。 勿論、友達が死んでほしくない理由も。 少し違うかもしれないけど、 前は私はこういう話を聞いて不安になった事がある。 自分が二十歳前後で自立するとして、両親が七十歳まで生きるとする。 そうすると、自分が年に十日の里帰りを毎年行ったとしても、 両親と一緒に過ごせる時間は、合計しても半年と少しという計算になるんだそうだ。 その話を高橋さん(だったと思う)から聞いた時、私はとても不安になった。 受かればの話だけど、大学生になったら寮に入るつもりだったし、 将来的には家自体の事を聡に任せて、私は家から出てく事になってたんだろうと思う。 それは普通の事で、特に意識した事もなかったけど……。 それでも、具体的に数字にして表されると、何だか焦ってしまって仕方がなかった。 そんなに短いんだ……、ってそう思えて不安だった。 いつかは居なくなる両親なんだって分かってたつもりだったけど、 単に私は考えないようにしてただけなのかな……、どうにも分かってなかったみたいだ。 自分と誰かの関係は時間制限付きなんだ。 両親とだってそうなんだから、誰とだってそうなんだ。 世界が終わるからってだけじゃなくて、 普通に生きてても、友達との時間制限は一つずつ尽きていってたんだろう。 こう考えるのは嫌だけど、 澪との関係もいつかは尽きてたんだろうな……。 その原因が喧嘩別れなのか、どっちかの死なのかは分かんないけどさ。 「頑張らないと、いけないわよね」 急に和が言った。 これまでみたいな呟きじゃなくて、少しだけど力強い言葉だった。 「唯の顔を見てると泣きそうになるし、辛いけど……。 でも、私は唯と一緒に居たいもの。 残された時間は少ないから、早く唯の顔を見ても泣かないように頑張るわ」 「無理はするなよ……って、そんな事は言ってられないか。 ははっ、こう言うのも変だけどさ」 お決まりの台詞と逆の言葉を言ってしまって、私はちょっと笑ってしまう。 和も眼鏡の奥の表情が緩んだように見えた。 「でも、終末だからってだけじゃなくて、 どんな時だって、誰だって無理して生きてるものだって私も思うわ。 勿論、無理せずに生きられるなら、 それに越した事は無いんでしょうけど、中々そうはいかないものね。 ……頑張らなくちゃね」 「そうだな、和。 だからさ」 「そうね」 「これからも無理しよう、和」 「これからも無理しましょう、律」 二人の言葉が重なって、二人で笑った。 「無理しよう」なんて、基本努力が苦手な私に言えた事じゃないけど、 それでも多分、今は無理した方がいい時なんだろうって思えた。 私達に残された時間は少ないし、悲しくて辛い事も多い。 だけど、私達は立ち止まってなんかいられない。 立ち止まってるわけにはいかないんだ。 こう言うと少年漫画の台詞みたいだけど、実はそんな格好のいい決意表明じゃない。 本当は立ち止まっていられないから。 立ち止まったら不安で死にそうになるから。 泳いでないと死んでしまうらしいイルカやマグロ的な意味で、 無理をしてでも、私達は立ち止まっていられないんだ。 それがいい事なのか、悪い事なのかは分からない。 無理をする事で、また誰かを傷付けてしまうかもしれない。 また自分が傷付くかもしれない。 だけど、そうしながら、私と和は進み続けていくんだと思う。 和ならきっと大丈夫。 和ならもうすぐ立ち直れて、いつもみたいな冷静な突っ込みを見せてくれるようになれる。 最後の日まで唯と笑い合えるようになれるはずだ。 私の方は……、まだ分からない。 進み続けるのはやめないと思う。 もしかしたら、その先には誰からも嫌われて、 一人で生きていくしかない未来が待っているのかもしれないけど……。 また少し気弱になってる私の考えを察したんだろう。 机の上に出してる私の右手に、和が軽く自分の右手を乗せた。 唯や私とは違って、普段は決して誰かの身体に触ったりしない和の意外な行動だった。 「後悔だけは、したくないものね」 9
https://w.atwiki.jp/83452/pages/16135.html
○ オカルト研の部室の中の二人を十分くらい見てたと思う。 急に澪が私の手を引いて、「行こう」と小さく囁いた。 何処に行くのか私は少し不安になったけど、 澪に手を引かれて辿り着いた場所は軽音部でない方の音楽室だった。 そうだった。 そういえば私達はさわちゃんの授業を受けるんだった。 そんな事、すっかり頭の中から消え去っていた。 最初は部室に寄る予定だったけど、 オカルト研を覗いてたせいでそんな時間も無くなってしまっていた。 それで澪は直に私を音楽室に連れて来たんだろう。 さっきまで私の言葉も聞かずにオカルト研を覗いてたくせに、 急に妙に冷静になっている澪に私は何も言えなかった。 何を考えてるんだよ、澪は……。 さわちゃんの授業は面白かった……と思う。 授業にはムギと唯も参加していて、 久し振りに四人で受ける授業はとても嬉しかった。 だけど、そんな折角の授業なのに、どうしても私は授業に身を入れる事が出来なかった。 身を入れられるわけがない。 授業中、ずっと澪の視線を感じていたからだ。 実際に見られてるわけじゃないかもしれない。 単に私の自意識過剰な所が大きいんだろう。 でも、意識し始めるとどうしようもなかった。 澪に見られてると思うと、どうやっても授業に集中出来なかった。 授業の後、皆で部室に向かおうとした時、 そういや予定があったんだ、ってわざとらしい言い訳をして、私は皆の中から抜け出した。 居心地が悪くて、澪の傍には居られなかった。 本当はずっと傍に居たかった。 世界が終わるらしいって聞いてから、私は最後まで澪の傍に居たいと思ってた。 無理に家の中から連れ出してまで、澪には傍に居てほしかった。 澪に私が必要なんじゃなくて、私に澪が必要なんだ。 だけど、それはこんな意味でじゃない。 こんな居心地の悪さを求めてたわけじゃない。 だから、私は逃げ出したんだ。 「あー……。何やってんだ、私は……」 皆から抜け出した先、 軽音部から少し離れた廊下の窓から校庭を見下ろしながら、私はつい口にしていた。 どうしようもない自己嫌悪。 こんなんじゃ駄目だ。 このままじゃ駄目だ。 『終末宣言』以来、何度そう思ったんだろう。 何度そう思いながら、何も変えられなかったんだろう。 「ちくしょー……」 自分の情けなさが悔しくて、拳を握りながら吐き捨ててみる。 勿論、そんな事で何も変わるわけがなかった。 ただ悔しさが増しただけだった。 悔しさをずっと感じながら、それでもどうしようもない私は校庭を見回してみる。 校庭を見回したところで、何も解決するはずがないのに。 それでも、私は他に何も出来なかった。 見下ろしてみた校庭は『終末宣言』前と何も変わってないように見えた。 生徒の数こそ減ってるけど、それ以外はほとんど何も変わってない。 その何も変わってない校庭に、私はよく知っている長い黒髪を見つけた。 澪じゃない。 梓だ。 最近、様子のおかしい梓。 どうにか手助けをしてあげたい私の大切な後輩。 その梓は何かを探してるみたいに足下を見下ろしながら歩いていた。 「おーい、あず……」 反射的に手を上げて声を掛けようとして、その途中で私の言葉は止まった。 声を掛けて、どうする? 声を掛けて、どうなる? こんな今の私が、何も言おうとしない梓の力になってやれるのか? それとも、代わりにどうしようもない私の愚痴を聞かせるつもりか? 答えは出ない。 でも、途中までしか出なかった私の言葉は、梓の耳に届いていたらしい。 梓は顔を上げて、私の方に視線を向けた。 梓と私の目が合って、視線がぶつかる。 その一瞬、気付いた。 梓が泣きそうな顔をしている事に。 多分、今の私と同じような顔をしている事に。 梓の表情を見た私は、何とかしなきゃと思った。 小さくて弱々しい後輩の力にならなきゃと思った。 何も出来ない私だけど、何とかしてあげたかった。 今度こそ、私は梓の悩みを聞きだすべきだった。 だから、私はなけなしの勇気を振り絞って、喉の奥から言葉を絞り出そうとした。 「あず……」 だけど、その言葉はまた途中で止まる事になった。 私と目の合った梓が私から目を逸らして、すぐに校庭から走り去ってしまったから。 まるで私から逃げ出すみたいに。 それでも追い掛けるべきだったのかもしれない。 でも、なけなしの私の勇気は、逃げ出していく梓の姿に急に萎んでしまって……。 身体から力が抜けていくのを感じる。 脚に力が入らない。 私はその場に座り込んで、頭を抱えてとても大きな溜息を吐いた。 ひょっとして……、と思った。 私はずっと梓は何かに悩んでいるんだと思ってた。 私達に言えない何かを抱えて、ずっと無理に笑ってるんだと思ってた。 でも、ひょっとして……、それは違ったのか? 梓は私と関わりたくなくなっただけなのか? 私の近くに居たくなくて、それでするはずのないミスを連発していたのか? そんなにまで、私の事が嫌いになったのか……? ひどい被害妄想だ。 梓がそんな事を考える子だと思う事自体、梓に対して失礼だ。 でも、駄目だった。 澪の視線を感じると気になって仕方がなくなったのと同じに、 梓に嫌われてるんじゃないかと思い始めると、その考えが私の頭から離れなくなった。 それにそれは、ずっと思ってなくもなかった事でもあったんだ。 梓はずっと真面目な部活を望んでた。 練習をせずにお茶ばかりしている私に呆れてた。 その不満と呆れが今になって爆発したんじゃないか。 世界の終わりを間近にして、その嫌悪感を隠す事が出来なくなったんじゃないか。 「あいつの近くで何をやってたんだ、私は……」 また呟いた。 ほとほと自分が嫌になって来る。 被害妄想が頭から離れない自分が嫌だったし、 それ以上にその考えを被害妄想と言い切れない自分がとても嫌だった。 世界は終わる。もうすぐ終わる……らしい。 多分、それまでに皆、本当の自分を嫌でも見せ付けられる事になる。 私が今、見たくなかった自分の弱さを見せ付けられているみたいに。 こうして世界の終わりを目前にして、 隠していた本当の自分を曝け出して、ありのままで死んでいく事になるんだろう。 そこまで考えて、私はやっと気付いたんだ。 私達はもうすぐ死ぬんだって事に。 死ぬ……んだ。 来週を迎える事も出来ないんだ。 それまでの時間は、当然だけど止められない。 ずっと考えないようにしてきた事だった。 考えないようにして、普段通りの生活をしないと耐えられなかった。 世界の終末……。 その現実を分かっているつもりで、私は何も分かってなかったんだろう。 急に。 考えないようにしてた想いとか感情とか、 そんな色々な物が私の中で目眩がするくらいごちゃごちゃになって……。 それが吐き気になった。 私は近くにあった女子トイレに駆け込んで、思わず吐いた。 初めて心の底から感じる死の恐怖に、私は何度も吐く事になった。 死にたくない……。 死にたくないなあ……。 ○ しばらく吐いた後。 酸素が行き渡らなくてふらふらする頭で女子トイレから出ると、 何の気配もなく後ろから近づいて来た誰かに優しく背中を撫でられた。 見られた……? 自分の情けない姿を見られたかもしれない事が恥ずかしくて、 私の心臓が少しだけ早く動いてしまっていた。 特に軽音部の部員の誰かに、こんな弱い自分なんて見られたくなかった。 緊張しながら振り返ってみて、私は驚いた。 本当に驚いて、しばらく声が出せなかった。 多分、そこに軽音部の誰かが居たとしても、そこまで驚かなかったかもしれない。 それくらいに意外な人が私の背中を撫でてくれていた。 「平気?」 その誰かは特徴的なクルクルした巻き毛を揺らして、私の表情を覗き込んでいた。 その顔は普段の無表情だったけど、 反対に背中を撫でる手付きはとても優しくて、それがまた意外で私は言葉を失っていた。 いや、普段のその人を知ってたら、そりゃ誰だって声が出せないよ。 だって、私の背中を撫でてくれていたのは、 私のクラスメイトの中でもクールで無表情な奴の代名詞こと、 いちごだったんだから。 あの若王子いちごだぞ? 無表情なままではあったけど、 いちごがこんな事をしてくれるなんて誰も想像もしないよ……。 ずっと黙ったままの私を変に思ったんだろう。 無表情に首を傾げながら、いちごがまたぼそりと私に訊ねる。 「平気? 私じゃ不満? 軽音部の方がよかった?」 ぶつ切りの言葉で分かりにくかったけど、 つまり私の背中を撫でてるのが軽音部の部員じゃなくて、 いちごだったのを不満に思ってるのかって事なんだろう。 いやいや、もし本当にそうだったら、何様なんだよ、私……。 私は誤解を解くために首を振った。 いちごとは特別に仲が良いわけじゃなかったけど、そんな誤解はされたくなかった。 「そんな事ないよ、いちご。 ……ごめん、心配掛けたな」 「別に心配はしてない。 急に女子トイレに駆け込むから、何事かと思っただけ」 「さいですか……。 でも、ありがとうな」 「別に。お礼なんて要らない」 相変わらず無表情でぶっきら棒な奴だった。 普段なら取り付く島も無いと引き下がるところだったけど、 今日のところはそういうわけにもいかなかった。 私は背中を撫でてくれていたいちごの手を取って、軽く右手で握った。 バトンをやっているせいか少し豆があったけど、それでも小さくて柔らかい手だった。 「ありがと、いちご」 「だから……、そういうのはいいよ」 そう言っていちごは私から目を逸らしたけど、嫌がってるわけじゃないみたいだった。 無表情だから分かりにくいけど、もしかしたら照れているのかもしれない。 いつもクールないちごの意外な一面を見れた気がして、少し嬉しかった。 それで私の顔が少しにやけてしまっていたのかもしれない。 いちごが急に私と目を合わせると、無表情だけど神妙な声色になった。 「急に吐くなんてどうしたの? 妊娠?」 「そんなわけがあるか!」 「そう……」 「もしかしてからかってる……?」 「さあ……」 やっぱり分かりにくいなあ……。 でも、それは別に嫌じゃなかった。 長い付き合いじゃないけど、いちごはそういう分かりにくい奴なんだ。 分かりにくいけど、多分、それがいちごで、それでいいんだよな。 私はそうして一人で納得してから、いちごの手を取ったまま訊ねてみた。 「いちごの方こそどうしたんだよ。 最近、いつも学校で見るけど」 「そっちもね」 「私は高校生の鑑だから、どんな状況でも学校に来るのだよ、いちごくん」 「じゃあ、私もそれで」 「じゃあ、ってなんだよ。じゃあ、って……」 私は苦笑したけど、いちごは無表情のままだった。 だけど、その顔は単なる無表情とも違っていた。 本当に分かりにくいけど、 よく観察すると何となくいちごの心の動きが見える気がした。 もしかしたら、単にいちごは感情を顔に出さないタイプなだけなのかもしれない。 これまでも何となくそう思ってはいたけど、はっきりとは確信してなかった。 大体、こんなに長い間二人きりでいちごと話したのも、 考えてみれば初めてかもしれないな……。 不思議な感じだった。 さっき吐いたせいで身体はふらふらなのに、 思いも寄らなかったいちごとの会話のおかげで、自分の心がとても落ち着いてる気がする。 死ぬ事に対する恐怖が完全になくなったわけじゃないけど、それでも。 結局、それ以上、いちごは私が吐いた理由について訊ねなかった。 だから、私もそれ以上、いちごが学校に来ている理由を訊ねなかった。 どちらの理由も、お互いが言いたくなった時に言えばいいだけの事だった。 それに多分、深く詮索し合わないのが、 いちごが人と付き合う時に重視してる事なんだと思ったから。 いちごは決して冷たいわけじゃない。 またいちごに背中を撫でられながら、私はいちごに深く頭を下げた。 「落ち着いたよ、いちご。 ごめん、本当にありがとう」 すると、いちごは私の言葉に対して、またもやとても意外な事を言った。 「関係ない……」 「え?」 「関係ないわけ、ないから」 「ん……あ?」 また驚かされて、変な言葉が出てしまった。 口癖と言うわけじゃないけど、 いちごはこれまで何事に対しても「関係ないけど」とよく言っていた。 そんないちごが「関係ないわけない」って言ったんだ。 これは驚かされるよなあ……。 勿論、その言葉が私だけに向けられた物だと考えるのは、かなりの自意識過剰だった。 「関係ないわけない」ってのは、 自分と繋がる全てに対して……、って意味合いが強いんだと思う。 今までいちごは色んな事を「関係ない」と言っていた。 それは無関心が理由でもあったんだろうけど、 主にはそれ以上に他人の意思を尊重するって意味で使ってたんだろう。 自分の中の世界を大切にする代わりに、他人の中の世界も尊重する。 だから、お互いに必要以上干渉し合わないようにしよう。 そういう意味で、いちごは「関係ない」って言ってたんだと思う。 その考えは正しいと私も思う。 誰が何をしていても、それは個人の自由で、自分勝手に干渉する事でもない。 だから、他人のする事は自分には関係ない事なんだ。 でも、「関係ないわけない」というのも、正しい考えだと思った。 他人が何をしていても、自分自身にはほとんど影響がない。 その意味じゃ、他人のする事は自分には何も「関係ない」。 だけど、ほとんどないってだけで、完全に影響がないわけでもないんだ。 他人の、自分の何気ない行動が色んな事に影響を与えて、 何かが大きく変わっちゃう事もあるんだ。 何かと無関係でいられなく事もあるんだ。 私はちょうど今それを強く実感してるところなんだ。 世界が終わるって現状もそうだけど、それ以上に考えてしまうのは……。 「うん……。そうだな……。 関係ないわけ、ないよな……」 私は自分に言い聞かせるみたいに言った。 いちごはその私の言葉については何も言わなかった。 優しく背中を撫でてくれるだけだった。 ただ少し優しさを増したその手付きが、 私の言葉に頷いてくれているみたいには思えた。 何事にも無関係ではいられない。 いちごと私の関係にしてもそうだし、軽音部の皆と私の関係にしてもそうだ。 取り分け、梓と……澪だ。 特に澪と私はお互いに深過ぎるところにまで関わり合ってる。 小さい頃、私の好奇心から始まった私と澪の関係。 あの時、私がもし澪に声を掛けていなかったら、 澪の人生も、勿論、私の人生も今とは全く別の物になっていたんだろう。 澪がいなければ私はこの桜高には来てなかっただろうし、 私がいなければ澪は澪でそのメルヘンな性格を生かして、文学部か何処かで名を馳せていたのかもしれない。 当然それは仮定の話で、今現在の私が考えても仕方がない事だった。 だから、私は別の事を考えないといけない。 世界の終わりを目前にして、 私は澪との関係をどうするのか、どうしたいのかを考えなきゃいけない。 澪が私の事を好きかどうかは別としても、 少なくとも世界の終わりの日には何をしていたいのかを二人で話さないといけない。 それだけはこの残り少ない時間で私が解決しなきゃいけない事だ。 それで……。 それでもし、解決出来たのなら、その時は……。 まだ何も決まっていない状態で、こんな事を伝えるのは失礼かもしれない。 それでも伝えられるのは今しかなかったし、私達の結末をいちごにも知ってほしかった。 少し躊躇いながら、それでも私はゆっくりとそれを口にした。 「なあ、いちご。もしよかったらなんだけど……」 7
https://w.atwiki.jp/83452/pages/16151.html
話せば話すほど、自分自身の無力を実感させられる気がした。 私には梓に何かしてやれるほど、梓に信じられてなかったのかもしれない。 それを実感するのが恐くて、ずっと逃げ出してきた。 でも、もう逃げられない。逃げたくない。 私の胸の痛みなんかより、こんなに傷付いてる梓の姿こそどうにかしなきゃいけないんだ。 だから、梓の誤魔化しに騙されたふりをしちゃいけないんだ。 「そんな……、私が律先輩を信じてないなんて……。 そんな事……、そんな事ないよ……。 私は律先輩が……、律先輩の事が……。 でも……、でも……」 梓が呟きながら後ずさり、視線をあちこちに移動させる。 追い詰める形になってしまって、ひどく申し訳ない気分になってくる。 それでも、私は梓の腕を掴んだ手を離さなかった。 恨んでくれても構わない。 後で何度殴ってくれたっていい。 このままでいちゃいけないんだ。 梓の悩みがどんなに重い悩みでも、私はそれを受け止めたい。 それこそ犯罪が関わるような悩みだって構わない。 それを受け止めるのがここまで梓を追い詰めた私の責任だと思うから……。 不意に。 梓が視線を何度か自分の机の方に向けた。 さり気ない行為だったけど、 ずっと梓を見つめていた私は、それを見逃さなかった。 あらゆるものを見落としてきた私だけど、今度こそ見逃すわけにはいかなかった。 机の中に何かあるのか? それが梓の悩みの原因なのか? 「机……?」 私が呟くと、梓がはっとした表情で急に動き始めた。 私が無理に机の中を覗こうとしたわけじゃない。 何となく疑問に思って呟いただけだったけど、 その事で梓は自分の机を探られるんじゃないかと過剰に反応していた。 身体を無理に動かし、私に掴まれた手を振りほどこうと暴れる。 危険だとは思ったけど、私としても梓の腕だけは離すわけにはいかない。 余計に力を込め、梓から離れないようにして……、それが悪かった。 「ちょっ……!」 「うわっ……!」 無理な体勢でいたせいでバランスを崩してしまい、 二人で小さく悲鳴を上げて、その場で折り重なって倒れてしまった。 周りの机や椅子も巻き込んで倒れてしまって、豪快な音が教室に響く。 「痛たたた……。 大丈夫か、梓?」 それでも梓の腕だけは離さずにいられたみたいだ。 私は梓の手を掴んだまま顔を上げ、その場に座り込んで訊ねる。 梓からの返事はなかった。 やばいっ。打ち所が悪かったかっ? そうやって心配になって梓の方に顔を向けてみたけど、 幸い梓の方は自分の椅子に倒れ込むような形になっただけみたいで、私よりも無事な様子に見えた。 だったら、どうして返事がなかったんだ? 梓の顔を覗き込んでみると、梓は大きく目を見開いて私じゃない何処かを見ていた。 そこでようやく私は気が付いた。 倒れた衝撃で梓の机を横向きに倒してしまい、机の中身をその場にぶち撒けてしまっていた事に。 梓がその机の中身を見ているんだって事に。 事故とは言え、梓が隠そうとしてた物をこの目で確認していいんだろうか。 そう思わなくもなかったけど、それを確認しないのも不自然過ぎた。 心の中で梓に謝り、私もその机の中に入っていた物に視線を向ける。 「えっ……?」 そう呟いてしまうくらい、予想外の物がそこに転がっていた。 死体とか拳銃とか麻薬とか、そういう不謹慎な意味で予想外だったわけじゃない。 意外じゃなさ過ぎて、逆に意外な物だったんだ。 その場所には、うちの学校の学生鞄が転がっていた。 机の中に入れるために小さく潰されている。 多分、中には何も入ってないんだろう。 でも、どうして鞄を机の中に……? 疑問に思って私が梓に視線を向けると、急に梓の表情が大きく崩れた。 いや、崩れたってレベルじゃない。 大粒の涙を流して、大声で泣き声を上げ始めた。 「ごめんなさい! ううっく……、う……、あ、ああ……! うああああああああああああっ!」 梓が何を言っているのか見当も付かない。 鞄が何なんだ? 中には何も入ってなさそうだし、何で梓は泣き出してるんだよ? 突然の展開にこれまでと違った意味で不安になってくる。 「おい、ちょっと梓……」 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! 本当にすみません! すみません、すみません、すみません! すみま……せ……、うううう……! ひぐっ……! あっ……、うわあああああああああああっ!」 梓の涙は止まらない。 その原因が私なら何とかしようもあるだろうけど、 本当に何が起こったのか私にはまだ何も理解できてない。 梓の涙の原因……、それはやっぱり机の中に隠されてた鞄なんだろう。 鞄といえば、考えてみれば、最近、梓は部室に鞄を持って来てなかった。 それは授業が少なくなって、荷物も無くなったからだと思ってたけど……。 そこで私は一つの事を思い出していた。 ああ、何で気付かなかったんだ。 授業がほとんど無くなったのは、当然だけど『終末宣言』の後だ。 『終末宣言』の後も、梓は普段通りに部室に学生鞄を持って来てたじゃないか。 そりゃそうだ。授業が無くたって、弁当やら何やらの荷物はあるんだから。 梓が部室に鞄を持って来なくなったのは、 そう、約一週間前……、梓の様子がおかしくなった頃からだ! じゃあ、やっぱり梓の悩みは鞄に関係していて……。 そこでまた私の思考が止まる。 だから、鞄が何だってんだよ。 鞄の中身が悩みだって言うのか? でも、中には何も入ってないだろうくらい小さく潰されてるし、 何かが入ってたとしても、そんな大袈裟な物が入ってるわけが……。 一瞬、また私の思考が止まった。 疑問に立ち止まってしまったわけじゃない。 梓の悩みと、梓の痛み、梓の隠してた事が分かったからだ。 やっぱり、梓の悩みは鞄の中身じゃなかった。 まだ見てないけど、鞄の中身なんて見る必要もなかったし、中身なんて何でもよかった。 でも、それじゃ……。 こんな……、こんな事で、梓は一週間も悩んでくれていたのか? それもただの一週間じゃない。 世界の終わりを週末に控えたかけがえのないこの一週間を? 馬鹿だ。 本当に馬鹿な後輩だ、梓は……。 こんな取るに足らない事でずっと悩んでいただなんて……。 だけど、梓の辛さや不安は、私自身も痛いくらいに実感できた。 梓ほどじゃないにしても、同じ状況に置かれたら、 間違いなく私も同じ不安に襲われてただろう。 私は掴んでいた梓の腕を離した。 もう掴んでいる必要はない。 必要なのは多分、私の言葉と心だ。 「失くしたんだな、梓……」 「ごめ……ひぐっ、なさい……。 大切にしてたのに……、大切だっ、ひっく、たのに……。 どうして……、こんな時に……、ううううう……。 ずっと探してるのに、どうして……、ひぐっ、どうして見つからないの……!」 「京都土産のキーホルダー……か」 梓じゃなくて、自分に言い聞かせるよう呟く。 修学旅行で行った京都で、 京都とは何の関係もないけど、私達が買ってきたお揃いのキーホルダー。 私が『け』。 ムギが『い』 澪が『お』。 唯が『ん』。 梓が『ぶ』。 五人合わせて『けいおんぶ』になる、そんな茶目っ気から購入したキーホルダーだ。 何気ないお土産だけど、梓がとても喜んでくれた事をよく覚えてる。 最初はそうでもなかったけど、梓の喜ぶ顔を見て、 私もこのキーホルダーを一生大切にしようって思った。 それくらい梓は喜んでくれたんだ。 少し大袈裟かもしれないけど、 多分他の部員の皆も軽音部の絆の品みたいな感じに思ってくれてるはずだ。 その『ぶ』のキーホルダーを梓は失くしてしまった。 梓の鞄をどう見回しても見つからないのは、そういう事なんだろう。 梓が隠したかったのは鞄そのものじゃない。 本当に隠したかったのは、キーホルダーを失くしてしまったって事実だったんだ。 これまでの梓の不審な行動も、 失くしてしまったキーホルダーを捜しての事だと考えて間違いない。 ずっと思いつめていたのは、 自分がキーホルダーを失くしてしまった事にいつ気付かれるかと気が気でなかったから。 昨日、校庭で私の前から逃げ出したのは、 キーホルダーを捜しているのを私に知られたくなかったから。 深夜に外を出歩いていたのは、 自分の身も案じずに必死にキーホルダーを捜していたからだ。 梓は本当に馬鹿だ。 小さなキーホルダーのために、どれだけ自分を追い詰めてしまったんだろう。 こんなにやつれ果ててまで、どうして……。 だけど、誰にそれが責められるだろう。 少なくとも私には、そんな梓を責める事なんてできない。 不安で仕方がなかったんだろうと思う。 ずっと不安で、誰にも言い出せずに胸の中に溜め込んで、 不自然なくらい過剰にキーホルダーを失くした事を隠してた梓。 考えてみれば、さっきの行動にしたってそうだ。 鞄が梓の机から飛び出た時、いくらでも誤魔化しようがあったのに。 私にしたって、鞄を目にした当初は何も分かってなかったのに。 なのに、梓は過剰に反応してしまって、涙までこぼしてしまっていた。 それはきっと恐かったからだ。 キーホルダーを失くした事を知られてしまう事が恐くて、 ほんの少し私がその真相に近付いただけで、 全ての隠し事を知られてしまったと勘違いしてしまったんだ。 更に言わせてもらうと、何も梓は机の中に鞄を隠す必要なんてなかった。 鞄が学校の机にあるという事は、 キーホルダーを失くしたと梓が気付いたのは学校だったんだろう。 小さく潰れた学生鞄を見る限り、鞄の中身は小分けにして家に持ち帰ってるんだと思う。 多分、違う鞄を自宅から持って来て、それに入れて持ち帰ったに違いない。 梓はその時、学生鞄も持って帰ればよかったんだ。 持ち帰る時、学生鞄を誰かに見られるのが不安なら、 小さく折り畳んでその違う鞄にでも入れておけばよかったんだ。 まあ、そりゃ少し不自然ではあるけど、 普段と違う鞄を持ち歩いてるくらいじゃ、誰も深く問い詰めたりなんてしない。 でも、梓はその少しの不自然さすら、不安でしょうがなかったんだ。 もしもいつもと違う鞄を持っているのを誰かに見られてしまったら。 その誰かにいつもの学生鞄はどうしたのかと訊ねられてしまったら。 それで万が一、鞄の中身について訊ねられてしまったら……。 冷静に考えればそんな事があるはずないのに、きっと梓はそう考えてしまったんだろう。 だから、一週間も机の中に鞄を入れたまま、放置する事しかできなかったんだ。 誰かに見られるのが不安で、机以外の何処かに隠す事さえできなかったんだ。 「恐かっ……た……。恐かったんです……」 不意に梓が言葉を続けた。 しゃくり上げるのは少しだけ治まっていたけど、 梓の目からは止まることなく大粒の涙が流れ続けている。 私は座り込んだままで、涙に濡れる梓の瞳をじっと見つめる。 「『終末宣言』とか……、世界の終わりの日とか……、 それより前からずっと私、恐くて……。 不安で、寂しくて……。それで……」 「『終末宣言』の前から……?」 「はい……。私……、私、不安で……。 先輩達が卒業した後も、軽音部でやってけるのかなって……。 ひとりぼっちの軽音部で、 ちゃんと部を盛り上げていけるのかなって、そう思うと恐くて……。 それで私……、私……は……! う……っ、ううううっ……!」 また梓の涙が激しさを増していく。 梓の言葉が涙に押し潰されそうになる。 だけど、梓は涙を流しながらも、しゃくり上げながらも言葉を止めなかった。 ずっと隠してた涙と同じように、ずっと隠してた言葉も止まらないんだと思う。 「ごめん……なさい、律先輩……! 私……、私、とんでもない事をして……! 皆さんに、ひっく、皆さんに……、私は……とんでもない事を……!」 「何だよっ? どうしたっ? とんでもない事って何だよっ?」 梓の突然の告白。 気付けば私は立ち上がって梓の肩を掴んでいた。 梓の悩みはキーホルダーを失くした事だけじゃなかったのか? 新しい不安が悪寒となって私の全身を襲う気がした。 梓が「ごめんなさい」と言いながら、自らの涙を袖口で拭う。 「ごめ……んなさい……! 私、考えちゃったんです……。 願っちゃいけない事なのに、願って……しまったんです……。 『先輩達に卒業してほしくないな』って……。 『先輩達とまたライブしたいな』って……。 それが……、それがこんな……、こんな形で叶……、叶うなんて……! 私……が、願っちゃったから……! 終末なんて形で……、願いが叶って……! そん……な……、そんなつもりじゃ、なかったのに……!」 おまえは何を言ってるんだ。 終末……、世界の終わりと梓の願いが関係してるはずがない。 それこそ自分が世界の中心だって、自分から宣言してるようなもんだ。 世界はおまえを中心に回ってない。 世界の終わりとおまえは考えるまでもなく無関係だ。 無関係に決まってる。 私はそう梓に伝えたかったけど、そうする事はできずに言葉を止めた。 そんなの私に言われるまでもない。 梓だって自分がどれだけ無茶な事を言っているか百も承知のはずだ。 梓は頭がいい後輩だ。私なんかよりずっと勉強もできる。 確かに梓の言葉通り、世界の終わりが来る事で私達の卒業は無くなったし、 あるはずがなかった最後のライブを開催する事ができるようにはなった。 だとしても、その自分の願いが世界の終わりと何の関係もない事は、梓だって理解してるだろう。 それでも……。 それでも梓がそう思わずにはいられない事も、私には痛いくらいに分かった。 世界の終わりがどうのこうのって話より、梓は多分、 間近に迫った私達の卒業を心から祝福できない自分に罪悪感を抱いてるんだと思う。 笑顔で見送りたいのに、私達を安心して卒業させたいのに、 それよりも自分の寂しさと不安を優先させてしまう自分が嫌なんだと思う。 梓は真面目な子で、いつも私達を気遣ってくれていて、 ちゃんとした部と呼ぶにはちょっと無理がある我が軽音部にも馴染んでくれて……。 梓はそんな私達には勿体無いよくできた後輩だ。 よくできた後輩だからこそ、色んな事に責任を感じてしまってるんだ。 そして、梓をそこまで追い込んでしまったのは、ある意味では私の責任でもあった。 二年生の部員は梓一人で、一年生の部員に至っては一人もいない我が軽音部。 五人だけの軽音部。 五人で居る事の居心地の良さに私は甘えてしまってた。 五人だけで私の部は十分だと思ってた。 それはそうかもしれないけれど、一人残される梓の気持ちをもっと考えるべきだったんだ。 五人でなくなった時の、軽音部の事を考えなきゃいけなかったんだ。 梓はずっとそれを考えてた。考えてくれてた。 だから、梓は私達の中の誰よりも、キーホルダーを大切にしてくれてたんだ。 世界の終わりの前の一週間を費やしてしまうくらいに。 「キーホルダーだけどさ……」 私が小さく口にすると、目に見えて梓が大きく震え出した。 触れずにいた方がいい事かもしれなかったけど、触れずにいるわけにもいかなかった。 梓をこんなに辛い目に合わせているのはキーホルダーだ。 小さなキーホルダーのせいで、梓はこんなにも怯えてしまっている。 でも、梓を救えるのも、恐らくはその小さなキーホルダーだと思うから。 私はキーホルダーの事について、話を始めようと思った。 23
https://w.atwiki.jp/akuyakukeimusyo/pages/69.html
からくり師 本名:蔵元儀兵衛 年齢:40 性別 男 所属棟 C棟 罪状:テロ共同正犯 懲役:101年 経歴:絡繰屋敷蔵元家の分家 職業:からくり師 その他備考:物作りだけを考え、その他のことは後で考える性格のため、知らず知らずのうちにテロ集団に加担し武器の用意をしてしまった 役割:底辺看守殺しの犯人である上層部の人物に依頼され、あるものを作った。後にそれが最悪の結果を招き自身も殺される 危険度:3 脅威度:3 脱走率:1 総合ランク:7(B) 囚人番号:4129 時計技師 本名:ルイス・ホープタワー 年齢:26 性別 男 所属棟 C棟 罪状:時計塔への侵入 懲役:3年 経歴:時計ブランドおかかえの一流時計職人 職業:時計職人 その他備考:一流時計職人として名を馳せる。しかし、究極の時計を求めて国の最重要な時計塔へ無断で侵入、逮捕される 役割:からくり師と協力して、上層部の人物のために何かを作る 危険度:1 脅威度:1 脱走率:1 総合ランク:3(C) 囚人番号:2582
https://w.atwiki.jp/83452/pages/16129.html
戻る こういうラストは気になりますなぁ -- (名無しさん) 2011-11-01 04 14 42 ちの文読むの疲れたけどこれ凄くいい -- (名無しさん) 2011-11-01 08 21 47 長くて読むのが大変だったけど良い話しだったよ -- (名無しさん) 2011-11-01 09 50 20 元ネタの事は知らないけど感動する良い話しだったよ。 -- (名無しさん) 2011-11-01 10 10 53 リアルで追ってたなぁ こういう雰囲気(なの好きだ -- (名無しさん) 2011-11-01 10 56 44 よくこんなに書ききったなあ -- (たくあん) 2011-11-01 16 44 04 お金払ってもいいレベルだなこれは… 最後のライブ映像化したら凄いクオリティになりそう -- (名無しさん) 2011-11-01 17 43 49 長いから飛ばしちゃったけどよかった。でもやっぱり長い。 -- (名無しさん) 2011-11-01 18 44 41 各キャラクターのスポットのあてかたがすごい 長いけど読んで良かった -- (名無しさん) 2011-11-01 19 36 52 これもまとめられたのか -- (名無しさん) 2011-11-01 22 32 48 感動する良い話しを久しぶりに見れて凄く良かったよ。 けいおんはやっぱりみんな仲が良い内容の話しが1番だよ。 -- (名無しさん) 2011-11-02 03 19 44 感動しました。 -- (名無しさん) 2011-11-02 03 37 47 終末はただのキッカケに過ぎなかった 彼女達それぞれの絆を再確認するための、トリガーでしかなくて、 それ以下でもそれ以上でもない 終末が本当に来たのかは重要じゃなくて、 終末までにどう過ごしたかが大事 私の中ではこの物語の終末は来ない。 認めちゃったらそれこそ終末だと思うから。 -- (名無しさん) 2011-11-02 04 10 30 自分にとって最も大切な人に今まで伝える事の出来なかった本当の気持ちを素直に伝えさせる為に終末宣言を発表したと言う展開を期待していたけどこれはこれで良い終わり方だと思う。 -- (名無しさん) 2011-11-02 05 48 13 ↓2・同感です。 -- (名無しさん) 2011-11-02 05 50 45 うむ久しぶりに良いものを見せてもらった。 -- (通りすがり) 2011-11-02 18 02 22 長かったけどすごいよかった…読んでよかった。 -- (名無しさん) 2011-11-03 00 09 36 久々に良い長編SSを読ませてもらいました。 書いてくださった方に深く感謝いたします。 これからも良い作品を書いてください。 -- (名無しさん) 2011-11-03 00 34 45 いい話でした!このSSのりっちゃん達にすごく感情移入してしまって 読み終えた時なんか寂しくなっちゃっいました。りっちゃんの主役っぷりもすごく良かった。 この作品を書いてくれた作者さんにありがとう。 -- (名無しさん) 2011-11-04 22 28 01 りっちゃんがイケメンなだけのNo,Thank you!な良作だったな‼ -- (あずにゃん) 2011-11-04 23 12 02 やたら絶賛されてるけど、途中で律澪ばかりにフォーカスされてつまらなくなった。 もっと各キャラを丁寧に描いて欲しかった。 -- (名無しさん) 2011-11-04 23 16 50 面白かったんだけど、一つだけ治安が良すぎるのがなんかアレ?ってなった -- (名無しさん) 2011-11-05 02 23 11 何故、骨董屋に写真が売っているのか、有名人のでもないのに、べらぼうに高いのか分からなかったが、見た瞬間俺には衝撃が走しり、今、財布の諭吉達は骨董屋のレジスターの中に、写真は仕事場に飾られている。 写真を見てると不思議と創作イメージが溢れてくる。主人公達のキャラ、ネーミング、舞台…初めから決まっていたかのように。しばらくして、俺は電話を掛けた。 「もしもし、かきふらいです。新作のプロットが出来たんですが…」 -- (蛇足お許し下さい) 2011-11-13 15 38 33 凄く切なくなったけど、良いssでした。 感動したー -- (名無しさん) 2011-11-16 00 49 40 悩んで、苦しんで、泣いて叫んで、それでもみんなで答えを見つけ出す。 いい話、そしていい「終わり方」だったと思います、本当に。 -- (名無しさん) 2011-11-17 06 53 20 今この胸に渦巻く気持ちをなんて表現したらいいのかわからないけど、世界に幸あれ!! -- (名無しさん) 2011-12-11 21 58 07 スキャンダルの瞬間センチメンタルがすごいマッチした -- (名無しさん) 2012-01-08 01 03 22 原作ゲームを知らない俺が真っ先に思い付いたのは『終末のフール』だった。なんかりっちゃんがちょい卑屈になってて遠回りしすぎてる気がしないでもないが最終的に前を向くし嫌いじゃないぜ -- (名無しさん) 2012-05-16 03 49 06 47まで四だけどダウン これは長すぎ -- (名無しさん) 2012-05-18 21 36 34 テーマ曲は瞬間センチメンタルで -- (名無しさん) 2013-01-08 23 27 08 大長編をまとめ上げた情熱に乾杯! とくに後半は熱がこもっていることがよく伝わってきました。 -- (名無しさん) 2014-08-10 17 59 54 昔読んだときも今素読みしても良い話だなぁと思う。 -- (名無しさん) 2015-05-09 21 52 17
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/42643.html
《時龍縫合 エンド・オブ・ザ・クロック》 時龍縫合 エンド・オブ・ザ・クロック SR 水/闇文明 (6) クリーチャー:ディスペクター/アウトレイジMAX/ドラゴン・ゾンビ 6000 ■G・ストライク ■EXライフ ■このクリーチャーが出た時、自分の山札の上から3枚を墓地に置く。 ■相手のターン中、相手がカードを使った時、または相手のクリーチャーが攻撃した時、それがこのターン中に3回目なら、ターンの残りをとばす。 作者:SYS 備考 《終末の時計 ザ・クロック》と《黒神龍エンド・オブ・ザ・ワールド》の『縫合』ディスペクター。 「相手がカードを使った時」と「相手のクリーチャーが攻撃する時」のカウントはそれぞれ別です。 関連 + ... 【企画】連結!集結!ディスペクター! カードリスト:SYS 《黒神龍エンド・オブ・ザ・ワールド》 《終末の時計 ザ・クロック》 評価 選択肢 投票 壊れ (1) 強カード (1) 良カード (0) 微妙 (0) 分からない (0) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/15481.html
終末の破拳者(ブレイカー) ノーザン・X(クロス)・ナックル SR 火文明 11 クリーチャー:ヒューマノイド/アーマード・ドラゴン/ハルマゲドン 9000+ ■リベンジ・チャンス―各ターンの終わりに、バトルゾーンに相手のクリーチャーが5体以上あれば、このクリーチャーをコストを支払わず召喚してもよい。 ■エンドレスエンド-シールド ■EE-パワーの合計が9000以下になるように相手のクリーチャーを好きな数選び、破壊する。 ■バトル中、このクリーチャーのパワーは、+6000される。 ■W・ブレイカー 作者:宇和島 フレーバーテキスト その昔、暴徒軍団を一晩で壊滅させたといわれている、伝説の竜拳を使う者がいたという。 評価 名前 コメント