約 758,487 件
https://w.atwiki.jp/ryuunabe/pages/3268.html
時計職人 アイドレスWiKiの該当ページ L:時計職人 = { t:名称 = 時計職人(職業) t:要点 = エプロン,ルーペ,作業 t:周辺環境 = 工房 t:評価 = 体格3,筋力3,耐久力3,外見2,敏捷1,器用5,感覚3,知識6,幸運2 t:特殊 = { *時計職人の職業カテゴリ = 派生職業アイドレスとして扱う。 *時計職人は時計製造、修理に関する行為において+5の修正を得ることが出来る。 } t:→次のアイドレス = 親方(職業),高級時計(アイテム),秘密の時計(アイテム),機械職人(職業) } 派生前 時計の街→時計塔→恩寵の短剣 懐中時計→優羽玄乃丈 コメント チクタクチクタク 時計の修理、製造なんでもござれ。時計の事なら任しとけ! な時計職人。性能という意味では派生でも考えないと戦力にはならない。しかし、戦力だけがアイドレスではない。時計職人したいなぁ なんて人には大望のアイドレスであろう。 どんなモノでもそれで頂点を目指すってのは大変だけど、その頂点を特化すると案外とってもスゴイものになるものである。
https://w.atwiki.jp/rewirte/pages/14.html
原案『END/and,』加藤瑞樹 土佐玉 癒人 川に想いまでは浮かばない。 浮かぶとしたらもっと、実体のあるものだ。 音も無い空間の中で、暗い水が視界を埋め尽くしていた。 周囲の空気が暗色のせいもあるが、目の前を流れる川は荒れや滞りも見せず、時折波を立てるくらいだ。それも人の足首にも届かないくらいに小さいが。どこまでも落ち着いている、かえって気味が悪くなる位に静謐だ。 先程から俺はここにいる。ここがどこだか知らないままで。気付いた時には周囲の有り様はこの通りであった。 時計も無く、どのくらい見続けていたかは不明だが、あまりに変化ない映像というのも見飽きていた、自分の立っている場はそのままに、前屈みになって薄墨色の水に自分の姿を映す。顔の細部までは再現できない明度であるが、よれてみすぼらしい自分の外見は分かる。しかし周りの空気と同様に顔全体は膜が張り付いたように明瞭さに欠けている。 どのように焦点を合わせても、川底までは見えそうになかった。薄墨色の水面に映る、自分の影絵のみだ。のっぺりと、顔面を覆う暗闇は、まるでそこだけ削ぎ落されたようであった。 このまま眺めていたら、俺を吸い込んでくれないだろうか。 見えない水底に俺が投げ込んだのはとんだ願望だろうか。尋ねた相手は顔も知れない。自分がどんな鼻をしていたか、うっすらと忘れかけている事に気付いたが、気にしない。 「う、ん?」 とそこで足の裏に痛みを感じ、踏んでいた石を一つ取ってみた。煙草のケース程の大きさで丸みが目立つ。尖ったものを踏んだのでなければ、何故あれほど直に刺激を感じたのか。 しかし改めて視線を落とすと、なんて事もなかった、靴を履いていないだけであった。 そうして、そうだ。何故自分が靴を履いていないか、それを思い出して、成程、ここがどこか、予感が浮かぶ。 つい先ほどまでの現実が蘇る。 重力を借りながら、落下していく体。 耳が爆発音のような音を響かす空気の鋭さ。 体が削られていくような、心が砕かれていくような。 排ガスが吹く忙しない車道を背景に、間隔が遠くなる感覚。 放たれて、離れて、そうして辿りついたのがこの河原なら。 「…………」 足の裏が、石から離れる。ここに来る前のように、歩きながら落ちようとは考えていない。夢くらいでしか経験は無いが、足場を急に失う感覚はあまり気持ちのいいものではない。だから地面と水の境界線、あと一歩のところで立ち止まる。相変わらず、このままでは水底は確かめられそうにない。 反射的にかかとに手を伸ばし、それが無い事に気付く。仕方なく靴下を脱いだ。 流れを壊す事を躊躇いながら、右足から慎重に川に入れる。ゼラチン質にでも飛び込んだかのような感触をまず感じる、水に温度は感じられず、しかし、間違いなく水中であった。 左足、体と続けて入れる。音は立たないが波紋は広がる。川本来の些細な波と、合流して打ち消してしまう。 体の大部分を水につけたが極度の冷えは訪れない。夏場の雨上がりの時のような、水より空気に近い冷涼さだった。 心地よさに、力が抜けていく。 足がつかなかったため沈まないように岸にかけていた手を、その行動にどんな意味があると言うのか、自ら放した。 川に俺が浮いている。腕一本程の重みも感じない。 体は上向きになり、空を見ようとするように上を向いた顔に水面が覆われる。 漏れた気泡が横を過ぎる。自然と上へ向かおうとして、それでも体は水中で留まっている。浮遊する感覚。似ている。こうして、形の定まらない中に自分がいるという経験は。中々出来るものではないのに。 目を閉じ、音も聞こえず、指がどちらを向いているかさえ曖昧になる。自分が水と一体化するような気分を味わっていたところ、それは遠慮も知らなかったようだ。 力が、別のところから加えられた。 頭が奮われたようなこれは、急浮上する感覚、ざばんっ、飛沫があがる音、正しくは自分の体が上げた音に目を開く。 「悪いが、当分は早いな」 それは、なんの比喩でも無く、 「上がれるか?」 影が俺の腕を強引に掴んでいた。 思えば彼女はいつも、俺の行動を先取りしていた。 どこかに出かける時は合わせた時間より何分も早く来ていたし、周りを見て吸いなさいよ、などと一度も彼女の前で吸った覚えがないのに喫煙を糾弾された事もある。隠す心配も無くなり、おかげでそれ以降は彼女の前でも吸うようになったが。 俺の思考などお見通しだと言わんばかりに。だから、彼女は俺の事なら全てを理解してくれているのだと、都合の良い思い違いをしていた。 当然露にもそんな事は無く、何よりも、彼女が彼女自身を理解している一割でも俺が彼女の事を分かった事などなかったのだ。 都合の悪い事に。 「寒くないか」 「お前だけだろう」 腕をさすり尋ねた俺とは異なり、相変わらず不動で川の向こうを眺めている。顔の辺りから響いたのであろう淡々とした答えは、どんな問いの時も変わらない低音だ。そしてどれだけ聞いても、相手が俺に質問の形を示してはこない。先程の奇行に対しても同じく何も触れてこないため、有難いと思うべきか、単に興味が沸かないだけか。 相変わらず決まりきった穏やかな川の流れを目前に、波音に被せるように、ぽつぽつと二人の声が辺りの空間に染み込んでいく。他に人の影も虫の羽音も感じない。生物の気配が皆無だ、とでも言えば伝わるのかもしれない。それは当然、俺達にもあてはまる。 最初に誰だあんたと尋ねたが、相手はさあねと返してきた。 「あんたらが言いたい事は分かる。俺がいる概念も大方その程度の事だろう。決められているんだ。しかし、それだけで俺が出来ている訳ではないんだ。他にも何かあるはずなのに、俺が俺自身を当てはめる時の言葉はまるで浮かばないんだ。これでは存在が無いのと変わりないのにな」 などの事を目の前で言っている、俺を川から上げた相手の姿を見回していた。 影が自我を持ったようなそんな姿だ。 光の届かない洞穴を切り取ったような、深く純度の濃い黒の布をそのまま繋げたような服(ローブとかいうのに似ている)を身につけていた。顔はフードが被さっていたため口元しか見えず、不健康な白さであるのに目立った印象は無い。周りの雰囲気もあってか、話に聞く程恐れを感じるものはなかった。 「ああいや」 立ちあがりながら手を横に振る。水を吸ったはずの服は思いの他軽く、気だるげも無く動く事が出来た。 「正直、あんたの正体にそこまでの興味は無いんだ。ただ、あんたみたいなのがいる事で、俺がここにいるというのはどういう事か確信が取れたんだ」 「なら、気付いたか」 「というより、忘れていたようだ」 「無い話では無いさ。どこであろうと苦悩から逃れるために、容易に自分の思い出をいじくるものだ」 「記憶の方が的確だがな」 俺は死んでいる。それならここは、そういう事だろう。 「船が来るんだ」 最初、相手の反応を返せないでいた。話の最中ではあったが、何分手が淋しいようで自然と石を掴んでいた。そして動いて体を温めようと思ったのか、川に向かい放り投げていた。 どれだけ全体の力を使っても、水面は二回しか波を立てない。跳ね終わると薄墨色の向こうに沈んでいく。小さな波紋も落ち着いて、ようやく返事をする。 「そうか」さっき早いと言っていたが、それまでまだかかると言う事か、いや、俺はそれを待つ必要があるのか。また、石を掴んでは水面に向けて投げていく。 「その船に乗って向こう側へ行くんだ」 「どっちなんだ」 「何がだ」 「俺が行くのは天国か地獄か。それとも、そんなものはやはり空想でしかないのか、あんたなら知っていそうだがな」 「さあな。教えたところで、納得できないなら同じ事だ」 「そういうものか」 石を投げる手は止まっていた。この涼しさは別のところに要因があると感じたためだ。俺は溜息を零していた。相手の解答に、かすかでも落胆していたのかもしれない。 「行きたいところでも、あるみたいだな」 相手の口調に変わりは無かったが、気になる事だったため、相手へと集中を戻す。 それは、人影が初めて俺にしてきた質問だ。 答えたくない訳ではなかった。すぐにでも出てくる。だが。 「何も、知らないのか」 「俺に知りえるのはこの川の事くらいだ」 川の流れに引けを取らない程、人影の声は定まっていた。 ここに来るものを審査している存在だと思った。生前の行動と死因によって導き方を決めていると。しかし、いや、この一連の行動が道筋を決める試験なのだろうか。 どちらであったところで何だ、そう思い思考を止めていた。 目的地ならある。ただそれは天に浮き上がっても、地の底へ落下しても、行けるところでは無いんだ。 「自殺したんだ」言った途端、口元が自嘲の笑みで歪む。 人影は「無い話では無いな」と表情を変えずに呟いた。 結婚の話を聞かされて、それでも何も言えなかったのは、相手がよく知る人物であったからだろう。 数少ない俺の友人だ。人当たりが良く、人間関係に事足りる事は無いにも関わらず彼女や、俺ともほとんどの時間を過ごしていた。彼女が腹を立てる声を聞きながら、共に煙草をくわえていた事もしばしば思い出せる。格好を気にする俺とは違い、彼はいかなる時も存分に煙草の味を堪能していた覚えがある。 愛想の欠片も無い自分のような人間がそれまでの人生で上手い事やっていけた、大きな支えの一つは彼に違いない。残り一人は、当然彼女だ。 だからこそ、二人が結ばれ、幸福を掴もうとしていた時、真っ先に祝ってやらねばと思うのは俺の義務であったんだ。何よりも最優先に考えてきたのだから。出来なかった今更ながら。 本当に、一人一人なら良かったのに。 そんな事を思う自分を、俺はこの日から容赦なく責める事となる。 川がいくら穏やかでも、他にまでその流れがくるとも限らない。現に、自殺した事を告白してから俺の体は震えを止めない。 体全体を押さえていた。止まらない寒気、それもあるが、認めたことで改めて、全身を走る感覚があった。 「痛むのか」 顔全体を歪めた俺に、不思議そうに人影は尋ねる。 「そうじゃないが、なんだ。ああ。痛むような神経もないか」 「いや、来たばかりなら良くある。体を失っても、まだ痛みとはどういうものか思い出せる間はな。記憶と経験で、あっちとつながっていたいのかもしれないな」 穏やかに流れる川の近くでは時間の概念も失いそうになる。だが今の話では、ここに来てまだそれほどの時間は経っていないようだ。俺はまだ俺の体を、俺の体ならこうなるだろうという感覚を忘れていない。向こうに近いものも残されている。 「友人がいたんだ。二人、そうだ、二人だ」 結婚すると聞かされた、と言って通じるか不安だったが、「ほう」という言葉一つ、ましてやほぼ表情の見えない状態では、理解しているかどうかなど掴めなかった。 「衣装合わせにも何故か付き合わされてな。どうせなら今後のためにお前もどうだって勧められて。断固として拒否したんだ」 「婚期の遅れとか言うやつか」 「男には中々適応しないな。そうだな、結婚できなかった事の後悔はあるし、出来なかったからこそ良かった事もある」 本当に望む相手と添い遂げられなかった、後悔と。 彼女以外の夫とならずに済んだ、安堵が。 彼の提案を頑なに断っている内に、彼女の試着が済んだらしく、晴れ姿の彼女を見た。 幸せというものの形を見せつけられた。 綺麗だ。素直に、そう言えれば良かった。 しかし、純白のウエディングドレス姿の彼女と同じく白の衣装の彼を交互に眺め、それがとても映えた素晴らしい光景であると思い知ると、言葉は何も出なかった。 冷やかしも賛美もなく、見とれてしまっていた。 あれ程彼らの笑顔を遠くに感じた瞬間は無かった。 「つまり」 人影が聞いてくる。 「お前の友人二人が、お前の気も知らず勝手に結婚してしまった。自分の居場所はもう無いと感じたから自殺したのか」 また質問だ。どれもそして核心をつくものばかりだ。 「それだけが、原因では無いさ」 自殺する人間は精神が弱いらしいが、俺はもっと根本的に駄目だ。精神を収める器がもともと小さ過ぎた。 その日俺は死なずに済んだかもしれないと思うが、そんな事を言ったらどのような事にも言えるだろう。終わりなんて本当なら何時でも選べる、それを避けてきたその日までの自分を愚かだと否定する事は出来なかった。軽蔑するのは、結局選んでしまったその日の自分だ。 電話が鳴っていた。ありきたりな鈴に似た騒音、一拍止まり、また鳴り出す、それを繰り返している。 今日は特別な日だから仕事も休みの連絡を一カ月前から入れたはず、自分の部屋で手のかかる衣装も丁度今着終わったところで誰なんだ、妙な電話なら出ないつもりだったが、名前を確認して、すぐに通話ボタンを入れる。 『俺だ』 「そうだな」 その特別行事の主役こと友人からの電話だったからだ。 既に覚醒していたため寝ぼけたなんて事は無い。しかし当日になんのようだと。 『今日まで来られた』 「明日もあるだろ」 『お前は相変わらずだな』 いつもの、それは彼らしい口調で、銜え煙草に笑みまで映像としては浮かんでくる。あいつはしかしどうだろう。今の俺を普段と変わりないと言っている。 本気でそれは、知らないと言っているつもりか。 銜え煙草の彼の思惑を掴めず、不穏な雰囲気に耐えようとして、電話に触れる指に力を入れた。何が言いたいんだこいつ。 俺は、今何を言おうとしている。 『これからも二人共々頼むよ』 「二人」 『ああ』 「二人だけ、か?」 それでいい。二人で生きていくなら勝手にしろ。俺を巻き込むな。俺の事など忘れろ。 「二人だけの幸せだと、本当にそう思ってんのかお前は」 『違う。お前がいてこそだ』 否定。含みを感じない。本音銜え煙草は何時消したんだ。 『正直お前にも』 通話口からの言葉に感じなくなったもの、何と言うのだこれは、親しみか友情か。 距離、か。彼は向かってきている。今彼を包み込む、汚れ無き純白。彼女の笑顔に彩られたその風景を、俺は、見えない。 携帯を切って、何かに呼ばれるように、外に出たのは言うまでも無い。走っていたはず、自覚は無かった。 「……」 奥歯を軋める。川も、人影も見ず、足下の石をひたすら目に映す。死ぬ前でも、外したことをやっているのか俺は。 どこか中途半端なんだ、何をやっても。 昔からともに過ごしてきた彼女の好意を寄せる相手さえ知らず、彼の行為を真似しても周りに好かれるように振る舞うことはできず、まるで結果が見えてこなかった。 結婚だってそうだ。 もし彼女だけであったら、彼と二人でやけ酒を一晩交わせたかもしれない。彼だけだったら、彼の結婚相手に彼女と共にいくらでも彼の善い所や思い出を語れたかもしれない。どちらも二人そろっていなければの話。 何一つ満足に行えた経験が無い。行動に付き添って後悔が隣にいる。初めから分かっている、しかもマイナスの方向にだから救いようが無い。 それでも、もしも彼らがこれからは、二人だけで幸せを積み重ねていけるというなら、それは祝福すべき事だ、障害や迫害があってはいけない。それなのに。 「俺を、手放してはくれなかった」 彼らは変わらぬ交流を求めた。彼女の声は聞いた訳ではないが、彼の言う事は大方彼女の言い分を引き延ばしたものだ。何年共に過ごしていたと思うんだ。 変わらないでいられる訳がないだろう。変化を、脱却したかった、結婚式だってまともに参加する気など無かった。一目見て、帰るつもりだった。二人の幸せを享受出来ない、分かって欲しかったのに。分からなかった俺が難など言えない。 「だから、」俺は落ちる事にした。 落とし穴は嫌いだが飛び込みに恐怖は無い。突然足下が無くなる感覚は永遠に失われない。あって当然のものを突然失くすくらいなら、覚悟のもと自分から突き放そう。 だから俺は重力に逆らった。 気付くと呼吸も忘れるほど、そこまで走り抜けていた。 ビルの屋上、邪魔なフェンスを飛び越えてアスファルトへ。 上に上がって、下に下がる。 空を見て青く、道を見れば遠く。 すとん、 浮かぶ、落ちて、空気を滑る。 重みの無い体、手足が自然と空に伸びる。 俺は空気の中にいた、永遠のような、浮遊の感覚。 目を閉じる。その感覚も邪魔だった。自ら取り外す。 心地よい経験にもだが終わりは来る、終着点が頭をかする。 そうだ、最後に名前を呼ぼう。 どちらにしようか。 ああ、声も出ないようだ。 赤を想像する間もなく、ぷつん、と切れた。 「……そうか」思わず零してしまい喉元を押さえる。あの時使えなかった部分、自由に使える今はそれも苦しい。最後まで、自分の想いに達しない。 そんな俺ならば、ここに来ても何故満足出来る保証がある。飛び降りて初めて、そうまでしたのがもしそれに気付くためだとしたら、何て安い命の投げ方だったんだ。 今、何を残してきたと感じている? 俺が後生手放さず持ち続けてきたものは、何だった? 横から石同士がこすれる音がして、顔を上げると、暗色の空気にあって、なお存在が浮き立つ黒ローブが俺を見下ろしていた。耐えられず零れて、頬を伝う感触は冷たい。 「無い話では無いさ」人影は言う「心残りも思い残しも、それがあんたらだろう、責める事は無い」 言葉を受けて、溢れ出す想い。俺の器は小さいんだ。 また、彼らに会いたい自分がいる。 届かないからこその願いかもしれない、それでも、死を確かに覚悟した俺がいたように今、二人の事を考える自分はまだここにいるんだ。 生きていく事が、苦しくもなった自分にとって大きな支えだった二人を、一度に失ってしまったんだ。拠り所の無い自分は、そこにあるだけの空間を浮遊し続ける存在と変わってしまったように。 浮かぶ感覚は心地いい。しかし、それが永遠に続いていくのなら、変化もないものなら、かえって恐怖でしか無い。 このままでいるしかないのか、俺は。 「会えなくなる事の辛さを分かっているな」 川のせせらぎの中、静かで細かな音の中、人の声、俺が聞く声は、一つだけだ。 「お前なら大丈夫そうだ」 人影は足下の石を掴む。相手の意図を読めない俺は、思い付いたままに尋ねていた。 「なあ、生まれ変わりってあるのか」 今の気分は変わらない、それでも聞きたかった、これ程までに諦めが悪いのも、今だけだろうが。 「俺では、答えられないんだ」 その声は、悲しそうに聞こえた。人影は続けた。 「だが、巡り合いなら信じている」 人影は石を川に投げる。水切りと違い軽い動作で放り投げ、石は山なりの軌道を描くと、薄墨色の向こうへ呑まれていく。 姿に似合わない言葉だとは思った。しかし、 「俺が知りえるのは、この川のことくらいだ」 人影は俺の方を向く。顔は相変わらず見えないまでも、言葉を出す口元は、目が離せなかった。 「川は、どこから来ているのだろうな」 呟き、いや、質問ととらえて俺は返事をする。 「場所、ではないだろう。元を辿れば、海か? 空か?」 「海の水が蒸発し、雲となっても雨と変わり、雨水が集まって川を作り、また海へと流れていく。付け加える課程はまだあるが、この流れは変わらない。永遠に繰り返す」 水循環の話なら知っている。きっと、彼が言いたいのは。 「何で川であると思う? 壁でも崖でもいい所の川だ」 この世のすべてに意味はある、って言葉がある。ここはこの世とは呼べず、神秘の度合いも濃い場所であるが、神様ってやつが手抜きで考えたとは思えない。 どこかに繋がっているとしたら、ここも例外ではないのか。 「俺は自分が何で出来ているか全てを把握していない。だが、あんたの知り得る限りで、人間は何で出来ている?」 薄墨色の表面を見ながら人影は呟く。俺は咄嗟に先程、冷たさを感じた方の頬を拭う。 それがもしも、用意されたものならば、神様ってのは、流石思慮深いようだ。 「帰巣本能や郷愁の想いってのも、それなら納得がいかないか? あんたらはきっとそういう風に出来ている。回る事も出来るが、戻ってくる事を願う事も出来るんだ」 思わず、目元に指先が伸びる。そうでないと今度は、零れるどころの量ではないだろうから。 緩やかな波の音、水の流れは止め処無く聞こえる。この流れは次第に大きな存在に集約されるか、または軽くも恩恵を与えるため空に昇るか、現実のそのようなものとは異なる所へ辿りつくか。こんな場所でも、どこかで繋がっているんだと、想う事が出来る。 そう俺も、また巡る事が出来る。 再会を夢見る事が出来る。 「俺は、その時、俺なのかな」 そして今度は、二人一緒でいてくれるのだろうか。 人影は応える。 「決めつけられて良い思いはしないだろうが、最初から決まっている事はいくらでもある。人としてお前が生まれ、呼吸をして、歩いて行けたように、どんな事があろうと会う奴には会える。出会える奴には、出会えるようになっているんだ」 どこでなど言うべきじゃあないのだろうな。俺も、聞くべきではないのだろうから。 「ああ、分かった。そうだな」 「では俺は消えるとするか」 「わざわざ言ってくれるんだな」 と返した言葉は聞かれていたか分からない。辺りは川と石と暗色な空気だけの空間になっていた。 もはや、言葉を放つ者が俺だけしかいないここで、俺は一つ溜息をつき、呟く。 「無い話では無いか」 思う事が無い事も無いが、しばらくはまた浮かばせてもらおうと、体を川に再び入れ込む。 浮遊する感覚、居心地の知れない心地よさに、涙が伝った頬も濡らされる。 ふと思ったが、このまま流されていけばどうなるのだろう。地を進む亀より遅いならどれ程流れるかも知れないが、もしもどこかに辿りつけるなら。 いや、止めよう。 霊魂となる事も、船がある事もあくまで手段として用意された事に過ぎない。乗るかどうかの選択権はあるはずだ。 俺は、自分の意思で会いに行く。 どれだけの道を通ろうと、どんな形になろうとも、俺の中に流れるものが求めている限り、俺は会いに行く。 だから最後に、この感覚を忘れない。今後甘い誘惑が用意されても、ここより上物はきっとないだろうから。 いや、あった。生きた心地もないほどの、俺が享受できなかった輝きが。 あの純白を思い出して、この時、俺は初めて笑えた。 川の流れが変わったと思うと、視界の向こうから影が近付いてきた。 指先だけでも触れたくて、伸ばした部分が波に包まれる。
https://w.atwiki.jp/epicofbattleroyale/pages/432.html
「何だ……? この……驚異的なまでに知性を感じさせない言動と立ち居振る舞いの小娘は……」 ヒロインXに対してラーヴァナが抱いたファースト・インプレッションは、この言葉に全て集約されていると言っても過言ではなかった。 要は、最悪も同然と言う事である。ラーヴァナがそう零すのも無理はない。実際彼女と長い付き合いの立香ですら、彼女の言葉には知性を感じさせなかった。 『セイバー殺すべし、慈悲はない』、と言う裂帛の気魄だけはシッカリと感じられたので、このヒロインXが疑いようもなく本物である事は、間違いないのだが。 「ゼフテロス、知り合いか?」 「真っ当な精神の持ち主なら、近付こうとも思わんだろうが」 「ムムム、毒舌系イケメン系のキャラと来ましたか……上位次元存在め、ターゲット層を――」 >>すいません、話こじれるのでやめて下さい これ以上ヒロインXにペースを握らせると、ややこしい状況がよりややこしい物に代わりかねない為、立香は彼女の事を制止させる。 「あっ、はい」、と素直にマスターの言う事を聞くや、コホン、とわざとらしい咳を一度やって、仕切り直し。ヒロインXは口を開いた。 「やいそこのセイバーの風上にも置けないセイバー!! よく聞きなさい、セイバーとはこの世界における主役の象徴的クラス!! このクラスで召喚されれば人気投票はトップ独占、出番も増え、性能も約束……されるかどうかは分かりませんけど、兎に角このユニヴァースにおける特権的クラスなのですよ!! それを、何ですか貴方は!! セイバーが組むには全く値しない、DMMユニヴァース辺りに出てきそうな外見のサーヴァントとタッグを組むなどと……!! そこになおりなさい、この私がセイバーとは主役の――」 「もう殺して構わんか」 「話の内容の一割と理解出来ないが、有益な言葉をあの哀れな女は全く口にしていないと言う事だけは解った。やれ、プロトス」 「おう」、と口にするや、ラーヴァナは目線をヒロインXの方に向け――。 瞬間、その双眸から黄金色の光条が迸る。鬼の軍勢をも焼き尽くし、蒸発させるだけの熱量を秘めたそれは、掠るだけでも並の英霊にとっては致命傷。 それが、弾丸以上の速度で飛来すると言うのだから、恐るべき攻撃であった。 そしてこれを、眼にもとまらぬ早業で、手にしていた聖剣に蒼白い光を纏わせてから振い、明後日の方向に弾き飛ばすヒロイン。 「ほう、出来る」と呟いたのはラーヴァナの方だった。そのエキセントリックな言動からは全く想像も出来ないし、サーヴァントの事に詳しい立香も忘れがちになるが、ヒロインXはカルデアに召喚されたサーヴァントの中でも屈指の実力者の一人なのだ。本当に、忘れがちになるが。 聖剣を構え、臨戦態勢を取るヒロインX。 身体から漲る敵意と、投げ掛けられる鋭い目線。彼女の身体から遊びが消えた。 こうなった状態のヒロインXは、凄まじい練度から繰り出される剣閃や剣撃を武器に、立ちはだかる相手を斬り崩すと言う、修羅の如き戦いを繰り広げる一個のサーヴァントだ。頼もしい事ではあるが――今は、戦いを繰り広げる時ではない。 >>ヒロインX、今は逃げる時だ!! 当初の目的を、立香は忘れた訳ではない。 此処での目的は、ウリエルとラーヴァナの討伐ではない筈だ。勿論、それが出来ればベストである事は理解している。 理解しているが、今は余りにも情報が少なすぎるし、あの二体を一緒に相手取って、無事に済むかと言えば、それはないだろうと立香は考えた。 犠牲を厭わなければ、二人を倒す事も可能だろうが、それは立香としても奥の手だ。追い込まれに追い込まれ、断腸の思いで決断を下さねばならない。 そんな時以外に、犠牲を払うと言った真似はやりたくない。少なくとも今は、その時ではない筈だ。 よって、この場で取る最大の良策は、皆無事に此処から逃げ果せると言う事。そうと、立香は考えたのだった。 「――セイバー!!」 彼女も、素直に従った。 敵方のセイバー、ウリエルを相手に燃えていたヒロインXだったが、立香が本気のトーンで指示を下したので、その意を承ったのである。 レトロフューチャーめいた宇宙船の排気ノズルから、バーニアを勢いよく噴出させるや、それを推進力に、立香の方へと猛進。 一瞬で時速を超え、秒速三四五㎞以上の速度に突入した宇宙船は、あっと言うよりも速く立香の方へと接近。 だが、宇宙船は立香に激突する様な軌道を往くのではなく、彼の真横を丁度スカるような軌道で移動をしており、ヒロインXは器用に、 宇宙船の上からすれ違いざまに立香の衣服を引っ掴み、そのまま抱き寄せて回収。そしてそのまま、物理的にあり得ない程無茶苦茶な機動力……。 音速を超過する速度を叩き出しておきながら、慣性の法則なぞゴミ箱に捨てて来たとでも言わんばかりのUターンを描き、宇宙船はそのまま、空へと続く出入り口の方へと消えて行く。 刹那の様な速度で立香を回収、そしてラーヴァナの宮殿から退却し、ゴマ粒のような大きさになるまでヒロインX達が遠ざかるまで、一秒と掛からなかった。 一同が事態を認識し始めたのは、殆ど同じタイミング。そして、動き出すのはウリエルが一番速かった。 クー・フーリンが瞬きを終えたのと同時に、金髪の天使の姿は既にそこには無く、黄金色の残光と残像、ヒロインX達が去って行った方向に虹のように伸ばしながら去っていた。 「一応の任務は達成だ。次に会う時が、命の諦め時だと思え。羅刹王」 「フハハハハ、このラーヴァナ。遠方より来る客人を持て成さず、手ぶらで返すような恥知らずな真似は義にかけてせぬと誓っておるのでな」 言うや、ラーヴァナの空いた右手、その周辺の空間が棒状に歪みだし、それをグッと彼が握った。 その動作に呼応するように、歪んだ空間が凄い速度で色付き始め、曖昧だった形が露になり始める。 剣だった。ルミノールを発光させたような蒼白い光で、ペルシャの曲刀・シャムシールめいた湾曲した刀身が構成されたような、不可思議の剣。 刃渡りは凡そ一m程。長剣だった。サーヴァントの筋力、況してやラーヴァナの筋力にとっては、長剣の重さなど枝以下のそれにしか感じぬであろうが、 如何せん剣身が光で出来ているのだ。其処から繰り出される一撃の速さたるや、きっと、想像を絶する物なのであろう。 「酒も馳走も振る舞えぬが、死の神にとくと儂の強さを語れるだけの土産話だけはくれてやる、と言う約束だけはしてやろうぞ。来い、小童共」 この瞬間、ラーヴァナの身体から醸し出される死の匂いが、ムン、と濃密なそれに変わった。 いやがおうにも、この場にいる全員の身体が強張る。普通に戦っても、目の前の羅刹王は強い。鬼を虫と称する頼光ですら、寒い物を背骨に感じていた。 「聞こえなかったようなら、教えてやる」 ブワッ、と、空へと通じる入口の方から、巨大な何かが羽ばたいて参上した。 獅子の身体に、人の顔。そして、翼をその背に携えた、トレーラートラックを思わせるような巨躯を持つ、ギリシャの神話が語る所のキメラを連想させる存在。 このような獣に与えられた名を、ラーヴァナの記憶と知識は知らない。『スフィンクス』の名前と、その名に秘められた神秘の秘翳を、彼は知らぬのだ。 「次に会う時が、お前の命の最後だ」 そこで、眼にも止まらぬ速さでカルデア側のサーヴァント。 即ち、クー・フーリン、メイヴ、頼光、酒呑童子に茨木童子が跳躍、今も空を飛んでいるスフィンクスの背に飛び乗った。 逃がさぬと言わんばかりに、ラーヴァナの回りを旋回していた、分離されたラーヴァナの頭部その物の目線が、一斉にスフィンクスの方を向き始める。 そして其処から放たれたのは、部下である羅刹の軍勢を焼きつくして余りある威力の、黄金色の熱線!! これをスフィンクスは、野性の勘とも言うべき能力で、レーザーが射出されるよりも早い段階で動き出す事で回避。 すぐに、ラーヴァナの居城から一目散に退散しようとするが――カルデアのサーヴァントらは此処で知る事になる。 ――何故、ラーヴァナと呼ばれるサーヴァントは、全盛期のラーマと渡り合えたのか。その、一端を スフィンクスが物凄い速度でラーヴァナの拠点から離れ始めた、その時だった。 黄金を溶かして変形させて、宮殿の形に仕立て上げた様な彼の居城、その外壁部分が黄金色に激しく輝き始める。全員がその眩い輝きは何だ、疑問に思いだしたその時だった。 『宮殿の外壁全体から、幾千幾万本もの、ラーヴァナが放ったような光条が無数に射出され、それらが一斉にスフィンクスに向かって殺到を始めたのは』 ―――― 音速超と言うぶっ飛んだスピードで移動する乗り物、その内部ではなく『外部』に乗っているにも関わらず。 Gや風圧、そして発生する衝撃波が一切身体に叩き込まれない事について、立香は最早突っ込む気すらなくしていた。 ロケット花火の先端に蟻を乗せて、射出させているような状況で無事なのは、まぁこの乗り物の主がヒロインXだからなんだろう……。 立香はそう思っていた。そんな感じで、全てが許される。きっとそうなんだろう。うん。 >>……良い宇宙船だね 「でしょう!! 見る目がありますねマスター!! 中古宇宙船取扱惑星・ガリバーで見つけた掘り出し物……ここまでの美品は、さぞ前の持ち主の扱いが良かったんでしょうね!!」 これ中古なんだ……と呟く立香。 突っ込みたい所が次々と会話すると現れてくるが、もう無視する事にした。 超常の見本市のようなサーヴァント達の中にあって、Xとオルタの方のXは輪を掛けて超常的な存在だ。色々な意味でだが。 細かい事を突っ込み続けるとキリがない、全てを「そうなんだな」と言う感じで受け入れる事が、ヒロインX達と付き合う上で最も疲れない事柄なのだと、改めて立香は理解したのであった。 「このまま逃げ切って良い空の旅を!! ……と言いたい所でしたが、あのバカセイバー、追って来ますよ」 >>え? と思った立香が後ろを振り返って――愕然とした。 >>ねぇ、ヒロインX 「はい」 >>この船、今どれくらいの速度で? 「音の2.5倍です」 つまり、こう言う事だ。 音の二倍と言う凄まじい速度で移動をしているこの宇宙船に、セイバー・ゼフテロス、もといウリエルが『追い縋っている』。 しかもウリエルはヒロインX達が逃走を図ったあの時、若干出足が遅れた筈なのだ。それなのに、悠々と追いつき始めているばかりか、 徐々にその距離が狭まっている事から推察するに、ウリエルの方が移動速度が速いと言う事を意味する。 「マスター、よくその宇宙船にしがみついて、歯を食いしばるように」 その言葉と同時に、彼女らの駆る宇宙船は、雲海の中に突入。 雲、つまり微小な水滴が密集した場所に入って初めて解った。この宇宙船、全体に透明なバリアのような物を張っているらしい。 水滴が全く立香達に直撃しないで、目に見えない透明な膜に次々と水がぶつかって行くのを、立香は見たのだ。 >>え、何するの? 「とうっ!!」 立香にこれからを答える事もなく、ヒロインXは宇宙船の進行方向とは反対側にバッと跳躍。雲海に内部に躍り出た 空に身を投げたヒロインX、勿論投身自殺を希望しての行動ではない。迫りくるウリエルに対抗する為に、彼女はこの果断な行動をして見せたのである。 これにはウリエルも面喰い、カッと目を見開かせ、急停止。そして、それもまたヒロインXは織り込み済み。 いつの間にか青と黒の聖剣を引き抜いていた彼女は、銀河流星剣の秘奥を今まさに、この熾天使のセイバーに開帳。 宇宙船の移動速度以上のスピードで二振りの聖剣を、鋭い軌道で振いまくるが、敵もさる者。 手にした炎の剣と、ラウンドシールドで、ヒロインの攻撃に次々対応。剣でいなす、盾で防ぐ。彼女の攻撃は全く、ウリエルの身体を害する事がない。 東京の遥か上空で紡がれる、焔の剣と二振りの聖剣が紡ぐ、音を超越し凌駕する凄まじい攻防。 突きが盾で防がれ、薙ぎが剣で弾かれ、振り下ろしが最小限度の体捌きで交わされて。 並の者なら殺された事にすら気付かぬ速度での一撃を、次々と彼らは繰りだし、そして当たり前のように回避し防いでいる。これが正しく、サーヴァント。 人類史に、その綺羅星の如く輝く活躍を刻み込んだ者達が行う、恐るべき魔戦なのだった。 そんな攻防が続く事、一秒程。 ヒロインXは空に身を投げたと言う状態からも解る通り、時間が経てば高度数百mの高さから一気に真っ逆さまの状況なのだ。 現に彼女は今まさに、落下を始めた。それを狙わぬウリエルではない。直に追撃を仕掛けようと、背負った二対十二枚の翼から、焔で構成されたミサイルを放った!! ――だが、ヒロインXは、手にした青い方の聖剣からビームを射出。これを推進力に急速に横方向へとスライド移動。 ウリエルの放った炎のミサイルを全て回避し尽くした。この回避の仕方と、空中での移動方法には彼も驚いたらしい。「むっ!!」、と言う反応があった。 そして、ヒロインXの向かった先には、立香を乗せたあの宇宙船があった。あの後雲海のある一点で、急速にUターンを行い、一気にヒロインXの下まで戻っていたのだ。 スタッ、と宇宙船の翼部分に着地した彼女は、ウリエルの方に鋭い目線を投げ掛け、狙いを定める。 直撃するかどうかは分からない、何せ相手は音の速度で移動する怪物。倒せれば御の字だが、そうも行かない可能性の方が高かろう。 よってこの場は、この一撃を『この場から退散する為の方便だが、それで倒せればラッキー』程度のそれに想定。 黒い方の聖剣に魔力を溜め、彼女は高らかに叫ぶのだ。それは、竜(ドラゴン)の咆哮の如く。獅子(ライオン)の雄叫びの如く!! 「無銘勝利剣(ひみつかりばー)!!」 叫びに呼応し、黒の聖剣の剣身に、アメジストの如き色味の光が纏われ始め、それ自体が激発。 魔力がスパークを起こしているのが、立香にも解る。この状態の聖剣をウリエルの方目掛けて振り上げる。 そして放たれた、黒の魔力の大波濤に、ウリエル自身が呑み込まれて行く。 この間、宇宙船は移動を続けており、ウリエルがどうなったのか。その結末を見る事無く、あっという間に彼から離れて行く。 ゼロカンマ数秒経つ頃には、あの熾天使がゴマ粒にしか見えない程にまで立香達は遠ざかっていた。 >>……生きてると思う? 「偉大なるクラス・セイバーの始祖として言わせていただきますと……あんなのがこれから実装されるとなると、私の旅路は険しい物になると、言わざるを得ませんね」 それは、暗に肯定しているのと同じであった。 ウリエルは強いのだ、と。そして、今の一撃を受けて、彼は生きているのだ、と。 既に二名を乗せた宇宙船は、雲海を抜けていた。下を見ると、コンクリートジャングルではなく、緑と山が目立つのが解る。 東京都の郊外も郊外に、彼らは出ていたようである。「この辺りで落ち合う予定になっています」、ヒロインXがそう告げたのを耳にして初めて立香は、あの恐るべき場所から遠退けた事を、実感したのであった。
https://w.atwiki.jp/animan42133/pages/17.html
「失礼します、新米発掘者です!」 秘骸解剖局の資材部門に所属する16歳の少年。談話室の冷蔵庫に大量のジュースを持ち込んでいる。アメリカ支部の[新米執行者]とは幼馴染。 男の娘と異性装が大好きなまごうことなきド変態。霊薬で幼女化した(Part157)ことがきっかけに、性転換も嗜むようになった。ただし感性やメンタルは一般人と大差ない。 実家は400年前から大地を掘り続けている日本の魔術使い。魔術を含む掘削技術と富はあるが、逆に言えばただそれだけの家系。ただし何故か神體を保管していた。 容姿・服装 黒髪を肩の高さまで伸ばし、前髪の左側に「安全第一」と書かれた黄色い髪飾りをつけている。タレ目気味。 身長は179.7cmとかなり高く、あまり地上に出ないため肌は白い。胸にシリコンパッドを入れているため、コート越しでも僅かに膨らみがある。 黒いインナーの上から茶色のトレンチコートを羽織っている。ボトムスは細めのジーンズ、大きめのエンジニアブーツを履いている。 経歴 8年前に「先輩」と呼ぶ人物と出会い、女装の手ほどきを受けている。しかし何らかの理由で現在「先輩」と会うことはできない。 そしてPart160の時点から半年前。実家で掘り進めていた穴が霊墓アルビオンと繋がり、静脈回廊オドベナに迷い込んでしまう。幸い発掘部門の青年に発見されたが、青年は【特急(エクスプレス)】と呼ばれる大百足の攻撃から発掘者を庇い、蒸気で殺害されてしまった。発掘者が単身で渡英したのは敵討ちのため。 魔術礼装 彼の制作した礼装は「安全性」と「互換性」が重視されている。また真エーテルを使用したものが多い。 【廻る魔眼】 [新米執行者]と協力して制作した礼装。宝石が嵌めこまれた掌大の歯車で、起動すると自動で回転し始める。宝石に映り込んだ対象に様々な影響を及ぼす、ある種の加工魔眼。 【キャメラ】 魔術刻印の存在を知らなかった先祖が、子孫に神秘を受け継がせるべく制作した。外見はレンズのないインスタントカメラ、Part160までは胸に移植していた。 刻印のような自動発動はできず、複製可能という魔術師からすれば致命的な欠点を抱えている。更に刻印ほどではないが拒絶反応があるため、時間を掛けて移植しなければ激痛の中で死に至る。 機能は礼装のストック。上限は27“種類”で、同じ礼装であれば幾つでもストック可能。更に神體をレンズのように嵌めることで、極めて限定的ではあるものの神代の魔術を行使できる。 Part160にて神體を使用した結果、その反動で修復不可能なレベルまで破損した。Part162で[時計塔医務室室長]に摘出され、その役割もバケットに取って代わられた。 【帯】 防御と捕縛に用いる黄色い帯。よく暴走した変態を縛っている。 【大釘】 [合成獣の研究者]から貰った投擲礼装を基に制作した、地形破壊用の礼装。装填された霊脈石から真エーテルを抽出し、その先端から炸裂させる。 【モデル・エクスプレス】 撃破した【特急】の遺骸を素材に、[半竜魔術師]との真剣勝負に向けて制作した黒い甲冑。普段はアタッシュケースに偽装しており、「Ready Set Go」の掛け声に反応して自動で装着される。 その能力は蒸気の操作。両肩や四肢の噴射口から蒸気を解放し、その反動を利用することで高速移動を実現としている。この時表面は赤く染まるほど熱せられるため、単純な突進でも脅威となる。また耐久性も高く、生半可な攻撃では傷一つつかない。 かなり重宝していたが、Part198にて実体化した闇に奪われた。最終的に自爆機能を作動させたことで木端微塵に吹き飛んでいる。 【突撃槍】 黒い突撃槍。装填した霊脈石から真エーテルを抽出し、白い光の奔流として穂先から放つ。こちらも【モデル・エクスプレス】と同時に失われた。 バケット Part159にて[魔獣使い]から貰った【テイム・エッグ】によって生み出された。見た目は金属バケツと融合した機械仕掛けの蟹、見た目に反して殻はかなり柔らかい。普段は発掘者の背中にしがみついているが、制服姿では学生鞄に隠れている。 魔術礼装をストックし、即座に取り出すことができる。また鋏で挟んだ【廻る魔眼】を起動することも可能。Part175の時点で泡を吐く能力を獲得している。
https://w.atwiki.jp/juko/pages/20.html
基礎データ 出版 角川書店 構成 文庫 発行日 1992/7/25(1983年9月・徳間書店刊) 読書 2007/11/12-11/13 ストーリー 冤罪で男が死刑になろうとしている。タイムリミットはあと5日しかない。 それを阻止しようとする芹沢の行動を、地元TV局が追い、そして世論が動いた。男の無罪を証明し救うことができるのか。 おもな登場人物 芹沢孝包 刑事。冤罪で死刑になろうとしている江島を救うべく退職覚悟で動き出す。 曲垣修造 TV仙台のディレクター。芹沢を知り、芹沢を報道することに職を賭する。 柳瀬寿彦 検事。芹沢の決意を知り、送り出す。 ここがポイント 組織の論理に戦おうとする男たちの熱い魂。 しかし本編は、むちゃくちゃ欝。 濡れ場も愛妻がトルコに売られるとか、そんなんばっか。 進行表 全般に殺伐としており、性交はあってもちんこが立つものではないので略。 ラスト 男の正義は勝った トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/guqitianx/pages/4.html
時計に大金を費やしている、それは単なる時計です。それは投資ピース、形見、銀行を壊すことがあります最終的に価値がある支出になります。手段をそれを作りたいでしょう要素 - スタンド アップと時間のテストに合格の時計のための現金の重量負荷をダウン plunking。誰もその美しいブライト リングの時計、光沢を失うまたは営業停止を望んでいる数年の時間内。大事を取るあなたの時計、最初にそれを買った日に良い探しているあなたの息子彼の大学卒業でそれを渡すことができますので不変の年および年を終了するはずです。http //www.ccnnr.com/ ここでは時計との事です。、小さいながらも彼ら非常に複雑ともまるでアウト - 思慮深く、慎重に掃除される必要があります彼らことを意味しますティーニーの小さなマシンのようです。時計の美しさのオブジェクトであり、そのように扱われるべきであります。一般に、動きを保護、水損傷または破損から時計を保護、清掃、ケースと申し分ない形状維持に役立つバンドに標準的な時計のメンテナンスが含まれます。手動の機械式ムーブメントの時計世話をしている場合を心配するより少ない少し持っています。時計のゼンマイを同時にそれぞれの日、一日に少なくとも一度抵抗のビットを感じるとすぐにそれを巻きを停止ことを確認します。これは最大の緊張で春を維持するのに役立ちます。自動巻きムーブメントを持つ時計はさらに簡単に - 彼らが必要なだけ巻き付ける 2 週間に 1 回それらは毎日 (私たちのほとんどを行う) を着用する場合は特に。ブランド バッグ 多くのブライト リング時計専門している - と同様、Navitimer 航空会社のパイロット用に作成されたスペースに大工の飛行の後で微調整しました、にはブライト リング緊急時計には市民の飛行士によって身に着けられていた、無線送信機が含まれています。この時計は、軍の多くで使用されるもし (平らな地形や穏やかな海) 通常の条件下で時計からの信号することができますをピックアップする 90 の海里まで検索、航空機によって。この技術革新の重要性は、2003 年 1 月、2 人のイギリスのパイロットその南極でヘリコプターが墜落したし、ブライト リング緊急時計を起動した後にのみの乗組員によって救助されたときに発見されました。2 人の男性を救助した航空機がそれらを見つける彼らの腕時計からの信号を拾って後だけできた。この時計は一般に軍の男性と女性とのパイロットによって使用されます、それは同様に、一般市民によって購入可能ですが、時計を購入しようとした通常の民俗救助介入から未払費用を運ぶだろうことを示す契約の手紙に署名する必要がありますしながら時計上の遭難信号トリガーします。ブランド 財布
https://w.atwiki.jp/epicofbattleroyale/pages/372.html
三十と六体のラクシャーサ達を、手に持ったゲイ・ボルクで鏖殺した時の事であった。 雑兵の割に、鬼達は手応えのある敵だった。恐るべき密度の筋肉を搭載した彼らは、極めて軽捷な動きで相手を攪乱・追い詰めながら、 恐るべき威力の格闘戦で一瞬のうちに仕留めに掛かる恐るべきマン・ハンターであった。加えて、彼らの肉体の頑健さよ。 常日頃から石や砂を噛んで食していなければ説明が出来ない程彼らの肉体は頑丈で、生半な剣では傷一つ付けられず、矢にしてもそもそも刺さらない可能性だって高い程だ。 十人、ラクシャーサ達が徒党を組む事を許してしまったのならば、百人以上の熟達の兵士達で構成された一団をぶつけなければ先ず勝ち目はあるまい。それ程までに、ラクシャーサ達の軍勢の力は兄弟であった。 だが、彼らの不幸は相手が悪すぎた事だ。 バーサーカーのクー・フーリンは、単騎で千軍を軽快に上回る程の強さを発揮する。個人対個人の戦いも、個人対軍団の戦いも。このサーヴァントは突出している。 先端速度が音の数倍に達する程の速度でゲイ・ボルクを振えば、直撃した相手は粉々にされ、掠っても衝撃が身体中を伝播して爆散する。 槍に取り付けられた凶悪な形状と鋭さの突起を高速回転させて相手を挽肉に変えたり、槍そのものを超高速で投擲して相手を貫いたり、 超音速以上の速度で投げられた事によって発生した衝撃波を直撃させて肉片に変えさせたり、等。 クー・フーリンとラクシャーサ達の戦いは、最早戦いと呼べるものですらなかった。一種の殺戮、蹂躙。そう言った言葉の方が相応しかろう。 ラクシャーサ達がどれだけ抵抗をしても、クー・フーリンはその巨体からは想像も出来ぬ速度で抵抗を回避し続けるばかりか、寧ろ攻撃したラクシャーサの側が、 避け様に彼が放った攻撃で即死してしまう程であった。彼我の戦闘力には、これだけの差があったのである。 この場――メイヴが通るであろうルートである所の大廊下に陣取っていたラクシャーサ達を、ものの三分で片付け終えたクー・フーリンは、 眉一つ動かさずに、その場を去っていた。何人も鬼達を殺した後とは思えぬ程、表情に動きはない。何時も彼が浮かべている、仏頂面。 この表情のままに、彼は玄関の方へと向かって行った。今更、殺した相手に思いを馳せると言う、童貞のような真似はしない。 この側面のクー・フーリンは、相手を殺す装置のような物。殺す事が常態化しているのである。今回も、自分と言う装置を動かすマスターが拉致されたから、この場で殺戮を行っているだけ。彼にとって殺しは、仕事であり、何の情感も湧かぬ物であった。 「――まぁ、とても『お片付け』が速いのですね、クー・フーリンさん。綱や金時達にも見習わせてあげたい程です」 ……そんな自分よりも、殺す早さで勝っていると言うのだから。この女は化物か何かかとクー・フーリンは考える。 彼女は、クー・フーリンが向かっていた、この宮殿の大玄関の真ん中で、血脂が付着した刀を丹念に、ラクシャーサの着ていた衣服の切れ端で拭っていた。 花を手折る事にすら自責の念を感じそうな程の儚げな美しさと、女体美の見本の様なプロポーションの女性が行うには、余りにも殺伐とした行動。アンビバレンツさは相当なものだった。 ――この黒髪の女性の名は、『源頼光』。 カルデアで召喚された、クー・フーリンと同じクラスのサーヴァント。そして、カルデアに於ける特記戦力の一人でもある女性だった。 「お前の方が速いだろうが。厭味にしか聞こえんぞ」 「そんな……私はそんなつもりで言ったつもりでは……」 と、泣き出しそうな表情を浮かべる頼光。 胴体にラクシャーサの血液をベッタリと付着させたままでは、寧ろその表情はアンバランス極まりない。怖さすら感じる。 「オレに殺す速さで勝るとは……こうして共闘するのは初めてだが、賞賛に値する。コツでもあるのか」 「コツ、ですか……? 簡単ですよ、貴方ならすぐできます。一人で多人数を相手取るコツは、『相手が動くよりも先に相手を潰す』こと。巧遅より拙速を重点において、斬られたらすぐに死ぬ箇所を、相手が攻撃に移るよりも速く斬る事です」 「成程、合理的だ。次は念頭に置く」 「クー・フーリンさんも次は私より早く鬼退治出来ると思いますよ。私、何分天竺の方の鬼は初めて戦う物でして……。私ともあろうものが、潰す事に時間が掛かってしまって……不慣れを晒して恥かしいです……」 つくづく、会話の内容が一般のそれよりもズレている、バーサーカーらしい者達の会話だった。 いや、ズレているのは寧ろ頼光の方か? 箸より重い物を持った事もなさそうな、嫋やかな外見からは想像も出来ない程、彼女の言動は過激なそれであった。 そしてその、今の身体の状態の方も。実際問題クー・フーリンの方も、このギャップには少しだけ言葉を失っているらしい。表情に、何処かしら苦い物が走っていた。 「鬼、と言う生き物はお前の領分だったな、ライコウ」 「領分、と言うのは言い過ぎです。ちょっとだけ、詳しいだけですよ」 この女性で鬼に詳しくないの水準であれば、誰が詳しいのかと言うレベルであるのだが、クー・フーリンは構わず話し続ける。 「アイツの奪還が現状の最優先事項だが、可能な限り、この宮殿の主も仕留める事も視野にオレは入れている。出来ると思うか」 「それはかなり難しい事かと……」 「ほう。お前の口から弱気の言葉が出るとは珍しいな。理由があるんだろう、話せ」 「一つに……『虫』の言った事が事実であるのなら、ラーヴァナと言う鬼は間違いなく、神に値する力を持った鬼。この時点で、厳しいと言う点が一つ」 「数で叩けば問題ないだろう」 「勿論、ある程度はそれで有利になりましょう。但し……相手が一人であるのなら。クー・フーリンさんも実感しましたでしょう。この宮殿に数多く待ち構える、天竺の鬼の数々を」 「……そうだな。『統率が取れている』上に、『個々の強さも決して低い物じゃない』。これが集団で待機していると言うのは、厳しい所だな」 確かに二名は、ラクシャーサの軍勢を相手にちぎっては投げ、の大活躍をして見せた。 しかしそれは、この二人がクー・フーリンと、源頼光と言う特記戦力であったからが理由としては大きい。 それ以外のサーヴァント、特に、近現代のサーヴァントであったのならば、ラクシャーサ達は問答無用で彼らを蹂躙出来るだけのスペックは実際にあった。 今回二人は運よくラクシャーサ達を無傷で打ち倒す事は出来たが、次はどうなるかは解らない。 何せ彼らは、個体としての強さも勿論の事、極めて統率の取れた、訓練された軍隊染みた動きを行って来るのだ。敵としては、最もやり合いたくない手合いだ。 これらの特徴は、生前頼光が討ち滅ぼして来た鬼には無かったものである。何せ日本の鬼は、殆どが単独での行動である。 徒党を組んで襲い掛かってくると言う事も有るにはあったが、それにしたって策も糞もなく一斉に襲い掛かってくるか、良くて、 待ち伏せとか前衛後衛の概念を理解・駆使して襲ってくると言うのが関の山だった。ラクシャーサ達の戦い方は老獪で、狡猾。 そして時に、鬼としての一番の武器である身体能力を駆使した力技も絡めさせてくる、と言う練度の高いそれ。 欲望の具現である鬼達を、此処までの軍隊に鍛え上げたのは間違いなく魔王・ラーヴァナであろう。頼光は勿論、クー・フーリンも理解しているだろう。 部下でこれなのだ。首魁であり、あのラーマですら苦戦を免れなかったラーヴァナが、期待外れの小物であろう筈がない。 「最後の理由ですが……此処は、敵の本拠地。そして恐らくは、この本拠地こそ、ラーヴァナの宝具。正直な所、此処まで簡単に侵入出来た事が、不思議でなりません」 それについては、クー・フーリンも同じ思いを抱いている。 内部は確かに、ラクシャーサ達の巣窟であり、一歩足を踏み入れれば二度と五体満足で脱出出来はしまい。 だが、本当にそれだけなのか? 此処までの大宮殿、敵の侵入に備えての、トラップの一つや二つ、あって然るべきではあるまいか? それらの気配を、とんと二人は感じない。敢えて罠を開帳しないのは、ラーヴァナの余裕か? それとも……。 どちらにしても、ただ空を浮かび、ただラクシャーサが内部に待ち構えているだけの宝具であるとは、二人は露も思っていない。確実に、何かある。それを置いて念頭に動く必要が、二人にはあるのであった。 「マスター……あの子の奪還については、虫達が失敗する事はないでしょう。京を騒がせた賊達……此処でその力を発揮出来ねば、本当に役立たずです」 頼光の口から、酒呑と茨木の二人の事が語られる時、その口ぶりは、辛辣のそれを極める。 鬼に対して頼光の当たりが強いと言うのもあろうが、それ以上に、生前の因縁も強いのだろう。 とは言え、今の言葉から、奪還屋としての二名の実力を、頼光が強く買っているのも事実。だからこそ、頼光は作戦の立案の際に、酒呑と茨木の二人に、立香の救出を命じたのであろう。 「とは言え、連中がしくじる可能性も考慮しなくてはならんだろうよ。後二分。鬼の小娘二人が此処に戻って来なければ、オレ達がラーヴァナの下へと向かう」 「えぇ、それで――」 頼光が言葉を途中で打ち切る。そして二名は、示し合わせたように、宮殿の入口部。 つまり、空へと通じ地面に落ちて行く箇所へと、二人は目線を向け始めた。凄まじい覇気の持ち主が、超高速で此方に迫って来ているのを、 二人はサーヴァントに備わる霊性の察知能力で感じ取った。疑いようもない、手練。ラクシャーサを遥かに超える程の実力の持ち主が、空を飛んでこの宮殿へとやってくる!! 件の主は、入口に頼光とクー・フーリンが目線を向けてからゼロカンマ二秒後に、雲を突き破り、その勢いのまま、入口の縁に着地。 鋭い目線を、二名に送ってきた。炎を思わせる橙色の軽鎧を身に纏った、後ろを長く伸ばした金髪の美青年。それが、此処にやって来た新手。 サーヴァントの特徴であった。その背に二対十二枚の、焔で構成された翼を噴出させたその姿は、ある種の天使のイメージを見る者に与える。 但し、天使は天使でも、博愛や慈愛等を象徴する穏やかな側面のそれではなく、懲罰・憤怒・征服と言う、天使の強権的な側面の方を、人はその姿に感じ取るだろう。 「……不動尊が、来臨されたのかと思いました」 鞘から、童子切安綱の威容を引き抜かせ、静かに頼光が告げた。 クー・フーリンもまた、兇悪な姿へと変貌したゲイ・ボルクを構え、眼前の天使を睨みつけた。 頼光は、目の前に現れた天使を、仏教における如来の化身、怒りの炎を背負い仏教に帰依しない衆生を改心させる明王の一柱・不動明王をその天使に見た。 一方クー・フーリンは、眼前の天使を見て、自身の師であり、自分が戦いたくないと零す程の強敵であるスカサハの姿を、その天使に見た。 抱くイメージこそ違えど、共通して思う事は一つ。目の前の天使は、桁外れに強い。それこそ、それまで二名が斬って捨てて来たラクシャーサ達が、蟻か羽虫にしか見えない程に。 「……悪魔(デーモン)に定められた行く先とは、ただ一つ」 懐から、天使が長剣を引き抜いた。 それと同時に、剣身が激しく、太陽のプロミネンスの様に燃え上がった。空気との摩擦で燃え上がったのか? 違う。 この剣は、天使の意志に呼応して燃え上がるのだ。裁くと決めた存在を天使が認めた時、その剣は、断罪の為に神の炎を纏うのだ!! 「地獄の呼び声が聞こえるか、サーヴァントめが」 クー・フーリンの方に、射抜くような目線を向け、歴戦を経た戦士ですら竦みかねない程の殺意を放出させながら、天使は言った。 「ほざけ。さっさと昇天して、天国で神の足の爪でも磨いてろ」 その言葉と同時に、クー・フーリンの巨体が、霞と消え、一瞬で天使の前に現れた。 そして、手にしたゲイ・ボルクで彼の喉を抉って抹殺しようとするも――果たして、誰が信じられたであろうか。 天使の姿が、『クー・フーリンの刺突の速度よりも速く消えた』。この狂王ですら、刺突を放ち終えたその瞬間に、自分の攻撃がスカを喰った、 と認識する程の、圧倒的な速度。「馬鹿な」、と、彼が呟いたのも無理はない。そして、その『馬鹿な』、と言う言葉は、槍の穂先に器用に佇立する、天使の姿にも掛かっていた。 「失せろ、下郎」 その一言と同時に、上段に構えていた焔の剣を、天使は右腕一本で振り降ろす。 剣の腹は勿論、剣先ですらクー・フーリンの身体を捉える事はない。客観的に見れば、天使の攻撃はスカを喰う形になる、と見えるだろう。 だが狂王は、剣が振り落とされたのと同時に、即座にバックステップを刻み、二十m以上も懲罰の天使から距離を離した。 天使は、槍の穂先に直立したままの姿勢で空中に浮遊、その状態で、剣が振り降ろされきった――刹那。 黄金色の爆炎が、天使を中心とした直径十五m以上の範囲まで炸裂した!! 床の黄金、貴金属で出来た太い支柱、それらの全てが、融解のプロセスを一瞬で通過。 即座に気化し始め、吸えば直ちに身体に影響が出る、超高温の金属蒸気が、屋上にまで立ち昇って行く。どれだけの、摂氏であったと言うのか。あれの直撃を受ける等、ゾッとしない話であった。サーヴァントであっても、無事では済むまい。 天使が炸裂させた金炎は、燃焼の必須要素である可燃物が存在していないにも関わらず、激しく、床の黄金を薪代わりに燃え上がっている。 その炎の最中に、天使は佇んでいた。黒いシルエットが、焔の中で揺らめいているのだ。その様子だけを見れば、影絵の様であった。 既に天使は地面に降り立っていて、その状態からゆっくりと、此方の方に歩いてくる。これを見た頼光が、安綱の太刀に紫電を纏わせ、この状態で、一閃。 すると、空間に描かれた安綱の一閃の残像から、紫色をした電気の波濤が放たれ、それが、凄まじい速度で天使の方へと飛来して行った。 黄金焔を突き破り、天使が、頼光の方へと弾丸の如き勢いで突っ込んで行く。目を疑うような速度だった。 頼光の超絶の技量から放たれる、弓の一射よりも、天使の移動速度は『速かった』。それは、弾丸より速く移動出来る、と言う事と同義だ。 しかもこの上、これだけの速度を維持していながら、対面から放たれた頼光の雷撃を、右方向にカーブを描いて移動する事で、容易く回避。 避け様に天使は、その背に背負った翼から、黄金の火炎の放射を頼光へと見舞わせる。殺到する火炎の奔流の数は、計十二。翼の数と同じであった。 刀身が見えなくなる程の勢いで紫色の電気を纏わせた安綱を、勢いよく大上段から振り降ろし、その動作と同時に迸らせた極大の稲妻で火炎放射を全て迎え撃ち破壊した、 その動作だけを見れば、平時の頼光らしく余裕で攻撃に対処したと見えるだろう。実際には全く違う。紙一重も良い所の迎撃であった。 額に浮かべた汗は、今の頼光の信条を如実に表す何よりの証拠。一歩対処が遅れていれば、その時点でこの世界から消滅していてもおかしくない程の速度で、 天使は攻撃を放っていただけでなく、攻撃を放つタイミング自体も非常に申し分ない。何かの歯車が狂っていれば、その時点で頼光は消えていたのだ。焦らない、筈がなかった。 天使の狙いは頼光よりも、クー・フーリンの方にあるらしかった。 正に雷光の如き速度で狂王の下に接近した彼の天使は、その手に握った焔の剣を以って、彼の首を刎ね飛ばそうと試みる。 しかし、クー・フーリンはそう易々と首を差し出す者ではない。短刀でも扱うような取り回しの絶妙さで、長柄武器を振い、天使の攻撃をクー・フーリンは迎撃。 体勢を崩した所を、ゲイ・ボルクの穂先で頭を破壊しようと試みるが、その迎撃にあおられ、天使は勢いよく、三十m程も吹っ飛んだ。衝撃を殺す為に、攻撃された方向にわざと自分から飛ばされた、と言う訳ではないらしかった。 ――軽すぎる―― クー・フーリンは率直に、今の一合でそう結論付けた。 思えば、槍の穂先にあの天使が乗った時もそうだった。このサーヴァント、余りにも『軽すぎる』。見た目と装備から推測出来る、凡その重さを大幅に下回っている。 まるで、羽毛のような軽さだ。この天使だけ、重力と言う実存宇宙のルーラーの桎梏の外にでもいるかのようであった。 しかもこの上、攻撃が半端ではなく重い。自らの体重と、攻撃の威力は、神代の時代であっても不可分だ。重い部位を高速で打ち付ければ、衝撃も威力も強い。当たり前だ。 あの天使には、それが通用しない。実際上の重さは上記の通りであると言うのに、実際与えられる一撃については、Aランク相当の筋力のそれに匹敵する。 何かしらのスキルか、宝具か。或いは、天使であるが故の『加護』か。どちらにしても、その異様さは狂王として、本来の側面としてのクー・フーリンも、味わった事のないそれだ。過去の戦闘のデータに一切見られない強者。それが、目の前の天使であった。 吹っ飛ばされた先で着地した天使が、一瞬で体勢を整えるや、空手の左手をサッと水平に伸ばした。 瞬間、黄金色の燐光を舞い散らせながら、その手にある物を収めさせた。盾である。直径ザッと七十cm程の、円形盾(ラウンドシールド)。 紅蓮の縁取りに、中央に凝らさせた翼の意匠。その盾を持ち構え、天使は頼光とクー・フーリンの両名を一瞥する。断罪者の目を、彼はしていた。 「少しは出来るようだ。其処の人の子も、人の規矩から考えれば、驚異的な実力とすら言えるだろう」 「だが――」 「それだけだ。人界の怪物や、人界の戦士と戦った経験など、悪魔を相手に戦った経験の前には、並べて無意味であると知れ」 この、増上慢とすら言える態度が、全く驕りにすら聞こえないのが、目の前の天使の恐るべき所であった。 思い上がるなと常ならば頼光もクー・フーリンも言っていただろうが、それに恥じぬだけの実力を、確かにこの天使は有している。 しかもこの態度の上に、油断も何もあった物ではないのが、恐るべき所。如何なる精神的な攪乱にあっても、この男は、それに惑わされる事もなく相手を滅ぼせるだろう。そんな確信が、二人にはあった。 「行くぞ」 それと同時に、天使の姿が朧と消える。 クー・フーリンだけが、その姿を目で追う事が出来た。己の身体を、ルーン魔術で強化しているが故だった。筋力・耐久・敏捷性に反射神経。 ルーンで身体能力を強化させた全てクー・フーリンは、英霊達のトップランカーの中でも抜きん出た値を叩き出す。相手を抉り殺す準備は、整っていた。 クー・フーリンの眼前に天使が現れるや、即座に炎の剣を縦に振り降ろす。 これを、ゲイ・ボルクの柄でガッキとガードする狂王。カウンターと言わんばかりに、槍を持っていない左手、其処に生えたナイフのように鋭い爪で、 天使の身体を引き裂こうとするも、この攻撃は円形盾で簡単に防御されてしまう。剣を槍から離し、そのまま一撃を見舞おうとする天使であったが、 何を感じ取ったか、直にクー・フーリンから距離を取る。十m程のバックステップ。それを行った瞬間、クー・フーリンと、先程まで天使がいた地点に、 十数本もの矢が音に等しい速度で飛来して来たではないか!! 矢の全てに、紫色の稲妻が纏われ、これを推進力に恐るべき加速を得ていたらしかった。 天使は既に矢の軌道上から逃れていた為攻撃を喰らう事は先ずなかったが、問題はクー・フーリンの方。彼は今も、矢のルート上に存在した。 しかし、この超絶の技量から放たれた矢の全てを、ゲイ・ボルクの一振りで粉砕、破壊し終えた後即座に天使の方へと駆けだして行った。 遠方で、クー・フーリンにだけリスクを背負わせてしまった頼光が、歯噛みの表情を浮かべる。彼女は、大弓を構えていた。 本来ならばこの矢で天使を射殺するつもりであったが、いとも簡単に回避されてしまった。クー・フーリンは矢避けの加護スキルがあるが為、弓矢による攻撃も対処出来るだろうと信頼して攻撃をしたが、結果的に彼にリスクを負わせる形になってしまった。実に、恥かしい顛末だと頼光は悔しがった。 地を蹴り、射られた矢もかくや、と言わんばかりの速度でクー・フーリンは天使の下まで接近。 次に動きを繋げられるような余力を残した、最小限度の動きで、槍を振う。しかしその速度は勿論、音に聞こえた槍兵のクラスのサーヴァントのそれ。 余人に見切れるそれではない。盾で防ぐか、それとも剣で弾くか、はたまた回避を選ぶか。どれを選んでも、それに対応出来る自信がクー・フーリンにはあった。 しかし、天使の選んだ行動は、半手彼の先を往く。盾で攻撃を防いだと同時に、地面に焔剣を突き刺したのだ。 その瞬間、地面から黄金色の巨大な火柱が立ち昇り始め、それを以って敵対者を焼却しようと試みたのだ。 天井を火柱の形に貫き、そのまま宮殿の屋根をも貫通し、宇宙空間にまで達するか、と言わんばかりの高さのそれは、確実にクー・フーリンの肉体を捉えた。 しかし、クー・フーリンも攻撃を無為に喰らうだけではない。天使が剣を地面に突き刺したのと全く同じタイミングで、既に飛び退いていた。 が、無傷ではない。聖なる炎が、その身体を灼いた。痛み如きに止まらないクー・フーリンが、うめき声を上げる程の高温。いや、温度だけではない。 この炎自体が、サーヴァントに特効の何かを宿している。直撃してしまえば、待っている未来は一握の灰燼すら残らぬ死であろう。 ゲイ・ボルクを、地面から剣を抜こうとする天使のその隙を縫って、クー・フーリンが投擲。 初速にして容易く音のそれを超えたそれは、天使との距離二十と余mの内、半分を過ぎた所で空気摩擦によって赤熱し始めた。 そして、放たれた攻撃はそれだけではない。見るが良い、大弓を構える頼光を。『稲妻を纏わせた大斧を構えて天使に向かって接近する頼光』を。 『安綱の太刀に紫電を纏わせ、上空から襲い掛かろうとする頼光の姿』を!! 彼女は自身の宝具である『牛王招来・天網恢々』を限定的に発動させ、 自身の分身を暫定的に二体、この宮殿に召喚させ、これを以て数の理で相手を撃滅しようと考えたのだ。頼光の分身のステータスは、頼光本体のそれに準拠する。 しかもこの上、それぞれが所持している武器は、サーヴァントとして召喚される頼光四天王が有する宝具と同じ性能を誇っているばかりか、 これを本来の持ち主と全く同じ技量で扱う事が出来る。つまり、単純に頼光と同じステータスを持っているばかりか、それぞれ趣の異なる宝具を凄絶の力量で操る分身を召喚すると言う宝具に等しい。恐るべき、宝具であった。 これにはさしもの天使も目を見開く。が、それで焦っている訳ではない。 表面上のリアクションは驚いてはいるのに、何をするべきなのかは、この男は確りと認識していた。 投擲されたゲイ・ボルクを、大きなモーションで回避した天使は、続けて、此方に対して飛来する、可視化された風が纏われた一本の弓を、 左腕に握った盾を振って弾き飛ばす。矢自体の衝撃エネルギーと、纏わされていた風の影響で、天使の身体が大きくのけぞり、吹っ飛んで行く。 これ追撃するが如く。上空から安綱を持った頼光が急降下し、地面から頼光四天王が一・坂田金時が有する黄金衝撃の大斧を手にした頼光が高速で接近してくる。 背負った十二枚の焔の翼を以って、空中での姿勢を制御。浮遊した状態で体勢を整え終えた天使は、鋭い目線を、『斧を持った方の頼光に向けた』。 「貴様か」 その言葉と同時に、翼から橙色の光条が一本迸り、頼光の胴体を貫いた。 「かっ……!?」と言う声を上げ、頼光が膝を床に付く。体中の血液が全部蒸発した、と錯覚せんばかりの熱量が、彼女の身体を苛んでいる。 吐く息がほのかに、鉄血の臭いを帯びている。内蔵を焼かれた。黄金衝撃を手にした頼光が地に膝付けた瞬間、安綱を握った頼光と、弓を握った頼光が、煙のように消滅した。 そして、現状この空間に残っている頼光が先程握っていた黄金衝撃も、消滅。残ったのは、今床の黄金に突き刺さった童子切安綱の一振りのみ。 そう、頼光は宝具を使って分身を招聘させる段階で、それぞれの分身が保有する武器をチェンジリングさせていたのだ。 何もそれぞれ、分身によって得意とする武器がある訳ではない。分身は、『頼光とその四天王が保有する武器の全ての扱いに長ける』のだ。それは本体の頼光とて同様。 こう言う特徴があったからこそ、頼光は、分身に己の武器たる安綱を持たせ、逆に分身が持っていた黄金衝撃を自分が持つ事で、天使にフェイクを仕掛けたのだ。 安綱を持っている自分が、本体である。そう思い込ませる為にだ。しかし、そう思って下手に攻撃を叩き込んだ瞬間が、最期。 攻撃をし終え、隙だらけになったその時を狙って黄金衝撃で葬り去る、そんな算段だったのだ。だが、その作戦は結果的には失敗。 天使自身が保有していた、炯眼によって破綻してしまった。頼光自身ですらが認識出来ずにいた、僅かと言う言葉すら使う余地があるのか疑わしい、彼女本体と分身の技量の僅差。天使は、あの短い一瞬でこれを看破し、本体を的確に叩いたのである。 「無垢で、純粋な魂をお前は持っているな。異郷の神を身体に宿した身とは言え、お前はその力を、人の世の安寧の為に使った。その高潔さに免じ、タルタロスに堕とす事はやめておこう。神は、お前を赦し、受け入れ、天国での安息を約束するであろう」 そう言って炎の剣を構えたその時、いつの間にかゲイ・ボルクを手元にアポートさせていたクー・フーリンが、天使の下へと接近。 頼光を処断しようとする天使目がけ、槍を叩きつけようとするも、これを天使は、横方向に大きくステップを刻む事で回避。天使の瞳に、瞋恚が宿り始める。 「悪魔めが」 最早言葉を交わさないクー・フーリン。 そのまま更に天使を追い詰めようと接近するも、天使も同じ考えだったらしい。 互いの武器の間合いに入るや、二の腕から先が消滅したと見える程の速度で、各々の槍と剣を奮い、打ち合いを行い続ける。 そしてその状態で、二人は移動を始め、宮殿の玄関を後にし、先程ラクシャーサを撃滅する為に移動した廊下の方へと消えて行く。それを追って、頼光が立ち上がり、彼らを追跡し始める。 ――以上が、メイヴと立香が此処に来るまでに、クー・フーリンと頼光が待機していなかった理由であった。 ―――― 「立香か。世界を救ったお前の偉業、俺は見事だと讃えよう。だが、契約する相手は選んだ方が良い。悪魔と契約する事は罪だ。そして、悪魔に世界を救ってやったと言う口実と名目を与える事は無上の罪だ。神の罰が与えられるのではない。その口実と名目の故に、付け込まれるのだぞ。考え直せ、藤丸立香」 炎の剣の剣先を、オルタの方のクー・フーリンに差し向け、セイバー・ゼフテロス……いや、ウリエルは言った。驚く程冷たく、批判的な瞳だった。 >>俺達を襲わないんじゃなかったのか!! オルタの兄貴は悪魔じゃない!! 「話を思い出せ。俺は確かに、襲わないとは口にした。だが、『あくまでも害意を与えないのは、お前一人であり』、『お前の従えるサーヴァントに害意を与えない』とは俺は一言も言ってない」 ――我ら七騎は、お前がこの地に足を踏み入れてから『一日』が立たぬ限り、お前に対して殺傷をする事は勿論、身体についての危害一つ加える事が出来ない―― ……そう言えば、そうだったと立香は思い出した。 あの時ウリエルが口にした言葉には、確かに『サーヴァント』の文言が存在しない。 命を保証されているのは自分一人だけで、実際にはサーヴァントは其処には入っていないのだ。だが、冷静に考えれば当たり前の話か。 もしもその制約にサーヴァントが含まれているのなら、一方的に敵サーヴァント達は、カルデアのサーヴァントに殴られるだけではないか。これは面白くなかろう。 立香には危害を加えない。だが、立香の従えるサーヴァントはその限りじゃない。今にして思えば、当たり前も当たり前であった。 「アイツに会っているのか、マスター」 >>夢の島で…… 「夢の島? ティル・ナ・ノーグか何かか。何にしても、厄介な奴と出会ったな。話がまるで通じんぞ」 身体に負った傷を、ルーン魔術で修復させながら、クー・フーリンは言葉を紡いだ。 話が、通じないとはどう言う事か。寧ろあの島にいたサーヴァント達の中では、一番話しやすくて与しやすそうだったが。……いや、今はそれよりも。 >>二人とも、傷の方は……!! 「問題ありませんよ、マスター。貴方はいつものように、頼れる指示を、私達に送れば良いだけです」 「メイヴ。貴様は支援に徹せ。とてもではないが、お前の身体能力で追い縋れる相手じゃない」 「えぇ、いいわよ。マスターは、戦車の中で待機していてね」 言ってメイヴは戦車から軽やかな動作で降り立ち、それと同時に、流れるように美しい桜色の髪をふわり、とかきあげさせて、流し目をウリエルの方に送って見せた。 桜色の光が、体中から煌びやかに輝かんばかりに、魅力的で蠱惑的な仕草だった。その動作の一つ一つが、美しく、男の劣情を駆り立てさせる。 「はぁい、そこのお堅そうな戦士様? 背負われている炎の翼は、貴方の責任の具現化かしら? それとも、神の威光の発露でしょうか? そんな窮屈で、退屈な物なんて放り捨てて、私と一緒に、『楽しい事』でもしましょう? 乳白のぬるま湯で湯浴みを済ませた後に、香のたかれた寝所で、至福の一時を――」 声が、普段以上に艶やかで、性的な何かに溢れている。男の耳を蕩かし、頭蓋の中を沸騰させる程に、その声音は色気に満ち溢れている。 スキル・魅惑の美声を、明白に相手を『堕とす』為に用いている。この誘惑に抗える男など、英霊全体を探したとて、一掴みどころか一摘まみのそれであろう、と言う確信がこの場の全員にはあった。 ――だが。 「呪いなど俺には聞かぬわ、汚れたサキュバスめが」 メイヴが口上を言い切るよりも速くウリエルがそう告げると、十二枚の焔翼から、翼の数に等しい、焔塊のミサイルを超音速で射出。 それに反応すら出来ず、今もメイヴは魅惑の文言を唱え続けていたが、流石に、矢避けの加護スキルを保有するクー・フーリンは反応が速い。 即座にメイヴの前に立ちはだかる様に移動し、ゲイ・ボルクを高速で回転させ、その全てを粉砕させた。 「え、く、クーちゃん!?」 自分に起こった命の危機、それをクー・フーリンが助けてくれたと言う事実を同時に認識した瞬間。 メイヴはある種のパニックの様な物を起こした。状況の理解に、渋滞が生じている状態だ。完全に理解するまで、後三秒程の時間が必要であろうか。 「貴様の淫猥な桜色の魂には反吐が出る、サキュバス。貴様の堕ちる地獄が、楽しい事など何もない、贖いの場所である事を死を以って知らせしめてくれるわ」 「フラれたな、メイヴ」 そのクー・フーリンの一言を耳にした瞬間、相手を堕落させる為の、営業用の艶美な微笑みが、凍結した。 書き割りを変更するかのように、メイヴの表情は怒りに染め上げられ、耳が充血した様に真っ赤に染まる。 するとメイヴは、懐に差していた鞭を勢いよく取り出し、ビュンビュンと振って見せる。 メイヴに取って許せない事とは、欲しいと思ったものが手に入らない事。例えフラれたとて、一瞬でも自分に意識を向けた、と言う事実があれば、 実の所メイヴの溜飲はある程度下がる。そう言った様子もなく、本当に興味もなさそうな態度を取られる。それはメイヴの怒りのツボを突く行為だった。 そして、その行いは、生前、自分の事をフったばかりか、興味すら示さなかったあの男、正しい側面のクー・フーリンとの一件を思い出させるのだ。 我慢が出来ない。目の前の天使、ウリエルの心を、徹底的に堕として、堕天使にしなければ、彼女の溜飲は最早収まらない。 「クーちゃん、遠慮はいらないわ!! 一緒にそこのつまらない男を、潰してやるわよ!! やるわよ、徹底的に!!」 心底面倒な事になったと、クー・フーリンは頭を抱えそうになる。 酒呑と茨木に合わせて、メイヴを立香の奪還役に指名させたのは他ならぬ彼なのだが、こんな事ならそもそも、 この宮殿に彼女を誘わなければ良かったと後悔していた。今此処で、要らぬストレスを、クー・フーリンは抱えたくないのであるから。 >>勝てそう? オルタ兄貴 「相手自身が強い事もそうだが、それだけの実力でありながら、御多分に漏れず、元々の実力を更に強化されている。厳しい戦いにはなるだろう」 言って、狂王が槍を構え、ウリエルの方を睨みつけた、刹那。 廊下の方面から、敵意と殺意を火花の如く散らせながら、高速で接近してくる何かを、この場にいるサーヴァント全員は捉えた。 そして、その内の一つが、玄関の方まで、矢のような勢いで飛んできた。いや、吹っ飛ばされた、と言うべきか。 身体中に傷を負い、纏う衣服の所々を破かせた状態で、余裕の一切ない表情をした酒呑童子が、だが。 >>酒呑!! 「生きていたのですか、虫」 「うちが生汚いんはよぉく解ってるやろ、牛」 床に大の字に倒れたまま、そんな軽口を叩いた酒呑は、直に、倒れたままの状態から背筋の力だけで跳躍。 空中で姿勢を整え着地し、自分が吹っ飛ばされた方向に鋭い目線を向ける。すると、その方角から、「のわああぁああああぁあああああぁぁ!!」、と 少女の本気の叫び声が聞こえてくる。いやそればかりか、その声が近付いて来る。その声の主が、水平に玄関に吹っ飛ばされながら入場。 ズザザザザ、と背中を床と擦り剥かせながら滑って行き、メイヴの乗る戦車の車輪に頭から、衝突。頭を抑えて涙目になりながら、茨木はこの場に姿を見せ始めた。 「旦那はん、無理やわ。ラクシャーサの大親分、強すぎて話にならんわ」 「う、ぐ……か、勘違いするなよ、汝(マスター)!! 今回はちょっと、酒呑も吾も本調子じゃなかっただけだ!! お前と魔力の供給をシッカリしておけば、こんな不様は――」 と、茨木が立ち上がり、事態の釈明を図ろうとするも、酒呑はかぶりを振るいながら、茨木の言葉を遮り、言葉を続ける。 「うちらと違って、あの大旦那、戦闘になると雅もへったくれもあらへんわ。『がち』、って言うんやろか。戦いについての考え方が、うちらとは違い過ぎてやりにくいったらないわ、もう」 「当然よ。我ら、人理にその名の刻まれるラクシャーサやアスラは、神を下さんが為に、悠久の年月を弛まぬ鍛錬と苦行に費やす。命を賭けた死闘の何処に、雅の入る余地があろうや」 と、言う声が、玄関に響き渡り、その一秒後程に、側頭部にねじくれた角を生やした、身長三mを超す大巨漢。 即ち、ラーマーヤナにおける聖王ラーマの宿敵にして、ラクシャーサ達の王にして神、羅刹王ラーヴァナが姿を表した。 彼は己の回りの空間に無数の、『筋骨隆々たる太い腕を生やさせ』ているばかりか、己の頭上一mと、背後一mに、ラーヴァナ自身と全く同じ顔をした頭部を、 浮遊させているのである。極めて不気味な様相。見るだけでゾッとする光景を、ラーヴァナは展開させているではないか。 「おう、誰かと思えばⅡ(ゼフテロス)の美丈夫ではないか。どうした、儂に抱かれに来たか」 「ほざけ、Ⅰ(プロトス)。貴様の出過ぎた真似に異議を唱えようとした矢先に、この始末よ。空中にいる宮殿であれば、誰からも侵入されまいとは、貴様の言であったろうが」 「ふむ、それを言われると儂も弱いな。何かしらの手引きがあったのだろうが……とんと思い浮かばぬ。が、そんな事は良いだろう」 腰を低く落とし、構えを取ったラーヴァナが、剣呑な笑みを浮かべ、この場にいる一同を一瞥した。 「貴様と儂とで、この場にいる全員を殺し、藤丸立香を地上に送り届ければ、ゼフテロス。貴様も満足するだろうが?」 「……フン。悪魔の統領と肩を並べて戦うなど、憤懣やる方ないが……事情が事情か。不様を晒してくれるなよ、プロトス」 「カカカ!! それは、儂の台詞よ、ゼフテロス」 >>最悪だ…… と、立香が零す。 片や、頼光とクー・フーリンのオルタと言う、カルデアの特記戦力ですら大苦戦させるセイバー・ウリエル。 片や、酒呑童子と茨木童子と言う、コンビの適性が極めて高い上に、此処の戦闘能力も申し分ない二名を一方的に圧倒するライダー・ラーヴァナ。 これらが二体同時に襲い掛かってくると言うのであるから、悪夢以外の何物でもない。……いや、この場にいるサーヴァント達は皆、カルデアの関係者達。 しかも奇妙な事に、彼らははぐれサーヴァントではない。立香と確かに絆を築き上げた、パートナーにも等しい存在なのだ。 それに、何もこの状況、彼らに戦いを挑んで勝利を得る、と言う事が前提条件ではない。話の流れから推測するに、結局、立香がこの場から逃げ果せれば良いのだ。 もっと言えば、自分を救出に来たサーヴァント達も一緒に、この場から退散できればベスト。無理して倒す必要がない、退散すれば御の字だ。 だが、それが難しい事も、重々承知だ。 念話で、クー・フーリン及び酒呑に、この場から退散出来るか、と訊ねてみるも、双方共に難しいと返事が返ってくる。 覚悟を決め、指揮をするか、と、戦車から出ようとした、その瞬間である。 「――セイバー忍法・レールガン!!」 と言う、何処かで聞いた、例えるなら……アルトリアと全く同じ声音の一喝が、玄関に響き渡る。 そして、それを塗り潰すかの如く、ドン!! と言う轟きが、この場を支配する。 カッ、と目を見開かせたウリエルが、竜巻の如き勢いで、大空が広がる入口の方へ回転させ、それと同時に焔の剣を振り降ろす。 何かが、バターめいて切断され、真っ二つになったそれがウリエルの身体を避けるように通過して行き、そのまま、爆発。 ギラリ、と、敵意を宿した恐るべき瞳を大空の方に向けるウリエル。 果たしてその方角には、一つの異様な乗り物の外側に降り立ち、腕を組んでウリエルを睨む女性がいた。 レトロ・フューチャーめいた古典的デザインの宇宙船……に似たトンチキな乗り物の上に佇むその女性は、ジャージに短パン、マフラーにブーツと言う、 独特の恰好を嫌味なく着こなす、と言うよりも、それらの服装がとてもよく似合っている、金髪の美女であった。 「ふ、フフフフフ……。セイバーばかりを増やす上位次元の高次情報生命体め……味を占めて、またしても男の方の私を実装しましたね……!! これはもう、SK(Saber Killerの略)としての責務を果たすべきでしょう!!」 >>(あれ、今回ってそう言うイベントじゃないよね……?) と、脳裏の脳裏を意味不明な電波が過る。 「その金髪に、悔しいほどにイケメンの顔立ち、そしてその、赤い方の私を思わせる燃える剣……。セイバーのキメラですか、貴方は!! この私が、ウケたキャラクターの属性・特徴の盛り合わせは、危険だと言う事を教えてあげましょう!!」 ビッと、ウリエルの方を指差して、カルデアに於いて『謎のヒロインX』と呼ばれるサーヴァントは、高らかに宣言した。 それを見るウリエルとラーヴァナの表情は、ゲテモノでも見るかのようなそれに、なっているのであった。
https://w.atwiki.jp/wrtb/pages/404.html
ミッキーの大時計 原題:Clock Cleaners 公開:1937年10月15日 ミッキーマウス・シリーズ:No.97 ストーリー ミッキーマウスとドナルドダックとグーフィーは街の時計塔の清掃の仕事にやってきた。 ミッキーは時計塔の内部で眠るコウノトリに悩まされる。ドナルドは内部の装置に、グーフィーは定刻に現れる自由の女神のからくり人形に遊ばれる。グーフィーが女神の人形に殴られ、時計塔から落ちそうになってしまう。何度もミッキーに救助されるが、助かった拍子に3人とも時計の内部のぜんまいに引っかかってしまう。 概要 時計塔の中のシーンは後に、『オリビアちゃんの大冒険』(1986年)に影響を与えている。『オリビアちゃんの大冒険』のDVDには特典映像として本作が収録されている。 スマートフォン用アプリ『Disney クロッシーロード』では、ある条件を満たすと本作仕様のグーフィーが使用可能になる。 『蒸気船シリー』には、本作のデザインのミッキーが登場する。 キャスト ミッキーマウス ウォルト・ディズニー ドナルドダック クラレンス・ナッシュ グーフィー ピント・コルヴィグ スタッフ 監督 ベン・シャープスティーン 製作 ウォルト・ディズニー 脚本 オットー・イングランダー 音楽 ポール・スミス 音楽 オリバー・ウォレス アニメーター ビル・ロバーツ 収録ソフト タイトル 収録ソフト メディア 音源 Clock Cleaners ★Mickey s Crazy Careers VHS 英語版 ミッキーの大時計 アニメフェスティバル2 VHS/LD 旧吹替版 Clock Cleaners ★Cartoon Bonanza 2 VHS 英語版 ミッキーの大時計 ミッキー・マウスの楽しいアニメ50年 VHS/LD 旧吹替版 Clock Cleaners ★Fun on the Job! VHS/LD 英語版 ミッキーの大時計 ミッキー・ボックス LD 新吹替版 ミッキーの大時計 ミッキーマウス 70th アニバーサリーアルバム VHS/LD 新吹替版 ミッキーの大時計 ミッキーマウス カラー・エピソード Vol.1 限定保存版 DVD 新吹替版 ミッキーの大時計 オリビアちゃんの大冒険 DVD 新吹替版 ミッキーの大時計 みんなだいすき ミッキー! (日本版) DVD 新吹替版
https://w.atwiki.jp/wiki9_ra-men/pages/2511.html
食べた日:2008/5/23 新店の『味の時計台 泉八乙女店』で「味噌ラーメン」(700円-400円)を。 %96%A1%82%CC%8E%9E%8Cv%91%E4%20%90%F2%94%AA%89%B3%8F%97%93X%20%8AO%91%95.jpg 08.5.23%20%96%A1%82%CC%8E%9E%8Cv%91%E4%90%F2%94%AA%89%B3%8F%97%93X%20%96%A1%91X%83%89%81%5B%83%81%83%93%20199%94t%96%DA.jpg 『上海麺店 泉八乙女店』跡地にオープンしました。 新店と書きましたが、実は上海麺店の前もこのお店だったので、復活というのが正しいかも。。。 22,23日はオープン記念で、看板メニューの味噌ラーメンが300円で提供ということで、せっかくなので行ってみました。 スープはマイルド系の味噌スープ。 濃度もほどほど、辛味もほどほどの、万人向けしそうな味わいです。 麺は札幌らしい感じ。 08.5.23%20%96%A1%82%CC%8E%9E%8Cv%91%E4%90%F2%94%AA%89%B3%8F%97%93X%20%96%A1%91X%83%89%81%5B%83%81%83%93%20%82%CC%96%CB.jpg 麺は黄色い中太ちぢれ麺。 やや硬めに茹で上げられていて、スープとの相性も悪くないです。 具はバラチャーシュー・メンマ・メカブ・モヤシ・玉葱・刻みネギ。 チャーシューは脂身がトロリと軟らかく、赤身がほどよい弾力がある好みに近い仕上がりです。 こちらは「時計台ギョーザ」(280円-50円) 08.5.23%20%96%A1%82%CC%8E%9E%8Cv%91%E4%90%F2%94%AA%89%B3%8F%97%93X%20%8E%9E%8Cv%91%E4%83M%83%87%81%5B%83U.jpg こちらもチラシのクーポン使用で50円引きでいただきました。。。 特別美味しいというわけではないですが、肉汁もほどよく出て、チェーンなら十分なレベルだと思います。 やっぱり300円パワーは凄く、私が行った時(17時半頃)は運よくすぐに座れましたが、食べ終わって出る頃には、30人くらい並んでマシタ。。。 住所:仙台市泉区上谷刈4-11-24 焼肉レストランひがしやま2F by hiro (2008年 199杯目) ありゃ;; 上海麺店、変わっちゃったんですかぁ。 結局一回しか行けなかったなぁ。。。 富谷はまだあるかな? あ、スンマセン。味時計のスレでしたね、コレ(笑)。 -- ちょび (2008-05-25 07 56 16) ちょびさん、毎度です。 上海麺店、閉店しちゃったんですよね~。家からも近く、味も意外に好きだっただけに残念です・・・ ちなみに富谷店はまだありますよ~。 -- hiro (2008-05-25 08 30 41) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/83452/pages/16160.html
伝えたくない言葉だった。 けれど、伝えたい言葉だった。 これが偽りの無い、澪に対する私の本音だ。 澪と恋人になるのは悪くないと思えた。 悪くないけれど……、良くもないって思ったんだ。 私は澪の告白が嬉しかった。澪と恋人になりたいと思った。安心できるって思えた。 でも、同時に思い出したんだ。 澪と自分の唇を重ねる直前、自分が涙を流したのを。 ほとんど同時に澪も泣き出してしまっていたのを。 長い事、私は私の涙の理由が分からなかった。 澪の涙の理由も分からなかった。 今はもうその涙の理由を確信している。 確信できたのは、軽音部の皆と話せたからだ。 唯もムギも梓も、苦しみながら、悩みながらも同じ答えを出していた。 皆が同じ答えを出していて、私の答えもそうなんだって気付けた。 だからこそ、あの時は泣いてしまってたんだ、私も、澪も。 世界の終わりが間近だからって、その選択だけはしちゃいけなかったんだ。 いや、しちゃいけないわけじゃないか。 選択したくなかったんだ、簡単な選択肢を。 「澪の告白は嬉しかった。 嬉しかったんだ、本当に……」 私は言葉を続ける。 どうしようもなく我儘な私の答えを澪に伝えるために。 上手く伝えられるかどうかは自信が無いけど、 少なくとも私が何を考えているかだけは分かってもらえるために。 「澪の事は好きだ。 澪はずっと傍に居てくれたし、一緒に居るとすごく楽しい。 そんな澪と恋人になれたら、どれだけ楽になれるかって思うよ。 でも、今の私達にそういうのは違う。違うと思う。 気付いたんだ。 一昨日、私が澪と恋人になろうとしたのは、世界の終わりから逃げたかったからなんだって。 澪と恋人になれば、世界の終わりの事なんて考えずに、澪と二人で笑顔で死ねるって思った。 自分の不安から目を逸らすために、私は澪を利用しようと思っちゃってたんだよ。 世界の終わりが近いんだし、そういう生き方も間違ってないんだろうけど……。 嫌だ。私は嫌なんだよ。澪をそんな風に利用したくなんかないんだよ……。 大切な幼馴染みを、そんな扱いにしたくないんだ。 今更……、今更な答えだと思うけど……、それが私の答えなんだよ」 澪は何も言わない。 私の瞳を真正面から見つめて、ただ私の言葉を黙って聞いている。 澪が何を考えているのかは分からない。 でも、少なくとも、私の言っている事の意味は分かってるはずだと思う。 澪は頭がいいし、一昨日、私と同じように涙を流したんだ。 澪も心の何処かでは、私と同じ答えを出していたはずなんだ。 私達は今、恋人同士にはなれないんだって。 「何度でも言うよ。 私は澪の事が好きで、傍に居たい。澪が本当に大切なんだ。 でも、それは恋人同士としてって意味とは違う。 一昨日、私はおまえと恋人同士になろうと思って、 雰囲気に流されるままにキス……しようとして、気が付けば泣いてた。 あの時はその涙の理由が分からなかったけど、今なら分かるよ。 急に澪と恋人になるなんて、何かが違うって心の何処かで分かってたからなんだ。 そんなの私達らしくないって気付いてたからなんだ。 だから、私はそれが悲しくて泣いちゃってたんだ……」 「私達らしくない……かな」 澪が久しぶりに口を開いて呟いた。 それは反論じゃなくて、純粋な疑問を言葉にしてるって感じの口調だった。 私はゆっくりと首を縦に振って頷く。 「うん……。私達らしくないと思う……。 澪もそれを分かってたから、あの時、泣いてたんだろ? 少なくとも、あの時、私はそういう理由で泣いたんだ。 私達が私達でなくなる気がして、それが嫌だったんだと思う。 軽音部の皆と話しててさ、思ったんだ。 唯もムギも梓も、世界の終わりを目の前にした今でも、これまでの自分で居たがってた。 皆、世界が終わるからって、自分の生き方を変えたくないんだ。 それは私達も同じなんだよ、澪。 もうすぐ死ぬからって、死ぬ事を自覚したからって、急に生き方を変えてどうするってんだよ。 そんなの、今まで私達がやってきた事を否定するって事じゃんか。 あの楽しかった時間全部を無駄だったって決め付けるって事じゃんか。 私達が私達じゃなくなるって事じゃんか。 嫌だ。そんなの嫌だ。私はそんなのは嫌なんだよ……」 私の想いは伝えた。 すごく不安だったけれど、とりあえずは私の考えを伝える事ができた。 多分、澪も私の言う事を分かってくれたはずだ。 いや、最初から分かってたのかもしれない。 分かってたけど、それを認めたくなかっただけなんだろう。 「でもさ、律……」 不意に澪が小さく呟いた。 少しだけ辛そうに、でも、自分の想いを強く心に抱いたみたいに。 「終末から目を逸らしたいって意味があったのは、否定しないよ。 逃げようとしてたのは確かだと思う。 でもね……。 それでも、私は律と恋人になりたいと思ってたんだよ? 女同士だからそんなのは無理だって分かってたけど、でも……。 ずっと前から、私は律の事が……」 それも嘘の無い澪の想いなんだろうと私は思う。 世界の終わりから目を逸らすための手段だとしても、 完全に何の気も無い相手に恋心をぶつける事なんて澪は絶対にしない。 『終末宣言』の前から、澪は少しだけ私の事を恋愛対象として好きでいてくれたんだろう。 でも、それは私にとって急な話で……、 澪の事は好きだけど、澪と恋人になるっては発展し過ぎた話で……。 だから、私は自分でも馬鹿だと思う答えを澪に伝える事にした。 この答えを聞けば、多分、誰もが私を馬鹿だと思うだろうし、私自身もかなりそう思う。 だけど、それこそが私に出せた一番の答えだし、私の中で一番正直な想いだから……。 私は、 その答えを、 澪に伝えるんだ。 「女同士なんて私には無理だよ、澪……。 親友に急にそんな事を言われたって、 いきなり恋愛対象として見る事なんてできないよ……。 最初は恋人になろうとしておいて本当に悪いけど、無理なんだよ……」 ひどく胸が痛む言葉。 伝えている方も、伝えられる方も傷付くだけの辛い言葉だった。 私の言葉を聞いた澪は、自分の席にゆっくりと座り込んだ。 机に肘を着いて、絞り出すみたいにどうにか呟く。 「そっか……。 そうだよな……。迷惑だった……よな……。 ごめん……な、律……。 私が勝手に律を好きになって……、こんな時期に戸惑わせちゃって……。 本当に……ごめ……」 最後の方は言葉になってなかった。 澪の声は掠れて、涙声みたいになっていた。 多分、本当は泣きそうで仕方が無いんだろう。 それでも私に涙を見せないようにしてるんだろう。 もう私の負担になりたくないから。 もう私を戸惑わせたりしたくないから……。 だけど、私は澪に伝えなきゃいけない事がまだあった。 澪を余計に傷付けるだけかもしれないけど、それも私の本音だったから。 「まったく……、本当に迷惑だよ。 こんなに私を迷わせて、私を戸惑わせて、 もうすぐ世界の終わりが来るってのに、こんなに私の心を揺らして……。 おまえって奴はさ……」 「ごめ……ん。り……つ……。 ごめん……なさ……」 「おかげでまた考えなくちゃいけない事ができちゃったじゃないか」 「え……っ?」 「私がおまえの事を恋愛対象として好きになれるかって事をさ」 「り……つ……?」 「私は澪と恋人にはなれないよ。今は……さ。 だって、そうじゃん? おまえと知り合ってから大体十年くらいだけど、 その十年間、おまえとは幼馴染みで、ずっと親友で、 そんな奴をいきなり恋人だと思えってのは無理があるだろ、そりゃ。 実を言うとさ、 澪が私の事を好きなんじゃないかって思う事もたまにはあったけど、 そんな自意識過剰な事ばっか考えてられないし、確信が無かったから気にしないようにしてた。 でも、世界の終わり……終末がきっかけだったとしても、おまえは私に告白してくれただろ? おまえが私とどういう関係になりたいのか、私はそこで初めて知ったって事だ。 おまえとは長い付き合いだけどさ、 私とおまえが恋人になるかどうかを考えるスタートラインは、私にとってはそこだったんだ。 それがまだ一昨日の話なんだぜ? だから、考えさせてほしいんだよ、澪。 考える時間が無いのは分かってるし、どんなに頑張っても三日後までに出る答えでもない。 だけど、時間が無いからって、焦っておまえとの関係を結論付けるのだけは嫌なんだ。 それだけは嫌なんだ。絶対に絶対に嫌なんだ。 そんな適当にこれまでのおまえとの関係を終わらせたくないんだよ。 馬鹿みたいだし、実際に馬鹿なんだろうけどさ……、 その答えを出せるまで、私達は友達以上恋人未満って関係にしてくれないか?」 私はそうして、抱えていた想いの全てを澪にぶつける事ができた。 これが私の出せた我儘で馬鹿な答え。 馬鹿だけど、嘘偽りの無い私らしい答えだ。 正直、こんな答えを聞かされた澪の身としては、たまったもんじゃないだろうと自分でも思う。 世界の終わりが近いのに、何を悠長な話をしてるんだって怒られても仕方が無い。 怒ってくれても、構わない。 でも、焦って結論を出す事だけは、 これまでの私達を捨てる事だけは、絶対に間違ってると私は思うから。 だから、これが私の答えなんだ。 「それじゃ……」 澪が震える声で喋り始める。 目の端に涙を滲ませながら。 「それじゃ少年漫画みたいじゃないか、律……」 そうして澪は、泣きながら、笑った。 これまでの辛そうな顔じゃなくて、 呆れながら私を見守ってくれてた少し困ったような笑顔で。 私も苦笑しながら、小さく頭を掻いた。 「しょうがないだろ? 私は少女漫画より少年漫画の方をよく読んでるんだから。 でも、確かに友達以上恋人未満って関係は、少年漫画の方が多いよな。 少女漫画は一巻から主人公達が付き合ってたりするもんな。 だから、勘違いするなよ、澪。 私が言ってるのは、そういう少年漫画的な意味での友達以上恋人未満の関係だからな。 付き合うつもりが無い相手を期待させるだけの便利な言葉を使ってるわけじゃないからな? 私が澪となりたい友達以上恋人未満ってのは、恋人になる一段階前っつーか……。 恋人になる前に、何度もデートを重ねてお互いの想いを確かめ合ってる関係っつーか……。 ごめん。上手く言えてないな、私……」 「……大丈夫。分かってるよ、律。 私を期待させるだけ期待させて便利に使うなんて、 そんな器用な事ができるタイプじゃないもんな、律は。 それにさ、律の表情を見てると、 私との事を本気で考えてくれてるんだって、分かるよ……。 同情や慰めで私と恋人になるんじゃなくて、 終末から目を背けるために恋人との蜜月に逃げ込むわけでもない。 律はただ私の想いをまっすぐに受け止めようとしてるんだって分かるんだ。 心の底から、私との関係を考えようとしてくれてるんだって……。 そんな律だから、私はさ……」 そこで言葉が止まって、また澪の瞳から涙がこぼれた。 でも、それは単なる悲しみの涙じゃない。 涙を流しながらも見せた澪の顔は、これまで見た事が無いくらい晴れやかな笑顔だった。 「やだな、もう……。 涙が止まらないよ、律……。 恥ずかしいよな、こんなに涙を流しちゃって……」 「いいよ。どれだけ泣いたっていい。 恥ずかしがらなくても、いいんだよ。 こう言うのも変だけど、今の澪の顔、すっげー綺麗だよ」 それは私の口から自然に出た言葉だった。 泣きながら笑って、笑いながら泣いて、 すごく矛盾してるけど、そんな澪の表情は見惚れてしまいそうになるくらい綺麗だった。 だから、私の言葉は何の飾りも無い私の本音だった。 ……んだが、気が付けば、私の頭頂部が澪の拳骨に殴られていた。 さっきまで座ってたくせに、わざわざ一瞬のうちに立ち上がって、私の頭を殴ったわけだ。 「何をするだァーッ!」 私の方もわざわざ誤植まで再現して、澪に文句を言ってやる。 いや、マジでかなり痛かったぞ、今のは。 これくらい言ってやっても罰は当たらないだろう。ネタだし。 だけど、澪の奴は顔を赤くして、あたふたした様子で私の言葉に反論を始めた。 「だ……、だって律が恥ずかしい事を言うから……! すごい綺麗とか……、真顔でそんな恥ずかしい冗談を言うな! こんな時にそんな事言われたら、冗談でもびっくりするじゃないか……!」 「いや、別に冗談じゃなかったんだが……って、あぅんっ!」 最後まで言う前にまた澪に叩かれ、私は妙な声を出してしまう。 自分で言うのも何だが、「あぅんっ!」は我ながら気持ちの悪い声だったな……。 それはともかく、本音を言ってるのに、 どうして私はこんなに叩かれないとならんのか。 「何をするんだァーッ!」 今度は誤植を訂正して澪に文句を言ってみる。 あの漫画を読んでない澪がそのネタに気付くはずもなく、 顔を赤くどころか真紅に染めて、更に動揺した口振りで澪が続けた。 「だから……、そんな恥ずかしい冗談はやめろって……! どうしたらいいか、分からなくなっちゃうじゃないか……! やめてよ、もう……!」 「恥ずかしい冗談って、おまえな……。 これくらいの事で恥ずかしがっててどうすんだよ。 恋人同士ってのは、もっと恥ずかしい事をするもんなんだぞ」 呆れ顔で私が返すと、澪はまた自分の椅子に座って、黙り込んでしまった。 顔を赤く染めたまま、視線をあっちこっちに動かしている。 どうも澪の許容できる恥ずかしさの限界を超えてしまったみたいな様子だ。 その瞬間、私は気が付いたね、澪が変な事を考えてるんだって。 「おい、澪。おまえ今、変な事考えてるだろー?」 「へ、変な事って何だよ……」 「私が言う恋人同士の恥ずかしい事ってのは、 夕陽の下で愛を語り合ったり、「君の瞳に乾杯」って言ったり、 そういう背中が痒くなるような恥ずかしい事って意味だぜ? 今、おまえが考えてる恥ずかしい事って、そういうのじゃないだろ? 例えば、そうだな……。 前に見たオカルト研の中の二人みたいな事、想像してただろ? いやーん、澪ちゃんのエッチ」 「なっ……、か、からかうなよ、馬鹿律!」 叫ぶみたいに言いながら、澪が自分の拳骨を振り上げる。 もう一度拳骨が飛んで来るかと思ったけど、 澪はそうせずに、拳骨を振り上げたままで軽く吹き出した。 それはこれまでの笑顔とは違って、面白くて仕方が無いって表情だった。 微笑みながら、澪が嬉しそうに続ける。 32