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仏教 菩薩 (1)菩薩とは、サンスクリット語のボーディサットヴァを漢語で音写した語で、『菩提薩埵』を簡略化した語であり、本来は出家する前の釈迦(語の由来として、釈迦の名であるゴーダマ・シッタールダを、梵語で反対から読んだ形から来ている)を表していたが、現在では如来になる前の段階にいる者を示す。しかし、密教では如来が悟るために修業する姿を、まだ悟りを体感していたない者のために見せているとされる。 これら菩薩は、『菩薩形』と呼ばれる、金・銀・玉などの装飾品で着飾った姿をしているのは、元は出家する前の釈迦が、シャカ族の王子であったことから、その姿が繁栄したとされている。唯一の例外が中国・日本などでみられる『比丘形』とよばれる姿をした地蔵菩薩である。 参考 新紀元社 密教曼陀羅
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利用履歴 ここで、彼のおかず提供委員会利用履歴を晒そう。 12月24日 画像4枚をダウンロード(うち3枚はエ○ゲから) ↑ クリスマスイブの夜におかず提供委員会を利用するという伝説を残したのであった。 12月25日 動画3本をダウンロード(計62分 内容は×××に○○○、極めつけは△△△である。※当サイトは全年齢対象なので一部伏せていただく。それでも知りたいという挑戦者は管理人まで。) ↑ 二日連続で利用したので、このときボーナスで偽装女の子メールを送られたとか笑
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三 ヴェストリの広場は魔法学院の敷地内、『風』と『火』の塔の間にある中庭である。 日中でも余り日の差さないこの場所は、まさに決闘にうってつけと言える。 そして今、二人の男が己の誇りを賭けた真剣勝負に挑もうとしている。 ……と、言うことになっているようだ。 「……で、何でこんなことになっちゃってる訳……?」 丸一日振りの食事を終え、幸せの絶頂にあったルイズだったが、一気に不機嫌へと引き戻されてしまった。 殷雷はポリポリと頭を掻いた。 「まぁ、ありのまま起きたことを話すと、だ。 そこのギーシュって奴が落とした小壜を拾ってやったと思ったら、いつの間にか決闘を挑まれていた」 「何を言ってるのか全然分かんない」 「……俺にもさっぱり分からねえ」 まぁ、ギーシュの方が一方的に絡んできた、と言うことなのかもしれない。 にしては、やけに目が虚ろに見えるのは気のせいだろうか……? 「あ、あの……ミス・ヴァリエール」 ――と、メイドの少女がおずおずと話しかけてきた。さっき強引に殷雷を引っ張り込んだ娘だ。 確か、名前はシエスタだったと思う。 「ごめんなさい! 私がその方を無理矢理手伝わせてしまったばっかりに……!」 殷雷は事も無げに言った。 「俺の方は別に構わん。どうせ、俺が居なくても誰かが代わりになっただけだ」 ……実のところはそうでもなかったりするのだが、彼らには与り知らぬ話である。 「本当は貴族同士の決闘は禁じられてるんだけど……一方が使い魔だったら良いのかしら?」 何故二人ともそんな平然としていられるのだろう。シエスタには信じられなかった。 「平民が貴族と戦ったりしたら、死んでしまいます!!」 ルイズは全く動じない。 「あー、大丈夫大丈夫。こいつは平民じゃないから。あれ、知らなかった?」 「え……?」 「こいつ呼ばわりかよ。まぁ、相手にもよるがな。――で、どうなんだ? あいつの実力は。 身体能力は大したことなさそうだが、魔法の方は見てもよく分からん」 「『ドット』にしてはなかなかの使い手だって聞いてるけど……まぁ、大丈夫でしょ」 「え? え?」 「微妙な話だな。まぁ、油断するつもりはないがな」 殷雷は首をコキコキと鳴らし、ギーシュの方へと向かっていった。 ――せっかくだ。もし余裕があるようなら、『あのこと』を確かめてみよう。 広場を盛大な歓声が包む。 「ふ……フン。よく逃げなかったね。それだけは誉めてやろうじゃないか!」 そう言うギーシュの顔は汗まみれだった。心なしか声も上ずっている。 「…………貴族って奴も、大変だな」 殷雷は相手にだけ聞こえる声で、呟いた。 一瞬ギーシュの顔が泣きそうに歪んだが、すぐにまた余裕の表情を取り繕う。 なんかもう、ヤケクソである。 「ではッ――ゴホン。では、行くぞ!!」 ギーシュが手に持った造花の薔薇――どうやらこれが彼の杖のようだ――を振ると、一枚の花びらが舞う。 そして、それは一瞬にして金属製の人形へと変化した。 人間と同程度の大きさの、甲冑を纏った女戦士の像。 「僕の二つ名は『青銅』――青銅のギーシュだ。君の相手はこの青銅のゴーレム、『ワルキューレ』が務めよう。 ……卑怯とは言うまいね?」 傲岸な表情を作りつつも、その眼が「お願い。言わないで」と訴えていた。 ……さすがにいい加減哀れになってきた。 だが、殷雷としてもこちらの方が好都合だった。 「俺は一向に構わん。――来い」 『ワルキューレ』の拳が、殷雷へと躍りかかった。 * 『ワルキューレ』が拳を放ち、殷雷が身を反らす。 殷雷が『ワルキューレ』の胴体に蹴りを撃ち込むが、『ワルキューレ』は構わず反撃する。 一人と一体が同時に蹴りを放ち、中央で激突する。 傍目には、それは一進一退の攻防に見えた。だが―― 『ワルキューレ』を操るギーシュには分かった。圧倒的に不利なのは、自分の方だ。 『ワルキューレ』と同様、殷雷も何発か攻撃を受けている。だが、手応えがほとんど感じられない。 おそらく、打撃が命中する瞬間にわずかに身を退き、ダメージを軽減させているのだろう。 口で説明するのは簡単だが、なかなかに高等な格闘テクニックだった。 ……そもそも、これほどの動きが出来るのならば、『ワルキューレ』の攻撃が当たること自体がおかしいのだ。 手を抜いて、こちらの実力を計っているのだろう。 ――で、一方の『ワルキューレ』はと言うと。 動きに影響はないようだが、あちこちに細かいヒビが入っている。 青銅製のゴーレムだから良かったものの、もしこれが生身の人間――ギーシュ自身だとしたら。 身体が震えた。 ……変に格好つけて、余裕を見せている場合ではない。 一方殷雷は、心の中で首を捻っていた。 幸いなことに、この『ワルキューレ』とかいう金属人形は大した脅威ではない。 だから、適当に手を抜きつつ、昨日の不思議な感覚を確かめようとしていた。 ――ルイズを操り、疾走した時のこと。 殷雷刀には使い手の身体を操る能力はあっても、その力を引き出す能力は無い。 殷雷の力を百、ルイズの力を一としても、その力は百一にはならず、百のままだ。 その、はずだった。 あの時のルイズと殷雷の力は、二百を超えていた。 ……おかげで制御を誤り、ルイズに怪我を負わせてしまったのだが。 今の殷雷に、あの時の異様にみなぎる力は感じられない。 あの時と今。何が違うのかは、一目瞭然であろう。 ――だとすれば、やるべき事は一つ。 「このままではキリがないね……悪いが、決めさせてもらうよ」 ギーシュは造花の薔薇を振り――新たに二体のゴーレムが現れる。 一対三。殷雷の圧倒的不利に見えた。 ――ここで一度、殷雷はその身を退ける。 そこには、成り行きを見守るルイズが居た。 「少し休憩するぞ。 ――選手交代だ。行くぞ、ルイズ」 * 「『ガンダールヴ』……か」 学院長室では、ミスタ・コルベールが興奮気味にまくし立てていた。 「その通りです! 始祖ブリミルの……伝説の使い魔!!」 オスマン氏は、コルベールに手渡された紙――奇妙な文字のような紋章がのたくっている――から視線を上げた。 「それが、例の……インテリジェンスソードの青年に刻まれたルーンと?」 「一致したのです!!」 こうして顔を真っ赤にさせていると、まさに茹で蛸じゃな……などと、つい場違いなことを考えてしまうが もちろん口には出さない。 「――で? 君の結論は?」 「あの青年は、『ガンダールヴ』です!!」 始祖ブリミルが使役したという四体の使い魔の内の一人、『ガンダールヴ』。 始祖の使う魔法は強力ではあったが、それ故に呪文の詠唱時間も長かった。 その間無防備な主人を守護するのが『ガンダールヴ』の役目。 その力は千人の軍隊を一人で壊滅させるほどであったという。 『ガンダールヴ』はあらゆる武器を使いこなした。 その姿は不明だが、上記から推測するに、恐らく手や腕はあったのだろう。 「――しかし、おかしくはないかの?」 「何がですか?」 オスマン氏は、素朴な疑問を口にした。 「その彼が言うには、真の姿は剣の方なのじゃろう? 剣には手も足も生えてはおるまいに」 「……武器が、武器を使った、のでしょうか」 とても、納得の出来る話ではなかった。 その時、ドアがノックされた。 「誰じゃ?」 「わたくしです。オールド・オスマン」 ミス・ロングビルだった。 彼女は扉越しに話を続けた。 「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒達がいるようです。止めに入ろうとした教師がいたようですが、 興奮した生徒たちに邪魔されてしまったとか……」 「決闘ぉ? かー、暇と血の気の有り余った貴族というのはこれだから始末が悪いわい。 で、当事者の名は?」 「ギーシュ・ド・グラモンと、もう一人は、その……」 ロングビルは口ごもった。 「グラモンの所の小僧か。またどうせ女絡みじゃろうて。 で、相手は誰じゃ?」 「……ミス・ヴァリエールの使い魔です。噂の」 オスマン氏とコルベールは顔を見合わせた。 「教師たちは、『眠りの鐘』の使用許可を求めているようですが……」 「うむ。……いや、却下する。所詮は子供の喧嘩じゃろう。 いちいち秘宝など使ってどうする。放っておきなさい」 「分かりました。では、そのように」 ミス・ロングビルの足音が遠くなったのを確かめると、オスマン氏は杖を振った。 壁に掛けられた大きな鏡に、ヴェストリの広場の様子が映し出された。 * 『ちょ、ちょっとインライ! さっき言ったでしょ! 貴族同士の決闘は禁止されてるのよ!?』 『使い魔を戦わせてる時点で同じ事だろ。さっさと覚悟を決めろ。 今度はちゃんと手を離さないようにしてある』 殷雷は刀の姿に戻り、ルイズの右手に持たせていた。――半ば無理矢理に。 しかもご丁寧なことに、ルイズのハンカチでその手をきつく固定している。 殷雷の腕力で結ばれたものなので、例えルイズが拒んだとしてもそれを解く術はない。 ……一種の脅迫じゃないの、これは。 鞘を押しつけられたシエスタは、目を丸くしながら辺りを見回している。 「え? え? あれ? れ? あ、あの……あの方――インライさんはどちらに?」 ルイズは答える。 「俺ならここだ。この刀が俺の本性。今、ルイズの身体は俺が操っている」 それはルイズの声だったが、その口調はまさに殷雷のものだった。 元々吊り目がちだったその眼光は、今や猛禽類と見まごうばかりに鋭くなっている。 「ちょっとインライ。私の声で勝手に喋らないでよ」 「今の俺には口が無いのだから仕方なかろう。我慢しろ」 「あ、あんたねえ」 事情を知らない者が見れば、それは怪しげな一人芝居にしか見えなかっただろう。 ギーシュは呆然としていた。殷雷が突然爆発し、その姿を消したからだ。 恐らく、ルイズの持っている剣が、彼の本当の姿なのだろう。 話には聞いていたが、まさか本当だったとは…… ――しかし、考えてみればこれはむしろ好都合なのではないか? 確かに殷雷の力は相当のものだったが、その殷雷は今は剣に姿を変えている。 それを操るのは、ルイズだ。 ……これなら、勝てるのではないか。 「――さて、と。じゃあ再開するか」 ルイズの声で殷雷は喋る。 「僕には女性を傷つける趣味はないのだがね。 君がどうしても、と言うのなら相手になってあげても良いだろう」 ギーシュの声色はさっきとは明らかに異なっていた。 ルイズは不敵に微笑んだ。そうだ。その方がこちらとしてもやりやすい。 「御託はいい。さっさと来い」 三体の『ワルキューレ』は先ほどとは違い、その手にそれぞれ大剣、槍、槍斧が握られている。 その内の一体――大剣を持ったゴーレムが襲いかかってきた。 ――ルイズの左手が、強い輝きを放つ。 閃光が走る。 次の瞬間、『ワルキューレ』はその身を両断されていた。 「え」 「あれ」 辺りが静まり返る。 何が起きたのか、理解できた者はこの場には存在しなかった。 ギーシュも。――刃を振るった、ルイズ自身でさえも。 ただ一人――いや一振り。殷雷刀だけが、この状況を正確に認識できていた。 『――なるほど。うむ。大体分かった』 『な、何? 何が起きたの? 今、何をしたの!?』 『変わったことはしていない。ただ、斬っただけだ』 ――ギーシュが最初に我に返った。 「ワ……『ワルキューレ』!!」 残る二体のゴーレムを突っ込ませる。 左右から迫られたルイズの身体が、わずかに左右にぶれる。 二体のゴーレムは同時に寸断された。 そしてギーシュが、己が無防備になったことを悟る暇もなく、殷雷刀が彼の喉元に突きつけられた。 「ま……まいっ」 だが、ルイズはニヤリと笑うと、彼にだけ聞こえる声で、それを遮った。 「せっかくの決闘だ。 もう少し楽しませてやらねば、せっかく集まってくれた観衆に申し訳なかろう?」 「え――?」 「いいから、俺の言う通りにしろ。なに、悪いようにはせん」 * その場にいる誰もが決着がついた、と思ったその時。 ――ルイズの身体は後方へと大きく弾き飛ばされた。 何度も地面を転がり、その勢いのまま跳ね起きる。 「……やるじゃない。まだこんな力を残していたとは、油断したわ」 ルイズは不敵に笑う。それは殷雷刀の笑みだった。 ギーシュも笑う。そして、造花の薔薇を掲げた。 「僕のこの薔薇には、まだあと四枚の花びらが残っている。 ――それが、何を意味するか分かるかい?」 ルイズは驚きに目を見開く。 「ま…まさか!」 「そう。まだ僕は、四体の『ワルキューレ』を残しているのさ!!」 ギーシュが薔薇を振り、四枚の花びらが舞う。 そして、現れるのは四体のゴーレム。 「くうっ……!」 ルイズはギリリと歯を鳴らす。絶体絶命のピンチが訪れていた。 観衆は息を呑み、この死闘をただ見守るばかり。 ……一方、それを冷ややかに見つめる女が一人。 『……よく言うわ』 ルイズである。 『これくらいの演出があった方が盛り上がるだろう』 『確かに盛り上がってはいるけどね……私としてはむしろ寒いわ』 『少しは辛抱しろ。これは、あのギーシュって奴へのちょっとした礼だ』 礼? ……この茶番劇が? ……そもそも何の? 四体の『ワルキューレ』は間近に迫っていた。 一体目のゴーレムが大剣を振り下ろし、ルイズは殷雷刀でそれを受け止める。 その背後から、二体目のゴーレムが肩に担ぎ上げた戦斧を袈裟懸けに振り下ろす。 一体目の押し込む大剣の軌道をルイズは刀でずらし、その膝を借りて真横へと飛んだ。 耳の横を戦斧の一撃が掠める。 錐揉み回転したルイズは側頭部そして肩で着地し、同時に脚を回してまるで駒のような垂直倒立を披露する。 純白の下着が衆目に晒されたかと思うと、戦斧を持ったゴーレムが体勢を崩した。 見れば、両足首が寸断されている。 倒れかけたゴーレムを後押しするかのように、倒立から両膝をそろえてゴーレムの後頭部に叩き込んだ。 地面と膝の挟撃に堪えきれず、青銅の兜が音を上げて割れた。 あと三体。 拳から棘の生えた三体目のゴーレムがルイズを追い込むように素早い連撃を撃ち込む。 ルイズはそれを回避し、時には捌くが段々と後退を余儀なくされていく。 背後には槍を持って待ち構える四体目。 青銅の甲冑の重みを十二分に載せた踏み込みが、そのまま槍の威力となって突き出される。 ルイズは身を捻り、槍はその腹を掠めて通り過ぎる。 空を切った槍に空いた手を添え、強く地面を蹴り一瞬だがその上に飛び乗った。 槍を足場に正面のゴーレムを飛び越え、手から地面につければ身体を折りたたむように身を縮める。 縮めきったその力が逃げぬうちに、腕立てをするように地面を手で押し、背後に向かって蹴りだす。 逆蹴りを背中に受けた三体目のゴーレムは、突き出された槍に飛び込む形で腹部を貫かれた。 四体目のゴーレムが同胞ごと槍を手放すが、武器を失った者は最早敵でもない。 その時には既に体勢を立て直していたルイズは、殷雷刀でその胴体を両断した。 あと一体。 最初の、大剣を持ったゴーレムである。 距離を取り、攻めあぐねるルイズにゴーレムが襲いかかる。 上段から振り下ろす剣に対し、ルイズは殷雷刀を下段から振り上げた。 剣が飛ぶ。 腕の無くなったゴーレムの顔面に、ルイズは光り輝く左拳を叩き込んだ。 頭部を砕かれ、最後のゴーレムは地に崩れ落ちた。 一瞬の隙も逃さず、ルイズはギーシュへと突貫する。 ――そして。 ルイズとギーシュ。二人の刃は、互いの心臓に同時に突きつけられていた。 ギーシュの持つ剣は、最後のゴーレムが持っていた物だ。 弾き飛ばされた大剣は、ギーシュの手の中に収まっていたのだ。 やがて、どちらからともなく刃を退いた。 「引き分け――だな」 ――うぉおおおおおおおおおおおっ!! 先ほどまで静まりかえっていた観衆が、賞賛の大歓声を贈る。 死闘を演じたルイズとギーシュは、固い握手を交わすのだった。 * 盛大な拍手と歓声の嵐に沸くヴェストリの広場。 オスマン氏は『遠見の鏡』を解除した。『鏡』はただの鏡へと戻る。 「オールド・オスマン」 コルベールが震えながら口を開く。 「あれが、『ガンダールヴ』の力なのでしょうか……?」 「……それを言い出したのは君の方じゃぞ、ミスタ」 二人にも、この事態を理解できたとは言い難かった。 「……気付いたかね? ミスタ・コルベール」 「ミス・ヴァリエールの左手の事……でしょうか」 殷雷刀を握った時、彼女の左手の甲は確かに輝いていた。 しかも、殷雷に刻まれたルーンと同じ形に。 「ありとあらゆる武器を使いこなす伝説の使い魔、『ガンダールヴ』。 その正体は主人の身体を操り、己を武器として扱わせる魔剣だった……そういうことなのでしょうか」 「主人そのものを武器扱いしているのかもしれん。……まぁ、同じ事じゃがな」 これが事実なら、伝説を根底から揺るがすことにもなりかねない。 「……ま、かつての『ガンダールヴ』が全く同じような存在だった、とも言い切れんがの。 もしかしたらただの突然変異かもしれん」 それはそれで、とんでもない話には違いないのだが。 「この一件……王室に報告するべきでしょうか」 「それはやめておけ」 オスマン氏は即答した。 「どうせ、戦の道具として利用されるのがオチじゃろうて。 宮廷の連中は戦争好きじゃからのう」 「……分かりました。ではこの件は、内密に」 (…………『ガンダールヴ』。伝説の使い魔、ね……フフッ) ――気配を殺し、部屋の外で聞き耳を立てている人物の存在に、二人は気付いていなかった。 * 未だ賞賛の雨の降り注ぐ中、どうにも白けた顔が一つ。 「何だかねぇ……」 ルイズは呆れとも照れともつかない複雑な表情を浮かべるばかりだった。 「誉められてるんだ。素直に喜べ」 殷雷は既に人の姿に戻っている。 「僕としては、礼を言った方が良いのかな?」 観衆に手を振っていたギーシュが、小声で話しかけてきた。 「本来なら、問答無用で叩き伏せられても文句は言えない状況だったのに ……何故、僕に花を持たせるような真似を?」 それはルイズにとっても大きな疑問だった。 殷雷は肩をすくめて答えた。 「何。武器の宝貝として、己の能力を把握するのは重要だからな。 早い内に気づかせてもらえた礼だよ」 ……殷雷の言ってることは二人には理解できない。 その時、観衆の中の、金髪縦ロールの女生徒とギーシュの目が合った。 「……モンモランシー」 もしかして、ずっと見ていてくれたのだろうか。 モンモランシーはすぐに目をそらしたが、よく見ると顔が赤い。 殷雷が黙って肩に手を置く。 「……ありがとう、インライ。いつか、恩返しをさせてもらうよ」 「期待しないで待っていよう」 殷雷は笑う。ギーシュも笑う。 ――ルイズは、笑っていなかった。 「盛り上がってるところ悪いんだけど」 何やら、非常に不穏な空気。 「――この制服、どうしてくれるのよ!!」 彼女の制服はズタボロだった。ゴーレムの攻撃を常に紙一重で躱していた代償である。 ……生々しい、戦禍の傷跡であった。 しかも、考えてみれば今日これで二度目ではないか。 「……何かを成すために、犠牲は避けられないのか。 その答えを見つけることが俺の、人生の課題だ」 「全然綺麗にまとまってない!!」 ……やっぱり駄目か。 四 時は夕刻。 シエスタに誘われ、厨房へと足を踏み入れた殷雷を迎えたのは、料理人たちだった。 その中の代表者は恰幅の良い中年。料理長のマルトーである。 「おお!『我らの包丁』だ! 『我らの包丁』が来たぞ!!」 ――殷雷が披露したのは見事な足ズッコケだった。 殷雷はガクガクと震えながら立ち上がり、これまたガクガクと震える声で懇願した。 「……た、頼む。そのほ、包丁というのだけは、勘弁してくれ」 「謙遜するこたぁねえさ! 昼間のお前さんの包丁捌き、俺は惚れ惚れしたね! ――おっと、昼間は悪かったなぁ。こき使っちまって」 謙遜ではない。断じて謙遜ではない。 「……せめて、『我らの刀』で頼む」 殷雷に対し、『包丁』は禁句であった。 「――それにしても、爽快だったよなぁ!!」 ギーシュとの決闘の話だった。 「あのクソ生意気な貴族の小僧を、あそこまで派手にのしちまうとは、信じられねえぜ!! 大したもんだなぁ、インテリジェンスソードってのは!」 「……あれは、引き分けだ」 「なーに言ってんだ! へっへっ、臭い芝居しやがって!!」 ……バレている。まぁ、殷雷は武器の宝貝であって、演技は本職ではないのだ。 少しくらいは大目に見ていただきたい。 ――と、そこへシエスタが料理の入った皿を運んできた。 白い汁物と、これまた白く、ふかふかとした物。 どちらも良い香りがする。 「これは?」 「俺のおごりだ。遠慮せずに食いな」 「……ではなく、料理の名前を聞きたかった」 どちらも、異世界出身の殷雷には馴染みの無い物だった。 シエスタがくすりと笑いつつも教えてくれた。 「こちらはマルトーさんの特製シチュー。こっちはパンです」 匙を手に取り、シチューを口に入れる。 「美味い……」 そう言えば、物を食べるのは何日振りだろう。 宝貝回収の旅の最中は、割りと食事には気を遣っていたが、仙界に戻ってからは何も食べていない。 元々、宝貝である殷雷に食事を摂る必要はないのだが。 言ってみれば、これは一つの趣味である。 ――殷雷って、結構道楽な宝貝だよね。 かつての相棒の言葉が殷雷の心をえぐる。 違う。違うぞ。武器の宝貝として、時には人間の振りをしなければならないことがある。 その時、食事の作法が分からないでは話にならないではないか。 現に今も、目の前の料理の名前が分からなかった。 だからこれも、武器の宝貝としての一つの鍛錬なのだ。 ……心の中でつい言い訳してしまうのは、やましいことがあるからか。 などと考えていると、マルトーが何かを思い出したように手を打った。 「そうだ! 忘れるところだった! シエスタ、アレを持ってきてくれ」 シエスタは頷くと、大きな酒壜を持ってきた。 マルトーは上機嫌で続けた。 「へっへっへ。昨日、ウチの若い奴らが買ってきたんだがな。これがまた――おっとっと」 酒を壜から透明な湯呑み(グラス、と言うらしい)へと注ぎ、殷雷の前へと差し出す。 「酒は飲める方かい?」 「いくらでもな」 「じゃ、一気に!」 勧められるまま、かすかに燐色の帯びたその液体をあおる。 グビリ。 殷雷の動きが止まる。 「どうだ。すげえだろこの酒。いや、俺もついさっき初めて飲んだんだがな。ビックリしたぜ! こんなうめえ酒があるなんてよ。今まで俺は何を飲んできたんだって、ちょっと絶望しちまったね」 グラスを持つ手がかすかに震える。 「喉越しの良さに後味の清涼感。それにこのかすかに漂う薔薇の香りが――どうした?」 殷雷の様子がおかしい。 機嫌良く笑っていたはずの表情からは、何も読み取れなくなっていた。 重々しく口を開く。 「これを買ってきたのは、誰だ……?」 「ん? あぁ……あ! そういえばあいつら! 一体何してやがるんだ、急に無断で休みやがって!! おかげで今日は忙しすぎて死ぬかと思った!!」 「誰が買ってきたんだ……?」 「いや、ここにはおらんよ。昨日買い出しに行った奴ら、全員無断欠勤しやがったのさ。 全員だぞ!? 全くよぉ」 「そうか……」 殷雷は一度目を閉じた。 しばしの逡巡の後、目を見開き、厨房中に告げた。 「連帯責任だ。お前ら全員飲め」 ――翌日、アルヴィーズの食堂は臨時休業した。
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第三話 「どういうことですか!?」 「何故、被害者が自殺を!?」 記者会見現場では物々しい雰囲気に包まれていた。 無理もない、今まで被害届けを出していなかった被害者の死亡・・・、 しかも、彼女の父親は例の県議会議員の息のかかった地元企業で働いていると言う・・・ 私でなくともウラを疑う。 「えー、場所は自宅の裏山の神社の境内、アルコールを摂取した後、 神社の老木に紐をくくりつけ、首吊りによる頸部圧迫が死因、遺書は現在のところ、見つかっておりません!」 厳しい顔の警察幹部は、たんたんと書面を読み上げた。 「例の監禁事件との関連性は!?」 相次ぐ質問に、ようやく発表者は顔を起こし、記者団に向かってこう述べた。 「現在のところ、事件として両者を結びつける事は考えておりません・・・! 以上で、会見を終了いたします!」 怒声と罵声が会場を包んだ・・・。 そんな馬鹿げた話があるものか!? 少女が精神的に病んでいたとしても無理はないが、何故、このタイミングで自殺をするんだ? 私は編集部に電話をして、自殺した被害者の自宅へ向かうべく、その会場を後にした。 既に私同様、被害者宅にはハイエナのような報道関係者が群がっていた。 地元のケーブルテレビも取材に来ている。玄関には「取材お断り」の張り紙が張られていた・・・。 「あ、どーも、伊藤さん、考えることは同じっすね?」 同業者の中には当然、顔見知りは多い。特ダネを教えあうことはありえないが、軽い情報交換などはすることもある。 「どう思うー? 自殺だと思うー?」 「ありえないっしょー? でも、事件だとするととんでもない大ごとですよ、これはー?」 「だよなー・・・ 」 私は庭に目をやった、・・・そういえば、昼間もこの近辺に来たが、確かこの家は、車を二台所有してたはず・・・。今は一台しかない・・・。 「なぁ、今、ここのご夫婦は出かけているのかい?」 「ああ、警察にでも出かけたままみたいですよー、帰るの待ってるんすけどねー。」 私は途方に暮れた・・・。 さぁーて、どうしたもんかなぁ? ⇒
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222: yukikaze :2017/02/11(土) 00 45 35 日清戦争史 第二幕の修正が完了しましたので投下しますね。 日清戦争史 第二章 戦争計画 驚くべきことではあるが、日清戦争が勃発した時、日清両国においては軍事戦略は固まってはいなかった。 と・・・言っても、その内実はだいぶ異なる。 まず清国側であるが、皇帝とその取り巻き達は、清国軍の精強さに幻想を抱いていたせいか、日本は無条件で自分達の条件を受け入れると、半ば本気で考えていた。 そうであるが故に、日本が戦端を開くというのは予想の範囲外であったし、仮に戦端を開いたとしても「鎧袖一触だろう」という根拠のない楽観論しか口からは出なかった。 その為、彼らからまともな戦略が出ることは戦争中一度もなかった。 彼らが口に出すのは「蛮夷の国を早く征伐しろ」の一点だけだった。 無知であるが故に彼らは好戦的であり、そしてその根拠のない自信が叩き潰されたことで極めて見苦しい態度を後に示すのであるが、少なくともこの時の彼らには、そういった未来は考慮の外であった。 勿論、皇帝やその取り巻きとは違い、李鴻章は現実的であった。 彼は、皇帝たちが安易に開戦を選んだことに内心罵倒をしていたが、彼がそう思うのも無理はなかった。 皇帝たちは日本を簡単に占領できると考えていたのだが、その兵士たちを運ぶ輸送船が絶対的に足りず、また遠征軍の重要な補給地である朝鮮半島は、李王朝の統治能力の低さから、大軍が駐屯するだけの余力などどこにもない事が、袁世凱の報告で明らかになると、ますます皇帝たちの楽観論に嫌気を覚えることになる。 正直、李としては、こんなバカな戦争に関わることなど願い下げであったのだが、既に皇帝が高らかに宣戦を布告した以上はどうしようもなく、嫌々ながら関わることになる。 さて・・・李の考えた戦略だが、残念ながら彼に与えられた選択肢は非常に少なかった。 彼としては、日本側が朝鮮半島から北上しても、あるいは黄海から一気に渤海を突っ切り直隷決戦を行うにしても対応できるように、錦州府付近に主力軍を駐屯させ、朝鮮半島から北上した場合は、焦土戦術で日本軍を疲弊させつつ、主力軍で迎撃。 直隷決戦の場合でも、持久戦を取りつつ、日本の海上兵站線を痛撃して、彼らの疲弊を待つという戦略を取りたかった。 彼の力の源泉が、彼の子飼いである北洋軍閥であることを考えるならば、わざわざこんな戦で疲弊して馬鹿を見るよりは、とにかく相手を疲弊させて楽に勝った方が遥かに得なのである。 もっとも、政治的状況が、彼にそのような手段を取ることを許さなかった。 皇帝とその取り巻きが望んでいるのは、速やかなる日本占領(且つ北洋軍閥の消耗)であり李の戦略は「退嬰的」として一蹴されるのがオチであったし、また上記戦略を採用した場合、国土が戦場になる可能性が強く、国土が悲惨な目に合うこと確定の朝鮮側も飲める話ではなかった。 事実、朝鮮側は「偉大なる清国皇帝陛下が有する世界最強の艦隊が出撃すれば、倭奴の泥船は波を受けるだけで溶けて崩れ、倭奴の首魁の住むあばら家を火の海にするでしょう」と、徹底的に北洋水師を持ち上げることによって、清側が日本大陸に侵攻することを煽りに煽っていた。 彼らにとっては、農民や浮民が何人死のうが知った事ではないが、自分達が不利益になることだけは敏感だったのだ。 223: yukikaze :2017/02/11(土) 00 46 23 こうした現状に、李はますますやる気を失っていくのだが、皇帝の指示通りに半島に大軍を集結させた場合、こちらの方が兵站の貧弱さで困窮する可能性が高いことから、次善の策として北洋水師を積極的に動かすことによって、日本近辺の制海権を奪取しようと考えたのである。 李の所にもたらされた情報でも、日本海軍の保有する艦船は、巡洋艦が大小合わせて20隻近く保有されていたが、そのどれもが15センチ程度の主砲であり、最新鋭且つ最大の巡洋艦でもある富士型巡洋艦ですら20センチ程度であった。 李にしてみれば「日本は何で15センチ砲を大量に積んだ船なんか作るんだ? 商船には有効かも知れんが軍艦には通用せんだろ」と、心底理解できない気分であったとされるが、これは李が海軍に疎いのではなく、リッサ沖海戦の戦訓等を見れば、むしろ常識的な判断ではあった。 この時代において艦艇の主兵装と言えば、衝角か、命中率は悪いが当たれば強力な少数の大口径砲であり、そのどちらも有さない日本の艦艇はあまりにも異端すぎた。 そしてそうであるが故に、李は当時の常識から判断して「日本海軍の戦闘能力は低い」と判断しまともにぶつかればこちらが優位であると判断していた。(逆に李が恐れていたのは、日本が数の差を活かして、自国の沿岸で海賊行為をする事であった。軍船には通用しなくても、商船相手には15センチ程度の砲でも十分であるし、更に衝角も必要ないからだ。これは李だけでなく北洋水師に雇われていた独英等の海軍軍人も同一意見であった) ここにおいて、李の戦略は、北洋水師による艦隊決戦を第一義とし、艦隊決戦勝利後、制海権を奪取したことでの、通商破壊作戦及び日本本土上陸作戦を上奏することになる。 皇帝自身は、なおも早期の日本本土進攻に拘ってはいたものの、彼自慢の艦隊が大活躍することへの誘惑と、李が報告した朝鮮側の準備が何もできていないことを知って、かなり恩ぎせがましく李の戦略を許可している。 勿論、彼は、李に対して重ねて早期の日本本土進攻を命じると共に、征東行省を設立。 先に日本に全権使節として派遣し、日本からおちょくられて帰国した男を「功によって恥をすすげ」と、ソウルに派遣し、征東行省長官に指名。彼を通じ、李氏朝鮮に対し、日本侵攻の為の軍需物資や兵を集めるように厳命を下している。 件の男も、恥をかかせた日本への恨みを晴らすことに異存はなく、朝鮮国王以下に対して、極めて高圧的に命令を下し、同時に、日本の新聞雑誌におちょくられた朝鮮側の使節全員を捕えると問答無用で首をはね「我が大清の威信を汚した者の末路はこのようになる」と宣言。 こうなると、朝鮮上層部も、己の命の惜しさと、目の前の実質的な半島の王への媚から、情け容赦のない収奪を行い、ただでさえ疲弊している朝鮮は、文字通りの飢餓地獄へと変貌していた。 無論、各地で反乱が勃発することになるのだが、件の男は「大清に逆らう逆徒」として、蜂起した面々を徹底的に武力で鎮圧してのけ、ますます恐怖政治を推進することになる。 なお、状況を聞いた李は「あの愚か者が・・・」と、天を仰いだとされるが、李にした所で、ある程度の物資を確保した以上は、半島に対する役割は、もはや北進するであろう日本軍の足を引っ張るだけのものでしかなく、この事実上の焦土作戦を黙認することになる。 翻って日本側はどうであったか。 彼らは清国との戦争については、清国側と違い、常日頃から真面目に考察をしていたのだが、その戦略で対立が生じていた。 224: yukikaze :2017/02/11(土) 00 46 55 まず第1案としては、史実と同様、朝鮮半島に攻め込み、同地を制圧した後、遼東半島に上陸した別働隊と合流し、最終的には直隷決戦により清国を屈服させるというものであった。 敵の策源地である朝鮮半島を制圧することで、本土防衛を確かなものにした上で直隷決戦の根拠地として旅順を占領し、第1軍と第2軍を併せて、決戦を行うという戦略は、堅実な詰将棋というものであり、軍の大多数が賛意を示していた。 一方、もう1案は極めて野心的なものであった。 同案では朝鮮半島の貧弱なインフラや軍備の劣悪さから、同方面の戦力は、案山子以上の何物でもなく、清側の渡海戦力も考えるならば、無視しても構わないと割り切る一方で、旅順及び清国海軍根拠地である威海衛を占領することで、渤海の制海権を完全に掌握し併せて、主力部隊を天津に上陸させて、北京を一気に制圧するというものであった。 一気に敵首都を制圧するというこのプランは、成功すれば戦争を短期で終結させ且つ被害も僅少になるというメリットはあるものの、失敗すれば、主戦力を北京近郊で消耗させるだけでなく、がら空きになった本土を敵の戦力に蹂躙されかねない危険性を有していたのだが、同問題をややこしくしていたのが、このプランを推進していたのが日本で唯一の元帥であった西郷隆盛であったという事であった。 戊辰戦争で、江戸や奥州、北海道を無血開城させた立役者であり、その縁から旧幕府関係者との関係も深く、実直且つ真っ直ぐな性根から、明治天皇から絶大な信頼を得ているこの男は、明治天皇から特に請われて現役復帰し(それ以前は皇太子御養育掛兼枢密院顧問官兼学習院院長。皇太子の養育係については、明治天皇が特にそれを望み、西郷も「臣下にとってこれほどの栄誉なし」と、全力を尽くしている。老齢で人物もかなり丸くなったせいか、礼儀や人倫の道には厳しかったものの、それ以外では鷹揚だった西郷の教育は、大正天皇にもあっていたようで、大正天皇からも「先生」と呼ばれていた。)侍従武官長として、天皇の軍事上の相談役になっていたのだが、この事実に、兵部省大臣である大山巌、統帥本部長山田顕義は、心底慌てて、西郷の元に駆け込むことになる。 2人にしてみれば心血注ぎ込んで作り上げた戦略をひっくり返されかねないことに、慌てるなという方が無理な話ではあるが、同時に大山にとっては西郷は従兄弟であり、山田も西郷が目をかけ「あいは戦上手やっで、おいに免じて、陸軍におさせっくいやい」と、山田と仲が良くなかった山縣に対して深々と頭を下げ、西郷のお蔭で首がつながっていた山縣も、「西郷閣下が言われるならば」と、山田を主に軍の法務関係につけさせて昇進させていたので、これまた西郷の行動を言下に撥ね付けられるなど、とてもではないが不可能であった。 さて、血相を変えた2人を出迎えた西郷は、2人が来るのを予想していたのか、いつもの紋付袴ではなく陸軍元帥服で出迎えたのだが、彼ら2人の意見を云々と頷きながら聞くと、徐にこう答えた。 「おまんさあらの戦略は分かりもした。ところで、この戦はどいくらいで終りもすか」 その言葉に、2人は「まあ長くても1年は見ております」と、答えたのだが、西郷から帰ってきたのは失望の溜息であった。 「おまんさあらは、そげんなあまか見積もりで戦をかんがえちょっとな」 並みの人間が言えば反発を覚えるであろうが、目の前の人間は、戊辰の役を完勝に導いた立役者でありまず間違いなくこの国でも有数の戦略家でもあるのだ。 自分達に見えない何かが見えているのかもしれないのだ。 「おまんさあらの戦略でも確かに勝てるじゃろ。清国兵でも骨があっとは北洋軍だけじゃっでな。 そやつらをうったおせば、後は有象無象じゃ」 そう言って西郷は、2人の戦略が間違っていないことは認めてはいた。 だが、そこから後はある意味辛辣であった。 225: yukikaze :2017/02/11(土) 00 47 27 曰く、朝鮮半島から進撃するとあるが、重装備の我らが、道路の貧弱な半島を縦断するのにどれだけ時間がかかるか。 曰く、清朝に忠誠を誓う朝鮮は、我らの兵がいるときは大人しいが、いなくなるとすぐに騒ぐ。 曰く、我らが清軍を追っている間に、兵站線を朝鮮に脅かされる可能性大。重装備且つ大軍の我らにとって兵站線を断たれるのは死活問題。 曰く、それらを抑えるには、それなりの兵力をはりつけざるをえず、決戦兵力が目減りする。 曰く、そうなると朝鮮国境沿いで膠着状態か、首尾よく決戦して勝っても、どこまで完勝できるか不明。 曰く、更に言えば皇帝が、北京から脱出して中国の奥地で抗戦を叫んだ時はどうするのか。 曰く、ここまで来ると完全に列強が介入する。特にロシア。 この西郷の質問に、2人はぐうの音も出なかった。 無論、彼らは兵站を軽視している訳ではなく、朝鮮王室を実質的に抑えることによって、彼らの反抗の芽を断とうと計画していたのだが、西郷は「そもそもそれが甘すぎる」と、見なしたのである。 そして西郷の戦略は、大量の輸送船が必要になるとはいえ、北洋水師さえ撃滅すれば、少なくとも天津までは海上輸送によって賄われ、朝鮮半島からの兵站ルートよりも、天津からの方が、格段に北京に近く、兵站面での距離の問題は、まだマシになるという事。 更に言えば、天津からの強襲で混乱している敵首都を陥落させ、皇帝を城下の盟に引きずり出せば、短期間で終わることで、列強の介入も恐れることはないという点が、彼らの戦略の問題点を十分にリカバリーしているのである。 当初、何とかして西郷に自説をひっこめさせようと考えていた2人は、気付いたら「元帥閣下の案を持ち帰り現計画との問題点の解消に役立てます」と、引き下がる有様であった。 勿論、現計画を進めていた兵部省や統帥本部の担当者は、両名の行動に激怒することになるのだが、西郷の理路整然とした意見を目にした瞬間、彼らもまた自身のプライドを粉々にされるだけであった。 (なお一部の人間は、西郷の行動を止めてもらおうと、首相であり西郷の親友である大久保利通の元に駆け込んだが、「おまんさあらも軍人なら、吉之助さあの軍略の問題点を挙げ、その改善点を数字で示してから、吉之助さあに言わんか。吉之助さあは筋を通しているのに、おまんさあらはないをしよっか」と、一喝を食らい、這う這うの体で逃げることになる。) 結果的に、兵部省及び統帥本部は、現行案の修正をせざるを得なくなる訳だが、西郷の推すプランをそのまま採用するには、修正の度合いがあまりにも大きすぎた。 明治維新以降、鉄道路だけでなく、海運においても積極的に従来の帆船から、蒸気機関を備えた輸送船の代替を進めていたのだが、西郷が望むような大軍の兵站を賄うためだけの規模の商船部隊は、流石にこの時期の日本には存在しなかった。(総ざらいすればできなくもないが、確実に日本経済にダメージが来る) 西郷自身は「船がなければ雇えばよかわいよ」と、海外の商船に対して、時期を区切っての傭船契約をすることで、問題の解決策を提示してはいたものの、海外の商船会社は二の足を踏むか、法外な費用を求めるかの二択であり、簡単にできるものではなかった。 その為、日本側は、まずは黄海の制海権を確保する必要があるとして、連合艦隊を出撃させ、北洋水師を撃滅することで、日本有利を世界に向けてアピールすると共に、上陸する地の選択肢を増やそうと考えたのである。 かくして艦隊決戦の舞台は整った。決戦場は黄海。 228: yukikaze :2017/02/11(土) 01 03 07 これにて投下終了。 何このgdgdとみられるかもしれませんが、ここら辺は「急速に進んでいる大陸日本のインフラをベースにしがちな現役の面々」に対して「インフラがあまり進んでいない時代を理解しているが故に、その危険性を指摘した老将」 という立ち位置の違いですね。 ぶっちゃけ、ここら辺の一件は、次の日露戦争の為の教訓として繋げていきたい側面がありましたので、敢えて指摘させてもいます。 何気に「兵部省」「統帥本部」としていますが、ここら辺は、日露前にいた夢幻会の一員が山縣なんかに「合理的に軍備を整えるのならば、今は陸海軍の行政対立なんかするよりも、一つの組織で対応した方が遥かにマシ」と吹き込んだことや、大久保に対しては「軍令と軍政が並立した場合、仮に軍令と軍政が対立した時には、どうにもならなくなる」と、国家運営の観点から、史実のような状況を防いだりしています。 ただまあ、夢幻会の介入がなければ、史実みたいな形になっていたでしょうねえ・・・ しかも国力がある分「陸海の対立? 国力でカバーできるじゃん」と、致命的な問題点が改善されないまま何とか乗り越えてしまって、失敗した時のダメージがとんでもないレベルになるおまけつきで。
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神父の驚いた顔は言葉に言い表せない。しばらく神父は無言だったが、ようやく口を開いた。 「明日、朝、教会においでなさい・・・。」 翌日、隣町で3人の男の斬殺死体が見つかるのだが、この時まだ、私達はそれを知らない・・・。 第八話 朝の教会は、寒さの分もあるせいか、余計に荘厳に感じられる。 今朝は雲も厚く、陽の光も十分には降り注がない。 決して大きな教会ではなかったが、古びた感じがなお、その荘厳さを高めていた。 白い息を吐きながら、スカーフをかぶった修道女に案内されると、 昨日の神父が朝の礼拝を行っている。 ここでは寒いからと、石油ストーブの焚いてある小さな部屋へと向かった。 しばらく待っていると、祈りを終えた神父がやってきた。 「おはようございます、今日はわざわざ、ありがとうございます。」 神父はそれには答えず、短く頭を下げると、こう切り出した。 「あなたの・・・お子さん、娘さんでしたかな? 普段、何か変わったことはございませんか?」 今度は私が面食らった、まぁ昨日、話をふったのは私だからしょうがないんだが・・・。 「え、ええ、普通の子供ですよ、特に・・・別段・・・何も・・・。」 「では、お祖母さんというのは・・・?」 「ああ、えーと、母親の方の祖母のことなんですけど、時々、 娘が夢でお話するっていうんですよ、 生まれる前に亡くなっているんですけどね。」 神父にこんな話をすると、なんか重大な話に聞こえてくる。 「あの・・・ 娘は何か・・・?」 神父はしばらく考え込んだ後、 「いえ、失礼しました、・・・問題はないと思います・・・それで、ゴホンッ、昨晩の件ですが。」 「あ、ハイ。」 背筋を伸ばして姿勢を正す。 「まず、『メリー』という人形について・・・、 これは我々の教会や宗派と何の関係もない事、 また、まともなニュースには決して取り上げられる価値の無い、 ただの噂話だということ・・・、 これを覚えておいていただけますかな・・・?」 価値が無い・・・という割には、神父の語気には強い意志のようなものを感じられた。 「は、はい・・・。」 と言うしかない。 ⇒
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第六話 神父は途端に、身を翻し奥へと戻っていった。 「あ・・・あの・・・」 ところが思ったより早く、神父は再び姿を現した。外套をはおり、手には懐中電灯を握っている。 「あなたは新聞記者か何かですか?」 神父は私の身体を追い越し、あわただしく靴を履き、表に出ようとしていた。容易ならざる事態が起きていることは、私にも感じられた。 「ルポライターです。」 ごまかすつもりだったが、そんな空気ではない。 神父は表に出る前に一度振り返った。 「マスコミに話すことはありません・・・、と言いたいのですが、手伝ってください。もしかすると・・・。」 私の返答を待たず、神父は表へ飛び出した。神父は車のところまで行き、ライトを照らす。 すぐに私も追いつき、ライトに照らされた車内をのぞいた。 「あれ? 運転席に 封筒が・・・ ! 『遺書』!?」 神父は私の顔を見た後、車のドアを開けようと試みた。 ロックされてはいない。神父は遺書を取り出した。 「あなたはここの し、神父様・・・ですよね? あ、あの夫婦がここを出られたのはいつ頃なんですか?」 遺書に封はしていなかった。私は肩越しに、ライトで照らされた遺書の一部を読んだ。 細かいことは書いていなかった。 「○○様(神父の名?)」に最後まで迷惑をかけたこと、愛する愛娘を失った事への絶望、加害者とその祖父への恨みが書かれていた。 そして、 「・・・主のお教えに背くかもしれません、 ですが私達夫婦にはこれしか道はございません、 愛する娘の苦痛を少しでも和らげるために、 私達の命と恨みの情念を・・・ あの人形・メリーの糧として奉げようと思います・・・ どうか・・・」 内容を把握できたのはそこまでだった。神父は書面を封に戻し、こちらを振り返った。 「一時間前です・・・。」 神父は近所の扉を叩き、私は警察に連絡をとった。 その間、遺書に書いてあった部分が、私の頭からどうしても離れない・・・。 人形・・・メリー メリーさん・・・? 近隣住民総出での捜索の結果、・・・彼らの行方の手がかりが見つかった。 ⇒